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【SS】ソロキャンプとあなをほる

 ▼ 1 ネココア◆tZpX12d.cw 25/09/27 20:59:18 ID:KlJoIp/s [1/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
俺のキャンプには、小さな川と乾いた枝が何本かあればそれでいい。

もっとも重要なのは、人もポケモンも少ない穴場であること。
無人販売所に無造作に置かれた薪は平穏な1日を期待させるには十分なものだった。

俺の唯一の手持ちポケモンのフォレトスは、とにかく動かない。
おまけに大食いで超重い、押した所でビクともしない。
それでいいじゃないか。だから俺はこいつが好きだ。
そんな平和な昼下がりを俺は満喫していた。
  
この時はまだ知る由もなかった。
今日が人生最悪の1日になる事を。

通販で間違えて買った大きめのテントの設営も済ませ、キャンプ地を離れて近くの町まで自転車を漕いだ。
 
道中、口がもの寂しくなり、野生のキーの実をかじってみたが激しく後悔した。
めちゃくちゃ渋かったのだ。

町は小さいが、周りの自然環境に恵まれている為、大抵の食料品は揃った。
どうせならその土地で取れたものを調理して食べたい、フォレトスも珍しく地面を削りながら這うようにゆっくりと着いてくる。
ただ、地面が石畳になってからは嫌な金属音が鳴り始めたのですぐにボールにしまった。
 
そんなこんなで近辺で取れた野菜やきのみ、謎の缶詰などを適当に買い揃えていると、広場がやけに騒がしく感じた。

どうやらバトルが行われているようだ、出来るだけ近づきたく無い。
 ▼ 2 ネココア◆tZpX12d.cw 25/09/27 21:03:02 ID:KlJoIp/s [2/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しばらくすると、そのバトルの様子がおかしい事に気づいた。

ここで広場に足を踏み入れなければ、と今でも思う。

そこには、暴れ狂うバンギラスと薙ぎ倒されていくポケモン達の姿があった。
ひどく一方的な蹂躙が行われている。

どうやら食料の少なくなった山から降りて来て、ここ数日間、町に来ては店を襲っている個体らしい。
 
そんな事を教えてくれた婆さんが繰り出したキノココは二秒後に潰れてぶっ飛んでいった。

俺は恐怖した。

「アクアテールだ!ゴルダック!」
「ウツボット!避けていえき!」
「そんな…ポチエナが倒されちゃった…!」

いわばこれは町の総力戦だ、バトル慣れしてない子供や町一番の実力者も駆り出され皆戦っている。
しかし戦況は一向に変わらない。

モンスターボールから出てくるポケモンはもって数分できぜつし、木箱に入ったげんきの欠片はみるみる減っていく。
だが、しばらくその様子を伺っていると一度もきぜつしていない二匹のポケモンがいることに気づいた。
 
「私はまだ行けます!あなたは他の回復をお願いします!ウツボット、ようかいえき!」
俺と同年代くらいの若い女性がウツボットでツタを巧みに操り、飛び交う巨石を躱しながら攻撃を続けている。
一度もきぜつしていないどころか、周りに指示まで出している。
 
「行けッロトム!!ハイドロポンプ!!!!」
そしてウォッシュロトムを使っている、これまた同世代くらいの若い男性、彼の"でんじは"の甲斐もありバンギラスの動きは多少鈍くなっている。
また、ロトムの放つハイドロポンプは周りの有象無象が放つの技の中でも確実な有効打を与えられているように感じた。
 
身なりからして二人とも町の人間では無さそうだ。
「ウツボット!いえき!」
あとなんか技の液率高いな…
とにかく、二人の尽力もあり、やっと勝利の兆しが見えてきた。
一方のバンギラスも最後の抵抗かのように狂った勢いで暴れている。
 ▼ 3 ネココア◆tZpX12d.cw 25/09/27 21:19:19 ID:KlJoIp/s [3/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
負けじと町の人達の口数も増えていく。

「あっちにキズぐすり持っていって!」
「ロトム!一旦下がれ!」
 
同年代の二人が奮闘している一方、情けないことに俺はフォレトスを出そうとすら思ってなかった。

ここを抜け出そうにも抜け出せるような空気では無い、だからといってバトルの経験が無い俺はただ突っ立って見ているだけだった。

どうにか人目を盗んでこの騒ぎから抜け出そうとしていると、キノココをきぜつさせられた婆さんがこっちを見ていた。
おい、やめろ、こっちをじっと見るな。
こっちはフォレトスに何が出来るかすらわかってないんだよ。
無理だから、マジで。
そんな目で見ないでくれ…

…俺はしぶしぶボールに手を伸ばした。

こいつは何が出来るんだ?だいばくはつでも出来れば楽なのだが。

そんなことを考えながら投げたボールは太陽を横切り、随分高い位置に飛んで行ってしまった。

やばいミスった。

空中に放り出されたフォレトスは自由落下を始める。
人間に当たったら間違いなく死ぬ。



グシッ

鈍い音が鳴る。
 
終わった。



最悪の想像をしながらも恐る恐る顔をあげると、そこには
目にうずまきを浮かべるバンギラスが倒れていた。

少しの沈黙の後、気の抜けた声がまばらに散らばり、やがて大きな歓声になった。

俺はここで自分が誇らしいとかよりも、長引いたこの戦いの締めがこんなのでいいのかと思ってしまった。

最後のいいところだけを持っていった俺を良く思ってない奴もいるんじゃないか…?と周りを見渡したが、この町は疲労からくる緊張の解放でちょっとおかしいくらいに歓喜に満ちていたのだ。



若干の気まずさと申し訳なさを感じながら、俺はどんちゃん騒ぎの町から抜け出した。


…祭り上げられるフォレトスを置き去りにして。


俺がボールを投げたのを見ていたのがあの婆さんだけで良かった。
町の人はフォレトスのトレーナーが誰か知るよしもない。

暗くならないうちに焚き火を点ける。
 ▼ 4 ネココア◆tZpX12d.cw 25/09/27 21:35:59 ID:KlJoIp/s [4/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フォレトスとの出会いは意味不明だ。

俺が子供の頃に実家の屋根にくっついていたフォレトスを落としてから気付けばずっと着いてくるようになったのだ。
いくら遠くに置いてきても3〜4時間後には帰ってくるし、そのくせ俺が動いて欲しい時には動かない。

そろそろあいつが帰ってくる。

身代わりになってもらった詫びに料理を振る舞うとしよう。
噂をすれば草むらからガサガサと音がする。

「…あれ、彼じゃないですか?」
「ん?ホントだ、君かぁ!」

フォレトスは意外な客を連れてきた。
ウツボット使いとウォッシュロトム使いの二人だ。

「私のことわかります?昼にバンギラスと一緒に戦った戦友のカズミです!」
 
「お前フォレトス忘れてったぞ〜!俺はヤマダ、同じく戦友だ!」
フォレトスを片手で持ち上げている…!?

大きな荷物を背負った二人は押しが強く、気付けば楽しいソロキャンプは崩壊していった。

今は、カレーにウブの実を入れるかで議論が起きている。

ヤマダが大荷物から出した巨大な鍋で、誰も作った経験のないカレーを、三人で試行錯誤しながら作っているのだ。

カズミ「…絶対入れた方が美味しいですって!!」
彼女はカズミ、この辺に自生する植物を調べにあの町に来ていたらしい、普段は花屋をしていると話していた。
大人しそうな見た目だが無邪気でハツラツとした女だ。
 
ヤマダ「いーや俺にはガラル住みの親友がいるんだ…間違いない」
彼はヤマダ、カロスで美容師をしているらしい、職業を聞かないと格闘家と間違えるくらいの筋骨隆々でたくましい男だ。
あと声が大きい。

「なあ…!ネコブは入れるよな?ネコブ!あれ無いとカレー食えないんだよ!」
…これは俺だ。

俺はジョン、イッシュ地方のサイクリングショップの店員で、趣味はキャンプ。

二人はバンギラス討伐後に色々な物を町の人から貰ったらしい、戦闘中に頑張っていた彼らを皆見ていたのだ。
町の人がくれた食料をふんだんに使ったカレーをかき混ぜる、なんか緑の液体が出てきた、どうしよう。



そんなこんなでカレーも出来上がり、食事をした。
肝心のカレーの味は…なんというか…凄い味がした。

食後に婆さんのキノココが歩いてきて、タッパーに入った山菜の油浸しを置いていってくれたりもした。
こっちはめちゃくちゃ旨かった。
 ▼ 5 ネココア◆tZpX12d.cw 25/09/27 21:39:36 ID:KlJoIp/s [5/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヤマダ「もしさァ!ポケモンのわざが5個まで覚えされられるなら何覚えさせたい?俺達ポケモン1体しか持ってないからそこら辺困るよな〜」

カズミ「はっぱカッターとかかな〜!そしたらウツボットに花屋の仕事任せられるし!」

ヤマダ「おいおい、はっぱカッターってはっぱをカットするからそういう名前だったのか!?」

ジョン「いや全然」
ヤマダ「違うんかい!」

カズミ「バトルしない人からするとポケモンのわざっていかに仕事に役立つかですもんね、ジョンさんはどんなわざ構成にしてるんですか?」

ジョン「俺フォレトスのわざ…全然把握してないんだよね…」

ヤマダ「ジョンくぅ〜ん…フォレトスにもっとかまってあげなよォ〜」

そういいながらヤマダはフォレトスを頭に擦り付けてくる。
普通に痛い。

ヤマダ「俺はたまにバトルもするけどほぼ仕事で洗髪してもらう時のわざ構成で固めてるからな〜何がいいんだろ…突然のあまごいで町中の人の髪のセットを崩したら大儲け出来るか!?」
ジョン「最悪」

カズミ「いいですね、じゃあ私はにほんばれで乾かしてお金貰う仕事しますよ」

ヤマダ「こりゃ商売敵が生まれちまったぜ!!」

ジョン「じゃあ僕はどくびし降らせますね」
カズミ「それは降らせちゃまずいもんでしょ」

ヤマダ「ハハ!そりゃ天気予報士もびっくりだな」
  
不思議な事に、彼らといるとつい笑ってしまう。
今まで一人でいることが自分の性に合っていると思っていたが、こんな楽しい事もあるのなら悪くない。
 ▼ 6 ネココア◆tZpX12d.cw 25/09/27 21:40:19 ID:KlJoIp/s [6/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
みんな酒も入り、お互いの事を良く喋ったし忘れたい恥ずかしい話もしあった。
そして話の流れで、罪の告白をお互いに話し合う事になったのだ。

ヤマダ「俺はこいつをカットロトムにフォルムチェンジさせれば散髪出来るんじゃないかと思ってさ、一回練習させて寝てる客に試した事があってよ…」

ジョン「この時点で嫌な予感するな」

ヤマダ「そしたら暴走して客を坊主にしちゃったんだよ!あれは焦ったなぁ…なんとか誤魔化せたけど申し訳無いことしちゃったな…」

カズミ「誤魔化せたの!?」

ヤマダ「新しいヘアスタイルですって言ってな」
ジョン「よく誤魔化せたな……」

ヤマダ「まぁな…次はジョンの番だぞ!」
ジョン「俺〜?あるかな…」

ヤマダ「気を付けろよ〜こんな顔してどんな凶悪な事してるかわかんないからな」

ジョン「罪といえば公園に乗り捨てられて随分経つ自転車をココドラの群れに持ってって食わせた事かな」
ヤマダ「やば〜……食ってた?」

ジョン「美味しそうに食べてたよ、ゴムの所だけ器用に吐き出してた」

俺達は酔っぱらっていた、普段は話さないことも話したし、初めて聞く話の何もかもが新鮮で浮かれていたのだ。

カズミ「じゃあじゃあ次は私〜!」

ヤマダ「来た来た〜!」

カズミ「しつこく言い寄ってくる男がいてさ、毎週火曜日に買いもしない花屋に来るの」

なぜか背筋に悪寒が走った
 ▼ 7 ネココア◆tZpX12d.cw 25/09/27 21:43:59 ID:KlJoIp/s [7/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
カズミ「ある日に店を閉めてたら、いきなり手を引っ張られてさ」

明らかにテントの中の空気が変わった。
月が隠れて黄色いテントが青みがかっていた。
雨が降り始める。

カズミ「やめてって突き飛ばしたら…そこ階段でさ」

それは最悪が始まるには似合いすぎる大きな雷だった。
雷鳴にひるまず彼女は言った。

カズミ「…動かなくなったんだよね」

その後しばらく俺とヤマダは喋らなかった。

彼女は自分を責めるような事やその後どうしたのかを事細かに語った。

これがおとといの出来事と言われた時は、自分の全細胞が熱を帯びて広がった気がした。

カズミ「これを失くさないとと思って、色々試したけど全然溶けなくて…!ちっとも...溶けなくて…」

彼女の言動も支離滅裂になっていく最中、"溶けない"というような単語が目立つようになった。
 
どういうことだろう。
いや、知りたくもない。

きっと自分の中ではもうわかってしまっていて、その上で俺は知らない振りをしているのだ。
体が心より先に震えていた、恐ろしい疑念が体を駆け巡る。

なぜ彼女がはっぱカッターより"いえき"や"ようかいえき"なんかを4つしか無いわざに採用しているのか。

カズミ「ねぇ……どうすればいい?」

考えるな

カズミ「どうやっても溶けきらないの……」
やめろ

大きな荷物のジッパーの音がテントの中で唸り声のように響く。

その中でこちらを覗いていたのは…

カズミ「彼」

 
ジョン「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 ▼ 8 ネココア◆tZpX12d.cw 25/09/28 00:09:18 ID:IFus44.g [1/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
嘘だろう
これは
 
どしゃ降りの雨の中走る、走る。
街頭も無い暗闇の中を進む。
半履き靴と足の間に水が入り、擦れる。
ぐじゅぐじゅになって、皮が削れて、冷えた痛みを感じた。
これが夢かもしれないという、安易な思考すらその痛みに削がれて行く。

気付けば膝下まで水に浸かっていた、一歩踏み出した瞬間、流れる水流に体を持っていかれそうになった。

腰より下が液体に浸かってしまっていたのだ。

川?それより…
このまま、ここにいたら確実に死ぬ。
川は体を芯から冷やし、体力をジワジワ削っていく。

周りを見渡しても何も見えない、夜の闇が辺りを包む。

俺、ここで死ぬのか。

雷が空を裂いた。
それは近くの木に落ち辺りを明るく照らした、俺の周りを何かが囲んでいる。

ふたたび雷が落ちると、その何かは俺のそばに近づいていた。

また、雷が落ちた。

まただ、もうそばにいる。

いや、明らかに多すぎる。
雷が落ちる木がどんどん変わり、なぜかこっちの方向に近づいてきているようだ。

そうかて…これは雷ではなくかみなりだ。
目の前に手が差し出される。

ヤマダ「早くッ!手ェ掴めッ!」
次の瞬間には淡い光を放ちながら浮遊するヤマダとロトムが目の前に表れていた。
 ▼ 9 ネココア◆tZpX12d.cw 25/09/28 00:44:25 ID:IFus44.g [2/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
すぐにもう一つの手も取られる。
カズミ「…ジョンさぁん……死なないでぇ…」
豪雨の中でも泣いていることだけはわかった。
彼女は優しい。
ただ通りがかっただけなら、バンギラスとの戦いにあんな顔を覚えられるような形で参加しないだろう。

ウツボットが赤子を扱うようにつるで体を掴んでくれた

今思えば、これ程に巨大なポケモンのいえきやようかいえきが人体を溶かせないはずはない、ウツボットも人に害を与えるようなポケモンではないはずだ。

どうにか陸にたどり着き、俺達はテントに戻った。


誰も喋らず、気まずい空気が流れる中で俺は開口一番にこう言った。

ジョン「まずは死体を埋めよう。」

史上最悪のあなをほるが今、始まる。
 ▼ 10 ネココア◆tZpX12d.cw 25/09/28 01:00:29 ID:IFus44.g [3/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
すぐにもう一つの手も取られる。

カズミ「…ジョンさぁん……死なないでぇ…」

豪雨の中でも泣いていることだけはわかった。
彼女は優しい。
ただ通りがかっただけなら、バンギラスとの戦いにあんな顔を覚えられるような形で参加しないだろう。

ウツボットが赤子を扱うようにつるで体を掴んでくれた。

今思えば、これ程に巨大なポケモンのいえきやようかいえきが人体を溶かせないはずはない、ウツボットも人に害を与えるようなポケモンではないはずだ。

どうにか陸にたどり着き、俺達はテントに戻った。


誰も喋らず、気まずい空気が流れる中で俺は開口一番にこう言った。

ジョン「まずは死体を埋めよう。」

史上最悪のあなをほるが今、始まる。
 ▼ 11 ネココア◆tZpX12d.cw 25/09/28 01:00:47 ID:IFus44.g [4/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
カズミ「…はい」

しばしの沈黙の後、小さな声で彼女は言った 
 
ヤマダ「いや、ダメだろ…死体を埋めるなんて…」

その通りだ

ヤマダ「警察はこの事を知ってるのか?俺はどっちにしろ自首するべきだと思う」

カズミ「多分、まだ…知りません…だけど彼…反社会組織の一員らしいんです…その組織の人に怪しまれていて…町で見かけてしまったんです…私、実はここに死体を捨てに来て…あ…でも…もしかしたらもうあの町で顔を見られているかも…いや…でも…」

ジョン「それじゃあ警察に自首しても……報復は免れないだろう」

ヤマダ「いや…人として良くないだろ…なんかそういうの…」

ヤマダの気持ちは良くわかる。
でも、やらなくちゃいけないんだ。

ジョン「…わかってくれ」

ヤマダ「…わかった…自首は埋めた後でも構わない…でも、その後…必ず自首してくれ」

ヤマダが何故そんな意味不明な事を言い出したのかは分からないが、俺達は森の奥地に穴を掘ることにした。

死体はいえきが包んだのか、不思議と匂わなかった。
森は闇に包まれていたが誰も明かりをつけようとも思わなかった。

テントを片付け、徒歩で歩いた。
道なりに歩くと、やがて港にたどり着く。
夜の港は綺麗に輝いていた。
 ▼ 12 ネココア◆tZpX12d.cw 25/09/28 01:53:44 ID:IFus44.g [5/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
歩き始めは何も喋らなかった俺達だが、沈黙に耐えられず酒を煽りはじめてからは少しずつ喋るようになった。

だが、死体を埋めた事や彼女のした事には誰も言及しなかった。

ヤマダ「俺さ…調子のってカリスマ美容師なんて見栄張って言っちゃったけどまだ見習いで1000円カットやってんだ」
一気に緊張がほぐれ、笑いが漏れた。

ジョン「ふ…ふふ……」
カズミ「ん………へ…」

ヤマダ「俺、言い出すのが怖くてさ…」

ジョン「いや……お前1000円カットで客をハゲにしたのかよ!!」

カズミ「やっぱりヤマダさんはヤマダさんですね…」

ヤマダがぽかんと口を開けてこちらを見る。
ヤマダ「あれ…?俺結構シリアスな感じになると思って言ったんだけど…」

いっしき笑った後、お互いの事をより深く話した。
自転車屋なのに自分の自転車がボロい事、同じハサミを2個買った事、姉が先日破産した事、星が綺麗な事。

誰が話した話だか分からなくなるまで、沢山話して笑い、何故か泣いた。

周りはまだ暗いままだったが、鳥の鳴き声がいまがどのくらいの時間なのかを告げた。

ふと前に目をやると、ガタイの良い大男がこちらに歩いて来る。

戦いは避けられないと直感が俺に語りかける。
 ▼ 13 ネココア◆tZpX12d.cw 25/09/28 01:54:11 ID:IFus44.g [6/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
大男は立ち止まり口を開く。

ブダイ「…止まれ、ワシは五粒組の組長のブダイ、先日ウチの若頭がまさかとは思うがそこの女にやられたかもなんて噂があってワシ直々に来たって訳よ」
 
周囲が緊張感で満たされていく。
この男が声を荒らげた頃には俺は泣いている気がする。

ブダイ「で、実際どうなの?」

傷だらけの男の目がギョロリとこちらを睨む。 
俺達はふたたび口を深く閉ざした。



彼の横を無言で通った瞬間、ブダイはキレた。

ブダイ「…この痴れモンがァァア!!!!!!答えやがれ!!!!」


ジョン「お前らァ走って逃げろ!!!!!」
俺は走りながら言った。

カズミは逃げ出した、俺も全力で逃げている。
しかし、ヤマダだけは逃げなかった。
 
ジョン「ヤマダ!!!!!!逃げるぞ!!!!」

背後を見ると、ヤマダが巨大なワルビアルの道を塞いでいた。

ヤマダ「ジョン!お前がカズミを導けよ!!!」
 
そういうとヤマダはワルビアルに生身で向かって行った。
無茶だ。
誰もがそう思った。

 


ウソだ。



ヤマダがワルビアルと互角に渡り合っている。

マジかよ…コイツ………!
  
今、ワルビアルを投げ飛ばした。

ヤマダ「ジョン!!!!速く行け!!!!!!」
朝日に光るヤマダは水面に写り輝いていた。
分かったよ、ヤマダ。
俺が必ず…

……彼女に自首なんてさせない。

ヤマダ「待て、ジョン…違」

次の瞬間、また何かが海面に叩きつけられる音が聞こえたが、俺達は振り向かなかった。
途中から俺は何処からか自転車を取り出し彼女を乗せ走った。

朝日が浮かんでもまだ星は光り輝いていた。
 ▼ 14 ネココア◆tZpX12d.cw 25/10/03 00:13:30 ID:vC5gmOBU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ある地点を越えてから誰かに見られているような感覚に陥った。

半分埋まったアレと暗闇で目が合った時を思い出す。

無意識に殺されるという事は意思を持って殺されることより残酷なのかもしれない。

自転車を急いで走らせて激しく動いた心臓が、降りた後もなお同じスピードで脈動しているのだ。

思えば俺達は昨日から寝ていない。
背筋に這い回るこの感覚から解放される日は来るのだろうか。

足を動かしながら考え続けた結果、ひとつ気づいた事がある。

俺はずっとポケモンになりたかったのだ。

本能を骨の髄まで削ぎ落とされた人間と言う種族はあまりにも救えない。
気付かない内に危険な領域に踏み込むし、手違いや加減が出来ず人を殺してしまう奴もいる。

皆がもしポケモンだったらこうはならないだろう。
彼らの本能は無意味や無駄を嫌い、行動の一つ一つには全て生存の知恵が紐付いている。
無意味に命が失われていくというのは、人間の絶望的などんくささから来る特有の現象なのかもしれない。

昔、この地方では人間を滅ぼしポケモン達を中心とした楽園のようなものを築こうとした組織があったらしい。
それが成功していればこの世界から罪は消えていたのだろうか。

期待を裏切る度に自分を見限った。
他人に騙される度に他者を見限った。
嫌なニュースが聞こえる度に人間を見限った。

嫉妬や悪意、挙げ句の果てには意味なく傷つけ合う。
酷く醜い。

周りに人間がいる限り、息苦しい世界は変わらなかった。




ただ…

ただ少しだけ。

あの日、テントで心を通わせ合った瞬間に初めて
人間が持つその醜さを抱えて生きても良いと思えたのだ。

だから、俺は彼女を救わなくちゃいけない。

甲高いブレーキ音が最後の決戦のファンファーレとなる。

今、目の前にジュンサーさんが立ちはだかっている。
 ▼ 15 ルタンク@そらいろたまいし 25/10/06 10:36:12 ID:zcAYlgTE [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
レントラーの目が血走っている。

ジュンサー「すみません、ちょっと止まって貰って良いですか?」

静止に従う。
まだ顔は割れていないはずだ、ここを乗り切ればどうにかなる。

ジュンサー「荷物の中身を拝見してもよろしいでしょうか?」

怪しいものは持ち合わせていない為、従う。

ジュンサー「先日までキャンプを?」

ジョン「はい、テントはありません。近くのキャンプ場にグランピング施設があるので」



ジュンサー「この大きなトランクには何を?」

カズミ「…食料と近くの町で買った薪が入っていました」


他にも仕事の事や所持しているポケモンについてを聞かれたが、嘘をつく必要が無いため正直に喋る。
 
已然としてレントラーはこちらを睨み付けているが、職務質問への応答は問題なかったようだ。


ジュンサー「ご協力ありがとうございました。」

ふたたび自転車に乗り、走り出した時だった。



ガシャァァァン
 



俺は激しく転倒した。



レントラーが突然、自転車にタックルしたのだ。


ジュンサー「ごめんなさいね、最初からあなた達が事件に関わってる事はわかってたの」



図られた……! 
 ▼ 16 ネココア◆tZpX12d.cw 25/10/06 10:37:05 ID:zcAYlgTE [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
カズミは先んじて自転車から飛び下りていたらしく、既にウツボットをボールから出している。
 
カズミ「…つるのムチ!」

しなりをつけたつるのムチが空気を破裂させながらレントラーに向かって行く。


刹那、ウツボットは燃える。


レントラーが一瞬で背後に回り込み、ほのおのキバでウツボットを一撃で葬った。



カズミ「ウツボット…戻って…」
 
きぜつしたウツボットがボールに戻って行く。
一番最悪な展開だ。
ヤマダから預かったウォッシュロトムを使ってどうにか出来るような相手ではない。

普段、当然のように見ていたジュンサーの想像以上で、圧倒的な強さに驚きを越え、恐怖を感じた。

この世界で治安を守るというのはこういうことなのか。
 ▼ 17 ネココア◆tZpX12d.cw 25/10/06 10:44:50 ID:zcAYlgTE [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
逃げるしかない。



車通りの多い道路に目掛けて走り出す。


が…

当然、すぐに捕まる。

 
レントラーは腕にがっしりと噛みつき、血がだくだくと溢れていった。


…勝つにはこれしかない。

 
俺は噛みつかれている手でレントラーのひげを握りしめ、もう片方の手で頭上にボールを振り上げた。

レントラーが危機を感じて離れようとするが、ガッチリと掴んだひげを俺は離さない。


 
────フォレトスが全てを、押し潰す。


              脳天直撃


レントラーの頭蓋が俺のあばらに食い込み、メキメキと骨を折る音がした。

やっとレントラーの目は朱を失い、ぐるぐると目を回した。


内蔵が圧迫されて吐き気がする。


ジュンサーさんは不意を突かれた顔をしてはいるが、すぐに次のボールを用意し始めた。


…まだいる!


ヤケクソでフォレトスに指示する。
ジョン「ボールを打ち落とせ!」


甲高い音が3回、それぞれ宙に舞って別の方向に飛んでいく。

ジュンサー「嘘ッ!?」
 


フォレトスはロックブラストで器用に全てのボールを弾いて飛ばしていた。



ジョン「…お前そんなこと出来たの!?」
 ▼ 18 ネココア◆tZpX12d.cw 25/10/06 10:49:56 ID:BWCMPeSw NGネーム登録 NGID登録 報告
ここぞとばかりに俺達は走った。
気道に血が詰まって、赤い咳が出る。
 
藁にも縋る思いで路上駐車された軽自動車のドアを引っ張った。

ジョン「よっしゃ!」
ここに来て幸運なことに後部座席のドアが勢いよく開いたのだ。
 
カズミを座席に乗せて、後ろを振り返る。

まずい、ここからじゃフォレトスをボールに戻せない。

カズミ「ジョン!この車、エンジンキーが掛かってない!」

クソッ!何もかも上手く行かない!!
ウォッシュロトムを繰り出し、かいでんぱを命じる。

これで…!掛かってくれ…!エンジン!!



唸るような低音が鳴り響き車内でテレビにニュースが写し出された。
エンジンが掛かったのだ。

これなら逃げれる……!!
 


だが次の瞬間、車はひとりでに走り始めていた。




ジョン「は?なんで?」

ただ、唖然と車だけを見つめ、追いかけようと足を動かした瞬間大きな何かにつまずく。



洗濯機だ。


遠ざかる車内のテレビにはロトムが写っていた。


…やられた!!



もう体が限界だ、あばらの骨は何本か折れてるし、腕からは血が止まらない。

おまけにペダルに足を潰されて、これまでの疲労から全身が震えている。



五感が怪しくなってきた頃に、手に冷たい鉄のようなものが触れる。

それは手錠で、敗北を知らせるには十分な楔だった。

仰向けになってみると朝日が思ったより眩しく、目を閉じて暫くしたら意識を失った。
 ▼ 19 チルゼル@ふしぎなおきもの 25/10/08 17:06:53 ID:UY3QRov2 [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
この逃避行の結末はそんなもんだった。





その後、俺は都会の病院に運ばれたらしい。



病院で夜に目覚めると、ただの骨折とは思えないほどの熱が出ていた。



点滴のようなものが五種類ほど繋がれていて、全身が痛い。



昔自転車で転けたついでに車に衝突された時もこれほど辛くはなかった。



この二日間で今までの人生合わせても足りないくらいに心臓を鼓動させた気がする。



内側から来る痛みは重く長く続き、誰かに腕を強く握られたかのような四肢の伸縮が朝の5時くらいまで続き、やっと気絶できた。








再び目を覚ますと看護師が誰かを呼びつけた。



ジュンサーさんだ。



ジュンサー「初めまして、言っておくと私は多分あなたの想像しているジュンサーとは別人よ」



あまりにも似すぎているが、ジュンサーさんの一族はそういうものらしい。
 ▼ 20 ネココア◆tZpX12d.cw 25/10/08 17:07:21 ID:UY3QRov2 [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
ジュンサー「あなたが死体の損壊やその証拠隠滅に協力したのは既にお仲間から聞いています」



お仲間ということは、カズミはまだ捕まっていないはずだ。



ジュンサー「あなたのお仲間さんとあなたの発言の細部が一致しているかなどを今回の取り調べでは重視して聞かせてもらうわ」



ジョン「じゃあヤマダは無事なんですね?」



ジュンサー「・・・」



その沈黙は長かった、ゆっくりと何かを考えてから彼女は言った。



ジュンサー「電話の人物がヤマダであっているのですね?」



ジョン「話が見えないんですけどどういうことですか?



ジュンサー「彼は3日前の午後11時ほどに我々に電話をかけて以降、道中の会話を全て垂れ流しにしていました」



3日前・・・?

手元から落ちたカレンダー付きの時計を見る。

ここで俺はほぼ一日を寝たままで過ごしていたことに初めて気づく。



そして11時は俺が錯乱して川に突っ込み、帰ってきたくらいの時間だ。



ジュンサー「最後は彼自身が海に落とされ、携帯が壊れるまでの数分で彼が話してくれた内容は多くの捜査がすすむきっかけになりました。しかし彼自身はまだ見つかっていません」



だから、あの時バレたのかと合点がいった。
 ▼ 21 ネココア◆tZpX12d.cw 25/10/08 17:55:26 ID:0zKMQl1I NGネーム登録 NGID登録 報告
ジュンサー「彼が今どうなっているのか、もう一人の女性の実行犯は今どこにいるのか、どこに死体を埋めたのか、わかりますか?」

どれもわからない

二人があの後どうなったのかも、暗い中で入った森の奥地の穴の場所も…

ジョン「…わかりません」


ジュンサー「あなたは若いし、この程度のことなら社会復帰だって難しくない、何よりあなたは人間として強くなった。電話から聞こえてくる会話を聞いていて少なからずあなたには同情しているの、正直なことを話して」


ジョン「本当に…わかりません…!!」


ジュンサーさんがムッとした顔で椅子から立ち上がった。


ジュンサー「あなたねぇ・・・!」

ジュンサー2「あなたねぇ・・・!」


突然病室のドアが開いた。


もう一人のジュンサーさんだ。


ジュンサー「姉さん!?」

ジュンサー2「犯人確保を確保した警官本人が取り調べを行うことは禁止なのよ!!それに正式な取り調べ過程を介さずに!」


つまり、さっきまで話していたジュンサーさんは・・・

ガララ
見覚えのあるレントラーが開きっぱなしのドアから入ってきた。

ジュンサー「ああ!入ってきたらダメだってば!」

レントラーが小気味よくコロロと鳴く。


ジュンサー2「とりあえず、ここからは私が引き継ぎますからさっきの事は忘れるように」


ジュンサー無印に比べたらジュンサー2はしっかりしてそうだ。


ジュンサー「…最後に一つだけ聞かせてちょうだい」


ジュンサー1が真剣な顔で言い放ち。
ジュンサー2が呆れた顔で質問を通す。

ジュンサー「…あなたが自ら毒を飲んだのは自責の念から?」

ジョン「・・・え?」
 ▼ 22 ネココア◆tZpX12d.cw 25/10/08 20:46:24 ID:49Bof8M6 [1/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
カズミを乗せたワゴンフォルムのロトムは、暴走しこれまで進んできた道を逆走していく。



カズミ「止まって!止まってよォ!!」



車体を壁に擦りながら頻繁に時速80〜120kmのスピードを目まぐるしく変え走る暴走車が歩道を走っていく。

ライトは点滅を続け、テレビではカズミを嘲笑うかのようにロトムが跳ね回っている。



カズミ「…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」


自身の軽薄さを責めるようにぶつぶつと口から漏れ出る言葉。

この車が向かっている先は何かしらの裁きだと頭に浮かんでは恐ろしさに震える。

歩道を抜け、人気のないサイクリングロードを突っ切った時、坂の上に何かが見えた。





ガッシャーン

次の瞬間には暴走ワゴンが軽トラの突進によって物理的に止まった。





激しい衝撃はあったが怪我はない、むしろここで楽になれたらとも思った。

それより相手の心配が勝った、これ以上罪を重ねたら私はどうなるのだろう。

いや、これは自分の心配だ。



カズミ「・・・ど・・どうしよう・・・」



軽トラから誰かが出てくる。





カズミ「・・・おばあちゃん?」
 ▼ 23 ネココア◆tZpX12d.cw 25/10/08 20:48:06 ID:49Bof8M6 [2/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
何が何だかわからないまま、取り調べで全てを話して釈放された。

折れた骨も、流石の大病院、まだ脆いままだがポケモンの技で全てくっつけてくれたし、痛みも歩ける程度にはだいぶマシになった。


それよりヤマダが心配で仕方ない。
たまたま大病院の治療を受けることができて俺は助かったが、アイツはまだ見つかっていないらしい。



ヤマダと別れて既に2日が経過している。

彼のことを恨む気持ちは1ミリもない、あれが当然だし今思い返すと俺も自首するべきだったと思う。



こんな俺でも人に頼られるのが嬉しかったのだ。


自分はどうしようもない男だ。

このあと罪に問われるのかもしれない。



ただ、ヤマダだけは。

あの状況でただ一人正しい行動をしたヤマダだけには救われて欲しいと思っている。



今日はジュンサーの同伴でテントの荷物を片付けることを許された為、さっそく夕方くらいからまたあのキャンプ地に向かう。



しかし、毒はいつ混入したのだろう。



少しも目を離していなかったはずだが、カレーには入っていなかったと思う。

たぶん。

でもあの味だったからなぁ…やっぱ毒かな…
 ▼ 24 ネココア◆tZpX12d.cw 25/10/08 20:49:37 ID:49Bof8M6 [3/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
カズミ「…本当にありがとうね、おばあちゃん」


フロントが半壊した軽トラが山道を走る。


婆さん「いぃぃんだよ、可愛い孫が困ってたら助けてやるのがババアだろ?」


カズミ「おばあちゃん…私、もう警察に顔を覚えられてるみたいなの」


婆さん「いぃぃぃぃぃンだよ、暫くは家でゆっくりしてりゃ…あんたは優しいからその分傷つき安いんだよぉぉ」


カズミ「でも、私…親切な人をあんな目に…」


婆さん「親切つっても多分あのヤマダとかいう奴、オマエの情報を面倒な所に流してるぜ?アイツはバンギラスとバトルだけしてればよかったんだが…厄介な奴だよ」





カズミ「…ヤマダを悪く言わないで」


婆さん「カズミ…ポケモンはもちろん活用すべき道具だけどね、人間だって便利な道具なんだよ…自分の身が危ないならもっと有効に使えるようになりな…」


カズミ「…私は…そうは…思わない…」

彼女は窓ガラスに頭を付け、ボールを軽く撫でた。
 ▼ 25 ネココア◆tZpX12d.cw 25/10/08 20:51:44 ID:49Bof8M6 [4/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
婆さん「そういえば、あんたは山菜の油浸し食べてないだろうね!?」


カズミ「あぁ…言われた通り食べなかったけど…何が入ってたの?」


婆さん「んなモン毒に決まってるだろォ鈍い子だねぇェ」



ホント・・・大変だったよ


あのジョンとかいうのが上手く唆して罪を被せようと思ったが、カズミはあの二人に随分愛着が湧いちまったようだ。

ここまでカズミを逃がすのにあらゆる予想外があったが、一番苦労したのは若頭の手持ちのバンギラスだね…
でも皆バカだね…バンギラスが町を襲ってるようなら公的機関に連絡すれば解決するに決まってるだろう。

町の奴らもジョンも動かしやすい駒だった。
ヤマダだけは思うように動かなかったがね…


鈍いカズミを私ァそれでも愛しているよ…





カズミ「毒!?そんな…!死ぬの!?」



婆さん「あぁ驚かせてごめんねカズミ、死ぬほどじゃあないよ…ただ時間差で眠くなるだけさ、味も旨いよォ
(本当は食べて2日後には確実に死ぬけどね♪)」





カズミ「な〜んだ…おばあちゃんが毒入りの美味しい山菜の油浸しを作れる人で良かったァ〜!」
 ▼ 26 ネココア◆tZpX12d.cw 25/10/08 20:52:49 ID:49Bof8M6 [5/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
キャンプ地に着いた、すっかり周りも暗くなっていた。


あの日と同じ夕暮れを見ているようだった。


ジュンサーさんは毒性の含まれている食品をゴミ箱から探している。
俺がいつでも死ねるようにお守りで持っていた大量の睡眠薬は既に海に捨てている、それだけはややこしくなくてよかった。


調査が済んで問題がなければ、テントだけは持って帰っていいらしい。


あの後、フォレトスは俺に姿を現さなかった。

ジュンサーさんはフォレトスに目もくれず俺を追いかけていたらしい。

どこにいるかもわからない、ただわかることはきぜつしてないことだけだ。

どれだけ離れても、逃げても、俺を追い続けたアイツがいないことがショックだったのは自分でも意外だった。

俺のさもしい心に、十年来の友人に見損なわれたかのような感覚が突き刺さって抜けなかった。

自分は何て自分勝手なんだろう、人間のことが嫌いでたまらないくせに人の言うことを疑わない。

それかまだ、どこかで人の心に期待していたのだろうか


ふと、草陰から何か音が聞こえる。


そういえば、キノココが運んできた山菜の油浸しは美味かったな。
考えると、あの夜に互いに隠していた事はあれどきっと心が繋がっていたことが思い浮かぶ。



幻想のように思い出される光景。



――――その中で目に浮かんだヤマダの顔と現実がリンクした。


ジョン「・・・ヤマダ!?」
 ▼ 27 ネココア◆tZpX12d.cw 25/10/08 20:53:48 ID:49Bof8M6 [6/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
いま俺の眼前で存在感を放つその男はヤマダだ。



間違いなく白目を剥いた半裸のヤマダがそこに佇んでいたのだ。



ジュンサーさんも駆け寄りヤマダに声を掛ける。


ジュンサー「ヤマダ・・・さんですよね?あなたを今から拘束します。暴れないでください。」


彼女はすかさずレントラーを繰り出した。



レントラーはあの時よりギラついた目で、ヤマダを見ている。
ヤマダは毒が回っているのか明らかに正気を保っていない様子だった。


そしてこの後、信じられない事が起きた。





グアアアッッシャアッ


指示もないのに飛びかかったレントラーがヤマダの腕に吹っ飛ばされ、動かなくなった。



ヤマダの特性はどくぼうそうだった。
 ▼ 28 ネココア◆tZpX12d.cw 25/10/08 20:56:31 ID:49Bof8M6 [7/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
しばらく明るい話題だけをたれながすガビガビのラジオだけが沈黙を埋めていた時。


カズミ「私、このままでいいのかな・・・」


婆さん「…いいに決まっとる、しばらく家で静かにすれば町でまた花屋もできるようになるじゃろ」


カズミ「でも…」


婆さん「お前は何も間違っとらん!元はと言えばあの若頭が悪いんだから、気に病むんじゃあないよ・・・あのヤクザどもは私には逆らえないだろうしこれからも公の場にさえ出なければお前は健やかで幸福に生きれるんじゃよ」



私は誰かに止めて貰いたかったのかしれない、あの時の事がまだ毎日夢にこびりついている。
だけどもう考えないことにした、おばあちゃんに任せればきっとどうにかなってしまうからだ。
でもおばあちゃんがいなくなったら?おばあちゃんの体だって健康体ではない。


婆さん「それにしてもロトムやら電子機器やらに詳しくはないんだが、この軽トラはアイツに乗っ取られないのかい?」


カズミ「これは自動運転やアシストに対応してないし、かなり古いからロトムには動かせないと思う」


婆さん「そりゃあ・・・よかああかああかああかかカハッ!ゲホゲホヨアカカアカカカカヨカヨカ・・・」

突如おばあちゃんがおかしくなった。



カズミ「おばあちゃん・・・!?どうしたの!?」



婆さん「ぺ…ペースメイカーがッ・・・!!!」



ラジオが急に止まり、大きなノイズ音に変わった。
だんだん小さくなっていくノイズ音の奥から、心なしかヤマダに似た声が聞こえ始める。


ロトム「ハーイ!ツレテケ!ショニツレテケ!!」


おばあちゃんは試しにハンドルを一回転させ、即座に車の方向が反転する。
その瞬間に、ペースメーカーの異常振動は治った。


ロトム「スコシデモ!チガウトオモタラ!マタヤル!アトアトヤリタクナタトキ!!」


婆さん「ちくしょおおおおおおおおおおぉぉぉぉっッ!!!!!!!」


─────激しく揺れる車内と目まぐるしく変わるスピードは、私たちが今どっちに進んでいるかすらわからなくなるほど暴力的で狂気的だった。
 ▼ 29 ネココア◆tZpX12d.cw 25/10/08 21:00:04 ID:49Bof8M6 [8/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
嘘だろ!?ヤマダは人間だぞ!?

あの超スピードと恐ろしい鋭さを保つレントラーを一蹴したヤマダを見て、目を擦る。
何もかも信じられないが、事実だ。

ジュンサーさんはレントラーをボールに戻し、応援を呼んでいる。




あぁ、あの時ヤマダは良くない道に進んでいく俺たちを見て何を感じていたのだろうか。

まともで、優しくて、芯の通った一つの正義を確かに持ったあいつが、今ここで近づくもの全てを傷つけていることにひどく心が傷ついた。

ごめんな、ヤマダ。
ここから2人でやり直そう。

そして全員がいつか罪を許された時に。
またキャンプ場で3人、ゲラゲラ笑おうよ。

ここまで色々な事があった、今回の出来事で俺は色々なものを失ったが、大切なものも多く手に入れた。
フォレトスとはまた仲直りがしたい、雑に扱っても俺のために、一人で寂しくないようにそばにいてくれたのだ。

…まずいカレーも食べたい。



ゆっくりとこちらに向かってくるヤマダに俺は覚悟を決める。

もうフォレトスはいない・・・俺が・・・一人でやらないと・・・




─────いや、一人じゃなくたっていい。

今までお守り程度に持っていた空のモンスターボールを持って俺はヤマダから背を向け、走り出した。




捕まえよう。
この森のポケモンを。

一人じゃ叶わなくても、隣にいてくれるだけで、勇気が湧いてくる。
そんなささやかな友人を増やそう。


がらんとして誰もいない森で、ひとり強やかな瞳をしたポケモンを岩の上に見つけた。


ジョン「・・・いいね!君に決めた!」


祈りと共にボールを投げる。

静かな森で吹き付ける突風だけが、これを超えてやり直せと俺に語りかけていた。

fin
 ▼ 30 ネココア◆tZpX12d.cw 25/10/08 21:48:43 ID:FdzIYduM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
始めてSSを書いたので、至らない所だらけではありますが、最後まで付き合ってくださりありがとうございました。
 ▼ 31 リーザー@ボチのろう 25/10/09 00:15:28 ID:J1B28YEA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
全部読んだけどすまんがちょっと難しすぎたわ
 ▼ 32 ネココア◆tZpX12d.cw 25/10/17 00:15:17 ID:nFMoaTZQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
この作品を読んでくださった方に感謝…!
 ▼ 33 ネココア◆tZpX12d.cw 25/10/25 17:47:42 ID:Fk8.B7lM NGネーム登録 NGID登録 報告
ポケモンのこういう私生活を描いた作品が作りたかったから、これ超オススメです…!

https://www.youtube.com/watch?v=1JtuxmEiYl4?si=NYk1zY-1ofmwUqho
このページは検索エンジン向けの機能制限版の旧ページです。
下URLから閲覧下さい。
https://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=2396009
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