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【SS】ママ「ほら、早く起きなさい!」【リメイク】

 ▼ 1 AYr1xkow/g 17/08/18 09:07:23 ID:z1am0BAU NGネーム登録 NGID登録 報告
こんにちは。私はスリジエ。みんなからはポケモン博士と呼ばれているわ。今日は私のネット講座を受けてくれてありがとう。楽しい時間にしましょうね。

ポケットモンスター、縮めてポケモン。この世界には、そんな不思議な生き物がたくさんいます。私たち人間は、彼らポケモンと共に生きています。一緒に遊んだり、力を合わせて仕事をしたり、そして時にはポケモン同士を戦わせてバトルをしたり……。そうやって私たちはポケモンと絆を深め合っているの。そんな彼らをよく知るために、私は研究をしています。

さて、ではそうね、今日の講座を受けてくれたあなたにも軽く自己紹介してもらおうかしら。えーっと、写真を見せてもらってもいいかしら?

ありがとう!ふんふん。あら、どこか見覚えのある顔だわ。お名前はなんていうの?

パロレくんっていうのね!素敵な名前ね。

それにしても、パロレくん……?あ!思い出したわ!

あなた、アキニレくんの弟くんね!なんだ!びっくりしちゃった。

知ってるとは思うけれど、アキニレくんは私のお手伝いをしてくれているのよ。今はちょうど出かけているけど、明日の朝早くに、出張から帰ってくるはずだわ。

……パロレくん!きっとあなたなら強いトレーナーになれるわ。そんな気がするの。ポケモンとの絆を深めて、思う存分楽しんでね!

さあ、ポケットモンスターの世界へ!
 ▼ 224 AYr1xkow/g 17/09/30 00:38:21 ID:q8PrpsQY NGネーム登録 NGID登録 報告
「……昨日のパロレ、すごかったなぁ」

クオレが呟いた。パロレは思わず「え?」と聞き返してしまった。

「あんな大変なことがあったのに、最後は勝っちゃったんだもん!」

クオレは力強く言った。

「あのね、リザードンとのつよーい絆を感じたよ。本当に!」

クオレが真面目な顔で言う。ユーリもうんうんと頷いた。

「パロレが強い理由が、分かった気がするよ」

クオレが穏やかな声で言った。アキニレは三人の様子を、優しい瞳で見つめている。

「ええ。それに、アルセアさんの言葉が強く胸に刺さりました。オレも、きっと自分に向き合えていなかった……」

ユーリがそう言って、深刻な表情で黙りこむ。パロレはなんと返すべきか分からず、困った顔でクオレとユーリの顔を交互に見つめた。すると、アキニレがパロレの両肩をぽんと叩く。

「バジリコだってそう。俺だってそうさ。昨日のパロレを見て、何かを感じ取った。……スリジエさんは大人だし、俺たちよりもずっと年上だから、変わるのは難しいかもしれない」

アキニレはそう言うと、パロレの頭を撫でた。

「……でも、きっとこれからいろんなことがよくなるはずさ。パロレ、お前はそれだけのことをしてくれたんだ」

パロレはなんだか恥ずかしくなってきた。自分ではあまりピンと来ない。アキニレはパロレから離れると、すまなそうな顔をして言った。

「……大変なことに巻きこんで本当に申し訳なかったね。俺がもっと君たちをちゃんと守るべきだった」

アキニレが唇を噛む。

「ううん」

パロレは首を横に振った。

「だって、ポケモンがいますから!」

クオレが笑顔で言う。

「オレたちは大丈夫です」

ユーリも微笑んだ。

アキニレは、はっと息を呑んだ。三人は、ポケモンたちと共に旅に出たことで、成長していたのだ。

「……心配はいらなそうだな。三人とも、前にここでポケモンを受け取った時と、違う顔をしてる」

アキニレはそう言うと、少し寂しげな表情で言った。

「ポケモンをあげたのは、スリジエさんだけど……そのポケモンたちは何も悪くない。嫌いにならないでほしいな」

「もちろんですよ!」

「嫌いになるわけないです!」

クオレとユーリが咄嗟に返した。アキニレは力なく笑った。

「はは、そりゃそうか。……よかった!」
 ▼ 225 AYr1xkow/g 17/10/01 14:06:04 ID:OyqUvwd2 [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
思わぬ事件もあったが、もう大丈夫。パロレとリザードンは、一緒にいる。また、前と同じようにやるだけだ。

「よし、行こう!」

というわけで、パロレはオーロジムの前にいた。今度こそジムは開いている。パロレはぐっと気を引き締めた。高みを目指すセレブリティという二つ名を持つジムリーダーとの、最後のバッジを手に入れるバトルだ。

パロレはオーロジムに足を踏み入れた。そして、内装を見て思わず怪訝な顔をしてしまう。そこは、巨大な衣装部屋となっていたのだ。

ジムリーダーの私物だろうか。服や靴、アクセサリー、鞄などが大量に置かれている。床には矢印の書かれたパネルのようなものがたくさんあった。このパネルを踏むと、強制的に矢印の方向へ動くようになっているようだ。

服を探すのにも大変そうだ。パロレはそう思った。そういえば、クオレがここを見たら喜びそう、そんなことも考えながらパロレは進んだ。

パネルの方向を覚えないと、さっきまでいた場所に戻されてしまう。パロレは真剣に動いた。

やがて、大きな姿見のあるところまでやってきた。ゴールのようだ。鏡の前に、金髪の女性が立っている。

「あの、挑戦しに来たんですけど……」

パロレが恐る恐る話しかける。女性が振り向いてこちらを見た。そして、パロレを見てパッと笑顔になる。

「チャオ!あたしはレナよ」

「こんにちは。ぼくはパロレです!」

パロレが挨拶を返すと、レナは笑顔で続けた。

「あたしのママね、デザイナーなの。レケナウルティアってブランド、知ってる?君、男の子だから、あんまりピンとこないかもしれないけど」

パロレはふと、メラン乗船所からダ・カーポ島を目指して船に乗った時のクオレたちとの会話を思い出した。そんなような名前を聞いた、気がする。

「名前は聞いたことあります」

「あ、そお?」

レナは嬉しそうな顔をした。それから真面目な顔をして、

「ママのブランドの看板背負ってる分、プレッシャーもちょーっとあるのよね。あたし、お騒がせセレブみたいに言われちゃうこともあるけど、バトルに関してはいつだって真剣よ。今回だって、本気で行かせてもらうから!」

そう言うと、レナはモンスターボールを手に取った。

レナは、ノーマルタイプの使い手だ。さあ、頑張るぞ!
 ▼ 226 AYr1xkow/g 17/10/01 14:07:14 ID:OyqUvwd2 [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「チラチーノ!いってらっしゃい!」

レナがポケモンを繰り出した。

「サナギラス!任せた!」

パロレがそう言って、サナギラスを繰り出した。サナギラスはまだひとつ進化を残している。きっともう少しで進化できるはずだ。

「チラチーノ!おんがえし!」

チラチーノはすばしっこく動き、レナの言葉に応えようと全力で攻撃をしてきた。威力は高かったが、サナギラスはいわタイプ。効果は今ひとつだ。

「サナギラス!しっぺがえしだ!」

サナギラスは、ずっと力を溜めこんでいたのだ。チラチーノが素早いお陰で、更に力を発揮することができる。サナギラスが攻撃すると、二倍のダメージを受けたチラチーノは倒れてしまった。

「なかなかやるわね。行くわよ!ムーランド!」

レナがチラチーノを戻し、ムーランドを繰り出す。ムーランドはサナギラスを威厳ある表情で睨みつけた。サナギラスは萎縮して、攻撃力が下がってしまった。

しかし、パロレは、ある作戦を思いついていた。

「ムーランド!おんがえしよ!」

レナが指示を出す。

「よし、サナギラス戻れ!ジュペッタ!行くぞ!」

パロレはそう言って、あえて一ターン消費した上でサナギラスを戻した。これでジュペッタは、いかくを受けずに済み、更におんがえしを無効化できる。そしてサナギラスも経験を積める。我ながら完璧な作戦、とパロレは思った。ムーランドの全力の攻撃は、無駄に終わってしまった。

「くーっ!」

レナが悔しそうな声を上げる。さあ、ここからだ。

「ムーランド、かみくだく!」

ムーランドはジュペッタに思いきり噛みついてきた。効果は抜群だ。ジュペッタは大ダメージを受けてしまった。

「ジュペッタ、おにび!」

ジュペッタが鬼火を発生させる。不気味な炎はムーランドにまとわりついた。ムーランドは炎を払おうと吠えて動き回るが、炎は消えない。やがて、ムーランドは苦しそうな鳴き声を上げた。火傷してしまったようだ。

「ムーランド、頑張って!かみくだくよ!」

ムーランドがもう一度かみくだく攻撃をしてきた。やけど状態の影響で攻撃力が低下したムーランドの攻撃は先程よりは弱かったが、ジュペッタは倒れてしまった。

「ジュペッタ、ごめんよ。ピジョット!行くぞ!」

パロレはジュペッタを戻してピジョットを繰り出した。
 ▼ 227 AYr1xkow/g 17/10/01 14:08:19 ID:OyqUvwd2 [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ピジョット!ぼうふう!」

ピジョットが起こした凄まじい暴風が、ムーランドを襲う。ムーランドはどうにか持ち堪えたが、風に吹かれて混乱してしまったのか目を回している。ムーランドはやがてすっ転んでダメージを受けてしまった。そして、追い討ちをかけるように火傷の痛みを受けてムーランドは鳴き声を上げて倒れてしまった。

「残念っ。行くわよ、ミミロップ!」

レナはムーランドをボールに戻してミミロップを繰り出した。

「ピジョット戻れ!マリルリ、頼んだ!」

パロレもポケモンを入れ替える。

「ミミロップ!おんがえしよ!」

ミミロップはまたもや全力で攻撃してきた。しかし、マリルリはバッチリ耐えきった。パロレは勝利を確信し、声高らかに指示を出す。

「マリルリ!ばかぢからだ!」

マリルリは、その技の名の通り凄まじい力を発揮してミミロップに攻撃を仕掛けた。ちからもちで威力が二倍になった、元々威力の高いかくとうタイプの大技だ。隙はない。ミミロップは一撃で倒れ、気を失ってしまった。

「あーあ、やられちゃった!」

レナはそう言って、ミミロップをボールに戻した。そうは言うものの、レナの表情は明るく、嬉しそうだ。

パロレはカタカタとボールが揺れていることに気付き、慌てて腰に目をやった。サナギラスの入っているハイパーボールから光が漏れている。パロレは思わずぱっと顔を輝かせた。

サナギラスをボールから出す。サナギラスの体が光っていた。やがて光は更に大きくなり、サナギラスの体を包みこむ。光の中に見えるシルエットは、大きくてゴツゴツとしている。

やがて、光が消え去った。そこにいるのは、鎧のような大きな体に鋭い眼光や牙を持った、見るからに強そうなポケモン。バンギラスだ。

「やった!バンギラス、めちゃくちゃ強そうだ!」

「バンギィ!」

バンギラスが鳴き声を上げる。パロレはぐっと親指を上げてみせた。
 ▼ 228 AYr1xkow/g 17/10/01 14:09:46 ID:OyqUvwd2 [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「負けたのに清々しい気分!」

レナはそう言いながら、こちらへと近づいてきた。

「強くなるためには、相手の戦い方からいろんなことを学ばないとね。君のやり方、勉強させてもらったわよ」

レナはちょっぴり挑戦的な瞳でパロレを見つめた。

「君も、あたしのやり方から何かを感じ取ってくれたなら嬉しいわ」

その言葉に、パロレは頷く。

「はい!」

「じゃあ、お約束のこれね。オーロジムリーダーであるこのあたしに勝った証!ジェネラルバッジよ」

レナはそう言って、ダイヤモンドのような形をした、綺麗に輝くバッジをパロレに手渡した。

「うーん、いいじゃない。輝いてるわ!あたしの持ってるアクセサリーにも負けない、強い光!」

レナは楽しそうに言う。

「それからこれもあげるわ。おんがえしの技マシンよ。この技はね、ポケモンが懐いていればいるほど威力を増すの。君のポケモンなら、きっと最大限の力を発揮できるはず!」

「ありがとうございます!」

パロレはしっかりお礼を言うと、バッジと技マシンをバッグにしまいこんだ。その様子を見ていたレナが、あっと声を上げる。

「バッジを八個集めたのね。おめでとう!」

「はい。ありがとうございます!」

そう。これで、アモル地方のジムバッジをすべて手に入れた。パロレが喜びを噛み締めていると、レナは更に聞いてきた。

「それじゃ、ポケモンリーグに挑戦するの?」

レナの質問に、パロレは強く頷く。

「はい、そのつもりです」

始めは、よく分からないまま旅をしていた。でも、今は違う。レナはパロレの表情を見て、満足げに頷いた。

「いいわね!」

それからレナは微笑み、

「強くなるっていいことよ。それまで見えなかったものに気付けるようになる。そうやって、世界はどんどん広がっていく。あたしはそれを実感するのが大好きなの!だから更に上を目指してるのよ」

そう言って、パロレにウインクした。

「頑張って。応援してるわ!」

「はい!ありがとうございました!」
 ▼ 229 ンターン@たてのカセキ 17/10/01 14:46:21 ID:Bv0k5bQ2 NGネーム登録 NGID登録 報告
・悪タイプの使い手
・シブいおじさん
・ちょっと悪の組織と繋がってる


リュウさん……俺の好きなタイプのキャラだ…w
 ▼ 230 ザード@ねばねばこやし 17/10/02 21:45:49 ID:oH08p1mY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アルセアのクーデレっぽい感じ好き
支援
 ▼ 231 AYr1xkow/g 17/10/04 14:11:19 ID:o.ctxd2Q [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌日、パロレはジョーヌシティにやってきていた。なぜかって、それはジョーヌシティ中央にあるポケモンリーグに挑戦するためだ。

ジョーヌシティの中央には、ポケモンリーグに挑戦する前に挑むこととなるチャンピオンロードへの入口がある。このチャンピオンロードはポケモンリーグを囲むようにしてそびえ立つ小さな山だ。

さあ、チャンピオンロード前の門に着いた。ここから先はジョーヌシティの管轄外。アモル地方のすべてのポケモントレーナーの憧れである、神聖な場所だ。

「今までいろいろなことがあったな……」

パロレは思わず声に出して呟いていた。

始めは、ただなんとなくジムを巡っていただけだった。だけど、今は違う。強くなりたい。心からそう思うのだ。限界まで挑戦したい。チャンピオンに勝ちたい。ポケモンたちと一緒にどこまでも行きたい。それがパロレが見つけた、この旅の目的だ。

「みんなと力を合わせて頂点まで行ってみせる!やってやるぞ!」

パロレは気合を入れてそう言った。すると、

「パロレっ!」

後ろから呼ぶ声が聞こえてきた。誰だかはすぐ分かる。パロレは振り向いた。

「クオレ!」

クオレは笑顔だった。ニッコリと笑って、パロレに話しかけてくる。

「今からポケモンリーグに挑戦しに、チャンピオンロードに行くって感じ?」

「うん。そのつもりだよ」

パロレは頷いた。

「そっかぁ!パロレ、すごいなぁ……」

クオレは少し寂しげな表情で言った。しかし、すぐに力強い笑顔を浮かべ、

「でもね、わたしも追いつくから!」

そう言ってみせた。

「!」

パロレが思わず目を見開く。

「あのね、わたし、やっぱりジムを制覇することにしたの。パロレみたいにすぐにたくさんはクリアはできないけどね」

クオレは真っ直ぐにパロレを見つめて続ける。

「でも、始めから無理だって決めつけて諦めるなんて、弱い証拠だよね。わたし、もっと強くなるんだ。わたしに負けないくらい!」

「うん。ぼくこそクオレに負けていられないな」

パロレがそう返す。

クオレは輝いていた。あの事件の日にパロレの姿勢やアルセアの言葉に心打たれたクオレは、変わったのだ。

「えへへ。じゃあ……激励も兼ねて!バトルだよ!」

クオレはそう言って、モンスターボールを手に取った。
 ▼ 232 AYr1xkow/g 17/10/04 14:40:20 ID:o.ctxd2Q [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「行くよ!ライチュウ!」

クオレがポケモンを繰り出す。

「バンギラス!行ってこい!」

パロレもボールを投げた。

「ライチュウ、10まんボルト!」

ライチュウの頬にビリビリと電力が集まり始める。やがて、ライチュウは強い電撃を起こした。10まんボルトはバンギラスに直撃した。進化してじめんタイプからあくタイプになったバンギラスは、でんきタイプの技でダメージを受けるようになってしまっている。

「バンギラス!じしんだ!」

パロレは怯まず指示を出した。バンギラスはその巨体で地面を揺らす。ライチュウは自身を支えきれずに倒れこみ、大ダメージを受けてそのまま気を失ってしまった。

「ライチュウ、ごめんね。アブリボン!いってらっしゃい!」

クオレがライチュウを戻してアブリーを繰り出す。バンギラスと比べてとても小さく可愛らしいその姿が、なんだか面白い。

「アブリボン!マジカルシャイン!」

アブリボンはまばゆい光を放って攻撃してきた。バンギラスは苦しそうに呻く。効果は抜群のはずだ。しかし、バンギラスはギリギリのところでどうにか持ちこたえた。

「バンギラス、あと少しだけ頑張るぞ!いわなだれ!」

パロレは優しく声をかけて指示を出す。バンギラスはその声に応えるようにして凄まじい勢いで岩をアブリボンに投げつけた。アブリボンは気絶して地面に落ちてしまった。

「アブリボン、お疲れさま!ウインディ!頑張って!」

クオレは今度はウインディを繰り出してきた。

「よし、バンギラス戻れ!マリルリ!行くぞ!」

パロレはポケモンを入れ替えた。本来ならきっと倒れていたところで耐えてくれたバンギラスには、ゆっくりと休んでもらおう。

「ウインディ、かみのりのキバ!」

ウインディが電気を帯びた牙でマリルリに噛みつく。マリルリは痛そうに鳴き声を上げた。

「マリルリ頑張れ!アクアテールだ!」

マリルリは気を引き締めると、水を纏った尻尾を思いきりウインディに叩きつけた。一見可愛らしい技だが、侮ってはいけない。ウインディは攻撃を受けると戦闘不能となってしまった。

「うわーっ、やっぱり強いよぉ!よーし、行くよ、ヤドラン!」

クオレは悔しそうな顔をしながら次のポケモンを繰り出した。
 ▼ 233 AYr1xkow/g 17/10/04 14:58:49 ID:o.ctxd2Q [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ロズレイド!任せた!」

パロレも再びポケモンを入れ替える。ヤドランはあまり素早くない。一気に決めてしまおう。

「ロズレイド!エナジーボールだ!」

ロズレイドは自然のエネルギーを塊に変えて、ヤドランに思いきりぶつけた。ヤドランは痛みを感じるよりも先に気を失ってしまったようだった。幸せそうな顔をして仰向けに倒れている。

「こ、この子も一発……!」

クオレは慌てた声で言う。そして、

「よぅし……最後だよ。頑張ろうね!ジャローダ!」

最後のポケモンを繰り出した。

「よし、ロズレイド戻れ!行くぞリザードン!」

パロレがリザードンを出すと、クオレはどこか挑戦的な声で素早く指示を出した。

「ジャローダ、やどりぎのタネ!」

やどりぎのタネがリザードンの体をくっついた。そして、体力を吸い取って養分を奪っていく。

「リザードン、一気に決めるぞ!フレアドライブ!」

リザードンが身体中に火を纏い、ジャローダに突進していく。ジャローダは突き飛ばされて気を失ってしまった。リザードンも反動でダメージを受けており、疲れ切っている様子だ。

「ジャローダ、ありがとう。うんうん、やっぱり強いねぇ」

クオレはジャローダをボールに戻すと、そう言ってパロレに微笑んだ。そして、

「あーあ。また負けちゃったぁ」

唇を尖らせてわざとらしくそんなことを言ってみせる。
「……」


パロレが思わず言葉に詰まっていると、クオレはそんなパロレを見て吹き出した。

「もー、そんな顔しないでよ。今のバトル、すごく楽しかったんだから!」

「そ、そっか」

パロレは正直ちょっぴりホッとしていた。とはいえ、クオレはもう本当に心配はいらなそうだ。

「パロレとした初めてのバトルを思い出すなぁ。そういうの、忘れないようにしないとね!」

クオレはキラキラと輝く笑顔で言った。パロレは頷く。

「そうだね。ぼくも初心を忘れずに、頑張ってくるよ」

パロレが言うと、クオレはぐっとガッツポーズをする。

「うん!パロレなら絶対勝てるよ。わたし応援してる。頑張ってね!」

クオレがそう言って、大きく手を振る。

クオレが応援してくれるなら、きっと無敵だ。パロレは何故かそう思った。パロレはクオレに手を振り返して、チャンピオンロードへと歩いていった。
 ▼ 234 AYr1xkow/g 17/10/04 15:53:55 ID:o.ctxd2Q [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チャンピオンロード入口の門を開けて中に入る。するとそこはちょっとした小部屋になっていた。なんと地面に大きな穴がぱっくりと開いており、前には進めないようになっている。向こう側には大きな扉が見える。どうにかしてここを通らなければならないようだ。穴の前には、石碑のようなものがある。

パロレは首を傾げながら進んだ。すると、石碑の近くに来たところでパロレのバッグが強く光った。慌ててバッグを開けてみると、光っていたのはバッジケースだった。更に石碑に近づいてみると、石碑と中のフラワーバッジが強く反応し始めた。

やがて、不思議な力が起こり、植物なんてないはずの山の中であるにも関わらず、大量の花が咲いて穴を塞いでいく。パロレは驚いて思わず声を上げてしまった。まさか、これを通るのだろうか。恐る恐る花でできた橋を踏んでみると、抜ける様子はない。パロレは先に進むと扉を開けて次の部屋へと向かった。

次の部屋も、先程の部屋と同じ内装だ。石碑に近づくと、今度はベノムバッジと反応して紫色の霧が発生して穴を塞いだ。どうやら、バッジが手に入れた順番で反応して渡れるようにしてくれるようだ。霧でできた橋はどう考えても不安だが、踏んでみると、やはり平気だ。パロレはどんどん進んでいくことにした。

次の部屋で反応を示したのはフレイムバッジだ。ぼうっと炎が燃え上がり、橋を作り上げる。普通だったらこんなものの上を歩いたら火傷して大変なことになってしまうが、心地よい程度に暖かい不思議な橋だった。

それからお次はスペクターバッジ。どこからともなく狐火のような不気味な鈍い光がたくさん現れ、どんどん集まって穴を塞いでいく。こちらは先程とは反対に少しひんやりとする橋だった。

次に反応したのはヴィランバッジだ。石碑に近づくと、真っ黒い石のようなブロックが多数現れて道を作っていった。今までの中では一番頼れる素材だが、問題なのはその橋の形状だ。ブロックで作られた橋は、明らかにブロックが足りておらず、ところどころ穴が開いており慎重に進まなければ落ちてしまいそうな形になっていた。あくタイプのジムバッジは、どうやら意地悪らしい。

次の部屋ではアイロンバッジが反応した。どこからともなく大きな鋼の板が現れ、ゴッと鈍い音を立てて倒れて簡易的な橋となった。とんでもなく無骨だが安心して渡ることができる。

その次の部屋で反応したのはマリンバッジだ。穴の下からゴゴゴと地響きのような音がして、地面が大きく揺れる。なんだなんだと思っていると、なんと穴の下から水がせり上がってきていた。しかし、橋は出てこない。しばらく考えていたパロレはハッとしてマリルリを繰り出した。そうだ、八個バッジを手に入れたパロレはポケモンの力で空や海を移動することを許可されているのだ。ここも例外ではない。パロレはマリルリに捕まって水で満たされた穴を渡った。

さあ、最後の部屋だ。石碑に近づくと、ジェネラルバッジが反応する。やがて、いかにも普通、まさにノーマルなしっかりとした橋が手前から光と共にどんどん現れて向こう側まで繋がった。よく見れば、その先に見える扉は今までで一番大きく、派手だ。

パロレは橋を渡りきると、扉に手をかけ、ゆっくりと押し開ける。

その先には、最後の難関、チャンピオンロードが待っていた。
 ▼ 235 AYr1xkow/g 17/10/04 18:05:22 ID:zHy.PYeg NGネーム登録 NGID登録 報告
やけにここの設定が凝ってるのはBWのチャンピオンロード前のゲートが好きだからです
 ▼ 236 AYr1xkow/g 17/10/05 00:53:05 ID:xopftvEE [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレは今、チャンピオンロードをまさに抜けようとしていたところだった。

チャンピオンロードはとても険しかった。今までに戦った者たちよりずっと強く実力のあるトレーナーや、レベルの高い野生のポケモンたちと戦いながら、パロレはどうにかここまでやってきたのだ。

さあ、この出口を出ればポケモンリーグだ。

そういえば、チャンピオンロードに入る前にクオレに会った。ユーリは今どこにいるのだろう。せっかくだから、最後にバトルをしてから挑戦したかったかもしれない。

「パロレさん!」

ふと、背後から声が聞こえてきた。パロレは驚いて、素早く振り返って声の主の名を呼ぶ。

「ユーリ!」

見れば、ユーリは膝に手をついて荒い息を吐いている。

「お、追いついた……はあ、はあ」

「だ、大丈夫?」

肩で息をしているユーリにパロレは慌てて声をかけた。

「大丈夫、です」

ユーリは深呼吸をした。少し落ち着いたようだ。

「ごめんなさい、引き止めてしまって……」

「いや、全然」

ちょうどユーリのことを考えていた時に名を呼ばれてかなり驚いてしまったことは、気付かれていないようだ。

「ありがとうございます。……間に合ってよかった」

ユーリは呟くように言うと、パロレを真っ直ぐ見つめた。

「パロレさん。リーグに挑戦する前にお手合わせ願えますか?オレ、パロレさんとどうしてもお話ししたくて……その、応援も兼ねて……」

ユーリの声が、だんだん小さくなっていく。パロレは笑顔で答えた。

「うん!ぼくも、ユーリと戦いたいなと思ってたところだったんだ!」

その言葉を聞いたユーリの顔が、ぱっと輝く。

「そうだったんですか!ならよかったです」

そう言うユーリの表情はとても柔らかい。ユーリがこんな表情をするところは、初めて見たかもしれない。いつも何かに追われているかのような、頑固そうな顔をしていたものだ。

「それでは、よろしくお願いします!」

ユーリがそう言って、モンスターボールを手に取った。
 ▼ 237 AYr1xkow/g 17/10/05 00:57:31 ID:xopftvEE [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「行け!コジョンド!」

「マリルリ、任せた!」

二人がポケモンを繰り出す。それだけでもうワクワクしてくる。

「コジョンド、ねこだまし!」

コジョンドが素早く動いてピジョットに攻撃した。マリルリは怯んで思わず動きを止めてしまう。

「コジョンド、とびげり!」

コジョンドは勢いよく飛び上がってマリルリに鋭く蹴りを入れた。それから、しなやかな動きで見事に地面に着地する。もちろん、マリルリだってやられてばかりではない。

「マリルリ、じゃれつく!」

マリルリがコジョンドの元へ近づき、思いきりじゃれついて攻撃をした。コジョンドは戦闘不能となってしまった。

「コジョンド、お疲れさま。フワライド、行くぞ!」

ユーリがコジョンドにそう声をかけてボールに戻し、フワライドを繰り出す。

「よしマリルリ戻れ!バンギラス、頼んだ!」

パロレもポケモンを入れ替えた。

やっぱり、バトルは楽しい。

「フワライド、たくわえる!」

フワライドは力を蓄えた。風船のような体が、更にぷくっと大きく膨れ上がったように感じる。

「バンギラス、かみくだくだ!」

バンギラスはフワライドの体に思いきりかぶりついた。フワライドのぼうぎょはたくわえるで上昇していたはずだが、バンギラスのかみくだくは耐え切れなかったようだ。フワライドは力なく地面に落ちていってしまった。

「ああ……ごめんなさい、フワライド。……フラージェス、出番だ!」

ユーリはフワライドをボールに戻してフラージェスを繰り出す。

パロレもユーリも、今はただ純粋にバトルを楽しんでいた。
 ▼ 238 AYr1xkow/g 17/10/05 01:14:24 ID:xopftvEE [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「バンギラス、戻れ!ロズレイド、行ってこい!」

パロレがポケモンを入れ替える。どちらも体の一部が花になっているポケモンだ。一気に二人の戦いは華やかなものになった。

「ロズレイド、どくどく!」

ロズレイドが体から毒を放出した。フラージェスはそれをしっかりと浴びてしまい、もうどく状態になってしまった。

「フラージェス、ムーンフォースだ!」

フラージェスは月の力を借りてロズレイドに攻撃した。とても美しい技だったが、ロズレイドへの効果は今ひとつだ。もうどく状態のフラージェスは苦しそうに呻き声を上げる。

「ロズレイド!ベノムショック!」

ロズレイドは特殊な毒液をフラージェスにかけた。相性もいい上に、技の威力は二倍になっている。ベシャッと嫌な音を立てて降り注いだ毒液に覆われたフラージェスは、そのまま気を失ってしまった。

「フラージェス、お疲れさま。アマージョ、任せた!」

ユーリがアマージョを繰り出す。一方、パロレはそのままロズレイドに戦ってもらうことにした。作戦はさっきと同じだ。

「ロズレイド、どくどく!」

ロズレイドが再び毒を放出する。その毒を浴びたアマージョは、フラージェスのようにもうどく状態になってしまった。

「アマージョ、トロピカルキック!」

アマージョはその脚力を生かした情熱的なキックをお見舞いしてきた。ロズレイドへの効果は今ひとつだが、その長い脚の動きには一瞬の隙もなく、思わず見入ってしまう。猛毒に苦しむ姿さえセクシーだ。

「ロズレイド、ベノムショックだ!」

ロズレイドは先程と同じように、威力を増したベノムショックをアマージョに仕掛ける。アマージョは悲鳴を上げて戦闘不能となってしまった。

「アマージョ、ゆっくり休んで。……ガブリアス!任せた!」

ユーリはアマージョを戻し、ガブリアスを繰り出した。ガブリアスは、バンギラスのように高い能力を持ったポケモンである。油断は禁物だ。
 ▼ 239 AYr1xkow/g 17/10/05 02:25:01 ID:xopftvEE [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ロズレイド、戻れ!マリルリ!もう一回頼んだ!」

パロレがそう言ってマリルリを繰り出す。マリルリは頷いて鳴き声を上げた。

「ガブリアス、あなをほる!」

ガブリアスが穴を掘って地中に潜りこんだ。マリルリはガブリアスがどこからやってくるのが分からず、キョロキョロしながら立往生している。マリルリは、あなをほるを使っているポケモンに有効な技は覚えていない。マリルリは一ターン無駄に過ごすことになってしまった。

やがて、しばらく経つとまさにマリルリの真下の足元からガブリアスが飛び出してきた。マリルリはその勢いで吹っ飛ぶ。先程までのダメージも溜まっているはずだ。次の攻撃を受ける前にガブリアスを倒したいところだ。

「マリルリ、決めろ!じゃれつく!」

パロレは叫んだ。マリルリがどうにか起き上がり、ガブリアスの元まで走る。そして、思いきりじゃれついた。

ガブリアスが悲鳴を上げて倒れた。どうやら、上手くいったようだ。

「ガブリアス、お疲れさま。……それでは、これで最後です。エンペルト!行くぞ!」

ユーリはそう言って、エンペルトを繰り出してきた。

「マリルリ、サンキュー!よしバンギラス、もう一度頑張ろう!」

パロレはバンギラスに再び入れ替えた。エンペルトは、バンギラスの弱点であるみずタイプでもある。しかし、エンペルトにとって有効打となる技を覚えているのはバンギラスだけなのだ。

「バンギラス、じしん!」

「エンペルト、ねっとう!」

二匹はほぼ同時に動いた。しかし、ほんのちょっぴりだけ、バンギラスの方が素早いのだ。

バンギラスが激しく地を揺らす。エンペルトはぐらぐらと揺れる地面に耐えきれず、バランスを崩して倒れた。気を失っている。

「エンペルト、ありがとう」

ユーリがそう言ってエンペルトをボールに戻す。それから、

「さすがですね!」

そう言って微笑んだ。
 ▼ 240 AYr1xkow/g 17/10/05 15:21:31 ID:Fgr1ypfk [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ありがとうございます。わざわざ引き止めてすみませんでした」

ユーリが相変わらず丁寧に言う。

「オレに出来ることはこれくらいしかないですが……」

「ううん」

パロレはそう言って首を横に振った。

「そんなことないよ。やっぱりバトルは楽しいもんね!」

その言葉を聞いたユーリは、安心したような笑みを浮かべ、

「……ええ、そうですね!」

そう言った。

チャンピオンロードの中は暗い。じめじめしている。

しばらく沈黙が続いていたが、ユーリが真面目な表情に戻って口を開いた。

「……オレ、強くなることに固執しすぎてポケモンたちの気持ちを考えることができていなかったんだって、パロレさんとリザードンを見て気付きました」

パロレは黙って聞いていた。ユーリは少し俯いて、

「パロレさんに前に言われたように、オレはずっと急いでいました。自分のことしか考えていなかった……」

それから、ユーリは顔を上げて続けた。

「でも、それでいい訳がありませんよね。お互いに信頼し合って、初めて本当の力を発揮できるっていうのに」

「……うん、そうだね」

パロレはそう言って頷いた。ユーリの瞳は、強い光が見えた。その光は、決して消えることのない希望だ。

「オレ、強くなります。自分自身に負けないように」

ユーリが力強く言う。

「……きっと父は、オレのそういう面を見抜いていたんだろうと思います。頑固で不器用で、必要以上に厳しい人ですけど……」

ユーリはちょっぴり不安げに付け足した。ユーリとコルネッホは、実はかなり似ているのかもしれない。

「強くなったと自分で感じられるようになったら、父とまたちゃんと話をしたいと思います。こう思えるようになったのも、パロレさんのおかげです。本当にありがとうございます」

ユーリがそう言って頭を下げる。

「へへ、力になれたなら嬉しいよ」

パロレはそう言って照れ臭そうに鼻の下を掻いた。
 ▼ 241 AYr1xkow/g 17/10/05 15:22:50 ID:Fgr1ypfk [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「では、パロレさん」

ユーリが改めて口を開いた。姿勢を正して、パロレをじっと真っ直ぐに見つめている。

「健闘を祈ります。またバトルしてくださいね。さよなら!」

「うん!バイバイ!」

戻っていくユーリの後ろ姿に向かって、大きく手を振る。そして、パロレは再び前を向いた。

「……よし」

小さく言って、拳を握る。すると、

「あ、あの!すみません!」

ユーリが慌てたように走って戻ってきた。

「あれ?どうしたの?」

パロレはユーリを見て聞く。ユーリは、なぜか少し恥ずかしそうな顔をしているように見えた。

「えーっと……」

ユーリの目が泳ぐ。

「あの、……パロレ、って呼んでもいいですか?」

「え……?」

予想外な質問に、パロレは思わず目を見開いた。ユーリは不安そうにこちらを見ている。

「もちろんだよ!」

パロレは笑顔で頷いた。そんなの、ダメな訳がない。むしろ嬉しいくらいだ。

「はは……あはっ」

ユーリはこらえきれずに笑い出した。不安に感じていたのが馬鹿みたいだと思ったのかもしれない。パロレの笑顔につられたのかもしれない。でも、ユーリのこんな顔を見るのは初めてだった。満面の、心からの笑顔だ。

「パロレ、ありがとう。それじゃ、今度こそ、また!」

ユーリはそう言って、手を振って去っていく。

「またね!」

パロレはそう言って手を振り返した。
 ▼ 242 AYr1xkow/g 17/10/06 12:57:58 ID:QLieWHjQ [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレは今度こそ前に歩き出して、ついにチャンピオンロードを抜けた。

すると目に入ったのは、チャンピオンロードに囲まれてもなお圧倒的な存在感を誇る大きくて荘厳な大聖堂だった。これこそがアモルのポケモンリーグだ。

パロレはごくりと唾を飲みこんで、ゆっくりとポケモンリーグ入口まで歩いていった。

とうとうだ。とうとうここまでやってきた。

淡い光を放っているようにかすかに眩しく、山影に覆われているというのにまったく暗くない。先程まで光のないチャンピオンロードの中にいたために余計にそう感じるのかもしれない。ここには天使が住んでいるのではないか、そう思えるほどに美しい建物だった。

この中に入ったら、最後まで勝ち進むか或いは負けない限り外に出ることはできない。

覚悟はできている。行かない理由なんてない!

パロレは、少しドキドキしながらも強い足取りでポケモンリーグの中に足を踏み入れた。

ポケモンリーグの中に入ると、広めの廊下が現れた。天井はかなり高く、様々な装飾がなされている。歩くと、大理石の床を踏む音が静かなポケモンリーグに響き渡る。しばらく歩くと五つの扉が見えてきた。

一番左の扉にはピンク色、その隣の扉には黄色。一番右の扉には水色、右から二番目の扉には茶色のそれぞれ異なる紋章が扉に付いている。中央の一番奥にある大きな扉は暗く、開く気配はない。

きっと、紋章はその向こうにいる四天王の極めるタイプを表しているのだろう。恐らく左からフェアリー、でんき、じめん、こおりだ。
どこから行こうか。パロレはしばらく考えて、左から順番に行くことにした。
 ▼ 243 AYr1xkow/g 17/10/06 13:01:43 ID:QLieWHjQ [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
一番左の、フェアリータイプ使いの四天王が待つ部屋へと入る。そこは円型の形をした部屋になっていた。先程までとは変わらない、教会の一部に見える。パロレが円の中央まで行くと、背後から部屋の扉が閉じる音がした。見れば、奥に人がいるのが見える。

突然部屋の中に淡いピンク色の光が現れた。キラキラと美しく輝く光が舞う。光は部屋全体を覆うほどに増え、眩しい光で辺りは見えなくなってしまった。

やがて光が爆発するようにして広がって消えていくと、先程までは荘厳な教会らしい装飾のされていた部屋が、なんとピンク色の愛らしい部屋へと変わっていた。

パロレは再び前を見た。奥にいる人物、四天王がパロレを待っている。パロレは部屋の一番奥へ歩いた。

フェアリータイプの使い手であるこの四天王は、少し年上の少年だった。オレンジ色の髪の毛にオレンジ色のつり目。少年は、面白そうにパロレを見つめている。

「こんにちは。ヴァイスタウンから来ましたパロレです!よろしくお願いします!」

パロレがしっかりと挨拶をする。少年は目を細めて笑顔で返した。

「ようこそパロレ。ボクはカエデ。四天王の一人さ!」

カエデはそう言うと、呑気に続けた。

「フェアリータイプってさ、女の子みたいで可愛いよね。フェアリータイプ使ってると、女の子たちが寄ってきてくれるから、ちょっとお得なんだよねー」

「……チャラいな……」

パロレが複雑な表情でツッコミを入れる。すると、カエデは「ははは!」と声を上げて笑った。

「……なんてね!」

そう言ってカエデは真面目な表情になる。

「もちろんそれだけじゃないよ。フェアリータイプは可愛くて強い!キミは純朴そうだけど、見た目に騙されちゃダメだよ?」

どことなく嫌味っぽい口調でカエデはそう言った。パロレは思わずムッと頬を膨らませる。カエデはニヤリと笑うと、挑戦的な目でパロレを見つめてきた。

「さてキミは、ボクのポケモンたちの強さに追いつけるかな?かかってきなよ!ははははは!」

カエデは高らかに笑うと、ポケモンを繰り出してきた。
 ▼ 244 AYr1xkow/g 17/10/08 01:23:04 ID:1BsS8STQ [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「行けっ、ピクシー!」

「ロズレイド!任せた!」

二人がポケモンを繰り出す。さあ、四天王とバトルだ!

「ロズレイド、どくびし!」

ロズレイドが毒を帯びた撒菱をピクシーの足元に投げつけた。準備は万端だ。

「ピクシー、サイコキネシスだ!」

ピクシーが不思議な力を使って、ロズレイドの脳内に直接攻撃する。ロズレイドは頭を抱えて苦しそうに呻いた。

「ロズレイド、ベノムショック!」

ロズレイドは頭を振り、どうにか痛みをこらえる。そして、毒の塊をピクシーに投げつけた。毒はピクシーの顔面に思いきり当たり、ピクシーは倒れてしまった。

「まだまだ!マシェード、行くよ!」

カエデはピクシーを戻すと、マシェードを繰り出した。マシェードはどくびしを踏んでどく状態になってしまう。しかし、マシェードの表情はあまり変わらなかった。あまり顔に出ないタイプらしい。

「ロズレイド、ベノムショック!」

このまま勢いで突っ走ろう。ベノムショックを受けたマシェードはそのまま後ろに倒れこんだ。マシェードはくさ・フェアリータイプだ。どくタイプはかなり相性がいい。

「うーん、どくびしは厄介だねー。でもまあ、仕方ないか!行け、エルフーン!」

カエデが次に繰り出したのも、くさ・フェアリータイプのポケモンだ。エルフーンがどくびしを踏んで呻いているのを見て、パロレは自信たっぷりに微笑んだ。

「エルフーン、ぼうふう!」

エルフーンはかなり身軽に動き回り、激しい風を起こした。ぼうふうを浴びたロズレイドは、膝をついて苦しそうな表情を浮かべていた。かなりギリギリだ。

「ロズレイド!頑張れ!ベノムショック!」

ロズレイドはすばしっこく動くエルフーンを追いかけ、毒の塊を投げつける。エルフーンは塊に押し潰されて倒れてしまった。

「やるねー、キミ。ニンフィア、任せたよ!」

カエデは皮肉っぽく言うと、エルフーンを戻してニンフィアを繰り出した。ニンフィアもまた、どくびしを踏んで鳴き声を上げる。

「ロズレイド!ベノムショック!」

ロズレイドはまたしてもベノムショックを仕掛けた。ニンフィアは苦しそうな鳴き声を上げて、リボンを体に巻きつけながらその場に倒れた。

「さあ、最後だ。クチート!行くよ!」

カエデはそう言って、ニンフィアをボールに戻してクチートを繰り出した。
 ▼ 245 AYr1xkow/g 17/10/08 01:44:15 ID:1BsS8STQ [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ゲッ」

パロレは思わず呟いた。クチートははがね・フェアリータイプ。どくタイプの技は効かないどころか、どく状態になることもない。戦い方を変えた方が良さそうだ。

「ロズレイド戻れ!リザードン!行くぞ!」

リザードンは大きな咆哮を上げた。

「リザードン、フレアドライブ!」

パロレが大声で指示を出す。リザードンは身体中に炎を纏い、凄まじい勢いでクチートに突進した。クチートは吹き飛ばされ、そのまま力尽きてしまった。

「はぁーあ。降参だよ、降参」

カエデがおおげさに溜息をついてクチートをボールに戻した。

「男に負けるのはスッキリしないよねー」

カエデは肩をすくめてそう言いながら、こちらへと歩いてくる。パロレは何と返せばよいか分からず黙ってカエデを見ていた。

「なんてね。冗談さ!ははは!」

カエデはそう言って笑い飛ばすと、ふと真面目な表情になった。

「……ま、見た目に騙されたのはボクだった、ってオチかな」

カエデはそう言って、ニッと笑う。

「そもそもここまで来たキミがそんな簡単なことも分からないわけがないよね。楽しかったよ。ボクのポケモンの強さと可愛さ、覚えて帰っていってね!」

「はい。ありがとうございました!」

パロレが礼を言う。カエデは満足げに頷いた。

カエデの背後にある小さなワープパネルに、パッと光がつく。あそこから元の部屋に戻れそうだ。

「ところで……」

パロレがワープパネルに向かって歩いていると、カエデが口を開いた。パロレは振り向く。

「一番目にボクに挑戦するなんて、そんなにボクに会いたかったのかい?でもボクは男には興味ないよ、残念だったね!」

カエデはそう言って、腹が立つほどの満面の笑みで手を振ってパロレを見送った。
 ▼ 246 AYr1xkow/g 17/10/08 08:05:42 ID:bt9EBvgk NGネーム登録 NGID登録 報告
ワープパネルに乗ると、扉が五つある部屋の中央へと戻ってきた。真ん中の扉がぼうっと光り、左上の部分だけ色がついた。

さて、次に挑戦するのは先程の部屋の隣、左から二番目の部屋で待つ四天王だ。

パロレが部屋に入る。やはり先程と同じように円形の部屋だ。中央に向かうと背後の扉が閉まる。ここまでも先程と同じ。

ビリビリ、と電流が走る音がする。驚いて周りを見渡すと、部屋の中に青白い電気が立ちこめていた。下手すればパロレまでダメージを受けそうなほどの電流だが、なぜか痛みなどは感じない。やがて、電気は徐々に激しくなっていく。

ドンガラガッシャーン!と、爆音と共に部屋に雷が落ちた。そう思ってしまうほどの激しい電流が流れたのだ。電流が消えると、部屋は黄色をベースとした近代的なものになっていた。

パロレは部屋の奥へと向かった。見えてきたのは、黒いセミロングに赤い瞳の女性。パロレはあっと声を上げた。

「さぁー、挑戦者さんがやってきましたよ。あたしも頑張りまーす!って、あ!?」

まるでバラエティ番組の司会のようなハキハキとした話し方。いつの日か出会った、タレントのイチゴだ。

パロレは口を開けて呆然としていたことに気がつき、慌てて姿勢を正した。

「えっと、ヴァイスタウンから来ましたパロレです!よろしくお願いします!」

「ブロインシティで会ったぼく!パロレっていうんだね?」

イチゴは小刻みに手を振りながら嬉しそうに声を上げた。

「ジムを巡ってるって言ってたからいつかバトルできるのかなーとかぼんやり思ってたけど……、まさかこんなに早くこの日が来るなんて!」

イチゴは口をあんぐりと開けて言った。ワイプにいつ抜かれても問題なさそうな、バッチリのリアクションだ。

「びっくりだ……テレビにも出て四天王もやってるなんて、すごい!」

パロレが言うと、イチゴは照れ臭そうに笑った。

「すごくなんかないよ、ぜーんぜん!テレビに出ていろんな人と会っていろんな話を聞くのはすごく楽しいし」

イチゴはそう言うと、パロレに向かってウインクした。

「もちろんバトルもね」

そう言うイチゴは、先程までの気さくでリアクションのおおげさなテレビタレントではなくなっていた。そこにいるのは、確かな実力を持つ一人のポケモントレーナーだ。

「いろんな人と出会っていろんなバトルをする……こっちもサイコーに楽しいよ。あたしは自分の仕事を苦痛に思ったことなんて一度もない」

イチゴはそう言うと、うっすら微笑んだ。

「さて、それじゃ……」

イチゴはモンスターボールを手に取り、声高らかに叫んだ。

「ビリビリに痺れさせてあげるッ!」
 ▼ 247 ャビー@カロスエンブレム 17/10/08 08:29:58 ID:wcQZCg5w NGネーム登録 NGID登録 報告
ブロインシティのイチゴは伏線だったのか…
 ▼ 248 AYr1xkow/g 17/10/10 09:12:33 ID:GEKKTSSo [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「行け、パチリス!」

イチゴがパチリスを繰り出す。随分と可愛らしいポケモンだ。

「バンギラス!行くぞ!」

進化したことでじめんタイプではなくなってしまったが、高い能力を持つ強いポケモンであることには変わりない。

「パチリス、ほうでん!」

パチリスはその小さな体に電力を溜め、勢いよく放出した。放たれた電力がバンギラスの体を襲う。

「バンギラス!じしんだ!」

バンギラスは重い体で跳ねた。ずどん、という音がパロレたちの腹の底に響く。地面が揺れ、パチリスは一気にダメージを受けて倒れこんだ。

「まだまだ!行け、エモンガ!」

イチゴが次のポケモンを繰り出す。パロレはエモンガをじっと見つめた。ここはバンギラスに続けて頑張ってもらおう。

「エモンガ、ほうでん!」

エモンガは先程のパチリスと同様に、小さな愛らしい体に溜めこんだ電力を思いきり放った。バンギラスが苦しそうに呻く。

「バンギラス!いわなだれ!」

バンギラスがエモンガの頭上にいくつもの岩を投げつける。エモンガはその重みに耐え切れず、体をどんどん沈ませていった。やがて、超低空飛行になったかと思えば、エモンガはその場に落ちて気を失ってしまった。

「なかなかやるね。さあ、行くよ!ゼブライカ!」

イチゴがそう言ってゼブライカを繰り出した。

「バンギラス、まだ頑張れるか?」

パロレがバンギラスに声をかける。バンギラスは小さく鳴き声を上げて頷いた。

「ゼブライカ、ワイルドボルト!」

ゼブライカは体に電気を纏うとバンギラスに激突してきた。バンギラスはよろめき、数歩退いた。ゼブライカは攻撃した反動で吹っ飛び、少しダメージを受けてしまう。

バンギラスはもう限界のようだったが、どうにかギリギリで持ちこたえた。普通だったら、もう倒れてしまっているところだ。

「バンギラス、よくやった!じしんだ!」

バンギラスはパロレの声に答えるよう、強く地面を揺らした。ゼブライカの足元が揺れ、足がもつれたゼブライカはその場で滑って転んでしまう。そしてゼブライカはそのまま気を失った。
 ▼ 249 AYr1xkow/g 17/10/10 09:14:52 ID:GEKKTSSo [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「キミ、意外と容赦ないんだね。そういうの、大好きよ!」

イチゴはそう言うと、次のポケモンを繰り出してきた。じばポケモンのジバコイルだ。

「よし、バンギラス一発で決めよう!じしん!」

バンギラスは再び大地を強く揺らした。ジバコイルはバランスを崩してその場に落ちた。かと思えば、ギリギリで持ちこたえ再び浮かび上がった。そう、イチゴのジバコイルの特性はがんじょう。一発でやられることはないのだ。

「ジバコイル、ラスターカノンっ!」

イチゴが自信たっぷりに指示を出す。ジバコイルは体中の光を一点に集め、勢いよく力を放った。ラスターカノンは元々体力の限界だったバンギラスに思いきりぶつかり、バンギラスは戦闘不能となってしまった。

「バンギラス、ありがとう。……ジュペッタ、任せたぞ!」

「ケケケッ!」

パロレはバンギラスに優しく声をかけ、ボールに戻した。ジュペッタは毎度のごとく笑っている。

「ジュペッタ、ふいうち!」

ジュペッタは笑いながらジバコイルに近づいていく。そして、ジバコイルの不意を打って攻撃した。ジバコイルは今度こそ倒れてしまった。

「あっという間に最後だね。行くよ、デンリュウ!」

イチゴがそう言って、最後のポケモンを繰り出す。パロレはジュペッタに引き続き戦ってもらうことにした。

「ジュペッタ!ゴーストダイブ!」

パロレが指示を出すと、ジュペッタはどこかに消えてしまった。デンリュウが辺りをキョロキョロと見渡す。

「くっ……、しょうがないね」

イチゴが悔しそうに言った。デンリュウは一ターン行動できずに終わってしまった。すると、どこからともなくジュペッタが姿を表し、デンリュウに攻撃した。

「いたっ!デンリュウ!でんじほう!」

デンリュウが、大砲のような電気をドンとジュペッタに打ちつけた。ジュペッタは勢いよく吹っ飛び、そのまま気を失ってしまっていた。

「ジュペッタ!ごめん、お疲れ!」

パロレは慌ててジュペッタを戻すと、

「行け、ロズレイド!」

ロズレイドを繰り出した。あのでんじほうは当たると危険だ。ここはそれほど相性の悪くないロズレイドに替えるべきだと判断したのだ。

「ロズレイド、エナジーボール!」

ロズレイドがエナジーボールを作り、デンリュウに向けて思いきりぶつけた。ゴーストダイブでダメージを受けていたデンリュウはもう限界だったようだ。デンリュウはフラフラとしばらく歩いたかと思えば、気を失って倒れてしまった。
 ▼ 250 AYr1xkow/g 17/10/10 09:27:25 ID:GEKKTSSo [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「うーん、痺れた!」

イチゴがあちゃー、という顔をしてそう言った。それから、パロレの元へ歩いてくる。

「ポケモンバトルってほんと楽しいよね。キミが心からバトルを楽しんでるの、伝わってきたよ!キミとのバトル、すごく面白かったなー!」

イチゴは嬉しそうに言うと、少し真面目な声音で続けた。

「あたし思うんだ。強いポケモンとか可愛いポケモンとかいろいろあるけど……、せっかく自由にポケモンと一緒にいられる時代にいるんだもん、たとえその子がどんなポケモンだとしても好きな子と一緒にいたいよね」

イチゴはそう言ってにっこり笑った。

「やっぱり、好きなポケモンと楽しめるのが一番!」

パロレはこっそり息を吐いた。そうだ。大好きな仲間たちと一緒に頑張ることができるのが、何よりも嬉しい。

「パロレくんのこれからの毎日も光り輝いてますように!」

イチゴは、そんな素敵な言葉で締めくくった。

「はい。ありがとうございました!」

パロレはしっかりと頭を下げて礼を言う。そして、奥にあるワープパネルへと向かった。すると、イチゴが呟いているのが聞こえてくる。

「二番目ってちょっとフクザツ……いい結果を残さないと、大抵カットされちゃうのよね。ナレーションだけで済まされちゃう……」

芸能界って、大変そう。パロレは心の中でイチゴに「お疲れ様です」と声を送り、ワープパネルの上に乗った。
 ▼ 251 ジーロン@イーブイZ 17/10/11 10:43:26 ID:UByIRMK. NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 252 AYr1xkow/g 17/10/11 13:33:17 ID:46t.jqJ2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ワープパネルで元の部屋に戻ると、中央の扉の左下の部分に色がついた。残るはあと二人だ。

パロレは右から二番目の扉を開けた。円形の部屋に入ると、パラパラと何かが落ちてくる音が聞こえてくる。見れば、天井から砂が降ってきていた。

降ってくる砂の量は徐々に増えていく。足元に砂が溜まり始めた。やがて、大きな地響きが聞こえてきたかと思えば、大量の砂が一気に上から落ちてきた。

砂埃が舞い、部屋一面を覆った。何も見えないが、なぜか苦しくない。やがて砂埃が消えると、足元の砂もすべて綺麗さっぱりなくなっていた。

再び部屋が見えるようになると、そこは茶色を基調とした落ち着いた雰囲気の、不思議なものに変わっていた。確かこの部屋のような風景は、「和風」と言うらしい。

部屋の奥へ向かうと、変わった服を着た女性がそこにいた。焦げ茶色の髪と瞳で、髪はアップにしてまとめてある。母親と同じくらいの年齢だろうが、綺麗な人だ。あの変わった服は「着物」と呼ばれるものだったはず。

「こんにちは!ヴァイスタウンから来たパロレです!」

「よく来たね、ウチはコクリコ。じめんタイプ使いの四天王や」

コクリコと名乗った女性は、訛りのある発音でそう言った。

「最近の若いトレーナーは軟弱者が多すぎとよ。見てると本当に腹が立つね。お前さんはどうなんや?ここまで来たからにはそれなりの実力はあるんやろうね」

コクリコは鋭くパロレを睨みつけた。パロレは思わず背筋をピンと伸ばす。

「ホウエンから来てポケモン鍛えてるウチはな、これでもいろいろ経験しとるんよ。トレーナーの目を見ればそいつが今までどんな思いでやってきたんか分かる!」

コクリコはそう言うと、ビシッとパロレを指差した。

「お前さんはどうや?なかなか頑張っとったと見た。……やけど、もしもウチの期待を裏切ったら……」

コクリコは低い声で唸った。それからカッと目を見開いて、

「ただじゃおかないよッ!」

「ヒイッ!」

明らかに堅気ではない気迫を出すコクリコに気圧されそうになりながら、パロレは慌ててモンスターボールを手に取った。
 ▼ 253 AYr1xkow/g 17/10/12 00:44:40 ID:6w43CYag [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「行くぞ、ロズレイド!」

パロレがロズレイドを繰り出す。

「ゴローニャ!出番や!」

コクリコも勢いよくゴローニャを繰り出した。

ゴローニャの特性は、恐らくがんじょうだ。いきなり倒しにかかるのは、賢明ではないかもしれない。

「ロズレイド、どくどく!」

ロズレイドが体から毒を噴出させる。ゴローニャはもうどく状態になってしまった。

「ゴローニャ、ストーンエッジ!」

ゴローニャが、尖った岩をロズレイドに突き刺して攻撃した。ロズレイドは苦しそうに鳴き声を上げたが、まだ大丈夫そうだ。

「ロズレイド、エナジーボールだ!」

ロズレイドが自然のエネルギーで作った球体をゴローニャにぶつける。毒にやられて苦しんでいたゴローニャは、そのまま呻いて倒れこんだ。

「お前さん、やるやん。さあ、カバルドン!出てきんしゃい!」

コクリコがそう言って、カバルドンを繰り出した。瞬間、辺りに砂嵐が起こる。カバルドンの特性、すなおこしの効果だ。

「ロズレイド!エナジーボール!」

ロズレイドが指示通り、素早くエナジーボールを作ってカバルドンにぶつけた。カバルドンは一撃で気を失ってしまった。

砂嵐が吹き荒れ、ロズレイドを打ちつける。ロズレイドは少しきつそうだ。

「さあ、いくよ!ネンドール!」

コクリコが次のポケモンを繰り出した。パロレはロズレイドを引っ込めずに続けて指示を出す。

「ロズレイド!もう一回エナジーボールだ!」

ロズレイドの攻撃はネンドールに直撃した。しかし、ネンドールは耐え切ってしまった。

「ネンドール、じんつうりき!」

ネンドールが見えない力でロズレイドの頭に直接攻撃する。ロズレイドは痛そうに頭を抑えると、そのままよろめいたかと思えば倒れてしまった。

「ロズレイド、ありがとう。マリルリ!行くぞ!」

パロレはロズレイドをボールに戻してマリルリを繰り出した。

「ネンドール!だいちのちから!」

ネンドールが念じると、マリルリの足元から大地の力が勢いよく放出された。マリルリは転びそうになったが、どうにか体勢を整えた。

「マリルリ!アクアテール!」

マリルリが飛び上がり、水を纏った尻尾で思いきりネンドールを叩きつける。ネンドールは地面に落ちて動かなくなった。

「ニドキング!任せたけんね!」

コクリコはネンドールを戻すと、ニドキングを繰り出した。
 ▼ 254 AYr1xkow/g 17/10/12 00:47:04 ID:6w43CYag [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレは続けてマリルリに頑張ってもらおうと、ボールに戻さずにマリルリに視線を送った。マリルリが頷く。

「ニドキング、ヘドロばくだん!」

ニドキングがヘドロでできた爆弾を投げつける。マリルリはヘドロの爆発を受け、気を失ってしまった。

「ああっ!マリルリ、ごめん!ピジョット!行くぞ!」

思わぬところでやられてしまった。そうだ、マリルリはみずタイプだから大丈夫だと思いこんでしまっていた。ニドキングはどくタイプでもある。フェアリータイプのマリルリは、相性が悪い。

「ピジョット!はがねのつばさ!」

パロレは繰り出したピジョットに指示を出した。ビロウから貰った技マシンで覚えさせた技だ。

ピジョットは硬く翼を広げ、思いきりニドキングに体当たりした。効果は抜群だ。しかし、ニドキングは耐え切った。

「ニドキング、メガホーン!」

ニドキングは硬い角を勢いよく突き出してピジョットを攻撃した。技の威力自体はかなり高いが、ピジョットへの効果は今ひとつだ。

「ピジョット、もう一度はがねのつばさ!」

ピジョットはくるりと旋回し、ニドキング目掛けて飛んでいった。そして、硬く広げた翼でニドキングにぶつかる。ニドキングはよろよろと後退し、そのまま倒れて気を失った。

「さあ、最後やけんね。思いっきりやり!ハガネール!」

コクリコが、そう言って最後のポケモンであるハガネールを繰り出した。

「よし、ピジョット戻れ!リザードン!任せたぞ!」

パロレはポケモンを入れ替えた。リザードンが鳴き声を上げる。

「リザードン!決めるぞ!かえんほうしゃ!」

パロレが声高らかに指示を出す。リザードンは口から凄まじい勢いの炎を吐き出した。炎はハガネールの体を燃やし尽くす勢いだ。ハガネールは炎に押されてどんどん後ろへと退く。やがて、耐えきれなくなったのか、ハガネールは呻き声を上げてどさりと倒れてしまった。

「やるやん!」

コクリコが嬉しそうにそう言った。
 ▼ 255 AYr1xkow/g 17/10/12 00:48:15 ID:6w43CYag [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「フン、期待通りやね。こういうトレーナーがもっと増えてくれればいいんやけどね」

コクリコの口調は、褒めてくれているはずなのに少し厳しく聞こえる。パロレは再び姿勢を正して真面目な表情でコクリコの話を聞いた。

「トレーナーの強さは心の強さで決まる!それを分かっとらん奴が最近は多いとね。まあ、お前さんは心配なさそうやね」

コクリコはそう言うと、微笑んだ。

「ポケモンを信頼して、自信を持って頑張り」

「はい!ありがとうございました!」

パロレはしっかりと頭を下げた。そして、ワープパネルへと向かう。

それにしても、コクリコは怖い人だった。敵に回したら終わりだと感じさせられた。やっと戻れると思ったパロレがホッと息をつくと、コクリコがくるりとこちらを振り向いた。

「何気を抜いとるとね!あと一人残っとるんやろ!?気を引き締めんね!ウチが背中引っ叩いて気合い入れ直しちゃろうかッ!」

コクリコが、鬼の形相で言う。

「ヒィッ!大丈夫です!」

パロレはそう言うと、慌ててワープパネルに飛び乗った。
 ▼ 256 AYr1xkow/g 17/10/12 16:51:01 ID:28cbjdQ. NGネーム登録 NGID登録 報告
扉が五つある部屋に戻ってきた。中央の扉の右下部分に色がつく。さあ、残る四天王はあと一人だ。

最後の一番右の部屋に入る。中央まで歩いて背後の扉が閉まると、室内であるにも関わらず、部屋の中に冷たい風が吹き始めた。

風はどんどん激しくなっていく。やがて、まるでダイヤモンドダストのように美しい結晶が舞い始めた。それから風は更に威力を増し、部屋の中はカチコチに凍ってしまった。

パリン!部屋中を覆っていた氷が割れる。すると、部屋は水色を基調としたスタイリッシュなデザインのものに変わっていた。向こうに男性が立っているのが見える。パロレは奥へと歩いた。

最後の四天王は、水色の髪にピンク色の瞳をした、細くて背の高い男性だった。

「こんにちは。ヴァイスタウンのパロレです。よろしくお願いします!」

パロレが自己紹介する。男性は目を細めて微笑んだ。

「ようこそ。アタシはカメリアよ」

カメリア。どこかで聞いたことのある名前だ。

「アナタ、氷ってお好き?氷ってキラキラしてるでしょ。宝石でもないのに綺麗。角度によって色が変わって見えたりもするのよ」

カメリアはうっとりとした瞳でそう言う。それからニッコリと笑って、

「アタシ、そういう自然な美しさを大切にしてるの。だからこおりタイプが好きだし、そういう服をデザインしてるのよね」

カメリアのその言葉に、パロレはあっと声を上げた。カメリアは、クオレとユーリが以前船の上で話していたデザイナーだ。

「自然な美しさって分かる?美しさってのは見た目だけの話じゃないのよ。内面から滲み出るものなの」

カメリアは瞳を閉じて胸に手を当て、おおげさな身振り手振りと共に語り続ける。

「それはバトルでも同じよ。心が美しければその思いはきっと相手やポケモンに届いてもっと強くなれる……」

カメリアはそう言うと、モンスターボールを手に持った。

「さあ!アタシにアナタの強さと美しさ!見せてごらんなさい!」

パロレはカメリアの言葉を聞いて力強く頷き、モンスターボールを持った。
 ▼ 257 AYr1xkow/g 17/10/13 11:56:54 ID:y9K770XU [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「行くわよ、ルージュラ!」

「バンギラス!頼んだ!」

二人がポケモンを繰り出す。まず動いたのは、ルージュラだ。

「ルージュラ、めざましビンタ!」

カメリアの指示を聞いたルージュラが、強烈なビンタをお見舞いしてきた。バンギラスは横面を思いきり張られて、痛そうな顔をしている。

「バンギラス!いわなだれ!」

バンギラスが勢いよくいくつもの岩を投げつけた。ルージュラは岩に押し潰され、気を失ってしまった。

「お次はこの子。ラプラスよ!」

カメリアがルージュラを戻してラプラスを繰り出した。

「バンギラス!いわなだれだ!」

今度はバンギラスが動いた。バンギラスの攻撃によって、ラプラスも一撃で倒れてしまった。

「んもう、容赦ないわね。行きなさい!ジュゴン!」

カメリアがジュゴンを繰り出す。パロレはなおもバンギラスに頑張ってもらうことにした。

「ジュゴン!アクアテール!」

ジュゴンが水を纏った尻尾でバンギラスを叩きつける。バンギラスはよろめいた。

「バンギラス頑張れ、いわなだれだ!」

バンギラスは足を強く踏み出し床を揺らすと、姿勢を整えた。それから、ジュゴンに向かって雪崩のような勢いで岩を投げつける。ジュゴンは戦闘不能になってしまった。

「みんな瞬殺ね。でもまだまだよ!マニューラ!行くわよ!」

カメリアがマニューラを繰り出す。

「よし、バンギラス、続けて行くぞ!」

パロレはそう言った。カメリアが指示を出す。

「マニューラ、かわらわりよ!」

マニューラはバンギラスの元まで近づくと、飛び上がって手刀を素早く振り下ろした。マニューラの攻撃はバンギラスの頭に直撃し、バンギラスはフラフラと数歩歩いてから重い音を立てて倒れてしまった。

「ああ、バンギラス!ごめんよ、お疲れ様!」

パロレはバンギラスをボールに戻した。それから、次のボールを手に取り、ポンと一度投げてキャッチしてから、勢いよくポケモンを繰り出す。

「マリルリ!行くぞ!」

マリルリは気合十分に鳴き声を上げた。
 ▼ 258 AYr1xkow/g 17/10/13 11:57:59 ID:y9K770XU [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「マニューラ、メタルクロー!」

マニューラは鋼のように硬い爪でマリルリの体を斬りつけた。マリルリは痛そうに呻いたが、まだまだ行けそうだ。

「マリルリ!ばかぢから!」

マリルリが、まさに馬鹿力を発揮して凄まじい勢いでマニューラに攻撃する。マニューラはまともに攻撃を受けて吹っ飛んでしまった。壁にぶつかったマニューラは気を失っている。

「さあ、最後よ!行きなさい!オニゴーリ!」

オニゴーリは怖い顔でこちらを睨みつけている。

「オニゴーリ!フリーズドライ!」

オニゴーリはマリルリの体を急激に冷やした。マリルリは苦しそうにしている。どうやら体力はギリギリのようだ。

「マリルリ頑張れ!もう一度ばかぢからだ!」

マリルリは先程もばかぢからを使ったことで、疲れてこうげきとぼうぎょが下がってしまっている。しかし、マリルリはちからもちという強力な特性を持っている。一度くらい攻撃力が下がったとしても、パロレのマリルリにとってはそんなことは些細な問題なのだ。

マリルリが力強くオニゴーリを攻撃する。オニゴーリは吹っ飛ばされ、そのまま気を失ってしまった。

「ファンタスティコ!」

カメリアはオニゴーリをボールに戻すと、手を叩いてそう言った。

「アナタとアナタのポケモンたち……とっても美しい心を持っているのね。伝わってきたわ」

カメリアはそう言って微笑む。パロレはあまりピンと来ず、首を捻った。

「美しいっていうのはね……『綺麗』という意味ではないのよ。美しさにもいろいろあるの。自分では分からないでしょうけど、アナタの心は澄んだ氷のように透明で美しい。まるで向こう側が透けて見えるくらいに素直な心ね」

カメリアはそう言って、まだあまりよく分かっていない様子のパロレを見て面白そうに笑った。

「アタシももっと美しくならなきゃ、ね。インスピレーションを刺激されたわ。うーん、いいデザインが思い浮かんできた!」

カメリアがハイテンションで言う。

「ありがとうございました!」

パロレは礼儀正しくそう言って、奥のワープパネルへと向かった。

四天王とのバトルは終わった。とうとう次は……。

「パロレ」

カメリアに名を呼ばれ、パロレは緊張気味に振り向いた。カメリアはそんな様子のパロレを見て、リラックスよ、と言うように優しく微笑む。

「さあ、アモル地方で最も強く美しいトレーナーがアナタを待ってるわよ。頑張ってらっしゃい」

カメリアの言葉に、パロレは力強く頷いた。

「はい!」
 ▼ 259 リムガン@やけたきのみ 17/10/13 14:32:55 ID:vXZKL1n6 NGネーム登録 NGID登録 報告
四天王はナルシのチャラ男、大人気タレント、極道の妻(っぽいキャラ)、オネエのデザイナーか
濃いな
 ▼ 260 トマル@ブルーカード 17/10/14 10:15:22 ID:3iiyt73w NGネーム登録 NGID登録 報告
紳士のモクレン
毒舌お嬢様のローザ
マンサクじいさん
ホラー少女ネム
シブくて悪の組織にも顔がきくクチナシチックなリュウさん
ピザ好きな鋼の男ビロウ
海賊のヒマワリ
ファッションブランドのレナ

ジムリの面子も好き
 ▼ 261 AYr1xkow/g 17/10/14 16:15:39 ID:UDWA55LI NGネーム登録 NGID登録 報告
元の部屋に戻ると、真ん中の扉の右上部分に色がつき、扉はついに完成した。扉がゆっくりと開いていく。この扉の向こうに行け、そういうことだろう。

パロレは重々しく開いた扉を抜けた。その先にはまた長い廊下が続いている。しばらく歩いていると、小さな円形の部屋にたどりついた。部屋には何も置いておらず、床の中央に複雑で美しい紋章が書きこまれた大きなパネルがあるのみだった。

パネルの中央に立つ。すると、パロレの体が浮かび上がった。なんとワープパネルではなく不思議なエレベーターのようなものだったらしく、紋章ごと浮かび上がってパロレを階上へと連れていってくれた。

紋章は先程と同じように何もない円形の部屋まで浮かび上がると止まった。先程と違うのは、先の見えない広く大きな階段が目の前に広がっていることだ。この先に、チャンピオンがいるのだろう。見上げると溜息の出てきそうなほど大きな階段だ。パロレは意を決して上り始めた。

チャンピオン。きっと、八年前、百年ぶりにメガシンカを使うことが認められたトレーナーがチャンピオンだ。パロレは階段を上りながら考えた。だって、アモル地方で一番強いトレーナーなんだから。

パロレも才能を見込まれてキーストーンの原石を貰ってはいたものの、正式にメガシンカの使い手として認められたわけではない。しかし、アモル地方で唯一メガシンカを使うことができるその人物は、王族の末裔に正式に認められている。今までのトレーナーとは、一味も二味も違うだろう。

……でも。

「ぼくたちならやれる」

パロレは思わず口に出していた。

そうだ、ぼくたちならきっとやれる。今まで通りやるだけだ。

「リザードン……それにみんなも。最後まで、一緒に頑張ろうな!」

ポケモンたちにそう語りかけたところで、パロレはようやく階段を上りきった。

そこにあるのは、聖堂のような広くて美しい部屋だった。奥にある巨大なステンドグラスが光を受けて輝いている。部屋の中に虹がかかっているかのように鮮やかに光っていた。

広い部屋の中央には、人が立っている。その人物こそが、チャンピオンだろう。逆光で影になっており、しっかりとした姿は見えない。

パロレは、チャンピオンの元に向かって歩き出した。

チャンピオンの顔が、見えてきた。
 ▼ 262 AYr1xkow/g 17/10/16 18:16:52 ID:vz6fad9o [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「待ってたよ」

チャンピオンが口を開く。パロレは目を見開いた。

「アルセアさん……!」

アモル地方のチャンピオンとしてそこに立っていたのは、なんと、アルセアだった。

アルセアの姿を見た瞬間は驚いたものの、パロレはすんなりと納得がいった。考えてみれば、ヒントはそこら中にあったのだ。

八年前にメガシンカを使うことが認められたトレーナーが現れた。五年前、少女がポケモンを盗まれ、取り戻したポケモンの記憶が失われているという事件が起こった。五年前から約二年間、ポケモンリーグがチャンピオンの何らかの都合で閉鎖されていた。よく考えてみると、辻褄が合う。

「……この間は大変だったね」

アルセアがそう言った。

「でも、パロレのおかげで被害を最小限に留めることができた。あの時の私はマジの役立たずだったから……。あの人を止められなかったら今頃どうなってたか。代表して礼を言うよ。ありがと」

アルセアが少しばつが悪そうに言う。

「いえ、それほどでも……」

アルセアはそう言うが、仕方ない。トラウマを思い起こさせる場で本気で戦えと言う方が酷だというものだろう。

「あれからリザードンの調子はどう?」

アルセアが聞く。

「元気です!」

「そう。よかった」

パロレが答えると、アルセアはそう言った。口調は素っ気ないが、きっと心の奥ではパロレとリザードンを本気で心配してくれているのだ。パロレは、アルセアが覚醒してしまったスリジエのポケモンたちを保護していたことをふと思い出した。

アルセアは、そういう人なのだ。普段は無口であまり表情も変わらないが、本当は誰よりも優しく、ポケモンのことを考えている。だからチャンピオンになれるだけの器があるのだ。
 ▼ 263 AYr1xkow/g 17/10/16 18:19:01 ID:vz6fad9o [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あの……ぼく、最初アルセアさんのこと、怖い人だと思ってたんです」

パロレは正直に語った。アルセアは黙って聞いている。

「でも、ぼくが間違ってました。アルセアさんって、すごくポケモン思いな方なんだなって、今なら分かるんです……あ!勝手にすみません!」

パロレはアルセアの表情を見て慌てて謝った。アルセアは胡散臭そうにパロレを見つめている。

記憶を失くしてしまったポケモンは、スリジエの話を聞く限り、バグのあったというアウェイクマシーンのせいでリザードンよりもかなり悲惨な状態で見つかったのだろう。それでも二年でポケモンの記憶を取り戻させた彼女が、ポケモン思いでないわけがない。

アルセアは溜息をついた。きっと照れ隠しだ。

「で、何?おだてて油断させようっていう作戦?」

アルセアがぶっきらぼうな口調でわざとらしく言う。

「え!いやいやいや!違いますよ!」

パロレはぶんぶんと音が鳴るほど激しく手と首を横に振った。

「ぼく、アルセアさんめちゃくちゃかっこいいなって思って……!」

パロレはそう言って、目を輝かせた。

本心だ。多くを語らないアルセアだが、行動はいつも相手への想いに満ち溢れている。その相手が人間であろうとポケモンであろうと変わらない。

「……そう」

アルセアはなんだか妙な顔をしていた。また照れているのかもしれない。

「でも、あの時のパロレもかっこよかったよ」

アルセアが言う。パロレの顔は一気に真っ赤に染まった。

「え……あは!アルセアさんにそう言われると、照れるな……!」

パロレは慌てて頭を掻きながら何でもないふりをした。

「……さ、おしゃべりはこの辺にして、そろそろ始めようか」

アルセアが言う。その瞬間、部屋の空気が変わった。アルセアが放つオーラは、確実に彼女が只者ではないということを表している。

「私、あんたと戦うのずっと楽しみにしてたんだよ」

アルセアがそう言ってにやりと笑うと、右耳に髪をかけた。いつもは髪で隠れている耳が露わになる。するとそこには、美しく輝く石がはめこまれた耳飾りがあった。

パロレはハッとした。やっぱり!あれこそがキーストーンだ。

アルセアがモンスターボールを左手に持ってこちらを見つめてくる。

チャンピオンのアルセアが勝負をしかけてきた!
 ▼ 264 AYr1xkow/g 17/10/17 23:55:58 ID:I0UtkB12 [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「クレッフィ、行くよ」

アルセアが左手に持ったモンスターボールを軽く投げる。

「行け、リザードン!」

パロレもポケモンを繰り出した。

「クレッフィ、ひかりのかべ」

クレッフィは光でできた不思議な壁を作り出した。

「リザードン、かえんほうしゃだ!」

リザードンは口から火を吐いて攻撃する。ひかりのかべがなければきっともっとダメージを与えられただろう。しかし、クレッフィはピンピンしている。

「リザードン、かえんほうしゃ――」

「クレッフィ、戻って。行くよ、ルガルガン」

パロレの指示が終わるか終わらないかのところで、アルセアがクレッフィを引っ込めてルガルガンを繰り出した。まひるのすがたのルガルガンが、遠吠えするように鳴き声を上げる。リザードンは再び炎を吐いたが、ひかりのかべの効果とタイプ相性のせいでルガルガンにはほとんどダメージを与えることができなかった。

「リザードン、戻れ!行け、マリルリ!」

パロレが慌ててポケモンを入れ替える。

「ルガルガン、ステルスロック」

アルセアは冷静に指示を出した。尖った岩がマリルリの周りに漂う。当たったら痛そうだ。

「よし、マリルリ!アクアテールだ!」

今度こそ攻撃だ。しかし、アルセアはまたしてもパロレの指示が終わる直前のタイミングで、

「ルガルガン、戻って。クレッフィ、もう一回行くよ」

再びポケモンを入れ替える。マリルリのアクアテールは相変わらずあまり効いていない。パロレは思わず唸り声を上げた。翻弄されっぱなしだ。

「クレッフィ、リフレクター」

クレッフィは再び光でできた不思議な壁を作り上げた。今度は物理攻撃の威力を弱めてしまう壁だ。

今のところ、アルセアは一度も攻撃をしていない。パロレのポケモンたちは、体力はまったく削られていないのだ。それでも、なぜか焦ってしまう。

「マリルリ!ばかぢから!」

マリルリは馬鹿力を発揮してクレッフィに思いきり攻撃した。クレッフィは地面に落ちそうになったところをギリギリで持ちこたえた。

パロレは、今までに戦ってきたトレーナーたちとの違いをまざまざと見せつけられていた。メガシンカの使い手として認められ、チャンピオンに任命され、かつスリジエに目をつけられたその天才的なバトルの才能は伊達じゃない。

「クレッフィ、ラスターカノン!」

クレッフィは体の光を一点に集め、マリルリめがけて一気に放出した。マリルリは光の攻撃を受け、苦しそうな鳴き声を上げて倒れた。一撃だ。

ひかりのかべは消え、効果はなくなった。リフレクターの効果はまだ三ターン分残っている。更に、パロレのポケモンの出る場にはステルスロックが浮いている。アルセアが本気を出す準備は完了したということだろう。パロレは唇を噛みしめた。どんな相手だろうと、やるしかない!
 ▼ 265 AYr1xkow/g 17/10/17 23:57:19 ID:I0UtkB12 [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「バンギラス!行くぞ!」

パロレがバンギラスを繰り出す。バンギラスの体に尖った岩が食いこんだ。バンギラスのすなおこしで、周りに砂嵐が吹き荒れ始めた。

アルセアの表情がかすかに曇ったように見えた。バンギラスはあくタイプだ。クレッフィの特性であるいたずらごころが活かせない。

「クレッフィ、マジカルシャイン」

クレッフィが強力な光を放ち、バンギラスを攻撃した。バンギラスはよろめいたが、あと少しというところで持ちこたえた。パロレはパッと顔を輝かせる。

「バンギラス!じしんだ!」

バンギラスが大きく地面を揺らす。元々体力の限界に近かったクレッフィは、バランスを崩し、体に引っ掛けた鍵をジャラジャラと落としながらその場に落ちてしまった。アルセアが素早くクレッフィをボールに戻す。

「頼んだよ、ルガルガン!」

ルガルガンは鳴き声を上げると、辺りの砂を掻いた。どうやら特性はすなかきのようだ。

「ルガルガン、ステルスロック」

ルガルガンが再びステルスロックで尖った岩を飛ばしてきた。クレッフィとルガルガンは、相手の作戦を掻き乱すための技を使うポケモンなのだろう。パロレは察し始めていた。とはいえ、二回もステルスロックをされてしまうとなかなか痛い。

「バンギラス、じしん!」

バンギラスがまたも地面を揺らす。まだリフレクターは残っているが、ルガルガンは倒れてしまった。

「ミロカロス!行くよ!」

アルセアが次のポケモンを繰り出す。ミロカロスは美しい体躯をしならせながらこちらを睨みつけてきた。パロレはモンスターボールを手に持った。

「バンギラス、戻れ!行け、ロズレイド!」

パロレもポケモンを入れ替えた。砂嵐がミロカロスとロズレイドを打ちつけた。おまけにロズレイドはステルスロックのダメージも受けてしまう。

「ロズレイド!エナジーボール!」

ロズレイドがエナジーボールを投げつける。ひかりのかべの効果はとっくに消えているはずなのに、ミロカロスは攻撃を耐えた。さすが、守りに優れたポケモンだ。

「ミロカロス、れいとうビーム」

ミロカロスは冷たいビームを吐いた。ロズレイドはどうにか攻撃を耐えたが、なんと凍ってしまった。

「ええー!?」

パロレが思わず声を上げる。まずい!このままではやられてしまう!
 ▼ 266 AYr1xkow/g 17/10/18 00:01:06 ID:0xzDOcdk [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ロズレイド、頑張ってくれー!エナジーボールだ!」

パロレが悲痛な声を上げる。その声が届いたのだろうか。ロズレイドはパロレに褒めてもらおうと、自力でこおり状態を克服した。パリンと氷が割れ、ロズレイドが中から飛び出した。

「ロズレイド!よくやった!さすが!最高だ!」

パロレが叫ぶ。ロズレイドは嬉しそうにエナジーボールを作り出し、ミロカロスにぶつけた。今度こそミロカロスは耐えきれずに倒れてしまった。

「グレイシア、出番だよ」

アルセアがグレイシアを繰り出したところで、砂嵐が止んだ。パロレはじっとロズレイドを見つめる。相性は悪いが、ここは押し通す!

「ロズレイド、どくどく!」

ロズレイドが毒を放出した。グレイシアの体はみるみるうちに毒に飲みこまれていく。

「グレイシア、ふぶき!」

アルセアが声をあげた。すると、グレイシアが吹雪を起こし、自身を覆っていた毒の塊に大きな穴を開けた。グレイシアはもうどく状態に陥っているはずだか、その苦しみは一切表情に出していなかった。ロズレイドは倒れてしまった。

「ごめんね、ロズレイド、ありがとう。えーと、よし、ジュペッタ!」

パロレはロズレイドを戻してジュペッタを繰り出した。ジュペッタの体に大量の尖った岩が食いこんだ。

「ジュペッタ、ゴーストダイブ!」

「グレイシア、シャドーボール」

二人は同時に指示を出した。二匹の素早さは元々はほぼ同じだ。どちらが先に攻撃するだろうか。先に動いたのは、グレイシアだ。グレイシアは影の塊でできた球をジュペッタに思いきりぶつけた。ジュペッタは吹っ飛び、一撃で気を失ってしまった。パロレは顔を歪め、少し考えてから、

「リザードン!行くぞ!」

リザードンを繰り出した。リザードンの体に、尖った岩が食いこむ。

「リザードン、かえんほうしゃ!」

本当は威力の高いフレアドライブで一気に攻めたいところだが、フレアドライブはリザードンも反動でダメージを受けてしまう。強敵であるアルセアとの戦いではそれは避けるべきだとパロレは判断したのだ。グレイシアは可愛らしい鳴き声を上げて倒れてしまった。

「ボーマンダ、行くよ!」

「リザードン戻れ!ピジョット、行くぞ」

アルセアがポケモンを出すと、パロレもポケモンを入れ替えた。ピジョットの体にステルスロックが食いこむ。

「ピジョット、エアスラッシュ!」

ピジョットが鋭く空を切った。空気の刃がボーマンダを襲う。

「ボーマンダ、ドラゴンクロー!」

ボーマンダは見るからに固く鋭いドラゴンの爪でピジョットを切り裂いた。ピジョットはかなりギリギリの様子だ。でも、このタイミングを待っていた!

「ピジョット!オウムがえしだ!」

パロレが声高らかに指示した。ピジョットは先程のボーマンダを真似て、ドラゴンクローをお見舞いする。ピジョットは気合いを入れて、ボーマンダの急所に攻撃を当てた。ボーマンダが苦しそうな鳴き声を上げながら落ちていく。

「よしっ。よしっ!ピジョット、よくやった!」

パロレがガッツポーズをする。ボーマンダはそのまま気を失ってしまった。
 ▼ 267 AYr1xkow/g 17/10/18 00:03:15 ID:0xzDOcdk [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「こんなに追い詰められたの、生まれて初めてだよ」

そうは言うが、アルセアはまだまだ余裕に見える。パロレの顔が引きつった。

「ぼ、ぼくもです……!」

パロレが荒い息を吐きながら言う。パロレだって、追い詰められていた。一度でも判断を誤ればきっと負けてしまう。

しかし、

「へえ」

アルセアの声は予想外に冷たかった。アルセアの目は、ジロリとパロレを見つめている。

「え?」

パロレの首筋に、冷や汗が伝う。どうやら、彼女の地雷を踏んでしまったようだ。

「じゃあもっと追い詰めてあげる」

いや、そうではない。アルセアはかすかに笑っていた。パロレは、彼女のスイッチを入れてしまったのだ。アルセアは完全に楽しんでいる。

「バシャーモ!本気で行くよ!」

アルセアが大声で言った。まさか今までは本気ではなかったのだろうかと思ってしまうほどだ。

「シャモッ!」

アルセアの繰り出したバシャーモが威勢よく鳴き声を上げた。

アルセアは、右耳につけている耳飾りを軽く弾いた。キーストーンがきらりと輝く。すると、バシャーモの手元でも何かが光った。バシャーモのバシャーモナイトとアルセアのメガピアスが反応したのだ。

バシャーモの体からまばゆい光がほとばしる。

「シャーモッ!」

バシャーモはメガバシャーモにメガシンカした!
 ▼ 268 AYr1xkow/g 17/10/18 00:05:41 ID:0xzDOcdk [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……!きた……メガシンカ……!」

パロレは囁くように言った。メガバシャーモは威厳を保ったまま凛として立っている。その姿には、誰も敵わないような気がした。

とはいえ、パロレだって負けていられない。今までにないほど追い詰められているとはいえ、まだポケモンは三体も残っているのだ。

「ピジョット!ぼうふう!」

パロレは叫んだ。

「バシャーモ、まもる」

メガバシャーモは守りの体勢に入った。パロレは思わず首を傾げる。威力の高い攻撃技で一気に仕留めに来ると思ったのだ。メガバシャーモはピジョットの攻撃をまったく受けずに守り切ると、素早く足踏みするような不思議な動きをした。

「バシャーモ、ストーンエッジ」

メガバシャーモが尖った岩でピジョットを突き刺した。ピジョットは床に落ちて気を失ってしまった。

「……?あれ!?」

パロレが思わず素っ頓狂な声を上げる。アルセアはパロレがなぜ混乱しているのか分かっているようだ。

「メガバシャーモの特性はかそく。ターンごとにすばやさが上がる……いい特性でしょ?もう私のバシャーモには追いつけないよ」

アルセアが挑戦的な口調で言う。その隣で、メガバシャーモは先程より更に速く足踏みした。まさにかそくしているところなのだろう。

「くそー、負けたくない……!行くぞ!バンギラス!」

パロレがバンギラスを繰り出した。とはいえ、尖った岩にダメージを喰らったバンギラスももう体力の限界だ。

「バシャーモ、とびひざげり!」

メガバシャーモが大きく飛び上がり、強烈な膝蹴りをバンギラスにお見舞いした。バンギラスも戦闘不能だ。

「くっ……、あと一匹……!」

かそくしているメガバシャーモを見つめながら、パロレは歯を食いしばった。強すぎる。勝てない……。

「……いや!」

パロレは慌ててネガティブな思考を払い落とした。それから、最後の一匹となってしまったリザードンをボールから出す。

「リザードン!ぼくとお前は、アルセアさんとバシャーモに負けないくらい強い絆で結ばれてる!……リザードン!行くぞ!アルセアさんに勝とう!」

「リザァー!」

リザードンは咆哮を上げた。パロレの持つキーストーンと、リザードンのリザードナイトXが反応する。リザードンはメガリザードンXにメガシンカした。

勝てる!勝つんだ!
 ▼ 269 AYr1xkow/g 17/10/18 00:07:13 ID:0xzDOcdk [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「バシャーモ!ストーンエッジ!」

アルセアが指示を出す。メガバシャーモはメガリザードンXを的確に狙った。メガリザードンXは攻撃を受けて傷つき、膝をついた。苦しそうだ。このまま、倒れてしまうかもしれない……。

「リザァ!」

しかし、メガリザードンXはどうにか体を起こしてギリギリで耐えた。本当の本当にギリギリだ。

「リザードン!よく耐えた!頑張った!いいぞ!いいぞ!かっこいいよリザードン!」

パロレは声を上げてメガリザードンXを讃えた。メガリザードンXは涼しい顔をしているメガバシャーモを歯を食いしばって睨みつけている。

越えたい。この壁を、リザードンと一緒に!

「リザードン、今がチャンスだ!思いっきり決めろ!エアスラッシュだ!」

メガリザードンXはどうにか体を起こすと、不敵に笑った。パロレの目にメガリザードンXが映る。パロレは頷いた。

「リ……ザァッ!」

メガリザードンXはありったけの力をこめて、空を切るほど鋭い空気の刃でメガバシャーモを斬りつけた。

メガリザードンXの攻撃は、メガバシャーモの急所を直撃した。

「シャ……モッ……」

メガバシャーモが倒れる姿が、スローモーションのように映る……。

「や……やったー!」

パロレは思わず手を上げて大声で叫んだ。

「……」

アルセアは黙っていた。相変わらず表情の変化に乏しいが、驚いているように見える。

チャンピオンのアルセアに、勝った!
 ▼ 270 AYr1xkow/g 17/10/19 00:20:01 ID:8QUVh0Sg [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「はあ……はあ……やった、か、勝った……!」

パロレが荒い息をしながら言う。メガバシャーモをボールに戻したアルセアが、こちらへ近づいてきた。

「……あーあ。負けちゃった」

そう言うアルセアの声音はどこか子供っぽく、投げやりだ。

「こんなの初めてだよ」

アルセアはそう言って溜息をついた。

「え?」

パロレが聞き返す。

「あんたが初めてだよ。私に勝ったのは」

「わ、わあ……!」

アルセアの言葉に、パロレは思わず目を輝かせた。もしかして、ぼくってめちゃくちゃすごいことしちゃった!?

「こんな気持ち初めて……」

アルセアが呟く。パロレは唾をごくりと飲みこんだ。

「なんだろう……すごくムカムカする。あんたにじゃなくて、自分にね……これが悔しいってことかな」

アルセアは呟くように言った。

「この気持ちを知らずにここまで来た私って、もしかしたら今まで損してたのかもね」

アルセアはそう言うと、パロレを見て柔らかい口調で言う。

「でも、すごく楽しかったよ。負けたこと自体は悔しいけど……今のバトルに後悔なんてひとつもない。うん。パロレ、あんたと戦えてほんとによかった」

パロレはホッとしてアルセアを見つめ返した。それから笑顔で、

「ぼくもです!今までで一番ハラハラして、ドキドキして……ワクワクしたバトルでした!」

アルセアはパロレを面白そうに見つめて、

「……それはよかった」

それだけ返した。
 ▼ 271 AYr1xkow/g 17/10/19 00:21:07 ID:8QUVh0Sg [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……さてと」

アルセアが話を変える。

「今から殿堂入りの記録を残すよ。あんたとあんたのポケモンの勝利をここに永久に刻む……こっちにおいで」

アルセアがそう言って奥に進む。パロレは「はい!」と元気よく返事をして追いかけた。アルセアの立っていた場所の後ろに、ここに来る時に乗ってきたものと同様の不思議な光のエレベーターがある。パロレはアルセアと一緒に乗りこんだ。

「私この仕事初めてだから失敗したらごめんね」

エレベーターが下がっていく間、アルセアが意地悪く言った。

「えっ」

パロレが思わず目を剥いてアルセアを見つめる。

「冗談だよ。初めてなのは本当だけど」

アルセアはしれっとそう言った。

エレベーターが止まった。目的の場所についたようだ。その部屋にはほとんど何もなかった。荘厳な雰囲気であることには変わりはないが、窓もなく、目の前に機械のようなものが置いてあるだけ。

「さ、そこにモンスターボールを置いて」

アルセアが機械を指して言う。パロレは頷くと、腰につけたモンスターボールを順番に機械に置いていった。

バンギラス。ジュペッタ。ロズレイド。マリルリ。ピジョット。……それから、相棒のリザードン。

「みんな、お疲れ様」

パロレは穏やかな声でそう言った。

機械に取りつけられた液晶画面がチカチカと点滅し、パロレとパロレのポケモンたちの勝利が記録されていく……。

パロレとアルセアは黙ってそれを眺めていた。やがて、ポンと心地よい音がして記録が終了する。

「……パロレ」

沈黙を破り、先に口を開いたのはアルセアだった。

「はい」

パロレが返事をする。

「おめでとう」

アルセアはそう言うと、ニッコリと笑った。

「……!」

パロレの心臓がどきりと跳ね上がった。だって、初めて見る表情だったのだ。アルセアは心から笑ってパロレを見つめている。

「ありがとうございます!」
 ▼ 272 AYr1xkow/g 17/10/19 01:03:10 ID:C4S2CORw [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
すべてを終え、パロレはポケモンリーグを出てジョーヌシティに戻っていた。すると、

「パロレ!」

「わ!クオレ」

後ろからクオレに話しかけられ、パロレは慌てて振り向いた。

「えへ、待ってたんだ!」

クオレは笑顔で言う。それから、パロレの顔をまじまじと見つめてきた。

「その調子だと、勝ったんだ!?」

「うん!なんとかね!」

クオレの質問に、パロレは頷いた。

「すごいすごーい!パロレ、ほんとにすごいよ!めちゃくちゃかっこいいよ!」

クオレが目を輝かせて拍手しながら言った。

「ははは、ありがと!」

パロレは照れながらもしっかりとそう返した。

「……今まで、いろんなことがあったねぇ」

クオレが思い出すように言った。

「いいことばかりじゃなかったけど……でも、楽しかったよね。ポケモンたちと会えて、本当に良かった」

クオレはしんみりとした口調で言う。パロレも頷いて続けた。

「うん。本当に良かった。ぼくも心からそう思うよ」

「きっとユーリもそう思ってるだろうし……アキニレさんたちも旅を通していろんなことを感じたんだろうなぁ。本当に素敵な気持ち。……パロレが嬉しそうだと、わたしも嬉しくなってきちゃう!」

クオレのテンションは再び上がっていった。

「あは、もう、めちゃくちゃ苦戦したんだよ!アルセアさん、すっごく強くて……」

パロレがそう言うと、クオレが目を丸くして「え!」と声を上げる。

「アルセアさんがチャンピオンだったの!?」

そういえば、クオレは知らないんだった。

「あ……うん。びっくりしたよ」

パロレが言う。

「びっくり仰天!って感じー!……パロレ、アルセアさんとバトルしたんだぁ……アルセアさん、かっこいいし綺麗だし、素敵だよねぇ……!」

クオレの言葉に、パロレはどこかぼんやりとしながら返す。

「うん……素敵だったよ。本当に」

アルセアさんの笑顔を見たことは、秘密にしておこっと!パロレはそう思った。
 ▼ 273 AYr1xkow/g 17/10/19 01:03:45 ID:C4S2CORw [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「じゃあ……パロレ。帰ろっか」

クオレが言う。

「うん、一緒に帰ろう」

パロレは笑顔で頷いた。
 ▼ 274 AYr1xkow/g 17/10/20 17:53:11 ID:4OD6RrQM [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
念のための由来・モデル一覧
地名編B

ダ・カーポ島
シチリア島に相当。名前の由来は始めからという意味の演奏記号。

リュイタウン
メッシーナに相当。中国語で緑という意味。

ジョイアマウンテン
エトナ火山に相当。エトナ火山は活火山だがこちらは普通の山。イタリア語で喜びという意味。

パルガンシティ
カターニアに相当。韓国語で赤という意味。

トリステッツァの谷
神殿の谷がモデル。イタリア語で悲しみという意味。

アスールシティ
パレルモに相当。スペイン語で青という意味。

フェルマータ島
サルディーニャ島に相当。名前の由来は音符や休符の延長を意味する演奏記号。
 ▼ 275 AYr1xkow/g 17/10/20 17:54:10 ID:4OD6RrQM [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
念のための由来・モデル一覧
人名編B

ビロウ Birou
ヤシ科の常緑高木の檳榔。

ヒマワリ Himawari
キク科の一年草、向日葵。

バジリコ Basilico
シソ科メボウキ属の一年草であるバジルのイタリア語。また、バジルを使用したパスタを表す。

レナ Lena
クサトベラ科レシュノルティア属の初恋草の一種、バイオレット・レナから。

カエデ Kaede
ムクロジ科カエデ属の木である楓。

イチゴ Ichigo
バラ科の多年草である苺から。

コクリコ Coquelicot
ケシ科の一年草、ヒナゲシのフランス語。

カメリア Camellia
ツバキ科ツバキ属の常緑樹である椿の英語。

アルセア Althaea
アオイ科の多年草であるタチアオイの学名から。
 ▼ 276 AYr1xkow/g 17/10/20 17:54:47 ID:4OD6RrQM [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
(今回は殿堂入り後のお話も考えているのでまだまだ続きます)
 ▼ 277 グロコ@トロピカルメール 17/10/20 18:23:09 ID:9vZZZn0Y NGネーム登録 NGID登録 報告
前作から読んでるとなんかマイナーチェンジみたいな感じがする
支援
 ▼ 278 AYr1xkow/g 17/10/21 18:03:21 ID:Go3Garyg [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あー、えっと、これはいる……これはいらない……これは、分からない……」

ここはオーロシティにある、スリジエ研究所だった場所。今朝やっと警察の捜査も終わったので、アキニレは研究所を掃除しているのであった。

実は、この研究所の責任者をアキニレを任命しようという話が出ている。しかしアキニレはまだ自分が若いことから恐れ多い思いでいっぱいだった。何よりも維持費を考えるとすぐには首を縦に振れない。アキニレは今悩んでいた。

アキニレはふと顔を上げた。エレベーターが開く音がしたのだ。

「よっ」

「遊びに来たよ」

バジリコとアルセアが二人仲良く研究所にやってきた。アキニレはおお!と声を上げる。

「片付け、手伝ってくれよ」

アキニレが大荷物を運びながら言った。しかし、

「やだよ」

アルセアは平然と言い返した。

「……バジリコ!お前は手伝え!」

アキニレはアルセアの手助けを早々に諦め、バジリコに目を向ける。

「え、俺も嫌だよ」

「いいから、これ運んでくれ!」

アキニレはそう言って近くに置いてある段ボール箱を指差す。

「……しょうがねえなぁ」

バジリコはそう言うと、よっと声を上げて中身の詰まった段ボール箱を持ち上げる。

「おいお前……前はあんなにひょろかったのに、それ持てるのか……」

アキニレが声を震わせる。

「頼んでおきながらなんだその言い方は」

バジリコが言い返した。

「そりゃ五年も経てば筋肉くらいつくだろ」

バジリコがブツブツ呟きながらアキニレの指示通りに段ボール箱を移動させた。
 ▼ 279 AYr1xkow/g 17/10/21 18:05:19 ID:Go3Garyg [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アルセアは積まれた段ボール箱の上に優雅に腰かけて、友人二人が肉体労働する姿を眺めていた。

「……五年間、何してたんですかー?」

ふとアルセアが口を開いたかと思えば、わざとらしい口調でそう質問した。バジリコの動きがぴたりと止まる。

「スパイス団ってー、どんな仕事してるんですかー?」

アルセアの質問に答えられず、汗だくになって動かないバジリコに、アキニレも追撃する。

「それ、俺も気になってたんだ。教えてくれよ、マフィアの幹部さん」

アキニレの皮肉っぽい声に、バジリコが吠える。

「やめろ!リュウさんに聞きゃいいだろ!」

「何言ってんだ、実際に働いてた奴に聞いた方が分かるに決まってるだろ!」

「そうそう。……で、どうなの?一番ヤバイ仕事ってなんだったの?マフィアの幹部さん」

面白がる二人にあまり強く言い返せないバジリコは本気で参っているようだった。

「もう勘弁してくれ!つーか『元』幹部だから!俺もう辞めたから!」

バジリコは大きな声でそう言うと、

「というかこれ、どうなってるんだ?」

段ボール箱の山を指差して話を逸らした。

「ああ、あっちがスリジエさんの使ってた資料の中でこれからも必要なやつ。そっちは不要なやつ。そしてこの辺は分からないやつだ!」

「分からないやつが一番多いじゃん」

アルセアは冷静にツッコミを入れた。

「お前、片付けが苦手なのは前から変わってねえんだな」

バジリコが言うと、アキニレは「いいんだよ!」と噛みついた。

三人とも、変わったようで、変わっていない。

八年前、それぞれポケモンを貰って共に旅に出た三人の子供たち。出発は三人とも一緒だったのに、気付けばそのうちの一人である少女がずっと先に行っていた。彼女はポケモンバトルにおいて天才的なセンスの持ち主だったのだ。

一方、二人の少年が少女に追いつくことはなかった。一人は自分にそれほどの才能はないと早くから見切りをつけ、旅先で見つけた「ポケモンの生態について研究したい」という自身の夢に進路を切り替えたが、もう一人はどうしても少女に追いつきたいという思いがあった。
でも、どうやったって追いつけなかった。更には、もう諦めがついている少年にさえ追い越されてしまった。

やがて少年は、劣等感に苛まれ、どんどん歪んでいった。少年はその時から、いやもっと前から少女のことが好きだった。それなのに、どうしても越えられない壁として目の前に立ちはだかる少女ともう一人の少年の姿に、猛烈な嫉妬心を覚えたのだ。

それから彼は、二人は自分の知らないところで繋がっていて、自分のことを影で嘲笑っているのではないかとさえ思うようになり、より苦しむこととなった。そして五年前、すべてを見透かしていたとある悪魔のような女の甘言によってスパイス団に誘いこまれてしまった。

離れ離れになってしまった彼らは、一人の少年のおかげでまた元に戻ることができた。もうこれからは大丈夫だ。何も心配はいらない。きっとそう。
 ▼ 280 AYr1xkow/g 17/10/21 18:09:59 ID:Go3Garyg [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……それにしても、まさかパロレがアルセアに勝っちゃうなんてな!俺だってまだアルセアに勝ったことないのに!」

アキニレが興奮気味に言った。そうだ、ずっとこの話がしたかったのだ。

「……ほんとにね」

アルセアはそう言ってから、

「バトルコロッセオで修行でもするか……」

段ボール箱に背中を預けて天井を仰いでそう呟く。相当悔しかったらしい。

「でも、強くてもいいことなんて何もないと思ってたけど、意外と悪くないかもね……」

アルセアはそう言って小さく笑った。初めて負けたバトルだというのに、とても楽しかった。またあんな熱いバトルをしたいと、心から思う。

「……パロレくんとはまたちゃんとバトルしたいな」

バジリコが呟く。

「俺も、パロレとぜひ本気でバトルしてみたいもんだ!……弟の成長は嬉しいけど、まあちょっと寂しくもあるな」

アキニレは複雑な表情でそう言った。

「成長ね……」

アルセアはそう言って頬杖をついた。アルセアの視界の隅に、子供の頃に三人で撮った写真が映る。

「……懐かしい」

「ん?ああ、これか!」

アルセアの声に反応したアキニレが彼女の視線に気づき、写真立てを手に持った。

「八年前……ポケモンを貰ってから一緒に撮ったやつだ」

アキニレが懐かしそうに言った。バジリコが覗きこむ。

「恐れも不安も……何も知らない顔してるな」

バジリコは少し切ない声でそう言った。

この時はまだ知らなかった。ずっと一緒だと思っていた三人の子供たちが、誰もが同じ道を歩めるわけではないという現実を知り、バラバラになってしまう未来が待っているなんて。

「……なあ。もう一度同じ場所で写真を撮らないか?」

アキニレが提案する。バジリコは嫌そうな顔をしたが、

「いいんじゃない?」

アルセアが賛成したので、バジリコは驚いた顔でアルセアを見つめた。

「これ、研究所の前だし、すぐ撮れるでしょ」

「おうっ!今カメラ持ってくる!」

アキニレはそう言うと、少し遠くに置いていた仕事用の道具から高価そうなカメラを取り出した。
 ▼ 281 AYr1xkow/g 17/10/21 18:12:46 ID:Go3Garyg [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ほら、バジリコ、笑えって!」

「笑ってるよ」

「なんだその微笑みは!?かっこつけてるんじゃないぞ!」

「アキニレ、早くしてよ」

「アルセアも笑え!なんだその澄まし顔は!」

「これが普通なの」

「ああもうお前ら、大人しくなりやがって……」

研究所の前で、アキニレが喚いている。すっかり落ち着いてしまった友人二人が、綺麗な顔をして行儀よく立っているのが気に入らないらしい。

「この野郎……オラァ!」

アキニレは野太い声を出すと、バジリコの腹の辺りに手を近づけた。

「あっ、ちょ!触んな!あは!あっはははっ」

アキニレにくすぐられ、こらえきれずに笑い出したバジリコが体をよじる。アキニレは調子に乗ってねっとりとした声で、

「ほらバジリコー、アルセアをくすぐれー」

「え、やめてよちょっと……」

アルセアはドン引きしている。

「ははっ、アキニレ、離せ……よっ」

バジリコはそう言いつつもちゃっかりアルセアの腰に手を回して脇腹をくすぐった。

「きゃっ!あははっ」

カシャッ!カメラのシャッター音が鳴る。

「ああーっ!?」

アルセアとバジリコが同時に大声を上げた。

「ふふん、今まで俺が何枚ポケモンの写真を撮ってきたと思ってるんだ!シャッターチャンスは一瞬たりとも逃さないぞ!」

アキニレが自慢げに言う。

「親友二人をポケモン扱いかよ」

バジリコは至極冷静にツッコミを入れた。

「超高画質で印刷してちゃんと渡すから、楽しみにしておいてくれ!」

アキニレは楽しそうだ。アルセアとバジリコは顔を見合わせて溜息をついた。

「……まったく」

「……しょうがねえな」
 ▼ 282 AYr1xkow/g 17/10/21 18:16:48 ID:XdlrZMmM NGネーム登録 NGID登録 報告
「……ところでアキニレ、そろそろパロレが帰ってくるんじゃないの?」

アルセアがそう言った。ポケモンリーグでバトルした後、パロレはあの可愛らしい幼馴染の女の子と一緒に帰っていった。旅先で出会った人たちに挨拶をしながらゆっくり家へと向かうらしい。

「あっ……まずい!」

アキニレはハッと顔を青くした。

「母さんと一緒にパロレを迎えようって約束してたんだ!俺、先に帰るな!」

「ん、バイバイ」

「またな」

アルセアとバジリコが手を振る。

「じゃーな!研究所、片付けといてくれー!」

アキニレがそう言い残して去っていく。

「やるわけねえだろ!」

走っていくアキニレにバジリコがそう返した。

「……じゃ、俺たちも帰るか」

「ん」

バジリコがそっとアルセアの手を握ると、アルセアもそっと応えてくれた。

本当は、まだ恥ずかしい。アキニレは確実に気付いているのでわざわざ報告はしていないが、正直に言うと照れくさいのだ。

でも、この手はもう二度と離さないと心に誓った。

スリジエを打ちのめしたあのアルセアの言葉は、バジリコにも強い影響を与えていた。

あの頃はまだ心の弱い子供だった、そう考えれば仕方のないことかもしれない。それでも、未熟な自分が一方的に彼女を傷つけていたことは事実だ。

だから、もう二度と間違えないようにしよう。

「どうかした?」

ふとバジリコが問う。

「え?別に」

アルセアはそう言った後、柔らかく微笑む。

「楽しみだなと思っただけ」

何もかもが楽しみだ。さっき撮った写真も。もっと強くなるであろう子供たちの成長も。そして、自分たちのこれからの未来も。
 ▼ 283 AYr1xkow/g 17/10/21 18:50:27 ID:jZVseWhk NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレは、とうとうヴァイスタウンに到着したところだった。今までに訪れた街を回ってみんなに挨拶をしながら帰ってきたので、だいぶ時間が経ってしまった。

「それじゃパロレ!また明日ね!」

クオレが言う。

「うん、また明日。バイバイ!」

パロレもそう言って、手を振った。クオレは手を振り返すと、家に入っていく。

「……」

パロレはふと黙って考えこんだ。

殿堂入りはしたが、パロレの冒険は終わらない。やりたいことはまだまだたくさんあるのだ。バトルコロッセオに挑戦するためにもヒマワリの船に乗せてもらわなければならないし、いつか他の地方にも行ってみたい。

うん!これからも楽しみがいっぱいだ!

「……でも」

パロレが呟く。

とりあえず、ちょっとひとやすみ。

パロレはふっと息を吐くと、久しぶりに自宅の玄関の扉に手をかけた。

「ただいまー!」

「お!おかえり!」

「にゃにゃーにゃ!」

扉を開けるなり、すぐに出迎えてくれたのは、兄であるアキニレと、母親のポケモンであるニャスパーだ。

キッチンにいたらしい母親が息を呑む音が聞こえてきた。それからドタバタと慌ただしく玄関にやってくる。

「……パロレ!」

母親は、なんだか思い詰めたような顔をしていた。しかし、パロレの顔を見て、そんな不安げな表情はすぐに消え去った。ふわっと、あの優しくて温かい笑みが母親の顔に浮かぶ。

「おかえりなさい!」
 ▼ 284 レベース@ドリームボール 17/10/22 21:31:26 ID:S1iBXsdA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレおかえり
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 ▼ 285 AYr1xkow/g 17/10/24 23:55:32 ID:LEiZiP4Q [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ほら、早く起きなさい!」

母親の声が聞こえる。パロレはベッドの上で呻き声を上げた。

パロレがアルセアに勝利して殿堂入りしてから、既に数日が経過している。あれから変わったことと言えば、パロレが正式にメガシンカの使い手として認められたということだろうか。

フォルテ城に赴き、クオレやユーリ、更にはアルセアとアキニレ、バジリコの立ち会いのもと、パロレはコルネッホによってメガシンカの儀式を執り行った。

コルネッホは新しくキーストーンをくれるつもりだったようだが、パロレは貰わないことにした。既にリザードンと共に使ったキーストーンの原石を使うことにしたのだ。その後、バジリコが手先が器用らしく、使いやすようにとキーストーンの原石をブレスレットにはめてメガバングルにしてくれた。

パロレはアモル地方のチャンピオンとなったが、ポケモンリーグの一番奥で挑戦者を待ち続けているのは未だにアルセアだ。アモル地方では、ジムリーダーや四天王、チャンピオンたちは四度連続で挑戦者に敗北するとその資格を剥奪されてしまうのだという。その他の場合は、本人が自分の意思で役職を離れるなどしない限り任期は続く。アルセアはまだ一度しか負けていない。職業としてのチャンピオンの座を守るのは、依然アルセアだ。

また、アルセアが引き取った覚醒してしまったスリジエのポケモンたちは、アルセアの手によって記憶を取り戻したらしい。今では彼らもアルセアのポケモンとして過ごしているのだという。

「パロレ!クオレちゃんと約束してるんでしょ!起きなさい!」

母親の声が一層大きくなった。扉の開く音がする。

「にゃ!」

馴染みのある鳴き声を聞いて、パロレは呟いた。

「出た、目覚ましニャスパー……」

パロレは薄目を開けて窓の方を見た。カーテンを閉めているものの、眩しい光が隙間からこぼれている。パロレは欠伸をしながら上半身を起こした。

「今日は大丈夫だよ」

そう言いながらニャスパーにニヤッと笑ってみせる。ニャスパーは大きな瞳を更に見開いていた。母親のポケモンにさえ早起きを驚かれるとは、舐められたものだ。

「もうぼくは寝坊はしないのだ」

パロレも、多少は成長したということか。

パロレはベッドから出ると、ニャスパーの頭をポンポンと撫でて部屋を出た。ニャスパーはとてとてと歩きながらついてくる。

「おはよう」

パロレが階下に降りて母親に挨拶をすると、母親は笑顔で返した。

「おはよう。今日は朝ご飯は食べすぎない方がいいかしらね?」

母親がお茶目に言う。パロレは顔を赤くした。

「別に!気にしないで大丈夫だよ!」

今日は、クオレとオーラシティに行ってオーロティラミスを食べに行く。昨日からかなり楽しみにした様子で母親に何度も同じ話をしていたのだが、パロレはそのことを自覚していないようだ。

「そう?まあ、パロレはアキニレと一緒で大食いだもんね。問題ないわね」

母親はくすくすと笑いながらキッチンに向かう。パロレの頬はまだ少し赤らんでいた。
 ▼ 286 AYr1xkow/g 17/10/24 23:57:04 ID:LEiZiP4Q [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
朝食を済ませ、支度を終えるとパロレは元気よく「いってきます」と挨拶をして家を出た。すると、ちょうど隣家から人が出てくるのが見えた。クオレだ。

「あ、パロレ!おはよう!」

「クオレ、おはよう!ナイスタイミングだね!」

二人は笑顔で顔を見合わせる。それから二人はオーロシティを目指してヴァイスタウンを出た。

「オーロティラミス楽しみだなぁ……!ずっと食べてみたかったの!」

「ぼくもだよ」

二人は他愛もない会話をしながら進んでいく。一番道路を少し歩いたところで、二人は笑い声のような不思議な鳴き声を聞いた。この軽快でちょっぴり幻想的な鳴き声は。

「セレビィ……!」

パロレとクオレの目の前に、いた!セレビィが楽しそうに飛び回りながらこちらへとやってくる。少し久しぶりに見るその姿に、パロレは圧倒されそうになった。

「この子、前に廃工場で会った子だよねぇ?どうしたのかな?」

クオレがセレビィに触れるか触れないかのところまで手を伸ばして言う。

「分からない……けど、ぼくは何回か会ったことあるんだ。いつもぼくに過去を見せて帰ってっちゃうんだけど……」

パロレはそう言いながら、自分の顔の周りを飛び回るセレビィを視線で追いかけた。微かな風が起こってくすぐったい。

「なんで過去を見せてくれるんだろうねぇ」

クオレがぼんやりとした口調で言う。セレビィは既にパロレから離れ、自由に飛び回っていた。

「うーん……」

「何回も見せてくれるくらいなんだから、何か意味があるんじゃないかな?」

パロレは今までセレビィが見せてくれた過去を思い出した。ラランジャの森、イーラ火山、廃工場。そのうちの二回は、過去を見せることでパロレを間接的に助けてくれたと言えるかもしれない。しかし、イーラ火山で見たあのメローネの過去は、一体何を表すのか分からない。

「パロレに、何か伝えたいのかもしれないよ?」

「ええー、どうだろう」

二人は、幻のポケモンがすぐ近くにいるというのに呑気に話している。そんな心がセレビィにとって心地よいのだと、彼らは気付いていないのだ。

やがて、やはりというべきか、パロレたちの体がふわりと浮かび上がった。クオレはそわそわしていたが、パロレは少し慣れてきたからかあまり不自然に感じなくなってきた。
 ▼ 287 AYr1xkow/g 17/10/24 23:59:06 ID:LEiZiP4Q [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
やっぱり、二人がやってきたのは過去の一番道路だった。しかし、いつの時代か分からない。クオレが辺りをキョロキョロと見渡している。今と大して変わっていないようだ。

「!」

何かに気付いたパロレが、クオレの腕を引いて慌てて木陰に隠れた。草むらに、よく知っている人物がいる。とはいえ、今よりまだあどけなさが残っているので、三年前くらいといったところか。

「あ……」

クオレが声を漏らした。

草むらの中で思いきりうつ伏せに寝転がって、かなり低い視点にカメラを向けている人物がいる。アキニレだ。側から見れば完全に不審者なのだが、アキニレがどういう人物なのか知っているパロレは特に不審に思うこともなくアキニレを影から眺めていた。

見れば、隣にアルセアもいる。アルセアは立ってアキニレの様子を見ていた。今より髪が長かったのですぐに気付けなかったようだ。

「バシャーモの調子はどうだ?」

アキニレがカメラから目を離さずに言った。目の前にいるイワンコとエネコがじゃれついているところを撮っているようだ。

「もうだいぶ良くなったよ」

アルセアが言う。

「落ち着いてきたら、またリーグを開こうと思ってる」

「……そうか」

アキニレが頷いた。やはり、アルセアはこの時点で既にチャンピオンになっており、事件が起こったせいでポケモンリーグを閉鎖しなければならない状況に陥ってしまっていたのだ。

「……もう二年か」

アキニレがしんみりとした口調で言うと、

「正確には一年十一ヶ月と三日ね」

アルセアが冷えきった声で言った。事件の日から、ポケモンが記憶を取り戻すまでのことを言っているのだろう。パロレにも分かった。

アキニレとアルセアはしばらく黙っていた。やがて、アルセアがしゃがんでアキニレの視線の先のイワンコとエネコに目をやった。

「やっぱりな」

アキニレが呟く。アルセアはアキニレに目をやった。

「そりゃもちろん個体差はあるが、ポケモンはタマゴグループが同じ種を好む傾向がある。トレーナーに育てられてる場合はまたいろいろあるが、やっぱり生殖本能はあるんだな」

「……その肝心の生殖方法が謎なんじゃなかった?」

アルセアが言った。

「ああ、本当におかしいよな、誰もタマゴが現れる瞬間を見たことがないって……その瞬間を撮ることができれば、世紀の大発見になるんだけどな」

アキニレがぶつぶつと呟く。パロレとクオレは二人の話していることはよく分からなかった。

「で、話ってなんだ?」

アキニレは相変わらず寝そべったまま言う。アルセアは小さく息を吐くと、

「……バジリコのことなんだけど」

アルセアの言葉を聞くなり、アキニレはカメラから顔を離してアルセアを凝視すると、慌てて体を起こした。
 ▼ 288 AYr1xkow/g 17/10/24 23:59:55 ID:LEiZiP4Q [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「バシャーモも元に戻ったし、バジリコのこと、探してみようと思ってるんだよね」

アルセアはアキニレに構わずそう言ったが、言い終わるや否やアキニレが口を開いた。

「やめとけ」

その言葉を聞いたアルセアは、非難がましい目つきでアキニレを見つめた。しかし、アキニレも譲る気配はない。

「アルセア、あの頃はガキだったから分からなかったけど、今はもう分かるだろ?あいつがなんで俺たちに冷たくなったのか」

アキニレがそう言うと、風がひゅうっと起こった。寂しげな表情をするアルセアの髪が揺れる。

「きっともう、戻れない。俺たちに悪いことをしたって、あいつが一番それを分かってるからどこかに行っちまったんだろ」

「で……でも、バシャーモが見つかった日にいなくなったんだよ?何か関係ありそうじゃん?」

そう言うアルセアは、見たことがないほど切羽詰まっている。アルセアさんもあんな顔をするんだ、パロレはそう思った。

「あの日、工場が怪しいって一番に言ったのはバジリコなの、アキニレも知ってるでしょ。絶対何かある」

「なあ、アルセア……もう諦めろよ」

アキニレの声は、少し強引だった。その言葉にはどんな感情がこめられているのか、パロレには分からなかった。あまりにもいろいろなものが綯い交ぜになっていたからだ。その言葉に隠された意味は、アキニレのみぞ知る。

「諦めない」

アルセアはハッキリとそう言った。

「バジリコはいい奴だよ。バカなところもあるけど……私はずっと前から知ってる。何も言わずに私を置いてどこかに行くような奴じゃない。私たちは家も隣で……物心がついた時からずっと一緒にいたんだから……」

アキニレは黙ってアルセアを見つめていた。アルセアの声は震えている。

「また会いたい……」

アルセアの消え入りそうな声を聞いたクオレが、ハッと息を呑んで両手で口を覆った。見れば、なんとクオレは泣いていた。

アキニレは大きく息を吐いた。それから、ゆっくりとアルセアの顔に手を伸ばした。何をしたのか、パロレの見ているところからはよく分からなかった。ただ、見てはいけないものを見てしまったような気になった。
 ▼ 289 AYr1xkow/g 17/10/25 00:26:00 ID:4MToKyng [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「分かった。さっきは強く言いすぎたな、すまん。俺もちょっとは協力する。……でも、一体どうやって探すつもりなんだ?」

アキニレが言った。先程までの本気で止めようとしている強い口調とは異なり、アキニレの声音は柔らかい。

「ありがと」

アルセアは短くそう言うと、軽く咳払いしてから続けた。

「……私は、スパイス団が怪しいと思ってる」

アルセアの言葉に、アキニレは一瞬固まった。それから、かなり深刻そうな顔をして、

「あいつらには……関わらない方がいいんじゃないか?」

そう言った。

「いや、スパイス団は一概に悪い奴とは言えない。それは分かってる。けど、自分から関わりに行くとなるとまた話は別だろ。それは……流石に危ないんじゃないか」

アキニレが心配そうに言った。しかし、アルセアはなぜか薄ら笑いを浮かべている。

「ポケモンいるし、平気でしょ。何のためにバシャーモを待ってたと思ってるの」

「いやでも……」

アキニレはモゴモゴと口を動かした。アルセアは小さく頭を横に振る。

「大丈夫だよ、私、強いから」

そう言うアルセアの顔は、自信たっぷりだった。しかし、決して前向きな自信ではない。天才ゆえに散々振り回され、辛い思いをしてきた彼女にとって、その強さはこの時には疎ましいものでしかなかったのだろう。

「だって、私チャンピオンだもん」

アルセアは明らかに自嘲的な声でそう言うと、鼻を鳴らして横を向いた。すると、アルセアは微かに目を見開く。

「あ、タマゴ」

視線の先には、ポケモンのタマゴを大切そうに抱えるイワンコとエネコの姿があった。それを見たアキニレが、大声を上げて頭を抱えた。
ふわりと、再びパロレたちの体が浮かび上がった。
 ▼ 290 AYr1xkow/g 17/10/25 00:27:56 ID:4MToKyng [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……」

現代の一番道路に戻ってきたパロレとクオレは、しばらく黙りこんでいた。一体、何と言えばいいのか分からなかったのだ。

二人が黙っている間に、セレビィはどこかへと飛び去ってしまっていた。今回は何を見せたくて二人を過去に連れていったのだろうか。

「も、もういなくなっちゃった。ほんとに気まぐれな子なんだねぇ」

クオレが苦し紛れにそう言った。パロレはウンウンと頷いてクオレに合わせた。

バジリコが見つかって本当によかった。パロレはそう思った。

「……そこの君たち」

ふと話しかけられ、二人は驚いて振り向いた。そこには見知らぬ若い男性が立っていた。スタイリッシュな格好をした、ひょろりと痩せていて背の高い少し変わった雰囲気の男だ。

「デートしてるところ悪いんだけど、ちょっと道案内頼んでもいいかな」

「ででっ、デート!?」

「そそそそそそんなんじゃないです!」

二人は顔を真っ赤にして慌てて首と手を激しく横に振った。男は軽く笑うと、「そう?」とだけ言って更に近づいてくる。

「ラランジャシティってここからどう行けばいいのかな」

男はそう質問してきた。二人は目を合わせてから、

「あ、えーと、ラランジャは……ここを東に行って、ノグレータウンに行ってもらって、その後アズハルタウンを過ぎて、森を抜けたところにあります」

「結構歩きますよ!大変!って感じです」

そう伝えると、男は「ありがとう」とにっこり微笑んだ。

「君たちはこの辺の子なんだね。俺はアーリオ。カロス地方からやってきたんだ」

男、アーリオはそう言った。

「はい、すぐそこのヴァイスタウンってところに住んでます。ぼくはパロレです」

「わたしはクオレです!」

「パロレとクオレか。うん、ありがとう。ところで君たち、アモルの三英雄って知ってる?」

アーリオの質問に、二人はとりあえず頷く。フォルテ城に行った時にユーリに教えてもらわなければ、あまり詳しいことは知らないままだっただろう。

しかし、二人は次のアーリオの言葉に驚愕することとなった。

「俺はね、三英雄の一人、アングリアの末裔なんだ」
 ▼ 291 AYr1xkow/g 17/10/25 00:31:23 ID:4MToKyng [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「え……!?」

二人は目を見開いてアーリオを見つめた。アーリオはなんてことないとでも言うように軽く言ったが、パロレたちからしてみれば驚きだ。

この人、なんなんだろう。パロレはそう思い始めた。

「家にある古い書物にそう記述されていたんだ。俺はアングリアの直系の子孫だってね」

アーリオの様子を見るに、少なくとも自慢するつもりでそう言っているのではないのだということが分かった。だとしたら、一体なぜ?

「君たちはおかしいと思わないかい?俺はカロス地方出身なのに、アモル地方の英雄の血を引いてるだなんて」

「確かに……」

クオレが呟く。

「だから俺はアモル地方にやってきて、三英雄について調べているんだ。自分のルーツを知りたい……そう思うことは間違いじゃないだろう?」

アーリオはそう言って大きく手を広げた。それを見て、パロレはアーリオが腰に巻いているベルトにキーストーンが付いていることに気付いた。

「何か秘密がある気がしてならないんだ。俺はそれをどうにかして突き止めたくてね。人はいつの時代も真実を追い求めることで世界を発展させていった。俺の目指す真実も、きっと俺を更なる飛躍へと導いてくれるに違いない!」

熱弁し、やがて派手な身振りでおおげさにそう言ってみせたアーリオを見て、パロレとクオレは眉をひそめながらこっそり顔を見合わせた。なかなか変わった人物と知り合ってしまったようだ。

「……そういえば」

アーリオが意味ありげな表情を浮かべ、声を落としてそう言った。その口調は、やけにわざとらしい。

「君たち、さっきセレビィと一緒にいたよね」

「!」

パロレとクオレが息を呑む。

「ときわたりポケモン、セレビィ。そいつの力を使えば、三英雄のいた過去に戻り、真実を探ることができる……」

アーリオの呟きを聞いて、二人は身を震わせた。

「セレビィは確か……森に住んでるんだったね。セレビィは未来からやってくるポケモンとも呼ばれている。だからセレビィが住んでいる森は、未来でも美しい姿を保っているということになるんだそうだ」

アーリオはそう言うと、パロレたちを見てニヤリと笑った。それは背筋の凍るような不気味な笑みだった。

「アモル地方の森か……さっき、教えてくれたよね」

「ダメだ!」

パロレは咄嗟に叫んでいた。しかし、アーリオは笑いながらモンスターボールを取り出してあるポケモンを繰り出す。ムクホークだ。

アーリオはいとも簡単にムクホークに飛び乗った。ムクホークは翼を広げると、あっという間に高度を上げていく。

「まずい!ラランジャの森に行かなきゃ!」

「セレビィが危ない!」

パロレとクオレは、急いでラランジャの森を目指して走り出した。

オーロティラミスは、また今度だ。
 ▼ 292 ンダース@しずくプレート 17/10/25 01:03:46 ID:LYSH3C9w NGネーム登録 NGID登録 報告
新キャラや…
支援
 ▼ 293 AYr1xkow/g 17/10/26 00:16:37 ID:6QqR8Yxo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレとクオレは慌ててラランジャの森へとやってきた。セレビィは恐らくこの森を住処にしている。初めて会った場所もここだ。パロレは荒い息のまま森の中を歩き回ってセレビィを探した。

セレビィはどこにもいない。しかし、争った形跡もなかった。まだ森に帰ってきていないのか、それとも既に逃げているのか。それならいいのだが。

あのアーリオと名乗った男は、明らかにおかしかった。彼が語ったのはセレビィに会って過去に行くという不思議な体験をしてみたい、という夢物語ではない。セレビィを利用して過去へ行き、隠されているという秘密を暴きたいという野望だった。

「パロレ……」

クオレが呟く。二人は不安げな表情でお互いの顔を見つめた。なんだか、とてつもなく嫌な予感がするのだ。

と、突然ガサガサと音がした。二人は飛び上がり、慌てて音の聞こえてきた方向に目をやる。こんなに美しい森なのに、すべてが恐ろしく見えてくる。

「……!モクレンさん!」

音の主は、モクレンだった。モクレンは随分と切羽詰まった表情で草を掻き分けていた。パロレたちに気がつくと、モクレンは急いでこちらに向かってきた。

「ああ、パロレさん!こんにちは。唐突で申し訳ないのですが、君に頼みたいことがあるんです」

モクレンの声は明らかに焦っている。二人はモクレンの話に耳を傾けた。

「ラランジャの森で、ポケモンが襲われたようなのです」

クオレが息を呑む。

「ただ、犯人は相当手練れのトレーナーのよう。決して森を荒らすことなく、そのポケモンだけを捕らえてどこかへと消えてしまいました」

パロレはごくりと唾を飲みこんだ。

「……それと関係があるのかは分かりませんが、ひとつ知らせがありました。スパイス団がフォルテ城を襲ったと」

「え!?」

パロレとクオレは素っ頓狂な声を上げる。

「え……どうして?何のために?」

クオレが戸惑いの声を上げる。

「今はリーダーもいないはずなのに……」

パロレも呟いた。

「僕は引き続き森を見回ります。……チャンピオン。僕は、この妙なふたつの事件が同時に起きたということには、何か意味があるのではという気がしてなりません。どうかフォルテ城へ向かい、スパイス団たちを撤退させてください」

「はい!」

モクレンの言葉に、パロレはしっかりと答えた。すると、

「わたしも行くよ!」

クオレが言う。パロレはクオレを見て頷いた。クオレも、もう怯えてばかりの弱虫などではないのだ。
 ▼ 294 ュペッタ@キーストーン 17/10/31 21:23:58 ID:1yQ0Lpag NGネーム登録 NGID登録 報告
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 ▼ 295 AYr1xkow/g 17/10/31 22:12:56 ID:CNixIhek [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレとクオレは、フォルテ城にやってきた。

城そのものの外観はいつもと変わりない。しかし、辺りは騒然としている。見れば、ジョーヌジムリーダーであり、王家の末裔であり、ユーリの姉であるローザが城の前に集まる人々に大きな声で声をかけていた。

「皆様!ただいま城の中に入ることはできませんわ!危険ですので下がってください!」

パロレたちは急いで城の近くまで走った。それに気付いたローザが声をかけるのを一旦中断して、ピリピリとした表情で二人の元に歩いてくる。

「お二人とも、応援にいらしてくれたのですね」

ローザはきびきびと続ける。

「モクレンから聞きましたわ。お二人が来るから、お通ししてほしいと……感謝しますわ。わたくしは警備についてますので、中に入って援護をお願いします。……弟もいますわ」

パロレとクオレは思わず顔を見合わせた。それから頷き、ローザに礼をして城の中へと急ぐ。

一体何が起こっているのだろう。いろいろなことが一度に起こりすぎて、よく分からない。

フォルテ城の中に入ると、どこからか怒鳴り声のようなものが聞こえてきた。少女の声に聞こえる。声は、三英雄の彫刻が置かれている博物館のホールから響いているようだった。

三英雄の彫刻の中央には、円形の祭壇がある。パロレはそこでメガシンカの使い手として認定される儀式を行った。決してみだりに荒らしてよいような場所ではない。神聖なところだ。

「しらばっくれんのもいい加減にしろよ!」

再び怒鳴り声が聞こえてきた。やはり少女の声だ。聞き覚えがある。この可憐さのかけらもない、脅すことに慣れたドスの効いた声は。

「マリナーラ!」

パロレは叫びながらホールに走った。後からクオレも追いかけてくる。

「!」

マリナーラがパロレに気付いてこちらを見た。その背後には二人のスパイス団の下っ端団員が立っている。あの日いともあっさりと逃げてみせたマリナーラは、未だに何かを企んでいるようだ。

「パロレ!クオレ!」

今度は慌てた声が聞こえた。ユーリだ。パロレたちはユーリの元まで走った。その近くには、バジリコとコルネッホがいる。ユーリとバジリコはコルネッホを守るようにして立っている。

「来たぁ」

マリナーラがそう言ってにやりと笑った。その不気味な微笑みに、パロレの背筋が凍る。

「チャンピオンのお出ましだ」
 ▼ 296 AYr1xkow/g 17/10/31 22:15:20 ID:CNixIhek [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「最高のタイミング!」

マリナーラはそう言うと、何かを言おうと口を開いたユーリを遮るように続けた。

「あのクソガキに聞けば分かるよ。一緒に見たから。チャンピオンなんだからきっと嘘なんてつかずにほんとのこと教えてくれるでしょー!」

一体何の話だ?パロレは眉を潜めて一同を見渡した。コルネッホがこちらを見る。それが縋るような表情に見えて、パロレはどきりとした。

「何?何の話?」

「ほら、聞いてやれよ」

マリナーラが顎をしゃくり、乱暴な口調でコルネッホに言った。黙りこくっている父親に代わり、ユーリが口を開いた。

「パロレ。三英雄の一人、メローネにまつわる過去をこのマリナーラと一緒に見たことがありますか?」

ユーリの質問に、パロレは目を瞬いた。確かに見た。しかし、それが一体何だと言うのだろう。

「うん。見たけど……」

パロレがそう言うと、一瞬ユーリの目が泳いだ。バジリコが不安げにユーリを見守っている。

「それは、その……いつ、どこで見たんでしょうか」

ユーリの声は少し震えている。パロレはうーんと声を上げた。

「いつだっけ。イーラ火山で見たんだ。あいつ……マリナーラが禁止区域に行こうとしてたのを止めた後、セレビィがやってきて……」

パロレはその時のことを思い出しながら言う。コルネッホの顔色が次第に悪くなっていくのが見えた。

「一体、どのような内容でしたか……」

ユーリのか細い声がひっそりと響く。このまま答え続けていいのか、パロレには分からなかった。でも、嘘をつく理由もない。

「確かメローネがイーラ火山に来て、ぶつぶつ恨みを言ってたんだ。エシャロットに怒ってるみたいだった。メガシンカの力を奪われた、みたいな言い方してたな……。あとは火山に住んでる幻のポケモンのことも話してた。ぼくには何が何だか全然分からなかったけど……」

「ほら!」

パロレが話し終わらないうちに、マリナーラが喜びの雄叫びを上げた。

「だーから言ったじゃん、ほんとだって!」

マリナーラの目は爛々と輝いている。

「おかしいよねぇ?三英雄はメガシンカの力を資格ある者たちに与えたとかいう伝説が残ってるはずなのに、実際は三英雄同士ですらその力を奪い合って争ってたんだぁ!」

マリナーラはわざとらしく言う。パロレははっと息を呑んだ。確かにそうだ。今まですっかり忘れてしまっていたが、あの時、おかしいと思ったのだ。

「詳しく知りたくない?絶対何か秘密あるでしょ!気になるよねぇー」

猫撫で声でそう言ったマリナーラは、再びコルネッホに目をやるといきなり顔を歪めた。

「だから!黙ってないで何か言えよ!何か知ってるんだろうがよ!」

マリナーラは、イーラ火山であのメローネの過去を見た時からずっと王家の末裔に不信感を抱いていたのだろう。なぜ今動き出したのかは分からない。もしかしたら、あの時から準備をしていたのかもしれない。そして、機が熟した今、準備のできた「それ」を利用して、彼らを脅しているのだ。
 ▼ 297 AYr1xkow/g 17/10/31 22:26:38 ID:CNixIhek [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「何か隠してる、ってことはもうバレてんの。しらばっくれんのもいい加減にしてくれる?マリナーラも暇じゃないわけぇ。さっさとしないと、マジで告発するよ?王家の末裔はアモルの人たちにメガシンカに関する真実を隠してた、って」

マリナーラはイライラした様子で続ける。

「黙ってやるからとっとと認めればぁ?そんで口止め料としてさ、マリナーラにキーストーンとメガストーン、ちょうだいよ」

なるほど、マリナーラはその秘密の存在を餌にキーストーンとメガストーンを奪おうとコルネッホを脅していたようだ。

やがて、長らく黙りこんでいたコルネッホは重々しく口を開いた。バジリコがコルネッホを守るように構える。

「私は……何も知りません」

そう答えるコルネッホに、マリナーラは明らかに落胆した顔を浮かべた。

「メガシンカは、確かに三英雄がもたらした力です。彼らが奪った力などではないはず」

コルネッホは両手を組んで祈るような格好をした。ユーリが悲痛な顔で弱った父親を見つめ、そっと父親に近づいた。バジリコはそんな二人から少し離れ、マリナーラを睨みつける。マリナーラはハッと馬鹿にしたように息を吐くと、大理石の床に唾を吐いた。

「お前!」

バジリコが鋭い声を上げた。

「使えねえクソジジイだな」

マリナーラは歯を食いしばってそう唸る。それから小さく溜息をつくと、

「まー、いーよ。エシャロットの子孫はクソ雑魚ってことで!」

マリナーラはあっけらかんとした態度に戻りそう言った。それから、再び意味ありげなことを口走り始めた。

「それにしても、みんなアングリアとメローネの子孫はどうなったのかとか気にならないわけぇ? 二人だって城に……エシャロットに仕えてたわけでしょ?ましてや三英雄のメンバーだよぉ?なんで何も知られてないのって普通疑問に思わない?」

マリナーラの言葉は、恐ろしいほど分かりやすかった。そう言われると、確かになぜなのかと思えてくる。マリナーラは存外賢いようだ。
 ▼ 298 AYr1xkow/g 17/10/31 22:27:25 ID:CNixIhek [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「マリナーラ、いい加減にしろ」

バジリコが悪戯っ子の妹を叱る厳しい兄のような口調で言う。マリナーラはべっと舌を出した。

「お前がメガシンカの秘密とやらが気になっててメガシンカの力が欲しいってのは分かった。でも一体なんでわざわざ城を大々的に襲ってまでそれを言う必要があるんだ?スパイス団を利用してまでやる価値のあることなのか?」

バジリコは怒っているというよりは呆れているようだった。スパイス団に所属していた頃は、よくこんなやりとりをしていたのかもしれない。

「そんなの、確証のないただの推測だろ。お前はその無駄に旺盛な行動力をもっと他のことに使え。……今のスパイス団はリーダーのいない大変な時期だろ?これ以上信用なくしてどうすんだ。分かったら早くアジトに帰れ」

バジリコの言葉に、マリナーラはしばらく機嫌悪そうに拗ねたような表情をしていた。それからマリナーラは小さく息を吐くと、

「言ったじゃん、準備は出来てるんだって。秘密を暴く目処が立ったから来たんだよ。とゆーか、あんただってメガシンカの力欲しいでしょ?元々あんたの女がその力を得たことに嫉妬してたんでしょ?今だってアモルではあの女とこのガキンチョしかメガシンカを使えないんだよ!」

そう叫んで、パロレを睨みつける。バジリコは黙りこんでしまったが、パロレはマリナーラを睨み返した。

「ここに来る必要があるから来た。力を行使する価値があるから連れてきた。それに……証拠なら、今ここに!」

マリナーラが大きな声を上げ、パロレたちの背後を指差した。

振り向くと、そこには人が立っていた。マリナーラの方に集中しすぎて、誰かがホールにやってきていたことに気付かなかったらしい。

「ちゃんと捕まえてきたよ、セレビィ」

そこには、セレビィを閉じ込めた檻のようなものを突き出しながら胡散臭い笑顔を浮かべてそう言うアーリオが立っていた。
 ▼ 299 AYr1xkow/g 17/11/01 15:59:53 ID:ge0mBEeU [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「セレビィ!」

パロレとクオレとユーリ、それからなぜかバジリコが同時に叫んだ。

天井部分が球状になった鳥籠のような形をした檻に閉じ込められたセレビィはぐったりとしていたが、四人の声を聞くと力なく顔を上げた。

「どうしてもボールに入ってくれなかったからさ、無理矢理これに入れちゃったよ」

アーリオがそう言って檻を軽く揺らす。セレビィはパロレたちの顔をじっくりと見つめ、バジリコと目が合うと急に体をそちらに向けた。反動で檻が更に大きく揺れ、アーリオは思わず檻を取り落とす。

「おっと」

アーリオが興味なさげに声を上げた瞬間、

「危ねえ!」

そう言ったバジリコが落ちる檻を慌ててガッチリとキャッチした。いわゆる細マッチョである彼は、筋力だけではなく瞬発力にも優れているようだ。

セレビィは弱々しい鳴き声を上げながら、バジリコをじっと見つめていた。その瞳は、さながら恋い焦がれる乙女のようだ。

「アッハハ!幻のポケモンも面食いなんだねぇ」

マリナーラが面白そうに言う。

「ちが……!俺は元々こいつに会ったことがあるんだよ!」

バジリコが慌ててそう言った。パロレは驚いてバジリコとセレビィを交互に見た。

「まあ、昔ラランジャの森で怪我したこいつを助けてあげたことがあるってだけだけど……おいお前!鍵を寄越せ」

バジリコがアーリオを睨んで低い声で唸った。しかし、アーリオは相手の神経を逆撫でさせるような馬鹿にしたような笑みを浮かべて首を横に振った。

「アーリオ、マジサンキュー!」

マリナーラがご機嫌な様子でそう言って右手の親指を立てた。

パロレは、セレビィが中に入った檻をバジリコに持たせたまま軽やかな足取りでマリナーラの元へと向かうマリナーラを、キッと睨みつけた。

やっぱりモクレンの考えは正しかった。ふたつの事件は繋がっていたのだ!
 ▼ 300 AYr1xkow/g 17/11/01 16:02:27 ID:ge0mBEeU [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「まさにバッチリ準備できてるんだぁ。過去を探るために必要な力を持つポケモン、セレビィと、過去を探るための強力な助っ人、アーリオね!」

マリナーラはそう言うと、アーリオに向かって両手を伸ばし、ひらひらと振った。

「なんてったって、アーリオは三英雄の一人、アングリアの子孫!やったねー!エシャロットの魂とアングリアの魂が世代を超えて再会だよぉ」

マリナーラが冷やかすような口調で言った。パロレとクオレ以外の一同が動揺を隠せない様子でアーリオを見つめる。

「俺たち、利害が一致したから協力することにしたのさ」

アーリオはそう言うと、冷ややかな瞳でコルネッホとユーリを見つめた。

「なるほど、あなたたちと……それから外にいたお嬢さんが、エシャロットの末裔ってわけか」

アーリオが低い声で言う。一同は黙っていた。すると、緊張感漂うホールに、二人ほどの人間が急いでやってくる足音が聞こえてきた。

「すまん、待たせた!」

慌ただしくホールにやってきたのは、アキニレとアルセアだった。バジリコが少しホッとしたような表情になって「やっとか」と呟く。彼が応援として二人を呼んだのだろう。

マリナーラは嫌そうな顔をしてたじろいだ。かつてアジトでパロレだけではなく二人にもコテンパンにされたらしい彼女は、実力のある大人である二人が苦手なようだ。

「何これ、どういう状況?」

アルセアが言う。

「あとで説明する」

セレビィが閉じこめられている檻をどうにか開けようと躍起になりながらバジリコがそう言った。

セレビィは混乱しているのか、先程までは力なく倒れていたにも関わらず、檻の中で激しく暴れまわっていた。檻がガタガタと音を立てる。

「セレビィ、落ち着くんだ。出してやるから、ほら……!」

バジリコが必死にセレビィを宥めようとする。それを見てアーリオはニッコリ微笑んで「無理だよ」などと言っている。やがて、不意にバジリコの体が浮かび上がった。

「わっ!?」

見れば、パロレたちの体も浮かび上がっていた。錯乱したセレビィが、自身の意図とは関係なしに時渡りを起こしてしまったらしい。ホールにいた者たちは、セレビィに連れられて過去の世界へと飛び立っていった。
 ▼ 301 AYr1xkow/g 17/11/01 16:06:24 ID:ge0mBEeU [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ここは……」

いつの時代だろうか。

三英雄の彫刻、彼らに囲まれるようにして出来た丸い祭壇。今とあまり変わらない。しかし、壁に時計が取り付けられていなかったり、彫刻の前に説明の書かれたプレートがなかったりと、現代のフォルテ城とは異なる部分もあった。きっと、まだフォルテ城が博物館になっていない頃だ。

大理石の床を高く鳴らす音が聞こえてきた。パロレとクオレとユーリ、アルセアとアキニレとバジリコ、それからマリナーラと二人の下っ端とアーリオは、慌てて散り散りに分かれて物陰に隠れた。

「……力が氾濫している」

ホールに入ってきた人物がそう言った。どうやら二人いる。一人は女性で、煌びやかな装飾のされた豪華な衣服を身に纏い、王冠をかぶっている。決して若くはないが、美しい人だ。隣には従者らしき男が歩いている。

「メガシンカの力が……力を持つべき身分ではない者にまで蔓延している」

女性は重々しくそう言うと、三英雄の像を見上げた。恐らく、彼女はこの時代のアモルの女王だろう。

「かつて三英雄は、求める者たちすべてにメガシンカの力を分け与えました。ですが、そのせいで今は強大な力がアモル全体に氾濫しています」

女王は従者に語りかけた。従者と、それからパロレたちは黙って聞いている。

「このままでは、王家が危機に晒されるやもしれません。メガシンカを使うことができる者たちが結束してしまえば、わたくしには太刀打ちできない」

「そのようなことが起こるとは思いませんが、もしそんな未来があるとしたら、私があなたをこの命に代えてでもお守りいたします」

従者がそう言った。女王は薄く微笑む。

「ありがとう。でも大丈夫。与えたものは、取り返せばいいだけのことですから」

女王はそう言うと、素早く歩き、三英雄の彫刻を通り過ぎた。

「力を制限することにします。メガシンカをすべての者たちに与えることは正しいことではない。支配できる者たちのみに配ればよいのです」

女王は、祭壇の向こう側にある、キーストーンとメガストーンを保管している台座に近づいた。この台座は、現代のフォルテ城でも展示されている。

「資格ある者のみに授けるとでも言っておけば、民もきっと納得するでしょう。問題は、三英雄の歩んだ軌跡です」

女王はそう言って従者の方に振り向いた。

「初代の王であるエシャロットがメガシンカの力を求める者たちすべてに与えることにしたその経緯を隠さなければ、いずれ子孫に不審に思われてしまう。その歴史に関する記述がある書物をすべて処分しなさい」

「御意」

従者は短く返事をすると、女王に深々と頭を下げ、ホールを出ていった。

「すべては王家の力のため……アモルの平和のためなのです」

女王は両手を広げながら恍惚とした表情でそう言った。やがて、再びパロレたちの体が浮かび上がった。
 ▼ 302 AYr1xkow/g 17/11/02 16:05:55 ID:yidUPCvg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
現代のフォルテ城に戻ってきた一同は、何も言えずに黙りこんでいた。顔面蒼白になっている者もいる。結局、一番に口を開いたのはマリナーラだった。

「なんか思ってたのと違った……三英雄は結局どうなったわけぇ?」

マリナーラは首を捻りながら言う。

イーラ火山で見たメローネの過去については、相変わらずよく分からない。今見たものを参考にするならば、エシャロットは求める者全員にメガシンカを分け与えていたようである。しかし、強大なメガシンカを操る人間が増えていくことを危惧した時の王が己の保身のためにメガシンカを制限することにした、そういうことだ。

「まあ、でも何かが隠されていることは確かなようだね」

アーリオが肩をすくめて言った。

「そう!」

マリナーラは大声でそう言い、再びハイテンションに戻った。

「三英雄にまつわる重大な何かが隠されてるってことだよねぇ!その謎がなんなのか、マリナーラが暴いてやる!」

マリナーラはそう言うと、勢いよくモンスターボールを投げた。繰り出されたのはグラエナだ。

「グラエナ!ぶっ壊せ!」

マリナーラが指示を出す。グラエナはマリナーラの背後に向かって駆け抜けると、展示しているキーストーンとメガストーンを保護しているガラスケースに思いきり体当たりし、ガラスを力任せに割った。

マリナーラはグラエナを追いかけ、素早く何かを奪う。キーストーンとサーナイトナイトだ。

「これ!口止め料の前借りとして受け取っとくからねぇ」

マリナーラがニヤリと笑う。パロレが慌ててマリナーラを追いかけようとした瞬間、今度はアーリオがボールを投げた。ボールから出たムクホークは凄まじいスピードでこちらに飛んできて、バジリコの手にあるセレビィの入った檻を咥えていってしまう。

「ああっ!」

ムクホークはそれからスピードを緩めることなく主人の元へと飛んだ。アーリオとマリナーラがその上に飛び乗り、開け放たれていた大きな窓を抜けて消えてしまった。

「ええっ!マリナーラさん!?」

「置いてかないでくださいよー!」

城に残されてしまった二人の下っ端団員が、悲痛な声でそんなことを言いながら慌てて城を出ていこうとする。すると、アルセアが素早くモンスターボールを投げた。走り去る二人の前に、鋭い目つきで二人を睨みつけるバシャーモが現れる。二人の顔が引きつった。

「せっかくだから、バトルの相手してよ」

ヒィッ!と震え上がる二人に、アルセアがいつものようにぶっきらぼうで無感情な声で言いながら近づいていく。

「追いかけっこでもする?負けないよ」

逃げ出そうとする二人に、アルセアはそう言った。
 ▼ 303 AYr1xkow/g 17/11/07 00:07:26 ID:8DszlNuQ [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
拘束した二人のスパイス団員から情報を聞く。どうやら、マリナーラはイーラ火山で過去を見て以来、スパイス団としての活動とは別に三英雄やメガシンカについて秘密裏に研究していたのだという。二人はそれを手伝わされていたらしい。

「父上……」

城の外から戻ってきたローザが、不安や失望などの入り混じった複雑な表情をしてコルネッホを呼んだ。

「私は……」

コルネッホが、囁くように口を開いた。一同は黙ってコルネッホの言葉を一言も漏らすまいと耳をそばだてている。

「私は……メガシンカはかつてすべての者たちに与えられていたということを、本当に知らなんだ。私は、三英雄の一人でありアモルの初代の王であるエシャロットに託された王族の末裔としての責務を果たそうと……ただそれだけの思いで今まで生きてきた」

コルネッホは震える声で弱々しく言った。パロレとアルセアは思わず顔を見合わせる。

「……それが、エシャロットによって与えられた、己の使命なのだとずっと思っていた……しかし……」

コルネッホが天を仰ぐ。その視線の先には、勇ましく佇むエシャロットの彫刻があった。

「それが過ちだとすれば、私の今までの人生とは一体……一体……」

ローザが思わず顔を背けた。ユーリも顔をしかめている。

はあっと深く溜息を吐く音が聞こえてきた。アルセアだ。

「それじゃあ、悪者はさっきの女王様ってことで」

アルセアの言葉に、パロレは頷いた。これ以上コルネッホを苦しめるのも酷だ。それに、ユーリやローザだって気の毒である。

「セレビィを取り返さなくちゃ……!」
クオレが言った。

クオレの、セレビィが何度もパロレに過去を見せてくれるのには何か意味があるのではないかという言葉が頭をよぎる。パロレは、ぐったりとしてしまったコルネッホの元に駆け寄るユーリとローザを見つめながら考えていた。

あのセレビィの様子を見るに、バジリコのことがとても気に入っていたのだろう。もしかしたらセレビィは、パロレがバジリコと再会するチャンスを与えてくれる存在だと見抜いて、パロレを何度も助けてくれていたのかもしれない。

それなら、イーラ火山でメローネの過去を見せたことにもやはり意味があるのかもしれない。パロレはそう思い始めていた。きっと、パロレが三英雄の謎を解く鍵なのだ。

「うん。セレビィを助けに行こう!」

パロレは力強く言った。
 ▼ 304 AYr1xkow/g 17/11/07 00:08:52 ID:8DszlNuQ [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
一方、ここはスパイス団のアジト。

アーリオのムクホークに乗って廃工場までやってきたマリナーラは、壊れたアウェイクマシーンに設定されたパスワードを解除して地下のアジトの中へと向かっていた。

ムクホークの咥えていた、セレビィの入った檻をぶらぶらと不用意に揺らしながら歩く。ムクホークをボールに戻したアーリオはアジト内を興味深げに観察しながらその後ろを歩いていた。

マリナーラがニヤニヤと笑いながら檻を持ち上げ、セレビィと目線を合わせる。

「さーあ、あとで三英雄の過去たっぷり見せてねぇ」

セレビィは弱っていたが、マリナーラを睨みつけ、ぷいと背を向ける。マリナーラはそれに苛立ったのか、激しく檻を揺らした。

「生意気!」

セレビィは揺れに抗うことができず、ガンガンと体を格子にぶつけている。

「死んじゃったら困るし、程々にね」

後ろからアーリオが声をかける。マリナーラは不満げな表情で振り返って「はーい」と言うと、手を止めた。

「あんまり言うこと聞かないと痛い目に遭うよぉ?」

マリナーラが再びセレビィに視線を合わせてそう言った。口調こそいつも通りだが、その瞳は冷え切っている。

セレビィの耳には、マリナーラの言葉は届いていないようだった。セレビィは激しく揺さぶられたことで動転してしまったのか、かなり不安定に檻の中を飛び回っていた。

やがて、マリナーラとアーリオの体がふわりと浮き上がる。

「ゲッ、今!?」

マリナーラがギョッとした顔をする。

「あーあ、混乱させちゃうから……こんなところで三英雄の過去、見られるのかな」

アーリオがのんびりとした口調で言った。そして二人は、気付けば過去のスパイス団アジトへとやってきていたのだった。

二人は辺りをキョロキョロと見渡した。今もほとんど何も変わっていない。数年前と見ていいだろう。

すると、廊下を慌ただしく走る音が聞こえてきた。二人は慌てて物陰に隠れる。走ってきていたのは、バジリコだった。今より若い、十六歳ほどのバジリコ。

そう、これはかつてパロレたちが廃工場で見たバジリコ少年が秘密の抜け道を突き止めてアジトの中に入っていった、あの過去の続きの物語なのだ。
 ▼ 305 AYr1xkow/g 17/11/09 16:48:05 ID:q7FmJM9s [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
廊下を走っていたバジリコ少年は、やがてスピードを緩め、辺りを注意深く観察しながら歩いた。怪訝な表情をして進むバジリコ少年の元に、何者かが近づいていく。

バジリコ少年が立ち止まった。それから息を呑む。

「あなたは……!」

「うふふ。こんにちは」

彼の目の前に現れたのは、スリジエだった。

「あ、あなたがアルセアのバシャーモを盗んだんですか……?」

バジリコが愕然として言う。スリジエは何も言わずに薄く微笑んだ。肯定の意と受け取って問題なさそうだ。

「まさかバジリコくんが一番に気付いてくれるなんて思わなかったわ!ここが怪しいって最初に言い出したのもあなたなんでしょう?そう聞いたわ」

まったく悪びれる様子もなくそう言うスリジエの様子にバジリコは唖然としていたが、やがてごくりと唾を飲みこんで口を開いた。

「そうです……だって、つい最近までここの工場はボール工場として稼働してたのに、アルセアのバシャーモが盗まれたのとほぼ同時に潰れたんですから、何かあると思ったんですよ……」

バジリコは目を泳がせながら言った。まだ、ポケモンをくれた信頼できる大人であったスリジエが犯人だったという事実を受け止めきれていないのだ。

「ここの工場はね、私たちスパイス団の助力があったからここまでやってこれたのよ」

スリジエの言葉に、バジリコが目を見開く。

「スパイス団……!」

バジリコの反応に、スリジエの瞳が嬉しそうに歪む。

「そう。私はスパイス団のボスで、ここはスパイス団の新しいアジト。このアモル地方を陰ながら支える闇の組織……そう言えば、少しはかっこよく聞こえるかしら」

スリジエの口調は、まるで今日着ている新しい服を見せびらかす少女のように無邪気だ。

「まあいろいろあってこの工場は要らなくなってしまったから潰したのだけど…….でも利用できてよかったわ。おかげでボール開発に必要な技術を得ることができたから」

スリジエはそう言ったが、バジリコはスリジエの真意をよく分かっていないようだった。ただ、彼女が良くないことを考えているということは分かる。

「アルセアに言ってやる……!」

バジリコが言った。スリジエはニッコリ笑顔で返す。

「いいわよ」

その反応に、バジリコはギョッとした顔をして後ずさった。

「お好きになさい」

スリジエはそう言って、一歩バジリコに近づいた。

「でも……どうするの?」

そう言って、わざとらしく困ったような表情を浮かべる。バジリコは首を傾げた。
 ▼ 306 AYr1xkow/g 17/11/09 16:53:31 ID:q7FmJM9s [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「確かに、バシャーモを盗んだ犯人を突き止めて、その犯人が隠れてるアジトまで見つけたのってすごいことだと思うわ。でもね、私は知ってるのよ」

スリジエはそう言うと、不気味なほどに嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「あなたがバシャーモを奪われてバトルができなくなってしまったアルセアちゃんを見て嬉しくなっちゃった、って」

スリジエの言葉にバジリコは固まった。スリジエは追い討ちをかけるように更に言葉を紡いでいく。

「どんなに頑張っても勝てなかった、バトルの天才アルセアちゃん。あなたは彼女のことが大好きだけど、同時に大嫌いでもあるのよね」

「や、やめろ……」

バジリコが呟く。スリジエは構わず続けた。

「そんな彼女が、相棒に忘れられたことでバトルへの情熱を失ってしまった。戦うことができなくなってしまった。その姿を見て、バジリコくん、あなたはいい気味だ、って思ったでしょう?可哀想なアルセアちゃんを見て、気持ちいいと思ったでしょう?」

「やめろ!」

バジリコが叫んだ。必死の形相でスリジエの口から発せられる呪縛から逃げようとしている。スリジエがバジリコの肩を掴んだ。長い爪がバジリコの肩に食いこむ。

「いいえ、やめないわ」

スリジエはそう言ってバジリコの顔を覗きこんだ。

「そんな酷いことを考えてるのに、都合よく彼女を助けてヒーローになるつもりなの?それってとっても卑怯じゃないかしら」

スリジエの顔が、バジリコの瞳の中に映っている。

「バジリコくん、きっと今あなたが戻ってアルセアちゃんのヒーローになれば、そのまま彼女と一緒になれると思うわ。でも、あなたが卑怯者だってばれてしまったらどうするの?大好きなアルセアちゃんに嫌われちゃうかも」

バジリコの表情に、恐怖がよぎった。旅に出てから才能を開花させたアルセアへの嫉妬で不貞腐れ、散々彼女に辛く当たってしまったというのに、それでもアルセアに嫌われることはバジリコにとって最も恐れるべきことなのだ。

「それでもいいなら、ここを出てアルセアちゃんの元に行って、私のことを好きなだけ話していいわよ。それでもいいならね」

スリジエは念を押すように繰り返した。バジリコはよろよろとその場から力なく後ずさった。どうすればいいのだろうか。

「そこで、提案があるの」

スリジエが朗らかに言う。

「バジリコくん。私の仲間にならない?」
 ▼ 307 AYr1xkow/g 17/11/09 16:55:30 ID:q7FmJM9s [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
バジリコは目をパチパチと瞬いた。予想外の言葉だったのだ。

「アルセアちゃんには敵わなかったかもしれないけど、バジリコくんだって強いもの。あなたが私の役に立ってくれるのなら、アルセアちゃんには何も言わないであげる」

バジリコは眉をひそめてスリジエを見つめた。スリジエが何を考えているのか、その意図を探ろうとしている。スリジエは相変わらず掴みどころのない笑顔を浮かべている。

もしかしたら、今までに見ていた笑顔も同じものだったのかもしれない。今まで優しい微笑みだと思っていたその表情が、本性を知ってしまった今、とても恐ろしいものに見えているだけなのかもしれない。

「アルセアには……」

バジリコが口を開く。スリジエはバジリコの言葉に耳を傾けた。

「アルセアには絶対に手を出さないでください……。それなら……それなら……」

バジリコは苦しそうに声を絞り出した。悩んでいるようだ。スリジエの口角が上がる。

「分かりました。『私からは』絶対に手を出さないわ」

黙って見ていたマリナーラは、スリジエの言葉に思わずべっと舌を出した。まあ、屁理屈も使えないようではマフィアのボスなど務まらないだろうが。

「……」

バジリコは顔をしかめて俯いた。未だに悩んでいる。

本当は、気付き始めているのだ。アルセアは何も悪くない。自分が勝手に、一方的に嫉妬していただけ。

すべてをチャラにできるくらいの活躍をしただろう。大切な相棒を取り戻すきっかけを作り、盗んだ犯人とその所在まで調べ上げた。しっかりと報告し、今までのことを誠実に謝罪すれば、許してもらえるかもしれない。

でも、それでいいのだろうか。彼女を傷つけた自分に、そんな資格があるのだろうか。もう戻らずに、このまま消えてしまうべきではないか。

「どう?バジリコくん」

スリジエの声は優しい。

「ここに来れば、可哀想で可愛いアルセアちゃんを、安全なところからずっと見ていられるわよ」

バジリコはゆっくりと顔を上げた。スリジエが満足げに微笑む。

そこで、マリナーラとアーリオの体がふわりと浮き上がった。
 ▼ 308 AYr1xkow/g 17/11/10 01:12:07 ID:zbMccPEQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「くだらな……」

現代に戻ってきたマリナーラが最初に発したのはそんな言葉だった。マリナーラはそれ以上は何も言わず、黙っている。

「案の定、三英雄に関する記憶じゃなかったね。あの男の子はさっき城にいたイケメンにそっくりだったけど、同一人物?」

アーリオが問う。マリナーラは無言で頷いた。

「なるほどね。じゃああの女性は?」

マリナーラはしばらく何も言わなかったが、やがて前を向いたままアーリオの顔を見ずに、

「あたしのママ」

そう言った。

「へえ、似てないね」

アーリオは大して興味なさげだ。

「でしょー?」

マリナーラはそう言って振り向いた。笑顔だ。

「マリナーラはパパ似なのぉ。パパの顔知らねーけど」

マリナーラの言葉にアーリオはかなり微妙な顔をした。どうやら彼は気を使うことが恐ろしく下手くそなようだ。

「ま、パパ似なのか、そもそもほんとにママなのか、その辺全然分かんないけど。ママって呼んだらダメって言われてたしぃ」

「なんで?」

マリナーラの言葉にアーリオは首を傾けた。

「さあね。小さい時ママって呼んだら死ぬほど怒られたのなんとなく覚えてるよぉ。多分、マリナーラは娘じゃなくて部下だったんだよ」

マリナーラは自分でもあまりよく分からないのか、肩をすくめてそう言った。

「でも、言うこと聞かずにしょっちゅう自分勝手に動く自己中な部下だったから、言うことを聞いてくれる従順な部下の方がマリナーラより好きだったみたいだよぉ。仲良く捕まってたしね……アホくさ」

マリナーラは最後は小さな声で呟いた。

「ふーん」

アーリオがまったく心のこもっていない相槌を打つ。

「あっは、ちょー興味なさそーウケる。まあ、だから話したんだけど」

マリナーラはそう言って乾いた笑いを漏らすと、再び前を向いた。

「まー、そんなことはどーでもいいよ。さっさとセレビィ、部屋に連れてかないとねぇ」

マリナーラはそう言って、汗ばむ手で檻をぎゅっと持ち直して廊下をまた歩き始めた。
 ▼ 309 AYr1xkow/g 17/11/13 17:52:49 ID:psrA7L3s [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
舞台は再びフォルテ城。

「スパイス団のアジトに行こう!マリナーラが戻ってるかもしれないし……そうじゃなかったとしても何か手がかりがあるかも!」

パロレが言う。一同は頷いた。

「まあ、危険ですわ」

ローザが咎めるような声で言った。その瞳は弟に向けられている。

「あなた、確かにお強いですけど、まだ小さな子供でしょう?あの野蛮な方々を追いかけることは許しません」

ローザはきっぱりと言った。いくら毒舌だとはいえ、大事な弟を危険な目に遭わせたくないという思いはあるのだ。

ユーリが口を開こうとした。ユーリを含めたパロレたちがスパイス団のアジトに赴き、スリジエの悪事を食い止めたということは、ほとんどの人たちが知らないのだ。しかし、アキニレが手を挙げて制止した。

「ローザさん、ご紹介が遅れまして申し訳ありません。アルセアのことはご存知でしょうけど俺のことは知らないですよね」

アキニレがそう言ってローザに一歩近づく。

「ええ……後から来たお二人のうちのお一人ですわね」

ローザがアキニレを注意深く見つめながら言った。

「俺は数日前までスリジエ博士の手伝いをしていたアキニレと言います。先にはっきりと述べておきますが、博士の悪事には一切関与していません。……俺は、パロレの兄です」

アキニレがそう言うと、ローザの瞳が驚きで丸くなった。

「まあ。一度にそんなにたくさん言われたら混乱してしまいそうですわ」

ローザは表情を戻すと、いつもの調子でそう答えた。

「し、失礼いたしました。……弟さんが心配な気持ち、とても分かります。でも俺は、弟さん――」

アキニレはそう言うと、小さく首を横に振って続けた。

「――ユーリくんの成長を、パロレを通じて見させていただきました。彼はとても強くなっていますよ。それに、俺たちも付き添います。アルセアとバジリコも。ローザさんは安心してジムリーダーとしての責務を果たしてください」

アキニレの言葉に、ローザは迷っているようだった。ローザの視線はアキニレから離れ、その少し後ろに立っているアルセアとバジリコの方へと動いていく。ローザはアルセアを見ると、小さく息を吐き、それからユーリを見た。

「……姉上、オレは……!」

ユーリが姉を説得しようと力強い声で言う。

「自分の弟の成長を、他の方に先に見届けられてしまうだなんて……」

ローザはユーリの言葉を遮るようにして呟いた。

「……悔しいですわね」
 ▼ 310 AYr1xkow/g 17/11/13 17:54:52 ID:psrA7L3s [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あ、姉上……?」

ユーリが、怪訝な表情でローザを見上げる。二人の身長はそれほど変わらないのだが、ローザはハイヒールを履いているのでユーリよりも目線が高いのだ。

「なんですの」

ローザは急に抑えた口調になって答えた。

「……いえ、姉上がいつになく優しいことを言うのでちょっと驚いて……」

「まあ、わたくしはいつでもユーリに優しいでしょう。何を言っているの?」

「え?ああ……そうですね」

ユーリが棒読みで言う。

「心がこもっていませんわね」

ローザはキッとユーリを睨みつけた。ユーリは意外にもしれっとしている。二人はいつもこんな調子なのだろう。なんだかんだで姉弟の仲は良好のようだ。

「……分かりましたわ。アキニレさん、アルセアさん、バジリコさん。弟を頼みますわね」

ローザがそう言うと、アキニレはにっこりと笑って、

「ええ、責任を持ってお預かりします!」

そう言った。

ユーリは過保護な姉の言葉に少し気まずそうにしていたが、やがて再びコルネッホに向き直った。

「……父上。オレはもはや、何が正しいのか、分からなくなってしまいました」

ユーリの声は少し不安げだ。しかし、ユーリは真っ直ぐにコルネッホを見つめて続けた。

「だから、オレはスパイス団を追いかけてキーストーンとメガストーンを取り戻すだけでなく……、この目で真実を確かめに行きたいと思います」

ユーリは三英雄の像を見上げた。

「それが……自分の目でしっかりと確かめ、何が正しいのかを判断することが、大事だと思うから。……だから父上、待っていてください」

ユーリは力強くそう言ってみせた。

コルネッホが弱々しい、しかし確かな瞳でユーリを見つめる。コルネッホもまた、ユーリの成長を感じ取っているのだ。コルネッホは小さく頷いた。

「さあ、皆さん!」

ユーリが振り向き、一同に声をかける。

「スパイス団のアジトに、行きましょう!」
 ▼ 311 マゲロゲ@はっきんだま 17/11/14 16:28:45 ID:byZKfIpM NGネーム登録 NGID登録 報告
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 ▼ 312 ャラコ@パワーレンズ 17/11/18 08:30:39 ID:2eTbVsnQ NGネーム登録 NGID登録 報告
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 ▼ 313 ダイトス@ボスゴドラナイト 17/11/22 11:43:24 ID:7NF4Q6LE NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
なんかよくわからんけど
パロレ→アルセア
ユーリ→バジリコ
クオレ→アキニレなのかな
ポジション的には
 ▼ 314 AYr1xkow/g 17/11/23 00:45:19 ID:4K3hflnc [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>313
まさにそうですね
伝わっていたようで嬉しいです
 ▼ 315 AYr1xkow/g 17/11/23 00:49:05 ID:4K3hflnc [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレはクオレとユーリ、それからアルセアとアキニレとバジリコと共にスパイス団のアジトの入口となっている廃工場までやってきた。

「スイッチとかの仕様が変わってる可能性ってあるのか?」

アキニレが問う。バジリコは首を横に振った。

「あの機械をちゃんと扱える奴は博士しかいなかったはず……ないと思う」

「まあ最悪ぶっ壊しちゃえばいいでしょ」

バジリコが答える横で、アルセアはしれっとそう言って廃工場の中へと入っていく。

「あ、アルセア!」

バジリコが慌ててアルセアを追いかけた。アキニレも二人を追う。パロレたちも中に入っていった。

「大丈夫なのか……?」

アキニレが心配そうに呟く。アルセアは真っ直ぐ奥の部屋へと向かっていた。バジリコがアルセアに追いつき、隣を歩く。

「気持ちは嬉しいけど、あんまり気を遣わないでいいよ」

アキニレの声は聞こえていたらしい。アルセアが前を向いたままそう答えた。

「いつまでも縛られるわけにはいかないし……」

そう言うアルセアの声は少し震えている。

「もう大丈夫」

アルセアは小さいながらも決意に満ちた声で言った。

「……こないだだって無理してただろ。なんで……」

バジリコがそう言うと、アルセアは隣にいるバジリコを見つめて柔らかい声で言った。

「だって、バジリコがいるじゃん」

バジリコは何も言わなかった。パロレのいるところからはバジリコの表情はよく見えなかった。
 ▼ 316 AYr1xkow/g 17/11/23 00:52:55 ID:4K3hflnc [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アジトの秘密の出入口に改造されたアウェイクマシーンが鎮座する奥の部屋へとたどりつく。前回も担当したパロレが代表してスイッチを開くことにした。しかし、アウェイクマシーンのカプセルの外側に、何やら数字を打ちこむキーボードのようなものが取り付けられている。

「あれ?なんか変わってる!」

パロレが言うと、バジリコが「エッ?」と声を上げて覗きこんだ。

「本当だ。一体誰が……まさかマリナーラ……?」

バジリコが考えこむ。

「マリナーラは妙に聡いとこあるけど、こんなことまで出来たのか?そういえば、みんなよく分かってなかった博士の研究内容とか、マリナーラだけ理解してたことはあったな……」

バジリコがぶつぶつと呟いた。

「変わってる可能性はないって言ったのお前だぞ、どうすんだ?」

アキニレが少し強い口調で言った。

「どいて」

いきなりアルセアがそう言って近づいてきた。パロレとバジリコは慌ててアウェイクマシーンから離れる。

「バシャーモ、出ておいで」

アルセアがそう言ってモンスターボールを投げる。見ていたバジリコが「え、さっきの本気だったのか……?」と呟いた。

モンスターボールから出てきたバシャーモは、真剣な表情でアウェイクマシーンを見つめていた。アルセアは目を閉じて深く息を吐くと、目を開いて軽くバシャーモに触れた。

「本当は直接あの外道女を倒してやりたかったとこだけど、これで勘弁してやろうじゃん。……まあ、これも一種の禊ってことで」

アルセアの声も手も、もう震えていない。バシャーモは小さく頷いた。

一同はバシャーモから離れた。それを確認したアルセアが、声高らかに叫ぶ。

「バシャーモ!フレアドライブ!」

「シャーモッ!」

バシャーモはけたたましい鳴き声を上げ、体に炎を纏ってアウェイクマシーンに思いきり突進した。

ドガガガッシャーン!と、凄まじい音が部屋に響きわたる。アウェイクマシーンはものの見事に破壊されていた。これでまた廃工場にバシャーモが壊した機械がひとつ増えてしまった。

アルセアが黙ってバシャーモに目配せすると、バシャーモはシャモ!と強気に鳴き声を上げてからアウェイクマシーンの残骸をその強大な脚力で部屋の壁にめりこむ勢いで蹴り飛ばしてしまった。アジトへと繋がる階段が露わになる。

「スッキリした?」

バジリコが言う。

「超スッキリした」

アルセアはそう言ってニヤッと笑った。
 ▼ 317 AYr1xkow/g 17/11/23 00:55:30 ID:4K3hflnc [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
階段を降りて、長い廊下を抜けて小部屋にたどりつく。そこでパロレはまた違和感を覚えて首を傾げた。

「パロレ、どうしました?」

ユーリが尋ねる。

「多分なんだけど……ワープパネルの配置、変わってる……」

パロレが呟くように言った。

スパイス団のアジトには踏むと対応した部屋にワープするいくつものパネルが設置されており、以前リザードンを探しに来た時もそのワープパネルで移動して奥の部屋まで向かった。その時よりも、確実にパネルが増えているのだ。

「そういえば、確かに……前はこんなんじゃなかった!」

クオレもそう言った。今、パロレたちの目の前に「一個だけ選んで進め」と言いたげに三個のワープパネルが並んでいるのだ。以前はここには一個のパネルしかなかったはず。

「これじゃ俺も分からないな……」

バジリコが言った。

「パネルの管理も、あの人がやってたのか?」

アキニレが言うと、バジリコは頷いた。あの人とは、スリジエのことだろう。

「まさかこれもマリナーラが……?あいつ、そんなに頭良かったのか」

バジリコは驚きを通り越して感嘆しているようだ。

「あんなわがままで気分屋なのに頭はいい……って、まんま博士と一緒だ。今更だけど……似た者同士だったんだな」

バジリコはそう呟いた。

「よし、手分けしよう」

アキニレはそう言って、幼馴染二人に目配せをしてから、

「パロレ。兄ちゃんと行こう」

そう言ってパロレを見た。二人はアキニレの意図を瞬時に理解したらしい。

「クオレ、おいで」

アルセアがクオレを呼ぶ。クオレは「はい!」と返事するとアルセアの元へ近づいた。

「ユーリくんは俺と行こうか」

「はい。よろしくお願いします」

パロレとアキニレ、クオレとアルセア、そしてユーリとバジリコの三手に分かれた一同は顔を見合わせて頷くも、それぞれ自分たちの目の前にあるパネルへと足を踏み出した。
 ▼ 318 マタナ@ピーピーエイド 17/11/25 00:13:40 ID:KgpEEGAQ NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 319 AYr1xkow/g 17/11/28 18:06:55 ID:rQIkk3/M [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
向かって一番左のパネルに進んだのは、アルセアとクオレだ。クオレはアルセアと二人きりになって少し緊張しているようだった。

左のパネルからワープした先の部屋を探索すると、また違うワープパネルが見つかった。二人はパネルに乗り、また次の部屋へと向かう。

「その帽子、可愛いね。似合ってる」

クオレの緊張を和らげようとしたのか、アルセアはそんな言葉を口にした。それを聞いたクオレが、ぱあっと顔を輝かせる。

「ありがとうございます!」

先程まで硬い表情で黙りこくっていたクオレは早口で続ける。

「気付いてくれて嬉しいですっ!これ、最近買ったお気に入りなんです……!」

「帽子変えて気付かないって方がおかしくない?」

アルセアが言うと、クオレはムッと頬を膨らませて不機嫌そうな顔をした。

「パロレは気付いてくれないんです!」

クオレの言葉に、アルセアはああ、と溜息をついた。

「兄貴も気付かないタイプだしね……そういうとこ、似てんだ」

「バジリコさんは気付いてくれますか?」

クオレの言葉に、アルセアは一瞬固まった。

「……まあ、気付くんじゃない?」

「やっぱり!髪型とかメイク変えた時にもすぐ気付いてくれそうですよね!」

「そうだね」

アルセアは完全に諦めてそう答えた。

「アルセアさん、お洒落ですもんね!カメリアのお洋服も、とっても似合ってます!」

「ああ、これ?」

アルセアは気恥ずかしそうに自分の着ている服を摘んだ。

「カメリアは知り合いだからね。貰っただけだよ」

「ええ!貰ったんですか!」

「モデルの仕事手伝った時にお礼に……」

「モデル?アルセアさん、モデルしたことあるんですかっ!?」

「墓穴掘った。……一回だけね。断りきれなくて……」

アルセアは観念したように言った。クオレはなお一層目を輝かせてアルセアを見つめている。いつもクールで強くて美人な先輩トレーナーが、モデルもしたことあるなんて!

クオレにとってアルセアは憧れの存在だった。実際のところは、アルセアは身内に対しては意外とお人好しだというだけなのだが。
 ▼ 320 AYr1xkow/g 17/11/28 18:08:42 ID:rQIkk3/M [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「モデルしてるアルセアさん、見てみたいなぁ……!」

「勘弁して」

「アルセアさん、綺麗なのに!恥ずかしがらなくていいじゃないですかっ!」

「目立つの苦手なんだよね」

「でもでも、チャンピオンって目立つこともありますよね?」

「まあ多少はね。……あの時は何も考えてなかったな……ただ強い人とバトルしたくて、何度も挑戦してたらチャンピオンになってた……」

アルセアが遠い目をして呟く。

「ふふっ」

クオレが笑みを漏らす。アルセアは怪訝な表情をしてクオレを見つめた。

「あっ、ごめんなさい。なんか……アルセアさんとこんな普通のお話ができるなんて思ってなくて、嬉しくて!なんだかちょっぴりドキドキするって感じです!」

「何それ」

アルセアは苦笑する。

「私、超普通だから」

「そうですよね!アルセアさんも、普通の女の子ですっ!」

クオレがおどけてそう言ってみせる。アルセアは少し恥ずかしそうな表情でクオレを見つめた。それから、ふと立ち止まる。

「どうし……」

どうしたんですか、そう言おうとしたクオレに向かってアルセアは素早く人差し指を唇に当てる。

二人はしばらく黙ってその場に立っていた。すると、コツコツと床を踏む音が聞こえてきた。

「準備はいい?」

アルセアが囁く。

「……!っはい!」

クオレは慌てて頷いた。その瞬間、スパイス団の下っ端構成員が角から現れる。

「!うおっと!……侵入者発見!」

下っ端構成員がそう言ってニヤリと笑い、モンスターボールを投げる。

「行くよ、グレイシア」

「ライチュウ!お願いね!」

二人の女の子たちも、モンスターボールを手に取った。
 ▼ 321 AYr1xkow/g 17/11/28 18:11:07 ID:rQIkk3/M [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
一方こちらにいるのは、向かって一番右のパネルへと進んだ二人組、ユーリとバジリコだ。

二人は黙って進んでいた。元々、二人とも沈黙が苦ではないタイプなのだ。しかし、やがてユーリが口を開いた。

「あの……」

「うん?」

バジリコがユーリの方を向く。

「……オレ、スパイス団って、悪い組織だとずっと思っていたんです。いや、正直今でも思っています……バジリコさんにこんなことを言って、すみません」

「いや、気にしないでいいよ」

バジリコは真面目な声音で返した。

「スパイス団とは、一体何なんでしょう」

ユーリの言葉に、バジリコはしばらく黙って考えこんだ。それから、小さく溜息をつく。

「言っておくけど、良い組織ではないよ。それははっきりと言える。ただ……なんて言えばいいかな。アモル地方の黒い部分を全部背負った闇の組織……」

バジリコの言葉を聞くユーリの顔が、みるみるうちに歪んでいく。

「あーいや、ちょっと違かったかな、難しいな……」

バジリコは慌ててそう言うと、目を閉じて考えこんだ。

「俺も、具体的にすべてを知っているわけじゃないよ」

そう忠告して、バジリコは説明を始める。

「ひとつの国が平和にやっていくためには、大変なことだ。政治、経済、宗教……いろんな問題がつきまとう。ユーリくんなら、きっとなんとなく分かるよね」

ユーリは黙って頷いた。

「何か問題が起こったら、きちんと対処しなくちゃいけない。そのためには、時には汚い手段を使わなければならない時もある。それは、アモルだって例外じゃない」

「……」

「……ユーリくんや、君のご先祖様を攻めてるわけじゃないよ。どの国だってそんなもんだからね」

バジリコが優しく言うと、

「ええ、分かっています」

ユーリは重々しい声でそう言った。

「アモル地方のいつかの王は……その汚い手段を使わなければならない一大事が起こった時に、敵対していた反乱軍に頼んだんだ。二度と弾圧などしないから、自分の代わりに手を染めてくれ、と」

ユーリは完全に言葉を失っている。

「その契約は、結果的に言えば、その通り交わされた。王家の代わりに元は反乱軍だったその組織が汚い仕事を任されるようになった。でも、組織は弾圧されないことをいいことに悪いこともしてる。例えば……いやまあこれは言わなくていいか」

バジリコはユーリの顔色をちらりと見てからそう言い直した。
 ▼ 322 AYr1xkow/g 17/11/28 18:13:57 ID:rQIkk3/M [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ユーリは王家の末裔だ。いずれ知ることではあっただろう。姉上は知っているんだろうか、ユーリはぼんやりとそんなことを考えた。

「今じゃ王家と組織の繋がりはほとんど薄れてる……というか、もうアモルは王制じゃないからね。政治を行う人間たちが変わった時に、組織もそっちと手を組むようになったんだろう」

バジリコはそう言うと、ふうっと息を吐いた。

「組織はそのまま今も続いてる。なんてったって、創始者の末裔が表にいるからね。取り持ってくれてるってのもあるんじゃないかな……あの人はあくまで中立的な立場にいるけど」

スパイス団は、アモル地方と強い結びつきを持った歴史ある組織。みんな彼らを悪者扱いしつつも、なぜか彼らがいないと生活できないということをなんとなく知っている。悪い人たちの集まりというわけではない。でも確実に、良い人たちではない……。一体どういうことなのか。その真相は、こういうことだったのだ。

「まあ、分かりやすく言うと、こんな感じかな。おしまい」

「……ありがとうございます」

そう言うユーリの声は掠れている。バジリコはどういたしまして、と返した。

ユーリは深く考えこんでいるようだった。思ったよりもアモルとスパイス団の関係は複雑で、すぐに切ることはできなさそうだ。そのきっかけを作ったのは、他ならぬユーリの先祖で、エシャロットの子孫。

「あの女王が契約を結んだんでしょうか」

ユーリはフォルテ城で見た過去を思い出してそう言った。

「そこまでは、分からないなあー……」

バジリコの声が不自然に引き延ばされる。ユーリは不審に思って顔を上げた。すると、向こうから女性の下っ端構成員が走ってくるのが見える。ユーリは慌ててモンスターボールを手に取った。

「バジリコさぁーん!戻ってきてくれたんですかぁー!?」

下っ端は手を大きく振りながらそう言ってきた。どうやら、彼女にはユーリは見えていないようだ。

バジリコは無表情だった。アルセアへのものとはまったく異なる態度に、ユーリは少し面食らう。

「悪いけど、違うよ」

「えぇー?じゃあなんでここにいるんですかぁー!?」

「なんでだろうね。ここ、通ってもいい?」

バジリコはちょっぴり可愛げのある言い方でそう言うと、爽やかな笑顔を浮かべて軽く首を傾げた。下っ端への効果は抜群だ!

「また遊びに来てくださいねぇー!バジリコさぁーん、大好きでぇーす!」

あっさりと道を開けた下っ端が、後ろから大声でそんな言葉をかけてくる。そんな言葉を受けてもなんでもなさそうに歩くバジリコを見て、ユーリはなんて罪な人なんだ、と心の中で呟いた。

すると、「おい!お前!何侵入者通してんだ!追うぞ!」という声と共に激しい足音が聞こえてきた。

「やべ、やっぱダメか」

「いや、なんで行けると思ったんですか!」

ユーリがツッコミを入れると、バジリコは悪戯っぽく舌をぺろっと出した。イケメンとはなんと恐ろしい生き物だろうか。

「ごめんごめん!行くよユーリくん!」

バジリコがそう言って、ボールを構える。

「はい!行け、コジョンド!」

「ブラッキー!頼んだ!」
 ▼ 323 ニリッチ@くろぼんぐり 17/11/29 00:13:41 ID:omIlMni. NGネーム登録 NGID登録 報告
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