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SS

【SS】そうだ、島巡りに行こう

 ▼ 1 SxCy/NIFN. 17/02/18 06:33:20 ID:lUs7RGUg NGネーム登録 NGID登録 報告
ただの少年がこれといった事件に巻き込まれることもなく普通にのんびり島巡りする小説です。
多少設定が適当だったり、たまに原作と矛盾することもあるかと思いますが許してください。

【プロローグ】

俺はしがない短パン小僧。

そろそろ半袖短パン姿が痛々しくなってきた13歳だ。

2年前に島巡りに挑んで最初の試練で挫折してしまい、学校に戻るに戻れず、今までずるずると引きこもっていた。
 ▼ 119 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:03:15 ID:u7bkxreE [1/19] NGネーム登録 NGID登録 報告
両親にこれまでの旅の報告をした。

ヒキニートまっしぐらだった息子が最初の試練を突破したということで、2人とも大喜びしている。

よし、この流れなら言える。

「それでさ、島巡りは最後までやる気でいるんだけど、資金が尽きたんだよね。

……お金をくれませんか?」

資金、といった辺りから両親の表情が若干陰りを見せる。

父「そろそろ金は無くなるだろうとは思っていたが……。でも父さん達からいくら援助したところで、他のトレーナーに巻き上げられるんじゃなぁ……」

母「そうねぇ……。あんまり勝ててないみたいだし……」

もっともだ。

というか、あんまりどころか未だ対人は白星ゼロだし。

「…………。」

完全に空気が凍ってしまった。
 ▼ 120 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:08:17 ID:u7bkxreE [2/19] NGネーム登録 NGID登録 報告
まぁ、この展開は半ば予想されていた。

うちはさほど裕福ではないので、奪われる前提で資金を提供するほどの余裕はない。

そもそも島巡り浪人は、一般的にはリザードンライドを駆使して行うものである。

後先気にせず所持金をアイテム化できる初年度攻略者と異なり、旅に金が必要な島巡り浪人にとって賞金システムはハイリスクローリターン。

だから、資金の大半は自宅に預けておき、ライドでこまめに帰って手元の所持金を最小限にする。

これが一般的な浪人のメソッドだ。

しかし、2年前諦めがあまりにも早かった俺はライドギアさえ持っていないので、その手法を取れるのはまだまだ先の話になる。

かつて銀行という資金管理システムの設立が検討されたことがあったが、賞金でその日暮らしをする無職トレーナーたちの猛反対にあってお流れになったらしい。

まぁ要するに、現状では資金保護のすべが非常に乏しい。

その結果としてバトルに積極的になれず、レベルが上がらない。

そしてレベルが上がらないから、バトルを仕掛けられない。

そんな浪人悪循環がここに形成されていた。
 ▼ 121 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:09:20 ID:u7bkxreE [3/19] NGネーム登録 NGID登録 報告
3人それぞれが無言のまま4回ほど重いため息をついた頃、父が沈黙を破り口を開いた。

父「……まぁ、父さんだってやっとやる気になった息子の成長は嬉しいんだ。それを制度の欠陥に潰されるのは納得がいかない。

とりあえず向こう1週間分の生活費は出すから、しばらくはそれでなんとか頑張れ。

もし道中で金が尽きたら、電話で父さんか母さんを呼んでくれ。仕事がない時間ならリザードンで迎えに行くから。

島巡り中に親の補助で移動するのは厳密には規約違反だが……こういう時ぐらいは見逃してもらえるだろ」

「父さん……」
 ▼ 122 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:10:03 ID:u7bkxreE [4/19] NGネーム登録 NGID登録 報告
聖人かよ。

アーカラまで往復となればリザードンでも結構かかるのに……。

こんなできた両親に甘えて2年も引きこもっていた罪悪感が今更心を締め付けてくる。

そして島巡りを決意してなお両親に負担をかける事実にいっそう心が痛む。

何か迷惑をかけない方法はないものか。このふざけた賞金システムに一矢報いる打開策は……。

…………。

「あっ……」

母「どうかしたの?」

「や、なんでもない。とりあえずお金はありがたく頂きます。でも……リザードンで迎えに来てもらうことは多分ない、かな」

妙案、閃きました。
 ▼ 123 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:28:50 ID:u7bkxreE [5/19] NGネーム登録 NGID登録 報告
【9日目】

ミニスカート「ピカチュウ、エレキボール!」

「ピカッ!」

頬を光らせバリバリ鳴らすピカチュウが身を踊らせ、尻尾に纏った電撃の塊を上段から振り下ろしてくる。

「コイル、マグネットボムで壁を張れ!」

「##…=!」

正面に精製された鋼のボムが2匹の間を遮るように敷き詰められる。

物理攻撃ということであまり使っていなかったが、ボムの発生が早く思いのほか汎用性が高いわざだ。

至近距離で放たれた両者の技の威力が衝突し、爆風でお互い吹っ飛ばされる。

おそらくここが勝負の分かれ目だ。

「コイル、速攻ででんきショック!」

ミニスカート「ピカチュウ、すぐでんきショック!」

間髪入れず、ほとんど同時に指示が飛ぶ。
 ▼ 124 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:30:00 ID:u7bkxreE [6/19] NGネーム登録 NGID登録 報告
が、先に反応したのは……

「ピィカ…チュッ!」

ピカチュウの方だった。爆風に上手く乗り、飛ばされながらもコイルに照準を合わせていたらしい。

やや遅れてタメに入っていたコイルは真上から電撃を浴び……

チャージ途中の電気を宙に霧散させ、目を回して地面にふらふらと落下した。

うむ、ここまでか。

「お疲れ、コイル」

「##……」



帰省から一夜明けた今日、俺は朝早くに家を出て、3番道路にやって来ていた。
 ▼ 125 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:31:40 ID:u7bkxreE [7/19] NGネーム登録 NGID登録 報告
ミニスカート「いい勝負だったねぇー!あなたも3匹目を持ってたら負けてたかも」

「3匹ちゃんと育ててる時点でそっちが上手だ。俺ももう1匹捕まえるかなぁ……」

財布から500円ほど取り出して手渡しながら、先程のバトルの感想を言い合う。

え?桁が足りないんじゃないかって?

いや、これでいい。

なぜならこの財布には、この辺のトレーナーの相場である5000円しか入っていない。

「この財布」には。

そう、俺は昨日の午後にハウオリで2つ目の財布を購入し、資金のほんの一部をそこに入れておくことにしたのだ。

つまりは、修学旅行等でカツアゲ対策にやるアレである。

一応相場通りの額が入っているので、これなら疑われることもない。

もちろん所持金の偽装表示は違法行為ではあるが、法自体が頭おかしいので法を欺くことに躊躇はない。

俺は悪くない。

やはり世間が悪い。
 ▼ 126 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:33:16 ID:u7bkxreE [8/19] NGネーム登録 NGID登録 報告
最強の盾を手にした俺はその後も一日中リリィタウンと3番道路を往復し、トレーナーを見つけては目を合わせて勝負を挑んだ。

かなりレベルが不足していたらしく、見知らぬトレーナー相手では事前に対策できないのもあってしばらくは負けが続いた。

しかしその後は慣れもあってか5戦目、6戦目と連勝し、本日の成績は2勝4敗。

ポケモンにだいぶ疲れが溜まってきていたので、まだ日は高かったがそこで打ち切ることにした。

回復マシンでも精神的な疲労はどうにもならないらしく、ポケセンに甘えてポケモンに無理をさせていると家出されることもあるらしい。

今のところは2匹ともハラさんに惨敗した悔しさが優っているらしいが、オーバーワークには気をつけようと思う。

それにしても、資金の減りを気にしなくていいだけでこんなに好戦的になれるんだなぁ……。

2番道路ではこっち見んなと苛立っていたものだが、これが他の短パン小僧が見ていた景色か。

リリィタウンへの帰り道、自分が次第にアローラに染まっていくのをしみじみと実感していた。
 ▼ 127 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:34:33 ID:u7bkxreE [9/19] NGネーム登録 NGID登録 報告
日没までかなり時間があったので、俺は思い立ってある場所にやってきていた。

「……ここ、か?」

ビビットカラーで刻まれた玄関の表札の文字を見る。

ククイ研究所。

どうやらここで間違い無いようだ。

俺は玄関を軽く叩き、半裸の博士のお出迎えを待った。
 ▼ 128 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:35:27 ID:u7bkxreE [10/19] NGネーム登録 NGID登録 報告
ククイ博士は言わずと知れたわざ研究の権威で、面倒見がいい人柄が近所では評判である。

時々学校に来て特別授業を開いており、生徒と同じ目線に立つ姿勢に俺も良い印象を抱いていた。

今日ここに来たのは、研究用のわざマシンから有用なわざを覚えさせてくれたりはしないだろうかという期待からだ。

正直言って、でんきショックやみずでっぽうでは威力不足の感がある。

まぁ他のトレーナーも似たような威力のわざしか使ってこないのだが、俺自身対人戦が苦手なのでせめてこういうところで差をつけておきたい。

有り体に言えば、何も考えずポケモンのスペックでゴリ押ししたい。

そんな身もふたもないことを考えてると、ドタドタと走り寄る音に少し遅れて、研究所のドアが開いた。

ククイ「アローラ! 僕に何か用かな?」
 ▼ 129 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:37:08 ID:u7bkxreE [11/19] NGネーム登録 NGID登録 報告
ククイ「なるほどねぇ……島巡り浪人か。それで強いわざを教えて欲しいってわけだな?」

「まぁ、平たく言えば。図々しいのは分かっちゃいるんですが、なにかオススメのわざ無いですかね?」

ククイ「オススメか……。君の手持ちならボルトチェンジとかねっとう、あとはれいとうビームなんかがあると良いかもな。だが……」

そこでククイ博士が表情を渋らせる。

ククイ「浪人って何かと大変だし俺も手を貸してやりたいんだけどな。でもそれじゃイカサマだ。

アドバイスはできても、わざをそのままギフトパスってわけにはいかないんだよな。」

大人の事情ってやつだろうか。

まぁ、確かにこういう特例を認めては色々と問題が起こるのかもしれない。

残念だが仕方ないか。
 ▼ 130 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:39:05 ID:u7bkxreE [12/19] NGネーム登録 NGID登録 報告
「そうですか……。すいません、無理言って」

ククイ「力になれなくてすまない。……まぁ、どうせどっちにしろわざは教えられないんだけどな」

「へ? なんかあったんですか?」

ククイ「いや、最近ちょっと空き巣に入られてな。あそこに入ってたわざマシンがゴッソリどろぼうされたんだよ」

ククイ博士が指差した棚を見やる。

確かに、棚の中は随分と寂しい事になっていた。

わずかに並ぶわざマシンは買い直したりしたものだろうか。

「そ、それはお気の毒でしたね……」

ククイ「マシンが残ってれば、チャージビームぐらいならないしょばなしで教えちゃっても良いかなってところなんだけどな。

まぁ、とりあえず盗まれたのが僕のポケモンに一通り覚えさせた後でよかったよ。不幸中の幸いかな」
 ▼ 131 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:39:59 ID:u7bkxreE [13/19] NGネーム登録 NGID登録 報告
博士のポケモン。

そう言えば、この人もリーグがらみのニュースで色々と書いてあったな。

ふと、気になることがあったので聞いて見る。

「話は変わるんですが、博士って相当強いんですよね。チャンピオンと就任前に一戦交えたんだとか。

その、チャンピオンの子って、なんというか……どんなでした?」

深夜の2番道路で会ったあの少女の、あまりにもその輝かしい経歴と一致しない印象がずっと気になっていた。

彼女と面識があるらしい博士なら、何か知っているかもしれない。

ククイ「チャンピオンか。彼女はカントーから先々月に越してきたんだけどな。最初はまだポケモンも持ってなかったのに、でんこうせっかで成長してったな。

フラッシュみたいに明るくて責任感の強い子だよ。ああいうのがアローラを変えていくんだろうなぁ……」
 ▼ 132 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:40:47 ID:u7bkxreE [14/19] NGネーム登録 NGID登録 報告
やはり、ズレる。

あの時話したのは僅かな時間でしかないが、明るさというものは全く感じ取れなかった。

なんだろう、この違和感は。

何かが引っかかる。

大人も手を焼くような事件を解決しながら島巡りが1ヶ月少々で終わるのは、でんこうせっかなんて比喩で済むものとは思えない。

まるで、何か別の力が働いていたかのような……。

そしてそれがまるで何かに必要なことだったかのような……。

……!

いや、まさかな。
 ▼ 133 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:42:11 ID:u7bkxreE [15/19] NGネーム登録 NGID登録 報告
いやいやいや、まさかな、じゃない。

こういう時、本当にまさかで終わるわけがないだろう。

思い切って踏み込んだ質問をして見る。

「ククイ博士。ポケモンリーグが完成したのって、いつだっけ?」

ククイ「えぇと……2週間前だね」

「彼女が島巡りを終わらせて、リーグ挑戦権を得たのは?」

ククイ「……2週間前だね」

「もひとつ質問いいかな。

その棚にあったわざマシン、どこにやった?」

ククイ「……君のような勘のいいガキは嫌いだよ」
 ▼ 134 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:44:48 ID:u7bkxreE [16/19] NGネーム登録 NGID登録 報告
マジかよ……

まさかで済んでいて欲しかったと思う。

が、白状されてしまったものは仕方がない。

胸ぐらに掴みかかって殴るなどというマネができるほどの度胸も力も機械鎧もないが、事実確認ぐらいはしておこう。

コイルとヤドンがボールから出てきて臨戦態勢に入るが、それをされると俺がお縄になるので手で静し、座ったまま問い詰める。

「確かに、現チャンピオンはそりゃもう話題になってますよ。全部裏にあなたがいたってことが知れれば、そりゃもう世間は荒れるでしょうね?」

ククイ「やめてくれよ。確かに彼女の通る道にわざマシンを置いたのは僕だし、学習装置も渡したが。だがバラしてどうなる。そうなりゃあの子もみちづれだろ。」

「いや、もうみちづれにはなってるんですよ。自分で言ったじゃないですか、責任感強い子だって。……彼女が深夜に何やってるか知らないんですか?」

ククイ「知ってるさ。基礎ポイント稼ぎだろ? でも誰かがあの場に立たなきゃリーグってのは成り立たないんだ。仕方がない」

「仕方がない、じゃないですよ……。大体、普通にその時の実力者をチャンピオンにする、で良かったじゃないですか。

スカル団やエーテル財団の暗部と接触するように仕向けたのも博士ですよね? そこまでしてチャンピオンに箔をつけたかったんですか?」

ククイ「このプロジェクトが失敗したらアローラには2度とリーグは作れないだろう。チャンピオンがただのちょっと強い一般人じゃ全く話題にならない。

それじゃダメなんだ。事実、各地方のリーグのチャンピオン達は必ず何か逸話を残している。」

「逸話、ねぇ……。まぁ、一理あるとは思いますが……」
 ▼ 135 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:46:41 ID:u7bkxreE [17/19] NGネーム登録 NGID登録 報告
つまり、チャンピオンに相応しい者がいなかったから急造で秘密裏に育て上げたと。

コネを疑われないようにこっそりとわざマシンを設置して旅を加速させ、

いく先々で有力者や強大な敵と出会わせて壮大なストーリーを演出し、

最後に自らと戦わせて勝利させることで、名実ともに頂点に足り得る者が現れたと大衆にアピールしたと。

呆れた話だが、確かに理にかなってはいるのかもしれない。

実際にあの少女は世間ではそういう存在として持ち上げられているし、リーグは設立早々挑戦者の予約が殺到しているらしい。

「でも、合理的なら何やってもいいわけないじゃないですか。……何やってるんですか、本当に」

ククイ「…………」
 ▼ 136 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:47:12 ID:u7bkxreE [18/19] NGネーム登録 NGID登録 報告
とは言っても、博士がやらかした事を公に晒すのは得策ではない。

所詮13歳のガキが何を言っても意味はないし、仮に世間が信じたとしてもチャンピオン当人が相当ショックを受けるだろう。

となると残された方法は、誰かが彼女を打ち負かして強制的にチャンピオンの重責から解き放つぐらいだが、彼女は相当に強い。

いくら強烈な追い風があったとはいえ、やはりあの経歴は普通じゃない。

おそらく、博士の暗躍がなくても数ヶ月後にはチャンピオンの座についていたんじゃないかと思う。

その場合今ほどの話題性はなかっただろうが、とはいえそれが本来の有り方だ。

もしかしたら誰の誘導もなくても自ら事件に首を突っ込み解決に当たったのかもしれないが、今となってはそれは分からない。
 ▼ 137 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/01 21:48:59 ID:u7bkxreE [19/19] NGネーム登録 NGID登録 報告
「はぁ……とんでもないことしでかしましたね、本当に。」

ククイ「僕は間違った事をしたとは思ってないけどね。……まぁ、多少想定外の犠牲はあったけど、仕方がないんだ」

「もういいですよ。どうせ俺には何もできないですから。これ以上喋られても腹立つだけです」

ククイ「はは、分かってるじゃないか」

この野郎。

まぁ、悔しいが何もできないのは本当だ。

ものすごく強い誰かがチャンピオンの座を奪っていくのを願うぐらいしかできない。

そもそもあの少女は赤の他人であって、俺がそこまで肩入れする理由も特に思いつかない。

「…………じゃ、俺はこの辺で失礼しますね」

何か気の利いた捨て台詞が言えればよかったのだが、何も浮かばず普通の退出になってしまう。

くそう、俺はどこまでキマらない奴なんだ。

下唇を噛みながら、俺はククイ研究所を後にした。
 ▼ 138 サイドン@アクアスーツ 17/03/01 23:04:19 ID:02N1N9lM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 139 ジロック@まんたんのくすり 17/03/03 18:56:41 ID:0Ps5OBXA [1/15] NGネーム登録 NGID登録 報告
【10日目】

けたたましい目覚ましの音に、無理やり意識を引っ張り出されるような不快感を伴い目がさめる。

午前7時。

これからすぐに支度してリリィタウンに赴き、ハラさんにリベンジマッチを挑まねばならないのだが……

自室のベッドだというのに昨日は全く寝付けず、まだ鈍々しい倦怠感が頭の中をぐるぐるしていた。

なやみのたねとなっていたのは他でもない、まさかの黒幕ククイ博士とチャンピオンのことである。

実力も権力もなければ主人公補正もない俺1人がなぜ真実を知ってしまったのか、今となっては後悔している。

考えてもどうしようもないことではあるのだが、無かったことにしようにも半端な情に邪魔されて、悶々とした気持ちが振り払えずにいた。

あまりに眠れないのであくびをもらおうと思いヤドンに出て来てもらったが、俺を見て溜息をつくなりすぐにボールに戻ってしまった。

どうやら甘ったれた現実逃避の手伝いはしないスタンスらしい。

結局、昨日とも今日とも分からない時間に眠りに落ちるまで、ひたすら意味もなく葛藤する羽目になったわけである。

重い瞼をこじ開けなんとか布団から這い出てた俺は、ふらふらと洗面所に向かう。

冷水を二度、三度と顔に浴びせかけると、ようやく目と頭が冴えて来た。

一晩あれこれと悩んではみたが、結局のところ今やれることをするしかないと思う。

何はともあれ、まずは島巡りだ。
 ▼ 140 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 18:58:45 ID:0Ps5OBXA [2/15] NGネーム登録 NGID登録 報告
時折足の下で枝が折れる感触を味わいながら、林の中の獣道をサクサク進んでいく。

他地域出身の挑戦者には認知度が低いこの道は、トレーナー戦のリスクが比較的少ないのがありがたい。

所持金がサブ財布に守られている今なら戦うのも別に悪くはないのだが、やはり大事なバトルの前はできる限り体力を温存しておきたいものだ。

ウォームアップがてら一緒に歩く二匹に作戦を話しながら枝を掻き分けて行くと、木々の隙間からリリィタウンが見えてくる。

試合予定時間まではまだ10分ほどあるが、ハラさんは律儀にもバトルフィールドの上で待機していた。

待たせるのも悪いので少し急ぎ足に林を抜け、町の柵を飛び越えて、バトルフィールドに駆け寄る。

「すいませんお待たせして……」

ハラ「いやいや。それより、ちゃんと入口から入って来なさい。危ないですぞ」

「あ、ですよね。すいません」

やんわりと注意されたので、やんわりと謝る。

子供がこの林道を通るのを見つけてしまった場合、大人は形式上見過ごすわけにもいかない。

まぁ、この非公式の道が閉鎖されないためにはそういうポーズを取っておく必要があるということだ。
 ▼ 141 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 19:00:17 ID:0Ps5OBXA [3/15] NGネーム登録 NGID登録 報告
頭をぽりぽりと掻きながら、俺はバトルフィールドに上がった。

「じゃ、再挑戦、よろしくお願いします。」

「うむ、鍛えてきた、と言う顔ですな。……良いでしょう。このハラ、全力でお相手しますぞ。

大試練開始まであと5分少々。万全に整えてかかってきなさい」

リベンジへの期待なのか不安なのか、胸の鼓動が少し早まるのを感じた。
 ▼ 142 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 19:02:28 ID:0Ps5OBXA [4/15] NGネーム登録 NGID登録 報告

今回も、例によって情報サイトを駆使して相手の手の内を把握した上で対策を考えてある。

まず、相手のポケモンはかくとうタイプが三匹。

対してこちらは有利なヤドンと不利なコイルの二匹と、若干分が悪い。

しかし、リベンジマッチなのに新戦力を招き入れてはモチベーションに著しく響くと考え、今回は人員の補充は行なっていない。

というか、木の上で寝ていたバタフリーにボールを投げようとしたらコイルに電気を流された。

やむ無しである。

一応レベルは相応に上げてきたはずなので、あとは戦術がしっかりハマれば勝てない相手ではないと思う。

……思いたい。
 ▼ 143 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 19:05:29 ID:0Ps5OBXA [5/15] NGネーム登録 NGID登録 報告
wikiで主な対策として挙げられていたのは三つ。

一つは、半径10mのバトルフィールドをひたすら逃げ回りつつ隙を見ての遠距離攻撃。

接近戦がメインのかくとうタイプを相手取る際、一番大事なのは間合いに入らせないことだ。

が、俺たちにこの策は取れない。コイルもヤドンも遠距離持ちではあるものの、足が致命的に遅い。

次に、タイプ相性による封殺。

この辺りに生息するバタフリーやアブリーなどはかくとうタイプに非常に強く、戦略の鍵となるということだ。

俺の手持ちではヤドンがこの役割を担う。

だが、それだけでは三匹攻略は厳しいだろう。

最後に、Zワザの使用。

大将のマケンカニは、かくとうZの力でぜんりょくむそうげきれつけんという大層な名前の必殺技を放ってくる。

張り手型の格闘エネルギーを乱射する弾幕攻撃は回避困難な上、当たればまず無事では済まないらしい。

これを撃たれる前にイリマの試練で習得したウルトラダッシュアタックを叩き込めるかどうかがポイントだと書いてあったのだが……

そもそも俺はZリングを持っていない。

試練に挫折した翌日に島の守り神に根性なし認定を受けて没収されてしまって以来、それきりだ。

頑張っていればそのうち返ってくるのかなぁと密かに思って旅をしていたのだが、全く音沙汰がない。
 ▼ 144 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 19:07:15 ID:0Ps5OBXA [6/15] NGネーム登録 NGID登録 報告
……とまあ要するに普通に戦えば負けるわけだが、ありとあらゆる策を用いて何とか籠絡していきたいと思う。

前回策を一つも見せることなくストレートに負けているのは、この場合むしろ僥倖と言えるだろう。

バトルフィールドから少しせり上がったトレーナーポジションに立ち、搦め手の数々をシミュレートしながらバトル開始を待つ。


審判「…………。では、もうすぐ時間となりますので。

しまキングの使用ポケモンは三匹、チャレンジャーの使用ポケモンは無制限。バトル中の交代はチャレンジャーにのみ許可されます。

その他ルールについては、昨年度発行のトレーナールールブックに則ってジャッジします。

では、両者最初のポケモンをフィールドへ」

「よし、まずは頼んだぞ、ヤドン!」

「ややん!」

ハラ「マンキー、いきますぞ!」

「キキャーッ!」

フィールドの中心を挟んで双方のポケモンが対峙する。

レベルも上げた。戦略も練った。

勝算があるからこそ、緊張が高まる。
 ▼ 145 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 19:14:25 ID:0Ps5OBXA [7/15] NGネーム登録 NGID登録 報告
審判「大試練、始めっっ!」

ハラ「マンキー、突っ込んでからてチョップ!」

「キキャァーッ!」

指示と同時に雄叫びをあげ、マンキーが地を蹴り勢いよく飛び出す。

「ヤドン、一点集中でみずでっぽう!」

「やふんっ!」

気持ち若干鋭い鳴き声とともに放たれた矢のような水流が、猛然と駆け寄るマンキーの左足を後方に弾く。

バランスを大きく崩されたマンキーは体を右に半回転させ頭から前のめりにすっ転び、勢い余って数メートルほど地面を跳ね滑った。

ハラ「むっ。マンキー、立ち上がっ

「ヤドン、すかさず顔面に撃ち込め!みずでっぽう!」

「やふんっ!」

すぐさま体勢を立て直さんとするハラさんとマンキーだが、それを待つ理由はない。

顔を上げかけたマンキーの豚鼻を再び細い水圧が射抜き、大きく仰け反って今度は後頭部をフィールドに打ち付ける。

よし、ちゃんと初見殺しできている。

完全に予定通りの展開に、思わずにやけてしまう。
 ▼ 146 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 19:16:24 ID:0Ps5OBXA [8/15] NGネーム登録 NGID登録 報告
新戦術、《一点集中》。

前回のバトルの時は、ぬし同様みずでっぽうでマンキーを押し返して距離を取ればいいと考えていた。

しかし掛け声もなしに回避されて接近戦からたちまちノックアウトされてしまい、作戦の練り直しを余儀なくされた。

普通のみずでっぽうは口を大きく開けて大量の水を噴射するため、でんきショックほどではないにしろ発射前に少し隙がある。

さらに、軌道が読みやすい割に電撃ほど速い攻撃でもないので、小回りの効く相手に遠くから撃っても比較的簡単に避けられてしまう。

そしてこの問題を解決するために3番道路ので練習したのが、この一点集中バージョン。

水の量を減らし一点に水圧を集約することで発射が早まり、弾速も飛躍的に上がる。

今のマンキーのようにダッシュで突っ込みながらではこの攻撃を避けるのは至難の業だろう。

まぁ、それと引き換えにダメージも蚊が刺すようなものでしかないのだが……

……その分、初見相手のハメ性能は目を見張るものがある。
 ▼ 147 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 19:18:30 ID:0Ps5OBXA [9/15] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ヤドン、マンキーを起き上がらせるな!連続でみずでっぽう!」

「やふっ…やふん!」

「キキャッ!…キキィーッ!」

画面端小キック無限ハメの如く、少しずつであるが一方的に、マンキーの体力が削られていく。

このまま、昨日この戦術を試した短パン小僧戦のようにずっと俺のターン!できればよかったのだが……

「いいぞヤドン、そのまま…

ハラ「行けると思いますかな?甘いですぞ!

マンキー、その姿勢のままからてチョップ!!」

……うつ伏せのまま繰り出された手刀の水平切りに、戦闘開始から5発目のみずでっぽうが真っ二つに切り裂かれた。

「反撃ですぞ!マンキー、重心を下げて突っ込みなさい!」

みずでっぽうを叩き割ってディレイを防いだマンキーが、身を低くして地を蹴った。

技自体の威力が大したことないことと、重心を下げられるとバランスを崩しづらいこと。

さすがはしまキングである。渾身の作戦の弱点がわずか数発で見抜かれてしまった。
 ▼ 148 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 19:20:19 ID:0Ps5OBXA [10/15] NGネーム登録 NGID登録 報告
こうなると距離を取るには通常のみずでっぽうで押し流すしかないが、これでは次弾は間に合わない。

最初の突進ですでに半分以上距離を詰められていたのもあって、マンキーがヤドンを間合いに捉えるまであと数歩のところまで近づいていた。

ハラ「からてチョップ!」

だが、まだ一つ目の策が破られただけだ。

「尻尾で受けろ!」

右手を振り上げたマンキーに合わせて、ヤドンが体をよじる。

「ウキャッ!」

甲高い鳴き声とともに振り下ろされた手刀が、頭をかばうように差し出された尻尾に叩きつけられた。

思わず耳を塞ぎたくなるような鈍い音が響くが、ここで怯んではいけない。

悟られないよう、そして失敗しないよう、タイミングを計る。

チャンスは一度きり。
 ▼ 149 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 19:21:30 ID:0Ps5OBXA [11/15] NGネーム登録 NGID登録 報告
「や…んん…」

ハラ「そのまま押し切れ!」

2。

「ヤドン、耐えろ!」

1。

「持ち堪えて……」

0!

「ねんりき!!」

「んやっ!」

気合いの入った(当社比)ヤドンの鳴き声がフィールドに響くと同時に、尻尾に手刀を食い込ませていたマンキーが体を大きく痙攣させた。

見えない力が内側から炸裂したマンキーは、そのまま右に左によろめいて、仰向けに倒れこみ…

……完全に目を回していた。
 ▼ 150 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 19:25:09 ID:0Ps5OBXA [12/15] NGネーム登録 NGID登録 報告

審判「マンキー、戦闘不能!」

「よっし!ナイスだヤドン」

「やぁん。」

まずは一匹目を突破。

前回はこのマンキー一匹に一切のダメージを与えられないまま2タテされたので、その意味ではリベンジはとりあえず成功である。

ハラ「……ふむ、これはまた随分と周到な試合運び。そしてポケモンの地力もある。……成長しましたな」

「まぁ、一昨日が一昨日でしたからね……レベル上がりは速かったですよ」
 ▼ 151 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 19:25:56 ID:0Ps5OBXA [13/15] NGネーム登録 NGID登録 報告

昨日のレベル上げで、ヤドンはねんりき、コイルはでんじはをそれぞれ習得した。

最初は『ねんりき撃ってるだけで勝てんじゃね?』と小躍りしたものだが、やはりというか、世の中はまたも甘くなかった。

このねんりきというわざ、制御にかなりの集中力を要するようで、動かない相手に2秒間念を送ってようやく攻撃が発動するというなんとも難儀な性能だったのである。

直接脳に衝撃を与えるのでどんな相手にも結構なダメージが通るらしいのだが、戦闘中の2秒間というのはあまりに長い。

あくびを使って動きを封じればと思ったが、残念なことに特性「やるき」を持つマンキーは眠らない。
 ▼ 152 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 19:27:05 ID:0Ps5OBXA [14/15] NGネーム登録 NGID登録 報告
そしてどうにか決定力として使えないかと模索した結果生まれたのが新戦術その2、《尻尾受け》である。

これは昨日あれこれ検索して初めて知ったことだが、ヤドンの尻尾には痛覚がほぼないらしく、しかも傷ついてもすぐに再生するらしい

こいつを捕まえた日、尻尾に向かって電撃を浴びせた時のダメージがやけに小さかったことにも納得がいく。

この鈍さを利用して直接攻撃を受け止め、せめぎ合っているうちに念を集中させれば……と思い実戦投入したら割と上手くいったので、採用した。

肉を切らせて骨を断つ、というやつである。

これもかなり使える戦術なのだが……

欠点として、一度見せるとまず次は逃げられるということが挙げられる。

つまり、次にねんりきを当てるためには別の方法で隙を作らなければならない。
 ▼ 153 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/03 19:32:48 ID:0Ps5OBXA [15/15] NGネーム登録 NGID登録 報告

ハラ「なるほど、若者は育つのが早くていいですなぁ。しかし……

その戦い方、試合が進むにつれて厳しくなっていくことには……気づいてますかな?」

図星である。

《一点集中》はある程度応用は可能だが、看破された以上一方的にハメ続けることはできないだろう。

《尻尾受け》も、先ほどのように馬鹿正直につばぜり合いに応じてねんりきを食らってはくれないだろう。

これが「作戦」と「機転」の大きな差だ。

作戦は試合中に減っていき、機転は試合中に生まれていく。

試合が進みこちらの手札が割れるにつれ、情報のアドバンテージが失われていく。

だからマンキーはできればみずでっぽうハメだけで倒したかったのだが、ハラさんが一枚上手だった。

このままのペースで手札を切ってしまえば、すべての策を引き出しても3匹倒しきれない可能性が高い。

早くも見えてきた劣勢に歯噛みしている俺に、ハラさんがニッと笑って声をかけてきた。

ハラ「ですが、乗り越えるしかないですな。なぜならそれが大試練なのですから!

……行きなさい、マクノシタ!」

試練達成まで、あと二匹。
 ▼ 154 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:24:35 ID:pr.v.YJw [1/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
「くっそ……みずでっぽう!」

ハラ「マクノシタ、ねこだまし!」

「んやっぶ!?」

みずでっぽうの指示を受けて口を開き水を精製しかけたヤドンが、ねこだましに怯んだ拍子にむせ返る。

ハラ「マンキーを下した時の勢いはどうしたんですかな!?

続けてつっぱり!」

「トウ!トウ!トウ!トォーウ!」

防御する間も無く、未だむせるヤドンに張り手が真正面から容赦なく叩きつけられる。

ハラ「策が無くなった途端にこれでは一昨日と何も変わりませんぞ! それとも事前に考えた作戦だけがあなたのバトルなのですかな!?」

あーもう、痛いところをついてくるなぁこの人……!
 ▼ 155 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:25:35 ID:pr.v.YJw [2/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
一点集中のみずでっぽうは、つっぱりで簡単に弾かれて接近を許し。

あくびで隙を作ってねんりきを決めようとすれば、捨て身のずつきで眠気を覚ましつつ隙を埋められ。

ゼロ距離でみずでっぽうを叩き込もうとしたら、ねこだましで攻撃をキャンセルされる。

作戦がことごとく破られ、おそらくヤドンの体力もあと僅かしかない。

畜生、まだ試してない作戦は……!

「ヤドン、尻尾でガード!」

「や……やん!」

つっぱりの途切れ目にヤドンがすかさず尻尾を差し込み、防御姿勢をとる。

ハラ「それは一度見ましたな。マクノシタ、一旦離れなさい!」
 ▼ 156 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:27:03 ID:pr.v.YJw [3/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
ねんりきが読まれるのは分かっている。

だが、尻尾で受けてからの展開は必ずしもねんりきと決まっているわけではない。

「今だ!口ん中めがけてみずでっぽう!」

「やふっ!」

「トッ!?…ゴボボボボ!!」

ねんりきがくる前提でバックステップしたマクノシタの口の中に、一点集中のみずでっぽうを注ぎ込む。

突然激流で口を塞がれたマクノシタは完全にうろたえている。

予想外の状況の変化のはずだ。すぐには対応できまい。

「ヤドン!いつものみずでっぽうにシフトだ!水量増やして放出を続けろ!」

これが今ヤドンに切れる最後のカードだ。

このまま大量の水を流し込み続けて溺れさせる!
 ▼ 157 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:28:33 ID:pr.v.YJw [4/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
ハラ「ほう!まだあるではないですか。しかし……

マクノシタ!気合いで押し進みなさい!」

何じゃそりゃ!!!!

なんという雑な指示だろうか。

そんな体育会系甚だしいノリでどうにかされてたまるか!

だがその気合いの一言で溺れかけていたはずのマクノシタの目に光がともり、激流の中を本当に突き進んでくるではないか。

うっそだろお前!
 ▼ 158 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:30:20 ID:pr.v.YJw [5/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ヤドン! 出力上げて押し返せ!」

こちらも負けじと水勢をさらに強めるが、マクノシタは尚も止まらない。

あの時は主ポケモンでさえ吹っ飛んだのに!

ハラ「アローラ相撲で鍛えた粘りを見せるのです!マクノシタ、つっぱり!!」

「ゴボボッボォーウ!!!!」

水の中で気合いの雄叫びをあげながら、ついにマクノシタがヤドンの目の前まで詰め寄り……

「やぶっ!」

ヤドンの左ほほに強烈な張り手が炸裂し……

「や……ぁん…」

弱々しい鳴き声を漏らしながら、ヤドンがその場にへたり込んだ。

審判「ヤドン、戦闘不能!」

……どうしよう、完全に追い詰められてしまった。
 ▼ 159 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:37:22 ID:pr.v.YJw [6/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ヤドン、よく頑張った。お疲れ様。……行くぞ、コイル!」

平べったくなって目を回しているヤドンをボールに戻し、コイルをフィールドに出す。

コイルは、でんき・はがねタイプ。

鉄塊を粉砕する格闘家など聞いたことがないが、かくとうがはがねに強いのは誰もが知る常識である。

多少レベルを上げてきたとはいえ、攻撃を1発耐える保証もない。

つまり、相手を2体残してこの状況は……

ハラ「もう無理、と思っている顔ですな」

「あぁ、分かっちゃいますか……。いや、実際厳しいですよこれ。勝てるビジョンが見えてこないといいますか……」

本来の予定では、マケンカニにダメージを与える程度のところまではヤドンに粘ってもらうはずだったのだ。

しかし、作戦を予想外のペースで消費させられた結果、相性で不利なコイルが2体を相手取ることになってしまった。

まぁ手負いのマクノシタだけなら倒せるだろうが、そのあとの勝算が全く浮かばないわけで……。
 ▼ 160 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:39:07 ID:pr.v.YJw [7/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
ハラ「まぁ、そう思うのは分からなくもないですがな。しかしトレーナーたるもの、自分のポケモンにそのような顔をさせるものではないですぞ。」

「顔? ……コイル?」

おずおずと呼びかけると、コイルが振り向く。

「……#>!」

励ますような、それでいて心底残念そうな。

…………。

なんか、俺よりポケモンの方がよっぽど人間できてるよなぁ……。

こうなると、降参しますなんて言えない。

「すいません。……やります、最後まで。勝てないって気持ちが消えたわけじゃないですけど。でも一応やれるだけはやります」

ハラ「正直ですな。まぁ、今はそれで良しとしましょう。

……審判、合図を」

審判「両者位置について……。始め!」
 ▼ 161 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:40:09 ID:pr.v.YJw [8/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
「コイル、水面にでんきショック!」

「##…」

ハラ「むっ……マクノシタ、ジャンプして乾いた地面へ!」

「…%!」

ヤドンが作った巨大な水たまりが青白くスパークするより一瞬早く、マクノシタが水しぶきを上げて跳躍する。

また一つ策が潰えた。

だが、それを嘆く時間もなければ、次を出し惜しみする余裕もない。

「マグネットボム!水にくぐらせろ!」

「##&&!」

空中に精製された10個少々の鋼球が水たまりの中に潜り込み、水面からマクノシタめがけて襲いかかる。
 ▼ 162 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:41:22 ID:pr.v.YJw [9/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
ハラ「小癪な……。マクノシタ、上がってきたボムを片っ端からつっぱりで爆破!!」

よし、ちゃんと誤解してくれたようだ。

水に潜らせたのは、攻撃の位置を悟らせないためではない。

マグネットボムを水に浸すと……

「トゥ!トトトト…トゥ!?」

ハラ「なんと……!」

このように、相手に吸い付くだけの重い不発弾になる。

新戦術その3、《磁石バインド》。

「ト…トゥ…」

ハラ「なるほど……まんまとしてやられたということですな。

ですがマクノシタ! その程度なら、まだ動けますな? ……つっぱり!」

大量のおもりを体にくっつけたまま、マクノシタがのっしのっしとこちらに向かってくる。

まぁ、正直そんな予感はしていた。
 ▼ 163 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:44:10 ID:pr.v.YJw [10/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
しかしコイルの封殺戦術はまだ終わりではない。

「コイル、でんじは!」

「トゥッ!?」

淡い電気の膜に全身を包まれたマクノシタが、不快な痺れに片膝をつく。

そして最後にもう一丁。

「ちょうおんぱ!」

見えない衝撃に身を撃たれたかのごとくその身を一瞬痙攣させ、ついに両手も地面に落ちる。

もう、一歩も動けまい。

ハラ「まだですぞ!気合いを入れるのです!マクノシタ!!」

だからその気合いとかいうワードやめてくれよ。本当に動きそうで怖い。
まぁ、三重に拘束してるわけだし実際これで動けるはずが……

「ト…トゥ…」

!?

「コ、コイル!でんきショック!早く!あいつを止めろーー!!!!」

「##……%ーッ!!!」
 ▼ 164 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:46:37 ID:pr.v.YJw [11/23] NGネーム登録 NGID登録 報告

審判「マクノシタ、戦闘不能!」

「はぁ……はぁ……すっげえ怖かった」

ハラ「よくやってくれましたな、マクノシタ。……さて、ここからですな。

さらなる策を講ずるのか、それとも相性も戦略も超えた何かをぶつけるのか……どちらにせよ、あなたのゼンリョクを見せてもらいますぞ!

さあマケンカニ、こちらもゼンリョクでお相手せねばなりませんな!」

「ケンッ!」
 ▼ 165 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:48:15 ID:pr.v.YJw [12/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
さて。

唐突な自分語りになるが、俺は、バトル漫画によくいるデータと分析を最重要視しているタイプの敵キャラが好きだ。

『あなたの身体能力、使用する技、戦闘の癖……そして弱点。全て把握し総合的に分析した結果……私が負ける可能性は0だ。』みたいなこと言うやつ。

こういうキャラが好きだ。

なぜって、好感がもてる。

勝てるかどうかわからない未知の強敵に挑む主人公ばかりが持て囃されるが、個人的にはこれくらい慎重な方がいいと思う。

だってそうだろう。

事前にわかるなら、そりゃ調べといた方がいいだろう。

勝てる確証がある時だけ戦うのは卑怯だとか、実際そんなこと言われても正直困るだろう。

彼らデータ系敵キャラは描写こそクズ人間のような扱いだが、本当はかなり人間味がある奴らだと思う。
 ▼ 166 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:49:32 ID:pr.v.YJw [13/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
が、彼らは負ける。

必ずと言っていいほど負ける。

データの話は死亡フラグと言われるレベルで負けている。

『バカな……こんなもの、データには……!』とか、『この戦いの中で……成長しているというのか!?』とか言いながら負けることになっている。

こういう展開になるたび、なぜ周到に用意してきたはずの彼らが負けなければならないのかと思ったものだが……

今、俺がその危機に瀕している。

敵を分析し、対策を構築し、様々な搦め手を弄し。

しかしながらそれを上回る機転だの根性だのに徐々に押され。

さっきのバインド戦術を最後に、正真正銘全作戦を使い切ってしまった。



しかし、まだバトルは終わっちゃいない。

データ系噛ませキャラと成り果てることが決まったわけではない。

きっと、噛ませかそうでないかの分かれ道がここなのだ。

試してみようじゃないか。

ーーー万策尽きた先の、ゼンリョクを!
 ▼ 167 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:53:11 ID:pr.v.YJw [14/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ゼンリョク……。やれるだけ、やるしかないよな、コイル。」

「###!」

ハラ「腹は決まったようですな。では、審判、始めましょうか」

審判「両者位置について…………。始め!!」


「コイル、水中通してマグネットボム!」

「##…」

ハラ「出始めを潰しなさい!バブルこうせん!」

「ケプーッ」

もう一度磁石で拘束できないかと思ったが、やはり一度見せていた戦術は通じないようだ。

水に通す前に爆発させられてしまった。

マグネットボムを相殺しつつ、爆風の中をさらにバブルが突き抜けてくる。
 ▼ 168 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:55:27 ID:pr.v.YJw [15/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
だがこれはむしろチャンスだ!

「でんじは!」

「##÷!」

相手の対応が後手になる以上、わざからわざへの切り替えはこちらの方が速い。

防御を捨ててでんじはを撃ったコイルはマグネットボムを突き抜けてきたバブルをくらってダメージを受けるが、致命傷には至らない。

煙幕の中からでんじはが放たれ、バブルこうせんの泡が出切ったばかりで動けないマケンカニを電気の膜が覆う。

「カケッ!!?」

完全に麻痺が入った。

これでスピードの上では互角!
 ▼ 169 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:57:21 ID:pr.v.YJw [16/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
ハラ「ふむ…これは一気に決めてしまった方が良さそうですな。マケンカニ」

「ケ…マケンッ!」

!!

Zワザか!!

マケンカニがハラさんの前に構え、ハラさんは不思議な踊りを開始する。

Zワザはポーズで力を込めなければ発動しない。

……つまり、倒すならこの隙しかない!

「コイル!溜めるだけ溜めてでんきショックだ!」

「####……%%!」

踊りが終わる寸前までチャージしたでんきショックが、炸裂音を轟かせマケンカニに突き刺さる!

「ケケッ…マケンケン…ケン!!!!」

「クソ、倒しきれないか……!!」

ハラ「コイルのゼンリョク、しかと受け取りましたぞ。では、今度はこちらの番ですな…!」

拳を突き出したポーズのハラさんから光が溢れ出し、マケンカニと共鳴する。

ヤバい、来る!
 ▼ 170 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 08:58:44 ID:pr.v.YJw [17/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
ハラ「これがしまキングのゼンリョクの一撃! ぜんりょくむそう、げきれつけん!!!!」

光り輝くマケンカニの拳から張り手型のオーラが無数に連射される。

その一つ一つが必殺の威力だ。

はがねタイプのコイルでは最悪掠っただけで終わりだろう。

「コイル!マグネットボムで壁を!」

データ系噛ませに足りなかったもの、その1。

想定外を乗り越えるには、機転を利かせよ。

「っ!……ボムを直列に並べろ!」

指示に合わせてコイルが磁力を操作し、マグネットボムがコイルの手前から奥に向かって整列する。

げきれつけんがボムの列の先頭に触れた瞬間、連なるマグネットボムが連鎖的に爆発し、フィールド中央付近にいたコイルが爆風で大きく後方に吹っ飛ぶ。
 ▼ 171 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 09:00:17 ID:pr.v.YJw [18/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
これでマケンカニとの距離は20メートル弱。

「コイル、その位置ならいけるはずだ……」

データ系噛ませに足りなかったもの、その2。

たまには根性論を叫んでみよ。

「気合いで全部かわせ!」

素早い動きは苦手とするコイルだが、ここぞとばかりに縦横無尽に回避する。

痺れて動きが鈍い上に20メートル近い距離だ。

その状況で放射状に放たれる弾幕は、避けられない量ではない!

「ラストだ、かわせ!」

「##ッ!」

同時に迫っていた2つの張り手の間をすり抜けるように避け、コイルはすべてのげきれつけんを回避しきってみせた
 ▼ 172 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 09:02:33 ID:pr.v.YJw [19/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
ハラ「まさかすべて避けるとは……!

マケンカニ、勝負どころですぞ! グロウパンチ!!」

Zワザは体力を大きく消耗するらしい。

おそらくこれが最後の一合となるだろう。

「マケン、マケンケンケン…」

マケンカニが、まるで痺れや疲れなど存在しないかのようなダッシュで距離を詰めて来る。

間に合えーーーー!

「コイル!でんきショック!」

マケンカニが宙に身を踊らせ、コイルに向かって拳を振りかぶった瞬間……

チャージが完了し、放たれた白い電光がマケンカニを包み込んだ!

「マケケッーー!!」

コイルに攻撃が届くことなく電撃を浴び地面に落下したマケンカニは、ジャッジにアピールするように拳を掲げようとするが……

焦げたグローブは上がり切らず、そのままガクッと地面に倒れ込んだ。

審判「マケンカニ、戦闘不能!

……よって、チャレンジャーの勝利!」
 ▼ 173 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 09:03:28 ID:pr.v.YJw [20/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
ハラ「大試練……これで突破ですな。お見事でしたぞ」

「ありがとうございます」

ハラ「かくとうZ。受け取ってください。これがあれば人からもらったポケモンが言うことを聞いたり、あとはケンタロスライドも使えますぞ

あぁ、そうですな。ライドギアも渡しておくんでしたな」

「あ、ど、どうも」

かくとうZをクリスタルケースにしまい、ライドギアは何処にしまうべきか分からなかったのでとりあえずポケットに入れた。

「そういえば。……あの、2年前に島巡りに挫折した話はしましたよね?

その時にカプにZリングを没収されちゃったんですけど、その……まだ、ダメ……なんですかね?」

ハラ「カプ・コケコ……ですか。あなたは本気で島巡りをやり直すつもりのようですから、おそらくは赦してもらえるはずですな。ですが……」

カプの話題が出た途端、明らかにハラさんの表情が曇った。

なんだ?何かあるのか?

ハラ「カプですがな……。今、4島すべてのカプは、現在守り神としての役割を果たしていないのですよ」
 ▼ 174 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 09:05:11 ID:pr.v.YJw [21/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
は??

守り神全員不在ってこと?

一家総出でカロスにバカンスでも行ったの?

「あの、それはどういう」

ハラ「全員チャンピオンに捕獲されたのですよ」

うわちゃー。

チャンピオンだから強くなきゃならないって言ったって、焦りすぎだろうよ。

どこまで追い詰められてんだ。

「いや、捕獲していいものなんですか?」

ハラ「まぁ、カプが仕えることを認めてしまったわけですからなぁ……。

せめて手持ちに入れていないときは各々の島に戻してくれないか、とチャンピオンに掛け合ってみたのですが、

どうやらカプたちがチャンピオンの元を離れようとしないらしいのですよ」

「カプたちが……?」

捕獲云々は関係なく、守り神自身が職務放棄を選んだということなのか?

今アローラで守るべきはチャンピオンである、とでもいうのか?
 ▼ 175 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 09:06:32 ID:pr.v.YJw [22/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
というか。

「超個人的な話になりますが、俺のZリングは……?」

ハラ「カプが選ぶのが習わしになっているのですが、まぁ、島にいないことにはどうしようもありませんな。」

クソったれーーー!!!!

「えぇ……。じゃあ俺この先もZワザ無しなんですか……? 適当に余ってるやつ装備したらあかんのですか?」

ハラ「島の伝統は守らねばなりませんからなぁ……」

何だその因習ふざけんなよ本当マジ……。
 ▼ 176 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/04 09:09:26 ID:pr.v.YJw [23/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
ハラ「そうだ。代わり、ではないですが、試練クリア者にはわざマシンも渡すことになっているのでしたな。

ほら、みねうちですぞ。これで攻撃した相手は体力が1残るのです」

「1って何」

ハラ「1は1ですぞ。ほら、どうぞ」

「はぁ……」

いや、だから1って何だよ。

熟練者になるとポケモンの力が数字で見えるんだろうか。

っていうか使い道ないでしょこれ。

カラス除けでしょこのディスク。

捕獲専用技とか、業者かよ。

何なの。

なんで俺のZリング、無いの。

…………。

大試練、達成。
 ▼ 177 ケッチャ@しんぴのしずく 17/03/04 09:16:15 ID:kBMtjiNk NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 178 リーン@ヨプのみ 17/03/04 09:42:50 ID:B85YQdG. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 179 ーランス@めざめいし 17/03/04 10:09:30 ID:Z79vYGDU NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
この練り込まれた戦闘描写好きだわ
支援
 ▼ 180 ュウ@しめつけバンド 17/03/04 22:26:07 ID:k8XwT3Ys NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 181 イロス@とくせいカプセル 17/03/05 02:19:15 ID:oIZ38s6A NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 182 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/05 13:36:29 ID:txMCSCIg [1/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
『ライドシステム・概要』

『ご存知の通り、アローラ地方の各町やポケモンセンターの近くには、ライドポケモンが管理されるライドターミナル(以下、RT)が存在する。

RTで登録機器にギアをタッチして利用開始の登録をすることで、ライドポケモンを借りることができる。

返却の際はどのRTでもいいので再びギアをタッチして利用終了の登録をし、利用時間に応じて料金を引き落とす。』

ふむふむ。

まだ学校に行っていた頃、父さんが借りてきたリザードンに乗って家族で出かけることがよくあったが、裏でこういう手続きが行われていたのか。
 ▼ 183 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/05 13:38:29 ID:txMCSCIg [2/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
でもあの時、チャンピオンの少女はリザードンを自分の元に直で呼び出していたような……。

ライドギア説明書のページをめくる。

『RTを介さずにライドポケモンをギアで直接呼び寄せることも可能だが、別途料金がかかる。

支払いの都合上、返却はRTで本人同伴のもと行わなければならない。』

なるほど、そういうのもあるのか。

別途料金がいくらなのかが気になるが、まぁチャンピオンともなれば金には困らないのだろう。

さらにページをめくって交通ルールや細かい仕様などを読み通す。

『ギアにチャージしたお金は全国のポケモンセンターでも利用可能。』

おっと。これ、ギアに全財産チャージしてしまえば賞金を全く支払わずに済むのでは?

すでにサブ財布で対策してはいるが、それでも疑いを避けるために相場通りに賞金を払ってはいる。

もしこれが可能なら……

『また、ギア同士をタッチすることで賞金の受け渡しも可能である。』

完璧な裏道が見えたかと思ったが、続く一文に裏切られた。

余計な機能つけやがって。
 ▼ 184 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/05 13:40:22 ID:txMCSCIg [3/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
ちょっとがっかりしながら、最後のページに赤字で列挙された注意事項の欄に目をやる。

『ライドポケモンの紛失や怪我などの賠償責任は、原則として利用者本人が負う。

ライド中の事故に関して、当センターは一切の責任を負いかねるので、悪しからず。』

…………。

一応、試練の突破がそのまま免許代わりということにはなっているのだが……

どうにも、ケンタロスダッシュを使うのは危険な気がする。

というか、なぜ教習もなしに利用権限を与えるのか。

アローラ地方は、たまにそういう頭おかしい点が見え隠れするから困る。
 ▼ 185 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/05 13:41:54 ID:txMCSCIg [4/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
説明書を閉じ、リリィRTのゲートをくぐる。

まぁ、習うより慣れろということなのだろう。

とりあえず一度試しに乗ってみようということで、俺はリリィRT内の右奥に見えるケンタロスのターミナルへ向かった。

ケンタロス1匹ごとに仕切られた囲いがずらりと並び、それぞれの前に「touch」の文字が浮かぶ電子機器が設置されている。

ライドギアをタッチするとシャランッという小気味良い電子音がなり、目の前のケンタロスの囲いロックが解除された。

「じゃ、初ライドだけど、よろしくな」

そう言ってケンタロスの首元を撫でると、ケンタロスはプロとしての自負に満ちたドヤ顔で、「任せろ」とばかりにブルルンッと鼻を鳴らした。
 ▼ 186 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/05 13:44:45 ID:txMCSCIg [5/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ちょっ……!ぶはっ! ストッ……まっ…!止まっ……!あああ!あぁぁぁぁあ!」

リリィタウンの公園に絶叫が響き渡る。

ケンタロスの背に乗り、目線がの位置が少し上がっただけで一変する景色に感動を覚えたのもつかの間。

全速前進の指示とともに走り出した瞬間、背中をロープでビンっと真後ろに引っ張られたかのような感覚に身を撃たれ……

俺は地面とほぼ水平な形で仰向けに仰け反り、起き上がることもできないまま、高速で流れる景色と激しい振動に悲鳴をあげていた。

足と腰はベルトで固定されているので転落死の心配はないが、このままではショック死してしまう!

「あああ!ああわわわばばっ!ストッ…ストップ!ストーーップ!!!!」

騎手の異変を察知したケンタロスが徐々に減速し、ようやく地獄から解放される。

「うぉぉ……うぇっ……ぜぇ……ぜぇ……」

これはダメだ。

やめよう。
 ▼ 187 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/05 13:47:00 ID:txMCSCIg [6/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
俺はケンタロスを連れて徒歩でターミナルに戻り、ケンタロスを返却した。

料金は端数時間切り上げで30分ごとにプラス100円。

俺がケンタロスを連れ出していたのは1時間弱だったので、200円がギアから引き落とされた。

よく考えなくても、あのスピードをいきなりどうにかできるわけがない。

ケンタロスの全速力を乗りこなすのは余程の天才肌か、もしくは幼い頃からケンタロスと戯れてきた農場育ちぐらいだろう。

本来は低速を維持し、荷物が多い長旅の際に移動を楽にする程度の使い方がメインなのだと思う。

リリィとハウオリを結ぶ1番道路にはケンタロスに乗る人が散見されたが、確かに全速力で駆っているものはいなかった。

そして低速で道路を行くよりは狭い林道を抜けた方が早いので、ケンタロスの出番はアーカラ島に入ってからになるだろう。

乗りこなせたら楽しいんだろうけどなぁ……。

少し残念な気持ちがありつつも、俺はリリィタウンを後にした。
 ▼ 188 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/05 13:49:23 ID:txMCSCIg [7/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
お馴染みの林の獣道を歩く間、俺はハラさんとのバトルのことを振り返っていた。

勝てたは勝てたのだが、おそらくハラさんは本気を出していない。

というのも、思い返せばあちらからは策と呼べるものを一度も仕掛けてきていないのだ。

こちらの作戦の弱点を見破っては即座に対処してきたが、ハラさんが能動的に見せた攻撃は単純な力技のみ。

そういう好みというのもあるのだろうが、まさかキングともあろうものがそれだけなはずは無いだろう。

全力とは言っていたが、本当に長年の経験で培ったあらゆる手段を駆使して攻め立てられたとしたらまず勝てないと思う。

だがハラさんは敢えてそれをせず、むしろこちらの力を引き出させるような戦い方をしていたように思える。

相手を負かすための『バトル』ではなく、飽くまで乗り越えさせるための『試練』……ということなのだろうか。
 ▼ 189 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/05 13:52:05 ID:txMCSCIg [8/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
なんだかなぁ……。

捻くれた俺の頭に『舐めプ』とか『茶番』という言葉が浮かんだが、それはあまりにもゴミの思考というものである。

若干の自己嫌悪に眉をひそめたころ、林道の終点にたどり着き、ハウオリの住宅地が見えてきた。

……まぁ、手加減ありって言ってもそんなに甘いバトルだったわけでもなかったしな。

こいつらも頑張ったことだし、こういう時は素直に喜んでおけばいい、よな。

そうだよ、大試練攻略だ。

盛り上がっていいに決まってるだろう。

母さんに頼んで今日は祝勝会でもしてもらおう。

俺は複雑な喜びを胸に、夕焼けが照らすいつもの道を、小走りで帰った。
 ▼ 190 みません◆SxCy/NIFN. 17/03/06 19:12:42 ID:KedZQTWQ NGネーム登録 NGID登録 報告
言い忘れてましたが、ここまでで第2章終了です
一旦長めの書き溜めに入るので暫く更新止まりますが、待っていていただけると幸いです
 ▼ 191 ジョン@どくけし 17/03/06 21:33:25 ID:1l4070pI NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 192 ワシ@のろいのおふだ 17/03/09 13:53:13 ID:bZ4AHP0o NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 193 ンリキー@ともだちてちょう 17/03/12 06:20:10 ID:lUxxdQ1k NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 194 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:11:08 ID:HblRztOY [1/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



【チャンピオン@】


タロウ「これが正真正銘、俺とケンタロスのゼンリョクだ!

ウルトラダッシュアタァァック!!」

「ぶもぉおおおっ!!!!」

激しい光に身を包んだケンタロスが、アシレーヌを真っ直ぐに見据えて突き進んでくる。

距離と速さから見て、回避するのはそこまで難しくないと思う。

ケンタロスはタロウ君の最後の1匹。

ここでZワザを叫んだのは、きっともうそれ以外に打つ手がないから。

気合い十分に見えてもきっと半分投げやりで、その証拠に一回きりの必殺技を確実に当てるための準備が一つもなかった。

でも、わたしはこれを避けられない。

挑戦者のゼンリョクをチャンピオンが適当にいなすなんて、きっと誰も期待していないから。

ちゃんと全部受け止めて、そして勝たなきゃ。
 ▼ 195 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:11:52 ID:HblRztOY [2/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「アシレーヌ、ツノを掴んで!」

「ララーーー!!!」

綺麗だけど気迫のこもった鳴き声を響かせて、アシレーヌがケンタロスのダッシュに正面から掴みかかる。

ぶつかってすぐはケンタロスがそのまま押し切りそうな勢いだったけど、だんだんケンタロスの歩幅が狭まって……

アシレーヌを10mくらい押し込んだところで、いくら地面を蹴っても動かなくなった。

「ぶ……ぶもっ!?」

タロウ「うそぉ!!?」

ツノを掴まれたまま突進を止められ、ケンタロスはもう身動きがとれない。

あとは、こっちもゼンリョクで返すだけ。
 ▼ 196 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:12:26 ID:HblRztOY [3/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
……やっぱり、この踊りちょっと恥ずかしいなぁ。

Zポーズを決めながら、ほんの少し顔が熱くなる。

「アシレーヌ、わたしたちも行くよ!

わだつみの……シンフォニア!!!!」

アシレーヌの綺麗な歌声に合わせて、必殺の威力を秘めた巨大な水泡が弾け散り……

どしーん!と地面を揺らして、目を回したケンタロスが倒れ込んだ。

審判「ケンタロス、戦闘不能! ……よって、チャンピオンの勝利!」

ふぅ、今日も防衛成功。

清々しい顔をしたタロウ君と握手を交わしながら、何か言わなきゃと慌てて言葉を探す。

ハウ君以外で初めての同い年の挑戦者だったけど、どんな風に声をかけるのがチャンピオンらしいかなぁ。

「え、えっと……また来てね!」

……うーん、ちょっと違う!
 ▼ 197 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:13:27 ID:HblRztOY [4/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「はぁ……」

ウラウラ島に向かうリザードンの背中の上、なんだか不意にため息が出てしまった。

朝日が映し出すポケモンリーグの輪郭を遠目に眺めながら、チャンピオンになってからの2週間を振り返る。


朝起きて、朝ごはんを食べたら防衛戦。

お昼ご飯を食べて休憩したら、また防衛戦。

夕ご飯を食べて少し寝たら、夜中の狩りに出かけて帰ってまた少し寝て。

そしてまた朝が来て……。

そんな毎日が、別に嫌ってわけじゃない。

ポケモンは好き。

バトルも好き。

オニスズメやキャタピーをたくさん倒すのはちょっと嫌だけど。

挑戦者たちとの戦いはいつもいつも新鮮で、すごく楽しい。

……はずなのに。
 ▼ 198 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:14:02 ID:HblRztOY [5/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ただのトレーナーじゃなくてチャンピオンとして戦うのが、こんなに怖いことだとは思わなかった。

いや、チャンピオンとしてってだけじゃないかな。

スカル団を解散させたとか、そんなつもりでやったんじゃないのに。

エーテル財団やUBのことまで噂になっていて、どんどん後に引けなくなる。

アローラ中の人がわたしのバトルを見てる。

アローラ中の人がわたしに期待してる。

ただ勝つだけじゃきっとダメで。

もちろん負けるなんてもってのほかで。

少し前まではただただ楽しかったのになって思うけど、きっともう戻れないんだろうなぁ……。
 ▼ 199 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:14:55 ID:HblRztOY [6/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「カプゥ…」

いつのまにかコケコがボールから出て、リザードンにまたがるわたしの横を飛んでいた。

「あれ、どしたの? 」

「……コッココ」

メレメレ島の守り神、カプ・コケコ。

気まぐれで有名なはずなのに、最近は変わらずずっとこんな調子でわたしを見つめてくる。

「大丈夫だよ。……ね、わたしが捕まえておいてアレだけど、メレメレ島に戻ってもいいんだよ?」

「…………」

これを言うのはもう何度目かだけど、コケコは今回もふるふると首を振るだけだった。
 ▼ 200 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:16:08 ID:HblRztOY [7/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
大丈夫って、何が大丈夫なんだろう。

わたしが?コケコが?

コケコがどうして島に帰らないのかはわからない。

なんでこんな顔で見つめてくるのかも。

そういえば、この間2番道路で会った男の子も同じような顔をしてた気がする。

あの時は、リザードンを呼んで逃げてしまったんだっけ。

今も、コケコの哀しげな視線から逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。

コケコからだけじゃない。

逃げ出したい。

何がなのかはよく分からないけど、とても嫌な感じで、怖くて。

だけど、そんなの誰かに言えるはずもなくて……。

今日もまた、チャンピオンとしての1日が始まります。
 ▼ 201 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:17:39 ID:mV64Q9kg [1/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
【11日目】

「釣れてるかー?」

「やん……」

飛沫をあげて進む船の上。

船縁にぶら下がって海面に尻尾を垂らすヤドンが、生返事をする。

「今集中してるんだよ」的な感じだろうか。

出会った時は無表情で愛想のない奴だと思ったもんだが、最近は眉の角度の微妙な変化から感情が読めるようになってきた。

……ような気がする。

落ちるんじゃないぞー、とやんわり注意していると、リュックのボールポケットの隙間からコイルが飛び出してきた。

「うおわっ! 急に出てくるな……ん、どした?」

「##……×××##……!」

コイルは真っ青な顔で何かを懸命に訴えてくる。

何を言ってるのかは全く分からないが、どうやら緊急事態っぽい。

磁気の出力が安定していないのか、かなりフラついていた。
 ▼ 202 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:25:45 ID:mV64Q9kg [2/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
いつもの半分ぐらいの高さを漂っているコイルに合わせてしゃがみ込み、声をかける。

「大丈夫……じゃなさそうだなぁ。お前、もしかしてこれ船酔いか?」

「###……」

船酔いだとして、どう対処すればいいんだろうか。

食事をするぐらいだし、もしもの事態に備えてビニール袋ぐらい出しといたほうがいいのか?

いや、広大なアローラの海なら全てを受け入れてくれるか。

「まぁ、あと10分ぐらいだから。頑張れ。」

酔ってしまったものは今更どうしようもないので、昨日のバトルで培った根性論で誤魔化すことにした。

「##!?」

「いや、そんな裏切られたみたいな顔されてもな……。まぁ、今度乗るときは酔い止め買ってやるから。まぁ最悪ボックスに預けてついた後に転送すれば……痛っ、やめろ!すねに頭突きすんな!!」

 ▼ 203 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:27:27 ID:mV64Q9kg [3/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
「お、見えてきたぞ!」

涙目で執拗に弁慶の泣き所を攻めて来るコイルを引き剥がし、海に浮かぶ町並みを指差す。

アーカラ島、カンタイシティ。

ヤドンとコイルが空気を読まないせいでイマイチ盛り上がりに欠けるが、試練攻略もいよいよ中盤戦だ。

ま、でもこれくらいのテンションがちょうどいいのかな。

未だ釣り擬きを続けるヤドンと船底スレスレで青い顔をしているコイルを横目に、俺は次の島に向けて密かに気合を入れた。
 ▼ 204 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:28:26 ID:mV64Q9kg [4/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
「はぁ……疲れた」

ポケセンのソファに腰掛けて、大きくため息をついた。

あの後、本当に大変だった。

ヤドンがパルシェンに引きずり込まれて行方不明になりかけたり、慌ててヤドンを回収している間にコイルが船底をゲロまみれにしていたり。

ヤドンは後数秒気づくのが遅ければボールの回収機能の範囲外になっていただろう。

何事にも動じないやつだとは思っていたが、パルシェンのエサになりかけても無言とは恐れ入る。

せめてこういう時ぐらいは悲鳴の一つぐらいあげてほしい。

コイルは一応海に向かって吐こうと試みたようだったが、酔いすぎて磁場をコントロールできず、船縁を超えられなかったらしい。

ヤドンをボールに戻した時には既に事後だったので実際に見たわけではないが、さながらマジックショーのごとき嘔吐シーンだったに違いない。

その瞬間を目撃できなかったのを残念がっている自分がいるのは、多分気のせいだろう。

責任者として船底の掃除をした後、満身創痍のヤドンとコイルをポケセンに預け、今に至るというわけだ。
 ▼ 205 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:29:24 ID:mV64Q9kg [5/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
まさかこんなことでポケモンの体力を浪費するとは思っていなかったので、予定が狂ってしまった。

本来なら上陸後すぐにオハナタウンへ向かうはずだったのだが、吐瀉物の後処理やら謝罪やら回復待ちやらで大分時間が押している。

この分だと、ケンタロスに乗っても夜までに辿り着くのは難しいだろう。

昨日しまキング戦を終えたばかりということもあるので、今日はオフにすることにした。

まぁ、せっかくの新天地を全く観光しないっていうのも勿体無い話だし。
 ▼ 206 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:30:45 ID:mV64Q9kg [6/9] NGネーム登録 NGID登録 報告





「はぇー……なんかいろいろ変なとこなんですね、ここ。」

店主「いやぁ、私がそういう話を好んでするだけさ。普通に観光する分にはいい街だよ」

「はぁ……」

街の東に向かう通行人をわけのわからない理由でせき止め続け、往来妨害罪で連行されたムーランド乗りの女性。

占いと称して人のポケモンのニックネームをやたらと変えたがる自称姓名判断士。

まるでこの世界が自分たちの作ったゲームであるかのような言動をするゲーム会社。

回復が終わるまでの退屈しのぎにカフェの店主に聞いた話は、どうにもものすごく胡散臭かった。
 ▼ 207 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:32:01 ID:mV64Q9kg [7/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
話が途切れてできた微妙な間をエネココアをすすってごまかしていると、店主が話題を切り替えてくる。

店主「……そういえばお客さん、島巡り浪人なんだろう? 少し前までならいい話があったんだがね」

「いい話?」

店主「ああ。最近まで東のビーチでナマコブシを海に投げるバイトがあってね。1時間足らずで1万円も稼げる破格の効率だったんだよ」

マジかよ。

そんな単純作業が時給1万?

「そりゃすごいですね……」

すごい……というか、雇い主の人は一体何を考えていたんだろうか。

店主「でも残念ながらもう募集してないんだよ。みんな敢えて黙ってたのに、雇用主に言っちゃったやつがいたんだ。

『ポケモンの力を借りればいいのに、なんで人なんか雇ってんだ』ってね」

「…………」

どうやら雇い主は何も考えてなかったらしい。
 ▼ 208 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:32:50 ID:mV64Q9kg [8/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
半笑いで語られる胡散臭い噂に相槌を打っているうちにコイルたちの回復が終わったようで、呼び出し番号が点滅していた。

慌ててココアを飲み干して代金を支払い、ポケセンのカウンターへ向かう。

ジョーイ「お待たせいたしました。2匹とも元気になりましたよ」

「……なんかすいません、くだらない理由で回復してもらって」

パルシェンに噛まれてダメージを負ったヤドンはともかく、船酔いごときでポケセンを使うのは流石に良くなかったと思う。

無料だからこそ節度を弁えるのが人としてのモラルである。

今更ながら反省していると、ジョーイさんが営業スマイルで返してきた。

ジョーイさん「いえいえ、大丈夫ですよ。今はそんな混雑する時間でもないですから。

それに、もう少し試練を達成しないとなんでもなおしは買えませんから、仕方ないですよ」

「すいません……ありがとうございます」

仕事だからだろうが、ジョーイさんの優しい言葉に安堵する。

っていうか、なんでもなおしって酔いも治せるのか……。

次の船旅の時はコイルをボックスに預けてしまおうかと思ったが、それなら連れて行けそうだ。
 ▼ 209 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/17 23:36:24 ID:mV64Q9kg [9/9] NGネーム登録 NGID登録 報告

ひとしきり街を見て回ったところでポケセンに戻り、例のごとく二階の宿舎にスペースをとって寝転がった。

ポケモンの名前をやたらと変えたがるおっさんは実在したし、おかしなことを言うゲーム会社の噂も本当だった。

海岸ではワンリキー達ががせっせとナマコブシを投げていて、ものすごく残念な気持ちになった。

往来妨害罪の女性についても、地元の人に話を聞く限り本当にあった事件らしい。

なんでも、『フラグ管理が私の使命だ』とか訳のわからないことを叫び高笑いしながら警察に引きずられていったとか。

やっぱり変な街じゃないか……。

これから始まるアーカラ島の島巡りに一抹の不安を覚えながら、何日かぶりの寝袋の中で眠りについた。
 ▼ 210 ードリオ@くさのジュエル 17/03/18 00:18:46 ID:BmzDGC.. NGネーム登録 NGID登録 報告
こんな面白いSSがあったとは
支援
 ▼ 211 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/19 10:16:04 ID:6r2h8jKM [1/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
【12日目】

早朝。

荷造りを終え、出発前に1階のショップで薬類を補充していると、隣のレジに立つ青年店員が話しかけてきた。

店員「そこのお兄さん。わざマシン、買っていきませんか?」

「いやいや、俺みたいな駆け出しには手が届きませんから。また後で……」

実際5桁の買い物をするほど余裕はないので、適当に断ってカウンターを後にしようとすると、

店員「待って! せめて……!せめて見て行くだけでも……!!」

店員が必死の形相で腕を掴んできた。

「いや、買わないって言ってるんです……ちょっ、放してください……!」

振り切ろうとしたが、そこは大人と子供の力の差。

逆にカウンターまで引き戻されてしまう。
 ▼ 212 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/19 10:17:44 ID:6r2h8jKM [2/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
店員「買ってください! 売れないんです! やばいんですよノルマとか!! 本当に!!

子供は補助わざの重要性なんて知りもしない! 玄人の大人は広い人脈の中で1つのマシンを融通して回す!

こんなんでどうやって売ればいいってんですか!」

「知りませんて!!」

確かに、陳列棚に並ぶ商品は味方補助や防御のわざマシンばかりだ。

使い捨てマシンの時代が終わった今では、この業界は相当厳しいのかもしれない。

そしてまさにそのマシン氷河期の最中にいるのであろう店員が、半泣きでまくし立ててくる。

店員「島巡りのシーズンインだってのにもう3日も売り上げがないんです! このままじゃ終わりなんです!

もう素人の子供に補助わざの強さを広めて買ってもらうぐらいしかないんですよ!

ほら、この『まもる』ってわざ! まずダブルバトルには縛り関係という概念が……」

「うるせぇーーーー!!!!」




結局根負けして、1割引の値段で『まもる』を購入した。
 ▼ 213 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/19 10:21:09 ID:6r2h8jKM [3/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アーカラ島の3つの試練はどこから攻略しても良いことになっているが、推奨されているのはみず、ほのお、くさの順番である。

手持ちのタイプから考えてもその順で巡るのが妥当と思われるので、素直にここはガイドに従い、俺はオハナタウンを目指していた。

カンタイシティからオハナタウンまでは、早朝に出発すれば無理なく夕方までに到着できる距離である。

ケンタロスに乗ればはるかに短い時間で着くだろうが、トレーナーの視線を集めやすいという問題がある。

交通費も結構かさむので、今回も移動は徒歩。

何人ものトレーナーの死角をすり抜けて進み、今はその道中の昼休憩。

メレメレ島では適当に携行食と生のポケマメで済ませていたが、今日は料理に挑戦していた。
 ▼ 214 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/19 10:21:42 ID:6r2h8jKM [4/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ヤドン、みずてっぽうを鍋半分ぐらい」

「やあー」

ヤドンの口元から、チョロチョロと600CCほどまでみずでっぽうが注がれる。

調査により、ポケモンのみずでっぽうは完全な真水であることが判明している。

どうやら体内の水を放出しているわけではないらしく、ある種の魔法に類するものなのかもしれないとまで言われている。

確かにあれほど大量の水を発射できるあたり、そこまで荒唐無稽な説ではないと思う。

わざの原理を科学的に解明しようとした研究者も何人かいたようだが、全員すぐに行方をくらませたらしい。

噂の真偽は定かではないが、わざの権威であるククイ博士でさえその根本についての研究は頑なに避けているという話だ。

まぁ、とりあえず今は真水が出るということだけ分かれば十分なので、これ以上考えるのはやめておこうと思う。
 ▼ 215 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/19 10:23:55 ID:6r2h8jKM [5/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「コイル、電撃で火を着けてくれ」

「##!」

左右のU磁石が素早く2回ほど回転し、集めた枯葉めがけてバチっと火花が放たれる。

着火に成功し、うまく燃えるよう枝の位置を調整しつつ風を送る。

この辺はほのおタイプの方が早いだろうが、まぁこういう地味な作業もたまには悪くない。

炎が安定してきたところで薪の上に鍋をぶら下げる。

沸騰したところでコンソメと一口大に切ったちいさなきのことポケマメを入れ、鍋を若干火から遠ざけて適当に煮込む。

コイルとヤドンと一緒になって固唾を飲んで鍋を見守り、具材が柔らかくなってきたところで……
 ▼ 216 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/19 10:25:11 ID:6r2h8jKM [6/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「多分、できた……かな」

完成したのは単純明快なコンソメスープ。

『モーンの毎日ポケマメ: 基本編100』の最初のページに書いてあった料理だ。

(ちなみにこのレシピ本、なぜか各地のポケセンで無料配布されていた。)

香ばしい匂いで空腹の胃袋を刺激する液体をを3つの小皿に注ぎ分け、静かに手を合わせる。

いざ、実食。
 ▼ 217 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/19 10:29:01 ID:6r2h8jKM [7/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
謎の緊張感に包まれる中、しばらく無言で豆を咀嚼しスープを飲み干し、そして全員同時に顔を上げた。

どうやら、みんな俺と同じ感想のようだ。

「……普通に、うまかったな」

「#」

「やぁん」

そうとしか言いようがない、特にリポートののしようもない、本当に普通の味だった。

初めての料理は失敗するものと相場が決まっているが、流石にここまでシンプルな行程にそんなお約束は通用しない。

かといって、何か劇的に美味しくなる要素は一つもない。

まぁ、普通に美味しかったのは間違い無いんだけど。

もっとこう、なんかさ……。

なんだろうね、この感じ。
 ▼ 218 うにんこぞう◆SxCy/NIFN. 17/03/19 10:29:46 ID:6r2h8jKM [8/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
微妙な面持ちのままみずでっぽうで食器を洗い、がちゃがちゃと片付ける。

まぁ、あれだ。

反応は微妙だったが、生の普通のポケマメを与える時のそれに比べればいくらかマシだった思う。

それにまだレシピは基本編だけで99個も残っている。

挑戦と経験を重ねていけば、そのうちこいつらの舌を唸らせる料理も作れるだろう。

島巡りが終わるまでにポケマメマスターになれば良い。

密かに小さな決意を固めながら、再びオハナタウンに向けて歩き出した。
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