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【SS】Ghost in the Pokewood

 ▼ 1 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/20 20:35:01 ID:yQTcc8KY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジムリーダーを辞任し、俳優業に復帰しポケウッドの看板スターになったハチク。


ポケウッドからのスカウトを受けて、銀幕スターとして輝きを放つヤマブキジムのジムリーダーナツメ。


タチワキジムの戦いぶりをスカウトに見初められ、今飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍中のメイ。


そう。今ここポケウッドではポケモントレーナー出身の俳優・女優業が急速に増えてきているのだ。


ポケウッドの撮影には、細かい条件がつくとは言え殆どの場合でポケモンバトルが絡む。


撮影の幅が広がる点で言えば、トレーナーとして優れた人物が主演級として重宝されやすいのは自明の理と言えるだろう。


しかしプロの演技指導を受けているとは言え、役者としては素人からのスタート。


それを問題視する声が全くないわけではなかった。
 ▼ 78 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:28:38 ID:X0XMbeSo [1/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ナツメと監督は肩を並べて、ポケウッド構内を歩き出した。


レイトショーの上映時間と重なり、役者もかなり帰りだしている頃なので人通りがかなり少ない。


ナツメは予知で見た場所になるべく近い所を探している。


監督の方はというといくら演技とはいえ、艶やかな黒髪美女が真隣にいることに対して落ち着かない様子だった。


ナツメ「あの辺りにしましょう。」


ナツメは監督の手を引いて、ポケウッドシアターの裏に案内した。


D.ポケンチ「あっ…!ちょっと…!」


そして、それに気づかれないような位置でキヨミは付いてきていた。


キヨミ「フフフ……やっぱりやることやってるじゃない……!」


キヨミ「今度はもっと面白いものが撮れそうね……。」
 ▼ 79 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:29:27 ID:X0XMbeSo [2/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
シアターの裏に誘うなり、ナツメは足を止め監督の腕に軽く触れた。


ナツメ「ねえ貴方?この前の演技悪くなかったでしょ?」


D.ポケンチ「あ……あな……!」


ナツメ(話を合わせて……)


D.ポケンチ「……そうだな。一段と演技がうまくなったし、お前はより一層綺麗になった。」


ナツメ「ふふ。ありがとう。」


ナツメ「ポケウッドに来てから色んな事が新鮮で、いい経験が出来ているわ。」


ナツメ「ジムリーダーになってからは、こんなに多くの人目を浴びる経験なんて想像もしていなかった。」


D.ポケンチ「俺としても、ここポケウッドに来てくれて本当によかったと思っているよ。」


ナツメ「……ねえ、貴方?」
 ▼ 80 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:29:47 ID:X0XMbeSo [3/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ナツメは監督のネクタイを軽く引いて、甘い声で囁いた。


ナツメ「私、もっと色んな経験をしたいな?」


D.ポケンチ「え……あー……えーっと……。」


キヨミはそのあまりに決定的すぎる姿をスマホロトムのカメラに収めて、思わず笑みがこぼれた。


キヨミ「こんなの何にも工作する必要もないじゃない!無編集でそのままあげられるわ!」


???「……確かによく撮れているな。問題はその動画が使えなくなるという所だが。」


キヨミ「……!?だっ……誰よ!?」


キヨミは撮影に夢中で、自分自身がつけられていることに全く気が付いていなかった。


キヨミのすぐ後ろには、壁に寄りかかりながら腕を組んでいるハチクがいた。
 ▼ 81 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:30:35 ID:X0XMbeSo [4/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ナツメは監督のネクタイをぱっと離して、キヨミの方に歩み寄った。


ナツメ「……やっぱりきたわ。予感がしたのよ。」


ナツメ「そうやって……メイのことも撮ったのね?」


キヨミ「……さあ?何を言っているのか。でもあんたは本当に監督に手を出しているんじゃないの?」


ナツメ「まさか。一芝居付き合ってもらっただけよ。そうですよね?監督。」


D.ポケンチ「あーその……もう少し段階を踏んでからというか……。」


ナツメ「……もうお芝居は結構です。」


D.ポケンチ「……あっ!そうだ。急なことで驚いたが、つい先ほど恋仲を演じるように頼まれた。掘っても何も出てこないぞッ!」


ハチク「……ところで、"本当に監督に手を出している"というのは興味深い話だ。」


ハチク「まるで先日監督と関係を持った疑いがある女優が、本当は違ったかのような言い方だ。」


キヨミ「…………くっ!」


ナツメ「貴方のスマホロトムを見せなさい。もしまだ疑うなら私のも好きなだけ見ていいわよ?何も出てこないから。」
 ▼ 82 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:31:09 ID:X0XMbeSo [5/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
脚本家のS.テルユキは、次の作品に使う小道具を確認したいという理由で倉庫のカギを入手し、夜中に誰もいないタイミングで忍び込んだ。


そもそもここにある小道具はVFXが盛んになって、あらゆるものがそこに本当にあるかのように見せることが出来るようになってからは、使われる頻度が減っていた。


たまに本物のセットを使って臨場感を上げたいという目的で、一部の監督がここを訪れるぐらいなものだった。


『大怪獣』シリーズのメカバンギラスの模型、『タイムトラベラー』シリーズのタイムマシーンのセット、『大怪獣』シリーズのUFOのセット。


どれも脚本家のS.テルユキの探しているものではない。


探し求める中数十分。とうとう脚本家の目当てのものは見つかった。


他の作り物とは一線を画した、禍々しい雰囲気を宿した古代像がそこにあった。


S.テルユキ「ククク……見つけたぞ……。」
 ▼ 83 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:31:48 ID:X0XMbeSo [6/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
目当てのものを見つけると悪霊の魂が実体化し、嬉しそうに脚本家の隣に表れてそこら中を飛びまわった。


アーカム「やったねー!やっと悲願が成就するよ!」


アーカム「よわっちい霊体なのに、我ながらよくここまで頑張ったなー!」


S.テルユキ「お前には感謝している。障害になり得るメイを事前に退場させたのだからな。」


アーカム「まあね!あんな女でも使いようがあるんだねーって。」


S.テルユキ「さて。元々この古代像は破壊の魔神を崇める一族によって作られたものと知られているがこれは誤情報だ。」


S.テルユキ「しかし事実は全くの逆だ。この古代像が持っているオーブそのものが、破壊の魔神から奪い取ったエネルギーの結晶体となっている。」
 ▼ 84 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:32:17 ID:X0XMbeSo [7/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
アーカム「元々そういう”脚本”だったもんねー?」


S.テルユキ「忌まわしいことに、そこまで劇場公開できなかったがな。」


S.テルユキ「だがこの古代像を壊せば、オーブは溶け、破壊の魔神が復活する。」


S.テルユキ「そして俺が作った映画は、現実のものになるんだ!」


S.テルユキ「ゆけっ ケッキング!」


ケッキングの シャドークロー!


古代像は大きな音を立てて崩れ落ちた。


古代像が持っていたオーブが浮かび上がって溶けだし、一筋の光となって倉庫を飛び出した。


S.テルユキ「では特等席で顛末を見るとするか。」


S.テルユキ「クククッ!……アッハハハーッ!!!」


脚本家にはアーカムが憑依し、ゆらゆらと宙に浮きながら倉庫を後にした。
 ▼ 85 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:32:53 ID:X0XMbeSo [8/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
キヨミのスマホロトムを確認すると、確かにメイとJ.ポケンター監督が合っている無編集の動画が保存されていた。


キヨミの恨めしさと諦観が混じったような表情で見られる中、ナツメはメイに連絡を取った。


ナツメ「メイ?今大丈夫?」

メイ「……はい!」

ナツメ「やっぱり予知した通りの犯人だったわ。たった今確認出来た。」

メイ「本当ですか!?」

ナツメ「ええ。貴方が大手を振って歩くことが出来る日も近いわ。」



キヨミ「どうして……私に主演が回ってこないのよ……。」


キヨミ「私の方がずっと演技がうまいのに!どうして端役に追いやられるのが私なのよ!」


ハチク「……少なくともメイやナツメは努力を惜しまず真っ当な手段で役を勝ち得た。」


ハチク「他人を蹴落とすことなんて考えもしていなかった。第一そんなやつを主演に置きたいと思うか?」


キヨミ「うるさい!」


キヨミ「こんな世界、滅んじゃえばいいのよ!」


キヨミが自暴自棄になってそう叫んだ瞬間、ポケウッドの夜空に不気味な騒めきが響いた。
 ▼ 86 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:33:21 ID:X0XMbeSo [9/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ポケウッドの倉庫から伸びてきた光がまるで意思を持つかのように集まり、脈動しながら少しずつ人の形を成していった。


その姿は濃緑の煙が凝縮されて大男になったかのようだ。


目に見える程の禍々しいエネルギーを発しながら、赤く輝く目が地上を見下ろし、大口を開けてニヤリと不気味に笑う。


D.ポケンチ「おいッ!あれが例の……」


ハチク「……滅びの魔神。」


キヨミ「違う……!私じゃないわ!私にそんな力はない!」
 ▼ 87 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:33:59 ID:X0XMbeSo [10/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
魔神がぐっと拳を正面に突き出すと、放たれた衝撃波がタチワキシティ近くの海面に着弾し、水面が切り裂かれたように両断された。


海底が露わになるほどの衝撃に、辺り一同は騒然とする。


観客は次々にその異様な存在に気づき、我先にと逃げ出す。


恐怖が伝染し、ポケウッドは一瞬にして大混乱に陥った。


メイ「……!今の衝撃ってもしかして!」


ナツメ「……ええ。例の滅びの魔神が顕現してしまったわ。」


メイ「準備してすぐに向かいます!」


ナツメ「お願いするわ!」


ナツメは連絡を切って上空に漂う魔神をじっと見据える。


ハチク「わたしは観客を無事に避難させる。君も手伝ってくれ。」


ナツメ「……私は魔神を足止めするわ。」
 ▼ 88 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:34:22 ID:X0XMbeSo [11/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ハチク「無茶だ!あの強大な相手にそんなことが出来るのか?」


ナツメ「避難だけで片付くような相手じゃないわ。大丈夫。筋書きは頭の中に入っているから。」


ハチク「……承知した。死ぬなよ。ナツメ。」


ハチクは逃げ惑う観客の先導に向かった。


ナツメは深い呼吸をした後、自身の体を超能力で宙に浮かせてポケウッドシアターの屋上を目指した。
 ▼ 89 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:35:00 ID:X0XMbeSo [12/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
魔神は自分が衝撃波を飛ばした海の様子を見てから、不服そうに巨大な拳を握ったり開いたりしている。


魔神「んんー……まだまだ本調子とはいかないでごじゃる……。」


S.テルユキ「やあ。お目覚めかい?」

脚本家は禍々しいオーラを放ちながら、浮遊し滅びの魔神に並び立つ。

滅びの魔神相手でさえも、まるで旧知の仲のように気さくに話しかける間柄のようだ。

S.テルユキ「すまないねー。どこかの誰かさんがいなければもう少し完全な状態で復活するはずだったんだが。」



魔神「まあオイラなら半分の力でも滅ぼせるでごじゃるな!」

ナツメ「そこまでよ!」

ナツメはポケウッドシアターの屋上に立ち、勇ましい声で自分より遥かに強大な相手を呼び止めた。
 ▼ 90 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:35:22 ID:X0XMbeSo [13/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
S.テルユキ「噂をすればなんとやらだ。どうだ?このスクリーンを通してでは味わえない圧倒的な臨場感。気に入ってくれたかな?」


ナツメ「ふざけないで!今すぐ魔神を封印しなさい!」


S.テルユキ「生憎私でも封印の方法なんてわからないね。そんなの最初から脚本に書いていないから。」


S.テルユキ「ええと?キミは魔神を消し去る主人公気取りでここに来たんだよね?」


S.テルユキ「ククッ……そんなこと出来るの?」


どうやら今は脚本家とアーカムの人格が入り混じっているようだ……。


ナツメ「……止めて見せるわ!私はその役柄を与えられたのだから!」
 ▼ 91 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:35:44 ID:X0XMbeSo [14/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
取り憑かれた男の アーカムは 魔神を くりだした!

ゆけっ!ケッキング!


ナツメ(台本と同じなら、魔神のタイプは悪・ゴーストで特性はふしぎなまもり……)

ナツメ(相手の特性や耐性を変更してからでなければ、私の手持ちでは一切の攻撃を受け付けない。)

ナツメ(取るべき行動は……!)

ケッキング 交代! 戻れ!

ゆけっ! デスカーン!

ナツメ(デスカーンに接触すれば相手の特性はミイラに変わる……)


脚本家の指先から紫色の光線が、交代で出てきたデスカーンに放たれた!

相手の アーカムの シンプルビーム!

デスカーンは たんじゅんになった!

相手の 魔神の かみくだく!

デスカーンは たおれた!
 ▼ 92 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:36:18 ID:X0XMbeSo [15/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ナツメ(…………!)

S.テルユキ「あのねぇ……一応私が脚本家なんだよ?何も用意していないと思った?」

ナツメ「……まだよ!」

ゆけっ!オクタン!



S.テルユキ「さてさて……いつまでたえられるのかなー?」

相手の 魔神は つるぎのまいを 使った!

相手の 魔神の 攻撃が ぐーんと上がった!

相手の アーカムの ちょうはつ!

オクタンは ちょうはつに のってしまった!

オクタンは ちょうはつされて みずびたしが だせない!



ナツメ「……くっ!」

S.テルユキ「ほらほら!キミ大女優なんでしょ?アドリブで何とかしないと!アッハハハーッ!!!」
 ▼ 93 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:37:00 ID:X0XMbeSo [16/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
相手の 魔神の かみくだく!

オクタンは たおれた!

S.テルユキ「その台本はもう古いから破棄して貰って構わない。」

S.テルユキ「お前は魔神に力及ばず負けて、魔神は退屈しのぎに全てを破壊しつくす。それが今回の筋書きだ。」

S.テルユキ「もう有効打を与える方法は残っていないはずだろ?」

ナツメ(確かに私の手持ちで魔神にダメージを与える方法はもう残されていない……)

ナツメ(でも……一度開いた幕は、どんな困難があっても最後まで続けなければならない!)

ナツメ「私も、貴方の台本にないことをさせてもらうわ!」

ゆけっ!フーディン!
 ▼ 94 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:37:25 ID:X0XMbeSo [17/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
S.テルユキ「あれれー?自前のポケモン?でもそいつに何ができるの?」


魔神「るるるーん♪るるるーん♪」

魔神「そなた 気に入ったで ごじゃる そなたなら オイラの ハートが 分かりそう でごじゃる♪」

魔神「オイラの クエスチョンに 答えるので ごじゃる!」

魔神「間違っても オーライで ごじゃる!ブチ壊すだけで ごじゃるよぉぉぉ!」


あせる人々「みんな!見ろっ!何だ!?あのバケモンは!?」

逃げ遅れた観客が滅びの魔神を指さし叫んだ。


魔神「んー!んー!んー!虫けらが うるさいで ごじゃる!!」

魔神「オイラを バケモノ呼ばわり なんて あいつら ブチ壊すで ごじゃるよ!」

ナツメ「ちょっと 待って!それより クエスチョン でしょ?」

ナツメ(台本に書いていた流れに戻りつつあるわ……)
 ▼ 95 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:37:57 ID:X0XMbeSo [18/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
魔神「そうだったで ごじゃる!それでは クエスチョンで ごじゃる!」

魔神「オイラの 苦手なものは なーんだ? で ごじゃる!」

ナツメ「そうね……」

ナツメ(この答えは知っている……答えは……)

ナツメ「……退屈?」


魔人「るるるーん♪はーい!正解で ごじゃる!わかってくれて うれしいでごじゃる!」

魔人「うれしくて 踊っちゃうで ごじゃる♪るーん♪るるるーん♪」

S.テルユキ「おい!なめたことをするな!」


相手の 魔神は つるぎのまいを 使った!

ナツメ「今よ!フーディン!」

フーディンの アンコール!

魔神は アンコールをうけた!

魔人「およよ?なんだか 体が勝手に 動いちゃうでごじゃる!」
 ▼ 96 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:38:50 ID:X0XMbeSo [19/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
S.テルユキ「はあ……気まぐれな性格は変わらないのだな……。」

ナツメ「……一つ質問があるわ。」

S.テルユキ「君からもクエスチョンがあるのか?なんだ?」

ナツメ「どうしてこんな回りくどいことをしようとしたの?」

ナツメ「魔神を復活させるだけなら、『ゴーストイレイザー』を映画として作る必要なんてなかったはずよ。」

S.テルユキ「いい質問だね。答えてあげよう。」

S.テルユキ「確かに魔神を呼び起こすことはできた。でも手順を踏まなければ今より遥かにか細い存在だっただろうな。」

S.テルユキ「霊みたいな実態のない存在ってどうやって広まると思う?」


ナツメ「……人伝い?」
 ▼ 97 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:39:39 ID:X0XMbeSo [20/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
S.テルユキ「そうだ。一度誰かが幽霊を見たといえば瞬く間に噂が広がり、更なる目撃者が出てくる。」

S.テルユキ「霊っていうのは人の認知そのものなんだ。」

S.テルユキ「認知を広めるのにうってつけの方法はなんだ?映画だ。」

S.テルユキ「それも世界で最も巨大な映画産業の中心地ときている。」

S.テルユキ「キミが3作目の映画製作を止めなければ、魔神はより多くの人々に認知され更に凶悪になっていたのに……余計なことをしてくれたものだ。」

S.テルユキ「『ゴーストイレイザー』にその場で携わったスタッフのみしか知らないから、まだ力を発揮しきれていない。」

S.テルユキ「まあこれだけ強大な魔神が暴れまわれば、すぐに全員が認知するだろうが。」
 ▼ 98 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:40:45 ID:X0XMbeSo [21/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ナツメ「……貴方は世界を滅ぼすために映画を利用したってこと?」

S.テルユキ「順序が真逆だよ。自分の映画のために世界を滅ぼすんだ。」

ナツメ「何を言っているの……?」

S.テルユキ「実は『ゴーストイレイザー』は昔一度ボツにされた脚本なんだ。セットまで作ってもらったのにだ。」

S.テルユキ「腹が立った。悔しかった。こんな名作を世に公開できない方が間違っていると思った。」

S.テルユキ「いかにこの映画が素晴らしいか自分で説いて回った。ありふれたサスペンスホラーだと誰も耳を貸さなかった。」


S.テルユキ「ある日変化が訪れた。悪霊のアーカムが実際に見えたんだ。」
 ▼ 99 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:41:30 ID:X0XMbeSo [22/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
S.テルユキ「今よりもっとか細いが確かに鏡に映った。目を疑ったね。アーカムは映画の登場人物でしかないのだから。」


S.テルユキ「そこで確信した。嘘だけでなく霊も百回言えば真実になると。」


S.テルユキ「後はキミの知っての通りのアーカムの暗躍だ。」


S.テルユキ「実際に『ゴーストイレイザー』を公開するとどうだ?」


S.テルユキ「何人が見に来た?何億稼いだ?一度ボツにしたのはこれ以上なく愚かな判断だった!」


S.テルユキ「だがまだ全く足りない!全世界一人残さず私の最高傑作『ゴーストイレイザー』を知るべきだ!」


S.テルユキ「だから私は現実に滅びの魔神を呼び起こして見せた!」
 ▼ 100 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:41:55 ID:X0XMbeSo [23/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ナツメ「……完全に狂っているわ。見てくれた人も応援してくれた人もみんないなくなるのよ?」

S.テルユキ「一度私の映画を知ったのなら後はもうどうでもいい。」

S.テルユキ「さーて!そろそろアンコールが解ける時間だよー!」


魔神「るるるーん♪そろそろ 踊るのも 飽きたでごじゃる!」


魔神「手始めにこの映画館をブッ壊して 遊ぶでごじゃる!」



ナツメが時間を稼ぐ方法も尽きて、魔神の無慈悲な破壊行動が再開されるかと思ったその時……!

少女を乗せた鳥ポケモンが遠方から猛スピードで飛来するのが見えた。
 ▼ 101 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:42:35 ID:X0XMbeSo [24/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ナツメ「……ところで貴方の台本の中には、登場人物がもう一人いるってことは書いていたかしら?」

S.テルユキ「……何?」


笑顔が 絶えない 映画館 みんなの 理想の 映画館

だが そんな 場所に 怪しい 巨影が ひとつ……

そう それは 世界の 滅び……

だが しかし!! 影あるところに 光あり! あのヒロインが 現れた!

そう! ヒロインの 名は! ルカリオ ガール!

ルカリオガール「真実と理想の使者 ルカリオガール ウォーグルに乗って登場!」

S.テルユキ「ほう……立ち直ったか。」
 ▼ 102 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:43:13 ID:X0XMbeSo [25/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
逃げ惑う観客が次々に足を止めて、久々のヒロインの姿に目を奪われる。

当然そんなことをしている暇は本来ないが、彼女が現れたからには大丈夫という根拠のない自信が辺り一帯に沸いてきていた。


S.テルユキ「しかし一足遅かったな。魔神はもう十分すぎる程力を蓄えた。」

ルカリオガール「テルユキさん!映画は人に夢を与えるものだよ!」

ルカリオガール「こんな使い方をするなんてアタシが許さない!」

ゆけっ!リオル!


S.テルユキ「クククッ…… アッハハハーッ!」

S.テルユキ「今更のこのこと来て何そのポケモン?」

リオルの みやぶる!

敵の 魔神の しょうたいを みやぶった!

相手の 魔神の ダブルチョップ!

リオルは たおれた!
 ▼ 103 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:44:07 ID:X0XMbeSo [26/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
観客「そんな……ルカリオガールのポケモンが一瞬で……」

S.テルユキ「アハハハハ!もう魔神は誰にも止められない!」


期待感から一転、魔神の強力な一撃でリオルが一瞬で瀕死になり、辺りに絶望の色が広がった。

しかしメイの代役を任されたナツメだけは、ルカリオガールの真意を理解していた。

『ゴーストイレイザー』を演じるはずだった女優2人が顔を見合わせて頷く。


ゆけっ!ルカリオ!

ルカリオガール「幽霊って不安や恐怖を抱いている時見えるものでしょ?」

ルカリオの こらえる!

ルカリオは こらえる たいせいに はいった!

相手の 魔神の かみくだく!

こうかは いまひとつのようだ……

ルカリオは 攻撃を こらえた!

ルカリオのせいぎのこころ!

ルカリオの 攻撃が あがった!
 ▼ 104 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:45:06 ID:X0XMbeSo [27/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ルカリオガール「あたし含めて色んな人が、この悪霊や魔神のせいで気持ちが沈んでいる!」

ルカリオガール「だから今!あたしのルカリオが!みんなの不安を打ち払う!」

ルカリオガール「……いくよっ!!ルカリオ!!」

ルカリオの きしかいせい!

こうかは バツグンだ!


追い詰められたルカリオの全身全霊の拳撃は、滅びの魔神の腹を撃ちぬいた瞬間、時間が一瞬止まった。

拳が魔神の腹に突き刺さると、紺碧の波動が拡散し周囲を揺らした。

魔神の巨体が折れ曲がり、拳を入れた箇所からエネルギーが漏れ出す。


S.テルユキ「そんな……まさか……?」

ルカリオは一回転してシアターの天井に着地し、まだ終わっていないと臨戦態勢を再びとる。

ナツメ「倒せた……?」
 ▼ 105 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:45:39 ID:X0XMbeSo [28/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
しかし怯んだのも束の間。傷を受けた箇所が修復し出し、ルカリオの起死回生の一撃が一瞬の間になかったことになってしまった。


ルカリオガール「嘘……!?今ので倒せないの……?」


夜空に絶望を告げるアーカムの笑い声が響き渡る。


S.テルユキ「アッハハハーッ!!これで本当の本当に幕引きだ!とどめを刺せ!」


魔神は伸びをして体をほぐした後、思わぬ言葉を口にした。
 ▼ 106 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:46:21 ID:X0XMbeSo [29/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
魔神「るるるーん♪そなたは 強いで ごじゃるな オイラ ご機嫌で ごじゃる!」

魔神「いっぱい 遊んだから オイラ ちょっと おねむで ごじゃる」

魔神「ふにゃあ……眠い……帰って 眠るで ごじゃる……」

魔神「アーカム!行くぞぉぉぉぉ!」

S.テルユキ「バカな……バカな……バカな……!」



魔神は自分を生み出した脚本家を大きな拳の中に包んでから光に変わった。

その光が一極に集まり、魔神の図体に見合わぬ程小さなオーブの形を成してから、虚しくポケウッドの撮影スタジオ前に落下した。

ポケウッドに巣くう悪霊、妄執に囚われた脚本家の狂気は、魔神の気まぐれにより一夜のうちに終わりを迎えたのであった。
 ▼ 107 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:49:05 ID:X0XMbeSo [30/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ナツメ「やったわ……」

メイ「ナツメさん!私たちやりました!」

メイはルカリオにぎゅっとハグしてから、ナツメにも熱い抱擁を交わした。

ナツメ「やっぱり貴方に任せてよかったわ……私一人なら世界は滅んでいたかもしれない……」


メイ「ナツメさんが耐えてくれたおかげですよ……あら?」

気づけばポケウッド内に残った観客全員が、一本の大作映画を見終えた時のように拍手や指笛をシアター屋上にいる2人の女優に送っていた。

それに対してメイは大きく腕を振って、ナツメは小さく礼をして返した。


『ゴーストイレイザー』の映画上映は中断されて、続きを見ることは出来ない。

しかし今ここで魔神との命を賭した交戦を目の辺りにした観客は、その続きを生演技で見ることが出来た幸運な人々だ。
 ▼ 108 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:49:29 ID:X0XMbeSo [31/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
キヨミ「私が……嫉妬と感情に任せて、事実無根の動画を捏造し、インターネット上に公開したことは、決して許されることではありません。」


キヨミ「被害を受けたJ.ポケンター監督、そして共演者の皆様、関係者の皆様、そして何よりファンの皆様に、深くお詫び申し上げます。」


フラッシュが瞬き、シャッター音と記者達の質問の声が鳴り響く中、謝罪会見は容赦なく続いていた。

キヨミに待っていたのは無期限の活動自粛と、関係者への補償。法的責任の訴追。

ポケウッドはこの凄惨な事件を受けて、より一層役者へのメンタルケアに力を入れた。

そして製作面でも、収録にポケモンバトルが絡まないような映画もバランスよく作ろうといった意識改革が行われた。

しかし、皮肉にもその取り組みは、誰より映画収録にポケモンバトルが絡むことを憎んだキヨミの自粛をもって決まったのだから少し後味が悪い。
 ▼ 109 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:50:20 ID:X0XMbeSo [32/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
魔神とアーカム……そして脚本家S.テルユキの魂が封印されたオーブは安全のためジャイアントホールの地中奥深くに埋められた。


魔神のいうお休みがいつの話かはわからない。数年後かもしれないし、数千年後かもしれない。


ただ少なくともナツメがオーブを見て瞑想しても、何も脳内に思い浮かばなかったから、すぐ近くの話ではないはずだ。


しかし目覚める可能性がないとは言えない。引き続き警戒を怠るべきではないだろう。


真夜中のポケウッドに滅びの魔神が現れたというニュースは、全世界で報じられた。


奇跡的に目立った被害もないままナツメとメイの活躍によって収束させたため、いつかは忘れ去られる話かもしれない。


しかしそのインパクトから、報じられた日のうちは多くの人の脳に焼き付いた。


自分の作り上げた映画を全世界に知られたいという妄執に囚われた脚本家S.テルユキも、少しは浮かばれるのだろうか?
 ▼ 110 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:50:48 ID:X0XMbeSo [33/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ポケウッドはすぐに活動を再開し、元の映画を撮ってはすぐに公開するようなせわしない日常が返ってきた。


ポケウッドムービースタジオ内。『Full Metal Cop』シリーズ収録で休憩中のナツメとハチクを見かけ、メイは小走りでかけよった。


メイ「ナツメさん!ハチクさん!お疲れ様です!」

メイ「ハチクさんは勿論ご存じかと思いますが、無事に『ハチクマンの逆襲2』の製作が決定したみたいです!」

ナツメ「おめでとう。きっとホテルに行った時予知した未来はこれだったのね。」

メイ「……あっ!!確かにそうですね!」
 ▼ 111 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:51:21 ID:X0XMbeSo [34/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ハチク「……しかし感慨深いな。きみがこうして何の憂いもなく活動再開出来るようになったというのは。」


メイ「本当にありがとうございます!あたし感謝してもし足りません!」


ナツメ「感謝するのは私の方よ。貴方がいなかったら、今私たち全員ここに立つこともできなかったのだから。」


メイ「ではお互い拾ったチャンスということで、これからもメイっぱい頑張りましょうね!」


ナツメ「ええ。ナツメいっぱい 頑張ります!……ってね。」


メイ「ええっ!?」


ハチク「…………。」


ナツメ「……何よ。ちょっと言ってみたかっただけじゃない。そんなに引かないでよ。」
 ▼ 112 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:51:56 ID:X0XMbeSo [35/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
3人で和やかに話し合っている時に、経営者のウッドウさんがやってきた。


ウッドウ「いやあー!ちょっと!!みんなお揃いじゃないー!」


メイ「あっウッドウさん!お疲れ様です!」


ナツメ・ハチク「お疲れ様です。」


ウッドウ「ポケウッドどころか、世界を救ったすぐ次に働かせちゃってごめんねー!」


ナツメ「いえ。好きでやっていることですから。」


ウッドウ「そう?助かっちゃうねー!それでナツメちゃん?まだ予定の話なんだけど、一つ出てほしい映画があるのよー!」


ナツメ「はい。どういった映画でしょうか?」
 ▼ 113 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:52:38 ID:X0XMbeSo [36/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ウッドウ「ボク聞いたよー!ポケンチちゃんから。恋仲の芝居を打ったんだってね?」


ナツメ「ああ……そうですね……成り行きで……。」


ウッドウ「もう監督からすごい評判が良くてー!『彼女ほど妖艶な演技が出来る人はそうそういないッ!』ってねー!」


ウッドウ「だからこれ!『トレーナーとポケモン その愛』ってシリーズに出てほしいのよー!」


ウッドウ「前後の繋がりはないオムニバス形式のラブコメで、きっといい役になると思うのよねー!」


ナツメ「ラ、ラブコメ……?」
 ▼ 114 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:52:53 ID:X0XMbeSo [37/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
メイ「ええー!いいですねー!ナツメさんがそういう役やってるの珍しいですし、絶対見に行きますよ!」

ナツメ「ちょっと!まだやるといったわけじゃ……。」

ウッドウ「引き受けてくれちゃう?」

ナツメ「……ありがとうございます。任された役は必ず完遂します。」


ウッドウ「よかったー!じゃあ詳しい話はまた今度!収録がんばってねー!」

ハチク「……今の未来は予知できたか?」

ナツメ「はぁ……していなかったわよ。」

世界を救った女優の受難は、まだ続いているのかもしれない……。


〜fin〜
 ▼ 115 3tees◆BQYS6iijv6 25/09/23 19:58:24 ID:X0XMbeSo [38/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
こちらのSS企画の投稿作品です

【SS企画】ポケモンBBS ファイナルラストSS企画 【9/27〆切】

https://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=2381088

自分が初めて少し長めに書いたSSが、ゼイユがポケウッドに行くという題材でした。
だから締めのSSもテーマがポケウッドかつ、自分が一番好きなキャラである所のナツメを主役にしたいなって気になって急遽書きました。
 ▼ 116 ツケラ@レタス 25/09/24 06:48:30 ID:J7fA3XkE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
面白かったぜ。ハチクマンが出てくるSSは新鮮だった
 ▼ 117 ブラーバ@メガリング 25/09/24 18:18:24 ID:7/0suTqk NGネーム登録 NGID登録 報告
メイちゃんが不倫疑惑かけられてて何か別のがよぎった
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