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SS

【SS】そうだ、島巡りに行こう

 ▼ 1 SxCy/NIFN. 17/02/18 06:33:20 ID:lUs7RGUg [1/21] NGネーム登録 NGID登録 報告
ただの少年がこれといった事件に巻き込まれることもなく普通にのんびり島巡りする小説です。
多少設定が適当だったり、たまに原作と矛盾することもあるかと思いますが許してください。

【プロローグ】

俺はしがない短パン小僧。

そろそろ半袖短パン姿が痛々しくなってきた13歳だ。

2年前に島巡りに挑んで最初の試練で挫折してしまい、学校に戻るに戻れず、今までずるずると引きこもっていた。
 ▼ 2 SxCy/NIFN. 17/02/18 06:34:13 ID:lUs7RGUg [2/21] NGネーム登録 NGID登録 報告
基本的にアローラの子供は小学校5年と6年の間に1年間、島巡りのための休学期間が与えられている。

この休学期間を利用するかは一応任意ではあるが、やむを得ない事情でもない限り休学し、島巡りに旅立つのが慣例となっている。

事実、5年の終わりに様々な説明をされたが、「行くかどうか」を尋ねられたことは一度もなかった。

通過儀礼みたいなもんだと思う。

そしてこの島巡りを諦めた場合、休学を破棄して6年に上がるか、休学期間の終了を待ってから6年に上がるかという選択肢になるのだが…

前者の場合は良く知らない年上たちに、後者の場合は見知った友人たちに、「島巡りに敗れた軟弱者」という烙印を背負った上で混ざることになる。
 ▼ 3 SxCy/NIFN. 17/02/18 06:36:11 ID:lUs7RGUg [3/21] NGネーム登録 NGID登録 報告
まぁ、毎年クラスに数人はいるらしい。さほど珍しいことではないし、本当は気にする必要はなかったのかもしれない。

それでも、俺はどちらも耐え難いと思ったので、今の今まで不登校を続けていた。

無学でトレーナー力もないとなれば社会人として自立して生活するのは困難だが、この地方にはスカル団という最後の受け皿がある。

いざとなったら挫折者の吹き溜まり・ポータウンに転がり込めばなんとか食いつなげるだろう。

そう鷹をくくってグータラしていたのだが…

「…のニュースです。アローラ名物の不良団体スカル団の総裁、グズマ氏がスカル団の解散を宣言しました。スカル団は…」

世の中、そう上手くはいかないらしい。
 ▼ 4 SxCy/NIFN. 17/02/18 06:37:54 ID:lUs7RGUg [4/21] NGネーム登録 NGID登録 報告
ええ、マジか。どうしよう。

そっかぁ…解散かぁ……。まぁ、色々とグレーゾーンな集団だしなぁ…。頼ろうとしてたのがまず間違ってたが……解散かぁ…。

とはいえ、ここでいきなり「じゃあ学校行くか」となるほどポジティブではない。

元はと言えばそれができなかったから今この事態になっている。というか対人能力の低下を始め、状況は当時より悪化している。無理だ。

が、スカル団に入団する目論見が絶たれた以上はこのまま引きこもり生活をするのも不安すぎる。かくなる上は…

俺は机の引き出しに手を突っ込み、忌々しい思い出を引っ張り出した。

島巡りの証。2年前に6日間だけバッグにぶら下げていた、新品同然の挫折の象徴。

「そうだ、島巡りに行こう。」
 ▼ 5 SxCy/NIFN. 17/02/18 06:39:25 ID:lUs7RGUg [5/21] NGネーム登録 NGID登録 報告
思えばもうすぐ四月。旅立つにはいいタイミングだ。

毎度新学期が近づくと、両親に「ねぇ、学校行ってみない?」と優しく声をかけられて辛くなる。

先手を打って旅に出れば、取り敢えず学校に行くことからは逃げられるだろう。

一度は挫折した島巡りだが、大義名分を掲げて気ままに旅ができると考えれば悪くはないような気がする。

俺は両親に適当に話をつけて、今月分の小遣いを受け取り、翌日の朝に意気揚々と旅立った。

太陽が眩しい。
 ▼ 7 ブラン@せいしんのハネ 17/02/18 06:45:14 ID:S99RxRVg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 8 SxCy/NIFN. 17/02/18 06:48:05 ID:lUs7RGUg [6/21] NGネーム登録 NGID登録 報告
【1日目】

ちなみに、前の島巡りで最初にもらったニャビーは2年前に泣く泣く逃している。

だって、ただ寝てるだけの穀潰しが「俺と一緒にポケモンも養ってほしい」なんて言ったらブン殴られるだろう。

ハラさんに電話してもう一度島巡りに挑戦する旨を伝えてみたが、どうやら規定によりポケモンを再度与えることはできないらしい。

というわけで俺は自宅から徒歩15分、ハウオリの街中の草地に足を運んでいた。

幸いにもハウオリ周辺のポケモンはレベルが低い。

バトルさせるポケモンを持っていなくとも、不意打ちでボールを投げればどうにかなるだろう。
 ▼ 9 メイル@プロテクター 17/02/18 06:49:58 ID:PjodPXas NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そうだ、ジョウトいこう。

支援
 ▼ 10 SxCy/NIFN. 17/02/18 06:50:41 ID:lUs7RGUg [7/21] NGネーム登録 NGID登録 報告
草地と路地を仕切る柵の側にある電柱に登り、上から草地の中を見渡す。

俯瞰目線で捜索し、発見次第ボールを投げ、失敗したら飛び降りて一気に柵の向こうに逃げる算段だ。

邪道だなんだと言われそうだが、電撃や毒液を直接浴びるわけには行かないので致し方ないと思う。

狙い目はピチューだ。この地方では素早いポケモンは珍しく、持っていると重宝すると島巡り攻略wikiに書いてあった。

見渡すこと5分。おかしい。ピチューが見当たらない。あのwikiの情報が誤っていたのだろうか。

電柱を降りて、一旦帰宅する。旅に出て僅か1時間足らずで帰ってきた息子に怪訝そうな視線を向ける母親に、聞いてみた。

「母さん、この町にピチューって生息してるよね?」

母「ちょっと前まではね。でも初心者トレーナーに人気すぎてこの町ではもう滅多に見かけないよ」

oh…
 ▼ 11 SxCy/NIFN. 17/02/18 06:54:00 ID:lUs7RGUg [8/21] NGネーム登録 NGID登録 報告
なんだか納得がいかないが、そういうことなら仕方がない。再び草地に向かい、電柱に登った。再び草むらを睨む。

ベトベター。何かの拍子に結晶部分が取れると猛毒が散布されるらしく、犠牲者が後をたたないという。論外だ。

ヤングース。短パン小僧らしいとは思うが、こいつで最後まで戦えるだろうか。ただならぬザコ臭がするのでできれば避けたい。

ニャース。ワガママでプライドが高くて狡猾らしい。そこまで言われて捕まえる奴がいるのかよ。

世の中そう都合よくは出来てないんだと実感する。とはいえ選り好みできる状況でもないし、さっさと妥協して何か捕ま”ッ!!?

いきなり電流が流れてきた。落下寸前の体制でなんとか踏みとどまり、持ち直す。上の方でバチバチと音がなっている。

誰だこんなことするのは。草むらの外にはポケモンいないんじゃないのかよ。

痺れる体に鞭打って見上げると、電柱の梯子部分に泣きそうな顔をしたコイルがくっついていた。

…。

………。

コイル、ゲットだぜ。
 ▼ 12 SxCy/NIFN. 17/02/18 06:56:01 ID:lUs7RGUg [9/21] NGネーム登録 NGID登録 報告
捕まえたコイルにびっしり張り付いた砂鉄をガムテープで剥がしながら、俺はスマホでwikiを確認していた。

コイルの最大磁力は半径100mに影響が及ぶほど強力らしい。6kgしかないのにそんな磁力を出せば当然ああなる。

しかし、自分の能力でああもしょうもない状況になるものだろうか。俺が捕まえなかったらどうなっていたんだろうか。

なんだかどうしようもなく間抜けなやつを捕まえてしまった感があるが、大丈夫だろうか。

砂鉄が大方取れて満足げな顔のコイルをボールに戻し、時計を見ると現在時刻は正午過ぎ。

日没まではまだまだ時間があるので、とりあえずはこいつのレベル上げをしよう。
 ▼ 13 SxCy/NIFN. 17/02/18 06:58:24 ID:lUs7RGUg [10/21] NGネーム登録 NGID登録 報告
レベル上げの場所には1番道路を選んだ。

さっきの草むらでやってもいいのだが、周りに鉄製の建物がある街中ではバトルでちょっとカッとなった拍子に張り付いて戦闘不能になりかねない。

ちょうど1番道路のポケモンは弱いので、レベル上げには最適のはずだ。

コイルをボールから出して、草むらの中にそっと分け入っていく。

この一帯のポケモンにはレベルで優っているとは思うが、こいつには戦闘経験がないのでいささか不安だ。

できれば出会い頭に後ろから電撃を浴びせて仕留めるのが望ましい。

キャタピー発見。こちらには気づいていない様子。慎重に距離を詰める。慎重に、慎重に…。

「!」

!?
 ▼ 14 オガエン@トウガのみ 17/02/18 07:01:47 ID:yoHtdwtc NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 15 SxCy/NIFN. 17/02/18 07:02:16 ID:lUs7RGUg [11/21] NGネーム登録 NGID登録 報告
しまった、キャタピーに夢中で草むらの外の警戒を怠っていた!

この感覚!道路で真に警戒すべきが何か思い出した!

咄嗟に背丈の高い草の中に身を隠す。

バッカ、コイル、お前も隠れるんだよ…っ!

コイルの頭を押さえつけて息を潜めるが。時すでに遅し。足音が近づいてくる。あぁ、マジかぁ…

短パン小僧「目と目があったら、ポケモン勝負!」

畜生、記念すべき最初のポケモンバトルだ。
 ▼ 16 SxCy/NIFN. 17/02/18 07:04:28 ID:lUs7RGUg [12/21] NGネーム登録 NGID登録 報告
声をかけられてしまったので、渋々草むらから顔を出す。

2年前の旅の経験でこの状況になったらもう逃げられないことはよく知っているが、一応聞いて見る。

「すまない、こいつ、さっきゲットしたばかりなんだ。見逃してくれないか?」

短パン小僧「目と目が合ったろ?」

合ってねぇよ。

どうやら話が通じないらしい。

黙って逃げればいいだろと思うかもしれないが、一旦「!」となってしまうとなぜか体が逃走を拒否するようになる。

短パン小僧「いけっ、コラッタ!」

コラッタ「きっ!」

腹をくくるしかないか…

「いくぞコイル、初陣だ!」

コイル「€##!」
 ▼ 17 SxCy/NIFN. 17/02/18 07:06:15 ID:lUs7RGUg [13/21] NGネーム登録 NGID登録 報告
あっ、コイルの鳴き声文字化けしてますね

でも元々読めない記号で書いてたので別にそれでいいか
 ▼ 18 リヤード@ポフィンケース 17/02/18 07:06:37 ID:v8F1K/Ww [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
筆者に質問。飛び級して、6年の長期休みで島巡りをする人はいる?
まぁ、どっちにしろ僕自身は島巡りしないけど (ジム巡りしたい…)
 ▼ 19 SxCy/NIFN. 17/02/18 07:08:33 ID:lUs7RGUg [14/21] NGネーム登録 NGID登録 報告
俺はポケモンセンターのソファに座って、コイルの回復を待っていた。


勝負は一瞬だった。

でんきショックのチャージ中にかみつかれて、即瀕死。

コイルにとっては初戦闘とはいえ、俺は一応6日間だけトレーナーをやっていたのだ。

まさか最弱のトレーナーが集う道路にいるやつに遅れを取るとは思ってなかった。

でんき技が割と隙が大きいのを知らなかったのは俺が悪いとは思うが、だからって一撃でやられるとは…

項垂れていると、ジョーイさんがカウンター越しに話しかけてくる。

ジョーイさん「気をつけてくださいね。最近、1番道路で初心者狩りが流行ってるらしくて…」

いや、ふざけんなよ……
 ▼ 20 マガル@きいろのバンダナ 17/02/18 07:15:26 ID:Te3WNp0A NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しえん
 ▼ 21 SxCy/NIFN. 17/02/18 07:16:15 ID:lUs7RGUg [15/21] NGネーム登録 NGID登録 報告
>>18
基本システムは
1年〜5年、島巡り年間、6年、中学…
って感じです
日本の学校システムに島巡りをぶち込むならどうなるのかってのを考えて、こういう設定にしました
だから飛び級とかはあんま考えないですね。シトロンが大卒であることを考えれば可能だとは思いますが、1年以上かかるような旅にはなりませんし。
(一応1年でクリアできなかったら島巡り浪人をする人もいるって設定です。)
まぁ別にいつ休学しようが構わないしなんなら夏休みとか使って細切れに試練やジムを越えればいいわけですが、学校と島巡りの慣習を並立するならこうだろうなぁ、と。
 ▼ 22 SxCy/NIFN. 17/02/18 07:19:00 ID:lUs7RGUg [16/21] NGネーム登録 NGID登録 報告
ポケモンを持つのは10歳から、島巡りは11歳から。

つまり10歳からポケモンを持っていたちょっと強いトレーナーが、島巡りが始まる時期に合わせて最初のポケモンをもらったトレーナーを狩っているわけか。

なんて悪趣味なんだ、クソッ。

とにかく、理不尽なレベル差の暴力により路銀の1割を失ってしまった。

しかも、付近の道路にいるのが初心者狩りか初心者か区別がつかないと来た。

さらに、これは眉唾ものの情報ではあるが、超高レベルのトレーナーがこの辺りで弱いポケモンをひたすら蹂躙する姿も目撃されているらしい。

かといってレベル上げをしないことには先に進めない。

どうしたもんかねぇ。
 ▼ 23 マザラシ@シールいれ 17/02/18 07:19:10 ID:5rUJX/TU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
コイルはじりょくだったか……。
 ▼ 24 SxCy/NIFN. 17/02/18 07:20:50 ID:lUs7RGUg [17/21] NGネーム登録 NGID登録 報告
ジョーイさん「お待ちどうさま。コイルはすっかり元気になりましたよ」

「ありがとうございます」

受け取ったボールからコイルを出してみると、確かに歯型は治っていたが心なしかしょんぼりしている。

そうだよなぁ。昼までずっと電柱に張り付いてて、やっと解放されたと思ったら初戦闘であの仕打ちだもんなぁ。

窓の外を見ると、空はすっかり茜色に染まっていた。

まだ休むには早い時間だが、今日はもう動く気になれない。

コイルも体力は回復したが、これからまたバトルさせるのは少し酷だろう。

今日の旅はここまでにして、明日からまた頑張ろう。
 ▼ 25 ノアラシ@ホロキャスター 17/02/18 07:21:54 ID:WVRcNnG6 NGネーム登録 NGID登録 報告
>>19
1番道路で初心者狩りって…
ひでぇwww
 ▼ 26 SxCy/NIFN. 17/02/18 07:23:44 ID:lUs7RGUg [18/21] NGネーム登録 NGID登録 報告
家から10分のポケモンセンターにいるんだから旅もクソもないと思うが、雰囲気を重視してポケセンに宿泊することに。

旅立った手前初日から「ただいまー」ってのもバツが悪いしね。

とりあえずカフェで夕食をとった後、貸しシャワーを浴びた。

コイルにも浴びせてみたら思いの外気持ちよさそうにしていた。無機物のわりに表情豊かなやつだと思う。

カウンターで素泊まり1泊の料金1000円を支払って寝袋を受け取り、2階の宿舎に移動する。

個室はなく、大部屋に適当に場所をとって寝る形式らしい。

部屋の端に寝袋を敷いて仰向けに寝転がり、今後のことを考える。
 ▼ 27 ラナクシ@はっかのみ 17/02/18 07:24:54 ID:v8F1K/Ww [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
>>21
あっ、飛び級っていうのは5年と6年の間に島巡り休学をしないってことです。
それなら僕は島巡り休学をしないで島巡りをしようかな?
 ▼ 28 SxCy/NIFN. 17/02/18 07:28:59 ID:lUs7RGUg [19/21] NGネーム登録 NGID登録 報告
朝昼晩メシと宿泊代、あとポケモンのエサ代あわせて一日2500円ちょっと。雑費含めて月8万ほど。

きずぐすりやボール代も考えなければならない。

このままでは2週間ほどでお小遣いが尽きる計算になる。

島巡り開始から1年間は宿泊や食事の大部分が無料なので本来はあまり苦労しないのだが、島巡り浪人はこれがキツイ。

(もっとも、保護者からの学校集金によって賄われているサービスなので事実上の前払いである。

両親からすれば1年島巡りする前提で払った集金を6日でフイにしてしまっているので、結構申し訳ない。)

旅に出るのを勢いで決めたはいいが、現実的に見て相当な金欠になるのは避けられないだろう

初心者狩りや謎の高レベルトレーナーの問題もあって、資金稼ぎが厳しすぎる。

一度両親に掛け合って見たほうがいいかもしれない。

俺は腹の上でポケマメの最後の一口をかじっていたコイルをボールに戻して目を閉じ、長い一日を…

…ん?
あの体でどうやってポケマメ食ってたんだ?

まぁいいや。

長い一日を、終えた。
 ▼ 29 SxCy/NIFN. 17/02/18 07:31:14 ID:lUs7RGUg [20/21] NGネーム登録 NGID登録 報告
1日目の手持ち

コイル Lv7 じりょく
たいあたり
ちょうおんぱ
でんきショック
マグネットボム
 ▼ 30 SxCy/NIFN. 17/02/18 07:46:19 ID:lUs7RGUg [21/21] NGネーム登録 NGID登録 報告
今日暇だったのでここまで書きましたが、しばらく忙しいので2話は来週になるかと思います
 ▼ 31 ーメイル@スチールメモリ 17/02/18 08:50:12 ID:4pWlCupM NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 32 SxCy/NIFN. 17/02/19 15:04:36 ID:gciIzhW6 [1/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
【2日目】

硬い床に寝袋一枚で寝ていたせいか、体の節々が痛い。

電柱に登ったりポケセンまで走ったりと慣れない運動をしたせいもあるかもしれないが、とにかく肩や腰が痛い。

ともあれ、旅が終わるまではしばらくこの就寝環境だ。場合によっては野宿もするだろう。早めに慣れておきたい。

さて、当面の目標は《イリマの試練》へのリベンジだが、まずはポケモンを強化しなければ始まらない。

単純に試練攻略の適正レベルまで上げる必要があるのもそうだが、ポケモンが弱いと賞金収入が入らずジリ貧である。

とりあえずしばらくはレベル上げと、できれば試練までに1〜2匹は仲間を増やしておきたい。
 ▼ 33 SxCy/NIFN. 17/02/19 15:06:14 ID:gciIzhW6 [2/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
とはいえ、初心者狩りが横行している街の近くの道路の草むらに行くのはやはり厳しい。

目を合わせなければいいだけかとも思ったが、『狩り』と言うからにはありとあらゆる方法で目を合わせてくるのだろう。

一度引っかかる度に貴重な路銀が1割削られるし、何よりいちいち瀕死にさせられるコイルが可哀想だ。

というわけで今日の目的地はハウオリシティはずれ、1番道路南半分の海岸部分である。

あの辺りは試練への道筋に直接関係がないエリアだからトレーナーの数が少ない、イコール初心者狩りもいないはずだ。

多少レベルは高いがみずタイプのポケモンが多く生息しているとのことなので、コイルの修行には最適だろう。

ついでに苦手な炎や地面の対策として新たな仲間を捕獲してもいいかもしれない。

そうと決まれば出発だ。

寝袋をカウンターで返却し、きずぐすりとモンスターボールを数個購入してポケモンセンターを後にする。

よっしゃ島巡りするぜ!
 ▼ 34 SxCy/NIFN. 17/02/19 15:08:23 ID:gciIzhW6 [3/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
街を抜けて海岸の草むらまで徒歩で小一時間。

ちょっとした散歩くらいの距離でも、わりと息が切れるし筋肉痛がじわじわと悲鳴をあげる。

この体力のなさは、短パン小僧の面汚しと言われてもちょっと反論できない。

だが、へたってもいられない。ここからが今日のメインだ。

サイコソーダをぐっと飲み干し、休憩を切り上げて立ち上がる。

ざっと周囲を見渡したところキャモメと死闘を繰り広げている新人がいるのみで、初心者狩りと思しきトレーナーは見受けられない。

よし、今日は行けそうだ。ボールからコイルを出し、息を潜めて草むらに潜入する。
 ▼ 35 SxCy/NIFN. 17/02/19 15:10:50 ID:gciIzhW6 [4/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
作戦は昨日の1番道路と同じく、背後から近づいて電撃で奇襲。

でんき弱点で動きが遅いヤドンが狙い目だ。

む、早速草陰にピンクのしっぽを発見。コイルに小声で指示を出す。

「いいか、行くぞコイル。あのしっぽめがけて、でんきショックだ。できるだけ、静かにな…!」

俺の声に応えるように左右のU磁石がくるくる回り出す。充電の動作だ。

昨日のコラッタ戦ではこの隙を突かれて手痛い反撃を食らったが、生憎今は完全に意表をついている。

「よし、やれっ…!」

「###%!」
 ▼ 36 SxCy/NIFN. 17/02/19 15:12:13 ID:gciIzhW6 [5/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
2つの磁石の間から草の隙間を縫って青白い電光が一閃!

おし、直撃………あれ?

「やぁん?」

なんてこった、確かに当たったは当たったが、わりと平気そうだ…。っていうか完全に気づかれたな…。

ヤドン「やぁーーーぁ…」

あくびしてるし…。どうしよう、ここは一旦逃げて油断したところにもう一回 \ゴトン/

ゴトン?

足元に、ぐっすり寝息を立てるコイルが転がっていた。

ーーーしまった、あくび!
 ▼ 37 SxCy/NIFN. 17/02/19 15:15:20 ID:gciIzhW6 [6/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
眠ってしまって隙だらけのコイルに向かって、ヤドンがのっそのっそと距離を詰めてくる。

「起きろ!起きろって!来てるから!おおい!」

ぺしぺしと叩きながらコイルに呼びかけるも、その寝顔はとても安らかだ。

畜生、作戦は失敗だ!

俺はコイルを抱え上げて草むらの外に向かって駆け出した。意外とっ…重いっ…!

「うぉい起きろって!早く…うなッ!?」

突然背後から大量の水をぶっかけられて前のめりにすっ転んだ。

地面は柔らかい草地なのでダメージはないが、どうやらやすやすと逃してはくれないようだ。

見た目の割に執念深いな…!
 ▼ 38 SxCy/NIFN. 17/02/19 15:16:38 ID:gciIzhW6 [7/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
「##÷…?」

コイルが寝ぼけた声を上げて目を開ける。

「ようやく起きたか!こうなったらもうやるしかない、バトルするぞ!」

そもそも正面先頭は無理と決めつけていたのがダメだった。

あくびは仮に使われても10秒程度なら意識を保てるわざのはずだ。

あそこで逃げるかどうか迷ったりせず、即決ででんきショックを指示すればそれで倒せたかもしれない。

「コイル、でんきショック!」

「##%%……+#!?」

指示に合わせてコイルがチャージ体制に入ったが、すぐさま飛んで来たヤドンのみずでっぽうを頭から被ってしまう。

致命傷ではないようだが、集中が切れたのかチャージ中の電気が散りぢりになっていた。

くそっ、これじゃ攻めるに攻めれん!
 ▼ 39 SxCy/NIFN. 17/02/19 15:21:00 ID:gciIzhW6 [8/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
使ったことがないが、他の技ならどうだろうか。やってみる価値はあるか…!

「コイル、ちょうおんぱ!」

「%%…@!」

「んやぁ!?」

キイィーンとつんざく耳鳴り音を伴って、ヤドンに見えない何かが炸裂した!

なるほど、ちょうおんぱは出が早い!

でも俺も割と頭痛い。次これを使うときはちゃんと耳を塞いでおこうと心に刻み込む。

ヤドンはクラクラしながらみずでっぽうのタメに入っている。

今なら当てられる!こめかみを抑えながらもう一度指示を出す。

「コイル、チャンスだ!でんきショック!」

再度、コイルの磁石が回転する。

ヤドンも負けじとみずでっぽうを発射するが、混乱の効果で狙いが定まらず、水流はコイルの十センチ横を勢いよくかすめて行った。

「##…%!」

「や”ぁ”ん”ん”!」

今度こそチャージが成功し、稲光がヤドンに正面から突き刺さった。
こうかは ばつぐんだ!
 ▼ 40 SxCy/NIFN. 17/02/19 15:23:28 ID:gciIzhW6 [9/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
よし、このまま追撃して終わり…いや、まてよ。

…もしやこれは、イケるのでは?

俺は懐からモンスターボールを取り出し、痺れと混乱で酩酊状態のヤドンめがけて投げつけた。

命中したボールから放たれた光にヤドンが吸い込まれていく。

その様子を固唾を呑んで見守る俺とコイ…いやまて今こいつどっから「ゴクリ」って音出した?

ヤドンを閉じ込めて落下したボールが静かに揺れ始める。

くらり。さぁ。

くらり。どうだ。

くらり。これは…?

カチッ。!!!

何かが閉まるような音とともに、モンスターボールが完全に制止した。ということは…

「よーーし! やったぞコイル、初勝利だ!」

「###ー!」
 ▼ 41 ミッキュ@ラグラージナイト 17/02/19 15:27:22 ID:Fr8axdyA NGネーム登録 NGID登録 報告
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 ▼ 42 SxCy/NIFN. 17/02/19 15:30:57 ID:gciIzhW6 [10/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
今日の帰り道は昨日と打って変わって気分が良かった。

犠牲がなく、収穫があるというのはこんなにも素晴らしいことなのか。


ヤドン戦の反省を踏まえ、あの後はより電気に弱いキャモメに狙いを変えた。

空を飛んでいるということで攻撃が当てづらいのではないかと思い敬遠していたのだが、これもヤドン戦での経験が活きた

ちょうおんぱで隙を補い、でんきショックを当てる。

この単純なコンボ戦術が思いの外ハマり、先のヤドンと合わせて合計5匹の討伐に成功した。

当初の予定ほど簡単な狩りにはならなかったものの、昨日の惨状を鑑みるに十分な成果と言えるだろう。

今日は祝勝会だ。おっちゃん、マラサダ3つね。
 ▼ 43 石の森◆Y0TXrTESFs 17/02/19 15:32:36 ID:8ii0LhvE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 44 SxCy/NIFN. 17/02/19 15:34:13 ID:gciIzhW6 [11/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
ポケモンセンターに着く頃にはすっかり日が暮れていた。

新メンバーのヤドンはとにかく表情が変わらない。

無機物のコイルですら表情豊かだというのに、こいつは感情を失ったような顔をしている。

マラサダを食べる時も無表情でちびちびかじっていた。

あと、コイルと頑なに目を合わせようとしない。コイルには目しかないのに。

まぁ不意打ちで電撃浴びせたわけだし、これは仕方がないのかもしれない。

きっと時間が解決してくれると思う。

というか解決しないのであれば、この先の捕獲方法を再検討しなければならない。

シャワー室でヤドンにもシャワーをかけてみたが、案の定、無反応だった。

試しに冷水に変えてみたところみずでっぽうで反撃されたので、多分温水でOKなのだろう。無反応だったが。
 ▼ 45 SxCy/NIFN. 17/02/19 15:36:18 ID:gciIzhW6 [12/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
いつまでも家から10分のポケセンを拠点にするのはどうかと思うが、焦っても仕方がないのでとりあえず寝袋を借りて2階へ上がる。

まぁ、本当に焦っても仕方ないのだが、でも実際焦る気持ちはあるよなぁ、と仰向けになりながら考える

いつ金が尽きるかわからないし、トレーナーを倒すだけで本当に足りるのかも分からない。

だったら、攻略のスピードは速いに越したことはない。こうして寝泊まりしてるだけでも金は減るのだから。

少し早いかもしれないが、明日からは試練攻略に乗り出して見てもいいかもしれない。

なんというか、早いとこ旅っぽいこともしてみたいし。

なんてことを考えていると遠足前夜な気分になって目が冴えてしまう。

寝袋の中でそわそわしていると、ヤドンがボールから出てきて、一つあくびをして帰っていった。

なるほど、こいつは……おやすみ。
 ▼ 46 SxCy/NIFN. 17/02/19 15:37:30 ID:gciIzhW6 [13/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
2日目の手持ち

コイルLv.9
でんきショック
マグネットボム
ちょうおんぱ
たいあたり

ヤドンLv.8
あくび
たいあたり
なきごえ
みずでっぽう
 ▼ 47 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/20 06:17:54 ID:doRFyLjE [1/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
【3日目】

うむ、38度2分。

そりゃそうだ。

思えば昨日の海岸ではヤドンのみずでっぽうを思いっきりかぶってしまった。

混乱してコイルから大きく狙いが逸れたキャモメのみずでっぽうも全身に浴びていた。

いくらアローラの温暖気候とはいえ、3月に濡れた衣服で夕方まで活動を続けていれば風邪ぐらい引く。

それは例え俺が短パン小僧でも変わらない真理だ。

というか、こんな色白の短パン小僧が病気に強いわけないだろう。

ジョーイさんに体温計を返却し、処方された風邪薬を持って2階に戻る。

階段を登るのも結構辛い。これじゃ今日のところは旅は休むしかないなぁ…。

いっそ今日ぐらいは家に帰ろうかとも思ったが、なんとなくプライドが許さないような気分になって首を振る。

別段両親と仲が悪かったわけではないが、「引きこもり息子が旅に出てすぐ帰ってきた」みたいになるのが嫌だ。

「あんた、まだ旅立ってなかったの?」なんて言われたらそれこそ仲が悪くなってしまいそうだ。

結局、大人しく寝袋に潜り込んで療養することにした。
 ▼ 48 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/20 06:22:47 ID:doRFyLjE [2/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
寝苦しい。体が火照る。息が苦しい。……心細い。

一人旅で風邪を引くとこんなに辛いのか。

帰りたくなってくるが、ここで折れたら負けな気がする。

そもそもこの先もっと遠くに拠点を移せば自宅に甘えることもできないのだ。

これくらい我慢できなくてどうする。

しきりに寝返りを打ちながら呼吸を落ち着かせていると、開けっ放しのリュックの中からもぞもぞとヤドンが這い出てきた。

モンスターボールは虐待対策とかなんとかで内側にもスイッチが付いているとか、なんかでやってたなそういや。

いつ飛び出されてもいいように、ボールを入れてるときはリュックのチャックは開けておこう。

「どうした?昼飯はまだ……ひゃっ!」

ヤドンはひたひたと枕元までにじり寄って座り込むと、無表情のまま俺の額にぺたりと尻尾を乗せてきた。

突然冷んやりしたので一瞬身を縮めてしまったが、すぐに落ち着いた。

なるほど、やっぱこいつは……

いや、やっぱりよくわからんな。無表情だし。

でもちょっとだけ、楽になった気がする。


額の冷たさに温かさを覚えながら、俺は眠りに落ちていった。
 ▼ 49 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/20 21:51:32 ID:doRFyLjE [3/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
【4日目】

一夜開けて、体のだるさはすっかり取れていた。

熱も下がっている。

あまり無理はしないほうがいいだろうが、これなら旅を再開しても大丈夫そうだ。

寝袋をたたんでグッと伸びをする。

昨日はずっと寝ていたからか、まだ朝日が昇りきっていない。

あたりを見渡すとまだ寝ているトレーナーが多かった。

コイルと、いつのまにかボールの中に戻っていたらしいヤドンをボールから出して小声で語りかける。

「よしお前ら。今日からな、本格的に旅するぞ。」

「#+?」 「や?」
 ▼ 50 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/20 21:52:28 ID:doRFyLjE [4/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
端末の地図アプリを開き、2匹に説明する。

まぁこいつらに旅路を説明する意味はない(というか理解できるのかも謎)のだが、これは気分の問題だ。

一人旅よりはポケモンと一緒の旅と思ったほうが、モチベーションも上がるというものだろう。

「まず、ハウオリを北に抜けて2番道路に向かう。道路を道なりに進めばポケモンセンターがある。

とりあえず2日かけて2番道路北のポケセンを目指す。途中、野宿することになると思う。」

コイルはコクコク頷きながら聞いている。

ヤドンは聞いているのかどうかはよくわからないが、尻尾で床をぺしぺししていた。

「で、試練だ。ポケセンのすぐそばにノーマルの試練の洞窟がある。

前日までに2番道路ポケセンで挑戦予約が必要だから、多少早くついても試練は3日後だな。

…よし、じゃ、行くか!」
 ▼ 51 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/20 21:54:46 ID:doRFyLjE [5/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
適当に野営用の道具を買い揃え、傷薬も多めに買い、ポケセンを出た。

持ち物は最小限に抑えたつもりだが、それでも結構かさばるし重い。

ポケモンマスターを目指す旅を描いたアニメでは道中の休憩でテーブルや寸胴鍋を出していたが、アレはどういう原理でリュックに収まっていたんだろうか。

ともかく、この荷物を背負っていては逃げるのもそう上手くはいかないだろう。

道路に入ったら慎重に進まなくては。
 ▼ 52 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/20 21:58:02 ID:doRFyLjE [6/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
1時間ほど歩いては休憩し、また1時間ほど歩いては休憩し。

たまに飛び出してくるポケモンを適当にあしらいつつ。

コイルにも哨戒を手伝ってもらい、慎重に、少しずつ進んでいた。


やはりというか、この道路にも初心者狩りはいた。

というのも、街を出てすぐのところで2人のトレーナーが向かい合い、その間でツツケラとニャヒートがバトルしていた。

ニャヒートって。

スタート地点の町の隣の道路でニャヒートはないだろう。

コイルはもちろん、相性で勝るヤドンでもまず勝てないレベル差だ。

幸いバトル中なら「!」とはならないので、ツツケラ使いのトレーナーには可哀想だが素通りさせてもらった。

その後も何度かトレーナーの姿を確認したが、迂回したり物陰に隠れたりしてやり過ごした。

もしかしたら適正レベルのトレーナーかもしれなかったが、そうじゃなかった場合は即ハウオリに帰る羽目になる。

小学生トレーナーの背後を忍び足ですり抜ける13歳。

情けなく映るかもしれないが、これが今できる最善だと思う。

石橋は叩いて渡るなんてことわざがある以上、吊り橋を最初から渡らないのは当然の策である。

誰にも文句は言わせない。
 ▼ 53 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/20 22:00:52 ID:doRFyLjE [7/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
地図を確認すると、現在地は2番道路の1/4辺り。東に向かう分かれ道を進むと霊園があるらしいが、特に用はない。

一応調べてみたが、インド象を2秒で卒倒させる危険極まりないポケモンがいるという情報があったので近寄らないでおこう。

ちょうど日も高くなっていたので、一旦昼食休憩を取ることにした。

木陰にシートを敷き、腰を下ろす。

コイルたちはポケマメを、俺はブロック状の携行食をもそもそと口に運ぶ。

味気ない食事だとは思うが、何もキャンプやピクニックに来ているわけではない。

自炊など数える程しか経験がないし、荷物や時間の効率を考えればこういう形に落ち着くのは妥当だと思う。

ひと段落ついたので、シートを片付け……あれ、コイルがいない。

ちょっと目を離した隙に、まさかまた電柱に吸い込まれたのだろうか…?

「##%%√ーーッ!!!!」

声がした方を振り向くと、コイルがマケンカニに追いかけられている。

泣きながらこっちに向かってくるコイルは、両の磁石できのみを抱えていた。

やはり、味気ない食事も考えものなのかもしれない。

「…ヤドン、頼んだ。」

ふへぇ、とため息を漏らすヤドンにマケンカニを追い払ってもらい、みんなでオレンの実を分けて食べた。
 ▼ 54 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/20 22:01:54 ID:doRFyLjE [8/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
今日の目的地である2番道路中間地点までもう少し。

日が傾いて来たので早く進みたいのだが…

…50m先でトレーナーが道路端に陣取って、視線で道を塞いでいた。

ひとまず物陰に隠れ、様子を伺う。

どうしよう。あれでは背後を通ることもできないし、迂回する道もない。

初心者狩りと決まったわけではないが、ここは2つのポケモンセンターのちょうど真ん中。

万が一にも戦闘不能にされようものなら、かなりマズイ。

そもそも、普通のトレーナーとだって互角程度でしかないのだ。

むしろ戦闘をひたすら避けている分、レベルで劣るかもしれないぐらいである。

どちらにしろ、勝てる保証がない以上は戦いたくない。
 ▼ 55 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/20 22:03:56 ID:doRFyLjE [9/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
どうにか戦わず通り抜ける方法を模索する。

手持ちが全員瀕死でポケセンに向かってることにするか?

いや、無理だ。「!」の呪縛からその程度で逃れられるとは思えない。

でんきショックかちょうおんぱで気絶させる?

いやいや、それは流石にダメだろう。

屈強なポケモンの破壊光線を人に向かって放ったと噂の某チャンピオンも、権力がなければ今頃どうなっていたか分からない。

隣を見ると俺の思考を察したのか、怯えた顔をしたコイルのネジがカタカタ鳴っている。

流石にこいつに人を襲えと指示を出せるほど俺は無情じゃない。

ポケモンのわざで人を傷つけるのは立派な犯罪…いや、まてよ?

傷つけなければ…?
 ▼ 56 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/20 22:05:03 ID:doRFyLjE [10/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
道路の端で眠りこける短パン小僧の横を、忍び足で素通りする。

この少年にはヤドンをけしかけて、あくびで眠ってもらった。

放っておいてもすぐに起きるし、外傷や後遺症も残らない。

野生のヤドンに不意打ちを食らったとしか思わないはずなので、足もつかない。

完全犯罪だ。

いや、犯罪ではないが。

…やっぱり犯罪かもしれない。

傷つけてはいないが、睡眠薬盛るのとあんま変わんないしなぁ…。
 ▼ 57 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/20 22:07:22 ID:doRFyLjE [11/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
そうは言ってもだ。

初心者相手に強制的にバトルを仕掛ける行為は例え合法であってもカツアゲとなんら変わらない。

許されることではない。

許されない行為なら、多少法に触れる方法でも止めざるを得ない。むしろ止めるべきだ。

いわば確信犯というやつである。

そんな言い訳を連ねつつ、だいぶ距離が開いたトレーナーの方を振り返る。

あくびの効果が切れたのか、周囲をキョロキョロしていた。

あいつがただの初心者だったら、これって普通に何の正当性もない迷惑行為だよなぁ…

……まぁ、いいか。俺は悪くない。

世間が悪い。
 ▼ 58 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/20 22:09:21 ID:doRFyLjE [12/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
それにしても、この先にも初心者狩りがいるとしたら、毎回これをやらなきゃならないんだろうか。

この島だけならまだいいが、メレメレを出ても各地に適正レベルを超えたトレーナーがいるのだとしたら…

前途多難すぎて匙を投げてしまいたい。

どうにも飲み下せない理不尽感を抱えながらも沈む夕日を横目に歩き、中間地点の目印である曲がり角に到着した。

完全に日が暮れる前に簡易テントを張り、適当に食事を済ませる。

いつまでも同じような食事ばかりだと、またいつかコイルがきのみ泥棒に手を染めかねないので、料理を覚えてみようかなぁとも思う。

結構な距離を移動したからか、寝袋に潜るとすぐに睡魔に襲われた。

…おやすみ。
 ▼ 59 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/20 22:10:56 ID:doRFyLjE [13/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
4日目の手持ち

コイル Lv10
でんきショック
マグネットボム
ちょうおんぱ
たいあたり

ヤドンLv9
みずでっぽう
たいあたり
あくび
なきごえ
 ▼ 60 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/21 16:50:53 ID:5e3bBXU2 [1/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
【5日目】

「!」

!!!!

ついにやってしまった。

初日ぶりに味わう「!」の感覚に、仕方なく視線の主の方へ振り向く。

おそらく年下の短パン小僧が、どこか緊張を孕んだ、それでいて強い戦意を感じさせる表情でこっちを見ている。

「勝負…か?」

まぁ、勝負なのは間違いないが、一応聞いて見る。

短パン小僧「もちろんだろ? 俺と目があっちゃったんだからな!」

だから合ってねぇよ。
 ▼ 61 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/21 16:52:21 ID:5e3bBXU2 [2/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
とはいえ、これがルールだ。

戦意があるものが戦えるトレーナーを視認した場合、相手の意思に関係なくバトル開始となる。

これはトレーナー必携の公式ルールブックにも載っている世界共通のルールである。

「…初心者狩りじゃないよな?」

まぁ、初心者狩りだったところでここからバトルを避けられるわけじゃない。

だからこの質問も意味はないのだが、一応聞いて見る。

短パン小僧「あんな卑怯なのと一緒にすんじゃねーよ!

そんなこと聞くってことは、兄ちゃんもこの先の試練に挑戦しにきたんだよな?」

「そっか、すまんな。こないだカツアゲにあったんでピリピリしててさ。…そうだよ、俺も挑戦者だ。」

よかったぁぁ…。

ひとまず胸をなでおろす。

いくら初心者狩りが横行しているとはいえ、普通の挑戦者トレーナーの方が多いのは当然といえば当然か。

それにしても、相手からすれば俺だって初心者狩りの可能性があるのに、随分と勇気があるな。

俺も少しは見習うべきなのかもしれない。

短パン小僧「んじゃ、初心者同士短パン同士、正々堂々やろうぜ!」
 ▼ 62 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/21 16:53:43 ID:5e3bBXU2 [3/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
道路の真ん中で向かい合うのはコイルとガーディ。

ボールから出て見張りをしていたコイルをそのまま出したら、相手がガーディを繰り出してきたという形だ。

見るからに不利なカードである。

戦わないための哨戒ではあるが、いざ戦う時に初手が割れているというのはよろしくない。

というか流れでコイルを出してしまったが、別に見せているポケモンを出さなきゃならないなんてルールはない。

次バトルになったときは一旦手持ちに戻してから選びなおすようにしよう。

人間は反省する生き物である。

小僧「じゃ、始めるぞ。俺が投げた石が地面に落ちた瞬間バトルスタートだ。…そい!」

ひゅー……
 ▼ 63 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/21 16:55:26 ID:5e3bBXU2 [4/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
……カツン。

「コイル、ちょうおんぱ!先手必勝だ!」

「##@!」

小僧「ガーディ、ひのこっ!」

「ぐるぁ…!」

ガーディが口を大きく開き、萌黄色の光をのぞかせた。

しかし炎が放たれるより、コイルのちょうおんぱが届く方が一瞬早い。

「ぐるらっ?!」

ふらつきながら吐き出されたひのこは若干狙いが外れ、コイルのネジの先端を若干焦がして空に消えた。

小僧「結構やるな…ガーディ、深呼吸して一旦落ち着け!」

「ぐるぅ…わふぅー…」

おっと、割と対処が早い。

焦ってそのまま雑に攻撃してくれるのが理想だったのだが、野生戦のようにはいかないらしい。
 ▼ 64 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/21 16:57:27 ID:5e3bBXU2 [5/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
ガーディが平衡感覚を取り戻すまでに1発ぐらいはチャージできるかもしれないが、この隙は交代に使った方がいいだろう。

「よーし上出来だ、コイル。…ヤドン、ゴー!」

「やぁん」

お互いまだほとんどダメージはないが、主導権を握ってるのはこっちだ。

これはいける!






結論から言うと、負けた。

かみついてくるガーディをヤドンのみずでっぽうでカウンター気味に下したまではよかった。

が、ヤドンのダメージが思いのほか大きく、ここでコイルに交代。

相手のラス1がアシマリだったので相性差で押し切れるかと思ったが、対ガーディでちょうおんぱを見せていたのがよくなかった。

短パン小僧の「耳を塞げ!」の指示で混乱を回避され、でんきショックのタメの隙を狙い撃ちされてやられてしまった。

体力ギリギリのヤドンでどうにかなるとも思えなかったので、俺は降参を宣言した。
 ▼ 65 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/21 16:58:28 ID:5e3bBXU2 [6/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
幸いにも良心的な短パン小僧だったのでトドメまでは刺されずに済んだものの、実力不足を痛感する結果となった。

旅を始めて5日、未だにトレーナー戦の勝利経験がない。

現実は厳しいなぁ…

俺は財布から1000円札2枚を取り出しながら、しみじみと思った。
 ▼ 66 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/21 16:59:42 ID:5e3bBXU2 [7/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
腕の中でぐったりしているヤドンにきずぐすりを吹き付けながら、気になっていたことを聞いてみる。

「にしてもお前、何でわざわざ挑んできたんだ?初心者狩り相手だったらこうはいかなかったろ。」

小僧「あぁ、だって俺の所持金ほぼ空だからね。」

えっ?

「文無し? ウソだろ?」

小僧「文無しだよ。どうせ狩られるならってことで、全部薬とかボールに変えた。

どうせ島巡り中は生活保障があるしな?」

あぁ、なるほど。島巡り初年度は0円でも生きられるようになってるんだった。

随分と思い切ったやり方ではあるものの、自衛の策としてはアリだ。

「なるほどなぁ…」
 ▼ 67 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/21 17:00:40 ID:5e3bBXU2 [8/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
小僧「そうでもしなきゃ戦う気にならねーからな。戦わないとレベルが上がらねーし。

ま、いい勝負だったよ。じゃあ、またどっかでな。」

「おう、またな。」

そう言って別れる…という流れだと思ったが、よく考えたら目的地が同じである。

短パン小僧はまだその事実に気づいていないようなので、とりあえず姿が見えなくなるまで逆方向に歩くことにした。

…何やってんだ俺。
 ▼ 68 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/21 17:01:57 ID:5e3bBXU2 [9/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
戦わないとレベルが上がらない。

短パン小僧の姿が見えなくなったことを確認してその場に座り込み、あいつの言葉を反芻していた。

一応野生戦でもレベルは上がるが、トレーナーとしての力はそうもいかない。

ちょうおんぱ戦術を簡単に破られたのがその証拠だ。

あいつは多分格上のトレーナーに何度も負けながら成長してきたんだろう。

うーん、あんまり戦闘をきらうのも良くないのかもなぁ…。

賞金のリスクさえどうにかできればなぁ…。

っていうかまた所持金減っちゃったんだよなぁ…。

テントとか結構高かったし、思ったより早く金がつきそうなんだよなぁ…。

はぁ…。

……っと、こんなとこで悩んでたら日が暮れてしまう。

気持ちを切り変えて、ポケセンに向かって再び歩き出した。

…はぁ。
 ▼ 69 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/21 17:02:44 ID:5e3bBXU2 [10/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
ポケモンセンターに到着した。

哨戒担当のコイルが力尽きてしまったので不意打ちされる懸念があったが、幸い特に何事もなくたどり着くことができた。

ジョーイさんにコイルとヤドンを預けて、ソファに座り込む。

おっとそうだ、試練の予約しないとな。

センター備え付けのPCをつけて予約状況を確認する。

午後2時からの挑戦枠が空いていたので、そこに登録しておいた。

どうにも、前時代的なのかハイテクなのかよく分からない慣習である。
 ▼ 70 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/21 17:04:47 ID:5e3bBXU2 [11/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
食事の間、コイルに元気がなかった。

思えば、でんきショックのタメをキャンセルされて一方的に攻められるというのは初日のコラッタと同じ敗因である。

俺がトレーナーとしての力不足を感じたのと同様、こいつも責任を感じたのかもしれない。

もしかしたら、先のトレーナー戦で1匹倒したヤドンに負い目を感じたのかもしれない。

そのヤドンは相変わらずコイルと目を合わせようとしない。

マケンカニの時など一応仲間と認識してはいるようだが、確執(?)はまだ続いているらしい。

今後ダブルバトルなどに支障が出そうなので、早めに和解してほしい。

まぁ、ポケモンの気持ちは分かるようでよく分からないので、俺にできることは特に思いつかないのだが。

本当に、こういうときなんて声をかければ良いんだろう。
 ▼ 71 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/21 17:05:19 ID:5e3bBXU2 [12/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
周囲に住宅やホテルがないためか、ここのポケセンの宿舎は比較的人が多かった。

壁際のスペースは空いていなかったので、仕方なく真ん中らへんの空間に寝床を作る。

多少落ち着かないが、我慢するしかない。

何となく周囲を見渡すと、奥の方に昼間戦った例の短パン小僧がいる。

声をかけようかと思ったが、「またどこかでな」なんて別れ方をした手前ここで再会するのもアホらしいのでやめておいた。

寝袋に入って、目を閉じる。

明日は試練。

2年前に挫折した、試練だ。
 ▼ 72 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/21 17:06:29 ID:5e3bBXU2 [13/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
5日目の手持ち

コイルLv.10
でんきショック
マグネットボム
たいあたり
ちょうおんぱ

ヤドンLv.10
みずでっぽう
たいあたり
あくび
なきごえ
 ▼ 73 ブルモ@ブロムヘキシン 17/02/21 17:22:18 ID:L9MrZK3. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 74 ブキジカ@シャドーメール 17/02/21 17:23:55 ID:5e3bBXU2 [14/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
【6日目】

試練開始時刻まで5時間。

俺と2匹は試練の予習と対策をすべく、ポケセン横の少しひらけたスペースに腰を下ろしていた。

2年前挑んだ記憶と島巡り攻略wikiの記述を元に、要点を整理していく。

「まず、洞窟の中の穴倉に潜んでるヤングースを倒す。

洞窟の中の巣穴のうち3箇所、それぞれ1匹ずつ倒していけばOKだ。」

まぁ、これは流石に大丈夫だと思う。

2年前のニャビーとの島巡りでも、そいつらには大して苦戦しなかった。

試練システムが当時から続いてる以上敵も強くなっているという懸念もあったが、wikiによると、『試練に協力するポケモンのエサには経験値の取得を阻害する成分が含まれている。』らしい。

試練の難易度が一定に保たれる仕組みがあるということに安堵する。

若干闇を感じるやり方ではあるが。
 ▼ 75 ンドロス@フエンせんべい 17/02/21 17:25:35 ID:5e3bBXU2 [15/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
「で、問題はその次。奥に進むとボスのデカグースとのバトルになる。

こいつ単騎でも結構な強さなんだが、ヤングースまで呼んでくる。

島巡り公式ルールでこっちは1匹までしかポケモンを出せないから、1対2だ。これが相当キツイ。」

そう、1対2。

ニャビーと旅してた時は他のポケモンを捕まえなかったのでどのみち1匹しか出せなかったが、結構理不尽だと思う。

wikiによると、『かつては1対1だったが、難易度を調整するために変更された。ゴースト系ポケモンで呪いをかけた後に手持ち総出で時間を稼いで突破する戦法が流行り、試練が成り立たなくなった背景がある。』らしい。

昔の子供もよう考えたなぁそんなん…

しかし、確かに陰湿な戦法ではあるのだが、対策として攻略難度を上げた結果が今のアローラだ。

毎年挑戦者の1割弱が試練を挫折し、さらにその3割がそのまま社会不適合者となり、スカル団が勢力を拡大した。

謎の新人トレーナーの手によりスカル団は解散したものの、それで挫折者問題自体が解決したわけではない。

入団予定だった俺としても解散はショックだったし、生活を団に依存していた旧団員ならなおさらだろう。

敗者の言い分など勝者の耳には届かないが、島巡りが人生を壊しているというグズマの主張は間違ってはいないと思う。
 ▼ 76 チコール@デボンのにもつ 17/02/21 17:26:15 ID:cRw7ODqA NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
ふっ
 ▼ 77 ータス@じゃくてんほけん 17/02/21 17:26:49 ID:5e3bBXU2 [16/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
ニャビーが敵2匹の波状攻撃で何もできずに倒れ伏した後、ポケモンセンターで項垂れていたのを思いだす。

最初の試練でこれか。

もっとレベルを上げて突破しても、次の試練は?

粘り粘って次の試練も突破できたとして、その次は?

無理だ。必ずどこかで限界がくる。

よしんばギリギリ最後まで突破したとしても、それはほとんどのトレーナーが当然のように超えていく壁。

その先の競争まで見据えれば、ますます限界が見えてくる。

そんな風に考えていくと、島巡りを続けることに意味がないような気がしてしまった。

人より才能がないことを自覚して、かと言って地道に努力する気概もなくて。

ライバルや戦友もいなければ、これと言った使命があるわけでもなくて。

どいつもこいつも主人公なわけじゃないんだと、自分は持っていない側の人間として生まれたんだと。

そんなことを考えながら、あの時の俺はニャビーの回復を待っていた。
 ▼ 78 クーン@しろいハーブ 17/02/21 17:28:00 ID:5e3bBXU2 [17/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
気ままな旅はそれなりに楽しいが、今でも試練を意識するとやはりネガティブになる。

スカル団が無くなったから島巡りか学校かの択一になって、消去法で島巡りを選んだに過ぎない。

後ろを向けなくなったから前を向いているだけであって、試練に再挑戦したいと本気で思っているわけではない。

2年間で何か新たな力をつけたわけではないし、この先上手くいくビジョンが降って湧いたわけでもない。

過去を振り返って現実を直視すればするほどに、むしろ諦めぶわっは!

「……何すんねん」

唐突にヤドンに水をぶっかけられた。

「ややん」

こんなことしといてやはり無表情……いやまて、ほんのわずかにいつもより目がつり上がってるような。

もしかして叱られてんのかな…。

「×÷#」

コイルの方を見ると、不機嫌そうな顔でバチバチしていた。

ポケモンの気持ちはよくわからないが、ポケモンは割と俺の気持ちを見通しているらしい。

「そうだよな。…じゃ、主対策の作戦、考えなきゃな。」
 ▼ 79 リープ@しらたま 17/02/21 17:29:00 ID:5e3bBXU2 [18/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
試練開始5分前。

茂みの洞窟の入り口までやってきた俺に、イリマが説明をはじめる。

イリマ「では、イリマの試練の説明をしますね。まずは」

「あ、説明はいいっすよ。2年前にやったのと同じだと思いますんで。」

イリマ「え、ああ、そうですか…。では、制限時間は3時までですので。…リ、リベンジ頑張ってくださいね?」

うーむ。

やはり島巡り浪人というだけで色々と勘ぐってしまうものなのだろう。

最初の試練から浪人してるやつはなかなかいないのかもしれないが、この微妙な反応には苦笑いせざるを得ない。

はぁ…。

…さ、気を取り直して洞窟入りますか。


ーーー試練開始!
 ▼ 80 ンタイン@きかいのぶひん 17/02/21 17:30:50 ID:5e3bBXU2 [19/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
薄暗い洞窟に響き渡る爆発音。

試練前の作戦会議で提案した『玄関前ダイナマイト作戦』は大成功だった。

穴倉の入り口の脇にこっそりマグネットボムを設置し、穴の中にちょうおんぱを撃ち込んでおびき出したところで即爆破。

これを各エリアの巣穴で敢行することで、俺たちはぬしの間入り口まで無傷でたどり着くことに成功していた。

元は穴倉の入り口そのものを爆破して封殺するという案だったのだが、それだと後ですごく怒られそうなので妥協してこの作戦になった。

交戦時間を最小限に抑えたのでポケモンの疲労もない。

ぬし戦に際して万全の状態であると言えるだろう。

「よし…行くぞ。」

気合いを入れ直し、ヌシの間へ足を踏み入れる。

いざ、再戦の時。
 ▼ 81 リリダマ@アクロママシーン 17/02/21 17:32:07 ID:5e3bBXU2 [20/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ぐわしゃぁーッ!」
「きしゃーッ!」

デカグースとヤングースが猛然と距離を詰めてくる。

「ヤドン、近寄らせるな!連続でみずでっぽうだ!」

「やぁ…んやっ!」

「ぶわっ…ぐしゃーぁーッ!」

水勢で押し返して牽制するが、2匹相手では対処しきれない。

みずでっぽうに仰け反りながらも突進を続けるデカグース達は、もう目前まで近づいていた。

まずい、ピンチだ。
 ▼ 82 マザラシ@オッカのみ 17/02/21 17:32:47 ID:5e3bBXU2 [21/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
ぬしは最初は1匹で勝負を仕掛けてきて、戦闘中に仲間を呼び出す。

ならばいきなり眠らせてしまえば1対2の状況を避けられると考えて、出会い頭にあくびを放ったのだが…

流石は歴戦のぬしポケモンである。自らの爪を脇腹に突き立てて強引に睡魔を振り払ってしまった。

結局すぐに仲間を呼ばれて、当初の作戦は失敗してしまったわけである。



「くっそ、引き剥がせ! みずでっぽう!」

「んやっ! んやっ!」

デカグースたちは明らかに接近戦で力を発揮するタイプ。

2匹同時に間合いに入られたらヤドンはなすすべがない。

爪や牙が食い込む寸前でギリギリ押し返せてはいるが、連発のしすぎでみずでっぽうの水勢は徐々に弱まってきている。

このままではジリ貧だ…

……攻めに出るしかない!
 ▼ 83 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/21 17:34:13 ID:5e3bBXU2 [22/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ヤドン、今日はもう撃てなくなってもいい!強めに1発、みずでっぽう!!!!」

「んん…やっっ!!!!」

渾身のみずでっぽうが2匹まとめて10mほど吹っ飛ばす。

が、ぬしは相当タフだ。すぐに立ち上がって再び突っ込んでくるだろう。

だがこのブレイクを無駄にはしない。

「続けて、あくび!」

「やぁぁーーぁ…」

デカグースたちを強烈な眠気が襲う。

再び自傷で眠気を振り切りにかかるだろうが、それでも突進開始までに数秒は隙が生まれる。そして…

「よし!よく頑張った、戻れヤドン。…コイル、行ってこい!」

「##&!」

それだけあれば、安全に交代できる。
 ▼ 84 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/21 17:34:52 ID:5e3bBXU2 [23/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
すいません、途中コテ取れてましたね
ちゃんと本人です
 ▼ 85 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/21 17:36:54 ID:5e3bBXU2 [24/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ぐるわっしゃぁーーッ!」「わしゃーッ!」

10m先では、眠気から抜け出したデカグースたちが突進体制に入っている。

交代は成功したが、いつも通りならこの状況、チャージ中に噛み付かれて終わりだろう。

いつも通りなら。

そう、今日のコイルはいつもと一味違う!

「コイル! 水に直接、でんきショックだ!」

「##…%%%√√!!!!」

「ぐわしゃしゃしゃしゃ!?」「きしゃしゃしゃ!?」

ヤドンが体力を使い切って作った巨大な水たまり。

その上をダッシュしていたぬしと子分は突然足元から流れ込んだ電流に激しく痙攣し、その場に倒れこんだ。

でんきショックのタメに隙があるなら、チャージ中の電気を直接流せばいい。

チャージと対複数の攻撃手段の問題を一挙に解決する、攻めの一手。

万一あくび戦術が決まらなかった時に備えて、正攻法も考えておいたのだ。

同じく水の上にいて盛大に感電した俺は、水溜まりの中に突っ伏しながら弱々しく宣言した。

「試練、達成……っ」
 ▼ 86 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/21 17:37:47 ID:5e3bBXU2 [25/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
痺れて体が動かない俺の頭上から拍手が聞こえてくる。

イリマ「みごとでしたよ。複数攻撃のわざを駆使して突破するトレーナーはそれなりにいますが、このような機転はなかなか見れません。」

「機転なんかじゃないっすよ。事前にそういう風に作戦立ててたんです。ほら、その…2回目ですしね?」

この状態で褒められてもこっぱずかしいので、自虐を交えて謙遜してみる。

イリマ「さぁ、イリマの試練攻略の証、ノーマルのZクリスタルです。受け取ってください。」

「話題を逸らしたな?」

イリマ「いいから受け取ってください!」

「ちょっと待ってください…よっと」

ようやく感覚が戻ってきた体でゆっくりと立ち上がり、ノーマルZを受け取った。

イリマ「では、説明しますね。このノーマルZは…」
 ▼ 87 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/21 17:38:54 ID:5e3bBXU2 [26/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
ノーマルZ…。

イリマの説明を聞き流しつつ、白く透き通った八面体を太陽にかざす。

13にしてやっと手に入れた試練攻略の証。

これで俺はようやく2年前の自分を超えることができたのだろうか。

そう思うとなんだか目頭が熱くなってくる。

イリマ「Zパワーは補助技に使うことも……聴いてます?」

「ああ、はい。便利っすねぇ。」

イリマ「………。では、そろそろ次の挑戦者がくる時間ですから、外に出ましょうか。」
 ▼ 88 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/21 17:40:42 ID:5e3bBXU2 [27/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
ポケモンセンターに戻ってシャワーを浴びた後、普段より少しだけ贅沢な食事を取った。

ヤドンとコイルにも柄付きのポケマメをあげた。

普通のポケマメと見た目以外何が違うのかは、ポケモンにしか分からないらしい。

そういえば食事中、ヤドンとコイルが初めて目を合わせた。

3秒ほど見合ってすぐに目を逸らしてしまったが、大きな進展といえよう。

今回のバトルで連携戦術を決めたことで多少信頼が深まったのかもしれない。
 ▼ 89 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/21 17:41:22 ID:5e3bBXU2 [28/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
2階の宿舎スペースに上がり、寝袋の上に仰向けに寝転がる。

ポケットからノーマルZを取り出し、また掲げてみる。

本当にやったんだなぁ…。

まぁ、全く大したことではないんだけど。

喜んでもいい、よな?

クリスタルを握りしめて胸に当てて、最初の関門を超えた実感を噛みしめていると、

「にゃーう」

どこからきたのか、ニャヒートがすり寄ってきた。
 ▼ 90 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/21 17:42:01 ID:5e3bBXU2 [29/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
迷い猫?

なわけないよな。ポケセンの2階にまで来ないだろ。

多分この宿舎のどこかにトレーナーがいるんだろうが…。

「にゃうにゃう」

それにしても随分と懐かれている。

なんだかニャビーを思い出すなぁ…。

………。

…え?

お前まさか。

「ニャビー、か?」

「にゃう!」
 ▼ 91 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/21 17:43:12 ID:5e3bBXU2 [30/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
短パン小僧「あーいた、すいませーん。」

「こいつのトレーナー?…ってお前、2番道路にいた…」

初心者狩りじゃないか。

そうか、あの時ツツケラとバトルしてたニャヒートか。

小僧「え? あーそうそう。2番道路入り口でトレーナーと戦ってたら、なんかニャヒートの様子が急におかしくなって。

こいつにせかされてここまで来たんだよね。んで、さっき試練をクリアしてポケセンに帰ってきたら、また勝手に駆け出してさ。」

「あの、さ。」

小僧「ん?」

「こいつ、もしかしたら…昔俺のポケモンだったかもしれない、かも。」
 ▼ 92 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/21 17:44:48 ID:5e3bBXU2 [31/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
小僧「へぇーなるほどねぇ! 確かにニャヒートはニャビーの頃にハウオリの草むらで拾ったよ。1年半前ぐらいかな。

しばらく親に預かってもらってて、トレーナーになった時に最初のポケモンにしたんだよな。」

ニャビー、いやニャヒートは俺の膝の上で喉を鳴らしていた。

「いや、いいトレーナーに拾われててよかったよ。最初見た時初心者狩りだと思って通り過ぎちゃったけど、普通に旅始めたばっかだったんだな。悪い。

ニャヒートも、気づかなくてごめんな?」

「にゃうー。」

小僧「まぁレベル差あるのは確かだし……。で、どうする? もし君が引き取りたいなら…」

「あー、いやいや、そういうんじゃないんだ。俺が一緒にいたのってたった1週間だし。そっちの方がずっと一緒にいたわけだしな。」

小僧「そっか。まぁ、言ってはみたけど正直手放せないわ。安心した。」

「はは、そりゃそーだよな。……ただ…一つ頼みがある。」

小僧「なに?」

「一晩だけ…。一晩だけニャビー…ニャヒートを、預けてくれないか?」
 ▼ 93 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/21 17:46:26 ID:5e3bBXU2 [32/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
その晩、ニャヒートを連れてポケセンの外に出て、ベンチに腰掛けた。

「ごめんな。」

「にゃう?」

「ぬしポケモンと戦った時、まともな作戦なんも考えつかなくて。」

「もうちょっと頑張れば勝てたかもしんないのに、すぐ諦めて帰っちゃって。」

「……お前のこと、勝手な都合で、その…逃したりして。」

「ほんと、ごめんな。」
 ▼ 94 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/21 17:48:18 ID:5e3bBXU2 [33/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
「にゃーう…」

ニャヒートが足元にすり寄ってくる。

許してくれているのかどうかはわからない。

俺もニャヒートもそれぞれに試練にリベンジを果たしたわけだが、それでめでたしなんて話になるとも思っていない。

ただ、今はこの足元の温もりに安堵してもいいかなぁ、なんて都合がいいことを思う。

「俺さ…」

「島巡り、やり遂げるよ。コイルと、ヤドンと。あと、これから仲間になるかもしれないポケモン達と。」

2年遅い。でも2年前には戻れない。だから。

「お前もあいつと最後まで…一緒に頑張るんだぞ。」

「…にゃぶ!」


夜空に淡く光る満月が、1人と1匹の涙を照らしていた。


(第1章 終)
 ▼ 95 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/21 17:53:50 ID:5e3bBXU2 [34/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
支援ありがとうございました。これにて一章は完結です
しばらく書き溜めたら2章もここで書くと思います
なんか気がつけば主人公含む登場人物がほぼ全員短パン小僧でしたね
 ▼ 96 レイドル@リザードナイトX 17/02/21 18:09:06 ID:TaGXe3jU NGネーム登録 NGID登録 報告
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支援
 ▼ 97 ザード@まんまるいし 17/02/21 22:36:21 ID:sE/E0TNU NGネーム登録 NGID登録 報告
 ▼ 98 ーマルド@ライブドレス 17/02/22 02:05:20 ID:8NU1VjAw NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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 ▼ 99 ガイドス@ブルーカード 17/02/24 10:00:57 ID:uGQf/yxA NGネーム登録 NGID登録 報告
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 ▼ 100 スマス@ふしぎなアメ 17/02/26 17:59:32 ID:8AP7OnaI NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あげ
 ▼ 101 ーテリー@ひでんのくすり 17/02/27 20:02:51 ID:1MLDLiiQ [1/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
1章のあらすじ

挫折者の受け皿であったスカル団が解散してしまったので仕方なく2年ぶりに島巡りに旅立った不登校短パン小僧、13歳。
電柱にひっついていたコイルを捕まえ、海岸でヤドンを捕まえ、トレーナーをひたすら避け、たまに見つかって負けながらも忍び足で2番道路を進んでいく。
そして遂にかつて挫折したイリマの試練にリベンジを果たし、島巡り達成への確かな1歩を踏み出したのであった。






ここから2章スタートです。
 ▼ 102 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/27 20:04:08 ID:1MLDLiiQ [2/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
【7-8日目】

「ま、えぇ……?」

乾ききった唇の隙間から何の意味も成さない言葉が漏れる。

ここは真夜中の2番道路。

試練以外には何がある道路でもなく、交通網としての意味合いも薄い、初心者の修行場。

だから、遠巻きに見えるアレは、明らかにおかしい。

夜空をそのまま映し出したような翼を持つ巨大なポケモンと、それを従えるトレーナーの少女。

傷ついた体で震えながらも叫び上げるオニスズメと、森から飛び出しては即座に光に射抜かれ墜落するその仲間。

タチの悪い冗談か悪夢にしか見えない。

しかし、尚もオニスズメ狩り続ける少女の瞳にはどこか苦悶が滲んでいて、これが逃れ難い現実であるということを嫌が応にも突きつけてくる。

岩陰に潜伏して様子を伺っていた俺は、気づけば呼吸が浅くなり、身体中に汗が滲み、足がすくんでいた。

あぁもう、なんなんだよアローラ地方……!
 ▼ 103 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/27 20:06:05 ID:1MLDLiiQ [3/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
話は遡って半日前。



試練が終わってひと段落つくと途端に旅の疲れが押し寄せてきたので、俺は1日だけポケセンに留まってオフを取っていた。

寝袋の上に寝そべって、なんとなくヤドンを撫で回しながら物思いに耽る。

旅を続けてすべての試練を攻略する。

誓ってみたはいいが、それが現実として可能であるかどうかはまた別の話であるということを強く実感していた。

というのは、純粋な難易度の話ではない。

先ほどポケセンで延泊を申請して追加料金を支払った時、ついに残金が1万を切ってしまったのだ。

ここから自宅までぐらいならたどり着けるだろうが、5桁と4桁の差は精神的に大きい。

とにかく、あまり無理が効く状況でもないので、コイルのネジを緩めたり閉めたりしながら旅程を組み立てていた。
 ▼ 104 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/27 20:08:58 ID:1MLDLiiQ [4/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
次の目的地は大試練が行われるリリィタウンだが、ルートは二通りある。

試練攻略者専用道の3番道路から行くか、2番道路を戻ってハウオリ経由で向かうか。

3番道路は、まず最短ルートである。

試練ゲートの先にあるためトレーナーの平均レベルこそ高いが、野営の必要がないのは大きい。

さらに、初心者狩りも少ないと考えられる。

そもそも初心者狩りのターゲットは「金はあるが実力のない旅立ち直後のトレーナー」だ。

ある程度熟練し長旅で初期資金も減り始めている試練攻略者相手では、歩合が悪いと考えるだろう。

……まぁ、初心者狩りがいないとしても試練を突破した他のトレーナーに勝てるかはかなり怪しいわけだが。
 ▼ 105 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/27 20:10:05 ID:1MLDLiiQ [5/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
ハウオリ経由の場合、リリィタウンへは遠まわりになるが、大試練の前に一旦自宅に寄れる。

大試練に連敗し再挑戦を繰り返してる間に資金がつきる可能性を考えると、安全策をとって一度帰っておきたい。

が、道中で初心者狩りに出くわす可能性が高いという問題がある。

うーん、どっちにしろトレーナーがなぁ…。

「……そうだ!!」

突如湧いてきた打開案に、俺はガバッと身を起こす。

その勢いで外れて落下したコイルのネジを慌てて元に戻しながら、2匹に話しかける。

「今日は日が沈む前に寝るぞ。そんで日付が変わったら……夜の旅に出発する」
 ▼ 106 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/27 20:12:12 ID:1MLDLiiQ [6/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
当たり前だが、わざわざ真夜中に起きて旅をするトレーナーなんてまずいないはずだ。

ポケセン宿舎が昼間は閑散としていて、夕暮れになると人が集まるという事実がこれを裏付けている。

深夜に出発して無人の3番道路を急ぎ足で抜ければ、おそらくトレーナーが活動を始めるまでにはリリィにたどり着くだろう。

もし大試練に負けたら、そこからハウオリに帰って体勢を立て直せばいい。

考えれば考えるほど理にかなったやり方ではないか。

ちょうど1週間前まで昼夜が逆転していた俺にはうってつけのスタイルだ。
 ▼ 107 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/27 20:12:54 ID:1MLDLiiQ [7/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
郵送サービスカウンターで野営セットをハウオリに送る手続きを済ませ、速やかに無音で出発できるよう荷造りをし、6時前には床についた。

時間が時間なので友達同士島巡りをしている集団がわいわいと騒がしかったが、ヤドンの力を借りれば問題ない。

お前ら今は楽しそうにしてるけど、友達の最後の1人が試練クリアするまでちゃんと待っててやるんだろうな?

微睡みゆく意識の中で、徐々に遠ざかって行く無邪気な笑い声に人知れず苦笑いを返した。
 ▼ 108 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/27 20:14:36 ID:1MLDLiiQ [8/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
そしてポケセンをチェックアウトして30分ほど夜道を歩いたところで、今に至る。


この非現実的な現実に、俺は一体どうすればいいんだろうか。

というか、ハウオリのポケセンで聞いた『雑魚ポケ狩りの超高レベルトレーナー』の話は本当だったのか。

……止めるべきだろうか?

圧倒的レベル差でオニスズメを屠る行為に何の意味があるのかは知らないが、どう考えたって褒められたことではない。

ないのだが、じゃあ普通のトレーナーが同レベルの野生ポケモンを倒すのと何が違うのか、と訊かれれば答えられない。

そもそも、こんな深夜にやっている以上あの少女も後ろ暗いことをしている自覚があることは確実だ。

そうでなければあんな険しい表情にはならない。

だが、これはあまりにも……。
 ▼ 109 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/27 20:16:21 ID:1MLDLiiQ [9/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
「#……」

隣で一緒に岩に隠れていたコイルが、何か伝えたいことがあるかのように微弱な電気を送ってくる。

「……やっぱ、嫌だよなぁ。なんか」

正義だ何だと気取るつもりはないが、見てしまったものは仕方がない。

放置して忍び足で通り過ぎようかとも思ったが、きっとコイルに怒られるだろう。

彼女が今ここで俺と戦闘するメリットは皆無のはずなので、おそらくは普通に話しかければ大丈夫。

そう言い聞かせて震える体に鞭打ち、岩陰を出て少女の元へ歩き出した。
 ▼ 110 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/27 20:16:58 ID:1MLDLiiQ [10/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
少女はまだこちらに気づかない。

深呼吸をし、意を決して話しかける。

「な、なぁ……」

少女「!!」

少女は一瞬身を竦めながらもこちらを振り向く。

視線がこちらに向いた瞬間、反射的に背筋が凍りつく。

……が、『!』の感覚は訪れない。

よし……いける!
 ▼ 111 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/27 20:20:43 ID:1MLDLiiQ [11/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
内心ホッと胸を撫で下ろしつつ、会話を進める。

「あっと、その、いきなり声をかけてすまない。……まず、そこの怯えたオニスズメを逃がしてやってくれないか?」

少女「…………うん」

少女は少し躊躇ったようだが、うなづいて承諾の意思を見せた。

少女が星空の羽を広げるポケモンをボールに戻すと、オニスズメがよれよれと森へ飛んで行く。

「……で、単刀直入に聞くけどさ。あんた……一体何をしてたんだ?」

少女「基礎ポイント……」

「何だって?」

耳慣れない単語に思わず聞き返す。

少女「基礎ポイントは……倒したポケモンの長所を身につけて得られる力、です」

なるほど、そういうのもあるのか。
 ▼ 112 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/27 20:21:31 ID:1MLDLiiQ [12/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
「そういう理由か。でもまぁ、事情はわかったけどさ……何というか…………。」

その先の言葉が続かない。直感的にダメだと感じたが、論理的に説明ができない。

少女「ダメですよね、こんなの……。でも、やらなきゃダメなんです。私は、わた、しは……」

言葉が切れ切れになり、少女の目に涙が滲み始める。

このままだと本気でどうすればいいか分からなくなりそうなので、慌てて会話を続ける。

「いや、待って待って。やらなきゃダメって……。そんなになってもか?絶対おかしいって」

少女「こんなになっても、です。だって、私は……

……チャンピオンだから」

「今、」

なんて、と続けようとした言葉は突如吹き荒れた暴風にかき消された。

風の主であるリザードンが、ゆっくりと羽ばたきながら高度を下ろす。

ライド用のベルトに身を包んだリザードンは少女を背に乗せ、再び草むらを風圧でなぎ倒しながら飛び去って行った。
 ▼ 113 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/27 20:24:22 ID:1MLDLiiQ [13/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
は?

いや、意味がわからない。

2500億円というぶっ飛んだ予算で話題になったアローラポケモンリーグ建設は記憶に新しい。

確か旅立ちの前日に、初代チャンピオン就任がどーたら言っているニュースを見た記憶はあるが……。

先ほどの悲痛な表情を浮かべる涙目の少女がそうだというのか?

部屋の外にいる僅かな時間に偶然TVに映っていた時ぐらいしかニュースを見ないので、記憶がいかんせん不明瞭だ。

端末を取り出し、検索をかけてみる。

「……マジかよ」

端末に、完成したリーグの前で晴れやかな顔で胸を張る先ほどの少女の写真が表示されていた。

しかも、ニュース記事によるとスカル団解散の決め手となったのもあの少女らしい。

マジかよ。
 ▼ 114 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/02/27 20:25:57 ID:1MLDLiiQ [14/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
となると、俺はあの少女に間接的に更生させられたことになるのか。

そう考えると、説教じみたことをしたのがものすごく恥ずべきことに思えてきた。

それにしても、疑問は尽きない。

こんな嬉しそうに笑う写真の少女が、なぜあんなに救いのない状態になっていたんだろうか。

そもそもトレーナー歴1ヶ月ちょっとでチャンピオンというのがまず普通ではないような……。


引っかかることばかりだが、そんなハイエンドトレーナーのことなんか俺が気にしても仕方ない。

とりあえず、まずは自分のことだ。

引きずる気持ちを無理矢理に断ち、俺は再びリリィタウンに向けて夜道を歩き始めた。
 ▼ 115 メタマ@ヘラクロスナイト 17/02/28 20:21:22 ID:Sarciyik NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 116 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:00:07 ID:u7bkxreE [1/22] NGネーム登録 NGID登録 報告
【8日目:続き】

ハラ「うむぅ、こう言ってはなんですが…」

腕を組みながら、若干当惑の混じったような小難しい顔で……

ハラ「弱すぎ、ではないですかな?」

ハラさんが、ものすごく率直な感想を突きつけてきた。

「ですよねー……」

首尾よくバトルを避けてリリィタウンに到着した俺は、早速2タテを食らっていた。

試合時間はわずか2分足らず。

見るに耐えない試合内容だったので描写は割愛するが、それはもう見事な惨敗だった。
 ▼ 117 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:01:35 ID:u7bkxreE [2/22] NGネーム登録 NGID登録 報告

この町にはポケセンがないので、治療を代行している試練サポーターの青年にヤドンとコイルを預け、回復を待っていた。

通算3度目の全滅回復待ちに若干慣れを感じつつ、今回の敗因を考察する。

思えば、デカグースを討伐して以来1匹たりともポケモンを倒していない。

3番道路でレベルを上げてきている前提の難易度で組まれた試練と考えれば、確かにレベルが足りないのは明白だった。

だからって、「弱すぎ」って……

脱力してバトルフィールドの淵にへたりこむ俺に、ハラさんが声をかけてくる。

ハラ「何か策を用意していたのは分かりましたが……しかし、単純な力量差というものはそう簡単に埋められるものではないですからなぁ……。

今のあなた方は戦術以前の問題と言いますか……。まぁ、精進してまた来るといいでしょう」

ぐうの音も出ない。

「……すいません」

なぜか謝ってしまった。
 ▼ 118 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:02:35 ID:u7bkxreE [3/22] NGネーム登録 NGID登録 報告
このままここに居ても資金が尽きるだけなので、とりあえず家に帰ることにした。

ここからハウオリまでは、地図上ではぐるっと回って結構な長旅をすることになっている。

が、実際にそのルートを行くのは素人。

リリィタウン南西の森を抜ければ圧倒的に早く到着するというのは、地元住民の中ではあまりに有名な話である。

人が通れる程度の獣道は確保されており、時たま飛び出すポケモンに気をつけてさえいればさほどの危険はない。

湿った腐葉土の感触を踏みしめながら、森の小道を小一時間ほど歩く。

視界が開けたところで低い土手を降りて、観光案内所の裏手の草地を掻き分け進み、昼前にはハウオリシティ市街地に到着した。

見慣れた道を辿って、自宅に戻る。

まだ出発から10日も経っていないが、玄関を前に懐かしさが込み上げて来る。

俺、メレメレ島を一周したんだなぁ…

そんな感慨を胸に、鍵を差し込んでドアを開けた。

「ただいま」
 ▼ 119 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:03:15 ID:u7bkxreE [4/22] NGネーム登録 NGID登録 報告
両親にこれまでの旅の報告をした。

ヒキニートまっしぐらだった息子が最初の試練を突破したということで、2人とも大喜びしている。

よし、この流れなら言える。

「それでさ、島巡りは最後までやる気でいるんだけど、資金が尽きたんだよね。

……お金をくれませんか?」

資金、といった辺りから両親の表情が若干陰りを見せる。

父「そろそろ金は無くなるだろうとは思っていたが……。でも父さん達からいくら援助したところで、他のトレーナーに巻き上げられるんじゃなぁ……」

母「そうねぇ……。あんまり勝ててないみたいだし……」

もっともだ。

というか、あんまりどころか未だ対人は白星ゼロだし。

「…………。」

完全に空気が凍ってしまった。
 ▼ 120 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:08:17 ID:u7bkxreE [5/22] NGネーム登録 NGID登録 報告
まぁ、この展開は半ば予想されていた。

うちはさほど裕福ではないので、奪われる前提で資金を提供するほどの余裕はない。

そもそも島巡り浪人は、一般的にはリザードンライドを駆使して行うものである。

後先気にせず所持金をアイテム化できる初年度攻略者と異なり、旅に金が必要な島巡り浪人にとって賞金システムはハイリスクローリターン。

だから、資金の大半は自宅に預けておき、ライドでこまめに帰って手元の所持金を最小限にする。

これが一般的な浪人のメソッドだ。

しかし、2年前諦めがあまりにも早かった俺はライドギアさえ持っていないので、その手法を取れるのはまだまだ先の話になる。

かつて銀行という資金管理システムの設立が検討されたことがあったが、賞金でその日暮らしをする無職トレーナーたちの猛反対にあってお流れになったらしい。

まぁ要するに、現状では資金保護のすべが非常に乏しい。

その結果としてバトルに積極的になれず、レベルが上がらない。

そしてレベルが上がらないから、バトルを仕掛けられない。

そんな浪人悪循環がここに形成されていた。
 ▼ 121 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:09:20 ID:u7bkxreE [6/22] NGネーム登録 NGID登録 報告
3人それぞれが無言のまま4回ほど重いため息をついた頃、父が沈黙を破り口を開いた。

父「……まぁ、父さんだってやっとやる気になった息子の成長は嬉しいんだ。それを制度の欠陥に潰されるのは納得がいかない。

とりあえず向こう1週間分の生活費は出すから、しばらくはそれでなんとか頑張れ。

もし道中で金が尽きたら、電話で父さんか母さんを呼んでくれ。仕事がない時間ならリザードンで迎えに行くから。

島巡り中に親の補助で移動するのは厳密には規約違反だが……こういう時ぐらいは見逃してもらえるだろ」

「父さん……」
 ▼ 122 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:10:03 ID:u7bkxreE [7/22] NGネーム登録 NGID登録 報告
聖人かよ。

アーカラまで往復となればリザードンでも結構かかるのに……。

こんなできた両親に甘えて2年も引きこもっていた罪悪感が今更心を締め付けてくる。

そして島巡りを決意してなお両親に負担をかける事実にいっそう心が痛む。

何か迷惑をかけない方法はないものか。このふざけた賞金システムに一矢報いる打開策は……。

…………。

「あっ……」

母「どうかしたの?」

「や、なんでもない。とりあえずお金はありがたく頂きます。でも……リザードンで迎えに来てもらうことは多分ない、かな」

妙案、閃きました。
 ▼ 123 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:28:50 ID:u7bkxreE [8/22] NGネーム登録 NGID登録 報告
【9日目】

ミニスカート「ピカチュウ、エレキボール!」

「ピカッ!」

頬を光らせバリバリ鳴らすピカチュウが身を踊らせ、尻尾に纏った電撃の塊を上段から振り下ろしてくる。

「コイル、マグネットボムで壁を張れ!」

「##…=!」

正面に精製された鋼のボムが2匹の間を遮るように敷き詰められる。

物理攻撃ということであまり使っていなかったが、ボムの発生が早く思いのほか汎用性が高いわざだ。

至近距離で放たれた両者の技の威力が衝突し、爆風でお互い吹っ飛ばされる。

おそらくここが勝負の分かれ目だ。

「コイル、速攻ででんきショック!」

ミニスカート「ピカチュウ、すぐでんきショック!」

間髪入れず、ほとんど同時に指示が飛ぶ。
 ▼ 124 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:30:00 ID:u7bkxreE [9/22] NGネーム登録 NGID登録 報告
が、先に反応したのは……

「ピィカ…チュッ!」

ピカチュウの方だった。爆風に上手く乗り、飛ばされながらもコイルに照準を合わせていたらしい。

やや遅れてタメに入っていたコイルは真上から電撃を浴び……

チャージ途中の電気を宙に霧散させ、目を回して地面にふらふらと落下した。

うむ、ここまでか。

「お疲れ、コイル」

「##……」



帰省から一夜明けた今日、俺は朝早くに家を出て、3番道路にやって来ていた。
 ▼ 125 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:31:40 ID:u7bkxreE [10/22] NGネーム登録 NGID登録 報告
ミニスカート「いい勝負だったねぇー!あなたも3匹目を持ってたら負けてたかも」

「3匹ちゃんと育ててる時点でそっちが上手だ。俺ももう1匹捕まえるかなぁ……」

財布から500円ほど取り出して手渡しながら、先程のバトルの感想を言い合う。

え?桁が足りないんじゃないかって?

いや、これでいい。

なぜならこの財布には、この辺のトレーナーの相場である5000円しか入っていない。

「この財布」には。

そう、俺は昨日の午後にハウオリで2つ目の財布を購入し、資金のほんの一部をそこに入れておくことにしたのだ。

つまりは、修学旅行等でカツアゲ対策にやるアレである。

一応相場通りの額が入っているので、これなら疑われることもない。

もちろん所持金の偽装表示は違法行為ではあるが、法自体が頭おかしいので法を欺くことに躊躇はない。

俺は悪くない。

やはり世間が悪い。
 ▼ 126 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:33:16 ID:u7bkxreE [11/22] NGネーム登録 NGID登録 報告
最強の盾を手にした俺はその後も一日中リリィタウンと3番道路を往復し、トレーナーを見つけては目を合わせて勝負を挑んだ。

かなりレベルが不足していたらしく、見知らぬトレーナー相手では事前に対策できないのもあってしばらくは負けが続いた。

しかしその後は慣れもあってか5戦目、6戦目と連勝し、本日の成績は2勝4敗。

ポケモンにだいぶ疲れが溜まってきていたので、まだ日は高かったがそこで打ち切ることにした。

回復マシンでも精神的な疲労はどうにもならないらしく、ポケセンに甘えてポケモンに無理をさせていると家出されることもあるらしい。

今のところは2匹ともハラさんに惨敗した悔しさが優っているらしいが、オーバーワークには気をつけようと思う。

それにしても、資金の減りを気にしなくていいだけでこんなに好戦的になれるんだなぁ……。

2番道路ではこっち見んなと苛立っていたものだが、これが他の短パン小僧が見ていた景色か。

リリィタウンへの帰り道、自分が次第にアローラに染まっていくのをしみじみと実感していた。
 ▼ 127 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:34:33 ID:u7bkxreE [12/22] NGネーム登録 NGID登録 報告
日没までかなり時間があったので、俺は思い立ってある場所にやってきていた。

「……ここ、か?」

ビビットカラーで刻まれた玄関の表札の文字を見る。

ククイ研究所。

どうやらここで間違い無いようだ。

俺は玄関を軽く叩き、半裸の博士のお出迎えを待った。
 ▼ 128 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:35:27 ID:u7bkxreE [13/22] NGネーム登録 NGID登録 報告
ククイ博士は言わずと知れたわざ研究の権威で、面倒見がいい人柄が近所では評判である。

時々学校に来て特別授業を開いており、生徒と同じ目線に立つ姿勢に俺も良い印象を抱いていた。

今日ここに来たのは、研究用のわざマシンから有用なわざを覚えさせてくれたりはしないだろうかという期待からだ。

正直言って、でんきショックやみずでっぽうでは威力不足の感がある。

まぁ他のトレーナーも似たような威力のわざしか使ってこないのだが、俺自身対人戦が苦手なのでせめてこういうところで差をつけておきたい。

有り体に言えば、何も考えずポケモンのスペックでゴリ押ししたい。

そんな身もふたもないことを考えてると、ドタドタと走り寄る音に少し遅れて、研究所のドアが開いた。

ククイ「アローラ! 僕に何か用かな?」
 ▼ 129 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:37:08 ID:u7bkxreE [14/22] NGネーム登録 NGID登録 報告
ククイ「なるほどねぇ……島巡り浪人か。それで強いわざを教えて欲しいってわけだな?」

「まぁ、平たく言えば。図々しいのは分かっちゃいるんですが、なにかオススメのわざ無いですかね?」

ククイ「オススメか……。君の手持ちならボルトチェンジとかねっとう、あとはれいとうビームなんかがあると良いかもな。だが……」

そこでククイ博士が表情を渋らせる。

ククイ「浪人って何かと大変だし俺も手を貸してやりたいんだけどな。でもそれじゃイカサマだ。

アドバイスはできても、わざをそのままギフトパスってわけにはいかないんだよな。」

大人の事情ってやつだろうか。

まぁ、確かにこういう特例を認めては色々と問題が起こるのかもしれない。

残念だが仕方ないか。
 ▼ 130 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:39:05 ID:u7bkxreE [15/22] NGネーム登録 NGID登録 報告
「そうですか……。すいません、無理言って」

ククイ「力になれなくてすまない。……まぁ、どうせどっちにしろわざは教えられないんだけどな」

「へ? なんかあったんですか?」

ククイ「いや、最近ちょっと空き巣に入られてな。あそこに入ってたわざマシンがゴッソリどろぼうされたんだよ」

ククイ博士が指差した棚を見やる。

確かに、棚の中は随分と寂しい事になっていた。

わずかに並ぶわざマシンは買い直したりしたものだろうか。

「そ、それはお気の毒でしたね……」

ククイ「マシンが残ってれば、チャージビームぐらいならないしょばなしで教えちゃっても良いかなってところなんだけどな。

まぁ、とりあえず盗まれたのが僕のポケモンに一通り覚えさせた後でよかったよ。不幸中の幸いかな」
 ▼ 131 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:39:59 ID:u7bkxreE [16/22] NGネーム登録 NGID登録 報告
博士のポケモン。

そう言えば、この人もリーグがらみのニュースで色々と書いてあったな。

ふと、気になることがあったので聞いて見る。

「話は変わるんですが、博士って相当強いんですよね。チャンピオンと就任前に一戦交えたんだとか。

その、チャンピオンの子って、なんというか……どんなでした?」

深夜の2番道路で会ったあの少女の、あまりにもその輝かしい経歴と一致しない印象がずっと気になっていた。

彼女と面識があるらしい博士なら、何か知っているかもしれない。

ククイ「チャンピオンか。彼女はカントーから先々月に越してきたんだけどな。最初はまだポケモンも持ってなかったのに、でんこうせっかで成長してったな。

フラッシュみたいに明るくて責任感の強い子だよ。ああいうのがアローラを変えていくんだろうなぁ……」
 ▼ 132 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:40:47 ID:u7bkxreE [17/22] NGネーム登録 NGID登録 報告
やはり、ズレる。

あの時話したのは僅かな時間でしかないが、明るさというものは全く感じ取れなかった。

なんだろう、この違和感は。

何かが引っかかる。

大人も手を焼くような事件を解決しながら島巡りが1ヶ月少々で終わるのは、でんこうせっかなんて比喩で済むものとは思えない。

まるで、何か別の力が働いていたかのような……。

そしてそれがまるで何かに必要なことだったかのような……。

……!

いや、まさかな。
 ▼ 133 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:42:11 ID:u7bkxreE [18/22] NGネーム登録 NGID登録 報告
いやいやいや、まさかな、じゃない。

こういう時、本当にまさかで終わるわけがないだろう。

思い切って踏み込んだ質問をして見る。

「ククイ博士。ポケモンリーグが完成したのって、いつだっけ?」

ククイ「えぇと……2週間前だね」

「彼女が島巡りを終わらせて、リーグ挑戦権を得たのは?」

ククイ「……2週間前だね」

「もひとつ質問いいかな。

その棚にあったわざマシン、どこにやった?」

ククイ「……君のような勘のいいガキは嫌いだよ」
 ▼ 134 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:44:48 ID:u7bkxreE [19/22] NGネーム登録 NGID登録 報告
マジかよ……

まさかで済んでいて欲しかったと思う。

が、白状されてしまったものは仕方がない。

胸ぐらに掴みかかって殴るなどというマネができるほどの度胸も力も機械鎧もないが、事実確認ぐらいはしておこう。

コイルとヤドンがボールから出てきて臨戦態勢に入るが、それをされると俺がお縄になるので手で静し、座ったまま問い詰める。

「確かに、現チャンピオンはそりゃもう話題になってますよ。全部裏にあなたがいたってことが知れれば、そりゃもう世間は荒れるでしょうね?」

ククイ「やめてくれよ。確かに彼女の通る道にわざマシンを置いたのは僕だし、学習装置も渡したが。だがバラしてどうなる。そうなりゃあの子もみちづれだろ。」

「いや、もうみちづれにはなってるんですよ。自分で言ったじゃないですか、責任感強い子だって。……彼女が深夜に何やってるか知らないんですか?」

ククイ「知ってるさ。基礎ポイント稼ぎだろ? でも誰かがあの場に立たなきゃリーグってのは成り立たないんだ。仕方がない」

「仕方がない、じゃないですよ……。大体、普通にその時の実力者をチャンピオンにする、で良かったじゃないですか。

スカル団やエーテル財団の暗部と接触するように仕向けたのも博士ですよね? そこまでしてチャンピオンに箔をつけたかったんですか?」

ククイ「このプロジェクトが失敗したらアローラには2度とリーグは作れないだろう。チャンピオンがただのちょっと強い一般人じゃ全く話題にならない。

それじゃダメなんだ。事実、各地方のリーグのチャンピオン達は必ず何か逸話を残している。」

「逸話、ねぇ……。まぁ、一理あるとは思いますが……」
 ▼ 135 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:46:41 ID:u7bkxreE [20/22] NGネーム登録 NGID登録 報告
つまり、チャンピオンに相応しい者がいなかったから急造で秘密裏に育て上げたと。

コネを疑われないようにこっそりとわざマシンを設置して旅を加速させ、

いく先々で有力者や強大な敵と出会わせて壮大なストーリーを演出し、

最後に自らと戦わせて勝利させることで、名実ともに頂点に足り得る者が現れたと大衆にアピールしたと。

呆れた話だが、確かに理にかなってはいるのかもしれない。

実際にあの少女は世間ではそういう存在として持ち上げられているし、リーグは設立早々挑戦者の予約が殺到しているらしい。

「でも、合理的なら何やってもいいわけないじゃないですか。……何やってるんですか、本当に」

ククイ「…………」
 ▼ 136 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:47:12 ID:u7bkxreE [21/22] NGネーム登録 NGID登録 報告
とは言っても、博士がやらかした事を公に晒すのは得策ではない。

所詮13歳のガキが何を言っても意味はないし、仮に世間が信じたとしてもチャンピオン当人が相当ショックを受けるだろう。

となると残された方法は、誰かが彼女を打ち負かして強制的にチャンピオンの重責から解き放つぐらいだが、彼女は相当に強い。

いくら強烈な追い風があったとはいえ、やはりあの経歴は普通じゃない。

おそらく、博士の暗躍がなくても数ヶ月後にはチャンピオンの座についていたんじゃないかと思う。

その場合今ほどの話題性はなかっただろうが、とはいえそれが本来の有り方だ。

もしかしたら誰の誘導もなくても自ら事件に首を突っ込み解決に当たったのかもしれないが、今となってはそれは分からない。
 ▼ 137 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:48:59 ID:u7bkxreE [22/22] NGネーム登録 NGID登録 報告
「はぁ……とんでもないことしでかしましたね、本当に。」

ククイ「僕は間違った事をしたとは思ってないけどね。……まぁ、多少想定外の犠牲はあったけど、仕方がないんだ」

「もういいですよ。どうせ俺には何もできないですから。これ以上喋られても腹立つだけです」

ククイ「はは、分かってるじゃないか」

この野郎。

まぁ、悔しいが何もできないのは本当だ。

ものすごく強い誰かがチャンピオンの座を奪っていくのを願うぐらいしかできない。

そもそもあの少女は赤の他人であって、俺がそこまで肩入れする理由も特に思いつかない。

「…………じゃ、俺はこの辺で失礼しますね」

何か気の利いた捨て台詞が言えればよかったのだが、何も浮かばず普通の退出になってしまう。

くそう、俺はどこまでキマらない奴なんだ。

下唇を噛みながら、俺はククイ研究所を後にした。
 ▼ 138 サイドン@アクアスーツ 17/03/01 23:04:19 ID:02N1N9lM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 139 ジロック@まんたんのくすり 17/03/03 18:56:41 ID:0Ps5OBXA [1/15] NGネーム登録 NGID登録 報告
【10日目】

けたたましい目覚ましの音に、無理やり意識を引っ張り出されるような不快感を伴い目がさめる。

午前7時。

これからすぐに支度してリリィタウンに赴き、ハラさんにリベンジマッチを挑まねばならないのだが……

自室のベッドだというのに昨日は全く寝付けず、まだ鈍々しい倦怠感が頭の中をぐるぐるしていた。

なやみのたねとなっていたのは他でもない、まさかの黒幕ククイ博士とチャンピオンのことである。

実力も権力もなければ主人公補正もない俺1人がなぜ真実を知ってしまったのか、今となっては後悔している。

考えてもどうしようもないことではあるのだが、無かったことにしようにも半端な情に邪魔されて、悶々とした気持ちが振り払えずにいた。

あまりに眠れないのであくびをもらおうと思いヤドンに出て来てもらったが、俺を見て溜息をつくなりすぐにボールに戻ってしまった。

どうやら甘ったれた現実逃避の手伝いはしないスタンスらしい。

結局、昨日とも今日とも分からない時間に眠りに落ちるまで、ひたすら意味もなく葛藤する羽目になったわけである。

重い瞼をこじ開けなんとか布団から這い出てた俺は、ふらふらと洗面所に向かう。

冷水を二度、三度と顔に浴びせかけると、ようやく目と頭が冴えて来た。

一晩あれこれと悩んではみたが、結局のところ今やれることをするしかないと思う。

何はともあれ、まずは島巡りだ。
 ▼ 140 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 18:58:45 ID:0Ps5OBXA [2/15] NGネーム登録 NGID登録 報告
時折足の下で枝が折れる感触を味わいながら、林の中の獣道をサクサク進んでいく。

他地域出身の挑戦者には認知度が低いこの道は、トレーナー戦のリスクが比較的少ないのがありがたい。

所持金がサブ財布に守られている今なら戦うのも別に悪くはないのだが、やはり大事なバトルの前はできる限り体力を温存しておきたいものだ。

ウォームアップがてら一緒に歩く二匹に作戦を話しながら枝を掻き分けて行くと、木々の隙間からリリィタウンが見えてくる。

試合予定時間まではまだ10分ほどあるが、ハラさんは律儀にもバトルフィールドの上で待機していた。

待たせるのも悪いので少し急ぎ足に林を抜け、町の柵を飛び越えて、バトルフィールドに駆け寄る。

「すいませんお待たせして……」

ハラ「いやいや。それより、ちゃんと入口から入って来なさい。危ないですぞ」

「あ、ですよね。すいません」

やんわりと注意されたので、やんわりと謝る。

子供がこの林道を通るのを見つけてしまった場合、大人は形式上見過ごすわけにもいかない。

まぁ、この非公式の道が閉鎖されないためにはそういうポーズを取っておく必要があるということだ。
 ▼ 141 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 19:00:17 ID:0Ps5OBXA [3/15] NGネーム登録 NGID登録 報告
頭をぽりぽりと掻きながら、俺はバトルフィールドに上がった。

「じゃ、再挑戦、よろしくお願いします。」

「うむ、鍛えてきた、と言う顔ですな。……良いでしょう。このハラ、全力でお相手しますぞ。

大試練開始まであと5分少々。万全に整えてかかってきなさい」

リベンジへの期待なのか不安なのか、胸の鼓動が少し早まるのを感じた。
 ▼ 142 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 19:02:28 ID:0Ps5OBXA [4/15] NGネーム登録 NGID登録 報告

今回も、例によって情報サイトを駆使して相手の手の内を把握した上で対策を考えてある。

まず、相手のポケモンはかくとうタイプが三匹。

対してこちらは有利なヤドンと不利なコイルの二匹と、若干分が悪い。

しかし、リベンジマッチなのに新戦力を招き入れてはモチベーションに著しく響くと考え、今回は人員の補充は行なっていない。

というか、木の上で寝ていたバタフリーにボールを投げようとしたらコイルに電気を流された。

やむ無しである。

一応レベルは相応に上げてきたはずなので、あとは戦術がしっかりハマれば勝てない相手ではないと思う。

……思いたい。
 ▼ 143 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 19:05:29 ID:0Ps5OBXA [5/15] NGネーム登録 NGID登録 報告
wikiで主な対策として挙げられていたのは三つ。

一つは、半径10mのバトルフィールドをひたすら逃げ回りつつ隙を見ての遠距離攻撃。

接近戦がメインのかくとうタイプを相手取る際、一番大事なのは間合いに入らせないことだ。

が、俺たちにこの策は取れない。コイルもヤドンも遠距離持ちではあるものの、足が致命的に遅い。

次に、タイプ相性による封殺。

この辺りに生息するバタフリーやアブリーなどはかくとうタイプに非常に強く、戦略の鍵となるということだ。

俺の手持ちではヤドンがこの役割を担う。

だが、それだけでは三匹攻略は厳しいだろう。

最後に、Zワザの使用。

大将のマケンカニは、かくとうZの力でぜんりょくむそうげきれつけんという大層な名前の必殺技を放ってくる。

張り手型の格闘エネルギーを乱射する弾幕攻撃は回避困難な上、当たればまず無事では済まないらしい。

これを撃たれる前にイリマの試練で習得したウルトラダッシュアタックを叩き込めるかどうかがポイントだと書いてあったのだが……

そもそも俺はZリングを持っていない。

試練に挫折した翌日に島の守り神に根性なし認定を受けて没収されてしまって以来、それきりだ。

頑張っていればそのうち返ってくるのかなぁと密かに思って旅をしていたのだが、全く音沙汰がない。
 ▼ 144 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 19:07:15 ID:0Ps5OBXA [6/15] NGネーム登録 NGID登録 報告
……とまあ要するに普通に戦えば負けるわけだが、ありとあらゆる策を用いて何とか籠絡していきたいと思う。

前回策を一つも見せることなくストレートに負けているのは、この場合むしろ僥倖と言えるだろう。

バトルフィールドから少しせり上がったトレーナーポジションに立ち、搦め手の数々をシミュレートしながらバトル開始を待つ。


審判「…………。では、もうすぐ時間となりますので。

しまキングの使用ポケモンは三匹、チャレンジャーの使用ポケモンは無制限。バトル中の交代はチャレンジャーにのみ許可されます。

その他ルールについては、昨年度発行のトレーナールールブックに則ってジャッジします。

では、両者最初のポケモンをフィールドへ」

「よし、まずは頼んだぞ、ヤドン!」

「ややん!」

ハラ「マンキー、いきますぞ!」

「キキャーッ!」

フィールドの中心を挟んで双方のポケモンが対峙する。

レベルも上げた。戦略も練った。

勝算があるからこそ、緊張が高まる。
 ▼ 145 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 19:14:25 ID:0Ps5OBXA [7/15] NGネーム登録 NGID登録 報告
審判「大試練、始めっっ!」

ハラ「マンキー、突っ込んでからてチョップ!」

「キキャァーッ!」

指示と同時に雄叫びをあげ、マンキーが地を蹴り勢いよく飛び出す。

「ヤドン、一点集中でみずでっぽう!」

「やふんっ!」

気持ち若干鋭い鳴き声とともに放たれた矢のような水流が、猛然と駆け寄るマンキーの左足を後方に弾く。

バランスを大きく崩されたマンキーは体を右に半回転させ頭から前のめりにすっ転び、勢い余って数メートルほど地面を跳ね滑った。

ハラ「むっ。マンキー、立ち上がっ

「ヤドン、すかさず顔面に撃ち込め!みずでっぽう!」

「やふんっ!」

すぐさま体勢を立て直さんとするハラさんとマンキーだが、それを待つ理由はない。

顔を上げかけたマンキーの豚鼻を再び細い水圧が射抜き、大きく仰け反って今度は後頭部をフィールドに打ち付ける。

よし、ちゃんと初見殺しできている。

完全に予定通りの展開に、思わずにやけてしまう。
 ▼ 146 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 19:16:24 ID:0Ps5OBXA [8/15] NGネーム登録 NGID登録 報告
新戦術、《一点集中》。

前回のバトルの時は、ぬし同様みずでっぽうでマンキーを押し返して距離を取ればいいと考えていた。

しかし掛け声もなしに回避されて接近戦からたちまちノックアウトされてしまい、作戦の練り直しを余儀なくされた。

普通のみずでっぽうは口を大きく開けて大量の水を噴射するため、でんきショックほどではないにしろ発射前に少し隙がある。

さらに、軌道が読みやすい割に電撃ほど速い攻撃でもないので、小回りの効く相手に遠くから撃っても比較的簡単に避けられてしまう。

そしてこの問題を解決するために3番道路ので練習したのが、この一点集中バージョン。

水の量を減らし一点に水圧を集約することで発射が早まり、弾速も飛躍的に上がる。

今のマンキーのようにダッシュで突っ込みながらではこの攻撃を避けるのは至難の業だろう。

まぁ、それと引き換えにダメージも蚊が刺すようなものでしかないのだが……

……その分、初見相手のハメ性能は目を見張るものがある。
 ▼ 147 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 19:18:30 ID:0Ps5OBXA [9/15] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ヤドン、マンキーを起き上がらせるな!連続でみずでっぽう!」

「やふっ…やふん!」

「キキャッ!…キキィーッ!」

画面端小キック無限ハメの如く、少しずつであるが一方的に、マンキーの体力が削られていく。

このまま、昨日この戦術を試した短パン小僧戦のようにずっと俺のターン!できればよかったのだが……

「いいぞヤドン、そのまま…

ハラ「行けると思いますかな?甘いですぞ!

マンキー、その姿勢のままからてチョップ!!」

……うつ伏せのまま繰り出された手刀の水平切りに、戦闘開始から5発目のみずでっぽうが真っ二つに切り裂かれた。

「反撃ですぞ!マンキー、重心を下げて突っ込みなさい!」

みずでっぽうを叩き割ってディレイを防いだマンキーが、身を低くして地を蹴った。

技自体の威力が大したことないことと、重心を下げられるとバランスを崩しづらいこと。

さすがはしまキングである。渾身の作戦の弱点がわずか数発で見抜かれてしまった。
 ▼ 148 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 19:20:19 ID:0Ps5OBXA [10/15] NGネーム登録 NGID登録 報告
こうなると距離を取るには通常のみずでっぽうで押し流すしかないが、これでは次弾は間に合わない。

最初の突進ですでに半分以上距離を詰められていたのもあって、マンキーがヤドンを間合いに捉えるまであと数歩のところまで近づいていた。

ハラ「からてチョップ!」

だが、まだ一つ目の策が破られただけだ。

「尻尾で受けろ!」

右手を振り上げたマンキーに合わせて、ヤドンが体をよじる。

「ウキャッ!」

甲高い鳴き声とともに振り下ろされた手刀が、頭をかばうように差し出された尻尾に叩きつけられた。

思わず耳を塞ぎたくなるような鈍い音が響くが、ここで怯んではいけない。

悟られないよう、そして失敗しないよう、タイミングを計る。

チャンスは一度きり。
 ▼ 149 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 19:21:30 ID:0Ps5OBXA [11/15] NGネーム登録 NGID登録 報告
「や…んん…」

ハラ「そのまま押し切れ!」

2。

「ヤドン、耐えろ!」

1。

「持ち堪えて……」

0!

「ねんりき!!」

「んやっ!」

気合いの入った(当社比)ヤドンの鳴き声がフィールドに響くと同時に、尻尾に手刀を食い込ませていたマンキーが体を大きく痙攣させた。

見えない力が内側から炸裂したマンキーは、そのまま右に左によろめいて、仰向けに倒れこみ…

……完全に目を回していた。
 ▼ 150 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 19:25:09 ID:0Ps5OBXA [12/15] NGネーム登録 NGID登録 報告

審判「マンキー、戦闘不能!」

「よっし!ナイスだヤドン」

「やぁん。」

まずは一匹目を突破。

前回はこのマンキー一匹に一切のダメージを与えられないまま2タテされたので、その意味ではリベンジはとりあえず成功である。

ハラ「……ふむ、これはまた随分と周到な試合運び。そしてポケモンの地力もある。……成長しましたな」

「まぁ、一昨日が一昨日でしたからね……レベル上がりは速かったですよ」
 ▼ 151 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 19:25:56 ID:0Ps5OBXA [13/15] NGネーム登録 NGID登録 報告

昨日のレベル上げで、ヤドンはねんりき、コイルはでんじはをそれぞれ習得した。

最初は『ねんりき撃ってるだけで勝てんじゃね?』と小躍りしたものだが、やはりというか、世の中はまたも甘くなかった。

このねんりきというわざ、制御にかなりの集中力を要するようで、動かない相手に2秒間念を送ってようやく攻撃が発動するというなんとも難儀な性能だったのである。

直接脳に衝撃を与えるのでどんな相手にも結構なダメージが通るらしいのだが、戦闘中の2秒間というのはあまりに長い。

あくびを使って動きを封じればと思ったが、残念なことに特性「やるき」を持つマンキーは眠らない。
 ▼ 152 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 19:27:05 ID:0Ps5OBXA [14/15] NGネーム登録 NGID登録 報告
そしてどうにか決定力として使えないかと模索した結果生まれたのが新戦術その2、《尻尾受け》である。

これは昨日あれこれ検索して初めて知ったことだが、ヤドンの尻尾には痛覚がほぼないらしく、しかも傷ついてもすぐに再生するらしい

こいつを捕まえた日、尻尾に向かって電撃を浴びせた時のダメージがやけに小さかったことにも納得がいく。

この鈍さを利用して直接攻撃を受け止め、せめぎ合っているうちに念を集中させれば……と思い実戦投入したら割と上手くいったので、採用した。

肉を切らせて骨を断つ、というやつである。

これもかなり使える戦術なのだが……

欠点として、一度見せるとまず次は逃げられるということが挙げられる。

つまり、次にねんりきを当てるためには別の方法で隙を作らなければならない。
 ▼ 153 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 19:32:48 ID:0Ps5OBXA [15/15] NGネーム登録 NGID登録 報告

ハラ「なるほど、若者は育つのが早くていいですなぁ。しかし……

その戦い方、試合が進むにつれて厳しくなっていくことには……気づいてますかな?」

図星である。

《一点集中》はある程度応用は可能だが、看破された以上一方的にハメ続けることはできないだろう。

《尻尾受け》も、先ほどのように馬鹿正直につばぜり合いに応じてねんりきを食らってはくれないだろう。

これが「作戦」と「機転」の大きな差だ。

作戦は試合中に減っていき、機転は試合中に生まれていく。

試合が進みこちらの手札が割れるにつれ、情報のアドバンテージが失われていく。

だからマンキーはできればみずでっぽうハメだけで倒したかったのだが、ハラさんが一枚上手だった。

このままのペースで手札を切ってしまえば、すべての策を引き出しても3匹倒しきれない可能性が高い。

早くも見えてきた劣勢に歯噛みしている俺に、ハラさんがニッと笑って声をかけてきた。

ハラ「ですが、乗り越えるしかないですな。なぜならそれが大試練なのですから!

……行きなさい、マクノシタ!」

試練達成まで、あと二匹。
 ▼ 154 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:24:35 ID:pr.v.YJw [1/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
「くっそ……みずでっぽう!」

ハラ「マクノシタ、ねこだまし!」

「んやっぶ!?」

みずでっぽうの指示を受けて口を開き水を精製しかけたヤドンが、ねこだましに怯んだ拍子にむせ返る。

ハラ「マンキーを下した時の勢いはどうしたんですかな!?

続けてつっぱり!」

「トウ!トウ!トウ!トォーウ!」

防御する間も無く、未だむせるヤドンに張り手が真正面から容赦なく叩きつけられる。

ハラ「策が無くなった途端にこれでは一昨日と何も変わりませんぞ! それとも事前に考えた作戦だけがあなたのバトルなのですかな!?」

あーもう、痛いところをついてくるなぁこの人……!
 ▼ 155 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:25:35 ID:pr.v.YJw [2/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
一点集中のみずでっぽうは、つっぱりで簡単に弾かれて接近を許し。

あくびで隙を作ってねんりきを決めようとすれば、捨て身のずつきで眠気を覚ましつつ隙を埋められ。

ゼロ距離でみずでっぽうを叩き込もうとしたら、ねこだましで攻撃をキャンセルされる。

作戦がことごとく破られ、おそらくヤドンの体力もあと僅かしかない。

畜生、まだ試してない作戦は……!

「ヤドン、尻尾でガード!」

「や……やん!」

つっぱりの途切れ目にヤドンがすかさず尻尾を差し込み、防御姿勢をとる。

ハラ「それは一度見ましたな。マクノシタ、一旦離れなさい!」
 ▼ 156 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:27:03 ID:pr.v.YJw [3/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
ねんりきが読まれるのは分かっている。

だが、尻尾で受けてからの展開は必ずしもねんりきと決まっているわけではない。

「今だ!口ん中めがけてみずでっぽう!」

「やふっ!」

「トッ!?…ゴボボボボ!!」

ねんりきがくる前提でバックステップしたマクノシタの口の中に、一点集中のみずでっぽうを注ぎ込む。

突然激流で口を塞がれたマクノシタは完全にうろたえている。

予想外の状況の変化のはずだ。すぐには対応できまい。

「ヤドン!いつものみずでっぽうにシフトだ!水量増やして放出を続けろ!」

これが今ヤドンに切れる最後のカードだ。

このまま大量の水を流し込み続けて溺れさせる!
 ▼ 157 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:28:33 ID:pr.v.YJw [4/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
ハラ「ほう!まだあるではないですか。しかし……

マクノシタ!気合いで押し進みなさい!」

何じゃそりゃ!!!!

なんという雑な指示だろうか。

そんな体育会系甚だしいノリでどうにかされてたまるか!

だがその気合いの一言で溺れかけていたはずのマクノシタの目に光がともり、激流の中を本当に突き進んでくるではないか。

うっそだろお前!
 ▼ 158 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:30:20 ID:pr.v.YJw [5/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ヤドン! 出力上げて押し返せ!」

こちらも負けじと水勢をさらに強めるが、マクノシタは尚も止まらない。

あの時は主ポケモンでさえ吹っ飛んだのに!

ハラ「アローラ相撲で鍛えた粘りを見せるのです!マクノシタ、つっぱり!!」

「ゴボボッボォーウ!!!!」

水の中で気合いの雄叫びをあげながら、ついにマクノシタがヤドンの目の前まで詰め寄り……

「やぶっ!」

ヤドンの左ほほに強烈な張り手が炸裂し……

「や……ぁん…」

弱々しい鳴き声を漏らしながら、ヤドンがその場にへたり込んだ。

審判「ヤドン、戦闘不能!」

……どうしよう、完全に追い詰められてしまった。
 ▼ 159 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:37:22 ID:pr.v.YJw [6/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ヤドン、よく頑張った。お疲れ様。……行くぞ、コイル!」

平べったくなって目を回しているヤドンをボールに戻し、コイルをフィールドに出す。

コイルは、でんき・はがねタイプ。

鉄塊を粉砕する格闘家など聞いたことがないが、かくとうがはがねに強いのは誰もが知る常識である。

多少レベルを上げてきたとはいえ、攻撃を1発耐える保証もない。

つまり、相手を2体残してこの状況は……

ハラ「もう無理、と思っている顔ですな」

「あぁ、分かっちゃいますか……。いや、実際厳しいですよこれ。勝てるビジョンが見えてこないといいますか……」

本来の予定では、マケンカニにダメージを与える程度のところまではヤドンに粘ってもらうはずだったのだ。

しかし、作戦を予想外のペースで消費させられた結果、相性で不利なコイルが2体を相手取ることになってしまった。

まぁ手負いのマクノシタだけなら倒せるだろうが、そのあとの勝算が全く浮かばないわけで……。
 ▼ 160 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:39:07 ID:pr.v.YJw [7/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
ハラ「まぁ、そう思うのは分からなくもないですがな。しかしトレーナーたるもの、自分のポケモンにそのような顔をさせるものではないですぞ。」

「顔? ……コイル?」

おずおずと呼びかけると、コイルが振り向く。

「……#>!」

励ますような、それでいて心底残念そうな。

…………。

なんか、俺よりポケモンの方がよっぽど人間できてるよなぁ……。

こうなると、降参しますなんて言えない。

「すいません。……やります、最後まで。勝てないって気持ちが消えたわけじゃないですけど。でも一応やれるだけはやります」

ハラ「正直ですな。まぁ、今はそれで良しとしましょう。

……審判、合図を」

審判「両者位置について……。始め!」
 ▼ 161 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:40:09 ID:pr.v.YJw [8/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
「コイル、水面にでんきショック!」

「##…」

ハラ「むっ……マクノシタ、ジャンプして乾いた地面へ!」

「…%!」

ヤドンが作った巨大な水たまりが青白くスパークするより一瞬早く、マクノシタが水しぶきを上げて跳躍する。

また一つ策が潰えた。

だが、それを嘆く時間もなければ、次を出し惜しみする余裕もない。

「マグネットボム!水にくぐらせろ!」

「##&&!」

空中に精製された10個少々の鋼球が水たまりの中に潜り込み、水面からマクノシタめがけて襲いかかる。
 ▼ 162 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:41:22 ID:pr.v.YJw [9/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
ハラ「小癪な……。マクノシタ、上がってきたボムを片っ端からつっぱりで爆破!!」

よし、ちゃんと誤解してくれたようだ。

水に潜らせたのは、攻撃の位置を悟らせないためではない。

マグネットボムを水に浸すと……

「トゥ!トトトト…トゥ!?」

ハラ「なんと……!」

このように、相手に吸い付くだけの重い不発弾になる。

新戦術その3、《磁石バインド》。

「ト…トゥ…」

ハラ「なるほど……まんまとしてやられたということですな。

ですがマクノシタ! その程度なら、まだ動けますな? ……つっぱり!」

大量のおもりを体にくっつけたまま、マクノシタがのっしのっしとこちらに向かってくる。

まぁ、正直そんな予感はしていた。
 ▼ 163 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:44:10 ID:pr.v.YJw [10/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
しかしコイルの封殺戦術はまだ終わりではない。

「コイル、でんじは!」

「トゥッ!?」

淡い電気の膜に全身を包まれたマクノシタが、不快な痺れに片膝をつく。

そして最後にもう一丁。

「ちょうおんぱ!」

見えない衝撃に身を撃たれたかのごとくその身を一瞬痙攣させ、ついに両手も地面に落ちる。

もう、一歩も動けまい。

ハラ「まだですぞ!気合いを入れるのです!マクノシタ!!」

だからその気合いとかいうワードやめてくれよ。本当に動きそうで怖い。
まぁ、三重に拘束してるわけだし実際これで動けるはずが……

「ト…トゥ…」

!?

「コ、コイル!でんきショック!早く!あいつを止めろーー!!!!」

「##……%ーッ!!!」
 ▼ 164 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:46:37 ID:pr.v.YJw [11/23] NGネーム登録 NGID登録 報告

審判「マクノシタ、戦闘不能!」

「はぁ……はぁ……すっげえ怖かった」

ハラ「よくやってくれましたな、マクノシタ。……さて、ここからですな。

さらなる策を講ずるのか、それとも相性も戦略も超えた何かをぶつけるのか……どちらにせよ、あなたのゼンリョクを見せてもらいますぞ!

さあマケンカニ、こちらもゼンリョクでお相手せねばなりませんな!」

「ケンッ!」
 ▼ 165 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:48:15 ID:pr.v.YJw [12/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
さて。

唐突な自分語りになるが、俺は、バトル漫画によくいるデータと分析を最重要視しているタイプの敵キャラが好きだ。

『あなたの身体能力、使用する技、戦闘の癖……そして弱点。全て把握し総合的に分析した結果……私が負ける可能性は0だ。』みたいなこと言うやつ。

こういうキャラが好きだ。

なぜって、好感がもてる。

勝てるかどうかわからない未知の強敵に挑む主人公ばかりが持て囃されるが、個人的にはこれくらい慎重な方がいいと思う。

だってそうだろう。

事前にわかるなら、そりゃ調べといた方がいいだろう。

勝てる確証がある時だけ戦うのは卑怯だとか、実際そんなこと言われても正直困るだろう。

彼らデータ系敵キャラは描写こそクズ人間のような扱いだが、本当はかなり人間味がある奴らだと思う。
 ▼ 166 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:49:32 ID:pr.v.YJw [13/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
が、彼らは負ける。

必ずと言っていいほど負ける。

データの話は死亡フラグと言われるレベルで負けている。

『バカな……こんなもの、データには……!』とか、『この戦いの中で……成長しているというのか!?』とか言いながら負けることになっている。

こういう展開になるたび、なぜ周到に用意してきたはずの彼らが負けなければならないのかと思ったものだが……

今、俺がその危機に瀕している。

敵を分析し、対策を構築し、様々な搦め手を弄し。

しかしながらそれを上回る機転だの根性だのに徐々に押され。

さっきのバインド戦術を最後に、正真正銘全作戦を使い切ってしまった。



しかし、まだバトルは終わっちゃいない。

データ系噛ませキャラと成り果てることが決まったわけではない。

きっと、噛ませかそうでないかの分かれ道がここなのだ。

試してみようじゃないか。

ーーー万策尽きた先の、ゼンリョクを!
 ▼ 167 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:53:11 ID:pr.v.YJw [14/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ゼンリョク……。やれるだけ、やるしかないよな、コイル。」

「###!」

ハラ「腹は決まったようですな。では、審判、始めましょうか」

審判「両者位置について…………。始め!!」


「コイル、水中通してマグネットボム!」

「##…」

ハラ「出始めを潰しなさい!バブルこうせん!」

「ケプーッ」

もう一度磁石で拘束できないかと思ったが、やはり一度見せていた戦術は通じないようだ。

水に通す前に爆発させられてしまった。

マグネットボムを相殺しつつ、爆風の中をさらにバブルが突き抜けてくる。
 ▼ 168 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:55:27 ID:pr.v.YJw [15/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
だがこれはむしろチャンスだ!

「でんじは!」

「##÷!」

相手の対応が後手になる以上、わざからわざへの切り替えはこちらの方が速い。

防御を捨ててでんじはを撃ったコイルはマグネットボムを突き抜けてきたバブルをくらってダメージを受けるが、致命傷には至らない。

煙幕の中からでんじはが放たれ、バブルこうせんの泡が出切ったばかりで動けないマケンカニを電気の膜が覆う。

「カケッ!!?」

完全に麻痺が入った。

これでスピードの上では互角!
 ▼ 169 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:57:21 ID:pr.v.YJw [16/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
ハラ「ふむ…これは一気に決めてしまった方が良さそうですな。マケンカニ」

「ケ…マケンッ!」

!!

Zワザか!!

マケンカニがハラさんの前に構え、ハラさんは不思議な踊りを開始する。

Zワザはポーズで力を込めなければ発動しない。

……つまり、倒すならこの隙しかない!

「コイル!溜めるだけ溜めてでんきショックだ!」

「####……%%!」

踊りが終わる寸前までチャージしたでんきショックが、炸裂音を轟かせマケンカニに突き刺さる!

「ケケッ…マケンケン…ケン!!!!」

「クソ、倒しきれないか……!!」

ハラ「コイルのゼンリョク、しかと受け取りましたぞ。では、今度はこちらの番ですな…!」

拳を突き出したポーズのハラさんから光が溢れ出し、マケンカニと共鳴する。

ヤバい、来る!
 ▼ 170 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:58:44 ID:pr.v.YJw [17/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
ハラ「これがしまキングのゼンリョクの一撃! ぜんりょくむそう、げきれつけん!!!!」

光り輝くマケンカニの拳から張り手型のオーラが無数に連射される。

その一つ一つが必殺の威力だ。

はがねタイプのコイルでは最悪掠っただけで終わりだろう。

「コイル!マグネットボムで壁を!」

データ系噛ませに足りなかったもの、その1。

想定外を乗り越えるには、機転を利かせよ。

「っ!……ボムを直列に並べろ!」

指示に合わせてコイルが磁力を操作し、マグネットボムがコイルの手前から奥に向かって整列する。

げきれつけんがボムの列の先頭に触れた瞬間、連なるマグネットボムが連鎖的に爆発し、フィールド中央付近にいたコイルが爆風で大きく後方に吹っ飛ぶ。
 ▼ 171 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 09:00:17 ID:pr.v.YJw [18/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
これでマケンカニとの距離は20メートル弱。

「コイル、その位置ならいけるはずだ……」

データ系噛ませに足りなかったもの、その2。

たまには根性論を叫んでみよ。

「気合いで全部かわせ!」

素早い動きは苦手とするコイルだが、ここぞとばかりに縦横無尽に回避する。

痺れて動きが鈍い上に20メートル近い距離だ。

その状況で放射状に放たれる弾幕は、避けられない量ではない!

「ラストだ、かわせ!」

「##ッ!」

同時に迫っていた2つの張り手の間をすり抜けるように避け、コイルはすべてのげきれつけんを回避しきってみせた
 ▼ 172 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 09:02:33 ID:pr.v.YJw [19/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
ハラ「まさかすべて避けるとは……!

マケンカニ、勝負どころですぞ! グロウパンチ!!」

Zワザは体力を大きく消耗するらしい。

おそらくこれが最後の一合となるだろう。

「マケン、マケンケンケン…」

マケンカニが、まるで痺れや疲れなど存在しないかのようなダッシュで距離を詰めて来る。

間に合えーーーー!

「コイル!でんきショック!」

マケンカニが宙に身を踊らせ、コイルに向かって拳を振りかぶった瞬間……

チャージが完了し、放たれた白い電光がマケンカニを包み込んだ!

「マケケッーー!!」

コイルに攻撃が届くことなく電撃を浴び地面に落下したマケンカニは、ジャッジにアピールするように拳を掲げようとするが……

焦げたグローブは上がり切らず、そのままガクッと地面に倒れ込んだ。

審判「マケンカニ、戦闘不能!

……よって、チャレンジャーの勝利!」
 ▼ 173 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 09:03:28 ID:pr.v.YJw [20/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
ハラ「大試練……これで突破ですな。お見事でしたぞ」

「ありがとうございます」

ハラ「かくとうZ。受け取ってください。これがあれば人からもらったポケモンが言うことを聞いたり、あとはケンタロスライドも使えますぞ

あぁ、そうですな。ライドギアも渡しておくんでしたな」

「あ、ど、どうも」

かくとうZをクリスタルケースにしまい、ライドギアは何処にしまうべきか分からなかったのでとりあえずポケットに入れた。

「そういえば。……あの、2年前に島巡りに挫折した話はしましたよね?

その時にカプにZリングを没収されちゃったんですけど、その……まだ、ダメ……なんですかね?」

ハラ「カプ・コケコ……ですか。あなたは本気で島巡りをやり直すつもりのようですから、おそらくは赦してもらえるはずですな。ですが……」

カプの話題が出た途端、明らかにハラさんの表情が曇った。

なんだ?何かあるのか?

ハラ「カプですがな……。今、4島すべてのカプは、現在守り神としての役割を果たしていないのですよ」
 ▼ 174 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 09:05:11 ID:pr.v.YJw [21/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
は??

守り神全員不在ってこと?

一家総出でカロスにバカンスでも行ったの?

「あの、それはどういう」

ハラ「全員チャンピオンに捕獲されたのですよ」

うわちゃー。

チャンピオンだから強くなきゃならないって言ったって、焦りすぎだろうよ。

どこまで追い詰められてんだ。

「いや、捕獲していいものなんですか?」

ハラ「まぁ、カプが仕えることを認めてしまったわけですからなぁ……。

せめて手持ちに入れていないときは各々の島に戻してくれないか、とチャンピオンに掛け合ってみたのですが、

どうやらカプたちがチャンピオンの元を離れようとしないらしいのですよ」

「カプたちが……?」

捕獲云々は関係なく、守り神自身が職務放棄を選んだということなのか?

今アローラで守るべきはチャンピオンである、とでもいうのか?
 ▼ 175 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 09:06:32 ID:pr.v.YJw [22/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
というか。

「超個人的な話になりますが、俺のZリングは……?」

ハラ「カプが選ぶのが習わしになっているのですが、まぁ、島にいないことにはどうしようもありませんな。」

クソったれーーー!!!!

「えぇ……。じゃあ俺この先もZワザ無しなんですか……? 適当に余ってるやつ装備したらあかんのですか?」

ハラ「島の伝統は守らねばなりませんからなぁ……」

何だその因習ふざけんなよ本当マジ……。
 ▼ 176 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 09:09:26 ID:pr.v.YJw [23/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
ハラ「そうだ。代わり、ではないですが、試練クリア者にはわざマシンも渡すことになっているのでしたな。

ほら、みねうちですぞ。これで攻撃した相手は体力が1残るのです」

「1って何」

ハラ「1は1ですぞ。ほら、どうぞ」

「はぁ……」

いや、だから1って何だよ。

熟練者になるとポケモンの力が数字で見えるんだろうか。

っていうか使い道ないでしょこれ。

カラス除けでしょこのディスク。

捕獲専用技とか、業者かよ。

何なの。

なんで俺のZリング、無いの。

…………。

大試練、達成。
 ▼ 177 ケッチャ@しんぴのしずく 17/03/04 09:16:15 ID:kBMtjiNk NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 178 リーン@ヨプのみ 17/03/04 09:42:50 ID:B85YQdG. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 179 ーランス@めざめいし 17/03/04 10:09:30 ID:Z79vYGDU NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
この練り込まれた戦闘描写好きだわ
支援
 ▼ 180 ュウ@しめつけバンド 17/03/04 22:26:07 ID:k8XwT3Ys NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 181 イロス@とくせいカプセル 17/03/05 02:19:15 ID:oIZ38s6A NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 182 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/05 13:36:29 ID:txMCSCIg [1/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
『ライドシステム・概要』

『ご存知の通り、アローラ地方の各町やポケモンセンターの近くには、ライドポケモンが管理されるライドターミナル(以下、RT)が存在する。

RTで登録機器にギアをタッチして利用開始の登録をすることで、ライドポケモンを借りることができる。

返却の際はどのRTでもいいので再びギアをタッチして利用終了の登録をし、利用時間に応じて料金を引き落とす。』

ふむふむ。

まだ学校に行っていた頃、父さんが借りてきたリザードンに乗って家族で出かけることがよくあったが、裏でこういう手続きが行われていたのか。
 ▼ 183 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/05 13:38:29 ID:txMCSCIg [2/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
でもあの時、チャンピオンの少女はリザードンを自分の元に直で呼び出していたような……。

ライドギア説明書のページをめくる。

『RTを介さずにライドポケモンをギアで直接呼び寄せることも可能だが、別途料金がかかる。

支払いの都合上、返却はRTで本人同伴のもと行わなければならない。』

なるほど、そういうのもあるのか。

別途料金がいくらなのかが気になるが、まぁチャンピオンともなれば金には困らないのだろう。

さらにページをめくって交通ルールや細かい仕様などを読み通す。

『ギアにチャージしたお金は全国のポケモンセンターでも利用可能。』

おっと。これ、ギアに全財産チャージしてしまえば賞金を全く支払わずに済むのでは?

すでにサブ財布で対策してはいるが、それでも疑いを避けるために相場通りに賞金を払ってはいる。

もしこれが可能なら……

『また、ギア同士をタッチすることで賞金の受け渡しも可能である。』

完璧な裏道が見えたかと思ったが、続く一文に裏切られた。

余計な機能つけやがって。
 ▼ 184 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/05 13:40:22 ID:txMCSCIg [3/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
ちょっとがっかりしながら、最後のページに赤字で列挙された注意事項の欄に目をやる。

『ライドポケモンの紛失や怪我などの賠償責任は、原則として利用者本人が負う。

ライド中の事故に関して、当センターは一切の責任を負いかねるので、悪しからず。』

…………。

一応、試練の突破がそのまま免許代わりということにはなっているのだが……

どうにも、ケンタロスダッシュを使うのは危険な気がする。

というか、なぜ教習もなしに利用権限を与えるのか。

アローラ地方は、たまにそういう頭おかしい点が見え隠れするから困る。
 ▼ 185 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/05 13:41:54 ID:txMCSCIg [4/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
説明書を閉じ、リリィRTのゲートをくぐる。

まぁ、習うより慣れろということなのだろう。

とりあえず一度試しに乗ってみようということで、俺はリリィRT内の右奥に見えるケンタロスのターミナルへ向かった。

ケンタロス1匹ごとに仕切られた囲いがずらりと並び、それぞれの前に「touch」の文字が浮かぶ電子機器が設置されている。

ライドギアをタッチするとシャランッという小気味良い電子音がなり、目の前のケンタロスの囲いロックが解除された。

「じゃ、初ライドだけど、よろしくな」

そう言ってケンタロスの首元を撫でると、ケンタロスはプロとしての自負に満ちたドヤ顔で、「任せろ」とばかりにブルルンッと鼻を鳴らした。
 ▼ 186 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/05 13:44:45 ID:txMCSCIg [5/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ちょっ……!ぶはっ! ストッ……まっ…!止まっ……!あああ!あぁぁぁぁあ!」

リリィタウンの公園に絶叫が響き渡る。

ケンタロスの背に乗り、目線がの位置が少し上がっただけで一変する景色に感動を覚えたのもつかの間。

全速前進の指示とともに走り出した瞬間、背中をロープでビンっと真後ろに引っ張られたかのような感覚に身を撃たれ……

俺は地面とほぼ水平な形で仰向けに仰け反り、起き上がることもできないまま、高速で流れる景色と激しい振動に悲鳴をあげていた。

足と腰はベルトで固定されているので転落死の心配はないが、このままではショック死してしまう!

「あああ!ああわわわばばっ!ストッ…ストップ!ストーーップ!!!!」

騎手の異変を察知したケンタロスが徐々に減速し、ようやく地獄から解放される。

「うぉぉ……うぇっ……ぜぇ……ぜぇ……」

これはダメだ。

やめよう。
 ▼ 187 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/05 13:47:00 ID:txMCSCIg [6/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
俺はケンタロスを連れて徒歩でターミナルに戻り、ケンタロスを返却した。

料金は端数時間切り上げで30分ごとにプラス100円。

俺がケンタロスを連れ出していたのは1時間弱だったので、200円がギアから引き落とされた。

よく考えなくても、あのスピードをいきなりどうにかできるわけがない。

ケンタロスの全速力を乗りこなすのは余程の天才肌か、もしくは幼い頃からケンタロスと戯れてきた農場育ちぐらいだろう。

本来は低速を維持し、荷物が多い長旅の際に移動を楽にする程度の使い方がメインなのだと思う。

リリィとハウオリを結ぶ1番道路にはケンタロスに乗る人が散見されたが、確かに全速力で駆っているものはいなかった。

そして低速で道路を行くよりは狭い林道を抜けた方が早いので、ケンタロスの出番はアーカラ島に入ってからになるだろう。

乗りこなせたら楽しいんだろうけどなぁ……。

少し残念な気持ちがありつつも、俺はリリィタウンを後にした。
 ▼ 188 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/05 13:49:23 ID:txMCSCIg [7/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
お馴染みの林の獣道を歩く間、俺はハラさんとのバトルのことを振り返っていた。

勝てたは勝てたのだが、おそらくハラさんは本気を出していない。

というのも、思い返せばあちらからは策と呼べるものを一度も仕掛けてきていないのだ。

こちらの作戦の弱点を見破っては即座に対処してきたが、ハラさんが能動的に見せた攻撃は単純な力技のみ。

そういう好みというのもあるのだろうが、まさかキングともあろうものがそれだけなはずは無いだろう。

全力とは言っていたが、本当に長年の経験で培ったあらゆる手段を駆使して攻め立てられたとしたらまず勝てないと思う。

だがハラさんは敢えてそれをせず、むしろこちらの力を引き出させるような戦い方をしていたように思える。

相手を負かすための『バトル』ではなく、飽くまで乗り越えさせるための『試練』……ということなのだろうか。
 ▼ 189 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/05 13:52:05 ID:txMCSCIg [8/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
なんだかなぁ……。

捻くれた俺の頭に『舐めプ』とか『茶番』という言葉が浮かんだが、それはあまりにもゴミの思考というものである。

若干の自己嫌悪に眉をひそめたころ、林道の終点にたどり着き、ハウオリの住宅地が見えてきた。

……まぁ、手加減ありって言ってもそんなに甘いバトルだったわけでもなかったしな。

こいつらも頑張ったことだし、こういう時は素直に喜んでおけばいい、よな。

そうだよ、大試練攻略だ。

盛り上がっていいに決まってるだろう。

母さんに頼んで今日は祝勝会でもしてもらおう。

俺は複雑な喜びを胸に、夕焼けが照らすいつもの道を、小走りで帰った。
 ▼ 190 みません◆SxCy/NIFN. 17/03/06 19:12:42 ID:KedZQTWQ NGネーム登録 NGID登録 報告
言い忘れてましたが、ここまでで第2章終了です
一旦長めの書き溜めに入るので暫く更新止まりますが、待っていていただけると幸いです
 ▼ 191 ジョン@どくけし 17/03/06 21:33:25 ID:1l4070pI NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 192 ワシ@のろいのおふだ 17/03/09 13:53:13 ID:bZ4AHP0o NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 193 ンリキー@ともだちてちょう 17/03/12 06:20:10 ID:lUxxdQ1k NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 194 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:11:08 ID:HblRztOY [1/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



【チャンピオン@】


タロウ「これが正真正銘、俺とケンタロスのゼンリョクだ!

ウルトラダッシュアタァァック!!」

「ぶもぉおおおっ!!!!」

激しい光に身を包んだケンタロスが、アシレーヌを真っ直ぐに見据えて突き進んでくる。

距離と速さから見て、回避するのはそこまで難しくないと思う。

ケンタロスはタロウ君の最後の1匹。

ここでZワザを叫んだのは、きっともうそれ以外に打つ手がないから。

気合い十分に見えてもきっと半分投げやりで、その証拠に一回きりの必殺技を確実に当てるための準備が一つもなかった。

でも、わたしはこれを避けられない。

挑戦者のゼンリョクをチャンピオンが適当にいなすなんて、きっと誰も期待していないから。

ちゃんと全部受け止めて、そして勝たなきゃ。
 ▼ 195 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:11:52 ID:HblRztOY [2/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「アシレーヌ、ツノを掴んで!」

「ララーーー!!!」

綺麗だけど気迫のこもった鳴き声を響かせて、アシレーヌがケンタロスのダッシュに正面から掴みかかる。

ぶつかってすぐはケンタロスがそのまま押し切りそうな勢いだったけど、だんだんケンタロスの歩幅が狭まって……

アシレーヌを10mくらい押し込んだところで、いくら地面を蹴っても動かなくなった。

「ぶ……ぶもっ!?」

タロウ「うそぉ!!?」

ツノを掴まれたまま突進を止められ、ケンタロスはもう身動きがとれない。

あとは、こっちもゼンリョクで返すだけ。
 ▼ 196 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:12:26 ID:HblRztOY [3/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
……やっぱり、この踊りちょっと恥ずかしいなぁ。

Zポーズを決めながら、ほんの少し顔が熱くなる。

「アシレーヌ、わたしたちも行くよ!

わだつみの……シンフォニア!!!!」

アシレーヌの綺麗な歌声に合わせて、必殺の威力を秘めた巨大な水泡が弾け散り……

どしーん!と地面を揺らして、目を回したケンタロスが倒れ込んだ。

審判「ケンタロス、戦闘不能! ……よって、チャンピオンの勝利!」

ふぅ、今日も防衛成功。

清々しい顔をしたタロウ君と握手を交わしながら、何か言わなきゃと慌てて言葉を探す。

ハウ君以外で初めての同い年の挑戦者だったけど、どんな風に声をかけるのがチャンピオンらしいかなぁ。

「え、えっと……また来てね!」

……うーん、ちょっと違う!
 ▼ 197 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:13:27 ID:HblRztOY [4/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「はぁ……」

ウラウラ島に向かうリザードンの背中の上、なんだか不意にため息が出てしまった。

朝日が映し出すポケモンリーグの輪郭を遠目に眺めながら、チャンピオンになってからの2週間を振り返る。


朝起きて、朝ごはんを食べたら防衛戦。

お昼ご飯を食べて休憩したら、また防衛戦。

夕ご飯を食べて少し寝たら、夜中の狩りに出かけて帰ってまた少し寝て。

そしてまた朝が来て……。

そんな毎日が、別に嫌ってわけじゃない。

ポケモンは好き。

バトルも好き。

オニスズメやキャタピーをたくさん倒すのはちょっと嫌だけど。

挑戦者たちとの戦いはいつもいつも新鮮で、すごく楽しい。

……はずなのに。
 ▼ 198 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:14:02 ID:HblRztOY [5/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ただのトレーナーじゃなくてチャンピオンとして戦うのが、こんなに怖いことだとは思わなかった。

いや、チャンピオンとしてってだけじゃないかな。

スカル団を解散させたとか、そんなつもりでやったんじゃないのに。

エーテル財団やUBのことまで噂になっていて、どんどん後に引けなくなる。

アローラ中の人がわたしのバトルを見てる。

アローラ中の人がわたしに期待してる。

ただ勝つだけじゃきっとダメで。

もちろん負けるなんてもってのほかで。

少し前まではただただ楽しかったのになって思うけど、きっともう戻れないんだろうなぁ……。
 ▼ 199 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:14:55 ID:HblRztOY [6/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「カプゥ…」

いつのまにかコケコがボールから出て、リザードンにまたがるわたしの横を飛んでいた。

「あれ、どしたの? 」

「……コッココ」

メレメレ島の守り神、カプ・コケコ。

気まぐれで有名なはずなのに、最近は変わらずずっとこんな調子でわたしを見つめてくる。

「大丈夫だよ。……ね、わたしが捕まえておいてアレだけど、メレメレ島に戻ってもいいんだよ?」

「…………」

これを言うのはもう何度目かだけど、コケコは今回もふるふると首を振るだけだった。
 ▼ 200 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:16:08 ID:HblRztOY [7/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
大丈夫って、何が大丈夫なんだろう。

わたしが?コケコが?

コケコがどうして島に帰らないのかはわからない。

なんでこんな顔で見つめてくるのかも。

そういえば、この間2番道路で会った男の子も同じような顔をしてた気がする。

あの時は、リザードンを呼んで逃げてしまったんだっけ。

今も、コケコの哀しげな視線から逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。

コケコからだけじゃない。

逃げ出したい。

何がなのかはよく分からないけど、とても嫌な感じで、怖くて。

だけど、そんなの誰かに言えるはずもなくて……。

今日もまた、チャンピオンとしての1日が始まります。
 ▼ 201 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:17:39 ID:mV64Q9kg [1/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
【11日目】

「釣れてるかー?」

「やん……」

飛沫をあげて進む船の上。

船縁にぶら下がって海面に尻尾を垂らすヤドンが、生返事をする。

「今集中してるんだよ」的な感じだろうか。

出会った時は無表情で愛想のない奴だと思ったもんだが、最近は眉の角度の微妙な変化から感情が読めるようになってきた。

……ような気がする。

落ちるんじゃないぞー、とやんわり注意していると、リュックのボールポケットの隙間からコイルが飛び出してきた。

「うおわっ! 急に出てくるな……ん、どした?」

「##……×××##……!」

コイルは真っ青な顔で何かを懸命に訴えてくる。

何を言ってるのかは全く分からないが、どうやら緊急事態っぽい。

磁気の出力が安定していないのか、かなりフラついていた。
 ▼ 202 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:25:45 ID:mV64Q9kg [2/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
いつもの半分ぐらいの高さを漂っているコイルに合わせてしゃがみ込み、声をかける。

「大丈夫……じゃなさそうだなぁ。お前、もしかしてこれ船酔いか?」

「###……」

船酔いだとして、どう対処すればいいんだろうか。

食事をするぐらいだし、もしもの事態に備えてビニール袋ぐらい出しといたほうがいいのか?

いや、広大なアローラの海なら全てを受け入れてくれるか。

「まぁ、あと10分ぐらいだから。頑張れ。」

酔ってしまったものは今更どうしようもないので、昨日のバトルで培った根性論で誤魔化すことにした。

「##!?」

「いや、そんな裏切られたみたいな顔されてもな……。まぁ、今度乗るときは酔い止め買ってやるから。まぁ最悪ボックスに預けてついた後に転送すれば……痛っ、やめろ!すねに頭突きすんな!!」

 ▼ 203 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:27:27 ID:mV64Q9kg [3/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
「お、見えてきたぞ!」

涙目で執拗に弁慶の泣き所を攻めて来るコイルを引き剥がし、海に浮かぶ町並みを指差す。

アーカラ島、カンタイシティ。

ヤドンとコイルが空気を読まないせいでイマイチ盛り上がりに欠けるが、試練攻略もいよいよ中盤戦だ。

ま、でもこれくらいのテンションがちょうどいいのかな。

未だ釣り擬きを続けるヤドンと船底スレスレで青い顔をしているコイルを横目に、俺は次の島に向けて密かに気合を入れた。
 ▼ 204 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:28:26 ID:mV64Q9kg [4/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
「はぁ……疲れた」

ポケセンのソファに腰掛けて、大きくため息をついた。

あの後、本当に大変だった。

ヤドンがパルシェンに引きずり込まれて行方不明になりかけたり、慌ててヤドンを回収している間にコイルが船底をゲロまみれにしていたり。

ヤドンは後数秒気づくのが遅ければボールの回収機能の範囲外になっていただろう。

何事にも動じないやつだとは思っていたが、パルシェンのエサになりかけても無言とは恐れ入る。

せめてこういう時ぐらいは悲鳴の一つぐらいあげてほしい。

コイルは一応海に向かって吐こうと試みたようだったが、酔いすぎて磁場をコントロールできず、船縁を超えられなかったらしい。

ヤドンをボールに戻した時には既に事後だったので実際に見たわけではないが、さながらマジックショーのごとき嘔吐シーンだったに違いない。

その瞬間を目撃できなかったのを残念がっている自分がいるのは、多分気のせいだろう。

責任者として船底の掃除をした後、満身創痍のヤドンとコイルをポケセンに預け、今に至るというわけだ。
 ▼ 205 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:29:24 ID:mV64Q9kg [5/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
まさかこんなことでポケモンの体力を浪費するとは思っていなかったので、予定が狂ってしまった。

本来なら上陸後すぐにオハナタウンへ向かうはずだったのだが、吐瀉物の後処理やら謝罪やら回復待ちやらで大分時間が押している。

この分だと、ケンタロスに乗っても夜までに辿り着くのは難しいだろう。

昨日しまキング戦を終えたばかりということもあるので、今日はオフにすることにした。

まぁ、せっかくの新天地を全く観光しないっていうのも勿体無い話だし。
 ▼ 206 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:30:45 ID:mV64Q9kg [6/9] NGネーム登録 NGID登録 報告





「はぇー……なんかいろいろ変なとこなんですね、ここ。」

店主「いやぁ、私がそういう話を好んでするだけさ。普通に観光する分にはいい街だよ」

「はぁ……」

街の東に向かう通行人をわけのわからない理由でせき止め続け、往来妨害罪で連行されたムーランド乗りの女性。

占いと称して人のポケモンのニックネームをやたらと変えたがる自称姓名判断士。

まるでこの世界が自分たちの作ったゲームであるかのような言動をするゲーム会社。

回復が終わるまでの退屈しのぎにカフェの店主に聞いた話は、どうにもものすごく胡散臭かった。
 ▼ 207 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:32:01 ID:mV64Q9kg [7/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
話が途切れてできた微妙な間をエネココアをすすってごまかしていると、店主が話題を切り替えてくる。

店主「……そういえばお客さん、島巡り浪人なんだろう? 少し前までならいい話があったんだがね」

「いい話?」

店主「ああ。最近まで東のビーチでナマコブシを海に投げるバイトがあってね。1時間足らずで1万円も稼げる破格の効率だったんだよ」

マジかよ。

そんな単純作業が時給1万?

「そりゃすごいですね……」

すごい……というか、雇い主の人は一体何を考えていたんだろうか。

店主「でも残念ながらもう募集してないんだよ。みんな敢えて黙ってたのに、雇用主に言っちゃったやつがいたんだ。

『ポケモンの力を借りればいいのに、なんで人なんか雇ってんだ』ってね」

「…………」

どうやら雇い主は何も考えてなかったらしい。
 ▼ 208 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:32:50 ID:mV64Q9kg [8/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
半笑いで語られる胡散臭い噂に相槌を打っているうちにコイルたちの回復が終わったようで、呼び出し番号が点滅していた。

慌ててココアを飲み干して代金を支払い、ポケセンのカウンターへ向かう。

ジョーイ「お待たせいたしました。2匹とも元気になりましたよ」

「……なんかすいません、くだらない理由で回復してもらって」

パルシェンに噛まれてダメージを負ったヤドンはともかく、船酔いごときでポケセンを使うのは流石に良くなかったと思う。

無料だからこそ節度を弁えるのが人としてのモラルである。

今更ながら反省していると、ジョーイさんが営業スマイルで返してきた。

ジョーイさん「いえいえ、大丈夫ですよ。今はそんな混雑する時間でもないですから。

それに、もう少し試練を達成しないとなんでもなおしは買えませんから、仕方ないですよ」

「すいません……ありがとうございます」

仕事だからだろうが、ジョーイさんの優しい言葉に安堵する。

っていうか、なんでもなおしって酔いも治せるのか……。

次の船旅の時はコイルをボックスに預けてしまおうかと思ったが、それなら連れて行けそうだ。
 ▼ 209 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:36:24 ID:mV64Q9kg [9/9] NGネーム登録 NGID登録 報告

ひとしきり街を見て回ったところでポケセンに戻り、例のごとく二階の宿舎にスペースをとって寝転がった。

ポケモンの名前をやたらと変えたがるおっさんは実在したし、おかしなことを言うゲーム会社の噂も本当だった。

海岸ではワンリキー達ががせっせとナマコブシを投げていて、ものすごく残念な気持ちになった。

往来妨害罪の女性についても、地元の人に話を聞く限り本当にあった事件らしい。

なんでも、『フラグ管理が私の使命だ』とか訳のわからないことを叫び高笑いしながら警察に引きずられていったとか。

やっぱり変な街じゃないか……。

これから始まるアーカラ島の島巡りに一抹の不安を覚えながら、何日かぶりの寝袋の中で眠りについた。
 ▼ 210 ードリオ@くさのジュエル 17/03/18 00:18:46 ID:BmzDGC.. NGネーム登録 NGID登録 報告
こんな面白いSSがあったとは
支援
 ▼ 211 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/19 10:16:04 ID:6r2h8jKM [1/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
【12日目】

早朝。

荷造りを終え、出発前に1階のショップで薬類を補充していると、隣のレジに立つ青年店員が話しかけてきた。

店員「そこのお兄さん。わざマシン、買っていきませんか?」

「いやいや、俺みたいな駆け出しには手が届きませんから。また後で……」

実際5桁の買い物をするほど余裕はないので、適当に断ってカウンターを後にしようとすると、

店員「待って! せめて……!せめて見て行くだけでも……!!」

店員が必死の形相で腕を掴んできた。

「いや、買わないって言ってるんです……ちょっ、放してください……!」

振り切ろうとしたが、そこは大人と子供の力の差。

逆にカウンターまで引き戻されてしまう。
 ▼ 212 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/19 10:17:44 ID:6r2h8jKM [2/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
店員「買ってください! 売れないんです! やばいんですよノルマとか!! 本当に!!

子供は補助わざの重要性なんて知りもしない! 玄人の大人は広い人脈の中で1つのマシンを融通して回す!

こんなんでどうやって売ればいいってんですか!」

「知りませんて!!」

確かに、陳列棚に並ぶ商品は味方補助や防御のわざマシンばかりだ。

使い捨てマシンの時代が終わった今では、この業界は相当厳しいのかもしれない。

そしてまさにそのマシン氷河期の最中にいるのであろう店員が、半泣きでまくし立ててくる。

店員「島巡りのシーズンインだってのにもう3日も売り上げがないんです! このままじゃ終わりなんです!

もう素人の子供に補助わざの強さを広めて買ってもらうぐらいしかないんですよ!

ほら、この『まもる』ってわざ! まずダブルバトルには縛り関係という概念が……」

「うるせぇーーーー!!!!」




結局根負けして、1割引の値段で『まもる』を購入した。
 ▼ 213 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/19 10:21:09 ID:6r2h8jKM [3/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アーカラ島の3つの試練はどこから攻略しても良いことになっているが、推奨されているのはみず、ほのお、くさの順番である。

手持ちのタイプから考えてもその順で巡るのが妥当と思われるので、素直にここはガイドに従い、俺はオハナタウンを目指していた。

カンタイシティからオハナタウンまでは、早朝に出発すれば無理なく夕方までに到着できる距離である。

ケンタロスに乗ればはるかに短い時間で着くだろうが、トレーナーの視線を集めやすいという問題がある。

交通費も結構かさむので、今回も移動は徒歩。

何人ものトレーナーの死角をすり抜けて進み、今はその道中の昼休憩。

メレメレ島では適当に携行食と生のポケマメで済ませていたが、今日は料理に挑戦していた。
 ▼ 214 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/19 10:21:42 ID:6r2h8jKM [4/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ヤドン、みずてっぽうを鍋半分ぐらい」

「やあー」

ヤドンの口元から、チョロチョロと600CCほどまでみずでっぽうが注がれる。

調査により、ポケモンのみずでっぽうは完全な真水であることが判明している。

どうやら体内の水を放出しているわけではないらしく、ある種の魔法に類するものなのかもしれないとまで言われている。

確かにあれほど大量の水を発射できるあたり、そこまで荒唐無稽な説ではないと思う。

わざの原理を科学的に解明しようとした研究者も何人かいたようだが、全員すぐに行方をくらませたらしい。

噂の真偽は定かではないが、わざの権威であるククイ博士でさえその根本についての研究は頑なに避けているという話だ。

まぁ、とりあえず今は真水が出るということだけ分かれば十分なので、これ以上考えるのはやめておこうと思う。
 ▼ 215 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/19 10:23:55 ID:6r2h8jKM [5/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「コイル、電撃で火を着けてくれ」

「##!」

左右のU磁石が素早く2回ほど回転し、集めた枯葉めがけてバチっと火花が放たれる。

着火に成功し、うまく燃えるよう枝の位置を調整しつつ風を送る。

この辺はほのおタイプの方が早いだろうが、まぁこういう地味な作業もたまには悪くない。

炎が安定してきたところで薪の上に鍋をぶら下げる。

沸騰したところでコンソメと一口大に切ったちいさなきのことポケマメを入れ、鍋を若干火から遠ざけて適当に煮込む。

コイルとヤドンと一緒になって固唾を飲んで鍋を見守り、具材が柔らかくなってきたところで……
 ▼ 216 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/19 10:25:11 ID:6r2h8jKM [6/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「多分、できた……かな」

完成したのは単純明快なコンソメスープ。

『モーンの毎日ポケマメ: 基本編100』の最初のページに書いてあった料理だ。

(ちなみにこのレシピ本、なぜか各地のポケセンで無料配布されていた。)

香ばしい匂いで空腹の胃袋を刺激する液体をを3つの小皿に注ぎ分け、静かに手を合わせる。

いざ、実食。
 ▼ 217 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/19 10:29:01 ID:6r2h8jKM [7/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
謎の緊張感に包まれる中、しばらく無言で豆を咀嚼しスープを飲み干し、そして全員同時に顔を上げた。

どうやら、みんな俺と同じ感想のようだ。

「……普通に、うまかったな」

「#」

「やぁん」

そうとしか言いようがない、特にリポートののしようもない、本当に普通の味だった。

初めての料理は失敗するものと相場が決まっているが、流石にここまでシンプルな行程にそんなお約束は通用しない。

かといって、何か劇的に美味しくなる要素は一つもない。

まぁ、普通に美味しかったのは間違い無いんだけど。

もっとこう、なんかさ……。

なんだろうね、この感じ。
 ▼ 218 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/19 10:29:46 ID:6r2h8jKM [8/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
微妙な面持ちのままみずでっぽうで食器を洗い、がちゃがちゃと片付ける。

まぁ、あれだ。

反応は微妙だったが、生の普通のポケマメを与える時のそれに比べればいくらかマシだった思う。

それにまだレシピは基本編だけで99個も残っている。

挑戦と経験を重ねていけば、そのうちこいつらの舌を唸らせる料理も作れるだろう。

島巡りが終わるまでにポケマメマスターになれば良い。

密かに小さな決意を固めながら、再びオハナタウンに向けて歩き出した。
 ▼ 219 ーメイル@こだわりハチマキ 17/03/20 18:24:24 ID:ECAeozE2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
やばい、めっちゃ面白い
支援
 ▼ 220 バルオン@ポフィンケース 17/03/20 20:24:35 ID:ksth9ha6 [1/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
【13日目】

ピシッ。

懐に抱えている孵化ケースの中のタマゴに、突然亀裂が入った。

「なっ!!?」

一瞬やってしまったかと思ったが、まさか普通に歩いていただけでヒビが入るわけがない。

ということは、つまり……

「孵る、のか……?」

ピシピシと音を立てて徐々に広がる裂け目から、柔らかな光が漏れ出す。

俺は今まさに、生命誕生の神秘と立ち会おうとしていた。
 ▼ 221 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/20 20:25:32 ID:ksth9ha6 [2/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
「タマゴ?」

明朝にオハナタウンを発ち、やたらと多いトレーナーを避けつつ5番道路へ向かう途中。

休憩がてら立ち寄った預かり屋という施設で、カウガール風の女性にタマゴを育てないかと持ちかけられていた。


あまりに唐突だったので、やや警戒気味に尋ねる。

「なんでまた。普通、親のポケモンかそのポケモンのトレーナーが育てるものじゃないんですか?」

預かり屋「本当はそうなるべきなんだけどね。でも、一部のトレーナーはそんなこと全然考えないんだよ。」

「……それはどういう」

預かり屋「強いポケモン同士を交配させてさらに強いポケモンを産ませる方法があってね。

まぁ、私達もその人たちのおかげでやっていけてるわけだから、あんまり強くは言えないんだけど……」

ああ、そういう……。
 ▼ 222 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/20 20:27:12 ID:ksth9ha6 [3/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
ボックスの預かりシステムが設立されて久しいというのにこんな施設のどこに需要があるのかと疑問だったが、つまりはそういうことか。

実態は預り屋とは名ばかりの産卵施設で、トレーナーの都合で孤児になってしまったタマゴを持て余していると。

というかそれってそもそも……

預かり屋の女性をジロリと睨む。

預かり屋「ち、違うよ? 私達はもともとはそんな目的でこの施設を作ったわけじゃなくてね?

だってほら、地方に一つはこういう施設がないと、数が減ってきてるポケモンを増やすこともできないわけで……

でも慈善事業だけじゃやっていけないから、一般トレーナーの利用料金でなんとかやりくりしてるの」

はー。

どうやら、この問題も俺ごときが口を出せるほど単純なものではなかったようだ。

まぁ、そのうち政府とかが対応してくれれば良いんじゃないかと思います。

いつも通り、自分に直接関係がない問題には目を瞑るスタンスで行くことにした。
 ▼ 223 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/20 20:27:50 ID:ksth9ha6 [4/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
「なるほど、なんか突っかかっちゃってすいません。……して、タマゴの中身は?」

預り屋「どこからきたのか分からない不思議なタマゴ」

「何故ぼかす」

預り屋「空気は読んでよ」

しばし沈黙が空間を支配し、観念したかのように預り屋の女性が口を開く

「……イーブイね。進化が複数あって、駆け出しパーティの穴埋めには最適。

この辺りは野生のイーブイの生息地だから、ある程度育ててくれさえすれば野生に帰すもよし。

そんなわけで、とりあえずイーブイから里親を見つけることにしてるの」

「はぁ……」

付近にイーブイが生息しているということは、わざわざタマゴを孵す意味もないのでは……?
 ▼ 224 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/20 20:28:57 ID:ksth9ha6 [5/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
そんな俺の思考を察したのか、預かり
屋が慌てて会話を繋ぐ。

預かり屋「いやいや、そんな顔せず貰ってあげてよ。孵化余りってことは、かなりの可能性を秘めてるかもしれないしね?」

ふむ、一理あるか。

まぁ大抵の人は断る案件だろうが、もしかしたら育て上げればエース級の活躍をするかもしれない。

それに、戦って捕まえるといつぞやのコイルとヤドンの確執みたいなことがまた起こりかねないしな。

その点、タマゴから育てるのであればそういうしがらみは気にしないで済む。

預り屋「どう……?」

というか、状況的にめちゃくちゃ断りづらいし。

……まぁ、育ててみますか。
 ▼ 225 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/20 20:35:31 ID:ksth9ha6 [6/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
ポケモンと旅をしていればそのうち孵るとのことだったので、孵化装置を抱えて5番道路に向けて進むこと3時間。

俺はじわじわとヒビが広がって行くタマゴを前に、盛大にあたふたしていた。

やべぇよ、まさかこんなに早く孵化が始まるとは。

俺のポケモンたち体温かなり低いし、そもそも孵化の条件が満たされるのかも怪しいと思ってたのに。

どうしよう、何をすれば良いんだ。

頼みの綱の携帯端末も森の中では完全に圏外で、何の役にも立たない。

あのアニメのオンバット加入回はどんな感じだっただろうか。

くそう、預り屋からもっといろいろ聞いておくべきだった!
 ▼ 226 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/20 20:36:07 ID:ksth9ha6 [7/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
そうは言ってもこのまま黙って見ているわけにもいかない。

焦ってチャックを噛ませながらもリュックを開き、小鍋を引っ張り出す。

「出てこい、ヤドン、コイル!急いで湯沸かしたのむぞ!」

「やあん!」

「##!」

昨日と同じ要領でわざを使って火を起こし、ぬるま湯を完成させる。

ポケモンに産湯が必要なのかは知らないが、とりあえずあるに越したことはないだろう。

「あとは……タオルとかか? 授乳とかはどうすりゃ……あぁっ!?」

気がつけばヒビがタマゴを一周して、タマゴの内側から一層強い光を溢れさせていた。

産まれる!!
 ▼ 227 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/20 20:36:58 ID:ksth9ha6 [8/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
「キュイ! キュイ!」

「ポケモンって逞しいな、マジで」

俺はあたりを駆け回る生後10分のイーブイを眺めながら、げんなりしていた。

あらゆる心配が杞憂に終わったらしく、イーブイは産まれた瞬間からものすごく元気だった。

ミルクどころか離乳食すらすっ飛ばしてポケマメをほおばる姿には、流石に苦笑いを禁じ得なかった。

無駄に沸かしてしまった産湯には、コイルが浸かっている。

まぁ、取り越し苦労だったわけである。

確かに、そうでもなきゃ通りすがりの島巡り挑戦者にいきなりタマゴ渡さないよな、そりゃあ。

孵化に関してほとんど説明無しだったのも合点が行く。

何はともあれ、3匹目の仲間ができました。
 ▼ 228 ナトーン@ラティアスナイト 17/03/20 21:46:50 ID:NBaRgsTM NGネーム登録 NGID登録 報告
何に進化するんだろう
支援
 ▼ 229 ッギョ@クロスメール 17/03/20 23:10:26 ID:YSdvBZhQ NGネーム登録 NGID登録 報告
>>228
タイプバランス的にシャワーズサンダースエーフィはないと(勝手に)予想
 ▼ 230 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/21 17:39:17 ID:shQm4vrA [1/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
【14日目】


『!』

むむっ。

オハナタウン〜せせらぎの丘の旅路は今日で2日目。

ここまで数多のトレーナーを神がかり的に回避して来たが、俺とコイル、さらに頭上のイーブイを加えた長距離索敵陣形でも死角はある。

流石に全避けでポケセン到達とは行かないらしい。

ここにきてアーカラ島初のトレーナー戦のようだ。

財布が守られていても、旅の道中で全滅すると引き返すことになるのは変わらない。

故にレベル上げはできるだけ移動とは別にして行いたかったのだが、見られたものは仕方あるまい。

3番道路でのレベル上げを経てこの理不尽を受け入れつつある俺は、潔く視線の主に目をやった。

小僧「目があっちゃったな。さ、バトルだ!」

「合ってねぇけどな……ってお前、2番道路の文無しじゃん」

小僧「ん? あぁ、メラメラ島でバトルした兄ちゃんか! 久しぶりだな!」
 ▼ 231 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/21 17:40:13 ID:shQm4vrA [2/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
偶然の再会になんとなくテンションが上がる。

小僧「そんじゃま、今回も勝たして貰うぜ!」

そういえばこいつには前回負けたままだったな。

期せずしてリベンジのチャンス到来である。

「そう簡単に勝てると思うなよ? 行け、イーブイ!」

「キュイ!」

小僧「ガーディ、行くぞ!」

「わぉーん!」
 ▼ 232 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/21 17:41:35 ID:shQm4vrA [3/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
俺のイーブイは正真正銘レベル1だ。

トレーナーとしての才がない俺にはレベルが数値で見えるわけではないが、産まれてから1回も戦ってないから多分1だろう。

ではなぜ出したのかというと、これは単に経験値稼ぎのためだ。

バトルに出て戦闘経験を積まなければ、レベルは上がらない。

学習装置があればこういう時にレベル上げがスムーズになるのだが、お値段が尋常ではなく、とても一般家庭の子供に手が出せるものではない。

ククイ博士はチャンピオンにこの装置を無償で譲渡したらしいが、島巡り挑戦者としてはもはやチート級の恩恵であると言えるだろう。

だが、無いものは仕方がない。

幸いにもバトル開始後に即引っこめても経験値は入るらしいので、今回はその方法でレベルを上げていこう、というわけだ。
 ▼ 233 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/21 17:43:02 ID:shQm4vrA [4/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
小僧「じゃ、前やった時と同じく、この小石が地面に落ちたらバトル開始な!

行くぞ……そい!」

小石が空中に円弧を描き……

……乾いた音を鳴らして地面に跳ねた!

小僧「ガーディ、かえんぐるま!」

「ぐらうっ!」

ガーディの身体が炎に包まれ、いたいけなイーブイめがけて突進してくる。

ここでイーブイを引っ込めてヤドンに変えるのがレベル上げのセオリー。

だが、それではガーディに攻撃のイニシアチブを許してしまい、ヤドンが致命傷を負うことになるだろう。

だから、交代の隙ぐらいはイーブイに作ってもらう。

「イーブイ、まもる!」

「キュイ!」

イーブイの正面に半球状のバリアが展開される。

火だるま状態で突っ込んできたガーディはブレーキが間に合わずバリアに激突したが、即座に態勢を立て直して攻撃を続けてくる。
 ▼ 234 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/21 17:45:36 ID:shQm4vrA [5/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マシン売りの店員曰く、まもるの最大持続時間は約10秒。

その間は何をされても壊れないらしいが、その代わり発動中はこちらから動くこともできず、交代も不可。

連発もできないので、単純に防御手段として使うぶんには大した効果はない。

ガーディの纏う炎が消えると同時に、こちらのバリアも薄れて行く。

一見なんの意味もない一合だが、接近戦を経て2匹の距離が狭めるのが今の防御の目的だ。

この間合いなら、レベル1でも使える手がある。

小僧「まもるは連続では使えないぜ! ガーディ、もう一度かえんぐるま!」

「ぐる…」

「イーブイ、あまえる!」

「キュイイ〜〜///」

「ぐるぁ!?」

ガーディが再び身体を燃やそうとするより先んじて、イーブイがガーディに抱きつき、頬ずりをはじめた。

突然の抱擁にガーディは完全に狼狽したようで、炎を出してこない。

予想以上の反応だ。

このイーブイ、じつはかなりの魔性のメスかもしれない。
 ▼ 235 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/21 17:46:50 ID:shQm4vrA [6/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
小僧「お、おい、ガーディ! うろたえるな!かえんぐるまを……」

おっと、正気に戻されては困る。

「いいかよく聞け短パン小僧!!」

小僧「お、お前も短パンじゃ」

「うるせぇ小童!! よく聞け! 今お前のガーディに甘えてるイーブイはな……生後一日の赤ん坊だ!!」

小僧「!?」

よし、こうかはばつぐんだ。

「しかも孤児だ! 両親のポケモンや本来のトレーナーに会ったことがない!」

小僧「!!?!?」

かなり効いている。あと一押し。
 ▼ 236 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/21 17:48:04 ID:shQm4vrA [7/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「この子に攻撃できるっていうのなら! ああいいさ! かえんぐるまなり何なり、存分に撃ち込んででくるといい!」

小僧「うおお…うおおおおお!!」

もう十分だろう。この隙にイーブイを引っ込めて……

小僧「降参だ畜生! この卑怯者おおお!!」

「えっ」

えっ。

「降参って言ったんだよ! こんなんで戦えるか馬鹿野郎!! 」

イーブイに為すがままに甘えられてすっかり戦意喪失状態のガーディが、ボールに戻って行く。

「キュイ?」

「……喜べイーブイ、初勝利だぞ」

試合に勝って勝負に負けたとは、このことを言うのだろう。

今後、精神攻撃は控えようと思う。
 ▼ 237 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/21 17:49:31 ID:shQm4vrA [8/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
律儀に賞金107円を差し出しながら、短パン小僧が悪態をついてくる。

小僧「大体よー、レベル上げなら野生のポケモン相手にやればいいだろ?

なんだってわざわざトレーナー戦に生まれたばっかのポケモンなんて出してくんだよ。礼儀ってもんがあんだろ」

言われてみれば全くその通りである。

自分で考えておいてなんだが、この戦術はちょっと擁護できないかもしれない。

まぁ、実行犯のイーブイは俺の頭の上で大分ご機嫌のようだが。

「……正直すまんかった」

小僧「謝るぐらいならやんなよなー。まぁ、確かにタマゴから育てるって大変そーだけどよ」

「すまん……。まぁ、野生のポケモン倒して鍛えたらまた……ん? そういえば」

小僧「なんだよ?」

「この島に入って以来、野生のポケモンが全く飛び出してこないんだが……」

小僧「そういや……確かに」
 ▼ 238 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/21 17:50:12 ID:shQm4vrA [9/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
店主「あぁ、この島は試練の難度が一気に上がるからね。この時期になると、試練にせき止められて足踏みするトレーナーがかなり増えるんだよ。

そうなるとポケモンたちにとっては相当危険な環境だから、人が通るところには滅多に顔を出さなくなるのさ」

5番道路ポケセンに到着した俺は、カフェの店主にとんでもない事実を明かされた。

つまり、この時期にこの島で野生ポケモンを狩るのは事実上不可能らしい。

旅立ちをオフシーズンまで待てば良かったと思っても、そんなものは後の祭り。

今更帰って「来月から本気出す」なんて言えやしない。

それにしても、トレーナー戦でイーブイのレベルを上げなきゃならないのか。

「キュイィ……」

鳴き声がした方を振り向くと、イーブイが自動ドアの前でうずくまって涙目になっていた。

もしかして、外に出ようとしてガラスに激突したのか。

…………。

前途多難だなぁ……。
 ▼ 239 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/22 18:13:24 ID:t3.0DS3g [1/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
【15日目】


「試練最寄りのポケセンに到着したので、ここを拠点に合宿的なことを始める」

ポケセン宿舎の隅っこで、俺たちは恒例の作戦会議をしていた。

「で、今回のレベル上げだが……イーブイ」

「キュイ!」

「いい返事だ。とりあえず試練までの2日間、お前の強化を中心にやっていこうと思う」

アーカラ島から試練の難易度が急上昇するという話はどうやら本当らしく、試練の予約は昨日の時点で2日先まで埋まっていた。

俺たちがみずの試練に挑むのは明後日の午後4時。

それまでの間特にやることもないので、とりあえずレベルを上げることにしたというわけだ。

「まぁ、つっても主に戦うのはヤドンとコイルなんだけどな。2匹とも、おもりは頼んだ」

「やん」

「###!」

士気は十分みたいだ。

その後、如何にしてイーブイをバトルに絡めるか入念に作戦を練り、俺たちは5番道路へと繰り出した。
 ▼ 240 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/22 18:15:14 ID:t3.0DS3g [2/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
「よし、行ってこいイーブイ!たいあたりでトドメだ!」

「キュイッ!!」

「アウッ!」

ミニスカ「あぁっ、オシャマリ!

……うーん、完封負けかぁ。ていうかその作戦ちょっとずるいよ」

レベル上げは思いの外順調に進んだ。

ヤドンのみずでっぽう一点集中射撃による無限ハメから、弱り切ったところに交代してたいあたりでトドメ。

コイルの不発弾マグネットボムで拘束し、麻痺と混乱の合わせ技で無力化した上で、交代してたいあたりでトドメ。

イーブイのあまえるは俺の精神攻撃抜きにしてもかなり戦意が揺らぐようで、まもる→あまえる→交代でヤドンやコイルにつなぐというパターンも成功した。

これまでに陰湿な戦術ばかり考えて来たのが功を奏したと言えるだろう。

イーブイのレベルもだいぶ上がって、今日だけででんこうせっかとスピードスターを習得した。

合宿初日は5勝2敗で終え、明日に疲れを残さないように日が暮れる前に切り上げ、ポケセンに帰った。
 ▼ 241 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/22 18:16:11 ID:t3.0DS3g [3/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
「キュイィ…」

「##…」

イーブイが上目遣いでポケマメの甘露煮をねだり、コイルが仕方ないなとばかりに自分の皿を差し出す。

このイーブイ、なかなかに末っ子気質のようで、甘えるのが尋常じゃなく上手い。

コイルはよく今みたいに擦り寄られて、自分のきのみやマメを分け与えている。

夜中はまだ1人で寝られないイーブイに起こされて、ボールの外で一緒に寝てあげていたりもする。

移動中にボールから出て頭の上によじ登って来られると、俺も邪険にはできない。

唯一厳しめなのがヤドンで、イーブイが多少愛想を振りまいた程度では、ひと鳴きで諭してしまう。

まぁ、それはそれで子育てのバランスが取れているんじゃ無いかと思う。


そんな末っ子イーブイだが、このペースなら合宿中に他の2匹にレベルが追いつくかもしれない。

明日も、経験値稼ぐぞー。
 ▼ 242 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/22 18:16:53 ID:t3.0DS3g [4/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
【16日目】

全然勝てない。

やばい、何故だ。

全ッ然勝てない。

ただいま3連敗中。

昨日が出来すぎていただけなのだろうか。

というか今の勝負もさっきの勝負も、まるで最初から何もかもがバレていたような動きだったような。

……まさか!

「……誰から聞いた?」

短パン「誰からってことはないけど……昨日宿舎で噂になってたよ。やたら小賢しい浪人生がいるって」

悪目立ちしすぎたか!!!!
 ▼ 243 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/22 18:18:44 ID:t3.0DS3g [5/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
確かに、誰だって試練前、もしくは試練失敗後のレベル上げ拠点ならここを選ぶ。

草むらにポケモンがいないならなおさらだ。

同じ場所にずっと泊まっているとなれば、普通は周りの挑戦者と談笑ぐらいする。

その時に、俺へのヘイトをこじらせた奴が俺の手持ちポケモンや戦術を言いふらしたりでもしたに違いない。

オニゴーリを使うトレーナーは犯罪者と呼ばれるらしいが、他人事ではなかったという事か。

これが邪道に走り過ぎた者の末路なのか。

陰湿なハメ戦術にキレる気持ちは分かるが、なんてことをしやがる!

俺が邪道なのは仕方ないとして、俺の数少ない勝ち筋を潰して回る行為が王道のつもりか?

けっ、流石正義のトレーナーはやることが違うな!

どーせ俺は悪者ですよ! 犯罪者ですよ!

ばーかばーか!

お前のかーちゃんデデンネ!

うんこ!
 ▼ 244 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/22 18:21:21 ID:t3.0DS3g [6/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
……とまあ一通り憤ってはみたものの、この事態を想定できなかったこちらにも問題があるのは確かだ。

ヘイトというのは感情論でしかないが、人間に感情がある以上、どんなに不条理でも無視できない。

それに、田舎地方アローラの11歳の数はそんなに多くはない。

積極的にバトルを仕掛けながら旅をする限り、狭い交流の中で初見殺しのタネが広まって行くのは必然だろう。

仮にそれがヘイトを稼がない戦術だったとしても、強力なものであればいずれ認知されるのは避けられない。

遅かれ早かれ、こうなるのは仕方がないことなのだ。

長い目で見れば、シンプルにみずでっぽうをぶっ放す練習をしたり、でんきショックを普通に当てる方法を模索した方が良かったのかもしれない。

実際、俺ほど小手先の戦略に頼っていないのであろう他のトレーナーのポケモンは、同じ基本わざでも随分と洗練されていた。

ハラさんの『そのやり方ではだんだん厳しくなる』という言葉は、何も一つの戦闘の中だけの話ではなかったようだ。

とりあえず、現状このエリアではやっていけないのは確実だろう。

明日は試練が控えているというのもあるので、今日はもうレベル上げを打ち切ることにした。
 ▼ 245 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/22 18:24:11 ID:t3.0DS3g [7/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
本日三度目の全滅回復待ちが終わり、ジョーイさんからポケモンを引き取った俺はそそくさとポケセンを後にした。

そこかしこで陰口を叩かれているかもしれない宿舎に泊まるのは気がひけるので、今日は裏手の森でテント泊だ。

ポケマメカレーをかき混ぜていると、イーブイが俺と鍋の間に割り込み、足にすり寄ってきた。

「あんま鍋に近づくとやけどするぞ。 もうちょいだから、そっちで2匹に遊んで貰ってな」

「キュイ……」

耳をしんなりさせて悲しげに鳴くイーブイ。

そのリアクションは心が痛むのでやめてほしい。

イーブイの8進化のうち3つはトレーナーとの親密さが影響するものらしいが、こういう時に構ってやれないとダメなんだろうか。

戦闘不能にさせてばかりいると嫌われるというし、全滅するときは一方的な試合展開が多いのでなんだか不安になってくる。

まぁ別に他の進化でも一向に構わないのだが、コイルやヤドンも含め、反抗期にでもなったら困るというか……。
 ▼ 246 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/22 18:25:13 ID:t3.0DS3g [8/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
「な、なぁイーブイ」

「キュイ?」

足元でうつむいていたイーブイが、ぱっと顔を上げる。

構ってやろうと声をかけてみたはいいが、今は手が離せない。

何か話でも……ポケモンに通じる話題って何だ?

「そ、そうだ! イーブイお前、何に進化したいとか、あるか?」

「キュイ……?」

質問の意味が分からないのか、イーブイは首を傾げている。

「あー……。進化ってのはな、まぁ、お前がみずでっぽうとかでんきショックとか使えるようになるってこと。

ひのこなんか使えたらメシ作るのも少し早くなるかもな」

ヤドンやコイルや鍋の下の火を左手で順に指差しながら、ザックリと説明する。

「キュイィ……!」

一応何となくは伝わったようで、イーブイが目を輝かせる。
 ▼ 247 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/22 18:27:02 ID:t3.0DS3g [9/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
「他にも、ねんりき、だましうち、はっぱカッター、ようせいのかぜ……。どのわざ使ってみたい?」

グレイシアに憧れられると当分イーブイのまま旅することになってしまうので、こおりわざはリストからひとまず除外しておいた。

できるだけポケモンの意思を尊重したいとは思うが、これくらいのエゴは許してほしい。

選択肢が一つ消えていることは知る由もないイーブイは、少しだけ悩んでからコイルの元へ駆け寄り……

「キュイ!!」

……こちらに振り向いて大きく一鳴きした。

コイルが気恥ずかしそうに頬を赤らめる。

なるほど、「お兄ちゃんみたいになりたい!」的なことか。

兄って言っても性別不明だけど。

確かにコイルが一番イーブイに甘いし、イーブイとスイッチするときのバトルはかなり張り切ってるしな。

実際はタイプ被りとか石探しとかの事情でサンダースにはなれないかもしれないが、微笑ましくていいんじゃないか。

「まぁ、とりあえず進化はまだ先の話だから。じっくり考えような。

さ、メシにしようか」
 ▼ 248 ジョット@やわらかいすな 17/03/22 18:39:25 ID:SMS3bQCA NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 249 ノクラゲ@クラボのみ 17/03/23 12:27:45 ID:PnXlmNpg NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 250 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/23 19:28:39 ID:4V4dYDlo [1/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
【17日目】


みずの試練の内容は、せせらぎの丘を適当に茶番をこなしながら進み、雨の中でぬしポケモンのヨワシを討伐するというもの。

ぬしのヨワシの特徴としては、まずいきなり仲間の群れと合体変形して超強化形態になること。

そしてある程度体力が削れると仲間が一目散に逃げて行くことが挙げられる。

優勢な時は寄ってたかって相手を責め立てるくせに、いざ雲行きが怪しくなると一斉に手のひら返しをするというわけだ。

そしてこの精神面の弱点を補強するのが、ぬしの呼び出すママンボウ。

こいつの放ついやしのはどうで弱ったぬしが回復すると、なんと即座に群れの仲間が帰ってくる。

ママンボウをどうにかしない限り、ヨワシは集合と解散を無限に繰り返し続ける。

なんとも軸のブレたポケモンである。

プライドとかないんだろうか。
 ▼ 251 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/23 19:30:49 ID:4V4dYDlo [2/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
ヨワシの矮小な生態はともかくとして、ぬし攻略のポイントは2つ。

一つは、さっさと体力を削り合体形態を解除すること。

そしてもう一つは、いやしのはどうで回復させないこと。

連携を崩しつつの短期決戦というと難しく思えるが、もしかすると今回は特に何も考えなくても一瞬で終わるかもしれない。

というのも、ぬしもお供も所詮は魚なので、陸に上がってくることはない。

それはつまり、あの戦法が使えるということで……。

半ば勝利を確信した俺は、ニヤリと口元を歪めた。
 ▼ 252 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/23 19:31:23 ID:4V4dYDlo [3/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
「…………って感じで今回は行こうと思う。OK?」

今回のぬし前会議の場所は、せせらぎの丘の入り口。

対ヨワシ用の作戦を説明し終えると、3匹がめいめいに返事をした。

イーブイの元気な返事がひときわ大きく響く。

生後間もないイーブイでさえ戦略的な指示を理解しているということについては、突っ込むのも今更であろう。

かのオーキド氏ですら『不思議な不思議な生き物』で論文を締めくくったぐらいなので、多分この辺りは俺の理解が及ぶ範疇にない。

まぁ、仮に年相応の理解力しかなかったとすれば、島巡りを中断して数ヶ月は子育てをすることになっていたところだ。

とりあえずは作戦を理解できるという事実だけで十分である。

脱線しかけた思考をより戻し、モチベーションを高めるべく3匹に声をかける。

「記念すべきアーカラ島最初の試練だ。それじゃ……お見舞いするぞー!!」
 ▼ 253 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/23 19:32:04 ID:4V4dYDlo [4/18] NGネーム登録 NGID登録 報告






スイレン「では、ラプラスに乗って水飛沫の様子を調べて来てください。海パン野郎が溺れているかもしれませんから」

「なん……だと……?」

スイレン「お、思った以上に食いつきがいいですね……」

怪訝そうに呟くスイレンだが、俺が驚いたのはそこではない。

ラプラスに乗って、というところだ。

 ▼ 254 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/23 19:33:30 ID:4V4dYDlo [5/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
ぬしのいるエリアには、試練中は試練関係のポケモンしかいないので、野生ポケモンの生態系にいちいち配慮する必要がない。

そこに目をつけた俺は、電気風呂を作ってぬしとお供をまとめて封殺しようと計画していた。

だが、ラプラスがいるのではそういうわけにはいかない。

それどころか、その状況では普通にでんきショックを撃つことさえ躊躇われる。

故意か過失かにかかわらず、ライドポケモンに危害を加えるのはれっきとした犯罪行為。

万が一にも避けられて湖面に電撃が炸裂し、キャプテンの見ている前でラプラスを感電させようものなら、言い逃れのしようがない。

つまり、今回は火力担当のコイルのでんきわざが事実上使えない。

さらに、体が大きい相手にはマグネットボムでの拘束やみずでっぽうでのバランス崩しも効果が薄い。

要するに……多分ぬしに勝てない。
 ▼ 255 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/23 19:34:17 ID:4V4dYDlo [6/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
「すいませんちょっと急用が」

勝てないなら、これはもう帰るしかない。

踵を返しながら早口に言い訳をして出口へ向かおうとしたが、スイレンがシャツの裾を引っ掴んできた。

スイレン「ま、待ってください! 諦め早すぎませんか!?

……じゃなくて。人が溺れてるかもしれないんですよ? 人命と急用、どっちが大事なんですか?」

あくまでそのテイで行くのか。

俺は渋々振り返り、作り置きしておいた甘露干しマメを取り出して、水飛沫めがけて放り投げる。

するとヨワシがパシャリと跳ねてマメを空中でかっさらい、再び湖の中に戻っていった。

「…人命はかかってないみたいだな。よかったよかった。じゃ、俺は安心して急用を済ませに行ってくるから」

スイレン「いやいやいやいや! 相手がただのヨワシだと分かってなお帰ろうとしますか!?

12の私がこんなこと言うのもアレですけど、こんな簡単に逃げてたらロクな大人になりませんよ!? 」

年下に説教されているという状況に若干プライドが傷つく。

確かに、こんな序盤の試練で浪人生が敵前逃亡しようとしているという状況は、キャプテン的には見過ごせないのかもしれない。
 ▼ 256 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/23 19:35:23 ID:4V4dYDlo [7/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
だが、これは逃げではない。

あくまで先を見据えた戦略的撤退である。

そこんとこはハッキリさせておかなければならないだろう。

「いや、ラプラスに乗るのは想定外だったからさ。つまりはこれ、でんきわざ使用禁止だろ?

他に攻撃手段ないし、奥まで行ってもぬしは無理かなって。ゲートもまだ先だし、今なら引き返せるよな?」

スイレン「計画が頓挫して後ろ向きになる気持ちはよ〜く分かりますよ?

でもですよ? そもそも湖には普通は野生のポケモンがいるんです。 試練でしか使えないような戦い方がダメなのは当たり前です。

ラプラスがいるのだって、環境の再現を兼ねてるんですよ? 別に嫌がらせでやってるわけじゃないですよ?

さあ観念して、もっと奥の方で溺れてるかもしれない海パン野郎を助けに行きましょう」

「分かった。俺が浅はかだったから離してくれ。また3日後に頑張るから。だから離して……離せっ…!」

スイレン「そんな3日後絶対来なそうなセリフを吐く人を離すわけは行きません……!」
 ▼ 257 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/23 19:37:55 ID:4V4dYDlo [8/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
なおも食い下がるスイレンと、完全にネガティブ入ってる俺。

平行線の言い争いを続けていると、頭の上で船を漕いでいた毛玉がもそりと起き上がった。

スイレン「ほ、ほら! 挑戦者さんはこんなでもポケモンは戦いたいはずです! ね、イーブイ?」

「キュイ?」

「そういうのはズルいだろ! やり方が汚……お、おい、イーブイ!?」

イーブイは頭の上からひょいと飛び降りて、その勢いのまま桟橋を駆け抜けて水飛沫めがけて飛び込み───

───湖面が静まり返ったかと思うと、ヨワシを咥えたイーブイが湖から顔を出した。

「キュイ!!」

スイレン「ふふふ。もうこれはやるしかありませんね?」
 ▼ 258 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/23 19:39:07 ID:4V4dYDlo [9/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
イーブイにやるきスイッチが入ってしまい後に引けなくなったので、雨の降りだした丘を先へ先へと下っていく。

まぁ、ヨワシは単独形態であればとてつもなく弱い。

スイレンに連れられる道中で何度か戦闘はあったが、とくに苦戦もすることなく最深部にたどり着いた。

だが、問題はこの先。

目の前にあるゲートをくぐれば、すぐにぬしポケモンとのご対面だ。
 ▼ 259 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/23 19:40:19 ID:4V4dYDlo [10/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
スイレン「さぁ、早くこっちに来てください。あの水飛沫は今度こそ海パン野郎かもしれません」

ここまで来てまだ茶番を続けるのか。

執念じみたこだわりにいっそ賛辞を贈りたくなる。

「……ビキニのお姉さんかもしれませんよ?」

いや、そういう問題じゃない。

リアクションを放棄し、無言でゲートをくぐる。

スイレン「ふふふ…釣られま」

「それはもういいから」

スイレン「むぅ、釣れないですね。そうですよ。みずの試練、開始です。

……でも、まだ海パン野郎の可能性は捨て切れませんからね。あと、海パン野郎は餌付け禁止なのでそれはしまってください」

開けかけていた干しマメのビンを閉め、渋々リュックに戻す。

岸辺にはラプラスが待機している。

ライドして海パン野郎(仮)の救助に向かい、そこでぬしとの戦闘が始まるという流れなのだろう。

だが愚直にそれをやってはまず勝ち目がない。

一応ここに来るまでの間に、作戦はポケモンたちに伝えてある。

一か八かだが……やってみよう。
 ▼ 260 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/23 19:41:07 ID:4V4dYDlo [11/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
「あのさ」

スイレン「なんですか? 泣き言なら聞きませんよ?」

「その釣り竿で救助したらダメなのか? ほら、うちのコイル船酔いするから、ラプラスの上よりここで戦いたいんだが」

スイレン「へ? ああ、そうですね。別にそれでも構いませんよ。

では、わたしは離れたところからバトルを見守ってますね」

スイレンはそう言って背負っていた釣竿を差し出す。

よし。

これでまず前提条件をクリアだ。

この試練……勝つぞ!
 ▼ 261 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/23 19:42:19 ID:4V4dYDlo [12/18] NGネーム登録 NGID登録 報告

ルアーを水飛沫に向かって投げ入れて、静かに待つ。

……。

…………。

…………………………!!

「ここだっ!!!!」

竿越しに伝わった食いつきに、反射的に思いっきり竿を振り上げる。

感触が思ったより軽いのは、多分ぬしの方から試練を与えるべく飛び出して来たからだ。

水面に揺らいでいた影が、大きな飛沫をあげて正体を現す。

空中に身を踊らせ、雨を受けてギラリと鱗を光らせる合体ヨワシと目が合った───

「糸にでんきショック!」

───瞬間、俺はコイルに指示を飛ばした。
 ▼ 262 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/23 19:43:32 ID:4V4dYDlo [13/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
だが、この試練の真の難所はこの先にある。

水中で孤立化したヨワシの影が、円を描くように動いている。

あれは多分ママンボウを呼び出す合図か何かだ。

一度でも回復されてしまっては、もうでんきショックを当てる手段がない以上完全に詰みとなる。

むしろここからが今作戦のキモだ。

「コイル、よくやった! ……出番だイーブイ!」

「キュイ!」

イーブイが頭の上から元気よく飛び降りた。
 ▼ 263 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/23 19:44:37 ID:4V4dYDlo [14/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
水上にはママンボウが現れ、ヒレから淡い桃色の光が漏れ出している。

ヨワシは水中深くに潜り込んだまま、姿が見えない。

トドメを刺す隙を与えないために、波動を浴びる瞬間に水から飛び出して一気に戦闘態勢に入るつもりなのだろう。

波動が水を伝って水中のヨワシまで届くのであれば為すすべがないが、水中のための波紋疾走は確かターコイズブルーだったはずだ。

ママンボウの纏っている波動の色は桃色なので、おそらくそれはない。

わざわざ水面に顔を出していることから考えても、いやしのはどうは水の中では効力を十分に発揮できないと見ていいはずだ。

ヒレの光が一際強まり、ママンボウが身を震わせた。

……来る!

「今!!」

ヨワシが水面から跳ね飛び、ママンボウがヨワシめがけて桃色の光弾を放ち、イーブイの体躯が残像を引いて弾き出される。
 ▼ 264 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/23 19:45:54 ID:4V4dYDlo [15/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
三者の動き出しはほぼ同時。

だが、道中でイーブイに事前に指示したわざはでんこうせっか。

速さのアドバンテージはこちらにある。

「イーブイ、波動を盗め!」

空を裂く音とともに跳躍したイーブイがヨワシとママンボウの間に割り込み、いやしのはどうの光弾をかっさらう。

「キュイぃ…///」

癒しの光に包まれたイーブイが、快楽に溺れてるっぽい鳴き声を漏らす。

これで回復はヨワシには届かない。

あとは、目を丸くしている軟弱本体にトドメを刺すのみ!

「そのままスピードスター!」

「キュイッ!」

宙返りして振り下ろした尻尾から放たれた星型のエネルギーが、ヨワシに降り注いだ。
 ▼ 265 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/23 19:46:59 ID:4V4dYDlo [16/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
スイレン「大事なものだったのに。どうしてくれるんですか、これ」

「すいませんでした。本当にすいませんでした。この通り」

ヨワシを倒した後は、取り残されたママンボウはすぐに湖底へ逃げ出した。

トドメの一撃を放ったまま湖の真ん中に落下したイーブイを慌てて回収し、無事試練達成となったわけだが……

貰うものも貰わずに、俺は早速スイレンに土下座をしていた。

というのも、借りた釣竿のルアーが電撃で黒焦げになっていたからだ。

冷静になってみれば、人から借りたものにわざを叩き込むのはどう考えても不味かった。

土下座のやめどきが分からなくなり、しばらく無言で頭を地面に擦り付けていると、スイレンが上から声をかけて来る。

スイレン「……ウソですよ。その釣竿はもともと試練達成者に特典として与えるためのものですから。

もしこれで試練失敗になったらどう処理しようかとは思いましたが、ひとまず渡せることになって良かったです。

というわけで、どうぞ。ルアーは街で新しいのを買ってください。あとクリスタルも渡しますね。」

「えっ…あ、どうも」

俺は膝をついたまま顔を上げ、下賜されるような格好で釣竿とミズZを受け取った。

……こいつ、人を土下座させといて随分と晴れやかな顔してやがる。
 ▼ 266 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/23 19:47:45 ID:4V4dYDlo [17/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
スイレン「まぁ、問題は釣竿を壊したことだけじゃないんですけどね……。試練の合否も、本当はちょっと考えるところです」

スイレンが苦々しい表情で告げる。

「へ?ぬしを倒せば良いんじゃないの?」

スイレン「島巡りガイドをよく読んでいれば分かることですが、厳密には『試練での戦いを見た上で担当のキャプテンが合否を判断する』んです。

負けて合格判定になることは滅多にありませんが、勝っても不合格というのは稀にあるんですよ」

「勝っても?」

スイレン「ええ。例えば明らかなルール違反とか、あまりにイレギュラーすぎる勝ち方とか。

今回で言えば、釣竿でコイルをサポートしたところですね。

『トレーナーの過剰な戦闘介入』や『道具の不正な使用』辺りに抵触しているという見方もできます」

「でもクリスタルをくれたってことは……」

スイレン「ええ、良しとします。というか、今時期は挑戦者が飽和気味なのであまり厳格に対処していられません。

そのトレーナーの実力が試練突破に値すると分かる状況であれば、多少のことには目をつぶりましょう。

一応は野生戦っていう想定でやってるのにそこまで厳密にルールを適応するのもおかしな話ですし……。

最近で失敗判定にしたのは、ラプラスと仲良くなってヨワシを倒してもらった子ぐらいですね」
 ▼ 267 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/23 19:50:55 ID:4V4dYDlo [18/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
どうやら、繁忙期に試練を受けたことに救われたらしい。

というかあのラプラスそんなに強いのか。

もしかしたら、当初の作戦通り湖に電撃を放っても何の問題もなかったのかもしれない。

スイレン「ただ、この先はこういうのは控えたほうがいいと思います。

みんながみんな私みたいに大雑把なキャプテンとは限りませんからね。

例えば、ほのおの試練のキャプテンはルール違反者にZワザを叩き込んだり……」

「何それ怖い」

スイレン「……しません。ふふ、また釣られましたね。

まぁでも実際厳しい人は厳しいですから、それくらい気をつけたほうがいいってことですよ。

では、次の試練も頑張ってください!」



スイレンに見送られ、俺たちはせせらぎの丘を後にした。


昨日邪道を後悔したばかりなのにこんなやり方でアレだが……

何はともあれ、みずの試練、達成だ。
 ▼ 268 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/24 18:49:03 ID:tL7SRY8A [1/7] NGネーム登録 NGID登録 報告
【18日目】

めざ姉「ちょっと、目覚めさせてみないか?」

ほのおの試練の舞台・ヴェラ火山を目指す道中、休憩のため再び立ち寄った預り屋。

タマゴをくれた女性にイーブイの誕生報告をし終えたところで、背後から不意に声をかけられた。
 ▼ 269 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/24 18:49:36 ID:tL7SRY8A [2/7] NGネーム登録 NGID登録 報告
『目覚めさせる』。

どういうことだろうか。

何に目覚めれば良いのだろうか。

というか、アレなんじゃないのか。

いや、どう考えてもアレだ。

このちょっとスレた感じのカウガールは、いたいけな年下少年を目覚めさせることに快感を得る類の性癖があるに違いない。

となると、ここで俺が一つ首を縦に振るだけでwin-winの関係の元に目覚めることができるのか。

しかし俺は齢若干13。

アローラの法に於いて成人してはいるが、酒とタバコとつのドリルは例外。

目覚めるにはあと5つ待たねばならない年齢である。

清く健全でイノセントな短パン小僧として、超えてはいけない壁がそこにあるのは明らかだ。
 ▼ 270 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/24 18:50:29 ID:tL7SRY8A [3/7] NGネーム登録 NGID登録 報告
だが。

そうはいっても。

そうはいってもだ。

この女性が目覚めさせたいのはあくまで少年であり、それは合法である限り許されない。

あちらは世界に背く誘いをしていることは先刻承知であり、ならばこちらがそれを理由に断るのはフェアではない。

美しくない。

これは理性ではなく、本能が、タマゲタケが決めるべき選択である。

短パン小僧の矜持が邪魔をするのなら、そんなものは投げ捨てればいい。

そうだ、俺はもう短パン小僧ではない。

パンパン小僧だ。

今こそ、目覚めの時……!
 ▼ 271 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/24 18:50:59 ID:tL7SRY8A [4/7] NGネーム登録 NGID登録 報告
振り向くまでの2秒足らずの間にここまでの思考を終えた俺は、覚悟を決めてカウガールを真っ直ぐに見据え、静かに言い放つ。

「お願い、します」

めざ姉「よし……。では、そのイーブイを私に見せてくれるか?」

!?
 ▼ 272 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/24 18:51:43 ID:tL7SRY8A [5/7] NGネーム登録 NGID登録 報告
分からない。

イーブイをどうするつもりなんだろうか。

それとも何らかの比喩表現なのか?

俺の立派なイーブイを見せればいいのか?

いやいや、違うだろう。

イーブイはイーブイだ。

俺の頭の上のやつを指して言ったのだ。

イーブイ。目覚める。イーブイ。目覚める……。

あっ。

ここまでに得た2つのヒントから、俺は一つの核心に至った。

これは、ポケモナーというやつだ。
 ▼ 273 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/24 18:52:19 ID:tL7SRY8A [6/7] NGネーム登録 NGID登録 報告
どうやら俺は早とちりをしていたようだ。

目覚めさせるというのは、俺をポケモナーの深淵にいざなうということだったのか。

許せない。

俺の純真なコクーンに揺さぶりをかけたのはまだ良い。

だが、生後5日のイーブイを目覚めの贄としようとしたこと。

これだけはやってはいけないことだ。

確かにこいつはあまえるを使うときにメスの顔になるが、それでも慰みものにするなど言語道断だ。

俺は断固としてこのカウガールの誘惑を退けなければならない。
 ▼ 274 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/24 18:53:03 ID:tL7SRY8A [7/7] NGネーム登録 NGID登録 報告
「イーブイは……イーブイは汚させない!」

めざ姉「汚……?見るだけだが?

……なるほど。この子がめざめるパワーを覚えたら、タイプはドラゴンだ」

えっ。

「めざめるパワー? ドラゴン?」

話が見えてこない。

道行く少年をポケモナーの闇に引きずり込もうと目論む卑猥極まるカウガールではなかったのか?

めざ姉「そうだ。 あまり役に立つタイプではないが……。とりあえずわざマシンをあげるから、気が向いたら覚えさせて見るといい。

よければ、他のポケモンのタイプも調べてあげるが?」

…………。

「すいません、お願いします」


他の2匹を調べてもらう間、俺はもう目を合わせられませんでした。
 ▼ 275 ルノズク@たまむしプレート 17/03/24 19:55:43 ID:3kqc9xwc NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 276 ツケラ@げんきのかけら 17/03/27 08:37:03 ID:8L0BGpDI NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 277 ンドロス@ロックカプセル 17/03/27 13:00:21 ID:DLHnPCzs NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
孵化余りのめざパドラゴンねえ…
 ▼ 278 変申し訳ない◆SxCy/NIFN. 17/03/27 14:22:54 ID:QaJvytvE [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
>>261>>262の間にあたる1レス分の文章を入れ忘れていることに気づき、ガン萎えしているうちに3日が経過しました。

とりあえず抜けてしまった1レスをこの下に置いて、更新を再開しようと思います。

すいません。
 ▼ 279 ス261.5◆SxCy/NIFN. 17/03/27 14:24:01 ID:QaJvytvE [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「#######!」

「ギョギョォーーッッッ!!?」

俺が全力で竿を引っ張り、コイルがヨワシの口に続く糸に絶え間なく電気を送り込み続ける。

口の中に直接攻撃しているので、ラプラスの感電のリスクのケアも十分だ。

スイレンがゴミを見るような目でこちらを睨んでいるような気がするが、多分気のせいだろう。

突然内側から流し込まれた電流に痙攣し、絶叫する合体ヨワシ。

しかし、逃げ場のない電気湖を作る当初の作戦とは違い、でんきショックの有効範囲はこの一本の糸のみ。

案の定ヨワシは電流による体の硬直に逆らってルアーを吐き出し、でんきショックから逃れて水中に潜り込んだ。

それでも不意打ちに大量の電気を流し込んだダメージは、決して小さくはない。

水に身を潜めた黒い影から、小さな影が次々に散って行き、本体がみるみるうちに縮小していく。

どうやら合体解除の体力までは削りきれたようだ。
 ▼ 280 変申し訳ない◆SxCy/NIFN. 17/03/27 14:25:52 ID:QaJvytvE [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
以上です

今日夜か明日あたりに、続きを投稿しますね。








 ▼ 281 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/28 21:46:16 ID:OGhxzs/w [1/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
【19日目】


「ククイさん何やってんすか」

ロイヤル「ククイ? 誰のことだい?」



ロイヤルドーム入り口前。

昼過ぎに中継点のポケセンに到着し、カフェで教えてもらった激安スーパーに向かう途中。

俺は微妙に因縁めいた再会を果たしてしまっていた。
 ▼ 282 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/28 21:47:30 ID:OGhxzs/w [2/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
顔面はマスクで覆われてはいるが、その黒肌に目立つ桃色乳首は見紛うこともない、博士のソレだ。

頭隠して乳首隠さず、である。

圧倒的な確信に俺は逡巡することもなく、詰問を続ける。

「いや、流石にこれでお茶にごすのは無理ですよククイ博士。何してるんですか」

ロイヤル「知らないなぁ。ロイヤルマスクはロイヤルマスクさ」

「そうだとして、アローラでククイ博士知らないっておかしいじゃないですか」

ロイヤル「いや、知らないな。ファンが待ってるんだ。もういいかな?

……それとも、まだ僕に何か言うべきことでもあるのかい?」

「……っ!」
 ▼ 283 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/28 21:48:15 ID:OGhxzs/w [3/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
正義感も非情さも半端な俺は、こうなると押し黙るしかない。

研究所に続き今回も博士はそれを見透かしているようで、マスクの下に半笑いを浮かべている。

自身最大の闇を握られている唯一の人間相手にここまで強気に出るとは、よほど毛の生えた心臓をしていやがる。

確かに、呼び止めてどうこうできるという話ではないのだが。

しかし、ここでまた引き下がるのも癪だ。

今度こそ、せめて何か一矢報いたい。

「####……!」

コイルも気持ちは同じらしく、苛立ちをあらわに左右のユニットを激しく回転させ……
 ▼ 284 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/28 21:48:56 ID:OGhxzs/w [4/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ってお前それは止めろ!」

こんな人目のあるとこで権力者相手に電撃なんて、言い逃れのしようがない!

慌てて止めに入るが、怒りに我を忘れているのか回転が止まらない。

ついに俺も犯罪者デビューか……!

諦めかけたそのとき。

コイルが視界から消えた。
 ▼ 285 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/28 21:50:17 ID:OGhxzs/w [5/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
ガイィィン!!

コイルの消滅から1秒半ほど遅れて、上の方から激しい金属音。

これって……。

もはや懐かしい旅立ちの日の記憶をフラッシュバックさせつつ、音のした方を見上げる。

「#ー!##ーっ!」

やっぱりか……。

地上10mの鉄看板の真ん中にへばり付いたコイルが、涙目で鳴きわめいていた。
 ▼ 286 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/28 21:51:23 ID:OGhxzs/w [6/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
森や広いフィールドでのバトルばかりだったので忘れていたが、そういえばこいつは電気を出すときに磁力が高まるんだった。

ドーム前のベンチでネジやら釘やらを剥がしながら、街中では気を配らねばと改めて自分を戒める。



コイルの回収に四苦八苦しているうちに、博士は行ってしまった。

むしろ居なくなって安堵したような気もするが、いつまでもこのままではダメだ。

手始めに、足がつかない程度の嫌がらせでも考えておこうと思う。
 ▼ 287 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/28 21:52:40 ID:OGhxzs/w [7/18] NGネーム登録 NGID登録 報告


「い”っっ!?」

U磁石に張り付いた鉱石に手をかけると、俺の体を鋭い痺れが駆け抜けた。

「コイル! 折角尻拭いしてやってんのに何すんだよ!」

「##!? ##ー!」

コイルが激しく首を振る。

「へ、お前じゃないの? じゃあ何、石が勝手にやったのか?」

透き通った緑色の石を覗き込みながら、問い詰める。

「そんなわけねーだろ。ほれ、『ごめんなさい』を……あっ」

石の内部に見えたのは、稲妻のような形の結晶体。

「……ごめん、これ石のせいだ」
 ▼ 288 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/28 21:53:57 ID:OGhxzs/w [8/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
コイルに再三謝罪をし、ゴム手袋をはめて石を引き剥がした。

進化用アイテム、かみなりのいし。

確かにサンダースになりたい意思は確認したが、いくらなんでもフラグ回収が早すぎるだろう。

頭上ではイーブイが鼻息荒く尻尾を振り回している。

でんきタイプが被ってしまうが……

「進化、するか?」

「キュイッ!!」
 ▼ 289 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/28 21:55:09 ID:OGhxzs/w [9/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
そうは言っても何をどうすれば進化できるのか見当もつかないので、専門家に聞いてみることにした。

トリビアの泉とかでもよく大学に電話しているシーンがあったので、多分快く応じてくれることだろう。

ポケモンの進化に詳しい教授は、と……。
 ▼ 290 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/28 21:55:47 ID:OGhxzs/w [10/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
ウツギ『はいもしもし、ウツギ研究所のウツギです』

「初めまして。あの、ウツギ博士にお聞きしたいことがありまして」

ウツギ『お、なんだい? 僕に答えられることならなんでも答えるよ』

「ありがとうございます。かみなりのいしについてなんですが……」

ウツギ『ポケモンの進化だね? いいよいいよ、それなら僕の専門だ!』
 ▼ 291 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/28 21:56:27 ID:OGhxzs/w [11/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
よほどうだつの上がらない博士なのか、やたらと食いつきがいい。

ていうか絶対暇だろ。

シンオウやカロスでの後発研究が盛り上がりすぎて閑古鳥になったんだろ。


とはいえ、こちらにとっては好都合。

研究所が寂れていても、検索情報にあった通り進化の権威には違いない。

この程度の疑問であれば、即座に正確な情報を教えてくれるはずだ。
 ▼ 292 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/28 21:57:21 ID:OGhxzs/w [12/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
「イーブイの進化の方法について教えてください。石の使い方が分からなくて……」

『なるほどなるほど。じゃあまずは進化の3つの分類から話していこうか』

ん?

「いや、石の使い方……」

『そもそも、進化っていうのは根本で見れば同一の過程を辿っているんだ。ポケモン本体の進化への意思と、それを実現させるエネルギー。この2つを条件にして進化が成り立つっていうのは、あらゆる進化方法においても共通なんだよ。だから、僕がこれからいう分類はあくまで狭義のものとして理解してほしい。さっきも言ったけど、進化は大きく分けて3つに分類できる。一つ目はレベル進化。これは、成長により増大するポケモン内部のエネルギーを進化の糧としているんだ。自らの力を一段階上のものに変質させるわけだから、当然不可逆的なものになるね。これが最もポピュラーな進化方式なんだけど、イーブイは現在8つの進化が見つかっていながらこれに該当するものが一つもないんだ。これって結構興味深いことだよね。それで、イーブイ進化の8形態を成り立たせているのが二つ目の分類、永続外的干渉力進化。単に外的干渉力進化とか、非レベル進化とか呼ぶ人もいるけど、僕はあえてこの呼び方をしている。まぁ、その理由は後で話すよ。この永続外的干渉力進化は、レベルに関係なく外部のエネルギーを糧に発生する進化のことだよ。例を挙げると、石の力とか、環境の変化、トレーナーとの信頼とかだね。信頼を加算可能なエネルギーと見るのは少し邪道に感じるかもしれないけど、最近の研究ではもう懐き具合や仲の良さは数値化されているんだよ。驚いたかな?とにかく、レベルでの進化じゃなければほとんどはそうだと思っていい。で、なんで僕が『永続外的干渉力』という言葉に拘るか、だったね。実を言うと僕も昔は普通に外的干渉力進化って呼び方をしていたんだよ。だけど、最近になってそれじゃ説明がつかない第三の分類が生まれたんだ。そう、『永続ではない』外的干渉力進化。いわゆるメガシンカだね。メガシンカは、特殊な石を媒介にして絆をエネルギーに発生するんだけど、でも戦闘が終わると解除されるんだ。可逆的な進化なんてあり得ないって最初は思ったんだけど、カロスの研究によるとどうも戦闘中にしか絆に反応しないらしい。だから永続と非永続を区別する必要が生まれたんだよね。』
 ▼ 293 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/28 21:58:39 ID:OGhxzs/w [13/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
ウツギ『それでね。ここからは僕の仮説になるんだけど、このメガシンカの可逆性には、エネルギーの方ではなく進化の意思の方が関係してるんじゃないかって思うんだ。ほら、最初に意思とエネルギーの2つって言ったよね?戦闘中にしか起こり得ないほど強い意志でないと、条件の不足で発生しないんじゃないかなって。だから、絆のエネルギーが足りていても、意思力が平常に戻った途端に体も元に戻る。この理論なら可逆性も説明がつくだろう?でも、この理論だとおかしなことになるんだ。これまでずっと不可逆の進化だと思われていた永続外的エネルギー進化も、意思の具合次第では可逆性を持つことになる。もちろん、内部のエネルギーをそのまま転換するレベル進化は、メカニズム上逆行することははあり得ない。でも、外的エネルギーを体に組み込んだのみの進化方法であれば、それを外部に放出しただけで元に戻ることがないとは言い切れない……いや、必ずあるはずなんだ。だってメガシンカはそうだったんだから。もちろん、メガシンカは反応域値に達するための意志力が莫大だからそうなるだけ、という考え方もあるけどね。でも、逆に進化前に戻りたいという強い意思によって、永続外的干渉力進化を破棄するポケモンが現れるかもしれない。もっとも、こんな研究がなんの役に立つのかって話だけどね。あはは……。でも、新たなことを知ることそのものに意味はあると思う。今はただの基礎研究だとしても、将来的に実学になっている可能性はあるからね。何が役に立つのかわからないってことは科学の歴史が証明していることだし……。おっと、話が逸れたね。で、だ。君のイーブイなんだけど、僕の研究に協力する気はないかな。いや、ほんのちょっとのことでいいんだ。僕がこれから送る装』

ピッ。




うん。

これは、Wikiに聞こう。
 ▼ 294 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/28 21:59:57 ID:OGhxzs/w [14/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
Wikiによると、進化したいポケモンが石に触れた状態で気合いを入れると進化するらしい。

たったそれだけのことすら伝えず、自説を嬉々として語り続けたウツギ博士の研究者精神には脱帽である。

っていうか最後の方、俺のイーブイを実験材料にしようとしてたよな。

新たな研究成果を出さなければマズイのはわかるが、マッドすぎるだろう。

受話器の向こうでは爛々と目を光らせていたに違いない。

人間、ああはなりたくないものである。
 ▼ 295 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/28 22:01:57 ID:OGhxzs/w [15/18] NGネーム登録 NGID登録 報告






ヤドンとコイルが見守る中、イーブイがかみなりのいしに前足を置いた。

「キュッ……!」

石に溜まった電流が流れ込んだのだろう。イーブイの体が一瞬ひきつる。

だがイーブイは石から足を引っ込めることなく、懸命に踏みとどまる。

「よし! あとは強く思えば進化できるはずだ……頑張れ!」

「キュ……ィイ……!」

イーブイが顔を上げ、コイルを見つめる。

全身が痺れに襲われているはずなのに、イーブイは笑顔だった。

「##……!」

コイルが涙ながらにエールを送る。

そしてそれを横目に複雑な表情(当社比)のヤドン。

これは……嫉妬、かな?

母親にばかり懐く娘を見る父の心境的な。
 ▼ 296 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/28 22:02:39 ID:OGhxzs/w [16/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
「キュウウ……!!」

割れんばかりに響く音とともに、イーブイの体が輝きだした。

進化が始まった。

ドーム前を行き交う通行人も足を止め、固唾を飲んでイーブイを見つめる。

かみなりのいしが色を失っていくとともに、光の塊と化したイーブイの輪郭が徐々に形を変えていく。

全身は一回り大きく。

体毛は鋭く。

尻尾は……え、ちょ、無くなるの?
 ▼ 297 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/28 22:03:24 ID:OGhxzs/w [17/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
尻尾が消滅する謎に戸惑う間も進化は続く。

イーブイがひときわ眩い光を放ち、世界を真っ白に染め上げ───

───目を開くと、サンダースが俺の顔面めがけて飛びかかってきていた。

「のわっっ……重っ!!」

「キュイーーーッ!!!!」

イーブイ、改めサンダースは俺の頭に飛び乗り、高らかに進化の産声をあげた。
 ▼ 298 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/28 22:04:30 ID:OGhxzs/w [18/18] NGネーム登録 NGID登録 報告
「「「おおおおおお!!!」」」

あたりから歓声が上がる。

コイルは号泣していた。

そして2匹をやれやれという顔で眺めるヤドン。

「イーブイ……じゃなくてサンダースか。改めて、よろしくな」

「キュイッ!」

進化前と変わらず、快活な返事のサンダース。

うむ。



なんだかとっても、イイカンジだ。
 ▼ 299 ナフィ@うみなりのスズ 17/03/28 22:25:22 ID:VKlxsYr2 NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 300 色狐◆7yYkDV/Lvk 17/03/29 12:12:05 ID:nH3/6MXM NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 301 色狐◆7yYkDV/Lvk 17/03/31 00:01:24 ID:3zHLCVyM NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 302 ツボット@ルームキー 17/03/31 10:05:05 ID:u/od3qDE NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 303 ケンカニ@コオリZ 17/03/31 11:29:52 ID:1Dv7UJkI NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 304 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/02 00:13:50 ID:LXeeKxuo [1/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
【19日目、続き】


「安っ! 野菜クッソ安っ!」

激安の殿堂、スーパーメガやす。

自宅で貰った生活費に限界が近づいていることもあり、俺は赤に黄色の縁取りの馬鹿でかい値段表記に興奮していた。

ラプラスに乗って一旦帰ることになるかと思っていたが、これならほのおの試練まで財布がもつかもしれない。

一発で突破してリザードンのライドの権限を取得できれば、かなりスムーズに島巡りを進められるだろう。


そのためにもまずは買い物だ。

うおお、ポケマメ2パックイチキュッパ!!
 ▼ 305 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/02 00:14:55 ID:LXeeKxuo [2/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ほのおの試練は土日を挟んで5日後。

島巡りのシステムは基本的に平日9時-5時のお役所仕事で回っており、日のめぐりが悪いとこういうことになる。

当面の間ドーム前のポケセンを拠点にレベル上げをすることになるので、近くに激安スーパーがあって本当に助かった。
 ▼ 306 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/02 00:16:53 ID:LXeeKxuo [3/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

企業努力に感謝しながら試練までの日程と予算を組み立てていると、前の客の会計が終わりに差し掛かっていた。

カウンターに置いた買い物カゴを前に滑らせて、壮年の男性レジ員の前に進み出る。

レジ員「お待たせいたしま……

……サンダースか。へっ、こいつはなかなかいいもん持ってそうだ」

「はい?」

いきなりレジ員の空気が変わった。
 ▼ 307 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/02 00:17:50 ID:LXeeKxuo [4/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

唐突に歴戦の猛者感を漂わせ、不敵な笑みを浮かべるレジ員。

頭上で眠りこけるサンダースを舐めるように凝視し、「ふむ」とか「ほう」とか言いながら値踏みしている。

いや、あの、レジ混んでるんですけど。

気まずいので、値踏みより商品の値段読み取りして欲しいんですけど。

「えっと……」

レジ員「おっといけねぇ。そういうのはもう辞めるって決めたのによ。

ま、アレだ。そいつは強くなる。俺が言うんだから間違いねぇ」

だからあんたは誰なんだよ。
 ▼ 308 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/02 00:19:33 ID:LXeeKxuo [5/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

そのあとは普通に会計を済ませ、スーパーを出た。

あのレジ員が何者なのかは知らないが、とりあえず俺のサンダースは只者じゃないらしい。

「なぁ、お前ってもしかして秘めた力とかあったりすんの?」

頭のチクチクとした感触に向かって語りかける。

「キュィ……」

返ってきたのはふやけた寝言。

やはり、あのレジ員が何らかの方面で頭おかしいだけかもしれない。

まぁ、覚醒フラグっぽくて縁起がいいので良しとしよう。
 ▼ 309 伝と予告◆SxCy/NIFN. 17/04/02 00:37:02 ID:LXeeKxuo [6/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


http://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=566603

エイプリルフールSS企画( 詳細 http://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=554348)の参加作品です。

このSSと同じアローラの別の場所でのお話ですので、良ければ読んでいってください。

そのうち、こっちの話ともクロスする予定です(読んでなくても全く差し支えない程度にですが)


では、失礼しました。

 ▼ 310 スボー@トポのみ 17/04/02 02:09:21 ID:XNXBONHo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
これは元ジャッジですかね…
 ▼ 311 ーク◆wGiHMAH5Hk 17/04/02 02:10:21 ID:O7ap75QY NGネーム登録 NGID登録 報告
>>1
俺がいる…
 ▼ 312 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/02 18:10:36 ID:FMryvEl. [1/5] NGネーム登録 NGID登録 報告
【20日目】


おいおいおい、やべぇよ。

サンダース、クソ強ぇよ。

真っ向勝負で普通に勝ててるよ。

こんな感覚初めてだ。

相手の攻撃を全部避けて、こちらの攻撃を全部当てる。

こんなアホみたいな必勝理論がまさか実行可能とは。

昨日のレジの人、見る目あるじゃないか。
 ▼ 313 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/02 18:11:45 ID:FMryvEl. [2/5] NGネーム登録 NGID登録 報告


7番道路でのレベル上げは、あり得ないほど順調に進んだ。

悪評の元となる狡い戦術を封印しての戦闘に不安を覚えていたが、どうやら全くの杞憂だったらしい。

進化したサンダースのスペックは、どう考えてもこの辺りの水準を大幅に上回っていた。

なにせ、小細工なしの技の打ち合いに不慣れな俺ですら難なく勝ててしまうのだ。

攻撃力も機動力も圧倒的。

つい最近まではコイルとヤドンにお守りをされていたイーブイが、今やパーティのレベルを牽引する側になっていた。
 ▼ 314 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/02 18:16:32 ID:FMryvEl. [3/5] NGネーム登録 NGID登録 報告

しかし、このまま闇雲に対戦数を重ねて行けば、またすぐに悪評が広がってしまうだろう。

小細工無しなら問題ないのではないかと思うかもしれないが、なにせ相手はほとんどが11やそこらの小学生だ。

「負けは全て相手のせい」という自己中心的世界観を持っている輩が少なからずいるのが世の常であり、スペック差による勝利というのも「卑怯」判定がつきかねない。

事実としてかみなりのいしはかなりの希少価値を持つ代物であり、この段階でサンダースと言うのも悪目立ちの要因となりうる。

あまり積極的に対戦を仕掛け続けるのは、得策とは言えないだろう。
 ▼ 315 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/02 18:17:15 ID:FMryvEl. [4/5] NGネーム登録 NGID登録 報告
そんな懸念もあって、今日は早々にレベル上げを切り上げた。

三戦全勝で賞金は合計1240円。

節約のためテント泊にしようかと思っていたところだが、思いの外稼げたのでポケセンに泊まることにした。
 ▼ 316 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/02 18:17:49 ID:FMryvEl. [5/5] NGネーム登録 NGID登録 報告

警戒態勢で来た道を引き返しながら、今後のレベル上げの方針について思案する。

1日に2、3戦、あちらから仕掛けられた場合のみ戦う。

長期化を見据えた円滑な島巡りのため、これをレベル上げのルールとしよう。

要は何事もほどほどに勝つのが重要なのだ。

そこんところを、俺は先の経験から学習している。
 ▼ 317 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/04 15:25:19 ID:MPBtPD5M [1/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
【24日目】


ハイッ! ハイッ!ハヤハヤハヤハヤハァーーイッ

エスニックなBGMに合わせてガラガラたちがポーズをとった。

目を凝らし、先ほど見た記憶と目の前の光景を重ね合わせる。

切り取った2つのイメージの中で、おぼろな違和感を放つのは……

くっ……放つのは……!
 ▼ 318 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/04 15:26:18 ID:MPBtPD5M [2/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


ヴェラ火山中腹でテント泊をしていた昨日の夜。

例のごとく端末で試練の詳細を調べたが、なぜかぬしポケモン以外の内容が一切伏せられていた。

仕方ないのでぬし対策の作戦だけを練り、試練特有の茶番はぶっつけ本番で臨むことになったのだが……

なるほど、そういうわけか。

観察力のクイズとなれば、確かにネタバレは厳禁だ。

少し苦しいが、そもそも試練に前情報を持って来ること自体が邪道なのだ。

これぐらいは自力で超えねばなるまい。
 ▼ 319 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/04 15:27:17 ID:MPBtPD5M [3/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


迷いを残したまま、乾ききった口を開く。

「…………右、のガラガラ」

自信のなさから、つぶやくようにファイナルアンサー。

もう50万円には戻れない。

永遠とも思えるほど長い数秒間、静寂と緊張が辺りを包み……。


カキ「正解です。……おいでませガラガラ!!」

「ガラーラ!」
 ▼ 320 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/04 15:38:14 ID:MPBtPD5M [4/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ちょっ……ヤドン、出番!」

唐突すぎる戦闘開始に焦りつつも、素早くヤドンを繰り出した───

「##っ!!」

───つもりが、まさかのコイル。

やっばい、ボール間違えた。

俺の内心とは裏腹に張り切ってチャージを始めるコイルに、上段からジャンプ斬りが叩き込まれる。

ほねこんぼう。効果は……すごいばつぐん。

当然撃沈。

「すまん……マジで」

いや、ほんとすまん。
 ▼ 321 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/04 15:39:22 ID:MPBtPD5M [5/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


ヤドンがガラガラを順当に倒し、戦闘終了。

コイルの件は想定外だったが、どうやらこの試練もノーマルやみずのそれと大差はないようだ。

クイズ自体はそこまで複雑なものではないし、戦闘開始にさえ備えておけば先ほどのような悲劇も起こり得ない。

ガラガラのポーズを覚え、差異を指摘し、ガラガラを倒す。

ザッツオール。

さぁ、次行こうか。
 ▼ 322 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/04 15:43:11 ID:MPBtPD5M [6/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

一度目のポージングをしっかり目に焼きつけ、二度目のダンスタイム。

要は配置と角度だ。

すでに要領を掴んでいるため、今度はそうそう焦りも悩みもしない自信がある。

さぁ、変わるのはどいつだ……?

ダンスはいよいよ終局を迎え───

───音楽が終わると同時に、満面の笑みを浮かべたやまおとこが視界に飛び込んできた。
 ▼ 323 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/04 15:44:07 ID:MPBtPD5M [7/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「タイムアウト」

俺は右手を高く掲げ、キャプテンのカキにタイムを要求した。

カキ「どうしましたか。先程との違いを指摘すればいいだけですが」

「いや、もう一度。もう一度頼みます。意識を逸らされて見逃しました」

カキ「……? ではもう一度。繰り返しになるが、最初の形をよく覚えておいてくれ」

カキ「ミュージック、スタート!」
 ▼ 324 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/04 15:45:12 ID:MPBtPD5M [8/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



「……!!」

何度やってもやまおとこ。

どうやらこのやまおとこの壁を越えるところも含めて試練らしい。

「くっ、また集中がッ! もう一回お願いします!」

カキ「もう四度目ですが。そんなに難しいところはないはず……」

「いや! あのやまおとこ! 物凄く主張してきてガラガラどころじゃないんですけど!?」

カキ「……! 分かっているじゃないですか。……おいでませ、やまおとこ!」

やまおとこ「アローラ!!」
 ▼ 325 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/04 15:46:11 ID:MPBtPD5M [9/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

いやいやいやいや、それはおかしい。

やまおとこ「アローラ!!」

いくら茶番とはいえ、こんなものを正解とするクイズがあってたまるか。

やまおとこ「アローラ!!」

彼は視界妨害のためにいるのであって、きっとガラガラの中に異なるポーズをしているものが……

やまおとこ「アローラ!!」

うるせええええ!

ハッピーセットのおまけかあんたは!!
 ▼ 326 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/04 15:46:53 ID:MPBtPD5M [10/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

やまおとこ「アローラ!!……聞こえてないのかな?」

「聞こえてますよ! なんなんですかコレ!」

カキ「正解に喜んだやまおとこは、嬉しくて戦いたくなるのです」

やまおとこ「バトルだね!」

「…………っ!」

駄目だこの試練、早くなんとかしないと。
 ▼ 327 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/04 15:48:09 ID:MPBtPD5M [11/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


カキ「ブーバー、戦闘不能! よってチャレンジャーの勝利!!」

やまおとこ「ハハハハハ! 踊る阿呆に見る阿呆!!」

「よし、ナイスだヤドン」

「どやぁん」
 ▼ 328 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/04 15:48:44 ID:MPBtPD5M [12/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バトル自体は驚くほど普通だった。

相性の利で押し切り、多少手傷を負ったものの順当に勝利。

ここ最近は単純に技の威力や速度を鍛えていたこともあって、描写のしようもないほど普通の戦闘風景だった。
 ▼ 329 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/04 15:49:27 ID:MPBtPD5M [13/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

カキ「さぁ、次で最後です。もちろん受けますね?」

「ええ、やります。やってやりますよ」


この試練の趣旨はもう理解した。

大丈夫。もう何があっても気にしない。

ダンスの決めポーズにやまおとこが混じっているのも気にしない。

最後ってことはあれだろ?

つまりはそういうことなのだろう?
 ▼ 330 し戦は次回◆SxCy/NIFN. 17/04/04 15:50:39 ID:MPBtPD5M [14/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

カキ「今の形をよく覚えておいてくれ。……では2回目、スタート!」

ハイッ!ハイッ!ハヤハヤハヤハヤ……

……ハァイ!

カキ「先ほどの踊りと……あぁ、正解です」

キメに合わせて飛び出したエンニュートを、無言で指差す。

若干カキの機嫌を損ねたようだが、もう余計なツッコミは無しだ。

カキ「では。……おいでませ、ぬしポケモン!!」

「どくどくーーっ!!」
 ▼ 331 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/05 20:45:00 ID:f3BlKANk [1/14] NGネーム登録 NGID登録 報告


「ヤドン、一点集中でみずでっぽう!」

「やふっ!」

「シャッ!」

エンニュートが俊敏に右に左に切り返し、みずでっぽうは空を穿ってはるか後方の山肌をびしゃりと濡らす。

やはり簡単には詰ませられないようだ。

2発、3発と続けて回避したぬしは、だらりと前傾した姿勢のまま風切り音を引いて突っ込んで来た。

ニヤリと歪んだ口元に覗く萌黄色の光。

ぬしの攻撃が来る。
 ▼ 332 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/05 20:46:05 ID:f3BlKANk [2/14] NGネーム登録 NGID登録 報告


ほのおの試練ぬしポケモン、エンニュート。

その特徴は、一言で言えば高速高火力。

俊敏な回避、接近からのはじけるほのおで一方的に挑戦者を捩じ伏せていく。

他にもどくタイプ方面の行動や仲間との連携など様々な対処項目があるが、まず問題にすべきはこの速さだ。

このようなタイプのポケモンはおおよそ全ての島巡ラーがあまり慣れていないものであり、初見ではその速さに戸惑うこと請け合い……らしい。

サンダースの高速戦術が7番道路のレベル上げで一貫して有効だったことからもそれは伺える。

実際、スピード重視の一点集中撃ちを回避している時点で相当な速度であることは間違いない。
 ▼ 333 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/05 20:47:04 ID:f3BlKANk [3/14] NGネーム登録 NGID登録 報告

確かに、速さというのは重要なファクターだ。

相手より速いということが戦闘の行方を決定づけることは珍しくない。

だが、速さはそれ単体で機能しているわけではない。

今回のバトルは、速さ以外のイニシアチブをいかに奪っていくかが鍵になる。

大丈夫、そのための作戦は練ってきたはずだ。
 ▼ 334 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/05 20:47:54 ID:f3BlKANk [4/14] NGネーム登録 NGID登録 報告


「ジェアッ!」

エンニュートの口から勢いよく炎弾が放たれる。

「しっぽで弾け!」

「やん!」

ここまで接近されたのではみずでっぽうでの相殺は不可能だが、この動きは情報の通り。

よってこちらもプラン通りに対処。

そして、プラン通りに反撃に出る!
 ▼ 335 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/05 20:48:54 ID:f3BlKANk [5/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
「みずでっぽうで足元を薙ぎ払え!」

「や、ふーーーっ!」

今度は水勢最大で範囲攻撃。

フィールド一面を端から横薙ぎに水圧で覆い尽くす。

「ジャッ! 」

エンニュートは足元が水に呑まれる直前に高くジャンプ。

円弧の頂点に達し、そのまま落下の勢いも乗せて上空から炎を浴びせにかかるが……

「ヤドン、今だ!……かなしばり!」

「ジェッ!?」

不意に口を光の輪で縛られ、口の端から小さな悲鳴と黒煙を漏らす。

遠くで試練を見守るカキの「あっ」的な表情。

よし、決まった。
 ▼ 336 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/05 20:50:48 ID:f3BlKANk [6/14] NGネーム登録 NGID登録 報告


2日前に覚えた新わざ、かなしばり。

相手が直前に使ったわざを1分ほどに渡って封印する、強力な補助わざである。

しかしそういう良さげな話には裏があるもので、やはり成功条件はそれ相応に難度の高いものだった。

それは、約1秒半後の相手の存在位置に向かって放ち続けるというもの。

というか念を送るタイプのわざは大体こんな感じらしい。
 ▼ 337 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/05 20:52:09 ID:f3BlKANk [7/14] NGネーム登録 NGID登録 報告

そういうわけで、下を狙った範囲攻撃で上空に誘導した。

一度ジャンプしてしまえば軌道はほぼ変えようがなく、1.5秒後の位置の予測も可能となる。

そしてエンニュートの攻撃わざははじけるほのおのみ。

つまり、これであちらからの決定打は完全に封じた。

完全にこちらのペースである。
 ▼ 338 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/05 20:53:36 ID:f3BlKANk [8/14] NGネーム登録 NGID登録 報告


「ジェエエエアッ!」

わざを封印されながらも平静を取り戻したエンニュートが、低く唸り声をあげた。

岩陰から何かが這いよる音。

おそらく仲間呼びだ。

「いい仕事だヤドン! 後は頼んだ、サンダース!」

「キュルッ!」

ヤドンの攻撃もまた当たらないため、有効打とはなり得ない。

この1分で勝負をつけるべく、この隙にサンダースに交代。

ここからは機動力対機動力の真っ向勝負となる。
 ▼ 339 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/05 20:54:17 ID:f3BlKANk [9/14] NGネーム登録 NGID登録 報告

「サンダース、ヤトウモリにでんこうせっか」

「キュキュイッ!」

サンダースが弾かれたように身を踊らせ、現れたヤトウモリに向かって一直線に突っ込む。

「しゃ……!」

ヤトウモリは超スピードに面食らいつつも炎を溜め、迎撃体制に入った。

さすがはお供、ぬしの速度を普段から見ているだけはある。
 ▼ 340 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/05 20:55:09 ID:f3BlKANk [10/14] NGネーム登録 NGID登録 報告

だが、ここからがサンダースの真骨頂。

「ドリフトして方向転換!!」

「キュッ!」

「しゃっ!?」

ザザッと激しい砂煙を舞い起こし、直角にターンしてエンニュートに標的を移す。

目の前でブレーキされ、モロに砂が目に入ったヤトウモリが狼狽えている。
 ▼ 341 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/05 20:56:59 ID:f3BlKANk [11/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
新戦術、《すなかけブレーキ》。

真っ向勝負と言ったな、あれは嘘だ。



エンニュートの攻撃を封じても、それだけで詰ませられるほど試練は甘くない。

ぬしのエンニュートがどくどくで補助に回り、ヤトウモリがベノムショックで追撃というコンボもあるのだ。

よって作戦の第2段階、ヤトウモリをすなかけで籠絡しつつエンニュートに集中攻撃。

1対2という圧倒的不利な状況において、一度でも相手の策を通せばそれは敗北に直結する。

だから常に先手を打って攻撃手段を奪う。

カキの顔が「あっ」から「は?」みたいな表情に変わっているが、これは当然の帰結である。

敢えて言わせてもらおう、「対策してない方が悪い」と。
 ▼ 342 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/05 20:58:08 ID:f3BlKANk [12/14] NGネーム登録 NGID登録 報告

ヤトウモリに砂を浴びせ、エンニュートに攻撃し、即座に折り返してまた砂を浴びせる。

これをここまでに4回繰り返し、とうとうヤトウモリは完全に目が開かなくなった。

かなしばりの効果切れまで、あと20秒そこそこ。

このまま押し切る!

「サンダース、まだまだ行くぞ!」

「キュイッ!」

勢いよくドリフトし、リピート再生の如く同じ光景を繰り返す。

だが、五度目の再生の結末は違ったものになった。
 ▼ 343 し後半は次回◆SxCy/NIFN. 17/04/05 20:59:18 ID:f3BlKANk [13/14] NGネーム登録 NGID登録 報告

「ジェアッ!」

「キュッ!?」

思い切り踏み切って突撃するサンダースの懐に、二本の腕が掴みかかる。

とうとうエンニュートがでんこうせっかを見切ってしまった。

空中で胴体を掴まれてバタつくサンダースに、エンニュートが口元を大きく歪ませ───

「ドクドクーーッ!!」

「キュイイーーーーーー!」

───イーブイに猛毒が炸裂した。
 ▼ 344 ゴラス@ポイントアップ 17/04/05 21:28:46 ID:7R0cmhmY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 345 やってんだ俺◆SxCy/NIFN. 17/04/05 21:33:27 ID:f3BlKANk [14/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
>>343

最後、イーブイ→サンダース に訂正です
 ▼ 346 色狐◆7yYkDV/Lvk 17/04/06 14:52:37 ID:9nqUNts2 NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 347 ニドリル@1ごうしつのカギ 17/04/08 18:51:36 ID:7ZHhLSOE NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
支援
 ▼ 348 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:13:57 ID:m04JJJKk [1/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「サンダース、でんきショックで抜け出せ!」

「キュ……キュイーーーッ!」

「シャッ……!」

ゼロ距離から電撃を放たれ、エンニュートは拘束を解いて大きく後ろに飛び退く。

脱出には成功したものの、直撃は回避された。

余波もぬしのオーラに阻まれダメージはほとんど通っていない。

毒にむせるサンダースを睨め付け、ニタリと余裕の笑みを浮かべるエンニュート。

畜生、今の数秒で流れを完全に持っていかれた。
 ▼ 349 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:14:51 ID:m04JJJKk [2/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

事前に用意していた策が破られ、どう指示を出すべきか分からず下唇を噛む。

エンニュートもまた動かない。

毒で機動力を削いだのをいいことに時間を稼ぎ、封印解除を待ってから攻めに転じるつもりだろう。

そう来られると、こちらからダメージを与えにいくのは尚のこと難しい。

ヤドンが施したかなしばりの光は、既にだいぶ淡くなっている。

手元のタイマーを見やる。

残り時間、約10秒。
 ▼ 350 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:15:56 ID:m04JJJKk [3/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ぬしと睨み合っていると、突如視界の端からサンダースめがけてどす黒い液体が飛んで来た。

「しまっ……!」

視界を奪い完全に無力化したと踏んで、ヤトウモリ存在を失念していた。

音と匂いで位置を特定し、死角から不意打ちのベノムショック。

毒状態に反応して威力が倍増するわざ。

もちろん、今のサンダースが食らったらひとたまりもない。
 ▼ 351 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:17:27 ID:m04JJJKk [4/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「かわせ!」

無茶振りだと分かっていながら叫ぶ。

指示というよりはもはや願望に近い。

毒に侵された体で回避できるタイミングではないのは明らかだ。

コンマ数秒ののちに毒液は的確にサンダースの体を捉え、その必殺の威力を炸裂させるだろう。

手負いのヤドンでどうにかなる状況でもない。

目前に迫る敗北の瞬間に、思わず目を閉じる。

クソッ、ここまでか……!
 ▼ 352 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:18:33 ID:m04JJJKk [5/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

諦めかけたその時、風が唸った。


僅かに遅れて、粘性の毒液が飛び散る音。


恐る恐る目を開くと───


「おま……マジで避けたのか?」

「キュイ……?」

───黒い水たまりの傍に、キョトンとした顔のサンダースがいた。
 ▼ 353 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:19:17 ID:m04JJJKk [6/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

よく見ると、サンダースの瞳が赤く淡い光を放っている。

なんだこれ……?

「サンダース、お前どう」

「ジェァアーーーッ!!」

空気読めよ!!

今サンダースの異変について考察してるところだろうが!!
 ▼ 354 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:21:22 ID:m04JJJKk [7/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

仕方なく雄叫びの方に目をやると、かなしばりの光の輪が砕けたところだった。

光の残滓を散らして、エンニュートが猛然と迫ってくる。

その口に覗くのは萌黄色の炎。

フィールドの左端では再びヤトウモリが毒液を溜めている。

同時攻撃を仕掛け、一気に仕留めるつもりだろう。
 ▼ 355 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:22:14 ID:m04JJJKk [8/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

当初の計画では、その状況になったら詰みと考えていた。

だが。

「サンダース、全部避けるぞ」

「……キュイ」

さっきの「かわせ」は無理だと思いながら言ったが、今はそれができる確信がある。

認識が遅れたにもかかわらずベノムショックを回避し、そして何より目から漏れ出す赤い光。

ここまで来て何もないなんてあり得ない。

絶対に勝てる、そういう流れだ。
 ▼ 356 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:24:36 ID:m04JJJKk [9/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ジェアッ!」

「しゃーっ!」

前方から炎弾、左から毒液。

「かわせ!」

風を鳴らしてサンダースが跳びさり、目の光が残像の軌跡を残す。

炎は地面を焦がし、毒液は岩肌を僅かに溶かした。

やはり、いける!
 ▼ 357 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:25:09 ID:m04JJJKk [10/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


炎と毒液が幾度も飛び交うが、そのどれもがサンダースを捉えることなくフィールドに飛び散る。

しかし、このままではいずれ毒で消耗し力尽きてしまうだろう。

回避できるだけでは勝てない。

勝つには、攻めること……!
 ▼ 358 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:25:46 ID:m04JJJKk [11/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「サンダース、走りながら電気を溜めろ!」

「キュイ!」

炎と毒の弾幕を猛スピードの切り返しですり抜けながら、サンダースが大きく息を吸い始めた。

みるみるうちに体毛が鋭く逆立ち、バチバチと火花を散らしだす。
 ▼ 359 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:26:53 ID:m04JJJKk [12/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


サンダースの電撃は、体内機関で精製した電気を、吸い込んだ大気中のイオンで強化して放たれる。

浮遊、移動、攻撃の全てに複雑な磁力操作を用いるコイルと異なり、チャージと移動を並行することはそこまで難しくないはずだ。

……と、適当に予想しての指示だったのだが、マジでできるらしい。

正直さすがに無理だと思っていた。

こいつ、本当に天才なのかもしれない
 ▼ 360 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:28:02 ID:m04JJJKk [13/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「キュッ……!」

サンダースが苦しげに小さく呻く。

スピードは落ちていないものの、体力はやはり確実に抉られている。

攻撃のチャンスは、おそらくこの一回きり。

オーラで特殊攻撃を阻むエンニュートを一撃で倒すには、普通に浴びせるだけでは足りないだろう。

となれば……
 ▼ 361 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:28:35 ID:m04JJJKk [14/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「サンダース、ぬしに突っ込め!」

「キュイ!」

はじけるほのおをスライディング気味に潜り抜け、そのままエンニュート目掛けて正面からダッシュする。

近づけば近づくほど回避は困難になるが、しかしリスクを背負わずに勝つのはもっと困難だ。
 ▼ 362 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:29:10 ID:m04JJJKk [15/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ジェアッ!!」

再び炎が放たれる。

「踏み切れ!」

サンダースが地を蹴り、身を宙に踊らせる。

後ろ足を炎が僅かに掠めたが、慣性に維持されたサンダースの突撃は止まらない。

「そのまま飛びつけ!」

「ジェアッ!?」

サンダースがエンニュートの首に飛びかかり、しがみついた。
 ▼ 363 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:30:19 ID:m04JJJKk [16/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

エンニュートが慌ててサンダースを引き剥がしにかかる。

が、もう遅い!

「でんきショック!!」

「キュイイーーーーッ!!!!」

「ドクドクゥゥウーーーーッ!!」

エンニュートの絶叫が山頂に響き渡る。

ぬしがッ!

「ドクゥーーーーーッ!!」

倒れるまで!

「ウゥゥァァアーーーッ!!」

放電をやめないッ!!

「ア"ア"ア"ア"ア"ーーーーーッ!!!!」
 ▼ 364 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:31:18 ID:m04JJJKk [17/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







カキ「くっ……これが……ほのおのZクリスタルです……!」

「ありがとうござ……ちょっ、握りしめてないではよう渡してくださいよ……!」

ほのおの試練を突破した俺は、キャプテンと小競り合いをしていた。
 ▼ 365 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:37:24 ID:m04JJJKk [18/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

カキ「いや……! 一つしかない攻撃技を封印するとか、果たして認めて良いものかと……!

その後も砂かけしながらチマチマチマチマと小狡い戦法を取っていたしな……!」

「敬語消えてんぞキャプテンさん……! かなしばりもすなかけも立派な戦術でしょうが……!」

カキ「いや、断じて立派ではない! そもそもZワザとはそう軽々しく伝授するものじゃないんだ! そのような心構えで……! クリスタルを受け取ろうなど……!」

「リング無いのでお構いなく……! Zワザは使えませんから……! だからいいだろ……よこせよ……!」

カキ「リングがない……? 貴様、禁忌を犯したな!? ならなおさら……!」

「そうじゃねぇよ訳ありなんだよ! いいから、はよ渡せーーーっ!!」
 ▼ 366 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:38:27 ID:m04JJJKk [19/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


10分ほど口論を続け、お互い言うことがなくなり膠着状態になった。


ほのおのキャプテン、カキ。

試練が終わってすぐに慌ててどくけしをくれたあたり、悪い人ではない。

実直な性格ゆえにこういう捻くれた戦法に忌避感があるとか、そんな感じだろう。

一方俺は基本勝てばいいと思っているので、絶対に反りが合わないタイプだ。

カキは今も眉間にしわをガン寄せしてむーむー唸っている。

心底渡したくないんだろうなぁ……。
 ▼ 367 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:39:12 ID:m04JJJKk [20/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

カキ「あああああ!!

……仕方がない、認めます。確かにお前は何もルール違反はしていない。

俺は気にくわないが、それを理由に渡さないというわけにもいかないからな」

「気にくわないのは否定しないのか……」

カキ「あぁ。いっそ普通に反則してくれた方がまだ良かった。ルールで裁けないのが一番タチが悪い」

「そこまで言うか」

カキ「すまん、言い過ぎた。俺の悪い癖だ。

まぁ、最後の方は正面切ってバトルしていたし、そこは認め……なくもない」

急にうつむきがちになり、消え入るように話すカキ。

何これ、ツンデレ?

最高に需要ないんだが……
 ▼ 368 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:40:04 ID:m04JJJKk [21/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

このままデレが加速しても困るので、話題を切り替える。

「最後の方……といえば。サンダースの目が光ってたんだけど、なんだったんだ?」

カキ「目……? あぁ、あれは多分はやあし発動の兆候だな」

「はやあしって……特性の? サンダースってちくでんじゃなかったか?」

カキ「はやあしはサンダースの隠れ特性。ごく稀に通常と異なる特性をもつポケモンが生息しているんだ。

トップトレーナーはタマゴで遺伝させて個体を増やしたりもする」

「へぇー」
 ▼ 369 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:43:11 ID:m04JJJKk [22/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

つまりはこれも孵化余りの恩恵か。

未知の力とかが眠っていたわけじゃないのか。

ちょっと残念。

でもまぁ、それもまたいいか。

「な。」

「キュイ!」
 ▼ 370 ッタ@カイロスナイト 17/04/09 07:30:50 ID:QUzADJek NGネーム登録 NGID登録 報告
良いねぇ

支援
 ▼ 371 色狐◆7yYkDV/Lvk 17/04/09 15:07:30 ID:bYBAJjU2 NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 372 ランテス@ムシZ 17/04/12 00:14:33 ID:hwtU5T6Q NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
支援
 ▼ 373 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/12 02:48:44 ID:0lFQxMU2 [1/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


【24日目、午後】


「大きくなれよー……っと」

優しく語りかけながら、直径10cm弱のゴロッとしたタネの上に丁寧に土を被せる。

この一粒のタネが、いずれ芽を出し葉を増やし天高く伸び上がり……。

その光景を想像すると、嫌が応にも口角が上がってしまう。

あぁ、ワクワクが止まらない。
 ▼ 374 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/12 02:49:23 ID:0lFQxMU2 [2/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

メガやすの園芸コーナーで買った種子。

自給自足の広告が琴線に触れ、自宅の庭で家庭菜園を始めた……

……というわけではない。

農作物の種でもなければ、庭の畑でもない。


リザードンに乗ってメレメレまで戻ってきた俺は、帰宅前にちょっとした寄り道を
 ▼ 375 スです◆SxCy/NIFN. 17/04/12 02:50:22 ID:0lFQxMU2 [3/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>374
していた。
 ▼ 376 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/12 02:54:21 ID:0lFQxMU2 [4/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
カントー原産、「細い木」。

7〜10年程かけて、最終的に直径60cm、高さ2mほどの小木に成長する樹種である。

特筆すべきは、その圧倒的な生命力。

まず、極寒の地でも灼熱の大地でも何の問題もなく発芽する。

そして一度芽が出てしまえば、何者もその命を刈り取ることはできない。

詳しいメカニズムはよく知らないが、物の例えではなく本当にそうらしい。

メガやす広告チラシの煽り文曰く、『世界最強の植物』。
 ▼ 377 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/12 02:55:28 ID:0lFQxMU2 [5/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

そんな究極生命体を、俺はククイ邸の玄関目の前に植えた。

ドアを開ければ細い木。

家に帰れば細い木。

切っても切っても切っても切っても、目を離した隙に細い木。


やがて木が育ち、玄関を塞ぐ大きさになるのが何年後かは分からない。

だが、その時は確実に訪れる。

そしてその時が来ると分かっていても、木の成長は止められない。

日に日に伸びる幹を眺めながら、自らの無力さに存分に打ちひしがれて貰いたいと思う。
 ▼ 378 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/12 02:57:29 ID:0lFQxMU2 [6/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ククイ博士に一矢報いるという目的はこれでおおよそ達成された。

明日まで掘り起こしでもされない限りは確実に発芽し、未来永劫この玄関前で悪夢を見せ続けるだろう。

最高に晴れ晴れとした気分だ。


それじゃ、用事も済んだし。


帰るか。
 ▼ 379 ミロル@もえぎいろのたま 17/04/12 05:41:56 ID:wgsqF0es NGネーム登録 NGID登録 報告
嫌がらせで草
 ▼ 380 オガエン@ピーピーエイダー 17/04/13 01:29:48 ID:NhxU2uFU NGネーム登録 NGID登録 報告
ワロタ
 ▼ 381 ガデンリュウ@むらさきのミツ 17/04/15 22:30:09 ID:tBEpqGQM NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
支援
 ▼ 382 チリス@こだわりメガネ 17/04/16 01:07:34 ID:a1O2HPaw NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
支援





 ▼ 383 イリーフ@きんのいれば 17/04/16 15:04:57 ID:5NTP.wJI NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ▼ 384 存報告◆SxCy/NIFN. 17/04/17 00:54:48 ID:.lOkqZuE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
微妙に忙しい時期なのと、このSS自体だいぶ見切り発車だったのとで、最近は更新が滞りがちです
申し訳ない
 ▼ 385 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:03:07 ID:rNQ0UYsc [1/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
【25日目】


───ヴェラ火山、山頂


カキ「ハハハハハ! カキです。 ……アッハハハハハハハハ!

気分はどうだ? ほらどうなんだ!?」

「くっ……殺せ!」

ダイチ1「アローラ! もう逃げられないよ!」

ダイチ2「アローラ! 君は力つきるまで踊りを続けるんだ!」

ダイチ3「アローラ! ちなみに僕は3分40秒につき1人増えるよ!」

ダイチ4「アローラ! つまりはそういうわけさ! さぁ、君も僕になろう!」

ハイッ! ハイッ! ハヤハヤハヤハヤ……
 ▼ 386 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:03:43 ID:rNQ0UYsc [2/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ハァイ!?」

…………?

ここは……俺の部屋だ。

カーテンの隙間から光がさしている。

……朝か。

なんか、とても恐ろしい夢を見ていた気がするんだが。
 ▼ 387 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:04:21 ID:rNQ0UYsc [3/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ちらりと枕元の時計を見ると、時刻は午前5時半。

目覚ましが鳴るまであと1時間半ほどある。

だが、夢の影響かなぜか目が冴え切っていて、どうにも二度寝できる感じではない。

俺は仕方なく布団から体を起こした。
 ▼ 388 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:05:43 ID:rNQ0UYsc [4/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「あれ?」

座布団の上で、サンダースとヤドンが一緒に寝息を立てていた。

珍しい、というか初めて見る光景だ。

イーブイだった時から、毎晩遅くに決まってコイルを起こして朝まで一緒に寝ていたのだが。

昨日はどういうわけかヤドンに添い寝を頼んだらしい。

コイルが熟睡してて出てきてくれなかったんだろうか?
 ▼ 389 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:06:50 ID:rNQ0UYsc [5/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「きゅぅ……?」

2匹の寝顔をまじまじと見つめていると、サンダースがぼんやりと目を開いた。

どうやら起こしてしまったようだ。

「まだもうちょい寝ててもいいぞ」

「きゅぃ……」

俺の言葉が聞こえているのかいないのか、サンダースは目をしばしばさせながら眠り声を漏らした。

むくりと起き上がり、枕元に3つ固めて置いてあるモンスターボールの方にフラフラと歩み寄る。

ボールの中で二度寝するのだろうか?
 ▼ 390 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:07:55 ID:rNQ0UYsc [6/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「きゅっ」

コツン、と開閉ボタンを小突く。

が、反応がない。

「それ、コイルのだぞ。 ちゃんとシール貼ってあんだろ?」

昨日ボールを取り違えたことを反省し、それぞれのボールに文具屋で買ったタイプシールを貼ってある。

今つついたボールの上部に見えるのは鉄骨のマーク。

コイルのはがねタイプのシンボルだ。

複合タイプ分貼ってもかえってややこしいだけなので、こういう形を取ってある。

ちなみにサンダースのボールは稲妻のマーク、ヤドンのボールは海のマークである。
 ▼ 391 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:09:04 ID:rNQ0UYsc [7/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「きゅい……」

心なしかため息混じりに、サンダースが踵を返した。

諦めはやいな、おい。

あんまり朝早くから活動することが無かったから気づかなかったが、こいつこんなに寝起き弱かったのか。

ねむり状態にするわざには注意せねば……。
 ▼ 392 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:09:35 ID:rNQ0UYsc [8/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ん?」

そういえば、コイルはどこだ?

モンスターボールの開閉ボタンは、誤って押した場合でも律儀に作動するはずだ。

さっきので出てこなかったということは、どこか別の場所で寝ているということになる。

辺りを見渡しても、それらしい影はない。

これってまさか、家出でもしたんじゃ……!
 ▼ 393 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:10:17 ID:rNQ0UYsc [9/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ガタッ!

「っ!?」

悪い予感に呼応するかのように、木製の引き戸を強くノックしたような音が響いた。

音がしたのは背後、学習机の方からだ。

何かいる……!
 ▼ 394 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:11:06 ID:rNQ0UYsc [10/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

恐る恐る、机の引き出しに手をかける。

まぁ何がいるのかは大方予想がついているが、引き出しの中が異世界の入り口と化している可能性も否めない。

うっかり引きずりこまれないように両足を踏ん張り、引き出しを思いっきり引っ張ると……

「なんでこんなとこで寝てんだよ……」

「##……?」

……案の定、寝ぼけまなこのコイルがいた。
 ▼ 395 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:12:39 ID:rNQ0UYsc [11/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「やぁん……」

ヤドンが「やれやれ……」的な鳴き声を漏らす。

6時前だというのに全員起きてしまった。

「まだ寝てても……いや、みんな起きちゃったんならもう動くか」

活動開始には少々早い時間だが、リザードンライドがあるので時間の融通は利ききやすい。

空のラッシュアワーを避ける意味でも、早朝に動き始めるのは正解かもしれない。


ともかく、次の試練は島巡りのターニングポイントだ。

気合い入れていこう。
 ▼ 396 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:13:44 ID:rNQ0UYsc [12/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



空の道はそれなりに混み合っていた。

島巡ラーからサラリーマンまで、様々な目的の人たちがリザードンに跨り飛び交う。

ラッシュアワーを避けてもこれなので、予定通りに起きていたら結構大変だったかもしれない。

ハウオリ方面に向かうスーツ姿の初老の男性とすれ違った。

ハッスルな通勤形態とは対照的に、途方も無い疲労感が滲んだ顔。

人生の闇を見てしまったような感じがして、なんだか気が滅入る。
 ▼ 397 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:14:31 ID:rNQ0UYsc [13/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

アーカラ島は、ハウオリからリザードンで東に向かって50分ほど。

リザードンライドのレンタル料は600円+400円/30分なので、片道1000円である。

往復2000円という費用や移動にかかる時間を考慮すると、毎日帰るというのはあまり現実的ではない。

それゆえ仕事などで常用する人は自家用リザードンを購入することも多いが、当然子供の小遣いで手が届く額ではない。

ちなみに、乗り心地は結構快適なのだが、それでもなぜかコイルは酔う。

移動時間が船旅ほど長くはないので、さほど深刻な問題ではないのだが。
 ▼ 398 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:15:27 ID:rNQ0UYsc [14/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

目的地のターミナルが見えてきた。

繰り返しになるが、次の試練は島巡りのターニングポイント。

ここを超えられるかどうかが最大の壁であると言われている。

とはいえ、ぬしと戦う試練は曲がりなりにもここまで全て1発突破してきた。

11歳向けの試練に13歳で挑戦しているのだから、よくよく考えれば妥当な結果だ。

今回も下調べを怠らずに策を練り、その上で全力で戦えば負けることはないだろう。
 ▼ 399 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:16:28 ID:rNQ0UYsc [15/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「リザードン、あのターミナルに降りてくれ!」

「グルッ」

リザードンが短く吠え、ライドターミナルめがけて降下を開始した。

緩やかな角度で行われているはずのこの動作だが、乗っている側としては結構なスリルを感じる。

下腹部のあたりに『ひゅんっ』と来る感覚は、ジェットコースターの落下の瞬間のそれに近い。
 ▼ 400 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:17:42 ID:rNQ0UYsc [16/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

昨日は特に考えもせず乗ったが、これ事故件数とかどんなもんなんだろう、と、強烈な風を浴びながら考える。

……考えなきゃよかったなぁ。

10割増しになったスリルが五臓六腑を駆け抜けたところで、リザードンが減速を開始。

俺の不安とは裏腹に、ごくごく安全に着地した。

背中から降りると、リザードンが「プロ舐めんな」的な眼差しでこちらを睨んできた。

「す、すまん」

どうやらライドポケモンには一流としてのプライドがあるらしい。

いや、それでも怖いものは怖いが。
 ▼ 401 メハダー@バンジのみ 17/04/18 20:28:37 ID:LfXw9EqU NGネーム登録 NGID登録 報告
試練は次回かな?
 ▼ 402 ガヘラクロス@あおぞらプレート 17/04/19 19:31:42 ID:GE0Zpzjk NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 403 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:12:30 ID:9oxIHSls [1/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



精算を済ませ、ターミナルを後にした。

アーカラ島後半戦のスタート地点に選んだのはここ、オハナタウンの預り屋だ。

これからシェードジャングル最寄りのポケセンに向けて出発する。
 ▼ 404 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:14:25 ID:9oxIHSls [2/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

それならロイヤルドームからの方が近い、と思う人もいるかもしれないが、それは大きな間違いだと思う。

確かに推奨ルートではヴェラ火山を東から回って8番道路を通ることになっている。

これは、5番道路を南北に結ぶ道がないためだ。

だがよく考えてみて欲しい。

5番道路を南北に隔てる段差は、本当に乗り越えられないのだろうか?

ガイドには、「北側から預り屋方面に戻る際には飛び降りることはできる」とある。

飛び降りられる程度の段差。

実際に見に行ったわけではないので断定はできないが、常識的に考えれば自ずと結論は出る。
 ▼ 405 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:16:11 ID:9oxIHSls [3/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



そういうわけで、3時間ほど歩いて件の段差までやって来た。

高さ、目算3.5m。

『反り立つ壁』と同じくらいだろうか。

あの壁には毎回多くのチャレンジャーが涙を飲むが、今目の前にある壁はそれほどの難易度を感じさせるようなものではない。

まず反り立ってはいないし、壁面に足がかりとなる凹凸があるし、何よりチャレンジャーたる俺は道具の使用が自由だ。

確信した。

この段差はやはり登れる。
 ▼ 406 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:17:48 ID:9oxIHSls [4/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

そうと分かれば話は早い。

リュックからから取り出したハーケンを岩肌に突き刺し、手応えを慎重に確かめつつ、少しずつ上へ上へと進んでいく。

2mほどよじ登り、もう一歩で段差の上に頭が出るところまで来た。

ここまで来ればもう余裕だろう。

段差の淵に手をかけ、一気に体を持ち上げると、

「!」

その瞬間、全身を例の感覚が突き抜けた。
 ▼ 407 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:18:57 ID:9oxIHSls [5/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

バッドボーイ「よう」

崖から顔だけ出した俺を見下ろし声をかけてくるのは、不良っぽい見た目の男子。

つまり、目と目が合ってしまった。

上の様子くらい確認しておくべきだったと、今更思っても後の祭り。

「ちょっと待ってろ、今登るから。もしかしたらあと2時間ぐらいかかるかもしれないけど大丈夫か?」

バッド「おう、いくらでも待つぞ」

ダメ元で仕掛けた牛歩戦術に対してこの即答である。

やはりバトルは避けられないらしい。
 ▼ 408 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:20:38 ID:9oxIHSls [6/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



2分ほどで崖登りを終え、体についた砂埃を払いつつ質問する。

「どう見ても11には見えないが、あんたも浪人か?」

言ってしまってから、ものすごく不躾な質問をしていることに気づいた。

が、ギリギリセーフらしい。少し表情を曇らせつつも、不良男子が答える。

バッド「あぁ。……まぁ、色々あってな」

そりゃ訳ありなのは見た目でわかるわ。

と、また不躾な思考に走ってしまったが、そこは人のことを言えた身分でもないので黙っておく。
 ▼ 409 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:21:15 ID:9oxIHSls [7/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

バッド「ま、俺たちがなんで浪人してるかなんてどーだっていい。目と目があったらまずバトルだろ」

確かにどうでもいい。

その場の好奇心に煽られてお互いの傷をえぐり合うのは無益なことである。

「そうだな。 じゃ、やるか」
 ▼ 410 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:22:58 ID:9oxIHSls [8/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

お互い位置につき、出し合った初手の対面はコイルvsラッタ。

良くもないが悪くもない、そんなカードだ。

次の試練と最も相性がいいのがコイルなので、積極的にレベルを上げていきたいところ。

「合図はこの小石な」

バッド「あぁ、分かってるよ」

アローラローカルのようなものなのか、野良試合では誰とやっても『何かを投げて落ちた瞬間』がスタートの合図になる。

誰が何を投げるかという確認はその都度必要だが、トレーナーの間では『最初はグー』並みの常識として通っているようだ。
 ▼ 411 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:23:34 ID:9oxIHSls [9/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



小石が落ちた瞬間、先に指示を出したのはバッドボーイ。

バッド「ラッタ、ひっさつまえば!」

「ギッ!」

ラッタが自慢の前歯を煌めかせ、コイルめがけて一直線にダッシュしてくる。
 ▼ 412 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:24:20 ID:9oxIHSls [10/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

だが、こちらも決して後手に回っているわけではない。

これまでの経験上、自分のポケモンより素早い相手と戦う時、指示を焦るのは返って危険。

移動と攻撃に複雑な磁力操作が伴うコイルの場合は尚更であり、こういう時こそ相手の動きを見て対処する必要があるはずだ。

まずは回避、そこから隙を見てでんじはを当て、スピードの優位を確保したのちに攻撃に転じる。

即席にして月並みな作戦だが、取り敢えずこのバトルはこれで行く!
 ▼ 413 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:25:31 ID:9oxIHSls [11/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「コイル、回避に集中だ!」

「##……!」

左右のユニットが回転し、その中間に電気がチャージされ……

……ってオイ待て、そんな指示は出してない!

「ばっ……来るぞ、早く避けろ!」

なぜか指示をガン無視するコイルに必死に呼びかける。

それでもコイルはチャージを続け、ラッタの前歯はもうコイルの目前まで迫っていた。

くそっ、これじゃ初日のコラッタ戦と何も変わらないだろうが!
 ▼ 414 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:26:54 ID:9oxIHSls [12/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

だが、あの時と同じ展開にはならなかった。

「#√ッ!」

コイルの体が斜め上空へ、見えない力に弾かれたように打ち上がった。

「ギギッ!?」

ラッタの目の前からコイルが消え、前歯は虚空を穿った。

バッド「マジかよ!」

驚いたのはこっちだ。

コイルお前、いつの間にこんな器用なことできるようになったんだ?
 ▼ 415 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:27:35 ID:9oxIHSls [13/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

チャージしながらの移動。

よく分からんが、これができるなら喜ばしいことこの上ない。

まずは主導権、貰った!

「いいぞ、そのままでんきショッ……ク?」

意気揚々と指示を飛ばそうとしたが、どうやらぬか喜びだったらしい。

「#、#……」

先程の見事な挙動は何処へやら、コイルは空中で白目を剥き、パーツの隙間から黒い煙をあげていた。
 ▼ 416 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:28:34 ID:9oxIHSls [14/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

バッド「お、おい、大丈夫なのか?」

「いやぁ、これは多分、大丈夫じゃないよなぁ……」

というか明らかにダメだろう。

「……$」

完全に壊れた、というような声。

直後に、ごすん、と鈍い音を響かせてコイルが地面に落下した。


無茶しやがって……。
 ▼ 417 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:29:42 ID:9oxIHSls [15/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



ポケセン宿舎に敷いた寝床に腰を下ろし、回復したばかりのコイルと向き合う。

「まぁ、サンダースがなんとかしてくれたからいいけどさ。

……コイル、お前一体どうしたんだよ」

「##……」

コイルがシュンと磁石を竦める。

「いや、責めてるわけじゃないんだよ。苦手を克服しようって心意気は買う。

でもな、実戦投入はちゃんと練習してからにしよう。今回みたいに戦闘中にショートすると危ないだろ?」
 ▼ 418 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:30:36 ID:9oxIHSls [16/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

チャージと高速の移動を同時にこなそうとして、キャパオーバーで回路がショート。

危ないというか、一発で戦闘不能になったのでバトルとしては最悪の展開である。

昨日のサンダースに触発されたのか、焦りすぎだ。

「まずはできることから、な? 今回だって、落ち着いてやれば勝てない相手じゃなかったと思うしさ」

「#……」
 ▼ 419 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:31:19 ID:9oxIHSls [17/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

バッド「まぁまぁ、そんなに責めんなよ。 家出されても知らねぇぞ?」

背後からバッドボーイが声をかけてくる。

「いや、だから責めてるわけじゃ……。ってか嫌な冗談言うなよ」

背中越しに返す。

バッド「冗談で済めばいいけどな。 でも実際にそうなるバカがたまにいんだよ」

「バカって……!」
 ▼ 420 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:31:59 ID:9oxIHSls [18/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

振り向いて掴みかかろうとしたが、表情に気圧されて手が止まる。

果てしない後悔の滲んだ顔だった。

そういえば昼間のバトル、こいつが出してきたポケモンはラッタとスリープ。

本来全ての島巡り挑戦者が持っているはずのポケモンがいなかった。

「お前……」

バッド「ま、そういうことだ。あんたの言ってることは正論だろうが……正しいだけじゃ、ダメだろ」
 ▼ 421 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:32:56 ID:9oxIHSls [19/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

随分と重く響く言葉だった。

正論だけでは不十分。

だからと言って、どうすればいいのかは分からないが。

「……明日から、また練習しよう」

「#……」

コイルは俯いたまま、静かにボールの中に戻って行った。
 ▼ 422 ワルン@モコシのみ 17/04/21 22:30:35 ID:WfRZ3NaY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 423 ーケオス@バンギラスナイト 17/04/22 13:41:45 ID:a0sW4.hg NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 424 ワシ@いいキズぐすり 17/04/25 00:02:17 ID:w5jdLNXg NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
支援
 ▼ 425 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 00:54:22 ID:HKGuVNU2 [1/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

【26日目】


朝が来た。

体を起こし辺りを見渡すと、今日もサンダースはヤドンとくっついて寝ている。

鉄骨マークのシールが貼られたボールを覗くと、中は空だった。

コイルは今日もどこか別のところに寝床を移しているらしい。

もしかしたら、夜中に起こしにくるサンダースから距離をとっているのかもしれない。

同じでんきタイプとなって以来活躍が目覚ましい後輩に負い目を感じているということだろうか。

下位互換とかいらない子とか、そんなことを言ったことは一度もないのに。
 ▼ 426 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 00:55:09 ID:HKGuVNU2 [2/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「##……」

目をしぱしぱさせながら、天井の梁からコイルが降りて来た。

「コイル……。今日、本当にやるのか?」

「……#」

先程と打って変わって強い意志が覗く表情で、コイルはコクリと頷いた。
 ▼ 427 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 00:55:56 ID:HKGuVNU2 [3/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

何をやるのかと言うと、もちろんチャージと移動の同時遂行の練習のことだ。

昨日はああはいったものの、個人的にはどうも得策とは思えない。

というのも、焦燥感が原動力なのであれば、失敗すればするほどコイルの自尊心に傷がつく結果になるからだ。

仮に上手く言ったとして、同じことを既にできるポケモンが同じ手持ちにいるのだ。

『それならサンダースのほうがいい』となるのは避けられない。

だったらむしろ……。
 ▼ 428 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 00:56:44 ID:HKGuVNU2 [4/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「なぁ、コイル。『みんな違ってみんな良い』って知ってるか?」

「#……」

「まぁ、そういう教えがあんだよ。例えばまぁ、お前とサンダースはどちらにもそれぞれの得意と苦手があるってことだ」

「だから、別にお前が機動力に拘る必要は全くな痛ッッ!!」

コイルは話を遮って火花を放ち、そっぽを向いた。

「#&&!」

「……っ」

……どうしろってんだよ!
 ▼ 429 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 00:57:52 ID:HKGuVNU2 [5/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



結局、今日もコイルは無茶な移動の果てにショートして瀕死になった。

代わりに戦闘を終わらせたサンダースは、酷くしんどそうな顔をしていた。

コイルの精神的な不調が、メンバー全体に伝播し始めているのかもしれない。

いつも頭の上にいるサンダースだが、今日は頭に飛び乗ることなくボールの中に篭りきり。

1人で視線を警戒しながら戻るポケセンまでの道は、耳に痛いほどに静かだった。
 ▼ 430 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 00:59:12 ID:HKGuVNU2 [6/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

【27日目】


こんな不安定な状態でも試練の日はやってくる。

アーカラ島最難関らしいので1週間待ちぐらいならありえるかと思っていたが、一昨日予約を入れたら割とすぐに取れてしまったのだ。

おそらく、直近の2試練を連続で攻略したことにより、中位集団から頭一つ抜け出したのだろう。

その時は小さくガッツポーズをしたものだが、今となってはもう少し時間が欲しかったと思わざるを得ない。

まぁ、時間があればどうにかなったのかと言われれば、当然疑問符が浮かぶわけだが。
 ▼ 431 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 01:00:10 ID:HKGuVNU2 [7/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ともかく、どんな状態だろうと試練は試練。

越えるため作戦は昨日のうちに話しておいた。

なんとかなるはずだ。

あれも、これも、今ここを乗り越えれば全部解決だ。

自尊心に傷がついたなら、勝利をもって癒せばいい。

だから絶対に勝つぞ、コイル。
 ▼ 432 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 01:00:48 ID:HKGuVNU2 [8/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


バッドボーイ「あぁークソ、やっぱダメか!」

くさの試練の地、シェードジャングルの中から悪人面の浪人生が現れた。

バッド「やっぱ強ぇわラランテス……っと、お前も試練か。

昨日はお前らお通夜みたいになってたが、大丈夫なのか?」

多分宿舎でやった作戦会議の様子のことだろう。

俺が一方的に作戦を話し3匹が無言で頷くだけの、会議とはとても呼べない内容だった。

だが、作戦の中身自体はちゃんとした勝算があるものだ。
 ▼ 433 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 01:01:21 ID:HKGuVNU2 [9/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「大丈夫に決まってんだろ。お通夜は昨日で終わりだっつの」

バッド「お、おう、そうかよ。なら別にいいけどよ……」

浪人仲間は煮え切らない返事をするが、まだ何か言いたげだ。

「なんだよ、負けるとでも思ってんのか?」

バッド「いや、そうじゃねぇけど……。でもお前、負けたらどうすんだ?」
 ▼ 434 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 01:02:43 ID:HKGuVNU2 [10/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「負けたらって……試練の前にそんなこと言ってどうすんだよ」

負けという言葉への不快感から、ついつい剣呑な声になってしまう。

バッド「そりゃ勝てば気分はいいよな。お前のポケモンがどうなってるかは知らねぇが、まぁ多少マシな空気にはなるだろうよ。

でもお前、浪人だろ? 一度は人生レベルでボロ負けしてんだろ?

挫折を知ってる癖にそれを二度と味わずに済むとでも思ってるんなら、随分とめでてぇ話だ」

バッドボーイの声音はあくまでおだやかだったが、代わりに鋭利な視線がこちらを捕まえて離さない。

「!」の視線とはまた違った緊張感が心臓を掴む。
 ▼ 435 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 01:03:34 ID:HKGuVNU2 [11/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……つまり、何が言いたいんだよ」

詰まった空気を押しのけるように、やっとの思いで言い放つ。

バッド「あー、すまん、俺も何が言いたいか分かんねぇわ。別にお前が負けると思ってるわけじゃねぇけど……

ただ、別に強いわけでもない俺らが勝ちに拘ってどうすんだろうなって、どうしてもな」

バッドボーイは我に返ったかのようなそぶりで頭を掻きながら、ばつが悪そうに言う。

「……? いや、全然意味わからんが。 試練前に水差すようなこと言うなよ」

バッド「そうだな……まぁ、頑張れよ」
 ▼ 436 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 01:04:09 ID:HKGuVNU2 [12/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

バッドボーイはシェードジャングルに入る俺をいつまでも見守っていた。

困ったような目で見つめるその表情からは、何を思っているのかまでは分からない。

俺は何と無く居心地の悪さを感じて、もう後ろを見ないことにした。
 ▼ 437 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 01:04:55 ID:HKGuVNU2 [13/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


正論だけじゃダメだとか、勝ちに拘ってどうするのかとか、そんなこと言われたって困る。

正しいことがダメなら何を言えばいい?

勝ちを求めないなら何を求めて島巡りをすればいい?

お前だって何も分かってない癖に。

クソッ。

小道に落ちている枝をばきりと踏み抜きながら、俺はジャングルの奥へ進んだ。
 ▼ 438 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 01:06:23 ID:HKGuVNU2 [14/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



マオ「おっす! くさの試練担当のキャプテンやってます、マオでっす!

じゃ、早速始めよ! この試練では、ムーランドの力を借りてぬしを呼び出す材料を……」

「あ、もう揃えてきたんで」

マオ「へ?」

素っ頓狂な声を上げるキャプテンに、ラップで包んだ発泡スチロールのトレーを3つ差し出す。

マゴのみ、ふっかつそう、きせきのタネ。

3品合わせて特別価格1494円。

若干財布には響いたが、これでも定価から考えればかなり安く済んだ方だ。
 ▼ 439 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 01:07:28 ID:HKGuVNU2 [15/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

マオ「待って。ちょ、ちょっと待ってね?」

「ダメなんですか?」

マオ「えっと……そうだよ! シェードジャングル原産じゃないとぬしが機嫌を損ねてアレするの!」

馬鹿め、墓穴を掘ったな!!

「あ、それなら安心ですね。ほらここ、原産地見てください! シェードジャングルですよね?」

Wikiには『ムーランドと材料集め』と書いてあったが、どうせ始まるのはいつもの茶番だ。

今はそういう気分じゃないので、わざわざ付き合うつもりはない。
 ▼ 440 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 01:08:36 ID:HKGuVNU2 [16/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

マオ「うーん……ま、いっか。いちいち材料埋め直すのも面倒くさいし!」

まさかの開き直り。

何が原産だ、やっぱり市販品じゃねぇか。

なんだか材料集めに費やした金がもったいなかったような気がしてくる。

マオ「それじゃ、始めちゃおう!」

くさのキャプテンは声高に宣言し、岩のついたヘルメットを勢いよく地面に置いた。

……いや、それで何を始めるつもりだ?
 ▼ 441 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 01:09:21 ID:HKGuVNU2 [17/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「しゃらんしゃらんら!」

「来たな……」

くさの試練ぬしポケモン、ラランテス。

アーカラ島最大の難所と謳われる中盤の壁。


ちなみに、ぬしを呼び出す一連の流れはとても描写に耐えうるものではなかったので割愛した。
 ▼ 442 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 01:10:11 ID:HKGuVNU2 [18/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


ラランテスというポケモンを種族として分析すると、多くの欠点が浮かび上がってくる。

いわゆる必殺技であるソーラーブレードは威力は絶大であるものの、非常に長い溜めを要する。

溜めきったとしてもスピードを要する接近戦は苦手であり、攻撃を当てられないままチャージ切れすることも多い。

また、攻撃手段もあまり多くはなく、ひこう、ほのお、はがねなどのタイプへの有効打をほとんど持っていない。

では何かずば抜けた長所があるのかと言えばそうでもなく、防御面などを見ても微妙そのもの。

この通り、純粋なスペックだけで見るならば問題になるような相手ではないと言えるだろう。
 ▼ 443 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 01:11:30 ID:HKGuVNU2 [19/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

にもかかわらず、この試練は多くの挑戦者をどん底へと叩き落として来た。

実際、挫折者の半数近くはこの試練で匙を投げている。

攻略者一人当たりの平均挑戦回数も7.3回と、明らかに群を抜いている。

『アローラ最大の理不尽』『守り神公認の犯罪者』『ポータウンへの案内人』『起きていても見える悪夢』『絶望』……

これらは全てこの試練のぬしについたあだ名だ。
 ▼ 444 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 01:14:35 ID:HKGuVNU2 [20/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ではなぜ、ラランテスがそこまでの脅威足り得るのか?

結論から言うと、これはひとえに露骨なまでの超強化が為されているが故である。


まず第一に、このラランテスはパワフルハーブを隠し持っており、ソーラーブレードの発動に隙がない。

さらに、能力面でのネックである素早さがぬしのオーラによって2倍に跳ね上がっている。

そして試練恒例の仲間呼び。

呼び出されたポワルンのにほんばれによりソーラーブレードは即リロード。大ダメージを与えてもこうごうせいで即全快される。

ポワルンのウェザーボール、ケララッパのロックブラストで相性面の欠点も完全に保管されており、ますます隙がない。

つまり、この試練で戦うのはもはや『ラランテス』ではない。

『超高速で凄まじい威力のわざを連発し、さらに反則的な回復力も併せ持つポケモン』だ。


あとこれは俺には関係ないが、ジャングルでは火気厳禁ということも難易度上昇の一因となっているそうだ。

理不尽すぎる。
 ▼ 445 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 01:16:04 ID:HKGuVNU2 [21/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

と言うわけで、今回の作戦はぬしを普通のラランテスに戻すところからスタートだ。

防御面の相性が有利なコイルを出し、まずはまもるでハーブを消費させる。

その後仲間呼びをするはずなので、隙を突いてでんじはを命中させ、機動力を削ぐ。

そこまでの運びがうまくいけば、搦め手を使って籠絡するのはさほど難しいことではないはずだ。

コイルにきっちり活躍させて自信を回復してもらい、同時に試練を達成して俺たちを覆う負のオーラも払拭する。

確かに逆境、確かに難関。

だからこそ、乗り越える以外あり得ない!
 ▼ 446 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 01:17:33 ID:HKGuVNU2 [22/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「しゃら……」

ラランテスが右手を太陽に掲げると、鎌から濃密な光が迸って天を突く。

光はたちまち収束し、一太刀の大剣を形成した。

ラランテスは右の鎌から伸びたソーラーブレードを左の腰元に据え、前傾しながら重心を下げ……

「しゃらんらっ!」

一気に大地を蹴り放ち、突進を開始した!!
 ▼ 447 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 01:18:35 ID:HKGuVNU2 [23/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

速い!

両脚に纏うぬしオーラの力は思ったより凄まじいようで、見た目にはエンニュートやサンダースよりも速い。

だが、今はどんなに速い攻撃だろうと関係ない。

わざマシン売り曰く、まもるはどんなわざでも壊れない最強の盾。

構えてさえいれば大丈夫……!
 ▼ 448 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 01:19:07 ID:HKGuVNU2 [24/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「コイル……まもる!!」

「#%%!」

また指示を無視して回避を試みる可能性を懸念していたが、連日の失敗が堪えたのか素直にわざを発動した。

コイルの正面に半球状のバリアが生成され、ラランテスを迎え撃つ態勢にはいる。

よし、まずは初撃攻略……!
 ▼ 449 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 01:20:20 ID:HKGuVNU2 [25/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

と思ったのもつかの間、ラランテスが想定外の挙動を見せた。

まもるが展開されたのをを見るや否や、もう一段階重心を下げて来たのだ。

たったそれだけの動きなのに、なぜか背筋がぞくりとする。

ほとんど地を這うような格好でラランテスはさらに加速し、一気にコイルの懐まで踏み込む。

ソーラーブレードの射程圏内に入った瞬間、ラランテスの目がギラリと光った。
 ▼ 450 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 01:21:27 ID:HKGuVNU2 [26/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「コイル、来るぞ!」

「##ッ!」

「しゃらんらっっ!!」

地面スレスレに構えた剣が一瞬にして跳ね上がり、光が一閃。

甲高い打撃音と激しい閃光に、思わず瞬きする。
 ▼ 451 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 01:22:23 ID:HKGuVNU2 [27/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

宙を舞うラランテスの鎌から伸びる光の軌跡は、コイルの張ったバリアを跳ねあげていた。

「コイル、」

盾を正面に構えろ───

などと言う時間があるはずもなく。

「しゃらんらーッ!!」

即座に身を翻し放たれたラランテスの横斬りが、コイルにクリーンヒットした。
 ▼ 452 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 01:23:21 ID:HKGuVNU2 [28/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「しゃらんしゃらん、しゃらんらっっ!!」

完全に防御を崩されたコイルに、光剣のラッシュが容赦なく襲いかかる。

ソーラーブレードのエネルギーは10秒ほどで尽きる。

だが、今はその10秒が果てしなく長い。

でんじはもでんきショックも、撃てる状態ではない。

ただ見ていることしか、できない。


鎌から伸びる光剣が霧散した時には、既にコイルは気絶していた。
 ▼ 453 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 01:23:52 ID:HKGuVNU2 [29/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「お疲れコイル……行ってこい、サンダース!」

「キュゥ……」

ボールから出るなり、サンダースがこちらを振り向いて弱々しく鳴いた。

ラランテスは、こちらをじっと見たまま動かない

なんだ……?
 ▼ 454 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 01:24:49 ID:HKGuVNU2 [30/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「おい、サンダース?」

「キュウ……キュイ……!」

今にも泣き出しそうな顔で、懸命に何かを訴えてくる。

話の内容はもちろん分からないが、戦闘なんてできそうにないのは明らかだ。

ラランテスもそれを見越して攻撃してこないのだろう。
 ▼ 455 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/26 01:25:52 ID:HKGuVNU2 [31/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

じゃあ引っ込めてヤドンを出そう、という空気でもないのは分かる。

つまり……

「すいません……降参します」

マオ「ん……そうだね。それがいいと思う」



くさの試練……敗北。
 ▼ 456 足◆SxCy/NIFN. 17/04/26 01:33:18 ID:HKGuVNU2 [32/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>450
ラランテスのソーラーブレードはこんな感じのイメージで書いてます
 ▼ 457 キメノコ@ラブラブボール 17/04/26 17:05:56 ID:tGyxksIo NGネーム登録 NGID登録 報告
ええなぁ

支援
 ▼ 458 スブレロ@こだいのうでわ 17/04/26 19:36:01 ID:lYZklfo. NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
おいおい最強かよ
 ▼ 459 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/27 00:39:28 ID:lfDlLnFI [1/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



夕食の時間、俺もポケモンたちも何も喋らなかった。

一方的な敗北ならメレメレの大試練で経験しているが、今の空気の重さはその比ではない。

あの頃ほど戦闘を避けていたわけでもないのにここまで完璧に負けるとは、思っても見なかった。

コイルのプライドはズタボロだし、サンダースに至っては戦意を喪失。

ヤドンはメンタル的な問題はなさそうだが、そもそも相性が最悪だ。


こういう時こそ何か声をかけなければいけないのだろうが、一体何を言えばいいのだろう。
 ▼ 460 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/27 00:40:55 ID:lfDlLnFI [2/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



物音に目が覚めた。

辺りは真っ暗だ。まだ夜中らしい。

目をこすり、月明かりを頼りに音のする方に目を凝らすと、サンダースがいた。

寝付けなくてボールから出てきたところらしく、コイルのボールを覗き込んでいる。

多分、そこには今日もコイルはいないのだろう。

表情は暗くて見えないが、しゅんと垂れ下がった体毛から寂しげな感情が伝わってくる。
 ▼ 461 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/27 00:42:10 ID:lfDlLnFI [3/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

サンダースは一つ隣のヤドンのボールに視線を移した。

昨日はこのままヤドンを起こして眠りについていたのだと思う。

だが、開閉スイッチに触れようとするサンダースの前足が寸前で止まった。

そのまま静かに足を引っ込め、自分のボールの正面に戻る。

「キュゥ……」

弱々しく悲しげな鳴き声を漏らしながら、サンダースは自分のボールのシールをガリリと引っ掻いた。

その動作を二度、三度と繰り返した後、サンダースは自分のボールの中に帰って行った。


稲妻のシールが破ける音が、いつまでも耳を離れなかった。
 ▼ 462 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/27 00:42:52 ID:lfDlLnFI [4/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

【30日目】


試練2回目、敗北。

守りを捨てていきなりでんじはを飛ばしたが、避けられた。

そのあとは1回目と同じだ。
 ▼ 463 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/27 00:43:48 ID:lfDlLnFI [5/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

【35日目】


コイルもサンダースも日に日に調子が悪くなっていく。

最近はトレーナー戦でのレベル上げもろくにできていない。

そんな中で迎えた三度目の試練も、当然敗北した。

戦闘内容は、下手すれば初回より酷かっただろうか。

もしかすると今は試練を受けるべきではないのかもしれない。

でも、それ以外に現状を打破する方法が思いつかないわけで。
 ▼ 464 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/27 00:44:43 ID:lfDlLnFI [6/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

【39日目】


4度目の試練の朝が来た。

試練初日以来、朝方にサンダースが他のポケモンとくっついて寝ている光景は見ていない。

俺はボールを突っつき、ヤドンとサンダースを起こした。

コイルはやはりボールの中にはいなかった。

いつも通り天井の梁の上で寝ているのだろう。

と言っても、これを『いつも通り』と認識するようになったのはつい最近のことだが。
 ▼ 465 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/27 00:45:53 ID:lfDlLnFI [7/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

上に向かって声を掛ける。

「コイル、朝だぞ。降りてこい」

…………。

応答がない。

まぁ、よくあることだ。そういう時はボールの回収機能で強制送還すればいい。

コイルのボールを拾い上げ、いつもコイルが寝ている場所に向けて開閉スイッチを押す。

「……あれ?」

回収機能が反応しない。











宿舎中、ポケセン中探しても、コイルはいなかった。
 ▼ 466 ンキー@ハスボーじょうろ 17/04/27 05:01:37 ID:Jw00Jz4. NGネーム登録 NGID登録 報告
久々重い話やなぁ
支援
 ▼ 467 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/29 01:10:55 ID:MfArG.j6 [1/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



サンダースとヤドンと協力してポケセン周辺をしらみつぶしに探し回りながら、ふと考える。

コイルを見つけたとして、その後どうすればいいんだろうか。

思えば、捕まえたのは単に手近なところで動けなくなっていたからだ。

何か通じ合うものがあったわけでも、まして『島巡りを手伝ってくれ』と了承をとったわけでもない。

仲間とかパートナーとかどんなに言葉を飾ろうが、俺の都合の押し付けでしかないのは事実だ。

そう考えると、逃げるのはあいつの権利なんじゃないのか?

俺があいつを連れ戻していい理由があるのか?
 ▼ 468 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/29 01:11:35 ID:MfArG.j6 [2/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「もしかしたら、コイルにとってはこのまま見つからない方がいいのかもなぁ」

何気なく口をついて出た言葉に、前を歩くサンダースの足が止まる。

「キュゥ……キュィイ!」

俺の方を振り向いたサンダースの目からは、大粒の涙が溢れ出していた。
 ▼ 469 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/29 01:12:31 ID:MfArG.j6 [3/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

すぐに、言ってはいけないことを言ってしまったことに気づいた。

コイルと旅をしていたのは何も俺だけではない。

ヤドンだってサンダースだって、ずっと一緒に、多分俺より近いところで助け合ってたはずだ。

特にサンダースにとって、コイルは兄のような存在だ。

見つからない方がいい?

バカ言え、そんなわけがないだろう。

連れ戻す理由ならここにあるじゃないか。
 ▼ 470 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/29 01:13:30 ID:MfArG.j6 [4/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

しゃがみ込み、泣きじゃくるサンダースを抱き寄せる。

「ごめん。ごめんな」

かけるべき言葉が分からないが、代わりに背中を撫でて宥めた。

サンダースは、堰を切ったようにいつまでも泣きつづけた。
 ▼ 471 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/29 01:15:25 ID:MfArG.j6 [5/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

思えば炎の試練の日の夜から、ずっと苦しかったのだろう。

コイルがサンダースの成長に焦り、足掻いては失敗し、ぬしにも歯が立たず、自信を失っていく。

それを見ていたサンダースは、自分自身に責任を感じたのかもしれない。

ボールシールを破ったのも、でんきタイプになったことを後悔したからなんじゃないかと今更ながら思う。

まだ生まれて間もないサンダースにとって、コイルが自分から離れていくことは何より怖かったはずだ。
 ▼ 472 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/29 01:16:25 ID:MfArG.j6 [6/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「なぁ、サンダース」

「キュウ……?」

サンダースが泣き顔を上げる。

俺はある一つの可能性に思い当たっていた。

試練の攻略はものすごく遅くなるかもしれない。

誰がどう見たって意味の分からない遠回りになるだろう。

だが、それでも俺たちにとってはベストアンサーかもしれない、そんな可能性。

「もしお前が望むなら───」
 ▼ 473 ズレイド@いかずちプレート 17/04/29 01:20:05 ID:uGqmx7vg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 474 クタン@ダークストーン 17/04/29 06:34:46 ID:3l0IeWc2 NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 475 イアント@アゴのカセキ 17/04/29 10:20:02 ID:af6SAJ8w NGネーム登録 NGID登録 報告
凄くドキドキする
支援
 ▼ 476 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/29 19:43:55 ID:MfArG.j6 [7/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



「いたっ!!」

「#……!」

灯台下暗しというか、コイルはポケセン裏手の軒下にいた。

逃げられるかと思ったが、こっちをじっと見て動かない。

もしかしたら、見つけてもらうのを待っていたのかもしれない。

思えばこいつからのSOSは何度もあったはずだ。

ここに来るまで、俺はそれを見ているようでずっと目をそらしていた。

だが、これが最後のチャンスだろう。

ようやく気づいたサインに応えるなら今しかない。ちゃんと全てを伝えよう。
 ▼ 477 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/29 19:45:08 ID:MfArG.j6 [8/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「コイル、ごめんな」

「……##?」

「俺はトレーナーとしてはすごく弱い。ラランテスを倒せるかも分からないし、この先の試練も多分何度も負けると思う。

それに、俺じゃお前の力を満足に引き出すこともできない。正直言って、俺について来ても多分成功はしないんだ。

だから、お前が逃げて行くのを俺は止められない。俺に力を貸してくれるお前に、俺は、何もしてやれない」

「##……」
 ▼ 478 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/29 19:49:53 ID:MfArG.j6 [9/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

バトルが強ければ、勝者の景色を見る喜びをポケモンに与えることができるだろう。

人間的に優れたトレーナーであれば、強さを超えた絆をポケモンと結び、素晴らしい旅ができるだろう。

だが、残念ながらそれは俺にはない力だ。

凡百に霞む雑魚トレーナー。そんな俺がこいつらに与えられるものなんて何もない。
 ▼ 479 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/29 19:52:31 ID:MfArG.j6 [10/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

でも。

「それでも一緒に行きたいと思ったんだ。俺たちなりに答えを出したんだよ。

……な、サンダース」

サンダースがほんのりと笑って、静かに頷く。

半分は安堵、半分は覚悟。

そんな笑顔だ。

「コイル、お前が納得できるかどうかは分からない。でも、とりあえず……サンダースの思いを、受け止めてやってくれ」
 ▼ 480 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/29 19:52:56 ID:MfArG.j6 [11/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

そう言って、俺はポケットからくすんだ緑色の石を取り出した。

膝をついてしゃがみこみ、サンダースと目線を合わせる。

「行くぞ……」

「……キュイ!」
 ▼ 481 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/29 19:54:03 ID:MfArG.j6 [12/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ほうっと息を吐き出し、サンダースのひたいに石を軽く押し当てる。

進化の後、記念に残しておいたかみなりのいしの残骸だ。


元の姿に戻りたいという強い意志があれば、進化を破棄できる可能性がある。

ウツギ博士はそう言っていた。


強さよりも大事なものを失うくらいなら。

弱さで守れる居場所があるなら。

それがこいつの願いなら。



ここで一度、スタートに戻ろう。




「進化を棄てろ───メガ退化!!」

 ▼ 482 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/29 19:55:02 ID:MfArG.j6 [13/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「キュ……イィーーーッ!!」

サンダースの全身からまばゆい電光がほとばしる。

放たれた電撃はひたいに収束し、くすんだ石が徐々に鮮やかな色味を取り戻して行く。

「ぐっ……!」

石を支える右手に電撃の余波が流れ込んできた。

ゴム手袋をはめていないのは、せめてもの戒めだ。

ただの自己満足かもしれないが、それでも今は痛みを受け止めたい。
 ▼ 483 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/29 19:55:51 ID:MfArG.j6 [14/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

サンダースから、電光とはまた異なる輝きが溢れ出した。

2つの光が混ざり合い、視界を真っ白に染め上げる。

退化が始まったようだ。

石は一層鮮やかに透き通る緑色になり、使用前の輝きを取り戻しつつある。

右手を流れる電撃は徐々に弱まってきている。

憧れて得たでんきタイプ。日常を壊したでんきタイプ。

進化の力を失いつつあるサンダースが今思うのは、どちらなのだろうか。

「キュゥゥ…………イッ!!」

一瞬強烈なスパークが俺の全身を駆け抜け、ひときわまばゆい閃光が辺りを照らし出した。
 ▼ 484 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/29 19:57:12 ID:MfArG.j6 [15/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

瞬きで暗転し切り替わった視界にいたのは、サンダースではなくイーブイだった。

「キュイ!」

イーブイがコイルに駆け寄り、笑顔で鳴いた。

「##……」

コイルは戸惑い気味に、曖昧な声を出す。

「ま、そういうことだ。

イーブイは、強さより何よりもまず、お前といることを選んだ」

多分ヤドンも。もちろん、俺も。

「だから……帰って来てくれ、コイル。俺たちにはお前が必要だ」
 ▼ 485 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/29 19:58:01 ID:MfArG.j6 [16/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

伝えることは全部伝えた。

あとは、コイルが戻りたいと思うかどうかだけだ。

俺もヤドンもイーブイも、じっとコイルを見つめる。

コイルもこちらから目を逸らさない。

動くのか動かないのか、空中をぎこちなく漂っている。
 ▼ 486 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/29 20:00:09 ID:MfArG.j6 [17/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「#……!!」

突然コイルの左右のユニットが高速回転を始めた。

「な!?」

ちょっ、ここで攻撃!?

驚いたのもつかの間、コイルが斜め上空に吹っ飛び、少し遅れて甲高い金属音が響き渡る。

「##ー!」

二階の窓枠に張り付いたコイルはこちらを見下ろし、カタカタとネジの音を鳴らしながらわざとらしく叫ぶ。

あぁなるほど、そういうことか。

「待ってろ、今行く!」


ここが俺たちの、再出発点だ。
 ▼ 487 ブライカ@ドクZ 17/04/29 23:45:54 ID:odG8GvBA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 488 リキリ@ひかりのねんど 17/04/30 08:32:41 ID:aXO1.uDY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 489 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/01 21:18:20 ID:hVhI0bbo [1/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
【39日目: 午後】


コイルを回収してポケセン入り口に戻ると、ちょうど試練から戻ってきたのであろうバッドボーイがいた。

「よう、どうだった?」

バッド「またダメだ。やっぱソーラーブレードが止ま…………オイ」

バッドボーイはこちらを振り向くや否や修羅のごとき形相になり、つかつかと詰め寄ってきた。

バッド「お前、新メンバー捕まえてきたのか? 幾ら何でもそりゃねぇだろ!?」

「は?」

突然何を言い出すんだこいつは?
 ▼ 490 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/01 21:19:20 ID:hVhI0bbo [2/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

意味がわからないが、それを伝える間も無くバッドボーイは胸ぐらを掴んできた。

バッド「何とぼけてやがる!

ポケモンが不調になったらすぐ次のポケモンかよ。戦えねぇ奴に用はねぇってか?

お前はそういう奴じゃねぇと思ってたのに、見損なったぜ!!」

「いや、そういう奴じゃねぇよ!? つーか新メンバーって何の話……あぁ!!」

「キュイ!」

……こいつか!!
 ▼ 491 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/01 21:20:15 ID:hVhI0bbo [3/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



バッド「すまんな、早とちっちまって。狂って対戦脳にでもなったかと思ってよ……」

「もういいって。あれじゃ誤解するのもしゃーないし」


小一時間かけて誤解を解き、今はポケセン内のカフェに来ていた。

謝られる居心地の悪さを誤魔化すように、エネココアをすする。

確かに絶不調のサンダースの代わりに捕まえたと思われても仕方がない状況だった。

昨日までの状況を踏まえても、そういう方向に闇落ちしたと勘違いするのも無理はない。
 ▼ 492 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/01 21:21:09 ID:hVhI0bbo [4/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

バッド「にしても……良かったじゃねぇか。また楽しく島巡りできそうでよ」

「ああ。まぁ、試練攻略からは随分と遠ざかったけどな」

バッド「そうかもな。でもよ、正しさや勝利に拘るだけじゃダメだってこの前言っただろ?

未だに何でそんなこと言ったのかはよく分かんねぇけど、でも今のお前見てるとやっぱそうじゃねぇかと思うんだよな

いや、結局分かんねぇんだけどよ」
 ▼ 493 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/01 21:22:16 ID:hVhI0bbo [5/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「分からなすぎて分からん」

バッド「はは、全くだな。

でももし俺があん時、少しでもその何かを分かろうとしてたら、って思ってよ……」

バッドボーイが天井を仰ぎながら、独り言のように呟く。
 ▼ 494 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/01 21:23:23 ID:hVhI0bbo [6/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

多分、トレーナーなら誰もがつまづく壁だ。

トレーナーとポケモンの、近いようで果てしなく遠い関係性。

対等なようで対等じゃない。

分かり合えるようで分かり合えない。

同じ世界を見ているようで、見えているものはいつも違う。

それでも一緒にいるために、人とポケモンを繋げるものは何なのか?

きっと、その答えを持っているトレーナーは世界に1人もいないのだろう。
 ▼ 495 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/01 21:24:18 ID:hVhI0bbo [7/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

バッド「つーかお前、今日夕方から試練だったよな。 どうすんだ?」

「あっ……」

すっかり忘れていた。

唯一スピードで互角に渡り合えるかもしれなかったサンダースが退化した今、勝算は正直言って全くない。

これはレベルというよりも、種としての力や相性の問題だ。多少経験値を積んだところで焼け石に水だろう。
 ▼ 496 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/01 21:25:31 ID:hVhI0bbo [8/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

となればまた何かしらの策に頼ることになるが、それもよく考えると容易ではない。

何せ、クリア者だけで見ても平均7回も挑戦しているのだ。

くさの試練の中で一体どれだけの試行錯誤が行われたかは及びもつかない。

つまり、たった1匹のラランテスがぬし就任から今日までの間に膨大な量の策を打ち破ってきていることになる。

おそらく、付け焼き刃では容易く撃ち砕かれてしまうだろう。

先の挑戦で、にわか仕上げのまもるが一瞬で攻略されてしまったように。
 ▼ 497 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/01 21:26:37 ID:hVhI0bbo [9/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

小手先の作戦だけでは超えられない壁。

だったら……。

「悪いっ、もう行くわ!」

残された勝ち筋に気づいた俺は席を立ち、玄関へ駆け出した。

バッド「おい会計……

今度なんか奢れよなー!」

「そのうちっ!」

試練達成したらな!
 ▼ 498 ツボット@おちゃ 17/05/01 21:31:34 ID:pHgfjZrI NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 499 ノココ@ムーンボール 17/05/02 16:09:57 ID:BEmE9/TU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 500 ャオブー@するどいツメ 17/05/02 21:46:11 ID:Tolypsz6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 501 RIVER◆zFLCCAWaiw 17/05/02 22:50:49 ID:BSc7hTe6 NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 502 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/02 23:16:57 ID:WELx/kuI [1/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

【94日目】

バッド「よう」

シェードジャングルから、俺の前の時間割で試練を受けていたバッドボーイが戻ってきた。

その表情はいたってニュートラルで、勝敗は読み取れない。

「どうだった?」

バッド「…………」

しばしの沈黙。
 ▼ 503 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/02 23:18:50 ID:WELx/kuI [2/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

そして突然、ニッと口元を歪ませた。

バッド「ふふ……っはははは! ついに勝っちまったよ!! 」

「おお、おめでとう。……っはは、はははは!」

俺も思わず口元を綻ばせる。

バッド「ま、作戦考えたのはお前だけどな。とりあえずこれでイケるってことは証明されたっつーわけだ。

今度はお前の番だ。頼むぜ?」

「おう。……じゃ、行ってくるわ!」

俺は戦友とハイタッチを交わし、木々の覆う暗がりに向かって軽やかに歩き出した。
 ▼ 504 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/02 23:21:05 ID:WELx/kuI [3/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



マオ「うんうん、また来たね。偉い! じゃ、早速ぬしに来てもらおう!」

マオが指笛を高らかに鳴らし、ぬしに合図を送る。

経費削減のためか4回目から材料探し(笑)のパートが無くなり、それ以来ずっとこの形式だ。

ちなみに今日で通算12回目のくさの試練。

もはやこのシェードジャングルに分け入るのも日常の一部と化している。

最近では、森の中の季節の変化を五感で楽しむ程度の余裕も生まれた程だ。

季節が変わるほど時間がかかるのは誤算だったが。
 ▼ 505 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/02 23:24:48 ID:WELx/kuI [4/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


一陣の風が吹き抜け、ジャングルがざわめいた。

「##……!」

来た。

木々の隙間から飛び出した影は音もなく着地し、コイルと相対する。

「しゃらんら……」

またあなたね、とでも言いたげなトーンだ。

これまでの挑戦でやって来たことを考えれば無理もないが、ラランテスは露骨にげんなりしていた。

だがそんな空気は読まずにキャプテンは告げる。

マオ「それじゃいってみよう! ……試練、開始っっ!!」

 ▼ 506 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/02 23:25:30 ID:WELx/kuI [5/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「しゃら……!」

合図と同時にラランテスの顔つきが変わり、掲げた鎌から光の柱が突き上げた。

必殺の威力を秘めた光剣を下段に構え、コイルに向かって一直線に突っ込んで来る。

ここまではいつもと同じだ。

そして……

「コイル……まもる!」

……ここからもいつもと同じだ!!
 ▼ 507 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/02 23:26:15 ID:WELx/kuI [6/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


まもる。

最強にして不可侵の盾を生成する究極の防御わざ。

……と、初戦であっさりガードを弾かれるまでは思っていた。

実際に防御できるのは盾を構えた正面だけであり、攻撃側の工夫次第ではダメージを防げないこともある。
 ▼ 508 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/02 23:26:59 ID:WELx/kuI [7/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

では、店員に押し付けられたこのまもるは糞わざなのか?

ぬし戦でまもるを使ったのは愚策だったのか?

答えは否。

最強の盾であることに変わりはない。
 ▼ 509 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/02 23:28:54 ID:WELx/kuI [8/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

確かに、ラランテスはまもるを突破する術を持っていた。

これまでにも多くのトレーナーがソーラーブレードをまもるで防ごうとし、ラランテスはそれを毎回破ってきたんだと思う。

だが、破られた後に再び試練でまもるを使ったトレーナーはいないんじゃないだろうか?

この仮説が正しいとすれば、ラランテスは『にわか仕込みの』まもるにしか対処したことがないことになる。

つまり、『熟練した』まもるの使い手ならばぬしの猛攻を防ぎ切ることができるんじゃないだろうか?


最強の盾と、それに比べればそこそこ程度の威力でしかない矛があったとして。

その矛を以って、その盾を通さば如何?
 ▼ 510 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/02 23:30:12 ID:WELx/kuI [9/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「しゃらんらっ!!」

「##ッ!!」

ラランテスが地面スレスレから斬り上げを放ち、コイルがそれに合わせて盾を振り下ろす。

つんざくような金属音が響き渡り、パーティクルが弾け散る。
 ▼ 511 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/02 23:30:59 ID:WELx/kuI [10/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

二発目は左斜め上から折り返す斬り降ろし。

斜め右へ切り払った勢いのまま一回転し、三発目は続けざまに繰り出す右からの水平斬り。

だが、どちらもコイルが最小限の動きでずらした盾の正面に吸い込まれ、火花を散らしてその表面をなぞるのみに留まる。

その後も幾筋もの光の軌跡が描かれるが、どれもコイルに届くことはない。

最初の接触から10秒が経過し、鎌から伸びる光剣は無数の残滓となって消滅。

光の散る右手を睨み顔をしかめつつ、ラランテスがステップバックし距離を取る。

これでまずは1/5。
 ▼ 512 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/02 23:33:23 ID:WELx/kuI [11/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


これが1ヶ月半に渡ってただひたすらにまもってきた成果だ。

試練に挑んでは盾を構え、破られてはバッドボーイとその日の反省会をし、また挑んでは破られて。

時には店員の元を訪ねて指南を受け、暇があったら盾をかざし、寝る前はイメトレを欠かさず。

これまでその場しのぎに小手先の策を弄してきた俺たちが、始めてたった1つの技術に全てを注ぎ込んだ。

そんな、成果だ。
 ▼ 513 回決着◆SxCy/NIFN. 17/05/02 23:36:26 ID:WELx/kuI [12/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

でんじはを始めとする絡め手も一応試したが、やはりラランテスには一切通じなかった。

だが、修行を重ねたまもるだけは通用するレベルまで持ってこれた。

もうラランテスの攻撃の予備動作のほとんどは見た瞬間に分かる。

コイルはもちろん、ヤドンもイーブイも考えるより先に盾が動くようになっている。

前回は5回目のソーラーブレードにたどり着く前に全滅してしまったが、それでもかなり惜しいところまで防いでいた。

今度こそ、PP枯らしてやろうじゃないか。
 ▼ 514 ブキジカ@ダークメモリ 17/05/02 23:37:28 ID:F6SzwiQM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 515 正◆SxCy/NIFN. 17/05/02 23:59:48 ID:WELx/kuI [13/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>511
>斜め右へ切り払った勢いのまま一回転し、三発目は続けざまに繰り出す右からの水平斬り。

これ、「左から」の間違いです。
 ▼ 516 ブキジカ@オッカのみ 17/05/03 23:14:40 ID:lxz/FLyY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
55日……
支援
 ▼ 517 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/04 03:47:40 ID:MewTrk.s [1/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



これまでの全ての敗北を糧として臨んだ12回目のぬし攻略は、かつてないほどに順調だった。

呼ばれたポワルンが現れた瞬間にでんじはを浴びせてにほんばれの発動を遅らせ、その隙にコイルを交代。

2発目のソーラーブレードはイーブイが防御。

最後の一撃を敢えて踏ん張らずに防ぐことで大きくノックバックして距離を取り、速やかにヤドンに交代。

にほんばれの力を受けて連続で来る3セット目の攻撃にギリギリ防御を間に合わせ、これもそのまま10秒間防ぎ切った。
 ▼ 518 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/04 03:48:23 ID:MewTrk.s [2/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

幸いなのはラランテスとポワルンの連携がそこまで密ではないことだ。

にほんばれが発動した後はそれぞれのタイミングで各々の攻撃を行うのみで、コンボのようなことはしてこない。

晴天下でのラランテス単騎の突破力が高すぎるが故、他に戦略じみたものは殆ど要らなかったのだろう。

おかげでウェザーボールとソーラーブレードの波状攻撃もどうにか受け流せている。

そして今は4回目のソーラーブレードをコイルが防いでいた。
 ▼ 519 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/04 03:49:58 ID:MewTrk.s [3/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「しゃらッッ……!」

ラランテスの赤いレンズの奥の瞳には、次第に苛立ちが滲み始めていた。

「コイル、あと3秒! そろそろ備えるぞ!!」

「##っ!」

4セット目を防ぎきっても、間髪入れずに5セット目のソーラーブレードが繰り出される。

それも防ぐためには再び最後の一撃の勢いを利用してノックバックし、スムーズに交代しなければならない。
 ▼ 520 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/04 03:51:26 ID:MewTrk.s [4/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「しゃら……っ!」

4発目の残り時間はあとほんの僅か。

ラランテスが鋭い気合を吐き出し、光剣を大きく振りかぶる。

コイルの現在位置はフィールド中央付近。俺、コイル、ラランテスが一直線上に並ぶ位置関係だ。

この状況なら斬撃を受けて後ろに吹っ飛び、そのまま瞬時にスイッチできる。

「##……」

コイルの集中力も十分だ。

ラランテスが上段から剣を振り下ろしにかかるが、コイルは余裕を持って軌道の正面に盾を割り込ませる。

これで4/5も攻略……
 ▼ 521 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/04 03:53:29 ID:MewTrk.s [5/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

……したとほんの一瞬でも思ってしまったことが、もはやミスであったと言えよう。

ラランテスは盾に触れる寸前で剣を引いて身を翻し、バックターンでコイルの背後を取った。

まさかのフェイク!!

「後ろ!!」

「#……!」

コイルが全意志力を以って盾を操作するが、意表を突かれた代償は大きい。

「しゃらんらーっっ!」

ガードは間に合わず、痛烈な袈裟斬りがコイルに叩き込まれた。
 ▼ 522 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/04 03:54:38 ID:MewTrk.s [6/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

4本目の光剣が消えるや否や、ラランテスが日光に鎌をかざす。

コイルはややふらついているものの、まだ倒れてはいない。

時間切れ間際に1発斬られただけで済んだのが幸いだった。

はがねタイプのコイルなら、それくらいは耐えられる。
 ▼ 523 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/04 03:55:26 ID:MewTrk.s [7/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「しゃららん」

最後の光剣を構えたラランテスが、余裕の表情でコイルを見下ろしている。

流石はくさの試練のぬし。

今までの剣技が防がれると分かり、これまでにない攻撃パターンを見せてきたこと。

おそらく初めてであろう動きを1発で、それもこちらにとって最も致命的な場面で成功させたこと。

まさに百戦錬磨だ。
 ▼ 524 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/04 03:56:15 ID:MewTrk.s [8/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

倒れはしなかったもののまんまと交代のチャンスを潰され、次の攻撃もコイルで受けなければならなくなってしまった。

ソーラーブレードのPPはそれで終わりだが、イーブイとヤドンだけでラランテスを仕留め切ることは不可能だろう。

高々と掲げられたソーラーブレードがいよいよ振り下ろされようとしている。

絶体絶命だ。
 ▼ 525 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/04 03:57:07 ID:MewTrk.s [9/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

そんなピンチの中で、俺の頭の中を1つの記憶が駆け巡っていた。

走馬灯を見ているわけではない。

思い出しているのは4度目の試練の少し前。

ラランテス対策にまもるを使うと決意し、わざマシン売り場の店員を訪ねた時のことだ。
 ▼ 526 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/04 03:59:18 ID:MewTrk.s [10/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







「なるほど……。まぁ、大体の基本は理解しました」

店員「うんうん。じゃ、おさらいしよう。

1つ、どんな攻撃でも正面で受けること。
2つ、怖くても目を瞑らず、相手の動きをよく見ること。
3つ、守るというより、むしろ立ち向かう意識を持つこと。

とりあえずはこの3つ。あとは実際に使いながら慣れていくしかないかな。

結局のところ頭で分かってても戦闘中は考えて動く余裕はないからね」
 ▼ 527 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/04 04:00:26 ID:MewTrk.s [11/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「やっぱ練習ですか……。他になんか無いんですか? 裏技とか、コツとか」

店員「能力に関係なく最強の盾を出せるのがもはや裏技みたいなものだからねぇ……。

コツっていうのも、ポケモンそれぞれの感覚があるから一概には言えないよ」

「むぅ……」

店員「あ、でも、1つだけまだ言ってないことがあったかな。

これは店長の口癖なんだけどね───」





 ▼ 528 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/04 04:02:03 ID:MewTrk.s [12/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「しゃらんらーッ!!」

ようやく引導を渡せる喜びからか、数割増しで気合のこもった上段斬りが繰り出される。

最後に使ったまもるからはまだ3秒も経っていない。

だが。

「まもる!!」


『───”2連まもるは運じゃねぇ”って、いつも言うんだ。』
 ▼ 529 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/04 04:04:03 ID:MewTrk.s [13/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「#√√ッッ!!」

「しゃらっ!?」

振り下ろされた剣は再び現れた最強の盾に阻まれ、構えていた位置に跳ね戻る。


運じゃないなら何が2連まもるを成功させるのか、その先は結局分からずじまいだった。

しかし今、俺はまもるを叫び、コイルの前には盾がある。

それだけで十分だ。
 ▼ 530 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/04 04:05:49 ID:MewTrk.s [14/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

そこからのラランテスの剣は今日一番の冴えを見せた。

緩急、サイドからサイドへの切り返し、フェイク、時に大胆な力技。

ポワルンのウェザーボールによる援護も重なり、間近で防御に徹するコイルは相当恐ろしい景色を見ていたことだろう。

だがコイルは一歩も引かず、絶え間なく続く攻撃を片っ端から捌いていった。
 ▼ 531 着延期ですorz◆SxCy/NIFN. 17/05/04 04:07:42 ID:MewTrk.s [15/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

そして、その瞬間がついに来る。

「しゃ……らんらーッ!!」

「###ーー!!」

天高く跳躍して放たれた渾身の上段斬りとコイルの盾がせめぎ合い、そして───

───ラランテスの最後のソーラーブレードが、無数の光の破片となって四散した。
 ▼ 532 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/05 00:31:09 ID:F.Ok7rtE [1/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



「しゃら……?」

ラランテスが、不思議そうな顔で右手の鎌を凝視する。

そのままおもむろに鎌を掲げるが、当然もう光の柱は立ちのぼらない。

「ポワ……」

ポワルンがラランテスをおずおずと見やった。

ウェザーボールの方は数えていないので断定はできないが、おそらくこちらもPPが尽きたのだろう。
 ▼ 533 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/05 00:32:42 ID:F.Ok7rtE [2/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「しゃら!」

何かを思い出したかのように目を瞬かせ、ラランテスは掲げたままだった右手を振り下ろした。

無数の葉っぱの刃が回転しながらコイルめがけて飛来する。

ラランテスのサブ技、はっぱカッターだ。

だがその軌道は単調で、速度も大したことはない。

「コイル、マグネットボム」

「##!」

2つの弾幕が中央で衝突し、黒煙を上げて相殺する。

当たり前だが、トレーナー戦ではまもる以外の技もそれなりに使ってきたのだ。

はがねにくさは今ひとつということもあり、この程度であれば余裕を持って迎撃できる。
 ▼ 534 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/05 00:34:06 ID:F.Ok7rtE [3/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ポワワ……」

「しゃ、しゃらんらん!」

不安げな鳴き声を上げるポワルンに、ラランテスが声を荒げる。

「しゃらんらっ」

今度は両手の鎌を交差させ、コイルめがけて飛びかかってきた。

シザークロス。

しかしその動きは無駄に大ぶりで、明らかにぎこちない。

「股下!」

「##!」

ジャンプしたラランテスの下を滑るように潜り抜け、そのまま背後を取る。
 ▼ 535 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/05 00:34:44 ID:F.Ok7rtE [4/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「でんじは!」

「#ッ!!」

着地ぎわを狙い、ラランテスの背中に向けてでんじはを放つ。

「しゃらっ!」

が、空中で体をひねって回避された。

「クソ、やっぱダメか」

これ程の隙があれば当たるかと思ったが、やはり圧倒的な反応速度は健在だ。
 ▼ 536 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/05 00:35:53 ID:F.Ok7rtE [5/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「なぁ、ぬしポケモン。お前、ソーラーブレード以外の攻撃わざ、使い慣れてないんだろ」

「しゃッららん!!」

ラランテスが再び鎌を振り、はっぱカッターを飛ばす。

が、やはり単調。

草の刃はまたも鋼弾に阻まれて爆散した。
 ▼ 537 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/05 00:36:58 ID:F.Ok7rtE [6/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

パラパラと散る焦げた葉っぱの残骸の向こうで歯噛みをするラランテスに、俺は続ける。

「ソーラーブレードだけで十分だったんだろ?

実際それでほとんどの相手は返り討ちにできるし、倒される時も相手の方が先に必殺火力を飛ばしてくるパターンばかりだもんな。

ソーラーブレードが使えなくなるほどの長期戦になるなんて思ったことはなかったんだよな?

はっぱカッターもシザークロスも、ろくに使って来なかったんだろ」
 ▼ 538 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/05 00:37:33 ID:F.Ok7rtE [7/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「しゃらっぷ!」

俺の言葉を遮るようにラランテスが再び鎌を振るい、刃が舞う。

「#ッ!」

俺が指示を出さずとも、コイルはマグネットボムで迎え撃つ。

三度、爆破。

硝煙臭い煙がフィールドを包む。
 ▼ 539 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/05 00:38:08 ID:F.Ok7rtE [8/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「とまぁ、こんな風に簡単に破れるのがその証拠なわけだ。

とはいえ、現状俺たちもお前を倒せない。

ソーラーブレードをどうにかしたはいいが、超スピードとこうごうせいの方は何も思いつかなかったんだよな」

俺はわざとらしく肩を竦め、ため息をつく。

「しゃら……」

ラランテスはレンズの奥の瞳に苛立ちを滲ませている。
 ▼ 540 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/05 00:39:02 ID:F.Ok7rtE [9/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「で、倒せないならやれることはもう1つしかないわけだ。

3匹合わせてまもるが残り25回。はっぱカッターを完全に相殺するマグネットボムが18回。

シザークロスに至っては散漫すぎてわざ無しで避けれるし、まぁ問題ないだろう。

んで、こっちにはイーブイとヤドンもいる。

なぁラランテス、もうどういうことが分かるよな?」

「しゃ、しゃらっ!!」

ここでラランテスの表情が苛立ちから動揺に変わった。
 ▼ 541 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/05 00:39:52 ID:F.Ok7rtE [10/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


もちろん、ハッタリだ。

確かに俺の言った通りに事が運べば、PP差で競り勝つことは可能だ。

しかしそんな悠長なことをしていれば、いつラランテスがコツを掴み始めるか分かったものではない。

体力的な面で見ても、朝から晩まで戦闘に明け暮れているぬしとこれ以上持久戦をするのは無理があるだろう。

だが、伝家の宝刀ソーラーブレードを完封されたばかりのラランテスは、そこまで強い確信を持てないはずだ。

だからもう一押し。
 ▼ 542 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/05 00:40:59 ID:F.Ok7rtE [11/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ここまで2ヶ月、未熟な俺たちのまもるを崩しては切り刻んできたよな。

ソーラーブレード全部止められて、まぁその時の俺たちの気持ちは結構分かってもらえたと思う。

で、まだバトル続けるってんなら、ひたすらその気持ちを味わい続けることになるわけだが……

どうする、まだやるか?」

言い放ち、とりあえず皮肉に笑っておく。

いつぞやこういうやり方は控えると言った気がするが、撤回だ。流石にもうこの試練はやりなおしたくない。

さぁ、降参してくれ……!
 ▼ 543 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/05 00:41:50 ID:F.Ok7rtE [12/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……ゃら……」

ラランテスが俯きがちにくぐもった声を漏らす。

「どうした、聞こえ……」

「しゃらんらぁあーーーーんっっ!!」

「!?」

ラランテスが突如膝から崩れ落ち、大泣きし始めた。
 ▼ 544 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/05 00:42:21 ID:F.Ok7rtE [13/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

マオ「あーあ、やっちゃったねぇ」

端のほうで見ていたマオが椅子代わりの岩から飛び降り、フィールドへ歩み寄りながら言う。

「えっ……えぇぇ?」

「##……?」

俺もコイルも、唐突な展開に意味もなくキョロキョロすることしかできない。
 ▼ 545 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/05 00:42:46 ID:F.Ok7rtE [14/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

マオ「私のラランテス、ああ見えて結構繊細なんだよ?

ボロ負けして半べそで帰る子達のこととか、いつも結構引きずったりしてるの。

いくら知らなかったとはいえ、流石にあの言い方は……ちょっとね?」

あくまで穏やかなトーンなのが逆に怖い。

「すみませんでした……」

弁解の余地がないので、とりあえず地面と一体化してやり過ごすことにした。
 ▼ 546 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/05 00:43:44 ID:F.Ok7rtE [15/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

マオ「ま、でも試練はクリアでいいかな。とりあえず」

「マジで!?」

苔に擦り付けていた頭をぐわっと上げ、マオを見上げる。

マオ「うん、マジマジ。ソーラーブレードを全部防いじゃったのって結構すごいし、まぁいいかなって。

あの子強すぎてメンタルあんなだから、多分そのまま戦っても勝てたと思うの」
 ▼ 547 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/05 00:44:19 ID:F.Ok7rtE [16/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

あんな、と言いながら指した先では、ラランテスがまだシクシクとベソをかいていた。

「いや、ほんと、すいませんでした」

マオ「うんうん、反省してね。

じゃ、はいこれ。くさZ! Zポーズはね……」

「あ、それはいいっす。リングがないので」

マオ「…………」

マオが無言でZポーズを敢行する。

いや、やりたかったの?
 ▼ 548 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/05 00:45:30 ID:F.Ok7rtE [17/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



ラランテスにひとしきり謝ってから、俺はジャングルを後にした。

このまま家に戻ってもいい時間だったが、2ヶ月前にバッドボーイに奢る約束をしていたことを思い出し、ポケセンに1泊することに。

ぶっちゃけ無償でまもるのわざマシンを貸し出したことでチャラにしていい気もするが、まぁ約束は約束だ。

それに、今は今日まで同じ試練に立ち向かってきた戦友と祝勝会をしたい気分だしな。
 ▼ 549 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/05 00:47:58 ID:F.Ok7rtE [18/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


???「オイ、兄ちゃん」

軽快な足取りでポケセンに向かっていると、後ろから何やら気だるげな声で呼び止められた。

クチナシ「よお、兄ちゃん。おじさん、は警察のクチナシってモンだが……」

え、警察? 何か事件でもあったのか?

クチナシ「言いづらいんだけど、兄ちゃんに特定外来生物法違反の容疑がかかってんのね。

……ちょっと、来てくれるかな?」



………………!!?!?!!?
 ▼ 550 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/05 01:03:48 ID:F.Ok7rtE [19/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


支援ありがとうございました。ここまでで第3章完結です。
主にイーブイ(サンダース)とコイルの話だったのでひたすらにヤドンが空気になりましたが、描写してないだけで活躍はしてます。

さて、4章以降の執筆ですが、当分先になると思います。
見切り発車からどうにか折り返し地点まで来ましたが、思った以上にネタ切れしました。中盤の投稿ペースにも現れている通りです。
当分先どころか、何も考えつかなければ失踪です。チャンピオンとか黒ククイの話をねじ込まなければここで打ち切りにできたのに……。
まぁ、もしさじを投げる時が来たらちゃんと失踪宣言はします。
 ▼ 551 リムガン@おとしもの 17/05/05 04:53:47 ID:JGiXS3jw NGネーム登録 NGID登録 報告
待ってます
支援
 ▼ 552 マゲロゲ@はかせのふくめん 17/05/05 17:32:03 ID:ZOmA823A NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
細い木のやつ見ました
支援
 ▼ 553 ィ@イトケのみ 17/05/05 22:33:01 ID:r2r5t1uM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
3章完結乙
全力で邪道を往く主人公
細い木はアローラでは違法だったか
 ▼ 554 マケロ@ピジョットナイト 17/05/05 22:37:20 ID:KYVUp7FI NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>553
細い木って何スカ?
 ▼ 555 ーテリー@ねばりのかぎづめ 17/05/05 23:19:50 ID:.HW2VC/Q NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>554
居合切りで切れるあれ
 ▼ 556 リヤード@きのみプランター 17/05/05 23:35:05 ID:9O5c/B/Q NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 557 クシオ@あかいウロコ 17/05/07 00:16:57 ID:n.DJNLg. NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 558 ーナイト@サーナイトナイト 17/05/10 22:47:29 ID:KuWIpGHY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 559 クールスクール 17/05/10 22:55:32 ID:GFflIZu2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 560 カタンク@あかぼんぐり 17/05/10 23:19:34 ID:q9LZMhyg NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 561 ガライボルト@オーキドのてがみ 17/05/11 00:54:17 ID:k/mO7HrM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
居合切りの木がここで来るかwww

支援…圧倒的…支援……!!
 ▼ 562 ガボーマンダ@エレキシード 17/05/13 23:25:52 ID:GbEgs5B2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 563 グカルゴ@こうてつプレート 17/05/16 21:42:50 ID:rfvIZIRk NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 564 ノプス@グラシデアのはな 17/05/18 18:28:05 ID:az/4nCoo NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 565 リン@シールぶくろ 17/05/20 13:20:49 ID:SC5EWXHs NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 566 カグース@ボスゴドラナイト 17/05/21 12:13:44 ID:86yyk0oQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 567 ンホロウ@バトルサーチャー 17/05/22 00:32:22 ID:4wSBno9k NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 568 ンペルト@レインボーパス 17/05/23 01:46:28 ID:KcZojUJM [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 569 マタナ@サンのみ 17/05/23 21:37:17 ID:KcZojUJM [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 570 シェード@オレンのみ 17/05/24 23:54:01 ID:ei0EAjZg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 571 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/05/26 04:13:01 ID:9Tg.Hrus NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
3章完結から3週間ほど経ちました。
大変申し訳ありませんが、結論から言うと失踪します。
このスレはこのまま落としてください。

一応4章を半分ほど書き進めたのですが、やはりネタ切れは深刻でした。
これまで通り場当たり的なストーリー展開で遅々とした更新をすることは不可能ではないと思いますが、それをやっていくと終盤で御都合主義と矛盾の嵐になることが予想されます。
そうなるくらいなら、最終話までの明確なプロットと十分な量の書き溜めを用意したのちに改めてスレを建てた方がいいだろうと思った次第です。
このスレの残量ではどのみち2スレ目に突入しますし。


「一旦更新を止めて続きは別スレで書こう。」

……まぁ、つまりそれを人は失踪と呼ぶんですよね。

私の記憶上そういう約束がなされたSSは大体二度と帰ってこなかったので、おそらくこれも失踪だと思います。
というわけで失踪扱いにしてください。
続きを書く意思はありますし、何食わぬ顔で無関係のSSを投稿したりもしますが、この場に於いてこのSSの作者は失踪したことにしてください。
このSSはもうエタったことにしてください。
完結を約束できないものを書いてしまった私の無責任さをどうか許してください。

読者様方の期待に添えず、大変申し訳ありません。
 ▼ 572 レユータン@でんきのジュエル 17/05/26 12:41:56 ID:VYtQ8gbg NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
そいつは残念だなぁ…
お疲れ様でした
 ▼ 573 ドシシ@キーのみ 17/05/26 17:21:46 ID:/vVf1AnY NGネーム登録 NGID登録 報告
ここまででも充分面白かった乙
 ▼ 574 ガタブンネ@ローラースケート 17/05/26 20:33:13 ID:EoISETMA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙やで

最後のクチナシのセリフだけちょっと解説欲しいとは思うけど
 ▼ 575 ガエルレイド@つめたいいわ 17/05/26 22:19:05 ID:ttLoEc4M NGネーム登録 NGID登録 報告
ラランテスをラスボスにしてもよかったのに
次回作を楽しみに待ってるわよ
 ▼ 576 ーフィア@ゆきだま 17/05/26 22:19:46 ID:Pf8YqAng NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
ごめんageてた
 ▼ 577 ブライカ@おはなのおこう 17/05/27 08:42:17 ID:GIe0Qn9Q NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
また新しくスレ立てた時はこっちにリンク貼ってね。


応援してるわ
 ▼ 578 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/14 14:27:09 ID:AXeoLP4w [1/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
〜三章番外編〜

【40日目】

俺を乗せたリザードンが静かに翼を広げ、こちらに視線を送る。

どうやら飛翔の準備が整ったようだ。

「それじゃリザードン、8番道路まで、頼んだ!」

「……グォウ!」

短く吠えたリザードンは勢いよく砂を巻き上げて羽ばたき、直後に重力が倍加したような感触が俺の体を襲う。
 ▼ 579 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/14 14:27:44 ID:AXeoLP4w [2/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「くっ…………相っ変わらず離陸と着陸が怖えな…………」

そう愚痴る間に離陸のGが次第になりを潜め、同時に強張っていた体がほぐれていく。

そして、おそるおそる背筋を伸ばして目を開くと───

「おお、すげえ」

───既にハウオリシティを一望できる高度に到達していた。

リザードンライドは何度か利用しているので初めての景色ではないが、やはりすごいものはすごい。
 ▼ 580 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/14 14:29:11 ID:AXeoLP4w [3/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

ラランテスに4度目の敗北を喫した昨日、俺は資金が尽きていたので一旦ハウオリに戻っていた。

ククイ宅の玄関前に植えた細い木の生育状況をこっそり確認し、その後自宅に帰って両親に経過報告をし、追加の資金を受け取った。

そして一夜明けて今、差し当たりこの島でやることはないので、再びアーカラへ向かっている。

本当はもう1、2日程度はオフを取りたかったのだが、わりとポケモンたちがやる気だったので予定を切り上げての出発だ。
 ▼ 581 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/14 14:29:33 ID:AXeoLP4w [4/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

次に戻って来るのはまた資金が尽きた時だ。

それまでには草の試練を突破できるだろうか?

……いや、多分無理だ。

今回は間違いなく長期戦になる。

まもる戦術を試した昨日の試練の感触がそれを物語っている。

店員の指導を受けて初日の有り様よりはだいぶマシになったとはいえ、防御のコツを掴むにはまだまだ時間がかかるだろう。
 ▼ 582 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/14 14:30:04 ID:AXeoLP4w [5/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

とりあえずくさの試練攻略にかかる時間を1ヶ月と見積もり、今後の計画について思案する。

まず第一に考えるべきは節約だ。当面の間出資者に大した進捗を報告できない以上、金を浪費するわけにはいかない。

ラランテスに勝てないぐらいで仕送りが止まることはないだろうが、これは両親の機嫌の問題というよりも俺の気分の問題だ。

しばらくはポケセン宿舎を使わずにテント泊をしようと思う。
 ▼ 583 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/14 14:30:29 ID:AXeoLP4w [6/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

8番道路に篭って慎ましく生活しつつ試練に挑み、試練がない日は継続的に特訓とレベル上げを行う。

オフは週1ぐらい。

以上。

計画なんて言ってはみたが、試練に足止めされている現状ではルーティンをひたすら繰り返す他ない。

受験浪人は成績が伸び悩む時期に苦しむらしいので、もしかしたら島巡り浪人の俺も踏ん張りどころに来ているかもしれない。

節約生活も相まって結構な鬼門になるだろうか。

……メンタルを強く持とう。
 ▼ 584 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/14 14:31:22 ID:AXeoLP4w [7/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「あっ!」

今後の旅を左右する重大なことを、今の今まで忘れていた。

「グルァ?」

「今日ポケマメが安い日だ……」

メガやすで2パック198円の日である。節約生活をしようという時にこれを逃していては話にならない。

リザードンライドの時間増で交通費は400円のロスになるが、ポケマメの他にもセール品があるので十分にお釣りがくる。

「すまん、行き先変更! ロイヤルアベニューまで頼む!」
 ▼ 585 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/14 14:32:15 ID:AXeoLP4w [8/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告




レジ員「お待たせいたしまし……

おう、お前さんか。首尾はどうだ? サンダースの調子は…………おお?」

イーブイ「キュイ!」

「あーっと……その、色々とありましてね」

買い物かごに入れるものの厳選がつつがなく終わり、残すは会計のみ。

だが俺は並ぶレジの選択を誤り、やたらと昔は強かった感出してくるおっさんに再び捕まっていた。
 ▼ 586 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/14 14:33:04 ID:AXeoLP4w [9/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



レジ員「……で、イーブイに退化さしちまったってわけか!

なるほどな、そいつはおもしれぇじゃねぇの。……見所あるぜ、お前さん」

「ははは……」

俺の買い物かごの中身の会計は完全に手付かずのまま既に5分が経過し、後ろに並ぶ主婦の視線がそろそろやばい。

レジ員「それにしてもイーブイか……。フッ懐かしいぜ。俺も昔は……おっと、こんな話はどうでも良いか。

なぁお前さん、また別の進化をするのも悪くねぇが……イーブイにしかできない戦い方があるって知ってるか?」

にも関わらずおっさんのトークは止まらない。長い立ち話に、既に当のイーブイは頭の上で熟睡している。

バーコード読み取り機を手に取ることすらしない辺り、会計のことは完全に忘れているらしい。
 ▼ 587 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/14 14:33:28 ID:AXeoLP4w [10/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「あの、早く会計を……」

レジ員「おおっとすまねぇ、そういや仕事中だったな。

ま、俺は基本この時間にはシフトでレジ打ってる。そのイーブイのことで気になることがあったら来るといい」

「はぁ……」

いや、シフト中に相談とかしてたらまたレジが混むから。
 ▼ 588 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/14 14:34:06 ID:AXeoLP4w [11/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

レジ員「お会計1857円になります。……が、1000円でいいぜ。面白い話聞かしてもらったしな」

「えっ、そりゃどうも……」

後ろの主婦の視線がさらに突き刺さるのをビリビリと感じるが、それは口に出すまい。

レジ員「あと……コイツは選別だ」

おっさんはポケットから何やら取り出し、そのまま無造作にレジ袋の中に突っ込んだ。

レジ員「期待してるぜ、『イーブイ使い』さんよ。……じゃあな」

「…………?」
 ▼ 589 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/14 14:34:23 ID:AXeoLP4w [12/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



色々と言いたいことはあったし、イーブイ関連の話も興味がないこともなかった。

だがこれ以上後ろの主婦に睨まれているとぼうぎょステータスがマズいと思ったので、俺は1000円札を置いて逃げるようにメガやすを後にした。
 ▼ 590 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/14 14:34:45 ID:AXeoLP4w [13/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



「選別ってこれ……Zクリスタルじゃねぇか」

レジ袋の中の食品類を整理していると見えたのは、はしばみ色に透き通った八面体の結晶。

クリスタルの中央に見えるのは、獣の足跡のようなマーク。

どうやらタイプクリスタルの類ではないらしい。
 ▼ 591 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/14 14:36:00 ID:AXeoLP4w [14/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

こういうときはとりあえず検索。

「…………ほー、イーブイZなんてものがあるのね」

「キュイ……?」

名前を呼ばれて反応したのか、頭の上で眠りこけていたイーブイがもぞもぞと動きだした。

「おぉ、起きたか。なんかお前専用の必殺技があるらしいぞ。ほれ、イーブイ専用Zクリスタル」

「キュイッ!!」

「ま、Zリングがないんだけどな!!」

「キュイ……」

換金すればいくらになるかなぁ、これ。
 ▼ 592 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/14 14:39:08 ID:AXeoLP4w [15/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告




────スーパーメガやす 職員控え室

レジ員「イーブイ使いのカゲトラ……いや、今は元イーブイ使い、か」

レジ員「そんな俺が認めたんだ。お前さんなら、きっとナインエボルブーストも使いこなせるさ」

レジ員「これでようやく俺も未練を断ち切れるってもんだ」

レジ員「新たな『イーブイ使い』……。フッ、俺は伝説の始まりに立ち会ったのかもしれねぇな」

店長「あの、君状況分かってる? 今回は減給で済ますけど、次やったらクビだからね?」

レジ員「あっ、はい」
 ▼ 593 ウマージ@ラティオスナイト 17/06/14 17:55:25 ID:v1KYIZlM NGネーム登録 NGID登録 報告
下がってないぞー

支援
 ▼ 594 アームド@するどいツメ 17/06/14 18:04:12 ID:kmiqp9eQ NGネーム登録 NGID登録 報告
ろうにんさんやってたのか
 ▼ 595 ルンゲル@オレンジメール 17/06/14 18:37:04 ID:azzljBcA NGネーム登録 NGID登録 報告
え?どゆこと?続いたってこと?だとしたらヤッター
 ▼ 596 ジーロン@アクZ 17/06/14 22:05:35 ID:fKex0oY2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
もしかして、このまま再開…?
 ▼ 597 知らせ◆SxCy/NIFN. 17/06/14 22:28:08 ID:AXeoLP4w [16/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告




4章以降の話を書くにあたり、3章終盤をあまりに端折り過ぎてやりづらかったので、番外編という形で補完することにしました。

そして、次スレのスタートが番外編となるとなんとなく切りが悪い。

というわけで、このスレが落ちる前に番外編だけ先に書いてから失踪することにしました。

ちなみに番外編はあと3回です。

 ▼ 598 ゲチック@ホイップポップ 17/06/14 22:38:06 ID:b0tYtJEU NGネーム登録 NGID登録 報告
リアルだなあ
 ▼ 599 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/15 17:34:56 ID:5bFwU3LY [1/18] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
【43日目】



「しゃらんらーっ!」

身の丈ほどもある巨大な光剣を引っ提げて、ラランテスが猛然と距離を詰めてくる。

迎え撃つのは先鋒コイル。

さぁ、今日もやるだけやってみよう。

「コイル、まもる!」

「##!!」
 ▼ 600 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/15 17:35:58 ID:5bFwU3LY [2/18] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「しゃら……! しゃらんらっ」

まもるの発動を確認するや否や、ラランテスが突進の姿勢を低めてくる。

まもるの弱点その1、盾の側面から強打を受けるとガードが弾かれる。

流石は百戦錬磨のぬしポケモンというべきか、ラランテスはその辺をよく理解している。

初挑戦時は地面スレスレの切り上げを受けてガードが高々と弾き上げられ、正面が完全にガラ空きになってしまった。

前回の挑戦では初撃までは盾を正面に保てたものの、そこからさらに続く左右に大きく踏み込んでのサイド斬りを追いきれず、
結局3本のソーラーブレードできっちり3匹始末されて敗北を喫した。
 ▼ 601 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/15 17:37:37 ID:5bFwU3LY [3/18] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「しゃらんらっ!」

「##!!」

草地を抉りつつ放たれた光の軌跡と盾が交錯し、激しい炸裂音を轟かせて火花が弾ける。

ダッシュの勢いを乗せた痛烈な衝撃にコイルはやや仰け反ったものの、ガードはまだ剥がれていない。

問題は次だ。先日同様、ラランテスは多方向からの大振りでひたすらにこちらを振り回してくるだろう。

ソーラーブレードが持続する間、一旦ガードが追いつかなくなったらその時点で抵抗は不可能に近い。

あちらがコイルを片付けるには3秒あれば十分なので、少なくとも7秒以上、ラッシュを防ぎ続ける必要がある。
 ▼ 602 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/15 17:38:30 ID:5bFwU3LY [4/18] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「右! また右! っ左!!」

「#! ##ッ! √√!!」

斬撃の予備動作の把握に全集中力を費やし、掛け声に合わせてコイルがギリギリのタイミングで盾を割り込ませる。

ラランテスの剣さばきは強烈でありながらもステップが滑らかで、その舞うような太刀筋はスピードも相まってかなり捉え難い。

だが、すでに5度目の試練。そろそろ見えてくるものがあるはずだ。

その証拠に、俺もコイルも昨日よりは確実に反応速度が上がっている。
 ▼ 603 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/15 17:38:57 ID:5bFwU3LY [5/18] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

しかし、俺たちがラランテスに対処すれば、ラランテスも当然こちらに対処してくる。

「左、右! ……なっ!?」

「しゃらんっ!」

剣を盾に叩きつけた反動を利用し、ラランテスが後ろに大きく飛び退いた。

まだ5秒以上はあるのに、コイルから距離をとった……?
 ▼ 604 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/15 17:39:37 ID:5bFwU3LY [6/18] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「何を……」

するつもりなのかは、次の瞬間に分かった。

着地と同時に剣を一瞬真後ろに引きしぼり、間髪入れず突きの構えでコイルめがけて突っ込んできたのだ。

「##!?」

さながら光の槍となったラランテスの強烈な中段突きが盾の中央に突き刺さり、激しいスパークを散らす。

虚を突かれたコイルは突然のリズムの変化に合わせきれず、後方に大きく跳ね飛ばされた。
 ▼ 605 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/15 17:40:38 ID:5bFwU3LY [7/18] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

まもるの弱点その2、踏ん張りが甘いと盾ごと吹っ飛ばされる。

まもるの発動中は移動の力が全て盾に注がれて自分から動けなくなるが、物理法則はそのまま働く。

つまり、黙って盾の後ろにいても押されれば動いてしまう。

わざマシン屋の店員曰く、全力で踏ん張ればレベル差があってもわざの効果で必ず踏みとどまれるらしい。

だが、今のように不意を突かれ、気が抜けていると…………当然踏ん張りは効かず、体勢を大きく崩されてしまう。
 ▼ 606 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/15 17:41:17 ID:5bFwU3LY [8/18] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「しまっ……コイル!」

フィールド中央から吹っ飛ばされたコイルが、地面を跳ねて転がってくる。

「#ッ! ##!」

剣自体は盾で受けているので、ダメージはないようだ。吹っ飛ばされながらもまもるの発動は維持できている。

「よし、まだまだ……っ!?」

だが、一度体勢が崩れたコイルをぬしポケモンは見逃さない。

視線を前方に移すと、地面を跳ね滑るコイルを上回るスピードでラランテスがこちらに向かって疾駆していた。

追撃が来る。
 ▼ 607 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/15 17:41:54 ID:5bFwU3LY [9/18] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「コイル! まだ来てるぞ!」

「##……!」

地面を転がりつつも、コイルはラランテスをどうにか視界に捉えたようだ。

そしてラランテスは、コイルを射程圏内に捉える一歩手前で大きく跳躍。

つまり次に来る斬撃は…………上段斬り!!
 ▼ 608 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/15 17:42:33 ID:5bFwU3LY [10/18] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「上から来るぞ、気をつけろ!!」

一度言ってみたかったセリフを言い放ち、それに反応してコイルがなんとか盾をかざす。

そしてラランテスもジャンプのピークを超え、大剣を振り下ろしにかかる。

「##ッ!」

「しゃらんらーーッ!!」

今日最大の轟音をジャングル中にこだまさせて、剣と盾が激突。

そして─────
 ▼ 609 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/15 17:43:43 ID:5bFwU3LY [11/18] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「##……#…………」

────コイルが盾ごと地面にめり込んだ。

目を回すコイル。

直後に、盾が無数の光の残滓となって霧散。

……ここまでか。

まもるの弱点その3、正面しか守れない。

今のように地面に叩きつけられてしまうと、剣は防げても背中から並々ならぬダメージを受けてしまう。

しかもじめんはコイルの弱点。こうかはばつぐんだった。

「……お疲れ、コイル」




結局その日も、俺たちはきっちり3回のソーラーブレードで全滅した。
 ▼ 610 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/15 17:45:07 ID:5bFwU3LY [12/18] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

バッドボーイ「……なぁ、オイ」

「なんだよ」

バッド「俺たちよ、もしかしてかなり愚にもつかねぇことをしてんじゃねぇのか?」

「やめろよ、今俺もそれ思ってたとこなんだから」

ポケセン裏のテントで、膝を抱え俯きながらボソボソと会話を交わす。

試練攻略反省会と称して集まったはいいが、この有様だ。

共に秒殺されたショックが共鳴し、お互いのモチベーションはダダ下がりである。

俺たちの放つ負のオーラに遠慮してか、俺とバッドボーイのポケモンたちもテント端に固まって大人しくなっていた。
 ▼ 611 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/15 17:45:54 ID:5bFwU3LY [13/18] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

バッド「大体よぉ、お前がこれなら勝てるっていうからノったんだぜ?

それが何だよこりゃ。ボロクソじゃねぇか。
何が『この試練には必勝法がある』だよ。舐めてんのか」

「だから、そういうこと言うなよ。この作戦はモチベーションが命なんだよ。勝つまでやりゃ必勝法だろ?」

バッド「勝てねぇって言ってんだよ。まもるでPP枯らし……あんときゃ賛成したが、蓋を開けてみりゃ無理ゲーもいいとこじゃねぇか」
 ▼ 612 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/15 17:46:57 ID:5bFwU3LY [14/18] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
確かにそれは俺も思った。

盾の扱いの上達は思ったより遅々としているし、試練の中で相手の剣技を把握しきるのも至難の技だ。

だが……

「じゃあ、お前は他になんか作戦あるのかよ。アレに攻撃当てられる自信はあるか?」

バッド「それは……ねぇけどよぉ」

俺の手持ちはコイル、ヤドン、イーブイ。バッドボーイの手持ちはスリープ、ラッタ。

攻撃を当てるための速度や、ソーラーブレードによる防御を貫通するだけの火力はない。

よしんば偶発的に何発か当てられたとしても、こうごうせいによる回復力を上回ることはできないだろう。

だから、圧倒的能力差を唯一無視できる手段であるまもるに頼ろうと言う話になったのだ。
 ▼ 613 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/15 17:47:33 ID:5bFwU3LY [15/18] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「まぁ一応、他の策もないことはないけどな」

バッド「あんのかよ。先に言えよな」

「まずヒノヤコマを3匹ほど捕まえて……」

ここまで言いかけたところで、テントの端で遊んでいる5匹が一斉にこちらを振り向いて震えた。

バッド「やめろ、冗談じゃねぇ」

「……だろ? 今のメンバーで戦いたいなら、やるしかねぇよ。結局な」
 ▼ 614 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/15 17:48:18 ID:5bFwU3LY [16/18] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

近辺の道路は試練のピークで人が集まりすぎてポケモンが逃げてしまっているが、山奥まで出向けばポケモンの捕獲は可能だ。

ラランテスにめっぽう強いヒノヤコマを複数匹パーティに入れておけば、まぁさほど苦戦はしないだろう。

だが、それで勝った後にメンバー内の空気がどうなるかだ。

勝利を優先して旅が辛くなっては元も子もないということは、先日の一件でよくわかっている。

また、試練のたびにそのような場当たり的な捕獲をしていては、ポケモンの食費も馬鹿にならなくなってくるだろう。

正直言って3匹養うだけでも結構厳しかったりする。
 ▼ 615 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/15 17:48:57 ID:5bFwU3LY [17/18] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「だから、まぁ……なんだ。とりあえず、練習しようぜ?」

バッド「おう…………バトル、やるか」

つまり、差し当たってこれが最善。

いつか必ずくる勝利を夢見て、俺たちは地道に盾を振りかざすしかないのだ。
 ▼ 616 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/15 17:49:38 ID:5bFwU3LY [18/18] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



───カンタイシティ フレンドリィショップ


店員「今日も売れなかったな、わざマシン」

店員「やっぱりこのご時世に補助技なんて流行らないよなぁ……店長は何も分かってない」

店員「…………いや、でも」

店員「この前俺にまもるを教わりに来たあの少年……彼は何かを持ってるかもしれない」

店員「頑張れ……頑張れ若人たち!」

店員「まもるで何か、伝説を作ってくれ!!」
 ▼ 617 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/17 21:08:31 ID:upo1CZjs [1/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

【72日目】


「ついに、ついにやった…………!」

空を仰ぎ、思わず嘆息する。

長い、とても長い道のりだった。

全身から言葉にならない何かがこみ上げ、それはすぐに甘美な達成感となって俺の脳髄を潤す。

例えるならば、どこまでも続く岩肌が忽然と開け、頂に射す光に目を細めるその瞬間。

やまおとこ達が生きる理由であるそれを疑似体験したような、そんな感覚だ。
 ▼ 618 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/17 21:09:06 ID:upo1CZjs [2/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

そして、改めて眼前の光景に視線を戻し、俺が頂に辿り着いていることを再確認する。

片手鍋、そして中には濃密なクリーム色の液体。

「ついに……全レシピ、制覇っ……!」

『モーンの毎日ポケマメ基本編100』最終レシピ、ポケマメのクラムチャウダー。

自炊生活の一つの目標であったこのレシピ本の制覇が、今ここにようやく叶ったのである。
 ▼ 619 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/17 21:09:28 ID:upo1CZjs [3/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

俺と3匹で鍋を囲み、昼食をとる。

当たり前のことだが、味は普通にクラムチャウダーだった。

それ以上でもそれ以下でもないし、もっと言えば母が作った方が間違いなく美味い。

自分で作ったから別段美味しく感じるとか、屋外で食べると格別だとか、そういう感覚はとうの昔に消え失せている。

料理とは自分で作るものであり、屋外で食べるもの。そして後には洗い物をする億劫さが残るのだ。

だが……
 ▼ 620 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/17 21:10:06 ID:upo1CZjs [4/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「##!」

「キュイ!」

「やぁん」

今日の新メニューはご好評をいただけたらしい。

13年余の人生で様々な料理を食べ慣れている俺はともかくとして、こいつらにはそこそこ新鮮な刺激を与えられているようだ。

「そうかそうか、ありがとな」

これだから自炊はやめられない。

たったこれだけのことで、今晩は何を作ろうかと少し楽しみになってしまうのだ。

俺はけっこうチョロい。
 ▼ 621 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/17 21:10:59 ID:upo1CZjs [5/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

しかし、今晩は何を作ればいいだろうか。

ヤドンのみずでっぽうで鍋を洗いつつ思案する。

基本編の中でも最も手軽な『炒めポケマメ』や『ポケマメのコンソメスープ』などで妥協するのも悪くはないが、
今日はせっかくのオフ日なので何か手のかかることをしてみたい。

かといってここでいきなり創作に走る勇気はない。となると……。

「よし」

鍋の水を切り、立ち上がる。

「やぁん?」

「『応用編』、買いに行くか」
 ▼ 622 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/17 21:11:32 ID:upo1CZjs [6/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


『モーンの毎日ポケマメ基本編』は、ポケセンで無料配布されていた。

しかし応用編はポケセンにはなく、それどころか以前書店を探した時も見つからなかった。

気になって調べてみたところ、どうやらポケリゾートなるところにあるモーン氏の自宅で直接販売しているらしい。

店頭を避ける販売スタイルに若干きな臭いものを感じなくもないが、まぁそこは彼のレシピへのこだわりと捉えれば納得できなくもない。
 ▼ 623 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/17 21:12:09 ID:upo1CZjs [7/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

ポケリゾートまではリザードンで40分ほど。

ポケマメの収穫体験場や温泉、アスレチックなどを備えたレジャースポットということで、オフにはもってこいだ。
 ▼ 624 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/17 21:12:44 ID:upo1CZjs [8/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



モーン「よく来たね! わたしはモーン。ポケリゾートの管理人にしてポケマメ愛好家だ」

「初めまして。えっと、早速なんですが……」

リュックから『基本編』を取り出し、続ける。

「……これの続編がここにあるって聞いて来たんです」
 ▼ 625 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/17 21:13:37 ID:upo1CZjs [9/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

表紙がよれよれになった『基本編』を見るや、モーンは、ほう、と一言感嘆し、少し上気した様子で答える。

モーン「なるほど、キミはもう基本編をマスターしてしまったんだね? 作者冥利につきるよ。ありがとう」

「いえいえ、こちらこそ。ポケモンたちもすこく喜んでましたし」

モーン「うんうん、ポケマメには化学的な依存性があるからね。そりゃもうやみつきだったろう?」

「えぇ、本当に………………え?」
 ▼ 626 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/17 21:14:07 ID:upo1CZjs [10/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

まて、今この人何て言った?

ポケマメ ニハ カガクテキ ナ イゾンセイ ガ アルカラネ?

イゾンセイ? イゾンセイ……

まさか、依存性があるって言ったのか?

かっぱえびせんとかの話じゃなく、化学物質に裏付けられた依存性が?

……だめだ、思考がまとまらない。
 ▼ 627 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/17 21:14:39 ID:upo1CZjs [11/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

そもそも、ここまで2ヶ月以上ポケマメを食べてるのにそんな兆候はどこにもなかったじゃないか。

「あ、あの! 依存性……って言いました? そんなの無いですよね? だって現に俺は全然依存なんて」

モーン「なってないのかい? おかしいな、このレシピを全編終える頃には、ポケマメ探索行動が始まるはずだが……」

「ひっ……」

ポケマメ探索行動という非日常感を醸し出す言葉に、背筋がぞわりと冷える。
 ▼ 628 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/17 21:15:39 ID:upo1CZjs [12/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

だが、やはりそんな廃人じみたマネをした覚えはない。つまりこれは何かの間違い……

モーン「ああ!」

そう自分に言い聞かせた矢先、モーンが手を叩いて声を上げた。

モーン「キミ、もしかして毎日三食ポケマメを食べていたね? なるほど、探索行動なんて起こらないわけだよ!

ようこそポケマメ愛好家の世界へ! わたしはキミを歓迎しよう! そうだ、まずは『応用編』を……」

満面の笑みでまくし立てるモーンの声が、徐々に揺らいで遠ざかる。


ああ、なんてこった…………
 ▼ 629 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/17 21:16:13 ID:upo1CZjs [13/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告






───────────────


 ▼ 630 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/17 21:16:44 ID:upo1CZjs [14/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

「あ……」

目を開くと、知らない天井だった。

情けないことに、どうやらショックで気絶していたらしい。

もしくは、中毒症状の一つかもしれないが。

モーン「あ、目が覚めようだね。気分はどうだい?」

「…………最悪ですよ、あなたのせいで」

こちらを覗き込むモーンから目を逸らし、吐き捨てるように返す。
 ▼ 631 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/17 21:17:28 ID:upo1CZjs [15/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

モーン「そう言わないでくれよ。確かに依存性はあるけど、別に毒じゃあるまいしさ」

「毒でしょう。 だってもし明日ポケマメ食べなかったら俺はおかしくなるんですよね?」

モーン「いや、ポケマメを買いに行くだけだよ。主婦はパンが無くなったらパンを買う。それがポケマメに置き換わるだけさ」

「そういう問題じゃないんですよ」

モーン「じゃあどういう問題なんだい? キミは毎日ポケマメを食べていて、何か不自由があったのかな?」

「それは……」
 ▼ 632 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/17 21:18:05 ID:upo1CZjs [16/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

確かに、不自由はなかった。

飽きがくる類の味ではないし、調理のバリエーションも非常に豊富で、さらに保存期間も長い。

加えて、レシピ本の序章に書いてあった通りならば、ポケマメは五大栄養素をほぼ完璧なバランスで含有している。

仮にポケマメしか食べられなくなったとしても、ひょっとするとそれほど致命的な問題は発生しないかもしれない。
 ▼ 633 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/17 21:18:42 ID:upo1CZjs [17/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

モーン「そもそも、キミは少し勘違いをしているよ」

黙りこくる俺に、困ったような顔でモーンが続ける。

モーン「ポケマメは依存性はあるが、中毒は引き起こさない。それどころか、ポケモンとパートナーの連携力を強める効果があるくらいさ。

最近、ポケモンの動きが良くなってる気がしないかい?」

「言われてみれば……」

モーン「そうだろう? あのレシピ本は何も読んだ人を陥れるためにあるわけじゃないんだ」

なるほど、どうやら俺は依存性という言葉に拒絶反応を示しすぎたようだ。
 ▼ 634 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/17 21:19:13 ID:upo1CZjs [18/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


「でも、だったら何が目的でレシピ本の無料配布なんかしてるんですか?」

モーン「分からせるためさ」

「分からせる?」

要領を得ず、聞き返す。

モーン「……わたしが世間ではどのように呼ばれてるか、キミは知っているかい?」

「……はい?」

あ、なんか始まったっぽい。
 ▼ 635 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/17 21:19:53 ID:upo1CZjs [19/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

モーン「ポケマメ狂い……それがわたしについたあだ名だよ」

「はぁ……」

そりゃあ、マメしかないリゾートで自給自足してんだから間違っちゃいないだろう。

モーン「だが、おかしいとは思わないのかい? 1日3食主食がパンの人はなぜパン狂いと呼ばれない?

パンは良くてポケマメはダメなのか? ポケマメがポケモンのエサだから? 私だけが狂気なのかい?」

狂気だと思う。こんな感じで語り出す奴が狂気じゃなかった試しがない。
 ▼ 636 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/17 21:20:28 ID:upo1CZjs [20/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

モーン「だが、それは違う。キミがこうして三食ポケマメで生きるようになったのが何よりの証拠だ。

あのレシピ本を無料で配布することで、まずはポケマメをアローラの人々の口に馴染ませる。

わたしが遺伝子組み換えを施した依存性のポケマメだ。必ず主食として定着するに違いない。

そして次第にパンは淘汰され…………ふふ、その時にはどちらが狂気と呼ばれる存在になっているのかな?」

いや、ポケマメが主食の世界観でもあんたは間違いなく狂気だ。

普通の人はそんな理由で商品作物に依存物質を組みこまないし、何よりあんたは目がヤバい。
 ▼ 637 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/17 21:21:12 ID:upo1CZjs [21/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

モーン「おっと、ついつい自分語りが過ぎてしまった。『応用編』だったね。確かこの辺に……」

そう言えばそういう目的で来たんだった。モーンがおもむろに小屋の奥へ向かい、引き出しを漁る。

モーン「お、あったあった。最初にここまでたどり着いたキミには特別にタダで進呈しよう」

「あ、はい」

正直言ってこいつと同じ世界に踏み込むのが嫌すぎるが、断ったらどうなるか分かったもんじゃないので受け取っておく。

『モーンの毎日ポケマメ応用編100』。今となっては呪いの経典にしか見えない。
 ▼ 638 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/17 21:21:53 ID:upo1CZjs [22/23] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



「では、どうもありがとうございました」

モーン「もう行くのかい? リザードンの発着場まで送ろうか?」

「はは……」

黙れ、お前を地獄に送ってやろうか。




アスレチックで遊ばせていたポケモンたちを回収し、俺はそそくさと忌々しい楽園を発った。
 ▼ 639 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/17 21:24:39 ID:upo1CZjs [23/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


───夜



「うーん、でもやっぱり普通に美味いんだよなぁ」

鍋の中身を僅かにおたまで掬って啜りつつ、独り言つ。

「キュイ?」

眉間にしわを寄せる俺に、何も知らないイーブイは不思議そうな顔だ。

「あ、いや……なんでもない。……さ、飯にしよう」

大丈夫、毎日食べてるけど全然中毒になってない。

俺は自分自身にそう言い聞かせ、応用編@のポケマメ料理・『煮込みポケマメハンバーグ』を皿によそった。
 ▼ 640 ロスター@ながながこやし 17/06/17 23:22:21 ID:bEu4w7js NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
モーンさんじぇるじぇるクラゲに寄生されてないですかね
 ▼ 641 ブンネ@シュカのみ 17/06/17 23:37:55 ID:qSkEU0sA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
やっぱりモーンは狂ってるのかw


次の番外編はチャンピオンが出ると予想
 ▼ 642 うにんこぞう 17/06/21 21:36:46 ID:S9JYNrqE [1/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

【90日目】



代わり映えのしないくさの試練生活も早2ヶ月以上。

今は試練が始まってから3度目の一時帰宅を終え、アーカラ島に向かっているところだ。

節約の甲斐あってか、帰宅の頻度はかなり抑えられている。

母は色々と察してか、『そんなに無理することないのに』と苦笑いしていた。

そうなるとますます結果が急がれる思いがしてくるわけだが。
 ▼ 643 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/21 21:37:20 ID:S9JYNrqE [2/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

そうそう、代わり映えのしないと言ったが、一つだけ変わったことがあった。

というのも、ククイ研究所が焦土になっていた。

俺が玄関先に植えた細い木だけを残して、破滅的な力で抉られたかのようなクレーターが広がっていたのだ。

真っ黒な焼け跡の中に陽光を浴びてきらめく一本の幼木。

絵面としてはさながら映画のワンシーンである。

何があったのかは知らないが、取り敢えずククイ博士に何らかの災難が降りかかったのは間違いない。

さしあたりこの件に関して俺が思うべきことは『ざまぁ』ぐらいだろう。

細い木の玄関封じは意味をなさなくなったが、ククイ博士が酷い目にあってさえいればそれでいい。
 ▼ 644 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/21 21:37:50 ID:S9JYNrqE [3/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


そんな取り留めのない思考にふけっていると、不意にポケットが震えた。

携帯端末のバイブレーションだ。

どうやら端末の設定をライドモードに切り替えるのを忘れていたらしい。

流石にリザードンに乗りながらの通話は危険すぎるので、放置することに。

申し訳ないが、到着してから折り返しかけ直そう。
 ▼ 645 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/21 21:38:19 ID:S9JYNrqE [4/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



「…………」

バイブレーションが始まってからすでに30分が経過。

8番道路ポケセンを目下に捉える所まで来ても、ポケットから伝わる振動は止まる気配はない。

端末と股間のポジション取りが悪く、リズミカルな刺激に若干の危機感を感じる状況である。

くっ、静まれ……ッ!
 ▼ 646 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/21 21:38:39 ID:S9JYNrqE [5/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



程なくして着陸。

リザードンをターミナルに返すことも忘れ、俺はすぐさまポケットから震える端末を取り出した。

俺のキノココに要らん負担をかけやがって、一体何の要件だ?

「あー……もしもし?」

応答ボタンを押し、苛立ちを露わに通話に応じる。
 ▼ 647 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/21 21:39:16 ID:S9JYNrqE [6/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ウツギ『あ、やっと通じた!! た、大変なんだよ! えーっと、えーっと、何から説明すればいいのか……!

と、とにかく、ま』

俺は電話を切った。
 ▼ 648 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/21 21:39:39 ID:S9JYNrqE [7/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

直感だが、多分ロクな要件ではない。

大体、30分もコールしていてなぜ話すことをまとめていない……

『RRRRRRR!』

……まだかけてくるかコイツ!
 ▼ 649 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/21 21:40:05 ID:S9JYNrqE [8/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

渋々応答する。

「何なんですか……」

ウツギ『もしもし!? いきなり切るなんて酷いよ、全く……』

「あの、要件は纏まりましたか?」

ウツギ『そうだ、大変なんだよ! 明後日が学会の発表なのに、研究データが全く集まってないんだ!

理論は完璧なはずなのに裏付けが一つも取れてなくてね! これって凄くマズいことでね!?』

「はぁ……」

俺にどうしろと言うのか。
 ▼ 650 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/21 21:40:27 ID:S9JYNrqE [9/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「あの、関係なさそうだしもう切っていいですよね?」

ウツギ『切らないで!? キミ、確かイーブイをサンダースに進化させていたよね? なら関係はある!

僕の研究ってこないだ言った退化の話だから、石の力で進化したポケモンが必要なんだよ!!」

あぁ、なるほど、あの話か。そういうことなら確かにクリティカルヒットだ。

俺がデータを提供する義理があるかどうかは別として。
 ▼ 651 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/21 21:40:59 ID:S9JYNrqE [10/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ウツギ『あれからいろんなトレーナー掛け合ってみたんだけど、退化を強く願うポケモンなんてどこにもいないんだよ。

進化のメカニズム上、望まずに進化することはあり得ないからね』

「そりゃまぁ、そうでしょうね」

実際に退化をさせた俺が言うのもなんだが、かなりの誰得研究である。

ウツギ『……で、キミのサンダースはどうだい!? 様子を聞かせてくれるだけでいい! 僕は研究所のイーブイに電極を差し込みたくはないんだ!!』

「はぁ……」

追い詰められてんなぁ……。
 ▼ 652 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/21 21:41:50 ID:S9JYNrqE [11/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

面倒臭そうなので適当に流して切ろうかと思ったが、ポケ質を取られているとなるとそういうわけにもいかない。

成果が得られなければウツギ博士はおそらく明日にもイーブイに本当に電極を繋ぎ、シナプスがどうの閾値がどうのとやりたい放題するだろう。

知ってしまった以上、放置するのは寝覚めが悪い。

それに、実際に退化理論を教えてもらった恩義もなくはない。

退化という解法がなければ俺たちのパーティは空中分解し、島巡りが終わっていた可能性もあったのだ。

口頭で伝える観察記録がどれだけの意味を持つのかは分からないが、取り敢えずイーブイのこれまでの経過を教えることにした。
 ▼ 653 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/21 21:42:38 ID:S9JYNrqE [12/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





「…………って感じです。まぁ、使用済みのかみなりのいしとかメガ退化の掛け声とか、もしかしたら要らないのかも知れないですけど」

ウツギ『……つまり、僕の理論は間違ってなかったんだね?』

「おそらくは。……まぁ、その、ありがとうございました」

ウツギ『いやいや、礼を言うのは僕の方だよ!! そうか、これなら……よし、いけるぞ……!! …ら…。 …く……て………!』

端末越しにブツブツとなにやら呟きはじめるウツギ博士。

マッドサイエンティストの鑑だ。
 ▼ 654 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/21 21:43:08 ID:S9JYNrqE [13/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「あの……」

ウツギ『あ、ごめんごめん! ……そうだ、あの後研究を続けて分かったことがあるんだけどね?』

「……20字以内でどうぞ」

ウツギ『退化は2回以上はできないんだ』

76へぇ。

ウツギ『詳しい理ろ』

まだ何か言いたげだったが、残念ながら20字をオーバーしたので切らせて貰った。

ほら、最終学歴が小5なので難しい話よく分からないし。
 ▼ 655 RIVER◆zFLCCAWaiw 17/06/21 21:43:15 ID:fRWHpySI NGネーム登録 NGID登録 報告
復活きたぁぁああ

支援
 ▼ 656 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/21 21:44:07 ID:S9JYNrqE [14/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

まぁ、つまり次はちゃんとよく考えて進化しろということだろう。

言われなくとも、俺もイーブイもその辺はちゃんと理解しているつもりだ。


さ、気を取り直して今日も特訓し……

「グォォ……」

あっ。

リザードン返すの忘れてた。

「時間は!?」

慌ててライドギアを確認する。

利用開始から1時間2分───料金は切り上げ30分ごとに加算。



俺は『ウツギ博士 マイナス400円』と深く心に刻み込み、リザードンを連れて清算所に向かった。
 ▼ 657 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/06/21 21:52:18 ID:S9JYNrqE [15/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



3章番外編、以上です。

書き溜めが終わるその日まで再び失踪します。

というわけでこの物語は再びエタったことになります。仮に続きがあるとすれば次スレです。

お付き合いいただきありがとうございました&大変申し訳ありませんでした。

 ▼ 658 リゴンZ@ヤミラミナイト 17/06/22 06:35:24 ID:07LKRyOA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙でした!
いつかまた復活することを待ってます!
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