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【SS】微笑みの鑑定士

 ▼ 1 nfYyot98RE 18/12/08 01:26:13 ID:4R/MWZY2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「『試み』……こりゃ贋作だな」

男が持つ絵画は時価数億円の名画と言われるものだ。
そんな名画を盗みこうしてルーペでまじまじと見つめては「贋作」と言い放ったこの男は……怪盗と呼ばれる。

「して……その根拠は?」

そう言って怪盗に新しいロズレイティー入りの茶器を運ぶ冷静な女性は彼の助手である。隣では彼女の手持ちのサーナイトが微笑み混じりに空いた茶器を回収している。

「剥落がなさすぎるし、しかもラピスのはずの色が褪せてる……確定だろう」

怪盗はルーペを外し伏し目に一息ため息をつく。

「また外れか」

つい数日前に二人が某博物館から盗んだ作品であったが……贋作を引くのは三度目であった。
 ▼ 42 nfYyot98RE 18/12/15 19:58:44 ID:01UM8JOc [1/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ああ……その前に一服いいかね? 集中するにはこれがないとやっていられんタチでね……困ったものだ」

老紳士が手で何かをつまむようにした。隣のフーディンが持っていたライターを取り出す。

微笑みを浮かべていた鑑定士が僅かに眉を顰める。

「すいませんがここは禁煙でしてねえ、吸うなら外でお願いします」

「はは、何を惚けて……横の灰皿は君のものだろう?」

指さす先には確かに銀の小さく丸い灰皿がある。
老紳士の指摘に鑑定士は咳払いをした。

「そりゃいつもは吸いますが休憩中ですよ、ご主人の持ち寄る品は特別でしょう?」

「万が一にでも匂いがうつったらいやですからねえ……ご主人もわかるでしょう? ご協力お願いしますよ」

「む……それはそうだなすまない」

「では一旦外に出るとしよう」

フーディンは取り出したライターをしまった。
そう言うと老紳士はフーディンを引き連れて店の外へと出た。

 ▼ 43 nfYyot98RE 18/12/15 20:00:53 ID:01UM8JOc [2/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「待たせてしまってすまない……売品
を」

老紳士が一服しに行ったところから戻ると、予め布で何重にも包んだキャンバスを解き、鑑定士へと手渡す。

鑑定士は老紳士が渡した贋作、「砂漠の太陽」を丁重に受け取るとそれはそれはじっくりと鑑賞した。

「いい品ですねえ……とても贋作とは思えない」

その目はやはり敬慕と嘆美に溢れたものに見える。おおよそ普通に贋作を扱うには不釣り合いなほどの。

「しかし所詮は贋作……本物の何十分の一の価値しかないゴミだ」

「ゴミだなんて仰らずに、そこに価値を与える私たちですよご主人……」

老紳士が吐いて捨てるように言うと
鑑定士は微笑みながらやんわりとそれを否定する。
 ▼ 44 nfYyot98RE 18/12/15 20:02:22 ID:01UM8JOc [3/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ところで……君は美術の素養があるとは本当かね? 風の噂で聞いたんだが」

「ええ……素養ってほどでもありませんがね、趣味でちょこちょこやっとります」

鑑定士は「砂漠の太陽」のあちこちをルーペで見ながら答える。

老紳士は些か驚きの表情を見せた。
たっぷりと蓄えた髭を弄りながら鑑定士に尋ねる。

「ほう、鑑定士で趣味までとは……それほどの美術愛好家なら私同様収集はしてないのかね?」

「コレクションの方はさっぱりですねえ……私の小金じゃ買えませんし、私しゃ美術館でひと目見れれば満足ですよ」

「小金……そうかね?」

老紳士が余裕ある調子に尋ねる。
鑑定士の眉が再び顰まる。
皺だらけの顔の眉間に一際深い皺が刻まれる。

「ええ、小金ですよ」

しばしの間気まずいとも言える沈黙が場を支配する。

 ▼ 45 nfYyot98RE 18/12/15 20:04:22 ID:01UM8JOc [4/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「まあいい……私の為だ、あまり深入りはしないでおこう」

「ええ、是非そうしてください」

鑑定士が老紳士を見ずに答える。
しばらくしてルーペを外した鑑定士が老紳士にへと向き直る。

「鑑定終わりました……保存状態や年数から考えるにこれくらいの見積もりでいかがでしょう?」

「ほうほう……了承したサインしよう」

「では交渉成立で……」

老紳士が取り出した万年筆で出された小切手にへとサラサラとサインを記していく。

「売却ありがとうございます」

「いや、こちらこそ要らない贋作を買い取ってもらい感謝しかないよ」

老紳士と鑑定士は手を交わす。

「ではお暇させていただこう」

「ええ……今日はありがとうございます」

老紳士は鑑定士に会釈した。
挨拶間際にハットを被り直した老紳士がフーディンと共に質屋から出る。
 ▼ 46 nfYyot98RE 18/12/15 20:05:33 ID:01UM8JOc [5/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
老紳士が質屋が出ると女中に扮している助手がサーナイトと共に待っていた。

「旦那様……お帰りなさいませ、ご用件は無事お済みに?」

「ああ、帰るぞ」

「かしこまりました」

街の街灯に照らされて二人の影が伸びる。黒い影はますますコントラストを増しいよいよ夜の宵闇から出でる。

影から飛び出た何かが二人の背後へと迫る。

「……! 旦那様!」

殺気に気づき振り向いた助手が怪盗を力いっぱいに押し退ける。

よろめく怪盗のすぐ脇を黒々とした球体が過ぎった。
 ▼ 47 nfYyot98RE 18/12/15 20:06:39 ID:01UM8JOc [6/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「来たな……招かれざる客が」

「あれはゲンガー……! サーナイト、サイコキネシスです」

咄嗟にサーナイトに指示を出したがその攻撃が成功する前にはゲンガーは素早くその身を影へと潜めて消した。

しばらく周囲を注視していた助手たちであったが不意打ちに失敗したからか、その後夜の街に溶けたゲンガーが姿を現すことはなかった。

何やら不穏な空気に周りがざわめく。

「行ったか……? 私たちも騒ぎになる前に行くとしよう」

「はい」

急かせかと老紳士と女中に扮する怪盗と助手は夜の賑わう市の角地を後にした。
 ▼ 48 nfYyot98RE 18/12/16 18:42:00 ID:UahAaxD6 [1/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「おもむろに煙草を吸うなんて何だか危険な真似させられるわけないよねぇ……」

怪盗扮するラティツと交渉し終わった鑑定士は呟いては買い取った「砂漠の太陽」を手に取って見つめていた。

「ふん……私も甘く見られたものだ」

そう言って鑑定士はキャンバスの木枠の裏側……小さなボタン程度の機器を外す。

怪盗が仕込んだ盗聴器だった。

鑑定士は再び「砂漠の太陽」を丁重に布で包む。それをキャンバスケースにしまう。

携帯電話が震える。“ハンサム”の表示が画面に映る。

鑑定士は電話に出た。

まさかポケットのライターが怪盗が中身を盗聴器と入れ替えた……空のライターと入れ替わっているなんてことには気付かずに。
 ▼ 49 nfYyot98RE 18/12/16 18:43:34 ID:UahAaxD6 [2/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「さて……ゾロアークのトリックで奴のライターとすり替えた訳だが、お目当ての会話は聞けるかな」

怪盗と助手たちは潜伏していた拠点に戻って静かに盗聴器の成果が上がるのを待っていた。
ゾロアークが得意げに笑んでいる。

『……っ……もしもし』

盗聴器はプツプツと音を切らしながらも聞き取れる程度の会話は拾っていた。

『は……キブシです』

『ええ……接触しまし……ええ』

『はい、はい……盗聴器がありましたがさっき外……捨てました』

『ええ……また私の贋作をですか? 今は所在が分から……のが多くて……すねぇ』

『はい……分かってますよ、私も珠玉のコレクションを回収され……のは困りますから』

『まあなんとか……裏オークションを探してみましょうでは、また』

会話音はプツリと途切れ、後は鑑定士が店じまいしているであろう生活音がガサガサと聞こえるばかりだった。
 ▼ 50 nfYyot98RE 18/12/16 18:45:26 ID:UahAaxD6 [3/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「とうとう尻尾を出したなしかしそれより……」

怪盗はイヤホンを外しては少々苦い顔をした。

「私の贋作……だと?」

「つまり、私たちに贋作を寄越していたのはあの鑑定士ですか……自分で自分の絵を鑑定していたと」

助手は特に動揺することなくソファーに腰掛けゆったりとしていた。

「……初めから一杯も二杯も食わされてた訳か」

「どうします?」

「決まっている……あの鑑定士のしていることを世に暴いて、持っている本物の絵画も盗む」

「そんなことが出来るんでしょうか? 我々は二度も襲撃されていますし、今外に出向くのは危ないように思えますが」

助手が尋ねると怪盗は変装に使った手袋やらコートやらをその辺に放り出しながら大きくため息をついた。
 ▼ 51 nfYyot98RE 18/12/16 18:46:45 ID:UahAaxD6 [4/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「さあな? だが今動かなければ、この僕のプライドが怪盗であることを許さないだろう」

「そんなにですか」

「ああ、僕に贋作を掴ませたのは無類の賞賛ものだが同時に許されないことだ……この前ウイのみをこっそり食事に混ぜた誰かさんと同じくらいにはな」

怪盗が口を尖らせて助手の方を見た。
助手は素知らぬ顔で怪盗を見返す。

「それは怖いですねどこの誰かは分かりませんが同情します……きっとさぞ意地悪されて……」

「なんだよ? そんなにまた僕を褒める罰ゲームがやりたいのか? 」

「褒めればいいんですか?……ミスターはこのように安い人なので回復アイテム程度のお値段でお買い求めできます、お買い得ですね」

「この美男子がそんな安値で売られてたら売れ過ぎて経済破綻するな」

「いくら見た目がよくても中身が空のキズぐすりなんて誰も買いませんから大丈夫ですよ」

「とても僕の助手とは思えない辛辣な比喩表現をありがとう……ただし僕はキズぐすりでもすごいキズぐすりだがね」
 ▼ 52 nfYyot98RE 18/12/16 18:48:13 ID:UahAaxD6 [5/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「さて……世間話はほどほどに、作戦考えましょうかミスター?」

ああ、と咳こんではもう一度助手の淹れたロズレイティーを啜る怪盗。
真剣な面持ちになり助手に向かい合う。

「まずあの鑑定士の持つ絵画を盗むと言いますが……自宅は把握されていて?」

「ああ、この間ドンカラスをつけさせたからな」

怪盗は助手にピンマークの付いた地図の画像を見せる。

「奴の邸宅は二階建て……絵画なら幅を取るから一箇所ではなく分散させているかもしれないな」

「絵画ですと……一度に盗めるのは一つでしょうか、どれを狙うんです?」

「「試み」……あれを狙う、二度目の正直だ」

怪盗は助手が以前用意したリストを片手に悠々と宣言した。
 ▼ 53 nfYyot98RE 18/12/21 23:39:10 ID:lg.UNsno [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「「試み」ですか……鑑定士が持ち帰ったのは確か二年前、他の絵画同様邸宅内に飾られていると考えていいでしょうか」

「額縁の購入履歴があったからな、僕も見た感じ倉庫らしきものは見当たらなかったし、邸宅内のどこかに飾られていると見ていいだろう」

タブレットの画面を助手へと見せる怪盗。
画面にはブランドものの高級腕時計でも買えそうな額の支払い履歴が映し出されていた。

「額縁……さいですか、少々持ち運びに不便ですね」

「まあ「試み」は精々大人一人が運べる30号のサイズだ……取れない場合は額縁ごと頂くとしよう」

「問題は……」

「セキュリティだな」

助手の言葉に怪盗が続く。
助手が些か苦い顔で頷いた。

 ▼ 54 nfYyot98RE 18/12/21 23:41:05 ID:lg.UNsno [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ミスター……ロトムは活躍出来そうですか?」

「第一の施錠……オートロックを壊すことなら出来そうだが……全てデジタルなんてことはないだろうな」

ロトムの入ったモンスターボールを眺めて怪盗は言う。

「と、なると内部のアナログな鍵をどうするかですか」

助手の問いに怪盗は短く肯定する。

「……サイコキネシスでゴリ押せれば一番いいんだがな」

怪盗が空になったティーカップを置きポツリと呟いた。
それを素早く回収する助手。

「そんなザル警備の家に本物の時価数億円の絵画を置きますかね」

「まあそうだよな……当然簡単にはいかないだろう」

俯き気味で手遊びしていた怪盗が笑みのない瞳で口端を釣り上げた。
 ▼ 55 nfYyot98RE 18/12/21 23:43:07 ID:lg.UNsno [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「して……決行はいつにしましょう」

「アイツの行動パターンを一通り洗ったんだが……奴はオークションのある夜、家には帰らない……盗むならそこだ」

「心得ました、次のオークションというと……この日ですね」

助手が手にした紙のカレンダーにチェックマークを入れた。

「あまり猶予はありませんね」

「だな……さて、ゾロアーク起きろ、お前達ひと仕事だぞ」

手持ちポケモンをそれぞれボールから出す二人。
怪盗の隣でうつらうつら話を聞いていたゾロアークが名を呼ばれて正気へと戻った。

ポケモンたちは眠たそうに顔を上げていたり、まだ見ぬ盗品作戦へ期待で胸を膨らませていたりしていた。

鑑定士の邸宅の画像を片手に真剣な眼差しの怪盗が語り始める。
怪盗達の長く眠れない夜が始まった。
 ▼ 56 ビィ@たんけんこころえ 18/12/21 23:50:34 ID:.tmg.Xig NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 57 nfYyot98RE 18/12/23 18:06:40 ID:Tc5oK/6k [1/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
時刻は夜更け。
すっかり街は眠りに落ち月明かりと僅かに見える星々だけが静かに夜に沈んだ街を照らす。

あれから準備期間を過ごし、怪盗達は例の鑑定士の邸宅前に来ていた。

「よし……準備はいいな?」

「はい、ミスター……いつでもOKです」

助手の言葉にサーナイトとギルガルドが頷く。サザンドラは静かに助手を見つめていた。

ゾロアークがニヤリと笑いフーディンとドンカラスが了解の合図を取る。

「作戦開始だ……ロトム!」

「ロトーッ!」

怪盗の合図で待機していたロトムが邸宅の門のセキュリティパネルに侵入する。
しばらくバチバチと電光を鳴らしていたが、ピンポンという音と共にロックが解除され門が自動で開く。

ロトムがしたり顔でセキュリティパネルから飛び出るのを確認すると微笑みを強めた怪盗。

怪盗達はいよいよ鑑定士の邸宅へと侵入する。
 ▼ 58 nfYyot98RE 18/12/23 18:09:32 ID:Tc5oK/6k [2/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
門から侵入した二人。
その二人に機敏にも反応し駆け寄る影が迫る。

近づく気配に気付いた怪盗が指を鳴らす。

「おっと……騒ぎ立てる前に寝てもらおうか」

合図で二人を庇うような形でドンカラスが前に出た。大きく黒々とした翼をポケモンに向かいはためかせる。

そうして番犬らしきポケモンは二人を襲う前に強制的な眠りに落ちて崩れ落ちたのだった。

「ウインディ……やはりいましたね見張りが」

眠りに落ちた番犬ウインディを尻目に二人と七体は邸宅内へと足を急いだ。
 ▼ 59 nfYyot98RE 18/12/23 18:14:07 ID:Tc5oK/6k [3/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「泥棒なのに正面玄関から入るとは……あの人も考えてなかったでしょうね」

「なにせ僕らは怪盗だからな、泥棒よりも格上さ」

二人は堂々にもオートロックの外れた正面玄関から侵入した。

置かれた家具のシルエットから、シックな装飾の玄関であることは暗闇でもよく分かった。

「よしよし……作戦通りに君が一階を、僕が二階を行くとしよう」

「心得ました」

助手と助手の手持ちポケモンたちとは二手に分かれて探索を始めた怪盗。
螺旋階段を忍び足で登りきり、指示を出す。

「ロトム、フラッシュだ」

「ロト!」

怪盗の小声の指示を聞いてロトムが眩し過ぎない程度に発光した。
闇に沈んだ邸宅内のシルエットが浮かび上がる。
 ▼ 60 nfYyot98RE 18/12/23 18:16:45 ID:Tc5oK/6k [4/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「一通り見て……開かないのはこの部屋だけだな」

そう言って怪盗が腕を組む前には大きな扉が一つ。

順々と扉を開けては部屋を探索していた怪盗達。
一人暮らしの鑑定士の趣味らしいシックなインテリアの数々を目にしながら絵画「試み」をさがした。

カモフラージュの為か鑑定士の稼ぎに対して大して広くはない邸宅。
その為絵画は分散されて飾られていると考えていたが、怪盗の予想に反して未だ二階には絵画はひとつも見当たらなかった。

「……フーディン!」

怪盗の指示でフーディンは鍵穴へとサイコキネシスを試みる。
鍵はカチャカチャと金属音を出してはいるが解錠する気配はない。

「やはり鍵は開かない、か」
 ▼ 61 nfYyot98RE 18/12/23 18:18:54 ID:Tc5oK/6k [5/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ミスター……どうでした?」

懐中電灯片手に一階を探索していた助手達が合流した。

「一つだけ鍵のかかった部屋があった……絵画はまるで見当たらないしこの部屋が怪しい」

そうですか、と言って助手は目の前の大きな扉を見上げた。

「私達の方でも一つ開かない部屋があったのですが……間取りから考えてそちらが本命ですね」

「そうか……どうする? サイコキネシスじゃどうにもならなかったぞ」

「やはり作戦通り、少々荷が重いがギルガルドに託すしかないのか……?」

怪盗が苦々しく助手の後ろにいたギルガルドを見た。

「その件なんですが、その……探索していて私見つけたものがありまして」

助手は徐に何かを取り出す。
 ▼ 62 nfYyot98RE 18/12/23 18:20:36 ID:Tc5oK/6k [6/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……ボール? ウインディのものじゃないのか」

助手が取り出したのはモンスターボールだった。
ポケモントレーナーならすっかり見慣れたオーソドックスなモンスターボール。

「いえ、こちらはポケモンが入っているようです」

「考えられませんか……鍵を自分のポケモンに持たせているという可能性を」

「……なるほど、当たっていればギルガルドに暗闇で絵画を探させる必要はないし早いな」

「ええ……そんな訳ですから、いきますよ?」

怪盗が頷く。

ロトムを初めとしたポケモン達が固唾を呑んでボールへと目を見張る。

助手がゆっくりとボールのスイッチを押した。
 ▼ 63 nfYyot98RE 18/12/23 18:22:48 ID:Tc5oK/6k [7/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「フィー……?」

ボールから出てきたのは眠気まなこの白いポケモン。
大事そうに繋がれた両手には鍵束がある。

「クレッフィ……! これは……」

「ああ、正解かもな! ドンカラス!」

「フ、フィー!?」

侵入者達に驚き、咄嗟にでんじはを放とうとしたクレッフィ。
しかしあくタイプのドンカラスの前では失敗に終わる。

ドンカラスのさいみんじゅつがクレッフィに命中すると、すっかり意識を眠りに捧げ両手の鍵をストンと地に落とした。

それをすかさず拾い上げる怪盗。

「ちょっと借りますよ……」

そう言って助手は眠ったクレッフィを再びボールへと戻した。
 ▼ 64 nfYyot98RE 18/12/23 18:24:49 ID:Tc5oK/6k [8/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
鍵束の鍵を取っかえ引っ変え試す。

「……ビンゴだ!」

その何番目かの鍵がカチリとはまり扉を解錠する。

「やりましたね」

「ああ……入るぞ」

二階にあった謎めいた大部屋へと入る二人。

ロトムがフラッシュで部屋を照らすとその広い壁に飾られた厳かな絵画達が浮かび上がってきた。

そのとても一人暮らしの邸宅とはとても思えない錚々たる絵面に助手が短く声を上げる。

 ▼ 65 nfYyot98RE 18/12/23 18:28:54 ID:Tc5oK/6k [9/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「やはりこの部屋か……本来ならこの部屋の絵画全て頂くところだがな……「試み」は?」

「あります……これですね」

大部屋の端に壁掛けてあった絵画。
美術館の様相さながらにひとつひとつ額縁に飾られ、ガラスケースに覆われている。

「ギルガルド、よろしくお願いします」

ガラスケースに囲われたその絵画をゴーストダイブで影となり潜り込んだギルガルドが丁重に取り外す。

額縁が付いたままということもあり少々重たかったのか、地につけそうになりつつもギルガルドは絵画を怪盗と助手の元に運んだ。
 ▼ 66 nfYyot98RE 18/12/23 18:30:32 ID:Tc5oK/6k [10/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「絵画「試み」……この怪盗が無事頂戴した」

怪盗はその厳かたる雰囲気の絵画をギルガルドから受け取ると元あった笑みをより深めた。

満足気に一瞥すると素早い手立てで持ってきたキャンバスケースへと絵画をしまい込む。

「ミスター、早く逃走しましょう表のウインディがまた起きる前に……!」

「ああ、そうするとしよう……一階の工作は?」

キャンバスケースを肩かけるようにして持った怪盗。
助手とポケモン達もそれぞ怪盗の元へと駆け寄る。

「無事済んでいます」

「ならよし……フーディン、テレポートだ」

怪盗が指を鳴らすと光源の無くなった邸宅内から怪盗の一団がはたと姿を消した。
 ▼ 67 nfYyot98RE 18/12/23 18:33:08 ID:Tc5oK/6k [11/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
怪盗達はテレポートに成功し鑑定士の邸宅からは少しばかり離れた暗がりの森の中に転移した。

盗みの成功を確かめ合い喜ぶ面々。
だがその背後から音を立てずに忍び寄る者が一人。
正しく影であるそれに助手が捉えられる。

「……!?」

「おっと動くな、まだ死にたくないだろう」

背後から忍び寄り、助手をがっちりと掴み首筋へと刃を押し当てるポケモン。
そして怪盗達を嘲るように笑っているポケモン。
隣には一人の男が悠然と立っていた。

いつぞや市の角地で助手を襲ったキリキザンとゲンガー、そのトレーナーに違いなかった。

怪盗とポケモン達がその場に硬直する。

「……お前、ひょっとして僕らを追ってた奴か、そのなり……殺し屋といったところか」

「さあ? どうだかな」

「何故ここだと?」

「テレポートで行ける距離はそう遠くない、周りは森で人目もなくかつ障害物もない……中継地点を設けるならここだからな」
 ▼ 68 nfYyot98RE 18/12/23 21:42:41 ID:Tc5oK/6k [12/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「さあ、ポケモンをボールに戻しな、さもないとどうなるか……分かるだろう?」

男は余裕有り気に助手に言った。
助手がたどたどしくサザンドラ達をボールへと戻し地面へと落とす。

刃を助手へと押し当てる。白い首筋から一筋の紅色が垂れる。
キリキザンはジリジリと怪盗達から距離を取っていく。

「ミスター、テレポートを」

助手は震え混じりの声で叫んだ。

「……出来ないだろう? お前はこの女が自分の命と等しく大事なんだからな」

「ミスター!」

寒々しく悲鳴に塗れた声だった。
一層苦渋を増した表情になる怪盗。

「くっ……戻れお前達」

男を睨みながらフーディン達をボールへと戻そうとベルトのボールへと手をかける。
 ▼ 69 nfYyot98RE 18/12/23 21:53:44 ID:Tc5oK/6k [13/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そのままボールへと手をかけてポケモン達を戻す……かと思いきや手はそのままに鋭く見開いた目でゾロアークを射抜いた怪盗。

「……ゾロアークッ!」

その動作を見てゾロアークは怪盗が叫ぶよりも早くある物を投擲する。

「……キリキザン、殺れ!」

思い切り助手へ押し当てた手刀を引こうとしたキリキザン。

「何だ……!?」

だが、ゾロアークの投擲物に怯んで動きを止めてしまう。

投げつけられたのはどことなくアンティークな小さな冠……おうじゃのしるしだった。

そうしてゾロアークが作った隙を逃すはずもなく。

ロトムが続いてでんじはを飛ばしキリキザンを痺れさせる。

後方から流れるようにドンカラスがくろいきりを撒く。
 ▼ 70 nfYyot98RE 18/12/23 21:55:06 ID:Tc5oK/6k [14/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「くそっ……!逃すなキリキザン! ゲンガー!」

「キリリィ」

「この……っ、離してっ!」

黒い霧の中で揉み合うキリキザンと助手。しかしでんじはによる痺れからか、助手に抵抗される。

霧が徐々に晴れていく。

「助手!」

次に怪盗の目に映ったのはキリキザンともつれ合い、遂には引き剥がし地面へと倒れ込む助手の姿だった。

「ミスター……!」

「助手……!」

よろめきながら急いでボールを拾い集める助手。
 ▼ 71 nfYyot98RE 18/12/23 21:56:28 ID:Tc5oK/6k [15/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「おい……何やってやがる! ハサミギロチンだ助手を狙え!」

男が焦ったようにキリキザンへと指示を出す。

キリキザンが助手へと大鎌の付いた頭を振りかざそうと掛ける。

「……キングシールド!」

助手が投げたボールから瞬時に鋼のシールドが展開される。ギルガルドのキングシールドがキリキザンの攻撃を防ぎ弾いた。

舌打ちをした男が左腕を掲げる。

「くそ……! ゲンガー!」

腕に付いた水晶がゲンガーの持つメガストーンと呼応する。

ゲンガーは一瞬虹めく光に包まれてはその姿を変えた。
 ▼ 72 nfYyot98RE 18/12/23 21:58:31 ID:Tc5oK/6k [16/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「かげふみか……厄介だなテレポート出来ないぞ」

怪盗がすっかり落ち着き払った様子で言う。

「あとはゲンガーさえどうにかすれば……バトルは任せて下さい」

「……殺れ、メガゲンガー!」

「サザンドラ、あくのはどう……ギルガルドはせいなるつるぎ!」

メガゲンガーは助手目掛けて攻撃を試みたが、ボールから飛び出たサザンドラにこれを阻止される。

サザンドラが盾となり攻撃を受ける。
次には唸るような反撃に出ていた。
サザンドラの猛々しく恐ろしい波動がメガゲンガーに命中する。

効果はバツグン……メガゲンガーはよろめきながら膝を付いた。
 ▼ 73 nfYyot98RE 18/12/23 21:59:20 ID:Tc5oK/6k [17/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
次いで攻撃を仕掛けようとしたキリキザンだが、痺れで動けない。

その間にギルガルドがキリキザンを大きく薙ぎ払う。せいなるつるぎが痺れたキリキザンを襲う。

渾身の一撃。たまらずキリキザンは意識を手放した。

「ぐっ……!さいみんじゅつ!」

「かげうち……!」

サザンドラへとさいみんじゅつを繰り出そうとしたメガゲンガーだったがギルガルドの先制攻撃にそれを阻止された。

伸びた影の刃、かげうちがメガゲンガーを仕留めた。
 ▼ 74 nfYyot98RE 18/12/23 22:00:29 ID:Tc5oK/6k [18/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
倒れてメガゲンガーがゲンガーへと戻る。男は大きく舌打ちをして二体をボールへと戻した。

「なんだ? 余裕綽々に登場したと思いきやこれとは……情けないな、憐れみに相当するぞお前」

怪盗が実にいやらしい微笑みで男に詰め寄る。助手が緊張の糸が切れたのかへたりと座り込んだ。

「貴方の雇い主は……誰なんです?」

「……それを言って殺しが勤まるか?」

助手が問うとそれに答えるように二人に何かを投げつけた。投擲されたそれはシューシューと白い煙幕を出して男をくも隠れさせた。

二人がそれに咳き込むうちに男は姿を消していた。

遠く鑑定士の邸宅の方角からはうっすらとサイレン音が聞こえてくる。

「我々を狙う……やはりあの人の筋の人なんでしょうか」

助手が不安を濃くした顔をして地に座していた。

「さあな? それより……帰るぞ、フーディン!」

怪盗が指を鳴らすと頷いたフーディンがサイコパワーをスプーンへと溜めテレポートを繰り出した。

怪盗の一団が暗がりの森から姿を消した。
 ▼ 75 nfYyot98RE 18/12/23 22:02:10 ID:Tc5oK/6k [19/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ある昼下がりの午後。

優雅にロッキングチェアに腰掛け、ロズレイティーでブレイクをする怪盗。その手にある新聞にはこんな一面が載っていた。

『名画の贋作、計二点を所持していた美術鑑定士の男を詐欺の容疑で逮捕』

鑑定士の男、キブシはあの夜、裏オークションから自分の贋作を持ち帰るところで警察に止められた。

なんでも自宅から煙が出ているとの近隣住民の通報があったため自宅を警察、消防に差し押さえられたのだ。

放火犯の現場検証にと差し押さえられたが結果、あの部屋の名画達が警察の目に止まることとなった。

後の調査であの部屋の名画達が本物であること、そして贋作の売買に精通していることが明らかにされて逮捕に至った。

一点だけ持っていた絵画がないと主張していたとかいないとか言われているが、真相は世間の……主にこれまで贋作を手にされていたコレクター達の怒号という名の雑踏に塗れてしまった。
 ▼ 76 nfYyot98RE 18/12/23 22:03:12 ID:Tc5oK/6k [20/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「贋作流しの鑑定士は成敗され、僕らは本物の「試み」を手に入れた……大勝利だな」

そう言って怪盗は壁に立て掛けた絵画を見る。
「スイクン」というポケモンが中央に描かれたその絵画は実に水の透き通る表現が美麗で、怪盗の目の肥やしになっているのだった。

「また一つコレクションが増えましたね」

「ああ……苦労したかいがあったよ」

助手は優雅にブレイクを楽しむ主へとお茶菓子を勧めた。
怪盗の好んでやまないミアレガレットだった。

怪盗はそれを実に満足そうな笑みで受け取り、一口頬張る。

 ▼ 77 nfYyot98RE 18/12/23 22:04:30 ID:Tc5oK/6k [21/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ロトトー!」

「ロトム……洗濯機の次は芝刈り機ですか、壊さないで下さいよ?」

「ロトー!」

分かってるとでも言いたげな返事をして芝刈り機をギャリギャリとフルに稼働させるロトム。
他の手持ちポケモン達も皆思い思いに寛いでいた。

ゾロアークは床に寝そべり、ドンカラスはソファーでどっかりと毛繕いをし、フーディンは怪盗の隣で瞑想に浸っている様子だった。

サーナイトは助手の隣で給仕の手伝いをしているし、サザンドラは助手が出したおやつを三つの頭で奪い合い、ギルガルドはタオルで自分の盾を拭いている。

「ひと仕事終えた後だからな、存分に遊ばせてやれ」

「そうですね、みんなお疲れ様でした」

助手の言葉にポケモン達がそれぞれの個性が垣間見える返事をした。
 ▼ 78 nfYyot98RE 18/12/23 22:06:10 ID:Tc5oK/6k [22/22] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……そうだ、傷はどうなんだ?」

「え、傷?」

「キリキザンに最初に切られた傷だよ」

「あ、それでしたらもう……ほら」

怪盗に腕を捲り見せる助手。
そこには切り傷の痕が伺えるが確かに塞がっていた。

「そうか」

怪盗は微笑んだ。
その笑顔に少し驚いた助手がややあって僅かに微笑んだ。

「今のは微笑みですね……いつものはニタニタ笑うって感じですけれど」

「いつの間に微笑みの鑑定士になったんだ? 僕はいつでも美男子に違わない美しい微笑だろう」

怪盗の言葉に助手が首を横に振った。

「鑑定士はもう御免です」

「……ああ、僕もだ」

そう言うと怪盗は助手の淹れたロズレイティーを口にしその芳醇な香りに再び微笑む。その様子に助手もまた嬉しそうに微笑むのだった。






【SS】微笑みの鑑定士 ─完─
 ▼ 79 リキリ@アゴのカセキ 18/12/23 22:08:14 ID:jDg6Z8uA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙(全く読んでないけど)
 ▼ 80 ククラゲ@ぎんいろのはね 18/12/23 22:08:36 ID:PJK6Qx9I NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙!
 ▼ 81 コドラ@ウブのみ 18/12/24 08:04:11 ID:XaeQayM6 NGネーム登録 NGID登録 報告
やっぱりこのシリーズは面白いや
乙!
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