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【SS】アシレーヌ「ポケモンサーカス団エクリプス!」

 ▼ 1 1◆J44kAZeDOM 17/03/28 06:26:17 ID:cWAt11WY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







――太陽と月が交わる時、新たな光が産み落とされると言う。






 ▼ 18 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:01:14 ID:o.RG/8e6 [1/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
食料は別に特別ではない。荷物に入っている。

保存用リンゴを手に取り、その体勢で1つ頬張る。煌めく星空の元、何も考えないで、ボーっとしていた。

冷たい風がフードを撫で、軽く揺らめいた。

フードの前面を閉ざし眠る体勢に入って僕は、そのまま眠りに落ちた。
 ▼ 19 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:02:25 ID:o.RG/8e6 [2/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フードから漏れ入る朝の陽射しに目を覚まし、それから徐々にフードを開く。

抱き抱えていた荷物はきちんとそこにある。中を確認するが、なくなった物は何もない。

行くか。

僕は起き上がり、1つ伸びをすると、イスカー目指して再び足を進め始めた。

穏やかな、陽射し。何かが起きる気配もない。

けれど、確かに、何かが動こうとしているのかもしれなかった。

――

イスカーに辿り着いたのは、結局その日の夕方。

今から情報集まるだろうか、と沈みつつある太陽に背を向けながら考えている内に夜になってしまうという大ポカをしでかし、結局宿屋へ直行した。

前金で代金を支払った。一応領収書は貰っておく。経費で落とせる。

割安とはいえさすがに経費は割り引けない。損が出るのは厳しい。
 ▼ 20 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:03:28 ID:o.RG/8e6 [3/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そもそも、もしエクリプスが近付いて来ていたとしても、それこそエクリプスが止めてくれる。

文面だけ見ると訳がわからないけれど、でも僕は、もうそこに関与する必要もない。

だから、これは、あくまで仕事なのだ。

損を出す訳にはいかない。僕だって、2匹分の生活を背負っている。

そしていつかは……と思っていたが、どうにも僕とアママイコでは子どもは産めないらしい。

草、ゴーストタイプ、特性新緑なのにタマゴグループは飛行しかない。ううむ、謎だ。ジュナイパーという種族は何者なのだろう。

話を戻して。

布団に潜りながら、明日は朝一で天文台に行こう、と考え、そして思う。

……天文台って、夜も活動してるのでは?

星の観測など、仕事はむしろ、夜の方が多そうだ。

即断即決は美学に反するが、それでもどう考えてもその考えが胸を離れないために僕は立ち上がり、おかみさんに声を掛ける。


ジュナイパー「すいません、今からちょっと外出してきます」

おかみさん「はいはい。帰って来たらそのまま部屋へどうぞ」


了承は得た。さあ行こう。と息せき切って歩き始める。
 ▼ 21 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:04:12 ID:o.RG/8e6 [4/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
夜闇に隠れて歩くのは得意だが、生憎不要だ。

急ぐ必要はまだないが、かと言って過度に慎重になる必要もゼロ。

つまり、普通に歩いたり飛んだりしてればいい。

もう月は沈んでしまっている。昨日一昨日から鑑みるにまだ三日月、満月には程遠い。

日暮れのすぐ後に沈んでしまう。

星が瞬く空を見上げ、けれど何も考える事はなかった。
 ▼ 22 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:04:45 ID:o.RG/8e6 [5/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イスカー天文台。

その文字が書かれた看板の下に立つ。

警備員とかもいるだろう。もちろん疚しい事はないので普通に頼み込めばいいのだが。

この天文台は、昼は科学館としての役目を果たすが、夜は観測施設。

そう、もらったパンフレットに書いてある。

僕の考えは、半分辺りで、半分外れだ。昼に行った方が訊きやすそうではある物の、夜も活動している。


ジュナイパー「すいません」


室内に入りそう声を掛けると、受付の所に座っているポケモンがこちらを見た。


「夜中は開いてないよ」

ジュナイパー「いえ、ひとつ聞きたいんです。次のエクリプスがいつなのか。

       わかってる限りで構わないんですけど」

「一般人には教えられねぇよ」

ジュナイパー「元とは言え、サーカス団エクリプスのメンバーでも、ですか?」
 ▼ 23 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:05:40 ID:o.RG/8e6 [6/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そう言うと、彼ははじかれたように立ち上がり、受付の仕切りを跳び越えて僕に詰め寄って来た。

鬼気迫る表情が、僕を少し驚かせる。


ジュナイパー「ど、どうかしましたか?」

「お前エクリプスのメンバーか?! なら話は違う! 来てくれ!」


そう言って彼は僕のフードをひっつかみ、そして駆け出した。

人の入って来ないような通路に僕を引っ張り込む。


ジュナイパー「痛い痛いっ! 何するんですかっ?!」

ゴーリキー「あ、悪い悪い……。俺はゴーリキー。ここの警備を担当してる職員なんだが……。

      まあ、詳しい事は話せばわかる」

ジュナイパー「わ、私はただ、エクリプスがいつなのか知りたいだけで」
 ▼ 24 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:06:44 ID:o.RG/8e6 [7/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ゴーリキー「1か月後だ」


えっ、と思わず声が漏れる。

そんな……すぐに?

言葉を失った僕に、彼は「おいうち」を決めた。


ゴーリキー「だってのに、サーカス団のエクリプスが見付からないんだよ、どこ捜してもな」


日食が接近している。

それなのに、サーカス団エクリプスが見付からない。

脳内でその事実を反芻し、それから叫んだ。


ジュナイパー「マズイじゃないですか!」
 ▼ 25 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:07:43 ID:o.RG/8e6 [8/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ゴーリキー「ああ、非常にマズイ。生贄なんだろ?」


かいつまんで説明すると、そうなる。

エクリプスが止めなければ、次善の策として、生贄2匹。

けれど。


ジュナイパー「でも駄目。生贄も、たぶんもう用意できない」


エクリプスが見付からないとはそれ即ち、そういう事だ。

システムを詳しく聞いた訳ではないが、恐らくミリスに新たな生贄は生まれていないだろう。

だってまだ、彼らはこの世にいるのだから。


ゴーリキー「じゃあどうするんだよ」

ジュナイパー「どうする? 答えはひとつしかない。エクリプスを見付け出すんです。

       それしか道はない」
 ▼ 26 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:08:42 ID:o.RG/8e6 [9/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ゴーリキー「お前は知らないのか」

ジュナイパー「元、ですから」


ため息と共に言葉を吐き出す。場を陰鬱な沈黙が支配した。

再び、今度は双方のため息。

僕は、頭を切り替え、質問を開始する。


ジュナイパー「噂も聞かないんですか?」

ゴーリキー「ああ」


驚いた。エクリプスは、あのまま順当に行けば歩くだけで噂を残すぐらいには成長しているはずだ。

そこまで行かずとも、情報を意図的に収集してなお噂ひとつない。

僕は、ひとつの事実を確信した。

けれどまだ、続けて尋ねる。


ジュナイパー「この事、ミリスのポケモンたちには伝えましたか」
 ▼ 27 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:09:20 ID:o.RG/8e6 [10/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ゴーリキー「もちろん! エクリプスが見付からない事までな。ったく、日食はもうすぐって事すら知らねえんじゃねえのかあいつら……」

ジュナイパー「そうですか。……僕の方でも探します」


それにしても、大変な事になった。世界の危機は、こんなにも近付いていただなんて。

一般ポケとなり、初めてわかる。あの時、エクリプスに押し寄せた人たちの感情。

――どういう事? 世界を救ってくれないの?

全然違うか。
 ▼ 28 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:09:57 ID:o.RG/8e6 [11/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
別れを告げ部屋に戻り、それからしばらく考えを巡らせた。

ミリスは、生贄すらもエクリプスにいる事を伝えなかった。

騒ぎが大きくなるのを恐れたのだろう。それは、実際正しい。

天文台は、知らないのだ。その事実を。だから、生贄、なんて発言できた。

どうやら、僕が捜すしかないらしい。世界が本当に危ない事を知っているのは、ミリスの住民、エクリプスメンバー、そして僕。この3者だけだ。

ウルトラビースト。それに関して興味を持つポケモン。

彼ら彼女らは、何を狙っているのだろう。俄然興味が湧く。彼らは、この事実を知っているのか。

後1か月もしたら、ウルトラビーストが侵略してくる、という事実を。

――妙な塩梅になって来た。不確定要素が多過ぎる。

まあ、それは後でハッキリさせればいいのか。まだ、情報収集の段階だし。

ただひとつ、エクリプスは意図的に身を隠している。目的は知らないけれど。噂も聞かないのは、たぶんそういう事だ。

それがわかっただけでも収穫か。

そう割り切ると、僕は藁の布団に身を埋めた。
 ▼ 29 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:10:29 ID:o.RG/8e6 [12/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
まだ帰るまでに数日ある。時間はないが、予定は前倒しにできない。

翌朝目を覚まし、朝食を食べて僕は、しばらく思考を巡らせた。

意図的に隠れている以上僕が捜しても情報はあがらないだろう。

それならいっそ、足りないままでも考えた方がいい。

まず、考えられる場所として、ミリスに匿われている場合。

けれどこれを僕は候補から外した。もしそうなら危険度は恐らく低い。

何を狙っているのかしらないけれど、彼らと共にいれば寸前で止める事も可能だ。

可能性は高そうではあるものの、考えなくていい。

となるとだ。一体どこだ?
 ▼ 30 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:11:26 ID:o.RG/8e6 [13/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
いやでもそうか、全員が一緒にいると目立つし噂も立つな。

となると、今は一時的に解散しているのかもしれない。

ただそうなると、ニャヒートが死ぬな。

そんな風に考えて、思わず苦笑する。

ニャヒート。誰とも交われなかった、孤高の天才空中ブランコ乗り。

彼女は練習していないと死ぬ。これは彼女と一番親しくなった、僕の親友アシマリの弁だ。

当のニャヒートも否定してはいなかった。自虐的に自分から言う事さえあった。

けれど、解散しているとなると、彼女が練習を続けられる場は確かに必要となる。

そして恐らく、あの事件で、2匹の距離も一層近付いたはずだ。あの危険な火の中を2匹で抜け出したのだ。ならないはずがない。

きっと、今解散しているなら、2匹は一緒だ。

で、練習できる場所。


ジュナイパー「ラサーシャ……あり得るかも」
 ▼ 31 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:12:10 ID:o.RG/8e6 [14/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラサーシャ。僕の生まれ故郷であり、エクリプスに入団するまでアシマリとの関係を築いた場所である。

アシマリも、エクリプスに入るまでに関して言えば、ラサーシャの光景しか記憶にないはずだ。

そして、僕の家は、街外れの木立の中にあった。そこにロープを吊るして、バランスを取る練習をすれば、ブランコの練習にもなる。

あの家は放置していた。どうなっているかわからないが、調べる価値はある。

ただ、もし外れだった時、ラサーシャまでの距離が無駄になるのは結構痛い。

事務所と故郷は、存外遠い。

助手がいれば違ったのだろうけれど、生憎そんなの、アママイコしかいない。遠出させたくはないし。

ジジーロンの依頼に答えてもらえればいいのだけれど、やはりそれも駄目。概要程度は知っているだろうけれど、僕の方が詳しいのは確実だ。

ひとつ唸って、立ち上がる。

とりあえず、手紙でも書くか、アママイコに。現状を伝えたら不安がるかもしれないが、彼女には知る権利がある。

彼女も元サーカス団員なのだ。それに、噂の収集を実行してくれるかもしれない。

ダメ元ではあるけれど。
 ▼ 32 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:12:54 ID:o.RG/8e6 [15/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
で、アママイコに手紙を認め(したため)ながら、僕はふっと思い付いた。

手紙は、目的の場所に届けられる。

そこに誰かがいれば読まれるし、いなければ宛先不明として差し出した家に戻される!

つまり僕の実家に手紙を送り、そこにアシマリたちがいれば伝わるし、いなければそうわかる。

ペリッパー便、ありがとう。こんな素晴らしいシステムを維持していてくれて。

取る物もとりあえず僕はアシマリに向けて久しぶりに会いたいという旨の手紙を認め、それから走り出した。
 ▼ 33 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:13:29 ID:o.RG/8e6 [16/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「いるかどうかわからないんですが」

ペリッパー「いなかったら自宅まで送り返させていただきますっぺり!」

ジュナイパー「ありがとうございます。私の自宅は……」


こんな会話の後、僕は、郵便局を去った。

なるべく急いでもらえるとありがたい、と伝えはしたが、ワイロとかも特に渡してはいない。普通になるだろう。

となると、やっぱり自宅に一回帰るのが得策か。


ジュナイパー「あ」


アママイコへの手紙。書き終わってるのに出すの忘れてた。

まあ、いいや。また会える時はそう遠くない。

とりあえず、エクリプスの噂を当たってみるか……。
 ▼ 34 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:14:13 ID:o.RG/8e6 [17/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
当然のように収穫はゼロ。

ダンジョンを練り歩いてリンゴを探す方がまだ期待値は高かったように思う。

どのみちイスカーは天文台が調べ尽しただろうから、僕が出る幕がないのは当然とも言えるけれど。


ジュナイパー「まあ、でしょうね」


そう呟いて、僕は宿に戻った。
 ▼ 35 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:14:44 ID:o.RG/8e6 [18/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
荷物をまとめておく。

明日、朝一で帰りたい。一日で帰れる訳ではないが、それでも進めるだけ進みたいから。

前金で料金を払っているので心配は不要だが、それでも一応おかみさんに声を掛けておく。


ジュナイパー「おかみさん、明日朝一で帰りますので」

おかみさん「あいよ。朝飯はいらないのかい?」

ジュナイパー「ええ。ありがとうございます」


晩ごはんを給仕してくれた際にそんな会話を交わした。

ここの食事はかなりおいしい。ブラッキーから学んだアママイコには劣るけれど。

エクリプスの事を思い出したせいで、ブラッキーの料理が無性に恋しくなって来る。

あの天にも昇る心地な絶品料理は、直接彼から料理を学んだアママイコでも再現できていない。まあ期間が短かったってのもあるけれど。

それにも劣ってはいるとはいえ、それでも充分に及第点だ。いい所を選んだ。
 ▼ 36 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:15:15 ID:o.RG/8e6 [19/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
完食し、部屋に戻って、エクリプスが姿を隠す理由について、しばし考えを巡らせる。

2パターンあるだろう。エクリプスの接近を知っている場合と、知らない場合。

どちらにせよわかりづらいけれど、でも知っているか否かで随分変わる。

そして、恐らく知らないのではないか。

天文台が伝える前に消息を絶っているのは先のゴーリキーの発言から明らかで、そうなると知る術はないだろう。

だとすると、動機はエクリプス……日食の接近以外にあるのかもしれない。

思考は、楽しい。彼らが今、何を考えているのか。

それを寄せて行くのが、凄く面白い。

けれど、眠気は僕を襲い、明日も早いのだからとそれに抗うのを自らに禁じた。
 ▼ 37 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:15:52 ID:o.RG/8e6 [20/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌朝、部屋を出る時に、おかみさんから声を掛けられた。

彼女は笑顔で僕に何かを手渡す。


ジュナイパー「なんですかこれ」

おかみさん「お弁当よ。料金には朝ごはん代まで含まれてたからね。ま、気にしなさんな」

ジュナイパー「えっ?! あ、ありがとうございます!」

おかみさん「しーっ。まだ他のお客さん寝てるから」

ジュナイパー「あっ、すいません……」

おかみさん「ま、またイスカーに来る事があれば、どうぞご贔屓に」

ジュナイパー「今度は妻も連れてきます。本当にありがとうございました」


料金は出しているとはいえ、この暖かさに胸を打たれた。

いつか、アママイコにも紹介してあげようと心に決めて、僕はイスカーを発った。
 ▼ 38 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:16:37 ID:o.RG/8e6 [21/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
帰り道。特別な何かが起こる事はなかった。

ただかげぬいでダンジョンを攻略し、野宿して、自宅を目指す。

少しずつ太って行く月。日食は確か、新月の時に起こるんだっけ。

となると、あの月が満月になるまでは心配いらないと言える。

そんな風に考えながら、旅路を行き、そして自宅に帰り着いた。


ジュナイパー「ただいま!」

アママイコ「お帰りなさいジュナイパー! あなたに手紙が来てる! ニャヒートたちから!!」


アママイコが、息せき切ってそう伝えて来た。

アママイコは、早く読みたくて仕方ないと言うように、けれど僕が開けるのを律儀に待ってくれている。

僕も慌てて開封した。
 ▼ 39 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:17:10 ID:o.RG/8e6 [22/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
久しぶりフクスロー。もう進化してたんだね。

なんでここにいるってわかったのかわかんないな。まさか手紙が来るとも思わなかったし。

アママイコとは仲良くやってる?

さて、オイラたちは今、いろいろとしないといけない事があるんだよね。

もし会いたいのなら、こっちに来てよ。住所はわかってるみたいだし。


アママイコ「これ……」

ジュナイパー「話すと、長くなるよ」


僕は、イスカーで得た情報を、そのままアママイコに伝えた。

彼女は一言も口を挟まず真剣に聞いてくれる。
 ▼ 40 1◆J44kAZeDOM 17/03/30 21:17:52 ID:o.RG/8e6 [23/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「なるほど、わかったわ。で、どうする?」

ジュナイパー「まずは、ジジーロンさんの依頼を片付けるよ。そしたら、ラサーシャへ向かう。

       アママイコ、どうする? 来ても構わないとは思うけど」

アママイコ「……いや、いいや。あなた以外のメンバーとは、最後までちょっと仲いいぐらいだったし。

      それなら、あなただけで行かせてあげたい。大丈夫。事務所の留守はあたしがきちんと預かるから!」

ジュナイパー「ありがとう」

アママイコ「あたしも、危険が及ばない範囲でなら、エクリプスの噂、調べてみてもいい?

      ニャヒートたちがどうしてるのかわかればわかりそうだけど、でも何かしたいし」

ジュナイパー「いいよ、むしろありがたいぐらい。でもこれだけは約束して。危険は冒さないでね。絶対だよ!」

アママイコ「わかってますよーだ」


アママイコが頬を膨らませた。

僕は、そんな彼女に、思わず口付けをしてしまう。浅いタイプではあるけれど、それだけでもう幸せだ。ああ、大好きだ、アママイコ。

唇を離し、彼女は微笑んで言った。


アママイコ「じゃ、今からジジーロンさんとこだよね。行ってらっしゃい、頑張って!」
 ▼ 41 クリン@わすれもの 17/03/30 23:48:23 ID:ykN0tImw NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヤレユータンともう一匹だれだっけと前のやつ読み返しよ
 ▼ 42 1◆J44kAZeDOM 17/04/01 21:51:37 ID:gSqSiRdA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
盗賊団編 3章・4章
http://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=563163&l=79-179

79から179までです
 ▼ 43 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:26:06 ID:nE37tYMA [1/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







2章 ジュナイパーの旅路






 ▼ 44 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:26:51 ID:nE37tYMA [2/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
森の外れにある、小さな一軒家。

そこが、今回の依頼主であり、顔見知りのご近所さん、ジジーロンの自宅だ。

たまに付き合いであがった事はあるが、仕事で伺うのは初めて。

なかなかにない事だからこそ、僕は冷静になっていた。

慌てても、何もいい事なんてない。

ジュナイパーという種族の常で、計算外の事に対しパニクる事が多々ある。

しかし、そうなった時、物事が上手く運んだ事は、一度もない。

立ち止まって深呼吸。僕は、自分で考えられるから。


ジュナイパー「さて、ジジーロンへの依頼主、一体誰なんだろ」


疑問を脳裏に浮かべ、僕はすべての緊張を振り払う。

疑問さえ与えれば、僕は満足なのだ。納得いくまで考え続けられる。


ジュナイパー「すいません! 来ましたよジジーロンさん!」


扉を開き、僕は声をあげた。
 ▼ 45 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:28:46 ID:nE37tYMA [3/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジジーロンは、お茶を淹れてもてなしてくれた。

僕はそれをすすり、思わず顔をしかめる。

熱い。何度飲んでも、この感覚には慣れない。


ジュナイパー「すいません、熱くて……」

ジジーロン「ほっほっほっ。ワシぐらいの歳になると、熱い飲み物が沁みるのじゃ」


そう言って彼もお茶をすする。

そして幸福そうに吐息を漏らすのだ。

「ところで」と僕は切り出す。


ジュナイパー「どのぐらい、ウルトラビーストと、エクリプス事件をご存じなんですか?」
 ▼ 46 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:29:50 ID:nE37tYMA [4/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕が当事者である事実は知っていた。

この辺に来てすぐに、どこから来たのか、と言われた時に、隠す必要も感じなかったためそのまま説明してしまったから。

けれど、僕がエクリプスの元メンバーである事以上に情報はなかったはずだ。

はたしてジジーロンは「まったく知らないのお。ただ、ジュナイパーがエクリプスのメンバーじゃったと思い出したのじゃ」と答えた。

きっと、新聞に載った以上の情報はないはずだ。

――そして、それは半ば、僕も同じだ。

積極的に関わる立場だったとはいえ、ウルトラビーストに関してはほとんど何もわからない。
 ▼ 47 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:30:50 ID:nE37tYMA [5/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
話題を変え、エクリプスの公演を見た事があるか問う。

ふっと思い立っての事だが、もし最近見ていれば何かしらの手掛かりになる。

残念ながら、そこまで都合よく物事は進まない。


ジジーロン「ううむ……何年か前、孫にせがまれて連れて行っただけじゃのう……」

ジュナイパー「司会は誰でした?」

ジジーロン「ええと……赤くて、威厳のある……誰じゃったかのう」


アマージョ。僕が抜けてからの話である事が、これで確定した。

そして、エクリプスとルテーの合併が、真実である事も。


ジュナイパー「それで、そのパフォーマンス、お孫さんは喜んでました?」

ジジーロン「ああ、喜んでおったぞ! 感動したとはしゃいでおった」


アシマリたちは、たゆまず成長しているらしい。

きっと、誰かを喜ばせられる。みんなのパフォーマンスには、力があるから。

そんな安堵を僕は内心で呑みこんだ。
 ▼ 48 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:31:45 ID:nE37tYMA [6/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
少し冷めて来たお茶をすすりつつ僕はしばらく待っていた。

どんなポケモンがやって来るのか。聞いてしまいたかったけれど、好奇心が満たされるのはもう少し後でいい。

このじれったい時間が気持ちよく、そしてこれ以上の情報も引き出せないと踏んで、僕は世間話を続けていた。

と、扉が開く音がする。

ようやくだ。僕は、視線をそちらに向け、次いで下へとスライドさせる。

こちらを見て、少し警戒するような表情を浮かべている。

このイワンコが、依頼主なのか。僕は一層の興味を惹かれた。

大人を想定していたからこそ、僕よりもまだ年若い少年がやって来た事に驚きながら、僕は尋ねた。


ジュナイパー「あっ、この子が依頼主ですか?」

イワンコ「へ?」

ジジーロン「イワンコ、彼はワシの友達で、探偵の……」


ああ、なんだ。イワンコも僕同様、僕の事は聞かされていないのだ。

そう判断し、僕は威圧感を与えないように微笑んで、自己紹介をした。


ジュナイパー「ジュナイパーです。よろしくお願いします」
 ▼ 49 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:32:45 ID:nE37tYMA [7/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコは困惑したような顔をこちらに向け、問い掛けた。


イワンコ「探偵なんて雇った覚えないですけど……」

ジュナイパー「大丈夫。直接の依頼主はジジーロンだから。君のために、凄く割り引いたとはいえお金出してくれたんだよ」


思わず付け加えてしまう。料金の話は、意外にしんどく、だから早い段階でそれを済ませてしまいたかった。


イワンコ「え? あ、ありがとうございます!」


イワンコは、ジジーロンに向けて慌てたようにお礼を告げた。

ジジーロンは笑いながら言う。


ジジーロン「構わんよ。して、ミミッキュはどこかの?」


ミミッキュ? 複数匹で来る事は想定のひとつであったが、今ここにいない依頼主がいるとは思っていなかった。


イワンコ「ああ、あいつちょっと今日は忙しいらしくて。僕だけで来ました」

ジジーロン「そうか。よろしく伝えといてくれ」

イワンコ「はい」
 ▼ 50 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:33:48 ID:nE37tYMA [8/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジジーロンは、僕を置いてけぼりにしていた事に今さら気付いたのか、彼らとの関係を語る。

思い出しながらの話を要約すると、こうなる。

森の中で攫われた孫を探し出してくれたのだという。

しかし、攫ったというのは勘違いで、実はそのポケモンと孫が意気投合し、仲良く遊んでいただけだったのだ。

攫ったのがウルトラビーストだという事実も聞いた。

驚いたが、そんな事だろうとは思っていた。だからこそ、僕にウルトラビーストの事を聞いたのだろうと。

驚きを顔に出さないように気を付けながら、僕は呟く。


ジュナイパー「なるほど、だからいいポケモンと断言してたのか……」


そちらの疑問が氷解し、僕は頷いた。
 ▼ 51 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:34:33 ID:nE37tYMA [9/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しかし、そこから、驚きの事実が伝えられる。

彼は、記憶喪失なのだ。

ウルトラビーストの一種、ウツロイドに、彼の記憶が根底から揺さぶられたのか、激しく動揺してしまったのだという。

簡単にイコールで結ぶのもどうかとは思うが、僕はシンプルな結論に落ち着く。


ジュナイパー「記憶喪失。その鍵を握るのが、ウルトラビースト……」

イワンコ「はい」

ジュナイパー「君は、どこまで知ってるの?」

イワンコ「えっと……」


ここから先は、すべてイワンコの言葉だ。
 ▼ 52 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:35:49 ID:nE37tYMA [10/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は、ある日草原に倒れてました。

行き場もわからなくて、どうすればいいのか困ってるとこに、ミミッキュが来たんです。

そして、助けてくれた。

まあ、それからいろいろありまして、森の中を2匹で散歩してたんですよ。

そしたら、ジジーロンさんの叫び声が聞こえて。

行ってみると、そこにウツロイドとミニリュウがお孫さんがいたんです。

で、動揺して、僕はそれに襲い掛かった……けど、為す術なくやられちゃいました。実力、けた違いです。

まあ、そのまま和解して、僕はミニリュウをジジーロンさんに引き渡しました。

そして、協力をお願いしたんです。まあ、そこはさっき説明したけど。

で、そこから僕もいろいろと調べてみました。

その結果、わかった事があります。

ウルトラビーストは、日食の時にこちらへやってくる侵略者である事。

サーカス団エクリプスがそれを止める鍵を握っている事。

今の所2匹と接触しています。ウツロイドと、フェローチェ。

もう、日食は近付いてるのかもしれない。
 ▼ 53 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:36:56 ID:nE37tYMA [11/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「でも、腑に落ちないんです」

ジュナイパー「ウツロイドが意外と優しそうだったんだ」


イワンコの言葉を、僕が引き取る。

けれど、イワンコは首を横に振り、続けた。


イワンコ「だけじゃない、フェローチェも気品系お姫様かっこバトル脳って感じだったけどいて不快じゃなかったし、敵意がある感じでもなかった」


僕は、ふと思い出す。

エクリプス事件で、ヤレユータンが動きを止めたあの赤い奴。


ジュナイパー「……あの赤い奴、乱暴だったけど、今会ったらどうなんだろ……」

イワンコ「赤い奴?」


口に出してしまっていた。それから気付く。僕は、まだロクに自己紹介をしていない。


ジュナイパー「ああ、そうか説明してなかった。僕は、元サーカス団エクリプスのメンバー」

イワンコ「え」
 ▼ 54 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:37:54 ID:nE37tYMA [12/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
彼は、驚いた声を出す。当然だ。

話題の中心に、どっしり腰を据えるサーカス団。僕は、そこの元メンバーなのだから。

少し懐かしさを覚え、それを呑み下しながら、続けた。


ジュナイパー「言葉にするとひとつの物語になるぐらいの複雑な事情があって僕は妻と一緒に抜ける決心をしたんだけど、まあそれは何もウルトラビーストに関係ないから割愛させてもらうね。

        一度、僕が入ってすぐの頃、エクリプスはウルトラビーストの接近を食い止めるために公演をしたんだけど、でもその時は、エクリプスが鍵を握ってるなんて誰も知らなかった。

        大昔からの伝承が、廃れちゃってたんだよね。親友の提案でサーカスをしたのが正解だったんだけど」

イワンコ「はあ、それで?」

ジュナイパー「その時に、ウルトラビーストに関してそのミリスの街のポケモンから聞いてる最中、襲われたんだよ、真っ赤なウルトラビーストに」


間髪入れずにイワンコが問い掛ける。


イワンコ「そのビーストの特徴は?」
 ▼ 55 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:38:56 ID:nE37tYMA [13/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「えっと……口が針みたいに尖ってて、凄い筋肉質だった。

       まだ、モクローだったなぁ、あの頃は」


えもいわれぬ寂寥感が僕を襲う。

今では遠い日々の思い出が脳裏を駆け巡る。

僕は、ため息をこっそり吐き出し、それから言った。


ジュナイパー「エクリプスの居場所……と言うより、エクリプスに所属してる親友の居場所は特定済み。

       ウルトラビーストの狙いが侵略その他こちらに不利な物なら、いつでもとは言えないが、封印自体は可能だ」

イワンコ「そうですか。あっ、でもそうなると、こっちに来たウルトラビーストたちは……」

ジュナイパー「強制送還って事になるだろうね」

イワンコ「……でも、それじゃ駄目。僕の友達の、コスモッグってポケモンが、実はウルトラビーストらしいんだ」

ジュナイパー「……友達、ウルトラビースト?」

イワンコ「そうなんだ。だから、ただ封印するだけじゃ……」
 ▼ 56 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:41:32 ID:nE37tYMA [14/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
コスモッグ。初めて聞く名前だが、当然だ。

ウルトラビーストに関わる知識は、エクリプス元メンバーだろうと普通のポケモンと大差ない。

しかし、ウルトラビーストの中に、コスモッグはカウントされていなかった。

彼の中で、まだ、コスモッグはウルトラビーストなのかどうか、微妙な所なのかもしれない。

イワンコは、諦めたような微笑みを浮かべ、それから続けた。


イワンコ「……だけど、侵略が狙いなら、それは封じないといけない。

     わかってます。そりゃ、そうだ」

ジュナイパー「ここで気になるのは……やっぱり君だ、イワンコ。

       君というイレギュラーな存在が、この件に関して何かしらの鍵を握っているのか。

       記憶の謎は、ウルトラビーストにどう絡むのか」


彼は、首を横に振る。そりゃそうだ。
 ▼ 57 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:42:30 ID:nE37tYMA [15/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「だよね。わかるはずがない。記憶がなくて、わからないからこそ、僕に依頼して来てるんだから」

イワンコ「……とにかく、僕らにできる事と言えば、探す事ぐらいだ」

ジュナイパー「その通り。僕がエクリプスの場所を特定してる間に、少しでも捜索できればいいんだけど」

イワンコ「……頑張ります」

ジュナイパー「ところで、僕“ら”?」

イワンコ「え? あっ」


ふと気になり、口をついて出た言葉。しかし、探偵としての数年間で、僕の思考能力はどんどん高まっているらしく、考えている事に後から気付く事すら多い。

僕は、気付かぬ内に、何かが欠如している事に気付いていた。

フェローチェと戦った存在。聞くに、イワンコとミミッキュは、ウツロイドに歯が立たなかったらしい。

コスモッグもウルトラビーストなら、さすがに同士討ちはしないだろう。

その3匹だけで、バトル脳のフェローチェを相手にできたとは到底思えない。

事実、イワンコは動揺を浮かべた。その気配はすぐに、彼のあどけない表情の奥に消えたが、探偵業で培った目は、それをキチンと捉えていた。


イワンコ「ミミッキュですよ。今はいないけど」
 ▼ 58 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:44:10 ID:nE37tYMA [16/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「……何か隠し事してるんじゃないか?

       ウルトラビーストの一種と互角にバトルする程の仲間がいるというのに、そっちに関して一切の言及がないって。

       ウツロイドに負けたミミッキュが、バトル脳と言われる程のウルトラビーストに勝てるとは……」

イワンコ「……ミミッキュ、バトルが凄い強いんです。ばけのかわを駆使して、相手の攻撃をかわすかわす。

     ある意味人質みたいなもんだったから、ウツロイドには本気を出せなかったって」

ジュナイパー「そう」


僕は、思案を巡らせる。

ミミッキュが強いというのは本当かもしれないが、今の話だけだと、戦うきっかけがつかめない。

バトル脳、という事は戦ったとみなしていいだろう。気品系お姫様(バトル脳)という相反する2つの性質は、実際に戦った後に話すという流れでしか付かない印象であろう。

順序が逆であれば、()の外の感想が付かないはずだ。
 ▼ 59 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:44:40 ID:nE37tYMA [17/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
だが、まあいいとしよう。

今ここで、何かを暴く理由は見当たらない。

嘘を吐いている他は、イワンコに、悪い感情を一切抱けない。

本当に、等身大に記憶を失った事に悩み、それを希求する少年。それが彼だ。

僕はふっと笑う。


ジュナイパー「ま、そんな事はどうでもいいや。僕の依頼主はジジーロン。

       そのジジーロンが君をいいポケモンだっていうんだし、話してて悪いポケモンに見えないのは事実。

       協力させてもらうよ」

イワンコ「ありがとうございます!」


露骨な表情は浮かべない。悪いポケモンではないようだが、中々に賢いようだ。

何か理由があるのだろう。記憶喪失の彼が嘘を吐く理由が。

完全にシロとみなすのは得策ではないが、それでもある程度は信じても構わないような気がする。
 ▼ 60 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:45:19 ID:nE37tYMA [18/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんな風に考えていると、唐突にイワンコが告げる。


イワンコ「そうだ、ジジーロンさん。探検隊リアライズってここに来ました?」

ジジーロン「ああ、いや知らぬが」


探検隊リアライズ。聞き覚えがある。

最近街を賑わす盗賊を追うという、チラーミィとニューラの2匹組。

かのプクリンのギルド出身との噂もあるが、目下盗賊を捕まえる気配はないらしい。


ジュナイパー「ああ、最近盗賊を追っているっていう、あの」


その発言に、イワンコが少し、動きを止めた気がした。

しかし、その違和感は、すぐに掻き消える。

そのままイワンコは言葉を続けた。
 ▼ 61 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:45:58 ID:nE37tYMA [19/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イワンコ「ええ、あのです。協力してくれる事になってるんですけど、情報があればここにって事にしちゃったんです。

     事後承諾になって申し訳ないんですけど」

ジジーロン「ほう! 構わんよ。こんな老いぼれの所でよければ、いつでも使ってもらっても」

ジュナイパー「リアライズが協力してくれるんだ」

イワンコ「ええ、まあ」


どのように接点を持ったのか。彼は、どうして探検隊に近付く事ができたのか。

疑問は尽きないが、今は恐らく関係ないだろう。

僕は、話をまとめにかかる。


ジュナイパー「なるほど。僕、君たち、それからリアライズ。3者でそれぞれウルトラビーストを追う訳だ。了解」

イワンコ「では、そういう事で、これからよろしくお願いします」


イワンコはそう言い、そしてそのまま別れを告げ、去って行った。
 ▼ 62 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:46:36 ID:nE37tYMA [20/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は、大した情報を彼に与えられていない。改めて考えると、彼はもう、相当に調査を進めていた。

僕が持つ中で、彼が持っていた以上の情報はない。エクリプス事件は、ハッキリ言ってしまうと、底が浅い。

けれど、逆に言うと、この浅い情報だけで考えなければならない。これは、相当に難易度が高い事だ。

エクリプスが消息を絶つ理由。それさえつかめれば、何かわかるのかもしれない。


ジュナイパー「急ぐしかないか。僕が。ジジーロンさん、ありがとうございました」

ジジーロン「いやいや。ワシの依頼に答えてくれてありがとうの」

ジュナイパー「いや、違う」


これは、僕にとって有意義な会談だった。

彼が持つ知識。彼がこれから掴むであろう事実。

その全てが、何かしらに関わるであろう。

僕が、彼にこの段階で接触できたのは、幸運としか思えない。
 ▼ 63 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:47:18 ID:nE37tYMA [21/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
思考を中断し、僕もジジーロンに声を掛けた。


ジュナイパー「これから、忙しくなります。

       迷惑をかけるつもりはありませんが、もしかするとまた、僕もここを拠点にさせてもらう事があるかもです」

ジジーロン「ああ、構わんよ。賑やかなぐらいが楽しいわい」

ジュナイパー「ありがとうございます。それじゃあ、もうお暇しますね」

ジジーロン「ありがとうの」


僕は彼の家を出て、それからアママイコの待つ自宅へと戻って行った。
 ▼ 64 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:48:17 ID:nE37tYMA [22/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「お帰りなさい。バッグ、用意しといたよ」

ジュナイパー「ありがとう」


中身を検める。リンゴ、エイダー、地図に、それからプチ復活のタネ。

完璧だ。


アママイコ「お昼ごはん食べて、すぐ行く感じ? それとも明日出発?」

ジュナイパー「急ぎたいから、今日行くよ。お昼は?」

アママイコ「オレンサラダ! 疲れを癒すには、やっぱオレンだしね。

      ラサーシャ、結構遠いでしょ? 万全の体勢で行って欲しいから。

      無事に帰って来てくれないと、あたしも辛いし」

ジュナイパー「……ありがとう。ホントに」


それしか言えない。ただ、もう、大好きだ。


アママイコ「ほら、早く食べて食べて!」

ジュナイパー「いただきます!」
 ▼ 65 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:48:47 ID:nE37tYMA [23/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オレンサラダはあっという間に口の中へ飛び込んで行き、僕はごちそうさまを言って立ち上がった。

おいしかった。

余りに速く食べてしまったせいで、アママイコはまだ半分残している。

けれど、世界の明暗がかかっているのかもしれない。


ジュナイパー「行って来るよ。大丈夫。絶対、無事に帰って来るから」

アママイコ「わかってるよ! 頑張ってねジュナイパー!」

ジュナイパー「うん! 行ってきます!」


アママイコに微笑みかけ、それから僕は、顔を引き締め、前を向く。

ラサーシャへの道のりは、長い。危険という事はないが、急がなければ。
 ▼ 66 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:49:36 ID:nE37tYMA [24/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ルートの途中に、ミリスの街がある事に気付いたのは、地図を眺めていた時だった。

一度、寄ってみてもいいかもしれない。目算だと、ラサーシャまでが5日、ミリスは2日目の夜を過ごす辺りだ。

きっと、僕なら歓迎してもらえる。

そして、尋ねたい事もあるのだ。関係者へあたるのは、警察だけじゃなく、探偵にとっても必須だ。

むしろ、権力を行使して情報を集めるという事ができない分、探偵の方がその必要性に迫られるとも言える。

ミリスのポケモンたちは、間違いなく関係者だ。新聞風に言うなら、重要参考ポケモン。

エクリプスの方が先決ではあるが、道中に尋ねられるのなら、しておくに越した事はないだろう。

そんな事を考えながら、ダンジョンを進んで行く。

敵は、たいして強くない。かげぬいで動きを止め、それを避けながら行動するだけで安全に進める。

だからこそ、こうやってボーっと考え事をする事ができるのだ。
 ▼ 67 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:50:15 ID:nE37tYMA [25/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ダンジョンを抜けると、空には上弦の月が浮かんでいた。

瞬く星々が、辺りを照らす。

かばんからリンゴを取り出し、それにむしゃぶりついて、そのまま眠った。

食べてすぐ寝ると太る、とは言うけれど、時間が惜しい。

早寝すると睡眠時間が短くて済むのは、僕だけだろうか。

少なくとも僕はそうなので、早く寝てしまいたかった。

瞼を閉ざすと、思いが巡る。

イワンコはこの件にどう絡んで来るのだろうか。

記憶を失い、しかし事件に身を投じて行く存在。

何か、知っているのか。ウツロイドは、彼の記憶のどこに存在しているのか。

アシマリたちは、どうして姿を隠すのか。

まとまる気配もない思考は、くるくるとニャヒートの空中ブランコのように頭の中を巡っていたが、やがてそれも闇の中へ溶けて行った。
 ▼ 68 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:50:58 ID:nE37tYMA [26/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
光がフードの中に入り込んで、僕は目を覚ます。

ひとつ伸びをし、目をこすって立ち上がった。

今日も進まなければならない。

目的地は、ミリスの街だ。

地図を確認する。

幸い、ダンジョンはこの道中にないらしい。

昨日以上に楽な道のりとなるだろう。

僕は足取りも軽く歩き始めた。
 ▼ 69 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:52:48 ID:nE37tYMA [27/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
特筆すべき事は何もないまま、夕方にはミリスの門を叩いていた。


ジュナイパー「すいませーん!」


身元を明かすのは、まだ早い。

今エクリプスを名乗ると、逆に警戒されるかもしれない。

味方と呼べるのか、完全に確信できるまでは、明かさないつもりでいた。

門番がやって来て、僕に問うた。


門番「誰だ?」


種族を名乗り、それから尋ねた。


ジュナイパー「エクリプスに関して、何か知ってますか?」

門番「……それは、どっちの?」

ジュナイパー「どっちもです」
 ▼ 70 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:53:39 ID:nE37tYMA [28/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
門番「どうしてそれを聞く?」

ジュナイパー「日食、近付いてるらしいじゃないですか。なのにエクリプスが見付からないって」

門番「……ああ。どこにいるのか、皆目見当も付いてないんだ。

   どこにいるんだあいつら……エーフィとブラッキーも連れてるってのに……」


吐き捨てるような言葉が、心の底から漏れ出たようなものだった。

そもそも、こんな事をどこの誰とも知らない僕の前で明かそうとする時点で、嘘だという可能性は限りなく低い。


ジュナイパー「僕、元エクリプスメンバーです。居場所に心当たりがある。

       とりあえず、ヤレユータンと話をさせてくださ――」

門番「エクリプスの居場所がわかるだと?! それなら来てくれ! こっちだ!」


ここでもゴーリキーに連れられたように強引に腕を引っ張られて行く。

荒々しさは、焦りの裏返し。彼は、味方だ。

ミリスの街は、何かを隠している訳ではないと見ていいだろう。
 ▼ 71 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:54:19 ID:nE37tYMA [29/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヤレユータン「あれから……師匠の後を受け継ぎ、僕が向こうとこちらを繋ぐ神主をやってます」

ジュナイパー「先代は?」

ヤレユータン「……最期まで、幸せそうな顔をしてました。

       僕も、しっかり成長してましたし、皆に囲まれて……」

ジュナイパー「そうですか。ご冥福をお祈りします」


第一次エクリプス事件(簡便化のため、僕がモクローだった時代のエクリプス事件をこう呼ぶ事にした)以来の旧交を温める。

出されたおいしそうな料理を頬張りながら、会話を続けて行く。


ヤレユータン「ところで、どうしてエクリプスをおやめになられたんですか?」

ジュナイパー「……いろいろありまして。今は結婚して、探偵をやってます」
 ▼ 72 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:55:03 ID:nE37tYMA [30/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヤレユータン「そうですか。じっくり伺いたい所ですけど、時間も余りありませんしね。

       そろそろ本題に入りましょう。エクリプスの居場所を、ご存じなのですか?」

ジュナイパー「エクリプスの、かはわかりませんが、少なくとも何匹かは」

ヤレユータン「そうですか。やめてる可能性は……」

ジュナイパー「ないです。サーカスが命ってポケモンたちですもん。それに、今のエクリプスは、環境も整ってるし」

ヤレユータン「ならよかった……」


厳密には、一時解散までは視野に入れている。けれど、正式な解散を何も言わずにするとも思えない。何か、考えがあっての事だと思っている。


ジュナイパー「僕は、アシマリたちを捜します。今日は、その道中にたまたまミリスがあったので」

ヤレユータン「そうですか。僕たちも付いて行きましょうか?」

ジュナイパー「結構です。ここはここで、いつでもホールを開けるように、準備をしておいてください」

ヤレユータン「了解です。……とりあえず、今日はどうします?」

ジュナイパー「早寝して、明朝には出発しようと思っています。時間も惜しいですしね」

ヤレユータン「ええ。それでは、藁布団、用意しますね」

ジュナイパー「ありがとうございます」
 ▼ 73 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:56:00 ID:nE37tYMA [31/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヤレユータン「それにしても……何が狙いなんでしょうか」


ポツリと彼は漏らす。

本当にそうだ。アシマリたちは、何を思っているのだろう。

考えてはいる。けれど、答えは見付からない。


ジュナイパー「それじゃあ、おやすみなさい」

ヤレユータン「きっと、エクリプスを見付けてください」

ジュナイパー「任せてください」


そう言うと、僕は布団に倒れ込み、すぐに軽い寝息を立てていた。
 ▼ 74 1◆J44kAZeDOM 17/04/02 20:56:32 ID:nE37tYMA [32/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌朝、まだ皆が寝静まっている時間に目を覚ました僕は、「ありがとうございました」と呟いてミリスの街を後にした。

そこからは、特に何もなかった。危険も、情報も、何も。

ただ、一切の疑問が、もうすぐアシマリと会える、という感慨にすり替わって行くのみ。

まあいいさ。会った時に聞けばいい。

僕はそんな事を思いつつ、ラサーシャの街へ帰って来た。
 ▼ 75 J44kAZeDOM 17/04/04 21:11:17 ID:GHkOfw2I NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
盗賊編 5章・6章
http://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=563163&l=183-274
183から274です
 ▼ 76 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:03:46 ID:.cWFKAr2 [1/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







3章 アシレーヌの結論






 ▼ 77 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:04:25 ID:.cWFKAr2 [2/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラサーシャの街に足を踏み入れ、僕は感嘆の声を漏らす。

凄いや。全く変わってない。

僕がエクリプスに入団し、この街を去ってから、一度も帰って来ていなかった。

元々この街に思い入れなんてなかった。けれど、ここまで綺麗に残っていると、一縷の感動が胸を襲うのだ。

そしてそうなると、探索はより容易だ。なんだかんだ言って、土地勘がある。

傾きかけた太陽。空を見上げると、上弦の月が少し太ったようなのが輝いている。

満月まで、後いくらもない。そして、日食は、新月の時に起こる現象。

とっくに、4分の1が過ぎているのだ。

ふう、と軽くため息を吐き出すと、僕は懐かしの自宅へ向けて駆け出した。
 ▼ 78 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:05:19 ID:.cWFKAr2 [3/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「この辺だよね……」


ここら一帯も、ほとんど変わっていない。

ただ、中々に大きな竹が生えているだけだ。

そのすぐそばに、僕の家があった。

ただ、気配を感じない。いや、何か並々ならぬ気配は感じるのだが、少なくともアシマリたちの気配は見当たらない。


「誰?」


不意に、声が聞こえた。

声の出所を見ると、何もない。

僕は声を潜め、それから目を閉ざし、全身の感覚を耳に集中させた。

カサリ、と音がする。

僕はそちらに向け、矢羽を飛ばした。
 ▼ 79 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:05:59 ID:.cWFKAr2 [4/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
???「ひえっ! 凄いね、君」

ジュナイパー「もう逃げられない。何者だ、姿を現せ」


探偵生活の性か、こういう時に使える声音を手に入れていた。

聞いた相手を威圧させるような声。先程のかげぬいと合わせ、相当に効力を発揮したはずだ。


???「でも、姿現そうにも、動けないし。ここだよー」


どこだ。声の元を探り、それから驚く。

小さな、紙のようなポケモンがいる。いや、こいつはポケモンなのか……?

少なくとも、今までの暮らしの中で見た事はなかった。


ジュナイパー「もしかして、ウルトラビーストか?」

???→カミツルギ「そうだよ。僕はカミツルギ。それからこっちがテッカグヤ。おーい! カグヤちゃん!」
 ▼ 80 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:06:58 ID:.cWFKAr2 [5/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
カミツルギが上方に声を飛ばす。

その視線(目はないが、なぜかそちらを向いているとハッキリわかった)の先を辿ると、先程の竹がある。


ジュナイパー「……って、はああああ?!」


ただの竹だと思っていたが、上方に顔がある。

それはいい。けれど、僕を襲った衝撃は、また別種のものだった。

なんだこいつは。デカい、デカすぎる。

思わず取り乱してしまった後で、僕は慌てて首を振り、それから改めてそれを眺めた。


テッカグヤ「どうも。あんためっちゃ強いなー!」

ジュナイパー「き、君もウルトラビースト……?」


こんなデカいのが敵だとすると、到底勝ち目はないだろう。

テッカグヤはニコリと微笑み――少なくともこの位置からはそう見えた――それから言った。


テッカグヤ「せやで! うちとツルギ君、ウルトラビーストやねん!」
 ▼ 81 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:07:38 ID:.cWFKAr2 [6/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あっけらかんとした口調のテッカグヤ。

イワンコの言葉が脳裏によぎる。

意外にフレンドリー。あの赤い奴のイメージが強く、どうしても受け入れがたかったが、実物を見ると受け入れざるをえない。

動揺を振り切り、僕は彼らに声を掛ける。


ジュナイパー「ここに、アシマリがいるはずです。僕は、彼に用があって来ました」

テッカグヤ「まずあんた、なんて種族なん? 呼び方もわからへんし、困んねん」

ジュナイパー「ジュナイパーです。アシマリ、いません?」

カミツルギ「アシマリ……いなかったよね?」

テッカグヤ「おらへんでー、アシマリなんて」

ジュナイパー「え?! でも……」


確かに手紙はここに届いた。そして、返信が帰って来たのだ。

いないはずがない。

そんな風に思っていた時だ。


「あれ? どうしたの2匹とも……」
 ▼ 82 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:08:18 ID:.cWFKAr2 [7/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
声が聞こえ、振り向いた。

瞬間、僕の時間が止まった。

薄青い、頭から生えた長い体毛を星型の飾りと真珠で止めた、♂ポケモン。

種族は恐らくアシレーヌ。

気付けば僕は、彼を呼んでいた。


ジュナイパー「アシ……マリ……?」


彼の方も、僕に気付いたらしかった。


アシレーヌ「モクロー……だよね?! そうだよね?!」


世界が潤み始める。慌てて拭うと、僕は言った。久しぶり。

それから、示し合わせたように2匹、固く抱擁を交わした。
 ▼ 83 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:08:57 ID:.cWFKAr2 [8/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
テッカグヤ「どないしたんや2匹、♂同士で……」

カミツルギ「さあ……」

「感動の、親友同士の再開よ。そっとしてあげて」

カミツルギ「親友、ねえ。ニャヒート、ジュナイパーって……」

ニャヒート「エクリプスの元メンバーよ。後はジュナイパーから直接聞いて」


そんな会話を後ろで聞き、僕はアシレーヌを離し、それから向き直った。

彼女は、かわらずのいしを首から下げている。僕はそれを認めて、言った。


ジュナイパー「ニャヒート。久しぶり。まだブランコはやってる?」

ニャヒート「当たり前じゃない」

アシレーヌ「オイラたち、練習は欠かしてないよ」

ジュナイパー「そのオイラたちって、2匹だけ? 団長とか、エーフィたちとか……」

ニャヒート「……ジュナイパー。あんたが気になってんのも、そこに集約されると思う。説明するから、来て」
 ▼ 84 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:09:30 ID:.cWFKAr2 [9/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌとニャヒート、カミツルギの3匹に先導されて、懐かしの我が家へ足を踏み入れた。

テッカグヤは大きすぎて入れない。それはそうだろう。

中に目を移すと、内装自体は変わっていないが、ところどころ刀傷がある。


ジュナイパー「どしたの、これ」

カミツルギ「面目ない」


彼の体を眺め、それから納得した。

むしろ重いからと放置して来たアイテムが、彼がやって来るまで保存されていた事の方が驚きだった。


ジュナイパー「懐かしいなぁ」

アシレーヌ「でしょ。まだ残ってたんだねぇ」


僕とアシマリが暮らした部屋だが、もはやここは僕の部屋ではない。

長い事、離れすぎた。部屋はもう、僕を歓迎はしてくれない。

郷愁。それだけだった。
 ▼ 85 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:10:49 ID:.cWFKAr2 [10/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「……単刀直入に言うよ。なんでエクリプスは身を隠して、ウルトラビーストを匿ってるの?」

アシレーヌ「その前に、ちょっと教えてよ。ジュナイパーは、どうしてこの件に気付いたの?」

ジュナイパー「……僕、今探偵やってるんだ」

アシレーヌ「あー! すっごい似合ってる! オイラから離れて、ホントの自分、見付けられたみたいだね」

ジュナイパー「まあね」

ニャヒート「アママイコとは?」

ジュナイパー「聞きたい? 1時間はのろけられると思うけど」

ニャヒート「パス。で、あんたはなんでこれに首突っ込めたの?」

ジュナイパー「……実は、あるイワンコから依頼があったんだ。ウルトラビーストに関して調べてって」

カミツルギ「依頼……?」

ジュナイパー「記憶喪失で、その鍵をビーストの一種、ウツロイドが持ってるらしいんだ」


カミツルギが、少し考えを巡らせるようにくるりと回ると――いつぞやの僕みたいだ――言った。


カミツルギ「イワンコは入って来た覚えないけどなぁ……」

ジュナイパー「なるほど。イワンコがウルトラビーストの世界に行った事はない、と」
 ▼ 86 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:11:43 ID:.cWFKAr2 [11/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「とにかく、イワンコに調べてって依頼されたんだ。だから、調べてた。

       そしたらなんと、日食が来月で、だってのにエクリプスが見付からない。

       半ばやけくそで手紙出したらそれが大当たりして、今僕はここにいるって訳」

アシレーヌ「へえ……ホントにやけくそだったの?」

ジュナイパー「当たれば儲けものぐらいの感覚でしかなかったけど、、一応考えはした」

アシレーヌ「それで1発だもん。凄いよね」

ジュナイパー「今度はこっちの番。聞かせてよ」


僕の問い掛けに答えたのは、外にいるテッカグヤだった。

どうやら、声は聞こえているらしい。

彼女はカミツルギを呼び、そして相談しているようだった。


アシレーヌ「実は、オイラたちも全部教えてもらえてる訳じゃないんだ。

      オイラたちが練習してる時にやって来て、オイラのパフォーマンスを誉めてもらったんだ。

      テッカグヤが来て、みんな気付いて。

      誰だって聞いたらウルトラビーストって言うから二重にビックリだよ」
 ▼ 87 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:12:28 ID:.cWFKAr2 [12/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「どうしてこっち来たのかは言えないみたい。

      ただ、向こうが友好的だったから、ただ封じ込めるのも違うってのが、団長の判断だった」

アシレーヌ「エーフィとブラッキーも、夢に見たんだって。

      彼らを無下に拒むべきではないって、ソルガレオとルナアーラがそれぞれに」

ジュナイパー「なるほど……無下に拒むべからず……」


ソルガレオとルナアーラ。太陽と月を司る2匹が、各々の力を現世に伝える2匹の夢枕に立ち、そう伝えたのか。

それは確かに信じるしかない。
 ▼ 88 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:13:44 ID:.cWFKAr2 [13/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
戻って来たカミツルギが、どこから聞いていたのか話を引き取った。


カミツルギ「それから、皆さん、匿ってくれてるんです。共存の可能性を捜して。

      だけど、エクリプスが機能してると止めろって言われるだろうからって、一時解散させたんでしたよね」

アシレーヌ「そうそう! ジュナイパーが抜けてしばらくしてからやって来たスリーパーってポケモンの提案なんだけどね」


大当たりしている。行く先々で、不安な声を聞いて来た。

エクリプスがそのまま存続していれば、絶対に食い止めろと言われていたはずだ。

それこそ、「スポットライト」を浴びたポケモンを見るよりも明らか。

そのスリーパーは、的確な指示を出した事になる。事件慣れでもしていたのだろうか。

とにかく、僕が抜けてもきちんと回った訳だ。
 ▼ 89 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:14:42 ID:.cWFKAr2 [14/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「で、この作戦の行き付く先は?」

アシレーヌ「オイラたちポケモンとウルトラビーストの共存」

ジュナイパー「最終目的はわかってる。そのために、いろいろ障害があるのは目に見えてるでしょ?」

ニャヒート「結局のとこ、あたしたちにはサーカスしかない。わかってるでしょ?

      歓迎公演よ。それしかない。あたしたちのゼンリョクを彼らにぶつける。それから、その様子を知らしめるの」

ジュナイパー「そっか。ふふ、ふふふふ……」


気付けば、笑いが漏れていた。

さすがだ。2匹が、アシレーヌが出すとしたら、そういう結論にしかならない。


ジュナイパー「あっははは! さっすがだよアシレーヌ! 僕がいなくても、自分の答えを出せてるじゃん」

アシレーヌ「……違う。これは、こればっかりは、僕じゃない。カミツルギと、テッカグヤのアイデアなんだ」

カミツルギ「はい、まあ」

ジュナイパー「え、そ、そうなんだ。ごめん」
 ▼ 90 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:15:25 ID:.cWFKAr2 [15/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「いいよ。わかってる。オイラだけじゃ、ロクに、何も考えられないんだよ……何も……何も……」


アシレーヌがうつむいてしまい、僕は思わず黙り込んでしまう。

思えば、僕のワガママは、数こそ少ないけれど、いつも強大で、だからこそたった一度が、アシマリに、アシレーヌに強い影響を残していても何もおかしくはない。

僕は、彼から離れて幸せをつかんだ。

でも、彼はどうだったのだろう。

アシレーヌは、一体どれだけの苦悩を味わって来たのか。味合わせて、来たのか。


ジュナイパー「ごめん」

アシレーヌ「いいよ、別に。こうして、また会えたんだしね」

ニャヒート「ま、それはいいでしょ。みんな別々に他のウルトラビーストを捜してる。

      あたしたちはここを拠点にしたんだけど、なんか2匹に懐かれちゃってさ……」

カミツルギ「2匹のパフォーマンスと関係性が気に入っちゃってね。僕もカグヤちゃんも」
 ▼ 91 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:16:39 ID:.cWFKAr2 [16/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「へえ。で、他のウルトラビーストに関して、詳細を聞かせてもらっていい?

       僕がではないけど、今の所、ウツロイド、フェローチェ、コスモッグと接点があるポケモンと接点があるんだ」

カミツルギ「え、こ、コスモッグ?!」

ジュナイパー「え? まずかったですか?」

カミツルギ「いや、大丈夫です……」

ニャヒート「何その子。あたしたちが必死に捜してカミツルギたち以外1匹も見付けられてないのを3匹も見付けてるって?」

アシレーヌ「そうなるね。……なんでなんだろう?」

ジュナイパー「……カミツルギは、どうしてエクリプスに行き付いたの?」

カミツルギ「あー、いや、どことなく懐かしい臭いがあるようなないような、って感じですね。

      ずっと暮らしてた場所と、似た気配が薄く」


薄く、か。一番の接点と言えば、第一次のあの時だ。僕たちは、星を散らした空間で、ソルガレオとルナアーラに公演を見せた。

イワンコの、そして彼らの話を統合するに、あの2匹はウルトラビーストに対し綿密な接点を持っている、どころかウルトラビーストの一種と言っても過言ではない。

とすると、あの空間はウルトラビーストの空間、仮にウルトラスペースと呼ぶとして、ウルトラスペースとここの接点にあたる場所ではないか。
 ▼ 92 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:17:22 ID:.cWFKAr2 [17/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
こんな話を本で読んだ事がある。

この世界には、いくつかの領域がある。時間、空間、この世界、反転世界、それから始まりの間。

しかし、この複数の世界の狭間に、「なぞの領域」があるという。

なぞの領域に光はなく、ただ、そこにあるが、何もない。時間も、空間も。すべてから見放された領域。

そこに足を踏み入れたものがいるのか、その方法があるのかはわからない。

けれど、確かに存在するという。その言葉自体が伝承の一部なので実存は確かめられない。

もしかすると、その領域こそが、ウルトラスペースなのではないか。

――そして、伝承はこんな風に終わる。

その領域が創造主を取り込む時、世界は崩壊し、再創生される。
 ▼ 93 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:18:16 ID:.cWFKAr2 [18/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
これは仮定だ。確証なんて、何もない。

もしこれがそうだったとして、どう関わって来るのかも、そもそも関わるのかすらわからない。

ただ、もしそうだとすると、その領域に潜り込んだ事のあるポケモンに吸い寄せられる。

つまるところ、イワンコは、その領域に潜り込んだ事がある?

けれど、そんな事実はなかったという。本当かはわからない。知らなかっただけかもしれない。

そもそも、この考えが間違いなのだろうか。もっと、エクリプスに惹かれる理由が別にあるのか。

例えば、エーフィ、ブラッキーの2匹。

この可能性は普通にある。だが、そうだとすると、強烈でないというのが今度はネックになる。

こちらに関しては、堂々巡りだろう。

今度は、彼らがこの世界にやって来た理由だ。


ジュナイパー「どうしてこっち来たのかは言えないんですよね」

カミツルギ「ごめんね」

ジュナイパー「どうして言えないんですか?」
 ▼ 94 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:18:57 ID:.cWFKAr2 [19/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「もちろん、話したくない範囲までは話さなくて結構です。引き出すのは僕の、探偵の仕事だから。

       でも、協力するからには、情報が欲しい。他のウルトラビーストに関して。彼らをどう懐柔すればいいのか。

       前、赤い奴に襲われた事があって、不安なんです」

カミツルギ「……マッシブーンね。まあ、あの時はまだ、自我なんてあってないようなもんだったから」

ジュナイパー「それが、自我を持った。何かのきっかけで。そのきっかけこそが、あなたたちがこっちにやって来た理由ですか」

カミツルギ「……そうなるのかな。気付けば、あった。そして、その理由もまた、別に存在していた。自我の産まれた理由はわからないんだ」


危機的状況に対し、協力してそれを乗り越えようとした。

その結果の自我なのかもしれない。
 ▼ 95 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:19:57 ID:.cWFKAr2 [20/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
こちらへやって来る理由。向こうに懐かしさを覚えるような生き物が、こちらに居場所を求める理由。


ジュナイパー「向こうに住めない理由でもできたんですか?」

カミツルギ「……その通りです」

アシレーヌ「え?!」

ジュナイパー「冷静に考えればそうとしか考えられないよ。懐かしさでエクリプスを見付けたんなら、帰ればいい。

       論理的結論として、侵略じゃないとすると、帰れない以外にあり得ない」

アシレーヌ「じゃあ……」

ジュナイパー「当のウルトラビーストの前で言うのもどうかだけど、侵略じゃないんですよね?」

カミツルギ「……ああ」


侵略ではない。どこまで信じていいのかはわからないが、ここはソルガレオとルナアーラを信じよう。

だとすると、世間一般の協力と同意を可及的速やかに取りたいはずだ。けれど、そのための、情報を発信する機会はあまりない。

なぜならば、エクリプス事件で、ウルトラビースト=悪の公式が成り立ってしまったから。
 ▼ 96 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:20:58 ID:.cWFKAr2 [21/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
けれど、それだけか?

僕の脳内を、疑問が駆け巡った。

エクリプスが共にいれば、少しは主張も通るのではなかろうか。


ジュナイパー「この段階ではまだ、公表は、しないんだ」

カミツルギ「……はい」


協力的な態度を見せる彼ら。

けれど、行動が一貫していない。


ジュナイパー「今この段階では公表できないんだよね? どうして?」

カミツルギ「それが……言えない理由です」


そうか。なるほど。こっちにやって来た目的と、公表できない理由が一致している。

侵略ではない。信じてもいいだろう。こんな回りくどい事をせずとも、前回のようにそのまま力を振りかざせばいいのだから。

この巨体。この切れ味。これが束になってかかって来たら、たぶんポケモンは敵わない。

それが、こうしている。全てを公にできる程白ではなく、けれど黒でもない。
 ▼ 97 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:21:30 ID:.cWFKAr2 [22/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告















そうか、閃いた。
 ▼ 98 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:22:16 ID:.cWFKAr2 [23/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
白でも黒でもない、となると結論はひとつ。グレーだ。


ジュナイパー「まだ、侵略か、和解か、決まってないんだ」

カミツルギ「な、なんでそれを……」


ビンゴ。ぱたぱたと紙のような箇所を開け閉めするカミツルギは、明らかに動揺している。

ウルトラビーストの狙いは、調査。この世界のポケモンたちと、気持ちよく共存できるか否かを調べたいのだ。

白なら自分も白。黒なら自分も黒。

朱に交われば、赤くなる。


ジュナイパー「君たちも、僕と同じだ。調べて、結論を出す。

       この世界を調査対象に、全てのウルトラビーストを依頼主とした、探偵なんでしょ」

カミツルギ「……カグヤちゃんと相談してくる」


彼は、飛び去って行ってしまった。

僕は、ふうと息を吐き、それから笑った。
 ▼ 99 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:23:12 ID:.cWFKAr2 [24/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「凄い……なんでわかったの?」

ジュナイパー「いっつも、綱渡りだよ。いくらかある可能性の中から、一番確率の高そうなものを拾い上げる。

       大事なのは、気持ちを寄せる事。

       相手の立場に立った時、どう考えるだろうかってね。徹底的に調べる事で、その精度はより高まるんだ」

アシレーヌ「それでも正解してるんだもん。綱渡りだって、関係ないよ。答えがあってれば」

ジュナイパー「……でも、こんな考え方してたら、いつかは間違えそうで」

ニャヒート「ったく。なんだって、自信が大事なの。サーカスだって、できると思うからやれる。

      最悪の事態に備えて、最高の結果を描く。これが一番」

ジュナイパー「……そうだよね」

アシレーヌ「なるほど……」


ニャヒートが、驚いたように僕たちを見詰めている。


ニャヒート「何急に静まり返って」

ジュナイパー「いや、心のノートにメモってた」

アシレーヌ「オイラも」
 ▼ 100 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:23:44 ID:.cWFKAr2 [25/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「はぁ?! 別にメモる程の事でもないと思うけど」

ジュナイパー「いやいや、充分いいと思うよ、さっきのセリフ」

アシレーヌ「ま、そうやって謙遜しがちだよね。サーカス以外」

ニャヒート「……何これ。……ま、いいか」


そんな風に話していると、カミツルギが戻って来た。
 ▼ 101 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:24:49 ID:.cWFKAr2 [26/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
カミツルギ「お待たせ。……君の想像通りだよ。正解。

      僕たちは、君たちのパフォーマンスに惹かれた。

      それで、この世界を好きになった。

      だから、みんなにも。そう思って欲しいなって」


戻って来たカミツルギから、その言葉を聞く。

僕は僕で、少し考えを巡らせた。


ジュナイパー「じゃあ大事なのは、他のウルトラビーストにも、この世界はいいものだ。ポケモンと共存する価値があると思わせればいい……って事?」

カミツルギ「まあ、そうなりますね。基本的に、ポケモンを滅ぼすべきかが問題になるので」

アシレーヌ「さらっと怖い事言うね……」

カミツルギ「仕方ないでしょ! アシレーヌ。まあ、それはともかく、この世界の、ポケモンのよさを知りたいんです」
 ▼ 102 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:25:51 ID:.cWFKAr2 [27/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
彼の言葉には、恐らくもう、嘘はないと見ていいだろう。


ジュナイパー「つまるところ……サーカスに、君はこの世界の素晴らしさを見た訳だ」

カミツルギ「そう。カグヤちゃんも……

 テッカグヤ「めっちゃ凄いやん! これで練習とか本番どないなってまうんや!」

      って言ってた。もちろん、僕だって感動したよ」

ジュナイパー「そういや、2匹ともまだやってるんでしょ? 見たいな、2匹のパフォーマンス」


不意に言葉が零れた。何も考えない、素の言葉。

しかし、アシレーヌは首を縦には振らなかった。
 ▼ 103 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:26:23 ID:.cWFKAr2 [28/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「ごめん。まだ、ジュナイパーには見せられない。

      本番の、みんなが揃った時に」

ニャヒート「アシレーヌ、ずっと言ってるの。いつかまた、あなたに公演を見て欲しいって。

      そこで、オイラのゼンリョクをぶつけるんだ、って」

アシレーヌ「うん。サーカスは、オイラだけのものじゃない。全部ひっくるめて、ひとつのショーだから」

ジュナイパー「そっか。楽しみにしてるよ。

       それからカミツルギ。他のウルトラビーストに関して教えてくれない?」

カミツルギ「ああ……了解です」
 ▼ 104 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:27:08 ID:.cWFKAr2 [29/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
コスモッグ:ウルトラビーストの王子。友達を欲しがっている

ウツロイド:楽しい事を求める天真爛漫な少女

フェローチェ:美を追求する戦闘脳お嬢様

デンジュモク:光を求めるチャラ男

テッカグヤ:省略

カミツルギ:同上

アクジキング:何でも食べる黒い塊。満腹感を求める


カミツルギ「一応マッシブーン……まだこの世界には来てないビーストも説明しときますね」


マッシブーン:力を追及する筋肉バカ
 ▼ 105 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:28:09 ID:.cWFKAr2 [30/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジュナイパー「デンジュモク、アクジキング、マッシブーンがまだ出会ってないのか」

カミツルギ「マッシの奴は向こうでまだ筋力鍛えてますね。赤い奴って、たぶんあいつだと思います」


ヤレユータンと共に戦ったあのウルトラビーストは、マッシブーンという種族だったのか。

彼とその名を結び付け、記憶の引き出しにしまいこんだ。


カミツルギ「ジュモクはこの世界の太陽と月が気になってたそうです。ポケモンとの関係はともかく、こっちを気に入ってはくれるかと。

      アクジキングさんは……どんだけ食べても食い足りないんです。どうにかして彼の空腹を満たす事ができればあるいは」

ジュナイパー「空腹を満たす、か」

アシレーヌ「腹ペコって……なんかかわいい」

カミツルギ「まさか! 何でも、それこそあなたたちも食べちゃう程のくいしんぼですよ!」

アシレーヌ「え、お、オイラたちも……?」

ジュナイパー「ブラックホールな空腹を埋める、かぁ」

アシレーヌ「まあ、方法は後で考えようよ。まずは捜す事。マッシブーンをノーカンとして、デンジュモク、アクジキング……」

ジュナイパー「僕も捜す。今は捜す事しかできないよね。

       でも、それと同時にアクジキングの空腹を満たす方法も探らないといけない、か」
 ▼ 106 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:30:30 ID:.cWFKAr2 [31/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
カミツルギ「そういう事になりますね。

      でも、ウツロイド、フェローチェ、コスモッグ、それから後でやって来るであろうマッシブーンを納得させる術も欲しい」

ジュナイパー「前半3匹は大丈夫そうだけどね、イワンコたちの話を聞く限り」

カミツルギ「……考えても仕方ないですし。ジュナイパー、戻ってこの事をそのイワンコに伝えてください」

ジュナイパー「了解です。最後にひとつ、いいですか?」

カミツルギ「なんでしょう」

ジュナイパー「だいたい察しは付きますが、なんで隠してたんですか?」

カミツルギ「……素を見たかったから。着飾ったものなんて、意味がない。僕はもう降参ですけどね」

ジュナイパー「やっぱり。ありがとうございます」
 ▼ 107 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:31:36 ID:.cWFKAr2 [32/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
話を切り上げ、それからアシレーヌが料理を作り始めた。

カミツルギとテッカグヤは外に出て何やら話し込んでいる。

僕はニャヒートと会話を始めた。


ジュナイパー「ニャヒート、エクリプスのメンバーの技術、向上してる?」

ニャヒート「当たり前。アシレーヌがあんた消えてからすっごい頑張ってて、みんな、それに引っ張られるみたいに。

      明確な技術指導こそいないけど、ルテーも吸収して急成長した」

ジュナイパー「それで、今や押しも押されぬ人気サーカス団、か。向こうの知り合いのお孫さんが、エクリプスの公演誉めてたよ」

ニャヒート「そりゃどうも。ねえ、ジュナイパー」

ジュナイパー「どうしたの?」

ニャヒート「あたし、どうしてこうなっちゃったのかな」

ジュナイパー「え?」
 ▼ 108 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:32:08 ID:.cWFKAr2 [33/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「……もう、嫌になる。あたしにはサーカスしかない。

      あたしの覚悟が、あたしを孤独にする。アシレーヌとも、繋がれない。

      全部終わらせて、それからでも遅くはない。そう思ってた。

      だけど……あたしも、もうそろそろ、いい歳。まだ若いとはいえ、あそこまでのパフォーマンスを維持する体力は、少しずつ、衰えてる。

      でも、しがみつくしかない。……でも、それすらも、こんな事件のために奪われて」

ジュナイパー「こんなって……世界の一大事だってのに……」

ニャヒート「……それでも、あたしはわからない。あたしは、飛べればそれでいい。最後の、これで終わりと決めた、その瞬間まで、ただ飛べれば。

      こんな、世界の明暗を賭けたブランコなんて、違うよ」

ジュナイパー「……それでも、君にはそれだけの実力がある。実力は、責任を伴うもんだ」


ニャヒートは、微妙な顔で下を向く。

涙を流すだとか、声を荒げるというような激情は、現れない。

ただ、淡々と、自分の現状を嘆くのみ。
 ▼ 109 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:33:19 ID:.cWFKAr2 [34/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「ずっと、憧れて。いつか追い越して、追い掛けられて。

      あたしは、サーカスと共に生きて来た。

      それが、こんな風に中断されるってのが、どうにも辛いだけ。

      練習は続けてる。続けてるけど、あたしは、嫌」


きっと、不安定な心が、彼女の口を望む望まない関係なしに動かしている。

支離滅裂な、しかし心に迫る物言いで、彼女は力無げに微笑んだ。


ニャヒート「わかってる。ワガママだって事ぐらい。

      何があったって観客に見せるパフォーマンスは変えないし」

ジュナイパー「まあ、好きなだけ悩めばいいよ。何が正解なのか。真実なんて、視点が変われば全然違う」

ニャヒート「……ありがと」
 ▼ 110 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:34:11 ID:.cWFKAr2 [35/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「ごはんできたよ! ジュナイパー、これちょっと向こう2匹に持ってって」

ジュナイパー「了解」


会話を切り上げて数分、そう言われたため僕は外へ出た。

2匹は空高く、9メートルの位置で会話している。そのせいで、声は聞き取れない。


ジュナイパー「おおい! ごはんできましたよ!」


声を張り上げる。これは確かにしんどい。


カミツルギ「あ、はーい!」


カミツルギが凄いスピードで降りて来て、僕にお礼を言った。


カミツルギ「戻っていいですよ。こっからは僕がカグヤちゃんに届けるので」

ジュナイパー「は、はあ……」


どうやって。そんな疑問が胸を襲う。

持ち運ぶにしても、カミツルギが触れたらお皿が切れそうなのだが。
 ▼ 111 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:35:05 ID:.cWFKAr2 [36/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
頭を悩ませたまま部屋に戻ると、懐かしのアシレーヌの料理が並ぶ。


アシレーヌ「久々にジュナイパーがオイラの料理食べてくれるからさ、ちょっと気合い入れちゃった。

      ブラッキーには敵わないと思うけど」

ニャヒート「まあ、あれは比較しちゃ駄目。お金取れるもんあの料理」

ジュナイパー「そっか、ありがとう!」


献立は僕が考えていた。

今は自分で考えているのか、それともニャヒートたちとあらかじめ決めてあったのか。

いずれにせよ、成長したものだなと思う。

僕を振り切って、それだけゼンリョクを尽くしてくれたという事か。

そう考えるのは、虫が良過ぎかもしれないな。


ジュナ・ニャヒ・アシ「いただきまあす」


3匹の声が重なった。
 ▼ 112 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:36:36 ID:.cWFKAr2 [37/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オレンとパイルのクリームシチュー。

モーモーミルクの甘さを、パイルの酸味が引き締め、そこに様々な味の混ざり合うオレンがインパクトを与える。

口の中で広がる風味に、僕は舌鼓を打った。


ジュナイパー「おいしい! 腕をあげたね、アシレーヌ」

アシレーヌ「そうかな? えへへ……」

ニャヒート「まあ、普段以上ではあるけどね今日の」

アシレーヌ「なんだとぉ?!」

ジュナイパー「ぷっ」


思わず吹き出してしまう。口に何も入っていなくてよかった。
 ▼ 113 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:37:21 ID:.cWFKAr2 [38/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
懐かしい、この感じ。

アシレーヌがいろいろと話し、僕は笑い、ニャヒートが冷静に切り返す。

楽しかった。心の底から、楽しかった。

アママイコといる時とはまた違う。彼女には彼女の、アシレーヌにはアシレーヌの、ニャヒートにはニャヒートの個性がある。

その全て、僕には居心地がいい。

けれど、その種類は別物なのだ。


ジュナ・ニャヒ・アシ「ごちそうさまでした」
 ▼ 114 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:38:07 ID:.cWFKAr2 [39/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシレーヌ「それで……なんだけど」


皿洗いを手伝っていると、横からアシレーヌが声を掛けて来た。

僕は手を止めて、そちらを振り向く。


ジュナイパー「何?」

アシレーヌ「……いつ帰るの? まだまだ一緒にいたいけど、そうもいかないし……」

ジュナイパー「うん。明日、あさごはん食べたら、戻ろうと思ってる。

       日食は、新月の時に起こる現象だ。そして、もう上弦よりも膨らんだ。僕が家に着く頃には、満月も終わってる」

アシレーヌ「後だいたい……」

ジュナイパー「17日ぐらいかな。戻るのに、5日」

アシレーヌ「そう……だよね。仕方ないよ。頑張ってねジュナイパー」

ジュナイパー「もちろんだよ! ……再開は、きっと、エクリプスのその時、公演で。あれ、場所どこだ?」

アシレーヌ「ミリスだよ。そんな事も聞き忘れちゃうなんて、探偵失格じゃない?」

ジュナイパー「むぅ……」

アシレーヌ「よしっ、皿洗い終わり!」
 ▼ 115 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:38:44 ID:.cWFKAr2 [40/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
不意に、あくびが零れた。

それを見て、アシレーヌがこう呟く。


アシレーヌ「もう、寝ちゃおっか」

ジュナイパー「アシレーヌ」

アシレーヌ「何?」

ジュナイパー「……君こそ、頑張ってね」


アシレーヌは、にっと笑い、言った。


アシレーヌ「もっちろん!」
 ▼ 116 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:39:43 ID:.cWFKAr2 [41/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「藁布団は敷いといた。お休み」

アシレーヌ「お休みー」

ジュナイパー「あ、ありがとう。お休み」

ニャヒート「水が苦手なあたしの代わりに皿洗ってくれてるのに、お礼言われる筋合いもない」


そう言ってニャヒートは歩き去る。

さすがに別の部屋を使用していたらしい。

2匹は、どちらもタマゴグループ陸上を持つ。

なんの間違いがあるか、わかったもんじゃないからだろう。

互いに好意を抱いているのは、予測が付いている。恐らく、両方それを知っている。

けれどまだ、一線は超えていないのだろうと、容易に想像がついた。

子ども産んだら体格変わって飛べなくなるうんぬん。

らしいや、と微笑みが漏れた。


アシレーヌ「お休み」

ジュナイパー「お休み」
 ▼ 117 1◆J44kAZeDOM 17/04/05 19:40:43 ID:.cWFKAr2 [42/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌朝、目を覚ますと、アシレーヌはいなかった。

だいたい何をしているのか察しは付いたから、僕はまた、眠りに落ちる。

見てはいけない。少なくとも、僕だけはまだ。

だから、力を蓄えよう。今日からまた、長旅だ。

しばらく微睡(まどろ)んでいると、アシレーヌが呼ぶ声が聞こえた。


アシレーヌ「できたよー」

ジュナイパー「ふああ、おはよ」

アシレーヌ「おはよ!」
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