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【SS】そうだ、島巡りに行こう。続

 ▼ 1 SxCy/NIFN. 17/09/18 18:12:32 ID:T8vVVcJo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

↓これの続きです
http://pokemonbbs.com/sp/poke/read.cgi?no=534033

《これまでのお話》
島巡りに挫折して以来2年間引きこもっていたたんぱんこぞう(13)は、スカル団解散を機にアローラ地方に再び挑む。
負けたり勝ったり萎えたりしながらも旅は進み、旅立ちから3ヶ月、草の試練をようやく突破。
しかし、さあ次は大試練だ、と思った矢先、とある容疑でクチナシ氏に連行されてしまうのであった……。

《現在の手持ち》
コイル……自身の磁力で電信柱に貼りつけになっていたところを捕獲された。
ヤドン……コイルのレベル上げの標的に。戦闘の末、捕獲。
イーブイ……預かり所で貰ったタマゴから孵った。



書き溜めはすぐに尽きそうなので、結局ゆっくり更新していきます。
 ▼ 192 SxCy/NIFN. 17/10/17 18:29:19 ID:W99H70qQ [1/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……ヤドン、防御に徹するぞ! ルガルガンの初動を見逃すな!」

ライチ「ラス1と知って弾切れ狙い? 気に入らないね……ますます気に入らない!」

ルガルガン「ガルルル……」


ルガルガンが唸る。

嫌悪とプライドが滲んだ目つきだ。


ライチ「……だよね、ルガルガン」


呟いて口元を不敵に歪めるライチさん。


ライチ「耐久戦、ね。……やれるもんならやってみな!」
 ▼ 193 SxCy/NIFN. 17/10/17 18:29:57 ID:W99H70qQ [2/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


ライチ「いわおとし!」

ルガルガン「クォアッ!」


斜め上空めがけて、無数の岩が勢いよく放たれた。


「……!! ヤドン、盾はまだだ!」

ヤドン「やぁん」


この軌道なら、大きく円弧を描いてほぼ真上からヤドンに突き刺さる。

着弾までに生じるかなりの時差。

ということは……


ライチ「ルガルガン! そのまま突っ込んでかみつきな!」


やはり、そこを突いてくるか!
 ▼ 194 SxCy/NIFN. 17/10/17 18:30:34 ID:W99H70qQ [3/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ルガルガン「クォッ!」


一声吠えて地を蹴り、みるみるうちに距離を詰めてくる。

真上からのいわおとし、真横からのかみつく。

角度の開いた同時攻撃は絶対に防ぎきれない。

このわざの最大の弱点だ。
 ▼ 195 SxCy/NIFN. 17/10/17 18:31:15 ID:W99H70qQ [4/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ライチ「分かる? 防御って選択はそれだけリスキーで難しいんだよ!」


訴えるように、ライチさんが言い放つ。

教育してやろうって声だ。

正しい道に戻そうとか、間違いに気づかせようとか、そういう響きだ。
 ▼ 196 SxCy/NIFN. 17/10/17 18:31:39 ID:W99H70qQ [5/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ルガルガン「クォアッ!」


ルガルガンが顎門を全開に飛びかかり、真上からは岩が迫っている。

ライチさんが満足げに笑った。

気に入らない。

試練に俺が負けて反省して再挑戦して。そんな未来を信じて疑わないその表情。

本当に、気に入らない!
 ▼ 197 SxCy/NIFN. 17/10/17 18:32:36 ID:W99H70qQ [6/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「『地雷女』、斜め上!」

ヤドン「やぁんっ!」

ルガルガン「クォア!?」


斜め下に噴射されるみずでっぽう。

勢いよく飛び出したヤドンは、ルガルガンと落ちる岩のど真ん中、わずかな隙間をすり抜ける。


ヤドン「やぁ……っ」


岩がヤドンの足を掠めた。

だがヤドンは噴射を緩めることなく、そのまま空中高くに脱出。


ルガルガン「グルォ……!」


直後、いわおとしの砂煙にルガルガンが飲まれる。


ライチ「ルガルガン……っ!」


ライチさんは指示を出せない。

作戦を止める方法は撃ち落とすことだが、そのためにはルガルガンは背後にいるヤドンに砂埃の中から照準を合わせる必要がある。

つまり、ここが完全にして唯一の隙。

このためだけに、執拗に防御を続けたのだ。


「着地だヤドン! ひかりのかべ!」

ヤドン「やぁんっ」


戦闘開始から1分半。

ついに戦況が動き始める。
 ▼ 198 SxCy/NIFN. 17/10/17 18:33:24 ID:W99H70qQ [7/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ルガルガン「クォ……!」

ライチ「またそうやって、真っ向から戦わない」


何を言い出すかと思えば。


「みずでっぽう! ……攻撃を素直に受けろと? 馬鹿げてる!」


ヤドンが水弾を放ち、ルガルガンがそれを回避する。


ライチ「そういうことじゃないよ。ただ、随分と限界を決めたやり方だと思ってね」

「休ませずに連発! ……限界があるから限界の中で戦うんですよ」


続けざまに水弾が射出され、4度目でルガルガンの脇腹を掠めた。


ライチ「……本当に気に入らないね。まだ若いのに」

「もう若くないから?」

ライチ「このっ……!」
 ▼ 199 SxCy/NIFN. 17/10/17 18:33:51 ID:W99H70qQ [8/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ルガルガンはただひたすらに回避に徹している。

だが当然、上から一方的に撃たれて避け切れるわけもない。

みずでっぽうがルガルガンの体を掠め、じわじわとダメージが蓄積する。

にも関わらず、ライチさんは指示を出そうとする気配もない。


「そもそも何ですかさっきから、気に入らないって。私怨ですか」

ライチ「まぁ、それが2割くらい? でもあとの8割は島クイーンとして見過ごせないってこと」

「分かりませんね。俺は最善を尽くしてる! ゼンリョクってやつでしょう!?」

ライチ「進む向きが違うんだよ!」

「だから分からないって言ってるんですよ!」
 ▼ 200 SxCy/NIFN. 17/10/17 18:34:25 ID:W99H70qQ [9/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

口論してるうちに、ひかりのかべが薄れ始めている。

持続時間は約1分。

当然切れれば落下してしまう。


「ヤドン、ひかりのかべを貼り替えろ!」

ヤドン「やぁ……」


元の壁のすぐ下にもう一枚、壁を生成しようとしたその瞬間。


ライチ「今だよルガルガン、ジャンプ!」


一転、ライチさんが指示を出す。


ルガルガン「クォアッ!」

「なっ!?」


空を割く音を背に、身を弾かれたように跳躍するルガルガン。

その高さは、光の足場を超えていた。
 ▼ 201 SxCy/NIFN. 17/10/17 18:34:56 ID:W99H70qQ [10/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「くそ……!」

最初のみずでっぽうを斜めに打ち出した分、足場の位置が低かった。

しかもヤドンはひかりのかべの発動中。みずでっぽうでの迎撃は間に合わない。

ライチさんはただ悠長に喋ってただけじゃなかった。

ひかりのかべの交換を待ってたのか……!


ライチ「飛び乗って突き落とせ! つっぱり!」

ルガルガン「クォォォ!」


ルガルガンが張り手を構える。


ヤドン「やぁん……!」


ヤドンがひかりのかべを貼り終えた。

クソっ、今から間に合うわざは……!


「まもる!」

ヤドン「やぁん!」


一番慣れてるコレしかない!
 ▼ 202 SxCy/NIFN. 17/10/17 18:35:26 ID:W99H70qQ [11/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

張り手が叩きつけられる寸でのところで、バリアが2匹の間に割り込んだ。


ルガルガン「クァッ!」

ヤドン「やぁん……!」


狭い足場の上で始まる鍔迫り合いは、お互い一歩も動かず。

だが、まもるが切れたらまた何か手を打たなければならない。
 ▼ 203 SxCy/NIFN. 17/10/17 18:36:03 ID:W99H70qQ [12/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ライチさんがまた話しかけてくる。


ライチ「例えば今、『つっぱりを体で受けてみずでっぽう』ならルガルガンを下に落とせたんじゃない?」

「体で受けたらこっちが突き落とされるじゃないですか。それにみずでっぽうを耐えられる可能性も高い」

ライチ「なんで分かるの?」

「分かりますよ、そりゃ」

ライチ「ねぇ、ヤドンはどうなの? 本当に無理?」

ヤドン「…………!」


ヤドンの表情が僅かに歪む。

だが、こいつだって分かってるはずだ。普通にやったら勝てないことぐらい。


「さっきからうるさいですよ。何が言いたいんですか!」

ライチ「キミが思ってるほどキミのポケモンは弱くないってことだよ!」

「っ……!!」
 ▼ 204 SxCy/NIFN. 17/10/17 18:36:38 ID:W99H70qQ [13/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ライチ「分かるまで策を破るよ……!ルガルガン、盾を掴んで!」

ルガルガン「グルォ!」

ヤドン「やぁ!?」


盾の淵を鷲掴みにされ、ヤドンの目が驚愕に見開かれる。

このわざ、そういう突破方もあるのか!?



クソっ、逆に振り落としてやる!


「ヤドン、盾を左右に振り回して……」

ライチ「そのまま盾を支点に飛び上がる!」

ルガルガン「クォアッ!」


掴んだ盾を踏み台にして、ルガルガンが宙に飛び出す。

直後にまもるの効果が切れ、盾は光の残滓となって霧散した。


「っの……!」


完全に先手を取られてる。

それどころか、ここに来て位置関係をひっくり返された……!
 ▼ 205 SxCy/NIFN. 17/10/17 18:37:28 ID:W99H70qQ [14/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ライチ「ルガルガン、そのままいわおとし!」

ルガルガン「クォォ……!」


光の塊が無数の岩を形づくっていく。

上から撃たれる以上相殺は不可能だ。

だったら賭けに出るしかない!
 ▼ 206 SxCy/NIFN. 17/10/17 18:37:50 ID:W99H70qQ [15/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ヤドン、もっかいまもる!」

ヤドン「やぁ……っ!?」


淡い半球が空中に描かれ、それはすぐさま掠れて消えた。


「失敗か……!」


バリアが貼れないとなれば、ヤドンは完全なる無防備状態だ。


ルガルガン「グルァアアア!」

ヤドン「やぁ……んんぁあっ!」


岩のラッシュを正面から叩き込まれ、ついにヤドンが光の足場を追放される。
 ▼ 207 SxCy/NIFN. 17/10/17 18:38:18 ID:W99H70qQ [16/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ライチ「ルガルガン、かみつくで追撃!」

ルガルガン「クルガァ!」


落下するヤドンめがけてルガルガンが加速する。


ヤドン「やぁ……!」


ヤドンはまだ戦意を失ってはいない。


ライチ「…………!」


ライチさんはまた何かを訴えるように、毅然としてこちらを見つめている。
 ▼ 208 SxCy/NIFN. 17/10/17 18:39:08 ID:W99H70qQ [17/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ああ、なるほど。

今なら確実にみずでっぽうが当たる。

だから迎え撃てと、そういうことだろう。


でも、ライチさん。

ヤドンのみずでっぽう一発じゃルガルガンは倒せません。

もう追撃を防ぐ術もありません。

それにあなたはZワザをまだ残してる。

この勝負、勝ち筋はあと一つしかないんですよ。
 ▼ 209 SxCy/NIFN. 17/10/17 18:39:42 ID:W99H70qQ [18/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ヤドン……」

「真下に、全力でぶっぱなせ!!」

ヤドン「やぁ……ふーーーっ!!」

ライチ「えっ!?」


最後にして渾身のみずでっぽうが、ルガルガンとは逆方向に放たれた。

水圧に地面が抉れ、落下していたヤドンが再び高度を取り戻していく。


ライチ「この期に及んでまた壁に乗ろうっての……?」


怒りを通り越して呆れたように、ライチさんがつぶやいた。


「…………」


どうとでも言えばいい。
 ▼ 210 こまで◆SxCy/NIFN. 17/10/17 18:41:19 ID:W99H70qQ [19/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ライチ「……ルガルガン、さっきの足場を使ってヤドンに追いついて」


静かに、その指示は告げられた。


ルガルガン「……グルォ」


ルガルガンもまた静かに頷いた。

一度目の跳躍で先ほどのひかりのかべに飛び乗り、次の跳躍でたちまちヤドンの上を取る。


分かっている。


ライチ「かみつく」


こうなることは、分かっていた。

──それでも、これで勝ち筋が残った。




……ヤドン、戦闘不能。

残るポケモンは、イーブイ1匹。
 ▼ 211 ーフィ@ブーカのみ 17/10/17 18:44:23 ID:LcHZD1h. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 212 SxCy/NIFN. 17/10/18 03:37:16 ID:O.2SnSqA [1/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



ライチ「……分からないね」


長いため息に続けて、ライチさんが口を開いた。


「分からなくていいです」


どうせまた説教だろう。出来る限り冷たい声で突っぱねる。


ライチ「なんでそこまで策にこだわるかなぁ」


それでもライチさんは喋るのをやめない。


「分からないならそれでいいですって。クリスタルだけ貰っていきますから」


苛立ちを隠すこともなく、俺は再び突っぱねる。


ライチ「……負けたら貰えないよ」


ライチさんはようやく会話を諦めたようだった。

それでいい。
 ▼ 213 SxCy/NIFN. 17/10/18 03:38:26 ID:O.2SnSqA [2/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

なぜ普通に戦えないのかって?

なぜ策に拘るかって?

そんなこと聞く時点で何も分かっちゃいないんだよ。
 ▼ 214 SxCy/NIFN. 17/10/18 03:40:17 ID:O.2SnSqA [3/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

審判「それでは、チャレンジャーは次のポケモンを」

「……行くぞ、イーブイ」

イーブイ「きゅい!」


ボールから飛び出たイーブイが、軽々とフィールドに降り立つ。


ライチ「へぇ、イーブイ。相性最悪だね。ってことは最後のポケモン?」


笑みを浮かべてライチさんが問いかける。


「どうでしょうね」


図星だが、答える義理はない。
 ▼ 215 SxCy/NIFN. 17/10/18 03:40:36 ID:O.2SnSqA [4/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

暫時沈黙したフィールドを、再び嫌な風が吹き抜けた。


一刻も早くこの勝負を終わらせて次の島へ旅立ちたい。

そんな気分だ。
 ▼ 216 SxCy/NIFN. 17/10/18 03:41:28 ID:O.2SnSqA [5/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


審判「それでは、両者位置について……」

審判「バトル、開始っ!」


「イーブイ、《アラサー》っ!!」

イーブイ「きゅ……いっ!」


指示を受け、イーブイが見えない力で一気に加速。

水溜りのフィールドを一直線に駆ける。


ライチ「もうそういうのには惑わされないよ! ……ちょっと傷つくけどね。ルガルガン、かみつくで迎え撃って!」

ルガルガン「クォア……!」


ルガルガンが大きく口を開き、疾駆するイーブイを堂々と待ち構える。
 ▼ 217 SxCy/NIFN. 17/10/18 03:42:04 ID:O.2SnSqA [6/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「イーブイ!」

イーブイ「きゅいきゅいきゅい……」


ルガルガンとイーブイの距離が、みるみるうちに詰まる。

わざとわざの威力の激突まで、あと数歩──


「今!」

イーブイ「きゅいっ!」

ルガルガン「クォア!?」


──のところで、イーブイが全力でブレーキをかけ、まもるを発動

ルガルガンの牙は最強の盾に阻まれた。
 ▼ 218 SxCy/NIFN. 17/10/18 03:42:48 ID:O.2SnSqA [7/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ライチ「懲りないね。ルガルガン、盾を掴んで……」

「解除!」

イーブイ「きゅい!」

ルガルガン「クォン!?」


盾が目の前からかき消え、掴むものがなくなったルガルガンの両手は空を切る。

別にそんなことまで予定してたわけではないが、嬉しい誤算だ。


「今だ、あまえる!」

イーブイ「きゅ……いぃ……?」

ルガルガン「ッ……!!」


そして炸裂する伝家の宝刀、あまえる。

上目遣い気味に繰り出されるそれは、大抵のオスに効果抜群だ。
 ▼ 219 SxCy/NIFN. 17/10/18 03:43:26 ID:O.2SnSqA [8/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


新戦術、《押し掛け女房》。……作戦コード《アラサー》。


イーブイが生まれたばかりだった頃、相手の直接攻撃をまもるでガードし、カウンターであまえるを決める戦法をよく取っていた。

これはその応用だ。

でんこうせっかで強引に距離を詰めて直接攻撃を誘発し、即座にまもる→あまえるのコンボを決める。

まもるを使い続け、圧倒的に切り替えが早くなったが故に可能になった戦術である。

でんこうせっかを遠距離わざで潰されたり、単純に回避された時にコンボが始動しないのが弱点。

だが、ライチさんの大試練の傾向的にそれはないと見ていた。

そしてその読み通り、この作戦はほぼ完璧な形で炸裂した。

滑り出しは上々。
 ▼ 220 SxCy/NIFN. 17/10/18 03:44:27 ID:O.2SnSqA [9/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ルガルガン「ク、クゥ……ッ」

イーブイ「きゅいぃぃ〜」


猫撫で声で擦り寄るイーブイ。

効いている。

間違いなく効いているが……。


ルガルガン「クォォ……オオ……!!」

ライチ「ルガルガン! ……分かってるね?」

ルガルガン「クッ……ルガァ!!」

イーブイ「きゅい!?」


絶叫し、地面を殴りつけるルガルガン。


ルガルガン「クォォ……!」


そして再びイーブイを見据える目は、迸る使命感を宿して赤く鋭く光っていた。


「ちっ、さすがは島クイーンのポケモンだよな……っ」


大した精神力だ。
 ▼ 221 SxCy/NIFN. 17/10/18 03:45:43 ID:O.2SnSqA [10/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

感心しちゃいられない。

攻撃が来る前に、動く!


「イーブイ、すなかけ!」

イーブイ「きゅいっ!」

ルガルガン「クァッ……!」


砂、というよりほぼ泥水をルガルガンにけしかける。

手で泥は防がれたが、一瞬攻撃を遅らせた。


「今だ! でんこうせっかで距離を取れ!」

イーブイ「きゅい!」


逃げる隙ならそれで十分に稼げる。
 ▼ 222 SxCy/NIFN. 17/10/18 03:46:52 ID:O.2SnSqA [11/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ライチ「でんこうせっか、まもる、あまえる、すなかけ……すごい構成だね」

「そりゃどうも」


ライチさんの皮肉めいた言葉を軽く受け流す。


コイルとヤドンが倒れた時点でダメージソースはもはや存在しない。

ルガルガンが戦意を喪失するまで、守って、甘えて、砂をかけて、逃げる。

何本かあった勝ち筋は戦闘が進むごとに潰え、残ったのは最後の一つ。

ダメージを与えられないとなれば、できることはこれ一つだ。

 ▼ 223 SxCy/NIFN. 17/10/18 03:47:30 ID:O.2SnSqA [12/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ルガルガン「クォォオアッ!」

イーブイ「きゅきゅいっ!」


またも、イーブイが攻撃を躱す。

降り注ぐ岩がイーブイを捉えたかと思えば、そこにあるのは残像。

戦況は完全に膠着していた。


でんこうせっかによる速度もそうだが、その回避を可能にするのは動体視力だ。

サンダースとして高速戦闘に明け暮れたこと。ラランテス相手に長期間鍛えられていたこと。

ここまでの経験が、格上相手への防戦を成立させていた。
 ▼ 224 SxCy/NIFN. 17/10/18 03:48:08 ID:O.2SnSqA [13/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ライチ「その戦い方……次の一匹とかはいなさそうだね?」

「想像にお任せしますよ」


とは言っても、有効打のあるポケモンがいたら誰もこんな戦法はとらない。

もはや後がないことは筒抜けだった。
 ▼ 225 SxCy/NIFN. 17/10/18 03:48:39 ID:O.2SnSqA [14/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ライチ「防御とか回避とか、上手いのはいいことだと思う。そこは頑張ってきたのは認めるよ」

「ありがとうございます」

ライチ「でもね。それだけじゃ意味がない」

「…………」


まただ。

また嫌な風が吹く。
 ▼ 226 SxCy/NIFN. 17/10/18 03:49:15 ID:O.2SnSqA [15/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ライチ「……キミ、自分が向いてる方が前だって言ってたね」

「……それがどうしたんです」

ライチ「本当に前?」

「前ですよ。進めてるんですから」

ライチ「じゃあ、質問変えようか。前に、何が見えてる?」

「……何を」

ライチ「言ってるのかって? もうわかってるんじゃない?」

ライチ「追い詰められてるってこと!!」
 ▼ 227 SxCy/NIFN. 17/10/18 03:50:44 ID:O.2SnSqA [16/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

そう叫んで、ライチさんは右手を天高く掲げた。

手首にはZリング。そして陽光を反射して輝く、イワのZクリスタル。

迸るその熱い光は──Zパワー。


ライチ「逃げるなとは言わない。いつもまっすぐに立ち向かえとも言わないよ」

ライチ「けどね、逃げられないこともある。……そうやって壁を全部迂回するようなやり方じゃ、絶対に限界が来る」

ライチ「……それが今さ!」

ルガルガン「クォァア!」

ライチ「行くよルガルガン……」


ライチ「ワールズエンド、フォールッッ!!」
 ▼ 228 SxCy/NIFN. 17/10/18 03:51:18 ID:O.2SnSqA [17/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ルガルガン「クォォオアアアアアッ!!」


光を纏ったルガルガンの咆哮がこだまする。

その叫びに呼び寄せられたように、みるみるうちにフィールドを巨大な影が覆い尽くす。

見上げると、空に蓋をするがごとき岩塊。

フィールドと同サイズのそれは、つまりどこへ逃げても命中する。


ルガルガン「グォゥルッ!」


そんな巨岩が、ルガルガンの掛け声とともに解き放たれた。

世界の終わりが降って来る。
 ▼ 229 SxCy/NIFN. 17/10/18 03:51:54 ID:O.2SnSqA [18/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ライチ「また来なよ、チャレンジャー。今度は堂々とバトルできるといいね」


避けられない致死のダメージ。

最後の1匹。

ライチさんが勝利宣言をするのももっともだ。


だが。


「イーブイ……」


俺たちはまだ勝ち筋をつないでいる。


「潜れ!」

イーブイ「きゅい!!」


ヤドンが残した勝ち筋を!!
 ▼ 230 SxCy/NIFN. 17/10/18 03:53:08 ID:O.2SnSqA [19/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

水飛沫を飛ばして、イーブイが地面の中に消えた。

正しくは、『ヤドンが最後に残した穴の中』に。


ライチ「なっ……!」

ルガルガン「クォォ……!?」


すでに放たれた必殺技は止められない。

巨岩がフィールドに叩きつけられる。

直後、爆散。

Zワザの圧倒的な威力は、ただ無意味に突風を起こし、森をうならせた。
 ▼ 231 SxCy/NIFN. 17/10/18 03:54:02 ID:O.2SnSqA [20/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「イーブイ、もういいぞ!」

イーブイ「きゅふるるる……! きゅい!」


穴から飛び出し、身震いするイーブイ。

当然ながらノーダメージだ。


ライチ「ワールズエンドフォールを……避けた?」


唖然とするライチさん。

出し抜いてやったよ、島クイーン。
 ▼ 232 SxCy/NIFN. 17/10/18 03:55:06 ID:O.2SnSqA [21/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「逃げられないもの……でしたっけ。あるとは思いますよ」

ライチ「…………!」


そりゃあ、全部から逃げていたら一昔前の俺のように引きこもることぐらいしかできなくなる。

この島巡りだって、避けては通れない壁だ。


「だから今、戦ってるんじゃないですか」
 ▼ 233 こまで◆SxCy/NIFN. 17/10/18 03:56:24 ID:O.2SnSqA [22/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ライチ「でも、キミは……」


ライチさんは尚も食い下がる。

まぁ、島巡りの方針としてこういう人間は放置してはならないのだろう。


「言いたいことはわかります。島クイーンの立場もありますしね」

ライチ「そういうことじゃなくて!」

「だったら!!」


思いがけず、叫んでしまう。

これ以上会話を続けるのはなんとなく嫌だった。


「……だったら、止めてみれば良いじゃないですか」

「それが試練なんですよね?」

ライチ「……!!」


あとはバトルで決めればいい。


ライチ「……そうだよ。だってそれが、島巡りだからね!」


あとは、勝ち負けだけでいい。
 ▼ 234 ナッキー@ロックメモリ 17/10/18 06:06:33 ID:h8j9LZJ2 NGネーム登録 NGID登録 報告
相変わらずの外道主人公である
 ▼ 235 ルンゲル@あかいかけら 17/10/18 15:55:10 ID:p5GgqQhA NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
電光石火だけで倒し切るとなると長期戦必至だな
 ▼ 236 SxCy/NIFN. 17/10/18 17:57:49 ID:O.2SnSqA [23/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



「回避!」

イーブイ「きゅいっ!」


イーブイが飛び退いた地面に、直後いわおとしが突き刺さって水飛沫を散らす。

もう何度目かも分からない光景だ。
 ▼ 237 SxCy/NIFN. 17/10/18 17:58:54 ID:O.2SnSqA [24/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「まだ続けますか!!」

ライチ「こっちのセリフだよ! ……いわおとし!」

ルガルガン「クォアッ!」


まただ。

また、ただのいわおとし。

それも、カウントが間違ってなければこれが最後の一発だ。

ライチさんこの作戦に対して何も手を打ってこない。

完全に策で上回ったというのならばそれでいいのだが、どうにも気味が悪かった。

なんだ、この違和感は。
 ▼ 238 SxCy/NIFN. 17/10/18 17:59:29 ID:O.2SnSqA [25/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

その気味の悪い感覚の正体は、すぐに現れる。


「イーブイ、避けて……な!?」

イーブイ「きゅいっ!?」


でんこうせっかでフィールドを駆け回っていたイーブイの体が、不意に宙に投げ出される。


イーブイ「きゅっ、きゅいっ!」


二、三度と地面を跳ね滑り、泥水が飛び散った。

ここにきて、転倒。

迫るいわおとし。

避けられない……!
 ▼ 239 SxCy/NIFN. 17/10/18 18:00:53 ID:O.2SnSqA [26/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「まもる!」

イーブイ「きゅ、きゅいっ!」


咄嗟にまもるを指示。

降り注ぐ岩はイーブイを捉える寸前、傘のように構えられた防壁に弾かれた。

だが、転倒直後。あまりにも不安定な構えだ。

岩の勢いにイーブイの防御姿勢が揺らぐ。
 ▼ 240 SxCy/NIFN. 17/10/18 18:01:23 ID:O.2SnSqA [27/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

そして、その一瞬をルガルガンは見逃さない。


イーブイ「きゅい……!?」

ルガルガン「クォウ……!」


いつの間にか、目の前。

まるで、この展開を予期していたかのように。
 ▼ 241 SxCy/NIFN. 17/10/18 18:02:16 ID:O.2SnSqA [28/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ライチ「つっぱり!」


間髪入れず、ライチさんの指示が飛んだ。


ルガルガン「クォォオオラァッ!」


イーブイの防御は間に合わない。


イーブイ「きゅぃいいっ!!」


つっぱりが叩き込まれ、突き飛ばされる。

どうすればいい?

ここからどうやれば打開できる?

畜生、考えろ!

……クソっ!

なんで……!
 ▼ 242 SxCy/NIFN. 17/10/18 18:02:40 ID:O.2SnSqA [29/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「っ……イーブイ! なんでもいい!」


何も思いつかなかない。


「反撃しろ!」


だからこんな指示しか出せない。


イーブイ「きゅ、きゅぃ……!」


それでもイーブイは応え、立ち上がった。

まるで、そう言われるのをずっと待っていたかのように。
 ▼ 243 SxCy/NIFN. 17/10/18 18:03:24 ID:O.2SnSqA [30/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ライチ「やっとだね」

ルガルガン「クォウ」


ライチさんが、少し表情を緩めてため息を吐き出した。


ライチ「けどね」


そして、再び毅然とした表情を浮かべ──


ライチ「遅すぎたよ、キミ」

ライチ「……ルガルガン、つっぱり」


──最後の攻撃を指示するのだった。




……イーブイ、戦闘不能。
 ▼ 244 SxCy/NIFN. 17/10/18 18:04:02 ID:O.2SnSqA [31/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……なんで最後、イーブイが転ぶのを知ってたような動きだったんですか」

ライチ「フィールドのあちこちでいわおとし使ったからね。そのでっかい破片が泥水に隠れてる」

ライチ「イーブイがさっき転んだ場所は、12回目のいわおとしが散らばってるところだった」

ライチ「そしてイーブイは、それに気づかずに躓いた」

ライチ「……ちょうど、私たちがヤドンの作った穴に気づけなかったみたいにね」

「そうですか……」


ライチさんは攻撃箇所を全て把握し、回避が綻ぶタイミングを見計らっていたということか。

なるほど、完敗だ。
 ▼ 245 SxCy/NIFN. 17/10/18 18:04:32 ID:O.2SnSqA [32/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ライチさん「……と、そうだった。まぁまさかとは思うけど、次のポケモンはいる?」

「…………」


手持ち全てが戦闘不能。

つまりは負けてしまった。

それも、現状取れるほぼ全ての策を曝け出した上で。

その事実に声も出ない。
 ▼ 246 SxCy/NIFN. 17/10/18 18:05:33 ID:O.2SnSqA [33/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

静まり返るフィールド。


ライチ「……まぁ、また来るといいよ。これだけ防御が上手いんだもの。きっと攻撃の方も……」


俺の沈黙を肯定とみなし、まとめに入るライチさん。


???「びぃーっ!」

「!?」


なんだ!?

ライチさんの言葉を遮って、どこから現れたのか、白い影がフィールドに飛び出す。


「お前……」

モンメン「ふわっぴぃ!」


それは、完全に予想外の再会だった。
 ▼ 247 SxCy/NIFN. 17/10/18 18:05:58 ID:O.2SnSqA [34/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ウラウラの花園に帰ったんじゃないのか?

何故俺の居場所を知っている?

言いたいことはいろいろあった。

だが、今この状況、確かなことが一つ。


ライチ「……キミの4匹目?」


勝ち筋が降ってきた。
 ▼ 248 SxCy/NIFN. 17/10/18 18:06:24 ID:O.2SnSqA [35/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

問題はある。

俺のポケモンではないので、公式試合に出すのは完全にルール違反だ。

だが、ここで俺が一つ頷けば、勝利はほぼ確定だ。

逆に俺が首を横に振れば、勝利は1ヶ月後か、2ヶ月後か。

島巡りの達成は大きく遠退くことだろう。
 ▼ 249 SxCy/NIFN. 17/10/18 18:07:10 ID:O.2SnSqA [36/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

モンメン「ぴぃーーっ!」


モンメンは、どういうわけか戦う気満々だ。

側から見れば俺のポケモンにしか見えない程度には、バトルフィールドに馴染んでいる。


「…………」


良心の呵責とか、そういうのがないわけではない。

ただ、負けたくない。

今負けて、ライチさんの前に折れるのが、すごく嫌だ。
 ▼ 250 SxCy/NIFN. 17/10/18 18:07:53 ID:O.2SnSqA [37/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ライチさん」


腰元のモンスターボールが震えた気がした。


「こいつは俺のポケモンです。さっきまで迷子になってたんですが、間に合ってよかった」


そんなのは気のせいだ。


モンメン「ぴぃっ!」

ライチ「なるほどね。……ルガルガン、正念場だよ!」


だからこの気持ち悪さも……全部気のせいだ。
 ▼ 251 ルビル@たべのこし 17/10/18 18:08:32 ID:acLb0QCo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
続ききたー!支援!
 ▼ 252 SxCy/NIFN. 17/10/18 18:08:50 ID:O.2SnSqA [38/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



勝負は呆気なく終わった。


どくのこなを水溜りに巻き散らし、あとは風に乗ってひたすら回避。

いわおとしのPPが切れているルガルガンは、対空攻撃の手段がない。

毒が回りきるまで攻撃をかわすのは、至極容易なことだった。
 ▼ 253 SxCy/NIFN. 17/10/18 18:09:26 ID:O.2SnSqA [39/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



ライチ「3匹がかりで作った状況とはいえ、まさかどくのこなだけでやられるとはねぇ……」

ライチ「それにしても、結局また攻撃を当てにこなかったね。有利なタイプなのに」


そもそも俺は初対面で食らったどくのこなしか習得わざを知らない。

それだけで勝てる状況に持ち込めていて本当に助かったと思う。
 ▼ 254 SxCy/NIFN. 17/10/18 18:09:54 ID:O.2SnSqA [40/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ライチ「さて……これが試練達成の証、イワZだよ」

「……ありがとうございます」

ライチ「不本意だけどね。でもキミは島クイーンに勝った。だから、これはもうキミのもの」


そう言って、苦虫を噛み潰したような顔でライチさんがクリスタルを手渡す。

これでアーカラ島の攻略が完了した。
 ▼ 255 SxCy/NIFN. 17/10/18 18:10:20 ID:O.2SnSqA [41/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ライチ「ただ!」

「…………何ですか」

ライチ「試練の中で言ったこと……キミは必ずいつか痛感することになる」

「……そうかもしれませんね」

ライチ「それがウラウラ島か、ポニ島か、それともその後の人生なのかは知らない」

ライチ「だから、キミは……!」


ライチさん自身も、言うべきことがまとまってない様子だ。

今ここでとめられなかったことを後悔するような、俺の未来を強く案じるような、そんな顔でこちらを見つめていた。

……すごく嫌だ。

頭の中がかき乱されるようで気持ちが悪い。
 ▼ 256 SxCy/NIFN. 17/10/18 18:11:15 ID:O.2SnSqA [42/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「それでもですよ。あなたには絶対わからない」


そう吐き捨て、踵を返し、出口に向かう。

これ以上気持ち悪くなる前に、一刻も早く。


ライチ「何で!」

「島クイーンは強いからですよ。決まってるじゃないですか」

ライチ「っ……!」


選んで邪道を進むものはいない。

選択肢なんて最初からなかった。

そこにしか進みようがなかった。

それなのにその道はダメだなんて、そんなのどうかしてる。
 ▼ 257 SxCy/NIFN. 17/10/18 18:11:49 ID:O.2SnSqA [43/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




バトルを終えて泥まみれの体で、早足でコニコシティに向かう。


コイル「#……!」


いつのまにかボールから出たコイルが、俺の前に飛び出す。

なんとなく申し訳なさそうな顔だ。
 ▼ 258 SxCy/NIFN. 17/10/18 18:12:53 ID:O.2SnSqA [44/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ああ、もしかしてお前がモンメンに行き先伝えてたのか?」

コイル「……#」

コイルが静かに頷く。

なるほど、ウラウラ島のポケセンに残ってたのはそういうことか。


「そうか。……成り行きだけど、モンメンもこれからの旅に連れてこうと思う。バトルさせちゃったしな」

コイル「#……」


儚げに俯くコイル。


「……なんでそんな顔するんだよ」

コイル「##…………」


コイルは、そのままふよふよとボールに戻って行った。

ああクソ、なんなんだ。
 ▼ 259 こまで◆SxCy/NIFN. 17/10/18 18:13:28 ID:O.2SnSqA [45/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

街についてからも、嫌な空気が漂ったままだ。

コイルも、ヤドンも、イーブイも。

揃ってそんな顔をする。

モンメンも、空気を読みますと言わんばかりにだんまりだ。


なんなんだよ。

俺はどうすればいいんだよ。


「進んでる、よな……?」


そのつぶやきは誰の耳にも届くことなく、不穏な空気の中に溶けていった。
 ▼ 260 ララッパ@いわのジュエル 17/10/18 21:11:59 ID:.COZeWJk NGネーム登録 NGID登録 報告
まぁライチさん核心突いてたしね

支援
 ▼ 261 イオーガ@リザードナイトY 17/10/19 18:09:13 ID:jGUnO9gs NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 262 SxCy/NIFN. 17/10/21 01:05:49 ID:F8IhjUME [1/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


【エピローグ】



『RRRR RRRR RRRR……』

ハラ「んん……?」


生ぬるい風が抜ける熱帯夜。

人もポケモンも寝静まった、深夜1時。

そんな時間に鳴る着信音は何事かと、ハラは目をこする。
 ▼ 263 SxCy/NIFN. 17/10/21 01:06:37 ID:F8IhjUME [2/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ハラ「むぅ、珍しい客ですな……」


真っ暗闇の足元によろめきつつ、ようやくたどり着いて受話器を取る。


ハラ「……ハラですぞ。どなたで──」

ライチ『ハラさぁん! 聞いてくださいよもー! 大試練でね!! 大試練でね!?』

ハラ「…………っ!」


反射的に目いっぱい腕を伸ばし、受話器を耳から遠ざけるハラ。

通話に応じるや否や耳を劈いた声の主ライチは、お手本のような泥酔具合だった。
 ▼ 264 SxCy/NIFN. 17/10/21 01:07:44 ID:F8IhjUME [3/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ハラが、恐る恐るという手つきで受話器を耳元に戻す。


ハラ「……ライチですか。まぁ落ち着きなさい。どうしたんですかな?」

ライチ『今日ね!? 島巡り浪人の子の試練があったんだけどね!?』

ハラ「浪人? まぁ、そんなに珍しいことでも……」

ライチ『そこはどうでもいいのよ! その子が! その子がぁ! うわああああああん!!』


電話口の向こうで泣きわめくライチ。


ハラ「ぬぐぅ……! うわあああん、ではわかりませんぞ……。いいから落ち着いて──」


それをハラがこめかみを抑えつつ宥める。


ライチ「だって! だってぇ!! あの子なんなのよぉおお!!」


しかし、激情家ライチの迸る感情は、酒の力も相まって勢いを増すばかり。


こんなやりとりがしばらく続いた。
 ▼ 265 SxCy/NIFN. 17/10/21 01:08:25 ID:F8IhjUME [4/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


──
────

ハラ「……なるほど、精神攻撃をするチャレンジャーですか……大変でしたな」

ライチ『ひっく……グス……。うん、辛かった。ライチさん頑張りましたぁ……!』


ようやくライチが幾ばくか平静を取り戻し、ハラが事情を把握する頃には30分が経過していた。
 ▼ 266 SxCy/NIFN. 17/10/21 01:08:56 ID:F8IhjUME [5/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ハラ「はぁ……」


そういうところが結婚できない所以なのでは、と思ったハラだが、当然口には出さない。


ハラ「それで……その子の大試練の結果はどうだったのですかな?」


代わりに、取り止めのなさそうな話題をつなぐ。
 ▼ 267 SxCy/NIFN. 17/10/21 01:10:30 ID:F8IhjUME [6/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ライチ『んぅ……結果……? あぁ、負けちゃいましたよ……悔しいけどねぇ』

ハラ「ほう?」


ハラが疑問符を提示する。

ライチの島巡り観を知るハラからすれば、その少年が勝利を収めたという結果はかなり違和感のあるものだった。


ハラ「そういう邪道な子供には容赦がない方だと思っていたんですがな?」

ライチ『そうなんだけどねぇ……。でも、突破されちゃいましたよ』


珍しいこともあるものだ、と、ハラは思う。


ライチ「……止められなかったなぁ」


電話口からため息混じりに吐き出されるその声は、心底後悔が滲んだ響きだった。
 ▼ 268 SxCy/NIFN. 17/10/21 01:11:26 ID:F8IhjUME [7/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ライチが仕事上で失敗することなど、滅多にない。

勝つべき時は勝ち、負けるべき時は負ける。

決して手を抜くと言うわけではなく、試練の本質を見据えた上で、チャレンジャーに立ちはだかる。

ハラからするとライチはそういう島クイーンだったから、失敗して落ち込んでいる様子を見るのは久しぶりのことだった。

そして、ライチはそういうものを割と引きずるきらいがあるというのも、ハラの評価である。
 ▼ 269 SxCy/NIFN. 17/10/21 01:12:05 ID:F8IhjUME [8/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ハラ「その子の先行きが心配ですかな?」

ライチ『そりゃそうですよ。今は良くても、どこで躓くか分かったもんじゃない。それに……なんていうか……』


ライチが、もどかしそうに語尾を濁す。


ハラ「なんですかな?」

ライチ『……コイルもヤドンもイーブイも、あの子を信頼はしてるのに妙に拗れそうで怖いというか……』

ハラ「コイル、ヤドン……?」


曖昧な声音で語られたポケモンの組み合わせは、しばらく前にハラが戦った1人の少年の像と結びつく。


ハラ「そう来ましたか……」


なるほどと、ハラは一人得心した。
 ▼ 270 SxCy/NIFN. 17/10/21 01:13:25 ID:F8IhjUME [9/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


3ヶ月前、ハラはメレメレの大試練を少年に与えていた。

あの日少年は策を弄し、策が破れ、一度は心が折れかけた──というより、ハラが意図的に折りにかかった。

それでもなお、咄嗟の機転と全力を以って、少年はハラのぶつけた課題を乗り越えた。

これで少年は真っ直ぐに進めるだろうと、ハラはその時思ったのだったが──


ハラ「上手くいかないものですなぁ……」


──少年の予想外の方向への成長に、ハラはため息を禁じ得ない。
 ▼ 271 SxCy/NIFN. 17/10/21 01:14:17 ID:F8IhjUME [10/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ライチ『……ハラさん?』


ライチの声に、ハラは物思いに耽る意識を引き戻される。


ハラ「おっと、失礼しましたな。その子に心当たりがあったものですから、考え事してましたぞ」

ライチ『心当たり……そうだ、メレメレの時はどうだったんですか?』

ハラ「力量は平均以下でしたが、とにかく周到でしたな。あそこまで事前に調べ尽くして挑みに来る者もそういないでしょうなぁ」


先程思い返していた通りの情報を伝えるハラ。

その計算高さは評価点であり、そしてあの日突きつけた課題でもあった。


ライチ『あ、おんなじ』


そしてその課題は今なお保留のようだ。
 ▼ 272 SxCy/NIFN. 17/10/21 01:15:44 ID:F8IhjUME [11/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ハラ「聞く限りはむしろ悪化してるかもですな。全力を見せろとは言いましたが、そういう方面に向かうとは……」

ライチ『全力は全力なんだけどねぇ。バトルも気迫は感じるし。ただ、うーん……』


言葉責めから始まる作戦。それにも増して異様に映るのは、強迫観念のごとき策への傾倒。


ライチ『……何があの子をそっちに走らせるのかねぇ』

ハラ「……まぁ、彼の旅に同行したわけではありませんからな。何かあるのでしょう、きっと」
 ▼ 273 SxCy/NIFN. 17/10/21 01:17:12 ID:F8IhjUME [12/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

投げやりとも取れるハラの言葉は、島キングの限界をそのまま現したものだった。

試練を通して挑戦者に課題をぶつけると言っても、それは必ずしも全てを見通せるものではない。


ライチ『そんなもんだよねぇ……島クイーンってのは』


ライチも、それは重々承知だった。
 ▼ 274 SxCy/NIFN. 17/10/21 01:17:44 ID:F8IhjUME [13/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ハラ「まぁ、それに彼の旅はまだ半分残ってるわけですからな。……あとは、ウラウラの島キングに託しても良いのではないですかな?」

ライチ『あー……確かに。適任って感じするかもね』


ウラウラ島の島キング。

彼ならなんとかしそうだし、彼が好きそうな案件だと、ハラもライチもそれぞれに思う。
 ▼ 275 SxCy/NIFN. 17/10/21 01:18:18 ID:F8IhjUME [14/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ハラ「その子にとっては間違いなく厳しい戦いになるでしょうが……まぁ、それでこそでしょう」

ライチ『……そうですね』


ライチもハラも、次の島へ向かう少年の多難な前途を思う。

願うのは当然挫折ではなく、超克。

なぜならそれが島巡りだから。
 ▼ 276 SxCy/NIFN. 17/10/21 01:19:47 ID:F8IhjUME [15/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ハラがふと時計を見ると、すでに時刻は深夜2時。

流石に明日の目覚めに不安が残る時間だ。


ハラ「……ささ、夜が明けたらまた試練ですぞ。試すべきはその少年ばかりではないのです。早く寝なさい」

ライチ『はーい……おやすみなさい』


そう残して、ぷつりと通話が切れる。


ハラ「……ハラハラしますなぁ……」


一人呟いて、ハラは受話器を置くのだった。





             ───第4章 終
 ▼ 277 SxCy/NIFN. 17/10/21 01:26:32 ID:F8IhjUME [16/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


支援と感想感謝です

モンメンを仲間に加え、少年の旅は5章のウラウラ編に続きます
クソ遅い更新ペースに引き続きお付き合いいただければ幸いです
 ▼ 278 ドン@ノワキのみ 17/10/21 02:15:23 ID:4WM13AHY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙です。支援です。
やはり効いてたライチさん……
 ▼ 279 ワムラー@にじいろのはね 17/10/21 06:33:51 ID:ecuFUre. NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 280 マズン@メガバングル 17/10/21 19:12:03 ID:w.3H2VZE NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 281 シレーヌ@ロックカプセル 17/10/24 22:33:30 ID:sxJCicq. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 282 ォーグル@ルビー 17/10/28 23:49:23 ID:.PAcl4Ng NGネーム登録 NGID登録 報告
しえん
 ▼ 283 トシゲッコウガ@ロックメモリ 17/10/30 23:33:17 ID:gIsJy/LM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 284 ッポ@むらさきのミツ 17/10/31 00:11:58 ID:pN3UOtRU NGネーム登録 NGID登録 報告
支援。
大好きだ!
 ▼ 285 リゴン@おとしもの 17/11/10 22:30:37 ID:AyYGkTCI NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 286 ガカメックス@きんのいれば 17/11/12 17:18:15 ID:GEFDu2w2 NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 287 ガヘラクロス@パワーリスト 17/11/12 23:21:14 ID:IJUUEpqY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 288 ジョンド@きんのいれば 17/11/18 08:45:31 ID:xfZ5NuqY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
続きまだかな…
 ▼ 289 リップが◆SxCy/NIFN. 17/11/18 12:08:53 ID:0Sb8JAuM [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


《第5章》


【106日目 夕方】


俺のポケモンたちは、みんな風呂好きだ。

シャワーを嫌がるポケモンに手を焼くのはトレーナーあるあるらしい。

だが、コイルもヤドンもイーブイも、手持ちになったその日からポケセンの貸しシャワーをすんなり浴びるようになった。

特にコイルとイーブイは、たまに家に帰って浴槽に浸かる時なんかは、それはもう大はしゃぎする。

する、はずなのだが。


「…………」

イーブイ「…………」

コイル「…………」

ヤドン「…………」

モンメン「…………」


こんなに静かな風呂はいつぶりだろうか。
 ▼ 290 わったぜ◆aIiv212DRk 17/11/18 12:10:28 ID:0Sb8JAuM [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


アーカラをクリアして家に着くなり、泥だらけの俺たちは風呂へ放り込まれた。

1人と4匹、一緒に入るには少し狭い。

不意にコイルと体が擦れ、身じろぎした。

波紋とともに小さな水音がたち、静寂が浮き彫りになる。


「#……」


そんな静けさに耐えかねてか、コイルが何か言おうとした。

しかし、小さな声はすぐに途切れ、くぐもった残響の尾を引いて湯けむりに消えていく。

ああ、クソ、なんなんだ。
 ▼ 291 aIiv212DRk 17/11/18 12:12:40 ID:0Sb8JAuM [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……なぁ」


重い口をこじ開け、声を捻り出す。

このまま口を噤んでいてはきっとそのままになって、旅はそこで終わってしまうだろう。

俺も、こいつらも、言うべきことは言うべきだ。

言えば分かるとは限らない。

けれど、それでも言わなければ分からないのだから。
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