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【暑い日SS】燃える想いを

 ▼ 1 1◆J44kAZeDOM 17/07/27 21:04:38 ID:4EgavKqU [1/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







プロローグ






 ▼ 2 1◆J44kAZeDOM 17/07/27 21:05:01 ID:4EgavKqU [2/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ねえ」

「何」

「連れてってよ。探検隊として、一緒に行こうよ」

「それは駄目。あなたには、まだ早い。学校にもキチンと行かないといけないし。

それにね。きっとあなたとあたしは、生き方が共振しない。もう、あたしは、嫌になった。

まだ未来があるあなたと一緒には、だから行けない」

「じゃあ、どうすればいいって言うんだよ!」


難しい問いだった。

この子を支える術は、あたしにはない。

けれど、巻き込んでしまったのは、あたしなのだ。

だから、なくてもなんでも、あたしには責任を取る義務がある。

まだ子ども。けれど、この子が背負った運命は、過酷が過ぎる。

だから、あたしが……。
 ▼ 3 1◆J44kAZeDOM 17/07/27 21:05:22 ID:4EgavKqU [3/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







1章 燃える街






 ▼ 4 1◆J44kAZeDOM 17/07/27 21:05:53 ID:4EgavKqU [4/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
暑い。

太陽が、あたいの肌をじりじりと焦がす。

強い陽射しに目を細め、それからあたいは今日の宿を探し始めた。

「リアトリス」

それが、この街の名前だ。

付近には難易度の高いダンジョンが集中していて、探検隊たちのベースキャンプとしての側面も強い街である。

もちろん、この街には普通に生活しているポケモンも一定数いる。

けれど彼らも、外来のポケモンには慣れたもので、新参のあたいに不審な表情を浮かべるものはいなかった。


「にしても暑いねぇ、本当に」


この街が、こんなに暑いだなんて情報、あたいは持っていなかった。

じわじわと汗が滲む。

とりあえず、拠点を確保するべきか。幸い依頼解決の報酬で、あたいの懐は、この街程ではないにせよ、温かいのだ。
 ▼ 5 1◆J44kAZeDOM 17/07/27 21:06:17 ID:4EgavKqU [5/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「宿を知らないかい?」


道行くポケモンに素で話し掛ける。ぶしつけなあたいの口調にも彼は気さくに答えてくれた。


「それなら……」


彼は宿の場所を紹介してくれた。

それから彼は告げる。


「にしても暑いですよね」

「ん? 元はこんなに酷くないって事かい?」

「ああ、まあ。最近急にですよ……」


最近急に、気温が上がった。これが、普通じゃない事は、考えなくともわかる。

困惑顔の彼の表情に、あたいはこれからしばらくの予定を決めた。


「それ、あたいが調べてみてもいいかい?」

「え? 調べてくださるんですか?」

「ま、どうせあたいは気ままな風来坊。気の向くままにポケモン助けの毎日さ」


嘘はない。あの事件以降、あたいはずっと、そうやって生きて来た。

あたいの言葉に、彼は、目に見えて嬉しそうな表情をした。


「ありがとうございます! ……暑い、ぐらいじゃ誰も動いてはくれないですし。だけど、絶対おかしい」

「何か、情報はあるかい?」

「いや、残念ながら、ここ最近急に暑くなったって事だけで……」

「そうかい。ま、とりあえず調べてみるよ。じゃあ、また会う事があれば」

「ありがとうございます」


深く頭を下げる彼。それを振り返らずに、あたいは宿へと向かって行った。
 ▼ 6 1◆J44kAZeDOM 17/07/27 21:07:31 ID:4EgavKqU [6/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
旅の宿。シンプルで、名前に凝った所はない。

外観もその精神を引き継いだかのように普通の家を少し大きくしたような、素朴な印象の宿だった。

あたいはのびをして、その宿に足を踏み入れる。


「邪魔するよ」


中身も案の定だ。悪くない。


「あら、お客さん?」


キュウコンが振り向いて、それからそそくさとあたいの応対を始めた。


キュウコン「お泊りですか?」

「予約はしてないけどね」

キュウコン「飛び入りはよくある事です」

「ありがとうね。じゃ、まずは料金とかの説明だね」

キュウコン「はい。念のため前金で○○ポケ頂きます。朝食夕食は付きですね。体を流す場所も簡易的ですがございます」


値段設定は低めだ。

豪勢にしない代わりに成し遂げたものだろう。

探検隊たちが拠点とするには、一時の豪華さよりも安さの方が重視されるのだろうし、薄利多売形式も納得が行く。

拠点のために宿をとる事自体が贅沢なのだ。あたいも、宿をとるのは着いたその日1日限りと決めている。

それだから、豪華にしても入りは少ないだろう。

そして、あたいは安さを重視するポケモンの端くれだ。


「了解。ここに泊まるよ」

キュウコン「かしこまりました。それでは、こちらに種族名をお願いします」

「わかったよ」


あたいは種族名の欄にラランテス、と書いた。

見ればわかるから、嘘はない。

キュウコンは笑顔になって言った。


キュウコン「それでは、お部屋までご案内いたしますね」
 ▼ 7 1◆J44kAZeDOM 17/07/27 21:08:03 ID:4EgavKqU [7/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
通された部屋は、これまた簡素なもので、藁布団は当然として、他にあるものは机ぐらいか。

思いっきり手足を伸ばし、その布団に体を投げ出す。

ダラダラと汗が流れる。それにも構わず、あたいはしばらく眠る。

目覚めると、もう夕方だった。

調査は明日からだな、と決め、今日は旅の疲れを癒すのに専念する事にする。

そろそろ夕食だろうかとあたいは起き上がり、それからキュウコンを探した。

彼女はすぐに見付かった。


キュウコン「あ、ラランテス様、こちらで夕食の用意ができてますよ」

ラランテス「わかった。すぐ行くよ!」
 ▼ 8 1◆J44kAZeDOM 17/07/27 21:08:35 ID:4EgavKqU [8/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
出て来た料理は、素直においしかった。

けれどもなぜか、作り物めいた――元来、作り物ではあるのだが――感覚がした。

建物や営業スタイルとは微妙に食い違うような、少しの豪華さ。あるいは、余所行きとでも言うべきか。

その落差に驚きながら、それでもおいしく完食して、それから周りを見渡す。

たくさんのポケモンで賑わっている。

何匹か、ダンジョン攻略して来たのかボロボロになったポケモンもいる。

まあ、リアトリスの特色を考えれば、当然だろう。

暑さをかこつものは、ぱっと見いなかった。

暑さを超える厳しさを知っているのだろうか。

知っていても、暑いものは暑いのだけれど、彼らは慣れた、とか。

ふと、1匹の♀ポケモンが目に留まった。

どことなく儚げな雰囲気を醸し出す、1匹のマグマラシ。

その表情は沈み、出された料理にもほとんど口を付けていない。

冷静に考えるまでもなく、彼女は気落ちしている。


ラランテス「よっと。邪魔するよ」

マグマラシ「あ、どうぞ」
 ▼ 9 1◆J44kAZeDOM 17/07/27 21:09:00 ID:4EgavKqU [9/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテス「元気ないね、どうしたんだい」

マグマラシ「……ほっといて」


彼女はあっさりと拒絶した。

別に無理してこじ開ける必要もないけれど、少しだけ話をしてみる事にした。


ラランテス「あたいはラランテス。流しの旅ポケモンさ。あんたは?」

マグマラシ「マグマラシ。探検隊ね。最近は休み気味だけど」

ラランテス「ここには長いのかい?」

マグマラシ「まあね。……もう、何か月もいる。なんなら、お手伝いをして安くしてもらってるぐらい」

ラランテス「それは……よっぽどだね」


長期滞在という事は、この近辺のダンジョンに挑んで、そしてやられてを繰り返している、という所か。

そうだとしたら、彼女の苦しみの理由は至極全うな、そしてシンプルなものだという事になる。


ラランテス「あたいは今日からなんだ。この宿は離れるけど、明日以降もこの街に留まるつもりだよ。

      もしまた会う事があったら、よろしくね」

マグマラシ「まあ、よろしく」


彼女は力なく微笑む。

とりあえずはこの程度だろうと見切りを付けて、あたいは部屋へと戻って行った。
 ▼ 10 1◆J44kAZeDOM 17/07/27 21:09:34 ID:4EgavKqU [10/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
簡易的ながら、体を流すスペースがある。滴る汗にうんざりしたあたいは、部屋から出てそこへ向かった。

冷たい湧き水を桶で掬って体を流すと、纏わりつく暑さが少しはマシになったように感じられて、あたいは2度3度と繰り返した。

こうやって体を清潔にする度に、今度は温泉のあるという草の大陸のトレジャータウンの近辺に行ってみようと思うのだが、毎度先送りになってしまっている。

どうせまた後回しになるのだろう、と思いながらあたいは体から水気を飛ばした。

随分爽やかな気持ちで部屋に戻ろうとする途中、マグマラシとすれ違う。

手伝いをしていると言っていた。きっと、それだろう。彼女は、お皿を運んでいた。


ラランテス「お疲れ様」

マグマラシ「どうも」

ラランテス「手伝おうか?」

マグマラシ「ありがとう、でも結構よ。あなたは普通のお客さんなんだし。割り引いてもらうんだからこのぐらい自分でしなきゃ」

ラランテス「そうかい、わかったよ。悪かったね」

マグマラシ「いえ」


そう言うと、彼女は歩き去った。あたいも部屋に戻る。

そのままする事もなく、ぼんやりとした時間を過ごす内に、眠りの世界へ引きずり込まれていった。
 ▼ 11 1◆J44kAZeDOM 17/07/27 21:18:17 ID:4EgavKqU [11/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
○●○

――お前はなんでそうなんだ! なんで言う事を聞かない?!

だって、バトルしよって言われたんです。楽しいも――

――楽しい? そんなお転婆な事が楽しいのか?!

はい。

――そうか、わかった。それなら、お前は――

●○●
 ▼ 12 ムッソ@ボーマンダナイト 17/07/28 17:34:39 ID:uNfk6HF. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 13 1◆J44kAZeDOM 17/07/28 20:43:01 ID:zNsNv50. [1/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌朝の目覚めはお世辞にも快調といえるものではなかった。寝ている間に汗が悲惨な事になっていたのだ。

気持ち悪いったらありゃしない。

なぜか幼いあの頃の日々の夢を見たのも、きっとそのせいだろう。

宿を出る前にもう一度体を流そう。

そう決めて、朝食会場に向かった。

マグマラシはもう食事していた。あたいはその横にどっかりと腰を下ろす。


マグマラシ「どうも」

ラランテス「どうも。いただきます」

マグマラシ「えらくあたしに構いますね」

ラランテス「ん? まあね。気落ちしてるポケモン見たら、ほっとけないんだよ。

      そういうポケモンを何匹も知ってるからね」


脳裏にかつての仲間たちの顔が浮かぶ。彼らは皆、幸せにやっているだろうか。


マグマラシ「ふふ、随分と立派なのね」


彼女は小さく笑って、ごはんを食べるのを再開した。あたいもそれに続く。

やっぱり、店のイメージにはそぐわないが、おいしい。
 ▼ 14 1◆J44kAZeDOM 17/07/28 20:43:57 ID:zNsNv50. [2/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
黙々と食事を続けていると、彼女は食べ終わって、あたいに話し掛けて来た。


マグマラシ「それで、あなたはどこに行くつもりなの?

      リアトリスに来たって事は、ダンジョンでしょ?」

ラランテス「あたいかい? あたいはこの異常な暑さの原因を調べるつもりだよ。

      もともと、宛てもなく旅してるだけ、目的なんかないしね」

マグマラシ「え、暑さの……。なるほど。頑張ってください」

ラランテス「そういうあんたは、どのダンジョンに苦戦してるんだい?」


彼女は少し考える素振りを見せた後、とあるダンジョンの名前を口にした。

聞き覚えはないが、元々地理に明るい訳でもない。

きっと、そういうダンジョンがあるのだろう。後で地図で確認する事にする。


マグマラシ「……水タイプの仲間が欲しいなって。あたしの苦手なタイプに対して強く出やすいし。

      草タイプがベストなんですけど、この近辺のダンジョンの野生にはいないらしくって」


野生ポケモンが、倒すと仲間になりたがる。そんな事例が、結構数多く報告されているらしい。

彼女の狙いはそれだというのか。恐らくそのダンジョンは、水系なのだろう。なるほど苦戦する訳だ。


ラランテス「協力してもいいよ。あたいはあんたのベストタイプだ」

マグマラシ「いえ。文明ポケモンは、既に自分の生き方を持ってるから。

      それが共振したポケモンとじゃないと、あたしはそのポケモンの生活に責任が持てないし」

ラランテス「そうかい。まあ、頑張りな」

マグマラシ「うん」


生き方の、共振。

なかなかない言い回しだけに、なんとなく、彼女への興味が増大した気がする。
 ▼ 15 1◆J44kAZeDOM 17/07/28 20:44:29 ID:zNsNv50. [3/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテス「ごちそうさん。ところで、リアトリスでキャンプを張るなら、どこがいいかわかるかい?」

マグマラシ「あ、それなら……」


彼女は自分の地図を取り出し、それから指し示した。


マグマラシ「ここなんか、わりかし集まってると思いますよ。

      周りに同類がいれば、なんとなく安心できますもんね」

ラランテス「ありがとうね」

マグマラシ「いえ、こちらこそ」


それだけ言うと、あたいと彼女は同時に立ち上がり、それから各々の部屋に向かった。


水浴びをしてから部屋に戻ると、あたいは地図を広げ、この周辺の地理を脳裏に叩き込む。

彼女が言っていたダンジョンは、確かに水系の野生が好きそうな地形で、そこに嘘はなさそうだ。

そんな所で出くわすのも決まり悪いし、調べるにしても後回しだな、と決め、それから暑さの原因を調べるべく立ち上がり、チェックアウトに向かった。


キュウコン「ありがとうございました。お気をつけて」

ラランテス「ありがとうね。マグマラシにもよろしく」

キュウコン「はい」


それだけ聞くと、あたいは宿を出て行った。
 ▼ 16 1◆J44kAZeDOM 17/07/28 20:45:27 ID:zNsNv50. [4/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マグマラシが教えてくれた、探検隊たちが集まるスポット。

そこで幾匹かのポケモンにいろいろと聞き取り調査をしてみた。

その結果わかった事として、ある特定のダンジョンの名前が挙がった。

『終の草原』

物騒な名前だが、炎タイプが集まる地下型ダンジョンらしい。

なぜ終という名前を冠するのかはわからないが、そのダンジョン近辺に行くに従って、暑さが増すのだという。

何組か、そのダンジョンに挑戦中のチームもいて、一緒に行くかと誘われたが、とりあえずは1匹で行く事にした。

そのダンジョンとあたいは相性が悪い。普通に迷惑をかける事になる。

という口実を用い、もし困ったらよろしくね、とだけ言えば、誰も不審には思わなかったようだ。

その実、あたいは別に、相性が悪い程度でやられる程のタマではないし、むしろ周りの方が迷惑になる可能性が高いと考えたのだけれど、気取られるはずもなかった。

トレジャーバックにカクレオンの店で調達したオレンやらエイダーやらの必需品と暑さ対策のオッカを詰め込み、それからあたいは地図を頼りにそのダンジョンへと向かった。
 ▼ 17 1◆J44kAZeDOM 17/07/28 20:46:25 ID:zNsNv50. [5/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
例によって、ダンジョンの周辺は、不穏な気配に満ちている。

慣れているし、怖いとは思わないのだけれど、それでも普通でない事は間違いない。

不可思議な空間がそこに浮かんでいて、それが入口になっているのであろう事は容易に想像が付いた。

そして暑い。熱気が容赦なく漏れ出して来て、あたいを焼く。

預かりボックスの存在を確認しておき、オッカをかじってから、あたいはそこに踏み込んだ。


敵自体はそれ程強くない。

それがあたいの感想だ。

ソーラーブレードを振りかざして、敵をなぎ倒しながら進むと、面白いように倒れていく。

それはあたいの実力にもよるのだろうけど、このダンジョンの特質にも幾分助けられているのもまた事実。

大概はリーフブレードの方が小回りが利くし、便利なのだけれど、ここに限ってはそうでもない。

つまるところ、このダンジョンは、常に陽射しが強いのだ。

それがこのダンジョンを高難度たらしめているのだろうけれど、あたいにとって陽射しが強いのは追い風だ。

眩い太陽を、腕の鎌の先、光の剣に変えて道を切り開く。

不意に背後に気配を感じ、振り返りざまにリーフブレードを叩き込む。


ラランテス「背後を取ろうだなんて、しゃれた事を考えるもんだね」


リーフブレードをもう一太刀浴びせ、そいつは倒れ伏した。

PPを節約しても問題ない程度だ。

リーフブレードを急所に当てる事において、あたいの右に出るものはいないだろうと自負している。
 ▼ 18 1◆J44kAZeDOM 17/07/28 20:47:24 ID:zNsNv50. [6/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そうこうしている内に、ダンジョンの最奥部に簡単に辿り着いてしまう。

何が待っているのだろうか。暑さの原因は、シンプルにここにあるのか、それとも否なのか。

はたして、そこにいたのは1匹のロコンだった。

まだ幼く、ダンジョンの最奥部にいるにしては、いささか威厳に欠ける。

けれど、彼は、その小さく真っ赤な体躯で、こちらを威嚇する。


ロコン「帰れ!」


シンプルだ。全く焦る事もなく、あたいは言葉を返す。


ラランテス「そりゃ性急過ぎやしないかい?」

ロコン「黙れ!」

ラランテス「単語でしかしゃべれないのかい?」


彼は、こちらに向け、かえんほうしゃを飛ばした。

あたいはそれを、俊敏に回避する。

さしずめダンジョン最奥部特有の、話を聞かない主ポケモン、それがこいつ、ってとこか。

それにしては幼いような気もするけれど、そう考えるのが一番しっくり来る。

執拗な攻撃を回避しつつ、陽射しの力を鎌から放つ。

威嚇射撃だ。なるべくなら、話せる主個体とは穏便に解決を付けたい。

攻撃を受けた壁が、悲惨な程に崩れ去っていた。

ロコンはぎょっとしてそちらを見やる。

その隙に、あたいは一気呵成の勢いで距離を詰め、シザークロスを彼ののど元に突き付けた。


ラランテス「どうだい、まだやるかい?」
 ▼ 19 1◆J44kAZeDOM 17/07/28 20:48:10 ID:zNsNv50. [7/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロコン「くっ……強いな、お前。だけど、口元が自由だぜ!」


ロコンは口元に火を溜める。それが放たれる前に、あたいは鎌を振り上げ、彼の首を跳ね上げる。

炎が上を狙って飛んで行き、それからあたいは、反射的に光を集め、それを振りかざした。

ロコンはあっという間に体力をほぼ全て持っていかれたらしく、どさりと崩れ落ちた。


ラランテス「……やっちまったよ。早く事情を聞き出して、こんな暑いとこからおさらばしたいってのに」


気絶した彼を、草タイプでありながらおぶっていく事は、なかなかに難しいだろう。

何せ、燃えるように熱いのだ。だから、彼が起きるまでは、移動もできない。

うんざりとため息を吐いて、あたいはなるべく早く要件を済ますべく動いた。

彼にプチ復活のタネを渡し、意識を取り戻すまでただ待つのは、なかなか骨が折れる作業だった。
 ▼ 20 1◆J44kAZeDOM 17/07/28 20:49:06 ID:zNsNv50. [8/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロコン「う、うう……」

ラランテス「ようやくお目覚めかい?」

ロコン「あっ、お前っ!」

ラランテス「勝者はあたいだよ。言う事を聞きな」

ロコン「……わかった」

ラランテス「とりあえず、付いて来な。暑くてたまらないよ、まったく」


既に滝のように流れる汗を拭うと、あたいはロコンを連れ、ダンジョンを脱出した。

清涼な風があたいを冷ます。

じりじりと照り付ける陽射しは、やはりあたいを焦がすけれど、ダンジョンの中に比べるとはるかに涼しく、あたいは思わず深呼吸をする。

ロコンは、大人しく付いて来ていた。


ラランテス「さて、いいかい?」

ロコン「なんだよ」


ふてくされたように、それでも話を聞く気はあるようだ。

ありがたい。


ラランテス「あのダンジョンの付近が、異様に暑いんだ。

      あのダンジョンの主のあんたなら、なんか心当たりがあるんじゃないかい?」
 ▼ 21 1◆J44kAZeDOM 17/07/28 20:50:07 ID:zNsNv50. [9/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロコン「へ、主? 僕が?」

ラランテス「ん? どういう事だい?」

ロコン「僕は……主なんかじゃない」

ラランテス「へぇ、じゃあなんだってあんなとこにいたんだい」

ロコン「どうだっていいだろ! 暑さには関係ないんだから!」


あたいは、しばらく無言を貫く。脳裏に、ふと閃くものがあったのだ。

思考が、あたいの中を渦巻き始める。

ダンジョン突破にかかった時間は、確かにそう長くはないだろう。でもだからと言って、こんな真昼のような太陽の照り付け方は間違いなくおかしい。そろそろ夕方に差し掛かるような時間のはずだ、そして目の前にいるのはロコン特性はひでりだとするとこの天気は納得がいく陽射しが強い状態だそしてそれにより炎技は強くなる終の草原はもともと陽射しが強いにしてもさらに強固なものになるとするならば……

あたいは少し息を継ぐ。それから、仮説を打ち出した。

こいつの存在が、暑さを誘発している、とは考えられないだろうか。


ロコン「おい、なんだよ急に黙り込んで」

ラランテス「主じゃないとするなら、元はあのダンジョンに住んでいる訳じゃないんだろ?

      いつからあそこにいたんだい?」

ロコン「こないだだよ」

ラランテス「特性はひでり、違うかい?」

ロコン「……違わない」



彼の目が泳いだ。それはつまり、そこが弱点であるそしてひでりが弱点なのだとするとこいつはひでりを利用してダンジョンに影響を及ぼしたわかっててやったんだこいつはだとすると……

いや、よそう。結論を出すにはまだ早過ぎる。あいつも言っていた。先入観は何も生まない。
 ▼ 22 1◆J44kAZeDOM 17/07/28 20:51:15 ID:zNsNv50. [10/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
とりあえず、こいつが取るべき行動を考えて、それを口に出そうとする。


ラランテス「とにかく。まずは家に帰る事。それから……」

ロコン「家なんて、ない」


しかし、彼は強く遮った。一瞬の後、あたいは提案していた。


ラランテス「……それなら、あたいと一緒に来るかい?」

ロコン「嫌だ! 僕の家は、あそこなんだ」

ラランテス「ふうん。まあ、好きにしな。ただし、誰にも迷惑は掛けない事。いいね?」

ロコン「わかってるよ。誰とも会わないのに、迷惑なんて掛けられないだろ?」


崩せるものならこの論理を崩してみろ。そんな態度が透けて見えた。

崩す事自体は可能だろう。けれど、証拠はない。一度引いて、情報収集に徹するのが一番だろう。
 ▼ 23 1◆J44kAZeDOM 17/07/28 20:53:02 ID:zNsNv50. [11/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたいは撤退すると、キャンプ地から少し離れた誰もいないスペースに陣取る。

そして、テントを張り、体を投げ出す。

ああ、旅の宿での水浴びが懐かしい。事件を解決したら、絶対に温泉に行く。

とりとめもない事を呟いてから、あたいはリンゴをかじる。

そしてしばらく思考を巡らせた。ただし、集中のし過ぎは避けて。

あたいには、観察してそれを脳内で推論の形に練り上げる時に、この世の全てから解放されたかのように考え続けるクセがある。

漏れていた独り言こそ、あの事件以来なくなったけれど、それでも思考癖は止まらなかった。

それを、少し控えめにしておく事にする。

あの思考は、結構体力を使うのだ。それを、今日は2度もしてしまった。

次やったらたぶん、明日、活動できない。

一旦全ての先入観を取り外し、事実だけに着目する事にする。

あいつと離れた今、あたいはそれを、1匹でしないといけない。


起こった事。ロコンが終の草原の奥地に侵入した。これがこの間。

急にリアトリス付近が暑くなった。これもこの間。

以上、これだけ。

確定している事実。終の草原の暑さは異常だ。リアトリスにまで影響を及ぼしても不思議はない。

ロコンの特性はひでりだ。

終の草原の陽射しが強い状態は元々かもしれないが、それでもさらに酷くしたという事は……いや、これは推測だ。

となると、事実もこれだけ。

ロコンの証言。僕に家はない。あのダンジョンには最近やって来た。

駄目だ、これ以上先に進める気がしない。

とりあえず、寝よう。疲れを取るのが先決だ。

……もっとも、暑くて到底寝られたもんじゃないけれど。
 ▼ 24 1◆J44kAZeDOM 17/07/28 20:53:46 ID:zNsNv50. [12/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
○●○

バトルは、楽しい。

どうして、わかってくれないのだろうか。

お父さんは、凄く厳しい。あたしに、もうお婿さんを見繕おうとしている。

それは、自分の家のため。そのためには、あたしには望むようなたおやかな少女であって欲しいのだろう。

幼心に、そんな事を考えた。

自然と涙が零れて来る。

――わかったよ。もう、出て行ってやる!

そんな決意を叫び、あたしは家を飛び出した。

●○●
 ▼ 25 1◆J44kAZeDOM 17/07/28 20:55:02 ID:zNsNv50. [13/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
目覚めは最悪だ。汗で体がギトついている。

不快感で、まだ暗いうちから目覚めてしまう。これは予定を変更して、宿に泊まるべきか。

昨日も暑かったが、屋外と屋内では天と地だ。夢も割と核心に迫っていたし。

しばらくあのダンジョンに潜るのはやめて、今日はとりあえず、さっぱりと体を流したい。

――水系ダンジョン、となると、マグマラシの言っていた、あそこしかない。

敢えて水技を受けながら進むのも悪くない。そう思える程に、この街の暑さは異常だ。


で、やって来てしまった訳だけど。

マグマラシの言う、水系ダンジョン、ビギニングレイク。

ビギニング……始める。終とは対になっている。

自分で考えた事で少しだけ体感温度を下げた後、あたいはそのままダンジョンに突入した。

そして、水技を敢えて食らいながら、楽々、けれどゆっくりと進んで行く。

相性がいいダンジョンというのは、やはり楽だ。

攻撃を受けても、それこそダメージも薄い。

歯ごたえは、さっぱりなかった。

けれど、そう感じるのはあたいぐらいなものだろう、という事も、またわかってしまう。

そして、捜せばいるはずのマグマラシ。ゆっくり歩いていたにも関わらず、彼女はいなかった。

偶然かもしれない。けれど、どうしてか、そこに違和感がある。

本当に彼女はここに来て仲間探しをしているのだろうか。それとも、昨日偶然進展した?

体はさっぱりしたが、もやもやと割り切れないものが残った。
 ▼ 26 1◆J44kAZeDOM 17/07/28 20:56:04 ID:zNsNv50. [14/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
収穫を預かりボックスにしまった後、あたいは再び宿へと向かう。

それにしても、あのキャンプ地のポケモンたちは、このうだるような暑さにどうやって耐えているのだろうか。

そんな事を思いながら、キュウコン相手に再びチェックインを済ませた。

キュウコンは、そんなあたいに何も訊かずに仕事に戻る。

プロなのだろう。彼女は自分の仕事に、紛れもなく誇りを持っている。

キュウコンという種族に対して、あたいは少し思う所があるのだけれど、今のこの態度を見るに、杞憂だろう。

別の部屋に通されたが、まずあたいは休憩もそこそこにマグマラシを捜し始めた。

間違いなく、ここにいるはずだ。手伝っていたのはまごう事なき事実なのだから。


彼女とは、残念ながら、食事時までに出会えなかった。

けれど、食事の時には再び会えたので、あたいは質問をぶつけた。


ラランテス「今日、ビギニングレイクに行ったよ」

マグマラシ「え、そうなんだ」

ラランテス「あんたはいなかった。これは、偶然かい?」

マグマラシ「ああ、まあ」


曖昧に頷く彼女。けれど、あたいは言葉を続けた。


ラランテス「嘘だね。仲間探しは、こんなダンジョンでやらなくても、もっと他に楽な場所があるはずだよ」
 ▼ 27 1◆J44kAZeDOM 17/07/28 20:56:50 ID:zNsNv50. [15/15] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マグマラシ「……だったらなんだって言うのよ」

ラランテス「わからないよ。ただのヒマなポケモンのお節介さ。けど、なんかあると見たね」

マグマラシ「……まあ、そうだと仮定して、なんかって何?」

ラランテス「さあね。なんにもないなら、あたいの愚痴、聞いてくれるかい?」

マグマラシ「は、はぁ。まあいいけど」


特に深い考えがある訳でもなく、ただただ悩ましい事を吐き出したかった。

白状すると、こっちも腹を割って話せば、向こうもそうしてくれるかもという淡過ぎる、願望にもみたないような空想はあったのだけれど。



マグマラシ「そう、ロコン君が……」


あたいの話の途中、彼女はそう呟いた。


ラランテス「ん、知ってるのかい?」

マグマラシ「あっ……まあ、うん」

ラランテス「……えっ、ほ、本当に?」

マグマラシ「だから、うんって言ってるでしょ! あの子は、ここの子なの!」


マグマラシが叫び、それから周りの視線がこちらに向いた事に気付いたのか、彼女は赤面する。

がしゃんと、派手な音が響いた。キュウコンだ。皿を落としたのだろうか。


マグマラシ「……来て。事情を説明する」


彼女は強引に、あたいを引っ張っていく。

夕食にはほとんど手を付けていないが、仕方がない。

諦めて、あたいは彼女に付いて行った。
 ▼ 28 1◆J44kAZeDOM 17/07/29 22:17:44 ID:w8o46q8w [1/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







2章 燃える命






 ▼ 29 1◆J44kAZeDOM 17/07/29 22:18:19 ID:w8o46q8w [2/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
リアトリス。難易度の高いダンジョンが近辺に集まっている事で有名な街。

そこに足を踏み入れたあたしは、とりあえず翌日のダンジョン探索に向けて体を休めるべく、宿を探した。

そして発見したのが、旅の宿だった。

おかみさんから店についての詳細を聞いて、あたしは一も二もなくこの宿に滞在する事を決めた。

良心的な値段設定が、主な理由。それ程裕福な訳ではないあたしにとって、格安で居心地のいい寝床を提供してくれるこの宿は、救いの神だった。

我ながら情けないなぁと思いつつ、それでも突き付けられる現実から目を背ける訳にも行かず、あたしは部屋の藁布団に寝転んだ。

ここにいられる期間は、長くて一週間。

あたしはもうフリーで、ギルドに所属している訳ではないが、探検隊連盟に納めなければならない預かりボックスの利用料を鑑みるに、これが限度だ。

これを過ぎると、財布が限界を迎える。

頭を悩ませる現実的な問題を無理に追いやって、まずは街を探索する事にした。
 ▼ 30 1◆J44kAZeDOM 17/07/29 22:19:09 ID:w8o46q8w [3/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
全国展開のカクレオン商店、その近くにある預かりボックス。

ガルーラのカフェの場所も確認した。それから連結店は、デンヂムシがやっている。

探索に必要な施設を確認し、それから街のポケモンたちから情報を聞き出す事にする。

この街の付近にいるというお尋ね者、ドーブルを探し、逮捕する事が今回の目的だ。

そのポケモンにまつわる情報は、やはり欲しい。どこかのダンジョンに潜伏しているとの事だが、どのダンジョンなのかの特定には至っていないらしい。

警察には、もっとしっかりして欲しいものだ。場所ぐらい特定してくれよ、と。

そんな厄介な案件に首を突っ込んだのは、ひとえに報酬の金額が魅力的だったから。

金金金。憧れてなったはずの探検隊ではあるけれど、いつの間にやらこうしてお金に追われる毎日。

夢を叶えている。だから、文句は言ってはいけない。

けれど、思い描いていた理想と現実の狭間で、どうにもやるせない思いがあたしを巡るのだ。
 ▼ 31 1◆J44kAZeDOM 17/07/29 22:20:25 ID:w8o46q8w [4/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
たくさんの探検隊のためのベースキャンプとなるスポットへやって来た。ごちゃごちゃと乱雑な空間。

来るつもりはなかったが、街全体を歩こうとしている内に、いつの間にか紛れ込んでいた。

ここのポケモンに訊いても、恐らく答えは帰って来ない。

探検隊は、自らの手柄を欲しがるからだ。知っていても、隠される。

そして、依頼をこなし、報酬を受け取るのだ。

さっきのやるせなさが、どんどん強まり、あたしを苛む。

誰かのため、の行動ではない。そこに、無償の善意はない。

あるのは、自らの生活。その現実。お金を稼がない事には、暮らしてもいけない。

ため息を吐いてから、踵を返してあたしは、沈んだ気持ちで街の中心部を目指そうと歩き出した。

その時だった。


「お姉さん、探検隊なの?」


呼び声に、あたしは思わず振り向いて、それからその姿を認めた。

あどけなさを残す顔でしかし、いたって真剣にあたしに近付いて来たそのポケモンは、あたしが黙り込んだのを見て、再度問いかける。


「探検隊なの?」
 ▼ 32 1◆J44kAZeDOM 17/07/29 22:21:40 ID:w8o46q8w [5/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
真意を計りかねながらも、あたしは首肯する。


「ええ、そうよ」

「凄いね! 誰かを助けたり、できるんでしょ? かっこいいよ!」

「ありがとう」


現実は、そうでもない。けれど、わざわざこのあどけない理想を壊す事もないだろうと、あたしは曖昧に頷いた。

そして、それから疑問に思う。


「でも、なんであたしに声を掛けて来たの?」

「……1匹なんだもん。しかも♀だよ? ♀でもやって行けるんだよね。それって、凄く強いって事でしょ?

それに、お姉さん、炎タイプだもん。

僕も炎タイプだから、戦い方を教えてもらおうと思って」


「ごめん。期待に添えるとは思えないな」


悪いとは思うが、あたしは即座に断った。

事実なのだ。誰かに教える、だなんてたいそれた事、あたしにできるとは思えない。

確かに♀の探検家は多くはないし、いたとしたらそれはかなりの実力派だ。

けれど、あたしは、どうだろう。弱くはないのだけれど、強さはない。負けない戦いに徹しているだけだから、あまり戦闘スキルは鍛えられないのだ。

それでなくともあたしは今、お財布が際どい所で、誰かを鍛える時間があるとも思えない。


「えー、そんなぁ……」


落胆の表情に、申し訳ない気持ちがあたしを襲う。
 ▼ 33 1◆J44kAZeDOM 17/07/29 22:22:13 ID:w8o46q8w [6/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
と、ふと閃くものがあり、あたしはそれをそのまま口にする。


「でも、探検隊のお手伝いならしてもいいよ。その中で、あたしの戦い方、見せてあげられるかも」

「ホント?!」


ついでに雑用を押し付けよう、という魂胆にも気付かずに、無邪気にはしゃぐ。

そんなこの子と比べて、あたしはなんと汚れてしまったのだろうか。


もちろんそんな感慨はおくびにも出さず、あたしは行動を開始した。

情報が足りていないなら、何はともあれカフェに集まるポケモンから聞き出すのが一番だ。

一度スルーしたのはただもっと街の詳細を知りたかっただけで、一番のアテは初めからここだった。


「いい? 探検隊ってのはね、まずは情報を集める事が大事なの。戦うだけじゃないのよ」

「へー、大変なんだね」


ええ、大変よ、それはもう。

皮肉的な思考を隠したまま、あたしは店主のガルーラに声を掛ける。


「すいません」

ガルーラ「なんだい?」

「こんなお尋ね者を探してるんですが……心当たりはありませんかね」


お尋ねものポスターを見せながらあたしは尋ねた。

ガルーラはしばらく見て、かぶりを振る。

けれど、このカフェチェーンの店主は漏れなく気風がいいという法則があり、あたしはそれに頼るつもりだった。
 ▼ 34 1◆J44kAZeDOM 17/07/29 22:23:12 ID:w8o46q8w [7/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
事実、彼女は笑って言った。


ガルーラ「でも、あたしもいろいろ聞いてみるよ。もし何かわかったらあんたに教えるから、明日また来てね」

「ありがとうございます。あ、コーヒーと……なんか飲む?」

「あ、いいんですか? じゃあ、モーモーミルクください」

ガルーラ「あいよ。コーヒー、味はどうする?」

「ミルクたっぷりめ、砂糖はなしでお願いします」

ガルーラ「了解。ちょっと待っててね」


その後カフェの客に対し聞き込みをさせた後(顔を知られているこの子は、都合がいいのだ)、僕バトルがしたいというのをモーモーミルクで塞いで、あたしはカフェを出た。
 ▼ 35 1◆J44kAZeDOM 17/07/29 22:23:52 ID:w8o46q8w [8/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ねえ、ここに泊まってるの?」


宿のすぐ近く、この子はそう訊いて来た。

頷いて答えると、うーんと唸る。


「どうかしたの?」

「……僕、ここの子どもなんだよね」

「えっ」


思わず声が漏れる。

この子が、ここの……。

だが、そう言われて、納得もした。おかみさんの子どもとして考えても差し支えのない種族だからだ。


「そうなんだ」

「うん。……どう、うちは」

「え、いや、まだ正直わかんないよ。お財布には優しいけど、滞在時間まだ10分ぐらいだもん」

「そっか。ま、いいや。帰ろ!」


笑顔を浮かべる。けれど、その顔には、どこか無理が滲んでいるように見えた。
 ▼ 36 1◆J44kAZeDOM 17/07/29 22:24:44 ID:w8o46q8w [9/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
宿の中で別れを告げ、あたしは自室に戻る。

それからしばらく目を閉じて、休んでいた。

扉を叩く音で目が覚める。


「おーいお姉ちゃん、ごはんだよ」


あの子の声だ。いつの間にか、あの子の中で、あたしはお姉ちゃんになっていたらしい。

ふらふらと立ち上がって、扉を開いた。


「ここのごはんは、ママが作ってるんだよ」

「そうなんだ。1匹で?」

「うん……」


誇ってもいい事実。けれど、この子はやはり、苦しげだった。


「忙しいんだね、お母さん」

「うん」
 ▼ 37 1◆J44kAZeDOM 17/07/29 22:25:58 ID:w8o46q8w [10/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
確信した。この子の抱える問題は、ここだ。

忙しくて、構って貰えない。だから、見ず知らずの探検家のあたしに声を掛けて来た。

ありがちな悩み。けれど、子どもにとっては極めて切実。

けれど、もうひとつだけ、疑問が残る。そう簡単に、当のこの子にそれをぶつけるのはできないけれど。


「よし、じゃあ行こうか。ごはん、どうするの?」

「お姉ちゃんと食べる!」

「そっか。で、どこ行けばいいんだっけ」

「こっちだよ」



いただきます、と揃って挨拶し、それからごはんを食べ始めた。

うん、おいしい。この料金でこのクオリティなら、及第どころかかなり素晴らしいのではないだろうか。

あたしも結構料理は上手い方だが、どうしても少し、外向きになってしまう。

母親が作ってくれるような料理が理想なのだけれど、あいにくあたしのお袋の味は、複数匹で食べる、外向き寄りな味なのだ。


「おいしい?」

「うん。ところで、ちょっといいかしら。

なんで、あたしに声を掛けたの?」
 ▼ 38 1◆J44kAZeDOM 17/07/29 22:27:08 ID:w8o46q8w [11/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
じっとあたしを見詰める目に、少し照れて、微笑む。

その目に映るあたしは、だいぶん疲れていたけれど、まっすぐな視線が、今は心地よかった。


「強く、なりたいんだ。そしたら、もう、迷惑を掛けないで済む」

「迷惑」

「うん」


その言葉には、迷いがなかった。

あたしは、質問を続ける。


「それって、どういう事?」

「……なんでそんな事訊くの?」

「だって、強いってもろはのずつきよ。間違った使い方をすると、何か大事なものを壊しちゃう事もあるから。

だから、なんで強くなるのか。それを、しっかり考えないといけない」


事実、そういうお尋ね者を、あたしは何匹か知っている。

彼らは一様に、「弱いのが悪いんだ」と言っていた。

目の前に意識を戻し、続く言葉を待つ。

その口から出て来た言葉は、やっぱりというかなんというか。


「だって、僕が弱いから、ママが忙しく働かないといけないんだ」

「強くなって、ママを助ける、か。だけど、助けたいだけなら、お手伝いした方がいいんじゃないの?」

「……でも、お手伝いだけじゃ、いつか足りなくなっちゃうよ」
 ▼ 39 1◆J44kAZeDOM 17/07/29 22:27:56 ID:w8o46q8w [12/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「足りない? どういう事?」

「だって、もし僕が手伝ったら、ママは、もっと仕事できるようになる。そしたら、もっと忙しくなる」

「……なるほど。だから、強くさえなれば、自立して、忙しい思いをさせなくても済む、か」

「そう……なんだ」


純粋な善意。そう見える。

けれどあたしは、気付いてしまった。

自立。この単語に、この子はたじろいだ。

もっとも、あたしはドヒドイデじゃない(ドヒドイデに失礼かもしれないけれど)。

親の気を惹きたい子どもに、現実を突き付ける必要もなかった。


「いいよ。戦い方、教えてあげる。ただし、あたしも別に凄く強い訳じゃないから、そこだけは勘弁ね」

「うん!」


うんて、ここで言われると何気に傷付くな……。
 ▼ 40 1◆J44kAZeDOM 17/07/29 22:29:33 ID:w8o46q8w [13/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ごはんを食べ終わり、炎タイプなので汗を流す事もないまま自室に戻る。

あの子は、おかみさんとしばらくいるとの事だ。怪しまれないようにという所か。

ごろりと横になりながら、あの子にどう指導しようか考えていた。

まずは、技を確認する所からか。

いや、でも大事なのは、負けない事だ。

ダンジョン攻略においての目的は――あたしの持つ戦い方は、ダンジョンを突破する事だけだから、教えられるのもそれだけになる――意識を失わず、最終フロアを突破する事なのだ。

敵を殲滅する必要は一切ない。

それを思うと、まずは敵の攻撃を回避する事を指導するべき。そう結論付ける。

わからないけれど、特性がもしもらいびなら、あたしの攻撃を無傷で受けきれるはずだ。

違っても……半減だから、それ程悲惨な目には遭わないはず。となると、練習でミスし、食らっても大丈夫だろう。

両方の特性を持っている可能性もなきにしもあらず。1匹で2つ特性を持っているポケモンも、多々いる。

まずは、うん。あたしのかえんほうしゃを回避する練習だ。話はそこから。


「お姉ちゃん、起きてる?」


部屋の外から声が聞こえた。あたしはそれに答えて言う。


「起きてるよ。さ、練習行くよ。で、どこ行くの?」
 ▼ 41 1◆J44kAZeDOM 17/07/29 22:31:46 ID:w8o46q8w [14/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
案内に従って、ポケ気のない広場にやって来た。

確かにバトルの練習にはもってこいだ。


「まずは、攻撃を避ける事! ダンジョン探索では、勝つ事より負けない事を意識した方がいいから、回避の練習をするよ」

「はーい」

「まずは、あたし、かえんほうしゃを撃つから、回避して。あ、あなたって、特性もらいび?」

「もらいびもあるよ」


よかった。ベストだ。

あたしは容赦なくかえんほうしゃを撃つ。

この子は、唐突なあたしの攻撃を回避しきれず、炎に呑まれる。


「ちょっと! いきなり酷いよ!」

「敵は、今から攻撃するなんて言ってこない。いつ攻撃するかは、わからないのよ。

それでも、なるべく直撃は回避して、ダメージを最小限に抑えるのが目的。

そもそも、もらいびならダメージないでしょ? それがわかってていきなりやってるの。

どうする? やめる?」

「やめるもんか!」

「そう。それじゃあ、まずは遠距離から。かえんほうしゃのいいとこはね、長距離まで届く事。

ねっぷうと合わせて、炎タイプには必須級の技だと思うわ」

「へえ」


ねっぷうは高い買い物だったけれど。ワイワイタウンのハイテンションな店主の顔を思い出し、少しうんざりする。

そんな鬱憤を晴らすかのように、かえんほうしゃを撃った。

この子はビクリと身をよじらせ、飛び上がろうとした瞬間に炎に呑まれた。

回避しようとした。もう、あたしの攻撃に反応した。しきれてはいないけれど、それでもしようとした。

この子、ひょっとして凄い? 頬を膨らませている様子からはそうも見えないけれど、なかなかに鍛えがいがあるのかもしれない。
 ▼ 42 1◆J44kAZeDOM 17/07/29 22:34:01 ID:w8o46q8w [15/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「僕も攻撃したいなー」

「PPの節約って事も考えて、攻撃は控えて行った方がいいから」

「……なるほど」


これが、あたしの戦い方。これで、生き残って来た。

Aランクのお尋ね者を倒せる程度の実力はあるけれど、あたしの真価は、ひとえにこの回避能力に集約される。

一度、つばめがえしを回避し、周囲から目を丸くされた事がある程なのだ。

それもこれも、あたしの育ちに由来する。誰かの顔色を窺う機会が多かったあたしは、無意識のうちに、敵の攻撃の軌道を読む能力を磨いていた。


「試しにさ、あたしになんか、技撃ってよ。どんな技でも避けてみせるよ」

「え? うーん……ひのこ!」


軌道が丸見えだ。造作もなく、あたしは避けた。


「凄いな……」


あたしは、反撃とばかりに口に火を溜める。

この子は、一瞬で警戒色を強め、あたしが攻撃する前に、横っ飛びを決めた。

あたしは虚無な空間に炎を浴びせかける羽目になる。


「どうだ!」

「え、す、凄いんだけど普通に。え、もう?」

「そりゃ、2回も見ちゃったらね。なんとなく、攻撃しそうだなって」
 ▼ 43 1◆J44kAZeDOM 17/07/29 22:34:28 ID:w8o46q8w [16/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
なかなかに凄い。あたしも確かに、「見る前に避ける」の境地にはいる

。けれど、この子は既に、その片鱗を見せているのだ。


「そう。その感覚が大事。でもね、気付いている事に気付かれちゃ駄目。

あたしは手加減してるから軌道は変えなかったけど、もし普通の敵なら軌道を変えちゃうから」


手加減。またの名を、油断。もしかしたら、少しレベルを上方修正した方がいいかもしれない。

素直にうなずいてから、今度もあたしを凝視し、攻撃の気配がない事を確信してか笑顔になる。


「はーい」

「それじゃ、今日はここまで。じっくり休むのも大事だからね」

「はーい」
 ▼ 44 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:03:02 ID:YnPfAA9. [1/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌日。朝食を食べて、あたしは再び2匹で情報収集に出かける。

まずはガルーラのカフェ。だが、情報はない。

それからもスカ続きで、進展らしい進展は何もなかった。

宿に戻り、あの子と別れると、おかみさんが声を掛けて来た。


「あの、すいません。少しよろしいでしょうか」

「え、あ、はい」

「うちの子を、ありがとうございます」

「いえ、こちらこそ。お子さんの顔の広さは、正直凄く役に立ってますから」

「うちは、いろいろな方と交流がありますからね。

街をあげてダンジョン探索の協力をしているもので、この街では宿や商店などが有機的に絡まなければなりません」

「そう、だから」


続く言葉は、だからあの子は顔が広いんだ。けれど、言う前におかみさんは頷いた。


「ええ。ところで、あの子からも聞いています。バトルを教えてくださっているんですって」

「ああ、せがまれまして。でも、あの子、凄く筋がいいですよ」



奇妙な沈黙が流れる。何かマズイ事を言ってしまったのか、と焦り始めた辺りで、彼女は言った。


「あの、不思議に思いませんか? どうしてうちの子は……」
 ▼ 45 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:04:08 ID:YnPfAA9. [2/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
彼女が何を言っているのか、あたしには心当たりがある。

けれど、デリケートな問題なのだ。あたしが、土足で踏み荒らしていい領域じゃない。


「思いますよ。だけど、それは、あの子の方から言ってくれるか、最後までわからないか。

もしあたしたちが、上手く共振したら教えてくれるだろうし、しなかったら教えてもらえない。

当のあの子以外から聞くのは、なしだと思ってます」

「そう、ですか」

「はい。あの子は、あたしが鍛えます。少なくとも、滞在できるリミット、一週間は」

「あの、すいません。もう少し、あの子のそばにいてくださいませんか?」

「……厳しいです、すいません。お金が……」

「でしたら、割り引きます。あなたなら、あの子を救える気がします」


割引。それは嬉しい。けれど、それで期間を伸ばすと結局出費がかさむ。

けれど、どうしてか、断りがたかった。

そして、救う。大仰な物言いだが、やっぱりあの子には、何かあるのだ。

あたしは、彼女のテストに――子どもの心に踏み込むための試験に合格したらしい。


「……いくらになるんですか?」

「……8割引き、でどうでしょう」

「了解です」
 ▼ 46 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:04:53 ID:YnPfAA9. [3/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
即答だ。我ながら情けない。けれど、ないものはないのだ。

5分の1なら単純計算で5週間滞在可能になる。この辺の仕事を取れば、さらに期間は伸ばせる。


「あ、ありがとうございます」


少しだけ呆れたような表情。そのすぐ後、彼女は笑い出した。


「凄く、正直な方なんですね」


あたしは、赤くなって恥じ入るしかなかった。


「いえ、そういう方の方が、いいんじゃないかと思いまして」

「はぁ……。ご期待に副えるかはわかりませんが、頑張ります」

「お願いしますね」
 ▼ 47 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:05:39 ID:YnPfAA9. [4/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ママと何の話してたの?」

「もっとここに長くいられるよ、あたし」

「ホント?!」


部屋に戻って、やって来たこの子と会話を交わす。

純粋な笑顔に、あたしはそれでも疑念を抱く。

この裏に、どのような決意が潜んでいるのか。

それと向き合うのも、悪くない。お金に踊らされるあたしの、これは意地だ。


「じっくり調査もできるしね」

「また調査ぁ?」

「そりゃ、間違った情報に踊らされて無駄な消費をしない方がいいもの。

難しいダンジョンの攻略って、お金かかるのよ?」

「……だから強くなった方が」

「お腹減ったりPPなくなったり。どうしようもない出費ってのはあるものなの。

どっちもちゃんとできるのが、優秀な探検隊よ。

ま、あなたは強くなりたいだけかもしれないけどね」

「まあいいや、ごはん食べに行こ!」

「だね」
 ▼ 48 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:06:24 ID:YnPfAA9. [5/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
夕食後、母親からの公認を得て、堂々とあたしの部屋にやって来た。

食べてすぐに運動するとお腹が痛くなるとしばらく待たせ、その間にたわいもない話をした。

学校での彼はどんな調子なのか。(この子は、学校に通っているのだ。夏休みだから気付かなかったけれど)

好きな勉強は何で、嫌いなのは何か。

学校生活に関しては、たわいもない、の一言で片付けられる。勉強がそんなに好きでない、わかりやすい小学生の♂。

問題こそ潜んでいるけれど、それを周りも受け入れているらしく、平然とその生活を享受しているらしい。


「お姉ちゃんは、なんで探検隊になったの?」


色々聞き出そうとするあたしに対しての、当然の帰結ともとれる質問。

純粋な好奇心に触れ、あたしは話し始めた。


「あたしはね……」
 ▼ 49 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:06:54 ID:YnPfAA9. [6/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
生まれた時から、両親はいなかった。

ダンジョンのど真ん中、あたしは置き去りにされていたのだ。

なんで生きているのかって、探検隊が拾ってくれたから。

そのままあたしは、そのギルドに引き取られたの。

みんな優しかったよ、幸せな事にね。

だけど、気付いてた。あたしの本当の親は、ここにはいない。そしてそれは、おかしな事なんだって。

誰も、そんな事は思ってない。それはわかってて、でもあたしは、気になった。


――本当にみんな、あたしのためにこんなに親切にしてくれていいのかなって。


こっちからも気を遣って、みんなの手伝いをして、迷惑にならないようにって頑張って。

そうやって、ずっと空気を読んで暮らして来た。

だからね、あたしの回避能力の高さは。ずっと、周りばっかり気にしてたから。
 ▼ 50 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:07:28 ID:YnPfAA9. [7/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「とにかく、みんなの純粋な善意は、あたしの憧れなの。だから、探検隊になった。

他の生き方もあるよって教えてくれたし、学校も通わせてもらった。だけど、やっぱり、憧れたのは、探検隊だった。

なんて、ちょっと難しいかな?」

「へぇ……」

「君が羨ましいよ。お母さん、君の事、すっごい気にしてくれてたよ?」

「え?」

「親、いないから」


黙り込んでしまう。

これで、あたしの境遇は終わりだ。会ってみたい、とは思わないけれど、時折親というのはどんな生き物なのか、興味が湧く。

その程度の過去だが、子どもの心を開くには、充分過ぎると踏んでいた。

今すぐに、とは言わない。じっくりと、時間を掛けて、あたしを信頼して欲しかった。


「ま、それはいいや。特訓、始めよ」
 ▼ 51 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:09:07 ID:YnPfAA9. [8/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
結果として、あたしの技は、もうほぼ完璧に回避されるようになっていた。

あたしの思った通りというかなんというか、やっぱりこの子には、才能がある。

あたしと同じ、回避の才能。周囲の空気を読み過ぎるあたしが身に付けた、特技。

ここにも、裏が見え隠れする。


「もういいよね?」

「ええ、そうね。次のステップに進もうか」


まだまだ時間に余裕はあった。今日についても、これからしばらくについても。

ゆっくりでいい。その余裕が、あたしにゆとりを生んでいた。


これから数日、あたしはこの子を連れて調査したり技の出し方を特訓したりと濃密な時間を過ごした。

本職の方の成果はなかなか上がらないのが、残念と言えば残念なのだが。

お尋ね者は、まだのうのうと活動しているはずだ。

余程隠れるのが上手いらしい。


「ねえ、この街に隠れ家っぽいとこってないの?」

「あるにはあるけど……捜してないと思ってるの? もう2回は案内したよ?」

「だよね……。虱潰し、しかないのかなぁ……」

「でも、虱潰しにしても無理があるんじゃない? この街の周りのダンジョン、多いもん」

「ううむ……。ダンジョン内部について知りたいなら……探検隊キャンプに訊くしかないか」


子どもがいるのだし、明確に嘘を吐かれる事もないだろうという、淡い期待も込み。

あたしは、行動を開始した。
 ▼ 52 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:09:43 ID:YnPfAA9. [9/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「そんな奴、見た事ないぞ」

「そうですか」

「本当に?」

「ああ。嘘は吐かねえよ、嬢ちゃん」


1匹目は外れ。あたしはけれど、気落ちする事もなく何匹かに声を掛けていく。

しかし、結局アタリはなかった。


「おかしいよ、絶対」

「だね。ここまで上手く隠れてるだなんて、ホントはドーブルじゃなくて、メタモンだったりしてね……ああっ?!」


ひとりごちたあたしは、そのままある可能性に行き当たり、愕然とする。

確証はないが、なかなかに信ぴょう性がありそうだ。


「どうしたの?」

「スケッチだよ、へんしんさえコピーすれば、姿を変えられる!」

「なるほど!」


…………

冷静に考えろ、あたし。

へんしんだとしたら、捜す手掛かりは、ほとんどない。

あれ、これ結構ヤバい?


「とりあえず、帰ろう」

「え、なんで?」

「夜も特訓してるから眠いの!」

「はーい」
 ▼ 53 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:10:32 ID:YnPfAA9. [10/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
宿に戻って、あたしは部屋に直行し、そのまま眠りに落ちた。

しばらく休んでいると、いつものように呼び声が聞こえる。


「ごはんだよ」

「わかった」


あたしは立ち上がると、夕食へ向かった。


「いただきます」

「いただきまあす。で、お姉ちゃん、どうするの?」

「考え付かない。どうしようかな……」


沈んだ声であたしは食事を続けた。


「ほんっと、厄介な依頼引き受けちゃった」
 ▼ 54 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:10:52 ID:YnPfAA9. [11/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
夜の特訓は、あたしの気落ちやこれからの面倒に関係なく、続けた。

技の撃ち方を鍛える段階だ。タイプが同じなだけあって、そのやり方はわかりやすい。


「お腹に空気を蓄えて。炎は、酸素がないと燃えられないから」

「わかった。すぅぅ……」

「一気に吐き出す!」

「ふうっ! うわっ、凄いの出た!」

「同じ技を強く撃てたら、よりダンジョン攻略に有利になる。

呼吸して炎を出すっての、慣れれば意識しなくてもできるようになってくるから、何回もやる事ね」

「うん! なんか、強くなった気分」


その笑顔に、少しだけ、あたしの気は楽になった。

そんな時だった。

背後に気配を感じ、あたしは飛びのく。

その立っていた場所が、凍り付いていた。
 ▼ 55 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:11:59 ID:YnPfAA9. [12/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「何者?!」

「残念。当たると思ったんだけどな」


ぜったいれいど。その名前に思い当って、あたしはぞっとする。

明確な殺意。目の前に立つポケモンは、それを、あたしたちに向けている。


「誰だ?!」

「さあね。君らならわかると思うよ」

「ドーブル……」

「正解」


あたしはその姿めがけ、炎を打ち出す。

眩いそれは、敵の顔を照らした。


ドーブル「だって、せっかく上手く紛れ込んでるのに、ちょこまか嗅ぎ回られて、鬱陶しいんだもん」

「それだけで、襲って来る? 紛れ込んだままでいれば逃げ切れたかもしれないのに」

ドーブル「だってさ……そっちの方が面白いじゃん」

「面白……」


あたしは、愕然として呟いた。

早いうちに危険分子は刈り取るに越した事はない、ならわかる。

共感はできないけれど、理解ぐらいならできる。

もっと、他にいろいろあるだろう。


「面白いで、犯罪するの」

ドーブル「だって……ねえ。ま、トリックが割れたってのもあるけどさ」
 ▼ 56 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:12:52 ID:YnPfAA9. [13/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
彼はニヤリと笑うと、あたしたちに向けて水流を打ち出した。回避するのは容易だけれど、攻撃に転じなければならない。

空を、唐突に太陽が照らす。


「何、これ……」

「行くよ!」

ドーブル「特性ひでり、ねぇ。2つ同時持ちってとこかな。もらいびと合わせて」


そういうと、ドーブルは大地を揺らす。飛び上がって回避した所で、敵はあの子に絵筆を向けた。


ドーブル「空中で回避はできないだろうし」


気付いてしまう。敵の狙いを。

あたしは叫んだ。


「危ない避けてっ!」


「えっ……」


急激に周囲の気温が下がって行く。

その狙いは、あの子。

ぜったいれいど。一撃必殺の攻撃を、回避不能な状況で打ち出す。

あたしは妨害しようとかえんほうしゃを撃ちだした。

しかし、ドーブルは氷の盾をその技で形成し、あたしの攻撃をバリアする。

そして、ドーブルが攻撃した。

思わず、駄目っ、と叫ぶ。

あたしは目を閉ざした。


「うわあっ!」
 ▼ 57 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:13:36 ID:YnPfAA9. [14/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
目を見開く。

そこに倒れていたのは、おかみさんだった。


「ま、ママ……?」


あの子を、いつの間にか現れて、庇っていた。

あの子の目に、涙が溜まり始める。

あたしは、この隙にと背後を取って、さいみんじゅつを決めた。

敵はうめき声をあげて、こちらを振り向く。

しかし、そのまま崩れ落ちていく。

すうと寝息を立て始めた所で、あたしは何度もかえんほうしゃで攻撃する。

体力を完全に失った辺りで、敵の行動を拘束すべく、しばられのタネを食べさせる。

これで、こいつはもう大丈夫だ。

あたしは、あの子の方へ駆けていく。
 ▼ 58 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 20:13:53 ID:YnPfAA9. [15/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「お姉……ちゃん。ママが、ママが、死んじゃうよ……」

「落ち着いて。ふっかつのタネよ」

「ママ、元気出してよ……」


彼女は、しんとして動かない。

一切の動きを止めたその体躯。

ポツリ、涙が彼女の上に落ちた。

見るまでもなかった。嗚咽が辺りに響く。

ずっと、ずっと。目の前のこの子は、泣き続けた。
 ▼ 59 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:14:00 ID:YnPfAA9. [16/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







3章 燃える想い






 ▼ 60 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:15:03 ID:YnPfAA9. [17/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランテス「……なるほど」

マグマラシ「あれじゃ、まるきり、昔のあたしだ。親の事ばっか考えて、ずっと顔色窺って。

      愛してくれないか。そんな気配を、ずっと捜して」


忙しい親。構って貰えない、子ども。

そういうポケモンは、確かにありふれているし、あたいも何匹か知っている。

けれど、ありふれている事と、それが重いか否か、という事には、何も関係がない。


ラランテス「けど、限度ってもんがあるだろう?! 周りに迷惑をかけるなんてないよ!」

マグマラシ「だから、あの子を止めたくて、水ポケモンを捜してるんです。あの子も、ひでりともらいび、同時に持ってる。

      あたしじゃ、あんまり有効打はない。かえんほうしゃとねっぷう、それからふんえんとスピードスターだけだし。

      言葉は、もう通じなかったから。だからもう、バトルで止めるしかない。

けど、どっちも有効打がないから……」

ラランテス「その特性、遺伝かい?」

マグマラシ「ええそうよ」


彼女は、少し懐かしそうな目をした。しかし、それはすぐに、暗く塗りつぶされる。

かと思うと、急に顔を上げ、あたいを見据えた。

目まぐるしく変わる表情に唖然としつつ、あたいは言った。


ラランテス「この街が暑くなったらポケモンも離れて仕事も減るだろう? 考えは正しいけど、短絡的過ぎるよ、まったくもう」

マグマラシ「だから、お願いします。助けてあげてください」

ラランテス「いいよ、協力する。あたいなら、あの子にバトルでは勝てる。

      でも、バトルだけだよ。あたいは、あの子とはあんまり関わりがないんだ。あんたの方が適任だよ」

マグマラシ「はい! ありがとうございます」
 ▼ 61 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:16:10 ID:YnPfAA9. [18/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それにしても、だ。

どうして彼女は、ここまで入れ込むのであろうか。

そして、そもそもどうして彼女は、ここまで知っているのであろうか。

その点は、疑問として残った。

彼女の様子に、不自然な点は、今まで見受けられなかった。

今判明している、ロコンの狙いに関して、彼女は嘘を言っていない。

その辺りは、感覚でわかる。

けれど、全てを包み隠さずに伝えてくれている訳でもないらしい。

まあ、とあたいは呟いた。

詮索する必要もないだろう。仲間の過去は、詮索しない。そんな過去の思い出が、あたいを押し止めた。

語りたくないなら、聞く必要もない。暑さそのものには、関係ないのだから。

とりあえず結論を出し、ふっと意識を戻した所で、お腹が鳴った。

そう言えば、夕食を中断させられたっけ、と思っていると、マグマラシが夕食を持って来てくれていた。


マグマラシ「すいません、食事中無理に引っ張って来ちゃって」

ラランテス「構わないよ」


あたいは、食事にがっついた。

呆れたような目で見られている気もしたが、気にしたら負けだ。


マグマラシ「それじゃあ、明日行きましょうか」

ラランテス「だね。あ、ありがとうね、持って来てくれて」

マグマラシ「いえ。こちらこそ」


彼女はあたしの分のお皿を持って行ってくれた。

協力のための代金みたいなもんか。そう思ってこの善意に甘える事にし、そのまま流し場へ直行した。

慣れては来たが、暑いものは暑い。汗もかく。
 ▼ 62 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:17:00 ID:YnPfAA9. [19/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌朝。

朝食の後、彼女はあたいの部屋にやって来た。


マグマラシ「えっと、行きましょう」

ラランテス「だね」


トレジャーバックをひっつかみ、あたいは外へ出て行った。

後ろから、マグマラシも付いて来ている。

バッグの中身を確認する。オレン、エイダー、リンゴ、プチふっかつ。それから今度はロコンもまとめて脱出できるように……うん、大丈夫だ。

カクレオン商店でオッカを調達し、それをかじってから終の草原へ向かった。



道中は一切の苦労の必要がないままに先へ進んだ。

何しろ後ろから、攻撃してくると声が飛ぶのだから、それに従ってかわすだけでいい。

少し集中さえすれば、1匹でもほぼ全ての攻撃は避けられる。

けれど、集中力さえも温存しながら先へ進めるのは、マグマラシの攻撃予測能力のお陰だ。


ラランテス「あんた、凄いね」

マグマラシ「いや、ラランテス程じゃないよ。いまひとつの攻撃で一撃って……」

ラランテス「陽射しが強いから本気の攻撃をぶちかませるもんでね」

マグマラシ「いやそれにしても……ホントに強いんだ」


独り言の体裁になっていたので、あたいはそれを無視した。

熱気はオッカのお陰でだいぶん抑えられているし、問題は何もなかった。
 ▼ 63 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:17:29 ID:YnPfAA9. [20/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そして最奥部。ロコンがこちらを見て、愕然とした。

わなわなと震えているのは恐怖なのだろう。それを隠そうとしてか、彼は強気で叫ぶ。


ロコン「な、なんで来たんだ!」

ラランテス「そりゃ、暑くするのをやめないからだよ! 周りはいい迷惑なんだよ!」

ロコン「でも、なんで」

マグマラシ「言葉だけじゃ、わかってくれないんでしょ?

      ホントは、母親がどれだけあなたの事を思ってくれてるかだなんて、わからないんでしょ?」

ロコン「うるさいっ!」

マグマラシ「バトル、する? あなた、あたしは倒せないでしょ? あたしも、炎は受け付けない。

      でも、こっちにはラランテスがいる。絶対に、あたしたちの勝ちだよ」


ロコンは、がっくりと座り込んだ。

現に、あたい1匹で勝てたのだ。勝ち目はない。それぐらいは、さすがにわかっているのだろう。


ロコン「じゃあ、母さん連れて来てよ。なんで、母さんが自分で来ないんだよ!」


精一杯の虚勢はしかし、正論でもある。

心配するなら自分で来い。しゃれた事を考えるもんだ。

あたいがわかった、と同意しようとした、その瞬間だった。

マグマラシが、目に涙を浮かべていた。


ラランテス「だ、大丈夫かい?」


マグマラシは小さく頷き、目を瞬かせて涙を引っ込めた。
 ▼ 64 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:17:59 ID:YnPfAA9. [21/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それから彼女は、ロコンに向かって、声をあげる。


マグマラシ「ねえ、ロコン。あなたのお母さんはね、忙しいの」

ロコン「忙しいってなんだよ! 僕の事が、大事じゃないの?!」

マグマラシ「大事よ。大事だから、忙しく働かないといけない」

ロコン「なんで……姉ちゃんになんでそんな事わかるんだよ!」


ロコンが叫ぶ。それに伴って、マグマラシの声が大きくなった。


マグマラシ「あたしのママも、そうだったから!」

ラランテス「あんたの、ママ」

マグマラシ「どうしてわかってくれないの?! どうして、わからないの……」


今度こそ、彼女は泣き崩れた。

あたいとロコンは、ビックリして、彼女に駆け寄る。
 ▼ 65 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:18:41 ID:YnPfAA9. [22/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロコン「だ、大丈夫?」

マグマラシ「強いだけじゃ駄目なんだって……守るためには、もっと、いろいろ……あたしは……僕は……」


僕。唐突に現れた、新たな一人称。

あたいは、彼女を注視する。

彼女はまるで、子どものように泣きじゃくった。

ごめんなさい、ごめんなさい。

僕がバカだったから、ママは、ママは……。


ラランテス「ロコン、とにかく、この子を運ぶよ。持って来てよかった。穴抜けの玉」

ロコン「え、ちょっと……うわっ!」


世界が暗転し、気付けばあたいたちは、夕焼け空の下、ダンジョンの入口に立っていた。
 ▼ 66 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:19:15 ID:YnPfAA9. [23/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロコン「……でも、どうしたんだろ、姉ちゃん」

ラランテス「さあね」


未だ泣き続けるマグマラシに、あたいたちは何もできないでいた。

声を掛けてはみるけれど、反応はなし。

あたいとロコンは顔を見合わせ、それから首を捻る。


ロコン「ねえ、なんかわかんないの」

ラランテス「……考えてみるよ」


今まででわからない事。なぜ、彼女がここまで肩入れするのか。

どうして、彼女はここまで知っているのか。

唐突に現れた、僕という一人称は一体なんなのだ。

彼女の母親と、何かを重ね合わせた。普通に考えればそうなるけれど、それではまだ据わりが悪い。

ロコン親子との関係というピースが、まだ上手くハマらない。

……駄目だ。さっぱりわからない。手掛かりが足りない。


ラランテス「あんた、この子のついてなんか知ってる事ないかい?」

ロコン「え……僕が、姉ちゃんに」

ラランテス「そう。何か、元々知り合いだったりしないのかい?」

ロコン「いや……僕は、鍛えてもらっただけだよ。強くなりたいって言って。ここに来る事は考えてたけどね」

ラランテス「そうかい……」

ロコン「あ、でも。母さんと、なんだか仲よさそうだった」

ラランテス「え?」

ロコン「いや、だから……」

ラランテス「もう少し、詳しく」
 ▼ 67 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:19:43 ID:YnPfAA9. [24/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたいの食い付きっぷりに、ロコンは軽く引きながら答える。


ロコン「あ、いや、わかんないよ? だけど、なんだかはじめっから、客って以上の関係だった気がするんだ」

ラランテス「なるほど……」

ロコン「なんかわかった?」


再び思考を巡らせる。とめどなく、とめどなく。推測はあたいの中を駆け巡る。

あたしも同じという事はマグマラシの母親は忙しくてそれゆえに彼女はなんらかの反抗をしたでも恐らくそれは強くなりたいといった類のもので僕というのはそこから派生したものなのだろうかそして僕がバカだったから母親がという事はそれがきっかけでなんらかの悲劇が起こったそれでもってキュウコンとの関係を鑑みるにそこになにか彼女が絡んでいたでも宿のおかみさんがそんな悲劇に絡むような事があるのだろうかまあゼロじゃないにせよ可能性は低いでも今彼女はそんな所に収まっているつまり元は違うけれどその母親を巡る悲劇においてキュウコンは宿のおかみさんに収まったって所かそしてその理由を考えると母親が死んでその代わりなのかもしれないそしてという事は……


ラランテス「マグマラシ、あんた、あの宿の子だったね」

ロコン「え……それ」

ラランテス「そのまんまの意味だよ。マグマラシは、キュウコンの前のおかみさんの娘だった。

      確証はないけど、その可能性が一番高い、とあたいは思うね」

「その通りです」
 ▼ 68 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:20:05 ID:YnPfAA9. [25/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
不意に聞こえた声に振り返る。

あたいの前で向かい合っていたロコンは、一瞬早く気付いていたようだった。


ロコン「か、母さん?」

キュウコン「ロコン、ごめんなさい。あなたの事、ほったらかしにしちゃって。

      ラランテスさん、ありがとうございます。うちの息子を捜し出してくださって」

ラランテス「ああ、それは構わないよ。だけど、とりあえずマグマラシをなんとかしてくれないかい?

      たぶん、あんただけだ。この子を癒せるのは」

キュウコン「わかりました」


そう言うと、彼女はマグマラシに寄り添った。

泣きじゃくる彼女は、ふと顔をあげ、それからポツリと呟いた。

お姉ちゃん。


キュウコン「あなたも、ありがとう。ロコンの事、助けてくれて」


マグマラシは、声をあげて、また泣いた。それをキュウコンは、穏やかな目で見守っていた。
 ▼ 69 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:20:45 ID:YnPfAA9. [26/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ロコン「どういう事なんだよ、母さん。姉ちゃんと、どういう関係なんだ」

キュウコン「話せば長くなるけど……それでもいい?」

ロコン「いいよ、どんだけ長くても、聞くから。だから、教えてよ!」

キュウコン「わかったわ」


そう言って、ひとつ息を吸い込むと、彼女は過去の物語を語り始めた。


キュウコン「まだ、あたしが探検隊だった頃の話ね……」

――

リアトリス。難易度の高いダンジョンが近辺に集まっている事で有名な街。

そこに足を踏み入れたあたしは、とりあえず翌日のダンジョン探索に向けて体を休めるべく、宿を探した。

そして発見したのが、旅の宿だった。

――
 ▼ 70 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:21:08 ID:YnPfAA9. [27/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこからの物語は、ロコンには少し、衝撃的過ぎたらしい。

目を丸くしたまま、何も言えないでいる。


ラランテス「それで、この子はなんで、僕だなんて言ってたんだい?」

キュウコン「死の床に就いた父親から、母さんを守ってくれなんて言われたらしくって。

      それで、強くなるために、って事だったそうです」

ラランテス「そうだったのか。だから」


全てのパズルのピースは、ハマった。マグマラシは、帰って来ていただけなのだ。


ロコン「姉ちゃんが、そんな事……」

キュウコン「だから、あなたがマグマラシにコーチを頼んだって聞いて、ビックリしちゃった。

      歴史って、繰り返すんだなって。

      だけど、その先はよくないよ。あんたはみんなに迷惑をかけた。わかってる?」

ロコン「ごめんなさい、だけど……でも、母さんは、こうでもしないと振り向いてくれないもん!」



キュウコンは、それを聞くと、少し俯いて、それから自嘲気味に笑った。
 ▼ 71 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:21:44 ID:YnPfAA9. [28/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
キュウコン「やっぱり、世の中って、お金なのよ。あなたを育てるにも、お金が必要。

      あたしも、夫に逃げられて、もうここで稼ぐしか生きていく方法ないし。

      探検隊やめた所で、結局お金に追われて、大事なものを見落としてる。

      ほんっと、あたしって駄目ね」

マグマラシ「……そんな事ないよ」


唐突に、正気を取り戻したのかマグマラシが、言った。

彼女の目は潤んでこそいるが、もうその声に涙は滲んでいなかった。


マグマラシ「そんな事ない。お姉ちゃんは、いつでも正しかった」

ロコン「でも!」

マグマラシ「あたしも、あなたも。お姉ちゃんが育ててくれたから、今、こうして生きて、育ってる。

      ね、ほら、ちゃんと育ってるんだよ?」

ロコン「でも、だって……」

ラランテス「あーもう! じれったいね!

      親が子を思う気持ちなんて、子どもにはわかんないだろ? あたいも、あんたもあんたも!

      ここにいる中でそれがわかるのは、キュウコンだけだよ!

      それでいいんだよ! あんたはだから、思う存分甘えればいいんだよ!

      こんなまどろっこしい犯罪してるんじゃないよ! 声をあげな!

      相手は世間じゃない、母親だ。きっと、聞いてくれるさ」

ロコン「……うう……母さん……母さん……ああぁぁ……」


ロコンが、今度は泣き崩れた。キュウコンは、自らの尾で、そっとロコンの頭を撫でた。
 ▼ 72 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:22:08 ID:YnPfAA9. [29/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







プロローグ 凍える夜に






 ▼ 73 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:22:28 ID:YnPfAA9. [30/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
宿に戻って、あたいは3匹と共に、スタッフルームに足を踏み入れた。

お礼と言って、宿代を返されたので、ありがたく受け取っておく。


ラランテス「でも、まああれだよ。これからどうすんのかはあたいが知ったこっちゃないけど、たぶんあんたらならもう大丈夫だと思うよ」

マグマラシ「はい。ありがとう、本当に」

ラランテス「いいんだよ、別に」

ロコン「ラランテス、すっごい強かったよね。どこで鍛えたの?」

ラランテス「さあ、あたいはちっちゃい頃から強かったからね。

      でも、強くなりたいなら、やっぱり、気の合う仲間と、それこそ生き方が共振した仲間と一緒に鍛えるのがベストだよ」

ロコン「なるほどね」

キュウコン「ありがとうございます、何から何まで」

ラランテス「いや、お礼は受け取ってるんだ。あたいとあんたはもうトントン。

      これ以上お礼を言われる筋合いはないよ。それじゃ、今晩はよろしくね」

キュウコン「かしこまりました」


そう言って、彼女はニッコリ笑った。
 ▼ 74 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:22:45 ID:YnPfAA9. [31/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
部屋に1匹で戻って、あたいはごろりと寝転んだ。

ロコンが終の草原からいなくなった結果、辺りは急激に涼しくなり、本来適温のはずなのだが少し肌寒く感じる。

今日は体を温めて寝ないと風邪ひきそうだな、だなんて思いながら、あたいは夜の闇をぼんやりと眺めた。

そうしているうちに、今回の事件について、とめどなく思考が溢れ出して来る。

そして、親子の関係が持つ温かさという方向へ流れて行った。

あたいは、生まれた時から強かったが故に、家から追い出された。

だけど、今はどうなのだろう。みんな、完全にあたいの事は忘れているのだろうか。

それとも、もしかしたら後悔しているのかもしれない。

どちらにせよ、だ。

あたいの次の目的地は、決定だ。

あたいは気ままな風来坊、ラランテス。

だけど、たまには、生まれ故郷に戻ってみるのも悪くない。

そんな風に思いながら、出来上がりつつあるであろう夕食の臭いを感じていた。
 ▼ 75 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:23:08 ID:YnPfAA9. [32/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







【暑い日SS】燃える想いを 完






 ▼ 76 1◆J44kAZeDOM 17/07/30 22:23:26 ID:YnPfAA9. [33/33] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
当SSはこれにて完結です
お読み下さりありがとうございました

リアトリスの花言葉
燃える思い
厳格
傲慢

関連作
【SS】ポケモン不思議のダンジョン 花の盗賊団(http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=563163

また、当SSは暑い日寒い日SS企画に参加していますhttp://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=633896
 ▼ 77 黒の災い◆N/pP1Xva6I 17/07/30 22:51:55 ID:yMqGWsTE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙でした。
前作も読まして頂きましたが、さっぱりしてて読みやすいですね……!
 ▼ 78 RIVER◆zFLCCAWaiw 17/08/01 02:59:56 ID:6g4cqZjU NGネーム登録 NGID登録 報告
乙です

見覚えある文体だなと思ったらエクリプスとかシンオウ転生シリーズの人でしたか
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