【バレンタインSS】フライゴン「バレンタインデーなんて……」

一年に一度やってくる……




俺はこの『バレンタインデー』ってのが大嫌いだ……

いっちには関係ないもんね

２月１４日


その日最後の授業が終わるとオスは皆、素早く教科書や荷物をまとめ、小さな期待を膨らませながら下駄箱へと向かう……


フライゴンもその一匹だった……

沢山のオスの波に揉まれながらフライゴンも下駄箱へと向かう……


遠くの下駄箱の方から歓喜の声が聞こえてきた……


他のオスはその声に更に期待を膨らませ、また、同時に焦りを感じ始める……

フライゴンもオス達の波を押しのけてなんとか下駄箱までやってきた。



フライゴン「えっと……俺のは……」



フライゴンはもみくちゃになりながらもなんとか自分の下駄箱を見つけると……扉に手をかけた。


フライゴン「……」


緊張の瞬間である……

冷や汗が垂れて喉が乾く……

また、どこからか別のオスの歓喜の声が響く……

フライゴンは小さく深呼吸をすると素早く下駄箱の扉を開けた。

　
フライゴン「……」


下駄箱の中に入っていたのは……自分が普段使っている小汚い運動靴だけだった……



知っていた……こんな事だろうと……



少しでも期待をした自分に馬鹿らしさと苛立ちを感じながらフライゴンは乱暴に靴を取り出し、靴のかかとを踏んだまま走り出した……

なにがバレンタインだ……馬鹿らしい……



別に好きなポケモンがいた訳でもないし……



それに、チョコなんか貰って何が嬉しいんだよ……






フライゴンは夕焼けの照らす街を一匹歩いて家に向かうのであった……

フライゴンの家……



フライゴンは玄関の扉を開け、靴を脱ぎ、自分の部屋に向かおうとした……すると、リビングから出てきた母に呼び止められた。


フライゴン母「おかえり！　ところで……今日は何の日かわかる？」

フライゴン「……なんだよ」

フライゴン母「今日はバレンタインデーよっ！　ほらっ！　これあげる！」


フライゴンの母は笑いながらも少し恥ずかしそうに綺麗にラッピングされた箱を差し出した。

なんだよ……母さんからチョコ貰っても嬉しくねぇよ……








なんで……なんでお菓子の一つや二つでこんなに世間の奴らは盛り上がってんだよ！！

フライゴンは母の差し出した箱を受け取ると、母の目の前で思いっきり床にたたきつけた。


ばんっ！！


フライゴン母「！！」


フライゴン「なんだよ！！　母さんまで俺の事を馬鹿にしてんのかよ！！　毎年毎年……こんな物貰っても全っ然嬉しくねぇよ！！」

まるで時が止まったかのようにその場は凍りついた……


フライゴンの母は少し寂しそうな顔をして……そしてフライゴンがたたきつけた箱をそっと拾い上げた……



フライゴン母「……ごめんね」

フライゴン「……」

フライゴン母「そうだよね……こんな物貰っても嬉しくないよね……」


窓から差し込んだ夕焼けの光がフライゴンの母の目に浮かんだ涙を照らした……


フライゴン「そうだよ！　嬉しくねぇよ！！」



フライゴンは自分の部屋に入ると乱暴に扉をしめた。

自分の部屋に入ったフライゴンは鞄を床に投げるとベッドを殴りつけた。


バスっ！！


フライゴン「なんだよ……！　なんで俺がこんな目にあわなきゃなんないんだよぉ！！」

チョコを……あんな甘ったるい物を一つ貰えないだけでバカにされて……




母さんにまで変に気をつかわれて……




なにがバレンタインデーだよ！！！

フライゴン「くそっ！　くそぉ！！」


フライゴンは怒りにまかせて部屋の壁を殴りつけた。


ドガっ！！


何度も……何度も……その拳が真っ赤に腫れ上がるまで殴り続けた……

バゴッ！　ドガっ！！


その衝撃ですぐそばのタンスの上から『何か』が落ちてきてフライゴンの頭を直撃した。


パコンっ！


フライゴン「いたっ！！」


フライゴンは苛立ちながらも落ちてきた『何か』を拾い上げた。


それは……ホコリまみれの四角い缶だった……

フライゴン「なんだ……これ？」


フライゴンがその缶を開けると……中から古びた一冊のノートが出てきた。

表紙には可愛らしい文字で『diary』と書いてある……


フライゴン「diary……？　日記なんて書いた覚えがないぞ……？」


そして、表紙の端の方には「フラ子」と書かれていた。


フライゴン「フラ子？　誰だよ……これはそいつの日記なのか？」


フライゴンがなんとなく日記帳を開いた次の瞬間、日記帳は激しく光を放った！




フライゴン「うぉぉお！？」

……あれ？

気が付くと……フライゴンは椅子に座り、机に突っ伏していた……


フライゴン「え？……俺、寝てた？」


フライゴンは体を起こすと目をこすり、辺りを見渡した……

どうやらここは学校のとある教室らしい……


フライゴン「はぁ！？　な、なんで俺が学校にっ！？」


そこはフライゴンがいつも通っている学校の教室……しかし、いつもの違ってどこか古びた懐かしいような感じがした……

フライゴン「……何が起こったんだ？」


窓の外を見れば……先程までオレンジ色だったはずの空も美しい青……


フライゴン「……どう言う事だ？」


フライゴンが立ち上がり、教室を出ようとすると、誰かにぶつかった。



ドカッ！



？「きゃっ！」

フライゴン「うわっ！？」

正面からぶつかり合った二匹は尻餅をついた。


フライゴン「いてて……なんだぁ？」


フライゴンが腰をさすりながら立ち上がると……目の前にいたのは自分にそっくりなポケモンだった。


？「いたた……なによー……ってああ！？」


ぶつかったそのポケモンのすぐそばに板チョコが一枚落ちていた……


フライゴン「……？」

そのポケモンは急いで板チョコを拾い上げたが、板チョコは先程の衝突により割れてしまったようだ。


？「ああっ！！　割れちゃった！！　あなたなにしてくれるのよぉ！！」


そのポケモンがフライゴンに顔をぬっと近づけて睨みつけた。


フライゴン「な、なんだよ！？」

？「せっかくのバレンタインデーなのに！！　あなたのせいでチョコが割れちゃったじゃない！！」

フライゴン「そ、そんな事言われても知らねーよ！　お互い前を見てなかったんだから仕方ないだろ！！」

？「っ！！……そうよね……いきなり怒鳴っちゃってごめんね……」

フライゴン「いや、俺も悪かったよ……」

？「私はフライゴン、君は？」


フライゴン「俺もフライゴンなんだけど……」


フライゴン(メス)「ふーん……じゃあ私の事はフラ子って呼んで！　友達からはそう呼ばれてるし……それに同じ名前じゃややこしいからね！」


フライゴン「お、おう……(フラ子？……っ！　日記の表紙に書いてあった名前だ！)」

　

フライゴンはキョロキョロと辺りを見渡すと……教室の壁にカレンダーを見つけた。


フライゴン「！！」


教室の隅に掛かっていたそのカレンダーはなんと三十年も前の物だった。


フライゴン「(ど、どういう事だ！？　も、もしかして俺は……あの日記の中に閉じこめられたのか！？)」


フライゴンは思いっきり頬をつねってみた。


フライゴン「いてて！　ゆ、夢じゃない……」

フラ子「ところで君、ここのクラスの子？」


フライゴン「……えっと……違うけど」


フラ子「なんで違うクラスなのにここにいるのよ！」


フラ子に睨みつけられたフライゴンは後ずさりをした。


フライゴン「違うって言うか……なんと言うか……」


フラ子はため息をついた。


フラ子「せっかく朝一で学校に来たのに……あなたのせいでチョコは割れちゃうし……計画は台無しよ……やになっちゃう」

フラ子が見上げると、教室の 時計は午前の７時をさしていた。


フラ子「よしっ！　今からならまだ間に合うっ！　私、今からコンビニにチョコ買いに行くっ！！」


フライゴン「ふーん……そっか、頑張れよ……俺はやる事があるから……じゃあな」


歩き出したフライゴンの腕をフラ子が掴んだ。
　　

フラ子「待ちなさいよ！　あなたにはチョコを弁償して貰うわよ！！」

フライゴン「はぁ！？」

フラ子「そもそもあなたが何の理由もなくこんな所にいるのが悪いんだから！！」

フライゴン「な……なんで俺がこんな目に……」


フラ子はフライゴンを無理やり引っ張って近所のコンビニへ向かった……

コンビニ　セブンエレブー店内にて……


店内はバレンタインデー関連の華やかな飾り付けがしてある……


フラ子「よしっ！　板チョコまだあった！」

フライゴン「よかったな」


フラ子は板チョコを一枚掴むとレジに向かった。

エレブー「いらっしゃいませー」

フラ子「これください！」


フラ子がチョコをレジの店員に手渡した。


エレブー「はい、一点で百円です」


フラ子がフライゴンの腕を引っ張った。


フラ子「ほら、あなたが払って？」

フライゴン「あっ……今俺財布もってない……」

フラ子「はぁ！？　これじゃあなたが来た意味が無いじゃない！！　なんでまた私がお金払わなきゃなんないのよぉ！！」

フライゴン「え、えっと……ごめん」

フラ子「本当にもー……」

フラ子は財布から百円玉を取り出して店員に渡した。


エレブー「はい、丁度お預かりします。ありがとうございましたー」


フラ子は店員からチョコを受け取るとフライゴンを睨んだ。


フラ子「ほら、行くよ」

フライゴン「あ、あぁ……」



フライゴンはフラ子に無理やり手を引っ張られてコンビニを後にした……

コンビニを出て、また学校へと向かう二匹……

学校が近づくにつれ、ちらほらと他の生徒と見られるポケモン達が周りに増えていく……


フライゴン「……なぁ」

フラ子「なによ？」


フライゴン「その板チョコだけど……まさかそのまま渡すのか？」

フラ子「そうだけど……なにか？」

フライゴン「えっ……バレンタインデーって手作りのチョコを渡すんじゃないのか？」

フラ子「っ……」


フラ子は立ち止まると俯いた……



フラ子「だ、だってぇ……私、お菓子とか作れないし……料理も下手だもん……」

フライゴンはフラ子の悲しげな顔を見ると……ため息を一つついてフラ子の腕を掴んだ。


フライゴン「お前、今日は学校休め」


フラ子「はぁ！？　あなたなに言ってるの！？」


フライゴン「さっき金を払えなかった分、俺が手伝ってやるから……今からお前の家で手作りチョコを作るぞ」


フラ子「えっ！？　あなた料理できるの！？」


フライゴン「まぁ……ちっさい頃はバレンタインデーになると毎年母さんと一緒にチョコを作ってたから……チョコ作りならなんとなくわかる」


フラ子「す、すごいっ！　じゃあお願いしていい！？」


フライゴン「ああ、まかせとけ」



二匹はフラ子の家に向かって歩き出した……

本日更新分終わり

なんとなく展開が読めてきたぞ
支援

フラ子宅　　キッチンにて……


フライゴン「それじゃ……作るか」

フラ子「はいっ！　先生っ！」


フライゴンが壁に掛かった時計を見ると、時計は午前の１０時をさしていた。


フライゴン「昼までには完全するはず……それじゃ、生チョコ作るぞ……ってか、それしか作り方知らない」

フラ子「生チョコ？　なにそれ」　

フライゴン「なんだ？　知らないのか？」

フラ子「うん、聞いたことも無い……」

フライゴン「(そういや三十年前にはそんなお菓子無かったかもな……まぁいいか)」　

フラ子「はい、とりあえずさっき買ってきたチョコとあなたが潰したチョコ」


フライゴンはフラ子から板チョコを二枚受け取った。


フライゴン「まぁ……やるだけやるか……作り方、ちゃんと覚えろよ」



フラ子「はーいっ！」

フライゴンは包丁を手に取ると手際よく板チョコを刻んだ。


フライゴン「ほら、まずはこんな感じでチョコを刻んで細かくしろ」

フラ子「はーい」


フラ子はぎこちない手つきでチョコを刻み始めた……


フラ子「う、うまく出来ない……」

フライゴン「(なんだか危なげだな……)」


フライゴンはその様子を見て、遠い昔を思い出した……


フライゴン「(そう言えば……昔は俺も……)」

遠い昔のバレンタインデー……



フライゴン「母さんっ！　僕も手伝うよ！」

母「だめ！　包丁は危ないから」

フライゴン「大丈夫だから！　手伝わせて！！」


母はため息をつくと包丁を置いた。


母「わかった……でも、手を切らないように気をつけてね」

フライゴン「やった！」


しかし、フライゴンが包丁を持って五秒もたたないうちに……


フライゴン「痛いよぉ！！　血が出たぁ！！」

母「もぉっ！！　だから言ったでしょ！？」

フライゴンはそんな出来事を思い出して微笑んだ。


フライゴン「手を切らないように気をつけろよ……それより生クリームあるか？」

フラ子「生クリームならそこの冷蔵庫に……痛っ！！」


フラ子の指から血が出ている……


フライゴン「だから言っただろ！！　包丁から目を離すな！！」

フラ子「だ、大丈夫っ！　そんな深い傷じゃないし！」


フライゴン「ちゃんと絆創膏はっとけよ……」


フラ子「はーいっ！」


フライゴン「(ほんと、返事だけは一丁前だな……)」

数分後……



フライゴン「チョコは刻めたか？」

フラ子「うんっ！　見てよこれ！」


先程の板チョコ二枚は全て細かく切り刻まれていた。


フライゴンは切り刻まれたチョコをボールにうつした。


フライゴン「うん、なかなかだな……じゃあ次はこの生クリームを火にかけろ」

フラ子「まかせてっ！」


フラ子は鍋に生クリームを注いで火にかけた。

フライゴン「そう言えば……お前、どんな奴にチョコあげようとしてるんだ？」

フラ子「えっと……って！　なんであなたに言わないといけないのよ！！」

フライゴン「……別に嫌ならいいけど」


フラ子は少し顔を赤くした……


フラ子「……なんて言うか……一目惚れ？　って言うのかな……」


フライゴン「一目惚れ……か……」

フラ子「うん……その子の言はよく知らないんだけど……スポーツとか勉強とかなんでも出来るんだ！」


フライゴン「ふーん……ま、別に興味無いけど」

フラ子「じゃ、じゃあ聞かないでよっ！！」


フライゴン「別にいいだろ？　それよりそろそろ頃合いだ……火を止めろ」

フラ子「わかった」

フラ子「……で？　どうするの？」

フライゴン「ボールにチョコを入れてあるからそこに生クリームを入れて混ぜるんだ」

フラ子「わかった！」


フラ子はチョコの入ったボールに熱い生クリームを注いだ。


フライゴン「熱いうちにチョコが全部溶けきるように混ぜ続けろ」

フラ子「えぇー……めんどくさー……」


フライゴン「文句を言うな！！」


フラ子「はーい……」

フラ子はいやいやへらを持った……

なんだかんだで五分ほどたった……



フラ子「手がだるい……まだやらなきゃだめ……？」


フラ子は先程からずっと文句を言いながらチョコを混ぜ続けている……


フライゴン「ちょっと見せてみろ」


フライゴンはボールを覗いた……

どうやらボールの中のチョコは全て溶けきっているようだ。


フライゴン「よし、こんなもんだろう……よく頑張ったな」

フライゴンはタッパーにチョコの溶けた生クリームを注いで冷蔵庫に入れた。


フライゴン「後は冷蔵庫で固めて切るだけだ」

フラ子「えっ！？　こんなに簡単なのっ！？」


フライゴン「ま、うろ覚えだからどうなるかはわからないけど……作り方はあってるはず……」


突然フラ子がフライゴンの両手を握ってぴょんぴょん跳ねた。


フラ子「ありがとっ！！　すごく助かっちゃったっ！！　本当にありがとねっ！！」

フライゴン「っ！！」


フライゴンはとっさの出来事に少し困惑し、顔を赤くした……


フライゴン「ま、まぁ……その……これで一応罪滅ぼしはしたからな……」

フラ子「よーしっ！　後は待つだけだねっ！……ふあぁぁぁ……」


フラ子は大きくあくびをした。


フラ子「今日はいつもより早起きしたせいで眠い……少し寝よっかな……」


フライゴン「好きにしろよ、固まるのに結構時間かかるからな」


フラ子「じゃあ私寝るから……出来た頃に起こしてね……」


フラ子はそのまま机に突っ伏して眠ってしまった……

フライゴンは向かいの椅子に座るとフラ子の寝顔を覗いた……


フライゴン「本当、どうして俺までチョコを作って……なんでこんな事になったんだ……？」


フライゴンもつられて大きなあくびをした……


フライゴン「なんだか俺まで眠くなってきた……寝たら元の世界に……なんて事はないか……な……」




フライゴンの意識は遠のいていった……

…………と！……ぇ！！



誰かの声が聞こえる……？





……っと！　早く起きてよっ！！

フライゴン「……んぁ？」


目を覚ますとフラ子に強く揺すられていた。


フライゴン「ふぁー……よく寝た……」


フラ子「よく寝た……じゃないわよっ！！　もう３時なんだけどっ！！」


フライゴン「寝過ぎたな……」


フラ子「寝過ぎたな……じゃなくてっ！！　どうするのよ！！」


フライゴン「まぁ、まだ間に合うだろ。落ち着け」

フライゴンは冷蔵庫からタッパーを取り出した。


フライゴン「ココアパウダーあるか？」

フラ子「お母さんが前に使ってたのなら……はい」


フライゴンは受け取ったココアパウダーを固まったチョコの上に軽くかけた。


フライゴン「ほら、後は切るだけだ」

フラ子「うん！」
　

フラ子はまた包丁を持ってぎこちない手つきでチョコを切り始めた……


フライゴン「今度は指を切るなよ」

フラ子「わ、わかってるっ！！」


フライゴン「切り終えたら生チョコ完成だ」


フラ子「よし……これくらいでいいかな……」


フライゴンはカットされたチョコを一つ口に放り込んだ。


フライゴン「うん……母さんがいつも作ってくれた味だ……上出来だな」


フラ子も恐る恐るチョコを口に運んだ……



フラ子「……っ！　な、なにこれっ！？　すごくおいしいっ！！」



フライゴン「じゃ、適当な入れ物に入れて学校に持って行け……丁度最後の授業が終わった時間だろうからまだ間に合う……」

フラ子は小さいタッパーにチョコをうつしてラッピング用のフィルムで包んだ。


フラ子「今日は本当にありがと！！　じゃあ行ってくるね！！」

フライゴン「おう……それはそうと……最後に一つだけいいか？」


フラ子「……なに？」


フライゴン「お前……最初は板チョコをそのまま渡そうとしてたから本気だとは思わなかったけど……怪我してもめげずに頑張ってるし、やっぱり本気で恋してたんだなって思ってさ……」


フラ子「な、なによ」


フライゴンはフラ子の手を握った。


フライゴン「こんな事言うのは柄じゃないけど……頑張れよ……応援してるから」


フラ子「……ありがと」


フラ子は目をそらしてそう言うと……走って家を出て行った……

他に誰もいなくなった部屋の中でフライゴンは小さくため息をついた……


フライゴン「なんでだ……？　俺は……別にあいつなんかの事……」


生まれて初めて感じたその気持ちにフライゴンの胸は締め付けられた様に痛んだ……



フライゴン「あいつの事だ……絶対何かやらかしそうだ……」


フライゴンもそっと後をつけた……

本日更新分終わり

明日完結まで持ってく予定です。

フラ子は学校につくと、ある下駄箱の扉を開けた……

その下駄箱の中には……沢山のチョコが詰まっていた。



フラ子「チョコが入ってるって事は……間に合ったのかな……良かった……」



少し離れた柱の後ろでその様子を見ていたフライゴンも胸をなで下ろした。



フライゴン「なんとか間に合ったか……」

フラ子「詰まりすぎてチョコ、入らないな……」


フラ子がチョコを下駄箱の中になんとか押し込もうとしていると、フラ子の背後から声がした……


？「おい、そこ俺の下駄箱なんだけど」


フラ子「！？」


フラ子がその声に振り返ると……大きな青い姿のポケモンが立っていた。


フラ子「が、ガブリアス君っ！？」

ガブリアス「どいてくれないか？　もう帰るから」



フライゴン「っ！……あいつが……」



フライゴンは固唾を飲んでフラ子を見守った……

フラ子「え、えっと……その……」

ガブリアス「俺に何か用でもあるのか？」


フラ子は目をそらしながらガブリアスにチョコを差し出した。


フラ子「こ、これっ！　頑張って作ったのっ！　良かったら食べてっ！！」





フライゴン「(よし！　よくやった！！)」

フライゴンは柱の後ろで小さくガッツポーズした。

ガブリアスはしばらくフラ子の差し出したチョコを見て……受け取った…………かと思った次の瞬間、近くのゴミ箱に投げ捨てた。


フラ子「！？」

フライゴン「なっ！？」



ガブリアスは唖然としているフラ子を無視して下駄箱の中のチョコを取り出すと、それらもゴミ箱に全部投げ捨てた。



フラ子「な、なんで……」


ガブリアス「なんでって……俺、甘いもの嫌いだし……それによく知らないポケモンの作ったチョコなんて何が入ってるかわからないし、食べたくないからな……」


フラ子の目から涙が落ちた……


ガブリアス「悪く思うなよ」


ガブリアスはそう言って靴をはくと歩き出した……

柱の後ろでそのやり取りを見ていたフライゴンは目の前の柱を殴りつけた……


ガスッ……！！




なんだよ……そんな言い方しなくてもいいだろ？




あいつがどれだけ頑張って……お前の事を思って作ったのかも知らないくせに……





あいつにフラ子の何がわかるってんだよ！！

気づくとフライゴンは走り出していた。


フラ子「えっ！？　フライゴン君！？」


ガブリアス「あ？」



振り返ったガブリアスの顔面にフライゴンの拳がねじ込まれた！


ドガァ！！


ガブリアス「！？」


フライゴン「こいつは……フラ子はお前を思って頑張ってチョコを作ったってのに……お前はなんて事を……！！」


ガブリアスは頬をさすりながらフライゴンを睨んだ……


ガブリアス「お前……どこの学校の奴か知らないが……調子にのるなよ……」

フライゴン「フラ子のチョコだけじゃない！！　お前が捨てたチョコは全部……全部誰かがお前の事を思って作ってくれたものなんだぞ！！　それをお前は……お前は……！！」

ガブリアス「うるさい！　黙れ！！」


ガブリアスの膝がフライゴンの鳩尾に入った。


ドスっ！！


フライゴン「う、うぐぁ……」



その一撃にフライゴンは膝から崩れ落ちた……


ガブリアス「ヒーローぶってんじゃねーぞ……カスが」



ガブリアスは倒れたフライゴンの頭を一蹴りするとその場を去った……

倒れたフライゴンのもとにフラ子が駆け寄った。


フラ子「フライゴン君！！」


フライゴン「いってー……だ、ダメだな……俺……カッコ悪い……」


フラ子の目から落ちた涙がフライゴンの頬を濡らした。


フラ子「カッコ悪くなんてないよ……私、フライゴン君の気持ちが嬉しかった……」


フライゴンがフラ子の目に溜まった涙を拭った。


フライゴン「まぁ……お前が喜んでくれたのならそれでいいや」


フライゴンが笑ってみせると……フラ子もつられて笑った。


そんな二匹をオレンジ色の夕日がそっと包んでいった……

フラ子「ね、ねぇ……フライゴン君……」


フライゴン「なんだよ？　そんなにかしこまって……」


フラ子は少しもじもじしながらフライゴンに顔を近づけた。


フラ子「私……フライゴン君に惚れちゃった……」


フライゴン「え？　惚れた？」


次の瞬間、フライゴンの唇をフラ子が奪った……



フライゴン「！？」



するとその瞬間、フライゴンの目の前が眩しく光輝いて……


また、フライゴンの意識は遠のいていった……

う、うぅ……








……ここは？

フライゴンが目を覚ますと……そこは自分の部屋だった。


窓の外は既に暗くなっている……


フライゴン「一体なにが……」


フライゴンが起きあがると……目の前に開きっぱなしの日記が落ちている事に気が付いた。


フライゴン「……これは」


日記は２月１４日のページが開かれていた……

２月１４日


今日、私の上っ面だけの初恋は砕け散った。


でも、その後『本当の初恋』をした……


だけどその子は私の目の前からいきなり姿を消しちゃって……


また、会えるかな……会えたのなら今度はちゃんとチョコを渡してあげたいな……

フライゴン「やっぱり俺、この日記の中に閉じこめられてたのかな……それにしても……なんでフラ子の日記が俺の家に……」



フライゴンはしばらく腕を組んで考えていたが……やがて気づいた。



フライゴン「っ！！……そうだ……三十年前のフラ子の日記がここにある理由……簡単じゃないか……母さんがフラ子だったんだ……」


フライゴンは母に言った事やチョコを床に叩きつけた事、全てを後悔した……


後悔は涙になって溢れて止まらなくなった……


フライゴン「俺が母さんにやった事は……あの日記の中と同じだ……チョコを捨てたあいつと何も変わらない……俺は……俺はなんて事を……」



フライゴンは目から落ちる涙を拭うと胸に手を当てて深呼吸した……


フライゴン「母さんに謝らなきゃ……」


フライゴンはそう呟くと部屋を後にした……

その頃、リビングでは母が一匹で椅子に腰掛けてチョコを食べていた……


母「……」


その時、フライゴンがリビングに入って来て母の向かいの椅子に座った。


母「！」


フライゴン「母さん……さっきはごめん……せっかく俺の為に作ってくれたのに……」


母は少し驚いた表情を見せたが……すぐに笑ってチョコをフライゴンに差し出した。


母「ほら、一緒に食べよ？」


フライゴン「……うん」


　　　　　　　　　

フライゴンはチョコを口に放り込んだ……

母が毎年作ってくれるいつもの味だ……



母「……実はね……毎年作ってるこの生チョコの作り方、私の初恋の相手が教えてくれたんだ」


フライゴン「！」


母「ずーっと昔、私の前に突然現れたそのポケモンの優しさに……私は生まれて初めて本気の恋をしたの……でも、そのポケモンはいきなり私の前から消えちゃって……」


フライゴン「……そうなのか」


母「……あなたはそのポケモンにそっくりなの……だから毎年、そのポケモンの面影をあなたに重ねて……初恋の相手にあげるつもりでチョコを作ってたんだ……ごめんね、私の勝手な自己満足のために……」

フライゴン「いや、母さんの作るチョコは美味しいからいいよ」


母「……ありがと」


フライゴン「それに……」

母「それに？」


フライゴン「俺の初恋の相手も母さんそっくりだし……悪い気はしないから……さ……」


母「そっか」

フライゴンの母は微笑んだ。


その母の笑顔にフラ子の笑顔が重なって見えた……


なんだか急に恥ずかしくなってフライゴンは黙って部屋を後にした。



フライゴンの母はその様子を見て、また初恋の相手の事を思い出していた……

俺は生まれてからずっと本命のチョコなんて貰った事無いって思ってた……


でも、違ったんだ。


俺は生まれてからずっと、初恋の相手から本命のチョコを貰い続けていたんだ……


世界でこんなに幸せなポケモンもそうそういないよな……



来年もまた、貰えるかな……



俺は……このバレンタインデーってのが少しは好きになったみたいだ……



end

やっとこさ完結出来ました。


最近はチョコを貰う事ばかり考えてる方が結構いるみたいですが……たまには『チョコをくれる方の気持ちになってあげて欲しい』と思ってこの話を書きました。


どんな形であれその方がくれたチョコには気持ちがこもっていると思います。

明日、皆さんがチョコを貰えるか貰えないかはわかりませんが……もし、貰えたのなら……その方に感謝の言葉を伝えてあげてください。


では、良いバレンタインデーを……

乙

>>1
「祝」の頂乙ディング

乙
ガブは嫌なやつだったけど、ラストにほっこりしました！
相手の気持ちを考えることも大事ですよね。

乙です

乙

乙です

一応、企画者賞の方おめでとうございます！

乙
企画者賞おめ