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【SS】ポケモン不思議のダンジョン 花の盗賊団

 ▼ 1 1◆J44kAZeDOM 17/03/27 23:18:48 ID:qk0Nxw9k NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







プロローグ






 ▼ 29 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:21:11 ID:cWAt11WY [1/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「なきごえ」だ。僕らの攻撃力はダウンする。

恨みがましい目でミミッキュを見詰めると、ミミッキュは気まずそうな顔を描き出し、それから敵に向けてひっかくを繰り出した。

2匹がかりでなんとか倒し、ほっと一息を吐く。

と、ミミッキュが、「あ、階段」と呟いた。

僕たちは、慎重に、階段めがけて歩みを進める。

こんな風に、ダンジョンでの定石や知らないアイテムの説明を聞きながら、僕たちはダンジョンを脱出した。


ミミッキュ「ここさえ抜ければ、後はすぐよ」

イワンコ「行こう」

ミミッキュ「言われなくても」


僕たちは、どちらからともなく駆け出す。

ミミッキュも、その胴体でどうやって、と思うような速度で走っていた。


ミミッキュ「着いた。ようこそ、盗賊団、フラワーズへ」
 ▼ 30 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:21:57 ID:cWAt11WY [2/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュが、僕を振り返る。

たき火が燃えていた。

テントのような建物もある。

ここが、ミミッキュの拠点とする盗賊団か。

思っていたよりもちゃっちいが、身軽に移動するにはこの形態の方が都合がいいのだろう。

ミミッキュはテントをくぐる。僕も続いた。

ピンクの体躯から幾本かの角を生やしたポケモンが料理を作っている。

ミミッキュが彼女に声を掛けた。


ミミッキュ「ただいま、サニーゴ」

サニーゴ「あ、お帰りなさい。どうでした?」

ミミッキュ「成功よ。像に預けといたから、いつでも引き出せるわ」

「それはよかった」と、安堵の顔を浮かべたサニーゴは、すぐに気付いて言った。「あれ? 後ろ、誰ですか?」
 ▼ 31 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:22:40 ID:cWAt11WY [3/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「あっ、イワンコです」

ミミッキュ「記憶がないから、連れて来たの」

サニーゴ「まあ! 大変ですね」

イワンコ「よろしくお願いします」

サニーゴ「サニーゴです。ここの、炊事担当やってます」

ミミッキュ「凄いおいしいから、覚悟しときなさいよ」

サニーゴ「そんな、照れますよ」


2匹でほのぼのと話す様子は、なぜか気の合う気が強い女子と気の弱い女子のコンビという図を彷彿とさせた。

だが、一瞬、強い乖離を感じた。


――盗賊団って、なんだ?
 ▼ 32 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:23:31 ID:cWAt11WY [4/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「ところで今、誰がいるの? イワンコを紹介したくて」

サニーゴ「ヒド君とバクガメスさんかな。ボスとコスモッグは外出中。いつものようにお宝探してるんだと思うよ」

ミミッキュ「わかった。じゃあ、行って来るね」

サニーゴ「イワンコ、よろしくね!」

イワンコ「こちらこそ」


僕らはテントを抜け、それからたき火の方へ歩いて行った。


ミミッキュ「単体ではいいポケモンなんだけど、ペアにするとマズイから、まずヒドイデからね」


そんな謎の呟きに聞き返すと、ミミッキュはなんでもないと首を横に振った。

疑問は残るが、まあ危険な目に遭わされる事もないだろうと判断し、僕は追随する。
 ▼ 33 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:24:20 ID:cWAt11WY [5/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「ヒドイデ」

ヒドイデ「お帰りミミッキュ! そいつは?」

イワンコ「イワンコです」

ミミッキュ「記憶がないらしくて」

ヒドイデ「ああ、なるほど」


そういってヒドイデは、ミミッキュを見据えた。

しばらく沈黙が降り、それから笑う。


ヒドイデ「俺らと来るんだろ? 歓迎するぜ」

イワンコ「よろしくお願いします」

ヒドイデ「ところでうちのかわいいサニーゴにはもう会った?」

ミミッキュ「会ったよ。行くよイワンコ」

イワンコ「へ?」


引っ張られるように僕は連れ去られて行く。

ヒドイデが戸惑ったような目でミミッキュを見詰めた。
 ▼ 34 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:24:58 ID:cWAt11WY [6/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「ねえどういう」

ミミッキュ「1時間はのろけるだろうけど、いいの?」


その発言に、ごくりと唾を呑みこむ。

1時間ののろけ。まあ無理だ。


ミミッキュ「わかったら、バクガメスさんに会いに行くよ」

イワンコ「ちなみにヒドイデの担当は?」

ミミッキュ「普通に盗賊。いろいろと盗って来る係ね。あたしと同じ」

イワンコ「じゃあ、バクガメスってのは?」


ミミッキュが動きを止めた。

引きずられていた僕はその勢いを殺しきれずミミッキュの体に突っ込む。

布がまとわりつき、少しもがいた。

ミミッキュは痛みも何も感じていないかのように布を念の力(「ねんりき」ではない、念のため)で引き剥がし、それからこちらを向き直った。


ミミッキュ「バクガメス『さん』。あの人、短気だから、その辺厳しいの」
 ▼ 35 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:25:30 ID:cWAt11WY [7/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「そうなんだ……。ありがと、教えてくれて」


バクガメス“さん”は、上下関係に厳しい。把握した。


イワンコ「他にもそういう人はいるの?」

ミミッキュ「いない。ボス……ラランテスは、そういうの気にしないタイプだし。ま、みんなボス呼びだけど。

       さ、行こう」
 ▼ 36 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:26:05 ID:cWAt11WY [8/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ぼうっと座り込む赤い体躯のポケモンが1匹。

彼に、ミミッキュが声を掛ける。


ミミッキュ「バクガメスさん、新入りです」

バクガメス「ああ、そうか。お前は?」

イワンコ「イワンコです。記憶がないので、たまたま出会ったミミッキュにここを紹介されました」

バクガメス「……そうか。おいミミッキュ」

ミミッキュ「はい、なんでしょう」

バクガメス「てめー、カタギかもしれない奴を何こっちに引き込んでやがる!」


怒鳴り声。僕は、思わず身を竦めた。


ミミッキュ「でも、行き倒れになるかもしれなかったんです! あたし、ここしか教えられないし! ……あたし、心配だったから」


心配だったのか。恩返しと言っていたのだが。

しかし、小さく震えるミミッキュに、そんな軽口を叩けるはずもない。

それ程までに、彼の威厳は強かった。
 ▼ 37 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:27:37 ID:cWAt11WY [9/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バクガメス「……そうか。お前なりにきちんと考えてるんだな。怒鳴って悪かった。

       イワンコ、お前、まだ引き返せるぞ。今なら、俺たちの仲間になる前に逃げ出せる。

       記憶の謎は、解けるだろ、1匹でも」

イワンコ「……無理、だと思います。自分は、元人間。この世界で、ひとりでなんて、絶対に」

バクガメス「おま……元ニンゲンだぁ?! 記憶喪失の元ニンゲン……これは、マズいな」


彼はぶつぶつと呟き始める。

それきり、思考の世界に没入したのか、声を掛けても反応が返って来る事はなかった。


――記憶喪失の元人間が、マズい? 僕は、小首をかしげた。


ミミッキュ「説明し損ねたけど、バクガメスさんは経理担当。資金繰りは、やっぱり大事みたいね。

      あたしたち、行動する前はみんなバクガメスさんにお金を預けるのよ」

イワンコ「銀行みたいなもんって事?」

ミミッキュ「要はそういう事らしいね。増えないけど」
 ▼ 38 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:29:03 ID:cWAt11WY [10/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は続けて尋ねた。


イワンコ「ボスと、コスモッグ? この2匹は?」

ミミッキュ「そろそろ帰って来ると思うよ――」


ミミッキュは言葉を呑みこんだ。その目線を辿ると、空間にひずみが生じていた。


イワンコ「な、何あれ」


臭いは特に、感じない。唐突に、それはそこにあった。


ミミッキュ「コスモッグよ、あれが」


あれが、コスモッグ。どういう事かと問おうとして、僕は、その目を疑った。

そこから、紫がかった体躯に2つ頭から突起を出すポケモンと、ハナカマキリのような風貌を持ったポケモンが現れたのだ。


コスモッグ「たっだいまー! 成功だよ! 南の洞穴のお宝ゲット!」


そういって、黄金に輝くスカーフを見せびらかした。
 ▼ 39 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:29:45 ID:cWAt11WY [11/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテスが、僕を認めて問い掛ける。


ラランテス「ん? あんた誰だい?」

ミミッキュ「イワンコです、記憶喪失の」

ラランテス「……なるほどね。あたいはラランテス。よろしく!」

コスモッグ「僕はコスモッグだよ! よろしくね!」


このラランテスがボスだという。

気風のいい女性だ。

そして、コスモッグは少年と言えるような性格だろう。


ミミッキュ「コスモッグはテレポートが得意で、遠出する時はみんな頼るの」

コスモッグ「まあ、はねるとテレポートしかできないんだけどね」


コスモッグは照れたように笑う。満更でもないのだろう。
 ▼ 40 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:30:31 ID:cWAt11WY [12/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテス「みんなにはもう会ったかい?」

ミミッキュ「はい。イワンコ、これでうちのメンバーは全員よ。覚えた?」


さすがにこのぐらいなら覚えられる。


イワンコ「ミミッキュ、サニーゴ、ヒドイデ、バクガメスさん、コスモッグ、ボス。それから……

      僕だ。

      ラランテスさん、いいや、ボス。これから、よろしくお願いします」


この瞬間、僕は、正式に、盗賊団の一味になった。

記憶の謎を探すため。僕は、ここを拠点に、行動を開始する。


ラランテス「そうかい」


ラランテスはそう言って、ニコリと笑った。
 ▼ 41 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:31:07 ID:cWAt11WY [13/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
幕章


誰も、あたしの声を聞いてくれない。

あたしは、そこに、存在していない――

いじめ。その言葉を、あたしのこの現状に当てはめても良かったのか。それはわからない。

肉体に暴力を及ぼされた事は一度だってない。

心無い暴言があたしを抉る事だって、なかった。

ただ、何もなかった。

学校に、「あたし」はなかった。
 ▼ 42 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 20:32:02 ID:cWAt11WY [14/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
教室の前方では、女子の何人かが、楽しげに会話をしている。

やれ誰が誰を好きだ、やれ誰々がカッコいい、やれあの教師ウザい。

教室の後方で、男子が輪になって会話している。

卑猥な単語がそこに混ざり、前方の女子が「やめてってばー」と嬌声をあげた。

その真ん中に、ちょうど教室の、教師の目が届きやすいど真ん中に、あたしの席はある。

飛び交う嬌声は、けれどあたしの周りを追い越してしまう。

あたしに声を掛けてくれる人は、誰もいなかった。

あたしは本を取り出し、その世界に没入する。そうすれば、忘れてしまえるから。

本を読む快楽は、このクラスに入ってから覚えた。

本の世界は、あたしを肯定してくれる。

無限に広がる世界の中で、あたしは、溺れてしまえる。

あたしは、あたしのいない空間の中で、ただひたすらに、現実から逃げていた。


――そんなあたしを見詰める影が、ひとつ……
 ▼ 43 ールル@1ごうしつのカギ 17/03/28 20:32:14 ID:SUY5frrk NGネーム登録 NGID登録 報告
最初に選んだポケモンがピカチュウだったらもう物語終わってたな()

支援
 ▼ 44 マナッツ@レベルボール 17/03/28 23:30:40 ID:PhyRAr/6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
毎作読んでまっせ
 ▼ 45 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:01:22 ID:WmToOqec [1/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







2章 発端のウツロイド






 ▼ 46 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:01:56 ID:WmToOqec [2/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテス「かかってきな!」


僕は、大地を踏みしめ、飛びかかる。

ラランテスを見据え、走る勢いでラランテスに突っ込んだ。


ラランテス「そんなもんかい」


ラランテスはすんでの所で身をかわし、そう呟いた。
 ▼ 47 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:02:37 ID:WmToOqec [3/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
話は1日前にさかのぼる。


サニーゴ「できましたよ」

ヒドイデ「おっ、できたか。お腹空いたー」

サニーゴ「ヒド君、今日は角も生えて来たし、食べていいよ」

ヒドイデ「マジで?! よっしゃー!」

サニーゴ「あ、それとみなさん、イワンコの歓迎の意味も込めて、1品多く作ってみました」

ラランテス「そうかい! あたいもう腹ペコだよ!」

コスモッグ「テレポートも疲れるしねー」

ミミッキュ「あたしも、今日は走り回ったからなぁ」

イワンコ「…………」
 ▼ 48 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:03:09 ID:WmToOqec [4/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
雑然とした会話の洪水に、僕はイマイチ乗り切れずにいた。

すると、いつの間にやら後ろに立っていたコスモッグが、僕のお尻をポンと叩いた。


コスモッグ「ほらほらイワンコ、しり込みしてちゃ馴染めないよ」

イワンコ「ああ、まあそうだね」

ラランテス「イワンコを歓迎して、みんな、今日は騒ぐよ!」

みんな「おー!」

イワンコ「お、おー!」
 ▼ 49 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:03:51 ID:WmToOqec [5/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
とりあえずは食事である。

こうなってからいろいろとあったが、食べた物と言えばリンゴ1個だけである。

自覚こそしていなかったが、空腹は既に、限界に近かったらしい。

目の前に出されたおいしそうな料理に、口の中で唾が溜まる。ごくり、とそれを呑み下し、僕はそれでも、「待て」を言われた犬のように尻尾を振って待っていた。

みんながまだ、食べ始めていない。それなのに、新参の自分だけが食べ始めるのもいかがなものかと思うのだ。

一瞬の永遠を耐えていると、ラランテスが救いの声をあげた。


ラランテス「それじゃ、これからのみんなの安全を願って……」

みんな「いただきまーす!」

イワンコ「いただきます!」


ようやくだ。

手を使えないが、身を乗り出してがっつくように食べる。

舌の上を転がり落ちて行く晩餐の味のレベルは、相当に高いと言えるだろう。

果汁を活かしたサラダが特に絶品だった。
 ▼ 50 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:05:02 ID:WmToOqec [6/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヒドイデ「こいつ、料理上手いだろ?」

サニーゴ「そんな、照れるよヒド君……」


そう言いながら、ヒドイデが、サニーゴの上に覆いかぶさる。きゃっ、と嬌声が上がり、それから2匹の笑いが弾けた。


サニーゴ「私、おいしい?」

ヒドイデ「ああ、最高だよ」


唐突に繰り広げられた会話。反応に困ってミミッキュの方を見やると、彼女は呪詛の念を呟いていた。


ミミッキュ「爆発しろ……爆発しろ……」

コスモッグ「こらこらミミッキュ」


何だろう、サニーゴは食べられているのだろうか。

……まあ、当の彼らが幸せなのだから、それでいいか。空腹が満たされそんな事を考える余裕が出て来た。

そんな風に冷静に考えると、ある事実に気が付く。


イワンコ「なあミミッキュ。バクガメスさんは?」
 ▼ 51 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:05:40 ID:WmToOqec [7/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「ああ……呼んだんだけど、いいって。リンゴかじりながら本読んでた。多分……記憶の謎を調べてくれてるんだと思う」

イワンコ「!」


僕がこうやって楽しんでいる間にも、バクガメスは僕のために、か。

うつむいてしまう。楽しんでしまえている、自分がいる。それが、どうしようもなく後ろめたく感じる。


コスモッグ「でもさー」


不意に、後ろから声を掛けられて、振り向いた。

コスモッグの天真爛漫な笑顔が、言った。


コスモッグ「とりあえず、楽しんじゃいなよ、イワンコ。これは、君の歓迎会でもあるんだよ!

       ま、そういう僕だって割と新参なんだけど」

イワンコ「まあ、うん」


そう言われてしまい、僕は盛り上がるみんなの中へと加わって行った。
 ▼ 52 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:06:10 ID:WmToOqec [8/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
料理にがっつき、皆の武勇伝を聞く。

皆、と言っても主にラランテスだ。

草原の空洞というダンジョンでお宝を手に入れたらしく、その話から鑑みるに、彼女は、そのおしとやかな外見とは裏腹に腕力で戦うタイプらしい。

置いてあった鍵のかかった豪華な宝箱を、なんとラランテスは、叩き割ってしまったという。

宝箱の鍵の意味……と、僕は苦笑した。


ラランテス「とまあ、そんなこんなであたいたちはこの金のスカーフを手に入れたって訳よ!」


自慢気に笑う彼女は、僕を見て問い掛けた。


ラランテス「ところであんた、自分の身は護れるのかい? 最低限」
 ▼ 53 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:06:49 ID:WmToOqec [9/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
本当に、何の脈絡もない、不意の発言。

彼女は、今を生きているのだろう。場違いにも、そんな事を考えてしまう。

そんな場合ではないと慌てて気付き、僕は言った。


イワンコ「どうでしょう……最低限だけならともかく、盗みなんて事は難しいかと……」

ラランテス「だろうね。よし! 明日から、あたいと特訓だよ!」

イワンコ「はい!」


この時にはもう、僕はフラワーズの事を好きになっていた。

やっている事は犯罪だが、それでもこのメンバーたちは皆、いい人だ。そう、確信を持って思えた。
 ▼ 54 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 17:07:29 ID:WmToOqec [10/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
宴が終わり、床に就く。

床と言っても、藁を敷き詰めただけの簡素な物。

もっとも、人間のいない世界で布団があるとも思えない。

藁布団だとしても、ないより何倍もマシだ。

実際、ミミッキュと出会うまで、何もない場所で僕は、平然と眠れた。

ポケモンの体は、きっと、人間の体より何倍も頑丈にできているのだ。

そんな事を心配しても仕方ないだろう。


コスモッグ「どう? 寝心地は」


同室となったのは、コスモッグとミミッキュ。ただ、ミミッキュはもう、軽い寝息を立てている。


イワンコ「うん、いいよ」

コスモッグ「ならよかった」

イワンコ「明日からしんどくなりそうだし、もう寝るよ」

コスモッグ「だね。お休みー」

イワンコ「お休み」
 ▼ 55 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:12:41 ID:WmToOqec [11/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そして翌朝。

ラランテスは僕の攻撃をギリギリでかわし、そんなもんかい、と呟いた。

彼女の顔は、無表情のまま変化がない。

危なかった、という感慨すら、そこには窺えない。

間違いない。わざとギリギリを狙っている。

僕は苛立ちの中、けれど心を抑えた。

静かに。静かに。

小さく息を吸う。

僕は、ラランテスとの距離を一気に縮め、そのまま攻撃を食らわせた。

ふいうち、だ。

ラランテスは、しかし、ビクともしなかった。


ラランテス「ま、そんなとこだろうね」
 ▼ 56 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:14:12 ID:WmToOqec [12/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そう言うと、ラランテスは腕の鎌を攻撃中だった僕の腹部めがけて振り上げた。

シザークロス。これがリーフブレードなら致命傷だ。それでも、相当な手加減がなされている。


イワンコ「……負けです」


後から聞いた事には、当てただけでも凄い、との事。

ミミッキュは、彼女にかすりもしなかったらしい。

彼女の場合ばけのかわを活かした逃亡を図れるのであまり関係はないのだが、それでも当てたという事実を皆誉めてくれて、悪い気はしなかった。
 ▼ 57 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:15:43 ID:WmToOqec [13/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それから数日、僕は、集中的な特訓を受け、ラランテスにマトモなダメージを与えられる程度にはなっていた。

マトモ、と言っても本人の弁で、僕の目には蚊に刺されたようにも感じていないように映ったのだけれど。

彼女は戦闘を終え、物凄い勢いで呟き始めた。


ラランテス「状況を嗅覚聴覚フル活用で捉えその時その時の最高のたいあたりの軌道を一瞬で見抜ける実力……」


一息に彼女はそう言い、それから僕に向かって笑顔を見せた。


ラランテス「うん、あんた、筋いいよ。ミミッキュと組んで、サポートしてあげな!

       状況を把握する能力にあんたは優れてると見た。無用な戦闘を避けるに越した事はないからね。

       敵を上手くかわしながら仕事できるよ、あんたなら」

イワンコ「はい!」


確かに、無用な戦闘は避けたい。

なるべく僕が盗賊だと知られていない期間の長い方が、表と接触しての調査もしやすいという物だ。
 ▼ 58 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:16:32 ID:WmToOqec [14/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこから僕は、バクガメスからあるレクチャーを聞いていた。

ラランテスすらも立ち入り禁止にして、僕とバクガメス、2匹だけの空間で。


バクガメス「イワンコ、お前、まだ誰にも、元ニンゲンだっつってねぇのか?」

イワンコ「ミミッキュとあなただけです。他は、なんとなくタイミングを逃してしまって」

バクガメス「周りも知らなさそうだしな。まあ、それはいい。お前が記憶喪失なのは知ってるし、それ以上はまあどっちでもいい。

       だが、調査するにあたって、絶対言いふらすな。元ニンゲン、って事実を知られる事が、どう転ぶかわからねぇ」

イワンコ「と、言いますと?」

バクガメス「この世界には過去に4度、ニンゲンがポケモンになったっつー事例が挙がっててよ……」


4度。そんなにレアではないのか、僕のこの状況は。

信じられない事だが、まさかこんな事で嘘を吐くとも思えない。

無理に呑み下して、続きを促した。
 ▼ 59 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:17:44 ID:WmToOqec [15/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バクガメス「驚かねぇのな。ま、そっちの方が話ははええや。実はな、その度にこの世界、危機が訪れてるんだよ。

       ま、順序が逆で、世界を救うために呼ばれてるんだけどな、毎回」


その度に、毎回、世界に、危機が。


バクガメス「っつー訳でだ。お前さんも5匹目の世界を救う元ニンゲン、って可能性は極めて高い。4回中4回。

       試行回数は少ないが、対象がデカくて、普通ありえねぇ事。

       信ぴょう性は増すだろ?」

イワンコ「えっ、ちょっと待ってください! 世界が危機って、どういう事ですか?!」

バクガメス「それはまだわかんねえ。天変地異、星の停止、世界のリセット、石化なんて、様々だよ、起こった事件は」

イワンコ「でも、それって……」

バクガメス「ああ。どうすりゃいいのかわかんねぇ、とも取れる。

      だから、とりあえずは、目の前の仕事をこなしてくれや。

      何かしら異変があったら、俺のネットワーク使えば、速攻でわかる」

イワンコ「はあ……」
 ▼ 60 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:19:27 ID:WmToOqec [16/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バクガメスの真剣な表情に、嘘は感じ取れない。

だから、これはきっと事実だ。リンゴをかじりながら本から仕入れた、紛れもない事実。

だけれども、言っている事の壮大さに、ため息が零れるのだ。


バクガメス「質問に答えてなかったなそういや。不用意に言いふらしちまうと、そっから騒ぎがデカくなるんだ。

      不要な騒ぎは混乱の元。やりにくいったらありゃしねぇからな、混乱っつーのは」

イワンコ「言っていいのは記憶喪失まで」

バクガメス「話が早くて助かる。んじゃ、まあ頑張りな。敵と味方はキチンと区別しろ。それからだ……」


そこからは、普通のレクチャーだ。宝箱はラランテスが開けてくれる(物理)らしいし、ダンジョンで倒れてもお金はバクガメスに預けておけばなくならない。

ガルーラ像に預けたアイテムはバクガメスに預けたお金同様ダンジョンで倒れてもなくならないとの事だ。

協力して相性をごり押すレンケイと言うシステムも教わった。ミミッキュと2匹チームだ。覚えておいて損はない。


バクガメス「それじゃ、明日から、お前はカタギの道を踏み外す。覚悟は決めてるだろうし今さら何か言う気はねぇが、頑張れよ」

イワンコ「……はい」


僕は、決意を込めて、頷いた。
 ▼ 61 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:20:29 ID:WmToOqec [17/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
帰って来たミミッキュは、今日は涼しい顔でかばんから食糧を取り出す。


ミミッキュ「今日の仕事だよ」

イワンコ「……これを、明日からは僕も」

ミミッキュ「ん? ああ、ついに特訓終了か。お疲れ」

イワンコ「うん、ありがとう。そして、明日からよろしく」

ミミッキュ「何改めて」

イワンコ「明日から、パートナーだよ僕たち」

ミミッキュ「そうなんだ」

イワンコ「うん。敵を避けるのが得意そうだからって言われた」

ミミッキュ「なるほど。まああたし苦手だしなぁ気付かれないようにするの。ばけのかわで逃げられてるからいいけど。

       ま、何にせよ、だね。あたしも明日は教えるから、頑張ろうね」

イワンコ「だね」
 ▼ 62 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:21:16 ID:WmToOqec [18/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
で、翌日。僕たちは街に出た。

気配を消し、レストランの食糧庫に忍び込む。

バッグにかき集められるだけかき集め、気配を消したまま脱出する。

辺りへの警戒は怠らず、鼻は常時、フル稼働だ。

近付いて来る物音も、回避しなければならない。

幸い、誰かが気付く気配もなく、僕は慎重に倉庫を離れた。

ミミッキュと合流する。ミミッキュもバッグに様々な物を詰めている。


ミミッキュ「初仕事成功、おめでとう」

イワンコ「別にそこ褒められても嬉しくないけどなあ」


犯罪なのだ。素直には喜べない。
 ▼ 63 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:22:14 ID:WmToOqec [19/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「まあいいや。あんた、あたしにかばん預けなよ。アジトの場所はわかるでしょ」

イワンコ「うん」

ミミッキュ「ほら、記憶の謎を探すんだから、行って来てよ。

      あたしは……もう、顔割れてるから普通の調査はしづらいし」

イワンコ「ありがとう」


彼女に感謝と別れを告げ、歩き出そうとした。

僕は街へ、彼女はダンジョンになっている森へ。


――その時、叫び声が聞こえた。



待てぇぇぇえええええ!
 ▼ 64 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:22:55 ID:WmToOqec [20/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
一瞬の沈黙。ミミッキュが意味を呑みこんで、叫んだ。


ミミッキュ「え、ヤバいバレた? 逃げよう!」


イワンコ「待って! ……違う、方角が逆だ」


ミミッキュが帰ろうとしていた、森の中。

叫びが聞こえたのは、そちらからなのだ。

森の中に今いるポケモンが、街の中で起きた盗難に気付けるはずがない。


イワンコ「行こう。何か、緊急事態が起きたんだ」

ミミッキュ「えっ、だけど……」


しばらくの逡巡の後、ミミッキュは叫んだ。


ミミッキュ「……どうなっても知らないから! 行くよイワンコ!」

イワンコ「うん!」
 ▼ 65 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:27:02 ID:WmToOqec [21/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「どうかしましたかっ?!」

ジジーロン「おお! 助けに来てくれたのか!」


そこにいたのは、年老いたジジーロン。

ミミッキュは姿を隠し、僕だけで事情を聞いた。

話によると、どうにも孫のミニリュウが攫われてしまったらしい。

どんなポケモンが攫って行ったのかを尋ねたが、見えなかったという。

ただ、去って行く方向だけは確認したため、追ってくれないか、との事。


イワンコ「助けに行って来ます」

ジジーロン「ありがとうの」


ミミッキュと合流して、僕たちは、ジジーロンが指し示した方角へと向かって行った。
 ▼ 66 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:28:11 ID:WmToOqec [22/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ナセラドの森。この森は、そう呼ばれているらしい。


ミミッキュ「危険を察知するのがあんたは得意らしいから、リーダーお願いね」

イワンコ「まあいいけど」


僕は先頭を行く。周囲の臭いを意識しつつ、敵の行動も読みながら進まなければならない。

幸いこのナセラドの森は、散歩コースになる事もあるぐらい危険度は少ないらしいが、それでもダンジョン部にうっかり入ってしまうと容赦なく前述の法則は適応される。

この森の一部が、その不思議のダンジョンであり、彼が示した先はそのダンジョン部であったのだ。

どこかにミニリュウがいるかもと警戒しながら僕はたいあたりやふいうち、ミミッキュはおどろかすやらひっかくやらで敵を撃退し、そして奥を目指す。

先に進んでいる可能性が高いと判断した結果だ。
 ▼ 67 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:29:47 ID:WmToOqec [23/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
生憎、彼らの姿を見かける事もないままに、僕たちはいとも簡単に最奥部まで辿り着いてしまった。

ラランテスの特訓、恐るべし。


ミミッキュ「到着っと。イワンコ、何か見付かる?」

イワンコ「しっ! 何か聞こえる」


僕の耳は、何かしらの音を捉えていた。

あれは……声だ。誰かと誰かが話してる声。

――あー見付か……おねーちゃ……いね!

――次は……あた……よ!

関係ないのか。断片的だが、雰囲気だけ聞くと楽しそうで、とてもポケモン攫いの要素が入り込む余地など感じ取れない。

イワンコ「誰かいるみたいだ。訊いてみよ、叫び声を聞かなかったかって」

ミミッキュ「わかった」


僕たちはそう言って、2匹の前に姿を現した。
 ▼ 68 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:30:38 ID:WmToOqec [24/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
2匹の内1匹は、まだ幼いミニリュウ。楽しげな表情でもう1匹と話していた。

もう1匹。透き通った、ガラス質の体に、幾本もの触手が揺らめく。

顔は、なかった。

俺は、こいつを知っている。そう、不意に思った瞬間、俺は我を忘れてその謎の生命体に飛びかかる。


ミミッキュ「ちょっ、イワンコっ?!」

ミニリュウ「何すんのさっ?!」


制止の声も、僕の耳は受け流す。

ただ、恐怖の対象として、その白く透明なそれがあるのみだ。

それはこちらの敵意を認めると、俺めがけて煌めく宝石を撃ち出す。

その威力は尋常ではなく、俺はあっという間にその身を貫かれ、倒れ伏した。
 ▼ 69 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:31:30 ID:WmToOqec [25/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――大丈夫よ、イワンコ。だから、落ち着いて。


ミミッキュの声を、闇の中で聞く。

目が覚めて、ミミッキュは笑みを作る。


ミミッキュ「ザコダンジョンでも一応プチふっかつのタネあってよかった。こんな規格外、敵うはずないよ、あんたに。

       ごめんなさい、こいつ、急に襲い掛かって。悪い奴じゃないんですけど」

???「だと思うよー。この子、襲い掛かっては来たけど、へなへなだったし、ただ、あたしが怖かっただけじゃないかな」

ミニリュウ「おねーちゃんは怖くなんてないのにね」

???「ねー」


僕は頭を振る。そして、意識をハッキリさせ、立ち上がった。


イワンコ「ごめんなさい、動転しちゃって……。なんだか、あなたの事、見た事あるような気がしたから」
 ▼ 70 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:32:53 ID:WmToOqec [26/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
???「えー? あたし見た事ないよーあなたの事ー」

イワンコ「なんか、昔……あなたと会った事があるような、そんなはずないのに」

ミミッキュ「……記憶の手掛かり、か。まあ、よかったじゃん」

イワンコ「記憶喪失、なんですよね僕。それを捜したくて」

???「あー、そうなんだー。でも、答えられないなー。ごめんねー」

イワンコ「いえ、大丈夫ですよ。ところで、名前はなんですか?」

???→ウツロイド「あたしー? ウルトラビーストの一種、ウツロイドだよー。よろしくねー!」


ウルトラビーストの、ウツロイド。この種が、僕の記憶の鍵を握るのか。

どこかで嗅いだ事のあるような、懐かしさを伴う臭いがした。
 ▼ 71 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:34:08 ID:WmToOqec [27/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミニリュウ「まあ、悪い奴じゃないみたいでよかったね! で、なんでここにいるの?」

ミミッキュ「あっ! ミニリュウ君、おじいちゃん捜してたよ? そもそも、待ってって聞こえませんでした?」

ウツロイド「あー、それ……ごめーん、待たないといけないの、あたしだったかもー。

       遊ぼーって言われて、いいよーって答えて一緒にここまで来たはいいけど、なんかそんな声が聞こえて来たんだよねー」


立場が逆転している気がしなくもないが、立派な誘拐である。

盗賊に咎める権利があるのかは知らないが、れっきとした犯罪だ。この世界の基準は知らないが、普通にアウトであろう。

まあ、何はともあれ一件落着、である。

後はおじいちゃんも心配してるだろうから、なんていろいろと言い含め、名残惜しそうな顔をするミニリュウを説得するだけだった。
 ▼ 72 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:35:24 ID:WmToOqec [28/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミニリュウ「おじーちゃん!」

ジジーロン「ミニリュウか?! ミニリュウ、無事じゃったんじゃな?」

ミニリュウ「なーんにも怖い事されてないよ! ウツロイドおねーちゃんがかくれんぼで遊んでくれたんだー!」

ジジーロン「え?」

ミミッキュ「誰も、悪くないんです。遊ぼって声掛けられて、うんって答えて、一緒に遊べる場所へ行った。それだけだったんです」

ウツロイド「ごめんなさーい」


帽子のような体を傾けて反省の意を示すウツロイド。


イワンコ「悪気はなかったので、ここは僕たちに免じて、許してあげてください」

ジジーロン「おぬしらが、助けてくれたのか」

イワンコ「助けたと言うより、帰るよう説得しただけですけどね」

ジジーロン「ありがとうございます! 無事に再開できて、本当に助かりました」

ミミッキュ「いえいえ」

ウツロイド「じゃあ、あたしはこれでー」

ミニリュウ「バイバーイ!」
 ▼ 73 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:36:57 ID:WmToOqec [29/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ここで僕は、相も変わらず恩の売りっぱなしを嫌った。

売ったからには返して欲しい。もちろん、無理な事をさせる気はさらさらないし、彼だけに任せる気もないが、協力ぐらいしてもらってもバチは当たらないのではないか。

もちろん、ミニリュウがいる場所で、と言うのも気が引けるため、ジジーロンがぜひに、と言うのに甘えて盗品片手に伺わせてもらった彼の自宅で、孫を連れて来ていた両親が帰った後に依頼したのだけれど。


イワンコ「という訳で、記憶の鍵を握ってるのが、ウルトラビーストだと思うんです」

ジジーロン「そうか……。よし! ワシも、そのウルトラビーストとやら、調べてみるとしようか。息子親子も帰ってしまったしの」

イワンコ「ありがとうございます!」

ジジーロン「しかし、あんな種族、初めて見たわい……はて、どこかでウルトラビーストと聞いた事あるような気がしたのじゃが、どこじゃったかの……」

ミミッキュ「まあ、焦らなくても、大丈夫です。強制でもありませんしね」

ジジーロン「ああ、わかっておる。ゆっくりでも正しい記憶を思い出す方が大事じゃのでな」

イワンコ「それじゃあ、お願いします。ありがとうございました」

ジジーロン「いやいや、お互い様じゃしの。来週にでもまた来てくれるかの」

ミミッキュ「はい」


そんな会話を最後に、僕たちは彼の家を去る。もちろんそこからは何も盗んだりしていない。これからも定期的に尋ねる事になるのだ。そんな事できない。
 ▼ 74 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:37:35 ID:WmToOqec [30/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「よかったね、手掛かり見付かって」

イワンコ「だね。この調子なら、答えもそう遠くないかも」

ミミッキュ「だといいね。……ねえ、答え、見付けたら、どうしたいの?」

イワンコ「え? ……いやさすがに、まだわかんないよ」

ミミッキュ「だよね、変な事聞いてごめん」


そんな会話をしながら、僕たちはアジトへと帰り着いた。
 ▼ 75 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:38:13 ID:WmToOqec [31/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
幕章

あたしがその視線に気付いた時、まず胸に躍ったのは、「自意識過剰」の5文字。

あたしを見る人なんて、いるはずがない。

そう思いはするけれど、感じてしまう視線は、どうしようもない。

あたしは家の中、その正体について考えた。

もしかしたら、今のあたしの現状に哀れみを覚えてくれている誰かなのだろうか。

それとも、ただの興味本位。

どちらにせよ、弱り切ったあたしは、そんな感情であろうとしがみ付くより他にない。
 ▼ 76 1◆J44kAZeDOM 17/03/29 20:39:29 ID:WmToOqec [32/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
思い切って、あたしは授業中、こっそりとその方向を振り向く。

ど真ん中。どの方角にも等しく人がいるが、見るべき人数が10人近くで済むのは気が楽だ。

幸いにも方角は、目立つグループとは違う箇所。

躊躇いは、薄かった。

そして、彼と目が合う。彼は慌てて逸らしたが、あたしは、バッチリ捉えていた。

岩根広大。何を考えてるかわからない奴、という評判を、メイングループの会話から盗み聞いた事がある。

あたしは、彼が視線の主であるという事実に驚きながら、暖かさを胸に抱きしめた。
 ▼ 77 ンニュート@マグマのしるし 17/03/29 23:46:55 ID:q7KGqdPU NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 78 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:19:17 ID:o.RG/8e6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サーカス プロローグ・1章
http://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=563304&l=1-40
 ▼ 79 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:22:12 ID:qi0YQ1wY [1/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







3章 襲来のフェローチェ






 ▼ 80 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:22:51 ID:qi0YQ1wY [2/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「という訳で、ウルトラビーストに関して調べる事になったんです」

バクガメス「ほう……。なるほど。俺も聞いた事がないが、とりあえず調べておく。

      みんなにも伝えるぞ、ウツロイドがカギを握る、とな」


アジトに戻って、僕はバクガメスと作戦を練っていた。

なんだかんだ言って、一番頼りになりそうである。

彼は、ふうっと息を吐き出し、それから本を開いた。


バクガメス「俺は今から考え込む。思考の妨害したら燃やすからな」


はい、の返事も躊躇われたので黙り込むと、「返事」と催促が。


イワンコ「はっ、はい!」

バクガメス「ふん」


やりにくい。頼りにはなるが、厳しすぎるのではないだろうか。
 ▼ 81 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:23:53 ID:qi0YQ1wY [3/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
とぼとぼと追い出される形で彼の周りを離れる。すると、ヒドイデが興味を示したのか、僕に尋ねて来た。


ヒドイデ「バクガメスさんのとこなんか行って、何話してんだ?」

イワンコ「ああ、記憶の謎について。いろいろ本あるじゃん、あれで調べてるんだって」

ヒドイデ「まああのポケモン、知識は凄いからなぁ。なんだって盗賊なんかやってんだろ」

イワンコ「ん? そういやなんでヒドイデは盗賊やってんの? かわいい彼女もいるってのに」


あそこまで互いに溺愛しているカップルなら、こんな悪に身を堕とす必要はなかったのではないか。

そう思って尋ねた。


ヒドイデ「あー、一応うちじゃ、その質問はカプ……つまる所、タブーだぜ。ま、俺は答えられるけどな。

     駆け落ちして来たんだ、サニーゴちゃんと。行き場がなくって、ここに拾われたんだ」

イワンコ「タブーなんだ。っていうか、カプって言うんだ」

ヒドイデ「ああ。誰がどんな事情を抱えてるか、お前みたいに直接の希望がなきゃ絶対詮索しない。

     これが、ボスの打ち出したうちの掟だ。唯一の、つってもいいな」

イワンコ「なるほどね、ありがとう」

ヒドイデ「んで、成果はどうだった?」
 ▼ 82 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:24:46 ID:qi0YQ1wY [4/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
成果。どれだけの食料を盗めたか。

割と行けたと思う、と答えると、ヒドイデはそりゃ結構、と楽しげに笑う。

動機はどうあれ、彼は、立派な盗賊だった。


ヒドイデ「まあ、それはともかくだ。お前の記憶の謎だよ」

イワンコ「ああ、そっち。バクガメスさんから詳しい説明があると思うけど、ウツロイドっていうウルトラビーストがなんか関係してるみたい」

ヒドイデ「ったく、順応早いよな、悪事に。ま、いいんだけど」

イワンコ「たはは……」


なんて会話をしていると、サニーゴが声をあげた。


サニーゴ「できましたよー!」

ヒドイデ「はーい! ほら、行こうぜ、飯だ」

イワンコ「だね」


2匹、駆け出す。食べられる、と聞くと途端に空腹が襲うのだ。

あー、腹減った。
 ▼ 83 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:25:24 ID:qi0YQ1wY [5/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「「いっただっきまあす」」


ガツガツムシャムシャと、食事を平らげる。

節操もないが、盗賊らしいとも言える。

そしてまた、メシが旨いのだ。

口の中でスルリとほどけて、後には残らないのに食べてる最中はしっかりおいしい。

サニーゴはきっと、ヒドイデのためにと修行したんだろう。

その恩恵を授かれている訳だから、リア充も悪くない。


ミミッキュ「何こっち見てんの」

イワンコ「え、見てた? ごめん」

ミミッキュ「いや別に謝んなくてもいいでしょうに……」
 ▼ 84 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:26:26 ID:qi0YQ1wY [6/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんな会話をしていると、バクガメスが立ち上がり、言った。


バクガメス「聞いてくれ。イワンコの記憶の謎だが、ウルトラビーストと呼ばれるべき存在が関わっているらしい」


「来ましたか」とヒドイデが呟いた。

皆、真剣な顔でバクガメスを見詰める中、1匹、ひときわ驚いたような顔を浮かべている者がいた。

その気配が、音で感じられ、僕は彼の――コスモッグの方を見やる。

バッチリ目が合って、慌てて逸らした。

コスモッグは、何かを知っている?


バクガメス「ウツロイド。こいつは調べてもなんもわからなかったが、他にもウルトラビーストはいると考えられる。

      みんな、余力があれば情報を集めてくれ」


そう言って、バクガメスはスープを一息に飲み干した。

それから「ごちそっさん」と呟き、僕には「詳しい流れはイワンコから聞け」とだけ言い放つと、そのまま自らの部屋へと歩き始めた。

恐らく、また本と向き合うのだ。

あれ程の本を、どこから調達して来たのだろう。まあ、本屋から強奪して来たという所か。
 ▼ 85 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:27:55 ID:qi0YQ1wY [7/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サニーゴ「ウルトラビーストってなんですかイワンコさん」

イワンコ「それはよくわからないんだよね。ウツロイドってポケモンに出会ったんだけど……」


僕たちは、今日の出来事について皆に語って聞かせた。

ジジーロンの協力を取り付けた段で、サニーゴが「ええっ?! 凄い!」と感嘆の声をあげる。


ヒドイデ「盗賊なのに、ポケ助けして、あまつさえ味方に、だもんね。でも、僕は一生君の味方だから」

サニーゴ「そんなのわかってるよヒド君……」


サニーゴが顔を赤らめる。本当に、このカップルは懲りない。というか、どうやって今の発言からのろけにつながったのだろう。

ごほん、とひとつ咳払いをすると、2匹は我に返ったようにこちらを振り向いた。


ミミッキュ「いい加減にしてよホント。あーもう爆発しろ爆発しろ……」

ラランテス「ミミッキュ。あんたもいい加減にするんだよ。話を逸らすとかないからね!」

ミミッキュ「あ、すいませんボス……」

イワンコ「でもまあ、そのぐらいなんですよ、わかった事って」

ラランテス「ああ、そうなのかい。ま、仕方ない。これからも頑張るんだよ!」
 ▼ 86 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:28:49 ID:qi0YQ1wY [8/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
こうやって話している間中、コスモッグの方に意識を寄せていた。

唐突なのろけとそれに対する呪詛のせいで妨害されたりもしたが、けれど、ひとつ、疑惑は確信に変わる。


コスモッグ「ふああ……眠いや」


僕たちに割り当てられた部屋の中、コスモッグがひとつあくびをした。

ミミッキュは、もうすやすやと眠っている。寝付きが相当にいいらしい。

ずっとそうだ。この1週間、僕たちが話す間に、もう眠りに落ちている。


イワンコ「ねえ、ちょっといい」

コスモッグ「……何?」

イワンコ「君はウルトラビーストに関して、何かを知ってる。だよね?」

コスモッグ「え? なんで? 別に知らないよ」

イワンコ「コスモッグ、驚いたような顔をしてたよね」

コスモッグ「気のせいじゃない? そんな事ないと思うけど」

イワンコ「まあ、じゃあいいや。お休み」
 ▼ 87 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:30:12 ID:qi0YQ1wY [9/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
隠す。彼はそう決めた。

誰が、どんな事情を抱えて犯罪へ走ったのか。詮索されたくないという以上、そこを突き詰める事はできない。

だってそれは、フラワーズにおける唯一のカプだから。

他でもない、コスモッグはメンバーなのだ。

彼の事情を、詮索はできない。


コスモッグ「あ、うんお休み」


そう彼は返事をして、そのまま太平楽に船をこぎ始めた。


イワンコ「でも、僕は諦めないよ」


小さく、誰にも聞かれないように、胸の内でそう呟く。

幸い誰にも聞かれていないようだった。

すぐに、コスモッグから寝息が聞こえてくる。もう眠ったらしい。僕も、寝よう。

布団の上で丸くなる。すっかりこの藁布団にも慣れてしまった。それに、初めての戦いの疲れもある。

僕は、あっという間に眠りの世界に落ちて行く……。
 ▼ 88 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:32:03 ID:qi0YQ1wY [10/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
朝の陽射しに目が覚めた。

コスモッグはもう既に起きていた。

太陽の光を存分に浴び、気持ちよさそうにのびをしている。


イワンコ「おはよ、コスモッグ」

コスモッグ「ああ、おはよー」

イワンコ「気持ちいい朝だね」

コスモッグ「うん」


会話に困って、そんなどうでもいいような事を話し始める。

互いに、昨日の事をなかったようにしたくて、会話を続けた。
 ▼ 89 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:32:45 ID:qi0YQ1wY [11/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「でもさー。ウツロイドって、誰なんだろうね。僕、初めて聞いたよ」

コスモッグ「さあー。わかんないな」


その瞬間、コスモッグから、ぐう、と間の抜けた音が鳴る。

コスモッグが恥ずかしそうに向こうを見た。


コスモッグ「お腹……空いたね」
 ▼ 90 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:33:52 ID:qi0YQ1wY [12/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
朝食の時間はすぐだった。

サニーゴの穏やかな声に呼ばれ、皆、というよりミミッキュが起き出して来る。


ヒドイデ「ボスまだ寝てんのか。起こして来るわ」

イワンコ「あっ、僕が行くよ」


ヒドイデを制し、したっぱにあたる僕がその役目を買って出た。

ヒドイデは、けれど「やめとけよ……」と怯えたように言う。


ヒドイデ「俺はこのトゲで身を護れるけど、ボスを起こすなんてそんなの……!

     とにかく、俺は盗賊。犯罪者だが、殺しだけはやる気がない。悪い事は言わん、やめとけ」

イワンコ「え、そんな……」


そんなに酷いのか、彼女の寝相は。
 ▼ 91 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:34:42 ID:qi0YQ1wY [13/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこまで言われてしまうと、怖いもの見たさというか、そういう不合理極まりない衝動が胸の内に溜まって来る。


サニーゴ「危険を自ら引き受ける、ヒド君素敵……」

ミミッキュ「爆発しろ爆発しろ……」

ヒドイデ「いや、充分爆発してるから! これを引き受けるだけで充分!

      そんなに言うなら試してみるか? 1発無傷で耐えらえるお前ならなんとかなると思うけどさ」

ミミッキュ「わかったわよ! そのかわり無事に戻って来たら、のろけるのやめてよね!」

ヒドイデ「わかった」

サニーゴ「ヒド君!」


そんなこの世の終わりのような顔を作らない。

ミミッキュはほくそ笑みながら……と言った表情を上半身に浮かべ、ラランテスの部屋へ向かった。
 ▼ 92 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:35:51 ID:qi0YQ1wY [14/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
直後、悲鳴が響き渡る。ヒドイデは「ひいっ!」と悲鳴をあげた。

サニーゴがいたわるようにその背中をさする。


イワンコ「コスモッグ、これ何?」

コスモッグ「僕もわかんない。たまにヒドイデが朝酷い顔でごはん食べてたんだけど、こういう事だったんだ」


僕が来てから、そんな光景は一度も見られなかった。

たぶん、僕の指導が楽しかったのだろう。

それを終わらせてしまうと、楽しみが足りず、朝寝坊、ってところか。


ヒドイデ「最近来ないなって油断してたぜ……。ったく、俺も酷い事しちまったな。

      みんな、ミミッキュのために、せめて祈ろう。安らかに眠れますように。なむなむ」


なむなむ。というより、これを定期的に耐えているヒドイデも凄いと思うのだが。

ミミッキュのばけのかわは、確かに敵の攻撃を一度、無効化する。それに、この悲鳴をあげさせたのだ。

ラランテス、修行の時はやはり手抜きだったのだろう。本気を出すと、敵うはずもなかったのだ。
 ▼ 93 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:37:19 ID:qi0YQ1wY [15/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
皆、瞼を閉じて、祈りを捧げている。

と、声が聞こえた。


ミミッキュ「か、勝手に……ころ……すな……ガクッ」


ラランテス「ふいー! 久々にひと暴れするのはやっぱ気持ちいいね!

       運動したらお腹空いて来たよ! サニーゴ、よろしくね!」

サニーゴ「は、はいぃっ!」


僕は、ミミッキュの様子を見る。

気を失ってはいるが、過度な外傷は見受けられない。

どうにも命の危険はないようで、気を失っているのは精神的な問題ではないかと、僕は読んだ。

だから僕は、気軽に声を掛ける。
 ▼ 94 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:37:59 ID:qi0YQ1wY [16/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「生きてますかー」

ミミッキュ「なんとかね……。半分寝ながらゼンリョクで仕掛けてくるんだもん……ばけのかわを駆使してかわすのが精いっぱい。

      あたしじゃなかったら死んでたね、うん。

      賭けはあたしの負け。でもいつか、あいつらののろけを止めてみせる……」


そういって、彼女は首を折った。

コテン、と可愛らしい音を聞いた気がする。

コスモッグ「あっ……。まあ、無事ではいるみたいだし、大丈夫でしょ」

イワンコ「だね。ケガも浅いし、すぐ治るでしょ」

コスモッグ「うん。それにしても……ぷくく」


僕たちは、顔を見合わせて、笑う。

それはもう、ただ、面白くって。

先程までの暗い会話を吹き飛ばしてしまう程に、僕たちは、笑った。
 ▼ 95 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:39:04 ID:qi0YQ1wY [17/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕はコスモッグに関して触れられないままに、盗賊として仕事をこなした。

そもそも、再びラランテスと宝探しに行ってしまったのだ。

ジジーロンとの約束は、あの日から一週間。

それまでは、何もできない。

仕事をこなしつつ、ウルトラビーストに関しての情報を探るが、まあ、何も当たりは引けない。

そんな風に悶々と過ごしながら、4日ぐらい経っただろうか。

仕事終わりにミミッキュと別れ、情報を探していた時の事だ。
 ▼ 96 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:39:51 ID:qi0YQ1wY [18/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
どこかで感じた事のある臭いを嗅ぎ、僕は警戒を強める。

確か、探検隊リアライズ。

あの時ミミッキュを捜していた探検隊だ。

出会ってしまうと面倒なのだが、それでも、探検隊、となると何かしら情報を持っているかもしれない。

悪人を追いかけるようなチームなのだから、世界を揺るがすような事件につながっているかもしれないという僕の存在に、興味を持たないはずがない。

幸い、まだ僕は、仕事中誰かに顔を見られるヘマはおかしていなかった。

探検隊と話しても、問題はないだろう。

仕事中に、臭いが沁みついていないか。

草むらで何週も転がり、草の臭いを体になすり付け、僕は立ち上がった。ここまですれば大丈夫だ。証拠は、完全に消えたはず。

僕は、リアライズの2匹の臭いがする方へ足を向けた。
 ▼ 97 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:40:54 ID:qi0YQ1wY [19/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チラーミィ「……てください! 僕……が、必……てみ……から!」

店主「……」


会話が漏れ聞こえ、ドキリとした。

僕たちが狙った店の入り口で、2匹が会話している。

完全に僕たちの件に関わる依頼だ。

動揺を押し殺し、軽く深呼吸。そして、彼らの方へと歩く。

数歩歩き、向こうもこちらに気付いたらしい。

ニューラが、何かしら僕を見て小さく呟く。口の動きからして、単音を発しただけだ。深い意味はないはず。
 ▼ 98 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:41:30 ID:qi0YQ1wY [20/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


チラーミィ「任せてください! 僕たちが、必ず捕まえてみせますから!」

店主「頑張ってね」


そう言って、彼女は店の扉を閉めた。これから警戒を強めると言っていた。けれど、まあ、恐らく意味はない。

同じ所を2度狙う程、彼らも馬鹿ではないのだ。

まったく、あの時に逃がしてしまったから、事件が広がっている。


ニューラ「ったく、セコイ盗賊の癖して、なかなかどうして逃げるスキルは高いのよね……」


彼女の母親は、本物の盗賊だ。名前を言えば、誰でも知っているような。

だからこそ、彼女はこの事件に入れ込む。

近頃ここら一帯で多発する、盗賊による窃盗事件に。
 ▼ 99 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:42:03 ID:qi0YQ1wY [21/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そもそもの事件の発端は、ヒドイデが盗みを働いている事を店主が発見した事だ。

その店主は、毒を持つトゲにやられ、全治数日のそれなりに酷いケガを負った。

そこから、僕たちはこの街に呼ばれた。

街をあげての対策を推奨したのだが、やはり「俺の店に限って」という心理が働くのか、あまり誰も乗り気にはならず、仕方なく僕たちだけである店に張り込んでいた。

その店からは、もちろん報酬を受け取った。

その内9割はギルドに差っ引かれるという絶望が待っているのだが、それでも、いやだからこそ、貰える物は貰っておきたい。

もちろん、そう多くは貰えない。警戒に出せるお金が少なくなるのは、やはり警戒心の薄さなのだろう。

けれど、この場合に関して言えば、貰えないでもよかったのだ。

だって、結論から言うと、僕たちは彼らを逃してしまったから。
 ▼ 100 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:42:43 ID:qi0YQ1wY [22/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュが盗みを働いているのを発見し、追尾する。

しかし彼女は、ばけのかわを巧みに使いこなして、僕たちを振り切った。

イワンコに情報を聞きダンジョンに突入したが、結局彼女を見付けられなかったのだ。

とぼとぼとそれを店主に報告、当然叱責を受け、僕たちは立場を失った。

今だって店主は笑ってくれたけれど、内心どうなのだろうか。

想像もしたくなかった。
 ▼ 101 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:43:23 ID:qi0YQ1wY [23/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――ひとつ、わかった事があった。

それは、恐らく彼らは、徒党を組んでいる、即ち盗賊であるという事実。

ニューラに言わせると、それで盗賊なんて甘い、との事だったが、僕からしたら徒党を組んで盗みを働くなんて立派な盗賊だ。

彼ら彼女らは、お尋ね者。たとえ白い目で見られようと、僕たちは、捕まえないといけない。
 ▼ 102 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:44:08 ID:qi0YQ1wY [24/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニューラが、「あ」とひとつ呟き、僕は我に返る。


チラーミィ「どうしたの、ニューラ」

ニューラ「あの時のイワンコだ」


イワンコは、こちらに向かって走って来る。

明らかに、僕たち目当てだとわかるような、わき目もふらない、一直線な走り。

どうかしたのだろうか。


イワンコ「お久しぶりです」

チラーミィ「久しぶり。ねえ、いなかったよミミッキュ!」

ニューラ「あたらない。あたしたちの足が遅かっただけに決まってるでしょ」

チラーミィ「それはわかってるけど……あっ、ごめんイワンコ」


イワンコは、困ったような視線をこちらに向けていた。当然だ。彼には、何の非もない。


ニューラ「なんか用でもあるの?」

イワンコ「はい。少し、僕の素性に関して調べて欲しくて」
 ▼ 103 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:46:16 ID:qi0YQ1wY [25/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
自分の素性を調べてくれ。

この発言、どう考えても、自分は記憶喪失だと主張している。

記憶をなくしたポケモンとなると、数匹心当たりがある。

ポケダンズのピカチュウさん、それから救助隊、調査団……。

このピカチュウさんには、ギルドにいた時代、お世話になった。

そもそも、彼が僕のギルド入団の動機なのだ。


ニューラ「記憶喪失かなんか」

イワンコ「はい」

チラーミィ「元ニンゲン……だったりする?」


イワンコの顔に、驚愕が浮かんだ。ビンゴ。僕は小さく呟いて、それから笑う。


チラーミィ「……元ニンゲンで、記憶喪失。何件か知ってるよ、そんな事件」

イワンコ「へぇ……へぇ?!」


一度相槌を打って、それから改めて驚き直したような間が開いた。まあ、そんなものだろう。
 ▼ 104 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:47:15 ID:qi0YQ1wY [26/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
星の停止。世界の時が止まる。そんな事件に身を投じて行った探検隊、ポケダンズ、ピカチュウとナエトル。

彼らはその事件を食い止めた。

現在、ナエトルは既に進化し、サメハダ岩でゴウカザル、エンペルトを加えた4匹で生活している。

目下、目標としている探検隊であり、同時に皆の憧れである。

語りたい事は尽きないが、僕は事件のあらましだけを選んで伝えた。

どこぞの後輩探検隊は、ポケダンズとなると目の色を変えて何時間でも話していたっけなぁ、と少し感慨に耽る。

そういえば調査団の2匹はナエトルとピカチュウのタッグだっけ。改めて考えるとポケダンズさんと同じだ。


イワンコ「……なるほど。あれはそういう」

チラーミィ「あれ?」

イワンコ「ああ、いやいろいろ調べてて。その中でちょっと聞いたんですよ」

ニューラ「で? 素性に関して調べるの?」

イワンコ「できればお願いしたいなって。僕という存在が世界の危機を救う可能性もある訳ですよね」

チラーミィ「うん」
 ▼ 105 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:48:15 ID:qi0YQ1wY [27/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
隕石の衝突、星の停止、世界のリセット、石化。

起きかけた事件は様々だが、すべてにおいてキーとなったのは元ニンゲンのポケモンとそのパートナー。

心配なのは、彼にそのパートナーがいる気配が見えない事なんだけど。

たいてい最初に出会ったポケモンがパートナーとなるのだけれど、石化事件の調査団に関して言うとその限りではないし。


チラーミィ「誰か、こうなってから凄く親しくなったポケモンっている?」

イワンコ「え? まあ、何匹か」

チラーミィ「誰?」

イワンコ「えっと……ジジーロンとか、サニーゴとか」


ジジーロン。この近辺の物知り長老だったっけ。

サニーゴは聞いた事ないが、別に住んでいてもおかしくもなんともないな。


チラーミィ「わかった。僕たちはこれ以上の事を知らないけど、何かわかったら……どこに伝えればいい?」

イワンコ「ジジーロンのとこにお願いします。

     あの、僕が調べた結果なんですけど、ウルトラビーストと呼ばれる生物が何か関わっているんです。

     その中でも、特に、ウツロイド」
 ▼ 106 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:50:39 ID:qi0YQ1wY [28/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チラーミィ「ウツロイド……」

ニューラ「……ウルトラビースト?」


ウルトラビースト。聞き覚えがあるような……。


イワンコ「まだ、そのぐらいしかわかってないんですけど、とにかく、僕の記憶の中で、そいつが関わってるんだと思います」


そこで、考え込んでいたニューラが声をあげる。


ニューラ「ウルトラビーストか。あのサーカス団エクリプスの事件のだ」

チラーミィ「エクリプス? あ!」

イワンコ「エクリプス……日食?」

チラーミィ「そう。いろいろと事件があってね」


彼らがとある街でサーカスを伝説のポケモンに見せる事で、日食の際にやってくる、ウルトラビーストの侵略を止められる、という。

僕たちは、この程度の概要しか知らない。けれど、その概要だけでも伝えておこうと思った。
 ▼ 107 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:51:42 ID:qi0YQ1wY [29/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「……ウツロイド、そんな危険な生き物には見えなかったけど……」

ニューラ「もしかしたら、細かい裏はなんかあるのかもしれない。あたしたちが知ってるのは概要だけ。世間一般に知らされたようなね」

イワンコ「……とりあえず、ジジーロンの家、わかります?」

チラーミィ「あー、たぶんわかるよ。街外れの森の近くでしょ?」

イワンコ「はい。お願いします」

チラーミィ「任せときなって。じゃ、僕たちはもう行かないと! じゃあね!」


イワンコはそれに応じ、別れの言葉を言った。

僕たちは振り返ると、歩き始める。そして、会話を始めた。


ニューラ「……なかなか凄い展開になって来たね」

チラーミィ「盗賊を追いかけてる探検隊が、世界の危機に巻き込まれる、か。どうなるのかな」

ニューラ「とにかく、まずはジジーロンの家を特定しよう。だいたいの場所はわかるけど」

チラーミィ「だね」
 ▼ 108 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:52:15 ID:qi0YQ1wY [30/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


少し焦るシーンもあったが、無事依頼完了。

幸い、疑われたような気配はなかった。

恐らく、彼らの情報収集能力は高いはずだ。

そうでなければ、犯罪者グループを追いかけたりできないだろう。

今日の収穫に、僕はにんまり笑みを浮かべながら、アジトへの道を歩いた。

彼らが味方になってくれるなら、これ以上の展開はない。

――と、喜んでいたのも束の間、アジトにてとんでもない事態が発覚する。
 ▼ 109 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:53:20 ID:qi0YQ1wY [31/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
まず初めに感じたのは、違和感だった。

明らかに、気配が足りない。

臭いの強さが、おかしいのだ。

サニーゴだけがここにいるらしい。


イワンコ「サニーゴ!」


声をあげると、すぐに返事がある。


サニーゴ「イワンコ! コスモッグがいなくなったの! 今、みんなで捜してる!」


コスモッグがいなくなった。

何かを知っているコスモッグが。

僕は考えを巡らせ、サニーゴの言葉を遮るように叫んだ。


サニーゴ「ボスと一緒にお宝探してて……気付いたら消えてたって……」

イワンコ「行って来る! 僕は、ハナがきく!」

サニーゴ「私も行きます!」
 ▼ 110 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:53:57 ID:qi0YQ1wY [32/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
2匹がかりで、森の中を捜す。

ラランテス曰く、この森の中ではぐれたらしい。

敢えてここまで戻って来ておいて逃げたのかがよくわからないが、もしかすると、ここにウツロイドが現れたのかもしれない。

だから、逃げた、とか。

だとすると、僕には察しが付く。

彼女の、ウツロイドの臭いは、どこか独特で、かつ嗅いだことのあるような臭いがした。

そんな感覚、未だかつて感じた事がない。彼女を前にした時を除いて。

そう、例えばこんな……こんな?


イワンコ「近いっ!」

サニーゴ「えっ?!」

イワンコ「あいつの臭いがしたんだ! コスモッグじゃない、ウツロイド!」


と、爆音が響く。

僕はサニーゴと顔を見合わせ、頷いた。

それから駆け出す。その音がした方へ。
 ▼ 111 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:54:27 ID:qi0YQ1wY [33/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
白く、長い脚を、ラランテスの鎌が受け止め、そのまま掴み、切り裂く。

白い体躯でとびかかると、ラランテスも飛び上がり、そして鎌と足の衝突。

爆音、爆風。

白いその生き物から、ウツロイドに似た臭いが僕の鼻腔へ届く。

それが、僕の感じた全てだった。


サニーゴ「ボス!」

ラランテス「逃げな! あんたたちに敵う相手じゃないよ!」


それはそうだろう。

白い脚、白い体躯。僕が認識できるのは、その体色のみ。

あまりの素早さに、残像すら見えないのだ。

むしろラランテスが対応している事の方が理解に苦しむ。
 ▼ 112 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:55:00 ID:qi0YQ1wY [34/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
けれど、逃げる訳にはいかない。

恐らく、白い生き物もウルトラビーストの一種だ。

ウツロイドと同じ臭いがするつまり、関わりがある。

その可能性といえば、ウルトラビーストでしかありえない。


イワンコ「そこのウルトラビースト! なんでいきなり戦ってるんだ!」


白いのが、動きを止めた。

その瞬間、サニーゴが頬を赤く染め、それから首を振る。「ダメダメ、私には、ヒド君がいるんだから……」

何を言ってるのだろう。僕は頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。と、その瞬間。


???「あなたもわたくしの美貌に気付けない鈍感体質なの?」


白いのが、僕に向かって言った。
 ▼ 113 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:55:50 ID:qi0YQ1wY [35/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテス「ふんっ、自分で自分の事を美しいとか言うような奴が美しいもんか」

イワンコ「……はぁ?」

???「でも、あなたの戦い方、美しくってよ。わたくしの蹴りに対応したポケモンは、あなたが初めてですわ」

ラランテス「誉めても何も出ないよ。――いきなり戦いを仕掛けて来た訳、聞かせてもらおうか」

???「まだ決着も付いておりませんが?」

ラランテス「もっとやるかい? これ以上やったら、あたい、止まらなくなりそうだけどねぇ」

???「ええ、是非とも決着を付けたい物です。あなた様の美しさ、もっと味わいたい……」

イワンコ「何の話かさっぱりわかんないんですけど! あなたウルトラビーストでいいんですよね?!」

???→フェローチェ「ええそうよ、鈍感君。申し遅れました、わたくしはフェローチェです」

イワンコ「……ウルトラビーストの一種。ウツロイド、コスモッグ」


フェローチェが、驚いたような顔を浮かべ、それから笑う。

カウントを初めてからちょうど31秒、笑い続けた。
 ▼ 114 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:56:34 ID:qi0YQ1wY [36/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そして、言う。


フェローチェ「なんだ、知ってるんじゃない。コスモッグの居場所」

ラランテス「あたいたちは、コスモッグを捜してる。あいつは、大切な仲間だから」

フェローチェ「……捜してる?」


フェローチェが、不意に言葉を呑んだ。

それから7秒、彼女は言う。


フェローチェ「どうやら、わたくしの早とちりだったようです。わたくしも、彼を捜しています」
 ▼ 115 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:57:33 ID:qi0YQ1wY [37/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それから彼女は、説明を始めた。

僕たちから、コスモッグの気配を嗅ぎ取った彼女は、ラランテスに攻撃を仕掛けた。

以上。それがさっき見た光景までの原因。


イワンコ「それはわかったんですけど、コスモッグとはどういう関係なんですか」

フェローチェ「気付いてるんじゃなかったの? 鈍感君」

イワンコ「何かあるなって思っただけなんですけど」

フェローチェ「……なぁんだ。君、プラフの使い方上手いね」

イワンコ「教えてください。僕の記憶の鍵が、あなたたちウルトラビーストなんです」

フェローチェ「記憶……ああ。ウツロイドのお気に入りの片割れか! この鈍感君がねー。へー」

ラランテス「ふざけてないでとっとというんだよ!」

フェローチェ「ええ、あなた様に免じて、教えてあげますわ。彼は、ある意味で、ウルトラビーストの王子なのです」
 ▼ 116 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:58:37 ID:qi0YQ1wY [38/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「王子? コスモッグが?」


戸惑った声をあげる。

ラランテスが続きを促した。


フェローチェ「ある意味では、ですけどね。厳密に言うと彼は、わたくしたちの仲間なのです。

       今はまだ弱いですが成長すると太陽もしくは月の力を使いこなせるようになれますのよ」

イワンコ「太陽、月」

フェローチェ「ええ。太陽と月が交わる時、彼は産み落とされ、そしてわたくしたちはこちらへ来られるのです」


太陽と月が交わる時訪れる侵略者。リアライズから仕入れた情報と、今の所違わない。

日食が、彼らの訪れるためのトリガーになる。

あのバトルを前にして、侵略しに来たのか、とはさすがに尋ねられない。今わかるのは、たぶん、これが限度だ。

僕はフェローチェに言った。


イワンコ「ありがとうございます。コスモッグ、一緒に捜しましょう」
 ▼ 117 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 20:59:19 ID:qi0YQ1wY [39/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フェローチェ「いえ、結構です。わたくしたちの問題です。あなた方がどれだけ彼と絆を結んだのかはわかりませんが」

ラランテス「断られても、あたいは捜すよ!」

フェローチェ「別にそれは止めません。けれど、見付かり次第、わたくしたちに引き渡して頂けませんか」

ラランテス「理由は」

フェローチェ「ウルトラビーストとして、この世界をどう思うか。彼に聞かなければなりませんので」

イワンコ「……今んとこ、あなたはどうですか?」

フェローチェ「すごぶるいいですわ。ラランテス様の美しいバトルと出会えて」

ラランテス「そうかい、それは光栄だね」

フェローチェ「ですが、わたくしのみの意見では足りませんので。全ての意見を統合し、この世界を見なければなりません」

ラランテス「まあ、引き渡すかはコスモッグ次第だね」

フェローチェ「それで構いませんわ。それでは、ごきげんよう。わたくしは、コスモッグを捜します」

ラランテス「そっちが見付けても、一回はこっちに連れて来てくれよ」

フェローチェ「わかってますよ」


そう言うと、彼女は飛び去った。

あっという間に姿が消え、後には僕たち3匹だけが残されていた。
 ▼ 118 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 21:00:01 ID:qi0YQ1wY [40/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サニーゴ「はっ! 私、今まで何を!」

イワンコ「何も。どうしたの?」

サニーゴ「……なんで2匹とも、フェローチェの美貌にやられないの? あのフェロモン、♀なのにちょっとヤバかった。

     ヒド君の事を思い出して耐えたけど……」

イワンコ「フェロモン……感じましたか?」

ラランテス「いいや? ちっとも」


鈍感と言われた訳がわかった気がした。

恐らく、彼女は自らのフェロモンに絶対の自信を持っている。

僕もラランテスも気付かなかったからこそ、「鈍感」なのだ。

自分の実力を盲信しているような気もする。気付けない方が異常。

まあ、害がなかったからよしとしよう。


ラランテス「とにかく! 話はわかったよ! コスモッグはウルトラビーストだ!

      でも、あたいたちの仲間でもある! なんとしても見付け出すよ!」

イワ・サニ「おー!」
 ▼ 119 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 21:00:50 ID:qi0YQ1wY [41/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アジトに戻って、皆の話を聞く。

と言っても実入りは何もなく、コスモッグの気配すらなかったという。

僕とサニーゴがあらましを話すと、バクガメスから質問が飛んだ。


バクガメス「なあ、コスモッグがウルトラビーストだってんなら、イワンコ、お前なんも感じなかったのか」

イワンコ「あ、いや、特には……」


けどそうか。改めて考えると、おかしいのだ。ウルトラビースト特有の臭いが、コスモッグからはしなかった。


バクガメス「……太陽か月。そんな伝承があったな。お前が探検隊から聞いて来た、エクリプスだ。

      その伝承だが、ハッキリ言ってしまうと、お前が聞いて来た以上に何かある訳じゃない。

      あいつらは侵略者だ。最近こっちに来てうろついてやがる理由は謎だがな」

ミミッキュ「……だけど、ホントにそうなんですか? ウツロイド、そうは見えなかった」

ラランテス「フェローチェも、そんな悪い奴じゃあなさそうだったよ。まあ面倒な奴ではあったけど」

バクガメス「それを謎だと言ってるんだ! ちったぁポケモンの話聞きやがれ」

ラランテス「ったく……もう少し穏やかに言えないのかい?」

バクガメス「穏やかに言う必要もねぇだろ」
 ▼ 120 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 21:01:37 ID:qi0YQ1wY [42/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「コスモッグが来た時って、どうだったんですか?

     事情を探るのはご法度みたいなんですけど、今回ばかりは何か関連してるかもしれない」


ふと思い立って、口火を切った。


ヒドイデ「……ただ普通に、迷子、助けて、だった気がする」

サニーゴ「ヒド君の言う通りだよ」

ヒドイデ「よかった……」


のろけが始まりそうだったので慌てて遮る。


イワンコ「それであってますか?」

バクガメス「ああ。止めたんだが、ラランテスが……」

ラランテス「困ってるなら助ける。当たり前じゃないか」


盗賊が当たり前の善を語る違和感。

苦笑を押し止め、僕は考え込む。
 ▼ 121 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 21:02:19 ID:qi0YQ1wY [43/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
迷子。どういう事だ?

ウルトラビーストたちから逃げ出しているのかもしれない。このタイミングで姿を消したのは、僕から逃れるためか、フェローチェから逃れるためか。

恐らく、後者だ。自分だから言うのではない。この森まで帰って来て、そこから消息を絶ったというのがその証拠。

僕が怖いなら、もっと遠くで逃げるはず。


バクガメス「ほう、なかなか面白い事言うな。ウルトラビーストから逃げている……。

      一考の価値はある。少し検討してみるわ」


僕が考えを伝えると、バクガメスは考え込んでしまう。
 ▼ 122 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 21:03:01 ID:qi0YQ1wY [44/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミッキュ「少しは考えてる事を伝えてくれてもいいのに。調べた結果だって、たぶん結論が出るまであたしたちには言わない気だよ」

ラランテス「ホントだよ。あたいたちもいるってのにさ。まあいいや、メシだ! 腹が減っては戦もできないしね!」


その声を合図にサニーゴが立ち上がり、給仕を始めた。

僕はその光景を眺めながら、少し考えてみる。

コスモッグは、何が狙いなんだろう。

盗賊団フラワーズに、なぜ接近して来たのか。

各々の事情を詮索しない。そのタブーが、足を引っ張る。

絶対的に、情報が足りない。僕は、早々に諦めた。

このタイミングでバクガメスは何を考え込んでいるのだろう。何かがわかるとは到底思えないのだが。

思わず、ため息が零れた。
 ▼ 123 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 21:03:59 ID:qi0YQ1wY [45/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
幕章

家に帰る。誰もいない、空っぽの部屋に。

あたしの母は、仕事が忙しく、そして自分の新たな恋愛にも忙しくで、あたしに構うヒマもない。

いつから、こうなってしまったのか。わかってはいる。父が死んだ、小5の夏。

あたしは、突っ込んで来た車をかわしきれなかった。

それを、父が助けてくれた。

代わりに、父は――

あれ以来、元々忙しかった母は看護師の仕事により熱心に打ち込んだ。

お金。ひとりの人間を育てるのに、避けては通れない問題。けれど、それに執着し過ぎた結果、子どもの事が目に入らなくなっている。

文句を言うつもりはない。母は、きっと、孤独なのだ。娘の孤独にも気付けない程に。

そう考えて、あたしは、また本を開く。けれど、文字は目を横滑りし、何も入って来ない。

岩根広大。彼の視線が、未だあたしを貫く。

恋、ではない。ただ、純粋に、興味が湧いた。

ううむ、とあたしは唸り、窓の外を眺めた。

冬の冷気が、頭を冷ます。
 ▼ 124 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 21:04:38 ID:qi0YQ1wY [46/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


ふと気付く。

闇の夜空に、何か、変なひずみ……?


 ▼ 125 1◆J44kAZeDOM 17/03/31 21:05:22 ID:qi0YQ1wY [47/47] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたしは、家を飛び出した。

何かが変わるような、そんな訳のわからない予感に襲われて。

そのひずみを目指して、ただ走った。

虹はどれだけ走っても近付けないが、驚いた事に、それはきちんと距離を詰められる。

何もかも投げ出してしまいたい。

あのひずみの中に、全部、ぶち込んでしまいたい。

そんな衝動が、あたしを襲い、あたしはひたすらに走った。

しかし、その道中で、それは消えてしまった。

荒い息を吐きながら、けれど、何かの突き上げるような衝動は、あたしの中に残っていた。
 ▼ 126 ミッキュ@おいしいシッポ 17/03/31 23:31:34 ID:jSFs4ZnU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そいやピカチュウとナエトルも同じ世界のお話だったか
 ▼ 127 ラピオン@やわらかいすな 17/04/01 13:24:59 ID:Q3mY6htY NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 128 ジスチル@ネットボール 17/04/01 16:00:55 ID:aO.iWQpc NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
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