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SS

【SS】そうだ、島巡りに行こう

 ▼ 1 SxCy/NIFN. 17/02/18 06:33:20 ID:lUs7RGUg NGネーム登録 NGID登録 報告
ただの少年がこれといった事件に巻き込まれることもなく普通にのんびり島巡りする小説です。
多少設定が適当だったり、たまに原作と矛盾することもあるかと思いますが許してください。

【プロローグ】

俺はしがない短パン小僧。

そろそろ半袖短パン姿が痛々しくなってきた13歳だ。

2年前に島巡りに挑んで最初の試練で挫折してしまい、学校に戻るに戻れず、今までずるずると引きこもっていた。
 ▼ 319 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/04 15:27:17 ID:MPBtPD5M [1/12] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


迷いを残したまま、乾ききった口を開く。

「…………右、のガラガラ」

自信のなさから、つぶやくようにファイナルアンサー。

もう50万円には戻れない。

永遠とも思えるほど長い数秒間、静寂と緊張が辺りを包み……。


カキ「正解です。……おいでませガラガラ!!」

「ガラーラ!」
 ▼ 320 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/04 15:38:14 ID:MPBtPD5M [2/12] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ちょっ……ヤドン、出番!」

唐突すぎる戦闘開始に焦りつつも、素早くヤドンを繰り出した───

「##っ!!」

───つもりが、まさかのコイル。

やっばい、ボール間違えた。

俺の内心とは裏腹に張り切ってチャージを始めるコイルに、上段からジャンプ斬りが叩き込まれる。

ほねこんぼう。効果は……すごいばつぐん。

当然撃沈。

「すまん……マジで」

いや、ほんとすまん。
 ▼ 321 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/04 15:39:22 ID:MPBtPD5M [3/12] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


ヤドンがガラガラを順当に倒し、戦闘終了。

コイルの件は想定外だったが、どうやらこの試練もノーマルやみずのそれと大差はないようだ。

クイズ自体はそこまで複雑なものではないし、戦闘開始にさえ備えておけば先ほどのような悲劇も起こり得ない。

ガラガラのポーズを覚え、差異を指摘し、ガラガラを倒す。

ザッツオール。

さぁ、次行こうか。
 ▼ 322 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/04 15:43:11 ID:MPBtPD5M [4/12] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

一度目のポージングをしっかり目に焼きつけ、二度目のダンスタイム。

要は配置と角度だ。

すでに要領を掴んでいるため、今度はそうそう焦りも悩みもしない自信がある。

さぁ、変わるのはどいつだ……?

ダンスはいよいよ終局を迎え───

───音楽が終わると同時に、満面の笑みを浮かべたやまおとこが視界に飛び込んできた。
 ▼ 323 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/04 15:44:07 ID:MPBtPD5M [5/12] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「タイムアウト」

俺は右手を高く掲げ、キャプテンのカキにタイムを要求した。

カキ「どうしましたか。先程との違いを指摘すればいいだけですが」

「いや、もう一度。もう一度頼みます。意識を逸らされて見逃しました」

カキ「……? ではもう一度。繰り返しになるが、最初の形をよく覚えておいてくれ」

カキ「ミュージック、スタート!」
 ▼ 324 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/04 15:45:12 ID:MPBtPD5M [6/12] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



「……!!」

何度やってもやまおとこ。

どうやらこのやまおとこの壁を越えるところも含めて試練らしい。

「くっ、また集中がッ! もう一回お願いします!」

カキ「もう四度目ですが。そんなに難しいところはないはず……」

「いや! あのやまおとこ! 物凄く主張してきてガラガラどころじゃないんですけど!?」

カキ「……! 分かっているじゃないですか。……おいでませ、やまおとこ!」

やまおとこ「アローラ!!」
 ▼ 325 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/04 15:46:11 ID:MPBtPD5M [7/12] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

いやいやいやいや、それはおかしい。

やまおとこ「アローラ!!」

いくら茶番とはいえ、こんなものを正解とするクイズがあってたまるか。

やまおとこ「アローラ!!」

彼は視界妨害のためにいるのであって、きっとガラガラの中に異なるポーズをしているものが……

やまおとこ「アローラ!!」

うるせええええ!

ハッピーセットのおまけかあんたは!!
 ▼ 326 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/04 15:46:53 ID:MPBtPD5M [8/12] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

やまおとこ「アローラ!!……聞こえてないのかな?」

「聞こえてますよ! なんなんですかコレ!」

カキ「正解に喜んだやまおとこは、嬉しくて戦いたくなるのです」

やまおとこ「バトルだね!」

「…………っ!」

駄目だこの試練、早くなんとかしないと。
 ▼ 327 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/04 15:48:09 ID:MPBtPD5M [9/12] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


カキ「ブーバー、戦闘不能! よってチャレンジャーの勝利!!」

やまおとこ「ハハハハハ! 踊る阿呆に見る阿呆!!」

「よし、ナイスだヤドン」

「どやぁん」
 ▼ 328 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/04 15:48:44 ID:MPBtPD5M [10/12] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バトル自体は驚くほど普通だった。

相性の利で押し切り、多少手傷を負ったものの順当に勝利。

ここ最近は単純に技の威力や速度を鍛えていたこともあって、描写のしようもないほど普通の戦闘風景だった。
 ▼ 329 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/04 15:49:27 ID:MPBtPD5M [11/12] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

カキ「さぁ、次で最後です。もちろん受けますね?」

「ええ、やります。やってやりますよ」


この試練の趣旨はもう理解した。

大丈夫。もう何があっても気にしない。

ダンスの決めポーズにやまおとこが混じっているのも気にしない。

最後ってことはあれだろ?

つまりはそういうことなのだろう?
 ▼ 330 し戦は次回◆SxCy/NIFN. 17/04/04 15:50:39 ID:MPBtPD5M [12/12] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

カキ「今の形をよく覚えておいてくれ。……では2回目、スタート!」

ハイッ!ハイッ!ハヤハヤハヤハヤ……

……ハァイ!

カキ「先ほどの踊りと……あぁ、正解です」

キメに合わせて飛び出したエンニュートを、無言で指差す。

若干カキの機嫌を損ねたようだが、もう余計なツッコミは無しだ。

カキ「では。……おいでませ、ぬしポケモン!!」

「どくどくーーっ!!」
 ▼ 331 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/05 20:45:00 ID:f3BlKANk [1/14] NGネーム登録 NGID登録 報告


「ヤドン、一点集中でみずでっぽう!」

「やふっ!」

「シャッ!」

エンニュートが俊敏に右に左に切り返し、みずでっぽうは空を穿ってはるか後方の山肌をびしゃりと濡らす。

やはり簡単には詰ませられないようだ。

2発、3発と続けて回避したぬしは、だらりと前傾した姿勢のまま風切り音を引いて突っ込んで来た。

ニヤリと歪んだ口元に覗く萌黄色の光。

ぬしの攻撃が来る。
 ▼ 332 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/05 20:46:05 ID:f3BlKANk [2/14] NGネーム登録 NGID登録 報告


ほのおの試練ぬしポケモン、エンニュート。

その特徴は、一言で言えば高速高火力。

俊敏な回避、接近からのはじけるほのおで一方的に挑戦者を捩じ伏せていく。

他にもどくタイプ方面の行動や仲間との連携など様々な対処項目があるが、まず問題にすべきはこの速さだ。

このようなタイプのポケモンはおおよそ全ての島巡ラーがあまり慣れていないものであり、初見ではその速さに戸惑うこと請け合い……らしい。

サンダースの高速戦術が7番道路のレベル上げで一貫して有効だったことからもそれは伺える。

実際、スピード重視の一点集中撃ちを回避している時点で相当な速度であることは間違いない。
 ▼ 333 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/05 20:47:04 ID:f3BlKANk [3/14] NGネーム登録 NGID登録 報告

確かに、速さというのは重要なファクターだ。

相手より速いということが戦闘の行方を決定づけることは珍しくない。

だが、速さはそれ単体で機能しているわけではない。

今回のバトルは、速さ以外のイニシアチブをいかに奪っていくかが鍵になる。

大丈夫、そのための作戦は練ってきたはずだ。
 ▼ 334 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/05 20:47:54 ID:f3BlKANk [4/14] NGネーム登録 NGID登録 報告


「ジェアッ!」

エンニュートの口から勢いよく炎弾が放たれる。

「しっぽで弾け!」

「やん!」

ここまで接近されたのではみずでっぽうでの相殺は不可能だが、この動きは情報の通り。

よってこちらもプラン通りに対処。

そして、プラン通りに反撃に出る!
 ▼ 335 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/05 20:48:54 ID:f3BlKANk [5/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
「みずでっぽうで足元を薙ぎ払え!」

「や、ふーーーっ!」

今度は水勢最大で範囲攻撃。

フィールド一面を端から横薙ぎに水圧で覆い尽くす。

「ジャッ! 」

エンニュートは足元が水に呑まれる直前に高くジャンプ。

円弧の頂点に達し、そのまま落下の勢いも乗せて上空から炎を浴びせにかかるが……

「ヤドン、今だ!……かなしばり!」

「ジェッ!?」

不意に口を光の輪で縛られ、口の端から小さな悲鳴と黒煙を漏らす。

遠くで試練を見守るカキの「あっ」的な表情。

よし、決まった。
 ▼ 336 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/05 20:50:48 ID:f3BlKANk [6/14] NGネーム登録 NGID登録 報告


2日前に覚えた新わざ、かなしばり。

相手が直前に使ったわざを1分ほどに渡って封印する、強力な補助わざである。

しかしそういう良さげな話には裏があるもので、やはり成功条件はそれ相応に難度の高いものだった。

それは、約1秒半後の相手の存在位置に向かって放ち続けるというもの。

というか念を送るタイプのわざは大体こんな感じらしい。
 ▼ 337 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/05 20:52:09 ID:f3BlKANk [7/14] NGネーム登録 NGID登録 報告

そういうわけで、下を狙った範囲攻撃で上空に誘導した。

一度ジャンプしてしまえば軌道はほぼ変えようがなく、1.5秒後の位置の予測も可能となる。

そしてエンニュートの攻撃わざははじけるほのおのみ。

つまり、これであちらからの決定打は完全に封じた。

完全にこちらのペースである。
 ▼ 338 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/05 20:53:36 ID:f3BlKANk [8/14] NGネーム登録 NGID登録 報告


「ジェエエエアッ!」

わざを封印されながらも平静を取り戻したエンニュートが、低く唸り声をあげた。

岩陰から何かが這いよる音。

おそらく仲間呼びだ。

「いい仕事だヤドン! 後は頼んだ、サンダース!」

「キュルッ!」

ヤドンの攻撃もまた当たらないため、有効打とはなり得ない。

この1分で勝負をつけるべく、この隙にサンダースに交代。

ここからは機動力対機動力の真っ向勝負となる。
 ▼ 339 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/05 20:54:17 ID:f3BlKANk [9/14] NGネーム登録 NGID登録 報告

「サンダース、ヤトウモリにでんこうせっか」

「キュキュイッ!」

サンダースが弾かれたように身を踊らせ、現れたヤトウモリに向かって一直線に突っ込む。

「しゃ……!」

ヤトウモリは超スピードに面食らいつつも炎を溜め、迎撃体制に入った。

さすがはお供、ぬしの速度を普段から見ているだけはある。
 ▼ 340 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/05 20:55:09 ID:f3BlKANk [10/14] NGネーム登録 NGID登録 報告

だが、ここからがサンダースの真骨頂。

「ドリフトして方向転換!!」

「キュッ!」

「しゃっ!?」

ザザッと激しい砂煙を舞い起こし、直角にターンしてエンニュートに標的を移す。

目の前でブレーキされ、モロに砂が目に入ったヤトウモリが狼狽えている。
 ▼ 341 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/05 20:56:59 ID:f3BlKANk [11/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
新戦術、《すなかけブレーキ》。

真っ向勝負と言ったな、あれは嘘だ。



エンニュートの攻撃を封じても、それだけで詰ませられるほど試練は甘くない。

ぬしのエンニュートがどくどくで補助に回り、ヤトウモリがベノムショックで追撃というコンボもあるのだ。

よって作戦の第2段階、ヤトウモリをすなかけで籠絡しつつエンニュートに集中攻撃。

1対2という圧倒的不利な状況において、一度でも相手の策を通せばそれは敗北に直結する。

だから常に先手を打って攻撃手段を奪う。

カキの顔が「あっ」から「は?」みたいな表情に変わっているが、これは当然の帰結である。

敢えて言わせてもらおう、「対策してない方が悪い」と。
 ▼ 342 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/05 20:58:08 ID:f3BlKANk [12/14] NGネーム登録 NGID登録 報告

ヤトウモリに砂を浴びせ、エンニュートに攻撃し、即座に折り返してまた砂を浴びせる。

これをここまでに4回繰り返し、とうとうヤトウモリは完全に目が開かなくなった。

かなしばりの効果切れまで、あと20秒そこそこ。

このまま押し切る!

「サンダース、まだまだ行くぞ!」

「キュイッ!」

勢いよくドリフトし、リピート再生の如く同じ光景を繰り返す。

だが、五度目の再生の結末は違ったものになった。
 ▼ 343 し後半は次回◆SxCy/NIFN. 17/04/05 20:59:18 ID:f3BlKANk [13/14] NGネーム登録 NGID登録 報告

「ジェアッ!」

「キュッ!?」

思い切り踏み切って突撃するサンダースの懐に、二本の腕が掴みかかる。

とうとうエンニュートがでんこうせっかを見切ってしまった。

空中で胴体を掴まれてバタつくサンダースに、エンニュートが口元を大きく歪ませ───

「ドクドクーーッ!!」

「キュイイーーーーーー!」

───イーブイに猛毒が炸裂した。
 ▼ 344 ゴラス@ポイントアップ 17/04/05 21:28:46 ID:7R0cmhmY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 345 やってんだ俺◆SxCy/NIFN. 17/04/05 21:33:27 ID:f3BlKANk [14/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
>>343

最後、イーブイ→サンダース に訂正です
 ▼ 346 色狐◆7yYkDV/Lvk 17/04/06 14:52:37 ID:9nqUNts2 NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 347 ニドリル@1ごうしつのカギ 17/04/08 18:51:36 ID:7ZHhLSOE NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
支援
 ▼ 348 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:13:57 ID:m04JJJKk [1/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「サンダース、でんきショックで抜け出せ!」

「キュ……キュイーーーッ!」

「シャッ……!」

ゼロ距離から電撃を放たれ、エンニュートは拘束を解いて大きく後ろに飛び退く。

脱出には成功したものの、直撃は回避された。

余波もぬしのオーラに阻まれダメージはほとんど通っていない。

毒にむせるサンダースを睨め付け、ニタリと余裕の笑みを浮かべるエンニュート。

畜生、今の数秒で流れを完全に持っていかれた。
 ▼ 349 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:14:51 ID:m04JJJKk [2/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

事前に用意していた策が破られ、どう指示を出すべきか分からず下唇を噛む。

エンニュートもまた動かない。

毒で機動力を削いだのをいいことに時間を稼ぎ、封印解除を待ってから攻めに転じるつもりだろう。

そう来られると、こちらからダメージを与えにいくのは尚のこと難しい。

ヤドンが施したかなしばりの光は、既にだいぶ淡くなっている。

手元のタイマーを見やる。

残り時間、約10秒。
 ▼ 350 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:15:56 ID:m04JJJKk [3/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ぬしと睨み合っていると、突如視界の端からサンダースめがけてどす黒い液体が飛んで来た。

「しまっ……!」

視界を奪い完全に無力化したと踏んで、ヤトウモリ存在を失念していた。

音と匂いで位置を特定し、死角から不意打ちのベノムショック。

毒状態に反応して威力が倍増するわざ。

もちろん、今のサンダースが食らったらひとたまりもない。
 ▼ 351 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:17:27 ID:m04JJJKk [4/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「かわせ!」

無茶振りだと分かっていながら叫ぶ。

指示というよりはもはや願望に近い。

毒に侵された体で回避できるタイミングではないのは明らかだ。

コンマ数秒ののちに毒液は的確にサンダースの体を捉え、その必殺の威力を炸裂させるだろう。

手負いのヤドンでどうにかなる状況でもない。

目前に迫る敗北の瞬間に、思わず目を閉じる。

クソッ、ここまでか……!
 ▼ 352 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:18:33 ID:m04JJJKk [5/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

諦めかけたその時、風が唸った。


僅かに遅れて、粘性の毒液が飛び散る音。


恐る恐る目を開くと───


「おま……マジで避けたのか?」

「キュイ……?」

───黒い水たまりの傍に、キョトンとした顔のサンダースがいた。
 ▼ 353 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:19:17 ID:m04JJJKk [6/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

よく見ると、サンダースの瞳が赤く淡い光を放っている。

なんだこれ……?

「サンダース、お前どう」

「ジェァアーーーッ!!」

空気読めよ!!

今サンダースの異変について考察してるところだろうが!!
 ▼ 354 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:21:22 ID:m04JJJKk [7/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

仕方なく雄叫びの方に目をやると、かなしばりの光の輪が砕けたところだった。

光の残滓を散らして、エンニュートが猛然と迫ってくる。

その口に覗くのは萌黄色の炎。

フィールドの左端では再びヤトウモリが毒液を溜めている。

同時攻撃を仕掛け、一気に仕留めるつもりだろう。
 ▼ 355 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:22:14 ID:m04JJJKk [8/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

当初の計画では、その状況になったら詰みと考えていた。

だが。

「サンダース、全部避けるぞ」

「……キュイ」

さっきの「かわせ」は無理だと思いながら言ったが、今はそれができる確信がある。

認識が遅れたにもかかわらずベノムショックを回避し、そして何より目から漏れ出す赤い光。

ここまで来て何もないなんてあり得ない。

絶対に勝てる、そういう流れだ。
 ▼ 356 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:24:36 ID:m04JJJKk [9/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ジェアッ!」

「しゃーっ!」

前方から炎弾、左から毒液。

「かわせ!」

風を鳴らしてサンダースが跳びさり、目の光が残像の軌跡を残す。

炎は地面を焦がし、毒液は岩肌を僅かに溶かした。

やはり、いける!
 ▼ 357 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:25:09 ID:m04JJJKk [10/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


炎と毒液が幾度も飛び交うが、そのどれもがサンダースを捉えることなくフィールドに飛び散る。

しかし、このままではいずれ毒で消耗し力尽きてしまうだろう。

回避できるだけでは勝てない。

勝つには、攻めること……!
 ▼ 358 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:25:46 ID:m04JJJKk [11/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「サンダース、走りながら電気を溜めろ!」

「キュイ!」

炎と毒の弾幕を猛スピードの切り返しですり抜けながら、サンダースが大きく息を吸い始めた。

みるみるうちに体毛が鋭く逆立ち、バチバチと火花を散らしだす。
 ▼ 359 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:26:53 ID:m04JJJKk [12/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


サンダースの電撃は、体内機関で精製した電気を、吸い込んだ大気中のイオンで強化して放たれる。

浮遊、移動、攻撃の全てに複雑な磁力操作を用いるコイルと異なり、チャージと移動を並行することはそこまで難しくないはずだ。

……と、適当に予想しての指示だったのだが、マジでできるらしい。

正直さすがに無理だと思っていた。

こいつ、本当に天才なのかもしれない
 ▼ 360 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:28:02 ID:m04JJJKk [13/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「キュッ……!」

サンダースが苦しげに小さく呻く。

スピードは落ちていないものの、体力はやはり確実に抉られている。

攻撃のチャンスは、おそらくこの一回きり。

オーラで特殊攻撃を阻むエンニュートを一撃で倒すには、普通に浴びせるだけでは足りないだろう。

となれば……
 ▼ 361 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:28:35 ID:m04JJJKk [14/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「サンダース、ぬしに突っ込め!」

「キュイ!」

はじけるほのおをスライディング気味に潜り抜け、そのままエンニュート目掛けて正面からダッシュする。

近づけば近づくほど回避は困難になるが、しかしリスクを背負わずに勝つのはもっと困難だ。
 ▼ 362 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:29:10 ID:m04JJJKk [15/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ジェアッ!!」

再び炎が放たれる。

「踏み切れ!」

サンダースが地を蹴り、身を宙に踊らせる。

後ろ足を炎が僅かに掠めたが、慣性に維持されたサンダースの突撃は止まらない。

「そのまま飛びつけ!」

「ジェアッ!?」

サンダースがエンニュートの首に飛びかかり、しがみついた。
 ▼ 363 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:30:19 ID:m04JJJKk [16/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

エンニュートが慌ててサンダースを引き剥がしにかかる。

が、もう遅い!

「でんきショック!!」

「キュイイーーーーッ!!!!」

「ドクドクゥゥウーーーーッ!!」

エンニュートの絶叫が山頂に響き渡る。

ぬしがッ!

「ドクゥーーーーーッ!!」

倒れるまで!

「ウゥゥァァアーーーッ!!」

放電をやめないッ!!

「ア"ア"ア"ア"ア"ーーーーーッ!!!!」
 ▼ 364 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:31:18 ID:m04JJJKk [17/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







カキ「くっ……これが……ほのおのZクリスタルです……!」

「ありがとうござ……ちょっ、握りしめてないではよう渡してくださいよ……!」

ほのおの試練を突破した俺は、キャプテンと小競り合いをしていた。
 ▼ 365 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:37:24 ID:m04JJJKk [18/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

カキ「いや……! 一つしかない攻撃技を封印するとか、果たして認めて良いものかと……!

その後も砂かけしながらチマチマチマチマと小狡い戦法を取っていたしな……!」

「敬語消えてんぞキャプテンさん……! かなしばりもすなかけも立派な戦術でしょうが……!」

カキ「いや、断じて立派ではない! そもそもZワザとはそう軽々しく伝授するものじゃないんだ! そのような心構えで……! クリスタルを受け取ろうなど……!」

「リング無いのでお構いなく……! Zワザは使えませんから……! だからいいだろ……よこせよ……!」

カキ「リングがない……? 貴様、禁忌を犯したな!? ならなおさら……!」

「そうじゃねぇよ訳ありなんだよ! いいから、はよ渡せーーーっ!!」
 ▼ 366 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:38:27 ID:m04JJJKk [19/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


10分ほど口論を続け、お互い言うことがなくなり膠着状態になった。


ほのおのキャプテン、カキ。

試練が終わってすぐに慌ててどくけしをくれたあたり、悪い人ではない。

実直な性格ゆえにこういう捻くれた戦法に忌避感があるとか、そんな感じだろう。

一方俺は基本勝てばいいと思っているので、絶対に反りが合わないタイプだ。

カキは今も眉間にしわをガン寄せしてむーむー唸っている。

心底渡したくないんだろうなぁ……。
 ▼ 367 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:39:12 ID:m04JJJKk [20/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

カキ「あああああ!!

……仕方がない、認めます。確かにお前は何もルール違反はしていない。

俺は気にくわないが、それを理由に渡さないというわけにもいかないからな」

「気にくわないのは否定しないのか……」

カキ「あぁ。いっそ普通に反則してくれた方がまだ良かった。ルールで裁けないのが一番タチが悪い」

「そこまで言うか」

カキ「すまん、言い過ぎた。俺の悪い癖だ。

まぁ、最後の方は正面切ってバトルしていたし、そこは認め……なくもない」

急にうつむきがちになり、消え入るように話すカキ。

何これ、ツンデレ?

最高に需要ないんだが……
 ▼ 368 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:40:04 ID:m04JJJKk [21/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

このままデレが加速しても困るので、話題を切り替える。

「最後の方……といえば。サンダースの目が光ってたんだけど、なんだったんだ?」

カキ「目……? あぁ、あれは多分はやあし発動の兆候だな」

「はやあしって……特性の? サンダースってちくでんじゃなかったか?」

カキ「はやあしはサンダースの隠れ特性。ごく稀に通常と異なる特性をもつポケモンが生息しているんだ。

トップトレーナーはタマゴで遺伝させて個体を増やしたりもする」

「へぇー」
 ▼ 369 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/09 03:43:11 ID:m04JJJKk [22/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

つまりはこれも孵化余りの恩恵か。

未知の力とかが眠っていたわけじゃないのか。

ちょっと残念。

でもまぁ、それもまたいいか。

「な。」

「キュイ!」
 ▼ 370 ッタ@カイロスナイト 17/04/09 07:30:50 ID:QUzADJek NGネーム登録 NGID登録 報告
良いねぇ

支援
 ▼ 371 色狐◆7yYkDV/Lvk 17/04/09 15:07:30 ID:bYBAJjU2 NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 372 ランテス@ムシZ 17/04/12 00:14:33 ID:hwtU5T6Q NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
支援
 ▼ 373 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/12 02:48:44 ID:0lFQxMU2 [1/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


【24日目、午後】


「大きくなれよー……っと」

優しく語りかけながら、直径10cm弱のゴロッとしたタネの上に丁寧に土を被せる。

この一粒のタネが、いずれ芽を出し葉を増やし天高く伸び上がり……。

その光景を想像すると、嫌が応にも口角が上がってしまう。

あぁ、ワクワクが止まらない。
 ▼ 374 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/12 02:49:23 ID:0lFQxMU2 [2/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

メガやすの園芸コーナーで買った種子。

自給自足の広告が琴線に触れ、自宅の庭で家庭菜園を始めた……

……というわけではない。

農作物の種でもなければ、庭の畑でもない。


リザードンに乗ってメレメレまで戻ってきた俺は、帰宅前にちょっとした寄り道を
 ▼ 375 スです◆SxCy/NIFN. 17/04/12 02:50:22 ID:0lFQxMU2 [3/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>374
していた。
 ▼ 376 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/12 02:54:21 ID:0lFQxMU2 [4/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
カントー原産、「細い木」。

7〜10年程かけて、最終的に直径60cm、高さ2mほどの小木に成長する樹種である。

特筆すべきは、その圧倒的な生命力。

まず、極寒の地でも灼熱の大地でも何の問題もなく発芽する。

そして一度芽が出てしまえば、何者もその命を刈り取ることはできない。

詳しいメカニズムはよく知らないが、物の例えではなく本当にそうらしい。

メガやす広告チラシの煽り文曰く、『世界最強の植物』。
 ▼ 377 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/12 02:55:28 ID:0lFQxMU2 [5/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

そんな究極生命体を、俺はククイ邸の玄関目の前に植えた。

ドアを開ければ細い木。

家に帰れば細い木。

切っても切っても切っても切っても、目を離した隙に細い木。


やがて木が育ち、玄関を塞ぐ大きさになるのが何年後かは分からない。

だが、その時は確実に訪れる。

そしてその時が来ると分かっていても、木の成長は止められない。

日に日に伸びる幹を眺めながら、自らの無力さに存分に打ちひしがれて貰いたいと思う。
 ▼ 378 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/12 02:57:29 ID:0lFQxMU2 [6/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ククイ博士に一矢報いるという目的はこれでおおよそ達成された。

明日まで掘り起こしでもされない限りは確実に発芽し、未来永劫この玄関前で悪夢を見せ続けるだろう。

最高に晴れ晴れとした気分だ。


それじゃ、用事も済んだし。


帰るか。
 ▼ 379 ミロル@もえぎいろのたま 17/04/12 05:41:56 ID:wgsqF0es NGネーム登録 NGID登録 報告
嫌がらせで草
 ▼ 380 オガエン@ピーピーエイダー 17/04/13 01:29:48 ID:NhxU2uFU NGネーム登録 NGID登録 報告
ワロタ
 ▼ 381 ガデンリュウ@むらさきのミツ 17/04/15 22:30:09 ID:tBEpqGQM NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
支援
 ▼ 382 チリス@こだわりメガネ 17/04/16 01:07:34 ID:a1O2HPaw NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
支援





 ▼ 383 イリーフ@きんのいれば 17/04/16 15:04:57 ID:5NTP.wJI NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ▼ 384 存報告◆SxCy/NIFN. 17/04/17 00:54:48 ID:.lOkqZuE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
微妙に忙しい時期なのと、このSS自体だいぶ見切り発車だったのとで、最近は更新が滞りがちです
申し訳ない
 ▼ 385 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:03:07 ID:rNQ0UYsc [1/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
【25日目】


───ヴェラ火山、山頂


カキ「ハハハハハ! カキです。 ……アッハハハハハハハハ!

気分はどうだ? ほらどうなんだ!?」

「くっ……殺せ!」

ダイチ1「アローラ! もう逃げられないよ!」

ダイチ2「アローラ! 君は力つきるまで踊りを続けるんだ!」

ダイチ3「アローラ! ちなみに僕は3分40秒につき1人増えるよ!」

ダイチ4「アローラ! つまりはそういうわけさ! さぁ、君も僕になろう!」

ハイッ! ハイッ! ハヤハヤハヤハヤ……
 ▼ 386 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:03:43 ID:rNQ0UYsc [2/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ハァイ!?」

…………?

ここは……俺の部屋だ。

カーテンの隙間から光がさしている。

……朝か。

なんか、とても恐ろしい夢を見ていた気がするんだが。
 ▼ 387 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:04:21 ID:rNQ0UYsc [3/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ちらりと枕元の時計を見ると、時刻は午前5時半。

目覚ましが鳴るまであと1時間半ほどある。

だが、夢の影響かなぜか目が冴え切っていて、どうにも二度寝できる感じではない。

俺は仕方なく布団から体を起こした。
 ▼ 388 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:05:43 ID:rNQ0UYsc [4/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「あれ?」

座布団の上で、サンダースとヤドンが一緒に寝息を立てていた。

珍しい、というか初めて見る光景だ。

イーブイだった時から、毎晩遅くに決まってコイルを起こして朝まで一緒に寝ていたのだが。

昨日はどういうわけかヤドンに添い寝を頼んだらしい。

コイルが熟睡してて出てきてくれなかったんだろうか?
 ▼ 389 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:06:50 ID:rNQ0UYsc [5/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「きゅぅ……?」

2匹の寝顔をまじまじと見つめていると、サンダースがぼんやりと目を開いた。

どうやら起こしてしまったようだ。

「まだもうちょい寝ててもいいぞ」

「きゅぃ……」

俺の言葉が聞こえているのかいないのか、サンダースは目をしばしばさせながら眠り声を漏らした。

むくりと起き上がり、枕元に3つ固めて置いてあるモンスターボールの方にフラフラと歩み寄る。

ボールの中で二度寝するのだろうか?
 ▼ 390 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:07:55 ID:rNQ0UYsc [6/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「きゅっ」

コツン、と開閉ボタンを小突く。

が、反応がない。

「それ、コイルのだぞ。 ちゃんとシール貼ってあんだろ?」

昨日ボールを取り違えたことを反省し、それぞれのボールに文具屋で買ったタイプシールを貼ってある。

今つついたボールの上部に見えるのは鉄骨のマーク。

コイルのはがねタイプのシンボルだ。

複合タイプ分貼ってもかえってややこしいだけなので、こういう形を取ってある。

ちなみにサンダースのボールは稲妻のマーク、ヤドンのボールは海のマークである。
 ▼ 391 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:09:04 ID:rNQ0UYsc [7/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「きゅい……」

心なしかため息混じりに、サンダースが踵を返した。

諦めはやいな、おい。

あんまり朝早くから活動することが無かったから気づかなかったが、こいつこんなに寝起き弱かったのか。

ねむり状態にするわざには注意せねば……。
 ▼ 392 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:09:35 ID:rNQ0UYsc [8/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ん?」

そういえば、コイルはどこだ?

モンスターボールの開閉ボタンは、誤って押した場合でも律儀に作動するはずだ。

さっきので出てこなかったということは、どこか別の場所で寝ているということになる。

辺りを見渡しても、それらしい影はない。

これってまさか、家出でもしたんじゃ……!
 ▼ 393 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:10:17 ID:rNQ0UYsc [9/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ガタッ!

「っ!?」

悪い予感に呼応するかのように、木製の引き戸を強くノックしたような音が響いた。

音がしたのは背後、学習机の方からだ。

何かいる……!
 ▼ 394 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:11:06 ID:rNQ0UYsc [10/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

恐る恐る、机の引き出しに手をかける。

まぁ何がいるのかは大方予想がついているが、引き出しの中が異世界の入り口と化している可能性も否めない。

うっかり引きずりこまれないように両足を踏ん張り、引き出しを思いっきり引っ張ると……

「なんでこんなとこで寝てんだよ……」

「##……?」

……案の定、寝ぼけまなこのコイルがいた。
 ▼ 395 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:12:39 ID:rNQ0UYsc [11/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「やぁん……」

ヤドンが「やれやれ……」的な鳴き声を漏らす。

6時前だというのに全員起きてしまった。

「まだ寝てても……いや、みんな起きちゃったんならもう動くか」

活動開始には少々早い時間だが、リザードンライドがあるので時間の融通は利ききやすい。

空のラッシュアワーを避ける意味でも、早朝に動き始めるのは正解かもしれない。


ともかく、次の試練は島巡りのターニングポイントだ。

気合い入れていこう。
 ▼ 396 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:13:44 ID:rNQ0UYsc [12/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



空の道はそれなりに混み合っていた。

島巡ラーからサラリーマンまで、様々な目的の人たちがリザードンに跨り飛び交う。

ラッシュアワーを避けてもこれなので、予定通りに起きていたら結構大変だったかもしれない。

ハウオリ方面に向かうスーツ姿の初老の男性とすれ違った。

ハッスルな通勤形態とは対照的に、途方も無い疲労感が滲んだ顔。

人生の闇を見てしまったような感じがして、なんだか気が滅入る。
 ▼ 397 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:14:31 ID:rNQ0UYsc [13/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

アーカラ島は、ハウオリからリザードンで東に向かって50分ほど。

リザードンライドのレンタル料は600円+400円/30分なので、片道1000円である。

往復2000円という費用や移動にかかる時間を考慮すると、毎日帰るというのはあまり現実的ではない。

それゆえ仕事などで常用する人は自家用リザードンを購入することも多いが、当然子供の小遣いで手が届く額ではない。

ちなみに、乗り心地は結構快適なのだが、それでもなぜかコイルは酔う。

移動時間が船旅ほど長くはないので、さほど深刻な問題ではないのだが。
 ▼ 398 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:15:27 ID:rNQ0UYsc [14/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

目的地のターミナルが見えてきた。

繰り返しになるが、次の試練は島巡りのターニングポイント。

ここを超えられるかどうかが最大の壁であると言われている。

とはいえ、ぬしと戦う試練は曲がりなりにもここまで全て1発突破してきた。

11歳向けの試練に13歳で挑戦しているのだから、よくよく考えれば妥当な結果だ。

今回も下調べを怠らずに策を練り、その上で全力で戦えば負けることはないだろう。
 ▼ 399 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:16:28 ID:rNQ0UYsc [15/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「リザードン、あのターミナルに降りてくれ!」

「グルッ」

リザードンが短く吠え、ライドターミナルめがけて降下を開始した。

緩やかな角度で行われているはずのこの動作だが、乗っている側としては結構なスリルを感じる。

下腹部のあたりに『ひゅんっ』と来る感覚は、ジェットコースターの落下の瞬間のそれに近い。
 ▼ 400 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/18 19:17:42 ID:rNQ0UYsc [16/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

昨日は特に考えもせず乗ったが、これ事故件数とかどんなもんなんだろう、と、強烈な風を浴びながら考える。

……考えなきゃよかったなぁ。

10割増しになったスリルが五臓六腑を駆け抜けたところで、リザードンが減速を開始。

俺の不安とは裏腹に、ごくごく安全に着地した。

背中から降りると、リザードンが「プロ舐めんな」的な眼差しでこちらを睨んできた。

「す、すまん」

どうやらライドポケモンには一流としてのプライドがあるらしい。

いや、それでも怖いものは怖いが。
 ▼ 401 メハダー@バンジのみ 17/04/18 20:28:37 ID:LfXw9EqU NGネーム登録 NGID登録 報告
試練は次回かな?
 ▼ 402 ガヘラクロス@あおぞらプレート 17/04/19 19:31:42 ID:GE0Zpzjk NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 403 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:12:30 ID:9oxIHSls [1/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



精算を済ませ、ターミナルを後にした。

アーカラ島後半戦のスタート地点に選んだのはここ、オハナタウンの預り屋だ。

これからシェードジャングル最寄りのポケセンに向けて出発する。
 ▼ 404 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:14:25 ID:9oxIHSls [2/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

それならロイヤルドームからの方が近い、と思う人もいるかもしれないが、それは大きな間違いだと思う。

確かに推奨ルートではヴェラ火山を東から回って8番道路を通ることになっている。

これは、5番道路を南北に結ぶ道がないためだ。

だがよく考えてみて欲しい。

5番道路を南北に隔てる段差は、本当に乗り越えられないのだろうか?

ガイドには、「北側から預り屋方面に戻る際には飛び降りることはできる」とある。

飛び降りられる程度の段差。

実際に見に行ったわけではないので断定はできないが、常識的に考えれば自ずと結論は出る。
 ▼ 405 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:16:11 ID:9oxIHSls [3/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



そういうわけで、3時間ほど歩いて件の段差までやって来た。

高さ、目算3.5m。

『反り立つ壁』と同じくらいだろうか。

あの壁には毎回多くのチャレンジャーが涙を飲むが、今目の前にある壁はそれほどの難易度を感じさせるようなものではない。

まず反り立ってはいないし、壁面に足がかりとなる凹凸があるし、何よりチャレンジャーたる俺は道具の使用が自由だ。

確信した。

この段差はやはり登れる。
 ▼ 406 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:17:48 ID:9oxIHSls [4/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

そうと分かれば話は早い。

リュックからから取り出したハーケンを岩肌に突き刺し、手応えを慎重に確かめつつ、少しずつ上へ上へと進んでいく。

2mほどよじ登り、もう一歩で段差の上に頭が出るところまで来た。

ここまで来ればもう余裕だろう。

段差の淵に手をかけ、一気に体を持ち上げると、

「!」

その瞬間、全身を例の感覚が突き抜けた。
 ▼ 407 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:18:57 ID:9oxIHSls [5/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

バッドボーイ「よう」

崖から顔だけ出した俺を見下ろし声をかけてくるのは、不良っぽい見た目の男子。

つまり、目と目が合ってしまった。

上の様子くらい確認しておくべきだったと、今更思っても後の祭り。

「ちょっと待ってろ、今登るから。もしかしたらあと2時間ぐらいかかるかもしれないけど大丈夫か?」

バッド「おう、いくらでも待つぞ」

ダメ元で仕掛けた牛歩戦術に対してこの即答である。

やはりバトルは避けられないらしい。
 ▼ 408 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:20:38 ID:9oxIHSls [6/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



2分ほどで崖登りを終え、体についた砂埃を払いつつ質問する。

「どう見ても11には見えないが、あんたも浪人か?」

言ってしまってから、ものすごく不躾な質問をしていることに気づいた。

が、ギリギリセーフらしい。少し表情を曇らせつつも、不良男子が答える。

バッド「あぁ。……まぁ、色々あってな」

そりゃ訳ありなのは見た目でわかるわ。

と、また不躾な思考に走ってしまったが、そこは人のことを言えた身分でもないので黙っておく。
 ▼ 409 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:21:15 ID:9oxIHSls [7/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

バッド「ま、俺たちがなんで浪人してるかなんてどーだっていい。目と目があったらまずバトルだろ」

確かにどうでもいい。

その場の好奇心に煽られてお互いの傷をえぐり合うのは無益なことである。

「そうだな。 じゃ、やるか」
 ▼ 410 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:22:58 ID:9oxIHSls [8/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

お互い位置につき、出し合った初手の対面はコイルvsラッタ。

良くもないが悪くもない、そんなカードだ。

次の試練と最も相性がいいのがコイルなので、積極的にレベルを上げていきたいところ。

「合図はこの小石な」

バッド「あぁ、分かってるよ」

アローラローカルのようなものなのか、野良試合では誰とやっても『何かを投げて落ちた瞬間』がスタートの合図になる。

誰が何を投げるかという確認はその都度必要だが、トレーナーの間では『最初はグー』並みの常識として通っているようだ。
 ▼ 411 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:23:34 ID:9oxIHSls [9/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



小石が落ちた瞬間、先に指示を出したのはバッドボーイ。

バッド「ラッタ、ひっさつまえば!」

「ギッ!」

ラッタが自慢の前歯を煌めかせ、コイルめがけて一直線にダッシュしてくる。
 ▼ 412 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:24:20 ID:9oxIHSls [10/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

だが、こちらも決して後手に回っているわけではない。

これまでの経験上、自分のポケモンより素早い相手と戦う時、指示を焦るのは返って危険。

移動と攻撃に複雑な磁力操作が伴うコイルの場合は尚更であり、こういう時こそ相手の動きを見て対処する必要があるはずだ。

まずは回避、そこから隙を見てでんじはを当て、スピードの優位を確保したのちに攻撃に転じる。

即席にして月並みな作戦だが、取り敢えずこのバトルはこれで行く!
 ▼ 413 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:25:31 ID:9oxIHSls [11/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「コイル、回避に集中だ!」

「##……!」

左右のユニットが回転し、その中間に電気がチャージされ……

……ってオイ待て、そんな指示は出してない!

「ばっ……来るぞ、早く避けろ!」

なぜか指示をガン無視するコイルに必死に呼びかける。

それでもコイルはチャージを続け、ラッタの前歯はもうコイルの目前まで迫っていた。

くそっ、これじゃ初日のコラッタ戦と何も変わらないだろうが!
 ▼ 414 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:26:54 ID:9oxIHSls [12/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

だが、あの時と同じ展開にはならなかった。

「#√ッ!」

コイルの体が斜め上空へ、見えない力に弾かれたように打ち上がった。

「ギギッ!?」

ラッタの目の前からコイルが消え、前歯は虚空を穿った。

バッド「マジかよ!」

驚いたのはこっちだ。

コイルお前、いつの間にこんな器用なことできるようになったんだ?
 ▼ 415 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:27:35 ID:9oxIHSls [13/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

チャージしながらの移動。

よく分からんが、これができるなら喜ばしいことこの上ない。

まずは主導権、貰った!

「いいぞ、そのままでんきショッ……ク?」

意気揚々と指示を飛ばそうとしたが、どうやらぬか喜びだったらしい。

「#、#……」

先程の見事な挙動は何処へやら、コイルは空中で白目を剥き、パーツの隙間から黒い煙をあげていた。
 ▼ 416 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:28:34 ID:9oxIHSls [14/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

バッド「お、おい、大丈夫なのか?」

「いやぁ、これは多分、大丈夫じゃないよなぁ……」

というか明らかにダメだろう。

「……$」

完全に壊れた、というような声。

直後に、ごすん、と鈍い音を響かせてコイルが地面に落下した。


無茶しやがって……。
 ▼ 417 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:29:42 ID:9oxIHSls [15/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



ポケセン宿舎に敷いた寝床に腰を下ろし、回復したばかりのコイルと向き合う。

「まぁ、サンダースがなんとかしてくれたからいいけどさ。

……コイル、お前一体どうしたんだよ」

「##……」

コイルがシュンと磁石を竦める。

「いや、責めてるわけじゃないんだよ。苦手を克服しようって心意気は買う。

でもな、実戦投入はちゃんと練習してからにしよう。今回みたいに戦闘中にショートすると危ないだろ?」
 ▼ 418 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/04/19 23:30:36 ID:9oxIHSls [16/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

チャージと高速の移動を同時にこなそうとして、キャパオーバーで回路がショート。

危ないというか、一発で戦闘不能になったのでバトルとしては最悪の展開である。

昨日のサンダースに触発されたのか、焦りすぎだ。

「まずはできることから、な? 今回だって、落ち着いてやれば勝てない相手じゃなかったと思うしさ」

「#……」
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