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チルタリス「もふもふは正義」

 ▼ 1 1◆J44kAZeDOM 16/04/03 07:29:35 ID:t5fCYsO2 [1/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ボーマンダ「お前を逮捕する!」


チルタリス「遅いよ、全く」

ボーマンダ「すまんって。だが、お前ももうこんな事やめろ。お腹に……」

チルタリス「まだ大丈夫。後1か月は働けるわ」

ボーマンダ「危険だって言っているんだ。犯罪者をもふって改心させるだなんて……」

チルタリス「まーまー! そーんな硬い事言わないの」

そう言うと、チルタリスは、そっと夫と唇を重ね合わせた。

ボーマンダは、何も言えずに俯いてしまう。

チルタリス「この子の事も、そうやって縛り付けるの? 違うでしょ?」

ボーマンダ「俺はお前が心配なんだ。犯罪者の中で、お前、もう割と名が知れてるんだぞ」

チルタリス「あたしを舐めないで。あなたの妻なのよ?」

ボーマンダ「どう言う事だよそれ」

快活な笑い声をあげ、ボーマンダは、この犯人を連れて飛び去った。
 ▼ 2 1◆J44kAZeDOM 16/04/03 07:30:00 ID:t5fCYsO2 [2/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス「あなたも、ちゃんと、まっすぐ生きるのよ。ちゃんと、正義を貫いて」



そんな願いを知ってか知らずか、娘もまた、正義感に溢れた少女に成長する。




しかし、その生活に、心からの笑顔なんて物は、存在しなかった。
 ▼ 3 1◆J44kAZeDOM 16/04/03 07:30:50 ID:t5fCYsO2 [3/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







1章 邂逅






 ▼ 4 1◆J44kAZeDOM 16/04/03 07:31:13 ID:t5fCYsO2 [4/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス(ちっ、厄介だな……)

心中で呟いた。目の前で炎を浴びながら笑っているギルガルドは、そのまま言った。

ギルガルド「残念だったな! 俺様の盾にかかれば炎だって余裕だぜ!」

圧倒的な耐久力で耐えきっている。と、冷静に分析した所で、ダメージをあまり与えられないと言う事実は変わらない。

メガシンカまで攻撃しているのに、である。

そして、今のあたしには、鋼技が効果抜群。

もし敵の攻撃を食らってしまえば、そのまま敗北するのは目に見えていた。

チルタリス「ふぅ……。効果は薄いってか」

自分の技構成を確認する。

ハイパーボイス:フェアリースキンの補正がかかる。でもうるさい。近所迷惑。

火炎放射:見ての通り。効果薄。

龍の波動:あまり有効打になるとは思えない。

ムーンフォース:上に同じ。

あたしがいるって大勢に宣伝する訳にはいかない以上、ハイボをぶっ放す訳にもいかない。だから、火炎放射で削りまくるしかないみたいだ。
 ▼ 5 1◆J44kAZeDOM 16/04/03 07:31:35 ID:t5fCYsO2 [5/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ギルガルド「さあて、貴様に俺様の攻撃が耐えられるかな?」

チルタリス「舐めんなよ? あたしの耐久力」

目の前のこいつ程ではないが、あたしだってそこそこ耐久力に自信がある。

いわゆるバランスタイプ。攻撃と耐久と素早さを全て兼ね備えている。

もっとも、ただの器用貧乏だって自覚はある。だけど、今は。

無理にその事実から意識を逸らして強がった。

敵がその盾を取り外し、刀身をあたしめがけて振りかぶった。

ギルガルド「アイアンヘッドだっ!」

あたしは空へと飛びあがる。攻撃は空を切った。

そして、上から見たら、敵の体勢は隙だらけだった。

あたしは、そこめがけて火炎放射を繰り出す。

しかし。

ギルガルド「キングシールドっ!」

すんでのところで弾き返されてしまう。

あたしは舌打ちした。

チルタリス(ふざけんな。このぶっ壊れめ)
 ▼ 6 1◆J44kAZeDOM 16/04/03 07:32:02 ID:t5fCYsO2 [6/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そうやって悪態を吐いてみても始まらないのはわかっている。

ニヤリと笑った敵の顔に、言い知れぬ嫌悪感を覚えた。

ギルガルド「シャドーボールっ!」

あたしはムンフォを繰り出し、相殺する。

さて、どうしたものか。このままじゃジリ貧だ。

朝になったら恐らく逃げられる。そうでなくても、戦いが長引けば騒ぎになる確率も高まる。

あたしの存在がバレれば、親父に迷惑をかける。

無事に帰る事。そして、バレない事。これが、親父との約束だ。

だから、バレる訳にはいかない。

という訳で、それまでに決着を付けないといけない。

ギルガルド「どうした?」

盾を外して挑発する敵。だけど、今ここで下手に技を撃っても、ガードされた上でカウンターされて終わりだ。

どうした物かと思案していると、不意に羽音が聞こえた。

ギルガルド「ん? なんだ?」

あたしは咄嗟に身を隠す。

敵の困惑した声が響く。
 ▼ 7 1◆J44kAZeDOM 16/04/03 07:32:29 ID:t5fCYsO2 [7/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス(何が起こるって言うんだ?)

敵に意識を集中させつつも、辺りに気を配って耳を澄ました。

羽音は、不意に止まった。

そして、大地が揺れる。

???「大地の力っ!」

ギルガルド「うわっ!」

チルタリス(なんでだ? なんでこいつがここにいる?)

心の声を漏らさないように注意しながら、あたしは見回した。

忌まわしい敵を葬りさってくれた存在。

あたしはそれを知っている。

クラスメイトの……。

チルタリス(だけど、なんでこんな深夜にいんだよてめぇ)
 ▼ 8 1◆J44kAZeDOM 16/04/03 07:32:52 ID:t5fCYsO2 [8/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴン「おーい、襲われてたポケモンさーん! だいじょ」

チルタリス「しっ!」

あんまり大声を出すな。

それをマイルドにして伝えた。

フライゴン「え、なんでですか?」

チルタリス「襲われてたのは間違いないですけど、でも、別に変な事はされてないですし……」

バレる訳にはいかない。だから、普段の口調を180度転換させて答えた。

幸い、こいつは気付いてない様だ。

フライゴン「ケガはないですか?」

チルタリス「あ、はい」

フライゴン「良かった」

そう言ってニコリと笑った。
 ▼ 9 1◆J44kAZeDOM 16/04/03 07:33:46 ID:t5fCYsO2 [9/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴン。

あたしのクラスメイトで、秀才。

少なくとも、深夜に遊び呆けるようなキャラじゃないのは確かだった。

フライゴン「危ないですよ、こんな深夜に女性1人で」

あたしを舐めんなよ、と大声で叫んだ。

ただし、心の中で。

チルタリス(クソッ、ギルガルドを止めてくれたのはいいけど……、むしろ余計面倒な事になった気がする)

ギルガルド「てめっ」

チルタリス「おっと」

あたしは、自慢の羽毛でギルガルドを包み込む。
 ▼ 10 1◆J44kAZeDOM 16/04/03 07:34:08 ID:t5fCYsO2 [10/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
このもふもふは、母親譲りだ。

これが、悪役すらも改心させてしまう。

あたしは、それを活かすために戦っていたのだ。

犯罪者スレスレの奴を改心させる。それがあたしの目的。

もちろん危険は付き物。だけど、戦う事ぐらい出来る。最悪至近距離からムンフォをぶっ放せばだいたいの敵が倒れるし。

フライゴン「なっ、何してるんですかっ!」

心配そうな声をあげるフライゴンを無視して、あたしはもふもふを続けた。
 ▼ 11 1◆J44kAZeDOM 16/04/03 07:34:44 ID:t5fCYsO2 [11/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ギルガルド「なっ……うぐっ……」

チルタリス「ねえ、気持ちいいでしょ?」

ギルガルド「あっ……あひゃっ……」

絞り出すような声。少しずつ、あたしの言葉が敵を変えて行く。

その事が、あたしの中で、ささやかな快感へと変わる。

チルタリス「犯罪なんて、バカみたいな事じゃない? ねえ」

ギルガルド「……ああ……」

もう少し。敵は、もはやあたしの手中に落ちていた。

チルタリス「もう、こんな事はやめてよ」

チルタリス(普段は、もっときつい言葉でののしるように言うってのに、てめぇのせいで)

とフライゴンに視線を向け思う。

彼の表情は、暗がりに紛れてよく見えなかった。

ギルガルド「はい……わかりました……」

敵は、敵でなくなった。

任務完了。あたしは立ち上がる。
 ▼ 12 1◆J44kAZeDOM 16/04/03 07:35:05 ID:t5fCYsO2 [12/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴン「あの……何を……」

困惑気味の彼を残して、飛び去ろうとした。


飛び去ろうとしたのが、そもそもの間違いだった。
 ▼ 13 1◆J44kAZeDOM 16/04/03 23:04:52 ID:t5fCYsO2 [13/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴン「待ってくださいよー! あいつを放置しててもいいんですか?!」

げ、こいつ、ついて来やがった。

面倒だなと唸りながら、それを表情に出さないようにあたしはきっぱりと口に出す。

チルタリス「私のもふもふで、だいたいの悪人は改心するから大丈夫です」

フライゴン「へぇ……凄いな。同じもふもふでも、チルタリスとは大違いだ。あっ、すいません。知りませんよね、チルタリスの事」

チルタリス(だーかーらー、あんたの目の前にいるのがそのチルタリスで、あたしのもふもふと今あんたが思い浮かべてるもふもふはほとんど同じ物なの!)

ストレスが溜まって行くのがわかった。

チルタリス(この羽毛がハゲたらどうしてくれる)

チルタリス「あ、いいんですよ全然」

チルタリス(よくねぇよ)

未だにメガシンカが解除されないのは、こいつとの会話をあたしが戦闘だと捉えているからだろう。

チルタリス(なんでよりにもよって知り合いに見付かるかなぁ……)

フライゴン「それにしても、なんで戦ってるんですか? えっと……」

チルタリス「私の勝手じゃないですか。私は、私が正しいと思った事をするだけです」

チルタリス(本心だけどさぁ? もっと楽にさせろよこんにゃろ)
 ▼ 14 ートロトム@マックスアップ 16/04/03 23:05:32 ID:JH0ikjTE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 15 1◆J44kAZeDOM 16/04/03 23:05:33 ID:t5fCYsO2 [14/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴン「あの、なんて呼べば……」

チルタリス「すいません、ちょっとそれは……」

フライゴン「あっ、そうか。僕も行きずりの関係だもんな。大丈夫です。出過ぎたマネをしてすいません」

邪気のない顔で謝るフライゴンに、苛立ちは募って行くばかりだった
 ▼ 16 日はここまで◆J44kAZeDOM 16/04/03 23:06:11 ID:t5fCYsO2 [15/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴン「ところで、送りましょうか? そちらのお宅に」

チルタリス「結構です」

やんわりと、を意識して言い返した。

帰ったら思う存分布団を殴りつけよう。うん。

フライゴン「いや、でも危ないですし、また何かあるかもしれないし……」

チルタリス(こいつ、しつこい)
 ▼ 17 当にここまで◆J44kAZeDOM 16/04/03 23:06:36 ID:t5fCYsO2 [16/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
苛立つあたしは、それでも強引に自分を押さえつけて、言う。

チルタリス「何かあっても戦えますし」

フライゴン「でも、現にやられかけてましたけど」

チルタリス(ちっ、いい加減しつこいって、何回言えばわかんだよてめぇ!)

危うく声が漏れそうになり、少し頬をつねった。もっとも、もふもふのせいであんまり痛くないんだけれども。

チルタリス「あの……大丈夫です」

フライゴン「でも……」

チルタリス「結構です!」

言い切って、あたしは羽ばたく。

さすがに諦めたのか、フライゴンは、追っては来なかった。


1章 完
 ▼ 18 ーブイ@ライブキャスター 16/04/03 23:11:12 ID:ODusU65M NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アブソルは正義
 ▼ 19 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 12:59:03 ID:r8Ey9Fbw [1/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







2章 秘密






 ▼ 20 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 12:59:23 ID:r8Ey9Fbw [2/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メガシンカを解除して、あたしはため息とともに帰宅した。

チルタリス「はぁ……ただいま」

ボーマンダ「チルタリス! 無事だったか!」

出迎えてくれたのは、警察官でもある、あたしの親父。

あたしのこの行動には、賛成していない。

だけど、あたしが強引に押し切って続けさせてもらってる。

正直鬱陶しい事が多い。だけど、母親がいないあたしにとって、親父は唯一の家族な訳だ。

だから、それなりに大切には思っている。

ただし、それでも盲目的に言う事を聞くなんて事は絶対にない。

あたしは自分で考えて行動する。そのぐらい出来る。

それを親父がわかってるかと言われると困るけれど。

ボーマンダ「第一俺はお前の事が心配d」

チルタリス「わかってんよそんぐらい……。あたしの勝手でしょ。お休み」
 ▼ 21 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 12:59:45 ID:r8Ey9Fbw [3/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
仏壇に供えられた写真立てをちらりと見る。

そこにある遺影は、あたしとそっくりな顔を映し出していた。

チルタリス「母さん……。あたし、頑張るから」
 ▼ 22 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 13:00:07 ID:r8Ey9Fbw [4/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――お母さん? お母さんっ! お母さんっ!

――チルット。母さんは……行っちゃったんだ。

――お母さんは? お父さん、お母さんはっ?!

――もう、帰って来ないんだ……。

――嘘! お母さんは帰って来る! だって、だって……うわああああ……。


チルタリス「うわあっ! ……はあっ、はあっ……」

チルタリス(ちっ、またあの夢かよ……。

       乗り越えたんじゃなかったのかよ、あたし)
 ▼ 23 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 13:00:31 ID:r8Ey9Fbw [5/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ったく、それもこれもどれも、全部あいつの……フライゴンのせいだ。

あいつがいきなり現れてから、調子がおかしい。

苛立ちながら、パンをトーストして、胃袋に押し込んだ。

親父の朝は早い。だから、あたしは、たいていの事は一人でしている。

苛立ちをパンと共に飲み込んで、あたしは仮面を被る。

クラスメイトに――フライゴンに気付かれないように。

とは言え、昨日のあれに比べれば、こんなの演技でもなんでもないが。
 ▼ 24 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 13:00:51 ID:r8Ey9Fbw [6/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マリルリ「おはよー」

チルタリス「おはよ」

適当に挨拶を返しながら席に着いた。

視線を感じる。

だいたいそれの出どころはわかってるけれども。

チルタリス(フライゴン……てめぇ、何見てんだよ。もふもふがどうした。あたしは昨日のあたしとは関係ない)

話しかけて来る気配はない。そろそろ先生が入って来るからだろうけど。

これから、休み時間には話しかけられるんだろうなと思うと、憂鬱になる。

エンブオー「それじゃ始めるぞ」

起立、礼、着席。

教科書を開いた。
 ▼ 25 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 13:01:43 ID:r8Ey9Fbw [7/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エンブオー「ここがこうでだからこうで……」

チルタリス(駄目だ、わからねえ)

先生の話が右から左へと流れて行く。

情報を整理しようとはしている。だけど、あたしにはわからない。

結局向いてないんだよ。あたしにこういうのは。

エンブオー「それじゃ、授業終わり!」

起立、礼。

チルタリス(ふいー。眠い)

大あくびをかます。そこに、後ろから声が聞こえた。
 ▼ 26 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 13:02:03 ID:r8Ey9Fbw [8/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴン「チルタリス」

チルタリス「あ? なんだ?」

フライゴン「いや……。昨日、すっごいもふもふなポケモンを見かけたんだけどさ、心当たりない? もふもふつながりとかで」

尋ねるフライゴンに、あたしは自然体で返す。

やっぱり楽だ。自分を偽るのはしんどい。

チルタリス「ねぇよ」

フライゴン「ふぅん……。まあ、性格も全然違うし」

チルタリス「ちょっと待てムンフォぶっ放すぞ」

フライゴン「え、ご、ごめん」
 ▼ 27 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 13:02:25 ID:r8Ey9Fbw [9/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこからの休み時間、こいつが話しかけて来る気配はなく、あたしは拍子抜けした。

でもまあ、面倒に巻き込まれるよかよっぽどマシだと割り切って、放課後、あたしは家へと急いだ。

チルタリス「ただいま。つっても誰もいねぇか」

親父は昼も仕事だ。

晩飯はだから、自分で作らないといけない。

あたしの場合、戦いの直前の飯になる訳で、栄養もちゃんと考えて、しっかり食べないといけない。

ってな具合で、あたしは部活を犠牲にしている。

それで良かった。

母さんを殺した「犯罪」の芽を、少しでも刈り取れるなら、あたしは。
 ▼ 28 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 13:02:45 ID:r8Ey9Fbw [10/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス(さて、今日もあの集団から1人引っ張り出して、かな)

だいたいが、一度あたしに倒された敵は、その後改心して、あたしに情報を提供してくれる。

それがネズミ算的につながって、今のあたしの戦いがある。

今は、とあるグループを潰そうとしている。

まだ犯罪とまではいかないが、いつそうなってもおかしくないような不良たちの集団だ。

サザンドラのウワサを聞いて、改心させたのをきっかけに、昨日のギルガルドを含むそのグループにつながって行った訳で。

正直サザンはザコだった。メガシンカするまでもなく、ムンフォを撃つだけで気絶したのだから。

だけど、情報の質は良かった。

それで舐めて、メガなしでギルガルド倒そうとしたら、予想外の耐久に危うくやられかけて……。

なんて思い返してみる。

それよりも心配なのはフライゴンだよな……。

あいつがこれからどう絡んで来ようとするのか。それだけが気掛かりだった。
 ▼ 29 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 13:03:08 ID:r8Ey9Fbw [11/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス「さて、行くか」

あたしは、メガストーンを手に取った。

そして、家から飛び立つ。

今日も「犯罪」の萌芽を叩き潰すために、あたしは戦う。


2章 完
 ▼ 30 ルタリス@フーディナイト 16/04/04 13:42:51 ID:.wQQg7Gg NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
支援
 ▼ 31 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 17:46:27 ID:r8Ey9Fbw [12/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







3章 味方






 ▼ 32 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 17:47:03 ID:r8Ey9Fbw [13/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス(参ったな……ギルガルドのが強かった)

チルタリス(これなら、別にあいつがいなくても全然大丈夫だ。ったく、ギルガルドがぶっ壊れ過ぎなだけだってマジで)

チルタリス(それにしても、あいつ、どうして昨日は偶然あたしの事を見かけるような事に……)

目の前の敵をひたすらにもふもふしながらあたしは考えていたのは、フライゴンの事だった。

これほどまでに考えてしまう。その事が妙に悔しかった。

チルタリス「こんな犯罪行為やって、誰が得するのかな?」

エイパム「うっ……くあぁ……」

エイパムのが表情が、快楽に溺れているのを如実に表している。

チルタリス「てめぇのやってる事なんか、まっっったく、意味なんてないんだよ」

相手の事を全否定する。そして、相手がそれを受け入れる。

その瞬間、あたしの中を、快楽が走り抜ける。

相手を服従させる事は、ハッキリ言って、とてつもなく楽しい。

エイパム「全く意味なんてございません……」

そのはずなのに。
 ▼ 33 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 17:47:24 ID:r8Ey9Fbw [14/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス「もうこんな事すんな。やったらどうなるかわかってんな?」

エイパム「はいぃ!」

脳裏をよぎるメガネ面があたしに笑いかける。

その度に、あたしの中を苛立ちが駆け巡った。
 ▼ 34 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 17:47:48 ID:r8Ey9Fbw [15/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エイパム「あの……、もしかして、○□高校の……」

チルタリス「は?」

チルタリス(それを隠してんだよ。死ね)

エイパム「もしそうなら……いや、なんでもありませんっ!」

しかし、このセリフは、あたしの興味を惹くには充分過ぎる程だった。

関係あると言い切られてしまえばそれは嘘臭くなる。けれど、そこで引かれると、押したくなるのがポケモン心理。

結局あたしは、「それ、どういう事?」と、尋ねずにはいられなかった。
 ▼ 35 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 17:48:09 ID:r8Ey9Fbw [16/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エイパム「いや、あそこの……ごめんなさいぃ! これ以上は、勘弁してくださいぃ!」

チルタリス「これだけでそれ以上とか、少ないにも程がある」

あたしはもふもふを加速させた。

エイパム「……言います……」

今エイパムの頭にはもう、恐らく、あたしに逆らうなんて発想はないだろう。

それでいい。あたしは、続きを聞き出した。

エイパム「あなたの高校に、俺たちのメンバーの関係者がいるんだ……」

それが誰かはこいつも知らないと言っている。恐らく、そこに嘘はない。

だとすると、誰だ?
 ▼ 36 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 17:48:31 ID:r8Ey9Fbw [17/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エイパムはもう犯罪行為をしないだろう。

あたしは、そう見切りを付けて、家へと飛び立った。

脳内では、必死に考えを巡らせつつ。

しかし、ここで周囲の警戒を怠っていた事を、あたしは後悔する事になる。

フライゴン「あ、チルタリス」

チルタリス「ふぇ? って、てめぇ! なんでこんな時間にっ!」

フライゴン「バイトだよバイト」

チルタリス「いや、お前うちの高校バイト禁止なの知ってんだろ?」

フライゴン「ったく、僕は学校から許可貰ってるっての」

チルタリス「はぁ?」

学校から許可をもらっている。あたしの振り上げた矛は、その言葉が作り出す盾にあっさり弾き返され、カウンターを食らう。

フライゴン「そう言うチルタリスこそ。こんな時間になんで?」

チルタリス「コンビニだよ」

即座に切り返せた自分を誉めつつ、あたしは無視するように飛び去ろうとした。

フライゴン「でも何も持ってないじゃん」
 ▼ 37 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 17:49:01 ID:r8Ey9Fbw [18/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
舌打ちして振り返る。イライラは既に最高潮に達していた。

チルタリス「何か悪い? 今から行こうとしてるとこだったんだよ」

フライゴン「でもなぁ……。隠そうとしても無駄なんだよね」

チルタリス「はぁ?」

あたしの視線にたじろぐ事なく、フライゴンは続けた。

フライゴン「今日僕、昨日のポケモンとチルタリスが性格全然違うって言ったじゃん」

確かに言っていた。それがどうした? とよっぽど突っ込みたかったが、あたしは堪えた。ここは会話に乗ったら負けだと判断して。

無視を決め込み、飛び立とうとしたタイミングで、後ろから声がかかる。

フライゴン「なんでそれでキレたの? 昨日のポケモンが全然いい奴じゃなかった可能性もあるのに」

チルタリス「なっ……」

フライゴン「何であれだけのセリフで貶されてるって思ったの?」

絶句。

あたしは、何も言い返せなかった。

確かにあたしは、あそこでキレた。

まさかそこから、そんな小さな事からボロが出るなんて……。
 ▼ 38 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 17:49:25 ID:r8Ey9Fbw [19/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
けれど、あたしは最後の抵抗を試みる。

もっとも、それは抵抗なんかではなく、ただの悪あがきでしかないと言う事は自覚している。

それでも、あたしの口は勝手に動いた。

チルタリス「あたしが誰だろうと、関係ねぇだろ」

フライゴン「確かにね。だけど、昨日やられかけてたのは事実。こんな危ない事を、僕と同い年の♀ポケモンにやらせる訳にはいかないよ」

こいつの心配はわかる。

わかるからこそ、余計に苛立つ。

チルタリス「てめぇ! あたしが♀だからって舐めんな!」

フライゴン「舐めてないし、怒っても仕方ないよ。僕は気付いた。でも、誰かに言うつもりはないし」

チルタリス「だー! 何が狙いだ?」

フライゴンは、微笑んで言った。

その笑顔は、憎たらしい程清々しい物だった。
 ▼ 39 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 17:50:01 ID:r8Ey9Fbw [20/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





フライゴン「僕にも手伝わせてよ。君のその戦いを」





チルタリス「はあっ?!」




 ▼ 40 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 17:50:47 ID:r8Ey9Fbw [21/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス「てめ、ちょっと待て」

フライゴン「別にいいけど、何を待つの?」

表情を崩さないままフライゴンは言う。

チルタリス「き、危険だっての」

フライゴン「それは君にも言える事なんだけど」

方向を変えて攻撃する。

チルタリス「あんたにはそれをする理由がない。バイトしてんだろ? 学校から許可貰って」

チルタリス「それって、お前が金稼がないと生活出来ないって事なんじゃねぇの?」

フライゴン「大丈夫だって。今までだって、バイトから帰って来てそのまま勉強して、実際ほっとんど寝られてないし」

チルタリス「睡眠時間は短くなるのは間違いないし、お前にはきつ過ぎる」

フライゴン「僕を舐めないでよ。これでも、バトルの腕には自信があるんだよ?」

確かに、こいつは、バトルの授業もそつなくこなしているけれど。

それでもあたしは、説得をやめなかった。
 ▼ 41 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 17:51:20 ID:r8Ey9Fbw [22/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス「授業と実践は別物。あたしは、親父に鍛えてもらったからやってけるけど、普通の奴に……」

フライゴン「僕だって! 僕だって、バトルが強くないと、やってけないような生活だったし」

チルタリス「は?」

フライゴン「細かい事は言いたくないけど、でも昨日のギルガルドで証明済みでしょ? 僕の実力は」

フライゴン「それに……」

フライゴン「君は鋼タイプが苦手だろ? 火炎放射はあるけど、火力不足だ」

フライゴン「僕は地面タイプ。弱点を補えるよ」

チルタリス「でも、どっちみちフェアリーと氷は……」

フライゴン「うん、苦手。だけど、それも君だけで戦うよりはよっぽどマシだと思うんだ」

1を言ったら10が帰って来る。説得にこれほど手間がかかるとは。

あたしは諦めた。
 ▼ 42 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 17:51:42 ID:r8Ey9Fbw [23/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
面倒だし、速く帰って休みたい。

自分にそう言い聞かせる。ただの言い訳だった。

チルタリス「わかったから! それじゃ、とっとと帰れ! あたしも眠いの!」

フライゴン「OK。お休み」

チルタリス「それと、絶対バラすなよ! 誰にも!」

それだけ言うと、あたしは飛び立った。

今度はフライゴンも追いかけて来なかった。
 ▼ 43 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 17:52:17 ID:r8Ey9Fbw [24/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
こうして、フライゴンは、一方的にあたしの味方になった。

あたしはそう認めてなんかいないけれど、向こうがそう思ってくれない以上仕方ない。

負けたみたいでとてつもなく癪だが。

チルタリス「まあいいや」

こうなったら、限界まで使い尽くしてやる。

あたしの仲間になろうとした事を後悔するぐらいに。

そんなささやかなあたしの決意は、夜闇に消えて行った。


3章 完
 ▼ 44 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 20:01:02 ID:r8Ey9Fbw [25/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





4章 共有





 ▼ 45 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 20:01:22 ID:r8Ey9Fbw [26/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス「ただいま」

ボーマンダ「ZZZzzz……」

親父は寝ていた。疲れが溜まっているのだから仕方ない。

あたしは、無視して眠りに就いた。

別にわざわざ起こしてまでフライゴンにバレた事を伝える必要もないと判断して。

チルタリス(出来るだけ最後まで隠し通そう)

それを決めると、あたしは眠りに落ちて行く。
 ▼ 46 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 20:01:52 ID:r8Ey9Fbw [27/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌朝、親父はいなかった。

あたしはトーストを作り、それをモーモーミルクで流し込むと、学校へ向かった。

その間にも、思考はぐるぐると回る。

フライゴンがあたしを付け回している理由がわからない。

バイトとは言うが、あたしと2日連続で出会うと言う事態を、偶然で片付けてしまう程あたしは甘くない。

かと言って、それに対して合理的な解釈が出来るかと言われると、それもまた別の話だった。

一番謎なのは、今まで一度も出会ってなかった事。

それが急に……。

考えても、何も出て来ない。

あたしは諦めて、学校への道を急いだ。
 ▼ 47 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 20:02:18 ID:r8Ey9Fbw [28/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
学校にて。

友達と他愛もない話をしながら、目線はチラチラとフライゴンの方に向かっていた。

チラチーノ「どうしたのチルタリス」

チルタリス「なっ、なんでもねぇよ」

チラチーノ「ふぅん」

チルタリス(ったく、調子狂う……)

フライゴンは、こちらの視線に気付き、手を振り返す。

あたしは視線に殺意を込め、それに応じた。

フライゴンはやれやれと肩をすくめてみせる。

マリルリ「変だよ、やっぱ」

チルタリス「ちっ」

舌打ちをする。

マリルリ「あー、無視してくれと? わかった。スルーしよ」

チラチーノ「だね……」

苦笑いの2匹と、再び談笑を始めた。
 ▼ 48 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 20:03:17 ID:r8Ey9Fbw [29/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたしは、フライゴンの事に気を取られ、いつも以上に授業に集中出来なかった。

しかし、考えても考えても、思考は堂々巡り。

新しい発想が浮かぶ事なんてなかった。

チルタリス(それにしても……)

昨日のエイパムのセリフを思い出す。

チルタリス(あたしの学校に、あのグループの奴がいる……)

全く心当たりがなかった。

大っぴらに調査する訳にもいかず、しかし放置する訳にもいかない。

結局、また夜にあの集団の中からまた情報を得るしかないのだ。

あたしはため息を吐いた。

チルタリス(結局、今んとこ、やる事はいつもと変わりないってか)

誘き出して、もふる。それだけだ。
 ▼ 49 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 20:04:01 ID:r8Ey9Fbw [30/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴン「チルタリス!」

チルタリス「バイトは?」

フライゴン「今日は休み」

チルタリス「ふぅん。で、なんでてめぇ、あたしんちに行こうとしてんだ?」

フライゴン「え、駄目?」

チルタリス「たりめーだろっ!」

フライゴンはどこ吹く風であたしの横を飛び続ける。

チルタリス「……ムンフォぶっ放すぞ」

フライゴン「えー、仲間になったんじゃないの?」

チルタリス「お前が勝手にな」

フライゴン「でもなぁ、チルタリス、君1人じゃ出来ない事もあると思うんだけど……」

チルタリス「だからってお前がいても変わらねぇと思うがな」

フライゴン「でも、何か悩んでるみたいだし、僕で良ければ……」

チルタリス「てめぇのせいだ!」

ため息を吐いた。
 ▼ 50 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 20:04:44 ID:r8Ey9Fbw [31/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
自宅にて、もはや怒る気も起らなかった。

フライゴン「うわ、凄いな……。こんな本格的なごはん、何年ぶりだろ……」

そんな言われ方したら、元々飯は1人分の予定だったはずなのに、作らない訳にはいかなくなってしまう。

さすがのあたしも、ポケモンの心は持ち合わせているって事だ。

チルタリス「おら、さっさと食え」

フライゴン「うん……! いただきます!」

フライゴンの皿から、見る間に食事が消えて行く。

あたしは、あまりの速さに驚愕の視線を向け、自分自身は食べる事を忘れていた。

フライゴン「凄いおいしい……。チルタリス、料理出来るんだ……。なんか意外」

チルタリス「うるせぇムンフォ撃つぞ」
 ▼ 51 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 20:05:37 ID:r8Ey9Fbw [32/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴン「ごちそうさま。こんなおいしい料理食べたの、冗談抜きでえっと……1、2……4か月ぶりだ」

そのカウントする仕草に、嘘が感じられない。

信じられないが、本気でフライゴンは、そのぐらい厳しい生活を送っているって事だ。

フライゴン「普段は切り詰めて、バイト代は生活費に充ててるけど、それでもごはんはそこまでガッツリ食べられなくって」

チルタリス「それは気の毒だな。だったら、とっととバイト行け。あたしは金は出さねぇぞ」

フライゴン「わかってる。それにしても……」

フライゴンがチラリと見たのは、母さんが眠る仏壇。

聞かれる前に説明を入れる方が無難だと判断して、あたしは口を開いた。
 ▼ 52 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 20:06:05 ID:r8Ey9Fbw [33/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス「母さん、通り魔事件の被害者でさ。

       昔いろいろあったの、覚えてるだろ?

       それで、犯人のペンドラーが言ったんだ」

ペンドラー『ムシャクシャしてやった』

ペンドラー『こんな世界で、こうするしかなかった』

チルタリス「……こういう犯罪が許せなくて、あたしは今の仕事をしてる」

フライゴン「……そうなんだ」

フライゴンの声に、哀愁が混じる。
 ▼ 53 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 20:06:26 ID:r8Ey9Fbw [34/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス「同情すんなよ」

フライゴン「わかってる。中途半端な同情程役立たずな害毒も滅多にないのはね」

チルタリス「んで? お前はどうしたんだ? なんたってそんな生活してんだ?」

フライゴン「父さんがバカでさ。僕の前から消えちゃった」

その言葉で、全てを理解した。

父親の蒸発。金を稼いでくれる親の不在。

母親が1人で子育てするにも、限界だったのだろう。
 ▼ 54 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 20:07:26 ID:r8Ey9Fbw [35/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたしたちは、秘密を共有した。

今まで誰にも言わなかった事を、なぜかこいつには言えた。

こいつも、なぜかあたしには話してくれた。

それが、妙にむず痒かった。

フライゴン「さぁて、行きますか! ところで、具体的に君が何するかイマイチわからないんだけど……」

チルタリス「悪人、犯罪者予備軍をもふって改心させる。以上」

チルタリス「今あたしは、あるグループを潰そうとしてる。そのグループのメンバーが、あたしたちの学校にいるらしいけど、それに関して情報を得れたらいいなって思ってる」

あたしの決意表明に、フライゴンが、どうでもよさ過ぎる茶々を入れて来る。

フライゴン「得『ら』れたら、ね」

チルタリス「こまっけぇなぁ。行くぞ!」
 ▼ 55 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 20:07:51 ID:r8Ey9Fbw [36/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メガストーンを手にする。

心に軽く願うと、あたしの体は光を帯び、力が流れ込んで来るのがわかる。

フライゴン「……何それ」

チルタリス「メガシンカ」

それだけ答えると、あたしはこの甘美な光に身を委ねた。

力が流れ込む。

あたしが大好きな、この瞬間。

解除した後の疲れを考えると、闇雲には使いたくないのだが、メガシンカしない理由を目の前のこいつに説明する面倒と比べると、100倍マシだった。

魔法が解け、あたしの姿があらわになる。

フライゴン「メガチルタリス……! なるほど、だから恰好が違ったのか」

チルタリス「そういう事だ」
 ▼ 56 1◆J44kAZeDOM 16/04/04 20:08:52 ID:r8Ey9Fbw [37/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたしは飛び立った。

今日は敵の中から、エイパムたちの助けを得て、ある1匹を連れだして来る。

あたしはそれをもふるだけ。

フライゴン「待ってよー」

チルタリス「ったく、お前の方が速いだろ?」

フライゴン「そうだけどさ、場所がわからないし」

チルタリス「仕方ねぇ。ついて来い!」

いつの間にかあたしの中から、イライラは消えていた。

誰にも打ち明けなかった秘密を彼に漏らしたのは、あたしにとっても謎。

それでも、まあイライラしないで済むならそれでいいかと割り切り、目的地を目指す。

こいつの乱入がどんな風に影響するのか。

難しく考えても仕方ない。あたしは、前を向いた。


4章 完
 ▼ 57 ューラ@いましめのツボ 16/04/04 20:09:12 ID:r8Ey9Fbw [38/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
今日はここまでです
 ▼ 58 日ゴロゴロンダ◆XTk1MeLTks 16/04/04 21:36:22 ID:oOq24yb6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 59 ノヤコマ@かなめいし 16/04/04 21:49:03 ID:PD.Cx5xA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 60 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 11:32:21 ID:WHXclLiE [1/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







5章 共闘





 ▼ 61 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 11:32:42 ID:WHXclLiE [2/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス「ここか……」

フライゴン「なんか、薄暗いね」

チルタリス「そりゃ時間が時間だからな」

太陽がなりを潜め、夜が姿を現そうとするその時間。

薄暗いのは当然だ。

フライゴン「ホントに敵が現れるの?」

チルタリス「うまく昨日のエイパムがあたしのとこに誘き出してくれる」

フライゴンは心配そうな表情を浮かべる。

風が吹き抜けた。思わず目を覆い、それを開いた時には、フライゴンの心配も風に吹き飛ばされていた。

フライゴン「ま、そうやって今まで上手くやって来たんだし、大丈夫か」

あたしは不愛想に応じる。

チルタリス「おうよ」
 ▼ 62 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 11:33:13 ID:WHXclLiE [3/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
今日の敵は、スリーパーだとか。

と言うか、そもそもあのグループが何をしようとしているのか、イマイチわからない。

不良集団かと思ってたけど、なんか裏がありそうなんだよな。

あたしの学校に潜んでるって事は……あたしの学校を知ってるって事だ。

つまり、あたしの正体に気付きつつある……。

思わず身震いした。

味方を増やして置いて良かったのかもしれない。

と、となりで締まらない笑顔を浮かべるフライゴンを見て思う。

最悪、集団との戦いも想定しないといけない訳で。

そうなれば、例えこんな奴でもいないよりはマシだろう。

フライゴン「ねえ、ホントに敵来るn」

チルタリス「ちょっと黙ってろ」
 ▼ 63 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 11:33:49 ID:WHXclLiE [4/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そうこうしている内に、「敵」がやって来た。

スリーパー「ここに俺たちの組を潰そうとしてる奴が……しかも♀が……グヘヘ」

どうしてこの組織の奴は皆揃いも揃って笑顔が気持ち悪いのだろう。

フライゴン「あれ?」

チルタリス「ああ。お前は物陰から見てろ」

フライゴン「ピンチになったら助太刀するから」

チルタリス「頼んだ」

あたしは、敵の前に姿を現した。

敵はあたしの姿を認めて、笑みを浮かべる。

スリーパー「これは上物だな」

誉められているのだろうが、嬉しくもなんともなかった。

チルタリス「さぁて、あんたか? あたしと戦うのは」

スリーパー「俺が勝ったら、貴様を好きにさせていただく」

チルタリス「勝ったら、ね。あたしが勝ったら、どうなるかわかってる?」

スリーパー「さあな。そんな事心配する必要もないだろう? だって貴様は……」

スリーパー「俺に負ける」
 ▼ 64 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 11:34:09 ID:WHXclLiE [5/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたしは空へと飛び立つ。

スリーパーの常として、催眠術の使い手なのは間違いない。

が、食らわなければどうって事ないのだ。


しかし、あたしは、敵の企みに気付けずにいた。
 ▼ 65 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 11:34:45 ID:WHXclLiE [6/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
スリーパー「あんな事やこんな事……グヘヘ」

チルタリス(おかしい、気配が強く……まさかっ!)

チルタリス(悪巧み! 特攻を2段階あげる……やっべぇな。こりゃ急いで突破しなきゃいけない訳だ)

スリーパー「サイケ光線!」

光が目の前をかすめる。

その思わぬ迫力に、あたしは警戒を強めた。

攻撃を回避すべく下に意識を向けると、振り子を持って敵が佇んでいた。

そして、気持ち悪い笑顔をあたしに向けると、ゆっくりと振り子を揺らし始めた。

チルタリス「しまった!」

視線を逸らそうとしても、瞳が、魅入られてしまったかのように動かない。

あたしは、その振り子の虜になっていた。
 ▼ 66 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 11:36:32 ID:WHXclLiE [7/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス(くっ……)

スリーパー「さぁて、と。そろそろ仕上げかn」

フライゴン「大地の力っ!」

敵が呟いた途端、フライゴンが物陰から攻撃を繰り出す。

それで振り子の動きが歪められ、あたしは不意に我に帰った。

チルタリス「ナイスっ!」

スリーパー「なっ、なぜ、貴様っ!」

フライゴンを見て動揺する敵に、あたしの怒りは限界を超えた。

こんなザコにいいようにされかけたのか、と。

チルタリス「てめぇ許さねぇ! ムーンフォースっ!」

スリーパー「ぎゃあああああ!」

フライゴン「やった!」

だが、まだ終わっていない。あたしの仕事は、倒すだけでは終わらない。

犯罪の芽を完全に刈り取る。

そのために、あたしのもふもふを使う。そこまでやって初めて、あたしの目的は達成される。
 ▼ 67 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 11:37:15 ID:WHXclLiE [8/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス「フライゴン、ちょっと向こう行っててくれ」

フライゴン「え、なんで?」

チルタリス「いいから」

フライゴン「わかった。でも、危なくなったらすぐ助けを呼んでよね」

チルタリス「了解」

一度ピンチを助けてもらった事で、若干は信頼してもいいかなって気になっている。

でも、それはこれから次第。それよりも、今はまずもふもふだ。

あたしは、翼を優しく揺らし、敵に押し当てる。
 ▼ 68 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 11:37:36 ID:WHXclLiE [9/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
スリーパー「え……」

困惑した声をあげる敵に、あたしは質問を投げかける。

チルタリス「てめぇ、例のグループのメンバーなんだってな」

スリーパー「それは……このもふもふ……」

チルタリス「おう、気持ちいいか?」

敵の顔には、屈辱と快楽が混ざり合った奇妙な表情が浮かぶ。

スリーパー「……だがなんでこんなk」

チルタリス「ふざけんなっ! てめぇはあたしの質問にだけ答えてればいいんだ!」

スリーパー「ひっ!」
 ▼ 69 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 11:38:16 ID:WHXclLiE [10/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス「で、気持ちいいか?」

スリーパー「は、はい……あっ」

不快な喘ぎ声を発する敵に、それでもあたしは言葉を投げかける。

チルタリス「てめぇ、例のグループのメンバーなんだってな」

スリーパー「ふぁ、ふぁい! ……いやその……やめ……」

チルタリス「他のメンバーに関しても情報を持ってるよな」

スリーパー「もふもふをやめ……」

チルタリス「質問に答えろ」

スリーパー「知ってます……くっ……あふっ」
 ▼ 70 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 11:38:36 ID:WHXclLiE [11/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス「気持ちいいか?」

スリーパー「はい……」

はいで答える質問を重ねていると、隠すべき事柄に対してもYESと答えやすくなる。これは、あたしの経験上、間違いない。

それを上手く活用して、あたしは情報を得る。

チルタリス「で、そのメンバーに関して、情報ねぇか?」

スリーパー「あります! ありますから! だ、だから……このもふもふ……やめ……やめ……やめないでください!」

落ちたな。

確信と共に、あたしは心中で呟いた。

チルタリス「んじゃ、その情報、教えてくれ」

スリーパー「わかりました!」
 ▼ 71 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 11:39:14 ID:WHXclLiE [12/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたしのもふもふで、だいたいの奴が気持ちよさに溺れる。

その後改心する原理は良くわからないけど、母さんのもふもふもそうだったらしい。

あたしもそうだと言われ、だから自信を持ってこれをやっている。

スリーパーはほいほい情報を流してくれた。

とは言っても、あたしの学校に潜む敵の正体についてはわからなかった。

そもそも誰があたしの学校に通っているかなんてわからない以前に、あたしがどこの学校の生徒かすら知らないのだ。

どこの学生かをバラすのは危険だと判断して、そこを追及するのは諦めたが。

その代わり、ボスの情報を教えてくれた。

スリーパー「俺たちのリーダーは、サザンドラのアニキです……」

チルタリス「サ、サザン?!」

スリーパー「はいっ!」

チルタリス(あたし、もう1回倒したはずじゃ……。いや、だからボスであってはいけない訳じゃないか)

思考を巡らせる。あたしにしょっぱなから倒された奴がリーダーって、さすがに嘘臭い。

が、ここで嘘を吐く事もないだろう。

何がどうなっているのだろうか。
 ▼ 72 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 11:39:42 ID:WHXclLiE [13/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス「とにかく、情報をありがとう」

あたしはもふもふをやめた。

スリーパー「あの、やめないでくださ……」

チルタリス「なぁ、てめぇ、自分が犯罪者だって自覚あんのか?

       あんたのその行動で、誰も喜ばねぇぞ?

       要は、かんっぜんに無意味なんだよ、てめぇの人生」

スリーパー「うっ」

チルタリス「てめぇごときが、あたしにリクエストしてんじゃねぇよ」

スリーパー「も、も、申し訳ありませんでしたっ」

瞳に涙を浮かべて土下座したこいつは、もう完全にあたしの手中にあった。
 ▼ 73 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 11:40:17 ID:WHXclLiE [14/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴン「なんだろ、プチSMみたいな……」

チルタリス「悪いかよ」

あたしはメガシンカを解除して言った。

フライゴン「悪いとは言わないけど、なんか、スリーパー、かわいそうだなって」

チルタリス「あいつは元々が残念な性格だからいいんだよ。それと、お前見てたな? フライゴン」

フライゴン「やっと名前で呼んでくれた……。それはともかく、見ちゃまずかった?」

そのセリフの前半に衝撃を受けたが、そこを無理矢理押し隠してあたしは会話を続ける。

チルタリス「お前には刺激が強すぎると思ってな」

フライゴン「いや、さすがに僕だって♂だから、そのぐらいは大丈夫だって」

チルタリス「あたしは♀だっ!」

しかしフライゴンは、素朴な疑問を顔に浮かべて、こう言い放った。

フライゴン「? 知ってるけど……」

チルタリス(あーもう、調子狂う!)
 ▼ 74 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 11:40:45 ID:WHXclLiE [15/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴン「そんな事より、あの話からわかる事をいろいろ整理してみようよ」

あたしはあくびしながら答えた。

気付けば空は完全な暗闇となっている。

チルタリス「明日なーもう今日は寝る」

フライゴン「あ、そうか。わかった。お休みー」
 ▼ 75 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 11:41:19 ID:WHXclLiE [16/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
なんだかんだ言ってフライゴンには助けられた。

それに、情報を整理しようと持ち掛けて来ると言う事はつまり、少し何かが見えているって事なのではないか。

そうなると、思った以上にあいつは有能なんじゃないか?

なんて思ったけれど、そんな事を口に出すぐらいなら死んだ方がマシだ。

あたしは、家に辿り着く。

チルタリス「ただいま」

ボーマンダ「無事かっ?!」

チルタリス「まあね。お休み」

ボーマンダ「……」

親父は、あたしに対して何も言えない。

あたしに母親を重ね合わせている節があるらしく、親父は、あたしのこの行動を強く止められないらしい。

それをいい事に、あたしは甘えている。

眠りに就いたあたしは、夢すら見ずに朝を迎えた。


5章 完
 ▼ 76 ングース@こだいのおうかん 16/04/05 12:30:46 ID:4h1zmEFQ NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
支援
 ▼ 77 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 20:21:21 ID:WHXclLiE [17/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告






6章 推理






 ▼ 78 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 20:21:44 ID:WHXclLiE [18/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴン「おはよ」

チルタリス「死ね。学校であんま話しかけて来んなフライゴン」

フライゴン「えっ、酷い……」

露骨に傷付いた表情を浮かべるフライゴンを無視してあたしは♀の友達の所へ向かった。

しかし、そこでもニヤニヤ笑いに見られる事となる。

マリルリ「チルタリス? 彼氏泣かせちゃ駄目でしょ」

チラチーノ「チラ見してたけど、あれは完全にクロよね」

チルタリス「は? 違うから」

マリルリ「いいのいいの! 意地っ張りなんだから。あんたは彼に恋してる。応援するよ」

チラチーノ「フライゴン、いいポケモンだしねー。間違いないって言うか」

あたしはもう諦めて、話題を逸らす事にした。

チルタリス「そういやさ、聞いたか? ウワサなんだけど」
 ▼ 79 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 20:22:13 ID:WHXclLiE [19/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
2人「ウワサ?」

チラチーノ「何それ! めっちゃ気になる!」

マリルリ「さすがウワサ大好き女子」

チラチーノの過剰な好奇心を利用して、上手く話題を逸らせた。

チルタリス(ナイス、あたし)

と自画自賛する。

チルタリス「この学校に、不良がいるんだってよ」

2人「えっ」

一瞬驚きを見せたが、すぐに頭を振る。

チラチーノ「そりゃいるでしょ。例えば……ムクホーク先輩とかはとんがってるらしいし」

チルタリス「あ、いやそう言う訳じゃなくて、結構本格的に悪い事やってる奴」
 ▼ 80 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 20:22:40 ID:WHXclLiE [20/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チラチーノ「うーん……。本格的って、具体的にどう言う?」

チルタリス「最近、よく聞かないか? 深夜に現れては、♀ポケを襲ったりおっさんから金を巻き上げたりするグループ」

チラチーノ「ああ……、そういやそんな話聞いた事あるね」

マリルリ「あるの?! ホント、どっからそんな情報を集めてくんのよ……」

チラチーノ「情報源は秘匿と言う事で」

おどけた口調で返すチラチーノに、あたしは一縷の望みを賭けた。

チルタリス「そのグループに属してる奴がうちの高校にいるかもしれねぇんだってよ」

チラチーノ「うーん、ごめん知らない。それにしても、チルタリス、どこでそんな情報ゲットして来たの? 私、気になる!」

大きな瞳をあたしに近付けてくる。だけど、あたしはおどけて答えた。

チルタリス「情報源は秘匿と言う事で」
 ▼ 81 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 20:23:44 ID:WHXclLiE [21/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
結局、チラチーノも、ウワサですら聞いた事はないようだ。

どう言う事だろう。

リーダーがサザンで、うちの高校にメンバーがいる……。

そして、スリーパーが知らないのに、糞ザコのエイパムが知っていた……。

一番簡単な答えは、スリーパーが嘘を吐いているって事。

けれど、あたしの中の前提が、それを妨害していた。

あたしの前で、嘘を吐く奴なんていない。

例え誰であろうと。
 ▼ 82 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 20:24:05 ID:WHXclLiE [22/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴン「だけどさ、それって思い込みだよね」

チルタリス「ムンフォ撃つぞ」

フライゴン「だって事実じゃん。必ず改心するとは限らないよね?」

チルタリス「まぁな。だけど、スリーパーに関して言えば、確実に落ちてた。

       断言してもいいが、あいつはあたしが死ねって言ったら死ぬぞ」

フライゴン「はいはいそうですよね女王様」

チルタリス「どう言う事だよそれ」

フライゴン「そんな事より、情報をまとめるんだよね?」

上手くはぐらかされてしまう。

あたしが言いたいのは1つだけ。

チルタリス「あー調子狂う!」
 ▼ 83 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 20:24:28 ID:WHXclLiE [23/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴン「……なるほど、エイパムからはそんな事を」

チルタリス「ギルガルドからは、お前がいたせいで情報はなし」

フライゴン「だからってそんな怖い目で見ないでよ」

チルタリス「サザンドラからは、組織その物の存在についてだ」

チルタリス「ってな訳で、今わかってるのはエイパムから、そしてスリーパーからの情報、2つだけだ」

フライゴン「なるほど……」

俯いてしまう。

フライゴンは、思考を進めている。

そこには、先程までの軽い雰囲気などなく、あたしも気軽に入り込めない空間が形成されているかのようだった。
 ▼ 84 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 20:24:55 ID:WHXclLiE [24/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴン「うん。OK」

チルタリス「何かわかったのか?! これだけで?!」

フライゴン「だいたいは」

チルタリス「マジか」

フライゴン「大マジ」

チルタリス「じゃあ、聞かせてもらおうか」

フライゴン「うん」
 ▼ 85 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 20:25:42 ID:WHXclLiE [25/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴン「まず、敵組織の中でも知ってる奴と知らない奴がいる……つまり、情報に差があるんだ。

       スリーパーはしたっぱなんだろうね。

       これ、組織の上の方だけで何か企んでるって事だよね。

       それと、そもそも君がその学校の生徒だって知ってる……。

       つまり、君は調べられているんだ。

       君が即ち闇のヒーローメガチルタリスだって事もね」

チルタリス「ヒーローじゃなくてヒロイン。後闇ってなんだ」

フライゴンは何も気にする事なく続ける。

フライゴン「それなのに、こんな情報を流して来る。一部しか知らないような情報をね。

       チルタリスの正体を調べた上で、その情報を流して来るなんて、このぐらいしか考えられない」

そこでフライゴンは大きく息を吸い込む。

フライゴン「げほっ、す、吸い過ぎた……」

チルタリス「バーカ」

フライゴン「と、とにかく、これは罠だと思うんだ」

チルタリス「ほう」
 ▼ 86 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 20:26:04 ID:WHXclLiE [26/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴン「情報がコントロールされてる気がするんだよね。

       だって、組織って単位を教えられて、その次が学校にメンバーがいる。

       かと思えば最初にやられたはずのポケモンがボスって情報を持たせる

       こう、疑問を持たせて、奥へ奥へと向かって行ってる。

       疑問をほっとけない性格してるのもたぶんバレてるね、これ。

       そして、一番奥で……ズドン! ってのが作戦なんじゃないかな」

チルタリス「根拠薄くね?」

フライゴン「だって情報が足りないし」

チルタリス「それに、あたしを狙う動機ってなんだよ」

フライゴン「名声とかかな。他にもいろいろ、悪人を潰して来たんでしょ?」

チルタリス「まあ……」

フライゴン「それを俺らが潰した! ってなったら、一目置かれるじゃん」

チルタリス「なるほど……」

フライゴン「でも、根拠に関してはもう少し考えて見るね」
 ▼ 87 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 20:26:27 ID:WHXclLiE [27/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴン「僕らの学校にメンバーがいる……。つまり、そいつがスパイなんだろうね。

       そいつもグルで、チルタリスを狙ってる。

       そして、わざわざ君の情報を狙うって事は、ターゲットは君。

       つまり、最終目標は、君を倒す事。その後に何をするかは知らないけどね」

チルタリス「つまり……あたしの事を知ってるって事がつまり、あたしをターゲットにしているって事の証明って事か?」

フライゴン「そう言う事! なんだ、意外に話が通じr」

チルタリス「ムンフォ撃つぞてめぇ」
 ▼ 88 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 20:27:16 ID:WHXclLiE [28/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴン「とにかく! だから、これ以上君を戦わせる訳にはいかないよ。もうやめよう」

チルタリス「は? 今更やめるとかあり得ねえから」

正直言うと、複数VS1匹は初めてだ。

怖くないと言えば嘘になる。

だが、それでも。

あたしは今までやって来た。

やる事は変わらない。

それに、最終兵器、ハイパーボイスは範囲技だ。

囲まれても、最悪それでなんとかなる。

フライゴン「……言うと思った」

寂しげに言うと、フライゴンは微笑む。

フライゴン「僕も協力するよ。例え、何があろうと」

チルタリス「……頼んだ」
 ▼ 89 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 20:29:12 ID:WHXclLiE [29/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴンがあたしと戦ってくれる。

これだけで、まさかここまで安心出来るだなんて、夢にも思わなかった。

急激にあたしは、フライゴンに心を開きつつある。

自分でも不思議な程、その勢いは強かった。

チルタリス「……よろしく」

フライゴン「……!」

チルタリス「どうした」

フライゴン「チルタリスが、まさかそんな事言うだなんて……これは明日は大雪確定だ……」

チルタリス「ムンフォ撃つぞ」


6章 完
 ▼ 90 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 21:35:53 ID:WHXclLiE [30/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





7章 挫折





 ▼ 91 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 21:36:21 ID:WHXclLiE [31/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたしは、フライゴンと共に夜闇を駆ける。

今夜の敵は、グライオンらしい。

スリーパーが釣りだして来てくれるらしい。

フライゴン「頑張ろうね!」

こいつものんきだなぁと思いつつ、それでもそれを受け入れられるようになっている自分に気付き、愕然とする。

チルタリス「あそこだな」

フライゴン「もう僕の事はバレてるよね……」

チルタリス「いや、わからねぇ。一応隠れてくれ、あたしがピンチになるまで」

フライゴン「わかった」

スリーパーの奴がこいつの事をバラすとは到底思えない。

スリーパーの時点で存在がバレていない以上、まだ知られていないと考えるのが妥当だ。

結局、あたしが改心させ続けている限り、フライゴンの存在はいつまでたってもあたしの大事な隠し玉になる訳だ。
 ▼ 92 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 21:36:57 ID:WHXclLiE [32/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
この敵は、他のメンバーと違って、茶目っ気たっぷりな笑顔を見せてくれた。

だが、舌なめずりの様子を見て、その期待が裏切られたと知る。

グライオン「ほうほう……こんなカワイ子ちゃんにやられかけたってか! ハッ! ザコだな、スリーパーも」

チルタリス「あーら。あたしが♀だからって、あんまり舐めてたら……

       地獄見せるぞ」

グライオン「ハッハッハッ! 面白いねぇ! 俺的には、こういう奴を徹底的にこき下ろすのが楽しいんだよな」

チルタリス「くっころさんって奴か」

グライオン「そう! それが理想!」

チルタリス「……ムーンフォース!」

あたしは先手必勝で攻撃を仕掛ける。

しかし。

敵は夜の風に乗ってそれを身軽に回避すると、夜の闇に消えた。
 ▼ 93 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 21:38:02 ID:WHXclLiE [33/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス(見えない……。仕方ねぇ、音を……)

そう考えた、その瞬間の事であった。

チルタリス「うがぁっ!」

暗がりから、突如として針が突き刺さる。

チルタリス「なっ! 音が聞こえない……」

グライオン「俺の特技さ! 無音で飛べるんだぜ」

チルタリス(ちっ、厄介だな)

グライオンは、不敵に笑う。

その声めがけてムーンフォースを撃ったが、しかし手応えはなかった。

チルタリス「ちっ」

だが、手応えこそなかった物の、この明かりからアイデアを得られた。
 ▼ 94 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 21:38:26 ID:WHXclLiE [34/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス「ムーンフォースっ!」

グライオン「ハッ! どこ狙ってやがる!」

あたしは何も答えず、ただ、時を待った。

グライオン「さあて、やりますk……」

チルタリス「そこだっ! ムーンフォースっ!」

声が聞こえた方へ攻撃する。

グライオン「うわっ、あっぶね! ちっ、そういう事かよ……」

ムーンフォースが放つ光。

それが、敵の姿を、明るく照らし出していた。
 ▼ 95 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 21:39:06 ID:WHXclLiE [35/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
グライオン「なるほど、咄嗟の判断力。ボスが重く見るのもわかるぜ……」

それだけ言うと、敵は、つまらなさそうに呟いた。

グライオン「だが、遅効性の毒、そろそろ効いて来たんじゃないか?」

       あんまりやりたくねぇんだけどな。毒なっちまうと……ハリがなくなっちまう。♀として、そうなりゃ終わりだから」

チルタリス「なっ……」

確かに、どことなく体が重い。

これが毒……。

知識としては知っていたが、実際になるのは、これが初めてだった。

チルタリス「うぐっ……」

グライオン「さぁて、と。もう駄目だ。とどめ刺しますか」

興味を失ったような表情。

体の自由が奪われて、あたしの顔は苦痛に歪む。

だが、ここでも咄嗟の閃きがあたしを救う。
 ▼ 96 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 21:39:28 ID:WHXclLiE [36/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス(メガシンカ……解除!)

グライオン「うっ、眩しっ……」

力が一気に抜けて行く。

光があたしを包み込み、一瞬であたしは元の姿に戻る。

グライオン「メガシンカを解除……舐められたもんだ。諦めたか」

チルタリス「誰が諦めるもんか」

あたしは、明瞭な思考で答える。

特性自然回復。

状態異常も、すぐに治ってしまう。
 ▼ 97 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 21:39:54 ID:WHXclLiE [37/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
グライオン「毒が解除されたのか……いい! いいぞ!」

チルタリス「これであたしに毒は効かないっ! てめぇをぶっ殺す!」

グライオン「その勢い、最高だ」

グライオンは、茶目っ気たっぷりな笑顔を見せる。

あたしは身震いした。

だが、それも一瞬で止まる。

チルタリス「ムーンフォース!」

グライオン「氷の牙!」

眩い光の下、攻撃を回避するのはたやすかった。
 ▼ 98 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 21:40:40 ID:WHXclLiE [38/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ただ、1人で相手しきるのは、なかなかの重労働になる。

そう判断を付けて、あたしはフライゴンを呼び出した。

チルタリス「そろそろ出て来いっ!」

フライゴン「はいはーい」

グライオン「……1匹増えようと、俺のやる事は変わらねぇ。氷の牙っ!」

飛びかかるグライオンに、あたしたちは攻撃を食らわせた。

チルタリス「龍の波動!」

フライゴン「龍の波動!」

2匹同時の攻撃は、しかし合わさりはしない。

敵の左右をかすめるように狙うのだ。

敵は、慌ててかわそうとする。

それが、敵の最後。

ギリギリ当たらない物に、自分から飛び込みに行くのだ。

グライオン「ぐわああああっ!」
 ▼ 99 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 21:41:00 ID:WHXclLiE [39/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス「ナイス、フライゴン」

フライゴン「うん。やった……」

あたしは、倒れたグライオンの上を取る。

もちろん、しっぽの棘が刺さらないよう、頭の方に。

グライオン「ちっ、負けかよ……。あークソ! 煮るなり焼くなり好きにしろ!」

あたしは、ほくそ笑んだ。

チルタリス「ホントに好きにして良い訳?」

その顔に、思わず怯むグライオン。

フライゴン「……優しくしてあげてね?」

それだけ言うと、飛び去ってしまう。

もっとも、声が聞こえるような位置にいるのは間違いないだろう。

そう判断して、あたしはもふもふを開始した。
 ▼ 100 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 21:41:20 ID:WHXclLiE [40/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
グライオン「あひゃっ、くすぐってぇ……」

チルタリス「気持ちいいか?」

グライオン「……まぁな。悪くはねぇ」

チルタリス(えらく始めっから従順だなこいつ)

脳裏に浮かんだそんな疑問を振り払うかのように、グライオンは笑う。

グライオン「俺は負けたんだ。てめぇに何か言う権利はねぇよ」

チルタリス「そ。なら、これから犯罪行為はやめる?」

グライオン「ああ……」

チルタリス「それなら、あたしにあんたたちのグループに関しての情報をくれ」

グライオン「わかった」
 ▼ 101 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 21:41:45 ID:WHXclLiE [41/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
グライオンから得られた情報は、敵組織のアジト。

それだけだった。

学校に潜む敵の事も、その組織があたしを狙っているのかどうかと言う事も、知らないの1点張り。

ただ、こいつは、底が知れない。

あたしのもふもふが、通用していないような気もする。

だから、嘘を吐いている。その可能性も、否定は出来ない。

それがどことなく恐ろしく、あたしはひたすらにもふもふを続けた。

グライオンは不敵に笑う。

フライゴン「ストップ! もう駄目だよ。初めから受け入れるような体勢が整ってたら、あんまり効果はないと思う」
 ▼ 102 1◆J44kAZeDOM 16/04/05 21:42:06 ID:WHXclLiE [42/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス「それ、どう言う事だよ!」

フライゴン「ハッキリ言って、もふられてるこの状況、かなり情けないんだよ。♂からしたら。

       今まで突っ張ってたのに、そんな情けない事になってるって事が、心をポッキリと折っちゃって、

       それで強引に改心させてた、って事だと思うんだ」

チルタリス「はぁ?」

フライゴン「情けない状態になるのを初めから見抜いて、心の準備をしておけば、効果薄なんだ。だから」

チルタリス「……」

グライオン「まあ、そういうこった。言っとくが、アジトの場所は間違いねぇ。ただ、罠かも知んねぇな」

チルタリス「……」

グライオン「それじゃ、そろそろ解放してくれや」

チルタリス(あたしのもふもふが……効かない?)

初めて味わう挫折に、あたしの心は完全に折られていた。

目の前で笑うグライオンが、ただひたすらに恐ろしかった。

そして、あたしはその体を離してしまう。

グライオン「じゃあな。アジトで待ってるわ。そん時は覚悟してろ」
 ▼ 103 日はここまで◆J44kAZeDOM 16/04/05 21:42:43 ID:WHXclLiE [43/43] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
夜闇の中、あたしの沈痛な声だけが響いていた。

チルタリス「あたしが……ま、負けた?」


7章 完
 ▼ 104 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 13:31:23 ID:BHPKSwiA [1/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







8章 苦悩





 ▼ 105 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 13:32:05 ID:BHPKSwiA [2/52] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
あたしは、失意の中、フライゴンを振り切って自宅へと戻った。

親父はいなかった。

仕事が忙しいのだろう。

物騒な事件が起きていると言う事だ。

それでも、あたしの心にその事実はなんら響いて来ない。

ただ、ひたすらに、あたしの中は苦痛で満たされている。

体が震えた。

涙だけはこらえたが、それでももう、あたしはずたずただった。

チルタリス「……クソッ! クソッ!」

ああああああああああああっ!

あたしの声なき叫びが、もふもふの中をこだまする。

あたしは、涙を流さないままに、ひたすら泣き続けた。
 ▼ 106 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 13:32:52 ID:BHPKSwiA [3/52] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
気付けば、窓の外が明るくなっている。

もうそんな時間かと呟いて、あたしは顔をあげた。

無理にでも、自分を元気付けようと、声をあげる。

チルタリス「まずはパンを焼いて、それから……」

チルタリス「って、今日学校休みか……」

言葉と言うのは不思議な物で、だいぶ気を逸らしてくれた。


あいつが来るまでは。
 ▼ 107 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 13:33:12 ID:BHPKSwiA [4/52] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
フライゴン「おーい、チルタリス!」

その、呆れるぐらいにのんきな声に、あたしは、一気に昨夜へと引き戻される。

あたしの中を、忘れかけていた絶望が埋めて行く。

チルタリス「……なんで来るんだよ、フライゴン」

フライゴン「だって、今日なんでしょ? 店長にお願いして、バイト、休ませてもらったんだ」

こいつ……。

チルタリス「残念だけど、あたしは行かない。もう無理だ」

フライゴン「……」

いつものようにどことなく抜けた返答を予期していたあたしは、思いがけない無言の応対に驚きを覚える。

チルタリス「……笑えよ。どうせあたしは、臆病者だよ」

それでも、フライゴンは、真剣な表情を崩さない。

声なき声で、あたしに何かを訴えかけようとしていた。

チルタリス「どうしたんだよっ! 何なんだよ……ふざけんなっ!」
 ▼ 108 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 13:34:24 ID:BHPKSwiA [5/52] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ただの八つ当たり。そんな事はわかっている。

技ではないから、フライゴンにダメージは与えられないけれど、その攻撃は、あたしの心に情けなさと言うダメージを残した。

フライゴン「僕は、ふざけてなんかないよ。本気だ。真剣に君を見てる」

フライゴンは、小さく息を吸い込んだ。

「チルタリス」とフライゴンはあたしを呼び、続けた。「君は確かに、臆病だ。だけど、それを笑う気はないよ」

チルタリス「なんでだよ……。なんでっ! なんであたしを庇おうとするっ!」

フライゴン「違う!」

鋭く言い放った。

その語勢に、思わず怯む。

フライゴン「僕は、君を庇うつもりなんてない。笑うなんかより、君にとっては、もっと酷だ。

       僕は今、君を断罪しようとしているんだから」

あたしは無言を貫いた。

フライゴンの声は、あたしを責め立てる。

それを受け入れる事は、臆病なあたしへの、唯一の裁きだと思ったから。

だから、何も言わずに、それを聞き続ける。
 ▼ 109 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 13:34:47 ID:BHPKSwiA [6/52] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
フライゴン「なんで君がそんなに怯えてるかって、正体がバレて、対策される可能性があがってるからでしょ?

       だとしたら、君は、行かないといけない」

チルタリス「ちがっ……」

否定しようとしたが、上手く言葉に表せない。

あたしは、フライゴンの言葉を受け入れてしまっている。

それに気付き、愕然とした。

フライゴン「もしここで逃げるなら……君の今までの行動は正義なんかじゃない。

       ……ただの、自己満足だ!」

チルタリス「……」

フライゴン「セイ‘ギセイ’‘ギセイ’ギ……。この影に、一体どれだけのギセイが隠されてるのか、考えた事ある?

       言葉遊びじゃない。本当に」

フライゴンは、涙を流した。

フライゴン「行き過ぎた正義は、周りを破壊するんだ」
 ▼ 110 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 13:35:34 ID:BHPKSwiA [7/52] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
フライゴン「だから、自分が壊されるって事も、当然覚悟しないといけない」

フライゴン「それが、正義に必要な覚悟なんだ」

フライゴン「それもなしに、正義のヒーローを名乗るなっ!」

チルタリス「……」

後には、沈黙だけが残った。

フライゴンは、まっすぐあたしを見詰めている。

あたしも、フライゴンをしっかりと見据えた。

頬を涙が伝っている。

それが滴り落ちたその瞬間、あたしの心の中で、何かが弾けた。

チルタリス「……ありがとう」

フライゴン「……わかってくれたんだ」

チルタリス「ここまで言われてわかんねぇ程あたしはバカじゃねぇよ」
 ▼ 111 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 13:35:54 ID:BHPKSwiA [8/52] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
――

あたしは、フライゴンと連れたってアジトへと突入した。

まだ太陽は、真上で明るく輝いている。

その暖かさに凍て付いた心も少しは溶かされている。

フライゴン「……絶対、敵は君の事を狙ってる。囲まれるのは、まず間違いないよ」

チルタリス「わかってる。だから、お前は地震をぶっ放せ。あたしもハイボで蹴散らすから」

改めて作戦を確認。

あたしだけだったら、今こうしていなかっただろう。

悔しいが、フライゴンの存在が、あたしを勇気付けてくれている。

そこに、疑いを差し挟む余地はなかった。

自分の中では、まだ「正義」がグラついている。

それでも、あたしは戦わないといけない。

それが、あたしの償いだ。

こんな時でも崩れないフライゴンの笑顔を横目に、あたしは翼を羽ばたかせた。
 ▼ 112 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 13:36:36 ID:BHPKSwiA [9/52] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
フライゴン「ここだよね?」

海辺にある、崩れかけの倉庫。

崩れかけと言っても、雨風をしのげるぐらいの設備は整っている。いるが、それでも、ヒビやサビ、容赦ない年月がその壁に叩き込まれていた。

チルタリス「グライオンが嘘吐いてなきゃな。そして、アジトの場所に関しては嘘はねぇだろ」

フライゴン「罠だとしても、人員はいるはずだしね」

チルタリス「ああ。行くぞ!」

あたしたちは、勢いよくドアを蹴破った。

2匹の力が重ね合わさり、ドアは、勢いよく吹っ飛んだ。

「ぐぼぉっ」

妙なうめき声が聞こえたと思ったら、フライゴンが解説してくれた。

フライゴン「ドアに付きっ切りで見張ってたんだろうね、お気の毒に」

現に、奥の方で泡を吹いて気絶している2匹のポケモンがいた。

一瞬同情が脳裏をよぎったが、戦う敵の数が減るのは大歓迎だと割り切って、あたしたちは倉庫へ踏み込んだ。
 ▼ 113 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 13:36:58 ID:BHPKSwiA [10/52] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
チルタリス「てめぇらぁ!」

フライゴン「ちょっ、そんな威嚇しなくても……」

フライゴンはそう言うが、そうやって威勢を貼ってないと、あたしが押しつぶされそうだったから。

だから、あたしは叫んだ。

もちろん、叫ぶまでもなく、あたしたちのさっきの行動で、敵の集団は警戒を強めている。

あたしの顔を認めて、ニヤリと笑みを浮かべていた。
 ▼ 114 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 13:37:32 ID:BHPKSwiA [11/52] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
チルタリス「行くぞっ!」

フライゴン「うん!」

チルタリス「ハイパーボイスっ!」

フライゴン「地震っ!」

あたしの技は空気を、フライゴンの技は大地を揺らす。

その激しすぎる振動の中、あたしたちは身を寄せ合った。

もふもふが、振動を吸収してくれる。

だが、それはあたしたちだけを守る盾。

敵集団を守る物はそこになく、あたしたちの攻撃がかなりの痛手になっているのが見て取れた。

フライゴン「やった!」

チルタリス「油断するのはまだ早いぞ」

フライゴン「わかってるって」

まだ何匹か残っている。

それを、2匹がかりで一掃した。

もふってるヒマはない。

ボスのサザンドラと、側近のギルガルドを倒せば、組織は自然消滅するはずだから。
 ▼ 115 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 13:38:03 ID:BHPKSwiA [12/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴン「この奥だよね」

チルタリス「だろうな。行くぞ!」

半分崩れたようなドアを蹴破った。

奥には、最初にやられたはずの、サザンドラが気味の悪い笑みを浮かべていた。

その横には、バトル以外では無表情を貫く、ギルガルドの姿もある。

チルタリス「さぁて、あっさり集団を撃破して来た訳だが。どうする? それでもやるか?」

サザンドラ「ハッ! 笑わせてくれる! 俺の改心すらし損なってるクセによ!」

ギルガルド「……戦う。貴様は、俺様の刃に沈む!」

2匹が臨戦態勢に入ったのを見届けて、あたしは構えた。

フライゴン「……来るよっ!」


8章 完
 ▼ 116 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 18:17:36 ID:BHPKSwiA [13/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





9章 過去






 ▼ 117 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 18:17:58 ID:BHPKSwiA [14/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


ギルガルドが刀身を振りかざす。

それをすんでのところで回避すると、あたしはサザンドラめがけてムーンフォースを放つ。

しかし、本気を出したサザンドラは、最初に戦った時より、もっと強く、素早かった。

あたしの攻撃を簡単に回避すると、力を蓄え、それを放つ。

そのエネルギーは、龍の力を取って、フライゴンに襲い掛かる。

フライゴンも同じ龍の波動を繰り出して、相殺する。

爆風が巻き起こった。

その煙の中、あたしの羽に、何かが触れるのを感じた。
 ▼ 118 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 18:18:23 ID:BHPKSwiA [15/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それは、あたしのもふもふごと取り囲み、あたしの自由を奪う。

ロープだった。

それが、あたしを縛ろうとうごめく。

あたしは、凍り付いたまま、それの蹂躙を受けていた。

煙が晴れた時、目の前には、フライゴンの笑顔があり、その奥には、高らかな笑い声をあげるサザンドラの声があった。

チルタリス「ちっ」

あたしは、体の自由を完全に奪われていた。
 ▼ 119 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 18:19:07 ID:BHPKSwiA [16/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サザンドラ「どうだ? 仲間に裏切られた気持ちは」

フライゴンは、何も語らない。

その目に映るのは、あたしの白い体毛。

あたしは、ただじっと、サザンドラを見据えていた。

ギルガルド「悪いな。フライゴンは、お前に接近するための囮なんだ」

サザンドラ「良くやったぞフライゴン! これで俺は、チルタリスを倒した英雄になれる……」

興奮に震える声でサザンドラは言う。

煌めく瞳に、両の手の口もめいめいに鬨の声をあげた。

チルタリス「……あたしじゃ、フライゴンを攻撃出来ねぇだろって事か」
 ▼ 120 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 18:19:27 ID:BHPKSwiA [17/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サザンドラはあたしの質問に、声を大にして答える。

あたしを弄ぶのが、楽しくて仕方ないのだろう。

自分が優位に立っている。その心の余裕も手伝って、サザンドラは、全部ペラペラとしゃべった。

あたしにフライゴンを接近させて、絆を深めて行く。

それが最高潮に達した時、挫折を味合わせ、そこであたしを叱咤する事で、あたしのフライゴンへの依存を強める。

そこへ来ての裏切り。

あたしを、徹底的に潰すための作戦、らしい。

フライゴンは、敵2匹の方に飛び立つ。

サザンドラ「さぁて、と。やりますか」

動けないあたしを後目に、サザンドラは、力を溜めて行った。
 ▼ 121 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 18:21:31 ID:BHPKSwiA [18/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


フライゴン「……僕の親、消えたって言ったでしょ?」

涙の跡こそ消えたが、それでもなお、真剣な顔は崩さない。

いつでも不敵にだらしなく笑っているこいつが、である。

チルタリス「ああ……。それがどうした?」

フライゴン「あれ、嘘じゃないけど、正確じゃないんだ」

唐突な告白。

あまりにもさらりと言う物だから、危うく聞き逃す所だった。

その言葉のかけらをなんとか拾い集め、あたしの脳は動いた。

極めて単純な言葉を発すると言う指示がなされたのだ。

チルタリス「はぁ?」

フライゴン「戸惑うのも無理はないよね。でも、ちゃんと話すから、ちょっと聞いて」
 ▼ 122 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 18:22:29 ID:BHPKSwiA [19/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴン「その父親は、もともとはただのサラリーマンでした。

       だけど、ある事をきっかけに、全てが変わりました。

       ある1匹のビブラーバが誘拐されたのです。

       ビブラーバを返してもらう代わりに、誘拐犯が指示して来た条件はこれでした」

あたしは、息を呑む。

話は、一気に核心へと近付いて行っている。

訳のわからない、予感のような物に身震いした。

フライゴン「……俺たち裏の組織ではそこそこ有名なチルタリスを殺せ。その代わり、ターゲットがそいつだってバレないように」

……予感は、成就された。

フライゴン「父親は、ビブラーバのためならと、全てを投げ打って、殺害に及びました。

       連続殺人の中に、そのチルタリスを混ぜて、殺したのです。

       そして、結局は、逮捕されました。彼女の夫のボーマンダにです」
 ▼ 123 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 18:22:52 ID:BHPKSwiA [20/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス「……つまり、お前は……母さんの敵の、その……」

フライゴン「息子だよ」

フライゴンは事もなげに話す。

しかし、表情はまだ、真剣その物。

あたしは、続きを促した。
 ▼ 124 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 18:23:21 ID:BHPKSwiA [21/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴン「その後、残されたビブラーバの母親であるフライゴンは、辛い風評被害に耐えながら、それでもなんとか息子を育てました。

       だけど、無理が祟って、死んでしまいました。

       残された子どもは、復讐を誓って、勉強にバトルと全力を出しました。

       そして、いよいよ復讐の時です。

       進化してフライゴンとなった彼は、まず、地域で有名な札付きのワルに協力を持ちかけました。

       そのワル……サザンドラは、打倒チルタリスで利害が一致たのです。

       そして、フライゴンは、チルタリスと接近し、少しずつ仲良くなって行きました」

最後の部分に反論しようとして、やめた。

どうでもいい事だったから。

チルタリス「ここで言うって事は……」

フライゴンは無視して続けた。
 ▼ 125 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 18:24:18 ID:BHPKSwiA [22/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴン「そうしている内に、フライゴンの方にも絆が芽生えていたのです。

       フライゴンは信じてみたかったのです。

       自分から全てを奪った、『正義』を。

       そして、決意しました。全てを話そうと。

       チルタリスは、最後まで聞き遂げてくれました。

       そして言いました」

チルタリス「……話してくれて、ありがとう、ってか?」

フライゴン「そんなとこかな」

フライゴンは、笑顔を取り戻す。

そして、あたしに向かって、自信満々で言った。

フライゴン「それで、僕は今、晴れて2重スパイになりました、と。

       それを活かして、作戦を組み立てたんだけどさ……」

チルタリス「ほう……」
 ▼ 126 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 18:24:48 ID:BHPKSwiA [23/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


サザンドラを無視して、あたしは、もふもふの中にしまっているチルタリスナイトに願いを込める。

瞬間、あたしを光が包む。

あたしは、甘美なそれに身を委ねた。

サザンドラ「なっ、なんだこれはっ!」

フライゴンは、ニヤリと笑う。

ギルガルド「……メガシンカだ」

サザンドラ「なっ!」

チルタリス「いつから……。

       いつからあたしがメガシンカしていると錯覚していたぁっ!」


9章 完
 ▼ 127 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 19:57:41 ID:BHPKSwiA [24/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







10章 決着






 ▼ 128 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 19:58:02 ID:BHPKSwiA [25/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


フライゴンの作戦はこう。

フライゴン「僕は君を縛るけど、メガシンカしたらたぶんそれははち切れるよね」

チルタリス「50センチぐらいでかくなるしな」

フライゴン「だから、敢えてメガシンカなしで突っ込む。

       縛った後で、メガシンカするんだ。

       ハイパーボイスだろうとムーンフォースだろうと、サザンドラの相性的に絶対勝てるよ」

フライゴンはニッと笑った。

チルタリス「なるほど……。よし、それで行くぞ!」

あたしは、フライゴンの作戦を、全面的に信用する事に決めた。

結果として、その選択は、正しかった。
 ▼ 129 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 19:58:23 ID:BHPKSwiA [26/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


サザンドラ「なぜだっ! メガシンカしていないだとっ!」

チルタリス「お前は知らないもんな! あたしのメガシンカした姿を!」

そう。

サザンドラは、あたしのメガシンカの事を知らない。

いや、正確には、情報だけは得ていたのだろう。

しかし、あたしはメガシンカをしないままサザンドラを倒した。

そして、その後フライゴンは、普段からあたしはメガシンカして戦いに出ていると言った。

面倒だと言う単純な理由。

それが、あたしを救った。

結果、サザンドラは、正確なメガチルタリスの姿を知らないままに、あたしとの決戦に挑まざるを得なかった、と言う訳だ。

ギルガルド「……気付いてなかったのか」

サザンドラ「気付いていたのかっ! なら、早く言えよ!」

ギルガルド「まさかメガシンカもさせないままにやられる程のザコだとは思っていなかった物でな」

サザンドラ「うぐぐ……」
 ▼ 130 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 19:59:38 ID:BHPKSwiA [27/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴンは、2匹の傍から親指を立ててみせた。

あたしは頷いて、ハイパーボイスの用意をした。

あたしが持つ精霊の力が、その技に宿ろうとうごめく。

しかし。

サザンドラ「てめぇ!」

フライゴン「うわっ! 何するんだっ!」

サザンドラは、フライゴンを羽交い締めにした。

不意を突かれたフライゴンは、抵抗出来ずにもがく。

サザンドラ「これで攻撃できまい! フェアリー技はこいつにも効果抜群だからな!」

あたしは、その行動を止めた。

チルタリス(確かにそうだ)

今ここでハイパーボイスをぶっ放したら、フライゴンも無事では済まない。
 ▼ 131 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 19:59:58 ID:BHPKSwiA [28/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ギルガルド「……取りあえず、お前だけはぶっ殺す!」

戦いとなると性格が急変するのは、特性バトルスイッチの賜物か。

そんな事を少々冷静なまでに認識している。

ギルガルドが、ラスターカノンを放とうとしていた。

フライゴンの現状を見て、殴られたように動けない。

チルタリス(……どうすればっ!)

ギルガルド「今だっ!」

ギルガルドが光を放出しようとした、その刹那。

フライゴン「大地の力!」
 ▼ 132 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 20:00:47 ID:BHPKSwiA [29/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
行動を縛られていても、特殊技は使える。

もっとも、溜めのモーションが出来ない分、威力はガタ落ちなのだが。

しかし、フライゴンにとっては、それで充分だった。

ギルガルドの行動を制御さえ出来れば、それでいいのだから。

ギルガルド「うぐっ」

効果抜群の一撃を受けて、ギルガルドがよろめく。

フライゴン「今だチルタリスっ! 僕ごと撃って!」

サザンドラ「こいつ……正気かっ?!」

フライゴン「僕なら大丈夫だからっ! 速くっ!」

あたしは一瞬逡巡した。

しかし、脳裏をある言葉がよぎる。
 ▼ 133 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 20:01:19 ID:BHPKSwiA [30/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


フライゴン『だから、自分が壊されるって事も、当然覚悟しないといけない』

フライゴン『それが、正義に必要な覚悟なんだ』


 ▼ 134 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 20:01:40 ID:BHPKSwiA [31/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



フライゴン、あんたの覚悟……見せてもらおうじゃないの。


そう呟いて、あたしは、先程まで溜めていた力を、一気に放出した。



 ▼ 135 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 20:03:20 ID:BHPKSwiA [32/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



その音は、辺りを揺らす。


ギルガルドが、頭を抱えた。


サザンドラの悲鳴が響き渡る。


フライゴンは、無言で耐えていた。


 ▼ 136 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 20:03:41 ID:BHPKSwiA [33/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サザンドラ「耳が! 耳がぁ……」

サザンドラはもちろんの事、ギルガルドもガードが間に合わず、直撃を受けた。

先程のフライゴンの攻撃で特防が下がっていたらしく、そのままあえなく崩れ落ちる。

あたしは、フライゴンに駆け寄る。

チルタリス「フライゴンっ! お前大丈夫かっ!」

フライゴンは、死んだように動かない。

あたしは叫んだ。

――フライゴン! フライゴン! しっかりしろ! 頼むから……。
 ▼ 137 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 20:04:18 ID:BHPKSwiA [34/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





フライゴン「うっ、いっててて……」



チルタリス「フライゴン!」



 ▼ 138 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 20:04:45 ID:BHPKSwiA [35/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴン「ハハ、やった……」

チルタリス「よかった、死ななくて……。でも、どうやって耐えたんだ?」

フライゴン「ロゼル……持ってて良かった……」

チルタリス「おま、そんなピンポなアイテム……」

フライゴン「いつ君にムンフォぶっ放されてもいいように……ってね……」

荒い息を吐きながら、フライゴンは言った。

フライゴン「それよりも……もふらなくていいの?」

チルタリス「……」

あたしは、意識を失いかけているサザンドラに向き直った。

そして……。

全力でもふもふを開始する。
 ▼ 139 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 20:05:09 ID:BHPKSwiA [36/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サザンドラ「俺はこのぐらいわかってんだ。効かねえよ」

チルタリス「あたしのハイボで耳がいかれて、聞こえなくなったってか?」

キク違いである。

こいつの心を折るには、もふもふだけじゃ足りない。

あたしは、だからこいつの完膚なきまでの負けを思い知らせる事にした。

チルタリス「100歩譲って1回目はあんた全力出してなかったとしても、さっきのは本気よね。

       それであたしに負けるって、相当なザコね。

       卑怯な罠まで仕掛けたってのに……」

サザンドラ「てめっ! ギルガルド、こいつを殺れ!」

ギルガルド「……こいつの言う通りだろ。お前は弱い。俺に満足な戦いを与えてくれないお前に、意味はない」

サザンドラ「ぐぬぬ……」
 ▼ 140 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 20:05:48 ID:BHPKSwiA [37/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス「あっははは! 無様な物ね! 仲間から裏切られたのは、どーっちだ?」

そうやって言葉を操りながら、もふもふはやめないでいる。

チルタリス「情けないの。あんたには、こうやって♀ポケモンにいいように蹂躙されてるのがお似合いね。負け犬さん」

全力の笑顔を浮かべる。

サザンドラは、うめく。

その声がまた、あたしの嗜虐性をそそった。

サザンドラ「クソッ! 終わったら覚えとけ……!」

チルタリス「へえ、あたしを倒す、と。

       バッカじゃないの?

       あんたごときじゃあたしを倒すなんて絶対無理だって」

サザンドラ「うがああああああああ!」

叫びと共に、龍の波動を繰り出す。が。

チルタリス「ふふ、ざーんねん。ドラゴン技は効果なしだってば」
 ▼ 141 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 20:06:10 ID:BHPKSwiA [38/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス「もう、あなたには何もない。プライドなんて物もね……。

       いっそ、この快楽に、身を任せてみたら?」

サザンドラ「ふざけんなっ……うぐっ……」

ここにあるのは、1つの無力な魂。

あたしは、それを崩壊させようとしている。

サザンドラ「俺を誰だと思ってやがる! 殺す! 殺す……あぐっ……」

サザンドラの表情に、快楽の陰が見え隠れする。

あたしは、ニコリと微笑む。

サザンドラは、反抗的な口調とは裏腹に、あたしのもふもふを求めるように体を寄せる。

それに気付き、愕然とした表情を浮かべ、サザンドラは身を離そうとする。

しかし、あたしがそれを許さない。

しっかりとサザンドラを捉え、無言でもふもふを続けた。

サザンドラ「離せっ、離せっ……」

その声も、情けない程かすれていた。
 ▼ 142 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 20:07:20 ID:BHPKSwiA [39/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サザンドラ「ああ……」

恥、快楽、怒り。

様々な感情をないまぜにした表情。

サザンドラ「やめろ……あくっ……」

強気な言葉に紛れ込む、喘ぎ声。

あたしの顔には、満面の笑みが広がって行った。

チルタリス「……」

サザンドラ「離せ……いや……離すな……続けろ……」

堕ちた。

確信はある。しかしあたしの嗜虐性は、まだ満足していなかった。
 ▼ 143 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 20:07:53 ID:BHPKSwiA [40/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス「それがポケモンに物を頼む態度?」

サザンドラは、屈辱に震えながら、しかし無自覚のうちに、言葉を紡いでいた。

ただひたすら、快楽を求めて。

サザンドラ「……続けて……ください……チルタリス……様……」

チルタリス「よろしい」

あたしは、もふもふを再開した。
 ▼ 144 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 20:08:32 ID:BHPKSwiA [41/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
さすがに見かねたのか、フライゴンが口を挟む。

フライゴン「……いつまでやるんですか? 女王様」

その皮肉めいた声に、一気に冷めた。

チルタリス「……いや、もうやめる」

サザンドラ「そんなっ……」

ギルガルドはと振り返ってみると、失望したのかいなくなっていた。

フライゴン「……凄いね。完全にやっちゃったって言うか……もう奴隷同然だ」

チルタリス「まあね」

舌をチロリと出す。

フライゴン「おお、怖い怖い」

チルタリス「うっせぇムンフォ撃つぞ」
 ▼ 145 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 20:09:40 ID:BHPKSwiA [42/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
その時。

ボーマンダ「警察だっ!」

サザンドラ「なっ!」

ボーマンダ「ってチルタリス?! 大丈夫か……なんだこれ」

チルタリス「お、親父?! なんでここに……」

不意に入って来たのは親父。

あたしの嗜虐性が行き付いた先を見て、愕然としている。

ボーマンダ「サザンドラが、チルタリスに跪いている……」

フライゴン「あ、チルタリスのお父さん……」

そうやって呟くフライゴンに、事情を知らない親父は、しかし鋭く指摘する。

ボーマンダ「……君、どこかで見たような?」

フライゴン「クラスメイトですからね」

ボーマンダ「いや、そうじゃなく……」

もちろん、あたしの母親を殺したペンドラーを逮捕した時の話だろう。

フライゴンは進化して、姿が変わっているはずだ。

チルタリス(気付かないのが普通なのにな)
 ▼ 146 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 20:10:01 ID:BHPKSwiA [43/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ボーマンダ「っと、そんな場合じゃないんだ! ギルガルドを見なかったか?」

チルタリス「えっ、ああ、逃げてったけど……なんでだ? ガキのケンカみたいなもんなのに、警察が介入するなんて……」

ボーマンダ「ガキのケンカ? バカ言え。お前たちが戦っていたグループに所属しているギルガルド、こいつは、何匹もの命を奪っている、凶悪殺人犯だぞ!」

チルタリス「はぁ?」

フライゴン「僕、そんな事聞いてない……」

チルタリス(フライゴンも聞いていないのか……)

だとすると、本格的に隠していたのだろう。

ボーマンダ「みんな! 近いぞ追えっ!」

警察s「はいっ!」

ボーマンダ「さて……と。ここにいるヤクザどもは、ちょっと別の課の奴に引っ張ってもらうか……」

ボーマンダ「とにかく! チルタリスとフライゴン。もう帰ってくれ。ここは危険だ」

ここではさすがに、逆らえなかった。

あたしは、フライゴンを連れて、飛び立った。
 ▼ 147 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 20:10:23 ID:BHPKSwiA [44/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フライゴン「……真の黒幕は、ギルガルドだったんだ」

チルタリス「まあ……あたしたちじゃどうしようもないよね、もう。本格的に警察が介入してるってのに、あたしたちが出来る事なんてそうないよ」

フライゴン「むしろ迷惑だしね。うん。まあ……気にしたら負けだよ」

チルタリス「だな」

海に沈もうとしている夕陽が、フライゴンの横顔を照らし出している。

それを見ながら、あたしはメガシンカを解除した。


10章 完
 ▼ 148 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 20:45:21 ID:BHPKSwiA [45/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





エピローグ 正義






 ▼ 149 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 20:45:51 ID:BHPKSwiA [46/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ギルガルドは、結局逃げおおせたらしい。

あたしは、ガルーラって言う警察のポケモンから事情を訊かれた。

そして、こっぴどく叱られるのを覚悟したのだが……。

ガルーラ「ま、その正義感は大切にするんだよ! でも、自分の安全も考える事。絶対だよ?」

と念押しされただけで済んだ。

たぶん、親父の根回しのお陰でもあるし、このガルーラの性根もあったんだろう。

あたしは、幸運だった。
 ▼ 150 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 20:47:05 ID:BHPKSwiA [47/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
事情聴取の結果わかった事と言えば、サザンドラがギルガルドに関して何も知らないと言う事。

それ以外にわかる事は、何もなかった。

フライゴンは、厳重に注意されたらしい。

あたしも……。

ボーマンダ「バレないようにって約束だろう?!」

と、親父からは叱責された。

ただ、ひとまずの所は解放される事になる。

身の安全を第一に考えろとだけ言われて。
 ▼ 151 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 20:47:37 ID:BHPKSwiA [48/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
こうして、事件は終息した。

ただ、変わった事が1つ……。

フライゴン「えっと……お皿はこれ?」

チルタリス「あのさぁ、お前、あたしがやるから座って待ってな!」

ボーマンダの、「両親がいないなら、うちで引き取ろうか?」と言う鶴の一声で、あたしたちは同居する事になった。

問題なのは、親父が留守にする事も多く、1つ屋根の下、2匹っきりになる事もあるって事だが、それに関しては、今回の件の罰との事で、あたしに反論の権利はなかった。

チルタリス(ふざけんなっての)

そう毒づいてみても、事態は変わらない。

それなら、それに適応するしかない。

なんだかんだ言って、フライゴンがいて、不便な事はない。

……家での生活においては。
 ▼ 152 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 20:48:08 ID:BHPKSwiA [49/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チラチーノ「……ウワサなんだけど、フライゴン君と同居してるんだって?」

マリルリ「え、それホント?! どこまで行ってるの?!」

チルタリス「」

対処に困って、あたしはフライゴンの方を殺意のこもった視線で射抜いた。

フライゴンは困ったように肩をすくめてみせる。

しばらくは、この対処にかなりの手間を取られそうだ。

だが、まあそれも仕方ない。

そう割り切って、あたしは笑った。

チルタリス「ハハ、ハハハハハ!」
 ▼ 153 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 20:48:42 ID:BHPKSwiA [50/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――

フライゴンの過去。

それは、あたしの信じて来た正義とは、対極にある物だった。

正義って何だろう、とふと考えて見る。

結局答えは見付からないままに終わる。

けれど、それを考える。これが大事なんじゃないかって。

そして、いつもあたしの中で、いつも、一時的なこの結論に至るのだ。

あたしは、フライゴンを変えられた。

だったら、それは、間違いなく正義で。

だから、あたしのこのもふもふだけは……。

正義として、信じてみてもいいんじゃないかって。
 ▼ 154 1◆J44kAZeDOM 16/04/06 20:49:03 ID:BHPKSwiA [51/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




チルタリス「もふもふは正義」 完



 ▼ 155 タモン@べにいろのたま 16/04/06 20:49:34 ID:BHPKSwiA [52/52] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
当SSはこれにて完結です
お読みくださり、ありがとうございました

質問等ございましたらなんでもどうぞ
 ▼ 156 イオーガ@ガブリアスナイト 16/04/06 21:54:32 ID:kV1YtnKA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙!面白かったよ!
 ▼ 157 ガジュペッタ@ゴツゴツメット 16/04/06 22:11:10 ID:BgZSAhhQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ▼ 158 チミル@ドリームボール 16/04/07 00:03:24 ID:Iy6Q534c NGネーム登録 NGID登録 報告
お疲れさま
 ▼ 159 ライガー@クロスメール 16/04/07 01:04:03 ID:LRWIjj22 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙!
 ▼ 160 日ゴロゴロンダ◆XTk1MeLTks 16/04/07 01:41:30 ID:yNT0S3FQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

日常話の続編見たいなぁ…チラッ
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