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【SS】ポケモン不思議のダンジョン 花の盗賊団

 ▼ 1 1◆J44kAZeDOM 17/03/27 23:18:48 ID:qk0Nxw9k NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







プロローグ






 ▼ 37 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:27:37 ID:cWAt11WY [1/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バクガメス「……そうか。お前なりにきちんと考えてるんだな。怒鳴って悪かった。

       イワンコ、お前、まだ引き返せるぞ。今なら、俺たちの仲間になる前に逃げ出せる。

       記憶の謎は、解けるだろ、1匹でも」

イワンコ「……無理、だと思います。自分は、元人間。この世界で、ひとりでなんて、絶対に」

バクガメス「おま……元ニンゲンだぁ?! 記憶喪失の元ニンゲン……これは、マズいな」


彼はぶつぶつと呟き始める。

それきり、思考の世界に没入したのか、声を掛けても反応が返って来る事はなかった。


――記憶喪失の元人間が、マズい? 僕は、小首をかしげた。


ミミッキュ「説明し損ねたけど、バクガメスさんは経理担当。資金繰りは、やっぱり大事みたいね。

      あたしたち、行動する前はみんなバクガメスさんにお金を預けるのよ」

イワンコ「銀行みたいなもんって事?」

ミミッキュ「要はそういう事らしいね。増えないけど」
 ▼ 38 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:29:03 ID:cWAt11WY [2/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は続けて尋ねた。


イワンコ「ボスと、コスモッグ? この2匹は?」

ミミッキュ「そろそろ帰って来ると思うよ――」


ミミッキュは言葉を呑みこんだ。その目線を辿ると、空間にひずみが生じていた。


イワンコ「な、何あれ」


臭いは特に、感じない。唐突に、それはそこにあった。


ミミッキュ「コスモッグよ、あれが」


あれが、コスモッグ。どういう事かと問おうとして、僕は、その目を疑った。

そこから、紫がかった体躯に2つ頭から突起を出すポケモンと、ハナカマキリのような風貌を持ったポケモンが現れたのだ。


コスモッグ「たっだいまー! 成功だよ! 南の洞穴のお宝ゲット!」


そういって、黄金に輝くスカーフを見せびらかした。
 ▼ 39 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:29:45 ID:cWAt11WY [3/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテスが、僕を認めて問い掛ける。


ラランテス「ん? あんた誰だい?」

ミミッキュ「イワンコです、記憶喪失の」

ラランテス「……なるほどね。あたいはラランテス。よろしく!」

コスモッグ「僕はコスモッグだよ! よろしくね!」


このラランテスがボスだという。

気風のいい女性だ。

そして、コスモッグは少年と言えるような性格だろう。


ミミッキュ「コスモッグはテレポートが得意で、遠出する時はみんな頼るの」

コスモッグ「まあ、はねるとテレポートしかできないんだけどね」


コスモッグは照れたように笑う。満更でもないのだろう。
 ▼ 40 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:30:31 ID:cWAt11WY [4/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテス「みんなにはもう会ったかい?」

ミミッキュ「はい。イワンコ、これでうちのメンバーは全員よ。覚えた?」


さすがにこのぐらいなら覚えられる。


イワンコ「ミミッキュ、サニーゴ、ヒドイデ、バクガメスさん、コスモッグ、ボス。それから……

      僕だ。

      ラランテスさん、いいや、ボス。これから、よろしくお願いします」


この瞬間、僕は、正式に、盗賊団の一味になった。

記憶の謎を探すため。僕は、ここを拠点に、行動を開始する。


ラランテス「そうかい」


ラランテスはそう言って、ニコリと笑った。
 ▼ 41 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:31:07 ID:cWAt11WY [5/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
幕章


誰も、あたしの声を聞いてくれない。

あたしは、そこに、存在していない――

いじめ。その言葉を、あたしのこの現状に当てはめても良かったのか。それはわからない。

肉体に暴力を及ぼされた事は一度だってない。

心無い暴言があたしを抉る事だって、なかった。

ただ、何もなかった。

学校に、「あたし」はなかった。
 ▼ 42 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:32:02 ID:cWAt11WY [6/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
教室の前方では、女子の何人かが、楽しげに会話をしている。

やれ誰が誰を好きだ、やれ誰々がカッコいい、やれあの教師ウザい。

教室の後方で、男子が輪になって会話している。

卑猥な単語がそこに混ざり、前方の女子が「やめてってばー」と嬌声をあげた。

その真ん中に、ちょうど教室の、教師の目が届きやすいど真ん中に、あたしの席はある。

飛び交う嬌声は、けれどあたしの周りを追い越してしまう。

あたしに声を掛けてくれる人は、誰もいなかった。

あたしは本を取り出し、その世界に没入する。そうすれば、忘れてしまえるから。

本を読む快楽は、このクラスに入ってから覚えた。

本の世界は、あたしを肯定してくれる。

無限に広がる世界の中で、あたしは、溺れてしまえる。

あたしは、あたしのいない空間の中で、ただひたすらに、現実から逃げていた。


――そんなあたしを見詰める影が、ひとつ……
 ▼ 43 ールル@1ごうしつのカギ 17/03/28 20:32:14 ID:SUY5frrk NGネーム登録 NGID登録 報告
最初に選んだポケモンがピカチュウだったらもう物語終わってたな()

支援
 ▼ 44 マナッツ@レベルボール 17/03/28 23:30:40 ID:PhyRAr/6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
毎作読んでまっせ
 ▼ 45 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:01:22 ID:WmToOqec [1/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







2章 発端のウツロイド






 ▼ 46 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:01:56 ID:WmToOqec [2/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテス「かかってきな!」


僕は、大地を踏みしめ、飛びかかる。

ラランテスを見据え、走る勢いでラランテスに突っ込んだ。


ラランテス「そんなもんかい」


ラランテスはすんでの所で身をかわし、そう呟いた。
 ▼ 47 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:02:37 ID:WmToOqec [3/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
話は1日前にさかのぼる。


サニーゴ「できましたよ」

ヒドイデ「おっ、できたか。お腹空いたー」

サニーゴ「ヒド君、今日は角も生えて来たし、食べていいよ」

ヒドイデ「マジで?! よっしゃー!」

サニーゴ「あ、それとみなさん、イワンコの歓迎の意味も込めて、1品多く作ってみました」

ラランテス「そうかい! あたいもう腹ペコだよ!」

コスモッグ「テレポートも疲れるしねー」

ミミッキュ「あたしも、今日は走り回ったからなぁ」

イワンコ「…………」
 ▼ 48 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:03:09 ID:WmToOqec [4/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
雑然とした会話の洪水に、僕はイマイチ乗り切れずにいた。

すると、いつの間にやら後ろに立っていたコスモッグが、僕のお尻をポンと叩いた。


コスモッグ「ほらほらイワンコ、しり込みしてちゃ馴染めないよ」

イワンコ「ああ、まあそうだね」

ラランテス「イワンコを歓迎して、みんな、今日は騒ぐよ!」

みんな「おー!」

イワンコ「お、おー!」
 ▼ 49 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:03:51 ID:WmToOqec [5/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
とりあえずは食事である。

こうなってからいろいろとあったが、食べた物と言えばリンゴ1個だけである。

自覚こそしていなかったが、空腹は既に、限界に近かったらしい。

目の前に出されたおいしそうな料理に、口の中で唾が溜まる。ごくり、とそれを呑み下し、僕はそれでも、「待て」を言われた犬のように尻尾を振って待っていた。

みんながまだ、食べ始めていない。それなのに、新参の自分だけが食べ始めるのもいかがなものかと思うのだ。

一瞬の永遠を耐えていると、ラランテスが救いの声をあげた。


ラランテス「それじゃ、これからのみんなの安全を願って……」

みんな「いただきまーす!」

イワンコ「いただきます!」


ようやくだ。

手を使えないが、身を乗り出してがっつくように食べる。

舌の上を転がり落ちて行く晩餐の味のレベルは、相当に高いと言えるだろう。

果汁を活かしたサラダが特に絶品だった。
 ▼ 50 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:05:02 ID:WmToOqec [6/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヒドイデ「こいつ、料理上手いだろ?」

サニーゴ「そんな、照れるよヒド君……」


そう言いながら、ヒドイデが、サニーゴの上に覆いかぶさる。きゃっ、と嬌声が上がり、それから2匹の笑いが弾けた。


サニーゴ「私、おいしい?」

ヒドイデ「ああ、最高だよ」


唐突に繰り広げられた会話。反応に困ってミミッキュの方を見やると、彼女は呪詛の念を呟いていた。


ミミッキュ「爆発しろ……爆発しろ……」

コスモッグ「こらこらミミッキュ」


何だろう、サニーゴは食べられているのだろうか。

……まあ、当の彼らが幸せなのだから、それでいいか。空腹が満たされそんな事を考える余裕が出て来た。

そんな風に冷静に考えると、ある事実に気が付く。


イワンコ「なあミミッキュ。バクガメスさんは?」
 ▼ 51 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:05:40 ID:WmToOqec [7/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「ああ……呼んだんだけど、いいって。リンゴかじりながら本読んでた。多分……記憶の謎を調べてくれてるんだと思う」

イワンコ「!」


僕がこうやって楽しんでいる間にも、バクガメスは僕のために、か。

うつむいてしまう。楽しんでしまえている、自分がいる。それが、どうしようもなく後ろめたく感じる。


コスモッグ「でもさー」


不意に、後ろから声を掛けられて、振り向いた。

コスモッグの天真爛漫な笑顔が、言った。


コスモッグ「とりあえず、楽しんじゃいなよ、イワンコ。これは、君の歓迎会でもあるんだよ!

       ま、そういう僕だって割と新参なんだけど」

イワンコ「まあ、うん」


そう言われてしまい、僕は盛り上がるみんなの中へと加わって行った。
 ▼ 52 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:06:10 ID:WmToOqec [8/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
料理にがっつき、皆の武勇伝を聞く。

皆、と言っても主にラランテスだ。

草原の空洞というダンジョンでお宝を手に入れたらしく、その話から鑑みるに、彼女は、そのおしとやかな外見とは裏腹に腕力で戦うタイプらしい。

置いてあった鍵のかかった豪華な宝箱を、なんとラランテスは、叩き割ってしまったという。

宝箱の鍵の意味……と、僕は苦笑した。


ラランテス「とまあ、そんなこんなであたいたちはこの金のスカーフを手に入れたって訳よ!」


自慢気に笑う彼女は、僕を見て問い掛けた。


ラランテス「ところであんた、自分の身は護れるのかい? 最低限」
 ▼ 53 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:06:49 ID:WmToOqec [9/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
本当に、何の脈絡もない、不意の発言。

彼女は、今を生きているのだろう。場違いにも、そんな事を考えてしまう。

そんな場合ではないと慌てて気付き、僕は言った。


イワンコ「どうでしょう……最低限だけならともかく、盗みなんて事は難しいかと……」

ラランテス「だろうね。よし! 明日から、あたいと特訓だよ!」

イワンコ「はい!」


この時にはもう、僕はフラワーズの事を好きになっていた。

やっている事は犯罪だが、それでもこのメンバーたちは皆、いい人だ。そう、確信を持って思えた。
 ▼ 54 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:07:29 ID:WmToOqec [10/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
宴が終わり、床に就く。

床と言っても、藁を敷き詰めただけの簡素な物。

もっとも、人間のいない世界で布団があるとも思えない。

藁布団だとしても、ないより何倍もマシだ。

実際、ミミッキュと出会うまで、何もない場所で僕は、平然と眠れた。

ポケモンの体は、きっと、人間の体より何倍も頑丈にできているのだ。

そんな事を心配しても仕方ないだろう。


コスモッグ「どう? 寝心地は」


同室となったのは、コスモッグとミミッキュ。ただ、ミミッキュはもう、軽い寝息を立てている。


イワンコ「うん、いいよ」

コスモッグ「ならよかった」

イワンコ「明日からしんどくなりそうだし、もう寝るよ」

コスモッグ「だね。お休みー」

イワンコ「お休み」
 ▼ 55 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:12:41 ID:WmToOqec [11/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そして翌朝。

ラランテスは僕の攻撃をギリギリでかわし、そんなもんかい、と呟いた。

彼女の顔は、無表情のまま変化がない。

危なかった、という感慨すら、そこには窺えない。

間違いない。わざとギリギリを狙っている。

僕は苛立ちの中、けれど心を抑えた。

静かに。静かに。

小さく息を吸う。

僕は、ラランテスとの距離を一気に縮め、そのまま攻撃を食らわせた。

ふいうち、だ。

ラランテスは、しかし、ビクともしなかった。


ラランテス「ま、そんなとこだろうね」
 ▼ 56 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:14:12 ID:WmToOqec [12/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そう言うと、ラランテスは腕の鎌を攻撃中だった僕の腹部めがけて振り上げた。

シザークロス。これがリーフブレードなら致命傷だ。それでも、相当な手加減がなされている。


イワンコ「……負けです」


後から聞いた事には、当てただけでも凄い、との事。

ミミッキュは、彼女にかすりもしなかったらしい。

彼女の場合ばけのかわを活かした逃亡を図れるのであまり関係はないのだが、それでも当てたという事実を皆誉めてくれて、悪い気はしなかった。
 ▼ 57 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:15:43 ID:WmToOqec [13/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それから数日、僕は、集中的な特訓を受け、ラランテスにマトモなダメージを与えられる程度にはなっていた。

マトモ、と言っても本人の弁で、僕の目には蚊に刺されたようにも感じていないように映ったのだけれど。

彼女は戦闘を終え、物凄い勢いで呟き始めた。


ラランテス「状況を嗅覚聴覚フル活用で捉えその時その時の最高のたいあたりの軌道を一瞬で見抜ける実力……」


一息に彼女はそう言い、それから僕に向かって笑顔を見せた。


ラランテス「うん、あんた、筋いいよ。ミミッキュと組んで、サポートしてあげな!

       状況を把握する能力にあんたは優れてると見た。無用な戦闘を避けるに越した事はないからね。

       敵を上手くかわしながら仕事できるよ、あんたなら」

イワンコ「はい!」


確かに、無用な戦闘は避けたい。

なるべく僕が盗賊だと知られていない期間の長い方が、表と接触しての調査もしやすいという物だ。
 ▼ 58 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:16:32 ID:WmToOqec [14/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこから僕は、バクガメスからあるレクチャーを聞いていた。

ラランテスすらも立ち入り禁止にして、僕とバクガメス、2匹だけの空間で。


バクガメス「イワンコ、お前、まだ誰にも、元ニンゲンだっつってねぇのか?」

イワンコ「ミミッキュとあなただけです。他は、なんとなくタイミングを逃してしまって」

バクガメス「周りも知らなさそうだしな。まあ、それはいい。お前が記憶喪失なのは知ってるし、それ以上はまあどっちでもいい。

       だが、調査するにあたって、絶対言いふらすな。元ニンゲン、って事実を知られる事が、どう転ぶかわからねぇ」

イワンコ「と、言いますと?」

バクガメス「この世界には過去に4度、ニンゲンがポケモンになったっつー事例が挙がっててよ……」


4度。そんなにレアではないのか、僕のこの状況は。

信じられない事だが、まさかこんな事で嘘を吐くとも思えない。

無理に呑み下して、続きを促した。
 ▼ 59 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:17:44 ID:WmToOqec [15/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バクガメス「驚かねぇのな。ま、そっちの方が話ははええや。実はな、その度にこの世界、危機が訪れてるんだよ。

       ま、順序が逆で、世界を救うために呼ばれてるんだけどな、毎回」


その度に、毎回、世界に、危機が。


バクガメス「っつー訳でだ。お前さんも5匹目の世界を救う元ニンゲン、って可能性は極めて高い。4回中4回。

       試行回数は少ないが、対象がデカくて、普通ありえねぇ事。

       信ぴょう性は増すだろ?」

イワンコ「えっ、ちょっと待ってください! 世界が危機って、どういう事ですか?!」

バクガメス「それはまだわかんねえ。天変地異、星の停止、世界のリセット、石化なんて、様々だよ、起こった事件は」

イワンコ「でも、それって……」

バクガメス「ああ。どうすりゃいいのかわかんねぇ、とも取れる。

      だから、とりあえずは、目の前の仕事をこなしてくれや。

      何かしら異変があったら、俺のネットワーク使えば、速攻でわかる」

イワンコ「はあ……」
 ▼ 60 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:19:27 ID:WmToOqec [16/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バクガメスの真剣な表情に、嘘は感じ取れない。

だから、これはきっと事実だ。リンゴをかじりながら本から仕入れた、紛れもない事実。

だけれども、言っている事の壮大さに、ため息が零れるのだ。


バクガメス「質問に答えてなかったなそういや。不用意に言いふらしちまうと、そっから騒ぎがデカくなるんだ。

      不要な騒ぎは混乱の元。やりにくいったらありゃしねぇからな、混乱っつーのは」

イワンコ「言っていいのは記憶喪失まで」

バクガメス「話が早くて助かる。んじゃ、まあ頑張りな。敵と味方はキチンと区別しろ。それからだ……」


そこからは、普通のレクチャーだ。宝箱はラランテスが開けてくれる(物理)らしいし、ダンジョンで倒れてもお金はバクガメスに預けておけばなくならない。

ガルーラ像に預けたアイテムはバクガメスに預けたお金同様ダンジョンで倒れてもなくならないとの事だ。

協力して相性をごり押すレンケイと言うシステムも教わった。ミミッキュと2匹チームだ。覚えておいて損はない。


バクガメス「それじゃ、明日から、お前はカタギの道を踏み外す。覚悟は決めてるだろうし今さら何か言う気はねぇが、頑張れよ」

イワンコ「……はい」


僕は、決意を込めて、頷いた。
 ▼ 61 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:20:29 ID:WmToOqec [17/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
帰って来たミミッキュは、今日は涼しい顔でかばんから食糧を取り出す。


ミミッキュ「今日の仕事だよ」

イワンコ「……これを、明日からは僕も」

ミミッキュ「ん? ああ、ついに特訓終了か。お疲れ」

イワンコ「うん、ありがとう。そして、明日からよろしく」

ミミッキュ「何改めて」

イワンコ「明日から、パートナーだよ僕たち」

ミミッキュ「そうなんだ」

イワンコ「うん。敵を避けるのが得意そうだからって言われた」

ミミッキュ「なるほど。まああたし苦手だしなぁ気付かれないようにするの。ばけのかわで逃げられてるからいいけど。

       ま、何にせよ、だね。あたしも明日は教えるから、頑張ろうね」

イワンコ「だね」
 ▼ 62 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:21:16 ID:WmToOqec [18/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
で、翌日。僕たちは街に出た。

気配を消し、レストランの食糧庫に忍び込む。

バッグにかき集められるだけかき集め、気配を消したまま脱出する。

辺りへの警戒は怠らず、鼻は常時、フル稼働だ。

近付いて来る物音も、回避しなければならない。

幸い、誰かが気付く気配もなく、僕は慎重に倉庫を離れた。

ミミッキュと合流する。ミミッキュもバッグに様々な物を詰めている。


ミミッキュ「初仕事成功、おめでとう」

イワンコ「別にそこ褒められても嬉しくないけどなあ」


犯罪なのだ。素直には喜べない。
 ▼ 63 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:22:14 ID:WmToOqec [19/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「まあいいや。あんた、あたしにかばん預けなよ。アジトの場所はわかるでしょ」

イワンコ「うん」

ミミッキュ「ほら、記憶の謎を探すんだから、行って来てよ。

      あたしは……もう、顔割れてるから普通の調査はしづらいし」

イワンコ「ありがとう」


彼女に感謝と別れを告げ、歩き出そうとした。

僕は街へ、彼女はダンジョンになっている森へ。


――その時、叫び声が聞こえた。



待てぇぇぇえええええ!
 ▼ 64 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:22:55 ID:WmToOqec [20/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
一瞬の沈黙。ミミッキュが意味を呑みこんで、叫んだ。


ミミッキュ「え、ヤバいバレた? 逃げよう!」


イワンコ「待って! ……違う、方角が逆だ」


ミミッキュが帰ろうとしていた、森の中。

叫びが聞こえたのは、そちらからなのだ。

森の中に今いるポケモンが、街の中で起きた盗難に気付けるはずがない。


イワンコ「行こう。何か、緊急事態が起きたんだ」

ミミッキュ「えっ、だけど……」


しばらくの逡巡の後、ミミッキュは叫んだ。


ミミッキュ「……どうなっても知らないから! 行くよイワンコ!」

イワンコ「うん!」
 ▼ 65 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:27:02 ID:WmToOqec [21/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「どうかしましたかっ?!」

ジジーロン「おお! 助けに来てくれたのか!」


そこにいたのは、年老いたジジーロン。

ミミッキュは姿を隠し、僕だけで事情を聞いた。

話によると、どうにも孫のミニリュウが攫われてしまったらしい。

どんなポケモンが攫って行ったのかを尋ねたが、見えなかったという。

ただ、去って行く方向だけは確認したため、追ってくれないか、との事。


イワンコ「助けに行って来ます」

ジジーロン「ありがとうの」


ミミッキュと合流して、僕たちは、ジジーロンが指し示した方角へと向かって行った。
 ▼ 66 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:28:11 ID:WmToOqec [22/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ナセラドの森。この森は、そう呼ばれているらしい。


ミミッキュ「危険を察知するのがあんたは得意らしいから、リーダーお願いね」

イワンコ「まあいいけど」


僕は先頭を行く。周囲の臭いを意識しつつ、敵の行動も読みながら進まなければならない。

幸いこのナセラドの森は、散歩コースになる事もあるぐらい危険度は少ないらしいが、それでもダンジョン部にうっかり入ってしまうと容赦なく前述の法則は適応される。

この森の一部が、その不思議のダンジョンであり、彼が示した先はそのダンジョン部であったのだ。

どこかにミニリュウがいるかもと警戒しながら僕はたいあたりやふいうち、ミミッキュはおどろかすやらひっかくやらで敵を撃退し、そして奥を目指す。

先に進んでいる可能性が高いと判断した結果だ。
 ▼ 67 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:29:47 ID:WmToOqec [23/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
生憎、彼らの姿を見かける事もないままに、僕たちはいとも簡単に最奥部まで辿り着いてしまった。

ラランテスの特訓、恐るべし。


ミミッキュ「到着っと。イワンコ、何か見付かる?」

イワンコ「しっ! 何か聞こえる」


僕の耳は、何かしらの音を捉えていた。

あれは……声だ。誰かと誰かが話してる声。

――あー見付か……おねーちゃ……いね!

――次は……あた……よ!

関係ないのか。断片的だが、雰囲気だけ聞くと楽しそうで、とてもポケモン攫いの要素が入り込む余地など感じ取れない。

イワンコ「誰かいるみたいだ。訊いてみよ、叫び声を聞かなかったかって」

ミミッキュ「わかった」


僕たちはそう言って、2匹の前に姿を現した。
 ▼ 68 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:30:38 ID:WmToOqec [24/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
2匹の内1匹は、まだ幼いミニリュウ。楽しげな表情でもう1匹と話していた。

もう1匹。透き通った、ガラス質の体に、幾本もの触手が揺らめく。

顔は、なかった。

俺は、こいつを知っている。そう、不意に思った瞬間、俺は我を忘れてその謎の生命体に飛びかかる。


ミミッキュ「ちょっ、イワンコっ?!」

ミニリュウ「何すんのさっ?!」


制止の声も、僕の耳は受け流す。

ただ、恐怖の対象として、その白く透明なそれがあるのみだ。

それはこちらの敵意を認めると、俺めがけて煌めく宝石を撃ち出す。

その威力は尋常ではなく、俺はあっという間にその身を貫かれ、倒れ伏した。
 ▼ 69 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:31:30 ID:WmToOqec [25/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――大丈夫よ、イワンコ。だから、落ち着いて。


ミミッキュの声を、闇の中で聞く。

目が覚めて、ミミッキュは笑みを作る。


ミミッキュ「ザコダンジョンでも一応プチふっかつのタネあってよかった。こんな規格外、敵うはずないよ、あんたに。

       ごめんなさい、こいつ、急に襲い掛かって。悪い奴じゃないんですけど」

???「だと思うよー。この子、襲い掛かっては来たけど、へなへなだったし、ただ、あたしが怖かっただけじゃないかな」

ミニリュウ「おねーちゃんは怖くなんてないのにね」

???「ねー」


僕は頭を振る。そして、意識をハッキリさせ、立ち上がった。


イワンコ「ごめんなさい、動転しちゃって……。なんだか、あなたの事、見た事あるような気がしたから」
 ▼ 70 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:32:53 ID:WmToOqec [26/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
???「えー? あたし見た事ないよーあなたの事ー」

イワンコ「なんか、昔……あなたと会った事があるような、そんなはずないのに」

ミミッキュ「……記憶の手掛かり、か。まあ、よかったじゃん」

イワンコ「記憶喪失、なんですよね僕。それを捜したくて」

???「あー、そうなんだー。でも、答えられないなー。ごめんねー」

イワンコ「いえ、大丈夫ですよ。ところで、名前はなんですか?」

???→ウツロイド「あたしー? ウルトラビーストの一種、ウツロイドだよー。よろしくねー!」


ウルトラビーストの、ウツロイド。この種が、僕の記憶の鍵を握るのか。

どこかで嗅いだ事のあるような、懐かしさを伴う臭いがした。
 ▼ 71 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:34:08 ID:WmToOqec [27/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミニリュウ「まあ、悪い奴じゃないみたいでよかったね! で、なんでここにいるの?」

ミミッキュ「あっ! ミニリュウ君、おじいちゃん捜してたよ? そもそも、待ってって聞こえませんでした?」

ウツロイド「あー、それ……ごめーん、待たないといけないの、あたしだったかもー。

       遊ぼーって言われて、いいよーって答えて一緒にここまで来たはいいけど、なんかそんな声が聞こえて来たんだよねー」


立場が逆転している気がしなくもないが、立派な誘拐である。

盗賊に咎める権利があるのかは知らないが、れっきとした犯罪だ。この世界の基準は知らないが、普通にアウトであろう。

まあ、何はともあれ一件落着、である。

後はおじいちゃんも心配してるだろうから、なんていろいろと言い含め、名残惜しそうな顔をするミニリュウを説得するだけだった。
 ▼ 72 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:35:24 ID:WmToOqec [28/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミニリュウ「おじーちゃん!」

ジジーロン「ミニリュウか?! ミニリュウ、無事じゃったんじゃな?」

ミニリュウ「なーんにも怖い事されてないよ! ウツロイドおねーちゃんがかくれんぼで遊んでくれたんだー!」

ジジーロン「え?」

ミミッキュ「誰も、悪くないんです。遊ぼって声掛けられて、うんって答えて、一緒に遊べる場所へ行った。それだけだったんです」

ウツロイド「ごめんなさーい」


帽子のような体を傾けて反省の意を示すウツロイド。


イワンコ「悪気はなかったので、ここは僕たちに免じて、許してあげてください」

ジジーロン「おぬしらが、助けてくれたのか」

イワンコ「助けたと言うより、帰るよう説得しただけですけどね」

ジジーロン「ありがとうございます! 無事に再開できて、本当に助かりました」

ミミッキュ「いえいえ」

ウツロイド「じゃあ、あたしはこれでー」

ミニリュウ「バイバーイ!」
 ▼ 73 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:36:57 ID:WmToOqec [29/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ここで僕は、相も変わらず恩の売りっぱなしを嫌った。

売ったからには返して欲しい。もちろん、無理な事をさせる気はさらさらないし、彼だけに任せる気もないが、協力ぐらいしてもらってもバチは当たらないのではないか。

もちろん、ミニリュウがいる場所で、と言うのも気が引けるため、ジジーロンがぜひに、と言うのに甘えて盗品片手に伺わせてもらった彼の自宅で、孫を連れて来ていた両親が帰った後に依頼したのだけれど。


イワンコ「という訳で、記憶の鍵を握ってるのが、ウルトラビーストだと思うんです」

ジジーロン「そうか……。よし! ワシも、そのウルトラビーストとやら、調べてみるとしようか。息子親子も帰ってしまったしの」

イワンコ「ありがとうございます!」

ジジーロン「しかし、あんな種族、初めて見たわい……はて、どこかでウルトラビーストと聞いた事あるような気がしたのじゃが、どこじゃったかの……」

ミミッキュ「まあ、焦らなくても、大丈夫です。強制でもありませんしね」

ジジーロン「ああ、わかっておる。ゆっくりでも正しい記憶を思い出す方が大事じゃのでな」

イワンコ「それじゃあ、お願いします。ありがとうございました」

ジジーロン「いやいや、お互い様じゃしの。来週にでもまた来てくれるかの」

ミミッキュ「はい」


そんな会話を最後に、僕たちは彼の家を去る。もちろんそこからは何も盗んだりしていない。これからも定期的に尋ねる事になるのだ。そんな事できない。
 ▼ 74 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:37:35 ID:WmToOqec [30/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「よかったね、手掛かり見付かって」

イワンコ「だね。この調子なら、答えもそう遠くないかも」

ミミッキュ「だといいね。……ねえ、答え、見付けたら、どうしたいの?」

イワンコ「え? ……いやさすがに、まだわかんないよ」

ミミッキュ「だよね、変な事聞いてごめん」


そんな会話をしながら、僕たちはアジトへと帰り着いた。
 ▼ 75 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:38:13 ID:WmToOqec [31/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
幕章

あたしがその視線に気付いた時、まず胸に躍ったのは、「自意識過剰」の5文字。

あたしを見る人なんて、いるはずがない。

そう思いはするけれど、感じてしまう視線は、どうしようもない。

あたしは家の中、その正体について考えた。

もしかしたら、今のあたしの現状に哀れみを覚えてくれている誰かなのだろうか。

それとも、ただの興味本位。

どちらにせよ、弱り切ったあたしは、そんな感情であろうとしがみ付くより他にない。
 ▼ 76 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:39:29 ID:WmToOqec [32/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
思い切って、あたしは授業中、こっそりとその方向を振り向く。

ど真ん中。どの方角にも等しく人がいるが、見るべき人数が10人近くで済むのは気が楽だ。

幸いにも方角は、目立つグループとは違う箇所。

躊躇いは、薄かった。

そして、彼と目が合う。彼は慌てて逸らしたが、あたしは、バッチリ捉えていた。

岩根広大。何を考えてるかわからない奴、という評判を、メイングループの会話から盗み聞いた事がある。

あたしは、彼が視線の主であるという事実に驚きながら、暖かさを胸に抱きしめた。
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