【1レス目企画】荒野の迅雷リバイバル:ポケモン掲示板(ポケモンBBS)

【1レス目企画】荒野の迅雷リバイバル

1 : まぐれな救い主◆m3DNSoFAFg 19/03/08 18:07:09 ID:N7TsxXfE 報告


──ここはどこだろうか?

肌寒い感覚が意識を浮上させる

抉れた地面、無造作に投げ捨てられたもう使えないであろうモンスターボール……

どれも全て、見覚えがない

──自分は誰なのか?どうしてここにいる?

必死に思い出そうとしたが、何も思い出せない

記憶の糸はどこかで途切れてしまっていた……


ふと、何かの気配がした

荒れ果てた景色の中で存在感を示す、蕾をつけた桜の木

そのそばに、誰かが倒れているのだ──
254 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 18:45:46 ID:F9RMRaqM [1/38] 報告
 

 それから。

 やがて、ゆっくりと俺たちの前に降り立った。
 目の前で、宙にふわふわと浮かび、触覚を微かに揺らしながら。
 じっと、大きく澄んだ瞳で、こちらを見つめている。まるで、何かを待つように。


「やっと会えたな。守り神さま」

「あのポケモンは、まさか──」


 驚愕に目を見開いて、恐怖にかたかたと震え、胸を抑え喘ぎながら。けれど夢見るような眼差しで。
 ユスラが、その名前を呟く。


 綺麗な森に棲むとされ、現れた森には草木が生い茂るという。
 時を越える力を持つ、幻のポケモン。



「──ときわたりポケモン、セレビィ」


255 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 18:50:18 ID:F9RMRaqM [2/38] 報告


 ○


 知っている。
 俺はこのポケモンを知っている。 

 セレビィの持つ、ときわたりの力。
 その力で、俺は時間を移動し、この世界にやってきた。
 そして、本来出会うはずのなかったユスラと、時を越えた遭遇を果たしたのだ。

 セレビィがいたから。
 セレビィが、ユスラという人間を救おうとしてくれたから。
 セレビィが、そんなきまぐれを起こしてくれたから。


 そうだ、言わなきゃならないことがある。
 伝えたい思いがある。

 なあ、セレビィ、お前──。


256 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 18:55:57 ID:F9RMRaqM [3/38] 報告


「──お前、乱暴すぎんだよ! もっと優しく飛ばせって、このズボラ野郎!」

 怒りが堰をきって溢れる。
 ユスラ、唖然。ちょっと待っててな。


 こいつだよ!

 俺が記憶なくす羽目になったのは、こいつがめんどくさがって雑な『ときわたり』させたせいだよ!

 俺が倒れてたところの地面が抉れてたのも、全部そのときの衝撃のせいだよ!
 ありえねえだろこいつ!?

257 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 18:57:50 ID:F9RMRaqM [4/38] 報告


 俺の剣幕を前に──セレビィは両手を顔の前で合わせると、てへっとウインク。

 ダメだこいつ、全然反省してねえ。
 今のは、人間でいえば「メンゴメンゴ、許してちょんまげ」ぐらいの謝り方だ。

 舌出しても無駄だ。
 可愛いからって許されると思うなよ、ちくしょう。

 俺はそっとリュックに左手を忍ばせる。ごそごそ探って、『それ』をひっつかみ──


 ──思いっきり、ぶん投げる!

258 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 19:00:50 ID:F9RMRaqM [5/38] 報告

「うおおぉぉーッ! くたばれええぇーッ!」


 至近距離から全力投球で放たれた、モンスターボール。
 壊れたボールではなく、最初からリュックに入っていた新品のものだ。

 そのボールは、狙い違わずセレビィの顔面にクリーンヒットを果たす。
 

「ビィエ〜ン!」

「ああっなんてことを!?」

 セレビィとユスラの悲鳴がこだまして。
 次の瞬間、横っ面にめり込んだボールから赤い閃光が迸る。光はセレビィを包み込むと、たちまちその体をボールの内へと収め。

 勢いのまま、数メートル先の地面に落下する。
 ボタン部分を点滅させ、左右に揺れ動きながら。


259 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 19:07:05 ID:F9RMRaqM [6/38] 報告

 一回。
 二回。

 ボールが揺れ、しかしセレビィは飛び出してこない。


「ねえサクラ、まさか──」

 冷や汗を垂らしながらユスラが呟き。


 三回目。
 小さく揺れて、そして。
 

 カチリ。


 小気味良い音ともに、ボタン部分から白い火花が散る。
 ボールの揺れは完全に収まり、静止した状態で、大地に鎮座していた。


「うそでしょ」

 ユスラ、呆然。

260 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 19:12:21 ID:F9RMRaqM [7/38] 報告

 それもそのはずだ。
 幻のポケモンというのは、単に珍しいというだけではない。その捕獲が極めて困難だからこそ幻なのだ。
 それが、こうもあっさりと。


 もちろん、実はマスターボールだったなんてオチはない。ハイパーボールでもスーパーボールですらもなく、タネも仕掛けもないごくごく普通のモンスターボールで。
 加えていえば、バトルで弱らせたわけでもなく、出会い頭に投げつけただけ。
 更についでに言うと、右腕は負傷して使えないので、慣れない左腕での投球。

 客観的に見て、奇跡的なレベルの捕獲だった。


261 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 19:17:29 ID:F9RMRaqM [8/38] 報告

「セレビィ、ゲットだぜ!」

 快哉をあげ、ポーズをとって──は見たものの、正直、なんだかなあ。
 だってこいつ、たぶんわざと捕まったもんなあ。


 まあ、でも。
 なんだかんだ、このズボラできまぐれな守り神さまのおかげで救われたのは、たしかなんだから。
 俺だって、ちゃんと感謝はしているとも。


 ボールを拾い上げる。
 幻のポケモンセレビィを収めた、世にも珍しいモンスターボールがここにある。

 自分の為すべきことが、はっきり分かっていた。俺の記憶が、道しるべとなって進む道を照らし出している。


 ──今度は俺の番、そうだろう?

 ボールの中のセレビィが、小さく頷いた気がした。


262 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 19:30:45 ID:F9RMRaqM [9/38] 報告

 荒野に座り込む。

 ボールを足で挟み込んで、固定して。
 ポケットから、ペンを取り出す。病室からかっぱらってきたものだ。


 ボールの白い面、その底に、文字を刻みこむ。

 左手で字を書くのは初めてだったから、バランスの崩れたへなへなした字になってしまったが、まあ読めるし別にいいだろ。


「ほれ、ユスラ、このボールを差し上げよう。ボールに入ったままなら、怖くないだろ」

 ぽーん、と軽く放ったボール。
 え、え? と困惑の声をあげつつも、ユスラがキャッチ。

263 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 19:38:05 ID:F9RMRaqM [10/38] 報告


「たしかにこれなら大丈夫だけど……えっ、守り神さまだよ?」

「大丈夫、そいつは多少ぞんざいに扱うぐらいでいい。ボールからは出さなくてもいいし、もし、怖さが薄れてきたら、その時は出してやればいい」

 遠慮なく、練習台にしてやれ。
 と、そこで思いつく。


「そうだ、誕生日プレゼントってことにしよう」

 時計がないから正確には分からないが、おそらくそろそろ0時を回った頃だろう。

「ハッピーバースデイ、ユスラ。10歳、おめでとう」 

「そっか、もう10歳なんだ、わたし。……ありがとう、サクラ」

 しみじみと呟いて。
 微笑む。

264 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 19:48:46 ID:F9RMRaqM [11/38] 報告



「あれ? 何これ」

 ボールをくるくる回して見ていたユスラが、底に記された文字に気がつく。

「WYだ。これ、なんだったの?」

「そうだなあ。俺たちが出会えたことの証、かな」


「Yはわたしのイニシャル? じゃあサクラは──そっか、本当の名前、思い出したんだよね。なんていうの?」

「ああ、俺の名前は──」

 告げようとして、遮られる。

 
 光が。

 眩しいぐらい強い、光が。視界のすべてを埋め尽くす。


 どこから。何が光を放っている?

265 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:00:59 ID:F9RMRaqM [12/38] 報告


 いくばくかの間、頭を悩ませて。
 ユスラの悲痛な顔が目に入った瞬間、気づく。

 そうか、『そうだった』。


 俺だ。
 俺の体が光を放っているんだ。

 手からも、腕も、胴体も、足も、きっと頭からも。
 光の粒子が生まれては消えて、明滅を繰り返す。


「サクラ──ねえ、サクラ、何それ」

 恐ろしいものを見るように、ユスラが言う。
 きっと気づいていて。
 俺が否定してくれることを、願っている。


266 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:10:11 ID:F9RMRaqM [13/38] 報告

「守り神さまが甦って、俺の記憶も戻って──俺の役割が終わったってことだと思う。未来へ、戻らなきゃいけない」

「──なんで」

 ユスラが、くしゃくしゃに泣き崩れる。


「なんで! いなくならないでよ! ママがいなくなって、サクラまでいなくなったら、わたし、本当にひとりになっちゃう」


「ねえ! わたし、もっと、サクラと話したい! もっと、聞きたいことがあるの!」 


「まだ、いっしょにサンドイッチも食べてない! もっといっしょにいてよ!」


「──わたしを、助けてよ!」



267 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:13:25 ID:F9RMRaqM [14/38] 報告


 心臓のど真ん中を貫く、電撃のような鼓動。
 血管を駆け巡り、全身へと、激震が波及してゆく。


 そうだ。
 まだ俺は、ユスラを救えていない。


 これからも、ユスラは苦しみ続けることになる。
 ポケモンへの恐怖、誰もいない家、町での孤独感。 

 そんな現実の中で、ユスラは生きていかなければならない。
 このどうにもならない現実に、ユスラをひとり、取り残さなければならない。


 俺だって、もっと、ここでユスラの力になりたい。
 でも、もう、時間がない。
 ときわたりの魔法は、夜中の12時でもう終わりなんだ。

 胸が張り裂けそうになる。
 だけど、それでも。


268 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:14:46 ID:F9RMRaqM [15/38] 報告


「どんなに遠く、離ればなれだって。それでも、俺はユスラの味方だから! 他の誰よりも、一番そばについてる!」
 

 光の奔流が渦を巻く。甲高い音が鳴り響く。
 負けないよう、聞こえるよう、喉が涸れ果てても、叫ぶ。

 言うべき言葉、伝えたい言葉。
 用意していたわけじゃないのに、とめどなく次々と口をつく。
 きっと俺の奥深いところに根差す言葉。口先だけじゃない、心の底から放たれる言葉たち。

269 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:15:57 ID:F9RMRaqM [16/38] 報告


「ずっと苦しくて、終わりがなくて、それこそ荒野みたいな辛い人生だけど、それでも!」


「その先に、俺はいるから! ユスラが生きて生きて生き抜いた先の未来は、俺のいるところに、たしかに地続きで繋がってるから!」


「大丈夫! ユスラはきっと、ここまで来れる! 俺が保証するから!」


「そして、いつか、同じようにひとりで苦しんでる人がいたら! 死んだっていいなんて思ってる人がいたら!」


「その時は、今度はユスラの番だ! ユスラが、手を差し伸べる番だ!」


「ユスラならできる! 誰よりも、その気持ちを知っているから!」


270 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:17:22 ID:F9RMRaqM [17/38] 報告


 光が激しさを増して。
 渦巻く音は、もう自分の声さえ聞こえないぐらい、大きくなって。

 それでも、叫び続ける。
 届け、届けと祈って。
 どうか、ユスラの力になってくれと願って。 


「15年後の未来で、俺は待ってる!」


「俺たちは、必ず、また会えるから! 俺のいる未来まで会いに来て! どうか、ここまで辿り着いて!」


「自分を信じて! 自分を愛して!」



「どうか──幸せになって!」 



271 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:18:40 ID:F9RMRaqM [18/38] 報告



 もう、目も開けていられない。
 意識が霞む。感覚が、この世界から消えていく。

 届け、届け!


 






「──ユスラ!!」

「俺の名前は──ユスラ!」


272 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:22:04 ID:F9RMRaqM [19/38] 報告



 ──ありがとう。



 微かに耳に残った、最後のあの声は。
 俺のものか、わたしのものか。


 薄れて、ぼやけて、ほどけて、途切れた。



273 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:23:30 ID:F9RMRaqM [20/38] 報告


 ○


──ここはどこだろうか?

肌寒い感覚が意識を浮上させる

草木に覆われた地面、無造作に投げ捨てられたもう使えないであろうモンスターボール……

どれも全て、『見覚えがあった』

──自分は誰なのか?どうしてここにいる?

必死にもがいてその答えを探し、遂に思い出して

記憶の糸を辿った果てに、俺は、ここへ帰ってきた


ふと、辺りの気配を探る 

緑溢れる景色の中で存在感を示す、桜の木

そのそばに、俺は倒れていた──


274 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:29:52 ID:F9RMRaqM [21/38] 報告


 ○


 仰向けのまま、ゆっくりと視線を動かす。

 右腕には、傷1つなかった。
 あれほど痛んだのが嘘みたいに、血まみれの包帯すらも、綺麗さっぱりと消え失せていた。


 ──俺が見たものは、夢?

 違う。
 俺はたしかにあの町で、ユスラと出会った。ユスラを救おうと、駆けずり回った。

 ユスラ。
 15年前の、俺。
 幼き日の、俺自身。


275 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:33:19 ID:F9RMRaqM [22/38] 報告


 今回サクラとして過ごしたあの2日間。
 15年前は、俺がユスラの側だった。


 荒野に惑い、立ち尽くして、ひとりで泣いていた。
 うちひしがれて震えていた。

 出口の見えない真っ暗闇で、手を差し伸べてくれた人がいた。
 誰かが、俺に光を見せてくれた。


 15年前のあの冬の日、たしかに俺は心を救われた。
 今度は俺が、救う番だったんだ。

276 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:36:50 ID:F9RMRaqM [23/38] 報告


 俺こそが、ユスラ。


 記憶を取り戻したあの瞬間まで、そんなことは考えもしなかったけれど。
 思えばそれらしき符合は、あった。
 
 たとえば味の好みが同じこと。髪の色が同じこと。
 ユスラは母のグミと顔があまり似ていない、ということは父親の方に似ているわけで、俺とワドッカツが似ているのは当然のこと。

 それにもちろん、俺の性別が女であることは『最低限の土台』として覚えていたから、最初から明白なことだった。
 もし俺が女じゃなかったら、ユスラもお母さんも、あそこまで気を許してはくれなかったろう。


277 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:39:05 ID:F9RMRaqM [24/38] 報告


 それから、ときおり胸の深くから溢れだした、叫び。
 覚えておらずとも込み上げてくる、ユスラへの共感。
 あれは、ユスラの境遇のすべては俺自身が辿った道だったからだ。

 だから、あれほどまでに。

 放っておけなかったし、救いたかった。
 他の誰よりも、ユスラの苦しみを知っていたから。


278 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:45:19 ID:F9RMRaqM [25/38] 報告

 未来と過去の俺自身が出会うだなんて。普通じゃ、到底ありえないこと。

 だからだろうか、歴史の修正力というやつなのかは知らないが。
 今回のセレビィのミスでの記憶喪失とは関係なく、俺はあの2日間の記憶をいつしか忘れてしまっていた。
 15年前の世界ですべてを思い出したあの時まで、俺は『サクラ』のことを覚えていなかった。


 でも、たしかに『何かがあった』ことは覚えていて。
 10歳の誕生日を境に、少しだけ、勇気が持てるようになった。自分はひとりじゃないと、不思議と心強く思えた。


 それから、『俺』という一人称を使い始めたのもこの頃だ。
 
 周りの男どもに負けない強さを、とか。自分に自信を持てるように、とか。
 そんな理由だと思っていたけど、本当の、一番の理由は。

 未来の自分自身の姿に憧れて、使い始めたんだ。


279 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:49:23 ID:F9RMRaqM [26/38] 報告


 『ユスラ』の視点で見た記憶が蘇る。
 あの、強い光を宿した瞳。わたしを救ってくれた瞳に、あんな目になりたいと願った。

 わたしは、なれたんだ。憧れたあの瞳に。


 『サクラ』の視点での記憶がよぎる。
 あの、暗く沈んだ瞳の少女が。
 よくぞ、ここまで。
 よく、ここまで辿り着いてくれた。


 たまらなくなって、自分の体を抱き締める。
 ぽろぽろと、堪えようもなく涙がこぼれて。

 顔も名前も忘れ去ってしまっても、それでも、荒野で見つけたあの光を追い続けて。
 わたしは。


 また、会えた。


280 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:54:44 ID:F9RMRaqM [27/38] 報告
 

 ──ただ、ちょっと不満なところもあって。
 
 これってなんかナルシストっぽくないか。
 過去の自分に対しても可愛い可愛い言いまくってたし。

 あれは、たぶん「自分を愛して」っていうサクラの言葉を胸に刻んじゃったせいだろうなあ。
 そういう意味じゃなかったんだが、変なところで抜けてやがる。
 
 でも、それが俺なんだって、そう思う。
 ちょっと間抜けというかお茶目なところもあるのが、俺であり、ユスラという人間なんだ。
 こんなところだって、ぜんぶひっくるめて、俺は好きでいられるから。


281 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 20:58:46 ID:F9RMRaqM [28/38] 報告
 

 それに、その言葉が伝わっていたのならば。
 どうかユスラに届けと願った言葉たちは、たしかに通じていたということで。


 ああ。

 胸に手を当てれば、そこにたしかに息づいているのが分かる。
 自分で言ったから、だけじゃない。大切な人から贈られた、大切な言葉が、そこに。
 心臓の鼓動の奥深く、俺の一番芯の部分に脈打つエールが。
 

282 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 21:01:28 ID:F9RMRaqM [29/38] 報告


 贈られた、といえば。
 俺は、壊れたモンスターボールに目をやる。

 タイムスリップした直後には壊れていたボール。
 このボールこそが、サクラがユスラへ託したあのボール。
 ここに、セレビィが入っていたのだ。


 底に刻まれた、WYという下手くそな二文字。
 ふたりのユスラだから、ダブルY。

 ユスラとサクラのあの出会いが、夢でも幻でもなく、たしかにあった証。


283 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 21:08:03 ID:F9RMRaqM [30/38] 報告


 この15年間、ずっとこのボールと共にいた。
 辛いとき、どうしようもなく心細いとき。このボールに触れれば、自然と心が軽くなって、前を向けた。


 ずっと自分が嫌いだった。自分なんか生まれてきてはいけなかったと。いつ死んだって、別にいいと。
 でも違った。
 大好きで、憧れたあの人が、他ならぬ自分自身だというなら。


 たとえ覚えていなくたって。
 未来の自分自身が、保証してくれたのだ。ここまで来れると。こんな大人になれるんだと。

 なら、それ以上に頼もしいことがあるだろうか。
 これ以上、信じられる言葉があるだろうか。

 こんなにも、自分を好きになれる、自分を誇れる拠り所が、他にあるだろうか。


284 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 21:14:37 ID:F9RMRaqM [31/38] 報告



 ボール越しのセレビィに少しずつ、少しずつ、慣れていって。
 ほんのわずかな時間だけ、ボールから出せるようになって。
 本当に少しずつ、少しずつ。前に進んで。

 完全に克服するまで、15年もの年月がかかった。


 15年。
 長かった。ほんとうに、終わりが見えなかった。
 それでも、歩み続けて。

 これでようやく。
 ようやくだ。
 俺は、ポケモンを恐れずに済むようになった。


 俺は、もう、大丈夫。


285 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 21:20:06 ID:F9RMRaqM [32/38] 報告


 それはつまり、セレビィが『俺の番』での役割を終えたということ。俺が救う番が来たということ。
 だからこそ、今だった。

 俺は何かに誘われるように、この森へ足を運んだ。
 ここまで来たとき、ボールが砕け、セレビィが解き放たれて。
 そしてセレビィは俺を15年前の過去へと送り込んだ。
 次の順番へと、『わたし』へと託すために。


 俺は、ぎゅっと、ボールを抱き締める。

 ──サクラ。ほんとうに、一番近くに、ずっといたんだね。

 他の誰より、わたしのそばに俺がいた。
 支えられて、救われて、ここにいる。
 いま、ここにいる。


286 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 21:24:06 ID:F9RMRaqM [33/38] 報告


 そして、今日。
 15年後の1月31日、俺の25歳の誕生日。


 俺は体を起こす。
 下草は朝露に濡れ、湿り気を含んだ地面が俺の体重を優しく受け止める。
 どこからか、野生ポケモンの楽しそうな鳴き声が聞こえた。
 鳥ポケモンのさえずりもする。
 
 木漏れ日が俺に注ぐ。
 柔らかな、若草色の明かり。
 風が吹けば、爽やかな空気がそこに流れている。
 若い樹木の香りを運び、そっと頬を撫でる。


 この場所は。
 この活気溢れる森こそが、あのイカズチ荒野。

287 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 21:29:15 ID:F9RMRaqM [34/38] 報告


 セレビィの復活で溢れだした精気が、土地に命の息吹を吹き込んだ。
 普通じゃ信じられないスピードで、木々や草花が芽吹き、生長して。
 たった15年で、森はここまで生き返ったのだ。


 そして。
 あの桜が、花を咲かせていた。
 
 満開だ。
 淡い紅色の花を、目一杯、枝につけて。


 雷で真っ二つに裂け、焼け落ちたこの桜は、それでも潰えることなく、生きて。
 生きて生きて、生き抜いて。

 今年、とうとう花をつけた。
  
288 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 21:30:42 ID:F9RMRaqM [35/38] 報告
  

 もう、雷に怯えることはない。
 乾いた土地は生命力で満たされ、生き返った。
 もう、荒野じゃない。

 長く苦しくて、終わりのないようだった荒野は。
 荒野はもう、終わったんだ。
 

 荒野の先で。
 俺は、生きている。生きて、ここまで来た。

 わたしも、生き返れた。甦れた。


 咲き誇る桜を見上げ、胸の内で何度も繰り返す。
 ありがとう。ありがとう。と。


289 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 21:32:00 ID:F9RMRaqM [36/38] 報告

 
 ふわり。

 花風がそよぎ、ひとひらの桜を散らす。
 舞い降りるように、俺をやわらかく包み込んで。

 桜がやさしく香る。

 冬の冷たい風のはずなのに、なぜだか、ほのかな温もりが心を撫でて。
 胸がとくんと高鳴る。
 心地よい日差しの中で、あの日のふたりの笑いあう声が聞こえる気がした。    



290 : まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/17 21:33:21 ID:F9RMRaqM [37/38] 報告
 

 ぴとり、と。
 桜の花びらが、寄り添うように肩に触れる。

 大丈夫。
 俺はひとりじゃないから。
 
 今なら、きっとどんなことだって怖くない。


 ユスラは。
 サクラは。
 俺は。
 わたしは。

 いま、幸せです。









 fin

291 : lX0nF9ikQo 19/03/17 21:37:27 ID:F9RMRaqM [38/38] 報告


 最後まで読んでくださった方、支援してくださった方、本当にありがとうございました。
 
 なにかひとつでも、読んで印象に残ることがあったなら幸せです
292 : ッチャラ◆kjCx/BzBlg 19/03/17 21:37:48 ID:mXx6SwOs 報告
すごく良かったです!
乙です
293 : リーパー@やわらかいすな 19/03/17 21:53:25 ID:iem6kbi2 報告
おつ!


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      ・NGネーム・NGID一括削除(下のボタンをクリックした時点で削除されます。)


      【特殊な指定方法】

      ・「_(アンダーバー)」はAND条件。
      ・[]で文字を囲むと、その中のいずれか1文字と一致。
      ・[]で囲んだ文字を | で区切ると、それぞれをOR条件として動作。
      詳しくは、NGの設定方法を参照。



    (連投制限などに引っかかった時用)