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【SS】「私はロケット団で最も冷酷と呼ばれた男」

 ▼ 1 AYr1xkow/g 17/01/15 14:58:17 ID:THPX.20A NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……あー」

部屋に備え付けられたスピーカーから緊張している声が聞こえる。どうやらマイクテスト中のようだ。普段は笑うことのない男の口の端が、かすかにつり上がった。

「……我々は泣く子も黙るロケット団!」

声の主は高らかに続ける。

「組織の建て直しを進めた3年間の努力が実り今ここにロケット団の復活を宣言する!」

ああ、とうとうこの日が来たのだ。

「サカキさーん!……聞こえてますー?……ついにやりましたよー!ボスは今どこにいるんだろう……?ラジオを聞いてるかなあ………………」

ラジオから聞こえてくる声は、徐々に小さくなっていった。

確かあの構成員は、確かラムダの班の者だったか。男より年上だが、立場は下だ。一体なぜ彼がこの復活宣言をする役に抜擢されたのだろうか。アポロの考えることはよく分からない。

男はただ黙ってラジオ放送を聞いているだけ。

ボスは聞いてくれているのだろうか。この声は、ロケット団の声は届いているのだろうか。

ボス、私もあなたに伝えたい言葉があるのです。

だからサカキ様。どうか、戻ってきてください。
 ▼ 35 AYr1xkow/g 17/02/02 01:10:10 ID:c6dK2D8k [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「誰かに案内でもしてもらってたのか?……もしかして迷ってた?」

ラムダは気さくに話しかけてくる。

「別に、迷ってはないです。案内してくれてたのはアポロさん」

「ああ、アポロか。……アポロなー」

ラムダはなぜか意味ありげに繰り返した。

「……俺ね、あいつと同期なの。んで同時期に幹部にならないかとか言われたんだけど、俺あんまり人の上に立つのとか得意じゃねえからさ。俺よりやりたがってる奴にやらせてやった方がいいんじゃねえのってことでプロトンを推薦したんだけどよ、まあ失敗したよな」

聞いてもいないのにぺらぺらと話し始めるラムダ。ランスは話の半分も理解できず、怪訝な顔をしてラムダを見上げた。

「アポロ、あいつ、真面目だからよ。サカキ様一筋だし。野心家で常に地位と権力を求めてるような奴とはまあ馬が合わねえよな。悪いことしたわ」

そう言うラムダの顔は、ちょっぴり悲しげだ。
 ▼ 36 AYr1xkow/g 17/02/02 01:12:00 ID:c6dK2D8k [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……って、こんなこといきなり話しても分かんねえよな。ごめんな」

ラムダは苦笑いしながらそう言うと、ラムダに視線を合わせるようにしゃがみこみ、手品をするかのように右手をわざとらしく広げた。そこにあったのはひとつの飴玉。

「ま、分かんないだろうから俺も話したんだけど。ほれ。おじちゃんの独り言を聞いてくれたお礼に飴やるよ」

「ありがとう」

ランスは素直に礼を言うと、ラムダの右手から飴玉を取り、包みを開いて口の中に放りこんだ。甘い。

「……だからさ」

ラムダがランスに顔を近づけ、囁くように言う。

「ここで煙草吸ってたことアポロには秘密……」

「やっと見つけました。ここにいたのですね」

声が聞こえた瞬間、ラムダの顔はオレンの実よりも真っ青になった。
 ▼ 37 ラップ@ものしりメガネ 17/02/02 02:40:26 ID:HeqOVaps NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
支援
 ▼ 38 AYr1xkow/g 17/02/03 00:21:55 ID:w6S12nP2 [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……へへ、そんなに俺に会いたかったのかよぉ」

ラムダが慌てて煙草を背中に隠してわざとらしく笑う。

「お前じゃありません、ランスに言ったのです」

アポロはにべもなく言った。とはいえ、怒っている様子はない。ランスがあの場を離れて動き回ることなど想定の範囲内だったようだ。

「ところで、見えてますよ。アジトは禁煙です。何度言ったら分かるんですか」

アポロは厳しい声音で言うと、早足で二人の元へ近づいてきた。そしてラムダに向かって右手を差し出す。

「没収します」

「ええー!?頼むよアポロ、同期だろー?ちょっとは優しくしてくれよー」

「ダメです。他の者に示しがつきませんから」

あ、サカキさんと同じこと言ってる。ランスはそう思った。
 ▼ 39 AYr1xkow/g 17/02/03 00:26:12 ID:w6S12nP2 [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「頭かてーな、相変わらず」

ラムダがそう言いながら煙草の箱をアポロの手に向かって乱暴に投げつける。アポロはそれをしっかりとキャッチし、

「なんとでもどうぞ」

声色を変えずに答えた。ラムダは「冷てー」と非難しながら腰の辺りでもぞもぞと手を動かしている。こっそり盗み見ると、ラムダが煙草をもう一箱隠し持っているということが分かった。ラムダはアポロとランスが立ち去るのを待っているようだ。

「アポロさん。ラムダさん、もう一箱持ってますよ」

ランスは迷うことなくそう言った。
 ▼ 40 AYr1xkow/g 17/02/03 00:28:01 ID:w6S12nP2 [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「はあ!?ちょ、おま……!アホか!言うなよ!飴あげただろ!?」

ラムダが絶叫した。ランスはと言えば、澄ました顔をしてラムダをしれっと見つめ返している。ランスのその様子を見て、アポロはほう、と感心したように小さく声を上げた。

「有能な部下ができて喜ばしい限りです」

アポロはランスを賞賛すると、ラムダに向かってもう一度右手を伸ばした。ラムダはランスを睨みつけ、不承不承といった様子でもうひとつの箱を取り出し、未練たっぷりの表情でアポロの手の上に置いた。

「この野郎!満足かよ」

ラムダが吐き捨てるように言う。

「どうせ部屋にまだいくつも残ってるんでしょう。近いうちに片付けますからね」

「お袋かよ。やめてくれ……!」
 ▼ 41 ジャンボ@ダークメモリ 17/02/05 02:32:18 ID:DNgrT74s NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
支援
 ▼ 42 AYr1xkow/g 17/02/06 13:01:30 ID:q6RK2zVA [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「さて、ベッドが余っている部屋はここしかなかったのであなたの部屋はここになります。備品の使用について何か分からないことがあれば、同室の誰かに聞いてください」

「はい」

アポロに案内されたのは、二台の二段ベットが両側の壁に置かれた狭い部屋だった。とはいえ、自然公園を寝床にしていたランスからしてみれば、布団があるというだけで素晴らしい部屋に見えるというものだ。

「では、業務内容の説明ですが……」

そう言ってからアポロは少し考えるように沈黙し、ランスをじっと見つめた。一体こんな子供にどんな仕事をさせればいいのだろうか。

「……ああ、そういえば」

アポロがふと思い出したように口を開く。

「まあ問題はあまりなさそうですが、あなたは今ロケット団で一番下の立場の者。周りの人に敬意を払うことをお忘れなく。自分で言うのもなんですが、私たち幹部とそれからボスには特に」
 ▼ 43 AYr1xkow/g 17/02/06 13:02:58 ID:q6RK2zVA [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「はい」

そうは言ったものの、一応教育した方が良いかもしれない。そう思ったアポロは咳払いすると、

「……それでは、私の話し方を真似してください」

「……まね」

ランスが呟く。

「ぼくも私って言った方がいいんですか?」

「まあ、丁寧に越したことはありませんよ」

アポロがそう言うと、ランスは首を傾げた。十歳程度の子供に伝わるように説明するのは、こんなに難しいものなのか。アポロは嘆息しがちに言い直した。

「『私と言った方がいい』という意味です」
 ▼ 44 AYr1xkow/g 17/02/06 13:03:52 ID:q6RK2zVA [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……さてと。一度ボスにお返しした方が良さそうですね。戻りましょう。ついてきてください」

アポロがそう言って歩き出す。ランスもアポロを追いかけて歩き出した。

そういえば、動き回ったからか暖かくなってきた。ランスはそう思った。寝る場所を与えられただけでもとりあえずは嬉しいものだ。

でも、何も分からない。あのサカキって人は、一体何を考えてるんだろう。ランスはきびきびと歩くアポロの後ろについていきながら考える。ぼくを連れ出して、一体どうするつもりなんだ。教えてくれるって言ってた。でも、何を?

すべてを失ったシママは、目を覚ますとまったく知らない場所にいた。彼の人生はここからもう一度始まるのだ。
 ▼ 45 メイル@キトサン 17/02/06 13:14:17 ID:ieFkvT9c NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 46 ュリネ@においぶくろ 17/02/06 13:15:35 ID:.WoZDTCM NGネーム登録 NGID登録 報告
シママって表現いいね
 ▼ 47 ュウ@もくたん 17/02/06 13:28:14 ID:ep0NLYOY NGネーム登録 NGID登録 報告
久しぶりの良SS
支援
 ▼ 48 AYr1xkow/g 17/02/06 23:23:55 ID:uPkN0Rk2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
今更ですがプロトンはオリキャラです
話の都合上登場させています
名前はロケットの名前からつけました
 ▼ 49 ブラン@フーディナイト 17/02/07 01:25:19 ID:a9K3UgdQ NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
普通に面白いな
 ▼ 50 AYr1xkow/g 17/02/09 00:54:59 ID:RxmeJgRY [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「サカキ様。一通り案内を終えました。何か指示があればそちらに従いますが、一旦お返ししますね」

そう言うアポロがランスを連れていったのは、ロケット団のボスであるサカキの使用している部屋だ。

アテナやプロトンに与えられていた部屋より広かったが、必要最低限のものしか置かれていない殺風景な部屋だ。サカキの座っている、座り心地の良さそうな革張りの肘掛け椅子が目を引く。

「ああ、ご苦労。礼を言うぞ。もう戻っていい」

サカキはそう言いながら立ち上がった。アポロは小さく礼をしてから「失礼します」と言って部屋を出ていった。

「……さて、ランスよ」

サカキが口を開くと、ランスはそれを遮るように勢いよく声を上げた。

「何を教えてくれるんですか?ぼく……私は、なんでここに連れてこられたんですか?寝る場所も服も、食べ物もあるのは嬉しい……けど、分かりません」

心からの疑問だった。サカキはじっとランスを見つめている。
 ▼ 51 AYr1xkow/g 17/02/09 00:58:12 ID:RxmeJgRY [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……ロケット団の仕事。それは主に金儲けだ。私たちの最も大きな夢は世界征服。世界を支配するためには力が必要だ。そしてその力とは、金という意味なのだよ」

「……」

ランスは黙っていた。サカキの言いたいことは分かっていた。中途半端に力を持っているくせに、その力の本当の恐ろしさを知らないが故に騙され、破滅していく人間を目の前で見たのだから。でも、聞きたいのはそういうことじゃない。

「我々は金を得るためには手段を選ばない……まあそういったところだ。ランス、君はプロトンの班に入ってもらおう。分からないことがあれば他の者に聞いてくれ。それでは、今日はもう休むといい。明日から仕事の始まりだ」

「は?え……いや、ちょっと待ってください」

教えてほしいことは、ロケット団の仕事内容についてなどではない。そんなこと、これっぽっちも言ってなかった。ランスは慌てて言う。

「原動力が……とか、それをコントロールする方法……みたいなこと、言ってたじゃないですか!」

ランスはもはや叫んでいた。しかし、サカキは至って冷静な表情のまま続ける。

「すまないが、私は忙しいのだ。今日はもう戻れ」
 ▼ 52 AYr1xkow/g 17/02/09 01:00:08 ID:RxmeJgRY [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスは愕然とサカキを見上げた。

この人は一体何を言ってるんだ。ランスは信じられない思いで新しくできたボスを見つめる。騙されたのか?ぼくは父さんのように利用されたのだろうか。ランスの頭の中はぐるぐると激しく回っている。

結局、部屋を追い出されたランスは、アポロに案内された部屋へ向かってとぼとぼと歩いていった。地下なので窓がなく、時間は分かりにくいが、そういえば腹が減っているし、眠くなってきた。恐らく時刻は夜だろう。

部屋に戻ると、先程来た時にはいなかった二人の若い男がベッドの上に座っていた。二人はランスに気付くと同時にこちらを見つめてきた。

「ひゃひゃひゃ!新しくルームメイトができるって聞いたからどんな奴かと思えば、子供かよ!」

一人が甲高い声で笑う。もう一人は至って普通の青年、といった感じで、穏やかな声で話しかけてきた。

「えっと……よろしくな?この部屋は今まで二人だったんだ。だから三人だよ」

「……そうですか。よろしくお願いします」

ランスは最悪のテンションで返事した。
 ▼ 53 AYr1xkow/g 17/02/10 15:49:52 ID:MjiKVTf6 [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あ、晩飯食った?」

穏やかな方の男が言う。ランスは首を横に振った。

「じゃあ食べてきたらいいよ。もう今日は結構遅いし。俺たちはもう済ませちゃったけど……食堂の場所分かる?」

「案内してもらいました。大丈夫です」

ランスはそう言うと、部屋を出て足早に食堂に向かっていった。

明日、明日もう一度ボスのところに行こう。そしてちゃんと説明してもらおう。納得いかない。どうしてぼくをここに連れてきたのか、ちゃんと話してもらうんだ。

ランスはそう考えながら、早歩きで食堂へと歩き続ける。

別に、多くは望んでいないのだ。サカキに着いていったのは、きっと今までより暖かい場所で眠れるに違いない、そう思ったからに過ぎない。与えられたものに関しては何の不満もない。むしろ十分すぎるくらいだ。

でも。ランスは小さく息を吐いた。ランスに力がないことを分かっていて、利用するために都合のいい言葉で誘い出したのだとしたら。それだけは許せなかった。
 ▼ 54 AYr1xkow/g 17/02/10 15:51:03 ID:MjiKVTf6 [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
父親と同じような人生を歩むことだけは嫌だった。父親は生きていればあのサカキと同じくらいの年齢だが、恐らく今頃は海底でヒトデマンやヒドイデたちの集うパーティー会場となっているだろう。

奪われる側の人間として生き続けるのはごめんだ。かといって奪う側の人間になりたいとも思わないが、そんな人生を送り続けるなんて、惨めにも程がある。

あのグラエナたちは今どうしているのだろう。ランスはすべてを失った代わりに逃げ切ることはできたようだ。しかし、今でも油断は禁物である。

もやもやと考えながら食堂に辿りついた。もう多くの団員が食事を済ませているのか、疎らに何人かがいるだけだった。ランスはカウンターからカレーライスを受け取ると、誰も座っていないテーブルの椅子に腰かけ、黙々と食べ始めた。

「よお、ランス。さっきはよくもやってくれたな」

声が聞こえたので顔を上げると、何者かが向かいに座っていた。ラムダだ。

「……言うべきだと思ったので」

ランスは淡々と返した。
 ▼ 55 AYr1xkow/g 17/02/10 15:51:46 ID:MjiKVTf6 [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「言うべきってなんだよそれ……。くそ、お前からはアポロと同じ臭いがプンプンするぜ」

ラムダはそう言いながら口を大きく開けてカレーライスを頬張った。
「同じ臭い?どんな臭いですか」

ランスはラムダの言葉が気になり、ぐっと身を乗り出して聞いてみる。

「え?いや、説明しろって言われると難しいんだけどよ……」

ラムダがそう言って頭を掻くのを見て、ランスは拍子抜けだ、と言いたげに眉をぴくりと動かした。ラムダはそんなランスの反応を見てわざとらしく声を上げる。

「なんだよその顔は!?……ったく、最近の若い奴らは……まあいいや。せっかくだし仲良くやろうぜ」

ラムダがそう言って、右手を差し出してきた。ランスはしばらく黙ってラムダを見つめ返していたが、スプーンを置いて同じように右手を出し、握手に応じた。

「……ところで、お腹がまだ空いてるんで、半分くらいもらっていいですか?」

「さすが子供、食べるの早えな。……って、ダメだ!これは俺のカレーだから!ほら、福神漬けやるからこれで我慢しな」

「……ケチですね」

「いやいやいや!ケチとかじゃねえだろこれは!」
 ▼ 56 コルピ@エレキブースター 17/02/10 16:00:49 ID:fCXQtFXk NGネーム登録 NGID登録 報告
しえん
 ▼ 57 AYr1xkow/g 17/02/11 00:27:48 ID:Sd5aYKvY [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
翌日。同室の二人に起こされたランスは、欠伸を噛み殺しながら改めて部屋を見回した。久しぶりにベッドで眠ったその夜は夢を見ることはなかった。

「ひゃひゃひゃ!朝飯食ったら初仕事が待ってるぜ!」

「さっさと着替えちゃいな。待ってるから」

「……はい」

こんなにぐっすり眠ったのはいつぶりだろうか。ベッドに敷かれた布団は硬かったが、真冬の自然公園の土よりは快適だ。

ランスは制服に着替えて二人の先輩と共に食堂に向かった。硬いパンを急いで食べ終えると、先に部屋に戻ると二人に告げ、食堂を出てサカキの部屋を目指す。昨日からそうすると決めていたのだ。廊下を早足で歩いていると、アポロと出くわした。

「……おや、ランス。おはようございます。そんなに急いでどうしたのですか?」
 ▼ 58 AYr1xkow/g 17/02/11 00:28:55 ID:Sd5aYKvY [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「おはようございます。サカキさんに会いたくて」

ランスのその言葉を聞いたアポロはほんの一瞬沈黙した。ランスには、アポロは何を言うか迷っているように見えた。

「ボスなら出張でシンオウに向かうところですので、今は邪魔でしょうからやめた方がいいでしょう」

「出張……?なぜ?」

ランスが怪訝な顔をする。

「……なぜ、と言われましても」

アポロはそう言って困ったように眉を下げた。

ランスは直感的に感じた。出張は嘘だ。奴はぼくを避けている。

ランスをロケット団に招くのなんて、いつでもできたはずだ。サカキはあの時、エネルギーの使い方を教えると確かに言った。その口調は、サカキ本人がランスに教えてくれると捉えて差し支えないようなものであった。じっくり教育をしたければ、出張が終わった後にランスを連れてくればよかった、ただそれだけの話だ。
 ▼ 59 AYr1xkow/g 17/02/11 00:29:57 ID:Sd5aYKvY [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……でも、部屋にはいるんですよね?なら行きます」

ランスがそう言うと、アポロは溜息をついた。

「言い方を変えましょう。お前は存外賢い人間のようですね。ボスの部屋には行ってはいけません。そのように指示が出ています」

ランスはアポロの言葉に苛立ちを隠せず、眉間に皺を寄せた。

「ボスが直々に勧誘した団員は多くありません。お前は確かに周りの団員と違うところがあります。それは認めましょう。しかし特別扱いはできません。サカキ様には簡単には会えないと考えておきなさい」

アポロの有無を言わせぬ口調に、ランスはすっかり気圧されてしまった。くそ、まずはこの人を出し抜く方法を考えなくちゃ。

「私の目を掻い潜ろうだなんて、百年早いですよ」

アポロがぴしゃりと言う。ランスはどきりとしたが、表情には出さずに済んだ。

「……分かりました」

そう言うランスの右手は、ギリギリと強く握りしめられていた。
 ▼ 60 ギギシリ@クラボのみ 17/02/12 15:02:46 ID:QtLfQ0Q2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロケット団最高幹部の年齢ってどのくらいなんだろうな
 ▼ 61 AYr1xkow/g 17/02/13 17:26:13 ID:P0jI2kMg NGネーム登録 NGID登録 報告
>>60
個人的なイメージですが最高幹部さんは29のイメージです
ちなみにこのSSにおいて現時点でランスは11歳、アポロは18歳、ラムダは26歳、アテナは秘密です
 ▼ 62 ガサメハダー@むげんのふえ 17/02/13 19:39:03 ID:YybUuIkI NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 63 マヨール@たからぶくろ 17/02/14 19:34:19 ID:1KwcqgkU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
続き待ってます
 ▼ 64 AYr1xkow/g 17/02/14 22:12:41 ID:Dvn41Yws [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスが部屋に戻ると、同室の二人は既に戻っていた。どこに行っていたのかと聞かれたので、ランスはしれっとトイレに行っていたと嘘をついた。二人は特に疑ってはいないようだ。

「よし、それじゃ初仕事だな!俺たちプロトンさんの班は、現場に出るのが基本!」

「ひゃひゃひゃ!つまりポケモンを盗んだり捕まえたりするのが主な仕事ってわけだ!」

二人が言う。ランスは野蛮な仕事だと思ったが、自分がとやかく言える立場ではないことは分かっていたため何も言わないでおいた。サカキに気に入られたのも、彼の財布を盗もうとしたことがきっかけだったのだから。

ランスはその後朝礼というものに参加した後、時間になるまでポケモンをできるだけ集めてこいという非常に雑な指示を受けた。同室の二人曰く、プロトンの班はいつもこんな調子らしい。

ランスはポケモンを持っていない。二人に聞いてみると、申請すれば支給してもらえるらしい。ランスはどこに行けばいいのかを二人に確認すると、一人で言われた場所へと向かった。
 ▼ 65 AYr1xkow/g 17/02/14 22:14:56 ID:Dvn41Yws [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あのー、すみません」

教えられた部屋に入ってみると、中にはデスクが並んでおり、団員たちがパソコンに向かってデスクワークをしていた。

「あら?」

声が聞こえて振り向くと、そこにはアテナが立っていた。アテナは手に持ったカップからコーヒーを一口飲んでから、

「何のご用?……あ、分かったわ。ポケモンね」

「はい」

「今ちょうど一息ついたところだから、ちょうどいいわ。あたくしがやってあげる。着いてらっしゃい」

アテナはそう言うと部屋を突き抜け、奥にある扉に向かっていく。ランスはそれを追いかけた。
 ▼ 66 AYr1xkow/g 17/02/14 22:16:43 ID:Dvn41Yws [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アテナはランスが後ろにいることを確認すると話し始めた。

「プロトンの班は実戦メイン。まあそれは……」

アテナは一瞬何やら沈黙してから続けた。

「……結構放任主義なのよね。結果を出せば自由にやらせてくれるわ、彼は」

「そうなんですね」

ランスは適当に返した。アテナが本当は何か他のことを言おうとしていたことくらいは察しがつく。

「対するあたくしたちの班は、組織の管理がメインなの。ポケモンたちの保護もあたくしたちの仕事」

それは保護というのだろうか、とは口に出さないでおいた。
 ▼ 67 AYr1xkow/g 17/02/15 00:39:21 ID:i343Sg9I [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アテナは奥にある扉に辿りつくと、どこからともなく鍵を取り出して鍵穴に差しこみ、扉を開けた。その先に広がっていたのはそこは無機質な狭い部屋だ。中にはステンレス製の大きな棚がいくつも並べてある。そこに整理されているのは、大量のモンスターボールだ。

「うーん、どの子がいいかしら。今あまり揃ってないのよね……」

アテナがぶつぶつと呟きながら棚を物色していく。ランスは黙ってそれを見ていた。

「どんなポケモンがいい?」

「なんでもいいです」

ランスが無感情に言う。アテナはそんなランスを見つめると、何かを思いついたのか、ふふっと笑った。

「いいこと思いついたわ。あたくしのポケモンを貸してあげる」

アテナはそう言って、腰元につけていたモンスターボールをランスに向かって投げた。ランスは慌ててそれをキャッチする。
 ▼ 68 AYr1xkow/g 17/02/15 00:41:40 ID:i343Sg9I [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「え……?」

ランスが訳が分からないという顔をしてモンスターボールをまじまじと見つめる。

「自分の欲しいポケモンを捕まえたことがないんでしょう?奪うだけじゃなくてそういう経験も必要よ。その子と一緒にやってみなさいな」

「いいんですか?」

ランスが驚いてアテナを見上げる。アテナは含みのある笑みを浮かべて頷いた。厚く紅の塗られた唇が妖しく動く。

「何か言われたらあたくしの名前を出していいわよ。まあサカキ様はさすがにあたくしの力じゃどうにもならないけど、あのお方はこんなことじゃ怒らないわ」

「なんで、わざわざ」

ランスがそう言いかけると、アテナは口元に手を当てて高飛車な笑い声を上げた。

「うっふっふ。あたくしは我慢が嫌いなの。好きなものは好きだし嫌いなものは嫌いだって、はっきり意思表示させてもらうわ。……あなたのことは結構気に入ってるのよ」

ランスは眉をひそめて首を傾げた。まだ会って一日と経っていないというのに?
 ▼ 69 AYr1xkow/g 17/02/15 00:44:17 ID:i343Sg9I [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「だってランス、あなたとっても可愛いんだもの。……ま、理由はそれだけじゃないけどね……でもなんとなく、あなたとはうまくやれそうな気がするのよ。せっかくだから今から仲良くしときましょ」

アテナはそう言って、ランスに視線を合わせるように屈み、にんまりと微笑んだ。ランスはそんなアテナをじっと見つめる。アテナのつり上がった瞳には、確かに嘘はないように見えた。

「仲良くなれないのはプロトンさんですか」

ランスがズバッと言い当てる。アテナは目を見開いた。

「あら、バレちゃった?まあ、分かるわよね。あいつのことが好きな奴なんていないわよ」

アテナはにべもなく言うとべっと舌を出した。

「……さあ、早く行ってらっしゃい。自分の使うポケモンくらいには愛着あった方がやる気出るでしょう?」

「……そうですね」

ランスは素直にそう言うと、アテナから受け取ったモンスターボールをしっかりと握りしめ、小さく礼をした。
 ▼ 70 AYr1xkow/g 17/02/17 12:49:15 ID:GWRKGwmk [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスはアテナから借りたモンスターボールを何度かぽんぽんと投げて弄びながら部屋に戻った。二人はまだ部屋に残っていたが、ランスを待っているというよりはサボっていると言った方がしっくりくるほどにのんびりしている。

「行かないんですか」

ランスが聞いてみると、二人は顔を見合わせ、

「いやー、行くけどさ。時間とか特に決まってないんだ」

「プロトンさん、部下に興味がねえから決まりも何もねえんだよ!ひゃひゃひゃ!」

「……なるほど」

ランスは小さく呟いた。アテナもプロトンは放任主義だと言っていたが、それはなんとなく聞こえがいいように言い換えただけで本当は間違いだろう。ラムダの言葉を思い出して考えてみるに、奴は本当に自分の地位にしか興味がないのだ。あの時はラムダの言っていたことはよく分からなかったが、アテナの話を聞いて合点がいった。
 ▼ 71 AYr1xkow/g 17/02/17 12:50:19 ID:GWRKGwmk [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「では私は先に行ってきますね」

ランスはそう言ってくるりと踵を返す。二人は驚いたような声を上げた。

「真面目だな……いや、俺たちも行かなきゃだけど……」

「怪我すんなよ!ひゃひゃひゃ!」

ランスは無言で部屋を出た。怪我なんてするものか。自然公園で一人で生きてきたぼくを舐めるなよ。

あの後アテナに貰った空のモンスターボールをぎゅっと握りしめる。自然公園で野生のポケモンと戯れたことはあったが、トレーナーとしてポケモンと触れ合ったことは一度もない。柄にもなく自分が緊張していることに気付いて、ランスはふうと溜息をついた。

「……ぼくはこれから一体どうなるんでしょうかね」

ふとこぼれた独り言が敬語になっていたことにも気付かず、ランスは教えられた裏口からアジトを出た。目の前に広がっているのは知らない街並みだ。ランスは気を引き締めるように唇をキッと強く結んだ。
 ▼ 72 マンボウ@プテラナイト 17/02/18 02:41:00 ID:pEanLEKI NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
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 ▼ 73 AYr1xkow/g 17/02/21 18:47:34 ID:A3LKjYLk [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
ここはカントー地方のタマムシシティ。ランスが知っているのはそれだけだ。周りを見ると、高層マンションやデパートなどが並んでおり、なかなかに大きな都市であることが分かる。ランスは迷わないように辺りをよく確認しながら慎重に歩いた。できるだけ目立たずに済むように日陰を歩く。ちょうど後ろを振り向いたところでランスは小石に蹴躓き、足元を見て小さく舌打ちをした。

「失敗したな……」

制服を着てこなければよかったと思った。どうしても目立ってしまう。それに、緩い制服はどうも格好悪く見える。ランスはとりあえず帽子を脱ぐと、それで胸元の「R」の文字が見えないように持ってみた。それでもやはり怪しさは拭えない。

ランスは思いきってアテナから借りたポケモンの入ったモンスターボールを投げてみた。そこから現れたのはナゾノクサだ。
 ▼ 74 AYr1xkow/g 17/02/21 18:49:19 ID:A3LKjYLk [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「こんにちは。ちょっとだけぼくを助けてください」

ランスは小さな声で言う。ナゾノクサは首をこてんと傾げた。ランスはナゾノクサにそっと触れた。緊張で手が震えている。ナゾノクサはそんなランスを見て怯えるように一歩退いた。

「ああ……ごめんなさい、慣れてないだけなんです。あなたのご主人があなたをぼくに任せてくれたんですよ。悪い奴じゃありません」

厳密に言えばロケット団に所属している時点で悪い奴である。

ナゾノクサは様子を伺うようにランスにちらちらと視線を送り、恐る恐る近づいてきた。ランスはできるだけ優しくナゾノクサに触れる。どうやらナゾノクサは、許してくれたようだ。

「ありがとう」

ランスはナゾノクサを抱きかかえた。これでどうにか怪しい「R」マークを見えなくすることができそうだ。
 ▼ 75 ソクムシ@あかいかけら 17/02/23 17:53:01 ID:Rf3qAZg2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ナゾノクサ可愛い
 ▼ 76 ムリット@ウルトラボール 17/02/23 18:44:16 ID:3wOm0uU6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 77 クシー@グラスシード 17/02/26 01:20:45 ID:L9f9A8KI NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
支援
 ▼ 78 ガバクーダ@アンノーンノート 17/02/26 16:16:13 ID:VkLiVW7U NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 79 シボン@がくしゅうそうち 17/03/01 15:55:31 ID:YXHQaAQw NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 80 AYr1xkow/g 17/03/04 00:11:42 ID:AthJwgp2 [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
ランスはそのまま迷わないよう、辺りを確認しつつ慎重に歩いた。とりあえず今日は東方向へと進むことにする。腕の中でナゾノクサかもぞもぞと動くのがくすぐったい。ランスはゲートを抜けて街の外に出た。七番道路だ。野生のポケモンが隠れ棲んでいるような草むらの面積はあまり広くない、地味な道路だった。歩いているトレーナーも一人もいない。

しかし、今のランスにしてみればこれほど好都合なことはない。ランスは草むらまで駆け寄ると、ナゾノクサをそっと地面に下ろした。

「誰かいないか探してみましょう」

ナゾノクサに話しかけるように独り言ちた。ナゾノクサは特に聞いていない様子で、好き勝手に走り回っている。

野生のポケモンたちは怯えているのか疲れているのか、しばらく探してもまったく現れなかった。会いたい時に限ってその相手が現れないことは、往々にしてよくあることである。

草むらにしゃがみこんでポケモンを探していたランスが困ったように溜息をついて立ち上がると、少し遠くまで行っていたナゾノクサが走って戻ってくるのが見えた。

ランスが近くに寄ってみると、ナゾノクサが傷ついているのが見えた。どうやら火傷しているらしい。ということは、その向こうにポケモンがいるということだ。ランスはぱっと目を輝かせた。

「ナゾノクサ!こっち!」

思わず駆け出したランスに、ナゾノクサはじとりとした目を向けてから、ランスを追いかけた。
 ▼ 81 AYr1xkow/g 17/03/04 00:22:26 ID:AthJwgp2 [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
ランスが向かった先にいたのは、こいぬポケモンのガーディだった。ガーディはランスに連れられて再びナゾノクサが戻ってきたのを見ると、嬉しそうに吠えた。ガーディはただじゃれているだけのつもりだったのかもしれない。とはいえ、くさタイプのナゾノクサにとっては迷惑な話である。

「初めて見た……ガーディは確か……ほのおタイプ!だからあなたはちょっと嫌かもしれませんが……」

ランスがそう言ってナゾノクサに視線を落とす。ナゾノクサはどうせやらなきゃいけないんでしょ、とでも言いたげな目つきでランスを見つめ返した。

「ありがとう、ナゾノクサ。すいとる!」

ランスの指示に従って、ナゾノクサはガーディの体力を吸いとろうとした。しかしガーディは跳ねるような動きであっさりと避け、ナゾノクサにひのこをお見舞いする。ナゾノクサは熱がってその場で駆け回った。

「ああっ……えっと……ねむりごな!」

ナゾノクサはどうにか立ち直り、きりりと表情を引き締め、頭の草を揺らして粉を撒き散らした。ガーディはその粉に興味を持ったのか、なんと自分から駆け寄ってきて、そしてそのままその場で眠りこけてしまった。
 ▼ 82 AYr1xkow/g 17/03/04 00:30:37 ID:AthJwgp2 [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
ランスが勢いよくモンスターボールを投げつけた。モンスターボールが揺れる。ランスは両手を握り合わせて祈った。お願い、上手くいって、ぼくの初めてのポケモン……!

モンスターボールは三回揺れると、動かなくなった。ランスはナゾノクサに礼を言い、モンスターボールに戻すと、ガーディを捕まえたモンスターボールを拾い上げる。

「なんだか、落ち着かない奴ですね」

ランスはそう言うと、モンスターボールからガーディを繰り出した。ガーディはすやすやと眠っている。ランスはガーディを優しく撫でながら揺り起こした。

「ガーディ。……ガーディ」

ガーディがぱちりと目を開ける。そしてランスの姿を見た瞬間、ガバッと体を起こして嬉しそうに甲高い声で吠え始めた。大きな瞳はきらきらと輝いている。人懐こそうな瞳だ。

「よろしくお願いしますね」

ランスはガーディの姿に思わず嬉しそうに目を細めてそう言うと、もう一度ガーディの体を撫でた。ほのおタイプだからだろうか、ほんのり暖かくて心地いい。

ガーディは返事をするように元気よく吠えた。
 ▼ 83 AYr1xkow/g 17/03/05 23:21:27 ID:kqZDYxLU [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
気付けば日が落ち始めている。

ランスは今度はガーディを抱えてタマムシシティを歩いていた。あの後、夢中になってガーディと遊んでいたら、あっという間に時間が過ぎてしまった。結局、ガーディ以外のポケモンは捕まえていない。

しかし、ランスには大丈夫だという確信があった。プロトンは部下の仕事の成果などどうでもいいのだろうということは、ラムダやアテナの話でもう分かっていることだ。

迷うことなく無事にロケットゲームコーナーへ戻ると、ランスは人が見ていないことを確認して裏口からアジトへと滑りこんだ。遊び疲れたのか、ガーディは欠伸をしている。ランスはガーディをモンスターボールに戻すと、アテナの元へ向かった。
 ▼ 84 AYr1xkow/g 17/03/05 23:23:06 ID:kqZDYxLU [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「アテナさん、ありがとうございました」

アテナはランスが部屋に入ってくると、ランスがやってくるのを待っていたかのようにすぐに現れた。

表向きには組織全体のポケモンを借りたことにはなっているので、二人は乱獲や強奪によって手に入れたポケモンたちを「保護」している奥の部屋に入る。

ランスはナゾノクサの入ったモンスターボールと、それから余った空のモンスターボールをアテナへ返した。

「どういたしまして。いい感じの子、捕まった?」

「はい」

アテナの言葉に、ランスは笑顔で頷いた。

「それはよかったわ」

アテナはそう言って目を細めた。
 ▼ 85 AYr1xkow/g 17/03/05 23:24:21 ID:kqZDYxLU [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あの、アテナさん。お聞きしたいことがあるんですけど」

ふと思い立ち、部屋には二人しかいないというのにランスは声を落とした。

「何かしら?」

「その……サカキさんとお話したいことがあるんですけど、会わせてもらうことってできますか?」

ランスがそう言って、力強い瞳でアテナを見上げる。アテナはかすかに驚いたように口を小さく明けてから、困ったような笑顔を浮かべて答えた。

「うーん、どうかしら。やっぱりその辺はアポロに聞いてみた方が早いと思うわ」

「そうですか……」

ランスが分かりやすく落胆した様子で言う。

「ごめんなさいね」

「いえ、こちらこそすみません。ポケモンを貸してくださって本当にありがとうございました」

もう一度礼を言うと、ランスは部屋を後にした。
 ▼ 86 AYr1xkow/g 17/03/05 23:27:33 ID:kqZDYxLU [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アテナに協力してもらおうと思ったが、失敗に終わってしまった。アポロには聞いても無駄だということはもう分かっている。

では直属の上司に頼むべきだろうか?ランスは一瞬そう考えたが、あまりプロトンのことは頼りたくなかった。

アポロやアテナとはそれなりに上手くやれそうな気がする。同室の二人や、あのラムダという奴とも、関わる上で大きな問題はないように思える。ただし、プロトンだけは別だった。

自分はプロトンになんとなく快く思われていない、そんな自信があった。まあ、プロトンはランスだけでなく他のどの団員のことも好いてはいなさそうであるが。

さて、どうしたものか。ランスは腰につけたガーディの入ったモンスターボールを撫でながら、早足で寝室へと戻っていった。
 ▼ 87 AYr1xkow/g 17/03/07 16:51:28 ID:/mmSIAac [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
翌日。ガーディを抱いて眠ったおかげで、眠っている間ずっと暖かかった。なんだか晴れやかな気分だ。ランスは目を覚まして制服に着替えて朝食を済ませると、部屋で私服に着替え直した。

「ひゃひゃひゃ!なんで着替えてんだよ?」

同室の男が言う。相変わらず耳障りな笑い声である。

「ガーディ、可愛いなあ」

もう一人がそう言いながらガーディを撫でようと手を伸ばすと、ガーディは「ガウ!」と鋭く吠えた。その声は可愛らしく、威嚇としての役割は果たしていなかったが、警戒しているのだということは分かる。

「ガーディ、その人は大丈夫ですよ」

ランスが着替えを終えてそう言うと、ガーディは今度は甲高い鳴き声を上げて自分から男の手に近づいていった。

「捕まえたばっかりなのにもう懐いてんのな。ほーれ、いい子いい子」

ガーディは気持ちよさそうに喉を鳴らしている。
 ▼ 88 AYr1xkow/g 17/03/07 16:52:14 ID:/mmSIAac [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「さて。私はもう行きますね」

ランスはそう言って立ち上がる。男はガーディを撫でながらランスを見上げ、

「なんで私服なんだ?」

ランスは男をちらりと見ると、ガーディをモンスターボールに戻した。

「この制服を着たら、嫌でも怪しまれますから」

床にくしゃくしゃに丸められた紙のゴミが落ちている。ランスはそれを軽く爪先で蹴り上げた。ふわりと浮かび上がるゴミを見事にキャッチすると、そのまま部屋のゴミ箱に投げ入れる。

「お見事」

男が感嘆の声を上げる。

「それが脅しになるんだろうがよ?」

もう一人がそう言った。ランスは小さく首を横に振って部屋を出た。
相手を怖がらせることよりも、油断させることの方が得意だ。今までそうやって生きてきた。自分が子供であることを最大限に利用するのだ。
 ▼ 89 AYr1xkow/g 17/03/16 23:18:07 ID:L2f7ZTIg [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスは私服姿のままアジトを出ると、堂々とタマムシシティを歩いた。今日は西に出てみることにする。辿りついたのは十六番道路だ。

ランスの服装は、とても立派なものとは言えない。いや、それなりに高価な服だったのだろうということが伺えるデザインではある。しかし、真っ白だったシャツも、深みのあるネイビーの膝丈のパンツも、着古されてもうボロボロになっている。

十六番道路の南には十七番道路へと続くサイクリングロードの入口がある。ランスは十六番道路に出て少し歩いたところにある草むらの近くに向かった。そして膝を抱えて座りこむ。ポイントは、寒そうに見せることだ。

「そこの僕、どうしたの?」

一時間くらい経っただろうか。声が聞こえ、ランスは顔を上げた。優しそうな女性が、心配そうな顔をしてランスを覗きこんでいる。

「大丈夫?具合が悪いの?」

ランスは目の前の女性に狙いを定めた。
 ▼ 90 AYr1xkow/g 17/03/16 23:18:56 ID:L2f7ZTIg [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
まずは無言で視線を落とす。もう慣れたものだ。どうすれば一番同情を買えるのかを、ランスはすっかり熟知していた。

「……お母さんやお父さんはどちら?」

躊躇いがちに女性が尋ねるのを聞いて、しめたとランスは思った。

「母さんも父さんも、もういない」

まあ、事実ではある。

女性が息を呑んだ。それから、困ったように辺りを見渡して、再びランスに視線を向ける。

「えっと……寒そうだわ。何か上に着れるもの……女物で申し訳ないけど、これをあげる」

女性がそう言って、着ていたショールを脱いでランスの体に巻きつけた。ランスはその間、じっくりと女性の腰を見つめる。モンスターボールが見当たらない。トレーナーではないようだ。ちぇっ、ハズレ。
 ▼ 91 AYr1xkow/g 17/03/16 23:19:50 ID:L2f7ZTIg [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ありがとう」

ランスはそう言って素早く立ち上がった。女性が慌てて声を上げる。

「大丈夫?お腹空いてないかしら?」

「ううん、大丈夫です。ありがとうございます」

ランスは視線を下に向けたままそう言うとさっさとその場を歩いて去っていった。

女性はそれなりに高級そうな身なりをしていたので、本当はいくらか頂戴したかったのだが、今は金には困っていない。それに、顔を覚えられると厄介だ。

しばらく歩いて物陰に隠れてから振り向くと、女性はもうそこにはいなかった。恐らくタマムシデパートに向かったのだろう。帰りにまた会ってしまうかもしれない。慎重に動こう、ランスはそう思った。

子供服の上にショールは目立つ。ランスはショールをその場に脱ぎ捨てると、ガーディをモンスターボールから出した。ガーディはランスの狙い通り、ショールで遊び始めた。じゃれて噛みつかれたショールがみるみるうちにボロボロになっていく。

ランスはその様子をぼんやりと眺めながら、もう少し遠出した方がいいかもしれない、と思った。今までの獲物は金持ちそうな人間だったが、今は違うのだ。ポケモンを持っていそうな人間を探さなければ。
 ▼ 92 AYr1xkow/g 17/03/24 01:22:49 ID:b7UxkTMU [1/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
少し場所を変えてみようかと考えたが、隣の十七番道路に向かうにはサイクリングロードに入らなければならない。ランスは自転車を持っていない。結局、先程と同じように草むらの横で餌食をずっと待ち続ける他なかった。

どれくらい経っただろうか。何度か話しかけられたが、品のいい四十代ほどの女性ばかり。一人もトレーナーではなかった。裕福で心に余裕があるから見知らぬ少年にも優しいのだろう。しかし、今欲しいのは金ではないのだ。とはいえ、まったく金を取らなかったと言えばそれは嘘になるが。

そろそろ諦めるかとランスが立ち上がった瞬間、また声をかけられた。若い男性の声だ。ランスは思わず勢いよく顔を上げてしまった。男は驚いたような顔をする。

「どうした、こんなとこで。大丈夫か?」

ランスの視線が、男のベルトの部分にさっと動いた。モンスターボールがある。トレーナーだ。

「お腹空いた……」

ホッとしたランスの口から出たのは、まさに本心だった。
 ▼ 93 AYr1xkow/g 17/03/24 01:23:30 ID:b7UxkTMU [2/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あー、うん。だよな?」

男は困ったようにそう言いながら、持っていたバッグに手を突っ込み、何かを取り出してランスに手渡した。小さなプラスチック製の袋の中に、可愛らしいクッキーがいくつか入っている。

「これ、さっきタマムシデパートで買ったクッキー。何個か食っちゃったけど、やるよ」

「ありがとうございます」

ランスはそう言って迷うことなく袋を開け、クッキーを口の中に運んだ。ほんのり甘くて美味しい。

「なんでこんなとこに……ってアレか。答えにくいか。いや、なんでもないよ」

男は質問しようとしてからそれを取り消すように大きく手を振った。ランスは気にせず口の中にクッキーを頬張ったまま、

「べふに、ほーはんもはーはんもひないしはふぇもなふへ」

「え、なんて?」
 ▼ 94 AYr1xkow/g 17/03/24 01:24:07 ID:b7UxkTMU [3/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスはごくりとクッキーを飲みこんでから言い直した。

「別に、父さんも母さんもいないしあてもなくて」

喉が渇いた。何か飲み物が欲しいところだ。ランスが呑気にそんなことを考えている間、男は申し訳なさそうな表情をしてランスを見つめていた。

「……俺んち来るか?いや、ちょっと厳しい……けど、まあ数日くらいなら……」

見てられねえよ、そうぼそりと呟いた男に、ランスは思わず目を瞬いた。そしてゆっくりと返事する。

「……大丈夫です」

しっかりと言ったつもりだったのに、存外小さな声になってしまった。

自然公園にいた頃にはこんな人物に出会ったことはなかった。もしあの時こんな出会いがあれば、ランスの生活はまったく違うものになっていたかもしれない。

いや、そうじゃない、ランスは必死にその考えを振り払った。数日間養ってもらっただけで一体何が変わると言うのだ。その後にはまた地獄のような毎日が待っている。
 ▼ 95 AYr1xkow/g 17/03/24 01:26:08 ID:b7UxkTMU [4/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「寒そうだし。マジで来れば?なんか……こう……バイトとか見つかるまで?とか?」

「……いえ、大丈夫です」

もうこれ以上彼とは関わりたくない。

「ありがとう……でも、本当に大丈夫です」

ランスはそう言うとその場でよろけた。

「うおっ!?大丈夫じゃなくね!?」

男がそう言ってランスを支える。ランスはできるだけ顔を見せないように礼をすると、その場から走り去った。力ずくで走るランスの右手には、三個のモンスターボールがしっかりと握られている。

人から何かを奪って、初めて罪悪感を抱いた。ロケット団のメンバーになったというのに。このままじゃだめだ。このままじゃだめだ。なんで今更!

タマムシシティに繋がるゲートを抜け、男に気付かれていないことが分かると、ランスは少し速度を緩めてアジトまで早足で向かった。

途中で人かにぶつかる度に自棄になってモンスターボールを奪っていくうちに、何も知らない心優しい青年から奪った三個のモンスターボールはどれがどれだか分からなくなってしまった。
 ▼ 96 ルフォン@クリティカット 17/03/24 01:38:20 ID:q9C06PY. NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 97 AYr1xkow/g 17/03/24 20:53:55 ID:b7UxkTMU [5/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
気付けば奪ったモンスターボールは十三個になっていた。結局、変に同情を買って油断させるよりもさっさと奪っていった方が効率が良かったというわけだ。サカキに財布を抜き取ったのを見破られたことで少し自信をなくしていたが、スリの才能はまだ衰えていないようだ。

アジトに戻ると、ランスは一度自室に戻ってからプロトンの部屋まで向かった。奪ったポケモンについてはその数と種類を上司にしっかり報告しなければならない。

「失礼します」

返事はない。しかし、部屋の明かりはついているし、何よりガサゴソと音がしている。ランスは扉をノックしてから思いきって開けてみた。

プロトンは椅子に座ってこちら側には背を向けており、デスクに向かって何かをしているようだった。ランスは小さく息を吸うと、

「プロトンさん。奪ったポケモンについて、報告しに来ました」
 ▼ 98 AYr1xkow/g 17/03/24 20:55:00 ID:b7UxkTMU [6/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
プロトンは無言だった。振り向きもしなかった。

体はデスクに向けたまま右腕をこちらに向け、右手の人差し指で何かを差す。そこには小さなテーブルがあり、その上には何枚かプリントが置いてあった。見れば、報告内容を記入するための用紙であることが分かる。

「ああ。ありがとうございます」

ランスはざっと目を通した。自分の名前。入手したポケモンの数。その種類。ポケモンがトレーナーのものであったか否か。入手した場所、時間、備考欄。

ランスは急いで書類を埋めていった。奪ったポケモンの種類は先程部屋に戻った時に確認した。どれがどの人物のポケモンなのかはも分からないが、すべてトレーナーのものであったことは確かだ。

場所?分かんないけど、まあ三匹だけ十六番道路であとはタマムシシティ。時間……うーん、だいたいでいいや。

ランスは書類を記入し終えるとそのまま提出し、よろしくお願いしますと告げて素早く部屋を去った。
 ▼ 99 AYr1xkow/g 17/03/24 20:55:58 ID:b7UxkTMU [7/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスが次に向かったのは、管理部だ。今回はアテナはその場にいなかったため、若い女性の団員とやりとりを行うこととなった。

プロトンの部屋でやったように、もう一度報告を行っている間、その女性団員は、初めての仕事で十三匹もポケモンを奪ってきた新人を好奇と期待の入り混じった瞳で見つめていた。

すべてが終わると、どっと疲れが溢れてきた。ランスは部屋に戻り、ベッドに飛びこんだ。二人はまだ帰ってきていない。

あんな経験は初めてで、混乱してしまった。もし自然公園にいた頃にああやって家に来ないかと誘われていたらどうしていただろう。そこまで年の離れていない、若い男だった。兄のように思えたかもしれない。結構楽しく生活できたかもしれない。

鼓動が速い。何を恐れているのだ。アジトまで追いつかれるはずなんてないのに。もう二度と会うこともない。

あの青年は家に帰って上着を脱いでから、可哀想だと感じて助けてやりたいと思った少年に裏切られたことを知る。ただそれだけの話だ。

ランスは呻きながら寝返りを打った。もう夜の七時を過ぎていたが、中途半端な時間にクッキーを食べてしまったせいでまったく腹は空いていなかった。二人の先輩が帰ってきたのを音で感じ取ると、ランスは狸寝入りでやり過ごし、そして結局一睡もできないまま夜を明かした。
 ▼ 100 ガヤドラン@おはなのおこう 17/03/30 18:32:05 ID:1vU0ba1E NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援!
 ▼ 101 AYr1xkow/g 17/03/31 13:14:26 ID:VIJCjvag [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌日、ランスは隈のできた顔で食堂に向かった。同室の二人は「寝てたんじゃないのかよ」とツッコミを入れてきたが、それなりに心配してくれているようだ。

二人と朝食を食べていると、誰かに話しかけられた。誰かと思えば、なんと、プロトンだ。

「おいガキ。十三匹もポケモンを奪ってきたって?」

ランスは驚いて、今しがた噛み切ったパンをそのまま丸呑みしてしまった。同室の二人は更に驚いた顔をしている。

「ひゃひゃひゃ!十三匹とか!」

「ちょ……すごいじゃんかよ!どうやったんだ!?」

「……ガキ、確かランスとかいったか?」

プロトンは二人を無視して、濁った瞳でランスを見つめる。ランスはオレンジジュースを飲み干して詰まった喉を流しこんでごくりと飲みこむ。それから慌てて「はい」と返事して頷いた。プロトンがニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。

「やるじゃねえか。ちょっとは使える奴みたいだな。これからもよろしく頼むぜ」

プロトンはそう言うと、その場から去っていった。
 ▼ 102 AYr1xkow/g 17/03/31 13:15:24 ID:VIJCjvag [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
周りは未だにざわついている。まさかあのプロトンが部下を褒めるなんて。同室の二人を含め、みんながそれに驚いているようだった。ランスが十三匹のポケモンを奪ったことなんてその二の次だ。

「すげえじゃん……あのプロトンさんにちゃんと褒められるなんてさ」

「ひゃひゃひゃ!こりゃ期待大だな!」

その瞬間、ランスの頭にとある考えが浮かんだ。

仕事でいい結果を出したから、上司であるプロトンは直々にランスの元にやってきて褒めてくれたのだ。ならば、もっといい結果を出せば一体どうなるだろうか?きっとサカキさんに会える。そしてまたちゃんと話すことができるはず!

ランスの心は決まった。そうと決まれば、今日もまた大量のモンスターボールを奪って帰ってこないと。仕事をするのだ。
 ▼ 103 ュシュプ@だっしゅつボタン 17/03/31 13:41:20 ID:13clR1iQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 104 ニョニョ@エドマのみ 17/03/31 16:52:19 ID:pn52xtZg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ふぅ、追いついた。これは支援
 ▼ 105 蓮托生 連帯責任 17/04/01 09:16:13 ID:sm43dTdI NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援するに決まってるだろ
イエェェェェェェェェェイww
 ▼ 106 AYr1xkow/g 17/04/01 18:10:31 ID:/MLzhXAs NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それからランスは、ひたすらに仕事をし続けた。

ポケモンを奪うだけではなく、別の仕事を言い渡されたこともあった。ポケモンではなく人間を襲ったり、プロトンがとある「仕事」をしている近辺で一般人の通行止めをしたり。プロトンと一緒に行動したこともあった。

他人からしてみれば迷惑行為であっても、ランスにとっては仕事。そのすべてを完璧にこなす必要がある。ランスは行動範囲を広げ、カントー地方、それから故郷である隣のジョウト地方のあらゆるところで悪事を働いた。

そんなランスにとって原動力となったのは、当初の言葉とは異なる態度を取るサカキへの怒りだ。

怒りを力に。ランスはまるで何も意識していなかったが、つまりはそういうことである。怒りを感情として消化するのではない。目的を果たすためのエネルギーへと変えるのだ。

やがて怒りという感情は心から消え去り、目的のためならばどんな手段も厭わず、前へと突き進むようになる。

気付けば、ランスがロケット団に入ってもう一年が過ぎていた。
 ▼ 107 AYr1xkow/g 17/04/02 20:37:34 ID:FI/TbASI [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ランスがロケット団に入ったのは春だった。始まりの季節だ。それはロケット団も同様で、いわば学校でいう新学期がもう少しで始まる頃、といったところである。そのため、各部署が引継ぎなどの準備に追われていた。

プロトンの班の者たちは、特に異動などもないとのことで、体制も変わらず、班員の一年間の成績発表が行われるのみであった。とはいえ、誰が成績一位なのかはもう分かりきっている話である。

やがて、成績表が展示された。班の者たちは真っ先に見に行き、ガヤガヤと騒いでいた。やっぱりな、予想通り!という声が聞こえてくる。

ランスも同室の二人と成績表を見に来たところだった。掲示板には、分かりやすくランキング形式にされた表が貼られている。前にたくさんの人がいるので、ランスは爪先立ちになって成績表を見上げた。

ランスの名前は、成績表の左上、ランキングの一番最初のところに載っていた。
 ▼ 108 AYr1xkow/g 17/04/02 20:38:27 ID:FI/TbASI [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
まともな生活を送ってこなかったことが、こんなところで役に立つとは。ランスはぼうっとそんなことを考えながら成績表を見つめた。分かりきっていたことなので喜びの感情は特に感じない。

「予想通りだけど、すげーな。プロトンさんの班で歴代最年少で最高の成績だってさ」

「ひゃひゃひゃ!さすがだな!ちなみにロケット団全体では最高成績はアポロさんだってよ。お前さんは二位!」

隣の二人が盛り上がっている。ランスは表情を変えずに、

「へえ、そうなんですか」

ランスは冷静だ。高成績を残し優越感を得ることが目的なのではない。これはあくまで手段なのだ。

しかし周りの者たちは違った。「ガキのくせにやるじゃねえか!」「ほら、おめでとう!」などと言いながら、ランスをくすぐったり胴上げしたりする。差が圧倒的すぎて、嫉妬する余地すらない。みんな素直にランスを褒め称えていた。

そんな中、リノリウムを蹴る冷たい音がつんと響いた。一同は途端に静かになる。見れば、アポロがこちらへと向かってきていた。ランスは思わず生唾を飲みこんだ。
 ▼ 109 AYr1xkow/g 17/04/02 20:40:32 ID:FI/TbASI [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「お疲れ様です!」

一同が礼儀正しく言う。アポロは丁寧に返事しながら歩き、やがてランスの前で立ち止まった。

アポロはランスを見下ろした。ランスはじっとアポロを見つめ返す。アポロはしばらく黙っていたが、やがてふんと溜息をついて口を開いた。なんだか、笑っているように見える。

「よくやりましたね。お前の活躍は聞いています。プロトンも褒めていましたよ」

「ありがとうございます」

ランスはそう言いつつも、アポロを注意深く見つめたまま視線を外さない。アポロもランスを見つめていたが、これ以上は無駄だと判断したのか、

「……サカキ様がお待ちです。至急、部屋へ」

そう言って視線を外した。ランスの口元が、ようやく嬉しそうに歪んだ。この時をずっと待っていたのだ。
 ▼ 110 AYr1xkow/g 17/04/05 16:33:55 ID:ZBymmTJI [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
サカキの部屋に入るのは、ほぼ一年ぶりだ。

「失礼します」と声をかけると、「入りなさい」と声が返ってきた。それだけで正式に認められた気がして、ランスは嬉しくなる。小さく深呼吸をしてから、ランスは扉を押し開いた。

サカキは机に向かって座っていた。扉を閉めたランスが真っ直ぐ前を向くと、サカキと目が合った。サカキは笑っている。

「待っていたよ」

サカキの声は、思ったより柔らかかった。久しぶりに息子と再会した父親のような穏やかさすら感じる。ランスはごくりと喉を鳴らした。

今まで色々と考えてきた。たくさん言いたいことがあったのに、すべてが飲みこまれてしまう。ランスはただ黙ってその場に立ち尽くしていた。
 ▼ 111 AYr1xkow/g 17/04/05 16:34:36 ID:ZBymmTJI [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「さてランス……まず最初に詫びよう。すまなかったな」

サカキはそう言うと机から立ち上がり、ランスの方へと歩いてきた。高価そうな部屋の備品、サカキの背広、革靴。そのどれもがこれ以上ないほどの緊張感を生み出している。

「君が私に何を感じるかどうかは、私も予測済みだった。当然だな。いや、説明もなしに酷い態度を取ってしまった。すまない。ランス、君のためだったのだよ」

サカキの言葉に、ランスは首を傾げた。

「ランス。君はこの一年間、何を感じていたかね?」

サカキが問う。ランスは淀みなく答えた。

「怒りです」

そう、怒り。理不尽な態度を取るサカキへの怒りだ。

ランスの答えに、ふっとサカキは微笑んだ。ランスの瞳が思わず大きく見開かれる。
 ▼ 112 AYr1xkow/g 17/04/05 16:35:19 ID:ZBymmTJI [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「そう、怒り。そうだろう。私が憎かっただろう?それでいい」

サカキは両腕を広げ、嬉しそうに続ける。

「怒りこそが最も強い原動力だ。君はそれを使いこなし、良い成績を収めた。素晴らしい!」

ランスは呆けていた。

なんだ。全身の力が抜けていくのが分かる。そういうことだったのか。賢いランスはすべてを理解した。始めからサカキの思う通りに動いていたのだ。結局はサカキの掌の上。ランスは何も言えなかった。

「やはりだ。やはり君には見込みがある。思った通りだ。初めて出会った時から、私はそう思っていたのだよ」

サカキがランスを見つめる。ランスの瞳の奥には、強い炎がめらめらと蠢いている。その炎は緑色に燃え盛っており、冷たい印象さえ与えるが、何よりも熱い。サカキはそれをその時から既に見抜いていたのだ。

財布を取り返されて空っぽになった手の上にかすかに感じる、札束の感触。あの日のことを思い出したランスは、ぐっと拳に力をこめた。
 ▼ 113 リボーグ@ぼうごパット 17/04/06 12:03:41 ID:sZgpGG7U NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 114 AYr1xkow/g 17/04/07 17:14:30 ID:sj.idaqI [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「そう……だったんですね」

ランスの心にもう怒りはなかった。結局いいように利用されていたのだとか、そんなことは微塵も感じない。

サカキはランスを試したのだ。ランスはそれに期待通り、いや期待以上の結果を残した。サカキは自分の判断が間違っていなかったこと、それから優秀な部下を手に入れたことを再認識し、満足していた。

始めからすべてを見越し、その上で自分を試したサカキ。ランスはその意図に気付かず、ただ闇雲に動いた。結果的に良い方向に進んだが、自身の未熟さを思い知らされるばかりだ。

まだ子供だから?そんなことは関係ない。ここでは自分も、他の者と変わらないただの一人の構成員なのだ。
 ▼ 115 AYr1xkow/g 17/04/07 17:16:44 ID:sj.idaqI [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ああ。長く待たせてしまったな。だがもう心配無用だ。ランス、君はここで上手くやれる。私が保証しよう」

サカキの言葉は、ランスの心にじっくりと染み渡った。ランスはゆっくりと頷くと、

「ありがとうございます。サカキ様」

そうはっきりと言った。それから、深々と礼をする。

サカキはランスに「怒り」の使い方を教えた。それはこの世界で生きていく上で何よりも重要なことに違いない。

サカキはランスを上手く動かした。そしてランスは、きっとそれに上手く応えた。それはサカキだから成し得たこと。ランスはそう思った。他の誰がやっても上手くいかなかっただろう。不快感など微塵も感じない。むしろランスの心は満たされていた。

この人は今までに出会った中で誰よりも尊敬に値する人物だ。

「それでは、私はこれで失礼します」

ランスはそう言うと、もう一度小さく礼をして、サカキの部屋を出た。
 ▼ 116 AYr1xkow/g 17/04/07 17:17:54 ID:sj.idaqI [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
あなたは私に手を差し伸べ、寝る場所と食べ物と仕事を与え、最も大切なことを教えてくれた。

感謝してもしきれません。私はあなたに何を与えればいい?何を返せばいい?

そんなものは何ひとつない。分かっています。これから私がどう動くのか、それが重要なのでしょう。

サカキ様。私はあなたに心からの忠誠を誓います。あなたを追い、守り、従います。それが私にできる唯一のこと。そうでしょう。

あなたは私の上に立つに相応しい人。それなら、私はあなたの下に立つに相応しい人となります。

サカキ様。すべてはあなたの仰せのままに。
 ▼ 117 AYr1xkow/g 17/04/10 11:48:52 ID:TvxnJ.Ww [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あれから四年――。

十六歳になったランスは、アジトの廊下で幹部の一人であるアポロに対して大きな声で主張していた。

「だから、制服がもうきついんですよ。まだ身長は伸びると思うので、もう少し大きめの新しいものをください。できるだけ早く」

「今年に入って何回目だと思ってるんですか?毎度毎度発注が面倒なんですよ」

アポロは明らかに苛立っている。

「そんなこと言われても、生理現象ですから。私にはどうしようもできません」

ランスはしれっとそう答えた。アポロは頭を抱えて唸った。

「まったく……」
 ▼ 118 AYr1xkow/g 17/04/10 11:50:19 ID:TvxnJ.Ww [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「お、またやってんの?」

そう言って笑いながらラムダがその場を通り過ぎていくのが見える。その瞬間、アポロは思い出したように口を開いた。

「……ああ、そういえば。ラムダのために発注しているものが確かまだ残っているはず。あなたには少し大きいかもしれませんが、それでもよろしければ今準備できますよ」

アポロの言葉に、ランスは思いきり顔をしかめた。

「ええ、ラムダさんのですか?ラムダさん、ガリガリだからきつそうじゃないですか。それにラムダさんと一緒ってなんだか嫌ですね」

「おい、聞こえてるぞ」
 ▼ 119 AYr1xkow/g 17/04/10 11:51:16 ID:TvxnJ.Ww [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アポロが深く溜息をつく。

「とりあえず一度着てみてください。問題がないようでしたらそれでお願いしますよ」

そう言ってさっさと歩き去っていくアポロ。

「はあ……分かりました」

ランスが気のない声で言う。ラムダの不満そうな声が聞こえてきたが、ランスは無視してアポロを追いかけた。

目的の部屋に辿りつくと、アポロは中に入ってラムダのために発注した制服を引っ張り出した。

見てみると、残りはあと二着。もしランスにも合うようであれば、また発注し直さなければいずれ足りなくなってしまうだろう。結局面倒なことには変わらない。アポロは制服の皺を伸ばしながらまた溜息をついた。

アポロはランスに制服を渡し、部屋を出て着替え終わるのを待った。結果が気になるのか、なぜかついてきたラムダも一緒だ。二人が黙って待っていると、今度はアテナがその場を通りかかった。
 ▼ 120 AYr1xkow/g 17/04/10 11:52:25 ID:TvxnJ.Ww [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「もはや恒例行事ね」

アテナは呑気にそう言いながら二人に近づいてきた。

「アポロ、そろそろ身長抜かれちゃうじゃないかしら?」

アテナがクスクス笑いながら言う。すると、アポロは不機嫌そうな顔をして低い声で言った。

「もう抜かれてますよ」

「あら」

アテナが思わず口元を手で覆う。ラムダはぷっと吹き出した。アポロが素早く振り返り、ラムダを睨みつけたその瞬間、

「アポロさん。制服、大丈夫そうです」

ランスが部屋から出てきた。胸元には大きなRマークが光っている。

「ちょっと嫌ですけど」

そう付け足したランスに、ラムダがまた非難の声を上げた。
 ▼ 121 ガピジョット@シルフスコープ 17/04/10 12:51:55 ID:WldxlAto NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 122 ガタブンネ@ピンクのリボン 17/04/10 17:56:58 ID:9bdrfMfM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
わちゃわちゃしてきていいな  支援
 ▼ 123 ルノズク@おしえテレビ 17/04/13 17:50:18 ID:Fg7Vnick NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
保守
 ▼ 124 クリン@ダートじてんしゃ 17/04/20 14:06:28 ID:V2Lpc0w2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ksk
過疎化
 ▼ 125 AYr1xkow/g 17/04/21 00:11:41 ID:.vE2ioKM [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ウインディ、今日は恐らくバトルする仕事はありません。おとなしくしていてくださいね」

「ガウッ」

ウインディが吠える。ランスは薄く微笑んでから相棒をモンスターボールに戻した。

昨日アポロに新しく支給された制服に着替えながら、部屋をじっくりと眺める。

来たばかりの頃は大きく感じたベッドは、今や窮屈になっていた。ここ数年間でかなり身長が伸び、ランスはロケット団で二番目に背の高い構成員となっていた。入りたての頃は同年代の子供よりも華奢で小さかったというのに。

二年前、数人が新しくロケット団に加入したため、部屋のひとつ空いていたベッドも埋まった。今は同室の三人がまだすやすやと眠っている。

ランスはプロトン直々に様々な仕事を任されるようになっていた。とはいえ、雑用係のような仕事ばかり命じられることも多い。今日もそうだった。
 ▼ 126 AYr1xkow/g 17/04/21 00:12:45 ID:.vE2ioKM [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
プロトンの部屋に向かう。ノックをして名乗ると、「入れ」と声がした。

「失礼します」

ランスが小さく礼をしながら入る。見ると、プロトンは部屋に備えつけられたベッドに腰かけていた。ランスの顔を見た瞬間、プロトンがにやりと笑う。嫌な予感がした。

「ランス、部屋の掃除を頼む」

ランスは一瞬沈黙してから、

「はい」

「なんだ、不満か?」

プロトンがどこからともなく煙草を取り出して口から煙を吐きながら言う。アジト内は禁煙だというルールは、ランスがロケット団に入ってから変わったことはない。

「まあ、不満かそうでないかと言えば、不満です」

「ハッ、言うじゃねえか」

プロトンは笑いながら言った。気分を害した様子はない。
 ▼ 127 AYr1xkow/g 17/04/21 00:13:48 ID:.vE2ioKM [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「まあ頼むぜ。散らかってからな。いいじゃねえか。その辺のゴミを捨てて、書類を適当にまとめりゃいいだけの話だ。現場に出て肉体労働するよりずっとマシだろ?」

プロトンは煙草を噛んでそう言ったが、ランスはそうは思えなかった。

「私は現場に出る方が好きですね。若くて健康的なので」

「生意気だな?まあ、仕事が出来るから別にどうでもいいけどよ」

プロトンの指示が覆ることはなさそうだ。ランスはプロトンに気付かれないように(気付かれている気がする)小さく溜息をつくと、机に向き合った。大量の書類が山積みにされている。書類は床にも広がっていた。ランスの鋭い瞳が、不機嫌そうにじっとりと細くなっていった。
 ▼ 128 AYr1xkow/g 17/04/21 00:15:09 ID:.vE2ioKM [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
ランスが掃除を始めてから、三時間が経過した。まだ書類の整理は終わらない。

プロトンは部屋で何かごそごそと作業をしたり、部屋の外に出たりと好き勝手に動いている。

ランスはとりあえず書類を種類順に分けていた。たまによく分からないものも出てくるが、すべて終わった後にまとめてプロトンに聞こうと思い、今は隅の方に寄せてある。黙ってひたすらに書類をめくり、仕分けていく。退屈すぎて死にそうだ。

次の書類は、今までに見たことのないものだった。ランスはうんざりした様子で目を凝らす。そして、自身の目を疑った。

その書類の一番下に、見覚えのある文字が見覚えのある筆跡で書かれていた。間違えるわけがない。捺印までされている。

ランスは完全に固まった。今はちょうどプロトンは部屋の外に出ていてよかったと思った。きっと見られていたら不審に思われたに違いない。

書類には、父親の名前が父親の筆跡で書かれていた。
 ▼ 129 ッサム@ぎんのこな 17/04/21 07:00:20 ID:1fh9V.zI NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 130 ゲボウズ@ポケモンずかん 17/04/21 23:23:22 ID:KGzE.FRs NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
正直毎日これのために生きていると言えるわ
 ▼ 131 AYr1xkow/g 17/04/23 01:31:19 ID:xpeF/NzM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>130
そこまで言っていただけるなんて本当に嬉しいです
ありがとうございます
毎日更新できなくてすみません
皆さんも支援ありがとうございます
 ▼ 132 AYr1xkow/g 17/04/25 00:45:37 ID:JFQC5InY [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
落ち着け。落ち着け。

ランスは書類を持つ手が震えていることに気付き、必死に自分に言い聞かせた。

ざっと目を通しただけだが、ランスは確信した。資産家であった父親を騙し、最終的に両親を死に至らしめ、かつてのランスからすべてを奪ったその首謀者は、プロトンなのだ。

足音が聞こえ、ランスの意識が引き戻された。足の裏を擦りつけながら歩くようなこの音は、間違いなくプロトンの足音だ。

種類の分からない書類については後でまとめて質問しようと思っていたが、気になって仕方がない。怪しまれるだろうとは思ったが、それでも耐え切れなかった。

ランスはわざと書類を床に落とした。プロトンが部屋の扉を開ける。ランスはなんでもないような顔をしながらちょうどプロトンに見えるタイミングで書類を拾い上げた。

「……?これ、何の書類ですか」

今初めて見つけたようなそぶりでランスが尋ねる。

「ん?」

プロトンはランスの方までやってきて、書類を覗きこんだ。
 ▼ 133 AYr1xkow/g 17/04/25 00:47:14 ID:JFQC5InY [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ああ……これか」

プロトンがにやりと笑う。ランスはその顔を見て、得も言われぬ恐怖に襲われた。

「なんてことはねえ、ただの契約書だ。他の書類とは別のところに適当に置いておいてくれ」

「分かりました」

ランスはそう言ってくるりと向きを変え、再び書類の整理に取りかかることにした。詳しいことは何も教えてくれなかった。ランスは一瞬だけ瞳を閉じて気を落ち着かせると、作業を再開した。すると、背後から声が聞こえてきた。

「……そういえば、この契約で貸した金はまだ全額返済されてねえな」

プロトンの口調は軽かった。ランスにはプロトンの表情は分からない。

「逃げやがってよ。見つけた頃にはもうどうにもならなかったからな、残念ながら海の底で妻と一緒に眠ってもらうことにした。……そういえば、こいつには息子がいたな」

プロトンは続ける。

「確か今頃、お前と同じくらいの年齢になってるはずだ」
 ▼ 134 AYr1xkow/g 17/04/25 00:49:10 ID:JFQC5InY [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
プロトンの声からは何も読み取れない。ランスも出来るだけ感情をこめずに返した。

「そうなんですか」

絶対に振り向くな。ランスは自分に警告した。今振り向いたら終わりだ。ランスは本能で察知した。

プロトンは、きっとランスがこの書類にサインをした男の息子だということに気付き始めている。一体いつから気付いていたのだろうか。もしかして、もっと前から、ランスがロケット団に入った時に既に分かっていたのか?分かっていて今日ここに呼んだ?それとも偶然?どちらにしろ、動揺していることを絶対に知られてはいけない。振り向いたらそこで終わりだ。

プロトンがランスがかつて騙した男の息子であるということについて何らかの証拠を見つけてしまえば、プロトンの攻撃の矛先はランスに向く。両親は死んだ。未だに返済の終わっていない借金を代わりに返すことができるのは、ランスしかいない。

考えろ。ランスは作業を続けながら必死に頭を回転させた。まずは今この時間を気付かれずにやり過ごす。それが先決だ。
このページは検索エンジン向けの機能制限版の旧ページです。
下URLから閲覧下さい。
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