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【SS】ママ「ほら、早く起きなさい!」【リメイク】

 ▼ 1 AYr1xkow/g 17/08/18 09:07:23 ID:z1am0BAU NGネーム登録 NGID登録 報告
こんにちは。私はスリジエ。みんなからはポケモン博士と呼ばれているわ。今日は私のネット講座を受けてくれてありがとう。楽しい時間にしましょうね。

ポケットモンスター、縮めてポケモン。この世界には、そんな不思議な生き物がたくさんいます。私たち人間は、彼らポケモンと共に生きています。一緒に遊んだり、力を合わせて仕事をしたり、そして時にはポケモン同士を戦わせてバトルをしたり……。そうやって私たちはポケモンと絆を深め合っているの。そんな彼らをよく知るために、私は研究をしています。

さて、ではそうね、今日の講座を受けてくれたあなたにも軽く自己紹介してもらおうかしら。えーっと、写真を見せてもらってもいいかしら?

ありがとう!ふんふん。あら、どこか見覚えのある顔だわ。お名前はなんていうの?

パロレくんっていうのね!素敵な名前ね。

それにしても、パロレくん……?あ!思い出したわ!

あなた、アキニレくんの弟くんね!なんだ!びっくりしちゃった。

知ってるとは思うけれど、アキニレくんは私のお手伝いをしてくれているのよ。今はちょうど出かけているけど、明日の朝早くに、出張から帰ってくるはずだわ。

……パロレくん!きっとあなたなら強いトレーナーになれるわ。そんな気がするの。ポケモンとの絆を深めて、思う存分楽しんでね!

さあ、ポケットモンスターの世界へ!
 ▼ 124 AYr1xkow/g 17/09/06 15:16:30 ID:RM65521w NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「なんなんだろう、これ……」

パロレは呟いた。意味はよく分からないが、なんだかとても嫌な感じがする。パロレは怖かった。古代都市やブロインジムで味わったものとはまた違う恐怖だ。

「ねえ、バジリコ」

「……!」

女性の声が聞こえてきて、パロレはびっくりして辺りを見渡した。そして、そういえばあの不思議な女性を追ってここに入ってきたのだということを思い出す。どうやら女性は隣の部屋で誰かに話しかけているようだ。パロレは隣の部屋に行ってみることにした。

隣の部屋は、先程パロレがいた部屋より少し広かった。パロレが足を踏み入れた瞬間、足音に気付いた女性が素早くこちらを振り返る。

「……」

女性は黙ってパロレを見ている。驚いているようだった。それから、パロレを見つめる瞳は鬱陶しそうなものに変わった。

「また……?」

女性はそう言って小さく溜息をついた。

「この前も火山でスパイス団を止めたんでしょ」

「えっ……」

パロレは思わず退いた。なんで知ってるんだろう?

「私はなんでも知ってるの」

女性はそう言ってパロレに一歩近づいてきた。女性はパロレよりも背が高い上に、高級そうなハイヒールのブーツを履いている。パロレは物理的にも精神的にも見下ろされていることに気付き、縮こまった。

「そうやって関係ないことに嘴を突っ込む癖、そろそろどうにかしたら?」

女性は抑揚のない声でそう言って、ポケットに手を突っ込んで早足で歩き始めた。そしてパロレとすれ違いざまに、

「ここには何もないよ」

と言って部屋を出ていった。

何もないだなんて、そんなことはないこんなにたくさん資料や機械があるのに。パロレはそう思った。それに、バジリコという人はどこに行ったのだろうか。

やっぱりあの女の人は、怪しいところだらけだ。スパイス団と何か、いや絶対関係がある。パロレはそう思いながら部屋の奥まで歩いた。

奥には大きな機械が置いてあった。三メートルくらいのポケモンなら余裕で1匹まるまる入りそうな、カプセル型の機械だ。中には拘束具や、大量のコードがついたヘルメットのようなものが入っている。

「なんか……嫌な気持ちになるな……」

パロレは正直な思いを呟いた。

部屋はここで最後で、行き止まりのようだ。結局何も分からなかった。不気味な上に不快感だけが募る場所だった。パロレはくるりと機械から背を向け、さっさと廃工場を出ていった。

パロレは12番道路を抜けてメランシティまでやってくると、今日はもう休むことにした。明日はジム戦だ!気持ちを切り替えて、また頑張ろう。
 ▼ 125 AYr1xkow/g 17/09/06 20:34:00 ID:Jh.DuuE6 NGネーム登録 NGID登録 報告
翌日。目を覚ましたパロレは、準備を済ませると早速メランジムへと向かった。

アモル地方の本土はここメランシティが最終地点だ。次の街があるダ・カーポ島に行くには、この街にある乗船所から船に乗らなければならない。パロレは、ジムバッジを貰ったらすぐに船に乗ろうと考えていた。

さて、メランジムの前へとやってきた。看板には「アモル地方のちょいワルオヤジ」と書いてある。ちょいワルオヤジと書かれているこのメランジムリーダーは、あくタイプ使いだ。パロレは面白い二つ名だなと思いながらジムの中に入った。

ジムに入ると、地下に繋がる階段が目の前に現れた。階段を降りていくと、うっすらと明かりのついた少し暗い、どこか雰囲気のあるお洒落な地下室にたどりついた。

パロレには見慣れない光景だった。それもそのはず、メランジムの地下室には本格的なワインセラーが作られていたのだ。未成年であるパロレに、よく分かるわけがない。

様々なワインボトルが収納されたいくつものワインセラーが、ジムの中を占領している。しかしよく見ると、ダミーのワインボトルもあるようだった。パロレが目の前のセラーにあるダミーのボトルを取り出そうとすると、カチッという音が鳴り、セラーが動き始めた。メランジムは、こうやってワインセラーを動かしながら奥へと向かうちょっとした迷路になっているようだ。

「ワインって美味しいのかなぁ……」

パロレはそう呟きながら、迷路を攻略していった。たまに母親やアキニレが飲んでいるところを見たことがあるが、ぶどうジュースの方が美味いそうだとパロレは思っている。

ダミーのワインボトルを引っ張ったり戻したりしながらワインセラーを動かして進んでいると、お洒落なキャンドルが乗った小さなテーブルが見えた。テーブルにはワイングラスが二脚乗っている。そしてその近くには二台の椅子があり、奥の方の椅子に男性が腰かけていた。

「こんにちは!ジムに挑戦しに来ました!」

パロレは男性に近づきながら元気よく言う。

「はいはい、メランジムリーダーのリュウガンですよっと」

男性はそう言いながら椅子から立ち上がった。少し草臥れているけれど、でもどこか格好いい、タレ目で背の高い中年男性だ。

「おいちゃんのことはリュウさんでいいよ」

リュウガンが言う。パロレは思わず面食らった。

「リュ、リュウさんですね。分かりました。ぼくはヴァイスタウンのパロレです!」

パロレが言うと、リュウガンは少し驚いたようだった。

「ヴァイスタウン?そりゃ遠いところから来たね。長旅ご苦労さん」
「ありがとうございます」

パロレが言うと、リュウガンはパロレの顔をちらっと見た。

「ま、おっさんの長話聞くのもめんどくせえだろ?さっさと始めようか」

リュウガンはそう言って、モンスターボールを持って不敵に笑ってみせた。
 ▼ 126 イロス@めざめいし 17/09/06 20:46:46 ID:FidzBkrc NGネーム登録 NGID登録 報告
リュウさんキターーーーーー!
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 ▼ 127 AYr1xkow/g 17/09/07 12:55:54 ID:F69zDHQE [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ドンカラス、いってら」

リュウガンはドンカラスを繰り出してきた。さすがおおボスポケモンだ。威圧感がある。

「負けないぞ!リザード、行ってこい!」

パロレはリザードを繰り出した。

「ドンカラス、ふいうち」

ドンカラスはリザードより素早さが低いはずだが、ドンカラスはリザードの不意を打って先に攻撃してきた。ダメージは大きそうだ。リザードはよろめいたが、どうにか踏ん張った。

「リザード、はじけるほのお!」

リザードが口から炎を吐いた。炎はドンカラスの体に当たると四方八方に飛び散った。ドンカラスも中々のダメージを受けたようだ。あと一回攻撃すればきっと倒れる。しかし、リザードもピンチだ。

「リザード!戻れ!マリルリ、任せた!」

パロレはポケモンを入れ替えることにした。マリルリは両腕を上げてやる気満々の鳴き声を上げた。

「ドンカラス、つばさでうつ」

ドンカラスが翼をマリルリに叩きつける。マリルリは悲鳴を上げたものの、まだまだ大丈夫そうだ。

「マリルリ!じゃれつく!」

マリルリがドンカラスの元に向かい、思いきりじゃれついた。あんなに可愛らしい動きなのに、ダメージを受けてしまうというのはどういうことなのだろう。パロレがそんなことを考えながら見ているうちに、ドンカラスは倒れこんだ。

「強いねぇ。ドンカラス、戻れ。ワルビル、行ってこい」

リュウガンがにやりと笑ってドンカラスを戻し、ワルビルを繰り出した。

「ワルビル、あくのはどうだ」

ワルビルがあくのはどうを打ってきた。威力は高いが、効果は今ひとつだ。このままいける!

「マリルリ!アクアテール!」

「マリィ!」

マリルリが尻尾を思いきりワルビルに叩きつけた。こちらは逆に効果抜群。ワルビルはアクアテールを食らってそのまま倒れてしまった。

「へっ、容赦ないねぇ。嫌いじゃねぇよ」

リュウガンは相変わらずにやにやと笑っていて、どこか余裕を感じさせる。

「ワルビル、戻れ。ヘルガー、頼んだよ」

リュウガンは最後のポケモンを繰り出した。パロレはヘルガーを見てから、マリルリにこっそり視線を送った。マリルリには続けて頑張ってもらおう。
 ▼ 128 AYr1xkow/g 17/09/07 12:59:18 ID:F69zDHQE [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ヘルガー、かみなりのキバ!」

「ええっ」

パロレは思わず声を上げてしまった。ヘルガーがマリルリに近づき、電気を帯びた牙で噛みつく。マリルリへの効果は抜群だ。そんな技を覚えるなんて知らなかった!

「マリィ……ッ」

マリルリは苦しそうな鳴き声を上げて、どうにか立ち上がった。

マリルリは素早さが低く、相手に先攻を譲ってしまうことが多い。たとえ相性が良くてもダメージが蓄積すれば倒れてしまうだろう。だから始めにリザードを出して、マリルリの体力を温存したかったのだ。

「マリルリ頑張れ!当てれば勝てる!アクアテールだ!」

パロレが叫ぶ。マリルリは力をこめて尻尾をヘルガーに叩きつけた。ヘルガーは攻撃を受けて数メートル後ろに押され、そのまま気を失った。勝った!一撃だ。

リュウガンはヘルガーをボールに戻すと、パロレを見て相変わらず余裕そうな表情を浮かべつつ、

「おいちゃんちょっとびっくりしちゃったよ」

そう言った。そして、

「あっさりやられちまった。決まりだからこれ渡さないとな。ほれ、ヴィランバッジだ」

ヴィランバッジは、ワイングラスの形をしたお洒落なデザインになっていた。グラスの中には暗く濃い赤ワインが入っているような加工がされている。

「あとこいつも。あくのはどうの技マシンだ。相手をたまに怯ませることもある。まあ良かったら使ってやってくれな」

「ありがとうございます」

パロレは礼を言って、ヴィランバッジと技マシンをバッグにしまった。

「お前さん見てると、あの頃のアルセアちゃんを思い出すねぇ」

リュウガンが呟くように言う。パロレは首を捻った。

「アルセアちゃん?」

パロレの声にリュウガンは苦笑した。そしてへらへらと笑いながら、

「おっさんの独り言なんて無視してくれよなぁ。ま、別にいいけどよ。前に挑戦してきた女の子のことだよ」

リュウガンはそう言うと、顎に手を当てて考えるように頭を傾げた。

「……つっても結構前だな、何年前だぁ?あの頃と同じジムリーダーは俺とマンサク爺さんくらいしかいねぇし」

そう言ってから、リュウガンはパロレを見つめる。

「お前さんみたいに強くて真っ直ぐな子だったな、って思ってな。もちろん今も変わんねえけど。まあ、あの子はお前さんみたいなキャラじゃねぇけどな。性格は似てると思うぜ」

リュウガンは面白そうに言ったが、パロレはアルセアという少女のことは知らないため、ピンとこない。

「酒飲める歳になっても付き合いがあるってのも、すげーことだよな。……ま、分かんねえか。時が経つのは本当に速い、そういうこった。毎日を大事にしろよ。じゃ、頑張れ」

リュウガンが小さく手を振る。

「はい!ありがとうございました!」
 ▼ 129 AYr1xkow/g 17/09/07 13:18:37 ID:F69zDHQE [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ああ、そうだ」

ジムを出ようとするパロレに、リュウガンが声をかける。パロレが振り向くと、

「乗船所を見たら驚くと思うけど、普通にしてれば何もされねえから気にすんな」

リュウガンはそう言った。

「え、なんだろう……。分かりました!」

パロレはそう言ってジムを出た。そしてポケモンセンターに寄ってポケモンたちを元気にさせてから、メラン乗船所へとやってきた。そして時刻表を見ていると、背後から名を呼ばれた。

「パロレさん!」

パロレが振り向くと、そこにいたのはユーリだ。

「あ、ユーリ!」

パロレが笑顔で呼び返す。ユーリは小走りでパロレの隣までやってきた。

「パロレさん、ダ・カーポ島に行くところですか?」

「うん、そうだよ」

パロレが頷く。

「オレもそうなんです。よかったら一緒に行きませんか?」

「うん!行こう!次の船が来るまであとどれくらいかなぁ」

パロレがそう言って時刻表に視線を戻す。ユーリも一緒に確認しようと近付いた。

「えっと……って、ん……?」

ユーリがガバッと顔を上げた。そして、愕然とした声で言う。

「スパイス団がいます……!」

「なんだって!?」

ユーリの声に、パロレも思わず勢いよく顔を上げた。

「ま、待ってください、いっぱいいます……!」

ユーリが焦った声で言う。パロレが見渡してみると、本当にそうだった。スパイス団の構成員たちが、乗船所の中に何人もいる。きびきびと歩いている者もいれば、堂々と立っている者もいた。

「まさか……乗っ取られてるのか?」

パロレが言い終わらないうちに、ユーリがすたすたと歩いていって近くのスパイス団の下っ端らしき団員に話しかけた。

「おいお前!乗船所をどうするつもりだ!」

荒い口調で言うユーリに対し、下っ端の口調は穏やかで更に聞きやすい。

「こんにちは。アモル地方本土とダ・カーポ島を結ぶメラン乗船所とリュイ乗船所は我々スパイス団が管理、経営しております」

「え……!?」

ユーリが絶句した。
 ▼ 130 AYr1xkow/g 17/09/07 13:54:57 ID:F69zDHQE [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「経営……!?」

パロレも唖然として繰り返す。そしてそういえば、とパロレは先程のことを思い出した。

「リュウさんが言ってたのって、もしかしてこのことだったのかな……」

ユーリは混乱しているようだ。普段なら絶対そんなことはしないだろうが、ユーリはスパイス団員に申し訳なさそうに頭を下げた。

「そうだったのか……。す、すみません……」

「いいえ、初めてのお客様には驚かれることも少なくはありませんので慣れていますよ。我々は皆様に快適な海の旅をご提供できるよう尽力しております。どうかご心配なく」

下っ端団員は淀みなく言った。

「はい……」

「すごくちゃんとしてる…………」

パロレとユーリは、ひたすら驚くことしかできなかった。二人はひとまずその場を離れ、脇に寄って顔を見合わせた。

「……納得いかない。なぜ犯罪組織であるあいつらが乗船所を経営してるんだ」

ユーリは怒りを抑えきれない様子でぶつぶつと呟いている。パロレも頷いた。

「ぼくも全然知らなかったよ。……スパイス団がいないとダ・カーポ島に行けないじゃんか」

パロレが不満げな声で言った。ユーリはまだ納得がいっていない様子で低い声で唸った。

「アモル地方とスパイス団は切っても切り離せない関係だとか聞いたことはあるけど、そういうことなんだろうか。オレは許せない……」

「うーん……」

パロレは何と言えばいいか分からず、首を捻った。すると、

「おーい!」
 ▼ 131 AYr1xkow/g 17/09/07 13:59:12 ID:1Lqo6Zm6 [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
聞き覚えのある声が聞こえてきた。パロレは声のする方を見て、ぱっと顔を輝かせた。そして大きく手を振る。

「あ!クオレ!」

クオレはニコニコ笑いながら二人のところまでやってきた。久しぶりに三人が揃った。

「クオレも今から船に乗るの?」

パロレが聞く。

「うん!」

クオレは頷いた。するとちょうどその時、「間もなく船が到着いたします」というアナウンスが聞こえてきた。

「あ!ちょうどよかったみたいだね!」

「ええ」

ユーリはそう言って頷くと、明らかにまだ怒りの抑えきれていない口調のまま忠告した。

「スパイス団が経営しているらしいので、ちょっと警戒した方がいいかもしれませんね」

ユーリの言葉に、クオレは目を大きく見開く。

「ええ!?そうなの!?」

「リュウさん、普通にしてれば何もされないって言ってたよ」

パロレは一応フォローを入れた。スパイス団は大嫌いだし絶対に許せないが、何故かリュウガンに大丈夫と言われたら本当にそうなのだろうというようにも思えたのだ。

「へえー。ちょっとビクビクしちゃいそう、って感じ……!」

クオレは不安げに言うと、無邪気に続けた。

「でもなんでスパイス団が経営してるんだろう?もしかして、わたしたち人間以外にこっそりいけないものも運んでたりして!」

パロレとユーリは何も言えずに黙りこんだ。
 ▼ 132 AYr1xkow/g 17/09/07 14:13:29 ID:1Lqo6Zm6 [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
念のための由来・モデル一覧
地名編A

セールイシティ
ナポリに相当。ロシア語で灰色という意味。

イーラ火山
ヴェスヴィオ火山に相当。イタリア語で怒りという意味。

古代都市
ポンペイに相当。

ブロインシティ
バーリに相当。オランダ語で茶色という意味。

モルタウン
コゼンツァに相当。トルコ語で紫色という意味。

ディレット国立公園
シーラ国立公園に相当。イタリア語で楽しさという意味。

メランシティ
レッジョ・ディ・カラブリアに相当。ギリシャ語で黒という意味。
 ▼ 133 AYr1xkow/g 17/09/07 14:15:02 ID:1Lqo6Zm6 [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
念のための由来・モデル一覧
人名編A

マンサク Mansaku
マンサク科マンサク属の落葉小高木、満作から。

オリヴィエ Olivier
モクセイ科の常緑高木、オリーブのフランス語。

マリナーラ Marinara
トマトソースの一種であるマリナーラソースを使用したパスタ(ピザもあるよ)。ちなみに元々は船乗りの、という意味。

ネム Nemu
マメ科ネムノキ亜科の合歓の木から。

リュウガン Ryugan
ムクロジ科ムクロジ属の常緑小高木である龍眼から。
 ▼ 134 ュプトル@しめったいわ 17/09/07 15:58:55 ID:4sL6UE5k NGネーム登録 NGID登録 報告
スパイス団の名前はパスタ統一かな
 ▼ 135 ルタンク@はっかのみ 17/09/10 07:51:08 ID:5aJ5d1kE NGネーム登録 NGID登録 報告
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 ▼ 136 AYr1xkow/g 17/09/10 13:52:24 ID:b1joZzcg [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
三人は、乗船所にやってきた船に乗りこんだ。船の中は、特におかしなところは何もない。

「中は普通だねぇ」

クオレがのんびりした様子で言う。

「一応問題なさそう……」

パロレも言った。隣ではユーリが深刻な表情で呟いている。

「密輸とか……してるんでしょうか……」

そんなユーリに、パロレは慌てて手を振った。

「まあまあ!分かんないんだし何も変なことはないってことにしとこうよ!」

パロレの言葉にユーリも納得したらしい。

「……そうですね」

三人は船の中を少し歩くと、空いていた席に並んで腰かけた。まもなく出港ですというアナウンスが聞こえてくる。これからダ・カーポ島に行くのだと思うと、パロレはワクワクしてきた。

「最近、調子はどう?」

クオレが問う。パロレは笑顔で返した。

「順調だよ。あ、スリジエ博士と会ったんだ!バトルしたよ!」

パロレが言うと、クオレは目を丸くした。それから羨ましそうに、

「えー!いいなー!わたしも博士に久しぶりに会いたいなぁ……!」

そんなクオレに、パロレは自慢げな表情を浮かべた。一方ユーリは少し気まずそうな顔で答える。

「オレは、特に何も……」

「そっかぁ」

クオレはそう言うと、なんだか変な顔を浮かべた。にやにや笑いを必死にこらえているような表情だ。こう言う時のクオレは、何か話したくてたまらないことがあるのだということを、パロレはよく知っている。

「クオレは?」

パロレが聞いてやると、クオレは待ってましたという顔を浮かべた。
 ▼ 137 AYr1xkow/g 17/09/10 14:11:04 ID:b1joZzcg [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「わたしはねぇ、もちろんポケモンいっぱい捕まえたけど……それだけじゃなくてね!いろんな街でお買い物するのが楽しいんだ!」

クオレは嬉々として話し始めた。

「そうなんですね。いつも何を買うんですか?」

「だいたい洋服だよ!最近は少し高くて前は買えなかった服にも挑戦してみてるんだ」

クオレの目は輝いている。どうして女の子ってあんなにいっぱい服を買うんだろうかとパロレは常々疑問に思っているので、あまりクオレの気持ちが分からない。

「ほんとはオーロシティとかジョーヌシティとかにしか売ってないカメリアとかレケナウルティアとかの服も買いたいけど……でもやっぱり高くて諦めた!」

クオレが残念そうに言う。一方パロレは気の抜けた声で質問した。

「その、カメリアとか、レケなんとかって何?」

そんなパロレに、クオレは信じられない、という顔をする。

「もー、パロレ知らなすぎ!有名な高級ブランドだよ。カメリアはユーリのお家で会った女の人も着てたよ!」

クオレの言葉に、パロレははっとした。そういえば、廃工場でまたあの人と会ったんだった。

「姉はレケナウルティアがお気に入りみたいでよく買ってますよ」

「お金持ちの人はいいなぁ……!」

クオレが羨望の眼差しをユーリに向ける。パロレにはさっぱり分からなかった。

「ブランドって、そのブランドを立ち上げたデザイナーさんの名前から名付けられることが多いですよね」

「うんうん。デザイナーさんの名前がカメリアさんだもんね!あとは……レザンってメンズブランドもそうだよね」

「ああ、そうですね」

クオレとユーリの会話にまったくついていけないパロレは、窓から海の景色を眺めていた。波の色は綺麗なブルーだ。遠くにはキャモメの大群が飛んでいるのが見える。

「ぼくには分からない世界の話だなー」

パロレがわざとらしく言うと、クオレが呆れたような声で言った。

「パロレも少しくらいおしゃれした方がいいよ!ユーリはおしゃれさんだよねぇ」

「オレは大したことないですよ。クオレさんだっておしゃれだし、とても可愛いじゃないですか」

ユーリの言葉に、パロレは驚いて勢いよく振り返った。

「えへ!ありがとう」

クオレは照れ臭そうに言う。

「すごい……さらっと可愛いとか言っちゃうんだ……」

パロレはユーリを凝視して思わず呟いた。

「クオレさんは笑顔が素敵で可愛いらしいですよね。思ったことを言っただけです」

「ユーリ、さすが王族の末裔だね!かっこいい!王子様みたい!パロレには絶対無理だよそんな爽やかに言うの!」

「余計なお世話だよ」
 ▼ 138 AYr1xkow/g 17/09/10 14:28:07 ID:b1joZzcg [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
先程まで元気に話していたクオレはふと神妙な顔つきになった。そして、呟くように言う。

「……でも、わたしから見たら2人とも強くてかっこいいよ。……わたしはそんなに強くないから」

パロレは首を捻った。クオレの言葉がどうもピンと来ない。

「そうかなぁ?大して変わらないよ」

「……」

パロレはそう言ったが、ユーリは黙って何も言わなかった。すると、ユーリは顔を上げて、

「あ、そろそろ着くみたいですよ」

「ほんとだ。何事もなく着いてよかったね」

パロレも言う。

「スパイス団ってなんだか不思議な組織だねぇ……」

クオレは何とも言えない口調でそう言った。

やがて船がダ・カーポ島の乗船所に到着すると、三人は船を降りた。ダ・カーポ島に来るのは初めてだ。ここからは本当に未知の世界への冒険になる。

パロレたちが今いるのはリュイタウンという小さな街だ。ここには乗船所とポケモンセンターくらいしかない。

「ふー、船旅終了!」

パロレは乗船所を出ると、思いきり体を伸ばした。

「さ、行こっか!」

「うん!行こ……ん?」

クオレが元気よく返事をしようとして、首を傾げる。見れば、スパイス団の団員数名が仕事を放って私語を交わしているようだ。どうやら、スパイス団の構成員たちの勤務に対する意識はメランシティとリュイタウンで大きく異なるらしい。

「ね?あんたもそう思うでしょ!?」

「いや俺は別にそこまでは思わねえよ」

こちらまで聞こえてくるとは、なかなかの声量だ。なんと堂々としたサボりだろうか。

「何か話してるのが聞こえるねぇ」

「……駄弁ってますね」

ユーリも呆れ気味に言った。

「何話してるんだろう?」

三人は顔を見合わせた。それから、こっそり団員たちに近付き、聞き耳を立てた。
 ▼ 139 AYr1xkow/g 17/09/10 15:29:31 ID:b1joZzcg [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「何よー、バジリコさんの魅力が分からないなんてあんたって本当にダメね!」

「これだから男ってダメなのよねー」

「いや、知らねーよ……イケメンだとは思うって言ったじゃねえか」

「だからぁ!ただイケメンなだけじゃなくて、あの物憂げな表情がたまんないんでしょーが!」

「一応優しいけど、どこか冷たい感じも素敵よねー」

「分かんねえよ……。つうかそもそも、年下の男にそんな風になれる神経が分からん」

「ちょ……誰が年増じゃ」

「そこまで言ってねえよ!……そうじゃなくて。あの人、スパイス団に入ったの五年前だろ?新参じゃん。しかも年下。それなのに先に幹部になってさ。いい気はしねえだろ」

「別に私は気にしないけど。イケメンだし!」

「そーそー、イケメンだから!それに私たちよりバトルだって強いしね」

「……それなんだけどさ。本人は多分、自分のことを弱いって思ってそうなんだよな。なんつーか、俺たちみたいな下っ端よりはもちろん強いけど……、あの人の中の水準ではまだまだ、っていうか」

「向上心があるってことよ!もー、クールで素敵!」

「……そういうのもさ、俺たちのこと内心馬鹿にしてるんじゃねーの?」

「何よいちいちケチつけて……っていうかあんた、嫉妬してんの?何様のつもりよ?あんたの手に及ぶ人じゃないんだからね?」

「そーよ、生意気言っちゃってさ。そもそもその「あの人」って呼び方何?ちゃんと「さん」をつけて呼びなさいよ!」

「だ、だってよ、自分より後から入った年下だぞ?呼びにくくね!?」

「呼びにくいとか関係ない!敬意を払いなさいっ!」

「今は上司なのよ!?」

「つーかこいつ、確かバジリコさんの班に所属してたわよね……ムカつく!何なのよあんたっ!」

「俺は嫌なんだよ。班の女みんなキャーキャー言っててうるさいし」

「贅沢!羨ましい!」

「代わりなさいよー!」

「……くだらない」

ユーリがそう言って、嫌悪感を露わにした表情でその場から離れた。もしかしたら何か有益な情報を得られるかもしれないと思っていたので、どうでもいい話を長々と聞いてしまったことに後悔しているようだった。

しかし、パロレは確信していた。バジリコという名前の幹部がスパイス団にいる。やはり、廃工場で再会したあの女の人は、スパイス団と関係があるのだ。
 ▼ 140 リリダマ@でんきのジュエル 17/09/13 10:06:39 ID:ATkJjFPY NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 141 AYr1xkow/g 17/09/15 00:12:01 ID:nCxI0INc NGネーム登録 NGID登録 報告
「……パロレさん。お手合わせお願いしてもよろしいでしょうか」

ユーリが真面目な顔で言う。パロレは頷いた。

「うん!やろう!」

「あっ、じゃあわたし見てるね!」

クオレがそう言って脇に寄る。パロレとユーリはモンスターボールを手に取り、見つめ合った。

「ありがとうございます。では、よろしくお願いしますね」

ユーリはそう言って、モンスターボールを投げる。

「行け、コジョフー!」

「ピジョン!行くぞ!」

パロレもポケモンを繰り出した。

「ピジョン、かぜおこし!」

パロレが指示を出す。ピジョンは大きく羽ばたいて、激しい風を起こした。コジョフーは風に押されて背後に吹っ飛びそうになるのを必死にこらえる。

「コジョフー!ドレインパンチ!」

ユーリが叫ぶと、コジョフーはぴょんと飛び上がった。そしてピジョンの起こした風に乗り、更に身軽になってピジョンの元まで飛び上がる。それから、体力を吸いとるパンチをお見舞いした。

「ピジョン!もう一度かぜおこしだ!」

パロレが言うと、ピジョンは体勢を整え、再びコジョフーに向けて風を起こす。浮かび上がっていたコジョフーは、真正面から風を浴びて大きく後ろへと吹っ飛んだ。

「コジョォ……」

コジョフーが気を失う。ユーリはコジョフーをモンスターボールに戻し、次のポケモンを繰り出した。

「いけ!フワライド!」

フワライドを見て、パロレはちらりとピジョンを見た。それからピジョンに声をかける。

「ピジョン戻れ!いけ、マリルリ!」

パロレはポケモンを入れ替えた。

「フワライド、たたりめ!」

フワライドが動き、マリルリに攻撃をする。しかしパロレは余裕の面持ちでマリルリに指示を出した。

「マリルリ、まるくなる!」

マリルリは長い耳を曲げて体を折りたたむ。さあ、準備は万端だ。

「フワライド!たたりめ!」

フワライドは畳みかけるように攻撃をしてきたが、丸まって防御の体勢を取るマリルリにはあまり効いていない。

「マリルリ、ころがる!」

パロレが声高らかに叫ぶと、マリルリはその体勢のまま地面を猛スピードで転がっていった。そして、フワライドに思いきり体当たりする。フワライドは攻撃を受けると、しぼんだ風船のように力なく地面に落ちていった。
 ▼ 142 AYr1xkow/g 17/09/15 01:02:10 ID:7deEVuSA [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……っ」

ユーリは唇を噛みしめた。それから、フワライドをボールに戻す。

「フラージェス、行ってこい!」

「マリルリ!ころがり続けるぞ!」

パロレがマリルリに声をかける。その隙に、フラージェスは素早くマリルリに近づいてきた。

「ムーンフォース!」

ユーリが指示を出す。フラージェスは、両手を広げて空を仰いだ。そして、今は見えない月に向かって祈りを捧げる。フラージェスは、月から不思議な力を得るとそのエネルギーをぶつけてきた。

「決めるぞ、マリルリ!」

マリルリは守りに優れている上に、フェアリータイプだ。攻撃を耐えたマリルリに声をかけると、マリルリは先程より更に勢いをつけて転がり、フラージェスに攻撃した。

「フラァ……ッ」

フラージェスが倒れる。ユーリは悔しそうな表情でフラージェスを戻した。

「……。……アマージョ、任せた!」

ユーリはアマージョを繰り出した。アマージョは高圧的な瞳でマリルリを見下ろす。ユーリは叫んだ。

「トロピカルキックだ!」

アマージョはまるで踊るようなステップでマリルリに近づくと、情熱的なキックをお見舞いした。マリルリは丸まったまま吹っ飛んだ。そして先程までのダメージが蓄積していたのか、そのまま気を失ってしまった。

「マリルリ、お疲れ。リザード!行くぞ!」

パロレがリザードを繰り出す。続けて指示を出した。

「はじけるほのお!」

「リザァアー!」

リザードが炎を吐く。炎はアマージョに直撃したが、アマージョはどうにか耐えきった。

「アマージョ!ふみつけ!」

アマージョは長い脚を振り上げ、リザードを思いきり踏みつけた。リザードはそれなりにダメージを受けたようだが、まだ頑張れそうだ。アマージョはリザードをじっとりと睨みつけている。

「リザード、もう一度はじけるほのおだ!」

パロレが叫ぶと、リザードは勢いよく炎を吐いた。炎はアマージョにぶつかり、辺りに飛び散った。アマージョはよろよろともたつき、やがてがっくりと膝をついた。
 ▼ 143 AYr1xkow/g 17/09/15 01:32:25 ID:7deEVuSA [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ユーリはアマージョを戻すと、最後のポケモンを繰り出してきた。

「行け!エンペルト!」

こうていポケモンのエンペルト。ユーリがスリジエ博士から受け取った、ポッチャマの最終進化系だ。

エンペルトは鋭いながらも気品溢れる瞳でこちらを見つめてくる。あんなに可愛らしかったポッチャマは、今はこんなに美しく逞しい姿に進化していたのだ。

先に相棒を進化させているユーリに、なんだか悔しくなってしまう。とはいえ、負けるつもりは勿論ない。

「戻れ、リザード!ロゼリア、行くよ!」

パロレはリザードをボールに戻した。そして、ロゼリアを繰り出す。

「エンペルト、アクアジェット!」

エンペルトは素早く突っ込んできた。ロゼリアは吹っ飛んだが、くるくると回転して体勢を整える。

「ロゼリア、しびれごな!」

ロゼリアが両手に生えた薔薇を揺らして粉を撒き散らす。エンペルトはその粉をもろにかぶり、麻痺してしまったようだ。

「エンペルト、耐えてください!もう一度アクアジェット!」

ユーリが声をかける。しかし、エンペルトは体が痺れて動けないようだった。苦しそうに動いている。

「ロゼリア、エナジーボール!」

ロゼリアはエネルギー体で作り上げたボールをエンペルトにぶつけた。しかし、エンペルトはまだ平気そうだ。

「……っ、アクアジェット!」

再びユーリが指示する。今度はエンペルトはどうにか痺れをこらえて体を動かすことができたようだ。目にも留まらぬ速さで進み、ロゼリアに思いきり激突する。タイプの相性は悪いはずだが、ロゼリアは割と大きなダメージを受けており傷ついているようだった。

次だ。次で決めよう!

「ロゼリア!次で終わらせよう。もう一回、エナジーボールだっ!」

パロレが叫ぶ。ロゼリアは自然のエネルギーを集め、球体を作り上げると、ありったけの力をこめて力の塊を思いきりエンペルトめがけて放出した。

「ロゼアーッ!」

エンペルトの腹部に、エナジーボールが当たり、めりこむ。

「ぺ……ルッ」

エンペルトは苦しそうな鳴き声を上げた。エナジーボールが急所に当たったエンペルトは、そのままそこで気絶してしまった。やった!パロレの勝ちだ。

「……クソッ」

ユーリの小さな声は、パロレやクオレの耳には届かなかった。
 ▼ 144 AYr1xkow/g 17/09/15 01:51:41 ID:7deEVuSA [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレの腰につけたモンスターボールが揺れる。見れば、ふたつも揺れていた。パロレがボールから出すと、リザードとピジョンの体が光り始めていた。

「あ……!」

パロレの瞳が期待で輝く。リザードとピジョンの姿はやがて光に包まれて見えなくなった。かすかに見える影は、今までのものより大きい。やがて、光が飛び散るようにして消えていった。

「わあ!やった!」

パロレがそう言ってガッツポーズをする。それもそのはず、二匹は進化していたのだ。リザードはリザードンに、ピジョンはピジョットに。それぞれの最終進化系だ。

「あはは、またたくましくなったなー!へへ、これからもよろしく!」

パロレはリザードンとピジョットに声をかけた。二匹が頷く。どっしりと佇むその姿は、本当に頼もしかった。

「……ありがとうございました」

ユーリがそう言って丁寧にお辞儀をする。パロレは朗らかに「こちらこそ!」と返した。

「やっぱりすごいなあ、二人とも……」

クオレが呟くように言った。

ユーリは小さく息を吐いて気を落ち着かせると、

「パロレさん、いつも相手をしてくださってありがとうございます。これはいつものお礼です」

そう言って眩しく光る不思議な石をくれた。パロレは石を受け取ると、怪訝な瞳でそれを見つめる。

「それはひかりのいしといって、特定のポケモンを進化させることができる道具です。オレはもう使ったのですが、パロレさんのポケモンにもそれが使える子がいたので」

ユーリは分かりやすく説明をしてくれた。パロレはすぐに笑顔になり、

「わー、ありがとう!」

そう言った。するとユーリはきびきびと、

「どういたしまして。それではオレは先に行きます。失礼します」

そう言ってリュイタウンを足早に出ていった。

「またねーっ!」

そんな後ろ姿を、クオレはやりすぎなほどに大きく手を振って見送った。
 ▼ 145 AYr1xkow/g 17/09/15 10:20:43 ID:7deEVuSA [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「それにしても、使える子って誰だ……?」

パロレが首を傾げると、今度は別のモンスターボールがカタカタと揺れた。

「あ、お前か!」

パロレがそう言ってボールから出したのは、ロゼリアだ。ロゼリアはパロレの顔とパロレの手の中にあるひかりのいしを交互に見ると、待ちきれない様子でそわそわとその場を動き回り始めた。

「今やってあげるよ、ほら」

パロレがそう言って、ロゼリアの体にひかりのいしを近づける。すると、ひかりのいしは更にまばゆい光を放ち始めた。そして、それに共鳴するようにロゼリアの体も光りだす。

やがてふたつの光はひとつの光となり、ひかりのいしとロゼリアの体を包みこんだ。そして、石とポケモンの姿は見えなくなってしまった。光が消えた後にそこにいたのは、ロズレイドだ。

「やった!」

「わあ、素敵……!」

クオレがそう言って小さく手を叩く。パロレは少し自慢げな表情を浮かべた。

「一気に三匹も進化だ!これからが楽しみだなー!」

パロレはそう言ってロズレイドの頭を撫でた。

「じゃあ、クオレ。ぼくもそろそろ行くね」

パロレがそう言ってロズレイドをボールに戻しながらクオレに声をかける。

「あ、うん!またね」

クオレはそう言って小さく手を振った。

「うん、またね!」

パロレはそう言って手を振り返し、リュイタウンを後にした。

クオレは一人になると、神妙な顔でパロレの去っていった道を見つめた。クオレの顔はだんだんと暗い表情になっていく。

「……はあ」

そして、クオレは大きな溜息をついた。
 ▼ 146 AYr1xkow/g 17/09/16 23:56:24 ID:QE/6tJd6 NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレは今、パルガンシティという街にやってきていた。13番道路を抜けてジョイアマウンテンという山を越えたところにある街だ。

ジョイアマウンテンは、アモル地方で最も標高の高い山だ。頂上には雪が積もっており、アモル地方では珍しいこおりタイプのポケモンたちが棲みついている。

パロレがジョイアマウンテンを登っている間に、カゲボウズがジュペッタに進化した。ポケモンが進化するのを見ると、強くなっているのだと実感できて、なんだか嬉しくなってくる。パロレはワクワクした気分でジョイアマウンテンを抜けてきた。そして、パルガンシティに入った途端、あんぐりと口を開けて固まってしまったのだった。

「す、スパイス団がいる……!」

驚いて立ち尽くしているパロレの元に、一人の女性が歩いてきた。

「君、もしかして初めてパルガンに来たの?」

声をかけられたパロレはハッとして、

「は、はい。ジムを巡ってるんですけど、あの……びっくりしました」

パロレが辺りをキョロキョロと見渡しながら、声をワントーン落として言う。そんなパロレの様子を見て女性はクスクス笑った。

「まあ、無理もないよね。ダ・カーポ島ではわりとよくある光景だよ、スパイス団が普通にいるのは」

そう、パルガンシティではスパイス団員が平然と歩いていたのだ。

「そりゃちょっとおっかないけど……、でもまあ基本は何もしないよ、あの人たち。それに、いなくなったらそれはそれで困るしね」

女性はそう言って肩をすくめた。パロレは思わず眉をひそめる。乗船所の経営をしているのもスパイス団だった。彼らはそんなにこのアモル地方との結びつきが強いのだろうか。

「えっと、ジムを巡ってるんだったっけ?」

女性が聞く。パロレは頷いた。

「三年前まで、二年間くらいポケモンリーグ閉まってたんだよね。何故かは知らないけど……。今は再開してるよ、よかったね」

「そうだったんですね」

「うん、なんかチャンピオンの人の指示で閉まってたらしいの。何があったんだろうね?」

女性はそう言ってから、薄く微笑む。

「長話しちゃってごめんねー。まあ、なんにせよ頑張ってね!」

「はい!ありがとうございます!」
 ▼ 147 AYr1xkow/g 17/09/17 00:16:11 ID:.Nv4XMEs [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
あれからポケモンセンターで部屋を取り、しっかりと休んだパロレは、パルガンジムの前にやってきていた。

昨日は結構色々なことがあった。それに、ジョイアマウンテンを越えたので体はへとへとだった。ぐっすりと眠って疲れを癒した今のパロレは、やる気も元気も満タンだ。

パルガンジムの看板には、「鋼の意志の男」と書いてある。その二つ名の通り、パルガンジムリーダーははがねタイプの使い手だ。気を引き締めていこう。パロレは拳をぎゅっと握りしめてジムの中に入った。

ジムの中は、驚くほど蒸し暑かった。見れば、所々炎が燃え上がっている。ほのおタイプのジムリーダーだったかと思ってしまうほどだ。パロレは怪訝に思いながらジムを歩いた。

やがて、ジムの中は大きな厨房になっていることに気がついた。そして、そこいら中にリフトがある。乗りこんでスイッチを押すと、一定の方向に進むようになっている。元々は広いレストランで、料理を運ぶために使っていたのかもしれない。パロレはリフトの行き先をよく確認しながら、奥へと進んでいった。

やがて最奥にたどりつくと、一人の青年が立っているのが見えた。その後ろには大きなピザ窯がある。あんなところに立っていたら、暑くて体調を崩してしまいそうだ。しかし、青年は険しい表情をしつつもしっかりと立っていた。

「こんにちは。挑戦しに来ました、パロレです」

パロレはそう言って青年の前に立った。いかにも気難しい性格をしていそうな青年だ。青年はパロレを見つめた。睨みつけるように鋭いその瞳に、パロレは思わずごくりと唾を飲みこむ。

「パロレよ、よく来てくれた。俺はビロウ。パルガンジムリーダーであり、はがねタイプの使い手だ」

「はい!よろしくお願いします!」

ビロウはパロレの顔を見て「ふむ」と声を上げる。

「ここは元々厨房だったところをジムとして再利用している。だからこんなに蒸し暑い。はがねタイプはほのおに弱い!だが、逆境に立ち向かってこそ成長できると俺は考えている。それゆえに、俺はここをジムとして使うことにしたのだ」

ビロウが語るのを聞いて、パロレは内心「どんだけストイックなんだ」とツッコミを入れた。

「俺ははがねタイプのポケモンたちのように冷たく、硬く、強いぞ!来い!俺を打ち破ってみせよ!」

ビロウは力強く言うと、モンスターボールを投げてポケモンを繰り出した。
 ▼ 148 AYr1xkow/g 17/09/17 00:29:11 ID:.Nv4XMEs [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
ビロウが繰り出したのは、エアームドだ。パロレもモンスターボールを投げた。今回は、彼に思いきりやってもらおう。

「リザードン!行くぞ!」

リザードンとエアームドは、お互い翼をはためかせて浮かび上がりながら相手を睨みつけている。

「リザードン!ねっぷう!」

リザードンは咆哮を上げると、思いきり羽ばたいた。リザードンの持つ熱気のこもった風が、エアームドを強く打ちつける。エアームドはそのまま後ろに吹っ飛んだ。戦闘不能だ。

「エアームド戻れ!コマタナ!行くぞ!」

ビロウは次はコマタナを繰り出した。パロレのやることは変わらない。

「リザードン!ねっぷうだ!」

リザードンは再びねっぷうを起こした。コマタナもまた、一撃で瀕死となってしまった。パロレは小さくガッツポーズを決める。

はがねタイプは防御に優れている。しかし、特防はそれほど高くないことが多い。ほのおタイプであり、更に特殊攻撃であるねっぷうを覚えているリザードンにとって、これほどうってつけの相手はいないのである。

「やるな。コマタナ、戻れ!ハッサム!任せたぞ!」

ビロウがハッサムを繰り出した。パロレは思わずほくそ笑んでしまう。本当に、うってつけすぎる!

「リザードン、一気に行くぞ!もう一度ねっぷう!」

「リザァアー!」

リザードンは鳴き声を上げると、パロレの指示通りもう一度ねっぷうを起こした。ハッサムは四倍の効果の技を喰らい、またもや一撃で戦闘不能になってしまったのだった。
 ▼ 149 AYr1xkow/g 17/09/17 00:54:55 ID:.Nv4XMEs [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
ビロウはなんとも言えない微妙な顔をしてハッサムをボールに戻した。そして、「……見事だ」と声を絞り出す。

「……やはり、暑い場所で己を鍛えたとしてもタイプ相性の壁は越えられないか……」

ビロウは真剣な表情で考えこんでいたが、パロレはもしかして彼には違う目的があってここをジムにしているのではないかと思い始めていた。

「……まあ、仕方がないな。パロレよ、君は圧倒的な力を持っていた。その強さを認め、アイロンバッジを君に与えよう」

ビロウはそう言って、パロレにジムバッジを渡した。一部分が欠けた円形のバッジを見て、何の形をしているのか分からずパロレは首を傾げたが、やっと何をかたどっているのか気付いた。ピザである。

「……」

この人、もしかしてピザが好きなだけなんじゃ……?パロレはそう思ったが、何も言わないでおいた。

「そしてこの技マシンもだ。中にははがねのつばさが入っている。君なら使いこなせるだろう」

「ありがとうございます!」

そう言って、バッジと技マシンをバッグにしまうパロレの様子を眺めがら、ビロウがぼんやりと口を開く。

「次は……アスールジムか?」

「あっ、はい。そうです」

バッグの留め具を閉じて、パロレはそう言った。ビロウは「ふむ」と声を上げる。

「アスールジムにはケッキングみたいな女がいるからな。気をつけたまえ」

真顔でそう言うビロウに、パロレは拍子抜けしてしまった。

「え……ケッキング?」
 ▼ 150 AYr1xkow/g 17/09/17 01:59:30 ID:SIaklJQ. NGネーム登録 NGID登録 報告
>>91
今更ですがちからもちの効果が思いっきり逆になってますね
なんでこんな間違いしたんだ…すみません

もしよく分からなかったことや知りたいことがあれば気軽に聞いてください
答えられる限りでお答えします
ネタバレになってしまう場合はスルーします、ご了承ください
 ▼ 151 AYr1xkow/g 17/09/18 14:55:05 ID:td5CqNms [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
その日もゆっくりと休んだ翌日、パロレは14番道路を抜けて地底の洞穴というところを通っていった。その名の通り、地下に広がる大きな洞窟だ。

地底の洞穴は暗くじめじめとした場所だったが、パロレはどうにか最後まで進むことができた。パルガンシティ方面から地底の洞穴に行くと、最後にとても素晴らしいものを見ることができるという噂を聞いていたのだ。これは是非見なければならない。

さて、やっと光が見えてきた。出口だ。パロレは目を輝かせた。一体何が待っているのだろうか。パロレは、地底の洞穴を抜けた先にあるトリステッツァの谷へと足を踏み入れた。

まず見えたのは、大部分が損傷している建築物だった。パロレはもっとよく見ようと、目を凝らしながら前へと進む。すると、周りにも建築物があることに気がついた。全部で七つ。七つのうち六つは、柱や壁が少し残っているだけというほとんど跡形もない状態だ。

トリステッツァの谷。古代に建設された七つの神殿がある、神聖な土地。アモル地方には数々の城や教会などの古代の建築物が残されているが、その中でも最高傑作と言われている遺跡群だ。観光名所としても名高いこのトリステッツァの谷は、アモル地方で最も有名かつ人気な場所なのである。

「すごい……」

パロレは思わず声に出して呟いていた。ここには、常時不思議なエネルギーが溢れているのだという。くさのエネルギーが満ちているラランジャの森や、こおりのエネルギーが満ちているジョイアマウンテン山頂付近のように。

パロレは、トリステッツァの谷で一番保存状態が良好な神殿へと近づいた。いくつもの円柱形の柱に囲まれた建物だ。中に入ることは出来ない。パロレはしばらくの間、ただじっとその姿だけを見つめていた。

「……よし」

しっかりと景色を目に焼き付けたパロレは、踵を返して歩き始めた。ただなんとなく強くなりたいという気持ちで飛び出したが、その結果このように見たことのないたくさんのものに触れることが出来た。本当に、ポケモンを貰ってよかったとパロレは心から思った。

「サナギィ!」

「うわっ!?」

柄にもなく感傷に浸っていたところに、野生のサナギラスが飛び出してきた。パロレは慌ててベルトに手を伸ばし、スーパーボールを投げる。

「行け!ジュペッタ!シャドーボールだ!」

繰り出されたジュペッタはケタケタと笑いながら影の塊をサナギラスにぶつけた。もう一度指示を出そうとしたところで、パロレははっと考え直した。

「こいつの出番だ!ハイパーボール!」

パロレはスリジエに貰ったハイパーボールをサナギラスめがけて投げつけた。ハイパーボールはサナギラスを吸いこみ、三回揺れてから動かなくなった。

「よっしゃ!」

パロレはガッツポーズを決めた。これで、仲間が六匹勢揃いだ。
 ▼ 152 AYr1xkow/g 17/09/18 15:05:21 ID:td5CqNms [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
さあ、先に進もう。パロレが足を踏み出すと、

「パロレ」

名を呼ばれた。声の主は、聞けばすぐに分かる。クオレだ。

「クオレ!」

パロレは笑顔で振り向いた。神殿やサナギラスを捕まえることに夢中になっていて、クオレが近くにいたことにも気付かなかったらしい。

クオレの表情を見たパロレの顔から、笑顔が消えた。なんだか様子が変だ。

「ねえ、パロレ。お願いがあるんだけど、いいかな?」

クオレは、明らかに元気がない。思い詰めた表情をしている。

「うん。どうしたの?」

パロレはそう尋ねながらクオレに近づいた。

「わたしとバトルしてほしいんだ」

クオレの言葉に、パロレは拍子抜けしてしまった。

「え、そんなわざわざお願いなんかしなくてもいつでもオッケーだよ!」

今までもそうだったはずだ。パロレが言うと、クオレは小さく笑みを浮かべたが、酷くぎこちなく見えた。

「……そっか。そうだよね」

クオレはそう言うと、モンスターボールを手に取った。

「じゃあ、始めよっか」
 ▼ 153 AYr1xkow/g 17/09/18 16:26:50 ID:td5CqNms [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「いってらっしゃい、ピカチュウ!」

クオレがポケモンを繰り出す。パロレは、先程捕まえたばかりのサナギラスを出すことにした。

「いけ!サナギラス!」

「ピカチュウ、でんこうせっか!」

ピカチュウが素早く移動してサナギラスにぶつかってくる。しかし、効果は今ひとつだ。

「サナギラス、いわなだれだ!」

サナギラスは激しく岩を落としてピカチュウに攻撃する。サナギラスはせっかくのじめんタイプだが、有効なじめんタイプの技をまだ覚えていないようだった。とはいえ、でんきタイプであるピカチュウの動きを封じることなら出来る。

「ピカチュウ、でんこうせっか!」

ピカチュウの攻撃は、あまり効いていないようだ。

「もういっちょいわなだれ!」

サナギラスの二度目の攻撃だ。ピカチュウの頭に一際大きな岩が命中した。ピカチュウは弱々しい鳴き声を上げてその場に倒れてしまった。

「ピカチュウ、ごめんね。……お願い!アブリボン!」

クオレがピカチュウを戻す。アブリボンは辺りを飛び回りながらボールから出てきた。

「アブリボン、かふんだんご!」

アブリボンは、花粉でできた団子をサナギラスにぶつけてきた。しかし、サナギラスは全然平気そうだ。

「いわなだれ!」

パロレがもう一度声高らかに指示を出す。サナギラスの攻撃によって、アブリボンは倒れた。

「あっ……えっと……、いけ!ヤドン!」

「サナギラス、戻れ!行け、ロズレイド!」

クオレの繰り出したポケモンを見て、パロレはサナギラスを戻してロズレイドに入れ替えた。そして素早く指示を出す。

「ロズレイド、エナジーボールだ!」

ロズレイドは余裕の面持ちでエナジーボールを作り出し、ヤドンにぶつけた。ヤドンもまた、その攻撃を受けて一撃で倒れてしまう。

「ごめんね。……頑張って!ジャローダ!」

クオレは寂しげな表情でヤドンに声をかけ、最後のポケモンを繰り出した。クオレの顔は、悔しそうには見えない。もう諦めているかのように見えた。

「よし、戻れロズレイド!行け、リザードン!」

パロレは再びポケモンを入れ替える。

「ジャローダ、やどりぎのタネ!」

ジャローダが、リザードンの体に種を植えつける。ジャローダはまだ諦めていないようだった。リザードンを鋭く美しい瞳で睨みつけている。

「リザードン!ねっぷう!」

リザードンは大きく飛び上がると、上から強く羽ばたいた。熱気を帯びた風がジャローダに直接当たる。ジャローダは苦しそうに呻き、やがてその長い体は地面に力なく倒れてしまった。
 ▼ 154 AYr1xkow/g 17/09/18 16:43:25 ID:td5CqNms [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
クオレは、ジャローダをボールに戻しながら小さく「……うん」と呟いた。その神妙な様子に、パロレは何も言えずに黙ってクオレを見つめる他なかった。

「パロレ、ありがとう」

クオレが言う。パロレは首を横に振った。

「こちらこそだよ」

クオレは口を開いた。しかし、考え直したのか苦しげな表情を浮かべて口を閉じる。それから小さく息を吐くと、パロレの表情を見てもう一度口を開いた。

「あのね、わたし……ジムに挑戦するの、やめようと思うの」

クオレの言葉に、パロレは驚いてワンテンポ反応が遅れてしまった。

「エッ!?」

そんな。どうして?

「今回、最後にパロレとバトルしてもらおうと思って……。もし勝てたら続けようって思ったけど、今まで一度も勝ったことないのに勝てるわけなかった。あはは、わたしってバカだなぁ」

クオレはそう言って笑ったが、そんな彼女の表情は泣き笑いのようなものだった。

「……クオレ……」

パロレは何と答えるべきか分からず、クオレの名前を囁く。しかしクオレは気にしないで、とでも言うように小さく首を横に振る。

「わたし……、パロレやユーリみたいに強くないし……」

クオレは俯きながらも続けた。

「バトルで強くなりたいっていう気持ちも、二人よりきっと弱いの。わたしは強くなれないから、意味がないって思っちゃう」

「……」

「トレーナーって、強くならなきゃいけないのかな?」

クオレは素朴な疑問を口にした。素朴だが、誰も答えることのできない疑問。

「……わたし、ちょっと疲れちゃった」

クオレはそう言うと、顔を上げた。

「ポケモンとは仲良くなりたいけど、強くなるのはもういいや。……パロレには伝えとかなくちゃと思ったの。バトルしてくれてありがとう」

「……クオレ」
 ▼ 155 AYr1xkow/g 17/09/18 16:55:39 ID:cUtj/S5E NGネーム登録 NGID登録 報告
何と言えばいいのだろう。パロレは考えた。そんなことないよ、って言えばいいのか?でも、それは違う気がする。

「ぼくは……クオレを止める権利はないけど……」

パロレは考えながら慎重に言葉を紡いでいく。

「ちょっと、寂しいな」

「……」

クオレは黙っていた。

勝手かもしれないが、それがパロレの本当の気持ちだ。一緒に頑張れないのは、寂しい。クオレの気持ちは正直、あまりよく分からなかった。だって、パロレは今まで一度もバトルで負けたことがないのだから。

「……ごめんね」

クオレが言う。

「……謝る必要ないよ」

パロレは呟くように言った。

ユーリも、パロレを超えたいと言っていたことがあった。そう言ってもらえるのは、多分、すごいことなのだ。パロレは二人より強い。それは事実かもしれない。そして、それはただ喜ぶだけではなく、力を持っていることへの責任などについて、もっとしっかりと考えなくてはならないものなのかもしれない。

「ダ・カーポ島を回ったら、家に帰ろうかなって思ってるんだ」

クオレが言う。

「……うん。ぼくが帰ったら、その時はまたバトルしてよ」

パロレが言うと、クオレは切なげな表情を浮かべる。とはいえ、それは苦しそうな顔ではなかった。

「……えへへ。その時のパロレ、きっともっと強くなってるんだろうなぁ」

クオレはそう言って微笑んだ。

西日のせいか、クオレの顔が眩しい。クオレは、パロレよりずっと色々なことを考えていたのだ。そんな彼女の顔は、挫折を味わって悲しんでいるはずなのに何故かとても綺麗に見えて、パロレはどきりとした。いつもより、クオレが大人びて見える。

「じゃあ、またね」

クオレはそう言って、パロレとは別の方向へと向かって歩いていった。
 ▼ 156 ラスル@ライブドレス 17/09/18 19:14:39 ID:fsE5d.O. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 157 ルセウス@プレミアボール 17/09/19 02:22:12 ID:zENGJAHg NGネーム登録 NGID登録 報告
クオレ…
支援
 ▼ 158 AYr1xkow/g 17/09/19 23:21:14 ID:juGseBWs [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
次の日になっても、パロレはまだ昨日のクオレのことを考えていた。
クオレはずっと悩んでいたのだろうか。小さい頃からずっと一緒にいた幼馴染だというのに、気付けなかった。自分のことしか考えていなかったのだ。

でも、かといってクオレのために出来ることなど何もない。自分のやれることをやるだけだ。パロレはそう思い直して、目的地へと歩いた。

今パロレがいるのはアスールシティ。アモル地方最大の港町だ。パルガンシティ同様、ここでもスパイス団員が平然と歩いている。パロレは出来るだけ気にしないようにしながら歩いた。目指すはアスールジムだ。

スパイス団員がちらほらいることを差し引いても、アスールシティはとても心地いい場所だった。街の人はみんな陽気で明るい。みんな忙しそうにしているアモル地方北部にはない温かみを感じる。

「おっ、お前さん、ジムに挑戦かー?」

パロレが歩いていると、恰幅のいい男性が朗らかに話しかけてきた。

「はい、そうです」

「そおかー、頑張れやー!ここのジムリーダーは誰よりも漢らしい海の女!海のポケモンのエキスパートだあー!」

男性は赤ら顔で豪快に笑いながら半ば無理矢理に肩を組んできた。息が臭い。どうやら酔っているようだ。アスールシティの人々は、朝から酒を普通に飲むらしい。

「みずタイプ使いか!頑張ろう!」

パロレは男性と別れると、目当ての建物にたどりついた。そして、首を捻る。だって、他の街のジムの入口同じ形をしたゲートしかなかったからだ。ゲートの向こう側には海が広がっている。船着場のようだった。

パロレは不安になりながら辺りを見渡した。近くに看板がある。看板には「漢気いっぱい 面舵いっぱい!」と書いてある。ここで合っているようだ。

ゲートを抜けた先にある船着場には、小型船がいくつも停まっていた。そして、海を出た少し遠いところに大きな船がある。そこでパロレは気がついた。

この港町では、この船着場こそがジムになっているのだ。この小型船を乗り継いであの大きな船を目指すに違いない。あの立派な船で、ジムリーダーが待っているはず。

パロレはそれぞれの小型船に乗っているジムトレーナーと戦い、船を操縦してもらった。他の街のジムのトレーナーたちとは異なり、ここのジムトレーナーはどうやらプロの漁師たちのようだ。

パロレはやっと最後の小型船に乗り、ジムトレーナーのふなのりに助けてもらいながら大きな船へと乗り移った。甲板に出ると、そこには一人の女性が背を向けて立っていた。大股に足を開き舵を手にしているその女性は、パロレの足音を聞いてくるりと振り向く。

髪は赤く、前髪は長く伸ばしサイドに流しており、後ろは刈り上げている。頭にはキャプテンハットを被っており、いかにもかっこいい女性という出で立ちだった。水着のような服の上に船長服のようなジャケットを着ている。

顔だけを見れば、男だと言われても信じてしまうかもしれない。しかし、絶対に間違えない自信があった。何がとは言わないが、パロレが今までに見た中で一番大きいのである。
 ▼ 159 AYr1xkow/g 17/09/19 23:37:05 ID:juGseBWs [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「よーし、よく来たな挑戦者!アタシはヒマワリ。アタシはここのジムリーダーと、それからアスールの船乗りたちの棟梁もやってんだ!」

ヒマワリはそう言ってニカッと笑った。

「船乗りまくって大変だっただろ?あいつら、荒い操縦してなかったか?挑戦者がいつも船酔いすんだ。気持ち悪かったら言ってくれよな」

ヒマワリはそう言うと両手をポキポキと鳴らした。

「……一発殴ってやらねえとあいつら言うこと聞かねえからなぁ」

ヒマワリが呟く。パロレはそれを見てビクビクしながらも答える。

「いえ、大丈夫でした」

そんなパロレを見て、ヒマワリはにやりと笑う。

「根性あるじゃねえか。気に入った!」

そして、モンスターボールを手に取り、何度か投げてはキャッチを繰り返しながら、

「女だからってなめんなよ?ここで鍛え上げたアタシとアタシのポケモンはすっごく強えんだ!」

ヒマワリはそう言って、とびきり高く投げたモンスターボールをバシッとキャッチした。

「覚悟しな!」

「はい!」

パロレが力強く返事をすると、ヒマワリは不敵な笑みを浮かべ、いきなり思いきり舵を切った。

「うわっ!?」

船が大きく揺れ、方向を変える。パロレはよろめいて転びそうになったが、慌てて体勢を整えた。

「おいおい、ついてこいよ!海の上でのバトルだぞ!」

ヒマワリは楽しそうに豪快な笑い声を上げた。

「は、はい……!」

やっと体を真っ直ぐにして立つことができたパロレが息絶え絶えに言う。ヒマワリはそんなパロレの様子を見て嬉しそうな顔をした。

「ほらほら、始めんぞ!面舵いっぱーいッ!」

ヒマワリはそう言って、海の上に向かって勢いよくモンスターボールを投げつけた。
 ▼ 160 シズマイ@マグマブースター 17/09/20 00:02:36 ID:YlNdFhKo NGネーム登録 NGID登録 報告
オリキャラSSで一番好き
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 ▼ 161 AYr1xkow/g 17/09/20 11:45:29 ID:erg18tO6 [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モンスターボールから出てきたポケモンは、とても巨大だった。ポケモンの腹部が強く海面に打ちつけられ、激しい水飛沫がヒマワリとパロレにかかる。パロレは顔をしかめたが、ヒマワリはからからと笑っていた。

「ホエルオーだ……!」

ホエルオーは全種類の中で最も体長の大きなポケモンだ。なるほど、確かにホエルオーを繰り出すのであれば海そのものをフィールドにしてしまった方がいい。

「行くぞ、ロズレイド!」

パロレもポケモンを繰り出した。

「ロズレイド!エナジーボール!」

パロレの指示を聞いたロズレイドは、ホエルオーを睨めつけ、エネルギーの塊をいつもより気合を入れてぶつけた。ロズレイドより数倍も大きいはずのホエルオーは、大きな呻き声を上げてその一発で海面にひっくり返ってしまった。

「んだとぉ!?仕方ねえ!行くぞ!ダダリン!」

ヒマワリがホエルオーをボールに戻して次のポケモンを繰り出す。そのポケモンを見て、パロレは目を丸くした。

「ええっ?みずタイプの使い手じゃないんですか!?」

心から驚いている様子のパロレに、ヒマワリは挑戦的な瞳を向ける。

「んなことアタシは一言も言ってねえぞ?アタシは海のポケモンのエキスパートだからな!」

ヒマワリはそう言うと、またも強く舵を切った。油断していたパロレは思いきりその場ですっ転んでしまった。

「そ、そんなぁ」

パロレはぶつけた頭をさすりながら言う。しかし、すぐに気を引き締め直した。

「……いや、だからなんだって言うんだ!」

パロレはそう言って立ち上がる。

「ロズレイド!戻れ!ジュペッタ、行くぞ!」

「よっしゃ、その意気だ!」
 ▼ 162 AYr1xkow/g 17/09/20 12:12:55 ID:erg18tO6 [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ジュペッタ!シャドーボール!」

ジュペッタは影の塊を作り出すと、ダダリンに向かって思いきり投げつけた。効果は抜群のはずだが、ダダリンは思ったよりはダメージを受けていないように見える。

「ダダリン、やり返してやれ!シャドーボール!」

ヒマワリが鋭く叫ぶ。ダダリンはジュペッタと同じようにシャドーボールを作り出した。そして、ジュペッタに向けて打ちつける。ジュペッタは数メートル先に吹っ飛び、動かなくなってしまった。

「わっ!ジュペッタ、ごめん!任せたぞ、ピジョット!」

パロレはジュペッタを戻すとピジョットを繰り出した。次はきっと行けるはず。

「ピジョット、ぼうふうだ!」

ピジョットは凄まじい勢いで羽ばたき、辺りに激しい風を起こし始めた。パロレは命中してくれ、とそっと心の中で祈った。パロレの祈りは届いたのか、ダダリンは嵐のような激しい風に打ちつけられ、戦闘不能となってしまった。

「やるじゃねえか!最後はこいつだ!」

ヒマワリはダダリンをボールに戻して最後のポケモンを繰り出した。

「頼んだぜ、サメハダー!」

「ハダーッ!」

サメハダーは大きな口を開けて鳴き声を上げる。いくつも生えた鋭い歯が見えて、パロレは少しビクッとした。あんなのに噛まれてしまったら、ひとたまりもなさそうだ。そんなことを考えながら、ポケモンを入れ替える。

「よし、ピジョット戻れ!マリルリ!行こう!」

「サメハダー!どくどくのキバ!」

サメハダーが猛毒を帯びた牙でマリルリにがぶりと噛みつく。マリルリは苦しそうな鳴き声を上げた。効果は抜群な上に、マリルリはもうどく状態になってしまったようだった。パロレが必死で声をかける。

「マリルリ!まだ行ける!?」

「マ……リィ……!」

マリルリは立ち上がった。マリルリのためにも、さっさと決めてしまった方がよさそうだ。

「マリルリ!じゃれつく!」

マリルリはサメハダーに思いきりじゃれついた。サメハダーのさめはだがマリルリに食いこむ。しかし、マリルリは痛みに耐えながらサメハダーに攻撃を続けた。マリルリがようやくサメハダーから離れた時には、サメハダーは気を失ってしまっていた。

「つえー!」

ヒマワリはサメハダーをボールに戻しながら、どこか嬉しそうにそう叫んだ。
 ▼ 163 AYr1xkow/g 17/09/20 12:29:32 ID:erg18tO6 [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「アハハ!こりゃこっぴどくやられちまったなー。でも楽しかったよ!このマリンバッジ、持っていきな!」

ヒマワリは豪快に笑いながらそう言って、錨の形をしたバッジをくれた。

「ありがとうございます!」

「あとはこれもやるよ。今回は使う暇なかったけど、ねっとうの技マシンだ!みずタイプの技なのに、相手を火傷させることのあるあつーい技だぜ。ほらよ!」

パロレはヒマワリから、ねっとうの技マシンを受け取った。大切そうにバッジと技マシンをバッグにしまうパロレを見つめながら、ヒマワリは口を開く。

「うん、お前ならバトルコロッセオでもいい線行くんじゃねえか?まあ、あそこは実力者揃い。まだ早いとは思うけどな」

「バトルコロッセオ、ですか?」

パロレが食いつく。ヒマワリはおっ、と声を上げた。

「そうそう。このアスールから行けるフェルマータ島にある、強者揃いのバトル施設さ!ほんっとうに強い奴らしかいねえから、許可がない奴は船に乗せないようにしてんだ」

強い者しか行くことを許されない、バトルのための施設。俄然興味を増したパロレは、目を輝かせた。

「へえ……行ってみたい!」

「いいねぇその心意義!」

ヒマワリは嬉しそうに言う。

「自分に資格があると思ったその時にまたここに来な。アタシの船に乗せてやるよ!」

「はい。また来ます!」

パロレは力強く頷いた。それから、とあることを思い出して口を開く。

「あ……そうだ。あの」

「ん?」

「パルガンジムのビロウさんが、アスールジムにはケッキングみたいな女の人がいる……って言ってたんですけど……」

パロレが言うと、ヒマワリの顔は一気に曇った。

「なんだって!?アイツ、好き勝手言いやがって……ってお前!それ今言うってことはそれがアタシってピンと来たってことじゃねえか!」

ヒマワリの言葉に、パロレはギクッと肩を震わせた。

「誰がケッキングだっつーの!アタシは真面目に働いてるよ!」

ヒマワリは不機嫌そうにそう言ったが、パロレはビロウが言いたかったのはそういうことではないと思う、と心の中で呟いた。

「ビロウの奴、メガボスゴドラの鎧よりもかってぇ頭してるからな。クソつまんねえことばっか言いやがる。あんな奴の言うことまともに受けるんじゃねーぞ!」

ヒマワリが言う。パロレは思ったことを正直に口にした。

「ビロウさんとヒマワリさん、仲がいいんですね」

「お前アタシの話聞いてたか?」
 ▼ 164 AYr1xkow/g 17/09/21 01:01:57 ID:x2h4HYJ. [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
ジムバッジは残すところあとひとつだ。とうとうここまで来た。さあ、早くオーロシティに戻ろう。パロレはそう思いながらアスールジムの入口ゲートを抜けた。すると、こちらに向かってスパイス団員が歩いてくるのが見え、パロレは思わず身を固くする。

「そこの君」

「は、はい?」

平静を装っているつもりだったが、声が裏返ってしまった。

「トリステッツァの谷に来い」

「え、なんで……」

パロレが言ったが、スパイス団員は無視して続けた。

「バジリコさんが待っている」

団員はそう言って、さっさとその場を離れていってしまった。その名前を聞いた瞬間、パロレははっとしてスパイス団員の後ろ姿を見つめる。

「バジリコ……」

散々名前を聞いたが、一体どんな人物なのだろうか。そもそも、何故パロレのことを待っているのだろう。

罠かもしれない。行かない方がいいのかもしれない。しかし、パロレは緊張しながらも既にトリステッツァの谷へと歩き始めていた。今から、スパイス団のバジリコに会いに行く。
 ▼ 165 AYr1xkow/g 17/09/21 01:03:43 ID:x2h4HYJ. [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレはトリステッツァの谷にたどりつくと、辺りを見渡した。すると、いた!あの唯一建物としての原型を留めている神殿の前に、明らかに観光客ではない男が立っている。

パロレは男をじっと見つめた。普通の若い男の人だ。確かに、下っ端たちが言っていたように容姿は整っている。背も高いし顔もかっこいい。

パロレは、何故かどこかで見たことのある顔だと思った。そういえば、前にもこんなことがあったようは気がする。なんだったっけ?

パロレが近づくと、男性はパロレに気がついたようだった。

「君がパロレくんだね?」

男性が問う。

「はい」

パロレは頷いた。

「俺はスパイス団幹部のバジリコ。早速で悪いけど、俺とバトルしてくれるかな」

やっぱり、彼はバジリコだった。バジリコには、ボンゴレやマリナーラに抱いたような恐怖心は何故か感じない。

パロレは頷くと、モンスターボールを構えた。

「行け、ブラッキー」

バジリコがポケモンを繰り出す。

「マリルリ!行くぞ!」

パロレもポケモンを繰り出した。

「ブラッキー、あやしいひかり」

ブラッキーは、奇妙な光を発生させた。四方八方に動き回る光を見て、マリルリは追いかける。そして、そのまま目を回してしまった。

「マリルリ、じゃれつくだ!」

パロレは指示を出したが、マリルリは混乱しておりパロレの声が聞こえていない。目を回しているマリルリはその場ですっ転んでダメージを受けた。

「ブラッキー、いやなおと」

ブラッキーは不快な音を発生させた。マリルリは顔を歪めて長い耳を閉じる。

「頑張れマリルリ!じゃれつく!」

耳を塞いではいるものの、今度こそマリルリにパロレの声が届いた。マリルリは力を振り絞ってブラッキーに攻撃を仕掛けた。ブラッキーはマリルリのじゃれつくで、戦闘不能になってしまった。
 ▼ 166 AYr1xkow/g 17/09/21 01:06:44 ID:x2h4HYJ. [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……」

バジリコは、なんとも言えない顔でパロレを見つめていた。悔しそうというより、もどかしげな表情だ。

「……?」

パロレが訝しげな表情でバジリコを見る。バジリコはすぐに無表情に戻り、ブラッキーをボールに戻した。

「行くよ、アシレーヌ」

バジリコがポケモンを繰り出す。

「マリルリ戻れ!ロズレイド!任せたぞ!」

パロレはポケモンを入れ替えた。

「アシレーヌ、ハイパーボイス」

アシレーヌは凄まじい大声を上げた。その姿は、さながら本性を現したセイレーンのよう。ロズレイドはその耳障りな声の振動に顔をしかめた。

「ロズレイド、エナジーボール!」

ロズレイドはエナジーボールを作り出し、アシレーヌにぶつけた。効果は抜群のはずだが、アシレーヌはあまりピンピンしている。

「アシレーヌ、もう一回ハイパーボイス」

アシレーヌが再びハイパーボイスを繰り出す。ロズレイドは苦しそうな顔を浮かべていたが、

「ロズレイド!お前なら行ける!もう一度エナジーボール!」

パロレの声に、ロズレイドは頭を激しく振ってから覚悟を決めた表情を浮かべる。それから、アシレーヌに向けてもう一度エナジーボールを繰り出した。

アシレーヌは呻き声を上げて、可憐な顔を歪ませてその場に倒れ、気を失ってしまった。
 ▼ 167 AYr1xkow/g 17/09/21 01:07:36 ID:x2h4HYJ. [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……ふう」

アシレーヌをボールに戻したバジリコが、小さく息を吐く。パロレは真剣な表情でバジリコを睨みつけていたが、バジリコは少し気まずそうな顔をして視線を逸らした。

「……どうもありがとう。これで俺の仕事は終わりだ。それじゃ」

「えっ?」

パロレが思わず素っ頓狂な声を上げる。一体、何の意味があってバトルをしたというのだろうか。

バジリコはそれ以上は何も言わなかった。左腕につけた腕時計をちらりと見て、パロレの目の前から立ち去っていった。

「どういうつもりだったんだ……」

パロレはバジリコの後ろ姿を見つめながら呟いた。そして、そんなことはどうでもいいと考え直す。

早くオーロシティに行こう!パロレはまずはリュイ乗船所を目指して、急いで歩き出した。

地底の洞穴を抜け、14番道路に出る。そしてパルガンシティに向かって歩いていると、見慣れた人影が見えた。

「あ!博士!」

パロレがそう言って駆け出す。その声を聞いた人物がこちらを向いてぱっと顔を輝かせた。

「あら、パロレくん!」

「俺もいるぞ!」

近くの草むらからひょっこりとなんとアキニレが顔を出す。パロレは驚いて声を上げてしまった。

「おいおいなんだよ、兄ちゃん見てそんな声上げるなんて」

アキニレがわざとらしく落ちこんだような声を上げる。

「ご、ごめんって」

パロレが慌てて謝ると、アキニレの後ろから更に二人が顔を出した。

「わたしもいるよ!」

「オレもいます」

「わ!クオレもユーリも!」

パロレは顔を綻ばせた。この六人が集合するのは、スリジエにポケモンを貰った時以来だ。
 ▼ 168 AYr1xkow/g 17/09/21 01:46:53 ID:dYOkv7qo [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「みんな集合しちゃったのね!それにしても、みんなすごいわ。ダ・カーポ島まで来ちゃうなんて!」

スリジエが嬉しそうに言う。

「この島は正直、少し居心地が悪いですね……。オレは街の人たちと、どうも気が合わないみたいです。それにスパイス団がそこら中にいるし……」

ユーリは対照的に顔をしかめてそう言った。

「まあ、いい気はしないよな」

アキニレが苦笑いしつつフォローを入れる。

「彼らの姿に慣れちゃえばどうってことないわよ」

スリジエがあっけらかんと言ってのける。

「博士、強い……!」

クオレが言うと、

「それほどでもないわ」

スリジエはお茶目にそう言ってみせた。

「ここに来たのは、お仕事ですか?」

パロレが聞くと、スリジエは頷く。

「ええ。明日の朝早くから、パルガンシティで仕事があるの。だから前日から来ておくことにしたのよ。アキニレくん、連れ回しちゃってごめんなさいね」

スリジエが言う。アキニレは「いえいえ」と首を横に振った。

「とんでもないです。それに、ダ・カーポ島に来ることもあまりないですから。連れてってくださって、むしろ感謝です」

「そう言ってくれて何よりだわ。……今日はちょっといいホテルも予約したから、それで許してね」

「もちろんですよ!むしろお世話になっちゃって本当にすみません」

アキニレがそう言ってスリジエに頭を下げた。

「いいのいいの」

スリジエは穏やかな顔で言い、クスクス笑った。

「アキニレくん、すっかり大きくなってしっかりしてきたけど、私からしてみればまだまだ子供だもの。甘えられるうちに甘えときなさいな」

スリジエはそう言って、自分より背の高いアキニレの頭をぽんぽんと優しく叩く。

「ハハ……。八年前から本当に……、ありがとうございます」

アキニレは顔を真っ赤にしてそう言った。照れまくっている。

「どういたしまして」

スリジエはそう言って、ニッコリと笑った。
 ▼ 169 AYr1xkow/g 17/09/21 02:01:11 ID:dYOkv7qo [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「どこのホテルに泊まるんですか?」

クオレが興味本位で聞く。

「パルガンにあるホテル・グラツィオーソよ」

その言葉を聞いた瞬間、パロレとクオレは目を丸くした。

「ええーっ!?高級ホテルじゃないですかーっ!」

クオレが大きな声を上げた。

「えー、兄さんいいなぁー!」

パロレもわざとらしく声を上げる。アキニレはお前はちょっと黙っとけ、とでも言いたげな顔でパロレを見つめ返してきた。

「あら、じゃあみんなも泊まる?」

スリジエがそう言って、携帯電話を取り出す。それを見てアキニレがギョッとした顔を浮かべた。

「いやいやいや!悪いです悪いです!いいですよ!」

慌てて止めるアキニレの様子を見て、パロレは流石に言いすぎたかと少し申し訳なさそうな顔をして一歩後ろに下がった。

「いいわよ、一人二人増えたって大して変わらないわ」

スリジエがそう言いながらホテルの電話番号を打ち始めた。

「博士、三人ですよ……!」

アキニレが顔面蒼白で言う。その言葉に、スリジエははっと顔を上げて口を手で覆う。

「あ、そうだったわね」

そして、そのままホテルに電話をかけてしまった。

「……」

アキニレが凄まじい顔をして黙りこんでいる。パロレは兄と目を合わせないようにした。スリジエの財力に、ただただ圧倒されるのみだ。

「……うふふ、大丈夫だったわよ。時間もちょうどいいし、チェックインしに行きましょ」

電話を終えたスリジエが無邪気に笑ってそう言う。四人はスリジエに向かってペコペコと頭を下げた。
 ▼ 170 AYr1xkow/g 17/09/21 02:41:34 ID:dYOkv7qo [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
スリジエに連れられて、一同はパルガンシティにやってきた。ホテル・グラツィオーソに入ると、豪華な内装にパロレは声を上げた。そしてスリジエがフロントでチェックインする姿を見て、四人で思わず縮こまった。

「なんかこんなことになっちゃったけど……、ホテルに泊まるのは初めて!ドキドキって感じ……!」

クオレが目を輝かせながら言う。パロレもうんうんと頷いた。

「パロレとユーリくんは、アキニレくんと同じお部屋ね」

エレベーターに乗りこむと、スリジエがそう言いながら、アキニレにカードキーを渡した。アキニレが恐れ多そうにカードキーを受け取る。

「クオレちゃんは私と同じ部屋ね」

スリジエが微笑む。

「はい!」

クオレは元気よく答えた。

やがて、部屋のある階までたどりつき、六人はスリジエを先頭にして歩き部屋へと向かった。そして、部屋に入ろうとしたスリジエがあっと声を上げる。

「そうだ、アキニレくんたち、さっき14番道路でポケモンたちを戦わせてたでしょう?よかったら回復させてあげるわ。ほら、パロレくんも」

スリジエがそう言って両手を広げた。四人は顔を見合わせる。もう、何もかも世話になってばかりだ。

「遠慮なんてしなくていいのよ、さっきも言ったでしょう?」

スリジエの声は優しい。

パロレはアスールシティを出て以来ポケモンセンターに寄っていない。バジリコと戦った後は、トリステッツァの谷と地底の洞穴を続けて通り抜けてきたので、リザードンたちは少し疲れているだろう。パロレは結局、お言葉に甘えることにした。

「はい、お待たせ!」

部屋の中に入り、荷物を出してからスリジエは回復させたポケモンたちの入ったボールを四人に渡した。

「ありがとうございます!」

四人が深々と頭を下げるのを見て、スリジエはおかしそうに笑っている。

「それじゃあみんな、ゆっくり休んでね」
 ▼ 171 ラッタ@こわもてプレート 17/09/21 23:36:23 ID:VBwD7/LA NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 172 AYr1xkow/g 17/09/22 00:23:39 ID:jtUe8ZCQ [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
翌日。パロレは、今までの人生の中で一番快適な眠りから覚めると、大きな欠伸をした。

「おはようございます」

「おはよう」

アキニレとユーリは既に起きており、着替えなどもしっかり済ませていた。

「兄さん、ユーリ、おはよ……ふわぁあ」

パロレは欠伸を噛み殺しながら二人に言う。

「博士はもう仕事に行ったよ。さ、クオレも待ってる。朝ご飯を食べてチェックアウトしよう」

「うん」

パロレは返事をすると、また欠伸をした。

やがて、パロレが身支度を終えると一同は隣の部屋のクオレと合流し、ホテルにあるビュッフェで朝食を済ませた。外側をカリッと、でも中身はふわっとした焼きたてのパンをパロレはこれでもかというほどに腹に詰めこみ、名残惜しく思いながらもチェックアウトしてホテル・グラツィオーソを出たのだった。

「はー、美味しかったー!ベッドも気持ちよかったし、やっぱり高級ホテルってすごい……!」

パロレがしみじみと言う。

「贅沢な時間、って感じだった……!」

クオレもまだどこか夢見心地だ。

「貴重な体験をしたな……」

アキニレはまだ博士への申し訳なさが残っているのか、複雑な表情をしている。

と、そこでパロレがあることを思いつく。そして、

「ユーリ、君は何も言わなくていい。君は多分毎日こんな感じだったんだろうってことは想像つくから……」

パロレが言うと、クオレも乗ってきた。

「そうそう!わたしたち、虚しくなっちゃうから何も言わないでね!」

ユーリはキョトンとしていたが、

「あ……はい。分かりました」

いつもと変わらない様子でそう言う。

「否定しない辺りがもう既に物語ってるよね……」

パロレは思わずそう呟いてしまった。
 ▼ 173 AYr1xkow/g 17/09/22 00:37:27 ID:jtUe8ZCQ [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ところでパロレさん」

ユーリがそう言って立ち止まる。

「せっかくなので……バトルをしませんか?」

「うん!もちろん!」

パロレはすぐに頷いた。ユーリならそう言ってくれるだろうと、パロレも思っていたのだ。

「おっ!二人のバトルが見られるなんて俺も運がいいな!」

アキニレが嬉しそうに言い、弟とその友人を微笑ましく見つめる。

「ありがとうございます。では、よろしくお願いしますね」

ユーリがそう言ってお辞儀をした。

「望むところさ!よーし!」

パロレはそう言って、リザードンの入っているモンスターボールに触れる。その瞬間、何か違和感を覚えた。

「……あれ?」

明らかに様子のおかしいパロレを見て、ユーリは心配そうな顔を浮かべて近づいてきた。

「……パロレさん?どうかしました?」

「……?えっと……、……」

パロレは何やら混乱している様子でモンスターボールをカチャカチャと鳴らしている。それから、モンスターボールをその場に投げつけた。しかし、中からは何も出てこない。

「え?え?モンスターボールが空だ……!」

「ええっ!?」

悲痛な声を上げたパロレに、三人は目を見開いて大声を上げる。

「え?なんで……なんで?リザードンがいない……!」

パロレは訳も分からず、ひたすら「なんで?」と口走りながらすべてのボールからポケモンを繰り出した。ピジョットたちは無事だ。リザードンだけがいない。

「え……一体どうして……?」

クオレが言う。

「な、何故こんなことに……!」

ユーリも言った。

「一旦落ち着こう、みんな」

アキニレはすっかりパニック状態の子供たちに優しく声をかけたが、アキニレ自身も状況が飲みこめず動揺を隠せていなかった。
 ▼ 174 AYr1xkow/g 17/09/22 00:59:22 ID:jtUe8ZCQ [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「パロレ。いつからリザードンがいないのか、分かるか?」

アキニレが問う。

「わ、分からない……」

パロレは愕然としながら答えた。

「も、もしかして……スパイス団の仕業かな?悪い人たちなんだよね?」

クオレが躊躇いがちに言う。するとユーリが食いついた。

「きっとそうだ!奴らが盗んだんですよパロレさん!」

力強く言うユーリを見て、アキニレは少し暗い表情を浮かべた。パロレたちにあんな組織と関わりがあるのかと思うと、心配で心配で恐ろしいに違いない。

「……心当たりはあるのか?」

アキニレが苦しそうな声で言う。

「正直……ある……」

パロレは声を絞り出した。パロレも、真っ先にスパイス団が頭に浮かんでいたのだ。

幹部のボンゴレに最初に会って名前を覚えられて以来、彼らに目をつけられているという自覚がパロレにはあった。同じく幹部であるマリナーラには凄まじい剣幕で脅された挙句、確実に嫌われた。それに、もう一人の幹部であるバジリコにも会った……。

「……あ」

パロレが思わず声を漏らす。

バジリコに会った時に盗まれたんだ。パロレはそう思った。ぼくとバトルすることが仕事だなんて、何かおかしいと思ったんだ!やっぱり本当の目的は違かったんだ!

パロレは悔しそうに歯をギリギリと鳴らした。そして、

「……スパイス団を探そう」

低い声でそう唸った。
 ▼ 175 AYr1xkow/g 17/09/22 01:04:09 ID:jtUe8ZCQ [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「多分……したっぱ団員じゃダメだ。幹部かボス……幹部!幹部のバジリコって人を探そう!」

パロレが言う。すると、アキニレが驚いた顔をしてパロレを見つめた。

「バジリコだって!?」

何故かアキニレがその名前に食いつく。しかし、パロレたちにアキニレの声は届いていないようだった。

「わ……分かった!」

クオレが頷く。

「どういう人ですか!?」

ユーリがそう尋ねた。パロレは、昨日会ったバジリコの姿を思い出す。

「すらっとしてて、かっこいい……兄さんと同じくらいの歳の若い男の人!」

パロレが早口に言うと、クオレは辺りを見渡しながら、

「ど…どこにいるかな!?」

そう言った。パロレは首を横に振って俯く。

「分からない……会ったのは昨日だから……!」

「とりあえず、急ぎましょう!」

ユーリがパロレたちを急かす。

「今バジリコって言ったか?バジリコに会ったのか?パロレ!?」

アキニレは大声で聞いたが、興奮状態のパロレたちにはまたもや聞こえておらず、三人はアキニレの言葉もまったく聞かずにパルガンシティを飛び出していってしまったのだった。
 ▼ 176 AYr1xkow/g 17/09/22 01:18:58 ID:3rXdlLsA [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「一体……一体どこに行ったんだろう。何か手がかりがあればいいんだけど……」

13番道路まで走って出てきたパロレが、徐々にスピードを落としながらそう言った。

「いっそ、スパイス団本人に聞いてみるとか?」

隣のクオレが言う。パロレは名案だ、と目を見開いてクオレを見た。

「それだ!えっと……リュイタウンに行こう!乗船所!」

「前訪れた時に下っ端たちがバジリコという人物について話していましたし……それがよさそうですね!」

ユーリも同調した。

「急ごう!」

パロレがそう言って、再び走り出そうとする。すると、背後からアキニレの声が聞こえた。

「パロレ、待て!」

「兄さん!」

パロレが振り向く。パロレは、今にも泣き出しそうな顔をしていた。当然だ。相棒がいなくなってしまったのだから。

「止めないでよ!リザードンがいなくなっちゃったんだよ!?探さなきゃ!」

パロレが絶叫した。クオレもユーリも、悲痛な顔をしてパロレを見つめている。

「分かってるよ」

アキニレはそう言って、大股で一歩踏み出し、パロレの両肩に手を置く。

「……実は五年前にも似たような事件が起こったんだ。……俺は、その時に盗まれたポケモンがいた場所を知ってる」

優しく言い聞かせるような口調のアキニレの言葉を聞いて、パロレは息を呑んだ。五年前の事件。モルタウンで聞いた、過去に起きた悲惨な事件だ。

「もし犯人が同じだったら、またそこにいるかもしれない」

アキニレは、なんとも言えない微妙な顔をして言った。その表情から読み取れる感情は、やるせなさだ。

「……」

パロレは黙りこくってしまった。なんで兄さんが、五年前の事件のことを知ってるんだろう。ふと、そんな疑問が湧き上がってくる。しかし、もうそんなことを考えている場合ではなかった。

「……そこに行きたい。兄さん、お願い、連れていって!」
 ▼ 177 AYr1xkow/g 17/09/22 03:43:36 ID:3rXdlLsA [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アキニレは、パロレに「ちょっとだけ待ってくれ」と言うと、少し遠くに行って誰かに電話をかけた。会話は聞き取れない。

「五年前にも同じような事件が起きたって、パロレ、何か知ってるの?」

クオレが言う。パロレは、アキニレが電話をしている間にクオレとユーリに五年前の事件について説明することにした。

「……お待たせ。じゃあ、行こうか」

アキニレはそう言いながら戻ってきて、モンスターボールからカイリューを繰り出す。

アモル地方では、ジムバッジを八個手に入れると、自身のポケモンの力で本土とダ・カーポ島を行き来することを許される。早い話が、ジムバッジを八個持っていれば「そらをとぶ」と「なみのり」をバトル時以外でも使っていいということだ。

「カイリュー、あと三人乗るけど行けるか?」

アキニレがそう言ってカイリューの体をぽんぽんと叩く。カイリューは「任せろ」と言うように鳴き声を上げた。

「兄さん、なんでその事件の場所知ってるの?」

パロレは我慢できずに質問した。アキニレは明らかに困っていたが、「あー……」と唸り声を上げてしばらく悩んでから、アキニレは口を開いた。

「……ポケモンを盗まれたのは、俺の友達だからだよ」

アキニレが言う。それから、

「まさかパロレが事件を知ってるとはな……」

と小さく呟いた。

パロレは思わず声を漏らした。まさか、あの可哀想な事件の被害者が、こんな身近な存在だったなんて。

「その時も、スパイス団の仕業だったんですか?」

ユーリが聞くと、アキニレは首を横に振った。

「いや、犯人はまだ分かってないんだ」

「事件の後は……どうなったんですか?」

今度はクオレが尋ねた。アキニレはまたも唸り声を上げる。

「あんまり俺が話していいことじゃないと思うんだけどな……。まあ、もうポケモンは元に戻ってるから心配はいらない。二年くらいかかったけどな」

アキニレはそう言うと、パロレたちにカイリューに乗るよう促した。事件についてこれ以上話すつもりはないようだ。

「ちゃんと掴まってるんだぞ」

アキニレの声に、カイリューの背中に乗ってしがみついているパロレたちはドキドキしながら頷いた。かなり狭いが仕方がない。

「よしカイリュー!行くぞ!」

「リューッ!」

カイリューが鳴き声を上げて、翼を広げた。そして、上空へと飛び上がる。

本当は初めての経験に感動したかったのだが、パロレはそれどころではなかった。上空から見下ろすアモルの景色も、まったく美しく見えない。

パロレの心は、暗く沈みきっていた。
 ▼ 178 AYr1xkow/g 17/09/22 13:41:03 ID:3rXdlLsA [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
何年前に何年間誰が何をしていたのかをよく見てみると、あることに気がつくかも…?
もしお時間ある方がいましたら、そんなことを考えながら読んでみてくださいな!
 ▼ 179 クジキング@シールいれ 17/09/22 18:13:45 ID:XXAsgHqs NGネーム登録 NGID登録 報告
えーと…前スレから読んでるけど
前スレと同じとは限らないんだよな……三英雄が関わってくるとかかな……わからん
 ▼ 180 AYr1xkow/g 17/09/22 18:38:57 ID:N/AMs.ZI [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
アキニレのカイリューが地上に降り立つ。パロレは周りを見渡した。廃工場がある。ということは、ここは12番道路だ。

パロレたちがカイリューから降りると、アキニレはカイリューをボールに戻して歩き始めた。パロレはアキニレを追いかける。アキニレは、廃工場に向かっているようだった。

廃工場の前に、人影が見える。ポケットに手を突っ込んで、カメリアの服を身に包んだ薄紫のボブヘアの女性。あの、スパイス団と関係のありそうな女の人だ。

パロレはこっそり息を吐いた。そして、体を強張らせる。あの人は、きっと何かを知っている。

パロレが廃工場の前に立つその女の人に思いきって話しかけようとした瞬間、先にアキニレが口を開いた。

「よっ、アルセア」

アキニレが朗らかにそう言って、軽く手を挙げる。

「言い出しっぺの方がやっぱり後に来るんだよね」

アルセアと呼ばれた女の人は、そう言ってニヤッと笑った。

「え?え?」

パロレはアキニレとアルセアの顔を交互に見ながら混乱気味に声を上げた。

「急に呼び出して悪いな」

「別にいいってば」

「嫌だったら待ってていいからさ」

「だから大丈夫だって電話でも何回も言ったでしょ」

アルセアは少し面倒臭そうに言った。アキニレが少し気まずそうな顔をして頬を掻く。

「え?……え?知り合い?」

パロレが言うと、アキニレは慌てて「ああ!」と声を上げ、パロレたちに向かってアルセアを紹介した。

「彼女はアルセア。俺の友達だ。アルセア、こいつは俺の弟のパロレ。そしてこの子たちは友達のクオレちゃんとユーリくんだ」

「どうも」

アルセアは目を合わせずにそれだけ言った。

「こんにちは……。あ、あの!何度かお会いしたことありますよね……?」

パロレが遠慮がちに言うと、アルセアはようやく目を合わせてくれた。

「え?そうなのか?」

アキニレが聞く。

「まあ、何回かね」

アルセアは溜息まじりに言って肩をすくめた。
 ▼ 181 AYr1xkow/g 17/09/22 18:40:35 ID:N/AMs.ZI [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「アキニレの弟だったんだ。顔はあんまり似てないけど、お節介なところはそっくりじゃない?」

アルセアが言う。パロレは顔を強張らせた。お節介なことをした覚えはない。

「お前、一体何したんだ」

アキニレが耳打ちする。

「何もしてないよ!」

パロレは囁き返した。

「前にここに来た時に、アルセアさんに会ったんだ。その時のアルセアさん、めちゃくちゃ怖かった……」

クオレがアルセアに興味津々に話しかけている。大方、服について聞いているのだろう。パロレはその隙にアキニレにそう囁いた。

「前にここで会ったのか?」

アキニレは驚いた顔をして言った。パロレが頷く。アキニレは溜息をついて「そういうことか」と言った。

「アルセア」

アキニレが名を呼んでアルセアに近づく。アルセアが振り向いた。アキニレはアルセアの腕を掴むと、グッと自分の方に引き寄せた。

「前にもここに来たのか?一人で?」

アルセアは鬱陶しそうにアキニレを見た。

「過保護すぎない?」

「いいから」

アキニレが真面目な表情をして有無を言わせぬ口調で言った。パロレたちは訳も分からず首を捻る。パロレは、いつも自分に対する態度とはまったく違うアキニレの様子を新鮮な気分で見つめていた。

アルセアは観念したように口を開く。

「本当はもう二度と来たくなかったけど、一応見ておこうと思って来ただけ。でも何もなかったよ。どうしてここにいるかもしれないって思ったわけ?」

アルセアの質問に、アキニレはちらりとパロレを一瞥する。

「それは、あとで話す」

「何それ」

アルセアは不満げな声を出した。

「何の話してるんだろうね?」

クオレが言った。

アキニレは、パロレといる時よりも声音が少し荒い。それに、動きもなんとなく雑な気がした。女の人相手にそれでもいいのだろうかとも思わなくもないが、きっといいのだろう。それだけ気の知れた仲に違いない。

あの女の人が、兄さんとそんなに仲の良い友達だったなんて。パロレは不思議な気持ちでアキニレとアルセアを見つめた。ぼく、てっきりアルセアさんがスパイス団のボスかと思ってた……。

「どうしてアルセアさんをお呼びしたんですか?」

ユーリが聞いた。アキニレは「ちょっとね」としか答えない。

「早く行こう」

アルセアがそう言った。そして一同は、廃工場へと足を踏み入れたのだった。
 ▼ 182 AYr1xkow/g 17/09/23 00:25:24 ID:vdG3jj8I [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレたちは廃工場に入ると、それぞれの部屋を確認し始めた。以前来た時と同じように、書類や機材が散乱している。しかし、それ以外に変わったところは特に見られなかった。

五人は、一番奥の広い部屋にやってきた。アキニレがアルセアの顔をチラチラと見ている。アルセアはどこか遠くを見つめているようで、ぼんやりとしていた。

アキニレもアルセアも、何か違う目的があるように見える。リザードンを探すには、やはり自力で頑張らなければならないようだ。

パロレが何か手掛かりはないか探し出そうとすると、どこからか聞き覚えのある鳴き声が聞こえてきた。慌てて辺りを見渡すと、そこにやってきたのは、なんとセレビィだ。

「セレビィ!?また追いかけてきたのか!?」

パロレの言葉に、少し前にいたアキニレとアルセアが反応した。二人は振り向くと、目を見開いて声を上げる。

「セレビィだって!?」

「マジか」

二人は、嬉しそうに笑いながらパロレの周りを飛び回るセレビィを見て驚いている。二人とも、初めて幻のポケモンをその目で見たのだろう。

「今までに何度も会ったことがあるのか?」

アキニレが目を輝かせながら言った。その目は、セレビィに釘付けになっている。

「うん、二回くらいかな……」

パロレがそう言った瞬間、ふわりと体が浮き上がる感覚がした。慌ててセレビィを見つめると、セレビィは相変わらずいつものように楽しそうに笑っている。この感覚は、きっとあれだ。

「な、何これ?」

「どうなってるんですか?」

クオレとユーリの声が聞こえる。アキニレとアルセアは困惑しながらも、何が起こっているのかは薄々感じているようだった。セレビィの持つ不思議な力、時渡りだ。

セレビィの笑い声が聞こえる。やがて、どこか遠くに飛ばされたような不思議な感覚に襲われた。
 ▼ 183 AYr1xkow/g 17/09/23 00:26:58 ID:vdG3jj8I [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレたちがやってきた過去のものと思われる廃工場は、今とほとんど変わっていなかった。

書類も機材も床に散らばったままだ。一体、いつの時代の廃工場なのだろう。

こちらの部屋に駆けてくる足音が聞こえてきた。五人は急いでそれぞれ隠れられる場所を探してそこに飛びこんだ。

部屋に入ってきたのは、一人の顔立ちの整った少年だった。よく見ると、バジリコだ。しかし、ここは五年くらい前の廃工場なのか、バジリコの姿は昨日会った時のものではなく、パロレより少し年上くらいの年齢に見えた。

「……!」

息を呑む音が聞こえる。見れば、アキニレとアルセアが衝撃を受けたような顔をしてバジリコ少年を見つめているのが分かった。

バジリコ少年は、部屋の奥までやってくると、あの拘束具のついた不気味なカプセル型の機械を見つめて立ち尽くしていた。それから、怒りに任せて機械を思いきり蹴り飛ばした。

ガシャン。大きな音がして、機械のカプセル部分が開いていく。バジリコ少年はそれに気付くと、怪訝な顔で機械を凝視した。

「なんだ……?」

バジリコ少年が、恐る恐る機械に近づいていく。それから、機械に手を突っ込み、ガチャガチャと大きな物音を立てて中を探り始めた。

カチッと、何かスイッチの入るような音がした。それから機械が唸るような重い物音を鳴らし始める。すると、ゴゴゴと鈍い音を立てて機械が横にずれた。

「うわ」

バジリコ少年が驚いて一歩後ずさった。機械は数メートル動いてから止まった。元々設置されていたそこの奥には、地下に続く階段が見える。

「……やっぱり。何かあると思ったんだ……」

バジリコ少年はそう言って、隠し階段を降り始める。

やがて、パロレたちの体は再び浮き上がった。
 ▼ 184 AYr1xkow/g 17/09/23 00:52:56 ID:vdG3jj8I [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
セレビィが笑いながらクルクルと周り、廃工場を出ていく。こちらを見た時、セレビィはパロレにウインクしたように見えた。

「セレビィ……」

ああやって、セレビィが過去を見せてパロレを助けてくれることは初めてではない。一体、セレビィは何の目的があってパロレを過去に連れていくのだろうか。本当に、ただ気に入られただけなのだろうか。

「お、俺、時渡りしたのか!?とんでもない体験しちまった!」

アキニレが興奮気味に言った。一方、アルセアはそんなアキニレの肩を掴んでぐいぐい動かしながら、

「ねえ、さっきのバジリコだったよね?ちょっと、聞いてる?」

そう言うが、アキニレには聞こえていないようだ。アルセアは、珍しく気が動転している様子だった。

何故アキニレとアルセアがバジリコのことを知っているのか。そもそも、スパイス団の幹部であるはずのバジリコがあんな訝しげな様子でここを訪れていることからしてパロレにとっては疑問だった。

でも、今はそんなことを気にしている場合ではない。

パロレは、五年前のバジリコ少年と同じように機械を思いきり蹴飛ばした。すると、セレビィの見せてくれた過去同様に、機械のカプセルがゆっくりと開いていく。

パロレは中に手を突っ込んだ。拘束具が邪魔でよく見えないが、どうやらスイッチらしきものがある。パロレはぐいと手を伸ばしてスイッチを押した。

カチッ。ゴゴゴゴゴ……。

先程見た時と同様、機械が動いて横にずれた。その奥には、やはり隠し階段が見える。

この先に、スパイス団が、リザードンを盗んだ犯人がいるに違いない。パロレはごくりと唾を飲みこんだ。ここまで来たら、もう進むしかない。

「リザードン……」

パロレは小さな声で呟いた。

リザードン、待ってて。すぐにぼくが迎えに行くから。
 ▼ 185 AYr1xkow/g 17/09/23 23:47:58 ID:0DH5xRqo [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「まさか、あそこから地下に繋がってたなんてな……」

アキニレが天井を見上げながら言った。一同は隠し階段を降りて、長い廊下を歩いているところだった。

先頭を歩いているのはパロレだ。その後ろにクオレとユーリが横に並んでいる。そして、更にその後ろをアキニレとアルセアが歩いている。

「ここがスパイス団のアジトってことか……?」

アキニレが呟く。隣を歩くアルセアは思い詰めたような表情をしており、何も言わない。

無機質な空間だった。地下だからか、なんとなくじめじめしている気がする。

「……ここ、もしかしてメランシティの真下じゃないですか?」

ユーリが言うと、「だよねぇ!?」とクオレが食いついた。

「リュウさん、このこと知ってるのかなぁ?危ないよねぇ……」

クオレがそう言ったところで、

「はーい、そこまででぇーす!」

前からそんな声が聞こえてきた。パロレたちは慌てて声のする方を見た。そこには、後ろに三人の部下を引き連れたマリナーラが廊下の途中で遮るようにして立っていた。

「侵入者はっけーん!アッハハ!」

マリナーラはわざとらしくパロレたちに驚いたような顔をして甲高い声で笑う。マリナーラは舌なめずりをすると、ギロリとパロレを睨みつけた。

「また会ったね、ガキンチョ。今度こそマリナーラがギッタギタにぶちのめしてあげるよ」

口調こそ年相応だが、相変わらず凄まじい気迫である。しかし、アキニレは目を凝らして首を捻った。

「……?まだ子供じゃないか。パロレ、下がるんだ。俺が対処しよう」

アキニレがそう言って前に出ようとする。すると、マリナーラは鬼の形相でアキニレを睨みつけた。

「は?まだ子供?だから何?そういうのマジムカつくんですけど」

どうやらアキニレは地雷を踏んでしまったようだ。マリナーラは怒りの矛先をアキニレに向けた。

「こうなったらお前から相手してやるよ」

マリナーラの瞳孔は完全に開ききっていた。アキニレはその様子に、流石に驚いて思わず一方後ずさる。

「いや……ぼくが相手だ!」
 ▼ 186 AYr1xkow/g 17/09/23 23:56:58 ID:0DH5xRqo [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレが大声を上げた。アキニレが振り向く。

「兄さん、アルセアさん。詳しくは分からないけど、何か違う目的があるんでしょ?先に行って!」

パロレの声に、アキニレは目を見開いた。それから、申し訳なさそうな顔をする。

二人の目的が何なのかは分からない。でも、パロレは何かに気付き始めていた。

「……パロレ、ごめんな。ありがとう」

アキニレは言い終わるや否や、アルセアと共に走り出した。横をすり抜けていく二人を見て、マリナーラが「待て!」と叫ぶ。

「クッソ……おい!あの二人追いかけろ!」

マリナーラが荒い口調で指示を出すと、後ろにいた下っ端たちは「はい!」と揃えて返事をすると急いで二人を追って走っていた。

「……」

マリナーラが、首を回してポキポキと音を鳴らしながらこちらを向いた。

「……じゃーあお望み通り、まずはお前からぶっ倒してやるよ」

マリナーラはそう言って、モンスターボールを構えた。

「行け!レパルダス!」

「マリルリ!頑張るぞ!」

二人がポケモンを繰り出した。マリナーラが鋭く指示を出す。

「ねこだまし!」

レパルダスは目にも留まらぬ速さで動いた。マリルリは怯んでしまい、動けずにいる。

「レパルダス、ダメおし!」

レパルダスは更に畳みかけるようにしてマリルリに攻撃した。

「マリルリ!じゃれつくだ!」

素早いレパルダスの猛攻をくぐり抜け、マリルリはレパルダスに接近していく。そして、思いきりじゃれついた。先程までは優勢だったレパルダスは、情けない鳴き声を上げてその場に倒れた。

「……この生意気なクソガキが!行け、サーナイト!」

マリナーラが絶叫し、サーナイトを繰り出した。頭部が青緑色になっている、色違いのサーナイトだ。美しい姿をしているそのサーナイトは、主人同様険しい表情をしてこちらを睨みつけている。

「マリルリ戻れ!ジュペッタ、頼んだ!」

パロレはそう言って、ポケモンを入れ替えた。
 ▼ 187 AYr1xkow/g 17/09/24 00:23:08 ID:AoHgFarU [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「サーナイト!サイコキネシス!」

マリナーラが言うと、サーナイトは両手を前に伸ばして瞳を閉じて、触れてもいないのにジュペッタの脳内に直接ダメージを与えてきた。ジュペッタは痛そうに頭を押さえる。

「ジュペッタ!シャドーボールだ!」

ジュペッタは、痛みをこらえながら影の塊を作り出した。そして、サーナイトめがけて打ちつける。シャドーボールはサーナイトの腹部に思いきり直撃した。

「サナァ……」

サーナイトは呻き声を上げて、気を失った。

「あー!もうッ!」

マリナーラは悔しそうに声を上げた。

「何なのこのガキ!どうして勝てないわけぇ!?」

マリナーラは頭を抱えながら歯をギリギリと軋ませて言う。

パロレはマリナーラを睨みつけた。こんな、ポケモンの気持ちどころか人間の気持ちさえ理解しようとしない化け物のようなトレーナーに、負けてたまるもんか。

「あんたに構ってる余裕はないんだ。……ぼくのリザードンはどこにいる!?」

パロレの質問に、マリナーラはどうにか自分を取り繕うと、フンと鼻を鳴らした。そして、パロレを見下ろす。

「教えるわけねーだろバーカ」

「……」

自分よりずっと幼稚な相手を見て、パロレは怒りを通り越して呆れを感じていた。マリナーラは完全に開き直っている。

「ま、頑張って探してみればぁ?マリナーラは知らなーい」

腹の立つ言い方である。

「……行きましょう」

ユーリは、「関わるだけ時間の無駄だ」と言いたげな声音でそう言った。

「あのさーぁ、突破してやったぜ!って思ってるところ悪いけどぉ、あんたたちがここに来るってこと、ボスは見越してたからね?飛んで火に入る夏の虫ってまさにこのことだよねー!マジウケるー!」

マリナーラはそう言って、腹を抱えて笑い出した。甲高い耳障りな笑い声に、パロレとユーリは顔をしかめる。すると、クオレが力強い声を上げた。

「それじゃあ、あなたがパロレに負けることもボスの予想の範囲内だったってことですね!」

クオレの言葉を聞いた瞬間、爆笑していたマリナーラは一瞬で真顔になり、

「……は?」

地獄の底から響いてくるような低い声を出した。しかし、クオレはそんなマリナーラを完全に無視し、

「行こう、ほら二人とも!早く!」

そう言ってパロレとユーリを追い立てる。二人はクオレに完全に気圧されて「あ、ハイ」と返事をしていそいそとその場を離れたのだった。
 ▼ 188 AYr1xkow/g 17/09/24 00:49:18 ID:AoHgFarU [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「クオレ、強いな……」

廊下を抜け、近くの部屋にたどりつくと、パロレは心からの賞賛をこめてしみじみとそんな言葉を口にした。

「だってあの人、口も態度も悪くてなんか嫌だったんだもん!」

クオレはそう言って、腰に手を当てて頬を膨らませる。

「思わず言い返しちゃった!すっきりした、って感じ!」

まだぷりぷり怒っているクオレの姿はとても可愛らしいのだが、本人は至って真剣である。

「いや……ハハ、良かったと思いますよ」

ユーリが苦笑いしつつも本気でそう言った。

「えへへ!」

クオレは少し照れ臭そうに笑った。

「ぼくもずっとそう思ってたからスッキリしたよ。クオレありがとう」

パロレは笑顔でそう言ったものの、すぐに表情を曇らせた。

「……それにしても、リザードンはどこにいるんだろう……?やっぱり、手当たり次第探すしかないのかな……」

パロレが言う。クオレとユーリはどんな言葉をかけるべきか分からず、黙りこんでしまった。

「……二人とも、巻きこんでごめん!」

パロレは、二人に頭を下げた。

「お願い!ぼくと一緒に、リザードンを探して!」

パロレはそう言って、恐る恐る顔を上げた。クオレとユーリが、真剣な顔でこちらを見つめている。

「当たり前だよ!探すよっ!」

「もちろんです。絶対に見つけましょう!」

クオレとユーリの言葉に、パロレの視界がじわりと滲む。パロレは慌てて涙を拭いた。まだだ。リザードンは、絶対に見つけてみせる。今はまだ泣いちゃダメだ!

「クオレ……。ユーリ……」

パロレが弱々しい声で二人の名前を呼ぶ。

「わたしはバトルはあんまり自信がないから、頑張ってサポートするね。回復はわたしに任せて!」

「二人掛かりで襲ってきたら、オレに任せてください。援護します」

二人の頼もしい友人は、そう言ってくれた。パロレは力強く頷く。

「二人とも、本当にありがとう」

パロレはそう言うと、深く息を吐いた。そして、真っ直ぐに前を見つめる。

「……行こう!絶対にリザードンを取り戻す!」
 ▼ 189 AYr1xkow/g 17/09/24 12:30:19 ID:uKV6DBCM [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
三人は、複雑に入り組んだスパイス団のアジトを歩き回った。たくさんの部屋に入り、たくさんの下っ端たちと戦ったが、リザードンはまだ見つからない。パロレの気持ちは、どんどん沈んでいった。

「……」

三人は、とうとうアジトの最奥部までやってきていた。目の前には大きな扉がある。

「いかにもって感じのドアだな……」

パロレは呟いた。

扉の横には、小さな液晶画面が取りつけられている。クオレが試しにタッチしてみると、画面が明るくなった。

「パスワードを入力してください」

画面に文字が映し出された。三人は顔を見合わせる。ここまで来る間に、パスワードらしきものは見つけた。パロレは画面に出たキーボードをタッチして、パスワードを打ちこむ。

「認証中……」

画面中央に丸マークが現れ、パスワードを読みこんでいく。

「認証しました」

パロレたちの顔がぱっと輝く。

「セキュリティシステムを解除します」

そして、大きな扉が重々しい音を立てて開き始めた。三人は見つめ合い、頷く。そして、奥へと進んだ。

最奥部にある部屋には、大きなモニターや複雑そうな機械がいくつも並べられていた。アジトの入口を隠していたあのカプセル型の機械と同じものもいくつかある。また、似たような形をした少し小さな機械も何種類か置いてあった。更には、見たことのない形をしたモンスターボールも置いてある。

「リザードン……どこにいるんだ……?」

パロレが呟く。すると、奥に誰か人がいるのが見えた。三人は思わず体を硬くした。

「誰だ!」

ユーリが鋭い声を上げる。

「……それは私の台詞なのだが」

そう言いながら、人影はこちらへと近づいてきた。がっちりとした大きな体に、スキンヘッドの頭、鋭い眼光。ボンゴレだ。

「まあいい。侵入者は奥まで通すようにとボスから連絡が入っている」

ボンゴレはゆっくりとした口調で言った。パロレたちは黙りこんでいる。

「今ここに君のリザードンはいない」

ボンゴレの言葉に、パロレは唇を噛む。

「ボスは本来は君に会うつもりも完成品を見せるつもりもなかった。しかし、せっかく来たのならもてなしたい、とのことだ」

「完成品……?」

パロレは首を捻った。一体何のことだろう。

「むしろここで帰られても困る。時間稼ぎさせてもらおう。私とバトルしろ」

ボンゴレはそう言うと、モンスターボールからポケモンを繰り出してきた。
 ▼ 190 AYr1xkow/g 17/09/24 13:55:00 ID:uKV6DBCM [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「行け、グラエナ」

「マリルリ!行くぞ!」

パロレもポケモンを繰り出した。

「かみくだく」

グラエナはマリルリに思いつき噛みつき、牙を剥き出して何度かマリルリの丸い体を噛んだ。マリルリは痛そうにしているものの、それほどダメージを食らっているようには見えない。

「マリルリ!じゃれつく!」

マリルリは、自分に噛みついているグラエナの首を短い腕でしがみついた。グラエナがたじろぐ。マリルリはそのまま、グラエナにぴったりと張り付いたままじゃれつき始めた。

グラエナは鬱陶しそうに呻き、マリルリを振り落とそうとする。しかし、やがてマリルリが離れる前にグラエナは力尽き、その場に倒れこんだ。

「いけ、レントラー」

ボンゴレは至って冷静で、表情ひとつ変えずにグラエナをボールに戻した。レントラーを見て、パロレもポケモンを入れ替える。

「マリルリ戻れ。サナギラス!頑張るぞ!」

「……かみくだくだ」

ボンゴレの指示で、レントラーは先程のグラエナと同じようにサナギラスに攻撃した。でんきタイプの技を無効化しようとサナギラスを繰り出したはいいものの、サナギラスはかみくだくでかなり消耗しているようだった。やはり、進化しているポケモンとは能力に差が生まれてしまう。

「よし、サナギラス!一旦戻ろう!ロズレイド!任せた!」

「かみくだく」

パロレがポケモンを入れ替えると、ボンゴレは間髪入れずに指示を出してきた。レントラーがロズレイドに噛みつく。しかし、レントラーはすぐに口を離してしまった。苦しそうな表情をしている。ロズレイドのどくのトゲに当たってしまったのだろう。好都合だ。

「ロズレイド!ベノムショック!」

ロズレイドが毒液をレントラーに浴びせた。どく状態のレントラーには、二倍のダメージが与えられる。

レントラーはロズレイドの攻撃を受け、ギリギリ持ちこたえた。よろめきながらも立ち上がり、攻撃を続けようとする。しかし、結局体内を侵す毒に耐え切れず、レントラーは倒れた。

「……」

ボンゴレは無言でレントラーをボールに戻す。それから、

「そろそろ頃合いだ」

そう言った。

勝敗を決めるためではなく、単純に時間を稼ぐために仕掛けられたバトルだ。ボンゴレは負けたことに関しては何とも思っていなさそうで、パロレは苛立ちを覚えた。

何なんだよもう!早くリザードンを返してくれよ!

パロレが心の中で怒りを爆発させていると、背後で扉が開く音がした。パロレたちはビクッと肩を震わせる。

「ボスがいらっしゃったようだ」

ボンゴレが言った。

とうとう、スパイス団のボスのお出ましだ。一体誰なんだろう。パロレには見当がつかなかった。やっぱりアルセアさん?もしかして、兄さんやぼくたちを騙してここまでおびき寄せてたりして。パロレは、よく回らない頭でそんなことを考えた。

部屋の重い扉が緊張感と共にゆっくりと開いていく。そして、スパイス団のボスが入ってきた。
 ▼ 191 ルリル@シールいれ 17/09/24 23:58:45 ID:EXciiv6w NGネーム登録 NGID登録 報告
そんな気になる所で……
支援!
 ▼ 192 AYr1xkow/g 17/09/25 16:59:59 ID:S1.v64qA [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「待たせちゃってごめんなさいね」

よく知っている声が聞こえてくる。つい昨日聞いた声だ。

「え……」

誰かが声を漏らした。パロレたちは愕然としてスパイス団のボスを見つめた。

緑色の瞳に、紫色の髪。いつもは下ろしている長い髪は、ひとつ結びでまとめてある。その人物はよく見た白衣姿ではなく、スタイリッシュなパンツスーツ姿で部屋の中に入ってきた。

「スリジエ博士……?」

クオレが力なく声を上げる。

「そんな……」

ユーリも信じられない、という顔だ。

「あなたが……」

パロレは囁くように言った。

「バジリコくん、マリナーラちゃん、あなたたちもこちらにいらっしゃい。記念すべき瞬間よ。みんなで一緒に迎えましょう」

スリジエはそう言って、扉の外に向かって声をかけた。部屋に、バジリコとマリナーラが入ってくる。パロレは絶望的な思いでそれを見つめていた。

信じられない。博士がスパイス団のボスだったなんて。パロレは呆然と博士を見つめた。スリジエはいつものような、優しく温かい表情を浮かべている。けれど、何故かその瞳は酷く冷たく見えた。

……でも、考えてみればそうだ。少しだけ冷静になったパロレは、そう思い直した。

バジリコにリザードンが盗まれたのだとしたら、博士に回復してもらうためにボールを預けた時に気付いていたはずだ。うっかりしていた。ホテル・グラーツィアでボールを預けたあの時に、スリジエがリザードンを盗んだのだ。

信じたくない。信じられない。でも、それが真実だ。

「ボス、侵入者はあと2人いるんですよぉ。したっぱたちに追わせたけどみんな返り討ちに遭っちゃって……」

マリナーラが甘えるような声を出した。

「あいつら、あのガキンチョと同じくらい……いや、それよりも強いかも!」

マリナーラはパロレを指差した。

「あと二人……?」

バジリコが首を捻る。

「知ってるわ」

スリジエは軽い口調で答えた。

「そりゃ、八歳も年上だもの。バトルだけじゃなくて立ち回りもパロレくんたちよりずっと上手なのよ」

スリジエの言葉に、バジリコが反応した。目を見開いてスリジエを見つめている。スリジエは明らかにバジリコの反応を楽しんでいるようだった。

「その子たちの欲しいものも私が持ってるのよ」

スリジエの瞳が半月型に歪む。そこでバジリコは何かを悟ったように諦めた表情を浮かべた。

「二人もそろそろここに来るはず。待ちましょう」
 ▼ 193 AYr1xkow/g 17/09/25 17:03:25 ID:S1.v64qA [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「一体どういうこと……?博士がスパイス団のボスだったの……!?」

クオレが悲痛な声で言う。

「信じられませんが……そういうことなんでしょう……」

ユーリは何も考えられないようだった。そこで、再び部屋の扉が開き始めた。パロレたちが勢いよく振り返る。スリジエは余裕たっぷりの面持ちで扉を見つめている。

入ってきたのは、アキニレとアルセアだ。二人は部屋に入るなり、とある人物を見て「あっ!」と大きな声を上げた。

アキニレとアルセア、それからバジリコが互いを見つめたまま数秒間黙りこくる。それから、

「……アルセア」

バジリコが掠れた声を上げた。

「な、なんで二人がここに……」

バジリコがぶつぶつと呟いた。その様子を見ていたクオレが、

「ど、どういうこと……?」

首を傾げてそう言う。

「お知り合いなんですか!?」

ユーリがそう言った。

アルセアがバジリコに近づいた。アキニレもその後ろをついていく。パロレは、三人を見てとあることを思い出した。

アルセアもバジリコも、初めて会った時、初対面のはずなのに何故かどこかで見たことがある気がした。その理由がやっと分かったのだ。八年前のラランジャの森と、アキニレの机の上の写真に二人がいたからだ。

写真の中央に写っていた、ラランジャの森で一番に出口にたどりついた女の子がアルセア。写真の一番左に写っていた、ラランジャの森で最後に出口にやってきた男の子がバジリコだ。

あの二人が、博士にポケモンをもらってアキニレと一緒に旅立った友達だったのだ。

「博士、どういうことですか?どうして二人が……どうしてアルセアがここにいるんですか?」

バジリコが聞く。そこでアキニレとアルセアはスリジエがいることに気付いた。二人は声も出ないようで、愕然とした顔でスリジエを見つめた。

「さあ、知らないわ。彼女が来たいと思ったからじゃない?」

スリジエは投げやりな口調で言う。

「さて、全員揃ったわね。それじゃ始めましょう」

スリジエはそう言って手を叩いた。

「博士……」

アキニレが力なく呟いた。
 ▼ 194 AYr1xkow/g 17/09/25 17:06:07 ID:S1.v64qA [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ポケモンと人間の絆は本当に存在する。その絆はポケモンを強くする。潜在能力を引き出させる。時には進化やメガシンカをもたらす」

スリジエが話し始めた。

「……ええ、知っています。それはあなたが研究していたことですから」

アキニレが苦しそうな声で言った。スリジエはフッと鼻で笑い、説明を続ける。

「……でもね、絆はポケモンに制限を与えてしまうの。トレーナーは人間で、ポケモンよりも弱く脆い存在。ポケモンは彼らを傷つけないように、彼らを守るために、力を無意識に制限してしまう。……パロレくんには、前に教えてあげたわよね」

スリジエはそう言ってパロレに向かって微笑んだ。パロレは何も言えず、黙ってスリジエを見つめるだけ。

「……なんて」

スリジエはそう言うと、深く息を吸った。それから、

「なんてもったいないのかしら!」

いきなり大きな声を上げる。一同は驚いてスリジエを見つめた。

「そうでしょう?とってももったいないことだと思わない?せっかく奥に秘めた力を発揮することができるようになったのに、それを自ら制限してしまうなんて!愚の骨頂だわ!」

スリジエはヒステリックに叫んだ。

「だから私は考えた。トレーナーと絆を深めたポケモンから、そのトレーナーの記憶を消して……」

スリジエの言葉に、アルセアが息を呑む。

「……彼らの真の力を使わせてあげるの。覚醒させてあげるの!そうすれば、ポケモンたちは引き出された潜在能力を本能で使えるようになる。もうトレーナーだなんて足枷はいらない。自分の力を制限する必要はない。自由よ!ポケモンたちは縛られることなく強大な力を操ることができる!」

スリジエは更にエキセントリックに、両手を広げて高らかに声を上げた。

「そんなの、ひどい!」

クオレが思わず大声を上げる。

「あら、どうしてそう思うの?」

スリジエは両手をゆっくり下ろし、振り向いてクオレを光のない瞳で見つめた。
 ▼ 195 AYr1xkow/g 17/09/25 17:08:12 ID:S1.v64qA [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「命令を出して戦わせることの方がよっぽど酷いと思うわ。だって、そのポケモンはもしかしたら違う技を出したいかもしれないのに」

スリジエはわざとらしいくらいに残念そうな声音で言った。クオレは何も言い返せずに黙りこんでしまった。

「私は野生のポケモンにはあまり興味がないの。伝説のポケモンや幻のポケモンもそう。むしろ彼らには敬意を払っているつもりよ」

スリジエはくるりと向きを変え、歌うような口調で続ける。

「彼らには制限がない。迂闊に手を出したら大変なことになるわ。でもトレーナーのポケモンは違う。……彼らもそうあるべきよ!」

スリジエが言う。すると、アキニレが悔しそうに口を開いた。

「……だから子供たちにポケモンを与えて旅をさせたわけですね。パロレたち……そして、八年前の俺たちに」

「そうよ」

スリジエはそう言ってにっこりと笑った。

スリジエは、自分の手中に収めることのできるトレーナーにポケモンとの絆を深めさせるために、何も知らない子供たちにポケモンを与えていたのだ。卑劣な手段だ。パロレの胸に、ふつふつと怒りが湧いてくる。

「オレたちは、利用されていたのですか……」

ユーリがショックを受けた声で言う。

「利用ですって?とんでもない!」

スリジエはそう言うと、甲高く癪に触る笑い声を上げた。

「あなたのことはあくまで観察していただけよ。ポケモンの潜在能力を引き出させることが下手なトレーナーもいるの。ユーリくん、あなたもそう。クオレちゃんもね」

スリジエはそう言いながらユーリとクオレに視線を送った。それからバジリコの方を向く。

「八年前も同じ。バジリコくん、あなたもそうだったわね」

「……」

バジリコは何も言わなかった。
 ▼ 196 AYr1xkow/g 17/09/25 17:44:20 ID:S7Hn9Cxg [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「でもアルセアちゃん、あなたは特に違かった。……あなたはとても強いトレーナーよ」

スリジエが嬉しそうな声で言いながら、アルセアに近づいていく。一方アルセアは冷たい瞳でスリジエを睨みつけると、

「五年前の事件も、あなたが犯人だったんですね。失望しました」

はっきりとした口調で言い放った。

「なんとでもどうぞ」

スリジエはまったく意に介していない。

「バジリコくんは、五年前に私がスパイス団に勧誘したの。とっても簡単だったから、びっくりしちゃった!」

スリジエは珍しいポケモンを捕まえて喜ぶ子供のような口調で言った。アルセアが顔を歪める。すると、バジリコが大声を上げた。

「博士!」

スリジエがバジリコの方を向く。バジリコは顔をしかめ、苦しそうな声で言った。

「アルセアには手を出さないと約束したじゃないですか!だから俺はスパイス団に入ったんですよ!」

「……は?」

アルセアが思わず声を上げる。

「知らないわよ。言ったでしょう?私からは手を出さないって」

スリジエは最後の文章に力をこめて言った。

「彼女があなたに会いたくて、ポケモンが元に戻ってから三年前からずっと、あなたを探し続けてここまで来てくれたのよ」

スリジエは小馬鹿にするような口調で言った。

「え……?アルセアが俺を……?」

バジリコがそう言って、再びアルセアを見つめる。アルセアは何も言わずに視線を逸らした。

「だってバジリコくんがここにいればアルセアちゃんがまた来てくれると思ったんだもの。だからあなたをスパイス団に入れたのよ!」

スリジエは甲高い声で言った。

「まさか、そんなことにも気付いていなかったの?可哀想な子」

スリジエが冷たく言った。バジリコは、唇を噛み締めて床を睨みつけている。

「それに、あなたがスパイス団に入った本当の理由はそうじゃないでしょう?」

スリジエはそう言って、にやりと笑った。
 ▼ 197 AYr1xkow/g 17/09/25 17:48:15 ID:S7Hn9Cxg [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「これから私はたくさんのポケモンたちを覚醒させてあげる。そうすればたくさんの兵器が手に入る!そして私は、すべての人間を恐怖で支配する!」

「……!?」

一同は唖然としてスリジエを見つめた。まさか、そんなことを考えていたなんて!

「博士、何を……!」

アキニレが声を上げる。

「そのために私はポケモンとの絆を深めることが得意な強いトレーナーを探し求めた。……アモル地方で唯一メガシンカを使うことのできるような、強いトレーナーをね」

スリジエはそう言って、アルセアを真っ直ぐに見据える。

「アルセアちゃん、あなたはとても強い。でも試作品……アウェイクマシーンには致命的なバグがあった」

スリジエはそう言って、ちらりと部屋に並べられたカプセル型の機械に目をやった。スパイス団アジトの入口を隠していた同じモデルのあの機械が、恐らくそれなのだろう。

「覚醒させたあなたのポケモンは手に負えないほど暴走してしまい、コントロールが効かなくなってしまった」

「……」

アルセアは黙って聞いている。

「もう一度アルセアちゃんのポケモンを使いたかったけど……でも、あなたのポケモンは言わば失敗作だものね。もういいわ」

スリジエは軽い口調でそう言うと、くるりとパロレの方を向く。

「代わりにもう一人興味深いトレーナーを見つけたのよ。ね、パロレくん」

スリジエがそう言ってウインクする。

「え……ぼく……!?」

パロレは急に名を呼ばれ、狼狽えながら声を上げた。

「やっとアウェイクボールの開発に成功したの……」
スリジエはしみじみとした口調でそう言って、ボールをひとつ取り出した。見ていて不安になるほどに真っ黒な、見たことのないボールだった。

「さあ、初めての完成品よ!ご覧なさい!」

「……!?博士……!」

パロレがそう言って、スリジエの元に行こうとした。しかし、

「出てらっしゃい!」

スリジエはそう言ってパロレがやってくる前にアウェイクボールを投げ、ポケモンを繰り出した。

「……!」

パロレは息を呑んだ。

博士が手に持っていたアウェイクボールからは、見覚えのあるポケモンが出てきた。それこそがパロレのリザードンだったのだ。リザードンは禍々しいオーラを纏いながら呻いている。

「……そんな」
 ▼ 198 AYr1xkow/g 17/09/25 18:06:32 ID:S7Hn9Cxg [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>196
修正

「彼女があなたに会いたくて、ポケモンが記憶を取り戻した三年前からずっと、あなたを探し続けてここまで来てくれたのよ」
 ▼ 199 マコブシ@ホエルコじょうろ 17/09/25 19:19:25 ID:Fx4bUC2. NGネーム登録 NGID登録 報告
黒幕女博士好き
支援
 ▼ 200 ンカラス@スピードボール 17/09/26 15:59:42 ID:XNRBy9WY NGネーム登録 NGID登録 報告
スリジエ博士、ビッケさんとルザミーネさんを足して二で割ったみたいなイメージ
利用されたい
 ▼ 201 AYr1xkow/g 17/09/26 21:03:42 ID:8OdTuzX6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
唐突ですがアルセアのファッションは「プラダを着た悪魔」のアンディが大変身した時に着ている服をイメージしています
シャネルのジャケット素敵ですよね
 ▼ 202 AYr1xkow/g 17/09/27 11:24:23 ID:qWn/l.lk [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「リザードン……ぼくだよ。パロレだよ。分かるだろ?なあ……」

パロレは弱々しい声でそう言いながら、リザードンによろよろと近づいた。リザードンには、パロレの声は届いていないようだ。禍々しいオーラを放ちながらパロレを睨みつけている。

「リザードン……」

悲痛な声を漏らし、パロレは瞳を滲ませる。

「どうして……どうしてこんなことに……」

パロレはそう言って、俯いてしまった。

博士がこんなことをするなんて、許せない。でもそれ以上に、パロレは悲しかった。悔しかった。

ぼくが悪いんだ。パロレはそう思った。リザードンはぼくの相棒なのに、守りきることができなかった。トレーナー失格だ。

「なんてことを……」

愕然とした声でアキニレが言う。それから、アキニレはアルセアをちらりと見た。アルセアはリザードンから目を離せないようだった。

「あなたは間違ってる。今すぐそのリザードンを彼に返して!」

アルセアが言った。同じ経験をしたただ一人の存在である彼女だけが、パロレの苦しみを理解できる。

「嫌よ、そんなことするものですか!」

スリジエは大声を上げた。

「ふふふ、実験は上手く行ったようね……!これならあなたのポケモンも使いこなせるかしら……。ね?アルセアちゃん」

スリジエがそう言って、アルセアに意地の悪い笑みを向ける。アルセアは「いい加減にして……」と低い声で唸り、腰のモンスターボールに手をかけた。それを見たスリジエが、

「あら、私とバトルしたいの?いいけど、あなたほどの実力があってもこのリザードンに勝つことは難しいかもしれないわよ……ふふふ……」

こみ上げる笑いをこらえきれない様子で言う。

アルセアはポケモンを繰り出そうとした。しかし、手が震えている。五年前の事件を完全に思い出してしまったのだ。

あの日見つけた、我を忘れて廃工場で書類や機械を破壊し暴れ回っていた自分のポケモンの姿は、彼女の脳裏に今も強く焼きついている。ポケモンはアルセアのことをすっかり忘れて、アルセアにも襲いかかってきた。たとえそのポケモンが今は記憶を取り戻していたとしても、五年前の事件は、ずっとアルセアの心に残っている。

「アルセア」

バジリコがアルセアの元までやってきていた。モンスターボールに触れようとするアルセアの手を、バジリコは自分の手で上から包みこんだ。

「何?」

アルセアは強がっている。バジリコはじっとアルセアを見つめた。五年間、ずっと会いたかった人が目の前にいる。ああ、何故五年前はこんな簡単なことも出来なかったのだろう。

「やだ、まるで映画みたい」

スリジエは吐き捨てるように言った。
 ▼ 203 AYr1xkow/g 17/09/27 11:27:28 ID:qWn/l.lk [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あの子たちに構う必要はないわ。リザードン!好きに暴れちゃいなさい!」

スリジエが言うと、リザードンは仰々しい鳴き声を上げ、大きな尻尾をアルセアめがけて叩きつけた。

「メタグロス!」

バジリコが咄嗟にメタグロスを繰り出した。メタグロスの硬い体が、リザードンの尻尾を弾く。

「バジリコくん、今度は私のことを裏切るの?」

スリジエが高圧的な声で言った。

「あなたは五年前に幼馴染の二人を裏切って私の元へ来たんでしょう。今更何様のつもり?」

バジリコは唇を噛みしめた。それから、スリジエに向き直る。

「俺が間違ってた……今はそれを正すだけです」

それから、カッと怒りを剥き出しにした。

「それに博士、言わせてもらいますけど、十六歳の男子にめちゃくちゃ言って自分の近くに置いておくあんたもあんたですよ!」

「おい、開き直るな」

アキニレがそう言ってバジリコの頭をぺしっと叩いた。

「……悪い」

バジリコが小さな声で言う。

「おう」

アキニレはそう言って、ニカッと笑った。二人の間にはそれだけで十分だ。

「博士、俺も黙ってはいられませんよ」

アキニレはそう言ってスリジエを見据えた。

「俺の友人も弟もあなたによって傷つけられている……容赦はしません」

それから、アキニレは少し呆れたような口調で続けた。

「それに……いや、色々悩んでる十六歳のイケメン男子をマフィア組織に勧誘するのは確かに……」

アキニレが言い淀む。

「キモイ」

アルセアが助け舟を出した。

長い間自分の言いなりだった三人の子供は、いつの間にか子供ではなくなっていた。スリジエは歯軋りをしてアキニレたちを睨みつけた。それから、クオレとユーリに視線を向ける。クオレは、力強い瞳でスリジエを睨んでいた。

「わたし、確かにバトルは得意じゃないです。下手くそです。でも、あなたには絶対に負けたくない!」

「オレは……」

ユーリは顔をしかめた。ポッチャマをくれた時、経験したことは無駄にはならないと言ってくれた。でもそれは、スリジエにとって都合のいい結果をもたらすための言葉だったのだ。ユーリは意を決して声を上げる。

「オレは、あなたに感謝していたのに……!あなたは俺だけじゃない、すべての人たちを裏切った!」
 ▼ 204 AYr1xkow/g 17/09/27 11:28:39 ID:qWn/l.lk [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「うるさいわね、どの子も!」

スリジエはイライラした様子で言った。

「リザードン、ほら!全員ぶちのめしてやって!」

スリジエが言うと、リザードンは「グルル……」と唸り声を上げた。

「……」

パロレは黙っていた。リザードンは相変わらず呻いている。とても苦しそうだ。

みんなが怒っている。パロレも怒っている。当然だ。でも、そんなことよりも、リザードンが元に戻ってくれるだけでいいのだ。パロレはもう一歩リザードンに近づいた。危険でも構わない。帰ってきてくれれば、それだけでいい。

「……リザードン」

パロレはぽつりぽつりと言葉を紡ぎ出した。

「思い出してよ。初めてお前を見た時、ぼくは感じたんだ。お前こそがぼくの最高のパートナーなんだって。そしてそれは本当だった」

パロレは息を吸って、続ける。

「今まで……いろんなことがあったよな。ジムを制覇するためにいろんな街を巡って……スパイス団とたまに戦いながら……クオレとユーリともよくバトルした。楽しかったよな?」

パロレは、思い切って手を伸ばした。リザードンの顔に触れる。リザードンは苦しそうな声を上げてはいたが、暴れはしなかった。

「ぼく、リザードンと一緒なら本当にどこまでも行ける気がしたんだ。戦うだけじゃなくて、遊んだり……協力しあったり……あ、古代都市でカゲボウズを一緒に追いかけたりしたじゃないか?覚えてるだろ?なあ……リザードン……」

パロレは、絶対に泣くまいとどうにかこらえながら続けた。

「お前と一緒に旅をできるだけで、本当に幸せだったんだ。リザードンだってそうだろ?分かるんだよ。だってぼくとお前は、相棒だから!」

「グルルルル……」

リザードンの瞳が揺れた気がした。なんだか、迷っているように見える。

「リザードン……、お願いだ!ぼくを思い出して。ここに戻ってきて……!」

パロレは、心からのただひとつの願いを口にした。
 ▼ 205 AYr1xkow/g 17/09/27 11:30:07 ID:qWn/l.lk [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「リザードンは記憶を失ってるのよ。無理に決まってるでしょ!」

スリジエが声高らかに言う。

「無理なんかじゃない!」

ユーリが言った。

「ポケモンと人間の絆が本物だって言ったのはあなたじゃないですか!」

アキニレも言った。

「ああもう!うるさいわね!」

スリジエは喚いた。それからリザードンに向き直る。

「リザードン!何をしているの?どうしてそんなに苦しんでいるの!?私があなたを覚醒させてあげたのに!制限を取っ払ってあげたのに!自由にしてあげたのに!」

スリジエはもはや絶叫していた。でも、パロレにその声は届いていない。パロレは、目の前のリザードンだけをただ見つめていた。

「リザードン……ッ!」

パロレがリザードンの名を呼び続ける。すると、リザードンの手元がまばゆい輝きを放ち始めた。

「!?」

一同が驚いてリザードンを見つめた。

「な、何が……」

パロレも訳が分からず、そんな情けない声を上げてしまう。すると、クオレが声を上げた。

「パロレ!パロレのリュック、何か光ってるみたいだよ!?」

パロレは急いでリュックを前に引き寄せた。確かに、何かが光っているようだ。

「ほんとだ……!」

パロレは急いでリュックの中を漁った。そして、何が光っているのかを慌てて探す。

「……!」

光っていたのは、コルネッホに貰った輝く石だった。そういえば、リザードンにはあるものを持たせていたことを思い出す。オリヴィエに貰った、不思議な石だ。

輝く石は、貰った時より明らかに強い輝きを放っていた。あの時は、淡く光っていただけなのに。

ふたつの石は共鳴するようにして輝いている。パロレは、輝く石を手に取った。すると、リザードンの持つ不思議な石の輝きが更に増す。パロレは、輝く石を思いきり掲げた。

その瞬間、リザードンの姿が大きな光を放った。
 ▼ 206 AYr1xkow/g 17/09/27 16:45:45 ID:n1xiiVZ2 [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「リザァー!」

リザードンが力強い咆哮を上げる。

「……!?」

パロレは唖然としてリザードンを見上げた。後ろでアルセアが息を呑んだのが分かった。

光を解き放ったリザードンの体躯は、いつものオレンジ色ではなく、真っ黒になっていた。口元や尻尾の先には青白い炎を纏っている。

「リザードン……!」

パロレは目を見開いた。もしかして。もしかして、これは。

「なんですって!?そ、そんなバカな……!」

スリジエが愕然とした声を出す。

「い、一体何が……!?」

「リザードンの姿が……変わっています!」

クオレとユーリも、驚きの声を上げた。

「リザァアー!」

姿を変えたリザードンは、パロレを真っ直ぐ見つめて力強く頷いた。 パロレの顔が、ぱっと輝く。

「リザードン……!」

パロレはリザードンに駆け寄り、ぎゅっと抱きしめた。

「あは……よかったぁ」

思わず、笑いがこみ上げてくる。

「どうしたんだよいきなり。すごくかっこいいよ、リザードン」

パロレはそう言って、リザードンの頭を撫でた。

「リザ、リザ……!」

リザードンは、まるで謝るように鳴き声を上げる。パロレは首を横に振った。

「お前は悪くないよ。思い出してくれてありがとう。もう、二度と離さないから……」

そう言って、パロレは鼻をぐすっと鳴らした。パロレがリザードンとの再会を喜んでいる間、スリジエはぶつぶつと呟いている。

「そんな……どういうこと……?ありえない!」

スリジエはパロレとリザードンを睨みつけた。

「絆の力が記憶を呼び覚ましてメガシンカさせたというの!?信じられない……!どうしてパロレがメガシンカを使えるの!?」

「……!あれが……!」

ユーリが声を上げる。

そう、パロレがコルネッホから受け取った輝く石はキーストーンの原石で、オリヴィエから受け取った不思議な石はリザードナイトXだったのだ。
 ▼ 207 AYr1xkow/g 17/09/27 16:47:04 ID:n1xiiVZ2 [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……ッ!こうなったら……!」

スリジエは歯を食いしばって言った。そして、いきなり自分のモンスターボールをすべて取り出し、ポケモンたちを繰り出した。一同が怪訝な顔をしてスリジエを見つめる。

スリジエは、モンスターボールを持ってとある機械の方へと向かう。そして、モンスターボールを機械にはめこんだ。機械の隣には、アウェイクボールが並べられている。

「まさか……」

アルセアが呟いた。

モンスターボールに入っているポケモンたちが、アウェイクボールの中に転送されていく。

「博士、一体何を!」

アキニレが慌てて声を上げた。

「あなたとあなたのポケモンとの絆もまた、本物だったはずでしょう!?」

アキニレは大声で言ったが、スリジエはなりふり構わずポケモンたちをどんどん覚醒させていく。

「いいのよ!この日のためにずっと育ててきたんだから!」

スリジエは叫んだ。

「強くなるためには……手段を選んでなんていられないのよ……」

スリジエは唸るように言う。すると、機械が音を立てた。アウェイクボールへの転送が終了してしまったようだった。スリジエが引きつった笑みを浮かべる。

「さあ、覚醒したみんな、出ていらっしゃい!」

スリジエはそう言って、アウェイクボールを手に取る。それからパロレたちをぎりりと睨みつけた。

「あなたたちは全員私の力の前にひれ伏し、その強さによって支配される!そういう宿命なのよ!」

スパイス団のボスのスリジエが、勝負をしかけてきた。
 ▼ 208 AYr1xkow/g 17/09/27 23:35:58 ID:n1xiiVZ2 [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
>>207
修正



スリジエは歯を食いしばって言った。そして、いきなり自分のモンスターボールをすべて取り出し、ポケモンたちを繰り出した。一同が怪訝な顔をしてスリジエを見つめる。
 ▼ 209 AYr1xkow/g 17/09/27 23:38:14 ID:n1xiiVZ2 [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
>>207
すみません、>>208は無視してください


修正

「……ッ!こうなったら……!」

スリジエは歯を食いしばって言った。そして、いきなり自分のモンスターボールをすべて取り出した。一同が怪訝な顔をしてスリジエを見つめる。


 ▼ 210 AYr1xkow/g 17/09/28 00:51:17 ID:Bhk05Ikk [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「リザードン」

パロレが名を呼ぶ。メガリザードンXとなったリザードンは、パロレの方を振り向いた。

「ぼくは、お前と一緒にいられれば何でも出来る。本当にそう思うんだ。だから……博士を一緒に止めよう!」

メガリザードンXは、同意するように大きく咆哮を上げた。パロレは頷いた。

「ポリゴンZ!行きなさい!」

スリジエがポリゴンZを繰り出した。ポリゴンZは、禍々しいオーラを放っている。パロレはぐっと拳に力をこめた。

「リザードン!ドラゴンクロー!」

メガリザードンXが、硬くなった爪でドラゴンのように激しくポリゴンZを斬りつけた。

「ポリゴンZ!でんじほうよ!」

ポリゴンZは、凄まじい勢いで電気を放出した。メガリザードンXの体を電流が襲う。メガリザードンXは麻痺してしまい、苦しそうに顔を歪める。

ポリゴンZは、アウェイクボールに入れられて覚醒したことで強くなっているようだった。思ったよりダメージが入っていないような気がするし、逆にでんじほうでは通常より多くのダメージを受けてしまったような気がする。でも、負けてはいられない。

「リザードン、頑張れ!もう一度ドラゴンクローだ!」

メガリザードンXは、ぐっと体に力をこめた。そして、やっと思い出すことのできた相棒に褒めてもらおうと、メガリザードンXは体の痺れを振り切り、なんと自力でまひ状態を治してしまったのだ。

「リザ!」

メガリザードンXが、任せろ!とでも言っているように鳴く。

「リザードン……!」

パロレは目を輝かせた。メガリザードンXが、再びドラゴンクローでポリゴンZに攻撃する。ポリゴンZは気を失ってしまった。

「く……っ」

スリジエは悔しそうに唇を噛む。

「行きなさい!サザンドラ!」

繰り出されたサザンドラもまた、禍々しいオーラを放っている。

「リザードン!もう一度ドラゴンクロー!」

メガリザードンXは素早く動き、サザンドラにドラゴンクローをお見舞いする。その、心の通い合った攻撃を受けたサザンドラは、きょうぼうポケモンであるにも関わらず、一撃で戦闘不能になってしまった。

「いいぞリザードン!」

パロレが声をかける。

「リザァ!」

メガリザードンXも、調子よく鳴き声を上げた。
 ▼ 211 AYr1xkow/g 17/09/28 00:53:05 ID:Bhk05Ikk [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「どうして……どうして!?この子たち、覚醒しているはずなのに!」

スリジエは心の底から疑問に思っているようだ。

彼女は分かっていない。分かっていないのだ。自分で研究していたはずなのに、何故パロレとパロレのポケモンたちが強いのかを分かっていない。

絆があるから頑張れる。トレーナーを、ポケモンを、思う気持ちがあるからこそ強くなれる。制限なんて関係ない。互いに信じ合い、相手のためになりたいと思えるからこそパロレは強いのだ!

「キレイハナ!行きなさい!」

キレイハナも、禍々しいオーラを放っている。パロレは可哀想だと思った。キレイハナだけではない。ポリゴンZもサザンドラも、苦しそうにしていた。きっと彼らも、心からスリジエのことを信頼していたのだ。それなのに、記憶を無理矢理奪われ、力を振るうことを強いられているのだ。

彼らをその苦しみから解放してあげたい。パロレはそう思った。そのためには、今全力で戦うしかない。

「リザードン!フレアドライブ!」

メガリザードンXは、全身に炎を纏った。そして、キレイハナめがけて勢いよく突進する。キレイハナは突き飛ばされてそのまま気を失った。

「なんてこと!ブーバーン!行きなさい!」

スリジエは発狂しかけていた。キレイハナを戻し、ブーバーンを繰り出す。ブーバーンも、禍々しいオーラを放っている。

メガリザードンXは反動でダメージを受けている。少し息が荒い。パロレはモンスターボールを手に取った。

「よし。リザードン!ありがとう!少し休んでてくれ。行くぞ!マリルリ!」

パロレはメガリザードンXをボールに戻し、マリルリに入れ替えた。

「ブーバーン!かみなりパンチよ!」

スリジエが指示を出す。ブーバーンは俊敏に動き、電力を纏った拳でマリルリに思いきり殴りかかった。覚醒しているからか、やはりダメージは大きいようだ。

「マリルリ!アクアテールだ!」

マリルリは尻尾を強くブーバーンに叩きつけた。それなりにダメージは入ったようだが、なんだかパッとしない。マリルリは尻尾を庇いながらこちらの方に戻ってきた。どうやら、ブーバーンのほのおのからだで火傷してしまったようだ。

「マリルリ、頑張れ……!」

パロレが言う。しかし、相手はもちろん待ってくれない。

「ブーバーン、決めなさい。かみなりパンチ!」

ブーバーンが再びかみなりパンチをお見舞いしてくる。マリルリは吹っ飛び、気絶してしまった。

「マリルリ……お疲れ。ありがとうな。行け!サナギラス!」

パロレはマリルリを戻してサナギラスを繰り出した。
 ▼ 212 ータクン@ハガネールナイト 17/09/28 00:56:50 ID:NrAL6wIk NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 213 AYr1xkow/g 17/09/28 00:57:28 ID:Bhk05Ikk [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレがサナギラスを繰り出すと、スリジエは間髪入れずに指示を出してきた。

「ブーバーン、ふんえん!」

ブーバーンは身体中に纏った炎を凄まじい勢いで噴出させた。炎は、スリジエやパロレの近くまでやってくる。

「サナギラス、耐えろ……!」

パロレは体を庇いながら言う。

先程の二回のアクアテールでそれなりに体力は削った。きっと次の攻撃で倒すことができるはず。

「サナギラス、いわなだれだ!」

サナギラスが激しく岩を投げつける。ブーバーンはいくつもの大きな岩に押し潰されて倒れた。

「この……!」

スリジエはもはや敵意を剥き出しにしていた。

「この子はきっと一筋縄じゃいかないわ!さあ、自分が間違っていたということを思い知りなさい!行くのよ!オーダイル!」

スリジエはそう言って、オーダイルを繰り出した。禍々しいオーラを放つオーダイルを見て、クオレが悲しげに息を呑んだのが分かった。そう、このオーダイルは、パロレたちがポケモンを貰った時に出会ったワニノコが進化したポケモン。あの時、クオレによく懐いていたワニノコだ。

「サナギラスよくやった。戻れ!行くぞ!ロズレイド!」

ロズレイドが、オーダイルを睨みつける。もう少しで勝てる。あと少しだ。

「ロズレイド!エナジーボール!」

「オーダイル!こおりのキバ!」

ロズレイドにエナジーボールを投げつけられると、すぐにオーダイルは動いた。オーダイルはこおりのキバで思いきりロズレイドに噛みついた。

「ロズレイド、もう一度エナジーボール!」

あまり効いているようには見えない。オーダイルは、すべての能力が上がっているように見えた。

「オーダイル、こおりのキバ!」

オーダイルが再びロズレイドに噛みつく。ロズレイドは悲鳴を上げて戦闘不能となってしまった。

「ロズレイド、お疲れ様!」

パロレはロズレイドを戻すと、現在メガリザードンXが入っているボールに声をかけた。

「リザードン。もう一度だけ頼んでいいかい?……行くぞ!」

そして、メガリザードンXを繰り出した。たとえ次の一撃で倒せられなかったとしても、今のリザードンはメガシンカしたことでドラゴンタイプになっている。みずタイプの攻撃はそれほどダメージを受けないはずだ。パロレは真っ直ぐにスリジエを見つめて、メガリザードンXに指示を出した。

「これで終わりだ!ドラゴンクロー!」

メガリザードンXが咆哮を上げ、オーダイルを爪で鋭く斬りつける。オーダイルは倒れた。

「ああ……そんな……なんてこと……」

スリジエは悲痛な声を出し、愕然としてその場に崩れ落ちる。

五つのアウェイクボールが、ゴロゴロと床に転がっていった。
 ▼ 214 ンナ@たべのこし 17/09/28 02:47:01 ID:mcmFbp0g NGネーム登録 NGID登録 報告
これリメイク前よりちょっと手持ち変わってて面白い
ヒマワリのギャラドスがダダリンになってたり
スリジエのジャラランガ(だっけ?)がサザンドラになってたり
 ▼ 215 AYr1xkow/g 17/09/28 12:30:17 ID:6M6glpiw [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
今回はキャラの設定や性格、話の展開に合わせて手持ちを少し変えております
変わってることに気付いてくださってありがとうございます
 ▼ 216 AYr1xkow/g 17/09/28 12:33:12 ID:6M6glpiw [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ああ……あああ……」

スリジエは両手で顔を覆って喚く。

「せっかくの研究の成果が……!覚醒させたはずなのに、どうして……!」

その痛々しい姿に、一同は黙って見ている他なかった。スリジエは両手を離すと、虚ろな表情でぶつぶつと呟く。

「こうなったら、アウェイクマシーンを急いで直して……コントロールが効かなくたって強ければどうにでもなるわ……強ければなんだっていいのよ……」

そして、いきなり大きな声で、

「私は強くならなければいけないの!」

そう叫んだ。一同はギョッとして肩をびくつかせたが、アキニレが一歩前に踏み出し、スリジエに声をかける。

「博士。……いや、スリジエさん。あなたの負けです」

「何よ!」

スリジエは鋭い声を上げた。

「何なのよ!」

スリジエは、駄々をこねる子供のように喚く。

「私はなんだって持ってる。資産も知識も人望も……容姿だって!あと足りないものは力だけなの!自分に足りないものを求めて何が悪いと言うの!」

スリジエは鬼の形相で叫んだ。

「私は力を得るために血の滲むような努力をしてきた。ここまで来るまでどれだけの労力を費やしてきたと思ってるの!?自分のために動くことの何が悪いのよ!私は今までずっと頑張ってきたんだから!」

「だってあなたは、たくさんの人を傷つけた!」

パロレが叫んだ。その場が、しんと水を打ったように静かになる。

「どれだけ頑張ったとしても、悪いことをして人に迷惑をかけて悲しい思いをさせた時点で、それだけでダメになるんだ!」

パロレの拳が、怒りで震えている。一体なんだって言うんだ。なんだって、こんな愚かな人をぼくは尊敬していたんだ!

「子供のぼくにだって分かるのに、あんなにたくさんの論文を書いていろんな発見をして、世界中から尊敬されてたあなたがそんなことも分からないて……!」

パロレは、心の底から叫んだ。

「あなたは、一生強くなれない!」
 ▼ 217 AYr1xkow/g 17/09/28 12:36:41 ID:6M6glpiw [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
スリジエは憎しみのこもった瞳でパロレを見つめた。

そうだ、スリジエは強くなれない。この人は、ずっと絆について研究していたはずなのに、結局何も理解していなかったのだ。

「……ボンゴレ」

スリジエが小さな声でボンゴレの名を呼ぶ。

「はい」

ボンゴレはすぐに答えた。

「試作品の……アウェイクマシーンの部品を持ってきて。また使えるようにするには、いくつか交換しなきゃ……」

スリジエが言う。ボンゴレは頭を下げると、部屋を出ていこうとした。しかし、バジリコのメタグロスが行き先を阻んだ。

「もうやめましょーよ……勝てっこないってぇ……」

マリナーラも、力なく言う。スリジエは「この役立たずどもが」と低い声で唸った。

スリジエはよろよろと立ち上がると、部屋の奥まで歩いていき、大きなモニターと向かい合う。

「いいわ、私一人で続けるわ。私は研究に戻ります。絶対に成功させてみせる……もう邪魔はさせない……」

スリジエはぶつぶつと呟きながら、キーボードに何やら文字を打ちこんだ。その後ろ姿にアキニレが声をかける。

「いいえ、あなたは負けたんです。認めてください」

「嫌よ!あなたは引っ込んでて!私はもっと強くなるんだから!」

スリジエは振り向くと、ヒステリックに叫んだ。

「強くなりたいなら、強くなるしかないですよ」

誰かがふと口を開いた。アルセアだ。

アルセアはコツコツとヒールを鳴らしながらスリジエに近づいた。いや、スリジエに近づいていたのではない。アルセアは、スリジエの取り落としたアウェイクボールを拾っていった。

「強さってのは別にバトルだけの話じゃない」

アルセアはアウェイクボールをじっと眺めながら、こともなげに言った。

「何故自分が強くなれないのか、考えたこともないんですか?」

アルセアが冷たく言い放ち、スリジエを見下ろした。その言葉に、三人の人間が反応を示した。クオレとユーリ、それからバジリコだ。

「……自分に勝てないのに他人に勝てるわけないでしょ。スリジエさん、あんたは弱い」

スリジエは愕然として、言葉を失っている。

「そんなことより、早くここから出よう」

アルセアはいつもと変わらない調子でそう言った。
 ▼ 218 AYr1xkow/g 17/09/28 21:52:33 ID:Bhk05Ikk [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
アキニレとバジリコが、協力してスリジエとボンゴレ、マリナーラをがっちりと捕まえる。そして一同は部屋の奥にある階段を登ってスパイス団のアジトを出た。そして、あんぐりと口を開ける。

「え……」

クオレが声を漏らした。なんと、スパイス団アジトの出口を抜けたそこは、メラン乗船所だったのだ。

「おー、出てきた」

そんな呑気な声が聞こえてくる。呆然としているパロレたちの元に、リュウガンがやってきた。

「リュウさん!?」

パロレが素っ頓狂な声を上げる。

「お、お久しぶりです」

アキニレは驚きながらも軽く頭を下げた。

「何故ここに……?」

ユーリが怪訝な顔をする。

「なんでって、まあお前さんたちが地下でゴチャゴチャやってたからな。街に被害がないように見張ってただけだぜ」

リュウガンはそう言ってニヤッと笑った。

「え……!?」

「知ってたんですか、地下がスパイス団のアジトだって!」

パロレとユーリは驚きの声を上げた。

「リュウさん、何者なんですか」

アキニレが困惑したように聞く。

「おいちゃんは別に大したもんじゃねえよ」

リュウガンはへらりと笑って言った。

「俺がスパイス団にも多少顔が効くってこたぁ兄ちゃんも知ってただろ?アルセアちゃんには結構いろいろ教えてやったしな」

肩をすくめてなんでもないように言う。

「協力してくれたのはありがたかったですけど、バジリコがスパイス団にいるとは言ってくれませんでしたね」

アルセアが不満げに言うと、

「いや、俺もそれは知らなかったんだよ。俺だってスパイス団のことなんでも知ってるわけじゃねえんだぞ?まあ、バジリコのことは多分意図的に隠されてたんだろうが……」

リュウガンはそう言うと、バジリコの方を向く。

「何があったか詳しくは知らねえけど、再会できたんだからよかったじゃねえか。よお、兄ちゃん、前から顔は本当によかったけどもっと男前になったなぁ」

リュウガンがそう言ってバジリコの背中を思いきり叩く。

「いってぇ!」

バジリコが顔を歪めて大声を上げた。
 ▼ 219 AYr1xkow/g 17/09/28 21:55:30 ID:KjbyZUjk [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「リュウさん、俺には顔しかいいところがないみたいな言い方やめてくださいよ」

バジリコが言う。

「いやお前、ついさっきまで五年間顔しかいいところなかったぞ」

アキニレが真顔で言った。バジリコは何も言い返せずに黙りこんだ。アキニレはそんなバジリコの反応を見て、面白そうにニヤニヤと笑っている。

バロレは、不思議な気持ちでアキニレたちを見つめていた。八年以上前から一緒にいる、幼馴染三人組。ずっと仲良しだったのに、旅に出てから何かがずれ始めて、彼らは一度バラバラになってしまった。それが、今、再び元に戻って三人一緒にここにいる。

「……あ」

パロレが何かを思い出したかのように声を上げる。みんなが一気にパロレの方を見た。

「リュウさん、アルセアさんとぼくが似てるみたいなこと言ってましたよね!」

「おお、そんなこと言ったな」

リュウガンが言った。しかし、アルセアはあまりピンときていないようだ。

「え……どこが似てるの……?」

アルセアがまったく嬉しくない、という顔で言う。パロレはそんな顔しなくてもいいじゃないかと心の中で呟いた。

「根っこの性格がな。ハートだよ、ハート」

リュウガンが胸を叩きながら言う。パロレとアルセアはお互いに微妙な表情で顔を見合わせた。

「アルセアちゃんもな、こんなクールな顔してとっつきにくいようで可愛いとこあんだぜ。パロレがメランジムに来た前日にな、廃工場で子供に八つ当たりしちまったとか言って自己嫌悪して俺んとこまで来てヤケ酒しに来たんだぜ」

「え、なんでそれ言っちゃうんですか……?」

アルセアが信じられない、という顔でリュウガンを見る。その表情は、わずかに頬が染まっているようにも見える。

「リュウさん、デリカシーないってよく言われません?」

アルセアは皮肉った。

「あの、八つ当たりされたのぼくです!」

パロレは調子に乗って、手を挙げながらそう言った。アルセアが、あんたはちょっと黙ってなという顔でこちらを睨んでくる。なんだか、急にアルセアが可愛く見えてきた。八歳年上のお姉さんだけれど。

あの時のアルセアは怖かったが、今ならもう分かる。アキニレが異常なほど気を遣っていたことからも分かるように、アルセアはあの時本当に意を決して一人で廃工場までやってきたのだろう。かつて自分のポケモンが記憶を失くして暴走する姿を見たトラウマを、嫌でも思い出させる場所へ。
 ▼ 220 AYr1xkow/g 17/09/28 21:57:34 ID:KjbyZUjk [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「まあ何はともあれ、無事で何よりだな。街にも何の影響も出てないし。よかったよかった」

リュウガンは相変わらず呑気な声で言った。

「……そうですね。みんな無事で、本当によかった……」

アキニレがしみじみと言う。すると、ずっと黙っていたユーリが口を開いた。

「……地下にはスパイス団のアジトがあると知っていながら、何故ずっと何もしなかったんですか?」

その声には、強い怒りがこめられている。

「ユーリ……」

「スパイス団は悪い奴らじゃないですか!」

「まあ、いろいろあんだよ」

声を荒げるユーリに、リュウガンは落ち着け、というように手を動かしながら言った。

「あいつらだってただの悪い奴じゃねえんだ。いなくなったらそれはそれで困ることが出てくんのよ」

「……」

リュウガンはそう言ったが、ユーリは納得できないようだ。パロレもよく分からなくなってきた。リュウガンの言うように、いろいろあるのだろう。彼にそう言われるとそうなんだという気がしてくる。でも、だからといって、簡単に許せるとは思えない。

「ほら、名前だって『スパイス』だ。アモル地方のほんのちょっぴりの隠し味、ってことよ。ちょっとはスリルがないと楽しくねえだろ?」

「それ、全然面白くないですよ」

アルセアが刺すように言った。アルセアだって、パロレと同じように複雑な気持ちだろう。

「おっと、冗談だって」

リュウガンはすぐにそう言った。アルセアが呆れたように溜息をつく。

「……まあいいや。リュウさんはいつもこんな感じの適当おじさんだし……」

アルセアはそう言うと、「それどういう意味よ」と突っ込んでくるリュウガンを無視して携帯電話を取り出して、誰かにメールを送った。
 ▼ 221 AYr1xkow/g 17/09/28 21:59:08 ID:KjbyZUjk [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
しばらくすると、返事が来たのかアルセアは携帯電話をしまいこんだ。そして、

「国際警察にちょっとした当てがあるから、三人はその人に預け……あれ」

アルセアはそう言って固まった。

「……マリナーラとかいう女の子、いなくなってるけど」

アルセアの言葉に、アキニレとバジリコが「え!?」と声を上げる。見れば、本当にマリナーラが消えていた。スリジエとボンゴレはいる。なんと、すり抜けて逃げていってしまったらしい。

「……」

アルセアが目を細める。アキニレとバジリコは縮こまった。なんだか、三人の力関係が垣間見えるようだ。

「……まだ子供だからどうせ一人だけすぐ釈放されるだろうけど……んー……」

アルセアはぶつぶつ呟きながら考えこんでいる。

「俺も探しとくわ。ボスのいなくなったスパイス団を放置するわけにもいかねえしな。いろいろ後始末しないとだろ?」

リュウガンがそう言って、アルセアの肩をポンと叩く。

「……じゃあ、しばらくお願いします」

「おう。アルセアちゃんだって、いろいろやらなきゃいけねえことあんだろ?」

「まあ、はい」

アルセアとリュウガンは何やら話しこんでいる。一体何の話だろう、パロレはそう思いながら聞いていた。

スリジエは何も言わない。気力を失っているようだった。一方、ボンゴレは平静を保っている。きっと、どこまでもボスについていくつもりなのだろう。

「じゃ、オーロシティで国際警察の人と待ち合わせだから」

そう言って、アルセアが振り返る。

「オーケー、オーロな。……ちょうどいい。俺もいろいろ片付けなきゃいけないことあるしな……」

アキニレは呟くように言った。

「ほれ、いってら。じゃーな」

リュウガンがひらひらと手を振る。一同は挨拶をして、メラン乗船所を後にしたのだった。
 ▼ 222 AYr1xkow/g 17/09/28 22:26:37 ID:KjbyZUjk [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレたちは、アキニレとバジリコ、そしてアルセアのポケモンに乗ってオーロシティへと向かった。

アルセア曰く、五年前に盗まれたポケモンと再会した時、その記憶を失い暴走する不可解な姿から、犯人は高い技術力を持った組織であると判断され、国際警察が捜査に関わることになったのだという。

その際にこの事件を担当した国際警察の男が、アルセアによくしてくれたらしい。先程メールを送ったところ、なんと偶然にもバカンスでアモル地方に来ていたらしく、急遽スリジエたちを引き渡すことにしたとのことだ。

一同はオーロシティにたどりつくと、アルセアに連れられてホテルに向かい、変わったコードネームの国際警察の男にスリジエとボンゴレを引き渡した。男は、バカンスを存分に満喫しているようだった。

「よーし子供たち。もう遅いし、今日は研究所に泊まりな。行くぞ!」

ホテルを出ると、アキニレがそう言って早足に研究所へと歩き出す。

「え?アルセアさんとバジリコさんは?」

パロレが純粋な気持ちで聞いた。すると、

「パロレ!」

クオレがものすごい剣幕でパロレに近づいて言った。

「え、な、何……?」

パロレが思わずたじろぐ。

「空気読まなきゃダメだよ!」

クオレはそう言って頬を膨らませた。パロレは意味が分からず、助けを求めるように兄の顔を見上げる。

「んーっと」

アキニレは少し困ったような顔をした。

「ま、パロレにはまだ早かったようだな!」

そう言ってアキニレは笑った。

「え?え?ユーリは?分かる?」

パロレは思わずユーリに聞く。

「ええ、まあ……。お二人、さっきから結構分かりやすかったので……」

ユーリの言葉に、パロレはますますよく分からなくなり、首を捻った。アキニレは何故か大爆笑している。

「……アルセア、さっさと行こう」

「そうだね……」

二人は気まずそうに反対方向へと歩いていった。相変わらず、訳が分からない。二人の家はノグレータウンにあるらしいから、ここから近いから別に泊まる必要はないってことかな。パロレはそう思った。

「さ、俺たちも行こう!」
 ▼ 223 AYr1xkow/g 17/09/30 00:35:53 ID:q8PrpsQY NGネーム登録 NGID登録 報告
翌日、スリジエ研究所で目を覚ましたパロレたちは、簡単に朝食を済ませるとアキニレのデスクの近くに集まった。

「よく眠れたかい?」

アキニレが問う。

「うーん……」

「あまり……」

クオレとユーリが、気まずそうに言う。

「……そりゃそうだな。昨日、あんなことがあったんだから」

アキニレはそう言った。パロレは黙ったままだ。

「あの……博士はこの後どうなるんですか?」

クオレが言った。アキニレは小さく首を横に振る。

「分からないね」

「スパイス団はどうなるんですか?」

ユーリが聞く。

「うーん……解散とかは、しないと思うね」

アキニレが考えながら言う。

「……」

ユーリは複雑な表情を浮かべている。

「まあ、今はトップがいなくて混乱状態だろうな。リュウさんがどれくらいあいつらに影響力を持ってるのかもよく分からないし……マリナーラも逃げちまったからな……」

アキニレはばつが悪そうに言った。

「スパイス団の歴史は古い。俺も詳しくは知らないけど、元々は王家の圧政に抵抗する反乱軍だったんだ」

アキニレが言う。パロレは、確かイーラ火山で下っ端団員から聞いた、とふと思い出した。

「あまり君たちにこういう話はしたくないけど、彼らはアモル地方とかなり関わりが強くて、アモルの政治や経済に大きく貢献している。簡単にはなくせないだろうね」

アキニレが言うと、

「悪い人たちなのに……?」

クオレが眉を下げて言った。

「うーん、一概にそう決めつけるのはよくないね」

アキニレはそう言ってから、慌てて付け足す。

「いや、スリジエさんのしたことは悪いことだよ。でもあれは、組織の総意ではないはずだ」

アキニレはそう言ってから、あまり話がよく分かっていない様子の子供たちを見て、ふっと微笑んだ。

「でも俺たち一般人からしてみれば、悪い人だよな。アモル地方のよくないところだ。この点に関しては、俺たちもちゃんと考えていかなきゃいけないな」

アキニレはそう締めくくった。
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