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ポケモン

【小説っぽい】知らない誰かへ離れていく君【SS】

 ▼ 2 カ◆Ibi/.BQaas 16/06/15 17:54:33 ID:7Ssvma0U [2/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 厄介事というのは、借金みたいなものだ。すぐに消化すれば、被害は最小限で済む。しかし、先伸ばせば伸ばすほど大きく膨れ上がっていく。

―返す事が出来なくなるまで。
 ▼ 3 カ◆Ibi/.BQaas 16/06/15 17:54:55 ID:7Ssvma0U [3/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 手が、体が、震える。

そこにあった命が、今はもう無い。

空虚な消失感が全身を蝕む。

 切り立った崖。下に見えるのは、半分崩れた『モノ』

 殺す気は無かった。そもそも、ここに呼び出したのは向こうだ、ありきたりでチープな言い訳に縋り付く。

 頭の中で記憶がフラッシュバックする。
 ▼ 4 カ◆Ibi/.BQaas 16/06/15 17:55:36 ID:7Ssvma0U [4/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 俺、ゾロアークには想いを寄せるメスがいた。

 デンリュー。明るい体色に似合う、暗さを感じさせない眩しい笑顔。

俺は、それに惹かれていた。

 様々なオスを虜に、といった事はなく、どちらかと言うと、少し地味で目立たないメスだった。

いや、付き合い程度のオスが居たから注目されなかった、というだけかもしれない。


「デンリュウ」そのオスが、甘い声でデンリューをそう呼ぶ声が羨ましい。
 ▼ 5 カ◆Ibi/.BQaas 16/06/15 17:56:03 ID:7Ssvma0U [5/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 相手とは『付き合い程度』

番ではないので、俺はさりげなくデンリューに自己アピールをしていた。

そんなことをしていると、デンリューと付き合っているオスが俺を山に呼び出して、口論になった。

「別に番じゃないなら、いいだろ。」

 俺はそんな事を言っていた気がする。
 ▼ 6 カ◆Ibi/.BQaas 16/06/15 17:56:42 ID:7Ssvma0U [6/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 口論から発展した喧嘩の弾みで、相手を突き落とした。


絶叫――グシャ


 遅れて耳に届いたそれは、頭から離れそうもない。

聞いただけで、助かってないと判断できるその音に、絶望する。震える。吐き気がする。


震えが止まらない。
 ▼ 7 カ◆Ibi/.BQaas 16/06/15 17:57:04 ID:7Ssvma0U [7/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 俺は、事件の発覚を防ぐ為、相手に変身する事にした。

 イリュージョン。メタモンと違うのは、見た目しかコピー出来ないということだ。

だが、見た目は完璧に作り出せる。

 背は伸び、体色は緑に、毛が退化したその姿は、完璧に『ジュカイン』そのままだ。


 ふらつく足取りで、住処へ戻る。
 ▼ 8 カ◆Ibi/.BQaas 16/06/15 17:57:34 ID:7Ssvma0U [8/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
朝、体を見て嘆息する。夢ではない。

 例え眠っていても、強い衝撃がない限り、イリュージョンは解けない。

 とにかく、旅にでも出ると言って、ジュカインとしての他のポケモンとの関わりを絶たなければ。

ジュカインが旅に出た事にできれば、もうイリュージョンは解いても良いだろう。

 取り敢えず、ジュカインと関係の深いデンリューにでもその事を説明すれば充分だ。

そもそも俺は、こいつの交友関係をよく知らない。


 急ぎ、デンリューの住処に向かう。
 ▼ 9 カ◆Ibi/.BQaas 16/06/15 17:58:07 ID:7Ssvma0U [9/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「デンリュー、話がある。」

「…… ?何、ジュカイン ?」

心臓が跳ねる。普段、ゾロアークとしての俺には見せない声と顔。

それが今、自分に向けられている。

「い、いや。何でもない。」思わず口に出していた。

「 ? まぁいいや、私もジュカインに話があるから。多分、ジュカインと同じ。ジュカインが聞いてこないなら、私が聞くね。」


「そろそろ番にならない ?」


 番。はにかみながら口にされた言葉は、ひどく甘美で、魅力のある提案に聞こえた。

「もうそれなりに一緒に居るし、そろそろかな〜って。ね、ジュカインも一緒だったでしょ。」

 甘すぎる誘惑。

最も欲しいモノが目の前にぶら下げられた時、抗うことは出来るだろうか?
 ▼ 10 カ◆Ibi/.BQaas 16/06/15 17:58:40 ID:7Ssvma0U [10/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あ……あぁ、流石、よく分かってるな。」


 借金がどんどん利子を増やしていく……

「やっぱり !」

もともと明るいその笑顔は、より一層輝きを増し、まるで一身に日を浴びたヒマワリのようで、俺には眩しすぎた。

「これからも、幸せになろうな。」

 自然と口から出たそれは、到底俺の言葉だとは、思えなかった。
 ▼ 11 カ◆Ibi/.BQaas 16/06/15 17:59:05 ID:7Ssvma0U [11/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 番になるということで、俺はデンリューの住処で同棲することになった。

タマゴを産み、育てる役割のあるメスの住処に、オスが同棲することは一般的だ。

 慌ただしい同棲の準備が終わった頃、俺は初めてデンリューと外出した。
 ▼ 12 カ◆Ibi/.BQaas 16/06/15 17:59:28 ID:7Ssvma0U [12/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 そこらに自生する木の実の中に俺の好物である、パイルの実を見つける。

徐ろに取り、齧る。

 デンリューが不思議そうに尋ねてきた。

「ジュカイン、酸っぱい木の実、嫌いじゃなかったっけ ?」

「た、たまにはこういうのも良いかなーって。」

ドキッとする。ジュカインの好みなんて知らねぇよ。

「ふーん。」

そんなものか、と納得しないでもない様子だ。

おっとりした、少し天然な性格に救われる。
 ▼ 13 カ◆Ibi/.BQaas 16/06/15 18:00:01 ID:7Ssvma0U [13/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ふと、黒い影。四つ足で鋭い眼光の、黒い毛皮を纏ったポケモンが現れた。

 誰だこいつ ?

「よう、ジュカイン、デンリュウ。」

「あっ、グラエナ、久しぶり〜。」

 グラエナと言うのか。話を合わせる。

「おう、久しぶりだな。」

「…… ?あぁ、そうだな。と言ってもお前とは1週間位前にあった気がするが。」

一瞬、その眼光に鋭さが増した気がした。
 ▼ 14 カ◆Ibi/.BQaas 16/06/15 18:01:20 ID:7Ssvma0U [14/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「じ、充分、久しぶりだろ。」

「そうか。」

 変な事になる前に、ここから去ろう。

「じゃ、俺等はもう行くわ。またな。」

「おう。」

 そんな風に誤魔化しつつ、俺はジュカインとしての生活に少しずつ慣れていった。
 ▼ 15 カ◆Ibi/.BQaas 16/06/15 18:02:14 ID:7Ssvma0U [15/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 夜。一般の番であれば、当然行われる筈の営みは、一ヶ月経った今もまだ行われていない。

最近は、デンリュー1匹の外出を増え、相対的にお互い1匹の時間も増えたので、少し気が楽だった。

 それでも夜、デンリューはさりげなく誘惑してくる。

「ジュカイン、大好きだよ。」

 寝床で囁かれるその言葉に辟易する。

 俺の名を呼んで欲しい。

身の程知らずなその願いは、叶う事は無いだろう。

 騙し続け、俺では無いその姿でデンリューに触れる事は、許される訳がない。

そう自制し、触れなかった。

騙し続ける事自体、許される事ではないのに。

 ただ、俺ではない違う誰かに向かっていくその足取りが、あまりに幸せそうで、壊す事は出来なかった。
 ▼ 16 カ◆Ibi/.BQaas 16/06/15 18:03:01 ID:7Ssvma0U [16/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 叶う事なら、ゾロアークとして、デンリューに触れたい。名を呼び、呼ばれたい。認識されたい。

日に日に募るその思いを制御する事は苦行だったが、それでも尚、デンリューに惹かれる自分を抑えられなかった。


 あらゆる場所で行われる愛やキス。

それを手にする事は、膨れ上がった借金を抱える俺には、到底、無理な話だ。
 ▼ 17 カ◆Ibi/.BQaas 16/06/15 18:03:26 ID:7Ssvma0U [17/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そのようなジレンマに囚われつつ、日々を過ごしていると

「ねぇ、ジュカインは私が嫌いなの ?」

デンリューが急に尋ねてきた。

「え ?」

「だって、最近私に全然触ってくれないし、そっけない……ジュカイン、最近凄くそっけないよ。」

 違う。俺はジュカインじゃなくて

「そんな事無いよ、大好きだよ、デンリュー。」

……ゾロアークなんだよ。

 デンリューが傷ついたような顔をする。まただ、名前を呼ぶたび、それを感じる。


「そんな事なく無い。 だったら何で私に、構って……んっ。」

 デンリューの口を、俺の口で塞ぐ。
見てられなかった。

「大好きだよ。何度も言わせないでくれ、恥ずかしいだろ。」

 それを言う度に、傷付くから。

 また、借金が膨らんでいく。
 ▼ 18 カ◆Ibi/.BQaas 16/06/15 18:04:03 ID:7Ssvma0U [18/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 その夜、俺はついにデンリューと体を重ねた。

後を引く罪悪感は、それだけで快楽を打ち消すには、充分で

「ジュカイン。」

 そう言って、妖しく微笑む彼女の顔にいつも感じていた明るさは、今の俺には感じ取れなかった。
 ▼ 19 カ◆Ibi/.BQaas 16/06/15 18:04:32 ID:7Ssvma0U [19/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 翌朝、デンリューと外出していると、黒い影。グラエナだろう。

「よう、ジュカイン。今日もお熱いね〜。」

「……」デンリューは俯いている。

「おう、グラエナ。こんな所で、奇遇だな。」

「そうだな。奇遇ついでに、この前の手合わせの約束、ここで果たすか ?」

 手合わせ ?

まずい。俺は身体能力は変えられないし、何より強烈な衝撃を与えられると、イリュージョンが解けてしまう。

「悪いが、今日はあんまり調子が出ないんでな、また今度にしてくれ。」

何とか逃げを打つ。
 ▼ 20 カ◆Ibi/.BQaas 16/06/15 18:05:10 ID:7Ssvma0U [20/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「前もそう言ってただろ。それとも、自信無いのか ?」

「いや、そうじゃなくて。」

 グラエナの眼つきが鋭くなる。

「騙したようで悪いが、俺お前とのバトルの約束なんて、してないぞ。」

一呼吸おいて、グラエナは続ける。

「お前、誰だ ?」

え ?

 耳を疑う。何故、なんで、勘付かれている。

「デンリュウに相談されたんだよ。最近、ジュカインがおかしいってな。
急に好みが変わったり、前にしていた約束を忘れたり、だとかな。」

「それに、最近『ゾロアーク』ってポケモンを見てないらしい。他にも、お前、匂いが違う。」

 確かに、最近デンリューの外出が増えていたが、まさかグラエナの所に行っていたのか。
 ▼ 21 カ◆Ibi/.BQaas 16/06/15 18:06:02 ID:7Ssvma0U [21/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「デンリュー。」

隣で黙っている、デンリューに尋ねる。

「……それ、ジュカインはデンリューなんて呼ばない。ちゃんとデンリュウって言ってた。」

 ダメだ、言い逃れできそうにない。
そもそも知らねぇよ、呼び方なんて。

 だが、確認のような問いかけの中に、まだ確信のような物は感じない。

完璧にバレている訳ではないなら、このまま逃げれば―

 突然、激しい衝撃が走る。体が飛ぶ。グラエナだ。

「その姿、やっぱりお前、ゾロアークって奴なんだろ。」

借金の取り立ては、不意に訪れた。

俺のイリュージョンは解け、元のゾロアークの姿に戻っていた。

「気持ち……悪い。」
 ▼ 22 カ◆Ibi/.BQaas 16/06/15 18:06:39 ID:7Ssvma0U [22/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
嫌悪感が露わになったその声、もう、終わりだ。

「デンリュー」
「呼ばないで!!」

デンリューの叫び声。初めて聞いた。

「私の名前を、あなたなんかが、呼ばないで。」

「ねぇ、ジュカインはどこに行ったの ?……答えてっ !」

「山の、切り立った崖。そこで墜落死した。2ヶ月位前に。」

「!……そん……な。」

グラエナが口を挟む。

「本当に、墜落死なのか ?お前が落としたんじゃないんだろうな。」

「いや、俺が、落とした。……喧嘩なになった弾みで。」

ふぅ、グラエナがため息をつく。

「そうだろうな。でないと、こんな面倒な事、してないよな。」
 ▼ 23 カ◆Ibi/.BQaas 16/06/15 18:07:04 ID:7Ssvma0U [23/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
涙声でデンリューが言う。

「私、あなたを絶対に許さない。もう、2度と現れないで。」


「いいのか ?今ここで、2度と会えなくすることも出来るんだぞ。」

グラエナの提案に背筋が凍る。

「いいよ。こんな奴、グラエナも私も
、手を汚す必要なんてない。せいぜい後悔しながら生き延びたらいい。」

 明るい彼女とは思えない、その冷徹な台詞。

膨らみきって後回しを続けた厄介事の代償なら、安すぎるのかも知れないが、
後悔しながら生きろというのは、許しを乞う者にとってはある意味、最も残酷だ。

 立ち去っていく2匹は、最後まで此方を振り向くことはなかった。
 ▼ 24 カ◆Ibi/.BQaas 16/06/15 18:07:33 ID:7Ssvma0U [24/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 もっと早く、いや最初から、借金を支払っておけば、こんなに打ちのめされることはなかったのに。

 こんなに不意に、こんな形で、支払うことになるなんて。
 ▼ 25 カ◆Ibi/.BQaas 16/06/15 18:08:02 ID:7Ssvma0U [25/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 『不意に』でも、思い返せばこれは、全く突然の事ではなかったかもしれない。

 初めて、デンリューの名前を呼んだ時、グラエナと会った時、その後から始まったデンリューの外出。

 全て、疑われた上で計画されていたなら、気付くチャンスもあったはずなのに。

打ち明けて、許しを乞うことも出来たであろうに。

能天気に、誤魔化したままの現状に満足し、厄介事を先延ばしにした結果、こんな事になってしまった。


久しぶりに見た自分の姿は、とても黒く、惨めで、汚れて見えた。

fin
 ▼ 26 ルフォン@コインケース 16/06/15 18:09:02 ID:xXNy8V.6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ▼ 27 カ◆Ibi/.BQaas 16/06/15 18:09:19 ID:7Ssvma0U [26/26] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
終了です
最初はヒトとゾロアークで書こうと思っていたのですが、言葉の壁が越えられませんでしたので、こんな感じになりました。
 ▼ 28 タフリー@どくどくだま 16/06/15 18:17:28 ID:hT5Ektoo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
合計レスと>>1のレス数見ると悲しくなる
 ▼ 29 ースター@むしのジュエル 16/06/15 18:22:31 ID:FgtFzra6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
一応乙
しかし支援なし。
やっぱりリトルペンドラーが効いたね
 ▼ 30 レッグル@もえぎいろのたま 16/06/15 18:23:05 ID:cTAvVP2. NGネーム登録 NGID登録 報告
書き溜めてたもんだし、こんなもんじゃないの?

1日でアホみたいにレスもつかないでしょ
 ▼ 31 リージオ@ブリーのみ 16/06/15 18:28:07 ID:CKbei9s6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
お疲れ
 ▼ 32 ダック@ふしぎなタマゴ 16/06/16 20:11:25 ID:Eje79Znk NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
いつの間にか新作終わってた
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