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SS

【暑い日SS】燃える想いを

 ▼ 1 1◆J44kAZeDOM 17/07/27 21:04:38 ID:4EgavKqU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







プロローグ






 ▼ 39 1◆J44kAZeDOM 17/07/29 22:27:56 ID:w8o46q8w [1/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「足りない? どういう事?」

「だって、もし僕が手伝ったら、ママは、もっと仕事できるようになる。そしたら、もっと忙しくなる」

「……なるほど。だから、強くさえなれば、自立して、忙しい思いをさせなくても済む、か」

「そう……なんだ」


純粋な善意。そう見える。

けれどあたしは、気付いてしまった。

自立。この単語に、この子はたじろいだ。

もっとも、あたしはドヒドイデじゃない(ドヒドイデに失礼かもしれないけれど)。

親の気を惹きたい子どもに、現実を突き付ける必要もなかった。


「いいよ。戦い方、教えてあげる。ただし、あたしも別に凄く強い訳じゃないから、そこだけは勘弁ね」

「うん!」


うんて、ここで言われると何気に傷付くな……。
 ▼ 40 1◆J44kAZeDOM 17/07/29 22:29:33 ID:w8o46q8w [2/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ごはんを食べ終わり、炎タイプなので汗を流す事もないまま自室に戻る。

あの子は、おかみさんとしばらくいるとの事だ。怪しまれないようにという所か。

ごろりと横になりながら、あの子にどう指導しようか考えていた。

まずは、技を確認する所からか。

いや、でも大事なのは、負けない事だ。

ダンジョン攻略においての目的は――あたしの持つ戦い方は、ダンジョンを突破する事だけだから、教えられるのもそれだけになる――意識を失わず、最終フロアを突破する事なのだ。

敵を殲滅する必要は一切ない。

それを思うと、まずは敵の攻撃を回避する事を指導するべき。そう結論付ける。

わからないけれど、特性がもしもらいびなら、あたしの攻撃を無傷で受けきれるはずだ。

違っても……半減だから、それ程悲惨な目には遭わないはず。となると、練習でミスし、食らっても大丈夫だろう。

両方の特性を持っている可能性もなきにしもあらず。1匹で2つ特性を持っているポケモンも、多々いる。

まずは、うん。あたしのかえんほうしゃを回避する練習だ。話はそこから。


「お姉ちゃん、起きてる?」


部屋の外から声が聞こえた。あたしはそれに答えて言う。


「起きてるよ。さ、練習行くよ。で、どこ行くの?」
 ▼ 41 1◆J44kAZeDOM 17/07/29 22:31:46 ID:w8o46q8w [3/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
案内に従って、ポケ気のない広場にやって来た。

確かにバトルの練習にはもってこいだ。


「まずは、攻撃を避ける事! ダンジョン探索では、勝つ事より負けない事を意識した方がいいから、回避の練習をするよ」

「はーい」

「まずは、あたし、かえんほうしゃを撃つから、回避して。あ、あなたって、特性もらいび?」

「もらいびもあるよ」


よかった。ベストだ。

あたしは容赦なくかえんほうしゃを撃つ。

この子は、唐突なあたしの攻撃を回避しきれず、炎に呑まれる。


「ちょっと! いきなり酷いよ!」

「敵は、今から攻撃するなんて言ってこない。いつ攻撃するかは、わからないのよ。

それでも、なるべく直撃は回避して、ダメージを最小限に抑えるのが目的。

そもそも、もらいびならダメージないでしょ? それがわかってていきなりやってるの。

どうする? やめる?」

「やめるもんか!」

「そう。それじゃあ、まずは遠距離から。かえんほうしゃのいいとこはね、長距離まで届く事。

ねっぷうと合わせて、炎タイプには必須級の技だと思うわ」

「へえ」


ねっぷうは高い買い物だったけれど。ワイワイタウンのハイテンションな店主の顔を思い出し、少しうんざりする。

そんな鬱憤を晴らすかのように、かえんほうしゃを撃った。

この子はビクリと身をよじらせ、飛び上がろうとした瞬間に炎に呑まれた。

回避しようとした。もう、あたしの攻撃に反応した。しきれてはいないけれど、それでもしようとした。

この子、ひょっとして凄い? 頬を膨らませている様子からはそうも見えないけれど、なかなかに鍛えがいがあるのかもしれない。
 ▼ 42 1◆J44kAZeDOM 17/07/29 22:34:01 ID:w8o46q8w [4/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「僕も攻撃したいなー」

「PPの節約って事も考えて、攻撃は控えて行った方がいいから」

「……なるほど」


これが、あたしの戦い方。これで、生き残って来た。

Aランクのお尋ね者を倒せる程度の実力はあるけれど、あたしの真価は、ひとえにこの回避能力に集約される。

一度、つばめがえしを回避し、周囲から目を丸くされた事がある程なのだ。

それもこれも、あたしの育ちに由来する。誰かの顔色を窺う機会が多かったあたしは、無意識のうちに、敵の攻撃の軌道を読む能力を磨いていた。


「試しにさ、あたしになんか、技撃ってよ。どんな技でも避けてみせるよ」

「え? うーん……ひのこ!」


軌道が丸見えだ。造作もなく、あたしは避けた。


「凄いな……」


あたしは、反撃とばかりに口に火を溜める。

この子は、一瞬で警戒色を強め、あたしが攻撃する前に、横っ飛びを決めた。

あたしは虚無な空間に炎を浴びせかける羽目になる。


「どうだ!」

「え、す、凄いんだけど普通に。え、もう?」

「そりゃ、2回も見ちゃったらね。なんとなく、攻撃しそうだなって」
 ▼ 43 1◆J44kAZeDOM 17/07/29 22:34:28 ID:w8o46q8w [5/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
なかなかに凄い。あたしも確かに、「見る前に避ける」の境地にはいる

。けれど、この子は既に、その片鱗を見せているのだ。


「そう。その感覚が大事。でもね、気付いている事に気付かれちゃ駄目。

あたしは手加減してるから軌道は変えなかったけど、もし普通の敵なら軌道を変えちゃうから」


手加減。またの名を、油断。もしかしたら、少しレベルを上方修正した方がいいかもしれない。

素直にうなずいてから、今度もあたしを凝視し、攻撃の気配がない事を確信してか笑顔になる。


「はーい」

「それじゃ、今日はここまで。じっくり休むのも大事だからね」

「はーい」
 ▼ 44 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:03:02 ID:YnPfAA9. [1/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌日。朝食を食べて、あたしは再び2匹で情報収集に出かける。

まずはガルーラのカフェ。だが、情報はない。

それからもスカ続きで、進展らしい進展は何もなかった。

宿に戻り、あの子と別れると、おかみさんが声を掛けて来た。


「あの、すいません。少しよろしいでしょうか」

「え、あ、はい」

「うちの子を、ありがとうございます」

「いえ、こちらこそ。お子さんの顔の広さは、正直凄く役に立ってますから」

「うちは、いろいろな方と交流がありますからね。

街をあげてダンジョン探索の協力をしているもので、この街では宿や商店などが有機的に絡まなければなりません」

「そう、だから」


続く言葉は、だからあの子は顔が広いんだ。けれど、言う前におかみさんは頷いた。


「ええ。ところで、あの子からも聞いています。バトルを教えてくださっているんですって」

「ああ、せがまれまして。でも、あの子、凄く筋がいいですよ」



奇妙な沈黙が流れる。何かマズイ事を言ってしまったのか、と焦り始めた辺りで、彼女は言った。


「あの、不思議に思いませんか? どうしてうちの子は……」
 ▼ 45 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:04:08 ID:YnPfAA9. [2/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
彼女が何を言っているのか、あたしには心当たりがある。

けれど、デリケートな問題なのだ。あたしが、土足で踏み荒らしていい領域じゃない。


「思いますよ。だけど、それは、あの子の方から言ってくれるか、最後までわからないか。

もしあたしたちが、上手く共振したら教えてくれるだろうし、しなかったら教えてもらえない。

当のあの子以外から聞くのは、なしだと思ってます」

「そう、ですか」

「はい。あの子は、あたしが鍛えます。少なくとも、滞在できるリミット、一週間は」

「あの、すいません。もう少し、あの子のそばにいてくださいませんか?」

「……厳しいです、すいません。お金が……」

「でしたら、割り引きます。あなたなら、あの子を救える気がします」


割引。それは嬉しい。けれど、それで期間を伸ばすと結局出費がかさむ。

けれど、どうしてか、断りがたかった。

そして、救う。大仰な物言いだが、やっぱりあの子には、何かあるのだ。

あたしは、彼女のテストに――子どもの心に踏み込むための試験に合格したらしい。


「……いくらになるんですか?」

「……8割引き、でどうでしょう」

「了解です」
 ▼ 46 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:04:53 ID:YnPfAA9. [3/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
即答だ。我ながら情けない。けれど、ないものはないのだ。

5分の1なら単純計算で5週間滞在可能になる。この辺の仕事を取れば、さらに期間は伸ばせる。


「あ、ありがとうございます」


少しだけ呆れたような表情。そのすぐ後、彼女は笑い出した。


「凄く、正直な方なんですね」


あたしは、赤くなって恥じ入るしかなかった。


「いえ、そういう方の方が、いいんじゃないかと思いまして」

「はぁ……。ご期待に副えるかはわかりませんが、頑張ります」

「お願いしますね」
 ▼ 47 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:05:39 ID:YnPfAA9. [4/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ママと何の話してたの?」

「もっとここに長くいられるよ、あたし」

「ホント?!」


部屋に戻って、やって来たこの子と会話を交わす。

純粋な笑顔に、あたしはそれでも疑念を抱く。

この裏に、どのような決意が潜んでいるのか。

それと向き合うのも、悪くない。お金に踊らされるあたしの、これは意地だ。


「じっくり調査もできるしね」

「また調査ぁ?」

「そりゃ、間違った情報に踊らされて無駄な消費をしない方がいいもの。

難しいダンジョンの攻略って、お金かかるのよ?」

「……だから強くなった方が」

「お腹減ったりPPなくなったり。どうしようもない出費ってのはあるものなの。

どっちもちゃんとできるのが、優秀な探検隊よ。

ま、あなたは強くなりたいだけかもしれないけどね」

「まあいいや、ごはん食べに行こ!」

「だね」
 ▼ 48 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:06:24 ID:YnPfAA9. [5/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
夕食後、母親からの公認を得て、堂々とあたしの部屋にやって来た。

食べてすぐに運動するとお腹が痛くなるとしばらく待たせ、その間にたわいもない話をした。

学校での彼はどんな調子なのか。(この子は、学校に通っているのだ。夏休みだから気付かなかったけれど)

好きな勉強は何で、嫌いなのは何か。

学校生活に関しては、たわいもない、の一言で片付けられる。勉強がそんなに好きでない、わかりやすい小学生の♂。

問題こそ潜んでいるけれど、それを周りも受け入れているらしく、平然とその生活を享受しているらしい。


「お姉ちゃんは、なんで探検隊になったの?」


色々聞き出そうとするあたしに対しての、当然の帰結ともとれる質問。

純粋な好奇心に触れ、あたしは話し始めた。


「あたしはね……」
 ▼ 49 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:06:54 ID:YnPfAA9. [6/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
生まれた時から、両親はいなかった。

ダンジョンのど真ん中、あたしは置き去りにされていたのだ。

なんで生きているのかって、探検隊が拾ってくれたから。

そのままあたしは、そのギルドに引き取られたの。

みんな優しかったよ、幸せな事にね。

だけど、気付いてた。あたしの本当の親は、ここにはいない。そしてそれは、おかしな事なんだって。

誰も、そんな事は思ってない。それはわかってて、でもあたしは、気になった。


――本当にみんな、あたしのためにこんなに親切にしてくれていいのかなって。


こっちからも気を遣って、みんなの手伝いをして、迷惑にならないようにって頑張って。

そうやって、ずっと空気を読んで暮らして来た。

だからね、あたしの回避能力の高さは。ずっと、周りばっかり気にしてたから。
 ▼ 50 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:07:28 ID:YnPfAA9. [7/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「とにかく、みんなの純粋な善意は、あたしの憧れなの。だから、探検隊になった。

他の生き方もあるよって教えてくれたし、学校も通わせてもらった。だけど、やっぱり、憧れたのは、探検隊だった。

なんて、ちょっと難しいかな?」

「へぇ……」

「君が羨ましいよ。お母さん、君の事、すっごい気にしてくれてたよ?」

「え?」

「親、いないから」


黙り込んでしまう。

これで、あたしの境遇は終わりだ。会ってみたい、とは思わないけれど、時折親というのはどんな生き物なのか、興味が湧く。

その程度の過去だが、子どもの心を開くには、充分過ぎると踏んでいた。

今すぐに、とは言わない。じっくりと、時間を掛けて、あたしを信頼して欲しかった。


「ま、それはいいや。特訓、始めよ」
 ▼ 51 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:09:07 ID:YnPfAA9. [8/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
結果として、あたしの技は、もうほぼ完璧に回避されるようになっていた。

あたしの思った通りというかなんというか、やっぱりこの子には、才能がある。

あたしと同じ、回避の才能。周囲の空気を読み過ぎるあたしが身に付けた、特技。

ここにも、裏が見え隠れする。


「もういいよね?」

「ええ、そうね。次のステップに進もうか」


まだまだ時間に余裕はあった。今日についても、これからしばらくについても。

ゆっくりでいい。その余裕が、あたしにゆとりを生んでいた。


これから数日、あたしはこの子を連れて調査したり技の出し方を特訓したりと濃密な時間を過ごした。

本職の方の成果はなかなか上がらないのが、残念と言えば残念なのだが。

お尋ね者は、まだのうのうと活動しているはずだ。

余程隠れるのが上手いらしい。


「ねえ、この街に隠れ家っぽいとこってないの?」

「あるにはあるけど……捜してないと思ってるの? もう2回は案内したよ?」

「だよね……。虱潰し、しかないのかなぁ……」

「でも、虱潰しにしても無理があるんじゃない? この街の周りのダンジョン、多いもん」

「ううむ……。ダンジョン内部について知りたいなら……探検隊キャンプに訊くしかないか」


子どもがいるのだし、明確に嘘を吐かれる事もないだろうという、淡い期待も込み。

あたしは、行動を開始した。
 ▼ 52 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:09:43 ID:YnPfAA9. [9/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「そんな奴、見た事ないぞ」

「そうですか」

「本当に?」

「ああ。嘘は吐かねえよ、嬢ちゃん」


1匹目は外れ。あたしはけれど、気落ちする事もなく何匹かに声を掛けていく。

しかし、結局アタリはなかった。


「おかしいよ、絶対」

「だね。ここまで上手く隠れてるだなんて、ホントはドーブルじゃなくて、メタモンだったりしてね……ああっ?!」


ひとりごちたあたしは、そのままある可能性に行き当たり、愕然とする。

確証はないが、なかなかに信ぴょう性がありそうだ。


「どうしたの?」

「スケッチだよ、へんしんさえコピーすれば、姿を変えられる!」

「なるほど!」


…………

冷静に考えろ、あたし。

へんしんだとしたら、捜す手掛かりは、ほとんどない。

あれ、これ結構ヤバい?


「とりあえず、帰ろう」

「え、なんで?」

「夜も特訓してるから眠いの!」

「はーい」
 ▼ 53 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:10:32 ID:YnPfAA9. [10/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
宿に戻って、あたしは部屋に直行し、そのまま眠りに落ちた。

しばらく休んでいると、いつものように呼び声が聞こえる。


「ごはんだよ」

「わかった」


あたしは立ち上がると、夕食へ向かった。


「いただきます」

「いただきまあす。で、お姉ちゃん、どうするの?」

「考え付かない。どうしようかな……」


沈んだ声であたしは食事を続けた。


「ほんっと、厄介な依頼引き受けちゃった」
 ▼ 54 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:10:52 ID:YnPfAA9. [11/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
夜の特訓は、あたしの気落ちやこれからの面倒に関係なく、続けた。

技の撃ち方を鍛える段階だ。タイプが同じなだけあって、そのやり方はわかりやすい。


「お腹に空気を蓄えて。炎は、酸素がないと燃えられないから」

「わかった。すぅぅ……」

「一気に吐き出す!」

「ふうっ! うわっ、凄いの出た!」

「同じ技を強く撃てたら、よりダンジョン攻略に有利になる。

呼吸して炎を出すっての、慣れれば意識しなくてもできるようになってくるから、何回もやる事ね」

「うん! なんか、強くなった気分」


その笑顔に、少しだけ、あたしの気は楽になった。

そんな時だった。

背後に気配を感じ、あたしは飛びのく。

その立っていた場所が、凍り付いていた。
 ▼ 55 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:11:59 ID:YnPfAA9. [12/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「何者?!」

「残念。当たると思ったんだけどな」


ぜったいれいど。その名前に思い当って、あたしはぞっとする。

明確な殺意。目の前に立つポケモンは、それを、あたしたちに向けている。


「誰だ?!」

「さあね。君らならわかると思うよ」

「ドーブル……」

「正解」


あたしはその姿めがけ、炎を打ち出す。

眩いそれは、敵の顔を照らした。


ドーブル「だって、せっかく上手く紛れ込んでるのに、ちょこまか嗅ぎ回られて、鬱陶しいんだもん」

「それだけで、襲って来る? 紛れ込んだままでいれば逃げ切れたかもしれないのに」

ドーブル「だってさ……そっちの方が面白いじゃん」

「面白……」


あたしは、愕然として呟いた。

早いうちに危険分子は刈り取るに越した事はない、ならわかる。

共感はできないけれど、理解ぐらいならできる。

もっと、他にいろいろあるだろう。


「面白いで、犯罪するの」

ドーブル「だって……ねえ。ま、トリックが割れたってのもあるけどさ」
 ▼ 56 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:12:52 ID:YnPfAA9. [13/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
彼はニヤリと笑うと、あたしたちに向けて水流を打ち出した。回避するのは容易だけれど、攻撃に転じなければならない。

空を、唐突に太陽が照らす。


「何、これ……」

「行くよ!」

ドーブル「特性ひでり、ねぇ。2つ同時持ちってとこかな。もらいびと合わせて」


そういうと、ドーブルは大地を揺らす。飛び上がって回避した所で、敵はあの子に絵筆を向けた。


ドーブル「空中で回避はできないだろうし」


気付いてしまう。敵の狙いを。

あたしは叫んだ。


「危ない避けてっ!」


「えっ……」


急激に周囲の気温が下がって行く。

その狙いは、あの子。

ぜったいれいど。一撃必殺の攻撃を、回避不能な状況で打ち出す。

あたしは妨害しようとかえんほうしゃを撃ちだした。

しかし、ドーブルは氷の盾をその技で形成し、あたしの攻撃をバリアする。

そして、ドーブルが攻撃した。

思わず、駄目っ、と叫ぶ。

あたしは目を閉ざした。


「うわあっ!」
 ▼ 57 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:13:36 ID:YnPfAA9. [14/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
目を見開く。

そこに倒れていたのは、おかみさんだった。


「ま、ママ……?」


あの子を、いつの間にか現れて、庇っていた。

あの子の目に、涙が溜まり始める。

あたしは、この隙にと背後を取って、さいみんじゅつを決めた。

敵はうめき声をあげて、こちらを振り向く。

しかし、そのまま崩れ落ちていく。

すうと寝息を立て始めた所で、あたしは何度もかえんほうしゃで攻撃する。

体力を完全に失った辺りで、敵の行動を拘束すべく、しばられのタネを食べさせる。

これで、こいつはもう大丈夫だ。

あたしは、あの子の方へ駆けていく。
 ▼ 58 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:13:53 ID:YnPfAA9. [15/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「お姉……ちゃん。ママが、ママが、死んじゃうよ……」

「落ち着いて。ふっかつのタネよ」

「ママ、元気出してよ……」


彼女は、しんとして動かない。

一切の動きを止めたその体躯。

ポツリ、涙が彼女の上に落ちた。

見るまでもなかった。嗚咽が辺りに響く。

ずっと、ずっと。目の前のこの子は、泣き続けた。
 ▼ 59 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:14:00 ID:YnPfAA9. [16/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







3章 燃える想い






 ▼ 60 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:15:03 ID:YnPfAA9. [17/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテス「……なるほど」

マグマラシ「あれじゃ、まるきり、昔のあたしだ。親の事ばっか考えて、ずっと顔色窺って。

      愛してくれないか。そんな気配を、ずっと捜して」


忙しい親。構って貰えない、子ども。

そういうポケモンは、確かにありふれているし、あたいも何匹か知っている。

けれど、ありふれている事と、それが重いか否か、という事には、何も関係がない。


ラランテス「けど、限度ってもんがあるだろう?! 周りに迷惑をかけるなんてないよ!」

マグマラシ「だから、あの子を止めたくて、水ポケモンを捜してるんです。あの子も、ひでりともらいび、同時に持ってる。

      あたしじゃ、あんまり有効打はない。かえんほうしゃとねっぷう、それからふんえんとスピードスターだけだし。

      言葉は、もう通じなかったから。だからもう、バトルで止めるしかない。

けど、どっちも有効打がないから……」

ラランテス「その特性、遺伝かい?」

マグマラシ「ええそうよ」


彼女は、少し懐かしそうな目をした。しかし、それはすぐに、暗く塗りつぶされる。

かと思うと、急に顔を上げ、あたいを見据えた。

目まぐるしく変わる表情に唖然としつつ、あたいは言った。


ラランテス「この街が暑くなったらポケモンも離れて仕事も減るだろう? 考えは正しいけど、短絡的過ぎるよ、まったくもう」

マグマラシ「だから、お願いします。助けてあげてください」

ラランテス「いいよ、協力する。あたいなら、あの子にバトルでは勝てる。

      でも、バトルだけだよ。あたいは、あの子とはあんまり関わりがないんだ。あんたの方が適任だよ」

マグマラシ「はい! ありがとうございます」
 ▼ 61 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:16:10 ID:YnPfAA9. [18/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それにしても、だ。

どうして彼女は、ここまで入れ込むのであろうか。

そして、そもそもどうして彼女は、ここまで知っているのであろうか。

その点は、疑問として残った。

彼女の様子に、不自然な点は、今まで見受けられなかった。

今判明している、ロコンの狙いに関して、彼女は嘘を言っていない。

その辺りは、感覚でわかる。

けれど、全てを包み隠さずに伝えてくれている訳でもないらしい。

まあ、とあたいは呟いた。

詮索する必要もないだろう。仲間の過去は、詮索しない。そんな過去の思い出が、あたいを押し止めた。

語りたくないなら、聞く必要もない。暑さそのものには、関係ないのだから。

とりあえず結論を出し、ふっと意識を戻した所で、お腹が鳴った。

そう言えば、夕食を中断させられたっけ、と思っていると、マグマラシが夕食を持って来てくれていた。


マグマラシ「すいません、食事中無理に引っ張って来ちゃって」

ラランテス「構わないよ」


あたいは、食事にがっついた。

呆れたような目で見られている気もしたが、気にしたら負けだ。


マグマラシ「それじゃあ、明日行きましょうか」

ラランテス「だね。あ、ありがとうね、持って来てくれて」

マグマラシ「いえ。こちらこそ」


彼女はあたしの分のお皿を持って行ってくれた。

協力のための代金みたいなもんか。そう思ってこの善意に甘える事にし、そのまま流し場へ直行した。

慣れては来たが、暑いものは暑い。汗もかく。
 ▼ 62 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:17:00 ID:YnPfAA9. [19/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌朝。

朝食の後、彼女はあたいの部屋にやって来た。


マグマラシ「えっと、行きましょう」

ラランテス「だね」


トレジャーバックをひっつかみ、あたいは外へ出て行った。

後ろから、マグマラシも付いて来ている。

バッグの中身を確認する。オレン、エイダー、リンゴ、プチふっかつ。それから今度はロコンもまとめて脱出できるように……うん、大丈夫だ。

カクレオン商店でオッカを調達し、それをかじってから終の草原へ向かった。



道中は一切の苦労の必要がないままに先へ進んだ。

何しろ後ろから、攻撃してくると声が飛ぶのだから、それに従ってかわすだけでいい。

少し集中さえすれば、1匹でもほぼ全ての攻撃は避けられる。

けれど、集中力さえも温存しながら先へ進めるのは、マグマラシの攻撃予測能力のお陰だ。


ラランテス「あんた、凄いね」

マグマラシ「いや、ラランテス程じゃないよ。いまひとつの攻撃で一撃って……」

ラランテス「陽射しが強いから本気の攻撃をぶちかませるもんでね」

マグマラシ「いやそれにしても……ホントに強いんだ」


独り言の体裁になっていたので、あたいはそれを無視した。

熱気はオッカのお陰でだいぶん抑えられているし、問題は何もなかった。
 ▼ 63 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:17:29 ID:YnPfAA9. [20/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そして最奥部。ロコンがこちらを見て、愕然とした。

わなわなと震えているのは恐怖なのだろう。それを隠そうとしてか、彼は強気で叫ぶ。


ロコン「な、なんで来たんだ!」

ラランテス「そりゃ、暑くするのをやめないからだよ! 周りはいい迷惑なんだよ!」

ロコン「でも、なんで」

マグマラシ「言葉だけじゃ、わかってくれないんでしょ?

      ホントは、母親がどれだけあなたの事を思ってくれてるかだなんて、わからないんでしょ?」

ロコン「うるさいっ!」

マグマラシ「バトル、する? あなた、あたしは倒せないでしょ? あたしも、炎は受け付けない。

      でも、こっちにはラランテスがいる。絶対に、あたしたちの勝ちだよ」


ロコンは、がっくりと座り込んだ。

現に、あたい1匹で勝てたのだ。勝ち目はない。それぐらいは、さすがにわかっているのだろう。


ロコン「じゃあ、母さん連れて来てよ。なんで、母さんが自分で来ないんだよ!」


精一杯の虚勢はしかし、正論でもある。

心配するなら自分で来い。しゃれた事を考えるもんだ。

あたいがわかった、と同意しようとした、その瞬間だった。

マグマラシが、目に涙を浮かべていた。


ラランテス「だ、大丈夫かい?」


マグマラシは小さく頷き、目を瞬かせて涙を引っ込めた。
 ▼ 64 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:17:59 ID:YnPfAA9. [21/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それから彼女は、ロコンに向かって、声をあげる。


マグマラシ「ねえ、ロコン。あなたのお母さんはね、忙しいの」

ロコン「忙しいってなんだよ! 僕の事が、大事じゃないの?!」

マグマラシ「大事よ。大事だから、忙しく働かないといけない」

ロコン「なんで……姉ちゃんになんでそんな事わかるんだよ!」


ロコンが叫ぶ。それに伴って、マグマラシの声が大きくなった。


マグマラシ「あたしのママも、そうだったから!」

ラランテス「あんたの、ママ」

マグマラシ「どうしてわかってくれないの?! どうして、わからないの……」


今度こそ、彼女は泣き崩れた。

あたいとロコンは、ビックリして、彼女に駆け寄る。
 ▼ 65 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:18:41 ID:YnPfAA9. [22/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロコン「だ、大丈夫?」

マグマラシ「強いだけじゃ駄目なんだって……守るためには、もっと、いろいろ……あたしは……僕は……」


僕。唐突に現れた、新たな一人称。

あたいは、彼女を注視する。

彼女はまるで、子どものように泣きじゃくった。

ごめんなさい、ごめんなさい。

僕がバカだったから、ママは、ママは……。


ラランテス「ロコン、とにかく、この子を運ぶよ。持って来てよかった。穴抜けの玉」

ロコン「え、ちょっと……うわっ!」


世界が暗転し、気付けばあたいたちは、夕焼け空の下、ダンジョンの入口に立っていた。
 ▼ 66 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:19:15 ID:YnPfAA9. [23/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロコン「……でも、どうしたんだろ、姉ちゃん」

ラランテス「さあね」


未だ泣き続けるマグマラシに、あたいたちは何もできないでいた。

声を掛けてはみるけれど、反応はなし。

あたいとロコンは顔を見合わせ、それから首を捻る。


ロコン「ねえ、なんかわかんないの」

ラランテス「……考えてみるよ」


今まででわからない事。なぜ、彼女がここまで肩入れするのか。

どうして、彼女はここまで知っているのか。

唐突に現れた、僕という一人称は一体なんなのだ。

彼女の母親と、何かを重ね合わせた。普通に考えればそうなるけれど、それではまだ据わりが悪い。

ロコン親子との関係というピースが、まだ上手くハマらない。

……駄目だ。さっぱりわからない。手掛かりが足りない。


ラランテス「あんた、この子のついてなんか知ってる事ないかい?」

ロコン「え……僕が、姉ちゃんに」

ラランテス「そう。何か、元々知り合いだったりしないのかい?」

ロコン「いや……僕は、鍛えてもらっただけだよ。強くなりたいって言って。ここに来る事は考えてたけどね」

ラランテス「そうかい……」

ロコン「あ、でも。母さんと、なんだか仲よさそうだった」

ラランテス「え?」

ロコン「いや、だから……」

ラランテス「もう少し、詳しく」
 ▼ 67 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:19:43 ID:YnPfAA9. [24/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたいの食い付きっぷりに、ロコンは軽く引きながら答える。


ロコン「あ、いや、わかんないよ? だけど、なんだかはじめっから、客って以上の関係だった気がするんだ」

ラランテス「なるほど……」

ロコン「なんかわかった?」


再び思考を巡らせる。とめどなく、とめどなく。推測はあたいの中を駆け巡る。

あたしも同じという事はマグマラシの母親は忙しくてそれゆえに彼女はなんらかの反抗をしたでも恐らくそれは強くなりたいといった類のもので僕というのはそこから派生したものなのだろうかそして僕がバカだったから母親がという事はそれがきっかけでなんらかの悲劇が起こったそれでもってキュウコンとの関係を鑑みるにそこになにか彼女が絡んでいたでも宿のおかみさんがそんな悲劇に絡むような事があるのだろうかまあゼロじゃないにせよ可能性は低いでも今彼女はそんな所に収まっているつまり元は違うけれどその母親を巡る悲劇においてキュウコンは宿のおかみさんに収まったって所かそしてその理由を考えると母親が死んでその代わりなのかもしれないそしてという事は……


ラランテス「マグマラシ、あんた、あの宿の子だったね」

ロコン「え……それ」

ラランテス「そのまんまの意味だよ。マグマラシは、キュウコンの前のおかみさんの娘だった。

      確証はないけど、その可能性が一番高い、とあたいは思うね」

「その通りです」
 ▼ 68 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:20:05 ID:YnPfAA9. [25/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
不意に聞こえた声に振り返る。

あたいの前で向かい合っていたロコンは、一瞬早く気付いていたようだった。


ロコン「か、母さん?」

キュウコン「ロコン、ごめんなさい。あなたの事、ほったらかしにしちゃって。

      ラランテスさん、ありがとうございます。うちの息子を捜し出してくださって」

ラランテス「ああ、それは構わないよ。だけど、とりあえずマグマラシをなんとかしてくれないかい?

      たぶん、あんただけだ。この子を癒せるのは」

キュウコン「わかりました」


そう言うと、彼女はマグマラシに寄り添った。

泣きじゃくる彼女は、ふと顔をあげ、それからポツリと呟いた。

お姉ちゃん。


キュウコン「あなたも、ありがとう。ロコンの事、助けてくれて」


マグマラシは、声をあげて、また泣いた。それをキュウコンは、穏やかな目で見守っていた。
 ▼ 69 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:20:45 ID:YnPfAA9. [26/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロコン「どういう事なんだよ、母さん。姉ちゃんと、どういう関係なんだ」

キュウコン「話せば長くなるけど……それでもいい?」

ロコン「いいよ、どんだけ長くても、聞くから。だから、教えてよ!」

キュウコン「わかったわ」


そう言って、ひとつ息を吸い込むと、彼女は過去の物語を語り始めた。


キュウコン「まだ、あたしが探検隊だった頃の話ね……」

――

リアトリス。難易度の高いダンジョンが近辺に集まっている事で有名な街。

そこに足を踏み入れたあたしは、とりあえず翌日のダンジョン探索に向けて体を休めるべく、宿を探した。

そして発見したのが、旅の宿だった。

――
 ▼ 70 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:21:08 ID:YnPfAA9. [27/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこからの物語は、ロコンには少し、衝撃的過ぎたらしい。

目を丸くしたまま、何も言えないでいる。


ラランテス「それで、この子はなんで、僕だなんて言ってたんだい?」

キュウコン「死の床に就いた父親から、母さんを守ってくれなんて言われたらしくって。

      それで、強くなるために、って事だったそうです」

ラランテス「そうだったのか。だから」


全てのパズルのピースは、ハマった。マグマラシは、帰って来ていただけなのだ。


ロコン「姉ちゃんが、そんな事……」

キュウコン「だから、あなたがマグマラシにコーチを頼んだって聞いて、ビックリしちゃった。

      歴史って、繰り返すんだなって。

      だけど、その先はよくないよ。あんたはみんなに迷惑をかけた。わかってる?」

ロコン「ごめんなさい、だけど……でも、母さんは、こうでもしないと振り向いてくれないもん!」



キュウコンは、それを聞くと、少し俯いて、それから自嘲気味に笑った。
 ▼ 71 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:21:44 ID:YnPfAA9. [28/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
キュウコン「やっぱり、世の中って、お金なのよ。あなたを育てるにも、お金が必要。

      あたしも、夫に逃げられて、もうここで稼ぐしか生きていく方法ないし。

      探検隊やめた所で、結局お金に追われて、大事なものを見落としてる。

      ほんっと、あたしって駄目ね」

マグマラシ「……そんな事ないよ」


唐突に、正気を取り戻したのかマグマラシが、言った。

彼女の目は潤んでこそいるが、もうその声に涙は滲んでいなかった。


マグマラシ「そんな事ない。お姉ちゃんは、いつでも正しかった」

ロコン「でも!」

マグマラシ「あたしも、あなたも。お姉ちゃんが育ててくれたから、今、こうして生きて、育ってる。

      ね、ほら、ちゃんと育ってるんだよ?」

ロコン「でも、だって……」

ラランテス「あーもう! じれったいね!

      親が子を思う気持ちなんて、子どもにはわかんないだろ? あたいも、あんたもあんたも!

      ここにいる中でそれがわかるのは、キュウコンだけだよ!

      それでいいんだよ! あんたはだから、思う存分甘えればいいんだよ!

      こんなまどろっこしい犯罪してるんじゃないよ! 声をあげな!

      相手は世間じゃない、母親だ。きっと、聞いてくれるさ」

ロコン「……うう……母さん……母さん……ああぁぁ……」


ロコンが、今度は泣き崩れた。キュウコンは、自らの尾で、そっとロコンの頭を撫でた。
 ▼ 72 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:22:08 ID:YnPfAA9. [29/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







プロローグ 凍える夜に






 ▼ 73 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:22:28 ID:YnPfAA9. [30/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
宿に戻って、あたいは3匹と共に、スタッフルームに足を踏み入れた。

お礼と言って、宿代を返されたので、ありがたく受け取っておく。


ラランテス「でも、まああれだよ。これからどうすんのかはあたいが知ったこっちゃないけど、たぶんあんたらならもう大丈夫だと思うよ」

マグマラシ「はい。ありがとう、本当に」

ラランテス「いいんだよ、別に」

ロコン「ラランテス、すっごい強かったよね。どこで鍛えたの?」

ラランテス「さあ、あたいはちっちゃい頃から強かったからね。

      でも、強くなりたいなら、やっぱり、気の合う仲間と、それこそ生き方が共振した仲間と一緒に鍛えるのがベストだよ」

ロコン「なるほどね」

キュウコン「ありがとうございます、何から何まで」

ラランテス「いや、お礼は受け取ってるんだ。あたいとあんたはもうトントン。

      これ以上お礼を言われる筋合いはないよ。それじゃ、今晩はよろしくね」

キュウコン「かしこまりました」


そう言って、彼女はニッコリ笑った。
 ▼ 74 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:22:45 ID:YnPfAA9. [31/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
部屋に1匹で戻って、あたいはごろりと寝転んだ。

ロコンが終の草原からいなくなった結果、辺りは急激に涼しくなり、本来適温のはずなのだが少し肌寒く感じる。

今日は体を温めて寝ないと風邪ひきそうだな、だなんて思いながら、あたいは夜の闇をぼんやりと眺めた。

そうしているうちに、今回の事件について、とめどなく思考が溢れ出して来る。

そして、親子の関係が持つ温かさという方向へ流れて行った。

あたいは、生まれた時から強かったが故に、家から追い出された。

だけど、今はどうなのだろう。みんな、完全にあたいの事は忘れているのだろうか。

それとも、もしかしたら後悔しているのかもしれない。

どちらにせよ、だ。

あたいの次の目的地は、決定だ。

あたいは気ままな風来坊、ラランテス。

だけど、たまには、生まれ故郷に戻ってみるのも悪くない。

そんな風に思いながら、出来上がりつつあるであろう夕食の臭いを感じていた。
 ▼ 75 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:23:08 ID:YnPfAA9. [32/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







【暑い日SS】燃える想いを 完






 ▼ 76 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:23:26 ID:YnPfAA9. [33/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
当SSはこれにて完結です
お読み下さりありがとうございました

リアトリスの花言葉
燃える思い
厳格
傲慢

関連作
【SS】ポケモン不思議のダンジョン 花の盗賊団(http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=563163

また、当SSは暑い日寒い日SS企画に参加していますhttp://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=633896
 ▼ 77 黒の災い◆N/pP1Xva6I 17/07/30 22:51:55 ID:yMqGWsTE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙でした。
前作も読まして頂きましたが、さっぱりしてて読みやすいですね……!
 ▼ 78 RIVER◆zFLCCAWaiw 17/08/01 02:59:56 ID:6g4cqZjU NGネーム登録 NGID登録 報告
乙です

見覚えある文体だなと思ったらエクリプスとかシンオウ転生シリーズの人でしたか
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https://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=642778
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