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SS

【SS】リーグ挑戦者のバッジを数える仕事をやっています

 ▼ 1 ガニウム@クチートナイト 18/09/18 19:48:40 ID:.OKgF5n2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



「コールバッジ、フォレストバッジ、コボルバッジ、フェンバッジ……」


よく磨かれた金属面をコン、コン、カン、カンと爪で弾きつつ、バッジの名前を列挙していく。


少年「…………!」


俺より4つは年下であろう挑戦者と彼の手持ち3匹は、頭をずいっと突き出し、緊張の面持ちで俺の人差し指をガン見している。



ここはシンオウポケモンリーグ挑戦の入り口。

そして俺はその栄誉ある門番を務めるエリートトレーナー。

時給は最近30円アップして980円だ。
 ▼ 38 aIiv212DRk 18/09/19 22:28:44 ID:Kux2B80k [1/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

レントラー「……とらぁ」

コロトック「ころろー……」


レントラーはともかく、コロトックまであくびをしているのは珍しい。

普段はムクホークと一緒になって起こしに来る方なんだが。
 ▼ 39 aIiv212DRk 18/09/19 22:29:37 ID:Kux2B80k [2/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……まぁ、起こされたもんは仕方がない。今日のシフトは午後からだし、とりあえず──」

レントラー「……とらぁ?」


野良バトルでもしに行こう。

と言いかかけたところで、俺は昨日エリートトレーナーをやめ、ヘタレフリーターになったことを思い出した。

リーグ挑戦の意思は2年くらい前にはなくなっていたし、毎日のバトルだって、やることがないから続けていただけな気がする。

けれど、それを口に出してしまったのは昨日が初めてだ。

これで名実ともにバトルがただの暇つぶしになってしまった。
 ▼ 40 aIiv212DRk 18/09/19 22:30:57 ID:Kux2B80k [3/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

……別にいいじゃねぇか。それでも。

なんだかんだ、楽しいからな。

楽しくなきゃこんな長いこと続けてないからな。

そんで、楽しいからやっていることは趣味だ。

何も間違っちゃいない。
 ▼ 41 aIiv212DRk 18/09/19 22:32:18 ID:Kux2B80k [4/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……バイトまで、今日もバトルしに行こうぜ」


いつも通りの日常の始まり方。

けれど、昨日までとは違う意味になった過ごし方。


ムクホーク「……くっく」

レントラー「とら……」


ムクホークは不服そうだし、レントラーは悲しそうだった。
 ▼ 42 aIiv212DRk 18/09/19 22:33:21 ID:Kux2B80k [5/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

コロトック「…………」


コロトックは、俯いて黙ったままだ。

拗ねているんだろうか。


「……行くぞ、コロトック」

コロトック「…………ころぉ」


コロトックは小さく鳴くと、少し歩いて自分のボールの開閉スイッチを押した。

コロトックが中に吸い込まれ、ボールは軽い音を立てて床に転がった。


「んだよ……」
 ▼ 43 aIiv212DRk 18/09/19 22:34:25 ID:Kux2B80k [6/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


誰だってそうだ。

俺だってそうだ。

諦めるのは、諦めないのと同じぐらいには恐ろしく、難しく、息苦しい。

だから今まで言葉にするのを避けていたんだと、
どっちつかずな日々を過ごしてきたんだと、今更になって思う。
 ▼ 44 aIiv212DRk 18/09/19 22:35:26 ID:Kux2B80k [7/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



結局午前中、俺たちは野良バトルでことごとく敗北した。

コロトックはバトルに出てすらくれなかった。

精神的な支柱としてパーティを引っ張っていたコロトックが、こういうことになったのは初めてかもしれない。

それほど昨日の俺に納得いかなかったのだろうか。

……気ままに楽しく生きていた昨日までの日常はもう帰ってこないのかもしれない。
 ▼ 45 aIiv212DRk 18/09/19 22:36:07 ID:Kux2B80k [8/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……先輩、交代です」

先輩「…………」


シフト交代の時間。
懸念通り、先輩はまだ怒っていた。


「あの……まだ怒ってますか」

先輩「当たり前でしょ」


俺はアホか。なんで分かってるのに聞いたんだ。
 ▼ 46 aIiv212DRk 18/09/19 22:37:10 ID:Kux2B80k [9/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「でも……誰だっていつかはこうなるじゃないっすか。目指した全員がプロになれるわけでもなしに」

先輩「そうね」

「だから、その……早いか遅いかでしかないっていうか」

先輩「そうね」

「ああいや、別に、先輩のことを否定してるとかじゃ──」

先輩「私が言いたいのはそういうことじゃない!」

「っ!!」


先輩が声を荒げる。

ジョーイさんと店員さんがピクリと驚き、こっちを振り向いた。
 ▼ 47 aIiv212DRk 18/09/19 22:38:33 ID:Kux2B80k [10/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……じゃあ、どういうことっすか」

先輩「私が言ったら意味ない」

「ちょっと意味わかんないっすね。……大体、俺の人生っすよ。なんで先輩が怒ってるんですか」

先輩「……私バイト終わったし、もう行くわ」


取りつく島もない。

カツカツと足音を鳴らして、先輩は出口に向かっていく。

自動ドアの開く音に混じり、小さく「そういうところよ」と聞こえた気がした。
 ▼ 48 aIiv212DRk 18/09/19 22:39:33 ID:Kux2B80k [11/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



次の日も、また次の日も、ぎこちない日々が続いた。

手持ちとのコミュニケーションが上手くいかない。

コロトックは、なんとなくはいつも通りのコロトックに戻ったが、ふとした拍子に上の空だった。

わだかまりが無くなったわけではないらしく、時折ボールから出てこないこともあった。

バトルはやはり負けが続く。

先輩とはあれ以来口も聞いていない。

険悪すぎて、ポケモンセンターを利用した時にジョーイさんに心配されてしまった。
 ▼ 49 aIiv212DRk 18/09/19 22:40:19 ID:Kux2B80k [12/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



そして2週間が経ったある日。

それは起こるべくして、だが突然にやってきた。


 ▼ 50 aIiv212DRk 18/09/19 22:40:54 ID:Kux2B80k [13/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



その日も、いつも通りにムクホークに起こされて始まった。


「……今日も、行くか」


ここ2週間の続きにふさわしい、昨日と似たような一日になると思っていた。
 ▼ 51 aIiv212DRk 18/09/19 22:42:09 ID:Kux2B80k [14/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

コロトック「…………」

「……おーい、コロトック」

コロトック「…………」


返事がない。また拗ねてるのだろうか。


「……なんだよ、またかよ。……本当に置いてくぞ」


もちろん置いて行くわけもなかったが、コロトックに背を向けた。

その直後だった。
 ▼ 52 aIiv212DRk 18/09/19 22:43:49 ID:Kux2B80k [15/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ふらり。どさっ。

まるで何かがよろめいて倒れたかのような音が、ちょうど真後ろから聞こえた。


「え──」


振り返ると。


最初の道路からの俺のパートナーが

そこに倒れていた。


 ▼ 53 グマラシ@あさせのしお 18/09/19 22:44:52 ID:HQa.BSzc NGネーム登録 NGID登録 報告
安定のひねくれ主人公大好き

今回はどんなひねくれた解決策出すのかめっちゃ楽しみ
 ▼ 54 ブラーバ@ももぼんぐり 18/09/19 22:47:32 ID:22dc1qUA NGネーム登録 NGID登録 報告
(・^・ * )
 ▼ 55 イコウオ@ハートスイーツ 18/09/19 22:48:23 ID:KeMA7dHw NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 56 aIiv212DRk 18/09/20 20:02:59 ID:iov6IiL6 [1/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




「ジョーイさん。コロトックは……」


病室から出てきたジョーイさんに、コロトックの容体を訪ねる。

ジョーイさんはこちらをまっすぐに見据え、深刻な顔で口を開いた


ジョーイ「…………夏バテね」

「夏バテかいっ!!」


思わず突っ込んでしまった。

いや、よかったけども。
 ▼ 57 aIiv212DRk 18/09/20 20:04:03 ID:iov6IiL6 [2/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「よかった……。なんだ、夏バテか。なんだよ……よかった……。おどかさないでくださいよ、もう……」

ジョーイ「…………」


俺はもう十分に驚いたのだが、ジョーイさんは未だに深刻な顔のままだ。


「……ジョーイさん? え? ただの夏バテなんですよね?」

ジョーイ「病状を説明するとしたら、夏バテよ。……だけどね。よく聞いて」


まさに医療ドラマにでもありそうな口振りは、けれど紛れもない現実だった。


ジョーイ「……もう、あまり長くない」


一層深刻な響きを帯びた声が、冗談ではないことを裏付けていた。
 ▼ 58 aIiv212DRk 18/09/20 20:05:02 ID:iov6IiL6 [3/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

コロトックが眠っているであろう病室の壁をみやる。

長くないって、なんだ。


「それは……どう、いう……」

ジョーイ「あなた、むしポケモンの特徴は知ってる?」

「え……成長が早くて、進化が早い……ですよね?」

ジョーイ「それだけじゃないわ」


目を瞑って首を横に振り、躊躇いがちにジョーイさんは、


ジョーイ「……寿命も、短いのよ」


本当にどうしようもない事実を、俺に伝えた。
 ▼ 59 aIiv212DRk 18/09/20 20:06:21 ID:iov6IiL6 [4/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「寿命……って。なんですか、それ。おかしいじゃ、ないですか……」


何もおかしくないと頭では分かっても、頭じゃないどこかが受け付けない。

それがそのまま口から出た。


ジョーイ「……あなたがコロトックに出会ったのは、いつ?」


俺が旅を始めた時の、最初に捕まえたポケモンがコロボーシだった。
つまり……


「6年前……。だけど!」

ジョーイ「長かった方ね。早熟進化のむしポケモンは……平均5年よ」

「5年……って」
 ▼ 60 aIiv212DRk 18/09/20 20:06:47 ID:iov6IiL6 [5/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ジョーイ「特別な病気とかじゃないんだけどね。
     ……寿命が近づくと体が弱って、ちょっとしたことで大きく体調を崩すようになるの」

「ちょっとしたこと……っていうと」

ジョーイ「夏バテでも、ストレスでも。すごく大きな消耗になるのよ」

「…………そう、ですか」
 ▼ 61 aIiv212DRk 18/09/20 20:07:48 ID:iov6IiL6 [6/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


そう言われて、全て合点がいった。

呼んでも返事をしないことがあったのも。

バトルに出たがらない日があったのも。

拗ねていたからなんかじゃなかった。

あの日の俺の言葉がコロトックの心を傷つけ、それが体までを蝕んでいたのだ。
 ▼ 62 aIiv212DRk 18/09/20 20:08:27 ID:iov6IiL6 [7/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……どうすればいいですか。助けられますか」

ジョーイ「分かってるとは思うけど……治せるとかじゃないわ」

「……そうですよね」

ジョーイ「一緒にいてあげて。あの子の人生は、ずっとあなたのそばだったんだから」

「…………はい」
 ▼ 63 aIiv212DRk 18/09/20 20:09:35 ID:iov6IiL6 [8/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



ベッドに横たわるコロトックの寝顔を眺めながら、考える。


コロトックの人生。

ほとんどそのまま、生まれてから死ぬまで、という意味だ。

生まれてほどなくして俺に捕まえられて、それから今日まで俺の手持ちとして生き、そしてもうじき死ぬ。

お前の人生は、確かにずっと俺とともにあったに違いない。
 ▼ 64 aIiv212DRk 18/09/20 20:10:01 ID:iov6IiL6 [9/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

今更になって、コイツらと俺の時間の流れは違うということを自覚した。

とても恐ろしいことだと思った。

俺の人生のほんの一部に、それもこんな迷走甚だしい生活に、コイツらの全人生を巻き込んでいたことが、怖い。


ただ、毎日バトルをする日々が。

そしてそのバトルとすら正面から向き合わなくなった日々が。

コロトックにとってはその生涯の全て。


俺は、何をやってんだ。
 ▼ 65 aIiv212DRk 18/09/20 20:10:50 ID:iov6IiL6 [10/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



コロトックは、暫くは絶対安静だそうだ。

その日は先輩にシフトを代わってもらい、日が沈むまで病室にいた。

昼頃に一度コロトックが目を覚ましたので、何を言うべきか迷った挙句、「ごめん」とだけ伝えた。

するとコロトックは、悲しげな、寂しそうな顔で力なく笑い、そしてまた眠った。
 ▼ 66 メタマ@きのみジュース 18/09/20 20:12:02 ID:Pb6MZBco NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
スレタイの時点でろうにんだなと思ったら当たりだぜ
支援
 ▼ 67 aIiv212DRk 18/09/20 20:12:33 ID:iov6IiL6 [11/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




部屋に戻る気にもなれず、生ぬるい風の吹くポケセン前の庭に出た。

夜空には霞んだ雲がなびき、月の輪郭は曖昧だ。


「……なぁ」


レントラーとムクホークに向き合い、話す。

押し潰されるような胸の苦しさに逆らって、言葉を捻り出す。


「どうしたい。お前ら」


俺の手持ちとしてでなく、お前ら自身として。


「レントラー。ムクホーク。……お前らは、どうしたい」
 ▼ 68 aIiv212DRk 18/09/20 20:13:42 ID:iov6IiL6 [12/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「レントラー。争いごとが苦手なお前が、よくこんなとこまで付いてきてくれたよ」

レントラー「とらー……」


コリンクだった頃、攻撃技を使うことができずにいた。

普通にバトルできるようになった今でも、きっと心根はあの頃のままだ。


「……けど、別の何かを選んだっていいんだ」


「戦わなくても、いい」
 ▼ 69 aIiv212DRk 18/09/20 20:14:49 ID:iov6IiL6 [13/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ムクホーク。昔は『お前がエースだ』とか言って、プレッシャーかけてたよな」

「くほーく……」


不利な局面や強敵は、いつも強く冷静なコイツに託していた。

そして最後にリーグに負けた時からは、それすらもなくなった。


「これからはお前のやりたいように生きてくれよ」


「俺が昔与えた役割なんかに、縛られなくていいから」
 ▼ 70 aIiv212DRk 18/09/20 20:15:51 ID:iov6IiL6 [14/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

胸の奥が痛む。
けれど伝えなければならない。

何を選んだっていい。

野生に帰ったっていい。

俺がお前らの人生を奪い去る権利なんて最初からありはしないから。

だから。


「お前らが、選んでくれ」



胸の奥の正体不明の痛みは強まるばかりだ。

 ▼ 71 aIiv212DRk 18/09/20 20:16:41 ID:iov6IiL6 [15/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ムクホークとレントラーは、お互いに顔を見合わせ、頷いた。


そして。


「……っ!?」


真っ白な光がほとばしり、風が唸った。


ムクホーク「くぉぉ……ッ!」

レントラー「とらぁぁ……!」


ムクホークは白い光に、レントラーは電光に身を包み、こちらを力強く、まっすぐに見つめている。

紛れもなく、戦うという意思表示。
 ▼ 72 aIiv212DRk 18/09/20 20:17:39 ID:iov6IiL6 [16/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

2匹の視線を受け止めることはできそうもなかった。

下を向き、小さく言葉を零す。


「ああ……そうだよな……」


そうだ。

選びようがないんだ。

俺がそれしか与えてこなかったのだから。

そもそもそれしか選択肢を知らないのだから。

どうやら俺は、長い時間をかけて取り返しのつかないことをしてしまったらしい。
 ▼ 73 aIiv212DRk 18/09/20 20:18:15 ID:iov6IiL6 [17/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

思わず膝をつき、2匹を抱き寄せた。


「お前ら、ごめんな。……ごめん。本当に、すまなかった……!」


奪った日々は返せない。


コイツらは未来を選ぶことすらできない。

コロトックはもうすぐ力尽きる。


「ごめん、ごめん、ごめ──」
 ▼ 74 aIiv212DRk 18/09/20 20:19:01 ID:iov6IiL6 [18/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

先輩「『ごめん』じゃ、ないわよッッ!!」


後ろから怒声が飛んできた。


「先、輩……?」


振り返ると、つり上がった目に涙を溜めた先輩が仁王立ちしていた。
 ▼ 75 aIiv212DRk 18/09/20 20:19:28 ID:iov6IiL6 [19/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

先輩「6年も一緒にいたんでしょ!? この子たちのことが大事なんでしょ!? 」

先輩「しかも今、2匹がこんなに頑張って伝えようとしてくれたのよ!?」


先輩「なのに……!」


先輩「なんでこんなに簡単なことが分かんないのよっ!!」

 ▼ 76 aIiv212DRk 18/09/20 20:20:17 ID:iov6IiL6 [20/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

まさに力の限りという声で叫んだ先輩からは、大粒の涙が溢れていた。


簡単なことって、なんだ。


なぁ、ムクホーク、レントラー。

……コロトック。


「……俺は、どうすればいいっすか」

先輩「自分で考えなさいよっ……。だって、あなた……この子たちのトレーナーでしょ?」

「そう……っすね……」

先輩「そうよ……」
 ▼ 77 aIiv212DRk 18/09/20 20:21:07 ID:iov6IiL6 [21/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

会話の終着点を見失い、立ち尽くす。


少女「……あの」

先輩「っ!?」


ポケセンの入り口から少女が半分だけ顔を出し、恐る恐るこちらを見ていた。


少女「バ……バッジ確認、お願いしていいですか?」

先輩「あ、うん! ごめんね、まってて!」


先輩が少女の元へパタパタと走っていく。


少女「えっ、泣いてるっ!? あ、あのっ。あ、明日でもいいですよっ?」

先輩「いいからっ! 泣いてないから!!」
 ▼ 78 aIiv212DRk 18/09/20 20:21:43 ID:iov6IiL6 [22/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

あれ以上続けていたら俺も情けなさで泣いてしまいそうだった。

挑戦者の少女に感謝だ。


レントラー「とらー……」


レントラーが服の裾を引っ張っている。


「……そうだな、戻るか」
 ▼ 79 aIiv212DRk 18/09/20 20:23:02 ID:iov6IiL6 [23/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




ベッドに仰向けになって寝転ぶ。

2匹もまた、ボールに戻らず、俺の脇で丸くなった。


なぜそんな簡単なことが分からないのか、と先輩は言った。

答えは結構シンプルなんだろうか。

先輩は答えを知っている。

俺がバッジを数えてきた無数の挑戦者たちもみんな、知っているのだろう。

もしかすると、かつての俺も知っていたことなのかもしれない。
 ▼ 80 aIiv212DRk 18/09/20 20:23:38 ID:iov6IiL6 [24/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……ムクホーク。レントラー」

ムクホーク「くぅ」

レントラー「……とら」


ベッドの天井を見上げたまま、呟いた。


「お前らがこのパーティにいる理由って、なんだ?」


答えは返ってこない。

ただ2匹の温もりがそこにある。
 ▼ 81 aIiv212DRk 18/09/20 20:24:49 ID:iov6IiL6 [25/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「もしかして……だけどさ」


誰もが知ってる簡単な答え。

難しい理屈は必要ない。

──この胸の痛みを、信じて。


「……俺と同じ、なのかな」


温もり2つは、その身を静かにこちらに寄せた。


 ▼ 82 aIiv212DRk 18/09/20 20:57:00 ID:iov6IiL6 [26/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



夜が明けて、午前9時。

ポケセンの開放時間直後に病室の戸を開くと、顔にいくらか生気を取り戻したコロトックが俺たちを出迎えた。


「コロトック。俺……」


昨日の夜、決めたこと。


「……やっぱり、戦うからな!」
 ▼ 83 aIiv212DRk 18/09/20 20:57:37 ID:iov6IiL6 [27/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

コロトック「ちち……」


俺の決意表明を聞いたコロトックは、少し驚いてから、


コロトック「……ころっ!」


ニッコリと笑ったのだった。
 ▼ 84 aIiv212DRk 18/09/20 20:59:10 ID:iov6IiL6 [28/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




先輩「やっと、来たのね」


やれやれ、とでも言いたげな顔をした先輩に、ところどころ擦れて色落ちしたバッジケースを差し出す。


「……はい。バッジ、数えてくれますか」

先輩「しょーがない。数えてあげるわ」


先輩はそう言って、上列左端のバッジから順に、ゆっくりと弾き始めた。
 ▼ 85 aIiv212DRk 18/09/20 20:59:52 ID:iov6IiL6 [29/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

一つ金属音が響くごとに、かつて巡ったジム戦の記憶が脳裏に蘇る。


あまりにも相性が悪すぎて、バトル後に俺と3匹でひたすら号泣した日。

ムックルが進化からの大逆転劇を見せた日。

相手のエースルカリオに破れ、1週間かけて練り上げた3匹がかりの作戦でリベンジした日。

水の足場を伝う電撃の痺れにひたすら耐えながら戦った日。

バトルするために問題をあえて間違えたら、コロトックに怒られた日。

かつて大苦戦したヒョウタの父親がジムリーダーだと知ったムクホークが、張り切ってインファイトをぶっ放した日。

雪玉の仕掛けを素手で攻略し、ジム戦後に全員で風邪をひいた日。

エレキフィールド上でのスパーク合戦を、俺たちのレントラーが制した日。
 ▼ 86 aIiv212DRk 18/09/20 21:01:06 ID:iov6IiL6 [30/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

辛いことも割と多かったバッジ集めを続けていたのは、ポケモンリーグ制覇の目標があったからだろうか。

……いや、違う気がする。

当時のそれは目標というより、幼い子供が特撮ヒーローを夢見るようなものだったように思う。

それよりも、
コイツらと一緒に旅ができること。
コイツらと一緒に何かに熱くなれるということ。

それが俺の旅の本質だったんじゃないだろうか。
 ▼ 87 aIiv212DRk 18/09/20 21:02:19 ID:iov6IiL6 [31/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


先輩「ふう……」


磨き立てのバッジの8音階を奏で終えると、先輩は一息吐き出した。


先輩「……何がしたいかより、誰と一緒にいたいかよね」

「そうっすね。で、どうせ一緒にいるなら、みんな笑ってられる方がいい」

先輩「そういうこと。簡単だったでしょ?」

「俺には……割と難問でしたかね」
 ▼ 88 aIiv212DRk 18/09/20 21:05:09 ID:iov6IiL6 [32/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


先輩がスイッチを操作すると、リーグへのゲートが開いた。


先輩「さ。行って来なさいな」

「……はい!」




コイツらと笑えるなら、どんな未来を選んだっていい。

それはたとえバトルじゃなくても構わない。

けれど、今ここで俺たちの6年間に決着をつけない限り、その未来に影が残り続けるだろう。


……さあ。


行こう!!
 ▼ 89 ょげぴー◆beDOUTEIis 18/09/20 21:25:00 ID:fy0IA/K. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
面白い
 ▼ 90 ロデスナ@ラッカのみ 18/09/20 22:34:39 ID:PO62X5Jo NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
なぞのばしょに入るなよ...
 ▼ 91 aIiv212DRk 18/09/24 22:09:09 ID:GpuQHW36 [1/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




ムクホーク「クゥ……ホーク!!」


ムクホークの“ブレイブバード”が、ドクケイルの懐ど真ん中を射抜いた。


ドクケイル「ど、……っけ……。」


ドクケイルが力なく地に落ちる。

審判が戦闘不能の判定を下した。
 ▼ 92 aIiv212DRk 18/09/24 22:09:55 ID:GpuQHW36 [2/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

リョウ「アゲハントとドクケイルにストレート勝ちかー。やるね、キミのムクホーク」


四天王は、序盤からリードを奪われつつも余裕げだ。


「強いですから、うちのムクホークは」

リョウ「……けど」


百戦錬磨の四天王は不敵に笑う。


リョウ「もうブレバを使う体力はない」


……図星だ。
 ▼ 93 aIiv212DRk 18/09/24 22:10:21 ID:GpuQHW36 [3/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

リョウ「いっておいで、ヘラクロス。今度はボクらがアイツを地面に叩き落としてやろう」

ヘラクロス「ヘラァッ!!」


鈍く輝くツノを高く掲げて、ヘラクラスが吠えた。
 ▼ 94 aIiv212DRk 18/09/24 22:11:13 ID:GpuQHW36 [4/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

リョウ「ヘラクロス、“メガホーン”ッ!」

ヘラクロス「クロォッ!」


ツノを巨大な戦槍と化し、ヘラクロスが猛然と地をかける。

ブレイブバードなら十分に真っ向勝負できるだろうが、もう反動を耐えるだけの体力はない。



「“とんぼがえり”!」

ムクホーク「クォッ!」


俺が束ねた二本指をヘラクロスに突きつけたと同時、
翼を折りたたんだムクホークがヘラクロスの真正面に突っ込む。
 ▼ 95 aIiv212DRk 18/09/24 22:13:53 ID:GpuQHW36 [5/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

リョウ「正面で勝負!」

ヘラクロス「ヘラ!」


巨大なツノがムクホークを捉える、その寸前。


ヘラクロス「クロッ!?」

ムクホーク「クォッ!!」


ムクホークが突進の軌道を斜め下にずらし、振り下ろされるツノのさらに下を掻い潜って懐を抉る。


指示と同時に俺が出した攻撃サインは、敵の目の前で軌道を落とす《フォーク》。
バッジを集めていた頃からの長年の戦術だ。

さっきの二本指はカッコつけでやっていたわけではない。
 ▼ 96 aIiv212DRk 18/09/24 22:14:46 ID:GpuQHW36 [6/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「いいぞムクホーク、レントラーと交代だ!」


攻撃の反発力を利用して戻ってきたムクホークを引っ込め、すぐさま交代。


レントラー「ト……ラァッ!!」


バトルフィールド中に咆哮がビリビリと響き渡る。


ヘラクロス「……っ!」


“いかく”。
その迫力にヘラクロスがたじろぐ。
 ▼ 97 aIiv212DRk 18/09/24 22:15:23 ID:GpuQHW36 [7/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「やるぞレントラー……スパークだ!」


レントラーが電光を身にまとい、臨戦態勢をとる。


リョウ「ムクホークを逃しただけかと思ったけど……ヘラクロスとパワー勝負するんだ?」

「俺のパーティーのアタッカーは優秀なんすよ」

リョウ「へえ。……いいね。ヘラクロス、メガホーン!」


ヘラクロスは再びツノの槍を光らせた。


さあ、ここからが踏ん張りどころ。
 ▼ 98 aIiv212DRk 18/09/24 22:16:23 ID:GpuQHW36 [8/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



リョウ「メガホーン!」

「避けろ!」


この対面が始まって何度目かのヘラクロスの突きが、レントラーの右ほほを掠めた。


攻めに攻めて攻めまくるヘラクロス。
対して、避けて躱して受け流すレントラー。

状況は膠着していた。
 ▼ 99 aIiv212DRk 18/09/24 22:17:55 ID:GpuQHW36 [9/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

リョウ「っの、しつこい……っ!」


ヘラクロスの攻撃はじわじわとレントラーを削ってはいるが、致命打は決めきれない

リョウの顔に徐々に苛立ちが滲んでいく。


リョウ「ヘラクロス、突き上げろ!!」

ヘラクロス「クロァッ!」

レントラー「ットラ!」


真上に放たれたメガホーンは、レントラーの鼻先を掠めて虚空を一閃。


リョウ「しまっ……!」


空振りしたヘラクロスの胴体がガラ空きになる。


「レントラー、距離を取れ!!」


だが、追わない。今すべきことに専念する。
 ▼ 100 aIiv212DRk 18/09/24 22:18:49 ID:GpuQHW36 [10/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

リョウ「さっきから……。アタッカーが優秀ってのはハッタリ? 今の隙を逃すなんて、よほどだよね」

「まさか。隙なんて全然見えないっすよ」

リョウ「…………なるほどね。そういうこと」


……気づかれた。


リョウ「ヘラクロス、畳み掛けるよ! これ以上時間を与えちゃダメだ!!」

ヘラクロス「クロッ!!」


でも、バレても関係ない。


「躱し切るだけだ……レントラー!!」
 ▼ 101 aIiv212DRk 18/09/24 22:19:31 ID:GpuQHW36 [11/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

リョウ「さぁ、一気に終わらせよう。ヘラクロス」


四天王が静かにそう言うと、フィールドの空気が変わった。

──来る。



リョウ「──“インファイト”!」

ヘラクロス「へェ……ラァッ!」
 ▼ 102 aIiv212DRk 18/09/24 22:20:29 ID:GpuQHW36 [12/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

低く構えたヘラクロスがフィールドを強烈に蹴り放ち、爆音のような足音とともにレントラーに迫る。

防御低下のリスクを孕む“インファイト”を、持久戦完全無考慮のトップスピードで使ってくる判断。

宣言通り一気に終わらせる気だ。
 ▼ 103 aIiv212DRk 18/09/24 22:21:02 ID:GpuQHW36 [13/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「引きつけて……かわせッ!!」

レントラー「っ、ら!……トラァッ!」


無数の残像を纏う、拳と蹴りのラッシュ。

レントラーは眼を見開き、ギリギリのところでヘラクロスの怒涛の連撃をいなしていく。
 ▼ 104 aIiv212DRk 18/09/24 22:22:34 ID:GpuQHW36 [14/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

だが、相手は百戦錬磨の四天王。

彼が一気に終わらせるといったのだから、そこまでの道筋は二重にも三重にも用意されている。


リョウ「今だ、振り下ろせ!!」

「なっ!?」

ヘラクロス「へ……ラァッ!!!」


ヘラクロスの攻撃の軸が手足に移り、意識から外れていた──ツノ。

それが突如白く光り輝き、上段から叩きつけられた。


レントラー「トラァアアア!!」


“インファイト”中に挟み込んでの、“メガホーン”振り下ろし。

ここで初めて攻撃がクリーンヒットし、レントラーは地面を勢いよく跳ね滑った。
 ▼ 105 aIiv212DRk 18/09/24 22:23:35 ID:GpuQHW36 [15/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

レントラー「…………っ!」

リョウ「1対1を、その時強い方が制する。……シングルバトルの基本だよ」


四天王は、静かに、真っ直ぐにそう言い放った。


「…………」


リョウ「さぁヘラクロス、トドメだ。……“メガホーン”!!」

ヘラクロス「へラァッ!」


純然たる力の差が、引導を渡さんとレントラーに迫る。
 ▼ 106 aIiv212DRk 18/09/24 22:24:28 ID:GpuQHW36 [16/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





“──ポケモンにとってみれば、シングルバトルは孤独な戦いですからねぇ。”


いつかテレビで見た試合の解説者が、そう言っていた。


トレーナーは外から指示を出すだけ。

バトルフィールドに立つのは自分と相手ポケモンのみ。

削れた相手へのトドメだろうと、後続への補助だろうと、戦っている時は己の身一つなのは間違いない。

戦いは最初から最後まで、1対1の繰り返しで行われる。
 ▼ 107 aIiv212DRk 18/09/24 22:25:17 ID:GpuQHW36 [17/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


それでも俺は、それを孤独だなんて思わない。


コロトックが補助で繋いで、レントラーが削り、ムクホークが決める。

そんな俺たちの戦いは、絶対に孤独なんかじゃなかった。


それは、戦術的役割分担をしていたからでもなければ、サイクル戦法を使うからでもない。

コロトックがいて、レントラーがいて、ムクホークがいて、初めて俺たちのパーティー。

それがそのまま、俺たちが孤独ではない理由。

そして、コロトックが戦線を離脱した今でも──
 ▼ 108 aIiv212DRk 18/09/24 22:27:38 ID:GpuQHW36 [18/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


──────
────
──


「今日の挑戦……っていうかこれからずっと、コロトックはもう戦いには出れない。ここで安静にしてなきゃならん」

コロトック「ころろ」


コロトックの病室で始まった俺たちの作戦会議は、深刻な話題から切り出された。

 ▼ 109 aIiv212DRk 18/09/24 22:28:18 ID:GpuQHW36 [19/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ムクホークはコロトックを見て、静かに頷いている。


レントラー「……とら」


その一方、レントラーはこちらを見上げ、不安げに鳴いた。


「……まぁ、だよな。すげー心細いと思う」


コロトックの“ねばねばねっと”や“いやなおと”が、これまでどれほど俺たちの戦闘を有利にしてきたか。

そして何より、コイツはパーティーの精神的支柱だった。


レントラー「とらぁ……」


昔から臆病で戦いを怖がっていたレントラーは、コロトックの背中の大きさをよく知っている。
 ▼ 110 aIiv212DRk 18/09/24 22:29:11 ID:GpuQHW36 [20/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

コロトック「…………」


コロトックは、毅然とした表情でレントラーを見つめている。

どうやら、考えていることは俺と同じなようだ。


「……レントラー。お前に頼みたいことがある」

レントラー「とらぁ……?」


「今度はお前が支えてくれないか」


「パーティーを……ムクホークを」
 ▼ 111 aIiv212DRk 18/09/24 22:30:16 ID:GpuQHW36 [21/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

コロトック「ちちっ、ころろろっ!」


縮こまるレントラーに、コロトックが笑って語りかける。

レントラーは尚も不安げだ。
「そんな大役が自分に務まるわけがない」と、全身で主張している。


「お前だから頼むんだ。支えられるってことをちゃんと知ってるお前だから、きっと支える方もできる」

レントラー「とら……」
 ▼ 112 aIiv212DRk 18/09/24 22:31:07 ID:GpuQHW36 [22/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「なぁ、ムクホーク。コイツになら託せるよな?」


そう言うと、レントラーは隣に座るムクホークに顔を向けた。

ムクホークは、すん、と鼻息を鳴らし、


ムクホーク「くほぅ」


と一言。


レントラー「…………」

レントラー「……れん、とら」


控えめな、けれどとても真っ直ぐな鳴き声が、確かに俺たちに届いた。
 ▼ 113 aIiv212DRk 18/09/24 22:32:13 ID:GpuQHW36 [23/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


──
────
──────



ヘラクロス「ラァ……クロォッ!」


二度目はもう耐えられないだろう。
文字通り致命的な威力を秘めた突きが、満身創痍のレントラーに迫る。

だが。


「かわせぇ!!」

レントラー「トォ……ラァッ!!」


リョウ「まだ……動くの!?」


何分も回避を続けて、足が悲鳴を上げようと。

躱し損ねて大ダメージを受けていようと。

レントラーの足は絶対に止まらない。
 ▼ 114 aIiv212DRk 18/09/24 22:33:29 ID:GpuQHW36 [24/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「かわせ!」

レントラー「トラッ!」


コロトックから受け取ったものがあるから。


「かわせ!」

レントラー「トッ……ラ!!」


支えると、ムクホークと約束したから。


「かわして……」

レントラー「トォッ……」


このパーティーは──


「“ボルトチェンジ”ッ!!」


──“繋がっている”から!!
 ▼ 115 aIiv212DRk 18/09/24 22:34:39 ID:GpuQHW36 [25/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ヘラクロス「クロッ!!?」

リョウ「やられた……!」


放たれた電撃の塊が弾け、閃光を撒き散らす。


ムクホーク「クォオオッ!!」


電気の反発でレントラーが真後ろに跳び退き、交代で飛び出すムクホーク。

そして──


「“ブレイブバード”!!」

ムクホーク「ム……クホォオオオオオッ!!」


一閃。

全身全霊の一撃が、豪快に轟いた。


ヘラクロス「へ……ら、ぁ」


ヘラクロス、戦闘不能。
 ▼ 116 aIiv212DRk 18/09/24 22:36:27 ID:GpuQHW36 [26/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ねぎらいつつヘラクロスをボールに戻し、リョウが顔を上げた。


リョウ「……ふぅ。まんまと稼がれちゃったなぁ。ムクホークのための回復時間」

「すごいやつっすから。俺のパーティーメンバーは」


ムクホークが“ブレイブバード”をもう一度打てるほどに回復するまで、レントラーが戦闘を長引かせる。

これまでコロトックが切り開いていたアタッカーのための道を、レントラーが代わりに開き、そしてムクホークが撃ち抜く。


リョウ「ホント……根性入った攻撃だね」


四天王は、そう言ってカラりと笑った。
 ▼ 117 トラポット◆Pcf6Vw29GM 18/09/24 22:47:12 ID:.kck5/.U NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 118 ガライボルト@ピーピーリカバー 18/09/24 23:47:32 ID:PU2E9Zxo NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
支援
 ▼ 119 aIiv212DRk 18/09/25 19:51:23 ID:mVOsjomk [1/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



「ムクホーク、“とんぼがえり”!!」

リョウ「ドラピオン、“クロスポイズン”!」


繰り出された4匹目、ドラピオンを相手に、ヘラクロス戦と同じく初手で交代技を指示。


ドラピオン「ドラァッ!」


ドラピオンは接近するムクホークを睨み、毒の滴る2つの手刀を普段よりもコンパクトに構えている。


リョウ「今度は、逃さない……!」


威力よりも確実に当てること……すなわち、“とんぼがえり”させないことを優先してきた。

先程見せた“とんぼがえり”の軌道変化に、あちらは既に対応している。
 ▼ 120 aIiv212DRk 18/09/25 19:51:55 ID:mVOsjomk [2/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ドラピオン「…………!」


こちらが気圧されるほどの集中力で、ムクホークを注視するドラピオン。

どう変化させても、その長い腕は的確にムクホークを捉えるだろうと確信できる。


──変化するのが、“軌道”であれば。
 ▼ 121 aIiv212DRk 18/09/25 19:53:17 ID:mVOsjomk [3/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ムクホーク「……ッ!」


ドラピオンの1メートル手前、
ふわり、と突進のスピードが一気に殺され──


ドラピオン「ドラ──」

ムクホーク「クッ!」


──急加速。


ドラピオン「ドォ……ッ!?」


腕を伸ばしかけたドラピオンの懐にムクホークが突っ込み、すぐさま大きく真後ろにバウンドする。


軌道ではなく速度の変化で揺さぶる、《チェンジオブペース》。

サインは、技の指示と同時に手のひら全体をかざした時。
 ▼ 122 aIiv212DRk 18/09/25 19:54:06 ID:mVOsjomk [4/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「よく決めたムクホーク! レントラー、頼んだ!!」

レントラー「トォ……ラァアアア!!」


咆哮と同時にレントラーがボールから飛び出す。


リョウ「あちゃー、また逃しちゃったか」


そう言いつつも、リョウはそこまで焦っていないように見える。


それも当たり前か。

向こうからしてみれば、あそこでムクホークを仕留めた方が試合が早く終わった、というだけだ。

残りポケモンの数は2対2でも、こちらはムクホークが反動3回を受けて満身創痍。
レントラーも“いかく”込みとはいえメガホーンが直撃している。

依然、圧倒的に不利なのは俺たち。

勝算は正直薄い。
 ▼ 123 aIiv212DRk 18/09/25 19:55:15 ID:mVOsjomk [5/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

リョウ「もう勝負はついたも同然だ。ドラピオン、落ち着いて──」

「“エレキフィールド”!」

レントラー「ト……ォォッ、ラァッ!!」


でも、それがどうした。


「俺たちは……勝つぞ!!」

リョウ「……前言撤回だ、ドラピオン。このバトル、まだ分からないよね……!」
 ▼ 124 aIiv212DRk 18/09/25 19:56:20 ID:mVOsjomk [6/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「レントラー、“スパーク”!」

レントラー「トラッ!」


稲妻を纏い、レントラーが駆け出した。


リョウ「真っ向から受けてたとう! “クロスポイズン”!」

ドラピオン「ドォ……ラァッ!」


今度は全力で振りかぶった“クロスポイズン”が、レントラーと正面で激突。

威力の衝突が床一面に光る電気のフィールドと共鳴し、辺りに派手な火花を散らす。
 ▼ 125 aIiv212DRk 18/09/25 19:57:54 ID:mVOsjomk [7/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



俺が“スパーク”を指示すると、その度にリョウは“クロスポイズン”での応戦を指示する。

他の対処方法をまったく採らないのは、傍目から見れば馬鹿正直にも見える。

しかし、俺の仕掛けた勝負に強者として応え、そして叩き伏せる義務が、プライドが、四天王にはある。


レントラー「トラァア!!」

ドラピオン「ピオォオオオッ!!


もう何度目かもわからない2匹の激突が、光芒を撒き散らした。


レントラー「……ゼェ……ゼェ」


押されているのは…………こちらの方か。
 ▼ 126 ントラー視点◆aIiv212DRk 18/09/25 19:58:52 ID:mVOsjomk [8/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


──────
────
──


「コリンク、“たいあたり”!」

コリンク「り、りん……っ」

「……は、やっぱ無理か。しゃーない、“にらみつける”!」


旅が始まった頃。

わたしは、攻撃をすることができなかった。
 ▼ 127 ントラー視点◆aIiv212DRk 18/09/25 20:00:00 ID:mVOsjomk [9/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


コロボーシ「ろ……ころろっ!」

「ふへー……。なんとか、勝てたな……」


バトルが終われば、ムックルとコロボーシはいつもボロボロで。

無傷のわたしは、バトルに勝った後でも肩身が狭かった。

けど、みんな優しいし、旅をするのは楽しくて。

戦えなくても、このままでいいかな、なんて。

2匹に守られていることに、安心していた。
 ▼ 128 ントラー視点◆aIiv212DRk 18/09/25 20:00:51 ID:mVOsjomk [10/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



ヒョウタ「……終わり、だね」

「…………はい」


初めてジムリーダーに挑戦した日。

いわタイプのズガイドスに、ムックルやコロトックの攻撃は相性が悪すぎた。

みんなが倒れて、ついに戦闘に出された“戦えない3匹目”のわたしは、

震えて、ただバトルフィールドにうずくまっていた。
 ▼ 129 ントラー視点◆aIiv212DRk 18/09/25 20:01:48 ID:mVOsjomk [11/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



バトルの結果は、“降参負け”。


トレーナーは泣いていた。

コロトックとムックルも泣いていた。


「戦えなくてごめん」と謝ると、

コロトックは私を責めもせず、

泣きながら、「守れなくてごめん」と返してきた。


涙が溢れて止まらなかった。
 ▼ 130 ントラー視点◆aIiv212DRk 18/09/25 20:02:42 ID:mVOsjomk [12/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


──
────
──────



「まだまだ……! “スパーク”!!」

リョウ「何度でもいいよ! “クロスポイズン”!!」


やっぱり、戦いは苦手だ。

ぶつかるのが怖い。

自分が傷つくのが怖い。

相手を傷つけるのも怖い。

わたしは、あんまりバトルには向いてないんだと思う。


──でも。
 ▼ 131 ントラー視点◆aIiv212DRk 18/09/25 20:03:32 ID:mVOsjomk [13/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

もうあんな顔は見たくない。

みんなには笑っていてほしい。

できるなら、私も一緒に笑いたい。

だから!!


レントラー「ト……ォ……ラァアアアアアッ!!」

 ▼ 132 レーナー視点◆aIiv212DRk 18/09/25 20:05:18 ID:mVOsjomk [14/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

これまでとは違う音、振動、衝撃波。

一際強い輝きが、鮮烈にフィールドを照らす。


ドラピオン「ドラッ……!?」


“クロスポイズン”で攻撃を受けとめたドラピオンが、初めて僅かに押し負けた。


レントラー「トラ……ッ!」

リョウ「これって……」

 ▼ 133 aIiv212DRk 18/09/25 20:06:10 ID:mVOsjomk [15/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


かつて、習得を断念した技があった。

レントラーが覚えるにはほんの少しだけ勇気が足りなかった、あの技。

けど、今なら。


「レントラー……行くぞ!」

リョウ「……まさか! っドラピオン!!」



「──“ワイルドボルト”ッ!!」



 ▼ 134 aIiv212DRk 18/09/25 20:07:38 ID:mVOsjomk [16/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

レントラー「レン、トォ……ラァアーーーッ!!」


轟く豪快な炸裂音。

稲妻の槍と化したレントラーが、“クロスポイズン”のガードを突き破った。


ドラピオン「ど、ら……ォ」


ドラピオンが地に崩れ、


レントラー「……ら、ぁ」


そして、少し遅れてレントラーも倒れた。


残りポケモン数、互いに1匹。
 ▼ 135 aIiv212DRk 18/09/25 21:51:00 ID:mVOsjomk [17/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




ドラピオンを短く労うと、リョウは顔を上げ、苦笑いしながら喋りかけてきた。


リョウ「あはは……すごい威力だね」

「俺もびっくりっすよ。……本当によく頑張った、レントラー」


レントラーの踏ん張りが勝機を繋いでくれた。

リョウの表情にはもはや余裕のようなものは感じられない。


「……さて」

リョウ「うん。……お互い、最後の1匹だね」


地面に残るエレキフィールドのせいなのか、張り詰めた空気に体がこわばる。


「行ってこい……ムクホーク!」

リョウ「頼んだよ、ビークイン!」


勝負の行方は、エースに託された。
 ▼ 136 aIiv212DRk 18/09/25 21:51:47 ID:mVOsjomk [18/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ムクホーク「クォ……」


ムクホークがこちらをチラと見て、頷いた。


残る体力はごくわずか。
いくらなんでも、4発目のブレイブバードは流石に撃てない。

半端な攻撃をして反撃されても、即試合終了。


「行くぞ、ムクホーク」


故に、攻めるタイミングは──


「“ゴッドバード”!!」


ここしかない!!
 ▼ 137 aIiv212DRk 18/09/25 21:53:08 ID:mVOsjomk [19/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

翼を広げ、ビークインめがけ超高速で滑空するムクホーク。

その全身から白い輝きが溢れ出し、みるみるうちに部屋中を真っ白に照らし出す。


リョウ「パワフルハーブ……!」


一度限り、タメ技である“ゴッドバード”を瞬時に発動させる奥の手。

これが、俺たちに残された最大最後のチャンス。


「いっけぇええええ!!」
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