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【SS】アシマリ「ポケモンサーカス団エクリプス!」

 ▼ 1 1◆J44kAZeDOM 16/09/24 21:29:45 ID:iVyHi1wg [1/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







――太陽と月が交わる時、世界に滅びが訪れると言う。






 ▼ 2 1◆J44kAZeDOM 16/09/24 21:30:10 ID:iVyHi1wg [2/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







プロローグ






 ▼ 3 1◆J44kAZeDOM 16/09/24 21:30:34 ID:iVyHi1wg [3/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ねえ、アシマリ」


音も立てずに背後に近寄って来た、声の主はモクローだ。

わざと気配を消している訳ではなく、ただ習性でそうなってしまう、そんなオイラの友達。

その事を知っていたオイラは、驚きもせずに振り返った。


アシマリ「ん? どうしたのモクロー」


モクローは、ニコニコと笑ってオイラを見詰めていた。

首をくるりと回すと、オイラに声を掛けて来る。
 ▼ 4 1◆J44kAZeDOM 16/09/24 21:30:59 ID:iVyHi1wg [4/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「ずっとサーカスに行ってみたいって言ってたよね? いつかサーカスに入りたい、そのための勉強だって」

アシマリ「うん」


確かに、オイラはいつも、サーカス団に入りたいって言って来た。

それは間違いない。そして、モクローもそれを知っている。

けれど、話の流れが読めなくて、オイラは続きを促した。
 ▼ 5 1◆J44kAZeDOM 16/09/24 21:31:26 ID:iVyHi1wg [5/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「それでそれで?」

モクロー「じゃじゃーん!」


モクローは、チケットを2枚、その羽の下から取り出す。

それを見たオイラは、浮かんで来た疑問をそのまま口に出した。


アシマリ「何それ?」

モクロー「エクリプスってサーカス団のチケットだよ! 2枚ゲットしたんだ!」


え……!

サーカスダンノチケットヲ、ニマイゲットシタ。

モクローの言葉が、右から左へと通り抜けて行った気がした。

慌てて掴み、そして言葉を脳内で漢字に変換して、ようやく意味を理解する。


アシマリ「ホントに?!」
 ▼ 6 1◆J44kAZeDOM 16/09/24 21:31:54 ID:iVyHi1wg [6/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「嘘かどうか、自分で確かめてみなよ」


モクローは、オイラにそのチケットを1枚手渡す。

その手触りを、何度も何度も確かめる。

本物だ、これはここに実在する。そう確信して、オイラの口から言葉が漏れた。


アシマリ「本当だ……本当にある……。モクロー、オイラに向かって『このは』よろしく」

モクロー「え? あ、夢かどうか確かめるため、か。やめといた方がいいと思うけど」

アシマリ「お願い」

モクロー「わかった。覚悟してよ……『このは』!」
 ▼ 7 1◆J44kAZeDOM 16/09/24 21:32:54 ID:iVyHi1wg [7/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「するんじゃなかった……」


痛い。

このはは草タイプの攻撃。水タイプのオイラには効果は抜群だ。


モクロー「ほら、言ったでしょ。やめといた方がいいって」

アシマリ「でも、これでハッキリした! これは夢じゃない! 本物なんだ! ありがとうモクロー大好き!」


だけど、痛みなんて物は、一瞬で吹き飛んでしまった。

本当にサーカスが見られるんだ。その喜びが、痛みの何倍も大きい。

僕は、思わずモクローに抱き着いた。


モクロー「どういたしまして、きつい……」

アシマリ「あっ、ご、ごめんつい……。で、サーカスっていつ?」

モクロー「来週。こんなギリギリでチケットが取れるって、正直嫌な予感もするけど、とりあえず大安売りしてたから買ってみたんだ」
 ▼ 8 1◆J44kAZeDOM 16/09/24 21:33:23 ID:iVyHi1wg [8/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「オイラの分のチケット代払うよ」

モクロー「いや、いいよ。ほんっとに安かったし、これはプレゼントって事で」

アシマリ「……ありがとう!」


オイラは、感動で震えた。

ありがとうモクロー、君は最高の友達だよ!
 ▼ 9 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 07:16:27 ID:nDKBNwL6 [1/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告







1章 空中ブランコ乗りのニャビー






 ▼ 10 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 07:17:47 ID:nDKBNwL6 [2/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
アシマリ「おはよ……」

モクロー「寝られなかったんだ」


そうやって問いかけるモクローに、オイラはちろりと舌を出した。

けれど、それも半分眠っているような状態ででしか出来ない。

瞼が下へ降りようとして、その度に意志の力で無理矢理持ち上げる。


アシマリ「寝られなかった。だって楽しみなんだもん……」
 ▼ 11 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 07:18:18 ID:nDKBNwL6 [3/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
モクロー「あ、あそこが入口みたい……行列、0匹」

モクロー「閑古鳥が行列作ってるね」

アシマリ「閑古鳥なんて鳥いないよ……」

モクロー「誰もいないって事」

アシマリ「そうなんだ……ふああ」


確かに、言われてみると、オイラたち以外には誰もいなかった。

耐えがたい眠気を強引に押し隠し、僕は前を向く。


モクロー「でも、大丈夫なのかな。なんか心配になって来た」

アシマリ「まあまあ。気にしたら負けだって。行こ……」
 ▼ 12 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 07:18:46 ID:nDKBNwL6 [4/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
しかし、モクローの悪い予想は、的中する事になる。

閑古鳥で大繁盛するのも納得の酷さだった。

炎タイプの特権を活かし、どうせ触れても熱くないのだからとカエンジシは炎に直撃しながら火の輪をくぐる。

ボールの上で転がるドンファンのモーションも極めて鈍重で、誰かを楽しませると言うのには無縁だった。

ただ、ライトワークだけが、まだサーカスの体裁を保たせている。


アシマリ「ZZZ……ハッ、ダメダメ、寝たら」

モクロー「何と言うか、全体的に覇気がないよね」


司会のフーディンが、ぼそぼそと言う。


フーディン「つ、次はささ、最後の演目とな、なります。ど、どうぞ」

アシマリ「まあ、せっかくここまで来たんだし、最後まで見ようか……」

モクロー「あんな司会じゃそりゃ駄目だよ」
 ▼ 13 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 07:19:14 ID:nDKBNwL6 [5/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
最後の演目は空中ブランコ。

ここでも、ライトワークは絶妙な仕事をする。


アシマリ「わっ、なんか急に暗くなった……眠い……」

モクロー「最後まで見るんじゃなかったの?」

アシマリ「わかってる。『このは』お願い」

モクロー「ハイハイ」

アシマリ「いって! ふう、目が覚めた。空中ブランコかぁ……」


頭を振って、オイラはステージに集中した。

スタート台に、ポケ影が映る。


モクロー「あれは……ニャビーだな。4足歩行なのに空中ブランコ?」
 ▼ 14 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 07:19:48 ID:nDKBNwL6 [6/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
そんなモクローの疑問を意にも介さず――声が届かないのだから当然なのだが――ニャビーは、飛んだ。

そのままくるりと1回転すると、ブランコには目もくれず、その身に炎をまとう。

差し込む光に照らされて、その姿は輝いた。

しかし、ブランコより下に、ニャビーの体は落ちている。

その危うさにアシマリは思わず息を呑む。が、ニャビーはなんと、しっぽを使ってブランコにぶら下がった。
 ▼ 15 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 07:20:23 ID:nDKBNwL6 [7/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
>>14
ミス

最後のアシマリは〜〜のとこ、オイラは〜〜に脳内変換してください
 ▼ 16 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 07:20:48 ID:nDKBNwL6 [8/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ニャビーはなおも自由に飛び回る。

あたかも翼をその身に持つような軽やかさで、ブランコから飛び上がったと思ったら、ゆったりと、3回回った。

煌めく炎が輝きを放って、再びブランコにぶら下がった時には、もう、オイラは完全に魅了されていた。


アシマリ「凄い凄い凄い!」

モクロー「静かにしよう」


オイラは、謝っておいてから、再び意識をニャビーの方に向けた。
 ▼ 17 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 07:21:08 ID:nDKBNwL6 [9/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
この夢のような時間は、まさしく一瞬で過ぎ去った。

会場中が明るさを取り戻し、その中でフーディンが言う。


フーディン「これにてささ、サーカスの演目はす、全て終了とな、なります。ごごご、ご来場くださりあ、ありがとうございました」

モクロー「終わったか……。最後の空中ブランコは凄かったね、アシマリ。アシマリ?」

アシマリ「……」

モクロー「どうしたのアシマリ」

アシマリ「オイラ、このサーカス団に入る」

モクロー「……はぁ?!」


モクローは、叫んだ。
 ▼ 18 ッコアラ@きんのたま 16/09/25 09:49:40 ID:YRc6fEVo [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
遂にアローラ御三家のSSが…!
支援
 ▼ 19 ドキング@ふっかつそう 16/09/25 12:45:20 ID:5qJm03pY [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
久々の良作の予感
支援
 ▼ 20 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 13:33:59 ID:nDKBNwL6 [10/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
モクロー「いや、ちょっと待ってよ。よく考えよう。あのサーカスに入りたいの?」

アシマリ「うん」

モクロー「今の暮らしはどうなるの?」

アシマリ「モクローさえ納得してくれればいいよね?」


オイラとモクローは2匹で暮らしている。

ごはんの調達は、ダンジョンに潜って新鮮なリンゴを入手、それを売ってやりくりしている。

だから、失う仕事はない。

それに、オイラがサーカスに入って迷惑をかけるかもしれないのは、モクローだけだ。

だから、オイラはモクローに持ち掛けた。

モクローの了承さえ得れば、後は入るだけだと判断して。


モクロー「まあそうだけどさ……」
 ▼ 21 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 13:34:21 ID:nDKBNwL6 [11/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
それでも、モクローの表情から驚きは消えてなくなりはしない。

当然だろう。

むしろ、簡単に受け入れられると言うヒトがいたら、そちらの方がおかしいと言っても過言ではない。

モクローは、オイラの目をじっと見詰めた。

オイラは、普段は絶対しないような真剣な目で、それを見詰め返す。

モクローはため息を吐く。

そして、首をぐるぐると回し始めた。

考え事をする時にゼンリョクで首を回すのはモクローのクセだ。

オイラは、それをじっと見つめていた。


モクロー「よし、決めた」
 ▼ 22 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 13:34:45 ID:nDKBNwL6 [12/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
アシマリ「どう?」

モクロー「わかったよアシマリ……。僕も付いて行く」

アシマリ「えっ?!」


モクローは、ニコリと笑って言った。


モクロー「君と違って、僕はちゃんと考えてるよ。

      今の家に1匹で住むのは広すぎるし、それにサーカスに入れば食糧の調達は簡単だろうし。

      それより何より、君を1匹にしておくのは不安過ぎるし」

アシマリ「なんだよそれぇ」

モクロー「君は母性本能をくすぐる才能があるって事だよ。僕♂だけど」

アシマリ「わかんないってば。って言うか、モクローここに入って何か芸出来るの?」

モクロー「芸って言うか……いろいろ改善点がありまくりだから、このサーカス。僕がそこを指摘したら、だいぶマトモになると思う」

アシマリ「そっかあ。モクロー、頭いいもんね。よーし、そうと決まればレッツゴー!」
 ▼ 23 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 13:35:47 ID:nDKBNwL6 [13/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
***

ニャビー「はぁ?」


フーディンに、サーカス団に入りたいと持ち掛けた。

しかし、それに真っ先に反応したのは、ニャビーだった。


ニャビー「何バカな事言ってんの? あんたたちみたいな奴ホントイラつくんだけど」

アシマリ「な、なんでさ!」

ニャビー「なんでわざわざこんな落ち目なサーカス選んで入ろうとするの? やる気があるなら、もっと凄いとこ行けばいいじゃない。

      練習はここよりずっと厳しい。だけど――」

フーディン「ストップストップ。さすがにそこまで言われたら俺傷付くよ?」


司会をしていた時にはどもりがちだったフーディン。

しかし今、フーディンは、ハッキリと話している。


フーディン「ああ、俺、舞台に上がるとそれだけであがる性質でさ……」
 ▼ 24 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 13:36:21 ID:nDKBNwL6 [14/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
そんなオイラたちに向けた補足の間にも、ニャビーは毒を吐き出す。


ニャビー「いいじゃない別に。どうせ傷付くプライドもないんだし、こんなカスみたいなサーカス団」


モクローがオイラに、小声で話し掛ける。


モクロー「やっぱ駄目みたいだね」

アシマリ「そんなぁ……」

ニャビー「とにかく、本気でサーカスやりたいならここ以外にもいい場所はある。わざわざここを選んで入りたいだなんて、楽して稼ぎたいとか、そんな風に思ってるんでしょ、どうせ」

アシマリ「違うよ!」

ニャビー「違わない。あたしはね、サーカスを舐めてる奴がほんっとに嫌いなの。いるだけで不快。消えてくれない?」
 ▼ 25 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 13:36:45 ID:nDKBNwL6 [15/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
モクロー「わかりました」

アシマリ「モクロー!」

モクロー「だけど、1ついいですか?」

ニャビー「何よ」

モクロー「じゃあなんで、ニャビーはこのクソみたいなサーカス団にずっといる訳? 言っちゃ悪いけど、ニャビーと照明以外、このサーカス、ダメダメだった。

      そう言うニャビーこそ、ここを出てやってけばいいんじゃないの?」

ニャビー「……出てけ。

      出てけっ! 『ひのこ』ッ!」

モクロー「うわったぁ!」
 ▼ 26 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 13:37:14 ID:nDKBNwL6 [16/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
モクロー「なんだよ……炎は苦手なのに」

アシマリ「オイラがいなかったらまずかったね」


モクローが「ひのこ」を食らった後、オイラの「みずてっぽう」で慌てて鎮火。

ニャビーは背中を向け、後には困惑気味のフーディンとオイラたち2匹が残された。


フーディン「まあ、君も言ってくれるね……」

モクロー「あっ、す、すいません……」

フーディン「いや、いいんだ。俺も親から唐突にこのサーカス団を押し付けられて、困ってんだから。

       後、ニャビーについてだが……俺たちにもわからん。ニャビーがなんでわざわざうちを選んだのか……。ずっと謎なんだがな」

ニャビー「まだいたの? とっとと出てってよ」


と声が飛ぶ。


アシマリ「行こ、モクロー。もういいよ」

モクロー「……そうだね」
 ▼ 27 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 14:17:05 ID:nDKBNwL6 [17/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
モクロー「なんなんだよ、あのニャビー」


そう言ってモクローは、首を回転させようとしたが、すぐにやめた。


モクロー「どうせ考えても情報が足りないし」

アシマリ「他のサーカス団に入れ、って言われても……」

モクロー「アシマリ、他のサーカス団じゃ嫌なの?」

アシマリ「うん。オイラはあそこがいい。ニャビーのいる、あそこが」

モクロー「一目惚れか、なるほど」

アシマリ「ち、違うよ! ニャビーのパフォーマンス、ホントに凄かったんだもん!」

モクロー「わかるよ。わかった。アシマリ、必死に練習して。そうすればニャビーを説得出来る。ニャビーさえ説得すれば後は余裕っぽいし。

      だから、練習して」

アシマリ「今まで以上にって事だよね。うん、わかった。オイラ、頑張るよ!」
 ▼ 28 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 14:17:45 ID:nDKBNwL6 [18/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
それからと言う物、オイラは寝食も忘れ……はしなかったけど、そう言ってもいいぐらいに練習をした。

水のバルーンを創り出しては、それを跳ね上げる。

地上に創り出して、それをジャンプ台に飛び跳ねる。

そうやって腕を磨いた。

もちろん、こうした練習は、今までも充分行って来た。

だけど、今までと間違いなく変わっている所がある。

練習にかける熱意。

エクリプス入団と言う具体的な目標を手に入れて、オイラは今まで以上に熱心に練習に打ち込んだ。
 ▼ 29 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 14:18:08 ID:nDKBNwL6 [19/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
そして、その間、モクローはと言うと……。


モクロー「ニャビーについて知りませんか?」


とこの通り、ニャビーの過去を探ろうとしていた。

実力のあるニャビーが、へっぽこサーカス団にずっと留まっている訳。

それがわかれば、突破口も開けるのではないか。

そんな期待もあったが、それより何よりモクローを突き動かした物。それは。

溢れる好奇心。モクローにとって、知らない事があると言う事実は極めて不快な物だった。


モクロー「またスカかぁ。エクリプス、しばらくはあそこで公演するだろうけど、急がなきゃどっか行っちゃうしなぁ」
 ▼ 30 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 14:18:34 ID:nDKBNwL6 [20/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
モクローが(一応食料も調達して)帰った時、オイラはちょうど、水のバルーンで飛び跳ねて、着地を決めている所だった。

ドヤ顔で振り向くと、「お帰り」と声をかける。


モクロー「ただいま。調子はどう?」

アシマリ「絶好調だよ! オイラ、本気なんだけどなぁ」

モクロー「大丈夫。絶対ニャビーにも伝わるよ」

アシマリ「……だよね、オイラ頑張るよ!」

モクロー「エクリプスは明後日がここでの最後の公演になるみたいだね。だから、明後日、最後の舞台が終わってから、突撃するよ!」

アシマリ「モクロー、ホントにいろいろありがとう……!」

モクロー「いいのいいの! なんだかんだ言って、楽しそうだし。あのサーカス団を変えるのはね」


モクローが笑顔を浮かべ、オイラもそれに対しほっと溜息を吐く。


モクロー「だけど、ニャビーに関しては何にもわかんなかった。悔しいけどね……」
 ▼ 31 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 14:19:49 ID:nDKBNwL6 [21/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
その翌日も、2匹がする事に変わりはない。

ただひたすらに、オイラは練習し、モクローは情報収集を行った。

そして、その結果、オイラの実力は間違いなく上達した。

少なくともエクリプスのニャビー以外のメンバーと並べても引けを取らないどころか実力的には勝っているであろうレベルに達したと思えるぐらいに。

まあ、それはあまりに低い目標であるのだが、とにかくエクリプスに入る事が出来る程度の実力は付けられたと言う事だ。

そして、モクローにも収穫はあった。

ニャビーが、どこかのサーカス団で派手に失敗した事があると言う事を調べて来たのだ。

情報を提供してくれたヒトが知っていたのはそこまでだったが、それでも大きな収穫である事に変わりはない。


モクロー「他のとこで失敗した……いろいろと考えられるけど、1つに確定させるのはまだ早過ぎるかな」

アシマリ「えっ、オイラ1つも思い付かないんだけど」

モクロー「いや、アシマリは別に考えなくていいよ。こう言う頭脳労働は僕に任せて、ね?」
 ▼ 32 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 14:20:14 ID:nDKBNwL6 [22/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
アシマリ「そうだね。とうっ!」

モクロー「わっ、何するんだよ!」

アシマリ「へへっ、楽しいかなと思って」


モクローを取り囲むようにバルーンを創った。

そして、それを軽く跳ね上げる。

モクローは慌てて水を振り払うと、怒ったような顔をして言った。


モクロー「別にこんな事しなくたって、僕はいつでも飛べるよ……」

アシマリ「あっ、そっか。ごめんね」

モクロー「ま、いいよ」

アシマリ「じゃ、ごはん食べよ!」
 ▼ 33 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 14:20:56 ID:nDKBNwL6 [23/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
モク・マリ「いただきまぁす」

アシマリ「うん、おいしい」

モクロー「練習で疲れただろうし、塩分補給もちゃんと出来るようなメニュー考えたからね」


メニューを考えるのはモクローがしているが、実際に調理するのはオイラの担当である。

手先が器用なオイラは、だから、料理もそこそこ得意だった。


モクロー「明日はいよいよ本番だね」

アシマリ「だね。なんか今から緊張して来た」

モクロー「大丈夫だよ、アシマリなら」


励ますモクローに、オイラは笑顔で返した。
 ▼ 34 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 14:21:31 ID:nDKBNwL6 [24/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
緊張して眠れない時の中を、オイラは悶々として過ごした。

その事が余計にオイラをイライラさせて、眠れない。

いわゆる悪循環だ。

モクローはそんなオイラを見かねたのか、声をかける。


モクロー「駄目だよ、寝ないと。明日寝ぼけて失敗したらどうするの?」

アシマリ「だって眠くない物は眠くないんだもん……」

モクロー「うーん……あったかなぁ」

アシマリ「何が?」

モクロー「睡眠のタネ」

アシマリ「なるほど! あっ、それならあるよ! あそこに!」

モクロー「えっ? あっ……」

アシマリ「これを食べれば……ぐぅ」
 ▼ 35 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 17:59:05 ID:nDKBNwL6 [25/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「……起きて、起きてよアシマリ」

アシマリ「うーん、おはよ……」

モクロー「ほら、急がないとサーカスが行っちゃうよ!」

アシマリ「え? ああっ! 急がなきゃ!」

モクロー「リンゴ切っといた! 急いで!」

アシマリ「いただきますっ!」


大慌てでオイラは朝の用意を済ませる。

その間にもモクローは首をぐるぐると回していた。


アシマリ「考え事してる場合じゃないって! 行かなくちゃ!」

モクロー「あっ、終わったか。じゃ、行こう」
 ▼ 36 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 17:59:42 ID:nDKBNwL6 [26/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
必死に走って、オイラたちはエクリプスのテントの前に到着した。

正確に言うと、テントだった物、と言うべきかもしれない。

現在、テントは解体されている。

最初にオイラたちに目を留めたのは、ニャビーだった。


ニャビー「また来たの?」

アシマリ「……オイラ、本気だから」

モクロー「友人の贔屓目抜きに、アシマリは頑張ってると思いますけど」

ニャビー「贔屓目抜きって、基準もないクセに何バカな事言ってんのよ」
 ▼ 37 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 18:00:03 ID:nDKBNwL6 [27/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんな時、ダンチョーであるフーディンが、ニャビーに声をかける。


フーディン「ニャビー、お前は少し、頑なが過ぎる。試しに、一度アシマリのパフォーマンスを見てみればどうだ?

       前回は、それすらもしなかったじゃないか」

ニャビー「そんな事しなくたって、ここに来る時点で実力なんて……」

フーディン「勘違いしているようだが……ここの団長は俺だ。実力があるのはお前だけかもしれないが、俺だって実力の有無がわかるぐらいの目は持ってる。

       いいか? 一応俺だって、やるからには少しはマシなサーカス団にしたい。そのために、実力があるかもしれない奴を見て、何がいけない?」

ニャビー「……」
 ▼ 38 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 18:00:31 ID:nDKBNwL6 [28/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「アシマリは、ずっと練習してました。

      確かに、僕には実力があるかどうかも確かによくはわかりません。

      だけど、アシマリはサーカスを舐めてなんかいない。その事だけは僕にもよーくわかります」

フーディン「だろうね。わざわざここにまた来る時点で、その熱意は認められるよ」

ニャビー「……でも、どうせ失敗したら、逃げ出すんだ。あんたが見てるのは、華やかな世界だけ。あんたに、この世界の闇が、耐えられるとは思えない!」

アシマリ「そんな事な――」

ニャビー「そんな事あるっ!」


叫ぶニャビー。

オイラは、戸惑うばかり。

けれど、モクローは違った。
 ▼ 39 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 18:01:04 ID:nDKBNwL6 [29/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「……わかるよ、自分がそうだったんだよね」

ニャビー「なっ……」

モクロー「今もエクリプスに留まってるのは、また失敗するのが怖いから。違う?」

ニャビー「違う! ……あんた、なんであたしが失敗したって……」

モクロー「調べた。でも、また失敗するのが怖いんじゃないのか……」


ニャビーはわなわなと震え出す。

苛立ちが溢れ出るように。

そして、そのまま立ち去った。

オイラは声をかけようとしたけど、モクローに止められる。


モクロー「アシマリは、自分の事に集中して」

アシマリ「わ、わかったよ……」
 ▼ 40 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 18:01:54 ID:nDKBNwL6 [30/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「とにかく、君の熱意は、少なくとも俺には伝わった。向こうでテストしてみるか?」

アシマリ「はい!」

フーディン「わかった。じゃあ、ついて来なさい」

アシマリ「……はい」


オイラは、フーディンと連れたって、物陰に向かった。

フーディンの優しそうな表情が、みるみるうちに真剣な物に移り変わる。

ただ、ぼんやりと、司会映えはしなさそうだなと思う。

恐怖は感じない。

少し震えてはいるが、武者震いだろう。

オイラは、まっすぐに、フーディンの目を見詰めた。


フーディン「では、テストを開始する。アシマリ、君が思うパフォーマンスを見せてくれ」

アシマリ「はい!」
 ▼ 41 ャローダ@モモンのみ 16/09/25 20:37:51 ID:5qJm03pY [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクローさんの大人な感じが好き
アシマリ頑張れ〜‼
 ▼ 42 メノデス@ゴージャスボール 16/09/25 21:11:10 ID:My1WWTOg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
この前のやつにもツンケンした猫ポケモンがいたなあかわいい
 ▼ 43 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 21:48:03 ID:nDKBNwL6 [31/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
まずは、目を閉ざして気持ちを集中させる。

ふうっと息を吐き、吸い込む。

それを2、3回繰り返し、オイラは、目を見開いた。

フーディンの顔は、しっかりとオイラを見据えていた。

鼻先でバルーンを膨らませる。

オイラは、それを軽く跳ね上げた。

受け止めると、今度はモクローの首よろしくくるくる回し始める。

そして、再び跳ね上げると、オイラはその中に飛び込んだ。

そこで、大きくぐるりと淵にそって泳ぐと、オイラは上の端から飛び上がり、バルーンを散らした。

そこに、わずかな雨が降り注ぐ。

それは煌めき、虹を生み出した。

オイラは、バルーンを地面めがけて創り出し、それをジャンプ台にしてさらに飛んだ。

空中でくるりと1回転し、オイラは見事着地を決めた。

ドヤ顔でフーディンを振り向くと、彼はその顔を穏やかな物に変じた。


フーディン「お疲れ様」
 ▼ 44 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 21:48:25 ID:nDKBNwL6 [32/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
少しだけパフォーマンスを振り返ってみる。

なかなか上手に出来たんじゃないだろうか。


フーディン「なるほど……。本当に未経験だったのか?」

アシマリ「ああ、はい。オイラ、今まで趣味ではやって来ましたけど……」

フーディン「ほう、自力だけでここまでか……。ちゃんとした環境さえあればまだまだ伸びそうだな。

       よし、わかった! 入団を認めよう!」


オイラは、その言葉を聞いても、一瞬理解出来なかった。

言葉をゆっくりと脳内でリフレインさせて、意味を咀嚼する。

そうしてようやく理解した時に、オイラの口から出たのは、こんな言葉だった。


アシマリ「ほ、ホントですか?」

フーディン「冗談でこんな事言わねぇよ」

アシマリ「や……やったぁ!」

フーディン「これからよろしくな」

アシマリ「うん!」
 ▼ 45 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 21:48:59 ID:nDKBNwL6 [33/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕たちは、連れたってみんなの前に出た。

そこでは、モクローがみんなと話していた。

何を話しているのか聞き取ろうとしたら、聞こえて来たのは――


モクロー「なるほど……。もっと目立てると思ったんですね」

カエンジシ「だけどよう。俺たちの実力じゃ、目立つ事すら出来ねぇんで、やる気なくしちまってよぉ」

モクロー「だけど、それじゃいつまでたっても上手くなりませんよね?」

ドンファン「ニャビーみたいな才能見せ付けられたら、もうどうにも――」

モクロー「……甘えるなっ! ニャビーは、いつだって本気なんだ! 才能だけじゃない! 努力してるはずだっ!」

アシマリ「モ、モクロー?」

モクロー「目立ちたいなら、やる! 負けたくないなら、やる! それが出来ないのに、サーカス団なんて笑わせんな!」

アシマリ「モクロー……」


オイラ、正直ちょっと感動した。

モクローが、ここまで本気でサーカスの事を……オイラの夢の事を考えてくれていると言う事に、オイラの目からは思わず涙がこぼれた。
 ▼ 46 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 21:49:24 ID:nDKBNwL6 [34/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ダンチョーが、ここで咳払いした。


フーディン「あー、みんな。やる気を出した所で俺の話を聞いて欲しい。

       ここにいるアシマリは、うちに入る事に決まった」

「へぇ! そうかい!」

「どんな子なんだ?」

アシマリ「どうも、アシマリです!」

フーディン「なかなかどうして、結構いいパフォーマンスをする奴なんだ。みんなこいつから、いい刺激を受けられると思う」

モクロー「! よかったねアシマリ!」

アシマリ「うん! ……ところで、ニャビーは?」

モクロー「……まだ帰って来ないんだよね」

フーディン「ったく、あいつ、実力は誰よりもあるんだけどなぁ……」
 ▼ 47 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 21:49:58 ID:nDKBNwL6 [35/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ため息を吐くフーディン。

けれど、その姿は、すぐに見えなくなる。

みんながオイラたちを取り囲んだから。

「モクローはどうするんだ?」とか、「アシマリはどんな事が出来るんだ?」とか、いわゆる質問攻めって奴。

オイラたちはそれにいちいち答えて行く。

そんな時、鋭い声が響いた。


???「こらっ、みんな、仕事は終わってないんだよ!」
 ▼ 48 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 21:50:20 ID:nDKBNwL6 [36/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「ねえ、あれ……」

「エーフィと、弟のブラッキー。照明係やってる。色違いみたい」と、いつの間に把握していたのか、モクローが答える。

エーフィ「ん? 新入りさんか」

ブラッキー「……姉ちゃん、俺たち、一番新参」

エーフィ「知らないよそんな事。これであたしたちも念願の先輩なんだよ?」

ブラッキー「態度、デカ過ぎ」

アシマリ「あの、よろしくお願いします! アシマリです!」

エーフィ「うん。よろしくね! さっそくだけど、そこの2匹と、後みんな、テントの解体終わらせないと!」

フーディン「……なんか、俺の仕事取られてんな……」


そう言って、フーディンは苦笑したが、すぐにモクローの指示が飛んだ。


モクロー「じゃあ、ニャビーを探して来てください」
 ▼ 49 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 21:50:56 ID:nDKBNwL6 [37/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
すぐに見付かったニャビーと、オイラたち2匹は対面する。

オイラが正式にサーカス団の一員として認められてから、初めての出会い。

フーディンから、オイラがサーカス団に入ったと言う事は聞かされていたらしい。

けれど、ニャビーの視線は、オイラ以外に向けられていた。


ニャビー「なんで……。なんでみんながやる気出してるの……?」

アシマリ「モクローが凄いんだよ。いつの間にやら言葉巧みにみんなを説得してさ」

ニャビー「……」
 ▼ 50 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 21:51:24 ID:nDKBNwL6 [38/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「ニャビー。ちょっといい?」

ニャビー「……何よ」

モクロー「ニャビー、確かに君は凄い。実力はあるし、覚悟もある。

      だけどさ? サーカス、ううん、サーカスに限らずだけど、自分1匹で作る物じゃないんだよ。

      みんなで力を合わせて作る物だよね?」

ニャビー「……そんなの綺麗事だ――」

モクロー「何があったのか詳しくはわからないけど! 誰かを信じないといい演技ってのは出来ないんだよ!

       僕に何がわかるのかっていいたいんだろうけど! でも、そのぐらい、少し考えればわかるよ!」


そう勢いよく言い切ると、モクローは、プイと首を後ろに向けた。

体はそのままに。


ニャビー「……」
 ▼ 51 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 21:51:46 ID:nDKBNwL6 [39/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「ニャビー、よろしく。オイラ、頑張るから。いつか絶対、ニャビーに追いついて見せるから」

ニャビー「……そ。勝手にすれば」


ツイと頭を向こうにやるが、この発言には、少なくとも拒絶の意思は含まれていない。

オイラは、顔を綻ばせた。

これで、正式に、サーカス団の一員になれた。

そんな気がした。
 ▼ 52 1◆J44kAZeDOM 16/09/25 21:52:09 ID:nDKBNwL6 [40/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







1章 空中ブランコ乗りのニャビー 完






 ▼ 53 レユータン@エスパージュエル 16/09/25 22:03:04 ID:YRc6fEVo [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
面白い!!!支援支援!
 ▼ 54 メパト@スペシャルアップ 16/09/26 17:40:04 ID:UqVJ7Jkk NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 55 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 19:54:08 ID:QHiJs2oY [1/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







2章 サーカス団改造計画






 ▼ 56 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 19:56:44 ID:QHiJs2oY [2/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オイラたちがエクリプスに入団したその次の日、モクローの激しい指示が飛ぶ。


モクロー「そこはこうして、ここはこう! それと――」

エーフィ「……モクロー、凄いね。あれホントに初心者?」

アシマリ「まあ、オイラ、ずっとサーカス団に入りたいって言って来たし、もしかしたらモクローもいろいろ勉強してくれてたのかも」

エーフィ「ふぅん。優しいんだ」

アシマリ「ホントだよ。オイラ、モクローがいなかったら、今頃どうしてたかわかんない」


遠くから、声が聞こえた。


モクロー「それと団長、ステージ上で恥ずかしいなら僕が司会しましょうか?」

フーディン「本当か?」


オイラたちは、苦笑する。
 ▼ 57 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 19:57:37 ID:QHiJs2oY [3/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィ「……まあ、これでこのサーカス団も目立っちゃうだろうな」

アシマリ「? 目立ったら駄目なの?」

エーフィ「駄目って訳じゃないけど、私たちはあんまり目立ちたくはないかな。

      まあ、だから照明やってるんだけど」

アシマリ「へぇ。ところで、ブラッキーは?」

エーフィ「料理中。あいつ、♂のクセに家事とかホント大好きで。あたし、どんだけ羨ましいと思って来た事か」

アシマリ「そ、そうなんだ……。あっ、どうせなら、僕も料理手伝おうか?」

エーフィ「大丈夫よ。正直、なんかぞっとしない。あんたみたいなお調子者の料理って……」


オイラは、むっとして答える。


アシマリ「料理は得意だよ! 献立考えるのは出来ないけど」


エーフィが吹き出した。オイラも、釣られて笑ってしまう。
 ▼ 58 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 19:57:59 ID:QHiJs2oY [4/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィ「ところでさアシマリ。あんたは練習しなくていいわけ?」

アシマリ「ううん、するよ。……ニャビーはいないんだね」

エーフィ「うーん、ニャビーはいっつも夜に1匹で練習するからね。朝は遅いんだ」

アシマリ「ありがとう」


そう言って、オイラは立ち上がった。
 ▼ 59 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 19:58:39 ID:QHiJs2oY [5/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビーがいないとしても、オイラはオイラで練習するしかない。

どんなパフォーマンスをする事になるのかはまだわからないけれど、今はオイラに出来る事をするだけだ。


モクロー「アシマリ、じゃ、練習しよっか」

アシマリ「うん!」

モクロー「……にしても、なんか気恥ずかしいな。本物のサーカス団に入れた訳だ」

アシマリ「だね……。オイラ、でもそれだけじゃダメなんだって思うよ。入るだけじゃダメ。ちゃんといい演技を見せて、お客さんを満足させないと、ってね」

モクロー「偉い! さっすが僕の友達だよ」

アシマリ「え、そうかな。えへへ……」

モクロー「じゃあ、頑張って。僕は僕で、いろいろあるから」


モクローは、あがり症のフーディンに変わって司会をする事になった。

そのために、滑舌とか、いろいろな練習をするらしい。

負けてられないな、とその気合いの入った顔を見て思う。

そして、みんなが練習している所の混ざりに行った。
 ▼ 60 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 19:59:01 ID:QHiJs2oY [6/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
飛んで、跳ねて。

ボールを回して。

練習しているだけなのに、周りの注目を一身に集めていた。


「すげぇな」

「こいつ即戦力じゃね?」


そんな言葉が影でささやかれている。

もちろん、オイラとしては注目されてる方が気合いが入るし、上手いって誉めてもらえるのは当然嬉しい。

だけど、みんなの練習が止まっている。


アシマリ「みんなも自分の練習しないとダメだよ!」


そしてオイラは、練習を再開した。
 ▼ 61 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 19:59:42 ID:QHiJs2oY [7/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
夜。練習を続けていたオイラたちは、ブラッキーの声に呼ばれた。


ブラッキー「ごはん、出来た」

エーフィ「みんな、ごはん出来たよ! そろそろ戻って来て!」

「待ってました!」

モクロー「どう? みんなの練習の様子は」

アシマリ「いいんじゃない? やる気ないって感じじゃないよ」

モクロー「ならよかった」

アシマリ「モクローって凄いよね。ポケ心掌握術」

モクロー「そんな単語どこで覚えたんだよ」

アシマリ「さあ。言葉ってどこで覚えたとかいちいち覚えてるもんなの?」

モクロー「違うな。ごめん」

アシマリ「いやなんで謝るの……」
 ▼ 62 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:02:15 ID:QHiJs2oY [8/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「おいしいいいいいいい!」

モクロー「うわ、何これ凄い……」


一口頬張ると、口の中に、幸せが広がった。

とでも言えばいいのだろうか、もう、信じられない程に美味しかった。

さっき「手伝おうか?」なんて聞いた事が、恥ずかしくなるほど。

エーフィが自慢気に言う。


エーフィ「でしょ! ほら、ブラッキー、もっと嬉しそうにしなさいよ」

ブラッキー「……」

フーディン「こらこら、あんまり無理させるな」
 ▼ 63 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:02:54 ID:QHiJs2oY [9/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビー「アシマリ、もっと静かに食べられない訳」

アシマリ「だってこれ、滅茶苦茶おいしいんだもん!」

ニャビー「まぁおいしいのは認めるけど」

モクロー「驚いた。君も誰かを誉める事が――」

ニャビー「あたしに出来るのは空中ブランコ、サーカスだけ。他のとこは凄いと思ったら素直に認める」

モクロー「へぇ」

ニャビー「ってか、サーカスでも凄い奴は認めるっての。凄いのがなっかなかいないだけ」

アシマリ「まあニャビーのあれ凄かったもんねぇ」

ニャビー「……あんたなら、死ぬ気でやればもっと高みを目指せると正直思ってる。才能はあるっぽいし。見てても」

アシマリ「え、ホント?! って言うか、見てたんだ……」

ニャビー「まぁね」
 ▼ 64 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:03:25 ID:QHiJs2oY [10/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オイラはモクローに向き直り、声を掛ける。


アシマリ「モクローはどんな事してるの?」

モクロー「え、ああ……っと、司会の練習したり、エーフィとフーディンと一緒にステージ演出について考えたり……」

エーフィ「まあでも、ステージ演出に関してはフーディンも凄いからね」

モクロー「うん。その辺は僕がいなくても回るよ」

アシマリ「へぇ」

ニャビー「ごちそうさま。さぁて、練習しますか」

アシマリ「えっ、はやっ」


もう食べ終わったのか……。少し驚いて、オイラはニャビーを見詰めた。
 ▼ 65 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:04:18 ID:QHiJs2oY [11/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ごはんを食べ終わると、夜の自由時間が始まる。

みんなが談笑している中、ニャビーは1匹、外で練習している。

オイラは、それを見る事にした。

月光に照らされたニャビーのその表情は、ステージの上よりも、さらにいきいきしていた。

くるりと舞って、高く飛ぶ。

本来なら誰にも見られないはずのその空間の中、ただ1匹そこで自由に動き回る、箱庭の女王。

彼女は、箱庭から見果てぬ空を想い、高みを目指している。
 ▼ 66 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:04:41 ID:QHiJs2oY [12/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビー「……なんで見てんのよ」

アシマリ「凄いポケモンの演技を見て勉強しないと。そのぐらいの気合いを入れないとダメなんでしょ?」


高みから侵入者であるオイラに声を掛けて来たニャビー。

残念ながらオイラにはモクローみたいな羽はないからそこまで登って行くのは難しい。

もちろん、階段もあるにはあるけれど、正直言って、面倒だった。

それに、オイラにあんな高みは似合わない。

オイラはあくまでも、水を活かしたパフォーマンスをするだけだ。


ニャビー「ふぅん。ま、いいけどさ」


そう言うと、ニャビーはオイラなんて眼中にないとでも言わんばかりに練習を再開した。

オイラとニャビーだけの、贅沢な空間。

この光景を独占出来るだなんて、信じられない幸運だ。

息を呑んでその演技を見詰めていた。
 ▼ 67 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:05:23 ID:QHiJs2oY [13/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
楽しい時間ってのは、あっという間に過ぎてしまう物だ。

ニャビーが、息を吐きながら地上へ戻って来る。

オイラは、ぽかんとそれを眺めていた。


ニャビー「……何?」

アシマリ「やっぱり凄いなぁって」

ニャビー「……前いたとこで失敗して」

アシマリ「えっ?」

ニャビー「そのままサーカス団、首。そんなあたしを拾ってくれたのが、このへっぽこサーカス団だった。

      まあ、他のとこはみんなその情報を持ってたけど、ここだけは知らなかったってのもあるかもね」

アシマリ「そうなんだ……」
 ▼ 68 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:06:09 ID:QHiJs2oY [14/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「でも、なんで話してくれたの?」

ニャビー「知らない。あたし、自由ポケだから」

アシマリ「……でもありがとう、話してくれて。これ、秘密にした方がいい?」

ニャビー「当たり前」

アシマリ「わかった。誰にも、モクローにも言わないよ」

ニャビー「ありがと」


それだけ言うと、ニャビーは寝床に戻る。

オイラもそれについて、戻る事にした。
 ▼ 69 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:06:45 ID:QHiJs2oY [15/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「あっ、アシマリどこ行ってたの?」

アシマリ「ニャビーの練習見てたんだ」

モクロー「へぇ。やっぱ凄い?」

アシマリ「うん。ほんっとに」


秘密は守った。

訊かれたら隠しきる自信はないけれど、訊かれる事自体がまずないだろうからそこは安心だった。

と、油断していたら、そうも言ってられない事態が起きる。


モクロー「なんでこんなサーカス団にいるんだろうね」

アシマリ「さ、さあね」


なんとかして誤魔化し、話題を変える。

そんな風に会話して過ごしていると、フーディンが「そろそろ寝ろよ」と声を掛けて来た。


フーディン「明日から、少し長旅だからな。次の公演は、来週、天文台の街イスカーに決まった」
 ▼ 70 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:07:35 ID:QHiJs2oY [16/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イスカー。ここ、僕たちの故郷ラサーシャの街から北東に30キロ程離れた場所にある。

それを、テントなどを担いで進まなければならない、となると、確かに早寝して力を蓄えないといけないな。


モクロー「テレポートは使えないんですか?」

フーディン「あんまり大量の荷物を運ぶのは出来ないし、ラサーシャとイスカーじゃ距離も離れすぎている」

エーフィ「エスパーの力って意外にしんどいんだよ、使うの」

モクロー「そうですか」

エーフィ「そうよ、ホントにもう。便利でしょとか楽だろとかいろいろ言われるけど、こちとらそんなに楽じゃないっての」

フーディン「まあ、エスパーポケモンあるあるはそのぐらいにしておいて、みんな寝とけよ」

「「はーい」」


そんな感じでオイラたちは眠りに就いた。

疲れからか、本当に、一瞬で眠れた。

そして翌朝の目覚めは快調だ。

滅茶苦茶おいしい朝ごはんを食べて、オイラたちは行動を開始する。
 ▼ 71 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:11:10 ID:QHiJs2oY [17/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「……ラサーシャとも、お別れか」


荷物を詰め込みながら、ふっと漏らした。

やっぱり育った場所と言うのは、かなり思い入れが深い。

サーカス団に入る。その時点で、覚悟はしていた。

けれど、それでも、どうしようもない感慨が、オイラを襲う。

その思いは、モクローも同様で、いや、サーカスに賭ける思いの大きさの違いもあるし、きっとオイラ以上だろう。


モクロー「ホントだね……」

アシマリ「……でも、寂しく思ったりなんか、しないよ。オイラには、モクローがいてくれるから!」

モクロー「だね。この街で育った思い出は、いつも、君と一緒だった。

      君といれば、いつでも思い出せるよ、きっと」


オイラたちは、頷き合った。


フーディン「おーい、そろそろ行くぞ! 準備は出来たか?」


ラサーシャの街に、オイラたちは、別れを告げた。
 ▼ 72 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:12:13 ID:QHiJs2oY [18/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「ふぅ……。つっかれたぁ……」

フーディン「楽がしたいなら、頑張ってくれよ。金を稼げば、運送業者に委託できる」

アシマリ「はぁい……」


返す言葉にも元気が入らない。

背負ったかばんは、トレジャーバックよりも少し大きいぐらいなはずなのに、中身がギシギシに詰まっているからか、とてつもなく重く感じる。


ニャビー「……ま、文句言ったらバチが当たる」

モクロー「な、何の事?」

ニャビー「……こっちの話」


2匹とも、しんどそうだ。

逆に、ダンチョーその他の進化済みのポケモンたちは、オイラたちが持っているのより重そうなのを、楽々持ち上げている。
 ▼ 73 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:12:46 ID:QHiJs2oY [19/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィ「ったく、重いったらありゃしない。ブラッキー、あんたもそう思うよね?」

ブラッキー「別に」

エーフィ「はぁ、ったく、あんたも、もう少し修飾したら? 言葉を。体が黒いからって、性格まで暗くなる必要ないの! あたしたちは、強くならなきゃ」

ブラッキ「うん」

エーフィ「……ブラッキー」


呆れ声を出すエーフィは、発言とは裏腹に、まだまだ余力がありそうだ。

ブラッキーは、わからない。ほとんど何も喋らないし、感情が表にも出て来ないから。


フーディン「とりあえず、少し休憩を取るぞ!」

アシマリ「やっとだー……」


オイラは、バタンと倒れ込んだ。
 ▼ 74 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:13:06 ID:QHiJs2oY [20/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「アシマリ、倒れてる場合じゃないよ、リンゴの調達しなきゃ」

アシマリ「えー! オイラ疲れた……」

モクロー「ごはん食べられないよ」

アシマリ「はぁい……」

モクロー「リンゴの調達、まさかサーカス団になってもやる事になるとはね……」

アシマリ「ホントだよ……」

フーディン「悪かったな」

モク・マリ「うわっ!」

フーディン「……まあ、今回は、少しは稼げるんじゃないか? そうしたら、旨い飯も食える」

アシマリ「さっきからそればっかり」

フーディン「……仕方ないだろ、それしか言える事がないんだから。しんどいのはみんな同じ。頑張ってくれ」

モク・マリ「はい」
 ▼ 75 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:13:47 ID:QHiJs2oY [21/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オイラは、立ち上がる。

そして、モクローとともに、気合いを入れた。


アシマリ「さぁて、頑張りますか!」

モクロー「だね」


と、ふとオイラの視線に、ニャビーが入り込んだ。

目と目が合えば、会話が始まる。


アシマリ「おーい、ニャビー!」
 ▼ 76 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:14:09 ID:QHiJs2oY [22/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビー「ん?」

アシマリ「一緒にリンゴ調達しに行かない?」

ニャビー「なんで?」

アシマリ「だって、一緒に行った方がたくさん見付かるし。いろんな目で見た方が見落としがなくなるからね」

モクロー「もちろん、君が嫌ならいいけど」

ニャビー「別にいいけど」

アシマリ「ホント?!」

ニャビー「はいはい。過剰な反応は面倒。行くんなら、さっさと行きましょ」

モクロー「はいはい」
 ▼ 77 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:14:36 ID:QHiJs2oY [23/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オイラたち3匹で、近所のダンジョンに潜った。

食料の調達がメインの意味合いだから、リンゴに限らず、グミも大歓迎。

青いグミなんて見付けた日には、もう……!

と、妄想はしてみる物の、現実にはそう都合よくグミなど落ちているはずなくて、結局収穫は、リンゴ6個と、オレン3個、ニャビーとの会話だけだった。


ニャビー「へぇ、リンゴ、そうすれば効率よく集まるんだ」

アシマリ「そ。見るのは地面だけじゃない。木の上になってるのこそがおいしいんだよ」

モクロー「まあ、基本的に取るのは僕の役目……ニャビー?」

ニャビー「高いとこなら、任せてよ」


そう言うと、あっという間に木の枝まで駆け登り、リンゴをくわえて飛び降り、見事な着地を決めた。


アシマリ「こ、こんなとこでも凄いんだ……」

ニャビー「あたしに出来るのなんて、こんな事だけだし」
 ▼ 78 バメ@うみなりのスズ 16/09/26 20:14:39 ID:BDue06B6 NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 79 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:15:24 ID:QHiJs2oY [24/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「……よし。2匹で協力して、たくさん取れるね。アシマリは今まで通り、見張りをお願いね」

アシマリ「がってん!」


オイラの役目は、置いてあるリンゴを取られないように見張る事。

ダンジョンのポケモンは、理性が発達してないみたいで、誰かの物でも平気で盗って行く。

(カクレオンの店の商品だけは例外だけど。きっと、野生ポケモンも痛い目に合ってるんだろうなぁ)

だから、1匹は見張りが必要なのだ。
 ▼ 80 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:15:57 ID:QHiJs2oY [25/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんなこんなで、リンゴを集めて行く。

ニャビーも、サーカスが絡まなければ、ただのちょっとクールな少女でしかなく、話し掛ければ乗って来てくれた。

そんな意外な一面を発見出来たのは、リンゴ6個なんかより、よっぽど大きな収穫だろう。

なんて事を思いながら、休憩地点に戻って行った。
 ▼ 81 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:16:55 ID:QHiJs2oY [26/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「「いっただっきまぁす」」


みんなが、一斉に集めたリンゴを頬張る。

集められなかったヒトには1個譲ろうかとも思ったけど、みんなちゃんと自分のリンゴを持っていた。

それなら遠慮なく、とオイラはリンゴにかぶりつく。

滲み出る果汁に、疲れが吹き飛んで行くようだった。

やっぱりリンゴは採れたての新鮮な奴に限る!
 ▼ 82 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:17:18 ID:QHiJs2oY [27/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビー「おいしい……」

モクロー「食べ物ってのはなんでも、新鮮さが命だと思うんだ」

ニャビー「そうね。ありがと」

モクロー「うわっ、ニャビーからお礼の言葉が聞けるだなんて……」

ニャビー「あたしをなんだと思ってんの? 焼き尽くすよ」

モクロー「ごめんごめん、火はダメなんだって」


ニャビー。孤高の空中ブランコ乗り。

そんな彼女の、氷の壁の隙間を見付けた思いだった。


アシマリ「ケンカしてたらまずくなっちゃうよ! ほら、食べよ!」
 ▼ 83 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:18:15 ID:QHiJs2oY [28/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「「ごちそうさまでした!」」


フーディン「もう少し休憩したら、行くぞ! あー、アシマリ、モクロー。今日は野宿も覚悟しておけよ」

アシマリ「はーい」

モクロー「わかりました」


食後の休憩タイム。

オイラは寝転んで、空の青を見上げた。

怒涛の数日間。

入りたいと宣言してから、もうこんなに遠くまで来た。

ラサーシャの街から、物理的に。

オイラが本当にサーカス団の一員になれるのは、たぶん、イスカーでの初公演だろうな、なんてぼんやり考える。

さすがのニャビーも、何もない所では練習出来ないのか、ごろりと寝転んでいた。

そんな風に周りを眺めながらぼーっとしていると、エーフィが話しかけて来た。
 ▼ 84 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:18:40 ID:QHiJs2oY [29/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィ「アシマリ、どう?」

アシマリ「……なんか、感動してたとこ」

エーフィ「へぇ、何に?」

アシマリ「サーカスに入って、あっという間に遠くまで来たなって」

エーフィ「あー、なるほど。あたしたちは、そんな感慨なかったからなぁ……」

アシマリ「え?」

エーフィ「ああ、いやいや、こっちの話。気にしないで」

アシマリ「そんな言い方されると気になるよー」

エーフィ「ったく、参ったなぁ……。いや、ごめんだけど、これだけは言えない。絶対に。ごめんね?」

アシマリ「うーん、そこまで言われたら仕方ないなぁ……」
 ▼ 85 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:19:38 ID:QHiJs2oY [30/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オイラは、諦めて話題を変えた。


アシマリ「そういや、エーフィたちはなんでこのサーカスに入ったの?」

エーフィ「……あんたは?」

アシマリ「オイラはサーカスが好きだからだよ! で、エーフ――」

エーフィ「へぇ、それで結構上手いんだから、凄いよね」

アシマリ「うん」

エーフィ「でも、何がきっかけで好きになったの?」

アシマリ「きっかけかぁ……なんだろう、小さな頃、サーカスを見たのかなぁ。覚えてないんだけどさ、その時、凄い感動したみたい」

エーフィ「物心付く前の事か……なるほどね」

アシマリ「で、エーフィ――」

フーディン「みんな! そろそろ行くぞ!」

エーフィ「ほ、ほら、行かないと!」

アシマリ「うん。……どうかしたの?」

エーフィ「ホントになんでもないよ!」

アシマリ「ふーん」
 ▼ 86 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:19:59 ID:QHiJs2oY [31/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「おーいアシマリ! 行かなくちゃ!」

アシマリ「わかってるよー!」


そう言って、オイラは駆け出した。

そして、エーフィの妙な態度の事なんて、重いかばんを前にしたら、一瞬で頭から吹き飛んでしまった。


アシマリ「うげぇ。そういや、これ運ばなきゃいけないんだった……」

モクロー「仕方ないよ。頑張って行こう」

アシマリ「そりゃ頑張るけどさぁ……」
 ▼ 87 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:21:00 ID:QHiJs2oY [32/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこから数キロ、ちょくちょく休憩を挟みながら、着実に歩を進める。

山道を抜け、森を抜け。

そして、夕暮れ時。


フーディン「今夜はここでキャンプするぞ!」

アシマリ「やったぁ……」

モクロー「さすがに疲れたぁ……」

ニャビー「これだけは何回やってもしんどい……」


3匹同時に倒れ込む。

ちょうど、「川」の字のように。
 ▼ 88 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:21:28 ID:QHiJs2oY [33/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「……まあ、お前らも仲良くなって来てるみたいだな。けど、メシの調達もしないとだぞ」

エーフィ「まぁまぁ、ちょっと休ませたげようよ。進化もしてないこの体格で、辛いでしょ」

フーディン「ん……まあ、そうだが」

ブラッキー「リンゴ、余分に取って来る」

エーフィ「うん。団長、私たちがこの子たちの分も取って来るよ」

アシマリ「いや……いいよ。迷惑はかけたくないし……」

モクロー「同意。キツイけど、入るって決めたからにはやるべきだと思う……」

ニャビー「……単純になんかやだ。迷惑かけんの」
 ▼ 89 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:22:03 ID:QHiJs2oY [34/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィ「でも、あんたたち、今にも――」

アシマリ「そんな時のために、オレンの実があるんだ、3個」

モクロー「ニャビーもこれ食べてよ」

ニャビー「……遠慮なく」


オイラはかばんからオレンの実を3個取り出し、みんなに1個ずつ渡してから、自分も勢いよくかぶりつく。

滲みだす果汁は、滋養強壮効果抜群。

体から疲れが抜けて行く。


モクロー「よし! んじゃ、いっちょ探しに行きますか!」

アシマリ「うん! ニャビーも行く?」

ニャビー「うん。あんたたちといればおいしいリンゴにありつける可能性も高いし」

アシマリ「よし、そうと決まれば行こう! 近所のダンジョンへ!」
 ▼ 90 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:22:46 ID:QHiJs2oY [35/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
収穫:リンゴ4個、オレン5個。

アシマリ「リンゴはちょっと少ないけど、オレンがほっくほくだね」

モクロー「3匹で割るには厳しい数だけどね」

ニャビー「誰かにあげればいいじゃん。リンゴとオレン2個」

アシマリ「ま、それもそうか」

モクロー「誰もいないようだったら、「このは」でカットして分けられるしね」

アシマリ「んじゃ、キャンプに戻ろう」

ニャビー「こっからキャンプ建てたりとかもあるしね。ある程度はブラッキーがやってくれてるみたいだけど」

アシマリ「……エーフィとブラッキーの姉弟って何かあったの? ところで」


ニャビーは、「知らない」と、辺りを見回し、モクローが向こうに言ったのを確認して、続けた。


ニャビー「ってか、事情を追及するようなとこなら、あたしはここにいない。

      ……まあ、こんなへっぽこなとこだし、知っても気にしなかったかもしれないけど」

アシマリ「ハハハ……。まあ、よくわかんないね」

ニャビー「うん。後、そろそろ行かないとただのサボりだよ」

アシマリ「おっと! 急がなきゃ!」
 ▼ 91 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:23:56 ID:QHiJs2oY [36/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
キャンプの設置は簡単に終わった。

小さなテントがたくさんあって、2匹1組で寝るらしい。

その説明の通り、というか正直僕たちの前までの住処よりもよっぽど狭いテントが目の前に出来上がるのを見て、愕然とした。

たくさんのテントがあるが、それは使用者が各々建てるから大した問題にならない。


フーディン「明日も1日ぶっ通しで歩きだからな。みんな、早く寝て力蓄えとけよ?」

みんな「はい!」


オイラとモクローが同じテントで寝る事になった。

まあ、当然と言えば当然だろうけど。
 ▼ 92 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:24:33 ID:QHiJs2oY [37/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「……しっかしまあ、こんなとこで大変な目に遭うとはね……」

アシマリ「ホントだよ……。だけど、楽しみだなぁ。公演が昨日の来週で、着くのはたぶん明日でしょ? だから、1、2……」

モクロー「4日だね」

アシマリ「それで、いよいよ本番か……。楽しみだなぁ」

モクロー「にしてもハイペースだなぁ。ま、数稼がないと儲けがしょぼすぎてヤバいのかもしれないけど」

アシマリ「ハハハ……。だけど、頑張るしかないよ」

モクロー「だね。まさかこんなだとは思ってなかったよ、サーカス団の舞台裏……」

アシマリ「ふぁぁ……眠いや、お休みー」

モクロー「うん。お休み」
 ▼ 93 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:25:34 ID:QHiJs2oY [38/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィの騒がしい声で、オイラは目を覚ます。


エーフィ「起きろぉぉおおおお!」

モク・マリ「ぐわわわぁぁぁん!」

アシマリ「何これ? 何これバクオング?」

エーフィ「失礼ね、あたしの声はそこまで大きくないでしょ。鼓膜破れたりしてないし」

モクロー「……まあそうだけど、いや、大きいでしょ、寝起きにこれは……」

エーフィ「草の大陸だっけ、そこのトレジャータウンのプクリンのギルド、あそこの朝はもっとうるさかったらしいよ」

アシマリ「も、もっと……」


オイラは思わず息を呑む。これ以上うるさいとなると、本当に命に関わる。

もっとも、探検隊ギルドなのだから、そのぐらいじゃ死なないように訓練されているのかもしれないけれど。


エーフィ「そ、もっと。早く行くよ!」


幸いな事に、たいがいはブラッキーの料理の匂いで目覚められるため、滅多な事ではこの声を聞く事はないらしい。

そう後から聞いて、ほっとため息を吐いた。
 ▼ 94 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:26:27 ID:QHiJs2oY [39/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「それじゃあ、みんな、今日中にイスカーの街に着けるように、頑張って行くぞ!」

みんな「おー!!」


掛け声で気合いが入る。

オイラは、重いかばんを背負い、歩く体勢に入った。

キャンプは、撤去も簡単だった。みな、あっという間に折りたたんでしまっている。

もちろんその内の1つは今、オイラのかばんに入っている。

かさばりはするが、重くない。どう考えても優れものだった。寝心地はお世辞にもいいとは言えないけれど……。
 ▼ 95 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:26:56 ID:QHiJs2oY [40/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
一行揃って歩き始めた。

険しい岩肌を登り、道中になぜかあった不思議のダンジョンも簡単に抜け――リンゴを取りに行くダンジョンよりももっと簡単なぐらいだったし――そして。

数時間後。


フーディン「おっ! 街だっ!」

エーフィ「あそこがイスカーだよね?」

フーディン「ああ。まだ夕方だ。急ぐぞ!」


重いかばんがオイラに与えた苦しみなんて、街の光を見たら、一瞬で吹き飛んでしまった。

あそこが、オイラの初舞台。

それを思うと、興奮と震えが止まらなかった。


アシマリ「走ろうモクローっ!」

モクロー「えっ! 走ると危な――」

アシマリ「速く速く……うわあっ!」

ニャビー「……バッカじゃないの」


派手に転んでしまった。
 ▼ 96 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:28:01 ID:QHiJs2oY [41/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
幸いかすり傷だけで済んだ。けれど、少しきつめの叱責がニャビーから飛ぶ。


ニャビー「パフォーマーってのはね、体が第一なの。転んでケガとかプロのやる事じゃない。あんた、やる気あんの?」

アシマリ「うう……ごめんなさい」


悪いのはオイラだ。それをわかっていたから、素直に謝った。

落ち着いて行こう。ビークールビークール。
 ▼ 97 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:29:01 ID:QHiJs2oY [42/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「到着したぞ! このスペースに、サーカスのテントなどを設置する……が、今日はゆっくり休む事! 簡易テントで済ませるぞ!」


みんなめいめいに返事して、テントの設置にかかった。

ブラッキーだけは、食事の用意をし始める。その分エーフィの負担は大きい……と思いきや、エーフィはエスパーの力であっという間に組み立てていた。


モクロー「あそこ、双子だからって♂♀同じテントで寝てるのか……」

アシマリ「ん? どうしたの?」

モクロー「いや、なんでも。あの姉弟、仲いいなって」

アシマリ「だよねー。性格正反対なのにね」

モクロー「まあ、正反対の方が案外うまくやってけるのかも。僕たちみたいに」

アシマリ「なるほどー」
 ▼ 98 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:29:27 ID:QHiJs2oY [43/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
テントの設置を終わらせ、オイラたちはごはんを食べるべく集合した。


ブラッキー「簡単なのだけど」

エーフィ「簡単に出来る料理がおいしいのがあんたの凄いとこなんだから、もっと自信持って、元気出しなさい!」

ブラッキー「姉ちゃん、元気過ぎ」

エーフィ「だーかーらー! いつまでも落ち込んでる訳にはいかないでしょ!」

ブラッキー「落ち込んでるんじゃない。もともと」

エーフィ「……ったく、あんたさぁ? ミリスの街にいた時からずっと言って来たよね?

      あんたは暗すぎなんだよ! 月光を司るポケモンだからって、そんな合わせなくてもいいでしょうに」


ケンカしている。と言うか、一方的な説教が受け流されているというべきか。

とにかく、そこにオイラたちが入り込む余地はないし、いつでもこんなテンションなのだ。

2匹を足して、2で割ったらちょうどよくはなるだろうけど、それはそれでつまらないだろうなと思う。
 ▼ 99 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:30:26 ID:QHiJs2oY [44/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「って言うか、ミリス出身なんだ、2匹って」

モクロー「らしいね」


ミリス。少し、いや、オブラートに包まずに言ってしまうと、物凄く旧弊渦巻く土地との噂だ。

未だに激しい太陽信仰と月信仰が行われているという。


フーディン「お前らがどう思ってんのかは察しが付くが、実は俺の先祖もだ」


いつの間にか後ろに立っていたフーディンがそう言って、オイラたちはビックリして振り向く。(モクローの胴体はエーフィたちの方を向いたままなのだが)


モクロー「えっ?!」

フーディン「このサーカス団だって、生まれはミリスだぞ。何代もミリスでのみ活動して来たらしい。もっとも、親の代ではもう、ただの伝承レベルなんだが」

モクロー「へぇ……。だからエクリプス」

フーディン「そう言う事だ。どうしてミリスから遠く離れたのかはわからないけどな」

アシマリ「ん? なんでエクリプス?」

モクロー「日食の事、どこか別のとこではエクリプスって言うらしいんだ」
 ▼ 100 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:30:54 ID:QHiJs2oY [45/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「日食……。太陽と、月、かぁ……」

モクロー「太陽が隠されるから、縁起が悪いって言われてるね」

フーディン「ああ。ミリスとか、特にそうだ。太陽と月が交わる時、世界に滅びが訪れる、とまで言われてる。

       あっ、誰にも言うなよ? 一応ミリス門外不出の言い伝えだし、無闇に言いふらして、騒ぎになったらたまらない」

アシマリ「へぇ」


日食の時、世界が滅ぶ。

そうは言うけれど、今までにも何度か、オイラは日食を経験して来た。皆既日食だって、小さな頃に、見た事があるはずだ。

それでも、今こうして世界は回っている。

きっと、考えすぎだ。予言とか言い伝えとか、所詮は昔のおまじないみたいな物でしかない。
 ▼ 101 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:31:26 ID:QHiJs2oY [46/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「こらこら、お前ら、ケンカするなよ。ほら、みんな困ってるぞ」

エーフィ「あっ……すいません」

ブラッキー「すいません」

フーディン「それでよし。じゃあみんな、食べようか!」


簡単なのだけど、とブラッキーは言っていたが、絶品だ。

オイラも、それなりに料理に自信はあったけれど、それでもブラッキーには絶対に敵わないと思う。

疲れた体に、晩ごはんが沁み渡る。


アシマリ「ごちそうさまでした」


勢いよくかき込むと、オイラはそのままテントに潜り込む。

食べてすぐ寝ると太る、とはよく言うけれど、到着の安心が強く、オイラは、眠気に抗えなかった。
 ▼ 102 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:32:08 ID:QHiJs2oY [47/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌朝、目が覚めて、オイラは大あくび。

まだほの暗い夜の中、テントから抜け出て、体を伸ばす。

そして、準備体操を行った。

練習の前の準備体操は、意外に大事だ。体が硬いままだと、ケガをしやすいから。


アシマリ「よし」


そう呟くと、水のバルーンを創りあげる。

それを跳ね上げ、鼻の上でくるくると回す。

高く上がったバルーンに向かって思い切りジャンプし、中に潜って、上から飛び跳ねる。

ポーズを決めて着地すると、ニャビーの声が聞こえた。


ニャビー「ふーん、頑張ってんだ」

アシマリ「まあね。そりゃ、もうすぐで、本番なんだもん」

ニャビー「……あたしは、器具がないと何も出来ないから、もうしばらく寝てるよ」

アシマリ「あっ、起こしちゃった?! ごめん」

ニャビー「気にしないで」
 ▼ 103 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:32:29 ID:QHiJs2oY [48/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビーがテントの方へ戻って行く。

と、不意にその足を止めた。


ニャビー「? なんだろ、あれ」


空を見上げ、そう呟く。

オイラもつられてそちらを見ると、朝焼けの空に不思議なひずみが出来ていた。

周りの景色が歪み、ひずみからは、何かしらの不思議な「気」のような物が発せられていた。


アシマリ「さあ……。オイラも見た事ないよ」


ひずみは、瞬く間に消え去り、後には、何事もなかったような空が残されていた。

不思議な光景だった。
 ▼ 104 1◆J44kAZeDOM 16/09/26 20:32:54 ID:QHiJs2oY [49/49] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







2章 サーカス団改造計画 完






 ▼ 105 のニャービィ◆A/Db91MABQ 16/09/26 21:00:04 ID:Z2RMqp0A NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援!
 ▼ 106 リージオ@カムラのみ 16/09/26 21:08:45 ID:56tUnTqo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
うおおお!支援
 ▼ 107 ズゴロウ@メトロノーム 16/09/26 23:57:32 ID:daEFjNbQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
読みやすくて文章も綺麗で何度も読み返しちゃいました!
ただ、1章ではモクローとアシマリはニャビーが前のサーカス団で失敗したことを知ってるのに2章ではそのことを知らないみたいな感じになってますね
続きも楽しみにしてますっ!
 ▼ 108 ルガー@TMVパス 16/09/27 19:35:47 ID:7r7VPQrE [1/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
>>107
失敗までは知ってるけど、失敗が怖いのでもないのになんでエクリプスにいるのかがわからない、とモクローは認識していた

そう考えていただけると幸いです
 ▼ 109 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:36:08 ID:7r7VPQrE [2/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







3章 狙われる姉弟






 ▼ 110 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:36:46 ID:7r7VPQrE [3/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ひずみの事を、伝える必要なんてないと判断したニャビーとオイラは、その後数日、必死の練習を積み重ねた。

そして、迎えたイスカーでの初公演。


アシマリ「ドキドキするね」

エーフィ「頑張ってね。あたしたちは裏方だけど、それでも緊張するんだし、アシマリたちの緊張なんて、その比じゃないでしょ」

アシマリ「オイラ、エーフィたちがどのぐらい緊張してるのかわかんないけど、うん、すっごいヤバい」

エーフィ「うん。アシマリ、あなたの雄姿は、しっかり私たちが照らすからね。だからアシマリ、ゼンリョク、出して来い!」

アシマリ「うん!」
 ▼ 111 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:37:26 ID:7r7VPQrE [4/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オイラの出番は、なんと初っ端。

順番を決めたフーディンからは、

フーディン「お前の演技はわかりやすくて、綺麗だ。だから、最初に向いてる。

       そう言うのを最初にぶつけたら、観客の目を惹ける。それで惹き付けておいて、最後、ニャビーの大技に集中させる」


と言われた。

オイラは、あくまでもニャビーの前座。けれど、構わなかった。

ニャビーの演技は、確かに素晴らしい。

そこに異論を挟める程に、オイラは自信家ではない。

与えられたステージを、こなすしかないのだ。
 ▼ 112 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:38:39 ID:7r7VPQrE [5/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
闇の中から、エーフィの「あさのひざし」、ブラッキーの「つきのひかり」に照らされ、モクローが現れた。


モクロー「レディースアーンドジェントルメーン!」


まばらな客席に向かって、モクローは叫んだ。

様々な口上を述べ、そして、オイラを紹介する。


モクロー「サーカス団に新たにやって来た期待の新ポケ、アシマリの登場です!」


2匹の照らす光が、一気に弱まる。

出番だ。

オイラは駆け出した。

そして、決めポーズをとる。

その上から、エーフィたちが、光で照らした。会場中が明かりに包まれる。
 ▼ 113 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:39:11 ID:7r7VPQrE [6/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
お客さん、少ないな。

エクリプスの人気のなさに、改めて愕然とする。まばら、というよりもむしろ、閑散、と言った方がいいかもしれない。

けれど、それでもオイラは、ゼンリョクを尽くすだけだ。

それを覚悟して、エクリプスに入ったのだから。


アシマリ「よし」


小さく呟き、オイラは、バルーンを創りあげる。

そして、それを高く飛ばした。

その中に、「あわ」を繰り出す。

まるで炭酸のようになったバルーンを、オイラは鼻で受け止める。

そして、くるくると回した。

もう一度、跳ね上げるとオイラはそこをめがけてジャンプする。

炭酸バルーンの中を泳ぎまわり、そして中から勢いよく飛び出した。

バルーンが割れ、ステージ上に、雨が降る。

そこに、「あさのひざし」が重なって、綺麗な虹を作った。
 ▼ 114 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:39:46 ID:7r7VPQrE [7/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
今度は、下に向けてバルーンを創り、オイラは、それでもって高く跳ねる。

虹をバックに、オイラはクルリと1回転。

見事、着地を決めた。

成功だ。

しぶきを浴びながら、オイラは、決めポーズを取り続けていた。

ライトが消える。

オイラは、慌てて舞台袖へと駆け出した。


ニャビー「お疲れ。……悪くはなかったよ」

アシマリ「ホント?! ありがとう!」

ニャビー「もっと練習して。あたしに、追い付いて」

アシマリ「え?」

ニャビー「ううん、なんでも」


ニャビーはついと顔を背け、瞼を閉ざした。

集中しているのが、傍で見ていても伝わって来る。

オイラは、声を掛けるのを自重した。
 ▼ 115 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:40:25 ID:7r7VPQrE [8/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
他のみんなの演技も、前回見た時よりは、各段の進歩を見せている。

オイラたちがやって来た事は、無駄じゃなかったんだなと思うと、嬉しさが込み上げてくる。

ボーっとみんなの演技を眺めていたら、次は、ニャビーの番だとモクローが声を張り上げる。


モクロー「お次はこのサーカス団のスーパースター! 空中ブランコのニャビー登場です!」


その声に応えて、ニャビーも呟く。


ニャビー「出番よ、あたし」
 ▼ 116 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:41:17 ID:7r7VPQrE [9/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
照明が落ちた。

ニャビーが舞台へと上がる。

そして、ぼっと炎が灯った。

それを目印に、「つきのひかり」がニャビーを照らす。

炎と光の幻想的な光景が醸し出されていた。

観客は、どんな反応をしているだろうか。

オイラの位置から、それは見られない。

けれど、ニャビーのパフォーマンスを見るだけで、間違いないと断言できる。

今ので、観客の目は、釘付けになっている事だろう。
 ▼ 117 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:41:53 ID:7r7VPQrE [10/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
炎が消え去り、ニャビーは、「つきのひかり」を浴びながら、ハシゴを登る。

てっぺんで、立ち上がった。

そして、ブランコに向かって飛び込む。

前足で乗り場を掴み、勢いを利用してブランコを高く揺らす。

最高潮に達した、その瞬間、ニャビーは炎を纏いながら、飛んだ。

「つきのひかり」が炎を煌びやかに演出し、そのままくるりと回ったニャビーに、観客からの拍手が起きた。

ニャビーは尻尾でもう1つ吊り下げられたブランコに掴まると、そのブランコを再び揺らし始めた。

軽やかに舞うニャビーの姿に、オイラは、改めて、魅了されていた。
 ▼ 118 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:42:33 ID:7r7VPQrE [11/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サーカスが終わり、モクローの言葉と共に幕を閉ざす。

興奮冷めやらぬ中、オイラは戻って来たニャビーに声を掛ける。


アシマリ「お、お疲れ様」

ニャビー「ありがと」

フーディン「お疲れ様、みんなもだが、特にアシマリ」

アシマリ「え、オイラ?」

フーディン「もちろんモクローもだけどな。初めてってのは誰でも、緊張が増すもんだ。それを乗り越えたんだ、お前らはもう大丈夫だろ」

ニャビー「慣れから来る慢心は地雷だけど」

フーディン「おっと、それもそうだな」

アシマリ「うん!」

モクロー「それではみなさん、ご来場ありがとうございました!」


モクローがお客さんに呼び掛ける。

モクローが深々と、首だけ倒すように礼をした。
 ▼ 119 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:43:32 ID:7r7VPQrE [12/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オイラたちの初公演も終わり、舞台裏で、くつろいだ時間を過ごす。

そんな時、ふっとモクローがぼやいた。


モクロー「ふー。のど、しんどいな……」

ブラッキー「のど飴」

エーフィ「ブラッキーの手作りなのよ! ホント、手先が器用でさ」

アシマリ「え、す、凄い……」


ブラッキーが手渡したのど飴は、確かにのど飴だった。

クオリティが、売られていてもおかしくないレベル。

もちろん、飴なんて、普通に職を持ち、暮らしているポケモンにとっては珍しくもなんともない品物。

けれど、リンゴを売って金を稼いでいたオイラたちにとっては、買おうとすら思えなかった物だ。
 ▼ 120 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:44:16 ID:7r7VPQrE [13/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「いいの?」

ブラッキー「うん」


モクローが、じゃあ遠慮なく、とその飴を口の中に放り込む。

その顔に、味を尋ねる必要は、もはやなかった。


エーフィ「もっと自信持てばいいのにさ」

アシマリ「だね」


そんな風に、疲れた体を休めながら、適当に話していた時の事だった。

突然、来客を告げるベルが鳴る。


フーディン「あ、俺が出るよ」
 ▼ 121 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:45:11 ID:7r7VPQrE [14/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そう言ってテントの入口をめくったダンチョー。

その奥から、いきなり、2匹のポケモンの顔が覗く。

ヤングースとヤレウータンだ。

彼らはダンチョーに向かって、開口一番問いかける。


ヤングース「こちらに、エーフィとブラッキーの姉弟はいますか? 色違いの」

エーフィ「あっ……」


顔を隠すようにした後、何やら意識を集中させる。

「姉ちゃんの、テレパシー」と、ブラッキーから解説が入った。
 ▼ 122 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:45:42 ID:7r7VPQrE [15/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「え、ああ、いや、いないが、どうかしましたか?」

ヤングース「いえ、いないのならいいんです。すいません」


そう言って2匹は去って行く。

エーフィが、ほっと息を吐いた。


エーフィ「ったく、もうバレかけてるのか……。団長、かばってくれて、ありがとうございました。ほら、あんたも」

ブラッキー「ありがとう」

フーディン「いや、いいんだ。けど、お前ら、どうして……」
 ▼ 123 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:46:46 ID:7r7VPQrE [16/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そう問うダンチョーに、エーフィは疑問を呈した。


エーフィ「あれ? 団長、ミリス出身じゃ……」

フーディン「俺の祖先はそうだが、俺は違うよ。で? ミリスがどうかしたのか?」

ブラッキー「団長、知らない、別にいい」

フーディン「ミリス、なんかあんのか……」

エーフィ「う、ううん! なんでもないです」

フーディン「ほーん」


疑わしそうな目をエーフィに向ける。


フーディン「とにかく、困った事があったら、言えよ。お前たちの気合いがないと、団のライトが、それこそ天然仕様になる」

エーフィ「はーい」
 ▼ 124 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:47:45 ID:7r7VPQrE [17/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「ねえエーフィ、何かあったの?」

エーフィ「なんでもないよ、心配しないで」

アシマリ「だけど、おかしいよ。隠れてるみたいだった」

モクロー「アシマリ、ストップ。隠したいんだったら、隠させてあげようよ」

アシマリ「わかったよ……」


不満気に呟いて、オイラは、エーフィから視線を逸らし、ぐったりと横になった。


アシマリ「だけど気になるなぁ……」


そう呟いたオイラに、モクローは、頷き、小声で話す。


モクロー「まあね。それは僕もおんなじだ。あー、うん。調べてみる価値はありそうだね。ミリスに一体、何があるのか」

アシマリ「だよね」


オイラたち2匹は、目を合わせ、頷いた。
 ▼ 125 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:48:35 ID:7r7VPQrE [18/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ともかく、初の舞台が終わり、疲れも噴き出して来たため、オイラは昼寝を始めてしまった。

目が覚めた時には、もう夕方。

ブラッキーの作る料理が出来上がったタイミングだったのは、ブラッキーの料理がいい匂いだったからだろう。

ふああ、と1つあくびをすると、立ち上がった。

横を見ると、モクローも眠っていた。

オイラの夢のために、こんなとこまで付き合ってくれたモクローの事が、不意に、たまらなく愛おしくなる。

ありがとう、モクローは、オイラの、最高の友達だよ。


アシマリ「起きてモクロー。ごはん出来たよ」

モクロー「え? ああ、うん」


目をこすり、モクローが立ち上がる。
 ▼ 126 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:49:49 ID:7r7VPQrE [19/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「「ごちそうさまでした!」」


ごはんを食べ終わり、オイラたちは、再びの休憩に入る。

ニャビーだけは、いつものようにまた、食後の練習をするらしいが、さすがのオイラも、今日ばかりは、練習する気にはなれなかった。

ボーっと座っていると、モクローが声を掛けて来た。


モクロー「今日は、もう練習しないんだ」

アシマリ「うん。さすがに疲れたし」

モクロー「じゃあ、ちょっと付き合って。フーディンに話を聞くから」

アシマリ「え、なんの?」

モクロー「やだなぁ、わかってるクセに」

アシマリ「え?」

モクロー「エーフィとブラッキーの事に決まってる。ミリスの街について、いろいろと聞きたいし」

アシマリ「ああ、なるほど」
 ▼ 127 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:50:34 ID:7r7VPQrE [20/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ダンチョーの祖先が、ミリス出身だと言う。先代から譲り受けたというこのサーカス団も、当然ミリス出身だ。

そして、ミリスからやって来た色違いの双子、エーフィとブラッキー。

2匹を訪ねてやって来たポケモンたちも、恐らくはミリス。

この奇妙なまでの符合には、さすがのオイラでも、疑問を感じざるを得なかった。
 ▼ 128 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:51:35 ID:7r7VPQrE [21/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「ミリス、ねぇ。いや、俺も詳しくは知らんよ。知っての通り、幼い俺は、寝っぱなしのケーシィだからな。成長してからもうちの親ですら何も言ってないし」

モクロー「それでもいいんです。エーフィとブラッキー、2匹の問題を、どうにかして解決してあげたいから、気になるんです。少しでも、情報をください」

フーディン「まあ、そこまで言われたら、教えざるを得ないな。とは言え、俺が持ってる情報なんて、微々たる物だぞ?」


そう念を押して、フーディンは語った。

ミリスでは、未だに太陽信仰の類が行われている。

その辺はオイラたちも知っていたけれど、フーディンは、さすがにもう少し詳しかった。


フーディン「太陽と月が交わる時、世界に滅びが訪れる。これも前、言ったな。エクリプス……日食だ」

アシマリ「うん。でも、どう言う事?」

フーディン「わからない。わからないが、ミリスには、確かに、太陽と月、それぞれの使者と呼ばれるポケモンが祀られている」

モクロー「太陽と、月の使者?」

フーディン「ああ、そうだ。太陽の方がソルガレオ、月の方がルナアーラって名前だ」
 ▼ 129 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:52:08 ID:7r7VPQrE [22/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「……太陽、月。たいようポケモンのエーフィ、げっこうポケモンのブラッキー……」

フーディン「ああ。ミリス、エーフィ、ブラッキーと聞くと、どうしても、その文句が思い浮かんじまう。ただの言い伝え。頭ではわかっているけど、それでもだ」


ここで大きく息を吐き出し、吸い込み、そして再び、軽く吐き出して、言った。


フーディン「俺が知ってるのはここまで。後は、俺も調べてみないとわからない。

       幸い、司会をモクローがしてくれるから、俺には時間があるし、わかった。

       俺も、お前たちに協力する。団員が苦しんでるのに、何もしない訳にもいかないからな」

モク・マリ「ありがとう(ございます)!」

フーディン「いやいや、お礼はいいよ」
 ▼ 130 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:53:04 ID:7r7VPQrE [23/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんな話をしていると、背後から唐突に、声が聞こえた。


エーフィ「なんのお礼?」

アシマリ「え……」

モクロー「あ、なんでもないよ。単純に、ここにいさせてくれて、ありがとうって」

フーディン「あ、ああ。むしろ、こっちからお礼したいぐらいだ」

エーフィ「ああ、なるほどね。……今日は、ありがとうございました。あたしたちを庇ってくれて」

フーディン「ああ。でも、どうしても説明する気はないのか?」

エーフィ「はい。……まあ、あたしたち自身、詳しい事は何もわからないってのもあるけど」

フーディン「……なるほど。詳しい事は、わからない」

エーフィ「だから、なんでなのか、それは気になる」

フーディン「……わかった。俺が、調べてみるよ。だから、調べるためにも、わかっている情報、少しは教えてくれないか?」
 ▼ 131 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:53:35 ID:7r7VPQrE [24/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィはしばらくの後、躊躇いがちに答えた。


エーフィ「……わかりました。そうですよね。確かに、伝えられる事は伝えないと、どうにもならない。ブラッキー! ちょっと来て!」

ブラッキー「いるよ」

エーフィ「うわっ!」

ブラッキー「全部聞いてた」

エーフィ「い、いたんだ……」
 ▼ 132 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:54:00 ID:7r7VPQrE [25/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィ「ま、まあ、それはともかく、あたしたち、不憫な目に遭わされるらしいの」

ブラッキー「ミリスの街で」

モクロー「不憫な」

エーフィ「うん。ママとパパが、話してたの」

――

あたしは、夜に目が覚めて、トイレに行こうとしたの。

つい何か月か前の、満月の夜の事よ。

リビングの前を通ると、ランプの明かりが漏れてた。

パパがブースターだから、ランプに火を付けるのも簡単だったの。

まあそんな枝葉末節はいいとして、こんな話をしてた。


「どうして……どうして家の子なんだ……」

「あなた、泣かないで。あの子たちもきっと、わかってくれる」

「だけどっ! だけど、不憫過ぎるよ……。まだ、あの子たちは若いのに、未来のために、自らを犠牲にするなんて、耐えられないだろうに……」

「あなた……。しっかりして。あの子たちは、永遠に、語り継がれる事になる。ミリスに暮らす私たちの中に、永遠に、生き続ける……」


そう言ったママの声すら泣き出しそうで、あたしは、トイレに行くのも忘れて、部屋に戻った。
 ▼ 133 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:55:49 ID:7r7VPQrE [26/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そして、思案を巡らせた。

あの子たち、と言う事は、あたしとブラッキー、どちらにも関係のある話だろう。

ミリスの中で、あたしたちは、不憫な目に遭う。

あたしたちに待ち受ける運命が、怖くなった。

ママもパパも泣き出すぐらい、不憫な出来事。

そう思ったら、居ても立っても居られなくて、ブラッキーを叩き起こして、ミリスを抜け出した。
 ▼ 134 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:56:33 ID:7r7VPQrE [27/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そっから、2匹で助け合いながらなんとか生活して、それでもいつか、限界がやって来る。

そんな時だったの。サーカス団エクリプスを見付けたのは。

そっから先は、団長は知ってるだろうけど、モクローとアシマリにも説明すると、空腹なあたしたちを見た団長は、あたしたちに食べ物をくれた。

で、何も聞かずに、雇い入れてくれたの。

ただの貧乏なポケモンだって思われたんだろうけどね。

――


フーディン「ああ。正直その時は、救済、って意味が強かった」

エーフィ「だけど、本当にありがとう。こうしてみんなと出会えて、よかった」

ブラッキー「そー言うのは後。今はミリスの話」

ブラッキー「ヤングースはあそこの治安維持に頑張ってるポケモン。ヤレウータンは、祠を護ってる」

ブラッキー「どっちも、僕らとは顔見知り」

エーフィ「ああ、そうなの。優しかったんだけどさ、まあ、心配で追っかけて来てるのかもしれないけど、ちょっと、怖かった。どうしても、怖かった」
 ▼ 135 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:57:14 ID:7r7VPQrE [28/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィが一息に語り終えると、オイラは問い掛けた。


アシマリ「パパとママは、知ってるの? エーフィたちが今、どうしてるのか」

エーフィ「旅に出ます、捜さないでね、って置き手紙だけ置いといたけど、どうだろ、サーカスって事は、最近まで知られてなかったんじゃないかな」

モクロー「今日の公演で、何かしら広まった……? 今まで公演した場所は?」

エーフィ「えっと、実は、ラサーシャが初めてなの」

アシマリ「えっ、あれが初めてだったの?!」

フーディン「ああ。なかなか才能があるなって思ったんだ」

エーフィ「えへへ……。まあ、それはともかく、ラサーシャの公演は、入りが悪かったけど、それでも今回とそんな変わらないんだよね。うーん、なんでこんなすぐにバレたんだろう……」

モクロー「イスカーは、天文台の街。ここに来る意味があった……? だとしたら、その理由は……エクリプス? もしかしてだけど、日食について調べてたのかも」


モクローが首を回しながらそう言う。

見慣れているからオイラはなんとも思わなかったのだが、傍から見るとなかなかにシュールな光景らしく、エーフィたちは反応に困っているような表情を見せた。
 ▼ 136 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:58:22 ID:7r7VPQrE [29/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「まあ、とにかく、オイラは明日もサーカスの仕事があるからね。明日はお手玉をわざと失敗して、観客を盛り上げるって言うピエロもやってみようかなぁ」


それこそ、暗く沈んだ雰囲気に耐え切れなくなり、オイラは話題を逸らす。

それに、ダンチョーが、思いの外しっかりと反応してくれた。


フーディン「ん? ああ、いや、それはまだ大丈夫だ。失敗に耐えられるメンタルは、経験を積まないと鍛えられない。

       お前にはまだ早いし、生憎他の誰1人としてそんなメンタルは持ち合わせてないからなぁ。

       ピエロは、まだ演出に組み込んでない。

       どちらかと言うと、着実なパフォーマンスで、観客の心をつかみ、口コミで噂を広げてもらうってのが最優先だからな」

アシマリ「なるほど。じゃあ、明日に備えて、もう寝るね。お休みー」
 ▼ 137 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:58:57 ID:7r7VPQrE [30/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
難しい話をして頭が疲れていたのか、あんなに昼寝をしたのに、グッスリと眠れた。

目が覚めると、またブラッキーの料理の匂いがすると言う贅沢。


アシマリ「おはよー……」

モクロー「おはよ、アシマリ」

アシマリ「もうそろそろ朝ごはんだよね。行こう」

モクロー「うん」
 ▼ 138 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:59:22 ID:7r7VPQrE [31/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「「ごちそうさまでした!!」」


ごはんを食べ終わり、少しだけ体を休めた後、オイラは、練習を始めた。

本番までの数時間、少しでもクオリティを高めるべく、オイラは何度も繰り返し、同じ動作を行う。

その間、モクローはフーディンとともに調査に行っている。


ニャビー「団長とモクロー、どこ行ったの?」

アシマリ「エーフィとブラッキーに関して、調べに行ったよ。あの2匹、昨日故郷からの迎えが来て、怯えてるんだ」


唐突に、そう声を掛けて来るニャビー。


アシマリ「でも、なんで?」

ニャビー「直前だってのにいないから。でも、それなら仕方ないか。照明は、サーカスの命。その2匹の心理的不安を取り除くのは、立派な仕事ね」


そう言い放ち、自らの練習に戻って行った。
 ▼ 139 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 19:59:50 ID:7r7VPQrE [32/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビーは、サーカスに全てを賭けている。

別のポケモンの心配より、きっと、自分の心配より、サーカスの事が優先。

そんな覚悟に、ただただ、圧倒されるばかりだった。


アシマリ「負けてらんないな」


意気込みだけは、負けられない。

それが、最初から実力で敵わない者の、唯一の対抗手段だから。

オイラは、ニャビー直々に、「あたしに追い付いて」と言われたんだ。

頑張るしかない。

そうやって気合いを入れ、オイラは、一層練習に打ち込んだ。

その間、昨日のあの出来事は、記憶から消え去っていた。
 ▼ 140 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 20:00:18 ID:7r7VPQrE [33/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そして、公演2日目。

モクローも戻って来て、本番を迎えた。

結果は大成功。

観客の入りも、昨日と比べたらいくらかマシにはなっていた。

昨日の公演の評判がよかったのだろう。

観客の中に昨日のヤングースとヤレウータンを捜そうかとも思ったけれど、さすがにそこまでの余裕はなかった。

オイラの演技は、昨日と同じ、安定したクオリティ。

だけど、精神的な疲れが軽減されたのは、昨日からの大きな成長だろう。

ニャビーの演技は相変わらず凄い。

追い付くなんて、夢のまた夢だ。

それでも、サーカスでの活躍、という夢が現実になる。その感覚がたまらなかった。
 ▼ 141 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 20:01:03 ID:7r7VPQrE [34/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「お疲れ様。で、エーフィ、ブラッキー、アシマリ、ちょっと来て。調べた結果を説明したいんだ」

ブラッキー「僕、料理作るから」

エーフィ「後であたしから伝えるからさ、とりあえずあたしにだけ聞かせてよ」

モクロー「わかりました。団長、来てください。説明しますよ」

フーディン「ああ、了解」


オイラたち4匹が集まる。

周りがガヤガヤとうるさかったけれど、フーディンが「お前ら暇なら練習しろよ」とど正論で追っ払った。


フーディン「今日は、とりあえず、日食の時起こる現象について調べようと思ったんだ」

モクロー「だけど、記録がなかった。神話的レベルまで遡ればあるにはあったんだけど、やっぱりそんな精神を抜きにして考えるべきだと思ったんだ」

フーディン「日食は、普通に起こる出来事だ。その時世界に滅びが起きるなんて、言い伝えでしかないって事だ」
 ▼ 142 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 20:03:08 ID:7r7VPQrE [35/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「次に、日食の周期が、もうそろそろ、具体的には、来週中って事」

エーフィ「えっ?! エクリプスが、来週中?」

アシマリ「エーフィ、エクリプスって言うの?」

エーフィ「うん。基本、ミリスではエクリプス、で統一されてるから」

アシマリ「へぇ」

フーディン「このサーカスも、何かしらの関係があるのかもな。

       でも、うちがミリスを出てからも、親父と御袋が死んでからも、日食は何度も起きた。

       ……純粋に関係してる訳でもなさそうだが、その辺は調べてもわからなかった」
 ▼ 143 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 20:04:56 ID:7r7VPQrE [36/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「うーん、科学的に見ると、何もないんだよね」

アシマリ「ねえ、神話的に見ると、日食の時、何が起こるの?」

エーフィ「エクリプスの化け物が出て来る、って言うよね。おいたをすると、そうやって怒られたんだ」

フーディン「エクリプスの化け物……か。何の事やら」

エーフィ「とにかく、何かしらの異変が起きると思うの。ねえ、何か見た覚え、ない?」


そう聞かれて、オイラはふっと思い出す。


アシマリ「えっと、それなら、なんか変なひずみがあったような……」

エーフィ「えっ?! いつ?! どこで?!」

アシマリ「ここ来てすぐに、ニャビーと。すぐに消えちゃったけど、でも確かに見たよ」
 ▼ 144 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 20:05:23 ID:7r7VPQrE [37/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「関係性はまだわからない。けど、何かしらあるのかも。そっちも調べないとな……。ミリスは、エーフィとブラッキーを、どうしようとしてるのか」

エーフィ「まずは、ソルガレオとルナアーラに関して、詳しく調べるのが先決だと思う。ミリスにおける神様よ。

      彼らが、何かしら関わってるのは、祠の守りポケヤレウータンがわざわざここまで来た時点で確定だと思う」

フーディン「わかった。俺が調べておく」

モクロー「ソルガレオと、ルナアーラね、わかった」

エーフィ「本当にありがとう、あたしたちのためにこんな……」

アシマリ「いいっていいって! ニャビー曰く、エーフィたちが困ってるとサーカスのクオリティも下がるらしいから、思い切って甘えた方が、みんなのためだよ!

      困ってるポケモンがいたら、助けてあげたいしね。オイラは忙しくて無理だけど」

フーディン「ああ。だから、お前たちは気にせず、目の前の照明にだけ集中してくれ」

エーフィ「はい!」
 ▼ 145 1◆J44kAZeDOM 16/09/27 20:05:46 ID:7r7VPQrE [38/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







3章 狙われる姉弟 完






 ▼ 146 クフーン@グラシデアのはな 16/09/27 21:46:00 ID:t7s/597I NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ペース速いなぁ
 ▼ 147 リヤード@なんでもなおし 16/09/27 22:03:29 ID:DcuTQ0NQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
めっちゃ面白い

超支援
 ▼ 148 トツキ@しろいビードロ 16/09/28 02:09:00 ID:zSZBeUqY [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援!
ヤレウータンじゃなくてヤレユータンですね
 ▼ 149 CSn9vcIqE6 16/09/28 09:01:28 ID:tWVZR2jU NGネーム登録 NGID登録 報告
面白い…
支援です!
 ▼ 150 ガプテラ@ハスボーじょうろ 16/09/28 10:00:17 ID:PWfEJ6io NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 151 ククラゲ@きいろビードロ 16/09/28 17:14:04 ID:xIl1FY7s NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 152 グノム@かいのカセキ 16/09/28 20:14:34 ID:5rkoB34Y [1/38] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
>>148
勘違いしてました、辛い
訂正感謝です
 ▼ 153 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:14:57 ID:5rkoB34Y [2/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







4章 異変






 ▼ 154 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:15:29 ID:5rkoB34Y [3/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌日も、公演は大成功。

観客の入りが、目に見えて増えている。

これもオイラたちが入ってからの事だと考えると、モクローの指導力の強さは計り知れない。

ニャビーが、「ひっさびさに見たな、こんなちゃんと見えるレベルの大勢のお客」と感慨にふけるように言っているのを聞いた。


アシマリ「でも、もっと凄かったんでしょ」

ニャビー「まあね。前評判ってのもあるし、やっぱりまだ、他のとこよりかはレベルも低いからね。急成長したうちに対する興味、ってのが観客の目当てな気がする」

アシマリ「でも、オイラはそれでも構わないけどね。注目されればされるほど、やる気が出て来るし!」

ニャビー「でも、あんた今、エーフィたちに関して調べてるんでしょ?」

アシマリ「まあね。でも、オイラじゃなくて、モクローとダンチョーがだけど。オイラ、考えるのは苦手だし」

ニャビー「舞台にだけは持ち込まないでよ。あんたの疑問なんか、観客にはどうでもいいんだから」

アシマリ「わかってる。でも、舞台の上以外で、そんなに気を張る必要あるかなぁ」

ニャビー「当たり前でしょ。エンターテイナーたる者、一瞬たりとも油断しちゃ駄目。じゃないと、いつ足元を掬われるか、わからない」

アシマリ「でもさ、ニャビー。そんな生き方、しんどくない?」

ニャビー「……あたしは、ずっと、そうやって生きて来た」
 ▼ 155 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:15:54 ID:5rkoB34Y [4/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「うーん……。なんで、なんでそこまでストイックに出来るの?」

ニャビー「サーカスの裏側を知ってるから。それと……あたしには、空中ブランコしかない。他の何も、あたしは持ってない。だから、それを、二度と手放したくない」

――あたしの唯一のアイデンティティを、奪われたくないから。


聞いていて、苦しかった。

ニャビーは、サーカスに、全てを賭けている。

自らの魂すら削って空を舞う。

そんなの面白くないよ、と思う。

理由はわからないけれど、どうしてか、そう感じてしまう。

耐え切れずに、オイラは立ち去った。
 ▼ 156 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:16:48 ID:5rkoB34Y [5/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オイラの覚悟は、甘いのだろうか。

オイラは、サーカスを舐めていたのだろうか。

ニャビーの覚悟は、これほどまでに重かったのか。

ため息を吐く。


モクロー「どうかしたの? ため息なんか吐いて」

アシマリ「ううん、なんでもないよ」

モクロー「そ」
 ▼ 157 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:17:10 ID:5rkoB34Y [6/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「それより、ソルガレオとルナアーラって、結局なんだったの? 伝説のポケモンなのはわかるんだけどさ」

モクロー「あー、太陽の力と月の力を司るポケモンなんだ。伝説によると、日食で崩れる異世界とのバランスを保ってくれるらしいけど……まあ眉唾だね。所詮神話。現実に起こるとは思えないんだ、やっぱり」

アシマリ「うん……」


頭がごちゃごちゃして、何だか、何もマトモに聞けそうになかった。


アシマリ「ごめん、今日はなんか、頭の回転が、いつもより遅くって。ちょっと休ませて」

モクロー「なんか変だよ。ストレスが溜まってるなら、いつでも話してくれて構わないよ?」

アシマリ「ありがと」


それだけ言うと、オイラは、寝床まで行って、そのまま横になった。
 ▼ 158 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:18:08 ID:5rkoB34Y [7/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
眠れない。

ニャビーの顔が、頭の中をグルグルと周り、オイラの意識は冴え渡って行く。

ゴロゴロと寝返りばかり打っていると、エーフィの声が聞こえた。


エーフィ「ねえ、アシマリ、なんか変なんだって?」

アシマリ「エーフィ」

エーフィ「モクロー、心配してたよ。アシマリさ、何かあったみたいだけど……ニャビーと話してからだよね」

アシマリ「えっ?!」

エーフィ「やっぱり。カマかけた甲斐があったよ」

アシマリ「か、カマ……」

エーフィ「そ。十中八九そうだとは思ったけど、やっぱりそうだった、って感じ」

アシマリ「うん。正解だよ。ニャビーの事。ニャビーの覚悟、重すぎて、辛いんだ。かわいそうって、思っちゃう。ニャビーは、自分で選んで、ああしてるってのに」

エーフィ「あー、まあ、確かにね。ニャビー、パフォーマンスは凄いけど、尖り過ぎてて、いつか、ポッキリ折れそうって心配では確かにある」

アシマリ「……オイラ、ニャビーに、何も言えなかった。ニャビーの覚悟、強すぎて、オイラ、絶対勝てないって、オイラ、オイラ……」
 ▼ 159 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:18:44 ID:5rkoB34Y [8/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
泣き声で続けるオイラをふっと遮って、エーフィは言った。


エーフィ「アシマリ、あんまり気に病み過ぎる事ないよ。そりゃ、勝ちたいって思う気持ちは大切だし、そう言う気概がないと、どんどん劣化してくだけってのはわかるし。

      でもさ、アシマリ。勝ち負けじゃないでしょ、同じサーカスの仲間なんだから。一緒によりよくしていければいい話じゃん」

アシマリ「……」

エーフィ「まあ、いろいろと思う所はあるだろうし、ゆっくり悩めばいいよ。誰だって、スランプはあるし、あたしたちの事気にしちゃってるのかもしれないし」

アシマリ「エーフィのせいじゃないよ! それは、絶対に違うから!」

エーフィ「ありがと」
 ▼ 160 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:19:19 ID:5rkoB34Y [9/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
思考がぐるぐると渦を巻く。

「うずしお」が使えたら、こんな悩みも超えられるのだろうか。

残念ながら、オイラは今の所、「うずしお」を覚える気配なんてないのだけれど。

オイラの演技は、贔屓目抜きに悪くないと思う。

けれど、ニャビーに遠く及ばないのは、やっぱり覚悟の差なのだろうか。


そんな風に臥せっていた時の事だった。



「なぁ! これ、見てくれよ!」


誰かがそう叫んでいる声が聞こえた。

そして、その内容は、さらにオイラを驚かせることになる。
 ▼ 161 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:19:45 ID:5rkoB34Y [10/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「新聞に、太陽と月、世界が滅ぶうんぬんって! その時が、もうすぐだって、そんな記事がっ!」

「「ええっ!!」」


みんなが叫び声をあげる。


「世界が、滅ぶだぁ?」

「どう言う事よ……」


みんなの疑念の声が上がる。

けれど、オイラとモクロー、そしてエーフィ、ブラッキー、そして、ダンチョーの脳裏には、全く違う疑念が浮かんでいたはずだ。

どうして、それが漏れ出したのか。そして、これから、どうなってしまうのか。

ポケモンサーカス団エクリプスの苦難のステージは、この瞬間に幕を上げた。
 ▼ 162 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:20:58 ID:5rkoB34Y [11/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「太陽と月が交わる時、世界が滅ぶ……」

エーフィ「ミリスにしか伝わってないはずよ、この言い伝えっ! 誰かが伝えたのかもしれないけど、でも、ミリスから外に出るポケモンなんてそういるはず……」

フーディン「いたとしても、基本的に口外はNGだろ? 俺ぐらいだぜ、頓着せずに周りに伝えようと思ったの。

       それだって、エーフィたちがミリス出身だと聞かなかったら絶対言わなかった。

       しかも、アシマリとモクローには口止めまでした。よな?」

アシマリ「うん」


オイラたちは、5匹で集まる。

他の誰にも、話せなかった。


モクロー「門外不出も緩まって来てる、と考えられますけど……」

フーディン「でも、俺たちの誰も、言ってないんだろう? となると、それこそミリスの……ヤレユータンと、ヤングースの2匹組が漏らしたんじゃないか?」

モクロー「その可能性が一番高い……。でも、だとすると、狙いはなんだ?」


そう、モクローが呟いた時だった。

ニャビーがオイラたちの集まっているスペースに乱入して来たのは。
 ▼ 163 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:21:25 ID:5rkoB34Y [12/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビー「団長、外が騒がしいから、対処して来て」

フーディン「ん、外?」

ニャビー「エクリプス……。なんでそんな名前にしたのよ」

フーディン「それはカクカクシキジカで……っと、とりあえず、行って来るわ。みんな、話し合いを続けといてくれ」

ニャビー「何の話?」

フーディン「あっと……とりあえず、みんな、任せた!」


そう言うと、ダンチョーは逃げるように去って行った。


モクロー「外がうるさいって、何の話?」

ニャビー「ったく、なんでよりにもよって、日食なんて名前を冠したのよ、このサーカス団は!」

エーフィ「ニャビー、答えてよ!」

ニャビー「エクリプス! 日食絡みでなんかしでかそうとしてるんじゃないのかってうるさいの!」

アシマリ「え?」

ニャビー「うちのサーカス団が、世界を滅ぼそうとしてるんじゃないかって、バカな奴らが騒いでんのよ!」

「「ええ〜っ!!」」
 ▼ 164 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:22:39 ID:5rkoB34Y [13/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「なんで?」

ニャビー「エクリプスって名前のせいよ。……世間ってのは、1回出来た風潮を、しつこく引きずる物。もう、うちはダメよ。潰される、社会に」

アシマリ「そんな……」

ニャビー「あんたらが何の話してんのか知らないけど、早いとこ無実証明しないとダメ。何よりもまず、それが大事。事実無根な噂でも、長引くとそれが事実になる」

モクロー「……うん。僕たちは、ちょうど、その話をしてた」

ニャビー「え?」

モクロー「エーフィも、ブラッキーも、ミリスの出身。あの文句は、知ってた。あの街から逃げて来たんだ、2匹は」

エーフィ「うん。……まさか、こんな事になるなんて……」

ブラッキー「運命、逆らえない」

モクロー「どうしてミリスの奴らが2匹を狙うのか、調べ――」

ニャビー「どう言う事よっ、あんたらのせいなの?!」
 ▼ 165 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:23:53 ID:5rkoB34Y [14/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
叫ぶニャビー。

呆気に取られたようなみんなを後目に、オイラは叫んだ。

何も考えないままに、口から言葉が溢れ出す。


アシマリ「ニャビー! 違う、エーフィたちのせいじゃないっ!」

ニャビー「どう違うってのよ! ミリスのヒトにしかわからない文句で、うちを潰そうとしてるんなら、狙いはエーフィたち以外に考えられないでしょ!

      あんたらが、あんたらが……また、あたしから、奪うんだ……空中ブランコを、奪うんだ……あたしの、あたしのサーカ――」


その瞬間、オイラの中で、何かが弾けた。

そのまま、口から「みずてっぽう」を放つ。


ニャビー「な、何すんの?!」

アシマリ「……ニャビー、それは違うよ。サーカスは、君だけの物じゃない。オイラたち、みんなの物なんだっ!

      エーフィたちのせいにするなっ! エーフィたちは、何も悪くないっ!」
 ▼ 166 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:24:23 ID:5rkoB34Y [15/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビー「あたし、別に悪いとは言ってな――」

アシマリ「言ってる! ニャビー、オイラ、君の演技に憧れてここを選んだんだ。だけど……がっかりだよ。もう、ニャビーなんて、大っ嫌いだっ!」

ニャビー「……わかったわよ。勝手にすれば。あたしは、別のサーカス団を捜すから」

アシマリ「見付かるの? 2回もサーカス団を追いやられたニャビーを、雇ってくれるサーカス団なんて、あるの?」

ニャビー「……」

アシマリ「失敗して首になって、唯一雇ってくれたエクリプスはあんな騒動で潰れ、ニャビー、君は、呪われてるとか言われるんじゃないの? ニャビーを雇ってくれるとこなんて、もう、どこにもな――」

ニャビー「ふざけんなっ! あんたに何がわかるっ! あたしには、ブランコしかないのっ! あたしはっ! あたしは……」


それだけ言うと、ニャビーは走り去る。

オイラは、その背中を見届ける事なく、エーフィたちの方を向き直って、言った。


アシマリ「オイラ、疲れた。……もう、寝るね、お休み」
 ▼ 167 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:25:07 ID:5rkoB34Y [16/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌朝、モクローがその後の展開を説明してくれた。

曰く、ダンチョーはリフレクターとひかりのかべでテントを護っているのだと言う。

一部暴徒化したポケモンたちが、テントを襲ってきているらしいのだ。

そのガードだってあまり長時間は持ちそうにないらしい。

ニャビーは、結局部屋にいたらしい。

泣いていて、声すらかけられなかったと言う。


モクロー「今後どうするかは、団長が決めてるらしい。たぶん、今朝のごはんの後で発表だと思う」

アシマリ「わかった、ありがとう、モクロー」
 ▼ 168 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:25:33 ID:5rkoB34Y [17/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「「ごちそうさまでした」」


ごはんの味は相変わらずだけど、おいしいとは感じられなかった。

ただ、淡泊に、舌の上を滑り落ちて行く。


フーディン「……みんなに、話があるんだ」


反応は、なかった。

みんな、各々に事情を察し、真剣にダンチョーの声に耳を傾けている。


フーディン「とりあえず、一時的に、エクリプスは解散する事にした。もちろん、ただ解散する訳じゃない。俺たちは、絶対に事実を見付け出し、俺たちの無実を証明する。

       だから、今は、一度エクリプスと言う名前を外して、自由に動きたいんだ。

       みんなは、どうしてくれようと構わない。辞めようが、俺は止めないし、残るのなら、それでもいい。一旦帰って戻って来るのでもいい。

       とにかく、俺は、エクリプスの潔白を社会に示す。そのために、エーフィ、ブラッキー。それからモクローたち。お前たち4匹にだけは残って欲しい」


オイラたちは、揃って頷く。
 ▼ 169 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:26:00 ID:5rkoB34Y [18/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
と、周りから質問が飛んだ。


「なんでその4匹なんだよ」

フーディン「彼らは、独自に別の情報を持っているらしいからだ。その情報が、絶対に役立つ。だから、引き留めた」

「わかった」

フーディン「みんな、エクリプスは絶対に復活する。だから、サーカス団に残ると言うのなら、その時まで、耐えてくれ。辞めるヒトは……エクリプスの今後の活躍を、その目に焼き付けてくれ」

「やめるはずねぇだろ? 俺たちも協力するぜ。な、みんな?」

「おうよ!」

「当たり前でしょ!」


みんなが、口ぐちにそう言う。

オイラは、少し感動して、モクローにささやいた。


アシマリ「みんな、優しいね……」

モクロー「うん。みんなの分まで、絶対に謎を解いて見せないと」

アシマリ「だね」
 ▼ 170 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:27:49 ID:5rkoB34Y [19/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディンが、今までの事情を、全て説明した。


モクロー「言い伝えでしかないよ。ないけど……世間が信ぴょう性を感じたんだったら、早いとこそれを否定しないと」

「本当にただの言い伝えなのか? ダークマター事件とか、言い伝えが重要になってたんじゃねぇの? 古代の文字が、調査団の2匹に真実を伝えたとかうんぬん」

モクロー「それを言われると弱いけど……」

フーディン「……確かに、そろそろ本格的に、それが真実である可能性も考慮に入れないとマズイと思う。違えばいい。けれど、そうだった場合、エクリプス復活どころの話じゃない」

アシマリ「じゃあ、一旦信じてみようよ。その上で、考えよう」

エーフィ「うん。あたしたちも、言い伝え自体は、事実だと思う」


エーフィが締めくくり、モクローも、しぶしぶと言う体で頷いた。


モクロー「わかった。嘘だったら、嘘だった時に考えればいい、か」
 ▼ 171 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:28:12 ID:5rkoB34Y [20/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「よし。方針は決まった。さて、と。モクロー、アシマリ。お前たちを、テレポートで、街外れに飛ばす。の前に、変装しないとダメか……顔が割れてる」

エーフィ「変装なら、ブラッキーに任せて! そこらへんの物で、見事に別物に生まれ変わらせるから」


ブラッキーも、こくりと頷いた。

え、と止める間もなく、エーフィのサイコパワーが、オイラたちを締め付ける。


エーフィ「じっとしててね」

アシマリ「じっとするから……離して……」

エーフィ「ダーメ。少しでも動くと、ズレて、違和感が出て来るの」

モクロー「痛いよ……」

エーフィ「甘えないの、♂でしょ?」


そんな事を言ってる間に、モクローの姿は、まるきり別物になっていた。

と、オイラにもブラッキーが変装を掛ける。


ブラッキー「出来た」

エーフィ「お疲れ様」
 ▼ 172 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:29:43 ID:5rkoB34Y [21/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オイラたちは顔を見合わせると、その姿に思わず噴き出した。


アシマリ「うわっ、君誰?」

モクロー「アシマリこそ、全然わかんないよ、凄い!」


ここでも自慢気に笑うのはエーフィ。ブラッキーは、ただそこに佇むのみだった。

ハハハ、と笑った後で、フーディンが言う。


フーディン「よし。じゃあ、飛ばすぞ。1、2、3!」
 ▼ 173 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:30:07 ID:5rkoB34Y [22/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
グラリと大地が歪み、思わず目を閉ざす。

そして、気が付いた時には、茂みの中だった。


アシマリ「凄いっ!」

フーディン「はあっ……疲れたぜ……。調べ終わったら、俺んとこに戻って来い。テントの中に戻すから」

モクロー「はい」
 ▼ 174 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:30:28 ID:5rkoB34Y [23/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「で、調べるったって、どこ行くの?」

モクロー「まずは、ソルガレオとルナアーラだ。太陽と月の化身。異世界とのバランスを保ってくれるはずのその2匹が、一体今、何をしてるのか」

アシマリ「で、どうやって調べるの?」

モクロー「……わからないんだ。ヤレユータンたちに聞ければ一番楽なんだけど、まず見付かるのか……」

アシマリ「居場所がわからないのか」

モクロー「うん。図書館でばっか調べても、事実はわかっても今の現象についてはわからない。……世界が滅ぶ、か。出来る事は、2匹を捜す事だけみたいだ」

アシマリ「……わかった。捜そう」
 ▼ 175 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:30:51 ID:5rkoB34Y [24/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
結果的に、オイラたちに、捜す必要はなかった。

向こうから、オイラたちを捜してくれていたらしいのだ。


ヤングース「あいつですか?」

ヤレユータン「ああ。太陽の光の加護を受けておる」

アシマリ「あっ、いたっ! モクロー、あの2匹!」

モクロー「えっ!」


偶然の巡り合わせ、ではなさそうだ。

明らかに、オイラたちを指さして、捜していた、と言わんばかりの発言をしたのだから。

オイラたちは、2匹に駆け寄る。

「お前」とオイラを示し、ヤングースは言う。「太陽の加護を受けているな。こっちに来い」


ヤレユータン「光、の加護じゃ」

ヤングース「細かい事は気にしないでください」
 ▼ 176 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:31:41 ID:5rkoB34Y [25/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「お、オイラ?」

ヤレユータン「ああ。質問に答えてくれないか?」

アシマリ「いいけど……その前に、オイラたちの質問に答えてよ」

ヤングース「ああん? お前、誰に口聞いてるんだよ」

アシマリ「そこのヤレユータンにだよ。どうしても、聞きたい事があるんだ。なんで、なんで太陽と月の伝説をむぐっ!」

「すいません、こいつ、ちょっと慌ててて。でも、質問があるのはホントです」と、モクローが普段と全然違う口調で話を引き取った。

ヤングース「……お前ら、どうして太陽と月の伝説を知ってる」

モクロー「……答えは、あなた方が、僕らの質問に答えてからです。ソルガレオとルナアーラは、今、何をしているのですか?」

ヤングース「お前、絶対エーフィとブラッキーを知ってるだろ!」

モクロー「ソルガレオとルナアーラは、どうしてるんだ!」

ヤレユータン「……眠ってらっしゃるよ。エネルギー不足じゃ」

モクロー「なるほど……」
 ▼ 177 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:32:08 ID:5rkoB34Y [26/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヤングース「ど、どうして教えてしまわれるのですか?」

ヤレユータン「今さら構わんじゃろ。既に、世間は大騒ぎじゃ。主の企みのせいでの」

ヤングース「なっ……」

ヤレユータン「気付いとらんとでも思っちょったのか? 主が、あのサーカス団からエーフィたちをあぶり出そうとしていた事を。解散になれば、行き場を失い、戻って来ると。

        浅はかな考えじゃ」

ヤングース「でも、あいつらは間違いなくあそこに!」

ヤレユータン「ああ、おるよ。じゃがな、主は浅はかじゃ。世間に広めるべきでも、まして無関係なポケモンを巻き込むべきでもなかった」

ヤングース「でも……」

アシマリ「……何の話してるのかわからないけど、オイラに聞きたい事があるんだよね」

ヤングース「あ、ああ。エーフィとブラッキーを知らないか?」
 ▼ 178 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:32:35 ID:5rkoB34Y [27/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「……どうする?」


オイラは、モクローに問い掛ける。

自分ではどうすべきか、判断が付かない。


モクロー「あなたたち、もう既に知ってるみたいですけど」

ヤレユータン「察しは付いておる。が、確証はないのじゃ。主」


ヤレユータンはオイラを指さして、続けた。


ヤレユータン「エーフィの光を浴びた事があるじゃろ?」

アシマリ「……どうして」

ヤレユータン「あのエーフィは、ソルガレオの力の一端を持っておるのじゃ。色違いである事が、その証拠じゃ。あやつの光は、その加護を、他者に分け与えられる。

        そして、主はその加護を受けておる」

モクロー「ブラッキーも捜してるみたいですけど」

ヤレユータン「ルナアーラの力の一端を持っておるからの」

モクロー「なるほど、そういう事か……」

ヤングース「知ってるんだろやっぱり! 俺らを案内しろっ!」
 ▼ 179 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:33:12 ID:5rkoB34Y [28/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
はやるヤングースに、モクローは逆に落ち着きを取り戻し、問い掛ける。


モクロー「エーフィたちをどうするか、それだけ教えてください」

ヤングース「知って――」

ヤレユータン「黙れ、ヤングース。主は少し、性急が過ぎる。急いては事を仕損じるのじゃぞ」

ヤングース「うぐぐ……」
 ▼ 180 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:34:14 ID:5rkoB34Y [29/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヤレユータン「わかった。主らは、事情を求めておるのじゃな。こちらとしても、無闇に巻き込んだ責任がある。教えよ――

        ん? 待つのじゃ。気配が……」

アシマリ「気配?」


そう尋ねるオイラに、ヤレユータンは、わなわなと震えながら、呟いた。


ヤレユータン「世界に、滅びが訪れようとしておる……日食に向け、敵の前衛が来襲してくるのじゃ……」

ヤングース「なっ!」

ヤレユータン「……あそこのひずみが見えるか?」

アシマリ「ひずみ? あっ、前見た奴っ!」

モクロー「えっ」

ヤングース「つ、ついに来てしまったのか……」

ヤレユータン「慌てるな、じゃが……戦わねばなるまい」
 ▼ 181 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:34:36 ID:5rkoB34Y [30/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ひずみはどんどん拡大し、ついに、ぽっかりと穴が開いた。

そこから、赤い体躯の、鋭く伸びた口を持つ、4本足の謎の生き物が舞い降りる。


アシマリ「な、何あれ……」

ヤレユータン「ウルトラビーストじゃ……。ついに、来おった……」

モクロー「ウルトラビースト」

ヤングース「ポケモンではない生き物だ! 異世界からの侵略者! あいつらは、俺らを滅ぼすんだ!」

ヤレユータン「主ら! とりあえず、我が指示に従ってもらうぞ! 『さいはい』!!」

アシマリ「えっ、うわ、なんか体が勝手にっ!」


体の自由が奪われ、脳が、勝手に指示を出す。

ヤレユータンの声が、直接脳内に響いて来るようだった。
 ▼ 182 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:34:58 ID:5rkoB34Y [31/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
とりあえず、オイラは「みずてっぽう」で攪乱する。

そこに、モクローが「このは」で切り込む。

その2つが目くらましとして機能した所に、ヤングースが「かみくだく」を決めた。

けれど。


ヤングース「ぐああっ!」


ウルトラビーストが腕を1振り、ヤングースはあっさりと地面に叩き付けられた。


ヤレユータン「むう、対抗するには少々力が及ばんか……」

アシマリ「どうするの?!」
 ▼ 183 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:35:51 ID:5rkoB34Y [32/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヤレユータン「……仕方あるまい、もとより我ら通常のポケモンでは敵うはずもない敵じゃ。追い払えれば御の字じゃわい」

モクロー「答えてよ質問にっ!」

ヤレユータン「……わしもエスパーの端くれ、この程度であれば……トリックルーム!」


その瞬間、摩訶不思議な空間が形成される。

歪んだ時空の中、ウルトラビーストの行動は、著しく遅くなっていた。


ヤレユータン「あやつは素早さが高い。であるなら、こうしてしまえば、狙いも定まりやすいじゃろうて。そして……」


ヤレユータンは立ち上がり、行動を起こせずにいるウルトラビーストを、抱き抱えた。

そして。


ヤレユータン「テレポートっ! 時空の狭間へと消えるのじゃっ!」


そう叫び、ヤレユータンの姿が、消えた。

ウルトラビーストとともに。

歪んだ時空も、ヤレユータンが消えた事で再び元に戻る。

ひずみも、消えていた。
 ▼ 184 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:36:24 ID:5rkoB34Y [33/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オイラの声は、震えた。


アシマリ「き、消えたよね……。大丈夫だよね? ヤレユータンは、無事に、戻って来るよね? 時空の狭間とか言ってたけど……大丈夫だよね?」

モクロー「た、たぶんそうだよ」


そう言うモクローの声も震えていた。

いろんなことが起こり過ぎて、脳がまだ、追い付かない。


アシマリ「どう言う事なのモクロー……」

モクロー「わかんないけど……急がないと、本当に、世界が終わるって事だけはハッキリした……」

アシマリ「ってヤングースっ!」

モクロー「団長にこの事を伝えないと!」


オイラたちは、同時に別の事を思い出す。


アシマリ「モクロー、ダンチョーに伝えて来て! オイラはヤングースの面倒見るからっ!」

モクロー「わかった!」
 ▼ 185 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:37:18 ID:5rkoB34Y [34/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それからのてんやわんやは、ほとんど覚えていない。

気が付いたら、オイラとモクローは、テントの中で、変装のメイク跡を落としていた。


エーフィ「……ありがとう、そんな事が……」


オイラたちが情報を伝えると、エーフィは茫然とそう呟く。


エーフィ「あたしがソルガレオの、ブラッキーがルナアーラの加護を……」

モクロー「少なくとも、ヤレユータンはそう言ってました」


ヤングースは、眠っている。

とりあえず、よくなるまではここにいる事になったらしい。

今もまだ、意識は戻らない。


エーフィ「……世間では、色違いが迫害されたり、そう言った事もある中で、ミリスは優しいなって思ったら、そういう事か……」

アシマリ「ううん、きっと、そうじゃない。それは、エーフィたちがいいポケモンだったからだよ」

エーフィ「ふふ、ありがとう」
 ▼ 186 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:38:10 ID:5rkoB34Y [35/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「ところで、ニャビーは?」

エーフィ「ああ、ニャビーはね……」

――

アシマリ「ニャビー、なんでまだ、練習を続けてるの」


ニャビーは答えない。

オイラがそこにいる事にすら、気付かないようだった。


アシマリ「世界が、終わるかもしれないんだよ? それなのに、どうして、ニャビーは練習出来るの」


無駄とは知りながら、問い掛ける。

ニャビーとは即ち、空中ブランコ乗りだ。彼女には、それしかなくて、オイラなんかが入り込む隙はもちろん、世界の安全、という大きな問題すら入り込めないのは、わかっている。

けれど、それでも尋ねた。

どうしても、そうせずにはいられなかった。
 ▼ 187 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:38:52 ID:5rkoB34Y [36/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「怖くないの――」

ニャビー「怖いよ! 怖いに決まってるでしょっ?!」


不意に、ニャビーは叫んだ。


ニャビー「怖いよ。もう、サーカスが出来なくなるかもしれない!

      あたしは、怖いよ! 怖いから、飛ぶの! 

      飛ばなきゃ、あたしは潰されるから! 

      飛んでなきゃ、あたしは、死んじゃうから!

      あたしは、死にたくないの! 死にたくないよ……」


ブランコにぶら下がりながら、ニャビーは、泣いた。

ポツリ、と水滴が落ち、ステージで跳ねる。
 ▼ 188 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:39:36 ID:5rkoB34Y [37/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「……ニャビー、君は、空中ブランコだけじゃない。ねえ、ニャビー。一緒にいて、楽しかったよ?

      一緒にリンゴを探しに行ったのは、どうだった? オイラは、楽しかった。ニャビーと話せて、楽しかった」

ニャビー「……しばらく、1匹にさせて」

アシマリ「わかった。ニャビー、オイラは、待ってるから。

      だから、待ってて。オイラたち、エクリプスを、絶対に立て直すから。

      だから……」

ニャビー「アシマリ」

アシマリ「うん?」

ニャビー「……ありがと」


オイラは、ニコリと笑った。


アシマリ「どういたしまして」
 ▼ 189 1◆J44kAZeDOM 16/09/28 20:39:59 ID:5rkoB34Y [38/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







4章 異変 完






 ▼ 190 レザード@シルバースプレー 16/09/28 22:30:32 ID:zSZBeUqY [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ついにビースト登場か、ヤレユータン無事でいてくれ…
 ▼ 191 ーダル@ピッピにんぎょう 16/09/28 22:57:51 ID:tB3UlmhY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 192 シツブテ@まるいおまもり 16/09/28 23:16:28 ID:Zujd4JY2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
他作と世界観共有してたりするのかな?
 ▼ 193 ンムー@ハートのウロコ 16/09/29 07:17:18 ID:f/YTf4yE NGネーム登録 NGID登録 報告
>>192
ポケダン時闇空と同じ世界だと思う
違う大陸みたいだけど
 ▼ 194 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 19:43:35 ID:qarz5JhY [1/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







5章 名探偵モクロー






 ▼ 195 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 19:44:04 ID:qarz5JhY [2/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「ただいま、モクロ……」


オイラは声を掛けかけて、やめた。

モクローが、首をぐるぐると回していたのだ。

モクローは、考え事をする時に、首をゼンリョクで回すクセがある。

何を考えているのか、オイラには想像も付かなかったけれど、それでもオイラは、祈らずにはいられなかった。

お願いモクロー、真実を見付け出して。世界を救うための真実を。


エーフィ「ごはん出来た……モクロー、何して」

アシマリ「しーっ! モクロー、考え事してるんだから!」

エーフィ「あ、うんわかった。でもごはんが……」


そう言った瞬間、モクローの首が止まった。
 ▼ 196 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 19:45:03 ID:qarz5JhY [3/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィが申し訳なさそうに問い掛ける。


エーフィ「あっ、邪魔しちゃった? 考え事の」

モクロー「え? あ、いや違うよ」

アシマリ「じゃあ、わかったの?!」

モクロー「ごめん、そういう訳でもない」

アシマリ「そっか……」

モクロー「ごめんね」

アシマリ「いいよいいよ。オイラだって何も出来てない訳だし」

モクロー「……」

エーフィ「まあ、そういう事なら、腹が減っては戦は出来ぬ、食べよう、晩ごはん」

アシマリ「だね、モクロー。モクロー?」

モクロー「ん? ああ、ごめん、今行くよ」


モクローは、未だにぼんやりしていて、現実と思考の狭間を彷徨っているようだった。
 ▼ 197 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 19:45:42 ID:qarz5JhY [4/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「「ごちそうさまでした」」


食事を終え、オイラたちは、ヤングースが眠っているスペースを見る。

彼は、未だに目を覚ましていない。


アシマリ「大丈夫かな……」

モクロー「うん。みんなの手当てを信じよう」

アシマリ「だね」
 ▼ 198 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 19:46:51 ID:qarz5JhY [5/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
その後、ダンチョー、エーフィ姉弟、オイラ、モクローの5匹で集まる。


フーディン「アシマリ、モクロー。危険な目に遭わせてすまなかった」

アシマリ「いいんです、オイラたちは無事だったから」

モクロー「そんな事より、目の前の問題です」

フーディン「それもそうだ……」
 ▼ 199 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 19:47:13 ID:qarz5JhY [6/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「……エーフィがソルガレオの、ブラッキーがルナアーラの力の一端を持っている。それは、色違いである事実が示している」

エーフィ「ソルガレオ、ルナアーラの力が今、弱まっている」

ブラッキー「僕たち、狙われてる」

アシマリ「日食の時に起こるひずみ」

モクロー「襲い来るウルトラビースト」


わかった事実を次々と挙げて行くのみ。

それで何かが進歩するとは思えなかった。

けれど、だからと言って、何をすべきなのか。

エーフィとブラッキーは、何をすれば、世界を救えるのか。

全くわからなかいのだ。


モクロー「でも、なんで、このサーカス団はエクリプスなんて名前を冠してるんだろう……」


ポツリと呟かれた疑問に、応える者はいなかった。
 ▼ 200 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 19:48:48 ID:qarz5JhY [7/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
疲れた体を癒すべく、オイラたちは、議論を早い時間に切り上げて、眠りに就く。

そう、確かに、眠りに就いたのだ。

横には確かにモクローがいて、すぐそばには確かに、エーフィとブラッキーが眠っていたはずなのだ。

目が覚めた時、だから、オイラの衝撃は、とんでもなく大きかった。


アシマリ「うーん……おはよ、モクロー……。まだ寝てるの? 起きなよ……、モクロー。モクロー?」


隣には、ただ、空間があるのみだ。

モクローの姿は、影も、形もなかった。


アシマリ「ってぇぇぇぇえええええ?!」
 ▼ 201 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 19:49:11 ID:qarz5JhY [8/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「うるさいよ……」と寝ぼけた、けれど怒った声が聞こえる。

アシマリ「ご、ごめん、だけど、モクローがいないんだっ!」


そう言えば、いつもは鼻孔をくすぐるあの匂いがしない。

決まった時間を超えると、えげつない程の大声が飛び交うはずなのに、それもない。


アシマリ「エーフィ、ブラッキーっ!」
 ▼ 202 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 19:49:46 ID:qarz5JhY [9/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
いなくなったのは、3匹だけだった。

けれど、今一番いなくなられては困る3匹。

モクロー、エーフィ、ブラッキー。


フーディン「何が……何があったんだ……」

アシマリ「……とりあえず、オイラ、朝ごはん作るね」

フーディン「あ、ああ。頼む」
 ▼ 203 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 19:50:08 ID:qarz5JhY [10/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「「ごちそうさまでした」」


今までおいしく食べられていたオイラの料理が、どことなく味気ない。

気持ちの問題ばかりじゃないだろうけれど、それでも、ショックも大きかった。


アシマリ「ブラッキー……どこ行っちゃったの……」


何気ない1コマに、3匹の面影を見てしまう。

そして、悲しみが襲うのだ。
 ▼ 204 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 19:51:48 ID:qarz5JhY [11/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
思い返せば、昨日、首を止めた後のモクローは、どことなくおかしかった。

少しずつ冷静さを取り戻して行って、ごはんを食べ終わった頃には完全に戻ってたけれど、それでもどこか、変だった。

もしかして、あの時、何か気付いていたんじゃないか。

モクローは、あの時既に、気が付いていたんじゃないか。

フーディンに、そんな思い付きを伝えた所、フーディンは思索に潜って行った。


フーディン「少し考えてみる。目的地は、ミリスだと思うんだが……世界を救うには、エーフィとブラッキーを、か。どうして、モクローは、何も言わずに消えたんだ?」


オイラは何も言えずに立ち去った。
 ▼ 205 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 19:53:05 ID:qarz5JhY [12/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バルーンを膨らませる。

それを跳ね上げて、落ちて来たそれを、また跳ね上げて。

手持無沙汰な気持ちを、それにぶつけるように、イライラと跳ね上げた。

オイラは、どうすればいいの。

言葉が溢れ出して、だけど、何も外には漏れ出しては来ない。

苦しかった。

モクロー、帰って来てよ。
 ▼ 206 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 19:53:30 ID:qarz5JhY [13/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「……とにかく、ミリスに行くのが最安定だ」


ダンチョーがそうオイラに言う。

わかってはいた。

エーフィたちの故郷。全てを終わらせるのは、そこ以外あり得ない。

ソルガレオとルナアーラは、そこに祀られているのだ。


フーディン「小回りが利くポケモンが行った方がいい。俺たちは後から追い掛けるが、まずはアシマリ、1匹でミリスまで向かってくれないか?」

アシマリ「……うん。地図はある?」

フーディン「ああ。これだ」

アシマリ「ありがとう」
 ▼ 207 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 19:53:54 ID:qarz5JhY [14/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミリス。天文台の街イスカーからは、ダンジョンを1つ抜けるだけ……つまり、1日歩けば到着する。それほど離れた街ではなく、だからこそヤングースたちがここに来たとも言える。

だが、テレポートでミリスに直接飛ばすのは、さすがに厳しいらしい。

フーディンは、すまなさそうな顔で、言った。


フーディン「テレポートで、テントの外に飛ばす。準備が出来たら、声を掛けてくれ」

アシマリ「うん!」


準備、と言っても外に出られない現在、トレジャーバックを取る以外に何が出来る訳でもない。

それでもダンチョーは、その間に、みんなに事情を説明していた。

しかし、その場にニャビーはいない。

昨日からずっと、その姿を見ていなかった。
 ▼ 208 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 19:54:54 ID:qarz5JhY [15/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「準備、出来た」

フーディン「そうか。俺たちは、荷物ごと運ばないと。放置してはいけないからな、テントを。ただの迷惑だから」

アシマリ「うん。……行こう」

「待って」


不意に、背後から声が聞こえた。

振り返るまでもなく、オイラには、その声が誰の物かわかった。


アシマリ「ニャビー、どうしたの」

ニャビー「あたしも連れてって、アシマリ、団長。あたしだって、小回りが利くポケモンだよ」
 ▼ 209 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 19:55:36 ID:qarz5JhY [16/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ビックリした。

ニャビーは、事情を知っていた。

どこにもいなかった。聞いてなんて、いなかったはずだ。

けれど、ニャビーは確かに、その情報を知っていた。


ニャビー「あたしだって、サーカス団エクリプスの一員なんだから、話はちゃんと聞いてる。ねえ、団長、あたしも、何かしたい。お願い、あたし、自分で戦うから。

      空中ブランコは、誰にも奪わせないから」


フーディンは、ニャビーを見据えて、頷いた。


フーディン「わかった。2匹とも、地図は持ったか? 忘れ物はないか?」

アシマリ「大丈夫!」

ニャビー「大丈夫です。団長、急いで」

フーディン「わかった。しっかりしろよっ!」
 ▼ 210 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 19:56:06 ID:qarz5JhY [17/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
気が付くと、茂みの中、オイラとニャビーだけで佇んでいた。


アシマリ「オイラもニャビーも、エクリプスの一員だって事は街中に知られてる。隠れながら行こう」

ニャビー「わかってる」


物陰を隠れながら、こっそり移動する。

誰にも見付からないように、けれど、なるべく急いで。

街外れにやって来た時、オイラたちは、ほっとため息を吐いた。


アシマリ「つ、疲れたぁ」

ニャビー「休んでるヒマはないよ、行こう」

アシマリ「だね」
 ▼ 211 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 19:56:31 ID:qarz5JhY [18/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
街から続く、長い道のり。

オイラたちは、歩きながら、話をする。


アシマリ「ニャビー、来てくれて、ありがとう」

ニャビー「お礼を言われる筋合いなんかない。あたしは、あたしでいたいだけ」

アシマリ「それでも、オイラ、嬉しいんだ。ニャビーが一緒に来てくれて。

      ニャビー、ごめんね。オイラ、怒り過ぎた。ニャビーが凄過ぎて、オイラ、悔しくて……怖かった、ニャビーの覚悟が」

ニャビー「別に気にしてない。周りのやっかみなんて、別に特別な事じゃないし。それよりも、謝られた方がビックリよ」

アシマリ「だって、オイラ、本当は……ニャビーの事が好きだから」
 ▼ 212 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 19:57:50 ID:qarz5JhY [19/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビーの空中ブランコに惹かれたオイラ。

だけど、ニャビーを構成するほとんどの要素が空中ブランコなのだから、オイラは、ニャビーの事が好きなんだ。

ううん、違う。

1匹のポケモンとしての、ニャビーが好きだ。

それは、もう、間違いなく。


アシマリ「モクローがいなくなって、やっと気付けたんだ。いなくならないで欲しい。いつまでも、一緒にいたい。そう思えたんだ」

ニャビー「……告白なんか、してる場合じゃないでしょ」

アシマリ「そうだよね、ごめん」

ニャビー「……」
 ▼ 213 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 19:58:13 ID:qarz5JhY [20/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それでも、オイラたちは歩く。

モクローと、エーフィとブラッキー。

3匹が、ミリスの街で待ってるから。

オイラは、モクローに、話を聞く権利が、いや、義務があるはずだ。

オイラたちは、いつでも一緒だった。

オイラは、迷惑をかけっ放しで、いっつもモクローに甘えて来た。

だから、オイラは、聞くべきだ。

モクローが辛いなら、その話を聞くべきなんだ。
 ▼ 214 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 19:59:03 ID:qarz5JhY [21/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビー「食料の調達しないと。ダンジョンがあるんでしょ? ミリスまでの道中に」

アシマリ「うん。もうすぐだよ」

ニャビー「そこで、リンゴを探そう。大丈夫、あたし、高いとこだけは得意だから」

アシマリ「わかった。採るとこは任せるね」

ニャビー「あれ入り口じゃない?」

アシマリ「うん、あれが入口っぽい。急ごう!」


オイラたちは駆け出した。
 ▼ 215 ンバドロ@きいろのバンダナ 16/09/29 19:59:15 ID:pCDumZP6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 216 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 19:59:44 ID:qarz5JhY [22/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
辺りを見回しながら、リンゴの生っている木がないか探す。

探しながら、階段を見付けたら即座に降りて行く。


アシマリ「あっ、あった!」

ニャビー「採って来るね」

アシマリ「うん!」


リンゴが零れ落ち、地面に音を立てて転がった。

オイラはそれを素早く集め、かばんに放り込んだ。


ニャビー「ダンジョンを抜けてからにするべきね、食べるのは。行こう」
 ▼ 217 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 20:00:26 ID:qarz5JhY [23/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
結局、ダンジョンの中で、リンゴは3つ見付かった。

ダンジョンを抜け出して、夕暮れの中、リンゴ1個半で食事を済ませる。


アシマリ「うん、行ける。ニャビー、頑張ろう!」

ニャビー「うん」


その後も必死に走った。

ミリスまで、モクローたちを追い越せるように。

モクローたちより、先に着かないと。

何か、そうしないといけないような、予感があった。

オイラは、その訳のわからない予感に急かされながら、走る。


そして……。
 ▼ 218 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 20:01:02 ID:qarz5JhY [24/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「あ、街の明かりだ……」

ニャビー「あそこが……ミリス」

アシマリ「もうちょっとだよ、頑張ろう」


荒い息を抑え、必死に士気を上げる。

走りは出来なかったけれど、それでもしっかりと、歩みを進める。

少しずつ近付いて行く街灯り。

オイラたちは、それを目指して、進む。

太陽は沈み、月の見えない夜が始まる。

星だけが、煌々と煌めいていた。
 ▼ 219 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 20:01:26 ID:qarz5JhY [25/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「とうちゃーく!」

ニャビー「でも、安心するには早過ぎる。モクローたちを捜さなきゃ」

アシマリ「うん」


関所でボディーチェックをされたが、危険物の「ばくれつのタネ」を自己申告で係のポケモンに渡すと、他の物は確認されはしたが、そのまま通行の許可が下りた。


「どうしてミリスまで?」と関所のポケモンが聞く。

アシマリ「モクロー、来てませんか?」

「いや、まだだが……」


オイラたちは、顔を見合わせ、頷いた。

モクローたちは、まだ来ていないらしい。


アシマリ「ありがとうございます! それなら、ここで待ちます」

ニャビー「事情はいろいろあるんで、待ちながらここで説明しますね」
 ▼ 220 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 20:02:11 ID:qarz5JhY [26/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「なるほど、いろいろとあったんだな」


どうせバレるのだから、エーフィとブラッキーの事も、伝えておく。

モクローは、きっと、ここに来る。

「確かに、ミリスにその2匹が来ないと、世界は崩壊すると言われている。……ヤレユータン、そんな事を……」

アシマリ「助かり……ますよね?」

「ああ。ひずみを封じれば、彼はこっちへ戻って来られる。だから、とにかく、エーフィたちがここに来るって言葉を信じるしか……」

「あっ、アシマリ……?」


不意に、声が聞こえた。

ずっと、ずっと聞いて来た、懐かしい声。


アシマリ「モクローっ!」

モクロー「な、なんで君がここに……」

アシマリ「モクローの方こそ! なんで黙って、エーフィたちを連れ去ったりしたんだ!」


モクローを前にして、溜まっていた言葉が、流れ出す。

歯止めがかからなかった。
 ▼ 221 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 20:02:32 ID:qarz5JhY [27/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「モクロー! オイラを頼ってよ! オイラに相談してよ! 1匹だけで悩まないでよ! オイラ、ずっと頼りっぱなしだったけど……だったから!」

モクロー「アシマリ、落ち着いて!」


いつの間にやらエーフィとブラッキーも現れて、オイラを宥めていた。

関所のポケモンは、2匹の登場を伝えるべく、走り去ったらしい。

ここには、見知ったポケモンしかいない。

そう思うと、涙が零れた。

どうしても、止まらなかった。
 ▼ 222 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 20:04:53 ID:qarz5JhY [28/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「ごめん、落ち着いた」

エーフィ「全く、いきなり泣き出したりしないでよね。……泣きたいのはあたしたちだってのに」

アシマリ「……モクロー、オイラたちは、ダンチョーがたぶんここだからって言われて」

ニャビー「前衛としてやって来た。モクロー、あんた、1匹で考えるのは、違うよね。サーカスはみんなで創り上げる物。あんたが言ってたんだよ。

      確かに、そんなの綺麗事。だけどさ、綺麗事を信じてみてもいいんじゃないの?

      少なくとも、あたしが知ってるあんたは、そんな単独プレイに走るようなポケモンじゃなかった」

アシマリ「モクロー、オイラにも、苦しみを分けてよ。いっつも迷惑ばっかり掛けて来たんだもん、このぐらいさせてよ」

モクロー「……このぐらい、なんてもんじゃない。最悪、エーフィたちが死ぬかもしれないってのに、そんな事、言える訳ないよ」


今の発言で、オイラの口は、「よ」の形で固まった。

それはニャビーも同様だったようで、「え」と小さく漏らした。


アシマリ「今……なんて?」

モクロー「エーフィたちは、生贄にされるかもしれないんだ! それでも、エーフィたちは、世界を救うために戻って来たんだ!」

エーフィ「……モクロー、あたしから話すよ、あなたの推理を」
 ▼ 223 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 20:07:01 ID:qarz5JhY [29/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
***

あたしたちがソルガレオとルナアーラの力を持ってる事。

そして、2匹の力が今、弱まっている事。

この2つを総合して、あたしたちは、自分の力を2匹に捧げないといけないんだって。だから、あたしたちは狙われていた。

そう考えるのが自然なの。

そして、不憫な目に遭う……。

最悪の光景しか見えなかったんだって。

あたしたちは、2匹のための生贄なんだって。

世界を救うには、あたしたちの命を、犠牲にしないといけないかもしれない。

モクローはね、あたしたちだけに伝えてくれた。他のみんなに知られてあたしたちが辛い気分にならないように、って。

バレたら、みんな、かばってくれるとは思うけど、どうなるかわからない。怖がって、生贄にすべきだなんて、言われるかもしれない。

世界を救うための別の方法を考える時間も、まだあるはずだって。
 ▼ 224 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 20:07:30 ID:qarz5JhY [30/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
だけど……あたしたちのワガママのせいで、世界が危機に晒されるのなら……耐えられなかった。あたし、そのぐらいなら、死んだ方がマシだって、本当にそう思えた。

モクローは、そんなあたしたちについて来てくれた。

最後まで、誰でもいいから、サーカス団の誰かといたかった。

出来る事ならみんなでいたかったけど、これを伝えて、どうなるかわからない。

止められるのも、止められないのも、怖いから。

だから、あたしたちは、モクローだけと一緒にミリスに来たの。

……でも、あたし、幸せだったよ。最後の時に、こうして、みんなと会えて。

サーカス団エクリプスで時を過ごせて。

***
 ▼ 225 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 20:07:58 ID:qarz5JhY [31/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「エーフィ、なんで……なんで……」

エーフィ「言ったよね。世界を、あたしたちの気持ちだけで無駄に危険に晒すのが、辛いって。ブラッキーも、同意してくれてる。だよね?」


ブラッキーはこくりと頷いた。

それを確認して、エーフィは続ける。


エーフィ「他のみんなと、最後に会いたかったけど、でも、いいの。世界を、早く救いたいから」

アシマリ「待ってよ……みんなの気持ちは、どうなるの?」

エーフィ「それは、ホントに申し訳なく……」

アシマリ「でもっ! オイラ、寂しいよ……」

エーフィ「……お願いだから、止めないでよ。あたしは、決めたの! これ以上、覚悟を揺るがせさせないでっ!」

アシマリ「いいや、止める。まだ、手段は……あるよ。ソルガレオとルナアーラが力を取り戻せばいいんだよね」

モクロー「だと思うけど、どうやって」
 ▼ 226 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 20:08:19 ID:qarz5JhY [32/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オイラの脳裏に、様々な景色がフラッシュバックする。

サーカス団に入団して、サーカス団を盛り上げた事。

必死で荷物を運び移動したあの道のり。

エーフィの大声。

ブラッキーの料理。

ニャビーのパフォーマンス。そして、ニャビーの覚悟。

舞台に贈られた、温かい拍手。








アシマリ「……ソルガレオとルナアーラに、サーカスを見せよう。オイラは、サーカスに、元気をもらった。きっと、伝説のポケモンだって、元気になれるよ」
 ▼ 227 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 20:08:56 ID:qarz5JhY [33/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィ「えっ!」

モクロー「なっ……」

ニャビー「あんた、何言ってんのっ?!」

アシマリ「オイラ、本気だよ。世界のために犠牲になるのは、それからでも遅くない。日食まで、まだ何日かあるんでしょ? 明日の夜には、フーディンたちもこっち来るはずだよ」

エーフィ「で、でも……」

アシマリ「覚悟は、決まってるんでしょ? だったら、もうやめろとは言えない。だけどさ……最後の悪あがきぐらい、してもいいでしょ?

      もう、他に打つ手なし、PP切れだ。だから、HPが切れるまで、悪あがきしたい」

モクロー「でも、そんな事言ったって……」

アシマリ「お願いだよ、モクロー。

      ニャビー、ニャビーのパフォーマンスは、誰かに力を与えられる。

      オイラは、ニャビーのお陰で、エクリプスに入ろうと思えた。

      ニャビーの演技が、オイラに力をくれたんだ」
 ▼ 228 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 20:09:26 ID:qarz5JhY [34/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビー「あたしが……」

アシマリ「うん。ニャビーは、自分の魂を削って観客にそれを見せる。それって凄い事だよ。

      オイラは絶対にマネできないし、しないけど。

      そんなパフォーマンスが誰かの力になるのは間違いないよ」

モクロー「でも、伝説ポケモンだよ? 僕たちの常識が通用するとは思えないんだけど……」

アシマリ「通用しなかったら、オイラの負け。エーフィたちは救えない。でも、初めから何もしないより、絶対マシだ!」

エーフィ「……でも、違うの。あたしたちは、速く世界を救いたいんだって――」

ブラッキー「乗った」

エーフィ「え?」

ブラッキー「だから、アシマリの案に、乗った」


そう言って、ブラッキーは、信じられない程長々と、言葉を紡ぎ始めた。

真剣な表情で、エーフィを見据え、強く、ハッキリと、言う。
 ▼ 229 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 20:09:48 ID:qarz5JhY [35/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ブラッキー「アシマリが言ってる事は、何も間違ってない。

       姉ちゃん、何も、死に急ぐ事はないと思う。

       残されたポケモンたちは、きっと悲しむ。

       それなのに、僕たちが辛いからなんて勝手な理由で、死に急いじゃ、いけないと思う。

       誰かが僕たちの事を思ってくれてる限り、僕たちが諦めちゃ駄目だ。

       ニャビーのパフォーマンスは、確かに凄い。

       それだけじゃない。アシマリのだって、それは凄いと思った。

       モクローの司会だって、普通に上手い。

       それに、僕たちのライトワークも上手いってよく言われるじゃん。

       それだけじゃない。

       みんな、やる気を出して、少しずつでも上達してる。

       姉ちゃん、エクリプスは、もう、へっぽこサーカス団じゃないよ。

       立派な、誰かを楽しませる事が出来る、エンターテイメントだ。

       ルナアーラとソルガレオが楽しんでくれない理由が、どこにある?

       力を取り戻してくれないと断言出来る?

       証拠は、何もない。だけど、やってみる価値はあるよ」
 ▼ 230 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 20:10:47 ID:qarz5JhY [36/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ブラッキー「僕は、アシマリの言う通り、悪あがきをしたい。

       PPが切れても、体力が切れるまで。

       時間切れの、その瞬間まで。

       悪あがきをしたい。生贄になんか、なりたくない。

       みんなと、もっといたい。

       みんなで、サーカスを創りあげたい。

       エクリプスを復活させたい。

       姉ちゃん、僕は、間違ってる?

       こう思うのは、僕のワガママ?」
 ▼ 231 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 20:11:38 ID:qarz5JhY [37/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィが、戸惑った表情で、呟いた。


エーフィ「ぶ、ブラッキー、そんな長いセリフ、話せたんだ……生まれて初めて聞いた」

ブラッキー「うん。話す必要を今まで感じなかったから。エーフィが代わりに話してくれたし、喋ると余計区別が付かなかったからね、イーブイ時代」

エーフィ「そ、そんな理由で……」

ブラッキー「それはともかく、いいよね、姉ちゃん。僕からの、一生のお願い」


エーフィは、一瞬の躊躇いを見せる。

ブラッキーは、そんなエーフィを、力強い眼差しで見詰めた。


エーフィ「……わかった。ブラッキー、あんたがそう言うなら、あたしは、それを叶えたい。

      ブラッキーの、生まれて初めての、願いだから、ううん、絶対に、叶えてみせる!」


エーフィは、決然と叫んだ。
 ▼ 232 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 20:12:38 ID:qarz5JhY [38/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「ブラッキー! エーフィ!」


オイラは嬉しくて、2匹を見回す。


ニャビー「ったく、あたしにはこれしかないって、知ってるクセに。サーカス、やるよ。あたし、空中ブランコに乗ればいいのね」

モクロー「……」


戸惑ったように首を回すモクローに、オイラは声を掛ける。

ニコリと、いつもと同じ笑顔で。


アシマリ「モクロー、もっと、楽に行こうよ。何にも考えてないみたいなオイラに言われるってのも癪だとは思うけど!」

モクロー「……違うよ、アシマリは、ちゃんと考えてる。わかったんだ、なんで、なんでエクリプスなのか」

アシマリ「え?」

モクロー「なんでうちは、エクリプス……日食を冠した名前なのか。その理由の、1つの可能性が」
 ▼ 233 1◆J44kAZeDOM 16/09/29 20:13:02 ID:qarz5JhY [39/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







5章 名探偵モクロー 完






 ▼ 234 リゴン2@スペシャルガード 16/09/29 20:31:36 ID:UpbfnrCs NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 235 ェイミ@しんじゅ 16/09/29 22:31:56 ID:D1hsi9Ks NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 236 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:22:33 ID:t1tIRUws [1/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







6章 サーカス団のアシマリ






 ▼ 237 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:23:25 ID:t1tIRUws [2/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――団長、ってな訳で、なるはやでお願いしますよ、なるはやで!

アシマリ「エーフィ、どう?」

エーフィ「今日中には到着出来そうだって」


エーフィは、エスパーの特権を生かして、ダンチョーにテレパシーで連絡を取った。

エーフィの顔には、笑みが浮かぶ。


ブラッキー「エクリプスは、まだ明後日。時間に余裕はあるよ」

エーフィ「うん。……モクローとニャビーは、今何してるの?」

アシマリ「ニャビーは、器具もないのに、練習してる。木の上で、バランスを取る練習。モクローは、街のポケモンたちに、事情を説明して回ってるよ」

エーフィ「なるほど……よし、ブラッキー。あたしたちも、照明の練習しよう!」

ブラッキー「うん」

アシマリ「オイラも、練習して来るよ。……少し、考えてる事があるんだ」

エーフィ「え、何?」


オイラは、ニコリと笑った。
 ▼ 238 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:24:07 ID:t1tIRUws [3/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あのヤレユータンの後継者らしいヤレユータンが、オイラたち3匹に寝床と練習場所を提供してくれている。

もちろん3匹の中に含まれないのはエーフィとブラッキー。

実家があるのだから、そこで寝泊まりするのは、当然だろう。

けれど、今は実の両親との時間よりも、サーカスの練習に付き合ってくれている。

オイラのワガママで家族団欒の時間を奪って、2匹の親たちには、申し訳ない事をしたとも思う。

だけど、両親は、この子たちが最後の時まで幸せなら、それが一番だと泣き笑いの表情で送り出してくれた、らしい。

オイラは、甘えてばっかりだ。

だから、絶対に成功させる。

オイラたちに、エーフィたちの命がかかっている。

失敗させる訳にはいかない。

そして、モクロー。

オイラは、モクローに、恩返しをしたい。

モクローの、頭が良すぎる故の悩みを、なんとかして取り除いてあげたかった。
 ▼ 239 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:25:45 ID:t1tIRUws [4/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんなオイラを見かねたのか、不意にニャビーが声を掛けて来た。


ニャビー「集中しなよ。……今考え事をする理由はわかるけど、あんたの悩みはサーカスに関係ない」

      サーカスにとって、悪い物はハッキリしてる。悩みと怠慢。これを感じさせる奴は、失格」


確かに、オイラの悩みは、誰にもいい感情を与えない。

ソルガレオとルナアーラを楽しませるためにも、そして、モクローを励ますためにも。

オイラは、普段通り、舞台に上がり、パフォーマンスを見せるだけ。

そう、普段通りだ。

普段通り、今まで通り、楽しめばいい。

それはわかっている。

けれど、怖かった。

万が一オイラが上手く出来なかった時の事を思うと、普段通りの気持ちで舞台に上がれるとは、到底思えない。

その現実を見詰めるのが怖くて、オイラは、練習に打ち込んだ。
 ▼ 240 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:26:44 ID:t1tIRUws [5/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「どう? 調子は」

アシマリ「うーん、最悪。まだ、迷いが消えなくて。こんな気分じゃ、誰かを楽しませるなんて、まず無理だよ」


ヤレユータンとともに事情報告に回っていたモクローは、帰って来た時、オイラたちに差し入れを持って来てくれた。

オレンの実だ。疲れた体にその果汁は本当に沁み渡る。

ヤレユータンが、モクローの背後から現れて、確かめるようにこう言った。


ヤレユータン「エーフィさんとブラッキーさんも、照明の練習をしているそうですね」

アシマリ「うん。ごめんね、オイラのワガママで、世界の危機を、伸ばす事になっちゃって。だけど、絶対に、止めるから。安心して」

ヤレユータン「はい。今日、サーカス団のみなさんが到着したら、ソルガレオ様とルナアーラ様のおわします祠を開きます。

        そこで、みなさんには、サーカスを披露していただきます。

        ソルガレオ様とルナアーラ様の力がお戻りになられたら、そこから先は、我々にお任せ下さい」

アシマリ「うん」
 ▼ 241 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:27:25 ID:t1tIRUws [6/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクローが不安気に問い掛ける。


モクロー「体力はどうします? 着いてすぐにサーカスは、少し厳しいと思いますが」

ヤレユータン「え……」

アシマリ「オレンの実、大量に用意してあげて。みんな、それで元気になれるはずだから」

ヤレユータン「わかりました! ……いかんせん、まだ僕は修行中の身、上手く祠を開けるかすら定かではない上に、こんなイレギュラーな事態。

        不安は残りますが、ゼンリョクで務めさせて頂きます」

アシマリ「こちらこそ、よろしくね!」
 ▼ 242 ローニャ@メトロノーム 16/09/30 22:27:54 ID:dHbDGDRE [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
生きてたのかヤレユータン!
 ▼ 243 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:27:58 ID:t1tIRUws [7/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヤレユータンが帰って行き、オイラ、モクロー、ニャビーの3匹が残された。

ニャビーは、オイラたちのやりとりなんて意にも介さず、練習を続ける。

たゆまぬ努力。ニャビーは、努力する才能に、恵まれ過ぎている。


アシマリ「……やっぱり凄いよ、ニャビーは」

モクロー「だね。こんな状況でも、普段と何も、変わらない」

ニャビー「あー、誤解しないで。あたしには、変わるだけの自分がないの。それだけよ」


平然とそう言い切るニャビー。

それが、どうしても、辛かった。


アシマリ「……ニャビーが頑張れる理由はわかってる。だけど、オイラには、無理だよ。

      そこまで、全てを捨てられない。全部、全部大事。

      その上で、だけど、ニャビーに追い付きたい。

      無理だよね、バカだよね。だけど、どうしようもない……」


オイラは、ニャビーの事が、好きだ。

好きだからこそ、なおさら辛く、悔しい。
 ▼ 244 ゲキ@きよめのおこう 16/09/30 22:28:34 ID:t1tIRUws [8/51] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
>>242
>>238見ればわかる通り、別個体です
 ▼ 245 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:29:07 ID:t1tIRUws [9/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんなオイラに向かって、ニャビーは木のてっぺんから、言う。


ニャビー「……あたしに拘るの、やめなよ。そりゃ、あたしは、ずっと待ってる。あたしをこっぴどく打ち負かしてくれる奴を、ずっと。

      あんたは、そいつになれる可能性がある。だから、あたしも、あんたの事が好き。

      でも、あたしを追い越せるのは、あたしより捨てたポケモンだけじゃない。

      あたしより、持ってるポケモンでも、あたしを超えられる。

      アシマリ、お願い、気付いて。あんたの武器は、その優しさだって」

アシマリ「武器が……優しさ?」

ニャビー「あたしを失望させないで。そっから先、あたしにだけは頼らないで。

      あたしは、間違ってない。サーカスを1度奪われて、あたしは、誰よりもサーカスに打ち込んだ。

      それは、絶対に正しい。だからこそ、あたしと同じじゃ、絶対にあたしを超えられない。

      可能性があるのは、あんただけなの。あたしに染まるな、アシマリ。

      待ってるから。空中ブランコのてっぺんで、あんたを待ってるから」

モクロー「……ニャビー、余計にアシマリを迷わせるような事言わないでよ」


ニャビーは、ついと顔を背け、再び自らの世界に潜り込む。
 ▼ 246 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:29:49 ID:t1tIRUws [10/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「どういう意味だろ、優しさが武器になる……」


オイラは、ぐるぐると、思考の渦に沈む。

あたしに拘るのはやめなよ。

この言葉が、脳内をエンドレスでリピートする。

――あたしに染まるな。

――あたしを超えろ。

――あたしより持ってる奴でも、あたしを超えられる。

――可能性があるのは、あんたしかいない。

オイラは、どうすればいいの?

ニャビーはオイラに、何を期待してるの?


モクロー「……アシマリ、とりあえず、お昼にしよう。ブラッキーが作ってくれてるよ」

アシマリ「だね」
 ▼ 247 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:30:25 ID:t1tIRUws [11/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「「ごちそうさまでした」」


こんな時でもごはんは美味しくて、なんだか泣きそうになった。

オイラは、どうすればいいのか。

迷いを振り切るには、どうすればいいのか。

教えて欲しい。けど、ニャビーには訊けない。


アシマリ「モクロー、どうすればいいの? オイラは、どうすればいいの?」

モクロー「……わからないよ。僕には、わからない。……こればっかりは、アシマリ、自分で見付け出すしかないよ」

アシマリ「……」
 ▼ 248 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:31:07 ID:t1tIRUws [12/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
わからない。

オイラは、ニャビーよりもサーカスに賭ける事は、絶対に無理だ。

だけど、それでも、オイラが勝てるとしたら。

オイラが勝てる所は……どこだ。

ニャビーに無くて、オイラにある物。

ニャビーは……サーカス以外の全てを捨てた。

オイラは、いろいろと、持っている。

優しさが、オイラの武器。

ニャビーとは違う道。

オイラにだけある物、ニャビーに無くて、オイラは……。


そうか、わかった。

そんな、単純な事だったんだ。
 ▼ 249 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:31:40 ID:t1tIRUws [13/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――――

――

――

――――
 ▼ 250 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:32:26 ID:t1tIRUws [14/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「おーい! 到着したぞ!」

アシマリ「ダンチョー!」

モクロー「やっと来た」

エーフィ「遅いよ!」

フーディン「すまんすまん」

ヤレユータン「来ましたか。とりあえず、しばらく休んで体力の回復をしてください。

        夕方には、祠を開きます」

フーディン「ああ。みんな! 各自休憩を取る事!」

ヤレユータン「このオレンの実も、みなさんでどうぞ」

フーディン「ありがとうございます」

ヤレユータン「いえいえ。僕たちだって、犠牲を払いたい訳ではありません。誰も死なずに解決出来るなら、それが一番ですから」
 ▼ 251 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:33:30 ID:t1tIRUws [15/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それもそうだ、と頷いて、フーディンは続けた。


フーディン「ああ、それと」


フーディンが、サイコキネシスでもってヤングースを連れて来た。


フーディン「彼を、どこかで看病してやってください。この街のポケモンでしょう?」

ヤレユータン「はい。それでは、また夕方に、ここに戻ってきます。『テレポート』!」


そう言うと、ヤレユータンは、ヤングースと共に消え去った。
 ▼ 252 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:34:43 ID:t1tIRUws [16/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それを見届けたフーディンは、オイラたちに視線を移し、言った。


フーディン「ん? アシマリ、えらく吹っ切れた顔してるな。モクローは……辛かったんだろ? わかるぞ」

モクロー「……ぜんっぜんわかってない」

フーディン「なんか言ったか?」

モクロー「いえ」

アシマリ「モクロー、心配しないでよ。オイラ、わかったよ。オイラの答えを、ソルガレオとルナアーラにぶつけてくるから、だから、悩まないで」

モクロー「……うん」

フーディン「何かあったのか?」

アシマリ「ううん、なんでもない。事情は、テレパシーでエーフィから聞いてるよね?」

フーディン「ああ。とにかく、今は休んで、本番に備えよう。ったく、世界の明暗を賭けたサーカスなんて、信じらんねぇよ」

アシマリ「……でも、いいじゃん。このぐらいの方が、むしろ楽しいよ。

      世界が、オイラたちにかかってる。世界中が、オイラたちの観客みたいなもんだよ? 

      ワクワクしない? オイラは、そのぐらいの方がやる気でるな」

フーディン「ハハハ、お前、凄いなアシマリ。出ない俺ですら、心臓バクバクだぞ。まあ、とりあえず、本番前だ。ゆっくり休んでおけ」

アシマリ「はぁい」
 ▼ 253 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:35:37 ID:t1tIRUws [17/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オイラは、そのまま眠りに就く。

体力を回復させるには、やっぱり、「ねむる」だ。もっとも、オイラは「ねむる」の技を覚えている訳じゃないけれど。

目が覚めた時、周りではみんなが雑談していた。

エーフィとブラッキーは、2匹で瞑想をしている。

覚悟を決めているのだろう。

モクローは、ダンチョーと何やら話していた。

そんな中、ニャビーはなお、孤独を貫いている。


アシマリ「ニャビー」

ニャビー「何?」

アシマリ「わかったよ、オイラの武器が。オイラの武器は……優しさと言うより、楽しさ、だよね?

      みんなを切り捨てられない優しさってのが言いたかったんだろうけどさ。

      オイラの武器は、サーカスを楽しんでる事。そんな気持ちが、みんなに伝われば、みんな楽しんでくれる。だよね?」
 ▼ 254 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:37:33 ID:t1tIRUws [18/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビーは、驚愕の表情を浮かべ、オイラを見詰める。

その顔は、徐々に納得に彩られて行き、最後には、深く頷いた。


ニャビー「……その通り。やっぱり、あんただった。あたしを超えられるのは、あんただった」

アシマリ「それだけど、オイラは、超えたりなんか、しないよ。一緒に、サーカス団エクリプスを作る仲間なんだから、競い合うのもまた違うでしょ」

ニャビー「……かもね。でも、吹っ切れてよかったじゃん」

アシマリ「うん。ありがとうニャビー。お陰で、1つ成長出来たよ」

ニャビー「お礼なんか、言わないで。あたしは、あたしに出来る事をするだけだから」

――空中ブランコで、空を舞うだけだから。
 ▼ 255 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:38:14 ID:t1tIRUws [19/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヤレユータン「みなさん、用意は出来ましたか?」

「「はいっ!」」

ヤレユータン「それでは、ソルガレオ様とルナアーラ様の祠を開きます」


そう言うと、ヤレユータンは、何もない中空へ向かって、呪文を唱え始めた。


太陽と月の使者を祀る精霊よ。

その封印を解き、汝の内へ、扉を開け。


呪文がつらつらと続き、それに伴い、その空間には、不自然なひずみが現れる。

それはどんどん大きくなり、サーカスの設備ごと、オイラたちを呑み込んだ。

気持ちが高ぶって行く。
 ▼ 256 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:38:59 ID:t1tIRUws [20/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「うわ、なんだこれ……」


その中は、今までいた世界とは、似ても似つかない、いわゆる異次元だった。

辺り360度、上下左右に星を散りばめ、不自然な程眩く煌めく月と太陽は、オイラたちを照らす。


エーフィ「ソルガレオ様、生贄のエーフィです」

ブラッキー「ルナアーラ様、生贄のブラッキーです」


2匹が、声をあげる。

そして、目を閉ざし、何やらぶつぶつ呟いた。

恐らく、この呪文により、2匹が現れるのであろう。

はたして、太陽と月は、一層輝きを増し、不気味に蠢いた。

地鳴りがする。オイラたちが今立っている場所を、地面と呼べるのかは定かではないけれど、その音は、確かに鳴っていた。
 ▼ 257 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:39:29 ID:t1tIRUws [21/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
咆哮。

激しい着地音。

緩やかに舞う羽音。


ソルガレオとルナアーラが、光臨した。
 ▼ 258 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:41:37 ID:t1tIRUws [22/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ソルガレオ「おー、なんだ? 生贄かと思ったら、なんか大勢いるぞ?」

ルナアーラ「懐かしい事よの! わらわは、久方ぶりに楽しみじゃぞ! またサーカスが見られるのじゃな?」

フーディン「……ソルガレオ様、ルナアーラ様。本来は、我が一族に伝わる、サーカス団エクリプスによるパフォーマンスこそが、あなた方のお力になったのですね。

       生贄などでは、決してない」


モクローは、正しい。

ルナアーラは、「また」と言った。

このサーカス団は、サーカス団エクリプスは、そもそもがこのために――ソルガレオとルナアーラに力を分け与えるために、創られた組織だったんだ。


ソルガレオ「その通りだ! もう忘れ去られたかと思ったよ! 前回のサーカスは、何百年前だったかな?」

ルナアーラ「さあ、もう忘れてしまったのう。わらわ、前回は、退屈じゃった」

ソルガレオ「ああ。今度は、楽しませてくれよな!」

フーディン「もちろんです!」
 ▼ 259 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:42:36 ID:t1tIRUws [23/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
大昔、エクリプスは、ソルガレオとルナアーラの力を引き出す事に失敗し、生贄を捧げざるを得なかった。

その責任を取って、エクリプスは、村から追放されたのではないか。

それから、生贄と言う事になっているけれど、本来は、オイラの提案した、サーカスで力を取り戻す、と言うのが正解なのではないか。

だからこそ、サーカス団エクリプスは、エクリプスなのではないか。

モクローは、全て正解だった。

けれど、それでも、モクローは満足しなかった。


モクロー『でも、それじゃ、僕は……完全な、道化だ。エーフィたちに生贄を強いた挙句、違うのが正解だなんて、これじゃ、ただのピエロだよ』


モクローのそんな嘆きは、ミリスの街にいる間中続いていた。

オイラは、モクローを、助けたい。エーフィとブラッキー、もちろん世界も、救いたいけど、何よりも、モクローを救いたかった。

ふう、とため息を吐く。

サーカスが、始まる。
 ▼ 260 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:43:20 ID:t1tIRUws [24/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「レディースアーンドジェントルメーン! ようこそ、サーカス団エクリプスへ!」


モクローの司会は、いつも通り、どこへ出しても恥ずかしくないレベルで始まり、進行して行く。


モクロー「では、初めにアシマリの登場です!」


その声に合わせ、オイラは飛び出した。

さあ、開演だ。世界を舞台にしたステージ。

思いっきり楽しもう!


アシマリ「どうもー!!」
 ▼ 261 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:44:34 ID:t1tIRUws [25/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「まずは、これを見てください! 玉乗りお手玉をご覧にいれましょう!」


まず、オイラは、乗れるぐらいの大きさのバルーンを地面に創り出す。

そして、投げられる程度のバルーンをいくつも創り、玉乗りをしながら軽やかにお手玉してみせる。

もちろん、水風船なのだ。割れないはずがない。

お手玉は、失敗に終わる。


アシマリ「おっと! そりゃあ、水で出来たバルーンが、割れないはずがないですよね……」

モクロー「アシマリっ?!」
 ▼ 262 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:45:04 ID:t1tIRUws [26/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
が、それすらも計算通り。


アシマリ「だけど、見てください! 割れた水は辺りに飛び散って……」


虹を掛ける。

エーフィの、太陽の光と合わさって、虹を描いた。

オイラは失敗した。けれど、失敗すら、プラスに変えられる。

モクロー以外、全員が知っていた、このプラン。

モクロー、失敗は、恥じゃない。

ピエロは、恥じゃない。

オイラは、ニッコリ笑って、続けた。


アシマリ「さて、次は、高く飛んでみましょう!」
 ▼ 263 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:45:45 ID:t1tIRUws [27/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
玉乗り用のバルーンを応用し、トランポリンの原理で高く飛び上がる。

空中で、もう1段バルーンを創り、それでもってさらに飛び上がった。

オイラは、高揚している。

世界中が、オイラにかかっている。

オイラに、世界の注目が集まっている。

気のせいでも、それは、オイラの中で、確かな事実となっていた。

オイラは楽しい。みんな、楽しい?

この高さから、「みずてっぽう」を繰り出し、雨を振らす。

太陽の光は、入れない。

虹の演出は、マンネリになる。

けれど、その雨が、散らした星と相まって、幻想的な光景を描き出した。

月の、控えめな光が、その煌びやかな光景を演出する。

ソルガレオとルナアーラの表情をチラリと見る。

反応はわからないけれど、まあ上々なのではないだろうか。


モクロー「以上、アシマリのパフォーマンスでした!」
 ▼ 264 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:46:07 ID:t1tIRUws [28/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オイラは舞台袖に引っ込み、開口一番言った。


アシマリ「楽しかった。仕事とかじゃなくて、1匹のポケモンとして、楽しめた」

ニャビー「うん。わかるよ。見ててわかった。……あんた、失敗は、笑いに変える物であって、成功にしたらそれはピエロじゃない」

アシマリ「うん。だけど……それでもいいじゃん。モクローに届くなら」


オイラたちは、ステージに目を移す。

舞台の上では、みんなが、精一杯にパフォーマンスを見せていた。

間違いなく、オイラが初めて見た時よりも、成長している。

なんだ、と思う。

練習すれば、普通に上手いじゃん。

オイラが言うのも筋違いかもしれないけど、だけど、思ってしまったのだから仕方ない。
 ▼ 265 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:46:32 ID:t1tIRUws [29/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビー「そろそろあたしの番。行って来る」

アシマリ「頑張ってね」

ニャビー「ううん、頑張りはしない。

      あたしは、生きるだけ。

      あたしの生が、世界を救うのなら、それはおまけだよ。

      あたしは、生きるだけだから。特別な事は、何もない」

アシマリ「わかったわかった。ニャビー、もうお手上げだよ」


苦笑しながら、オイラはニャビーを送り出す。

ニャビーは、前だけを見据え、歩き始めた。
 ▼ 266 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:47:16 ID:t1tIRUws [30/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
照明が消える。

星が煌めき、ニャビーを控えめに照らした。

そんな中、不意に炎が現れる。

煌々とした明かりが、小さく、けれど力強く、その存在を主張する。

ブラッキーの「つきのひかり」が辺りを弱く照らした。

そこには赤と黒の体躯。

炎が消え、後には白くたゆたう煙が残った。
 ▼ 267 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:47:41 ID:t1tIRUws [31/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビーは、階段を登った。

ふとソルガレオとルナアーラの方を見やると、彼らの顔は、期待に満ちている。

ニャビー、君なら行ける。

2匹のゼンリョクを、絶対に引き出せる。

そんなオイラの声なんてまるで聞こえないであろうニャビーは、そのまま空を舞った。

誰よりも高く、飛んだ。

くるりと周り、再びぶら下がり、炎の煌めきを見せ、かと思うとその火を消して自らの体で魅せる。

ああ、と思う。

これでこそ、ニャビーだ。

オイラとは違う道を行く、サーカスの天才。
 ▼ 268 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:48:15 ID:t1tIRUws [32/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「頑張れ、ニャビー」


気付けば、オイラはそう呟いていた。

叫びはしない。喧噪は、ニャビーのパフォーマンスに、ふさわしくないから。

けれど、口は止まらなかった。


アシマリ「頑張れ。頑張って」


ニャビーは、軽やかに空を舞う。

誰も知らない高みへ、ニャビーは軽々と辿り着く。

凄い事だけれど、ニャビーは、きっと、孤独なのだ。


アシマリ「……オイラ、少しでも、ニャビーと一緒にいたい。ニャビーも、楽にしてあげたい」


煌めく星の下、星よりも輝くパフォーマンスに、そんな事を呟く。


アシマリ「だから、ニャビーも、頑張って」
 ▼ 269 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:49:21 ID:t1tIRUws [33/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビー「ふぅ、疲れた」


舞台から戻って来たニャビーは、そう呟く。

オイラも、それに応えて言った。


アシマリ「お疲れ様」

ニャビー「さすがに、プレッシャーヤバいわ。世界を賭けた空中ブランコなんて、初めて」

アシマリ「だね。だけど、相変わらず、凄かった。ううん、今までより、もっと凄かった」


少なくとも、オイラはそう感じた。

ニャビーは、笑顔を浮かべ、言った。


ニャビー「アシマリ」

アシマリ「うん?」

ニャビー「ありがとう」

アシマリ「どういたしまして」


オイラも、最高の笑顔で、言った。
 ▼ 270 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:49:55 ID:t1tIRUws [34/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「それでは御二方、お楽しみ頂けたでしょうか? これにて、サーカス団エクリプス、本日の公演を終了いたします! ご覧下さり、ありがとうございました!」


モクローがそう言うと、オイラたちはみな、揃って舞台上へ出て行った。

普段はこんな事をしたりしない。

けれど、世界がかかっている、と言う重みが、オイラたちの足を動かした。

今さらながらに、恐れが胸を襲う。

オイラから見ても今日のサーカスは、ハイレベルだったと思う。

ニャビーを始めとして、オイラ、みんな、そしてエーフィとブラッキーのライトワーク。モクローの司会。全てが噛み合い、高いクオリティを見せられただろう。

けれど、それが、ソルガレオとルナアーラに届くのか。

オイラたちのゼンリョクは、2匹の心を揺さぶれたのか。

オイラたちは、みな直立して、宣告を待つ。

ルナアーラが、その口を開いた。
 ▼ 271 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:50:35 ID:t1tIRUws [35/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ルナアーラ「わらわ、久方ぶりに、感動したのじゃ! そなたらのサーカス、最高じゃ! のう、ソルガレオ」

ソルガレオ「ああ。こんな明るい気分になったの、いつ以来だろう!」

フーディン「それじゃあ……」

ソルガレオ「ああ。生贄など、いらない。笑顔は、楽しいと言う感情は、それだけで力を持つからな!」


生贄など、いらない。

その声を脳が把握して、それを言葉に変換し、理解するまでに数秒かかった。

快哉の声は、遅れてやって来る。


アシマリ「いぃぃいいいいやったぁぁぁ!

      やったよエーフィ、ブラッキー! オイラ、みんなを護れたんだ! オイラたちが、世界を救ったんだ!

      エーフィとブラッキーは、死ななくてもいいんだ!」
 ▼ 272 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:51:42 ID:t1tIRUws [36/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィ「やったよアシマリ、ありがとう、本当に、ありがとう……」

ブラッキー「姉ちゃん、泣かないで」


エーフィの目から涙が滴り落ちる。

ブラッキーが宥めるも、それは止まらなかった。

そんな2匹をそのままに、ルナアーラがソルガレオに問い掛ける。


ルナアーラ「エクリプスは、いつかの?」

ソルガレオ「明後日だろう。さてルナアーラ、一仕事しようじゃないか!」

ルナアーラ「そうじゃの!」


そう言うと、2匹は、互いに見合わせ、1つ、吠えた。

それに呼応するかのように、ソルガレオの鬣(たてがみ)が太陽のように逆立って、ルナアーラの翼が、あたかも月のように真円を描く。
 ▼ 273 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:52:16 ID:t1tIRUws [37/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
その姿のまま、ソルガレオは、口を開いた。


ソルガレオ「……みんな、ありがとう。生贄を取るのは、神だって辛いんだ。その悪しき風習を断ち切ってくれて、ありがとう」

フーディン「その御言葉、ありがたく頂戴します」

ルナアーラ「さて、皆、そろそろ帰らねばならぬ。ソルガレオ、やろうぞ!」

ソルガレオ「おうよ!」


2匹の神が、咆哮をあげる。

空気が震え、あまりの威圧感に思わず目を閉ざす。

目を開いた時、そこは、祠と呼ばれた森の中だった。
 ▼ 274 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:53:11 ID:t1tIRUws [38/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヤレユータン「お帰りなさいませ! 首尾はどうでしたか?」

フーディン「大成功だ。ソルガレオたちは、本気を出してくださるそうだ」

ヤレユータン「そうですか、よかった……。これで、世界は救われるのですね、お師匠」

ヤレユータン師「ああ、そうじゃ」


その声に振り返ると、いつぞやのウルトラビーストと共に消えたヤレユータンがいた。


ヤレユータン「お師匠!」と、弟子のヤレユータンが叫ぶ。

ヤレユータン師「ああ。皆、よくやった。世界のバランスは保たれ、今こちらにいるウルトラビーストは向こうに送り返された。エクリプスの時も、もう来たりはせんよ。

         ワシは、ウルトラビーストが消えたので、戻って来られたのじゃ。あやつの力は強すぎて、ワシが消えたらあの空間を破壊しかねない程じゃったのでな。

         幸い、「さいはい」が効いたから、行動を縛る事は容易じゃったがの。

         して、お主、よくやった。祠を開き、生贄を中へ入れる。その事をこなせるのじゃから、ワシはもう引退してもよかろう」

ヤレユータン「お師匠……」
 ▼ 275 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:53:41 ID:t1tIRUws [39/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヤレユータン師「ほっほっほっ! それでは、主ら、ミリスを代表して、ワシから礼を言わせてもらおう。

         世界を、生贄なしで護ってくださり、本当にありがとうございました」

フーディン「いえ、お礼を言われる必要はありません。これこそが、本来の姿なのですから」

ヤレユータン師「……そうじゃったのか」

フーディン「はい。ソルガレオたちのセリフからも、それは確実です」

ヤレユータン師「いや、じゃがそれでも、感謝の言葉は言うべきじゃろう。本当に、助かった。

         では、ヤレユータン、帰ろうかの」

ヤレユータン「はい! みなさん、恐らく今日は、宴会です。良ければ参加下さい!」


そう言って、2匹のヤレユータンは帰って行った。
 ▼ 276 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:54:28 ID:t1tIRUws [40/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
後に残されたオイラたちは、どっと疲れが噴き出して、みんな、へたり込んでしまう。

緊張から弛緩へ。

その時に失われるエネルギーと言うのは、本当に大きい。

さっきまで泣いていたエーフィも、今は達成感に満ちた顔をしながら、座り込んでいた。

ブラッキーも、エーフィの横で、シンクロするかのように、そっくり同じ表情をしていた。

ニャビーですら、ほっとため息を吐く。


アシマリ「つ、疲れたぁ。ホントに、終わったんだ……」

モクロー「だね。世界は、救われた。エーフィとブラッキーも無事。これも、全部、アシマリのお陰だよ」

アシマリ「違うよ! オイラたち、みんなのお手柄だって!」

モクロー「だけど……僕は、間違えた。エーフィたちを犠牲にして、世界を救おうとした。止めようと思えば止められたはずなのにっ! 僕は、止めなかった……」


オイラは、モクローを見詰める。

モクローは、本当に悔しそうに、毒を吐き出す。
 ▼ 277 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:55:03 ID:t1tIRUws [41/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「僕は、ただのピエロだ。間違えた挙句、誰も得しない結論で満足してしまった。苦しい事実だけが、必ずしも真実じゃないってのに! 可能性は、他にもあったのに!」

アシマリ「……ピエロで、何が悪いの? オイラは今日、ミスったよ?」


わざとなのだけれど、モクローには気付かれていないはず。

オイラの腕前は、そのぐらい成長していた。


アシマリ「でも、その失敗を、エーフィと成功に変えた。ねぇ、ピエロで、間違えて、何が悪いの? ピエロは、サーカスには必要不可欠な存在なんだよ」

モクロー「現実とサーカスは違うよ! 失敗して、もしかしたら、取返しの付かないとこまで行ったかもしれないんだっ!」

アシマリ「うん。だけどさ、モクローがエーフィたちをこっちに連れて来てくれなかったら、オイラは、何も出来なかった。

      そのまま世界の終わりを迎えてただけだよ。だから、モクローの失敗を、オイラが成功に変えないと、成功は出来なかった。

      失敗は、必要不可欠。みんなで、それを最大限使って、盛り上げる。それが、サーカスなんだよ。

      モクロー、君は、確かに世界を救った。これは事実。だって、オイラたちは……」


オイラは、ニコリと微笑んだ。
 ▼ 278 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:55:33 ID:t1tIRUws [42/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







アシマリ「ポケモンサーカス団エクリプス!」






 ▼ 279 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:55:53 ID:t1tIRUws [43/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「……なんだからさ。サーカスは、みんなで創り上げる物。誰かの失敗はみんなの失敗、誰かの成功はみんなの成功。みんなの成功は、誰かの成功なんだよ」

モクロー「アシマリ……」

アシマリ「わかったよね? モクローは、頭めっちゃいいし、だから、オイラが言ってる事ぐらい、わかってくれるよね?」

モクロー「アシマリ、ずっと、僕が苦しんでる事、気付いて……」

アシマリ「うん」


モクローの目に、涙が浮かぶ。

オイラは、それに気付かないフリをした。
 ▼ 280 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:56:39 ID:t1tIRUws [44/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「アシマリ」

アシマリ「ん?」


モクローは、その首を前に倒して、言った。


モクロー「……ありがとう」


オイラも、笑顔で応える。


アシマリ「どういたしまして!」
 ▼ 281 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:57:02 ID:t1tIRUws [45/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







6章 サーカス団のアシマリ 完






 ▼ 282 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:57:55 ID:t1tIRUws [46/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エピローグ


世界を救ったサーカス団、エクリプス。

その評判は、ミリスから瞬く間に広がり、イスカーでの黒い噂を払拭する程大きな力で、エクリプスへの人気を掻き立てた。

次から次へ、発売されたチケットは、それこそ飛ぶように売れ、なんと転売ヤーまで現れる始末。

1匹何枚まで、と制限を付けはしたが、それでも相当のプレミアチケットになるだろう。

そんな調子なのだ、会場の入りも推して知るべしである。


フーディン「うわぁ、エクリプス史上、最大級の入りだぜ。立ち見客もいるんだって?」

ニャビー「あたしが前いたとこですら、ここまではいなかった。凄いよ、これ。実体が伴ってないんじゃない?」

フーディン「失礼な」

ニャビー「まあ、真の評価ってのは、流行が過ぎ去った後で、それでも残ってくれたお客さんの数で決まるから。油断せず、みんな、精一杯のパフォーマンスを見せないと駄目」

フーディン「わかってるよそのぐらい」


頭を掻きながら、フーディンが答える。

あたしは、それを見ながら、苦笑した。
 ▼ 283 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:58:33 ID:t1tIRUws [47/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「お前、なんか変わったな」

ニャビー「え、そうですか?」

フーディン「ああ。上手く説明出来ないけど……なんか、変わった」

ニャビー「それは、誉め言葉として受け取っておきます。あたしが変わったら、パフォーマンスも変わる。いつも同じじゃ、飽きられるのもすぐですからね」

フーディン「サーカス、か。お前、凄いよ。もう、尊敬に値する」


そう言われても、あたしは、生まれた時からそうなのだ。

高く飛ぶ事、美しく飛ぶ事。これだけを求められた幼少期。

あたしには、初めから、空中ブランコしかなかった。


ニャビー「もし、あたしが変わったとするなら」


あたしは、暗転したステージに目を移す。
 ▼ 284 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:59:10 ID:t1tIRUws [48/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「どうかしたか?」


エーフィとブラッキーが、ステージを照らし出し、そこからモクローが現れる。


モクロー「レディースアーンドジェントルメーン! エクリプスのショーへようこそ!」


もし、あたしが変わったとするなら、ライバルの存在だろう。

あたしの絶対王者を脅かす存在。彼が、あたしを、サーカス団を、そして世界を救った。
 ▼ 285 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:59:36 ID:t1tIRUws [49/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ。

心の中で、そう呼び掛ける。

アシマリ、あたし、あなたに負けてる。心からの楽しみだけで勝てる物でもないけど、技術が同じ同士なら、心の差が最後の勝敗を決めるのも、また事実。

同じ技術、とまではさすがに行かない。けれど、アシマリは、それでも凄い。

感情を、そのまま伝えるパフォーマンス。これだけは、あたしも、どうやっても出来なかった。

それを持つ、あなたが羨ましかった。

アシマリ。

あなたは、勝敗には拘らないし、あたしももう、拘らない。

だから、これだけは言いたい。

アシマリ、頑張ろうね。


モクロー「それでは、アシマリの登場です!」
 ▼ 286 1◆J44kAZeDOM 16/09/30 22:59:56 ID:t1tIRUws [50/51] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告






【SS】アシマリ「ポケモンサーカス団エクリプス!」 完






 ▼ 287 ヘッド@てんかいのふえ 16/09/30 23:00:23 ID:dHbDGDRE [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙でしたー
 ▼ 288 ロリーム@かわらずのいし 16/09/30 23:00:42 ID:t1tIRUws [51/51] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
当SSはこれにて完結です
お読み下さりありがとうございました
質問等ありましたら、お気軽にどうぞ
 ▼ 289 ランセル@トライパス 16/09/30 23:02:03 ID:uAtHzQGo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

すごい面白かったよ
 ▼ 290 ギアナ@ロメのみ 16/09/30 23:04:26 ID:msCDfVuo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

伝説のポケモンがフレンドリーなのは恒例ね
 ▼ 291 ュゴン@こぶしのプレート 16/09/30 23:58:44 ID:89x2Kk.Q NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙です〜
他にも作品があったら読みたいです!
 ▼ 292 マガル@ズリのみ 16/10/01 00:35:12 ID:TRUZ.VEc NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ▼ 293 CSn9vcIqE6 16/10/06 18:10:09 ID:4jIK143E NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙でしたー
めっちゃ面白かった!
 ▼ 294 コルピ@ぼうけんノート 16/10/06 18:56:29 ID:dcq.TOYs NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アローラ御三家好きなのでありがたい…
とても面白かったです!お疲れ様でした!!
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