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【クリスマスSS】小さな願い・大きな願い

 ▼ 1 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/17 04:42:35 ID:KcmSURVA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







プロローグ 手紙






 ▼ 87 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/19 21:29:35 ID:xClsfUH2 [1/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
え、と横を見ると、ミミロルは頷いていた。


ミミロル「エレキッド、勝つか負けるかしないと満足しないよ。あんたじゃ一生終わらせられない」

ニャビー「まあ、そうだね、うん。ごめん、巻き込んで」

エレキッド「何ごちゃごちゃ言ってんだよ! 早くやるぞ!」

ミミロル「言っとくけど、あたし弱いからね。あたしに勝っても何の自慢にもならないよ」


ミミロルはそう、コートの向かいに立つエレキッドに叫んだけれど、彼は気にもしないというように宣言した。


エレキッド「それじゃやるぞ! 『でんこうせっか』!」


ミミロルじゃ、たぶん勝てない。

結論は目に見えていた。

だから、オレンの実を調達しに、保健室に行くことにした。
 ▼ 88 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/19 21:30:16 ID:xClsfUH2 [2/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
帰ってみると、エレキッドがうずくまっている。

それを、ミミロルが、困惑したように見下ろしていた。


ニャビー「え、ミミロル、勝ったの?」


思わず呟く。


エレキッド「クソ……なんで、お前、マヒしないんだよ……。

      マヒ前提で動いて……油断した……」


つまり、なぜかミミロルがマヒしなかったから、その隙を突けた。

そういうことか。木の実とかの作戦を立てる時間は、ミミロルにはなかった。考えられるのは……。

特性『じゅうなん』だ。


ニャビー「はいオレン」


エレキッドに、取って来たオレンを手渡す。

エレキッドはそれを受け取り、ゆっくりと咀嚼して、それから泣き出してしまった。

さすがにこれじゃ、夢見が悪い。励まそう。


ニャビー「エレキッドは強い。たぶん、ミミロル以外には勝てるよ」

エレキッド「意味わかんねえし」

ニャビー「特性じゅうなん。ミミロルは、それなんだ。マヒしない。

     君の戦い方はたぶん、でんこうせっかで接近して、相手を驚かせつつでんじはを当てて戦いを優位に進める。

     実際、かなり強いよ。ただ、相性が悪かった」

ミミロル「えっ、じゅうなんって」

ニャビー「後で。ねえエレキッド。僕は、別にサンタがいるって思ってる訳じゃないよ。

     ただ、証明したいだけ。自分の意識で、納得したいんだ。

     だから、ほっといて、僕がどうだろうと」


エレキッドはうつむいている。僕は、かばんを手に取ると、帰路に就いた。
 ▼ 89 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/19 21:31:39 ID:xClsfUH2 [3/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
と言っても、帰る訳ではない。

ミミロルママに、確かめないといけない。


ニャビー「お邪魔します」

ミミロップ「あ、ニャビー君。ねえ、あの手紙は……」


手紙。ミミロルが、本当に欲しがっているものが何かを、それを伝えられない事情とともに伝えた手紙。

僕が出したのは、そういうことだ。ミミロルの中のサンタを保存するための、策略。


ニャビー「ホントのことです。ミミロルは、本当はその本を欲しがってる。

     話の流れで本当の希望を伝えられなくなったんだけど、やっぱり、それはかわいそうだと思って」

ミミロップ「そうなの。ありがとうね」


ミミロルママは、眩しい笑顔を浮かべた。

僕は、その笑みに向けて、質問を続ける。


ニャビー「あの、夢特性、ってご存知ですか?」

ミミロップ「え、ええ。それがどうかした?」

ニャビー「あなたとミミロル、特性はじゅうなん、ですよね?」

ミミロップ「ええ、そうよ。そうだけど、一体……」

ニャビー「いや、夢特性について学校で習ったんですけど、ミミロルがそれだっていう説が出て来て。

     やっぱりそうだったんですね」

ミミロップ「へえ、今の学校、もう夢特性なんかやるの」
 ▼ 90 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/19 21:32:29 ID:xClsfUH2 [4/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
もう、いいだろう。

隠す理由もない。


ニャビー「……すいません、嘘、吐きました」

ミミロップ「え?」


怪訝な顔を浮かべる。当たり前だ。


ニャビー「この間、深夜に、サンタについてミミロルにバラすかどうか、話し合いませんでした?」


この前布団で考えた、これが結論。

ミミロルのパパとママが話していたのは、サンタについてだ。

あのセリフの流れなら、前後の文脈にもよるけど、妥当に考えたら、そうなる。


『……前も、そろそろあの子に、本当のことを伝えるべきじゃないか?』


サンタのことを伝える伝えないは、大事な問題なはずだ。うちもそうだった。

『でも、あの子、それを知って、傷付かないかしら』


サンタの正体を知ったらきっと、子どもは傷付く。


『だけど……やっぱり、言うべきだ』


いつまでも子どもじゃいられないから。


『あなたがそう言うのなら、止めはしないけど。でも……』


やっぱりもう少し、純粋なままでいて欲しい。

そういうことなのではないか。

案の定、ミミロルママは、愕然とした表情を浮かべた。


ミミロップ「え、なんで……」
 ▼ 91 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/19 21:34:20 ID:xClsfUH2 [5/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビー「その件を、ちょっとだけ盗み聞きしてたんです。ミミロルが」

ミミロップ「えっ。それ、どういう……」

ニャビー「ミミロル、誤解してました。一部だけ漏れ聞いて、あなたたちが、本当の両親じゃないんじゃないかって疑って」

ミミロップ「な、なんでそんな……」

ニャビー「もういい年、バラしたら傷付く、その他いろいろ……。

     まあ、とにかくそんな誤解をして、僕に言って来たんです。

     だから、僕は、本当の親だってことを証明したくって。

     ねこだましの遺伝、じゅうなんの遺伝。十中八九間違いなく、あなた方は本物です。

     これで、ミミロルを安心させられます。あ、昨日の手紙、あれはホントですよ」

ミミロップ「……そう、だったの」

ニャビー「ありがとうございました。ここまで情報が出揃えば、大丈夫です」

ミミロップ「……ありがとうね、そんなに、ミミロルのことを大切に考えてくれて」

ニャビー「あ、いや、僕もただ、知りたかっただけなんで」


慌てて訂正する。

自分でもわからないこの感情を、どう処理していいのかがわからなかった。


ニャビー「お邪魔しました」

ミミロップ「また来てね。今度は……ううん、なんでもない」

ニャビー「は、はあ……」
 ▼ 92 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/19 21:35:15 ID:xClsfUH2 [6/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミロルママと別れ、かばんを家に置き、それからいつも、シシコと別れる所へと向かった。

ミミロルが1匹になった所で話し掛けるために。

しばらく待っていると、ミミロルの姿が見えた。

僕は、それに向けて、声を掛ける。


ニャビー「ミミロル、確定したよ、君のママ」

ミミロル「ニャビー、あんたって奴は……へ?」

ニャビー「だから、ミミロルママも、90%本物のママなんだって、確定した」

ミミロル「それ、どういう……」

ニャビー「特性のとこ、ちゃんと読んだの? 夢特性に関しての話があったでしょ?」

ミミロル「夢特性……?」


ミミロルが首を傾げた。読んでいなかったらしい。思わずため息を吐く。


ニャビー「種族内でも、滅多に持ってるポケモンがいないレア特性。

     トレジャータウンのスリープに夢を見てもらうことでその特性になるってことで有名になったから夢特性って呼ばれてる。

     でもって、夢特性のポケモンは夢特性の親からしか産まれない。

     そして、これはあの本にもあるはずなんだけど、ミミロルの夢特性が『じゅうなん』なんだよ」

ミミロル「えっと、つまり」

ニャビー「気になったから、ミミロルママにも訊いてみた。ビンゴだったよ」

ミミロル「待って! バトル見てないのにいつあたしがマヒらないって気付いたの?」

ニャビー「エレキッドが言ってたの。ま、それはそうとして、だから、つまり。

     君は、極めてレアな夢特性のミミロップと、ねこだましを覚えたポケモンの間に産まれた子ども。

     こんなピンポイントな条件なんて、そうはないよ。

     十中八九、間違いない。ミミロルママとミミロルパパは、正真正銘ミミロルの両親だ」

ミミロル「……そうなんだ。よかったぁ」


ミミロルから、思わず、といった風にため息が零れた。恐らくは、安堵から来た、ため息が。


ミミロル「よかった、心配すること、なかったんだ……」
 ▼ 93 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/19 21:36:13 ID:xClsfUH2 [7/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ミミロルの瞳に、涙が溜まって行く。

やっぱり、と思う。

やっぱり、育ての両親が実の親じゃないかもしれない、という不安は、大きいものなのだろう。

僕は、不安を感じる前に違うことを知っていたから、当たり前にそれを受け入れていたのだけれど。

ミミロルが、泣き始める。

僕はただ、隣にいることしか、できない。

絶対に、僕だけは、共感して慰めることはできないし、許されていないから。
 ▼ 94 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/19 21:36:34 ID:xClsfUH2 [8/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌朝、僕の枕元には、サーカス団エクリプスのチケット。12月25日から、1月10日まで、年末年始公演。

親に伝えた覚えのない、サーカスのチケットが欲しいという小さな願いが、叶った、か。

僕は、小さく笑う。
 ▼ 95 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/19 21:38:00 ID:xClsfUH2 [9/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
3章 願いの大小



ミミロル「サーカスのチケット! 本当にもらえたの?」

ニャビー「うん。これで証明できたよね、サンタの存在」


ミミロルは、驚いたような顔を浮かべている。


ニャビー「ミミロルにも来たでしょ? その本」

ミミロル「ああ、うん。来たよ。凄いよね」

ニャビー「だよね。ねえ、ところでさ」

ミミロル「何?」

ニャビー「4枚もらったんだけど、学校と公演の兼ね合いを考えて、行けるタイミングを照らし合わせるとさ、

     パパとバクガメスさんがどうあがいても行けないんだよね、仕事で」

ミミロル「ああ、そうなんだ……」

ニャビー「だからさ、君と、エレキッドを誘いたいんだ」

ミミロル「え」

ニャビー「仲直り。あんな終わり方じゃ、新年、都合悪そうだしさ」

ミミロル「ああ、それはそうね」


さすがに、エレキッドがああもこっ酷い結末を迎えるとは思っていなかった。

都合のいいことにというか、浮いたチケットでお詫びできるなら、それが一番だと思う。


ニャビー「行ける日は〜〜なんだけど、行ける?」

ミミロル「ちょっと聞いてみるね、パパとママに」

ニャビー「よろしく。今から、エレキッドの家に行って来るね」

ミミロル「行ってらっしゃい」
 ▼ 96 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/19 21:38:22 ID:xClsfUH2 [10/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エレキッドは、拗ねて部屋から出て来ない。

エレキッドママが、代わりに応対してくれた。

温厚そうな、けれど怒ったら怖そうな、そんなママ。


エレブー「ごめんなさいねぇ。あの子、帰って来たと思ったら、そのままふて寝しちゃって」

ニャビー「昨日、バトルで負けたんです、あいつ。だから、ショックなんだと思います」

エレブー「なるほど……。言ってくれればよかったのに」

ニャビー「それで、仲直りしたいから、サーカスに誘いたいんですけど」

エレブー「サーカス! どうして?」

ニャビー「サンタにもらったんです、4枚。僕のママと、エレキッドを負かしたミミロルと、エレキッドと僕。

     4匹で行けますから」

エレブー「なるほどね。わかった。預かっておくよ。いつ行くの?」


日程を説明した。

エレキッドママはしばらく思案するように虚空に視線をやり、それから言う。


エレブー「それなら大丈夫だと思う。いつでも」

ニャビー「そうですか、よかった!」


心の底から、僕は笑顔を浮かべた。
 ▼ 97 こまで◆NKmNEeVImk 17/12/19 21:38:45 ID:xClsfUH2 [11/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ママと、僕と、ミミロルと、エレキッド。

その日程が噛み合うのは、新年になった、1月2日から4日。

本番を見るのは3日。その前日からそのサーカスの行われる街、イスカーまで行っておく。

サーカスの後、その日だけ滞在して、翌日に帰るという行程だ。

僕は、その数日、心の底からわくわくしていた。

産みの両親がいるサーカス。

その、どちらの要素にも僕は、心を惹かれている。

これ程までに、時間が進むのが遅かったことはなかった。
 ▼ 98 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/20 20:22:21 ID:ldaY63WY [1/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アママイコ「まず」


と、ママが言う。

1月2日。僕たち3匹は、ママと一緒に街の門の前にいた。


アママイコ「いくら最近は開拓が進んで、野生ポケモンが少ないからと言って、危険がゼロではないってこと。

      いざとなったら自分の身を第一にして、逃げなさい。戦うなんて、考えちゃ駄目よ」

エレキッド「俺は大丈夫――」

アママイコ「ダンジョンに、絶対なんてないのよ。あなたを危険な目に遭わせて、困るのはあたし。

      ね、あたしのために、逃げて?」


そう言って、ママは鮮やかな笑顔を浮かべる。

我が母ながら、これはちょっと、ズルいよな、なんて思う。

もういい歳なのに、いつまでも子どものような笑みを浮かべられるんだから。しかも、違和感なく。


ミミロル「あたしもニャビーも、変に戦わないからさ」

エレキッド「はいはい」

アママイコ「それから、ケンカするようなら、置いて行くからね」


危険に曝す訳にはいかないと言っていたのに、さっそく矛盾しているような気がしなくもないが、正論だからスルーした。


アママイコ「それがわかれば大丈夫。じゃあ、しゅっぱーつ!」
 ▼ 99 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/20 20:23:07 ID:ldaY63WY [2/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ダンジョンをいくつか抜け、と言っても、もう最近では危険なダンジョンなんてものはほぼないのだが、まあいくつか抜け、目的の街に到達した。

それから、取ってあった宿へと向かう。


アママイコ「イスカーで、うちのお父さんのおススメの宿なんだって。

      なんか、前1回泊まったらしいんだ」

ニャビー「へぇ。昔なら、ダンジョンとかきつかったんじゃない?」

アママイコ「まあ、お父さん強いから。それでも、1日で行ける見込みだって言ったら驚いてたよ」


そんな話をしてたのか。気付かなかった。


ミミロル「へー。やっぱり開拓って進んでるんだ」

エレキッド「っつーか、お前の父ちゃんって何やってんだっけ」

ニャビー「探偵だよ」

エレキッド「はぁ?! マジかよ、すげぇな」

ニャビー「まあね」


そんな風に、たわいもない会話をしながら、その日の夜は更けていった。
 ▼ 100 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/20 20:23:34 ID:ldaY63WY [3/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
で、翌朝。

僕たちは、サーカスのテントの中に座っていた。

この中には、恐らく、僕の両親もいる。

そんな気がする。

父親はわからない。だけど、母親は。

ニャビー、ニャヒート、ガオガエン。

その容姿は、知っている。

見れば、わかるはず。


ミミロル「楽しみだね」

エレキッド「前見たのネメシーだっけ、あれ凄かったよな」

ミミロル「だけど、エクリプスって確か、ネメシーよりも凄いんでしょ?」

アママイコ「そ! 世界を2回も救ったサーカス団だもんね」

エレキッド「え……それマジ?!」

アママイコ「あれ、まだ習ってない? 歴史の教科書に載ってるって聞いたけど」

ミミロル「まだ歴史はやってないです」

アママイコ「そうなの。じゃ、覚えておくといいよ。

      エクリプスは、ウルトラビースト事件に密接に関わってる」


そう言うママの目は、何かを懐かしむようだった。

まあ、そういうことだろう。

関係者なのだ、たぶん。パパも、ママも。


アママイコ「ほら、始まるよ」
 ▼ 101 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/20 20:24:03 ID:ldaY63WY [4/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
その言葉が言い終わるか言い終わらないかのうちに、照明が落ち、それからスポットライトがステージを照らした。

そこに、アマージョが現れる。結構歳を取っている風貌だが、しかしそれにより備わった威厳というものも感じさせる。


アマージョ「皆さん、今日はお集まりくださり、ありがとうございます。

      さあ、今から皆さんを、夢の世界へと誘いましょう!」


よく通る声だった。

会場を一気に非日常へと塗り替える、そんな声。


アママイコ「さすがだな、やっぱ」


そういえば、ママの進化形はアマージョだっけ……まさか。

ありえる、かも。
 ▼ 102 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/20 20:24:24 ID:ldaY63WY [5/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
最初に出て来たのは、アシレーヌだった。

青い長髪を、真珠で結わえたその立ち姿が、深々とお辞儀する。

照明が、ふっと、落ちる。

そして、次の瞬間、澄んだ歌声が響いて来た。

照明が再びアシレーヌを照らす。ステージは、煌めく泡に彩られていた。

歌声が、やまない。

泡が、音と呼応して、ぶるぶると震える。

そして、一斉に、弾けた。

光と相まって、それは煌めきを残した。

僕は、魅了されていた。

凄い、綺麗。

語彙が喪失していた。ただただ、感動しているというか。

アシレーヌが、今度は大きな泡を創り出す。

それに飛び込み、その中を自由自在に飛び回る。

その中に、いくつかの泡が生まれる。

そして、アシレーヌが、歌声を響かせ始めた。

泡の中から、次第に高まって行くその声量。

泡が弾ける。アシレーヌが、空へ投げ出される。

下へと泡を創り、クッションにして、着地を決める。

その上から、泡が弾けた雨が降り注ぐ。光と相まって、それは、虹を生み出した。


ミミロル「すご……」

エレキッド「ヤバ……」


本当に、そうだ。そのぐらいしか、感想の言葉が出て来ない。凄い。圧巻だ。
 ▼ 103 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/20 20:25:44 ID:ldaY63WY [6/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこからしばらくは、もう語彙力が追い付かない。

綺麗、とか、凄い、とか、ヤバい、とか。そんなのしか出て来ない。

アシレーヌによって奪われたそれが帰って来ることは、なかった。


そして現れたのが、サニーゴとドヒドイデ。やるのは、空中ブランコだという。

ドヒドイデの足のいくつかでサーカスのブランコにぶら下がり、残りの数本でサニーゴを掴んだり、離したり。

サニーゴも、それに従って、自在に空を舞う。

水と光が、その周りを彩る。

そこで、僕は、電撃に撃たれたような衝撃を味わっていた。

え、何? 僕、これ、どっかで見た事ある?

そんな疑問符が、頭の中に浮かぶ。

それから、ああ、と思う。

産みの母親の、面影だ。


それからしばらく、アマージョが出て来て、舞台の終わりを告げた。


ミミロル「す、ごかったぁ」

エレキッド「サーカスって、ここまで凄いんだ……」


僕は、何も言えなかった。

語彙の問題もあるし、両親の問題もある。

ただただ、言葉にしたら、何かが抜け落ちてしまいそうだった。


アママイコ「さ、とりあえず、一旦戻ろっか」
 ▼ 104 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/20 20:26:03 ID:ldaY63WY [7/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
部屋に戻っても、みんな、言葉少なだった。

感動を内側で、消化している最中なのだろう。

だけど、僕だけは、その感動を消化し終わり、別のことを考えていた。


会いに行けないだろうか、産みの両親に。


わかっている、無理なことは。

多分、ママたちと離れられる機会はない。

その上、実は身内だったってことがバレたら、サンタにまつわるあのごたごたが、嘘だったってこともバレかねない。

だから、絶対に無理なのだ。どうしようもない。

けれど、それでも。

チラリとでもいいから、会ってみたかった。


そんな事を思いながら、夕方、1匹だけで部屋の外、窓際に佇んでいると、ミミロルが、声を掛けて来た。


ミミロル「ねえ、会いたいの? ホントの親に」
 ▼ 105 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/20 20:26:25 ID:ldaY63WY [8/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――――――

親に伝えた覚えのない、サーカスのチケットが欲しいという小さな願いが、叶った、か。

――そんな訳がない。

だって、サンタは親。子どもが伝えなかった願望を察知するなんて、不可能だ。

だとしたら。

点と点が、線で繋がる。

謎に惹かれた、サーカスへの興味もそう。その直線上に置いてある。

このサーカスに、僕のパパと、ママがいる。

僕は、小さく笑う。
 ▼ 106 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/20 20:26:54 ID:ldaY63WY [9/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


ニャビーは、面白い程動揺していた。

目を白黒させ、口をパクパク。


ニャビー「な、なんで?」


あたしは、笑って応える。


ミミロル「あたしだって、バカじゃないんだからさ」


あの時。フラワーズの本が、枕元に置いてあった時、あたしは気付いた。

全部、ニャビーの策略だ。サンタなんて、ホントはいない。

だって、あたしが願ったのは、フラワーズの本じゃなかったから。


ミミロル「あたし、実はあの後、願いを変えたんだ」

ニャビー「……は?」

ミミロル「禍根を残したくなかったし、申し訳なかったから。

     だから、エレキッドにって、黄色グミをリクエストしたの」

ニャビー「うえぇ?!」
 ▼ 107 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/20 20:27:14 ID:ldaY63WY [10/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビー「……じゃあ、サンタはいないって」

ミミロル「気付いちゃった。後、ニャビーの暗躍もね」

ニャビー「そりゃそうだよね。本のことを知ってるのは、僕しかいないはず。

     それがどこかに漏れたんだから、僕の暗躍を疑うのは正解だよ」


もう冷静さを取り戻している。

こいつは、本当に、切り替えが早い。


ニャビー「だけどじゃあなんで、僕の親があそこにいるって?」

ミミロル「いるんだよね」

ニャビー「それは正解だと思う。だけど、どうして気付けたの?」

ミミロル「それは……あなたが、やけに、遺伝に関して詳しかったし、あなたのお母さん、明らかに、種族が違い過ぎだし」

ニャビー「うん。まあ、別に隠してはなかったよ、僕が養子だってことは。

     でも、なんでそれがエクリプスにいるって僕が思った、ってことに気付けたの?」
 ▼ 108 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/20 20:27:37 ID:ldaY63WY [11/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
どうしてか。

最後まで、知りたがりのこいつらしいや。


ミミロル「あのね。世界を2回も救ったサーカス団のチケットを、こんなギリギリで、4枚も押さえられると思う?

     チケット見たよ。

     12月25日、クリスマスから公演開始。それから2週間ぐらい、数日休みを挟んでの、年末年始公演。

     それを、そんなに寸前に手に入れられる訳がない。実際、凄かったもん。こんなの即売れだよ。

     実際、ちょっと調べたの、図書館で、エクリプスについて。

     ウルトラビーストにまつわる事件とか、色々聞いた。

     大人気で、チケットを4枚も入手できるのは奇跡的な幸運だって。

     で、だよ? それを、4枚、普通に手に入れている。サンタなんていないのに。

     じゃあ、どうやって? 関係者だとしか思えない。

     たぶん、あんたは、あたしの言葉をきっかけに親に関して知りたくなったんでしょ?

     それで、アママイコさんたちに持ち掛けた。そしたら、クリスマスにサーカスのチケットが届いた。

     ニャビーでなくても気付くよ、そりゃ。サンタがいない、その前提に立てば、誰でもね」

ニャビー「参った、大正解。全部合ってるよ。

     きっと、パパもママも、エクリプスに親がいるって言わないつもりだったんじゃないかな。

     どういう理由かはわからないけど」

ミミロル「気付かないはずないのにね」


あたしは、ニャビーと顔を見合わせ、笑う。
 ▼ 109 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/20 20:27:56 ID:ldaY63WY [12/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







ニャビー「だけど、行きたい。僕、会いたいよ」






 ▼ 110 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/20 20:28:12 ID:ldaY63WY [13/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ふと、本音が漏れた。そんな言い方だった。

年相応どころか、年齢よりも子どもっぽい言い方だった。

ああもう、こういうとこが、ニャビーはズルい。スペック高い癖に、子どもにもなれるんだから。


ミミロル「じゃあ、行けばいいじゃん。

     あたし使ってあんたが作戦を組み立てられるなら、手伝うよって意味」

ニャビー「わかった。じゃあ、遠慮なく、作戦に組み入れさせてもらうね」

ミミロル「うん。あ、でも明日に帰るのは崩せないよ? だから、今日の夜の間に終わるのでお願い」

ニャビー「わかってる。えっと……じゃあ、ママを、惹き付けておいて。

     サーカスの話題で潰しておくのが無難かな」

ミミロル「わかった。その間にニャビーが」

ニャビー「こっそり抜け出す。気になるなら、捜しに来るって名目を立てて、ママと来ればいいよ」

ミミロル「エレキッドは?」

ニャビー「来てもいい。関係者なのは間違いないから」

ミミロル「了解」
 ▼ 111 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/20 20:28:59 ID:ldaY63WY [14/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
夕食を終えて、夜。

布団の位置は、入り口から、ニャビー、ニャビーママ、エレキッド、あたし。

ニャビーとあたしが、早い段階で陣取ることによって、この並びを実現した。

そして、あたしは、感想を口にする。

言葉は、拙い。あれを表現するには、あたしはまだ、幼い。

だけど、それでも語った。思いの丈を、語った。

それに触発されてか、エレキッドも熱っぽく語り始める。あたしに向けて。

ニャビーママは、それを優しく見つめていた。

ここに、死角が生まれる。

ニャビーが、その後ろ側で立ち上がり、部屋から抜け出す。

よし、と心の中で呟きながら、サーカスの記憶を呼び起こしていた。
 ▼ 112 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/20 20:29:33 ID:ldaY63WY [15/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


ありがとうミミロル。

お陰で抜け出せた。

そう呟きながら、僕は照明で明るい夜の街を駆ける。

明日も公演はある。早寝の可能性は、高い。

急ごう、僕。
 ▼ 113 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/20 20:30:04 ID:ldaY63WY [16/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
サーカスのテントに辿り着く。

この辺にいるはずだ。

サーカスの周りをぐるりと巡る。

すると、わいわいという気配を感じた。

もしかして、と覗く。

やっぱりだ。

サーカスで見覚えのあるポケモンたちが、盛り上がっている。


「ねえ、何してるのこんなとこで。ニャビー君」


ふと後ろから声が聞こえ、ビクリと振り向く。

そこにいたのは、色違いのエーフィだった。


ニャビー「あ、す、すいません」

エーフィ「いいのよ。あたしはエーフィ。エクリプスの照明担当やってる。

     あなた……ううん、やめとこ」

ニャビー「あの、ここに、ニャヒートかガオガエンか、それかニャビーっていませんか?」

エーフィ「……いるよ。さすがね、気付いたの? やっぱりあの2匹で育てただけあるな」
 ▼ 114 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/20 20:30:59 ID:ldaY63WY [17/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビー「パパを知ってるってこと? じゃあ、間違いないんだ」

エーフィ「そうよ。あなたの産みの親は、ここにいる。

     だけど、会わないであげて欲しいの」

ニャビー「え、なんで? なんで!」

エーフィ「目の潤ませ方、あの頃のアシマリみたいね、ホント。

     ……でも駄目。あなたの両親は、あなたと会うことを、望んでない」

ニャビー「どうして……」

エーフィ「あなたのことを、大事にしたいから、かな」

ニャビー「え……」

エーフィ「あなたの両親……ガオガエンと、アシレーヌは、誰よりもサーカスに打ち込んで来た。

     いろいろあって、ガオガエンは引退して、今は指導者だけどね。ほら、サニーゴとドヒドイデとか」

ニャビー「やっぱりね。だから見覚えがあったんだ」

エーフィ「見覚えがあったの! さすが、子どもって感じね」

ニャビー「だけど、アシレーヌは気付きませんでした。……腹を痛めた母子の関係って、凄いんですね。

     まあ、それはいいんだけど。

     僕は、会いたいです。会って、話してみたいです」
 ▼ 115 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/20 20:31:17 ID:ldaY63WY [18/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エーフィが、困ったように笑う。

それから、言った。


エーフィ「駄目なの。あの2匹が、なんであなたを託したのかって、わかる?」

ニャビー「え?」

エーフィ「あなたに、サーカス以外の道を示すため。定住してる2匹に、あなたを託したの」

ニャビー「……なるほど。でも、会うのが駄目な理由には――」

エーフィ「だけど、寂しいの! 2匹ともあなたのこと、ずっと気に掛けてる。

     もちろん、連絡は取ってるよ、君の両親と。

     だけど、直接会っちゃうと、その決意が揺らいじゃう。

     だから」

ニャビー「……わかりました。そっか、そうだよね。簡単に会えるぐらいなら、預けたりしない、か」


納得した。そういうことなら、仕方ない。

仕方ない、はずなのに。

涙が、出て来た。

耐え切れなくて、涙が抑えきれなくて。

僕はただ、泣いた。
 ▼ 116 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/20 20:31:34 ID:ldaY63WY [19/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニャビー「ありがとうございました、エーフィさん」

エーフィ「いいってことよ。あなたの育てのパパもママも、あたしたちの大事な仲間だしね」

ニャビー「……あの、これだけ伝えてくれませんか?」

エーフィ「いいよ、何?」

ニャビー「サーカス、めっちゃ感動した。みんな、感動してた。それだけ、お願いします」


エーフィは、ニコリと笑う。


エーフィ「お安い御用よ」
 ▼ 117 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/20 20:31:51 ID:ldaY63WY [20/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
僕は、宿へと帰って行く。

たぶん、そうなんだ。

きっと、2匹とも、僕のことを愛してくれてる。

たぶん、ううん、“絶対に”。

それがわかったから、今回は収穫だ。

だけど、いつかは……会いたいな。

そんな風に、思った。
 ▼ 118 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/20 20:32:09 ID:ldaY63WY [21/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







エピローグ 未来への願い






 ▼ 119 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/20 20:32:41 ID:ldaY63WY [22/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


部屋に戻ると、ママが、僕を頭のヘタで叩いて来た。

当たり前だ。夜中に抜け出して来たんだから。

そのぐらいは、甘んじて受け入れる。


アママイコ「心配したのよ?! まったくもう……」


ミミロルも小さくなっている。本当に、申し訳ない。


ニャビー「ごめんなさい」

ミミロル「ごめんなさい」

アママイコ「……まあ、仕方ないよね。知りたがりなのは、一緒、か」

エレキッド「なあ、どういうことだよ」

アママイコ「まあ、いろいろあるのよ。それと、どうだった? みんなは」

ニャビー「エーフィさんと会って、止められた。だから、会ってない」

アママイコ「そっか……。さすがエーフィ。

      さ、寝なさい。もう、夜も遅いから」

3匹「はーい」
 ▼ 120 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/20 20:33:08 ID:ldaY63WY [23/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


夜、ドアの近くにニャビーママが陣取り、その隣にはエレキッド。

あたしとニャビーは部屋の奥に追いやられた状態で寝転んでいる。

当たり前だ。仕方ない。

あたしはニャビーの方を向く。


ミミロル「残念だったね」

ニャビー「うん。だけど……大丈夫」

ミミロル「そっか」

ニャビー「うん。知れたから。今度こそ、会いたいけどね」

ミミロル「また、どっかで見に行こう」

ニャビー「だね。ミミロル、ありがと」

ミミロル「こっちこそ……ありがと」


あたしは、ニャビーをそっと、抱き寄せる。


ミミロル「あたしの中のサンタを護ろうとしてくれて、あたしの親のこと、必死になってくれて、ありがと」


ニャビーは、もともと赤い体をさらに真っ赤に染めて、小さく笑った。


ニャビー「どういたしまして」
 ▼ 121 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/20 20:33:38 ID:ldaY63WY [24/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
窓から、ふっと、月が覗く。

鮮やかで、丸い、満月だった。

ふとニャビーに意識を戻すと、彼はもう、すやすやと眠っていた。きっと、疲れたのだろう。

聞こえない、そう確信して、あたしは呟く。


ミミロル「あんた、ちょっとカッコよかったよ」


ニャビーは、何も返さない。あたしも、不意に睡魔に襲われる。

意識の端で、チラッと、ニャビーの言葉を聞いた、気がした。

けれど、あたしはその中身を掴めないままに、意識を手放していた。
 ▼ 122 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/20 20:33:56 ID:ldaY63WY [25/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







【クリスマスSS】小さな願い・大きな願い 完






 ▼ 123 1◆J44kAZeDOM 17/12/20 20:34:27 ID:ldaY63WY [26/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
当SSはこれにて完結です
お読み下さりありがとうございました

当SSはクリスマスSS企画(↓)に参加しております
http://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=721326

関連作(サーカス団エクリプスにまつわる物語)
http://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=404456(アシマリ)
http://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=491425(オシャマリ)
http://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=563304(アシレーヌ)
その他関連作
http://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=563163(花の盗賊団)
 ▼ 124 ブリー@しんかいのウロコ 17/12/20 20:47:08 ID:3gQRsvv6 NGネーム登録 NGID登録 報告
乙です!
すごく面白かったぞ!
 ▼ 125 ルバット@モンスターボール 17/12/20 20:48:50 ID:BbSgwYDQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙ゥ〜!
 ▼ 126 モリ@たわわこやし 17/12/25 15:30:09 ID:Y4Fp0tXM NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

最高だった
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