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【SS】ママ「ほら、早く起きなさい!」【リメイク】

 ▼ 1 AYr1xkow/g 17/08/18 09:07:23 ID:z1am0BAU [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
こんにちは。私はスリジエ。みんなからはポケモン博士と呼ばれているわ。今日は私のネット講座を受けてくれてありがとう。楽しい時間にしましょうね。

ポケットモンスター、縮めてポケモン。この世界には、そんな不思議な生き物がたくさんいます。私たち人間は、彼らポケモンと共に生きています。一緒に遊んだり、力を合わせて仕事をしたり、そして時にはポケモン同士を戦わせてバトルをしたり……。そうやって私たちはポケモンと絆を深め合っているの。そんな彼らをよく知るために、私は研究をしています。

さて、ではそうね、今日の講座を受けてくれたあなたにも軽く自己紹介してもらおうかしら。えーっと、写真を見せてもらってもいいかしら?

ありがとう!ふんふん。あら、どこか見覚えのある顔だわ。お名前はなんていうの?

パロレくんっていうのね!素敵な名前ね。

それにしても、パロレくん……?あ!思い出したわ!

あなた、アキニレくんの弟くんね!なんだ!びっくりしちゃった。

知ってるとは思うけれど、アキニレくんは私のお手伝いをしてくれているのよ。今はちょうど出かけているけど、明日の朝早くに、出張から帰ってくるはずだわ。

……パロレくん!きっとあなたなら強いトレーナーになれるわ。そんな気がするの。ポケモンとの絆を深めて、思う存分楽しんでね!

さあ、ポケットモンスターの世界へ!
 ▼ 2 AYr1xkow/g 17/08/18 09:09:38 ID:z1am0BAU [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ほら、早く起きなさい!」

扉の向こうから声が聞こえる。しかし、部屋のベッドで寝ている少年の耳には届いていない。

ここはアモル地方の北部に位置するヴァイスタウン。これといって目立つものもない、小さくのどかな町だ。どこからともなく、ポッポやヤヤコマの鳴き声が聞こえてくる。

少年、パロレは自室のベッドでぐっすりと眠っていた。落ち着いた茶色の髪に茶色の瞳の、至って普通の少年。どこにでもいる十三歳の少年だ。

昨日はアモル地方に住むポケモン博士、スリジエのネット講座を受けていた。予約が始まってもすぐに受付終了してしまうほど人気な講座を、今回やっと初めて予約ができたのだ。嬉しすぎて夜遅くまで質問ばかりしてしまったために、今日はいつもより遅くまで眠っているのだ。

やがて、扉が軋む音がし、何者かが部屋に入ってきた。母親のニャスパーだ。大方、いくら呼んでも降りてこない息子を起こすために母親が寄越してきたのだろう。

ニャスパーは扉の僅かな隙間から部屋に入りこむと、パロレのベッドの上によじ登り、鳴き声を上げながらパロレの上にどんと倒れこんだ。

「んん……」

パロレがもぞもぞと動く。ニャスパーはパロレの顔を覗きこんだ。

「あと五分……」

「にゃー!」

パロレがそう言って再び眠りの中に入ろうとした瞬間、ニャスパーは大声を上げてパロレの上を跳ねる。

「うわーっ、もう分かったよ起きるってば」

パロレは嫌そうな声を上げて布団をひっくり返した。弾みでニャスパーがベッドから落ちる。

「なんか今日、テンション高くないか……?」

欠伸を噛み殺しながらそう言ってニャスパーを見つめる。パロレはそれから昨日のネット講座のことを思い出した。アキニレが今日の早朝に出張から帰るとスリジエは言っていたはずだ。

「そうか、今日は兄さんが久しぶりに帰ってくるんだった」

パロレはそう呟くと、ニャスパーに「分かったよ、起きるよ」と言って軽く頭を撫でてやる。ニャスパーは気持ちよさそうな鳴き声を上げた。そしてパロレはやっとベッドから離れた。
 ▼ 3 ガギャラドス@きりのはこ 17/08/18 09:24:10 ID:jqDVxmSA [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
オープニング追加されてるーーーーーーーーーーー!!!
名作リメイク支援
 ▼ 4 AYr1xkow/g 17/08/18 09:34:53 ID:z1am0BAU [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
ニャスパーと共に階下に降りる。ニャスパーは母親の前まで向かうと、自慢げに鼻を鳴らした。ちゃんと起こしてきたよ、とでも言いたげだ。

「ふわぁあ……おはよう」

パロレは欠伸をしながら挨拶をした。母親はキッチンでパロレの朝食を準備しているところだった。ちらりとパロレの顔を見て「おはよう、お寝坊さん」と声をかけてくる。

「そんな寝坊してな……あ」

パロレは、リビングのテーブルでコーヒーを飲んでいる兄を見つけて立ち止まった。

「おはよう、おかえり兄さん」

「ただいまパロレ」

アキニレは、パロレよりももっと濃い茶色の髪の、がっちりとした体格をした青年だ。アキニレとは少し歳が離れている。パロレはアキニレの様子をどこか怪訝な様子で見つめていたと思えば、

「兄さん、また焼けた?」

「今回の出張は南国のアローラ地方だったからな!……にしても、お前すごい寝癖だな」

アキニレはパロレを見て言う。パロレは顔をしかめて頭を掻きむしった。

「アローラ地方って、アモル地方とは違う姿をしてるポケモンもいるらしいわよ。さっきアキニレが楽しそうに話してたわ」

母親がそう言いながらリビングにやってきて、テーブルにトーストを置く。パロレは椅子に座った。

「ああ、すごかったよ。ベトベトンなんか、すごいカラフルなんだ。初めて見た時は驚いたよ!」

アキニレが目を輝かせ、早口でまくしたてる。アキニレはスリジエの手伝いをしながら、個人的にもポケモンの生態について研究しているのだ。見た目はいかにもスポーツマンらしい容姿をしているのに、意外とオタク気質であるということをパロレはよく知っている。
 ▼ 5 AYr1xkow/g 17/08/18 09:35:50 ID:z1am0BAU [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレが朝食を食べていると、アキニレが思い出したように口を開いた。

「そうだパロレ、お前に大事な話があるんだ」

「え、何?」

パロレが思わず手を止める。アキニレの顔は明るい。

「スリジエ博士がお前にポケモンをくれるってさ!8年前、俺にくれたように」

アキニレが言う。パロレの瞳が、驚きで大きくなった。

「まあ!」

母親が嬉しそうな声を上げる。

パロレは驚いて声も出なかった。昨夜、ようやくスリジエのネット講座を受けることができたというのに、なんと今日は本物に会い、更にはポケモンを貰えると言うのだ。パロレは兄の存在に心から感謝した。

「やった!」

そんなパロレの様子を見て、アキニレは楽しそうに笑っている。

「ポケモンは3匹いるんだ。他の子にもぜひ貰ってほしいな。……そうだ、クオレちゃんはどうだろう」

アキニレが考えながら言う。クオレは隣の家に住んでいる、パロレの幼馴染の女の子だ。

「パロレ、誘ってみたらどうだ?」
 ▼ 6 テラ@クロスメール 17/08/18 09:37:25 ID:jqDVxmSA [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
関係ない話だが
私が初めてBBSに書き込んだ言葉は「支援」
そしてこれの元スレが私が初めて書き込んだスレッドなのだ

オリジナル大好きの俺にはどストライク。支援
 ▼ 7 ブキジカ@フシギバナイト 17/08/18 17:56:31 ID:cUPI/.lc NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>6
くっさ
 ▼ 8 AYr1xkow/g 17/08/18 20:31:14 ID:QLXaGb1M [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
朝食を食べ終えたパロレは、着替えを済ませると家を出た。アキニレの提案通り、クオレを誘ってみようと思ったからだ。

クオレの家は、本当にすぐ隣にある。歩いて15秒もかからない。パロレはクオレの家の玄関のチャイムを鳴らした。

「はーい。パロレくんかしら?」

インターホン越しに声が聞こえる。クオレの母親の声だ。こんな小さなヴァイスタウンでは、家を訪ねてくる人なんてたかが知れている。パロレは「はい!」と元気よく挨拶を返した。

その後、すぐに扉が開く。クオレの母親が出てきて、パロレを見てニッコリと笑った。

「おはよう。クオレなら二階の部屋にいるわ」

「おはようございます。ありがとうございます!」

パロレは礼を言うと、急いで二階にあるクオレの部屋へと向かった。クオレは机に置いてあるパソコンの画面を見つめ、一心不乱に何かを探しているようだった。パロレには分かる。彼女もスリジエのネット講座の予約を成功させるのに必死なのだ。

「クオレ、おはよう」

「あ、パロレおはよう。んー……、また予約終了だぁ……」

そう言って落ちこむクオレの目は、未だ画面に釘付けになっていた。パロレはクオレの元に大股で近付き、腰に手を当てて胸を張り、自慢げに口を開いた。

「ぼく、昨日講座受けたよ!」

「ええっ!?いいなぁー」

クオレは悔しそうな声を出した。

「それでね」

パロレは話を切り出した。ここからが本題なのだ。クオレが身を乗り出す。

「ぼく、スリジエ博士にポケモン貰えることになったんだ!」

「ええっ!」

クオレがまたも驚く。それから顎に手を当て、

「すごーい!そっかぁ。お兄さんが博士の手伝いをしてると、そういう機会があるんだねぇ」

そう言って、少し羨ましそうにパロレを見上げた。パロレはにんまりと笑って続ける。

「それでね!ポケモンは3匹いるんだって。クオレも一緒にポケモン貰いに行こうよ!」

パロレの言葉に、クオレの顔はパッと輝いた。

「えっ?わたしも?いいの!?」

パロレはうんうんと何度も頷く。嬉しいことは、共有した方がいい。それに、アキニレに言われたのだから間違いはないはずだ。

「やった!行くよ行く!」

クオレは嬉しそうに声を上げた。
 ▼ 9 AYr1xkow/g 17/08/18 20:50:20 ID:QLXaGb1M [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
クオレと共に、アキニレに連れられてヴァイスタウンを出る。ヴァイスタウンの南にある1番道路は、東西に長く広がっている。1番道路の東側はくさむらが少なく、避けて歩けるようになっている。ここを進んでいけば、オーロシティへと行けるのだ。

「二人はまだポケモンを持ってないからな。くさむらに入るとポケモンが飛び出してくるから、避けて歩くんだぞー」

「はーい!」

クオレは元気よく返事した。一方、パロレは悪戯っぽく兄に声をかけた。

「兄さん、代わりにバトルしてくれないの?」

「そりゃもしもの時は戦うけどな?」

アキニレはそう言って地面を踏みしめた。ジャリ、と砂の音がする。

アキニレは八年前、今のパロレと同い年の時に同じようにスリジエからポケモンを貰って旅に出ていった。ポケモンに関する知識も豊富な兄はそれなりにバトルの実力もあるのだろうとパロレは思っているが、本当のところは知らない。パロレは、アキニレがバトルしているところを見たことがないのだ。

「おっ、オーロシティが見えてきたぞ」

アキニレが声を上げた。

オーロシティは、アモル地方で二番目に大きな都市。ファッション関係の産業が盛んな都市だ。ショッピング目当ての観光客で溢れている近代的な街で、オーロティラミスというスイーツが名物だ。

「オーロシティ!わたしもたまにショッピングしに行きます!……高級店は入ったことはないけど……」

クオレが言う。

「ああ、そうさ」

アキニレは笑顔でそう言うと大きく頷いた。

「スリジエ博士の研究所はここにある」

アキニレの言葉に、パロレとクオレはワクワクをこらえきれない様子で目を見合わせた。
 ▼ 10 AYr1xkow/g 17/08/18 22:04:25 ID:QLXaGb1M [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>9
修正

クオレと共に、アキニレに連れられてヴァイスタウンを出る。ヴァイスタウンの南にある1番道路は、東西に長く広がっている。1番道路の西側はくさむらが少なく、避けて歩けるようになっている。ここを進んでいけば、オーロシティへと行けるのだ。
 ▼ 11 AYr1xkow/g 17/08/18 22:05:46 ID:QLXaGb1M [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
三人はオーロシティにたどりついた。

「ここを道なりに行けば、研究所に着くよ」

アキニレがそう言って進んでいく。

「相変わらずデカい街だなー」

パロレが呟くと、クオレが反応した。

「ホテルとかブティックとかいっぱいあるよね!高級な街、って感じ!」

クオレの言葉に、アキニレは振り返り、

「好きに見回るのはまた後でな。とりあえず、研究所に行くよ」

「はーい!」

パロレとクオレは声を合わせて返事した。

やがて、スリジエの研究所が見えてきた。研究所と聞くと無機質な建物が頭に浮かぶかもしれないが、ここの研究所は違う。建物の造形は街の外観に合わせてあり、一見するとゴージャスな一戸建てといったようにさえ見える。

研究所の中に入る。中も綺麗で、清潔感のある様子だ。アキニレは受付の女性に話しかけた。

「おはようございます、ちょっと久しぶりです」

「お久しぶりです。例の弟くんですか?」

女性は首を伸ばして、アキニレの後ろでそわそわしているパロレを見た。

「ええ、そのお友達にも来てもらいました」

「いいですね。予約してましたっけ?」

女性はそう言いながらペラペラと目の前の書類をめくる。

「えっと、男の子の予約はありますね。これでしょうか?」

女性が言うと、アキニレは首を捻りながら、

「いやー、予約はしてないですね。博士に直々に頼まれたので」

「そうですか。ではこの子はまた別の子ですね」

女性はそう言って時計をちらりと見る。

「この子も予約時間そろそろなので、もうすぐで来ると思いますよ」

「おっと、じゃあできるだけ早く終わらせます」

アキニレは女性にそう言ってから二人の方を振り向いた。

「よし、二人とも。博士がいるのは三階だ、ついておいで」
 ▼ 12 ケニン@エネコのシッポ 17/08/19 00:12:43 ID:1PvdFB3A NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 13 AYr1xkow/g 17/08/19 13:16:50 ID:RYnIAxYA [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
研究所のエレベーターに乗りこむ。アキニレが慣れた手つきで三階のボタンを押すのを眺めながらパロレは口を開いた。

「予約ってなんのこと?」

「ん?ああ、博士は忙しいからね。会いたい時は予約しなくちゃダメなんだ」

アキニレはそう言って、二人の顔を見てにやりと笑う。

「君たちは別だよ。今回は特別だからね」

「えへ……やった!」

クオレがそう言って、茶色の長い髪を手櫛で梳き始めた。パロレが怪訝な表情でクオレを見つめる。クオレはそんなパロレに囁いた。

「緊張してきちゃった。もっとちゃんとした格好してくればよかったよ……!」

その声はアキニレにももちろん届いていたようだ。アキニレが大きな笑い声を上げた。

「ははは!そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。博士はすごく優しいから」

アキニレがそう言ったところで、エレベーターが止まる。パロレはクオレとまた顔を見合わせ、ごくりと唾を飲んだ。

緊張する。でも、ワクワクが止まらない。

「さ、行きな」

エレベーターのドアが開く。アキニレが開くボタンを押したままにして、二人を中へと促した。
 ▼ 14 AYr1xkow/g 17/08/19 13:30:27 ID:RYnIAxYA [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレとクオレが三階へと入った途端、向こうから何か小さい生き物が走ってきた。もちろん、ポケモンだ。水色の体のそのポケモンは大きな口を開けて鳴き声を上げながらこちらへと近づいてくる。おおあごポケモンのワニノコだ。

「ワニワニー!」

「わぁ……ポケモンだぁ……!」

クオレが目を輝かせた。

アキニレは、足を止めてワニノコを撫でているパロレとクオレを微笑ましく見つめながら通りすぎていった。そして、奥で机に向かってパソコンに文字を打ちこんでいる女性の前まで進む。

「おはようございます、スリジエ博士」

そう、彼女がスリジエ博士だ。スリジエは画面から視線を外し、アキニレの顔を見上げる。

「おはようアキニレくん。おかえりなさい、アローラはどうだった?」

「最高でした!」

アキニレは満面の笑みで答えた。

「そう!良かったわ」

「ええ。そして今日は、弟とその友達を連れてきました」

「仕事が早くて助かるわ」

スリジエはそう言ってクスクス笑う。

「あのー、博士。この後すぐ予約があるみたいなんで、急いだ方がいいですかね?」

アキニレが少し焦った顔で尋ねた。しかし、スリジエは首を横に振る。

「いいえ、大丈夫よ。そのことは気にしないで」

「あ、そうなんですか?分かりました」

アキニレは目を丸くして若干拍子抜けしているようだった。でもまあ、気にしなくていいと言われたのならいいのだろう。アキニレは、パロレとクオレに声をかけた。

「おーい二人とも!こっちにおいで!」
 ▼ 15 AYr1xkow/g 17/08/19 13:50:01 ID:RYnIAxYA [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレは研究所の奥へと向かった。クオレがワニノコを抱いて横を歩いている。やがて二人は、スリジエとアキニレの前までやってきた。

「こんにちはっ!クオレと言います!」

クオレが挨拶をする。クオレの胸に抱かれていたワニノコがジャンプして降りると、スリジエの足元まで駆けていった。スリジエは微笑んだ。

「よろしくね、クオレちゃん。それからパロレくんも。昨日ぶりね」

「はい。よろしくお願いします!」

「昨日ぶり?」

アキニレが首を傾げた。

「実はね、パロレくんは昨日私のネット講座を受けてくれたの」

「ああ!そうだったんですね!」

アキニレは納得した様子でそう言った。

「今日はいきなり呼んじゃってごめんなさいね」

「いえいえ!博士にお会いできるって聞いて緊張したけど……ポケモンをいただけるなんて、ワクワクしっぱなし!って感じです!」

スリジエの言葉に、クオレが目をキラキラと輝かせて答えた。そんな様子に、スリジエは嬉しそうに笑う。

「うふふ、元気いっぱいで素敵ね。それじゃあ、早速ポケモンたちを見せてあげる!」

スリジエがそう言うと、ワニノコが元気に鳴き声を上げる。

「ワニッ!」

「あなたは私のポケモンでしょ」
 ▼ 16 ヤップ@こだわりメガネ 17/08/19 13:51:31 ID:PjYjRmBw [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
幸せ
 ▼ 17 ッタイシ@きれいなウロコ 17/08/19 13:52:14 ID:PjYjRmBw [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>16
ミス
支援
 ▼ 18 AYr1xkow/g 17/08/19 14:07:16 ID:RYnIAxYA [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
スリジエは机の引き出しから三個のモンスターボールを取り出した。そして、それぞれ中に入っているポケモンをボールから出し始めた。

「まずはこの子ね」

そう言って繰り出したのは、緑色のポケモンだ。小さくてスリムな体躯に、気の強そうな瞳が可愛らしい。

「この子はくさへびポケモンのツタージャ。イッシュ地方から連れてきたの」

「ツタ?」

ツタージャは小さく鳴き声を上げてから、近くにいたクオレを見上げた。

「可愛い!」

クオレが高い声を上げる。

「お次はこの子」

スリジエがそう言って繰り出したのは、赤みがかったオレンジ色の体毛をしたポケモンだった。尻尾の先には小さい炎が燃えている。

「とかげポケモンのヒトカゲよ。この子はカントー地方の子ね」

「カゲカゲッ!」

ヒトカゲは鳴き声を上げてジャンプし、小さい足をバタバタと動かした。

「元気いっぱいだ」

パロレがそうコメントする。

「最後はこの子ね」

次に出てきたのは、水色の体をしたポケモンだ。小さな嘴が可愛らしい。

「この子はペンギンポケモンのポッチャマ。この子は、シンオウ地方出身ね」

「チャマ!」

スリジエは、元気に鳴き声を上げて床を突っつき始めたポッチャマの頭を撫でた。

「さあ、好きな子を選んでいいわよ!」

スリジエの言葉に、クオレは困った顔をして両頬に手を当てた。

「えぇー、どうしよう!みんな可愛くて決められないよー!」

「うーん……どうしよう……!」

パロレも考えこんで、唸り声を上げた。
 ▼ 19 ーマンダ@ライブキャスター 17/08/20 00:27:55 ID:w73Ttvtw NGネーム登録 NGID登録 報告
女博士好き
支援
 ▼ 20 AYr1xkow/g 17/08/20 02:29:41 ID:/S2bPvLA [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレはしばらく三匹を前に悩んでいた。すると、ふとヒトカゲと目が合った。ヒトカゲは先程まで状況がよく分からずキョロキョロと落ち着きなく周りを見渡していたのに、パロレから目を離そうとしない……。

瞬間、パロレは口を開いていた。

「ぼく、決めました。この子、ヒトカゲにします!」

パロレはそう言って、ヒトカゲを抱き上げた。

「え!パロレ決めるの早いー!」

クオレが慌てて声を上げる。スリジエはパロレとヒトカゲを見てニッコリと笑った。

「ヒトカゲをよろしくね、パロレくん!」

「はい!」

パロレが返事をする。クオレはもう少し迷っているようだった。唇を噛み締めて二匹を交互に見やっている。

「えっとー、えっとー……、わたし、この子!ツタージャにします!」

どうやら決心がついたようだ。クオレはツタージャを胸に抱きかかえた。ツタージャも嬉しそうだ。

「うん!決まってよかった。クオレちゃんも、ツタージャをよろしくね」

「はい!大切にします!」

「いい返事だわ」

スリジエはそう言うと、机の前の椅子に腰かけた。スリジエのたっぷりとした紫色の長い髪が揺れる。スリジエはパロレとクオレに言い聞かせるように語り始めた。

「私はね、人間とポケモンの間に生まれる絆について研究しているの。きっと絆があった方がポケモンって強くなれるのよ」

スリジエは緑色の瞳を閉じて呟くように繰り返した。

「懐いたり、仲良くなったりすることで進化するポケモンもいるし……絆を深めることでメガシンカして強くなる子もいる……」

「メガシンカ、聞いたことあるけどあまりよく知らないなぁ」

クオレが言うと、スリジエは小さく笑った。

「ふふ、その話はまた今度、機会があればしましょうね」

スリジエはそれから真面目な様子で続ける。

「あなたたちにポケモンをあげたのは、実は少しだけ協力してほしいからっていうのもあるの。絆を深めて強くなっていくその過程を、ぜひ私にも見せてくれるかしら?」

スリジエが問う。

「はい!」

「わたしに出来ることなら何でもします!」

二人は迷うことなくそう答えた。
 ▼ 21 AYr1xkow/g 17/08/20 02:48:30 ID:/S2bPvLA [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ふと、エレベーターの扉が開いた。一同の視線がエレベーターの方に向く。中にいたのは、パロレと同じくらいの年齢の男の子だった。

「失礼いたします。予約していたユーリと申します」

男の子は丁寧な口調で言い、しっかりと頭を下げた。金髪に碧眼。育ちの良さそうな少年だ。

スリジエはユーリと名乗った少年に「こっちにいらっしゃい」と手招きした。ユーリは「はい」と返事して、こちらへ歩いてくる。パロレとクオレは少し後ろに下がった。

「ユーリくん。今日は来てくれてありがとう」

スリジエが言う。ユーリは一瞬パロレたちを気にするようにちらりと見たが、すぐにスリジエの方に向き直った。

「こちらこそ、お時間を割いていただきありがとうございます」

「いいのよ。それで、一体どんな用件で来たのかしら?」

スリジエの問いに、ユーリは数秒間黙りこんでいた。それから、鼻から小さく息を吐き、

「強くなるためにはどうすればいいのかを教えていただきたくて、ここに来ました」

予想外の言葉に、パロレたちは目を見開いた。

「それは……難しい問題ね」

スリジエも顎に手を当てて考えこんだ様子で言う。

「ああ。……でも、見たところ君はトレーナーじゃないようだけど、なぜそんなことを?」

アキニレがユーリの腰の辺りを見つめながら言う。そこにはモンスターボールはひとつもない。

「まず知識をつけてから無駄なく行動したいと思ったのです」

ユーリは強い口調で言った。

「なるほどね。確かに知識は必要だわ」

スリジエはそう言ってから、意味ありげな目線でユーリを見つめた。

「でもね、経験が一番よ。あなたが無駄だと思うことも、きっと無駄じゃないから」

ユーリは納得しかねるという表情をしている。

「試してみたらどうかしら」

スリジエはそう言いながら立ち上がり、ポッチャマを抱きかかえる。それから、複雑な顔をして黙っているユーリにポッチャマを差し出した。
 ▼ 22 AYr1xkow/g 17/08/20 03:00:30 ID:/S2bPvLA [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「チャマ!」

ポッチャマが鳴き声を上げる。ユーリは状況がよく飲みこめていないようだ。

「実践してみたら?この子と一緒に」

スリジエのその言葉で、ユーリはようやくスリジエの意図を理解したようだ。ユーリは慌てて首を激しく横に振った。

「ええ!?いやそんな……!いきなり悪いです!」

申し訳なさそうに言うユーリに対し、スリジエは大らかに笑っている。

「いいのいいの。三匹ともパートナーを見つけてほしかったからちょうどいいわ!せっかくだから、三人とも仲良く頑張ってね」

スリジエは特に焦ることもなくユーリに対応している。もしかしたら、ポケモンを持っていない少年が研究所に来ることを知っていたからこそ、今日パロレたちを連れてくるようアキニレに言ったのかもしれない。

「あの……はい。ありがとうございます」

ユーリは遠慮することを諦め、礼を述べた。それからパロレとクオレに向き直る。

「お二人も、ちょうどポケモンを貰ったところだったんですね。どうぞよろしくお願いします」

「うん。ぼくはパロレ。よろしくね」

「わたしはクオレ!よろしくねー!」

パロレとクオレも答える。その様子を見ていたアキニレは、

「よし!じゃあ、次は俺の番だな。三人とも、俺についてきてくれ」

そう言ってエレベーターに向かって歩き出した。
 ▼ 23 AYr1xkow/g 17/08/20 03:20:26 ID:/S2bPvLA [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エレベーターに入り、一同は今度は二階へと向かった。二階にはいくつものデスクが並んでいる。スリジエの手伝いをしているアキニレや、助手たちが研究に使っている部屋だ。アキニレが自分のデスクまで歩いていくのを、三人は部屋を見渡しながらついていった。

アキニレが立ち止まった。パロレはふと机の上を見た。若干散らかっている。それから、写真立てが目に入った。三人の子供が写っている。一番右にいるのは、パロレの同じくらいの年齢の時のアキニレだった。

「俺は博士の手伝いをしつつ、自分でもポケモンの生態について研究してるんだ。君たちには俺の手伝いもしてもらおうかな」

アキニレはそう言いながらゴソゴソと引き出しを漁った。

「ほれ」

お目当てのものが見つかったようだ。アキニレが出したのはコンパクトな機械だった。機械の大部分が画面になっている。

「こいつはポケモン図鑑」

アキニレはそう言って、三個のポケモン図鑑をそれぞれパロレたちに渡す。それから、空のモンスターボールもいくつか渡してくれた。

「捕まえたポケモンを自動で登録していってくれるハイテクな図鑑さ!このアモル地方にいるポケモンをどんどん見つけていって、俺にたまに見せてくれると嬉しいな」

「頑張ります!」

クオレが言う。

「オレまで貰ってしまった……なんだかすみません」

ユーリはまたもや申し訳なさそうに言った。

「気にしない気にしない!……ま、経費で落ちるから俺は損はしない……けど、君たち!大切にしてくれよ!」

アキニレの言葉に、三人は力強く頷いた。

「でも兄さん、なんでここでお手伝いしてるの?兄さんの専門分野ってちょっと違うよね」

パロレがふと疑問に思ったことを口にした。アキニレはああ、と声を上げる。

「そりゃ、縁があったからっていうのが大きいけどな。でも、面白くないか?博士は、トレーナーと一緒にいるポケモンについて研究してる。対する俺は、野生のポケモンの生態について研究してるのさ」

アキニレは机の上をざっと眺めた。たくさんのファイルがある。アキニレが研究したポケモンに関する情報がたくさん書きこまれたレポートが挟んであるのだろう。

「ポケモンを、別の視点からも見ることができるじゃないか。トレーナーといると変わってしまう部分、変わらない部分。それも見えてくる。最高の職場だよ」

アキニレは本当に楽しそうだった。自分の好きなことができるのはいいことだ。バトルについてはどう思っているのだろうか。パロレはそう思った。

「とっても素敵だと思います!わたし、ポケモン図鑑を作るの、頑張りますね!」

クオレが気合の入った声音で言った。
 ▼ 24 ライガー@プレミアボール 17/08/20 21:21:56 ID:K6pha1AM NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 25 ガガルーラ@うみなりのスズ 17/08/21 00:13:05 ID:pzIQAVq2 [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
スリジエ博士好きかも
支援
 ▼ 26 AYr1xkow/g 17/08/21 00:52:03 ID:BTx65Iv. [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「そうだ、三人とも、ジム制覇を目指すのはどうだろう?俺も八年前にやったんだ。腕試しになるよ。このオーロシティにもジムはあるからね」

「ジム制覇……」

パロレが呟いた。

「そうそう。最後にはポケモンリーグに挑戦してみるのもいいな。もちろん、ポケモンと何をするかは自由だよ。なんでも出来るからな!」

アキニレがそう言って笑った。

「なんでもかぁ……」

パロレは不思議な気持ちだった。これからヒトカゲと何をしよう?

「パロレは、母さんにヒトカゲを見せに行ったらどうだ?」

アキニレが言う。

「うん、そうするよ」

パロレも答えた。そして研究所から出ていこうとすると、クオレが待ちかねていたかのように口を開いた。

「ねえねえパロレ、バトルしてみようよ!」

「え、今?」

パロレは思わずそう言ってしまったが、慌てて考え直した。今しかない。はじめの一歩を踏み出す時だ。

「うん!やろう!」

パロレが言うと、クオレは嬉しそうに笑った。

「えへへ、頑張るぞー!」

クオレはそう言って拳を握りしめると、つい先程貰ったばかりのモンスターボールを投げた。

「行っけー!ツタージャ!」

「行けっ!ヒトカゲ!」

パロレもヒトカゲを繰り出した。モンスターボールを投げる初めての感覚に、なんだかドキドキしてしまう。

「よしヒトカゲ、頑張ろうな!ひっかくだ!」

「カゲッ!」

声をかけると、ヒトカゲは鳴き声を上げてからツタージャに勢いよく近づいていき、爪で思いきり引っ掻いた。ツタージャは呻き、じっとりとした目つきでヒトカゲを睨みつけた。

「わたしたちも負けないぞー!ツタージャ、たいあたりっ!」

「タージャ!」

ツタージャは小さな足で素早く走り、ヒトカゲに思いきりぶつかった。ヒトカゲがよろめく。

「ヒトカゲ、もういっちょひっかく!」

ヒトカゲはよろめいた体を足でしっかり支えると、まだ近くにいたツタージャの体をもう一度爪で引っ掻いた。ツタージャは痛そうな鳴き声を上げて、その場に倒れこんでしまった。

「あー!負けちゃったー!」
 ▼ 27 AYr1xkow/g 17/08/21 00:53:22 ID:BTx65Iv. [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
クオレはそう言いつつもとても楽しそうだ。まだ興奮冷めやらぬ様子で、

「すごいね!楽しいね!次は頑張って勝つから!」

「いや!次もぼくが勝つよ」

クオレに触発されて、パロレも思わず好戦的な言葉を口にした。

「次はわたしが勝っちゃうもんね!」

クオレはべっと舌を出した。

「それじゃ、わたしはちょっと街を見て回ろうかなー。また今度、ユーリもバトルしようね!ばいばい!」

クオレはそう言うと、手を振って研究所を出ていく。パロレも手を振り返した。

「バイバイ!」

「あ……さようなら!」

ユーリもぎこちない様子で挨拶をする。

「えっと……オレはオーロジムに行ってみようと思います」

「あ、じゃあぼくも行こうかな。一緒に行こうよ!」

せっかくオーロシティに来ているのだから、家に帰る前に寄ってみたい。そう思ったのだ。

「では行きましょうか」

ユーリはそう言うと、アキニレに向き直る。

「あの、色々……本当にありがとうございました」

「どういたしまして。ポケモンと一緒に、楽しんでくれよな!」

アキニレはそう言って、快活に笑った。
 ▼ 28 AYr1xkow/g 17/08/21 00:56:34 ID:BTx65Iv. [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレとユーリは研究所を出てオーロジムに向かった。歩いている間は会話がほとんどなく、パロレは困っていた。話したことといえば、ユーリが「あの助手の方はパロレさんのお兄さんなんですね」と言ったくらいである。

やがて、二人はオーロジム前にやってきた。ジムには看板が付いており、「高みを目指すセレブリティ」と書いてある。このオーロジムのリーダーの二つ名だ。

「おーっす未来のチャンピオン!」

ふと大声がして、二人はわっと飛び上がった。小太りの男がこちらを見て朗らかに笑っている。

「ジムに挑戦するのか!いいねェ!」

男はそう言いながら近づいてきた。

「ただオーロのジムリーダーはちょーっと曲者!有名デザイナーの一人娘で、ショッピングが大好きなセレブだ!今日も買い物に出かけて以来まだ帰ってきてないぞ!」

「ええーっ、そんなのアリ!?」

パロレは思ったことをそのまま口にした。

「すぐには帰ってこないから、今は先に進んだ方が吉だ!」

男はそう締めくくった。パロレとユーリは顔を見合わせる。そう言われてしまったら、仕方がない。

「分かりました……オレは先を行きます」

ユーリががっくりと肩を落として言う。パロレも正直不満だった。

「しょうがないね……ぼくは一旦帰るよ。じゃあ、また会った時にね」

パロレがそう言って軽く手を振る。

「ええ。ではまた」

ユーリも小さく礼をして、二人はその場を後にした。
 ▼ 29 AYr1xkow/g 17/08/21 01:11:46 ID:BTx65Iv. [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレは1番道路を通ってヴァイスタウンまで帰っていった。モンスターボールを腰につけて歩くと、なんだか新鮮な気持ちになる。少しくすぐったいような気もした。

「ただいま!」

元気よく家の玄関の扉を開ける。

「おかえりなさい!ポケモン貰ったの?」

母親はパロレが帰ってくるなり、早速話を切り出した。

「うん、貰ったよ!ヒトカゲっていうんだ!」

パロレはそう言ってモンスターボールからヒトカゲを繰り出した。ヒトカゲは初めて見るパロレの家の風景を興味深げに眺めている。

「可愛い!」

母親はそう言って、ヒトカゲに目線を合わせるようにしてしゃがみこんだ。部屋の隅でボールで遊んでいたニャスパーが、こちらへとてとてと歩いてくる。

「パロレにぴったりのポケモンね」

そう言ってヒトカゲの頭をそっと撫でた。ヒトカゲはもうパロレの家に慣れたらしい。気持ちよさそうに瞳を閉じている。

「パロレも大きくなったのねー。八年前を思い出すわ」

母親は懐かしむように言った。その声はどこか切なげだ。

「兄さんが旅立った時のこと、あまり覚えてないなぁ」

パロレが言うと母親は微笑んだ。

「そうね、まだあなたは小さかったから」

そう言って立ち上がる。

「アキニレもお友達と一緒に冒険に出たのよ。アキニレはその中でポケモンの研究をしたいっていう夢を見つけた……。パロレ、あなたも好きなものを見つけられるといいわね」

母親は優しい声で言う。

「うん。まだよく分からないけど……とりあえず、バトルで強くなりたいな!頑張るよ」

パロレの言葉に母親はうんうんと頷いた。

「いってきます!」

パロレが力強く、元気に挨拶をする。一瞬だけ母親は寂しそうな顔をしたが、すぐに笑顔に戻った。パロレは気付いていない。気付かなくていいのだ。パロレはきっと強くなって無事に帰ってくる。アキニレと同じように。

「いってらっしゃい。頑張って!」
 ▼ 30 ソクムシ@ひこうのジュエル 17/08/21 23:03:57 ID:pzIQAVq2 [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
こういうオリジナル地方いいね
支援
 ▼ 31 ーケオス@たんけんこころえ 17/08/22 01:56:56 ID:RZTqPQvA NGネーム登録 NGID登録 報告
面白そう
支援
 ▼ 32 AYr1xkow/g 17/08/22 11:01:21 ID:DcFUOnNg [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレはヴァイスタウンを出て再び1番道路にやってくると、今度はくさむらのある東側の方へと歩いていった。これからは好きなだけ歩いていける。最高の気分だ。

ふとカサッと音が聞こえてきた。パロレは音のした方に視線を向ける。音はまだ止まない。カサカサと葉の触れ合う音が聞こえる。きっと、ポケモンが隠れているのだ。

パロレは微かにくさむらが揺れていることに気がついた。ゆっくりと近づいていく。すると、ピタリと音が止み、葉も動かなくなった。パロレが立ち止まると、今度はそこからポケモンがバサッと翼を広げて飛び出してきた。野生のポッポだ!

「わっ。行けっ、ヒトカゲ!」

パロレは反射的にヒトカゲを繰り出していた。ヒトカゲが鳴き声を上げてボールから飛び出す。

「よし……ヒトカゲ!ひっかくだ!」

パロレが指示を出すと、ヒトカゲはポッポの元までかけていき、翼の辺りを引っ掻く。ポッポは驚いて翼を広げて少し後ずさりした。それから、ヒトカゲに思いきりたいあたり。しかし、ヒトカゲはまだピンピンしている。

「次で勝てそうかな?……あ、そうだ」

パロレはバッグから空のモンスターボールを取り出した。

「こいつの出番っ!」

そう言って、モンスターボールをポッポに向かって投げる。ポッポはボールの中に吸いこまれていった。パロレが緊張気味に見つめる中、地面に落ちたモンスターボールは三回揺れてからカチリと音が鳴った。成功だ!

「やった!」

初めてのゲットだ。パロレは早速モンスターボールからポッポを出した。そして、力強く声をかける。

「ポッポ!これからよろしくな!」

「ポッポォ!」

ポッポも翼をはためかせて応えた。するとその時、サッと目の前を何かが通り過ぎていった。何かと思えば、ジグザグマだ。ジグザグマは名前通りジグザグに走りながらこちらへ向かってくる。

パロレはポッポに目配せをする。

「……よし、ポッポ!初めてのバトルだ!行くぞ!」

「ポッポー!」
 ▼ 33 AYr1xkow/g 17/08/22 11:46:45 ID:DcFUOnNg [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あれから1番道路でしばらくヒトカゲとポッポを野生のポケモンとのバトルで鍛えていたら、だんだん楽しくなってきた。とはいえ、ずっとここにいるわけにはいかない。パロレは1番道路の東側にある、ノグレータウンというところに来ていた。

ノグレータウンはとても美しい街だ。なんと、街のほとんどの道路が水路になっているのだ。街を回る際は、ゴンドラに乗らなければならない。景観も美しく、ここもまた観光客で賑わっている。

パロレがノグレータウンに入ると、すぐそばにいた男が声をかけてきた。

「やあ!観光かな?良ければ行きたいところまで乗せてくよ」

見れば、彼はオールを持っている。どうやらゴンドリエーレのようだ。

「えっと……」

パロレは考えこんだ。何も決めていない。とはいえ、せっかく来たのだから見て回らないのはもったいない。

「何かおすすめのところってありますか?」

パロレが聞くと、ゴンドリエーレの男は嫌な顔ひとつせずに答えてくれた。

「お?じゃあいいところに連れていってあげるよ。ノグレータウンの人気者のところさ」

「へえ!気になるな。お願いします!」

「おう!任せな!」

彼はそう言ってパロレをゴンドラに乗せてくれた。初体験だ。パロレは小さな舟に揺れながら街を眺めた。

本当に綺麗な街だ。落ち着いた景観ではあるが、建物の色は結構カラフルで見ていて飽きない。

途中、ほとんど同じ形をした少し大きめの民家が二軒並んでいるのを見た。まるでパロレとクオレの家みたいだ。あの家に住んでいる人たちも、きっと仲がいいんだろうな。パロレはそう思った。

どこからともなく、音楽が聞こえてくる。パロレは耳を澄ませた。心地いいメロディだ。だんだんその音が大きくなってきたところで、

「よし、着いたぞ!」

「あ、はい!ありがとうございます!」

パロレはゴンドリエーレに手を貸してもらって舟を降りた。目の前では、一人の男性が楽器を演奏している。どうやら、この人が街の人気者のようだ。

「楽しんで!」

ゴンドリエーレはゴンドラを操縦しながらそう言って、見えなくなっていった。
 ▼ 34 AYr1xkow/g 17/08/22 12:12:57 ID:DcFUOnNg [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
その人物はアコーディオンのような楽器を弾いていた。壮大ながらもどこか切なげで、だけど聞いていて心地よい不思議なメロディだ。周りにはパロレの他にも人が集まっていた。

やがて、演奏が終わった。男が恭しく礼をする。聴衆からは拍手が湧き上がった。パロレももちろん手を叩いた。

「すごくよかったです!これ、アコーディオンですか?」

パロレは思いきって話しかけてみた。顔を上げた男はパロレを見て微笑む。

「ありがとうございます。これはコンサーティーナっていうんですよ」

「へえ……!」

パロレは目を輝かせてコンサーティーナを見つめた。

「今の曲は、アモルの三英雄に捧ぐ歌。アモルの三英雄は知っていますか?」

男が問う。

「はい!……まあ、あまり詳しくは知らないけど……」

パロレの声は誤魔化すように徐々に小さくなっていった。男は笑った。

アモルの三英雄。このアモル地方に伝わるおとぎ話のようなものだ。はるか昔にアモル地方を救ったと言われる三人の英雄。

「アモルの三英雄、エシャロット、アングリア、そしてメローネ。かつて戦に敗れ荒廃していたアモルにやってきた旅人。彼らはアモルを栄光へと導きました」

男は歌うように言いながら、再び演奏を始めた。

「アモルの民は彼らを英雄と讃えました。そしてそのうちの一人、エシャロットはやがてこのアモルの王となったのです」

それから、男は声を落として続ける。

「なんでも、彼らは不思議な力を持っていたらしいですよ。その力を使うと、ポケモンの姿が変わり、更に強くなったと聞きます。三英雄はそのポケモンたちと共にアモルに勝利をもたらし、アモルを蘇らせたのです」

男はそして演奏を止めると、

「三英雄については、ジョーヌシティ近くのフォルテ城でまた詳しく聞けるでしょう。興味がおありなら、行ってみてはいかがですか?」

フォルテ城とは、かつてアモル地方の王が住んでいた城だ。現在では一部分が博物館となって一般公開されているが、王家の末裔も未だ居住地として利用している。

「面白そう!行ってみようかな。ありがとうございます!」

パロレは男に礼を述べると、その場を去っていった。男はコンサーティーナを鳴らしながらお辞儀をしてその姿を見送った。
 ▼ 35 ンガー@グラスメモリ 17/08/22 21:05:34 ID:R8CRSgc6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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 ▼ 36 AYr1xkow/g 17/08/23 00:09:46 ID:lmAmiSYY [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレは先程とは別のゴンドラに乗っていた。あまり難しいことは分からないが、三英雄の話は少し気になるかもしれない。更に強くなるポケモンとは、一体なんなのだろう。

船着場についた。パロレはゴンドリエーレに礼を言ってその場を後にする。ノグレータウンはとても良いところだった。さあ、次だ。

パロレはノグレータウンを出て南に歩いていった。2番道路だ。ここにはアモル地方最大の川、セーニョ川がある。その上にはセーニョ大橋が架けられており、ここもまた観光名所として知られている。

パロレが進んでいると、なんだか人が集まってざわついていた。何があったのだろうか。パロレは近くにいた男性に声をかけてみた。

「何かあったんですか?」

「ああ。今は橋に近づかない方がいいぞ。封鎖されてるんだ」

男性が言うと、隣にいた女性が憤りながら間髪入れずに口を挟んだ。

「そうそう、スパイス団の仕業だよ!」

「スパイス団……?」

パロレは首を捻った。

「知らないのかい?人のポケモンを奪う悪い奴らだよ!ここ数年前から活発になったんだ」

女性は苛々している様子だった。

「君も戻った方がいいよ」

男性が諭すように言う。

「戻った方がいいって言われても、先に進みたいし……」

パロレはそう呟いて遠くに見えるセーニョ大橋を見やった。ここで戻るだなんてそんなことはしたくない。

「迷惑になことをする奴らだな。とっちめてやる!」

パロレはそう言って周りの人たちが止めるのも構わず飛び出していった。
 ▼ 37 AYr1xkow/g 17/08/23 00:12:15 ID:lmAmiSYY [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
セーニョ大橋の前まで来ると、ちょうど橋の真ん中辺りでスーツのような制服を着た二人の男が道を塞ぐようにして立っているの見えた。パロレは迷わず二人の方へ向かって歩いていく。

「なんだ?今ここは我らスパイス団の縄張りだ。ここを通りたいならポケモンを渡してもらおう」

片方の男が毅然とした態度で言う。スーツに近い服装をしているだけあって、かなりの威圧感がある。

「無理ならここは通さないぞ!」

もう一人もそう言った。パロレは思わず「なんだよ、勝手な奴らだな」と呟く。

「アアン?ガキのくせに粋がってんじゃねーぞ」

あの毅然とした態度をしていた構成員がドスの効いた声で言った。

「こらこら、素が出てる」

もう一人の男がたしなめる。どうやら、彼の性根はチンピラのようなものだったらしい。

「あっ、しまった」

男はそう言って軽く咳払いをする。

「……ゴホン。ポケモンを連れていないのならさっさと立ち去るのが身のためだぞ」

「ああ、ポケモンはいないよ。お前たちに渡すポケモンなんてね!」

パロレは痛烈に言ってやった。そうだ、ヒトカゲとポッポはぼくの仲間だ。渡すもんか!

「んだとゴルァ!」

「オイ!」

もう彼には、相方の声は届いていないらしい。

「うるせー!オイテメェ、勝負しろ!ガキだからって容赦してやんねーからな!!」

そう言って、スパイス団の構成員である彼は勝負をしかけてきた。
 ▼ 38 AYr1xkow/g 17/08/23 00:35:57 ID:lmAmiSYY [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「行け、ポッポ!」

パロレがポッポを繰り出す。スパイス団の下っ端構成員もボールを投げた。

「行け!ポチエナ!」

下っ端が繰り出してきたのはポチエナだ。パロレはモンスターボールから出てきた瞬間の隙を狙って素早く指示を出す。

「ポッポ、すなかけだ!」

「ポォー!」

ポッポが足で砂を蹴る。すなかけの砂は思いきりポチエナの顔面にかかった。ポチエナはキャンと吠えて目を瞬く。

「ポチエナ、たいあたり!」

下っ端は構わず指示を出したが、ポチエナの攻撃は外れた。ポッポはいとも簡単にポチエナの攻撃を避けてみせた。すなかけでポチエナの視界が悪くなり、命中率が下がっているのだ。

「クソッ!」

下っ端が舌打ちする。

「ポッポ、たいあたり!」

ポッポはポチエナのところまでパタパタと飛んでいき、思いきり体をぶつける。とはいえ、ポチエナも負けてはいなかった。

「ポチエナ!たいあたり!」

下っ端の指示を聞いて、ポチエナが動く。今度こそポチエナの攻撃は当たった。「ッシャオルァ!」と下っ端がガッツポーズを決める。

「でも、これで終わりだ!たいあたり!」

「ポッポォ!」

ポッポは気合十分だ。パロレの声に合わせて、渾身の力をこめてポチエナにたいあたりする。ポチエナは鳴き声を上げてその場に倒れこんでしまった。

「だーー!クソッ!」

バトルに負けたスパイス団の男は地団駄を踏みながら声を上げた。
 ▼ 39 AYr1xkow/g 17/08/23 01:08:13 ID:Z2oauplQ [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「この野郎…今日のところは勘弁してやる。覚えてろよ!」

下っ端構成員はそう言って、脱兎のごとく逃げていってしまう。もう一人の男がそれを見て「あ、ああー……」と声を上げた。男はそれからパロレに向き直る。

「えっと、お前。スパイス団に歯向かうことはやめておくのが懸命な判断だぞ。それでは失礼」

そう言って、相方を追いかけて走って逃げていく。

「なんだったんだ……」

パロレはそう言いつつも、正直少し安心していた。無事にバトルに勝つことができたことにほっと胸を撫で下ろす。

なぜか体が勝手に動いていた。パロレのような子供が大人の男二人に立ち向かうだなんて、とても無謀なことだ。でも、許せなかったのだ。パロレの心が彼らを許すことができなかった。

でも、とりあえずスパイス団、とかいう組織の男たちを撤退させることができた。上出来だ。これで前に進める。パロレはセーニョ大橋を渡った。橋の上から川を見下ろす。太陽の光が当たって、水面がキラキラと輝いていた。美しい景色だった。

橋を渡りきると、川の近くのくさむらで一匹のポケモンがぶるぶると震えているのが見えた。慌てて近づいてみると、震えているのはマリルだった。きっと、先程のスパイス団の二人が怖かったのだろう。

「大丈夫?」

パロレはしゃがみこみ、マリルに優しく声をかける。マリルは不安げな顔でパロレを見上げた。それからじっと見つめ合う。警戒はされているものの、悪くは思われてなさそうだ。

やがてマリルは表情を元に戻し、パロレに近づいてきた。悪意がないことが完全に伝わったのが分かった。パロレはそっとマリルに触れて、体を撫でてやった。冷たくて気持ちがいい。

「もう怖い思いしたくないよなー」

可哀想だ。パロレはそう思った。

「よし、マリル。これからはぼくが守ってあげる。だから大丈夫だよ」

パロレはそう言って両手を広げた。マリルはあまりよく分かっていなさそうだ。

「おいで」

マリルはその言葉に、嬉しそうにこちらに飛びこんできた。
 ▼ 40 AYr1xkow/g 17/08/23 08:56:29 ID:Z2oauplQ [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マリルにモンスターボールを軽く投げてみる。マリルはあっさりと受け入れてくれた。

これでもう、マリルは大丈夫だ。

パロレはそれから2番道路を抜けて、アズハルタウンへと歩いた。

アズハルタウンは、古くからある景観を壊さないために街を発展させずにあえてそのままにしている。アモル北部の街は都会が多いが、ここは少し田舎っぽい。パロレはヴァイスタウンを思い出した。

さて、そろそろ日も落ちそうだ。パロレはポケモンセンターに向かった。ポケモントレーナーは無料で宿泊できるようになっているのだ。

部屋を取り、食事や風呂を済ませ寝支度を整えていると、今は家を出て旅に出ているのだという実感がやっと湧いてきた。だって、兄さんはもちろん、母さんも今ここにいないんだ。

まったく寂しくないと言えば嘘になるかもしれないが、それでもやっぱり、ワクワクする気持ちの方が大きかった。

これから何が起こるかは分からないが、きっと何があっても大丈夫だ。また明日から、頑張ろう。
 ▼ 41 レセリア@こわもてプレート 17/08/23 12:03:48 ID:dxHMG1HY NGネーム登録 NGID登録 報告
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 ▼ 42 AYr1xkow/g 17/08/24 01:17:01 ID:zIpPzNbw [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
翌日、パロレはすっきりとした思いで目を覚ました。早く先に進みたくてたまらない。パロレは急いで準備を終わらせ、朝食を済ませると、アズハルタウンを出ていった。

やってきたのは3番道路だ。この3番道路は、ラランジャの森がほとんどの割合を占めている。パロレは道なりに進んでいって、ラランジャの森へと入った。

ラランジャの森は、木々が生い茂っているだけではなく、花もたくさん咲いていた。そのおかげで森の中はカラフルで、とてもいい香りがする。至るところにくさタイプとむしタイプのポケモンがいるのが見えた。

パロレが森の中を歩いていると、一匹のポケモンが飛び出してきた。蕾のような姿をしたそのポケモンは、スボミーだ。パロレはマリルを繰り出した。

「よーしマリル、みずてっぽうだ!」

パロレが指示を出す。しかし、マリルよりスボミーの方が速かった。スボミーはすいとるでマリルの体力を奪い取った。効果が抜群の技を受け、マリルはよろめく。

「マリル頑張れ!」

パロレの声に、マリルはどうにか立ち上がった。そして口から勢いよく水を吐く。あまり聞いていないようだが、問題はない。勝つことが目的ではないのだ。

次も体力を吸い取ってきたら、スボミーは回復してしまう。そうなるとジリ貧だ。パロレは空のモンスターボールを手に取った。そして、スボミーに向かって投げつける。

カチッ。三回揺れた後、音を立ててボールは止まった。パロレはモンスターボールを拾い上げた。

「よっしゃ!スボミーゲット!」

パロレはモンスターボールを腰につけた。これで仲間は四匹だ。

パロレは満足げな様子で再び歩き出した。
 ▼ 43 AYr1xkow/g 17/08/24 01:18:11 ID:zIpPzNbw [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
どれくらいの時間、ラランジャの森にいただろうか。ヒトカゲたちを野生のポケモンたちと戦わせながら進んでいたら、道がよく分からなくなってしまった。完全に迷子だ。

「うう……ここどこだ……?」

そう言いながらパロレはポケモン図鑑を開く。この図鑑にはアモル地方のタウンマップも内蔵されているのだ。とはいえ、森の内部まで詳しくは描かれていない。パロレは溜息をついて図鑑をしまった。

「仕方ない、とりあえず進もう」

パロレはわざと大きな声でそう言って歩いた。決して怖くなってきたわけでは、ない。

すると、笑い声のようなものが聞こえてきた。パロレはビクリと肩を震わせ、思わず「えっ、何怖い!」と口に出した。

すると、パロレの元に何かが飛んできた。パロレは目を凝らしてよくそれを見た。むしポケモンかと思ったが、違う。昔、アキニレが呼んでくれた絵本に載っていた幻のポケモンだったのだ。

緑色の体に、球根のような不思議な形をした頭部、それから小さな羽根。

「えっえっ……、セレビィ……?」

パロレは目の前の光景が信じられず、目を剥いたまま立ち止まった。笑い声に聞こえたのは、セレビィの鳴き声だったようだ。

セレビィは真っ直ぐパロレの方に向かってきた。それから、パロレの周りを楽しそうに飛び回っている。

セレビィはときわたりポケモン。その名の通り、「時渡り」という不思議な力で過去や未来を行き来できると言われている。セレビィはパロレに更に近づいてきたかと思えば、首の周りをくるくると回った。

「はは、くすぐったいよ」

パロレはそう言って、セレビィの頭を撫でた。セレビィは目を閉じて気持ちよさそうにしている。その姿はとても可愛い。

それからセレビィはパロレの顔の目の前までやってくると、笑った。パロレは首を傾げた。セレビィのその笑顔が、なんだかとても意味ありげに見えたのだ。やがて、セレビィの体が光り始めた。なんだなんだと思っていると、パロレは驚いて声を上げてしまった。だって、自分の体も光っていたのだ。

訳も分からずオロオロとしていると、急に視界がぐにゃりと歪んだ。それから、まるで空を飛んでいるかのような不思議な感覚に襲われた。
 ▼ 44 AYr1xkow/g 17/08/24 01:19:45 ID:zIpPzNbw [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「なんだ……?」

パロレは辺りをキョロキョロと見渡す。先程とほとんど景色は変わっていない。ただ、森の中の草木がなぜか増えたような気がした。パロレは怪訝な表情で近くの草木の元まで向かった。

すると、物音が聞こえ、パロレは思わず木の陰に隠れた。恐る恐る顔を出して音の方を見ると、そこには少女がいた。どこか見覚えのある顔だ。少女はパロレと同じくらいの年齢のようだったが、少なくともクオレよりは大人っぽく見えた。

少女は迷いなく歩いていく。パロレはこっそり少女を追いかけた。

やがて少女が歩く先に光が見えてきた。出口だ。少女は出口近くまで歩いてくると、その場で立ち止まった。パロレはつけていたことがばれてしまったのかとどきりとしたが、違ったようだ。少女は首を伸ばして森の中を見つめる。誰かを待っているようだった。

やがて、今度は少年の声が聞こえてきた。明らかに聞き覚えのある声でパロレは混乱した。声の主は、少女の元までやってくる。

「くそー、早いな」

少年はそう言って額の汗を拭う。パロレは目を見開いた。だって、そこにはパロレと同い年のアキニレがいたからだ。

「え……兄さん?」

パロレが呟くと、隣にいたセレビィが笑い声を上げた。すると、アキニレ少年と少女がこちらを向く。パロレは慌ててセレビィの口を塞いで木の裏に隠れた。

すると、しばらくしてまた足音が聞こえてきた。こっそり覗きこむと、今度はまた同い年くらいの少年が現れた。まだ子供だというのに恐ろしく顔立ちの整った少年だ。こちらもまた見覚えのある顔だ。

「あ……」

パロレは思わず声を漏らした。そして、セレビィを見やる。

あの二人の少年と少女は、アキニレの机の上にあった写真に写っていた子供だ。パロレはそう気付いた。つまり、パロレはセレビィの時渡りの力で過去に、八年前のラランジャの森に来てしまったのだ。

一体なぜ?パロレはセレビィを見つめるが、セレビィは何も教えてくれない。パロレは溜息をつくと、再び三人の子供たちの方に目を向けた。
 ▼ 45 AYr1xkow/g 17/08/24 01:21:09 ID:zIpPzNbw [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「私が一番ね」

少女が自慢げに言う。

「くっそー!」

そう大声を上げたのはアキニレだ。

「言い出しっぺのくせにかっこわる。俺が絶対一番乗り、とか言ってたくせに」

少女は意地の悪い笑顔でアキニレに言った。アキニレは何も言い返せず、悔しそうに呻いている。

「じゃ、私、先に行くから」

少女はそう言って、「えっ、もう行くのか?」と言うアキニレともう一人の少年を置いてさっさと森を出ていってしまった。

「……すごいな」

アキニレが呟く。それからアキニレはもう一人の少年に声をかける。

「俺疲れたからちょっと休むけど、どうする?」

もう一人の少年は、三着だったのがよほど悔しかったのか、黙ったまま俯いている。すると少年はいきなり顔を上げた。

「俺も行く」

そう言って歩き出す。

「えー、マジか。じゃあ俺も行く!」

アキニレはそう言って少年の後を追いかけた。

すると、再び視界が歪んだ。見れば、パロレの体はまた光っていた。思わずセレビィを見つめる。そして、また体が浮かび上がるような感覚に襲われた。
 ▼ 46 AYr1xkow/g 17/08/24 16:09:42 ID:M2puRCwk [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
気がつくと、パロレは元いた場所に戻っていた。どうやら、現在のラランジャの森に帰ってきたらしい。

パロレは困った顔でセレビィを見つめた。セレビィは相変わらず楽しそうに飛び回っている。

「なんだったんだろう……」

パロレはそう呟いた。一体なぜ、セレビィは八年前のラランジャの森にパロレを連れていったのだろう?セレビィは何がしたかったのだろうか。

「あっ!もしかして」

パロレはハッと思いついた。それから、ニヤニヤとセレビィに笑った。

「ぼくに道案内してくれたんだなー?」

セレビィはなんとも言えない鳴き声を上げた。「そうだよ」と言ったようにも「違うよ」と言ったようにも聞こえる。

「なんだよ、分かんないなもう。でもまあいいや、そう思っとこっと」

パロレはそう言って、先程の少女が歩いた道を歩いていった。セレビィはふわふわ飛びながらパロレについてくる。すると、やっと出口が見えてきた。ここまで長かった。

「なんか、まどろっこしい方法だった気もするけど……でもありがとう、セレビィ」

パロレはそう言って、セレビィに手を振った。セレビィは何回かパチパチと瞬きをしてから、また笑い声を上げる。そして、そこで一回転すると、素早くどこかへ飛んでいってしまった。

ラランジャの森に出て3番道路に戻ると、久しぶりの太陽の光にパロレは思わず目を細めた。眩しい。道路にも花がたくさん咲いている。そしてその向こうに見えるのはラランジャシティだ。

パロレの顔はぱっと輝いた。だって、ラランジャシティにはジムがあるのだから。
 ▼ 47 AYr1xkow/g 17/08/24 16:10:51 ID:M2puRCwk [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランジャシティに入ると、ふわりといい匂いが漂ってきた。ラランジャの森に負けず劣らずたくさんの花が咲いている。ラランジャシティは自然と共存することを目指す街。花畑のある大きな広場が有名だ。

パロレはポケモンセンターに入ってポケモンたちを回復させると、真っ直ぐ歩いていった。目指すはラランジャジムだ。

「あの、少しお久しぶりです」

ふと声が聞こえ、振り返る。

「あ、ユーリ!うん、ちょっと久しぶり」

そこにいたのはユーリだった。オーロジム前で別れて以来だ。パロレも元気よく返した。ユーリはしばらく言葉に詰まってるようだったが、やがて口を開いた。

「……あの。トレーナー同士がこうやって再開した時は、バトルするもの……なんですよね?」

ユーリの言葉に、パロレは一瞬「え?」と声を上げたが、その後すぐに頷く。

「うん!早速バトルしてみようよ!」

「では……よろしくお願いしますね」

ユーリはそう言って、モンスターボールを投げた。

「行け!フラベベ!」

パロレもポッポを繰り出す。そして間髪入れずに叫んだ。

「ポッポ!かぜおこし!」

ポッポが強く羽ばたいて風を起こす。花を持ったポケモン、フラベベにはきっとよく効くに違いない。

「フラー」

フラベベはゆらゆら揺れている。確かにダメージは受けているようだが、思ったより効いているようには見えなかった。

「あれ……?」

パロレが首を捻る。今度はユーリが指示を出した。

「フラベベ!ようせいのかぜ!」

「フラァー!」

今度はフラベベが風を起こす。その技の名前を聞いてパロレはハッとした。

「花持ってたからくさタイプかと思っちゃった!フェアリータイプだ!」

パロレのその声を聞いて、ユーリが挑戦的に笑う。

「そうですよ。フラベベはフェアリータイプのポケモンです。フラベベ!もう一度ようせいのかぜ!」

もしかして、バカだと思われた?ふとパロレの頭にそんな思いがよぎったが、考えすぎだと思うことにした。次は間違えないぞ。パロレは気を引き締めた。

「ポッポ!こっちももう一度かぜおこし!」

ポッポとフラベベがお互いに風を起こし、相手に思いきり当てる。二匹の力は互角かと思われたが、ポッポが先に地面に落ちてしまった。
 ▼ 48 AYr1xkow/g 17/08/24 16:12:15 ID:M2puRCwk [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「うわ!ポッポ、ごめんな!」

パロレはポッポをボールに戻した。それでも、二回攻撃を当てたことで体力はきっと削られているはず。パロレは次のモンスターボールを投げた。

「よーしマリル!みずてっぽうだ!」

「フラベベ!つるのムチ!」

フラベベの方が素早かった。体を高く浮き上がらせ、マリルにきつい一発をお見舞いした。マリルはなかなかのダメージを食らってしまったようだ。しかし、マリルは負けじと口から水を吐き出した。水はフラベベの顔面に当たり、フラベベはフラフラと地面に落ちた。

「……、行け!アマカジ!」

ユーリはフラベベを戻し、次のポケモンを繰り出した。

「マリル戻れ!ヒトカゲ、行くぞっ!」

パロレもポケモンを交代させる。

「ヒトカゲ!ひのこだ!」

ヒトカゲは陽気に鳴き声を上げ、アマカジめがけて火を吐いた。抜群の攻撃を受けたアマカジは、一発でその場に倒れこんでしまった。

「なっ……!」

ユーリは愕然としている。

「よっしゃ!よくやったヒトカゲ!」

ユーリは悔しそうにアマカジを戻し、最後のモンスターボールを投げた。

「これで最後です。行けっ、ポッチャマ!」

「ヒトカゲ戻れ!スボミー、頑張れ!」

スボミーとポッチャマが見つめ合う。

「スボミー、すいとる!」

スボミーはポッチャマに駆け寄り、体力を吸い取ろうと構えた。しかし、その瞬間、

「ポッチャマ!今です!つつく!」

ユーリの指示に、ポッチャマは近づいてきたスボミーの懐を思いきり嘴でつついた。急所に当たってしまったようだ。スボミーは力なくその場に倒れた。

「わー!?スボミー、ごめんっ!えっと、マリル!頼んだ!」

パロレは慌ててスボミーを戻し、マリルを繰り出した。

「マリル!たいあたり!」

「ポッチャマ、はたく!」

二匹はほぼ同時に動いた。マリルは丸い体をポッチャマに思いきりぶつけ、ポッチャマは短い手でマリルを強く叩く。すると、マリルが倒れてしまった。先程のつるのムチのダメージが残っていたのだろう。

「マリル、ごめんな。お疲れ」

パロレはマリルを戻し、ボールにそっと語りかけた。
 ▼ 49 マシュン@しんぴのしずく 17/08/24 16:12:41 ID:bT2kcawc NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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 ▼ 50 AYr1xkow/g 17/08/24 16:13:14 ID:M2puRCwk [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
さあ、残ったポケモンはお互いにあと一匹ずつ。偶然にも、どちらもスリジエ博士から受け取ったポケモンだ。

相性は悪いが、行くしかない。ポッチャマはダメージを受けている。それに、パロレにはとある勝算があった。

「ヒトカゲ!行くぞっ!」

パロレがヒトカゲを繰り出す。ユーリは勝利を確信したのか、少し余裕を見せた。

「ヒトカゲ!ひっかく!」

「ポッチャマ!あわ!」

二人は同時に叫んだ。しかし、パロレは笑っている。

だって、ヒトカゲの方が速い!

ヒトカゲは勢いよく駆け出した。そして弾みをつけて飛び上がり、ポッチャマに向かって大きく腕を振りかぶる。そして、上から勢いよく爪を立てた手を降ろした。

「ポチャァ……」

ポッチャマが倒れこむ。戦闘不能だ。ユーリは唇を噛みしめてポッチャマを見つめ、ボールに戻した。

「……ありがとうございました」

「こちらこそ!接戦だったな!」

パロレもヒトカゲをボールに戻す。

「そうですね」

そう言うユーリの表情は暗かった。

「ではオレは行きますね。また」

ユーリはそう言って、ボールを腰に戻す。

「あっ、うん。じゃあね!」

ユーリはパロレに頭を下げ、早足で歩いていった。ユーリはラランジャジムを通りすぎ、街を出ていく。

「あれ……?」

パロレはその後ろ姿を見て何かを忘れていたような気持ちになった。そして、「あ!」と大きな声を上げる。

「ユーリはもうラランジャジムをクリアしてたのか!先を越された!急ごう!」

パロレはそう言って、急いでポケモンセンターに戻った。
 ▼ 51 AYr1xkow/g 17/08/25 00:54:15 ID:Hx4bQL06 [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
さあ、気を取り直してラランジャジムに挑戦だ。ジムの前の看板には、「花の香りのジェントルマン」と書いてある。その名の通り、ラランジャジムリーダーはくさタイプの使い手だ。

マリルとスボミーは相性は悪いが、ヒトカゲとポッポがいる。きっと大丈夫だ。パロレは意を決してジムの中に入った。

ラランジャジムの中は、不思議な形をしていた。天井がかなり高い。真ん中には一輪の花のような巨大なオブジェがあり、天井近くで見事に花弁が開いている。茎を伝って登っていくような形状になっており、ところどころ、葉の形をした足場がある。

パロレはオブジェの茎に取りつけられた梯子を登っていった。たまに足場で休憩しつつ、一番上の花まで目指す。よく見ると花の近くにはとびきり大きな葉が二枚ついていて、広い足場になっていた。

「よっこいしょ」

パロレは最後の梯子を登り終え、足場に立つ。そこには美しく咲き誇る大きな花を壁にして一人の青年が立っていた。髪と瞳の色は黄緑色で、頭のてっぺんにある双葉のような形をしたあほ毛が特徴的だ。

「こんにちは!挑戦しに来たパロレです!」

パロレは姿勢正しく気をつけをして言う。

「こんにちは、ようこそいらっしゃいました。僕の名前はモクレン。ここ、ラランジャジムでジムリーダーを務めています」

青年、モクレンはそう言って深く礼をした。物腰の柔らかい紳士的な青年だ。パロレは思わずごくりと唾を飲みこんだ。緊張してきた。なんていったって、こういった公式なバトルをするのは初めてなのだ。
モクレンは明らかにガチガチになっているパロレを見て優しく微笑んだ。

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。あなたらしく頑張ってください」

「は……はい!」

そう返事するパロレの声はまだ堅い。

モクレンは瞳を閉じた。

「ポケモンに対して求められるのは誠実な心……。僕はそう思っています。そしてそれはバトルでも同じ」

それから、目を開く。その瞳はとても力強い。モクレンは真っ直ぐパロレを見つめた。

「あなたの心、バトルで確かめさせていただきます!」

さあ、バトルだ!
 ▼ 52 AYr1xkow/g 17/08/25 00:56:10 ID:Hx4bQL06 [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「行け、ポッポ!」

パロレがポッポを繰り出す。

「チュリネ、出番です!」

モクレンもポケモンを繰り出した。

「え、えっと、ポッポ!かぜおこし!」

「チュリネ、かわしてやどりぎのタネ!」

ポッポが翼を大きくはためかせる。しかし、チュリネは思ったより身軽に動いてポッポの後ろに渡った。ポッポが振り向き、チュリネに風を当てようとする。しかし、攻撃はうまく当たらず、チュリネの投げた種がポッポの体にくっついた。

「ポ!?」

ポッポが突如痛みに鳴き声を上げる。ポッポの肩のあたりに、先程の種がついている。そして種からは小さないつの間にか芽が生えていた。このままではまずい。あの種に、どんどん体力を吸い取られてしまう。

「ポッポ!頑張れ!次こそ当てるんだ!」

「チュリネ、ねむりごな!」

ポッポの起こした風をまたもチュリネは避けると、ポッポに不思議な粉をかけた。ポッポはその粉に触れた瞬間、ぱちぱちと眠たそうに瞬きをし、地面に降り立ってすやすやと眠りこけてしまった。

「ポ、ポッポ!」

パロレが叫ぶ。ぐっすり眠っているポッポには聞こえていない。そのうちにも、やどりぎのタネに体力はどんどん奪われている。

「チュリネ!メガドレインです!」

チュリネが更に強くポッポの体力を吸い取る。効果は今ひとつなはずなのに、先程までのダメージの蓄積もあいまって、ポッポは眠ったままその場に倒れこんでしまった。

「……!」

パロレは愕然としてポッポを見つめ、モンスターボールにポッポを戻す。ふと前を見るとモクレンと目が合った。そのモクレンの試すような目つきに、パロレは思わず目を逸らしてしまった。

相性がいいはずの相手に、何も出来ずに瀕死にされてしまった。頭がくらくらする。なんでこんなことになってしまったんだろう?

パロレはポッポの入ったモンスターボールを見て、ハッとした。そうか、そうだったんだ。

勝つためにバトルするんじゃない。ポケモンは、戦うための道具じゃないんだ。緊張して、そんな簡単なことも忘れてしまっていたらしい。

もちろん勝つことも大事だけれど、それだけじゃない。モクレンは始めに「自分らしく頑張れ」とアドバイスしてくれたじゃないか。それなのに、そんな大切なことにも気付かずにガチガチに緊張してしまっていた。

そう!自分らしく。バトルを楽しむのだ。そして勢いよく突き進む!

「ポッポ、ごめんな」

パロレはボールにそう声をかけると、別のモンスターボールを手に取った。今度はもう、間違えない。

パロレのそんな様子に、モクレンも気付いたようだ。

「ヒトカゲ!行くぞ!」

「カゲーッ!」
 ▼ 53 ャルマー@バトルサーチャー 17/08/25 00:56:48 ID:JjQg9MZ6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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 ▼ 54 AYr1xkow/g 17/08/25 01:01:55 ID:Hx4bQL06 [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ヒトカゲ!ひのこだ!」

パロレの声に、ヒトカゲはすぐに反応してくれる。威勢よく鳴き声を上げると、ヒトカゲは素早くチュリネの元まで走り、火を吐いた。チュリネはまともに攻撃を喰らい、その場に仰向けに倒れこむ。

「よし!やったぞ!」

「チュリネ、お疲れ様です。カリキリ!頼みます!」

モクレンはポケモンを繰り出した。

「ヒトカゲ!ひのこだ!」

ヒトカゲの攻撃は正確にカリキリを捉えていた。カリキリは叫ぶ。しかし、戦闘不能に至るまでにはならなかったらしい。

「カリキリ!エナジーボールです!」

カリキリはどうにか体勢を整えると、自然のエネルギーで構成された球体を作り出し、思いきりヒトカゲにぶつけてきた。効果は今ひとつだが、ヒトカゲはかなりダメージを受けてしまったようだ。

「ヒトカゲ!まだ頑張れるか!?」

よろめくヒトカゲに声をかける。

「……カゲェッ!」

ヒトカゲが返事をする。ならば、信じよう。

「ヒトカゲ!もう一度ひのこだ!」

ヒトカゲは、気合をこめていつもより大きな火を吐いた。ひのこはカリキリの顔のど真ん中に当たり、カリキリは気圧されてそのまま倒れた。戦闘不能だ。

「や……、やったぁー!」

パロレが喜びの声を上げる。勝った!ジムリーダーに勝てた!
 ▼ 55 AYr1xkow/g 17/08/25 01:03:53 ID:Hx4bQL06 [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「流石ですね」

モクレンは優しい微笑みを浮かべてそう言ってくれた。

すると、ヒトカゲの体が光り始めた。驚いてヒトカゲを見つめる。眩い光がヒトカゲの体を包みこみ、やがてヒトカゲの姿はよく見えなくなってしまった。目を凝らしてヒトカゲを見つめる。すると、光がだんだん薄くなっていく。やがて、光が消えた時、そこにはヒトカゲはもういなかった。

体長が大きくなり、体毛は濃くなり、目つきは鋭くなっている。そう、ヒトカゲはリザードに進化していたのだ。

「リザァー!」

「う、うわー……!初めての進化だー!」

パロレはそう言って、目をキラキラと輝かせる。リザードは自信たっぷりの表情でパロレを見つめていた。

「やったー!ヒトカゲ!じゃなかったリザード!めちゃくちゃかっこいいよ!」

パロレはそう言いながらリザードに向かって親指を立てた。リザードは嬉しそうにうんうんと頷くと、格好つけて腕を組んだ。

「ははっ!やったなリザード!」

喜んでいるパロレとリザードの元に、モクレンが近づいてくる。

「先程のバトルでよく分かりました。あなたとポケモンの心、確実に通じ合っている……。それはあなたがポケモンに真摯に向き合っている何よりの証拠」

モクレンが言う。パロレはリザードをボールに戻すと、自信に満ち溢れた声で「はい!」と答えた。モクレンはそんなパロレを見て、嬉しそうに微笑む。

「そんなあなたに、このフラワーバッジを差し上げます」

モクレンがそう言って差し出したのは、モクレンの後ろにある大きな花と同じ模様をした、キラキラと光るバッジだ。

「わぁ……!」

初めてのバッジだ。パロレはバッジを大切そうに両手で受け取った。

「それからこれも。『エナジーボール』の技マシンです。相手のとくぼうを下げることもある、高威力の技です。是非うまく使ってくださいね」

「はい!」

パロレはバッジと技マシンをバッグに急いでしまった。

「これから先、たくさんの困難が待っていることでしょう。でもきっとあなたとあなたのポケモンたちなら大丈夫。一緒に乗り越えていってください。応援しています」

モクレンの言葉に、パロレは力強く頷く。

「はい!ありがとうございました!」
 ▼ 56 AYr1xkow/g 17/08/25 17:08:13 ID:7YXHvzG2 NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレは清々しい気分でラランジャシティを出た。もう何も怖いものはない。4番道路に出て、次の街へと進む。

しばらく歩いていると、大きな建物が見えた。パロレは図鑑を開いてタウンマップを見る。試練の塔というらしい。昔は認められた者しか入ることのできなかったが、今は一般トレーナーの修行の場として開放されているという。パロレは中に入ってみることにした。

改めてよく見ると、荘厳な建物だ。そして不自然に傾いている。なんでも、試練に臨むポケモンたちの激しいバトルが何千年も繰り広げられるにつれてだんだん傾いてしまったのだそうだ。

恐る恐る中に足を踏み入れる。内装もまた素晴らしかった。太古に造られた塔であるため、ところどころ損傷しているが、それでも美しい。壁には何やら絵や文字が記されているが、ほとんどが薄くなってよく分からなくなっていた。

「そこの君!よければ、修行の相手をしてくれないかな?」

ふと声をかけられた。エリートトレーナーだ。彼はモンスターボールを持って、挑戦的な笑みを浮かべている。

「はい!喜んで!」

パロレは返事をして、モンスターボールを握りしめた。

そんなこんなで、トレーナーたちとバトルをしつつ塔を登っていたら、いつの間にか最上階までやってきていた。それに、なんとポッポもピジョンに進化した。どんどん頼もしくなっていく仲間たちに、胸の高鳴りが止まらない。

塔の最上階には、大きなバトルコートがあった。まだこの試練の塔を登ることができる人間が少なかった頃、きっとこのコートを使って最後の修行をしていたのだろう。

一通り見て回ったパロレは、試練の塔を出た。空を見上げると、もうすっかり暗くなってしまっていた。

今日はもう、戻って休もう。パロレはラランジャシティまで引き返した。そして、ポケモンセンターで宿を取る。

また明日も頑張ろう。
 ▼ 57 ロモリ@ヨプのみ 17/08/25 17:10:33 ID:XRC8IWdY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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 ▼ 58 ドラ@やすらぎのすず 17/08/25 17:57:36 ID:OKiqYT82 NGネーム登録 NGID登録 報告
公式感がすこ
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 ▼ 59 AYr1xkow/g 17/08/26 00:34:58 ID:KTzstDGQ [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
翌日、ラランジャシティを出たパロレは4番道路を突き進んで次の街、ジョーヌシティへとやってきた。

ジョーヌシティは、古さと新しさを兼ね備えた街だ。都会として栄えている反面、昔に建てられた建物もきっちりと残されている。デートスポットとしても有名で、観光客もかなり多い。

ちなみに、街の中央にはアモル地方で一番古く大きな教会があり、そこがポケモンリーグになっているが、管轄はジョーヌシティとはまるっきり別となっている。

「おーい!パロレー!」


「あっ、クオレ!」

振り向くとそこにはクオレがいた。クオレと会うのは少しだけ久しぶりだ。なんだかとても機嫌がよさそうだ。クオレは体を乗り出してきた。

「ねえ、聞いて聞いて!さっきね、イチゴちゃんに会っちゃったの!」

クオレは鼻息荒く語りかけてくるが、パロレは首を傾げた。

「イチゴちゃん……?」

「えー、パロレ知らないの?大人気のタレントさんなのにっ!」

クオレは目を真ん丸にしてパロレを見つめる。

「すっごく可愛かった……さすが芸能人だよねぇ。キラキラ光ってる、って感じだったっ!」

クオレはどこか夢見心地だ。初めて芸能人に遭遇して、相当テンションが上がっている。

「ジョーヌシティはオーロシティと同じくらい大きくて有名な街だもんねぇ……。芸能人とかも買い物とかにしにくるんだね!」

クオレが言う。

「『ジョーヌの休日』って映画があったよね。カロス地方の有名な女優が主人公の……見たことはないけど」

パロレは思い出しながら言った。女優の名前は忘れてしまったけれど。

「そうそう!カルネさんね!素敵な映画だよ」

「あ、そうそうその人」

クオレの言葉にうんうんと頷く。

「ねえパロレ、ちょっと一緒に街を一周してみようよ」

「え……あ、うん」

クオレの提案に、返事がワンテンポ遅れてしまった。そんなパロレの様子を見て、クオレはむうっと頬を膨らませる。

「あー、今ちょっとめんどくさそうな顔したっ!」

「し、してないよ。買い物に付き合わされるのかぁ、って思っただけ」

正直に答えるパロレに、クオレは溜息をついた。

「もうパロレったら。……まあいいや!」

そして、眩しいほどに輝く笑顔でパロレを見つめる。小さい頃から、何故だか分からないけれどクオレのこの顔に弱いのだ。

「ジョーヌには名所もいっぱいあるんだよ!見てみよ!」

「……うん、行こ!」
 ▼ 60 AYr1xkow/g 17/08/26 00:54:46 ID:KTzstDGQ [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレはクオレとジョーヌシティをぐるっと散歩した。オーロシティにも店舗のある高級ブランド店には入ることができなかったが、結局やはりクオレのショッピングに付き合うことになった。

とはいえ、見たのはそれだけではない。ジョーヌシティには、様々な娯楽施設の建ち並ぶ発展した場所もあれば、古き良き景観が残っている場所もあるのだ。ポケモンリーグに繋がる道には恐れ多くて流石に入ることはできなかったが、二人はジョーヌシティの至るところを観光して回ることができた。

さて、パロレはクオレと別れてとある場所へと向かっていた。その場所とは、もちろん決まっている。ジョーヌジムだ。

ジョーヌジムの目の前についた。ジムの看板には、「毒舌プリンセス」と書いてある。ジョーヌジムリーダーはどくタイプ使いと聞いている。どうやら、ジムリーダー本人もどくタイプらしい。

パロレはジムの中に入った。ラランジャジムではへまをしてしまったが、もうそんな心配はいらない。

ジョーヌジムの中は、周りの建物同様荘厳な造りになっていて、まるでお城のようだった。床どころか壁まで大理石で造られていて、迷路になっている。とはいえ、その構造は単純そうだ。

迷路の奥までやってくると、そこにはジムリーダーが待っていた。金髪に碧眼の女性で、髪型はエレガントなポニーテール。ついでに服もパロレの着ているものよりずっと高級そうな生地で出来ている。

「こんにちは!ヴァイスタウンから来たパロレです!」

「いらっしゃい。わたくしはローザ。ジョーヌのジムリーダーですわ」

随分もったいぶるような口調で話す人だ。パロレはそう思った。ローザはキリッとつり上がった瞳でパロレの頭の先から爪先までをじっと見つめた。そして若干笑っているような声で、

「なんだかとっても……親しみやすそうなお方ね」

もしかして、貧乏くさいと言われたのだろうか?

「わたくし、かつてこのアモル地方を治めていた王族の末裔ですの。誇りをかけてあなたと戦わせていただきますわ」

なんと!つまり、ローザは三英雄の一人、エシャロットの子孫にあたる。それなら先程の台詞にも、まあ頷ける。やっぱり彼女もどくタイプだ。パロレは驚きつつも、

「はい!よろしくお願いします!」

元気よく答えた。すると、ローザは目を細めてにやりと笑う。

「ふふ……お覚悟はよろしくて?わたくし、性格も戦い方もねちっこいの」
 ▼ 61 AYr1xkow/g 17/08/26 01:21:12 ID:KTzstDGQ [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
どくタイプのポケモンに対する決定打はない。でも、頑張らないと!

「行け!リザード!」

「頼みましたわ、ゴルバット!」

リザードとゴルバットが睨み合う。

「ゴルバット、おどろかす!」

ゴルバットは素早く飛び上がり、リザードの背後に回るとちょんと背中をつついた。振り向いたリザードに、大きな口を更に大きくばあっと開ける。リザードは驚いて怯み、動けなくなってしまった。

「リザード!ひのこだ!」

「ゴルバット!ちょうおんぱですわ!」

今度はゴルバットが耳障りな高い音を出す。リザードは耳を塞いだ。しかし、音は耳鳴りのようにまだ響いているようで、リザードは混乱してしまった。ひのこもうまく繰り出せず、その場で尻餅をついてダメージを受けてしまう。

「お次はこちら!どくどく!」

ゴルバットの攻撃によって、リザードは既に混乱しているのに更にもうどく状態になってしまった。リザードの体を蝕む毒によって、体力を奪われていく。しかもそのダメージはだんだん増えていくのだ。なるほど、これはかなりのねちっこさである。

パロレは作戦を変えることにした。

「リザード!こわいかお!」

リザードは、痛みを堪えてギロリとゴルバットを睨みつけた。ゴルバットはその顔にたじろいで、少し退いた。

「リザード!ひのこだ!」

先程のこわいかおで、ゴルバットはすばやさが下がっている。おかげでリザードの方が速かった。リザードの混乱は解けているようで、リザードは迷いなく弾みをつけて飛び上がり、口から火を吐いた。ゴルバットは熱そうに悲鳴を上げたが、それでもどうにか耐えてみせた。

「ゴルバット!ベノムショックで決めておしまい!」

ローザが声高らかに叫ぶ。ゴルバットの吐いた毒の塊が、リザードの体に思いきりかかった。リザードは呻き、倒れてしまった。

パロレはリザードをボールに戻した。そして、

「ごめんな、リザード。お疲れ様。……次はこいつだっ!」
 ▼ 62 AYr1xkow/g 17/08/26 01:52:09 ID:KTzstDGQ [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレが繰り出したのはピジョンだ。ピジョンは気合たっぷりに翼を大きく広げた。

「ピジョン!すなかけ!」

ピジョンがさっとゴルバットの目に砂をかける。ゴルバットは叫んだ。

「ゴルバット!ちょうおんぱ!」

ローザが指示を出したが、ちょうおんぱは元々命中率の低い技。更にピジョンのすなかけで、ゴルバットは更に命中率が低下してしまっているのだ。

「ピジョン!かぜおこし!」

ピジョンが激しく翼をはためかせて風を起こす。その風に、ゴルバットは思わず巻きこまれて後ろへと下がってしまう。

「ゴルバット!どくどく!」

ローザの指示に、ゴルバットはしっかりと応えた。どくどくは、どくタイプのポケモンが使うと必ず命中するようになっているのだ。ピジョンももうどく状態になってしまったので、ここは素早く決めるしかない。

「ピジョン!でんこうせっかだ!」

ピジョンは目にも留まらぬ速度で飛び回った。そして、いつの間にかゴルバットの目の前に現れ、思いきり激突する。ゴルバットは反動で吹っ飛び、そのまま床に落ちてしまった。

「あら、意外ですわね」

ローザはゴルバットを戻してパロレを見つめながら白々しく言った。それから、次のポケモンを繰り出す。

「ニドリーナ!行きますわよ!」

「よしピジョン!このまま頑張れるか?」

パロレが問う。ピジョンは顔だけ振り向いてパロレの方を見ると、力強く頷いた。

「じゃあ行こう。かぜおこしだ!」

「ニドリーナ!ベノムショックですわ!」

ピジョンは再び強い風を発生させた。ニドリーナは床に立ったまま後ろに退かざるを得なくなってしまう。しかしニドリーナはくるりとバック宙のような動きをして体勢を整えると、毒を吐き出した。液体なのに個体のような気持ち悪いそれは、ピジョンに思いきりかかった。そして、ピジョンもまたその場に落ちて倒れてしまった。
 ▼ 63 AYr1xkow/g 17/08/26 02:28:50 ID:sSwcGImk [1/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ピジョン、お疲れ様。マリル!頑張るぞ!」

パロレがポケモンを入れ替える。それを待っていたローザが、再び動き出した。

「ニドリーナ!ベノムショックですわ!」

「マリル、頑張るんだ!そしてバブルこうせん!」

ニドリーナの毒は、再びパロレのポケモンを襲う。効果は抜群のはずだが、マリルはどうにか耐えてくれた。口から無数の泡を吐いてニドリーナに向かって放出する。泡はニドリーナの周りでぱちぱちと割れていった。床が揺れて、ニドリーナがその場で滑って転んでしまった。これでは素早く動けなくなってしまう。

「マリル!行くぞ!もう一回バブルこうせんで、決めろっ!」

パロレが叫ぶ。

自分らしく戦う。パロレはそう決めた。楽しみながら、勢いよく突き進むのだ。つまりどういうことかと言うと、そう、ゴリ押しである。

「マルィー!」

マリルはけたたましく鳴き声を上げながら泡を吐いた。ニドリーナは大量の泡に包まれてもがく。すると、せっかく立ち上がったのにも関わらず、再び滑って転んだ。そして、そのまま気を失ってしまった。

ローザはニドリーナをボールに戻す。そして、

「あらやだ。負けてしまいましたわ」

そう言ってやれやれと頭を振る。パロレは小さくガッツポーズを作った。

「ご苦労さまでした。楽しかったですわ。あなたの力を認めます。このベノムバッジをどうぞ」

パロレはバッジを受け取った。ティアラを模したオシャレな形をしたバッジだが、そのティアラには毒々しい色の模様がついている。

「ありがとうございます!」

「それからこちらも差し上げます。『ベノムショック』の技マシンですわ。この技は、どく状態のポケモンに当たるとなんと威力が二倍になるとっても素敵な技ですの」

ローザはうっとりとした口調で言った。パロレは思わず顔を引きつらせたが、なんとか気付かれずに済んだ。

「あなた……、なんだかとても大きな力を感じますわ。将来、大物になるかもしれませんわね」

ローザが真面目な声で言う。

「え!」

パロレは思わず嬉しそうに声を上げた。

「まあ、あなたが自分自身を活かせなければそれはただの幻想で終わるんですけれどね」

その言葉に、パロレのテンションは一気に下がる。

「は……はい。頑張ります……」

そう答えるのが精一杯だ。

「わたくしにはちょうどあなたと同じくらいの弟がいるんですの。あの子は伸び悩んでいるようでしたわ。わたくしも自分を鍛えたくてジムリーダーをやっているけれど……まだ何かが足りない……。あの子だけではなく、わたくしも認めてもらえていない……」

ローザはぶつぶつと呟いている。パロレは何を言っているのかよく分からず、首を傾げた。ローザははっとして、

「失礼、話が逸れましたわね。では、これからも頑張ってくださいまし」

「はい。ありがとうございました!」
 ▼ 64 AYr1xkow/g 17/08/26 11:55:00 ID:sSwcGImk [2/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジョーヌジムを出たパロレは、5番道路に出ようとジョーヌシティをしばらく歩いていた。すると、クオレの後ろ姿が見える。パロレは今度は自分から呼ぶことにした。

「おーいクオレ!さっきぶり!」

「あ!パロレ!うん、さっきぶり」

クオレはニコニコ笑っている。

「ねえ、この先にフォルテ城があるんだよ。王族の人たちが昔住んでて、今はその子孫の人たちが住んでるお城!博物館にもなってるんだって。行ってみようよ!」

クオレの言葉に、パロレははっと思い出す。そうだ、ノグレータウンであの演奏家の人に行ってみたらどうかと言われたんだった。

「うん、ぼくも興味あるな。行ってみたい!」

「うんうん!」

というわけで、パロレはクオレと一緒にジョーヌシティを出て5番道路を歩いていた。城に続く道は綺麗に整備されている。

少し先に城が見えてきた。ふと、クオレが口を開く。

「なんか騒がしいねぇ。スーツみたいな格好の人がいっぱいいるよ?」

「確かに」

パロレは相槌を打ってから、なんだか嫌な予感がして目を凝らした。

「あれってもしかして……」

パロレが呟く。

「パロレ、あの人たち知ってるの?」

クオレがキョトンとした顔で言った。少し近づいたところで、パロレはハッと顔を上げた。

「知ってる!あいつら……スパイス団だ!」

切羽詰まった様子で声を上げるパロレに対し、クオレはよく分かっていないのか、首を捻っている。

「スパイス団……?なんか美味しそうな名前だね」

「それはぼくも思った。でも悪い奴らだよ!」

パロレが早口に言う。クオレの表情がえっ、と曇った。

「そ、そうなの?フォルテ城にぞろぞろ入っていってるよ!?」

不安げな様子のクオレに、パロレは力強く言う。

「止めた方がいい……!行こう!」

「えっ!?あっ、パロレ待って!」

さっさと走り出してしまったパロレの背に向かってクオレは手を伸ばしたが、もう届かない。パロレはスパイス団を追いかけてフォルテ城に入っていった。そんな様子を、クオレは中途半端に手を伸ばした状態で立ち尽くして見つめる他なかった。
 ▼ 65 AYr1xkow/g 17/08/26 12:22:12 ID:sSwcGImk [3/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フォルテ城の中に入る。巨大で美しい円形平面を成したこの城は、試練の塔や、ジョーヌジムなどとは比べものにならないほど豪華で煌びやかなところだった。

一体、スパイス団は何の目的があってここに?パロレが辺りをキョロキョロと見渡し、どこかに消えていったスパイス団の構成員たちを探していると、

「パロレさん!」

焦った声がパロレの名を呼んだ。パロレは振り返る。

「あっ、ユーリ!」

そこにいたのはユーリだった。

「久しぶりに……」

ユーリはそう言うと何故か急に黙りこんだ。そして、何かを飲みこむように数秒間置いてから、

「……通りすがりに、なんだか騒ぎになっているのを見たので駆けつけました。一体何が起こっているんですか?」

そう尋ねる。

「何故かは分からないけど、スパイス団が中に入ってきてるんだ!」

パロレが言うと、ユーリの表情が険しくなった。

「スパイス団……?聞いたことがあります。止めましょう!」

「うん!」

パロレは頷いた。

ユーリは、迷子になりそうなほど広いフォルテ城の中を、迷うことなく早足で歩いていく。パロレはユーリの後ろについていくことにした。

「博物館として一般公開されているのはこの辺りの部屋ですが、見当たりませんね。目立つように入っていったようですし、強盗が目的ではないみたいですね」

ユーリが注意深く辺りを確認しながら言った。パロレは少し駆け足でユーリの隣まで行くと、口を開いた。

「うん。もし……何かを盗む気なら、そっと入ってくるよね。堂々と入ってたよ。……どこに行っちゃったんだろう?」

パロレがそう言って周りを見回す。すると、パロレとユーリの視線がある一点で止まり、二人は同時に「あっ!」と声を上げた。

そこには警備員の男が三人、気を失って倒れていたのだ。近くには立ち入り禁止にするために使われている金属の棒と赤い紐が散乱している。向こうには階段がある。その先にいるに違いない。

「この先には父上の部屋が……!急がないと!」

真っ青な顔をしたユーリが切羽詰まった声を上げて、一気に階段を駆け上っていった。パロレも慌てて追いかけたが、なんだかどさくさに紛れてとんでもないことを聞いた気がする。

「おい!止まれそこのガキ!」

そう声が聞こえてきたが、止まるわけにはいかない。しかし声の主は何かに気付いたようで、更に続けた。

「ん?まさかお前……一人はこの前のクソ生意気なガキじゃねえか!?」

「ん……?あっ!」

パロレは思わず振り向いた。そして大声を上げる。そこにいたのは、セーニョ大橋で出会ったあの柄の悪い構成員だったのだ。

「またお前かこのクソガキ!今度こそ負けねえからなっ!」

男はそう言って、モンスターボールを投げてきた。急いでるのに!パロレはそう思ったが、仕方ない。パロレもボールを投げた。
 ▼ 66 クタス@ローラースケート 17/08/26 12:23:15 ID:vGM1KJOc NGネーム登録 NGID登録 報告
今作の悪の組織はスパイス団なのね
支援
 ▼ 67 ライオン@りゅうのキバ 17/08/26 12:28:09 ID:4LjYRGSc NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モデルの土地はイタリアかな?
支援
 ▼ 68 AYr1xkow/g 17/08/26 12:43:47 ID:sSwcGImk [4/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「任せたっ、スボミー!」

「行けグラエナ!かみつくだ!」

グラエナは間髪入れずに攻撃を仕掛けてきた。スボミーの体にがぶりと噛みつく。スボミーは痛そうな声を上げた。

「スボミー!エナジーボールだ!」

パロレの指示に、スボミーは素早く体勢を整え、グラエナに向かって思いきりエネルギー体をぶつけた。モクレンに貰った技マシンで、スボミーに技を覚えさせていたのだ。

エナジーボールは威力が高い。グラエナはエナジーボールに押し潰され、壁にぶつかって倒れこんだ。

「あーもう!なんなんだよッ!」

下っ端構成員が頭を抱える。すると、スボミーの体が光り始め、スボミーはロゼリアに進化した。

「やった!ロゼリア、よろしくなっ!」

自分のことなどお構いなしで喜んでいるパロレに、下っ端はかなり苛立っているようだった。そんな下っ端に、ユーリが詰め寄る。

「お前たち!一体何をするつもりだ!」

毅然とした態度のユーリを見て、パロレは少し驚いてしまった。ユーリがこんな荒い口調で話すところを初めて見たからだ。

「ふん!メガシンカについて聞き出してやるんだよ!」

下っ端は吐き捨てるように言った。ユーリが息を呑む。

「アモル地方の王家はいまでも代々メガシンカの権威と言われてる。だから何か秘密を知ってるはずだ。このアモル地方で唯一メガシンカを使えるトレーナーについてもな!」

下っ端の言葉に、ユーリは何故か何も言わずに唇を噛みしめていた。パロレは状況がよく分からず、怪訝な瞳で二人を見つめていた。アモル地方で唯一メガシンカを使えるトレーナー?一体何のことだろう。

「……パロレさん」

ユーリが、妙に抑えた声で言う。

「オレは、ここにいるスパイス団の奴らの相手をします。パロレさんは、現当主の部屋に行ってください!そこの大きな階段を上った先にあります!」

「分かった!行ってくる!」

パロレはそう言って駆け出した。すると、今度は女性の下っ端団員が現れる。

「そこの子供!この先には進ませない!」

女性はそう言って、チョロネコを繰り出してきた。そんな下っ端の前に、素早くユーリが立ち塞がる。

「そうはさせるか!オレが相手だ!」

そしてユーリは、顔だけ振り向いて力強く言った。

「パロレさん!頼みました!」

「了解!」

パロレはそう大声を上げながら、階段を駆け上っていった。
 ▼ 69 カンプー@こだいのどうか 17/08/26 14:19:52 ID:sSwcGImk [5/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>67
正解です

今更ですが、リメイク前とは設定や展開が一部異なっております
以前読んでくださっていた方々、どうかご了承ください
 ▼ 70 AYr1xkow/g 17/08/26 16:28:42 ID:RTfT2Ppk [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレは階段を登りきると、一際大きな扉を見つけた。重い扉をこっそり開ける。すると、中に二人の中年男性がいるのが見えた。

一人はがっちりとした体格の屈強そうな男で、顔も怖い。スキンヘッドにした頭と、いかにも値が張りそうなスーツが特徴的だ。もう一人は金髪碧眼で、厳格そうな顔をしている。こちらの男性もまた、明らかに高級そうな正装姿だ。二人とも、お互いを憎しみをこめて睨み合っていた。

「コルネッホ殿」

スキンヘッドの男が口を開く。

「私たちも手荒な真似をしたくはない。命が惜しければ、おとなしく持っているメガストーンを出して、メガシンカについて知っていることをすべて吐くことだ」

男が言い終えるや否や、コルネッホと呼ばれた男が、

「あなたに話すことなど何もありません」

そうはっきりと突っぱねた。声質こそ穏やかだが、その言葉には有無を言わせぬ力があった。このコルネッホが、アモルの王家の末裔であり、現当主に違いない。

「ふむ……」

スキンヘッドの男がわざとらしく考えこむそぶりを見せる。

「私、ボンゴレは多忙なボスに代わりスパイス団のリーダー役を務めているが……、あなたがそのような態度を取り続けるのならばここはボスをお呼びするしかないようだ」

ボンゴレと名乗った男はそう言うが、コルネッホは屈することはなかった。

「あなたがたが退かないのであれば、こちらにも考えがあります」

そう言って、ボンゴレを強く睨みつける。

まさに一触即発といった状況だ。パロレは小さく深呼吸をすると、飛び出した。

「スパイス団!そこまでだっ!」

ボンゴレはゆっくりと顔を動かしてパロレを見つめた。威圧感が凄まじく、とても怖い。パロレは後ずさりそうなのを必死にこらえた。首筋を汗が伝う。

「悪い奴らは許さないぞ!」

パロレは自分を鼓舞するような気持ちで叫んだ。

「悪い奴ら……。そうか、君がそう思うのならそうなのかもしれない」

ボンゴレはそう言いながらじりじりとパロレに近づいてきた。

「物事の表面しか見ることのできない子供の考えることだ。……まあ、邪魔者は排除するまで」

ボンゴレはそう言って、モンスターボールを手に持った。
 ▼ 71 AYr1xkow/g 17/08/26 16:44:39 ID:RTfT2Ppk [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ロゼリア!行くぞっ!」

進化したばかりのロゼリアを繰り出す。ボンゴレは無言でグラエナを繰り出した。

「グラエナ、とおぼえだ」

「ロゼリア!しびれごな!」

ロゼリアが体から粉を出している間に、グラエナが思いきり吠えた。しびれごなは思いきりかかっていたものの、グラエナは気合十分のようだ。

「よしロゼリア、一旦引こう。マリル!任せた!」

パロレはポケモンを入れ替えた。

「グラエナ、かみつく」

グラエナはマリルに噛みつこうとしたが、体が痺れているためか、ぴたっと立ち止まり、苦しそうにもがいた。

「マリル!バブルこうせんだ!」

「グラエナ、かみつく」

マリルが大量の泡を吐く。グラエナは体を震わせて水を払ったが、素早さは更に下がってしまったようだ。グラエナは痺れに耐えながらモタモタと動きながらマリルの元までやってきてがぶりと噛みついた。

「マリル、行ける!もう一度バブルこうせん!」

マリルは目の前にいるグラエナの顔面に向かって思いきり泡を吹きかけた。目に泡が入り、グラエナは痛そうに呻いてその場に倒れた。

「よしっ!」

パロレが両手でガッツポーズを決める。

「……」

ボンゴレはグラエナを戻すと、次のポケモンを繰り出した。現れたのはルクシオだ。

「スパーク」

ボンゴレの指示にルクシオは素早く反応する。ルクシオは体中に電気を纏って勢いよくマリルに突進してきた。マリルは突き飛ばされ、そのまま倒れた。

「わっ!マリル、お疲れさま」

パロレはマリルをボールに戻した。そして、

「リザード!行くぞ!」

「リザァアー!」
 ▼ 72 AYr1xkow/g 17/08/26 19:09:47 ID:ZG0oL6Nw NGネーム登録 NGID登録 報告
「リザード!えんまくだ!」

リザードが黒い煙を吐く。ルクシオは煙幕に包まれて、周りがよく見えなくなったのか不安げに吠え始めた。

「ルクシオ。いばる」

ルクシオは煙幕の中どうにか進んでリザードを見つけると、リザードに向かって胸を張り、鼻を鳴らした。狙い通りリザードは腹を立ててやる気を出したものの、我を忘れて混乱してしまったのか、辺りにとにかく喚き散らしている。

「リザード!ひのこだ!」

「スパーク」

リザードは明後日の方向に向かって火を吐いた。それによって近くの棚に火が燃え移り、上に乗っていた高そうな壺が落ちてきてリザードの頭の上で割れた。

リザードが痛みに悶えている間に、体に電気を纏ったスパークが素早く走ってきてリザードに思いきり突進した。リザードは数メートル後ろに吹っ飛んだ。

「リザード!落ち着くんだ!ひのこ!」

リザードはパロレの言葉にハッとして、顔を上げた。それから顔を横にぶんぶんと振り、邪念を振り払う。さあ、いつも通り、自分らしくだ。

リザードはルクシオの近くまで駆けていく。ルクシオは構えた。ルクシオはリザードを脅そうとしたのか、二本足で立って思いきり口を開けて威嚇した。リザードはそんなルクシオの腹部に向かって思いきりひのこを吐く。

攻撃が急所に当たったルクシオは、二本足のまま仰向けにひっくり返り、動かなくなってしまった。

「よっしゃ!よくやったリザード!」

「なんということだ」

ボンゴレは呟いた。

リザードをボールに戻す。すると、マリルの入っているボールが光り出した。マリルをボールから出すと、マリルの体が光っていた。パロレは期待をこめてマリルを見つめた。マリルの耳や体が伸びていく。そして、マリルはマリルリに進化した。

「マリルリ!めちゃくちゃ可愛いぞっ!」

パロレが声をかけると、マリルリはウインクをしてばっちりポーズを決めてみせた。その様子を見ていたボンゴレが、やれやれと頭を振って溜息をつく。

「仕方ない。ここは引くとしよう……君、名は?」

「パロレ。ヴァイスタウンから来たパロレです」

パロレははっきりと答えた。

「パロレ……覚えておこう。私たちに刃向かう、勇敢で愚かな子供の名を」

ボンゴレの声はとても低かった。相変わらず怖かったが、それでもパロレはじっとボンゴレから目を離さなかった。ボンゴレはコルネッホに向き直る。

「コルネッホ殿。あなたは古い伝統に縛られて周りが見えていない、頭の固い哀れな人だ。メガシンカは他の地方ではもっと多くの人間が使っている力だ……支配できるものではない」

ボンゴレの言葉に、コルネッホは冷静に答えた。

「だからなんだと言うのですか。アモル地方では限られた者しかメガシンカを使うことはできない。そしてそれを認めることができるのは我ら王族だけなのです」

「今のアモルに王はいない。あなたはその血を継いでいるだけの、ただの人間だ」

ボンゴレが言い放つ。コルネッホは黙りこんだ。

「……まあいい。アモル唯一のメガシンカを使いこなすトレーナーについては、ボスはあらかた目星をつけている。………では」

ボンゴレはそう言って、部屋を去っていった。
 ▼ 73 メパト@おおきなマラサダ 17/08/27 01:59:36 ID:kwZZdnpc NGネーム登録 NGID登録 報告
前スレから読んでるワイ、ボンゴレが実はスキンヘッドでちょっと驚く
 ▼ 74 AYr1xkow/g 17/08/27 14:48:01 ID:YNbWJ5YU [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレはボンゴレが去っていった扉を睨みつけていた。コルネッホは溜息をついて、パロレに近づいてくる。

「見苦しいところをお見せしてしまいましたね。申し訳ありません。助けてくれて、ありがとうございます」

「いえ……。お怪我などもないようでよかったです」

パロレはそう言った。ボンゴレの言葉が気になって、集中できない。

「ふむ……あなたからは強い力を感じますね」

コルネッホがじっとパロレを見つめる。パロレはエッと声を上げた。

「パロレといいましたね。お礼にこれを」

コルネッホがそう言ってパロレに渡したのは、うっすらと輝く石だった。

「あなたがもし己に勝つことのできる真に強いトレーナーなら使いこなすことができるかもしれない」

「……?ありがとうございます」

パロレは、石を得体の知れないものを見るような目で見ていた。だって、なんだかとても恐ろしいものに思えてしまったのだ。石は小さく、ところどころ削られていてでこぼこだ。美しく光っているが、その形はとても無骨だった。

「この石は、あなたと同様でとても未熟……こめられているエネルギーはとても少ない。十分に役目を果たすことができないかもしれない。あなたがこれに相応しいトレーナーかどうか、見定めさせてもらいますよ」

「えっと……はい」

パロレはよく分からないまま答えた。石は、パロレを試すように淡く光っている。

「とはいっても、もうひとつ絆を繋ぎ止める石がなければ無用の長物となってしまいますが……それを見つけることができるかどうかも、あなたに課された試練」

コルネッホは神妙な口調で言う。そして、咳払いをして続けた。

「まあ、よいのです。お守りとでも思って、しっかり持っていてください」

「はい。大切にします」

パロレはそう言って輝く石を慎重にバッグに入れると、コルネッホの部屋を出ていった。
 ▼ 75 AYr1xkow/g 17/08/27 15:17:51 ID:YNbWJ5YU [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
階段を降りると、ユーリが歩いてくるのが見えた。ユーリは大声を上げながらこちらへと近づいてくる。

「パロレさん!スパイス団の奴ら、撤退しました!」

「あ……うん。幹部らしいボンゴレって人とバトルして、なんとか勝ったよ」

パロレが言うと、ユーリは目を見開いて息を呑んだ。それから、しっかりと頭を下げて礼を言う。

「ありがとうございます」

それから顔を上げたユーリは、なんとも言えない表情を浮かべて小さな声で「流石ですね」と言ったが、パロレの耳には届かなかった。

「どういたしまして。というかユーリも、下っ端の奴らをやっつけてくれてありがとう!」

パロレはそう言ってから、先程コルネッホから受け取った石を取り出してユーリに見えるように持った。

「お礼にコルネッホさんから石をもらったけど……なんだろう、これ」

ユーリはそれを見た瞬間、愕然とした表情になった。パロレが驚いてユーリを見つめたが、ユーリは何も言わなかった。ユーリの顔には、様々な感情が綯い交ぜになった表情が浮かんでいた。

「父上は……一体何を考えているんだ……」

ユーリが呟く。パロレは今度こそ、重要な言葉を聞き逃さなかった。

「ねえ、ちちう」

「おーい!パロレー!あっ、ユーリもー!」

パロレの言葉を遮って、大きな声が聞こえてくる。見れば、クオレが大きく手を振りながらこちらに走ってきていた。

「二人とも、大丈夫?怪我とかしてない!?」

「うん。大丈夫だよ」

パロレがにっこり笑って言う。

「オレも無事です」

ユーリもそう言った。

「よかったぁ……」

クオレがホッと胸を撫で下ろす。

「あのスパイス団?って人たちが、お城から出ていくのが見えたから……。……わたし、何もできなくてごめんね」

「ううん。クオレに何もなくてよかったよ」

「……」

クオレは、神妙な顔つきで黙りこんでいる。すると、何かを考えこんでいる様子だったユーリがゆっくりと口を開いた。

「……お二人には、言ってませんでしたね。オレ、アモル地方の王家の末裔なんです」

ユーリの言葉に、パロレとクオレは驚愕して大声を上げる。

「やっぱり!なんかおかしいなって思ってたんだ。……っていうか、そんな軽く言うことじゃないよね!?」

「えええ!?びっくり!って感じー!」
 ▼ 76 AYr1xkow/g 17/08/27 15:31:13 ID:YNbWJ5YU [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あ!じゃあ、ジョーヌシティジムリーダーのローザさんって……お姉さん?」

パロレが聞くと、ユーリはこくりと頷いた。

「はい、姉です」

「弟がいるって言ってたけど、まさかユーリだったなんてなぁ」

パロレがぼんやりとローザを思い出しながら言うと、ユーリは露骨に嫌そうな顔をした。そんな珍しい様子を見て、思わず笑ってしまいそうになる。

「あ……オレの話をしたんですか?やめてほしいな……」

そう呟くユーリ。

「あの人、性格悪いから。何か嫌なこと言われませんでした?」

パロレは一瞬考えたが、ユーリには言わないでおくことにした。

「……うん。特には」

「ならよかった」

ユーリはそう言うと、ふうと小さく溜息をついた。

「父、コルネッホは厳格な人。強い人しか認めないんです」

ユーリの声は小さかったが、とても力がこもっていた。

「でも、ジムリーダーを務める一流のトレーナーである姉すらも父から認められていない。父は、オレたちには何かが足りないといつも言うんです。でも……」

ユーリはそう言うとそっと目を伏せた。

「……何が足りないのかも教えてくれない……まともに取り合ってすらくれない……。せっかくポケモンを手に入れて会いに戻ったのに、何故か怒られましたし……」

ユーリがぶつぶつと呟く。

「コルネッホさん、まあまあ優しそうに見えたけど……」

パロレが言うと、ユーリは顔を上げて音が鳴りそうなほど激しく首を横に振った。

「あのテンションで怒られるんですよ」

パロレはボンゴレと言い合っていたコルネッホを思い出した。確かに、怖そうだ。食事の後に食器を片付けずにテレビを見ていると怒る母親よりも、怖そう。

「それに、父は本当に凄まじく頑固なので……」

ユーリはそう言って溜息をついた。
 ▼ 77 AYr1xkow/g 17/08/27 16:35:32 ID:YNbWJ5YU [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「メガシンカ、ってあるじゃないですか。メガシンカは、他の地方では一般の人にももっとよく知られているものらしいんです」

ユーリはそう言いながら歩き出した。パロレとクオレもついていく。三人は、フォルテ城一階の博物館までやってきていた。

「カロス地方ではメガシンカの力を得るための修行の場があったり、ホウエン地方ではメガシンカの起源にまつわる伝承があったりするそうです」

「へぇー……」

クオレが声を上げる。

「姉はああ見えて意外と真面目なので、バトルだけではなくそういった知識も学んでいるんです。なので、この話は姉から聞いた受け売りなんですけどね」

ユーリはそう言って軽く笑った。三人は、このフォルテ博物館で最も価値のあるものと言われているとある展示物の前に来ていた。

それぞれポケモンを従えた三人の人物の彫像。アモルの三英雄の像だ。

一人はタブンネに似たポケモンを従えた唯一の女性、メローネ。一人はフーディンに似たポケモンを従えた男性、アングリア。そしてもう一人は、エルレイドに似たポケモンを従えた、かつてのアモルの王、エシャロット。

「彼ら、三人の旅人はアモル地方にメガシンカをもたらした。その力によって、アモルは戦に勝ち、栄光への道を辿った……」

ユーリが、三英雄の像を見上げながら呟くように言う。三英雄が操ったという、ポケモンの姿を変え、更に強化させるという不思議な力。それこそが、メガシンカの力だったのだ。

「三人のうちの一人、エシャロットはアモルの王となった。彼らは自分たちの持つメガシンカの力を、資格ある者に与えることにした。そしてその資格ある者を選び出すこと、それがアモルの王家に受け継がれた使命」

三英雄の像は、今にも動き出しそうだった。かつてのアモルの民を導いた、アモルの歴史を作った三人の旅人だ。メガタブンネ、メガフーディン、メガエルレイドの像も、躍動感あるポーズをした姿に彫られている。

「エシャロットは王となった後、アングリアは側近としてエシャロットの右腕になったと言われています。また、メローネは民と直接言葉を交わし、王家と国民の架け橋となる役職に就いたそうです」

「三人がいないと、アモルは本当に成り立たなかったんだ」

パロレの言葉にユーリは頷く。

「そして、その三人によって、以降は資格ある者にメガシンカの力を与えることとなった。……だから、ここアモルは他の地方よりメガシンカに関する情報があまり知られていないのです。メガシンカは、『資格ある者』のみに許された力だから」

ユーリはそう言うと、パロレとクオレに向き直った。

「トレーナーの強さを見極め、メガシンカに必要な力を与えるのが王家の末裔の役目。父はそれを全うしようとするあまりに、あんなに頑固になってしまったのではないかとオレは思います」

「なるほど……」

パロレは溜息のような声を漏らした。

「オレは……強くなって、父に認められたい。メガシンカを使いこなしたい。だからあの日、父以外にメガシンカについて聞くならスリジエ博士かと思い、研究所に行ったんです」

「そうだったんだねぇ」

クオレが、圧倒的な迫力を放つ三英雄の像から目を離さないままそう言った。

「そうそう、かつては4番道路にある試練の塔で資格ある者たちを試していたそうですよ」

ユーリはそう付け加えた。
 ▼ 78 タマロ@やわらかいすな 17/08/27 16:40:46 ID:FeI88y2Y NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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 ▼ 79 AYr1xkow/g 17/08/27 18:02:07 ID:50rcaBPg [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「王家の末裔に資格ある者として認められたトレーナーは本当に少ないんですよ」

ユーリの声はかなり不満そうだ。

「八年前、百年ぶりにメガシンカを使うことを許され、その実力を認められたトレーナーがいた……オレはそう聞いています。誰なのかは知りませんけど」

「百年ぶり!?」

「す、すごいね!」

パロレとクオレは、目を見開いて驚愕の声を上げた。

「アモル唯一のメガシンカの使い手。きっと、今のアモルで一番強いトレーナーに違いありません。オレは、その話について詳しく知りたい……」

「ぼくも知りたいな」

八年前という言葉がやけに引っかかる。

いや、まさかそんなことはないだろう。パロレは自分の考えを振り払った。

「わたしには到底無理な話だなぁ……」

クオレが憂いを帯びた声で言う。

「やっぱり、強くならなきゃダメだ。とにかく強くならないと……ポケモンを鍛えないと……」

ユーリが呟きながら俯いたその時。コツ、コツ、と、ハイヒールの靴が大理石の床を蹴る高い音が鳴り響いた。

もちろん、何らおかしなことはない。ここは一般公開されている博物館だ。とはいえ、先程までスパイス団がいたちょっとした危険区域ではあるため、普通の人ならば入ってこないだろうが。

ハイヒールの音が鳴り止んだ。パロレたちが振り向く。そこには、服のポケットに手を突っ込んだ、薄紫色のボブヘアーの女性が立っていた。じっとりとした目つきからは少し取っつきにくそうな印象を受ける。女性の紫色の瞳が、パロレたちの腰にあるモンスターボールをばっちりと捉えている。パロレは何故か、どこかで見たことがあるような気がした。

「あんたたちがやったの?」

女性が言う。一瞬、何のことか分からなかった。クオレが慌てて手を振った。

「わた、わたしは何もしてないです」

「オレも大したことはしていません。彼がやってくれました」

ユーリがパロレを指す。

「え?ぼく!?」

パロレが素っ頓狂な声を上げる。女性の目がパロレに向いた。

「へえ」

女性はそれだけしか言わなかった。

パロレはなんだか怖かった。このぶっきらぼうでミステリアスな女性の瞳から、逃れられる気がしない。

「やるじゃん」

女性はそう言ったが、その言い方があまりにも無感情すぎて、本当に「やるじゃん」とは思っていないのではないかと思えた。

「あんたのこと、覚えといてあげる」

女性は意味ありげな言葉を言うと、「失礼」と言ってその場から離れ、コルネッホの部屋へと続く階段を迷いなく上がっていった。
 ▼ 80 AYr1xkow/g 17/08/27 18:03:45 ID:50rcaBPg [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「だ、誰だろう……父に話でもあるんでしょうか……このタイミングで……」

ユーリは不安げな表情で女性の後ろ姿を見つめていた。

「覚えといてあげるって言われたけど……どういうことだろう?」

パロレも青い顔をして言う。もしかして、危ない人に目をつけられてしまったのだろうか。

「ちょっと怖い感じの人だったけど……でも綺麗な人だったねぇ。あの人が着てた服、高級ブランドのやつだよ!」

クオレのテンションは少し上がっている。

「……オレはそろそろ行きますね。もう、父とは一応話しましたし。十分な結果は出ませんでしたけど……」

ユーリの声が徐々に小さくなっていく。

「うん、またね!わたしもジョーヌシティに戻らないと……」

「あれ?先に行かないの?」

パロレが聞くと、クオレは微かに顔を赤らめて小さな声で答えた。

「えっと……わたしはまだジョーヌジムに挑戦してないんだ。ほんと遅くてバカみたい!って感じだよね!あはは!」

明らかに無理をして笑っているクオレに、パロレは真面目な顔で、

「そんなことないよ。ジム戦頑張ってね」

パロレの言葉に、クオレは小さく唇を噛みしめた。

「……うん。ありがとう」

「うん。……ぼくは今日は疲れたしもう休もうかな。ぼくもジョーヌシティに戻るよ!クオレ、一緒に行こう」

観光をしたり、ジムに挑戦したり、スパイス団の幹部とバトルをしたりと、たくさんのことがあった日だった。緊張が解れると、一気に疲れが溢れてくる。クオレに声をかけると、快く頷いてくれた。

「じゃあねユーリ!またね!」

「はい。では!」
 ▼ 81 AYr1xkow/g 17/08/28 10:33:06 ID:e9t/jUQU [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
念のための由来・モデル一覧
地名編@

アモル地方
イタリアをモデルにした地方。アモルとはラテン語で愛という意味。

ヴァイスタウン
ヴェローナに相当。ドイツ語で白という意味。

オーロシティ
ミラノに相当。イタリア語で金という意味。

ノグレータウン
ヴェネツィアに相当。ペルシア語で銀という意味。

セーニョ川
ポー川に相当。名前の由来は演奏記号。楽譜上では、ダル・セーニョという記号がある箇所からセーニョという記号がついた箇所に移動せよ、という意味で使われる。

アズハルタウン
ボローニャに相当。アラビア語でピンクという意味。

ラランジャシティ
フィレンツェに相当。ポルトガル語でオレンジという意味。

試練の塔
ピサの斜塔に相当。

ジョーヌシティ
ローマに相当。フランス語で黄色という意味。

ポケモンリーグ
バチカン市国、サン・ピエトロ大聖堂に相当。

フォルテ城
サンタンジェロ城に相当。名前は強くという意味の演奏記号から。
 ▼ 82 AYr1xkow/g 17/08/28 10:37:29 ID:e9t/jUQU [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
念のための由来・モデル一覧
人名編@

パロレ Parole
イタリア語で言葉という意味。

クオレ Cuore
イタリア語で心という意味。

アキニレ Akinire
ニレ科ニレ属の落葉高木である秋楡。

ユーリ Yuri
ユリ目ユリ科ユリ属の多年草、百合をもじったもの。

スリジエ Cerisier
バラ科モモ亜科スモモ属の落葉樹、桜のフランス語。ちなみに年齢は秘密だけどルザミーネさんよりは年下だと思う

モクレン Mokuren
モクレン目モクレン科モクレン属の落葉低木である木蓮。

ローザ Rosa
バラ科バラ属の植物、薔薇のイタリア語。

ボンゴレ Vongole
アサリなどの二枚貝を使ったパスタから。ちなみに本来の意味はイタリア語でマルスダレガイ科の二枚貝を指す単語、ヴォンゴラの複数形。

コルネッホ Cornejo
ミズキ科ミズキ属ヤマボウシ亜属の落葉高木、花水木のスペイン語。
 ▼ 83 クリン@ロックメモリ 17/08/28 11:25:37 ID:dptU1.Js NGネーム登録 NGID登録 報告
公式でこのストーリーやっても違和感なさそう
支援
 ▼ 84 ターミー@あまいミツ 17/08/29 22:41:17 ID:DbODKCaQ NGネーム登録 NGID登録 報告
前スレから読んでます
支援
 ▼ 85 AYr1xkow/g 17/08/29 23:23:42 ID:s/DW7bNY [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
あれからジョーヌシティのポケモンセンターに戻り、宿を取って休んだその翌日。ジョーヌシティを出ようとしたパロレは、とある人物に呼び止められた。

「おーい、パロレ!」

クオレだ。

「パロレ、昨日は応援ありがとね。さっきジョーヌジムに行ってきたの!」

そう言って両手を握り、ファイトポーズを取ったクオレ。

「その様子だと、勝てたんだね!」

パロレが言うと、クオレは少し恥ずかしそうに、

「うーんと、一応ね。苦戦しちゃったけど……」

「そっか。でもおめでとう!」

パロレが言うと、クオレははにかんだ。

「それでさ!ちょっと久しぶりにバトルしようよ!」

クオレが言う。もちろん、断る理由なんてない。パロレだってそのつもりだったのだから。

「うん、しよう!」

パロレが答えると、クオレは頷き、モンスターボールを投げた。

「いっけー!アブリー!」

クオレが繰り出したのは、ツリアブポケモンのアブリーだ。小さくて可愛らしいアブリーは、クオレの近くをぱたぱたと飛び回っている。パロレもポケモンを繰り出した。

「よし!行くぞ、ピジョン!」

「アブリー!ドレインキッスだよっ!」

アブリーはピジョンに近づくと、頬の辺りにキスをした。ピジョンは満更でもなさそうな顔をしており、体力を吸われたことに気づいていなさそうである。

「ピジョン、アホかっ。かぜおこしだ!」

パロレは苦笑しつつそうツッコミを入れ、指示を出す。ピジョンはハッと我に返り、激しく風を起こし始めた。アブリーは風に吹っ飛ばされて遠くまでいってしまった。

「わーっ!」

クオレが慌ててアブリーを追いかける。見つけたところでアブリーは戦闘不能になってしまっていた。

「あー、ごめんねアブリー」

クオレはそう言ってアブリーをボールに戻すと、次のモンスターボールに手をかける。

「よし!次はこの子だよっ!頑張れ!ヤドン!」
 ▼ 86 AYr1xkow/g 17/08/29 23:25:01 ID:s/DW7bNY [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
クオレがヤドンを繰り出したのを見て、パロレもポケモンを入れ替えることにした。ピジョンをボールに戻し、ロゼリアを繰り出す。ロゼリアはくるくると回転しながらボールから出てきた。バッチリとターンを決めたロゼリアは、目の前に間抜けな顔をしたピンク色のポケモンがいることに気付いて思わず飛び上がる。

「ヤドン!あくび!」

ロゼリアを待ち伏せしていたヤドンは、大きな欠伸をした。ロゼリアもつられて欠伸をする。

「ロゼリア!エナジーボールだ!」

ロゼリアは眠そうな顔をしつつ、エネルギーを集めて球体の塊を作り出し、ヤドンに思いきりぶつけた。エナジーボールはヤドンに直撃し、ヤドンは仰向けに倒れて気絶した。そしてそれを見届けたロゼリアは、一際大きな欠伸をしてからその場に座りこみ、すやすやと寝息を立て始めた。

「わっ、ヤドンごめんねぇ!よーし、ジャノビー、行っくよー!」

パロレがヤドンを戻してジャノビーを繰り出した。パロレも、

「お疲れ、ロゼリア。リザード!行くぞ!」

「ジャノビー、やどりぎのタネ!」

クオレが言うと、ジャノビーはリザードの体に種を投げつけてきた。種はリザードの鼻の上につき、そこから芽が生える。なんとも言えない状況に、パロレは笑いそうになってしまった。リザードは視界の邪魔になる小さな芽を眉をひそめて見つめている。

「ジャノビー、まきつく!」

ジャノビーは細い体をしならせてリザードの体に巻きついた。リザードは苦しそうに呻く。

「リザード、ひのこだ!」

パロレの指示に、リザードは体を拘束されつつもどうにか力を振り絞ってジャノビーの首元辺りに小さな火を吐いた。ジャノビーが甲高い叫び声を上げる。

「ジャノビー、頑張って!メガドレインだよ!」

ジャノビーは負けじと、至近距離でリザードにやり返してきた。体力を回復されては面倒だが、効果は今ひとつ。それほど回復できていないはずだ。

「リザード!次で決めよう!ひのこだ!」

「リザッ!」

リザードはジャノビーの顔に向かって火を吐いた。

「ジャ……ノッ……!」

ジャノビーはリザードから体を離し、その場に倒れこんだ。

「あーん!また負けちゃったー!」

クオレが叫んだ。
 ▼ 87 AYr1xkow/g 17/08/29 23:28:09 ID:s/DW7bNY [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「やっぱりパロレは強いなぁ。勝てないよ」

クオレが肩を落として言う。パロレは「そうかな」と曖昧に答えた。すると、クオレが首を傾げる。何かと思えば、クオレの視線の先にエーフィがいたのだった。

「んん……?」

パロレも声を上げた。すると、エーフィのトレーナーである男性がこちらに近づいてきて「おーい!」と声を上げた。その声を聞いて、パロレとクオレははっと顔を上げる。

「二人とも!調子はどうだ?」

「アキニレさん!」

クオレが声を上げた。

「その様子を見ると、順調みたいだな!」

アキニレがそう言って快活に笑う。エーフィはそんなアキニレの足にすりすりと体を擦りつけ、「フィフィ!」と嬉しそうに鳴き声を上げた。

「うんうん、君たちが強くなってるのをこいつも感じてるようだぞ」

アキニレが言うと、クオレが小さな声で、

「えっと……わたしはそんなには強くないけど……」

クオレのその言葉に、アキニレは優しい声で言う。

「強さっていうのは、バトルだけの話じゃないのさ」

それからアキニレはパン、と手を叩くと、

「さて!せっかくだからポケモン図鑑を見せてもらおうかな。どうだ?ポケモン捕まえてるか?」

そう言った。その瞬間、パロレはまずい、という顔を浮かべる。もちろんアキニレはそんなパロレの様子を見逃さなかった。

「あー……ぼくはあんまり……」

適当に誤魔化そうとするパロレに構わず、アキニレはパロレのズボンのポケットからポケモン図鑑を勝手に取り出して起動する。

「うーん、本当だ。バトルに熱中してるな?それももちろんいいことだけど、兄ちゃんちょっと寂しいなぁ」

アキニレが正直な意見を述べているのを聞いて、パロレはさっと顔を赤らめた。兄さんごめんって!

「あ、あの!わたしは結構ポケモンいっぱい捕まえました!」

クオレがそう言って、自分のポケモン図鑑を差し出す。アキニレはクオレの図鑑を眺めながら「おっ」と声を上げた。

「本当だ!クオレちゃん、すごいじゃないか。図鑑がパロレの二倍は埋まってるな」

アキニレが嬉しそうに言う。

「ええっ、クオレすごい」

パロレは思わず声を上げてクオレのポケモン図鑑を覗きこんだ。クオレは恥ずかしそうに笑う。

「ポケモンってなんであんなにみんな姿も強さも違うのかな?不思議でついつい捕まえちゃう!」

クオレのその言葉に、アキニレは嬉しそうに微笑んで目を輝かせるクオレの顔をちらりと見た。

「育てるのはそんなに得意じゃないけど……」

クオレがそう言うと、アキニレはクオレに図鑑を返しながら首を横に振った。
 ▼ 88 AYr1xkow/g 17/08/29 23:30:08 ID:s/DW7bNY [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「いや、そんな視点からポケモンを見ることができる……それもクオレちゃんの素晴らしい才能のひとつだ!」

アキニレはそう言って、鞄に手を突っ込んでゴソゴソと何かを探し始めた。

「ははは!いやー、嬉しいなぁ!クオレちゃんにはスーパーボールをあげよう。いっぱい使うだろ?」

相変わらず整理整頓が苦手なアキニレは、ようやく見つけたスーパーボールを十個以上クオレに手渡した。その姿はさながら小さな孫に飴を分け与える祖母のようである。

「わ!ありがとうございます!」

「えー、クオレいいなぁ。タダで……」

パロレがそう言いかけると、アキニレが「コラ」と言いながら軽くパロレの頭にチョップした。

「イテッ」

パロレは声を上げた。

「冗談冗談。パロレにももちろんやるさ」

アキニレがそう言って、パロレにもスーパーボールを渡す。

「ありがとう兄さん!」

パロレがそう言って受け取ると、アキニレは軽くパロレの頭を撫でた。子供扱いは少し恥ずかしい。でも、アキニレの手は大きくて温かかった。

「さて!俺はそろそろ行こうかな。二人ともまたな!」

「うん。じゃあね!」

「ありがとうございましたーっ!」

アキニレは二人に手を振って去っていった。エーフィがアキニレを追いかける。

アキニレの後ろ姿を見送ると、クオレが嬉しそうに口を開いた。

「えへへ!褒められちゃった。嬉しいなぁ」

クオレはそう言って頬に手を当ててゆらゆらと左右に体を揺らした。

「わたしもアキニレさんみたいに、ポケモンについて調べてみたいかも……!」

「ぼくは研究とか難しそうであんまりよく分かんないけど……、兄さんはいつもすごく楽しそうだよ。そういうのもいいと思う!」

パロレがそう言うと、クオレはニコニコ笑って、

「そうかなっ?でもわたし、まだまだ知らないことばっかりだしね。頑張らなきゃ!」

そう言って、くるりと後ろを振り向く。

「……わたし、もう一回ちょっと街を周ってから行こうかな。パロレ、また今度ね!」

「うん。バイバイ!」

パロレはそう言って、クオレに手を振った。
 ▼ 89 AYr1xkow/g 17/08/30 13:24:20 ID:oDjhkzpM [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレはジョーヌシティを出ると5番道路を通ってフォルテ城まで向かい、更に6番道路を越えて次の街、セールイシティにやってきた。

ジョーヌシティを越えてからのアモル地方南部は、北部に比べて田舎だ。それなりに大きな街ではあるが、オーロシティやジョーヌシティほど発展はしていない。

更にこのセールイシティは、火山の近くにあるので気温が高い。パロレの額には汗が滲んでいた。

さて、目的地であるセールイジムへとたどりついた。看板には「心に灯すは消えない焔」と書いてある。読んで字の如く、セールイジムリーダーはほのおタイプ使いである。

パロレはセールイジムに入った。ジムの中は真っ暗でどこか涼しい。すると、いきなり視界にパッと明るい何かが映り、暖かくなった。見ると、火のついた松明がすぐそこに置いてあった。誰が準備してくれたのだろう?そう思ったが、細かいことは気にしないことにした。

松明を手に持つ。ほんのりと周りだけ明るくなった。とはいえ、ほとんど見えない。パロレは松明を振り回して様々な方向を確認してみたが、やっぱりよく分からなかった。試しに前に歩いてみれば、壁のようなものに思いきりぶつかってしまった。

どうすればいいのだろう。松明の炎を見て、パロレはそういえば先程少し涼しかったことを思い出した。この松明が現れるまでは、そう、建物内ではあるが風があったのだ。

火が風で揺れている。とある一定の方向に。

「あっ!」

パロレは気付いた。火の向いている方向、つまり風の向いている方向に向かえばいいに違いない。

しばらく火の向きに向かって方向転換しつつ進んでいると、どうやら一番奥に来たらしく、五つの燭台に囲まれて少し明るくなっている台座が見えてきた。台座の真ん中には人が立っていて、五つの燭台のうち一番手前にある燭台には火がついていない。パロレは手に持っている松明の火を、その燭台に近づけた。

ぼうっと火が燃え上がり、辺りが更に明るくなる。すると、台座の上に立っていた人の顔がよく見えた。

「こんにちは!ヴァイスタウンから来た、パロレです!」

パロレが元気よく自己紹介する。

「これはこれはこんにちは、パロレさん。ワシはセールイジムリーダーのマンサクです」

マンサクはニコニコと笑っている。火山灰を連想させるような、真っ白い髪と髭を生やした好々爺だ。

「ここまでよく来れましたな。分かりづらかったでしょう。ワシもたまに迷ってしまいますからな!ワハハ!」

そう言って快活に笑う。マンサクはそれからパロレをじっと見つめた。

「ほう、いい目をしておる。これは期待できますな!ほれ、それでは楽しい楽しいバトルを始めましょうか」

マンサクはそう言うと、モンスターボールを手に取った。パロレも準備万端だ。しかし、マンサクはポケモンを繰り返さずにしばらく話し続けた。

「バトルはね、やっぱり楽しんでやるのが一番です。棺桶に片足突っ込むくらいの年齢になるとそう思えてくるんですな。いや、ワシはもう腹の辺りまで入ってますがね!ワハハ!」
 ▼ 90 AYr1xkow/g 17/08/30 13:27:35 ID:oDjhkzpM [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ほい、いってらっしゃいドンメル!」

マンサクがドンメルを繰り出した。ほのおタイプに対抗するなら、一匹しかいない。パロレはモンスターボールを力強く投げつけた。

「マーリィ!」

ボールから出たマリルリは気合十分だ。

「マリルリ!任せたぞ!アクアテールだ!」

「マリ!」

マリルリは思いきり尻尾をドンメルに叩きつけた。ドンメルは強い衝撃で吹っ飛び、一撃で気を失ってしまった。

「あらあら、ドンメルお疲れ様です。コータス、頑張りますよ!」

マンサクが繰り出したのはコータスだ。コータスは鼻や甲羅の上の穴から煙を出す。

「マリルリ、まるくなる!」

パロレの指示に、マリルリが体を丸めて構える。するとマンサクがお、と声を上げた。

「嫌な予感がしますな。コータス、のろい!」

コータスは元々素早さが低い上に更にゆっくりな動きで神経を研ぎ澄ませる。攻めも守りも準備万端だ。

「マリルリ!ころがる!」

マリルリは、先程の体を丸めた体勢のまま一気に転がってコータスに思いきりぶつかった。コータスは苦しそうにしながら、どうにか踏ん張って倒れずに済んだ。

決定打にはならなかったが、かなり体力を削ることができたはずだ。ころがるは徐々に威力を増す技。更に、まるくなるをしてからころがる攻撃をすると、なんと威力は二倍になるのだ。

「コータス、えんまく!」

マンサクはニコニコと笑いながら指示を出す。コータスは黒い煙を吐き出した。ころがるは連続で成功すれば高いダメージを与えられるが、失敗してしまうとそこで終わりだ。えんまくで命中率を下げたのは、それが狙いだろう。

「マリルリ負けるな!」

パロレの声が届いたのか、マリルリは前が見えていないにも関わらず正確にコータスを狙って転がった。勢いよくやってくるマリルリにぶつかったコータスは、仰向けにひっくり返って元に戻れなくなってしまった。戦闘不能だ。

「ふむ、最後です。キュウコン!頼みましたぞ!」
 ▼ 91 AYr1xkow/g 17/08/30 13:33:53 ID:oDjhkzpM [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「キュウコン!あやしいひかり!」

キュウコンが奇妙に動き回る光を発生させると、マリルリはそちらに気を取られ、見当違いの方向に転がっていってしまった。マリルリは壁に思いきりぶつかり、立ち止まって痛そうに呻いている。

「キュウコン、にほんばれ!」

キュウコンがにほんばれを使うと、室内であるにも関わらず、気温が上がり、暑くなってきた。

「マリルリ!頑張れ!アクアテールだ!」

マリルリは混乱しており、壁に向かって攻撃をした。弾みで尻尾が跳ね返り、それによって倒れてダメージを受けてしまう。

「キュウコン!かえんほうしゃ!」

キュウコンは口から凄まじい勢いでごうっと炎を吐いた。炎はマリルリに直撃だ。しかし、マリルリはみずタイプ。効果は今ひとつだ。ほのお技の威力が上がっていても敵わない。

そして、にほんばれでみずタイプの技の威力が下がっていても問題はない。なぜならパロレのマリルリの特性はちからもち。物理技の威力が半分になるという、強力な特性を持っているからだ。

「マリルリ!一回当てれば決められる!行くぞ!アクアテールッ!」

「マリーィッ!」

マリルリは思いきり尻尾をキュウコンに叩きつけた。キュウコンもまた、その一発で戦闘不能となってしまったのだった。

「天晴れ!」

マンサクが朗らかに言った。

「楽しいバトルでしたな!パロレさん、あなたは強くてかっこよくて……若い頃のワシにそっくりです。ワハハ!」

マンサクはそう言って大声で笑う。パロレは何と答えるべきか分からず、苦笑いした。

「さて、あなたの強さを認めてこれをお渡ししましょうぞ。フレイムバッジをどうぞ!」

「ありがとうございます!」

真っ赤に輝くフレイムバッジは、五つの小さな炎が集まった形をしている。

「それからこれもどうぞ。『にほんばれ』の技マシンですな。天候を変えることのできる技で、色々な追加効果があるんですよ。ぜひ上手く使ってくださいな、ほれ!」

パロレは技マシンを受け取ると、バッジと技マシンを大切そうにバッグにしまった。

「これから大変なこともたくさんありましょうが、心配する必要はありません。みんな同じように経験していくことですからな!それでは、パロレさんの未来に、幸あれ!」

「これからも頑張ります。ありがとうございました!」

パロレは元気よくマンサクと挨拶を交わし、セールイジムを出ていった。

タウンマップによると、この後はイーラ火山と古代都市という大きな山や遺跡を越えていかなければならないらしい。きっと大変だろう。英気を養うために、パロレは今日は一旦ここで休憩することにした。そういえば、ここセールイシティには温泉があるらしい。あとで行ってみよう。

「マリルリ、お疲れさま。それじゃ今日はゆっくりしような」

パロレはそう言って、ポケモンセンターに向かった。
 ▼ 92 シャーナ@ファイヤーメモリ 17/08/31 01:23:22 ID:ng8mVhFM [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
さて、一日が過ぎた。パロレは準備を整えてセールイシティを発っていった。目指すはイーラ火山だ。

イーラ火山には、かつて幻のポケモンの怒りによって噴火したという言い伝えがある。その幻のポケモンは炎と水という対極の力を操ることができ、今も火山で眠っている、という伝説まであるのだ。

7番道路を歩いてイーラ火山に近づくと、更に暑くなってきた。パロレは手で顔をぱたぱたと扇ぎながら進む。すると、火山の麓に人がいるのが見えた。パロレと同い年くらいの女の子だ。ストレートロングヘアーの深い青色の髪が強く目を引く。女の子は、パロレに気がつくと、「助けてください……!」と声をかけてきた。

「どうしたの?」

パロレが慌てて駆け寄り問う。女の子は両手を結んで握りしめ、不安げな表情を浮かべていた。

「わたしはオリヴィエと申します。イーラ火山に眠る幻のポケモンを守る、イーラの巫女です」

パロレは「イーラの巫女?」と言いながら首を傾げた。

「イーラ火山にはボルケニオンという幻のポケモンが眠っていると言われております。ボルケニオンはかつてその眠りを妨げられた時、ボルケニオンは怒り狂い、イーラ火山を噴火させました。その被害は甚大で、街がひとつ壊滅したと言われております」

「ボルケニオン……」

パロレは聞き慣れないポケモンの名前を、ゆっくりと繰り返した。

「ボルケニオンの力はとても強大です。それゆえにボルケニオンの眠りを二度と邪魔することのないよう、わたしたち歴代の巫女はイーラ火山、そしてアモル地方を守っているのです。ですが……」

オリヴィエが溜息をつく。

「わたしを押しのけて中に人が入ってしまったのです。火口近くに行けば、ボルケニオンが目を覚ましてしまうかもしれません……!わたしはトレーナーではないので戦えないのです。どうか助けてくださいませんか……!」

オリヴィエの声は悲痛だった。パロレは頷く。

「分かった!」

そして、イーラ火山に足を踏み入れた。

イーラ火山の麓は観光地になっているが、火口近くは立入禁止となっているはずだ。一体何が目的で中に入っていってしまったのだろう。パロレは早足でイーラ火山を駆け上がっていった。

やがて、人影が見えてきた。何人かいる。スーツ姿の人が何人か……。

「スパイス団だ」

パロレは囁いた。
 ▼ 93 AYr1xkow/g 17/08/31 01:25:26 ID:ng8mVhFM [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレは近くにいた女性の下っ端団員の前に出ると、

「こら!何をするつもりだ!」

そう叫んだ。下っ端団員はパロレに気がつくと、面倒臭そうな声を上げた。

「何?……子供?スパイス団を邪魔しないでよね。ちょっと怖がらせたげるわ」

そう言って、下っ端はレパルダスを繰り出してきた。パロレも負けじとモンスターボールを投げる。

「ピジョン!任せた!」

「レパルダス!ねこだまし!」

レパルダスは素早くピジョンに近づき攻撃をした。ピジョンはその速さに驚き、怯んでしまう。しかし、パロレは決して焦らなかった。

「レパルダス!おいうちよ!」

「ピジョン!でんこうせっか!」

ピジョンはレパルダスよりも速く動いた。レパルダスはピジョンからの攻撃を受けてよろけたが、軽やかにジャンプして体勢を整えてピジョンに攻撃してきた。

「ピジョン!もう一度でんこうせっか!」

「ピジョオ!」

ピジョンが威勢良く鳴き声を上げた。そして目にも留まらぬ速さでレパルダスの元まで飛んでいき、思いきり体当たりする。レパルダスは上空から猛スピードて飛んできたピジョンの勢いに負けてしまい、吹っ飛ばされてそのまま気を失ってしまった。

「なんなのよもう!」

下っ端女性は悔しそうに言った。それから、

「……スパイス団は歴史ある組織」

呟くようにそう言う。パロレは思わず耳を傾けた。

「スパイス団は、元々は古代に王家に反発していた者たちが結成した組織なの。あなたみたいな子供にどうこうできるものじゃないのよ!」

下っ端団員は誇り高く叫んだ。まるで、スパイス団に所属していることを名誉だと思っているような口ぶりだ。

そんな昔からあるのか。パロレは驚いて心の中で呟いた。でも、たとえ歴史があるからと言って、人やポケモンを傷つけることが許されるなんてことはない。

「だとしても、悪いことをするのはダメだ。オリヴィエが嫌がっていたじゃないか!」

パロレはそう言った。しかし、下っ端女性は眉をひそめ、首を捻って答える。

「オリヴィエ……?誰それ。私たちはいつも上司の言うことを聞いてそれに従うだけよ」

「……っ!早く行かなきゃ!」

パロレは弾かれたように走り出した。ここで無駄話をしている暇はない。

そうだ、ここにも指示を出しているリーダーがいるのだ。スパイス団のボスだろうか?それとも、あの時フォルテ城で出会ったボンゴレだろうか?パロレは急いで先へと進んだ。
 ▼ 94 AYr1xkow/g 17/08/31 01:31:41 ID:ng8mVhFM [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレは途中で何人かの下っ端構成員とバトルしながらもイーラ火山を登っていった。かなり暑くなってきた。もう限界に近い。やがて、火口へと繋がる道の入口付近までやってきた。立入禁止になっているはずのその入口に、人影が見える。

「そこまでだ、スパイス団!」

パロレは鋭く叫んで駆け寄った。すると、今にも立入禁止区域に入ろうとしていた人物が振り向く。

「んー?だれー?せっかくいいとこだったのにぃ」

声の主は、ボンゴレではなかった。パロレより三、四歳ほど年上の、女の子だ。髪と瞳はピンク色で、髪型は少し短めの前髪にゆるくウェーブのかかったミディアムボブ。ぱっと見は可愛らしい女の子だ。

「あれれぇ?ボンゴレから生意気なガキンチョについては聞いてたけど、それってもしかしてキミのことぉ?」

女の子はわざとらしく首を捻りながら、半笑いでパロレに語りかけてくる。

「ぼくはパロレだ!」

パロレはそう答えた。

「あっははぁ、やっぱり!」

女の子は嬉しそうに手を叩く。

「でもでもぉ、マリナーラはガキンチョは嫌いなのでーぇ、無視しまーす!」

マリナーラというらしいその女の子は、そう言ってくるりとパロレに背を向ける。パロレが唖然としているうちにマリナーラは歌うように声を上げた。

「さーて、それじゃあ伝説のポケモンさんこんにっちわー!」

そして、立入禁止区域に足を踏み入れようとしたその瞬間。

「やめてくださいッ!」

高い声が響いた。パロレとマリナーラが驚いて振り向く。そこには、イーラの巫女であるオリヴィエがいた。

「もー、なにー?うるさいんですけどー!」

マリナーラがイライラした様子で言う。オリヴィエは繊細ながらも芯の通った声で、

「そこから先は神聖な土地。踏み入ってはなりません。どうかお引き取りください……!」

しかしマリナーラはまったくオリヴィエを相手にせず、「聞こえなーいっと」と言って進もうとする。

「お願いします……!一体なぜそんな禁忌を犯そうとするのですか……!?」

オリヴィエが悲痛な声で言う。しかし、マリナーラはそんなオリヴィエの言葉に吹き出していた。そして、腹を抱えて笑いながら答える。

「禁忌?マジおおげさ!ただ強いポケモン捕まえに来ただけだってぇ!」

「捕まえ……?なんですって!?」

マリナーラの言葉にオリヴィエは愕然としている。マリナーラはそんなオリヴィエには構わずぺちゃくちゃと勝手に語り始めた。
 ▼ 95 AYr1xkow/g 17/08/31 01:34:55 ID:ng8mVhFM [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ボスは野生のポケモンには興味持たないし、幻のポケモンなんて以ての外とか言ってるけどぉ……、やっぱり利用するには強いポケモンが一番!幻のポケモンだって捕まえとくに越したことないでしょ!まっ、その幻のポケモンについて詳しいことなんて全然知らないけどさーぁ?」

ケラケラと笑いながら言うマリナーラに、オリヴィエはもう言葉を失ってしまっていたようだった。マリナーラはそんなオリヴィエの様子を面白そうに見つめ、にやりと笑う。それからマリナーラはぐいとオリヴィエに近づいた。

「そもそも神聖な場所って誰が決めたのぉ?勝手に人間が決めてるだけっしょ?」

嬉々としてオリヴィエを煽り始めたマリナーラは、「あっ!」といかにも今思いつきました、とでも言うような顔を白々しく浮かべた。

「ってゆーかそもそも、本当にここに幻のポケモンなんているのかな?幻のポケモン、見たことあんの?あれ、もしかしてないのぉ?ねえねえ巫女さん、どうなの?教えてよぉ。いもしないポケモンを崇め奉る人生ってどーよ?うわー、ヒサンー!」

「……っ」

オリヴィエは何も反論することができず、唇を噛んで俯いてしまった。見ていられなくなったパロレは思わず口を挟む。

「おい!やめろよ!」

マリナーラの顔がパッとパロレに向いた。パロレはたじろぐ。マリナーラはまたもニヤニヤと笑っていた。

「あれ?あれあれぇ?その子を守ってあげてるんだ?くーっ!かっちょいーね!ほんっと……」

冷やかすような声音で語りかけてきたかと思えば、マリナーラの声はいきなり低くなった。

「いい子ぶりやがって」

パロレとオリヴィエは、その落差に思わず驚いて息を呑んだ。だって、凄まじい気迫だったのだ。ボンゴレの瞳を見た時と同様に、とんでもない人物を敵に回してしまったのだという恐怖心がパロレを襲った。

「マリナーラはねぇ、取るに足らない半端な正義感を振りかざしてヒーローぶってるガキがいっちばん嫌いなの。知ってる?そういうのってねぇ、偽善者って言うんだよ」

マリナーラは、一歩ずつゆっくりとパロレに近付いてくる。パロレは震えそうになるのを必死で耐えながらマリナーラを見つめた。

「話聞いてんのかよ。お前のことだよ、お前」

マリナーラはまた低い声を出して、パロレを思いきり指差してきた。

パロレは足がすくみ上がりそうだった。このマリナーラという人物は、どう見ても相手の人間を脅すことに慣れている。

「オリヴィエ、下がってて」

パロレは小さな声でオリヴィエに声をかけた。このマリナーラは、本当にヤバい奴だ。

「ほらさっさとかかってこいよこのクソガキが!」

マリナーラは鬼の形相で叫んで、ポケモンを繰り出してきた。
 ▼ 96 ワルン@ポケモンのふえ 17/08/31 02:31:00 ID:Av6ytVjI NGネーム登録 NGID登録 報告
前スレから読んでたらなんかマイナーチェンジみたいな感覚
支援
 ▼ 97 AYr1xkow/g 17/08/31 15:45:16 ID:KmsM.HPE [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マリナーラが繰り出してきたのは、レパルダスだ。

「よし、マリルリ!行くぞ!」

パロレもマリルリを繰り出す。するとマリナーラが間髪入れずに指示を出す。

「ねこだまし!」

レパルダスは素早く動き、マリルリに不意に一撃を食らわせた。マリルリはビクッと体を震わせ、しばらく呆然と立ち尽くしてしまっていた。

「レパルダス!おいうち!」

レパルダスは怯んで動けないマリルリに続けて攻撃を仕掛けてくる。しかし、マリルリはもう立ち直ったようだ。

「マリルリ!じゃれつく!」

マリルリはレパルダスに近づくと、可愛らしいちょこまかとした動きでレパルダスを翻弄した。一見ダメージを与えられるのかと疑ってしまうような技だが、相性は抜群にいい。レパルダスはニャア!と鳴き声を上げると、戦闘不能になってしまった。

「くっ……、戻れレパルダス!行け、キルリア!」

マリナーラは悔しげにレパルダスをボールに戻し、キルリアを繰り出した。

マリナーラのキルリアは、パロレの知っているものとは少し異なる風貌をしていた。頭部は青みがかっており、角のような部分はオレンジに近い。いわゆる色違いというやつだろうか。

「キルリア!ドレインキッス!」

「よし、マリルリ戻れ!ロゼリア!行くぞ!」

パロレは素早くポケモンを入れ替えた。キルリアはロゼリアに軽くキスをした。しかし、効果は今ひとつだ。それに、ロゼリアはまったくときめかなかったようだ。

しかし、なぜかキルリアの様子がおかしい。苦しそうにしている。どうやら、ロゼリアのドレインキッスがどくのトゲに当たってしまったらしい。どく状態になっているのだ。キルリアの特性は分からないが、シンクロだったとしても、どくタイプであるロゼリアがどく状態になる心配はない。

パロレはニカッと笑った。最大のチャンスだ。

「ロゼリア!ベノムショック!」

ローザに貰った技マシンから覚えさせていたこの技。どく状態の相手には威力が二倍になる技だ。キルリアへの効果は抜群なこの技を、ロゼリアはタイプ一致技として出すことができる。つまり、最高の条件が揃っているということだ。

キルリアはベノムショックをくらい、液体とも個体とも言えない形状をした毒の塊に押し潰されて気を失ってしまった。

「……ふざけんなッ!」

マリナーラはわなわなと唇を震わせた。
 ▼ 98 AYr1xkow/g 17/08/31 15:47:21 ID:KmsM.HPE [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あーもう!サイアク!予定がメチャクチャなんですけどー!?」

そう言って地団駄を踏んで苛立つ姿は、年相応に見える。

「そこから先に行くのは許さない!」

パロレがはっきりと言い放つ。すると喚いていたマリナーラは静かになり、フンと鼻を鳴らす。

「このクソガキ、いつか絶対ぶっ倒してやる」

そう唸ってパロレをギロリと睨みつけるマリナーラよ目は完全に据わっていた。

「お願いします。どうかお帰りください……!」

オリヴィエが懇願する。マリナーラは無言でオリヴィエを睨みつけた。マリナーラにとって、パロレとオリヴィエはまさに嫌いなタイプだろう。その瞳には強い恨みがこめられている。

やがてマリナーラは溜息をついた。

「……あーあ、興醒めー。萎えたんですけどー」

そして意地の悪い声で続ける。

「こんな暑くてしけた場所にいつまでもいるのなんて、弱っちくてかわいそーな巫女さんだけで十分だよね。ここで死ぬまで意味ないことやってて幸せなんだから羨ましいなぁー!もー帰ろ……ん?」

マリナーラが何かを見つけたのか、ふと止まって首を捻った。何かと思ってマリナーラの視線を追うと、なんとそこにはセレビィがいたのだった。

「セレビィ!?」

パロレが素っ頓狂な声を上げる。

「へえ、セレビィ……」

マリナーラが興味深げに呟くのを聞いて、パロレはゾッとした。

「セレビィ、なんでこんなとこにいるんだよっ。火山だから暑いし、危ないぞ!」

パロレはセレビィに語りかけたが、セレビィは特に気にしていないようだった。楽しそうにクルクル飛び回りつつ、たまにパロレに近付いてくる。もしかして、気に入られたのだろうか。

ふと、またあの浮くような不思議な感覚に襲われた。見れば体が光っている。今回はパロレだけではなく、オリヴィエとマリナーラも一緒だ。

やがて、体が光ったかと思えば、何かに引っ張られるような感覚がして、パロレはどこかの時代へと旅立っていった。
 ▼ 99 AYr1xkow/g 17/08/31 15:50:46 ID:KmsM.HPE [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ここは、今度はいつの時代だろう。パロレは辺りをキョロキョロと見渡した。イーラ火山の立入禁止区域の前であることには変わりないはずだ。しかし、見るとこの時代ではまだ立入禁止にはなっていない様子だった。他にも、パロレは岩肌が今より滑らかで控えめだ。八年前どころではない、もっと昔のイーラ火山だ。

「これって、時渡りってやつぅ?」

状況が飲みこめず混乱しているオリヴィエに反し、マリナーラは意外と冷静だった。

すると、誰かがやってくるのが見えた。三人は岩陰に隠れて様子を伺う。その人物はフードを被っていて、顔がよく見えない。

やがてしばらく歩いていたその人物は、パロレたちの近くで立ち止まった。それから溜息をつき、暑かったのか、フードをゆっくりと脱ぐ。その顔を見て、パロレは思わず息を呑んだ。

その人物は、フォルテ城の博物館で見た三英雄の彫像のうちのひとつ、メローネの像にそっくりだったのだ。

「あと少しね」

メローネによく似た女性は火口へと続く道を見つめてそう呟いた。本当に、何千年も前の古代アモルに来てしまったのだろうか。パロレはそう思った。そしてその疑問は、確信に変わることとなる。

「みんな変わってしまった。エシャロットもアングリアも……そして私も……」

まさか、本当にそうだったなんて。パロレは驚きつつもちらりと横目でオリヴィエとマリナーラの様子を伺った。オリヴィエは息を詰めて見守っている。また、マリナーラは思いの外真剣な様子でメローネを見つめていた。

「でも、私は二人を許さない。たとえ事実だとしても、自分が一番優れた者だと思うことがどれほど愚かなことなのか、彼らは分かっていない……」

パロレはメローネの言っていることがよく分からなかった。

「メガシンカの力を……、私のキーストーンを奪ったエシャロット……。絶対に許さないわ」

メローネが力強く言う。その言葉にマリナーラが反応したのが分かった。

「分からせてやるのよ。あの王様にね。私たちが一体どれほどの力を持っているのか、思い知らせてやる」

メローネは狂気を孕んだ笑みを浮かべてそう言い、火口へと歩き出した。私たち?一体他に誰がいるというのだろうか。

「知ってるのよ、この先にあなたがいるって……ふふ……ねえ、ボルケニオン……?」

メローネがそう言いながら火口へと消えていく。やがて、また体が浮かび上がるような感覚がしたかと思えば、パロレたちは元の時代に戻っていた。
 ▼ 100 AYr1xkow/g 17/08/31 15:54:33 ID:KmsM.HPE [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレはしばらくぼうっとしていた。今見たものは、一体なんだったんだろうか。見ればセレビィはもういない。帰ってしまったようだ。相変わらず気まぐれである。

一方、マリナーラはにやにやと笑っている。

「あっはは……すごいもん見ちゃったぁ。へえ……ふーん……」

マリナーラは面白そうに何かをぶつぶつと呟いていた。やがて、

「面白いことになりそー……。じゃ、帰ろーっと!」

と言って、さっさとイーラ火山を出ていってしまった。パロレがぽかんとしてその後ろ姿を見ていると、

「あ、あの、先程のは……」

オリヴィエがおずおずと聞いてきた。パロレはああ!と声を上げ、

「さっきいたあのポケモンがセレビィっていう幻のポケモンなんだけど、未来や過去に行ける力を持ってるんだって。なんかぼく、前にも会ったんだけど気に入られたのかも……」

「そうだったのですね」

オリヴィエが言う。それから、顔を曇らせた。

「あの女性……三英雄の一人のメローネでしたね。何かあった様子ではありましたが、……一体ボルケニオンに何の用があったのでしょう……。まだ立入禁止になっていなかったということは、噴火する前のことなのですね……」

オリヴィエは不安げながらも考えこんだ。そして、一呼吸置くと、オリヴィエはパロレに向き直る。

「……助けてくださって、ありがとうございました。お優しいあなたのことを、きっとセレビィも見抜いていたのですよ。だからあなたのことが好きなんだと思います」

オリヴィエはそう言って微笑んだ。パロレはなんだか照れ臭くなって、ぽりぽりと頬を掻く。

「どういたしまして。……さっきのマリナーラの言ってたこと、気にしちゃダメだよ」

パロレが言うと、オリヴィエは頷いた。

「ええ……。そうですね」

そして、オリヴィエは力強く続けた。

「あなたも、お気になさらないでくださいね。偽善者じゃなんかありません。あなたの優しさは本物です。それに、たとえ偽善だったとしても……人を思いやるふりをすることすらできない者よりずっと立派だと……、私は思います。助けてくださったお礼に、こちらを差し上げます」

オリヴィエはそう言うと、パロレに石を手渡した。黒っぽい不思議な模様の入った、青く光る不思議な石だ。

「これは?」

パロレが尋ねる。

「それは、以前イーラ火山の見回りの際に見つけたものです。なんだか、あなたが持っているべきだと思ったのです。……ごめんなさい、お礼できるものがそれくらいしかなくて……」

「そんなことないよ!ありがとう」

パロレは慌てて首を横に振り、不思議な石をバッグにしまった。

「本当にありがとうごさいました……!」

深々と頭を下げるオリヴィエに手を振って、パロレはイーラ火山から古代都市へと繋がる8番道路の方向に進んでいった。
 ▼ 101 AYr1xkow/g 17/08/31 18:14:21 ID:n87lx/mM NGネーム登録 NGID登録 報告
>>99
修正

ここは、今度はいつの時代だろう。パロレは辺りをキョロキョロと見渡した。イーラ火山の立入禁止区域の前であることには変わりないはずだ。しかし、見るとこの時代ではまだ立入禁止にはなっていない様子だった。他にも、パロレは岩肌が今より滑らかで控えめだということに気がついた。八年前どころではない、もっと昔のイーラ火山だ。


誤字脱字多くてすみません
 ▼ 102 ズモー@うすもものミツ 17/09/01 21:40:03 ID:hVlGJ2nA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 103 AYr1xkow/g 17/09/02 00:28:05 ID:id0p3n9I [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
暗い雰囲気の8番道路を抜け、パロレは古代都市へとやってきた。

古代都市は、かつてのイーラ火山の噴火による火砕流で埋もれ、滅亡してしまった町の跡地だ。それから千年以上後になって掘り出されたこの遺跡は滅亡した瞬間の姿がほとんどそのまま残っており、今ではゴーストタイプやほのおタイプのポケモンの巣窟となっている。

パロレは灰色の街を歩きながら歌を歌っていた。小さい頃によく見ていたアニメの主題歌だ。明るい歌詞の曲を歌う震えた歌声が、暗い古代都市に響き渡る。なんとも不釣り合いな音色だが、こうでもしないと怖いのだから仕方がない。

人っ子ひとりいない。時折ポケモンが物陰からこちらを覗いてくるだけ。それなのに妙に生活感のある光景が不気味なのだ。かつてまだこの古代都市が普通の街として機能していた時に使われていた家や店などの建物、そしてその中の家具や備品何もかもがほぼそのまま残っているのだ。ただ、すべて灰色だけれど。

「え?何!?」

パロレが怯えた声を出して振り返る。背後からケタケタと笑い声が聞こえてきたのだ。しかし、そこには誰もいなかった。パロレは真っ青な顔で再び前を向く。すると、また笑い声が聞こえてきた。

「なんだよぉ!」

もはや泣きそうになっているパロレの背中にあるバッグがもぞもぞと動く。慌てて目を向けると、何か小さな生き物がバッグに入りこんでいるようだった。その生き物は光るふたつの石を取ると、笑いながらどこかへ行ってしまった。

「わわっ!どっちも貰い物なのに!待てっ!」

パロレはそう行って走りながら、モンスターボールから一匹のポケモンを繰り出す。

「リザ!」

「リザード、光る石をふたつ持ってる奴を追いかけてるんだ。一緒に探してくれるか?」

「リザリザ」

リザードはこくりと頷いた。

「ありがとう。じゃあ、手分けしよう。ぼくはこっちに行くから……あっち側を頼んだ!」

「リザァ!」

リザードは軽く火を吐いて威勢よく返事をすると、パロレとは反対方向に向かって走っていった。
 ▼ 104 AYr1xkow/g 17/09/02 00:29:26 ID:id0p3n9I [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
気がつけば、一時間以上経過していた。

「見つからないよぉー……もうここから出たいよぉー……」

へとへとになったパロレは、よろよろと歩きながら悲痛な声を上げた。そしてとうとうその場に立ち止まり、膝に手をついた。

「……リザ!」

ふと相棒の声が聞こえ、顔を上げる。

「あれ、リザードどうしたの……も、もしかして見つけた?」

「リザッ!」

リザードは自慢げに頷いた。そしてパロレの腕を軽く掴み、もう一方の手である一点に向かって指を差す。その先には、ふわふわと浮いているポケモンのようなものがいた。

パロレは無言で親指をぐっと上げる。リザードは当然だ、という格好つけた表情をして腕を組んだ。パロレはリザードの頭を撫でると、

「よしリザード、気付かれないように挟み撃ちにしよう。ぼくが向こう側に回るから、合図をしたら一気に掴みかかるぞ!」

「リザ!」

リザードの返事を聞いたパロレは、こっそりと遠回りで反対側へと向かった。少し遠くにリザードの顔が見える。リザードと目が合った。パロレが頷く。その瞬間、一人と一匹は同時に動いた。

「おりゃー!」

掴んだ!と思えば、ポケモンらしきものはパロレの手をすり抜けてしまった。しかし、それをリザードががっちりと捕まえる。

「リザードよくやった!」

パロレはそう言って、リザードの手の中を見た。ふたつの石を盗んだのは、にんぎょうポケモンのカゲボウズだったようだ。カゲボウズは驚いてリザードに襲いかかってきた。

「わっ!リザード、ほのおのキバだ!」

リザードがカゲボウズに噛みついたが、カゲボウズはケタケタと笑いながら飛び回っている。リザードが取り返した石を狙っているようだ。

「こいつ、反省してないな!?こうなったら……」

パロレはそう言って、アキニレから貰ったスーパーボールを取り出し、カゲボウズに向かって投げつけた。カゲボウズを吸いこんだスーパーボールは、三回揺れると動かなくなった。成功だ。

「よーし、強制的に仲間入りだ。これなら盗まれてもとりあえず大丈夫」

パロレはスーパーボールを拾い上げて呟いた。そしてリザードに向き直る。

「リザード、取り返しておいてくれてありがとう。さすがぼくの相棒っ!」

そう言ってパロレはニカッと笑った。
 ▼ 105 AYr1xkow/g 17/09/02 00:30:27 ID:id0p3n9I [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
リザードは、興味深げに石を見つめていた。リザードの視線の先にあるのは、オリヴィエから貰った青く光る不思議な石だ。

「ん?気に入ったのか?それじゃ、そっちはリザードが持ってていいよ。失くすなよー?」

「リザ!」

リザードが嬉しそうに鳴き声を上げた。そしてパロレに抱きつく。

「あはは、くすぐったいよ」

パロレが笑っていると、カゲボウズが勝手にボールから飛び出してきた。

「えっ、なんで?もう、手のかかりそうな奴だなぁ、このっ」

パロレはそう言ってカゲボウズの首回りをくすぐった。

「ケケケ!」

カゲボウズは嬉しそうに笑っている。楽しそうだ。もしかしたら、ずっとここにいて寂しかったのかもしれない。パロレはしばらくカゲボウズを見つめていたが、ふとあることを思いついて腰につけたモンスターボールをすべて手に取った。

「ピジョォ!」

「マリー!」

「ロゼロゼ!」

ピジョン、マリルリ、ロゼリアが元気よくモンスターボールから出てくる。みんなで一緒に行けば怖くない。どうして最初から思いつかなかったんだろう?

「よーし、みんなおいで。カゲボウズも」

パロレはそう言って、ピジョンたちも優しく撫でてやった。みんな嬉しそうだ。なんだかパロレも楽しくなってきた。

「ほんとに怖くなくなってきた!」

パロレは仲間たちと共に次の街へと陽気に進んでいった。
 ▼ 106 AYr1xkow/g 17/09/02 00:57:51 ID:id0p3n9I [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
墓地になっている9番道路もポケモンたちと楽しく通り抜けて、パロレはブロインシティへとたどりついた。

あまり明るい街ではないのだが、なんだか人が大勢集まっているようだ。パロレはリザードたちをボールに戻した。

今日は本当に疲れた。もう休もう。パロレはそう思ってポケモンセンターに向かった。

「やばーい、本当に雰囲気ありますね!なんかもう街全体がお化け屋敷みたい!」

ふと、よく通る声が聞こえてきた。どこかで聞いたことのある声だ。声のする方を見てみると、若い女性が歩いていた。その周りにはカメラマンやアシスタントディレクターのような人が数人。どうやらテレビの撮影をしているようだった。人が集まっているのも、その見物のようだ。

「ここのジムリーダーってゴーストタイプ使いなんですよね?しかも古代都市の近くだし、もはやゴーストタイプのための街って言っても過言じゃないですよね!」

黒いセミロングの髪に赤い瞳の女性の顔がパロレの方に向いた。パロレはそれを見て、彼女がクオレの言っていた売れっ子タレントのイチゴであるということを思い出した。まあ、一般人のぼくには関係のない世界だけど。パロレはそう思いながら歩く。

「あの男の子ちょっと気になりません?話しかけてみますね」

パロレには、こちらに近づいてくるイチゴの声は聞こえていないようだ。

「そこの僕ー!こんにちは!」

イチゴが大きい声を出す。パロレは慌てて振り向いた。

「えっ!?ぼく!?」

素っ頓狂な声を上げるパロレに、イチゴは明るく話しかけてくる。

「はい!僕です!君、ブロイン出身?」

イチゴの質問に、パロレは首を横に振る。

「いや、ヴァイスタウンから来ました」

パロレが言うと、イチゴはあんぐりと口を開けた。さすが人気タレント、リアクションもバッチリだ。

「ヴァイス?わー、遠い!もしかしてトレーナーさん?」

「はい、ジムを回ってます」

パロレがそう言うと、イチゴは何故か一瞬、何も言わずに嬉しそうな顔をした。その瞳には、期待のようなものが見える。

「へー!少年、頑張ってるねぇー。古代都市には行きました?」

「はい、ついさっきやっと抜けられました。ポケモン捕まえました!」

「おっ、いいですねー!あたしも行くのが楽しみになってきた!僕、ありがとね。ジム戦頑張って!」

イチゴがそう言って、手を振って去っていく。

「ありがとうございます!」

パロレはお礼を言いながらドキドキしていた。

「テレビ出演しちゃったよ!」

パロレはハイテンションで囁きながら、ポケモンセンターへと歩いていった。
 ▼ 107 AYr1xkow/g 17/09/03 11:45:46 ID:esVdvhyU [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌日、すっかり疲れの取れたパロレはワクワクしながらブロインジムへと向かった。一昨日セールイシティでジムに挑戦したことが、遠い未来のことのように感じられる。昨日はイーラ火山や古代都市で色々ありすぎて大変だった。でも今日は楽しいバトルができる!

と、思っていたのに。なんと、ブロインジムは閉まっていた。

「そんなぁ……」

パロレががっくりと項垂れる。また先に進まなければならないのだろうか?そう思っていると、ふと通りすがった男性が声をかけてきた。

「ジムリーダーのネムちゃんなら、9番道路にいるよ」

パロレがガバッと顔を上げる。

「え!ほんとですか!」

「あそこに行くのが彼女の日課なんだ。ジムに挑戦したいのなら、会いに行って言えばちゃんと開けてくれると思うよ」

パロレは顔を輝かせた。

「よかった!教えてくれてありがとうございます!」

パロレはそう言って、9番道路へと急いだ。昨日は疲れていたこともあってか、あまり景色を見ずに進んでしまったが、今回はゆっくり歩いてみることにする。9番道路は道路全体が墓地になっているが、改めて朝に通ってみると、陰鬱とした雰囲気は感じられなかった。きらきら光る朝露が墓石を伝って落ちていくその光景は、むしろ美しく感じられる。

少し歩いていると、パロレより少し年上の少女の後ろ姿が見えた。黒髪のツインテールの女の子が、とある墓石をぼんやりと見つめている。

「あのー……」

パロレが話しかけると、少女はくるりとこちらを向いた。

「ん?あら……」

少女はパロレを、正確にはパロレの少し後ろを見て意味ありげな笑みを浮かべた。パロレは首を傾げる。

「ジムに挑戦しに来たの?」

少女が聞く。彼女がブロインジムリーダーのネムで間違いないようだ。

「留守にしちゃってごめんなさい。もう少ししたら行くわ……」

ネムはそう言うと、また視線を前に戻した。そして、

「あの一際大きな墓石が見える……?」

そう言って、奥にある墓石を指差した。確かに、他のものと比べると大きい。三倍はあるだろう。

「あの大きな墓石は、かつてイーラ火山の噴火によって命を落としてしまった人やポケモンたちのためのものなの……」

ネムは瞳を閉じた。

「やがて、ここ全体が死者を弔う場所へと変わっていった……。いつかは溢れてここには収まらなくなってしまうだろうけど、ここにはアモルの人、ポケモン、すべての命が眠っているの……」

そう言ったネムは目を開けてパロレを見て続けた。

「まあ、眠ってない人もちらほらいるんだけど……」

パロレはネムのその言葉については深く考えないことにした。

「私はジムに戻るわ。また後で……。よかったら、少しでいいから彼らに語りかけてあげて……」

ネムはそう言って、ブロインシティへと歩いていった。パロレはネムに言われた通り、しばらくここに残ってお参りしていくことにした。
 ▼ 108 AYr1xkow/g 17/09/03 11:47:27 ID:esVdvhyU [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
さあ、気を取り直してジムに挑戦だ。ブロインジムの看板には「視えないものが視える娘」と書いてある。何が視えているのかについては知らぬが仏というやつであろう。パロレがジムに入ろうとした瞬間、中から人が出てきた。

「あ!パロレさん!」

その声を聞いた瞬間、パロレは「あー!」と声を上げた。

「また先越されたーっ!」

パロレがそう言って頭を抱える。パロレが9番道路でお参りをしている間に、ユーリが先にジムに挑戦してしまったらしい。すぐ近くにいただけあって、悔しさも大きい。

「そんな、大して変わらないじゃないですか」

ユーリが苦笑したが、そういう問題ではないのだ。

「あの、パロレさん……。このタイミングでお願いするのは我儘かもしれませんが……、いいですか?」

ユーリの遠慮がちな言葉に、パロレは急いで顔を上げた。もちろん、パロレはいつだって準備オーケーだ。

「うん!いいよ!」

パロレが言うと、ユーリはホッとしたような笑みを浮かべた。

「それでは……よろしくお願いしますね。行け!フラエッテ!」

ユーリがフラエッテを繰り出す。パロレもポケモンを繰り出した。

「行けっ、カゲボウズ!」

カゲボウズは相変わらずケタケタと笑いながらふわふわ浮かんでいる。緊張感の感じられない奴だ。

「カゲボウズ、かげうち!」

カゲボウズの影が伸びたかと思えば、カゲボウズの姿が見えなくなった。フラエッテが不安げに辺りをキョロキョロと見渡す。すると、フラエッテの背後まで伸びていた影からカゲボウズが顔を出し、後ろからフラエッテに攻撃した。

「フラエッテ、ようせいのかぜ!」

ユーリの指示で、フラエッテが風を起こした。カゲボウズは風に吹かれて吹っ飛ばされそうになっていたが、どうやら風に乗って楽しんでいるようにも見える。

「か、カゲボウズ……!真剣にやれよ!もう一度かげうち!」

「ケケケッ!」

カゲボウズは笑いながら影の中に消えていった。フラエッテがまたもカゲボウズを見失い、焦っている。その後ろの伸びた影からカゲボウズは唐突に現れた。

「フ……ラッ!」

カゲボウズの攻撃を受けたフラエッテは、くるくるとゼンマイのように回りながら地面に落ちてしまった。ユーリはフラエッテをボールに戻し、次のポケモンを繰り出す。

「行け、フワンテ!」

「カゲボウズ!かげうちだ!」

パロレの指示に、カゲボウズはまたも影を伸ばして姿を消した。そしてフワンテの背後から攻撃する。

「フワ」

フワンテは小さく鳴き声を上げて倒れてしまった。一発でダウンだ。ユーリは唇を噛み締めながらフワンテをボールに戻した。
 ▼ 109 AYr1xkow/g 17/09/03 11:49:05 ID:esVdvhyU [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「次だ!行ってこい、アママイコ!」

ユーリはアママイコを繰り出した。アママイコは可愛らしく踊るような動きをしながら指示を待っている。

「カゲボウズ、戻れ!リザード!任せたぞ!」

パロレがポケモンを入れ替えると、ユーリは素早く指示を出してきた。

「アママイコ!フラフラダンスだ!」

「アマァ!」

アママイコは返事をするように鳴き声を上げると、リザードの前でフラフラとした不安定な足取りで踊り始めた。リザードはそのステップを目で追っている。やがて、リザードの目は回ってしまったようだった。

「リザード!ほのおのキバだ!」

しかし、混乱しているリザードはその場で思いきり転んで尻餅をついてしまった。

「アママイコ!はっぱカッター!」

アママイコは大量の葉を放出してリザードに斬りつけたが、効果は今ひとつだ。リザードはあまりダメージを受けている様子はない。

「リザード頑張れ!ほのおのキバ!」

「リザッ」

リザードは顔を上げ、慌てて体を起こした。そして、アママイコに近づき、炎を帯びた歯でがぶりと噛みつく。アママイコは「アマ!」と鳴き声を上げ、そのまま倒れこんでしまった。

「……っ、頼んだ、ポッタイシ!」

ユーリがアママイコを戻してポッタイシを繰り出した。パロレも、

「よし、ありがとうリザード!次はお前だ!ロゼリア!」

ロゼリアは澄まし顔でボールから出てきた。パロレの頭に、ふと「なんでぼくのポケモンはみんな自信家なんだろう」という疑問が浮かぶ。それはパロレがよくポケモンたちを褒めているからなのだが、本人に自覚はないようだ。

「ロゼリア!素早く決めよう!エナジーボール!」

「ロゼーッ!」

ロゼリアが、ポッタイシにエナジーボールを勢いよくぶつける。ポッタイシがエナジーボールに数メートル先まで押し出される。やがて、数メートル先でポッタイシは倒れてしまった。
 ▼ 110 AYr1xkow/g 17/09/03 11:51:17 ID:esVdvhyU [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ポッタァ……」

ユーリが悔しげな表情でポッタイシをボールに戻す。それから、「……またダメだ」と呟いた。

「どうしてもパロレさんに勝てない。何が足りないんだ……?オレのポケモンが弱いのか……?」

ぶつぶつと呟くユーリに、パロレは何も言えずに黙っていた。そんなパロレに気付いたユーリが慌てて、

「あ、失礼しました!すみません。いつも相手をしてくださってありがとうございます」

「ううん。こちらこそいつもありがとう」

パロレが顔を横に振って言う。

「では、オレは行きますね」

ユーリがそう言って立ち去ろうとする。パロレは思わず話しかけていた。

「あのさ」

ユーリが首を傾げて「はい」と答える。

「どうしてそんなに急いでるの?」

パロレは思った通りのことを口にしていた。

「え?」

「いや、いつもさっさと先に行っちゃうなー、って思って」

その言葉を聞いたユーリが、すまなそうに眉を下げる。

「あ……不快にさせてしまっていたのですね。すみません……」

そんなユーリを見て、パロレは慌てて両手を振った。

「あ、いやいや!そういうんじゃなくて!」

「まあぼくもそんなゆっくり街を見たりはしてないけどさ。もっと気を楽にしていいんじゃないかなってちょっと思っただけなんだ」

ユーリはしばらく黙っていた。それから、ゆっくりと口を開く。

「……強くなりたいんです。できるだけ早く。そして父に認められたい……!」

それは前にも聞いた、ユーリの決意だった。パロレが口出しするようなものではない。パロレは何を言うか迷ったが、結局「そっか」とだけ相槌を打った。

「はい。オレもメガシンカを使えるようになりたい。それが強くなった証だと思うんです。オレは早く姉を、そしてあなたを超えなければならない」

「え、ぼく!?」

ユーリの言葉に、パロレは目を丸くした。ユーリは力強く頷く。

「はい。もうこれ以上負けられません。では、オレはこれで。失礼します」

そしてユーリは、礼儀正しく頭を下げてから早足で歩いていった。
 ▼ 111 ールナー@カロスエンブレム 17/09/03 18:35:54 ID:VfCrNqC2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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 ▼ 112 AYr1xkow/g 17/09/03 20:15:54 ID:y.wzUFcY [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
今度こそ、本当にブロインジムに挑戦だ。パロレはポケモンたちを回復させてから、ジムの前に戻ってきた。さあ、頑張るぞ。

ジムの中は、洋館のようだった。大広間のような内装で、天井には豪華なシャンデリアがぶら下がっている。まあ、肝心の電気はついておらず暗いのだが。

大広間とはいっても、だいぶ散らかっていた。椅子はバラバラに置かれ、テーブルの上もぐちゃぐちゃだ。パロレは慎重に歩いた。

すると、いきなりガタガタと音が聞こえてきた。

「な、何!?」

パロレが涙声で言う。なんと、近くにある棚が激しく揺れて音を立てていたのだ。

「やだ!怖い!」

まるでポルターガイスト現象のように勝手に動く棚を見て、パロレが悲鳴を上げる。古代都市から散々怖い思いをしているのに、まだこんな目に遭わなくちゃいけないなんて!

「うわ!」

パロレが声を上げる。棚がガシャンと激しい音を立ててパロレの目の前に倒れてこんできたのだ。これでは前に進めない。パロレは辺りを見渡して、通れる場所を探した。なるほど、ブロインジムはこうやって道を遮ってくるらしい。

「それなら最初から道を塞いどいてよ……怖い思いさせないでよ……」

パロレはぶつぶつと呟きながら歩いた。遠回りだが、歩ける場所を見つけたのだ。パロレが歩いていると、またも音が聞こえてきた。今度はガシャンガシャンという耳障りな音だ。ふと横を見ると、飾られていた鉄の甲冑たちがパロレの方に向かって歩いてきていた。

「ギャーッ!」

パロレが慌てて逃げる。今度は甲冑によって行き止まりにされてしまった。

「なんなんだよもー!……ん?」

甲冑たちが動いたことによって、元々飾られていた場所が通れるようになっていた。そこを通っていけば、奥まで行けそうだ。

ようやくジムの最奥部に辿りついたパロレは、大して動いてもいないのにへとへとに疲れていた。そんなパロレの耳に、くすくすと笑う声が聞こえてくる。見れば、ネムが笑っていた。

「いい反応……と思ってたら、あなただったのね……うふふ……」

「わ、笑わないでよ……」

こちとら怖いものは苦手なのだ。しかし、ネムは完全にパロレを面白がっているようだった。

「いいでしょう?このジム……。私は何もしてないのだけど、勝手にああやって物が動くの……。ポケモンたちの仕業だとは思うけど、もしかしたら違うかもね……」

パロレは何も言わなかった。

「さあ、もっと怖がらせてあげる……」

「ヒッ」

パロレが息を呑む。ネムはそう言って、にやりと笑ってポケモンを繰り出してきた。
 ▼ 113 AYr1xkow/g 17/09/03 20:17:28 ID:y.wzUFcY [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「いってらっしゃい、ヒトモシ……」

「マリルリ!任せたぞ!」

ゴーストタイプにはゴーストタイプが相性が抜群だ。つまり、カゲボウズを出すと有利でもあり不利でもある。パロレは慎重に行くことにした。

「マリルリ!アクアテールだ!」

思いきり尻尾を叩きつけられたヒトモシは、倒れてそのまま動かなくなった。

「次はこの子。ムウマ、頑張って……」

ネムはヒトモシを戻すとムウマを繰り出してきた。

「マリルリ、じゃれつく!」

「ムウマの方が速いわ……。ムウマ、シャドーボール!」

ムウマはネムの言葉通り、マリルリより速く動いて黒い影の塊をマリルリにぶつけてきた。しかしマリルリも負けてはいない。マリルリはムウマの攻撃をものともせずにじゃれつく。すると、ムウマもまた一撃で戦闘不能となってしまった。

「あら……。あなたが最後よ、ミミッキュ……!」

「ミミッキュ!」

ミミッキュが鳴き声を上げた。ミミッキュは、パロレのよく知らないポケモンだった。可愛らしいがどこか奇妙な姿をしたポケモンだ。

「ミミッキュ、シャドーボール」

ミミッキュの作り出した影の塊がマリルリに当たる。マリルリはまだまだ大丈夫そうだ。パロレは声高らかに指示を出した。

「マリルリ、アクアテール!」

マリルリがミミッキュに尻尾を叩きつける。ミミッキュはまったくダメージを受けていないように見えた。しかし、ミミッキュの首元から力が抜け、だらりと首が倒れたので、パロレは思わず叫びそうになった。

「全然効いてない……のに、首が折れた!?」

パロレがパニックになっていると、ネムが笑いをこらえきれない様子で教えてくれた。

「うふふ……ミミッキュの特性はばけのかわ。最初の攻撃は防いじゃうの……。それに、そこは首じゃないのよ……顔は下にあるから……ふふ……」

「そ、そうなんだ……べ、勉強不足だったな……」

奇妙に感じられたのは、どこかバランスが悪く見えた体をしていたからだろうか。パロレはどうにか心を落ち着かせながらそう言った。

「ミミッキュ、ウッドハンマー!」

「ッキュ!」

ミミッキュが勢いよく攻撃してきた。効果は抜群だ。マリルリは真正面から攻撃を受け、一発で倒れてしまった。
 ▼ 114 AYr1xkow/g 17/09/03 20:18:31 ID:y.wzUFcY [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「マリルリ、お疲れ様。リザード!行くぞ!」

「ミミッキュ……シャドーボールよ……!」

ミミッキュの作り出した球状の影がリザードに当たったが、リザードはまだやられる気配はない。平気そうだ。

ミミッキュは先程のウッドハンマーの反動で少し疲れているはずだ。行ける!

「リザード!ほのおのキバだ!」

「リザー!」

リザードが威勢よく鳴き声を上げて、ミミッキュにがぶりと噛みついた。

「ミミッキュ……」

ミミッキュは力なく鳴き声を上げ、その場に倒れる。

「あら……残念……」

ネムがそう言った。勝利だ。

「驚かせても強いのは変わらない……、か。当たり前ね……。はい、スペクターバッジをどうぞ……」

ネムが言う。パロレは勝利の証であるバッジを受け取った。スペクターバッジは名前の通りおどろおどろしい姿の幽霊を模したような形の不気味なバッジだった。パロレは出来るだけ直視しないようにしつつバッグにバッジをしまう。

「それからこれも……。『シャドーボール』の技マシンよ……。威力も高いし、たまに相手のとくぼうを下げることもあるの……。これで上手く相手を怖がらせてね……」

パロレは微妙な顔で技マシンを受け取った。

「次も頑張ってね……」

「はい。ありがとうございました!」

パロレが礼を言う。ネムは微笑んで手を振ったが、あ、と声を上げた。

「そうだ、ずっと気になってたんだけど、聞くの忘れてた……」

ネムの声に、パロレが振り向く。パロレは心底不思議そうにパロレを見つめて聞いてきた。

「最初に会った時からずっと一緒にいるのに、どうして後ろの男の人のこと無視してるの……?」
 ▼ 115 イティ@デンキZ 17/09/04 12:29:31 ID:rPUtH6Bg NGネーム登録 NGID登録 報告
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 ▼ 116 ケンカニ@いいキズぐすり 17/09/05 16:45:57 ID:soggEXmg NGネーム登録 NGID登録 報告
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 ▼ 117 ママイコ@ヤミラミナイト 17/09/05 17:58:44 ID:SC/n4A7k NGネーム登録 NGID登録 報告
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 ▼ 118 AYr1xkow/g 17/09/05 22:05:52 ID:96W6SPU. [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「昨日のネムさんの最後の言葉、冗談だよね……はは……」

翌日、ポケモンセンターで目を覚ましたパロレはそう呟いた。

といっても、まともに眠れていない。昨日は散々怖い思いをしたのだから当然だ。パロレは顔を洗って気合を入れ直すと、ネムは悪戯好きな人でずっと揶揄われていたのだと思うことにした。

それより、早く前に進もう。やっと四つのバッジを手に入れたのだ。立ち止まっている暇はない。パロレはブロインシティを出て、次の街へと向かった。

10番道路の先にあるのは、モルタウンだ。小さくてのどかなところで、アモル南部の中でも断トツで田舎であると言えよう。

パロレがモルタウンに入ると、大きな話し声が聞こえてきた。どうやら二人の女性が井戸端会議をしているようだった。聞いてはいけないと思いつつも、聞こえてしまう。パロレはそわそわしつつその横を通った。

「最近スパイス団がなんか活発になってるでしょ、物騒よねぇ」

「そうよねぇ、嫌だわぁ。五年前の事件を思い出すわねぇ」

「ああ……そうよねぇ。あの事件も、結局どうなったのか分からずじまいだわねぇ」

パロレは思わず立ち止まった。五年前の事件?一体なんだろう。

「もうあの子、見ないわねぇ。まあ……目立ちたくないわよねぇ、あんなことで……」

「あの」

パロレは思いきって話しかけてみた。二人の女性が同時にパロレに顔を向ける。

「五年前の事件って、なんですか?」

パロレの質問に、片方の女性が口を開いた。

「五年前にね、女の子のポケモンが盗まれるっていう事件が起きたのよ」

女性はパロレに構わず勝手に話し続ける。とにかく喋りたかったのだろう。

「まあ、事件自体は解決してるのよ。その女の子が優秀なトレーナーだったみたいで、取り戻すのにそれほど時間はかからなかったの」

女性はそこまで言うと、「だけどね……」と悲しげに眉を下げた。

「取り戻したポケモンは、明らかに様子がおかしかったらしくてねぇ。なんでも、まるでその女の子のことを忘れてしまったかのように彼女に襲いかかった、って聞いたわよ。暴走しちゃってたみたいで……」

「そんな……」

パロレは信じられない思いで呟いた。ポケモンを盗むだけでも許せないことなのに、そのポケモンに危害を及ぼしてトレーナーを更に傷つけるなんて。

「その後どうなったのかは分からないのよ。今では忘れちゃってる人も多いんじゃないかしらねぇ……」

女性が言う。パロレはしばらく言葉を失っていたが、その後女性たちに礼を言ってその場を離れた。
 ▼ 119 AYr1xkow/g 17/09/05 22:07:30 ID:96W6SPU. [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
五年前の事件でポケモンを盗まれた女の子とそのポケモンは、今はどうしているのだろう。まだ苦しんでいるのだろうか。もしポケモンが記憶を取り戻していたとしても、心に深い傷を負ったはずだ。自分だったらどう思うだろうか……。

「パロレくん!」

「はっ!あっ!?」

考え事をしていたら、声をかけられた。慌てて顔を上げると、そこにはなんとスリジエがいた。

「スリジエ博士!お久しぶりです!」

「うふふ、久しぶり」

スリジエは嬉しそうに笑ってパロレを見つめる。

「順調そうで何よりだわ。ここまで来たということは……バッジを四個手に入れたのね?」

「はい、そうです」

パロレは自信を持って答えた。

「さすがパロレくん!」

スリジエはそう言って小さく拍手した。パロレは少し照れ臭くなった。

「クオレちゃんやユーリくんも頑張ってるでしょうし……ふふ、あの子たちを思い出すわ」

スリジエが懐かしむように言う。パロレは思わず口を開いていた。

「あの子たちって……兄さんのことですか?」

「ええ、そうよ」

スリジエは微笑んで頷いた。パロレは、ずっと気になっていたことを意を決してスリジエに聞いてみることにした。兄であるアキニレは、どんなトレーナーだったのだろうか。

「兄さんって、その……どんな感じだったんですか?」

「え?そうねえ……」

スリジエはパロレの質問が予想外だったのか、しばらく考えていた。それから、

「アキニレくんは私からハリマロンっていうポケモンを受け取って……パロレくんたちと同じようにお友達と一緒に旅に出て……バッジを八個手に入れてたわ」

スリジエの言葉に、パロレは目を見開いた。そして小さな声で呟く。

「……兄さん、ジムを制覇してたんだ……」

どうやらスリジエは聞こえていたらしい。にっこりと笑って、パロレに語りかけてくれた。

「パロレくんもきっとできるわ。アキニレくんのように……いえ、もしかしたらアキニレくんより強くなるかも」

そう言ってふふふ、と笑う。パロレの顔はぱっと輝いた。

「ほ、ほんとですか!?」

「ええ、もちろん。……そうだ!」

スリジエは頷くと、ふと何かを閃いたかのように手を叩く。

「パロレくん。あなたがどれくらいポケモンたちと絆を深めたのか、私にちょっと見せてくれるかしら?」

スリジエはそう言って、ポケモンを繰り出してきた。
 ▼ 120 AYr1xkow/g 17/09/05 22:26:09 ID:96W6SPU. [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「いってらっしゃい、クサイハナ!」

スリジエがまず繰り出したのは、ざっそうポケモンのクサイハナだ。パロレもポケモンを繰り出した。

「行け!リザード!」

リザードはやる気満々だ。パロレはぐっと頷き、微笑んで指示を出す。

「リザード!ほのおのキバ!」

リザードは、炎を帯びた牙でクサイハナにがぶりと噛みつく。クサイハナは一撃で倒れてしまった。

「あら強い。それじゃ、この子はどう?ブーバー!」

ボールから出てきたブーバーは、気合たっぷりに口から炎を吹き出した。それを見たパロレは、ポケモンを入れ替えることにした。

「よし、リザード戻れ!行け!マリルリ!」

「ブーバー、ほのおのパンチよ!」

スリジエの素早い指示に、ブーバーは拳を思いきりマリルリの腹部に叩きこんだ。マリルリは思わず吹っ飛んだが、ダメージはそれほど受けていないようだ。立ち上がったマリルリに、パロレは声高らかに叫ぶ。

「マリルリ、アクアテール!」

「マーリッ!」

マリルリは尻尾をブーバーに勢いよく叩きつけた。ブーバーも一撃で戦闘不能だ。

「んもう、容赦ないんだから」

スリジエが唇を突き出してそう言いながらブーバーをボールに戻す。

「さあ、任せたわよ、アリゲイツ!」

初めてスリジエの研究所に行った時に出会ったワニノコは、アリゲイツに進化していたようだ。あの時と変わらず元気いっぱいの様子で、こちらを好戦的な瞳で見つめてくる。

「マリルリ戻れ!ロゼリア!任せたぞ!」

パロレはまたポケモンを入れ替えた。いくら力押しが得意技とはいえ、タイプの相性は重要だ。

「ロゼリア!エナジーボール!」

ロゼリアは自然のエネルギーを集めて球体を作り始めた。なんだか、いつもよりエナジーボールが大きい。他のみんなもそうだ。最近、特に強くなってきたような気がする。パロレは期待をこめて叫んだ。

「いっけぇええ!」

「ロゼアー!」

ロゼリアが飛ばしたエナジーボールは、アリゲイツの顔面を直撃した。そして、なんとアリゲイツもまた一撃で気を失ってしまったのだった。
 ▼ 121 AYr1xkow/g 17/09/05 23:17:52 ID:/gXlkL9. NGネーム登録 NGID登録 報告
「……もう、びっくりしちゃった!すごく強くなってる!」

スリジエが言う。パロレは照れ笑いを浮かべながら頭を掻いた。

「いえいえ、あはは。でも嬉しいな。ありがとうございます」

パロレが言うと、スリジエはまるで自分のことのように喜びながら、

「これは期待大ね。特にリザード!お互い信頼し合ってるのが伝わってくるわ。これからもどんどんポケモンとの絆を深めていってね」

そう言って微笑む。

「はい!」

パロレは元気よく返事をした。するとその瞬間、ふとある疑問が頭をよぎった。先程二人の女性から聞いた、五年前の事件に関することだ。

「あの……、トレーナーと深い絆で結ばれたポケモンが、もしもそのトレーナーのことを忘れてしまったとしたら……どうなると思いますか?」

パロレの質問に、スリジエは一瞬沈黙した。きっと、スリジエもこの事件のことは知っているだろう。パロレはそう考えていた。パロレにこの事件のことを聞かれるとは思っていなかったのか、スリジエは少し驚いた様子だった。

「そうね……。パロレくんに、私の研究について少しだけ話してあげる」

スリジエはそう言って、説明を始めた。

「ポケモンはね、トレーナーと絆を深めることで強くなるの。その強さは、目に見える変化がなかったとしても本当にあるものなのよ」

パロレは黙って話を聞いていた。

「トレーナーとの絆は、ポケモンの潜在能力を引き出させる。ポケモンは自分の知らなかった本当の強さを、トレーナーと信頼し合うことでようやく発揮することができるのよ。……でもね」

そこまで言うと、スリジエは小さく息を吐く。

「潜在能力を引き出されると共に、ポケモンは本能的に制限を覚える。それは、愛するトレーナーを傷つけないため。トレーナーは、人間でしょ。ポケモンの方が強大な力を持ってる。だからポケモンは、人間であるトレーナーを守るために、無意識に力を抑えるの」

「へえ……」

パロレは声を漏らした。分かるような、分からないような。

「……だからもし、トレーナーの記憶を失ってしまったとしたら、潜在能力を引き出された状態でトレーナーとの絆を忘れてしまったとしたら、その制限が失われてしまうかもしれない。そうしたら、きっと大変なことになるわ。そのポケモンは、危険な存在になってしまうかも」

パロレは息を呑んだ。あの盗まれたポケモンは、そんなことになってしまったのだろうか?

「……絆ってとても恐ろしいものなの。とても強い力を持っているけれど、一度壊れてしまうと簡単には戻せない……。壊れてしまった絆が生み出す力もまた強大……」

スリジエは目を閉じて呟くように言った。パロレは黙りこんでしまった。

「うふふ。ちょっと難しい話だったかしら?」

スリジエはそう言って笑う。そしてこの話はおしまい、とでも言うように軽く手を叩いた。

「そうだ、パロレくんにハイパーボールをあげる。これでもっとたくさんのポケモンを捕まえて、どんどん絆を深めていってね!」

「ありがとうございます!」

「はーい。それじゃ、私は行くわね。頑張ってね!」

スリジエは優しい微笑みを浮かべたまま、手を振って去っていった。
 ▼ 122 AYr1xkow/g 17/09/06 15:11:18 ID:RM65521w [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレはしばらく休憩してからモルタウンを出ると、11番道路を抜けてディレット国立公園へとやってきた。

ディレット国立公園は、アモル地方最大の公園だ。美しい自然がそのまま保存されており、多くのポケモンも住み着いている。また、曜日ごとに広場で催し物があり、ちょっとしたゲームに参加できたり露店で珍しいものが買えたりするらしい。今度来た時にはじっくり見てみよう、パロレはそう思った。

「よし、みんな出ておいで!」

パロレはそう言って、リザードたちをボールから出した。だって、こんなに自然豊かで美しいところなのに、それを見せないなんてもったいない。リザードたちは、嬉しそうにボールから出てきた。

「ケケケケケ!」

カゲボウズが早速笑い声を上げながらどこかへ飛んでいく。ピジョンも翼を広げて空へと羽ばたいた。

「マーリマリマリマリ!」

マリルリは辺りを転げ回ってはしゃいでいる。ロゼリアは、近くの花畑に駆けていっていい香りに包まれて気持ちよさそうにしている。

「リザードは遊びに行かないの?」

パロレはふと、隣を歩く相棒に尋ねた。リザードは別に俺はいい、とでも言うようにクールに決めている。しかし、パロレはふとある考えが浮かび、にやにやと笑いながらリザードを見つめた。

「分かったぞリザード!ぼくと遊びたいんだろ?」

「リザ?」

リザードは驚いてパロレの目を見つめた。照れているようにも迷っているようにも見える。しかし、リザードはすぐに笑顔になった。

「リザ!」

「ははっ!素直な奴めー。じゃあ……まずはあの木の下まで競争だ!」

パロレが五十メートルほど先にある大きな木を指差して言った。リザードが頷く。

「よし!じゃあ……よーい、どん!」

パロレとリザードは同時に駆け出した。途中までは、結構いい勝負だった。運動神経にはそれなりに自信があるのだ。しかし、急に肩が重くなってパロレはスピードを落とした。

「わっ、何!?」

ピジョンがパロレの肩に着地して邪魔をしているのだ。更には、カゲボウズが戻ってきて目の前をすばしっこく飛び回る。

「ちょ、邪魔、見えな……」

「ルリルリルリー!」

その隙に、マリルリが転がってきて、リザードを追い抜かしてゴールした。既にゴール先にはロゼリアが待っていて、マリルリを祝うように薔薇の咲いた両手で拍手している。

「嫌がらせか!」

やっとゴールにたどりついたパロレはツッコミを入れた。リザードもそんなパロレと同時に不満げに鳴き声を上げる。

「くそー、お仕置きだ!」

パロレはそう言うと、目の前で寝転がっているマリルリを抱き上げ、腹の辺りをこちょこちょとくすぐり始めた。マリルリはたまらず笑い出す。

「お前たちもだぞ!」

パロレはそう言って、逃げようとするポケモンたちを追いかけて走り出した。
 ▼ 123 AYr1xkow/g 17/09/06 15:14:21 ID:RM65521w [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「はー、楽しかった!」

パロレは疲れつつも嬉しそうな表情で言う。あれからポケモンたちとずっと遊び回っていたら、結構な時間が経ってしまっていた。慌ててディレット国立公園を出たパロレは、次の街メランシティを目指して12番道路を歩いていた。

しばらく歩いていると、工場のような建物が見えてきた。とはいえ、もう数年は使われていないようだ。寂れていて、少し不気味にすら感じる。

ふと、廃工場の中に一人の女性が入っていくのが見えた。パロレは首を傾げる。あんなところに一体何の用事があるというのか。

女性の後ろ姿を見て、パロレははっと思い出した。あの女性は、フォルテ城でスパイス団を撤退させた後に「覚えといてあげる」と言ってきた人だ。

「……」

パロレは慎重に廃工場に近づいていった。なんだか不穏だし入らないでおこう、つい先程はそう思ったのに、好奇心に負けそうだ。

「……入ってみよう……」

パロレはそう呟いて、こっそり廃工場の中に入っていった。

廃工場の中は暗い。何者かが暴れ回った形跡があり、様々な機材が置かれているがどれも使いものにならないほどに破壊されていた。もうまったく工場として機能していないのだろう、機材は埃をかぶっている。

「……不気味だなぁ。全部めちゃくちゃだ」

パロレは呟いた。あの女性はどこに行ったのだろう。この部屋にないないようだ。パロレはふと床を見た。小さな機材や書類などがばらまかれている。なんと書いてあるのかは難しすぎて分からない。

唯一内容が分かったのは、「255、650、728」という三つの数字が印刷されたメモだけだ。そのメモに書かれた「650」と「728」の二つの数字には、上からバツがつけられていた。

パロレは隣の部屋へ向かった。ここにも書類が散乱している。パロレは足元に落ちている書類を拾い上げて読んでみた。

「実験ファイル001:実験対象の奪取に成功した。しかし、ボールの開発は未だ難航している。現在覚醒装置の最小化に苦戦中。今回は以前発明した試作品を使用することに決定」

他にも散乱している書類を適当に拾ってみる。

「実験ファイル003:実験は無事に終了し、覚醒に成功。ただし覚醒したばかりで気が立っているのか非常に扱いづらい。隔離しつつ様子見をすることにする」

「実験ファイル009:試作品にバグがあったことが判明。至急対象を拘束し副作用などの有無を確認したところ、予想以上に脳細胞への影響が大きかったことが判明した。扱いづらいどころか近づくことも危険だが、強力な兵器を獲得できたと思えば幸運かもしれない」

「実験ファイル013:実験対象を殺処分することに決まった。これを失くしてしまうのは惜しいが、我々の力の及ぶものではない。ボールの開発も一度見直すことにする」

「実験ファイル014:手に負えない。拘束することすらままならない。こんなに素晴らしい力を持っている兵器を操れないことは本当に悔やまれるが、私には何も出来なかった。実験対象を放置して工場に閉鎖する。私の見立てでは、トレーナーが直に実験対象の奪還にここにやってくる。我々はその時まで一旦ここを離れることとする」

実験ファイル014と書かれた書類には、最後に赤いペンで「奪還された模様」と走り書きされていた。
 ▼ 124 AYr1xkow/g 17/09/06 15:16:30 ID:RM65521w [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「なんなんだろう、これ……」

パロレは呟いた。意味はよく分からないが、なんだかとても嫌な感じがする。パロレは怖かった。古代都市やブロインジムで味わったものとはまた違う恐怖だ。

「ねえ、バジリコ」

「……!」

女性の声が聞こえてきて、パロレはびっくりして辺りを見渡した。そして、そういえばあの不思議な女性を追ってここに入ってきたのだということを思い出す。どうやら女性は隣の部屋で誰かに話しかけているようだ。パロレは隣の部屋に行ってみることにした。

隣の部屋は、先程パロレがいた部屋より少し広かった。パロレが足を踏み入れた瞬間、足音に気付いた女性が素早くこちらを振り返る。

「……」

女性は黙ってパロレを見ている。驚いているようだった。それから、パロレを見つめる瞳は鬱陶しそうなものに変わった。

「また……?」

女性はそう言って小さく溜息をついた。

「この前も火山でスパイス団を止めたんでしょ」

「えっ……」

パロレは思わず退いた。なんで知ってるんだろう?

「私はなんでも知ってるの」

女性はそう言ってパロレに一歩近づいてきた。女性はパロレよりも背が高い上に、高級そうなハイヒールのブーツを履いている。パロレは物理的にも精神的にも見下ろされていることに気付き、縮こまった。

「そうやって関係ないことに嘴を突っ込む癖、そろそろどうにかしたら?」

女性は抑揚のない声でそう言って、ポケットに手を突っ込んで早足で歩き始めた。そしてパロレとすれ違いざまに、

「ここには何もないよ」

と言って部屋を出ていった。

何もないだなんて、そんなことはないこんなにたくさん資料や機械があるのに。パロレはそう思った。それに、バジリコという人はどこに行ったのだろうか。

やっぱりあの女の人は、怪しいところだらけだ。スパイス団と何か、いや絶対関係がある。パロレはそう思いながら部屋の奥まで歩いた。

奥には大きな機械が置いてあった。三メートルくらいのポケモンなら余裕で1匹まるまる入りそうな、カプセル型の機械だ。中には拘束具や、大量のコードがついたヘルメットのようなものが入っている。

「なんか……嫌な気持ちになるな……」

パロレは正直な思いを呟いた。

部屋はここで最後で、行き止まりのようだ。結局何も分からなかった。不気味な上に不快感だけが募る場所だった。パロレはくるりと機械から背を向け、さっさと廃工場を出ていった。

パロレは12番道路を抜けてメランシティまでやってくると、今日はもう休むことにした。明日はジム戦だ!気持ちを切り替えて、また頑張ろう。
 ▼ 125 AYr1xkow/g 17/09/06 20:34:00 ID:Jh.DuuE6 NGネーム登録 NGID登録 報告
翌日。目を覚ましたパロレは、準備を済ませると早速メランジムへと向かった。

アモル地方の本土はここメランシティが最終地点だ。次の街があるダ・カーポ島に行くには、この街にある乗船所から船に乗らなければならない。パロレは、ジムバッジを貰ったらすぐに船に乗ろうと考えていた。

さて、メランジムの前へとやってきた。看板には「アモル地方のちょいワルオヤジ」と書いてある。ちょいワルオヤジと書かれているこのメランジムリーダーは、あくタイプ使いだ。パロレは面白い二つ名だなと思いながらジムの中に入った。

ジムに入ると、地下に繋がる階段が目の前に現れた。階段を降りていくと、うっすらと明かりのついた少し暗い、どこか雰囲気のあるお洒落な地下室にたどりついた。

パロレには見慣れない光景だった。それもそのはず、メランジムの地下室には本格的なワインセラーが作られていたのだ。未成年であるパロレに、よく分かるわけがない。

様々なワインボトルが収納されたいくつものワインセラーが、ジムの中を占領している。しかしよく見ると、ダミーのワインボトルもあるようだった。パロレが目の前のセラーにあるダミーのボトルを取り出そうとすると、カチッという音が鳴り、セラーが動き始めた。メランジムは、こうやってワインセラーを動かしながら奥へと向かうちょっとした迷路になっているようだ。

「ワインって美味しいのかなぁ……」

パロレはそう呟きながら、迷路を攻略していった。たまに母親やアキニレが飲んでいるところを見たことがあるが、ぶどうジュースの方が美味いそうだとパロレは思っている。

ダミーのワインボトルを引っ張ったり戻したりしながらワインセラーを動かして進んでいると、お洒落なキャンドルが乗った小さなテーブルが見えた。テーブルにはワイングラスが二脚乗っている。そしてその近くには二台の椅子があり、奥の方の椅子に男性が腰かけていた。

「こんにちは!ジムに挑戦しに来ました!」

パロレは男性に近づきながら元気よく言う。

「はいはい、メランジムリーダーのリュウガンですよっと」

男性はそう言いながら椅子から立ち上がった。少し草臥れているけれど、でもどこか格好いい、タレ目で背の高い中年男性だ。

「おいちゃんのことはリュウさんでいいよ」

リュウガンが言う。パロレは思わず面食らった。

「リュ、リュウさんですね。分かりました。ぼくはヴァイスタウンのパロレです!」

パロレが言うと、リュウガンは少し驚いたようだった。

「ヴァイスタウン?そりゃ遠いところから来たね。長旅ご苦労さん」
「ありがとうございます」

パロレが言うと、リュウガンはパロレの顔をちらっと見た。

「ま、おっさんの長話聞くのもめんどくせえだろ?さっさと始めようか」

リュウガンはそう言って、モンスターボールを持って不敵に笑ってみせた。
 ▼ 126 イロス@めざめいし 17/09/06 20:46:46 ID:FidzBkrc NGネーム登録 NGID登録 報告
リュウさんキターーーーーー!
支援
 ▼ 127 AYr1xkow/g 17/09/07 12:55:54 ID:F69zDHQE [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ドンカラス、いってら」

リュウガンはドンカラスを繰り出してきた。さすがおおボスポケモンだ。威圧感がある。

「負けないぞ!リザード、行ってこい!」

パロレはリザードを繰り出した。

「ドンカラス、ふいうち」

ドンカラスはリザードより素早さが低いはずだが、ドンカラスはリザードの不意を打って先に攻撃してきた。ダメージは大きそうだ。リザードはよろめいたが、どうにか踏ん張った。

「リザード、はじけるほのお!」

リザードが口から炎を吐いた。炎はドンカラスの体に当たると四方八方に飛び散った。ドンカラスも中々のダメージを受けたようだ。あと一回攻撃すればきっと倒れる。しかし、リザードもピンチだ。

「リザード!戻れ!マリルリ、任せた!」

パロレはポケモンを入れ替えることにした。マリルリは両腕を上げてやる気満々の鳴き声を上げた。

「ドンカラス、つばさでうつ」

ドンカラスが翼をマリルリに叩きつける。マリルリは悲鳴を上げたものの、まだまだ大丈夫そうだ。

「マリルリ!じゃれつく!」

マリルリがドンカラスの元に向かい、思いきりじゃれついた。あんなに可愛らしい動きなのに、ダメージを受けてしまうというのはどういうことなのだろう。パロレがそんなことを考えながら見ているうちに、ドンカラスは倒れこんだ。

「強いねぇ。ドンカラス、戻れ。ワルビル、行ってこい」

リュウガンがにやりと笑ってドンカラスを戻し、ワルビルを繰り出した。

「ワルビル、あくのはどうだ」

ワルビルがあくのはどうを打ってきた。威力は高いが、効果は今ひとつだ。このままいける!

「マリルリ!アクアテール!」

「マリィ!」

マリルリが尻尾を思いきりワルビルに叩きつけた。こちらは逆に効果抜群。ワルビルはアクアテールを食らってそのまま倒れてしまった。

「へっ、容赦ないねぇ。嫌いじゃねぇよ」

リュウガンは相変わらずにやにやと笑っていて、どこか余裕を感じさせる。

「ワルビル、戻れ。ヘルガー、頼んだよ」

リュウガンは最後のポケモンを繰り出した。パロレはヘルガーを見てから、マリルリにこっそり視線を送った。マリルリには続けて頑張ってもらおう。
 ▼ 128 AYr1xkow/g 17/09/07 12:59:18 ID:F69zDHQE [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ヘルガー、かみなりのキバ!」

「ええっ」

パロレは思わず声を上げてしまった。ヘルガーがマリルリに近づき、電気を帯びた牙で噛みつく。マリルリへの効果は抜群だ。そんな技を覚えるなんて知らなかった!

「マリィ……ッ」

マリルリは苦しそうな鳴き声を上げて、どうにか立ち上がった。

マリルリは素早さが低く、相手に先攻を譲ってしまうことが多い。たとえ相性が良くてもダメージが蓄積すれば倒れてしまうだろう。だから始めにリザードを出して、マリルリの体力を温存したかったのだ。

「マリルリ頑張れ!当てれば勝てる!アクアテールだ!」

パロレが叫ぶ。マリルリは力をこめて尻尾をヘルガーに叩きつけた。ヘルガーは攻撃を受けて数メートル後ろに押され、そのまま気を失った。勝った!一撃だ。

リュウガンはヘルガーをボールに戻すと、パロレを見て相変わらず余裕そうな表情を浮かべつつ、

「おいちゃんちょっとびっくりしちゃったよ」

そう言った。そして、

「あっさりやられちまった。決まりだからこれ渡さないとな。ほれ、ヴィランバッジだ」

ヴィランバッジは、ワイングラスの形をしたお洒落なデザインになっていた。グラスの中には暗く濃い赤ワインが入っているような加工がされている。

「あとこいつも。あくのはどうの技マシンだ。相手をたまに怯ませることもある。まあ良かったら使ってやってくれな」

「ありがとうございます」

パロレは礼を言って、ヴィランバッジと技マシンをバッグにしまった。

「お前さん見てると、あの頃のアルセアちゃんを思い出すねぇ」

リュウガンが呟くように言う。パロレは首を捻った。

「アルセアちゃん?」

パロレの声にリュウガンは苦笑した。そしてへらへらと笑いながら、

「おっさんの独り言なんて無視してくれよなぁ。ま、別にいいけどよ。前に挑戦してきた女の子のことだよ」

リュウガンはそう言うと、顎に手を当てて考えるように頭を傾げた。

「……つっても結構前だな、何年前だぁ?あの頃と同じジムリーダーは俺とマンサク爺さんくらいしかいねぇし」

そう言ってから、リュウガンはパロレを見つめる。

「お前さんみたいに強くて真っ直ぐな子だったな、って思ってな。もちろん今も変わんねえけど。まあ、あの子はお前さんみたいなキャラじゃねぇけどな。性格は似てると思うぜ」

リュウガンは面白そうに言ったが、パロレはアルセアという少女のことは知らないため、ピンとこない。

「酒飲める歳になっても付き合いがあるってのも、すげーことだよな。……ま、分かんねえか。時が経つのは本当に速い、そういうこった。毎日を大事にしろよ。じゃ、頑張れ」

リュウガンが小さく手を振る。

「はい!ありがとうございました!」
 ▼ 129 AYr1xkow/g 17/09/07 13:18:37 ID:F69zDHQE [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ああ、そうだ」

ジムを出ようとするパロレに、リュウガンが声をかける。パロレが振り向くと、

「乗船所を見たら驚くと思うけど、普通にしてれば何もされねえから気にすんな」

リュウガンはそう言った。

「え、なんだろう……。分かりました!」

パロレはそう言ってジムを出た。そしてポケモンセンターに寄ってポケモンたちを元気にさせてから、メラン乗船所へとやってきた。そして時刻表を見ていると、背後から名を呼ばれた。

「パロレさん!」

パロレが振り向くと、そこにいたのはユーリだ。

「あ、ユーリ!」

パロレが笑顔で呼び返す。ユーリは小走りでパロレの隣までやってきた。

「パロレさん、ダ・カーポ島に行くところですか?」

「うん、そうだよ」

パロレが頷く。

「オレもそうなんです。よかったら一緒に行きませんか?」

「うん!行こう!次の船が来るまであとどれくらいかなぁ」

パロレがそう言って時刻表に視線を戻す。ユーリも一緒に確認しようと近付いた。

「えっと……って、ん……?」

ユーリがガバッと顔を上げた。そして、愕然とした声で言う。

「スパイス団がいます……!」

「なんだって!?」

ユーリの声に、パロレも思わず勢いよく顔を上げた。

「ま、待ってください、いっぱいいます……!」

ユーリが焦った声で言う。パロレが見渡してみると、本当にそうだった。スパイス団の構成員たちが、乗船所の中に何人もいる。きびきびと歩いている者もいれば、堂々と立っている者もいた。

「まさか……乗っ取られてるのか?」

パロレが言い終わらないうちに、ユーリがすたすたと歩いていって近くのスパイス団の下っ端らしき団員に話しかけた。

「おいお前!乗船所をどうするつもりだ!」

荒い口調で言うユーリに対し、下っ端の口調は穏やかで更に聞きやすい。

「こんにちは。アモル地方本土とダ・カーポ島を結ぶメラン乗船所とリュイ乗船所は我々スパイス団が管理、経営しております」

「え……!?」

ユーリが絶句した。
 ▼ 130 AYr1xkow/g 17/09/07 13:54:57 ID:F69zDHQE [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「経営……!?」

パロレも唖然として繰り返す。そしてそういえば、とパロレは先程のことを思い出した。

「リュウさんが言ってたのって、もしかしてこのことだったのかな……」

ユーリは混乱しているようだ。普段なら絶対そんなことはしないだろうが、ユーリはスパイス団員に申し訳なさそうに頭を下げた。

「そうだったのか……。す、すみません……」

「いいえ、初めてのお客様には驚かれることも少なくはありませんので慣れていますよ。我々は皆様に快適な海の旅をご提供できるよう尽力しております。どうかご心配なく」

下っ端団員は淀みなく言った。

「はい……」

「すごくちゃんとしてる…………」

パロレとユーリは、ひたすら驚くことしかできなかった。二人はひとまずその場を離れ、脇に寄って顔を見合わせた。

「……納得いかない。なぜ犯罪組織であるあいつらが乗船所を経営してるんだ」

ユーリは怒りを抑えきれない様子でぶつぶつと呟いている。パロレも頷いた。

「ぼくも全然知らなかったよ。……スパイス団がいないとダ・カーポ島に行けないじゃんか」

パロレが不満げな声で言った。ユーリはまだ納得がいっていない様子で低い声で唸った。

「アモル地方とスパイス団は切っても切り離せない関係だとか聞いたことはあるけど、そういうことなんだろうか。オレは許せない……」

「うーん……」

パロレは何と言えばいいか分からず、首を捻った。すると、

「おーい!」
 ▼ 131 AYr1xkow/g 17/09/07 13:59:12 ID:1Lqo6Zm6 [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
聞き覚えのある声が聞こえてきた。パロレは声のする方を見て、ぱっと顔を輝かせた。そして大きく手を振る。

「あ!クオレ!」

クオレはニコニコ笑いながら二人のところまでやってきた。久しぶりに三人が揃った。

「クオレも今から船に乗るの?」

パロレが聞く。

「うん!」

クオレは頷いた。するとちょうどその時、「間もなく船が到着いたします」というアナウンスが聞こえてきた。

「あ!ちょうどよかったみたいだね!」

「ええ」

ユーリはそう言って頷くと、明らかにまだ怒りの抑えきれていない口調のまま忠告した。

「スパイス団が経営しているらしいので、ちょっと警戒した方がいいかもしれませんね」

ユーリの言葉に、クオレは目を大きく見開く。

「ええ!?そうなの!?」

「リュウさん、普通にしてれば何もされないって言ってたよ」

パロレは一応フォローを入れた。スパイス団は大嫌いだし絶対に許せないが、何故かリュウガンに大丈夫と言われたら本当にそうなのだろうというようにも思えたのだ。

「へえー。ちょっとビクビクしちゃいそう、って感じ……!」

クオレは不安げに言うと、無邪気に続けた。

「でもなんでスパイス団が経営してるんだろう?もしかして、わたしたち人間以外にこっそりいけないものも運んでたりして!」

パロレとユーリは何も言えずに黙りこんだ。
 ▼ 132 AYr1xkow/g 17/09/07 14:13:29 ID:1Lqo6Zm6 [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
念のための由来・モデル一覧
地名編A

セールイシティ
ナポリに相当。ロシア語で灰色という意味。

イーラ火山
ヴェスヴィオ火山に相当。イタリア語で怒りという意味。

古代都市
ポンペイに相当。

ブロインシティ
バーリに相当。オランダ語で茶色という意味。

モルタウン
コゼンツァに相当。トルコ語で紫色という意味。

ディレット国立公園
シーラ国立公園に相当。イタリア語で楽しさという意味。

メランシティ
レッジョ・ディ・カラブリアに相当。ギリシャ語で黒という意味。
 ▼ 133 AYr1xkow/g 17/09/07 14:15:02 ID:1Lqo6Zm6 [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
念のための由来・モデル一覧
人名編A

マンサク Mansaku
マンサク科マンサク属の落葉小高木、満作から。

オリヴィエ Olivier
モクセイ科の常緑高木、オリーブのフランス語。

マリナーラ Marinara
トマトソースの一種であるマリナーラソースを使用したパスタ(ピザもあるよ)。ちなみに元々は船乗りの、という意味。

ネム Nemu
マメ科ネムノキ亜科の合歓の木から。

リュウガン Ryugan
ムクロジ科ムクロジ属の常緑小高木である龍眼から。
 ▼ 134 ュプトル@しめったいわ 17/09/07 15:58:55 ID:4sL6UE5k NGネーム登録 NGID登録 報告
スパイス団の名前はパスタ統一かな
 ▼ 135 ルタンク@はっかのみ 17/09/10 07:51:08 ID:5aJ5d1kE NGネーム登録 NGID登録 報告
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 ▼ 136 AYr1xkow/g 17/09/10 13:52:24 ID:b1joZzcg [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
三人は、乗船所にやってきた船に乗りこんだ。船の中は、特におかしなところは何もない。

「中は普通だねぇ」

クオレがのんびりした様子で言う。

「一応問題なさそう……」

パロレも言った。隣ではユーリが深刻な表情で呟いている。

「密輸とか……してるんでしょうか……」

そんなユーリに、パロレは慌てて手を振った。

「まあまあ!分かんないんだし何も変なことはないってことにしとこうよ!」

パロレの言葉にユーリも納得したらしい。

「……そうですね」

三人は船の中を少し歩くと、空いていた席に並んで腰かけた。まもなく出港ですというアナウンスが聞こえてくる。これからダ・カーポ島に行くのだと思うと、パロレはワクワクしてきた。

「最近、調子はどう?」

クオレが問う。パロレは笑顔で返した。

「順調だよ。あ、スリジエ博士と会ったんだ!バトルしたよ!」

パロレが言うと、クオレは目を丸くした。それから羨ましそうに、

「えー!いいなー!わたしも博士に久しぶりに会いたいなぁ……!」

そんなクオレに、パロレは自慢げな表情を浮かべた。一方ユーリは少し気まずそうな顔で答える。

「オレは、特に何も……」

「そっかぁ」

クオレはそう言うと、なんだか変な顔を浮かべた。にやにや笑いを必死にこらえているような表情だ。こう言う時のクオレは、何か話したくてたまらないことがあるのだということを、パロレはよく知っている。

「クオレは?」

パロレが聞いてやると、クオレは待ってましたという顔を浮かべた。
 ▼ 137 AYr1xkow/g 17/09/10 14:11:04 ID:b1joZzcg [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「わたしはねぇ、もちろんポケモンいっぱい捕まえたけど……それだけじゃなくてね!いろんな街でお買い物するのが楽しいんだ!」

クオレは嬉々として話し始めた。

「そうなんですね。いつも何を買うんですか?」

「だいたい洋服だよ!最近は少し高くて前は買えなかった服にも挑戦してみてるんだ」

クオレの目は輝いている。どうして女の子ってあんなにいっぱい服を買うんだろうかとパロレは常々疑問に思っているので、あまりクオレの気持ちが分からない。

「ほんとはオーロシティとかジョーヌシティとかにしか売ってないカメリアとかレケナウルティアとかの服も買いたいけど……でもやっぱり高くて諦めた!」

クオレが残念そうに言う。一方パロレは気の抜けた声で質問した。

「その、カメリアとか、レケなんとかって何?」

そんなパロレに、クオレは信じられない、という顔をする。

「もー、パロレ知らなすぎ!有名な高級ブランドだよ。カメリアはユーリのお家で会った女の人も着てたよ!」

クオレの言葉に、パロレははっとした。そういえば、廃工場でまたあの人と会ったんだった。

「姉はレケナウルティアがお気に入りみたいでよく買ってますよ」

「お金持ちの人はいいなぁ……!」

クオレが羨望の眼差しをユーリに向ける。パロレにはさっぱり分からなかった。

「ブランドって、そのブランドを立ち上げたデザイナーさんの名前から名付けられることが多いですよね」

「うんうん。デザイナーさんの名前がカメリアさんだもんね!あとは……レザンってメンズブランドもそうだよね」

「ああ、そうですね」

クオレとユーリの会話にまったくついていけないパロレは、窓から海の景色を眺めていた。波の色は綺麗なブルーだ。遠くにはキャモメの大群が飛んでいるのが見える。

「ぼくには分からない世界の話だなー」

パロレがわざとらしく言うと、クオレが呆れたような声で言った。

「パロレも少しくらいおしゃれした方がいいよ!ユーリはおしゃれさんだよねぇ」

「オレは大したことないですよ。クオレさんだっておしゃれだし、とても可愛いじゃないですか」

ユーリの言葉に、パロレは驚いて勢いよく振り返った。

「えへ!ありがとう」

クオレは照れ臭そうに言う。

「すごい……さらっと可愛いとか言っちゃうんだ……」

パロレはユーリを凝視して思わず呟いた。

「クオレさんは笑顔が素敵で可愛いらしいですよね。思ったことを言っただけです」

「ユーリ、さすが王族の末裔だね!かっこいい!王子様みたい!パロレには絶対無理だよそんな爽やかに言うの!」

「余計なお世話だよ」
 ▼ 138 AYr1xkow/g 17/09/10 14:28:07 ID:b1joZzcg [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
先程まで元気に話していたクオレはふと神妙な顔つきになった。そして、呟くように言う。

「……でも、わたしから見たら2人とも強くてかっこいいよ。……わたしはそんなに強くないから」

パロレは首を捻った。クオレの言葉がどうもピンと来ない。

「そうかなぁ?大して変わらないよ」

「……」

パロレはそう言ったが、ユーリは黙って何も言わなかった。すると、ユーリは顔を上げて、

「あ、そろそろ着くみたいですよ」

「ほんとだ。何事もなく着いてよかったね」

パロレも言う。

「スパイス団ってなんだか不思議な組織だねぇ……」

クオレは何とも言えない口調でそう言った。

やがて船がダ・カーポ島の乗船所に到着すると、三人は船を降りた。ダ・カーポ島に来るのは初めてだ。ここからは本当に未知の世界への冒険になる。

パロレたちが今いるのはリュイタウンという小さな街だ。ここには乗船所とポケモンセンターくらいしかない。

「ふー、船旅終了!」

パロレは乗船所を出ると、思いきり体を伸ばした。

「さ、行こっか!」

「うん!行こ……ん?」

クオレが元気よく返事をしようとして、首を傾げる。見れば、スパイス団の団員数名が仕事を放って私語を交わしているようだ。どうやら、スパイス団の構成員たちの勤務に対する意識はメランシティとリュイタウンで大きく異なるらしい。

「ね?あんたもそう思うでしょ!?」

「いや俺は別にそこまでは思わねえよ」

こちらまで聞こえてくるとは、なかなかの声量だ。なんと堂々としたサボりだろうか。

「何か話してるのが聞こえるねぇ」

「……駄弁ってますね」

ユーリも呆れ気味に言った。

「何話してるんだろう?」

三人は顔を見合わせた。それから、こっそり団員たちに近付き、聞き耳を立てた。
 ▼ 139 AYr1xkow/g 17/09/10 15:29:31 ID:b1joZzcg [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「何よー、バジリコさんの魅力が分からないなんてあんたって本当にダメね!」

「これだから男ってダメなのよねー」

「いや、知らねーよ……イケメンだとは思うって言ったじゃねえか」

「だからぁ!ただイケメンなだけじゃなくて、あの物憂げな表情がたまんないんでしょーが!」

「一応優しいけど、どこか冷たい感じも素敵よねー」

「分かんねえよ……。つうかそもそも、年下の男にそんな風になれる神経が分からん」

「ちょ……誰が年増じゃ」

「そこまで言ってねえよ!……そうじゃなくて。あの人、スパイス団に入ったの五年前だろ?新参じゃん。しかも年下。それなのに先に幹部になってさ。いい気はしねえだろ」

「別に私は気にしないけど。イケメンだし!」

「そーそー、イケメンだから!それに私たちよりバトルだって強いしね」

「……それなんだけどさ。本人は多分、自分のことを弱いって思ってそうなんだよな。なんつーか、俺たちみたいな下っ端よりはもちろん強いけど……、あの人の中の水準ではまだまだ、っていうか」

「向上心があるってことよ!もー、クールで素敵!」

「……そういうのもさ、俺たちのこと内心馬鹿にしてるんじゃねーの?」

「何よいちいちケチつけて……っていうかあんた、嫉妬してんの?何様のつもりよ?あんたの手に及ぶ人じゃないんだからね?」

「そーよ、生意気言っちゃってさ。そもそもその「あの人」って呼び方何?ちゃんと「さん」をつけて呼びなさいよ!」

「だ、だってよ、自分より後から入った年下だぞ?呼びにくくね!?」

「呼びにくいとか関係ない!敬意を払いなさいっ!」

「今は上司なのよ!?」

「つーかこいつ、確かバジリコさんの班に所属してたわよね……ムカつく!何なのよあんたっ!」

「俺は嫌なんだよ。班の女みんなキャーキャー言っててうるさいし」

「贅沢!羨ましい!」

「代わりなさいよー!」

「……くだらない」

ユーリがそう言って、嫌悪感を露わにした表情でその場から離れた。もしかしたら何か有益な情報を得られるかもしれないと思っていたので、どうでもいい話を長々と聞いてしまったことに後悔しているようだった。

しかし、パロレは確信していた。バジリコという名前の幹部がスパイス団にいる。やはり、廃工場で再会したあの女の人は、スパイス団と関係があるのだ。
 ▼ 140 リリダマ@でんきのジュエル 17/09/13 10:06:39 ID:ATkJjFPY NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 141 AYr1xkow/g 17/09/15 00:12:01 ID:nCxI0INc NGネーム登録 NGID登録 報告
「……パロレさん。お手合わせお願いしてもよろしいでしょうか」

ユーリが真面目な顔で言う。パロレは頷いた。

「うん!やろう!」

「あっ、じゃあわたし見てるね!」

クオレがそう言って脇に寄る。パロレとユーリはモンスターボールを手に取り、見つめ合った。

「ありがとうございます。では、よろしくお願いしますね」

ユーリはそう言って、モンスターボールを投げる。

「行け、コジョフー!」

「ピジョン!行くぞ!」

パロレもポケモンを繰り出した。

「ピジョン、かぜおこし!」

パロレが指示を出す。ピジョンは大きく羽ばたいて、激しい風を起こした。コジョフーは風に押されて背後に吹っ飛びそうになるのを必死にこらえる。

「コジョフー!ドレインパンチ!」

ユーリが叫ぶと、コジョフーはぴょんと飛び上がった。そしてピジョンの起こした風に乗り、更に身軽になってピジョンの元まで飛び上がる。それから、体力を吸いとるパンチをお見舞いした。

「ピジョン!もう一度かぜおこしだ!」

パロレが言うと、ピジョンは体勢を整え、再びコジョフーに向けて風を起こす。浮かび上がっていたコジョフーは、真正面から風を浴びて大きく後ろへと吹っ飛んだ。

「コジョォ……」

コジョフーが気を失う。ユーリはコジョフーをモンスターボールに戻し、次のポケモンを繰り出した。

「いけ!フワライド!」

フワライドを見て、パロレはちらりとピジョンを見た。それからピジョンに声をかける。

「ピジョン戻れ!いけ、マリルリ!」

パロレはポケモンを入れ替えた。

「フワライド、たたりめ!」

フワライドが動き、マリルリに攻撃をする。しかしパロレは余裕の面持ちでマリルリに指示を出した。

「マリルリ、まるくなる!」

マリルリは長い耳を曲げて体を折りたたむ。さあ、準備は万端だ。

「フワライド!たたりめ!」

フワライドは畳みかけるように攻撃をしてきたが、丸まって防御の体勢を取るマリルリにはあまり効いていない。

「マリルリ、ころがる!」

パロレが声高らかに叫ぶと、マリルリはその体勢のまま地面を猛スピードで転がっていった。そして、フワライドに思いきり体当たりする。フワライドは攻撃を受けると、しぼんだ風船のように力なく地面に落ちていった。
 ▼ 142 AYr1xkow/g 17/09/15 01:02:10 ID:7deEVuSA [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……っ」

ユーリは唇を噛みしめた。それから、フワライドをボールに戻す。

「フラージェス、行ってこい!」

「マリルリ!ころがり続けるぞ!」

パロレがマリルリに声をかける。その隙に、フラージェスは素早くマリルリに近づいてきた。

「ムーンフォース!」

ユーリが指示を出す。フラージェスは、両手を広げて空を仰いだ。そして、今は見えない月に向かって祈りを捧げる。フラージェスは、月から不思議な力を得るとそのエネルギーをぶつけてきた。

「決めるぞ、マリルリ!」

マリルリは守りに優れている上に、フェアリータイプだ。攻撃を耐えたマリルリに声をかけると、マリルリは先程より更に勢いをつけて転がり、フラージェスに攻撃した。

「フラァ……ッ」

フラージェスが倒れる。ユーリは悔しそうな表情でフラージェスを戻した。

「……。……アマージョ、任せた!」

ユーリはアマージョを繰り出した。アマージョは高圧的な瞳でマリルリを見下ろす。ユーリは叫んだ。

「トロピカルキックだ!」

アマージョはまるで踊るようなステップでマリルリに近づくと、情熱的なキックをお見舞いした。マリルリは丸まったまま吹っ飛んだ。そして先程までのダメージが蓄積していたのか、そのまま気を失ってしまった。

「マリルリ、お疲れ。リザード!行くぞ!」

パロレがリザードを繰り出す。続けて指示を出した。

「はじけるほのお!」

「リザァアー!」

リザードが炎を吐く。炎はアマージョに直撃したが、アマージョはどうにか耐えきった。

「アマージョ!ふみつけ!」

アマージョは長い脚を振り上げ、リザードを思いきり踏みつけた。リザードはそれなりにダメージを受けたようだが、まだ頑張れそうだ。アマージョはリザードをじっとりと睨みつけている。

「リザード、もう一度はじけるほのおだ!」

パロレが叫ぶと、リザードは勢いよく炎を吐いた。炎はアマージョにぶつかり、辺りに飛び散った。アマージョはよろよろともたつき、やがてがっくりと膝をついた。
 ▼ 143 AYr1xkow/g 17/09/15 01:32:25 ID:7deEVuSA [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ユーリはアマージョを戻すと、最後のポケモンを繰り出してきた。

「行け!エンペルト!」

こうていポケモンのエンペルト。ユーリがスリジエ博士から受け取った、ポッチャマの最終進化系だ。

エンペルトは鋭いながらも気品溢れる瞳でこちらを見つめてくる。あんなに可愛らしかったポッチャマは、今はこんなに美しく逞しい姿に進化していたのだ。

先に相棒を進化させているユーリに、なんだか悔しくなってしまう。とはいえ、負けるつもりは勿論ない。

「戻れ、リザード!ロゼリア、行くよ!」

パロレはリザードをボールに戻した。そして、ロゼリアを繰り出す。

「エンペルト、アクアジェット!」

エンペルトは素早く突っ込んできた。ロゼリアは吹っ飛んだが、くるくると回転して体勢を整える。

「ロゼリア、しびれごな!」

ロゼリアが両手に生えた薔薇を揺らして粉を撒き散らす。エンペルトはその粉をもろにかぶり、麻痺してしまったようだ。

「エンペルト、耐えてください!もう一度アクアジェット!」

ユーリが声をかける。しかし、エンペルトは体が痺れて動けないようだった。苦しそうに動いている。

「ロゼリア、エナジーボール!」

ロゼリアはエネルギー体で作り上げたボールをエンペルトにぶつけた。しかし、エンペルトはまだ平気そうだ。

「……っ、アクアジェット!」

再びユーリが指示する。今度はエンペルトはどうにか痺れをこらえて体を動かすことができたようだ。目にも留まらぬ速さで進み、ロゼリアに思いきり激突する。タイプの相性は悪いはずだが、ロゼリアは割と大きなダメージを受けており傷ついているようだった。

次だ。次で決めよう!

「ロゼリア!次で終わらせよう。もう一回、エナジーボールだっ!」

パロレが叫ぶ。ロゼリアは自然のエネルギーを集め、球体を作り上げると、ありったけの力をこめて力の塊を思いきりエンペルトめがけて放出した。

「ロゼアーッ!」

エンペルトの腹部に、エナジーボールが当たり、めりこむ。

「ぺ……ルッ」

エンペルトは苦しそうな鳴き声を上げた。エナジーボールが急所に当たったエンペルトは、そのままそこで気絶してしまった。やった!パロレの勝ちだ。

「……クソッ」

ユーリの小さな声は、パロレやクオレの耳には届かなかった。
 ▼ 144 AYr1xkow/g 17/09/15 01:51:41 ID:7deEVuSA [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレの腰につけたモンスターボールが揺れる。見れば、ふたつも揺れていた。パロレがボールから出すと、リザードとピジョンの体が光り始めていた。

「あ……!」

パロレの瞳が期待で輝く。リザードとピジョンの姿はやがて光に包まれて見えなくなった。かすかに見える影は、今までのものより大きい。やがて、光が飛び散るようにして消えていった。

「わあ!やった!」

パロレがそう言ってガッツポーズをする。それもそのはず、二匹は進化していたのだ。リザードはリザードンに、ピジョンはピジョットに。それぞれの最終進化系だ。

「あはは、またたくましくなったなー!へへ、これからもよろしく!」

パロレはリザードンとピジョットに声をかけた。二匹が頷く。どっしりと佇むその姿は、本当に頼もしかった。

「……ありがとうございました」

ユーリがそう言って丁寧にお辞儀をする。パロレは朗らかに「こちらこそ!」と返した。

「やっぱりすごいなあ、二人とも……」

クオレが呟くように言った。

ユーリは小さく息を吐いて気を落ち着かせると、

「パロレさん、いつも相手をしてくださってありがとうございます。これはいつものお礼です」

そう言って眩しく光る不思議な石をくれた。パロレは石を受け取ると、怪訝な瞳でそれを見つめる。

「それはひかりのいしといって、特定のポケモンを進化させることができる道具です。オレはもう使ったのですが、パロレさんのポケモンにもそれが使える子がいたので」

ユーリは分かりやすく説明をしてくれた。パロレはすぐに笑顔になり、

「わー、ありがとう!」

そう言った。するとユーリはきびきびと、

「どういたしまして。それではオレは先に行きます。失礼します」

そう言ってリュイタウンを足早に出ていった。

「またねーっ!」

そんな後ろ姿を、クオレはやりすぎなほどに大きく手を振って見送った。
 ▼ 145 AYr1xkow/g 17/09/15 10:20:43 ID:7deEVuSA [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「それにしても、使える子って誰だ……?」

パロレが首を傾げると、今度は別のモンスターボールがカタカタと揺れた。

「あ、お前か!」

パロレがそう言ってボールから出したのは、ロゼリアだ。ロゼリアはパロレの顔とパロレの手の中にあるひかりのいしを交互に見ると、待ちきれない様子でそわそわとその場を動き回り始めた。

「今やってあげるよ、ほら」

パロレがそう言って、ロゼリアの体にひかりのいしを近づける。すると、ひかりのいしは更にまばゆい光を放ち始めた。そして、それに共鳴するようにロゼリアの体も光りだす。

やがてふたつの光はひとつの光となり、ひかりのいしとロゼリアの体を包みこんだ。そして、石とポケモンの姿は見えなくなってしまった。光が消えた後にそこにいたのは、ロズレイドだ。

「やった!」

「わあ、素敵……!」

クオレがそう言って小さく手を叩く。パロレは少し自慢げな表情を浮かべた。

「一気に三匹も進化だ!これからが楽しみだなー!」

パロレはそう言ってロズレイドの頭を撫でた。

「じゃあ、クオレ。ぼくもそろそろ行くね」

パロレがそう言ってロズレイドをボールに戻しながらクオレに声をかける。

「あ、うん!またね」

クオレはそう言って小さく手を振った。

「うん、またね!」

パロレはそう言って手を振り返し、リュイタウンを後にした。

クオレは一人になると、神妙な顔でパロレの去っていった道を見つめた。クオレの顔はだんだんと暗い表情になっていく。

「……はあ」

そして、クオレは大きな溜息をついた。
 ▼ 146 AYr1xkow/g 17/09/16 23:56:24 ID:QE/6tJd6 NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレは今、パルガンシティという街にやってきていた。13番道路を抜けてジョイアマウンテンという山を越えたところにある街だ。

ジョイアマウンテンは、アモル地方で最も標高の高い山だ。頂上には雪が積もっており、アモル地方では珍しいこおりタイプのポケモンたちが棲みついている。

パロレがジョイアマウンテンを登っている間に、カゲボウズがジュペッタに進化した。ポケモンが進化するのを見ると、強くなっているのだと実感できて、なんだか嬉しくなってくる。パロレはワクワクした気分でジョイアマウンテンを抜けてきた。そして、パルガンシティに入った途端、あんぐりと口を開けて固まってしまったのだった。

「す、スパイス団がいる……!」

驚いて立ち尽くしているパロレの元に、一人の女性が歩いてきた。

「君、もしかして初めてパルガンに来たの?」

声をかけられたパロレはハッとして、

「は、はい。ジムを巡ってるんですけど、あの……びっくりしました」

パロレが辺りをキョロキョロと見渡しながら、声をワントーン落として言う。そんなパロレの様子を見て女性はクスクス笑った。

「まあ、無理もないよね。ダ・カーポ島ではわりとよくある光景だよ、スパイス団が普通にいるのは」

そう、パルガンシティではスパイス団員が平然と歩いていたのだ。

「そりゃちょっとおっかないけど……、でもまあ基本は何もしないよ、あの人たち。それに、いなくなったらそれはそれで困るしね」

女性はそう言って肩をすくめた。パロレは思わず眉をひそめる。乗船所の経営をしているのもスパイス団だった。彼らはそんなにこのアモル地方との結びつきが強いのだろうか。

「えっと、ジムを巡ってるんだったっけ?」

女性が聞く。パロレは頷いた。

「三年前まで、二年間くらいポケモンリーグ閉まってたんだよね。何故かは知らないけど……。今は再開してるよ、よかったね」

「そうだったんですね」

「うん、なんかチャンピオンの人の指示で閉まってたらしいの。何があったんだろうね?」

女性はそう言ってから、薄く微笑む。

「長話しちゃってごめんねー。まあ、なんにせよ頑張ってね!」

「はい!ありがとうございます!」
 ▼ 147 AYr1xkow/g 17/09/17 00:16:11 ID:.Nv4XMEs [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
あれからポケモンセンターで部屋を取り、しっかりと休んだパロレは、パルガンジムの前にやってきていた。

昨日は結構色々なことがあった。それに、ジョイアマウンテンを越えたので体はへとへとだった。ぐっすりと眠って疲れを癒した今のパロレは、やる気も元気も満タンだ。

パルガンジムの看板には、「鋼の意志の男」と書いてある。その二つ名の通り、パルガンジムリーダーははがねタイプの使い手だ。気を引き締めていこう。パロレは拳をぎゅっと握りしめてジムの中に入った。

ジムの中は、驚くほど蒸し暑かった。見れば、所々炎が燃え上がっている。ほのおタイプのジムリーダーだったかと思ってしまうほどだ。パロレは怪訝に思いながらジムを歩いた。

やがて、ジムの中は大きな厨房になっていることに気がついた。そして、そこいら中にリフトがある。乗りこんでスイッチを押すと、一定の方向に進むようになっている。元々は広いレストランで、料理を運ぶために使っていたのかもしれない。パロレはリフトの行き先をよく確認しながら、奥へと進んでいった。

やがて最奥にたどりつくと、一人の青年が立っているのが見えた。その後ろには大きなピザ窯がある。あんなところに立っていたら、暑くて体調を崩してしまいそうだ。しかし、青年は険しい表情をしつつもしっかりと立っていた。

「こんにちは。挑戦しに来ました、パロレです」

パロレはそう言って青年の前に立った。いかにも気難しい性格をしていそうな青年だ。青年はパロレを見つめた。睨みつけるように鋭いその瞳に、パロレは思わずごくりと唾を飲みこむ。

「パロレよ、よく来てくれた。俺はビロウ。パルガンジムリーダーであり、はがねタイプの使い手だ」

「はい!よろしくお願いします!」

ビロウはパロレの顔を見て「ふむ」と声を上げる。

「ここは元々厨房だったところをジムとして再利用している。だからこんなに蒸し暑い。はがねタイプはほのおに弱い!だが、逆境に立ち向かってこそ成長できると俺は考えている。それゆえに、俺はここをジムとして使うことにしたのだ」

ビロウが語るのを聞いて、パロレは内心「どんだけストイックなんだ」とツッコミを入れた。

「俺ははがねタイプのポケモンたちのように冷たく、硬く、強いぞ!来い!俺を打ち破ってみせよ!」

ビロウは力強く言うと、モンスターボールを投げてポケモンを繰り出した。
 ▼ 148 AYr1xkow/g 17/09/17 00:29:11 ID:.Nv4XMEs [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
ビロウが繰り出したのは、エアームドだ。パロレもモンスターボールを投げた。今回は、彼に思いきりやってもらおう。

「リザードン!行くぞ!」

リザードンとエアームドは、お互い翼をはためかせて浮かび上がりながら相手を睨みつけている。

「リザードン!ねっぷう!」

リザードンは咆哮を上げると、思いきり羽ばたいた。リザードンの持つ熱気のこもった風が、エアームドを強く打ちつける。エアームドはそのまま後ろに吹っ飛んだ。戦闘不能だ。

「エアームド戻れ!コマタナ!行くぞ!」

ビロウは次はコマタナを繰り出した。パロレのやることは変わらない。

「リザードン!ねっぷうだ!」

リザードンは再びねっぷうを起こした。コマタナもまた、一撃で瀕死となってしまった。パロレは小さくガッツポーズを決める。

はがねタイプは防御に優れている。しかし、特防はそれほど高くないことが多い。ほのおタイプであり、更に特殊攻撃であるねっぷうを覚えているリザードンにとって、これほどうってつけの相手はいないのである。

「やるな。コマタナ、戻れ!ハッサム!任せたぞ!」

ビロウがハッサムを繰り出した。パロレは思わずほくそ笑んでしまう。本当に、うってつけすぎる!

「リザードン、一気に行くぞ!もう一度ねっぷう!」

「リザァアー!」

リザードンは鳴き声を上げると、パロレの指示通りもう一度ねっぷうを起こした。ハッサムは四倍の効果の技を喰らい、またもや一撃で戦闘不能になってしまったのだった。
 ▼ 149 AYr1xkow/g 17/09/17 00:54:55 ID:.Nv4XMEs [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
ビロウはなんとも言えない微妙な顔をしてハッサムをボールに戻した。そして、「……見事だ」と声を絞り出す。

「……やはり、暑い場所で己を鍛えたとしてもタイプ相性の壁は越えられないか……」

ビロウは真剣な表情で考えこんでいたが、パロレはもしかして彼には違う目的があってここをジムにしているのではないかと思い始めていた。

「……まあ、仕方がないな。パロレよ、君は圧倒的な力を持っていた。その強さを認め、アイロンバッジを君に与えよう」

ビロウはそう言って、パロレにジムバッジを渡した。一部分が欠けた円形のバッジを見て、何の形をしているのか分からずパロレは首を傾げたが、やっと何をかたどっているのか気付いた。ピザである。

「……」

この人、もしかしてピザが好きなだけなんじゃ……?パロレはそう思ったが、何も言わないでおいた。

「そしてこの技マシンもだ。中にははがねのつばさが入っている。君なら使いこなせるだろう」

「ありがとうございます!」

そう言って、バッジと技マシンをバッグにしまうパロレの様子を眺めがら、ビロウがぼんやりと口を開く。

「次は……アスールジムか?」

「あっ、はい。そうです」

バッグの留め具を閉じて、パロレはそう言った。ビロウは「ふむ」と声を上げる。

「アスールジムにはケッキングみたいな女がいるからな。気をつけたまえ」

真顔でそう言うビロウに、パロレは拍子抜けしてしまった。

「え……ケッキング?」
 ▼ 150 AYr1xkow/g 17/09/17 01:59:30 ID:SIaklJQ. NGネーム登録 NGID登録 報告
>>91
今更ですがちからもちの効果が思いっきり逆になってますね
なんでこんな間違いしたんだ…すみません

もしよく分からなかったことや知りたいことがあれば気軽に聞いてください
答えられる限りでお答えします
ネタバレになってしまう場合はスルーします、ご了承ください
 ▼ 151 AYr1xkow/g 17/09/18 14:55:05 ID:td5CqNms [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
その日もゆっくりと休んだ翌日、パロレは14番道路を抜けて地底の洞穴というところを通っていった。その名の通り、地下に広がる大きな洞窟だ。

地底の洞穴は暗くじめじめとした場所だったが、パロレはどうにか最後まで進むことができた。パルガンシティ方面から地底の洞穴に行くと、最後にとても素晴らしいものを見ることができるという噂を聞いていたのだ。これは是非見なければならない。

さて、やっと光が見えてきた。出口だ。パロレは目を輝かせた。一体何が待っているのだろうか。パロレは、地底の洞穴を抜けた先にあるトリステッツァの谷へと足を踏み入れた。

まず見えたのは、大部分が損傷している建築物だった。パロレはもっとよく見ようと、目を凝らしながら前へと進む。すると、周りにも建築物があることに気がついた。全部で七つ。七つのうち六つは、柱や壁が少し残っているだけというほとんど跡形もない状態だ。

トリステッツァの谷。古代に建設された七つの神殿がある、神聖な土地。アモル地方には数々の城や教会などの古代の建築物が残されているが、その中でも最高傑作と言われている遺跡群だ。観光名所としても名高いこのトリステッツァの谷は、アモル地方で最も有名かつ人気な場所なのである。

「すごい……」

パロレは思わず声に出して呟いていた。ここには、常時不思議なエネルギーが溢れているのだという。くさのエネルギーが満ちているラランジャの森や、こおりのエネルギーが満ちているジョイアマウンテン山頂付近のように。

パロレは、トリステッツァの谷で一番保存状態が良好な神殿へと近づいた。いくつもの円柱形の柱に囲まれた建物だ。中に入ることは出来ない。パロレはしばらくの間、ただじっとその姿だけを見つめていた。

「……よし」

しっかりと景色を目に焼き付けたパロレは、踵を返して歩き始めた。ただなんとなく強くなりたいという気持ちで飛び出したが、その結果このように見たことのないたくさんのものに触れることが出来た。本当に、ポケモンを貰ってよかったとパロレは心から思った。

「サナギィ!」

「うわっ!?」

柄にもなく感傷に浸っていたところに、野生のサナギラスが飛び出してきた。パロレは慌ててベルトに手を伸ばし、スーパーボールを投げる。

「行け!ジュペッタ!シャドーボールだ!」

繰り出されたジュペッタはケタケタと笑いながら影の塊をサナギラスにぶつけた。もう一度指示を出そうとしたところで、パロレははっと考え直した。

「こいつの出番だ!ハイパーボール!」

パロレはスリジエに貰ったハイパーボールをサナギラスめがけて投げつけた。ハイパーボールはサナギラスを吸いこみ、三回揺れてから動かなくなった。

「よっしゃ!」

パロレはガッツポーズを決めた。これで、仲間が六匹勢揃いだ。
 ▼ 152 AYr1xkow/g 17/09/18 15:05:21 ID:td5CqNms [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
さあ、先に進もう。パロレが足を踏み出すと、

「パロレ」

名を呼ばれた。声の主は、聞けばすぐに分かる。クオレだ。

「クオレ!」

パロレは笑顔で振り向いた。神殿やサナギラスを捕まえることに夢中になっていて、クオレが近くにいたことにも気付かなかったらしい。

クオレの表情を見たパロレの顔から、笑顔が消えた。なんだか様子が変だ。

「ねえ、パロレ。お願いがあるんだけど、いいかな?」

クオレは、明らかに元気がない。思い詰めた表情をしている。

「うん。どうしたの?」

パロレはそう尋ねながらクオレに近づいた。

「わたしとバトルしてほしいんだ」

クオレの言葉に、パロレは拍子抜けしてしまった。

「え、そんなわざわざお願いなんかしなくてもいつでもオッケーだよ!」

今までもそうだったはずだ。パロレが言うと、クオレは小さく笑みを浮かべたが、酷くぎこちなく見えた。

「……そっか。そうだよね」

クオレはそう言うと、モンスターボールを手に取った。

「じゃあ、始めよっか」
 ▼ 153 AYr1xkow/g 17/09/18 16:26:50 ID:td5CqNms [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「いってらっしゃい、ピカチュウ!」

クオレがポケモンを繰り出す。パロレは、先程捕まえたばかりのサナギラスを出すことにした。

「いけ!サナギラス!」

「ピカチュウ、でんこうせっか!」

ピカチュウが素早く移動してサナギラスにぶつかってくる。しかし、効果は今ひとつだ。

「サナギラス、いわなだれだ!」

サナギラスは激しく岩を落としてピカチュウに攻撃する。サナギラスはせっかくのじめんタイプだが、有効なじめんタイプの技をまだ覚えていないようだった。とはいえ、でんきタイプであるピカチュウの動きを封じることなら出来る。

「ピカチュウ、でんこうせっか!」

ピカチュウの攻撃は、あまり効いていないようだ。

「もういっちょいわなだれ!」

サナギラスの二度目の攻撃だ。ピカチュウの頭に一際大きな岩が命中した。ピカチュウは弱々しい鳴き声を上げてその場に倒れてしまった。

「ピカチュウ、ごめんね。……お願い!アブリボン!」

クオレがピカチュウを戻す。アブリボンは辺りを飛び回りながらボールから出てきた。

「アブリボン、かふんだんご!」

アブリボンは、花粉でできた団子をサナギラスにぶつけてきた。しかし、サナギラスは全然平気そうだ。

「いわなだれ!」

パロレがもう一度声高らかに指示を出す。サナギラスの攻撃によって、アブリボンは倒れた。

「あっ……えっと……、いけ!ヤドン!」

「サナギラス、戻れ!行け、ロズレイド!」

クオレの繰り出したポケモンを見て、パロレはサナギラスを戻してロズレイドに入れ替えた。そして素早く指示を出す。

「ロズレイド、エナジーボールだ!」

ロズレイドは余裕の面持ちでエナジーボールを作り出し、ヤドンにぶつけた。ヤドンもまた、その攻撃を受けて一撃で倒れてしまう。

「ごめんね。……頑張って!ジャローダ!」

クオレは寂しげな表情でヤドンに声をかけ、最後のポケモンを繰り出した。クオレの顔は、悔しそうには見えない。もう諦めているかのように見えた。

「よし、戻れロズレイド!行け、リザードン!」

パロレは再びポケモンを入れ替える。

「ジャローダ、やどりぎのタネ!」

ジャローダが、リザードンの体に種を植えつける。ジャローダはまだ諦めていないようだった。リザードンを鋭く美しい瞳で睨みつけている。

「リザードン!ねっぷう!」

リザードンは大きく飛び上がると、上から強く羽ばたいた。熱気を帯びた風がジャローダに直接当たる。ジャローダは苦しそうに呻き、やがてその長い体は地面に力なく倒れてしまった。
 ▼ 154 AYr1xkow/g 17/09/18 16:43:25 ID:td5CqNms [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
クオレは、ジャローダをボールに戻しながら小さく「……うん」と呟いた。その神妙な様子に、パロレは何も言えずに黙ってクオレを見つめる他なかった。

「パロレ、ありがとう」

クオレが言う。パロレは首を横に振った。

「こちらこそだよ」

クオレは口を開いた。しかし、考え直したのか苦しげな表情を浮かべて口を閉じる。それから小さく息を吐くと、パロレの表情を見てもう一度口を開いた。

「あのね、わたし……ジムに挑戦するの、やめようと思うの」

クオレの言葉に、パロレは驚いてワンテンポ反応が遅れてしまった。

「エッ!?」

そんな。どうして?

「今回、最後にパロレとバトルしてもらおうと思って……。もし勝てたら続けようって思ったけど、今まで一度も勝ったことないのに勝てるわけなかった。あはは、わたしってバカだなぁ」

クオレはそう言って笑ったが、そんな彼女の表情は泣き笑いのようなものだった。

「……クオレ……」

パロレは何と答えるべきか分からず、クオレの名前を囁く。しかしクオレは気にしないで、とでも言うように小さく首を横に振る。

「わたし……、パロレやユーリみたいに強くないし……」

クオレは俯きながらも続けた。

「バトルで強くなりたいっていう気持ちも、二人よりきっと弱いの。わたしは強くなれないから、意味がないって思っちゃう」

「……」

「トレーナーって、強くならなきゃいけないのかな?」

クオレは素朴な疑問を口にした。素朴だが、誰も答えることのできない疑問。

「……わたし、ちょっと疲れちゃった」

クオレはそう言うと、顔を上げた。

「ポケモンとは仲良くなりたいけど、強くなるのはもういいや。……パロレには伝えとかなくちゃと思ったの。バトルしてくれてありがとう」

「……クオレ」
 ▼ 155 AYr1xkow/g 17/09/18 16:55:39 ID:cUtj/S5E NGネーム登録 NGID登録 報告
何と言えばいいのだろう。パロレは考えた。そんなことないよ、って言えばいいのか?でも、それは違う気がする。

「ぼくは……クオレを止める権利はないけど……」

パロレは考えながら慎重に言葉を紡いでいく。

「ちょっと、寂しいな」

「……」

クオレは黙っていた。

勝手かもしれないが、それがパロレの本当の気持ちだ。一緒に頑張れないのは、寂しい。クオレの気持ちは正直、あまりよく分からなかった。だって、パロレは今まで一度もバトルで負けたことがないのだから。

「……ごめんね」

クオレが言う。

「……謝る必要ないよ」

パロレは呟くように言った。

ユーリも、パロレを超えたいと言っていたことがあった。そう言ってもらえるのは、多分、すごいことなのだ。パロレは二人より強い。それは事実かもしれない。そして、それはただ喜ぶだけではなく、力を持っていることへの責任などについて、もっとしっかりと考えなくてはならないものなのかもしれない。

「ダ・カーポ島を回ったら、家に帰ろうかなって思ってるんだ」

クオレが言う。

「……うん。ぼくが帰ったら、その時はまたバトルしてよ」

パロレが言うと、クオレは切なげな表情を浮かべる。とはいえ、それは苦しそうな顔ではなかった。

「……えへへ。その時のパロレ、きっともっと強くなってるんだろうなぁ」

クオレはそう言って微笑んだ。

西日のせいか、クオレの顔が眩しい。クオレは、パロレよりずっと色々なことを考えていたのだ。そんな彼女の顔は、挫折を味わって悲しんでいるはずなのに何故かとても綺麗に見えて、パロレはどきりとした。いつもより、クオレが大人びて見える。

「じゃあ、またね」

クオレはそう言って、パロレとは別の方向へと向かって歩いていった。
 ▼ 156 ラスル@ライブドレス 17/09/18 19:14:39 ID:fsE5d.O. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 157 ルセウス@プレミアボール 17/09/19 02:22:12 ID:zENGJAHg NGネーム登録 NGID登録 報告
クオレ…
支援
 ▼ 158 AYr1xkow/g 17/09/19 23:21:14 ID:juGseBWs [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
次の日になっても、パロレはまだ昨日のクオレのことを考えていた。
クオレはずっと悩んでいたのだろうか。小さい頃からずっと一緒にいた幼馴染だというのに、気付けなかった。自分のことしか考えていなかったのだ。

でも、かといってクオレのために出来ることなど何もない。自分のやれることをやるだけだ。パロレはそう思い直して、目的地へと歩いた。

今パロレがいるのはアスールシティ。アモル地方最大の港町だ。パルガンシティ同様、ここでもスパイス団員が平然と歩いている。パロレは出来るだけ気にしないようにしながら歩いた。目指すはアスールジムだ。

スパイス団員がちらほらいることを差し引いても、アスールシティはとても心地いい場所だった。街の人はみんな陽気で明るい。みんな忙しそうにしているアモル地方北部にはない温かみを感じる。

「おっ、お前さん、ジムに挑戦かー?」

パロレが歩いていると、恰幅のいい男性が朗らかに話しかけてきた。

「はい、そうです」

「そおかー、頑張れやー!ここのジムリーダーは誰よりも漢らしい海の女!海のポケモンのエキスパートだあー!」

男性は赤ら顔で豪快に笑いながら半ば無理矢理に肩を組んできた。息が臭い。どうやら酔っているようだ。アスールシティの人々は、朝から酒を普通に飲むらしい。

「みずタイプ使いか!頑張ろう!」

パロレは男性と別れると、目当ての建物にたどりついた。そして、首を捻る。だって、他の街のジムの入口同じ形をしたゲートしかなかったからだ。ゲートの向こう側には海が広がっている。船着場のようだった。

パロレは不安になりながら辺りを見渡した。近くに看板がある。看板には「漢気いっぱい 面舵いっぱい!」と書いてある。ここで合っているようだ。

ゲートを抜けた先にある船着場には、小型船がいくつも停まっていた。そして、海を出た少し遠いところに大きな船がある。そこでパロレは気がついた。

この港町では、この船着場こそがジムになっているのだ。この小型船を乗り継いであの大きな船を目指すに違いない。あの立派な船で、ジムリーダーが待っているはず。

パロレはそれぞれの小型船に乗っているジムトレーナーと戦い、船を操縦してもらった。他の街のジムのトレーナーたちとは異なり、ここのジムトレーナーはどうやらプロの漁師たちのようだ。

パロレはやっと最後の小型船に乗り、ジムトレーナーのふなのりに助けてもらいながら大きな船へと乗り移った。甲板に出ると、そこには一人の女性が背を向けて立っていた。大股に足を開き舵を手にしているその女性は、パロレの足音を聞いてくるりと振り向く。

髪は赤く、前髪は長く伸ばしサイドに流しており、後ろは刈り上げている。頭にはキャプテンハットを被っており、いかにもかっこいい女性という出で立ちだった。水着のような服の上に船長服のようなジャケットを着ている。

顔だけを見れば、男だと言われても信じてしまうかもしれない。しかし、絶対に間違えない自信があった。何がとは言わないが、パロレが今までに見た中で一番大きいのである。
 ▼ 159 AYr1xkow/g 17/09/19 23:37:05 ID:juGseBWs [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「よーし、よく来たな挑戦者!アタシはヒマワリ。アタシはここのジムリーダーと、それからアスールの船乗りたちの棟梁もやってんだ!」

ヒマワリはそう言ってニカッと笑った。

「船乗りまくって大変だっただろ?あいつら、荒い操縦してなかったか?挑戦者がいつも船酔いすんだ。気持ち悪かったら言ってくれよな」

ヒマワリはそう言うと両手をポキポキと鳴らした。

「……一発殴ってやらねえとあいつら言うこと聞かねえからなぁ」

ヒマワリが呟く。パロレはそれを見てビクビクしながらも答える。

「いえ、大丈夫でした」

そんなパロレを見て、ヒマワリはにやりと笑う。

「根性あるじゃねえか。気に入った!」

そして、モンスターボールを手に取り、何度か投げてはキャッチを繰り返しながら、

「女だからってなめんなよ?ここで鍛え上げたアタシとアタシのポケモンはすっごく強えんだ!」

ヒマワリはそう言って、とびきり高く投げたモンスターボールをバシッとキャッチした。

「覚悟しな!」

「はい!」

パロレが力強く返事をすると、ヒマワリは不敵な笑みを浮かべ、いきなり思いきり舵を切った。

「うわっ!?」

船が大きく揺れ、方向を変える。パロレはよろめいて転びそうになったが、慌てて体勢を整えた。

「おいおい、ついてこいよ!海の上でのバトルだぞ!」

ヒマワリは楽しそうに豪快な笑い声を上げた。

「は、はい……!」

やっと体を真っ直ぐにして立つことができたパロレが息絶え絶えに言う。ヒマワリはそんなパロレの様子を見て嬉しそうな顔をした。

「ほらほら、始めんぞ!面舵いっぱーいッ!」

ヒマワリはそう言って、海の上に向かって勢いよくモンスターボールを投げつけた。
 ▼ 160 シズマイ@マグマブースター 17/09/20 00:02:36 ID:YlNdFhKo NGネーム登録 NGID登録 報告
オリキャラSSで一番好き
支援
 ▼ 161 AYr1xkow/g 17/09/20 11:45:29 ID:erg18tO6 [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モンスターボールから出てきたポケモンは、とても巨大だった。ポケモンの腹部が強く海面に打ちつけられ、激しい水飛沫がヒマワリとパロレにかかる。パロレは顔をしかめたが、ヒマワリはからからと笑っていた。

「ホエルオーだ……!」

ホエルオーは全種類の中で最も体長の大きなポケモンだ。なるほど、確かにホエルオーを繰り出すのであれば海そのものをフィールドにしてしまった方がいい。

「行くぞ、ロズレイド!」

パロレもポケモンを繰り出した。

「ロズレイド!エナジーボール!」

パロレの指示を聞いたロズレイドは、ホエルオーを睨めつけ、エネルギーの塊をいつもより気合を入れてぶつけた。ロズレイドより数倍も大きいはずのホエルオーは、大きな呻き声を上げてその一発で海面にひっくり返ってしまった。

「んだとぉ!?仕方ねえ!行くぞ!ダダリン!」

ヒマワリがホエルオーをボールに戻して次のポケモンを繰り出す。そのポケモンを見て、パロレは目を丸くした。

「ええっ?みずタイプの使い手じゃないんですか!?」

心から驚いている様子のパロレに、ヒマワリは挑戦的な瞳を向ける。

「んなことアタシは一言も言ってねえぞ?アタシは海のポケモンのエキスパートだからな!」

ヒマワリはそう言うと、またも強く舵を切った。油断していたパロレは思いきりその場ですっ転んでしまった。

「そ、そんなぁ」

パロレはぶつけた頭をさすりながら言う。しかし、すぐに気を引き締め直した。

「……いや、だからなんだって言うんだ!」

パロレはそう言って立ち上がる。

「ロズレイド!戻れ!ジュペッタ、行くぞ!」

「よっしゃ、その意気だ!」
 ▼ 162 AYr1xkow/g 17/09/20 12:12:55 ID:erg18tO6 [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ジュペッタ!シャドーボール!」

ジュペッタは影の塊を作り出すと、ダダリンに向かって思いきり投げつけた。効果は抜群のはずだが、ダダリンは思ったよりはダメージを受けていないように見える。

「ダダリン、やり返してやれ!シャドーボール!」

ヒマワリが鋭く叫ぶ。ダダリンはジュペッタと同じようにシャドーボールを作り出した。そして、ジュペッタに向けて打ちつける。ジュペッタは数メートル先に吹っ飛び、動かなくなってしまった。

「わっ!ジュペッタ、ごめん!任せたぞ、ピジョット!」

パロレはジュペッタを戻すとピジョットを繰り出した。次はきっと行けるはず。

「ピジョット、ぼうふうだ!」

ピジョットは凄まじい勢いで羽ばたき、辺りに激しい風を起こし始めた。パロレは命中してくれ、とそっと心の中で祈った。パロレの祈りは届いたのか、ダダリンは嵐のような激しい風に打ちつけられ、戦闘不能となってしまった。

「やるじゃねえか!最後はこいつだ!」

ヒマワリはダダリンをボールに戻して最後のポケモンを繰り出した。

「頼んだぜ、サメハダー!」

「ハダーッ!」

サメハダーは大きな口を開けて鳴き声を上げる。いくつも生えた鋭い歯が見えて、パロレは少しビクッとした。あんなのに噛まれてしまったら、ひとたまりもなさそうだ。そんなことを考えながら、ポケモンを入れ替える。

「よし、ピジョット戻れ!マリルリ!行こう!」

「サメハダー!どくどくのキバ!」

サメハダーが猛毒を帯びた牙でマリルリにがぶりと噛みつく。マリルリは苦しそうな鳴き声を上げた。効果は抜群な上に、マリルリはもうどく状態になってしまったようだった。パロレが必死で声をかける。

「マリルリ!まだ行ける!?」

「マ……リィ……!」

マリルリは立ち上がった。マリルリのためにも、さっさと決めてしまった方がよさそうだ。

「マリルリ!じゃれつく!」

マリルリはサメハダーに思いきりじゃれついた。サメハダーのさめはだがマリルリに食いこむ。しかし、マリルリは痛みに耐えながらサメハダーに攻撃を続けた。マリルリがようやくサメハダーから離れた時には、サメハダーは気を失ってしまっていた。

「つえー!」

ヒマワリはサメハダーをボールに戻しながら、どこか嬉しそうにそう叫んだ。
 ▼ 163 AYr1xkow/g 17/09/20 12:29:32 ID:erg18tO6 [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「アハハ!こりゃこっぴどくやられちまったなー。でも楽しかったよ!このマリンバッジ、持っていきな!」

ヒマワリは豪快に笑いながらそう言って、錨の形をしたバッジをくれた。

「ありがとうございます!」

「あとはこれもやるよ。今回は使う暇なかったけど、ねっとうの技マシンだ!みずタイプの技なのに、相手を火傷させることのあるあつーい技だぜ。ほらよ!」

パロレはヒマワリから、ねっとうの技マシンを受け取った。大切そうにバッジと技マシンをバッグにしまうパロレを見つめながら、ヒマワリは口を開く。

「うん、お前ならバトルコロッセオでもいい線行くんじゃねえか?まあ、あそこは実力者揃い。まだ早いとは思うけどな」

「バトルコロッセオ、ですか?」

パロレが食いつく。ヒマワリはおっ、と声を上げた。

「そうそう。このアスールから行けるフェルマータ島にある、強者揃いのバトル施設さ!ほんっとうに強い奴らしかいねえから、許可がない奴は船に乗せないようにしてんだ」

強い者しか行くことを許されない、バトルのための施設。俄然興味を増したパロレは、目を輝かせた。

「へえ……行ってみたい!」

「いいねぇその心意義!」

ヒマワリは嬉しそうに言う。

「自分に資格があると思ったその時にまたここに来な。アタシの船に乗せてやるよ!」

「はい。また来ます!」

パロレは力強く頷いた。それから、とあることを思い出して口を開く。

「あ……そうだ。あの」

「ん?」

「パルガンジムのビロウさんが、アスールジムにはケッキングみたいな女の人がいる……って言ってたんですけど……」

パロレが言うと、ヒマワリの顔は一気に曇った。

「なんだって!?アイツ、好き勝手言いやがって……ってお前!それ今言うってことはそれがアタシってピンと来たってことじゃねえか!」

ヒマワリの言葉に、パロレはギクッと肩を震わせた。

「誰がケッキングだっつーの!アタシは真面目に働いてるよ!」

ヒマワリは不機嫌そうにそう言ったが、パロレはビロウが言いたかったのはそういうことではないと思う、と心の中で呟いた。

「ビロウの奴、メガボスゴドラの鎧よりもかってぇ頭してるからな。クソつまんねえことばっか言いやがる。あんな奴の言うことまともに受けるんじゃねーぞ!」

ヒマワリが言う。パロレは思ったことを正直に口にした。

「ビロウさんとヒマワリさん、仲がいいんですね」

「お前アタシの話聞いてたか?」
 ▼ 164 AYr1xkow/g 17/09/21 01:01:57 ID:x2h4HYJ. [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
ジムバッジは残すところあとひとつだ。とうとうここまで来た。さあ、早くオーロシティに戻ろう。パロレはそう思いながらアスールジムの入口ゲートを抜けた。すると、こちらに向かってスパイス団員が歩いてくるのが見え、パロレは思わず身を固くする。

「そこの君」

「は、はい?」

平静を装っているつもりだったが、声が裏返ってしまった。

「トリステッツァの谷に来い」

「え、なんで……」

パロレが言ったが、スパイス団員は無視して続けた。

「バジリコさんが待っている」

団員はそう言って、さっさとその場を離れていってしまった。その名前を聞いた瞬間、パロレははっとしてスパイス団員の後ろ姿を見つめる。

「バジリコ……」

散々名前を聞いたが、一体どんな人物なのだろうか。そもそも、何故パロレのことを待っているのだろう。

罠かもしれない。行かない方がいいのかもしれない。しかし、パロレは緊張しながらも既にトリステッツァの谷へと歩き始めていた。今から、スパイス団のバジリコに会いに行く。
 ▼ 165 AYr1xkow/g 17/09/21 01:03:43 ID:x2h4HYJ. [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレはトリステッツァの谷にたどりつくと、辺りを見渡した。すると、いた!あの唯一建物としての原型を留めている神殿の前に、明らかに観光客ではない男が立っている。

パロレは男をじっと見つめた。普通の若い男の人だ。確かに、下っ端たちが言っていたように容姿は整っている。背も高いし顔もかっこいい。

パロレは、何故かどこかで見たことのある顔だと思った。そういえば、前にもこんなことがあったようは気がする。なんだったっけ?

パロレが近づくと、男性はパロレに気がついたようだった。

「君がパロレくんだね?」

男性が問う。

「はい」

パロレは頷いた。

「俺はスパイス団幹部のバジリコ。早速で悪いけど、俺とバトルしてくれるかな」

やっぱり、彼はバジリコだった。バジリコには、ボンゴレやマリナーラに抱いたような恐怖心は何故か感じない。

パロレは頷くと、モンスターボールを構えた。

「行け、ブラッキー」

バジリコがポケモンを繰り出す。

「マリルリ!行くぞ!」

パロレもポケモンを繰り出した。

「ブラッキー、あやしいひかり」

ブラッキーは、奇妙な光を発生させた。四方八方に動き回る光を見て、マリルリは追いかける。そして、そのまま目を回してしまった。

「マリルリ、じゃれつくだ!」

パロレは指示を出したが、マリルリは混乱しておりパロレの声が聞こえていない。目を回しているマリルリはその場ですっ転んでダメージを受けた。

「ブラッキー、いやなおと」

ブラッキーは不快な音を発生させた。マリルリは顔を歪めて長い耳を閉じる。

「頑張れマリルリ!じゃれつく!」

耳を塞いではいるものの、今度こそマリルリにパロレの声が届いた。マリルリは力を振り絞ってブラッキーに攻撃を仕掛けた。ブラッキーはマリルリのじゃれつくで、戦闘不能になってしまった。
 ▼ 166 AYr1xkow/g 17/09/21 01:06:44 ID:x2h4HYJ. [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……」

バジリコは、なんとも言えない顔でパロレを見つめていた。悔しそうというより、もどかしげな表情だ。

「……?」

パロレが訝しげな表情でバジリコを見る。バジリコはすぐに無表情に戻り、ブラッキーをボールに戻した。

「行くよ、アシレーヌ」

バジリコがポケモンを繰り出す。

「マリルリ戻れ!ロズレイド!任せたぞ!」

パロレはポケモンを入れ替えた。

「アシレーヌ、ハイパーボイス」

アシレーヌは凄まじい大声を上げた。その姿は、さながら本性を現したセイレーンのよう。ロズレイドはその耳障りな声の振動に顔をしかめた。

「ロズレイド、エナジーボール!」

ロズレイドはエナジーボールを作り出し、アシレーヌにぶつけた。効果は抜群のはずだが、アシレーヌはあまりピンピンしている。

「アシレーヌ、もう一回ハイパーボイス」

アシレーヌが再びハイパーボイスを繰り出す。ロズレイドは苦しそうな顔を浮かべていたが、

「ロズレイド!お前なら行ける!もう一度エナジーボール!」

パロレの声に、ロズレイドは頭を激しく振ってから覚悟を決めた表情を浮かべる。それから、アシレーヌに向けてもう一度エナジーボールを繰り出した。

アシレーヌは呻き声を上げて、可憐な顔を歪ませてその場に倒れ、気を失ってしまった。
 ▼ 167 AYr1xkow/g 17/09/21 01:07:36 ID:x2h4HYJ. [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……ふう」

アシレーヌをボールに戻したバジリコが、小さく息を吐く。パロレは真剣な表情でバジリコを睨みつけていたが、バジリコは少し気まずそうな顔をして視線を逸らした。

「……どうもありがとう。これで俺の仕事は終わりだ。それじゃ」

「えっ?」

パロレが思わず素っ頓狂な声を上げる。一体、何の意味があってバトルをしたというのだろうか。

バジリコはそれ以上は何も言わなかった。左腕につけた腕時計をちらりと見て、パロレの目の前から立ち去っていった。

「どういうつもりだったんだ……」

パロレはバジリコの後ろ姿を見つめながら呟いた。そして、そんなことはどうでもいいと考え直す。

早くオーロシティに行こう!パロレはまずはリュイ乗船所を目指して、急いで歩き出した。

地底の洞穴を抜け、14番道路に出る。そしてパルガンシティに向かって歩いていると、見慣れた人影が見えた。

「あ!博士!」

パロレがそう言って駆け出す。その声を聞いた人物がこちらを向いてぱっと顔を輝かせた。

「あら、パロレくん!」

「俺もいるぞ!」

近くの草むらからひょっこりとなんとアキニレが顔を出す。パロレは驚いて声を上げてしまった。

「おいおいなんだよ、兄ちゃん見てそんな声上げるなんて」

アキニレがわざとらしく落ちこんだような声を上げる。

「ご、ごめんって」

パロレが慌てて謝ると、アキニレの後ろから更に二人が顔を出した。

「わたしもいるよ!」

「オレもいます」

「わ!クオレもユーリも!」

パロレは顔を綻ばせた。この六人が集合するのは、スリジエにポケモンを貰った時以来だ。
 ▼ 168 AYr1xkow/g 17/09/21 01:46:53 ID:dYOkv7qo [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「みんな集合しちゃったのね!それにしても、みんなすごいわ。ダ・カーポ島まで来ちゃうなんて!」

スリジエが嬉しそうに言う。

「この島は正直、少し居心地が悪いですね……。オレは街の人たちと、どうも気が合わないみたいです。それにスパイス団がそこら中にいるし……」

ユーリは対照的に顔をしかめてそう言った。

「まあ、いい気はしないよな」

アキニレが苦笑いしつつフォローを入れる。

「彼らの姿に慣れちゃえばどうってことないわよ」

スリジエがあっけらかんと言ってのける。

「博士、強い……!」

クオレが言うと、

「それほどでもないわ」

スリジエはお茶目にそう言ってみせた。

「ここに来たのは、お仕事ですか?」

パロレが聞くと、スリジエは頷く。

「ええ。明日の朝早くから、パルガンシティで仕事があるの。だから前日から来ておくことにしたのよ。アキニレくん、連れ回しちゃってごめんなさいね」

スリジエが言う。アキニレは「いえいえ」と首を横に振った。

「とんでもないです。それに、ダ・カーポ島に来ることもあまりないですから。連れてってくださって、むしろ感謝です」

「そう言ってくれて何よりだわ。……今日はちょっといいホテルも予約したから、それで許してね」

「もちろんですよ!むしろお世話になっちゃって本当にすみません」

アキニレがそう言ってスリジエに頭を下げた。

「いいのいいの」

スリジエは穏やかな顔で言い、クスクス笑った。

「アキニレくん、すっかり大きくなってしっかりしてきたけど、私からしてみればまだまだ子供だもの。甘えられるうちに甘えときなさいな」

スリジエはそう言って、自分より背の高いアキニレの頭をぽんぽんと優しく叩く。

「ハハ……。八年前から本当に……、ありがとうございます」

アキニレは顔を真っ赤にしてそう言った。照れまくっている。

「どういたしまして」

スリジエはそう言って、ニッコリと笑った。
 ▼ 169 AYr1xkow/g 17/09/21 02:01:11 ID:dYOkv7qo [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「どこのホテルに泊まるんですか?」

クオレが興味本位で聞く。

「パルガンにあるホテル・グラツィオーソよ」

その言葉を聞いた瞬間、パロレとクオレは目を丸くした。

「ええーっ!?高級ホテルじゃないですかーっ!」

クオレが大きな声を上げた。

「えー、兄さんいいなぁー!」

パロレもわざとらしく声を上げる。アキニレはお前はちょっと黙っとけ、とでも言いたげな顔でパロレを見つめ返してきた。

「あら、じゃあみんなも泊まる?」

スリジエがそう言って、携帯電話を取り出す。それを見てアキニレがギョッとした顔を浮かべた。

「いやいやいや!悪いです悪いです!いいですよ!」

慌てて止めるアキニレの様子を見て、パロレは流石に言いすぎたかと少し申し訳なさそうな顔をして一歩後ろに下がった。

「いいわよ、一人二人増えたって大して変わらないわ」

スリジエがそう言いながらホテルの電話番号を打ち始めた。

「博士、三人ですよ……!」

アキニレが顔面蒼白で言う。その言葉に、スリジエははっと顔を上げて口を手で覆う。

「あ、そうだったわね」

そして、そのままホテルに電話をかけてしまった。

「……」

アキニレが凄まじい顔をして黙りこんでいる。パロレは兄と目を合わせないようにした。スリジエの財力に、ただただ圧倒されるのみだ。

「……うふふ、大丈夫だったわよ。時間もちょうどいいし、チェックインしに行きましょ」

電話を終えたスリジエが無邪気に笑ってそう言う。四人はスリジエに向かってペコペコと頭を下げた。
 ▼ 170 AYr1xkow/g 17/09/21 02:41:34 ID:dYOkv7qo [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
スリジエに連れられて、一同はパルガンシティにやってきた。ホテル・グラツィオーソに入ると、豪華な内装にパロレは声を上げた。そしてスリジエがフロントでチェックインする姿を見て、四人で思わず縮こまった。

「なんかこんなことになっちゃったけど……、ホテルに泊まるのは初めて!ドキドキって感じ……!」

クオレが目を輝かせながら言う。パロレもうんうんと頷いた。

「パロレとユーリくんは、アキニレくんと同じお部屋ね」

エレベーターに乗りこむと、スリジエがそう言いながら、アキニレにカードキーを渡した。アキニレが恐れ多そうにカードキーを受け取る。

「クオレちゃんは私と同じ部屋ね」

スリジエが微笑む。

「はい!」

クオレは元気よく答えた。

やがて、部屋のある階までたどりつき、六人はスリジエを先頭にして歩き部屋へと向かった。そして、部屋に入ろうとしたスリジエがあっと声を上げる。

「そうだ、アキニレくんたち、さっき14番道路でポケモンたちを戦わせてたでしょう?よかったら回復させてあげるわ。ほら、パロレくんも」

スリジエがそう言って両手を広げた。四人は顔を見合わせる。もう、何もかも世話になってばかりだ。

「遠慮なんてしなくていいのよ、さっきも言ったでしょう?」

スリジエの声は優しい。

パロレはアスールシティを出て以来ポケモンセンターに寄っていない。バジリコと戦った後は、トリステッツァの谷と地底の洞穴を続けて通り抜けてきたので、リザードンたちは少し疲れているだろう。パロレは結局、お言葉に甘えることにした。

「はい、お待たせ!」

部屋の中に入り、荷物を出してからスリジエは回復させたポケモンたちの入ったボールを四人に渡した。

「ありがとうございます!」

四人が深々と頭を下げるのを見て、スリジエはおかしそうに笑っている。

「それじゃあみんな、ゆっくり休んでね」
 ▼ 171 ラッタ@こわもてプレート 17/09/21 23:36:23 ID:VBwD7/LA NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 172 AYr1xkow/g 17/09/22 00:23:39 ID:jtUe8ZCQ [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
翌日。パロレは、今までの人生の中で一番快適な眠りから覚めると、大きな欠伸をした。

「おはようございます」

「おはよう」

アキニレとユーリは既に起きており、着替えなどもしっかり済ませていた。

「兄さん、ユーリ、おはよ……ふわぁあ」

パロレは欠伸を噛み殺しながら二人に言う。

「博士はもう仕事に行ったよ。さ、クオレも待ってる。朝ご飯を食べてチェックアウトしよう」

「うん」

パロレは返事をすると、また欠伸をした。

やがて、パロレが身支度を終えると一同は隣の部屋のクオレと合流し、ホテルにあるビュッフェで朝食を済ませた。外側をカリッと、でも中身はふわっとした焼きたてのパンをパロレはこれでもかというほどに腹に詰めこみ、名残惜しく思いながらもチェックアウトしてホテル・グラツィオーソを出たのだった。

「はー、美味しかったー!ベッドも気持ちよかったし、やっぱり高級ホテルってすごい……!」

パロレがしみじみと言う。

「贅沢な時間、って感じだった……!」

クオレもまだどこか夢見心地だ。

「貴重な体験をしたな……」

アキニレはまだ博士への申し訳なさが残っているのか、複雑な表情をしている。

と、そこでパロレがあることを思いつく。そして、

「ユーリ、君は何も言わなくていい。君は多分毎日こんな感じだったんだろうってことは想像つくから……」

パロレが言うと、クオレも乗ってきた。

「そうそう!わたしたち、虚しくなっちゃうから何も言わないでね!」

ユーリはキョトンとしていたが、

「あ……はい。分かりました」

いつもと変わらない様子でそう言う。

「否定しない辺りがもう既に物語ってるよね……」

パロレは思わずそう呟いてしまった。
 ▼ 173 AYr1xkow/g 17/09/22 00:37:27 ID:jtUe8ZCQ [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ところでパロレさん」

ユーリがそう言って立ち止まる。

「せっかくなので……バトルをしませんか?」

「うん!もちろん!」

パロレはすぐに頷いた。ユーリならそう言ってくれるだろうと、パロレも思っていたのだ。

「おっ!二人のバトルが見られるなんて俺も運がいいな!」

アキニレが嬉しそうに言い、弟とその友人を微笑ましく見つめる。

「ありがとうございます。では、よろしくお願いしますね」

ユーリがそう言ってお辞儀をした。

「望むところさ!よーし!」

パロレはそう言って、リザードンの入っているモンスターボールに触れる。その瞬間、何か違和感を覚えた。

「……あれ?」

明らかに様子のおかしいパロレを見て、ユーリは心配そうな顔を浮かべて近づいてきた。

「……パロレさん?どうかしました?」

「……?えっと……、……」

パロレは何やら混乱している様子でモンスターボールをカチャカチャと鳴らしている。それから、モンスターボールをその場に投げつけた。しかし、中からは何も出てこない。

「え?え?モンスターボールが空だ……!」

「ええっ!?」

悲痛な声を上げたパロレに、三人は目を見開いて大声を上げる。

「え?なんで……なんで?リザードンがいない……!」

パロレは訳も分からず、ひたすら「なんで?」と口走りながらすべてのボールからポケモンを繰り出した。ピジョットたちは無事だ。リザードンだけがいない。

「え……一体どうして……?」

クオレが言う。

「な、何故こんなことに……!」

ユーリも言った。

「一旦落ち着こう、みんな」

アキニレはすっかりパニック状態の子供たちに優しく声をかけたが、アキニレ自身も状況が飲みこめず動揺を隠せていなかった。
 ▼ 174 AYr1xkow/g 17/09/22 00:59:22 ID:jtUe8ZCQ [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「パロレ。いつからリザードンがいないのか、分かるか?」

アキニレが問う。

「わ、分からない……」

パロレは愕然としながら答えた。

「も、もしかして……スパイス団の仕業かな?悪い人たちなんだよね?」

クオレが躊躇いがちに言う。するとユーリが食いついた。

「きっとそうだ!奴らが盗んだんですよパロレさん!」

力強く言うユーリを見て、アキニレは少し暗い表情を浮かべた。パロレたちにあんな組織と関わりがあるのかと思うと、心配で心配で恐ろしいに違いない。

「……心当たりはあるのか?」

アキニレが苦しそうな声で言う。

「正直……ある……」

パロレは声を絞り出した。パロレも、真っ先にスパイス団が頭に浮かんでいたのだ。

幹部のボンゴレに最初に会って名前を覚えられて以来、彼らに目をつけられているという自覚がパロレにはあった。同じく幹部であるマリナーラには凄まじい剣幕で脅された挙句、確実に嫌われた。それに、もう一人の幹部であるバジリコにも会った……。

「……あ」

パロレが思わず声を漏らす。

バジリコに会った時に盗まれたんだ。パロレはそう思った。ぼくとバトルすることが仕事だなんて、何かおかしいと思ったんだ!やっぱり本当の目的は違かったんだ!

パロレは悔しそうに歯をギリギリと鳴らした。そして、

「……スパイス団を探そう」

低い声でそう唸った。
 ▼ 175 AYr1xkow/g 17/09/22 01:04:09 ID:jtUe8ZCQ [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「多分……したっぱ団員じゃダメだ。幹部かボス……幹部!幹部のバジリコって人を探そう!」

パロレが言う。すると、アキニレが驚いた顔をしてパロレを見つめた。

「バジリコだって!?」

何故かアキニレがその名前に食いつく。しかし、パロレたちにアキニレの声は届いていないようだった。

「わ……分かった!」

クオレが頷く。

「どういう人ですか!?」

ユーリがそう尋ねた。パロレは、昨日会ったバジリコの姿を思い出す。

「すらっとしてて、かっこいい……兄さんと同じくらいの歳の若い男の人!」

パロレが早口に言うと、クオレは辺りを見渡しながら、

「ど…どこにいるかな!?」

そう言った。パロレは首を横に振って俯く。

「分からない……会ったのは昨日だから……!」

「とりあえず、急ぎましょう!」

ユーリがパロレたちを急かす。

「今バジリコって言ったか?バジリコに会ったのか?パロレ!?」

アキニレは大声で聞いたが、興奮状態のパロレたちにはまたもや聞こえておらず、三人はアキニレの言葉もまったく聞かずにパルガンシティを飛び出していってしまったのだった。
 ▼ 176 AYr1xkow/g 17/09/22 01:18:58 ID:3rXdlLsA [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「一体……一体どこに行ったんだろう。何か手がかりがあればいいんだけど……」

13番道路まで走って出てきたパロレが、徐々にスピードを落としながらそう言った。

「いっそ、スパイス団本人に聞いてみるとか?」

隣のクオレが言う。パロレは名案だ、と目を見開いてクオレを見た。

「それだ!えっと……リュイタウンに行こう!乗船所!」

「前訪れた時に下っ端たちがバジリコという人物について話していましたし……それがよさそうですね!」

ユーリも同調した。

「急ごう!」

パロレがそう言って、再び走り出そうとする。すると、背後からアキニレの声が聞こえた。

「パロレ、待て!」

「兄さん!」

パロレが振り向く。パロレは、今にも泣き出しそうな顔をしていた。当然だ。相棒がいなくなってしまったのだから。

「止めないでよ!リザードンがいなくなっちゃったんだよ!?探さなきゃ!」

パロレが絶叫した。クオレもユーリも、悲痛な顔をしてパロレを見つめている。

「分かってるよ」

アキニレはそう言って、大股で一歩踏み出し、パロレの両肩に手を置く。

「……実は五年前にも似たような事件が起こったんだ。……俺は、その時に盗まれたポケモンがいた場所を知ってる」

優しく言い聞かせるような口調のアキニレの言葉を聞いて、パロレは息を呑んだ。五年前の事件。モルタウンで聞いた、過去に起きた悲惨な事件だ。

「もし犯人が同じだったら、またそこにいるかもしれない」

アキニレは、なんとも言えない微妙な顔をして言った。その表情から読み取れる感情は、やるせなさだ。

「……」

パロレは黙りこくってしまった。なんで兄さんが、五年前の事件のことを知ってるんだろう。ふと、そんな疑問が湧き上がってくる。しかし、もうそんなことを考えている場合ではなかった。

「……そこに行きたい。兄さん、お願い、連れていって!」
 ▼ 177 AYr1xkow/g 17/09/22 03:43:36 ID:3rXdlLsA [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アキニレは、パロレに「ちょっとだけ待ってくれ」と言うと、少し遠くに行って誰かに電話をかけた。会話は聞き取れない。

「五年前にも同じような事件が起きたって、パロレ、何か知ってるの?」

クオレが言う。パロレは、アキニレが電話をしている間にクオレとユーリに五年前の事件について説明することにした。

「……お待たせ。じゃあ、行こうか」

アキニレはそう言いながら戻ってきて、モンスターボールからカイリューを繰り出す。

アモル地方では、ジムバッジを八個手に入れると、自身のポケモンの力で本土とダ・カーポ島を行き来することを許される。早い話が、ジムバッジを八個持っていれば「そらをとぶ」と「なみのり」をバトル時以外でも使っていいということだ。

「カイリュー、あと三人乗るけど行けるか?」

アキニレがそう言ってカイリューの体をぽんぽんと叩く。カイリューは「任せろ」と言うように鳴き声を上げた。

「兄さん、なんでその事件の場所知ってるの?」

パロレは我慢できずに質問した。アキニレは明らかに困っていたが、「あー……」と唸り声を上げてしばらく悩んでから、アキニレは口を開いた。

「……ポケモンを盗まれたのは、俺の友達だからだよ」

アキニレが言う。それから、

「まさかパロレが事件を知ってるとはな……」

と小さく呟いた。

パロレは思わず声を漏らした。まさか、あの可哀想な事件の被害者が、こんな身近な存在だったなんて。

「その時も、スパイス団の仕業だったんですか?」

ユーリが聞くと、アキニレは首を横に振った。

「いや、犯人はまだ分かってないんだ」

「事件の後は……どうなったんですか?」

今度はクオレが尋ねた。アキニレはまたも唸り声を上げる。

「あんまり俺が話していいことじゃないと思うんだけどな……。まあ、もうポケモンは元に戻ってるから心配はいらない。二年くらいかかったけどな」

アキニレはそう言うと、パロレたちにカイリューに乗るよう促した。事件についてこれ以上話すつもりはないようだ。

「ちゃんと掴まってるんだぞ」

アキニレの声に、カイリューの背中に乗ってしがみついているパロレたちはドキドキしながら頷いた。かなり狭いが仕方がない。

「よしカイリュー!行くぞ!」

「リューッ!」

カイリューが鳴き声を上げて、翼を広げた。そして、上空へと飛び上がる。

本当は初めての経験に感動したかったのだが、パロレはそれどころではなかった。上空から見下ろすアモルの景色も、まったく美しく見えない。

パロレの心は、暗く沈みきっていた。
 ▼ 178 AYr1xkow/g 17/09/22 13:41:03 ID:3rXdlLsA [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
何年前に何年間誰が何をしていたのかをよく見てみると、あることに気がつくかも…?
もしお時間ある方がいましたら、そんなことを考えながら読んでみてくださいな!
 ▼ 179 クジキング@シールいれ 17/09/22 18:13:45 ID:XXAsgHqs NGネーム登録 NGID登録 報告
えーと…前スレから読んでるけど
前スレと同じとは限らないんだよな……三英雄が関わってくるとかかな……わからん
 ▼ 180 AYr1xkow/g 17/09/22 18:38:57 ID:N/AMs.ZI [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
アキニレのカイリューが地上に降り立つ。パロレは周りを見渡した。廃工場がある。ということは、ここは12番道路だ。

パロレたちがカイリューから降りると、アキニレはカイリューをボールに戻して歩き始めた。パロレはアキニレを追いかける。アキニレは、廃工場に向かっているようだった。

廃工場の前に、人影が見える。ポケットに手を突っ込んで、カメリアの服を身に包んだ薄紫のボブヘアの女性。あの、スパイス団と関係のありそうな女の人だ。

パロレはこっそり息を吐いた。そして、体を強張らせる。あの人は、きっと何かを知っている。

パロレが廃工場の前に立つその女の人に思いきって話しかけようとした瞬間、先にアキニレが口を開いた。

「よっ、アルセア」

アキニレが朗らかにそう言って、軽く手を挙げる。

「言い出しっぺの方がやっぱり後に来るんだよね」

アルセアと呼ばれた女の人は、そう言ってニヤッと笑った。

「え?え?」

パロレはアキニレとアルセアの顔を交互に見ながら混乱気味に声を上げた。

「急に呼び出して悪いな」

「別にいいってば」

「嫌だったら待ってていいからさ」

「だから大丈夫だって電話でも何回も言ったでしょ」

アルセアは少し面倒臭そうに言った。アキニレが少し気まずそうな顔をして頬を掻く。

「え?……え?知り合い?」

パロレが言うと、アキニレは慌てて「ああ!」と声を上げ、パロレたちに向かってアルセアを紹介した。

「彼女はアルセア。俺の友達だ。アルセア、こいつは俺の弟のパロレ。そしてこの子たちは友達のクオレちゃんとユーリくんだ」

「どうも」

アルセアは目を合わせずにそれだけ言った。

「こんにちは……。あ、あの!何度かお会いしたことありますよね……?」

パロレが遠慮がちに言うと、アルセアはようやく目を合わせてくれた。

「え?そうなのか?」

アキニレが聞く。

「まあ、何回かね」

アルセアは溜息まじりに言って肩をすくめた。
 ▼ 181 AYr1xkow/g 17/09/22 18:40:35 ID:N/AMs.ZI [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「アキニレの弟だったんだ。顔はあんまり似てないけど、お節介なところはそっくりじゃない?」

アルセアが言う。パロレは顔を強張らせた。お節介なことをした覚えはない。

「お前、一体何したんだ」

アキニレが耳打ちする。

「何もしてないよ!」

パロレは囁き返した。

「前にここに来た時に、アルセアさんに会ったんだ。その時のアルセアさん、めちゃくちゃ怖かった……」

クオレがアルセアに興味津々に話しかけている。大方、服について聞いているのだろう。パロレはその隙にアキニレにそう囁いた。

「前にここで会ったのか?」

アキニレは驚いた顔をして言った。パロレが頷く。アキニレは溜息をついて「そういうことか」と言った。

「アルセア」

アキニレが名を呼んでアルセアに近づく。アルセアが振り向いた。アキニレはアルセアの腕を掴むと、グッと自分の方に引き寄せた。

「前にもここに来たのか?一人で?」

アルセアは鬱陶しそうにアキニレを見た。

「過保護すぎない?」

「いいから」

アキニレが真面目な表情をして有無を言わせぬ口調で言った。パロレたちは訳も分からず首を捻る。パロレは、いつも自分に対する態度とはまったく違うアキニレの様子を新鮮な気分で見つめていた。

アルセアは観念したように口を開く。

「本当はもう二度と来たくなかったけど、一応見ておこうと思って来ただけ。でも何もなかったよ。どうしてここにいるかもしれないって思ったわけ?」

アルセアの質問に、アキニレはちらりとパロレを一瞥する。

「それは、あとで話す」

「何それ」

アルセアは不満げな声を出した。

「何の話してるんだろうね?」

クオレが言った。

アキニレは、パロレといる時よりも声音が少し荒い。それに、動きもなんとなく雑な気がした。女の人相手にそれでもいいのだろうかとも思わなくもないが、きっといいのだろう。それだけ気の知れた仲に違いない。

あの女の人が、兄さんとそんなに仲の良い友達だったなんて。パロレは不思議な気持ちでアキニレとアルセアを見つめた。ぼく、てっきりアルセアさんがスパイス団のボスかと思ってた……。

「どうしてアルセアさんをお呼びしたんですか?」

ユーリが聞いた。アキニレは「ちょっとね」としか答えない。

「早く行こう」

アルセアがそう言った。そして一同は、廃工場へと足を踏み入れたのだった。
 ▼ 182 AYr1xkow/g 17/09/23 00:25:24 ID:vdG3jj8I [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレたちは廃工場に入ると、それぞれの部屋を確認し始めた。以前来た時と同じように、書類や機材が散乱している。しかし、それ以外に変わったところは特に見られなかった。

五人は、一番奥の広い部屋にやってきた。アキニレがアルセアの顔をチラチラと見ている。アルセアはどこか遠くを見つめているようで、ぼんやりとしていた。

アキニレもアルセアも、何か違う目的があるように見える。リザードンを探すには、やはり自力で頑張らなければならないようだ。

パロレが何か手掛かりはないか探し出そうとすると、どこからか聞き覚えのある鳴き声が聞こえてきた。慌てて辺りを見渡すと、そこにやってきたのは、なんとセレビィだ。

「セレビィ!?また追いかけてきたのか!?」

パロレの言葉に、少し前にいたアキニレとアルセアが反応した。二人は振り向くと、目を見開いて声を上げる。

「セレビィだって!?」

「マジか」

二人は、嬉しそうに笑いながらパロレの周りを飛び回るセレビィを見て驚いている。二人とも、初めて幻のポケモンをその目で見たのだろう。

「今までに何度も会ったことがあるのか?」

アキニレが目を輝かせながら言った。その目は、セレビィに釘付けになっている。

「うん、二回くらいかな……」

パロレがそう言った瞬間、ふわりと体が浮き上がる感覚がした。慌ててセレビィを見つめると、セレビィは相変わらずいつものように楽しそうに笑っている。この感覚は、きっとあれだ。

「な、何これ?」

「どうなってるんですか?」

クオレとユーリの声が聞こえる。アキニレとアルセアは困惑しながらも、何が起こっているのかは薄々感じているようだった。セレビィの持つ不思議な力、時渡りだ。

セレビィの笑い声が聞こえる。やがて、どこか遠くに飛ばされたような不思議な感覚に襲われた。
 ▼ 183 AYr1xkow/g 17/09/23 00:26:58 ID:vdG3jj8I [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレたちがやってきた過去のものと思われる廃工場は、今とほとんど変わっていなかった。

書類も機材も床に散らばったままだ。一体、いつの時代の廃工場なのだろう。

こちらの部屋に駆けてくる足音が聞こえてきた。五人は急いでそれぞれ隠れられる場所を探してそこに飛びこんだ。

部屋に入ってきたのは、一人の顔立ちの整った少年だった。よく見ると、バジリコだ。しかし、ここは五年くらい前の廃工場なのか、バジリコの姿は昨日会った時のものではなく、パロレより少し年上くらいの年齢に見えた。

「……!」

息を呑む音が聞こえる。見れば、アキニレとアルセアが衝撃を受けたような顔をしてバジリコ少年を見つめているのが分かった。

バジリコ少年は、部屋の奥までやってくると、あの拘束具のついた不気味なカプセル型の機械を見つめて立ち尽くしていた。それから、怒りに任せて機械を思いきり蹴り飛ばした。

ガシャン。大きな音がして、機械のカプセル部分が開いていく。バジリコ少年はそれに気付くと、怪訝な顔で機械を凝視した。

「なんだ……?」

バジリコ少年が、恐る恐る機械に近づいていく。それから、機械に手を突っ込み、ガチャガチャと大きな物音を立てて中を探り始めた。

カチッと、何かスイッチの入るような音がした。それから機械が唸るような重い物音を鳴らし始める。すると、ゴゴゴと鈍い音を立てて機械が横にずれた。

「うわ」

バジリコ少年が驚いて一歩後ずさった。機械は数メートル動いてから止まった。元々設置されていたそこの奥には、地下に続く階段が見える。

「……やっぱり。何かあると思ったんだ……」

バジリコ少年はそう言って、隠し階段を降り始める。

やがて、パロレたちの体は再び浮き上がった。
 ▼ 184 AYr1xkow/g 17/09/23 00:52:56 ID:vdG3jj8I [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
セレビィが笑いながらクルクルと周り、廃工場を出ていく。こちらを見た時、セレビィはパロレにウインクしたように見えた。

「セレビィ……」

ああやって、セレビィが過去を見せてパロレを助けてくれることは初めてではない。一体、セレビィは何の目的があってパロレを過去に連れていくのだろうか。本当に、ただ気に入られただけなのだろうか。

「お、俺、時渡りしたのか!?とんでもない体験しちまった!」

アキニレが興奮気味に言った。一方、アルセアはそんなアキニレの肩を掴んでぐいぐい動かしながら、

「ねえ、さっきのバジリコだったよね?ちょっと、聞いてる?」

そう言うが、アキニレには聞こえていないようだ。アルセアは、珍しく気が動転している様子だった。

何故アキニレとアルセアがバジリコのことを知っているのか。そもそも、スパイス団の幹部であるはずのバジリコがあんな訝しげな様子でここを訪れていることからしてパロレにとっては疑問だった。

でも、今はそんなことを気にしている場合ではない。

パロレは、五年前のバジリコ少年と同じように機械を思いきり蹴飛ばした。すると、セレビィの見せてくれた過去同様に、機械のカプセルがゆっくりと開いていく。

パロレは中に手を突っ込んだ。拘束具が邪魔でよく見えないが、どうやらスイッチらしきものがある。パロレはぐいと手を伸ばしてスイッチを押した。

カチッ。ゴゴゴゴゴ……。

先程見た時と同様、機械が動いて横にずれた。その奥には、やはり隠し階段が見える。

この先に、スパイス団が、リザードンを盗んだ犯人がいるに違いない。パロレはごくりと唾を飲みこんだ。ここまで来たら、もう進むしかない。

「リザードン……」

パロレは小さな声で呟いた。

リザードン、待ってて。すぐにぼくが迎えに行くから。
 ▼ 185 AYr1xkow/g 17/09/23 23:47:58 ID:0DH5xRqo [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「まさか、あそこから地下に繋がってたなんてな……」

アキニレが天井を見上げながら言った。一同は隠し階段を降りて、長い廊下を歩いているところだった。

先頭を歩いているのはパロレだ。その後ろにクオレとユーリが横に並んでいる。そして、更にその後ろをアキニレとアルセアが歩いている。

「ここがスパイス団のアジトってことか……?」

アキニレが呟く。隣を歩くアルセアは思い詰めたような表情をしており、何も言わない。

無機質な空間だった。地下だからか、なんとなくじめじめしている気がする。

「……ここ、もしかしてメランシティの真下じゃないですか?」

ユーリが言うと、「だよねぇ!?」とクオレが食いついた。

「リュウさん、このこと知ってるのかなぁ?危ないよねぇ……」

クオレがそう言ったところで、

「はーい、そこまででぇーす!」

前からそんな声が聞こえてきた。パロレたちは慌てて声のする方を見た。そこには、後ろに三人の部下を引き連れたマリナーラが廊下の途中で遮るようにして立っていた。

「侵入者はっけーん!アッハハ!」

マリナーラはわざとらしくパロレたちに驚いたような顔をして甲高い声で笑う。マリナーラは舌なめずりをすると、ギロリとパロレを睨みつけた。

「また会ったね、ガキンチョ。今度こそマリナーラがギッタギタにぶちのめしてあげるよ」

口調こそ年相応だが、相変わらず凄まじい気迫である。しかし、アキニレは目を凝らして首を捻った。

「……?まだ子供じゃないか。パロレ、下がるんだ。俺が対処しよう」

アキニレがそう言って前に出ようとする。すると、マリナーラは鬼の形相でアキニレを睨みつけた。

「は?まだ子供?だから何?そういうのマジムカつくんですけど」

どうやらアキニレは地雷を踏んでしまったようだ。マリナーラは怒りの矛先をアキニレに向けた。

「こうなったらお前から相手してやるよ」

マリナーラの瞳孔は完全に開ききっていた。アキニレはその様子に、流石に驚いて思わず一方後ずさる。

「いや……ぼくが相手だ!」
 ▼ 186 AYr1xkow/g 17/09/23 23:56:58 ID:0DH5xRqo [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレが大声を上げた。アキニレが振り向く。

「兄さん、アルセアさん。詳しくは分からないけど、何か違う目的があるんでしょ?先に行って!」

パロレの声に、アキニレは目を見開いた。それから、申し訳なさそうな顔をする。

二人の目的が何なのかは分からない。でも、パロレは何かに気付き始めていた。

「……パロレ、ごめんな。ありがとう」

アキニレは言い終わるや否や、アルセアと共に走り出した。横をすり抜けていく二人を見て、マリナーラが「待て!」と叫ぶ。

「クッソ……おい!あの二人追いかけろ!」

マリナーラが荒い口調で指示を出すと、後ろにいた下っ端たちは「はい!」と揃えて返事をすると急いで二人を追って走っていた。

「……」

マリナーラが、首を回してポキポキと音を鳴らしながらこちらを向いた。

「……じゃーあお望み通り、まずはお前からぶっ倒してやるよ」

マリナーラはそう言って、モンスターボールを構えた。

「行け!レパルダス!」

「マリルリ!頑張るぞ!」

二人がポケモンを繰り出した。マリナーラが鋭く指示を出す。

「ねこだまし!」

レパルダスは目にも留まらぬ速さで動いた。マリルリは怯んでしまい、動けずにいる。

「レパルダス、ダメおし!」

レパルダスは更に畳みかけるようにしてマリルリに攻撃した。

「マリルリ!じゃれつくだ!」

素早いレパルダスの猛攻をくぐり抜け、マリルリはレパルダスに接近していく。そして、思いきりじゃれついた。先程までは優勢だったレパルダスは、情けない鳴き声を上げてその場に倒れた。

「……この生意気なクソガキが!行け、サーナイト!」

マリナーラが絶叫し、サーナイトを繰り出した。頭部が青緑色になっている、色違いのサーナイトだ。美しい姿をしているそのサーナイトは、主人同様険しい表情をしてこちらを睨みつけている。

「マリルリ戻れ!ジュペッタ、頼んだ!」

パロレはそう言って、ポケモンを入れ替えた。
 ▼ 187 AYr1xkow/g 17/09/24 00:23:08 ID:AoHgFarU [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「サーナイト!サイコキネシス!」

マリナーラが言うと、サーナイトは両手を前に伸ばして瞳を閉じて、触れてもいないのにジュペッタの脳内に直接ダメージを与えてきた。ジュペッタは痛そうに頭を押さえる。

「ジュペッタ!シャドーボールだ!」

ジュペッタは、痛みをこらえながら影の塊を作り出した。そして、サーナイトめがけて打ちつける。シャドーボールはサーナイトの腹部に思いきり直撃した。

「サナァ……」

サーナイトは呻き声を上げて、気を失った。

「あー!もうッ!」

マリナーラは悔しそうに声を上げた。

「何なのこのガキ!どうして勝てないわけぇ!?」

マリナーラは頭を抱えながら歯をギリギリと軋ませて言う。

パロレはマリナーラを睨みつけた。こんな、ポケモンの気持ちどころか人間の気持ちさえ理解しようとしない化け物のようなトレーナーに、負けてたまるもんか。

「あんたに構ってる余裕はないんだ。……ぼくのリザードンはどこにいる!?」

パロレの質問に、マリナーラはどうにか自分を取り繕うと、フンと鼻を鳴らした。そして、パロレを見下ろす。

「教えるわけねーだろバーカ」

「……」

自分よりずっと幼稚な相手を見て、パロレは怒りを通り越して呆れを感じていた。マリナーラは完全に開き直っている。

「ま、頑張って探してみればぁ?マリナーラは知らなーい」

腹の立つ言い方である。

「……行きましょう」

ユーリは、「関わるだけ時間の無駄だ」と言いたげな声音でそう言った。

「あのさーぁ、突破してやったぜ!って思ってるところ悪いけどぉ、あんたたちがここに来るってこと、ボスは見越してたからね?飛んで火に入る夏の虫ってまさにこのことだよねー!マジウケるー!」

マリナーラはそう言って、腹を抱えて笑い出した。甲高い耳障りな笑い声に、パロレとユーリは顔をしかめる。すると、クオレが力強い声を上げた。

「それじゃあ、あなたがパロレに負けることもボスの予想の範囲内だったってことですね!」

クオレの言葉を聞いた瞬間、爆笑していたマリナーラは一瞬で真顔になり、

「……は?」

地獄の底から響いてくるような低い声を出した。しかし、クオレはそんなマリナーラを完全に無視し、

「行こう、ほら二人とも!早く!」

そう言ってパロレとユーリを追い立てる。二人はクオレに完全に気圧されて「あ、ハイ」と返事をしていそいそとその場を離れたのだった。
 ▼ 188 AYr1xkow/g 17/09/24 00:49:18 ID:AoHgFarU [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「クオレ、強いな……」

廊下を抜け、近くの部屋にたどりつくと、パロレは心からの賞賛をこめてしみじみとそんな言葉を口にした。

「だってあの人、口も態度も悪くてなんか嫌だったんだもん!」

クオレはそう言って、腰に手を当てて頬を膨らませる。

「思わず言い返しちゃった!すっきりした、って感じ!」

まだぷりぷり怒っているクオレの姿はとても可愛らしいのだが、本人は至って真剣である。

「いや……ハハ、良かったと思いますよ」

ユーリが苦笑いしつつも本気でそう言った。

「えへへ!」

クオレは少し照れ臭そうに笑った。

「ぼくもずっとそう思ってたからスッキリしたよ。クオレありがとう」

パロレは笑顔でそう言ったものの、すぐに表情を曇らせた。

「……それにしても、リザードンはどこにいるんだろう……?やっぱり、手当たり次第探すしかないのかな……」

パロレが言う。クオレとユーリはどんな言葉をかけるべきか分からず、黙りこんでしまった。

「……二人とも、巻きこんでごめん!」

パロレは、二人に頭を下げた。

「お願い!ぼくと一緒に、リザードンを探して!」

パロレはそう言って、恐る恐る顔を上げた。クオレとユーリが、真剣な顔でこちらを見つめている。

「当たり前だよ!探すよっ!」

「もちろんです。絶対に見つけましょう!」

クオレとユーリの言葉に、パロレの視界がじわりと滲む。パロレは慌てて涙を拭いた。まだだ。リザードンは、絶対に見つけてみせる。今はまだ泣いちゃダメだ!

「クオレ……。ユーリ……」

パロレが弱々しい声で二人の名前を呼ぶ。

「わたしはバトルはあんまり自信がないから、頑張ってサポートするね。回復はわたしに任せて!」

「二人掛かりで襲ってきたら、オレに任せてください。援護します」

二人の頼もしい友人は、そう言ってくれた。パロレは力強く頷く。

「二人とも、本当にありがとう」

パロレはそう言うと、深く息を吐いた。そして、真っ直ぐに前を見つめる。

「……行こう!絶対にリザードンを取り戻す!」
 ▼ 189 AYr1xkow/g 17/09/24 12:30:19 ID:uKV6DBCM [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
三人は、複雑に入り組んだスパイス団のアジトを歩き回った。たくさんの部屋に入り、たくさんの下っ端たちと戦ったが、リザードンはまだ見つからない。パロレの気持ちは、どんどん沈んでいった。

「……」

三人は、とうとうアジトの最奥部までやってきていた。目の前には大きな扉がある。

「いかにもって感じのドアだな……」

パロレは呟いた。

扉の横には、小さな液晶画面が取りつけられている。クオレが試しにタッチしてみると、画面が明るくなった。

「パスワードを入力してください」

画面に文字が映し出された。三人は顔を見合わせる。ここまで来る間に、パスワードらしきものは見つけた。パロレは画面に出たキーボードをタッチして、パスワードを打ちこむ。

「認証中……」

画面中央に丸マークが現れ、パスワードを読みこんでいく。

「認証しました」

パロレたちの顔がぱっと輝く。

「セキュリティシステムを解除します」

そして、大きな扉が重々しい音を立てて開き始めた。三人は見つめ合い、頷く。そして、奥へと進んだ。

最奥部にある部屋には、大きなモニターや複雑そうな機械がいくつも並べられていた。アジトの入口を隠していたあのカプセル型の機械と同じものもいくつかある。また、似たような形をした少し小さな機械も何種類か置いてあった。更には、見たことのない形をしたモンスターボールも置いてある。

「リザードン……どこにいるんだ……?」

パロレが呟く。すると、奥に誰か人がいるのが見えた。三人は思わず体を硬くした。

「誰だ!」

ユーリが鋭い声を上げる。

「……それは私の台詞なのだが」

そう言いながら、人影はこちらへと近づいてきた。がっちりとした大きな体に、スキンヘッドの頭、鋭い眼光。ボンゴレだ。

「まあいい。侵入者は奥まで通すようにとボスから連絡が入っている」

ボンゴレはゆっくりとした口調で言った。パロレたちは黙りこんでいる。

「今ここに君のリザードンはいない」

ボンゴレの言葉に、パロレは唇を噛む。

「ボスは本来は君に会うつもりも完成品を見せるつもりもなかった。しかし、せっかく来たのならもてなしたい、とのことだ」

「完成品……?」

パロレは首を捻った。一体何のことだろう。

「むしろここで帰られても困る。時間稼ぎさせてもらおう。私とバトルしろ」

ボンゴレはそう言うと、モンスターボールからポケモンを繰り出してきた。
 ▼ 190 AYr1xkow/g 17/09/24 13:55:00 ID:uKV6DBCM [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「行け、グラエナ」

「マリルリ!行くぞ!」

パロレもポケモンを繰り出した。

「かみくだく」

グラエナはマリルリに思いつき噛みつき、牙を剥き出して何度かマリルリの丸い体を噛んだ。マリルリは痛そうにしているものの、それほどダメージを食らっているようには見えない。

「マリルリ!じゃれつく!」

マリルリは、自分に噛みついているグラエナの首を短い腕でしがみついた。グラエナがたじろぐ。マリルリはそのまま、グラエナにぴったりと張り付いたままじゃれつき始めた。

グラエナは鬱陶しそうに呻き、マリルリを振り落とそうとする。しかし、やがてマリルリが離れる前にグラエナは力尽き、その場に倒れこんだ。

「いけ、レントラー」

ボンゴレは至って冷静で、表情ひとつ変えずにグラエナをボールに戻した。レントラーを見て、パロレもポケモンを入れ替える。

「マリルリ戻れ。サナギラス!頑張るぞ!」

「……かみくだくだ」

ボンゴレの指示で、レントラーは先程のグラエナと同じようにサナギラスに攻撃した。でんきタイプの技を無効化しようとサナギラスを繰り出したはいいものの、サナギラスはかみくだくでかなり消耗しているようだった。やはり、進化しているポケモンとは能力に差が生まれてしまう。

「よし、サナギラス!一旦戻ろう!ロズレイド!任せた!」

「かみくだく」

パロレがポケモンを入れ替えると、ボンゴレは間髪入れずに指示を出してきた。レントラーがロズレイドに噛みつく。しかし、レントラーはすぐに口を離してしまった。苦しそうな表情をしている。ロズレイドのどくのトゲに当たってしまったのだろう。好都合だ。

「ロズレイド!ベノムショック!」

ロズレイドが毒液をレントラーに浴びせた。どく状態のレントラーには、二倍のダメージが与えられる。

レントラーはロズレイドの攻撃を受け、ギリギリ持ちこたえた。よろめきながらも立ち上がり、攻撃を続けようとする。しかし、結局体内を侵す毒に耐え切れず、レントラーは倒れた。

「……」

ボンゴレは無言でレントラーをボールに戻す。それから、

「そろそろ頃合いだ」

そう言った。

勝敗を決めるためではなく、単純に時間を稼ぐために仕掛けられたバトルだ。ボンゴレは負けたことに関しては何とも思っていなさそうで、パロレは苛立ちを覚えた。

何なんだよもう!早くリザードンを返してくれよ!

パロレが心の中で怒りを爆発させていると、背後で扉が開く音がした。パロレたちはビクッと肩を震わせる。

「ボスがいらっしゃったようだ」

ボンゴレが言った。

とうとう、スパイス団のボスのお出ましだ。一体誰なんだろう。パロレには見当がつかなかった。やっぱりアルセアさん?もしかして、兄さんやぼくたちを騙してここまでおびき寄せてたりして。パロレは、よく回らない頭でそんなことを考えた。

部屋の重い扉が緊張感と共にゆっくりと開いていく。そして、スパイス団のボスが入ってきた。
 ▼ 191 ルリル@シールいれ 17/09/24 23:58:45 ID:EXciiv6w NGネーム登録 NGID登録 報告
そんな気になる所で……
支援!
 ▼ 192 AYr1xkow/g 17/09/25 16:59:59 ID:S1.v64qA [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「待たせちゃってごめんなさいね」

よく知っている声が聞こえてくる。つい昨日聞いた声だ。

「え……」

誰かが声を漏らした。パロレたちは愕然としてスパイス団のボスを見つめた。

緑色の瞳に、紫色の髪。いつもは下ろしている長い髪は、ひとつ結びでまとめてある。その人物はよく見た白衣姿ではなく、スタイリッシュなパンツスーツ姿で部屋の中に入ってきた。

「スリジエ博士……?」

クオレが力なく声を上げる。

「そんな……」

ユーリも信じられない、という顔だ。

「あなたが……」

パロレは囁くように言った。

「バジリコくん、マリナーラちゃん、あなたたちもこちらにいらっしゃい。記念すべき瞬間よ。みんなで一緒に迎えましょう」

スリジエはそう言って、扉の外に向かって声をかけた。部屋に、バジリコとマリナーラが入ってくる。パロレは絶望的な思いでそれを見つめていた。

信じられない。博士がスパイス団のボスだったなんて。パロレは呆然と博士を見つめた。スリジエはいつものような、優しく温かい表情を浮かべている。けれど、何故かその瞳は酷く冷たく見えた。

……でも、考えてみればそうだ。少しだけ冷静になったパロレは、そう思い直した。

バジリコにリザードンが盗まれたのだとしたら、博士に回復してもらうためにボールを預けた時に気付いていたはずだ。うっかりしていた。ホテル・グラーツィアでボールを預けたあの時に、スリジエがリザードンを盗んだのだ。

信じたくない。信じられない。でも、それが真実だ。

「ボス、侵入者はあと2人いるんですよぉ。したっぱたちに追わせたけどみんな返り討ちに遭っちゃって……」

マリナーラが甘えるような声を出した。

「あいつら、あのガキンチョと同じくらい……いや、それよりも強いかも!」

マリナーラはパロレを指差した。

「あと二人……?」

バジリコが首を捻る。

「知ってるわ」

スリジエは軽い口調で答えた。

「そりゃ、八歳も年上だもの。バトルだけじゃなくて立ち回りもパロレくんたちよりずっと上手なのよ」

スリジエの言葉に、バジリコが反応した。目を見開いてスリジエを見つめている。スリジエは明らかにバジリコの反応を楽しんでいるようだった。

「その子たちの欲しいものも私が持ってるのよ」

スリジエの瞳が半月型に歪む。そこでバジリコは何かを悟ったように諦めた表情を浮かべた。

「二人もそろそろここに来るはず。待ちましょう」
 ▼ 193 AYr1xkow/g 17/09/25 17:03:25 ID:S1.v64qA [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「一体どういうこと……?博士がスパイス団のボスだったの……!?」

クオレが悲痛な声で言う。

「信じられませんが……そういうことなんでしょう……」

ユーリは何も考えられないようだった。そこで、再び部屋の扉が開き始めた。パロレたちが勢いよく振り返る。スリジエは余裕たっぷりの面持ちで扉を見つめている。

入ってきたのは、アキニレとアルセアだ。二人は部屋に入るなり、とある人物を見て「あっ!」と大きな声を上げた。

アキニレとアルセア、それからバジリコが互いを見つめたまま数秒間黙りこくる。それから、

「……アルセア」

バジリコが掠れた声を上げた。

「な、なんで二人がここに……」

バジリコがぶつぶつと呟いた。その様子を見ていたクオレが、

「ど、どういうこと……?」

首を傾げてそう言う。

「お知り合いなんですか!?」

ユーリがそう言った。

アルセアがバジリコに近づいた。アキニレもその後ろをついていく。パロレは、三人を見てとあることを思い出した。

アルセアもバジリコも、初めて会った時、初対面のはずなのに何故かどこかで見たことがある気がした。その理由がやっと分かったのだ。八年前のラランジャの森と、アキニレの机の上の写真に二人がいたからだ。

写真の中央に写っていた、ラランジャの森で一番に出口にたどりついた女の子がアルセア。写真の一番左に写っていた、ラランジャの森で最後に出口にやってきた男の子がバジリコだ。

あの二人が、博士にポケモンをもらってアキニレと一緒に旅立った友達だったのだ。

「博士、どういうことですか?どうして二人が……どうしてアルセアがここにいるんですか?」

バジリコが聞く。そこでアキニレとアルセアはスリジエがいることに気付いた。二人は声も出ないようで、愕然とした顔でスリジエを見つめた。

「さあ、知らないわ。彼女が来たいと思ったからじゃない?」

スリジエは投げやりな口調で言う。

「さて、全員揃ったわね。それじゃ始めましょう」

スリジエはそう言って手を叩いた。

「博士……」

アキニレが力なく呟いた。
 ▼ 194 AYr1xkow/g 17/09/25 17:06:07 ID:S1.v64qA [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ポケモンと人間の絆は本当に存在する。その絆はポケモンを強くする。潜在能力を引き出させる。時には進化やメガシンカをもたらす」

スリジエが話し始めた。

「……ええ、知っています。それはあなたが研究していたことですから」

アキニレが苦しそうな声で言った。スリジエはフッと鼻で笑い、説明を続ける。

「……でもね、絆はポケモンに制限を与えてしまうの。トレーナーは人間で、ポケモンよりも弱く脆い存在。ポケモンは彼らを傷つけないように、彼らを守るために、力を無意識に制限してしまう。……パロレくんには、前に教えてあげたわよね」

スリジエはそう言ってパロレに向かって微笑んだ。パロレは何も言えず、黙ってスリジエを見つめるだけ。

「……なんて」

スリジエはそう言うと、深く息を吸った。それから、

「なんてもったいないのかしら!」

いきなり大きな声を上げる。一同は驚いてスリジエを見つめた。

「そうでしょう?とってももったいないことだと思わない?せっかく奥に秘めた力を発揮することができるようになったのに、それを自ら制限してしまうなんて!愚の骨頂だわ!」

スリジエはヒステリックに叫んだ。

「だから私は考えた。トレーナーと絆を深めたポケモンから、そのトレーナーの記憶を消して……」

スリジエの言葉に、アルセアが息を呑む。

「……彼らの真の力を使わせてあげるの。覚醒させてあげるの!そうすれば、ポケモンたちは引き出された潜在能力を本能で使えるようになる。もうトレーナーだなんて足枷はいらない。自分の力を制限する必要はない。自由よ!ポケモンたちは縛られることなく強大な力を操ることができる!」

スリジエは更にエキセントリックに、両手を広げて高らかに声を上げた。

「そんなの、ひどい!」

クオレが思わず大声を上げる。

「あら、どうしてそう思うの?」

スリジエは両手をゆっくり下ろし、振り向いてクオレを光のない瞳で見つめた。
 ▼ 195 AYr1xkow/g 17/09/25 17:08:12 ID:S1.v64qA [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「命令を出して戦わせることの方がよっぽど酷いと思うわ。だって、そのポケモンはもしかしたら違う技を出したいかもしれないのに」

スリジエはわざとらしいくらいに残念そうな声音で言った。クオレは何も言い返せずに黙りこんでしまった。

「私は野生のポケモンにはあまり興味がないの。伝説のポケモンや幻のポケモンもそう。むしろ彼らには敬意を払っているつもりよ」

スリジエはくるりと向きを変え、歌うような口調で続ける。

「彼らには制限がない。迂闊に手を出したら大変なことになるわ。でもトレーナーのポケモンは違う。……彼らもそうあるべきよ!」

スリジエが言う。すると、アキニレが悔しそうに口を開いた。

「……だから子供たちにポケモンを与えて旅をさせたわけですね。パロレたち……そして、八年前の俺たちに」

「そうよ」

スリジエはそう言ってにっこりと笑った。

スリジエは、自分の手中に収めることのできるトレーナーにポケモンとの絆を深めさせるために、何も知らない子供たちにポケモンを与えていたのだ。卑劣な手段だ。パロレの胸に、ふつふつと怒りが湧いてくる。

「オレたちは、利用されていたのですか……」

ユーリがショックを受けた声で言う。

「利用ですって?とんでもない!」

スリジエはそう言うと、甲高く癪に触る笑い声を上げた。

「あなたのことはあくまで観察していただけよ。ポケモンの潜在能力を引き出させることが下手なトレーナーもいるの。ユーリくん、あなたもそう。クオレちゃんもね」

スリジエはそう言いながらユーリとクオレに視線を送った。それからバジリコの方を向く。

「八年前も同じ。バジリコくん、あなたもそうだったわね」

「……」

バジリコは何も言わなかった。
 ▼ 196 AYr1xkow/g 17/09/25 17:44:20 ID:S7Hn9Cxg [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「でもアルセアちゃん、あなたは特に違かった。……あなたはとても強いトレーナーよ」

スリジエが嬉しそうな声で言いながら、アルセアに近づいていく。一方アルセアは冷たい瞳でスリジエを睨みつけると、

「五年前の事件も、あなたが犯人だったんですね。失望しました」

はっきりとした口調で言い放った。

「なんとでもどうぞ」

スリジエはまったく意に介していない。

「バジリコくんは、五年前に私がスパイス団に勧誘したの。とっても簡単だったから、びっくりしちゃった!」

スリジエは珍しいポケモンを捕まえて喜ぶ子供のような口調で言った。アルセアが顔を歪める。すると、バジリコが大声を上げた。

「博士!」

スリジエがバジリコの方を向く。バジリコは顔をしかめ、苦しそうな声で言った。

「アルセアには手を出さないと約束したじゃないですか!だから俺はスパイス団に入ったんですよ!」

「……は?」

アルセアが思わず声を上げる。

「知らないわよ。言ったでしょう?私からは手を出さないって」

スリジエは最後の文章に力をこめて言った。

「彼女があなたに会いたくて、ポケモンが元に戻ってから三年前からずっと、あなたを探し続けてここまで来てくれたのよ」

スリジエは小馬鹿にするような口調で言った。

「え……?アルセアが俺を……?」

バジリコがそう言って、再びアルセアを見つめる。アルセアは何も言わずに視線を逸らした。

「だってバジリコくんがここにいればアルセアちゃんがまた来てくれると思ったんだもの。だからあなたをスパイス団に入れたのよ!」

スリジエは甲高い声で言った。

「まさか、そんなことにも気付いていなかったの?可哀想な子」

スリジエが冷たく言った。バジリコは、唇を噛み締めて床を睨みつけている。

「それに、あなたがスパイス団に入った本当の理由はそうじゃないでしょう?」

スリジエはそう言って、にやりと笑った。
 ▼ 197 AYr1xkow/g 17/09/25 17:48:15 ID:S7Hn9Cxg [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「これから私はたくさんのポケモンたちを覚醒させてあげる。そうすればたくさんの兵器が手に入る!そして私は、すべての人間を恐怖で支配する!」

「……!?」

一同は唖然としてスリジエを見つめた。まさか、そんなことを考えていたなんて!

「博士、何を……!」

アキニレが声を上げる。

「そのために私はポケモンとの絆を深めることが得意な強いトレーナーを探し求めた。……アモル地方で唯一メガシンカを使うことのできるような、強いトレーナーをね」

スリジエはそう言って、アルセアを真っ直ぐに見据える。

「アルセアちゃん、あなたはとても強い。でも試作品……アウェイクマシーンには致命的なバグがあった」

スリジエはそう言って、ちらりと部屋に並べられたカプセル型の機械に目をやった。スパイス団アジトの入口を隠していた同じモデルのあの機械が、恐らくそれなのだろう。

「覚醒させたあなたのポケモンは手に負えないほど暴走してしまい、コントロールが効かなくなってしまった」

「……」

アルセアは黙って聞いている。

「もう一度アルセアちゃんのポケモンを使いたかったけど……でも、あなたのポケモンは言わば失敗作だものね。もういいわ」

スリジエは軽い口調でそう言うと、くるりとパロレの方を向く。

「代わりにもう一人興味深いトレーナーを見つけたのよ。ね、パロレくん」

スリジエがそう言ってウインクする。

「え……ぼく……!?」

パロレは急に名を呼ばれ、狼狽えながら声を上げた。

「やっとアウェイクボールの開発に成功したの……」
スリジエはしみじみとした口調でそう言って、ボールをひとつ取り出した。見ていて不安になるほどに真っ黒な、見たことのないボールだった。

「さあ、初めての完成品よ!ご覧なさい!」

「……!?博士……!」

パロレがそう言って、スリジエの元に行こうとした。しかし、

「出てらっしゃい!」

スリジエはそう言ってパロレがやってくる前にアウェイクボールを投げ、ポケモンを繰り出した。

「……!」

パロレは息を呑んだ。

博士が手に持っていたアウェイクボールからは、見覚えのあるポケモンが出てきた。それこそがパロレのリザードンだったのだ。リザードンは禍々しいオーラを纏いながら呻いている。

「……そんな」
 ▼ 198 AYr1xkow/g 17/09/25 18:06:32 ID:S7Hn9Cxg [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>196
修正

「彼女があなたに会いたくて、ポケモンが記憶を取り戻した三年前からずっと、あなたを探し続けてここまで来てくれたのよ」
 ▼ 199 マコブシ@ホエルコじょうろ 17/09/25 19:19:25 ID:Fx4bUC2. NGネーム登録 NGID登録 報告
黒幕女博士好き
支援
 ▼ 200 ンカラス@スピードボール 17/09/26 15:59:42 ID:XNRBy9WY NGネーム登録 NGID登録 報告
スリジエ博士、ビッケさんとルザミーネさんを足して二で割ったみたいなイメージ
利用されたい
 ▼ 201 AYr1xkow/g 17/09/26 21:03:42 ID:8OdTuzX6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
唐突ですがアルセアのファッションは「プラダを着た悪魔」のアンディが大変身した時に着ている服をイメージしています
シャネルのジャケット素敵ですよね
 ▼ 202 AYr1xkow/g 17/09/27 11:24:23 ID:qWn/l.lk [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「リザードン……ぼくだよ。パロレだよ。分かるだろ?なあ……」

パロレは弱々しい声でそう言いながら、リザードンによろよろと近づいた。リザードンには、パロレの声は届いていないようだ。禍々しいオーラを放ちながらパロレを睨みつけている。

「リザードン……」

悲痛な声を漏らし、パロレは瞳を滲ませる。

「どうして……どうしてこんなことに……」

パロレはそう言って、俯いてしまった。

博士がこんなことをするなんて、許せない。でもそれ以上に、パロレは悲しかった。悔しかった。

ぼくが悪いんだ。パロレはそう思った。リザードンはぼくの相棒なのに、守りきることができなかった。トレーナー失格だ。

「なんてことを……」

愕然とした声でアキニレが言う。それから、アキニレはアルセアをちらりと見た。アルセアはリザードンから目を離せないようだった。

「あなたは間違ってる。今すぐそのリザードンを彼に返して!」

アルセアが言った。同じ経験をしたただ一人の存在である彼女だけが、パロレの苦しみを理解できる。

「嫌よ、そんなことするものですか!」

スリジエは大声を上げた。

「ふふふ、実験は上手く行ったようね……!これならあなたのポケモンも使いこなせるかしら……。ね?アルセアちゃん」

スリジエがそう言って、アルセアに意地の悪い笑みを向ける。アルセアは「いい加減にして……」と低い声で唸り、腰のモンスターボールに手をかけた。それを見たスリジエが、

「あら、私とバトルしたいの?いいけど、あなたほどの実力があってもこのリザードンに勝つことは難しいかもしれないわよ……ふふふ……」

こみ上げる笑いをこらえきれない様子で言う。

アルセアはポケモンを繰り出そうとした。しかし、手が震えている。五年前の事件を完全に思い出してしまったのだ。

あの日見つけた、我を忘れて廃工場で書類や機械を破壊し暴れ回っていた自分のポケモンの姿は、彼女の脳裏に今も強く焼きついている。ポケモンはアルセアのことをすっかり忘れて、アルセアにも襲いかかってきた。たとえそのポケモンが今は記憶を取り戻していたとしても、五年前の事件は、ずっとアルセアの心に残っている。

「アルセア」

バジリコがアルセアの元までやってきていた。モンスターボールに触れようとするアルセアの手を、バジリコは自分の手で上から包みこんだ。

「何?」

アルセアは強がっている。バジリコはじっとアルセアを見つめた。五年間、ずっと会いたかった人が目の前にいる。ああ、何故五年前はこんな簡単なことも出来なかったのだろう。

「やだ、まるで映画みたい」

スリジエは吐き捨てるように言った。
 ▼ 203 AYr1xkow/g 17/09/27 11:27:28 ID:qWn/l.lk [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あの子たちに構う必要はないわ。リザードン!好きに暴れちゃいなさい!」

スリジエが言うと、リザードンは仰々しい鳴き声を上げ、大きな尻尾をアルセアめがけて叩きつけた。

「メタグロス!」

バジリコが咄嗟にメタグロスを繰り出した。メタグロスの硬い体が、リザードンの尻尾を弾く。

「バジリコくん、今度は私のことを裏切るの?」

スリジエが高圧的な声で言った。

「あなたは五年前に幼馴染の二人を裏切って私の元へ来たんでしょう。今更何様のつもり?」

バジリコは唇を噛みしめた。それから、スリジエに向き直る。

「俺が間違ってた……今はそれを正すだけです」

それから、カッと怒りを剥き出しにした。

「それに博士、言わせてもらいますけど、十六歳の男子にめちゃくちゃ言って自分の近くに置いておくあんたもあんたですよ!」

「おい、開き直るな」

アキニレがそう言ってバジリコの頭をぺしっと叩いた。

「……悪い」

バジリコが小さな声で言う。

「おう」

アキニレはそう言って、ニカッと笑った。二人の間にはそれだけで十分だ。

「博士、俺も黙ってはいられませんよ」

アキニレはそう言ってスリジエを見据えた。

「俺の友人も弟もあなたによって傷つけられている……容赦はしません」

それから、アキニレは少し呆れたような口調で続けた。

「それに……いや、色々悩んでる十六歳のイケメン男子をマフィア組織に勧誘するのは確かに……」

アキニレが言い淀む。

「キモイ」

アルセアが助け舟を出した。

長い間自分の言いなりだった三人の子供は、いつの間にか子供ではなくなっていた。スリジエは歯軋りをしてアキニレたちを睨みつけた。それから、クオレとユーリに視線を向ける。クオレは、力強い瞳でスリジエを睨んでいた。

「わたし、確かにバトルは得意じゃないです。下手くそです。でも、あなたには絶対に負けたくない!」

「オレは……」

ユーリは顔をしかめた。ポッチャマをくれた時、経験したことは無駄にはならないと言ってくれた。でもそれは、スリジエにとって都合のいい結果をもたらすための言葉だったのだ。ユーリは意を決して声を上げる。

「オレは、あなたに感謝していたのに……!あなたは俺だけじゃない、すべての人たちを裏切った!」
 ▼ 204 AYr1xkow/g 17/09/27 11:28:39 ID:qWn/l.lk [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「うるさいわね、どの子も!」

スリジエはイライラした様子で言った。

「リザードン、ほら!全員ぶちのめしてやって!」

スリジエが言うと、リザードンは「グルル……」と唸り声を上げた。

「……」

パロレは黙っていた。リザードンは相変わらず呻いている。とても苦しそうだ。

みんなが怒っている。パロレも怒っている。当然だ。でも、そんなことよりも、リザードンが元に戻ってくれるだけでいいのだ。パロレはもう一歩リザードンに近づいた。危険でも構わない。帰ってきてくれれば、それだけでいい。

「……リザードン」

パロレはぽつりぽつりと言葉を紡ぎ出した。

「思い出してよ。初めてお前を見た時、ぼくは感じたんだ。お前こそがぼくの最高のパートナーなんだって。そしてそれは本当だった」

パロレは息を吸って、続ける。

「今まで……いろんなことがあったよな。ジムを制覇するためにいろんな街を巡って……スパイス団とたまに戦いながら……クオレとユーリともよくバトルした。楽しかったよな?」

パロレは、思い切って手を伸ばした。リザードンの顔に触れる。リザードンは苦しそうな声を上げてはいたが、暴れはしなかった。

「ぼく、リザードンと一緒なら本当にどこまでも行ける気がしたんだ。戦うだけじゃなくて、遊んだり……協力しあったり……あ、古代都市でカゲボウズを一緒に追いかけたりしたじゃないか?覚えてるだろ?なあ……リザードン……」

パロレは、絶対に泣くまいとどうにかこらえながら続けた。

「お前と一緒に旅をできるだけで、本当に幸せだったんだ。リザードンだってそうだろ?分かるんだよ。だってぼくとお前は、相棒だから!」

「グルルルル……」

リザードンの瞳が揺れた気がした。なんだか、迷っているように見える。

「リザードン……、お願いだ!ぼくを思い出して。ここに戻ってきて……!」

パロレは、心からのただひとつの願いを口にした。
 ▼ 205 AYr1xkow/g 17/09/27 11:30:07 ID:qWn/l.lk [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「リザードンは記憶を失ってるのよ。無理に決まってるでしょ!」

スリジエが声高らかに言う。

「無理なんかじゃない!」

ユーリが言った。

「ポケモンと人間の絆が本物だって言ったのはあなたじゃないですか!」

アキニレも言った。

「ああもう!うるさいわね!」

スリジエは喚いた。それからリザードンに向き直る。

「リザードン!何をしているの?どうしてそんなに苦しんでいるの!?私があなたを覚醒させてあげたのに!制限を取っ払ってあげたのに!自由にしてあげたのに!」

スリジエはもはや絶叫していた。でも、パロレにその声は届いていない。パロレは、目の前のリザードンだけをただ見つめていた。

「リザードン……ッ!」

パロレがリザードンの名を呼び続ける。すると、リザードンの手元がまばゆい輝きを放ち始めた。

「!?」

一同が驚いてリザードンを見つめた。

「な、何が……」

パロレも訳が分からず、そんな情けない声を上げてしまう。すると、クオレが声を上げた。

「パロレ!パロレのリュック、何か光ってるみたいだよ!?」

パロレは急いでリュックを前に引き寄せた。確かに、何かが光っているようだ。

「ほんとだ……!」

パロレは急いでリュックの中を漁った。そして、何が光っているのかを慌てて探す。

「……!」

光っていたのは、コルネッホに貰った輝く石だった。そういえば、リザードンにはあるものを持たせていたことを思い出す。オリヴィエに貰った、不思議な石だ。

輝く石は、貰った時より明らかに強い輝きを放っていた。あの時は、淡く光っていただけなのに。

ふたつの石は共鳴するようにして輝いている。パロレは、輝く石を手に取った。すると、リザードンの持つ不思議な石の輝きが更に増す。パロレは、輝く石を思いきり掲げた。

その瞬間、リザードンの姿が大きな光を放った。
 ▼ 206 AYr1xkow/g 17/09/27 16:45:45 ID:n1xiiVZ2 [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「リザァー!」

リザードンが力強い咆哮を上げる。

「……!?」

パロレは唖然としてリザードンを見上げた。後ろでアルセアが息を呑んだのが分かった。

光を解き放ったリザードンの体躯は、いつものオレンジ色ではなく、真っ黒になっていた。口元や尻尾の先には青白い炎を纏っている。

「リザードン……!」

パロレは目を見開いた。もしかして。もしかして、これは。

「なんですって!?そ、そんなバカな……!」

スリジエが愕然とした声を出す。

「い、一体何が……!?」

「リザードンの姿が……変わっています!」

クオレとユーリも、驚きの声を上げた。

「リザァアー!」

姿を変えたリザードンは、パロレを真っ直ぐ見つめて力強く頷いた。 パロレの顔が、ぱっと輝く。

「リザードン……!」

パロレはリザードンに駆け寄り、ぎゅっと抱きしめた。

「あは……よかったぁ」

思わず、笑いがこみ上げてくる。

「どうしたんだよいきなり。すごくかっこいいよ、リザードン」

パロレはそう言って、リザードンの頭を撫でた。

「リザ、リザ……!」

リザードンは、まるで謝るように鳴き声を上げる。パロレは首を横に振った。

「お前は悪くないよ。思い出してくれてありがとう。もう、二度と離さないから……」

そう言って、パロレは鼻をぐすっと鳴らした。パロレがリザードンとの再会を喜んでいる間、スリジエはぶつぶつと呟いている。

「そんな……どういうこと……?ありえない!」

スリジエはパロレとリザードンを睨みつけた。

「絆の力が記憶を呼び覚ましてメガシンカさせたというの!?信じられない……!どうしてパロレがメガシンカを使えるの!?」

「……!あれが……!」

ユーリが声を上げる。

そう、パロレがコルネッホから受け取った輝く石はキーストーンの原石で、オリヴィエから受け取った不思議な石はリザードナイトXだったのだ。
 ▼ 207 AYr1xkow/g 17/09/27 16:47:04 ID:n1xiiVZ2 [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……ッ!こうなったら……!」

スリジエは歯を食いしばって言った。そして、いきなり自分のモンスターボールをすべて取り出し、ポケモンたちを繰り出した。一同が怪訝な顔をしてスリジエを見つめる。

スリジエは、モンスターボールを持ってとある機械の方へと向かう。そして、モンスターボールを機械にはめこんだ。機械の隣には、アウェイクボールが並べられている。

「まさか……」

アルセアが呟いた。

モンスターボールに入っているポケモンたちが、アウェイクボールの中に転送されていく。

「博士、一体何を!」

アキニレが慌てて声を上げた。

「あなたとあなたのポケモンとの絆もまた、本物だったはずでしょう!?」

アキニレは大声で言ったが、スリジエはなりふり構わずポケモンたちをどんどん覚醒させていく。

「いいのよ!この日のためにずっと育ててきたんだから!」

スリジエは叫んだ。

「強くなるためには……手段を選んでなんていられないのよ……」

スリジエは唸るように言う。すると、機械が音を立てた。アウェイクボールへの転送が終了してしまったようだった。スリジエが引きつった笑みを浮かべる。

「さあ、覚醒したみんな、出ていらっしゃい!」

スリジエはそう言って、アウェイクボールを手に取る。それからパロレたちをぎりりと睨みつけた。

「あなたたちは全員私の力の前にひれ伏し、その強さによって支配される!そういう宿命なのよ!」

スパイス団のボスのスリジエが、勝負をしかけてきた。
 ▼ 208 AYr1xkow/g 17/09/27 23:35:58 ID:n1xiiVZ2 [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
>>207
修正



スリジエは歯を食いしばって言った。そして、いきなり自分のモンスターボールをすべて取り出し、ポケモンたちを繰り出した。一同が怪訝な顔をしてスリジエを見つめる。
 ▼ 209 AYr1xkow/g 17/09/27 23:38:14 ID:n1xiiVZ2 [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
>>207
すみません、>>208は無視してください


修正

「……ッ!こうなったら……!」

スリジエは歯を食いしばって言った。そして、いきなり自分のモンスターボールをすべて取り出した。一同が怪訝な顔をしてスリジエを見つめる。


 ▼ 210 AYr1xkow/g 17/09/28 00:51:17 ID:Bhk05Ikk [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「リザードン」

パロレが名を呼ぶ。メガリザードンXとなったリザードンは、パロレの方を振り向いた。

「ぼくは、お前と一緒にいられれば何でも出来る。本当にそう思うんだ。だから……博士を一緒に止めよう!」

メガリザードンXは、同意するように大きく咆哮を上げた。パロレは頷いた。

「ポリゴンZ!行きなさい!」

スリジエがポリゴンZを繰り出した。ポリゴンZは、禍々しいオーラを放っている。パロレはぐっと拳に力をこめた。

「リザードン!ドラゴンクロー!」

メガリザードンXが、硬くなった爪でドラゴンのように激しくポリゴンZを斬りつけた。

「ポリゴンZ!でんじほうよ!」

ポリゴンZは、凄まじい勢いで電気を放出した。メガリザードンXの体を電流が襲う。メガリザードンXは麻痺してしまい、苦しそうに顔を歪める。

ポリゴンZは、アウェイクボールに入れられて覚醒したことで強くなっているようだった。思ったよりダメージが入っていないような気がするし、逆にでんじほうでは通常より多くのダメージを受けてしまったような気がする。でも、負けてはいられない。

「リザードン、頑張れ!もう一度ドラゴンクローだ!」

メガリザードンXは、ぐっと体に力をこめた。そして、やっと思い出すことのできた相棒に褒めてもらおうと、メガリザードンXは体の痺れを振り切り、なんと自力でまひ状態を治してしまったのだ。

「リザ!」

メガリザードンXが、任せろ!とでも言っているように鳴く。

「リザードン……!」

パロレは目を輝かせた。メガリザードンXが、再びドラゴンクローでポリゴンZに攻撃する。ポリゴンZは気を失ってしまった。

「く……っ」

スリジエは悔しそうに唇を噛む。

「行きなさい!サザンドラ!」

繰り出されたサザンドラもまた、禍々しいオーラを放っている。

「リザードン!もう一度ドラゴンクロー!」

メガリザードンXは素早く動き、サザンドラにドラゴンクローをお見舞いする。その、心の通い合った攻撃を受けたサザンドラは、きょうぼうポケモンであるにも関わらず、一撃で戦闘不能になってしまった。

「いいぞリザードン!」

パロレが声をかける。

「リザァ!」

メガリザードンXも、調子よく鳴き声を上げた。
 ▼ 211 AYr1xkow/g 17/09/28 00:53:05 ID:Bhk05Ikk [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「どうして……どうして!?この子たち、覚醒しているはずなのに!」

スリジエは心の底から疑問に思っているようだ。

彼女は分かっていない。分かっていないのだ。自分で研究していたはずなのに、何故パロレとパロレのポケモンたちが強いのかを分かっていない。

絆があるから頑張れる。トレーナーを、ポケモンを、思う気持ちがあるからこそ強くなれる。制限なんて関係ない。互いに信じ合い、相手のためになりたいと思えるからこそパロレは強いのだ!

「キレイハナ!行きなさい!」

キレイハナも、禍々しいオーラを放っている。パロレは可哀想だと思った。キレイハナだけではない。ポリゴンZもサザンドラも、苦しそうにしていた。きっと彼らも、心からスリジエのことを信頼していたのだ。それなのに、記憶を無理矢理奪われ、力を振るうことを強いられているのだ。

彼らをその苦しみから解放してあげたい。パロレはそう思った。そのためには、今全力で戦うしかない。

「リザードン!フレアドライブ!」

メガリザードンXは、全身に炎を纏った。そして、キレイハナめがけて勢いよく突進する。キレイハナは突き飛ばされてそのまま気を失った。

「なんてこと!ブーバーン!行きなさい!」

スリジエは発狂しかけていた。キレイハナを戻し、ブーバーンを繰り出す。ブーバーンも、禍々しいオーラを放っている。

メガリザードンXは反動でダメージを受けている。少し息が荒い。パロレはモンスターボールを手に取った。

「よし。リザードン!ありがとう!少し休んでてくれ。行くぞ!マリルリ!」

パロレはメガリザードンXをボールに戻し、マリルリに入れ替えた。

「ブーバーン!かみなりパンチよ!」

スリジエが指示を出す。ブーバーンは俊敏に動き、電力を纏った拳でマリルリに思いきり殴りかかった。覚醒しているからか、やはりダメージは大きいようだ。

「マリルリ!アクアテールだ!」

マリルリは尻尾を強くブーバーンに叩きつけた。それなりにダメージは入ったようだが、なんだかパッとしない。マリルリは尻尾を庇いながらこちらの方に戻ってきた。どうやら、ブーバーンのほのおのからだで火傷してしまったようだ。

「マリルリ、頑張れ……!」

パロレが言う。しかし、相手はもちろん待ってくれない。

「ブーバーン、決めなさい。かみなりパンチ!」

ブーバーンが再びかみなりパンチをお見舞いしてくる。マリルリは吹っ飛び、気絶してしまった。

「マリルリ……お疲れ。ありがとうな。行け!サナギラス!」

パロレはマリルリを戻してサナギラスを繰り出した。
 ▼ 212 ータクン@ハガネールナイト 17/09/28 00:56:50 ID:NrAL6wIk NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 213 AYr1xkow/g 17/09/28 00:57:28 ID:Bhk05Ikk [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレがサナギラスを繰り出すと、スリジエは間髪入れずに指示を出してきた。

「ブーバーン、ふんえん!」

ブーバーンは身体中に纏った炎を凄まじい勢いで噴出させた。炎は、スリジエやパロレの近くまでやってくる。

「サナギラス、耐えろ……!」

パロレは体を庇いながら言う。

先程の二回のアクアテールでそれなりに体力は削った。きっと次の攻撃で倒すことができるはず。

「サナギラス、いわなだれだ!」

サナギラスが激しく岩を投げつける。ブーバーンはいくつもの大きな岩に押し潰されて倒れた。

「この……!」

スリジエはもはや敵意を剥き出しにしていた。

「この子はきっと一筋縄じゃいかないわ!さあ、自分が間違っていたということを思い知りなさい!行くのよ!オーダイル!」

スリジエはそう言って、オーダイルを繰り出した。禍々しいオーラを放つオーダイルを見て、クオレが悲しげに息を呑んだのが分かった。そう、このオーダイルは、パロレたちがポケモンを貰った時に出会ったワニノコが進化したポケモン。あの時、クオレによく懐いていたワニノコだ。

「サナギラスよくやった。戻れ!行くぞ!ロズレイド!」

ロズレイドが、オーダイルを睨みつける。もう少しで勝てる。あと少しだ。

「ロズレイド!エナジーボール!」

「オーダイル!こおりのキバ!」

ロズレイドにエナジーボールを投げつけられると、すぐにオーダイルは動いた。オーダイルはこおりのキバで思いきりロズレイドに噛みついた。

「ロズレイド、もう一度エナジーボール!」

あまり効いているようには見えない。オーダイルは、すべての能力が上がっているように見えた。

「オーダイル、こおりのキバ!」

オーダイルが再びロズレイドに噛みつく。ロズレイドは悲鳴を上げて戦闘不能となってしまった。

「ロズレイド、お疲れ様!」

パロレはロズレイドを戻すと、現在メガリザードンXが入っているボールに声をかけた。

「リザードン。もう一度だけ頼んでいいかい?……行くぞ!」

そして、メガリザードンXを繰り出した。たとえ次の一撃で倒せられなかったとしても、今のリザードンはメガシンカしたことでドラゴンタイプになっている。みずタイプの攻撃はそれほどダメージを受けないはずだ。パロレは真っ直ぐにスリジエを見つめて、メガリザードンXに指示を出した。

「これで終わりだ!ドラゴンクロー!」

メガリザードンXが咆哮を上げ、オーダイルを爪で鋭く斬りつける。オーダイルは倒れた。

「ああ……そんな……なんてこと……」

スリジエは悲痛な声を出し、愕然としてその場に崩れ落ちる。

五つのアウェイクボールが、ゴロゴロと床に転がっていった。
 ▼ 214 ンナ@たべのこし 17/09/28 02:47:01 ID:mcmFbp0g NGネーム登録 NGID登録 報告
これリメイク前よりちょっと手持ち変わってて面白い
ヒマワリのギャラドスがダダリンになってたり
スリジエのジャラランガ(だっけ?)がサザンドラになってたり
 ▼ 215 AYr1xkow/g 17/09/28 12:30:17 ID:6M6glpiw [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
今回はキャラの設定や性格、話の展開に合わせて手持ちを少し変えております
変わってることに気付いてくださってありがとうございます
 ▼ 216 AYr1xkow/g 17/09/28 12:33:12 ID:6M6glpiw [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ああ……あああ……」

スリジエは両手で顔を覆って喚く。

「せっかくの研究の成果が……!覚醒させたはずなのに、どうして……!」

その痛々しい姿に、一同は黙って見ている他なかった。スリジエは両手を離すと、虚ろな表情でぶつぶつと呟く。

「こうなったら、アウェイクマシーンを急いで直して……コントロールが効かなくたって強ければどうにでもなるわ……強ければなんだっていいのよ……」

そして、いきなり大きな声で、

「私は強くならなければいけないの!」

そう叫んだ。一同はギョッとして肩をびくつかせたが、アキニレが一歩前に踏み出し、スリジエに声をかける。

「博士。……いや、スリジエさん。あなたの負けです」

「何よ!」

スリジエは鋭い声を上げた。

「何なのよ!」

スリジエは、駄々をこねる子供のように喚く。

「私はなんだって持ってる。資産も知識も人望も……容姿だって!あと足りないものは力だけなの!自分に足りないものを求めて何が悪いと言うの!」

スリジエは鬼の形相で叫んだ。

「私は力を得るために血の滲むような努力をしてきた。ここまで来るまでどれだけの労力を費やしてきたと思ってるの!?自分のために動くことの何が悪いのよ!私は今までずっと頑張ってきたんだから!」

「だってあなたは、たくさんの人を傷つけた!」

パロレが叫んだ。その場が、しんと水を打ったように静かになる。

「どれだけ頑張ったとしても、悪いことをして人に迷惑をかけて悲しい思いをさせた時点で、それだけでダメになるんだ!」

パロレの拳が、怒りで震えている。一体なんだって言うんだ。なんだって、こんな愚かな人をぼくは尊敬していたんだ!

「子供のぼくにだって分かるのに、あんなにたくさんの論文を書いていろんな発見をして、世界中から尊敬されてたあなたがそんなことも分からないて……!」

パロレは、心の底から叫んだ。

「あなたは、一生強くなれない!」
 ▼ 217 AYr1xkow/g 17/09/28 12:36:41 ID:6M6glpiw [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
スリジエは憎しみのこもった瞳でパロレを見つめた。

そうだ、スリジエは強くなれない。この人は、ずっと絆について研究していたはずなのに、結局何も理解していなかったのだ。

「……ボンゴレ」

スリジエが小さな声でボンゴレの名を呼ぶ。

「はい」

ボンゴレはすぐに答えた。

「試作品の……アウェイクマシーンの部品を持ってきて。また使えるようにするには、いくつか交換しなきゃ……」

スリジエが言う。ボンゴレは頭を下げると、部屋を出ていこうとした。しかし、バジリコのメタグロスが行き先を阻んだ。

「もうやめましょーよ……勝てっこないってぇ……」

マリナーラも、力なく言う。スリジエは「この役立たずどもが」と低い声で唸った。

スリジエはよろよろと立ち上がると、部屋の奥まで歩いていき、大きなモニターと向かい合う。

「いいわ、私一人で続けるわ。私は研究に戻ります。絶対に成功させてみせる……もう邪魔はさせない……」

スリジエはぶつぶつと呟きながら、キーボードに何やら文字を打ちこんだ。その後ろ姿にアキニレが声をかける。

「いいえ、あなたは負けたんです。認めてください」

「嫌よ!あなたは引っ込んでて!私はもっと強くなるんだから!」

スリジエは振り向くと、ヒステリックに叫んだ。

「強くなりたいなら、強くなるしかないですよ」

誰かがふと口を開いた。アルセアだ。

アルセアはコツコツとヒールを鳴らしながらスリジエに近づいた。いや、スリジエに近づいていたのではない。アルセアは、スリジエの取り落としたアウェイクボールを拾っていった。

「強さってのは別にバトルだけの話じゃない」

アルセアはアウェイクボールをじっと眺めながら、こともなげに言った。

「何故自分が強くなれないのか、考えたこともないんですか?」

アルセアが冷たく言い放ち、スリジエを見下ろした。その言葉に、三人の人間が反応を示した。クオレとユーリ、それからバジリコだ。

「……自分に勝てないのに他人に勝てるわけないでしょ。スリジエさん、あんたは弱い」

スリジエは愕然として、言葉を失っている。

「そんなことより、早くここから出よう」

アルセアはいつもと変わらない調子でそう言った。
 ▼ 218 AYr1xkow/g 17/09/28 21:52:33 ID:Bhk05Ikk [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アキニレとバジリコが、協力してスリジエとボンゴレ、マリナーラをがっちりと捕まえる。そして一同は部屋の奥にある階段を登ってスパイス団のアジトを出た。そして、あんぐりと口を開ける。

「え……」

クオレが声を漏らした。なんと、スパイス団アジトの出口を抜けたそこは、メラン乗船所だったのだ。

「おー、出てきた」

そんな呑気な声が聞こえてくる。呆然としているパロレたちの元に、リュウガンがやってきた。

「リュウさん!?」

パロレが素っ頓狂な声を上げる。

「お、お久しぶりです」

アキニレは驚きながらも軽く頭を下げた。

「何故ここに……?」

ユーリが怪訝な顔をする。

「なんでって、まあお前さんたちが地下でゴチャゴチャやってたからな。街に被害がないように見張ってただけだぜ」

リュウガンはそう言ってニヤッと笑った。

「え……!?」

「知ってたんですか、地下がスパイス団のアジトだって!」

パロレとユーリは驚きの声を上げた。

「リュウさん、何者なんですか」

アキニレが困惑したように聞く。

「おいちゃんは別に大したもんじゃねえよ」

リュウガンはへらりと笑って言った。

「俺がスパイス団にも多少顔が効くってこたぁ兄ちゃんも知ってただろ?アルセアちゃんには結構いろいろ教えてやったしな」

肩をすくめてなんでもないように言う。

「協力してくれたのはありがたかったですけど、バジリコがスパイス団にいるとは言ってくれませんでしたね」

アルセアが不満げに言うと、

「いや、俺もそれは知らなかったんだよ。俺だってスパイス団のことなんでも知ってるわけじゃねえんだぞ?まあ、バジリコのことは多分意図的に隠されてたんだろうが……」

リュウガンはそう言うと、バジリコの方を向く。

「何があったか詳しくは知らねえけど、再会できたんだからよかったじゃねえか。よお、兄ちゃん、前から顔は本当によかったけどもっと男前になったなぁ」

リュウガンがそう言ってバジリコの背中を思いきり叩く。

「いってぇ!」

バジリコが顔を歪めて大声を上げた。
 ▼ 219 AYr1xkow/g 17/09/28 21:55:30 ID:KjbyZUjk [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「リュウさん、俺には顔しかいいところがないみたいな言い方やめてくださいよ」

バジリコが言う。

「いやお前、ついさっきまで五年間顔しかいいところなかったぞ」

アキニレが真顔で言った。バジリコは何も言い返せずに黙りこんだ。アキニレはそんなバジリコの反応を見て、面白そうにニヤニヤと笑っている。

バロレは、不思議な気持ちでアキニレたちを見つめていた。八年以上前から一緒にいる、幼馴染三人組。ずっと仲良しだったのに、旅に出てから何かがずれ始めて、彼らは一度バラバラになってしまった。それが、今、再び元に戻って三人一緒にここにいる。

「……あ」

パロレが何かを思い出したかのように声を上げる。みんなが一気にパロレの方を見た。

「リュウさん、アルセアさんとぼくが似てるみたいなこと言ってましたよね!」

「おお、そんなこと言ったな」

リュウガンが言った。しかし、アルセアはあまりピンときていないようだ。

「え……どこが似てるの……?」

アルセアがまったく嬉しくない、という顔で言う。パロレはそんな顔しなくてもいいじゃないかと心の中で呟いた。

「根っこの性格がな。ハートだよ、ハート」

リュウガンが胸を叩きながら言う。パロレとアルセアはお互いに微妙な表情で顔を見合わせた。

「アルセアちゃんもな、こんなクールな顔してとっつきにくいようで可愛いとこあんだぜ。パロレがメランジムに来た前日にな、廃工場で子供に八つ当たりしちまったとか言って自己嫌悪して俺んとこまで来てヤケ酒しに来たんだぜ」

「え、なんでそれ言っちゃうんですか……?」

アルセアが信じられない、という顔でリュウガンを見る。その表情は、わずかに頬が染まっているようにも見える。

「リュウさん、デリカシーないってよく言われません?」

アルセアは皮肉った。

「あの、八つ当たりされたのぼくです!」

パロレは調子に乗って、手を挙げながらそう言った。アルセアが、あんたはちょっと黙ってなという顔でこちらを睨んでくる。なんだか、急にアルセアが可愛く見えてきた。八歳年上のお姉さんだけれど。

あの時のアルセアは怖かったが、今ならもう分かる。アキニレが異常なほど気を遣っていたことからも分かるように、アルセアはあの時本当に意を決して一人で廃工場までやってきたのだろう。かつて自分のポケモンが記憶を失くして暴走する姿を見たトラウマを、嫌でも思い出させる場所へ。
 ▼ 220 AYr1xkow/g 17/09/28 21:57:34 ID:KjbyZUjk [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「まあ何はともあれ、無事で何よりだな。街にも何の影響も出てないし。よかったよかった」

リュウガンは相変わらず呑気な声で言った。

「……そうですね。みんな無事で、本当によかった……」

アキニレがしみじみと言う。すると、ずっと黙っていたユーリが口を開いた。

「……地下にはスパイス団のアジトがあると知っていながら、何故ずっと何もしなかったんですか?」

その声には、強い怒りがこめられている。

「ユーリ……」

「スパイス団は悪い奴らじゃないですか!」

「まあ、いろいろあんだよ」

声を荒げるユーリに、リュウガンは落ち着け、というように手を動かしながら言った。

「あいつらだってただの悪い奴じゃねえんだ。いなくなったらそれはそれで困ることが出てくんのよ」

「……」

リュウガンはそう言ったが、ユーリは納得できないようだ。パロレもよく分からなくなってきた。リュウガンの言うように、いろいろあるのだろう。彼にそう言われるとそうなんだという気がしてくる。でも、だからといって、簡単に許せるとは思えない。

「ほら、名前だって『スパイス』だ。アモル地方のほんのちょっぴりの隠し味、ってことよ。ちょっとはスリルがないと楽しくねえだろ?」

「それ、全然面白くないですよ」

アルセアが刺すように言った。アルセアだって、パロレと同じように複雑な気持ちだろう。

「おっと、冗談だって」

リュウガンはすぐにそう言った。アルセアが呆れたように溜息をつく。

「……まあいいや。リュウさんはいつもこんな感じの適当おじさんだし……」

アルセアはそう言うと、「それどういう意味よ」と突っ込んでくるリュウガンを無視して携帯電話を取り出して、誰かにメールを送った。
 ▼ 221 AYr1xkow/g 17/09/28 21:59:08 ID:KjbyZUjk [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
しばらくすると、返事が来たのかアルセアは携帯電話をしまいこんだ。そして、

「国際警察にちょっとした当てがあるから、三人はその人に預け……あれ」

アルセアはそう言って固まった。

「……マリナーラとかいう女の子、いなくなってるけど」

アルセアの言葉に、アキニレとバジリコが「え!?」と声を上げる。見れば、本当にマリナーラが消えていた。スリジエとボンゴレはいる。なんと、すり抜けて逃げていってしまったらしい。

「……」

アルセアが目を細める。アキニレとバジリコは縮こまった。なんだか、三人の力関係が垣間見えるようだ。

「……まだ子供だからどうせ一人だけすぐ釈放されるだろうけど……んー……」

アルセアはぶつぶつ呟きながら考えこんでいる。

「俺も探しとくわ。ボスのいなくなったスパイス団を放置するわけにもいかねえしな。いろいろ後始末しないとだろ?」

リュウガンがそう言って、アルセアの肩をポンと叩く。

「……じゃあ、しばらくお願いします」

「おう。アルセアちゃんだって、いろいろやらなきゃいけねえことあんだろ?」

「まあ、はい」

アルセアとリュウガンは何やら話しこんでいる。一体何の話だろう、パロレはそう思いながら聞いていた。

スリジエは何も言わない。気力を失っているようだった。一方、ボンゴレは平静を保っている。きっと、どこまでもボスについていくつもりなのだろう。

「じゃ、オーロシティで国際警察の人と待ち合わせだから」

そう言って、アルセアが振り返る。

「オーケー、オーロな。……ちょうどいい。俺もいろいろ片付けなきゃいけないことあるしな……」

アキニレは呟くように言った。

「ほれ、いってら。じゃーな」

リュウガンがひらひらと手を振る。一同は挨拶をして、メラン乗船所を後にしたのだった。
 ▼ 222 AYr1xkow/g 17/09/28 22:26:37 ID:KjbyZUjk [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレたちは、アキニレとバジリコ、そしてアルセアのポケモンに乗ってオーロシティへと向かった。

アルセア曰く、五年前に盗まれたポケモンと再会した時、その記憶を失い暴走する不可解な姿から、犯人は高い技術力を持った組織であると判断され、国際警察が捜査に関わることになったのだという。

その際にこの事件を担当した国際警察の男が、アルセアによくしてくれたらしい。先程メールを送ったところ、なんと偶然にもバカンスでアモル地方に来ていたらしく、急遽スリジエたちを引き渡すことにしたとのことだ。

一同はオーロシティにたどりつくと、アルセアに連れられてホテルに向かい、変わったコードネームの国際警察の男にスリジエとボンゴレを引き渡した。男は、バカンスを存分に満喫しているようだった。

「よーし子供たち。もう遅いし、今日は研究所に泊まりな。行くぞ!」

ホテルを出ると、アキニレがそう言って早足に研究所へと歩き出す。

「え?アルセアさんとバジリコさんは?」

パロレが純粋な気持ちで聞いた。すると、

「パロレ!」

クオレがものすごい剣幕でパロレに近づいて言った。

「え、な、何……?」

パロレが思わずたじろぐ。

「空気読まなきゃダメだよ!」

クオレはそう言って頬を膨らませた。パロレは意味が分からず、助けを求めるように兄の顔を見上げる。

「んーっと」

アキニレは少し困ったような顔をした。

「ま、パロレにはまだ早かったようだな!」

そう言ってアキニレは笑った。

「え?え?ユーリは?分かる?」

パロレは思わずユーリに聞く。

「ええ、まあ……。お二人、さっきから結構分かりやすかったので……」

ユーリの言葉に、パロレはますますよく分からなくなり、首を捻った。アキニレは何故か大爆笑している。

「……アルセア、さっさと行こう」

「そうだね……」

二人は気まずそうに反対方向へと歩いていった。相変わらず、訳が分からない。二人の家はノグレータウンにあるらしいから、ここから近いから別に泊まる必要はないってことかな。パロレはそう思った。

「さ、俺たちも行こう!」
 ▼ 223 AYr1xkow/g 17/09/30 00:35:53 ID:q8PrpsQY [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
翌日、スリジエ研究所で目を覚ましたパロレたちは、簡単に朝食を済ませるとアキニレのデスクの近くに集まった。

「よく眠れたかい?」

アキニレが問う。

「うーん……」

「あまり……」

クオレとユーリが、気まずそうに言う。

「……そりゃそうだな。昨日、あんなことがあったんだから」

アキニレはそう言った。パロレは黙ったままだ。

「あの……博士はこの後どうなるんですか?」

クオレが言った。アキニレは小さく首を横に振る。

「分からないね」

「スパイス団はどうなるんですか?」

ユーリが聞く。

「うーん……解散とかは、しないと思うね」

アキニレが考えながら言う。

「……」

ユーリは複雑な表情を浮かべている。

「まあ、今はトップがいなくて混乱状態だろうな。リュウさんがどれくらいあいつらに影響力を持ってるのかもよく分からないし……マリナーラも逃げちまったからな……」

アキニレはばつが悪そうに言った。

「スパイス団の歴史は古い。俺も詳しくは知らないけど、元々は王家の圧政に抵抗する反乱軍だったんだ」

アキニレが言う。パロレは、確かイーラ火山で下っ端団員から聞いた、とふと思い出した。

「あまり君たちにこういう話はしたくないけど、彼らはアモル地方とかなり関わりが強くて、アモルの政治や経済に大きく貢献している。簡単にはなくせないだろうね」

アキニレが言うと、

「悪い人たちなのに……?」

クオレが眉を下げて言った。

「うーん、一概にそう決めつけるのはよくないね」

アキニレはそう言ってから、慌てて付け足す。

「いや、スリジエさんのしたことは悪いことだよ。でもあれは、組織の総意ではないはずだ」

アキニレはそう言ってから、あまり話がよく分かっていない様子の子供たちを見て、ふっと微笑んだ。

「でも俺たち一般人からしてみれば、悪い人だよな。アモル地方のよくないところだ。この点に関しては、俺たちもちゃんと考えていかなきゃいけないな」

アキニレはそう締めくくった。
 ▼ 224 AYr1xkow/g 17/09/30 00:38:21 ID:q8PrpsQY [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……昨日のパロレ、すごかったなぁ」

クオレが呟いた。パロレは思わず「え?」と聞き返してしまった。

「あんな大変なことがあったのに、最後は勝っちゃったんだもん!」

クオレは力強く言った。

「あのね、リザードンとのつよーい絆を感じたよ。本当に!」

クオレが真面目な顔で言う。ユーリもうんうんと頷いた。

「パロレが強い理由が、分かった気がするよ」

クオレが穏やかな声で言った。アキニレは三人の様子を、優しい瞳で見つめている。

「ええ。それに、アルセアさんの言葉が強く胸に刺さりました。オレも、きっと自分に向き合えていなかった……」

ユーリがそう言って、深刻な表情で黙りこむ。パロレはなんと返すべきか分からず、困った顔でクオレとユーリの顔を交互に見つめた。すると、アキニレがパロレの両肩をぽんと叩く。

「バジリコだってそう。俺だってそうさ。昨日のパロレを見て、何かを感じ取った。……スリジエさんは大人だし、俺たちよりもずっと年上だから、変わるのは難しいかもしれない」

アキニレはそう言うと、パロレの頭を撫でた。

「……でも、きっとこれからいろんなことがよくなるはずさ。パロレ、お前はそれだけのことをしてくれたんだ」

パロレはなんだか恥ずかしくなってきた。自分ではあまりピンと来ない。アキニレはパロレから離れると、すまなそうな顔をして言った。

「……大変なことに巻きこんで本当に申し訳なかったね。俺がもっと君たちをちゃんと守るべきだった」

アキニレが唇を噛む。

「ううん」

パロレは首を横に振った。

「だって、ポケモンがいますから!」

クオレが笑顔で言う。

「オレたちは大丈夫です」

ユーリも微笑んだ。

アキニレは、はっと息を呑んだ。三人は、ポケモンたちと共に旅に出たことで、成長していたのだ。

「……心配はいらなそうだな。三人とも、前にここでポケモンを受け取った時と、違う顔をしてる」

アキニレはそう言うと、少し寂しげな表情で言った。

「ポケモンをあげたのは、スリジエさんだけど……そのポケモンたちは何も悪くない。嫌いにならないでほしいな」

「もちろんですよ!」

「嫌いになるわけないです!」

クオレとユーリが咄嗟に返した。アキニレは力なく笑った。

「はは、そりゃそうか。……よかった!」
 ▼ 225 AYr1xkow/g 17/10/01 14:06:04 ID:OyqUvwd2 [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
思わぬ事件もあったが、もう大丈夫。パロレとリザードンは、一緒にいる。また、前と同じようにやるだけだ。

「よし、行こう!」

というわけで、パロレはオーロジムの前にいた。今度こそジムは開いている。パロレはぐっと気を引き締めた。高みを目指すセレブリティという二つ名を持つジムリーダーとの、最後のバッジを手に入れるバトルだ。

パロレはオーロジムに足を踏み入れた。そして、内装を見て思わず怪訝な顔をしてしまう。そこは、巨大な衣装部屋となっていたのだ。

ジムリーダーの私物だろうか。服や靴、アクセサリー、鞄などが大量に置かれている。床には矢印の書かれたパネルのようなものがたくさんあった。このパネルを踏むと、強制的に矢印の方向へ動くようになっているようだ。

服を探すのにも大変そうだ。パロレはそう思った。そういえば、クオレがここを見たら喜びそう、そんなことも考えながらパロレは進んだ。

パネルの方向を覚えないと、さっきまでいた場所に戻されてしまう。パロレは真剣に動いた。

やがて、大きな姿見のあるところまでやってきた。ゴールのようだ。鏡の前に、金髪の女性が立っている。

「あの、挑戦しに来たんですけど……」

パロレが恐る恐る話しかける。女性が振り向いてこちらを見た。そして、パロレを見てパッと笑顔になる。

「チャオ!あたしはレナよ」

「こんにちは。ぼくはパロレです!」

パロレが挨拶を返すと、レナは笑顔で続けた。

「あたしのママね、デザイナーなの。レケナウルティアってブランド、知ってる?君、男の子だから、あんまりピンとこないかもしれないけど」

パロレはふと、メラン乗船所からダ・カーポ島を目指して船に乗った時のクオレたちとの会話を思い出した。そんなような名前を聞いた、気がする。

「名前は聞いたことあります」

「あ、そお?」

レナは嬉しそうな顔をした。それから真面目な顔をして、

「ママのブランドの看板背負ってる分、プレッシャーもちょーっとあるのよね。あたし、お騒がせセレブみたいに言われちゃうこともあるけど、バトルに関してはいつだって真剣よ。今回だって、本気で行かせてもらうから!」

そう言うと、レナはモンスターボールを手に取った。

レナは、ノーマルタイプの使い手だ。さあ、頑張るぞ!
 ▼ 226 AYr1xkow/g 17/10/01 14:07:14 ID:OyqUvwd2 [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「チラチーノ!いってらっしゃい!」

レナがポケモンを繰り出した。

「サナギラス!任せた!」

パロレがそう言って、サナギラスを繰り出した。サナギラスはまだひとつ進化を残している。きっともう少しで進化できるはずだ。

「チラチーノ!おんがえし!」

チラチーノはすばしっこく動き、レナの言葉に応えようと全力で攻撃をしてきた。威力は高かったが、サナギラスはいわタイプ。効果は今ひとつだ。

「サナギラス!しっぺがえしだ!」

サナギラスは、ずっと力を溜めこんでいたのだ。チラチーノが素早いお陰で、更に力を発揮することができる。サナギラスが攻撃すると、二倍のダメージを受けたチラチーノは倒れてしまった。

「なかなかやるわね。行くわよ!ムーランド!」

レナがチラチーノを戻し、ムーランドを繰り出す。ムーランドはサナギラスを威厳ある表情で睨みつけた。サナギラスは萎縮して、攻撃力が下がってしまった。

しかし、パロレは、ある作戦を思いついていた。

「ムーランド!おんがえしよ!」

レナが指示を出す。

「よし、サナギラス戻れ!ジュペッタ!行くぞ!」

パロレはそう言って、あえて一ターン消費した上でサナギラスを戻した。これでジュペッタは、いかくを受けずに済み、更におんがえしを無効化できる。そしてサナギラスも経験を積める。我ながら完璧な作戦、とパロレは思った。ムーランドの全力の攻撃は、無駄に終わってしまった。

「くーっ!」

レナが悔しそうな声を上げる。さあ、ここからだ。

「ムーランド、かみくだく!」

ムーランドはジュペッタに思いきり噛みついてきた。効果は抜群だ。ジュペッタは大ダメージを受けてしまった。

「ジュペッタ、おにび!」

ジュペッタが鬼火を発生させる。不気味な炎はムーランドにまとわりついた。ムーランドは炎を払おうと吠えて動き回るが、炎は消えない。やがて、ムーランドは苦しそうな鳴き声を上げた。火傷してしまったようだ。

「ムーランド、頑張って!かみくだくよ!」

ムーランドがもう一度かみくだく攻撃をしてきた。やけど状態の影響で攻撃力が低下したムーランドの攻撃は先程よりは弱かったが、ジュペッタは倒れてしまった。

「ジュペッタ、ごめんよ。ピジョット!行くぞ!」

パロレはジュペッタを戻してピジョットを繰り出した。
 ▼ 227 AYr1xkow/g 17/10/01 14:08:19 ID:OyqUvwd2 [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ピジョット!ぼうふう!」

ピジョットが起こした凄まじい暴風が、ムーランドを襲う。ムーランドはどうにか持ち堪えたが、風に吹かれて混乱してしまったのか目を回している。ムーランドはやがてすっ転んでダメージを受けてしまった。そして、追い討ちをかけるように火傷の痛みを受けてムーランドは鳴き声を上げて倒れてしまった。

「残念っ。行くわよ、ミミロップ!」

レナはムーランドをボールに戻してミミロップを繰り出した。

「ピジョット戻れ!マリルリ、頼んだ!」

パロレもポケモンを入れ替える。

「ミミロップ!おんがえしよ!」

ミミロップはまたもや全力で攻撃してきた。しかし、マリルリはバッチリ耐えきった。パロレは勝利を確信し、声高らかに指示を出す。

「マリルリ!ばかぢからだ!」

マリルリは、その技の名の通り凄まじい力を発揮してミミロップに攻撃を仕掛けた。ちからもちで威力が二倍になった、元々威力の高いかくとうタイプの大技だ。隙はない。ミミロップは一撃で倒れ、気を失ってしまった。

「あーあ、やられちゃった!」

レナはそう言って、ミミロップをボールに戻した。そうは言うものの、レナの表情は明るく、嬉しそうだ。

パロレはカタカタとボールが揺れていることに気付き、慌てて腰に目をやった。サナギラスの入っているハイパーボールから光が漏れている。パロレは思わずぱっと顔を輝かせた。

サナギラスをボールから出す。サナギラスの体が光っていた。やがて光は更に大きくなり、サナギラスの体を包みこむ。光の中に見えるシルエットは、大きくてゴツゴツとしている。

やがて、光が消え去った。そこにいるのは、鎧のような大きな体に鋭い眼光や牙を持った、見るからに強そうなポケモン。バンギラスだ。

「やった!バンギラス、めちゃくちゃ強そうだ!」

「バンギィ!」

バンギラスが鳴き声を上げる。パロレはぐっと親指を上げてみせた。
 ▼ 228 AYr1xkow/g 17/10/01 14:09:46 ID:OyqUvwd2 [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「負けたのに清々しい気分!」

レナはそう言いながら、こちらへと近づいてきた。

「強くなるためには、相手の戦い方からいろんなことを学ばないとね。君のやり方、勉強させてもらったわよ」

レナはちょっぴり挑戦的な瞳でパロレを見つめた。

「君も、あたしのやり方から何かを感じ取ってくれたなら嬉しいわ」

その言葉に、パロレは頷く。

「はい!」

「じゃあ、お約束のこれね。オーロジムリーダーであるこのあたしに勝った証!ジェネラルバッジよ」

レナはそう言って、ダイヤモンドのような形をした、綺麗に輝くバッジをパロレに手渡した。

「うーん、いいじゃない。輝いてるわ!あたしの持ってるアクセサリーにも負けない、強い光!」

レナは楽しそうに言う。

「それからこれもあげるわ。おんがえしの技マシンよ。この技はね、ポケモンが懐いていればいるほど威力を増すの。君のポケモンなら、きっと最大限の力を発揮できるはず!」

「ありがとうございます!」

パロレはしっかりお礼を言うと、バッジと技マシンをバッグにしまいこんだ。その様子を見ていたレナが、あっと声を上げる。

「バッジを八個集めたのね。おめでとう!」

「はい。ありがとうございます!」

そう。これで、アモル地方のジムバッジをすべて手に入れた。パロレが喜びを噛み締めていると、レナは更に聞いてきた。

「それじゃ、ポケモンリーグに挑戦するの?」

レナの質問に、パロレは強く頷く。

「はい、そのつもりです」

始めは、よく分からないまま旅をしていた。でも、今は違う。レナはパロレの表情を見て、満足げに頷いた。

「いいわね!」

それからレナは微笑み、

「強くなるっていいことよ。それまで見えなかったものに気付けるようになる。そうやって、世界はどんどん広がっていく。あたしはそれを実感するのが大好きなの!だから更に上を目指してるのよ」

そう言って、パロレにウインクした。

「頑張って。応援してるわ!」

「はい!ありがとうございました!」
 ▼ 229 ンターン@たてのカセキ 17/10/01 14:46:21 ID:Bv0k5bQ2 NGネーム登録 NGID登録 報告
・悪タイプの使い手
・シブいおじさん
・ちょっと悪の組織と繋がってる


リュウさん……俺の好きなタイプのキャラだ…w
 ▼ 230 ザード@ねばねばこやし 17/10/02 21:45:49 ID:oH08p1mY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アルセアのクーデレっぽい感じ好き
支援
 ▼ 231 AYr1xkow/g 17/10/04 14:11:19 ID:o.ctxd2Q [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌日、パロレはジョーヌシティにやってきていた。なぜかって、それはジョーヌシティ中央にあるポケモンリーグに挑戦するためだ。

ジョーヌシティの中央には、ポケモンリーグに挑戦する前に挑むこととなるチャンピオンロードへの入口がある。このチャンピオンロードはポケモンリーグを囲むようにしてそびえ立つ小さな山だ。

さあ、チャンピオンロード前の門に着いた。ここから先はジョーヌシティの管轄外。アモル地方のすべてのポケモントレーナーの憧れである、神聖な場所だ。

「今までいろいろなことがあったな……」

パロレは思わず声に出して呟いていた。

始めは、ただなんとなくジムを巡っていただけだった。だけど、今は違う。強くなりたい。心からそう思うのだ。限界まで挑戦したい。チャンピオンに勝ちたい。ポケモンたちと一緒にどこまでも行きたい。それがパロレが見つけた、この旅の目的だ。

「みんなと力を合わせて頂点まで行ってみせる!やってやるぞ!」

パロレは気合を入れてそう言った。すると、

「パロレっ!」

後ろから呼ぶ声が聞こえてきた。誰だかはすぐ分かる。パロレは振り向いた。

「クオレ!」

クオレは笑顔だった。ニッコリと笑って、パロレに話しかけてくる。

「今からポケモンリーグに挑戦しに、チャンピオンロードに行くって感じ?」

「うん。そのつもりだよ」

パロレは頷いた。

「そっかぁ!パロレ、すごいなぁ……」

クオレは少し寂しげな表情で言った。しかし、すぐに力強い笑顔を浮かべ、

「でもね、わたしも追いつくから!」

そう言ってみせた。

「!」

パロレが思わず目を見開く。

「あのね、わたし、やっぱりジムを制覇することにしたの。パロレみたいにすぐにたくさんはクリアはできないけどね」

クオレは真っ直ぐにパロレを見つめて続ける。

「でも、始めから無理だって決めつけて諦めるなんて、弱い証拠だよね。わたし、もっと強くなるんだ。わたしに負けないくらい!」

「うん。ぼくこそクオレに負けていられないな」

パロレがそう返す。

クオレは輝いていた。あの事件の日にパロレの姿勢やアルセアの言葉に心打たれたクオレは、変わったのだ。

「えへへ。じゃあ……激励も兼ねて!バトルだよ!」

クオレはそう言って、モンスターボールを手に取った。
 ▼ 232 AYr1xkow/g 17/10/04 14:40:20 ID:o.ctxd2Q [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「行くよ!ライチュウ!」

クオレがポケモンを繰り出す。

「バンギラス!行ってこい!」

パロレもボールを投げた。

「ライチュウ、10まんボルト!」

ライチュウの頬にビリビリと電力が集まり始める。やがて、ライチュウは強い電撃を起こした。10まんボルトはバンギラスに直撃した。進化してじめんタイプからあくタイプになったバンギラスは、でんきタイプの技でダメージを受けるようになってしまっている。

「バンギラス!じしんだ!」

パロレは怯まず指示を出した。バンギラスはその巨体で地面を揺らす。ライチュウは自身を支えきれずに倒れこみ、大ダメージを受けてそのまま気を失ってしまった。

「ライチュウ、ごめんね。アブリボン!いってらっしゃい!」

クオレがライチュウを戻してアブリーを繰り出す。バンギラスと比べてとても小さく可愛らしいその姿が、なんだか面白い。

「アブリボン!マジカルシャイン!」

アブリボンはまばゆい光を放って攻撃してきた。バンギラスは苦しそうに呻く。効果は抜群のはずだ。しかし、バンギラスはギリギリのところでどうにか持ちこたえた。

「バンギラス、あと少しだけ頑張るぞ!いわなだれ!」

パロレは優しく声をかけて指示を出す。バンギラスはその声に応えるようにして凄まじい勢いで岩をアブリボンに投げつけた。アブリボンは気絶して地面に落ちてしまった。

「アブリボン、お疲れさま!ウインディ!頑張って!」

クオレは今度はウインディを繰り出してきた。

「よし、バンギラス戻れ!マリルリ!行くぞ!」

パロレはポケモンを入れ替えた。本来ならきっと倒れていたところで耐えてくれたバンギラスには、ゆっくりと休んでもらおう。

「ウインディ、かみのりのキバ!」

ウインディが電気を帯びた牙でマリルリに噛みつく。マリルリは痛そうに鳴き声を上げた。

「マリルリ頑張れ!アクアテールだ!」

マリルリは気を引き締めると、水を纏った尻尾を思いきりウインディに叩きつけた。一見可愛らしい技だが、侮ってはいけない。ウインディは攻撃を受けると戦闘不能となってしまった。

「うわーっ、やっぱり強いよぉ!よーし、行くよ、ヤドラン!」

クオレは悔しそうな顔をしながら次のポケモンを繰り出した。
 ▼ 233 AYr1xkow/g 17/10/04 14:58:49 ID:o.ctxd2Q [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ロズレイド!任せた!」

パロレも再びポケモンを入れ替える。ヤドランはあまり素早くない。一気に決めてしまおう。

「ロズレイド!エナジーボールだ!」

ロズレイドは自然のエネルギーを塊に変えて、ヤドランに思いきりぶつけた。ヤドランは痛みを感じるよりも先に気を失ってしまったようだった。幸せそうな顔をして仰向けに倒れている。

「こ、この子も一発……!」

クオレは慌てた声で言う。そして、

「よぅし……最後だよ。頑張ろうね!ジャローダ!」

最後のポケモンを繰り出した。

「よし、ロズレイド戻れ!行くぞリザードン!」

パロレがリザードンを出すと、クオレはどこか挑戦的な声で素早く指示を出した。

「ジャローダ、やどりぎのタネ!」

やどりぎのタネがリザードンの体をくっついた。そして、体力を吸い取って養分を奪っていく。

「リザードン、一気に決めるぞ!フレアドライブ!」

リザードンが身体中に火を纏い、ジャローダに突進していく。ジャローダは突き飛ばされて気を失ってしまった。リザードンも反動でダメージを受けており、疲れ切っている様子だ。

「ジャローダ、ありがとう。うんうん、やっぱり強いねぇ」

クオレはジャローダをボールに戻すと、そう言ってパロレに微笑んだ。そして、

「あーあ。また負けちゃったぁ」

唇を尖らせてわざとらしくそんなことを言ってみせる。
「……」


パロレが思わず言葉に詰まっていると、クオレはそんなパロレを見て吹き出した。

「もー、そんな顔しないでよ。今のバトル、すごく楽しかったんだから!」

「そ、そっか」

パロレは正直ちょっぴりホッとしていた。とはいえ、クオレはもう本当に心配はいらなそうだ。

「パロレとした初めてのバトルを思い出すなぁ。そういうの、忘れないようにしないとね!」

クオレはキラキラと輝く笑顔で言った。パロレは頷く。

「そうだね。ぼくも初心を忘れずに、頑張ってくるよ」

パロレが言うと、クオレはぐっとガッツポーズをする。

「うん!パロレなら絶対勝てるよ。わたし応援してる。頑張ってね!」

クオレがそう言って、大きく手を振る。

クオレが応援してくれるなら、きっと無敵だ。パロレは何故かそう思った。パロレはクオレに手を振り返して、チャンピオンロードへと歩いていった。
 ▼ 234 AYr1xkow/g 17/10/04 15:53:55 ID:o.ctxd2Q [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チャンピオンロード入口の門を開けて中に入る。するとそこはちょっとした小部屋になっていた。なんと地面に大きな穴がぱっくりと開いており、前には進めないようになっている。向こう側には大きな扉が見える。どうにかしてここを通らなければならないようだ。穴の前には、石碑のようなものがある。

パロレは首を傾げながら進んだ。すると、石碑の近くに来たところでパロレのバッグが強く光った。慌ててバッグを開けてみると、光っていたのはバッジケースだった。更に石碑に近づいてみると、石碑と中のフラワーバッジが強く反応し始めた。

やがて、不思議な力が起こり、植物なんてないはずの山の中であるにも関わらず、大量の花が咲いて穴を塞いでいく。パロレは驚いて思わず声を上げてしまった。まさか、これを通るのだろうか。恐る恐る花でできた橋を踏んでみると、抜ける様子はない。パロレは先に進むと扉を開けて次の部屋へと向かった。

次の部屋も、先程の部屋と同じ内装だ。石碑に近づくと、今度はベノムバッジと反応して紫色の霧が発生して穴を塞いだ。どうやら、バッジが手に入れた順番で反応して渡れるようにしてくれるようだ。霧でできた橋はどう考えても不安だが、踏んでみると、やはり平気だ。パロレはどんどん進んでいくことにした。

次の部屋で反応を示したのはフレイムバッジだ。ぼうっと炎が燃え上がり、橋を作り上げる。普通だったらこんなものの上を歩いたら火傷して大変なことになってしまうが、心地よい程度に暖かい不思議な橋だった。

それからお次はスペクターバッジ。どこからともなく狐火のような不気味な鈍い光がたくさん現れ、どんどん集まって穴を塞いでいく。こちらは先程とは反対に少しひんやりとする橋だった。

次に反応したのはヴィランバッジだ。石碑に近づくと、真っ黒い石のようなブロックが多数現れて道を作っていった。今までの中では一番頼れる素材だが、問題なのはその橋の形状だ。ブロックで作られた橋は、明らかにブロックが足りておらず、ところどころ穴が開いており慎重に進まなければ落ちてしまいそうな形になっていた。あくタイプのジムバッジは、どうやら意地悪らしい。

次の部屋ではアイロンバッジが反応した。どこからともなく大きな鋼の板が現れ、ゴッと鈍い音を立てて倒れて簡易的な橋となった。とんでもなく無骨だが安心して渡ることができる。

その次の部屋で反応したのはマリンバッジだ。穴の下からゴゴゴと地響きのような音がして、地面が大きく揺れる。なんだなんだと思っていると、なんと穴の下から水がせり上がってきていた。しかし、橋は出てこない。しばらく考えていたパロレはハッとしてマリルリを繰り出した。そうだ、八個バッジを手に入れたパロレはポケモンの力で空や海を移動することを許可されているのだ。ここも例外ではない。パロレはマリルリに捕まって水で満たされた穴を渡った。

さあ、最後の部屋だ。石碑に近づくと、ジェネラルバッジが反応する。やがて、いかにも普通、まさにノーマルなしっかりとした橋が手前から光と共にどんどん現れて向こう側まで繋がった。よく見れば、その先に見える扉は今までで一番大きく、派手だ。

パロレは橋を渡りきると、扉に手をかけ、ゆっくりと押し開ける。

その先には、最後の難関、チャンピオンロードが待っていた。
 ▼ 235 AYr1xkow/g 17/10/04 18:05:22 ID:zHy.PYeg NGネーム登録 NGID登録 報告
やけにここの設定が凝ってるのはBWのチャンピオンロード前のゲートが好きだからです
 ▼ 236 AYr1xkow/g 17/10/05 00:53:05 ID:xopftvEE [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレは今、チャンピオンロードをまさに抜けようとしていたところだった。

チャンピオンロードはとても険しかった。今までに戦った者たちよりずっと強く実力のあるトレーナーや、レベルの高い野生のポケモンたちと戦いながら、パロレはどうにかここまでやってきたのだ。

さあ、この出口を出ればポケモンリーグだ。

そういえば、チャンピオンロードに入る前にクオレに会った。ユーリは今どこにいるのだろう。せっかくだから、最後にバトルをしてから挑戦したかったかもしれない。

「パロレさん!」

ふと、背後から声が聞こえてきた。パロレは驚いて、素早く振り返って声の主の名を呼ぶ。

「ユーリ!」

見れば、ユーリは膝に手をついて荒い息を吐いている。

「お、追いついた……はあ、はあ」

「だ、大丈夫?」

肩で息をしているユーリにパロレは慌てて声をかけた。

「大丈夫、です」

ユーリは深呼吸をした。少し落ち着いたようだ。

「ごめんなさい、引き止めてしまって……」

「いや、全然」

ちょうどユーリのことを考えていた時に名を呼ばれてかなり驚いてしまったことは、気付かれていないようだ。

「ありがとうございます。……間に合ってよかった」

ユーリは呟くように言うと、パロレを真っ直ぐ見つめた。

「パロレさん。リーグに挑戦する前にお手合わせ願えますか?オレ、パロレさんとどうしてもお話ししたくて……その、応援も兼ねて……」

ユーリの声が、だんだん小さくなっていく。パロレは笑顔で答えた。

「うん!ぼくも、ユーリと戦いたいなと思ってたところだったんだ!」

その言葉を聞いたユーリの顔が、ぱっと輝く。

「そうだったんですか!ならよかったです」

そう言うユーリの表情はとても柔らかい。ユーリがこんな表情をするところは、初めて見たかもしれない。いつも何かに追われているかのような、頑固そうな顔をしていたものだ。

「それでは、よろしくお願いします!」

ユーリがそう言って、モンスターボールを手に取った。
 ▼ 237 AYr1xkow/g 17/10/05 00:57:31 ID:xopftvEE [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「行け!コジョンド!」

「マリルリ、任せた!」

二人がポケモンを繰り出す。それだけでもうワクワクしてくる。

「コジョンド、ねこだまし!」

コジョンドが素早く動いてピジョットに攻撃した。マリルリは怯んで思わず動きを止めてしまう。

「コジョンド、とびげり!」

コジョンドは勢いよく飛び上がってマリルリに鋭く蹴りを入れた。それから、しなやかな動きで見事に地面に着地する。もちろん、マリルリだってやられてばかりではない。

「マリルリ、じゃれつく!」

マリルリがコジョンドの元へ近づき、思いきりじゃれついて攻撃をした。コジョンドは戦闘不能となってしまった。

「コジョンド、お疲れさま。フワライド、行くぞ!」

ユーリがコジョンドにそう声をかけてボールに戻し、フワライドを繰り出す。

「よしマリルリ戻れ!バンギラス、頼んだ!」

パロレもポケモンを入れ替えた。

やっぱり、バトルは楽しい。

「フワライド、たくわえる!」

フワライドは力を蓄えた。風船のような体が、更にぷくっと大きく膨れ上がったように感じる。

「バンギラス、かみくだくだ!」

バンギラスはフワライドの体に思いきりかぶりついた。フワライドのぼうぎょはたくわえるで上昇していたはずだが、バンギラスのかみくだくは耐え切れなかったようだ。フワライドは力なく地面に落ちていってしまった。

「ああ……ごめんなさい、フワライド。……フラージェス、出番だ!」

ユーリはフワライドをボールに戻してフラージェスを繰り出す。

パロレもユーリも、今はただ純粋にバトルを楽しんでいた。
 ▼ 238 AYr1xkow/g 17/10/05 01:14:24 ID:xopftvEE [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「バンギラス、戻れ!ロズレイド、行ってこい!」

パロレがポケモンを入れ替える。どちらも体の一部が花になっているポケモンだ。一気に二人の戦いは華やかなものになった。

「ロズレイド、どくどく!」

ロズレイドが体から毒を放出した。フラージェスはそれをしっかりと浴びてしまい、もうどく状態になってしまった。

「フラージェス、ムーンフォースだ!」

フラージェスは月の力を借りてロズレイドに攻撃した。とても美しい技だったが、ロズレイドへの効果は今ひとつだ。もうどく状態のフラージェスは苦しそうに呻き声を上げる。

「ロズレイド!ベノムショック!」

ロズレイドは特殊な毒液をフラージェスにかけた。相性もいい上に、技の威力は二倍になっている。ベシャッと嫌な音を立てて降り注いだ毒液に覆われたフラージェスは、そのまま気を失ってしまった。

「フラージェス、お疲れさま。アマージョ、任せた!」

ユーリがアマージョを繰り出す。一方、パロレはそのままロズレイドに戦ってもらうことにした。作戦はさっきと同じだ。

「ロズレイド、どくどく!」

ロズレイドが再び毒を放出する。その毒を浴びたアマージョは、フラージェスのようにもうどく状態になってしまった。

「アマージョ、トロピカルキック!」

アマージョはその脚力を生かした情熱的なキックをお見舞いしてきた。ロズレイドへの効果は今ひとつだが、その長い脚の動きには一瞬の隙もなく、思わず見入ってしまう。猛毒に苦しむ姿さえセクシーだ。

「ロズレイド、ベノムショックだ!」

ロズレイドは先程と同じように、威力を増したベノムショックをアマージョに仕掛ける。アマージョは悲鳴を上げて戦闘不能となってしまった。

「アマージョ、ゆっくり休んで。……ガブリアス!任せた!」

ユーリはアマージョを戻し、ガブリアスを繰り出した。ガブリアスは、バンギラスのように高い能力を持ったポケモンである。油断は禁物だ。
 ▼ 239 AYr1xkow/g 17/10/05 02:25:01 ID:xopftvEE [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ロズレイド、戻れ!マリルリ!もう一回頼んだ!」

パロレがそう言ってマリルリを繰り出す。マリルリは頷いて鳴き声を上げた。

「ガブリアス、あなをほる!」

ガブリアスが穴を掘って地中に潜りこんだ。マリルリはガブリアスがどこからやってくるのが分からず、キョロキョロしながら立往生している。マリルリは、あなをほるを使っているポケモンに有効な技は覚えていない。マリルリは一ターン無駄に過ごすことになってしまった。

やがて、しばらく経つとまさにマリルリの真下の足元からガブリアスが飛び出してきた。マリルリはその勢いで吹っ飛ぶ。先程までのダメージも溜まっているはずだ。次の攻撃を受ける前にガブリアスを倒したいところだ。

「マリルリ、決めろ!じゃれつく!」

パロレは叫んだ。マリルリがどうにか起き上がり、ガブリアスの元まで走る。そして、思いきりじゃれついた。

ガブリアスが悲鳴を上げて倒れた。どうやら、上手くいったようだ。

「ガブリアス、お疲れさま。……それでは、これで最後です。エンペルト!行くぞ!」

ユーリはそう言って、エンペルトを繰り出してきた。

「マリルリ、サンキュー!よしバンギラス、もう一度頑張ろう!」

パロレはバンギラスに再び入れ替えた。エンペルトは、バンギラスの弱点であるみずタイプでもある。しかし、エンペルトにとって有効打となる技を覚えているのはバンギラスだけなのだ。

「バンギラス、じしん!」

「エンペルト、ねっとう!」

二匹はほぼ同時に動いた。しかし、ほんのちょっぴりだけ、バンギラスの方が素早いのだ。

バンギラスが激しく地を揺らす。エンペルトはぐらぐらと揺れる地面に耐えきれず、バランスを崩して倒れた。気を失っている。

「エンペルト、ありがとう」

ユーリがそう言ってエンペルトをボールに戻す。それから、

「さすがですね!」

そう言って微笑んだ。
 ▼ 240 AYr1xkow/g 17/10/05 15:21:31 ID:Fgr1ypfk [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ありがとうございます。わざわざ引き止めてすみませんでした」

ユーリが相変わらず丁寧に言う。

「オレに出来ることはこれくらいしかないですが……」

「ううん」

パロレはそう言って首を横に振った。

「そんなことないよ。やっぱりバトルは楽しいもんね!」

その言葉を聞いたユーリは、安心したような笑みを浮かべ、

「……ええ、そうですね!」

そう言った。

チャンピオンロードの中は暗い。じめじめしている。

しばらく沈黙が続いていたが、ユーリが真面目な表情に戻って口を開いた。

「……オレ、強くなることに固執しすぎてポケモンたちの気持ちを考えることができていなかったんだって、パロレさんとリザードンを見て気付きました」

パロレは黙って聞いていた。ユーリは少し俯いて、

「パロレさんに前に言われたように、オレはずっと急いでいました。自分のことしか考えていなかった……」

それから、ユーリは顔を上げて続けた。

「でも、それでいい訳がありませんよね。お互いに信頼し合って、初めて本当の力を発揮できるっていうのに」

「……うん、そうだね」

パロレはそう言って頷いた。ユーリの瞳は、強い光が見えた。その光は、決して消えることのない希望だ。

「オレ、強くなります。自分自身に負けないように」

ユーリが力強く言う。

「……きっと父は、オレのそういう面を見抜いていたんだろうと思います。頑固で不器用で、必要以上に厳しい人ですけど……」

ユーリはちょっぴり不安げに付け足した。ユーリとコルネッホは、実はかなり似ているのかもしれない。

「強くなったと自分で感じられるようになったら、父とまたちゃんと話をしたいと思います。こう思えるようになったのも、パロレさんのおかげです。本当にありがとうございます」

ユーリがそう言って頭を下げる。

「へへ、力になれたなら嬉しいよ」

パロレはそう言って照れ臭そうに鼻の下を掻いた。
 ▼ 241 AYr1xkow/g 17/10/05 15:22:50 ID:Fgr1ypfk [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「では、パロレさん」

ユーリが改めて口を開いた。姿勢を正して、パロレをじっと真っ直ぐに見つめている。

「健闘を祈ります。またバトルしてくださいね。さよなら!」

「うん!バイバイ!」

戻っていくユーリの後ろ姿に向かって、大きく手を振る。そして、パロレは再び前を向いた。

「……よし」

小さく言って、拳を握る。すると、

「あ、あの!すみません!」

ユーリが慌てたように走って戻ってきた。

「あれ?どうしたの?」

パロレはユーリを見て聞く。ユーリは、なぜか少し恥ずかしそうな顔をしているように見えた。

「えーっと……」

ユーリの目が泳ぐ。

「あの、……パロレ、って呼んでもいいですか?」

「え……?」

予想外な質問に、パロレは思わず目を見開いた。ユーリは不安そうにこちらを見ている。

「もちろんだよ!」

パロレは笑顔で頷いた。そんなの、ダメな訳がない。むしろ嬉しいくらいだ。

「はは……あはっ」

ユーリはこらえきれずに笑い出した。不安に感じていたのが馬鹿みたいだと思ったのかもしれない。パロレの笑顔につられたのかもしれない。でも、ユーリのこんな顔を見るのは初めてだった。満面の、心からの笑顔だ。

「パロレ、ありがとう。それじゃ、今度こそ、また!」

ユーリはそう言って、手を振って去っていく。

「またね!」

パロレはそう言って手を振り返した。
 ▼ 242 AYr1xkow/g 17/10/06 12:57:58 ID:QLieWHjQ [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレは今度こそ前に歩き出して、ついにチャンピオンロードを抜けた。

すると目に入ったのは、チャンピオンロードに囲まれてもなお圧倒的な存在感を誇る大きくて荘厳な大聖堂だった。これこそがアモルのポケモンリーグだ。

パロレはごくりと唾を飲みこんで、ゆっくりとポケモンリーグ入口まで歩いていった。

とうとうだ。とうとうここまでやってきた。

淡い光を放っているようにかすかに眩しく、山影に覆われているというのにまったく暗くない。先程まで光のないチャンピオンロードの中にいたために余計にそう感じるのかもしれない。ここには天使が住んでいるのではないか、そう思えるほどに美しい建物だった。

この中に入ったら、最後まで勝ち進むか或いは負けない限り外に出ることはできない。

覚悟はできている。行かない理由なんてない!

パロレは、少しドキドキしながらも強い足取りでポケモンリーグの中に足を踏み入れた。

ポケモンリーグの中に入ると、広めの廊下が現れた。天井はかなり高く、様々な装飾がなされている。歩くと、大理石の床を踏む音が静かなポケモンリーグに響き渡る。しばらく歩くと五つの扉が見えてきた。

一番左の扉にはピンク色、その隣の扉には黄色。一番右の扉には水色、右から二番目の扉には茶色のそれぞれ異なる紋章が扉に付いている。中央の一番奥にある大きな扉は暗く、開く気配はない。

きっと、紋章はその向こうにいる四天王の極めるタイプを表しているのだろう。恐らく左からフェアリー、でんき、じめん、こおりだ。
どこから行こうか。パロレはしばらく考えて、左から順番に行くことにした。
 ▼ 243 AYr1xkow/g 17/10/06 13:01:43 ID:QLieWHjQ [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
一番左の、フェアリータイプ使いの四天王が待つ部屋へと入る。そこは円型の形をした部屋になっていた。先程までとは変わらない、教会の一部に見える。パロレが円の中央まで行くと、背後から部屋の扉が閉じる音がした。見れば、奥に人がいるのが見える。

突然部屋の中に淡いピンク色の光が現れた。キラキラと美しく輝く光が舞う。光は部屋全体を覆うほどに増え、眩しい光で辺りは見えなくなってしまった。

やがて光が爆発するようにして広がって消えていくと、先程までは荘厳な教会らしい装飾のされていた部屋が、なんとピンク色の愛らしい部屋へと変わっていた。

パロレは再び前を見た。奥にいる人物、四天王がパロレを待っている。パロレは部屋の一番奥へ歩いた。

フェアリータイプの使い手であるこの四天王は、少し年上の少年だった。オレンジ色の髪の毛にオレンジ色のつり目。少年は、面白そうにパロレを見つめている。

「こんにちは。ヴァイスタウンから来ましたパロレです!よろしくお願いします!」

パロレがしっかりと挨拶をする。少年は目を細めて笑顔で返した。

「ようこそパロレ。ボクはカエデ。四天王の一人さ!」

カエデはそう言うと、呑気に続けた。

「フェアリータイプってさ、女の子みたいで可愛いよね。フェアリータイプ使ってると、女の子たちが寄ってきてくれるから、ちょっとお得なんだよねー」

「……チャラいな……」

パロレが複雑な表情でツッコミを入れる。すると、カエデは「ははは!」と声を上げて笑った。

「……なんてね!」

そう言ってカエデは真面目な表情になる。

「もちろんそれだけじゃないよ。フェアリータイプは可愛くて強い!キミは純朴そうだけど、見た目に騙されちゃダメだよ?」

どことなく嫌味っぽい口調でカエデはそう言った。パロレは思わずムッと頬を膨らませる。カエデはニヤリと笑うと、挑戦的な目でパロレを見つめてきた。

「さてキミは、ボクのポケモンたちの強さに追いつけるかな?かかってきなよ!ははははは!」

カエデは高らかに笑うと、ポケモンを繰り出してきた。
 ▼ 244 AYr1xkow/g 17/10/08 01:23:04 ID:1BsS8STQ [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「行けっ、ピクシー!」

「ロズレイド!任せた!」

二人がポケモンを繰り出す。さあ、四天王とバトルだ!

「ロズレイド、どくびし!」

ロズレイドが毒を帯びた撒菱をピクシーの足元に投げつけた。準備は万端だ。

「ピクシー、サイコキネシスだ!」

ピクシーが不思議な力を使って、ロズレイドの脳内に直接攻撃する。ロズレイドは頭を抱えて苦しそうに呻いた。

「ロズレイド、ベノムショック!」

ロズレイドは頭を振り、どうにか痛みをこらえる。そして、毒の塊をピクシーに投げつけた。毒はピクシーの顔面に思いきり当たり、ピクシーは倒れてしまった。

「まだまだ!マシェード、行くよ!」

カエデはピクシーを戻すと、マシェードを繰り出した。マシェードはどくびしを踏んでどく状態になってしまう。しかし、マシェードの表情はあまり変わらなかった。あまり顔に出ないタイプらしい。

「ロズレイド、ベノムショック!」

このまま勢いで突っ走ろう。ベノムショックを受けたマシェードはそのまま後ろに倒れこんだ。マシェードはくさ・フェアリータイプだ。どくタイプはかなり相性がいい。

「うーん、どくびしは厄介だねー。でもまあ、仕方ないか!行け、エルフーン!」

カエデが次に繰り出したのも、くさ・フェアリータイプのポケモンだ。エルフーンがどくびしを踏んで呻いているのを見て、パロレは自信たっぷりに微笑んだ。

「エルフーン、ぼうふう!」

エルフーンはかなり身軽に動き回り、激しい風を起こした。ぼうふうを浴びたロズレイドは、膝をついて苦しそうな表情を浮かべていた。かなりギリギリだ。

「ロズレイド!頑張れ!ベノムショック!」

ロズレイドはすばしっこく動くエルフーンを追いかけ、毒の塊を投げつける。エルフーンは塊に押し潰されて倒れてしまった。

「やるねー、キミ。ニンフィア、任せたよ!」

カエデは皮肉っぽく言うと、エルフーンを戻してニンフィアを繰り出した。ニンフィアもまた、どくびしを踏んで鳴き声を上げる。

「ロズレイド!ベノムショック!」

ロズレイドはまたしてもベノムショックを仕掛けた。ニンフィアは苦しそうな鳴き声を上げて、リボンを体に巻きつけながらその場に倒れた。

「さあ、最後だ。クチート!行くよ!」

カエデはそう言って、ニンフィアをボールに戻してクチートを繰り出した。
 ▼ 245 AYr1xkow/g 17/10/08 01:44:15 ID:1BsS8STQ [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ゲッ」

パロレは思わず呟いた。クチートははがね・フェアリータイプ。どくタイプの技は効かないどころか、どく状態になることもない。戦い方を変えた方が良さそうだ。

「ロズレイド戻れ!リザードン!行くぞ!」

リザードンは大きな咆哮を上げた。

「リザードン、フレアドライブ!」

パロレが大声で指示を出す。リザードンは身体中に炎を纏い、凄まじい勢いでクチートに突進した。クチートは吹き飛ばされ、そのまま力尽きてしまった。

「はぁーあ。降参だよ、降参」

カエデがおおげさに溜息をついてクチートをボールに戻した。

「男に負けるのはスッキリしないよねー」

カエデは肩をすくめてそう言いながら、こちらへと歩いてくる。パロレは何と返せばよいか分からず黙ってカエデを見ていた。

「なんてね。冗談さ!ははは!」

カエデはそう言って笑い飛ばすと、ふと真面目な表情になった。

「……ま、見た目に騙されたのはボクだった、ってオチかな」

カエデはそう言って、ニッと笑う。

「そもそもここまで来たキミがそんな簡単なことも分からないわけがないよね。楽しかったよ。ボクのポケモンの強さと可愛さ、覚えて帰っていってね!」

「はい。ありがとうございました!」

パロレが礼を言う。カエデは満足げに頷いた。

カエデの背後にある小さなワープパネルに、パッと光がつく。あそこから元の部屋に戻れそうだ。

「ところで……」

パロレがワープパネルに向かって歩いていると、カエデが口を開いた。パロレは振り向く。

「一番目にボクに挑戦するなんて、そんなにボクに会いたかったのかい?でもボクは男には興味ないよ、残念だったね!」

カエデはそう言って、腹が立つほどの満面の笑みで手を振ってパロレを見送った。
 ▼ 246 AYr1xkow/g 17/10/08 08:05:42 ID:bt9EBvgk NGネーム登録 NGID登録 報告
ワープパネルに乗ると、扉が五つある部屋の中央へと戻ってきた。真ん中の扉がぼうっと光り、左上の部分だけ色がついた。

さて、次に挑戦するのは先程の部屋の隣、左から二番目の部屋で待つ四天王だ。

パロレが部屋に入る。やはり先程と同じように円形の部屋だ。中央に向かうと背後の扉が閉まる。ここまでも先程と同じ。

ビリビリ、と電流が走る音がする。驚いて周りを見渡すと、部屋の中に青白い電気が立ちこめていた。下手すればパロレまでダメージを受けそうなほどの電流だが、なぜか痛みなどは感じない。やがて、電気は徐々に激しくなっていく。

ドンガラガッシャーン!と、爆音と共に部屋に雷が落ちた。そう思ってしまうほどの激しい電流が流れたのだ。電流が消えると、部屋は黄色をベースとした近代的なものになっていた。

パロレは部屋の奥へと向かった。見えてきたのは、黒いセミロングに赤い瞳の女性。パロレはあっと声を上げた。

「さぁー、挑戦者さんがやってきましたよ。あたしも頑張りまーす!って、あ!?」

まるでバラエティ番組の司会のようなハキハキとした話し方。いつの日か出会った、タレントのイチゴだ。

パロレは口を開けて呆然としていたことに気がつき、慌てて姿勢を正した。

「えっと、ヴァイスタウンから来ましたパロレです!よろしくお願いします!」

「ブロインシティで会ったぼく!パロレっていうんだね?」

イチゴは小刻みに手を振りながら嬉しそうに声を上げた。

「ジムを巡ってるって言ってたからいつかバトルできるのかなーとかぼんやり思ってたけど……、まさかこんなに早くこの日が来るなんて!」

イチゴは口をあんぐりと開けて言った。ワイプにいつ抜かれても問題なさそうな、バッチリのリアクションだ。

「びっくりだ……テレビにも出て四天王もやってるなんて、すごい!」

パロレが言うと、イチゴは照れ臭そうに笑った。

「すごくなんかないよ、ぜーんぜん!テレビに出ていろんな人と会っていろんな話を聞くのはすごく楽しいし」

イチゴはそう言うと、パロレに向かってウインクした。

「もちろんバトルもね」

そう言うイチゴは、先程までの気さくでリアクションのおおげさなテレビタレントではなくなっていた。そこにいるのは、確かな実力を持つ一人のポケモントレーナーだ。

「いろんな人と出会っていろんなバトルをする……こっちもサイコーに楽しいよ。あたしは自分の仕事を苦痛に思ったことなんて一度もない」

イチゴはそう言うと、うっすら微笑んだ。

「さて、それじゃ……」

イチゴはモンスターボールを手に取り、声高らかに叫んだ。

「ビリビリに痺れさせてあげるッ!」
 ▼ 247 ャビー@カロスエンブレム 17/10/08 08:29:58 ID:wcQZCg5w NGネーム登録 NGID登録 報告
ブロインシティのイチゴは伏線だったのか…
 ▼ 248 AYr1xkow/g 17/10/10 09:12:33 ID:GEKKTSSo [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「行け、パチリス!」

イチゴがパチリスを繰り出す。随分と可愛らしいポケモンだ。

「バンギラス!行くぞ!」

進化したことでじめんタイプではなくなってしまったが、高い能力を持つ強いポケモンであることには変わりない。

「パチリス、ほうでん!」

パチリスはその小さな体に電力を溜め、勢いよく放出した。放たれた電力がバンギラスの体を襲う。

「バンギラス!じしんだ!」

バンギラスは重い体で跳ねた。ずどん、という音がパロレたちの腹の底に響く。地面が揺れ、パチリスは一気にダメージを受けて倒れこんだ。

「まだまだ!行け、エモンガ!」

イチゴが次のポケモンを繰り出す。パロレはエモンガをじっと見つめた。ここはバンギラスに続けて頑張ってもらおう。

「エモンガ、ほうでん!」

エモンガは先程のパチリスと同様に、小さな愛らしい体に溜めこんだ電力を思いきり放った。バンギラスが苦しそうに呻く。

「バンギラス!いわなだれ!」

バンギラスがエモンガの頭上にいくつもの岩を投げつける。エモンガはその重みに耐え切れず、体をどんどん沈ませていった。やがて、超低空飛行になったかと思えば、エモンガはその場に落ちて気を失ってしまった。

「なかなかやるね。さあ、行くよ!ゼブライカ!」

イチゴがそう言ってゼブライカを繰り出した。

「バンギラス、まだ頑張れるか?」

パロレがバンギラスに声をかける。バンギラスは小さく鳴き声を上げて頷いた。

「ゼブライカ、ワイルドボルト!」

ゼブライカは体に電気を纏うとバンギラスに激突してきた。バンギラスはよろめき、数歩退いた。ゼブライカは攻撃した反動で吹っ飛び、少しダメージを受けてしまう。

バンギラスはもう限界のようだったが、どうにかギリギリで持ちこたえた。普通だったら、もう倒れてしまっているところだ。

「バンギラス、よくやった!じしんだ!」

バンギラスはパロレの声に答えるよう、強く地面を揺らした。ゼブライカの足元が揺れ、足がもつれたゼブライカはその場で滑って転んでしまう。そしてゼブライカはそのまま気を失った。
 ▼ 249 AYr1xkow/g 17/10/10 09:14:52 ID:GEKKTSSo [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「キミ、意外と容赦ないんだね。そういうの、大好きよ!」

イチゴはそう言うと、次のポケモンを繰り出してきた。じばポケモンのジバコイルだ。

「よし、バンギラス一発で決めよう!じしん!」

バンギラスは再び大地を強く揺らした。ジバコイルはバランスを崩してその場に落ちた。かと思えば、ギリギリで持ちこたえ再び浮かび上がった。そう、イチゴのジバコイルの特性はがんじょう。一発でやられることはないのだ。

「ジバコイル、ラスターカノンっ!」

イチゴが自信たっぷりに指示を出す。ジバコイルは体中の光を一点に集め、勢いよく力を放った。ラスターカノンは元々体力の限界だったバンギラスに思いきりぶつかり、バンギラスは戦闘不能となってしまった。

「バンギラス、ありがとう。……ジュペッタ、任せたぞ!」

「ケケケッ!」

パロレはバンギラスに優しく声をかけ、ボールに戻した。ジュペッタは毎度のごとく笑っている。

「ジュペッタ、ふいうち!」

ジュペッタは笑いながらジバコイルに近づいていく。そして、ジバコイルの不意を打って攻撃した。ジバコイルは今度こそ倒れてしまった。

「あっという間に最後だね。行くよ、デンリュウ!」

イチゴがそう言って、最後のポケモンを繰り出す。パロレはジュペッタに引き続き戦ってもらうことにした。

「ジュペッタ!ゴーストダイブ!」

パロレが指示を出すと、ジュペッタはどこかに消えてしまった。デンリュウが辺りをキョロキョロと見渡す。

「くっ……、しょうがないね」

イチゴが悔しそうに言った。デンリュウは一ターン行動できずに終わってしまった。すると、どこからともなくジュペッタが姿を表し、デンリュウに攻撃した。

「いたっ!デンリュウ!でんじほう!」

デンリュウが、大砲のような電気をドンとジュペッタに打ちつけた。ジュペッタは勢いよく吹っ飛び、そのまま気を失ってしまっていた。

「ジュペッタ!ごめん、お疲れ!」

パロレは慌ててジュペッタを戻すと、

「行け、ロズレイド!」

ロズレイドを繰り出した。あのでんじほうは当たると危険だ。ここはそれほど相性の悪くないロズレイドに替えるべきだと判断したのだ。

「ロズレイド、エナジーボール!」

ロズレイドがエナジーボールを作り、デンリュウに向けて思いきりぶつけた。ゴーストダイブでダメージを受けていたデンリュウはもう限界だったようだ。デンリュウはフラフラとしばらく歩いたかと思えば、気を失って倒れてしまった。
 ▼ 250 AYr1xkow/g 17/10/10 09:27:25 ID:GEKKTSSo [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「うーん、痺れた!」

イチゴがあちゃー、という顔をしてそう言った。それから、パロレの元へ歩いてくる。

「ポケモンバトルってほんと楽しいよね。キミが心からバトルを楽しんでるの、伝わってきたよ!キミとのバトル、すごく面白かったなー!」

イチゴは嬉しそうに言うと、少し真面目な声音で続けた。

「あたし思うんだ。強いポケモンとか可愛いポケモンとかいろいろあるけど……、せっかく自由にポケモンと一緒にいられる時代にいるんだもん、たとえその子がどんなポケモンだとしても好きな子と一緒にいたいよね」

イチゴはそう言ってにっこり笑った。

「やっぱり、好きなポケモンと楽しめるのが一番!」

パロレはこっそり息を吐いた。そうだ。大好きな仲間たちと一緒に頑張ることができるのが、何よりも嬉しい。

「パロレくんのこれからの毎日も光り輝いてますように!」

イチゴは、そんな素敵な言葉で締めくくった。

「はい。ありがとうございました!」

パロレはしっかりと頭を下げて礼を言う。そして、奥にあるワープパネルへと向かった。すると、イチゴが呟いているのが聞こえてくる。

「二番目ってちょっとフクザツ……いい結果を残さないと、大抵カットされちゃうのよね。ナレーションだけで済まされちゃう……」

芸能界って、大変そう。パロレは心の中でイチゴに「お疲れ様です」と声を送り、ワープパネルの上に乗った。
 ▼ 251 ジーロン@イーブイZ 17/10/11 10:43:26 ID:UByIRMK. NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 252 AYr1xkow/g 17/10/11 13:33:17 ID:46t.jqJ2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ワープパネルで元の部屋に戻ると、中央の扉の左下の部分に色がついた。残るはあと二人だ。

パロレは右から二番目の扉を開けた。円形の部屋に入ると、パラパラと何かが落ちてくる音が聞こえてくる。見れば、天井から砂が降ってきていた。

降ってくる砂の量は徐々に増えていく。足元に砂が溜まり始めた。やがて、大きな地響きが聞こえてきたかと思えば、大量の砂が一気に上から落ちてきた。

砂埃が舞い、部屋一面を覆った。何も見えないが、なぜか苦しくない。やがて砂埃が消えると、足元の砂もすべて綺麗さっぱりなくなっていた。

再び部屋が見えるようになると、そこは茶色を基調とした落ち着いた雰囲気の、不思議なものに変わっていた。確かこの部屋のような風景は、「和風」と言うらしい。

部屋の奥へ向かうと、変わった服を着た女性がそこにいた。焦げ茶色の髪と瞳で、髪はアップにしてまとめてある。母親と同じくらいの年齢だろうが、綺麗な人だ。あの変わった服は「着物」と呼ばれるものだったはず。

「こんにちは!ヴァイスタウンから来たパロレです!」

「よく来たね、ウチはコクリコ。じめんタイプ使いの四天王や」

コクリコと名乗った女性は、訛りのある発音でそう言った。

「最近の若いトレーナーは軟弱者が多すぎとよ。見てると本当に腹が立つね。お前さんはどうなんや?ここまで来たからにはそれなりの実力はあるんやろうね」

コクリコは鋭くパロレを睨みつけた。パロレは思わず背筋をピンと伸ばす。

「ホウエンから来てポケモン鍛えてるウチはな、これでもいろいろ経験しとるんよ。トレーナーの目を見ればそいつが今までどんな思いでやってきたんか分かる!」

コクリコはそう言うと、ビシッとパロレを指差した。

「お前さんはどうや?なかなか頑張っとったと見た。……やけど、もしもウチの期待を裏切ったら……」

コクリコは低い声で唸った。それからカッと目を見開いて、

「ただじゃおかないよッ!」

「ヒイッ!」

明らかに堅気ではない気迫を出すコクリコに気圧されそうになりながら、パロレは慌ててモンスターボールを手に取った。
 ▼ 253 AYr1xkow/g 17/10/12 00:44:40 ID:6w43CYag [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「行くぞ、ロズレイド!」

パロレがロズレイドを繰り出す。

「ゴローニャ!出番や!」

コクリコも勢いよくゴローニャを繰り出した。

ゴローニャの特性は、恐らくがんじょうだ。いきなり倒しにかかるのは、賢明ではないかもしれない。

「ロズレイド、どくどく!」

ロズレイドが体から毒を噴出させる。ゴローニャはもうどく状態になってしまった。

「ゴローニャ、ストーンエッジ!」

ゴローニャが、尖った岩をロズレイドに突き刺して攻撃した。ロズレイドは苦しそうに鳴き声を上げたが、まだ大丈夫そうだ。

「ロズレイド、エナジーボールだ!」

ロズレイドが自然のエネルギーで作った球体をゴローニャにぶつける。毒にやられて苦しんでいたゴローニャは、そのまま呻いて倒れこんだ。

「お前さん、やるやん。さあ、カバルドン!出てきんしゃい!」

コクリコがそう言って、カバルドンを繰り出した。瞬間、辺りに砂嵐が起こる。カバルドンの特性、すなおこしの効果だ。

「ロズレイド!エナジーボール!」

ロズレイドが指示通り、素早くエナジーボールを作ってカバルドンにぶつけた。カバルドンは一撃で気を失ってしまった。

砂嵐が吹き荒れ、ロズレイドを打ちつける。ロズレイドは少しきつそうだ。

「さあ、いくよ!ネンドール!」

コクリコが次のポケモンを繰り出した。パロレはロズレイドを引っ込めずに続けて指示を出す。

「ロズレイド!もう一回エナジーボールだ!」

ロズレイドの攻撃はネンドールに直撃した。しかし、ネンドールは耐え切ってしまった。

「ネンドール、じんつうりき!」

ネンドールが見えない力でロズレイドの頭に直接攻撃する。ロズレイドは痛そうに頭を抑えると、そのままよろめいたかと思えば倒れてしまった。

「ロズレイド、ありがとう。マリルリ!行くぞ!」

パロレはロズレイドをボールに戻してマリルリを繰り出した。

「ネンドール!だいちのちから!」

ネンドールが念じると、マリルリの足元から大地の力が勢いよく放出された。マリルリは転びそうになったが、どうにか体勢を整えた。

「マリルリ!アクアテール!」

マリルリが飛び上がり、水を纏った尻尾で思いきりネンドールを叩きつける。ネンドールは地面に落ちて動かなくなった。

「ニドキング!任せたけんね!」

コクリコはネンドールを戻すと、ニドキングを繰り出した。
 ▼ 254 AYr1xkow/g 17/10/12 00:47:04 ID:6w43CYag [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレは続けてマリルリに頑張ってもらおうと、ボールに戻さずにマリルリに視線を送った。マリルリが頷く。

「ニドキング、ヘドロばくだん!」

ニドキングがヘドロでできた爆弾を投げつける。マリルリはヘドロの爆発を受け、気を失ってしまった。

「ああっ!マリルリ、ごめん!ピジョット!行くぞ!」

思わぬところでやられてしまった。そうだ、マリルリはみずタイプだから大丈夫だと思いこんでしまっていた。ニドキングはどくタイプでもある。フェアリータイプのマリルリは、相性が悪い。

「ピジョット!はがねのつばさ!」

パロレは繰り出したピジョットに指示を出した。ビロウから貰った技マシンで覚えさせた技だ。

ピジョットは硬く翼を広げ、思いきりニドキングに体当たりした。効果は抜群だ。しかし、ニドキングは耐え切った。

「ニドキング、メガホーン!」

ニドキングは硬い角を勢いよく突き出してピジョットを攻撃した。技の威力自体はかなり高いが、ピジョットへの効果は今ひとつだ。

「ピジョット、もう一度はがねのつばさ!」

ピジョットはくるりと旋回し、ニドキング目掛けて飛んでいった。そして、硬く広げた翼でニドキングにぶつかる。ニドキングはよろよろと後退し、そのまま倒れて気を失った。

「さあ、最後やけんね。思いっきりやり!ハガネール!」

コクリコが、そう言って最後のポケモンであるハガネールを繰り出した。

「よし、ピジョット戻れ!リザードン!任せたぞ!」

パロレはポケモンを入れ替えた。リザードンが鳴き声を上げる。

「リザードン!決めるぞ!かえんほうしゃ!」

パロレが声高らかに指示を出す。リザードンは口から凄まじい勢いの炎を吐き出した。炎はハガネールの体を燃やし尽くす勢いだ。ハガネールは炎に押されてどんどん後ろへと退く。やがて、耐えきれなくなったのか、ハガネールは呻き声を上げてどさりと倒れてしまった。

「やるやん!」

コクリコが嬉しそうにそう言った。
 ▼ 255 AYr1xkow/g 17/10/12 00:48:15 ID:6w43CYag [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「フン、期待通りやね。こういうトレーナーがもっと増えてくれればいいんやけどね」

コクリコの口調は、褒めてくれているはずなのに少し厳しく聞こえる。パロレは再び姿勢を正して真面目な表情でコクリコの話を聞いた。

「トレーナーの強さは心の強さで決まる!それを分かっとらん奴が最近は多いとね。まあ、お前さんは心配なさそうやね」

コクリコはそう言うと、微笑んだ。

「ポケモンを信頼して、自信を持って頑張り」

「はい!ありがとうございました!」

パロレはしっかりと頭を下げた。そして、ワープパネルへと向かう。

それにしても、コクリコは怖い人だった。敵に回したら終わりだと感じさせられた。やっと戻れると思ったパロレがホッと息をつくと、コクリコがくるりとこちらを振り向いた。

「何気を抜いとるとね!あと一人残っとるんやろ!?気を引き締めんね!ウチが背中引っ叩いて気合い入れ直しちゃろうかッ!」

コクリコが、鬼の形相で言う。

「ヒィッ!大丈夫です!」

パロレはそう言うと、慌ててワープパネルに飛び乗った。
 ▼ 256 AYr1xkow/g 17/10/12 16:51:01 ID:28cbjdQ. NGネーム登録 NGID登録 報告
扉が五つある部屋に戻ってきた。中央の扉の右下部分に色がつく。さあ、残る四天王はあと一人だ。

最後の一番右の部屋に入る。中央まで歩いて背後の扉が閉まると、室内であるにも関わらず、部屋の中に冷たい風が吹き始めた。

風はどんどん激しくなっていく。やがて、まるでダイヤモンドダストのように美しい結晶が舞い始めた。それから風は更に威力を増し、部屋の中はカチコチに凍ってしまった。

パリン!部屋中を覆っていた氷が割れる。すると、部屋は水色を基調としたスタイリッシュなデザインのものに変わっていた。向こうに男性が立っているのが見える。パロレは奥へと歩いた。

最後の四天王は、水色の髪にピンク色の瞳をした、細くて背の高い男性だった。

「こんにちは。ヴァイスタウンのパロレです。よろしくお願いします!」

パロレが自己紹介する。男性は目を細めて微笑んだ。

「ようこそ。アタシはカメリアよ」

カメリア。どこかで聞いたことのある名前だ。

「アナタ、氷ってお好き?氷ってキラキラしてるでしょ。宝石でもないのに綺麗。角度によって色が変わって見えたりもするのよ」

カメリアはうっとりとした瞳でそう言う。それからニッコリと笑って、

「アタシ、そういう自然な美しさを大切にしてるの。だからこおりタイプが好きだし、そういう服をデザインしてるのよね」

カメリアのその言葉に、パロレはあっと声を上げた。カメリアは、クオレとユーリが以前船の上で話していたデザイナーだ。

「自然な美しさって分かる?美しさってのは見た目だけの話じゃないのよ。内面から滲み出るものなの」

カメリアは瞳を閉じて胸に手を当て、おおげさな身振り手振りと共に語り続ける。

「それはバトルでも同じよ。心が美しければその思いはきっと相手やポケモンに届いてもっと強くなれる……」

カメリアはそう言うと、モンスターボールを手に持った。

「さあ!アタシにアナタの強さと美しさ!見せてごらんなさい!」

パロレはカメリアの言葉を聞いて力強く頷き、モンスターボールを持った。
 ▼ 257 AYr1xkow/g 17/10/13 11:56:54 ID:y9K770XU [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「行くわよ、ルージュラ!」

「バンギラス!頼んだ!」

二人がポケモンを繰り出す。まず動いたのは、ルージュラだ。

「ルージュラ、めざましビンタ!」

カメリアの指示を聞いたルージュラが、強烈なビンタをお見舞いしてきた。バンギラスは横面を思いきり張られて、痛そうな顔をしている。

「バンギラス!いわなだれ!」

バンギラスが勢いよくいくつもの岩を投げつけた。ルージュラは岩に押し潰され、気を失ってしまった。

「お次はこの子。ラプラスよ!」

カメリアがルージュラを戻してラプラスを繰り出した。

「バンギラス!いわなだれだ!」

今度はバンギラスが動いた。バンギラスの攻撃によって、ラプラスも一撃で倒れてしまった。

「んもう、容赦ないわね。行きなさい!ジュゴン!」

カメリアがジュゴンを繰り出す。パロレはなおもバンギラスに頑張ってもらうことにした。

「ジュゴン!アクアテール!」

ジュゴンが水を纏った尻尾でバンギラスを叩きつける。バンギラスはよろめいた。

「バンギラス頑張れ、いわなだれだ!」

バンギラスは足を強く踏み出し床を揺らすと、姿勢を整えた。それから、ジュゴンに向かって雪崩のような勢いで岩を投げつける。ジュゴンは戦闘不能になってしまった。

「みんな瞬殺ね。でもまだまだよ!マニューラ!行くわよ!」

カメリアがマニューラを繰り出す。

「よし、バンギラス、続けて行くぞ!」

パロレはそう言った。カメリアが指示を出す。

「マニューラ、かわらわりよ!」

マニューラはバンギラスの元まで近づくと、飛び上がって手刀を素早く振り下ろした。マニューラの攻撃はバンギラスの頭に直撃し、バンギラスはフラフラと数歩歩いてから重い音を立てて倒れてしまった。

「ああ、バンギラス!ごめんよ、お疲れ様!」

パロレはバンギラスをボールに戻した。それから、次のボールを手に取り、ポンと一度投げてキャッチしてから、勢いよくポケモンを繰り出す。

「マリルリ!行くぞ!」

マリルリは気合十分に鳴き声を上げた。
 ▼ 258 AYr1xkow/g 17/10/13 11:57:59 ID:y9K770XU [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「マニューラ、メタルクロー!」

マニューラは鋼のように硬い爪でマリルリの体を斬りつけた。マリルリは痛そうに呻いたが、まだまだ行けそうだ。

「マリルリ!ばかぢから!」

マリルリが、まさに馬鹿力を発揮して凄まじい勢いでマニューラに攻撃する。マニューラはまともに攻撃を受けて吹っ飛んでしまった。壁にぶつかったマニューラは気を失っている。

「さあ、最後よ!行きなさい!オニゴーリ!」

オニゴーリは怖い顔でこちらを睨みつけている。

「オニゴーリ!フリーズドライ!」

オニゴーリはマリルリの体を急激に冷やした。マリルリは苦しそうにしている。どうやら体力はギリギリのようだ。

「マリルリ頑張れ!もう一度ばかぢからだ!」

マリルリは先程もばかぢからを使ったことで、疲れてこうげきとぼうぎょが下がってしまっている。しかし、マリルリはちからもちという強力な特性を持っている。一度くらい攻撃力が下がったとしても、パロレのマリルリにとってはそんなことは些細な問題なのだ。

マリルリが力強くオニゴーリを攻撃する。オニゴーリは吹っ飛ばされ、そのまま気を失ってしまった。

「ファンタスティコ!」

カメリアはオニゴーリをボールに戻すと、手を叩いてそう言った。

「アナタとアナタのポケモンたち……とっても美しい心を持っているのね。伝わってきたわ」

カメリアはそう言って微笑む。パロレはあまりピンと来ず、首を捻った。

「美しいっていうのはね……『綺麗』という意味ではないのよ。美しさにもいろいろあるの。自分では分からないでしょうけど、アナタの心は澄んだ氷のように透明で美しい。まるで向こう側が透けて見えるくらいに素直な心ね」

カメリアはそう言って、まだあまりよく分かっていない様子のパロレを見て面白そうに笑った。

「アタシももっと美しくならなきゃ、ね。インスピレーションを刺激されたわ。うーん、いいデザインが思い浮かんできた!」

カメリアがハイテンションで言う。

「ありがとうございました!」

パロレは礼儀正しくそう言って、奥のワープパネルへと向かった。

四天王とのバトルは終わった。とうとう次は……。

「パロレ」

カメリアに名を呼ばれ、パロレは緊張気味に振り向いた。カメリアはそんな様子のパロレを見て、リラックスよ、と言うように優しく微笑む。

「さあ、アモル地方で最も強く美しいトレーナーがアナタを待ってるわよ。頑張ってらっしゃい」

カメリアの言葉に、パロレは力強く頷いた。

「はい!」
 ▼ 259 リムガン@やけたきのみ 17/10/13 14:32:55 ID:vXZKL1n6 NGネーム登録 NGID登録 報告
四天王はナルシのチャラ男、大人気タレント、極道の妻(っぽいキャラ)、オネエのデザイナーか
濃いな
 ▼ 260 トマル@ブルーカード 17/10/14 10:15:22 ID:3iiyt73w NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
紳士のモクレン
毒舌お嬢様のローザ
マンサクじいさん
ホラー少女ネム
シブくて悪の組織にも顔がきくクチナシチックなリュウさん
ピザ好きな鋼の男ビロウ
海賊のヒマワリ
ファッションブランドのレナ

ジムリの面子も好き
 ▼ 261 AYr1xkow/g 17/10/14 16:15:39 ID:UDWA55LI NGネーム登録 NGID登録 報告
元の部屋に戻ると、真ん中の扉の右上部分に色がつき、扉はついに完成した。扉がゆっくりと開いていく。この扉の向こうに行け、そういうことだろう。

パロレは重々しく開いた扉を抜けた。その先にはまた長い廊下が続いている。しばらく歩いていると、小さな円形の部屋にたどりついた。部屋には何も置いておらず、床の中央に複雑で美しい紋章が書きこまれた大きなパネルがあるのみだった。

パネルの中央に立つ。すると、パロレの体が浮かび上がった。なんとワープパネルではなく不思議なエレベーターのようなものだったらしく、紋章ごと浮かび上がってパロレを階上へと連れていってくれた。

紋章は先程と同じように何もない円形の部屋まで浮かび上がると止まった。先程と違うのは、先の見えない広く大きな階段が目の前に広がっていることだ。この先に、チャンピオンがいるのだろう。見上げると溜息の出てきそうなほど大きな階段だ。パロレは意を決して上り始めた。

チャンピオン。きっと、八年前、百年ぶりにメガシンカを使うことが認められたトレーナーがチャンピオンだ。パロレは階段を上りながら考えた。だって、アモル地方で一番強いトレーナーなんだから。

パロレも才能を見込まれてキーストーンの原石を貰ってはいたものの、正式にメガシンカの使い手として認められたわけではない。しかし、アモル地方で唯一メガシンカを使うことができるその人物は、王族の末裔に正式に認められている。今までのトレーナーとは、一味も二味も違うだろう。

……でも。

「ぼくたちならやれる」

パロレは思わず口に出していた。

そうだ、ぼくたちならきっとやれる。今まで通りやるだけだ。

「リザードン……それにみんなも。最後まで、一緒に頑張ろうな!」

ポケモンたちにそう語りかけたところで、パロレはようやく階段を上りきった。

そこにあるのは、聖堂のような広くて美しい部屋だった。奥にある巨大なステンドグラスが光を受けて輝いている。部屋の中に虹がかかっているかのように鮮やかに光っていた。

広い部屋の中央には、人が立っている。その人物こそが、チャンピオンだろう。逆光で影になっており、しっかりとした姿は見えない。

パロレは、チャンピオンの元に向かって歩き出した。

チャンピオンの顔が、見えてきた。
 ▼ 262 AYr1xkow/g 17/10/16 18:16:52 ID:vz6fad9o [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「待ってたよ」

チャンピオンが口を開く。パロレは目を見開いた。

「アルセアさん……!」

アモル地方のチャンピオンとしてそこに立っていたのは、なんと、アルセアだった。

アルセアの姿を見た瞬間は驚いたものの、パロレはすんなりと納得がいった。考えてみれば、ヒントはそこら中にあったのだ。

八年前にメガシンカを使うことが認められたトレーナーが現れた。五年前、少女がポケモンを盗まれ、取り戻したポケモンの記憶が失われているという事件が起こった。五年前から約二年間、ポケモンリーグがチャンピオンの何らかの都合で閉鎖されていた。よく考えてみると、辻褄が合う。

「……この間は大変だったね」

アルセアがそう言った。

「でも、パロレのおかげで被害を最小限に留めることができた。あの時の私はマジの役立たずだったから……。あの人を止められなかったら今頃どうなってたか。代表して礼を言うよ。ありがと」

アルセアが少しばつが悪そうに言う。

「いえ、それほどでも……」

アルセアはそう言うが、仕方ない。トラウマを思い起こさせる場で本気で戦えと言う方が酷だというものだろう。

「あれからリザードンの調子はどう?」

アルセアが聞く。

「元気です!」

「そう。よかった」

パロレが答えると、アルセアはそう言った。口調は素っ気ないが、きっと心の奥ではパロレとリザードンを本気で心配してくれているのだ。パロレは、アルセアが覚醒してしまったスリジエのポケモンたちを保護していたことをふと思い出した。

アルセアは、そういう人なのだ。普段は無口であまり表情も変わらないが、本当は誰よりも優しく、ポケモンのことを考えている。だからチャンピオンになれるだけの器があるのだ。
 ▼ 263 AYr1xkow/g 17/10/16 18:19:01 ID:vz6fad9o [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あの……ぼく、最初アルセアさんのこと、怖い人だと思ってたんです」

パロレは正直に語った。アルセアは黙って聞いている。

「でも、ぼくが間違ってました。アルセアさんって、すごくポケモン思いな方なんだなって、今なら分かるんです……あ!勝手にすみません!」

パロレはアルセアの表情を見て慌てて謝った。アルセアは胡散臭そうにパロレを見つめている。

記憶を失くしてしまったポケモンは、スリジエの話を聞く限り、バグのあったというアウェイクマシーンのせいでリザードンよりもかなり悲惨な状態で見つかったのだろう。それでも二年でポケモンの記憶を取り戻させた彼女が、ポケモン思いでないわけがない。

アルセアは溜息をついた。きっと照れ隠しだ。

「で、何?おだてて油断させようっていう作戦?」

アルセアがぶっきらぼうな口調でわざとらしく言う。

「え!いやいやいや!違いますよ!」

パロレはぶんぶんと音が鳴るほど激しく手と首を横に振った。

「ぼく、アルセアさんめちゃくちゃかっこいいなって思って……!」

パロレはそう言って、目を輝かせた。

本心だ。多くを語らないアルセアだが、行動はいつも相手への想いに満ち溢れている。その相手が人間であろうとポケモンであろうと変わらない。

「……そう」

アルセアはなんだか妙な顔をしていた。また照れているのかもしれない。

「でも、あの時のパロレもかっこよかったよ」

アルセアが言う。パロレの顔は一気に真っ赤に染まった。

「え……あは!アルセアさんにそう言われると、照れるな……!」

パロレは慌てて頭を掻きながら何でもないふりをした。

「……さ、おしゃべりはこの辺にして、そろそろ始めようか」

アルセアが言う。その瞬間、部屋の空気が変わった。アルセアが放つオーラは、確実に彼女が只者ではないということを表している。

「私、あんたと戦うのずっと楽しみにしてたんだよ」

アルセアがそう言ってにやりと笑うと、右耳に髪をかけた。いつもは髪で隠れている耳が露わになる。するとそこには、美しく輝く石がはめこまれた耳飾りがあった。

パロレはハッとした。やっぱり!あれこそがキーストーンだ。

アルセアがモンスターボールを左手に持ってこちらを見つめてくる。

チャンピオンのアルセアが勝負をしかけてきた!
 ▼ 264 AYr1xkow/g 17/10/17 23:55:58 ID:I0UtkB12 [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「クレッフィ、行くよ」

アルセアが左手に持ったモンスターボールを軽く投げる。

「行け、リザードン!」

パロレもポケモンを繰り出した。

「クレッフィ、ひかりのかべ」

クレッフィは光でできた不思議な壁を作り出した。

「リザードン、かえんほうしゃだ!」

リザードンは口から火を吐いて攻撃する。ひかりのかべがなければきっともっとダメージを与えられただろう。しかし、クレッフィはピンピンしている。

「リザードン、かえんほうしゃ――」

「クレッフィ、戻って。行くよ、ルガルガン」

パロレの指示が終わるか終わらないかのところで、アルセアがクレッフィを引っ込めてルガルガンを繰り出した。まひるのすがたのルガルガンが、遠吠えするように鳴き声を上げる。リザードンは再び炎を吐いたが、ひかりのかべの効果とタイプ相性のせいでルガルガンにはほとんどダメージを与えることができなかった。

「リザードン、戻れ!行け、マリルリ!」

パロレが慌ててポケモンを入れ替える。

「ルガルガン、ステルスロック」

アルセアは冷静に指示を出した。尖った岩がマリルリの周りに漂う。当たったら痛そうだ。

「よし、マリルリ!アクアテールだ!」

今度こそ攻撃だ。しかし、アルセアはまたしてもパロレの指示が終わる直前のタイミングで、

「ルガルガン、戻って。クレッフィ、もう一回行くよ」

再びポケモンを入れ替える。マリルリのアクアテールは相変わらずあまり効いていない。パロレは思わず唸り声を上げた。翻弄されっぱなしだ。

「クレッフィ、リフレクター」

クレッフィは再び光でできた不思議な壁を作り上げた。今度は物理攻撃の威力を弱めてしまう壁だ。

今のところ、アルセアは一度も攻撃をしていない。パロレのポケモンたちは、体力はまったく削られていないのだ。それでも、なぜか焦ってしまう。

「マリルリ!ばかぢから!」

マリルリは馬鹿力を発揮してクレッフィに思いきり攻撃した。クレッフィは地面に落ちそうになったところをギリギリで持ちこたえた。

パロレは、今までに戦ってきたトレーナーたちとの違いをまざまざと見せつけられていた。メガシンカの使い手として認められ、チャンピオンに任命され、かつスリジエに目をつけられたその天才的なバトルの才能は伊達じゃない。

「クレッフィ、ラスターカノン!」

クレッフィは体の光を一点に集め、マリルリめがけて一気に放出した。マリルリは光の攻撃を受け、苦しそうな鳴き声を上げて倒れた。一撃だ。

ひかりのかべは消え、効果はなくなった。リフレクターの効果はまだ三ターン分残っている。更に、パロレのポケモンの出る場にはステルスロックが浮いている。アルセアが本気を出す準備は完了したということだろう。パロレは唇を噛みしめた。どんな相手だろうと、やるしかない!
 ▼ 265 AYr1xkow/g 17/10/17 23:57:19 ID:I0UtkB12 [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「バンギラス!行くぞ!」

パロレがバンギラスを繰り出す。バンギラスの体に尖った岩が食いこんだ。バンギラスのすなおこしで、周りに砂嵐が吹き荒れ始めた。

アルセアの表情がかすかに曇ったように見えた。バンギラスはあくタイプだ。クレッフィの特性であるいたずらごころが活かせない。

「クレッフィ、マジカルシャイン」

クレッフィが強力な光を放ち、バンギラスを攻撃した。バンギラスはよろめいたが、あと少しというところで持ちこたえた。パロレはパッと顔を輝かせる。

「バンギラス!じしんだ!」

バンギラスが大きく地面を揺らす。元々体力の限界に近かったクレッフィは、バランスを崩し、体に引っ掛けた鍵をジャラジャラと落としながらその場に落ちてしまった。アルセアが素早くクレッフィをボールに戻す。

「頼んだよ、ルガルガン!」

ルガルガンは鳴き声を上げると、辺りの砂を掻いた。どうやら特性はすなかきのようだ。

「ルガルガン、ステルスロック」

ルガルガンが再びステルスロックで尖った岩を飛ばしてきた。クレッフィとルガルガンは、相手の作戦を掻き乱すための技を使うポケモンなのだろう。パロレは察し始めていた。とはいえ、二回もステルスロックをされてしまうとなかなか痛い。

「バンギラス、じしん!」

バンギラスがまたも地面を揺らす。まだリフレクターは残っているが、ルガルガンは倒れてしまった。

「ミロカロス!行くよ!」

アルセアが次のポケモンを繰り出す。ミロカロスは美しい体躯をしならせながらこちらを睨みつけてきた。パロレはモンスターボールを手に持った。

「バンギラス、戻れ!行け、ロズレイド!」

パロレもポケモンを入れ替えた。砂嵐がミロカロスとロズレイドを打ちつけた。おまけにロズレイドはステルスロックのダメージも受けてしまう。

「ロズレイド!エナジーボール!」

ロズレイドがエナジーボールを投げつける。ひかりのかべの効果はとっくに消えているはずなのに、ミロカロスは攻撃を耐えた。さすが、守りに優れたポケモンだ。

「ミロカロス、れいとうビーム」

ミロカロスは冷たいビームを吐いた。ロズレイドはどうにか攻撃を耐えたが、なんと凍ってしまった。

「ええー!?」

パロレが思わず声を上げる。まずい!このままではやられてしまう!
 ▼ 266 AYr1xkow/g 17/10/18 00:01:06 ID:0xzDOcdk [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ロズレイド、頑張ってくれー!エナジーボールだ!」

パロレが悲痛な声を上げる。その声が届いたのだろうか。ロズレイドはパロレに褒めてもらおうと、自力でこおり状態を克服した。パリンと氷が割れ、ロズレイドが中から飛び出した。

「ロズレイド!よくやった!さすが!最高だ!」

パロレが叫ぶ。ロズレイドは嬉しそうにエナジーボールを作り出し、ミロカロスにぶつけた。今度こそミロカロスは耐えきれずに倒れてしまった。

「グレイシア、出番だよ」

アルセアがグレイシアを繰り出したところで、砂嵐が止んだ。パロレはじっとロズレイドを見つめる。相性は悪いが、ここは押し通す!

「ロズレイド、どくどく!」

ロズレイドが毒を放出した。グレイシアの体はみるみるうちに毒に飲みこまれていく。

「グレイシア、ふぶき!」

アルセアが声をあげた。すると、グレイシアが吹雪を起こし、自身を覆っていた毒の塊に大きな穴を開けた。グレイシアはもうどく状態に陥っているはずだか、その苦しみは一切表情に出していなかった。ロズレイドは倒れてしまった。

「ごめんね、ロズレイド、ありがとう。えーと、よし、ジュペッタ!」

パロレはロズレイドを戻してジュペッタを繰り出した。ジュペッタの体に大量の尖った岩が食いこんだ。

「ジュペッタ、ゴーストダイブ!」

「グレイシア、シャドーボール」

二人は同時に指示を出した。二匹の素早さは元々はほぼ同じだ。どちらが先に攻撃するだろうか。先に動いたのは、グレイシアだ。グレイシアは影の塊でできた球をジュペッタに思いきりぶつけた。ジュペッタは吹っ飛び、一撃で気を失ってしまった。パロレは顔を歪め、少し考えてから、

「リザードン!行くぞ!」

リザードンを繰り出した。リザードンの体に、尖った岩が食いこむ。

「リザードン、かえんほうしゃ!」

本当は威力の高いフレアドライブで一気に攻めたいところだが、フレアドライブはリザードンも反動でダメージを受けてしまう。強敵であるアルセアとの戦いではそれは避けるべきだとパロレは判断したのだ。グレイシアは可愛らしい鳴き声を上げて倒れてしまった。

「ボーマンダ、行くよ!」

「リザードン戻れ!ピジョット、行くぞ」

アルセアがポケモンを出すと、パロレもポケモンを入れ替えた。ピジョットの体にステルスロックが食いこむ。

「ピジョット、エアスラッシュ!」

ピジョットが鋭く空を切った。空気の刃がボーマンダを襲う。

「ボーマンダ、ドラゴンクロー!」

ボーマンダは見るからに固く鋭いドラゴンの爪でピジョットを切り裂いた。ピジョットはかなりギリギリの様子だ。でも、このタイミングを待っていた!

「ピジョット!オウムがえしだ!」

パロレが声高らかに指示した。ピジョットは先程のボーマンダを真似て、ドラゴンクローをお見舞いする。ピジョットは気合いを入れて、ボーマンダの急所に攻撃を当てた。ボーマンダが苦しそうな鳴き声を上げながら落ちていく。

「よしっ。よしっ!ピジョット、よくやった!」

パロレがガッツポーズをする。ボーマンダはそのまま気を失ってしまった。
 ▼ 267 AYr1xkow/g 17/10/18 00:03:15 ID:0xzDOcdk [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「こんなに追い詰められたの、生まれて初めてだよ」

そうは言うが、アルセアはまだまだ余裕に見える。パロレの顔が引きつった。

「ぼ、ぼくもです……!」

パロレが荒い息を吐きながら言う。パロレだって、追い詰められていた。一度でも判断を誤ればきっと負けてしまう。

しかし、

「へえ」

アルセアの声は予想外に冷たかった。アルセアの目は、ジロリとパロレを見つめている。

「え?」

パロレの首筋に、冷や汗が伝う。どうやら、彼女の地雷を踏んでしまったようだ。

「じゃあもっと追い詰めてあげる」

いや、そうではない。アルセアはかすかに笑っていた。パロレは、彼女のスイッチを入れてしまったのだ。アルセアは完全に楽しんでいる。

「バシャーモ!本気で行くよ!」

アルセアが大声で言った。まさか今までは本気ではなかったのだろうかと思ってしまうほどだ。

「シャモッ!」

アルセアの繰り出したバシャーモが威勢よく鳴き声を上げた。

アルセアは、右耳につけている耳飾りを軽く弾いた。キーストーンがきらりと輝く。すると、バシャーモの手元でも何かが光った。バシャーモのバシャーモナイトとアルセアのメガピアスが反応したのだ。

バシャーモの体からまばゆい光がほとばしる。

「シャーモッ!」

バシャーモはメガバシャーモにメガシンカした!
 ▼ 268 AYr1xkow/g 17/10/18 00:05:41 ID:0xzDOcdk [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……!きた……メガシンカ……!」

パロレは囁くように言った。メガバシャーモは威厳を保ったまま凛として立っている。その姿には、誰も敵わないような気がした。

とはいえ、パロレだって負けていられない。今までにないほど追い詰められているとはいえ、まだポケモンは三体も残っているのだ。

「ピジョット!ぼうふう!」

パロレは叫んだ。

「バシャーモ、まもる」

メガバシャーモは守りの体勢に入った。パロレは思わず首を傾げる。威力の高い攻撃技で一気に仕留めに来ると思ったのだ。メガバシャーモはピジョットの攻撃をまったく受けずに守り切ると、素早く足踏みするような不思議な動きをした。

「バシャーモ、ストーンエッジ」

メガバシャーモが尖った岩でピジョットを突き刺した。ピジョットは床に落ちて気を失ってしまった。

「……?あれ!?」

パロレが思わず素っ頓狂な声を上げる。アルセアはパロレがなぜ混乱しているのか分かっているようだ。

「メガバシャーモの特性はかそく。ターンごとにすばやさが上がる……いい特性でしょ?もう私のバシャーモには追いつけないよ」

アルセアが挑戦的な口調で言う。その隣で、メガバシャーモは先程より更に速く足踏みした。まさにかそくしているところなのだろう。

「くそー、負けたくない……!行くぞ!バンギラス!」

パロレがバンギラスを繰り出した。とはいえ、尖った岩にダメージを喰らったバンギラスももう体力の限界だ。

「バシャーモ、とびひざげり!」

メガバシャーモが大きく飛び上がり、強烈な膝蹴りをバンギラスにお見舞いした。バンギラスも戦闘不能だ。

「くっ……、あと一匹……!」

かそくしているメガバシャーモを見つめながら、パロレは歯を食いしばった。強すぎる。勝てない……。

「……いや!」

パロレは慌ててネガティブな思考を払い落とした。それから、最後の一匹となってしまったリザードンをボールから出す。

「リザードン!ぼくとお前は、アルセアさんとバシャーモに負けないくらい強い絆で結ばれてる!……リザードン!行くぞ!アルセアさんに勝とう!」

「リザァー!」

リザードンは咆哮を上げた。パロレの持つキーストーンと、リザードンのリザードナイトXが反応する。リザードンはメガリザードンXにメガシンカした。

勝てる!勝つんだ!
 ▼ 269 AYr1xkow/g 17/10/18 00:07:13 ID:0xzDOcdk [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「バシャーモ!ストーンエッジ!」

アルセアが指示を出す。メガバシャーモはメガリザードンXを的確に狙った。メガリザードンXは攻撃を受けて傷つき、膝をついた。苦しそうだ。このまま、倒れてしまうかもしれない……。

「リザァ!」

しかし、メガリザードンXはどうにか体を起こしてギリギリで耐えた。本当の本当にギリギリだ。

「リザードン!よく耐えた!頑張った!いいぞ!いいぞ!かっこいいよリザードン!」

パロレは声を上げてメガリザードンXを讃えた。メガリザードンXは涼しい顔をしているメガバシャーモを歯を食いしばって睨みつけている。

越えたい。この壁を、リザードンと一緒に!

「リザードン、今がチャンスだ!思いっきり決めろ!エアスラッシュだ!」

メガリザードンXはどうにか体を起こすと、不敵に笑った。パロレの目にメガリザードンXが映る。パロレは頷いた。

「リ……ザァッ!」

メガリザードンXはありったけの力をこめて、空を切るほど鋭い空気の刃でメガバシャーモを斬りつけた。

メガリザードンXの攻撃は、メガバシャーモの急所を直撃した。

「シャ……モッ……」

メガバシャーモが倒れる姿が、スローモーションのように映る……。

「や……やったー!」

パロレは思わず手を上げて大声で叫んだ。

「……」

アルセアは黙っていた。相変わらず表情の変化に乏しいが、驚いているように見える。

チャンピオンのアルセアに、勝った!
 ▼ 270 AYr1xkow/g 17/10/19 00:20:01 ID:8QUVh0Sg [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「はあ……はあ……やった、か、勝った……!」

パロレが荒い息をしながら言う。メガバシャーモをボールに戻したアルセアが、こちらへ近づいてきた。

「……あーあ。負けちゃった」

そう言うアルセアの声音はどこか子供っぽく、投げやりだ。

「こんなの初めてだよ」

アルセアはそう言って溜息をついた。

「え?」

パロレが聞き返す。

「あんたが初めてだよ。私に勝ったのは」

「わ、わあ……!」

アルセアの言葉に、パロレは思わず目を輝かせた。もしかして、ぼくってめちゃくちゃすごいことしちゃった!?

「こんな気持ち初めて……」

アルセアが呟く。パロレは唾をごくりと飲みこんだ。

「なんだろう……すごくムカムカする。あんたにじゃなくて、自分にね……これが悔しいってことかな」

アルセアは呟くように言った。

「この気持ちを知らずにここまで来た私って、もしかしたら今まで損してたのかもね」

アルセアはそう言うと、パロレを見て柔らかい口調で言う。

「でも、すごく楽しかったよ。負けたこと自体は悔しいけど……今のバトルに後悔なんてひとつもない。うん。パロレ、あんたと戦えてほんとによかった」

パロレはホッとしてアルセアを見つめ返した。それから笑顔で、

「ぼくもです!今までで一番ハラハラして、ドキドキして……ワクワクしたバトルでした!」

アルセアはパロレを面白そうに見つめて、

「……それはよかった」

それだけ返した。
 ▼ 271 AYr1xkow/g 17/10/19 00:21:07 ID:8QUVh0Sg [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……さてと」

アルセアが話を変える。

「今から殿堂入りの記録を残すよ。あんたとあんたのポケモンの勝利をここに永久に刻む……こっちにおいで」

アルセアがそう言って奥に進む。パロレは「はい!」と元気よく返事をして追いかけた。アルセアの立っていた場所の後ろに、ここに来る時に乗ってきたものと同様の不思議な光のエレベーターがある。パロレはアルセアと一緒に乗りこんだ。

「私この仕事初めてだから失敗したらごめんね」

エレベーターが下がっていく間、アルセアが意地悪く言った。

「えっ」

パロレが思わず目を剥いてアルセアを見つめる。

「冗談だよ。初めてなのは本当だけど」

アルセアはしれっとそう言った。

エレベーターが止まった。目的の場所についたようだ。その部屋にはほとんど何もなかった。荘厳な雰囲気であることには変わりはないが、窓もなく、目の前に機械のようなものが置いてあるだけ。

「さ、そこにモンスターボールを置いて」

アルセアが機械を指して言う。パロレは頷くと、腰につけたモンスターボールを順番に機械に置いていった。

バンギラス。ジュペッタ。ロズレイド。マリルリ。ピジョット。……それから、相棒のリザードン。

「みんな、お疲れ様」

パロレは穏やかな声でそう言った。

機械に取りつけられた液晶画面がチカチカと点滅し、パロレとパロレのポケモンたちの勝利が記録されていく……。

パロレとアルセアは黙ってそれを眺めていた。やがて、ポンと心地よい音がして記録が終了する。

「……パロレ」

沈黙を破り、先に口を開いたのはアルセアだった。

「はい」

パロレが返事をする。

「おめでとう」

アルセアはそう言うと、ニッコリと笑った。

「……!」

パロレの心臓がどきりと跳ね上がった。だって、初めて見る表情だったのだ。アルセアは心から笑ってパロレを見つめている。

「ありがとうございます!」
 ▼ 272 AYr1xkow/g 17/10/19 01:03:10 ID:C4S2CORw [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
すべてを終え、パロレはポケモンリーグを出てジョーヌシティに戻っていた。すると、

「パロレ!」

「わ!クオレ」

後ろからクオレに話しかけられ、パロレは慌てて振り向いた。

「えへ、待ってたんだ!」

クオレは笑顔で言う。それから、パロレの顔をまじまじと見つめてきた。

「その調子だと、勝ったんだ!?」

「うん!なんとかね!」

クオレの質問に、パロレは頷いた。

「すごいすごーい!パロレ、ほんとにすごいよ!めちゃくちゃかっこいいよ!」

クオレが目を輝かせて拍手しながら言った。

「ははは、ありがと!」

パロレは照れながらもしっかりとそう返した。

「……今まで、いろんなことがあったねぇ」

クオレが思い出すように言った。

「いいことばかりじゃなかったけど……でも、楽しかったよね。ポケモンたちと会えて、本当に良かった」

クオレはしんみりとした口調で言う。パロレも頷いて続けた。

「うん。本当に良かった。ぼくも心からそう思うよ」

「きっとユーリもそう思ってるだろうし……アキニレさんたちも旅を通していろんなことを感じたんだろうなぁ。本当に素敵な気持ち。……パロレが嬉しそうだと、わたしも嬉しくなってきちゃう!」

クオレのテンションは再び上がっていった。

「あは、もう、めちゃくちゃ苦戦したんだよ!アルセアさん、すっごく強くて……」

パロレがそう言うと、クオレが目を丸くして「え!」と声を上げる。

「アルセアさんがチャンピオンだったの!?」

そういえば、クオレは知らないんだった。

「あ……うん。びっくりしたよ」

パロレが言う。

「びっくり仰天!って感じー!……パロレ、アルセアさんとバトルしたんだぁ……アルセアさん、かっこいいし綺麗だし、素敵だよねぇ……!」

クオレの言葉に、パロレはどこかぼんやりとしながら返す。

「うん……素敵だったよ。本当に」

アルセアさんの笑顔を見たことは、秘密にしておこっと!パロレはそう思った。
 ▼ 273 AYr1xkow/g 17/10/19 01:03:45 ID:C4S2CORw [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「じゃあ……パロレ。帰ろっか」

クオレが言う。

「うん、一緒に帰ろう」

パロレは笑顔で頷いた。
 ▼ 274 AYr1xkow/g 17/10/20 17:53:11 ID:4OD6RrQM [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
念のための由来・モデル一覧
地名編B

ダ・カーポ島
シチリア島に相当。名前の由来は始めからという意味の演奏記号。

リュイタウン
メッシーナに相当。中国語で緑という意味。

ジョイアマウンテン
エトナ火山に相当。エトナ火山は活火山だがこちらは普通の山。イタリア語で喜びという意味。

パルガンシティ
カターニアに相当。韓国語で赤という意味。

トリステッツァの谷
神殿の谷がモデル。イタリア語で悲しみという意味。

アスールシティ
パレルモに相当。スペイン語で青という意味。

フェルマータ島
サルディーニャ島に相当。名前の由来は音符や休符の延長を意味する演奏記号。
 ▼ 275 AYr1xkow/g 17/10/20 17:54:10 ID:4OD6RrQM [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
念のための由来・モデル一覧
人名編B

ビロウ Birou
ヤシ科の常緑高木の檳榔。

ヒマワリ Himawari
キク科の一年草、向日葵。

バジリコ Basilico
シソ科メボウキ属の一年草であるバジルのイタリア語。また、バジルを使用したパスタを表す。

レナ Lena
クサトベラ科レシュノルティア属の初恋草の一種、バイオレット・レナから。

カエデ Kaede
ムクロジ科カエデ属の木である楓。

イチゴ Ichigo
バラ科の多年草である苺から。

コクリコ Coquelicot
ケシ科の一年草、ヒナゲシのフランス語。

カメリア Camellia
ツバキ科ツバキ属の常緑樹である椿の英語。

アルセア Althaea
アオイ科の多年草であるタチアオイの学名から。
 ▼ 276 AYr1xkow/g 17/10/20 17:54:47 ID:4OD6RrQM [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
(今回は殿堂入り後のお話も考えているのでまだまだ続きます)
 ▼ 277 グロコ@トロピカルメール 17/10/20 18:23:09 ID:9vZZZn0Y NGネーム登録 NGID登録 報告
前作から読んでるとなんかマイナーチェンジみたいな感じがする
支援
 ▼ 278 AYr1xkow/g 17/10/21 18:03:21 ID:Go3Garyg [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あー、えっと、これはいる……これはいらない……これは、分からない……」

ここはオーロシティにある、スリジエ研究所だった場所。今朝やっと警察の捜査も終わったので、アキニレは研究所を掃除しているのであった。

実は、この研究所の責任者をアキニレを任命しようという話が出ている。しかしアキニレはまだ自分が若いことから恐れ多い思いでいっぱいだった。何よりも維持費を考えるとすぐには首を縦に振れない。アキニレは今悩んでいた。

アキニレはふと顔を上げた。エレベーターが開く音がしたのだ。

「よっ」

「遊びに来たよ」

バジリコとアルセアが二人仲良く研究所にやってきた。アキニレはおお!と声を上げる。

「片付け、手伝ってくれよ」

アキニレが大荷物を運びながら言った。しかし、

「やだよ」

アルセアは平然と言い返した。

「……バジリコ!お前は手伝え!」

アキニレはアルセアの手助けを早々に諦め、バジリコに目を向ける。

「え、俺も嫌だよ」

「いいから、これ運んでくれ!」

アキニレはそう言って近くに置いてある段ボール箱を指差す。

「……しょうがねえなぁ」

バジリコはそう言うと、よっと声を上げて中身の詰まった段ボール箱を持ち上げる。

「おいお前……前はあんなにひょろかったのに、それ持てるのか……」

アキニレが声を震わせる。

「頼んでおきながらなんだその言い方は」

バジリコが言い返した。

「そりゃ五年も経てば筋肉くらいつくだろ」

バジリコがブツブツ呟きながらアキニレの指示通りに段ボール箱を移動させた。
 ▼ 279 AYr1xkow/g 17/10/21 18:05:19 ID:Go3Garyg [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アルセアは積まれた段ボール箱の上に優雅に腰かけて、友人二人が肉体労働する姿を眺めていた。

「……五年間、何してたんですかー?」

ふとアルセアが口を開いたかと思えば、わざとらしい口調でそう質問した。バジリコの動きがぴたりと止まる。

「スパイス団ってー、どんな仕事してるんですかー?」

アルセアの質問に答えられず、汗だくになって動かないバジリコに、アキニレも追撃する。

「それ、俺も気になってたんだ。教えてくれよ、マフィアの幹部さん」

アキニレの皮肉っぽい声に、バジリコが吠える。

「やめろ!リュウさんに聞きゃいいだろ!」

「何言ってんだ、実際に働いてた奴に聞いた方が分かるに決まってるだろ!」

「そうそう。……で、どうなの?一番ヤバイ仕事ってなんだったの?マフィアの幹部さん」

面白がる二人にあまり強く言い返せないバジリコは本気で参っているようだった。

「もう勘弁してくれ!つーか『元』幹部だから!俺もう辞めたから!」

バジリコは大きな声でそう言うと、

「というかこれ、どうなってるんだ?」

段ボール箱の山を指差して話を逸らした。

「ああ、あっちがスリジエさんの使ってた資料の中でこれからも必要なやつ。そっちは不要なやつ。そしてこの辺は分からないやつだ!」

「分からないやつが一番多いじゃん」

アルセアは冷静にツッコミを入れた。

「お前、片付けが苦手なのは前から変わってねえんだな」

バジリコが言うと、アキニレは「いいんだよ!」と噛みついた。

三人とも、変わったようで、変わっていない。

八年前、それぞれポケモンを貰って共に旅に出た三人の子供たち。出発は三人とも一緒だったのに、気付けばそのうちの一人である少女がずっと先に行っていた。彼女はポケモンバトルにおいて天才的なセンスの持ち主だったのだ。

一方、二人の少年が少女に追いつくことはなかった。一人は自分にそれほどの才能はないと早くから見切りをつけ、旅先で見つけた「ポケモンの生態について研究したい」という自身の夢に進路を切り替えたが、もう一人はどうしても少女に追いつきたいという思いがあった。
でも、どうやったって追いつけなかった。更には、もう諦めがついている少年にさえ追い越されてしまった。

やがて少年は、劣等感に苛まれ、どんどん歪んでいった。少年はその時から、いやもっと前から少女のことが好きだった。それなのに、どうしても越えられない壁として目の前に立ちはだかる少女ともう一人の少年の姿に、猛烈な嫉妬心を覚えたのだ。

それから彼は、二人は自分の知らないところで繋がっていて、自分のことを影で嘲笑っているのではないかとさえ思うようになり、より苦しむこととなった。そして五年前、すべてを見透かしていたとある悪魔のような女の甘言によってスパイス団に誘いこまれてしまった。

離れ離れになってしまった彼らは、一人の少年のおかげでまた元に戻ることができた。もうこれからは大丈夫だ。何も心配はいらない。きっとそう。
 ▼ 280 AYr1xkow/g 17/10/21 18:09:59 ID:Go3Garyg [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……それにしても、まさかパロレがアルセアに勝っちゃうなんてな!俺だってまだアルセアに勝ったことないのに!」

アキニレが興奮気味に言った。そうだ、ずっとこの話がしたかったのだ。

「……ほんとにね」

アルセアはそう言ってから、

「バトルコロッセオで修行でもするか……」

段ボール箱に背中を預けて天井を仰いでそう呟く。相当悔しかったらしい。

「でも、強くてもいいことなんて何もないと思ってたけど、意外と悪くないかもね……」

アルセアはそう言って小さく笑った。初めて負けたバトルだというのに、とても楽しかった。またあんな熱いバトルをしたいと、心から思う。

「……パロレくんとはまたちゃんとバトルしたいな」

バジリコが呟く。

「俺も、パロレとぜひ本気でバトルしてみたいもんだ!……弟の成長は嬉しいけど、まあちょっと寂しくもあるな」

アキニレは複雑な表情でそう言った。

「成長ね……」

アルセアはそう言って頬杖をついた。アルセアの視界の隅に、子供の頃に三人で撮った写真が映る。

「……懐かしい」

「ん?ああ、これか!」

アルセアの声に反応したアキニレが彼女の視線に気づき、写真立てを手に持った。

「八年前……ポケモンを貰ってから一緒に撮ったやつだ」

アキニレが懐かしそうに言った。バジリコが覗きこむ。

「恐れも不安も……何も知らない顔してるな」

バジリコは少し切ない声でそう言った。

この時はまだ知らなかった。ずっと一緒だと思っていた三人の子供たちが、誰もが同じ道を歩めるわけではないという現実を知り、バラバラになってしまう未来が待っているなんて。

「……なあ。もう一度同じ場所で写真を撮らないか?」

アキニレが提案する。バジリコは嫌そうな顔をしたが、

「いいんじゃない?」

アルセアが賛成したので、バジリコは驚いた顔でアルセアを見つめた。

「これ、研究所の前だし、すぐ撮れるでしょ」

「おうっ!今カメラ持ってくる!」

アキニレはそう言うと、少し遠くに置いていた仕事用の道具から高価そうなカメラを取り出した。
 ▼ 281 AYr1xkow/g 17/10/21 18:12:46 ID:Go3Garyg [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ほら、バジリコ、笑えって!」

「笑ってるよ」

「なんだその微笑みは!?かっこつけてるんじゃないぞ!」

「アキニレ、早くしてよ」

「アルセアも笑え!なんだその澄まし顔は!」

「これが普通なの」

「ああもうお前ら、大人しくなりやがって……」

研究所の前で、アキニレが喚いている。すっかり落ち着いてしまった友人二人が、綺麗な顔をして行儀よく立っているのが気に入らないらしい。

「この野郎……オラァ!」

アキニレは野太い声を出すと、バジリコの腹の辺りに手を近づけた。

「あっ、ちょ!触んな!あは!あっはははっ」

アキニレにくすぐられ、こらえきれずに笑い出したバジリコが体をよじる。アキニレは調子に乗ってねっとりとした声で、

「ほらバジリコー、アルセアをくすぐれー」

「え、やめてよちょっと……」

アルセアはドン引きしている。

「ははっ、アキニレ、離せ……よっ」

バジリコはそう言いつつもちゃっかりアルセアの腰に手を回して脇腹をくすぐった。

「きゃっ!あははっ」

カシャッ!カメラのシャッター音が鳴る。

「ああーっ!?」

アルセアとバジリコが同時に大声を上げた。

「ふふん、今まで俺が何枚ポケモンの写真を撮ってきたと思ってるんだ!シャッターチャンスは一瞬たりとも逃さないぞ!」

アキニレが自慢げに言う。

「親友二人をポケモン扱いかよ」

バジリコは至極冷静にツッコミを入れた。

「超高画質で印刷してちゃんと渡すから、楽しみにしておいてくれ!」

アキニレは楽しそうだ。アルセアとバジリコは顔を見合わせて溜息をついた。

「……まったく」

「……しょうがねえな」
 ▼ 282 AYr1xkow/g 17/10/21 18:16:48 ID:XdlrZMmM NGネーム登録 NGID登録 報告
「……ところでアキニレ、そろそろパロレが帰ってくるんじゃないの?」

アルセアがそう言った。ポケモンリーグでバトルした後、パロレはあの可愛らしい幼馴染の女の子と一緒に帰っていった。旅先で出会った人たちに挨拶をしながらゆっくり家へと向かうらしい。

「あっ……まずい!」

アキニレはハッと顔を青くした。

「母さんと一緒にパロレを迎えようって約束してたんだ!俺、先に帰るな!」

「ん、バイバイ」

「またな」

アルセアとバジリコが手を振る。

「じゃーな!研究所、片付けといてくれー!」

アキニレがそう言い残して去っていく。

「やるわけねえだろ!」

走っていくアキニレにバジリコがそう返した。

「……じゃ、俺たちも帰るか」

「ん」

バジリコがそっとアルセアの手を握ると、アルセアもそっと応えてくれた。

本当は、まだ恥ずかしい。アキニレは確実に気付いているのでわざわざ報告はしていないが、正直に言うと照れくさいのだ。

でも、この手はもう二度と離さないと心に誓った。

スリジエを打ちのめしたあのアルセアの言葉は、バジリコにも強い影響を与えていた。

あの頃はまだ心の弱い子供だった、そう考えれば仕方のないことかもしれない。それでも、未熟な自分が一方的に彼女を傷つけていたことは事実だ。

だから、もう二度と間違えないようにしよう。

「どうかした?」

ふとバジリコが問う。

「え?別に」

アルセアはそう言った後、柔らかく微笑む。

「楽しみだなと思っただけ」

何もかもが楽しみだ。さっき撮った写真も。もっと強くなるであろう子供たちの成長も。そして、自分たちのこれからの未来も。
 ▼ 283 AYr1xkow/g 17/10/21 18:50:27 ID:jZVseWhk NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレは、とうとうヴァイスタウンに到着したところだった。今までに訪れた街を回ってみんなに挨拶をしながら帰ってきたので、だいぶ時間が経ってしまった。

「それじゃパロレ!また明日ね!」

クオレが言う。

「うん、また明日。バイバイ!」

パロレもそう言って、手を振った。クオレは手を振り返すと、家に入っていく。

「……」

パロレはふと黙って考えこんだ。

殿堂入りはしたが、パロレの冒険は終わらない。やりたいことはまだまだたくさんあるのだ。バトルコロッセオに挑戦するためにもヒマワリの船に乗せてもらわなければならないし、いつか他の地方にも行ってみたい。

うん!これからも楽しみがいっぱいだ!

「……でも」

パロレが呟く。

とりあえず、ちょっとひとやすみ。

パロレはふっと息を吐くと、久しぶりに自宅の玄関の扉に手をかけた。

「ただいまー!」

「お!おかえり!」

「にゃにゃーにゃ!」

扉を開けるなり、すぐに出迎えてくれたのは、兄であるアキニレと、母親のポケモンであるニャスパーだ。

キッチンにいたらしい母親が息を呑む音が聞こえてきた。それからドタバタと慌ただしく玄関にやってくる。

「……パロレ!」

母親は、なんだか思い詰めたような顔をしていた。しかし、パロレの顔を見て、そんな不安げな表情はすぐに消え去った。ふわっと、あの優しくて温かい笑みが母親の顔に浮かぶ。

「おかえりなさい!」
 ▼ 284 レベース@ドリームボール 17/10/22 21:31:26 ID:S1iBXsdA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレおかえり
支援
 ▼ 285 AYr1xkow/g 17/10/24 23:55:32 ID:LEiZiP4Q [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ほら、早く起きなさい!」

母親の声が聞こえる。パロレはベッドの上で呻き声を上げた。

パロレがアルセアに勝利して殿堂入りしてから、既に数日が経過している。あれから変わったことと言えば、パロレが正式にメガシンカの使い手として認められたということだろうか。

フォルテ城に赴き、クオレやユーリ、更にはアルセアとアキニレ、バジリコの立ち会いのもと、パロレはコルネッホによってメガシンカの儀式を執り行った。

コルネッホは新しくキーストーンをくれるつもりだったようだが、パロレは貰わないことにした。既にリザードンと共に使ったキーストーンの原石を使うことにしたのだ。その後、バジリコが手先が器用らしく、使いやすようにとキーストーンの原石をブレスレットにはめてメガバングルにしてくれた。

パロレはアモル地方のチャンピオンとなったが、ポケモンリーグの一番奥で挑戦者を待ち続けているのは未だにアルセアだ。アモル地方では、ジムリーダーや四天王、チャンピオンたちは四度連続で挑戦者に敗北するとその資格を剥奪されてしまうのだという。その他の場合は、本人が自分の意思で役職を離れるなどしない限り任期は続く。アルセアはまだ一度しか負けていない。職業としてのチャンピオンの座を守るのは、依然アルセアだ。

また、アルセアが引き取った覚醒してしまったスリジエのポケモンたちは、アルセアの手によって記憶を取り戻したらしい。今では彼らもアルセアのポケモンとして過ごしているのだという。

「パロレ!クオレちゃんと約束してるんでしょ!起きなさい!」

母親の声が一層大きくなった。扉の開く音がする。

「にゃ!」

馴染みのある鳴き声を聞いて、パロレは呟いた。

「出た、目覚ましニャスパー……」

パロレは薄目を開けて窓の方を見た。カーテンを閉めているものの、眩しい光が隙間からこぼれている。パロレは欠伸をしながら上半身を起こした。

「今日は大丈夫だよ」

そう言いながらニャスパーにニヤッと笑ってみせる。ニャスパーは大きな瞳を更に見開いていた。母親のポケモンにさえ早起きを驚かれるとは、舐められたものだ。

「もうぼくは寝坊はしないのだ」

パロレも、多少は成長したということか。

パロレはベッドから出ると、ニャスパーの頭をポンポンと撫でて部屋を出た。ニャスパーはとてとてと歩きながらついてくる。

「おはよう」

パロレが階下に降りて母親に挨拶をすると、母親は笑顔で返した。

「おはよう。今日は朝ご飯は食べすぎない方がいいかしらね?」

母親がお茶目に言う。パロレは顔を赤くした。

「別に!気にしないで大丈夫だよ!」

今日は、クオレとオーラシティに行ってオーロティラミスを食べに行く。昨日からかなり楽しみにした様子で母親に何度も同じ話をしていたのだが、パロレはそのことを自覚していないようだ。

「そう?まあ、パロレはアキニレと一緒で大食いだもんね。問題ないわね」

母親はくすくすと笑いながらキッチンに向かう。パロレの頬はまだ少し赤らんでいた。
 ▼ 286 AYr1xkow/g 17/10/24 23:57:04 ID:LEiZiP4Q [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
朝食を済ませ、支度を終えるとパロレは元気よく「いってきます」と挨拶をして家を出た。すると、ちょうど隣家から人が出てくるのが見えた。クオレだ。

「あ、パロレ!おはよう!」

「クオレ、おはよう!ナイスタイミングだね!」

二人は笑顔で顔を見合わせる。それから二人はオーロシティを目指してヴァイスタウンを出た。

「オーロティラミス楽しみだなぁ……!ずっと食べてみたかったの!」

「ぼくもだよ」

二人は他愛もない会話をしながら進んでいく。一番道路を少し歩いたところで、二人は笑い声のような不思議な鳴き声を聞いた。この軽快でちょっぴり幻想的な鳴き声は。

「セレビィ……!」

パロレとクオレの目の前に、いた!セレビィが楽しそうに飛び回りながらこちらへとやってくる。少し久しぶりに見るその姿に、パロレは圧倒されそうになった。

「この子、前に廃工場で会った子だよねぇ?どうしたのかな?」

クオレがセレビィに触れるか触れないかのところまで手を伸ばして言う。

「分からない……けど、ぼくは何回か会ったことあるんだ。いつもぼくに過去を見せて帰ってっちゃうんだけど……」

パロレはそう言いながら、自分の顔の周りを飛び回るセレビィを視線で追いかけた。微かな風が起こってくすぐったい。

「なんで過去を見せてくれるんだろうねぇ」

クオレがぼんやりとした口調で言う。セレビィは既にパロレから離れ、自由に飛び回っていた。

「うーん……」

「何回も見せてくれるくらいなんだから、何か意味があるんじゃないかな?」

パロレは今までセレビィが見せてくれた過去を思い出した。ラランジャの森、イーラ火山、廃工場。そのうちの二回は、過去を見せることでパロレを間接的に助けてくれたと言えるかもしれない。しかし、イーラ火山で見たあのメローネの過去は、一体何を表すのか分からない。

「パロレに、何か伝えたいのかもしれないよ?」

「ええー、どうだろう」

二人は、幻のポケモンがすぐ近くにいるというのに呑気に話している。そんな心がセレビィにとって心地よいのだと、彼らは気付いていないのだ。

やがて、やはりというべきか、パロレたちの体がふわりと浮かび上がった。クオレはそわそわしていたが、パロレは少し慣れてきたからかあまり不自然に感じなくなってきた。
 ▼ 287 AYr1xkow/g 17/10/24 23:59:06 ID:LEiZiP4Q [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
やっぱり、二人がやってきたのは過去の一番道路だった。しかし、いつの時代か分からない。クオレが辺りをキョロキョロと見渡している。今と大して変わっていないようだ。

「!」

何かに気付いたパロレが、クオレの腕を引いて慌てて木陰に隠れた。草むらに、よく知っている人物がいる。とはいえ、今よりまだあどけなさが残っているので、三年前くらいといったところか。

「あ……」

クオレが声を漏らした。

草むらの中で思いきりうつ伏せに寝転がって、かなり低い視点にカメラを向けている人物がいる。アキニレだ。側から見れば完全に不審者なのだが、アキニレがどういう人物なのか知っているパロレは特に不審に思うこともなくアキニレを影から眺めていた。

見れば、隣にアルセアもいる。アルセアは立ってアキニレの様子を見ていた。今より髪が長かったのですぐに気付けなかったようだ。

「バシャーモの調子はどうだ?」

アキニレがカメラから目を離さずに言った。目の前にいるイワンコとエネコがじゃれついているところを撮っているようだ。

「もうだいぶ良くなったよ」

アルセアが言う。

「落ち着いてきたら、またリーグを開こうと思ってる」

「……そうか」

アキニレが頷いた。やはり、アルセアはこの時点で既にチャンピオンになっており、事件が起こったせいでポケモンリーグを閉鎖しなければならない状況に陥ってしまっていたのだ。

「……もう二年か」

アキニレがしんみりとした口調で言うと、

「正確には一年十一ヶ月と三日ね」

アルセアが冷えきった声で言った。事件の日から、ポケモンが記憶を取り戻すまでのことを言っているのだろう。パロレにも分かった。

アキニレとアルセアはしばらく黙っていた。やがて、アルセアがしゃがんでアキニレの視線の先のイワンコとエネコに目をやった。

「やっぱりな」

アキニレが呟く。アルセアはアキニレに目をやった。

「そりゃもちろん個体差はあるが、ポケモンはタマゴグループが同じ種を好む傾向がある。トレーナーに育てられてる場合はまたいろいろあるが、やっぱり生殖本能はあるんだな」

「……その肝心の生殖方法が謎なんじゃなかった?」

アルセアが言った。

「ああ、本当におかしいよな、誰もタマゴが現れる瞬間を見たことがないって……その瞬間を撮ることができれば、世紀の大発見になるんだけどな」

アキニレがぶつぶつと呟く。パロレとクオレは二人の話していることはよく分からなかった。

「で、話ってなんだ?」

アキニレは相変わらず寝そべったまま言う。アルセアは小さく息を吐くと、

「……バジリコのことなんだけど」

アルセアの言葉を聞くなり、アキニレはカメラから顔を離してアルセアを凝視すると、慌てて体を起こした。
 ▼ 288 AYr1xkow/g 17/10/24 23:59:55 ID:LEiZiP4Q [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「バシャーモも元に戻ったし、バジリコのこと、探してみようと思ってるんだよね」

アルセアはアキニレに構わずそう言ったが、言い終わるや否やアキニレが口を開いた。

「やめとけ」

その言葉を聞いたアルセアは、非難がましい目つきでアキニレを見つめた。しかし、アキニレも譲る気配はない。

「アルセア、あの頃はガキだったから分からなかったけど、今はもう分かるだろ?あいつがなんで俺たちに冷たくなったのか」

アキニレがそう言うと、風がひゅうっと起こった。寂しげな表情をするアルセアの髪が揺れる。

「きっともう、戻れない。俺たちに悪いことをしたって、あいつが一番それを分かってるからどこかに行っちまったんだろ」

「で……でも、バシャーモが見つかった日にいなくなったんだよ?何か関係ありそうじゃん?」

そう言うアルセアは、見たことがないほど切羽詰まっている。アルセアさんもあんな顔をするんだ、パロレはそう思った。

「あの日、工場が怪しいって一番に言ったのはバジリコなの、アキニレも知ってるでしょ。絶対何かある」

「なあ、アルセア……もう諦めろよ」

アキニレの声は、少し強引だった。その言葉にはどんな感情がこめられているのか、パロレには分からなかった。あまりにもいろいろなものが綯い交ぜになっていたからだ。その言葉に隠された意味は、アキニレのみぞ知る。

「諦めない」

アルセアはハッキリとそう言った。

「バジリコはいい奴だよ。バカなところもあるけど……私はずっと前から知ってる。何も言わずに私を置いてどこかに行くような奴じゃない。私たちは家も隣で……物心がついた時からずっと一緒にいたんだから……」

アキニレは黙ってアルセアを見つめていた。アルセアの声は震えている。

「また会いたい……」

アルセアの消え入りそうな声を聞いたクオレが、ハッと息を呑んで両手で口を覆った。見れば、なんとクオレは泣いていた。

アキニレは大きく息を吐いた。それから、ゆっくりとアルセアの顔に手を伸ばした。何をしたのか、パロレの見ているところからはよく分からなかった。ただ、見てはいけないものを見てしまったような気になった。
 ▼ 289 AYr1xkow/g 17/10/25 00:26:00 ID:4MToKyng [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「分かった。さっきは強く言いすぎたな、すまん。俺もちょっとは協力する。……でも、一体どうやって探すつもりなんだ?」

アキニレが言った。先程までの本気で止めようとしている強い口調とは異なり、アキニレの声音は柔らかい。

「ありがと」

アルセアは短くそう言うと、軽く咳払いしてから続けた。

「……私は、スパイス団が怪しいと思ってる」

アルセアの言葉に、アキニレは一瞬固まった。それから、かなり深刻そうな顔をして、

「あいつらには……関わらない方がいいんじゃないか?」

そう言った。

「いや、スパイス団は一概に悪い奴とは言えない。それは分かってる。けど、自分から関わりに行くとなるとまた話は別だろ。それは……流石に危ないんじゃないか」

アキニレが心配そうに言った。しかし、アルセアはなぜか薄ら笑いを浮かべている。

「ポケモンいるし、平気でしょ。何のためにバシャーモを待ってたと思ってるの」

「いやでも……」

アキニレはモゴモゴと口を動かした。アルセアは小さく頭を横に振る。

「大丈夫だよ、私、強いから」

そう言うアルセアの顔は、自信たっぷりだった。しかし、決して前向きな自信ではない。天才ゆえに散々振り回され、辛い思いをしてきた彼女にとって、その強さはこの時には疎ましいものでしかなかったのだろう。

「だって、私チャンピオンだもん」

アルセアは明らかに自嘲的な声でそう言うと、鼻を鳴らして横を向いた。すると、アルセアは微かに目を見開く。

「あ、タマゴ」

視線の先には、ポケモンのタマゴを大切そうに抱えるイワンコとエネコの姿があった。それを見たアキニレが、大声を上げて頭を抱えた。
ふわりと、再びパロレたちの体が浮かび上がった。
 ▼ 290 AYr1xkow/g 17/10/25 00:27:56 ID:4MToKyng [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……」

現代の一番道路に戻ってきたパロレとクオレは、しばらく黙りこんでいた。一体、何と言えばいいのか分からなかったのだ。

二人が黙っている間に、セレビィはどこかへと飛び去ってしまっていた。今回は何を見せたくて二人を過去に連れていったのだろうか。

「も、もういなくなっちゃった。ほんとに気まぐれな子なんだねぇ」

クオレが苦し紛れにそう言った。パロレはウンウンと頷いてクオレに合わせた。

バジリコが見つかって本当によかった。パロレはそう思った。

「……そこの君たち」

ふと話しかけられ、二人は驚いて振り向いた。そこには見知らぬ若い男性が立っていた。スタイリッシュな格好をした、ひょろりと痩せていて背の高い少し変わった雰囲気の男だ。

「デートしてるところ悪いんだけど、ちょっと道案内頼んでもいいかな」

「ででっ、デート!?」

「そそそそそそんなんじゃないです!」

二人は顔を真っ赤にして慌てて首と手を激しく横に振った。男は軽く笑うと、「そう?」とだけ言って更に近づいてくる。

「ラランジャシティってここからどう行けばいいのかな」

男はそう質問してきた。二人は目を合わせてから、

「あ、えーと、ラランジャは……ここを東に行って、ノグレータウンに行ってもらって、その後アズハルタウンを過ぎて、森を抜けたところにあります」

「結構歩きますよ!大変!って感じです」

そう伝えると、男は「ありがとう」とにっこり微笑んだ。

「君たちはこの辺の子なんだね。俺はアーリオ。カロス地方からやってきたんだ」

男、アーリオはそう言った。

「はい、すぐそこのヴァイスタウンってところに住んでます。ぼくはパロレです」

「わたしはクオレです!」

「パロレとクオレか。うん、ありがとう。ところで君たち、アモルの三英雄って知ってる?」

アーリオの質問に、二人はとりあえず頷く。フォルテ城に行った時にユーリに教えてもらわなければ、あまり詳しいことは知らないままだっただろう。

しかし、二人は次のアーリオの言葉に驚愕することとなった。

「俺はね、三英雄の一人、アングリアの末裔なんだ」
 ▼ 291 AYr1xkow/g 17/10/25 00:31:23 ID:4MToKyng [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「え……!?」

二人は目を見開いてアーリオを見つめた。アーリオはなんてことないとでも言うように軽く言ったが、パロレたちからしてみれば驚きだ。

この人、なんなんだろう。パロレはそう思い始めた。

「家にある古い書物にそう記述されていたんだ。俺はアングリアの直系の子孫だってね」

アーリオの様子を見るに、少なくとも自慢するつもりでそう言っているのではないのだということが分かった。だとしたら、一体なぜ?

「君たちはおかしいと思わないかい?俺はカロス地方出身なのに、アモル地方の英雄の血を引いてるだなんて」

「確かに……」

クオレが呟く。

「だから俺はアモル地方にやってきて、三英雄について調べているんだ。自分のルーツを知りたい……そう思うことは間違いじゃないだろう?」

アーリオはそう言って大きく手を広げた。それを見て、パロレはアーリオが腰に巻いているベルトにキーストーンが付いていることに気付いた。

「何か秘密がある気がしてならないんだ。俺はそれをどうにかして突き止めたくてね。人はいつの時代も真実を追い求めることで世界を発展させていった。俺の目指す真実も、きっと俺を更なる飛躍へと導いてくれるに違いない!」

熱弁し、やがて派手な身振りでおおげさにそう言ってみせたアーリオを見て、パロレとクオレは眉をひそめながらこっそり顔を見合わせた。なかなか変わった人物と知り合ってしまったようだ。

「……そういえば」

アーリオが意味ありげな表情を浮かべ、声を落としてそう言った。その口調は、やけにわざとらしい。

「君たち、さっきセレビィと一緒にいたよね」

「!」

パロレとクオレが息を呑む。

「ときわたりポケモン、セレビィ。そいつの力を使えば、三英雄のいた過去に戻り、真実を探ることができる……」

アーリオの呟きを聞いて、二人は身を震わせた。

「セレビィは確か……森に住んでるんだったね。セレビィは未来からやってくるポケモンとも呼ばれている。だからセレビィが住んでいる森は、未来でも美しい姿を保っているということになるんだそうだ」

アーリオはそう言うと、パロレたちを見てニヤリと笑った。それは背筋の凍るような不気味な笑みだった。

「アモル地方の森か……さっき、教えてくれたよね」

「ダメだ!」

パロレは咄嗟に叫んでいた。しかし、アーリオは笑いながらモンスターボールを取り出してあるポケモンを繰り出す。ムクホークだ。

アーリオはいとも簡単にムクホークに飛び乗った。ムクホークは翼を広げると、あっという間に高度を上げていく。

「まずい!ラランジャの森に行かなきゃ!」

「セレビィが危ない!」

パロレとクオレは、急いでラランジャの森を目指して走り出した。

オーロティラミスは、また今度だ。
 ▼ 292 ンダース@しずくプレート 17/10/25 01:03:46 ID:LYSH3C9w NGネーム登録 NGID登録 報告
新キャラや…
支援
 ▼ 293 AYr1xkow/g 17/10/26 00:16:37 ID:6QqR8Yxo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレとクオレは慌ててラランジャの森へとやってきた。セレビィは恐らくこの森を住処にしている。初めて会った場所もここだ。パロレは荒い息のまま森の中を歩き回ってセレビィを探した。

セレビィはどこにもいない。しかし、争った形跡もなかった。まだ森に帰ってきていないのか、それとも既に逃げているのか。それならいいのだが。

あのアーリオと名乗った男は、明らかにおかしかった。彼が語ったのはセレビィに会って過去に行くという不思議な体験をしてみたい、という夢物語ではない。セレビィを利用して過去へ行き、隠されているという秘密を暴きたいという野望だった。

「パロレ……」

クオレが呟く。二人は不安げな表情でお互いの顔を見つめた。なんだか、とてつもなく嫌な予感がするのだ。

と、突然ガサガサと音がした。二人は飛び上がり、慌てて音の聞こえてきた方向に目をやる。こんなに美しい森なのに、すべてが恐ろしく見えてくる。

「……!モクレンさん!」

音の主は、モクレンだった。モクレンは随分と切羽詰まった表情で草を掻き分けていた。パロレたちに気がつくと、モクレンは急いでこちらに向かってきた。

「ああ、パロレさん!こんにちは。唐突で申し訳ないのですが、君に頼みたいことがあるんです」

モクレンの声は明らかに焦っている。二人はモクレンの話に耳を傾けた。

「ラランジャの森で、ポケモンが襲われたようなのです」

クオレが息を呑む。

「ただ、犯人は相当手練れのトレーナーのよう。決して森を荒らすことなく、そのポケモンだけを捕らえてどこかへと消えてしまいました」

パロレはごくりと唾を飲みこんだ。

「……それと関係があるのかは分かりませんが、ひとつ知らせがありました。スパイス団がフォルテ城を襲ったと」

「え!?」

パロレとクオレは素っ頓狂な声を上げる。

「え……どうして?何のために?」

クオレが戸惑いの声を上げる。

「今はリーダーもいないはずなのに……」

パロレも呟いた。

「僕は引き続き森を見回ります。……チャンピオン。僕は、この妙なふたつの事件が同時に起きたということには、何か意味があるのではという気がしてなりません。どうかフォルテ城へ向かい、スパイス団たちを撤退させてください」

「はい!」

モクレンの言葉に、パロレはしっかりと答えた。すると、

「わたしも行くよ!」

クオレが言う。パロレはクオレを見て頷いた。クオレも、もう怯えてばかりの弱虫などではないのだ。
 ▼ 294 ュペッタ@キーストーン 17/10/31 21:23:58 ID:1yQ0Lpag NGネーム登録 NGID登録 報告
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 ▼ 295 AYr1xkow/g 17/10/31 22:12:56 ID:CNixIhek [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレとクオレは、フォルテ城にやってきた。

城そのものの外観はいつもと変わりない。しかし、辺りは騒然としている。見れば、ジョーヌジムリーダーであり、王家の末裔であり、ユーリの姉であるローザが城の前に集まる人々に大きな声で声をかけていた。

「皆様!ただいま城の中に入ることはできませんわ!危険ですので下がってください!」

パロレたちは急いで城の近くまで走った。それに気付いたローザが声をかけるのを一旦中断して、ピリピリとした表情で二人の元に歩いてくる。

「お二人とも、応援にいらしてくれたのですね」

ローザはきびきびと続ける。

「モクレンから聞きましたわ。お二人が来るから、お通ししてほしいと……感謝しますわ。わたくしは警備についてますので、中に入って援護をお願いします。……弟もいますわ」

パロレとクオレは思わず顔を見合わせた。それから頷き、ローザに礼をして城の中へと急ぐ。

一体何が起こっているのだろう。いろいろなことが一度に起こりすぎて、よく分からない。

フォルテ城の中に入ると、どこからか怒鳴り声のようなものが聞こえてきた。少女の声に聞こえる。声は、三英雄の彫刻が置かれている博物館のホールから響いているようだった。

三英雄の彫刻の中央には、円形の祭壇がある。パロレはそこでメガシンカの使い手として認定される儀式を行った。決してみだりに荒らしてよいような場所ではない。神聖なところだ。

「しらばっくれんのもいい加減にしろよ!」

再び怒鳴り声が聞こえてきた。やはり少女の声だ。聞き覚えがある。この可憐さのかけらもない、脅すことに慣れたドスの効いた声は。

「マリナーラ!」

パロレは叫びながらホールに走った。後からクオレも追いかけてくる。

「!」

マリナーラがパロレに気付いてこちらを見た。その背後には二人のスパイス団の下っ端団員が立っている。あの日いともあっさりと逃げてみせたマリナーラは、未だに何かを企んでいるようだ。

「パロレ!クオレ!」

今度は慌てた声が聞こえた。ユーリだ。パロレたちはユーリの元まで走った。その近くには、バジリコとコルネッホがいる。ユーリとバジリコはコルネッホを守るようにして立っている。

「来たぁ」

マリナーラがそう言ってにやりと笑った。その不気味な微笑みに、パロレの背筋が凍る。

「チャンピオンのお出ましだ」
 ▼ 296 AYr1xkow/g 17/10/31 22:15:20 ID:CNixIhek [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「最高のタイミング!」

マリナーラはそう言うと、何かを言おうと口を開いたユーリを遮るように続けた。

「あのクソガキに聞けば分かるよ。一緒に見たから。チャンピオンなんだからきっと嘘なんてつかずにほんとのこと教えてくれるでしょー!」

一体何の話だ?パロレは眉を潜めて一同を見渡した。コルネッホがこちらを見る。それが縋るような表情に見えて、パロレはどきりとした。

「何?何の話?」

「ほら、聞いてやれよ」

マリナーラが顎をしゃくり、乱暴な口調でコルネッホに言った。黙りこくっている父親に代わり、ユーリが口を開いた。

「パロレ。三英雄の一人、メローネにまつわる過去をこのマリナーラと一緒に見たことがありますか?」

ユーリの質問に、パロレは目を瞬いた。確かに見た。しかし、それが一体何だと言うのだろう。

「うん。見たけど……」

パロレがそう言うと、一瞬ユーリの目が泳いだ。バジリコが不安げにユーリを見守っている。

「それは、その……いつ、どこで見たんでしょうか」

ユーリの声は少し震えている。パロレはうーんと声を上げた。

「いつだっけ。イーラ火山で見たんだ。あいつ……マリナーラが禁止区域に行こうとしてたのを止めた後、セレビィがやってきて……」

パロレはその時のことを思い出しながら言う。コルネッホの顔色が次第に悪くなっていくのが見えた。

「一体、どのような内容でしたか……」

ユーリのか細い声がひっそりと響く。このまま答え続けていいのか、パロレには分からなかった。でも、嘘をつく理由もない。

「確かメローネがイーラ火山に来て、ぶつぶつ恨みを言ってたんだ。エシャロットに怒ってるみたいだった。メガシンカの力を奪われた、みたいな言い方してたな……。あとは火山に住んでる幻のポケモンのことも話してた。ぼくには何が何だか全然分からなかったけど……」

「ほら!」

パロレが話し終わらないうちに、マリナーラが喜びの雄叫びを上げた。

「だーから言ったじゃん、ほんとだって!」

マリナーラの目は爛々と輝いている。

「おかしいよねぇ?三英雄はメガシンカの力を資格ある者たちに与えたとかいう伝説が残ってるはずなのに、実際は三英雄同士ですらその力を奪い合って争ってたんだぁ!」

マリナーラはわざとらしく言う。パロレははっと息を呑んだ。確かにそうだ。今まですっかり忘れてしまっていたが、あの時、おかしいと思ったのだ。

「詳しく知りたくない?絶対何か秘密あるでしょ!気になるよねぇー」

猫撫で声でそう言ったマリナーラは、再びコルネッホに目をやるといきなり顔を歪めた。

「だから!黙ってないで何か言えよ!何か知ってるんだろうがよ!」

マリナーラは、イーラ火山であのメローネの過去を見た時からずっと王家の末裔に不信感を抱いていたのだろう。なぜ今動き出したのかは分からない。もしかしたら、あの時から準備をしていたのかもしれない。そして、機が熟した今、準備のできた「それ」を利用して、彼らを脅しているのだ。
 ▼ 297 AYr1xkow/g 17/10/31 22:26:38 ID:CNixIhek [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「何か隠してる、ってことはもうバレてんの。しらばっくれんのもいい加減にしてくれる?マリナーラも暇じゃないわけぇ。さっさとしないと、マジで告発するよ?王家の末裔はアモルの人たちにメガシンカに関する真実を隠してた、って」

マリナーラはイライラした様子で続ける。

「黙ってやるからとっとと認めればぁ?そんで口止め料としてさ、マリナーラにキーストーンとメガストーン、ちょうだいよ」

なるほど、マリナーラはその秘密の存在を餌にキーストーンとメガストーンを奪おうとコルネッホを脅していたようだ。

やがて、長らく黙りこんでいたコルネッホは重々しく口を開いた。バジリコがコルネッホを守るように構える。

「私は……何も知りません」

そう答えるコルネッホに、マリナーラは明らかに落胆した顔を浮かべた。

「メガシンカは、確かに三英雄がもたらした力です。彼らが奪った力などではないはず」

コルネッホは両手を組んで祈るような格好をした。ユーリが悲痛な顔で弱った父親を見つめ、そっと父親に近づいた。バジリコはそんな二人から少し離れ、マリナーラを睨みつける。マリナーラはハッと馬鹿にしたように息を吐くと、大理石の床に唾を吐いた。

「お前!」

バジリコが鋭い声を上げた。

「使えねえクソジジイだな」

マリナーラは歯を食いしばってそう唸る。それから小さく溜息をつくと、

「まー、いーよ。エシャロットの子孫はクソ雑魚ってことで!」

マリナーラはあっけらかんとした態度に戻りそう言った。それから、再び意味ありげなことを口走り始めた。

「それにしても、みんなアングリアとメローネの子孫はどうなったのかとか気にならないわけぇ? 二人だって城に……エシャロットに仕えてたわけでしょ?ましてや三英雄のメンバーだよぉ?なんで何も知られてないのって普通疑問に思わない?」

マリナーラの言葉は、恐ろしいほど分かりやすかった。そう言われると、確かになぜなのかと思えてくる。マリナーラは存外賢いようだ。
 ▼ 298 AYr1xkow/g 17/10/31 22:27:25 ID:CNixIhek [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「マリナーラ、いい加減にしろ」

バジリコが悪戯っ子の妹を叱る厳しい兄のような口調で言う。マリナーラはべっと舌を出した。

「お前がメガシンカの秘密とやらが気になっててメガシンカの力が欲しいってのは分かった。でも一体なんでわざわざ城を大々的に襲ってまでそれを言う必要があるんだ?スパイス団を利用してまでやる価値のあることなのか?」

バジリコは怒っているというよりは呆れているようだった。スパイス団に所属していた頃は、よくこんなやりとりをしていたのかもしれない。

「そんなの、確証のないただの推測だろ。お前はその無駄に旺盛な行動力をもっと他のことに使え。……今のスパイス団はリーダーのいない大変な時期だろ?これ以上信用なくしてどうすんだ。分かったら早くアジトに帰れ」

バジリコの言葉に、マリナーラはしばらく機嫌悪そうに拗ねたような表情をしていた。それからマリナーラは小さく息を吐くと、

「言ったじゃん、準備は出来てるんだって。秘密を暴く目処が立ったから来たんだよ。とゆーか、あんただってメガシンカの力欲しいでしょ?元々あんたの女がその力を得たことに嫉妬してたんでしょ?今だってアモルではあの女とこのガキンチョしかメガシンカを使えないんだよ!」

そう叫んで、パロレを睨みつける。バジリコは黙りこんでしまったが、パロレはマリナーラを睨み返した。

「ここに来る必要があるから来た。力を行使する価値があるから連れてきた。それに……証拠なら、今ここに!」

マリナーラが大きな声を上げ、パロレたちの背後を指差した。

振り向くと、そこには人が立っていた。マリナーラの方に集中しすぎて、誰かがホールにやってきていたことに気付かなかったらしい。

「ちゃんと捕まえてきたよ、セレビィ」

そこには、セレビィを閉じ込めた檻のようなものを突き出しながら胡散臭い笑顔を浮かべてそう言うアーリオが立っていた。
 ▼ 299 AYr1xkow/g 17/11/01 15:59:53 ID:ge0mBEeU [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「セレビィ!」

パロレとクオレとユーリ、それからなぜかバジリコが同時に叫んだ。

天井部分が球状になった鳥籠のような形をした檻に閉じ込められたセレビィはぐったりとしていたが、四人の声を聞くと力なく顔を上げた。

「どうしてもボールに入ってくれなかったからさ、無理矢理これに入れちゃったよ」

アーリオがそう言って檻を軽く揺らす。セレビィはパロレたちの顔をじっくりと見つめ、バジリコと目が合うと急に体をそちらに向けた。反動で檻が更に大きく揺れ、アーリオは思わず檻を取り落とす。

「おっと」

アーリオが興味なさげに声を上げた瞬間、

「危ねえ!」

そう言ったバジリコが落ちる檻を慌ててガッチリとキャッチした。いわゆる細マッチョである彼は、筋力だけではなく瞬発力にも優れているようだ。

セレビィは弱々しい鳴き声を上げながら、バジリコをじっと見つめていた。その瞳は、さながら恋い焦がれる乙女のようだ。

「アッハハ!幻のポケモンも面食いなんだねぇ」

マリナーラが面白そうに言う。

「ちが……!俺は元々こいつに会ったことがあるんだよ!」

バジリコが慌ててそう言った。パロレは驚いてバジリコとセレビィを交互に見た。

「まあ、昔ラランジャの森で怪我したこいつを助けてあげたことがあるってだけだけど……おいお前!鍵を寄越せ」

バジリコがアーリオを睨んで低い声で唸った。しかし、アーリオは相手の神経を逆撫でさせるような馬鹿にしたような笑みを浮かべて首を横に振った。

「アーリオ、マジサンキュー!」

マリナーラがご機嫌な様子でそう言って右手の親指を立てた。

パロレは、セレビィが中に入った檻をバジリコに持たせたまま軽やかな足取りでマリナーラの元へと向かうマリナーラを、キッと睨みつけた。

やっぱりモクレンの考えは正しかった。ふたつの事件は繋がっていたのだ!
 ▼ 300 AYr1xkow/g 17/11/01 16:02:27 ID:ge0mBEeU [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「まさにバッチリ準備できてるんだぁ。過去を探るために必要な力を持つポケモン、セレビィと、過去を探るための強力な助っ人、アーリオね!」

マリナーラはそう言うと、アーリオに向かって両手を伸ばし、ひらひらと振った。

「なんてったって、アーリオは三英雄の一人、アングリアの子孫!やったねー!エシャロットの魂とアングリアの魂が世代を超えて再会だよぉ」

マリナーラが冷やかすような口調で言った。パロレとクオレ以外の一同が動揺を隠せない様子でアーリオを見つめる。

「俺たち、利害が一致したから協力することにしたのさ」

アーリオはそう言うと、冷ややかな瞳でコルネッホとユーリを見つめた。

「なるほど、あなたたちと……それから外にいたお嬢さんが、エシャロットの末裔ってわけか」

アーリオが低い声で言う。一同は黙っていた。すると、緊張感漂うホールに、二人ほどの人間が急いでやってくる足音が聞こえてきた。

「すまん、待たせた!」

慌ただしくホールにやってきたのは、アキニレとアルセアだった。バジリコが少しホッとしたような表情になって「やっとか」と呟く。彼が応援として二人を呼んだのだろう。

マリナーラは嫌そうな顔をしてたじろいだ。かつてアジトでパロレだけではなく二人にもコテンパンにされたらしい彼女は、実力のある大人である二人が苦手なようだ。

「何これ、どういう状況?」

アルセアが言う。

「あとで説明する」

セレビィが閉じこめられている檻をどうにか開けようと躍起になりながらバジリコがそう言った。

セレビィは混乱しているのか、先程までは力なく倒れていたにも関わらず、檻の中で激しく暴れまわっていた。檻がガタガタと音を立てる。

「セレビィ、落ち着くんだ。出してやるから、ほら……!」

バジリコが必死にセレビィを宥めようとする。それを見てアーリオはニッコリ微笑んで「無理だよ」などと言っている。やがて、不意にバジリコの体が浮かび上がった。

「わっ!?」

見れば、パロレたちの体も浮かび上がっていた。錯乱したセレビィが、自身の意図とは関係なしに時渡りを起こしてしまったらしい。ホールにいた者たちは、セレビィに連れられて過去の世界へと飛び立っていった。
 ▼ 301 AYr1xkow/g 17/11/01 16:06:24 ID:ge0mBEeU [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ここは……」

いつの時代だろうか。

三英雄の彫刻、彼らに囲まれるようにして出来た丸い祭壇。今とあまり変わらない。しかし、壁に時計が取り付けられていなかったり、彫刻の前に説明の書かれたプレートがなかったりと、現代のフォルテ城とは異なる部分もあった。きっと、まだフォルテ城が博物館になっていない頃だ。

大理石の床を高く鳴らす音が聞こえてきた。パロレとクオレとユーリ、アルセアとアキニレとバジリコ、それからマリナーラと二人の下っ端とアーリオは、慌てて散り散りに分かれて物陰に隠れた。

「……力が氾濫している」

ホールに入ってきた人物がそう言った。どうやら二人いる。一人は女性で、煌びやかな装飾のされた豪華な衣服を身に纏い、王冠をかぶっている。決して若くはないが、美しい人だ。隣には従者らしき男が歩いている。

「メガシンカの力が……力を持つべき身分ではない者にまで蔓延している」

女性は重々しくそう言うと、三英雄の像を見上げた。恐らく、彼女はこの時代のアモルの女王だろう。

「かつて三英雄は、求める者たちすべてにメガシンカの力を分け与えました。ですが、そのせいで今は強大な力がアモル全体に氾濫しています」

女王は従者に語りかけた。従者と、それからパロレたちは黙って聞いている。

「このままでは、王家が危機に晒されるやもしれません。メガシンカを使うことができる者たちが結束してしまえば、わたくしには太刀打ちできない」

「そのようなことが起こるとは思いませんが、もしそんな未来があるとしたら、私があなたをこの命に代えてでもお守りいたします」

従者がそう言った。女王は薄く微笑む。

「ありがとう。でも大丈夫。与えたものは、取り返せばいいだけのことですから」

女王はそう言うと、素早く歩き、三英雄の彫刻を通り過ぎた。

「力を制限することにします。メガシンカをすべての者たちに与えることは正しいことではない。支配できる者たちのみに配ればよいのです」

女王は、祭壇の向こう側にある、キーストーンとメガストーンを保管している台座に近づいた。この台座は、現代のフォルテ城でも展示されている。

「資格ある者のみに授けるとでも言っておけば、民もきっと納得するでしょう。問題は、三英雄の歩んだ軌跡です」

女王はそう言って従者の方に振り向いた。

「初代の王であるエシャロットがメガシンカの力を求める者たちすべてに与えることにしたその経緯を隠さなければ、いずれ子孫に不審に思われてしまう。その歴史に関する記述がある書物をすべて処分しなさい」

「御意」

従者は短く返事をすると、女王に深々と頭を下げ、ホールを出ていった。

「すべては王家の力のため……アモルの平和のためなのです」

女王は両手を広げながら恍惚とした表情でそう言った。やがて、再びパロレたちの体が浮かび上がった。
 ▼ 302 AYr1xkow/g 17/11/02 16:05:55 ID:yidUPCvg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
現代のフォルテ城に戻ってきた一同は、何も言えずに黙りこんでいた。顔面蒼白になっている者もいる。結局、一番に口を開いたのはマリナーラだった。

「なんか思ってたのと違った……三英雄は結局どうなったわけぇ?」

マリナーラは首を捻りながら言う。

イーラ火山で見たメローネの過去については、相変わらずよく分からない。今見たものを参考にするならば、エシャロットは求める者全員にメガシンカを分け与えていたようである。しかし、強大なメガシンカを操る人間が増えていくことを危惧した時の王が己の保身のためにメガシンカを制限することにした、そういうことだ。

「まあ、でも何かが隠されていることは確かなようだね」

アーリオが肩をすくめて言った。

「そう!」

マリナーラは大声でそう言い、再びハイテンションに戻った。

「三英雄にまつわる重大な何かが隠されてるってことだよねぇ!その謎がなんなのか、マリナーラが暴いてやる!」

マリナーラはそう言うと、勢いよくモンスターボールを投げた。繰り出されたのはグラエナだ。

「グラエナ!ぶっ壊せ!」

マリナーラが指示を出す。グラエナはマリナーラの背後に向かって駆け抜けると、展示しているキーストーンとメガストーンを保護しているガラスケースに思いきり体当たりし、ガラスを力任せに割った。

マリナーラはグラエナを追いかけ、素早く何かを奪う。キーストーンとサーナイトナイトだ。

「これ!口止め料の前借りとして受け取っとくからねぇ」

マリナーラがニヤリと笑う。パロレが慌ててマリナーラを追いかけようとした瞬間、今度はアーリオがボールを投げた。ボールから出たムクホークは凄まじいスピードでこちらに飛んできて、バジリコの手にあるセレビィの入った檻を咥えていってしまう。

「ああっ!」

ムクホークはそれからスピードを緩めることなく主人の元へと飛んだ。アーリオとマリナーラがその上に飛び乗り、開け放たれていた大きな窓を抜けて消えてしまった。

「ええっ!マリナーラさん!?」

「置いてかないでくださいよー!」

城に残されてしまった二人の下っ端団員が、悲痛な声でそんなことを言いながら慌てて城を出ていこうとする。すると、アルセアが素早くモンスターボールを投げた。走り去る二人の前に、鋭い目つきで二人を睨みつけるバシャーモが現れる。二人の顔が引きつった。

「せっかくだから、バトルの相手してよ」

ヒィッ!と震え上がる二人に、アルセアがいつものようにぶっきらぼうで無感情な声で言いながら近づいていく。

「追いかけっこでもする?負けないよ」

逃げ出そうとする二人に、アルセアはそう言った。
 ▼ 303 AYr1xkow/g 17/11/07 00:07:26 ID:8DszlNuQ [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
拘束した二人のスパイス団員から情報を聞く。どうやら、マリナーラはイーラ火山で過去を見て以来、スパイス団としての活動とは別に三英雄やメガシンカについて秘密裏に研究していたのだという。二人はそれを手伝わされていたらしい。

「父上……」

城の外から戻ってきたローザが、不安や失望などの入り混じった複雑な表情をしてコルネッホを呼んだ。

「私は……」

コルネッホが、囁くように口を開いた。一同は黙ってコルネッホの言葉を一言も漏らすまいと耳をそばだてている。

「私は……メガシンカはかつてすべての者たちに与えられていたということを、本当に知らなんだ。私は、三英雄の一人でありアモルの初代の王であるエシャロットに託された王族の末裔としての責務を果たそうと……ただそれだけの思いで今まで生きてきた」

コルネッホは震える声で弱々しく言った。パロレとアルセアは思わず顔を見合わせる。

「……それが、エシャロットによって与えられた、己の使命なのだとずっと思っていた……しかし……」

コルネッホが天を仰ぐ。その視線の先には、勇ましく佇むエシャロットの彫刻があった。

「それが過ちだとすれば、私の今までの人生とは一体……一体……」

ローザが思わず顔を背けた。ユーリも顔をしかめている。

はあっと深く溜息を吐く音が聞こえてきた。アルセアだ。

「それじゃあ、悪者はさっきの女王様ってことで」

アルセアの言葉に、パロレは頷いた。これ以上コルネッホを苦しめるのも酷だ。それに、ユーリやローザだって気の毒である。

「セレビィを取り返さなくちゃ……!」
クオレが言った。

クオレの、セレビィが何度もパロレに過去を見せてくれるのには何か意味があるのではないかという言葉が頭をよぎる。パロレは、ぐったりとしてしまったコルネッホの元に駆け寄るユーリとローザを見つめながら考えていた。

あのセレビィの様子を見るに、バジリコのことがとても気に入っていたのだろう。もしかしたらセレビィは、パロレがバジリコと再会するチャンスを与えてくれる存在だと見抜いて、パロレを何度も助けてくれていたのかもしれない。

それなら、イーラ火山でメローネの過去を見せたことにもやはり意味があるのかもしれない。パロレはそう思い始めていた。きっと、パロレが三英雄の謎を解く鍵なのだ。

「うん。セレビィを助けに行こう!」

パロレは力強く言った。
 ▼ 304 AYr1xkow/g 17/11/07 00:08:52 ID:8DszlNuQ [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
一方、ここはスパイス団のアジト。

アーリオのムクホークに乗って廃工場までやってきたマリナーラは、壊れたアウェイクマシーンに設定されたパスワードを解除して地下のアジトの中へと向かっていた。

ムクホークの咥えていた、セレビィの入った檻をぶらぶらと不用意に揺らしながら歩く。ムクホークをボールに戻したアーリオはアジト内を興味深げに観察しながらその後ろを歩いていた。

マリナーラがニヤニヤと笑いながら檻を持ち上げ、セレビィと目線を合わせる。

「さーあ、あとで三英雄の過去たっぷり見せてねぇ」

セレビィは弱っていたが、マリナーラを睨みつけ、ぷいと背を向ける。マリナーラはそれに苛立ったのか、激しく檻を揺らした。

「生意気!」

セレビィは揺れに抗うことができず、ガンガンと体を格子にぶつけている。

「死んじゃったら困るし、程々にね」

後ろからアーリオが声をかける。マリナーラは不満げな表情で振り返って「はーい」と言うと、手を止めた。

「あんまり言うこと聞かないと痛い目に遭うよぉ?」

マリナーラが再びセレビィに視線を合わせてそう言った。口調こそいつも通りだが、その瞳は冷え切っている。

セレビィの耳には、マリナーラの言葉は届いていないようだった。セレビィは激しく揺さぶられたことで動転してしまったのか、かなり不安定に檻の中を飛び回っていた。

やがて、マリナーラとアーリオの体がふわりと浮き上がる。

「ゲッ、今!?」

マリナーラがギョッとした顔をする。

「あーあ、混乱させちゃうから……こんなところで三英雄の過去、見られるのかな」

アーリオがのんびりとした口調で言った。そして二人は、気付けば過去のスパイス団アジトへとやってきていたのだった。

二人は辺りをキョロキョロと見渡した。今もほとんど何も変わっていない。数年前と見ていいだろう。

すると、廊下を慌ただしく走る音が聞こえてきた。二人は慌てて物陰に隠れる。走ってきていたのは、バジリコだった。今より若い、十六歳ほどのバジリコ。

そう、これはかつてパロレたちが廃工場で見たバジリコ少年が秘密の抜け道を突き止めてアジトの中に入っていった、あの過去の続きの物語なのだ。
 ▼ 305 AYr1xkow/g 17/11/09 16:48:05 ID:q7FmJM9s [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
廊下を走っていたバジリコ少年は、やがてスピードを緩め、辺りを注意深く観察しながら歩いた。怪訝な表情をして進むバジリコ少年の元に、何者かが近づいていく。

バジリコ少年が立ち止まった。それから息を呑む。

「あなたは……!」

「うふふ。こんにちは」

彼の目の前に現れたのは、スリジエだった。

「あ、あなたがアルセアのバシャーモを盗んだんですか……?」

バジリコが愕然として言う。スリジエは何も言わずに薄く微笑んだ。肯定の意と受け取って問題なさそうだ。

「まさかバジリコくんが一番に気付いてくれるなんて思わなかったわ!ここが怪しいって最初に言い出したのもあなたなんでしょう?そう聞いたわ」

まったく悪びれる様子もなくそう言うスリジエの様子にバジリコは唖然としていたが、やがてごくりと唾を飲みこんで口を開いた。

「そうです……だって、つい最近までここの工場はボール工場として稼働してたのに、アルセアのバシャーモが盗まれたのとほぼ同時に潰れたんですから、何かあると思ったんですよ……」

バジリコは目を泳がせながら言った。まだ、ポケモンをくれた信頼できる大人であったスリジエが犯人だったという事実を受け止めきれていないのだ。

「ここの工場はね、私たちスパイス団の助力があったからここまでやってこれたのよ」

スリジエの言葉に、バジリコが目を見開く。

「スパイス団……!」

バジリコの反応に、スリジエの瞳が嬉しそうに歪む。

「そう。私はスパイス団のボスで、ここはスパイス団の新しいアジト。このアモル地方を陰ながら支える闇の組織……そう言えば、少しはかっこよく聞こえるかしら」

スリジエの口調は、まるで今日着ている新しい服を見せびらかす少女のように無邪気だ。

「まあいろいろあってこの工場は要らなくなってしまったから潰したのだけど…….でも利用できてよかったわ。おかげでボール開発に必要な技術を得ることができたから」

スリジエはそう言ったが、バジリコはスリジエの真意をよく分かっていないようだった。ただ、彼女が良くないことを考えているということは分かる。

「アルセアに言ってやる……!」

バジリコが言った。スリジエはニッコリ笑顔で返す。

「いいわよ」

その反応に、バジリコはギョッとした顔をして後ずさった。

「お好きになさい」

スリジエはそう言って、一歩バジリコに近づいた。

「でも……どうするの?」

そう言って、わざとらしく困ったような表情を浮かべる。バジリコは首を傾げた。
 ▼ 306 AYr1xkow/g 17/11/09 16:53:31 ID:q7FmJM9s [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「確かに、バシャーモを盗んだ犯人を突き止めて、その犯人が隠れてるアジトまで見つけたのってすごいことだと思うわ。でもね、私は知ってるのよ」

スリジエはそう言うと、不気味なほどに嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「あなたがバシャーモを奪われてバトルができなくなってしまったアルセアちゃんを見て嬉しくなっちゃった、って」

スリジエの言葉にバジリコは固まった。スリジエは追い討ちをかけるように更に言葉を紡いでいく。

「どんなに頑張っても勝てなかった、バトルの天才アルセアちゃん。あなたは彼女のことが大好きだけど、同時に大嫌いでもあるのよね」

「や、やめろ……」

バジリコが呟く。スリジエは構わず続けた。

「そんな彼女が、相棒に忘れられたことでバトルへの情熱を失ってしまった。戦うことができなくなってしまった。その姿を見て、バジリコくん、あなたはいい気味だ、って思ったでしょう?可哀想なアルセアちゃんを見て、気持ちいいと思ったでしょう?」

「やめろ!」

バジリコが叫んだ。必死の形相でスリジエの口から発せられる呪縛から逃げようとしている。スリジエがバジリコの肩を掴んだ。長い爪がバジリコの肩に食いこむ。

「いいえ、やめないわ」

スリジエはそう言ってバジリコの顔を覗きこんだ。

「そんな酷いことを考えてるのに、都合よく彼女を助けてヒーローになるつもりなの?それってとっても卑怯じゃないかしら」

スリジエの顔が、バジリコの瞳の中に映っている。

「バジリコくん、きっと今あなたが戻ってアルセアちゃんのヒーローになれば、そのまま彼女と一緒になれると思うわ。でも、あなたが卑怯者だってばれてしまったらどうするの?大好きなアルセアちゃんに嫌われちゃうかも」

バジリコの表情に、恐怖がよぎった。旅に出てから才能を開花させたアルセアへの嫉妬で不貞腐れ、散々彼女に辛く当たってしまったというのに、それでもアルセアに嫌われることはバジリコにとって最も恐れるべきことなのだ。

「それでもいいなら、ここを出てアルセアちゃんの元に行って、私のことを好きなだけ話していいわよ。それでもいいならね」

スリジエは念を押すように繰り返した。バジリコはよろよろとその場から力なく後ずさった。どうすればいいのだろうか。

「そこで、提案があるの」

スリジエが朗らかに言う。

「バジリコくん。私の仲間にならない?」
 ▼ 307 AYr1xkow/g 17/11/09 16:55:30 ID:q7FmJM9s [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
バジリコは目をパチパチと瞬いた。予想外の言葉だったのだ。

「アルセアちゃんには敵わなかったかもしれないけど、バジリコくんだって強いもの。あなたが私の役に立ってくれるのなら、アルセアちゃんには何も言わないであげる」

バジリコは眉をひそめてスリジエを見つめた。スリジエが何を考えているのか、その意図を探ろうとしている。スリジエは相変わらず掴みどころのない笑顔を浮かべている。

もしかしたら、今までに見ていた笑顔も同じものだったのかもしれない。今まで優しい微笑みだと思っていたその表情が、本性を知ってしまった今、とても恐ろしいものに見えているだけなのかもしれない。

「アルセアには……」

バジリコが口を開く。スリジエはバジリコの言葉に耳を傾けた。

「アルセアには絶対に手を出さないでください……。それなら……それなら……」

バジリコは苦しそうに声を絞り出した。悩んでいるようだ。スリジエの口角が上がる。

「分かりました。『私からは』絶対に手を出さないわ」

黙って見ていたマリナーラは、スリジエの言葉に思わずべっと舌を出した。まあ、屁理屈も使えないようではマフィアのボスなど務まらないだろうが。

「……」

バジリコは顔をしかめて俯いた。未だに悩んでいる。

本当は、気付き始めているのだ。アルセアは何も悪くない。自分が勝手に、一方的に嫉妬していただけ。

すべてをチャラにできるくらいの活躍をしただろう。大切な相棒を取り戻すきっかけを作り、盗んだ犯人とその所在まで調べ上げた。しっかりと報告し、今までのことを誠実に謝罪すれば、許してもらえるかもしれない。

でも、それでいいのだろうか。彼女を傷つけた自分に、そんな資格があるのだろうか。もう戻らずに、このまま消えてしまうべきではないか。

「どう?バジリコくん」

スリジエの声は優しい。

「ここに来れば、可哀想で可愛いアルセアちゃんを、安全なところからずっと見ていられるわよ」

バジリコはゆっくりと顔を上げた。スリジエが満足げに微笑む。

そこで、マリナーラとアーリオの体がふわりと浮き上がった。
 ▼ 308 AYr1xkow/g 17/11/10 01:12:07 ID:zbMccPEQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「くだらな……」

現代に戻ってきたマリナーラが最初に発したのはそんな言葉だった。マリナーラはそれ以上は何も言わず、黙っている。

「案の定、三英雄に関する記憶じゃなかったね。あの男の子はさっき城にいたイケメンにそっくりだったけど、同一人物?」

アーリオが問う。マリナーラは無言で頷いた。

「なるほどね。じゃああの女性は?」

マリナーラはしばらく何も言わなかったが、やがて前を向いたままアーリオの顔を見ずに、

「あたしのママ」

そう言った。

「へえ、似てないね」

アーリオは大して興味なさげだ。

「でしょー?」

マリナーラはそう言って振り向いた。笑顔だ。

「マリナーラはパパ似なのぉ。パパの顔知らねーけど」

マリナーラの言葉にアーリオはかなり微妙な顔をした。どうやら彼は気を使うことが恐ろしく下手くそなようだ。

「ま、パパ似なのか、そもそもほんとにママなのか、その辺全然分かんないけど。ママって呼んだらダメって言われてたしぃ」

「なんで?」

マリナーラの言葉にアーリオは首を傾けた。

「さあね。小さい時ママって呼んだら死ぬほど怒られたのなんとなく覚えてるよぉ。多分、マリナーラは娘じゃなくて部下だったんだよ」

マリナーラは自分でもあまりよく分からないのか、肩をすくめてそう言った。

「でも、言うこと聞かずにしょっちゅう自分勝手に動く自己中な部下だったから、言うことを聞いてくれる従順な部下の方がマリナーラより好きだったみたいだよぉ。仲良く捕まってたしね……アホくさ」

マリナーラは最後は小さな声で呟いた。

「ふーん」

アーリオがまったく心のこもっていない相槌を打つ。

「あっは、ちょー興味なさそーウケる。まあ、だから話したんだけど」

マリナーラはそう言って乾いた笑いを漏らすと、再び前を向いた。

「まー、そんなことはどーでもいいよ。さっさとセレビィ、部屋に連れてかないとねぇ」

マリナーラはそう言って、汗ばむ手で檻をぎゅっと持ち直して廊下をまた歩き始めた。
 ▼ 309 AYr1xkow/g 17/11/13 17:52:49 ID:psrA7L3s [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
舞台は再びフォルテ城。

「スパイス団のアジトに行こう!マリナーラが戻ってるかもしれないし……そうじゃなかったとしても何か手がかりがあるかも!」

パロレが言う。一同は頷いた。

「まあ、危険ですわ」

ローザが咎めるような声で言った。その瞳は弟に向けられている。

「あなた、確かにお強いですけど、まだ小さな子供でしょう?あの野蛮な方々を追いかけることは許しません」

ローザはきっぱりと言った。いくら毒舌だとはいえ、大事な弟を危険な目に遭わせたくないという思いはあるのだ。

ユーリが口を開こうとした。ユーリを含めたパロレたちがスパイス団のアジトに赴き、スリジエの悪事を食い止めたということは、ほとんどの人たちが知らないのだ。しかし、アキニレが手を挙げて制止した。

「ローザさん、ご紹介が遅れまして申し訳ありません。アルセアのことはご存知でしょうけど俺のことは知らないですよね」

アキニレがそう言ってローザに一歩近づく。

「ええ……後から来たお二人のうちのお一人ですわね」

ローザがアキニレを注意深く見つめながら言った。

「俺は数日前までスリジエ博士の手伝いをしていたアキニレと言います。先にはっきりと述べておきますが、博士の悪事には一切関与していません。……俺は、パロレの兄です」

アキニレがそう言うと、ローザの瞳が驚きで丸くなった。

「まあ。一度にそんなにたくさん言われたら混乱してしまいそうですわ」

ローザは表情を戻すと、いつもの調子でそう答えた。

「し、失礼いたしました。……弟さんが心配な気持ち、とても分かります。でも俺は、弟さん――」

アキニレはそう言うと、小さく首を横に振って続けた。

「――ユーリくんの成長を、パロレを通じて見させていただきました。彼はとても強くなっていますよ。それに、俺たちも付き添います。アルセアとバジリコも。ローザさんは安心してジムリーダーとしての責務を果たしてください」

アキニレの言葉に、ローザは迷っているようだった。ローザの視線はアキニレから離れ、その少し後ろに立っているアルセアとバジリコの方へと動いていく。ローザはアルセアを見ると、小さく息を吐き、それからユーリを見た。

「……姉上、オレは……!」

ユーリが姉を説得しようと力強い声で言う。

「自分の弟の成長を、他の方に先に見届けられてしまうだなんて……」

ローザはユーリの言葉を遮るようにして呟いた。

「……悔しいですわね」
 ▼ 310 AYr1xkow/g 17/11/13 17:54:52 ID:psrA7L3s [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あ、姉上……?」

ユーリが、怪訝な表情でローザを見上げる。二人の身長はそれほど変わらないのだが、ローザはハイヒールを履いているのでユーリよりも目線が高いのだ。

「なんですの」

ローザは急に抑えた口調になって答えた。

「……いえ、姉上がいつになく優しいことを言うのでちょっと驚いて……」

「まあ、わたくしはいつでもユーリに優しいでしょう。何を言っているの?」

「え?ああ……そうですね」

ユーリが棒読みで言う。

「心がこもっていませんわね」

ローザはキッとユーリを睨みつけた。ユーリは意外にもしれっとしている。二人はいつもこんな調子なのだろう。なんだかんだで姉弟の仲は良好のようだ。

「……分かりましたわ。アキニレさん、アルセアさん、バジリコさん。弟を頼みますわね」

ローザがそう言うと、アキニレはにっこりと笑って、

「ええ、責任を持ってお預かりします!」

そう言った。

ユーリは過保護な姉の言葉に少し気まずそうにしていたが、やがて再びコルネッホに向き直った。

「……父上。オレはもはや、何が正しいのか、分からなくなってしまいました」

ユーリの声は少し不安げだ。しかし、ユーリは真っ直ぐにコルネッホを見つめて続けた。

「だから、オレはスパイス団を追いかけてキーストーンとメガストーンを取り戻すだけでなく……、この目で真実を確かめに行きたいと思います」

ユーリは三英雄の像を見上げた。

「それが……自分の目でしっかりと確かめ、何が正しいのかを判断することが、大事だと思うから。……だから父上、待っていてください」

ユーリは力強くそう言ってみせた。

コルネッホが弱々しい、しかし確かな瞳でユーリを見つめる。コルネッホもまた、ユーリの成長を感じ取っているのだ。コルネッホは小さく頷いた。

「さあ、皆さん!」

ユーリが振り向き、一同に声をかける。

「スパイス団のアジトに、行きましょう!」
 ▼ 311 マゲロゲ@はっきんだま 17/11/14 16:28:45 ID:byZKfIpM NGネーム登録 NGID登録 報告
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 ▼ 312 ャラコ@パワーレンズ 17/11/18 08:30:39 ID:2eTbVsnQ NGネーム登録 NGID登録 報告
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 ▼ 313 ダイトス@ボスゴドラナイト 17/11/22 11:43:24 ID:7NF4Q6LE NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
なんかよくわからんけど
パロレ→アルセア
ユーリ→バジリコ
クオレ→アキニレなのかな
ポジション的には
 ▼ 314 AYr1xkow/g 17/11/23 00:45:19 ID:4K3hflnc [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>313
まさにそうですね
伝わっていたようで嬉しいです
 ▼ 315 AYr1xkow/g 17/11/23 00:49:05 ID:4K3hflnc [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレはクオレとユーリ、それからアルセアとアキニレとバジリコと共にスパイス団のアジトの入口となっている廃工場までやってきた。

「スイッチとかの仕様が変わってる可能性ってあるのか?」

アキニレが問う。バジリコは首を横に振った。

「あの機械をちゃんと扱える奴は博士しかいなかったはず……ないと思う」

「まあ最悪ぶっ壊しちゃえばいいでしょ」

バジリコが答える横で、アルセアはしれっとそう言って廃工場の中へと入っていく。

「あ、アルセア!」

バジリコが慌ててアルセアを追いかけた。アキニレも二人を追う。パロレたちも中に入っていった。

「大丈夫なのか……?」

アキニレが心配そうに呟く。アルセアは真っ直ぐ奥の部屋へと向かっていた。バジリコがアルセアに追いつき、隣を歩く。

「気持ちは嬉しいけど、あんまり気を遣わないでいいよ」

アキニレの声は聞こえていたらしい。アルセアが前を向いたままそう答えた。

「いつまでも縛られるわけにはいかないし……」

そう言うアルセアの声は少し震えている。

「もう大丈夫」

アルセアは小さいながらも決意に満ちた声で言った。

「……こないだだって無理してただろ。なんで……」

バジリコがそう言うと、アルセアは隣にいるバジリコを見つめて柔らかい声で言った。

「だって、バジリコがいるじゃん」

バジリコは何も言わなかった。パロレのいるところからはバジリコの表情はよく見えなかった。
 ▼ 316 AYr1xkow/g 17/11/23 00:52:55 ID:4K3hflnc [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アジトの秘密の出入口に改造されたアウェイクマシーンが鎮座する奥の部屋へとたどりつく。前回も担当したパロレが代表してスイッチを開くことにした。しかし、アウェイクマシーンのカプセルの外側に、何やら数字を打ちこむキーボードのようなものが取り付けられている。

「あれ?なんか変わってる!」

パロレが言うと、バジリコが「エッ?」と声を上げて覗きこんだ。

「本当だ。一体誰が……まさかマリナーラ……?」

バジリコが考えこむ。

「マリナーラは妙に聡いとこあるけど、こんなことまで出来たのか?そういえば、みんなよく分かってなかった博士の研究内容とか、マリナーラだけ理解してたことはあったな……」

バジリコがぶつぶつと呟いた。

「変わってる可能性はないって言ったのお前だぞ、どうすんだ?」

アキニレが少し強い口調で言った。

「どいて」

いきなりアルセアがそう言って近づいてきた。パロレとバジリコは慌ててアウェイクマシーンから離れる。

「バシャーモ、出ておいで」

アルセアがそう言ってモンスターボールを投げる。見ていたバジリコが「え、さっきの本気だったのか……?」と呟いた。

モンスターボールから出てきたバシャーモは、真剣な表情でアウェイクマシーンを見つめていた。アルセアは目を閉じて深く息を吐くと、目を開いて軽くバシャーモに触れた。

「本当は直接あの外道女を倒してやりたかったとこだけど、これで勘弁してやろうじゃん。……まあ、これも一種の禊ってことで」

アルセアの声も手も、もう震えていない。バシャーモは小さく頷いた。

一同はバシャーモから離れた。それを確認したアルセアが、声高らかに叫ぶ。

「バシャーモ!フレアドライブ!」

「シャーモッ!」

バシャーモはけたたましい鳴き声を上げ、体に炎を纏ってアウェイクマシーンに思いきり突進した。

ドガガガッシャーン!と、凄まじい音が部屋に響きわたる。アウェイクマシーンはものの見事に破壊されていた。これでまた廃工場にバシャーモが壊した機械がひとつ増えてしまった。

アルセアが黙ってバシャーモに目配せすると、バシャーモはシャモ!と強気に鳴き声を上げてからアウェイクマシーンの残骸をその強大な脚力で部屋の壁にめりこむ勢いで蹴り飛ばしてしまった。アジトへと繋がる階段が露わになる。

「スッキリした?」

バジリコが言う。

「超スッキリした」

アルセアはそう言ってニヤッと笑った。
 ▼ 317 AYr1xkow/g 17/11/23 00:55:30 ID:4K3hflnc [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
階段を降りて、長い廊下を抜けて小部屋にたどりつく。そこでパロレはまた違和感を覚えて首を傾げた。

「パロレ、どうしました?」

ユーリが尋ねる。

「多分なんだけど……ワープパネルの配置、変わってる……」

パロレが呟くように言った。

スパイス団のアジトには踏むと対応した部屋にワープするいくつものパネルが設置されており、以前リザードンを探しに来た時もそのワープパネルで移動して奥の部屋まで向かった。その時よりも、確実にパネルが増えているのだ。

「そういえば、確かに……前はこんなんじゃなかった!」

クオレもそう言った。今、パロレたちの目の前に「一個だけ選んで進め」と言いたげに三個のワープパネルが並んでいるのだ。以前はここには一個のパネルしかなかったはず。

「これじゃ俺も分からないな……」

バジリコが言った。

「パネルの管理も、あの人がやってたのか?」

アキニレが言うと、バジリコは頷いた。あの人とは、スリジエのことだろう。

「まさかこれもマリナーラが……?あいつ、そんなに頭良かったのか」

バジリコは驚きを通り越して感嘆しているようだ。

「あんなわがままで気分屋なのに頭はいい……って、まんま博士と一緒だ。今更だけど……似た者同士だったんだな」

バジリコはそう呟いた。

「よし、手分けしよう」

アキニレはそう言って、幼馴染二人に目配せをしてから、

「パロレ。兄ちゃんと行こう」

そう言ってパロレを見た。二人はアキニレの意図を瞬時に理解したらしい。

「クオレ、おいで」

アルセアがクオレを呼ぶ。クオレは「はい!」と返事するとアルセアの元へ近づいた。

「ユーリくんは俺と行こうか」

「はい。よろしくお願いします」

パロレとアキニレ、クオレとアルセア、そしてユーリとバジリコの三手に分かれた一同は顔を見合わせて頷くも、それぞれ自分たちの目の前にあるパネルへと足を踏み出した。
 ▼ 318 マタナ@ピーピーエイド 17/11/25 00:13:40 ID:KgpEEGAQ NGネーム登録 NGID登録 報告
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 ▼ 319 AYr1xkow/g 17/11/28 18:06:55 ID:rQIkk3/M [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
向かって一番左のパネルに進んだのは、アルセアとクオレだ。クオレはアルセアと二人きりになって少し緊張しているようだった。

左のパネルからワープした先の部屋を探索すると、また違うワープパネルが見つかった。二人はパネルに乗り、また次の部屋へと向かう。

「その帽子、可愛いね。似合ってる」

クオレの緊張を和らげようとしたのか、アルセアはそんな言葉を口にした。それを聞いたクオレが、ぱあっと顔を輝かせる。

「ありがとうございます!」

先程まで硬い表情で黙りこくっていたクオレは早口で続ける。

「気付いてくれて嬉しいですっ!これ、最近買ったお気に入りなんです……!」

「帽子変えて気付かないって方がおかしくない?」

アルセアが言うと、クオレはムッと頬を膨らませて不機嫌そうな顔をした。

「パロレは気付いてくれないんです!」

クオレの言葉に、アルセアはああ、と溜息をついた。

「兄貴も気付かないタイプだしね……そういうとこ、似てんだ」

「バジリコさんは気付いてくれますか?」

クオレの言葉に、アルセアは一瞬固まった。

「……まあ、気付くんじゃない?」

「やっぱり!髪型とかメイク変えた時にもすぐ気付いてくれそうですよね!」

「そうだね」

アルセアは完全に諦めてそう答えた。

「アルセアさん、お洒落ですもんね!カメリアのお洋服も、とっても似合ってます!」

「ああ、これ?」

アルセアは気恥ずかしそうに自分の着ている服を摘んだ。

「カメリアは知り合いだからね。貰っただけだよ」

「ええ!貰ったんですか!」

「モデルの仕事手伝った時にお礼に……」

「モデル?アルセアさん、モデルしたことあるんですかっ!?」

「墓穴掘った。……一回だけね。断りきれなくて……」

アルセアは観念したように言った。クオレはなお一層目を輝かせてアルセアを見つめている。いつもクールで強くて美人な先輩トレーナーが、モデルもしたことあるなんて!

クオレにとってアルセアは憧れの存在だった。実際のところは、アルセアは身内に対しては意外とお人好しだというだけなのだが。
 ▼ 320 AYr1xkow/g 17/11/28 18:08:42 ID:rQIkk3/M [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「モデルしてるアルセアさん、見てみたいなぁ……!」

「勘弁して」

「アルセアさん、綺麗なのに!恥ずかしがらなくていいじゃないですかっ!」

「目立つの苦手なんだよね」

「でもでも、チャンピオンって目立つこともありますよね?」

「まあ多少はね。……あの時は何も考えてなかったな……ただ強い人とバトルしたくて、何度も挑戦してたらチャンピオンになってた……」

アルセアが遠い目をして呟く。

「ふふっ」

クオレが笑みを漏らす。アルセアは怪訝な表情をしてクオレを見つめた。

「あっ、ごめんなさい。なんか……アルセアさんとこんな普通のお話ができるなんて思ってなくて、嬉しくて!なんだかちょっぴりドキドキするって感じです!」

「何それ」

アルセアは苦笑する。

「私、超普通だから」

「そうですよね!アルセアさんも、普通の女の子ですっ!」

クオレがおどけてそう言ってみせる。アルセアは少し恥ずかしそうな表情でクオレを見つめた。それから、ふと立ち止まる。

「どうし……」

どうしたんですか、そう言おうとしたクオレに向かってアルセアは素早く人差し指を唇に当てる。

二人はしばらく黙ってその場に立っていた。すると、コツコツと床を踏む音が聞こえてきた。

「準備はいい?」

アルセアが囁く。

「……!っはい!」

クオレは慌てて頷いた。その瞬間、スパイス団の下っ端構成員が角から現れる。

「!うおっと!……侵入者発見!」

下っ端構成員がそう言ってニヤリと笑い、モンスターボールを投げる。

「行くよ、グレイシア」

「ライチュウ!お願いね!」

二人の女の子たちも、モンスターボールを手に取った。
 ▼ 321 AYr1xkow/g 17/11/28 18:11:07 ID:rQIkk3/M [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
一方こちらにいるのは、向かって一番右のパネルへと進んだ二人組、ユーリとバジリコだ。

二人は黙って進んでいた。元々、二人とも沈黙が苦ではないタイプなのだ。しかし、やがてユーリが口を開いた。

「あの……」

「うん?」

バジリコがユーリの方を向く。

「……オレ、スパイス団って、悪い組織だとずっと思っていたんです。いや、正直今でも思っています……バジリコさんにこんなことを言って、すみません」

「いや、気にしないでいいよ」

バジリコは真面目な声音で返した。

「スパイス団とは、一体何なんでしょう」

ユーリの言葉に、バジリコはしばらく黙って考えこんだ。それから、小さく溜息をつく。

「言っておくけど、良い組織ではないよ。それははっきりと言える。ただ……なんて言えばいいかな。アモル地方の黒い部分を全部背負った闇の組織……」

バジリコの言葉を聞くユーリの顔が、みるみるうちに歪んでいく。

「あーいや、ちょっと違かったかな、難しいな……」

バジリコは慌ててそう言うと、目を閉じて考えこんだ。

「俺も、具体的にすべてを知っているわけじゃないよ」

そう忠告して、バジリコは説明を始める。

「ひとつの国が平和にやっていくためには、大変なことだ。政治、経済、宗教……いろんな問題がつきまとう。ユーリくんなら、きっとなんとなく分かるよね」

ユーリは黙って頷いた。

「何か問題が起こったら、きちんと対処しなくちゃいけない。そのためには、時には汚い手段を使わなければならない時もある。それは、アモルだって例外じゃない」

「……」

「……ユーリくんや、君のご先祖様を攻めてるわけじゃないよ。どの国だってそんなもんだからね」

バジリコが優しく言うと、

「ええ、分かっています」

ユーリは重々しい声でそう言った。

「アモル地方のいつかの王は……その汚い手段を使わなければならない一大事が起こった時に、敵対していた反乱軍に頼んだんだ。二度と弾圧などしないから、自分の代わりに手を染めてくれ、と」

ユーリは完全に言葉を失っている。

「その契約は、結果的に言えば、その通り交わされた。王家の代わりに元は反乱軍だったその組織が汚い仕事を任されるようになった。でも、組織は弾圧されないことをいいことに悪いこともしてる。例えば……いやまあこれは言わなくていいか」

バジリコはユーリの顔色をちらりと見てからそう言い直した。
 ▼ 322 AYr1xkow/g 17/11/28 18:13:57 ID:rQIkk3/M [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ユーリは王家の末裔だ。いずれ知ることではあっただろう。姉上は知っているんだろうか、ユーリはぼんやりとそんなことを考えた。

「今じゃ王家と組織の繋がりはほとんど薄れてる……というか、もうアモルは王制じゃないからね。政治を行う人間たちが変わった時に、組織もそっちと手を組むようになったんだろう」

バジリコはそう言うと、ふうっと息を吐いた。

「組織はそのまま今も続いてる。なんてったって、創始者の末裔が表にいるからね。取り持ってくれてるってのもあるんじゃないかな……あの人はあくまで中立的な立場にいるけど」

スパイス団は、アモル地方と強い結びつきを持った歴史ある組織。みんな彼らを悪者扱いしつつも、なぜか彼らがいないと生活できないということをなんとなく知っている。悪い人たちの集まりというわけではない。でも確実に、良い人たちではない……。一体どういうことなのか。その真相は、こういうことだったのだ。

「まあ、分かりやすく言うと、こんな感じかな。おしまい」

「……ありがとうございます」

そう言うユーリの声は掠れている。バジリコはどういたしまして、と返した。

ユーリは深く考えこんでいるようだった。思ったよりもアモルとスパイス団の関係は複雑で、すぐに切ることはできなさそうだ。そのきっかけを作ったのは、他ならぬユーリの先祖で、エシャロットの子孫。

「あの女王が契約を結んだんでしょうか」

ユーリはフォルテ城で見た過去を思い出してそう言った。

「そこまでは、分からないなあー……」

バジリコの声が不自然に引き延ばされる。ユーリは不審に思って顔を上げた。すると、向こうから女性の下っ端構成員が走ってくるのが見える。ユーリは慌ててモンスターボールを手に取った。

「バジリコさぁーん!戻ってきてくれたんですかぁー!?」

下っ端は手を大きく振りながらそう言ってきた。どうやら、彼女にはユーリは見えていないようだ。

バジリコは無表情だった。アルセアへのものとはまったく異なる態度に、ユーリは少し面食らう。

「悪いけど、違うよ」

「えぇー?じゃあなんでここにいるんですかぁー!?」

「なんでだろうね。ここ、通ってもいい?」

バジリコはちょっぴり可愛げのある言い方でそう言うと、爽やかな笑顔を浮かべて軽く首を傾げた。下っ端への効果は抜群だ!

「また遊びに来てくださいねぇー!バジリコさぁーん、大好きでぇーす!」

あっさりと道を開けた下っ端が、後ろから大声でそんな言葉をかけてくる。そんな言葉を受けてもなんでもなさそうに歩くバジリコを見て、ユーリはなんて罪な人なんだ、と心の中で呟いた。

すると、「おい!お前!何侵入者通してんだ!追うぞ!」という声と共に激しい足音が聞こえてきた。

「やべ、やっぱダメか」

「いや、なんで行けると思ったんですか!」

ユーリがツッコミを入れると、バジリコは悪戯っぽく舌をぺろっと出した。イケメンとはなんと恐ろしい生き物だろうか。

「ごめんごめん!行くよユーリくん!」

バジリコがそう言って、ボールを構える。

「はい!行け、コジョンド!」

「ブラッキー!頼んだ!」
 ▼ 323 ニリッチ@くろぼんぐり 17/11/29 00:13:41 ID:omIlMni. NGネーム登録 NGID登録 報告
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 ▼ 324 AYr1xkow/g 17/12/01 21:07:32 ID:KxSP1YFw NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
たまにリュウさんがクチナシおじさんに似てると言われるので、ちょっとした補足です
前スレでも触れたのですが、元々リュウさんは警察官の予定でした
「正義を知るためにはまず悪を知らなければならないのだよ」と言ってあくタイプを使う、頼りにされてるちょっとお堅いキャラとして設定していたのですが、なんとなく構成を考えているうちに発売されたサンムーンであくタイプ使いの警察官キャラが出てしまい慌てて設定を変更しました
そこで、あくタイプを使うものの本人は根っからの善人として描くつもりだったリュウさんを、むしろ本人もちょっと悪い人にしちゃえと考えこのようなキャラにしました
私はクチナシおじさんはどちらかと言うと善人だと思っており、あまり似せたつもりはなかったのでちょっと意外でした 読んでくださっている皆さんの意見を聞くのは本当に面白いです
リュウさんはクチナシおじさんより陽気で飄々としていますが、クチナシおじさんほど優しくはないです
イメージとしては強いて言うならロケット団幹部のラムダをもっと渋くした感じです
蛇足だとは思いますが、裏話もしてみたかったのでこんなお話をしてみました
まだまだ続きますがどうぞよろしくお願いします!
 ▼ 325 マゾウ@ルビー 17/12/01 21:11:48 ID:u53SmuzE NGネーム登録 NGID登録 報告
>>324
モデル地方とちょい悪オヤジの肩書きからしてパンツェッタジローラモを渋くしたイメージだった
支援
 ▼ 326 AYr1xkow/g 17/12/02 19:35:48 ID:TS/qicis [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
真ん中のパネルに進んだパロレとアキニレは、出来るだけ急いで奥へと向かった。いくつかワープパネルを経由して少し広い部屋にやってくると、少し先に下っ端団員が二人待ち構えているのが見える。

「しょうがないな。……よし、パロレ!覚悟はいいか?」

「もちろん!」

アキニレの声に、パロレは頷く。二人は顔を見合わせると、奥へと踏み出した。すると、下っ端たちはパロレに気がついたようだった。

「お、お前っ!あの時のガキだな!」

下っ端のうち一人が鋭い声を上げる。

「え……誰だっけ」

パロレが言うと、下っ端はずっこけた。

「何度か戦ってるだろうが!セーニョ川で会った俺だ!」

下っ端が喚く。パロレはようやくなんとなく思い出した。「あー……」とぼんやりと声を上げる。

「ほんとに思い出してんのかお前!?……まあいい!今度こそ倒してやるぜ!」

下っ端が意気込む。もう一人の下っ端も声をあげた。

「正直状況はよく分かってないけど、侵入者には帰ってもらうわ!」

下っ端二人はそう言うと同時にモンスターボールを投げようとする。パロレとアキニレは構えた。

「んにゃろう行くぞグラエナ!」

「行くわよアブソル!」

下っ端たちがポケモンを繰り出す。

「行くぞエーフィ!」

「行け、リザードン!」

兄弟二人もポケモンを繰り出した。

「エーフィ、マジカルシャイン!」

アキニレが指示を出す。エーフィは眩ゆい光を放った。光はグラエナとアブソルの二匹に降り注ぎ、二匹は一撃で倒れてしまった。

「だからもうなんだってんだ!」

「状況がよく分からないまま負けたわ!」

あまりにも呆気ない勝負に、下っ端二人が頭を抱える。

「さすがチャンピオンの兄!」

パロレがふざけてそう言い、親指を立てる。アキニレは苦笑しつつ「こら」と優しくパロレをたしなめた。

「大したことないさ。さあ、急ごう!」

「うん!」

そう言って頷くパロレはちょっぴり新鮮な気持ちだった。兄がバトルをするところを見たのは初めてだったからだ。
 ▼ 327 AYr1xkow/g 17/12/02 19:39:35 ID:TS/qicis [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「グレイシア、サンキュ。もう大丈夫そうだね」

「ライチュウ、お疲れ様!そうですね!」

クオレとアルセアは下っ端とのバトルを何度か繰り返して確実に進んできた。廊下の先は静かだ。もうこの部屋には団員はいないだろう。

奥にワープパネルが見える。

「なんか、重要な部屋に繋がってそう!」

「とりあえず、進むしかないね」

クオレとアルセアはそんな会話を交わして、ワープパネルへと足を踏み出した。

それとほぼ同時に、もう二人のトレーナーたちも戦いを終えようとしていた。

「ブラッキー、戻れ!ユーリくん、突っ走るよ!」

「はい!コジョンド、お疲れ様です!」

追っ手の団員たちと慌ただしくバトルをしながら逃げていた二人は、ポケモンをボールに戻して走るスピードを上げる。奥にワープパネルを見つけたのだ。

いかにもな場所に配置されたワープパネルに向かって、二人は足を伸ばした。

そして、

「……」

「……」

「……」

「……」

四人が無言で顔を見合わせる。左のワープパネルに進んだクオレとアルセアは右のワープパネルの上に、右のワープパネルに進んだユーリとバジリコは左のワープパネルの上に立っている。

なんと、入口に戻ってきてしまったのだ。

アルセアが黙って肩をすくめる。クオレは頬を膨らませた。バジリコは気まずそうに頭を抱え、ユーリは腕を組む。

「……しょうがない。行くよ」

アルセアのその言葉を皮切りに、一同は心なしか疲れた様子で中央のワープパネルへと進んだのだった。
 ▼ 328 AYr1xkow/g 17/12/06 13:08:26 ID:TnYEBwsc [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレはアキニレと共にバトルを何度か繰り返しながら進んでいった。最終的にパロレがたどりついたのは、以前リザードンを探しに来た時に訪れた最奥のスリジエの部屋とは別の部屋の前だった。そこには、アーリオが退屈そうに佇んでいる。どうやら、パロレたちが進んだのは正解ルートだったようだ。

「お……来た来た」

アーリオはパロレを見てほくそ笑む。パロレは体を強張らせた。

「マリナーラにここは通すなって言われたんだよね。まあ、君ならもう分かってるだろうけど……通りたいなら、俺とバトルしてよ」

アーリオはそう言ってモンスターボールを構える。パロレはアキニレに目配せした。アキニレは小さく頷き、数歩後ろに下がった。ここは、ぼくがやる!

「行け!ムクホーク!」

「バンギラス!頼んだよ!」

ムクホークはギラギラとした目でこちらを睨みつけてくる。

「ムクホーク、インファイト!」

ムクホークは守りを捨て、バンギラスの懐に凄まじい勢いで突撃してきた。たとえタイプは一致していないにしても、いわタイプとあくタイプであるバンギラスには効果は抜群だ。バンギラスは今にも倒れそうによろめいたが、パロレを悲しませまいとギリギリで踏みとどまった。

「バンギラス、いいぞ!ストーンエッジだ!」

「バンギィ!」

バンギラスは尖った岩をムクホークに突き刺した。バンギラスの攻撃は急所に当たり、ムクホークは叫び声を上げて床に落ちた。

「やった!バンギラス、あとはゆっくりしてていいよ。ありがとう」

相手の攻撃を持ちこたえただけでなく急所に当てて一撃で倒してくれたバンギラスに、労いの言葉をかける。しかしバンギラスは首を横に振った。

「え、まだやれる?……よし!分かった!」

パロレが頷く。アーリオは次のポケモンを繰り出してきた。ゴーレムポケモンのゴルーグだ。

「バンギラス!かみくだく!」

パロレの指示を聞いたバンギラスはゴルーグの元まで近づくと、がぶりと思いきり噛みつき強く食らいついた。ゴルーグは鈍く重々しい音を立てて倒れた。
 ▼ 329 AYr1xkow/g 17/12/06 13:09:21 ID:TnYEBwsc [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「さすがチャンピオンだね。次行くよ!ブロスター!」

「バンギラス、お疲れ!行け!ロズレイド!」

アーリオがブロスターを繰り出す。パロレもポケモンを入れ替えた。

「ロズレイド!エナジーボールだ!」

ロズレイドはエネルギーの塊をブロスターに放った。ブロスターは吹っ飛び、壁にぶつかってそのまま戦闘不能になってしまった。

「呆気ないなぁ。まあいいや。次だ!行け、ジャラランガ!」

アーリオが次に繰り出してきたのは、無数の鱗に覆われたドラゴンタイプのポケモン、ジャラランガだ。

「よし、ロズレイド、ありがとう!マリルリ!頼んだ!」

「マーリィ!」

パロレがポケモンを入れ替えると、マリルリは力強く鳴き声を上げた。

「ジャラランガ、アイアンテール!」

ジャラランガは、鋼のように硬くなった尻尾をマリルリに強く打ちつけた。マリルリは悲鳴を上げてその場に転がる。効果は抜群だ。しかし、マリルリはまだ大丈夫そうだ。

「マリルリ!じゃれつく!」

マリルリはジャラランガの元に走り、じゃれついた。マリルリの可愛らしい動作に惑わされたジャラランガは、そのまま倒れてしまった。

「よっしゃ!」

ここまで順調だ。パロレが思わずそう声を上げると、ジャラランガをボールに戻したアーリオはフンと鼻を鳴らして肩をすくめた。

「さすがだよ。ポケモンの力を最大限まで引き出している……君は才能あるトレーナーだね」

アーリオはそう言って目を閉じる。

「でも……」

そして、アーリオは目を開いた。先程まではどこか冷めたような表情をしていたアーリオの目は、力強くこちらを睨みつけている。

「舐められてもらっちゃ困るんだよね!行くよ!ルカリオ!」

アーリオはそう叫んでルカリオを繰り出した。

「ぼくだって!行け!リザードン!」
 ▼ 330 AYr1xkow/g 17/12/06 13:10:24 ID:TnYEBwsc [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アーリオは、腰につけたベルトのバックルに触れた。そう、キーストーンだ。ルカリオのルカリオナイトとアーリオのメガバックルが反応する。そしてルカリオの体からまばゆい光がほとばしり、ルカリオはメガルカリオにメガシンカした。

パロレも負けじとメガバングルに触れる。リザードンのリザードナイトXとパロレのメガバングルが反応した。リザードンの体もまた、光に包まれていく。

「リザァー!」

リザードンは、メガリザードンXにメガシンカした!

「メガシンカを扱う者同士……真剣勝負と行こうじゃないか!」

アーリオは声高らかに言い、メガルカリオに指示を出した。

「ルカリオ、りゅうのはどう!」

メガルカリオが波動を操り、大きな衝撃波を巻き起こしてメガリザードンXに攻撃した。メガシンカしてドラゴンタイプとなったメガリザードンXに効果は抜群だ。メガリザードンXはよろめいたが、体勢を整えた。

「リザードン、決めるぞ!フレアドライブだ!」

メガリザードンXが答えるように咆哮を上げる。そして、体に炎を纏ってメガルカリオに突進した。

炎に包まれたメガルカリオは苦しそうにしている。攻撃の反動でダメージを受けたメガリザードンXも、限界が近そうだ。二匹はどうにか体を起こして睨み合っていた。

「リザードン!」

パロレの声が届いたのだろうか。メガリザードンXは、顔を上げて強く頷き、持ちこたえた。それを見届けたメガルカリオは、とうとう耐えきれずに倒れてしまった。

「……っ!」

アーリオは悔しそうに歯を食いしばっていた。パロレは少し意外に感じた。彼もまた、一人のポケモントレーナーだったというわけだ。

「……しょうがない。実力差は明確なようだね」

アーリオは溜息をついてメガルカリオをボールに戻した。それから、パロレをじっと見つめる。

「君は、なかなか興味深いトレーナーだね……」

アーリオはそう言うと、にっと笑った。

「でも残念ながら、俺は負けたからと言ってここを通してあげるほど素直じゃないんだよね」

「なんだって!?」

パロレが素っ頓狂な声を上げる。

「お前!約束が違うぞ!」

アキニレも前に出てきてそう言った。

「おー、怖い怖い。君たち、バトルしか頭にないのかい?もう少しスタイリッシュに……ん?」

アーリオは肩をすくめて小馬鹿にしたようにそう言っていたが、何かを見つけて押し黙った。
 ▼ 331 AYr1xkow/g 17/12/06 13:11:23 ID:TnYEBwsc [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「パロレ!大丈夫?」

「お待たせしてすみません!」

背後からそんな声が聞こえてくる。パロレが振り向くと、クオレとユーリがこちらに走ってきていた。その後ろにはもちろん、アルセアとバジリコもいる。

「……」

アーリオは黙って四人を見つめていた。

「どういう状況?」

バジリコが尋ねる。

「往生際の悪い奴がいるっぽいよ」

アルセアが呆れ気味にそう言った。

「……やれやれ」

アーリオがかぶりを振る。

「六対一は、さすがに分が悪いな」

アーリオはそう言った。そして、塞いでいた部屋の扉から離れる。

「通りなよ。まあ、時間稼ぎにはなっただろうしね」

アーリオは意味ありげに言う。一同は顔を見合わせた。

「右のパネルと左のパネルには、何かあったか?」

アキニレが問う。

「何もなかった」

アルセアとバジリコが同時に言った。その声はなぜかとても疲れているように聞こえる。

「そうか……分かった」

「それじゃみんな……行くよ!」

パロレが言う。一同は頷いた。

パロレは、アーリオが阻んでいた扉をゆっくりと開けた。
 ▼ 332 AYr1xkow/g 17/12/07 16:54:58 ID:LTo9wvMg [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
扉を開けて部屋の中に進むと、そこにはマリナーラがいた。マリナーラはパロレたちが入ってきたことに気付き、くるりとこちらを向く。パロレたちがやってくることは予測済みだったのか、怒っている様子はない。

マリナーラの立っているその奥には、大きなカプセル型の機械があった。アジトの入口にあるアウェイクマシーンとは異なるモデルのものだ。アウェイクマシーンより更に大きく無骨なそれの中で、セレビィが眠っている。

「セレビィ!」

「はい、ストップぅ」

大声を上げて駆け出そうとしたパロレを、マリナーラが制止した。

「まだ起動してないから安心しなよぉ。つーか、うるさい」

マリナーラは余裕の笑みでそう言った。

「一緒に見よーよ」

一体どういうことだろうか。マリナーラは再び機械に向き直った。

「この機械はねー、アウェイクマシーンよりもっと前にボスが開発したやつ。ポケモンを覚醒させる技術なんてまだ持ってなかった頃に、ポケモンの力を完全に制限して人間の意思通りに動かせるようにって作ったコントロールマシーンの試作品だよぉ」

マリナーラは淡々と言ったが、その内容は恐ろしいものだった。

「今とは正反対のこと考えてたんだねぇ、あの人。結局は強大な力を自分の思い通りに使いたかったってことだよねぇ」

マリナーラは呆れ気味に言った。一同は黙って聞いている。

「ま、マリナーラもその気持ち分からんでもないけどねー。だってさーあ」

そう言うマリナーラの手は、機械に取り付けられたスイッチのようなものに吸い寄せられていく。

「セレビィを自由に操ることができるようになったらさ、いつでもどこでも!時渡りさせられるもんねぇ!」

「やめろ!」

パロレが叫んだが、遅かった。マリナーラがスイッチを入れたマシーンは仰々しい音を立てて起動してしまった。中に閉じこめられたセレビィの顔が、歪む。

「フィィイイイイイ!」

セレビィの苦しそうな声が部屋に響いた。

「セレビィ!」

パロレは慌てて駆け出し、マシーンに近づいた。どうにかして止めなければ!しかし、パロレが触れる前にマシーンは大人しくなった。セレビィの悲鳴も止み、セレビィはマシーンの中でぐったりとしている。

「……?」

「な、何が起こってるの……?」

クオレが囁く。マリナーラはマシーンを一瞥すると舌打ちした。

「結局ダメなのかよ。使えねー」

どうやら、マシーンには不備があるようだ。マリナーラの思惑通りに行かなかったことに、パロレはホッと安堵の息を漏らす。しかし、マリナーラはそんなことで諦めるような奴ではなかった。
 ▼ 333 AYr1xkow/g 17/12/07 16:56:41 ID:LTo9wvMg [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「この野郎!」

マリナーラは唐突にそう叫んで、カプセルを思いきり叩いたのだ。

「!?」

一同はギョッとしてマリナーラを見つめる。

「いい加減にしろよ!言うこと聞いてさっさと過去に連れていけ!この役立たずが!」

ゴッ、ゴッ、と、鈍い音を立ててカプセルを何度も強打する。中にいるセレビィは完全に怯えていた。

「やめろ!」

パロレがマリナーラを押さえつけようとした。見ればカプセルは割れており、マリナーラの掌に破片が突き刺さって血が出ている。

「……!」

パロレが思わず息を呑む。すると、

「その辺にしときな」

ふとそんな声が聞こえ、マリナーラの動きが止まる。パロレも止まって声の主の方を見た。

「……!?リュウさん!?」

「な、なんでここに!?」

そこにはリュウガンが立っていた。スパイス団と何か関係がありそうな、ちょっぴり怪しいメランジムリーダーだ。

「……なんかごちゃごちゃやってるようだったからよ、様子を見に来たんだよ」

リュウガンはそう言って、ひらひらと手を振りながらこちらへと近づいてきた。

「リュウさん、あなた本当何者なんですか?」

アキニレが驚きを隠しきれていない声で言う。リュウガンはへらりと笑うと、

「おいちゃんはねえ、スパイス団の創立者の子孫なんだよ。だからこいつらにちょっとだけなら干渉できるってわけ」

そう言ってみせた。

「ええ!?」

一同が驚愕の声を上げた。状況を飲みこめていないアーリオにマリナーラとバジリコ、それからユーリは特に反応は示さなかった。
 ▼ 334 AYr1xkow/g 17/12/07 16:59:25 ID:LTo9wvMg [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「まあ、面倒ごとは嫌いだからよ、ここんとこずっと最低限の関わりしか持たないようにしてたんだ。だからまさかバジリコが幹部になってたとか俺は全然知らなかったわけだ……ま、バジリコは俺のこと知ってたみたいだけどな」

リュウガンはあっけらかんとしてそう言うと、近くにあった椅子に勝手に腰かけた。

「アルセアちゃん、悪かったなぁ」

リュウガンがそう言ってアルセアを見上げる。

「え……いえ……」

アルセアの歯切れは悪い。そう答えることしかできないのだ。

「俺としちゃ組織は別にどうでもいいんだが、そういうわけにも行かなくてな。子孫ってだけで俺にも責任がのしかかってくるからよ……上手く立ち回ってかなきゃなんねえ」

パロレたちは緊張した面持ちでリュウガンの話を聞いていた。リュウガンの意図が読めない。一体、何のために今ここに来てこんな話をし始めたのだろうか。

「嬢ちゃん、騒ぎを起こすのも程々にしてくれよ」

リュウガンがマリナーラに鋭く言葉を投げかける。

「あの女の時は、やったことはともかく範囲は小規模だったから表に知られずに済んだんだ。そんな城のもん壊したり盗んだりなんかされたら、困っちまうよ」

「お前には関係ねーだろ」

マリナーラは手に刺さった破片を引き抜いて床に投げ捨てながら低い声で言った。パロレはその痛々しい光景を見ていられず目を逸らした。どうやら、マリナーラはリュウガンのことは信用していないらしい。

「そうかよ」

リュウガンは肩をすくめてそう言った。

「お前さんの喜びそうなことを教えてやろうと思ったんだけどな」

リュウガンのわざとらしい言い方に、マリナーラは顔を上げて眉をひそめる。

「何?」

マリナーラが素っ気なく尋ねる。リュウガンはニヤッと笑った。

「俺は、スパイス団の創立者の末裔だ」

「それさっきも聞いたし、つーか知ってるしぃ。何なの?」

マリナーラは明らかに苛立っている。

「まあまあ、急かさずに聞いてくれよ。……スパイス団は、元は王家への反乱軍だった。この辺、お前さんたちもなんとなく知ってるだろ?」

パロレたちは頷いた。

「じゃあ、一体誰が反乱を起こしたのかって話だ」

一同は、息を詰めてリュウガンを見つめ、話の続きを待っている。リュウガンはたっぷりと間を取り、やがて口を開いた。

「メローネだよ」
 ▼ 335 ミッキュ@きのみぶくろ 17/12/08 14:53:42 ID:emvqQOoM NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
個人的にこれプレイしたい
 ▼ 336 AYr1xkow/g 17/12/14 01:09:07 ID:GvNXn4sE [1/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「え!?」

「三英雄の一人のメローネが、反乱軍を設立した。つまり俺は、メローネの子孫ってこと」

一同の驚きの声を上げるのを無視して、リュウガンは淡々と続けた。リュウガンはマリナーラの方を見ると、

「三英雄の末裔の行方が気になる……とか抜かしてたみたいじゃねえか。メローネの末裔はここにいるぜ」

ニヤニヤと笑いながらそう言った。マリナーラは口を大きく開けて唖然としている。

ユーリ、アーリオ、そしてリュウガン。今ここに、三英雄エシャロット、アングリア、メローネの子孫たちが集っているというのだ。

「……まあ、俺も事実としてそのことを知ってるってだけで、詳しいことは知らん。先祖がどんな人だったのかなんて知る由もねえしな」

リュウガンはそう言って頭を掻いた。

パロレは黙って考えこんでいた。一体なぜ三英雄たちが敵対するようになったのかは分からないが、メローネが反乱軍を作ったというのなら、前にイーラ火山で見たあの過去も辻褄が合うような気がしてくる。

「マリナーラ。お前さんが疑問に思ってるように、三英雄がいつまでも仲良しこよし集団じゃなかったことは確かだ。実際にメローネはエシャロットへの反乱を起こしたわけだからな。とりあえず、その情報だけで大目に見てくれねえか?問題起こすのはもうやめてくれよ」

「……」

マリナーラは黙ってリュウガンを見つめていたが、

「……馬鹿じゃないの?おっさん、取引したことあるぅ?成立するまで自分の手札は見せちゃダメでしょ。この状況でマリナーラが断ったらおっさん損じゃん」

挑発的な口調でそう言った。

「そうだな」

リュウガンはそう言ってから、ニヤッと笑った。

「でもよ、俺の勝ちだろ?」

「……」

マリナーラは再び黙りこみ、唇を噛みしめてリュウガンを睨む。

「……いーよ、分かった。乗ってやる」

マリナーラはそう言うとぷいと背を向けた。そして、

「メローネの残したものが見つかれば、きっと真実が分かる……心当たりがないわけじゃない……」

ぶつぶつと何かを呟く。リュウガンは黙ってメローネを見つめている。

「……あは!おっさんサンキュー!」

メローネはそう言って笑うと、アーリオに向き直った。

「じゃ、マリナーラは行きまーっす。バイバーイ!アーリオ、行くよぉ」

「ハイハイ」
 ▼ 337 AYr1xkow/g 17/12/14 01:10:20 ID:GvNXn4sE [2/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あっ!」

突然パロレが声を上げた。なんと、アーリオはパロレたちがリュウガンとマリナーラの会話に気を取られているうちにセレビィをあの檻の中へと再び閉じこめていたのだ。

モンスターボールが投げられ、バシャーモが飛び出す。アルセアが無言で繰り出したのだ。

「バシャーモ、追――」

アルセアが叫ぶが、間に合わなかった。マリナーラとアーリオは、部屋の奥に隠されていたワープパネルを踏んで部屋を出ていってしまった。

「……」

アルセアは深い溜息をつくと、バシャーモをボールに戻した。

二人がどこに行ってしまったのか、まったく分からない。闇雲に追いかけても無駄だろう。パロレたちは黙ったまま考えこんだ。

「……そういえば」

バジリコが口を開いた。一同がバジリコを見る。

「俺はこのアジトで博士にスパイス団に勧誘されたんだけど……その時あの人はここを『新しいアジト』って言ってた。前のアジトに何かあるのかもしれない」

バジリコのその言葉を聞いた瞬間、アルセアがリュウガンの方を向く。

「リュウさん、前のアジトがどこにあるのかはご存知ですよね?」

アルセアの口調は、「知らないとは言わせない」とでも言いたげだ。
リュウガンはしばらく黙っていた。やがて、やれやれと言いながら椅子から立ち上がる。

「ま、俺も一応中立的な立場にいるんでね。詳しくは教えてやれないけど……」

リュウガンは、相変わらずふてぶてしい笑みを浮かべている。

「ヒントくらいなら教えてやるよ。……前のアジトは、ここにはねえよ。この土地にはな」

リュウガンがそう言うと、あっとクオレが声を上げた。

「ダ・カーポ島だ!」

クオレのその言葉を聞いて、パロレもあることを思い出した。

「あそこ、街にもスパイス団の人がいっぱいいたよね。やっぱり関係あったんだ!」

クオレが言う。パロレはうんうんと頷いた。

「ダ・カーポ島に行って、何かないか探してみよう」

「ダ・カーポ島にある街は、スパイス団の経営する乗船所のあるリュイタウンに、それぞれジムのあるパルガンシティのアスールシティ……また三手に分かれましょうか」

ユーリがそう提案した。
 ▼ 338 AYr1xkow/g 17/12/14 01:12:35 ID:GvNXn4sE [3/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ぼく、リュイタウンに行くよ」

パロレがそう言った。

「ちょっとだけあてがあるんだ……バジリコさん、一緒に行ってもらってもいいですか?」

「俺?なんで……」

バジリコはそこまで言うと一瞬面倒そうな顔をした。それから、

「ああ……分かった。オッケー、一緒に行こうか」

バジリコはそう言った。クオレとユーリも、こっそりパロレの顔を見て気まずそうに笑う。

三人は、仕事をサボってバジリコのことを話していたスパイス団の下っ端団員たちを思い出していた。どうやら、バジリコ本人も彼らにうんざりしていたようだ。アルセアとアキニレが不思議そうに首を傾げた。

「えっとー……、わたしパルガンシティでもいい?」

クオレがちょっぴり遠慮気味に言う。

「いいですよ。ではオレは、アスールシティに行きますね」

「クオレ、どうしたの?なんかあるの?」

クオレの様子にどことなく違和感を感じたパロレは疑問に思ってそう尋ねた。クオレはどこか決意に満ちた表情で、

「あのね、アスールシティに行く日は決まってるの」

そう言ってみせる。パロレはあまりよく分からなかったが、クオレがそう決めたのならそうなのだろう。

「アスールね……」

アルセアが呟く。

「最近はフェルマータ島に行くにも船に乗らなくなっちゃったからな。ちょっと久しぶりにあそこのジムリーダーに挨拶でもしとくべきかな。私、ユーリと一緒に行くわ」

「はい。アルセアさん、よろしくお願いします」

「よし、じゃあクオレちゃん!俺と一緒にパルガンシティだな!」

「はいっ!お願いします!」

六人が二人組を作る様子を、リュウガンは微笑ましく見つめている。

「何ですか?気持ち悪い……」

そんなリュウガンの顔を見たアルセアが気味悪そうに言った。その表情を見ただけでは、冗談なのか本気なのか分からない。

「アルセアちゃん、おいちゃんナイーブだから優しくして」
 ▼ 339 AYr1xkow/g 17/12/14 01:15:44 ID:GvNXn4sE [4/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「まあ俺の言えたことじゃねえけどよ」

リュウガンは少し真面目な顔になってそう言った。

「お前たち、覚悟はあるのか?」

リュウガンが真剣な表情でこちらを見つめてくる。

「何のためにマリナーラを追いかけるんだ?理由もなく危ない世界に突っ込んでいくのは、褒められたもんじゃねえぞ」

リュウガンの言葉にふと一同が黙ってしまったその時、

「チャンピオンとしての責任とか……まあ、そんなのは建前」

アルセアが口を開いた。

「私がアモルで唯一のメガシンカ使いだった時は、色々コルネッホさんに頼まれてた。前にスパイス団が城に来た時も助けを求められたしね。まあ、実際行ったらもう子供がスパイス団を撤退させてたわけだけど」

パロレは少し居心地の悪そうな顔をした。

「でも今回はそんな義理とかそういうのはマジでどうでもよくて……トレーナーとしてというか、もうこれは私個人の意見なんだけど」

アルセアはそこまで言って、軽く息を吸う。

「ポケモンを大事にしない人、大っ嫌いなの」

その言葉に、嘘はなかった。

「ああ……ローザさんに言った通り保護者として付き添い、ってのももちろんあるけどな。やっぱり、このままにはしておけないよな」

アキニレも頷く。

「元同僚としての責任も感じるし……許せないな、あんなの目の前で見たら」

バジリコもそう言った。

「そう!だから、わたしたちでセレビィを助けるんです!」

クオレが力強く言う。

「はい。そして真実を知り、何が正しいのかを、自分の目で見極めるんです」

ユーリも真っ直ぐに前を見つめて言った。

「ぼくたち、みんな自分で行くって決めたんです。覚悟はもうとっくにしてるんだ!」

パロレはそう言い切った。

「……野暮なこと聞いちまったみたいだな」

リュウガンはそう言って、頬を掻く。

「そんじゃ、俺の出る幕はもうないってことだ。気をつけてな」

「はい!」

それからパロレたちはリュウガンと別れ、部屋の奥のワープパネルを介してアジトの入口へと戻った。そして階段を登り、廃工場の前に出る。

アルセア、アキニレ、バジリコは、それぞれそらをとぶことができるポケモンを繰り出した。そして一同は、三手に分かれてダ・カーポ島を目指し、アモル地方の空への飛び立ったのだった。
 ▼ 340 AYr1xkow/g 17/12/14 19:47:47 ID:99jhn9HM [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
パルガンシティにたどりついたアキニレとクオレは、そのままパルガンジムを目指した。

「今のジムリーダーはえっと……ビロウさんだっけ?」

アキニレが問う。

「はい、そうですよ!……八年前は、違う方だったんですか?」

クオレはアキニレに質問を返した。アキニレは頷く。

「八年前は、セールイとメラン以外、ジムリーダーはみんな違かったよ。今のジムリーダーは若い人が多いよね」

「確かに……ネムさんとか、あんまり変わらないのにジムリーダーやっててすごい!です!」

クオレが言う。ブロインジムリーダーのネムは、パロレやクオレたちより二歳ほどしか変わらない。

「ああ、今のジムリーダーの中で一番新しく就任した子だよね。うん、すごいよな!ローザさんやレナさんも年下なのに、大変だよなあ」

アキニレが呟くように言った。

「あれ?えっと、モクレンさんはアキニレさんたちより年上なんですね!」

クオレが言うと、アキニレは今度は首を横に振った。

「惜しい!モクレンさんは俺たちと同い年だよ」

「あ、そうなんだぁ!」

アキニレ曰く、最近のジムリーダーや四天王はどの地方も若い人が増えてきているのだという。アモル地方も例外ではないようだ。

「アモルのリーグにも、一人俺たちより年下の男の子がいるんだ。ま、彼のことはアルセアから聞いたことあるってだけだから俺がその四天王と親しいわけじゃないけどな」

「アキニレさんたちより年下って……まだ大人になってない人がほとんどですよね。すごいなぁ……」

クオレがそう言うと、アキニレは快活な笑い声を上げた。

「何言ってるんだ!クオレちゃんだってすごいんだぞ」

「あ……」

クオレは一瞬少し困ったような表情を浮かべた。しかし、そんな表情はすぐに消え、クオレは恥ずかしそうに微笑む。今は自分に自信を持つことができるようになったのだから、情けなく思う必要なんてないのだ。

「えへ!ありがとうございます!」

やがて二人はパルガンジムに入り、奥にいるビロウの元へと向かう。

「こんにちは、ビロウさん!」

「こんにちは。俺はアキニレといいます」

挨拶をする二人を見て、いつも通りの仏頂面を浮かべていたビロウは、

「俺はパルガンジムリーダーのビロウだが……、挑戦しにきたわけではなさそうだな。何の用だろうか?」

そう答えて二人を迎え入れた。
 ▼ 341 AYr1xkow/g 17/12/14 19:49:52 ID:99jhn9HM [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「スパイス団の昔のアジト?」

「はい。何か知ってますか……?」

怪訝な顔をして声を上げるビロウに、クオレはそう質問した。

「ふむ……確かにパルガンシティではスパイス団の奴らが歩いているところをよく見るな。スパイス団発祥の地らしいという噂は、聞いたことがある」

ビロウの言葉に、クオレは目を輝かせる。

「そんなに関わりが深かったんですね……!」

「しかし、アジトの存在は知らなかった」

「そっかぁ」

今度は分かりやすく落胆するクオレに、ビロウは真面目な表情のまま続ける。

「現在のパルガンシティに住んでいるスパイス団関係者はいないと思う。リュイタウンの乗船所で働いている者たちが、休暇などの際にこの街を利用しているというのが主な理由だろう」

「そうなんですね」

アキニレが相槌を打つと、ビロウは頷いた。それから、ふと何かを思い出したように「そうだ」と声を上げた。

「五年以上前のことだが……、よく14番道路方面からやってくるスパイス団員を目撃したように記憶している。もしかしたら奴らは、アスールシティに住んでいたのかもしれないな」

ビロウの言葉に、クオレとアキニレは思わず顔を見合わせた。五年以上前。バジリコがスパイス団に入る前だ。それなら、辻褄が合う。

「アスールシティにアジトがあるのかなぁ?そしたら、ユーリとアルセアさんが何か見つけてくれるかもしれませんね!」

クオレが嬉しそうに言う。

「ああ、そうだな」

アキニレも笑顔で頷いた。それから、ビロウに向き直る。

「ビロウさん!有益な情報と貴重なお時間をどうもありがとうございました」

「礼には及ばん」

ビロウは目を閉じて穏やかな表情でそう言った。

「よし、クオレちゃん!待ち合わせ場所のトリステッツァの谷に行こうか」

「はいっ!」

ジムを後にするクオレとアキニレに、ビロウは相変わらずの真顔で、

「もしアスールに行くのならほんきをだしたカビゴンより恐ろしい怪力持ちの女に気をつけろ。では、達者だな」

そう言って二人を見送った。
 ▼ 342 AYr1xkow/g 17/12/14 22:01:03 ID:GvNXn4sE [5/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アスールシティのポケモンセンター前に、ボーマンダが降り立つ。ユーリとアルセアがボーマンダから降りると、アルセアは「サンキュー」と言いながらボーマンダをボールに戻した。

「それじゃ、ジムに行こっか」

「はい」

二人は船着場になっているアスールジムへと向かう。入口のゲートをくぐり抜けたところで、一人のジムトレーナーのふなのりが二人に気付いた。

「あっ!?おい、チャンピオンが来てるぞ!」

近くの船に乗っていた他のふなのりがその言葉を聞いて二人の顔を見た。

「マジじゃねえか!……もしかして、勤務体制を視察しにきたんじゃねえか……?やべえ!」

ふなのりはそう言って顔を青くする。

「おいてめえ!」

ふなのりは更に自分の隣の船に乗っているふなのりに声をかけた。

「ハイ!」

「今すぐ姉御を連れてこい!チャンピオンが視察しに来てるって連絡しやがれ!」

「アイアイサー!」

慌てて船を動かして奥の大きな船で待機しているはずのヒマワリの元へ向かうふなのりの様子を見て、ユーリが困惑気味に口を開いた。

「別にそんなつもりじゃないのに……!」

ユーリはそう言うと、隣のアルセアを見上げた。

「アルセアさん、どうしましょう?」

そう言うユーリに、アルセアは薄く微笑んだ。

「まあちょっと申し訳ないけど、奥まで行く手間が省けてラッキー、ってことでいいんじゃない?待っとこ」

呑気にそう言うアルセアに、ユーリはそれでいいのか?と思ったが、何も言わないでおいた。
 ▼ 343 AYr1xkow/g 17/12/14 22:03:35 ID:GvNXn4sE [6/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「よお、チャンピオン!視察ってマジか!?」

大声でそう言いながら、ヒマワリがこちらへと近づいてくる。

「いや、全然違います。……というか、厳密に言うと今のチャンピオンはパロレなんですけどね」

アルセアは淡々と返した。ヒマワリは豪快に笑う。

「んな細けえこたあいいんだよ!つーか、敬語もいらねえよ。あんたはアタシのじいちゃんに勝った上に、アタシがジムリーダーになるより前にチャンピオンになったんだからな」

「そんなの関係ないですよ」

アルセアは軽く流した。もしかしたら、アルセアに心を開いてもらっていることは実はすごいことなんじゃないかと隣で聞いていたユーリはそんなことを考えた。

「おじいさん、ですか?」

「そう。八年前のアスールジムリーダーは、ヒマワリさんのお爺さんだったから」

ユーリの質問にアルセアが答える。ヒマワリも頷いた。

「パルガンジムはビロウのばあちゃんがジムリーダーやってたしな!アタシとビロウはそん頃からの付き合いなんだよ」

「へえ、そうだったんですね」

ビロウの祖母とヒマワリの祖父も、この二人のようにしょっちゅう喧嘩をしていたのかもしれないと思うと、なんだか少し面白い。

「んで、どうしたんだよ?何の用だ?」

ヒマワリが尋ねる。

「あの……唐突ですが、かつてダ・カーポ島にスパイス団のアジトがあったらしいのです。アスールシティにはスパイス団の人もよく見られるので、何かご存知じゃないかと思いお伺いしました」

「なるほどな」

ユーリが丁寧に質問すると、ヒマワリはそう返してうーんと唸った。

「ただわりいけど、正直よく知らねえな。リュイタウンの奴らが休みの日とかに来てるだけじゃねえかと思うけど……」

そう言うヒマワリに、

「そうなんですね……」

ユーリは少し残念そうに言った。

「あー、五年前とかにはもっといっぱいいたんだよ。そいつらも15番道路の方から来てたからよ、やっぱりリュイタウンか、それかパルガンシティ辺りに住んでたんじゃねえかな」

「五年前……」

アルセアが呟く。心当たりのある年数だ。やはり、バジリコがスパイス団に入ってしまう前にアジトが変わったのだ。

「リュイタウンは何もない小さな町ですが……パルガンシティに行けばもしかしたら何か手がかりが見つかるかもしれませんね」

ユーリが言う。

「そうだね」

アルセアは頷いた。
 ▼ 344 AYr1xkow/g 17/12/14 22:05:05 ID:GvNXn4sE [7/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「じゃあとりあえずトリステッツァの谷に行ってみんなに報告しようか」

アルセアがそう言うと、ユーリは頷いた。

「はい」

それからヒマワリの方を向き、

「いきなりお邪魔してすみませんでした。どうもありがとうございます」

「ありがとうございました。また何かあればよろしくお願いします」

ユーリとアルセアが礼儀正しく挨拶をすると、ヒマワリは照れ臭そうに笑った。

「堅苦しいなぁ。まあ、いいけどよ!どういたしまして!こちらこそまたよろしくな!」

ヒマワリはそう言って、大きく手を振った。

二人がアスールジムのゲートを出ようとした瞬間、背後から大きな声が響いてくる。

「もしパルガンに行くなら、メタルコートを持たせて交換したら進化しちまいそうなくらい頭のかてえ頑固な男に注意しろよ!」

ビロウとの仲は、やはり相変わらずのようだ。

「アルセアさん」

ユーリが呼ぶと、アルセアは「ん?」と振り向いた。ユーリは先程少し気になったことを、思いきって聞いてみることにした。

「あの、どうでもいい質問なんですが、アルセアさんって人見知りする方ですか?」

「え……なんで分かったの?」

アルセアは少し恥ずかしそうにそう答えた。
 ▼ 345 AYr1xkow/g 17/12/17 22:56:56 ID:QIvYUN8Y [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
リュイタウンにやってきたパロレとバジリコは、真っ直ぐ乗船所へと向かった。バジリコにぞっこんの女性団員たちは、バジリコに聞かれたことは何でも答えてくれるのではないか?ここを選んだのは、そう考えたからだ。

「はぁ……」

バジリコが溜息をつく。パロレは慌てて振り向いた。

「あ……バジリコさん、すみません。変なことお願いしちゃって……」

そう言うと、バジリコは苦笑いで首を横に振る。

「いや、それは全然いいよ。パロレくんは悪くない……っていうか、こういうことでしか俺は役に立てないからね」

「……前に来た時も、ここにいた奴ら、バジリコさんの話をしてました」

パロレが言うと、バジリコは顔をしかめた。

「まあ、褒められるのは悪い気しないし実際間違ってないけどさ、ちょっとしつこいよね」

バジリコは、さりげなく自分の容姿が整っているということをしっかり自覚している発言をしたが、パロレは特に嫌味には思わなかった。むしろ、あれだけの人気で自覚していない方がおかしい話である。

「ぼく、ちょっと先に行って聞いてみますね」

「分かった」

バジリコが頷いたのを確認すると、パロレは乗船所の受付にいる女性団員の元に近づいた。少し離れたところには男性の団員もいる。本当は男性のいないところで話をしたかったが、現在リュイ乗船所には二人のスパイス団員しかいなかった。仕方がない。

「あの、すみません。ちょっと聞きたいことがあるんですけど……」

「はーい。あ、次の船ならあと十分もしないくらいで来ますよー」

女性団員はやる気のなさそうな声でそう言った。

「船のことじゃないんです。……スパイス団って、五年前はどこのアジトを使ってたんですか?」

パロレがそう聞くと、

「は?」

女性団員は片方の眉を吊り下げてパロレを思いきり睨みつけてきた。

「何言ってんのこの子供……教えられませーん、お帰りくださーい」

女性団員が間延びした口調でそう言う。すると、パロレの背後から声が聞こえてきた。
 ▼ 346 AYr1xkow/g 17/12/17 22:58:11 ID:QIvYUN8Y [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「そこをなんとかお願いできないかな。どうしても知りたいんだ」

優しくて爽やかな声。鬱陶しそうにパロレを見つめていた女性団員の顔がぱっと輝くのが見えた。

「バジリコさん!どこ行ってたんですかー!?お久しぶりですぅー!」

先程までとは打って変わって高い声でそう言う女性団員に、パロレはこっそり笑ってしまった。女性団員の瞳は、ハートマークになっている。

「久しぶり」

「えー、もうめっちゃ会いたかったんですよ!なんでスパイス団辞めちゃったんですかー!?」

「まあ、色々あってね。元気だった?」

「あんまり元気じゃなかったんですけど、バジリコさんの顔を見たら元気になりました!」

「あは、ほんと?それじゃ、そのまま元気に仕事頑張ってね」

「はいっ」

女性団員の言葉は、語尾に毎回ハートマークがついていそうなくらいに甘い。バジリコは王子様スマイルを浮かべたまま一切表情を変えずに適当に言葉を返している。

「前髪切った?」

バジリコが言う。

「うそ!気付いてくれたんですか!?」

女性団員は悲鳴に近い声を上げた。

「分かるよ。似合ってるね。それで、さっきの質問なんだけどさ」

「あ、はい!前のアジトはですねぇ……」

「おいおい待て待て!」

バジリコのモテ男会話術を目の当たりにして圧倒されかけていたところで、男の下っ端団員が大声でそう言いながら慌てて止めに入ってきてしまった。

「バカかお前バカか!もうこの人はスパイス団辞めてんだろうが!」

男性団員が怒鳴る。

「うるっさいわねぇせっかくバジリコさんと話せたんだから邪魔しないでよ!」

「邪魔するわバカ!話しちゃダメだろうが!」

「ああーもうバカバカうるさいわね!バジリコさんのお願いはなんでも聞くんだから!」

目の前で喧嘩を始めた二人を見て、バジリコはお手上げだ、と言うように肩をすくめた。それからパロレの方を見て申し訳なさそうな顔をする。

パロレは首を横に振った。作戦はどうやら失敗のようだ。
 ▼ 347 AYr1xkow/g 17/12/17 23:02:24 ID:QIvYUN8Y [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「というわけで、教えられませんよ!というか、教えねえぞ!もうスパイス団じゃないあんたには敬語なんて使わねえ!」

「ちょっと!あんたもう黙ってなさいよ!」

怒鳴り散らす男性団員を、慌てて叱る女性団員。バジリコは何も気にしていないのか平然としている。

「いや、別にいいけど」

「クソッ、顔がいいだけじゃなくてこういうクールところにもなんか腹が立つーっ!」

「だからあんたはもう黙ってて!」

女性団員はそう叫んで男性団員を無理矢理押して奥に追いやると、ニコニコ笑顔に戻った。

「えっとですねー」

どうにか立て直して会話を続けようとする女性団員。奥からは「おいお前マジで言うんじゃねえぞ!」という怒りの声が聞こえてくる。

「はあ……もうマジうっさい……」

女性団員は低い声で呟いた。それから、

「……でもまあ、そうですね。ごめんなさいっ!教えられないですー……!」

「そっか、残念だな」

バジリコがそう言って眉を下げて本当に残念そうな顔をした。それを見た女性団員は泣きそうな声を上げる。

「ああーんバジリコさんかわいいー、でもごめんなさーいっ!」

パロレはもはやドン引きしており何も言えない。

「どうしても、ダメかな?」

バジリコは首を傾げた。女性団員は唇を噛みしめて必死に耐えている。

「あー、あー……、えっと、じゃあ、ヒント!ヒントだけ差し上げます!」

「やった、嬉しいな。ありがとう」

「普通入っちゃいけないところの地下にあります。私たちは地下に潜って生きる裏世界の住人ですからねー!……比喩表現とかじゃなくて、本当に地下ですよ。……新しいアジトも、地下でしたしね!」

「お前、そこまで言ったら分かっちまうだろうが……!」

女性団員の後ろから男性団員が顔をのぞかせて、歯を食いしばりながらそう言う。女性団員は無言で男性団員の胸倉を力いっぱい掴んで背後に投げやった。
 ▼ 348 AYr1xkow/g 17/12/17 23:04:40 ID:QIvYUN8Y [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「普段入っちゃいけないところの地下……」

パロレが呟く。

「教えてくれてありがとう。じゃあ、俺たちは行くよ」

「はーい!また来てくださいね!」

「機会があればね。じゃあね」

バジリコはそう言って、パロレに目配せする。二人は足早に乗船所を出ていった。

乗船所を出て少しリュイタウンを歩きながら、

「ごめんね、あれくらいしか聞けなかったよ」

バジリコがそう言ったので、パロレは「いえいえ!」と手と顔を大きく振った。

「全然そんなことないですよ!……それにしてもバジリコさん、すごかったです」

「別にすごくないよ」

バジリコは乾いた笑いを漏らしながら言う。

「ああいう風にやると喜ぶって分かっててやってるだけだからね……」

バジリコは半ば自分自身に呆れているかのような声音でそう言った。

「あはは!でも、アルセアさんにはあまり効かなそうですね!」

パロレの言葉にバジリコは目を見開いた。パロレくんって確か、俺たちのことよく分かってなかったよね……?と、少し前のスリジエとボンゴレを国際警察に引き渡した日を思い出しているのだろう。

「兄さんがバジリコさんみたいなことするところも想像できないし……いや、兄さんには絶対無理だな。アルセアさん、『キモい』って一発で切り捨てそう」

パロレは勝手に想像して笑っている。そんなパロレの呟きを聞いて、やはりパロレは自分たちが交際していることはよく分かっていないのだと悟ったバジリコは、少しだけ悪ふざけすることにしたようだ。

「ここだけの話だけどね、パロレくん……」

「はい?」

パロレがバジリコの顔を見る。バジリコは悪戯っぽい笑みを浮かべて、

「アルセアにも、結構効くよ」

「……えっ?」

「よし!それじゃ、トリステッツァの谷に行こうか」

「え?あ、はい!……えっ?」
 ▼ 349 AYr1xkow/g 17/12/18 00:19:36 ID:yZElbkQU [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレとバジリコがトリステッツァの谷に到着する頃には、既に他の四人は集合していた。何らかの情報を得ることはできたのか、それなりに満足げな表情に見える。

「お待たせしました!」

パロレがそう言って早歩きで四人の元へ向かう。全員集合だ。

「よし!みんな、手がかりは掴めたようだね!」

アキニレが言うと、クオレとユーリが頷いた。

「どこにあるのか、大体分かりました」

ユーリが言う。

「お!幸先がいいね。それじゃ、是非報告を頼むよ!」

アキニレがそう言うと、クオレとユーリは「はい!」と返事をした。

「アスールシティに……」

「パルガンシティに……」

同時に口を開いた二人はそう言ってから、お互いの顔を見て「え!?」と声を上げる。

「え……だって、13番道路から来てた、って……」

「15番道路方面から来ていたっておっしゃってましたよね……?」

それぞれ同行していたアキニレとアルセアの顔を見上げながら混乱気味に言う二人を見て、アルセアが声を上げた。

「落ち着きなよ。それなら、13番道路と15番道路の間のどこかにあるんじゃない?」

アルセアの言葉に、二人は納得したようだった。

「あ……そっかぁ。びっくりしちゃった……」

「そ、そうですね。考えればすぐ分かるのに……取り乱してすみません」

ユーリが申し訳なさそうに言う。アキニレが首を横に振った。

「大丈夫だよ!……場所が少し絞られたね」

アキニレは顎に手を当てて考えるように言う。それからパロレの方を見た。

「パロレは、どうだった?何か聞けたか?」

「うん」

パロレは頷いた。そして、バジリコが聞き出してくれた情報を口にする。

「普段は入れないような場所の、地下にあるんだって」

「普段は入れない……」

「地下……」

一同は繰り返してそう呟いた。それから、ゆっくりと視線が動く。六人の目は、みんな同じところを向いていた。
 ▼ 350 AYr1xkow/g 17/12/18 00:20:50 ID:yZElbkQU [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
一同の視線の先にあるのは、いくつもの円柱型の柱に囲まれた神殿。トリステッツァの谷にある建造物の中で、最も保存状態が良好な古代の遺跡だ。

「偶然ここにいたからそう思っただけかもしれない……でも、条件はぴったり合うな」

アキニレが呟く。

「普段は入れないような場所って行ったらイーラ火山の禁足地とかが思い浮かぶけど、あそこは13番道路と15番道路の間じゃないしな」

バジリコもそう言って頷いた。

「見てみる価値はあるかもね……ただ」

アルセアはそう言って、意味ありげな表情で辺りを見渡す。谷は、観光に来ている客でいっぱいだ。

「その言葉の通り、普段は入ってはいけないところですからね……簡単には入れなさそうです」

ユーリがそう言った。

「夜に、また来ようか」

アキニレがそう提案した。その言葉に、五人は同意したのだった。
 ▼ 352 クスロー@つきのいし 17/12/20 17:09:11 ID:AH5PtYgk NGネーム登録 NGID登録 報告
>>351
クオレかわいい

思ってたよりアキニレ世代との推定年齢差大きいのな…
 ▼ 353 AYr1xkow/g 17/12/20 23:32:27 ID:Q3FkZgRs NGネーム登録 NGID登録 報告
最初の方にこっそり描写がありますがパロレは13歳でアキニレは8歳上の兄なのでアキニレ世代は21歳です
 ▼ 354 AYr1xkow/g 17/12/22 02:28:24 ID:tiDvhRQk [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
日付が変わった後に、パロレたちは再びトリステッツァの谷へと集まった。

昨日はとても大変な一日だった。クオレとオーロティラミスを食べるはずが、マリナーラを追いかけて走り回る日となってしまったのだから。

パロレはアキニレに言われ、夕方から早めに寝て夜の準備をしておいた。まだ少し眠いが、それよりも早くセレビィを助けて真実を突き止めたいという気持ちの方が強い。

月が、神殿の前に立つ六人を見下ろしている。今日は満月だった。とても美しいはずなのに、何故か不安になってくる。

辺りには誰もいなかった。一同は顔を見合わせ、ゆっくりと神殿に近づいていく。そして、普段は入ることを禁じられているその内部へと足を踏み入れた。

しばらく中を歩いていると、地下に繋がる階段が見つかった。外から見ても、柱に隠されて死角になっている場所だ。まさかこんな簡単に見つかるとは。見れば、辺りには大きな石板のようなものが大量に転がっている。この石板に覆われて、隠されていたのかもしれない。

「マリナーラが先に入ったんだ」

パロレが呟いた。当然だが、昔のアジトの場所を知っているマリナーラには先を越されている。焦りを感じると共に、パロレは少しだけほっとした。やはりここで間違いなかったのだ。

「行こう」

一同は頷いて、神殿の地下に続く階段を降りていった。

中は洞窟になっているのではないかと思っていたが、思った以上に人の手が施されていた。床や壁は地上の神殿と同じ石の素材でできており、かなりしっかりしている。まるで、地下に造られた城だ。

スパイス団の城、とでも言うべきか。それとも、メローネの城?どちらにせよ、ここに何らかのヒントがあるはずだ。階段を最後まで降りると、パロレたちは慎重に進んだ。

通りすがりに見つけた部屋の中を調べていく。何も見つからない。そのまま廊下をしばらく歩いていると、奥に繋がる長い廊下とそれぞれ左右にひとつずつ、更に地下に繋がる大きな階段が見えた。

「また、三手に分かれるか」

アキニレが言う。

六人はそれぞれ目の前にある先に向かおうとしていた。ユーリとアキニレは右側の階段、クオレとバジリコは左側の階段、そしてパロレはアルセアは奥へと続く廊下だ。

「それじゃ、また後で」

アルセアのその言葉を皮切りに、三つに分かれた二人組は先へと進んでいった。
 ▼ 355 AYr1xkow/g 17/12/22 02:31:37 ID:tiDvhRQk [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「何もないですね……」

「そうだな……」

ユーリとアキニレは、階段を降りた先に見つけた部屋をすべてしらみつぶしに調べていた。どの部屋にも石でできた固そうなベッドが備えつけられている。ただし、それ以外には何もない。

「元々、団員の寮として使っていたんでしょうか」

ユーリが言う。

「そんな感じっぽいね。布団とか、使えるようなものはすべて全部新しいアジトに持っていったのかもしれない……本当に何もないな」

アキニレもそう返した。

結局何も見つけられないまま、廊下の奥へと来てしまった。少し広い部屋が二つある。まずは右側の部屋に入ってみることにした。

「ここも、何もないな」

アキニレの声が、部屋に響いた。

「ここの二部屋は……もしかしたら幹部の二人が使っていたものかもしれません」

「ああ、そうだね。一応こっちも見ておこうか」

アキニレはそう言いながら部屋を出た。そして、隣の部屋の扉を開ける。

案の定、何もない。

「うん!予想通りだな」

アキニレがおどけた口調でそう言って扉を閉めようとしたその時、「あ、何か落ちてます」とユーリが声を上げた。

床に落ちていたものを確認するために二人は部屋に入った。しゃがんで見てみると、それはどうやら、写真立てのようだった。ユーリが写真立てを手に取った。中には、女性が優しい表情で小さな赤ん坊を抱きしめている写真が入っている。

「これ……」

ユーリが呟いた。

「……スリジエさんだな」

アキニレもそう言った。

写真に写っている女性は、今よりもかなり若いスリジエだった。アキニレたちと同じくらい、いや、もしかしたらそれよりも若いかもしれない。

「……スリジエさん、子供がいたのか……?」

アキニレは目を点にして驚いていた。心からの疑問を呟きながら首を傾げる。そんな話は聞いたこともなかった。それに、この赤ん坊はきっと今もまだ子供のはずだ。

「何故この写真がこの部屋にあるんでしょう?幹部の部屋だったのかと先程は思いましたが、違ったのかもしれません。でも、他には何もなさそうですね」

ユーリがそう言って、手に持っていた写真立てを床に戻した。

「ああ……そうだね。これはちょっと気になるけど……どうしようもないな。誰にも聞けないし」

アキニレはそう言って立ち上がる。

「それじゃ、戻ろうか」

「はい!」
 ▼ 356 AYr1xkow/g 17/12/22 02:34:31 ID:tiDvhRQk [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
一方、こちらはクオレとバジリコの進んだ左の階段の先。

この階段の先にある部屋にも、特にめぼしいものは何も見つかっていなかった。石でできた大きな机があるだけだ。

「研究とか、会議とかに使ってた部屋っぽいな……」

バジリコが呟く。

「でも、機械とかは全部新しいアジトに持っていっちゃったのかなぁ?何もないですね!」

クオレが言うと、バジリコは頷いた。

「うん……多分、そうなんじゃないかな」

何もない部屋をいくつも見ているうちに、あっという間に廊下の奥へと来てしまった。奥には、広い部屋がひとつだけある。二人は迷わず扉を開けた。

「わー!広ーい!」

クオレが、部屋をくるくる回りながら声を上げた。

「メランシティの地下のアジトの……一番奥の部屋くらい広い!」

クオレはそこまで言うと、立ち止まって少し暗い表情になる。

「もしかしたら、……スリジエ博士専用の研究室だったのかも……なんて思っちゃいました」

クオレが遠慮気味にそう言った。バジリコは天井を見上げながら部屋の中へと入っていき、「なるほどね」と言った。

「確かにそうかも。ついでに言うとここで寝てたんじゃないかな。少なくともあっちのアジトでは博士の研究室と寝泊まりする部屋は、仕切りはあったけど同じ部屋だったから」

バジリコは冷静にそう言った。

「なんか……変な感じですね。何もなくって……」

クオレは部屋を見渡してそう言った。バジリコも頷く。

「すごく……冷たい感じがするね。……戻ろうか」

「はい」

バジリコの言葉に、クオレは返事をして頷いた。それから先程六人が三手に分かれた階段の前まで戻ると、ちょうどユーリとアキニレも階段を上がってきたところだった。

「何かあったか?」

バジリコが問う。

「特に何も」

アキニレはそう言いながら首を横に振った。

「妙な写真はあったけど、関係なさそうだしな。後で話すよ」

「そうか」

バジリコがそう返す。それから、四人の視線は自然と廊下の奥の方へと向かっていった。

「確かに、いかにも何かありそうな感じではあるよな。よし!パロレとアルセアを追おう!」

「はい!」

アキニレの言葉に、クオレとユーリが返事をした。それから四人は、パロレたちの向かった廊下の奥へと進んでいった。
 ▼ 357 AYr1xkow/g 17/12/22 02:37:01 ID:tiDvhRQk [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「うーわ、不気味」

アルセアが呟いた。廊下を少し歩いた先には大広間があった。石でできた大きな机に、大量の椅子がある。ここで生活をしていた者たちが食事の際に使っていた部屋だろう。しかし、五年もの間誰も使っていないその大広間はかなり歪に感じられる。

「アルセアさんも、怖いのは苦手なんですか?」

パロレは思わず食いついた。

「いや、全然」

アルセアが平然として答える。パロレは拍子抜けしてしまった。せっかく仲間だと思ったのに。

「三人とも、怖いものとか未知のものとか大好きだよ。小さい頃、よく夜に家を抜け出して冒険とか言いながら一番道路の辺りを歩き回ってた……アキニレがいつもお父さんのポケモンをこっそり連れてくるの」

三人というのは、アルセアとアキニレ、バジリコのことだろう。恐らく、パロレが生まれる前の話だ。パロレは少し新鮮な気持ちで話を聞いていた。父親は現在は遠い地方に単身赴任しており、しばらく会っていない。

「で、帰ったら結局ばれてめちゃくちゃ怒られたりしてね……」

アルセアは懐かしそうに言った。

「そんな風に遊んでたんですね」

「まあね。……っていうか、さっきアルセアさん『も』とか言ってたけど、あんた怖いの苦手なの?」

アルセアの質問に、パロレはビクッと肩を震わせる。

「そ、そんなことないですよ!」

「ふーん。そう」

誤魔化そうとしてそう言うと、アルセアは興味なさそうな声で適当に返してきた。完全にばれている。パロレは少し悔しくなった。

やがて、二人が更に奥に歩いていくと、大きな扉が見えた。扉は、完全に閉めきられている。

「いかにも何かありそうな感じ」

アルセアが呟く。

パロレはとりあえず扉を押したり引いたりしてみたが、扉はぴくりとも動かない。パロレは少し遠ざかってじっくりと扉を観察してみた。扉の中央には、小さな玉がぴったりとはまりそうな形をした石が取り付けられている。

「今、多分パロレと同じこと考えてるよ」

アルセアがそう囁いた。パロレはアルセアの顔を見て頷く。

パロレは、バジリコに作ってもらったメガバングルに手を添え、ガッチリとはめられているキーストーンを力をこめて取り外した。後でまたバジリコに頼まないと、上手く戻せないかもしれない。

パロレは、外したキーストーンを扉に取り付けられた石にそっと近づけた。キーストーンは吸い寄せられるようにして石にぴったりと重なった。すると、一瞬石が光ったかと思えば、ゴゴゴゴと重々しい音を立てて扉がゆっくりと開き始めた。

「……ビンゴ」

アルセアがそう言う。そして二人は、部屋の中へと入っていった。
 ▼ 358 AYr1xkow/g 17/12/22 16:27:47 ID:269sm8R2 [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
部屋の中は、思ったより狭かった。

物は少ない。ただ、壁には一面に大量のポスターのようなものが貼られていた。どれも同じもので、「反乱軍万歳!」という文字と、スパイス団の団員たちの制服に付けられているマークに似たものが書かれている。

「自己主張激しすぎじゃない?」

アルセアが壁を見てそう言いながら呆れ顔を浮かべた。

ドタバタと足音が聞こえてきた。振り向くと、クオレとユーリ、アキニレとバジリコがこちらへ向かってきていた。

「何もなかった感じ?」

近づいた四人に、アルセアが尋ねる。アキニレとバジリコが頷いた。

「やっぱりね。ここに何かありそうだよ、ほら」

アルセアがそう言って、四人に部屋の中に入るように促す。それから、壁を見るように合図した。

「うおっ」

アキニレが驚いた声を上げた。他の三人も、引いているようだ。

「この部屋、閉まってたんですけど……キーストーンで開けられたんです」

パロレがそう言って、メガバングルから取り出したキーストーンを見えるように手に持った。

「それって……もしかして」

アキニレが呟くように言う。

「ここが本当にメローネの部屋だったとしたら、メローネが死んでからずっと閉まってたって可能性があるわけね……」

アルセアがアキニレに続いた。

パロレはもう一度部屋を見渡した。部屋の奥には机がある。その机の上には、小さな本があった。保存状態は極めて良好だ。やはり、この部屋はメローネが最後に鍵をかけて以来一度も開けられていないのかもしれない。

「……」

パロレは慎重に手を触れて、ぱらぱらとめくってみた。どうやら、メローネの手記のようだった。

「ここに、なんか日記みたいなのがあります!」

パロレがそう言うと、一同はパロレの元へ集まってきた。そして、小さな手記を六人で覗きこむ。

「……読んでみますね」

パロレはそう言って、メローネの手記を手に取った。
 ▼ 359 AYr1xkow/g 17/12/22 16:28:45 ID:269sm8R2 [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「今朝、とうとう私たちは出発した。この旅を通して心身ともに強くなり、よりメガシンカの力を発展させることが出来るよう努めていきたい。エシャロットもアングリアもとても頼りになる友人だ。これから私は、何かひとつでも興味深いことがあればそれを記録していこうと思う。これも成長の糧として利用できるだろう」

「旅を続けて数年が過ぎた今日、私たちはアモルという荒れた地にやってきた。住民の話を聞くと、幾度となく繰り返された戦によってこの地は荒廃してしまったらしい。しかし、私たちに出来ることは何もない……。しばらく滞在したら、また出発しよう」

「私たちはアモルの人々にメガシンカを見せることにした。彼らはポケモンの姿が変わることに面白いほどに驚愕していた。……こういう時、いつもバトルするのはエシャロットとアングリアだ。まあ、私は二人ほど戦いは得意ではないことは自覚している。悔しいが、仕方がない」

「アモルの人々は優しい。心に余裕なんてないはずなのに、余所者の私たちにとても良くしてくれる。旅の最中に様々な地を訪れたが、私はこのアモルがとても気に入った。エシャロットとアングリアはどうだろうか。明日聞いてみよう」

「エシャロットとアングリアと話し合った結果、私たちはこのアモルに定住することにした。エシャロットは飯が美味いという理由ばかり挙げていたが、確かにそれも重要だ。私たちは今まで世話になった礼として、アモルの人々にメガシンカの力を分け与えることにした。アングリアのおかげでこの話し合いはすぐに終わった。有難い」

「再び戦が起きようとしている。しかし今のアモルには私たちの与えたメガシンカの力がある。エシャロットが私たちとアモルの民を率いて戦えば、負けることはないだろう」

「今日は祝いの宴があるそうだ。酒を飲んだ後では上手く記録が出来ないだろうから、先に書いておこう。私たちは戦に勝った。当然だ。私たちの力があればもう怯える必要はない。これからはアモルを復興させることに力を尽くそう。私たちのアモルを、豊かな土地にしよう」

「私たちはアモルの民から讃えられ、三英雄と呼ばれることになった。私たちと、私たちの相棒の彫刻を彫ってくれるらしい。少し恥ずかしいが、悪い気はしない」

「アモルの復興に向けて本格的に活動を始めることになったところで、驚きの提案があった。なんと、私たち三人の中からアモルの王を選出したいと言うのだ。私たちはアモルの地の生まれではないのに。私たちは話し合ったが、結果それを受けることにした。一体、三人のうち誰が王に選ばれるのだろう。……まあ、大体予想はつくが」

「エシャロットがアモルの王となった。予想通りだ。三人の中で最も強い彼は、先の戦でも一番活躍した。当然の結果だろう。アングリアはエシャロットの従者となり、政の補佐をすることとなった。三人の中で最も賢い彼なら適任だ。私メローネは、エシャロットやアングリアと、国民たちを結ぶ架け橋となる存在になろうと思う。強さも賢さも彼らには敵わない私に出来ることは、人々の心を思いやり、その力になることだけだ。アモルの人々の役に立てるよう、頑張ろう」
 ▼ 360 AYr1xkow/g 17/12/22 16:39:25 ID:269sm8R2 [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「エシャロットもアングリアも大変そうだ。やはり国を治めるためにはかなりの労力を要するだろう。明日は祭日。二人も多少は羽を休めることが出来るはずだ。せっかくだから、二人が好きな料理でも作って持っていこうかしら」

「なんだか最近エシャロットの様子がおかしい。私が報告しに行った時も上の空だった。疲れが溜まっているのだろうか。それならいいのだが、それにしてもだいぶ態度が悪かった。少し嫌な気分になった……」

「エシャロットはあんなに嫌味な奴だっただろうか。アングリアもアングリアだ。知らぬふりをして無視を決めこんでいる。……弱い私には興味がないということ?今まで三人でずっと旅をしてきたというのに、何故?権力を得た二人は、変わってきてしまったのだろうか」

「どうして二人ばっかり……悔しい……羨ましい……!」

「エシャロットは今日もまた無理矢理な理由をつけて自分本位な政策を敷いている。彼はもう、権力に魅入られて変わってしまった。力に溺れるようになってしまった……。そういえば、やけにアングリアの機嫌が良かった。なんとなく、嫌な予感がする。まあ、これは私の勝手な憶測に過ぎない。……エシャロットやアングリアに関することで私の勘が外れたことはないが」

「やはりアングリアは、エシャロットを傀儡にして自分の思い通りに国を動かそうとしていたようだ。私の予感は当たっていた。エシャロットが邪悪な支配者になることを恐れて積極的に国政を担うようになった結果、自身の新しい才能に気付いてしまったらしい。エシャロットに知られてしまった今、アングリアはもう今の立場のままではいられないだろう。……アングリアは、強さを追い求めることはもうやめてしまったのだろうか。私はまだ諦めていない」

「今日、アングリアが刑に処された。国外追放だ。追放された地は……何処だっただろうか。忘れてしまった。そういえば、その国でも最近大きな戦があったようだ。なんでも、王がとんでもない兵器を使用したとか……。アングリアには、もう二度と会うことはないだろう」
 ▼ 361 AYr1xkow/g 17/12/22 16:41:27 ID:269sm8R2 [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「どういうこと?信じられない……どうなっているの?怒りが収まらない。エシャロットが……エシャロットが、私たちが分け与えた国民たちすべてのキーストーンとメガストーンを取り上げた。もちろん、私の分も。本当に頭がおかしくなってしまったのか?アングリアに利用されていたことを知ってから誰も信じられなくなったとでもいうのか?このままではタブンネをメガシンカさせてあげられない。力を最大限に引き出してあげられない!許せない。許せない。許せない!」

「今日は、記念すべき日になるだろう。私はエシャロットに反旗を翻した。王に対する反乱軍を結成した。拠点はダ・カーポだ。仲間もたくさんいる。今のアモルでは、私を支持する国民が一番多い。最も身近な存在として責務を果たしていたのだから当然だ。エシャロットに、この私を除け者にしてアングリアと二人で国の頂点に登りつめたことを、後悔させてやる。……それにはまず、キーストーンとタブンネナイトを、早く取り戻さないと」

「反乱軍の仲間と共に、アモルの各地を襲撃するようになった。これが、案外楽しい。好き勝手にやれるというのは面白い。もっともっとエシャロットを困らせてやる。……かつて私はこの地を復興させるために尽力していたというのに、皮肉なものだ」

「この間、キーストーンを奪い返すことに成功した。とはいえ、タブンネナイトを取り戻すことは出来なかったので、未だタブンネをメガシンカさせてあげられない。ごめんなさい、タブンネ。あなたのために私は頑張るわ」

「今日はリザードナイトXを手に入れたが、持ち主は見つかっていない。先日の襲撃で死んでしまったのだろうか……申し訳ないことをした。リザードナイトXは、キーストーンと一緒に肌身離さずしっかり持っておこう。爆発に巻きこまれて体が木っ端微塵にでもならない限り、私の手から離れることはない」

「今日付けで私メローネは指名手配犯となってしまった。エシャロットも面白いことをするのね!この私を指名手配だなんて!……でも、逃げ切ってみせる。私にはあの計画がある。かなり危険な作戦だが、上手くいけばエシャロットに十分すぎるほどの打撃を与えることが出来るだろう。私は負けない……絶対に……」

「明日、ついに作戦を決行する。イーラ火山に赴き、火口に眠っていると言われる幻のポケモン、ボルケニオンの元へ行くのだ。そしてボルケニオンを眠りから覚まさせ、無理矢理イーラ火山を噴火させる。きっとアモルは甚大な被害を受けるだろう。そうすれば、エシャロットは各地の復興や支援のために動かざるを得ない。私を追う余裕などなくなる。その隙をついて城を襲撃するのだ!……この作戦の最大の欠点は、噴火に巻きこまれて命を落とす可能性があるということだ。かなり危険だが、タブンネの力があれば大丈夫だ。メガシンカは出来ないとはいえ、彼女はとても強い。タブンネがいてくれれば、それだけで私は大丈夫なの」
 ▼ 362 ズクモ@アクアスーツ 17/12/23 09:16:13 ID:jwZ8cZz2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 365 AYr1xkow/g 17/12/26 01:17:57 ID:BulInLAM [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……」

六人は、何も言えずに黙りこくっていた。

メローネの手記は、ここで終わっている。結局、イーラ火山の噴火に巻きこまれて死亡したと見て間違いないだろう。パロレがあの時に見た過去のメローネの姿は、まさにこの最後の記録を書いた翌日にイーラ火山に赴いた時のものだったのだ。

「……そりゃ、死ぬだろ」

バジリコがボソッと呟いた。この手記を見る限り、メローネは自分は無事に帰ることができると信じきっていたようだが、そんなことはほぼ不可能だろう。そんなことも分からないくらいには、彼女も狂ってしまっていたのかもしれない。

それに、この手記に書かれていることが正しかったとしても、まだ分からないことがある。かつては友人同士であった三英雄はそれぞれ別方向に歪んでいき結果的に破滅の未来へと向かっていってしまったわけだが、それだとフォルテ城で見た過去のアモルの女王の発言と矛盾するのだ。

三英雄は、メガストーンとキーストーンをアモルの民に分け与えた。その後、王となったエシャロットはそのメガストーンとキーストーンをすべて取り上げてしまった。しかし、あの女王の発言を聞く限り、再びアモルの民はメガシンカの力を取り戻している。

メローネ亡き後、反乱軍が力を振るいすべてのメガストーンとキーストーンを取り戻したのだろうか。しかし、気にかかるのはあの女王の「三英雄の歩んだ軌跡」、「初代の王であるエシャロットがメガシンカの力を求める者たちすべてに与えることにしたその経緯」という言葉だ……。

「ね、びっくりだよねーぇ」

そんな声が聞こえ、一同は振り向いた。メローネの部屋の出入口に立っていたのは、もちろんマリナーラとアーリオだった。
 ▼ 366 AYr1xkow/g 17/12/26 01:21:18 ID:BulInLAM [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ここの部屋はねー、ずっと開かずの部屋だったのぉ。前にアジトとして使ってた時はもちろん、マリナーラが生まれる前からずーっと開かなかったらしいよぉ。心当たりってのはここのことね。マリナーラは、ここに何か手がかりがあると思ったわけぇ」

マリナーラは機嫌が良さそうだった。にんまりと笑って続ける。

「あっは、みんな変な顔!多分、マリナーラと同じこと考えてるよねぇ。矛盾してる、って。まー、確かにまだ秘密がありそーで困っちゃうけど……」

マリナーラはそう言いながら、スタスタと歩いて部屋の中に入り、パロレたちの元へと近づいてきた。それから、パロレの手から強引にメローネの手記を奪い取る。

「あっ」

パロレが情けない声を上げた。

「でも、これで分かったことだってあるでしょぉ?」

マリナーラはそう言って、メローネの手記を軽く振ってみせる。

「三英雄は仲違いして、そのうちの一人はアモルを更に襲撃した。しかもそれがスパイス団の前身!なーんか漠然と崇め奉られてきた三英雄は、実際はろくでもない奴らだったんだねぇ」

マリナーラがそう言うと、アーリオは溜息をついてやれやれと肩をすくめた。偉大な存在だと思っていた自身の先祖は、実は王を利用したことで追放されてしまったために、彼の家系はカロスの地で育ったのだ。

「これだけでもものすごーいネタになるよねぇ」

マリナーラはそう言って舌なめずりした。その不気味な姿に、パロレはビクッと肩を震わせる。

「ということで、マリナーラたちはさっさと消えまーす!」

マリナーラは急に朗らかな口調になってそう言うと、アーリオを連れて部屋をスキップしながら出ていった。それから、くるりとパロレたちの方へと振り向く。

「フォルテ城で決着つけよーよ」

マリナーラは邪悪な微笑みを浮かべてそう言うと、その場を去った。
 ▼ 367 AYr1xkow/g 17/12/28 12:51:58 ID:jz09MQGg [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>302
修正


「三英雄にまつわる重大な何かが隠されてるってことだよねぇ!その謎がなんなのか、マリナーラが暴いてやる!」

マリナーラはそう言うと、勢いよくモンスターボールを投げた。繰り出されたのはレパルダスだ。

「レパルダス!ぶっ壊せ!」

マリナーラが指示を出す。レパルダスはマリナーラの背後に向かって駆け抜けると、展示しているキーストーンとメガストーンを保護しているガラスケースに思いきり体当たりし、ガラスを力任せに割った。

マリナーラはレパルダスを追いかけ、素早く何かを奪う。キーストーンとサーナイトナイトだ。


グラエナとレパルダスを間違えました、大変失礼いたしました
 ▼ 368 AYr1xkow/g 17/12/28 12:52:59 ID:jz09MQGg [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
とやかく言っている暇はなかった。一同は急いでメローネの城から出ると、アルセアたちのそらをとぶことができるポケモンでフォルテ城へと向かう。

まだ空は暗いままだ。

フォルテ城にたどりつくと、今度はコルネッホとローザがマリナーラとアーリオと対峙していた。以前とは異なり、マリナーラは怒鳴ることなく手記を掲げて余裕の面持ちで何かを話している。マリナーラはパロレたちが来たことに気付くと、にやりと笑った。そして、

「この三人も、結局ホントはしょーもない奴らだったんだよねぇ」

そう言って三英雄の彫刻を見上げる。コルネッホとローザは、息を詰めてマリナーラを見つめていた。

「三人……たった三人だけでも分かり合えないんだよ」

マリナーラは意味ありげな声音で言った。

「この日記見て分かったでしょぉ?あの女王の言葉とは矛盾してっけど、それでもこんな重大な秘密を抱えてたことは大問題だよねぇ」

マリナーラは猫撫で声でそう言うと、真面目な顔で真っ直ぐにコルネッホを見つめて冷たく言い放つ。

「知らなかったじゃ済まねえんだよ。今はもう王様でもないくせに『王家の末裔としての責務を果たす』なんて言っちゃってるなら尚更」

マリナーラはそう言って、一歩ずつゆっくりとコルネッホの方へ向かった。

「にっくいスパイス団にメガストーンとキーストーンを盗まれて、しかも自分が知りもしなかった真実を先に突き止められる気分はどお?」

マリナーラはにやりと微笑む。

「怒ってるぅ?それとも泣きそー?悔しいならかかってこいよ!」

マリナーラがそう言いながらコルネッホの顔を覗きこもうとする。ローザがマリナーラを軽くはねのけた。黙って見ていたユーリはたまらず駆け出し、二人の前へ向かった。

「あっは、王子様みたい。さっすが王家の末裔だぁ」

マリナーラはまだ笑っている。

「これ以上父上を侮辱することはこのオレが許さない!」

ユーリはそう言ってマリナーラの前に立ちはだかった。

「姉上も、父上も……王家の末裔という身分に押し潰されそうになりながら……それでも誇りを持って日々を生きておられるんだ。それはオレだって同じ……でも、オレはもう負けない!」

ユーリの大きな声が、城に響き渡る。

「姉上も父上も人間です。知らないこともあるし、勝てないことだってある。たとえ王家の末裔としてそれが許されないとしても、オレが許します!お二人が弱気になってしまった時は、オレとオレのポケモンが助ける!」

ユーリは叫んだ。コルネッホは力強く立っている息子の姿を、じっと見つめている。

「だって、大切な家族ですから。オレは、大切な仲間たちと共に、大切な人たちを守りたい!だから強くなるんです!」
 ▼ 369 AYr1xkow/g 17/12/28 13:01:45 ID:jz09MQGg [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ユーリの気迫に、マリナーラは思わずたじろいだ。マリナーラの泳いだ目が、クオレを捉える。しかし、マリナーラが何かを言う前にクオレが口を開いた。

「そんなに威張れることなのかなぁ?」

クオレの言葉に、マリナーラが怪訝な目を向ける。クオレは続けた。

「だって、あのメローネのお部屋はキーストーンが鍵になってたじゃないですか!」

メローネは、クオレの言いたいことがまだ分からないようだった。

「わたしたちがあの部屋を見つけた時は、パロレかアルセアさんが開けてくれてたし、実際今のアモル地方では二人しかあのお部屋の扉を自由に開け閉めできないってことだよね。……マリナーラさんのキーストーンは、盗んだものですよね?」

クオレはマリナーラを射抜くように見つめている。

「無理矢理盗んだもので見つけた情報でそんな風に上から目線で脅すなんて……何言ってるの?って感じ!理不尽だし、おかしいですよ!」

クオレはバシッと言った。マリナーラは何も言い返せず、唇を噛みしめてクオレを睨みつけている。自分が優位に立っていたと思いきや、徐々に追い詰められ始めていることにマリナーラは気付いているようだった。

「……っ、だとしても王家の末裔が秘密を抱えていたこと自体は事実だろーがよ!だって、あの日記を読んだだけじゃまだ分かんないことだってあるんだから。つーか、そんなことはどうでもいいのッ!」

マリナーラはそう叫ぶと、キッとパロレを睨んだ。

「マリナーラはね……納得が行かないんだよぉ。元はといえば、ガキンチョとイーラ火山で過去を見てから、かつては三英雄たちですらメガシンカの力を奪い合ってたってことがずっと気になって気になって仕方がなかった」

マリナーラは先程より少し大人しくなり静かに語り始めたが、その声はだんだんと興奮気味に大きくなっていく。

「メローネの口ぶりからして、仲間がいるってことも想像できた。きっとメガシンカの力を奪われた奴が他にもいっぱいいたって思った。そしてそれはやっぱり当たってた!」

そう、それはあのメローネの手記に書いてあった通りだ。

「マリナーラはねぇ!納得が行かないの!行かないんだよ!昔々はみんなが持ってたはずの力が、今マリナーラたちが持っててもおかしくない……いや、持ってたはずのメガシンカの力が、たった一人や二人の人間の手にしか渡らないこの時代が!」

マリナーラの叫びが、フォルテ城にこだまする。
 ▼ 370 AYr1xkow/g 17/12/28 13:03:13 ID:jz09MQGg [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「真実を突き止めたら何かが分かると思ったけど、余計に分からなくなるだけだし……何よりもクソみたいな理由でメガストーンとキーストーンは女王に奪われてた。それなら……それなら、もう力尽くで手に入れてやる!」

怒りで我を忘れているマリナーラは、腰につけたモンスターボールを乱暴に手に取った。それを見たパロレも身構えた。

「まだここに大量に残ってるメガストーンもキーストーンもぜーんぶマリナーラのものにして、この王家の末裔たちの信用もなくさせてやる!」

マリナーラはそう言うと、レパルダスを繰り出した。レパルダスは唸り声を上げてパロレたちを睨みつけ、威嚇してくる。

「そうはさせるか!」

パロレが一歩前に出る。マリナーラはハッと馬鹿にするように笑ったが、その様子に余裕はない。

「ガキンチョ……お前ならそう言って出てくると思った」

マリナーラは呟くように言う。

「結局、やっぱり一番邪魔なのはお前なんだよねぇ」

マリナーラは低い声で唸ると、目を大きく開いてパロレを睨んだ。

「……このヒーロー気取りが!今度こそマリナーラがお前をギッタギタのグッチョグチョにぶちのめしてやる!」
 ▼ 371 ソクムシ@みどぼんぐり 17/12/28 17:47:43 ID:TSxYKXko NGネーム登録 NGID登録 報告
アキニレとバジリコのお互いとアルセアに対する口調とその他の人たちに対する口調が微妙に違うところにこだわりを感じる
 ▼ 372 AYr1xkow/g 17/12/29 00:24:23 ID:WTOAZSuI [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「マリルリ!行くぞ!」

パロレがマリルリを繰り出すと、間髪入れずにマリナーラは指示を出した。

「レパルダス!ねこだまし!」

レパルダスは素早くマリルリに攻撃をする。マリルリはそのスピードに圧倒され、怯んでしまった。

「レパルダス!続けてダストシュート!」

「ニャアッ!」

レパルダスはどこからともなく汚れたゴミを取り出し、マリルリに勢いよく投げつけた。マリルリは悲鳴を上げる。

「マリルリ、頑張れ!じゃれつくだ!」

マリルリは体を震わせてゴミを振り払うと、覚悟を決めてレパルダスの元へと近づいた。それから、思いきり攻撃を仕掛ける。レパルダスは倒れてしまった。

「こんの……サーナイト!」

マリナーラが色違いのサーナイトを繰り出す。

「マリルリありがとう!行け!リザードン!」

パロレもポケモンを入れ替えた。

マリナーラが何をしようとしているのかは分かる。パロレは、あの後バジリコに再びバングルにはめてもらったキーストーンに触れた。リザードンのリザードナイトXとパロレのメガバングルが反応する。

「リーザァー!」

リザードンはメガリザードンXにメガシンカした。

「やってやろうじゃんッ!」

マリナーラもそう叫んで、盗んだキーストーンを掲げる。サーナイトに持たせていたサーナイトナイトとキーストーンが反応し、サーナイトの体が光を放ち始めた。

「サナァー!」

サーナイトの白いしなやかな体が、みるみるうちに黒く染め上げられていく。やがて、サーナイトは漆黒のドレスを身に纏う、闇の世界の王女のような姿に変わった。メガサーナイトにメガシンカしたのだ。

「あっはぁ……」

マリナーラは、恍惚とした表情でメガサーナイトを見つめている。認められていない自分も、とうとうメガシンカの力を使うことができたのだ。
 ▼ 373 AYr1xkow/g 17/12/29 00:25:55 ID:WTOAZSuI [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「リザードン!行くぞ!フレアドライブだっ!」

メガリザードンXは炎に包まれた体でメガサーナイトめがけて突進した。メガサーナイトの体が燃え上がる。しかし、メガサーナイトは一撃では倒れなかった。

「サーナイト!ムーンフォース!」

マリナーラが声高らかに叫んだ。メガリザードンXは反動でかなり体力を削られている。まずい。メガサーナイトは月の力をメガリザードンX目掛けて放った。

「リザァ!」

メガリザードンXは苦しそうな鳴き声を上げた。

「リザードン!」

パロレが思わず名前を呼ぶ。メガリザードンXは薄目を開けると、かすかに微笑んだ。それから、最後の力を振り絞って立ち上がる。パロレを悲しませまいと、ギリギリのところで耐えたのだ。

「リッ……ザァ!」

「リザードン……!よし!決めるぞ!」

マリナーラを止めよう。ぼくたちで!

「エアスラッシュだ!」

メガリザードンXは咆哮を上げて青い炎を吐き出すと、空を切り裂いた。風でできた刃がメガサーナイトを襲う。メガサーナイトは儚い鳴き声を上げてそのまま戦闘不能になってしまった。

「……っ!なんでぇ……ッ!」

マリナーラが歯を食いしばって悔しそうに唸る。パロレはそんなマリナーラの方へ向かって歩いていった。

ギリリと睨みつけてくるマリナーラを無視して、パロレは更にマリナーラの後ろへと歩いた。そして、少し驚いた表情をしているアーリオの前までやってくる。

「セレビィを放すんだ!」

パロレはそう言って、右手を突き出した。

「……」

セレビィを閉じこめた檻を持っているアーリオは、しばらく黙ってパロレを見つめていた。それから小さく息を吐き、肩をすくめる。

「しょうがないね。完敗だよ」

アーリオはそう言って、セレビィの入った檻をパロレに差し出した。パロレが檻を受け取ると、左手を出すように促す。パロレが左手を出すと、アーリオはその掌の上に檻の鍵を落とした。

パロレは急いで鍵を開けた。中でぐったりとして眠っていたセレビィは鍵の開く音で目を覚ました。

「セレビィ……遅くなってごめんね。もう大丈夫だよ。出ておいで!」

パロレが優しく語りかけると、セレビィはぱちくりと瞬きをした。それから辺りをキョロキョロと見渡す。そして、やっと状況を理解したのか、セレビィは勢いよく檻を飛び出した。
 ▼ 374 AYr1xkow/g 17/12/29 00:27:10 ID:WTOAZSuI [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
檻を出たセレビィはクルクルと体を回転させて飛び回りながら、一人ひとりの元へと近づいていった。まずはバジリコに近づいていく。バジリコは微笑んでセレビィの顔を撫でた。

バジリコの次はアキニレ、そしてその次はアルセア。それからクオレの元へ飛ぶと、ユーリ、ローザ、そしてコルネッホの方にも近づいていった。

セレビィとコルネッホが見つめ合う。それから、セレビィはパロレの元へと再び戻ってきた。

「フィー!」

「元気そうでよかった……もう大丈夫だなっ!」

パロレが言うと、セレビィは頷いた。そして、パロレの首の周りに体をこすりつけてきた。

「はは!くすぐったいよ!」

パロレはそう言って笑いながらセレビィを撫でた。セレビィは大きな瞳でパロレを見つめてくる。その姿を見て、パロレはセレビィは何かを伝えようとしているのではないかとふと思った。

「なんで……なんでよぉ……力を求めることの、何が悪いって言うのぉ……!」

ぶつぶつと呟くマリナーラ。どこかで聞いたことのあるような言葉だ。

セレビィはふとマリナーラの方を見て小さく鳴き声を上げた。それから、セレビィは天井高くへと飛び上がる。その瞬間、パロレたちの体がふわりと浮かび上がった。

これが最後の時渡りだ。パロレは直感でそう悟った。助けてくれたお礼として、そして何よりも、パロレに物語の最後を見せるために、セレビィはもう一度だけ過去にパロレたちを連れていこうとしている。

パロレは瞳を閉じた。やがて、体がギュッとどこかへと引っ張られるような感触がして、パロレたちは過去へと旅立った。
 ▼ 375 AYr1xkow/g 17/12/29 00:29:08 ID:WTOAZSuI [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
三英雄の彫刻が、美しく佇んでいる。

彫刻はかなり新しく見えた。少し周りを見てみる。まだ博物館になっていない頃だ。すると、足音が聞こえ、パロレたちは急いで物陰に隠れた。

足音の主は、三英雄の彫刻に囲まれた中心で立ち止まった。そして、三英雄の彫刻を見上げる。

「……」

その顔を見て、パロレはあっと声を上げそうになった。足音の主は、三英雄の一人であり、アモルの初代の王であるエシャロットだったのだ。

年老いたエシャロットは悲しげな表情で彫刻を見つめていた。そして、小さく息を吐く。

「アングリアもメローネも……いなくなってしまった」

エシャロットはそう呟いた。

「どうか……不甲斐ない私を許してくれ」

エシャロットはそう言って、アングリアの彫刻に触れる。

「賢いお前は、私を止めようとしてくれていたのだよな。しかし、私が愚かなばかりに、お前は狂っていってしまった」

エシャロットはそれから、メローネの彫刻にそっと触れた。

「優しいお前は、私を許せなかったのだろう。友であるからこそ、力に溺れた私を許すことができず、やがてお前も変わってしまった」

エシャロットはそう言ってメローネの彫刻から手を離すと、自分の彫刻を見上げた。

「強く、勇気に溢れ、情熱に満ちたエシャロット……そんな者はもういない。私が英雄足り得たのは、お前たちが共に戦ってくれたからだ。アングリアとメローネがいなければ、私は弱い」

エシャロットははっきりとした口調でそう言った。それから、

「すまない。すまない……私をどうか、許してくれ。孤独になってから初めて分かった。私はお前たちのことが、……大好きだった」

そう言ってエシャロットは、ズルズルと体を低くさせてやがてうずくまってしまった。

「ごめん……ごめんよ、アングリア……メローネ……全部俺のせいだ……」

エシャロットのくぐもった声が聞こえる。静かな城に、すすり泣く声だけが響いた。

「……せめてもの償いとして、このメガストーンもキーストーンも、全部またアモルの民に俺が渡すよ。三人で決めたんだもんな……約束は果たさないとだよな。俺が最後まで、やり通すよ」

エシャロットはそう言って顔を上げると立ち上がった。

「すべてを償えるとは思っていない。それでも……私にはまだやることがある。私は生きているのだから……果たすべきことを、果たすだけだ」

エシャロットは力強くそう言うと、部屋を出ていった。やがて、パロレたちの体は再びふわりと浮かび上がった。
 ▼ 376 AYr1xkow/g 17/12/30 00:41:03 ID:5aVm7FVg [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
現代に戻ってきたパロレたちは、しばらく黙りこんでいた。

メローネの手記に書かれた通り、エシャロットも、アングリアも、メローネも変わってしまった。エシャロットはアングリアをカロスに追放し、メローネはエシャロットを討とうとして命を落とした。そして、一人になってようやく、エシャロットは自らの過ちに気付いたのだ。

エシャロットはかつての友人たちに償うために自分が民から取り上げてしまったメガシンカの力を再び分け与え、アモル地方にはメガシンカを使うことのできるトレーナーがまた増えていった。そして、後世になって力を持つ国民があまりにも多いことを危惧した女王がまたメガストーンとキーストーンを奪い返し、更にはそれらが国民たちの手に渡った経緯を隠すために三英雄に関する記述のある書物をすべて破棄してしまった。

真実を知るためには、破棄されることのなかった唯一の書物であるメローネの手記を見つけることが重要だったのだ。メローネが最後に施錠して以来一度も開くことのなかった部屋に残されたメローネの手記。それを見つけるために必要な鍵は、キーストーンだった。

このアモル地方でキーストーンを自身の所持品として持っている者は、現代にはアルセアしかいなかった。アルセアに会うことが出来なかったセレビィは、もう一人その素質を持つトレーナーを見つけて託すことにしたのだろう。そのトレーナーを過去に連れていき、三英雄の真実をアモルの人々に知らせようと。そして、セレビィは、森で迷子になっているパロレを見つけた。

そういうことだったのだ。すべてが繋がった。現代に戻ってきたパロレは、目の前で楽しそうに飛び回っているセレビィを見つめて微笑んだ。

「ぼくを選んでくれて、ありがとう」

パロレがそう言うと、セレビィはこちらを向いた。セレビィは、とても穏やかな表情を浮かべている。

「今までいっぱい助けてくれたよね。本当にありがとう。……だから」

パロレは、満面の笑みを浮かべて続ける。

「だから、次はぼくから会いに行くね!」

セレビィも笑顔で頷いた。セレビィはいつもパロレの元までやってきて、何度も過去を見せては助けてくれた。今度はぼくからラランジャの森へ行こう。パロレはそう思った。その時になったら、セレビィはきっとパロレを暖かく迎えてくれるだろう。

「フィフィ!」

セレビィは可愛らしい鳴き声を上げると、クルクルと天井へと舞い上がり、それから城を出て遠くへと飛び立っていった。
 ▼ 377 AYr1xkow/g 17/12/30 00:43:25 ID:5aVm7FVg [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
再び静かになったフォルテ城で、コルネッホがふと動いた。コルネッホはマリナーラの元まで歩いていく。

「マリナーラ……と言いましたね」

コルネッホの声に、マリナーラはビクッと肩を震わせた。

「あなたのやったことをすべて認めるわけにはいきません。……ですが、あなたの言っていたことも間違いではない……あなたがいなければ、真実は今も闇の中だったのかもしれない」

冷たい口調ながら、相手を理解しようとするコルネッホのその姿勢に、マリナーラは愕然としている。当然だ。彼女の予定では、こんなはずではなかったのだから。

「マリナーラ。あなたに、そのメガストーンとキーストーンを正式に私から差し上げます」

コルネッホは毅然として言った。

「……は!?」

マリナーラは唖然としている。

「私はエシャロットの意思を継ぎます。そして、私欲のためにメガシンカの力を取り上げた女王の存在も、三英雄の歩んだ道も、……民に再び力を分け与え、友との約束を果たしたエシャロットの勇姿もすべて、アモルに住むすべての人に伝えましょう」

コルネッホはそう言って、両手を大きく広げた。マリナーラはもはや何も言えず、口を大きく開けて震えている。

アモルにおけるメガシンカの歴史が、大きく変わろうとしている瞬間だった。

「……ローザ、ユーリ。お前たちの成長も、しかと見届けました」

コルネッホはそう言って、二人の子供を見つめた。

「私は……すべてを見ようとして、結局何も見えていなかった……」

そう言って目を閉じるコルネッホに、ローザが首を横に振る。

「とんでもないですわ」

ユーリも続けて頷いた。

「そうですよ!……父上、オレ、父上にお聞かせしたいお話がたくさんあるんです。是非聞いてもらえませんか?」

ユーリの言葉に、コルネッホは頷き、そして微笑んだ。

「もちろん。すべて、聞かせてください」
 ▼ 381 ミッキュ@かるいし 17/12/30 14:52:51 ID:1LhxNKqI NGネーム登録 NGID登録 報告
>>378
やっぱりリュウさんちょいワルオヤジって感じで好き
支援
 ▼ 382 AYr1xkow/g 17/12/31 00:13:09 ID:zeWOovis [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「マリナーラ」

無言で呆けているマリナーラに、バジリコが声をかけた。

「お前がスパイス団の次のリーダーだよ」

バジリコの言葉に、マリナーラが目を剥く。

「はぁ!?無理!マリナーラにそんな大役務まる訳ないじゃん!」

「でも、アジトで俺たち侵入者を追うように指示したのはお前だろ。あいつらも従った。それは、お前を指導者だって認めてるからだ」

バジリコは冷静にそう言った。マリナーラは激しく首を横に振る。

「ちがっ……だって、マリナーラしかいないからだよ!今はマリナーラの言うことを聞くしかないから!」

「そうだよ」

バジリコは強い口調で言った。

「マリナーラしかいない。そしてあいつらは、それでいいと思ったんだ。お前の指示を聞いて、従うことを選んだ」

マリナーラは黙っている。バジリコは続けた。

「今まで自分の好き勝手にやってきただろうけど、もう少し部下たちにどう思われているのか、何を求められているのかを分かった方がいい。お前があとちょっと変われば、スパイス団はきっともっといい方向に行けるんだよ」

そこまで言うと、バジリコは少しだけ自嘲気味に笑い、

「まあ、辞めた俺の言えたことじゃないけど……。でもまあ、リュウさんも多少は手伝ってくれるだろうし。……お前はアモル地方のみんなが真実を知るために少しは貢献した。メガストーンもキーストーンも貰った。わがままで気分屋で、いつも自分勝手だったお前にしちゃ、上出来だろ」

バジリコはそう言ってニヤッと笑った。マリナーラは頬を膨らませてバジリコを睨むように見上げる。

「バジリコは?これからどうすんの?」

「俺?」

バジリコは目を瞬いた。

「俺もこれからやることは一応決まったよ。……まあ、お前になら話してやってもいいか」

バジリコはそう呟いて、頭を掻いた。

「縁あって、とあるブランドの専属モデルになることになったんだよ。有名なブランドだから多分すぐばれると思うけど」

「はぁ?マジでぇ!?……ホンット、顔が良いと女にも仕事にも困らないからいーよねぇ。どこのブランド?まさかカメリア?あそこ男物も女物も出してるちょー人気ブランドじゃん」

バジリコは無言だった。マリナーラの笑みは引きつっている。肯定の意と受け取ったようだ。

「……まー、そうだよねぇ。マリナーラの負けだよねぇ。ガキンチョに勝てないなんて分かりきってたことなのに、なんでこんなに熱くなっちゃったんだろぉ……」

マリナーラはそう寂しげに呟くと、握りしめていたキーストーンを見つめた。
 ▼ 383 AYr1xkow/g 17/12/31 00:15:37 ID:zeWOovis [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「マリナーラよ」

ふとコルネッホがマリナーラに声をかけた。マリナーラが顔を上げる。

「あなたには、償ってもらわなければならない罪もあります。そこで、破壊したケースやガラスケースの弁償は、あなたが率いるスパイス団に請求させていただきます」

コルネッホは有無を言わさぬ強い口調で言った。マリナーラの顔が青ざめる。

「……ですが、それだけで構いません。あなたが私を脅したことや、私の家族を危険な目に遭わせたこと……それらはすべて水に流しましょう」

コルネッホはそう言うと、背後に立っている子供たちにそっと視線をやった。

「私にも至らぬ点はたくさんあった……それに、私の家族はとても強い。あなたにはきっと、負けないでしょうから」

コルネッホはそう言うと、一瞬だけにやりと笑った。

「……俺もそれは仕方ないと思う。自業自得だ」

バジリコはマリナーラにそう言った。

「すごいものを見ちゃったね」

アーリオが小さく微笑み、首を振りながら呟く。パロレたちはアーリオの方を向いた。

「アモルの歴史が変わる、歴史的瞬間だ。……まあ、俺も思ってたのとは違かったけど、楽しかったよ。何故アングリアの子孫なのにカロス出身なのかって謎は解けたしね」

アーリオはそう言って肩をすくめた。

「このアモル地方も、なかなか面白いところがあるじゃないか。もう少しここにいようと思うよ。アモルにはバトルハウスみたいなところはあるのかな?挑戦してみるのも悪くないかもね」

アーリオは独り言のようにそう言った。それから、クオレがパロレの元へ近づいてくる。

「パロレは、ヒーロー気取りなんかじゃないよね」

「えっ?」

思わず聞き返す。

「強くって、ピンチになってもいっつも相手に勝っちゃう!そんなパロレはわたしたちにとって、本物のヒーローだよ!」

クオレは、キラキラと輝く笑顔でそう言った。
 ▼ 384 AYr1xkow/g 17/12/31 00:16:45 ID:zeWOovis [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……結局、私たちはいらなかった、ってことかな」

アルセアはわざとらしく投げやりな声音で言った。

「そうだな。保護者代わりなんて、いらなかったな」

アキニレも苦笑いで続けた。

「みんな……勝手に強くなるんだよな」

バジリコも言う。

「もう、心配ないな」

「ああ。もうパロレたちは、俺たちがいなくたって大丈夫だ」

「弟の成長が寂しい?」

「そりゃ少しはな!でも、嬉しいよ。歳は結構離れてるから、ずっと小さい子供みたいに感じてたけど……そんなことはないもんな」

「……そうだね」

アルセアとアキニレとバジリコは、パロレとユーリとクオレを眺めてそんな会話を続けていた。すると、

「アルセアよ」

コルネッホがアルセアの名を呼ぶ。

「はい。何でしょう」

アルセアは返事をしてコルネッホの元へ大股で近づいた。

「相談があるのですが、よいでしょうか」

コルネッホの言葉に、アルセアは特に迷うこともなく「はい」と答えた。コルネッホの話も大体検討がついているのだろう。

窓の外から、光が射しこんでいる。

夜明けだ。
 ▼ 385 AYr1xkow/g 18/01/01 00:16:11 ID:y.msylDY [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
数日後、パロレはアキニレに呼ばれて研究所へとやってきていた。

この研究所は、アキニレや他にもスリジエの研究を手伝っていた者たちが共同で管理をしていくことになったようだった。今はだいぶ落ち着き、研究員たちもやっと自身の研究に専念しつつある。

パロレが研究所にやってくると、アキニレは何か作業があるらしく、少し待っててくれと言ってきた。今はアキニレのデスク付近で、アキニレが戻ってくるのを待っているところだ。

「……ん?」

アキニレのデスク上を眺めていたパロレは、ふとあることに気がついて小さく声を上げた。写真立てに入れられていた写真が、新しくなっていたのだ。

以前飾られていたのは、子供の頃のアキニレたちの写真だった。しかし、写真に写っているのは、今のアキニレたちだった。

いつもはクールな表情をしているアルセアとバジリコが、大きく口を開けて笑っている。パロレは驚いて写真立てを覗きこんだ。二人のこんな顔は見たことがない。やはり親友の前だと変わるのだろうか。パロレは少し不思議な気持ちで写真を見つめていた。

「パロレ!待たせたな」

アキニレが戻ってきた。

「ううん」

パロレが首を横に振る。

アキニレは笑顔だった。アキニレは、パロレをじっと見つめて言う。

「パロレ。兄ちゃんとバトルしよう」

その言葉を聞くなり、パロレの顔はぱっと輝いた。

「うん!バトルしよう!」

パロレが何度も頷いてそう言う。夢にまで見た、アキニレとのバトルだ。

「ははっ!いい返事だ。……準備はいいか?」

アキニレが言う。パロレはもう一度頷いた。

「もちろん!」

アキニレはパロレを見ると、ニカッと笑ってモンスターボールを構えた。

ポケモントレーナーのアキニレが、勝負をしかけてきた!
 ▼ 386 AYr1xkow/g 18/01/01 00:17:20 ID:y.msylDY [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
あけましておめでとうございます
まだもう少しだけ続きます。今年もどうぞお付き合いくださいませ!
 ▼ 387 ネコロロ@ぎんのはっぱ 18/01/01 00:44:40 ID:FXgMwt3. NGネーム登録 NGID登録 報告
アキニレ戦キターーーーーー
支援
 ▼ 388 AYr1xkow/g 18/01/01 17:59:40 ID:DgqkSSeA [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
念のための由来・モデル一覧
人名編C

アーリオ Aglio
ヒガンバナ科ネギ属の多年草、ニンニクのイタリア語。

エシャロット Échalote
ネギ属の多年草、エシャロットから。

アングリア Anguria
ウリ科の蔓性一年草、スイカのイタリア語。

メローネ Melone
ウリ科の植物、メロンのイタリア語。
 ▼ 389 AYr1xkow/g 18/01/01 18:03:14 ID:DgqkSSeA [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>388
修正

エシャロット Echalote
ネギ属の多年草、エシャロットから。

文字化けしてしまいました、失礼しました。
正確には頭文字のEの上にアキュート・アクセントが付きます
 ▼ 390 AYr1xkow/g 18/01/04 02:02:58 ID:2I4qunBg [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「手加減はしないぞ!行け、エーフィ!」

アキニレがそう言ってエーフィを繰り出す。

「ぼくだって!行くよ!バンギラス!」

パロレも負けじとバンギラスを繰り出した。

「エーフィ!マジカルシャインだ!」

アキニレが指示を出す。エーフィは凄まじい光を放ってバンギラスを攻撃した。バンギラスは思わずよろめいたが、どうにか耐えきった。

「バンギラス!かみくだく!」

バンギラスはエーフィの元まで向かうと、エーフィのしなやかな体にがぶりと思いきり噛みついた。エーフィが苦しそうな鳴き声を上げる。そのままエーフィは倒れた。

「エーフィ、お疲れ。……まだまだ!行くぞ、バンバドロ!」

アキニレは元気よく次のポケモンを繰り出した。

「よし、バンギラス戻れ!マリルリ!頼んだ!」

パロレもポケモンを入れ替える。それから、

「マリルリ!アクアテール!」

マリルリは尻尾を強くバンバドロに打ちつけた。効果は抜群だ。しかし、守りに優れたバンバドロはそれほどダメージを受けていないようだ。

「バンバドロ、じしん!」

バンバドロが激しく床を揺らす。マリルリはよろめき、その場で転んでしまった。

「マリルリ!」

パロレが呼びかけると、マリルリは立ち上がった。そのまま勢いよく指示を出す。

「マリルリ、もう一度アクアテール!」

マリルリが尻尾をバンバドロに叩きつけた。しかし、バンバドロはびくともしない。先程よりダメージが減っている。困惑気味のパロレを見て、アキニレはニヤッと笑った。

「バンバドロの特性はじきゅうりょく。技を受けるとぼうぎょが上がるんだ。さあ、バンバドロ、決めるぞ!じしんだ!」

「ムヒイ!」

アキニレの指示を聞いたバンバドロは、再び強く床を揺らした。マリルリはまたもやよろめいて転び、そのまま気を失ってしまった。
 ▼ 391 AYr1xkow/g 18/01/04 02:04:21 ID:2I4qunBg [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「マリルリありがとう。……ぼうぎょが上がる、か。それなら……!」

パロレはそう呟いてから、

「ロズレイド!任せた!」

そう言ってロズレイドを繰り出した。

「ロズレイド!エナジーボールだ!」

ロズレイドが、エナジーボールを作り出してバンバドロめがけて放出する。ぼうぎょが上がっているのなら、とくこうの高い技で攻めるしかない。

バンバドロは鳴き声を上げて倒れた。ズシンと重い音が響き渡る。

「次はこいつだ!シビルドン!」

アキニレが次に繰り出したのは、でんきうおポケモンのシビルドンだ。パロレは続けてロズレイドに頑張ってもらうことにした。

「ロズレイド、どくどく!」

ロズレイドが体から毒を放出した。紫色のどろりとした液体が、シビルドンの体に降り注ぐ。シビルドンはもうどく状態となってしまった。

「シビルドン、ほのおのパンチ!」

シビルドンは拳を握りしめて力をこめた。拳が炎に包まれる。シビルドンは、その拳をロズレイドめがけて振り下ろした。ロズレイドはなかなかのダメージを受けてしまったようだが、それでもまだ大丈夫そうだ。

シビルドンは苦しそうに体を震わせた。猛毒がシビルドンの体を蝕んでいく。チャンスだ。

「ロズレイド!ベノムショック!」

ロズレイドは先程のものとは異なる毒液をシビルドンに浴びせた。シビルドンが呻く。ベノムショックは、もうどく状態のポケモンには二倍の威力を発揮する技だ。そのダメージを受けたシビルドンは、やがて倒れてしまった。

「やるなぁ、パロレ!それじゃ、こいつはどうだ?行け、カイリュー!」

アキニレがそう言って、カイリューを繰り出した。パロレも何度か目にしているポケモンだ。カイリューはパロレを試すような瞳でじっと見つめている。

「もちろん、負けないよ!」

パロレはそう言うと、

「よし、ロズレイド戻れ!バンギラス!行くぞっ!」

ポケモンを入れ替えた。
 ▼ 392 AYr1xkow/g 18/01/04 02:06:31 ID:2I4qunBg [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バンギラスとカイリュー。どちらも高い能力を持つポケモンだ。この勝負は、まさにバンギラスにとって負けられない戦いだろう。

「カイリュー、かわらわり!」

カイリューが、瓦をも割る勢いで強大な攻撃を仕掛けてきた。バンギラスの巨体が吹っ飛ばされる。バンギラスがどうにか立ち上がったのを確認すると、パロレも指示を出した。

「バンギラス、こおりのキバ!」

バンギラスは、冷気を帯びた牙でカイリューの首元に噛みついた。牙が食いこみ、カイリューが悲鳴を上げる。すると、冷気はそこから素早くカイリューの体を包んでいき、カイリューはカチコチに凍ってしまった。

「よっしゃ!いいぞバンギラス!」

パロレが喜びの声を上げる。

「続けてストーンエッジ!」

「バンギィ!」

バンギラスが、尖った岩でカイリューの体を突き刺した。その勢いは凄まじく、カイリューを包んでいた氷は割れてしまったが、カイリューは既に戦闘不能になってしまっていた。

「流石、強いな!」

アキニレがそう言ってカイリューをボールに戻す。それから、

「次はこいつの出番だ!行くぞ、ヘラクロス!」

アキニレはヘラクロスを繰り出した。

「バンギラス戻れ!リザードン、任せた!」

パロレがリザードンを繰り出すと、アキニレは意味ありげな笑顔でこちらを見つめてきた。

「……?」

パロレは思わず首を捻った。

アキニレは笑顔のまま、鞄から何かを取り出した。光り輝く石だ。アキニレは、その石を高く掲げた。

すると、ヘラクロスの体が光を放ち始める。

「え?まさか……!」

そのまさかだった。ヘラクロスの持っているヘラクロスナイトとアキニレのキーストーンが反応している。

「ヘッルァ!」

光を解き放ったヘラクロスは、メガヘラクロスへとメガシンカした。

「え……!」

驚きを隠せないパロレを、アキニレは挑戦的な目で見つめていた。メガヘラクロスも、好戦的な瞳をこちらに向けている。

「さあ、俺も本気で行くぞ!」

アキニレは気合たっぷりにそう言ってみせた。
 ▼ 393 AYr1xkow/g 18/01/06 13:54:41 ID:.9M2V.Z2 [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「り、リザードン!エアスラッシュだ!」

パロレは未だ動揺を隠せないままリザードンに指示を出した。とてもリザードンをメガシンカさせられるほどの集中力はない。リザードンはそんなパロレの気持ちを理解してか、こちらをちらりと見て落ち着いて、とでも言うように頷いた。

エアスラッシュはメガヘラクロスに直撃した。しかし、メガヘラクロスは攻撃を耐えてみせた。

「ヘラクロス、ストーンエッジ!」

アキニレが声高らかに叫ぶ。ヘラクロスは鋭く尖った岩を思いきりリザードンに突き刺した。リザードンは悲痛な声を上げてその場に飛び上がり、やがて床に倒れてしまった。

「つ……強い……!」

パロレは唖然としてメガヘラクロスを見つめた。メガシンカしたポケモンと戦うのはこれで三回目だったが、やはりかなり強力だ。

相棒のリザードンもやられてしまった。パロレは「ごめんなリザードン」と声をかけてリザードンをボールに戻した。

「ピジョット……行くぞっ!」

パロレはそう言ってピジョットを繰り出すと、メガバングルに触れた。

フォルテ城でマリナーラの悪事を止めたあの日、パロレはコルネッホから礼としてある物を受け取っていた。それは、バンギラス、ジュペッタ、そしてピジョットの力を最大限に引き出すことのできる特別な石だ。

ピジョットの体が光り始める。ピジョットに持たせていたピジョットナイトとパロレのメガバングルが反応しているのだ。

「ピジョオー!」

ピジョットは、メガピジョットへとメガシンカした。

「ピジョット!ぼうふう!」

パロレが指示を出す。メガピジョットは強く翼をはためかせた。やがて、嵐のように強烈な風が吹き荒れていく。風はメガヘラクロスを思いきり打ちつけた。

メガヘラクロスは踏ん張っていたが、ぼうふうの威力に耐え切れずやがて吹っ飛んでしまった。そしてメガヘラクロスは勢いよく壁にぶつかって、気を失った。
 ▼ 394 AYr1xkow/g 18/01/06 13:55:47 ID:.9M2V.Z2 [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「もうここまで来たのか!?やっぱり強いな!……行くぞ、ブリガロン!」

そう言ってアキニレが繰り出したのは、とげよろいポケモンのブリガロン。かつてアキニレがスリジエに貰ったハリマロンが進化した、彼の相棒だ。

パロレはニヤッと笑った。ブリガロンはくさ・かくとうタイプだ。このままメガピジョットに頑張ってもらえば、いける!

「ピジョット!もう一度、ぼうふうだ!」

「ピジョァー!」

メガピジョットは先程の勢いのまま再び大きく羽ばたいた。激しい風が起こり、やがて竜巻まで現れる。メガピジョットはブリガロンをしっかりと捉えると、ブリガロンめがけて一際大きく翼をはためかせた。

ぼうふうがブリガロンに当たる。ブリガロンは避けようとしたが、無理だった。ブリガロンは攻撃を受け、一撃でその場に倒れてしまった。

「……はは!降参だー!」

アキニレはそう言って、笑顔でブリガロンをボールに戻した。少し悔しそうだが、それでも明るく笑っている。

「流石チャンピオン!俺の弟!」

アキニレはそう言いながら、こちらへと近づいてきた。

「に……兄さん、さっきの……!」

パロレが興奮冷めやらぬ様子で話しかける。アキニレはそんなパロレを見て思わず吹き出した。

「メガシンカ、だろ?気力がいるけど……でもポケモンとの絆を感じられる、いいものだな!」

アキニレはそう言ってニカッと笑うと、パロレの頭を撫でた。

「実はあの日、あれからアルセアとコルネッホさんで話し合って、『申請した者にメガストーンとキーストーンを与える』ってことが正式に決まったんだ」

アキニレが言う。

「え……!」

パロレは目を見開いた。

「もちろん、多少の条件はあるけどな。でも、かつてはアモルの人々みんなが持っていた力なんだ。やっぱり、みんなで分け合った方がいい」

アキニレは頷きながら続ける。

「絆の力……それは特別でもなんでもない、誰だって持っているものだ。メガシンカは、誰だって使える力なんだよな」

「……うん。そうだよね!」

パロレも頷き返した。
 ▼ 395 AYr1xkow/g 18/01/06 13:56:59 ID:.9M2V.Z2 [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「それで……これは俺の考えなんだけどな」

先程までは真面目だったアキニレの声音が、少し明るくなった。

「きっとお前が戦ってきた人たちはみんな、ポケモンもバトルも本当に大好きな人ばかりだと思うんだ」

アキニレはそう言うと、意味ありげな笑みを浮かべる。

「だったらみんな、新しい力を得て……もう一度パロレと本気で戦いたいと思ってるんじゃないか?」

アキニレを見て、パロレは目を瞬いた。

「それって……」

パロレが言うと、アキニレは頷く。

「ジムリーダーや四天王のみんな……それに、ユーリも、クオレももしかしたら!」

嬉しそうにそう言うパロレを見て、アキニレは快活に笑った。

「ははは!そうそう!……それに、もしかしたら思いもよらない人ともバトルできるかもしれないしな」

アキニレの言葉は、パロレの耳には届いていなさそうだ。パロレはキラキラと目を輝かせている。

これからの戦いは、決して一筋縄ではいかないだろう。だけど、だからこそとても心踊る。

アキニレは穏やかな表情で弟を見つめていた。きっと、パロレはこれからももっともっと強くなるだろう。

「……ぼく、強くなりたい」

パロレはそう言って、真っ直ぐにアキニレを見つめた。

「それに、やっぱりバトルが大好きなんだ!だから今、すごく楽しみだよ!ぼく、行ってくる!」

パロレはそう言って、リュックを持ち直した。

「ああ、行ってこい!」

アキニレが笑顔で送り出す。

パロレは大きく手を振って、研究所を飛び出した。
 ▼ 396 ンド@ガブリアスナイト 18/01/11 14:10:50 ID:h.pfe3iw NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 397 AYr1xkow/g 18/01/14 23:41:08 ID:3tloRKVI [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレはまず、真っ直ぐオーロジムへと向かった。またショッピングに行っていてジムが閉まっていたらどうしよう……そう考えていたものの、それは杞憂に終わった。ジムは開いている。

ジムの中に入り、奥まで進む。レナは前と同じように、姿見の前でどんな服を着るか悩んでいるようだった。

「こんにちは!」

パロレが挨拶をすると、レナが振り返る。

「チャオ!待ってたわよ、チャンピオン!」

レナはそう言って、ウインクしてみせる。

「その様子だと、しっかり話を聞いてるみたいね。あたしたちジムリーダー、みんなあなたともう一度バトルするの、楽しみにしてたんだから!」

レナは笑顔でそう言った。

「今回も本気の本気、更に強くなった私たちの力を見せてあげる!さあ、始めましょ!」

レナはそう言って、モンスターボールを手に取った。

「行くわよ、チラチーノ!」

レナがチラチーノを繰り出す。

「行け、マリルリ!」

パロレもポケモンを繰り出した。

「チラチーノ、おんがえし!」

レナのポケモンたちは、みんなレナに懐いている。そしてその力を最大限に発揮するこの技を使うことが得意なのだ。

チラチーノの攻撃は、マリルリに見事ヒットした。しかし、マリルリはピンピンしている。

「マリルリ!ばかぢからだ!」

マリルリは読んで字の如く、ばかぢからを発揮して凄まじい勢いでチラチーノに襲いかかった。チラチーノは一撃でやられてしまい、その場に倒れこんだ。

「まだまだ!行くわよ、ペルシアン!」

「ンナーオ」

レナがペルシアンを繰り出す。ペルシアンは機嫌の悪そうな鳴き声を上げた。
 ▼ 398 AYr1xkow/g 18/01/14 23:42:29 ID:3tloRKVI [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「よし、マリルリ戻れ!」

パロレはマリルリをボールに戻した。毎回レナのポケモンのおんがえしを受けると考えると、作戦を変える必要があることに気付いたのだ。

「行け!ジュペッタ!」

「ケケケ!」

パロレはジュペッタを繰り出した。

ジュペッタはゴーストタイプだ。ノーマルタイプの技を無効化してしまう。逆に、ジュペッタの得意とするゴーストタイプの技も、レナのポケモンたちには効かない。

ちらりとレナの顔を見ると、レナはニヤッと笑った。

「ペルシアン!じごくづきよ!」

ペルシアンは、ジュペッタをまさに地獄に突き落とすような勢いで突いた。攻撃はジュペッタの急所に当たり、ジュペッタはその場にへなへなと落ちてしまった。

「うわ……!」

パロレが思わず声を上げる。完全に読まれていたようだ。

「ジュペッタ、ごめん!」

パロレは慌ててジュペッタをボールに戻した。

「行け!バンギラス!」

パロレがバンギラスを繰り出す。レナは間髪入れずに指示を出してきた。

「ペルシアン!じゃれつく!」

ペルシアンはバンギラスに駆け寄り、思いきりじゃれついた。バンギラスはペルシアンの動きを鬱陶しそうな表情で受けている。やがて、バンギラスはペルシアンを振りほどいた。

「バンギラス!かみくだくだ!」

パロレが叫ぶ。バンギラスは、ペルシアンの首筋にがぶりと噛みついた。バンギラスの牙が、ペルシアンの肌に食いこむ。

「ンニャァ!」

ペルシアンはかなり痛そうな鳴き声を上げ、しばらく悶えていたかと思うとそのまま戦闘不能となった。

「次はこの子よ!行くわよ、カエンジシ!」

レナはめげずにカエンジシを繰り出した。頭部から生えた長い真紅の毛が美しく揺れている。メスのカエンジシだ。

「カエンジシ!オーバーヒート!」

カエンジシは、大きな咆哮を上げた。持てる力すべてを出したカエンジシの体から、凄まじい勢いの炎が噴出し、バンギラスの体を包んでいく。バンギラスは苦しそうに声を上げた。

効果は今ひとつではあるが、かなり威力の高い技だ。力を出し尽くしたカエンジシは、荒い息をしている。もうあれほどの威力は出せないだろう。パロレは煙の中を覗きこんだ。バンギラスは無事だろうか?
 ▼ 399 AYr1xkow/g 18/01/14 23:43:45 ID:3tloRKVI [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「バンギィ!」

バンギラスが鳴き声を上げる。バンギラスは攻撃を耐えきっていた。パロレの顔が、ぱあっと輝く。

「バンギラス!ストーンエッジだ!」

バンギラスは頷くと、鋭く尖った岩でカエンジシの体を突き刺した。カエンジシは体を貫かれ、一撃でその場に倒れこんだ。

「やっぱり強い!さあ、行くわよ、ムーランド!」

レナはムーランドを繰り出した。

「よし、バンギラスありがとう!マリルリ!もう一回頼んだ!」

パロレはもう一度マリルリを繰り出した。先程のばかぢからの疲れも、しばらく休憩したことで回復しただろう。

「ムーランド!ふるいたてる!」

ムーランドは体を震わせ、臨戦態勢を取った。ただでさえ高いムーランドのこうげきが更に上がってしまう。ここは、早く倒さなければかなり厄介なことになるだろう。

「マリルリ、一発で決めるぞ!ばかぢから!」

こうげきとぼうぎょが下がっていてしまったマリルリも、ボールの中でしばらく休んだことでまた力を出せるようになっていた。マリルリが、凄まじい力でムーランドを攻撃する。ムーランドはマリルリの攻撃を必死に耐えようとしていたが、やがて膝をつき、そのまま力尽きてしまった。

「いいぞ!」

パロレが思わず声を上げる。

レナは、まだ笑っていた。勝気な微笑みを浮かべて次のポケモンを繰り出す。

「さあ、勝負はまだ分からないわよ!ミミロップ!あなたに任せたわ!」

レナはそう言って、ミミロップを繰り出した。

「マリルリ、戻れ!ピジョット!行くぞ!」

パロレもポケモンを入れ替えた。

レナが、ポケットから大切そうに輝く石を取り出す。キーストーンだ。

ミミロップの持っているミミロップナイトと、レナのキーストーンが反応した。ミミロップの体はまばゆい光を放ち、メガシンカした。ミミロップはまるで破れたタイツを履いているようなセクシーな出で立ちに変わっている。

「こっちだって!」

パロレは叫んだ。そして、メガバングルにはめたキーストーンに触れる。

ピジョットのピジョットナイトと、メガバングルが反応する。ピジョットは、メガピジョットへとメガシンカした。

さあ、バトルはまだ終わらない。
 ▼ 400 AYr1xkow/g 18/01/14 23:45:15 ID:3tloRKVI [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ミミロップ!かみなりパンチよ!」

メガミミロップは素早くメガピジョットに近づくと、電気を帯びた拳で思いきりメガピジョットを殴り飛ばした。メガピジョットは顔面を殴られて大きく吹っ飛んだが、翼をはためかせて体勢を整えた。

メガミミロップは、こうげきに優れている。モタモタしている暇はない。一発で決めよう!

「ピジョット!ぼうふうだ!」

メガピジョットは、翼を大きく広げて一振りした。大きな風が起こる。メガピジョットは更に翼をはためかせた。いくつもの強い風が起こり、びゅうびゅうと音を立て始める。

やがて、風はまるで狙いを定めたようにメガミミロップの方へと吹いていった。メガミミロップはノーマルタイプだけではない。かくとうタイプでもある。ぼうふうに弄ばれたメガミミロップは、上手く歩けず、やがてすっ転んだと思えば風に攫われて大きく飛んでいった。

ドン!と大きな音がしてメガミミロップは壁に打ちつけられた。

「ミミィー……」

ミミロップは力なく声を上げた。戦闘不能状態だ。

「やった!」

パロレが声を上げる。

「あーあ、やられちゃった!」

レナは残念そうに言って、ミミロップをボールに戻した。そして、パロレを見てニッコリと笑う。

「やっぱり、キミとバトルするのは楽しいな。また勉強させてもらったわよ!」

レナはそう言ってウインクした。

「もちろん、ぼくもです!」

パロレがそう言って頷く。レナは嬉しそうな顔をした。

「さすがチャンピオン……といったところかな。バトルの才能はもちろん、ポケモンとの連携もバッチリ!ほんと、妬けちゃうわ」

レナはそう言うと、返答に迷っているパロレを見て吹き出した。

「なーんてね!あたしにはまだまだ課題があって、だからキミに負けた。それだけのことよ!あたし、もっと頑張らなきゃ!」

レナはそう言うと、右手を差し出した。パロレも右手を差し出す。そして二人は握手を交わした。

「うふふ!まだキミにはたくさんやることがあるわよね。頑張って!」

レナが言う。パロレは頷いた。

「はい!ありがとうございます!」

そう言って、オーロジムを後にする。まだ、たくさんの人とのバトルがパロレを待っている。

「じゃあねー!」

レナは元気よく言って、大きく手を振った。
 ▼ 401 AYr1xkow/g 18/01/18 11:59:20 ID:kWW.nWzY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレはオーロシティを出ると1番道路に戻り、ノグレータウンの方へと向かった。

もちろんそらをとぶで移動する方が速いが、たまには歩いて行くのも悪くない。

久しぶりにノグレータウンにやってくると、パロレはゴンドラに乗って美しい街並みを眺めて楽しんでいた。すると、以前来た時に見つけた、大きな家が二軒並んでいるところに見知った姿を見つけ、パロレは目を見開いた。

「すみません!止まってもらってもいいですか?」

ゴンドリエーレに問う。ゴンドリエーレは、近くにゴンドラを停めてくれた。パロレは、自宅とクオレの家のように隣り合った二軒の家の方へ向かう。そこには、先程玄関の扉を開けて出てきた一人の男が立っていた。

「こんにちは!」

「ん?」

男が振り向く。背が高く、すらっとしたスタイルのいい体に、誰が見ても惚れ惚れしてしまう整った顔。バジリコだ。

「ああ、パロレくん」

バジリコはパロレに気付くと微笑んだ。

「ここに住んでるんですね!」

パロレが言うと、バジリコは頷く。

「隣はアルセアの家だよ」

「え!そうなんですか」

パロレが驚いた顔をする。

「ほんとに、ぼくとクオレみたい」

そう呟くパロレを見て、バジリコは複雑そうな顔をしてしばらく黙っていたが、やがて、

「クオレちゃんのこと、大事にしなね」

それだけ言った。

「……?はい」

パロレは、何のことだかよく分かっていない。

「ところで、パロレくん。実は俺、君に会いに行こうと思ってたんだ」

「えっ?なんでですか!?」

驚いて大声を上げるパロレに、バジリコは爽やかに微笑みかける。

「さあ……なんでだろう。分かる?」

そう言うバジリコの手には、モンスターボールが握られている。パロレは、ぱっと顔を輝かせた。

「分かります!もちろん!」

「はは!じゃあ、よろしくね」

バジリコは食い気味に言ったパロレを見て笑うと、モンスターボールを投げた。
 ▼ 402 AYr1xkow/g 18/01/21 16:18:11 ID:0jj1OG4s [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「行くよ、ブラッキー!」

「行けっ、マリルリ!」

ブラッキーとマリルリが睨み合う。

「ブラッキー、アイアンテール!」

鋼のように硬くなったブラッキーの尻尾が、マリルリを強打する。マリルリはまだまだ平気そうだ。

「マリルリ、じゃれつく!」

マリルリが思いきりブラッキーにじゃれついた。ブラッキーはマリルリの攻撃を振り払い、威嚇するように牙を剥いた。

「ブラッキー、もう一度アイアンテール!」

バジリコが指示を出す。ブラッキーは再び尻尾でマリルリを攻撃したが、決定打にはならなかった。

「マリルリ!じゃれつく!」

マリルリがブラッキーに飛びかかり、人懐っこく体を擦りつけた。ブラッキーは仰向けに倒れ、かなり嫌そうな顔でマリルリを押しのけようとしたが、敵わずやがて倒れてしまった。

「ブラッキー、お疲れ。……行け!エンニュート!」

バジリコはエンニュートを繰り出した。エンニュートは艶かしい体をくねらせている。

「エンニュート!ベノムショック!」

エンニュートが毒液を噴出させる。勢いよく毒液を受けたマリルリは、倒れてしまった。

「マリルリ戻れ!……バンギラス!行くぞっ!」

パロレがバンギラスを繰り出す。

「エンニュート、どくどく!」

エンニュートは、先程のものとは違う毒液を出した。毒液がバンギラスの体を覆っていく。バンギラスは毒液をどうにか振り払ったが、既に体内を毒が回り始めていた。

「バンギラス、頑張れ!ストーンエッジだ!」

パロレが指示を出すと、バンギラスはもうどくの苦しみに耐えながらも攻撃を仕掛けた。エンニュートは尖った岩に刺され、その場から吹っ飛び、意識を失った。

「エンニュート、ありがとう。行け!フライゴン!」

バジリコが次に繰り出したのは、せいれいポケモンのフライゴンだ。フライゴンは翼を素早くはためかせている。まるで精霊が歌っているかのような美しい音が響いた。

「フライゴン!じしん!」

フライゴンは、バジリコの指示を聞くと、突如として尻尾を地面に思いきり叩きつけた。その振動で、大きく地面が揺れ始める。バンギラスは立っていられなくなり、やがて膝をついた。
 ▼ 403 AYr1xkow/g 18/01/21 16:19:20 ID:0jj1OG4s [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
力尽きてしまったかと思いきや、バンギラスは攻撃を耐えきってみせた。しかし、もうどくを受けている彼は限界が近そうだった。あともう一度攻撃を受けたら、倒れてしまうだろう。

「バンギラス!頑張れ!れいとうパンチだ!」

バンギラスが、拳を握りしめる。その拳は、徐々に冷気を帯びていった。

バンギラスは思いきり拳を上げると、フライゴンの腹部めがけて振り下ろした。

「フリャ!」

フライゴンは苦しそうな鳴き声を上げて吹っ飛び、戦闘不能となった。どうやら、攻撃はきっかり急所に当たったようだった。

「フライゴン、お疲れ。頼んだよ、ユキメノコ!」

バジリコが次に繰り出したのは、ユキメノコだ。ユキメノコはクスクスと笑ってこちらを見ている。

バンギラスはもうギリギリの状態だが、タイプの相性は悪くない。もしかしたら、続けて倒すことができるかもしれない。パロレは、バンギラスにもう少しだけ頑張ってもらうことにした。

「ユキメノコ、あられ!」

ユキメノコが、頭部から不気味につながった着物の袖のような形をした両腕を祈るように掲げた。すると、やがて空は暗くなり、あられが降り始めた。

「バンギラス、めげるな!ストーンエッジだ!」

そう言うパロレの耳は赤く、息は白くなっている。

バンギラスはユキメノコに狙いを定めようとしたが、雪の中でユキメノコの姿が見えなくなってしまっていた。バジリコのユキメノコの特性は、ゆきがくれだ。

バンギラスはかすかに影が見えたところに尖った岩で突いたが、そこにユキメノコはいなかった。攻撃を外してしまったのだ。

ふらついていたバンギラスは、体の内側を屠るもうどくと、体の外側を刺すあられのダメージによってとうとう限界を迎え、重々しくその場に倒れた。

「ごめんよ、バンギラス……」

パロレはバンギラスをボールに戻した。そして、次のポケモンを繰り出す。

「ジュペッタ!ゴーストタイプ同士、行くぞ!」

ジュペッタはケタケタと気味の悪い笑い声を上げてパロレの言葉に答えた。
 ▼ 404 AYr1xkow/g 18/01/21 16:20:14 ID:0jj1OG4s [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ユキメノコ!シャドーボール!」

ユキメノコは、影の塊を作り始めた。そして、球体になった影の塊を、ジュペッタめがけて投げつける。

「ジュペッタ!よけろ!」

パロレが思わず声を上げると、ジュペッタはふわりと浮かび上がってシャドーボールを見事避けてみせた。ジュペッタはパロレの方を振り返り、ニヤッと笑う。パロレはサムズアップした。

「よし、ジュペッタ決めるぞ!こっちもシャドーボールだ!」

パロレが叫ぶと、今度はジュペッタが影の塊を作っていった。ジュペッタはあられの降りしきる中、身を隠しているユキメノコを、集中して探している。やがて何か気配を感じたのか、ジュペッタの視線は動かなくなった。

ジュペッタがシャドーボールをユキメノコに向かって飛ばした。隠れていたはずだったユキメノコは、シャドーボールを真正面から受け、驚いた顔をしたかと思えばそのまま力尽きてしまった。

「ユキメノコも、お疲れ」

バジリコがそう言って、ユキメノコをボールに戻した。

「頼んだよ、メタグロス!」

バジリコは光沢のあるボディの美しい、メタグロスを繰り出した。

「よし、ジュペッタ、ありがとう!」

パロレもジュペッタを引っ込めると、

「頑張れよ!リザードン!」

そう言って相棒を繰り出した。リザードンは答えるように咆哮を上げる。

パロレとバジリコは、一瞬見つめ合った。そして、バジリコがニヤッと笑う。

バジリコは、キーストーンを取り出した。やっぱりだ!パロレも思わず笑みを浮かべる。メタグロスのメタグロスナイトと、バジリコのキーストーンが反応する。そして、メタグロスはメガメタグロスへとメガシンカした。

パロレもメガバングルに触れた。リザードンのリザードナイトXとメガバングルが反応し、リザードンはメガリザードンXへとメガシンカした。準備万端だ。
 ▼ 405 AYr1xkow/g 18/01/26 11:27:51 ID:pwiHYBoI [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「メタグロス!しねんのずつき!」

バジリコが叫ぶ。メガメタグロスは思念の力を額と思しき辺りに集めると、メガリザードンXへ思いきり頭突きした。メガリザードンXは思わず怯んでしまい、攻撃を仕掛けられなかった。

「メタグロス、もう一度しねんのずつき!」

バジリコが言う。メガメタグロスは先程と同じように、またメガリザードンXへ頭突きをかました。メガリザードンXはその威力に後方まで吹っ飛ばされたが、翼をはためかせて浮かび上がり、体勢を整える。

「リザードン、一気に決めるぞ!フレアドライブだ!」

パロレが溌剌と声を上げた。メガリザードンXは身体中に炎を纏い、凄まじい勢いでメガメタグロスに突進した。そのかなりの威力にメガメタグロスは地面にめりこみ気を失ってしまったが、メガリザードンXもまた、反動を受けてその場で力尽きてしまった。相討ちだ。

「メタグロス、お疲れ」

バジリコがそう言って、メガメタグロスをボールに戻した。それから、パロレに向かってニッコリと笑う。

「すごく楽しいね」

「はい!」

パロレも頷く。

「前にパロレくんとバトルした時は……あまり楽しめなかった。でも、楽しいからこそ、今回は本気で行くよ。さあ、最後だ!」

バジリコはそう言うと、最後のポケモンを繰り出した。八年前にスリジエに貰った、初めてのポケモンが二度進化を遂げてその姿となった、美しいポケモンだ。

「アシレーヌ!任せた!」

「シレーッ!」

アシレーヌは美しい鳴き声で答えた。

「リザードン、ありがとう!ロズレイド!行くよ!」

パロレはメガリザードンXをボールに戻し、ロズレイドを繰り出した。
「ロズレイド、どくどく!」

ロズレイドが体から毒液を放出した。毒液をまともに受けたアシレーヌは、苦しそうにもがいている。彼女もまた、バンギラスのようにもうどく状態になってしまった。

「アシレーヌ、れいとうビーム!」

アシレーヌはもうどくの苦しみを耐えながらも、口から冷気のビームを打ち出した。ロズレイドへの効果は抜群である。

「ロズレイド、ベノムショックだ!」

パロレが声高らかに指示を出した。ロズレイドが攻撃を仕掛ける。もうどく状態のアシレーヌには、その威力は二倍になる。これできっと勝ちだ!

しかし、アシレーヌは倒れなかった。なんと、ベノムショックを耐えたのだ。可愛らしい顔は、かなり高圧的にこちらを睨みつけている。その視線から感じるのは、激流のごとく凄まじい圧だ。

「パロレくんに、面白いものを見せてあげるよ」

バジリコはやけに自信に溢れた表情でそう言った。
 ▼ 406 AYr1xkow/g 18/01/26 11:29:18 ID:pwiHYBoI [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……?なんですか?」

パロレが首を捻る。

「アシレーヌは、アローラ地方のポケモンなんだけど。前に、アキニレに貰ったんだ。アシレーヌの力を最大限に発揮できるものをね」

いまいちよく分かっていないパロレに対し、バジリコはそう説明すると、何か変わった輝く石のようなものを掲げた。

それから、不思議な動きをし始めた。まるで、水に揺蕩うポケモンたちのように、波に揺られるようなポーズを取る。すると、何故かアシレーヌの体がオーラを纏ったのだ。

瞬間、辺りは海底のような幻想的な光景へと変わった。アシレーヌがヒレのような前足を広げると、そこに凄まじい水の力が集まっていく。やがて巨大な球体が出来ると、アシレーヌはそれをロズレイドの真上へと持っていった。

バジリコが、両手を上に挙げて合図する。すると、アシレーヌは歌うように声を上げた。その瞬間、ロズレイドの上にある巨大な水の球体は爆発四散し、ロズレイドはその衝撃を真上から受け、あっという間に戦闘不能となってしまった。

雨のように水が辺りへと降り注ぐ。アシレーヌは、独唱を聴いてくれたパロレとロズレイドに敬意を表すかのようにお辞儀のような動きをした。
 ▼ 407 AYr1xkow/g 18/01/26 11:30:43 ID:pwiHYBoI [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「え?え……!?今のなんですか!?」

驚きで混乱しているパロレが、素っ頓狂な声を上げる。

「俺とアシレーヌの、ゼンリョクの力だよ」

バジリコは意味ありげにそう言って、ウインクしてみせる。

「パロレくんも機会があれば、使いこなせるようになるかもしれないね」

バジリコは満面の笑みで続けた。

「さあ!パロレくん、バトルはまだ終わってないよ!」

バジリコの言葉に、パロレはハッとした。そうだ、まだ終わってない。

「ロズレイド、ありがとう!……ジュペッタ!最後にもう一回頼んだよ!」

パロレはそう言って、ジュペッタを繰り出した。

「ジュペッタ!10まんボルトだ!」

ジュペッタは、強い電撃を起こしてアシレーヌを攻撃した。先程は凄まじい攻撃を見せてくれたアシレーヌだが、もうどくやベノムショックでもう限界も近い。10まんボルトを受けたアシレーヌは、やがて力尽きて倒れてしまった。

「……ありがとう」

アシレーヌをボールに戻したバジリコが、そう言ってパロレに微笑みかける。

「ずっと、パロレくんともう一度バトルをしたいと思ってたんだ。すごく楽しかったよ」

バジリコが言う。

「ぼくも、楽しかったです!」

パロレはそう言って頷いた。初めて見るものもあったのだ。本当に、とても楽しいバトルだった。

「君とアルセアは、似てるかもね」

バジリコが静かに言う。

「アルセアって『私何にも興味ないです』って感じの顔してるけど、バトルが大好きなんだよ」

バジリコは微笑んで続けた。

「俺とか……、いろんな人が時に忘れかけてしまうバトルの楽しさを、彼女は絶対に忘れない。だから強いんだ」

バジリコはそう言うと、パロレの胸の辺りを軽く叩いた。

「その情熱を、パロレくんからもひしひしと感じるんだ。だから、君も強いんだね」

バジリコはニッコリと笑った。

「これからも頑張ってね」

「はい!ありがとうございます!」
 ▼ 408 AYr1xkow/g 18/01/29 10:22:15 ID:tYOfjqKI NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレは、ノグレータウンを後にしてラランジャの森へと向かった。

ラランジャの森では色々なことがあったなぁ、そんなことを考えながら歩く。今日のラランジャの森はとても静かだった。

もう迷うことはない。パロレはラランジャの森を抜けるとそのままラランジャシティまで行き、ポケモンたちを少し休ませるとすぐにラランジャジムを目指して歩いた。

大きな花の形を模したオブジェを登り、頂点にいる彼の元へ向かう。

「こんにちは!」

パロレが溌剌とした声で挨拶をすると、彼は笑顔で応えてくれた。

「こんにちは、チャンピオン!」

ラランジャジムリーダーのモクレンだ。

「先日はありがとうございました。やはり、ラランジャの森に住む幻のポケモンが襲われたのには、理由があったんですね」

モクレンは少し悲しげな顔をして言ったが、すぐにいつもの柔らかい表情に戻った。

「でも、パロレさんのご活躍のおかげで、森にまた平和が訪れました。本当に、ありがとうございます」

モクレンは深々とお辞儀した。パロレは首をブンブンと横に振り、モクレンに顔を上げるように言った。そんな大それたことはしていない。

「……いいえ、あなたには本当に感謝してもしきれません」

モクレンは、ゆっくりと顔を上げながら言う。

「あなたのおかげで、アモルの歴史が変わり、メガシンカが人々の手に渡るようになった……僕がまた更に強くなることができたのも、あなたのおかげなのですから!」

モクレンは、いつになくハイテンションでそう言った。その手には、モンスターボールが握られている。

来た!そう思ったパロレはモクレンに向かって頷くと、自身もモンスターボールを投げた。
 ▼ 409 リン@ナナのみ 18/01/30 02:30:47 ID:ObPnCGWU NGネーム登録 NGID登録 報告
俺の記憶が正しければアングリアのパートナーはルカリオ…
そしてアングリアはカロスに流された…


まさかアングリアのモデルってマスタータワーの…
 ▼ 410 ズモー@のんきのおこう 18/02/01 00:11:27 ID:W9T83EiY NGネーム登録 NGID登録 報告
アングリアのパートナーはフーディンだよ
アーリオがルカリオ使いだね
でも何か関係あるかもと自分も思った
 ▼ 411 AYr1xkow/g 18/02/02 01:43:30 ID:XBXUGqk. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>409
ややこしくてすみません
アングリアのパートナーをルカリオにしてマスタータワーの創始者であるように匂わせることも考えましたが、他国で王を傀儡にして事実上のトップになろうとした男がカロスでそんな凄い人になってしまうのもどうかと思ったので辞めました
あとは、三英雄はカロスで戦争が起こった後にアモルに来たということになっているのですが、カロスで初めてメガシンカを使ったというルカリオ使いがどの時代に生きていたのか分からないので、彼とアングリアやその子孫のアーリオを関連づけることはあえてせずにぼかしています
アングリアがカロスに追放されてから改心したのかどうかはご想像にお任せします。
 ▼ 412 AYr1xkow/g 18/02/03 11:53:05 ID:YtZ3MbkM [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「行け、ピジョット!」

「ドレディア!頼みましたよ!」

モクレンは、美しい花の体を持つ可愛らしいポケモンを繰り出した。

「ピジョット!ぼうふう!」

パロレが鋭く指示を出した。ピジョットが、翼を強くはためかせる。ピジョットの放つ凄まじい勢いの風に、ドレディアは吹っ飛ばされて一撃で気を失った。

「まだまだ、これからですよ!」

モクレンはそう言って、次のポケモンを繰り出した。はなかまポケモンのラランテスだ。

「ピジョット、ぼうふう!」

パロレが言う。ピジョットは再び羽ばたいて風を起こした。ラランテスは踏ん張ってどうにかその場に留まっていたが、結局耐えきれず、ドレディアと同じように吹っ飛び、壁にぶつかって気絶してしまった。

「よっしゃ!」

思わずガッツポーズを決める。ピジョットも嬉しそうに、ちょっぴり自慢げな鳴き声を上げた。

「行きますよ、キノガッサ!」

モクレンが次に繰り出したのは、キノガッサだ。パロレはニヤッと笑った。このままピジョットに頑張ってもらえば、キノガッサに大ダメージを与えることができる。

「ピジョット、もう一回ぼうふう!」

パロレの指示に、ピジョットは素早く動いた。先程から繰り返している動きを、もう一度。ピジョットの起こしたぼうふうは、キノガッサを直撃した。

「ガ……ガッサァ……」

キノガッサも戦闘不能だ。

パロレは、にやにや笑いを誤魔化すために唇を噛みしめた。絶好調だ!このまま行けば、きっと楽勝だろう。

「まだまだどうなるか分かりませんよ。リーフィア!」

モクレンはそう言って、次のポケモンを繰り出した。リーフィアが可愛らしい鳴き声を上げる。

「頑張りましょうね」

モクレンが言うと、リーフィアは頷いた。
 ▼ 413 AYr1xkow/g 18/02/03 11:54:02 ID:YtZ3MbkM [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ピジョット!またまたぼうふうだ!」

パロレの声を聞いたピジョットが、四度目のぼうふうを仕掛けた。そんなピジョットは、なんだか少し面倒臭そうに見える。

リーフィアは険しい表情をしてこらえていたが、結局耐えきれず、またもやピジョットの攻撃に吹っ飛ばされてそのまま気を失ってしまった。

なんと、ピジョットだけでモクレンに勝ててしまいそうだ。こりゃ、わざわざメガシンカなんてしなくても余裕かも。行ける行ける!パロレは、呑気にそんなことを考え始めた。

「油断は禁物ですよ、パロレさん」

モクレンは優しく、しかしはっきりとそう言った。

「ユキノオー!任せましたよ!」

モクレンはそう言ってユキノオーを繰り出した。それから、キーストーンを掲げる。ユキノオーのユキノオナイトとモクレンのキーストーンが反応し、ユキノオーはメガユキノオーへとメガシンカした。

「ピジョット、ぼうふう!」

これで終わりだ!パロレはそんな思いで指示を出した。

ピジョットは小慣れた様子で翼を広げ、強く羽ばたいた。しかし、メガユキノオーはびくともしない。なんと、ピジョットが余所見をしながらぼうふうを起こしたせいで、ぼうふうは脇に逸れ、メガユキノオーに当たらなかったのだ。

「ユキノオー!ふぶきです!」

モクレンが声高らかに指示を出した。メガユキノオーは、背中から飛び出している樹氷のようなものを激しく揺らした。そこから大量の氷の結晶が舞い上がり、飛んでいるピジョットの上に強く降り注いだ。

ピジョットは凄まじい勢いのふぶきに抗うことができず、どんどん高度を下げていった。そして、とうとう耐えきれなくなり、地面にベシャッと落ちて動かなくなってしまった。

「ピジョット!」

パロレが悲痛な声を上げた。ようやく自分の過ちに気がついたのだ。
 ▼ 414 AYr1xkow/g 18/02/03 11:55:34 ID:YtZ3MbkM [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
慢心して、ポケモンへの感謝の気持ちを忘れてしまうなんて、なんて情けないことだろうか。パロレはピジョットをボールに戻すと、

「ごめんなピジョット。ありがとう、お疲れ様」

優しくそう声をかけた。パロレが調子に乗ってしまったから、ピジョットもまた気を緩めてしまったのだ。ピジョットのトレーナーとして、もっとしっかりしなければ。

まだまだ、学ぶことはたくさんあるようだ。

「リザードン!行くよっ!」

パロレはそう言ってリザードンを繰り出した。モクレンはパロレの顔を見て、優しく頷いたかと思えば、キッと真面目な表情に戻った。気を引き締めたチャンピオンが、次からは本気で来るというのだから当たり前だ。

パロレはメガバングルに触れた。リザードンのリザードナイトXとメガバングルが反応し、リザードンはメガリザードンXにメガシンカした。

「リザードン、頼むよ!」

パロレはメガリザードンXにしっかりと声をかけると、バッとメガユキノオーを指差した。

「フレアドライブだ!」

指示を聞いた瞬間、メガリザードンXは飛び上がり、体中に灼熱の炎を纏ってメガユキノオーの真上からぶつかっていった。

「ノオー……」

地響きのような低い鳴き声を上げて、メガユキノオーは倒れた。鈍い音がして、床が揺れる。

モクレンはメガユキノオーをボールに戻した。

「流石ですね」

モクレンは微笑んでそう言った。

「いや……ぼく、調子乗っちゃったし……」

パロレはばつが悪そうに言ったが、モクレンは静かに首を横に振る。

「改めることが出来たのだから、いいのですよ。僕とのバトルを通じて何かを得てくれたのなら、僕も嬉しいです」

モクレンは穏やかな声で続けた。

「僕もまだまだ、学ぶことばかりですからね」

モクレンさんですら学ぶことばかりなのなら、ぼくなんてもっともっと……。パロレはそう考えてから、すぐにやめた。まだこの先にも、楽しいバトルがいくつも待っている、そういうことだ。

「パロレさん、頑張ってくださいね」

「はい!モクレンさんも、頑張ってください!」

パロレは満面の笑みでそう返した。
 ▼ 415 ブラーバ@ゴスのみ 18/02/06 17:09:29 ID:6EanIJzw NGネーム登録 NGID登録 報告
スリジエからもらえるのがツタージャ、ヒトカゲ、ポッチャマで
主人公(パロレ)が選んだポケモンに応じてユーリが相性の良いポケモンを、選ばなかった主人公(クオレ)が相性の悪いポケモンを選ぶ
アキニレ世代がもらってるのがハリマロン、アチャモ、アシマリで
それぞれパロレ=アルセア、ユーリ=バジリコ、クオレ=アキニレで同じタイプのポケモンを使う
スリジエは主人公が選んだポケモンに相性の良いジョウト御三家を使う(ワニノコ固定?)

長文失礼、ゲーム化したらこんな感じになるのかな?
 ▼ 416 AYr1xkow/g 18/02/06 22:00:18 ID:nMNis97Y NGネーム登録 NGID登録 報告
>>415
まさにそんな感じです!
一応、パロレとアルセアにはメガシンカできるポケモンを当てて、それぞれのキャラに合う御三家を選びつつ世代の調整をしました。
始めはクオレにはフォッコでアキニレはフシギバナとか考えていましたが、世代とタイプを被らせないようにした結果こうなりました。
ちなみに大体トレーナーと同じ性別ですが、バジリコのアシレーヌはメスです。バジリコはポケモンにもモテるのでメスしか進化しないポケモンがちらほらいます。
 ▼ 417 AYr1xkow/g 18/02/12 22:49:54 ID:ItuYvfPM [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌日、パロレはジョーヌシティのジムにやってきていた。

昨日はアキニレ、レナ、バジリコ、モクレンと戦った。今日もまた、ジムリーダーたちと本気のバトルをするためにここまで来たのだ。

パロレが奥までやってくると、ローザはパロレを見て高圧的な意地の悪い笑みを浮かべた。

「やっと来ましたのね。待ちくたびれましたわ」

「すっ、すみません……」

パロレが謝ると、ローザは呆れたように笑って、「冗談ですわ」と言った。

「以前は、協力してくださって本当にありがとうございました。感謝いたしますわ。アモルのメガシンカにまつわる秘密を知り、わたくしもとうとう力を得ることが出来ました」

ローザは淡々と言うが、その言葉の中には嬉しそうな響きがこめられている。パロレは黙ってローザを見つめた。

「父上とも、……弟ともしっかり話も出来ましたの。本当に、あなたには頭が上がりませんわ」

「いやいや!」

パロレは小っ恥ずかしく思いながらも、首を横に振った。

「……まあ、だからといって手加減はいたしませんけど。軍配が上がりますのは、わたくしの方よ!」

ローザがそう言って、持っているモンスターボールを投げた。ボールから飛び出したのは、クロバットだ。

「ぼくだって、本気で行きますよ!行け、バンギラス!」

パロレがバンギラスを繰り出す。バンギラスは咆哮を上げた。バンギラスの特性、すなおこしによって、辺りに砂嵐が発生し始めた。

「クロバット!はがねのつばさですわ!」

クロバットは、鋼のように硬くした翼でバンギラスの体を強打した。バンギラスには、思ったより効いていなさそうだ。バンギラスの瞳が、頭上を飛び回るクロバットの姿を捉える。

「バンギラス、ストーンエッジ!」

バンギラスの出した鋭く細長い岩が、クロバットの翼を突き刺した。クロバットはバランスを崩し、そのまま床に落ちて気を失ってしまった。
 ▼ 418 AYr1xkow/g 18/02/12 22:50:46 ID:ItuYvfPM [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「まだまだですわ。行きましょう、ニドクイン!」

ローザは、クロバットをボールに戻すと、そう叫んでニドクインを繰り出した。パロレは、バンギラスに続けて戦ってもらうことにした。

重量のある、厳つい顔をした二匹のポケモンが睨み合う。ローザが素早く指示を出した。

「ニドクイン!じしん!」

ローザが言うと、ニドクインは体が大きく動かして、床を強く揺らした。バンギラスは床の揺れに耐えきれず、そのまま倒れた。

「お疲れ、バンギラス、ありがとう。……行くよ!マリルリ!」

パロレがマリルリを繰り出した。マリルリはみず・フェアリータイプであり、どくタイプの技は苦手だ。どうにか攻撃を耐えて、一発で決めたいところである。

「ニドクイン、どくづきですわ!」

ニドクインは、毒の染みこんだ腕で、見た目より俊敏な動きでマリルリの体を突いた。マリルリは悲鳴を上げ、軽く吹っ飛んでコロコロと転がっていく。

「マリルリ!」

パロレが思わず名前を呼んだ。マリルリはどうにか立ち上がる。パロレの表情は、ぱあっと輝いた。

「マリルリ、アクアテールだ!」

マリルリが、水をまとった尻尾をニドクインの体に叩きつけた。ニドクインはマリルリより一回りほど大きな体をしているが、ちからもちであるマリルリの技には耐えきれなかったようだった。攻撃を受けた衝撃で、ニドクインはグラグラと揺れている。やがて、大きな音を立ててその場に倒れた。

ローザはニドクインをボールに戻すと、パロレをじっと見つめる。

「やはり、お強いですわね。でも、わたくしもやられてばかりじゃいられませんの!」

ローザはそう言うと、次のポケモンを繰り出した。艶めかしく黒光りする鱗に、鋭い牙が特徴的なポケモン、ハブネークだ。
 ▼ 419 AYr1xkow/g 18/02/12 22:51:24 ID:ItuYvfPM [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ハブネーク、とぐろをまく!」

ローザが高らかに叫ぶ。ハブネークは長い体をくねらせ、とぐろを巻いた。ハブネークはすっかり集中して、マリルリをギラギラした目で睨みつけている。

パロレは一気に畳みかけてくると思っていたので、意外だった。マリルリはボロボロだったが、あと少しなら頑張れそうだ。

「マリルリ、アクアテール!」

マリルリが、再び尻尾を勢いよく叩きつけて攻撃する。とぐろを巻いて守りも固めていたハブネークは、どうにか耐えきった。

「ハブネーク、フェイントですわ!」

ハブネークは、真っ直ぐマリルリの元までやってくると、噛みつこうとした。マリルリがそれを避けようとハブネークの顔を見据えていると、ハブネークはその隙を見て尻尾を思いきりマリルリに叩きつけた。

マリルリは、フェイントを受けてそのまま戦闘不能となってしまった。

「マリルリ、お疲れ。行け!ジュペッタ!」

パロレは、マリルリをボールに戻すとジュペッタを繰り出した。もう、有効打を持っているポケモンはほぼいない。気を抜かないようにしなければ。パロレはそう考えて、ぎゅっと拳を握りしめた。
 ▼ 420 AYr1xkow/g 18/02/24 01:09:43 ID:M21VhvTQ [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ジュペッタ!シャドークロー!」

ジュペッタの爪が突然伸びた。影でできた爪が生えたのだ。ジュペッタはその爪で、ハブネークの体を思いきり切り裂いた。

ハブネークは悲痛な叫びを上げると、完全に伸びてしまった。

「盛り上がってまいりましたわね。まだまだですわ!行きますわよ!ドラミドロ!」

ローザはそう言って、ドラミドロを繰り出した。ドラミドロは不気味にゆらゆらと揺れている。

「ジュペッタ!ゴーストダイブ!」

パロレは高らかに指示を出した。すると、ジュペッタの姿は一瞬にして消え去ってしまった。

「まあ……」

ローザは思わず口に手を当てて悔しそうに声を上げた。どうやら、ドラミドロは相手を攻撃する技しか覚えていないようだ。ドラミドロは何も出来ずにジュペッタが現れるのを待つしかなかった。

「……っ!ドラミドロ、後ろですわ!」

ローザが鋭く声を上げた。ドラミドロが慌てて振り向くが、間に合わなかった。ドラミドロが後ろを向く前に、ドラミドロの影から飛び出したジュペッタは、ドラミドロに向かって思いきり攻撃した。

ジュペッタの攻撃は、ドラミドロの急所に当たった。ドラミドロは、力なくその場に倒れた。

「なんということ!」

ローザはそう言って、ドラミドロをボールに戻した。

それから、ローザは深く息を吐く。

「……とうとうこの時が来ましたのね」

ローザはそう言うと、何かを大切そうに取り出した。虹色に光る石だ。

「わたくしが一人で続けてきた研究や鍛錬は、もしかしたら無駄となってしまったのかもしれませんわ……でも、それでも!」

ローザはそう言うと、最後のボールを投げた。飛び出してきたのは、スピアーだ。

パロレはジュペッタをボールに戻すと、リザードンに入れ替えた。ローザの青い瞳は、燃えるように輝いている。

「こうやって本気で戦えることを、わたくし誇りに思いますわ。あなたも、このわたくしと戦えることを光栄に思うことね!」

ローザは高圧的にそう言って、キーストーンを掲げた。
 ▼ 421 AYr1xkow/g 18/02/24 01:12:34 ID:M21VhvTQ [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
スピアーのスピアナイトと、ローザのキーストーンが反応する。

スピアーは、メガスピアーへとメガシンカした!

「こっちも!」

パロレが叫び、メガバングルにはめたキーストーンに触れる。リザードンのリザードナイトXとメガバングルが反応し、リザードンはメガリザードンXにメガシンカした。

「スピアー!どくづきですわ!」

ローザが指示を出す。メガスピアーは、毒の染みこんだ尻の大きな針をメガリザードンXの体に突き刺した。メガリザードンXが悲鳴を上げてもがく。メガスピアーは、しばらく針を離さなかった。

やがてメガスピアーの体がが離れていく。針の刺さっていた部分は大きく腫れており、メガリザードンXは鈍い動きでどうにか体を起こした。どうやら、毒が回ってしまったらしい。

メガリザードンXはよろよろと力なく立ち上がった。

「リザードン、大丈夫か!?」

パロレが慌てて声をかけると、メガリザードンXは振り向き、少し苦しそうな顔をしつつウインクしてみせた。

「よし……なら行こう。リザードン!エアスラッシュだ!」

パロレの声に合わせて、メガリザードンXは空を切った。それによって生まれた風の刃が、メガスピアーめがけて飛んでいく。メガスピアーの体は、攻撃を受けた瞬間吹っ飛んだ。

「スピ……」

メガスピアーは力なく鳴き声を上げたかと思えば、気を失った。

「あらやだ。負けてしまいましたわ」

ローザはそう言って、メガスピアーをボールに戻した。
 ▼ 422 AYr1xkow/g 18/02/24 01:13:20 ID:M21VhvTQ [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ローザは平静を装ってはいるものの、かなり悔しそうだ。

「仕方ありませんわね……今のわたくしの力では、あなたには勝てませんのね。努力あるのみですわ」

ローザは呟くように言って、パロレに向き直る。それからうっすらと微笑んだ。

「前にわたくしが言ったこと、覚えていて?」

ローザの言葉に、パロレは頷く。

「はい!なんか大きな力を感じるって……将来大物になりそうだって、言ってくれましたよね!」

パロレが嬉しそうに言うと、ローザは首を横に振った。それから、淡々とした口調で続ける。

「それじゃありませんわ。自分自身を活かすことが出来なければその力も無駄に終わる……わたくしはそんなようなことを言ったはずですわ」

「あ……そっちか」

パロレが分かりやすく落胆する。すると、ローザはうっすらと笑った。

「ですけれど……そんな心配は、ありませんでしたわね」
 ▼ 423 AYr1xkow/g 18/02/24 14:04:28 ID:M21VhvTQ [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレはローザに別れを告げて5番道路を歩いていた。

だんだんフォルテ城が見えてくる。ここでもたくさん大変なことがあったものだ。パロレはつい最近のことなのに、懐かしい思いでフォルテ城の前を通った。

「……あ!パロレ!」

ふと、後ろから声が聞こえてくる。共に旅をした、大切な友達の声だ。

「ユーリ!」

パロレは立ち止まって振り向くと、大きく手を振った。ユーリは、ちょうどフォルテ城から出てきたところらしかった。パロレの顔を見てパッと笑顔になり、こちらへ駆け寄ってくる。

「こんにちは、パロレ。少しだけ、久しぶりですね!」

ユーリがそう言ってはにかむ。

「うん!あの時はずっと一緒にいたから、ちょっと会わないだけでも久しぶりな感じがするね」

パロレもうんうんと頷いた。

「あっ、そうだ!ぼく、ついさっきローザさんとバトルしてきたんだ!」

パロレが言うと、ユーリは目を丸くした。

「そうだったんですね!……変なこと言われてませんか?大丈夫ですか?」

顔を曇らせて尋ねるユーリに、パロレは思わず吹き出した。前に同じようなことを聞かれた時は思わず姉弟仲があまり良くないのかと思ってしまったが、むしろ仲がいいからこそそんな風に言えるのだろう。パロレは笑顔で首を横に振った。

「言われてないよ!大丈夫」

パロレがそう言うと、ユーリは安心したようだった。

「……では、オレもいいですか?」

ユーリが言う。何がって、そんなことは分かりきっている。

「うん!もちろん!」

ユーリの顔を見たその時から、パロレもそのつもりだった。

「いつもありがとうございます!それじゃ、行きますよ、パロレ!」

ユーリは嬉しそうにそう言うと、モンスターボールを投げてポケモンを繰り出した。
 ▼ 424 AYr1xkow/g 18/02/25 01:13:51 ID:3Ykm73iY [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
ユーリがまず繰り出したのは、コジョンドだ。パロレはピジョットを繰り出した。

「コジョンド、ねこだまし!」

コジョンドは素早くピジョットに攻撃する。ピジョットは怯んで思わず固まってしまった。

「コジョンド、とびひざげり!」

ピジョットが動けないでいるうちに、コジョンドは畳みかけてきた。翼を広げて間抜け顔をしているピジョットの元まで勢いよく飛び上がり、痛烈な膝蹴りを喰らわせる。ピジョットは抵抗できずに気絶してその場に落ちた。

「ピジョット、お疲れ!行け!ジュペッタ!」

ピジョットをボールに戻して、ジュペッタを繰り出す。ユーリは少し苦しそうな顔をした。

「コジョンド、アクロバット!」

コジョンドは大きく飛び上がると、浮いたまま体を何回も前転させてくるくる回り、実に軽やかな動きでジュペッタの元までやっていき、見事な蹴りをお見舞いした。

「ケッ……」

道具を持っていないコジョンドの攻撃は軽やかなのにかなり強い。ジュペッタはよろめいたが、どうにか持ちこたえた。

「ジュペッタ、サイコキネシス!」

パロレが叫ぶ。ジュペッタはコジョンドを真っ直ぐに見据えると、コジョンドの脳内に直接強い念力を送りこんだ。

コジョンドは頭を抱え、苦しそうに呻いていたが、やがて倒れてしまった。

「コジョンド、お疲れ様です。フワライド!」

ユーリはコジョンドを戻してフワライドを繰り出した。パロレもジュペッタをボールに戻した。

「よし!任せた、バンギラス!」

バンギラスは力強い雄叫びを上げた。

「フワライド、でんげきは!」

フワライドは素早く電撃を放った。バンギラスは避けることはできなかったが、びくともしていない。

「バンギラス、ストーンエッジ!」

バンギラスは鋭い岩でフワライドの体を突き刺した。フワライドは不思議な鳴き声を上げて、シュルシュルと萎んでいってしまった。

バンギラスが思わずよろめく。ゆうばくでダメージを受けたのだ。

「フワライド、ありがとう。フラージェス!行きますよ!」

ユーリがフラージェスを繰り出した。

「バンギラス、サンキュー!ロズレイド!行くぞ!」

パロレはバンギラスを戻して、ロズレイドに入れ替える。パロレは続けて指示を出した。
 ▼ 425 AYr1xkow/g 18/02/25 01:15:16 ID:3Ykm73iY [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ロズレイド、どくどく!」

ロズレイドが体から毒液を放出する。フラージェスの体は、もうどくに侵されてしまった。

「フラージェス、ムーンフォースです!」

フラージェスは両手を掲げた。そして、月の光を一身に纏い、ロズレイドを攻撃する。ロズレイドにはあまり効いていないようだった。

「ロズレイド、ベノムショック!」

ロズレイドは、先程とは違う毒液を出した。フラージェスの体が、再び毒に染まっていく。フラージェスは苦しそうな鳴き声を上げてのたうち回り、やがて気を失った。

「フラージェス、お疲れ様です!行け、アマージョ!」

ユーリがアマージョを繰り出した。パロレはニヤッと笑う。

「ロズレイド、もう一度どくどく!」

ロズレイドの噴出した毒液が、アマージョに降りかかった。アマージョは払いのけようとしたが、それは無駄な足掻きに終わった。アマージョもまたもうどく状態となり、苦しそうに目を伏せる。

「アマージョ、頑張ってください!とびはねる!」

アマージョは目を見開くと、ロズレイドを睨みつけた。それから、自慢の脚のばねを使って、空高く飛び上がる。パロレとロズレイドは思わず同時に空を見上げた。アマージョの元に攻撃は届きそうにない。

やがて、アマージョがものすごい勢いで降りてきた。ロズレイドの頭上までやってくると、アマージョは長い脚を振り上げる。そして、凄まじい威力のかかと落としをお見舞いしてきた。

「ローズ……」

ロズレイドは頭蓋骨が割れてしまうのではないかというくらいの衝撃を受けて、気を失って倒れた。

以前とバトルした時と同じ方法でフラージェスとアマージョを倒そうと思ったのだが、どうやら甘く見すぎていたようだった。

「ごめんよ、ロズレイド!行け!リザードン!」

パロレはロズレイドを戻すと、リザードンを繰り出した。

「リザードン、エアスラッシュ!」

リザードンが、空気の刃でアマージョの体を切り裂く。体を蝕むもうどくに必死に抵抗していたアマージョは、今度こそ耐え切れずに倒れてしまった。

「アマージョ、お疲れ様!……ガブリアス!行きますよ!」

ユーリがアマージョを戻して次のポケモン、ガブリアスを繰り出す。

「リザードン、戻れ!マリルリ、頼んだ!」

パロレがマリルリを繰り出すと、ユーリはニコッと笑った。パロレは思わず首を捻る。それから、「あっ!」と声を上げた。

「パロレ、本当にありがとう……オレも、強くなりましたよ!」

ユーリはそう言うと、肌触りの良さそうなシャツの襟元に触れた。そして、首にかけたロケットを取り出す。ロケットを開くと、そこには輝く石がはめられていた。
 ▼ 426 AYr1xkow/g 18/02/25 01:16:19 ID:3Ykm73iY [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「行きますよ!」

ユーリがそう言って、石に触れる。ガブリアスのガブリアスナイトと、ユーリのメガロケットが反応した。

ガブリアスの体が光り始める。そして、ガブリアスはメガガブリアスへとメガシンカした。

「ガブリアス!アイアンテール!」

ユーリが勢いよく指示を出した。メガガブリアスは鋼のように硬い尻尾をマリルリに思いきり打ちつける。効果は抜群だ!マリルリの体は吹っ飛び、そのまま地面を転がった。

パロレは不安げに見ていたが、マリルリはやがて減速していくと、ぴょんと飛んで体勢を整えた。マリルリがまだやれることを確認すると、パロレも叫んだ。

「マリルリ、じゃれつくだ!」

マリルリはメガガブリアスの元まで向かうと、ちょこまかと周りを動き回り、それからメガガブリアスの体に貼りついて思いきりじゃれついた。メガガブリアスは鬱陶しそうにマリルリを見下ろし、体を引き剥がそうとしたが、叶わない。やがて、メガガブリアスは膝をついた。

「ガブリアス!」

ユーリが声を上げる。ガブリアスはユーリに向かって不敵な笑みを浮かべると、どうにか立ち上がった。

「ガブリアス、頑張りましょう!じしん!」

ユーリが指示を出す。ガブリアスは飛び上がった。地面に着地すると、その反動で地面が激しく揺れ始めた。マリルリがよろめく。そのまま踏ん張ろうとしたが、やがてマリルリは倒れてしまった。

「……!マリルリ、お疲れ」

パロレがマリルリをボールに戻す。それから、リザードンを繰り出した。

リザードンがやる気に溢れている様子を確認すると、パロレはメガバングルに触れた。リザードンのリザードナイトXとパロレのメガバングルが反応して、リザードンがメガリザードンXへとメガシンカする。

「手加減しないぞ!リザードン!ドラゴンクローだ!」

パロレがそう言うと、メガリザードンXは鋭く尖った爪でメガガブリアスの体を思いきり切り裂いた。メガガブリアスが痛みに叫ぶ。

メガガブリアスはふらつきながらも耐えていたが、やがて倒れてしまった。

「……お疲れ様です、ガブリアス!」
 ▼ 427 AYr1xkow/g 18/02/25 01:17:02 ID:3Ykm73iY [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
ユーリはメガガブリアスをボールに戻すと、最後のポケモンを繰り出した。

「エンペルト!頼みましたよ!」

エンペルトは重々しくそこに立っていた。こうていポケモンの気迫は伊達じゃない。

「リザードン!フレアドライブ!」

パロレが言うと、メガリザードンXは体に炎を纏ってエンペルトめがけて突進した。エンペルトの体が激しい炎に包まれる。しかし、エンペルトは倒れなかった。

「エンペルト、ハイドロポンプ!」

エンペルトは大きく口を開けると、勢いよく水を放射した。その凄まじい威力に、メガリザードンXは押しやられそうになる。しかし、メガリザードンXの情熱の炎が消えることはなかった。

「リザードン!もう一回、フレアドライブだ!」

メガリザードンXは再び体に炎を纏った。そして、エンペルトに向かって真正面から突っこんでいく。メガリザードンXの体とエンペルトの体がぶつかるその瞬間が、パロレになスローモーションのように見えた。

エンペルトが仰向けにどさりと倒れる。そして、そのすぐ横で、全力を出し尽くしたメガリザードンXもまた倒れた。
 ▼ 428 AYr1xkow/g 18/02/25 01:18:42 ID:lVGpxTc6 [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「お疲れ様です……ありがとう、エンペルト」

「リザードン、お疲れ!ゆっくり休みな!」

ライバル同士である二人は、そう言って相棒をボールに戻した。最後は相打ちとなったものの、勝利したのはパロレだ。ユーリはパロレを見て、笑顔でいつもの言葉を口にする。

「流石ですね!」

その言葉に、パロレは照れ臭そうに笑った。

「パロレは、オレの目標です」

ユーリが真面目な顔で言う。

「どうしても超えたい。あなたを見て、いつもそう思っていました」

パロレは黙って聞いている。

「でも……あなたはどんどん強くなっていっちゃいますから。オレはもしかしたら、昨日のパロレよりは強いのかもしれない。でも、今日のパロレには、まだ届かないんです」

ユーリはそう言うと、微笑んだ。

「でも、それでいいんです。いつもオレの前にいてください。パロレが、今のオレの指標です。いつか、絶対に追いついてみせますから!」

ユーリはそう言うと、拳を前に突き出した。パロレはニカッと笑って、同じように拳を突き出し、軽くユーリの拳にぶつける。

「待ってるよ!……なんてね。ぼくもうかうかしてられないな!」

「余裕なつもりでいたら、いつの間に抜かしちゃうかもしれませんよ」

ユーリはいつになく挑戦的に言った。

「うん。気を引き締めないとね。でも、ユーリがぼくを抜かしたとしても、すぐにまた追いかけるからね」

「ええ!上等です」

二人は見つめ合い、そして笑った。

「それじゃ、ぼくは行くね」

「はい!ありがとうございました!」

「こちらこそありがとう!じゃあねー!」

パロレはそう言うと、手を振ってその場から駆け出した。

「またー!」

ユーリも負けじと大きく手を振って、パロレを見送った。
 ▼ 429 AYr1xkow/g 18/02/25 23:56:05 ID:lVGpxTc6 [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレはフォルテ城を後にすると、セールイシティへと向かった。今日はまだまだ戦える。次はマンサクさんだ!

パロレはセールイジムにたどりつき、奥までやってきた。マンサクはパロレに気がつくと、朗らかに笑う。

「お待ちしてましたぞ、パロレさん!」

パロレはマンサクの元まで近づくと、「お久しぶりです!」と挨拶した。マンサクは礼儀正しくパロレに頭を下げる。

「いやはや、またあなたと戦えるなんてワシも幸せ者ですな!」

「ぼくも楽しみにしてました!」

パロレが笑顔で言うと、マンサクはなんだか意味ありげに笑った。パロレが首をかしげる。マンサクの表情は、すぐに穏やかな笑顔に戻った。

「ほうほう、そうですか!」

マンサクはそう言って、モンスターボールを手に持つ。

「それではチャンピオン!楽しい楽しいバトルを始めましょうか」

「はい!」

パロレは頷いて自分もモンスターボールを手に取ったが、マンサクの話はここからまだ続くのだということは分かっていた。

「ワシは若い頃はとても気性が荒かったんですぞ。なんといっても、とにかく喧嘩っ早くて!いやいや、今ではもう体が持ちませんけどな!ワハハ!」

マンサクは豪快に笑っていたが、急に真面目な表情になったかと思えば、にやりと笑った。

「ですから、素早く決めてみせましょうぞ。本気のワシの力、あなたに見せましょう!」

マンサクはそう言って、モンスターボールを投げた。
 ▼ 430 AYr1xkow/g 18/02/25 23:58:09 ID:lVGpxTc6 [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「いってらっしゃい、コータス!」

「行け、マリルリ!」

コータスとマリルリは、好戦的な笑顔で睨み合っている。パロレは素早く指示を出した。

「マリルリ、アクアテール!」

マリルリは水を帯びた尻尾でコータスを叩きつけた。コータスはよろめいたが、耐え切った。やはりコータスの守りはかなり丈夫だ。

「コータス、にほんばれ!」

コータスが念を送ると、急に暑くなってきた。室内なので太陽はないが、かなりひざしのつよい日と同じくらいの暑さだ。

「マリルリ、もう一度アクアテール!」

マリルリが再びコータスを攻撃した。みずタイプの威力は下がってしまうはずだが、既にダメージを受けているコータスにはそれで十分だったようだ。コータスはゴツンという鈍い音を立てて倒れた。

「まだまだですぞ!さあ、キュウコン!」

マンサクは、次にキュウコンを繰り出した。

「マリルリ!行けるところまで行くぞ!」

パロレがマリルリにそう声をかけると、マリルリは、

「マリィ!」

任せて、と言わんばかりに元気よく返事をした。

「キュウコン、ソーラービーム!」

「えっ!」

思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。キュウコンは太陽の力を浴びて、溜めることなく一気にビームを放出した。

マリルリは真正面から攻撃を受けてしまったが、一撃で倒れることはなかった。どうにか立ち上がり、キュウコンを睨めつける。

「マリルリ、アクアテールだ!」

マリルリはまたもや尻尾で攻撃をした。ひざしがつよくても関係ない。マリルリはちからもちなのだから!

キュウコンは美しい鳴き声を上げて、倒れた。

「よし、どんどん行くぞ!」

パロレは調子よく声を上げた。
 ▼ 431 AYr1xkow/g 18/02/25 23:59:10 ID:lVGpxTc6 [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ワハハ!次は任せましたよ、バクガメス!」

マンサクがバクガメスを繰り出す。

「マリルリ、お疲れ!バンギラス!頼んだ!」

パロレもポケモンを入れ替えた。

「バンギラス!ストーンエッジ!」

バンギラスが鋭い岩でバクガメスの体を突き刺した。バクガメスの甲羅はかなり固そうだったが、バンギラスのストーンエッジの威力の方が強かった。

「ガメェ……」

バクガメスが倒れる。マンサクは笑顔を崩さないままバクガメスをボールに戻し、次はギャロップを繰り出した。

「ギャロップ!けたぐり!」

ギャロップはバンギラスの足を勢いよく蹴った。バンギラスはすっ転んで、どしんと重い音を立ててその場に倒れた。体の大きく体重もあるバンギラスには、かなりのダメージだ。

「バンギラス!」

パロレが声を上げる。バンギラスはギリギリのところでどうにか持ちこたえ、ゆっくりと立ち上がった。

「よし!バンギラス、あと少し頑張れ!ストーンエッジだ!」

バンギラスの渾身のストーンエッジが、ギャロップを直撃した。ギャロップは嘶いて、その場に力なく倒れる。

「火事場の馬鹿力とは、まさにこのことですな!」

マンサクはまだ笑っている。

「さあ、最後です。張り切って行きますよ、バクーダ!」

マンサクはバクーダを繰り出した。バンギラスの体力は限界に近いが、パロレは勝てる自信があった。

「バンギラス、あと少しだけ頑張れるか?」

「バンギィ!」

パロレが声をかけると、バンギラスは振り向いて頷いた。

「ありがとう、バンギラス!それじゃ、行くよ!」

パロレはそう言って、メガバングルに触れた。
 ▼ 432 AYr1xkow/g 18/02/26 00:16:01 ID:87LyqOCE [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
バンギラスのバンギラスナイトとパロレのメガバングルが反応し、バンギラスはメガバンギラスへとメガシンカした。

「ほれ!」

マンサクもそう言って、キーストーンを取り出した。マンサクがキーストーンを掲げる。バクーダのバクーダナイトとマンサクのキーストーンが反応し、バクーダもメガバクーダへとメガシンカした。

「バンギラス!一発で決めるぞ!ストーンエッジ!」

メガバンギラスはもう一度鋭く尖った岩を出現させると、メガバクーダめがけて思いきり突き刺した。

ストーンエッジは、メガバクーダの急所に当たった。

「バクゥ……」

メガバクーダが倒れる。マンサクはメガバクーダをボールに戻すと、「天晴れ!」と声を上げた。

「素早く決められてしまったのはワシの方でしたな。いやいや、流石パロレさん!完敗です!」

「へへっ」

パロレはすこし気恥ずかしそうに鼻を掻いた。そして、満面の笑みでを浮かべる。

「楽しい楽しいバトルを、ありがとうございました!」
 ▼ 433 AYr1xkow/g 18/02/26 17:10:35 ID:87LyqOCE [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
さて、パロレが次にやってきたのはブロインジムだ。

あの不気味なギミックをどうにか越えて、パロレはジムの奥までやってきた。

「こんにちは!」

パロレが元気よく挨拶をすると、ネムがこちらを見てくすりと笑う。

「あら、こんにちは……。今回も二人で来てくれたのね……」

パロレはネムの言葉を無視した。

「バトルしに来ました!」

「ええ……」

ネムは頷く。

「わたしも、そろそろあなたがそろそろ来ると思っていたの……さあ、始めましょ……」

ネムがそう言って、ボールを投げた。繰り出されたのはシャンデラだ。

「行け、マリルリ!」

パロレもマリルリを繰り出す。

「シャンデラ、おにび……」

ネムの指示で、シャンデラがぼうっと光るおにびを出す。おにびはゆらゆら揺れながらマリルリの方へと向かっていき、マリルリの体にまとわりついた。マリルリは熱そうに叫んだ。やけどしてしまったのだ。

「マリルリ、頑張れ!アクアテールだ!」

マリルリはやけどの痛みをこらえながら、尻尾を叩きつける。シャンデラはシャンデリアが崩れ落ちるかのように倒れた。

「お次はこの子……いってらっしゃい、ムウマージ……」

「マリルリ戻れ!バンギラス!行くぞ!」

ネムが次のポケモンを繰り出すと、パロレもポケモンを入れ替えた。

「ムウマージ、マジカルシャイン……」

ムウマージが、凄まじく眩い光を放った。バンギラスは眩しそうに目を閉じて、思わず退く。バンギラスは聖なる光を受けて苦しそうにしていたが、やがて立ち直った。

「バンギラス、かみくだくだ!」

バンギラスはムウマージの体にがぶりと噛みつき、歯を食いこませた。ムウマージは嬌声のような叫び声を上げてその場に落ちた。

「強いわね……行くわよ、ミミッキュ……」

ネムがミミッキュを繰り出す。パロレは心の中で来た!と声を上げた。
 ▼ 434 AYr1xkow/g 18/02/26 17:11:59 ID:87LyqOCE [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ミミッキュ、ウッドハンマー」

ミミッキュが尻尾のような部分を思いきり叩きつけてバンギラスを攻撃した。バンギラスは衝撃で倒れ、そのまま気絶してしまった。

「バンギラス、お疲れ!行くぞ、ピジョット!」

ピジョットは大きく羽ばたいて返事をした。まずは一度攻撃して、ばけのかわを剥がさなければならない。

「ピジョット、はがねのつばさ!」

ピジョットは鋼のように硬い翼で思いきりミミッキュを攻撃した。ミミッキュのばけのかわが剥がれ、ぬいぐるみの首が力なくだらりと垂れ下がる。

「ミミッキュ、じゃれつく……!」

ミミッキュはピジョットの体にまとわりつくと、好き放題にじゃれつき始めた。面倒そうな反応をしているピジョットには、それほど効いてはいないようだ。

「ピジョット!もう一度はがねのつばさ!」

ピジョットは、再び硬い翼でミミッキュの体を叩きつけた。ウッドハンマーの反動でもダメージを負っていたミミッキュが倒れるまで、それほど時間はかからなかった。

「ヨノワール……いってらっしゃい……」

ネムが次のポケモンを繰り出した。

「よし、ピジョットありがとう!ジュペッタ、頼んだ!」

パロレもピジョットを戻し、ジュペッタを繰り出す。

「ジュペッタ!シャドーボール!」

ジュペッタが影の塊を作り出し、ヨノワールめがけて投げ飛ばす。シャドーボールはヨノワールの体に激突し、シャドーボールは苦しそうに手を振って暴れたが、やがて力尽きた。

「ほんと、容赦ない……」

ネムはそう言って、最後のポケモンを繰り出した。シャドーポケモンのゲンガーだ。

「行くわよ……」

ネムはどこからともなくキーストーンを取り出すと、そっと触れた。ゲンガーのゲンガナイトとネムのキーストーンが反応する。ゲンガーは、メガゲンガーへとメガシンカした。

「こっちも!」

パロレがそう言ってメガバングルのキーストーンに触れる。ジュペッタのジュペッタナイトとメガバングルが反応して、ジュペッタはメガジュペッタにメガシンカした。
 ▼ 435 AYr1xkow/g 18/02/26 17:13:44 ID:87LyqOCE [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ゲンガー、シャドーボール……」

今度は、メガゲンガーがシャドーボールを作り出し、メガジュペッタめがけて投げ飛ばした。シャドーボールはメガジュペッタに直撃した。

メガジュペッタはパロレに心配をかけさせまいとしたのか、どうにかギリギリで踏みとどまった。パロレが嬉しそうに声を上げる。

「ジュペッタよくやった!ゴーストダイブだ!」

メガジュペッタが不意に姿を消す。メガゲンガーはニヤニヤ顔のまま、辺りをキョロキョロと見回した。

「今だ!」

パロレが叫ぶ。メガジュペッタは突如として姿を現わすと、メガゲンガーめがけて攻撃した。

メガゲンガーが力なく倒れる。ネムは、「あら……残念……」と声を上げた。

「相変わらず強いのね……」

「ありがとうございます!」

パロレが笑顔で礼を言うと、ネムは悪戯っぽく笑った。

「怖がりなところも、変わってないのかしら……」

パロレはその言葉を聞くなり、顔を真っ青にして、ネムに向かって叫ぶ。

「ででででは!ぼくはお、お先に失礼します!」

パロレはそう言って、素早くブロインジムを後にした。

怖い話はもう、聞きたくない!
 ▼ 436 AYr1xkow/g 18/02/27 15:14:18 ID:2FJ57vZY [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
翌日、パロレは12番道路を抜けて廃工場を通りすぎ、メランシティへとやってきた。もちろん、目当てはメランジムだ。

メランジムの奥までやってくると、リュウガンが待っていた。

「こんにちは、リュウさん!」

「おう、こんにちは……お疲れさん」

リュウガンはそう言ってニヤッと笑った。未だにリュウガンがメローネの子孫であるということはしっくりこない。

「まあ、御託はいらねえってこった。さっさと始めようぜ」

リュウガンはそう言うと、ボールを投げてドンカラスを繰り出した。

「行け、マリルリ!」

パロレもポケモンを繰り出す。

「ドンカラス、はがねのつばさ」

ドンカラスが、硬い翼でマリルリを攻撃する。大きな翼に叩きつけられたマリルリは吹っ飛ばされたが、自力で立ち上がった。

「マリルリ、じゃれつく!」

マリルリがドンカラスにじゃれつく。ドンカラスは翼でマリルリをはねのけようとしたが、上手く避けることができず、結局戦闘不能となってしまった。

「ほれ、ワルビアル、いってら」

「マリルリ、戻れ!行け、ロズレイド!」

パロレがポケモンを入れ替えると、リュウガンはすかさず指示を出した。

「ワルビアル、じしん」

ワルビアルは激しく地面を揺らした。ロズレイドはよろめき、まるで踊っているかのような動きをする。どうにか攻撃を耐えたロズレイドは、しっかりと立ち直した。

「ロズレイド!エナジーボールだ!」

ロズレイドはエナジーボールを作り出すと、ワルビアルめがけて放った。ワルビアルは倒れた。

「よし!」

パロレが思わず拳を握る。

「相変わらず強いねぇ、兄ちゃんは」

リュウガンはくつくつと笑ってそう言うと、ワルビアルをボールに戻し、次にダーテングを繰り出した。
 ▼ 437 AYr1xkow/g 18/02/27 15:14:57 ID:2FJ57vZY [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ロズレイド、ありがとう!ピジョット!行くぞ!」

パロレは再びポケモンを入れ替えた。それから、

「ぼうふうだ!」

ピジョットが大きく翼を広げ、羽ばたく。激しい風が起こったかと思えば、風はダーテングを巻きこんでそのまま吹き抜けていった。

ぼうふうに襲われたダーテングの体は浮かび上がり、やがて力なく床に倒れこんだ。

「早いねぇ。次、バルジーナ、いってきな」

リュウガンがバルジーナを繰り出す。パロレもポケモンを入れ替えて、バンギラスを繰り出した。

「バルジーナ、ボーンラッシュ」

バルジーナは、バンギラスめがけて骨を投げてきた。バンギラスが慌てて避けようとしたが、間に合わなかった。骨は何度か降ってきた。地面に三本ほどの骨が落ちている。何の骨なのか、パロレは深いことは考えないことにした。

「バンギラス、ストーンエッジ!」

バンギラスが鋭く尖った岩で飛んでいるバルジーナを突き刺した。バルジーナは悲鳴を上げて、床へと落ちてきた。

「それじゃー、最後ね」

リュウガンはバルジーナをボールに戻すと、次のポケモンの入ったボールを投げた。出てきたのはヘルガーだ。

リュウガンはニヤッと笑った。そして、輝く石を取り出した。

ヘルガーのヘルガナイトと、リュウガンのキーストーンが反応した。そして、ヘルガーはメガヘルガーへとメガシンカした。

バンギラスのバンギラスナイトと、パロレのメガバングルも反応し始めた。そして、バンギラスもメガバンギラスへとメガシンカした。
 ▼ 438 AYr1xkow/g 18/02/27 15:15:31 ID:2FJ57vZY [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ヘルガー、あくのはどう」

メガヘルガーは、体から悪意に満ちたオーラを放った。しかし、メガバンギラスにはあまり効いていないようだった。メガバンギラスはふてぶてしく笑ってあくのはどうを受け止める。

「バンギラス!ストーンエッジだ!」

メガバンギラスのストーンエッジは、メガヘルガーの急所に当たった。メガヘルガーはキャインと見た目にそぐわない高い鳴き声を上げ、一撃で倒れてしまった。

「おいちゃんちょっとびっくりしちゃったよ」

リュウガンはそう言いながら、メガヘルガーをボールに戻した。

「どんどん強くなってってるってわけねえ。まあ、もう心配はいらねえわな」

リュウガンは頭を掻いた。

「さすがチャンピオン……と言ったところか」

リュウガンはそう言うと、にやりと笑った。

「いつか兄ちゃんと酒飲めるの、楽しみにしてるよ」

「はい!ありがとうございました!」
 ▼ 439 AYr1xkow/g 18/02/27 22:46:09 ID:4dvlCYIw NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレは、乗船所から船に乗り、ダ・カーポ島に上陸した。

そして、パルガンシティへと向かい、パルガンジムを目指す。

奥へとやってくると、ビロウと目が合った。

「久しいな、チャンピオン!」

ビロウが先に声をかけてくる。

「話は聞いている。君のおかげで、俺たちは更に強くなることができた……礼を言おう」

「いやぁ……」

パロレは恥ずかしそうに笑った。ジムリーダーに会うたびに礼を言われている気がするが、パロレ自身はそんなにすごいことをしたのだという風には思っていないのだ。

「だからこそ、全力で戦いたい!」

ビロウはそう言って、パロレを真っ直ぐに見つめた。

「お手合わせ願おう!アモルのチャンピオン!」

「はい!こちらこそ、望むところです!」

パロレも挑戦的にそう行った。ビロウがモンスターボールを投げる。

「行け!エアームド!」

「リザードン!一気に行くよ!かえんほうしゃ!」

パロレはリザードンを繰り出すと、間髪入れずに指示を出した。リザードンは口を大きく開いて燃え盛る炎を吐き出す。エアームドは倒れた。

「くっ……、行くぞ、キリキザン!」

ビロウがキリキザンを繰り出す。

「リザードン、かえんほうしゃ!」

リザードンが再び口から火を吐いた。キリキザンもまた、一撃で倒れてしまう。

「君のそういうところ、嫌いじゃないぞ!」

ビロウが叫んだ。

「もちろん、好きでもないがな!行くぞ、シュバルゴ!」

「リザードン、もう一回かえんほうしゃ!」

「リザァアー!」

リザードンの容赦ない攻撃によって、シュバルゴも一撃で戦闘不能になってしまった。
 ▼ 440 AYr1xkow/g 18/02/27 22:47:26 ID:lMEoAb4U [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「まだ俺は諦めんぞ!行け!ギルガルド!」

ビロウがそう言って、ギルガルドを繰り出した。ギルガルドは、盾でしっかりと自身の体を守っている。シールドフォルムだ。

「リザードン、何回もごめんよ。かえんほうしゃ!」

リザードンは頷いて、口から炎を吐いた。炎はギルガルドを直撃したが、盾に守られているギルガルドはまったく動じていない。

「ギルガルド、シャドーボールだ!」

ビロウが言うと、ギルガルドは構えていた盾を外し、ブレードフォルムへとフォルムチェンジした。

ギルガルドが影の塊をリザードンに放つ。シャドーボールはリザードンの腹に当たったが、リザードンは倒れなかった。

「リザードン!もう一発、かえんほうしゃだ!」

リザードンの吐いた炎は、守りを捨てて攻撃体制に入っていたギルガルドを包みこみ、一層大きく燃え上がった。そして、炎が消えたかと思えば、ギルガルドは力なく倒れてしまった。

「やはり、強いなチャンピオン!さあ、最後だ。行くぞ!ハッサム!」

ビロウがそう言ってハッサムを繰り出した。パロレはメガバングルに触れた。リザードンのリザードナイトXとメガバングルが反応し、リザードンはメガリザードンXへとメガシンカする。ビロウもキーストーンを取り出した。ハッサムのハッサムナイトと、ビロウのキーストーンが反応する。そして、ハッサムはメガハッサムへとメガシンカした。

「リザードン!最後も素早く決めるぞ!フレアドライブだ!」

メガリザードンXが、体に激しい炎を纏う。そして、メガハッサムめがけて突進した。メガハッサムの体は大きく燃え上がり、やがてメガハッサムは気を失って倒れてしまった。

「……見事だ」

メガハッサムをボールに戻したビロウが、苦々しい顔をして言う。

「ただでさえ強い君の相棒がほのおタイプとなると……俺は君に勝つためには死ぬ気で努力しなければならないようだ」

ビロウはそう言うと、少しだけ穏やかな表情になった。

「とはいえ……壁は大きれば大きいほど士気も上がるというもの。引き続き己を鍛えていくとしよう……よければ、また相手をしてくれ」

「はい!もちろんです。よかったら、今度ピザ食べに行きましょう!」

パロレがそう言うと、ビロウはぽかんとした顔を浮かべた。

「うん?君……なぜ俺がピザが好きだということを知っている?」

見ればすぐに分かることなのだが、自覚のないビロウを見て、パロレは思わず声を上げて笑ってしまった。ビロウは余計に混乱している。

「な……なぜ笑っている?何がおかしいんだ!おい!答えろ!」

訳も分からずにそう言ってパロレに激しく問いかけてくるビロウを見て、パロレはとうとうこらえきれなくなり、腹を抱えて笑いだした。
 ▼ 441 AYr1xkow/g 18/02/27 22:48:55 ID:lMEoAb4U [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
さあ、二度目のジムリーダーへの挑戦もこれで最後だ。パロレは、アスールジムへとやってきていた。ヒマワリの大きな船の上に乗ると、仁王立ちしていたヒマワリが振り返った。

「よお、チャンピオン!船に乗りに来たのか?それとも……」

「バトルしに来ました!」

パロレは食い気味に言った。ヒマワリがニヤリと笑う。

「……ああ、そうだよな!アタシもお前ともう一回バトルするの、ずっと楽しみにしてたんだぜ!」

ヒマワリはそう言うと、勢いよく舵を切った。船が大きく揺れる。

「行くぞ!面舵いっぱーいッ!」

ヒマワリが海上にポケモンを繰り出した。ホエルオーだ。

「ロズレイド!行くぞ」

パロレは甲板にロズレイドを繰り出すと、素早く指示を出した。

「エナジーボールだ!」

ロズレイドの放ったエナジーボールは、しっかりとホエルオーに当たり、ホエルオーは大きな体をひっくり返してそのあと動かなくなってしまった。

「次だ、次!」

ヒマワリはホエルオーを戻すと、次はママンボウを繰り出してきた。

「ロズレイド、エナジーボール!」

ロズレイドがもう一度エナジーボールを作り出し、ママンボウめがけて投げ飛ばした。ママンボウもまた、倒れてしまう。

「頑張れや!ダダリン!」

「ロズレイド、戻れ!ピジョット!行くぞ!」

パロレはポケモンを入れ替えた。そして、高らかに叫ぶ。

「ピジョット、ぼうふうだ!」

ピジョットは素早く何度も翼をはためかせて、激しい風を起こした。ダダリンは暴風に巻きこまれて、身動きが取れなくなってしまった。そして、ダダリンは力なく倒れた。

「くっそぉー、行ってこい、キングドラ!」

「ピジョット、戻れ!頼んだ、マリルリ!」
 ▼ 442 AYr1xkow/g 18/02/27 22:49:54 ID:lMEoAb4U [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「キングドラ、ラスターカノン!」

ヒマワリが言うと、キングドラは体中の光を一点に集め、そこに力をこめた。それから、その光をマリルリに向けて放つ。

キングドラの攻撃は効果は抜群だ。しかし、マリルリはまだ平気だった。

「マリルリ、じゃれつく!」

今度はマリルリの反撃だ。マリルリは容赦せずにひたすらキングドラにじゃれついて攻撃していた。やがて、キングドラが力つきる。マリルリの勝利だ。

「あっという間じゃねえか!ま、でも、このアタシも可愛いあいつらにかっこ悪いところは見せられねえからな、頑張るしかねえ!行くぞ、サメハダー!最後の力見せてやる!」

ヒマワリはそう言ってサメハダーを繰り出すと、キーストーンを掲げた。サメハダーのサメハダナイトと、ヒマワリのキーストーンが反応し、サメハダーはメガサメハダーへとメガシンカした。

パロレもマリルリをボールに戻すと、もう一度ロズレイドを繰り出した。メガサメハダーと相性よく戦うには、メガシンカに頼らない必要があるようだ。

「サメハダー、こおりのキバ!」

メガサメハダーは、冷気を帯びた牙でロズレイドに思いきり噛みついた。ロズレイドは痛そうな声を上げてメガサメハダーの振りほどく。それから、メガサメハダーを鋭く睨みつけた。

「ロズレイド、最後にもう一回、エナジーボールだ!」

「ロォオオ……!」

ロズレイドの放ったエナジーボールは、大きく開いていたメガサメハダーの口の中に当たり、メガサメハダーは痛みに悶えた。しかし、エナジーボールはメガサメハダーの口の中で爆発し、メガサメハダーはひっくり返って気を失ってしまった。

「つえー!」

ヒマワリはメガサメハダーをボールに戻すと、嬉しそうに叫んだ。

「アハハ!圧倒的すぎだよな!降参だー!」

ヒマワリは子供のようにはしゃいで言った。

「楽しかったぜ!ありがとな!」

「こちらこそ、楽しかったです!」

パロレは頭を下げてそう言った。これで、ジムリーダーへの再挑戦が終わった。本気のジムリーダーたちはとても強かったが、どうにか勝つことができた。やはり、メガシンカの力とは凄まじい。

パロレはヒマワリに別れを告げてアスールジムを出ると、ポケモンセンターに向かい、少し休憩することにした。

次に行く場所は、決まっている。
 ▼ 443 AYr1xkow/g 18/02/27 22:50:38 ID:lMEoAb4U [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
すっかり元気になったパロレとポケモンたちは、ポケモンセンターを出た。すると、ちょうどアスールジムから誰かが出てくるところが見えた。

その誰かは、こちらへと大きく手を振っていた。近づいてきたところで、ようやく誰だか分かった。クオレだ。

以前に言っていた、アスールシティに来る日はもう決めているという言葉は、こういうことだったのだ。

「おーい、パロレー!」

「クオレ!もしかして……」

パロレの言葉に、クオレはニコッと笑った。

「うん!ヒマワリさんに、勝ってきたよ!」

そして、青く光るマリンバッジを掲げる。

「これで、バッジ全部ゲットだよ!」

「わあっ……!クオレ、おめでとう!」

パロレは思わず手を叩いた。クオレが照れ臭そうに笑う。

「わたし、まだまだだけど……でも、感じるの。昨日のわたしより、今日のわたしは、絶対に強いって!」

クオレの顔は、とても輝いている。パロレは思わず目を細めた。眩しいのは、クオレの背後で日が沈みかけているからだろうか。

「立ち止まったり、振り向いたりしちゃうこともあるけど……それも悪いことじゃないもんねぇ。でも、わたしは、それだけじゃ終わらないよ!そう決めたの!」

クオレはそう言うと、ニカッと笑った。

「ね、パロレ!バトルしようよ!」

クオレの言葉に、パロレは笑顔で頷いた。

「うん!ぼくも、そう言おうと思ってたところだったんだ!」
 ▼ 444 AYr1xkow/g 18/02/28 15:07:12 ID:CP9Kpc0o [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「行くよっ、ライチュウ!」

「バンギラス!任せた!」

「ライチュウ、10まんボルト!」

クオレの指示に、ライチュウは強い電流を放った。しかし、バンギラスはまったく動じていない。

「バンギラス、じしんだ!」

バンギラスが激しく地面を揺らした。ライチュウはバランスを崩し、倒れてそのまま気を失った。

「まだまだっ!ライチュウ、お疲れ様!行くよ、アブリボン!」

クオレはアブリボンを繰り出した。

「バンギラス戻れ!行け、ピジョット!」

「アブリボン、マジカルシャイン!」

アブリボンが眩い光を放ち、ピジョットを攻撃する。ピジョットは光を避けて旋回すると、真っ直ぐアブリボンの方へと飛んでいった。

「ピジョット、ぼうふう!」

ピジョットが凄まじい風を起こす。アブリボンは軽く吹っ飛び、遠くまで飛んでいってしまった。

「ああっ!アブリボン、ごめんね!ウインディ、頑張るよ!」

クオレがアブリボンをボールに戻し、ウインディを繰り出す。

「ピジョット、サンキュー!行くぞ、マリルリ!」

パロレもポケモンを入れ替えた。

「ウインディ、かみなりのキバ!」

ウインディは電気をまとった牙でマリルリに噛みついた。マリルリは高い鳴き声を上げたが、まだ平気そうだ。

「マリルリ!アクアテール!」

マリルリが尻尾を思いきりウインディに叩きつける。水を帯びたその攻撃は、ウインディへの効果は抜群だ。ウインディはふらふらと倒れてしまった。

「ウインディ、ありがとう……!行くよ、ヌメルゴン!」

クオレが次のポケモンを繰り出した。
 ▼ 445 AYr1xkow/g 18/02/28 15:08:15 ID:CP9Kpc0o [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ヌメルゴン、アイアンテールだよっ!」

ヌメルゴンは、鋼のように硬くした尻尾でマリルリを攻撃した。マリルリは弾みで転がったが、立ち上がって体制を整える。

「マリルリ、じゃれつくだ!」

マリルリの攻撃は、的確にヌメルゴンを捉えていた。嫌がるヌメルゴンに構わず、マリルリは思いきりヌメルゴンにじゃれついた。ヌメルゴンはマリルリを引き剥がそうとジタバタしていたが、やがて倒れてしまった。

「ヌメルゴン、お疲れ様。……ヤドラン、頑張るよっ!」

「マリルリ、戻れ!ジュペッタ、行くぞ!」

ふと、パロレとクオレの目が合った。クオレが笑う。そして、笑顔のまま鞄に手を入れて何かを取り出した。パロレの持っているものとよく似ている。そう、メガバングルだ。

「……!」

「えへ!」

パロレが目を見開くと、クオレは照れ臭そうに笑った。

「クオレもなら……ぼくも、行くよ!」

パロレはそう言って、キーストーンに触れた。

ジュペッタのジュペッタナイトとパロレのメガバングルが反応する。ジュペッタはメガジュペッタへとメガシンカした。

クオレもキーストーンに触れた。ヤドランのヤドランナイトと、クオレのメガバングルが反応し、ヤドランはメガヤドランへとメガシンカした!

「ジュペッタ!シャドーボール!」

メガジュペッタは、開いたファスナーから飛び出している指のようなもので影の塊を作り出すと、メガヤドランへと放った。シャドーボールは甲羅などお構いなしにメガヤドランの体を直撃した。メガヤドランが力なく倒れる。

「うぇえ、強いよー!」

クオレが悲鳴を上げてメガヤドランをボールに戻した。
 ▼ 446 AYr1xkow/g 18/02/28 15:09:07 ID:CP9Kpc0o [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「でも、最後まで諦めないもんね!行くよ、ジャローダ!」

クオレはそう言ってメガヤドランを戻すと、ジャローダを繰り出した。

「ジュペッタありがとう!リザードン!行くよ!」

パロレもポケモンを入れ替えた。

「ジャローダ、アクアテール!」

ジャローダは長い尻尾に水を纏わせて思いきりリザードンを打ちつけた。リザードンは体を震わせたが、倒れはしなかった。

「リザードン!決めるぞ!フレアドライブだ!」

全身を炎に包まれたリザードンが、ジャローダめがけて突進する。リザードンの体が触れると、ジャローダの体は大きく燃え上がった。
やがて、ジャローダは倒れた。

「お疲れ様、ジャローダ。ありがとう」

クオレはそう言って、ジャローダをボールに戻す。それから、

「パロレも、ありがとう!」

そう言ってニッコリと笑った。

「やっぱりパロレは強いねぇ。圧倒的すぎて、悔しいって気持ちもあんまり出てこないよ!」

クオレは笑ってそう言ったが、少し切なげな表情になって続けた。

「なんてね!でも……勝ちたいな」

呟くように言ったその言葉に、パロレが思わず目を見開く。

「わたしの強くなりたいって思う気持ちは……やっぱり、パロレやユーリほど大きくはないみたい。でも、最近思うんだ。ジャローダたちはどうなのかなって……」

クオレはそう言って、モンスターボールを撫でた。

「ポケモンたちの想いには、応えたいよね。まだまだ頑張らなくちゃ!」

クオレはそう締めくくると、再び笑顔になった。

「じゃあ……わたしは帰るね!またバトルしようね!」

「うん!またね!ありがとー!」
 ▼ 447 AYr1xkow/g 18/03/01 13:34:00 ID:D1vxNRLo [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
翌日、パロレはポケモンリーグへとやってきていた。

八人のジムリーダーを再び倒したのだから、もう一度挑戦したい。そう思ったのだ。

四天王たちも、ジムリーダーたち同様、また強くなっていた。彼らもキーストーンを手に入れていたのだ。

カメリアのメガオニゴーリにコクリコのメガハガネール、イチゴのメガデンリュウとカエデのメガクチートをどうにか打ち負かして、ここまでやってきた。

四天王とのバトルでは、絶好調だった。この先も、きっと行けるはず。そんな思いでここまでやってきた。

パロレは今、再びポケモンリーグの最奥まで向かっている。

あの、最高に熱いバトルをもう一度するために。

奥の部屋にやってくると、あの人は、太陽の光を受けてキラキラと輝くステンドグラスに照らされて、パロレを待ち構えていた。

「……やっと来た」

アルセアは、そう言ってニヤッと笑って、ブーツのヒールをコツコツと鳴らしながらこちらへと歩いてきた。

「お待たせしました……!」

パロレが真面目な表情で言うと、アルセアは可笑しそうに笑った。

「待ってたよ。早くあんたと戦いたくて仕方なかったんだ……」

アルセアはそう言って、右耳に髪の毛をかけた。キーストーンがはめこまれた、美しい耳飾りがキラリと光る。

「最近、初めて知ったんだけど」

アルセアはそう言うと、左手にモンスターボールを持った。

「私って、すごく負けず嫌いなんだよね」

チャンピオンのアルセアが勝負をしかけてきた!
 ▼ 448 AYr1xkow/g 18/03/01 13:36:28 ID:D1vxNRLo [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「クレッフィ、行くよ」

アルセアがクレッフィを繰り出す。

「リザードン、行くぞ!」

パロレはリザードンを繰り出した。

「クレッフィ、でんじは」

クレッフィは軽く電気を起こすとリザードンに向けて放った。リザードンは体を痙攣させて立ち止まった。まひしてしまったのだ。

体が痺れて動けないリザードンに構わず、アルセアはクレッフィをボールに戻し、まひるのすがたのルガルガンに入れ替えた。

「リザードン戻れ!行け、ロズレイド!」

パロレも慌ててポケモンを入れ替える。アルセアは容赦なかった。

「ルガルガン、しねんのずつき」

ルガルガンは額に思念の力を集めると、ロズレイドに思いきり頭突きした。ロズレイドの頭がガンガンと揺れ、ロズレイドはしばらく目を回した後、倒れてしまった。

「ロズレイド、戻れ!マリルリ、任せたぞ!」

パロレがロズレイドを戻して、マリルリを繰り出す。

「ステルスロック」

アルセアが指示を出す。ルガルガンは尖った石をそこらじゅうにまき散らした。

「マリルリ、アクアテールだ!」

マリルリのアクアテールが、ルガルガンを襲う。ルガルガンは尻尾の水気で苦しんでいたが、やがて倒れてしまった。

「ミロカロス、行くよ」

アルセアは冷静にそう言って、ミロカロスを繰り出す。ミロカロスは美しい体躯を艶めかしくくねらせながらこちらを射抜くように見つめていた。

「マリルリ、戻れ!ジュペッタ、任せたぞ!」

パロレがポケモンを入れ替える。ジュペッタの体に、尖った岩が食いこんだ。
 ▼ 449 AYr1xkow/g 18/03/01 13:37:29 ID:D1vxNRLo [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ミロカロス、アクアリング」

ミロカロスは、水のリングを作り出し、体に纏った。アクアリングはゆっくりと回りながら、ミロカロスの体が乾かないように水滴を垂らしている。

「ジュペッタ、10まんボルト!」

ジュペッタが強い電撃を放った。ミロカロスの体は、10まんボルトを受けて強く痙攣した。しかし、ミロカロスはアクアリングで少しだけ体力を回復させると、再び力強くこちらを睨みつけてきた。

「ミロカロス、ハイドロポンプ」

ミロカロスが、口から大量の水を放出した。ジュペッタはその水の勢いに押されて吹っ飛び、壁にめりこんで気を失ってしまった。その間に、ミロカロスはアクアリングでまた体力を回復させている。

「ジュペッタ、ごめんよ。行け、ピジョット!」

パロレはピジョットを繰り出した。ピジョットの体に尖った岩が食いこむ。もうミロカロスに相性のいいポケモンはいない。どうにか勝つしかない!

「ミロカロス、おいで。行くよ、グレイシア」

パロレがせっかく気合いを入れ直したところで、アルセアはミロカロスを引っこめ、グレイシアに入れ替えてしまった。

「ピジョット!ぼうふうだ!」

ピジョットが強く翼をはためかせ、激しい風を起こす。グレイシアは踏ん張っていたが、やがて耐えきれずに吹っ飛んでしまった。

しかし、グレイシアはまだ倒れなかった。立ち上がって体制を整えると、ピジョットの方まで走ってくる。

「グレイシア、ふぶき」

グレイシアが、ふぶきを起こした。激しく吹く冷たい風が、ピジョットの体を容赦なく襲う。ピジョットはやがて、力なく床に落ちてしまった。

「ま……まずい!」

前に戦った時より、アルセアは強くなっている気がした。戦えるポケモンは、バンギラスとマリルリ、それからリザードンだけだ。

「バンギラス!任せたぞ!」

パロレはそう言ってバンギラスを繰り出した。バンギラスの体に尖った岩が食いこんだが、バンギラスはそれほど痛そうな顔はしなかった。
 ▼ 450 AYr1xkow/g 18/03/01 13:39:08 ID:D1vxNRLo [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「グレイシア、ふぶき」

アルセアが指示を出す。グレイシアはもう一度ふぶきを起こそうとした。しかし、グレイシアの狙いは外れ、攻撃は当たらずに終わった。チャンスだ!

「ストーンエッジ!」

パロレが叫んだ。バンギラスが、鋭く尖った大きな岩をグレイシアに突きつける。ストーンエッジはグレイシアの急所に当たり、グレイシアは戦闘不能となってしまった。

「はい、次。ボーマンダ、行くよ」

アルセアはグレイシアをボールに戻すと、一切の焦りも見せずにボーマンダを繰り出した。アルセアのポケモンは、クレッフィとミロカロスにボーマンダ、そしてバシャーモが残っている。こちらが少し負けている。気を引き締めなければ。

「バンギラス、戻れ!マリルリ、もう一度頼むよ!」

マリルリの体にはまた岩が刺さった。あまり無理はできない。

「ボーマンダ、そらをとぶ」

ボーマンダは、空高く飛び上がった。マリルリの攻撃は届かない。マリルリはぴょんぴょんと飛び跳ねたが、無駄な足掻きに終わった。

ボーマンダが、勢いよく降下してきた。マリルリの体に思いきり攻撃してくる。マリルリはその場に倒れてしまった。かと思いきや、どうにかギリギリのところで持ちこたえてみせたのだ。

パロレはぱあっと顔を輝かせた。まだ終わっちゃいない!最後まで諦めちゃダメだ!

「マリルリ!じゃれつく!」

マリルリはボーマンダの体に引っついて、思いきりじゃれついた。ボーマンダは激しく体を揺らしてマリルリを引き離そうとしたが、根負けし、ぐらりとその場に倒れてしまった。

「……行こうか」

ボーマンダをボールに戻したアルセアが、そう呟いたのが確かに聞こえた。

「バシャーモ!あとはあんたに任せるよ!」

アルセアがそう言って、相棒のバシャーモを繰り出した。パロレは思わず唾を飲みこんだ。パロレには分かる。アルセアは、最後の切り札としてではなく、一度自分を負かしたトレーナーをボコボコにぶちのめすために最強のパートナーであるバシャーモを繰り出してきたのだ。

バシャーモは、右耳につけているピアスに触れた。バシャーモの体が眩い光に包まれていく。バシャーモのバシャーモナイトとメガピアスが反応して、バシャーモはメガバシャーモへとメガシンカした。
 ▼ 451 AYr1xkow/g 18/03/01 13:40:32 ID:PII9RpSI [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「バシャーモ、ストーンエッジ!」

メガバシャーモが鋭い岩をマリルリに突き刺した。マリルリより素早いメガバシャーモは、わざわざ身を守って一ターンやりすごす必要もない。呆気なく倒れたマリルリの横で、メガバシャーモは素早く足踏みをしてかそくした。

「く……っ、バンギラス、行くぞ!」

パロレはバンギラスを繰り出した。もうステルスロックを気にしている余裕さえない。

「バシャーモ、ばかぢから」

メガバシャーモは凄まじいばかぢからを発揮してバンギラスを攻撃した。バンギラスが力なくその場に倒れる。そういえば、アルセアさんのポケモンたち、前と技が変わってるなぁ……。バンギラスの体が倒れていく姿がスローモーションのように見えている間、パロレはふとそんなことを考えた。

メガバシャーモは全力を出して少し疲れたのか、荒い息をしていた。こうげきもぼうぎょも少し下がっているに違いない。この隙に決めなければ、負けてしまう。もうパロレには、リザードンしか残っていないのだ。まひしている上に、ステルスロックでまたダメージを受けてしまうけれど、前に進むしかない。

「バンギラス、お疲れ」

パロレはそう言ってバンギラスをボールに戻すと、勢いよくリザードンを繰り出した。

「リザードン!君に決めた!!」

そして、パロレはメガバングルに触れた。リザードンのリザードナイトXとメガバングルが反応し、リザードンはメガリザードンXへとメガシンカした。

負けない。負けたくない。今回も、勝ってみせる!
 ▼ 452 AYr1xkow/g 18/03/01 13:42:18 ID:PII9RpSI [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「バシャーモ!ストーンエッジ!」

少しくらい威力が下がっても、メガバシャーモの攻撃はとても強烈だった。鋭い岩に貫かれたメガリザードンXは、咆哮を上げてその場にのたうち回った。

しかし、メガリザードンXはパロレを悲しませまいとギリギリのところで持ちこたえていた。パロレはもう泣きそうだった。メガリザードンXは、パロレのためにここまで頑張ってくれている。一人と一匹の、深い絆のなせる技だ。

「リザードン!いいよ!かっこいいよ!」

パロレが声を張り上げる。すると、メガリザードンXは更に体を奮い立たせて、もっとパロレに褒めてもらおうと自力でまひを治してしまった。

「……!リザードン!もう、本当にお前は最高だ!」

パロレは目を輝かせて、相棒を見つめる。

アルセアのメガバシャーモを倒すことができれば、まだ希望はあるかもしれない。バトルは最後まで、何が起こるか分からないのだ。

「ぼくたちの絆を、アルセアさんに見せるぞ!リザードン!エアスラッシュだ!」

「リザァアー!」

メガリザードンXは咆哮を上げると、空をも切り裂く風の刃でメガバシャーモの体を切り裂いた。

「シャモ……ッ!」

メガバシャーモが鋭い鳴き声を上げた。メガバシャーモの体がふわりと浮き上がり、それから床に叩きつけられる。

やった!パロレは思わず拳を握った。最強の敵を倒した。あとは、もう少しだけ頑張れば……。

しかし、よく見るとアルセアは微笑んでいた。アルセアの視線は、倒れているメガバシャーモへと注がれている。

「シャ……モ……ッ!」

「え……!?」

パロレは驚きの声を上げた。メガバシャーモは、メガリザードンXのエアスラッシュを耐えきって、再び立ち上がったのだ。

「ポケモンとの絆が深いのは、あんただけじゃないってことだよ」

アルセアはそう言い放つと、悪戯っぽく笑った。

そうだ。彼女たちは、引き離され、記憶を奪われ、過酷な運命に翻弄されても、それを力を合わせて乗り越えてきた、パロレとリザードンと同じように、アルセアとバシャーモも最高のパートナーなのだ。どちらかだけがすごいなんて、そんなことはありえない。

「バシャーモ!」

「シャモッ!」

二人の呼吸は、ぴったりだった。その瞬間、パロレは生まれて初めて悟った。

自分が、負けるということを。

「ばかぢから!」

「シャーモッッッ!!!」
 ▼ 453 AYr1xkow/g 18/03/01 13:43:29 ID:PII9RpSI [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
渾身の力で蹴りつけてきたメガバシャーモによって、メガリザードンXの体はありえないくらい吹っ飛び、そのまま床に叩きつけられて気を失った。

「結局私が一番強くてすごいんだよね……なんちゃって」

アルセアはそう言ってパロレを見下ろした。やはり、あの厳しいコルネッホに認められ、アモルで百年ぶりにメガシンカを使うことを許されたトレーナーの力は伊達じゃない。もはやその姿は王者の貫禄さえある。

「リザードン……ごめんな。ありがとう……」

パロレはメガリザードンXをボールに戻した。その間、アルセアはメガシンカを解いてリラックスしているバシャーモの体を優しく撫でて、乱れた毛並みを整えてやっていた。アルセアは、見たことがないくらいに穏やかな表情を浮かべている。

パロレは唇を噛みしめてアルセアの元に近づく。アルセアはそれに気がつくと、バシャーモをボールに戻した。

「悔しい……」

パロレは思わず口に出して呟いていた。それを見てアルセアは微笑む。

「そう、それ。それが大事なんだよ。私も、あんたに教えてもらった」

「……はい」

パロレは唇を尖らせてそう言った。

「でもやっぱり……めちゃくちゃ楽しかったです。アルセアさんの言ってた通り、負けたことは悔しいけど、バトルに後悔なんて、ひとつもない」

パロレが俯いてそう言うと、アルセアは頷いた。

「でしょ?それを忘れないで、またここに来なよ。何度でも叩きのめしてあげるから」

パロレが思わず顔を上げて目を見開くと、アルセアはいい顔で笑っていた。どうやら、一度勝っただけだというのに、パロレは眠っていた彼女の闘争心に火をつけてしまったらしい。

「……私たち、いいライバルになれるんじゃない?」

アルセアが言う。パロレは頷いた。

「……はい。ぼくもそう思ってました!本当に、次こそ絶対に負けませんからね!」

「言うじゃん」

アルセアのその言葉に、パロレは初めてアルセアに会った時に聞いた感情のこもっていない「やるじゃん」を思い出して、思わず震え上がった。
 ▼ 454 AYr1xkow/g 18/03/01 13:44:26 ID:PII9RpSI [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……ああ……ひとつ提案なんだけど……」

アルセアが思い出したように口を開く。

「今度は、バトルコロッセオで戦うってのはどう?あそこはリーグとはちょっとルールが違うし、楽しめそうだと思うんだけど」

バトルコロッセオには、まだ行ったことがない。パロレはキラキラと目を輝かせた。

「はい!ぜひ、やりたいです!」

パロレの様子を見て、アルセアはおかしそうにくすりと笑った。

「じゃ、決まり」

アルセアの顔は、嬉しそうに見える。

「明日は予定があるから……明後日。バトルコロッセオの前で集合ね」

「はい!わあ……楽しみです!ありがとうございます!」

「それはどーも」

アルセアは、すっかりいつものぶっきらぼうな様子に戻っていた。パロレは、バトルをしている時の情熱的な彼女の姿の方が好きだったが、まあそれは仕方ない。

「じゃあ……また、明後日に。今日は、ありがとうございました!」

パロレがしっかりと頭を下げると、アルセアは少しだけ笑って小さく手を振った。

「ん。バイバイ」
 ▼ 455 AYr1xkow/g 18/03/01 23:37:36 ID:CwlvJfq. [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
二日後、パロレはアスールジムへとやってきていた。

今回はバトルのためではない。バトルコロッセオのある、フェルマータ島に行くためだ。

ヒマワリにちょっと待ってろと言われたパロレは、船の準備が整うのを、ダ・カーポ島の美しい海を眺めながら待っていた。

アモルはいいところだ。気候は温暖で、どの街の景色も美しく、料理もとてつもなく美味しい。ついでに、綺麗な人もいっぱいいる。

「あれ……?パロレですよね」

ふと後ろから声が聞こえてきて、パロレは振り向いた。そこにはユーリが立っていた。

「あ、ユーリ!どうしたの?」

ユーリはパロレの隣にやってくると、

「バジリコさんと、バトルコロッセオでマルチバトルに挑戦しようという約束をしたんです。自分以外の人とタッグを組んで勝ち進むことって、とても難しくていい訓練になると思うので……」

真面目な声でそう言うユーリに、パロレは笑いかけた。

「そうだったんだ!ぼくも大体同じ感じだよ。アルセアさんと戦う予定。昨日はアルセアさん予定があったみたいだから今日になったんだ。こっちはシングルバトルだから、敵同士だけどね」

「そうだったんですね。バジリコさんも昨日は用事があると言ってました。……お二人、すごく仲がいいですよね」

「ん?あー、だって、幼馴染だもんね!」

よく分かっていない様子のパロレの言葉に、ユーリは曖昧に微笑んだ。

「あ!もしかして!おーい、パロレー、ユーリー!」

またも聞き覚えのある声がして、パロレとユーリは同時に振り向いた。クオレが、大きく手を振ってこちらへとやってきている。

パロレとユーリは思わず顔を見合わせて、それから笑った。
 ▼ 456 AYr1xkow/g 18/03/01 23:38:55 ID:CwlvJfq. [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「おはようございます、クオレ」

「クオレは、どうしたの?」

パロレの隣にやってきたクオレは、ニコニコ笑顔で答える。

「あのね!フェルマータ島には、本土にもダ・カーポ島にもいないポケモンがいっぱいいるんだって!だからねぇ、そのポケモンたちにアキニレさんと会いに行くの!」

「えっ?ぼく、そんなの聞いてないよ!」

パロレが思わず素っ頓狂な声を上げた。

「パロレはどうせバトルに夢中でポケモンゲットは二の次だからなって、アキニレさん言ってたよ!」

クオレがからかうように言う。パロレは少し気まずそうな顔をした。確かに、ここ最近は新しくポケモンを捕まえていない。

なんだか、急に笑えてきた。

いつかはそれぞれ違う世界に行ってしまうのかもしれないけれど、ぼくたちはまだ一緒だ。結局一緒なんだ。パロレはそう思った。進む道が違くとも、パロレとクオレとユーリは仲間だ。それは、決して変わらない。

「よう、待たせたな!おっ、全員集合してんな」

そう言って、準備を終えたヒマワリが戻ってきた。

「よーし。お前ら、アタシの船に乗せてやる!未知の世界に向かう覚悟は出来てっか?」

ヒマワリの言葉に、三人は同時に頷いた。

「はいっ!!」
 ▼ 457 AYr1xkow/g 18/03/01 23:39:41 ID:CwlvJfq. [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
まだまだ、やりたいことはたくさんある。

まずはバトルコロッセオへの挑戦だ。

それに、落ち着いたら、またポケモンを捕まえよう。きっと、新しい発見がたくさんあるはずだ。

アルセアには、少なくとも一回……いや、二回は勝たないと気が済まない。

そして、いつかはアモル地方の外に出て、見知らぬ地方を旅してみたい。

ワクワクすることだらけだ。未来には、希望が待っている。

辛いことや苦しいことも、たくさんあるだろう。でも、ポケモンたちといれば、怖くない。大丈夫だ。

そして、いつか結婚して子供ができたら、こう言ってあげよう。ぐずぐずしていたら、冒険は始まらないのだから。

「ほら、早く起きなさい!」って。


〈了〉
 ▼ 458 ランブル@しめつけバンド 18/03/01 23:41:12 ID:c2AhdS86 NGネーム登録 NGID登録 報告

素晴らしい
オリジナル地方で1番好きだった
 ▼ 459 ースター@ヨプのみ 18/03/01 23:41:34 ID:patmvBUg NGネーム登録 NGID登録 報告
乙!
ゲームでやりたいこれ
 ▼ 460 イゼル@ミュウツナイトX 18/03/02 00:04:57 ID:eSuYYV0U NGネーム登録 NGID登録 報告
アルセアさん好き
 ▼ 461 AYr1xkow/g 18/03/02 00:15:13 ID:UJkF2XOw NGネーム登録 NGID登録 報告
読んでくださった皆様、ありがとうございました!
今回は、前に書いていたSSのリメイクを書くにあたって、殿堂入り後のストーリーも追加してみました。ちなみにこのストーリーは、パロレをジムリーダーたちと再戦させたい→それならジムリーダーもメガシンカを使った方が盛り上がるよなぁ…→でもメガシンカを使える人は今のところ一人しかいないっていうのが鍵だからどうしよう?→それじゃあみんながメガシンカを使えるようになる話を作ろう!というような経緯で出来ました。
キャラの名前や性格、ストーリーも、「本当にゲームに出てきそう!」と思えるようにしました。これらの設定を考えるのもとても楽しかったです。読んでくださった皆様にも楽しんでいただければ幸いです。
最後までお付き合いくださり、本当にありがとうございました!
 ▼ 462 タージャ@インドメタシン 18/03/02 13:41:39 ID:suSbxSeA NGネーム登録 NGID登録 報告
博士が黒幕という展開をSSで見られるとは思わなかった
 ▼ 463 クライ@エレベータのキー 18/03/14 13:27:42 ID:XggVqwDA NGネーム登録 NGID登録 報告
こういうオリジナル地方もありだな
 ▼ 464 ンジャラ@せんせいのツメ 18/03/28 10:44:16 ID:P3BCgpXc NGネーム登録 NGID登録 報告
今読み終わった…面白かった
今さらだが乙
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