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【SS】オシャマリ「ポケモンサーカス団エクリプス!」

 ▼ 1 1◆J44kAZeDOM 17/01/02 21:42:26 ID:LvCDM3Hw NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







プロローグ  0 アシマリは語る






 ▼ 159 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:17:17 ID:aFPNI/3U [1/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたしは、進化を遂げた。

あれ程恐れていた進化を、済ませてしまった。

これが、あたしの答え、そして覚悟よ、お兄ちゃん。

あたしは、ルテーに入るぐらいなら、進化して、あたしの命を終わらせた方がマシだ。

エクリプスにいるという事実を、奪われるぐらいなら。

バランスを崩し、不甲斐なく失敗したとしても。

あたしは、進化を選ぶ。

これは、あなたとの決別。

あたしは、もう、今までの、お兄ちゃんに憧れ、頼るだけの、あたしじゃない。

だから、さよなら。

成長したこの身に、これだけの想いを乗せ、あたしはアマージョが戻って来るのを待った。
 ▼ 160 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:18:22 ID:aFPNI/3U [2/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
誰かが来る気配を感じ、あたしは身構えた。

小さな足音を、逃さないように確かめていると、そこから覗いたのは、アマージョでも、お兄ちゃんでもなかった。


???「ねえ……さっき、エクリプスって叫んでなかった?」

ニャヒート「え? 誰?」

???→アママイコ「あたしはアママイコ。ねえ、あなたって、さっきエクリプスって叫んでたよね」

ニャヒート「え、まあ……」


叫んだのは事実だし、聞こえていたのなら言い逃れは出来ない。

その事がどう転ぶかわからないが、嘘を吐くのも面倒だった。


アママイコ「やっぱり! そこって、モクローがいるサーカス団よね?」

ニャヒート「そうだけどどうしたのよ」

アママイコ「あたしを、エクリプスに連れてって」

ニャヒート「はぁ?」

アママイコ「ほら、カギもあるよ」

ニャヒート「えっ」
 ▼ 161 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:19:38 ID:aFPNI/3U [3/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
この子が、どうやってカギを取ったのだろうか。

なんにせよ、これに乗っからない手はないだろう。

さすがに罠に掛ける理由はないはずだ。


アママイコ「あたしね、ここのダンチョーの娘なんだ。

       だから、カギをこっそり取れたの」

ニャヒート「アマージョの……」

アママイコ「ほら、開いた。……とりあえず、隠れながら逃げよ。話はそれからだよ」
 ▼ 162 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:20:37 ID:aFPNI/3U [4/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
こっそり、足音を立てないように、あたしたちは進んだ。

アママイコの足取りはしっかりしていて、付き従っても安心感のあるものだった。

誰かに見られたらマズイと、周囲への警戒はゼンリョクで行っていたが、幸いにも皆練習中で、あたしたちの存在に気付く様子もない。

アマージョと、お兄ちゃんだけが危険だ。

2匹に見付からないように、あたしたちは歩を進め、そしてついに、テントの外への脱出に成功した。


アママイコ「ニャヒート」

ニャヒート「アママイコ」


あたしたちは顔を見合わせ、ニコリと同時に微笑んだ。

しかし、安心するにはまだ早い。

出来るだけ速く、逃げなければ。

帰るのだ、あたしの場所へ。

皆が待つ、サーカス団エクリプスへ。
 ▼ 163 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:21:57 ID:aFPNI/3U [5/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「って言うか、来てくれて感謝はしてるけど、なんでこっちに来ようと?」

アママイコ「どうでもいいでしょ。だって、絶対間違ってるよ、こんな事。

       あなたが誰だろうと、間違ってるのは間違ってる。誰かを監禁なんて、絶対やっちゃいけない事。

       だって、犯罪だよ?

       ……お母さん、どうしてあんな事になったんだろ……」


最後の方は消え入りそうな声になっていた。


ニャヒート「とにかく、助けてくれてありがとう。だけどさ、嘘はダメだよ。

       あたしがエクリプスって叫んだの聞いて、助けてくれた、そうだよね。

       アマージョの事を疑問に思うのはホントだとしても、少なくともあたしを助けた動機は別にあるんじゃない?」
 ▼ 164 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:22:46 ID:aFPNI/3U [6/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「たっはー、バレるか、やっぱ。そりゃ、あんな風に言って助け出したんだし、当然か。

       うん。あたし、ルテーから逃げ出したかったの。

       お母さん、今さ、一番に拘って、怖いから。

       で、こないだ来たモクローとフーディン。ダンチョーがあんな気弱ならいてて楽しそうだなって」

ニャヒート「……」


団長のあがり症さまさま、とはなんとも情けない。


アママイコ「そんな訳で、エクリプスにいさせてもらっていいかな」

ニャヒート「あたしじゃなくて、団長に聞いて。まあ、いいとは思うけど」
 ▼ 165 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:23:59 ID:aFPNI/3U [7/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
気付けば、もう夜も遅い。

いつまで待たせるつもりだったのだろう。

それこそ、あたしの禁断症状が酷くなり、どこでもいいからブランコに乗らせろってなるまで待たせるつもりだったのかもしれない。

お兄ちゃんは、結局何が目的なのか。

あたしはただ、会いたかっただけなのに。


アママイコ「後どのぐらい?」

ニャヒート「もうちょっと、だと思うけど……」
 ▼ 166 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:24:53 ID:aFPNI/3U [8/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
闇夜に紛れ、道か判然としない。

日が暮れるまでにはいつも帰っていたのだ。


ニャヒート「どうだろ、ちょっと道見失ったかも……」

アママイコ「ええっ?!」

ニャヒート「朝になればわかるけど……。無闇に動いて迷子にでもなったら笑えない。

       追手が来る気配もないし、今日は野宿にしよう。

       正直、お腹空いて、死にそう。あなたからめっちゃいい匂いもするしさ……」

アママイコ「ああ、これはね……食べないでね?」

ニャヒート「食べる訳ないでしょうが」
 ▼ 167 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:25:56 ID:aFPNI/3U [9/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
兎にも角にも、猫にも果物にも、あたしたちは適当にその辺の店でリンゴを買って(アママイコがお金を持っていた。ホントありがたい)食事にした。

そんな中、お互いにいろいろと自己紹介をして、わかった事。

彼女はアマージョの娘であり、現在はその強すぎる拘りが苦痛で逃げ出したという事。

それだけだ。それ以上の事を、彼女は語らなかった。


アママイコ「とにかく、まずは話し合う事じゃない? でも、いつかはまた狙われそうだよね、ニャヒートも」

ニャヒート「まあね……」


あたしがルテーに攫われたという確たる証拠がない以上、警察に伝えてもどうにもならない。

そして、お兄ちゃんは、確かにいるのだ。

いつまたあたしを狙うか、わからない。


アママイコ「だから、とにかくまずは、1匹にならない事。それから……ダンチョー同士で話し合うとか?」

ニャヒート「うーん、それが出来たらいいんだけど……」

アママイコ「あっ」

ニャヒート「察したみたいね、うちの団長が誰かって」
 ▼ 168 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:26:47 ID:aFPNI/3U [10/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「だね……。なら、モクローと話せば?」

ニャヒート「お兄ちゃんは炎、悪タイプ。あたしならともかく、モクローを攻撃するのに躊躇う理由もないでしょ」

アママイコ「じゃあどうしろって言うのよ!」

ニャヒート「エクリプスにはもっといるからね。複数匹でいかないと」

アママイコ「ああ!」


アホの子なのだろうか。

1匹になるなって言った傍から。

絶対ノープランだよこいつ……。

けれど、どことなくいてもらえると気分が明るくなる。

ちょうど――アシマリのように。

まあ、なんとかなるでしょう。

彼女といると、そんな風に考えられる。
 ▼ 169 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:27:42 ID:aFPNI/3U [11/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
どことなく不思議な存在だった。

遠慮会釈なく相手の懐に踏み込んで許される個性、というのは確かにいる。

それが、彼女だった。

アシマリですら、最初は軽々しくは踏み込ませなかったけれど、どうしてか、彼女だけはそんな気にもなれなかった。


アママイコ「とりあえずじゃあ、もう寝よ。ルテーからはだいぶん離れた。もう心配はしなくていいよ」

ニャヒート「だね、だけど……交代で見張りしよ。最初は寝てて。あたしは、ルテーで眠らされたからまだあんま眠くない」

アママイコ「それもそうだね。じゃあ……お月様が真上を過ぎたら起こして」

ニャヒート「了解。その後あたしは寝るけど、何時間かしたら起こしてもらって構わないからね」
 ▼ 170 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:28:44 ID:aFPNI/3U [12/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコの寝息以外何も聞こえない程の夜の静寂に身を預け、あたしはぼんやりと考え事をしていた。

いきなり様々な事が起こり過ぎて、あたしは、どうにも感情の整理が付かなかった。

だから、あたしたち兄妹の過去も考え合わせて、今一度事実を整理し、心を落ち着けようと試みたのだ。


ニャヒート「14年前、あたしは捨てられた」


ほとんど記憶に残らない幼き日の思い出。

しかし、あたしの最初の記憶は、その瞬間から始まった。

両親との衝撃的な別れ。

あたしとお兄ちゃんは、ネメシーに売られた。

サーカス団として、右も左もわからなかっお兄ちゃんは、それでもまごう事なき天才だった。

あたしは実力者を自負してはいるけれど、今でもたぶん、当時のお兄ちゃんには敵わない。

あたしより7つ上なだけだから、当時はまだ8歳。

それなのにお兄ちゃんは、あたしの立場が悪くならないようにと、あっという間に売れっ子への階段をのし上がって行った。

実際、お兄ちゃんが稼ぎ頭となってくれたお陰で、あたしも邪見に扱われる事はなかった。
 ▼ 171 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:29:42 ID:aFPNI/3U [13/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そしてあたしが3歳になった頃、お兄ちゃんはあたしに、ブランコの指導を始めた。

今は自分の稼ぎであたしまで養っているようなものだが、それもいつまで続くかわからないから、あたしも稼げるようにと願っての事だ。

お兄ちゃんの指導はそれはもう自らのパフォーマンスに適ったもので、あたしもメキメキと技術をあげた。

お兄ちゃんの補助として前座として、舞台に出演する事も出来るようになったのは4歳の頃。

それからもあたしはどんどん成長し、カゼをひいたお兄ちゃんの代役として出演した舞台で、あたしは大成功を収めた。

ここだけ聞くと順風満帆に聞こえるが、あたしは当時、もう自分の役目をしっかり理解していた。

最初の記憶がいらないと捨てられたという事実であるあたしはいつも、「役に立たなければ捨てられる」の強迫観念に駆られていた。

ブランコで稼ぎ出したあたしにとって、その強迫観念が、「ブランコこそがあたしの命」にまですり替わるのに、そう時間はかからなかった。
 ▼ 172 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:31:22 ID:aFPNI/3U [14/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
とにかくあたしは自覚している。あたしのえげつないまでの拘りは、ネメシー時代の記憶に全て端を発している。

――はあ、思い出すだけでもしんどいや。

あたしはこれ以上考えるのを諦めて、ぼんやりと辺りを眺めた。

アママイコを除き、誰の気配も感じない。

完全な静寂だった。

あたしは月を見上げ、それからアママイコを起こした。


アママイコ「うーん、もうそんな時間か……」

ニャヒート「じゃ、あたしはしばらく寝るね」
 ▼ 173 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:31:53 ID:aFPNI/3U [15/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
32-○12

ルテーへの道すがら、ふっと甘い香りが鼻孔をくすぐった。

朝ごはんも食べず勢い込んでやって来たオイラたちにとって、この匂いは空腹を刺激するには充分過ぎる物だった。

お腹が鳴り、オイラはダンチョーを見詰めた。


フーディン「……とりあえず、なんか買ってくるわ」


そんな場合ではないのだけれど、腹が減っては戦も出来ない。

だから、期待を込めた眼差しも、悪く思わないで欲しい。
 ▼ 174 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:32:35 ID:aFPNI/3U [16/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
その甘い匂いは、こちらに近付いて来た。

それと共に、オイラの空腹もどんどん酷くなり、お腹の鳴る音で音楽隊でも作れそうだった。


アシマリ「ああああああお腹空いたああああああっ!」

「その声、アシマリっ?!」


ふっと芳香がする方向から、ニャビーの声が聞こえた。

ん、ニャビー?


アシマリ「ニャビーっ?! よかった、無事だったの?!」


「うん。ごめん、遅れて」

アシマリ「遅れてって……ねえ、君……」

ニャヒート「ああ、進化したの。ニャヒートね、もうあたし」


オイラは、しばらくその姿に見とれた。

何かが、何かがオイラの中で主張している。

ふっと我に返り、それから何を言うべきか気付いた。
 ▼ 175 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:33:08 ID:aFPNI/3U [17/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「ええっ?! バランス崩すから進化しないんじゃないの?!」

ニャヒート「ん? あんたにそれ説明した事あったっけ」

アシマリ「いやないけどさ」

アママイコ「あっ、エクリプスのアシマリ?」

アシマリ「うんそうだけど、君誰? 凄いいい匂いするんだけど」

アママイコ「あたしアママイコ。よろしくね!」

アシマリ「よろしく……なんでニャビ、じゃなかった、ニャヒートと一緒にいるの?」

ニャヒート「話せば長くなるから、とりあえずエクリプスに戻ろう」
 ▼ 176 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:33:43 ID:aFPNI/3U [18/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ごはんを買って来たダンチョーと合流して、オイラたちはエクリプスへの道を歩き始めた。

ニャヒートは、「後でみんなにまとめて説明するから」と言っていたが、アママイコが勝手に説明してくれて――


アシマリ「ええっ?! もう、何に驚いてるのかわかんないけど、ええっ?!」

アママイコ「ってな訳でまあ、あたしはニャヒートが逃げ出す手伝いをしたって訳」

アシマリ「えっと……とりあえず、モクローは大正解なんだよね」

フーディン「だな。……アママイコ。エクリプスにいたいっていうなら、それは全然構わない」

アママイコ「ホント?! やったー!」

フーディン「だが、とりあえず、俺たちはみんなして、ルテーと戦わないといけない。言葉なのか、腕力なのかはまだわからないけどな。

       もしかしたら、お前の母親とどうにかする事になるかもしれないんだ。

       それでもいいのか?」

アママイコ「うん。あたしも、覚悟は決めてるよ。お母さんを、マトモに戻したいし」

フーディン「なるほどな。わかった」


こんな会話の流れで、アママイコはエクリプスにしばらく居候する事が決まった。
 ▼ 177 断◆J44kAZeDOM 17/01/06 14:34:37 ID:aFPNI/3U [19/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それにしても、戦う、か。

オイラとしては、あんまり派手な事はやりたくないんだけどなぁ。

サーカス団なら、サーカスで戦えって話だと思うけど……。

そんな事を思いながらオイラたちはエクリプスに到着した。

どうしてか、進化したニャヒートの姿が妙に意識されて、オイラはそっちを見る事が出来なかった。

ニャヒートの姿が、オイラにとってはもう、何か大事な物であるみたいだった。

とにかく、ニャヒートは帰って来た。

オイラにとって、その事が一番重要だった。

ニャヒート、無事で、本当によかった。
 ▼ 178 クリン@ボーマンダナイト 17/01/06 14:51:28 ID:E3Lqyscg [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 179 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 20:14:30 ID:aFPNI/3U [20/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







2部 フクスロー「ポケモンサーカス団エクリプス!」






 ▼ 180 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 20:15:04 ID:aFPNI/3U [21/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







33〜35 アママイコがやって来た






 ▼ 181 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 20:15:48 ID:aFPNI/3U [22/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
33-◇11

目を覚まして僕は、芳香に気が付いた。

ブラッキーの料理とはまた違う、甘い香り。

どこかで嗅いだ覚えのある匂いだった。

ボーっとそれに関して思いを巡らせると、不意に思い当たった。

ルテーで、僕たちの事を影から覗いていたポケモンの匂いだ。

それに気付くと、僕は文字通り飛び起きて、その匂いを辿った。

物陰から覗くと、そこにはみんなと、1匹のポケモンがいた。

アシマリと団長に警戒している様子がないので僕も安心してそちらへと向かった。

と、赤と黒の体躯を持つニャビーのような、それでいてニャビーとはまた別の容姿のポケモンを目に留めた。


モクロー「おはよう……何があったの?」

アシマリ「あ、おはようモクロー。大正解だよモクロー。

      アママイコが、ルテーからニャヒートを助け出してくれたんだって」


……団長、なぜ言った。あんまり言いたくなかったのに。
 ▼ 182 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 20:17:18 ID:aFPNI/3U [23/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「あっ、お、おはよ……」

モクロー「えっと……アママイコ、って事はアマージョの進化前……アマージョの進化前?! もしかして」

アママイコ「うん、あたし、ルテーのダンチョーの娘なんだ……」

モクロー「ああ、それでルテーでこっちを」

アママイコ「そ、そうなの」

アシマリ「何緊張してるの。モクローはいいポケモンだよ!」

アママイコ「わかってるよ!」


緊張? どうして僕に……?

そんな疑問は意にも介さず、会話は進んで行く。
 ▼ 183 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 20:17:52 ID:aFPNI/3U [24/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「事情、説明する?」

モクロー「ああ……いいや、だいたいわかる。

      お兄ちゃんが、また一緒にサーカスしようって、監禁したんでしょ?」

ニャヒート「なんでわかってんの?! やっぱあんた、こういう方面は凄いね」

モクロー「……全然凄くなんかないよ。一晩中考えて、ようやく解けたんだから。

      あー、なんか首が重い……」


今さらながら、ずっと首を回し続けていたツケが回って来たらしい。

あー。
 ▼ 184 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 20:18:45 ID:aFPNI/3U [25/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「……まあ、いいや。そう、あたしは、また一緒にサーカスしようって言うお兄ちゃんに監禁されたの。

       これが全てよ」


誰も、何も言わなかった。

ニャヒートの過去を詮索してはいけないという空気が、無言の内に出来上がりつつあった。


フーディン「とにかく、俺たちが出来る事は、こいつを護りながらサーカスをするだけだ。

       ルテーの奴らも逃げ出すようなパフォーマンスを目指すぞ!

       ニャヒート、ガオガエンに関しては、俺から話を付ける。

       その前に1つ聞かせてくれ。

       お前はエクリプスに残る。それでいいんだな?」

ニャヒート「はい。お願いします」
 ▼ 185 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 20:20:05 ID:aFPNI/3U [26/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
皆に解散を命じてから、さてと、と団長は呟いて、アママイコを向き直った。


アママイコ「どうしたの?」

フーディン「お前がああ言ってた以上、アマージョを元に戻す手伝いも、出来る限りしていきたい。

       だから、教えてくれないか。何がどうなって、どう変わったのか」

アママイコ「……わかりました」


僕と、それからアシマリ、ニャヒート、そしてエーフィがなんとなくこの場に残っていた。



アママイコ「昔のルテーは、おばあちゃんがダンチョーしてたの。

       その頃はお母さんも司会の練習してて、そんな中あたしを身籠った。

       で、あたしが生まれてから7年ぐらい経ってかな? おばあちゃんが死んじゃった。

       何て事ない、普通に歳取り過ぎただけ。

       だったけど、ルテーは、一気に人気がなくなったの。

       おばあちゃんって言う優しくて厳しい強いリーダーがいなくなったせいか、みんなやる気がなくなって」
 ▼ 186 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 20:20:40 ID:aFPNI/3U [27/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「そんな中、お母さんは進化したの。

       必死で、かつてのルテーの威厳を取り戻そうと、厳しく、ただ厳しく……」


昔は優しかった母が、ルテーの人気のために心を鬼にした。

そして、いつしか鬼の仮面が、自らの感情を規定してしまった。

よくある話だ。偽りの自分が本物にすり替わってしまう、なんて事は。


アママイコ「あたし、別にルテーが人気じゃなくなってもいい。

       ただ、昔みたいに、まだおばあちゃんがいた頃みたいに、楽しいサーカス団になって欲しいの。

       だけど、駄目。ガオガエンと出会って、お母さんは、余計酷くなったの……」

フーディン「なるほどな……」

ニャヒート「それ自体は別に悪くもなんともないと思うよ。

       むしろ、あんたの方が甘えてるように、あたしは感じる」


空気が、一瞬にして凍り付いたのを感じた。

彼女はそれも気にせず続ける。
 ▼ 187 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 20:21:12 ID:aFPNI/3U [28/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「けど、それにお兄ちゃんを巻き込むのは、また別。

       高みを目指すのは当然の事。

       だけど、周りに不幸を振りまくのは頂けない。

       誰かを幸せにするのがいいパフォーマンスなんだから、そこを履き違えちゃいけない」

アシマリ「そうだよね。サーカスは、幸せって感情が大事だもん!」


アシマリがニャヒートをフォローした。

僕もまた、2匹を見詰めた。

そう、サーカスにとって何が大事なのかを、2匹はちゃんと、理解している。

少なくとも、自分なりの答えは見付けている。

僕は、どうなのだろう。

技術面以外で、僕は何をしているだろう。
 ▼ 188 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 20:22:00 ID:aFPNI/3U [29/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「だから、協力する。

       周りを不幸にするサーカス団が売れてるなんて、あたし、嫌だから。

       あたしの一番大事な物と、その次に大事な物を両方侮辱した罪は重い」

アシマリ「そういう訳だけど、どうやってわからせるの? アマージョが一番に拘って、ガオガエンも一番に拘って……。

      2匹で作った城に、2匹だけで住んでるみたいな感じでしょ?」

モクロー「えらく詩的だね。まあ、聞いてる限りそんなとこかなぁ。

      娘が怖がる姿も目に入らない程に、固執しちゃってるとなると、ちょっとやそっとの説得じゃ聞き入れてはもらえないだろうね」

エーフィ「ううん……力で、ってのも無理だしなぁ」

フーディン「トップになりたい、か。ガオガエンに関しては、ネメシーを潰したいだったらしいが……」

ニャヒート「あたしを追い出した、ネメシーをね。だから、消えた」

アシマリ「なんでそんな難しい事考えるかなぁ」


憂いを含んだアシマリの声こそが、最も神髄を得ているようだった。

ルテーの面々は、闇が深過ぎる。

……そしてその言葉は、そのまま僕にも突き刺さる。

難しい事を考えすぎるのは、僕だって同じだ。
 ▼ 189 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 20:22:53 ID:aFPNI/3U [30/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「とにかくだ。俺たちは、和解の道を探らないといけない。

       それを考えたいんだが……アシマリ、ニャヒート。今回は考える仕事だが、お前たちにも協力して欲しい」

モクロー「サーカスに命を懸けてるポケモンを説得出来るのは、同じサーカスに命を懸けてるポケモンだけ、だよね」

フーディン「そういう事だ。俺じゃ、力不足」

アシマリ「了解! オイラ、頑張るよ!」

ニャヒート「手伝わない訳ない。あたしもやります」

フーディン「ありがとう。エーフィ、お前とブラッキーで、全体の指揮を執ってくれ。

       ったく、新入り4匹が一番頼りになる今の状況ってなんなんだろうな。もちろんニャビーは別だけど」


団長がそう言って苦笑した。

エーフィもしっかりと頷いて、指示に応えた。
 ▼ 190 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 20:23:25 ID:aFPNI/3U [31/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フーディン「じゃあ、とりあえず……そろそろ晩飯出来たか?」

エーフィ「ブラッキーでも超ポケじゃないんですから、そんなすぐには出来ませんて」

フーディン「朝からいろいろあって、ロクに飯食えてないんだがなぁ……」

モクロー「そういや、僕もだ……」


一瞬で空気がほどけ、爆笑が起きた。
 ▼ 191 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 20:24:04 ID:aFPNI/3U [32/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
34-△11

過去のお兄ちゃんとの記憶を、頭の引き出しから見付け出そうとする。

そして、記憶自体は蘇るのだ。

ただ、そこに説得の手掛かりが落ちてはいないだけ。

あたしは、よくも悪くも、必死だったあの頃のお兄ちゃんの背中を追い続けている。

技術、そしてサーカスに対する覚悟。

生きる事即ちサーカスという思想は、お兄ちゃん譲りだ。

そしてそれは、比喩ではない。

当時のあたしたちにとって、サーカスの技術は正しく死活問題。

他の楽しみを削ってでも、それに打ち込まないといけなかった。

それだけに、あたしたちは、そこに楽しみを見出した。

そうしなければやっていけなかったから。

だからこそ、サーカスを舐めている奴が、本当に嫌いなのだ。

こちとら命を懸けているのだ。軽々しく考えて欲しくない。


――軽々しく考えてはいけない。あたしたちには、サーカスしかないのだから。
 ▼ 192 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 20:24:45 ID:aFPNI/3U [33/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サーカスしかない……。


ニャヒート「そっか、あたしたちには、サーカスしかないんだよ。だから、お兄ちゃんを黙らせるにも、サーカスしかない」


1匹呟いた言葉に、あたしは確信を深めた。

そう、あたしたちには、サーカスしかない。

こんな簡単な事、どうしてすぐ気付けなかったのだろう。
 ▼ 193 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 20:26:25 ID:aFPNI/3U [34/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたしは息せき切って、まずはアシマリに話した。


アシマリ「……兄妹そろって凄い覚悟だね。サーカスしかないって……」

ニャヒート「まあね」

アシマリ「まあ、それはいいや。ニャヒート、たぶんそうだよ。絶対そう、それが正解だよ!

      アマージョとガオガエンに、オイラたちのサーカスを見せるのが!」

ニャヒート「だよね。とにかく、みんなに言ってみよ。晩ごはんの後でさ」
 ▼ 194 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 20:26:59 ID:aFPNI/3U [35/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「サ、サーカスを見せる?!」

ニャヒート「お兄ちゃんも、たぶんアマージョも、サーカスに命懸けてるから。サーカスでしか説得のしようがない」

モクロー「うん、それはそうだ」


晩ごはんを食べた後、あたしたちはまた集まって、さっきの思い付きをテーマに話を始めた。

モクローはすぐに理由を察し、そして問題点すらも指摘した。


モクロー「けど、どうやってサーカスを向こうに見せるの? ちょっとやそっとの理由付けじゃダメだ。

      それに、ただ見せるだけじゃダメ。ルテーじゃなく、エクリプスじゃないといけない理由を捜さないといけない」

アシマリ「ほええ、やっぱ凄いや」

モクロー「凄いって言うのはこれを解決してからだよ。問題を見付けるだけじゃ、足りない」

フーディン「まあでも、問題が整理されるのはありがたいからな。んじゃ、今モクローが言った2つの課題をなんとかして解消しよう」
 ▼ 195 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 20:27:29 ID:aFPNI/3U [36/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
議論が始まる。

エクリプスにしか無い物、などという抽象的な議題は取りあえず脇に置いて、まずはサーカスを見せる方法を探す。


フーディン「……普通に見せるじゃダメなのか?」

アママイコ「モクローが言ってたけど、お母さん、手紙送ったりとかぐらいじゃ来ないよ。

       一番でいたいから、周りを拒んでるって事かな」

フーディン「そうか……」

モクロー「向こうがこっちに来たのは公演のためで、閉じこもって上を目指してる以上、それ以外の動機で動かすのは難しい?」

アママイコ「う、うん。モクローの言う通り……」

アシマリ「公演? 向こうにサーカスをさせつつ、こっちも見せる……」

モクロー「ああ、そうだよアシマリ! 競争だ!」

一同「え?」

モクロー「企画として、エクリプスとルテー、合同サーカスみたいな公演をする機会を作ればいいんだ!」
 ▼ 196 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 20:28:02 ID:aFPNI/3U [37/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「でも、どうやって?」

モクロー「最近、ここケルンは、サーカスの誘致に力入れてるんでしょ? だったら、ケルンの町長に持ち掛けてさ」

アシマリ「ああ、そんな事言ってたような……」

フーディン「言ってた。向こうからオファーがあった訳だし、エクリプス、ルテーとこんなに時間をおかずに別のサーカスを呼んでるのもそういう事だ」

モクロー「団長。ケルンの町長に伝えて。『エクリプスとルテー、合同でサーカスをやるというのはどうでしょう。こちらはいいので、向こうの了承が取れれば』。

      向こうにとっても、話題性が出来て一石二鳥だよ。僕は撃ち落とされそうで怖いけど」


一石二“鳥”だけに、である。


フーディン「わかった。明日、持ち掛けてみるよ」

モクロー「了解。後は、エクリプスである必要。ニャヒート、どうしてこっちに残ろうと思ったの?」
 ▼ 197 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 20:28:36 ID:aFPNI/3U [38/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
唐突に水を向けられて、効果抜群……という訳ではないが、あたしは答えにつまった。

ただ、なんとなく、としか言いようがない。

強いて言うなら、とあたしは視線を向けてみるけれど、その言い方だと語弊がある。

アシマリのために残った、じゃ。


ニャヒート「どうしてだろ……帰りたいって思ったのは間違いないけど、明確にそれを掴むまでにアママイコに助けられた訳で、あたし自身よくわかんないんだよね」

アシマリ「なんで急にそんな事訊いたの、モクロー」

モクロー「ん? ああ、ニャヒートがエクリプスに残りたいと思った理由。そこにこそ、エクリプスにあって今のルテーに無い物が隠されてると思ったんだ。

      まあ、そんなすぐにわかるとは期待してないけど、間違いなく、そこに潜んでる」

アシマリ「うーんと……わかんないけどわかった!」

ニャヒート「説明したげて。あたしはわかったけど」


あたしも、よっぽどのサーカス脳だ。

エクリプスの方が勝ってると思える要素が少しもなければ、あたしは帰りたいとは思わなかった。

その、あたしを惹き付けた要素は、恐らくアママイコの目指す物とも重なっている。

だから、そこを全面に押し出したパフォーマンスをしなければならない。
 ▼ 198 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 20:29:30 ID:aFPNI/3U [39/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「まあでもさ、言いたい事はわかったけど、そこまで考えなくてもただ『やってて楽しい』ってのを押し出せばいいと思うけど」

モクロー「え?」

ニャヒート「それこそアシマリのみたいにさ。あたし自身は、どちらかというと向こうより。だったら、アシマリのパフォーマンスが参考になると思うんだ」

アシマリ「え、オイラ?!」

ニャヒート「そ。やってて楽しいという感覚。それを、上手く魅せる事が出来たなら。

       まあ、それが難しいんだけどね」

アシマリ「あー、そういや前言ってたね。吹っ切ってから忘れてたよ」

ニャヒート「……らしいや。とにかく、そういう事でしょアママイコ」
 ▼ 199 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 20:30:04 ID:aFPNI/3U [40/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「あ、えっと……どうだろ、モクロー」

モクロー「それを僕に聞く?」

アママイコ「あっ、ごめん嫌だった?」

モクロー「別にいいけど……」

ニャヒート「とにかく、お兄ちゃんたちに足りてないのは、その感覚だよ。自分本位って言うのかな。観客の事が目に入ってない。

       サーカスの根本を履き違えてるよ」

モクロー「……なるほど」

フーディン「じゃあ、そういう事でいいか? みんな。
 
       少なくとも俺は、この意見は、信頼に足ると思う」

アシマリ「オイラも! オイラも信じるよ! ニャヒートの事!」

モクロー「僕も」

アママイコ「じゃああたしも!」

フーディン「決まりだな」
 ▼ 200 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 20:30:56 ID:aFPNI/3U [41/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
35-◇12

アママイコ『あ、えっと……どうだろ、モクロー』


それを、僕に聞くのか。

よりによって、僕に。

サーカスに命を懸けてるポケモンの説得でなければアマージョたちは応じないと言うのなら、僕は失格だ。

わかっている。

僕は、アシマリ、ニャヒートと比べて、一段格が下がる。

そもそも、サーカスの事を、僕はまだ、掴めていない。

もし掴めていれば、もっと速く、ニャビーが消えた事件に関して推理出来ていた。

模倣は、どうしたって同じになれないなんていう、そんな簡単な事にすぐに気付けなかったばかりに、僕は、真相を逃し掛けた。

ニャビーだって、誰かから学んだはずだなんていう事実に気付けなかったばっかりに。

僕は、サーカスを知らない。サーカスに、心からゼンリョクで挑めない。
 ▼ 201 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 20:31:32 ID:aFPNI/3U [42/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「どうかしたの、モクロー」

モクロー「なんでもないよ。ただ……僕、ここにいていいのかなって」


甘い香りに、僕の弱った心はどうかしてしまったらしい。

ちょっと問い掛けて来たアママイコに、いとも簡単に僕は悩みを打ち明けていた。

行きずりの気安さもあるのかもしれない。

僕の悩みは、出口を求めていた。

たまたま、アママイコが空気穴を開けてくれただけなのだ。


モクロー「僕、そもそも、アシマリが入るって言って、それに引っ張られるみたいに……まあ、自分で決めたんだけど、それでサーカスに入ったんだ。

      理由なんて、食事にありつけそうだから、だよ。

      それからも、アシマリとニャビーが2匹で切磋琢磨して実力付けてさ。サーカスとの向き合い方の違いで対立しても、結局2匹はサーカスが大好きなんだよ。

      だからすぐ仲直りして、その日の夜には一緒に練習してる。

      でも僕は? 僕は一体、サーカスにおいて、何が出来る?

      ――こうやって頭を働かせて、いろいろ考えたりはするけど、そんな事してる間にも、アシマリは、どんどん前に行く。

      僕は、じゃあ、なんのために生まれたのかなって」
 ▼ 202 1◆J44kAZeDOM 17/01/06 20:32:53 ID:aFPNI/3U [43/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコは、じっと耳を傾けてくれている。

それに甘えて、僕の心は、口を止めない。


モクロー「僕は、ずっとアシマリとその日暮らしをしてたんだ。

      その暮らしは楽しくて、だけど先が見えなくて。

      エクリプスに入ってからも、そうだった。

      ――僕は何者なんだろう。僕は、どこへ向かって行くのだろう。

      アシマリは、もう護ってあげなくても大丈夫。

      みんながいるからさ。

      でもそうなると、僕のアイデンティティが消えていく。

      ちっちゃい頃からアシマリと一緒にいて、アシマリと助け合って生きて来たから、僕は、そればっかなんだ。

      僕には、目標がない。

      目指す物がないパフォーマンスに、なんの意味があるんだろうって」


吐き出してしまうと、後には沈黙だけが残った。


モクロー「ありがと、聞いてくれて。だいぶスッキリしたよ」
 ▼ 203 こまで◆J44kAZeDOM 17/01/06 20:33:41 ID:aFPNI/3U [44/44] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコは、首を横に振ると、僕を見据え、言った。


アママイコ「あたしが役に立てるなら、なんでもするよ」

モクロー「ありがと、でも気持ちだけで充分。僕も僕で、自分で考える。

      考えるのは得意だからね」

アママイコ「あ、そう……。わかった。でも、相談したくなったら、いつでもしてね」


そう言ってアママイコは立ち去った。
 ▼ 204 ールル@ソクノのみ 17/01/06 20:34:44 ID:E3Lqyscg [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ▼ 205 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:05:59 ID:ckyWYs.w [1/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







36〜42 懸ける想い






 ▼ 206 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:06:38 ID:ckyWYs.w [2/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
36-○13

翌朝、オイラは目を覚まして、練習を始めた。

ニャヒートがもう起き出して、始めている。

進化した体の感覚を掴もうというのか、飛びはせず、ぶら下がっている。

おはようとだけ声を掛けて、オイラはバルーンを作りその中に飛び込んだ。

その中で、バルーンの層を作る。

3重に重ねたバルーンの中心から、一気に外へ飛び出す。

勢いよくバルーンが割れ、水飛沫が散った。


アシマリ「フィニッシュ!」
 ▼ 207 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:07:32 ID:ckyWYs.w [3/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「どうしたの大声で叫んで」

アシマリ「いつも以上に楽しさを前面に押し出そうと思ってさ」

ニャヒート「……そんな小手先の話じゃないって事ぐらい、アシマリならわかると思うんだけど」

アシマリ「うーん、でもさ? オイラ、これ以上どうすればいいのかなって」

ニャヒート「あんたは今までの路線を貫け。あたしも、貫く。

       だけど――交わって、いいと思ったとこを採り入れるのは、絶対大事だよね」

アシマリ「……だね」

ニャヒート「そういう柔軟性。何でもサーカスに採り入れていく覚悟とも言えるかな」

アシマリ「自分の殻に閉じこもっちゃってちゃ、成長出来ないって事だよね。

      うん。オイラたちは、アマージョたちの殻をぶっ壊さないと」

ニャヒート「……ま、あんま気負うな。いつも通り、観客が楽しめるパフォーマンスをするだけよ」

アシマリ「だよね。さ、頑張ろ!」

ニャヒート「当たり前よ」
 ▼ 208 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:08:28 ID:ckyWYs.w [4/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
朝の練習を済ませ、オイラたちは朝ごはんを食べた。

相変わらずとろけるようにおいしい。

そして、それは新しくやって来たポケモンにとっては特に、であり……。


アママイコ「えっ、何これすっご! いや昨日晩ごはんも食べたけど、改めてすっご!」

ブラッキー「ありがとう」

アママイコ「ねえ、今度料理教えてよ」

ブラッキー「え、いいけど別に……」


アママイコのテンションが凄い事になっている。さすがブラッキーの料理だ。


エーフィ「あたしもこんな弟持って誇り高いわー」

ブラッキー「ちょっ、やめてよお姉ちゃん」

エーフィ「へへん、やめないよーだ。ブラッキー、あんたは自信を持ちなさいって何回も言ってるでしょ!」

アママイコ「えっと……モクロー、これ何?」

モクロー「姉弟ゲンカ。気にしないで、半ば日課みたいなもんだから」

アママイコ「そ、そうなんだ……」
 ▼ 209 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:09:14 ID:ckyWYs.w [5/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコは、一気にモクローと仲良くなっている。

なんだか嬉しい。

というより、アママイコって絶対モクローの事好きだよね。

なんとなくそんな気がする。

アママイコ、モクローと話す時だけどもったり、何かにつけてモクローに質問したり……。

なんてニヤニヤしながら2匹のやり取りを眺めていた。


エーフィ「わかるよ。あの2匹、絶対いい感じだよね。

      特にアママイコなんか、もう恋する乙女のオーラを感じちゃうよ。

      当のアママイコは隠そうとしてるけどあたしエスパーだしね」

アシマリ「やっぱり」


話し掛けて来たエーフィとオイラは会話を始めた。

もちろん、周りに聞かれないように、ヒソヒソと。
 ▼ 210 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:09:46 ID:ckyWYs.w [6/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィ「モクローは……気付いてないみたい。でもたぶん……みんなは気付いてるだろうね」

アシマリ「え、そうなんだ」

エーフィ「まぁ、見ててバレッバレだからね。明らかに、モクローに対してだけ態度が変わってる」


そう言ってニヤリと笑って、すぐにエーフィは真顔に戻って、言う。


エーフィ「でもさー、ちょっと気になるのよね」

アシマリ「え?」

エーフィ「アママイコ、いろいろあった訳じゃん。こんなすぐにモクローに恋出来るのかなって」

アシマリ「言われてみれば……」

エーフィ「何かあるような気がするのよね……」


オイラは、思わずアママイコを見詰めた。

2匹は、楽しげに話している。
 ▼ 211 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:10:19 ID:ckyWYs.w [7/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
みんなが食べ終わった頃を見計らって、


フーディン「じゃあ、メシも食い終わった事だし、ちょっと話を聞いてくれ」


ダンチョーがみんなにそう言った。

そして、昨日まとまった話を全体に伝えた。


フーディン「ルテーに対して説得力のあるパフォーマンスなんて、ハードルが高いだろう。

       そんな事は百も承知。

       それでも、やらないといけないんだ。アママイコと、ニャヒートのためにも。

       みんな、今まで以上に頑張ってくれ」

みんな「おうよ!」

フーディン「以上! エーフィ、指揮頼んだぞ」

エーフィ「合点!」
 ▼ 212 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:11:18 ID:ckyWYs.w [8/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
37-△12

それにしても……簡単に言ってくれる。

あたしが出来ない物を、この「戦い」は要求してくる。

いや、違う。

あたしにこれが出来ないからこそ、あたしはお兄ちゃんと戦わないといけない。

お兄ちゃんに、追い付くために。

お兄ちゃんの孤独を、癒せるように。

お兄ちゃんを目標に置いて、孤独を埋める必要は、もうない。

あたしには、エクリプスがあるから。

だから、あたしは、お兄ちゃんに追い付かないといけない。

それだけが、あたしなりの「恩返し」だ。

猫の恩返し……となると微妙に違って来るけれど。


ニャヒート「よし、やろう、あたし。泣き言なんて、らしくないぞ」
 ▼ 213 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:11:50 ID:ckyWYs.w [9/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたしは、ブランコにぶら下がった。


ニャヒート「おっと……」


お兄ちゃんは、この感覚と戦って来たのだろうか。

変貌を遂げた自らの体は、重心の位置と重さの感覚を変え、あたしはまだ、飛べない。

団長がどのタイミングでアポを取るかは知らないけれど、とにかく早く仕上げなければならない。

なんとしても、あたしは飛ぶ。

失敗は許されない。

だから……あたし、掴んでくれ、自分の体の感覚を。
 ▼ 214 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:12:30 ID:ckyWYs.w [10/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ブランコを揺らしつつ、首から炎を吐き出した。

口を開ける、というモーションがなくなった分、少しブランコに集中しやすくなっただろうか。

少しずつ、ブランコの揺れを大きくしていく。

どっしりとした足腰のせいで、重心が後ろへ寄る。

慌てて前に少し力を入れ、バランスを取った。

ほっとため息を吐き、あたしは再び揺らし始める。

太くなった尻尾は、ブランコに絡めるには向いていないだろう。

となると、そのパフォーマンスは削り、もっと別のものを考えなければならない。

さて、思った以上に厳しいぞ、これ。

今までとは全く別の、新境地を切り開かないといけない。

お兄ちゃんから教わった事のない、それこそ誰も知らない高みを、目指さないといけない。

ぶら下がった状態で、あたしは自らの体の分析を始めた。
 ▼ 215 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:13:43 ID:ckyWYs.w [11/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
進化した姿は、明らかにたくましくなっている。

ガオガエンのように筋骨隆々、とまでは言わないけれど、その萌芽をこの身に宿しているのは間違いない。

となると、今までの繊細なパフォーマンスではなく、大胆かつ力強いパフォーマンスを目指すのが正解か。

ただ、口でそういうのは簡単でも、実際面だと技術を超えた力強さというのは相当に難しい。

適当にやればいいなんて事はありえない。技術が必要なのは前提だから。

その上で、豪胆なパフォーマンスを、となると……。

激しい炎、激しい揺れ、そして高いジャンプ。

ニャビーの体なら、やれと言われれば3つともこなせた。今でもたぶん、前2つはなんとかなる。

問題は、最後。高いジャンプだ。

ジャンプした後、再びブランコにぶら下がらないといけない。

そこで、前足を滑らしてしまえば、終わりだ。

ズレた重心を加味して、ブランコの軌道と落下の軌跡を重ねなければならない。感覚で出来る物ではないし、必要なのは――


ニャヒート「駄目だ。時間が足りない」


練習時間。これに尽きる。
 ▼ 216 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:14:19 ID:ckyWYs.w [12/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
38-◇13

フーディン「合同公演だが、町長がルテーに持ち掛けてくれるらしい。

       時期はわかり次第連絡するが、1週間が目途じゃないかって」

モクロー「1週間?! そんなすぐに向こう対応してくれるかなぁ……」

フーディン「町長、ほんと飛びつくみたいにこの話に乗って来たからな……。

       多少強引に、金を少し盛ってでも、ルテーを引っ張り出して来るぞ、あれは」

モクロー「……とにかく、みんなに伝えないとダメですね」

フーディン「ああ。とりあえず、みんな集めるぞ」
 ▼ 217 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:14:57 ID:ckyWYs.w [13/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
みんなの反応は、やっぱり期間の短さを驚く物だった。

そこまで短時間でそんな大事な公演に向けた調整が出来るのか。


フーディン「出来る。俺たちは、あの事件まで、週替わりで公演の場所変えてやってただろ?

       今じゃ1回でそれなりに稼げるから練習に時間を割けてるが、あの時代を経験して来た俺たちなら出来る」


団長の発言に、謎の説得力を感じてしまった。

かつての話だから情けなく思う必要はないのだけれど、真顔でそんな事を言う団長にちょっと苦笑いしてしまった。
 ▼ 218 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:15:45 ID:ckyWYs.w [14/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「モクロー、さっきフーディンが言ってたの、ホント?」

モクロー「らしいね。僕はその時代あんま知らないんだけど」

アママイコ「へえ……凄いね」

モクロー「いや、その時はホントにダメダメだったから」

アママイコ「……」


呆れ顔のアママイコ。

僕は、どうしてか、その表情に一瞬見惚れた。


アママイコ「ん、モクロー、どうかしたの?」

モクロー「え、ああ、いやなんでもないよ」
 ▼ 219 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:16:48 ID:ckyWYs.w [15/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
きっと、と僕は自己分析を始める。

悩み、重い秘密を共有したアママイコに、好意のような感情を抱いてしまうのはごく自然な事だ。

ただ、それは恐らく一過性な物。

本物の恋ではなく、ある種の吊り橋効果だろう。

アママイコの笑顔は、確かにかわいいけれど、それだけだ。

恐らく、明確な目標が定まればすぐに消えてしまうであろう淡い感情。

そんな物よりも、僕は、合同公演に備えて練習しなければならない。

司会に関してはアマージョがするのかもしれないが、出来る事なら彼女には、観客として見て欲しい。

一度、客観視するのが大事だから。

たぶん、その辺の――司会は誰がするのか、順番はどうするのかというような事は打ち合わせという事になるのだろう。

その時には、アママイコにも頑張ってもらわなければならない。

こちらにいるという意思表示をしないといけないのだから。

ならよかった、と微笑むアママイコに、僕は複雑な感情を秘めて向き合っていた。
 ▼ 220 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:17:35 ID:ckyWYs.w [16/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そのまま、ルテーとの合同公演に関して、アママイコと話を始めた。


モクロー「アマージョに、どうやって説明する? 凄いマズイよね、立場的に」

アママイコ「もー、忘れようとしてたのに! 出来るなら行方不明で済ませたかったよ。

       まあでも、そうだよね。心配してくれてありがとうねモクロー!

       どうするかだけど……誤魔化す訳にはいかないのよね」

モクロー「誤魔化してもどうせバレてるよ。だから、なんとかしないといけない。君が無事でいられるように」

アママイコ「……だよね。あーもう」


ぷくりと頬を膨らませ、アママイコはそれでも考え始める。


アママイコ「お母さんを納得させるのはどうやったって無理だし……だとしたら強引にごり押すのが吉?

       だけどなぁ、それじゃ上手い事合同で出来ないよねさすがに……」

モクロー「結局はごり押す事になるんだけど、少しはマシな説得を考えないとだよね。

      どっちみち、向こうからのこっちの評価は、悲惨な事になってるから、せめて最後まで……本番まで持ち込めれば御の字だよ」
 ▼ 221 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:18:32 ID:ckyWYs.w [17/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「そんなレベルでいいの?! なら大丈夫だよ! お母さんもガオガエンも、一回引き受けたからにはやるポケモンだし!

       ……やらないと、信頼に傷が付くからね」

モクロー「え、そうなんだ……。じゃあ、そこを心配しないでいいとなると……。ニャヒートとアママイコが殺されないで済む程度を目標に設定してそこをこなせばいいのか」

アママイコ「ちょっと、お母さんたちをなんだと思ってるの?!」

モクロー「さすがに冗談だってば。殺したりなんてしたら信頼に傷がどころの話じゃないもん」

アママイコ「あ、そ、そうだよね、アハハ……」

モクロー「まあ、正直言うと監禁の時点でアウトなんだけど……ニャヒート曰く、アマージョの表情ちょっと硬かったらしいし、案外本心じゃなかったりしてね。

      個人的には、ガオガエンが衝動的にやらかしたんだと思ってる。ま、これは推理じゃなくて空想なんだけど」

アママイコ「うーん、その辺はどうなんだろ。あたしもよくわかんないんだよね」

モクロー「え、そうなんだ」


今のは半ばカマかけだったのだが、知らないのか。


アママイコ「まあ、でもたぶん、モクローので正解だよ。ガオガエンの指示が大きかったと思う」

モクロー「やっぱり?」

アママイコ「うん」
 ▼ 222 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:19:16 ID:ckyWYs.w [18/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「でも、羨ましいなぁ。そんなに思って貰えるなんて。

       あたしのお母さん、必死過ぎて、あたしに構うどころじゃなかったから。

       ま、団員たちが気に掛けてくれてたし、そんな寂しかった事はないけど」

モクロー「そうなんだ」

アママイコ「あっ、そういやモクローに家族っていないの?」

モクロー「え? いないけど。強いて言うならアシマリ?」

アママイコ「……?」

モクロー「僕、父親も母親もちっちゃい頃に病死しちゃってさ。

      あ、でも別に、生活も楽じゃないけど絶望的ではなかったし、アシマリとも会えた。

      だから、僕は、そんな気にしてないんだ。

      普通な暮らしと変わらない幸せがあったと思うから」
 ▼ 223 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:19:55 ID:ckyWYs.w [19/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「……なんか、ごめんね」

モクロー「いいよ別に。実の親の記憶もあんまりないし、ニャビーとかアシマリとかに比べれば、僕なんか全然だよ」

アママイコ「……ニャビーはいいとして、アシマリ?」

モクロー「まあね」


そうか、知らないんだ。

よく考えれば当たり前なのだけれど、僕はすっかり失念していた。
 ▼ 224 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:21:36 ID:ckyWYs.w [20/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「アシマリ、本当に捨てられてたんだ。父親が夜逃げしたんだと思う」

アママイコ「えっ」

モクロー「どこかのサーカス団のすぐ近くで、父親を呼びながら泣いてたのに気付いてさ。

      なんでそこ行ったのかって……なんか騒ぎになっててさ。そしたら、たまたまアシマリがそこにいた。

      たくさん大人がいたのに、みんなチラッと見るだけで、通り過ぎちゃう。

      まだ僕だってちっちゃかったけど、その気持ちがもうほんっとわかったから、拾った。

      当時はまだ、いわゆる遺産富豪だったから、大丈夫だと思ったんだ。

      実際、自分でダンジョンに潜って新鮮なリンゴ調達して稼げるようになるまでもってくれた」

アママイコ「いやモクローのお金なんてどうでもいいよ! 2匹とも……そんな……」

モクロー「だから気にしないでよ。僕たちは、どっちも気にしてないんだから。

      ……心配してくれるのはありがたいけど、今はそんな事より、ルテーの問題だよ」

アママイコ「…………。


       ………………決めたっ! あたし、モクローを支える!」

モクロー「……へ?」
 ▼ 225 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:22:19 ID:ckyWYs.w [21/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
呆気に取られてアママイコを眺めると、彼女はニコリと微笑んだ。


アママイコ「今、モクロー悩んでるんでしょ?

       だったら、あたしが支えてあげる! ルテーを助けてくれるエクリプスに恩返ししたいんだけど、全部にするのは無理だから……。

       だから、せめてモクローだけでも!」

モクロー「えと……なんで?」

アママイコ「モクローがホントにやりたい事を見付けるまで、あたし、あなたといるよ。

       出来れば見付けてからも……なんちゃって」

モクロー「いやそうじゃなくて、なんで僕?」

アママイコ「ニャヒートもアシマリも、2匹ともサーカスに打ち込めてるんでしょ?

       それは、他のみんなを見てもそうだった。

       あなただけだもん、辛そうなの。みんなは見慣れてて気付かないのかもしれないけど、あたしはわかったよ」


隠しているからなのだけれど、そんな事はどうでもよくて。
 ▼ 226 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:23:09 ID:ckyWYs.w [22/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「まあ、いいや。わかった。お互いに、助け合おう。僕は、アマージョと君を仲直りさせる。君は、僕を支える。

      ……どうやるつもりかは知らないけど」

アママイコ「あー、あたしの事舐めてるでしょ」


舐めてるというか……戸惑っているだけである。

あまりに唐突過ぎて、受け入れる受け入れない以前に訳がわからない。

僕は頭を切り替えて、ルテーに関する話に戻す。


モクロー「それよりも、本当にアマージョとどうやって話すか考えなきゃ」

アママイコ「まー、正直死なない事を目標にぐらいなら適当にやってもなんとかなると思うよ」

モクロー「それはそうだけど、なるべくベストな方法で締めたい」

アママイコ「ベストって一番いいって意味だからなるべくだったらベストじゃないよ」

モクロー「……出来る限りいい形で話を付けたい」

アママイコ「わかった。考えよ、一緒に!」
 ▼ 227 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:23:46 ID:ckyWYs.w [23/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
39-△13

6日間。ルテーの方から返事があったらしく、この日数が期限だとあたしたちは団長から聞かされた。

今のあたしに、この言葉は重く、それこそ言い伝えのグラードンよりも重くのしかかる。

たったそれだけの時間で、感覚を掴まないといけない。

失敗を恐れた練習じゃ、到底間に合わない。

あたしは、ルテーとの顔合わせは免除されるだろう。

その時間は間違いなく充てられるけど、食べて、寝て、その時間すら勿体ないレベルだと、そんなの焼石に水。

あたしは、どうすればいい?

どうすれば、どうすれば……。


アシマリ「ニャヒート」

ニャヒート「どうしろっていうのよ!」

アシマリ「うわっ!」

ニャヒート「ん? ああ、アシマリ、ごめん、取り乱した」
 ▼ 228 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:24:19 ID:ckyWYs.w [24/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「いや別にいいんだけど……どうしたの?」

ニャヒート「……あたし、進化したから、体のバランスが掴めないの。

       落ちるんじゃないかって、どうしても怖くって。

       失敗したら、あたしは、どうなっちゃうんだろうって……」

アシマリ「別に、どうもしないでしょ。ニャヒートはニャヒートだよ」

ニャヒート「……あんたは、全然わかってない。失敗の恐ろしさを」

アシマリ「……でもさ、大事なのって、失敗しても、また立ち上がる事じゃないの?」

ニャヒート「周りがざわめいて、白い目で見られて、エクリプスだから団員たちの評価が変わる事はなくっても、世間の目は容赦ない。

       ……失敗するってのはつまり、そういう事なの、わかってる?」

アシマリ「わからないけど!」


アシマリは叫んだ。

あたしは驚いて、そちらを見詰める。
 ▼ 229 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:25:33 ID:ckyWYs.w [25/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「わからないけど! でも、違う! ……怖がってちゃ、駄目でしょ。オイラたちの悩みなんて、観客には関係ない。

      そう言ったの、ニャヒートだよ?!

      オイラたちは、どれだけ怖くても、出来るだけのゼンリョクを尽くさないといけないし、それしか出来ないよ。

      だから……飛ぶ前から失敗を考えてるようなニャヒート、オイラの憧れのニャヒートじゃないっ!!」


アシマリは、一息に言い切ると、少し荒い息を吐いた。


アシマリ「……大丈夫だよ。ニャヒートは、どれだけ怖がっても、どれだけ上に誰かがいようと、結局はサーカスの天才なんだから。

      そのニャヒートが、1週間も練習出来るんだよ?

      それに、万が一の事があっても、オイラが支えるから。

      オイラたちみんなで、支えるから……だから、1匹で抱え込まないで。不安だったら、話してもいいよ。

      観客には関係なくても、オイラたち仲間には、関係あるんだからさ」


アシマリは、そう言ってあたしを見詰めた。
 ▼ 230 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:26:28 ID:ckyWYs.w [26/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたしは、それを見返す。


ニャヒート「わかった。……だから、今は練習するよ。

       こうやって話してる時間も勿体ない」

アシマリ「それでこそニャヒートだよ。……まあ、それはそれで凄過ぎて怖いんだけどね」

ニャヒート「褒め言葉として受け取っとくよ」
 ▼ 231 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:27:01 ID:ckyWYs.w [27/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたしは、もう怖がってはいられない。

傷だらけ、ぼろぼろになってもいい。

この公演だけは、なんとしても成功させる。


ニャヒート「アシマリ、バルーンのクッションお願いしていい? ……水は辛いけど、ダイレクトに落下するよか何倍もマシ」

アシマリ「りょーかい!」


アシマリが鼻からバルーンを膨らませる。

大きな、大きなバルーンを。

それはアシマリの鼻を離れ、地面に着地した。

しかし、割れないままそこに残る。


アシマリ「これでよしっと! んじゃ、頑張って。頑張ってるのはわかるけど、オイラにはこれしか言えない。頑張って」

ニャヒート「……もちろん」
 ▼ 232 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:27:37 ID:ckyWYs.w [28/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あたしは、飛んだ。

クッションがあるから、だいぶ気が楽だった。

揺れが最大限まで高まった所で、飛び、別のブランコへ飛び移る。

下半身にかかる重力をいなそうと、あたしは前のめりになる。

――届かない。

あえなくバルーンの上に墜落。あたしは、トランポリンのように軽く跳ねた。

水と油は混ざらないとはいえ、さすがにあたしの重さがかかれば中に入り込むはずなのに……。

実際は、中に入り込む事はなく、弾力のある、まさしくクッションのように機能した。


ニャヒート「アシマリ……あんた、凄い練習してんだ」


バルーンの硬さ……正確に言うと、触れて破裂するかしないかを本気で調節しようと思ったら、普通はアシレーヌまで進化してからである。

今までだってトランポリンのような使い方はしていたけれど、それだって1回きりのものだった。

これほどの大きさのバルーンで、それを調節している。アシマリ系列の事はそこまでわかる訳ではないけれど、並大抵の練習量じゃ難しいはずだ。


ニャヒート「……負けてられない」
 ▼ 233 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:28:09 ID:ckyWYs.w [29/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
何度も、ブランコを揺らし、そして飛ぶ。

その度に落下して、それでも少しずつブランコまでの感覚がつかめて来た。

が、まだまだ完璧には程遠く、ニャビー時代のキレすらもない。

上空へ向かって加速度を増すブランコを見ながら、あたしは思う。

駄目だ。まだ、ニャビー時代のパフォーマンスに固執している。

変わらないといけない。体に合わせて、全部。

途中で勢いがなくなっているのだけれど、もっと勢いを付けて、という訳にもいかない。

では、どうするのが正解か。

バルーンの上で寝転がり、背中にひんやりとした感覚を感じながら、あたしは目を閉ざし、先程の自分を心に描く。
 ▼ 234 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:29:00 ID:ckyWYs.w [30/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
高く飛び、そこまではいいが、強くかかる重力のせいで、ブランコに届くよりも前に、体がボーダーラインを下回っている。

必死に前足を伸ばすが、無駄なあがきでしかない。

そして、バルーンに受け止められる。このループ。

そう、問題は、体が下に落ちる事。

だとすると、持ち上げればいい。

でも、どうやって……。
 ▼ 235 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:29:41 ID:ckyWYs.w [31/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
隣で、アシマリが練習している。

小さなバルーンを複数個使い、それを伝って高くジャンプするという練習だ。

飛んではバルーンを創り、創っては飛ぶ。

その繰り返しだが、優雅に泳ぐその姿は、間違いなく「いいパフォーマンス」だ。

弾ける飛沫は、光に照らされるとよく映えるだろう。

と、宙を舞うアシマリが、下に向かって少し大きめのバルーンを撃ち出した。

どうするのだろうと思って眺めていると、それをトランポリンに再び跳ねて、最後、鮮やかな着地を決めた。


アシマリ「ん? どうかしたのニャヒート」

ニャヒート「……そうか! 下だ! あたしには、炎があるじゃない!」

アシマリ「え?」

ニャヒート「ありがとうアシマリ! あんたのお陰で、パフォーマンス、見えて来た!」

アシマリ「よくわかんないけど……見せてよ!」


言われなくてもである。

あたしは、踏切台を踏み抜いた。
 ▼ 236 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:30:11 ID:ckyWYs.w [32/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
まずは最初のブランコに掴まる。

ここは、この体でも容易のこなせる。

そして、少しずつ揺らしていく。

どんどん振れ幅の大きくなるブランコ。頬を切る風に、あたしは覚悟を決めた。

最も勢いの付くタイミングで、あたしは飛んだ。

重力を強く感じる。体が下に追いやられて行く。

けれど。

あたしは首の鈴に意識を集中させる。

リン、と澄んだ音が鳴った。

その瞬間、鈴から炎が放出される。

それは、あたしの軌道を上方へ修正する。

やった。心で快哉を叫んだが、次の瞬間、あたしはとんでもないミスを犯していた事に気付く。

高過ぎた。これでは、ブランコを飛び越える。

そう思ったのも束の間、あたしの前足は下へ伸び、それでもまだ届かない。

そのまま落下してしまった。
 ▼ 237 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:31:22 ID:ckyWYs.w [33/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「何今の音! めっちゃ綺麗だった!」

ニャヒート「あたしが……ニャヒートが炎技を撃つ時、首の鈴が音を鳴らすの。

       あー失敗した。炎で高さ調節、でもいい案だった。

       ホントに調節しないとな……それと、炎を撃つ時に意識を集中させ過ぎちゃう。

       慣らさないと……新しい体を、ブランコと、技を撃つ事に」

アシマリ「……聞いてる?」

ニャヒート「あ、ごめん」

アシマリ「まあいいや。感想だけど、凄かったよ! 炎がもう力強くって。

      今までとは全然感じが違ったね」

ニャヒート「そうかな」

アシマリ「ホントだよ! 今までのニャビーは、テクニックが凄くて、炎と絡まって凄くなってた。

      今のは……なんて言えばいいんだろ、炎の力強さを引き立てる? そんな感じがした。

      ジェットみたいな炎の使い方、凄いよ!」
 ▼ 238 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:31:59 ID:ckyWYs.w [34/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「炎を引き立ててる……」

アシマリ「うん。今まではキレイに見せるための炎だったけど、今回は飛ぶための炎。

      迫力があってさ。まあ、ニャヒートなんだし、本番までには迫力以外もちゃんと仕上げてそうだけど」

ニャヒート「……なるほどね」


ニャヒートらしい力強さを求めていたあたしにとっては朗報と言えた。

この調子で練習を続けていけば、なんとかなるかもしれない。

少し希望が見えて来た。

――けれど、同時に、どこかひっかかりを覚えてしまったのは、気のせいだろうか。
 ▼ 239 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:32:39 ID:ckyWYs.w [35/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
40-○14

落ちていくニャヒートの姿に、オイラは、どことなく、記憶の奥底を揺さぶられるような気がしていた。

気のせいだと割り切ろうとはするけれど、衝動的に訪れるその感覚は、押さえつける事が出来ない。

オイラは一体、何を重ね合わせているのだろう。


アシマリ「ちっちゃい頃の記憶、なんだよね」


ここ、喉まで答えが出かかっているのだけれど、わからない。

そのもどかしさが、限界を超えた。

練習に集中出来るとも思えなくなり、オイラは少し外に出て、モクローの姿を探した。

謎解きは、モクローに任せるのが一番だ。
 ▼ 240 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:33:09 ID:ckyWYs.w [36/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクローを見付け、近付いて行こうとした所で、甘い香りが鼻に届き、オイラはアママイコがいる事に気付いた。

近付いて行くと、アママイコが「……よ、一緒に!」と言ってるのが聞こえてくる。


アシマリ「おーいモクロー」

アママイコ「きゃっ!」

モクロー「ん、どうしたのアシマリ」

アママイコ「ビックリしたじゃない!」

アシマリ「ご、ごめんアママイコ。モクロー、ちょっといい?」

モクロー「いいけど……どうかしたの?」

アシマリ「ちょっと推理して欲しいんだ。オイラの記憶について……」

モクロー「アシマリの記憶?」

アママイコ「おーい、お2匹さん」

アシマリ「そう」

アママイコ「ちょっと聞いてよ! アシマリ、いきなり過ぎない? あたしたちも、今大事な話してたんだよ?」


怒った声で、アママイコがオイラに言う。
 ▼ 241 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:34:10 ID:ckyWYs.w [37/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アシマリ「え? あ、ご、ごめん。何の話してたの?」

アママイコ「どうやってお母さんにあたしがこっちにいるって事を納得させるかって話よ」

アシマリ「ああ、それは大事だね……」

モクロー「いや、でも謎なんでしょ? そこに謎があれば、解き明かすのが僕だから……アシマリ、聞かせて。

      アママイコ、ちょっと待っててね」

アママイコ「えっ……まあいいけど」


ふてくされたように頬を膨らませるアママイコ。

オイラはごめんと謝ってから、モクローを連れ出した。
 ▼ 242 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:34:42 ID:ckyWYs.w [38/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「で、何? 記憶に関して推理して欲しいって」

アシマリ「オイラの記憶だから、モクローの方が詳しいかもしれないけど……。

      なんだか、ニャヒートがブランコから落ちる時――」

モクロー「えっ、ニャヒートが落ちてるの?! あ、ああ、体のバランスか」

アシマリ「うん。落ちる時、どうしてか、オイラ、凄い記憶が刺激されるんだ。

      なんでかなって」

モクロー「……それって」

アシマリ「たぶん、オイラが捨てられるよりも前の話」

モクロー「……」
 ▼ 243 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:35:17 ID:ckyWYs.w [39/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクローが、首を回す。

凄い勢いで、首を回す。

このままねじ切れてしまうのではないかと心配になって来た頃、モクローが首を止めて言った。


モクロー「まさか……ね」

アシマリ「何かわかったの?!」


モクローは首を戻してから、オイラを見据える。
 ▼ 244 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:35:54 ID:ckyWYs.w [40/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「もしかしたら、アシマリ、君はとんでもない偶然に巻き込まれてるのかもしれない。

      まだ、ちょっと確信が持てないんだけど……」

アシマリ「それでもいいよ、今すぐ教えて!」

モクロー「……どうして、どうしてニャビーは失敗したんだと思う?」

アシマリ「へ?」


そのままモクローは、だんまりを決め込んだ。

オイラは続きを促すけれど、何も反応がない。

ゆっくりと、モクローの首が回りだす。

こうなってしまうと、オイラにはどうしようもない。

ただ、それを眺めていた。壊れたぬいぐるみのように、同じ動きを続けるモクローを。
 ▼ 245 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:36:42 ID:ckyWYs.w [41/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
41-◇14

信じられない。こんな偶然、あってもいいのか。

これが事実だったとしても、困る事は何もない。

何もないけれど、ただただ、自分の脳がはじき出した結論が信じきれない。


アシマリは、過去に、ニャヒートの兄のパフォーマンスを見ていた。

しかも、よりにもよって、彼が進化したてで、失敗した時の。


こんな偶然、あってもいいのか。

僕は、再び自らに問うた。


けれど、こうでも考えないと、納得が行かない。

アシマリは、ニャビーのパフォーマンスを見て、エクリプスに入りたいと即決した。

それは、過去に見た彼のパフォーマンスと重なったからではないか。

僕がアシマリを拾ったのは、サーカス団のテントの前。そこが騒ぎになっていたのは、ちょうど、ニャヒートが失敗していたからではないのか。
 ▼ 246 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:37:35 ID:ckyWYs.w [42/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
父親と、最後の思い出としてサーカスを見た。

それが、偶然にも、その回だった。

僕がアシマリを拾った時期と、ニャヒートの失踪の時期も重なっている。どちらも10年前だ。

状況証拠に過ぎないが、アシマリの記憶が揺さぶられている以上、この可能性は、極めて高い。

――いや、偶然ではないのかもしれない。

アシマリは、そのパフォーマンスの何かに、強く惹き付けられ、サーカスへの興味を強めた。

遅かれ早かれ、ニャビーのパフォーマンスを見る事になっていただろう。僕とあんな暮らしをしていたからすぐだっただけで。

兄の失敗に動揺して自らも失敗し、追い出されたニャビーがへっぽこサーカス団に入る事。

あまり豊かとは言えない暮らしの中で、それでもサーカスを見たいアシマリがへっぽこサーカス団のチケットを手に入れる事。

――すべて、必然だったのか?
 ▼ 247 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:38:48 ID:ckyWYs.w [43/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
けれど、そうなると、僕は、細かい所で、推理の修正をしないといけない。

ニャビーの失敗が、むしろ尊敬する兄の失敗、及び失踪に因る物だったとしたら? ――順序が入れ替わっていたのだとしたら?

ニャヒートのミス→ニャヒートの失踪→ニャビーのミス→ニャビーの追放

恐らく、これが正しい順番だ。

そしてだとすると、ニャビーが進化を拒む理由もスッキリ行く。兄の失敗を見ていたからこそ、強くその事実を拒んだ。

過去の話を団長にした直後に、その話題に移行したというが、その理由も恐らくこういう事だろう。

そして。そうだとするならば、最大の問題は。

ガオガエンは必ずしも、妹想いの優しい兄とは限らないという可能性が出てくる事だ。

――あくまでも仮定だが、ガオガエンは、失敗から逃げたのではないか。

ニャビーを護る事を放棄して、自らを責める悪意から逃げ出したのではないか。

何かがキレてしまったのだろうか。

――最悪のシナリオは、ガオガエンがニャビーすらも逆恨みしている事。

彼は、失敗した時に、酷い扱いを受けたのだろう。それでポケモン不信になっていたら。

ニャビーの前に姿を現さなかったのも、そういう事なのではないか。

決意を揺るがせない。なんの決意だ?
 ▼ 248 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:40:00 ID:ckyWYs.w [44/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「モクロー。モクロー!」

モクロー「うわっ! ど、どうしたのアママイコ」

アシマリ「……やっと止まってくれた」

アママイコ「考えるのはわかるけど、考えすぎないで、1匹で。あたし、あなたの事支えるって決めたんだよモクロー。

       お願い、話して」

モクロー「……うん。だけど、途中からもう、推理じゃなくて、推測、もはや妄想の領域だよ。後、絶対にニャヒートには内緒」


僕は、先程までの、とりとめもない考えを話した。

話している内に情報が整理される事は多いが、今回はまさかという先入観がそれを許してはくれない。

2匹は真剣な顔で僕の話に耳を傾けてくれた。

お陰で、少なくとも話しやすくはあったのだけれど。
 ▼ 249 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:40:32 ID:ckyWYs.w [45/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「なーるほど。ガオガエンとニャヒート、ついでにアシマリの過去か……」

アシマリ「ついでってなんだよ! ……まあ、今回に関しては、確かについでかもしれないけどさ」

モクロー「思い出した、アシマリ?」

アシマリ「うーん……どうだろ。なんか、言われてみればそうだったかなぁってぐらい。

      今のがホントなら、本番、ニャヒートが飛んだ時に思い出すかもしれないね」

モクロー「え、失敗するって事……?」

アシマリ「ううん、ニャヒートはきっと成功する。けど、なんとなく、今の話聞いて思ったんだ」

――オイラが思い出すのは、たぶん、本番の、その瞬間だって。
 ▼ 250 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:41:03 ID:ckyWYs.w [46/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モクロー「……ならよかった。アママイコ。ガオガエンに関して、何かわかる?」

アママイコ「うん。……確かにモクローが言った通り、ネメシーへの恨みは、妹絡みって訳じゃなかった。

       まあ、0でもないんだけどね」

モクロー「え……やっぱり、そうなんだ」

アママイコ「モクロー、自分の頭に自信持ってよ!」

アシマリ「アママイコの言う通り! モクローは、名探偵なんだからさ!」

モクロー「誉めても何も出ないよ」


冗談でかわすが、正直満更でもなかった。

そう、僕は、考えるのが得意だ。

信じられない事実でも、推理出来る。出来てしまう。

それが、僕の個性。

紛れもない真実に、僕の心は、安息を得た……気がした。
 ▼ 251 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:42:06 ID:ckyWYs.w [47/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「まー、そこまで考え付いたんだし、一応あたしだって、ルテーの団長の娘だからさ。

       答え合わせ、出来なくはないよ」

モクロー「お願いするよ」

アママイコ「……ガオガエンはね、ネメシーを潰そうとしてる。その暗いやる気に、お母さんが乗っかった。

       サーカス団を立て直したい。その思いが、ガオガエンの強い思いと共鳴したんだろうね。

       で、なんでガオガエンがそうしたか……だけど、正解は、『自分たちを白い目で見たあいつらを許せない』。

       妹が、とか自分が、とかじゃない。どっちも、なんだよ。

       順番的には、当時基準で、ニャヒートのミス、ニャビーのミス、ニャヒートの失踪、ニャビーの追放。

       自分は逃れられて、しかも逃げた臆病者に怒りが集まるからニャビーも守れるって考えたみたい」
 ▼ 252 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:42:52 ID:ckyWYs.w [48/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
42-△14

再び10年前のあたしの話をしよう。


ニャビー「お兄ちゃん、どうして……」

ニャヒート「……俺、駄目みたいだ。バランスが、上手く取れない」

ニャビー「でも、だからってお兄ちゃんが……こんなに責められる事ないじゃない!」

ニャヒート「進化は、仕方ないからな。少しは勘弁して欲しいよ。俺、また出られんのかなーサーカス。

       今更、他の道じゃ食ってけねえしさ」


笑うように、お兄ちゃんはそういう。
 ▼ 253 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:43:36 ID:ckyWYs.w [49/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
お兄ちゃんが失敗して、あたしは動揺した。

あのお兄ちゃんが、ミスをした。それだけであたしは、天地がひっくり返ったような衝撃を味わっていた。

いや、あの時にあたしにとってすれば、正しく天地がひっくり返ったのだ。

だから、あたしも失敗した。

どうしようもないイライラがあたしを蝕んで、それに気を取られていたから。
 ▼ 254 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:44:12 ID:ckyWYs.w [50/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ネメシーは、とんでもない実力派サーカス団だ。

たった一つの失敗が、その評判を、地に叩き付ける。

その事に苛立っていたのは、あたし以外の全員だ。

もちろんそこに、お兄ちゃんは含まれている。

けれど、お兄ちゃんは、自責の念に苛まれてなお、あたしの前でおどけてみせる。

いや、違う。味方が欲しかったのかもしれない。

あなたは悪くないと、心の底で、言って欲しかったのかもしれない。

だから、あたしの前では、「どうしようもなかった」と強調した。

もしそうだとするなら、あたしは、完全に乗せられていた事になる。

もっとも、これはさすがに考え過ぎだと思う。思うけれど、あたしを監禁したあのあたりから、お兄ちゃんの行動を全て美化するのがバカらしくなったのだ。

そして、その感覚は、今この瞬間にも更新され続けている。

進化した体を、少しずつ慣らしていく、この瞬間に。
 ▼ 255 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:45:03 ID:ckyWYs.w [51/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
とにかく、当時のあたしのイライラは、周囲の急に冷たくなった応対に向けられた。

お兄ちゃんが声を掛けても無視するのは当たり前。

酷い事に、ごはんまで明らかに減っている。

お兄ちゃんはおどけながら笑うけれど、あたしは笑えなかった。

涙はこぼれない。お兄ちゃんの代わりに怒るのも違う。

けれど、そういうわかりやすい感情の発露を封じられ、あたしの心は、徐々に鬱屈していった。

溜まりに溜まったその苛立ちは、ある形で発露した。

結果が、サーカスでの失敗。

あたしは、無様に地面に叩き付けられた。
 ▼ 256 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:45:37 ID:ckyWYs.w [52/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それからの事は、思い出したくもない。

ざわめく観客。慌てる団員たち。

そんな中で、1匹のポケモンが――つまり、ネメシーの団長が、強く舌打ちした、その音が耳に届いた。

それ以外のすべての音は、あたしの世界から消えた。

ああ。

ああ、あたしも、お兄ちゃんと同じになるんだ。もう、ここにはいられないんだ。

そう思うと、せいせいした。

しかし、同時に、途轍もなく嫌な予感も味わっていた。


――あたしが、サーカスに依存している事を自覚したのは、しばらく後。あたしが、ネメシーを追い出される時である。
 ▼ 257 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:46:27 ID:ckyWYs.w [53/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「これ以上ネメシーの評判を傷付けて……っ! お前らは、うちを潰す気かっ!」


団長の叫びに、肩をびくりと震わせる。

思わず瞑った目を恐る恐る開くと、彼の目はもはや憎悪に歪んでいた。


ニャヒート「だから、俺は進化でバランスが崩れてるの。そんな俺をいつまでもうじうじ責めて、そのせいでこいつのパフォーマンスにまで影響したんだっての。

       誰のせいなんだろうな」


反抗的な物言いをするお兄ちゃんに、団長は顔を歪めた。


「俺は行き場のないお前らを引き取ってやったんだっ! その恩を仇で返す気なのか?」


あたしは、何も言えずに立ち竦んだ。

けれど、お兄ちゃんは違った。


ニャヒート「うるさい。俺はサーカスなんてしたくなかったんだ! 本当なら、今頃は親父と御袋とこいつと俺で、楽しく暮らしてたはずなんだ!

       貴様が俺らを突っぱねてたら! 親父も、考え直した! それから頑張って、暮らせる金を稼げるようになってた!」


首の鈴が音を鳴らす。お兄ちゃんの目に浮かぶ物も、怒りだった。
 ▼ 258 1◆J44kAZeDOM 17/01/07 21:47:09 ID:ckyWYs.w [54/54] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャヒート「全部……全部お前が……サーカス団ネメシーが悪いんだ!」

ニャビー「お兄ちゃんやめてっ!」

ニャヒート「ニャビー、頼む、ちょっと黙ってくれ。俺に考えがあるんだ」


お兄ちゃんは、あたしに小声でそう言った。

激昂した団長の耳には、幸いにも届いていない。


「そうか。そこまで言うなら、お前はクビだ。消えろ。今日中にだ」


そんな発言をしただけだった。
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