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【SS】リーグ挑戦者のバッジを数える仕事をやっています

 ▼ 1 ガニウム@クチートナイト 18/09/18 19:48:40 ID:.OKgF5n2 [1/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



「コールバッジ、フォレストバッジ、コボルバッジ、フェンバッジ……」


よく磨かれた金属面をコン、コン、カン、カンと爪で弾きつつ、バッジの名前を列挙していく。


少年「…………!」


俺より4つは年下であろう挑戦者と彼の手持ち3匹は、頭をずいっと突き出し、緊張の面持ちで俺の人差し指をガン見している。



ここはシンオウポケモンリーグ挑戦の入り口。

そして俺はその栄誉ある門番を務めるエリートトレーナー。

時給は最近30円アップして980円だ。
 ▼ 2 ラカラ@あくのジュエル 18/09/18 19:49:54 ID:.OKgF5n2 [2/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ジムバッジが本物であることを音で確かめながら、8つ数える。

勤務内容はただこれだけであり、やってることはフレンドリィショップのレジ打ちと大差ない。

しかし挑戦者がこうも真剣だと自然と気合が入ってしまう。


「レリックバッジ、マインバッジ、グレイシャバッジ……」


カン、カン、キン。

そして最後の一つの確認は運動会の玉入れよろしく、若干溜めて、


「……ビーコンバッジ!!」


クォン。

これまでより一際強く、しかし微妙に濁った低い音が響いた。

お前、さては途中でバッジ磨くの飽きたな……?
 ▼ 3 ーマンダ@リーフのいし 18/09/18 19:50:32 ID:.OKgF5n2 [3/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「よし。公認バッジ8つ確認! シンオウポケモンリーグ挑戦の資格を認める!」

少年「うあ…………!」


少年は目をいっぱいに輝かせてポケモンたちとしばし見合い、


少年「よしっ!!!!」


そして渾身のガッツポーズ。

んな大袈裟な、などとは思わない。

俺だって初めて挑戦しに来た時は、相棒コロトックとハイタッチを交わして流血したものだ。
 ▼ 4 レキブル@きぼんぐり 18/09/18 19:51:01 ID:.OKgF5n2 [4/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「キズぐすりは持ったか?」

少年「持ちました!」

「げんきのかけらは?」

少年「持ちました!」

「とっておき、ふくつのこころは?」

少年「えっ……急にどうしたんですか?」

「あ、いや……なんでもない」


シンオウ民のソウルソングだと思ってたのに……。
 ▼ 5 ロトック@オボンのみ 18/09/18 19:51:36 ID:.OKgF5n2 [5/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


頑張れよー、と少年を見送ったところで、左腕のポケッチがピピッと小気味良い音を鳴らした。

おっと、午後3時。終わりの時間だ。

ふはーっと息を吐き出しつつ振り向くと、シフト交代先の先輩がいた。


先輩「ふくつのこころ、ねぇ。確かに大事よね。ネタは通じなかったみたいだけど」

「ジェネレーションギャップっすねぇ……なんかショック」

先輩「あなたはいいの? 今年の挑戦権、まだ使ってないでしょ?」

「いいんすよ。それじゃ、上がりっす」

先輩「お疲れさま。それじゃ……これからバトル練? 頑張ってね」

「んー……まぁ、アイツの試合見たら、ぼちぼち。 おつかれさまでしたーっ」
 ▼ 6 ナアーラ@ハートスイーツ 18/09/18 19:52:39 ID:.OKgF5n2 [6/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

勤務地から徒歩6秒の位置にあるロビーのソファーの右端に、どさりと腰を落とす。

それを合図に俺の手持ちポケモンたち3匹がボールから飛び出し、たちまちソファーは満席になった。

そして俺と3匹の視線は目の前の画面に注がれる。

壁に埋め込まれたモニターには、先ほどの少年と、一人目の四天王であるむし使いのリョウが映っていた。

ポケモンリーグの試合は全て、ここからリアルタイムで観戦することができる。

バッジ確認バイトで送り出した挑戦者の試合を、手持ちポケモンとともに眺めるのが俺の日課だ。
 ▼ 7 ゾノクサ@ジュカインナイト 18/09/18 19:53:34 ID:.OKgF5n2 [7/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





「うおっ! いいの入った!!」


少年の手持ち、フローゼルのアクアジェットがついにドクケイルを沈めた。


ムクホーク「くぉーっ! くっくっ!」

レントラー「とらー!!」


少年の善戦に俺の手持ちたちも盛り上がる。
 ▼ 8 ザードン@れいかいのぬの 18/09/18 19:54:16 ID:.OKgF5n2 [8/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

だが少年の不利は明らかだった。

片や、3匹中2匹を失い、残るフローゼルもどく状態かつダメージあり。

片や、5匹中の3匹を無傷で残し、エースも見せていない四天王・リョウ。


「はぁー……流石にキツいな。でもま、よくやった方……」

コロトック「ちちっ! ころろろろっ!」


鎌を振り上げるコロトック。
どうやら俺のため息がお気に召さなかったようだ。


「まだフローゼルの目は死んでねーってか」

コロトック「……ちちっ」
 ▼ 9 ルッグ@リリバのみ 18/09/18 19:55:24 ID:.OKgF5n2 [9/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

そう言っている間にも、ドラピオンのシザークロスがフローゼルに迫る。

しかしフローゼル、これを超反応の横っ飛びで回避。


「おおー!」「くぉー!」「とらー!」


これには俺たちも揃って嘆息。


コロトック「ころろっ!」


どうだ見たか、とコロトック。

お見それしました。
 ▼ 10 ブト@プテラナイト 18/09/18 19:56:11 ID:.OKgF5n2 [10/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

横っ飛びで流れた姿勢だが、フローゼルの顔はドラピオンを正面に捉えている。


「おーすげぇ体幹。流石に鍛えてんな」


シザークロスの空振りでできたドラピオンの僅かな隙。
そこを逃さずフローゼルから放たれる渾身の大技。

ハイドロポンプ!


「かませぇ!!」


……が、外れた。


コロトック「ころォーーーー!?」


流石は手練れのドラピオン。
咄嗟の判断で頭を下げていた。
 ▼ 11 ルーグ@きれいなハネ 18/09/18 19:57:49 ID:.OKgF5n2 [11/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ここでの外しはキツい……ってかあんだけ攻めたハイポンじゃなくて、まず当てに行くべきだったろ……!」

先輩「いや、ここは攻めざるを得ない場面よ。毒状態で残り3匹相手にするんだもの。
   外すリスクなんて考えてられないわ。あと、ハイポンじゃなくてドロポンね」

「いんや、どのみちハイポン1発じゃ落とせないでしょ。 っていうか先輩シフトはどうしたんすか」

先輩「一日3人くらいしか来ないのにずっと立ってるのってバカバカしくない?
   ねーレントラー?」

レントラー「とらぁー」


いつのまにかソファーに座っていた先輩は、膝に乗せたレントラーを撫でながら試合を観戦していた。

……そいつ、42kgなんですけど……。
 ▼ 12 ラブ@ながねぎ 18/09/18 19:58:39 ID:.OKgF5n2 [12/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



結局あのハイポン外しから流れが変わることはなく、試合は四天王の圧勝で幕を閉じた。


先輩「んー、残念。また来年ね……」


先輩が眉をハの字にしてため息を漏らす。

リーグへの挑戦は1年に一人一度と決まっている。
四天王やチャンピオンからの推薦でもあれば話は変わってくるが、あの試合展開では期待できそうもない。

というか、そもそも。


「……アイツ、まだ続けられますかね……?」


こんなにも高い壁を知って、心は折れないものだろうか。
 ▼ 13 ザード@なぞのすいしょう 18/09/18 19:59:24 ID:.OKgF5n2 [13/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

先輩「はぁ……。あのねぇ」


深いため息をついて、先輩が話し始めた。
何かを察知したのか、レントラーがそそくさと先輩の膝から飛び降りる。


先輩「あなたが根性なしだからって、あの子まで根性なしとは限らないでしょ」

「誰が根性無しですか。俺が去年リーグ挑戦権使わなかったのは──」

先輩「──『情報を四天王に与えないため』……だっけ?」


せせら嗤いを浮かべ立ち上がり、どうしようもない人間を見る目でこちらを見下す先輩。

このアマ……会話の主導権を握ってやがる……!
 ▼ 14 ゾノクサ@ぎんのはっぱ 18/09/18 20:00:10 ID:.OKgF5n2 [14/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「う……。そうっすよ。まだ勝てないの分かってて、わざわざ策を晒しに行くのは無意味であって……」

先輩「あーはいはい。そんで今年も来年も出ないんでしょう? そーいうのを根性無しっていうのよ」


下唇を噛んだ。

ぐうの音は出そうと思えば出せそうだが、即座にパーを出されるのは目に見えている。

反論はしまっておくのが賢明だろう。
 ▼ 15 クフーン@エレベータのカギ 18/09/18 20:00:48 ID:.OKgF5n2 [15/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「なんなんすかさっきから……辛辣っすね」

先輩「だって、コロトックたちが見ててかわいそうだもの。こんなエリートフリーターに付き合わされるなんて」

「エリートフリーターてなんすか」

先輩「ポケモンリーグ諦めてる人がエリートトレーナーなんて名乗れるもんですか。あなたは今やバトルが趣味のフリーターよ」

「…………」


……今度はぐうの音も出せそうにない。

エリートトレーナー。
バトルで結果を出そうとする者、バトルで生計を立てようとする者の総称だ。

今の俺はバッジ8つ止まりで、四天王を1人すら突破できない程度の実力で、現実も限界も見えていて。

──けれど、それに絶望しているわけでもなく、抗っているわけでもない。

むしろ、このまま気ままにやって行くのもいいかな、なんて思っている。
 ▼ 16 デンネ@しろいハーブ 18/09/18 20:01:46 ID:.OKgF5n2 [16/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……はは」


思わず乾いた笑いが漏れた。


「エリートフリーター。いいっすねその呼び名。名乗っていきましょうか」

先輩「はぁ!?」

「いいじゃないっすか……趣味でも」

先輩「……自白したわね根性無し。この……ヘタレフリーターッ!」

「はっ、なんとでも言ってくださいよ! 俺は根性無しのヘタレフリーター! バッジを数えて生きる者!! 」
 ▼ 17 ンパン@ムーンボール 18/09/18 20:02:44 ID:.OKgF5n2 [17/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


どうしようもない宣言がポケセンに響いたっきり、誰も喋らない。

途端に、ポケセンの陽気なBGMが嫌にうるさく感じる。
 ▼ 18 ディバ@ブルーカード 18/09/18 20:03:17 ID:.OKgF5n2 [18/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

俺をキツく睨みつける先輩。
その目尻には涙が滲んでいる。

レントラーは俺の足元に隠れて怯えている。

コロトックは先輩と一緒にこちらを睨みつけている。

ムクホークは激しい光に包まれてい……

……ってこれゴッドバードの前動作じゃねぇか!


「ストーップ!」


慌ててムクホークをモンスターボールに戻す。

危ねぇ、両成敗されるところだった。
 ▼ 19 ガフシギバナ@ギネマのみ 18/09/18 20:04:30 ID:.OKgF5n2 [19/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……喧嘩は、やめましょうか。ムクホークが怒ってる」

先輩「……っ! もう、勝手にすればいいじゃないっ!」


先輩はそう叫んで走り去る──

──ということはなく、バッジ確認バイトの定位置に着いた。

……そうね。今バイト中っすもんね。
 ▼ 20 ーバーン@いでんしのくさび 18/09/18 20:05:32 ID:.OKgF5n2 [20/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ここは俺たちがポケセンを離れるのが筋だろう。


「……チャンピオンロード、行くか。野良バトルでもしよう」

レントラー「とらぁ……」

コロトック「ころろろ……」

「…………。ごめんな」


思わず目を背け、謝った。

何を謝っているのかは、自分でもよく分からなかった。
 ▼ 21 ジョッチ@かなめいし 18/09/18 20:06:34 ID:.OKgF5n2 [21/21] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



──拝啓、バトルの神様。


もうかれこれ4年くらいになりますかね。

リーグ挑戦者のバッジ数える仕事をやっています。

最初は週2だったこのバイトも、今じゃ週5になりました。

バトルの神様、俺はそんなにダメですか。

何かを諦めることは必ずしも悪いことですか。

あの少年は報われますか。

先輩はあと何度の挑戦でチャンピオンにたどり着きますか。

……俺は、これでいいんですよね?
 ▼ 22 もリー◆woBJ.2LDUY 18/09/18 20:35:36 ID:PZ6ECQbc NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援です
 ▼ 23 aIiv212DRk 18/09/19 22:03:54 ID:Kux2B80k [1/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



「あ"っづぅ……」


まだ夕方というにも早い時間、外はかんかん照りだった。

いくらシンオウの最果てとはいえ、やはり夏は暑い。

俺は逃げ込むようにチャンピオンロードの中へ駆け込み、そのまま手頃な岩に腰を下ろした。
 ▼ 24 aIiv212DRk 18/09/19 22:05:13 ID:Kux2B80k [2/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



洞窟の中は幾分か快適だった。

奥の方からはバトルの指示やら炸裂音やらが聞こえてくる。

ここには居られないと思った。


「……なぁ。今、戦うって気分じゃねーよな」


我ながらクソみたいな質問をしていると思う。

その証拠にムクホークはボールから出てこないし、コロトックは洞窟の奥を見つめたまま目を合わせてくれない。


レントラー「……とらぁ……」


少し間を開けて、レントラーがおずおずと頷いた。
もしかすると俺に気を遣ったのだろうか。
 ▼ 25 aIiv212DRk 18/09/19 22:06:33 ID:Kux2B80k [3/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……戻ろう。目と目があったら最悪だ」


嫌に重い体を持ち上げて立ち上がり、出口へと歩き出す。

……足音が足りない。


「コロトック。……戻るぞ」

コロトック「…………」


強情かよ。

……って、俺が言えたことじゃねぇわな。


動かないコロトックと、それを気にかけるレントラーを半強制的にボールに引き戻し、洞窟を出た。
 ▼ 26 ローン@かみなりのいし 18/09/19 22:07:29 ID:ZYG2NAd. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
題名で笑わせに来たかと思ったらシリアスなのか・・・
 ▼ 27 aIiv212DRk 18/09/19 22:07:29 ID:Kux2B80k [4/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

結局すぐ戻ってきてしまったポケセンには、当然バイト中の先輩がいた。

今まで適当にはぐらかしていたが、いざ自分に戦う気がないことを言葉にして認めてしまうと、やはり後ろめたい気持ちが募る。

極力先輩と目を合わせないようにして、二階の宿泊スペースに直行した。

同じバイトをやってる都合上今後も会うことは避けられない。

折り合いつけないとなぁ、と思うし、折り合いなんかつけてやんねぇ、とも思う。
 ▼ 28 aIiv212DRk 18/09/19 22:08:30 ID:Kux2B80k [5/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



大部屋に2段ベッドが8組詰め込まれたポケセン宿舎には、挑戦前のトレーナーや、挑戦を終えたトレーナーがめいめいに陣を取っている。

闘志を燃やしているのが挑戦前のトレーナーで、絶望してるのが挑戦後のトレーナー。

どちらでもない場合は、惰性でここにいるトレーナーである。

どちらでもない人間であるところの俺は、周囲と比較して圧倒的な生活感が漂ういつものベッドに仰向けに寝転んだ。
 ▼ 29 aIiv212DRk 18/09/19 22:09:46 ID:Kux2B80k [6/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

2段ベッドの上の段からは、ペンを走らせる音に混じり、押し殺したような涙声が聞こえてくる。


少年「勝てない、相手じゃなかった……っ。攻撃は……っ通用、してたから」

フローゼル「……ぜるっ」

少年「後手に、回りすぎたんだ。ミミロップ の速さなら、後ろを……っ取れたはずで……」

ミミロップ 「みぃろ……!」



ここで暮らすうちに慣れてしまって気にも留めなくなった、敗北者の涙。

それなのに今日は耳を塞ぎたくなってしょうがない。
 ▼ 30 aIiv212DRk 18/09/19 22:12:07 ID:Kux2B80k [7/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

少年は、来年もまだ挑戦する気なのだろうか。

まだ諦めていないと、自分自身の頭に言い聞かせているようにも聞こえる。

……それは昔の俺がそうだったからか。

だから、苛立ってしまうのか。
 ▼ 31 aIiv212DRk 18/09/19 22:14:28 ID:Kux2B80k [8/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

少年「“むしのさざめき”も、正面じゃなきゃ、大したダメージ、は出ない……っ」


少年はなおもペンを走らせ、作戦を並べ立てる。


少年「相手は、大した……っ速さじゃない」


まるで、思考の隙間に絶望が入ってくるのを拒むように。


少年「スピードで、裏を……取るんだ……っ」

「速度で勝てても裏は取れねーぞ」

少年「へっ!?」

「っあ……」


思わず口をふさいだ。
何余計な口出ししてんだ俺は。
 ▼ 32 aIiv212DRk 18/09/19 22:15:59 ID:Kux2B80k [9/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

少年「あ、バッジ確認の……」


少年が上のベッドの淵からひょこりと頭を出した。


「……よう」


目をそらしつつ、雑に挨拶する。


少年「……裏は取れないって、どういうことですか」

「自分で考えろい」

少年「えー……」


まぁ、いきなり口出ししといてそりゃねぇわな。
えーってなるのも分かる。
 ▼ 33 aIiv212DRk 18/09/19 22:19:23 ID:Kux2B80k [10/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「あー……。スピードで勝ってても、複眼の視野とか触覚のセンサーで反応されんだよ」


仕方ないのでざっくりと答える。


少年「確かに……攻撃が全然当たりませんでした。こっちの方が明らかに速いのに」

「アイツらに死角はないからな。スピードを活かすなら、変に位置取り考えるよりは単純に攻撃回数増やした方がいい」


そうしないと挑戦2回目の時の俺みたいになる。


「なるほど……」


そんな苦々しい俺の体験談など知る由もなく、少年は熱心にペンを走らせていた。
 ▼ 34 aIiv212DRk 18/09/19 22:22:54 ID:Kux2B80k [11/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

少年「じゃあ……“さざめき”はどうやっても避けれないってことですか?」

「んー……まぁ基本そうだな。お前、メスのポケモンは持ってるか?」

ミミロップ 「みぃろ?」


ベッドの淵からミミロップが顔を出した。


少年「こいつがメスですけど……」

「んじゃ、“ゆうわく”とか。ドクケイルもアゲハントもオスだから、“むしのさざめき”の威力が下がる」

ミミロップ 「みー……」


すげぇ露骨に嫌そうな顔すんなぁ、オイ。


少年「嫌、だそうです」

フローゼル「ぜる、ぜる」


見りゃ分かるよ。
 ▼ 35 aIiv212DRk 18/09/19 22:24:17 ID:Kux2B80k [12/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

少年「っていうか、あのドクケイルメスじゃありませんでした?」

「え、嘘」

少年「嘘じゃないですよ。ほら」


そう言って少年が再生したバトルビデオには、確かに頭の触覚が短めのドクケイルが映っていた。


「あら? っかしいな……。おーい、コロトックー」


同じくむしポケであるコロトックに聞いてみようと、ボールの中を覗き込む。

……って寝てる。なんだよ、ふて寝か?


少年「見間違いじゃないですか? まぁ、どっちにしろ“ゆうわく”は使わないですけど」

ミミロップ 「みみろっ」
 ▼ 36 aIiv212DRk 18/09/19 22:25:43 ID:Kux2B80k [13/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



結局、少年とのバトル反省会は夜まで続いた。


どちらかといえば速やかに諦めて普通の人生のレールに戻って欲しいと思っていたはずなのに、
いつになく長々と語ってしまった。

……やっぱ諦めて欲しくないかもしれない。

なんにせよ、来年も挑戦するかどうかは少年自身が決めることではあるのだが。
 ▼ 37 aIiv212DRk 18/09/19 22:27:57 ID:Kux2B80k [14/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



ポケッチの目覚ましが鳴り響いた。

同室に泊まっている何人かのトレーナーに配慮すべく、アラーム音を瞬時に止める。

そして再び目を閉じる。


ムクホーク「ほーくくっ!」

「ぐへっ!?」


直後、ムクホークに枕を引きぬかれた。


「あーもう、いつも言ってんだろ! あと5分って言うために5分前に目覚ましかけてんの!!」


ムクホーク「くくっ! むくくっ!」


ムクホークは俺の言い分など御構い無しに、ベッドに転がっているボールをつついて残り2匹も起こしていく。
 ▼ 38 aIiv212DRk 18/09/19 22:28:44 ID:Kux2B80k [15/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

レントラー「……とらぁ」

コロトック「ころろー……」


レントラーはともかく、コロトックまであくびをしているのは珍しい。

普段はムクホークと一緒になって起こしに来る方なんだが。
 ▼ 39 aIiv212DRk 18/09/19 22:29:37 ID:Kux2B80k [16/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……まぁ、起こされたもんは仕方がない。今日のシフトは午後からだし、とりあえず──」

レントラー「……とらぁ?」


野良バトルでもしに行こう。

と言いかかけたところで、俺は昨日エリートトレーナーをやめ、ヘタレフリーターになったことを思い出した。

リーグ挑戦の意思は2年くらい前にはなくなっていたし、毎日のバトルだって、やることがないから続けていただけな気がする。

けれど、それを口に出してしまったのは昨日が初めてだ。

これで名実ともにバトルがただの暇つぶしになってしまった。
 ▼ 40 aIiv212DRk 18/09/19 22:30:57 ID:Kux2B80k [17/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

……別にいいじゃねぇか。それでも。

なんだかんだ、楽しいからな。

楽しくなきゃこんな長いこと続けてないからな。

そんで、楽しいからやっていることは趣味だ。

何も間違っちゃいない。
 ▼ 41 aIiv212DRk 18/09/19 22:32:18 ID:Kux2B80k [18/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……バイトまで、今日もバトルしに行こうぜ」


いつも通りの日常の始まり方。

けれど、昨日までとは違う意味になった過ごし方。


ムクホーク「……くっく」

レントラー「とら……」


ムクホークは不服そうだし、レントラーは悲しそうだった。
 ▼ 42 aIiv212DRk 18/09/19 22:33:21 ID:Kux2B80k [19/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

コロトック「…………」


コロトックは、俯いて黙ったままだ。

拗ねているんだろうか。


「……行くぞ、コロトック」

コロトック「…………ころぉ」


コロトックは小さく鳴くと、少し歩いて自分のボールの開閉スイッチを押した。

コロトックが中に吸い込まれ、ボールは軽い音を立てて床に転がった。


「んだよ……」
 ▼ 43 aIiv212DRk 18/09/19 22:34:25 ID:Kux2B80k [20/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


誰だってそうだ。

俺だってそうだ。

諦めるのは、諦めないのと同じぐらいには恐ろしく、難しく、息苦しい。

だから今まで言葉にするのを避けていたんだと、
どっちつかずな日々を過ごしてきたんだと、今更になって思う。
 ▼ 44 aIiv212DRk 18/09/19 22:35:26 ID:Kux2B80k [21/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



結局午前中、俺たちは野良バトルでことごとく敗北した。

コロトックはバトルに出てすらくれなかった。

精神的な支柱としてパーティを引っ張っていたコロトックが、こういうことになったのは初めてかもしれない。

それほど昨日の俺に納得いかなかったのだろうか。

……気ままに楽しく生きていた昨日までの日常はもう帰ってこないのかもしれない。
 ▼ 45 aIiv212DRk 18/09/19 22:36:07 ID:Kux2B80k [22/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……先輩、交代です」

先輩「…………」


シフト交代の時間。
懸念通り、先輩はまだ怒っていた。


「あの……まだ怒ってますか」

先輩「当たり前でしょ」


俺はアホか。なんで分かってるのに聞いたんだ。
 ▼ 46 aIiv212DRk 18/09/19 22:37:10 ID:Kux2B80k [23/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「でも……誰だっていつかはこうなるじゃないっすか。目指した全員がプロになれるわけでもなしに」

先輩「そうね」

「だから、その……早いか遅いかでしかないっていうか」

先輩「そうね」

「ああいや、別に、先輩のことを否定してるとかじゃ──」

先輩「私が言いたいのはそういうことじゃない!」

「っ!!」


先輩が声を荒げる。

ジョーイさんと店員さんがピクリと驚き、こっちを振り向いた。
 ▼ 47 aIiv212DRk 18/09/19 22:38:33 ID:Kux2B80k [24/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……じゃあ、どういうことっすか」

先輩「私が言ったら意味ない」

「ちょっと意味わかんないっすね。……大体、俺の人生っすよ。なんで先輩が怒ってるんですか」

先輩「……私バイト終わったし、もう行くわ」


取りつく島もない。

カツカツと足音を鳴らして、先輩は出口に向かっていく。

自動ドアの開く音に混じり、小さく「そういうところよ」と聞こえた気がした。
 ▼ 48 aIiv212DRk 18/09/19 22:39:33 ID:Kux2B80k [25/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



次の日も、また次の日も、ぎこちない日々が続いた。

手持ちとのコミュニケーションが上手くいかない。

コロトックは、なんとなくはいつも通りのコロトックに戻ったが、ふとした拍子に上の空だった。

わだかまりが無くなったわけではないらしく、時折ボールから出てこないこともあった。

バトルはやはり負けが続く。

先輩とはあれ以来口も聞いていない。

険悪すぎて、ポケモンセンターを利用した時にジョーイさんに心配されてしまった。
 ▼ 49 aIiv212DRk 18/09/19 22:40:19 ID:Kux2B80k [26/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



そして2週間が経ったある日。

それは起こるべくして、だが突然にやってきた。


 ▼ 50 aIiv212DRk 18/09/19 22:40:54 ID:Kux2B80k [27/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



その日も、いつも通りにムクホークに起こされて始まった。


「……今日も、行くか」


ここ2週間の続きにふさわしい、昨日と似たような一日になると思っていた。
 ▼ 51 aIiv212DRk 18/09/19 22:42:09 ID:Kux2B80k [28/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

コロトック「…………」

「……おーい、コロトック」

コロトック「…………」


返事がない。また拗ねてるのだろうか。


「……なんだよ、またかよ。……本当に置いてくぞ」


もちろん置いて行くわけもなかったが、コロトックに背を向けた。

その直後だった。
 ▼ 52 aIiv212DRk 18/09/19 22:43:49 ID:Kux2B80k [29/29] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ふらり。どさっ。

まるで何かがよろめいて倒れたかのような音が、ちょうど真後ろから聞こえた。


「え──」


振り返ると。


最初の道路からの俺のパートナーが

そこに倒れていた。


 ▼ 53 グマラシ@あさせのしお 18/09/19 22:44:52 ID:HQa.BSzc NGネーム登録 NGID登録 報告
安定のひねくれ主人公大好き

今回はどんなひねくれた解決策出すのかめっちゃ楽しみ
 ▼ 54 ブラーバ@ももぼんぐり 18/09/19 22:47:32 ID:22dc1qUA NGネーム登録 NGID登録 報告
(・^・ * )
 ▼ 55 イコウオ@ハートスイーツ 18/09/19 22:48:23 ID:KeMA7dHw NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 56 aIiv212DRk 18/09/20 20:02:59 ID:iov6IiL6 [1/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




「ジョーイさん。コロトックは……」


病室から出てきたジョーイさんに、コロトックの容体を訪ねる。

ジョーイさんはこちらをまっすぐに見据え、深刻な顔で口を開いた


ジョーイ「…………夏バテね」

「夏バテかいっ!!」


思わず突っ込んでしまった。

いや、よかったけども。
 ▼ 57 aIiv212DRk 18/09/20 20:04:03 ID:iov6IiL6 [2/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「よかった……。なんだ、夏バテか。なんだよ……よかった……。おどかさないでくださいよ、もう……」

ジョーイ「…………」


俺はもう十分に驚いたのだが、ジョーイさんは未だに深刻な顔のままだ。


「……ジョーイさん? え? ただの夏バテなんですよね?」

ジョーイ「病状を説明するとしたら、夏バテよ。……だけどね。よく聞いて」


まさに医療ドラマにでもありそうな口振りは、けれど紛れもない現実だった。


ジョーイ「……もう、あまり長くない」


一層深刻な響きを帯びた声が、冗談ではないことを裏付けていた。
 ▼ 58 aIiv212DRk 18/09/20 20:05:02 ID:iov6IiL6 [3/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

コロトックが眠っているであろう病室の壁をみやる。

長くないって、なんだ。


「それは……どう、いう……」

ジョーイ「あなた、むしポケモンの特徴は知ってる?」

「え……成長が早くて、進化が早い……ですよね?」

ジョーイ「それだけじゃないわ」


目を瞑って首を横に振り、躊躇いがちにジョーイさんは、


ジョーイ「……寿命も、短いのよ」


本当にどうしようもない事実を、俺に伝えた。
 ▼ 59 aIiv212DRk 18/09/20 20:06:21 ID:iov6IiL6 [4/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「寿命……って。なんですか、それ。おかしいじゃ、ないですか……」


何もおかしくないと頭では分かっても、頭じゃないどこかが受け付けない。

それがそのまま口から出た。


ジョーイ「……あなたがコロトックに出会ったのは、いつ?」


俺が旅を始めた時の、最初に捕まえたポケモンがコロボーシだった。
つまり……


「6年前……。だけど!」

ジョーイ「長かった方ね。早熟進化のむしポケモンは……平均5年よ」

「5年……って」
 ▼ 60 aIiv212DRk 18/09/20 20:06:47 ID:iov6IiL6 [5/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ジョーイ「特別な病気とかじゃないんだけどね。
     ……寿命が近づくと体が弱って、ちょっとしたことで大きく体調を崩すようになるの」

「ちょっとしたこと……っていうと」

ジョーイ「夏バテでも、ストレスでも。すごく大きな消耗になるのよ」

「…………そう、ですか」
 ▼ 61 aIiv212DRk 18/09/20 20:07:48 ID:iov6IiL6 [6/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


そう言われて、全て合点がいった。

呼んでも返事をしないことがあったのも。

バトルに出たがらない日があったのも。

拗ねていたからなんかじゃなかった。

あの日の俺の言葉がコロトックの心を傷つけ、それが体までを蝕んでいたのだ。
 ▼ 62 aIiv212DRk 18/09/20 20:08:27 ID:iov6IiL6 [7/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……どうすればいいですか。助けられますか」

ジョーイ「分かってるとは思うけど……治せるとかじゃないわ」

「……そうですよね」

ジョーイ「一緒にいてあげて。あの子の人生は、ずっとあなたのそばだったんだから」

「…………はい」
 ▼ 63 aIiv212DRk 18/09/20 20:09:35 ID:iov6IiL6 [8/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



ベッドに横たわるコロトックの寝顔を眺めながら、考える。


コロトックの人生。

ほとんどそのまま、生まれてから死ぬまで、という意味だ。

生まれてほどなくして俺に捕まえられて、それから今日まで俺の手持ちとして生き、そしてもうじき死ぬ。

お前の人生は、確かにずっと俺とともにあったに違いない。
 ▼ 64 aIiv212DRk 18/09/20 20:10:01 ID:iov6IiL6 [9/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

今更になって、コイツらと俺の時間の流れは違うということを自覚した。

とても恐ろしいことだと思った。

俺の人生のほんの一部に、それもこんな迷走甚だしい生活に、コイツらの全人生を巻き込んでいたことが、怖い。


ただ、毎日バトルをする日々が。

そしてそのバトルとすら正面から向き合わなくなった日々が。

コロトックにとってはその生涯の全て。


俺は、何をやってんだ。
 ▼ 65 aIiv212DRk 18/09/20 20:10:50 ID:iov6IiL6 [10/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



コロトックは、暫くは絶対安静だそうだ。

その日は先輩にシフトを代わってもらい、日が沈むまで病室にいた。

昼頃に一度コロトックが目を覚ましたので、何を言うべきか迷った挙句、「ごめん」とだけ伝えた。

するとコロトックは、悲しげな、寂しそうな顔で力なく笑い、そしてまた眠った。
 ▼ 66 メタマ@きのみジュース 18/09/20 20:12:02 ID:Pb6MZBco NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
スレタイの時点でろうにんだなと思ったら当たりだぜ
支援
 ▼ 67 aIiv212DRk 18/09/20 20:12:33 ID:iov6IiL6 [11/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




部屋に戻る気にもなれず、生ぬるい風の吹くポケセン前の庭に出た。

夜空には霞んだ雲がなびき、月の輪郭は曖昧だ。


「……なぁ」


レントラーとムクホークに向き合い、話す。

押し潰されるような胸の苦しさに逆らって、言葉を捻り出す。


「どうしたい。お前ら」


俺の手持ちとしてでなく、お前ら自身として。


「レントラー。ムクホーク。……お前らは、どうしたい」
 ▼ 68 aIiv212DRk 18/09/20 20:13:42 ID:iov6IiL6 [12/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「レントラー。争いごとが苦手なお前が、よくこんなとこまで付いてきてくれたよ」

レントラー「とらー……」


コリンクだった頃、攻撃技を使うことができずにいた。

普通にバトルできるようになった今でも、きっと心根はあの頃のままだ。


「……けど、別の何かを選んだっていいんだ」


「戦わなくても、いい」
 ▼ 69 aIiv212DRk 18/09/20 20:14:49 ID:iov6IiL6 [13/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ムクホーク。昔は『お前がエースだ』とか言って、プレッシャーかけてたよな」

「くほーく……」


不利な局面や強敵は、いつも強く冷静なコイツに託していた。

そして最後にリーグに負けた時からは、それすらもなくなった。


「これからはお前のやりたいように生きてくれよ」


「俺が昔与えた役割なんかに、縛られなくていいから」
 ▼ 70 aIiv212DRk 18/09/20 20:15:51 ID:iov6IiL6 [14/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

胸の奥が痛む。
けれど伝えなければならない。

何を選んだっていい。

野生に帰ったっていい。

俺がお前らの人生を奪い去る権利なんて最初からありはしないから。

だから。


「お前らが、選んでくれ」



胸の奥の正体不明の痛みは強まるばかりだ。

 ▼ 71 aIiv212DRk 18/09/20 20:16:41 ID:iov6IiL6 [15/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ムクホークとレントラーは、お互いに顔を見合わせ、頷いた。


そして。


「……っ!?」


真っ白な光がほとばしり、風が唸った。


ムクホーク「くぉぉ……ッ!」

レントラー「とらぁぁ……!」


ムクホークは白い光に、レントラーは電光に身を包み、こちらを力強く、まっすぐに見つめている。

紛れもなく、戦うという意思表示。
 ▼ 72 aIiv212DRk 18/09/20 20:17:39 ID:iov6IiL6 [16/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

2匹の視線を受け止めることはできそうもなかった。

下を向き、小さく言葉を零す。


「ああ……そうだよな……」


そうだ。

選びようがないんだ。

俺がそれしか与えてこなかったのだから。

そもそもそれしか選択肢を知らないのだから。

どうやら俺は、長い時間をかけて取り返しのつかないことをしてしまったらしい。
 ▼ 73 aIiv212DRk 18/09/20 20:18:15 ID:iov6IiL6 [17/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

思わず膝をつき、2匹を抱き寄せた。


「お前ら、ごめんな。……ごめん。本当に、すまなかった……!」


奪った日々は返せない。


コイツらは未来を選ぶことすらできない。

コロトックはもうすぐ力尽きる。


「ごめん、ごめん、ごめ──」
 ▼ 74 aIiv212DRk 18/09/20 20:19:01 ID:iov6IiL6 [18/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

先輩「『ごめん』じゃ、ないわよッッ!!」


後ろから怒声が飛んできた。


「先、輩……?」


振り返ると、つり上がった目に涙を溜めた先輩が仁王立ちしていた。
 ▼ 75 aIiv212DRk 18/09/20 20:19:28 ID:iov6IiL6 [19/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

先輩「6年も一緒にいたんでしょ!? この子たちのことが大事なんでしょ!? 」

先輩「しかも今、2匹がこんなに頑張って伝えようとしてくれたのよ!?」


先輩「なのに……!」


先輩「なんでこんなに簡単なことが分かんないのよっ!!」

 ▼ 76 aIiv212DRk 18/09/20 20:20:17 ID:iov6IiL6 [20/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

まさに力の限りという声で叫んだ先輩からは、大粒の涙が溢れていた。


簡単なことって、なんだ。


なぁ、ムクホーク、レントラー。

……コロトック。


「……俺は、どうすればいいっすか」

先輩「自分で考えなさいよっ……。だって、あなた……この子たちのトレーナーでしょ?」

「そう……っすね……」

先輩「そうよ……」
 ▼ 77 aIiv212DRk 18/09/20 20:21:07 ID:iov6IiL6 [21/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

会話の終着点を見失い、立ち尽くす。


少女「……あの」

先輩「っ!?」


ポケセンの入り口から少女が半分だけ顔を出し、恐る恐るこちらを見ていた。


少女「バ……バッジ確認、お願いしていいですか?」

先輩「あ、うん! ごめんね、まってて!」


先輩が少女の元へパタパタと走っていく。


少女「えっ、泣いてるっ!? あ、あのっ。あ、明日でもいいですよっ?」

先輩「いいからっ! 泣いてないから!!」
 ▼ 78 aIiv212DRk 18/09/20 20:21:43 ID:iov6IiL6 [22/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

あれ以上続けていたら俺も情けなさで泣いてしまいそうだった。

挑戦者の少女に感謝だ。


レントラー「とらー……」


レントラーが服の裾を引っ張っている。


「……そうだな、戻るか」
 ▼ 79 aIiv212DRk 18/09/20 20:23:02 ID:iov6IiL6 [23/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




ベッドに仰向けになって寝転ぶ。

2匹もまた、ボールに戻らず、俺の脇で丸くなった。


なぜそんな簡単なことが分からないのか、と先輩は言った。

答えは結構シンプルなんだろうか。

先輩は答えを知っている。

俺がバッジを数えてきた無数の挑戦者たちもみんな、知っているのだろう。

もしかすると、かつての俺も知っていたことなのかもしれない。
 ▼ 80 aIiv212DRk 18/09/20 20:23:38 ID:iov6IiL6 [24/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……ムクホーク。レントラー」

ムクホーク「くぅ」

レントラー「……とら」


ベッドの天井を見上げたまま、呟いた。


「お前らがこのパーティにいる理由って、なんだ?」


答えは返ってこない。

ただ2匹の温もりがそこにある。
 ▼ 81 aIiv212DRk 18/09/20 20:24:49 ID:iov6IiL6 [25/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「もしかして……だけどさ」


誰もが知ってる簡単な答え。

難しい理屈は必要ない。

──この胸の痛みを、信じて。


「……俺と同じ、なのかな」


温もり2つは、その身を静かにこちらに寄せた。


 ▼ 82 aIiv212DRk 18/09/20 20:57:00 ID:iov6IiL6 [26/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



夜が明けて、午前9時。

ポケセンの開放時間直後に病室の戸を開くと、顔にいくらか生気を取り戻したコロトックが俺たちを出迎えた。


「コロトック。俺……」


昨日の夜、決めたこと。


「……やっぱり、戦うからな!」
 ▼ 83 aIiv212DRk 18/09/20 20:57:37 ID:iov6IiL6 [27/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

コロトック「ちち……」


俺の決意表明を聞いたコロトックは、少し驚いてから、


コロトック「……ころっ!」


ニッコリと笑ったのだった。
 ▼ 84 aIiv212DRk 18/09/20 20:59:10 ID:iov6IiL6 [28/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




先輩「やっと、来たのね」


やれやれ、とでも言いたげな顔をした先輩に、ところどころ擦れて色落ちしたバッジケースを差し出す。


「……はい。バッジ、数えてくれますか」

先輩「しょーがない。数えてあげるわ」


先輩はそう言って、上列左端のバッジから順に、ゆっくりと弾き始めた。
 ▼ 85 aIiv212DRk 18/09/20 20:59:52 ID:iov6IiL6 [29/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

一つ金属音が響くごとに、かつて巡ったジム戦の記憶が脳裏に蘇る。


あまりにも相性が悪すぎて、バトル後に俺と3匹でひたすら号泣した日。

ムックルが進化からの大逆転劇を見せた日。

相手のエースルカリオに破れ、1週間かけて練り上げた3匹がかりの作戦でリベンジした日。

水の足場を伝う電撃の痺れにひたすら耐えながら戦った日。

バトルするために問題をあえて間違えたら、コロトックに怒られた日。

かつて大苦戦したヒョウタの父親がジムリーダーだと知ったムクホークが、張り切ってインファイトをぶっ放した日。

雪玉の仕掛けを素手で攻略し、ジム戦後に全員で風邪をひいた日。

エレキフィールド上でのスパーク合戦を、俺たちのレントラーが制した日。
 ▼ 86 aIiv212DRk 18/09/20 21:01:06 ID:iov6IiL6 [30/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

辛いことも割と多かったバッジ集めを続けていたのは、ポケモンリーグ制覇の目標があったからだろうか。

……いや、違う気がする。

当時のそれは目標というより、幼い子供が特撮ヒーローを夢見るようなものだったように思う。

それよりも、
コイツらと一緒に旅ができること。
コイツらと一緒に何かに熱くなれるということ。

それが俺の旅の本質だったんじゃないだろうか。
 ▼ 87 aIiv212DRk 18/09/20 21:02:19 ID:iov6IiL6 [31/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


先輩「ふう……」


磨き立てのバッジの8音階を奏で終えると、先輩は一息吐き出した。


先輩「……何がしたいかより、誰と一緒にいたいかよね」

「そうっすね。で、どうせ一緒にいるなら、みんな笑ってられる方がいい」

先輩「そういうこと。簡単だったでしょ?」

「俺には……割と難問でしたかね」
 ▼ 88 aIiv212DRk 18/09/20 21:05:09 ID:iov6IiL6 [32/32] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


先輩がスイッチを操作すると、リーグへのゲートが開いた。


先輩「さ。行って来なさいな」

「……はい!」




コイツらと笑えるなら、どんな未来を選んだっていい。

それはたとえバトルじゃなくても構わない。

けれど、今ここで俺たちの6年間に決着をつけない限り、その未来に影が残り続けるだろう。


……さあ。


行こう!!
 ▼ 89 ょげぴー◆beDOUTEIis 18/09/20 21:25:00 ID:fy0IA/K. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
面白い
 ▼ 90 ロデスナ@ラッカのみ 18/09/20 22:34:39 ID:PO62X5Jo NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
なぞのばしょに入るなよ...
 ▼ 91 aIiv212DRk 18/09/24 22:09:09 ID:GpuQHW36 [1/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




ムクホーク「クゥ……ホーク!!」


ムクホークの“ブレイブバード”が、ドクケイルの懐ど真ん中を射抜いた。


ドクケイル「ど、……っけ……。」


ドクケイルが力なく地に落ちる。

審判が戦闘不能の判定を下した。
 ▼ 92 aIiv212DRk 18/09/24 22:09:55 ID:GpuQHW36 [2/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

リョウ「アゲハントとドクケイルにストレート勝ちかー。やるね、キミのムクホーク」


四天王は、序盤からリードを奪われつつも余裕げだ。


「強いですから、うちのムクホークは」

リョウ「……けど」


百戦錬磨の四天王は不敵に笑う。


リョウ「もうブレバを使う体力はない」


……図星だ。
 ▼ 93 aIiv212DRk 18/09/24 22:10:21 ID:GpuQHW36 [3/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

リョウ「いっておいで、ヘラクロス。今度はボクらがアイツを地面に叩き落としてやろう」

ヘラクロス「ヘラァッ!!」


鈍く輝くツノを高く掲げて、ヘラクラスが吠えた。
 ▼ 94 aIiv212DRk 18/09/24 22:11:13 ID:GpuQHW36 [4/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

リョウ「ヘラクロス、“メガホーン”ッ!」

ヘラクロス「クロォッ!」


ツノを巨大な戦槍と化し、ヘラクロスが猛然と地をかける。

ブレイブバードなら十分に真っ向勝負できるだろうが、もう反動を耐えるだけの体力はない。



「“とんぼがえり”!」

ムクホーク「クォッ!」


俺が束ねた二本指をヘラクロスに突きつけたと同時、
翼を折りたたんだムクホークがヘラクロスの真正面に突っ込む。
 ▼ 95 aIiv212DRk 18/09/24 22:13:53 ID:GpuQHW36 [5/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

リョウ「正面で勝負!」

ヘラクロス「ヘラ!」


巨大なツノがムクホークを捉える、その寸前。


ヘラクロス「クロッ!?」

ムクホーク「クォッ!!」


ムクホークが突進の軌道を斜め下にずらし、振り下ろされるツノのさらに下を掻い潜って懐を抉る。


指示と同時に俺が出した攻撃サインは、敵の目の前で軌道を落とす《フォーク》。
バッジを集めていた頃からの長年の戦術だ。

さっきの二本指はカッコつけでやっていたわけではない。
 ▼ 96 aIiv212DRk 18/09/24 22:14:46 ID:GpuQHW36 [6/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「いいぞムクホーク、レントラーと交代だ!」


攻撃の反発力を利用して戻ってきたムクホークを引っ込め、すぐさま交代。


レントラー「ト……ラァッ!!」


バトルフィールド中に咆哮がビリビリと響き渡る。


ヘラクロス「……っ!」


“いかく”。
その迫力にヘラクロスがたじろぐ。
 ▼ 97 aIiv212DRk 18/09/24 22:15:23 ID:GpuQHW36 [7/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「やるぞレントラー……スパークだ!」


レントラーが電光を身にまとい、臨戦態勢をとる。


リョウ「ムクホークを逃しただけかと思ったけど……ヘラクロスとパワー勝負するんだ?」

「俺のパーティーのアタッカーは優秀なんすよ」

リョウ「へえ。……いいね。ヘラクロス、メガホーン!」


ヘラクロスは再びツノの槍を光らせた。


さあ、ここからが踏ん張りどころ。
 ▼ 98 aIiv212DRk 18/09/24 22:16:23 ID:GpuQHW36 [8/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



リョウ「メガホーン!」

「避けろ!」


この対面が始まって何度目かのヘラクロスの突きが、レントラーの右ほほを掠めた。


攻めに攻めて攻めまくるヘラクロス。
対して、避けて躱して受け流すレントラー。

状況は膠着していた。
 ▼ 99 aIiv212DRk 18/09/24 22:17:55 ID:GpuQHW36 [9/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

リョウ「っの、しつこい……っ!」


ヘラクロスの攻撃はじわじわとレントラーを削ってはいるが、致命打は決めきれない

リョウの顔に徐々に苛立ちが滲んでいく。


リョウ「ヘラクロス、突き上げろ!!」

ヘラクロス「クロァッ!」

レントラー「ットラ!」


真上に放たれたメガホーンは、レントラーの鼻先を掠めて虚空を一閃。


リョウ「しまっ……!」


空振りしたヘラクロスの胴体がガラ空きになる。


「レントラー、距離を取れ!!」


だが、追わない。今すべきことに専念する。
 ▼ 100 aIiv212DRk 18/09/24 22:18:49 ID:GpuQHW36 [10/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

リョウ「さっきから……。アタッカーが優秀ってのはハッタリ? 今の隙を逃すなんて、よほどだよね」

「まさか。隙なんて全然見えないっすよ」

リョウ「…………なるほどね。そういうこと」


……気づかれた。


リョウ「ヘラクロス、畳み掛けるよ! これ以上時間を与えちゃダメだ!!」

ヘラクロス「クロッ!!」


でも、バレても関係ない。


「躱し切るだけだ……レントラー!!」
 ▼ 101 aIiv212DRk 18/09/24 22:19:31 ID:GpuQHW36 [11/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

リョウ「さぁ、一気に終わらせよう。ヘラクロス」


四天王が静かにそう言うと、フィールドの空気が変わった。

──来る。



リョウ「──“インファイト”!」

ヘラクロス「へェ……ラァッ!」
 ▼ 102 aIiv212DRk 18/09/24 22:20:29 ID:GpuQHW36 [12/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

低く構えたヘラクロスがフィールドを強烈に蹴り放ち、爆音のような足音とともにレントラーに迫る。

防御低下のリスクを孕む“インファイト”を、持久戦完全無考慮のトップスピードで使ってくる判断。

宣言通り一気に終わらせる気だ。
 ▼ 103 aIiv212DRk 18/09/24 22:21:02 ID:GpuQHW36 [13/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「引きつけて……かわせッ!!」

レントラー「っ、ら!……トラァッ!」


無数の残像を纏う、拳と蹴りのラッシュ。

レントラーは眼を見開き、ギリギリのところでヘラクロスの怒涛の連撃をいなしていく。
 ▼ 104 aIiv212DRk 18/09/24 22:22:34 ID:GpuQHW36 [14/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

だが、相手は百戦錬磨の四天王。

彼が一気に終わらせるといったのだから、そこまでの道筋は二重にも三重にも用意されている。


リョウ「今だ、振り下ろせ!!」

「なっ!?」

ヘラクロス「へ……ラァッ!!!」


ヘラクロスの攻撃の軸が手足に移り、意識から外れていた──ツノ。

それが突如白く光り輝き、上段から叩きつけられた。


レントラー「トラァアアア!!」


“インファイト”中に挟み込んでの、“メガホーン”振り下ろし。

ここで初めて攻撃がクリーンヒットし、レントラーは地面を勢いよく跳ね滑った。
 ▼ 105 aIiv212DRk 18/09/24 22:23:35 ID:GpuQHW36 [15/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

レントラー「…………っ!」

リョウ「1対1を、その時強い方が制する。……シングルバトルの基本だよ」


四天王は、静かに、真っ直ぐにそう言い放った。


「…………」


リョウ「さぁヘラクロス、トドメだ。……“メガホーン”!!」

ヘラクロス「へラァッ!」


純然たる力の差が、引導を渡さんとレントラーに迫る。
 ▼ 106 aIiv212DRk 18/09/24 22:24:28 ID:GpuQHW36 [16/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





“──ポケモンにとってみれば、シングルバトルは孤独な戦いですからねぇ。”


いつかテレビで見た試合の解説者が、そう言っていた。


トレーナーは外から指示を出すだけ。

バトルフィールドに立つのは自分と相手ポケモンのみ。

削れた相手へのトドメだろうと、後続への補助だろうと、戦っている時は己の身一つなのは間違いない。

戦いは最初から最後まで、1対1の繰り返しで行われる。
 ▼ 107 aIiv212DRk 18/09/24 22:25:17 ID:GpuQHW36 [17/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


それでも俺は、それを孤独だなんて思わない。


コロトックが補助で繋いで、レントラーが削り、ムクホークが決める。

そんな俺たちの戦いは、絶対に孤独なんかじゃなかった。


それは、戦術的役割分担をしていたからでもなければ、サイクル戦法を使うからでもない。

コロトックがいて、レントラーがいて、ムクホークがいて、初めて俺たちのパーティー。

それがそのまま、俺たちが孤独ではない理由。

そして、コロトックが戦線を離脱した今でも──
 ▼ 108 aIiv212DRk 18/09/24 22:27:38 ID:GpuQHW36 [18/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


──────
────
──


「今日の挑戦……っていうかこれからずっと、コロトックはもう戦いには出れない。ここで安静にしてなきゃならん」

コロトック「ころろ」


コロトックの病室で始まった俺たちの作戦会議は、深刻な話題から切り出された。

 ▼ 109 aIiv212DRk 18/09/24 22:28:18 ID:GpuQHW36 [19/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ムクホークはコロトックを見て、静かに頷いている。


レントラー「……とら」


その一方、レントラーはこちらを見上げ、不安げに鳴いた。


「……まぁ、だよな。すげー心細いと思う」


コロトックの“ねばねばねっと”や“いやなおと”が、これまでどれほど俺たちの戦闘を有利にしてきたか。

そして何より、コイツはパーティーの精神的支柱だった。


レントラー「とらぁ……」


昔から臆病で戦いを怖がっていたレントラーは、コロトックの背中の大きさをよく知っている。
 ▼ 110 aIiv212DRk 18/09/24 22:29:11 ID:GpuQHW36 [20/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

コロトック「…………」


コロトックは、毅然とした表情でレントラーを見つめている。

どうやら、考えていることは俺と同じなようだ。


「……レントラー。お前に頼みたいことがある」

レントラー「とらぁ……?」


「今度はお前が支えてくれないか」


「パーティーを……ムクホークを」
 ▼ 111 aIiv212DRk 18/09/24 22:30:16 ID:GpuQHW36 [21/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

コロトック「ちちっ、ころろろっ!」


縮こまるレントラーに、コロトックが笑って語りかける。

レントラーは尚も不安げだ。
「そんな大役が自分に務まるわけがない」と、全身で主張している。


「お前だから頼むんだ。支えられるってことをちゃんと知ってるお前だから、きっと支える方もできる」

レントラー「とら……」
 ▼ 112 aIiv212DRk 18/09/24 22:31:07 ID:GpuQHW36 [22/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「なぁ、ムクホーク。コイツになら託せるよな?」


そう言うと、レントラーは隣に座るムクホークに顔を向けた。

ムクホークは、すん、と鼻息を鳴らし、


ムクホーク「くほぅ」


と一言。


レントラー「…………」

レントラー「……れん、とら」


控えめな、けれどとても真っ直ぐな鳴き声が、確かに俺たちに届いた。
 ▼ 113 aIiv212DRk 18/09/24 22:32:13 ID:GpuQHW36 [23/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


──
────
──────



ヘラクロス「ラァ……クロォッ!」


二度目はもう耐えられないだろう。
文字通り致命的な威力を秘めた突きが、満身創痍のレントラーに迫る。

だが。


「かわせぇ!!」

レントラー「トォ……ラァッ!!」


リョウ「まだ……動くの!?」


何分も回避を続けて、足が悲鳴を上げようと。

躱し損ねて大ダメージを受けていようと。

レントラーの足は絶対に止まらない。
 ▼ 114 aIiv212DRk 18/09/24 22:33:29 ID:GpuQHW36 [24/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「かわせ!」

レントラー「トラッ!」


コロトックから受け取ったものがあるから。


「かわせ!」

レントラー「トッ……ラ!!」


支えると、ムクホークと約束したから。


「かわして……」

レントラー「トォッ……」


このパーティーは──


「“ボルトチェンジ”ッ!!」


──“繋がっている”から!!
 ▼ 115 aIiv212DRk 18/09/24 22:34:39 ID:GpuQHW36 [25/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ヘラクロス「クロッ!!?」

リョウ「やられた……!」


放たれた電撃の塊が弾け、閃光を撒き散らす。


ムクホーク「クォオオッ!!」


電気の反発でレントラーが真後ろに跳び退き、交代で飛び出すムクホーク。

そして──


「“ブレイブバード”!!」

ムクホーク「ム……クホォオオオオオッ!!」


一閃。

全身全霊の一撃が、豪快に轟いた。


ヘラクロス「へ……ら、ぁ」


ヘラクロス、戦闘不能。
 ▼ 116 aIiv212DRk 18/09/24 22:36:27 ID:GpuQHW36 [26/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ねぎらいつつヘラクロスをボールに戻し、リョウが顔を上げた。


リョウ「……ふぅ。まんまと稼がれちゃったなぁ。ムクホークのための回復時間」

「すごいやつっすから。俺のパーティーメンバーは」


ムクホークが“ブレイブバード”をもう一度打てるほどに回復するまで、レントラーが戦闘を長引かせる。

これまでコロトックが切り開いていたアタッカーのための道を、レントラーが代わりに開き、そしてムクホークが撃ち抜く。


リョウ「ホント……根性入った攻撃だね」


四天王は、そう言ってカラりと笑った。
 ▼ 117 トラポット◆Pcf6Vw29GM 18/09/24 22:47:12 ID:.kck5/.U NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 118 ガライボルト@ピーピーリカバー 18/09/24 23:47:32 ID:PU2E9Zxo NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
支援
 ▼ 119 aIiv212DRk 18/09/25 19:51:23 ID:mVOsjomk [1/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



「ムクホーク、“とんぼがえり”!!」

リョウ「ドラピオン、“クロスポイズン”!」


繰り出された4匹目、ドラピオンを相手に、ヘラクロス戦と同じく初手で交代技を指示。


ドラピオン「ドラァッ!」


ドラピオンは接近するムクホークを睨み、毒の滴る2つの手刀を普段よりもコンパクトに構えている。


リョウ「今度は、逃さない……!」


威力よりも確実に当てること……すなわち、“とんぼがえり”させないことを優先してきた。

先程見せた“とんぼがえり”の軌道変化に、あちらは既に対応している。
 ▼ 120 aIiv212DRk 18/09/25 19:51:55 ID:mVOsjomk [2/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ドラピオン「…………!」


こちらが気圧されるほどの集中力で、ムクホークを注視するドラピオン。

どう変化させても、その長い腕は的確にムクホークを捉えるだろうと確信できる。


──変化するのが、“軌道”であれば。
 ▼ 121 aIiv212DRk 18/09/25 19:53:17 ID:mVOsjomk [3/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ムクホーク「……ッ!」


ドラピオンの1メートル手前、
ふわり、と突進のスピードが一気に殺され──


ドラピオン「ドラ──」

ムクホーク「クッ!」


──急加速。


ドラピオン「ドォ……ッ!?」


腕を伸ばしかけたドラピオンの懐にムクホークが突っ込み、すぐさま大きく真後ろにバウンドする。


軌道ではなく速度の変化で揺さぶる、《チェンジオブペース》。

サインは、技の指示と同時に手のひら全体をかざした時。
 ▼ 122 aIiv212DRk 18/09/25 19:54:06 ID:mVOsjomk [4/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「よく決めたムクホーク! レントラー、頼んだ!!」

レントラー「トォ……ラァアアア!!」


咆哮と同時にレントラーがボールから飛び出す。


リョウ「あちゃー、また逃しちゃったか」


そう言いつつも、リョウはそこまで焦っていないように見える。


それも当たり前か。

向こうからしてみれば、あそこでムクホークを仕留めた方が試合が早く終わった、というだけだ。

残りポケモンの数は2対2でも、こちらはムクホークが反動3回を受けて満身創痍。
レントラーも“いかく”込みとはいえメガホーンが直撃している。

依然、圧倒的に不利なのは俺たち。

勝算は正直薄い。
 ▼ 123 aIiv212DRk 18/09/25 19:55:15 ID:mVOsjomk [5/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

リョウ「もう勝負はついたも同然だ。ドラピオン、落ち着いて──」

「“エレキフィールド”!」

レントラー「ト……ォォッ、ラァッ!!」


でも、それがどうした。


「俺たちは……勝つぞ!!」

リョウ「……前言撤回だ、ドラピオン。このバトル、まだ分からないよね……!」
 ▼ 124 aIiv212DRk 18/09/25 19:56:20 ID:mVOsjomk [6/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「レントラー、“スパーク”!」

レントラー「トラッ!」


稲妻を纏い、レントラーが駆け出した。


リョウ「真っ向から受けてたとう! “クロスポイズン”!」

ドラピオン「ドォ……ラァッ!」


今度は全力で振りかぶった“クロスポイズン”が、レントラーと正面で激突。

威力の衝突が床一面に光る電気のフィールドと共鳴し、辺りに派手な火花を散らす。
 ▼ 125 aIiv212DRk 18/09/25 19:57:54 ID:mVOsjomk [7/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



俺が“スパーク”を指示すると、その度にリョウは“クロスポイズン”での応戦を指示する。

他の対処方法をまったく採らないのは、傍目から見れば馬鹿正直にも見える。

しかし、俺の仕掛けた勝負に強者として応え、そして叩き伏せる義務が、プライドが、四天王にはある。


レントラー「トラァア!!」

ドラピオン「ピオォオオオッ!!


もう何度目かもわからない2匹の激突が、光芒を撒き散らした。


レントラー「……ゼェ……ゼェ」


押されているのは…………こちらの方か。
 ▼ 126 ントラー視点◆aIiv212DRk 18/09/25 19:58:52 ID:mVOsjomk [8/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


──────
────
──


「コリンク、“たいあたり”!」

コリンク「り、りん……っ」

「……は、やっぱ無理か。しゃーない、“にらみつける”!」


旅が始まった頃。

わたしは、攻撃をすることができなかった。
 ▼ 127 ントラー視点◆aIiv212DRk 18/09/25 20:00:00 ID:mVOsjomk [9/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


コロボーシ「ろ……ころろっ!」

「ふへー……。なんとか、勝てたな……」


バトルが終われば、ムックルとコロボーシはいつもボロボロで。

無傷のわたしは、バトルに勝った後でも肩身が狭かった。

けど、みんな優しいし、旅をするのは楽しくて。

戦えなくても、このままでいいかな、なんて。

2匹に守られていることに、安心していた。
 ▼ 128 ントラー視点◆aIiv212DRk 18/09/25 20:00:51 ID:mVOsjomk [10/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



ヒョウタ「……終わり、だね」

「…………はい」


初めてジムリーダーに挑戦した日。

いわタイプのズガイドスに、ムックルやコロトックの攻撃は相性が悪すぎた。

みんなが倒れて、ついに戦闘に出された“戦えない3匹目”のわたしは、

震えて、ただバトルフィールドにうずくまっていた。
 ▼ 129 ントラー視点◆aIiv212DRk 18/09/25 20:01:48 ID:mVOsjomk [11/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



バトルの結果は、“降参負け”。


トレーナーは泣いていた。

コロトックとムックルも泣いていた。


「戦えなくてごめん」と謝ると、

コロトックは私を責めもせず、

泣きながら、「守れなくてごめん」と返してきた。


涙が溢れて止まらなかった。
 ▼ 130 ントラー視点◆aIiv212DRk 18/09/25 20:02:42 ID:mVOsjomk [12/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


──
────
──────



「まだまだ……! “スパーク”!!」

リョウ「何度でもいいよ! “クロスポイズン”!!」


やっぱり、戦いは苦手だ。

ぶつかるのが怖い。

自分が傷つくのが怖い。

相手を傷つけるのも怖い。

わたしは、あんまりバトルには向いてないんだと思う。


──でも。
 ▼ 131 ントラー視点◆aIiv212DRk 18/09/25 20:03:32 ID:mVOsjomk [13/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

もうあんな顔は見たくない。

みんなには笑っていてほしい。

できるなら、私も一緒に笑いたい。

だから!!


レントラー「ト……ォ……ラァアアアアアッ!!」

 ▼ 132 レーナー視点◆aIiv212DRk 18/09/25 20:05:18 ID:mVOsjomk [14/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

これまでとは違う音、振動、衝撃波。

一際強い輝きが、鮮烈にフィールドを照らす。


ドラピオン「ドラッ……!?」


“クロスポイズン”で攻撃を受けとめたドラピオンが、初めて僅かに押し負けた。


レントラー「トラ……ッ!」

リョウ「これって……」

 ▼ 133 aIiv212DRk 18/09/25 20:06:10 ID:mVOsjomk [15/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


かつて、習得を断念した技があった。

レントラーが覚えるにはほんの少しだけ勇気が足りなかった、あの技。

けど、今なら。


「レントラー……行くぞ!」

リョウ「……まさか! っドラピオン!!」



「──“ワイルドボルト”ッ!!」



 ▼ 134 aIiv212DRk 18/09/25 20:07:38 ID:mVOsjomk [16/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

レントラー「レン、トォ……ラァアーーーッ!!」


轟く豪快な炸裂音。

稲妻の槍と化したレントラーが、“クロスポイズン”のガードを突き破った。


ドラピオン「ど、ら……ォ」


ドラピオンが地に崩れ、


レントラー「……ら、ぁ」


そして、少し遅れてレントラーも倒れた。


残りポケモン数、互いに1匹。
 ▼ 135 aIiv212DRk 18/09/25 21:51:00 ID:mVOsjomk [17/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




ドラピオンを短く労うと、リョウは顔を上げ、苦笑いしながら喋りかけてきた。


リョウ「あはは……すごい威力だね」

「俺もびっくりっすよ。……本当によく頑張った、レントラー」


レントラーの踏ん張りが勝機を繋いでくれた。

リョウの表情にはもはや余裕のようなものは感じられない。


「……さて」

リョウ「うん。……お互い、最後の1匹だね」


地面に残るエレキフィールドのせいなのか、張り詰めた空気に体がこわばる。


「行ってこい……ムクホーク!」

リョウ「頼んだよ、ビークイン!」


勝負の行方は、エースに託された。
 ▼ 136 aIiv212DRk 18/09/25 21:51:47 ID:mVOsjomk [18/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ムクホーク「クォ……」


ムクホークがこちらをチラと見て、頷いた。


残る体力はごくわずか。
いくらなんでも、4発目のブレイブバードは流石に撃てない。

半端な攻撃をして反撃されても、即試合終了。


「行くぞ、ムクホーク」


故に、攻めるタイミングは──


「“ゴッドバード”!!」


ここしかない!!
 ▼ 137 aIiv212DRk 18/09/25 21:53:08 ID:mVOsjomk [19/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

翼を広げ、ビークインめがけ超高速で滑空するムクホーク。

その全身から白い輝きが溢れ出し、みるみるうちに部屋中を真っ白に照らし出す。


リョウ「パワフルハーブ……!」


一度限り、タメ技である“ゴッドバード”を瞬時に発動させる奥の手。

これが、俺たちに残された最大最後のチャンス。


「いっけぇええええ!!」
 ▼ 138 aIiv212DRk 18/09/25 21:53:58 ID:mVOsjomk [20/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

迫る光の矢に少しも動じることなく、リョウが指示を放つ。


リョウ「“ぼうぎょしれい”だ!」

ビークイン「クぅ、イィンッ!!」


小さな緑の六角形のプレートが隙間なく密集し、瞬く間に盾が作られる。

直後に、激突。

甲高い音と激しい光が、部屋中を埋め尽くす。
 ▼ 139 aIiv212DRk 18/09/25 21:54:27 ID:mVOsjomk [21/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

目も開けていられないほどの白い光で、何も見えない。

しかし光が消えていないということは、ムクホークの攻撃はまだ止まっていないということ。

そしてビークインはまだ倒れていないということ。


「そのまま押し切れ!!」

リョウ「耐えろ!!」


お互いがお互いのポケモンを信じ、叫ぶ。
 ▼ 140 クホーク視点◆aIiv212DRk 18/09/25 21:55:05 ID:mVOsjomk [22/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





──お前がエースだとか言って、プレッシャーかけたよな。

──これからは、お前の好きなように生きてくれ。


そんなことを言われるなんて、思ってもみなかったよ。

『好きなように生きろ』?

そんなの、決まってる。


オレはこのパーティーのエースだ。
 ▼ 141 クホーク視点◆aIiv212DRk 18/09/25 21:55:54 ID:mVOsjomk [23/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

コロトックの役目が精神的に俺たちを支えることなら、
オレの役目は力でお前らを導くこと。

だから、オレに託してくれ。


プレッシャーも、息苦しさも。

コロトックの思いも、レントラーの頑張りも、トレーナーの信頼も。


全部まとめてオレが背負って、そんで最後は決めてやる。


なぜならオレは……エースだから!!
 ▼ 142 レーナー視点◆aIiv212DRk 18/09/25 21:57:04 ID:mVOsjomk [24/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「決めてくれ……エース!!」

ムクホーク「ム、ク……ホォォオオッ!!」


リョウ「くっ!?」


光がさらに強まり、そして弾ける。

フィールドの中心でせめぎあっていた力が、耐えかねたように爆発。

ビークインがフィールドの端まで吹っ飛ばされた。
 ▼ 143 レーナー視点◆aIiv212DRk 18/09/25 21:58:22 ID:mVOsjomk [25/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


ムクホーク「ク……ホークっ!!」


少しよろめいたが、ムクホークは辛うじて空中にとどまる。


「うおぉ…………!」


俺たちが勝利したかに見えた。


しかし。


ビークイン「ク……ィ、イィンッ……!!」

リョウ「……よく耐えた。ビークイン」


青い光に包まれて、ビークインがゆっくりと起き上がる。


「マジ、かよ……!」


“かいふくしれい”。

最後のチャンスで決め切れなかった上に、その傷すらも癒されていく。
 ▼ 144 レーナー視点◆aIiv212DRk 18/09/25 21:59:25 ID:mVOsjomk [26/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「くっ……。ムクホーク──」


指示を出そうと名を呼んで、続く言葉を失った。

“ゴッドバード”を超える威力の技はない。

その“ゴッドバード”でさえ撃ち抜けない。

体力は尽きる寸前。
向こうには回復手段がある。

何ができる。何を言えばいい。

どうすれば勝てる。


いや、もう。

どうしても、負け──
 ▼ 145 aIiv212DRk 18/09/25 22:00:49 ID:mVOsjomk [27/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

コロトック「ころろろぉおおっ!!」

「!!?」


後ろから投げかけられた聞きなれた声が、俺の思考を遮った。


先輩「俯いてんじゃ……ないわよっ!!」


開放されたリーグの入り口に、コロトックと先輩と、やれやれといった表情のジョーイさんが立っていた。


リョウは、突然のコロトックに少し驚いたようだったが、

すぐに状況を飲み込んだらしく、「そうか、キミもなんだね」と呟いた。
 ▼ 146 aIiv212DRk 18/09/25 22:01:51 ID:mVOsjomk [28/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

先輩「ほらコロトック、まだちょっとだけ根性が足りないフリーターに言ってあげて!」


コロトック「…………ちちっ、ころろっ!!」


「お前……」


その言葉は、
『最後まで諦めるな』なのか、
『繋いだチャンスを無駄にするな』なのか、
『まだムクホークの目は死んでない』なのか。

でも確かなことが一つあるとすれば、

旅を始めてからずっと、ピンチの時に幾度となく聞いた『励ましの鳴き声』だ。
 ▼ 147 aIiv212DRk 18/09/25 22:03:06 ID:mVOsjomk [29/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ここまで来て、俺の方が励まされてるなんて。

まだお前に支えられているなんて。


──今ここで、応えないわけにはいかねーじゃねぇか!!


「ムクホーク!! 」

ムクホーク「クォっ!」

「……俺たちの全てを、お前に託す!」


人差し指を立てて目一杯に腕を伸ばし、最後の指示を飛ばす。


「──“ブレイブバード”ッ!!!!」
 ▼ 148 aIiv212DRk 18/09/25 22:04:25 ID:mVOsjomk [30/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ムクホーク「ク、ゥ……ォオオッ!!」


エレキフィールドのかかった地面スレスレを突き進むムクホークが、その痛みに喘ぐ。


人差し指一本のサイン、《低空飛行》。

ムクホークにはその意図が伝わったようだ。

地表付近で電撃をモロに浴びることになるエレキフィールド下では、これまで決して使ってこなかった軌道。

そして──


「上がれぇッ!!」

ムクホーク「ム、クォオオオオオッ!!」

先輩「ムクホークが……電気を纏った!?」


──レントラーが残した電撃を、お前に託す!!
 ▼ 149 aIiv212DRk 18/09/25 22:05:17 ID:mVOsjomk [31/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

リョウ「……背負ったものはボクらも同じ。だよね、ビークイン」

ビークイン「クイン」

リョウ「さぁ行くよ。最後の一撃だ」


ムクホークを正面に見据え、リョウは堂々と指示を出す。


リョウ「──“こうげきしれい”!!」

ビークイン「ビィ……クィィィインッ!!」


赤い光の群衆が、極太の束になって解き放たれた。
 ▼ 150 aIiv212DRk 18/09/25 22:05:55 ID:mVOsjomk [32/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

電光迸ばしるムクホークが獰猛な赤い光の群れに正面から突き刺さり、そのど真ん中を切り裂いて行く。


ムクホーク「ム、ク……ォオオォオオオオ!」

ビークイン「クゥ、ィイイイイッ!!」


届け、届け、届け。


「届けぇええええええッ!!」

ムクホーク「ォオオオオオッ!!」
 ▼ 151 aIiv212DRk 18/09/25 22:06:27 ID:mVOsjomk [33/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告








閃光の軌跡が一筋、バトルフィールドを駆け抜けた。






 ▼ 152 チャブル@ねむけざまし 18/09/25 22:32:03 ID:y.aooOno [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
タイトルからこの流れは予想出来なかった
 ▼ 153 aIiv212DRk 18/09/25 22:48:55 ID:mVOsjomk [34/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




──
────
──────
 ▼ 154 aIiv212DRk 18/09/25 22:49:17 ID:mVOsjomk [35/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



拝啓、バトルの神様。


リーグ挑戦者のバッジを数える仕事をしています。

けれど、それも今日で最後です。
 ▼ 155 aIiv212DRk 18/09/25 22:49:55 ID:mVOsjomk [36/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



「グレイシャバッジ……ビーコンバッジ! バッジ8つ、確認しましたよ!」

先輩「ありがと。それじゃ……行ってくるから」

「っす。それじゃ、先輩の活躍……モニターから見て応援してますよ!」

先輩「こらこら、バイト中でしょーが」

「先輩がそれ言うっすか!?」

先輩「……ふふっ。さ、見られるなら頑張らなきゃね」



長いことやってましたが、稀に見る良バイトだったと思います。
 ▼ 156 aIiv212DRk 18/09/25 22:50:43 ID:mVOsjomk [37/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

バトルの神様。

あなたにこうして独白を綴っているのは、他でもありません。

俺たちのバトルに、一つ区切りがついたからです。


四天王挑戦は、全てを出し切って1人目を突破。

そして2回戦で有り得ないほどストレートに負けました。

でも、その日の夜はみんなでお祭り騒ぎでした。
 ▼ 157 aIiv212DRk 18/09/25 22:51:00 ID:mVOsjomk [38/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



そして。


 ▼ 158 aIiv212DRk 18/09/25 22:51:24 ID:mVOsjomk [39/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

レントラー「とらっ……とらぁ!!」

ムクホーク「……くぉぅっ!」

コロトック「……ちち、ころろ……」


「コロトック。……俺たちは……」


「お前と一緒にいられて幸せだったから!」


コロトック「……ころ、ろぉ」

「だから……だから……!」

「…………ありがとう……っ!」
 ▼ 159 リュウズ@とうめいなスズ 18/09/25 22:51:41 ID:3K8MqFm2 [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 160 aIiv212DRk 18/09/25 22:52:09 ID:mVOsjomk [40/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

コロトックは、俺とレントラーとムクホークに看取られて、息を引き取りました。

最後に伝える言葉を「ごめん」と「ありがとう」で迷って、「ありがとう」にしました。

あいつが6年間、何を思っていたのかは分かりません。

バトル三昧のその生涯が幸せなものだったのかは、分かりません。

けれど、俺たちはコロトックとの日々が幸せだったんだから、感謝の言葉がいいと思いました。

コロトックは少し微笑んで、眠るように逝きました。
 ▼ 161 aIiv212DRk 18/09/25 22:52:55 ID:mVOsjomk [41/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

バイトを辞めて何をするのかは、まだ決めていません。


バトルに明け暮れた6年間を、俺たちはとりあえずは清算しました。

これからまた別の日々が始まるのか、結局バトルに戻ってくるのか。

それは、またコイツらとシンオウ地方を旅でもして考えようと思います。

今度は、もっといろんなものを見たり、聞いたりしながら。
 ▼ 162 aIiv212DRk 18/09/25 22:53:33 ID:mVOsjomk [42/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

不安はいろいろあります。

でもコイツらと一緒なら、なんだか大丈夫な気がします。

6年間の日々で得たものは、戦術やレベルだけじゃありませんから。

だからバトルの神様。

今まで、本当に、

ありがとうございました!


             元・エリートトレーナー
 ▼ 163 aIiv212DRk 18/09/25 22:54:43 ID:mVOsjomk [43/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







「……ふぅ」

レントラー「とらぁ?」

「いや、さっきのキャモメ、あの手紙どこに持ってくかなって」

レントラー「とらー……」

「ポケモンリーグ、だったりしてな」

ムクホーク「……くっく」

 ▼ 164 aIiv212DRk 18/09/25 22:55:24 ID:mVOsjomk [44/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「……さて、と」


「そろそろ──行くか!」

レントラー「とら!」

ムクホーク「くほぅ!」





 ▼ 165 aIiv212DRk 18/09/25 22:56:41 ID:mVOsjomk [45/45] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







【SS】リーグ挑戦者のバッジ数える仕事をやっています





                    ──おわり

 ▼ 166 ダリン@ホエルコじょうろ 18/09/25 22:57:57 ID:XW0Ur6xc NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙でした
 ▼ 167 チニン@ルカリオナイト 18/09/25 22:58:37 ID:jqGg0nfo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙!
 ▼ 168 バルドン@ゲンガナイト 18/09/25 22:59:01 ID:YN4..o9M NGネーム登録 NGID登録 報告
見届けさせてもらいました
ありがとう
 ▼ 169 ーディン@こぶしのプレート 18/09/25 23:02:18 ID:y.aooOno [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙です
こういうのがあるからbbsはやめられない
 ▼ 170 トラポット◆Pcf6Vw29GM 18/09/25 23:02:40 ID:OA/M2Voc NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙!
少年の夢と現実と大人ってフレーズ好きなんですよね
心情と戦闘描写が合っていてよかったです
というわけで応援合戦優勝、おめでとうございます
 ▼ 171 ソハチ@ぼうごパット 18/09/25 23:11:49 ID:x5rYjDG. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙です!!
 ▼ 172 ポッコ@バンジのみ 18/09/25 23:23:40 ID:zXdwDdIU NGネーム登録 NGID登録 報告
 ▼ 173 リープ@きんのたま 18/09/25 23:28:14 ID:W3AYnHx6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ▼ 174 キメノコ@プレシャスボール 18/09/25 23:45:27 ID:3K8MqFm2 [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ▼ 175 ャラランガ@エレクトロメモリ 18/09/26 00:00:46 ID:K3sgiiEc NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙です
 ▼ 176 ワルン@カビチュウ 18/09/26 01:19:23 ID:wbOop8Ss NGネーム登録 NGID登録 報告
まさかの王道展開、なぞのばしょ読み大外れだわ

超絶乙
 ▼ 177 もリー◆woBJ.2LDUY 18/09/30 22:53:30 ID:mZD6rur. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
お疲れさまでしたฅ^>ω<^ฅ
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