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【SS】ひと夏のレンジャースクール

 ▼ 1 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/19 00:53:58 ID:qb7EOz/Y NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

アルミア地方、ビエンタウン郊外。

ポケモンレンジャー養成学校、レンジャースクール。


 リーフ 「行くよチーちゃん! あなたに決めた!」

 チコリータ 「ちこー!」


緑と青の制服に身を包んだ彼女の名前はリーフ。

レンジャースクールの生徒で、パートナーポケモンはチコリータ。

ポケモンと気持ちを通わせるためにポケモンレンジャーが使用する道具――、キャプチャ・スタイラーを構え、彼女は動く。


チコリータのアシストを受けながら、野生のダグトリオをスタイラーでグルグル囲み……、キャプチャ――、ポケモンと気持ちを通わせることに成功した。


 ヒトミ 「凄いよリーフ! スピード記録更新したんじゃないの!?」

 リーフ 「えへへっ」

 ミナミ 「まったく。あんなに大人しかったリーフが、こんな立派になるなんてねー」

 ヒトミ 「うんうん。私もクラスメートとして嬉しいよ」

 リーフ 「大袈裟だよ2人とも」

 ハジメ 「いや、野生のダグトリオ相手に、今のキャプチャは凄いと思うよ」

 ナツヤ 「無駄がない動きだったぜ。オレも もっと特訓しないとな!」

 リーフ 「ふふっ。ありがとう」
 ▼ 43 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/21 02:01:48 ID:WYR2Hs92 [1/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ミナミ 「なによ急に!?」

 ナツヤ 「今は緊急事態なんだ。素人が口出しするな!」

 サトシ 「チルットを見てみろよ! あんなに興奮して……、早く助けなきゃいけないのに、交代でキャプチャして疲れさせるだと? そんなの、チルットのこと何にも考えてないじゃんかよ!」

 ナツヤ 「仕方ないだろ! 状況が状況なんだ。可哀想だけど、それしか方法は無い!」

 ヒトミ 「ビエンタウンのレンジャーさんを呼んでくるって手もあるけど、それじゃ時間かかっちゃうもん」

 ハジメ 「サトシの気持ちも分かるよ。けど、みんな同じ気持ちだ。その上で、交代交代でキャプチャするって方法を採るんだ」

 ミナミ 「そうよ! ポケモンと心を通わせるのは難しいの! 素人が出しゃばらないで貰えるかしら!」

 サトシ 「確かにオレは、キャプチャは素人だ。じゃあ逆に聞くけど、皆はポケモンと旅したことあるのか?」

 ミナミ 「は? そんなの関係ないでしょ!」

 サトシ 「関係ある! ポケモンと心を通わせる方法は、キャプチャだけじゃない!」

 ピカチュウ 「ぴか!」


そう言うとサトシ君は、チルットがいる木に足をかけ、登り始めた。ピカチュウを肩に乗せたまま。

太い幹のカラマツの木。

木肌はゴツゴツしてるけど、枝が少ないから簡単には登れない……はずなんだけど。


 ナツヤ 「おい危ねーぞ!」

 ハジメ 「下りるんだ! そっち崖だから落ちたら大怪我だぞ!」


サトシ君は、軽々とした身のこなしで、どんどん登っていく。

すぐ横は崖、もし足を滑らせたりしたら、大怪我どころか、命だって危ないのに……!



 リーフ 「すごい……」

 ヒトミ 「あっ、もうすぐチルットの枝だよ!」

 ナツヤ 「なんつー運動神経だよアイツ……」

 ▼ 44 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/21 02:03:21 ID:WYR2Hs92 [2/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ほどなくして、サトシ君はチルットが止まっている枝に到達した。

崖側に突き出した枝の先で、チルットはサトシ君のことを激しく威嚇している。



  サトシ 「チルット、怖がらなくて良いんだぜ。オレ、お前のこと助けに来たんだ」

  ピカチュウ 「ぴか! ぴかぴぃか!」
 
  チルット 「ぢるぅぅぅ……!」

  サトシ 「翼、痛いんだよな。大丈夫だから、一緒に下りよう。なっ?」

  チルット 「ちるっ! ちるぢぃぃぃっ!」

  ピカチュウ 「ぴぃか、ぴかちゅぅ」

  サトシ 「大丈夫。今そっちに行くからな」



サトシ君は枝に跨ると、少しづつ、少しづつ、チルットに近付いて行く。

ピカチュウと一緒に、チルットに優しく声を掛けながら。

太い枝だから折れる心配は無いだろうけど、崖に突き出した枝、真下は崖の下。足がすくむような高さのはずなのに。


 ミナミ 「ヤバいわよアイツ。落ちたら死ぬかもしれないのに……!」

 ハジメ 「サトシの安全を考えないと! ディスクを発射して、チルットの気を……」

 ナツヤ 「いや、下手に動くと逆にチルットを刺激しちまう。今はアイツに任せるしかない」

 ハジメ 「けど! もしサトシが落ちたら……!」


 リーフ 「サトシ君を信じてあげて」


 ヒトミ 「リーフ……?」

 リーフ 「サトシ君のピカチュウ、綺麗な毛並みだったでしょ? 大切に育てられてる証拠だよ」

 ハジメ 「あぁ、うん。確かに」

 リーフ 「すっごくポケモン想いな人なんだよ、サトシ君って。だからきっと、チルットも、心を開いてくれる……気がするの」

 ヒトミ 「……そうだね。ポケモン想いじゃなかったら、こんな危ないこと、普通できないよ」

 ナツヤ 「ヤバいな、サトシ」

 ミナミ 「あー、頑張って あと ちょっと!」
 ▼ 45 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/21 02:05:15 ID:WYR2Hs92 [3/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

気付けばサトシ君は、チルットの すぐ傍まで到達していた。

手を伸ばせばギリギリ届く距離。残り1メートルくらいだろうか。


  サトシ 「大丈夫……、ほら、掴まって」
 
  ピカチュウ 「ぴぃか」

  チルット 「ぢぃ……」 



サトシ君は、チルットに手を差し伸べる“だけ”。捕まえようとはしない。

チルットを怖がらせないように、チルットが自分から近寄ってきてくれるのを待っている。



  サトシ 「安心しろよ。ちゃんと手当したら、野生に返してやるからさ」

  ピカチュウ 「ぴぃかちゅぅ」

  チルット 「ぢる゙ぅぅぅ……」



チルットは、なかなかサトシ君に掴まろうとしない。

怪我を負った野生ポケモンなら、人間を警戒するのは当然だ。


けど、サトシ君に攻撃を仕掛けないのを見ると、チルットはサトシ君のことを敵とは思っていないはずだ。

サトシ君は自分の危険を顧みずに、野生のチルットと、心を通わせようとしている――。



  サトシ 「ほら、チルット」

  チルット 「っ……」



遂に、チルットは威嚇を止めた。


 ナツヤ 「マジか……」

 ヒトミ 「凄い……、キャプチャしてないのに……!」

 ミナミ 「やるじゃんアイツ」
 ▼ 46 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/21 02:06:21 ID:WYR2Hs92 [4/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

そしてチルットは、サトシ君の元へと、足を踏み出し――。



  チルット 「ちっ……?」 ヨロッ



  サトシ 「あっ……チルット!?」

  ピカチュウ 「ぴか!?」



――よろけてしまった。



 リーフ 「あっ!?」

 ハジメ 「危ないっ!」

 ミナミ 「うそっ!?」

 ヒトミ 「掴まってチルット!」


チルットは羽ばたいてバランスを取ろうとするけど……。

翼を怪我しているせいでバランス感覚が狂っているのか、体勢を持ち直すことは、出来なかった。


チルットは、枝から足を踏み外し、崖の下に――。







  サトシ 「チルット!」 バッ!




 ▼ 47 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/21 02:07:40 ID:WYR2Hs92 [5/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ハジメ 「サトシ!?」

 ナツヤ 「おい何やってんだ!?」



サトシ君が、枝から飛び降りる。

落ちていくチルットの後を追って。



 ミナミ 「バカっ……!」

 ヒトミ 「だめだよサトシ!」



そしてサトシ君は、チルットに手を伸ばし……。



  サトシ 「捕まえたっ!」 ガシッ!

  チルット 「ちる……」

  サトシ 「もう大丈夫だからなっ」



サトシ君は、チルットを守るように抱きかかえた。


そのまま崖の下へと落ちていく。

サトシ君は、自分を盾にしてチルットを助けるつもりなんだ……!



 リーフ 「出て来てチーちゃん! “つるのムチ”でサトシ君を捕まえて!」

 チコリータ 「ちこっ!?」

 ナツヤ 「ダメだ間に合わないっ!」

 ミナミ 「せめて頭を守ってぇ!」


 ▼ 48 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/21 02:08:33 ID:WYR2Hs92 [6/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


  チルット 「ちるっ……るぅぅぅぅぅ!」 ボフッ!

  サトシ 「おっ!」



皆が最悪の結末を覚悟した、その時。



チルットが、崖の下の地面に向かって、大量の綿を発射した。



 ハジメ 「あれは……」

 ヒトミ 「綿……、“コットンガード”!?」





  ― ボフン!





崖の下を覗き込むと、何重にも積み重なった綿の上に、サトシ君とチルットが落ちていた。

ここからだと、それ以上のことは分からない。


 ナツヤ 「行くぞ!」


ナツヤ君が走り出す。

私たちも彼に続いて、崖下への階段を駆け下りる。


いくら綿の上に落ちたからと言っても、この高さ、無事である保証はない。

サトシ君とチルットは……!




 ▼ 49 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/21 02:10:05 ID:WYR2Hs92 [7/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



  サトシ 「はははっ、くすぐったいだろ〜!」

  チルット 「ちるっ! るるー♪」

  ピカチュウ 「ぴぃかぁー」



 ハジメ 「サトシっ!」

 ナツヤ 「おいサトシ! 大丈夫……なのか?」

 サトシ 「おぉみんな! “コットンガード”のお陰で、オレもチルットも、この通り無事さ!」

 チルット 「ちるっ♪」


そこには、楽しそうに じゃれ合うサトシ君とチルット、ピカチュウの姿があった。

あんなに高い所から落ちたのに、みんな無事のようだ。


 ミナミ 「は〜〜〜もぉ! 心配かけないでよホント」

 ナツヤ 「一緒に落ちるなんて無茶し過ぎだろサトシ……」

 サトシ 「いやぁ、思わず体が動いちまってさ」

 ハジメ 「だからって……。もしチルットが“コットンガード”を覚えてなかったら どうするのさ」

 サトシ 「だとしたら、オレが守るしかないだろ」

 ナツヤ 「……はははっ! サトシ、おまえ凄ぇよ!」

 ミナミ 「そうね。チルットを守るために自分を犠牲にするなんて、普通できないわよ」

 ヒトミ 「でも無茶しすぎ! 死んじゃうかもしれなかったんだよ……!」

 リーフ 「そうだよサトシ君! ホントっ、無事で良かった……」

 サトシ 「ごめんな。心配かけちまって」

 チルット 「ちるるー♪」

 サトシ 「はははっ。オレは お前を信じてたぜ?」 ナデナデ
 ▼ 50 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/21 02:12:14 ID:WYR2Hs92 [8/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

崖に飛び込んだと言うのに、何事も無かったかのように笑うサトシ君。

そんな彼に、チルットが楽しそうに じゃれつく。


 ナツヤ 「キャプチャしてないのに、チルットと心を通わせた、か……」

 ハジメ 「ある意味、レンジャーの目指す姿だよね。スタイラーに頼らないで、ポケモンと心を通わすって」

 ミナミ 「けど、毎回こんな危なっかしいことしてたら、身が持たないわよ」

 ヒトミ 「そのためのスタイラーだもんね。安全に、確実に、ポケモンと心を通わせるサポートをしてくれる」

 リーフ 「ポケモン想いなサトシ君だからこそ、出来たんじゃないかな」



勿論、私たちだってポケモンは大好きだし、ポケモンのことを考えて行動している。


けど、今回みたいな危機に直面した時、自分の身を犠牲にしてまで、ポケモンを守れるかな?


サトシ君みたいに、チルットのために迷うことなく飛び込める勇気、今の私には……。



 ハジメ 「サトシ。そのチルットは、ビエンタウンのレンジャーベースに連れて行こう。回復と、野生復帰をサポートしてくれるよ」

 サトシ 「レンジャーベース……?」

 ヒトミ 「そっか。アルミアのこと、サトシは まだ全然分からないもんね」

 ミナミ 「安心してよ。これから案内してあげるわ」

 ナツヤ 「サトシ。悪かったよ、いろいろ酷いこと言って」

 ミナミ 「ごめんね。トレーナーって聞いて、どうしても良いイメージが湧かなかったのよ」

 サトシ 「いや、オレの方こそ、ムキになって言い返しちまって。ごめん」

 ヒトミ 「仲直り……だねっ!」

 リーフ 「うん!」


 ナツヤ 「改めて……、ようこそ、レンジャースクールへ!」


 ▼ 51 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/21 02:13:34 ID:WYR2Hs92 [9/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

この一件を機に、みんながサトシ君を受け入れてくれた。


特にサトシ君に敵対心を持っていたナツヤ君とミナミちゃんは、サトシ君の行動に心を打たれたみたい。

この辺のポケモントレーナーとは明らかに違う、ポケモン想いで、ポケモンのために躊躇いなく体を張るサトシ君。

2人が心を開いてくれたのも当然……かな。



 サトシ 「ところで、その……石碑? ってなんだ?」


皆で談笑している中、サトシ君が言った。

ここは校舎の崖の下。スクールの敷地で一番海に近い場所、“ふなでのひろば”。その名の通り、小さな桟橋がある。


 ヒトミ 「これはね、“誓いのオブジェ”って言うの」


広場の中央に佇む、私たちの身長くらいある石のオブジェ。

ポケモンをキャプチャする軌跡をモチーフにした、大きなオブジェだ。


 ハジメ 「この場所で仲間と固く誓い合ったことは必ず現実になる――、そんな風に校長先生は言ってたね」

 サトシ 「へー」

 ナツヤ 「じゃあ一丁、誓い合いますか!」

 ミナミ 「なによ急に」

 ナツヤ 「この特別講習、サトシを迎えたこのメンバーで、最高の思い出を作ろうぜ!」

 ヒトミ 「わはっ! 良いね良いね そういうの!」

 リーフ 「うん! 誓いのオブジェにピッタリだよ!」

 ハジメ 「よしっ! 現実にしよう! 夏は あっという間だからね!」

 ミナミ 「そうね。サトシの歓迎の意味も込めて」

 サトシ 「なんか照れくさいな〜」

 ピカチュウ 「ぴっかぁ!」
 ▼ 52 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/21 02:14:39 ID:WYR2Hs92 [10/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ナツヤ 「よし! そんじゃ皆、スタイラーを用意!」


誓いのオブジェの前で、皆は、スタイラーを空に掲げる


 ナツヤ 「この夏! 特別講習! レンジャースクールでの夏休み! 勉強して、遊んで、最高の思い出を作るぞっ!」


 「「「 オー!!! 」」」





この日、私たちは一つになった。


サトシ君という、優しくてポケモン想いなトレーナーを迎え入れて、やっと、一つになれた。





これからが、本当の特別講習のスタートだ。





 ▼ 53 ガエルレイド@ソニアのほん 21/08/21 08:38:14 ID:yAxQ/eU. NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
いい…
 ▼ 54 ヤコマ@なつきポン 21/08/21 18:36:07 ID:Cv3U9OWk NGネーム登録 NGID登録 報告
王道ストーリー良いね!
 ▼ 55 チミル@ヤチェのみ 21/08/21 23:53:31 ID:jGnkmZME NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 56 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/22 01:46:48 ID:Htnk8FCY [1/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



皆がサトシ君と打ち解けたお陰で、授業は もっと楽しく、もっと刺激的なものになった。


サトシ君はセンスがあるみたいで、キャプチャの腕は どんどん上達していく。


競い合える仲間が増えたことで、皆のヤル気も一段と上がって、スクールでの生活は、より充実したものとなっていった。





そうして迎えた、初めての日曜日。





 ナツヤ 「流石に日曜日は完全に休みだ。休息も大事だからね」

 サトシ 「いやー、長いようで短かったなー」

 ミナミ 「サトシの成長ハンパないわよ。ポケアシストも使いこなせてるし」

 サトシ 「へへっ。みんなのサポートのお陰さ!」

 ハジメ 「ほら、今日くらいは授業のことは忘れてさ。プエルに遊びに行こうよ」

 サトシ 「プエル……あの大きい港町か」

 ミナミ 「そっ。この辺で遊ぶんなら、やっぱりプエルまで行かないとね」

 ヒトミ 「ビエンタウンも田舎だもんねー」

 ナツヤ 「よし! じゃあサトシをプエルに案内してやるか」

 ▼ 57 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/22 01:51:47 ID:Htnk8FCY [2/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


と、言うことで。
 
私たちは、プエルタウンへと繰り出した。



途中、ビエンタウンのレンジャーベースに寄って、あのチルットの様子を確認。

リーダーレンジャーのバロウさんによると、怪我はほとんど治って、今は飛ぶ練習中。もうすぐ野生復帰できるそうだ。



ビエンタウンからプエルタウンへはバスでも行けるけど、時間があるから歩いて行くことに。

ビエンの森を抜けることになるけど、街道を外れなければ整備された森なので、安全にプエルまで行くことが出来る。



 サトシ 「うぉっ!? カメックス……野生か!?」

 ハジメ 「野生だよ」

 サトシ 「あっちはピンプクとウソハチ! あーロズレイド! ミミロップ!」

 ミナミ 「ちょっとサトシ、野生ポケモンで興奮し過ぎでしょ」

 サトシ 「だって、野生じゃ あんまり見られないポケモンばっかりだからさ。な、ピカチュウ!」

 ピカチュウ 「ぴっかぁ!」

 ナツヤ 「ホント、ポケモンが好きなんだな」

 ハジメ 「ビエンの森は結構広いからね。豊かな生態系が出来てるのさ」

 サトシ 「へぇ〜。あ、ビーダル!」
 ▼ 58 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/22 01:54:06 ID:Htnk8FCY [3/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

サトシ君は、ポケモンを見つけるたびに、小さな子供みたいに目を輝かせていた。

本当に、ポケモンのことが好きなんだな、サトシ君って。


 リーフ 「……ふふっ」


 ヒトミ 「どうしたのよリーフ。ご機嫌ね」

 リーフ 「えっ……、ううん、なんでもないよ」

 ヒトミ 「ま、見慣れたビエンの森で あんな新鮮な反応されたら、思わず笑っちゃうわよね」

 リーフ 「あはは……」

 ヒトミ 「でもホント、サトシって純粋よね」

 リーフ 「だよね」

 ヒトミ 「男子が苦手のリーフも、彼となら話が弾むんじゃない?」

 リーフ 「えっと……、どうかなぁ」

 ヒトミ 「リーフ、最初からサトシのこと気にかけてたじゃん。もしかして……、タイプだったり?」

 リーフ 「そそそそんなんじゃないよ! 私はただ……!」

 ヒトミ 「……ふふっ。焦っちゃって可愛い。何かあったら相談乗るからねっ」

 リーフ 「もぉ〜」


 ▼ 59 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/22 01:56:55 ID:Htnk8FCY [4/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 サトシ 「……お、なんかココ見晴らし良いじゃん」

 ハジメ 「あぁ。その名の通り、ここは“みはらしとうげ”って言うんだ」


ビエンタウンとプエルタウンの中間地点、みはらしとうげ。

小高い丘からは、海と山々、そしてプエルタウンを眺めることが出来る。


 ミナミ 「ここ、けっこう穴場のスポットなのよ。峠越えになるから、通る人って少ないし」

 ナツヤ 「アルミアで絶景を楽しむんならココが一番だろうね。夜はプエルの夜景と星空が綺麗だぞ」

 サトシ 「へぇ〜」

 ハジメ 「さぁ、プエルまで あと半分だ。下りだから あっという間だよ」

 サトシ 「よーし、ポケモン探しながら行くぞー!」

 ピカチュウ 「ぴっぴかちゅ!」

 ▼ 60 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/22 01:59:34 ID:Htnk8FCY [5/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


たくさんの野生ポケモンたちを観察しながら、なだらかな丘を下って行く。



もうすぐプエルタウンの入口――。

そんな所に来て、街道脇の空き地から、威勢の良い声が飛び交って来た。



   『そこだアブソル! “つばめがえし”!』

   『避けろハッサム! “こうそくいどう”!』



 サトシ 「……お、バトルやってる! ちょっと見て行こうぜ!」

 ミナミ 「待ってサトシ……!」



   『おぉ。誰かと思えば、レンジャースクールの皆さん』

   『そっちは……見ない顔だな』

   『ま、レンジャースクール生ならザコに変わりないでしょ』

   『今日もポケモンと お友達ごっこ かしらー?』



バトルを中断して私たちの元にやってくる、男子2人と女子2人。

私たちを小馬鹿にするような発言を聞いて、サトシ君は何かを察したようだ。


 サトシ 「……こいつらが?」

 ハジメ 「そう。僕らレンジャーを馬鹿にする、他校のトレーナーだよ」


 ホクト 「僕はホクト。以後、お見知りおきを」

 ソウヤ 「オレはソウヤだ」

 スラン 「私、スラン。良い名前でしょ?」

 エルム 「エルムよ。よろしくね、新入り おザコさん」


彼らは、私立プエル学園の生徒。

ポケモンバトルの授業に力を入れている学校で、皆、バトルの腕前は かなり高い。

だからなのか、私たちレンジャースクール生に対して、“バトルが弱いからレンジャーに逃げてる”と馬鹿にしてくるのだ。
 ▼ 61 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/22 02:03:03 ID:Htnk8FCY [6/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サトシ 「オレはサトシ。お前たち、なんでレンジャースクールを悪く言うんだ!?」

 エルム 「クスッ。なーに格好付けちゃってんのよ、ザコのクセに」

 ソウヤ 「事実だろ? オレらの年代でバトルが弱いとか話になんねー。レンジャーになってポケモンと仲良し小好しが お似合いじゃん」

 サトシ 「ふざけるな! レンジャーってのは、ポケモンと心を通わせて、自然と治安を守ってるんだ! 誇れる立場なんだ! お前ら そんなことも分からないのか!?」

 ナツヤ 「やめろサトシ。相手にするだけ無駄だ」

 ミナミ 「そうよ。無視が一番」

 サトシ 「けど!」

 ホクト 「バトルも出来ずに、自然と治安を守れるんですか?」

 スラン 「そうよねー。ハンターとかに襲われたらどうするのかしら」

 ソウヤ 「頼りにならねーレンジャーより、優秀なトレーナーの方が、よっぽど治安は守れるんじゃねーの?」

 エルム 「ホントホント!」


 ハジメ 「クッ……!」

 ヒトミ 「ホント、嫌な奴らね」

 リーフ 「うん……」


 ホクト 「見て下さい。僕の美しいアブソルを。強さと美しさを秘めた純白の戦士! 僕たちのようなトレーナーに、レンジャーが太刀打ちできる訳が――」

 サトシ 「その割に角の輝きは ちょっと鈍いな」

 ホクト 「……は?」

 サトシ 「もうちょっと丁寧に手入れしてあげないと。アブソルの角は大事な武器なんだからさぁ」

 ホクト 「お前っ……、ザコの分際で僕のポケモンを馬鹿にするのか!?」

 サトシ 「いやバカには してないよ。世話の問題」


 ハジメ 「サトシって、ポケモンを見る目もあるんだね」

 サトシ 「前に、ブリーダー目指してる奴と旅しててさ。そいつの受け売りだよ」

 ハジメ 「なるほど」

 ミナミ 「言われちゃったわねー。プエル学園ともなる名門校の生徒が、ポケモンの世話も満足に出来ないんなんて」

 ナツヤ 「所詮バトルだけってことか」

 ヒトミ 「ちょっと2人とも……」
 ▼ 62 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/22 02:04:21 ID:Htnk8FCY [7/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ホクト 「ふざけるな! ザコ如きが僕のアブソルを貶すのは許さない! 僕とバトルしろ!」

 ソウヤ 「面白そうじゃん! ダブルバトルと行こうぜ!」

 サトシ 「のぞむところだ! オレたちは絶対に――」


 ハジメ 「待てサトシ! 無駄なバトルに付き合うな!」

 サトシ 「いや、バトルにはバトルで分からせないと!」

 ヒトミ 「サトシ。気持ちは嬉しいけど、私たちはバトルを望んでないの。分かるでしょ?」

 ハジメ 「僕たちはレンジャーだ。バトルで自分たちの意思を押し通す訳にはいかないんだ」

 サトシ 「……そうか」


 ソウヤ 「ごちゃごちゃ言ってるようだけど……、逃がさねーぞ?」

 スラン 「デカい口 叩いたんだから、バトルして貰わないとねー」

 エルム 「言っとくけど、手加減しないから」


いつの間にか、4人は私たちを取り囲んでいた。

今までバトルしていたアブソルとハッサムも加わって、私たちの逃げ道をブロックする。


 ミナミ 「……やられたわね」

 ヒトミ 「ほらもー!」

 ナツヤ 「バトル……するしかないのか」

 サトシ 「安心しろ。オレは負けるつもりは無い」

 ピカチュウ 「びかちゅう!」

 ホクト 「ピカチュウって……。さすがレンジャースクールですねぇ!」

 エルム 「男のクセに、可愛いポケモンと お友達ごっこかしら」

 サトシ 「言わせておけば……!」
 ▼ 63 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/22 02:05:58 ID:Htnk8FCY [8/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ナツヤ 「待てサトシ。ここはオレたちが」

 ハジメ 「うん」

 サトシ 「ナツヤ、ハジメ。どうしてだよ。あいつらはオレが……!」

 ナツヤ 「プエル学園とのイザコザは、オレたちの問題だ」

 ハジメ 「体験入学のサトシを巻き込む訳には いかないんだ」

 サトシ 「そんなの気にすんなよ。オレたちもう仲間だろ?」

 ハジメ 「仲間だ。だからこそ、サトシに関わらせる訳には いかない!」

 ヒトミ 「サトシ、ここはナツヤとハジメに任せて」

 ミナミ 「私たちのことは、私たちでケリを付けないとダメなのよ」

 サトシ 「けど! 2人のバトルの腕は……」

 ナツヤ 「例え負け試合でも、ここはオレたちが引き受ける。サトシを巻き込みたくないんだ」

 サトシ 「……そこまで言われちゃ、仕方ないか」

 ピカチュウ 「ちゃぁ……」


みんなの言う通りだ。

プエル学園の生徒とのトラブルに、体験入学のサトシ君を巻き込む訳には いかない。

これは、元はと言えば、バトルが出来ない私たちが抱えている、レンジャースクールとプエル学園の問題だから……。



 ホクト 「スタンバイですアブソル!」

 ソウヤ 「行くぞハッサム! ほら、早くポケモン出せよ!」


 ナツヤ 「頼むぞサンドパン!」

 サンドパン 「さん!」

 ハジメ 「行ってくれブイゼル!」

 ブイゼル 「ぶぶぃ!」
 ▼ 64 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/22 02:08:54 ID:Htnk8FCY [9/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ナツヤ君のサンドパンと、ハジメ君のブイゼル。

キャプチャでは、的確なアシストで2人をサポートしてくれているけど、ポケモンバトルは全くの別次元だ。



 ナツヤ 「サンドパン、ハッサムに“きりさく”だ!」

 ソウヤ 「ハッサム、“シザークロス”で押し返してやれ!」

 ナツヤ 「クッ……大丈夫かサンドパン!?」


サンドパンの攻撃は、いとも簡単にハッサムに打ち消され、さらに余波を受けてしまう。

爪と鎌の違いはあるけど、力の差は歴然だ。


 ハジメ 「ブイゼル“かわらわり”!」

 ホクト 「“みきり”です!」

 ハジメ 「なっ……!?」

 ホクト 「瞬足の“つばめがえし”です!」

 ハジメ 「あぁっブイゼル!? 立て直せるか!?」

 ホクト 「させませんよ! “つじぎり”ですアブソル!」


ブイゼルの攻撃は見切られ、隙を突かれてアブソルに攻め入られる。

間髪入れず降りかかる攻撃に、対応しきれない。



 ヒトミ 「マズいよ2人ともっ……」

 ミナミ 「っ……! やっぱプエル学園の奴らにバトルなんて……」

 サトシ 「………」


私たちは、見守ることしかできない。

ナツヤ君とハジメ君より、バトル経験もバトルの腕前も無い私たち女子に出来ることは、何一つない……。


 ▼ 65 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/22 02:10:15 ID:Htnk8FCY [10/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 ナツヤ 「戻れサンドパン。ご苦労さん」

 ハジメ 「ありがとうブイゼル。ゆっくり休んでね」


バトルの決着は、あっという間だった。

でも、ナツヤ君とハジメ君が弱いとは思わない。プエル学園の2人が強すぎるのだ。


 ホクト 「……相変わらず、大したことないですね」

 ソウヤ 「デカい口 叩いたわりに瞬殺だったな。面白くねぇ」

 スラン 「ザコ過ぎて笑えるわね。こんなレベルじゃ私でも余裕よ」

 エルム 「レンジャースクールなんて、所詮この程度ってことね」


 ハジメ 「………」

 ナツヤ 「……クソッ!」


悔しそうな2人。

当然だ。ほとんど一方的に、反撃のチャンスすらなく、負けてしまったのだから。


 ソウヤ 「へへっ。なんとか言ったらどうなんだよザコ!」

 ホクト 「無理ですよ。こんな無様な負け方をしては、何を言っても負け犬の遠吠え。お似合いですよ」


勝ち誇った顔で挑発を続ける、プエル学園の生徒たち――。



 サトシ 「ちょっと黙ったらどうだ!」



 ▼ 66 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/22 02:12:05 ID:Htnk8FCY [11/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

それを打ち破ったのは、サトシ君だった。


 スラン 「なにアンタ?」

 ソウヤ 「新入りザコが口挟んでんじゃねーよ!」

 サトシ 「お前たち! あんまりレンジャースクールを馬鹿にしてると、いつか痛い目 見るからな!」

 エルム 「は?」

 ホクト 「プッ。痛い目……そんなこと有り得ないですね。負け惜しみですか?」

 サトシ 「今は弱くても、一生弱い訳じゃない! ポケモンたちは、オレたちの頑張りに しっかり応えてくれるんだ!」

 ナツヤ 「やめろサトシ。オレたちは別にいいから……!」

 サトシ 「お前たちもトレーナーなら、ポケモンの成長の凄さは知ってるだろ! いつか足元掬われても知らないからな!」

 ナツヤ 「サトシっ!」


 スラン 「なにコイツ」

 ホクト 「しらけましたね。学校に戻りますか」

 ソウヤ 「あーあ! ザコの相手して時間の無駄だったぜ」

 エルム 「ま、今日のアンタたちのことは、しっかり学校で広めてあげるから。じゃあねー」



4人は、プエルタウンの方へと帰って行った。

私たちのことを馬鹿にしながら。高笑いしながら。



 サトシ 「なんだよアイツら!」

 ピカチュウ 「びかちゅう!」

 ハジメ 「……サトシ。これが僕らに課せられた現実さ」

 ヒトミ 「あんなに絡まれたの、久々だったね」

 リーフ 「うん……」

 ミナミ 「プエルで遊ぶ気分じゃないわね」

 ナツヤ 「……サトシ。悪いけど、プエルの案内は今度で良いか?」

 サトシ 「あぁ。オレも気分悪い」

 ハジメ 「ごめん。せっかくの休日なのに」


 ▼ 67 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/22 02:15:04 ID:Htnk8FCY [12/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



私たちは、“みはらしとうげ”まで戻って来た。



高台から見下ろすプエルの町、広大な山々、広く青い海。

心地良い風が吹き抜け、野生ポケモンたちが伸び伸びと過ごしている。


 ヒトミ 「はー。ここは癒されるよねー」

 リーフ 「うん。ここなら のんびりできるね」


 ナツヤ 「サトシ。さっきは恥ずかしいとこ見せちまったな」

 サトシ 「気にすんなよ。あの……プエル学園? の奴らが おかしいんだ」

 ナツヤ 「分かっただろ。オレたちの、ポケモントレーナーに対するイメージ」

 サトシ 「……あぁ」

 ナツヤ 「オレたちのバトルの実力は、あんなもんだ。プエル学園の奴らに馬鹿にされるのも当然だ」

 ハジメ 「もう何年も馬鹿にされてきたらしいよ。レンジャースクールって」

 サトシ 「そっか」

 ミナミ 「けど、サトシがアブソルの角のこと言って、ちょっとスッキリしたわ。あいつらも所詮バトルだけって分かったし」

 ナツヤ 「そうだよな。サンキュー、サトシ。事実で反撃出来たのは、オレたちにとって――」


 サトシ 「みんなは それで良いのかよ!?」


 ミナミ 「えっ……」

 ナツヤ 「サトシ……?」

 サトシ 「オレは……、皆の意見を尊重して、手出ししなかった。けど! あんなに馬鹿にされて、普通だったら黙っちゃいられない!」

 ピカチュウ 「ぴっか!」

 ハジメ 「けど……、僕たちが弱いのは事実だ」

 ヒトミ 「うん。対抗しても、勝てっこないし……」

 サトシ 「オレたちじゃない! サンドパンやブイゼル――、大事なポケモンたちを馬鹿にされて、それで良いのかって聞いてるんだ!」

 ナツヤ 「っ……!」

 ハジメ 「ブイゼル……」
 ▼ 68 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/22 02:17:24 ID:Htnk8FCY [13/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

サトシ君の言葉が、私たちの胸に刺さる。


馬鹿にされるのは、私たち。

でも、それは即ち、ポケモンたちを馬鹿にされているのと同じこと。私の大切なチーちゃんが、あんな人たちに……。


 サトシ 「悔しくないのかよ!? 自分たちが弱いで片付けていいのかよ!? ポケモンたちの気持ち、考えたことあるのかよ!?」


 ナツヤ 「悔しいに決まってるだろっ!」

 サトシ 「ナツヤ!」

 ナツヤ 「オレたちは! ポケモンのため、人のため、自然のためにレンジャーを目指してるんだ! サンドパンも一緒に頑張ってくれてるのに……、それを馬鹿にするなんて許せねぇ!」

 サトシ 「当然だ! みんなも そうだろ!?」

 ミナミ 「えぇ。悔しいわよ! なにも知らないくせに、私のカメールを馬鹿にして!」

 リーフ 「私だって。大切なチーちゃんを貶すなんて、プエル学園の人たち、許したくない……!」

 ヒトミ 「サトシ、こんな風にリーフが怒るのって珍しいんだよ。私も同じ気持ち。私のゴンベは、あんな奴らに馬鹿にされるような子じゃないもん!」

 ハジメ 「僕たち皆、内心は悔しいんだ。でも、抵抗する手段が無い……。あいつらを黙らせる方法が無くて……、余計、悔しいんだ……!」



そう――、私たちは、悔しくても、抵抗できる術がない。



バトルが出来ないから、バトルで反抗は出来ない。

バトルが出来ないから、どんな反論も、負け惜しみになってしまう。

無視して聞き流していれば、図星だから反論できないと更に馬鹿にされる。



そうして私たちレンジャースクール生とトレーナーとの間には、どんどん溝が出来ていった。

私たちの先輩の代から、何年もの間、ずっとずっと積み重なって来た、深い溝が――。
 ▼ 69 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/22 02:19:11 ID:Htnk8FCY [14/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サトシ 「……あるんじゃないか?」


 ハジメ 「えっ?」

 サトシ 「抵抗する方法……、オレたちのポケモンを馬鹿にした あいつらを、黙らせる方法」

 ヒトミ 「そんな方法……ある?」

 ミナミ 「あったら とっくに試してるわよ」

 ナツヤ 「あぁ。トレーナー共に反抗するには、バトルで力を見せつけるしか……ん?」

 リーフ 「えっ、もしかして?」

 ハジメ 「まさかサトシ……?」

 サトシ 「前に言ってた、アルミアの学校が参加するバトル大会。これ以上の舞台は無いだろ?」


アルミア学校選抜バトル大会――。

アルミア地方の全ての学校が参加権を持ち、選抜された生徒が参加して、アルミア地方で一番バトルが強い学校を決めるトーナメント。

毎年夏休みに開かれる、アルミア地方の夏の風物詩とも言える大イベントだ。


 ハジメ 「確かに。そこで良い成績を修めれば、奴らを見返してやることができるけど……」

 サトシ 「良い成績? オレは優勝を目指すつもりだぞ」

 ミナミ 「サトシ……。気持ちは嬉しいけど、そんなの無茶よ。大会まで、あと2週間くらいしかないのよ」

 ナツヤ 「しかも、出場するには10人の登録が必要なんだ。特別講習はサトシ入れて ちょうど10人だけど……」

 ヒトミ 「私たちの実力で、優勝なんて……」



 サトシ 「オレが みんなを特訓する!」

 ピカチュウ 「ぴかちゅぴか!」



サトシ君は、威勢よく言った。

それに続いて、ピカチュウも“自分に任せろ”と言わんばかりに頷いた。
 ▼ 70 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/22 02:21:48 ID:Htnk8FCY [15/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サトシ 「みんなはオレに、キャプチャのサポートやコツも教えてくれたんだ。だったらオレは、みんなにバトルを教える!」

 ミナミ 「サトシ……」

 ナツヤ 「けど……、出来るのか? あと2週間で、優勝するだけの実力を付けるなんて」

 サトシ 「出来るって信じるんだ! 最後まで諦めなければ、きっと結果は ついてくる!」


サトシ君は、自信を持って断言した。

まるで、過去に そうした経験が あるかのように。


 サトシ 「……勿論、無理にとは言わないよ。大会は辞退するって、みんなで話し合って決めたんだろ? そもそも、辞退した後に“やっぱり参加”が認められるか分からないし」


 ナツヤ 「どうする?」

 ハジメ 「急に言われても……。サトシの気持ちは有難いけど、バトル初心者の僕たちが、大会で どこまで通用するか……」

 ミナミ 「けど! プエル学園の奴らをギャフンと言わせてやりたいわよね」

 ヒトミ 「でもそのためには、トーナメントでプエル学園と当たるまで、勝ち進まなきゃいけないんでしょ?」

 ハジメ 「うん。それに、中途半端に初戦敗退なんてしたら、余計に馬鹿にされるネタを与えることになる……」



みんな悩んでいる。


当然だ。みんなバトル初心者なのに、バトル大会に出場するなんて、普通じゃ考えられないもん。


でも、私は――。



 リーフ 「私は、参加したい……!」

 ヒトミ 「えぇっ!?」

 サトシ 「本当かリーフ!」

 リーフ 「うん!」

 ミナミ 「どうしちゃったのよリーフ!? 柄でもない」

 ハジメ 「気持ちは凄いけど、無茶にも ほどがあるよ」

 リーフ 「私、悔しいもん。チーちゃんや、みんなのポケモンを馬鹿にされて。私たちは弱くないんだって、知らしめてやりたいの」

 ヒトミ 「それは私も同じだけど……」

 リーフ 「それに……」

 ハジメ 「ん?」
 ▼ 71 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/22 02:26:34 ID:Htnk8FCY [16/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 リーフ 「“無茶”かもしれないけど、“無理”とは限らないもん!」


 サトシ 「よく言ったリーフ!」 ポン!

 リーフ 「ひゃっ!?」 ビクッ

 サトシ 「ぁ……ごめん。男子が苦手なんだっけ」

 リーフ 「あっ、ううん、大丈夫! ちょっとビックリしただけ」 ドキドキ

 ミナミ 「もぉサトシっ!」


ビックリした……。

急に肩を叩かれるなんて。深い意味は無いことくらい分かるけど。


 ナツヤ 「大人しいリーフがそう言うんなら、オレたちも覚悟を決めなきゃな」

 ミナミ 「そうね。リーフ、貴方の勇気、無駄には しないわよ!」

 リーフ 「ナツヤ君、ミナミちゃん……」

 ハジメ 「それと、サトシの気持ちも受け取らないとね!」

 ヒトミ 「うん! 私たちレンジャースクールの実力発揮と行こうじゃないの!」

 リーフ 「ハジメ君、ヒトミちゃん……!」

 サトシ 「ぃよっしゃ! 決まりだな!」

 ナツヤ 「まぁ、帰ってからモブオたちに話さなきゃだけど、あいつらもオッケー出すだろ」

 ミナミ 「そうね。なんたってリーフが乗り気なんだから」

 リーフ 「ぁっ、私って、そんなに責任重大……?」

 ヒトミ 「身構えないの! みんなリーフに勇気を貰ったんだから」

 ハジメ 「あとは……、出場辞退の撤回を、先生に相談しないとね」

 ナツヤ 「よし! じゃあ急いでスクールに戻ろう!」

 サトシ 「戻ったら早速バトルの特訓だ!」

 リーフ 「うん!」



みんな、さっきとは うってかわって、明るく前向きになった。


目標が出来たんだもん。

バトル大会で優勝して、プエル学園の人たちを見返してやるって言う、大きな大きな目標が――!


 ▼ 72 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/22 02:27:46 ID:Htnk8FCY [17/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





 教師A 「バトル大会? 本部に連絡すれば出れるけど……」

 ナツヤ 「よしっ!」

 教師A 「大丈夫か? あと2週間しか無いんだぞ?」

 ミナミ 「大丈夫です。みんな覚悟は出来てるんで」

 サトシ 「オレがバトルの特訓します。目指すは優勝ですよ!」

 教師A 「はははっ! よし分かった。大会本部に伝えておくよ。レンジャースクールは久しぶりに参加します、ってな!」

 ナツヤ 「お願いします」


 校長 「皆さん、良いチームになってきましたねぇ」


 ミナミ 「あ、校長先生」

 校長 「レンジャースクールが“アルミア学校選抜バトル大会”に出場するのは、実に12年ぶりです。悔いの無いよう、頑張ってくださいね」

 ナツヤ 「はい!」

 サトシ 「絶対に優勝してみせます!」

 ミナミ 「優勝したら体育館にクーラー付けて下さいね!」

 教師A 「おいコラ」

 校長 「はははっ。考えておきましょう」




 ▼ 73 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/22 02:29:25 ID:Htnk8FCY [18/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 ナツヤ 「参加辞退の取り消し、オッケーだったぜ!」

 サトシ 「レンジャースクールは12年ぶりの参加だってさ」

 ミナミ 「ついでに、優勝したら体育館にクーラー付けて貰えるわよ!」


職員室から戻って来たナツヤ君たちは、笑顔で言った。

体育館のクーラーの話は初耳だけど……。


 ハジメ 「ありがとう。大会まで2週間、みっちり特訓しないとね」

 リーフ 「うん!」

 ヒトミ 「お願いね、サトシっ」

 サトシ 「おう、任せとけ!」

 モブオ 「バトル大会なんて初めてだな」

 モブタ 「しかも12年ぶりの出場だろ?」

 モブコ 「けっこう注目されそうね」

 モブエ 「しっかり特訓して、アッと言わせてやりましょうよ」


みんな張り切っている。

不安は あるけど、ワクワク感の方が強いのは、きっとみんなで一致団結できたから。


優勝と言う目標に向かって、みんなの心が一つになった証拠だと思う。



 ハジメ 「じゃあ、早速今日から特訓を始めるけど、サトシ、これ大会のルールブック。印刷しておいたよ」

 サトシ 「お、サンキュー!」

 ナツヤ 「サトシ、この大会のルール、ちょっと特殊なんだ」

 サトシ 「特殊?」 

 ハジメ 「僕たちにとって、少し不利かもしれない。まぁ読んでみてよ」


 ▼ 74 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/22 02:33:01 ID:Htnk8FCY [19/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


   ― アルミア学校選抜バトル大会 ―


◆アルミア地方の各学校が、トーナメント方式でポケモンバトルを行う。

◆事前に選抜メンバーを10人登録する。10人未満の学校は参加不可。


 サトシ 「オレたち ちょうど10人だから参加できるって訳か」

 ハジメ 「サトシの体験入学が無かったら参加できなかったね」


◆1人つき3匹まで、大会で使用するポケモンを登録する。登録期間終了後は、止むを得ない事情がある場合を除き変更不可。


 サトシ 「……なるほど。ここが不利って訳か」

 ナツヤ 「あぁ。他の学校の奴ら――、バトルに力を入れてるトレーナーたちは、当然3匹登録するだろ?」

 ミナミ 「私たちはトレーナーじゃないから、パートナーポケモンしか居ないの」

 サトシ 「他の学校はポケモン30匹のチームなのに、オレたちは10匹で戦うことになる、ってことか」

 ヒトミ 「サトシだけでも3匹登録したら? ピカチュウ以外にも持ってるんでしょ?」

 ピカチュウ 「ぴかぁ?」

 サトシ 「あぁ。けどオレは今、レンジャースクール生だ。みんなと同じように、オレの最高のパートナーだけで参加してやるぜ!」

 ピカチュウ 「ぴっかぁ!」

 ハジメ 「流石だよ、サトシ」

 リーフ 「……ふふっ」
 ▼ 75 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/22 02:33:33 ID:Htnk8FCY [20/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

◆準決勝までは、チームで3人を選出、3人はそれぞれ1匹のポケモンを選出し、3対3のシングルバトルを行う。


 サトシ 「これは……、3本勝負、って訳じゃないよな?」

 ハジメ 「うん。先に相手のポケモンを3匹とも戦闘不能にした方の勝ちだね」

 サトシ 「じゃあ誰が出るかも重要になってくるよな〜」


◆決勝戦は、チームで6人を選出、6人はそれぞれ1匹のポケモンを選出し、6対6のダブルバトルを行う。


 サトシ 「お、決勝はダブルバトルなのか」

 ナツヤ 「しかも6人選出だ。決勝戦こそ戦略が求められるぞ」

 サトシ 「先に6匹を倒した方の勝ち……。フィールドワザとか、能力アップの引継ぎとか、色んな戦略がありそうだな」

 ヒトミ 「チームワークも大切ってことね」

 サトシ 「そう言えば、ポケモン選出のタイミングとかは……」

 ハジメ 「あぁ、次の項目だよ」


◆対戦では、最初の対面のみ、両者同時にポケモンを選出する(決勝戦のダブルバトルも同様)。

◆2人目以降は、状況に応じ、登録したポケモンを自由に選出できる。


 サトシ 「ふーん。ってことは、最初の対面の相性は運次第ってことか」

 ナツヤ 「けど、相性が悪かったら交代しちまえば良いんだろ?」

 サトシ 「そうだけど、1試合で1人1匹しか使えないってことは、最初から交代しちまうと、相手に手の内を明かすことになる」

 ミナミ 「そっか。相手に弱点を教えることになっちゃう」

 ハジメ 「まぁ、僕たちは1人1匹しか登録できないから、その辺は関係ないけどね」
 ▼ 76 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/22 02:34:45 ID:Htnk8FCY [21/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サトシ 「……よし。ルールは分かった」


 ナツヤ 「それで、どんな特訓方法で行くんだ?」

 ミナミ 「2週間で、出来るだけパワーアップしなきゃいけないからね」

 サトシ 「2週間しかないんだ。難しいことは考えないで、ひたすら実戦練習が良いと思う」

 ハジメ 「そうなるよね。僕たちに足りないのは、圧倒的にバトル経験だ」

 ヒトミ 「うん。こう……バトルの基礎を磨くより、実戦でコツを掴んだ方が上達しそうね」

 サトシ 「オレたちが頑張れば、ポケモンたちも頑張ってくれる。結果は必ずついてくる。自信持って特訓しようぜ!」



サトシ君の言葉は、みんなを奮い立たせる。

ポケモンたちも頑張ってくれる。結果は必ずついてくる――か。

本当にサトシ君は、ポケモンのことを信頼してるんだね。



 サトシ 「じゃあみんな、校庭で特訓開始だ!」


 「「「 オーーー!!! 」」」





 ▼ 77 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/22 02:37:17 ID:Htnk8FCY [22/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


この日は夜20時頃まで、皆でバトルの特訓に取り組んだ。



実戦形式、実際にバトルして流れやコツを掴む、シンプルかつ確実な方法。


バトルに慣れてないチーちゃんは、最初は戸惑ってたけど、みんなと一緒に頑張ってくれた。


頑張り屋なチーちゃんなら、きっと、2週間で大きく成長してくれるよね。私も頑張るよ!





ちなみに、みんなのパートナーポケモンは__。


 ナツヤ君 : サンドパン

 ハジメ君 : ブイゼル

 モブオ君 : コロトック
 
 モブタ君 : グレッグル

 ミナミちゃん : カメール

 ヒトミちゃん : ゴンベ

 モブコちゃん : ニャルマー

 モブエちゃん : ムウマ


 ▼ 78 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/22 02:40:40 ID:Htnk8FCY [23/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



消灯後、女子ベッドルーム。



 ヒトミ 「ふー。今日は良い汗かいたなー」

 ミナミ 「ホントね。ポケモンバトルなんて、いつ以来かしら」

 モブコ 「バトルも、やってみると案外面白いわね」

 モブエ 「うん。ムウマが頑張ってるとこ見て、思わずキュンとしちゃったもん」


みんな、バトルの感想で持ち切りだ。

まだ初日、まだまだ勝手は分からないけど、そのぶん私たちには、伸びしろがある。

大会までの2週間で、他校のトレーナーに通用するほどの実力を付けなきゃいけないけど、私たちならきっと出来るはずだ。



 ミナミ 「それにしてもサトシ――、あいつ凄いわよね」

 リーフ 「!」

 ヒトミ 「うん。みんなの心を一つにしてくれたもんね」

 リーフ 「ふふっ。サトシ君が来た初日は、あんなに重い雰囲気だったのにね」

 ミナミ 「あんなトレーナー初めてよね。命がけでチルットを助けて、キャプチャしないで心を通わせたし」

 リーフ 「うん。それで今は、私たち みんなの心を通わせてくれた――。本当に凄いよね、サトシ君って」

 ミナミ 「絶対レンジャーに向いてるわよ、サトシ」

 リーフ 「私も そう思うな」


 ヒトミ 「……ねぇ。やっぱりリーフって、サトシのこと気になってるでしょ」


 ▼ 79 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/22 02:41:37 ID:Htnk8FCY [24/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 リーフ 「えっ……?」

 ヒトミ 「男子が苦手なのに、サトシの話題になると、なんだか活き活きしてるもん」

 リーフ 「えっ、えっ……と、そんなこと無いよ?」

 ミナミ 「そう言えばリーフ。最初の時も、なんだかサトシのこと庇ってたわよね。もしかして……サトシのことタイプ?」

 ヒトミ 「じゃあ一目惚れ!?」

 リーフ 「ちっ違うよぉ! 私はただ単純に、サトシ君のこと、凄いなぁって……!」

 モブコ 「ふーん」

 モブエ 「ちょっとは気にしてるんだねー」

 リーフ 「気にしてるって言うか……、だってチルットを助けた時とか凄かったし、ピカチュウのこと大切にしてるし、今回のことだって――」

 ヒトミ 「ふふっ、冗談よ。本気にしちゃダメ」

 リーフ 「……もぉ」

 ミナミ 「けどさリーフ。そんなにサトシのこと興味あるんなら、ちょっと話してみたら?」

 ヒトミ 「そうだよ。男子が苦手なの、克服できるかもしれないよ」

 リーフ 「でもっ、それはちょっと……、恥ずかしい……」

 ミナミ 「バトルと同じ! 特訓して慣らしていかないと」

 リーフ 「えぇ……」

 ミナミ 「ま、そこはリーフ次第よ。何かあったらサポートするからねっ」

 リーフ 「うん……」

 ヒトミ 「………」


サトシ君のことは、凄いと思ってる。

みんなの心を一つにしてくれたし、ポケモン想いだし、そして何より、バスで私を助けてくれたし。


でもだからって、気になってるとか、ましてや一目惚れだなんてそんなっ……。


ヒトミちゃんもミナミちゃんも、私がサトシ君のこと気になってるって勘違いしちゃってる。

それとも――、もしかして私、知らないうちにサトシ君のこと、意識しちゃってる……のかなぁ。


 ▼ 80 ーイーカ@ふしぎなきのみ 21/08/22 10:00:49 ID:PJjEcSuQ NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
描写もわかりやすくストーリーもしっかりしてる
これは名作の予感…
 ▼ 81 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/23 01:14:11 ID:J.3I4sz2 [1/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



それから、私たちの特訓の日々は続いた。





授業では、私たちがサトシ君に、キャプチャのコツやポイントを教えて。


放課後は、サトシ君が私たちに、バトルの特訓をしてくれて。


実戦練習を中心に、戦略やワザのタイミング、効果的な立ち回りなどもレクチャーしてくれた。


私たちのポケモンの特性やワザを活用した、大会のルールに適した戦い方なんかも考えてくれて。まるでバトルの先生だ。


  サトシ 『今のブイゼルの動き良い! 良いけどもっとこう……ズバー!って突っ込んで、ドバーン!って勢いよく!』


たまに よく分からない説明になるけど、それもサトシ君のキャラってことで、みんな楽しむようになっていた。

と言うより、サトシ君の説明擬音の意味を考えて、みんな自分なりの解釈で、バトルを組み立てていく。

そういう意味では、サトシ君は決して教えるのが下手って訳じゃないんだと思う。



キャプチャとバトル。



遊ぶ間も無く大変な日々。

だけど とっても充実した日々。





そんな日々は、あっという間に流れて行った。




 ▼ 82 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/23 01:19:01 ID:J.3I4sz2 [2/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 ヒトミ 「ねぇサトシ。今日はリーフにマンツーマンで付いてあげてよ」

 サトシ 「リーフに?」

 リーフ 「えっ?」



特訓も順調に進んで、大会まで残り5日に迫った日の放課後。

ヒトミちゃんが、とんでもないことを言いだした。


 サトシ 「けどリーフは……」

 ヒトミ 「いつまでも男子が苦手なんて言ってられないよ。大会では男子ともバトルするんだし、慣らす意味でも、ねっ?」

 リーフ 「ヒトミちゃんっ!」


うぅ……、ヒトミちゃん、私とサトシ君を2人きりにさせようとしてる。


あぁ、向こうでミナミちゃんがニヤニヤしてる。

これ絶対、女子のみんなに仕組まれてるよ……。


 サトシ 「どうだリーフ。今だけオレと特訓するか?」

 リーフ 「あっ、うん。じゃあ今日は……お願い、しても良いかなっ」


 ▼ 83 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/23 01:20:52 ID:J.3I4sz2 [3/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


実戦形式の特訓は、流れ弾が当たらないように、みんな校庭に散らばって練習している。


それは要するに、私とサトシ君は、みんなの目が届かない、ほとんど2人きりでの特訓になると言うことだ。



 サトシ 「ピカチュウ、“でんこうせっか”で逃げ回れ!」

 ピカチュウ 「ぴかぴかぁ!」 シュババッ!

 リーフ 「落ち着いて! よーく見てチーちゃん……そこっ! “つるのムチ”!」

 チコリータ 「ちこぉ!」 シュン!

  ― ガシッ!

 ピカチュウ 「ぴかっ!?」

 リーフ 「よしっ……! 上手いよチーちゃん!」


“でんこうせっか”で逃げ回るピカチュウを、チーちゃんのツルが捕まえた。

凄いよチーちゃん。あんなに素早いピカチュウを、ちゃんと追えてるんだね!


 サトシ 「捕まえて油断はダメだぞ! そのまま“10万ボルト”!」

 ピカチュウ 「ぴぃぃぃかぁぁぁぁぢゅぅぅぅぅぅ!」 バリバリッ!

 チコリータ 「ちこぉぉぉぉっ!?」

 リーフ 「あっ……チーちゃん!?」


チーちゃんの反射神経に喜んだのも束の間。

ツルで繋がっている状態のせいで、チーちゃんはピカチュウからの電撃を浴びてしまった。


 サトシ 「さぁどうするリーフ!?」

 リーフ 「チーちゃんっ……!」
 ▼ 84 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/23 01:22:03 ID:J.3I4sz2 [4/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 チコリータ 「ちっ……こぉぉぉぉっ!」


強力な電撃を浴びても、チーちゃんの目には闘志が宿っている。

チーちゃんは、まだ戦えるって訴えている!


 リーフ 「うん! 投げつけてチーちゃん!」

 チコリータ 「ちっ……こりぃ!」 ブンッ!

 サトシ 「あっ……ピカチュウ!?」

 ピカチュウ 「びかっ……」 ドカッ!


チーちゃんは電撃を浴びながらも、ピカチュウを投げ飛ばし、背後の木に叩きつけた。

 
 リーフ 「良いよチーちゃん! そこで“はっぱカッター”!」

 チコリータ 「ちこりっ!」

 サトシ 「“エレキネット”で受け止めろ!」

 ピカチュウ 「ちゅぴっか!」


チャンスだと思ったけど、ピカチュウの立て直しは、思った以上に早かった。

チーちゃんが繰り出した“はっぱカッター”。

鋭利な葉の刃のはずなのに、ピカチュウの“エレキネット”は、葉っぱ全てを受け止めてしまった。


 リーフ 「っ……! やっぱり凄いな、サトシ君とピカチュウ」

 チコリータ 「ちこぉ……」

 サトシ 「今の“はっぱカッター”が どうすれば通ったか――。それを考えるのも立派な特訓だぜ」

 リーフ 「うん!」

 サトシ 「じゃあ、ちょっと休憩するか。 おーいピカチュウ!」

 リーフ 「チーちゃんも! 休憩だよー!」

 ▼ 85 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/23 01:25:28 ID:J.3I4sz2 [5/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

サトシ君は、隅にあった木箱に腰掛ける。

ピカチュウも木箱に上って、サトシ君の隣に。チコリータがピカチュウの隣に。

そんな流れで、私はチコリータの隣に腰掛けた。



 サトシ 「リーフのチコリータ、バトルの素質あると思うよ」

 リーフ 「本当?」

 サトシ 「あぁ。ピカチュウの動きについてこれてるし。それに“10万ボルト”受けながら投げ飛ばすなんて、なかなか根性あるよな!」 ナデナデ

 チコリータ 「ちこり〜♪」


チーちゃんのことを褒めてくれたサトシ君は、チーちゃんの頭、葉っぱの付け根あたりを優しく撫でる。

すると、気持ち良さそうに目を細めるチーちゃんから、ほのかに甘い香りが。喜んでる証拠だ。


 リーフ 「そこ撫でてあげるとね、チーちゃん喜ぶの。サトシ君、知ってたの?」

 サトシ 「あぁ。オレもチコリータを持っててさ。今はベイリーフだけど、あいつもココを撫でられるのが好きだったんだ」

 リーフ 「そうなんだ。サトシ君は凄いね。バトルも出来て、こういうポケモンの知識もあって」

 サトシ 「いや、ゲットしたポケモンのことしか知らないよ。良い香りだな、チーちゃん」 ナデナデ

 チコリータ 「ちぃこりぃ〜♪」

 リーフ 「ふふっ。チーちゃん、サトシ君のこと気に入ったみたい」

 サトシ 「ホントか? サンキューな、チーちゃん」 ナデナデ

 チコリータ 「ちこっ♪」


 リーフ 「ふふっ。……おいで、ピカチュウ」

 ピカチュウ 「ぴか? ぴっか!」 ピョン


ピカチュウを呼ぶと、私の膝の上に乗ってくれた。

こうして眺めると、やっぱり綺麗な毛並み。


――バスの時と同じだ。


 ▼ 86 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/23 01:27:25 ID:J.3I4sz2 [6/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 リーフ 「サトシ君。あの時は、ありがとう」

 サトシ 「ん?」

 リーフ 「ほら。バスの中で、私に席を譲ってくれて」

 サトシ 「……あぁ! えっ? あれリーフだったのか!」

 リーフ 「うん。ごめんなさい。なかなか言い出す機会が無くて、今頃になっちゃって」

 サトシ 「そんなの全然いいよ。あのあと具合は大丈夫だったのか?」

 リーフ 「あ……うん。眠ったら治ったみたいで」


私が痴漢に遭ってたことは、黙っておくことにした。恥ずかしいもん。

そして、やっぱりサトシ君は あの時、私が体調悪いと思って、席を譲ってくれたみたいだ。


 サトシ 「そっか。良かった」

 リーフ 「優しいんだね、サトシ君。ピカチュウも良い子だし」 ナデナデ

 ピカチュウ 「ちゃぁ〜♪」

 サトシ 「困ってる人を助けるのは当たり前だろ?」

 リーフ 「その当たり前を出来る人って、実は少ないんだよ。サトシ君、レンジャーに向いてるかもねっ」

 サトシ 「へへっ」

 リーフ 「そう言えばサトシ君、あの時バスから降りて何処に行ったの?」

 サトシ 「あぁ、実はシンバラ教授が迎えに来てくれたんだ」

 リーフ 「教授が?」

 サトシ 「スクールまで迷うといけないから、ってさ」

 リーフ 「ふーん。サトシ君、教授と知り合いなの?」

 サトシ 「直接の知り合いって訳じゃないんだ。この特別講習のことを知ったのも、オーキド博士からで――」





   *   *   *



 ▼ 87 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/23 01:29:09 ID:J.3I4sz2 [7/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



7月下旬。

マサラタウン、オーキド研究所――。



 サトシ 「レンジャースクールですか?」

 ピカチュウ 「ぴか?」


これから夏も真っ盛りと言う、とある日。

オーキド研究所に呼ばれたサトシは、早速、オーキドから聞きなれない言葉を受ける。


 オーキド 「そうじゃ。実はワシの知り合いに、シンバラと言う奴がおってな」

 サトシ 「シンバラ?」

 オーキド 「レンジャーユニオン技術最高顧問と言って、まぁ、ポケモンレンジャーを管轄する偉い奴なんじゃ」

 サトシ 「へぇ〜」

 オーキド 「奴は、レンジャースクールと言う、ポケモンレンジャー養成学校にも携わっていてのぉ。レンジャーに興味のある若者を、広く募集しておるんじゃ」

 サトシ 「でも、オレはポケモンマスターを目指してるから、レンジャーには なりませんよ」

 オーキド 「分かっておる。じゃが、お前さんのことをシンバラに話したら、是非とも会ってみたい、レンジャーの素質を図りたいと言いおってな。良ければ会ってみてくれんか?」

 サトシ 「それは構いませんけど……」

 オーキド 「ふむ。あまり乗り気でないようじゃな」

 サトシ 「バレました?」

 オーキド 「もし、バトル大会に参加できる、と言ったら?」

 サトシ 「大会!?」

 オーキド 「レンジャースクールは、夏休み中、特別講習というものがあってな。当然、レンジャーに関する勉学が主目的じゃが、締めにアルミア地方のバトル大会に出場するんじゃ。サトシには、その特別講習に参加して欲しいんじゃよ」

 サトシ 「行きます行きまーす!」

 オーキド 「単純な奴め」

 ピカチュウ 「ぴかぴ……」

 オーキド 「詳しい資料を貰っておるから、読んでおくんじゃぞ」

 サトシ 「はーい!」
 ▼ 88 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/23 01:30:10 ID:J.3I4sz2 [8/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

バトル大会というワードで、二つ返事で参加を決めたサトシ。

さっそく家に帰ると、渡された資料を元に、出かける準備を始めた。





――― レンジャースクール夏季特別講習 ―――


この講習は、夏季休暇中の生徒の生活、勉学をサポートし、自主自立の精神育成を目的とするものである。

夏季休暇中の開催のため、参加は自由。夏季休暇に予定のある生徒は それを優先し、この講習に参加しないことによる不利益は一切ないものとする。

短縮授業形式を採り、授業時間外は自由な学習、フィールドワーク等を推奨することで、自主的な行動、想像力の育成を目指す。

アルミア学校選抜バトル大会に参加し、協力と結束、仲間との深い繋がりを育む。





 サトシ 「なんか小難しい事ばっか書いてあるなぁ」

 ピカチュウ 「ぴか」


要約すると、この講習は、“夏休みを有意義に過ごしましょう”と言う目的で開かれる。


レンジャースクールは全寮制なので、生徒は夏休み中、実家に帰ることになる。

そこを、スクールは解放するから使って良いよ。ちょっと授業も開くよ。でも自主的な学習が基本だよ。というものだ。

そしてレンジャースクールとして、アルミア地方のバトル大会に出場するらしい。



 サトシ 「これ読む限りだと、スクールの生徒向けのはずなんだけど……、オレが参加して良いのかな?」

 ピカチュウ 「ぴぃかぁ」

 サトシ 「まぁ、シンバラ教授って人が誘ってるんだから、ダメな訳ないか」

 ピカチュウ 「ぴかちゅぅ」

 サトシ 「何はともあれ、目的はバトル大会だ! 頑張ろうぜピカチュウ!」

 ピカチュウ 「ぴっぴかちゅう!」




 ▼ 89 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/23 01:32:06 ID:J.3I4sz2 [9/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



   *   *   *





 サトシ 「って感じでさ。バトル大会に釣られて来たんだ」

 リーフ 「そうだったんだ。じゃあ、最初はビックリしたよね。バトル大会に参加しないって言われて」

 サトシ 「ははっ。まさか棄権なんて夢にも思わなかったな」

 リーフ 「ごめんね。初日、みんな あんな感じで……」

 サトシ 「気にすんなよ。あいつら――プエル学園の奴らと会って、みんながトレーナー嫌いってのは、痛いほど分かったからさ」

 リーフ 「女子たち、みんな言ってるよ。サトシ君みたいなトレーナーは初めてだって。私たちがトレーナーと こんなに仲良くなれるの、奇跡に近いもん」

 サトシ 「よせよ恥ずかしい。けど、トレーナーだからってレンジャースクールをバカにするか普通?」

 リーフ 「地方柄ってやつかな。特にプエル学園の人たちは酷いもん。そのせいでみんな、トレーナーに対して疑心暗鬼になっちゃって」

 サトシ 「なるほどなぁ」

 リーフ 「ずっとバトル大会に参加してこなかったのも、そのせいらしいよ。トレーナーと関わりを持ちたくないって」

 サトシ 「悲しいな。一部の酷いトレーナーのせいで、そういう溝が出来ちまうのは」

 リーフ 「うん。でも、溝を埋めようとしない私たちにも、問題はあると思うんだ。あの時サトシ君が言った通り、“逃げ”だもん、私たちの行動って」

 サトシ 「あ……いや、それ本気にしないでくれよな。あの時は つい熱くなっちまって、みんなの気持ちも考えずに……」

 リーフ 「ううん。むしろ感謝してる、かな。お陰でみんな、バトル大会に挑戦しようって気持ちになれたし。……もしかしたら、誰かに指摘して欲しかったのかもしれないな」

 サトシ 「そうか?」

 リーフ 「私ね、見ての通り、大人しい性格だから、昔イジメられたこともあって……。自分を変えなきゃってレンジャースクールに入ったんだけど、全然ダメで……」

 サトシ 「リーフ……」
 ▼ 90 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/23 01:33:42 ID:J.3I4sz2 [10/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 リーフ 「サトシ君のこと、尊敬しちゃうな。自分を犠牲にしてチルットを助けてくれたし。バトル大会に出ようって、私たちの絆を深めてくれたし」

 サトシ 「大袈裟だなぁ。オレなんて まだまだ未熟だよ」

 リーフ 「サトシ君で未熟なら、私なんて生まれたての赤ちゃんだよ。サトシ君みたいに、私にも勇気があればな……」

 サトシ 「なに言ってんだよ。バトル大会に出ようって最初に言ったのリーフじゃん」

 リーフ 「それは、サトシ君が特訓してくれるからで」

 サトシ 「いや。バトル経験が無いのにバトル大会に出るのって、けっこう勇気がいると思うぜ。それをナツヤたちより先に決めたの、一つの勇気のカタチだと思うけどな」

 リーフ 「そう……かなぁ」

 サトシ 「そうそう。リーフは実は強いんだ。クヨクヨしちゃダメだぞ!」

 ピカチュウ 「ぴかぴっかぁ!」

 チコリータ 「ちこりー!」

 リーフ 「ピカチュウ、チーちゃん……。ふふっ、ありがとう、みんな」


 サトシ 「さて! そろそろ特訓スタートだ。チーちゃんの根性、見せてくれよな!」

 チコリータ 「ちっこ!」 フンス!



実は私は強い――か。


サトシ君にそう言って貰えたのは嬉しいけど、私、全然そんなことないのに。

いつも誰かに頼って、誰か任せで、なかなか自分じゃ判断できない、ダメな性格なのに。


サトシ君みたいな勇気、私、全然持ってないのにな。



 ▼ 91 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/23 01:36:14 ID:J.3I4sz2 [11/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



その日の夜。女子ベッドルーム。



 ヒトミ 「うーーーん! バトルの特訓で疲れるせいかな。ベッドでゴロゴロできるだけで幸せー♪」

 ミナミ 「ポケモンバトルって、意外と頭も体も使うみたいね。疲れるのも無理ないわ」

 リーフ 「みんな成長してるってことだね。チーちゃんも頑張ってるし、サトシ君のレクチャーも上手いし」

 ヒトミ 「リーフさぁ……」 ニヤニヤ

 リーフ 「えっ、なに?」

 ヒトミ 「随分サトシと仲良くしてなかった〜?」

 リーフ 「そう……かな?」

 ミナミ 「とぼけちゃダメよ。サトシと2人で仲良く話し込んでたじゃない」

 リーフ 「あっ」

 モブコ 「あー見てた見てた! 2人でピカチュウとチーちゃん撫でながら」

 モブエ 「同じ木箱に腰掛けてさ、青春漫画みたいな感じで!」

 ミナミ 「リーフさ、やっぱりサトシに惚れてない?」

 リーフ 「ちっ、違うよぉ!」

 ヒトミ 「でもでもー。男子が苦手なリーフが、サトシと2人きりで、あんなに楽しそうに話してるとこ見ちゃったらね〜」

 ミナミ 「分かるわよ? サトシって格好良いもんね。チルットを助けた時も、大会に出ようって切り出した時も。あれは惚れる女子、多いわよ」

 ヒトミ 「白状しなさいリーフ! サトシのこと……好きでしょ?」

 リーフ 「そっ、そんなことっ……、私、まだっ……///」

 ミナミ 「 ま だ ? 」

 リーフ 「ぁぅぅ……/// ちょっ、トイレ行ってくるね!」

 ヒトミ 「あっ……」



私は慌てて部屋を飛び出した。


私が、サトシ君に、惚れてる……?

私が、サトシ君のこと、好き……?


そんなことっ! そんなことはっ……!


 ▼ 92 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/23 01:38:13 ID:J.3I4sz2 [12/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



  ― バシャバシャッ


 リーフ 「はぁ……」



思わずトイレに逃げ込んじゃったけど、特に行きたくもなかったので、顔を洗って深呼吸。



私が、サトシ君に、惚れてる――。


違う違う違う! そんなんじゃない!

確かにサトシ君は優しいし、勇気があって凄いけど……。



 リーフ (……ホント、不思議な人だよね、サトシ君って)



思い返してみると、自分でも驚くほど、サトシ君とは自然と会話することが出来ていた。

男子が苦手な私は、いまだにナツヤ君やハジメ君と話すときも、少しぎこちない会話になっちゃうのに。


なんでサトシ君は……大丈夫なんだろう。



 リーフ (もしかして、これが――)


 ▼ 93 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/23 01:40:27 ID:J.3I4sz2 [13/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


   ― ガラガラッ


と、外で引き戸の開く音がした。

校舎の2階は、テーブルやパソコンが置かれたフリースペースを中心に、男女ベッドルームと、男女トイレの扉がある。

引き戸なのはベッドルームの扉だから、誰かが出てきたってことになる。


ヒトミちゃんあたりが様子を見に来たのかな、なんて思ったけど――。



   ナツヤ 『戦略的には、犠牲も止むなしってことか』

   サトシ 『あぁ。競合揃いだろうから、オレたちが確実に勝つためには、それも考えなきゃいけないと思う。ちょっと気が引けるけどな』



聞こえてきたのは、サトシ君とナツヤ君の声だった。



   ナツヤ 『で、サトシ的にどうなんだよ。リーフは』

   サトシ 『いやぁ、やっぱ可愛いよな〜』



 リーフ (えっ……!?) ドキッ


えっ……、可愛い?

聞き間違い? 可愛い? サトシ君が、私のこと……?



   ナツヤ 『いやそういうこと聞いてんじゃねーよ』

   サトシ 『だってそれが一番の印象だもん。可愛いよな〜ホントに』


   ― ガチャッ



2人の会話は、隣の男子トイレの中へと消えた。

聞き間違いなんかじゃない。サトシ君、確かに、可愛いって……。



 リーフ 「っ〜〜///」 ドキドキ


 ▼ 94 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/23 01:44:45 ID:J.3I4sz2 [14/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

私は、サトシ君とナツヤ君がトイレから出てくる前に、急いでベッドルームに戻った。

そんな会話を聞いちゃって、いま顔を合わせるのは気まずいもん!



 ミナミ 「あ、おかえりリーフ」

 ヒトミ 「ごめんねー。ちょっと突っ込み過ぎちゃったよね」

 リーフ 「ううん、大丈夫だよ」

 ミナミ 「って言うかリーフ、なんか顔……赤くない?」

 リーフ 「ふぇっ!?」

 ヒトミ 「ホントだ」

 リーフ 「あっ……そのっ、気にしないで! ちょっと暑いなーって。ほら、トイレはクーラー無いから!」

 ミナミ 「そう?」

 リーフ 「私、もう寝るから。おやすみっ!」

 ヒトミ 「おやすみー?」



みんなの反応も確認せず、私はベッドに入って、布団に包まった。

あぁ、私やっぱり、赤くなっちゃってたんだ。当然だよね、顔が熱かったもん。


 リーフ (はぁ……) ドキドキ


まだ、ドキドキしてる。

サトシ君に、可愛いって言われて。サトシ君が私のこと、そんな風に見てくれて。



 リーフ (……ふふっ)



とっても恥ずかしいのに、内心、喜んでいる私がいる。


なんでだろう。


なんなんだろう、このドキドキ。





 ▼ 95 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/23 01:47:09 ID:J.3I4sz2 [15/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




   *   *   *



 ハジメ 「――あとはモブエとリーフか」

 ナツヤ 「モブエのムウマだけど、どういう立ち回りが良いんだ?」

 サトシ 「オレたちのメンバーで唯一のゴーストタイプだし、ここぞって時に使いたいよな」

 ハジメ 「“あやしいひかり”で有利に持って行くか?」

 サトシ 「それもアリだけど、オレ的には“みちづれ”も考えてるんだ」

 ナツヤ 「“みちづれ”ねぇ……。ごめん、オレちょっとトイレ」

 サトシ 「あ、オレも行く」


   ― ガラガラッ


 ナツヤ 「戦略的には、犠牲も止むなしってことか」

 サトシ 「あぁ。競合揃いだろうから、オレたちが確実に勝つためには、それも考えなきゃいけないと思う。ちょっと気が引けるけどな」

 ナツヤ 「で、サトシ的にどうなんだよ。リーフは」

 サトシ 「いやぁ、やっぱ可愛いよな〜」

 ナツヤ 「いやそういうこと聞いてんじゃねーよ」

 サトシ 「だってそれが一番の印象だもん。可愛いよな〜ホントに」


   ― ガチャッ


 ナツヤ 「まったく。本当にサトシってポケモンが好きなんだな」

 サトシ 「あぁ。オレもチコリータ持ってたからさ。チーちゃん、葉っぱのとこ撫でてやったら気持ち良さそうにしてさ〜。ホント可愛くて!」

 ナツヤ 「それは分かったから。リーフとチコリータの立ち回り」

 サトシ 「チーちゃん、ああ見えて根性あるし、“はっぱカッター”の遠距離攻撃は大事にしたい。特訓の成果も出てるし、決勝戦の参加は確実だな」

 ナツヤ 「なるほど。“あまいかおり”も使えるのか――って、トイレで話すことでもないな」

 サトシ 「ははっ、確かにな」



   *   *   *



 ▼ 96 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/23 01:48:11 ID:J.3I4sz2 [16/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





私たちの特訓の日々は続き――。







いよいよ、バトル大会当日を迎えた。





 ▼ 97 チエナ@ひかえめミント 21/08/23 22:03:27 ID:X/8A7VB6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
これは良SS
シエンネ
 ▼ 98 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/23 22:05:38 ID:J.3I4sz2 [17/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



プエルタウンの北西、海を見渡せる高台の一角に設けられた特設バトルコート。

ここが、アルミア学校選抜バトル大会の会場だ。

アルミア中から大会参加者と応援者、観客たちが集まって、アルミア最大の都市は、普段より増して賑わっている。



 ヒトミ 「いよいよなんだね」

 ハジメ 「あぁ。いよいよだ」


私たちは、学校ごとに用意された仮設テントの控室で、開会の時を待っている。


外の雑踏、波の音、船の汽笛、野生ポケモンたちの鳴き声、場内アナウンス。

煩いくらいのはずなのに、緊張のせいで、それらは全然、私の耳に入って来ない。


 モブコ 「あぁ……緊張するなぁ……」

 モブエ 「こんなに沢山の人の中でバトルなんて……」

 モブタ 「バトルの特訓は してきたけど、こういう雰囲気までは流石に……」

 モブオ 「きききき気にすることないぜ! ととと特訓の成果を、他校の奴ららららららら」

 モブタ 「緊張し過ぎて逆ららららの人みたいになってるぞ」

 モブオ 「!?」


当然みんなも緊張してる。

バトル大会に出るのは初めてだし、レンジャースクールの参加が12年ぶりってこともあって、注目は避けられない。
 ▼ 99 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/23 22:07:20 ID:J.3I4sz2 [18/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 ナツヤ 「大会エントリー終わったぞ」

 サトシ 「この名札みたいなの、大会中は付けとくんだってさ」


そう言ってサトシ君は、皆に首掛けの名札を渡した。

ちなみに私たちは、制服で参加している。制服がある学校は制服で参加する決まりらしい。


 ミナミ 「トーナメント表、出てたわよ」

 ハジメ 「おっ、どうだった? 因縁のプエル学園と当たるのは……」


トーナメント表……これは重要だ。

私たちが大会に参加する一番の目的は、私たちを馬鹿にしたプエル学園の人たちに、バトルで勝利すること。

私たちのポケモンを馬鹿にしたプエル学園の人たちに、私たちの強さを思い知らせて、見返してやることだ。


何回戦でバトルすることになるのか――。

それによって、私たちのモチベーションも変わってくる。


 ミナミ 「ふふっ。決勝戦で当たる組み合わせよ」

 ハジメ 「本当か!?」

 ヒトミ 「よーし! じゃあ絶対に決勝まで勝ち進まないとねっ!」


決勝戦……!

プエル学園の人たちとの直接勝負は、決勝と言う最高の舞台らしい。


 リーフ 「決勝戦か……。これも運命なのかな」

 ヒトミ 「そうだね。因縁の対決を決勝の舞台で出来るなんて、ホントに凄いことだよ!」

 ハジメ 「あぁ! 特訓の成果を、最高の形で ぶつけられるって訳だな!」
 ▼ 100 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/23 22:11:24 ID:J.3I4sz2 [19/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ミナミ 「あー、盛り上がってるとこ水を差すようで悪いけど、決勝で当たるってのは、まぁ、既定事項と言うか……」

 リーフ 「えっ?」

 ヒトミ 「そうなの?」

 ナツヤ 「強豪校のプエル学園は、トーナメント表の1枠目、一番左に入ることになってて――」

 サトシ 「レンジャースクールは、辞退からの参加だから、トーナメント表の最後の枠、一番右に入ったんだ」

 ハジメ 「あ、そういうことか」


決勝戦で当たるのは、単純に、トーナメント表の一番端っこ同士だったから。

運命でもなんでもない、至極単純な理由だった。


 ナツヤ 「理由は どうあれ、オレたちは決勝でプエル学園の奴らとバトルできる!」

 ミナミ 「ちなみに、決勝まで全部で5試合よ」

 ハジメ 「5試合……。4回勝って、ようやくプエル学園と対戦できるってことか」

 ヒトミ 「大丈夫。私たちなら出来るよ!」

 リーフ 「うん。みんな頑張って特訓してきたんだから」

 サトシ 「そうだぜみんな! 今日までの特訓は絶対に無駄じゃない! この2週間で見違えるほど強くなれたんだ!」

 ナツヤ 「目指すは優勝! プエル学園の奴らに、オレたちの強さ、見せつけてやろうぜっ!」

 「「「 オーーー!!! 」」」



私たちは、心を一つに、決意を一つに、みんなで拳を突き上げた。


2週間の特訓の日々。


遊ぶ間もなく、ひたすらポケモンバトルの特訓に打ち込んだ日々。


みんなで汗を流して、バトルの研究をして、ポケモンたちと向き合って、みんなで絆を深め合った、かけがえのない日々。


その成果を、いよいよ発揮する時だ。





 アナウンス 『間もなく、第1試合の、開始時刻となります。トーナメント表に従い、指定のバトルコートに、お集まりください』




 ▼ 101 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/23 22:14:04 ID:J.3I4sz2 [20/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



   *





 モブタ 「チャンスだコロトック! “いやなおと”……からの“シザークロス”!」

 コロトック 「こぉぉぉん♪ ろっく!」 ザシュッ!


 *** 「……くそっ! よくやったなラッタ」


 実況 『決まったぁ! 12年ぶり出場のレンジャースクール、ハルバ第二を打ち破り、2回戦進出です!』





 ハジメ 「良いぞモブター!」

 ヒトミ 「まずは初戦突破ねっ!」

 サトシ 「あれだけ特訓したんだ。コロトック、真っ向勝負で負ける訳がないよな!」



 ▼ 102 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/23 22:15:12 ID:J.3I4sz2 [21/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



   *



 

 *** 「チルタリス“りゅうのはどう”よ!」

 モブコ 「飛びこんでニャルマー! “ふいうち”!」

 ニャルマー 「にゃぶっ!」 ドスッ!

 *** 「うそっ!?」

 モブコ 「続いて〜“じゃれつく”よ!」

 ニャルマー 「んにゃぁぁぁぁぁ!」 ポカポカポカポカ


 *** 「そんなっ、私のチルタリスが、ニャルマーなんかにっ……!」


 実況 『勝負あったぁ! レンジャースクール止まらないっ! 西プエル商業を征し、3回戦へ駒を進めます!』





 リーフ 「凄いよモブコちゃん!」

 サトシ 「今の、よくチルタリスの懐に突っ込んだな! モブコとニャルマーのファインプレーだぜ!」

 ミナミ 「特訓の成果、きっちり出てるわね!」


 ▼ 103 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/23 22:16:26 ID:J.3I4sz2 [22/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



   *



 

 *** 「ルカリオ、とどめの“インファイト”!」

 ルカリオ 「ガルゥゥゥァァァァァァァァァァ!」 ドドドドド!

 グレッグル 「っ……!」 ギリッ

 *** 「なっ!?」

 モブタ 「よく耐えたグレッグル! 反撃の“リベンジ”! 喰らわせてやれぇ!」

 グレッグル 「んぐぅ!」 ズドッ!

 ルカリオ 「カッ……」 バタッ


 実況 『グレッグル意地を見せたぁ! 凄いぞレンジャースクール! ボイル温熱専門学校に勝利し、4回戦へと挑戦だぁ!』





 ナツヤ 「今の よく耐えたなグレッグル!」

 ヒトミ 「凄いよ! ルカリオに勝っちゃうなんて!」

 サトシ 「グレッグル本気で勝負したかったんだな。同じ格闘タイプとして!」


 ▼ 104 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/23 22:21:21 ID:J.3I4sz2 [23/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



   *



 

 *** 「まさか追い込まれるなんてね。ドンカラス! 俺たちなら残り2体でも勝てる!」

 ドンカラス 「ガァ!」

 モブエ 「ムウマ、まだ行けるわね!」

 ムウマ 「むん……!」

 *** 「へっ……虫の息じゃねーか! まず1体……“つじぎり”だ!」

 ドンカラス 「ガァァァ!」 シュッ……

 モブエ 「……ふふっ。“みちづれ”よ!」

 ムウマ 「……!」 クワッ!

 *** 「だめだ止まれドンカラス!」

 モブエ 「もう止まらないタイミング……でしょ?」

 ドンカラス 「ンガッ……!?」 ザシュッ!

 ムウマ 「………」 バタッ

 ドンカラス 「………」 ドクン……ドサッ


 実況 『ムウマ、ドンカラス、共に戦闘不能! この時点でレンジャースクールの勝利です! 12年ぶり出場のレンジャースクール、プエル国際大付属を破り、とうとう決勝進出だぁ!』





 ナツヤ 「ぃよっしゃぁぁぁっ!」

 ヒトミ 「決勝! ついに決勝だよ!」

 サトシ 「作戦通りだな。モブエとムウマ、よくここまで耐えてくれた!」



私たちは遂に、決勝の舞台に駒を進めた。

特訓の成果を存分に発揮して、みんなとポケモンの持てる力の全てを発揮して、遂に、決勝戦に挑むんだ。



 アナウンス 『決勝戦、プエル学園VSレンジャースクールは、この後、午後3時開始となります』


 ▼ 105 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/23 22:22:58 ID:J.3I4sz2 [24/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





 ナツヤ 「ついに来たな」

 ミナミ 「えぇ」

 ハジメ 「なんだか信じられないね。今までバトル初心者だった僕たちが、アルミア学校選抜バトル大会の決勝戦に挑むなんて」

 ヒトミ 「ホントね。しかも、今まで馬鹿にされてきた、プエル学園とのバトルなんて」

 リーフ 「サトシ君のお陰だよ。大会に出ようって雰囲気にしてくれたのも、ここまで勝ち進んで来れたのも」

 サトシ 「オレは背中を押しただけさ。今日まで みんなで頑張って来れたから、決勝の舞台に立てたんだぜ?」

 ナツヤ 「それでもオレたち、サトシには感謝してるぜ」

 ハジメ 「サトシ、本当にありがとう。僕たちをここまで導いてくれて」

 ミナミ 「サトシが居なかったら、プエル学園の奴らにバカにされっぱなしだったわよ」

 サトシ 「へへっ。けど礼を聞くのは、優勝してからにしたいかな」

 ナツヤ 「ははっ、確かにな!」


サトシ君には、感謝してもしきれない。

でもサトシ君は、それを“私たちの頑張り”だと褒めてくれて、得意気になったりはしない。

本当に凄いな、サトシ君って。
 ▼ 106 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/23 22:25:33 ID:J.3I4sz2 [25/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 サトシ 「さて。決勝戦まで1時間近くあるな。なんか屋台いっぱい出てるし、ちょっと見に行こうぜ!」


サトシ君は陽気に言う。

確かに、このバトル大会はアルミアの夏の風物詩、お祭りのようなもの。屋台の出店が沢山あって大賑わいだけど――。


 ハジメ 「いや……ごめん。流石に緊張で そういう気分にはなれない……かな」

 ヒトミ 「あー、私も」

 サトシ 「なんだよー。そう言う時こそ気分を変えてリフレッシュだぞ?」

 ナツヤ 「そりゃそうだけど、オレたち、サトシと違ってバトル大会なんて初めてなんだ。しかも決勝戦」

 ミナミ 「ちょーっと遊べる雰囲気じゃないわね、私でも」

 ヒトミ 「リーフ、サトシと一緒に行って来れば?」

 リーフ 「無茶言わないでよぉ! 私だって緊張してどうしようって気分なんだから!」

 サトシ 「そっか。じゃあピカチュウ、見に行こうぜ」

 ピカチュウ 「ぴっか!」

 サトシ 「すぐ戻るよ」


それだけ言って、サトシ君とピカチュウは控室から出て行った。


 ミナミ 「なんでサトシ、あんなに余裕で居られるのよ」

 ナツヤ 「場慣れしてるんだろうな。尊敬するぜ」

 ヒトミ 「って言うか、サトシの経歴とか……誰も聞いてないよね?」

 リーフ 「うん。ポケモンリーグに出るための旅をしてた――、ってことしか」

 ハジメ 「どんな経歴でも、サトシが凄いことに変わりはないよ。僕たちをここまで成長させてくれたんだからね!」

 ヒトミ 「そうね。バトルができて、ポケモン想いで、キャプチャのセンスもあって」

 ナツヤ 「みんな、絶対に優勝しようぜ。優勝こそ、オレたちにバトルの特訓してくれた、サトシへの恩返しだ!」

 ミナミ 「そうね。絶対優勝よ!」



私たちは、誓い合う。


プエル学園の人たちを見返してやるために優勝を目指して来たけど、今となっては、サトシ君への恩返しのために、優勝したい――。

仕返しよりも、感謝の気持ちの方が、勝りつつあるのだ。


 ▼ 107 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/23 22:26:58 ID:J.3I4sz2 [26/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 サトシ 「お待たせ! 塩焼きそばとコイキング焼、みんなのも買って来たぜ!」

 ピカチュウ 「ぴっかぁ!」


両手に袋を抱えて、サトシ君が戻って来た。

みんなのも、ってことは、10人分ずつ買って来たの!?


 ナツヤ 「決勝前って、こんなガッツリ食うもんなのか!?」

 サトシ 「腹が減っては戦は出来ぬ、って言うだろ」

 ナツヤ 「けどコイキング焼って……、これデカいやつじゃん! 30センチくらいあるやつじゃん!」

 サトシ 「甘いモノは頭と体をリフレッシュしてくれるんだぞ」

 ナツヤ 「そうだけどさぁ……」

 ミナミ 「ま、有難く頂こうじゃないの」

 ハジメ 「そうだね。決勝前、確かに気分転換も必要だしね」

 ヒトミ 「食べれるかなぉ、こんな大きいの」

 リーフ 「かぶりつくの、ちょっと恥ずかしいね」

 サトシ 「気にすんなって。いただきまーす!」



緊張に包まれていた控室は、いつの間にか、和やかなムードに変わりつつあった。

もしかしてサトシ君は、私たちの緊張を解すために、美味しいものを買って来てくれたのかな。



本当に凄いよね、サトシ君。

ポケモンのことも、みんなのことも、しっかり考えてくれていて。


サトシ君みたいに、私も なれたらな……。


 ▼ 108 ォレトス@ナゾのみ 21/08/24 05:41:02 ID:OF1opcOw NGネーム登録 NGID登録 報告
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 ▼ 109 ドイデ@ダイミツ 21/08/26 22:17:31 ID:t8RsWv.g NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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 ▼ 110 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/28 02:39:59 ID:mJUkENVE [1/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 実況 『さて皆様、お待たせいたしました。アルミア学校選抜バトル大会、決勝戦! いよいよスタートです!』



午後3時。ついに、決勝戦の幕開けだ。

実況の放送に、ギャラリーたちからワーッと歓声が上がる。

その歓声の大きさに、この大会が いかに大規模なものなのか、改めて実感させられた。


 実況 『まずは青コーナー! 4年連続優勝の強豪校、私立プエル学園! 5年連覇を目指します!』


プエル学園の人たちが入場する。

やっぱり、この間の4人は全員が決勝戦のメンバーだった。


 実況 『対する赤コーナー! 12年ぶりの参加で怒涛の決勝進出、レンジャースクール! この勢いで初優勝を狙えるのか!?』


 サトシ 「みんな、堂々と行こうぜ!」

 ナツヤ 「勿論だ!」

 リーフ 「うん!」

 ヒトミ 「ここまで来たら勢いよ!」

 ハジメ 「それにしても凄い歓声だね」

 ミナミ 「当然よ。優勝候補のプエル学園と、ポッと出のレンジャースクール。盛り上がらない訳ないじゃない!」



ミナミちゃんの言う通り、盛り上がらない訳が無い組み合わせ。

順当に勝ち進んだ強豪校と、まさかの善戦で勝ち上がった無名の学校。


誰もが予想しなかった決勝のカードに、観客たちは大興奮だ。


 実況 『決勝戦は6対6のダブルバトル! ルールはシンプル! 先に6体とも戦闘不能にした方が優勝です!』


先に相手の6匹を倒した方が優勝――。

それだけ聞けば単純だけど、相手は、4年連続優勝の強豪校、プエル学園。

私たちは特訓で大きく成長したとはいえ、4回戦までとは訳が違う。一筋縄では行かないはずだ。
 ▼ 111 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/28 02:41:35 ID:mJUkENVE [2/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

  ホクト 「まさか、レンジャースクールが決勝まで勝ち進んでくるとは。少し予想外でしたね」

  ソウヤ 「2週間前は あんなザコかったのにな。4回戦まで弱い学校と当たったんじゃねーの?」

  カムイ 「オレは初めて相手するけど、どんなものなのか、お手並み拝見と行こうじゃないか」

  エルム 「ふふっ。決勝まで登り詰めて いい気になってる奴らを、圧倒的な力の差で打ち負かす――、すっごく楽しそうじゃない?」

  スラン 「エグーイ。あいつらのプライド、ズタズタに圧し折ってやるんだから」

  ライラ 「そのための私の選出……ふふっ、みんなも酷なことするわね〜」



対面したバトルコート。

プエル学園の人たちは、どこか不穏な笑みを浮かべている。


 ミナミ 「驚いてるでしょうね。私たちが決勝まで勝ち進んで」

 ナツヤ 「けどあの表情を見ると……、余裕そうだな」

 ハジメ 「勝とう。勝ってやろう、絶対に!」

 ヒトミ 「うん!」

 サトシ 「ダブルバトルは、個々の力より、どれだけお互いをサポート出来るかが重要だ。今のオレたちなら、あいつらにも十分通用するはずだぜ」

 リーフ 「そうだよね! 私たちの絆、プエル学園の人たちなんかに負けっこないんだから!」


私たちは、もう緊張していない。

していない――って言うと嘘になるかな。心地良い緊張感。


大勢のギャラリーに見守られて挑む、決勝の舞台。


アルミアで一番注目されている舞台で繰り広げられる、決勝戦。私たちは今、そこに立っている……!
 ▼ 112 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/28 02:42:35 ID:mJUkENVE [3/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 実況 『両チーム最初の2名、同時にポケモンを選出します。準備は良いですか――?』


 ハジメ 「僕たちからだね」

 ヒトミ 「うん。良い流れ、作って来るよ!」


 実況 『――それでは! アルミア学校選抜バトル大会、決勝戦! バトル、開始っ!』


 ハジメ 「行くよブイゼル!」

 ブイゼル 「ぶぃ!」

 ヒトミ 「お願いゴンベ!」

 ゴンベ 「ごーん」


  カムイ 「行って来いゲンガー!」

  ゲンガー 「ゲンガァ!」
 
  ライラ 「美しく舞いなさい、フワライド!」

  フワライド 「フッ……」


最初の対面は運だけど、これは私たちが不利だ。

相手はゲンガーとフワライド。2匹ともゴーストタイプで、ゴンベを活かすことが出来ない。

かと言って、交代は隙を見せることになるから悩みどころだ。


 ヒトミ 「行くよゴンベ! フワライドに“れいとうパンチ”!」

 ゴンベ 「ごんっ!」

 ハジメ 「続けブイゼル! ゲンガーに“アクアテール”!」

 ブイゼル 「ぶいぶぃ!」


交代は無しで行くようだ。

“れいとうパンチ”という有効打がある以上、まずはそれで攻め込んで――。

 ▼ 113 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/28 02:43:57 ID:mJUkENVE [4/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

  ライラ 「お疲れさまっ。“だいばくはつ”!」

  フワライド 「フッ……」 カッ!


   ― ドゴォォォォォォォォォォォォォォン!!!


 ハジメ 「なっ……!?」

 ヒトミ 「いきなり“だいばくはつ”……!?」


 実況 『あぁっと! 初手“だいばくはつ”とは、なんということでしょう!? ブイゼルとゴンベ、成す術なく戦闘不能だぁ!』


  ライラ 「ふふっ。最初に出る2人って、切り込み隊長じゃないけど、ある程度、重要なポジションでしょ? それを一瞬で崩される……ねぇ今どんな気持ち?」



 ハジメ 「くそっ! ごめんブイゼル……、何も出来なくて……」

 ヒトミ 「戻ってゴンベ。ごめんね、いきなりこんな形で……」



始まって早々“だいばくはつ”。

こんなの全くの予想外だ。やる気に満ち溢れていたハジメ君とヒトミちゃんが、一瞬で……。


  エルム 「さぁ、こっちのペースよ! 行ってマリルリ!」

  マリルリ 「るり!」

  カムイ 「ほら早く次のポケモン出せよー!」


ゲンガーに“だいばくはつ”は関係ない。

私たちは、いきなり5対4の不利なバトルを強いられることになってしまった。
 ▼ 114 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/28 02:47:26 ID:mJUkENVE [5/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サトシ 「出鼻 くじかれちまったな」

 ハジメ 「ごめん、みんな」

 ヒトミ 「もっと向こうの出方を見てれば……」

 サトシ 「いや。あの威力の“だいばくはつ”じゃ、守らない限り どうにもならなかったと思うぜ。2人が気にすることじゃないよ」

 ナツヤ 「あぁ。これも向こうの戦略ってことだ」

 サトシ 「次はオレとピカチュウ行く」

 ミナミ 「待ってよ。サトシは切り札に残しておきたいわ」

 ナツヤ 「そうだ。こんな初っ端から出るのは……」

 サトシ 「時間的には初っ端かもしれないけど、戦況的には もう中盤だぞ」

 ヒトミ 「けど……」

 サトシ 「大丈夫。流れを変えてやるのさ」

 リーフ 「流れを……変える?」

 サトシ 「ゲンガーは、ナツヤのサンドパンで対応してくれ」

 ナツヤ 「分かった」



サトシ君とナツヤ君が、フィールドに立つ。


プエル学園側は、奇襲が決まったことで得意気になっている。

客席からも、プエル学園の戦略を流石だと言う声援が聞こえてくる。


気持ち的に、勝敗が見え始めてしまった決勝戦。

サトシ君は……、サトシ君は、この雰囲気を変えられるってこと?


 ナツヤ 「頼んだぞサンドパン!」

 サンドパン 「さん!」

 サトシ 「行くぜピカチュウ!」

 ピカチュウ 「ぴっかぁ!」
 ▼ 115 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/28 02:49:44 ID:mJUkENVE [6/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

  エルム 「サトシ、って言ったわね。あの時、私たちに生意気な口 叩いてくれた」

  カムイ 「あー、アレがホクトの言ってたピカチュウの奴か。さすが、レンジャースクール生は持ってるポケモンが違うな〜」

  エルム 「男でピカチュウとか可愛いわね。ナメてんのかしら」


  ソウヤ 「やっちまえカムイ! エルム!」

  スラン 「この流れで完封しちゃいなさいよ〜!」


  エルム 「マリルリ、まずは“アクアリング”よ」

  マリルリ 「るっりりー」 ザブン


“アクアリング”――、少しずつ自分の体力を回復していくワザ。

これじゃあダメージを与えても、モタモタしてたら帳消しになっちゃう。


 サトシ 「ピカチュウ、マリルリに“10まんボルト”だ!」

 ピカチュウ 「びかぁぁぁ……ぢゅぅぅぅぅぅ!」 カッ!

  ― バリバリ チュドォォォォォォォォン!



  マリルリ 「り゙っ゙……」 バタッ



  エルム 「……えっ?」

  カムイ 「は?」


 実況 『マリルリ倒れたぁ! ピカチュウの“10まんボルト”炸裂! なんと一撃! 凄まじい威力です!』



  ヒトミ 「見た……今の」

  ハジメ 「なんか閃光がーと思ったら、一瞬でマリルリに電撃が……」

  ミナミ 「ちょっとヤバくない あの威力!?」


みんなが驚くのも無理はない。と言うより、私もビックリしている。

だって、特訓の時のピカチュウ、あんな威力の電撃を出したこと無かったもん。

これが、サトシ君とピカチュウの、本気……?
 ▼ 116 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/28 02:51:02 ID:mJUkENVE [7/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ナツヤ 「この隙に“つるぎのまい”」

 サンドパン 「しゃう!」 シャキーン!

 サトシ 「ナツヤ、ゲンガーの特性は“のろわれボディ”だ。一気に決めるぞ」

 ナツヤ 「あぁ!」


  エルム 「戻ってマリルリ。……なによ、今の“10まんボルト”!?」

  ソウヤ 「油断してんじゃねーよエルム!」

  エルム 「うるさいわねぇ! 今の見たでしょ! ヤバい威力だったわよ!」

  ホクト 「タイプ相性が悪かったにしても……、一撃は情けないですね」

  エルム 「……ちっ」


あれだけ余裕そうだったプエル学園側に乱れが生まれた。

サトシ君は、たった一撃で、有言実行、このバトルの流れを変えてくれたのだ。


  ソウヤ 「次はオレだ! 行けハッサム!」

  ハッサム 「はっ!」

  カムイ 「ゲンガー! 勝負は これからだ!」
 
  ゲンガー 「げん!」


 ナツヤ 「もう1発“つるぎのまい”!」

 サンドパン 「しゃーう!」 シャキーン!


  カムイ 「させるな! サンドパンに“シャドーボール”!」

  ソウヤ 「ハッサムはピカチュウに“シザークロス”だ!」


 ナツヤ 「耐えてくれサンドパン!」

 サンドパン 「さんっ……!」
 ▼ 117 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/28 02:52:56 ID:mJUkENVE [8/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ゲンガーとハッサムの攻撃が、サンドパンとピカチュウに迫る。

“つるぎのまい”を発動中のサンドパンは、もう避けられる体勢じゃない。

“のろわれボディ”の金縛り効果を避けるためには、強化した攻撃で一気に攻め込まなきゃいけないから。ここは耐えるしか……。


 サトシ 「ピカチュウ“アイアンテール”だ! “シャドーボール”をハッサムに打ち付けてやれ!」

 ピカチュウ 「ちゅぴっか!」 ガキン!

 ハッサム 「さむっ!?」 バキッ


 実況 『凄いぞピカチュウ! “アイアンテール”で“シャドーボール”を打ち返し! それをハッサムに当てたぁ!』


  ヒトミ 「ねぇなに今の!? なに今の!?」

  リーフ 「凄い……、あんなこと、出来るの!?」

  ハジメ 「って言うかサラッと凄い指示出して、それを実行するピカチュウも凄いぞ……」


 ナツヤ 「“つるぎのまい”2回成功っ! サンドパン、ゲンガーに“あなをほる”!」

 サンドパン 「ぱぁん!」 ボコッ

 カムイ 「はっ……来るぞゲンガー!」

 ゲンガー 「げんっ!?」


驚きの裏では、ナツヤ君とサンドパンが行動に出ていた。

2回の“つるぎのまい”で、大幅に強化された攻撃力。ゲンガーに効果抜群の地面ワザ。


  ソウヤ 「ハッサム、ゲンガーの傍に行け! サンドパンが出て来た瞬間に“シザークロス”だ!」

 サトシ 「させるかっ! ピカチュウ“エレキネット”!」

 ピカチュウ 「ちゅぴぃ!」 ビュン!

  ハッサム 「さむ!?」 バチバチッ


ゲンガーを庇うために動いたハッサムを、“エレキネット”が捕えた。


  ソウヤ 「なにやってんだハッサム! 断ち切れ!」

  ハッサム 「はぁっ!」 ジャキーン!


ハッサムの自慢の鎌で、“エレキネット”は一瞬のうちに断ち切られてしまったけど――。

 ▼ 118 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/28 02:54:18 ID:mJUkENVE [9/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サンドパン 「さっぱーん!」 ドゴッ!

  ゲンガー 「んげがぁ!?」


地面タイプのサンドパンが、地中を掘り進むスピードは早い。

“エレキネット”は、ハッサムの足止めには十分すぎるほど時間を稼いでくれた。


  カムイ 「チッ! 流石に2回も舞われたら一撃か」

 
  スラン 「だらしないわねぇ! 行きなさいメタグロス!」

  メタグロス 「メタン」


 実況 『倒れたゲンガーに代わって、プエル学園、ここでメタグロスを投入だぁ!』



  ハジメ 「これで4対3。数の上では僕たちがリードだ」

  ヒトミ 「頑張ってー! ナツヤー! サトシー!」


確かに、数で言えば私たちが有利。

マリルリとゲンガーを一撃で倒して、バトルの流れは私たちに向いている。

けど、相手はメタグロス。体格差は大きいし、見るからに強そうな雰囲気。余裕は全く無い。


 ナツヤ 「このまま行くぞ! メタグロスに“あなをほる”!」

 サンドパン 「さぱぁ!」 ボコッ!


  スラン 「させないわよ! メタグロス“こうそくいどう”!」

  メタグロス 「メタン」 シュッ

  ソウヤ 「お前も“こうそくいどう”だ!」

  ハッサム 「はっ!」 シュッ


 ナツヤ 「なっ……2匹とも!?」

 サトシ 「落ち着け! 狙いを定めるんだ!」
 ▼ 119 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/28 02:55:49 ID:mJUkENVE [10/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

フィールドを、目にも とまらぬ速さで駆けまわるハッサムとメタグロス。

ただでさえ攻撃を当てるのが難しいのに、地面に潜っているサンドパンは、どうやって攻撃を当てろと言うのだろうか。


 サンドパン 「さぁん……っ!?」 スカッ

 ナツヤ 「ダメかっ……!」


地面から飛び出したサンドパンだけど、そこにメタグロスは居なかった。

その巨体からは想像出来ないような俊足で、サンドパンの攻撃を回避したのだ。


  スラン 「飛び出したとこは隙だらけっ。“しねんのずつき”!」

  ソウヤ 「ハッサムはピカチュウに“シザークロス”!」


敵2匹は、“こうそくいどう”によって素早さが上昇。

そのスピードのまま、サンドパンとピカチュウに攻撃を仕掛けてくる。


 ナツヤ 「ヤバッ……! 地面に逃げ込めサンドパン!」

 サンドパン 「っ!」

  ― ドゴッ!


 サトシ 「よけろピカチュウ!」

 ピカチュウ 「ぴっ……!」

  ― スカッ


 実況 『あぁ〜っとメタグロスの“しねんのずつき”が直撃っ! サンドパン耐えられなかったぁ!』


 ナツヤ 「よくやってくれた、サンドパン」


  スラン 「口ほどにもないわね」

  ソウヤ 「良いぞスラン。これで追いついたぜ」
 ▼ 120 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/28 02:57:32 ID:mJUkENVE [11/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

この一撃で、サンドパンは倒れてしまった。

元々能力の高いメタグロスが、“こうそくいどう”の勢いを利用して繰り出した“しねんのずつき”。

あんな鋼の塊に突撃されては、サンドパンは ひとたまりもなかったはずだ。


一方、ピカチュウはハッサムの攻撃を、しっかり避けていた。

ここはサトシ君とピカチュウ、ナツヤ君とサンドパンの経験の差が現れたんだと思う。



 ナツヤ 「悪ぃ。オレは ここまでだ」


待機スペースに戻って来たナツヤ君は、申し訳なさそうに言った。

これで私たちも残り3体。数の有利は、あっという間に無くなってしまった。


 ハジメ 「いや、ゲンガーを倒したのは大きいよ」

 ヒトミ 「そうだよ。ナイスファイト!」

 ミナミ 「残りは私とリーフね」

 リーフ 「向こうのポケモン、ハッサムとメタグロスと、まだ出てない もう1匹……」

 ナツヤ 「強いポケモンが控えてるんだろうな」

 ミナミ 「……よしっ。私、行ってくるわ」

 リーフ 「えっ、私が最後……!?」

 ミナミ 「えぇ。最後にサトシのサポート、しっかり頼むわよ!」

 ヒトミ 「そうだね。リーフとチーちゃんなら、サトシとピカチュウを上手くサポートできるよ!」

 ナツヤ 「……あー、うん。なるほど、そういうアレね」

 リーフ 「えっ、なにナツヤ君?」

 ナツヤ 「なんでもない」

 ミナミ 「ふふっ。さぁ、どうにかして有利にさせるわよ!」



ミナミちゃんが、フィールドに向かう。


私が最後のサトシ君のサポート役か……。

そんな大役、私に務まるのかな。

 ▼ 121 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/28 02:58:44 ID:mJUkENVE [12/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ミナミ 「お願いカメール! “あまごい”よ!」

 カメール 「かーめ!」 カッ

  ― ポツッ、ポツ、ポツポツ……ザァァァァァァァァァ!


 サトシ 「“あめうけざら”発動だな」

 ミナミ 「えぇ。それに、濡れてれば電気も通しやすいでしょ」

 サトシ 「サンキュー」


ミナミちゃんのカメールは、特性“あめうけざら”を持った珍しい個体。

雨が降っている間、少しずつ体力を回復できる。


  スラン 「メタグロス、もっと“こうそくいどう”よ!」

  メタグロス 「メタ!」 シュバッ!

  ミナミ 「まだスピード上げる気なの……!? カメール“アクアテール”よ!」

  カメール 「かめぇっ!」


メタグロスは“こうそくいどう”を追加して、さらに素早さを上げる。

ただでさえ強敵なメタグロス。これ以上スピードが上がったら、手が付けられなくなってしまう。


 ミナミ 「……当たらない」

 カメール 「っ!」

  スラン 「ふふっ。さらに“こうそくいどう”!」

  メタグロス 「メタ!」 シュババッ!


現にミナミちゃんとカメールは苦戦している。

ここから見ている私たちでさえ、メタグロスの動きを捉えるのは難しい。
 ▼ 122 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/28 03:00:03 ID:mJUkENVE [13/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

  ソウヤ 「ハッサム! ピカチュウに“つじぎり”!」

  ハッサム 「ハッ!」

 サトシ 「“アイアンテール”で向かい打て!」

 ピカチュウ 「ちゅぴっか!」


ピカチュウとハッサムの攻撃が ぶつかり合って、鈍い音が響き渡る。


  ソウヤ 「オレたちも“こうそくいどう”だ!」

  ハッサム 「サム!」 シュバッ!

 サトシ 「逃がすか! “でんこうせっか”!」

 ピカチュウ 「ぴっか!」 シュバッ!


“こうそくいどう”で素早く動くハッサムに対し、ピカチュウは“せんこうせっか”で後を追う。

ピカチュウの元からの素早さを活かせば、高速移動中のハッサムも射程圏内ということか。


ピカチュウはジリジリとハッサムとの距離を詰めていく。

 ▼ 123 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/28 03:02:12 ID:mJUkENVE [14/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

  ソウヤ 「……そこだ! 背後を取れ!」

  ハッサム 「!」 シュン

 サトシ 「なにっ!?」

 ピカチュウ 「ぴっ!?」


ハッサムが、羽を広げた。

空気抵抗を利用したのか、ハッサムは急減速。ピカチュウを やり過ごす形で、指示通りピカチュウの背後を取る。


  ソウヤ 「“シザークロス”!」

  ハッサム 「ハッ!」 ザシュッ!

 ピカチュウ 「びかぁっ……!」


“シザークロス”が、ピカチュウに命中。

ガラ空きの背後から、モロに直撃してしまった。


  ソウヤ 「畳みかけろ! 連続で“シザークロス”!」

  ハッサム 「ハァァァッ!」


 サトシ 「真上に“10まんボルト”!」

 ピカチュウ 「ぢゅうううぅぅぅぅぅ!」 バチバチバチッ!

 ソウヤ 「チッ! 止まれハッサム!」



隙だらけのピカチュウに集中砲火――かと思いきや、流石サトシ君、そんなことは許さなかった。


真上に“10まんボルト”、それは、ピカチュウ自身を守る電気の防御壁のような役割を果たしたようだ。

電気を纏ったピカチュウへの直接攻撃なんて自殺行為。ハッサムの攻撃を止めることに成功した。
 ▼ 124 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/28 03:04:24 ID:mJUkENVE [15/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 スラン 「メタグロス、“かみなりパンチ”で決めるわよ!」

 メタグロス 「メタガァ!」

 ミナミ 「避けてカメール! “こうそくスピン”で!」

 カメール 「かめめぇ!」 シュルッ!


ミナミちゃんの方に目を向けると、メタグロスの“かみなりパンチ”が、今まさにカメールに繰り出されるところだった。

“こうそくスピン”――、カメールは甲羅に身を隠し、水を噴射しながら高速回転して回避行動に出る。


 スラン 「甘いわよ! 追ってメタグロス!」

 メタグロス 「メタ!」 シュバッ!

 カメール 「!?」

 ミナミ 「うそっ……」

 スラン 「“こうそくいどう”3回をナメすぎよ! “かみなりパンチ”!」

 メタグロス 「タグァ!」 バキッ!

 カメール 「っめ……」


 実況 『あぁーっと! とうとうカメールも戦闘不能! レンジャースクール、残り2体です!』


  ミナミ 「……ごめん。強かったわ、あのメタグロス」

  ヒトミ 「頑張ったよミナミもカメールも! しっかり“アクアテール”当ててたし!」

  ナツヤ 「そうだぞ。ある程度“こうそくスピン”で対抗できたのも、特訓した お陰だな」


ミナミちゃんとカメールは、思った以上に善戦したようだ。

ダメだな私。無意識に、サトシ君とピカチュウのバトルばっかり見ていたようだ。
 ▼ 125 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/28 03:07:32 ID:mJUkENVE [16/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ミナミ 「頼んだわよリーフ」

 ヒトミ 「特訓を思いだして! リーフなら大丈夫!」

 ナツヤ 「サトシとピカチュウのサポート、任せたぞ!」

 ハジメ 「数の上では不利だけど、まだ負けるって決まった訳じゃないからね!」

 リーフ 「みんな……」


特訓を思いだして――か。


サトシ君と2人きりで特訓した日。

チーちゃんが、意外にもバトルで根性を発揮する性格だと知った。

チーちゃんが、私が思っていた以上に、バトルのセンスがあることを知った。


そんなチーちゃんの実力を、今、ここ、本番で、しっかり発揮させてあげるのが、私の役目だ。


 リーフ 「……うん。行ってくるね!」




待機スペースから、足を踏み出す。


歓声が降り注ぐ、バトルフィールドへ。



 サトシ 「オレたちで最後だ。リーフ、勝ってやろうぜ!」

 リーフ 「うん!」
 

隣には、サトシ君。

優しくて、ポケモン想いで、勇気のある、私の尊敬する人。

そんな彼の隣に、私は今、立っている。


私なんかが、サトシ君の隣に立つのに相応しいかは分からないけど。

でも私は、こうしてサトシ君の隣に立って、同じ目標のために、一緒に戦える……!。


 リーフ 「行っておいで、チーちゃん!」


 ▼ 126 プラス@キーのみ 21/08/28 08:49:38 ID:4aYQwCiQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 127 ワシ@デンキZ 21/08/29 09:47:39 ID:7VJ2l.fs NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
シエンネ
 ▼ 128 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/30 00:04:39 ID:tZGwW1vk [1/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



  ソウヤ 「ラストがピカチュウとチコリータとか」

  スラン 「笑っちゃうわね。さすがレンジャースクール」



チーちゃんを出すなり、向こうは余裕そうな表情を見せる。

心なしか、観客たちの盛り上がるも少ないような気が。


 サトシ 「やっぱ、決勝戦がピカチュウとチコリータって異質なんだろうな」

 リーフ 「そうだよね、やっぱり」

 サトシ 「でもオレたちは、このメンバーで決勝まで勝ち進んで来たんだ」

 リーフ 「うん。みんなで頑張った結果が、今この舞台だもんね」

 サトシ 「ハッサムもメタグロスも“こうそくいどう”を積んで、攻撃を当てにくい。厳しいバトルになるぞ」

 リーフ 「厳しい……か」

 サトシ 「不安か?」

 リーフ 「ちょっとだけ。でも……絶対勝てるよね?」

 サトシ 「あぁ! その意気なら勝てるさ!」


サトシ君は、こんな不利な状況でも、優勝する気でいる。諦めなんて全く感じられない。

だから――、だから私も、前向きに頑張れるんだよ、サトシ君。


 チコリータ 「ちこっ!」

 ピカチュウ 「ぴか、ぴかちゅう!」

 チコリータ 「ちこりっ!」


チーちゃんも、やる気だ。

チーちゃんも、勝てるって信じてるんだ。
 ▼ 129 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/30 00:05:12 ID:tZGwW1vk [2/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ― ザアアアァァァァァァァ……パラパラ……ポタッ、ポタッ



 サトシ 「“あまごい”終了か。チーちゃんには良いタイミグだな」

 リーフ 「うん。お日様が出てた方がチーちゃん嬉しいもんね」

 チコリータ 「ちこ♪」


  スラン 「呑気に お喋りしてる余裕あるのかしら? ピカチュウに“コメットパンチ”!」

  メタグロス 「メタッ」

  ソウヤ 「チコリータに“シザークロス”!」

  ハッサム 「ハァ!」


 サトシ 「“アイアンテール”で向かい打て!」

 ピカチュウ 「ちゅぴっか!」

 リーフ 「チーちゃん“あまいかおり”よ! それから避けて!」

 チコリータ 「ちこりぃ!」 フワッ


ハッサムは“こうそくいどう”の効果で、かなり素早くなっている。

けど“あまいかおり”を浴びたことで、少しだけ動きに遅れが生まれた。

虫タイプに甘い香りは効果覿面。チーちゃんはハッサムの動きを見て、しっかりと回避した。


 リーフ 「“はっぱカッター”!」

 チコリータ 「ちこっ! ちこぉ!」 バシュッ!

 ハッサム 「ハッ……」


“はっぱカッター”はハッサムに直撃。

甘い香りの効果は思った以上。虫タイプだから――と言うより、たまたま あのハッサムの好みの香りだったのかもしれない。
 ▼ 130 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/30 00:05:46 ID:tZGwW1vk [3/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

  ソウヤ 「調子乗ってんじゃねーぞ! もう1発“シザークロス”!」

 サトシ 「ハッサムに“10まんボルト”!」

 ピカチュウ 「ぴかぁぁぁちゅぅぅぅ!」


  ソウヤ 「ッ! 避けろハッサム!」

  ハッサム 「ハッサ……!?」 バチッ


完全にチーちゃんに気を取られていたハッサム。

隙を突くタイミングだったけど、ハッサムは咄嗟に回避、ピカチュウの電撃は かすめた だけだった。


  ソウヤ 「かすった だけなのに、そこそこのダメージだな……!」

  スラン 「あのピカチュウ侮れないわね。先に潰すわよ!」

  ソウヤ 「おう! ハッサム、“こうそくいどう”からの“シザークロス”!」

  ハッサム 「サム!」


また“こうそくいどう”。

今は まだ対応できてるけど、これ以上素早くさせる訳にはいかない。


 リーフ 「チーちゃん! “あまいかおり”で……」

  スラン 「アンタは引っ込んでて! メタグロス! チコリータに“しねんのずつき”!」

  メタグロス 「メタ!」

 リーフ 「あっ……来るよチーちゃん! “はっぱカッター”で向かい打って!」

 チコリータ 「ちこっ!」
 ▼ 131 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/30 00:06:57 ID:tZGwW1vk [4/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

メタグロスが突撃して来る。

ナツヤ君のサンドパンを一撃で倒してしまうほどの強敵。しかも“こうそくいどう”3回でスピードは最高潮。


 チコリータ 「ちこぉっ! ちこっ!」 シュバババッ!


避ける――という選択肢は、多分通用しないと思う。なら、威力を弱めるしかない。

チーちゃんの繰り出す“はっぱカッター”は、迫りくるメタグロスに直撃している。無数の葉は確実にメタグロスを傷付けている。


  スラン 「そんな攻撃で止められると思わないことね!」


けど、メタグロスは止まらない。

タイプ相性的にダメージは小さいんだろうけど、メタグロスは葉を振り払い、強引に突っ込んでくる。大量の葉がフィールドに散らばる。


 リーフ 「頑張ってチーちゃん!」

 チコリータ 「ちこりぃぃぃ!」


  スラン 「無駄よ! やりなさいメタグロス!」

  メタグロス 「メタン!」


  ― ドバキッ!


 チコリータ 「ぢこっ……」

 リーフ 「チーちゃんっ!?」



メタグロスの勢いを、止められなかった。


“しねんのずつき”はチーちゃんに直撃。

自分より遙かに大きい鋼の塊に激突されて、チーちゃんは弾き飛ばされる。

フィールドに打ち付けられ、転がって、フィールドの隅で、ようやく止まった。
 ▼ 132 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/30 00:07:53 ID:tZGwW1vk [5/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 リーフ 「大丈夫チーちゃん!? しっかりして!」

 チコリータ 「ち……こぉ……」


大ダメージだ。

傷だらけのチーちゃんを見れば、どれだけの衝撃だったのか、痛いほど分かる。


  スラン 「ふふっ。ザコが出しゃばる場面じゃないのよ。メタグロス、ハッサムに加勢よ! “コメットパンチ”!」

  メタグロス 「メタ!」


見ると、ピカチュウは“アイアンテール”で、ハッサムは“つじぎり”で真っ向勝負中。

鈍い音が響き、一歩も譲らない ぶつかり合いが繰り広げられていた。


メタグロスが、それに加勢に行く。倒れたチーちゃんは眼中に無い、と言わんばかりに。





 チコリータ 「っ……」 ヨロヨロ

 リーフ 「チーちゃんっ!」


けどチーちゃんは、立ち上がった。

ふらふらと、全身傷だらけで、ダウンしてもおかしくないのに。


 リーフ 「チーちゃん、よく頑張ったね。でももう……大丈夫だよ」

 チコリータ 「ちぃ……!」


歯を食いしばり、呼吸も荒く、足元も おぼつかない。

立っているのが精一杯、むしろ、立ち上がれたのが奇跡に近いほど、チーちゃんはボロボロだった。
 ▼ 133 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/30 00:09:01 ID:tZGwW1vk [6/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 リーフ 「戻って、チーちゃん。これ以上はダメ」

 チコリータ 「ちこっ……ちこっ!」 ブンブン


チーちゃんは首を振る。


 リーフ 「負けたくない気持ちは分かるよ。でも、もうダメ。決勝まで勝ち進めて、もうじゅうぶん。じゅうぶん頑張ったから、ね?」

 チコリータ 「ちぃ! ちこぉ!」 ブンブン


チーちゃんは、じゅうぶん頑張ってくれた。

第1試合と第3試合に出場して、“あまいかおり”と“はっぱカッター”で、相手をダウンさせた。

バトル経験がほとんど無かったチーちゃんは、レンジャースクールの進撃に、大きく貢献してくれたんだ。だからもう――。


 リーフ 「チーちゃん! これ以上無理しちゃダメ。私、チーちゃんのためを――」

 チコリータ 「ちこりぃ! ちこっ……グスッ、ちっこぉ!」 ポロポロ

 リーフ 「チーちゃん……」


チーちゃんは、泣いていた。


傷の痛さ?

ボロボロにされた悔しさ?


ううん、違う。

きっと、諦めたくないっていう意思の表れ。

まだ戦いたい。まだ戦わせてほしい。そんな必死の訴えだと思う。


 チコリータ 「ちこ!」


チーちゃんは、目線と頭の葉っぱをフィールドに向けて、訴える。

そこにはピカチュウの姿。

たった1匹で、ハッサムとメタグロスを相手している、サトシ君のピカチュウの姿。
 ▼ 134 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/30 00:09:41 ID:tZGwW1vk [7/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


  ソウヤ 「ほらどうした! 追いついてねーぞ!」

  スラン 「“コメットパンチ”撃ちまくって!」


 ピカチュウ 「ぴかっ……、ぴっ……!」

 サトシ 「負けるなピカチュウ! “10まんボルト”で薙ぎ払え!」

 ピカチュウ 「びかぁぁぁちゅぅぅぅぅぅ!」 バチバチバチッ!


  ソウヤ 「おっと避けろハッサム!」

  スラン 「メタグロスも!」


 サトシ 「クッ……! 当たらない……!」

 ピカチュウ 「ぴかぁ……!」



サトシ君とピカチュウは、苦戦していた。

強さは秘めているはずなのに、攻撃がなかなか当たらないようだ。

ハッサムもメタグロスも、分かってるだけで“こうそくいどう”を3回、手に負えない素早さ。

素早さはピカチュウも負けてないけど、2体を同時に相手する疲労からか、だんだんと動きが鈍っている。


 リーフ 「このままじゃ、流石のサトシ君とピカチュウでも……」

 チコリータ 「ちこぉ……!」
 ▼ 135 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/30 00:10:56 ID:tZGwW1vk [8/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

でも、この状況で、私たちが出来ることって……。


チーちゃんは諦めていない。私だって諦めたくない。

けど、サトシ君でも苦戦している相手に、私たちは、いったいどうやって加勢すればいいんだろう。


 リーフ 「どうすれば……」


私とサトシ君、チーちゃんとピカチュウの強さは、一目瞭然。

逆にそのお陰で、プエル学園の人たちは、チーちゃんをノーマーク。

“しねんのずつき”でダウンした、もしくは もう戦う力は残ってないと思い込んでいる。


そんなの――悔しいよ。

サトシ君とピカチュウの隣に立って、彼らと同じ舞台でバトルしているのに、私とチーちゃんは蚊帳の外だなんて――そんなの悔しすぎるよ。


でも、どうすれば――。



  『頼んだわよリーフ』

  『特訓を思いだして! リーフなら大丈夫!』

  『サトシとピカチュウのサポート、任せたぞ!』

  『数の上では不利だけど、まだ負けるって決まった訳じゃないからね!』



フィールドに立つ前、みんなが背中を押してくれた。

私とチーちゃんの活躍を期待して、暖かい言葉で送り出してくれた。


 リーフ 「特訓……、サトシ君との特訓……、思いだして、私っ……!」


特訓は、絶対に無駄じゃない。

サトシ君との特訓は、私とチーちゃんを大きく成長させてくれた。


なにか……、なにか無いの?

この状況をガラッと変える、なにか突破口は……!


 ▼ 136 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/30 00:12:39 ID:tZGwW1vk [9/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 チコリータ 「ちこりっ!」


と、チーちゃんが私を呼ぶ。


 リーフ 「チーちゃん?」

 チコリータ 「ちこっ……!」 シュルッ


そして、“つるのムチ”を出してみせる。



  つるのムチ――。


  特訓――。


  ピカチュウ――。



 リーフ 「……そっか。その手なら!」

 チコリータ 「ちこっ♪」

 リーフ 「でもっ……、それじゃあチーちゃんが……!」

 チコリータ 「ちーこ! ちこりっ!」 シュルッ

 リーフ 「覚悟……できてるんだね?」

 チコリータ 「ちこっ!」 フンス

 リーフ 「じゃあ、やろっか!」

 チコリータ 「ちこっ!」



正直言うと、こんな方法、気が進まない。


でも、この状況を打破するため。この勝負に勝つため。

そして、チーちゃんの決意と覚悟をカタチにするため!



私たちは、サトシ君とピカチュウを、全力でサポートする!


 ▼ 137 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/30 00:13:24 ID:tZGwW1vk [10/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 サトシ 「“でんこうせっか”!」

 ピカチュウ 「ちゅぴぃ!」


  スラン 「遅いわよ! 連続で“コメットパンチ”」

  メタグロス 「メタ!」

  ソウヤ 「“つじぎり”だ! 逃げ場を無くせ!」

  ハッサム 「サム!」


 ピカチュウ 「ぴかぁ……」

  メタグロス 「メッタング!」 ドバキッ!

 ピカチュウ 「びかっ……」

 サトシ 「あっ……ピカチュウ!?」

 ピカチュウ 「ぴっ……、かぁ……」 ヨロッ


フィールドでは、ピカチュウにメタグロスの“コメットパンチ”が直撃。

大きく弾き飛ばされたピカチュウは、なんとか立ち上がったけど、かなり体力を消耗していた。


  スラン 「ふふっ。そろそろ諦めたら〜?」

 サトシ 「誰が諦めるか!」

  ソウヤ 「勝ち目なんて ねーよ。そのピカチュウじゃ、もうオレたちのポケモンには追いつけない。これ以上は無駄だぜ?」

 サトシ 「オレたちは最後まで諦めない! ピカチュウ!」

 ピカチュウ 「びがぁ……!」 グッ





 リーフ 「今だよ、チーちゃん!」

 チコリータ 「ちこぉっ!」 シュルッ!


 ▼ 138 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/30 00:14:26 ID:tZGwW1vk [11/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

  スラン 「メタグロス、軽〜く避けて……って何アンタ!?」

  ソウヤ 「チコリータ!? こいつ、いつの間に!?」


油断大敵、だよ。

チーちゃんが繰り出した“つるのムチ”は、ハッサムとメタグロス、それぞれをギュッと締め付けることに成功した。


  スラン 「その程度の攻撃で調子乗らないで貰えるかしら!」

  ソウヤ 「振りほどけハッサム!」


ダメージなんて、ほとんど無いと思う。

でもこれは、攻撃が目的じゃない。

じゃあ何が目的かって? サトシ君なら、気付いてくれるよね?



 リーフ 「今よサトシ君っ!」

 サトシ 「えっ!?」

 チコリータ 「ちこー! ちこっ、ちこりー!」


 サトシ 「……ははっ。そうか! そういうことか!」


 リーフ 「うん! お願いっ!」

 チコリータ 「ちこっ……!」

 サトシ 「リーフ! チーちゃん! 2人の覚悟、しっかり貰ったぜ!」

 ピカチュウ 「ぴっかぁ!」


 サトシ 「行くぞピカチュウ! チーちゃんに“10まんボルト”!」

 ピカチュウ 「びぃぃぃぃぃかぁぁぁぁぁぁ……!」
 ▼ 139 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/30 00:15:31 ID:tZGwW1vk [12/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

そう、そうだよサトシ君。

2人での特訓がヒントになったんだ。


あの時――、チーちゃんがピカチュウを“つるのムチ”で捕まえて。

そしたらピカチュウ、そのまま“10まんボルト”を繰り出して、ツルを伝って、チーちゃんが電撃を浴びちゃって。



 ピカチュウ 「ぢゅうううううぅぅぅぅぅ!!!」 バリバリバリッ!

 チコリータ 「ぢぃっ……!」



それと同じ原理。

いくら素早い相手でも、いくら素早く動いていても、“繋がって”さえいれば、そんなの関係ない。

チーちゃんのツルは、ハッサムとメタグロスを、しっかりと捕えている。振り解かれないように、しっかりと。



  ハッサム 「ハッ……サァァァ……!?」

  メタグロス 「メダァァァァァ……!?」



だから、チーちゃんが電撃を浴びれば、その電撃は当然、2匹にも流れる。


  ソウヤ 「んな馬鹿な!?」

  スラン 「嘘でしょ!? 仲間を犠牲に……!?」



 リーフ 「犠牲? 違うよ。犠牲なんかじゃない!」


これは、チーちゃんの提案。

負けたくない、諦めたくないって言う、チーちゃんの強い想い。

自分をバカにするな、自分だってバトルで大きな役割を果たすんだぞって言う、チーちゃんの決意。

勝つために出来ること、勝つためにしなければならないこと、その唯一の方法を実行に移す、チーちゃんの覚悟。



 リーフ 「これは……私とチーちゃんの覚悟! あなたたちなんかに負けないって言う……、私たちの決意のカタチなんだから!」


 ▼ 140 エトル@とくせいカプセル 21/08/30 00:16:33 ID:uUVsqUzQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 141 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/30 00:17:12 ID:tZGwW1vk [13/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 ― バチバチッ……バリッ、ビシッ……



  チコリータ 「っ……」


  ハッサム 「ハッ……」


  メタグロス 「メ……ダ……」



 実況 『ハッサム、メタグロス、そしてチコリータ、戦闘不能! なんと……なんという戦法! チコリータの捨て身の覚悟は! プエル学園を残り1体に追い詰めたぁ!』


 ▼ 142 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/30 00:19:10 ID:tZGwW1vk [14/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 リーフ 「チーちゃんっ!」

 チコリータ 「ち、こ……」


私はチーちゃんに駆け寄って、抱きしめる。

ピカチュウの電撃の中継を無謀にも買って出たチーちゃんは、今までにないくらいボロボロで――。


今までにないくらい、輝いていた。



 リーフ 「頑張ったね……グスッ、ホントにっ、頑張ったね……」 ギュッ

 チコリータ 「ちこ、りっ……」 ニコッ

 サトシ 「チーちゃん、ありがとな」

 リーフ 「サトシ君……」

 サトシ 「やっぱりチーちゃんは根性あるよ。よくやってくれたな、チーちゃん」 ナデナデ

 チコリータ 「ちぃ……♪」

 サトシ 「ゆっくり休んでてくれよ。あとはオレに任せとけ」

 リーフ 「うん」


サトシ君に促され、私はチーちゃんを抱いて、待機スペースへと向かう。



 サトシ 「リーフとチーちゃんの覚悟、絶対に無駄にしないからな!」



 リーフ 「あっ……」


背中に受けた、サトシ君の声。

振り返ると、サトシ君は既にフィールドを見据えていた。


彼の堂々とした背中、逞しい背中は、あまりにも眩しくて、頼もしくて、格好良くて。


やっぱり私は、彼のことが――。




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