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【バレンタインSS】 水の都より、親愛なる貴方へ

 ▼ 1 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/11 01:50:19 ID:y5E2rKxA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 カノン 「行くよラティアス! “りゅうのはどう”!」

 ラティアス 「くぅぅぅぅぅ!」


ラティアスが放った“りゅうのはどう”は、彼女の3倍はある大きな岩を、木っ端微塵に粉砕した。

……うん。前よりも威力が上がっている。着実に強くなっている。


 カノン 「お疲れさまラティアス。今日は これくらいにしよっか」

 ラティアス 「くぅ♪」



人気(ひとけ)のない森の中で、今日も私たちはバトルの特訓をしていた。


ここはアルトマーレ……ではなく、アルトマーレから ずっと離れた、初めて訪れた街。その街の外れにある森。

人目につかないように。誰にもバレないように。



実は今、私とラティアスは、修行の旅の真っ最中だ。



 ▼ 24 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/12 02:39:39 ID:d6v6MZWY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



しばらく、無言の時間が続く。



うぅ……気まずいよ。恥ずかしくて、かける言葉が見つからない。

元はといえば、私が勝手にサトシ君に体を預けたのが いけなかったのに。


そんな私のことを、サトシ君は、ラティアスだと間違えて。

私はサトシ君に撫でられて、抱き寄せられて。

ほんの数秒だったけど、私とサトシ君は、こっ、恋人みたいなことを……///


ダメ。思い出しただけで顔が熱くなる。顔が赤くなってしまう。

とっても恥ずかしいことなのに、全然 嫌じゃなくて、むしろ、嬉しくて。



 サトシ 「特訓の続き、そろそろ始めるか?」

 カノン 「あっ……うん、そうだね!」


沈黙を打ち破ったのは、サトシ君のほう。

そうだよね。今はバトルの特訓中。そろそろ休憩は終わりだ。


 サトシ 「おーい! ピカチュウー!」

 カノン 「ラティアース! 始めるよー!」


場の雰囲気を変えないと。

お互い意識したままじゃ、余計に気まずくなってしまう。

私たちは特訓を再開して、恥ずかしさを振り払うことにした。



 ▼ 25 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:09:53 ID:FaN6pG3s [1/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


【 * 】



 サトシ 「ピカチュウ“アイアンテール”!」

 ピカチュウ 「ぴっか!」

 カノン 「避けてラティアス! 右よ!」

 ラティアス 「くぅん!」


休憩後も私たちは、実戦形式の特訓を続けている。

ピカチュウを相手に、ラティアスは素早さを活かして攻撃を回避。空を飛べる有利もあるけど、上手く流れを掴んでいる。


 カノン 「今よ! まわりこんで“ミストボール”!」

 ラティアス 「くわぁぁぁん!」

 サトシ 「“エレキネット”で受け止めろ!」

 ピカチュウ 「ちゅぴぃ!」

 カノン 「あっ……!?」


ラティアスが放った“ミストボール”。

ピカチュウの背後から打ち込む霧状の羽毛の砲弾――、命中すると思っていたのに、そう甘くは無かった。

ピカチュウは電気の網を作り出したかと思うと、背後から迫る“ミストボール”を包み込み、電気の力で消滅させてしまったのだ。


やっぱりサトシ君とピカチュウは凄い。

私たち素人の攻撃なんて、簡単に防いでしまう。
 ▼ 26 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:10:29 ID:FaN6pG3s [2/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サトシ 「今の“ミストボール”良かったぞ! あとちょっと反応が遅れたら喰らってたよ」

 ピカチュウ 「ぴぃか」

 カノン 「ありがとう。やっぱりサトシ君とピカチュウには敵わないなぁ」

 ラティアス 「くぅ……」

 サトシ 「ははっ。でもヒヤッとしたぜ? カノンが指示するタイミングも、それを聞いてラティアスが攻撃に移るスピードも凄かった! ホント、ギリギリ回避できたよ。な、ピカチュウ?」

 ピカチュウ 「ちゃぁ!」

 カノン 「ふふっ。サトシ君に――、WCSで優勝したサトシ君に褒めて貰えると、なんだか照れちゃうな ///」

 ラティアス 「くぅ♪」

 サトシ 「優勝って言っても、それがゴールじゃないよ。世界には、まだ戦ったことの無い強いトレーナーがたくさん居るんだ。そいつらに勝てる保証は無い。オレだって、まだまだ強くならなきゃ いけないんだ」

 カノン 「サトシ君、今でも十分強いのに……凄いね。上を目指す精神、本当に凄い」

 サトシ 「カノンもラティアスも、ちょっとの間で凄ぇ成長したと思うぜ? きっとこれから、もっともっと強くなれると思う。2人なら大丈夫さ、絶対に!」


サトシ君は、力を込めて言ってくれた。


強くなる――。

アルトマーレを護るため、秘密の庭を護るため、ラティアスたちを護るため。私は強くなりたいと思っていた。

でもその“強さ”は、正直言うと漠然としたもので、どれくらい強くなれば良いのか、どこがゴールか、私自身も分からなかった。


けど、サトシ君に特訓して貰って、少しだけ分かった気がする。


強くなることに、終わりは無い。みんなを護るためには、妥協なんて無い。

一族の使命を果たすためには、私自身が、日々、成長し続けなければならないんだ。サトシ君みたいに。



 サトシ 「じゃあ、そろそろ終わりに……」



  ― カシャッ!



 ピカチュウ 「びか!」

 ラティアス 「くぅぅ!?」
 ▼ 27 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:10:52 ID:FaN6pG3s [3/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 カノン 「えっ!?」

 サトシ 「どうした!?」


突然、ラティアスとピカチュウが“なにか”に反応した。

2匹とも同じ方向――、木々の間の茂みに目を向けて、警戒している。


 サトシ 「野生ポケモン……って訳じゃなさそうだな」

 カノン 「えっ……誰か居るの!?」


冷や汗が出る。

ラティアスの姿を、誰かに見られちゃったかもしれない……!



 *** 「バレちまったか」



最悪なことに、その予想は的中してしまった。

茂みから出てきたのは、20代後半くらいの男の人。その手には高そうなカメラが。


 サトシ 「カメラ……、そこで何してたんだ!?」

 *** 「まぁそう熱くならないで。俺、“週刊センテンスオータム”の記者 兼 カメラマン」

 カノン 「週刊誌の人……!」

 記者 「君は、WCSで優勝したサトシ君だね?」

 サトシ 「そうですけど」

 記者 「いま注目されてるサトシ君が、伝説のポケモン、ラティアスを使う少女と親しい仲にある――、すっごいネタだと思わないかい?」

 カノン 「待ってください! ラティアスのことは……」

 サトシ 「ふざけるな!」


慌てる私より早く、大きく、サトシ君が叫ぶ。


 サトシ 「ラティアスは週刊誌のネタにするようなポケモンじゃない! 今すぐ写真を消してください!」

 カノン 「そうなんです! この子はそんな……週刊誌に載せていい子じゃないんです! お願いします!」
 ▼ 28 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:11:25 ID:FaN6pG3s [4/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ラティアスのことを、週刊誌に載せる?

そんなこと絶対にダメ。

アルトマーレの伝説がバレちゃうってこともあるけど、アルトマーレの護神として頑張ってるラティアスを、週刊誌のネタ扱いにされるなんて、絶対に許せない。


 記者 「そっちの お嬢ちゃん。“週刊誌に載せていい子じゃない”って、まるでこのラティアスが、なにか特別な存在みたいな言い方だね?」

 カノン 「っ……それは!」

 記者 「お嬢ちゃん、ラティアスと どういう関係なの? どうして伝説のポケモンと一緒に居るの?」


サトシ君と違って、私は抵抗が弱いと判断されちゃったのか、記者の人はグイグイと踏み込んでくる。


 サトシ 「カノン、何も答える必要ないぞ!」

 カノン 「うん……」

 記者 「俺は お嬢ちゃんと話をしてるんだ。別に悪い記事を書くつもりなんて無いよ」

 サトシ 「信用できるか!」

 ピカチュウ 「びかぢゅぅ!」

 記者 「ホントだって。そだなぁ……“WCS優勝者は一味違う。彼女はラティアスのトレーナー!?”なんてどうだい?」

 カノン 「かっ、彼女なんて……違います! 私とサトシ君は普通の友達で」

 記者 「普通の友達だとしてもね。少女がラティアスを持っている――、それだけでビッグなネタなんだよ」

 カノン 「そんなっ……!」

 サトシ 「いい加減にしろ! オレもカノンも! 週刊誌に出るつもりは無い!」

 記者 「頼むよ。出演料は弾むし、サトシ君、もっと名を売るチャンスだよ。お嬢ちゃん……カノンちゃんって言うの? 有名になれるんだよ?」

 サトシ 「ぁっ!? ごめん、名前っ……!」

 カノン 「大丈夫。気にしないで」


私の名前、知られちゃった――。

でも、サトシ君だって知られてるんだから、私だけ隠し通すなんて真似は出来ない。
 ▼ 29 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:12:02 ID:FaN6pG3s [5/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 記者 「カノンちゃん。ラティアスとの関係とか、出会いとか、そういうのを取材させて貰えないかな? 出来ればシリーズものとして。人気注目間違い無しだよ!」

 カノン 「お断りします。私もラティアスも、有名になりたくないです。お金の問題じゃありません!」



私はハッキリと言い放った。

ここでオドオドしちゃったら、勢いで丸め込まれてしまう恐れがある。

サトシ君みたいに、ハッキリと、堂々と、駄目なことは駄目だと意思表示する。



……けど、内心は怖い。怖いの。



力を抜いたら、全身が震えだしそうなほど。



ラティアスのことが世間に知られたら、きっとアルトマーレの伝説のことも、秘密の庭のことも、全て暴かれてしまう。

そんなことになったら、私は ご先祖様に顔向けできない。今まで一族で代々護ってきたことが、私のせいで、取り返しのつかないことになってしまう。



怖い……そんなの、怖いよ……。



 ▼ 30 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:12:36 ID:FaN6pG3s [6/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 記者 「そっか……残念だよ」


 サトシ 「分かって貰えましたか」

 カノン 「良かった……」


 記者 「せっかく出演料と、有名になれるチャンスなのにね。これはインタビューなしのスクープ記事にさせて貰うよ」


 カノン 「えっ!?」

 サトシ 「だからダメだって言ってるだろ!」

 記者 「こんな美味しいネタを みすみす 没にする訳ないだろ? あーあ。取材を受けてくれれば、きちんと正確な記事を書くんだけどね〜」

 サトシ 「“正確な”って……、お前! デタラメな記事にする気なのか!?」

 カノン 「やめて下さい! 本当にっ……訴えますよ!」

 記者 「週刊誌なんで訴えられてナンボだよ。ま、もし訴えるなら“どこが事実と反するのか”を示す必要がある。カノンちゃんとラティアスの関係が、どのみち明らかになっちゃうね」

 カノン 「そんなっ……」

 サトシ 「卑怯だぞ!」

 記者 「卑怯で結構。それがジャーナリズムさ」


どうしよう。この記者の人、本気だ。

私のこと、ラティアスのこと、そしてサトシ君のこと。スクープとして書かれてしまったら、アルトマーレに繋がるのも時間の問題だ。

とにかく、なんとかしてスクープを諦めて貰わないと……!



 記者 「出てこいコータス! “えんまく”だ!」

 コータス 「コォォォォ!」 ボフッ!


 サトシ 「なっ!?」

 カノン 「きゃっ!?」


突然コータスが繰り出されたかと思うと、記者の人は“えんまく”を指示。

黒い煙が森の中に充満し、私たちの視界が奪われてしまう。
 ▼ 31 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:13:02 ID:FaN6pG3s [7/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サトシ 「ラティアス! 羽ばたいてくれ! 羽ばたいて煙を吹き飛ばすんだ!」

 ラティアス 「くぅぅぅぅ!」 バサッ!


ラティアスのおかげで、すぐに煙幕は晴れた。

ものの30秒くらいだった思うけど……、そこに、記者の人の姿は無かった。



 サトシ 「クソッ! やられた!」

 カノン 「どうしよう……、このままじゃ……!」

 サトシ 「落ち着けカノン。とにかく手分けして探そう! まだ遠くに行ってないはずだ」

 カノン 「……うん! じゃあ私は向こうを!」

 サトシ 「オレは あっちを!」



ダメ、焦っちゃダメ。


また私、オドオドしてサトシ君に頼り切っちゃうつもり?


ダメ、しっかりしないと。私とラティアスの問題なんだから!




 ▼ 32 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:13:44 ID:FaN6pG3s [8/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


【 * 】



 カノン 「はぁっ、はぁっ、どこに行ったの……」

 ラティアス 「くぅ……」


森の中を走る。記者の人を探しながら。


煙幕に視界を塞がれたのは、ものの30秒。そんなに遠くには行っていないはず。

けれど、記者の人も、その煙幕で逃げ切れるとは思っていないはずだ。だとすれば、森の中の どこかに隠れていて、時間を見計らって街に出て行く可能性が高い。


 カノン 「絶対に止めないと。ラティアス、大丈夫だからね!」

 ラティアス 「くぅん!」


ラティアスは、私の大切な親友だ。

お兄さんのラティオスを失って、でも水の都の護神として、辛いはずだけど立ち直って、そして今、一緒に強くなろうとしている。


そんなラティアスを週刊誌のネタにされるなんて、絶対に許せない。

何も知らないクセに、ラティアスの気持ちを踏みにじるようなこと……!





 「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!」





 ▼ 33 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:14:39 ID:FaN6pG3s [9/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

突如、森に響き渡る、男の人の悲鳴。


 カノン 「今の声!」

 ラティアス 「くぅ!」

 カノン 「あっちの方から!」



私たちは、悲鳴が聞こえた方に急ぐ。

今のは間違いなく、記者の人の声。いい大人が悲鳴を上げるなんて、只事じゃない。



走っていると、木々が少なくなり、視界が開けた場所に出た。



そこに あったのは、大きな川。


そして川岸には、記者の人と、倒れているコータス。


そんな彼らを、デルビルの群れが囲んでいた。



 カノン (襲われてる……!?)



デルビルは、ざっと数えて10匹くらい。

まわりをよく見ると、少し離れたところに、ひときわ大きいポケモン――ヘルガーが佇んでいた。

多分、あのヘルガーが群れのリーダー。リーダーの指示の元、記者の人が襲われているようだ。
 ▼ 34 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:15:19 ID:FaN6pG3s [10/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 記者 「クッ……! どっか行け! 来るな!」


記者の人……、ヘルガーたちの縄張りに入っちゃったのかも。

コータスで応戦したんだろうけど、この数のデルビルに、太刀打ちできなかったようだ。


 デルビル 「ガウァァァ!」 バッ!


すると、1匹のデルビルが、記者の人に飛びかかった。


 カノン (危ないっ!)


  ― ガシャン!


 記者 「うわカメラがっ!?」


記者の人は なんとか避けたけど、デルビルの鋭い牙、炎を纏ったが、あの高そうなカメラに直撃。

カメラは粉砕され、その破片も熱で焦げて黒煙を上げている。


 ヘルガー 「グオオオォォォォォ!」


ヘルガーが雄叫びを上げる。


 デルビル群 「「「 ガウゥゥゥ!!! 」」」


それが合図だったのか、デルビルたちが一斉に飛びかかる。

コータスは戦闘不能。生身の人間である記者の人に、デルビルたちは、炎の牙を向けて。





 カノン 「ラティアスお願い! “りゅうのはどう”よ!」

 ラティアス 「くうううぅぅぅぅぅ!」


 ▼ 35 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:16:27 ID:FaN6pG3s [11/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 デルビル群 「「「 ガゥ!? 」」」

 ヘルガー 「グワゥ! グルルルル!」


デルビルたちの動きを止めることには成功した。

けど、私とラティアスの存在が、群れに気付かれてしまった。



 記者 「お前っ……!」


 カノン 「大丈夫ですか!?」

 ラティアス 「くぅぅ?」


私は急いで、ヘルガーの群れと、記者の人との間に割って入る。


 記者 「バカ野郎! お前まで襲われるぞ!?」

 カノン 「隙を見て逃げましょう」

 記者 「そんなのっ……無理だ。ヘルガーの群れ……、この数! 逃げられる訳がないっ……」

 カノン 「戦うしかない、ってことですね」

 ラティアス 「くぅん!」

 記者 「無理だ……、それこそ無理だよ……。俺たちっ、ここで終わりなんだ……」



記者の人は、さっきとは打って変わって弱々しく、情けなく項垂れる。


確かに、この数のデルビルと、リーダーのヘルガーを相手にするのは無茶かもしれない。


でも、目の前で人が襲われているのを見て見ぬふりなんて出来ない。

それが、どんな相手であっても。
 ▼ 36 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:17:03 ID:FaN6pG3s [12/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ヘルガー 「バウァァァ!」

 デルビル群 「「「 ガウゥゥゥ!!! 」」」


ヘルガーの合図で、デルビルたちが飛びかかる。ラティアス目がけて。


 カノン 「ラティアス! サトシ君との特訓の成果、ここで試す時だよ!」

 ラティアス 「くぅ!」

 カノン 「飛んで! 上から“りゅうのはどう”!」

 ラティアス 「くうううぅぅぅ!」


いきなり実戦、しかも群れを相手に。

落ち着いて。私の指示が、ラティアスの力を引き出すんだから。


ラティアスの“りゅうのはどう”は、デルビル3匹に直撃した。

けど、残り7匹は無傷。


 ヘルガー 「グワゥ! グァァァ!」

 デルビル群 「「「 ガゥ!!! 」」」
 ▼ 37 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:17:51 ID:FaN6pG3s [13/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ヘルガーが吠えると、デルビルたちはフォーメーションを変える。上空のラティアスを取り囲むような体制を取る。

リーダーは司令塔。ヘルガーは、自らは動かず、デルビルたちにラティアスを仕留めさせるつもりらしい。


 デルビル群 「「「 ガアアァァァァァ!!! 」」」


10匹のデルビルたちから、一斉に“かえんほうしゃ”が放たれた。

個々の威力は大きくないけど、10本の火柱が重なり、合わさり、大きな火炎となって上空のラティアスに迫る。


 カノン 「避けて! 右よ!」

 ラティアス 「くぅん!」


ラティアスは火柱を回避。


 ヘルガー 「ガウァ!」

 デルビル群 「「「 ガウァ!!! 」」」


すぐにヘルガーも指示を出す。

デルビルたちは、“かえんほうしゃ”を放ったまま、1匹1匹が細かく移動を開始。

すると、合わさる火柱も細かく変化する。

まるで大蛇のように、火柱が意思を持っているかの如く、ラティアスを捕らえようと動き乱れるのだ。


 ラティアス 「くんっ……」

 カノン 「っ……!」


いくら素早いラティアスでも、予測できない動きに反応し続けるのは難しい。

しかもそれは、合わさった10本の“かえんほうしゃ”。物凄い熱気のせいで、かすめただけでも傷を負ってしまう。


こんなに統制の取れた群れ……、あのヘルガー、かなりのレベルってことだ。

鳴き声一つで、デルビルたちが繰り出す火柱を操るなんて――!
 ▼ 38 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:18:49 ID:FaN6pG3s [14/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 カノン 「……そっか! ラティアス急降下よ!」

 ラティアス 「くぅ!」


火柱は、上に向かう。

飛んでいるラティアスには、まさに もってこいの攻撃方法だ。


 カノン 「地面ギリギリを滑空して!」

 ラティアス 「くぅぅぅぅ!」


なら、下はガラ空きだ。

ラティアス持ち前の素早さを活かして、ヘルガーが次の指示を出す前に攻撃する!


 カノン 「“ミストボール”!」

 ラティアス 「くわぁぁぁぁぁん!」


ラティアスは地面ギリギリを、デルビルたちを取り囲むように滑空する。スピードで翻弄する。

その体勢のまま、羽毛の弾丸を発射した。



 記者 「馬鹿ダメだ!」



 カノン 「えっ!?」


“ミストボール”は、デルビルたちに直撃した。確かに直撃した。

なのに、ダメージを、受けていない……?


 ラティアス 「くぅぅ?」


 記者 「悪タイプにエスパーは効かないぞ!」

 カノン 「ぁっ……そんなっ!」


タイプ相性――。

そんな基本的なことを、忘れていたなんて。

こういうところで、自分がバトル素人だと痛感してしまう。
 ▼ 39 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:19:52 ID:FaN6pG3s [15/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ヘルガー 「ウガアァァァ!」

 デルビル 「「「 バウ! 」」」」 ボフッ!


こちらの一瞬の隙を、見逃しては くれなかった。


ヘルガーの指示を受けて、デルビル3匹が、紫色の霧を広範囲に噴射する。

どくガス? スモッグ? えんまく? くろいきり?

分からない。なんなのかは分からないけど、低空飛行していたラティアスが、その霧に捕らわれてしまう。


 ヘルガー 「ウガゥァ!」

 デルビル群 「「「 ガゥゥゥゥゥ!!! 」」」


そして、残りのデルビルたちが、一斉に“かえんほうしゃ”を放ったのだ。





 爆 発 。





炎が霧に引火して、大爆発を引き起こしたのだ。


 カノン 「きゃっ!? ぁっ……ラティアス!?」

 ラティアス 「くぁっ……」


うそっ……ラティアス!?

酷いっ、こんな攻撃っ……、爆発に巻き込ませるなんて……。


爆風に吹き飛ばされたラティアスは、ボロボロな体になって、川の中に落下した。
 ▼ 40 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:20:30 ID:FaN6pG3s [16/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 記者 「ぅぁ……ダメだったか」


 カノン 「いいえ。ダメなんかじゃない!」


そのショッキングな光景は、目を背けたくなるようなものだったけれど。

川に落ちる瞬間、ボロボロのラティアスの瞳には、まだ闘志が宿っていたことを、私は見逃さなかった。



 カノン 「頑張ってラティアス! “ダイビング”!」



 ラティアス 「ぐぅぅぅぅぅぅ!」 ザッパーン!

 デルビル 「ゥガッ!?」


“ダイビング”。

アルトマーレの水路に潜って遊んでいたラティアスには、うってつけのワザだ。

しかも水タイプ。炎タイプのデルビルに効果は抜群。


 カノン 「やった!」

 ラティアス 「くぅっ……!」


この一撃で、デルビルを1匹、倒すことに成功した。

まだ9匹も残っているし、リーダーのヘルガーも居るけど、これは大きな大きな一歩だ。


 ヘルガー 「グルッ……!」


悔しそうな表情を見せるヘルガー。

このチャンスを逃さない。この勢いを途切れさせない!
 ▼ 41 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:22:10 ID:FaN6pG3s [17/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 カノン 「ラティアス! ヘルガーに急接近!」

 ラティアス 「くわん!」 シュッ!


今この状況、攻略法があるとすれば、ただ一つ!


 カノン 「ヘルガーに“てんしのキッス”!」

 ラティアス 「くぅ……きゅん♪」


 ヘルガー 「ガハッ!?」 クラクラ


“てんしのキッス”は、相手を混乱状態にするワザ。

司令塔のヘルガーを混乱させてしまえば――。


 デルビル群 「「「 ガゥ??? 」」」 オロオロ


予想的中、デルビルたちの統制が乱れた。

このチャンス、絶対に逃さない!


 カノン 「ラティアス! 連続で“ダイビング”よ!」

 ラティアス 「くぅぅぅぅ!」 ザブン!


サトシ君との特訓のおかげで、ラティアスは、バトルの運びを理解できたようだ。

頑張って強化しつつあるラティアスの攻撃。デルビルに効果抜群の“ダイビング”。

川に潜っては突っ込み、突っ込んでは潜り、どんどんデルビルを倒していく。



 ヘルガー 「ガゥゥ……」 フラフラ



ヘルガーの混乱は まだ解けない。

倒したデルビルは4匹……、あ、いま5匹目。


 カノン 「良いよラティアス! その調子!」


このまま“ダイビング”で攻め続けて、極力、群れの数を減らす。

そうすれば、ラティアスの素早さを活かして、ヘルガーに攻撃を与えるチャンスが……。

 ▼ 42 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:23:00 ID:FaN6pG3s [18/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ヘルガー 「バウゥァァァァァ!」 ガシッ!

 ラティアス 「くぅ!?」



 カノン 「えっ!? ラティアス!?」



このまま有利に進む――そう思った矢先だった。

突然ヘルガーが大きくジャンプしたかと思うと、川に戻ろうとしたラティアスに飛びかかり、首根っこを掴んだのだ。


 ラティアス 「くぅぅ……!?」 ドサッ!

 カノン 「あぁっ!?」


そのままラティアスは、地面に叩きつけられてしまう。

ヘルガーは、ラティアスの翼を踏みつけ、飛べないように押さえつけている。その行動に、混乱した様子は無い。


 カノン 「まさか……」


まさかヘルガー、混乱の“ふり”をしてたんじゃ……。

私たちを油断させて、ラティアスに飛びかかる瞬間を、ずっと狙ってたんじゃ……。



 ヘルガー 「ガァァァァァ……」



ヘルガーの口元に、炎が生成される。

ダメ、このままじゃ……!
 ▼ 43 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:24:04 ID:FaN6pG3s [19/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 カノン 「逃げてラティアス! 逃げてぇ!」



ラティアスは力一杯もがいているようだけど、さっきの爆発で受けたダメージに加え、翼を踏みつけられている状態。

逃げることは、出来なかった。



 ヘルガー 「グワォォォァァァァァァァァッ!!!」



ヘルガーが雄叫びを上げる。

それと同時に、生成した炎を解放する。


爆発のような勢い。ラティアスを閉じ込めるような火柱が突き上がる。



 ラティアス 「くぁっ……ぐぅぅぅぅぅ!?」


 カノン 「ぁぁっ……ラティアス!?」

 ▼ 44 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:25:32 ID:FaN6pG3s [20/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

“かえんほうしゃ”ではない。


それとは比べものにならない威力。ここまで伝わってくる熱気。爆発的に燃え上がる炎。


ゼロ距離で放たれて、苦しむラティアスの悲鳴……。



 カノン 「やだっ……やめてぇぇぇぇっ!」

 記者 「おい待て! 死ぬぞ!」 ガシッ!

 カノン 「離してっ! ラティアスがっ……グスッ、ラティアスが!」


ラティアスの元に駆け寄ろうとした私を、記者の人が制止する。


 記者 「馬鹿野郎! あの“れんごく”に生身で突っ込んで生きてられると思ってんのか!?」

 カノン 「でもっ! でもラティアスが! ラティアスがぁぁぁ!」



苦しむラティアスを目の前にして、私は何も出来ない。


痛いよね。熱いよね。苦しいよね。

今すぐ助けてあげたいのにっ……私は! 私は、何もっ……!







 サトシ 「ピカチュウ! “アイアンテール”!」

 ピカチュウ 「ちゅぴっかぁ!」


  ― バキッ!


 ヘルガー 「ゥガッ!?」


 ▼ 45 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:26:07 ID:FaN6pG3s [21/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 カノン 「ぁっ……」


ピカチュウの放った“アイアンテール”が、ラティアスに馬乗りになるヘルガーを弾き飛ばす。

炎は立ち消え、ラティアスは苦しみから解放された。



 サトシ 「待たせたなカノン! やっと見つけたぜ!」



 カノン 「グスッ、サトシ君っ……!」



颯爽と現れたサトシ君に、私の心は安堵で満たされる。


あの時と同じ。

大聖堂でアリアドスの糸に縛られて、苦しむラティオスを助けることも出来ず、ただただ怯えていた時――。

駆けつけてくれたサトシ君は、本当に逞しくて、格好良くて。



その気持ちが今、再び――。


 ▼ 46 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:27:15 ID:FaN6pG3s [22/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サトシ 「カノン! ラティアスの回復を!」

 カノン 「うん!」


私はバッグから傷薬を取り出して、ラティアスに駆け寄った。


 ラティアス 「く、ぅぅ……」

 カノン 「ラティアスっ……、もう、大丈夫だからね」


幸い、炎ワザはラティアスに対して効果今ひとつ。

体はボロボロだけど、意識はあるし、私の呼びかけにも反応してくれる。多分、大丈夫だ。



 サトシ 「行くぜルカリオ! ネギガナイト!」


サトシ君は、さらにルカリオとネギガナイトを繰り出した。

WCS決勝戦でも活躍した、テレビで見たサトシ君のポケモンたちだ。


 サトシ 「ピカチュウは“10まんボルト”! ルカリオは“はどうだん”! ネギガナイトは“スターアサルト”!」

 ピカチュウ 「びぃがぁぁぁぢゅぅぅぅぅぅ!」

 ルカリオ 「がぅぁぁぁぁぁ!」

 ネギガナイト 「がっしゅ!」





瞬殺だった。





いまの3匹の攻撃で、ヘルガーと残りのデルビル、全員まとめて蹴散らしてしまった。

私とラティアスが苦戦していた相手を、ほんの一瞬で。


やっぱりサトシ君は凄い。

凄いなんてものじゃない。格が違いすぎる。


私の憧れの人は、私とじゃ釣り合わないくらい、次元の違う強さを持っているのだ……。


 ▼ 47 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:28:38 ID:FaN6pG3s [23/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





 ラティアス 「くぅ〜」

 サトシ 「良かった。ラティアス、ひとまず大丈夫そうだな」

 カノン 「うん。頑張ったねラティアス」 ナデナデ

 ラティアス 「く〜」


少し休むと、ラティアスは元気を取り戻した。

痛々しい傷が残るけど、笑顔を見せてくれるし、もう大丈夫だ。



 記者 「なんで助けたんだよ」

 カノン 「えっ?」


突然、声をかけられる。


 記者 「俺が死ねば、スクープ記事が出ることも無かっただろ?」


確かに、その通りだ。

勝手に写真を撮って、インタビューを拒否したらスクープにすると言って、正直、自業自得もいいところ。でも――。


 カノン 「ラティアスは――、私たちは、誰かを“護る”存在なんです。どんな人であれ、見殺しには出来ません」

 ラティアス 「くぅん」


多くは語らない。語るつもりは無い。

私とラティアスは、記者の人を真っ直ぐ見つめて、ただそれだけ、言った。



 記者 「……そうかよ。あーあ! カメラが壊されちゃ、記事なんて書けねーぜ畜生!」



それだけ言うと、記者の人は、街の方へ歩き出した。

振り返ることなく。ゆっくりと。かったるそうに。



 ▼ 48 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:29:20 ID:FaN6pG3s [24/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 サトシ「記事は書かない、ってことだよな」

 カノン「うん。私は そう信じる」

 サトシ 「そっか」



 カノン 「はぁぁ……」 ヘナッ



記者の人の姿が見えなくなると、私は その場に座り込んでしまった。

“緊張の糸が切れる”って、こういうことを言うんだろうな。安心のあまり、体から力がフッと抜けてしまって、立ち上がることができない。


 サトシ 「大丈夫か!? もしかして怪我とか……」

 カノン 「ううん、大丈夫。なんだか疲れちゃって……」

 サトシ 「そっか。そうだよな。バトル経験なんて無いのに、あの数のデルビルとヘルガーを相手にしたんだもんな。ラティアスも偉かったぞ」

 ラティアス 「くぅん♪」


結果的に、この問題は上手く解決することができた。

でも、もしヘルガーたちの数がもっと多かったら。もしラティアスが倒されちゃってたら。もしサトシ君の助けが来なかったら。


そう思うと、今になって……。


 カノン 「怖かった……」

 サトシ 「カノン?」

 カノン 「本当にっ……グスッ、怖くてっ……、サトシ君が来てくれてっ、グスッ、本当にっ、安心してっ……」

 ▼ 49 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:30:19 ID:FaN6pG3s [25/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サトシ 「よく頑張ったな、カノン」

 カノン 「んっ……グスッ、ごめんなさい。ダメだよね私、強くならなきゃって、決めたのに……」

 サトシ 「なに言ってんだよ。カノンは強いよ、十分」

 カノン 「そんなこと……」

 サトシ 「ラティアスと2人だけで、あの数のヘルガーとデルビルの群れに立ち向かったんだぞ? 普通のトレーナーだって焦るような場面だぜ?」

 カノン 「それは私、無我夢中で……。それに、サトシ君が来てくれなかったら、今頃どうなっていたか……」

 サトシ 「カノン。“強さ”ってさ、バトルが強いだけじゃないと思うんだ」

 カノン 「えっ?」

 サトシ 「怖い相手に立ち向かう勇気もそうだし、誰かを助けたいって気持ちもそう。それに、アルトマーレを護りたいって強い意志もな!」

 カノン 「ぁっ……」

 サトシ 「カノンは強いんだよ。自分では気付いてないだけで、なんて言うか……精神的な強さ! オレだって見習いたいくらい、精神的な強さを持ってると思うぜ」 ニコッ

 カノン 「っ……///」 ドキッ

 ラティアス 「くぅぅ〜♪」

 サトシ 「ほら。ラティアスも、カノンは強いってさ!」


サトシ君みたいな凄い人に褒められるなんて、なんだか くすぐったい気持ちだ。

私に向けてくれた眩しい笑顔に、思わずドキッとしてしまう。嬉しくて、暖かくて、恥ずかしくて。


 カノン 「ありがとう……」


漠然とした、強くなりたいという気持ち。

でも私は、既に強さを手に入れていた――。サトシ君は、そのことを気付かせてくれた。


 カノン 「強さって言っても、なんて言うんだろう……、今みたいな危ない場面で、火事場の馬鹿力って言うか、本当に、咄嗟に出た行動だったけど……」

 サトシ 「なら、その強さは本物だよ。咄嗟の時こそ、本来の力が試されるんだからなっ」

 カノン 「ふふっ、そうかなっ」

 ▼ 50 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:30:58 ID:FaN6pG3s [26/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



私の力は本物――。


自分では全然自覚は無いけれど、サトシ君が言うのなら、間違いないんだと思う。



ねぇサトシ君。


貴方は私の憧れなの。


あの時、何も出来なかった私の代わりに、ラティオスを助けようとしてくれて。アルトマーレのために奮闘してくれて。


そんな貴方に、私の強さを認めてもらえて――、本当に、本当に嬉しいよ。


 ▼ 51 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:32:03 ID:FaN6pG3s [27/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サトシ 「帰ろうぜ、ポケモンセンターへ。ラティアスを回復してあげないとな」

 ラティアス 「くぅ」

 カノン 「そうだね。アリアお姉さんにも、きちんと説明しないとな……」


 サトシ 「ほら、立てるか?」 スッ

 カノン 「ぁっ……///」


いまだ座り込んでいる私に、サトシ君は、手を差し伸べてくれた。


そんな彼の手に、私は、ちょっと躊躇いながらも、そっと触れる。


 サトシ 「ほら」 ギュッ……グィッ


サトシ君は、私を軽々と、立ち上がらせてくれた。


男の子の手を握るなんて、これが初めて。

サトシ君の手は、大きくて、ガッシリしてて、温かくて。


 カノン 「ありがとう……///」 ギュッ


私は、サトシ君の手を握り返す。

同年代の、異性の手。私の憧れの人の、優しい手。


 サトシ 「ゆっくりで良いからな」 ギュッ

 カノン 「うん」 ギュッ



サトシ君にエスコートされて、私たちは、ポケモンセンターへと向かった。


手を繋いだまま。まるで、お付き合いしているかのように。


誰かに見られるのは ちょっと恥ずかしいけど、私は今、最高に幸せな気分。




ポケモンセンターへの道のりが、もっと、もっと遠ければ良いのにな。




 ▼ 52 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:33:02 ID:FaN6pG3s [28/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



ポケモンセンターに着いて、アリアお姉さんに、ことの あらましを話した。

ビックリしてたけど、週刊誌に書かれる心配は無いので安堵していた。



ラティアスは、念のためジョーイさんに看てもらうことになった。

激しいバトルを繰り広げた以上、アリアお姉さんの健康チェックレベルで済ませる訳にはいかないらしい。

くれぐれも内密にと言うことで、ジョーイさんは最大限、私たちに協力してくれた。これで一安心だ。





夕食は、アリアお姉さんが ご馳走してくれた。



美味しいご飯を食べながら、サトシ君は旅の話、WCSの話を聞かせてくれた。

ポケモン好きなサトシ君らしく、とっても活き活きと、目を輝かせながら、いろんな話を聞かせてくれた。



こんなにも純粋なサトシ君。ラティアスが気に入った訳だよね。



私も同じ。

どんどんサトシ君に惹かれてしまう。

サトシ君を想う心が膨らんでいってしまう。





もう明日、お別れなのに――。





 ▼ 53 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:34:06 ID:FaN6pG3s [29/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


【 * 】



時間が経つのは あっという間だ。



翌日――。



もう間もなく、お別れの時。

サトシ君は駅のホームまで、私たちを見送りに来てくれた。



 アリア 「じゃあねサトシ君。この先の旅も気をつけて」

 サトシ 「はい。ありがとうございます」

 カノン 「サトシ君。短い時間だったけど、本当にありがとう」

 サトシ 「なに言ってんだよ。オレは何もしてないぜ?」

 カノン 「ううん。私もラティアスも、サトシ君に勇気を貰った……。すっごく嬉しかった」

 サトシ 「そっか。良かった」

 ラティアス 「♪♪♪」 ギュッ!

 サトシ 「おっ……と。ラティアス、頑張れよ。元気でな!」 ギュッ

 ラティアス 「♪」 ギュー!


お別れを惜しむかのように、サトシ君に思いっきり抱きつくラティアス。

私の格好だから、私がサトシ君に抱きつく光景を見せられている訳だけど、やっぱり恥ずかしい。

 ▼ 54 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:35:35 ID:FaN6pG3s [30/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ― 『3番線の列車、まもなく発車致します』



 アリア 「ほら、そろそろ」

 ラティアス 「………」 シュン

 サトシ 「また会えるさ。頑張ってカノンと一緒に強くなるんだぞ」 ナデナデ

 ラティアス 「………」 ニコッ


 カノン 「サトシ君、これ……」


私はサトシ君に、紙袋を差し出した。

実は私、駅に着いてすぐ、駅ビルでサトシ君へのプレゼントを買っていた。

昨日のうちに買えれば もっと いろいろ選べたんだろうけど、営業時間の都合で、今、これを買って渡すのが精一杯だった。


 サトシ 「これは……?」

 カノン 「ほら、もうすぐ……バレンタインだから、そのっ、ちょっと早いけど、お礼の気持ちも込めて……///」

 サトシ 「チョコレートか」

 カノン 「さっき駅ビルで買った商品だから、あんまり良いモノじゃないけど……、良かったら、おやつ代わりにして貰えれば」

 サトシ 「嬉しいよ、カノンからのチョコ。ありがとな!」 ニコッ



サトシ君は、眩しい笑顔を見せてくれた。

その爽やかな表情に、私はドキッとしてしまう。彼の顔を見ているだけで、鼓動が早くなってしまう。



あぁ……、やっぱり私、好きなんだな。サトシ君のこと。



駅ビルで買ったチョコ、既製品。こんなんじゃ義理チョコみたいに思われちゃう。

私が初めて異性に贈る、バレンタインのチョコレート。気持ち的には、本命なのに。



だから私は、決心している。



 ▼ 55 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:37:14 ID:FaN6pG3s [31/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 カノン 「サトシ君……」

 サトシ 「どうした?」


私の呼びかけに、キョトンとしているサトシ君。

そんな彼に、私は歩み寄る。顔を近づける。目を瞑る。





  ― chu ♡





 サトシ 「ぇっ……、ぁっ、カノン?」

 カノン 「……ふふっ。アルトマーレでは、キスは お別れの挨拶だよ ///」

 サトシ 「挨拶って……」



 ― プルルルルルルルルル♪

 ― 『3番線、発車致します。ドア閉まります。お見送りの方、黄色い線までお下がりください』



 カノン 「またね、サトシ君」

 サトシ 「なぁカノン。“あの時”のキスは、どっちが……?」


 カノン 「……ふふっ。さぁ、どうでしょうね?」


 サトシ 「……そっか。じゃあなカノン! 頑張れよ! 応援してるからな!」

 カノン 「ありがとう。私、絶対に強くなってみせる! またアルトマーレに遊びに来てね!」

 サトシ 「あぁ! 元気でな!」

 ピカチュウ 「ぴかぴっかぁ!」



 ― 『ドアが閉まります。ご注意ください』

 ― プシューーーゴトン!



 ▼ 56 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:38:07 ID:FaN6pG3s [32/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


【 * 】



列車が動きだす。

みるみる速度を上げて、あっという間にホームを飛び出して、もうサトシ君の姿は見えない。



 アリア「アルトマーレに、そんな“お別れの挨拶”なんて無いぞ〜?」

 カノン「なくでも良いんです」

 アリア「ははっ。カノン、見かけによらず大胆だねぇ」

 カノン「だって、サトシ君は、私っ……///」

 アリア「って言うか最後のサトシ君の質問の答え。あれ、キスしたのは自分だって認めたようなものじゃん」

 カノン「えっ? どっ、どうしてですか?」

 アリア「“あの時のキス”を知ってるって、つまりそういうことだろ?」

 カノン「あっ……///」

 アリア「まったく。カノンは頭良いようで、ちょっと抜けてるんだから」

 ラティアス 「♪」 クスクス


うぅ、なにしてるんだろう、私。

自分では上手く ぼかした つもりだったのに、これじゃあサトシ君にも気付かれちゃったかな。
 ▼ 57 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:39:09 ID:FaN6pG3s [33/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 アリア 「……けど、ちょっと安心したよ。カノンってば、ちゃんと青春できてるじゃん」

 カノン 「青春……、これが青春って言うんですね」

 アリア 「頑張りなよカノン。私もラティアスも、サトシ君なら大歓迎だからねっ」

 ラティアス 「♪」 ニコッ

 カノン 「もぉ〜///」



もし、サトシ君とお付き合いできるのなら、きっと毎日が楽しいと思う。



でも、実際は難しい話かな。



秘密の庭やラティアスたちを護るのは、私たち一族の使命。サトシ君と言えども、部外者を招き入れることは、許されないと思う。

それに、使命に縛られるような生活を、サトシ君に強制する訳には いかないもん。

サトシ君は、旅する凄腕トレーナー。私たちの我が儘で、彼をアルトマーレに縛り付けるようなこと、私は絶対に反対だ。

 ▼ 58 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:40:04 ID:FaN6pG3s [34/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 カノン (ありがとう、サトシ君、本当に……)





アルトマーレを危機から救ってくれた、サトシ君へ。


私とラティアスに勇気と元気をくれた、サトシ君へ。


私とラティアスの強さを教えてくれた、サトシ君へ。





チョコレートとキスは、最大限の感謝の気持ちです。



水の都より、親愛なる貴方へ――。





     ――― 完 ―――


 ▼ 59 甲州街道◆IVIG1YNTZ6 23/02/13 04:40:54 ID:FaN6pG3s [35/35] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



アニポケ新無印「めざせポケモンマスター」編。

開始前の予告映像でラティアスが登場し、アルトマーレの子と再会か!? と話題になりましたね。

実際は別個体でしたが、もしアルトマーレの子だったら――。もしカノンとも再会していたら――。

そんなことを考えて執筆した“ifストーリー”でした。最後までお読み頂き、ありがとうございました。


このSSは、下記企画参加作品です。

【SS企画】バレンタインSS企画2023【投稿期間1/13〜2/14】

https://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=1864461



(アニポケのラティアスが実は迷い子で、最終回付近でアルトマーレに送り届け、カノンに再会する展開を、まだ諦めていません)


 ▼ 60 ラウドボーン@ウソハチのなみだ 23/02/13 23:05:30 ID:EltUNypM [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
凄い良かった
 ▼ 61 ガケガニ@ドリのみ 23/02/13 23:06:37 ID:EltUNypM [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙でした
 ▼ 62 バルビート@ヤミラミナイト 23/02/14 14:26:48 ID:0txkHFCk NGネーム登録 NGID登録 報告
乙です!
 ▼ 63 フラエッテ@おだんごしんじゅ 23/03/13 22:00:36 ID:LpMw2Mi. NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
サトシがラティアスをゲットしてくれますように
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