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【SS】アシレーヌ「ポケモンサーカス団エクリプス!」

 ▼ 1 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 06:26:17 ID:cWAt11WY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







――太陽と月が交わる時、新たな光が産み落とされると言う。






 ▼ 160 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:27:50 ID:0/HvBLZc [1/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「あー、それとさ。こんなもの見付けたんだ。

      じゃじゃーん! 虹色ポケマメ! ……正直もったいないけど、あげちゃおう、これも」

ジュナイパー「いつの間に?!」

アママイコ「昨日、藁を探してる間」

ジュナイパー「凄い! 満腹感、絶品、それから空腹対策! 三拍子そろったし、もうアクジキングは何も怖くないね」

アママイコ「ほら、あたしいてよかったでしょ?」

ジュナイパー「ホントだよ、ありがとうアママイコ。

       でも、そうとばかりも言ってられない。急がないと」

アママイコ「わかってる。ごちそうさま」
 ▼ 161 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:29:25 ID:0/HvBLZc [2/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこから、もうひとつのダンジョンを潜り抜け、僕たちはミリスの街に到着……


アママイコ「わーお」


テッカグヤの巨体と、真っ黒な体躯を持つ巨体が、遠くから眺めていてもはっきり確認できる。

驚いた顔で見詰めるアママイコに、僕は言った。


ジュナイパー「これが、ウルトラビーストだよ。こんな規格外。だから、危険だって止めたんだ」

アママイコ「凄い……ホエルオー並だね」

ジュナイパー「っと、それもそうか」


そうか。規格外と言っても、ポケモンにだってホエルオーがいる。

全身刃物なら、キリキザンが。

大喰いならカビゴン。俊足なら……デオキシスかな。筋肉バカは、カイリキー?

ウルトラビーストだって、ポケモンと変わらない。だって、こんなにたくさんのポケモンがいるのだ。

違う個性を受け入れて成立している世界。それがここだ。ウルトラビーストだからと言って、特別視する必要は何もないんだ。
 ▼ 162 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:29:55 ID:0/HvBLZc [3/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「なるほどね」

アママイコ「何が?」

ジュナイパー「なんでもない。行くよっ!」
 ▼ 163 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:31:19 ID:0/HvBLZc [4/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
門番は前回の来訪時に顔なじみになっているので顔パス。

僕は彼に、アクジキングの場所まで案内するように頼んだ。


ジュナイパー「僕は、彼の空腹を埋められる」

門番「ホントですか?! こっちです!」


そして誘導された先、真っ黒な体躯の巨大なウルトラビーストがいた。

胴体に大きく開いた口。その他のパーツに、どこか禍々しいものを感じた。

けれど、怯んではいられない。


ジュナイパー「アクジキング!」

アママイコ「あなたの空腹を満たしに来ました! この世界が誇る絶品もありますよ!」

アクジキング「……ワシの空腹を、満たしてくれるのか?」

ジュナイパー「はい」

アクジキング「もし埋まらなかったら、お主らを喰っても構わんのだな?」
 ▼ 164 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:31:59 ID:0/HvBLZc [5/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「ら、は駄目です。僕だけで。まあ、埋まると思います。この世界に伝わる伝説の食材、黄金のリンゴでね」

アママイコ「え……ジュナイパー、それ……」

ジュナイパー「大丈夫だよ。きっと。ウルトラビーストだって、ポケモンと変わらないんだ」


僕は彼女に微笑みかける。

彼女は、目を強く瞑(つむ)った。


アクジキング「黄金のリンゴとやら……食させてもらうとするか」

ジュナイパー「どうぞ」


どこかから腕が伸びて来て、僕が手に持った黄金のリンゴを奪い取る。

そして、それを大きな口に投げ入れた。
 ▼ 165 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:33:11 ID:0/HvBLZc [6/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しばらくの時が経つ。アママイコが、祈るように手を合わせていた。


アクジキング「……なんじゃ、この感覚は。

       もう、しばらく食す必要を感じぬ……。ハッ、まさか、これが……」

ジュナイパー「満腹、です、恐らく」


僕の声を聞き、アママイコが目をそっと開いて言う。


アママイコ「やった……の?」

ジュナイパー「ああ」

アクジキング「これが、満腹か……ふふ。

       初めて感じる感覚じゃ。礼を言うぞ」

ジュナイパー「礼を言うのは早いです。まだ2つ、贈り物があります。

       ほら、アママイコ」

アママイコ「うん。この、虹色ポケマメ! お口に会うかわかりませんが、少なくともポケモンにとってはごちそうです!

      よければまた、しばらく後、お腹空いたら!」

アクジキング「ほう、虹色ポケマメとな。頂かせてもらうとするかの……」
 ▼ 166 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:34:03 ID:0/HvBLZc [7/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
彼は少しの時間も空けずにそのポケマメを食す。

ややあって、彼は食レポを始めた。


アクジキング「噛めば噛む程に、甘さが広がり、それを丸める酸味が効き過ぎない程度に訪れ、そしてほのかに辛い……。

       しかし、苦味や渋みも内包し、しかし最後には甘さが口の中に広がる……。

       なんじゃこれは?! なんじゃこの絶品は?!」

アママイコ「虹色ポケマメ、です」


アママイコが微笑んだ。
 ▼ 167 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:34:40 ID:0/HvBLZc [8/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「最後にこれ。その満腹感を、維持するためのアイテム、満腹リングルです。

       食べないでくださいね。着用品です」

アクジキング「ほう? 試してみるとするかの」

ジュナイパー「すぐに効果がでる訳ではないと思いますが」


彼は、それを指先にハメた。

これで、アクジキングの空腹対策は万全だ。


アクジキング「ああ、満腹感に、これ程の絶品、ワシはこの上なく幸せじゃ……。

       お主ら、感謝するぞ」

アママイコ「ジュナイパー! これって!」

ジュナイパー「たぶんね」


彼を、満足させられた。それがわかれば充分だった。
 ▼ 168 メラ@ブリーのみ 17/04/08 21:35:32 ID:lHxflJDg NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 169 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:35:47 ID:0/HvBLZc [9/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アクジキング「して……主らの名は?」

アママイコ「アママイコです」

ジュナイパー「ジュナイパー。探偵です」

アクジキング「ほう、主らがか……。となると、お主ら、サーカス団を捜しておるな?」

ジュナイパー「え? まあ、すぐ見付かるとは思いますが」

アクジキング「どれ、そんな面倒な事をせずともよい! ワシを満足させてくれたお礼じゃ! 乗れい!」


そう言って、彼は僕たちをつまみ上げた。


アママイコ「きゃっ!」

ジュナイパー「アママイコっ!」

アクジキング「安心せい、食ったりせんわい。どれ……おったおった。あそこに下ろすぞ!」


その言葉に嘘はないようだった。安心して、僕はアママイコの横に腰を下ろす。

空高く、風を切って進んで行く。
 ▼ 170 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:36:43 ID:0/HvBLZc [10/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
鳥属性のある、というよりあった僕ならともかく、アママイコはほぼ初めてだ。

……あの時は、切羽詰まって風景を楽しむ余裕なんてなかったし。


アママイコ「ふわあ、凄い……高いなぁ」

ジュナイパー「あ、あれが……」


その先に、サーカス団のテントがあり、僕はあっという間に過去に引き戻されて行く。

――帰って来た。この場所へ。


ジュナイパー「おーい! アシレーヌ! ニャヒートぉ!」

アママイコ「お母さーん! いるー?!」


テントに向けて叫んだ。
 ▼ 171 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:37:22 ID:0/HvBLZc [11/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕はアクジキングに向けて、振り向き言った。


ジュナイパー「ありがとうございます」

アクジキング「構わんわい。ワシがしてもらった事に対するお礼なのでな。して、主、甘い香りがするの」

アママイコ「え?! だ、駄目ですよ?!」

アクジキング「わかっておる。ほれ、着いたぞ」


僕たちは地面に降り立ち、そしてアクジキングに一礼すると、テントに向けて駆け出した。
 ▼ 172 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:38:09 ID:0/HvBLZc [12/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィ「お帰り、モクローとアママイコ」

ジュナイパー「久しぶり」


一番に気付いたのが、エーフィだったようだ。色違いの、緑の体躯を持つ彼女は自慢のエスパーでもってそれを予知したらしい。

双子の弟(彼もまた色違いだ)と共に僕らを出迎えてくれる。


ブラッキー「2匹とも、幸せそうだね」

ジュナイパー「まあね。アシレーヌたちから、話は聞いてると思う」

エーフィ「うん。みんなに伝えてるから、中でみんな、ドタバタしてると思う。さ、行こ!」

アママイコ「ねえ、お母さんは、いる?」

ブラッキー「いるよ。みんな……何匹か引退しちゃったけど、でもほとんどみんな」

アママイコ「ちょっと待ってね……」


そう言って、彼女は頬を軽く叩く。甘い香りが広がった。


アママイコ「もう大丈夫。行こう」
 ▼ 173 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:39:23 ID:0/HvBLZc [13/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕らは、エクリプスのテントに足を踏み入れた。

しんと静まり返っている。サプライズという訳でもなく、ただ、どう接すればいいのかわからないようだった。

そんな中、ある強烈なオーラが近付いて来て、苦笑する。

アマージョだ。こんな独特の威厳を放つポケモンが、2匹といてたまるか。


ジュナイパー「アママイコ、行って来なよ。親子水入らずで話したいでしょう?」

アママイコ「うん。お母さん」


アママイコは、自らの母、アマージョと向き合う。

彼女はアマージョの頬を、叩いた。パンと音が鳴る。どれほどの強さなのかはわからなかった。


アマージョ「アママイコ……どうして何も言ってくれなかったの?!」

アママイコ「ごめんなさい……」


アマージョは、彼女を強く抱き寄せた。


アマージョ「お帰りなさい、アママイコ」

アママイコ「ただいま、お母さん」
 ▼ 174 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:40:39 ID:0/HvBLZc [14/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕はアシレーヌたちを捜す。

視線を巡らせるが、そこにはいない。


ジュナイパー「お義母さん」

アマージョ「お義母さんだなんて呼ばないでちょうだい。それで、要件は?」

ジュナイパー「アシレーヌとニャヒート、それから全然姿を現さない団長どこですか?」

アマージョ「奥よ。あなたと久しぶりに話すってので緊張して、1歩も歩けないらしいわ。2匹がそれをなんとかして連れて来ようとしてる」


苦笑する。らしいや。


ジュナイパー「行って来ます。みんなとも、積もる話はいろいろあるけど、まずはあの3匹と話したい」

エーフィ「うん。行ってらっしゃい」

ジュナイパー「あー、いや、できればエーフィたちには来て欲しい。ミリスとウルトラビーストを巡るこの事件、君たち抜きでは語れない気がするから」

ブラッキー「……だって」
 ▼ 175 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:41:23 ID:0/HvBLZc [15/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィ「ほら、みんな。確かに今はそれどころじゃなかったとしても、ジュナイパーは仲間なんだよ!

     そんな緊張する事もないんじゃない?」


エーフィが周りにそう声を掛ける。

みんながちらほらと会話を始めた。


エーフィ「戻って来たら、ジュナイパー、質問攻めにするぐらいのつもりでいてよ!」

ジュナイパー「……ありがと、エーフィ」

エーフィ「いいって事よ! みんなこんな空気だと、あたしも辛いし」

ジュナイパー「ハハ……。あそこか」

ブラッキー「団長」

ジュナイパー「お久しぶりです!」


フーディンに向けてそう声を掛けると、遠目にも彼は体をビクンと跳ねさせた。

横に、アシレーヌとニャヒートもいる。僕はそちらに向けて走る。後ろから2匹も付いて来た。


アシレーヌ「あーもう! ダンチョー、来たよ!」
 ▼ 176 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:42:40 ID:0/HvBLZc [16/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「いやだって、まだ公演見に来てくれとは言ったが、まさかこのタイミングで来るとか思わねぇし!」

ニャヒート「なんでみんな成長してるのにあんただけそのままなのよ。もうステージに出て粗治療した方がいいいんじゃない?」

フーディン「いやだって、あの時あんな別れ方して、どう話せばいいんだよぉー!」

ジュナイパー「……ねえ、アシレーヌ」

アシレーヌ「あっ、ジュナイパー! ……これ、どうすればいいと思う?」


僕に聞くな。何年も会っていないのだ。

とりあえず3秒程考えて、適当な結論を下す。


ジュナイパー「ほっとこう。しばらく話してたら治るでしょ」

ニャヒート「そうね」


フーディンは「おいっ!」と叫び、振り向く。勢いで目が合い、途端にフーディンの体が赤くなった。


フーディン「ああ、ひ、ひ、ひさ、ひさし、ひさしぶりだな」

ジュナイパー「あがり症、治ってないんですね……」

フーディン「あーもう限界。お前らで話進めてくれ」
 ▼ 177 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:44:38 ID:0/HvBLZc [17/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィ「うーん、今日はいつもより酷いね。まあ、いいとしよう。団長が持ってる知識はみんな持ってるしね」

アシレーヌ「だね、仕方ない。何か進展はあった?」


僕は、全て話した。

アクジキングに黄金のリンゴその他アイテムを献上して、空腹を収めた事。

皆、ここで凄いと反応したため、探検隊リアライズの手柄だと伝えておく。

デンジュモクは既にイワンコたちが交流していた事。

マッシブーンとも出会っていた事。

そして、マッシブーンの筋肉講釈を聞かされる事により、彼を満足させた事。


エーフィ「ウルトラビーストは、全部で8匹だっけ。ウツロイドとフェローチェはもうあれなんでしょ?

     カミツルギとテッカグヤは、もうフェローチェとアクジキングと一緒にいるし、たぶん大丈夫。

     ソルガレオ様とルナアーラ様もそうだって聞いたけど」

ジュナイパー「あの2匹は初めから考慮しなくて大丈夫。

       もともとあの2匹も、エクリプスのサーカスに惹かれて、こっちの世界に付いてくれたんだから」

ブラッキー「僕たちにアドバイスをくれた。そりゃそうだ」
 ▼ 178 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:45:50 ID:0/HvBLZc [18/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「コスモッグは?」


それが、問題なのだ。少しの躊躇いの後、僕はそう言った。


ジュナイパー「彼は、友達が逮捕されたのをきっかけに、こっちの世界にいい印象を持っていない、かもしれない。

       コスモウムって姿に進化して、そうなっちゃって、何も聞いてくれる気配がないんだ」

アシレーヌ「ええ?! 逮捕?! 誰が?!」


盗賊団フラワーズ。その詳細を、僕は知らない。イワンコとミミッキュ、コスモウムの他にまだ幾匹か囚われていると言う事ぐらいだ。

そう伝えると、イワンコの事を伝えていたアシレーヌとニャヒートが、反応はそれぞれだが、驚いたような顔を浮かべる。


アシレーヌ「イワンコが盗賊〜?!」

ニャヒート「しかも脱獄までしでかすとは、凄いな……」

ブラッキー「でも、話聞いてる限りだと、協力関係なんだよね」

ジュナイパー「まあね。ウルトラビースト事件の前には、些細な問題だと判断した」
 ▼ 179 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:46:35 ID:0/HvBLZc [19/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィ「その2匹が、コスモウムを説得できるかにかかってるって事?」

ジュナイパー「そうなるね。……多数決制ならもう安泰だけど、でもなんか違う。全員を納得させてあげたい。この世界のよさを伝えたい」

アシレーヌ「そのためのサーカスなんだけど、そこまでにってか」

ジュナイパー「……いずれにせよ、僕らにできるのは、もう待つ事だけだ。集合は、明日。

       明日にコスモウムが間に合うかはともかく、それ以上何ができる訳じゃない」

アシレーヌ「だね。ね、ジュナイパー、ちょっといいかな」


不意にアシレーヌが、僕に持ち掛ける。


ジュナイパー「何?」
 ▼ 180 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:47:05 ID:0/HvBLZc [20/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





アシレーヌ「……お願い、司会して! このエクリプスの公演で、最後に1回!」





ジュナイパー「……え?」
 ▼ 181 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:47:49 ID:0/HvBLZc [21/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌが、拝むような顔でこちらを見る。

ああ、とわかってしまう。

やっぱり、アシマリは、母性本能をくすぐるのが上手い。

僕は駄目だ。やっぱり、彼の頼みを、受け入れてしまう。


ジュナイパー「わかった。いいよ」

アシレーヌ「え、いいの? 拝んで拝んで拝み倒すつもりだったのに……」

ジュナイパー「だって、アシレーヌ、拝んで拝んで拝み倒すでしょ? 降参。僕は、君に敵わないよ」

アシレーヌ「ありがとう!」


僕は、ふうと息を吐く。

そして、みんなを見やった。


ジュナイパー「最後の大仕事、か。久々に練習しないと。ん、練習……? 今、司会担当って……」

アシレーヌ「アマージョだよ」


邪気のない顔でアシレーヌが笑う。
 ▼ 182 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:48:33 ID:0/HvBLZc [22/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「あっと……やめても、いい、かな?」

アシレーヌ「ええっ?! そんなぁ……」


やめてくれ、瞳を潤ませるな。

助けを求めてニャヒートを見ると、ニヤニヤ笑っている。


ニャヒート「ま、頑張れ。駆け落ちなんてするからよ」

エーフィ「ほら、♂に二言はないよ! しっかりしなさい!」

ブラッキー「諦めた方がいい」


ため息が零れた。お義母さん、かぁ……。
 ▼ 183 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:49:11 ID:0/HvBLZc [23/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「あー、うん。落ち着いた」

エーフィ「やっと?!」

フーディン「悪かったなこんにゃろ。ジュナイパー、久しぶりだな」

ジュナイパー「急に治りましたね……」

フーディン「まあな。何があれって、元はモクローだ。何もビビるこたぁねぇ。というより、もう観客じゃなくて、メンバーだからな」

ジュナイパー「ハハ……」

フーディン「さ、とりあえず、今日はこいつとアママイコの歓迎パーティーだな。ブラッキー、頼んだぞ」

ブラッキー「了解」

フーディン「で、もう俺たちができる事は終わりか。よし、みんな、いつも通り、練習だ。明日、ゼンリョクを尽くせるように」

みんな「はい!」
 ▼ 184 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:49:51 ID:0/HvBLZc [24/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
戻って行くと、みんなから質問攻めにされる。

探偵ってどんな事をするのか。アママイコとはどんな感じなのか。子どもは産まれそうか、そもそもヤッているのか(この質問を出した奴にはとりあえずかげぬいをお見舞いした)。

結局お前は今、幸せなのか。

僕はそれらの質問にひとつひとつ答えて行った。

アママイコの方はと見やると、ルテーメンバーと思しきポケモンたちに囲まれていた。

きっと、今の僕と同じ立ち位置なのだろう。

彼女の顔も、笑顔だった。

ああそうか、と今さら気付く。

本当の幸せは、依存を断ち切る事じゃない。依存を超えた所で、繋がっている事なんだ。


アシレーヌ「ジュナイパー、お帰り」

ジュナイパー「アシレーヌ、ただいま」
 ▼ 185 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:50:32 ID:0/HvBLZc [25/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

フーディン「ほら、みんな! 明日は本番なんだ! ジュナイパーを歓迎するのは後でもできるだろ? 練習するぞ!」

みんな「はーい」

フーディン「あー、それとアマージョさん」

アマージョ「何かしら」

フーディン「明日の司会を、こいつに譲ってやってくれないか? そして、そのために指導してくれないか?」


アマージョは、ニヤリと微笑みながら言う。


アマージョ「ええ、お受けしますわ」


嫌な予感しかしない。

汗をダラダラと垂らしながら、引きつった笑みを浮かべるより他になかった。
 ▼ 186 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:51:23 ID:0/HvBLZc [26/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「優しくしてあげてね」

アマージョ「そんな時間はないわ。明日だもの。ビシバシ行くわよ」

アママイコ「酷い、酷過ぎるよ!」

ジュナイパー「いいよ、覚悟は決めた。アママイコ、もし生きてエクリプスを迎えられなかったら骨は拾ってね……」

アママイコ「……頑張ってね」


アママイコも苦笑している。仕方ない。

やりますか。僕はそう、力なく呟いた。
 ▼ 187 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:52:04 ID:0/HvBLZc [27/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこからしばらくそうしていると、フーディンが手を叩きながらやって来た。

ジュナイパー「あえいうえおあお」

アマージョ「もっとお腹から声を出しなさい! あんた、最初は指導もロクにない状態でできてたんでしょ?」

ジュナイパー「歳食うと声でなくなるんですって」

アマージョ「甘ったれた事言わない! あたしの娘を攫って行った罰は重いわよ」


アマージョに腹部を蹴られ、しかしタイプ相性はそれを透かしてしまう。

決まり悪げにアマージョが叫んだ。


アマージョ「と、とにかくあなた! お腹に力を込めるの!」


害意というよりは、それを伝えるための暴行だろう。しかし悲しいかな、僕はゴーストタイプを得た。

打撃系の攻撃は、透かせるのだ。
 ▼ 188 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:52:48 ID:0/HvBLZc [28/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それはともかく、お腹から出さないといけないのは本当なので、僕はそれに従う。


ジュナイパー「あ! え! い! う! え! お! あ! お!」

アマージョ「その調子! 発声練習が終わったら、とりあえず最初と最後だけでも叩き込みなさい!」

ジュナイパー「はいっ!」


途中の過程全てに司会を挟むのは、今の僕じゃ無理だ。恐らく、最初と最後だけになる。

だからこそ、そこのセリフだけは、きちんと覚えなければならない。


ジュナイパー「レイディースアーンドジェントルメーン!」

アマージョ「もっとお腹から!」

ジュナイパー「レイディースアーンドジェントルメーン!」

アマージョ「その調子もういっちょう!」

ジュナイパー「レイディースアーンドジェントルメーン!」


こんな調子で一夜漬けならぬ一日漬けの練習は進んで行き……。
 ▼ 189 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:54:11 ID:0/HvBLZc [29/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「もうダメ……」

ニャヒート「甘ったれないでよあたしの前で。うつる。奥さんのとこ行って来たら?」

ジュナイパー「今、料理作ってるから……」

ニャヒート「そ。ま、邪魔しないでよね」


ニャヒートの練習を眺めていた。

休憩にと、アシレーヌがここを推してくれたのだ。

今にして思えば、わざわざストイックの権化の練習を眺めさせに行くアシレーヌもアシレーヌだ。

彼はきっと、綺麗なパフォーマンスを見たらやる気も出るぐらいにしか考えていないだろう。

僕が気付くべきだった。

けれど、バテていた僕はそこまで考えも行き付かなかった。

ニャヒートは、気を高めるかのようにブランコに座って目を閉ざしている。

これは、確かに邪魔してはいけないような気がする。

僕はその場を離れると、布団を探して倒れ込んだ。
 ▼ 190 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:55:06 ID:0/HvBLZc [30/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
目を覚ますと、アマージョがそこにいた。

悲鳴をあげて飛び上がると、アマージョはツンと顔を背け、それから言った。


アマージョ「あんたに倒れられると、アママイコからなんて言われるかわかったもんじゃないもの」

ジュナイパー「ハハ……。やりますか」

アマージョ「ええ。と言いたい所だけれど、まだ休憩タイムよ。アママイコとブラッキーが呼んでるわ」

ジュナイパー「! って事は……」

アマージョ「お仕置きは後回しね。食事よ」


食事会場に出て行くと、「おー、主役が来たぜ」なんて声があがる。

フーディンがえらくかしこまったように立っていた。


フーディン「あー、みんな知ってると思うが、元メンバーのジュナイパーとアママイコが帰って来ました」


堅苦しいのやめろよーとヤジが飛ぶ。フーディンが、照れ笑いして、それから言った。


フーディン「明日は、本番だ。だから、リラックスのためにも、今日ははしゃぎすぎない程度に騒いでくれ! 以上!

      それじゃあ2匹とも席に着いてくれ」
 ▼ 191 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:56:16 ID:0/HvBLZc [31/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕らは二手に分かれて着席する。アママイコはこちらを認めると、小さく手を振ってそれから口パクと身振りでこう伝えて来た。

今日はそっち行きなよ。あたしたちは、いつでも一緒だし、今ぐらい分かれてさ。

そうだね、と頷いて、僕はエクリプスのメンバーの方の机に駆け寄って行く。

僕らにまつわる思い出は、エクリプスとルテー、双方の中で共有されていない。

今日だけは机を分けようというのは、向こうも配慮しているのだろう。

さすがに普段分かれているようじゃ問題だ。今まで持ちこたえている以上、その心配はしなくていいだろう。
 ▼ 192 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:56:52 ID:0/HvBLZc [32/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は、エクリプスのメンバーたちに向け、言葉を紡ぎ始めた。


ジュナイパー「みなさん、本当に、お騒がせしました。迷惑も、散々かけた事と思います。

       本当に、すみませんでした」

アシレーヌ「ジュナイパー、心配しないでも……」

ジュナイパー「いや、これは僕なりのけじめだ。言わせて。

       僕はあれから、アママイコと2匹、自分ってのを探してきました。その答えが見付かった時、公演を見に来い。そう、団長に言われたのは、まだ覚えてます。

       残念ながら、本当の自分、なんてそんなもの、まだ見付かってません。探偵が自分に向いてるって事ぐらいです。

       でも、そうじゃないんです。自分が見付かるかじゃない。幸せになれるかだ。

       僕は、今この時が、幸せです。最高の仲間たちと、最高の妻と、それから……」


僕は、アシレーヌを見やる。そして、そのまま言った。


ジュナイパー「最高の友達に囲まれて」
 ▼ 193 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:57:38 ID:0/HvBLZc [33/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「ジュナイパー……」

ジュナイパー「それが言い訳になるかって、ならないですよね。だけど、迷惑を掛けてまで欲したものを、僕はキチンと掴んだ。

       それを、みんなに知って欲しかった。

       僕のワガママに付き合わせてしまって、ごめんなさい」


気にするなよ、そんな温かい言葉がいくつも飛ぶ中で、ひとつの言葉が鋭く響いた。


ニャヒート「そこはごめんねじゃないよね」
 ▼ 194 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:58:26 ID:0/HvBLZc [34/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「え?」

ニャヒート「サーカスってのは、観客に幸せを届けるもの。

      あんたがそれを掴めたのは、確かにあたしたちがあんたのワガママに付き合ったから。

      でもね、観客だけじゃない。やってる当のあたしたちが幸せじゃないと、意味なんてない。

      それを言うならさ……感謝だよ。謝罪なんていらない。似合わない」

ジュナイパー「……ありがとう、か。ニャヒート、自分にだけわかる文脈で話さないでよね。

       ニャヒートは凄い。だけど、僕は、僕なりの文脈で話を進める。

       僕は、ごめんと思ってる。だから謝る。謝らなくていいって言われてもね」

ニャヒート「ま、それがいいんじゃない? あたしとあんたじゃ、全然違う。

      お互い違うから、そしてそれをぶつけ合うからこそ、いいものができる」

アシレーヌ「うーん、なんか空気が重くなっちゃったけど、みんな食べよ! ごちそうが冷めちゃうよ!」

ジュナイパー「だね、ごめん」

フーディン「ま、そうだな。じゃあ改めて……」

みんな「いただきまあす!」
 ▼ 195 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:59:04 ID:0/HvBLZc [35/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
久しぶりに食べるブラッキーの料理は、正に天にも昇る心地だった。

アママイコもなかなかの精度でコピーしていたが、オリジナルにはやはり敵わないという所だろうか。


アシレーヌ「どう? 久々のブラッキーの料理は」

ジュナイパー「なんでサーカス団にいるのかわからなくなるレベル。あれ、ここレストランだっけ」

アシレーヌ「いや違うってば」


笑い声。エクリプスの雰囲気だ。

最高だ。そして、今僕は――


幸せだ!
 ▼ 196 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:59:40 ID:0/HvBLZc [36/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「でも、オイラの事、大勢の前で友達だなんて大声で言わないでよ。恥ずかしいじゃん」

ジュナイパー「仕方ないじゃん、事実そうなんだから。親友じゃなかっただけマシだと思ってよ」

アシレーヌ「えっ、オイラたち、親友じゃなかったの……」

ジュナイパー「えっ、どうしてそうなった……」

エーフィ「聞いてるだけで笑えるよ、あなたたちの会話」

アシレーヌ「エーフィー……」

エーフィ「こら、泣きそうな顔しない! あんたたちは傍から見て、充分親友だから!」

ジュナイパー「親友なんて、言葉にすると安っぽいじゃん。いいんだよ、これで」

アシレーヌ「うーん、そういうもんかなぁ……」

エーフィ「ま、なんだっていいじゃん! ほら、早く食べなよ!」
 ▼ 197 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 22:00:26 ID:0/HvBLZc [37/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんな騒ぎの中食事はなくなり、そしてアマージョと共に最後の追い込みを掛けた後、僕とアママイコは別の部屋をあてがわれた。


フーディン「スペースがないからな、急ごしらえで用意した。変な事するなよ? 明日もあるんだからな」

ジュナイパー「わかってますって……」

アマージョ「もし何かしようもんなら」

ジュナイパー「だからしないってば! っと、すいませんお義母さ」

アマージョ「その呼び方はやめてちょうだい」

アママイコ「ケンカしないでよ! ジュナイパーもお母さんも!」

ジュナイパー「冗談だよ」

アマージョ「冗談よ」


見事にハモり、僕らは顔を見合わせる。

アママイコがこらえきれずにと言うように噴き出した。


フーディン「それじゃあ、また明日」

ジュナイパー「はい」
 ▼ 198 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 22:00:57 ID:0/HvBLZc [38/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
布団に潜り込みながら、僕はアママイコと話を始めた。

彼女の方は見ない。それでも、その存在は、彼女の甘い体臭とほのかな体温が伝えてくれた。


アママイコ「楽しかったね、今日は」

ジュナイパー「アマージョの特訓、厳しかったけどね……」

アママイコ「そりゃね。お母さん、もともと厳しいのは確かだし。あの時はやり過ぎだっただけで」

ジュナイパー「いや、それだけじゃないでしょあれは……お姑(しゅうと)さんって怖いね」

アママイコ「それ嫁のセリフだってば!」

ジュナイパー「いびられる嫁の気持ちがよくわかったよ……」

アママイコ「ま、でもさ、よかったと思う。あなたと出会えて。あたしも、幸せだからね」

ジュナイパー「アママイコ……」

アママイコ「ま、明日も早いし、寝ないとね。お休み」

ジュナイパー「そうだね。お休み」
 ▼ 199 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 22:01:48 ID:0/HvBLZc [39/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
眠って、起きたら、もう当日だ。

僕の、最後の公演がやって来る。

ウルトラビーストを巡る事件も、これでおしまいだ。

今日は、あんなに特訓した。大丈夫。僕ならできる。

と、そこまで考えて、今までのてんやわんやに押し出されていた最重要事項を思い出す。

――そうだ、アシレーヌ。

君の答えは、どんななの?

絶対、教えてね。ゼンリョクで感じ取るから。

君のゼンリョクを、僕が……。

そして、僕の意識は途切れて行った。
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