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SS

【SS】退部届は自分の手で

 ▼ 1 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 25/09/23 02:47:55 ID:Z8JE0PqU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
『代わりに書いてやるよ……退部届』

 出された課題を期限までに終えられなかったにしても、そこまで言うかと思った。
 立ち去る部長を追いかけた先で売り言葉に買い言葉、バトルになった。

『本気になれないから弱い。一生そのまんまでいたら?』

 カミツオロチに蹂躙されて倒れた手持ち。その前で項垂れる僕に、学園チャンプは冷たく言い放った。

少年「それでメンタル病んで、アローラに傷心旅行しに来たってわけ」

ロトム「ジャングルで遭難してるのも負けたせいロト?」ジト

カジッチュ「かじゅう……」ジト

少年「なんとかなると思ったんだよ! ロトム、カジッチュ、許して! お願い!」

ロトム「のたれ死んでも知らないロトよ……本当」
 ▼ 174 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 03:01:18 ID:oSHs3PWU [1/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

船乗り「列に並んでお待ちください!」

ペラップ「オマチクダサイ、クダサイ!」

少年「はーい」

男の子C「スタンプいくつ集めたんだ?」

少年「2つ。次が3つ目だね」

男の子C「ふーん、結構進んでんじゃん」トン

 男の子がなにげなく後ろに一歩ステップすると、なにかにぶつかった音がした。

???「っと、すみません」

 通りすがりの、薄い水色のフードを被った女性にぶつかってしまったようだった。

 彼女の手持ちだろう、バケッチャが女性を支えており、転んだりはしていない。
 ▼ 175 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 03:03:54 ID:oSHs3PWU [2/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

男の子C「こっちこそごめん!」

フード女「いえ、こちらも前を見てなかったので……お互い様ということで」

男の子C「うん!」

バケッチャ「ちゃちゃ?」

 バケッチャが列を指差して不思議そうに揺れる。

フード女「バケッチャさん、気になるの? この列はなんですか?」

男の子C「スタンプラリーだぜ!」

少年「ポケモンとアトラクションするとスタンプがもらえるイベントです」

バケッチャ「ちゃ!」

フード女「やりたいの? わかった。この列に並べば良いんですね?」

男の子C「ああ! 一緒にスタンプゲットしような、お姉さん!」

フード女「ええ。よろしくお願いしますね」

少年(なんか、あっという間に仲良くなってら。コミュ力の化身か)

 ▼ 176 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 04:22:54 ID:oSHs3PWU [3/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

男の子C「……ってわけで、スナバァのスコップを探しているんだ!」

フード女「そう……スナバァさんも災難でしたね」

スナバァ「ばぁ!」

フード女「良ければ、私もお手伝いしていいですか?」

男の子C「まじで? ありがとう!」

少年「いいんですか? 予定とか……」

フード女「大丈夫です。特に目的のある旅でもないので」

船乗り「次の人、どうぞー」

フード女「あ、次、私たちの番ですよ」

男の子C「おっしゃ! やるぞ、スナバァ!」

スナバァ「ばぁ!」

 ▼ 177 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 04:24:33 ID:oSHs3PWU [4/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

船乗り「喜怒驚楽・顔マネ遊び! 手持ちのポケモン一匹と一緒に表情を変えるゲームだ! 参加ポケモンが決まったらスタッフに教えてくれい!」

少年「ダブラン、よろしく」

ダブラン「だぶ!」

フード女「こちらのバケッチャさんが参加します」

バケッチャ「ばっちゃ!」

船乗り「おーけい! そっちの男の子は……スナバァ?」ケゲンナカオ

スナバァ「ばぁ……」

男の子C「……!」ギリッ

船乗り「ボールもない……ちょっと――」

 今にも飛びかからん勢いの男の子を抑えて、少年がスタッフに答える。

少年「こいつに"さいみんじゅつ"はかかってないですよ。スナバァは彼の友達です」

船乗り「そうか、なら良かった。じゃあ始めまーす!」

 ▼ 178 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 04:27:30 ID:oSHs3PWU [5/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 喜怒驚楽・顔マネ遊びを終えて、全員がスタンプを入手した(フードの女性は台紙ももらった)。

 けれども、男の子はずっと沈んだ顔をしていた。最後の店を見ている間もずっと。

男の子C「…………」

フード女「スコップ、合いませんでしたね」

少年「街の方にはきっとあるさ。知り合いが花屋をやってるんだ。頼んでいたものもできてるだろうし、いろいろ融通も利かせてくれると思う」

男の子C「そうだね……ありがとう……」

 それでも浮かない顔の少年に、水色のフードの女性が問いかける。

フード女「……スコップを手に入れたあとはどうするつもりですか? スナバァさんは野生のポケモンでしょう?」

男の子C「あとって……別に、変わんないよ。スナバァは友達のままだぜ?」

 『友達』という言い回しに少し言い淀んで、それでも女性は続ける。

フード女「スナバァはウラウラじまには生息していない。アローラだと生息地はハノハノビーチだけ。スナバァさんを、ハノハノビーチまで連れて行って解き放つべきではないでしょうか?」

男の子C「……え?」

 ▼ 179 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 04:32:32 ID:oSHs3PWU [6/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

少年「……まあ、一種の正論ではある。通常の生息地とは違う土地で、トレーナーの監督もない状態で過ごすのはスナバァにとって大きな負担だし。なによりもトレーナーがいなきゃ、スタッフさんみたいな対応が普通って考えるとね……」

男の子C「……いやだ」

フード女「さっきのスタッフみたいな人は世界のどこにでもいます。違う同士が完全に理解し合うことなんてできない、ならいっそ関わらない方が良いのではないでしょうか?」

男の子C「いやだ! スナバァと一緒に居たい! スナバァが悪いやつじゃないって、みんなに伝えるからさ!」

フード女「無理ですよ。誰も世界を変えないからと、ポケモンのために奮闘した人たちがいた。けどそれも、結局は自分勝手な人間に利用されていただけだった。世界は変わりません」

少年「待った。ちょっと落ち着きましょう? 確かに正論です。けど、変えようとすることを『だけだった』なんて言うべきじゃないとも思いますし、なによりも」

フード女「……」

少年「離れるかどうかは当の本人やポケモンが決めることだ。違いますか?」

男の子C「僕はスナバァと離れるなんて絶対いやだ。せっかく友達になれたんだ!」

フード女「ポケモンのためになるか。それこそが一番重要なことです。スナバァさんのことを思うなら、解放して野生に還すべきです」

 一触即発、緊迫した空気が流れる。
 ▼ 180 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 04:39:08 ID:oSHs3PWU [7/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

フード女「……バケッチャさん」ボソ

 少年も男の子も気づかないほどの小声。それを聞いてバケッチャが動き出した瞬間。足元から砂の塊が飛び上がった。

スナバァ「バァ!」

 スナバァの おどろかす!

 バケッチャは ひるんで 動けなかった!

少年「ちょっ、スナバァ、意思表明にしては荒っぽ――」

ダブラン「だぶ!」ボム

 少年が話している途中、ボールから勝手にダブランが飛び出した。

ダブラン「らん!」

 念で生み出された旋風がバケッチャと女性に吹き付ける。目を丸くしている女性のフードが外れて、茶髪が顕になった。

少年「ダブラン! 話し中になにを……ええい、戻って!」

ダブラン「だぶ……!」

 ダブランがボールに収まるのと入れ違いに、少年の懐からスマホロトムが飛びだす。

ロトム「道の真ん中で何やってるロト。全員、落ち着いて周り見ろロト」

 周りを見渡せば、通行人が道の真ん中でいきなり言い争いを始めた三人を遠巻きにして見ている。

三人「「「…………はい」」」

 ▼ 181 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 04:58:46 ID:oSHs3PWU [8/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ――マリエシティ市街地

 場所を移した一行。その中心にはロトムが浮いていた。

ロトム「スナバァが意思表明した以上、あれこれ言うのは筋違いロト。あと、さっきから聞いてりゃスナバァがクソガキから離れたがってる前提で話してたけど、ポケモンだって一緒にいれば情くらい湧くロト」

フード女「はい……ごめんなさい……君も、ごめんなさい。ふたりの気持ちを考えられてませんでした」

男の子C「スナバァのことを考えてくれてたってのはわかったから、いいよ。でも、おれはスナバァと一緒に居たいんだ」

スナバァ「バァ!」

ロトム「じゃあスナバァはクソガキとマリエシティで暮らす方向性でいいロトね?」

男の子C「もちろん!」

フード女「……それがスナバァさんのためになるなら、一緒にいられるようにしてあげるべきですね」

少年「うん。スコップさえ手に入れれば、体調関連はポケモンセンターで様子を見て貰えばいいと思うし」

 ▼ 182 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 05:04:47 ID:oSHs3PWU [9/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

男の子C「……んで、ロトムはさっきから仕切ってるけどさ。クソガキってなんだよ。口の悪さはトレーナー似?」

ロトム「このヘタレはトレーナーじゃないし、似てもないロト」

少年「どっちも人のこと言える口の利き方じゃないでしょ。特に僕に対してはさ」

ロトム・男の子C「「うるさい」ロト!」

アイツハヘタレダケド、セイカクハワルクナイロト
サイショ、アンナイイカタシテタクセニ
オマエヲタスケルタメロト。ソンナコトモワカラナイロトカ?バーカ
ダレガバカダ!
オマエロト
イッタナ!?

フード女「……あんなポケモンもいるんですね」

少年「人見知りで内弁慶なやつですよ。でも、口が悪くても仲間思いなのはわかるでしょ?」

フード女「ええ……なんか、目から鱗が落ちた気分です。トレーナーはポケモンを縛り付けてしまう。そう思っていたのに」

少年「ボールは内側から開くようにしてます。今時大体のトレーナーはそうでしょう。ポケモンはいつでも好き勝手動ける。さっきのダブランの"サイコウェーブ"だって指示してないです。っていうか、なんでいきなり飛び出したかもわからないですし」

フード女「……ポケモンの考えてることはわかりません。バケッチャさんが何を思って私に付いてきているのかも、実は分かってないんです」

バケッチャ「ちゃ?」

少年「嫌になったら逃げるでしょうし、気にしなくて良いんじゃないんですか? 一緒にいて、楽しく過ごせれば良いでしょう。あなたも、あいつらも」

フード女「スナバァが楽しく過ごせるように、ですか……。実際問題、できると思いますか?」

少年「できますよ」

フード女「なんで、そう言い切れるんですか?」

少年「だって、今夜はパレードですよ? 細かいことなんか気にせずみんなで踊るべきだ」



 ▼ 183 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 19:56:44 ID:jlu6V3Ps NGネーム登録 NGID登録 報告

 ――花屋

 オドリドリが看板娘をしている花屋、その中ではスコップの山が積み上がっていた。

スナバァ「ばぁ……」

男の子C「このスコップも微妙かぁ」

花屋「なら次はこっち、タタラ製スコップだ」

 花屋のおじさんもパレードの準備が終わったらしく、裏から在庫のスコップの箱を大量に持ってきてくれている。

カジッチュ「かじゅっ!」

 部屋の隅に座り込んだカジッチュと少年は、花屋に頼んであった物品を受け取って、最後の仕上げをしている。
 ▼ 184 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 20:18:51 ID:.Q8MvnHs [1/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

フード女「買ってきました」カランコロン

 ドアを開けて、フードを脱ぎっぱなしにしたままの女性が入ってきた。

 バケッチャにデリバードポーチの紙袋を持たせている。

スナバァ「ばぁ!」

男の子C「お! 気に入ったか!」

 それと同時に、スナバァが気に入ったスコップを見つけたらしい。

 黄色のスコップを頭に刺して、これまでにないほどに元気そうな様子を見せている。

男の子C「早く庭園行こうぜ! 庭園からパレード始まるんだろ!?」

少年「もう少しだから、先にお姉さんから荷物受け取って準備しといて」

男の子C「わかったぜ!」

カジッチュ「かじゅ!」

少年「よし! 完成!」

フード女「どうぞ、あなたの分です」

少年「ありがとう。じゃあ、行こうか。パレードに!」
 ▼ 185 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 20:19:32 ID:.Q8MvnHs [2/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ――マリエ庭園

審判『ノココッチ戦闘不能! 準決勝第二試合、ラプラスの勝ち!』

フード女「まだ大会中らしいですね」

男の子C「どいつが合流したいやつなんだ?」

少年「今勝った方。まだ試合がありそうだし、先に庭園のスタンプをもらいに行こうか」

男の子C「場所知ってるぜ! ゴールデンボールブリッジの横で写真撮影!」

少年「……すごい名前の橋だ」アゼン
 ▼ 186 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 20:51:52 ID:.Q8MvnHs [3/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

少女「お疲れ、ラプラス」

ラプラス「らぁ♪」

おじさんA「勝者のトレーナーさん、記念にこれを」ヒョイ

少女「?」ウケトリ

おじさんA「それはおじさんのきんのたま。おじさん、ナナシマでたくさんのきんのたまを掘りあてたからね。あちこちに配っているんだね」

 負けたおじさんが警備員に肩を掴まれた。

おじさんA「それはおじさんのきんのたま! 有効に活用してくれ!」

警備員「ご同行願います」

 負けたおじさんが警備員に連れられていく

おじさんA「なんたって、おじさんの きんのたま だからね!」ズルズル

審判『決勝は10分後に開始します』

少女「おっけーでーす……あれ? あそこにいるのって……」

 ▼ 187 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 21:12:23 ID:.Q8MvnHs [4/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ゲンゾー「ナイトパレードでコンニチワ。わし、カメラおやじのゲンゾーです」

少年「三人と手持ちで写真お願いします。あとスタンプも」

ゲンゾー「おや? 後ろのお嬢さんは?」

少年「え?」フリムキ

 少年が振り向くと、そこには決勝を控えているはずの少女の姿があった。

少女「はぁい!」

少年「なんでここに!?」

少女「決勝まで時間あるから来ちゃった」テヘペロ
 ▼ 188 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 21:13:38 ID:.Q8MvnHs [5/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

少女「そちらの二人はお友達? こんにちは、素敵な仮装ね!」

フード女「こんにちは。こちらはバケッチャさんです。ナイトパレードを見に来ました」

バケッチャ「ちゃちゃ!」

男の子C「この格好は友達とお揃いなんだ!」

スナバァ「なばぁ!」

 男の子はスナバァの仮装を、少年とフードの女性はシロデスナの仮装をしていた。

少女「へぇ……」

男の子C(しまった、スナバァがまた変に思われる……)

 お祭りの熱に浮かされて、男の子の頭からスナバァがどう見られるのかの考えが抜けていた。またスナバァが偏見の目で見られてしまうのではないか。男の子の手に力が入る。

 しかし、その心配は杞憂である。

少女「とーっても素敵ね!」

少年「ビビってたみたいだけど、この子相手にその辺気にする必要ないから」

少女「?」
 ▼ 189 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 21:33:44 ID:.Q8MvnHs [6/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ゲンゾー「はい、写真撮りまーす。1足す1は〜?」

四人「「「「にー!」」」」パシャ

バケッチャ「ちゃ!」

スナバァ「ばぁ!」

ダブラン「だぶ!」

ゲンゾー「はい、撮れました。パソコンやスマホからも見れるからね。スタンプはそこにあるから押して行ってね」

男の子C「わかった!」ドス

アナウンス『まもなく決勝試合が始まります。選手の方はバトルコートまでお越しください』

少女「いけない。もう行かなきゃ」

少年「行ってらっしゃい」スタンプ

 ▼ 190 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 21:36:58 ID:.Q8MvnHs [7/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

審判『では、決勝戦を始めます』

フード女「突風のような、それでいて暖かな陽光も感じさせる。善い方ですね」ペッタン

少年「本当にそうなんですよ。いつもやりたいことにゼンリョクで走ってる、かっこいい子なんです」

審判『試合、開始!』

ミニスカ「ビューティフルなオニシズクモと私のナイスなコンビ! レッツゴー!」

オニシズクモ「しゅるっ!」

少女「ラプラス! お願い!」

ラプラス「らぁあ!」

少年「水上対決か。だったら、十中八九ラプラスが勝つね」

男の子C「なんで?」

少年「あのラプラスは水上特化、というよりも、水ポケモンキラーとして育てられてるから」
 ▼ 191 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 21:37:14 ID:.Q8MvnHs [8/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ミニスカ「オニシズクモ! "アクアブレイク"!」

 ラプラスの ちょすい! ラプラスはHPがまんたんだ!

ミニスカ「嘘、効いてない!?」

少女「"フリーズドライ"!」

ラプラス「らぁ!」

 水ポケモンに効果が抜群となる冷気、それがオニシズクモの"すいほう"を凍らせていく。

ミニスカ「っ、オニシズクモ! 動いて!」

オニシズクモ「」カチンコチン

少女「もう一回、"フリーズドライ"!」

 こうして、決勝戦はワンサイドゲームで終了した。
 ▼ 192 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 22:22:20 ID:.Q8MvnHs [9/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

少女「勝ったよ!」

 少女は、優勝して記念品を受け取った直後、真っ先に少年の元へ駆けてきた。

少年「優勝おめでとう!」

 ハイタッチを交わす二人。少女の背後のラプラスも喜びを全身で表している。

少女「ここからパレードが始まるみたい。見に行きましょう?」

少年「そのことなんだけどさ。手伝ってほしいことがあるんだ」

少女「なぁに?」

少年「ゴーストポケモンと人間が一緒に楽しめるように、パレードを盛り上げる!」

 少年は力強く拳を突き上げて、そう宣言した。

 ▼ 193 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 22:31:03 ID:.Q8MvnHs [10/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 フラワーアレンジメントで飾られた通りを人間とポケモンが練り歩いていく。その主役はもちろんゴーストポケモン。ゴースやカゲボウズがふよふよと浮かんで、時折観客を驚かせている。

 そのナイトパレードの列の中でも、特に注目を集めている少年少女がいた。

少年「さあ、行こうか!」

 そのうちの一人、少年が肩に乗せているのはカジッチュ。

 しかし、その姿はリンゴではない。

カジッチュ「かじゅ!」

 カジッチュ。カボチャのすがたであった。

 花屋に用意してもらったカボチャを弧を描くように上部から後部へとくりぬいて、カジッチュの芋虫のような本体が入る形。正直、悪ノリをした意識はある。

少年「でも、こういう日にこそ悪ノリするべきだよね」

カジッチュ「じっちゅ!」ピョンピョン

少年「うん。魅せていこうか、"おどろかす"!」

カジッチュ「かじゅ!」

 カボチャからカジッチュが"おどろかす"をして周囲の人にアピール。

 視線が集まったところで、少年が片手に持ったリンゴに飛びついて移動。それが見えない角度の観客にリンゴから飛び出すカジッチュを見せつける。

 充分驚かせた後で、モンスターボールで鍛えたボールハンドリング技術でお手玉のようにリンゴとカボチャを取り回す。

少年「ここまでは計画通り、だね」

 自らに、その後ろに向く視線。それこそがスナバァへの偏見をなくすための計画に一番重要な条件であった。

 ▼ 194 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 22:31:37 ID:.Q8MvnHs [11/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

少女「今日は楽しいナイトパレード! ゴーストポケモンと一緒に踊って騒いで楽しみましょう!」

 花園で練習した踊りを披露する少女。花屋から借りてきた、ぱちぱちスタイルの衣装を纏っている。

 大会の優勝者ということもあって、それなりに注目されている様子。

バケッチャ「ばーけっちゃ!」

 上空に浮かび上がったバケッチャが"フラッシュ"をサーチライトのようにして周囲を縦横無尽に照らす。

 そして中央の位置には――

スナバァ「なばぁ!」

 スナバァ。

 本日の主役である。
 ▼ 195 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 22:48:28 ID:.Q8MvnHs [12/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

少年『今夜はナイトパレードで、ゴーストポケモンが主役の催しだ。スナバァがいても問題にならない。このボーナスタイムに、スナバァがいても全然大丈夫って認識をできる限り多くの人に植え付ける。ゼンリョクでパレードを盛り上げて、スナバァに視線を集めるんだ』

男の子C「ほんとだ、スナバァがいても、変な目で見られてない!」

フード女「スナバァさんのため……ゼンリョクで!」

 精一杯の踊りで盛り上げようとする男の子とフードの女性。

 ゼンリョクで観客の視線を集めに集めた、スナバァが主役になったパレードは街をぐるぐると巡る。

 街の人たちに、祭りを『普通に』楽しむスナバァの姿を見せつけながら。
 ▼ 196 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 22:48:45 ID:.Q8MvnHs [13/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ――マリエ図書館前

 パレードの終着地点。そこにはパレード参加のスタンプが置かれていた。

少年「これで『スナバァのいる生活チュートリアルwithナイトパレード計画』は終わりだね。あとは、日常の中で受け入れてもらうしかない」

 スタンプを押した少年は、計画の終了を宣言する。

男の子C「その計画名だけは本気でどうかと思うけど……でも、マジで効果あったみたいだ」

 ナイトパレードの他の参加者たちがスナバァを中心とした一行に向ける視線は暖かいものばかり。

男の子C「今日はほんっとうにありがとう! スコップだけじゃなくて、ここまで!」

スナバァ「ばぁ!」

少年「どういたしまして。でも、大変なのはここからだから。頑張ってね」

男の子C「スナバァと一緒なら大丈夫!

スナバァ「なぁ! ばぁ!」
 ▼ 197 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 22:50:22 ID:.Q8MvnHs [14/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 そうして話していると、昼間にバトルした子供たちが走り寄ってきた。どうやらパレードに参加していたらしい。

男の子A「なあ! お前のスナバァ、めっちゃイカしてたな!」

女の子A「一緒にお祭り巡らない?」

男の子C「あー……」チラ

少年「僕らは僕らで勝手にお祭りを見るから気にするなよ」

男の子C「行く!」

 そうと決めた瞬間、子供たちは子供特有のコミュニケーション能力の高さであっという間に仲良くなって、屋台の方へと走っていく。

 そのまま男の子とスナバァが人混みの中に消えていくかと思えば、一度だけ振り返った。

男の子C「また会おうな!」ブンブン

少年「じゃあね」ヒラヒラ
 ▼ 198 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 23:12:50 ID:DBFEktlA [1/5] NGネーム登録 NGID登録 報告

フード女「私も、バケッチャさんと一緒にお祭りを楽しみに行ってこようと思います」

少年「そうですね、ここで解散しましょう。ここまで巻き込んじゃってすみません」

フード女「いえ、私の方から手伝わせて欲しいと言ったんですから……」

少年「そしたら、お互い様ってことで。でも、バケッチャとお姉さんのおかげで良いパレードになりました。ありがとうございました」

フード女「こちらこそ、パレード楽しかったです。あんな風に盛り上がるなんて、いつぶりだったか……それ以外にも感謝したいことがあるんです」

少年「?」

フード女「ダブランさんに突風を起こされた時、そしてロトムさんにお説教されたこと。私にとって、人生が変わるくらいのことでした。二匹にも、そのトレーナーさんにも感謝しているんです」

少年「……手持ちの不始末なので、ますます謝罪しなきゃならない話ですね……」

フード女「私は本当に感謝しているのですが……私の話でお祭りの時間を削いでしまうのは申し訳ないのでこのくらいで。では、失礼します。ベストウィッシュ! 良いお祭りを!」

バケッチャ「ばっちゃ!」

少年「そちらこそ、良いお祭りを!」
 ▼ 199 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 23:27:42 ID:DBFEktlA [2/5] NGネーム登録 NGID登録 報告
 
 二人が去った後。図書館前には少年とカボチャカジッチュ。そして踊り疲れて壁にもたれかかって休んでいる少女が残っていた。

少年「もう少し休んでく?」

少女「いや、行ける! お祭りは別腹だから!」

少年「別腹理論はわからないけど……行こうか」

少女「まずは、あれ食べたい! ベイビィカステラ!」

 先程まで疲れ切っていたのが嘘のように駆けていく少女。それを少年は追いかけて走る。
 ▼ 200 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 23:28:09 ID:DBFEktlA [3/5] NGネーム登録 NGID登録 報告

少年「エレズン、ピチュー、ピンプク……どの絵柄にする?」

少女「タマンタにする!」

少年「ああ、マンタイン乗れるから。マンタインサーフだっけ?」

少女「そう! 波に合わせて飛んで技を決めるの! サーフ専門のマンタインをレンタルすれば、誰でもサーフできるのよ!」

少年「へえ。ちょっと気になるかも」

 この発言が元になって、サーフ最難関のポニを行くことになることを少年はまだ知らなかった。
 ▼ 201 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 23:53:38 ID:DBFEktlA [4/5] NGネーム登録 NGID登録 報告

 それから色々な出し物を巡った。

 的当てで少年が全弾命中させて出禁を喰らったり。

 リンゴに戻ったカジッチュがリンゴ飴と間違えられかけたり。

少女「楽しいね!」

 頬に綿菓子をひっつけて笑う少女。

 少年は心の底からその言葉に同意する。

少年「うん!」

 確信を持って言える。少年にとって、今日が人生で一番楽しいお祭りの日だったと。
 ▼ 202 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/14 23:54:20 ID:DBFEktlA [5/5] NGネーム登録 NGID登録 報告

少女「あ」

 少女がパッと空を見上げる。少年もそれに追従して目線を上げる。

 そろそろ見慣れてきたアローラの夜空、その黒色を裂くように光の線が奔る。

 次の瞬間、空に赤と白の輝きがパッと広がり、弾ける音が響いた。

少年「花火だ……」

少女「あ、あれピカチュウの花火だ、すごい!」

少年「あっちはモンスターボールだ。縦だとアンノーンみたい」

少女「あはは、確かに!」

 気の置けない旅仲間と並んで、笑って、空を見上げている。

 この時間がずっと続けばいいのに。そう、思った。
 ▼ 203 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/15 20:02:49 ID:joaoVQEQ [1/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 そんな、懐かしい日の夢を見ていた。

 思えばこの日がターニングポイントだった。自分も何かを変えられるのかもと思った日。レンジャーという職業を現実的に考えるようになった経験。

 このあとホクラニ岳に行ってメテノに出会い、ポニじま、ポニの大峡谷へ向かった。

 そして僕は今、風を感じさせてくれた彼女とは違う道を走っている。
 ▼ 204 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/15 20:03:17 ID:joaoVQEQ [2/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ――ミアレシティ・レンジャーベース・仮眠室

 目覚まし音が鳴っている……

ロトム「時間ロト。起きるロト!」

青年「……おはよう」

ロトム「……変な寝言を言ってたけど、どんな夢見てたロト?」

青年「昔の夢。ほら、ナイトパレードの日の」

ロトム「ああ、あの日ロトか。楽しかったロトね」

 青年はベッドから起き上がって伸びをする。

青年「ブルー地区のパトロールだったよね」

ロトム「そうロト。目は覚めたロトか?」

青年「大丈夫。行こうか」
 ▼ 205 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/15 20:03:35 ID:joaoVQEQ [3/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 と言っても、レンジャー見習いに任せられる仕事など高が知れている。

 小さな困りごと・クエストの対応か、パトロールついでのポケモンの痕跡の掃除。緊急時であればそこに避難誘導が入る程度。

 前者二つは、本来大した労力はかからないのだが、この街においては違う。

青年「こんなとこにも痕跡が出るようになってきたのか……」

ヘドロ「」ビチャァ

 ブルー10番地の中庭。そこには毒々しい色のヘドロの山がいくつか積み重なっていた。

 それ以外にも、マダツボミのツルや、アーボックが移動した跡が残っている。

 毒液もおそらくは彼らの痕跡だろう。

 ▼ 206 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/15 20:05:32 ID:joaoVQEQ [4/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

青年「ロトム、写真とメモ。ブルー10番地にマダツボミとアーボックの痕跡あり。クエーサーさんに見せれる体裁でよろしく」

ロトム「了解ロト……撮影終わったロト」カシャ

青年「ランクルス、ターゲットクリア」ボム

ランクルス「らん!」ミヨヨヨ

 ランクルスの念力で毒液の山を分解し、下水道に流しておく。

青年「ミアレシティ、あまりに野生のポケモンが多いよなあ。人間の居住地域とは思えない」

 必然的にレンジャーの仕事も多くなる。

 ▼ 207 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/15 20:53:50 ID:joaoVQEQ [5/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

青年「こんな調子だと、ここらもワイルドゾーンになりかねないなあ。ただでさえ6箇所もワイルドゾーンがあるのに。さらに増えたらどうなるんだろうね」

ロトム「野生ポケモンと人間の居住地域が入り混じる、ワイルドシティの完成ロト」

青年「勘弁してほしいね。ただでさえカオスな住人が多いってのに、これ以上ワイルドな住民が増えると困るよ」

 レンジャー見習いが任されるもう一つの仕事には、小さな困りごとの対応がある。

 レンジャーの用語でクエストと呼ばれるこの業務は、普通は難しいものではないが、この街においては難易度が高い。

 なにしろミアレの住人は癖が強いから。

青年「爆発大好きな芸術家の相手が一番大変だったなあ」

ロトム「バトルよりも周囲の片付けの方が時間かかってたロトね……」

 ▼ 208 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/15 20:54:39 ID:joaoVQEQ [6/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

青年「まあ、あれも大事な経験だけどね」

 こうやってレンジャーという職業を体験していく中で理解したのは、あの日の自分は間違いなく未熟だったということ。

 プルリルに対して、後からフォローするべきだった。

 男の子の親御さんに話を通して、スナバァを手持ちにするところまで面倒を見るべきだった。

 フードの女性とは、もっと良いコミュニケーションが取れたはずだった。

 楽しかった日にも粗はあった。だから、楽しかった思い出を汚さないように、ゼンリョクで今を走るのだ。

青年「今度はもっと上手くやれるよう、頑張んなきゃなぁ」

ロトム「気合い入れ直してるけど、ここで割り当ての範囲は終了ロト。帰るロト?」

青年「ローズ地区も見てから帰るよ。ローズ広場にヒポポタスが定着しつつあるって話だったし、周りの様子を見ておいて損はないでしょ」

ロトム「連絡しておくロト」

 ▼ 209 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/15 20:56:41 ID:joaoVQEQ [7/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 コイキングが泳ぐセゾン運河を超えてローズ大通りに入ると、やけに聞き慣れた声同士の会話が耳に入ってきた。

???「……ですから、運送業としてサービスを提供するにはXLサイズのゴーゴートが必要かと」

オリカ「参考になるよ!」

 片方はゴーゴーシャトルのゴーゴートを引き取った男性のオリカ。レンジャー見習いとして応対したのと、ライドポケモンに縁があったので印象に残っていた。

 問題はそちらではない。もう一人の女性の声。

青年(……いや、気のせいだって。この街にいるわけない)

 ▼ 210 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/15 21:00:22 ID:joaoVQEQ [8/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

オリカ「アローラのライドポケモン専門家の知見、勉強になったよ。今後もよろしくね」

女「いえ。今後ともご贔屓に」

 オリカに会釈をしてから、ムーランドを連れて歩き出した女性。

 その立ち姿はまぎれもなく、かつてともにアローラを旅した仲間だった。

女「あ」

 あちらも青年に気づいたのか、走り寄ってきた。

女「走ってたらまた会ったね。久しぶり!」

 太陽のように笑って、ミアレ流の挨拶のグーを突き出してくる旅仲間。

青年「久しぶり!」

 青年はそれに、グータッチで返した。

【Mの街で会いましょう:完】
 ▼ 211 砂廣ジュン◆puLAg.baMA 26/01/15 21:02:21 ID:joaoVQEQ [9/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

【あとがき】

ということで、2つのMの街の短編でした。

途中リアルが忙しくなって完結が怪しかったですが、なんとか完結まで漕ぎ着けてホッとしています。

『始まりと終わり』テーマだった本編の続きということで、この短編は『次のはじまり』と『終わりの先』をテーマに書いてみました。
少女の手持ちで描写しきれなかった部分や、レンジャーの要素、本編を書き終えた後に発売されたZAの要素を盛り込めて楽しかったです。

移行先、というより他サイトへの掲載の報告ですが、こちらの作品をハーメルンにも載せました(管理人に他サイトへの掲載許可は頂いています)。

気が向いたらハーメルンで続きを書きます。

最後に、ファイナルラストSS企画の関係者の方々、企画スレやXで感想をくださった方々、そしてここまで読んでくださった方々に感謝を申し上げます。

終わりの先でも、皆さんに良い風が吹きますように。
 ▼ 212 ランクルス@みどりのバンダナ 26/01/16 07:46:44 ID:pqywrtMU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙!
こういう各キャラが活きたSS好き
 ▼ 213 ホウオウ@マンキーのけ 26/01/16 07:53:11 ID:WRd2zAOU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙!
ナイスラン
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