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SS

【悪役SS】白プラズマ団したっぱ「おおお、おじさん!?」ツタージャ「おじさん」

 ▼ 1 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/05/28 17:31:11 ID:A1C1nCCM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モンスターボールが落ちていた

赤く濁った透明が鈍く光を照り返している

俺はそれに近づき、手に取って中を確認した

ポケモンが捕まっている

まったく……なんて無責任なトレーナーだ……

捕まえたポケモンを落とし忘れていくなんて

……解放してやろう

俺はボールからポケモンを逃がし

「もう捕まるなよ」

とだけ言った

それが俺の仕事である
 ▼ 46 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/05/31 22:39:44 ID:e0P0njvg [1/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
警報が喋りたてる

警戒せよと

件のトレーナーであると

相手はたった一人のはずである

しかし、この城はこれまで一度も攻撃を受けたことがない

不安が実体をもった恐怖に変わっていくようだった

警報も地鳴りのような低い音も鳴りやむ気配がなかった


ツタージャの不安げな瞳に見つめられ

俺は今どうすべきかを考えた

ツタージャを連れて非難するべきか

だが行く宛なんて無い

団を信じ、N様を信じてこの場に残るべきか

ツタージャのことだってまだよくわかっていない

だがこちらはどうしようもできない
 ▼ 47 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/05/31 22:51:23 ID:e0P0njvg [2/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「おじさん!どういうこと?この音は何なの?怖いよ?」

ツタージャが不安な声でそう言ってきた

「大丈夫だ……プラズマ団がやられるわけがない」

「本当……?」

「ああ、きっと……大丈夫だ」

俺はこの部屋に待機することにした

ツタ―ジャに大丈夫だと声を掛けながら

騒がしさが取り払われるのを待った


やがてしばらくするとピタリと警報がやんだ

続いて地鳴りのような音もゆっくりしなくなっていった

最後に静寂が訪れた

これまでに感じたことがないような静けさだった
 ▼ 48 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/05/31 23:15:32 ID:e0P0njvg [3/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
どうなったのだろうか

部屋はシンと静まり返って俺の問いに答える音は無かった

いつものそれとは別の不気味さが漂っていた

「おじさん……」

我慢するにはつらい時間が ゆっくり流れていった

物音一つ、少しの気配もしなかった

もどかしく、歯がゆくて俺は痺れを切らした

「……少し、見てくる」

「ボクも行くよ」

「ダメだお前は付いてくるな」

危ないからと俺はツタージャに説き伏せた

「ちょっと見てくるだけだ」

「やだ!ボクもおじさんと一緒に行くよ!」

しかしツタージャは頑固であった
 ▼ 49 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/05/31 23:39:37 ID:e0P0njvg [4/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
扉の後ろの回廊はやはり静かであった

この城の最深部をめざそう

もしトレーナーが潜んでいるなら危険だが

望みのあるだれかがいるとすればそこだろう……

誰もいない廊下を進んでいく

暗い角を曲がり階段を上がる

上の階に上ると微かに人の気配がした

そして いくつか目の角を曲がったとき

俺はようやく他の人間に巡り会えた

それは 思いもよらない相手だった
 ▼ 50 ルンゲル@わすれもの 17/05/31 23:41:08 ID:lnRFzwzg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 51 リキザン@ミュウZ 17/05/31 23:48:45 ID:khUFAqdo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 52 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/05/31 23:59:32 ID:e0P0njvg [5/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
俺はそいつを見て、足を引いてしまった

「まだ残党がいるんですか?」

青緑色の短髪とベージュの帽子と制服

「あれ?あなたは……」

黒いレザーシューズのそいつは目を細めて俺とツタージャを見た

「あ……やっと……ようやく見つけましたよ!」

「げぇ……っ……」

あの時のジュンサー……!

「そのツタージャ、今度こそ返していただきます!」

「ちょ、ちょっと待て!なんでお前がここにいるんだ……?侵入者は一人のはずだ……?」

「もちろん、私一人です!さぁあなたも早くお縄につきなさい!」

突如現れたのはいつかのジュンサーだった

俺の頭の中をさまざまな思考が巡り始めた
 ▼ 53 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/06/01 00:21:36 ID:Od/N2Ey6 [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
こいつが……こいつが例の凄腕トレーナー!?

一介のジュンサーごときが!?

それから……

「お、お前今……ツタ―ジャを返せって言ったか?どういうことだ……?」

「……そうですね、もうごまかせないでしょうから言いますが、そのツタージャはもともとこちらのポケモンです!ここで会ったが百年目!連れ戻させてもらいます!」

「なっ……?!」

なんだと……!?

「そのツタージャが人の言葉を話すことはもう言い逃れできないでしょう」

「な……なんで知ってる……!?」

「そのツタージャの存在は極秘中の極秘でした……ただあの日……ふとした不手際で……まるでボールが意思を持ったかのようにどこかへ行ってしまったのです」

巡らせた思考が追い付かなくなってきた

「なるべく穏便に済ませたかったのですが生憎あなたには逃げられてしまいました。それからはずっと、プラズマ団に連れ去られたということだけを手掛かりに探していたのです」
 ▼ 54 ジョフー@トポのみ 17/06/01 00:28:14 ID:Tc1mie0c NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 55 ンペルト@きんのたま 17/06/01 00:31:28 ID:H90Rsj8. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 56 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/06/01 00:49:08 ID:Od/N2Ey6 [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「そ、そんなこと……俺に言っていいのかよ……だいたい言う意味も無いだろ……」

「問題ありません、あなたはこれから逮捕されて牢屋に入りますから。それに私が話を聞いてほしいのはツタージャの方です」

急にジュンサーに見据えられてツタ―ジャは身を固めた

「なにしろ喋るポケモンですからね、利便性は計り知れません。そんなポケモンを悪しき者の手に渡してはなりません!」

「そんなこと言って……今の今までほっぽっているじゃないか……正義のジュンサーも大したことないな……」

俺は何を言っているのだ……

少なくともこの女はたった一人でプラズマ団を壊滅させた手練れだ……

今までは拠点の場所が分からなかっただけだろう……

それが分かった途端いとも簡単に……

「そうですね……少しおしゃべりが過ぎました……ツタ―ジャは早急に保護させてもらいます!行きなさい!コバルオン!」

コバルオン?!伝説に語られるポケモンの一匹じゃないか!

「……化け物め」

「コバルオン!やってしまいなさい!」

「おじさん!!」

ツタ―ジャの声が回廊にこだました
 ▼ 57 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/06/01 01:11:03 ID:Od/N2Ey6 [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「レシラム!じんつうりき!!」


背後から掛け声がした


次の瞬間目の前に迫ったコバルオンが後ろへのけぞっていた

「N様!?」

現れたのは 緑の髪の青年と

真実の伝説ポケモン レシラムだった

「まだいたんですか、それがあなた達の切り札ですね?」

ジュンサーは伝説のポケモンにも臆さずそう言った

「そう、このポケモンはレシラム僕の求める真実に呼応して僕に力を貸してくれる。元チャンピオンを打ち破れたのもこのレシラムのおかげだ」

「レシラム!伝説のポケモンですね!その強大な力を悪に明け渡すとは残念です!」

「正直驚いてるよ、チャンピオンアデクを倒した後にもっとずっと強いあなたが現れるなんて」

すさまじかった、両者側からもとてつもないエネルギーが感じられるようで、とても話に介入できたものではなかった
 ▼ 58 RIVER◆zFLCCAWaiw 17/06/02 00:47:24 ID:Tv3l1Ea6 NGネーム登録 NGID登録 報告
この作者すき、支援
 ▼ 59 クケイル@ぼんぐりケース 17/06/02 00:49:03 ID:jZb5OKTs NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 60 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/06/03 01:04:57 ID:GERlseOk [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「君、例のツタ―ジャの世話役だね?」

ふいにN様に声をかけられた

「えっ、は、はい!」

「悪いね、長い間放っていおいてしまったみたいで」

「いい、いえっ!そんな……」

N様の口から出てきたのは謝罪だった

こんな戦闘の中でもこの余裕なのはさすがである が

「そのツタージャは返していただきます!コバルオン!せいなるつるぎ!」

「あっ、危ない!」

「レシラム!りゅうのはどう!」

相手もやはり手練れだった

ジュンサーはまた一つ手にボールを持っていた

「誰が相手でも負けはしません!行きなさい!テラキオン!」

バトルはさらに凄まじさを増していった
 ▼ 61 ティオス@カムラのみ 17/06/03 21:43:42 ID:vGuL.kCE NGネーム登録 NGID登録 報告
「さあ!ツタージャは返してもらいます!あなたたちに持たせておけばきっと悪用されてしまいますからね」

「悪用?私利私欲にポケモンを使っているのはそっちじゃないか。僕達はポケモンたちの為にポケモンの力を借りるんだ」

「人とポケモンを引き裂くのがポケモンのため?それこそ非道な行いです!人とポケモンの絆を絶ち切るなんて酷いことです!」

「絆なんて人がポケモンに見せるまやかしでしかない!人間に依存するだけではポケモンは幸せになれないんだ!」

「そんなことはありません!人とポケモンは互いに協力しあって歩んで行くパートナーです!」

「じゃあなぜ人はポケモンを支配するんだ?ボールに捕らわれ、命令に従わせられるポケモンが可哀想じゃないか!」

「すべてのポケモンが可哀想な訳じゃありません!人と共に幸せに暮らすポケモンだってたくさんいます!あなた達がやっていることはその幸せを壊すことに他なりません!」

「幸せ……?直接聞いたわけでもないのに勝手なことを言わないでほしいね!どうせそんなのは綺麗事だ!ポケモンの気持ちがあなたに分かるか?」

「確かにポケモンは気持ちを言葉にして伝えてはくれません。ですが気持ちを汲み取り分かり合うことはできます!そうやって人とポケモンは支え合うんです!それに……」

「そんなにポケモン気持ちが知りたいのなら直接聞いてみましょう!」

ジュンサーはそう言ってツタージャの方を向いた

ツタージャは二人の話を聞いて目を回したようにしていた

「!?……っ……えっ?」

「あなたは人と共に歩むことと人からの解放、どっちを選ぶ?」

いきなりの話しかけに戸惑うツタージャに侵入者はそう問いかけてきた
 ▼ 62 ワムラー@ハートのウロコ 17/06/03 21:45:24 ID:p3/.qPnM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 63 ッタイシ@たからぶくろ 17/06/03 21:47:14 ID:m.IcwfYo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 64 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/06/03 22:48:03 ID:GERlseOk [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ボク……」

ツタ―ジャは立ち尽くしたまま考えているようだった

虚ろに映る赤い瞳は微かにつらさを訴えているようだった

「ボクは……」

戦闘はしばし止んでいた

N様までもが興味深いようにツタージャを見ていた

「ツタージャ……?おい、大丈夫か……?あいつの質問なんて答えなくていいぞ……?」

ツタ―ジャは少し怯えているようだった

それでも潤んだ瞳をこちらに向けて

「ボクは……おじさんと一緒にいたい……!」

そうツタージャは言った

「悪用とか絆とか私利私欲とか信頼なんて知らない……ボクはただ、おじさんと一緒がいい……」

率直で純粋な意見だった

ただ本能的に、自分の感じたままをツタ―ジャは言ったのだ

しかしその返答はその場を穏やかに収めてくれるものではなかった
 ▼ 65 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/06/04 00:06:47 ID:m.tdKzkA [1/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「やはり元凶でしたか……あなたがツタ―ジャをたぶらかしたのですね?」

ジュンサーがゆっくりとこちらを見てきた

「え……っ……ええっ?」

ツタ―ジャは図らずも俺と居たいと言ってくれた


しかしそれは


ジュンサーがツタ―ジャを連れ戻すことにも


N様のポケモンを解放しようとする考えにも反したことだった


「ポケモンが……自ら人間に従うことを選ぶのか……?」

我がプラズマ団の王は茫然としてツタージャを見つめていた

「違う……それは僕の求める真実じゃない……」

俺は肩身が狭くなっていくような気がした
 ▼ 66 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/06/04 01:07:56 ID:m.tdKzkA [2/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「コバルオン!ツタ―ジャを助けなさい!テラキオン!レシラムにストーンエッジ!」

伝説の三剣士のうちの一匹がこちらえ向かって来……

「たっ!?」

間一髪飛び退いてコバルオンの突進は避けたが

「おじさん!」

間をコバルオンに遮られ、ツタ―ジャと分断されてしまった

まずい……!

「レシラム……!はかいこうせん!!」

レシラムの口から閃光が迸る

「おわぁぁ!」

伝説のポケモンが放った衝撃派はテラキオンの攻撃も廊下の壁も何も吹き飛ばした

ツタ―ジャの体も風にさらわれ、宙を舞っていた

「ツタージャ!」

 ▼ 67 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/06/04 02:08:14 ID:m.tdKzkA [3/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ツタ―ジャの体は何とか受け止めることができた

けれどすぐに、こちらも体勢を立て直したコバルオンの追撃に襲われた

「ケホッ……むちゃくちゃしますね!でもそれではしばらく動けないでしょう!」

まずいまずいまずい……!

勢いをつけてコバルオンが向かってくる。壊されたガレキが襲ってくる

「み、ミルホッグ!ほのおのパンチ!」

「ギュ!グウグ……!?」

久々に俺は相棒をボールから出した

「ギュ!グウ!」

それでも相棒は変わらぬキレで燃える拳を敵に振るった

しかし、技の相性は良いとは言え完全に防戦一方だった
 ▼ 68 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/06/04 15:36:25 ID:m.tdKzkA [4/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
レシラムは静かに動かなかった

「テラキオン!もう一度ストーンエッジ!」

テラキオンは前足で床を強く踏みつけた

岩の柱が レシラムに向かって行く

純白の体に鋭い岩の先端が衝撃とともに突き刺さる

岩とガレキの砕けた白煙が上がる

辺りは煙に包まれた

「ミルホッグ 気をつけろ!」

視界は真っ白で何も見えない

「グギュウ!」

押しつぶしたような悲鳴が聞こえた

「ミルホッグ!!」

煙の白はさらに濃くなっていた

ガレキの埃だけではない、湿って生温い水蒸気のような煙も混じっているようだ
 ▼ 69 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/06/04 16:30:53 ID:m.tdKzkA [5/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「くそっ!大丈夫かミルホッグ!!」

空気はますます水気を含み、徐々に暖かくなっているようだった

腕の中ではツタ―ジャが緊張したように体を強張らせていた


熱気が迫ってきた

「熱っ……」

熱風が煙を晴らした

視界が開け、うずくまるミルホッグと奥を向くコバルオンの視線の先に

テラキオンとジュンサーに睨まれながら、熱気を放っているレシラムが見えた

正確にはレシラムの頭上の巨大な火球が熱気を放っているようだった

「クロスフレイム」

業火が空から降ってきた

凄まじい熱気と衝撃、そしてまた白い煙が起こった

しかし、熱気はすぐにかき消えてしまった

いつの間にか 雨が降っていたようだ

熱を孕んだ白煙は レシラムの熱気と空からの降雨で立ち込めていたのだ
 ▼ 70 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/06/04 17:23:28 ID:m.tdKzkA [6/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それでもクロスフレイムはテラキオンに直撃し、テラキオンをひん死状態にまで追い込んだ

「くっ……とんでもないエネルギーですね……、しかしこの雨……これではもう満足に炎は放てないでしょう!」

雨は徐々に激しくなり、熱を奪っていく

「コバルオン!」

響くように鈍く重い音がした

レシラムはそれきり沈黙してしまった


「さて」

ピシャリと黒い靴で水を蹴り

ジュンサーがまたこちらを向いた

「う……」

「なぜツタ―ジャがあなたと共にいることを望んだかは分かりませんが、あなたちのことです、良からぬことをしてツタ―ジャをたぶらかしでもしたのでしょう」

一歩ずつ、雨をはじきながら歩み寄ってくる

「しかし……レシラムの力は少し弱くなっていたようです、そのツタージャの言葉がNの真実を曲げ、その真実に手を貸すレシラムの力までも弱めてしまったのでしょう」

「じ、じゃあなんだ?!俺のせいでこうなったとでも言いたいのか!?」

「はい、ですから是非お礼をしたいので、一緒に来てはもらえませんか?」
 ▼ 71 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/06/04 19:09:37 ID:m.tdKzkA [7/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「は?」

「ですから、一緒に来ていただきたいのです。その子はあなたに随分懐いているようですし、それにその方がこちらの手間も省けますから」

俺はそのふざけたような提案にどう応えれば良いのか分からなかった

「ツタージャがあなたと一緒にいたいなら、あなたに来ていただければ済む話なんです。悪い話ではないでしょう?もうプラズマ団は終わりなのですから」

「な……なんだよそれ……、お前らにとってこいつがなんだって言うんだよ……!」

「……そうですね。……残念ですがそれは言えません」

「ふざけるな……!一体なんなんだお前は!そんな訳の分からない場所なんかに付いていけるか!」

「……では、ツタージャに聞きましょう。私たちと一緒に来てくれませんか?」

突然問いかけられてツタージャは身体をピクッと反応させた

「……ボクは」

「……おじさんと一緒がいい」

さっきと同じことをツタ―ジャは言った

怯えてしまっているようだった
 ▼ 72 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/06/04 21:00:58 ID:m.tdKzkA [8/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「困りましたね……やはり一番はあなたに来てもらうことなんですが」

確かに付いていくことは良い判断かもしれなかった

プラズマ団の王は敗れ、現在俺は無職だ

しかし

「……俺を連れて行くなら、なぜそんなにツタ―ジャを連れ戻したいのか教えろ……俺もツタ―ジャも何も知らない。……何をされるかも分からない」

「何をするか?あなたには何もしませんよ、ただツタージャとつつましく暮らしていただくだけです」

「つつましく暮らさせるためだけに連れて行こうとするわけないだろ!」

「なぜ行きたくないのです?まだあなたに行き場があるんですか?まだどこかにツタ―ジャを連れて行くんですか?」

雨は一層強くなり、雲は暗く黒く頭上を覆っていた

「……あなたが行きたくない理由はもしかしてツタージャですか?」

「ああ……そうだ……お前なんかにツタ―ジャを連れていかれてたまるか!」

「ポケモンのため……ですか……プラズマ団はもう無いというのに、あなたはそんな幻想に取りつかれているんですか?」

「幻想?ふざけるな!ポケモンのための何が悪い!」

「いいえ、素晴らしい思念だと思います。ですがそれではあなたが一方的に不憫ですよ。私たちは私たちのためにポケモンの力を借り、その恩をポケモンたちに返すのです。人とポケモンは平等です!」


真っ暗になった空からは雷鳴が聞こえてきていた
 ▼ 73 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/06/04 22:07:25 ID:m.tdKzkA [9/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「それに、さっきからあなたの言動は矛盾しているように思えますよ」

「……なんだと?」

「だって、ツタージャはあなたについて行くと言っているんですから。あなたがこちらへ来ないのは、ツタージャのためではなくあなたが嫌だからなのではないですか?」

「……違う!お前らにツタ―ジャを好きなようにさせたら、ツタージャの身に何が起こるかわかったもんじゃない!良からぬことを企んでいるのはそっちなんじゃないか!?」

「あなたは『人がポケモンを酷いように支配している』という考えに囚われ過ぎているんです!」

雨音と雷鳴と 叫ぶ声が大きくなっていく

「ならお前は何のためにツタ―ジャを執拗に狙う?なぜその目的を隠す!言ってみろ!」

「我々のためです!人のためにポケモンに力を貸してもらうのです!」

「具体的に言えってんだ!力を貸すとはどういう意味だ!それが言えないのならば話にもならん!」

雷鳴が轟く、雷光が雲を縫い地上に降る

「……そうですか……なるべく偽らずあなたにも協力していただきたかったのですが……しかたありませんね」

力ずくだというようにジュンサーはこちらに向き直ってそう言った

「……っ……絶対に……ツタ―ジャは渡さん!」

そのとき

青い稲妻が 眩しく輝いて落ちてきた
 ▼ 74 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/06/04 23:50:38 ID:m.tdKzkA [10/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
声が聞こえた


『それが……お前の理想か』


「理想……?」


(おじさん!)


「……俺の理想……なのか?」


『理想だ……特別なのはツタージャだ……乖離するのだ……誤想した胸懐を……』


「な……んだ……どういうことだ……考えを改めろってことか……?」


『嚮導するのだ……お前自身の……新たな理想を……』


「なん……なんだ……」


(おじさん!おじさんっ!)
 ▼ 75 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/06/05 00:56:42 ID:9rqlL5wY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ゼクロム……っ」

黒雲から青雷とともに黒いポケモンが降りてきた

「……どういうことですか……ストーンも無しに。呼び出した……というよりは自発的に現れたのでしょうか」

伝説のポケモンは俺の前に降り立ち、ジュンサーの方を向いた

「なるほど……理想の伝説ポケモンまでが邪魔をするのですね……」

「なんで……なんでゼクロムが……」

訳が解らなかった俺の問いに、久しい声が答えた

「……君の理想に……応えたんだ」

「……?! N様!」

「大丈夫……少し考えていただけだ……人とポケモンの関係を……」

「なんだ……まだいたんですか」

「君と君のツタ―ジャは……どうやら僕の思うものともあのジュンサーが思うものとも違う関係にあるみたいだ……」

「……?」

「君たちの理想は君たちだからこそ考えられたものなのかもしれないね……」
 ▼ 76 マタマ@メガリング 17/06/05 11:19:49 ID:EVfOdF/k NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
おもろ
 ▼ 77 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/06/06 00:54:05 ID:DacyKP.6 [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「僕の真実はまだ変わってない……今もまだポケモンを救いたいと思っているさ……ポケモンはトモダチだからね」

雨がゆっくりと収まってきていた

「でも僕は……人とポケモンの繋がりというものをふと考えてしまった」

「だから、君とツタージャのことを観察させてもらうことにしたんだ」

「もしかして、この人間と会話のできる不思議なポケモンは 新しい考えをもたらしてくれるのではないかと思ったからね」

本来プラズマ団に自分のためにポケモンを持ち込むのはご法度だ

レシラムに認められたトレーナーは一体何を思ったのだろうか

「さて、どうやら君は君なりの答えを見つけられたようだ。ツタ―ジャと過ごした少しの間、君には何が見えたのか教えてくれないか?」

少し色の薄くなった雲がコロコロと響く音を立てる

黒い理想のポケモンが共鳴するように青い光を放ち

低く小さく唸るような音を起こした
 ▼ 78 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/06/06 01:45:08 ID:DacyKP.6 [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……つまり、ツタージャと暮らしたあなたの得られた答えはポケモンとの共生と絆でしょう?なら話は早いです、人とポケモンは支え合って……」

ジュンサーはやはり伝説のポケモンを前にしても引かないようだった

俺は押し黙っていられなかった

「……ちがう」

「何が違うというのです?ポケモンと共にいたあなたが描く理想はポケモンと協力して生きていくことではないのですか?」

「違う……人とポケモンの関係は支え合いじゃない……!お前の言う強制のような利用のし合いとは違うんだ……!」

ゼクロムがキッと相手を見据えた

「同じ目標を掲げ、同じ理想に向かって共に歩んでいくこと……それがポケモンと人とのあるべき姿だ」

「機械的に、形式的に利用し、それに対する成果をただ与えるだけじゃないんだ……お互いを思い、お互いに想われることこそが本当の人とポケモンの関係だ」

「あなたは私たちがポケモンを想っていないと言いたいのですか?」

「そうだ……少なくともお前はポケモンに想われちゃいない……ただ認められて強くなってしまっただけだ……」

「そんなことはありません!私たちはお互いに信じ合えています!」

「いいや違う!お前もポケモンのことを想ってはいない!ツタ―ジャが!なんでお前に付かないか分かるか!?こいつのことを考えていないからだ!結局自分のエゴを満たしたいだけなんだ!」

「あなたは何が言いたいんですか!私たちにこれ以上何を求むと言うのです!あなたの理想はつまりどういうことなんですか?」


「俺の理想は……こいつと……ツタ―ジャと一緒にいてやることだ!!」
 ▼ 79 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/06/06 22:58:34 ID:DacyKP.6 [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ツタ―ジャの瞳が明るい赤色を帯びた

口を縦に長い楕円に開き、驚いたような満足したようなそんな顔をしていた

「先ほどあなたはエゴと言いました……たしかにここからはエゴかもしれません……もはや話し合いは無駄でしょうね」

そう言うとジュンサーは両の手に二つボールを構えた

「力づくでも、ツタージャは返してもらいます。そうしなくてはいけないのです!」

緑と青、『正義』はジュンサーに付いた

理想を無理強いしようとすればやはりそれは『悪』になるのだろうか

青雷が鳴動した

崩壊した城が唸る

正義が間を詰める、空を見上げて俺は叫んだ

「……クロスサンダー!!」

凄まじいエネルギーにゼクロムが包まれる

「せいなるつるぎ!!」

また、正義が振りかざされた

それは白かったり緑だったり青かったり黒だったりした
 ▼ 80 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/06/07 00:29:40 ID:3Lxn8g4Y [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ゼクロムを包んだ青い光の玉は強大だった

それと呼応するように青白い稲妻がいくつも空から降り落ちた

黒雲さえ吹き飛ばし、青天井が顔を覗かせた


腕の中で勝負を見守っていたツタ―ジャが口を開いた

「おじさん……?」

晴れ渡る、崩れゆく

その晴れた日のもとに立つ剣士は誰もいなかった


雷雲は過去っていく

黒雲と共にいつの間にかゼクロムは去っていたのかもしれなかった
 ▼ 81 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/06/07 01:27:12 ID:3Lxn8g4Y [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
白く明るくなった視界に目を細めながら俺はこう言った

「N様……プラズマ団はこれからどうなるんでしょう……?」

緑の髪の青年もゆっくりとした口調で答えた

「そうだね……僕はまだ僕の考えを真実だと信じている……でもどうやら新しい考え方もしてみなくちゃいけないらしい……」

水溜まりが光を照り返している

「プラズマ団は、そして僕は……きっと新しくなるよ。だから君の理想、ポケモンと思想を共有するという考え方にも力を貸してもらいたいんだ……」

真昼の太陽は少しづつ赤みを増しながら西へと傾いていく

「……は、はい!自分で……良いのであれば!」

青空は澄んでいる

「君のツタ―ジャは幸せだろうね……君のような人間を選ぶことができたのだから」

ツタ―ジャが顔を上げる

「ボクは……おじさんと一緒にいられるの?これからも……?」

「……ああ、ずっとな」

澄み渡り晴れ渡る快晴が、赤い瞳を潤み輝かせていた
 ▼ 82 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/06/07 01:30:59 ID:3Lxn8g4Y [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
終わります



完成が遅れてお待たせしてしまい大変申し訳ないです
すみませんでした

誤字脱字とゲーチス様のいらっしゃらないプラズマ団にお付き合いいただき
ありがとうございました
 ▼ 83 ルビアル@ビビリだま 17/06/08 10:26:38 ID:/TbH.9p. NGネーム登録 NGID登録 報告
 ▼ 84 ゴジムシ@ハーバーメール 17/06/10 00:02:24 ID:3zB2YvPs NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ありがとうございました
 ▼ 85 リジオンの人◆QhqpxfPSAI 17/06/10 21:43:59 ID:f5PeRn6w NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シリアス部門受賞おめです!
今から読ませていただきますね〜
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