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【SS】青い果実、腐っちゃった

 ▼ 1 身体は闘争を求める 23/08/27 00:00:32 ID:E4Zw56kQ [1/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 「キュリー・コンドウ」はカントー地方出身のエリートトレーナー。彼女は10代後半にしてカントージムを次々と制覇し、20代前半で『ワールドチャンピオンシップ』への挑戦権を獲得するほどの傑物だ。

 だが、その才は最初から輝いていたわけではない。彼女は血を吐くほどの絶え間ない努力の末に、この実力を身に付けたのだ。暇さえあればポケモンバトルの特訓、特訓、特訓。寝る間を惜しみ、バトルや技に関する勉強も続けてきた。
 
 彼女は、ワールドチャンピオンシップ直前のインタビューでこのように語っている。

「努力を続けられた理由……ですか? そうですね。私には応援してくれる家族がいるから、だと思います」

 曰く、キュリーがまだ幼い頃、父親は病気で亡くなったらしい。父はカントーでは有名な実力派のトレーナーだったという。

「パパはずっとドラゴンマスターのワタルさんのように強くなるのだと言ってました。でも、その夢は病で絶たれてしまったんです」

 インタビュアーは「なるほど」と呟く。ワタルといえば、90年ほど前に活躍したというドラゴン使いのトレーナーだ。
 そのワタルの影響を受けているのだろうか。
 キュリーの手持ちは、ほとんどがドラゴンタイプで構成されていた。

「ドラゴンタイプは好きですね。育てるのは大変ですが、愛を注ぐほど力を発揮してくれますから」
 ▼ 6 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/08/27 14:27:06 ID:E4Zw56kQ [2/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇


「悲劇以外の何物でもねぇよ。どんな下手な脚本家でも、こんな馬鹿げた話は書かねぇ」

 自動販売機からサイコソーダを取り出したインタビュアーは、喉奥に炭酸を勢いよく流し込んだ。だが……乾く。心はずっと、乾いたままだ。

 年に一回開催されるワールドチャンピオンシップ。100年以上も昔から続く伝統ある大会だ。
 この大会で優勝した者は、億を超える莫大な賞金だけではなく、世界一のトレーナーという名誉を得られる。もちろん、ここに出場できるのはごく僅かの選ばれた実力者だけだ。

 いずれの出場者も世界トップクラスの実力だった。
 戦いは拮抗するはずだった。いや、拮抗してもらわねばならなかった。

「どのバトルも瞬殺で終わるなんてな。エンタメとしちゃあ最悪だ」

 インタビュアーの見つめる先には、一台のモニター。1人の少年の顔を映していた。ワールドチャンピオンシップ優勝者・ムスカリ選手────。

 一回戦でキュリーのドラゴンポケモンを危なげなく倒した彼は、その後の試合もトントン拍子で勝ち進んだのである。苦戦する様子は一回も見せなかった。
 最初は興奮していた観客たちも、3回戦あたりから顔が青ざめてきていた。終いには、ムスカリ選手にブーイングを送ってしまう始末だ。

 それも仕方のないことなのかもしれない。
 ガラル地方出身のチャンピオン・ダンデが「エンタメとしてのポケモンバトルの道」を切り拓いてから数十年。
 今日、歴史上最もつまらないバトル大会が生まれてしまったのだから。
 ▼ 7 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/08/27 22:14:30 ID:E4Zw56kQ [3/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 世界はあまりにも残酷だ。

 かつて、ポケモンバトルはエンタメよりも純粋な決闘としての側面が強かった。やがて人を楽しませるために、バトル会場は広くなり、観客が入るようになった。
 その結果、何が起こったか?
 ポケモントレーナーたちにタレント性が求められるようになった。要するにトレーナー個人のキャラクター性やドラマ性が重視されたのである。

 インタビュアーはこれまで沢山の実力者を見てきた。
 彼らは個性溢れる面子であったし、裏には深いドラマが隠されていた。

 例えば、何百年も受け継がれてきた拳法を引き継ぐ伝説の空手家。
 例えば、バトルで結果を出せば幼馴染との結婚が許される、財閥の御曹司。
 例えば、死んだ父の夢を代わりに叶えようとする健気な女性────。
 それぞれが複雑な何かを抱えていて、全員がポケモンバトルに命を懸けてきた。

 そんな人生のぶつかり合いこそが、観客の見たい「エンタメ」なのだ。


 インタビュアーは、ほうと深くため息をつき、うっすら汚れた天井を見上げた。
 
「ムスカリ・アルバ、14歳か。これから世界の注目の的になるな……良くも悪くも……だが」
 ▼ 8 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/08/27 22:40:47 ID:E4Zw56kQ [4/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 僕は何もできない人間だった。
 かけっこはできない。勉強はできない。習字もできないし、演劇もできない。絵は描けないし、音楽もできないし、工作も下手くそだし、上手に喋れない。空気が読めない。夢がない。────とにかく取り柄がない。

 先生には怒られる。友達もできない。お父さんも冷たいし、お母さんはいない。僕ってなんで生きてるんだっけ。迷惑ばっかりかけるよね。ごめんない。ああ、頭がぐじゃぐじゃだ。疲れた。僕には……価値が……ない? 僕には、価値が、ない。僕には、価値がない。僕には価値がない。僕がない。僕には価値がない。僕には価値ない。ごめんなさい。僕に価値がない。僕にはない。僕に価値がない。いやだ。いやだ。僕には価値がない。僕はない。僕がない。ごめん。ごめん。ごめん。僕には価値ない。ごめんなさい。僕に価値がない。僕にはない。僕に価値がない。いやだ。いやだ。僕には価値がない。僕はない。僕がない。ごめん。ごめん。ごめん。僕には価値がない。僕には価値がない。僕は価値ない。つらい。僕に価値がない。死にたい。僕には価値ない。僕価値がない。僕価値ない。いやだよ。いやだよ。僕には価値がない。僕には価値がない。僕には価値がない。僕は価値ない。つらい。僕に価値がない。死にたい。僕には価値ない。僕価値がない。僕価値ない。いやだよ。いやだよ。僕には価値がない。


「ムスカリ……ムスカリ!!」

「……あ、あ、あっ、おっおっ、お父……さ、さ、さ、ん」

「またボーッとしてるぞ。いい加減その癖治せと言っただろ……」

「ごっごっごっ、ごごご、ごめんなさっさっ、いっ」


 ムスカリ・アルバ。10歳。彼はとにかく生きにくい人生を送っていた。誰のせい、というわけではない。ただ彼は致命的に運が悪かっただけなのだ。偶々、彼には向いてないことが多かった。だから、様々な人に、そして社会に、爪弾きにされ続けてきた。

 この時点で、世界中の誰一人として、ムスカリのポケモンバトルの才能を知らない。
 ▼ 9 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/08/27 23:27:41 ID:E4Zw56kQ [5/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ムスカリがポケモンと一緒に過ごすようになったのは、10歳を過ぎてからのことだ。キッカケは学校の授業だった。ポケモンバトルを通して、ポケモンの生態を学ぼうという内容だった。

 担任の教師が明るい声で生徒たちに呼びかける。
「みなさん教科書の16ページを開いてください! 昔々、ククイというポケモン博士が言いました。ポケモンバトルはポケモンを理解する最良の手段である、と!」

 続けて教師は言う。
「もう既にポケモンを持っている子は自分のポケモンを出してください! それ以外の子は、学校で用意したポケモンを使ってもらいますからね!」

 ムスカリは心底「イヤだなぁ」と思った。
 周りのみんなはほとんど自分のポケモンを持っている。イワンコ。キモリ。ズバット。ユキカブリ。あ、フカマルもいるんだ、珍しい。
 「みんな、いいなぁ……」

 ムスカリは今まで一度も、ポケモンを持たせてもらえたことがない。
 父親がそれを許してくれないからだ。「お前みたいな未熟者が、ポケモンなんか使った日には誰かに怪我をさせかねない」というのが理由らしい。
 ぐうの音も出なかった。
 ──だって僕はどうしようもなく不器用で、出来損ないの人間だから。

「おいムスカリ、お前ポケモン持ってねぇのかよ?」
 突然、誰かが話しかけてきた。同じクラスのケンちゃんだ。
 鼻の穴を思い切り膨らませながら、意地悪な目をムスカリに向けている。

「…………」
「なんで黙ったままなんだぁ? ムスカリィ〜」

「ケンちゃんケンちゃん、ちゃんとムスカリ語を使わないと言葉通じないんだよきっと」
 ケンちゃんの取り巻きがガヤガヤと口を挟んでくる。

「あっそっかぁ。ムッムッムッ、ムッスッカッカッカッリ〜! きっきっきっ聞こえるかぁ〜?」

 周囲から割れんばかりの笑い声が聞こえた。いつも吃ってばかりのムスカリは、その喋り方を【ムスカリ語】と名付けられて馬鹿にされていた。
 先生は何もしてくれない。いつものように、苦笑いしながらヨソヨソしくしているだけだった。
 ▼ 10 アローラペルシアン@ロックメモリ 23/08/27 23:44:05 ID:60X6uuaE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オリキャラはそうとう頑張らないとな
 ▼ 11 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/08/27 23:48:24 ID:E4Zw56kQ [6/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 何か言い返さないといけない。このままやられっぱなしはやだ。
 何か言わなきゃ。何か、何か、何か、何かを。

「あっ、あーっ、あーうーっ、あっあっあー!」

「ギャハハハハ! 本場のムスカリ語が出たぞー!」
 ケンちゃんが腹を抱えて笑っている。
 周りもみんな笑ってる。

 ああ、悔しい。悔しいよ。
 誰も助けてくれないの? おかしいよ。何でだよ。どうして──。

「ああああああああああああああ!!」
 ムスカリは喉が痛くなるほど叫び、近くにあった机をひっくり返すと、全速力で教室から逃げ出した。

 後ろから先生の叫び声が聞こえる。
 「こら!帰ってきなさい!」だって。「怒りますよ!」だって。
 ──なんで僕が怒られるの? やっぱりおかしいよ。変だよ!!


「はあ……はぁ……はぁっ」

 ムスカリは逃げる時、いつも向かう場所がある。
 それは、家の近所にあるゴミ処理場。そこには普段誰もいなくて、静かで、とにかく心が落ち着く場所だった。ただ今日はいつもと様子が違って、先客がいるようだった。

「きっ、きっ、きみっ、だだ誰……?」
「ヤブ〜?」

 それこそが運命が変わる瞬間。
 後に最良のパートナーとなる、ヤブクロンとの出会いだった。
 ▼ 12 メガニウム@スマホロトム 23/08/27 23:58:40 ID:90sMTmFM NGネーム登録 NGID登録 報告
なんかリアルすぎて嫌なんだけど
 ▼ 13 メタグロス@ノロイノヨロイ 23/08/28 00:09:10 ID:ctv2QH1M NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ももーん
 ▼ 14 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/08/30 22:13:49 ID:thPIH7nY [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 それからムスカリはゴミ捨て場でヤブクロンと遊ぶようになった。
 彼にとって唯一の友達だった。初めての友達だった。
 学校でいじめられていても、先生がそれを無視していても、耐えられるようになった。

 マクノシタのつっぱりの練習台になったって平気。
 オレンジュースにベトベターのエキスを混ぜられた飲み物を飲まされたって平気。
 平気。平気。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。

 ────ヤブクロンが僕の心の傷を癒してくれるから。



「ヤブヤブ……」

 ある日、ヤブクロンが茶色付いた手でムスカリの頬をそっと撫でてきた。
 ムスカリが静かに涙を流していたからだ。ヤブクロンは上目遣いでムスカリを慰めるように身体を寄せた。

「え? あ、あぁ大丈夫だよ。これは大丈夫。まだ耐えられる涙だから」
「ヤブー!」
「だから大丈夫だって! そんな心配しないでよ……」
 ▼ 15 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/08/30 22:33:48 ID:thPIH7nY [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 その翌日。学校では、一大イベントが巻き起こっていた。
 ホウエン地方のフエンシティジムから、ジムリーダーのヒノキが特別講師として来訪したのである。

「バトルは楽しく、が僕のモットーなわけよ! 楽しきゃバトルは勝手に熱くなる!その熱量100000000ジュールってとこね!」

 快活な笑顔が特徴的な御仁だった。年齢は4,50代と言ったところだろうか。白髪混じりの頭髪を撫でながら、教壇の上で演説のように語っている。

「つまりね、つまりね! 僕ァこう言いたいわけよ! 勝つとか負けるとかはそこまで重要じゃない。先ずバトルっちゅーんは楽しまなきゃ損っつーコト!」

「なんか変な人だなーヤバい薬やってんじゃね」
「ケンちゃんそれ言いすぎ!w」
「あの人、ホウエンを代表するジムリーダーなんだって」
「戦ったらどんだけ強いのかなぁ?」
「早くバトルのこと教えて欲しいぜ!」

 生徒のざわめきは収まらない。対してムスカリは自分でも驚くほどに冷めていた。
 どうせ自分には関係ない高みの話だ。諦観だけが彼の思考を縛っていたのである。
 
 ▼ 16 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/08/30 23:24:07 ID:thPIH7nY [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 そんな彼の静かな絶望も知らず、相変わらずジムリーダー・ヒノキは底抜けに明るい声を上げている。
 鬱陶しい。馬鹿馬鹿しい。阿呆らしい。ムスカリは心の中で悪態をついた。


「そいじゃあ早速バトっちゃってるところ見てみたいよねぇ! 生徒二人選んで戦ってもらっちゃおうカナ! 1000000ジュールくらいのアチぃ闘いを期待してるよ〜ん!」

 ヒノキのその一言で、ムスカリ以外の生徒は更に盛り上がってしまった。
 プロのポケモントレーナーを目指す者にとって、ジムリーダーにバトルを見てもらうのは最高の経験になる。あわよくば実力さえ認められれば、ジムリーダーの弟子にしてもらえる可能性さえあるのだ。
 だが、それも良い結果を残せるからこその話。
 
「ケハハッ! じゃあ俺がジムリーダー様にすんげぇバトル魅せちゃおっかなぁ〜」

 ケンちゃんが大げさに手を振るのと同時に、他の生徒は全員静かになってしまった。ケンちゃんといえば、クラスの中でも1番のバトル達者。経験を積んだ大人でも太刀打ちできないレベルにあった。
 そんなケンちゃんと戦うというのは、自ら恥を晒しに行くようなもの。誰も彼に立ち向かおうとはしない。


「ど、どうせ、ぼっ僕には、関係ない話だな……」

 ムスカリは苦笑いを浮かべながら独りごちた。
 しかし次の瞬間、諦めや無気力以外の強い感情が、ムスカリの中に生まれる。

「ヤブブーーッ!」
「えっ、あっ、ヤッヤッヤブクロン! が、ががが、学校来ちゃったのか!?」

 背後でヤブクロンが無邪気な笑顔を浮かべて立っていたのである。これにはムスカリも驚きを隠せない。どうすればいいのかも分からず、一人でわちゃわちゃと動いていた。
 間が悪いと言うべきか。それがヒノキの目に付いてしまう。

「おやおやおや! そこのヤブクロン連れた少年! キミもバトル志望者だね!」
「え……えっ、えぇ?」
 ▼ 17 チヲハウハネ@コータスのせきたん 23/08/30 23:27:37 ID:XVjc0EaI NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
読みやすい 続きが気になる
 ▼ 18 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/09/04 20:14:32 ID:dfo2P5h2 [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
 ヒノキに声をかけられたムスカリは仰天して、数十センチほど飛び上がった。
 できるわけない。勝てるわけない。
 ムスカリは思いきり首を横に振ろうとしたが、周囲がそれを許すはずもない。

「やれよムスカリィ! 逃げてんじゃねぇぞ!」
「ケンちゃん〜! ボコボコにしちゃえ〜!」
 クラスメイトたちは勝手だ。自分たちがケンちゃんと戦わずに済むと分かった瞬間、彼らは猿のように叫び始めたのだった。

 とっても、とっても、とっても悔しい。
 こんな下衆な奴らに、僕の人生がぐちゃぐちゃにされているだなんて!
 ムスカリは怒りやら悲しさやらで、表情をぐにゃりと歪めた。

 すると、そんなムスカリの思いに呼応するように、ヤブクロンが一歩前に踏み出した。ヤブクロンはそのままズカズカと進み、仕舞いにはケンちゃんの目の前に立ったのである。

「ヤブゥ〜!」
 ヤブクロンは抗議するかのように鳴き声を上げた。

 ケンちゃんはほくそ笑み、ムスカリを指差した。
「やろうぜムスカリ、お前の相棒はやる気満々みてぇだからよ」

 ムスカリはヤブクロンを見つめる。ヤブクロンもムスカリを見つめた。
 「ああ、もっと反抗しろって言いたいんだね?」
 ヤブクロンのを理解したムスカリは覚悟を決め、ジムリーダー・ヒノキに向かって、今までの人生で出したことのないような大きな声を上げた。

「ぼっ、ぼぼぼっ、僕! 戦いたいです!」
 ▼ 19 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/09/04 20:20:09 ID:dfo2P5h2 [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
>>18
後ろから5行目訂正です

誤 : ヤブクロンのを理解した
正 : ヤブクロンの言葉を理解した
 ▼ 20 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/09/08 20:34:30 ID:aejAz2VU [1/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ヒノキは白い歯を剥き出し大笑いした。
 あんまりにも笑うもんだから、周囲は若干引いている。もちろんムスカリだって何事だと目を丸くしていた。
 ひーっひーっと、一頻り笑い終えたヒノキは直後、ムスカリの肩を掴んで言った。

「ヤバいな、君っ」
「や、ややや、や、やばい?」
「君ってば今、アチ〜青春魅せてくれたじゃん! その熱さッ1000000ジュールって感じ!? 僕チョー感動したよ!」
「か、か、感動です、か……」
「頑張れ、アチアチの青春少年! 負けたっていいさ。だが一生懸命やれ! 冷めきったクラスメイトたちを君の熱量であっためてやるんだ!」

 ヒノキは背中をバンバンと叩いてくる。
 ムスカリは動揺しながらも、心にじんわりと温かいものが広がっていくのを感じていた。

「チッ……ヤブクロンなんかで何が出来るってんだよ」
 そんな光景を見て面白くないのはケンちゃんだった。
 どうしてムスカリなんかが、ヒノキに気に入られているのか。
 彼にはその理由が全くわからなかった。

 ムスカリなんか臆病の塊で、弱者の象徴で、ヒエラルキーで言えば一番下の存在だ。少なくとも、ケンちゃんを含むクラスメイト全員がそう思い込んでいた。
 そして、そのヒエラルキーが崩されるわけにはいかない。例えジムリーダーと言えど、ムスカリを持ち上げるなんてことがあってはいけないのだ。

「へへっ、今すぐに現実ってヤツを見せてやるさ。出てこい俺の相棒!」

 ケンちゃんが繰り出したのはサイドンだった。よく鍛え上げられた個体だ。
 ヤブクロンとの実力差は、まさに一目瞭然であった。
 ▼ 21 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/09/08 21:03:07 ID:aejAz2VU [2/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ケンちゃんとムスカリの両者は場所を移し、校庭へと向かう。筋骨隆々の巨体で堂々闊歩するサイドンに対し、ヤブクロンはあまりにも小さな身体。頼りなくひょこひょこと歩いていた。

「ククッ。ムスカリの奴やっぱりヤブクロンで戦うのかよ」
「瞬殺されるにサイコソーダ賭けるわ」
「賭け事になんねーよそれ」

 嫌味たっぷりのひそひそ声が、生徒たちの間で飛び交っている。
 しかし先生は知らん顔だ。呑気に口笛を吹いていた。
 こんな状況にあっても、生徒を注意しないのだな、とヒノキは肩を落とした。

 勢いのままムスカリという少年を励まして送り出したが、このことが彼にとってトラウマになったりしないだろうか。
 ヒノキは己の無責任を省み、もう一度ムスカリの肩に触れようとする。
 ……が、すんでのところで止めた。
 ムスカリの目は燃えていた。この場にいる誰よりも、強い意志がこもっていたのだ。

「これ以上何か言うのは野暮か……」
 ヒノキがそんな独り言を呟いた直後、一同はバトルフィールドに到着。


 早速、ケンちゃんが獣のような声を上げる。
「最低でも数秒は耐えてみろぉ、ムスカリィィ!!」

 ムスカリは下唇をギュッと噛み締め、ヤブクロンに声をかけた。
「や、や、ヤブクロン……! ぼっ僕たちの初めてのバ、バッ、バトルだ!」
「ヤブヤブ〜!!」
 ▼ 22 カリキリ@マヨネーズ 23/09/08 21:06:13 ID:FTKo1WO. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
このジムリーダーがまともな大人ならこの学校の状況をどっかに報告か告発しないかな
 ▼ 23 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/09/08 22:04:07 ID:aejAz2VU [3/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 それから緊迫した空気が漂うこと十数秒後。
 ヒノキの合図とともに、いよいよ対戦が始まった。
「それでは両者とも準備はいいな? バトル……開始!!」

「っしゃあ、いくぜぇサイドン!」
 今回が初バトルのムスカリに情けをかけるわけもなく、ケンちゃんが無慈悲の先制を仕掛けた。ケンちゃんは叫び、猛烈な勢いで指示を出す。
「必殺のアームハンマァァァァァ!」

 サイドンは巨体に見合わないスピードで駆け出すと、ヤブクロンの目の前に立ち、猛々しい右腕を振り上げた。その硬度は鉄すらも超えている。一撃でも喰らえば、ヤブクロンなぞ木っ端微塵だ。

「ヤ、ヤヤ、ヤブクロン左だああああ!!」
 ムスカリも負けじと叫んだ。ヤブクロンは一瞬反応が遅れるも、指示通り左へ動き、アームハンマーをギリギリのところで回避する。叩きつけられたサイドンの右腕は地面に深くめり込んでしまった。腕を引き抜くまでには時間がかかる。
 今が絶好のチャンスだ。ムスカリは隙を見逃さない。
 
「ヤヤヤブクロン何かこっこここ攻撃してくれ!」
 だがムスカリはすっかり失念していた。ヤブクロンがどんな技を使えるのか全く把握していないのである。
 ヤブクロンはわたわたと戸惑いながらも、口から何かを吐き出すことに成功した。これは……「ヘドロこうげき」だ!

 ドロドロの液体がサイドンの腕にかかる。
 だが、こうかは今ひとつ。せっかく与えられたダメージも微々たるものでしかない。
 
「そんなしょっぺぇ攻撃、意味ねぇんだよカスがぁ!!」
 ケンちゃんはまたも叫び、強がって見せたが、内心はひどく動揺していた。
 まさか、初バトルのムスカリごときに一撃を与えられるだなんて。ダメージそのものは大したことはないが、彼のプライドは一瞬にして傷つけられてしまった。

「ヤブクロンを潰せ潰せ潰せェェ! 踏みつけ踏みつけ踏みつけろ!」
 顔を真っ赤にするケンちゃん。サイドンは必死に足踏みするが、ヤブクロンは小柄な体格を活かし、曲芸のようにふみつけを避けている。
 驚くべきことだ。たっぷりと冷や汗をかきながらも、ムスカリは的確な指示を送り続けていたのだ。
「み、右! ひだ、左! そそそそこはジャジャンプして左!」

 思わぬ展開に、クラスメイトや先生は勿論のこと、ヒノキも驚愕の表情を見せていた。
「は、はは……こりゃ、熱すぎんじゃねーの……?」
 ▼ 24 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/09/08 22:32:00 ID:aejAz2VU [4/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ムスカリは昔から自己肯定感が異常なほどに低かった。
 自分が世界で一番弱い存在だとすら思っていた。
 だから彼は、常に周囲の動向を気にし続けた。決してトラブルに巻き込まれないように。決して自分が傷つけられないように。
 そんな懸命の努力も虚しく、ケンちゃんたちには目を付けられイジメを受けてしまったが、その間も彼はずっと観察し続けた。
 いじめっ子たちの癖。性格。行動。理念。ポケモンの使い方。何もかもをだ。
 
 そうして培われた観察力が、まさかバトルの才能となって開花するとは。
 ムスカリ自身も信じられずにいた。自分がポケモンバトルで、ケンちゃん相手にここまで戦えるだなんて。
 

 ──すごい。面白い。ゾクゾクが止まらない。

「バトルって……こんなに楽しいんだ!!」
 いつの間にか、ムスカリの表情から満面の笑みが溢れていた。
 ▼ 25 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/09/08 23:07:42 ID:aejAz2VU [5/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 それから数十分後。
 白熱の対戦は、呆気なく終わりを迎えた。
 当初の全員の予想に反し、敗北したのはケンちゃんだった。結局、ヤブクロンはサイドンから一撃も攻撃をくらうことはなかったのだ。

 回避し続ける間、ヤブクロンはヘドロ攻撃を出し続け、サイドンの体力をじわじわと削り取った。やがて、サイドンは毒状態にかかり、そのHPを見る見るうちに奪っていったのである。

 ケンちゃんは魂が抜けたようにその場にへたり込んでいる。
 同様に、先生やクラスメイトたちも茫然自失とし、その場から動けずにいた。

 ヒノキは鼻の穴を思いきり膨らませ、ムスカリの下へと駆け寄った。
「すごいっ、すごいぞ少年!! こんな熱い戦い、初めて見せてもらったよぉ!」

「えっあっうっあっあっあっ」
 言葉が出てこないムスカリは、まるでしゃっくりをするように声を漏らしている。

 ヒノキは捲し立てるように言った。
「ムスカリ少年、僕と一緒にホウエン地方に来ないか!? 君の才能はきっと、世界で輝くことができる!!」
「……ホ、ホッ、ホウエンにで、でですか」
「うん! 僕ァ、君に惚れ込んだんだよ!」


 ムスカリにとって、人生で初めてのことだった。
 自分が、他人に求められるなんて。実の父親にすら失望された自分が、価値ある存在だと認められるなんて。
 誘いを断る理由はない。
 バトルは楽しいものだと知った。そんなバトルを、強い人の下で極めることができる。何も出来なかったはずの自分が、輝くことができる。

「ヤ、ヤ、ヤブクロン……つっ、つつ、付き合って、も、もらえるかな」
「ヤブヤブ〜!!」



 これが、ムスカリの才能が開花するまでの出来事。
 この後彼は父親からの許可も得て、ジムリーダー・ヒノキと共に、ホウエン地方へ修行に出ることになる。
 
 ……眩しい未来が待っているはずだった。
 ……輝かしい将来になるはずだった。

 だが、現実は違った。
 ムスカリ少年の人生の歯車が崩れ始めるのは、まさにこれからだったのだ。
 ▼ 26 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/09/09 00:12:21 ID:Zz12gDuM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




────1年後。

「ホウエン地方 フエンシティ」



 ▼ 27 ルチャブル@ねむけざまし 23/09/09 00:55:56 ID:IWogi9Zs NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
おもろいわ
 ▼ 28 コロモリ@ラッカのみ 23/09/09 11:11:36 ID:cpKM8HmE NGネーム登録 NGID登録 報告
シエンヌ
 ▼ 29 カットロトム@ヨロイパス 23/09/09 17:23:13 ID:8njMTuNc NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援ネ
 ▼ 30 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/09/10 08:02:55 ID:aMjg4Z2c [1/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ──クレセリアの放つ光が強ければ、ダークライもまた濃く生まれ出ずる。昔、シキミという名の作家が残した格言である。


 ホウエン地方に行ってからのムスカリの人生は、まさに輝いていた。
 フエンシティ地区大会の優勝。
 ホウエン大会ジュニア部門での優勝。
 デボンコーポレーション主催アマチュアバトル大会優勝。
 ホウエンリーグ・トーナメント戦の制覇。
 ホウエン地方四天王戦及び、ジョウト地方四天王戦での勝利。

 これらは、彼が " たった1年 ”で打ち立てた功績である。驚異的な成長速度だった。ムスカリの持つポテンシャルを、誰も予測することはできなかった。
 その実力は今や、ジムリーダー・ヒノキを凌ぐほどだ。

 ヒノキもムスカリの才能に夢中になった。
 今や四天王に打ち勝つほど強いせいで、つい忘れがちなのだが、飽くまで彼はまだ発展途上なのだ。ポケモンの知識はまだまだ不足しているし、バトル経験だって少ない。
 教えれば教えるほど想像を超えて強くなるのだから、教える側からすればこんな楽しいことはないだろう。
 しかし、ヒノキはムスカリに注力しすぎてしまった。
 それ以外の大切なことを蔑ろにするようになってしまった。


「ヒノキ先生、本日の我々の特訓はどうすればよいのですか」
 かつてヒノキの一番弟子であった青年が、ヒノキに問いかける。

「すまないね。今日も自主訓練を頼むよ。僕は今別件で……」
「またムスカリですか。またアイツの特訓メニューを組んでいるのですか?」
 元一番弟子は、苛立ちを隠せずにいた。

「……申し訳ない。君たちの特訓もちゃんと進めるから、さ」
 ▼ 31 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/09/10 08:25:54 ID:aMjg4Z2c [2/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「師匠は相変わらず口を開けばムスカリ、ムスカリだ。ふざけやがって!!」
 元一番弟子が拳を思いきり、柱に叩きつける。
 指がじんじんと痛んだが、そんなことどうでもよくなるくらい、彼の心は怒りで満ちていた。

 ここは、フエンシティジムに併設されている特訓場。
 ヒノキの弟子たちが集まり、日々研鑽を積んでいる場所だ。

「でもムスカリは確かに強すぎるよ」
「アイツと同じ時代に生まれたのが不幸だよなぁ」
「最近ムスカリが、フエンの爺さん婆さんから何て呼ばれてるか知ってるか? 『未来を視る神の使い』だぜ?」
「神の使いかぁ……間違ってねぇかもな」
 弟子たちが口々に言った。その言葉からは、やりきれない敗北感が漂っていた。

 元一番弟子がボロボロと涙をこぼしている。
「俺は4歳から15年もポケモンバトルを鍛え続けたんだ! ヒノキ師匠にだって認められたんだ。でも、なんで、なんであんなぽっと出の奴が……」
 ▼ 32 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/09/10 15:15:39 ID:aMjg4Z2c [3/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ヒノキがムスカリをフエンシティに連れて来て以来、弟子の数は急激に減少した。当初は100名を超えていた弟子が、今や30名を切ろうとしている。中にはポケモントレーナー自体を辞めた者も少なくない。

 「もうムスカリには勝てない」「どんな努力をしてもムスカリが立ちはだかる」という現実に打ちのめされてしまったのだ。
 このことはヒノキ自身も想像していなかった。
 ムスカリの才能が、ここまで輝きを増すとは思わなかったのである。その才能の輝きが、ここまで周囲への負担になるとは思わなかったのである。
 そして、ヒノキからすれば「心折れずにムスカリと弟子たちが切磋琢磨してほしい」という思いも持っていた。だが、上手くいかない。弟子たちは次々と辞めていき、残った者も腐っていくばかりだ。

 弟子たちもヒノキも苦悩を抱えている。それぞれが今の状況をなんとかしなければいけないと足掻いている。



 ────しかし、今回の結果に誰よりも心を傷つけていたのは、話題の中心であるムスカリ自身であった。

「あ、あ、あっ、あっあっの……」
 ムスカリがおどおどしながら、特訓場に現れた。

 瞬間、弟子たちは冷ややかな視線を彼に向けた。
「いったい何の用だよ……」
「俺たちなんてアイツの実力と釣り合わねーだろ……」
 ▼ 33 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/09/10 15:30:00 ID:aMjg4Z2c [4/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 弟子たちの負の感情をぶつけられる度に、ムスカリの胃はきりきり痛んだ。胸がムカムカし、吐き気が止まらなくなった。グルグルとめまいがする。足がふわふわと浮いたような感覚がする。
 だがそれでも、寄り添っていきたい。みんなと仲良くしたい。バトルを楽しく練習していきたい。ムスカリは健気にそんなことを考えていた。

「いっ、いっいっ、一緒にバッバトバトル……し、しませんかっ」
 ムスカリが勇気を出して言葉を搾り出すも、誰も返事しない。

 しばらくして弟子の1人が、小さな声を漏らした。
「一緒にバトルしたところで、俺が惨めに負けるだけだろ……」
「……そっ、そっ、それは、その。じゃ、じゃあ、僕がハンデをおっ負えば。たっ、例えばっ、僕がずっと目隠しするとかっ」
「それで勝ったって嬉しいわけねぇだろ! 舐めてんのかよ!!」

 一触即発。ぴりぴりとした空気が全員の全身を包み込む。
 ムスカリは冷や汗をだらだらと流した。胸の動悸が止まらない。呼吸が次第に乱れてきた。なんとかしないといけない。なんとかしないといけない。なんとかしないといけない。

「うっ、あっ、あっ、うっ、あー、あー」
 言葉が出てこなくなった。
 みんなと楽しくバトルしたいのに。ただそれだけなのに。何で上手くいかないんだろう。ヒノキだって言っていたはずだ。勝ち負けなんてどうでもいい。バトルを楽しむことが1番大切なんだって。
 ▼ 34 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/09/10 15:45:17 ID:aMjg4Z2c [5/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ムスカリはグチャグチャになった頭の中で考え続けた。

 ────僕がポケモンバトルなんか始めなきゃ、ここの人たちが追い詰められることはなかったんじゃないか?
 弟子を辞めるような人たちも出てこなかったんじゃないか?
 僕なんかポケモンバトルを始めるんじゃなかった。
 調子に乗っていたんだ。自分はやっと輝けると思ってたけど、やっぱり人に迷惑をかけることになってしまった。
 
 やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。
 ▼ 35 ドードー@アッキのみ 23/09/10 16:30:56 ID:aYOYCcVM NGネーム登録 NGID登録 報告
おもろいけど作者病んでそう
 ▼ 36 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/09/10 20:00:19 ID:aMjg4Z2c [6/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「何やってんだお前らっ!!」
 直後、ヒノキが青ざめた顔で駆けつけてきた。
 ムスカリの隣に寄り添うと、彼の両肩を掴みながら「大丈夫か、深呼吸しろ」と必死に声をかけ、背中をさすり続ける。

「はっ、はっ、はっ、はっ」
 まるで犬が息切れしたように、ムスカリは何度も細かい呼吸を繰り返していた。こうなると気まずいのは弟子たちの方だ。追い込むつもりなど微塵もなかったが、これでは悪人は自分たちの方だ。
 確かに強く言いすぎたとは思う。だが、自分たちにもやりきれない想いがあるのだ。ムスカリだって空気を読めない発言をしたのは否定できないだろう。

「ヒノキ先生、俺たちは──」
 元一番弟子が何か言いかける。しかし、それを遮ってヒノキが口を開いた。
「もういい。しばらくお前らこの特訓場に来るな。今のお前らみたいな冷めた奴等は、俺のジムに要らん」

「え────」
 弟子たちは開いた口が塞がらなかった。
 誰もそんなことを言われるなんて予想していなかったのだ。

 ヒノキは、温厚で有名なジムリーダーだ。
 かつてフエンタウンと呼ばれた過疎の町を率い、シティと呼ばれるまで発展させた旗頭でもある。皆に信頼される存在であり、頼りになる存在でもあった。
 その彼が、ここまで言うだなんて────。

「……もういいスよ。俺、弟子辞めます」
 弟子の1人が言った。他の弟子も次々と落胆の言葉を吐き始めた。

「どうせムスカリがいる限り、ホウエン地方で優勝なんてできねーからな」
「私には才能がなかったんだわ」


「今までありがとうございました、ヒノキ先生」


 ▼ 37 タイレーツ@セビエのウロコ 23/09/10 20:00:43 ID:rNcELuVc NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
頑張って
 ▼ 38 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/09/10 20:27:26 ID:aMjg4Z2c [7/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 部屋に2人きり。取り残されたムスカリとヒノキ。
 ムスカリは何も言わないが、過呼吸を起こしたまま静かに涙を流している。
 ヒノキはそれを見て、下唇をぎゅっと噛み締めた。

 ──どうしてこうなってしまったんだ。
 ヒノキはざわざわした心を抱えたまま、これまでの出来事を振り返っていた。



 先先代のフエンジムリーダーであるアスナの婆さんと約束したのだ。
 フエンをホウエンでも有数の町にする、と。

 そのため、ヒノキはがむしゃらに努力し続けた。
 ジムリーダーとして有名になったし、弟子も順調に増やしていった。そうすることで、フエンの若者人口は次第に増えていった。やがて、フエンタウンは『フエンシティ』と呼ばれるほどの規模になった。
 もちろん、人口を増やしたから終わり、というわけではない。
 弟子にはたっぷりの愛情を注いだはずだ。大切に育てたはずだ。弟子たちの中に、大成する人間こそいなかったが、全員がそこそこの実力者に成っていった。

 そんな折、たまたまムスカリという才能に出会った。
 運命だと思った。彼を育て上げれば、世界トップクラスのポケモントレーナーをフエンシティから排出できると思った。

 ムスカリを育てたかった理由はそれだけではない。
 悔しかったのだ。ここまで輝く才能が、「学校のいじめ」なんかで埋もれてほしくなかったのである。一流の才能には一流の環境を与えてあげたい。身勝手なエゴだと言われても構わなかった。

 ムスカリをホウエンに連れてきたことを後悔はしていない。
 だが、まさかこんな酷いことになろうとは……。

「ムスカリ少年……気にしなくていいからな。君は明後日の大会に備えろ。決して引きずる必要はないからな……」
 ▼ 39 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/09/10 20:55:15 ID:aMjg4Z2c [8/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 2日後、ホウエン地方チャンピオン大会が開催された。アマチュアだけではなく、地方ジムリーダーや四天王、ホウエンチャンピオンまで参加するほど大規模な大会だった。
 結果は当然のように、ムスカリが優勝。しかし、彼の顔が晴れることはなかった。戦いに勝つ度に、相手の絶望の顔を見ることになる。ムスカリの圧倒的才能に打ちのめされ心折れた人間の表情が、網膜にじりじりと焼き付いてしまうのだ。



「優勝はムスカリ選手です! 表彰台の上までどうぞ!!」
 司会の底抜けに明るい声が会場中に響き渡った。

 ああ、行かなきゃいけない。優勝した自分が、落ち込んだ顔でいてはいけない。笑顔でいないと。喜ばないと。にっこり笑うんだ。笑え。笑え。笑え。

 でも何かがおかしい。心臓がずきずき痛む。輪っかで頭を締め付けられるような感覚がある。足元がふらついて、視線がずっと定まらない。表彰台に向かいたいのに、全然まっすぐ歩けない。



「あっ────────」
 会場の応援席にいた誰かが声を漏らした。

 気付いた時には、ムスカリは仰向けに倒れていた。
 少しして、周囲から叫び声が聞こえてくる。


「ダスダス!」
 ムスカリのすぐ隣で、ダストダスが懸命に鳴いているのが聞こえた。

「えっあっ、あっ……ダ、ダストダス……僕、が、頑張らなくちゃ、だ、ダメなのに……」
 ▼ 40 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/09/10 21:33:13 ID:aMjg4Z2c [9/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 その翌日。ムスカリは病院のベッドの上にいた。
 無表情のまま、一点を見つめたまま、呆然としている。
 すぐ横で、ヒノキが心配そうにムスカリを見つめている。少し動く度にパイプ椅子がぎしぎしと音を鳴らした。

「ヒノキさん、こちらに来てくださいませんか。当院のラッキーが隣でお世話をいたしますので、ムスカリ君のことは心配しないでいいですよ」
 廊下から精神科医の老齢の男が手招きをしていた。ヒノキは黙ったまま小さく頷き、ムスカリに声をかけた。

「ムスカリ少年、僕はちょっと席を外すから」
「…………」
 ムスカリは返事をしなかった。まるで電池が切れてしまったかのようだ。このまま元に戻らなかったらどうするのだろうか。
 不安がじわじわと胸を締め付けていく。

 精神科医に招かれ、ヒノキは診察室Fと書かれた一室に入る。
 医師は安っぽい椅子に腰掛けると、書類をめくりながら口を開き始めた。

「結論から言うとムスカリくんは自律神経失調症にかかっていますね。あの子は自分のことを追い込みすぎています」
「……追い込み、すぎですか」

 医師は淡々と言葉を続ける。
「先ほど、軽く面談を行ったんですけどね。彼は『みんなと楽しくバトルしたい』と繰り返し言っていました。『でも、最近はずっと楽しいバトルができない』とも言っています。まぁ一種の強迫観念ですな。楽しいバトルができないと意味がないと思い込んでいるっちゅうわけです」
 ▼ 41 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/09/10 21:50:12 ID:aMjg4Z2c [10/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「私は一介の精神科医にすぎませんがね。ムスカリ君のことは聞いておりますよ。ホウエン地方で1番の実力を持つトレーナーなんでしょう。あの若さで大したもんだよ。……その分背負うもんも重かったんでしょうがねぇ」

 医師の話を聞き、ヒノキは深く肩を落とした。
 やがて、ボソボソと暗い声で呟き始めた。
「ムスカリ少年を追い詰めたのは僕です。僕が、僕が、彼に余計なものを背負わせてしまったんです……。僕ぁ、どうしようもないクズです……」


 まるで刑事に自供するかのような口調だ。もしくは神に懺悔するような口調と言っても差し支えないだろう。
 精神科医は眉を下げ、深いため息をついた。
「アンタぁ、ジムリーダーだろう? 情けないことを言わないでくれ。悪いと思うなら、あの子を支えてやるんだ」
「……はい」
「とにかく、あの子にはしばらくバトルをさせないことだね。環境を何とかしないと、この精神の病気はなかなか治らないよ」
「……はい」

 ▼ 42 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/09/10 22:10:19 ID:aMjg4Z2c [11/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 その後、2年もの間、ムスカリが表舞台に出てくることはなかった。

 ヒノキは自らジムリーダーの職を辞し、元一番弟子に後継を託すことにした。
 彼は、ムスカリを支えることに全力を尽くすと決めたのだ。

 不幸に更なる不幸を重ねたムスカリの人生。
 周囲を巻き込みながら、転落を繰り返し続けた哀れな人生。


 そんな彼の運命がようやっと好転し始めたのは、テッカニンの鳴き声が響き渡る真夏のことであった。
 ▼ 43 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/09/10 22:53:10 ID:aMjg4Z2c [12/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ムスカリ、今日はカイナの方まで散歩しに行かないか?」

 隠居してからのヒノキと言えば、すっかり白髪が増えてしまい、一気に老けた見た目になっていた。あの一件以来フエンシティからも離れ、今はムスカリと一緒に、片田舎の一軒家に住んでいる。

 元々はカラクリ屋敷だとか呼ばれていた和風家屋だ。築年数こそとんでもなく長いが、存外丈夫な造りになっている。
 以前ここに住んでいた者が余程のリフォーム好きだったらしく、家のあちらこちらが頑丈に補修されているのだ。

「……う、う、うん。さ、散歩行く、よ。ダストダスも、お、おいで」
「ダスダス〜!!」

 ムスカリの体調は比較的落ち着いている。
 だが、未だに彼はポケモンバトルを見ることが出来ていない。バトルを一度でも見てしまうと、絶望したトレーナーたちの顔がフラッシュバックで蘇ってしまうらしい。
 ただ、ムスカリは最初ダストダスの顔を見ることすら出来なかったのだ。そのことを考えると、今の状態は劇的な改善だと言えるだろう。


「ダストダス、み、道に落ちてるゴッゴミを、か勝手に拾って食べちゃダ、ダメだ、だよ〜」
「ダスダスゥ〜?」

 ……良い光景だ。
 ムスカリの背中を見つめながら、ヒノキは幸せを噛み締めていた。


 ヒノキは今でも、何故こんなことになってしまったのか、深く考える時がある。
 元々、ムスカリのメンタル面が非常に弱く傷付きやすかった、というのも一因としてあるだろう。医師によればそれは、生まれついての特性らしく、ポケモンのようにカプセルで変えられるようなものではないという。
 
 だが一番の要因はそこではない。
 強いというのは一体どういうことなのか。強者には何が付き纏うのか。
 そのことをヒノキが理解できていなかった。その上でムスカリをフォローしてあげられなかったことが、この悲劇を招いたのだ。
 ▼ 44 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/09/10 23:32:34 ID:aMjg4Z2c [13/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……まぁ、今更考えても遅い話、か」
 ヒノキたちはのんびり歩き続け、しばらくしてカイナシティに到着。
 何匹ものキャモメが、賑やかに空を飛んでいる。
 民家の屋根の上では、チルットが機嫌良さそうに歌を唄っていた。

「お、お、穏やかでいいね。ヒ、ヒノキさん」
「……ああ、そうだなぁ」

 そうだ。穏やかなのは良いことだ。
 今のこの瞬間を、人々は「幸せ」と呼ぶに違いないのだ。

 だが……いつまでも心の内で重たいものが引っ掛かり続ける。

 ムスカリをずっと楽しくバトルさせてあげたかった。
 世界で活躍する彼の姿を一目でも見たかった。
 そんなワガママな思いが、いつまでもヒノキの中で沈澱し続けている。

 だが、そんな日は来ないと思った方が良いのだろう。
 何か、よほどの奇跡でも起こらない限り────。



「……ヒ、ヒノキさん、あ、あ、アレ、なんだろう」
「んん?」
 ムスカリが突然ぽかんとした表情をしながら、真っ直ぐ指を差している。

 指差す方向をよく見ると、少年が一人、甲高い声で叫び続けていた。
「ミズゴロォォ! みずでっぽうを撃ちまくれぇぇ!」
「ガヤガヤァァァァ!!」
 ▼ 45 身体は闘争を求める◆BzGlIqFMoc 23/09/17 14:38:39 ID:QUDkkGKE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ミズゴロウは同じ技を砂浜に向かってひたすら撃ち続けていた。
 技の練習だろうか。だとすれば殊勝なことだ。技を鍛えるには反復練習以外に手段はない。過去にいた、どれだけ偉大なトレーナーであっても、技の反復だけは欠かすことはなかったのだから。

「いけいけミズゴロー! 最大火力だああ!」
 ムスカリよりもずっと小さなその少年の目は、熱く熱く燃えていた。これから来るであろう眩しい未来を予感させるものであった。
 ミズゴロウもその真剣さに呼応し、懸命に技を繰り出している。

 ──かつて、ムスカリもその熱意を持っていたはずだ。
 それを消してしまったのは誰だ? 奪ったのは誰だ?


「ムスカリ、早く行こう」
「う、うん……」
 あの小さき少年とミズゴロウの輝かしい姿を、いつまでもムスカリに見せては毒だ。そう思ったヒノキは彼の左腕を引っ張りながら、その場からさっさと立ち去ろうとした。

 すると突然、「ちぃと待ちな」という声が、ムスカリたちの耳に飛び込んできた。振り返れば、1人の老人が杖をつきながら突っ立っている。
 しわくちゃの顔だ。だが精悍な顔つきだ。エネルギーに溢れた表情だった。
 年齢こそ想像つかないが、纏っている雰囲気からは強者のそれを感じさせた。
 
「誰ですかアナタは」
 ヒノキが怪訝そうな顔で尋ねる。
 老人はくつくつと笑いながら、静かに口を開いた。

「オレ様かぁ。オレ様は、そうだなぁ……世界で二番目に強いトレーナーとでも名乗っておこ────」
「あっ、グリーン爺ちゃぁぁぁん!!」
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