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【SS】アシレーヌ「ポケモンサーカス団エクリプス!」

 ▼ 1 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 06:26:17 ID:cWAt11WY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







――太陽と月が交わる時、新たな光が産み落とされると言う。






 ▼ 118 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:41:36 ID:.cWFKAr2 [1/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナ・ニャヒ・アシ「いただきまあす」


少し頬張ってから、話を振ってみる。


ジュナイパー「朝も、練習してるんだよね」

アシレーヌ「え? まあね」

ニャヒート「テッカグヤに体借りてる。あの分離できる手が、バランス感覚を磨くのにちょうどいい上に、ブランコを吊ればそれっぽい事もできる」

ジュナイパー「へえ、それは凄いね……」


あの巨体の腕にブランコを吊るしそこを舞うニャヒートの姿を想像し、苦笑いが零れる。
 ▼ 119 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:42:11 ID:.cWFKAr2 [2/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「オイラもオイラで、バルーンを壊そうとしてるんだけど、なかなか上手く行かなくて。

      残ったバルーンを壊してもらってるんだ」

ジュナイパー「へえ」

アシレーヌ「この話はここまでだよ! ほら食べて食べて!」

ジュナイパー「ハハハ……」


本番。その日を、僕は絶対に無事に終わらせなければならない。

ウルトラビーストについて語るだけの依頼だったはずが、とんでもない展開になって来た。

――やるぞ。エクリプスの公演を見るまでは、この世界を終わらせない。


ジュナ・ニャヒ・アシ「ごちそうさま」
 ▼ 120 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:43:05 ID:.cWFKAr2 [3/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ごはんを食べ終わり、僕は部屋の玄関で、別れを告げていた。


アシレーヌ「……行ってらっしゃい」

ジュナイパー「行ってきます。アシレーヌ、バルーンを壊すの、頑張ってね」

アシレーヌ「うん!」

ニャヒート「あたしからは何も言わない。あんたは、プロなんでしょ?」

ジュナイパー「うん。君ほどの覚悟はないかもしれないけど、ゼンリョクを尽くすよ」

ニャヒート「……ま、それでいいんじゃない?」

ジュナイパー「2匹も、ウルトラビーストを捜すんでしょ? 頑張れ。頑張って、自分のサーカスを取り戻せ」

ニャヒート「当たり前じゃない。ほら、こうしてる時間ももったいないよ」

ジュナイパー「だね。……またね!」

アシレーヌ「またね!」


僕は、家を出た。
 ▼ 121 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:44:31 ID:.cWFKAr2 [4/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
最後に、カミツルギとテッカグヤに声を掛ける。

2匹は屋外で、身を寄せ合ってじっとしていた。

9メートルに向かって、僕は叫ぶ。


ジュナイパー「おーい! お2匹さん!」

テッカグヤ「……ん? どないしたんや?」

カミツルギ「ふああ、もう朝か」

ジュナイパー「僕は、もう行きますから! 2匹とも頑張ってください!」

テッカグヤ「任せとき! うち、頑張るからなー!」

カミツルギ「そちらこそ、頑張ってください!」


僕は、ふうと息を吐き出す。

これを、聞いてもいいのだろうか。

アシレーヌに対する裏切りのようにも感じられるし、そもそも逃げ出した僕にこんな事を聞く資格があるのかすらわからない。

けれど、それでも聞かずにはいられなかった。
 ▼ 122 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:45:13 ID:.cWFKAr2 [5/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







ジュナイパー「ねえ! アシレーヌたちは、成長してる?! あの2匹のパフォーマンスに対しての、感想を聞かせて!」






 ▼ 123 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:45:55 ID:.cWFKAr2 [6/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
カミツルギ「感想?」

テッカグヤ「どないしたん急に?」

ジュナイパー「お願い!」

カミツルギ「……凄く綺麗だよ!」

テッカグヤ「めっちゃ楽しそうやで!」

ジュナイパー「ありがとう! ……行ってきます!」

テッカグヤ「頑張りーや!」

カミツルギ「行ってらっしゃい!」


僕は唇を固く結び、それから街の出口へ向かって駆け出した。
 ▼ 124 1◆J44kAZeDOM 17/04/07 22:12:06 ID:RGqgKqVs NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
盗賊団編 7章・8章
http://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=563163&l=278-347
278から347です
 ▼ 125 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 20:54:19 ID:0/HvBLZc [1/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







4章 アママイコの笑顔






 ▼ 126 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 20:54:59 ID:0/HvBLZc [2/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
脱獄ポケが出たらしい。

最近巷を騒がしていた盗賊のポケモンが3匹。

イワンコ、ミミッキュ、コスモッグ。


ジュナイパー「イワンコにミミッキュ……」


噂が街の中を暴れていた。

僕は話好きの奥さんに捕まり、それを聞く。

もとより、イワンコは少し怪しかった。けれど、まさか盗賊だったとは。

脱獄した、という事は今はシャバにいる。そして記憶喪失の彼が頼れる所なんて、一か所しかない。

が、とりあえずは家に帰る事にした。
 ▼ 127 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 20:55:51 ID:0/HvBLZc [3/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「ただいま」

アママイコ「お帰りジュナイパー! どうだった?」

ジュナイパー「元気そうだった。……まず、アママイコは何か掴んだ?」

アママイコ「残念ながら。まあ、仕方ないよ。あたしじゃ、力不足。ジュナイパー、あなたは何か掴んだ?」

ジュナイパー「もちろん」


僕はラサーシャで掴んだ情報をすべて話した。

アママイコは頷きながら聞いて、終わったタイミングでこう口を挟んで来た。


アママイコ「おもてなし、かぁ。なんだか、拍子抜けだね。でもま、平和が一番か」

ジュナイパー「平和に終わらせるために、僕はまだ、いろいろしないといけない。

       キチンと日食のその日までに、全員に満足していて欲しいから」

アママイコ「わかってる。でもとりあえず、ごはんぐらい食べて行きなさい。今日あたりだろうと思って、作ってあるから」
 ▼ 128 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 20:56:26 ID:0/HvBLZc [4/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は、思わず彼女を強く抱きしめた。

僕のワガママに、こんなに付き合ってくれる彼女の事が、愛おしくてたまらない。


ジュナイパー「ありがとう」

アママイコ「どういたしまして」


彼女は、僕の頬に口付けた。
 ▼ 129 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 20:57:04 ID:0/HvBLZc [5/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
料理を平らげて、僕はジジーロンの家へ向かった。


ジュナイパー「こんにちはー」

ジジーロン「ん? おお、ジュナイパーか! あれから、どうじゃったかの?」

ジュナイパー「ああ、いろいろありましたよ」

ジジーロン「ワシも、探検隊リアライズから伝言を言付かっておってな」

ジュナイパー「そうなんですか! なんですか」

ジジーロン「それはの……はて、なんじゃったかの」

ジュナイパー「え、ちょっと」

ジジーロン「ここまで出ておるのじゃ。しばし待たれい……」


しばし待った。

ジジーロンが思い出したと声をあげた所で、外から声が聞こえた。


「すいませーん、ジジーロンいますか?」
 ▼ 130 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 20:57:54 ID:0/HvBLZc [6/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコだ。ジジーロンが立ち上がり、扉を開く。


ジジーロン「おお! イワンコに、ミミッキュ! 伝言を預かっておるぞ。そして、ジュナイパーもちょうど帰って来た所じゃ」

イワンコ「ホントですか?!」

ジジーロン「とりあえず、速く入った方がええ。指名手配犯じゃからな」

イワンコ「はい」
 ▼ 131 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 20:59:05 ID:0/HvBLZc [7/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコと、それからミミッキュが入って来た。

僕は少し挨拶をかわし、それから皮肉を効かせて言った。


ジュナイパー「隠し事してるなとは思ったんだけど、盗賊だとはね。さすがに気付けなかったよ」

イワンコ「やっぱり、バレてましたよね、隠し事してる事は」

ジュナイパー「探偵を舐めないで欲しいな。で、まずは君たちから情報を聞かせてもらおう」

イワンコ「はい」


盗賊である事を知られて開き直ったのか、彼は前より一層、開けっ広げに語った。

仲間だったコスモッグが行方不明になり、捜索している時にフェローチェとかち合ったという事。

停電をウルトラビーストと関連付け、デンジュモクと戦った事。

コスモッグが実は、ウルトラビーストの一味だった事。

再会して、それから逮捕され、コスモッグの力でウルトラスペースに投げ出された事。

そこでマッシブーンと出会った事。

ウツロイドに関しては隠し事もないらしかった。

他に、カミツルギ、テッカグヤ、アクジキングが存在している事。
 ▼ 132 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:00:10 ID:0/HvBLZc [8/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「……なるほど。それだけ?」

イワンコ「え、ああ、まあ」


本当にこれだけらしい。

情報戦では彼らは負けている。けれど、その過程をすっ飛ばして、彼らは正解に――ウルトラビーストと交流を結ぶべきという事実に辿り着いていたようだ。


ジュナイパー「ジジーロンさん、リアライズの2匹から何か伝言預かってますよね?」

ジジーロン「おお、そうじゃそうじゃ。タイミングを見計らっておった所じゃ。

      ウルトラビーストを歓待する事によって、世界の平和は保たれる、じゃったかの。

      アクジキングとやらの空腹を満たすため、黄金のリンゴをもらってくるとも言っておった」

ジュナイパー「…………」


端的に、セリフが奪われた。

最も重大な箇所を、奪われた。

「あっ」と、イワンコが納得したように声をあげた。
 ▼ 133 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:01:16 ID:0/HvBLZc [9/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「……参ったな。僕の出番、完璧に奪われた。

       僕が掴んで来た情報も、だいたいその中に含まれる。旅に掛けた時間が長いからなあ、安楽椅子探偵には負ける。

       ただし、最高の協力を手に入れた」


僕は、テッカグヤとカミツルギ、それからエクリプスの協力を取り付けた事を伝える。

ミミッキュが感嘆の声を漏らしたので、僕は慌てて否定した。


ジュナイパー「僕の手柄ではないけどね。アクジキングの空腹を満たすための黄金のリンゴ、か」

イワンコ「……僕たちも僕たちで、アクジキングを捜さないとですね」


そう、問題は、これからどうするか。

どうするのが最善手か。全ての情報は出揃っているのか。

視界をフードで遮る。

現状、ウルトラビーストの狙いは把握した。

ウルトラビーストの居場所を捜す事も重要だが、それは情報を超えた別物だ。

ウツロイド……イワンコ、そうだ、記憶。
 ▼ 134 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:02:22 ID:0/HvBLZc [10/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「いや、君たちは、記憶を取り戻すのが先決だ。

       記憶の中に、何か大事な物事が隠れているかもしれない。

       ウルトラビーストに対しての、過剰な怯え。君のポケ生の中で、何があったのか」

イワンコ「記憶の中に……」

ジュナイパー「アクジキングは、僕が捜す。君たちは、ウツロイドを捜してくれ」

イワンコ「……コスモウムに関しても、心配です」

ジュナイパー「……ああ、さっきの話の中に出て来た、コスモッグの進化形か。

       ……心配って、何が?」


なんでも、逮捕された際、こんないいポケモンたちを捕まえるなんて間違っていると恨み言のように言っていたらしい。

そのせいでポケモンに絶望していなければいいのだが、というものだった。

少しの間考えを巡らせ、それから結論を伝える。


ジュナイパー「仕方ない、僕がそっちに行くよ。きっと、アシレーヌたちが見付けてくれる。君たちはやっぱり、ウツロイドだ」
 ▼ 135 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:02:57 ID:0/HvBLZc [11/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「わかりました。他に何かありますか」

ジュナイパー「いや、これぐらいだ。君たちの拠点は……ここより、うちに来ないか? 妻のアママイコも伝達してくれるけど」

ジジーロン「いや、構わんよ。ワシも、何かしたいからの。ここまで知っておいて、何もできないのは辛いのじゃ」

ジュナイパー「そうですか。わかりました、ありがとうございます。

       よし、じゃあ行きましょう!」

みんな「おー!」
 ▼ 136 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:03:47 ID:0/HvBLZc [12/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕はジジーロンの家を出て、留置所へ向かう。

探偵業務で顔なじみになったジバコイルを見かけたが、無視。コスモウムと不用意に接触させたくない。


ジュナイパー「あ……」


ある赤い影を見付け、僕は一気に過去に引き戻される。

そう、あの時、襲い掛かって来た……


ジュナイパー「マッシブーン……」

マッシブーン「ん? 我が名を知っておるのか?」

ジュナイパー「前回のエクリプス事件で、あなたに襲われたモクローです」

マッシブーン「おお、あの時の! 昨日の敵は今日の友、仲良くしようではないか!」
 ▼ 137 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:04:23 ID:0/HvBLZc [13/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マッシブーンもマッシブーンで、やっぱりいい奴だった。

話した感じで、一発でわかる。

僕は腰を据え、彼に全ての事情を説明した。


マッシブーン「ほう、正解に辿り着いておったのか。その上で我とコスモウムの所に来たという事は……」

ジュナイパー「はい。コスモウムの状況を確認しに来ました」

マッシブーン「なかなかに反則気味に感じるが、まあいいだろう。気持ちよく共存できるに越した事はないからな!」


謎のポージングを決め、彼は笑うかのように言った。


マッシブーン「硬い殻の奥、主は言葉を届けられるか?」

ジュナイパー「……やってみます」
 ▼ 138 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:05:46 ID:0/HvBLZc [14/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マッシブーンの言葉からして、コスモウムは今、聞く耳を持たないようだ。

留置所の前でじっとしているのはなぜだろう。


ジュナイパー「初めまして。イワンコに協力している探偵の、ジュナイパーです」


コスモウムは、何も語らない。

僕は、言葉を紡ぎ始める。


ジュナイパー「君も、盗賊団フラワーズのメンバーなんだよね」


コスモウムが、その体をゆっくり縦に揺らした。


ジュナイパー「君は、残りの仲間を助けたい、違う?」


動きがない。それすらもしないというのか。


ジュナイパー「どうして動かないの? 見てるだけじゃ、何も変わらないよ」

コスモウム「…………」
 ▼ 139 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:06:49 ID:0/HvBLZc [15/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
話す、動く。その全てを拒み、ただじっと、留置所の傍に浮かぶ。

見付かると危険なのだが、恐らく進化によって姿を変じた事から、バレないと踏んでいるのだろう。

体も小さい。隠れるにはうってつけだ。

ウルトラビーストの容姿を知っているのはほんの一握り。マッシブーンもだから、心配はない。

ただ、ずっとその場にいると怪しまれるのではなかろうか。


ジュナイパー「動かないのは、何かの目的があるの」


沈黙。僕は思考を巡らせる。

エネルギーの消費を極端に抑えた状態で、彼が狙っているのは、恐らく、力を蓄える事。

聞いた話によると、彼が進化する事により、ソルガレオかルナアーラが現れるという。

その進化の条件はよくわかっていないが、進化というのは、基本的に力が必要だ。

内に溜まった力と、外から与えられる力の化学反応で、僕たちポケモンはその姿を変ずる。
 ▼ 140 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:07:51 ID:0/HvBLZc [16/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そして、進化して後、彼は留置所から仲間を助け出そうとしているのだ。

そういう事か。


ジュナイパー「助けたいんだ。君は今、力を蓄えてる。進化のための、力を」


コスモウムは、何も答えない。

何一つ、反応しない。

僕は話題を変えてみる事にした。
 ▼ 141 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:08:56 ID:0/HvBLZc [17/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「盗賊、か。善と悪って、考えた事ある?」


僕は、こうして探偵をやっている訳だけれど、それまでは、サーカス団エクリプスにいたんだ。

ウルトラビーストを、自分たちの世界に封じ込めるための、トリガー。それが、そのサーカス団。

だから僕は、ウルトラビーストを封じ込めるため、奔走した事もある。その時に、マッシブーンとも戦った。まあ、手も足もでなかったけど……。

だけど、今、こうして君たちといる中で、思ったんだ。

何が正義で、何が悪なんだろうって。

少し、僕の、僕の友達の昔話をしてもいいかな。
 ▼ 142 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:10:20 ID:0/HvBLZc [18/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サーカス団ルテーの物語。

ニャヒートと、彼女の憧れのポケモンとの決別の物語。

ルテーは、ニャビーに対して、やり過ぎた。けれど、それが悪だったのか。

あの結末が正しいなんて、そんなはずはない。事実、アママイコも時折寂しそうにしていた。

ルテーがもう、存在していないという事実は、アママイコの胸を蝕んでいた。最近はもう乗り越えているけれど。

けれど、どこで間違ったのか。アマージョたちも、僕たちも、誰も間違っていなかった。

全員が全員、自分の中にある正義を信じて、行動した。けれど、何かが壊れた。大切な何かが、なくなってしまった。


ジュナイパー「僕は、フラワーズに関してそれ程知ってる訳じゃない。

       けど、やってる事が犯罪だったとしても、君は仲間が好きなんだよね」


コスモウムは、微かに頷いた。

僕は微笑みながら言う。


ジュナイパー「後悔しないように、よく考えて。

       善か、悪か。誰もが、自分の中に答えを持ってる。それを、キチンと取り出してあげる事が重要なんだ」
 ▼ 143 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:11:10 ID:0/HvBLZc [19/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
コスモウムは、無感動な目をこちらに向けた。

それから、その体勢で、動きを止める。

これが限界だ。さすがに、ポケモン世界に絶望しないで、とかそういう直截的な事は言わない。

きっと、コスモウムなら、既にこの世界のポケモンたちと絆を交わした彼ならば、受け取ってくれるはずだ。

僕の想いを。この世界に確かにある「正義」を。

結局の所、彼は何を想うのか。見当も付かない。

彼の中に浮かぶのは、和解か、破壊か。

少しでも危険因子を潰しておきたいのだが、これ以上踏み込むべきなのか。

コスモウムを、僕は知らないのだ。勝手な事は言えない。


ジュナイパー「イワンコたち、記憶、取り戻せたかな……」
 ▼ 144 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:11:48 ID:0/HvBLZc [20/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
コスモウム「……大丈夫」


え?


ジュナイパー「コスモウム……?」


彼は、もう話す事はなかった。どういう事なのか、問いかけても反応はない。

諦めて、僕は立ち上がった。
 ▼ 145 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:12:38 ID:0/HvBLZc [21/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「マッシブーン、あなたはこの世界を見て、どう思う?」


そう声を掛ける。彼もまた、ウルトラビーストなのだ。

そこを確かめる事には確実に意義がある。


マッシブーン「我か? ……我が筋肉を、どう思う?」

ジュナイパー「筋肉? 凄いと思いますけど。あの時ヤングースを一撃でのして、ヤレユータンがいなかったら僕たちも無事じゃ済まなかった」

マッシブーン「そうか! 我が筋肉のよさをわかってくれる者がいたか!

       向こうの世界では、皆我の事を『筋肉バカ』などと散々に言ってきおったが、これで我も誇れる!

       ありがとう少年よ! 我に許しを与えてくれて!」


訳がわからない。ただまあ、機嫌を損ねる事はなかった所か、今の僕の発言が、彼を親ポケモンに傾かせるには充分だったんだなぁと感じ、呆れて息を吐いた。

絶対に言えない。こいつは、完全に、筋肉バカだ。
 ▼ 146 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:14:09 ID:0/HvBLZc [22/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それからなぜか、長々と筋肉についての講釈を聞かされる事になる。

この聞くという行為に世界がかかっているのかもしれない。つまらない話でも、真剣に聞かないと。


マッシブーン「見よ、この上腕二頭筋!」

ジュナイパー「は、はぁ……」


そこから先は、もう思い出したくもないです……。
 ▼ 147 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:14:54 ID:0/HvBLZc [23/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マッシブーン「ぬ? ウツロイドの呼ぶ声が」


筋肉講釈が終わりを告げ、僕はほっと息を吐く。


ジュナイパー「たぶん、イワンコたちも一緒です。行きましょう」


ああ、ありがとう神様仏様イワンコ様。
 ▼ 148 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:15:29 ID:0/HvBLZc [24/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコとミミッキュ、それからウルトラビーストと思われるガラス質の生物がいた。

ウツロイドの特徴と一致している。彼女がそうだとみなして構わないだろう。

それにしても、留置所のすぐ近く、指名手配中のポケモン、イワンコとミミッキュか。


ジュナイパー「よくここまで無事に来られたね」

イワンコ「まあ、なんとか」

ジュナイパー「記憶、取り戻せた?」

イワンコ「はい。だけどたぶん、この事件そのものには関係ないかと。

     どちらかと言うと、この事件によって引き起こされた二次災害みたいなもんだったんです」

ミミッキュ「要約するとそうなりますね。手掛かりはないと見ていい」

ジュナイパー「そうか」

イワンコ「そっちの進捗は?」
 ▼ 149 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:17:46 ID:0/HvBLZc [25/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
進捗。コスモウムに対して、僕は何も言えなかった。厳密には届いたかもしれない。けれど、僕はこう言った。


ジュナイパー「さっぱりだ。コスモウムは、言葉を受け入れる気配もない」

マッシブーン「硬い殻に閉じ籠ってしまっているからな。我らの言葉さえ、今は届かないだろう」

イワンコ「……そうですか」

ジュナイパー「君たちが思い出した以上、彼の説得には君らが適任だろう」


僕は、それから少し考えを巡らせ、こう言った。


ジュナイパー「となると、僕は、アクジキングや他のウルトラビースト……デンジュモクとフェローチェも念のために捜しておきたい」

ウツロイド「ジュモクっちはきっと、電気探してるよー」

ジュナイパー「電気……フェローチェは?」

ウツロイド「さー。でも、期限の時には、というよりフェロちゃんせっかちだから、もうそろそろミリスに着いて、どう身を隠すか悩んでるとこじゃない?」


今、初めて明かされた情報がある。僕は、それを口に出して確認する事にした。


ジュナイパー「集合場所は、やっぱりミリスか」

マッシブーン「あの場所が一番繋がりやすいものでな! この近辺もなかなかのものだが」
 ▼ 150 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:18:20 ID:0/HvBLZc [26/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「デンジュモクはたぶん、エレキ平原です。バクガメスが紹介してた」

ジュナイパー「了解。後は本当にアクジキングだけか……。アシレーヌたち、見付けてくれてるかな」

マッシブーン「アクジキング殿は、隠れるのも苦手そうなのだがな」

ジュナイパー「なんでも食べる……となると、目撃証言があがっていてもおかしくはないはずなんだけど」

ミミッキュ「アクジキングって、悪食なの? この世界のおいしい食べ物を探して、物凄い美食家と化してたりしない?」

ウツロイド「どーだっけなー。マッシ君、わかる?」

マッシブーン「そういえば、『ワシの舌を唸らせるメシがあるか、楽しみなもんじゃ!』なんて言っておったぞ!」

ジュナイパー「……なるほど。どうにかして、リアライズの2匹が持って来るであろうリンゴの存在を宣伝しないと」

イワンコ「でも、肝心の2匹がまだ……」

ジュナイパー「一旦戻ろうか。コスモウムは、まだ動く気配がない」


そう。彼は力を蓄えている。

まだ、誰も外から影響を与える事はできない。
 ▼ 151 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:19:05 ID:0/HvBLZc [27/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マッシブーンとウツロイドを残し、ジジーロンの家に向かう。

そこには、リアライズの2匹もいた。


ジジーロン「ついに全員集合かの」

チラーミィ「この街でウルトラビースト関連で動いてるのは、僕たち7匹ぐらいか」

イワンコ「動いてるのは……そうなりますね」

チラーミィ「とりあえず、現状報告だよ」


リアライズは、黄金のリンゴ、満腹リングルという、空腹対策2点セットを揃えていた。

これが、アクジキング対策のアイテム。

光輝くリンゴと、ドーナツにしか見えないリングル。

ハラヘラーズ。最高級の性能を持ったリングルとの噂だ。


チラーミィ「譲ってもらっただけだけどね。もう、先越されてた」


チラーミィはそう言って、自虐的に笑った。
 ▼ 152 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:19:54 ID:0/HvBLZc [28/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チラーミィ「つながりオーブってシステムがあって、今、世界にウルトラビーストの目的を発信してる。

      ナエトルとピカチュウ……その調査団の2匹と繋がってる約780匹、伝説も含む。

      全員がそれを知っていれば、少なくとも世間が邪見に扱う事はない」

ニューラ「世間的な根回しは完了したと言っていい。ジュナイパーはサーカス団エクリプスよね」


唐突に水を向けられたが、慌てる事なく答えた。


ジュナイパー「うん。エクリプスは現状、ウルトラビーストの内2匹を味方に引き入れて、他のウルトラビーストに公演を見せようとしてる。

       今正体を現すと、追い返せと言われかねなかったから一時解散中。

       エクリプスの……日食の当日、ミリスの街に集まる事になってる。

       後留置所で、マッシブーンとは仲良くなれたように思う。

       アクジキングの居場所は未だ、見付からない。探すしか……」


この段階で、僕は甘い香りに気が付いた。

イワンコがうっとりしたような表情を浮かべるのは、嗅覚の為せる業だろうか。

そして、どうしてだ。どうして、君はここに来た?
 ▼ 153 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:20:30 ID:0/HvBLZc [29/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
扉が開くと、案の定。


ジュナイパー「アママイコ、どうかした?」


アママイコは、僕に手紙を手渡しながら、息せき切ってこう伝えて来た。


アママイコ「ニャヒートたちから手紙! もう、日食まで何日もないから、再結成してミリスに向かってるって」

ジュナイパー「そうか! よかった。ありがとう、アママイコ」


と、チラーミィが問い掛けて来る。


チラーミィ「誰?」

ジュナイパー「妻のアママイコです」

ミミッキュ「既婚者?!」

ジュナイパー「あれ、意外?」


驚いたように叫ぶと、ミミッキュはうつむいてしまう。どうしたのだろうか。

まあどうでもいいやと割り切り、僕は書かれている内容に目を通していく。
 ▼ 154 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:21:31 ID:0/HvBLZc [30/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミリスの街でアクジキングを見付けた。


ジュナイパー「アクジキングを見付けたあっ?!」


思わず叫び声をあげてしまった。そこから手紙の音読が始まる。


ジュナイパー「もう既にミリスの街にいて、何か食べるものをひたすらに要求し、街のポケモンたちを困らせている……」

イワンコ「……満足できるメシはなかったみたいだ。ジュナイパーさん、行ってください。エクリプスもそこにいるんでしょう?

     あなたが決着を付けるべきです」

ジュナイパー「……そうだな。リアライズの2匹さん、それからミミッキュも、反論ありますか?」

チラーミィ「異議なし!」

ニューラ「いいよ、誰でも」

ミミッキュ「あたしたちはコスモウムと話したいですし」


反論はないようだ。イワンコ、ありがとう。
 ▼ 155 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:22:01 ID:0/HvBLZc [31/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「じゃあ、行って来る! 黄金のリンゴと満腹リングルを」

チラーミィ「はい」

ジュナイパー「ありがとう! ……イワンコ、ミミッキュ。頑張って」

イワ・ミミ「はいっ!」


そう言って、僕は飛び去った。
 ▼ 156 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:23:49 ID:0/HvBLZc [32/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
後ろから声が聞こえる。


アママイコ「待ってよジュナイパー! あたしも連れてって!」


僕は急停止し、振り向いた。

そして言葉を続ける。


ジュナイパー「……エクリプスがいる。そりゃ、必然的に、ルテーのみんなもいる事になる、か」

アママイコ「うん。あたしだって、会いたいもん。みんなに、会いたいもん」

ジュナイパー「でも、アクジキングがいるって……危険だよ、特に君は、甘い匂いを放ってるんだ」

アママイコ「それでも、あたしも行かせてよ! あたし、寂しかったんだよ?!

      ……ジュナイパー。大好きだよ。大好きだから、連れてって」


この旅は、ハッキリと危険だ。

今まで噂を聞かなかった分、アクジキングは今、本当に空腹に襲われているはずだ。

それでなくとも空腹は収まるところを知らないというのに。

そんな中、こんな香しい香りを放つポケモンが現れたら?
 ▼ 157 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:25:33 ID:0/HvBLZc [33/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんな僕の不安を目で読み取ったのか、アママイコが少しふてくされた口調でこう呟いた。


アママイコ「……あたし、自分の身ぐらい守れるもん。

      ジュナイパー、大丈夫だから。あなたが想ってくれてる事は知ってる。あたしは、自分を大事にする。

      だからお願い」


アママイコの潤んだ目。それが上目遣いで僕を見詰めて来る。そういえば、あの時もこんなだった。

あたしも連れてって。僕は、強く彼女を抱き寄せる。


ジュナイパー「わかった。約束だよ。君は、自分の安全を第一に考えて」

アママイコ「ジュナイパー……。ありがとっ!」


その白い顔が、ニコリと微笑む。少し来るものがあったが、僕は、彼女を離して言った。


ジュナイパー「きつい旅になるよ。覚悟してよね」

アママイコ「大丈夫よ」


たぶん、ここでキスをしてしまうと、我慢できない。僕は、照れを隠すため、前を振り向き駆け出した。
 ▼ 158 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:26:07 ID:0/HvBLZc [34/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ダンジョンを、アママイコを守るように立ち回りながら攻略。

夜は欲望が解放されてしまうのを嫌って少し離れて眠った。

アママイコは仕方ないと笑って許してくれた。というより、ここでワガママを言うようなポケモンに、惹かれないと思う。

けれど、強く言われるので仕方なく、藁だけ集めて布団を作る事になった。「体壊しちゃ駄目だし」との事。
 ▼ 159 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:26:43 ID:0/HvBLZc [35/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌朝、リンゴをかじりながら、アママイコがこう聞いて来た。


アママイコ「ジュナイパーって、やっぱり、旅とか慣れてるの?」

ジュナイパー「旅はあんまりかな。でも、ダンジョンには慣れてる。

       ちっちゃい頃、エクリプスに入るまではアシマリとダンジョンに潜ってリンゴ売って稼いでたし」

アママイコ「いや、改めてかっこいいなって。さすがあたしが愛したポケモンだよ」


そう言って、しゃくりとリンゴをかじる。僕は笑った。


ジュナイパー「今日中にはミリスに着くよ。そしたら、アクジキングを捜して、黄金のリンゴを食べさせる」
 ▼ 160 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:27:50 ID:0/HvBLZc [36/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「あー、それとさ。こんなもの見付けたんだ。

      じゃじゃーん! 虹色ポケマメ! ……正直もったいないけど、あげちゃおう、これも」

ジュナイパー「いつの間に?!」

アママイコ「昨日、藁を探してる間」

ジュナイパー「凄い! 満腹感、絶品、それから空腹対策! 三拍子そろったし、もうアクジキングは何も怖くないね」

アママイコ「ほら、あたしいてよかったでしょ?」

ジュナイパー「ホントだよ、ありがとうアママイコ。

       でも、そうとばかりも言ってられない。急がないと」

アママイコ「わかってる。ごちそうさま」
 ▼ 161 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:29:25 ID:0/HvBLZc [37/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこから、もうひとつのダンジョンを潜り抜け、僕たちはミリスの街に到着……


アママイコ「わーお」


テッカグヤの巨体と、真っ黒な体躯を持つ巨体が、遠くから眺めていてもはっきり確認できる。

驚いた顔で見詰めるアママイコに、僕は言った。


ジュナイパー「これが、ウルトラビーストだよ。こんな規格外。だから、危険だって止めたんだ」

アママイコ「凄い……ホエルオー並だね」

ジュナイパー「っと、それもそうか」


そうか。規格外と言っても、ポケモンにだってホエルオーがいる。

全身刃物なら、キリキザンが。

大喰いならカビゴン。俊足なら……デオキシスかな。筋肉バカは、カイリキー?

ウルトラビーストだって、ポケモンと変わらない。だって、こんなにたくさんのポケモンがいるのだ。

違う個性を受け入れて成立している世界。それがここだ。ウルトラビーストだからと言って、特別視する必要は何もないんだ。
 ▼ 162 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:29:55 ID:0/HvBLZc [38/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「なるほどね」

アママイコ「何が?」

ジュナイパー「なんでもない。行くよっ!」
 ▼ 163 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:31:19 ID:0/HvBLZc [39/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
門番は前回の来訪時に顔なじみになっているので顔パス。

僕は彼に、アクジキングの場所まで案内するように頼んだ。


ジュナイパー「僕は、彼の空腹を埋められる」

門番「ホントですか?! こっちです!」


そして誘導された先、真っ黒な体躯の巨大なウルトラビーストがいた。

胴体に大きく開いた口。その他のパーツに、どこか禍々しいものを感じた。

けれど、怯んではいられない。


ジュナイパー「アクジキング!」

アママイコ「あなたの空腹を満たしに来ました! この世界が誇る絶品もありますよ!」

アクジキング「……ワシの空腹を、満たしてくれるのか?」

ジュナイパー「はい」

アクジキング「もし埋まらなかったら、お主らを喰っても構わんのだな?」
 ▼ 164 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:31:59 ID:0/HvBLZc [40/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「ら、は駄目です。僕だけで。まあ、埋まると思います。この世界に伝わる伝説の食材、黄金のリンゴでね」

アママイコ「え……ジュナイパー、それ……」

ジュナイパー「大丈夫だよ。きっと。ウルトラビーストだって、ポケモンと変わらないんだ」


僕は彼女に微笑みかける。

彼女は、目を強く瞑(つむ)った。


アクジキング「黄金のリンゴとやら……食させてもらうとするか」

ジュナイパー「どうぞ」


どこかから腕が伸びて来て、僕が手に持った黄金のリンゴを奪い取る。

そして、それを大きな口に投げ入れた。
 ▼ 165 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:33:11 ID:0/HvBLZc [41/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しばらくの時が経つ。アママイコが、祈るように手を合わせていた。


アクジキング「……なんじゃ、この感覚は。

       もう、しばらく食す必要を感じぬ……。ハッ、まさか、これが……」

ジュナイパー「満腹、です、恐らく」


僕の声を聞き、アママイコが目をそっと開いて言う。


アママイコ「やった……の?」

ジュナイパー「ああ」

アクジキング「これが、満腹か……ふふ。

       初めて感じる感覚じゃ。礼を言うぞ」

ジュナイパー「礼を言うのは早いです。まだ2つ、贈り物があります。

       ほら、アママイコ」

アママイコ「うん。この、虹色ポケマメ! お口に会うかわかりませんが、少なくともポケモンにとってはごちそうです!

      よければまた、しばらく後、お腹空いたら!」

アクジキング「ほう、虹色ポケマメとな。頂かせてもらうとするかの……」
 ▼ 166 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:34:03 ID:0/HvBLZc [42/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
彼は少しの時間も空けずにそのポケマメを食す。

ややあって、彼は食レポを始めた。


アクジキング「噛めば噛む程に、甘さが広がり、それを丸める酸味が効き過ぎない程度に訪れ、そしてほのかに辛い……。

       しかし、苦味や渋みも内包し、しかし最後には甘さが口の中に広がる……。

       なんじゃこれは?! なんじゃこの絶品は?!」

アママイコ「虹色ポケマメ、です」


アママイコが微笑んだ。
 ▼ 167 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:34:40 ID:0/HvBLZc [43/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「最後にこれ。その満腹感を、維持するためのアイテム、満腹リングルです。

       食べないでくださいね。着用品です」

アクジキング「ほう? 試してみるとするかの」

ジュナイパー「すぐに効果がでる訳ではないと思いますが」


彼は、それを指先にハメた。

これで、アクジキングの空腹対策は万全だ。


アクジキング「ああ、満腹感に、これ程の絶品、ワシはこの上なく幸せじゃ……。

       お主ら、感謝するぞ」

アママイコ「ジュナイパー! これって!」

ジュナイパー「たぶんね」


彼を、満足させられた。それがわかれば充分だった。
 ▼ 168 メラ@ブリーのみ 17/04/08 21:35:32 ID:lHxflJDg NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 169 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:35:47 ID:0/HvBLZc [44/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アクジキング「して……主らの名は?」

アママイコ「アママイコです」

ジュナイパー「ジュナイパー。探偵です」

アクジキング「ほう、主らがか……。となると、お主ら、サーカス団を捜しておるな?」

ジュナイパー「え? まあ、すぐ見付かるとは思いますが」

アクジキング「どれ、そんな面倒な事をせずともよい! ワシを満足させてくれたお礼じゃ! 乗れい!」


そう言って、彼は僕たちをつまみ上げた。


アママイコ「きゃっ!」

ジュナイパー「アママイコっ!」

アクジキング「安心せい、食ったりせんわい。どれ……おったおった。あそこに下ろすぞ!」


その言葉に嘘はないようだった。安心して、僕はアママイコの横に腰を下ろす。

空高く、風を切って進んで行く。
 ▼ 170 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:36:43 ID:0/HvBLZc [45/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
鳥属性のある、というよりあった僕ならともかく、アママイコはほぼ初めてだ。

……あの時は、切羽詰まって風景を楽しむ余裕なんてなかったし。


アママイコ「ふわあ、凄い……高いなぁ」

ジュナイパー「あ、あれが……」


その先に、サーカス団のテントがあり、僕はあっという間に過去に引き戻されて行く。

――帰って来た。この場所へ。


ジュナイパー「おーい! アシレーヌ! ニャヒートぉ!」

アママイコ「お母さーん! いるー?!」


テントに向けて叫んだ。
 ▼ 171 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:37:22 ID:0/HvBLZc [46/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕はアクジキングに向けて、振り向き言った。


ジュナイパー「ありがとうございます」

アクジキング「構わんわい。ワシがしてもらった事に対するお礼なのでな。して、主、甘い香りがするの」

アママイコ「え?! だ、駄目ですよ?!」

アクジキング「わかっておる。ほれ、着いたぞ」


僕たちは地面に降り立ち、そしてアクジキングに一礼すると、テントに向けて駆け出した。
 ▼ 172 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:38:09 ID:0/HvBLZc [47/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィ「お帰り、モクローとアママイコ」

ジュナイパー「久しぶり」


一番に気付いたのが、エーフィだったようだ。色違いの、緑の体躯を持つ彼女は自慢のエスパーでもってそれを予知したらしい。

双子の弟(彼もまた色違いだ)と共に僕らを出迎えてくれる。


ブラッキー「2匹とも、幸せそうだね」

ジュナイパー「まあね。アシレーヌたちから、話は聞いてると思う」

エーフィ「うん。みんなに伝えてるから、中でみんな、ドタバタしてると思う。さ、行こ!」

アママイコ「ねえ、お母さんは、いる?」

ブラッキー「いるよ。みんな……何匹か引退しちゃったけど、でもほとんどみんな」

アママイコ「ちょっと待ってね……」


そう言って、彼女は頬を軽く叩く。甘い香りが広がった。


アママイコ「もう大丈夫。行こう」
 ▼ 173 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:39:23 ID:0/HvBLZc [48/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕らは、エクリプスのテントに足を踏み入れた。

しんと静まり返っている。サプライズという訳でもなく、ただ、どう接すればいいのかわからないようだった。

そんな中、ある強烈なオーラが近付いて来て、苦笑する。

アマージョだ。こんな独特の威厳を放つポケモンが、2匹といてたまるか。


ジュナイパー「アママイコ、行って来なよ。親子水入らずで話したいでしょう?」

アママイコ「うん。お母さん」


アママイコは、自らの母、アマージョと向き合う。

彼女はアマージョの頬を、叩いた。パンと音が鳴る。どれほどの強さなのかはわからなかった。


アマージョ「アママイコ……どうして何も言ってくれなかったの?!」

アママイコ「ごめんなさい……」


アマージョは、彼女を強く抱き寄せた。


アマージョ「お帰りなさい、アママイコ」

アママイコ「ただいま、お母さん」
 ▼ 174 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:40:39 ID:0/HvBLZc [49/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕はアシレーヌたちを捜す。

視線を巡らせるが、そこにはいない。


ジュナイパー「お義母さん」

アマージョ「お義母さんだなんて呼ばないでちょうだい。それで、要件は?」

ジュナイパー「アシレーヌとニャヒート、それから全然姿を現さない団長どこですか?」

アマージョ「奥よ。あなたと久しぶりに話すってので緊張して、1歩も歩けないらしいわ。2匹がそれをなんとかして連れて来ようとしてる」


苦笑する。らしいや。


ジュナイパー「行って来ます。みんなとも、積もる話はいろいろあるけど、まずはあの3匹と話したい」

エーフィ「うん。行ってらっしゃい」

ジュナイパー「あー、いや、できればエーフィたちには来て欲しい。ミリスとウルトラビーストを巡るこの事件、君たち抜きでは語れない気がするから」

ブラッキー「……だって」
 ▼ 175 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:41:23 ID:0/HvBLZc [50/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィ「ほら、みんな。確かに今はそれどころじゃなかったとしても、ジュナイパーは仲間なんだよ!

     そんな緊張する事もないんじゃない?」


エーフィが周りにそう声を掛ける。

みんながちらほらと会話を始めた。


エーフィ「戻って来たら、ジュナイパー、質問攻めにするぐらいのつもりでいてよ!」

ジュナイパー「……ありがと、エーフィ」

エーフィ「いいって事よ! みんなこんな空気だと、あたしも辛いし」

ジュナイパー「ハハ……。あそこか」

ブラッキー「団長」

ジュナイパー「お久しぶりです!」


フーディンに向けてそう声を掛けると、遠目にも彼は体をビクンと跳ねさせた。

横に、アシレーヌとニャヒートもいる。僕はそちらに向けて走る。後ろから2匹も付いて来た。


アシレーヌ「あーもう! ダンチョー、来たよ!」
 ▼ 176 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:42:40 ID:0/HvBLZc [51/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「いやだって、まだ公演見に来てくれとは言ったが、まさかこのタイミングで来るとか思わねぇし!」

ニャヒート「なんでみんな成長してるのにあんただけそのままなのよ。もうステージに出て粗治療した方がいいいんじゃない?」

フーディン「いやだって、あの時あんな別れ方して、どう話せばいいんだよぉー!」

ジュナイパー「……ねえ、アシレーヌ」

アシレーヌ「あっ、ジュナイパー! ……これ、どうすればいいと思う?」


僕に聞くな。何年も会っていないのだ。

とりあえず3秒程考えて、適当な結論を下す。


ジュナイパー「ほっとこう。しばらく話してたら治るでしょ」

ニャヒート「そうね」


フーディンは「おいっ!」と叫び、振り向く。勢いで目が合い、途端にフーディンの体が赤くなった。


フーディン「ああ、ひ、ひ、ひさ、ひさし、ひさしぶりだな」

ジュナイパー「あがり症、治ってないんですね……」

フーディン「あーもう限界。お前らで話進めてくれ」
 ▼ 177 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:44:38 ID:0/HvBLZc [52/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィ「うーん、今日はいつもより酷いね。まあ、いいとしよう。団長が持ってる知識はみんな持ってるしね」

アシレーヌ「だね、仕方ない。何か進展はあった?」


僕は、全て話した。

アクジキングに黄金のリンゴその他アイテムを献上して、空腹を収めた事。

皆、ここで凄いと反応したため、探検隊リアライズの手柄だと伝えておく。

デンジュモクは既にイワンコたちが交流していた事。

マッシブーンとも出会っていた事。

そして、マッシブーンの筋肉講釈を聞かされる事により、彼を満足させた事。


エーフィ「ウルトラビーストは、全部で8匹だっけ。ウツロイドとフェローチェはもうあれなんでしょ?

     カミツルギとテッカグヤは、もうフェローチェとアクジキングと一緒にいるし、たぶん大丈夫。

     ソルガレオ様とルナアーラ様もそうだって聞いたけど」

ジュナイパー「あの2匹は初めから考慮しなくて大丈夫。

       もともとあの2匹も、エクリプスのサーカスに惹かれて、こっちの世界に付いてくれたんだから」

ブラッキー「僕たちにアドバイスをくれた。そりゃそうだ」
 ▼ 178 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:45:50 ID:0/HvBLZc [53/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「コスモッグは?」


それが、問題なのだ。少しの躊躇いの後、僕はそう言った。


ジュナイパー「彼は、友達が逮捕されたのをきっかけに、こっちの世界にいい印象を持っていない、かもしれない。

       コスモウムって姿に進化して、そうなっちゃって、何も聞いてくれる気配がないんだ」

アシレーヌ「ええ?! 逮捕?! 誰が?!」


盗賊団フラワーズ。その詳細を、僕は知らない。イワンコとミミッキュ、コスモウムの他にまだ幾匹か囚われていると言う事ぐらいだ。

そう伝えると、イワンコの事を伝えていたアシレーヌとニャヒートが、反応はそれぞれだが、驚いたような顔を浮かべる。


アシレーヌ「イワンコが盗賊〜?!」

ニャヒート「しかも脱獄までしでかすとは、凄いな……」

ブラッキー「でも、話聞いてる限りだと、協力関係なんだよね」

ジュナイパー「まあね。ウルトラビースト事件の前には、些細な問題だと判断した」
 ▼ 179 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:46:35 ID:0/HvBLZc [54/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィ「その2匹が、コスモウムを説得できるかにかかってるって事?」

ジュナイパー「そうなるね。……多数決制ならもう安泰だけど、でもなんか違う。全員を納得させてあげたい。この世界のよさを伝えたい」

アシレーヌ「そのためのサーカスなんだけど、そこまでにってか」

ジュナイパー「……いずれにせよ、僕らにできるのは、もう待つ事だけだ。集合は、明日。

       明日にコスモウムが間に合うかはともかく、それ以上何ができる訳じゃない」

アシレーヌ「だね。ね、ジュナイパー、ちょっといいかな」


不意にアシレーヌが、僕に持ち掛ける。


ジュナイパー「何?」
 ▼ 180 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:47:05 ID:0/HvBLZc [55/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





アシレーヌ「……お願い、司会して! このエクリプスの公演で、最後に1回!」





ジュナイパー「……え?」
 ▼ 181 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:47:49 ID:0/HvBLZc [56/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌが、拝むような顔でこちらを見る。

ああ、とわかってしまう。

やっぱり、アシマリは、母性本能をくすぐるのが上手い。

僕は駄目だ。やっぱり、彼の頼みを、受け入れてしまう。


ジュナイパー「わかった。いいよ」

アシレーヌ「え、いいの? 拝んで拝んで拝み倒すつもりだったのに……」

ジュナイパー「だって、アシレーヌ、拝んで拝んで拝み倒すでしょ? 降参。僕は、君に敵わないよ」

アシレーヌ「ありがとう!」


僕は、ふうと息を吐く。

そして、みんなを見やった。


ジュナイパー「最後の大仕事、か。久々に練習しないと。ん、練習……? 今、司会担当って……」

アシレーヌ「アマージョだよ」


邪気のない顔でアシレーヌが笑う。
 ▼ 182 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:48:33 ID:0/HvBLZc [57/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「あっと……やめても、いい、かな?」

アシレーヌ「ええっ?! そんなぁ……」


やめてくれ、瞳を潤ませるな。

助けを求めてニャヒートを見ると、ニヤニヤ笑っている。


ニャヒート「ま、頑張れ。駆け落ちなんてするからよ」

エーフィ「ほら、♂に二言はないよ! しっかりしなさい!」

ブラッキー「諦めた方がいい」


ため息が零れた。お義母さん、かぁ……。
 ▼ 183 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:49:11 ID:0/HvBLZc [58/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「あー、うん。落ち着いた」

エーフィ「やっと?!」

フーディン「悪かったなこんにゃろ。ジュナイパー、久しぶりだな」

ジュナイパー「急に治りましたね……」

フーディン「まあな。何があれって、元はモクローだ。何もビビるこたぁねぇ。というより、もう観客じゃなくて、メンバーだからな」

ジュナイパー「ハハ……」

フーディン「さ、とりあえず、今日はこいつとアママイコの歓迎パーティーだな。ブラッキー、頼んだぞ」

ブラッキー「了解」

フーディン「で、もう俺たちができる事は終わりか。よし、みんな、いつも通り、練習だ。明日、ゼンリョクを尽くせるように」

みんな「はい!」
 ▼ 184 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:49:51 ID:0/HvBLZc [59/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
戻って行くと、みんなから質問攻めにされる。

探偵ってどんな事をするのか。アママイコとはどんな感じなのか。子どもは産まれそうか、そもそもヤッているのか(この質問を出した奴にはとりあえずかげぬいをお見舞いした)。

結局お前は今、幸せなのか。

僕はそれらの質問にひとつひとつ答えて行った。

アママイコの方はと見やると、ルテーメンバーと思しきポケモンたちに囲まれていた。

きっと、今の僕と同じ立ち位置なのだろう。

彼女の顔も、笑顔だった。

ああそうか、と今さら気付く。

本当の幸せは、依存を断ち切る事じゃない。依存を超えた所で、繋がっている事なんだ。


アシレーヌ「ジュナイパー、お帰り」

ジュナイパー「アシレーヌ、ただいま」
 ▼ 185 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:50:32 ID:0/HvBLZc [60/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

フーディン「ほら、みんな! 明日は本番なんだ! ジュナイパーを歓迎するのは後でもできるだろ? 練習するぞ!」

みんな「はーい」

フーディン「あー、それとアマージョさん」

アマージョ「何かしら」

フーディン「明日の司会を、こいつに譲ってやってくれないか? そして、そのために指導してくれないか?」


アマージョは、ニヤリと微笑みながら言う。


アマージョ「ええ、お受けしますわ」


嫌な予感しかしない。

汗をダラダラと垂らしながら、引きつった笑みを浮かべるより他になかった。
 ▼ 186 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:51:23 ID:0/HvBLZc [61/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「優しくしてあげてね」

アマージョ「そんな時間はないわ。明日だもの。ビシバシ行くわよ」

アママイコ「酷い、酷過ぎるよ!」

ジュナイパー「いいよ、覚悟は決めた。アママイコ、もし生きてエクリプスを迎えられなかったら骨は拾ってね……」

アママイコ「……頑張ってね」


アママイコも苦笑している。仕方ない。

やりますか。僕はそう、力なく呟いた。
 ▼ 187 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:52:04 ID:0/HvBLZc [62/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこからしばらくそうしていると、フーディンが手を叩きながらやって来た。

ジュナイパー「あえいうえおあお」

アマージョ「もっとお腹から声を出しなさい! あんた、最初は指導もロクにない状態でできてたんでしょ?」

ジュナイパー「歳食うと声でなくなるんですって」

アマージョ「甘ったれた事言わない! あたしの娘を攫って行った罰は重いわよ」


アマージョに腹部を蹴られ、しかしタイプ相性はそれを透かしてしまう。

決まり悪げにアマージョが叫んだ。


アマージョ「と、とにかくあなた! お腹に力を込めるの!」


害意というよりは、それを伝えるための暴行だろう。しかし悲しいかな、僕はゴーストタイプを得た。

打撃系の攻撃は、透かせるのだ。
 ▼ 188 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:52:48 ID:0/HvBLZc [63/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それはともかく、お腹から出さないといけないのは本当なので、僕はそれに従う。


ジュナイパー「あ! え! い! う! え! お! あ! お!」

アマージョ「その調子! 発声練習が終わったら、とりあえず最初と最後だけでも叩き込みなさい!」

ジュナイパー「はいっ!」


途中の過程全てに司会を挟むのは、今の僕じゃ無理だ。恐らく、最初と最後だけになる。

だからこそ、そこのセリフだけは、きちんと覚えなければならない。


ジュナイパー「レイディースアーンドジェントルメーン!」

アマージョ「もっとお腹から!」

ジュナイパー「レイディースアーンドジェントルメーン!」

アマージョ「その調子もういっちょう!」

ジュナイパー「レイディースアーンドジェントルメーン!」


こんな調子で一夜漬けならぬ一日漬けの練習は進んで行き……。
 ▼ 189 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:54:11 ID:0/HvBLZc [64/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「もうダメ……」

ニャヒート「甘ったれないでよあたしの前で。うつる。奥さんのとこ行って来たら?」

ジュナイパー「今、料理作ってるから……」

ニャヒート「そ。ま、邪魔しないでよね」


ニャヒートの練習を眺めていた。

休憩にと、アシレーヌがここを推してくれたのだ。

今にして思えば、わざわざストイックの権化の練習を眺めさせに行くアシレーヌもアシレーヌだ。

彼はきっと、綺麗なパフォーマンスを見たらやる気も出るぐらいにしか考えていないだろう。

僕が気付くべきだった。

けれど、バテていた僕はそこまで考えも行き付かなかった。

ニャヒートは、気を高めるかのようにブランコに座って目を閉ざしている。

これは、確かに邪魔してはいけないような気がする。

僕はその場を離れると、布団を探して倒れ込んだ。
 ▼ 190 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:55:06 ID:0/HvBLZc [65/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
目を覚ますと、アマージョがそこにいた。

悲鳴をあげて飛び上がると、アマージョはツンと顔を背け、それから言った。


アマージョ「あんたに倒れられると、アママイコからなんて言われるかわかったもんじゃないもの」

ジュナイパー「ハハ……。やりますか」

アマージョ「ええ。と言いたい所だけれど、まだ休憩タイムよ。アママイコとブラッキーが呼んでるわ」

ジュナイパー「! って事は……」

アマージョ「お仕置きは後回しね。食事よ」


食事会場に出て行くと、「おー、主役が来たぜ」なんて声があがる。

フーディンがえらくかしこまったように立っていた。


フーディン「あー、みんな知ってると思うが、元メンバーのジュナイパーとアママイコが帰って来ました」


堅苦しいのやめろよーとヤジが飛ぶ。フーディンが、照れ笑いして、それから言った。


フーディン「明日は、本番だ。だから、リラックスのためにも、今日ははしゃぎすぎない程度に騒いでくれ! 以上!

      それじゃあ2匹とも席に着いてくれ」
 ▼ 191 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:56:16 ID:0/HvBLZc [66/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕らは二手に分かれて着席する。アママイコはこちらを認めると、小さく手を振ってそれから口パクと身振りでこう伝えて来た。

今日はそっち行きなよ。あたしたちは、いつでも一緒だし、今ぐらい分かれてさ。

そうだね、と頷いて、僕はエクリプスのメンバーの方の机に駆け寄って行く。

僕らにまつわる思い出は、エクリプスとルテー、双方の中で共有されていない。

今日だけは机を分けようというのは、向こうも配慮しているのだろう。

さすがに普段分かれているようじゃ問題だ。今まで持ちこたえている以上、その心配はしなくていいだろう。
 ▼ 192 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:56:52 ID:0/HvBLZc [67/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は、エクリプスのメンバーたちに向け、言葉を紡ぎ始めた。


ジュナイパー「みなさん、本当に、お騒がせしました。迷惑も、散々かけた事と思います。

       本当に、すみませんでした」

アシレーヌ「ジュナイパー、心配しないでも……」

ジュナイパー「いや、これは僕なりのけじめだ。言わせて。

       僕はあれから、アママイコと2匹、自分ってのを探してきました。その答えが見付かった時、公演を見に来い。そう、団長に言われたのは、まだ覚えてます。

       残念ながら、本当の自分、なんてそんなもの、まだ見付かってません。探偵が自分に向いてるって事ぐらいです。

       でも、そうじゃないんです。自分が見付かるかじゃない。幸せになれるかだ。

       僕は、今この時が、幸せです。最高の仲間たちと、最高の妻と、それから……」


僕は、アシレーヌを見やる。そして、そのまま言った。


ジュナイパー「最高の友達に囲まれて」
 ▼ 193 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:57:38 ID:0/HvBLZc [68/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「ジュナイパー……」

ジュナイパー「それが言い訳になるかって、ならないですよね。だけど、迷惑を掛けてまで欲したものを、僕はキチンと掴んだ。

       それを、みんなに知って欲しかった。

       僕のワガママに付き合わせてしまって、ごめんなさい」


気にするなよ、そんな温かい言葉がいくつも飛ぶ中で、ひとつの言葉が鋭く響いた。


ニャヒート「そこはごめんねじゃないよね」
 ▼ 194 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:58:26 ID:0/HvBLZc [69/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「え?」

ニャヒート「サーカスってのは、観客に幸せを届けるもの。

      あんたがそれを掴めたのは、確かにあたしたちがあんたのワガママに付き合ったから。

      でもね、観客だけじゃない。やってる当のあたしたちが幸せじゃないと、意味なんてない。

      それを言うならさ……感謝だよ。謝罪なんていらない。似合わない」

ジュナイパー「……ありがとう、か。ニャヒート、自分にだけわかる文脈で話さないでよね。

       ニャヒートは凄い。だけど、僕は、僕なりの文脈で話を進める。

       僕は、ごめんと思ってる。だから謝る。謝らなくていいって言われてもね」

ニャヒート「ま、それがいいんじゃない? あたしとあんたじゃ、全然違う。

      お互い違うから、そしてそれをぶつけ合うからこそ、いいものができる」

アシレーヌ「うーん、なんか空気が重くなっちゃったけど、みんな食べよ! ごちそうが冷めちゃうよ!」

ジュナイパー「だね、ごめん」

フーディン「ま、そうだな。じゃあ改めて……」

みんな「いただきまあす!」
 ▼ 195 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:59:04 ID:0/HvBLZc [70/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
久しぶりに食べるブラッキーの料理は、正に天にも昇る心地だった。

アママイコもなかなかの精度でコピーしていたが、オリジナルにはやはり敵わないという所だろうか。


アシレーヌ「どう? 久々のブラッキーの料理は」

ジュナイパー「なんでサーカス団にいるのかわからなくなるレベル。あれ、ここレストランだっけ」

アシレーヌ「いや違うってば」


笑い声。エクリプスの雰囲気だ。

最高だ。そして、今僕は――


幸せだ!
 ▼ 196 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 21:59:40 ID:0/HvBLZc [71/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「でも、オイラの事、大勢の前で友達だなんて大声で言わないでよ。恥ずかしいじゃん」

ジュナイパー「仕方ないじゃん、事実そうなんだから。親友じゃなかっただけマシだと思ってよ」

アシレーヌ「えっ、オイラたち、親友じゃなかったの……」

ジュナイパー「えっ、どうしてそうなった……」

エーフィ「聞いてるだけで笑えるよ、あなたたちの会話」

アシレーヌ「エーフィー……」

エーフィ「こら、泣きそうな顔しない! あんたたちは傍から見て、充分親友だから!」

ジュナイパー「親友なんて、言葉にすると安っぽいじゃん。いいんだよ、これで」

アシレーヌ「うーん、そういうもんかなぁ……」

エーフィ「ま、なんだっていいじゃん! ほら、早く食べなよ!」
 ▼ 197 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 22:00:26 ID:0/HvBLZc [72/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんな騒ぎの中食事はなくなり、そしてアマージョと共に最後の追い込みを掛けた後、僕とアママイコは別の部屋をあてがわれた。


フーディン「スペースがないからな、急ごしらえで用意した。変な事するなよ? 明日もあるんだからな」

ジュナイパー「わかってますって……」

アマージョ「もし何かしようもんなら」

ジュナイパー「だからしないってば! っと、すいませんお義母さ」

アマージョ「その呼び方はやめてちょうだい」

アママイコ「ケンカしないでよ! ジュナイパーもお母さんも!」

ジュナイパー「冗談だよ」

アマージョ「冗談よ」


見事にハモり、僕らは顔を見合わせる。

アママイコがこらえきれずにと言うように噴き出した。


フーディン「それじゃあ、また明日」

ジュナイパー「はい」
 ▼ 198 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 22:00:57 ID:0/HvBLZc [73/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
布団に潜り込みながら、僕はアママイコと話を始めた。

彼女の方は見ない。それでも、その存在は、彼女の甘い体臭とほのかな体温が伝えてくれた。


アママイコ「楽しかったね、今日は」

ジュナイパー「アマージョの特訓、厳しかったけどね……」

アママイコ「そりゃね。お母さん、もともと厳しいのは確かだし。あの時はやり過ぎだっただけで」

ジュナイパー「いや、それだけじゃないでしょあれは……お姑(しゅうと)さんって怖いね」

アママイコ「それ嫁のセリフだってば!」

ジュナイパー「いびられる嫁の気持ちがよくわかったよ……」

アママイコ「ま、でもさ、よかったと思う。あなたと出会えて。あたしも、幸せだからね」

ジュナイパー「アママイコ……」

アママイコ「ま、明日も早いし、寝ないとね。お休み」

ジュナイパー「そうだね。お休み」
 ▼ 199 1◆J44kAZeDOM 17/04/08 22:01:48 ID:0/HvBLZc [74/74] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
眠って、起きたら、もう当日だ。

僕の、最後の公演がやって来る。

ウルトラビーストを巡る事件も、これでおしまいだ。

今日は、あんなに特訓した。大丈夫。僕ならできる。

と、そこまで考えて、今までのてんやわんやに押し出されていた最重要事項を思い出す。

――そうだ、アシレーヌ。

君の答えは、どんななの?

絶対、教えてね。ゼンリョクで感じ取るから。

君のゼンリョクを、僕が……。

そして、僕の意識は途切れて行った。
 ▼ 200 1◆J44kAZeDOM 17/04/09 21:28:44 ID:jyWOxWLU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
盗賊団編 9章
http://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=563163&l=350-429
350から429までです
 ▼ 201 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:32:01 ID:ahuEvCG. [1/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







5章 ガオガエンの告白






 ▼ 202 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:32:37 ID:ahuEvCG. [2/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「レイディースアーンドジェントルメーン! ようこそ! ポケモンサーカス団エクリプスへ!」


僕は声を張り上げる。

星空のステージ。ソルガレオとルナアーラの空間に、僕たちエクリプスは今、立っている。

観客席には、その2匹を含むウルトラビースト。

それはもちろん、ネクロズマも含めて。

そして、愛しの妻アママイコ、この事件に密接に関わっていたフラワーズのメンバー、そして探検隊リアライズのチラーミィとニューラ。

サーカスの事をわかっているアママイコが、皆を静めていた。

そこに向けて、僕は、高らかに声をあげる。


ジュナイパー「それでは、皆さんを新たな世界へと誘い(いざない)ましょう!

       それでは、アシレーヌのパフォーマンスをどうぞ!」


僕は、舞台袖に引っ込んで行った。

それと同時に、照明が落ちる。

この、瞼の裏に残る眩い照明。懐かしい感覚に、思わずめまいがする。
 ▼ 203 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:33:33 ID:ahuEvCG. [3/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌは、バルーンを創りあげ、そしてその中へと飛び込んで行く。

舞台裏から、僕はそれを眺めていた。

誰も、何も声を掛けて来ない。

恐らく、わかってくれている。僕の想いを、みんな。

だから、思いっきり、親友が生み出す幻想的な光景に浸った。

大きなバルーンの中を、自由自在に飛び回る。

そのバルーンが空へと浮かぶ物だから、次第に次第に、当のアシレーヌも高みへと上がって行く。

バルーンから、長い尾だけをはみ出させ、それからしばらくくるくると、アイドルのように回り始める。

アシマリの短い胴体ではできなかった、新たなパフォーマンス。

僕が知らない景色だ。

観客席から喝采が起こる。

手がないビーストがほとんどなので、拍手を催促しようにも、ウルトラビーストの中では恐らくマッシブーンとネクロズマの物しか帰って来ないのだ。

けれど、声なら、口がなくともどこか発声器官を震わせる事によってか出せる。

それが、このパフォーマンスを讃えている。

さすがだ。僕がいない間にも、ずっと、留まる事なく成長を続けていた。
 ▼ 204 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:34:34 ID:ahuEvCG. [4/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌが、今度はバルーンから顔を出し、それから歌を奏でた。

それは綺麗な音。アシレーヌ特有の、美しい声。

バルーンを震わし、そして破裂。

地面と呼べる箇所に向けてバルーンを打ち出し、それをトランポリンのように駆使して着地を決めた。

その真上に、虹。

エーフィの光に照らされて、アシレーヌが大きくお辞儀をする。皆、見惚れたようだった。

掴みは抜群だ。僕は、小さくガッツポーズを作る。


ニャヒート「ジュナイパー、ガッツポーズなんかしないでよ。まだ何も終わってない。むしろ、今が始まりだよ。

      この公演は、あたしのパフォーマンス、そしてあんたの司会で終わるの。喜ぶには早過ぎる」


おもむろに声を掛けて来たニャヒート。

それに対し、僕は依頼を持ち掛けた。ワガママばっかりだ、僕。でも、少しぐらい、僕は周りを頼るべきなんだ。


ジュナイパー「……それもそうだね。……ニャヒート。お願いだ。君も、最後、一緒に司会をしてくれ」

ニャヒート「はあ?!」

ジュナイパー「しっ、音が漏れる」
 ▼ 205 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:35:37 ID:ahuEvCG. [5/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒートが慌てたように口を堅く引き絞り、それからひっそりと、しかし顔には動揺と怒りを浮かべて言った。


ニャヒート「どういう事よ。あたし、司会なんてできない」

ジュナイパー「言い方が悪かった。いてくれればいい。

       ……エクリプスを巡る物語は、アシレーヌと、それから君と一緒に決着を付けたいんだ」


と、そこに自らのパフォーマンスを終え戻って来たアシレーヌがやって来た。

僕の仕事は、司会。最初と最後。日常と非日常、2つの世界を繋げるのが司会の役目だ。

だから、この時間は、僕の仕事なんてないに等しい。


アシレーヌ「何? どうかしたの? オイラの事呼んだ?」

ジュナイパー「うん」

ニャヒート「聞いて驚かないでよ。こいつ、あたしとあんたを最後司会一緒にさせようとしてる」

ジュナイパー「僕の、最後のワガママだ。もう、充分迷惑を掛けたのはわかってる。それで――」
 ▼ 206 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:36:20 ID:ahuEvCG. [6/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕の言葉を、アシレーヌが強く遮った。


アシレーヌ「ワガママ? とんでもない!

      ジュナイパーがオイラの事心配してくれてるのはわかってるし、

      自分を犠牲にして、オイラを育ててくれた。

      いくらお礼しても足りないぐらい、オイラは君に感謝してる。

      司会でもなんでも、やってやる!」

ニャヒート「…………」

ジュナイパー「声が漏れるから静かに。でも、ありがとう」


涙は流さない。それこそ、終わった後でいい。
 ▼ 207 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:37:29 ID:ahuEvCG. [7/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒートが、苛立った声で、しかし潜めて言った。


ニャヒート「あーもう、わかった。いるだけでいいのね?」

ジュナイパー「……ありがとう」

ニャヒート「でも、なんであたしなの? アシレーヌだけでいいじゃない」

ジュナイパー「……君が、全てを繋いでくれたから。

       僕と、アシレーヌと、それからエクリプス。君と、それから君の……」


僕は、言葉を呑み込んだ。ルテー事件で明かされた彼女の過去は、改めて語るまでもなく、伝わったらしい。


彼女はふっと息を吐く。そして、それから言った。


ニャヒート「とにかく、みんなのパフォーマンス、見てあげて。

      あんたがいなくなってからの、あたしたちの成長、見て欲しいんでしょアシレーヌ」
 ▼ 208 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:38:05 ID:ahuEvCG. [8/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「うん。ほら、凄いよ。あのミス、ワザとやってる。

      ジュナイパーがいた時には、ここまでの事はできなかったよね」


ステージの方に目を向けると、スリーパーがボールを落としていた。

5個のお手玉。その難易度は確かに高いが、慣れていればミスをする要素は確かにない。

それでも落とすのは、難しさを演出し、それから観客を引き込むためだ。

案の定、共にステージに出ていたエテボースが2本の尾を叩き合わせ、皆の積極的な参加を求めている。

それに真っ先に答えるのはアママイコ。ある意味サクラだ。


アママイコ「頑張れ! 頑張れ!」


リズムに乗せて、手拍子と共に。

それを見たチラーミィとニューラも手拍子を合わせる。

盗賊団のメンバーたちも、各々に調子を取り始めた。

ウツロイドが楽しそうに体を揺らし始め、それからそれが徐々にビーストたちに伝播する。

マッシブーンとフェローチェだけが、最後まで恥ずかしそうにしていた。
 ▼ 209 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:39:05 ID:ahuEvCG. [9/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サーカスというのは、やっぱりこういう何気ない場面での、積極的な参加を求める。

斜に構えてしり込みするより、飛び込んでしまった方が、間違いなく楽しい物だ。

ウツロイドが何やら伝えたように見えた。フェローチェが頭を掻き、マッシブーンが筋肉を見せつける。

スリーパーが、今度は2つから始める。

そして、1つ、エテボースが投げ込む。2つ、3つ。

そして……計6つ。彼は何の躊躇いもなく、お手玉を回していた。

僕は、思わず笑みを浮かべる。懐かしい、この感じ。舞台袖からしか見えない景色。

サーカスは、ここに向けられていない。けれど、ここの景色は、僕の根底に刻み付けられていた。

離れて、ようやくわかる。そんな事もある。


アシレーヌ「ほら、オイラたち、成長してるでしょ?」

ジュナイパー「まあね。ここまで積極的に観客を惹き込めてなかった。僕がいた頃はね」

ニャヒート「実力はあったけど、そういう大技ばっかだったから。小技で楽しませられるようになったって事」


ニャヒートの解説が入る。

照明が2匹を照らし、深々とお辞儀をして引っ込んで来た。
 ▼ 210 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:39:45 ID:ahuEvCG. [10/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこからも、成長をまざまざと見せつけられる事になる。

僕がいた時より、さらにという事だ。

火の輪くぐりのカエンジシは、見事、くるりと飛び込んで、綺麗に着地を決めた。

ドンファンの球回しも、鼻先で決めながら、自らも転がるという芸当をこなしている。


フェローチェ「頑張れー!」


恥ずかしがっていたフェローチェが誰よりも大声で叫ぶ。

周りの視線を浴び、白い体を赤く染めて座り込んでしまった。僕は、思わずクスリと笑う。

そして――


ニャヒート「んじゃ、行って来る。あたし、最後をきっちり決めるから」


ニャヒートが、すっくと立ちあがった。
 ▼ 211 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:40:15 ID:ahuEvCG. [11/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
照明が落ちる。

そしてブランコに昇ると彼女は、自らの体を炎で包んだ。

突如現れた煌めく炎は、観客の興味を惹いているはずだ。見えないが、その気配が伝わって来る。

ニャヒートは、口を真一文字に結び、それから跳んだ。

勢いを付けて揺れるブランコ。ニャヒートがその勢いをさらに増す。

2つのブランコの継ぎ目で、彼女は跳躍する。

くるりと、まずは1回転。炎の勢いが増し、辺りを照らす。

そして、ようやく気付く。もはや、彼女はブラッキーの光を必要としていない。

自らの過去を断ち切り、前を向いて進めたのであろうか。

もう、誰もいない世界へ潜ろうとする彼女はいない。

彼女自身が、誰かを、光を必要とする誰かを照らすため、太陽となっている。

本当に、楽しそうだった。真顔でも、その感覚が体中から溢れている。


アシレーヌ「凄い……今までで、最高の出来だ……」


アシレーヌも、その白い顔をステージに向け、見呆けていた。
 ▼ 212 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:40:46 ID:ahuEvCG. [12/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
最高の出来。

アシレーヌは彼女を、そう評した。


ジュナイパー「え?」

アシレーヌ「……オイラと、ニャヒートが、混ざってる。それで、最高なんだ」


そうか、楽しさが伝わるパフォーマンス。

彼女が、アシマリに見出した物。

僕が戻って来て、彼女は、ようやくそこに辿り着いたと言うのか。

ニャヒートは、くるり、3回回って、それから、前脚でしっかりとブランコを掴む。そのまま逆上がりの要領で棒の上に立つと、ニコリと笑った。

その笑顔のまま、大きく飛んだ。そのままくるりと回転する。

1回。2回、3回……4回。


アシレーヌ「練習でも、4回はできてない……」


僕は、ただ、彼女のパフォーマンスを眺めていた。
 ▼ 213 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:41:46 ID:ahuEvCG. [13/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ルテーの事件で明かされた彼女の過去、その呪縛。

もう、呪縛は解かれている。それが、ハッキリわかった。

彼女は安定した台に飛び乗り、そのまま炎を消す。

後には、星の煌めきだけが残っていた。

拍手喝采が鳴り響く。

僕はアシレーヌに呼びかけた。


ジュナイパー「行こ、アシレーヌ――」

アシレーヌ「ねえ、見てあれ……」


震える声のアシレーヌに釣られ、僕はそちらを――ニャヒートの方を見やる。

コン、と乾いた音がした。


アシレーヌ「あれ、かわらずのいし……」
 ▼ 214 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:45:18 ID:ahuEvCG. [14/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「えっ?!」


かわらずのいしを、外した?

つまり、彼女は進化する。同い年の僕どころか年下のアシレーヌすら進化していたのだ。きっと、そうなる。

あたし、最後をきっちり決めるから。

最後って、そういう事なの、ニャヒート。

もう、自分は飛ばないって、宣言してるの。

彼女の体は、光を纏った。
 ▼ 215 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:45:49 ID:ahuEvCG. [15/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は、それすらも気にせずに、アシレーヌと共にステージに立った。

いや、気にはしている。つとめて気に留めないだけ。

だって彼女の出す答えはいつだって唐突で、だからこそ真実味を孕むのだから。

案の定、進化の光を放ち切ったガオガエンが、何も言わないままに僕の横に立つ。

その反対には、生来の大親友。

エーフィとブラッキーのライトが、僕たちを照らした。


ジュナイパー「皆さん! お楽しみ頂けたでしょうか?!」


叫び声。観客たちから喝采があがる。

しばらくそれを聞き、それから続けた。


ジュナイパー「今まで、様々な事が起こりました。あなた方にとってもいろいろな事が起こったでしょう。

       きっと、これからだって。あまりあなた方の事を快く思わないポケモンがいないとも限りません。

       だけど、交わるという事は、難しくて、そして楽しいものです」
 ▼ 216 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:46:26 ID:ahuEvCG. [16/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は、2匹を抱き寄せる。

驚いたような声を無視して、僕は声を張り上げる。


ジュナイパー「この2匹は、正反対です! 何から何まで、サーカスに懸ける情熱以外、全て!

       片や全部を骨肉に変えて成長して来ました。

       片や、ひたすらに閉じこもって上を目指して来ました。

       どうだったでしょうか? 全く異なる2匹の出会いが起こした化学反応は!

       2匹とも、お互いがいたからこそここまで来られた!

       ……綺麗事を言うようですが、悪くない関係ですよね?!」

アシレーヌ「ちょ、ちょっと……」

ガオガエン「なんであたしたち……」

ジュナイパー「僕らは、混ざり合って、上を目指してます! 僕らの舞台は、これからも!」
 ▼ 217 1◆J44kAZeDOM 17/04/10 20:47:06 ID:ahuEvCG. [17/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
2匹は、諦めたように頷くと、それからすっくと立ちあがった。


アシレーヌ「どうだった?! オイラたちのパフォーマンス!」

ガオガエン「サーカスってのは、全体で創るもの。たぶん、ある意味交流の理想形があると思う」


僕は、頷いて、それから声を張り上げた。


ジュナイパー「きっと、覚えていてください! いつでもあなた方みんなを、歓迎します。僕たちが……。僕たち!」


2匹と、示し合わせた訳でもないのに、セリフがピッタリ噛みあった。
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