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【SS企画参加作品】二人で描く夏の青

 ▼ 1 恋のペーさん 23/07/15 07:18:18 ID:U47IncBw NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
"青"を描いた二枚の絵がある。

空と海の青だった。
晴れ渡る青空にはメラメラと燃え盛る太陽が輝き、凪いだ海はどこまでも続くように雄大である。
空を、海をテリトリーとするポケモン達の姿も写し出され、その息遣いが感じられるようだ。

手掛けたのはアカデミーの美術部員二人。
実はこの二枚の絵、どちらも同じ場所から西パルデア海を望んで描かれたものなのである。

そのような作品が如何ようにして生まれたのか。
その裏には、ほんの小さな物語が隠されていた………。
 ▼ 43 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/03 23:37:48 ID:ua9o8Dec NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メロコ「いいのか?突然押しかけたのに」

部長「はい。誰かに見てもらった方が、違いも分かりやすいと思うので」

メロコ「それじゃありがたく…あ」

メロコ「なんか見られたくないもんあったら、すぐ隠せよな」


画用紙とパレットの上には、水溜まりのような青い円が点在している。
色合いやツヤがそれぞれ微妙に異なっていた。

部長「どの色同士を混ぜるか、その量をどうするかで青色も色んな種類が作れるんですが」

部長「場所ごとに違う青を使っても面白いかもしれないです」

メロコ「オレの場合だと…こんな色にしようかなとか思ってんだけど」

ハプニングが積み重なった末に始まったにも関わらず、メロコは不思議なほど落ち着いた雰囲気の中で絵を語らうことができている。

メロコ(なんかいい匂いすんだよな、この部屋)

他人の部屋に入ると、自分のそれとは違う芳香を感じるものだが、
部長のそれはメロコにとって殊の外快適に感じられた。
 ▼ 44 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/06 23:24:10 ID:OzX.OJME NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メロコ「なんか小さい美術室みたいだよな、ここ」

居心地がよい理由をメロコはそう推察した。
スター団の活動を経たことで見つけることのできた新しい道…絵を描くことに没頭する時に鼻腔へ入ってくる紙や絵の具の匂いは、きわめて親しみ深い。

部長「えへへ、そう言われると少し照れますね」

部長の笑みにつられて、メロコも明るく頬を歪めた。

メロコ「色を作ってる所、もっと見ててもいいか?いや、やっぱ鬱陶しいかも」

部長「そんなことないですよ。僕だってむしろ」

メロコ「むしろ?」

部長「………」


部長「あ、折角見ていくなら何か飲みますか?お茶出しますよ」

メロコ「え!わざわざそこまでしてもらわなくても」

部長「いえ、僕が飲むついでというのも何ですが…紅茶は好きですか?」

カップをティーバッグに入れて湯を注ぐと、進化の石を思わせる透き通った色合いの紅茶が、ささやかながら瑞々しい香りを放つ。
 ▼ 45 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/07 22:52:38 ID:4pN.oTbI [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
部長「簡単なものですけど、よかったら」

メロコ「おお…こんなオシャレなの滅多に飲まねぇな。いただきます」

柔らかな湯気に顔を浸しながら、琥珀色の紅茶を喉にゆっくり流し込む。
深みのある味わいが全身に染み渡るようだ。
紅茶の良し悪しに通じてはいないメロコも、それが上等な品であることを忽ち理解し、和やかに破顔する。

メロコ「何から何までもてなしてもらって、悪ぃな」

部長「お気になさらないで。最後の一つが残っていてよかったです」

メロコ「ふ〜ん………」


メロコ「え、最後!?」

メロコ「最後の一つをオレが飲んじゃったって?そんな…」

部長「いいんですよ。すごく喜んでいただけたみたいで、お出しした甲斐があったと思います」

メロコ「テメーって奴は…」
 ▼ 46 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/07 23:17:39 ID:4pN.oTbI [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メロコ「もしかして貴重なモンじゃないのか?」

部長「親戚からの贈り物なのでハッキリとは分からないですが」

部長「"喫茶室なぎさ"の、カラフシティ店だけで購入できるそうですよ」

メロコ「マリナードより近いじゃねぇか。オレ、買ってくる」

部長「え!そんな、そこまでしていただかなくとも…」

メロコ「あ の な」

握撃を加えるわけにもいかないメロコは、両手を優しく部長のそれに重ねた。

部長「!!!!」

メロコ「この夏さ、テメーと一緒に絵描き始めたろ。色んな発見もあったし、感心もした」

メロコ「本当に楽しいんだ!そのうえ突然部屋に押しかけたのにもてなしてもらって」

メロコ「少しはオレも"おんがえし"したいんだ。我儘かもしんねぇけど…」

部長「メロコさん………」
 ▼ 47 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/07 23:22:34 ID:4pN.oTbI [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
部長「………そういうことなら」

部長「実は一つ、お願いを聞いていただいても?」

メロコ「任しとけ!オレはスター団の何でも屋だぞ」

部長「ではお言葉に甘えまして」

部長「明日はカラフシティに行って、さっきの紅茶を買ったりとか、絵の資料や画材を見て回ろうかなと思っていたんです」

部長「ですから、その…」

メロコ「??」

ぎこちなく唇を動かし、躊躇しているような素振りを見せる。
しかし部長はそれを振り切り、意を決して言葉を発した。


部長「あ、明日一日、僕と一緒にカラフシティに遊びに行きませんか?」
 ▼ 48 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/08 18:17:01 ID:5k9QDt3. NGネーム登録 NGID登録 報告
メロコ「オレと、テメーで?」

部長「あそこは色々なお店もあって楽しいと思います。…どうでしょう?」

メロコ「………行く」

メロコ「いいじゃねぇか、絶対行く!」

部長「本当に!?」

メロコ「荷物持ちとか用心棒すればいいんだろ?」

部長「い、いやいや、僕はメロコさんが楽しんでさえくれれば」

メロコ「そんなんでいいのか?まぁ、それでテメーが喜ぶってんなら」

温厚で、少し大人びている部長が、この時はあどけなく喜色を顔に湛えていた。
それがひしひしと伝わり、メロコまで嬉しくなってくる。

メロコ「二人で街に繰り出して買い物とかするのか…」

だからこそ、次のような軽口も飛び出す。


メロコ「なんかさ、デートみたいだな」
 ▼ 49 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/08 23:26:22 ID:iowMd6AA [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
部長『えっ!?いや、別にそういうわけでは…あはは』

メロコ(なーんて…)

ちょっとした「いたずらごころ」から発せられた言葉。

部長「………」

沈黙。

メロコ「(やらかしたか?)………あの」

部長「もし」


部長「本当にそうだったら、メロコさんは嫌ですか?」


メロコ「………え…」

部長「…えぇと…僕、ちょっと購買に行ってこようと思います」

メロコ「あ、そうか。オレは…そろそろ帰るよ。明日の準備もしないとだし」

メロコ「また、明日な!楽しみにしてるから!」

部長「はい、僕もです」
 ▼ 50 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/08 23:41:10 ID:iowMd6AA [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
〜〜〜〜〜〜〜〜

鏡の向こうにはそばかすのある少女の顔。
頬を二本の指で軽く引っ張る。

メロコ(調子に乗って変なこと言ったな〜………)

ボウジロウ(メロコー、早く洗うんだぞ!)

カラフ行きの約束を交わした、その日の夜。
風呂に入る時刻になったというのに、部長の言葉が未だに響いているようだ。

メロコ(明日出かけることをデートって呼ぶんなら)

メロコ(アイツはそれが嫌なのかな?でも、だったらあんな誘いなんてしないか)

メロコ(…それじゃあ…?)

生まれたままの姿で、ぶんぶんと頭を振った。

メロコ「ボウジロウ、背中流してくれるか?」

ボウジロウ(大得意なんだぞ!ごしごしごしごし…)

メロコ「脇とか首筋とか、念入りに洗っとくかな…うん。エチケットだし」
 ▼ 51 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/09 12:48:17 ID:WiP6dCVk NGネーム登録 NGID登録 報告
ガラッ

メロコ「そもそも数がねーな…」

パンツのみを履いた姿で肩にタオルをかけ、クローゼットを物色する。
アカデミーに入学してからは、正規およびスター団仕様に改造した制服ばかり着ていたので、あまり小洒落た服がない。

傍に浮遊するスマホロトムの画面に目を向ける。

『カラフシティにピッタリな青のコーデ!特別サービス対象のお店一覧…』

メロコ「青かぁ、そんなもんあったか…」

メロコ「………あ!!」

アオイと(半ば無理やり付き合わされた形で)ブティックを巡り、その時購入した青一式の服があったことを思い出す。

メロコ「これだ。…だけどこれ」

目当ての服を見つけながらも、ほんの少しばかり躊躇する。
脳裏には、部長の寮を訪れた時に聞いた女子二人の会話。

メロコ「………よし、決めた」


メロコ「明日はこれ着てカラフに行ってやる!待ってろよー!」
 ▼ 52 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/11 17:14:46 ID:TldUuMX2 NGネーム登録 NGID登録 報告
〜翌朝〜

いつものタクシー乗り場に部長は立っていた。
アカデミーの制服とは違った、カジュアルな服を身に纏っている。

部長「………」チラッ

落ち着かない様子で時間を確認する。表示される時刻は集合時間よりも早い。
伏せていた目線を上げ、深呼吸しながら天を仰ぐ。


ボウジロウ(メロコ、メロコ。いたぞ!)

メロコ「ああ、この時間にはもう来てるって思ってたんだ」

待ち人であるメロコは、部長のそうした様子を遠方から窺っていた。

メロコ(すげぇスースーする…この格好見たら、なんて言うかなアイツ)

ボウジロウ(メロコ、すっごくニヤニヤしてるぞー)

メロコ「してねぇよ!さ、行くぞ」


メロコ「お待たせーーー!!」

部長「おはようございます、メロコさん………!!」

現れたメロコ…薄い青のカラーリングで統一された装いは、昇りかけた太陽よりも眩しく見える。


就中鮮烈だったのは、膝上20cmほどであろうスカートだった。
 ▼ 53 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/12 22:17:46 ID:vVwUSyz6 [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メロコ「おはよ」

部長「お、おはようございますっ。いいお天気ですね」

メロコ「だな。…今日はいつもと雰囲気違うな」

部長「はい。せっかく一緒にお出かけするので…」

メロコ「オレもちょっとばかしイメチェンしたんだ。どう?」

薄手のジャケットに通した腕をはためかせ、常と違う着こなしを見せつけるメロコ。

部長「えと、すごく、お似合いです」

眩しい太ももに目線を向けないよう努力しながら部長は答えた。

メロコ「例えばどのへん?」

部長「そ、それは…」

往路のイキリンコタクシーが到着し、会話を中断した二人はそれに乗り込んだ。

〜〜〜〜〜〜〜〜

イキリンコ達の小気味よい羽音が響く。

メロコ「………」

部長「………」

互いにあらぬ方を見遣る二人。


メロコ(ヤバいな。飛ばしすぎたか?)
 ▼ 54 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/12 22:39:37 ID:vVwUSyz6 [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ボウジロウの指摘した通り、自分が柄にもなく浮ついていたことに気づく。
せっかくだからとスカートを選択したはいいが、

メロコ(それで気まずくなってちゃ世話ねぇよな…)

部長の様子を窺ってみると、空や地上をキョロキョロと見回している。
それはメロコの脚に視線が向くのを避けるためであり、微妙な沈黙を解消する話題をもとめてのことでもあろう。

メロコ「あ、あのよ」

部長「は、はい」

メロコ「気分変えようと思ってスカート履いたはいいけど、正直な話履き慣れてねぇんだ。だから」

メロコ「なんか…見えちゃマズイもん見えたら、それとなーく教えて、くれても…」

部長「え」

また返答に困る話を振ってしまった。心中で頭を抱える。

部長「…事情は分かりましたが、ご期待に沿えられるかどうか」

メロコ「ん?」

部長「正直な話、僕も見えちゃマズイものを見ることに慣れてない、ですからね」

ぎこちない笑みと照れの隠れていない口調。どうにか場を和ませようと冗句…らしきものを発していた。

メロコ「そ、そっか。じゃあ、逆にちょうどいい…のかな?」

つられてメロコも苦笑する。愚問と愚答のやり取りのおかげて、気まずさは大分薄れた。


そうこうしている内、濃淡の青で統一された色合いのカラフシティが足下に見えてきた。
 ▼ 55 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/13 20:56:10 ID:41zsceb2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
〜カラフシティ〜

ジムリーダーであるハイダイの助言により、青というイメージカラーを設けて街づくりに成功したカラフシティは、凪いだ海のような色合いをしている。

ワイワイワイワイ ガヤガヤガヤガヤ…

メロコ「すげぇ人の群れだなー」

部長「夏は特にすごいみたいですね」

ただし街を行き交う人は絶えず、彩豊かに華やいだ雰囲気であった。

メロコ「初日に言ってたよな、海の青は本当はもっとカラフルじゃないかって」

部長「あ、僕もそれを思い出してたんです。海を持ってきたみたいですね、この街」

さて、このような人混みの中で最も肝心なのは、互いに逸れないことである。
具体的にはどうすべきか?その答えは目の前にいくつもあった。

笑顔を弾けさせた男女が…たまに男、女同士で…手を繋ぎながら歩いている。
中には指同士をがっちりと絡ませているペアもいる。

メロコ「………」

部長「………」


メロコ「…繋ぐ?」
 ▼ 56 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/15 12:00:16 ID:2V1IUvxA NGネーム登録 NGID登録 報告
ハッとする部長に対し、メロコは(雰囲気に飲まれたわけではないと)言い訳をするように言葉を続ける。

メロコ「ほら、あの…オレってダチと比べても小っこいほうだから、一旦人混みに紛れたら探すのも一苦労だろ?そうなると出かけるどころじゃなくなるし」

メロコ「あー、でも!知っての通りオレは握力すげぇ強いから、握ったら痛くなっちゃうかもなぁ…」

ドギマギしながら捲し立て、部長の返答を待つ。

部長「………」

僅かな時間考え込んだあと、

部長「メロコさん、手をパーにしていただけますか?」

メロコ「え…こう?」

言われた通りにパーの手を差し出す。

部長「このパーの手を、僕が握れば…」

部長「痛くないんじゃ、ないかなー、と…」

メロコ「…だな。うん、それがいいや!」


おずおずと伸びてくる部長の手をメロコは迎え入れた。
 ▼ 57 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/15 12:16:42 ID:h1YMLVIs NGネーム登録 NGID登録 報告
じんわりとした温もりが互いの掌を行き交う。
暑い夏の日だというのに、不思議とその温かさが不快ではなかった。

部長の手はかすかに角張っている。異質なものに触れられているようでメロコはどきりとしたが、それが筆を扱ったことによるタコだと分かると、途端に緊張も解れた。

メロコ「…まずは、どこ行くか」

部長「画材を見に…雑貨屋から行きましょう」

メロコ「ああ!」

歩き出す二人。無理やり引っ張る形にならないよう、部長が歩調を合わせてくれているのがメロコには嬉しかった。

手を繋ぐ男女など、今のカラフシティではごくありふれた光景である。
しかしながら、メロコと部長にとってはきわめて特別な一時であった。


〜デリバードポーチ〜

メロコ「デリバードポーチ…テーブルシティのとは結構違うな」

部長「インテリアもカラフシティに合うようにって工夫されてるそうですよ」

部長「品揃えも凄くて、限定の舶来品も多いんですって!」
 ▼ 58 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/17 21:26:35 ID:rLFEDwVo [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
部長「あ、こちらでしょうか。ささ、どうぞどうぞ」

メロコ「どれどれ…お!」

文房具コーナーに踏み入ると、絵の具に各種筆やブラシ、スケッチブックといった画材が所狭しと並べられている。

日頃より愛用しているものから、知らない文字の書かれた別地方からの輸入品、カラフシティの限定仕様の品もある。

メロコ「すげぇなぁ!本当にパルデアの外に来たみたいだ」

部長「使いきれない分まで買ってしまうのはよくないんですが…ふふ、我慢できるかな?」

メロコ「そうなったらオレも一緒に使ってやる…あ、この筆前にハッサク先生の見せてくれたやつじゃねぇか?」

部長「本当だ!こっちのも多分…あそこに置いてあるスケッチブック…」

洞窟の奥で宝箱を見つけたようにはしゃぐ二人。

部長「確かイッシュから来た先輩が使ってたものですよ。ちょっと高いかな…店員さんを」

メロコ「あれぐらいなら脚立を使えば届く。オレが取るよ」

近くに貸し出されている高所用の脚立にメロコは足を掛けた。

部長「メ、メロコさん。危ないですよ…!」

メロコ「高いったって大したことねぇって」

部長「ではなくて、その…見えてしまうかも」

メロコ「………あ」

自分が今どのような格好なのかを思い出し、一瞬固まるメロコ。
 ▼ 59 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/17 21:48:44 ID:rLFEDwVo [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メロコ「あー…だったらさ」

メロコ「ちょうどいい高さみたいだし、テメーの頭で隠してもらってもいい…かな?」

部長「!わ、分かりました」

部長はメロコの腰を隠しながら立ち、周囲を見張るように目線を走らせる。

メロコ「すぐ済ませるからよ…」

部長「大丈夫ですっ。他のお客さんに見えないようにしますから」

メロコ「見てもつまんねーモンだけどな」

部長「そんなことはないですよ!…あ、変な意味に聞こえたらすみません」

メロコ「なんだそりゃ」アハハ

二人分のスケッチブックを持ったメロコが降り、部長は役目を全うした。

メロコ「ありがとな。今度はパレットでも見ようか」

部長「これなんてどうです?絵の具を混ぜやすくなってて…」


ひとしきり画材を見て回った二人は目当てのものを購入すると、次の目的地に向かった。

どちらが言うともなく手を繋いで。
 ▼ 60 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/17 21:57:54 ID:rLFEDwVo [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
〜パルデア靴センター〜

メロコ「折角の機会だからさ、テメーと一緒の時に行きたかったんだよ。靴屋」

部長「僕がいる時に?あまりファッションには詳しくないですけど…」

メロコ「オレらにとってはファッションセンスより大事なことがあんだろ」

メロコは洒落たレディース靴でも、スター団ボスとして履くようなブーツでもなく、アウトドア向けシューズのコーナーに向かった。

部長「レジャーに出かける時などに履くような靴ですか」

メロコ「うん。今回の絵は海辺で描くことになったからさ、いつもと違う靴履いてったけど」

メロコ「他の色んな場所でスケッチするかもしれないわけだし、専用の靴あってもいいと思ったんだ」

部長「なるほど、風景画のための靴探しですか」

メロコ「だからテメーのアドバイスが欲しかったんだ。なにせ」


メロコ「これから沢山、一緒に絵を描きに出かけることになるだろ?」
 ▼ 61 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/17 23:00:08 ID:rLFEDwVo [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
部長「あっ………!!」

メロコ「美術部ではテメーの方が先輩だろ?もしよかったら教えてほしいんだ」

部長「ぜ、是非!」

一瞬呆気に取られたような表情をした部長であったが、
たちまち張り切ってメロコを案内する。

部長「それならこの靴とかどうでしょう?僕が履いているのと同じブランドのもので、岩肌から沼地まで色んなロケーションに対応していて」

メロコ「へぇ〜…例えばさ、でんき技を通さない素材のやつなんてあるのか?」

部長「でしたらこっちの方が向いてると思います。サイズはあるかな…」

メロコ「わっ、あ、いいな…メラメラ映えそうだなこれ…!」

部長に勧められた靴を持って、メロコはレジに並んだ。

部長「よろしければ半分出させていただけませんか?」

メロコ「いや、流石に悪ぃってそれは。ここまでしてもらって…」

部長「ここまでしたからこそ、です」

部長「僕だって…とても嬉しかったんですから」
 ▼ 62 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/19 22:24:55 ID:GCgoxRPk [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
〜〜〜〜〜〜〜〜

メロコ「あー、買った買った!リュックはデカいかと思ったけどそんなことなかったな」

部長「こんなにはしゃいで買い物したのは久しぶりです」

画材を中心とした「戦利品」の詰まったリュックを膝に抱えて、二人はベンチに腰掛けていた。

メロコ「………」マジマジ

部長「?何か…変なこと言ってしまいましたか?」

メロコ「いや、楽しんでくれててよかったと思ってさ。オレ見ての通りぶっきらぼうだから、二人きりでお出かけー、なんて経験なかったんだよ」

部長「なんだ、メロコさん。僕と同じ心配されてたんですね。僕も大人しいタイプなんで、外ですることといえば絵を描くことぐらいですし」

メロコ「それでいーんだ。オレそういうの好きだぜ、気取ってなくて」

部長「ふふ。そうですね」

メロコ「ん〜…」

メロコ「そろそろ腹減ってきたな。これが食べたい、ってあるか?」

部長「この街は食事のできる所も多くて、悩みますね」
 ▼ 63 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/19 22:52:36 ID:GCgoxRPk [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メロコ「もしリクエストとかないならさ、実は来来来軒に行きたくて。どうしても食べたいもんがあるんだ」

部長「確かにカラフ名物といえば中華ですか。いいですね!」

メロコ「よしっ。じゃあ決まりだな」

〜来来来軒〜

昼時のカラフシティはどこの飲食店も混み合うものだが、その寸前に二人は店に滑り込むことができた。

メロコ「カウンターだけど大丈夫か?」

部長「僕、カウンター結構好きですよ。ほら、あそこなんて絵になるでしょう」

カウンターの向こう側にある厨房では料理人やポケモン達がテキパキと動き回り、小気味よい音と鼻を喜ばせる匂いが伝わってくる。

メロコ「確かに作ってる所見るともっと旨くなるよな…ほら、メニュー」

部長「そうですね…僕は五目ラーメンと、二人で食べる分の唐揚げにしましょうか」

メロコ「へへ、じゃあ俺は…」


店員「先に五目ラーメンと唐揚げでーす!」

部長「わぁ、具沢山で美味しそうです!」

メロコ「唐揚げも思ったよりデカいなー」
 ▼ 64 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/19 23:05:14 ID:GCgoxRPk [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メロコ「先に食ってていいよ。伸びるとまずいし」

部長「いいんですか?では失礼して…いただきます」

彩りのある具材の下から箸で麺を取り、スープを纏わせて一気に啜り上げる。

メロコ「どうだ?」

部長「う〜ん、美味しいです!麺がモチモチで噛み応えがありますし」

部長「スープは海鮮風味でアッサリながらしっかりと味わい深いですね。カラフ店のアレンジ出汁でしょうか」

メロコ「へぇ〜。やっぱこの街の店って違うんだな…唐揚げも肉汁たっぷりで、あちちっ」

唐揚げを頬張りながら、ラーメンに舌鼓を打つ部長を楽しそうに眺めるメロコ。

部長「よければメロコさんも少しいかがです?」

メロコ「あー、嬉しいけど。オレの方からは分けてやれないだろうしなー」

部長「そういえばメロコさんが頼んだのは…」


店員「お待ちどおさま!」

店員「当店特製、辛口かえんだま炒飯でーす!」

燃え立つ炎のように赤い炒飯がメロコの前に供された。
 ▼ 65 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/20 21:58:48 ID:C4Jsl1jA [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
部長「うわっ!?すごく辛そうな炒飯ですねそれ」

メロコ「これな、フィラの実とマトマの実の特に辛いのを選んで抽出したエキスを使ってる激辛炒飯なんだってよ」

メロコ「カラフの飯屋について調べてたらここの店舗だけで食べられるメニューだってんで、食べたいと思ってたんだ」

部長「それでこの店を選んだんですねぇ」

メロコ「そんじゃ…いただきます!」

刺激的な芳香を放つ炒飯にレンゲを差し入れる。

メロコ「はむっ、はむ………うん、う…」

メロコ「ん゛んっ!?あむ、あむむっ…んんーっ!」

部長「メロコさん!?お水お水」

咳き込みかけたメロコに慌てて水を渡す部長。

メロコ「こくっこくっ…ぷはぁっ。やべぇ、正直舐めてたわ。舌が”スパーク”食らったみたいだ」

部長「大丈夫ですか?」

メロコ「だけどさ、辛いだけじぇねぇんだよ!多分五目ラーメンと同じだと思うんだけど、海鮮の出汁が効いててちゃんと旨いんだ」

メロコ「これクセになりそ…あむ、はむ、あむっ。う゛ーっ!ん゛っ、はぐっ」

時に辛さに曝されながら、ひっきりなしに炒飯を口に運んでいくメロコ。

次第に玉のような汗が顔に浮かび始めた。
 ▼ 66 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/20 22:37:23 ID:C4Jsl1jA [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メロコ「あむ、あむ、はふっ…う゛、辛…旨っ…」

部長「メロコさんいい食べっぷり…!」

メロコ「んぐ…はしゃいじゃって悪いな。辛いモンヒィヒィ言いながら食べんの好きなんだ」

部長「いいですよ。見てて面白いですから」フフッ

…それから暫く、二人は眼前の食事に没頭する。
部長が五目ラーメンを完食し、唐揚げも二人の腹に全て収まった時、メロコは今や滝のような汗をかいていた。

部長「風をひいたらまずいです。拭きますよ」ゴソゴソ

メロコ「あむっ。…オレのリュックにタオルあるから、それ使ってくれ。テメーのタオル汚しちゃ悪いから」

スター団のマークがあしらわれたタオルで、かいがいしくメロコの額を拭いてあげる。

メロコ「うう、暑っちぃ…ほんとごめん、上脱がしてもらうわ」

部長「え!?メロコさん…」

ジャケットを脱ぎ、タンクトップ姿になったメロコ。腕や首筋にもじんわりと汗が滲んでいる。
部長は以前のように水分で下着が透ける事態を危惧していたのだが、メロコは透けない素材の服を選んでそれを防いでいた。

メロコ「あむ、んむっ。…はは、流石にはしたねぇかな」

部長「いえ、そんなこと…は」

汗を滴らせ、辛さに目を潤ませ、荒い息と共に炒飯をかき込むメロコの姿が何故か色っぽく見える部長であった。
 ▼ 67 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/20 22:53:57 ID:C4Jsl1jA [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パンッ!!

メロコ「ごちそうさま!」

部長「ごちそうさまでした」

空っぽになった食器と料金を残し、すっかり満たされた腹を抱えて二人は店を後にした。


部長「………」

…はずであったが、部長は店の前のベンチでトイレに行ったメロコを待っている。


ジャーーーッ………

メロコ「ふ〜〜〜っ…炒飯が旨かったのはいいけど、あんな汗だくになるのはビビったな」

リュックから制汗シートを取り出し、首や脇を撫で回す。

メロコ「はぁーーーさっぱりする…汗っかきのうえに臭いのは流石にまずいもん」

メロコ「化粧は…うん大丈夫。高いの塗ったくっといてよかった」


部長「………」

『なんかさ、デートみたいだな』

『本当にそうだったら、メロコさんは嫌ですか?』

部長「…言いっ放しじゃ、ダメだよね」


メロコ「悪い!遅くなったっ」ダーーーッ

部長「!いえ、お構いなく。次は喫茶室なぎさに行きましょうか」

メロコ「あ、そっか。元々そこの紅茶を買い足す話だったよな」
 ▼ 68 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/22 22:02:39 ID:s/o.a6/6 [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
〜喫茶室なぎさ〜

耳に心地よいドアベルの音を聞きながら、部長とメロコは喫茶室なぎさに入店した。

部長「すみません、この茶葉って今ありますか…」

カウンターで店員とやり取りをする部長の背後に立ちながら、メロコは紅茶やコーヒーの芳香が漂う店内を見渡す。

メロコ(こういう店で優雅なティータイム、なんて縁遠い生活だったっけ)

そんなガラにもないことも、たまにはいいかもしれない…

部長「メロコさん」

メロコ「…あっ。買えたのか?」

部長「無事に買えましたよ。それで提案なのですが」

部長「折角だしここでお茶でもしていきませんか?」

メロコ「!!」

自分の考えを読まれたはずもない(エスパーポケモンでもあるまいし)が、そんな非現実的な推測をしてしまうようなタイミングの良さだった。

メロコ「そういうことなら…行こうぜ」
 ▼ 69 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/22 22:43:44 ID:s/o.a6/6 [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
奥まった席に腰を下ろし、それぞれ飲み物を注文する。
部長は温かい紅茶、メロコはアイスコーヒーだった。

部長「コーヒーお好きなんですか?」

メロコ「実はそうでもないんだけどさ…ほら、大人になったら多分コーヒー飲むこと増えるだろ。今のうちから慣れとこうと思って」

これは嘘ではないが、全てというわけでもない。
苦いコーヒーであれば、会話をするペースに合わせてチビチビと少しずつ飲んでいけるだろうと考えたためである。

これぐらいの気遣いはできるんだと、メロコは心中で胸を張った。

部長「あ、そうだ。デリバードポーチでこの本を買ったんです」

部長がリュックから取り出したのはハードカバーの本だった。

部長「昔から今に至るまでの絵の作例が載ってる本なんです。アカデミーの図書館にあったんですが、持ち出しができなくて」

部長「見かけたら絶対買おうと思ってたんですよ!」

メロコ「ほぉ〜………」

部長「気に入ってるページは幾つかあるんです。例えば…」

パラパラとページを捲っては、それに関する情報や感想を丁寧に述べる。

メロコ「なるほどな…ん?ここの光の当たり方、テメーの描いたのになんか似てるな」

部長「えへへ、気づかれましたか。はじめて目にして以来ビビっときまして。あとこっちのページとかも」

メロコ「あ、本当だ…!」

気がつけばメロコは、アイスコーヒーを脇にやって身を乗り出し、本に齧り付いていた。
 ▼ 70 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/22 23:55:32 ID:s/o.a6/6 [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メロコ(やばっ。つい飛び出しちまった)

端から見れば、メロコが部長を激しくしているような構図である。
無作法を詫びようと部長の方を向いたその時、


メロコ&部長「「あ」」

二人の視線が間近で、真正面からぶつかり合っていた。

メロコ「あーその、悪かった。なんかグイグイ来て」

苦笑しつつ謝罪したメロコ。だがその脳裏には、つい二日前…灯台での出来事があった。
あの時も、二人は真っ向から視線を交わし合ったのである。

部長「………メロコさん」

メロコ「ん?」

部長「少し、大事なお話をさせてください」

メロコ「え…え?な、な何だよ。改まって」

真剣そのものの声色と表情に、スター団ほのお組ボスのメロコともあろう者が気圧されていることを、認めずにはいられなかった。

部長「昨日、この街に出かけるお約束をした時、僕が言ったことを覚えていらっしゃいますか?」

メロコ「(デート云々のことだよな)………うん」


部長「………僕は………」
 ▼ 71 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/23 23:36:39 ID:tNeUCxCg [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

部長「僕は、メロコさんの視線が」

部長「メロコさんに見てもらうことが…大好きなんです!」


メロコ「………そ、れはどういう…」

部長「メロコさんは僕が線を描いたり色を試したりしている時、今本を見せた時だって、とても真剣に見てくれていたじゃないですか」

部長「あの視線が、絵を描く僕にとってとても心地良いんです。自分が伝えようとしていることを、汲み取ってくれようとしているみたいで」

部長「そんな視線に応えよう、そう思うと心の底からやる気が湧いてくるんです」

メロコ「そ、そうか?たまにガン飛ばしてるみたいにならないか不安になるけどな」

部長「いいえ、他の誰がどう言おうと、僕はメロコさんが目を向けてくれるのが嬉しいですよ」

部長「メロコさんの瞳も青いから、海の水面がキラキラ輝いてるみたいで」


部長「僕が描きたいのは、きっとこういう青なんだなって」

メロコ「テメー………なぁ…」
 ▼ 72 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/23 23:52:38 ID:tNeUCxCg [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
部長「だからメロコさんと一緒に描き続けられたら、僕はとても嬉しいなと思って、ついつい紳士ぶったり背伸びしたり」

部長「そんな折にメロコさんが口にされた、デートみたいだという言葉が気になってしまい…」

部長「自分の望みと、実際の距離感をどうすべきかなって。カラフに来て何か答えが出せるかもしれないと思ったんです」


メロコ「………」

メロコ(なんであんな風に口滑らせたんだよオレ!!)

申し訳なさのあまり、頭を掻こうとするのを自覚して寸前で止める。

…部長は自らにとって重大だと思う問いに対する答えを求めている。
明確に言葉にしてあげたい。しかし、脳内の整理ができようはずもなく。

メロコ(コイツ…言う時はこんなに言う奴だったのかっ///)

部長「………///」

メロコ「………そういうことならよ」

突如としてメロコは席を立った。
部長が驚くのにも構わず、つかつかと歩き出してゆく。


ストン、と腰を下ろした。

部長の隣に。
 ▼ 73 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/24 00:01:46 ID:dRess2fE [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
部長「メロコさんっ!?」

二人で来た喫茶店で、肩を寄せ合う部長とメロコ。
急接近に声がうわずる。

メロコ「………これで、分かるか?」

部長「えっ…」

メロコ「分からないなら、別にいい。だから…」


メロコ「続きが、見てぇな」

部長「!はい、是非!!」

緊張から一転、喜色を浮かべて部長は再び本を開いて見せた。

先ほどよりも遥かに見やすい態勢である。
メロコは輝く海に喩えられた瞳を輝かせ、部長の話に頷きながらページを目に焼き付ける。

奥まった席とはいえ客や店員は周囲におり、窓を介して店の内外は互いの様子を窺うことができる。


そんな当然のことを二人は忘れて、二人だけの時間を過ごすのであった。
 ▼ 74 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/24 22:00:58 ID:dRess2fE [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
〜〜〜〜〜〜〜〜

青に溢れたカラフシティに朱が差し始める。
観光客達もその日の思い出を抱え、家路を急いでいた。

部長「そろそろ…タクシーに戻りましょうか」

メロコ「おう」

楽しい二人のお出かけも間もなく終わろうとしている。
やや名残惜しくタクシー乗り場へ歩いていると、

メロコ「………ん」

開いた掌を差し出す。

部長「…はいっ」

それを優しく握り返す。

部長「ロースト砂漠の砂嵐、すっかり収まったそうです。明日からまたマリナードの灯台に行けますよ」

メロコ「おし!そんじゃあ根性入れて仕上げるか」

時間さえ許せば、今すぐにでも行って筆を手に取りたいほどウズウズしているメロコ。部長もそうだろうと、理屈抜きに伝わってくる。

部長「今日はとっても楽しかったです。メロコさん、ありがとうございました」

メロコ「オレの方こそ。楽しんでもらえたみたいで…よかった。本当にありがと、な」

イキリンコタクシーに乗り込む二人。

それは単に寮へと帰るだけではなく、
再び会うことのできる明日に向けての発車に思われたのだった。
 ▼ 75 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/25 22:17:22 ID:ejKIIemo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
〜〜〜〜〜〜〜〜

メロコ「じーーーーーっ………」

洗濯されたばかりのシーツの上。
ベッドの上に横たわるメロコの熱い眼差しが注がれる。

メロコ「じーーーーーーーっ………」


ボウジロウ(メロコー、もう寝る時間なんだぞ。いつまで鏡とにらめっこしてるんだよー!)

メロコ「分かってるったら」

『僕が描きたいのは、きっとこういう青なんだなって』

自分でも驚くくらいにその言葉がメロコには効いた。
鏡像と目線を交わらせる度に頬が綻ぶ。

憧れや尊敬、純粋な好意が青い瞳から溢れてくるようだった。

メロコ「キラキラしてるんだってさ、オレの目。水面みたいに。ほのお組のボスだけどな」

ボウジロウ(メロコったらすっかり浮かれてんなー…)

メロコ「浮かれるばっかじゃねぇっての」

綻んだ頬をパンッと張って気合いを入れる。


メロコ「明日から一気に気合い入れてくからな!爆ぜてくぞ!!」

ボウジロウ(おーーー!!)
 ▼ 76 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/26 22:18:48 ID:GPU.PjyA [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
〜マリナード 灯台〜

どこまでも続く空の青。果てしなく広がる海の青。

一度目にして以来忘れられない青。ここに来ることのできない数日、思わずにいられなかった青。

二人で描く夏の青。


部長「相変わらず美しい眺めですねー…」

砂嵐も収まり、部長とメロコは灯台へとやってきた。
目の前に広がる景色を紙に写し出す挑戦のために。

メロコ「本当に…そうだな」

メロコは部長に同調したが、実のところ本心はやや異なる。
ここ数日の体験が、目の前の絶景を以前よりも輝いているとメロコに思わせていた。

メロコ「おし!早速始めっか!」

部長「はい!二人で良い絵を描き上げましょう」

テキパキと支度を進めるメロコの足元を見れば、そこにはカラフで購入したレジャー靴。

部長「早速履いてくださってるんですね」

メロコ「うん。早くこの靴に慣れたくてさ」

メロコ「これから何度も履くことになるから。だろ?」

筆を手に取った部長は、穏やかな笑みでそれに応えた。 
 ▼ 77 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/26 23:09:53 ID:GPU.PjyA [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
二人はキャンバスに線画を広げる。同じ場所から見た景色の空と海。
幾度も描いては消し、あるいは最初から書き直すことを繰り返す…自室に戻って一人になってからも続けた積み重ねの末に完成したものだ。

互いの持ち味を活かすためにと、敢えて画風の整合性は考慮せず、それぞれ意欲の赴くまま描き切った。
荒々しいとすら言えるメロコの力強い空のラフと、シンプルで純朴な部長の凪いだ海のラフ。

同じ景色を見ながら、全く正反対の印象。

そんな二人が二つで一つの作品を仕上げようとしていた。


パレットに点在する幾つもの青。
青という単語だけで一括りにするのも憚られるほど色彩豊かなそれらを筆先に纏わせ、紙上で滑らせる。

その度に白だけの世界であった画用紙が色づき、空と海が写し出され…否、キャンバスという小世界に再構築されていった。

メロコ「……………」

部長「……………」

手に筆の重みを感じる沈黙の中、没頭する二人。
その最中でも、互いのキャンバスに目を向けることを半ば無意識下に続ける。

パートナーがどのような色に海を、空を染めてゆくのか。それを具に観察する。
相手の塗り方を見て色を調整し、既に塗った箇所を塗りなおすこともあった。
それが作品をさらに良くする、そう思えば、元々考えていた塗り方をリアルタイムで変えていくことも厭わない。

筆が繊細に、あるいは力強く滑る音が続く中、視線を行き交わせて二人は絵を描き続ける。

相手がどのように描こうとしているのか、それを見た自分はどうしたいのかが不思議と分かった。

心が通じるとは、このようなことを言うのか。そのようなことも思った。


そして………。
 ▼ 78 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/26 23:47:57 ID:GPU.PjyA [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
中天にあり燦々とした輝きを放ち続けた太陽は水平線の向こうに沈みつつあり、
晴れやかな青に代わって穏やかな橙色が天地を包んでいる。

だが、二つの画用紙には未だに青があった。
燃え盛る太陽の坐す青空と、人やポケモンの営みを見守る青海が。


メロコ「………やったな…!!」

部長「ええ、やりました!」

二人の目指していた青の風景画が、ついに完成した。
互いに自らのものだけではなく、相手の絵を見てその感慨を口にしたのである。

メロコ「一週間足らずだったけと、結構濃い体験だったと思うぜ。こんなに絵のこと考え続けたの…初めてだった」

メロコ「テメーのおかげだよ。ありがとうって、心から思ってる」

部長「僕からもありがとうと言わせてください。メロコさんがとても一生懸命だったから、僕もどんどんやる気が湧いて」

部長「まさにこの絵と同じです。二人だったからこそ…やり切れたんですよ」

沈みゆく夕陽。
描き上げた二つの青を抱えて、心から溢れる温かな気持ちを笑顔に乗せるメロコと部長。


どちらともなく、掌を差し出す。

手と手を繋ぎ合う。巡るぬくもり。


ひと夏の思い出、それだけで終わらせたくない。そう思った。
 ▼ 79 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/26 23:58:11 ID:GPU.PjyA [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
〜〜〜〜〜〜〜〜

メロコと部長の実質的な合作である空と海の絵が、美術室に掲示されていた。

アオイ「これが部長さんと一緒に描き上げた絵なんだ。よく描けてるじゃん!」

ボウジロウ(どうだ!すごいだろ!)

メロコ「へっ、まぁな。オレも立派な美術部の一員なんだぞ」

アオイ「楽しみができてよかったよかった!…ところでさぁ〜」

ニヤニヤとした顔を浮かべるアオイからの問いかけは、メロコにはとっくに分かり切ったものだった。

アオイ「部長さんとはイイ感じになったワケ?二人きりで海辺なんて行っちゃったんでしょ?」

メロコ「…はぁ〜あ。めんどくせぇからこの際言っとくぜ」

アオイ「うん」

メロコ「テメーはオレとアイツがそういう関係になるのを期待してるみてぇだが」


メロコ「オレはそう思われても構わないと思ってる」


アオイ「おおおおおおおお!?」
 ▼ 80 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/27 00:19:10 ID:OnjIhwvM [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メロコ「バカ。最後まで聞けよ」


メロコ「オレは、これからもアイツと絵を描き続けられたらと思ってる。二人で描きに出かけるなんてことも含めてな」

メロコ「今のテメーみてぇに、そういう関係だって邪推してくる奴も出てくるだろうぜ。だけど」


メロコ「まず一つ。オレはそういう誤解や冷やかしがあっても、アイツと絵を描く機会を失くしたくない」

メロコ「アイツは絵を描くのにすごく一生懸命で、一緒に描いてると自分だけじゃ気づけなかったことを幾つも教えてくれるんだ」

メロコ「そんな時間が本当に楽しくてワクワクして…からかわれただけで捨てる気にはなれねぇよ」

アオイ「ふぅん…」


メロコ「それからもう一つ。アイツとそういう噂を立てられるのは、別に悪い気しねぇ」

メロコ「アイツは大人しいけど、いっつも相手のことを考えて、気配りとかしてくれるんだ」

メロコ「テメーが考えるような関係だったとしても、ちっとも恥ずかしい奴じゃない」


アオイ「…なるほどね」

予想、あるいは期待した答えでなかったにせよ、アオイの顔は満足げだった。
 ▼ 81 恋のペーさん◆mPAN43FI6A 23/08/27 00:25:52 ID:OnjIhwvM [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メロコ「…さってと、ムダ話してたらそろそろ時間だな」

アオイ「お、もしかして部長さんと?」

メロコ「まぁな。最近面白い画集が図書館に入ったっていうんで、一緒に読もうって」

メロコ「ついてきたら腕ずくでも追い返すぞ?」

アオイ「ネモと約束あるからそんなことしませーん。残念だけど」

メロコ「そんならいい。行くぞボウジロウ!」ダッ

ボウジロウ(図書館は燃えるものがいっぱいだから苦手だ〜)ダッ


アオイ「………ふふっ」

アオイ「互いに頑張んなよ〜?お二人さん」


アオイが退室し、美術部には誰もいなくなる。


メロコと部長が二人で描いた青は、見る者がいなくなってなお、仲良く寄り添い続けていた。


〜完〜
 ▼ 82 オーベム@ズピカのねんえき 23/08/28 04:19:37 ID:Yls6XUzo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ずっと読んでた 乙!
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