▼  |  全表示464   | << 前100 | 次100 >> |  履歴   |   スレを履歴ページに追加  | 個人設定 |   ▼   
                  スレ一覧                  
SS

【SS】ママ「ほら、早く起きなさい!」【リメイク】

 ▼ 1 AYr1xkow/g 17/08/18 09:07:23 ID:z1am0BAU NGネーム登録 NGID登録 報告
こんにちは。私はスリジエ。みんなからはポケモン博士と呼ばれているわ。今日は私のネット講座を受けてくれてありがとう。楽しい時間にしましょうね。

ポケットモンスター、縮めてポケモン。この世界には、そんな不思議な生き物がたくさんいます。私たち人間は、彼らポケモンと共に生きています。一緒に遊んだり、力を合わせて仕事をしたり、そして時にはポケモン同士を戦わせてバトルをしたり……。そうやって私たちはポケモンと絆を深め合っているの。そんな彼らをよく知るために、私は研究をしています。

さて、ではそうね、今日の講座を受けてくれたあなたにも軽く自己紹介してもらおうかしら。えーっと、写真を見せてもらってもいいかしら?

ありがとう!ふんふん。あら、どこか見覚えのある顔だわ。お名前はなんていうの?

パロレくんっていうのね!素敵な名前ね。

それにしても、パロレくん……?あ!思い出したわ!

あなた、アキニレくんの弟くんね!なんだ!びっくりしちゃった。

知ってるとは思うけれど、アキニレくんは私のお手伝いをしてくれているのよ。今はちょうど出かけているけど、明日の朝早くに、出張から帰ってくるはずだわ。

……パロレくん!きっとあなたなら強いトレーナーになれるわ。そんな気がするの。ポケモンとの絆を深めて、思う存分楽しんでね!

さあ、ポケットモンスターの世界へ!
 ▼ 24 ライガー@プレミアボール 17/08/20 21:21:56 ID:K6pha1AM NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 25 ガガルーラ@うみなりのスズ 17/08/21 00:13:05 ID:pzIQAVq2 [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
スリジエ博士好きかも
支援
 ▼ 26 AYr1xkow/g 17/08/21 00:52:03 ID:BTx65Iv. [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「そうだ、三人とも、ジム制覇を目指すのはどうだろう?俺も八年前にやったんだ。腕試しになるよ。このオーロシティにもジムはあるからね」

「ジム制覇……」

パロレが呟いた。

「そうそう。最後にはポケモンリーグに挑戦してみるのもいいな。もちろん、ポケモンと何をするかは自由だよ。なんでも出来るからな!」

アキニレがそう言って笑った。

「なんでもかぁ……」

パロレは不思議な気持ちだった。これからヒトカゲと何をしよう?

「パロレは、母さんにヒトカゲを見せに行ったらどうだ?」

アキニレが言う。

「うん、そうするよ」

パロレも答えた。そして研究所から出ていこうとすると、クオレが待ちかねていたかのように口を開いた。

「ねえねえパロレ、バトルしてみようよ!」

「え、今?」

パロレは思わずそう言ってしまったが、慌てて考え直した。今しかない。はじめの一歩を踏み出す時だ。

「うん!やろう!」

パロレが言うと、クオレは嬉しそうに笑った。

「えへへ、頑張るぞー!」

クオレはそう言って拳を握りしめると、つい先程貰ったばかりのモンスターボールを投げた。

「行っけー!ツタージャ!」

「行けっ!ヒトカゲ!」

パロレもヒトカゲを繰り出した。モンスターボールを投げる初めての感覚に、なんだかドキドキしてしまう。

「よしヒトカゲ、頑張ろうな!ひっかくだ!」

「カゲッ!」

声をかけると、ヒトカゲは鳴き声を上げてからツタージャに勢いよく近づいていき、爪で思いきり引っ掻いた。ツタージャは呻き、じっとりとした目つきでヒトカゲを睨みつけた。

「わたしたちも負けないぞー!ツタージャ、たいあたりっ!」

「タージャ!」

ツタージャは小さな足で素早く走り、ヒトカゲに思いきりぶつかった。ヒトカゲがよろめく。

「ヒトカゲ、もういっちょひっかく!」

ヒトカゲはよろめいた体を足でしっかり支えると、まだ近くにいたツタージャの体をもう一度爪で引っ掻いた。ツタージャは痛そうな鳴き声を上げて、その場に倒れこんでしまった。

「あー!負けちゃったー!」
 ▼ 27 AYr1xkow/g 17/08/21 00:53:22 ID:BTx65Iv. [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
クオレはそう言いつつもとても楽しそうだ。まだ興奮冷めやらぬ様子で、

「すごいね!楽しいね!次は頑張って勝つから!」

「いや!次もぼくが勝つよ」

クオレに触発されて、パロレも思わず好戦的な言葉を口にした。

「次はわたしが勝っちゃうもんね!」

クオレはべっと舌を出した。

「それじゃ、わたしはちょっと街を見て回ろうかなー。また今度、ユーリもバトルしようね!ばいばい!」

クオレはそう言うと、手を振って研究所を出ていく。パロレも手を振り返した。

「バイバイ!」

「あ……さようなら!」

ユーリもぎこちない様子で挨拶をする。

「えっと……オレはオーロジムに行ってみようと思います」

「あ、じゃあぼくも行こうかな。一緒に行こうよ!」

せっかくオーロシティに来ているのだから、家に帰る前に寄ってみたい。そう思ったのだ。

「では行きましょうか」

ユーリはそう言うと、アキニレに向き直る。

「あの、色々……本当にありがとうございました」

「どういたしまして。ポケモンと一緒に、楽しんでくれよな!」

アキニレはそう言って、快活に笑った。
 ▼ 28 AYr1xkow/g 17/08/21 00:56:34 ID:BTx65Iv. [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレとユーリは研究所を出てオーロジムに向かった。歩いている間は会話がほとんどなく、パロレは困っていた。話したことといえば、ユーリが「あの助手の方はパロレさんのお兄さんなんですね」と言ったくらいである。

やがて、二人はオーロジム前にやってきた。ジムには看板が付いており、「高みを目指すセレブリティ」と書いてある。このオーロジムのリーダーの二つ名だ。

「おーっす未来のチャンピオン!」

ふと大声がして、二人はわっと飛び上がった。小太りの男がこちらを見て朗らかに笑っている。

「ジムに挑戦するのか!いいねェ!」

男はそう言いながら近づいてきた。

「ただオーロのジムリーダーはちょーっと曲者!有名デザイナーの一人娘で、ショッピングが大好きなセレブだ!今日も買い物に出かけて以来まだ帰ってきてないぞ!」

「ええーっ、そんなのアリ!?」

パロレは思ったことをそのまま口にした。

「すぐには帰ってこないから、今は先に進んだ方が吉だ!」

男はそう締めくくった。パロレとユーリは顔を見合わせる。そう言われてしまったら、仕方がない。

「分かりました……オレは先を行きます」

ユーリががっくりと肩を落として言う。パロレも正直不満だった。

「しょうがないね……ぼくは一旦帰るよ。じゃあ、また会った時にね」

パロレがそう言って軽く手を振る。

「ええ。ではまた」

ユーリも小さく礼をして、二人はその場を後にした。
 ▼ 29 AYr1xkow/g 17/08/21 01:11:46 ID:BTx65Iv. [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレは1番道路を通ってヴァイスタウンまで帰っていった。モンスターボールを腰につけて歩くと、なんだか新鮮な気持ちになる。少しくすぐったいような気もした。

「ただいま!」

元気よく家の玄関の扉を開ける。

「おかえりなさい!ポケモン貰ったの?」

母親はパロレが帰ってくるなり、早速話を切り出した。

「うん、貰ったよ!ヒトカゲっていうんだ!」

パロレはそう言ってモンスターボールからヒトカゲを繰り出した。ヒトカゲは初めて見るパロレの家の風景を興味深げに眺めている。

「可愛い!」

母親はそう言って、ヒトカゲに目線を合わせるようにしてしゃがみこんだ。部屋の隅でボールで遊んでいたニャスパーが、こちらへとてとてと歩いてくる。

「パロレにぴったりのポケモンね」

そう言ってヒトカゲの頭をそっと撫でた。ヒトカゲはもうパロレの家に慣れたらしい。気持ちよさそうに瞳を閉じている。

「パロレも大きくなったのねー。八年前を思い出すわ」

母親は懐かしむように言った。その声はどこか切なげだ。

「兄さんが旅立った時のこと、あまり覚えてないなぁ」

パロレが言うと母親は微笑んだ。

「そうね、まだあなたは小さかったから」

そう言って立ち上がる。

「アキニレもお友達と一緒に冒険に出たのよ。アキニレはその中でポケモンの研究をしたいっていう夢を見つけた……。パロレ、あなたも好きなものを見つけられるといいわね」

母親は優しい声で言う。

「うん。まだよく分からないけど……とりあえず、バトルで強くなりたいな!頑張るよ」

パロレの言葉に母親はうんうんと頷いた。

「いってきます!」

パロレが力強く、元気に挨拶をする。一瞬だけ母親は寂しそうな顔をしたが、すぐに笑顔に戻った。パロレは気付いていない。気付かなくていいのだ。パロレはきっと強くなって無事に帰ってくる。アキニレと同じように。

「いってらっしゃい。頑張って!」
 ▼ 30 ソクムシ@ひこうのジュエル 17/08/21 23:03:57 ID:pzIQAVq2 [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
こういうオリジナル地方いいね
支援
 ▼ 31 ーケオス@たんけんこころえ 17/08/22 01:56:56 ID:RZTqPQvA NGネーム登録 NGID登録 報告
面白そう
支援
 ▼ 32 AYr1xkow/g 17/08/22 11:01:21 ID:DcFUOnNg [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレはヴァイスタウンを出て再び1番道路にやってくると、今度はくさむらのある東側の方へと歩いていった。これからは好きなだけ歩いていける。最高の気分だ。

ふとカサッと音が聞こえてきた。パロレは音のした方に視線を向ける。音はまだ止まない。カサカサと葉の触れ合う音が聞こえる。きっと、ポケモンが隠れているのだ。

パロレは微かにくさむらが揺れていることに気がついた。ゆっくりと近づいていく。すると、ピタリと音が止み、葉も動かなくなった。パロレが立ち止まると、今度はそこからポケモンがバサッと翼を広げて飛び出してきた。野生のポッポだ!

「わっ。行けっ、ヒトカゲ!」

パロレは反射的にヒトカゲを繰り出していた。ヒトカゲが鳴き声を上げてボールから飛び出す。

「よし……ヒトカゲ!ひっかくだ!」

パロレが指示を出すと、ヒトカゲはポッポの元までかけていき、翼の辺りを引っ掻く。ポッポは驚いて翼を広げて少し後ずさりした。それから、ヒトカゲに思いきりたいあたり。しかし、ヒトカゲはまだピンピンしている。

「次で勝てそうかな?……あ、そうだ」

パロレはバッグから空のモンスターボールを取り出した。

「こいつの出番っ!」

そう言って、モンスターボールをポッポに向かって投げる。ポッポはボールの中に吸いこまれていった。パロレが緊張気味に見つめる中、地面に落ちたモンスターボールは三回揺れてからカチリと音が鳴った。成功だ!

「やった!」

初めてのゲットだ。パロレは早速モンスターボールからポッポを出した。そして、力強く声をかける。

「ポッポ!これからよろしくな!」

「ポッポォ!」

ポッポも翼をはためかせて応えた。するとその時、サッと目の前を何かが通り過ぎていった。何かと思えば、ジグザグマだ。ジグザグマは名前通りジグザグに走りながらこちらへ向かってくる。

パロレはポッポに目配せをする。

「……よし、ポッポ!初めてのバトルだ!行くぞ!」

「ポッポー!」
 ▼ 33 AYr1xkow/g 17/08/22 11:46:45 ID:DcFUOnNg [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あれから1番道路でしばらくヒトカゲとポッポを野生のポケモンとのバトルで鍛えていたら、だんだん楽しくなってきた。とはいえ、ずっとここにいるわけにはいかない。パロレは1番道路の東側にある、ノグレータウンというところに来ていた。

ノグレータウンはとても美しい街だ。なんと、街のほとんどの道路が水路になっているのだ。街を回る際は、ゴンドラに乗らなければならない。景観も美しく、ここもまた観光客で賑わっている。

パロレがノグレータウンに入ると、すぐそばにいた男が声をかけてきた。

「やあ!観光かな?良ければ行きたいところまで乗せてくよ」

見れば、彼はオールを持っている。どうやらゴンドリエーレのようだ。

「えっと……」

パロレは考えこんだ。何も決めていない。とはいえ、せっかく来たのだから見て回らないのはもったいない。

「何かおすすめのところってありますか?」

パロレが聞くと、ゴンドリエーレの男は嫌な顔ひとつせずに答えてくれた。

「お?じゃあいいところに連れていってあげるよ。ノグレータウンの人気者のところさ」

「へえ!気になるな。お願いします!」

「おう!任せな!」

彼はそう言ってパロレをゴンドラに乗せてくれた。初体験だ。パロレは小さな舟に揺れながら街を眺めた。

本当に綺麗な街だ。落ち着いた景観ではあるが、建物の色は結構カラフルで見ていて飽きない。

途中、ほとんど同じ形をした少し大きめの民家が二軒並んでいるのを見た。まるでパロレとクオレの家みたいだ。あの家に住んでいる人たちも、きっと仲がいいんだろうな。パロレはそう思った。

どこからともなく、音楽が聞こえてくる。パロレは耳を澄ませた。心地いいメロディだ。だんだんその音が大きくなってきたところで、

「よし、着いたぞ!」

「あ、はい!ありがとうございます!」

パロレはゴンドリエーレに手を貸してもらって舟を降りた。目の前では、一人の男性が楽器を演奏している。どうやら、この人が街の人気者のようだ。

「楽しんで!」

ゴンドリエーレはゴンドラを操縦しながらそう言って、見えなくなっていった。
 ▼ 34 AYr1xkow/g 17/08/22 12:12:57 ID:DcFUOnNg [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
その人物はアコーディオンのような楽器を弾いていた。壮大ながらもどこか切なげで、だけど聞いていて心地よい不思議なメロディだ。周りにはパロレの他にも人が集まっていた。

やがて、演奏が終わった。男が恭しく礼をする。聴衆からは拍手が湧き上がった。パロレももちろん手を叩いた。

「すごくよかったです!これ、アコーディオンですか?」

パロレは思いきって話しかけてみた。顔を上げた男はパロレを見て微笑む。

「ありがとうございます。これはコンサーティーナっていうんですよ」

「へえ……!」

パロレは目を輝かせてコンサーティーナを見つめた。

「今の曲は、アモルの三英雄に捧ぐ歌。アモルの三英雄は知っていますか?」

男が問う。

「はい!……まあ、あまり詳しくは知らないけど……」

パロレの声は誤魔化すように徐々に小さくなっていった。男は笑った。

アモルの三英雄。このアモル地方に伝わるおとぎ話のようなものだ。はるか昔にアモル地方を救ったと言われる三人の英雄。

「アモルの三英雄、エシャロット、アングリア、そしてメローネ。かつて戦に敗れ荒廃していたアモルにやってきた旅人。彼らはアモルを栄光へと導きました」

男は歌うように言いながら、再び演奏を始めた。

「アモルの民は彼らを英雄と讃えました。そしてそのうちの一人、エシャロットはやがてこのアモルの王となったのです」

それから、男は声を落として続ける。

「なんでも、彼らは不思議な力を持っていたらしいですよ。その力を使うと、ポケモンの姿が変わり、更に強くなったと聞きます。三英雄はそのポケモンたちと共にアモルに勝利をもたらし、アモルを蘇らせたのです」

男はそして演奏を止めると、

「三英雄については、ジョーヌシティ近くのフォルテ城でまた詳しく聞けるでしょう。興味がおありなら、行ってみてはいかがですか?」

フォルテ城とは、かつてアモル地方の王が住んでいた城だ。現在では一部分が博物館となって一般公開されているが、王家の末裔も未だ居住地として利用している。

「面白そう!行ってみようかな。ありがとうございます!」

パロレは男に礼を述べると、その場を去っていった。男はコンサーティーナを鳴らしながらお辞儀をしてその姿を見送った。
 ▼ 35 ンガー@グラスメモリ 17/08/22 21:05:34 ID:R8CRSgc6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 36 AYr1xkow/g 17/08/23 00:09:46 ID:lmAmiSYY [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレは先程とは別のゴンドラに乗っていた。あまり難しいことは分からないが、三英雄の話は少し気になるかもしれない。更に強くなるポケモンとは、一体なんなのだろう。

船着場についた。パロレはゴンドリエーレに礼を言ってその場を後にする。ノグレータウンはとても良いところだった。さあ、次だ。

パロレはノグレータウンを出て南に歩いていった。2番道路だ。ここにはアモル地方最大の川、セーニョ川がある。その上にはセーニョ大橋が架けられており、ここもまた観光名所として知られている。

パロレが進んでいると、なんだか人が集まってざわついていた。何があったのだろうか。パロレは近くにいた男性に声をかけてみた。

「何かあったんですか?」

「ああ。今は橋に近づかない方がいいぞ。封鎖されてるんだ」

男性が言うと、隣にいた女性が憤りながら間髪入れずに口を挟んだ。

「そうそう、スパイス団の仕業だよ!」

「スパイス団……?」

パロレは首を捻った。

「知らないのかい?人のポケモンを奪う悪い奴らだよ!ここ数年前から活発になったんだ」

女性は苛々している様子だった。

「君も戻った方がいいよ」

男性が諭すように言う。

「戻った方がいいって言われても、先に進みたいし……」

パロレはそう呟いて遠くに見えるセーニョ大橋を見やった。ここで戻るだなんてそんなことはしたくない。

「迷惑になことをする奴らだな。とっちめてやる!」

パロレはそう言って周りの人たちが止めるのも構わず飛び出していった。
 ▼ 37 AYr1xkow/g 17/08/23 00:12:15 ID:lmAmiSYY [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
セーニョ大橋の前まで来ると、ちょうど橋の真ん中辺りでスーツのような制服を着た二人の男が道を塞ぐようにして立っているの見えた。パロレは迷わず二人の方へ向かって歩いていく。

「なんだ?今ここは我らスパイス団の縄張りだ。ここを通りたいならポケモンを渡してもらおう」

片方の男が毅然とした態度で言う。スーツに近い服装をしているだけあって、かなりの威圧感がある。

「無理ならここは通さないぞ!」

もう一人もそう言った。パロレは思わず「なんだよ、勝手な奴らだな」と呟く。

「アアン?ガキのくせに粋がってんじゃねーぞ」

あの毅然とした態度をしていた構成員がドスの効いた声で言った。

「こらこら、素が出てる」

もう一人の男がたしなめる。どうやら、彼の性根はチンピラのようなものだったらしい。

「あっ、しまった」

男はそう言って軽く咳払いをする。

「……ゴホン。ポケモンを連れていないのならさっさと立ち去るのが身のためだぞ」

「ああ、ポケモンはいないよ。お前たちに渡すポケモンなんてね!」

パロレは痛烈に言ってやった。そうだ、ヒトカゲとポッポはぼくの仲間だ。渡すもんか!

「んだとゴルァ!」

「オイ!」

もう彼には、相方の声は届いていないらしい。

「うるせー!オイテメェ、勝負しろ!ガキだからって容赦してやんねーからな!!」

そう言って、スパイス団の構成員である彼は勝負をしかけてきた。
 ▼ 38 AYr1xkow/g 17/08/23 00:35:57 ID:lmAmiSYY [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「行け、ポッポ!」

パロレがポッポを繰り出す。スパイス団の下っ端構成員もボールを投げた。

「行け!ポチエナ!」

下っ端が繰り出してきたのはポチエナだ。パロレはモンスターボールから出てきた瞬間の隙を狙って素早く指示を出す。

「ポッポ、すなかけだ!」

「ポォー!」

ポッポが足で砂を蹴る。すなかけの砂は思いきりポチエナの顔面にかかった。ポチエナはキャンと吠えて目を瞬く。

「ポチエナ、たいあたり!」

下っ端は構わず指示を出したが、ポチエナの攻撃は外れた。ポッポはいとも簡単にポチエナの攻撃を避けてみせた。すなかけでポチエナの視界が悪くなり、命中率が下がっているのだ。

「クソッ!」

下っ端が舌打ちする。

「ポッポ、たいあたり!」

ポッポはポチエナのところまでパタパタと飛んでいき、思いきり体をぶつける。とはいえ、ポチエナも負けてはいなかった。

「ポチエナ!たいあたり!」

下っ端の指示を聞いて、ポチエナが動く。今度こそポチエナの攻撃は当たった。「ッシャオルァ!」と下っ端がガッツポーズを決める。

「でも、これで終わりだ!たいあたり!」

「ポッポォ!」

ポッポは気合十分だ。パロレの声に合わせて、渾身の力をこめてポチエナにたいあたりする。ポチエナは鳴き声を上げてその場に倒れこんでしまった。

「だーー!クソッ!」

バトルに負けたスパイス団の男は地団駄を踏みながら声を上げた。
 ▼ 39 AYr1xkow/g 17/08/23 01:08:13 ID:Z2oauplQ [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「この野郎…今日のところは勘弁してやる。覚えてろよ!」

下っ端構成員はそう言って、脱兎のごとく逃げていってしまう。もう一人の男がそれを見て「あ、ああー……」と声を上げた。男はそれからパロレに向き直る。

「えっと、お前。スパイス団に歯向かうことはやめておくのが懸命な判断だぞ。それでは失礼」

そう言って、相方を追いかけて走って逃げていく。

「なんだったんだ……」

パロレはそう言いつつも、正直少し安心していた。無事にバトルに勝つことができたことにほっと胸を撫で下ろす。

なぜか体が勝手に動いていた。パロレのような子供が大人の男二人に立ち向かうだなんて、とても無謀なことだ。でも、許せなかったのだ。パロレの心が彼らを許すことができなかった。

でも、とりあえずスパイス団、とかいう組織の男たちを撤退させることができた。上出来だ。これで前に進める。パロレはセーニョ大橋を渡った。橋の上から川を見下ろす。太陽の光が当たって、水面がキラキラと輝いていた。美しい景色だった。

橋を渡りきると、川の近くのくさむらで一匹のポケモンがぶるぶると震えているのが見えた。慌てて近づいてみると、震えているのはマリルだった。きっと、先程のスパイス団の二人が怖かったのだろう。

「大丈夫?」

パロレはしゃがみこみ、マリルに優しく声をかける。マリルは不安げな顔でパロレを見上げた。それからじっと見つめ合う。警戒はされているものの、悪くは思われてなさそうだ。

やがてマリルは表情を元に戻し、パロレに近づいてきた。悪意がないことが完全に伝わったのが分かった。パロレはそっとマリルに触れて、体を撫でてやった。冷たくて気持ちがいい。

「もう怖い思いしたくないよなー」

可哀想だ。パロレはそう思った。

「よし、マリル。これからはぼくが守ってあげる。だから大丈夫だよ」

パロレはそう言って両手を広げた。マリルはあまりよく分かっていなさそうだ。

「おいで」

マリルはその言葉に、嬉しそうにこちらに飛びこんできた。
 ▼ 40 AYr1xkow/g 17/08/23 08:56:29 ID:Z2oauplQ [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マリルにモンスターボールを軽く投げてみる。マリルはあっさりと受け入れてくれた。

これでもう、マリルは大丈夫だ。

パロレはそれから2番道路を抜けて、アズハルタウンへと歩いた。

アズハルタウンは、古くからある景観を壊さないために街を発展させずにあえてそのままにしている。アモル北部の街は都会が多いが、ここは少し田舎っぽい。パロレはヴァイスタウンを思い出した。

さて、そろそろ日も落ちそうだ。パロレはポケモンセンターに向かった。ポケモントレーナーは無料で宿泊できるようになっているのだ。

部屋を取り、食事や風呂を済ませ寝支度を整えていると、今は家を出て旅に出ているのだという実感がやっと湧いてきた。だって、兄さんはもちろん、母さんも今ここにいないんだ。

まったく寂しくないと言えば嘘になるかもしれないが、それでもやっぱり、ワクワクする気持ちの方が大きかった。

これから何が起こるかは分からないが、きっと何があっても大丈夫だ。また明日から、頑張ろう。
 ▼ 41 レセリア@こわもてプレート 17/08/23 12:03:48 ID:dxHMG1HY NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 42 AYr1xkow/g 17/08/24 01:17:01 ID:zIpPzNbw [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
翌日、パロレはすっきりとした思いで目を覚ました。早く先に進みたくてたまらない。パロレは急いで準備を終わらせ、朝食を済ませると、アズハルタウンを出ていった。

やってきたのは3番道路だ。この3番道路は、ラランジャの森がほとんどの割合を占めている。パロレは道なりに進んでいって、ラランジャの森へと入った。

ラランジャの森は、木々が生い茂っているだけではなく、花もたくさん咲いていた。そのおかげで森の中はカラフルで、とてもいい香りがする。至るところにくさタイプとむしタイプのポケモンがいるのが見えた。

パロレが森の中を歩いていると、一匹のポケモンが飛び出してきた。蕾のような姿をしたそのポケモンは、スボミーだ。パロレはマリルを繰り出した。

「よーしマリル、みずてっぽうだ!」

パロレが指示を出す。しかし、マリルよりスボミーの方が速かった。スボミーはすいとるでマリルの体力を奪い取った。効果が抜群の技を受け、マリルはよろめく。

「マリル頑張れ!」

パロレの声に、マリルはどうにか立ち上がった。そして口から勢いよく水を吐く。あまり聞いていないようだが、問題はない。勝つことが目的ではないのだ。

次も体力を吸い取ってきたら、スボミーは回復してしまう。そうなるとジリ貧だ。パロレは空のモンスターボールを手に取った。そして、スボミーに向かって投げつける。

カチッ。三回揺れた後、音を立ててボールは止まった。パロレはモンスターボールを拾い上げた。

「よっしゃ!スボミーゲット!」

パロレはモンスターボールを腰につけた。これで仲間は四匹だ。

パロレは満足げな様子で再び歩き出した。
 ▼ 43 AYr1xkow/g 17/08/24 01:18:11 ID:zIpPzNbw [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
どれくらいの時間、ラランジャの森にいただろうか。ヒトカゲたちを野生のポケモンたちと戦わせながら進んでいたら、道がよく分からなくなってしまった。完全に迷子だ。

「うう……ここどこだ……?」

そう言いながらパロレはポケモン図鑑を開く。この図鑑にはアモル地方のタウンマップも内蔵されているのだ。とはいえ、森の内部まで詳しくは描かれていない。パロレは溜息をついて図鑑をしまった。

「仕方ない、とりあえず進もう」

パロレはわざと大きな声でそう言って歩いた。決して怖くなってきたわけでは、ない。

すると、笑い声のようなものが聞こえてきた。パロレはビクリと肩を震わせ、思わず「えっ、何怖い!」と口に出した。

すると、パロレの元に何かが飛んできた。パロレは目を凝らしてよくそれを見た。むしポケモンかと思ったが、違う。昔、アキニレが呼んでくれた絵本に載っていた幻のポケモンだったのだ。

緑色の体に、球根のような不思議な形をした頭部、それから小さな羽根。

「えっえっ……、セレビィ……?」

パロレは目の前の光景が信じられず、目を剥いたまま立ち止まった。笑い声に聞こえたのは、セレビィの鳴き声だったようだ。

セレビィは真っ直ぐパロレの方に向かってきた。それから、パロレの周りを楽しそうに飛び回っている。

セレビィはときわたりポケモン。その名の通り、「時渡り」という不思議な力で過去や未来を行き来できると言われている。セレビィはパロレに更に近づいてきたかと思えば、首の周りをくるくると回った。

「はは、くすぐったいよ」

パロレはそう言って、セレビィの頭を撫でた。セレビィは目を閉じて気持ちよさそうにしている。その姿はとても可愛い。

それからセレビィはパロレの顔の目の前までやってくると、笑った。パロレは首を傾げた。セレビィのその笑顔が、なんだかとても意味ありげに見えたのだ。やがて、セレビィの体が光り始めた。なんだなんだと思っていると、パロレは驚いて声を上げてしまった。だって、自分の体も光っていたのだ。

訳も分からずオロオロとしていると、急に視界がぐにゃりと歪んだ。それから、まるで空を飛んでいるかのような不思議な感覚に襲われた。
 ▼ 44 AYr1xkow/g 17/08/24 01:19:45 ID:zIpPzNbw [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「なんだ……?」

パロレは辺りをキョロキョロと見渡す。先程とほとんど景色は変わっていない。ただ、森の中の草木がなぜか増えたような気がした。パロレは怪訝な表情で近くの草木の元まで向かった。

すると、物音が聞こえ、パロレは思わず木の陰に隠れた。恐る恐る顔を出して音の方を見ると、そこには少女がいた。どこか見覚えのある顔だ。少女はパロレと同じくらいの年齢のようだったが、少なくともクオレよりは大人っぽく見えた。

少女は迷いなく歩いていく。パロレはこっそり少女を追いかけた。

やがて少女が歩く先に光が見えてきた。出口だ。少女は出口近くまで歩いてくると、その場で立ち止まった。パロレはつけていたことがばれてしまったのかとどきりとしたが、違ったようだ。少女は首を伸ばして森の中を見つめる。誰かを待っているようだった。

やがて、今度は少年の声が聞こえてきた。明らかに聞き覚えのある声でパロレは混乱した。声の主は、少女の元までやってくる。

「くそー、早いな」

少年はそう言って額の汗を拭う。パロレは目を見開いた。だって、そこにはパロレと同い年のアキニレがいたからだ。

「え……兄さん?」

パロレが呟くと、隣にいたセレビィが笑い声を上げた。すると、アキニレ少年と少女がこちらを向く。パロレは慌ててセレビィの口を塞いで木の裏に隠れた。

すると、しばらくしてまた足音が聞こえてきた。こっそり覗きこむと、今度はまた同い年くらいの少年が現れた。まだ子供だというのに恐ろしく顔立ちの整った少年だ。こちらもまた見覚えのある顔だ。

「あ……」

パロレは思わず声を漏らした。そして、セレビィを見やる。

あの二人の少年と少女は、アキニレの机の上にあった写真に写っていた子供だ。パロレはそう気付いた。つまり、パロレはセレビィの時渡りの力で過去に、八年前のラランジャの森に来てしまったのだ。

一体なぜ?パロレはセレビィを見つめるが、セレビィは何も教えてくれない。パロレは溜息をつくと、再び三人の子供たちの方に目を向けた。
 ▼ 45 AYr1xkow/g 17/08/24 01:21:09 ID:zIpPzNbw [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「私が一番ね」

少女が自慢げに言う。

「くっそー!」

そう大声を上げたのはアキニレだ。

「言い出しっぺのくせにかっこわる。俺が絶対一番乗り、とか言ってたくせに」

少女は意地の悪い笑顔でアキニレに言った。アキニレは何も言い返せず、悔しそうに呻いている。

「じゃ、私、先に行くから」

少女はそう言って、「えっ、もう行くのか?」と言うアキニレともう一人の少年を置いてさっさと森を出ていってしまった。

「……すごいな」

アキニレが呟く。それからアキニレはもう一人の少年に声をかける。

「俺疲れたからちょっと休むけど、どうする?」

もう一人の少年は、三着だったのがよほど悔しかったのか、黙ったまま俯いている。すると少年はいきなり顔を上げた。

「俺も行く」

そう言って歩き出す。

「えー、マジか。じゃあ俺も行く!」

アキニレはそう言って少年の後を追いかけた。

すると、再び視界が歪んだ。見れば、パロレの体はまた光っていた。思わずセレビィを見つめる。そして、また体が浮かび上がるような感覚に襲われた。
 ▼ 46 AYr1xkow/g 17/08/24 16:09:42 ID:M2puRCwk [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
気がつくと、パロレは元いた場所に戻っていた。どうやら、現在のラランジャの森に帰ってきたらしい。

パロレは困った顔でセレビィを見つめた。セレビィは相変わらず楽しそうに飛び回っている。

「なんだったんだろう……」

パロレはそう呟いた。一体なぜ、セレビィは八年前のラランジャの森にパロレを連れていったのだろう?セレビィは何がしたかったのだろうか。

「あっ!もしかして」

パロレはハッと思いついた。それから、ニヤニヤとセレビィに笑った。

「ぼくに道案内してくれたんだなー?」

セレビィはなんとも言えない鳴き声を上げた。「そうだよ」と言ったようにも「違うよ」と言ったようにも聞こえる。

「なんだよ、分かんないなもう。でもまあいいや、そう思っとこっと」

パロレはそう言って、先程の少女が歩いた道を歩いていった。セレビィはふわふわ飛びながらパロレについてくる。すると、やっと出口が見えてきた。ここまで長かった。

「なんか、まどろっこしい方法だった気もするけど……でもありがとう、セレビィ」

パロレはそう言って、セレビィに手を振った。セレビィは何回かパチパチと瞬きをしてから、また笑い声を上げる。そして、そこで一回転すると、素早くどこかへ飛んでいってしまった。

ラランジャの森に出て3番道路に戻ると、久しぶりの太陽の光にパロレは思わず目を細めた。眩しい。道路にも花がたくさん咲いている。そしてその向こうに見えるのはラランジャシティだ。

パロレの顔はぱっと輝いた。だって、ラランジャシティにはジムがあるのだから。
 ▼ 47 AYr1xkow/g 17/08/24 16:10:51 ID:M2puRCwk [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラランジャシティに入ると、ふわりといい匂いが漂ってきた。ラランジャの森に負けず劣らずたくさんの花が咲いている。ラランジャシティは自然と共存することを目指す街。花畑のある大きな広場が有名だ。

パロレはポケモンセンターに入ってポケモンたちを回復させると、真っ直ぐ歩いていった。目指すはラランジャジムだ。

「あの、少しお久しぶりです」

ふと声が聞こえ、振り返る。

「あ、ユーリ!うん、ちょっと久しぶり」

そこにいたのはユーリだった。オーロジム前で別れて以来だ。パロレも元気よく返した。ユーリはしばらく言葉に詰まってるようだったが、やがて口を開いた。

「……あの。トレーナー同士がこうやって再開した時は、バトルするもの……なんですよね?」

ユーリの言葉に、パロレは一瞬「え?」と声を上げたが、その後すぐに頷く。

「うん!早速バトルしてみようよ!」

「では……よろしくお願いしますね」

ユーリはそう言って、モンスターボールを投げた。

「行け!フラベベ!」

パロレもポッポを繰り出す。そして間髪入れずに叫んだ。

「ポッポ!かぜおこし!」

ポッポが強く羽ばたいて風を起こす。花を持ったポケモン、フラベベにはきっとよく効くに違いない。

「フラー」

フラベベはゆらゆら揺れている。確かにダメージは受けているようだが、思ったより効いているようには見えなかった。

「あれ……?」

パロレが首を捻る。今度はユーリが指示を出した。

「フラベベ!ようせいのかぜ!」

「フラァー!」

今度はフラベベが風を起こす。その技の名前を聞いてパロレはハッとした。

「花持ってたからくさタイプかと思っちゃった!フェアリータイプだ!」

パロレのその声を聞いて、ユーリが挑戦的に笑う。

「そうですよ。フラベベはフェアリータイプのポケモンです。フラベベ!もう一度ようせいのかぜ!」

もしかして、バカだと思われた?ふとパロレの頭にそんな思いがよぎったが、考えすぎだと思うことにした。次は間違えないぞ。パロレは気を引き締めた。

「ポッポ!こっちももう一度かぜおこし!」

ポッポとフラベベがお互いに風を起こし、相手に思いきり当てる。二匹の力は互角かと思われたが、ポッポが先に地面に落ちてしまった。
 ▼ 48 AYr1xkow/g 17/08/24 16:12:15 ID:M2puRCwk [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「うわ!ポッポ、ごめんな!」

パロレはポッポをボールに戻した。それでも、二回攻撃を当てたことで体力はきっと削られているはず。パロレは次のモンスターボールを投げた。

「よーしマリル!みずてっぽうだ!」

「フラベベ!つるのムチ!」

フラベベの方が素早かった。体を高く浮き上がらせ、マリルにきつい一発をお見舞いした。マリルはなかなかのダメージを食らってしまったようだ。しかし、マリルは負けじと口から水を吐き出した。水はフラベベの顔面に当たり、フラベベはフラフラと地面に落ちた。

「……、行け!アマカジ!」

ユーリはフラベベを戻し、次のポケモンを繰り出した。

「マリル戻れ!ヒトカゲ、行くぞっ!」

パロレもポケモンを交代させる。

「ヒトカゲ!ひのこだ!」

ヒトカゲは陽気に鳴き声を上げ、アマカジめがけて火を吐いた。抜群の攻撃を受けたアマカジは、一発でその場に倒れこんでしまった。

「なっ……!」

ユーリは愕然としている。

「よっしゃ!よくやったヒトカゲ!」

ユーリは悔しそうにアマカジを戻し、最後のモンスターボールを投げた。

「これで最後です。行けっ、ポッチャマ!」

「ヒトカゲ戻れ!スボミー、頑張れ!」

スボミーとポッチャマが見つめ合う。

「スボミー、すいとる!」

スボミーはポッチャマに駆け寄り、体力を吸い取ろうと構えた。しかし、その瞬間、

「ポッチャマ!今です!つつく!」

ユーリの指示に、ポッチャマは近づいてきたスボミーの懐を思いきり嘴でつついた。急所に当たってしまったようだ。スボミーは力なくその場に倒れた。

「わー!?スボミー、ごめんっ!えっと、マリル!頼んだ!」

パロレは慌ててスボミーを戻し、マリルを繰り出した。

「マリル!たいあたり!」

「ポッチャマ、はたく!」

二匹はほぼ同時に動いた。マリルは丸い体をポッチャマに思いきりぶつけ、ポッチャマは短い手でマリルを強く叩く。すると、マリルが倒れてしまった。先程のつるのムチのダメージが残っていたのだろう。

「マリル、ごめんな。お疲れ」

パロレはマリルを戻し、ボールにそっと語りかけた。
 ▼ 49 マシュン@しんぴのしずく 17/08/24 16:12:41 ID:bT2kcawc NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
wkwk
 ▼ 50 AYr1xkow/g 17/08/24 16:13:14 ID:M2puRCwk [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
さあ、残ったポケモンはお互いにあと一匹ずつ。偶然にも、どちらもスリジエ博士から受け取ったポケモンだ。

相性は悪いが、行くしかない。ポッチャマはダメージを受けている。それに、パロレにはとある勝算があった。

「ヒトカゲ!行くぞっ!」

パロレがヒトカゲを繰り出す。ユーリは勝利を確信したのか、少し余裕を見せた。

「ヒトカゲ!ひっかく!」

「ポッチャマ!あわ!」

二人は同時に叫んだ。しかし、パロレは笑っている。

だって、ヒトカゲの方が速い!

ヒトカゲは勢いよく駆け出した。そして弾みをつけて飛び上がり、ポッチャマに向かって大きく腕を振りかぶる。そして、上から勢いよく爪を立てた手を降ろした。

「ポチャァ……」

ポッチャマが倒れこむ。戦闘不能だ。ユーリは唇を噛みしめてポッチャマを見つめ、ボールに戻した。

「……ありがとうございました」

「こちらこそ!接戦だったな!」

パロレもヒトカゲをボールに戻す。

「そうですね」

そう言うユーリの表情は暗かった。

「ではオレは行きますね。また」

ユーリはそう言って、ボールを腰に戻す。

「あっ、うん。じゃあね!」

ユーリはパロレに頭を下げ、早足で歩いていった。ユーリはラランジャジムを通りすぎ、街を出ていく。

「あれ……?」

パロレはその後ろ姿を見て何かを忘れていたような気持ちになった。そして、「あ!」と大きな声を上げる。

「ユーリはもうラランジャジムをクリアしてたのか!先を越された!急ごう!」

パロレはそう言って、急いでポケモンセンターに戻った。
 ▼ 51 AYr1xkow/g 17/08/25 00:54:15 ID:Hx4bQL06 [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
さあ、気を取り直してラランジャジムに挑戦だ。ジムの前の看板には、「花の香りのジェントルマン」と書いてある。その名の通り、ラランジャジムリーダーはくさタイプの使い手だ。

マリルとスボミーは相性は悪いが、ヒトカゲとポッポがいる。きっと大丈夫だ。パロレは意を決してジムの中に入った。

ラランジャジムの中は、不思議な形をしていた。天井がかなり高い。真ん中には一輪の花のような巨大なオブジェがあり、天井近くで見事に花弁が開いている。茎を伝って登っていくような形状になっており、ところどころ、葉の形をした足場がある。

パロレはオブジェの茎に取りつけられた梯子を登っていった。たまに足場で休憩しつつ、一番上の花まで目指す。よく見ると花の近くにはとびきり大きな葉が二枚ついていて、広い足場になっていた。

「よっこいしょ」

パロレは最後の梯子を登り終え、足場に立つ。そこには美しく咲き誇る大きな花を壁にして一人の青年が立っていた。髪と瞳の色は黄緑色で、頭のてっぺんにある双葉のような形をしたあほ毛が特徴的だ。

「こんにちは!挑戦しに来たパロレです!」

パロレは姿勢正しく気をつけをして言う。

「こんにちは、ようこそいらっしゃいました。僕の名前はモクレン。ここ、ラランジャジムでジムリーダーを務めています」

青年、モクレンはそう言って深く礼をした。物腰の柔らかい紳士的な青年だ。パロレは思わずごくりと唾を飲みこんだ。緊張してきた。なんていったって、こういった公式なバトルをするのは初めてなのだ。
モクレンは明らかにガチガチになっているパロレを見て優しく微笑んだ。

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。あなたらしく頑張ってください」

「は……はい!」

そう返事するパロレの声はまだ堅い。

モクレンは瞳を閉じた。

「ポケモンに対して求められるのは誠実な心……。僕はそう思っています。そしてそれはバトルでも同じ」

それから、目を開く。その瞳はとても力強い。モクレンは真っ直ぐパロレを見つめた。

「あなたの心、バトルで確かめさせていただきます!」

さあ、バトルだ!
 ▼ 52 AYr1xkow/g 17/08/25 00:56:10 ID:Hx4bQL06 [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「行け、ポッポ!」

パロレがポッポを繰り出す。

「チュリネ、出番です!」

モクレンもポケモンを繰り出した。

「え、えっと、ポッポ!かぜおこし!」

「チュリネ、かわしてやどりぎのタネ!」

ポッポが翼を大きくはためかせる。しかし、チュリネは思ったより身軽に動いてポッポの後ろに渡った。ポッポが振り向き、チュリネに風を当てようとする。しかし、攻撃はうまく当たらず、チュリネの投げた種がポッポの体にくっついた。

「ポ!?」

ポッポが突如痛みに鳴き声を上げる。ポッポの肩のあたりに、先程の種がついている。そして種からは小さないつの間にか芽が生えていた。このままではまずい。あの種に、どんどん体力を吸い取られてしまう。

「ポッポ!頑張れ!次こそ当てるんだ!」

「チュリネ、ねむりごな!」

ポッポの起こした風をまたもチュリネは避けると、ポッポに不思議な粉をかけた。ポッポはその粉に触れた瞬間、ぱちぱちと眠たそうに瞬きをし、地面に降り立ってすやすやと眠りこけてしまった。

「ポ、ポッポ!」

パロレが叫ぶ。ぐっすり眠っているポッポには聞こえていない。そのうちにも、やどりぎのタネに体力はどんどん奪われている。

「チュリネ!メガドレインです!」

チュリネが更に強くポッポの体力を吸い取る。効果は今ひとつなはずなのに、先程までのダメージの蓄積もあいまって、ポッポは眠ったままその場に倒れこんでしまった。

「……!」

パロレは愕然としてポッポを見つめ、モンスターボールにポッポを戻す。ふと前を見るとモクレンと目が合った。そのモクレンの試すような目つきに、パロレは思わず目を逸らしてしまった。

相性がいいはずの相手に、何も出来ずに瀕死にされてしまった。頭がくらくらする。なんでこんなことになってしまったんだろう?

パロレはポッポの入ったモンスターボールを見て、ハッとした。そうか、そうだったんだ。

勝つためにバトルするんじゃない。ポケモンは、戦うための道具じゃないんだ。緊張して、そんな簡単なことも忘れてしまっていたらしい。

もちろん勝つことも大事だけれど、それだけじゃない。モクレンは始めに「自分らしく頑張れ」とアドバイスしてくれたじゃないか。それなのに、そんな大切なことにも気付かずにガチガチに緊張してしまっていた。

そう!自分らしく。バトルを楽しむのだ。そして勢いよく突き進む!

「ポッポ、ごめんな」

パロレはボールにそう声をかけると、別のモンスターボールを手に取った。今度はもう、間違えない。

パロレのそんな様子に、モクレンも気付いたようだ。

「ヒトカゲ!行くぞ!」

「カゲーッ!」
 ▼ 53 ャルマー@バトルサーチャー 17/08/25 00:56:48 ID:JjQg9MZ6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
wktkwktk
 ▼ 54 AYr1xkow/g 17/08/25 01:01:55 ID:Hx4bQL06 [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ヒトカゲ!ひのこだ!」

パロレの声に、ヒトカゲはすぐに反応してくれる。威勢よく鳴き声を上げると、ヒトカゲは素早くチュリネの元まで走り、火を吐いた。チュリネはまともに攻撃を喰らい、その場に仰向けに倒れこむ。

「よし!やったぞ!」

「チュリネ、お疲れ様です。カリキリ!頼みます!」

モクレンはポケモンを繰り出した。

「ヒトカゲ!ひのこだ!」

ヒトカゲの攻撃は正確にカリキリを捉えていた。カリキリは叫ぶ。しかし、戦闘不能に至るまでにはならなかったらしい。

「カリキリ!エナジーボールです!」

カリキリはどうにか体勢を整えると、自然のエネルギーで構成された球体を作り出し、思いきりヒトカゲにぶつけてきた。効果は今ひとつだが、ヒトカゲはかなりダメージを受けてしまったようだ。

「ヒトカゲ!まだ頑張れるか!?」

よろめくヒトカゲに声をかける。

「……カゲェッ!」

ヒトカゲが返事をする。ならば、信じよう。

「ヒトカゲ!もう一度ひのこだ!」

ヒトカゲは、気合をこめていつもより大きな火を吐いた。ひのこはカリキリの顔のど真ん中に当たり、カリキリは気圧されてそのまま倒れた。戦闘不能だ。

「や……、やったぁー!」

パロレが喜びの声を上げる。勝った!ジムリーダーに勝てた!
 ▼ 55 AYr1xkow/g 17/08/25 01:03:53 ID:Hx4bQL06 [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「流石ですね」

モクレンは優しい微笑みを浮かべてそう言ってくれた。

すると、ヒトカゲの体が光り始めた。驚いてヒトカゲを見つめる。眩い光がヒトカゲの体を包みこみ、やがてヒトカゲの姿はよく見えなくなってしまった。目を凝らしてヒトカゲを見つめる。すると、光がだんだん薄くなっていく。やがて、光が消えた時、そこにはヒトカゲはもういなかった。

体長が大きくなり、体毛は濃くなり、目つきは鋭くなっている。そう、ヒトカゲはリザードに進化していたのだ。

「リザァー!」

「う、うわー……!初めての進化だー!」

パロレはそう言って、目をキラキラと輝かせる。リザードは自信たっぷりの表情でパロレを見つめていた。

「やったー!ヒトカゲ!じゃなかったリザード!めちゃくちゃかっこいいよ!」

パロレはそう言いながらリザードに向かって親指を立てた。リザードは嬉しそうにうんうんと頷くと、格好つけて腕を組んだ。

「ははっ!やったなリザード!」

喜んでいるパロレとリザードの元に、モクレンが近づいてくる。

「先程のバトルでよく分かりました。あなたとポケモンの心、確実に通じ合っている……。それはあなたがポケモンに真摯に向き合っている何よりの証拠」

モクレンが言う。パロレはリザードをボールに戻すと、自信に満ち溢れた声で「はい!」と答えた。モクレンはそんなパロレを見て、嬉しそうに微笑む。

「そんなあなたに、このフラワーバッジを差し上げます」

モクレンがそう言って差し出したのは、モクレンの後ろにある大きな花と同じ模様をした、キラキラと光るバッジだ。

「わぁ……!」

初めてのバッジだ。パロレはバッジを大切そうに両手で受け取った。

「それからこれも。『エナジーボール』の技マシンです。相手のとくぼうを下げることもある、高威力の技です。是非うまく使ってくださいね」

「はい!」

パロレはバッジと技マシンをバッグに急いでしまった。

「これから先、たくさんの困難が待っていることでしょう。でもきっとあなたとあなたのポケモンたちなら大丈夫。一緒に乗り越えていってください。応援しています」

モクレンの言葉に、パロレは力強く頷く。

「はい!ありがとうございました!」
 ▼ 56 AYr1xkow/g 17/08/25 17:08:13 ID:7YXHvzG2 NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレは清々しい気分でラランジャシティを出た。もう何も怖いものはない。4番道路に出て、次の街へと進む。

しばらく歩いていると、大きな建物が見えた。パロレは図鑑を開いてタウンマップを見る。試練の塔というらしい。昔は認められた者しか入ることのできなかったが、今は一般トレーナーの修行の場として開放されているという。パロレは中に入ってみることにした。

改めてよく見ると、荘厳な建物だ。そして不自然に傾いている。なんでも、試練に臨むポケモンたちの激しいバトルが何千年も繰り広げられるにつれてだんだん傾いてしまったのだそうだ。

恐る恐る中に足を踏み入れる。内装もまた素晴らしかった。太古に造られた塔であるため、ところどころ損傷しているが、それでも美しい。壁には何やら絵や文字が記されているが、ほとんどが薄くなってよく分からなくなっていた。

「そこの君!よければ、修行の相手をしてくれないかな?」

ふと声をかけられた。エリートトレーナーだ。彼はモンスターボールを持って、挑戦的な笑みを浮かべている。

「はい!喜んで!」

パロレは返事をして、モンスターボールを握りしめた。

そんなこんなで、トレーナーたちとバトルをしつつ塔を登っていたら、いつの間にか最上階までやってきていた。それに、なんとポッポもピジョンに進化した。どんどん頼もしくなっていく仲間たちに、胸の高鳴りが止まらない。

塔の最上階には、大きなバトルコートがあった。まだこの試練の塔を登ることができる人間が少なかった頃、きっとこのコートを使って最後の修行をしていたのだろう。

一通り見て回ったパロレは、試練の塔を出た。空を見上げると、もうすっかり暗くなってしまっていた。

今日はもう、戻って休もう。パロレはラランジャシティまで引き返した。そして、ポケモンセンターで宿を取る。

また明日も頑張ろう。
 ▼ 57 ロモリ@ヨプのみ 17/08/25 17:10:33 ID:XRC8IWdY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 58 ドラ@やすらぎのすず 17/08/25 17:57:36 ID:OKiqYT82 NGネーム登録 NGID登録 報告
公式感がすこ
支援
 ▼ 59 AYr1xkow/g 17/08/26 00:34:58 ID:KTzstDGQ [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
翌日、ラランジャシティを出たパロレは4番道路を突き進んで次の街、ジョーヌシティへとやってきた。

ジョーヌシティは、古さと新しさを兼ね備えた街だ。都会として栄えている反面、昔に建てられた建物もきっちりと残されている。デートスポットとしても有名で、観光客もかなり多い。

ちなみに、街の中央にはアモル地方で一番古く大きな教会があり、そこがポケモンリーグになっているが、管轄はジョーヌシティとはまるっきり別となっている。

「おーい!パロレー!」


「あっ、クオレ!」

振り向くとそこにはクオレがいた。クオレと会うのは少しだけ久しぶりだ。なんだかとても機嫌がよさそうだ。クオレは体を乗り出してきた。

「ねえ、聞いて聞いて!さっきね、イチゴちゃんに会っちゃったの!」

クオレは鼻息荒く語りかけてくるが、パロレは首を傾げた。

「イチゴちゃん……?」

「えー、パロレ知らないの?大人気のタレントさんなのにっ!」

クオレは目を真ん丸にしてパロレを見つめる。

「すっごく可愛かった……さすが芸能人だよねぇ。キラキラ光ってる、って感じだったっ!」

クオレはどこか夢見心地だ。初めて芸能人に遭遇して、相当テンションが上がっている。

「ジョーヌシティはオーロシティと同じくらい大きくて有名な街だもんねぇ……。芸能人とかも買い物とかにしにくるんだね!」

クオレが言う。

「『ジョーヌの休日』って映画があったよね。カロス地方の有名な女優が主人公の……見たことはないけど」

パロレは思い出しながら言った。女優の名前は忘れてしまったけれど。

「そうそう!カルネさんね!素敵な映画だよ」

「あ、そうそうその人」

クオレの言葉にうんうんと頷く。

「ねえパロレ、ちょっと一緒に街を一周してみようよ」

「え……あ、うん」

クオレの提案に、返事がワンテンポ遅れてしまった。そんなパロレの様子を見て、クオレはむうっと頬を膨らませる。

「あー、今ちょっとめんどくさそうな顔したっ!」

「し、してないよ。買い物に付き合わされるのかぁ、って思っただけ」

正直に答えるパロレに、クオレは溜息をついた。

「もうパロレったら。……まあいいや!」

そして、眩しいほどに輝く笑顔でパロレを見つめる。小さい頃から、何故だか分からないけれどクオレのこの顔に弱いのだ。

「ジョーヌには名所もいっぱいあるんだよ!見てみよ!」

「……うん、行こ!」
 ▼ 60 AYr1xkow/g 17/08/26 00:54:46 ID:KTzstDGQ [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレはクオレとジョーヌシティをぐるっと散歩した。オーロシティにも店舗のある高級ブランド店には入ることができなかったが、結局やはりクオレのショッピングに付き合うことになった。

とはいえ、見たのはそれだけではない。ジョーヌシティには、様々な娯楽施設の建ち並ぶ発展した場所もあれば、古き良き景観が残っている場所もあるのだ。ポケモンリーグに繋がる道には恐れ多くて流石に入ることはできなかったが、二人はジョーヌシティの至るところを観光して回ることができた。

さて、パロレはクオレと別れてとある場所へと向かっていた。その場所とは、もちろん決まっている。ジョーヌジムだ。

ジョーヌジムの目の前についた。ジムの看板には、「毒舌プリンセス」と書いてある。ジョーヌジムリーダーはどくタイプ使いと聞いている。どうやら、ジムリーダー本人もどくタイプらしい。

パロレはジムの中に入った。ラランジャジムではへまをしてしまったが、もうそんな心配はいらない。

ジョーヌジムの中は、周りの建物同様荘厳な造りになっていて、まるでお城のようだった。床どころか壁まで大理石で造られていて、迷路になっている。とはいえ、その構造は単純そうだ。

迷路の奥までやってくると、そこにはジムリーダーが待っていた。金髪に碧眼の女性で、髪型はエレガントなポニーテール。ついでに服もパロレの着ているものよりずっと高級そうな生地で出来ている。

「こんにちは!ヴァイスタウンから来たパロレです!」

「いらっしゃい。わたくしはローザ。ジョーヌのジムリーダーですわ」

随分もったいぶるような口調で話す人だ。パロレはそう思った。ローザはキリッとつり上がった瞳でパロレの頭の先から爪先までをじっと見つめた。そして若干笑っているような声で、

「なんだかとっても……親しみやすそうなお方ね」

もしかして、貧乏くさいと言われたのだろうか?

「わたくし、かつてこのアモル地方を治めていた王族の末裔ですの。誇りをかけてあなたと戦わせていただきますわ」

なんと!つまり、ローザは三英雄の一人、エシャロットの子孫にあたる。それなら先程の台詞にも、まあ頷ける。やっぱり彼女もどくタイプだ。パロレは驚きつつも、

「はい!よろしくお願いします!」

元気よく答えた。すると、ローザは目を細めてにやりと笑う。

「ふふ……お覚悟はよろしくて?わたくし、性格も戦い方もねちっこいの」
 ▼ 61 AYr1xkow/g 17/08/26 01:21:12 ID:KTzstDGQ [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
どくタイプのポケモンに対する決定打はない。でも、頑張らないと!

「行け!リザード!」

「頼みましたわ、ゴルバット!」

リザードとゴルバットが睨み合う。

「ゴルバット、おどろかす!」

ゴルバットは素早く飛び上がり、リザードの背後に回るとちょんと背中をつついた。振り向いたリザードに、大きな口を更に大きくばあっと開ける。リザードは驚いて怯み、動けなくなってしまった。

「リザード!ひのこだ!」

「ゴルバット!ちょうおんぱですわ!」

今度はゴルバットが耳障りな高い音を出す。リザードは耳を塞いだ。しかし、音は耳鳴りのようにまだ響いているようで、リザードは混乱してしまった。ひのこもうまく繰り出せず、その場で尻餅をついてダメージを受けてしまう。

「お次はこちら!どくどく!」

ゴルバットの攻撃によって、リザードは既に混乱しているのに更にもうどく状態になってしまった。リザードの体を蝕む毒によって、体力を奪われていく。しかもそのダメージはだんだん増えていくのだ。なるほど、これはかなりのねちっこさである。

パロレは作戦を変えることにした。

「リザード!こわいかお!」

リザードは、痛みを堪えてギロリとゴルバットを睨みつけた。ゴルバットはその顔にたじろいで、少し退いた。

「リザード!ひのこだ!」

先程のこわいかおで、ゴルバットはすばやさが下がっている。おかげでリザードの方が速かった。リザードの混乱は解けているようで、リザードは迷いなく弾みをつけて飛び上がり、口から火を吐いた。ゴルバットは熱そうに悲鳴を上げたが、それでもどうにか耐えてみせた。

「ゴルバット!ベノムショックで決めておしまい!」

ローザが声高らかに叫ぶ。ゴルバットの吐いた毒の塊が、リザードの体に思いきりかかった。リザードは呻き、倒れてしまった。

パロレはリザードをボールに戻した。そして、

「ごめんな、リザード。お疲れ様。……次はこいつだっ!」
 ▼ 62 AYr1xkow/g 17/08/26 01:52:09 ID:KTzstDGQ [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレが繰り出したのはピジョンだ。ピジョンは気合たっぷりに翼を大きく広げた。

「ピジョン!すなかけ!」

ピジョンがさっとゴルバットの目に砂をかける。ゴルバットは叫んだ。

「ゴルバット!ちょうおんぱ!」

ローザが指示を出したが、ちょうおんぱは元々命中率の低い技。更にピジョンのすなかけで、ゴルバットは更に命中率が低下してしまっているのだ。

「ピジョン!かぜおこし!」

ピジョンが激しく翼をはためかせて風を起こす。その風に、ゴルバットは思わず巻きこまれて後ろへと下がってしまう。

「ゴルバット!どくどく!」

ローザの指示に、ゴルバットはしっかりと応えた。どくどくは、どくタイプのポケモンが使うと必ず命中するようになっているのだ。ピジョンももうどく状態になってしまったので、ここは素早く決めるしかない。

「ピジョン!でんこうせっかだ!」

ピジョンは目にも留まらぬ速度で飛び回った。そして、いつの間にかゴルバットの目の前に現れ、思いきり激突する。ゴルバットは反動で吹っ飛び、そのまま床に落ちてしまった。

「あら、意外ですわね」

ローザはゴルバットを戻してパロレを見つめながら白々しく言った。それから、次のポケモンを繰り出す。

「ニドリーナ!行きますわよ!」

「よしピジョン!このまま頑張れるか?」

パロレが問う。ピジョンは顔だけ振り向いてパロレの方を見ると、力強く頷いた。

「じゃあ行こう。かぜおこしだ!」

「ニドリーナ!ベノムショックですわ!」

ピジョンは再び強い風を発生させた。ニドリーナは床に立ったまま後ろに退かざるを得なくなってしまう。しかしニドリーナはくるりとバック宙のような動きをして体勢を整えると、毒を吐き出した。液体なのに個体のような気持ち悪いそれは、ピジョンに思いきりかかった。そして、ピジョンもまたその場に落ちて倒れてしまった。
 ▼ 63 AYr1xkow/g 17/08/26 02:28:50 ID:sSwcGImk [1/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ピジョン、お疲れ様。マリル!頑張るぞ!」

パロレがポケモンを入れ替える。それを待っていたローザが、再び動き出した。

「ニドリーナ!ベノムショックですわ!」

「マリル、頑張るんだ!そしてバブルこうせん!」

ニドリーナの毒は、再びパロレのポケモンを襲う。効果は抜群のはずだが、マリルはどうにか耐えてくれた。口から無数の泡を吐いてニドリーナに向かって放出する。泡はニドリーナの周りでぱちぱちと割れていった。床が揺れて、ニドリーナがその場で滑って転んでしまった。これでは素早く動けなくなってしまう。

「マリル!行くぞ!もう一回バブルこうせんで、決めろっ!」

パロレが叫ぶ。

自分らしく戦う。パロレはそう決めた。楽しみながら、勢いよく突き進むのだ。つまりどういうことかと言うと、そう、ゴリ押しである。

「マルィー!」

マリルはけたたましく鳴き声を上げながら泡を吐いた。ニドリーナは大量の泡に包まれてもがく。すると、せっかく立ち上がったのにも関わらず、再び滑って転んだ。そして、そのまま気を失ってしまった。

ローザはニドリーナをボールに戻す。そして、

「あらやだ。負けてしまいましたわ」

そう言ってやれやれと頭を振る。パロレは小さくガッツポーズを作った。

「ご苦労さまでした。楽しかったですわ。あなたの力を認めます。このベノムバッジをどうぞ」

パロレはバッジを受け取った。ティアラを模したオシャレな形をしたバッジだが、そのティアラには毒々しい色の模様がついている。

「ありがとうございます!」

「それからこちらも差し上げます。『ベノムショック』の技マシンですわ。この技は、どく状態のポケモンに当たるとなんと威力が二倍になるとっても素敵な技ですの」

ローザはうっとりとした口調で言った。パロレは思わず顔を引きつらせたが、なんとか気付かれずに済んだ。

「あなた……、なんだかとても大きな力を感じますわ。将来、大物になるかもしれませんわね」

ローザが真面目な声で言う。

「え!」

パロレは思わず嬉しそうに声を上げた。

「まあ、あなたが自分自身を活かせなければそれはただの幻想で終わるんですけれどね」

その言葉に、パロレのテンションは一気に下がる。

「は……はい。頑張ります……」

そう答えるのが精一杯だ。

「わたくしにはちょうどあなたと同じくらいの弟がいるんですの。あの子は伸び悩んでいるようでしたわ。わたくしも自分を鍛えたくてジムリーダーをやっているけれど……まだ何かが足りない……。あの子だけではなく、わたくしも認めてもらえていない……」

ローザはぶつぶつと呟いている。パロレは何を言っているのかよく分からず、首を傾げた。ローザははっとして、

「失礼、話が逸れましたわね。では、これからも頑張ってくださいまし」

「はい。ありがとうございました!」
 ▼ 64 AYr1xkow/g 17/08/26 11:55:00 ID:sSwcGImk [2/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジョーヌジムを出たパロレは、5番道路に出ようとジョーヌシティをしばらく歩いていた。すると、クオレの後ろ姿が見える。パロレは今度は自分から呼ぶことにした。

「おーいクオレ!さっきぶり!」

「あ!パロレ!うん、さっきぶり」

クオレはニコニコ笑っている。

「ねえ、この先にフォルテ城があるんだよ。王族の人たちが昔住んでて、今はその子孫の人たちが住んでるお城!博物館にもなってるんだって。行ってみようよ!」

クオレの言葉に、パロレははっと思い出す。そうだ、ノグレータウンであの演奏家の人に行ってみたらどうかと言われたんだった。

「うん、ぼくも興味あるな。行ってみたい!」

「うんうん!」

というわけで、パロレはクオレと一緒にジョーヌシティを出て5番道路を歩いていた。城に続く道は綺麗に整備されている。

少し先に城が見えてきた。ふと、クオレが口を開く。

「なんか騒がしいねぇ。スーツみたいな格好の人がいっぱいいるよ?」

「確かに」

パロレは相槌を打ってから、なんだか嫌な予感がして目を凝らした。

「あれってもしかして……」

パロレが呟く。

「パロレ、あの人たち知ってるの?」

クオレがキョトンとした顔で言った。少し近づいたところで、パロレはハッと顔を上げた。

「知ってる!あいつら……スパイス団だ!」

切羽詰まった様子で声を上げるパロレに対し、クオレはよく分かっていないのか、首を捻っている。

「スパイス団……?なんか美味しそうな名前だね」

「それはぼくも思った。でも悪い奴らだよ!」

パロレが早口に言う。クオレの表情がえっ、と曇った。

「そ、そうなの?フォルテ城にぞろぞろ入っていってるよ!?」

不安げな様子のクオレに、パロレは力強く言う。

「止めた方がいい……!行こう!」

「えっ!?あっ、パロレ待って!」

さっさと走り出してしまったパロレの背に向かってクオレは手を伸ばしたが、もう届かない。パロレはスパイス団を追いかけてフォルテ城に入っていった。そんな様子を、クオレは中途半端に手を伸ばした状態で立ち尽くして見つめる他なかった。
 ▼ 65 AYr1xkow/g 17/08/26 12:22:12 ID:sSwcGImk [3/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
フォルテ城の中に入る。巨大で美しい円形平面を成したこの城は、試練の塔や、ジョーヌジムなどとは比べものにならないほど豪華で煌びやかなところだった。

一体、スパイス団は何の目的があってここに?パロレが辺りをキョロキョロと見渡し、どこかに消えていったスパイス団の構成員たちを探していると、

「パロレさん!」

焦った声がパロレの名を呼んだ。パロレは振り返る。

「あっ、ユーリ!」

そこにいたのはユーリだった。

「久しぶりに……」

ユーリはそう言うと何故か急に黙りこんだ。そして、何かを飲みこむように数秒間置いてから、

「……通りすがりに、なんだか騒ぎになっているのを見たので駆けつけました。一体何が起こっているんですか?」

そう尋ねる。

「何故かは分からないけど、スパイス団が中に入ってきてるんだ!」

パロレが言うと、ユーリの表情が険しくなった。

「スパイス団……?聞いたことがあります。止めましょう!」

「うん!」

パロレは頷いた。

ユーリは、迷子になりそうなほど広いフォルテ城の中を、迷うことなく早足で歩いていく。パロレはユーリの後ろについていくことにした。

「博物館として一般公開されているのはこの辺りの部屋ですが、見当たりませんね。目立つように入っていったようですし、強盗が目的ではないみたいですね」

ユーリが注意深く辺りを確認しながら言った。パロレは少し駆け足でユーリの隣まで行くと、口を開いた。

「うん。もし……何かを盗む気なら、そっと入ってくるよね。堂々と入ってたよ。……どこに行っちゃったんだろう?」

パロレがそう言って周りを見回す。すると、パロレとユーリの視線がある一点で止まり、二人は同時に「あっ!」と声を上げた。

そこには警備員の男が三人、気を失って倒れていたのだ。近くには立ち入り禁止にするために使われている金属の棒と赤い紐が散乱している。向こうには階段がある。その先にいるに違いない。

「この先には父上の部屋が……!急がないと!」

真っ青な顔をしたユーリが切羽詰まった声を上げて、一気に階段を駆け上っていった。パロレも慌てて追いかけたが、なんだかどさくさに紛れてとんでもないことを聞いた気がする。

「おい!止まれそこのガキ!」

そう声が聞こえてきたが、止まるわけにはいかない。しかし声の主は何かに気付いたようで、更に続けた。

「ん?まさかお前……一人はこの前のクソ生意気なガキじゃねえか!?」

「ん……?あっ!」

パロレは思わず振り向いた。そして大声を上げる。そこにいたのは、セーニョ大橋で出会ったあの柄の悪い構成員だったのだ。

「またお前かこのクソガキ!今度こそ負けねえからなっ!」

男はそう言って、モンスターボールを投げてきた。急いでるのに!パロレはそう思ったが、仕方ない。パロレもボールを投げた。
 ▼ 66 クタス@ローラースケート 17/08/26 12:23:15 ID:vGM1KJOc NGネーム登録 NGID登録 報告
今作の悪の組織はスパイス団なのね
支援
 ▼ 67 ライオン@りゅうのキバ 17/08/26 12:28:09 ID:4LjYRGSc NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モデルの土地はイタリアかな?
支援
 ▼ 68 AYr1xkow/g 17/08/26 12:43:47 ID:sSwcGImk [4/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「任せたっ、スボミー!」

「行けグラエナ!かみつくだ!」

グラエナは間髪入れずに攻撃を仕掛けてきた。スボミーの体にがぶりと噛みつく。スボミーは痛そうな声を上げた。

「スボミー!エナジーボールだ!」

パロレの指示に、スボミーは素早く体勢を整え、グラエナに向かって思いきりエネルギー体をぶつけた。モクレンに貰った技マシンで、スボミーに技を覚えさせていたのだ。

エナジーボールは威力が高い。グラエナはエナジーボールに押し潰され、壁にぶつかって倒れこんだ。

「あーもう!なんなんだよッ!」

下っ端構成員が頭を抱える。すると、スボミーの体が光り始め、スボミーはロゼリアに進化した。

「やった!ロゼリア、よろしくなっ!」

自分のことなどお構いなしで喜んでいるパロレに、下っ端はかなり苛立っているようだった。そんな下っ端に、ユーリが詰め寄る。

「お前たち!一体何をするつもりだ!」

毅然とした態度のユーリを見て、パロレは少し驚いてしまった。ユーリがこんな荒い口調で話すところを初めて見たからだ。

「ふん!メガシンカについて聞き出してやるんだよ!」

下っ端は吐き捨てるように言った。ユーリが息を呑む。

「アモル地方の王家はいまでも代々メガシンカの権威と言われてる。だから何か秘密を知ってるはずだ。このアモル地方で唯一メガシンカを使えるトレーナーについてもな!」

下っ端の言葉に、ユーリは何故か何も言わずに唇を噛みしめていた。パロレは状況がよく分からず、怪訝な瞳で二人を見つめていた。アモル地方で唯一メガシンカを使えるトレーナー?一体何のことだろう。

「……パロレさん」

ユーリが、妙に抑えた声で言う。

「オレは、ここにいるスパイス団の奴らの相手をします。パロレさんは、現当主の部屋に行ってください!そこの大きな階段を上った先にあります!」

「分かった!行ってくる!」

パロレはそう言って駆け出した。すると、今度は女性の下っ端団員が現れる。

「そこの子供!この先には進ませない!」

女性はそう言って、チョロネコを繰り出してきた。そんな下っ端の前に、素早くユーリが立ち塞がる。

「そうはさせるか!オレが相手だ!」

そしてユーリは、顔だけ振り向いて力強く言った。

「パロレさん!頼みました!」

「了解!」

パロレはそう大声を上げながら、階段を駆け上っていった。
 ▼ 69 カンプー@こだいのどうか 17/08/26 14:19:52 ID:sSwcGImk [5/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>67
正解です

今更ですが、リメイク前とは設定や展開が一部異なっております
以前読んでくださっていた方々、どうかご了承ください
 ▼ 70 AYr1xkow/g 17/08/26 16:28:42 ID:RTfT2Ppk [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレは階段を登りきると、一際大きな扉を見つけた。重い扉をこっそり開ける。すると、中に二人の中年男性がいるのが見えた。

一人はがっちりとした体格の屈強そうな男で、顔も怖い。スキンヘッドにした頭と、いかにも値が張りそうなスーツが特徴的だ。もう一人は金髪碧眼で、厳格そうな顔をしている。こちらの男性もまた、明らかに高級そうな正装姿だ。二人とも、お互いを憎しみをこめて睨み合っていた。

「コルネッホ殿」

スキンヘッドの男が口を開く。

「私たちも手荒な真似をしたくはない。命が惜しければ、おとなしく持っているメガストーンを出して、メガシンカについて知っていることをすべて吐くことだ」

男が言い終えるや否や、コルネッホと呼ばれた男が、

「あなたに話すことなど何もありません」

そうはっきりと突っぱねた。声質こそ穏やかだが、その言葉には有無を言わせぬ力があった。このコルネッホが、アモルの王家の末裔であり、現当主に違いない。

「ふむ……」

スキンヘッドの男がわざとらしく考えこむそぶりを見せる。

「私、ボンゴレは多忙なボスに代わりスパイス団のリーダー役を務めているが……、あなたがそのような態度を取り続けるのならばここはボスをお呼びするしかないようだ」

ボンゴレと名乗った男はそう言うが、コルネッホは屈することはなかった。

「あなたがたが退かないのであれば、こちらにも考えがあります」

そう言って、ボンゴレを強く睨みつける。

まさに一触即発といった状況だ。パロレは小さく深呼吸をすると、飛び出した。

「スパイス団!そこまでだっ!」

ボンゴレはゆっくりと顔を動かしてパロレを見つめた。威圧感が凄まじく、とても怖い。パロレは後ずさりそうなのを必死にこらえた。首筋を汗が伝う。

「悪い奴らは許さないぞ!」

パロレは自分を鼓舞するような気持ちで叫んだ。

「悪い奴ら……。そうか、君がそう思うのならそうなのかもしれない」

ボンゴレはそう言いながらじりじりとパロレに近づいてきた。

「物事の表面しか見ることのできない子供の考えることだ。……まあ、邪魔者は排除するまで」

ボンゴレはそう言って、モンスターボールを手に持った。
 ▼ 71 AYr1xkow/g 17/08/26 16:44:39 ID:RTfT2Ppk [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ロゼリア!行くぞっ!」

進化したばかりのロゼリアを繰り出す。ボンゴレは無言でグラエナを繰り出した。

「グラエナ、とおぼえだ」

「ロゼリア!しびれごな!」

ロゼリアが体から粉を出している間に、グラエナが思いきり吠えた。しびれごなは思いきりかかっていたものの、グラエナは気合十分のようだ。

「よしロゼリア、一旦引こう。マリル!任せた!」

パロレはポケモンを入れ替えた。

「グラエナ、かみつく」

グラエナはマリルに噛みつこうとしたが、体が痺れているためか、ぴたっと立ち止まり、苦しそうにもがいた。

「マリル!バブルこうせんだ!」

「グラエナ、かみつく」

マリルが大量の泡を吐く。グラエナは体を震わせて水を払ったが、素早さは更に下がってしまったようだ。グラエナは痺れに耐えながらモタモタと動きながらマリルの元までやってきてがぶりと噛みついた。

「マリル、行ける!もう一度バブルこうせん!」

マリルは目の前にいるグラエナの顔面に向かって思いきり泡を吹きかけた。目に泡が入り、グラエナは痛そうに呻いてその場に倒れた。

「よしっ!」

パロレが両手でガッツポーズを決める。

「……」

ボンゴレはグラエナを戻すと、次のポケモンを繰り出した。現れたのはルクシオだ。

「スパーク」

ボンゴレの指示にルクシオは素早く反応する。ルクシオは体中に電気を纏って勢いよくマリルに突進してきた。マリルは突き飛ばされ、そのまま倒れた。

「わっ!マリル、お疲れさま」

パロレはマリルをボールに戻した。そして、

「リザード!行くぞ!」

「リザァアー!」
 ▼ 72 AYr1xkow/g 17/08/26 19:09:47 ID:ZG0oL6Nw NGネーム登録 NGID登録 報告
「リザード!えんまくだ!」

リザードが黒い煙を吐く。ルクシオは煙幕に包まれて、周りがよく見えなくなったのか不安げに吠え始めた。

「ルクシオ。いばる」

ルクシオは煙幕の中どうにか進んでリザードを見つけると、リザードに向かって胸を張り、鼻を鳴らした。狙い通りリザードは腹を立ててやる気を出したものの、我を忘れて混乱してしまったのか、辺りにとにかく喚き散らしている。

「リザード!ひのこだ!」

「スパーク」

リザードは明後日の方向に向かって火を吐いた。それによって近くの棚に火が燃え移り、上に乗っていた高そうな壺が落ちてきてリザードの頭の上で割れた。

リザードが痛みに悶えている間に、体に電気を纏ったスパークが素早く走ってきてリザードに思いきり突進した。リザードは数メートル後ろに吹っ飛んだ。

「リザード!落ち着くんだ!ひのこ!」

リザードはパロレの言葉にハッとして、顔を上げた。それから顔を横にぶんぶんと振り、邪念を振り払う。さあ、いつも通り、自分らしくだ。

リザードはルクシオの近くまで駆けていく。ルクシオは構えた。ルクシオはリザードを脅そうとしたのか、二本足で立って思いきり口を開けて威嚇した。リザードはそんなルクシオの腹部に向かって思いきりひのこを吐く。

攻撃が急所に当たったルクシオは、二本足のまま仰向けにひっくり返り、動かなくなってしまった。

「よっしゃ!よくやったリザード!」

「なんということだ」

ボンゴレは呟いた。

リザードをボールに戻す。すると、マリルの入っているボールが光り出した。マリルをボールから出すと、マリルの体が光っていた。パロレは期待をこめてマリルを見つめた。マリルの耳や体が伸びていく。そして、マリルはマリルリに進化した。

「マリルリ!めちゃくちゃ可愛いぞっ!」

パロレが声をかけると、マリルリはウインクをしてばっちりポーズを決めてみせた。その様子を見ていたボンゴレが、やれやれと頭を振って溜息をつく。

「仕方ない。ここは引くとしよう……君、名は?」

「パロレ。ヴァイスタウンから来たパロレです」

パロレははっきりと答えた。

「パロレ……覚えておこう。私たちに刃向かう、勇敢で愚かな子供の名を」

ボンゴレの声はとても低かった。相変わらず怖かったが、それでもパロレはじっとボンゴレから目を離さなかった。ボンゴレはコルネッホに向き直る。

「コルネッホ殿。あなたは古い伝統に縛られて周りが見えていない、頭の固い哀れな人だ。メガシンカは他の地方ではもっと多くの人間が使っている力だ……支配できるものではない」

ボンゴレの言葉に、コルネッホは冷静に答えた。

「だからなんだと言うのですか。アモル地方では限られた者しかメガシンカを使うことはできない。そしてそれを認めることができるのは我ら王族だけなのです」

「今のアモルに王はいない。あなたはその血を継いでいるだけの、ただの人間だ」

ボンゴレが言い放つ。コルネッホは黙りこんだ。

「……まあいい。アモル唯一のメガシンカを使いこなすトレーナーについては、ボスはあらかた目星をつけている。………では」

ボンゴレはそう言って、部屋を去っていった。
 ▼ 73 メパト@おおきなマラサダ 17/08/27 01:59:36 ID:kwZZdnpc NGネーム登録 NGID登録 報告
前スレから読んでるワイ、ボンゴレが実はスキンヘッドでちょっと驚く
 ▼ 74 AYr1xkow/g 17/08/27 14:48:01 ID:YNbWJ5YU [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレはボンゴレが去っていった扉を睨みつけていた。コルネッホは溜息をついて、パロレに近づいてくる。

「見苦しいところをお見せしてしまいましたね。申し訳ありません。助けてくれて、ありがとうございます」

「いえ……。お怪我などもないようでよかったです」

パロレはそう言った。ボンゴレの言葉が気になって、集中できない。

「ふむ……あなたからは強い力を感じますね」

コルネッホがじっとパロレを見つめる。パロレはエッと声を上げた。

「パロレといいましたね。お礼にこれを」

コルネッホがそう言ってパロレに渡したのは、うっすらと輝く石だった。

「あなたがもし己に勝つことのできる真に強いトレーナーなら使いこなすことができるかもしれない」

「……?ありがとうございます」

パロレは、石を得体の知れないものを見るような目で見ていた。だって、なんだかとても恐ろしいものに思えてしまったのだ。石は小さく、ところどころ削られていてでこぼこだ。美しく光っているが、その形はとても無骨だった。

「この石は、あなたと同様でとても未熟……こめられているエネルギーはとても少ない。十分に役目を果たすことができないかもしれない。あなたがこれに相応しいトレーナーかどうか、見定めさせてもらいますよ」

「えっと……はい」

パロレはよく分からないまま答えた。石は、パロレを試すように淡く光っている。

「とはいっても、もうひとつ絆を繋ぎ止める石がなければ無用の長物となってしまいますが……それを見つけることができるかどうかも、あなたに課された試練」

コルネッホは神妙な口調で言う。そして、咳払いをして続けた。

「まあ、よいのです。お守りとでも思って、しっかり持っていてください」

「はい。大切にします」

パロレはそう言って輝く石を慎重にバッグに入れると、コルネッホの部屋を出ていった。
 ▼ 75 AYr1xkow/g 17/08/27 15:17:51 ID:YNbWJ5YU [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
階段を降りると、ユーリが歩いてくるのが見えた。ユーリは大声を上げながらこちらへと近づいてくる。

「パロレさん!スパイス団の奴ら、撤退しました!」

「あ……うん。幹部らしいボンゴレって人とバトルして、なんとか勝ったよ」

パロレが言うと、ユーリは目を見開いて息を呑んだ。それから、しっかりと頭を下げて礼を言う。

「ありがとうございます」

それから顔を上げたユーリは、なんとも言えない表情を浮かべて小さな声で「流石ですね」と言ったが、パロレの耳には届かなかった。

「どういたしまして。というかユーリも、下っ端の奴らをやっつけてくれてありがとう!」

パロレはそう言ってから、先程コルネッホから受け取った石を取り出してユーリに見えるように持った。

「お礼にコルネッホさんから石をもらったけど……なんだろう、これ」

ユーリはそれを見た瞬間、愕然とした表情になった。パロレが驚いてユーリを見つめたが、ユーリは何も言わなかった。ユーリの顔には、様々な感情が綯い交ぜになった表情が浮かんでいた。

「父上は……一体何を考えているんだ……」

ユーリが呟く。パロレは今度こそ、重要な言葉を聞き逃さなかった。

「ねえ、ちちう」

「おーい!パロレー!あっ、ユーリもー!」

パロレの言葉を遮って、大きな声が聞こえてくる。見れば、クオレが大きく手を振りながらこちらに走ってきていた。

「二人とも、大丈夫?怪我とかしてない!?」

「うん。大丈夫だよ」

パロレがにっこり笑って言う。

「オレも無事です」

ユーリもそう言った。

「よかったぁ……」

クオレがホッと胸を撫で下ろす。

「あのスパイス団?って人たちが、お城から出ていくのが見えたから……。……わたし、何もできなくてごめんね」

「ううん。クオレに何もなくてよかったよ」

「……」

クオレは、神妙な顔つきで黙りこんでいる。すると、何かを考えこんでいる様子だったユーリがゆっくりと口を開いた。

「……お二人には、言ってませんでしたね。オレ、アモル地方の王家の末裔なんです」

ユーリの言葉に、パロレとクオレは驚愕して大声を上げる。

「やっぱり!なんかおかしいなって思ってたんだ。……っていうか、そんな軽く言うことじゃないよね!?」

「えええ!?びっくり!って感じー!」
 ▼ 76 AYr1xkow/g 17/08/27 15:31:13 ID:YNbWJ5YU [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あ!じゃあ、ジョーヌシティジムリーダーのローザさんって……お姉さん?」

パロレが聞くと、ユーリはこくりと頷いた。

「はい、姉です」

「弟がいるって言ってたけど、まさかユーリだったなんてなぁ」

パロレがぼんやりとローザを思い出しながら言うと、ユーリは露骨に嫌そうな顔をした。そんな珍しい様子を見て、思わず笑ってしまいそうになる。

「あ……オレの話をしたんですか?やめてほしいな……」

そう呟くユーリ。

「あの人、性格悪いから。何か嫌なこと言われませんでした?」

パロレは一瞬考えたが、ユーリには言わないでおくことにした。

「……うん。特には」

「ならよかった」

ユーリはそう言うと、ふうと小さく溜息をついた。

「父、コルネッホは厳格な人。強い人しか認めないんです」

ユーリの声は小さかったが、とても力がこもっていた。

「でも、ジムリーダーを務める一流のトレーナーである姉すらも父から認められていない。父は、オレたちには何かが足りないといつも言うんです。でも……」

ユーリはそう言うとそっと目を伏せた。

「……何が足りないのかも教えてくれない……まともに取り合ってすらくれない……。せっかくポケモンを手に入れて会いに戻ったのに、何故か怒られましたし……」

ユーリがぶつぶつと呟く。

「コルネッホさん、まあまあ優しそうに見えたけど……」

パロレが言うと、ユーリは顔を上げて音が鳴りそうなほど激しく首を横に振った。

「あのテンションで怒られるんですよ」

パロレはボンゴレと言い合っていたコルネッホを思い出した。確かに、怖そうだ。食事の後に食器を片付けずにテレビを見ていると怒る母親よりも、怖そう。

「それに、父は本当に凄まじく頑固なので……」

ユーリはそう言って溜息をついた。
 ▼ 77 AYr1xkow/g 17/08/27 16:35:32 ID:YNbWJ5YU [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「メガシンカ、ってあるじゃないですか。メガシンカは、他の地方では一般の人にももっとよく知られているものらしいんです」

ユーリはそう言いながら歩き出した。パロレとクオレもついていく。三人は、フォルテ城一階の博物館までやってきていた。

「カロス地方ではメガシンカの力を得るための修行の場があったり、ホウエン地方ではメガシンカの起源にまつわる伝承があったりするそうです」

「へぇー……」

クオレが声を上げる。

「姉はああ見えて意外と真面目なので、バトルだけではなくそういった知識も学んでいるんです。なので、この話は姉から聞いた受け売りなんですけどね」

ユーリはそう言って軽く笑った。三人は、このフォルテ博物館で最も価値のあるものと言われているとある展示物の前に来ていた。

それぞれポケモンを従えた三人の人物の彫像。アモルの三英雄の像だ。

一人はタブンネに似たポケモンを従えた唯一の女性、メローネ。一人はフーディンに似たポケモンを従えた男性、アングリア。そしてもう一人は、エルレイドに似たポケモンを従えた、かつてのアモルの王、エシャロット。

「彼ら、三人の旅人はアモル地方にメガシンカをもたらした。その力によって、アモルは戦に勝ち、栄光への道を辿った……」

ユーリが、三英雄の像を見上げながら呟くように言う。三英雄が操ったという、ポケモンの姿を変え、更に強化させるという不思議な力。それこそが、メガシンカの力だったのだ。

「三人のうちの一人、エシャロットはアモルの王となった。彼らは自分たちの持つメガシンカの力を、資格ある者に与えることにした。そしてその資格ある者を選び出すこと、それがアモルの王家に受け継がれた使命」

三英雄の像は、今にも動き出しそうだった。かつてのアモルの民を導いた、アモルの歴史を作った三人の旅人だ。メガタブンネ、メガフーディン、メガエルレイドの像も、躍動感あるポーズをした姿に彫られている。

「エシャロットは王となった後、アングリアは側近としてエシャロットの右腕になったと言われています。また、メローネは民と直接言葉を交わし、王家と国民の架け橋となる役職に就いたそうです」

「三人がいないと、アモルは本当に成り立たなかったんだ」

パロレの言葉にユーリは頷く。

「そして、その三人によって、以降は資格ある者にメガシンカの力を与えることとなった。……だから、ここアモルは他の地方よりメガシンカに関する情報があまり知られていないのです。メガシンカは、『資格ある者』のみに許された力だから」

ユーリはそう言うと、パロレとクオレに向き直った。

「トレーナーの強さを見極め、メガシンカに必要な力を与えるのが王家の末裔の役目。父はそれを全うしようとするあまりに、あんなに頑固になってしまったのではないかとオレは思います」

「なるほど……」

パロレは溜息のような声を漏らした。

「オレは……強くなって、父に認められたい。メガシンカを使いこなしたい。だからあの日、父以外にメガシンカについて聞くならスリジエ博士かと思い、研究所に行ったんです」

「そうだったんだねぇ」

クオレが、圧倒的な迫力を放つ三英雄の像から目を離さないままそう言った。

「そうそう、かつては4番道路にある試練の塔で資格ある者たちを試していたそうですよ」

ユーリはそう付け加えた。
 ▼ 78 タマロ@やわらかいすな 17/08/27 16:40:46 ID:FeI88y2Y NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 79 AYr1xkow/g 17/08/27 18:02:07 ID:50rcaBPg [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「王家の末裔に資格ある者として認められたトレーナーは本当に少ないんですよ」

ユーリの声はかなり不満そうだ。

「八年前、百年ぶりにメガシンカを使うことを許され、その実力を認められたトレーナーがいた……オレはそう聞いています。誰なのかは知りませんけど」

「百年ぶり!?」

「す、すごいね!」

パロレとクオレは、目を見開いて驚愕の声を上げた。

「アモル唯一のメガシンカの使い手。きっと、今のアモルで一番強いトレーナーに違いありません。オレは、その話について詳しく知りたい……」

「ぼくも知りたいな」

八年前という言葉がやけに引っかかる。

いや、まさかそんなことはないだろう。パロレは自分の考えを振り払った。

「わたしには到底無理な話だなぁ……」

クオレが憂いを帯びた声で言う。

「やっぱり、強くならなきゃダメだ。とにかく強くならないと……ポケモンを鍛えないと……」

ユーリが呟きながら俯いたその時。コツ、コツ、と、ハイヒールの靴が大理石の床を蹴る高い音が鳴り響いた。

もちろん、何らおかしなことはない。ここは一般公開されている博物館だ。とはいえ、先程までスパイス団がいたちょっとした危険区域ではあるため、普通の人ならば入ってこないだろうが。

ハイヒールの音が鳴り止んだ。パロレたちが振り向く。そこには、服のポケットに手を突っ込んだ、薄紫色のボブヘアーの女性が立っていた。じっとりとした目つきからは少し取っつきにくそうな印象を受ける。女性の紫色の瞳が、パロレたちの腰にあるモンスターボールをばっちりと捉えている。パロレは何故か、どこかで見たことがあるような気がした。

「あんたたちがやったの?」

女性が言う。一瞬、何のことか分からなかった。クオレが慌てて手を振った。

「わた、わたしは何もしてないです」

「オレも大したことはしていません。彼がやってくれました」

ユーリがパロレを指す。

「え?ぼく!?」

パロレが素っ頓狂な声を上げる。女性の目がパロレに向いた。

「へえ」

女性はそれだけしか言わなかった。

パロレはなんだか怖かった。このぶっきらぼうでミステリアスな女性の瞳から、逃れられる気がしない。

「やるじゃん」

女性はそう言ったが、その言い方があまりにも無感情すぎて、本当に「やるじゃん」とは思っていないのではないかと思えた。

「あんたのこと、覚えといてあげる」

女性は意味ありげな言葉を言うと、「失礼」と言ってその場から離れ、コルネッホの部屋へと続く階段を迷いなく上がっていった。
 ▼ 80 AYr1xkow/g 17/08/27 18:03:45 ID:50rcaBPg [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
「だ、誰だろう……父に話でもあるんでしょうか……このタイミングで……」

ユーリは不安げな表情で女性の後ろ姿を見つめていた。

「覚えといてあげるって言われたけど……どういうことだろう?」

パロレも青い顔をして言う。もしかして、危ない人に目をつけられてしまったのだろうか。

「ちょっと怖い感じの人だったけど……でも綺麗な人だったねぇ。あの人が着てた服、高級ブランドのやつだよ!」

クオレのテンションは少し上がっている。

「……オレはそろそろ行きますね。もう、父とは一応話しましたし。十分な結果は出ませんでしたけど……」

ユーリの声が徐々に小さくなっていく。

「うん、またね!わたしもジョーヌシティに戻らないと……」

「あれ?先に行かないの?」

パロレが聞くと、クオレは微かに顔を赤らめて小さな声で答えた。

「えっと……わたしはまだジョーヌジムに挑戦してないんだ。ほんと遅くてバカみたい!って感じだよね!あはは!」

明らかに無理をして笑っているクオレに、パロレは真面目な顔で、

「そんなことないよ。ジム戦頑張ってね」

パロレの言葉に、クオレは小さく唇を噛みしめた。

「……うん。ありがとう」

「うん。……ぼくは今日は疲れたしもう休もうかな。ぼくもジョーヌシティに戻るよ!クオレ、一緒に行こう」

観光をしたり、ジムに挑戦したり、スパイス団の幹部とバトルをしたりと、たくさんのことがあった日だった。緊張が解れると、一気に疲れが溢れてくる。クオレに声をかけると、快く頷いてくれた。

「じゃあねユーリ!またね!」

「はい。では!」
 ▼ 81 AYr1xkow/g 17/08/28 10:33:06 ID:e9t/jUQU [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
念のための由来・モデル一覧
地名編@

アモル地方
イタリアをモデルにした地方。アモルとはラテン語で愛という意味。

ヴァイスタウン
ヴェローナに相当。ドイツ語で白という意味。

オーロシティ
ミラノに相当。イタリア語で金という意味。

ノグレータウン
ヴェネツィアに相当。ペルシア語で銀という意味。

セーニョ川
ポー川に相当。名前の由来は演奏記号。楽譜上では、ダル・セーニョという記号がある箇所からセーニョという記号がついた箇所に移動せよ、という意味で使われる。

アズハルタウン
ボローニャに相当。アラビア語でピンクという意味。

ラランジャシティ
フィレンツェに相当。ポルトガル語でオレンジという意味。

試練の塔
ピサの斜塔に相当。

ジョーヌシティ
ローマに相当。フランス語で黄色という意味。

ポケモンリーグ
バチカン市国、サン・ピエトロ大聖堂に相当。

フォルテ城
サンタンジェロ城に相当。名前は強くという意味の演奏記号から。
 ▼ 82 AYr1xkow/g 17/08/28 10:37:29 ID:e9t/jUQU [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
念のための由来・モデル一覧
人名編@

パロレ Parole
イタリア語で言葉という意味。

クオレ Cuore
イタリア語で心という意味。

アキニレ Akinire
ニレ科ニレ属の落葉高木である秋楡。

ユーリ Yuri
ユリ目ユリ科ユリ属の多年草、百合をもじったもの。

スリジエ Cerisier
バラ科モモ亜科スモモ属の落葉樹、桜のフランス語。ちなみに年齢は秘密だけどルザミーネさんよりは年下だと思う

モクレン Mokuren
モクレン目モクレン科モクレン属の落葉低木である木蓮。

ローザ Rosa
バラ科バラ属の植物、薔薇のイタリア語。

ボンゴレ Vongole
アサリなどの二枚貝を使ったパスタから。ちなみに本来の意味はイタリア語でマルスダレガイ科の二枚貝を指す単語、ヴォンゴラの複数形。

コルネッホ Cornejo
ミズキ科ミズキ属ヤマボウシ亜属の落葉高木、花水木のスペイン語。
 ▼ 83 クリン@ロックメモリ 17/08/28 11:25:37 ID:dptU1.Js NGネーム登録 NGID登録 報告
公式でこのストーリーやっても違和感なさそう
支援
 ▼ 84 ターミー@あまいミツ 17/08/29 22:41:17 ID:DbODKCaQ NGネーム登録 NGID登録 報告
前スレから読んでます
支援
 ▼ 85 AYr1xkow/g 17/08/29 23:23:42 ID:s/DW7bNY [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
あれからジョーヌシティのポケモンセンターに戻り、宿を取って休んだその翌日。ジョーヌシティを出ようとしたパロレは、とある人物に呼び止められた。

「おーい、パロレ!」

クオレだ。

「パロレ、昨日は応援ありがとね。さっきジョーヌジムに行ってきたの!」

そう言って両手を握り、ファイトポーズを取ったクオレ。

「その様子だと、勝てたんだね!」

パロレが言うと、クオレは少し恥ずかしそうに、

「うーんと、一応ね。苦戦しちゃったけど……」

「そっか。でもおめでとう!」

パロレが言うと、クオレははにかんだ。

「それでさ!ちょっと久しぶりにバトルしようよ!」

クオレが言う。もちろん、断る理由なんてない。パロレだってそのつもりだったのだから。

「うん、しよう!」

パロレが答えると、クオレは頷き、モンスターボールを投げた。

「いっけー!アブリー!」

クオレが繰り出したのは、ツリアブポケモンのアブリーだ。小さくて可愛らしいアブリーは、クオレの近くをぱたぱたと飛び回っている。パロレもポケモンを繰り出した。

「よし!行くぞ、ピジョン!」

「アブリー!ドレインキッスだよっ!」

アブリーはピジョンに近づくと、頬の辺りにキスをした。ピジョンは満更でもなさそうな顔をしており、体力を吸われたことに気づいていなさそうである。

「ピジョン、アホかっ。かぜおこしだ!」

パロレは苦笑しつつそうツッコミを入れ、指示を出す。ピジョンはハッと我に返り、激しく風を起こし始めた。アブリーは風に吹っ飛ばされて遠くまでいってしまった。

「わーっ!」

クオレが慌ててアブリーを追いかける。見つけたところでアブリーは戦闘不能になってしまっていた。

「あー、ごめんねアブリー」

クオレはそう言ってアブリーをボールに戻すと、次のモンスターボールに手をかける。

「よし!次はこの子だよっ!頑張れ!ヤドン!」
 ▼ 86 AYr1xkow/g 17/08/29 23:25:01 ID:s/DW7bNY [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
クオレがヤドンを繰り出したのを見て、パロレもポケモンを入れ替えることにした。ピジョンをボールに戻し、ロゼリアを繰り出す。ロゼリアはくるくると回転しながらボールから出てきた。バッチリとターンを決めたロゼリアは、目の前に間抜けな顔をしたピンク色のポケモンがいることに気付いて思わず飛び上がる。

「ヤドン!あくび!」

ロゼリアを待ち伏せしていたヤドンは、大きな欠伸をした。ロゼリアもつられて欠伸をする。

「ロゼリア!エナジーボールだ!」

ロゼリアは眠そうな顔をしつつ、エネルギーを集めて球体の塊を作り出し、ヤドンに思いきりぶつけた。エナジーボールはヤドンに直撃し、ヤドンは仰向けに倒れて気絶した。そしてそれを見届けたロゼリアは、一際大きな欠伸をしてからその場に座りこみ、すやすやと寝息を立て始めた。

「わっ、ヤドンごめんねぇ!よーし、ジャノビー、行っくよー!」

パロレがヤドンを戻してジャノビーを繰り出した。パロレも、

「お疲れ、ロゼリア。リザード!行くぞ!」

「ジャノビー、やどりぎのタネ!」

クオレが言うと、ジャノビーはリザードの体に種を投げつけてきた。種はリザードの鼻の上につき、そこから芽が生える。なんとも言えない状況に、パロレは笑いそうになってしまった。リザードは視界の邪魔になる小さな芽を眉をひそめて見つめている。

「ジャノビー、まきつく!」

ジャノビーは細い体をしならせてリザードの体に巻きついた。リザードは苦しそうに呻く。

「リザード、ひのこだ!」

パロレの指示に、リザードは体を拘束されつつもどうにか力を振り絞ってジャノビーの首元辺りに小さな火を吐いた。ジャノビーが甲高い叫び声を上げる。

「ジャノビー、頑張って!メガドレインだよ!」

ジャノビーは負けじと、至近距離でリザードにやり返してきた。体力を回復されては面倒だが、効果は今ひとつ。それほど回復できていないはずだ。

「リザード!次で決めよう!ひのこだ!」

「リザッ!」

リザードはジャノビーの顔に向かって火を吐いた。

「ジャ……ノッ……!」

ジャノビーはリザードから体を離し、その場に倒れこんだ。

「あーん!また負けちゃったー!」

クオレが叫んだ。
 ▼ 87 AYr1xkow/g 17/08/29 23:28:09 ID:s/DW7bNY [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「やっぱりパロレは強いなぁ。勝てないよ」

クオレが肩を落として言う。パロレは「そうかな」と曖昧に答えた。すると、クオレが首を傾げる。何かと思えば、クオレの視線の先にエーフィがいたのだった。

「んん……?」

パロレも声を上げた。すると、エーフィのトレーナーである男性がこちらに近づいてきて「おーい!」と声を上げた。その声を聞いて、パロレとクオレははっと顔を上げる。

「二人とも!調子はどうだ?」

「アキニレさん!」

クオレが声を上げた。

「その様子を見ると、順調みたいだな!」

アキニレがそう言って快活に笑う。エーフィはそんなアキニレの足にすりすりと体を擦りつけ、「フィフィ!」と嬉しそうに鳴き声を上げた。

「うんうん、君たちが強くなってるのをこいつも感じてるようだぞ」

アキニレが言うと、クオレが小さな声で、

「えっと……わたしはそんなには強くないけど……」

クオレのその言葉に、アキニレは優しい声で言う。

「強さっていうのは、バトルだけの話じゃないのさ」

それからアキニレはパン、と手を叩くと、

「さて!せっかくだからポケモン図鑑を見せてもらおうかな。どうだ?ポケモン捕まえてるか?」

そう言った。その瞬間、パロレはまずい、という顔を浮かべる。もちろんアキニレはそんなパロレの様子を見逃さなかった。

「あー……ぼくはあんまり……」

適当に誤魔化そうとするパロレに構わず、アキニレはパロレのズボンのポケットからポケモン図鑑を勝手に取り出して起動する。

「うーん、本当だ。バトルに熱中してるな?それももちろんいいことだけど、兄ちゃんちょっと寂しいなぁ」

アキニレが正直な意見を述べているのを聞いて、パロレはさっと顔を赤らめた。兄さんごめんって!

「あ、あの!わたしは結構ポケモンいっぱい捕まえました!」

クオレがそう言って、自分のポケモン図鑑を差し出す。アキニレはクオレの図鑑を眺めながら「おっ」と声を上げた。

「本当だ!クオレちゃん、すごいじゃないか。図鑑がパロレの二倍は埋まってるな」

アキニレが嬉しそうに言う。

「ええっ、クオレすごい」

パロレは思わず声を上げてクオレのポケモン図鑑を覗きこんだ。クオレは恥ずかしそうに笑う。

「ポケモンってなんであんなにみんな姿も強さも違うのかな?不思議でついつい捕まえちゃう!」

クオレのその言葉に、アキニレは嬉しそうに微笑んで目を輝かせるクオレの顔をちらりと見た。

「育てるのはそんなに得意じゃないけど……」

クオレがそう言うと、アキニレはクオレに図鑑を返しながら首を横に振った。
 ▼ 88 AYr1xkow/g 17/08/29 23:30:08 ID:s/DW7bNY [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「いや、そんな視点からポケモンを見ることができる……それもクオレちゃんの素晴らしい才能のひとつだ!」

アキニレはそう言って、鞄に手を突っ込んでゴソゴソと何かを探し始めた。

「ははは!いやー、嬉しいなぁ!クオレちゃんにはスーパーボールをあげよう。いっぱい使うだろ?」

相変わらず整理整頓が苦手なアキニレは、ようやく見つけたスーパーボールを十個以上クオレに手渡した。その姿はさながら小さな孫に飴を分け与える祖母のようである。

「わ!ありがとうございます!」

「えー、クオレいいなぁ。タダで……」

パロレがそう言いかけると、アキニレが「コラ」と言いながら軽くパロレの頭にチョップした。

「イテッ」

パロレは声を上げた。

「冗談冗談。パロレにももちろんやるさ」

アキニレがそう言って、パロレにもスーパーボールを渡す。

「ありがとう兄さん!」

パロレがそう言って受け取ると、アキニレは軽くパロレの頭を撫でた。子供扱いは少し恥ずかしい。でも、アキニレの手は大きくて温かかった。

「さて!俺はそろそろ行こうかな。二人ともまたな!」

「うん。じゃあね!」

「ありがとうございましたーっ!」

アキニレは二人に手を振って去っていった。エーフィがアキニレを追いかける。

アキニレの後ろ姿を見送ると、クオレが嬉しそうに口を開いた。

「えへへ!褒められちゃった。嬉しいなぁ」

クオレはそう言って頬に手を当ててゆらゆらと左右に体を揺らした。

「わたしもアキニレさんみたいに、ポケモンについて調べてみたいかも……!」

「ぼくは研究とか難しそうであんまりよく分かんないけど……、兄さんはいつもすごく楽しそうだよ。そういうのもいいと思う!」

パロレがそう言うと、クオレはニコニコ笑って、

「そうかなっ?でもわたし、まだまだ知らないことばっかりだしね。頑張らなきゃ!」

そう言って、くるりと後ろを振り向く。

「……わたし、もう一回ちょっと街を周ってから行こうかな。パロレ、また今度ね!」

「うん。バイバイ!」

パロレはそう言って、クオレに手を振った。
 ▼ 89 AYr1xkow/g 17/08/30 13:24:20 ID:oDjhkzpM [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレはジョーヌシティを出ると5番道路を通ってフォルテ城まで向かい、更に6番道路を越えて次の街、セールイシティにやってきた。

ジョーヌシティを越えてからのアモル地方南部は、北部に比べて田舎だ。それなりに大きな街ではあるが、オーロシティやジョーヌシティほど発展はしていない。

更にこのセールイシティは、火山の近くにあるので気温が高い。パロレの額には汗が滲んでいた。

さて、目的地であるセールイジムへとたどりついた。看板には「心に灯すは消えない焔」と書いてある。読んで字の如く、セールイジムリーダーはほのおタイプ使いである。

パロレはセールイジムに入った。ジムの中は真っ暗でどこか涼しい。すると、いきなり視界にパッと明るい何かが映り、暖かくなった。見ると、火のついた松明がすぐそこに置いてあった。誰が準備してくれたのだろう?そう思ったが、細かいことは気にしないことにした。

松明を手に持つ。ほんのりと周りだけ明るくなった。とはいえ、ほとんど見えない。パロレは松明を振り回して様々な方向を確認してみたが、やっぱりよく分からなかった。試しに前に歩いてみれば、壁のようなものに思いきりぶつかってしまった。

どうすればいいのだろう。松明の炎を見て、パロレはそういえば先程少し涼しかったことを思い出した。この松明が現れるまでは、そう、建物内ではあるが風があったのだ。

火が風で揺れている。とある一定の方向に。

「あっ!」

パロレは気付いた。火の向いている方向、つまり風の向いている方向に向かえばいいに違いない。

しばらく火の向きに向かって方向転換しつつ進んでいると、どうやら一番奥に来たらしく、五つの燭台に囲まれて少し明るくなっている台座が見えてきた。台座の真ん中には人が立っていて、五つの燭台のうち一番手前にある燭台には火がついていない。パロレは手に持っている松明の火を、その燭台に近づけた。

ぼうっと火が燃え上がり、辺りが更に明るくなる。すると、台座の上に立っていた人の顔がよく見えた。

「こんにちは!ヴァイスタウンから来た、パロレです!」

パロレが元気よく自己紹介する。

「これはこれはこんにちは、パロレさん。ワシはセールイジムリーダーのマンサクです」

マンサクはニコニコと笑っている。火山灰を連想させるような、真っ白い髪と髭を生やした好々爺だ。

「ここまでよく来れましたな。分かりづらかったでしょう。ワシもたまに迷ってしまいますからな!ワハハ!」

そう言って快活に笑う。マンサクはそれからパロレをじっと見つめた。

「ほう、いい目をしておる。これは期待できますな!ほれ、それでは楽しい楽しいバトルを始めましょうか」

マンサクはそう言うと、モンスターボールを手に取った。パロレも準備万端だ。しかし、マンサクはポケモンを繰り返さずにしばらく話し続けた。

「バトルはね、やっぱり楽しんでやるのが一番です。棺桶に片足突っ込むくらいの年齢になるとそう思えてくるんですな。いや、ワシはもう腹の辺りまで入ってますがね!ワハハ!」
 ▼ 90 AYr1xkow/g 17/08/30 13:27:35 ID:oDjhkzpM [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ほい、いってらっしゃいドンメル!」

マンサクがドンメルを繰り出した。ほのおタイプに対抗するなら、一匹しかいない。パロレはモンスターボールを力強く投げつけた。

「マーリィ!」

ボールから出たマリルリは気合十分だ。

「マリルリ!任せたぞ!アクアテールだ!」

「マリ!」

マリルリは思いきり尻尾をドンメルに叩きつけた。ドンメルは強い衝撃で吹っ飛び、一撃で気を失ってしまった。

「あらあら、ドンメルお疲れ様です。コータス、頑張りますよ!」

マンサクが繰り出したのはコータスだ。コータスは鼻や甲羅の上の穴から煙を出す。

「マリルリ、まるくなる!」

パロレの指示に、マリルリが体を丸めて構える。するとマンサクがお、と声を上げた。

「嫌な予感がしますな。コータス、のろい!」

コータスは元々素早さが低い上に更にゆっくりな動きで神経を研ぎ澄ませる。攻めも守りも準備万端だ。

「マリルリ!ころがる!」

マリルリは、先程の体を丸めた体勢のまま一気に転がってコータスに思いきりぶつかった。コータスは苦しそうにしながら、どうにか踏ん張って倒れずに済んだ。

決定打にはならなかったが、かなり体力を削ることができたはずだ。ころがるは徐々に威力を増す技。更に、まるくなるをしてからころがる攻撃をすると、なんと威力は二倍になるのだ。

「コータス、えんまく!」

マンサクはニコニコと笑いながら指示を出す。コータスは黒い煙を吐き出した。ころがるは連続で成功すれば高いダメージを与えられるが、失敗してしまうとそこで終わりだ。えんまくで命中率を下げたのは、それが狙いだろう。

「マリルリ負けるな!」

パロレの声が届いたのか、マリルリは前が見えていないにも関わらず正確にコータスを狙って転がった。勢いよくやってくるマリルリにぶつかったコータスは、仰向けにひっくり返って元に戻れなくなってしまった。戦闘不能だ。

「ふむ、最後です。キュウコン!頼みましたぞ!」
 ▼ 91 AYr1xkow/g 17/08/30 13:33:53 ID:oDjhkzpM [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「キュウコン!あやしいひかり!」

キュウコンが奇妙に動き回る光を発生させると、マリルリはそちらに気を取られ、見当違いの方向に転がっていってしまった。マリルリは壁に思いきりぶつかり、立ち止まって痛そうに呻いている。

「キュウコン、にほんばれ!」

キュウコンがにほんばれを使うと、室内であるにも関わらず、気温が上がり、暑くなってきた。

「マリルリ!頑張れ!アクアテールだ!」

マリルリは混乱しており、壁に向かって攻撃をした。弾みで尻尾が跳ね返り、それによって倒れてダメージを受けてしまう。

「キュウコン!かえんほうしゃ!」

キュウコンは口から凄まじい勢いでごうっと炎を吐いた。炎はマリルリに直撃だ。しかし、マリルリはみずタイプ。効果は今ひとつだ。ほのお技の威力が上がっていても敵わない。

そして、にほんばれでみずタイプの技の威力が下がっていても問題はない。なぜならパロレのマリルリの特性はちからもち。物理技の威力が半分になるという、強力な特性を持っているからだ。

「マリルリ!一回当てれば決められる!行くぞ!アクアテールッ!」

「マリーィッ!」

マリルリは思いきり尻尾をキュウコンに叩きつけた。キュウコンもまた、その一発で戦闘不能となってしまったのだった。

「天晴れ!」

マンサクが朗らかに言った。

「楽しいバトルでしたな!パロレさん、あなたは強くてかっこよくて……若い頃のワシにそっくりです。ワハハ!」

マンサクはそう言って大声で笑う。パロレは何と答えるべきか分からず、苦笑いした。

「さて、あなたの強さを認めてこれをお渡ししましょうぞ。フレイムバッジをどうぞ!」

「ありがとうございます!」

真っ赤に輝くフレイムバッジは、五つの小さな炎が集まった形をしている。

「それからこれもどうぞ。『にほんばれ』の技マシンですな。天候を変えることのできる技で、色々な追加効果があるんですよ。ぜひ上手く使ってくださいな、ほれ!」

パロレは技マシンを受け取ると、バッジと技マシンを大切そうにバッグにしまった。

「これから大変なこともたくさんありましょうが、心配する必要はありません。みんな同じように経験していくことですからな!それでは、パロレさんの未来に、幸あれ!」

「これからも頑張ります。ありがとうございました!」

パロレは元気よくマンサクと挨拶を交わし、セールイジムを出ていった。

タウンマップによると、この後はイーラ火山と古代都市という大きな山や遺跡を越えていかなければならないらしい。きっと大変だろう。英気を養うために、パロレは今日は一旦ここで休憩することにした。そういえば、ここセールイシティには温泉があるらしい。あとで行ってみよう。

「マリルリ、お疲れさま。それじゃ今日はゆっくりしような」

パロレはそう言って、ポケモンセンターに向かった。
 ▼ 92 シャーナ@ファイヤーメモリ 17/08/31 01:23:22 ID:ng8mVhFM [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
さて、一日が過ぎた。パロレは準備を整えてセールイシティを発っていった。目指すはイーラ火山だ。

イーラ火山には、かつて幻のポケモンの怒りによって噴火したという言い伝えがある。その幻のポケモンは炎と水という対極の力を操ることができ、今も火山で眠っている、という伝説まであるのだ。

7番道路を歩いてイーラ火山に近づくと、更に暑くなってきた。パロレは手で顔をぱたぱたと扇ぎながら進む。すると、火山の麓に人がいるのが見えた。パロレと同い年くらいの女の子だ。ストレートロングヘアーの深い青色の髪が強く目を引く。女の子は、パロレに気がつくと、「助けてください……!」と声をかけてきた。

「どうしたの?」

パロレが慌てて駆け寄り問う。女の子は両手を結んで握りしめ、不安げな表情を浮かべていた。

「わたしはオリヴィエと申します。イーラ火山に眠る幻のポケモンを守る、イーラの巫女です」

パロレは「イーラの巫女?」と言いながら首を傾げた。

「イーラ火山にはボルケニオンという幻のポケモンが眠っていると言われております。ボルケニオンはかつてその眠りを妨げられた時、ボルケニオンは怒り狂い、イーラ火山を噴火させました。その被害は甚大で、街がひとつ壊滅したと言われております」

「ボルケニオン……」

パロレは聞き慣れないポケモンの名前を、ゆっくりと繰り返した。

「ボルケニオンの力はとても強大です。それゆえにボルケニオンの眠りを二度と邪魔することのないよう、わたしたち歴代の巫女はイーラ火山、そしてアモル地方を守っているのです。ですが……」

オリヴィエが溜息をつく。

「わたしを押しのけて中に人が入ってしまったのです。火口近くに行けば、ボルケニオンが目を覚ましてしまうかもしれません……!わたしはトレーナーではないので戦えないのです。どうか助けてくださいませんか……!」

オリヴィエの声は悲痛だった。パロレは頷く。

「分かった!」

そして、イーラ火山に足を踏み入れた。

イーラ火山の麓は観光地になっているが、火口近くは立入禁止となっているはずだ。一体何が目的で中に入っていってしまったのだろう。パロレは早足でイーラ火山を駆け上がっていった。

やがて、人影が見えてきた。何人かいる。スーツ姿の人が何人か……。

「スパイス団だ」

パロレは囁いた。
 ▼ 93 AYr1xkow/g 17/08/31 01:25:26 ID:ng8mVhFM [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレは近くにいた女性の下っ端団員の前に出ると、

「こら!何をするつもりだ!」

そう叫んだ。下っ端団員はパロレに気がつくと、面倒臭そうな声を上げた。

「何?……子供?スパイス団を邪魔しないでよね。ちょっと怖がらせたげるわ」

そう言って、下っ端はレパルダスを繰り出してきた。パロレも負けじとモンスターボールを投げる。

「ピジョン!任せた!」

「レパルダス!ねこだまし!」

レパルダスは素早くピジョンに近づき攻撃をした。ピジョンはその速さに驚き、怯んでしまう。しかし、パロレは決して焦らなかった。

「レパルダス!おいうちよ!」

「ピジョン!でんこうせっか!」

ピジョンはレパルダスよりも速く動いた。レパルダスはピジョンからの攻撃を受けてよろけたが、軽やかにジャンプして体勢を整えてピジョンに攻撃してきた。

「ピジョン!もう一度でんこうせっか!」

「ピジョオ!」

ピジョンが威勢良く鳴き声を上げた。そして目にも留まらぬ速さでレパルダスの元まで飛んでいき、思いきり体当たりする。レパルダスは上空から猛スピードて飛んできたピジョンの勢いに負けてしまい、吹っ飛ばされてそのまま気を失ってしまった。

「なんなのよもう!」

下っ端女性は悔しそうに言った。それから、

「……スパイス団は歴史ある組織」

呟くようにそう言う。パロレは思わず耳を傾けた。

「スパイス団は、元々は古代に王家に反発していた者たちが結成した組織なの。あなたみたいな子供にどうこうできるものじゃないのよ!」

下っ端団員は誇り高く叫んだ。まるで、スパイス団に所属していることを名誉だと思っているような口ぶりだ。

そんな昔からあるのか。パロレは驚いて心の中で呟いた。でも、たとえ歴史があるからと言って、人やポケモンを傷つけることが許されるなんてことはない。

「だとしても、悪いことをするのはダメだ。オリヴィエが嫌がっていたじゃないか!」

パロレはそう言った。しかし、下っ端女性は眉をひそめ、首を捻って答える。

「オリヴィエ……?誰それ。私たちはいつも上司の言うことを聞いてそれに従うだけよ」

「……っ!早く行かなきゃ!」

パロレは弾かれたように走り出した。ここで無駄話をしている暇はない。

そうだ、ここにも指示を出しているリーダーがいるのだ。スパイス団のボスだろうか?それとも、あの時フォルテ城で出会ったボンゴレだろうか?パロレは急いで先へと進んだ。
 ▼ 94 AYr1xkow/g 17/08/31 01:31:41 ID:ng8mVhFM [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
パロレは途中で何人かの下っ端構成員とバトルしながらもイーラ火山を登っていった。かなり暑くなってきた。もう限界に近い。やがて、火口へと繋がる道の入口付近までやってきた。立入禁止になっているはずのその入口に、人影が見える。

「そこまでだ、スパイス団!」

パロレは鋭く叫んで駆け寄った。すると、今にも立入禁止区域に入ろうとしていた人物が振り向く。

「んー?だれー?せっかくいいとこだったのにぃ」

声の主は、ボンゴレではなかった。パロレより三、四歳ほど年上の、女の子だ。髪と瞳はピンク色で、髪型は少し短めの前髪にゆるくウェーブのかかったミディアムボブ。ぱっと見は可愛らしい女の子だ。

「あれれぇ?ボンゴレから生意気なガキンチョについては聞いてたけど、それってもしかしてキミのことぉ?」

女の子はわざとらしく首を捻りながら、半笑いでパロレに語りかけてくる。

「ぼくはパロレだ!」

パロレはそう答えた。

「あっははぁ、やっぱり!」

女の子は嬉しそうに手を叩く。

「でもでもぉ、マリナーラはガキンチョは嫌いなのでーぇ、無視しまーす!」

マリナーラというらしいその女の子は、そう言ってくるりとパロレに背を向ける。パロレが唖然としているうちにマリナーラは歌うように声を上げた。

「さーて、それじゃあ伝説のポケモンさんこんにっちわー!」

そして、立入禁止区域に足を踏み入れようとしたその瞬間。

「やめてくださいッ!」

高い声が響いた。パロレとマリナーラが驚いて振り向く。そこには、イーラの巫女であるオリヴィエがいた。

「もー、なにー?うるさいんですけどー!」

マリナーラがイライラした様子で言う。オリヴィエは繊細ながらも芯の通った声で、

「そこから先は神聖な土地。踏み入ってはなりません。どうかお引き取りください……!」

しかしマリナーラはまったくオリヴィエを相手にせず、「聞こえなーいっと」と言って進もうとする。

「お願いします……!一体なぜそんな禁忌を犯そうとするのですか……!?」

オリヴィエが悲痛な声で言う。しかし、マリナーラはそんなオリヴィエの言葉に吹き出していた。そして、腹を抱えて笑いながら答える。

「禁忌?マジおおげさ!ただ強いポケモン捕まえに来ただけだってぇ!」

「捕まえ……?なんですって!?」

マリナーラの言葉にオリヴィエは愕然としている。マリナーラはそんなオリヴィエには構わずぺちゃくちゃと勝手に語り始めた。
 ▼ 95 AYr1xkow/g 17/08/31 01:34:55 ID:ng8mVhFM [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ボスは野生のポケモンには興味持たないし、幻のポケモンなんて以ての外とか言ってるけどぉ……、やっぱり利用するには強いポケモンが一番!幻のポケモンだって捕まえとくに越したことないでしょ!まっ、その幻のポケモンについて詳しいことなんて全然知らないけどさーぁ?」

ケラケラと笑いながら言うマリナーラに、オリヴィエはもう言葉を失ってしまっていたようだった。マリナーラはそんなオリヴィエの様子を面白そうに見つめ、にやりと笑う。それからマリナーラはぐいとオリヴィエに近づいた。

「そもそも神聖な場所って誰が決めたのぉ?勝手に人間が決めてるだけっしょ?」

嬉々としてオリヴィエを煽り始めたマリナーラは、「あっ!」といかにも今思いつきました、とでも言うような顔を白々しく浮かべた。

「ってゆーかそもそも、本当にここに幻のポケモンなんているのかな?幻のポケモン、見たことあんの?あれ、もしかしてないのぉ?ねえねえ巫女さん、どうなの?教えてよぉ。いもしないポケモンを崇め奉る人生ってどーよ?うわー、ヒサンー!」

「……っ」

オリヴィエは何も反論することができず、唇を噛んで俯いてしまった。見ていられなくなったパロレは思わず口を挟む。

「おい!やめろよ!」

マリナーラの顔がパッとパロレに向いた。パロレはたじろぐ。マリナーラはまたもニヤニヤと笑っていた。

「あれ?あれあれぇ?その子を守ってあげてるんだ?くーっ!かっちょいーね!ほんっと……」

冷やかすような声音で語りかけてきたかと思えば、マリナーラの声はいきなり低くなった。

「いい子ぶりやがって」

パロレとオリヴィエは、その落差に思わず驚いて息を呑んだ。だって、凄まじい気迫だったのだ。ボンゴレの瞳を見た時と同様に、とんでもない人物を敵に回してしまったのだという恐怖心がパロレを襲った。

「マリナーラはねぇ、取るに足らない半端な正義感を振りかざしてヒーローぶってるガキがいっちばん嫌いなの。知ってる?そういうのってねぇ、偽善者って言うんだよ」

マリナーラは、一歩ずつゆっくりとパロレに近付いてくる。パロレは震えそうになるのを必死で耐えながらマリナーラを見つめた。

「話聞いてんのかよ。お前のことだよ、お前」

マリナーラはまた低い声を出して、パロレを思いきり指差してきた。

パロレは足がすくみ上がりそうだった。このマリナーラという人物は、どう見ても相手の人間を脅すことに慣れている。

「オリヴィエ、下がってて」

パロレは小さな声でオリヴィエに声をかけた。このマリナーラは、本当にヤバい奴だ。

「ほらさっさとかかってこいよこのクソガキが!」

マリナーラは鬼の形相で叫んで、ポケモンを繰り出してきた。
 ▼ 96 ワルン@ポケモンのふえ 17/08/31 02:31:00 ID:Av6ytVjI NGネーム登録 NGID登録 報告
前スレから読んでたらなんかマイナーチェンジみたいな感覚
支援
 ▼ 97 AYr1xkow/g 17/08/31 15:45:16 ID:KmsM.HPE [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マリナーラが繰り出してきたのは、レパルダスだ。

「よし、マリルリ!行くぞ!」

パロレもマリルリを繰り出す。するとマリナーラが間髪入れずに指示を出す。

「ねこだまし!」

レパルダスは素早く動き、マリルリに不意に一撃を食らわせた。マリルリはビクッと体を震わせ、しばらく呆然と立ち尽くしてしまっていた。

「レパルダス!おいうち!」

レパルダスは怯んで動けないマリルリに続けて攻撃を仕掛けてくる。しかし、マリルリはもう立ち直ったようだ。

「マリルリ!じゃれつく!」

マリルリはレパルダスに近づくと、可愛らしいちょこまかとした動きでレパルダスを翻弄した。一見ダメージを与えられるのかと疑ってしまうような技だが、相性は抜群にいい。レパルダスはニャア!と鳴き声を上げると、戦闘不能になってしまった。

「くっ……、戻れレパルダス!行け、キルリア!」

マリナーラは悔しげにレパルダスをボールに戻し、キルリアを繰り出した。

マリナーラのキルリアは、パロレの知っているものとは少し異なる風貌をしていた。頭部は青みがかっており、角のような部分はオレンジに近い。いわゆる色違いというやつだろうか。

「キルリア!ドレインキッス!」

「よし、マリルリ戻れ!ロゼリア!行くぞ!」

パロレは素早くポケモンを入れ替えた。キルリアはロゼリアに軽くキスをした。しかし、効果は今ひとつだ。それに、ロゼリアはまったくときめかなかったようだ。

しかし、なぜかキルリアの様子がおかしい。苦しそうにしている。どうやら、ロゼリアのドレインキッスがどくのトゲに当たってしまったらしい。どく状態になっているのだ。キルリアの特性は分からないが、シンクロだったとしても、どくタイプであるロゼリアがどく状態になる心配はない。

パロレはニカッと笑った。最大のチャンスだ。

「ロゼリア!ベノムショック!」

ローザに貰った技マシンから覚えさせていたこの技。どく状態の相手には威力が二倍になる技だ。キルリアへの効果は抜群なこの技を、ロゼリアはタイプ一致技として出すことができる。つまり、最高の条件が揃っているということだ。

キルリアはベノムショックをくらい、液体とも個体とも言えない形状をした毒の塊に押し潰されて気を失ってしまった。

「……ふざけんなッ!」

マリナーラはわなわなと唇を震わせた。
 ▼ 98 AYr1xkow/g 17/08/31 15:47:21 ID:KmsM.HPE [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あーもう!サイアク!予定がメチャクチャなんですけどー!?」

そう言って地団駄を踏んで苛立つ姿は、年相応に見える。

「そこから先に行くのは許さない!」

パロレがはっきりと言い放つ。すると喚いていたマリナーラは静かになり、フンと鼻を鳴らす。

「このクソガキ、いつか絶対ぶっ倒してやる」

そう唸ってパロレをギロリと睨みつけるマリナーラよ目は完全に据わっていた。

「お願いします。どうかお帰りください……!」

オリヴィエが懇願する。マリナーラは無言でオリヴィエを睨みつけた。マリナーラにとって、パロレとオリヴィエはまさに嫌いなタイプだろう。その瞳には強い恨みがこめられている。

やがてマリナーラは溜息をついた。

「……あーあ、興醒めー。萎えたんですけどー」

そして意地の悪い声で続ける。

「こんな暑くてしけた場所にいつまでもいるのなんて、弱っちくてかわいそーな巫女さんだけで十分だよね。ここで死ぬまで意味ないことやってて幸せなんだから羨ましいなぁー!もー帰ろ……ん?」

マリナーラが何かを見つけたのか、ふと止まって首を捻った。何かと思ってマリナーラの視線を追うと、なんとそこにはセレビィがいたのだった。

「セレビィ!?」

パロレが素っ頓狂な声を上げる。

「へえ、セレビィ……」

マリナーラが興味深げに呟くのを聞いて、パロレはゾッとした。

「セレビィ、なんでこんなとこにいるんだよっ。火山だから暑いし、危ないぞ!」

パロレはセレビィに語りかけたが、セレビィは特に気にしていないようだった。楽しそうにクルクル飛び回りつつ、たまにパロレに近付いてくる。もしかして、気に入られたのだろうか。

ふと、またあの浮くような不思議な感覚に襲われた。見れば体が光っている。今回はパロレだけではなく、オリヴィエとマリナーラも一緒だ。

やがて、体が光ったかと思えば、何かに引っ張られるような感覚がして、パロレはどこかの時代へと旅立っていった。
 ▼ 99 AYr1xkow/g 17/08/31 15:50:46 ID:KmsM.HPE [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ここは、今度はいつの時代だろう。パロレは辺りをキョロキョロと見渡した。イーラ火山の立入禁止区域の前であることには変わりないはずだ。しかし、見るとこの時代ではまだ立入禁止にはなっていない様子だった。他にも、パロレは岩肌が今より滑らかで控えめだ。八年前どころではない、もっと昔のイーラ火山だ。

「これって、時渡りってやつぅ?」

状況が飲みこめず混乱しているオリヴィエに反し、マリナーラは意外と冷静だった。

すると、誰かがやってくるのが見えた。三人は岩陰に隠れて様子を伺う。その人物はフードを被っていて、顔がよく見えない。

やがてしばらく歩いていたその人物は、パロレたちの近くで立ち止まった。それから溜息をつき、暑かったのか、フードをゆっくりと脱ぐ。その顔を見て、パロレは思わず息を呑んだ。

その人物は、フォルテ城の博物館で見た三英雄の彫像のうちのひとつ、メローネの像にそっくりだったのだ。

「あと少しね」

メローネによく似た女性は火口へと続く道を見つめてそう呟いた。本当に、何千年も前の古代アモルに来てしまったのだろうか。パロレはそう思った。そしてその疑問は、確信に変わることとなる。

「みんな変わってしまった。エシャロットもアングリアも……そして私も……」

まさか、本当にそうだったなんて。パロレは驚きつつもちらりと横目でオリヴィエとマリナーラの様子を伺った。オリヴィエは息を詰めて見守っている。また、マリナーラは思いの外真剣な様子でメローネを見つめていた。

「でも、私は二人を許さない。たとえ事実だとしても、自分が一番優れた者だと思うことがどれほど愚かなことなのか、彼らは分かっていない……」

パロレはメローネの言っていることがよく分からなかった。

「メガシンカの力を……、私のキーストーンを奪ったエシャロット……。絶対に許さないわ」

メローネが力強く言う。その言葉にマリナーラが反応したのが分かった。

「分からせてやるのよ。あの王様にね。私たちが一体どれほどの力を持っているのか、思い知らせてやる」

メローネは狂気を孕んだ笑みを浮かべてそう言い、火口へと歩き出した。私たち?一体他に誰がいるというのだろうか。

「知ってるのよ、この先にあなたがいるって……ふふ……ねえ、ボルケニオン……?」

メローネがそう言いながら火口へと消えていく。やがて、また体が浮かび上がるような感覚がしたかと思えば、パロレたちは元の時代に戻っていた。
 ▼ 100 AYr1xkow/g 17/08/31 15:54:33 ID:KmsM.HPE [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレはしばらくぼうっとしていた。今見たものは、一体なんだったんだろうか。見ればセレビィはもういない。帰ってしまったようだ。相変わらず気まぐれである。

一方、マリナーラはにやにやと笑っている。

「あっはは……すごいもん見ちゃったぁ。へえ……ふーん……」

マリナーラは面白そうに何かをぶつぶつと呟いていた。やがて、

「面白いことになりそー……。じゃ、帰ろーっと!」

と言って、さっさとイーラ火山を出ていってしまった。パロレがぽかんとしてその後ろ姿を見ていると、

「あ、あの、先程のは……」

オリヴィエがおずおずと聞いてきた。パロレはああ!と声を上げ、

「さっきいたあのポケモンがセレビィっていう幻のポケモンなんだけど、未来や過去に行ける力を持ってるんだって。なんかぼく、前にも会ったんだけど気に入られたのかも……」

「そうだったのですね」

オリヴィエが言う。それから、顔を曇らせた。

「あの女性……三英雄の一人のメローネでしたね。何かあった様子ではありましたが、……一体ボルケニオンに何の用があったのでしょう……。まだ立入禁止になっていなかったということは、噴火する前のことなのですね……」

オリヴィエは不安げながらも考えこんだ。そして、一呼吸置くと、オリヴィエはパロレに向き直る。

「……助けてくださって、ありがとうございました。お優しいあなたのことを、きっとセレビィも見抜いていたのですよ。だからあなたのことが好きなんだと思います」

オリヴィエはそう言って微笑んだ。パロレはなんだか照れ臭くなって、ぽりぽりと頬を掻く。

「どういたしまして。……さっきのマリナーラの言ってたこと、気にしちゃダメだよ」

パロレが言うと、オリヴィエは頷いた。

「ええ……。そうですね」

そして、オリヴィエは力強く続けた。

「あなたも、お気になさらないでくださいね。偽善者じゃなんかありません。あなたの優しさは本物です。それに、たとえ偽善だったとしても……人を思いやるふりをすることすらできない者よりずっと立派だと……、私は思います。助けてくださったお礼に、こちらを差し上げます」

オリヴィエはそう言うと、パロレに石を手渡した。黒っぽい不思議な模様の入った、青く光る不思議な石だ。

「これは?」

パロレが尋ねる。

「それは、以前イーラ火山の見回りの際に見つけたものです。なんだか、あなたが持っているべきだと思ったのです。……ごめんなさい、お礼できるものがそれくらいしかなくて……」

「そんなことないよ!ありがとう」

パロレは慌てて首を横に振り、不思議な石をバッグにしまった。

「本当にありがとうごさいました……!」

深々と頭を下げるオリヴィエに手を振って、パロレはイーラ火山から古代都市へと繋がる8番道路の方向に進んでいった。
 ▼ 101 AYr1xkow/g 17/08/31 18:14:21 ID:n87lx/mM NGネーム登録 NGID登録 報告
>>99
修正

ここは、今度はいつの時代だろう。パロレは辺りをキョロキョロと見渡した。イーラ火山の立入禁止区域の前であることには変わりないはずだ。しかし、見るとこの時代ではまだ立入禁止にはなっていない様子だった。他にも、パロレは岩肌が今より滑らかで控えめだということに気がついた。八年前どころではない、もっと昔のイーラ火山だ。


誤字脱字多くてすみません
 ▼ 102 ズモー@うすもものミツ 17/09/01 21:40:03 ID:hVlGJ2nA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 103 AYr1xkow/g 17/09/02 00:28:05 ID:id0p3n9I [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
暗い雰囲気の8番道路を抜け、パロレは古代都市へとやってきた。

古代都市は、かつてのイーラ火山の噴火による火砕流で埋もれ、滅亡してしまった町の跡地だ。それから千年以上後になって掘り出されたこの遺跡は滅亡した瞬間の姿がほとんどそのまま残っており、今ではゴーストタイプやほのおタイプのポケモンの巣窟となっている。

パロレは灰色の街を歩きながら歌を歌っていた。小さい頃によく見ていたアニメの主題歌だ。明るい歌詞の曲を歌う震えた歌声が、暗い古代都市に響き渡る。なんとも不釣り合いな音色だが、こうでもしないと怖いのだから仕方がない。

人っ子ひとりいない。時折ポケモンが物陰からこちらを覗いてくるだけ。それなのに妙に生活感のある光景が不気味なのだ。かつてまだこの古代都市が普通の街として機能していた時に使われていた家や店などの建物、そしてその中の家具や備品何もかもがほぼそのまま残っているのだ。ただ、すべて灰色だけれど。

「え?何!?」

パロレが怯えた声を出して振り返る。背後からケタケタと笑い声が聞こえてきたのだ。しかし、そこには誰もいなかった。パロレは真っ青な顔で再び前を向く。すると、また笑い声が聞こえてきた。

「なんだよぉ!」

もはや泣きそうになっているパロレの背中にあるバッグがもぞもぞと動く。慌てて目を向けると、何か小さな生き物がバッグに入りこんでいるようだった。その生き物は光るふたつの石を取ると、笑いながらどこかへ行ってしまった。

「わわっ!どっちも貰い物なのに!待てっ!」

パロレはそう行って走りながら、モンスターボールから一匹のポケモンを繰り出す。

「リザ!」

「リザード、光る石をふたつ持ってる奴を追いかけてるんだ。一緒に探してくれるか?」

「リザリザ」

リザードはこくりと頷いた。

「ありがとう。じゃあ、手分けしよう。ぼくはこっちに行くから……あっち側を頼んだ!」

「リザァ!」

リザードは軽く火を吐いて威勢よく返事をすると、パロレとは反対方向に向かって走っていった。
 ▼ 104 AYr1xkow/g 17/09/02 00:29:26 ID:id0p3n9I [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
気がつけば、一時間以上経過していた。

「見つからないよぉー……もうここから出たいよぉー……」

へとへとになったパロレは、よろよろと歩きながら悲痛な声を上げた。そしてとうとうその場に立ち止まり、膝に手をついた。

「……リザ!」

ふと相棒の声が聞こえ、顔を上げる。

「あれ、リザードどうしたの……も、もしかして見つけた?」

「リザッ!」

リザードは自慢げに頷いた。そしてパロレの腕を軽く掴み、もう一方の手である一点に向かって指を差す。その先には、ふわふわと浮いているポケモンのようなものがいた。

パロレは無言で親指をぐっと上げる。リザードは当然だ、という格好つけた表情をして腕を組んだ。パロレはリザードの頭を撫でると、

「よしリザード、気付かれないように挟み撃ちにしよう。ぼくが向こう側に回るから、合図をしたら一気に掴みかかるぞ!」

「リザ!」

リザードの返事を聞いたパロレは、こっそりと遠回りで反対側へと向かった。少し遠くにリザードの顔が見える。リザードと目が合った。パロレが頷く。その瞬間、一人と一匹は同時に動いた。

「おりゃー!」

掴んだ!と思えば、ポケモンらしきものはパロレの手をすり抜けてしまった。しかし、それをリザードががっちりと捕まえる。

「リザードよくやった!」

パロレはそう言って、リザードの手の中を見た。ふたつの石を盗んだのは、にんぎょうポケモンのカゲボウズだったようだ。カゲボウズは驚いてリザードに襲いかかってきた。

「わっ!リザード、ほのおのキバだ!」

リザードがカゲボウズに噛みついたが、カゲボウズはケタケタと笑いながら飛び回っている。リザードが取り返した石を狙っているようだ。

「こいつ、反省してないな!?こうなったら……」

パロレはそう言って、アキニレから貰ったスーパーボールを取り出し、カゲボウズに向かって投げつけた。カゲボウズを吸いこんだスーパーボールは、三回揺れると動かなくなった。成功だ。

「よーし、強制的に仲間入りだ。これなら盗まれてもとりあえず大丈夫」

パロレはスーパーボールを拾い上げて呟いた。そしてリザードに向き直る。

「リザード、取り返しておいてくれてありがとう。さすがぼくの相棒っ!」

そう言ってパロレはニカッと笑った。
 ▼ 105 AYr1xkow/g 17/09/02 00:30:27 ID:id0p3n9I [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
リザードは、興味深げに石を見つめていた。リザードの視線の先にあるのは、オリヴィエから貰った青く光る不思議な石だ。

「ん?気に入ったのか?それじゃ、そっちはリザードが持ってていいよ。失くすなよー?」

「リザ!」

リザードが嬉しそうに鳴き声を上げた。そしてパロレに抱きつく。

「あはは、くすぐったいよ」

パロレが笑っていると、カゲボウズが勝手にボールから飛び出してきた。

「えっ、なんで?もう、手のかかりそうな奴だなぁ、このっ」

パロレはそう言ってカゲボウズの首回りをくすぐった。

「ケケケ!」

カゲボウズは嬉しそうに笑っている。楽しそうだ。もしかしたら、ずっとここにいて寂しかったのかもしれない。パロレはしばらくカゲボウズを見つめていたが、ふとあることを思いついて腰につけたモンスターボールをすべて手に取った。

「ピジョォ!」

「マリー!」

「ロゼロゼ!」

ピジョン、マリルリ、ロゼリアが元気よくモンスターボールから出てくる。みんなで一緒に行けば怖くない。どうして最初から思いつかなかったんだろう?

「よーし、みんなおいで。カゲボウズも」

パロレはそう言って、ピジョンたちも優しく撫でてやった。みんな嬉しそうだ。なんだかパロレも楽しくなってきた。

「ほんとに怖くなくなってきた!」

パロレは仲間たちと共に次の街へと陽気に進んでいった。
 ▼ 106 AYr1xkow/g 17/09/02 00:57:51 ID:id0p3n9I [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
墓地になっている9番道路もポケモンたちと楽しく通り抜けて、パロレはブロインシティへとたどりついた。

あまり明るい街ではないのだが、なんだか人が大勢集まっているようだ。パロレはリザードたちをボールに戻した。

今日は本当に疲れた。もう休もう。パロレはそう思ってポケモンセンターに向かった。

「やばーい、本当に雰囲気ありますね!なんかもう街全体がお化け屋敷みたい!」

ふと、よく通る声が聞こえてきた。どこかで聞いたことのある声だ。声のする方を見てみると、若い女性が歩いていた。その周りにはカメラマンやアシスタントディレクターのような人が数人。どうやらテレビの撮影をしているようだった。人が集まっているのも、その見物のようだ。

「ここのジムリーダーってゴーストタイプ使いなんですよね?しかも古代都市の近くだし、もはやゴーストタイプのための街って言っても過言じゃないですよね!」

黒いセミロングの髪に赤い瞳の女性の顔がパロレの方に向いた。パロレはそれを見て、彼女がクオレの言っていた売れっ子タレントのイチゴであるということを思い出した。まあ、一般人のぼくには関係のない世界だけど。パロレはそう思いながら歩く。

「あの男の子ちょっと気になりません?話しかけてみますね」

パロレには、こちらに近づいてくるイチゴの声は聞こえていないようだ。

「そこの僕ー!こんにちは!」

イチゴが大きい声を出す。パロレは慌てて振り向いた。

「えっ!?ぼく!?」

素っ頓狂な声を上げるパロレに、イチゴは明るく話しかけてくる。

「はい!僕です!君、ブロイン出身?」

イチゴの質問に、パロレは首を横に振る。

「いや、ヴァイスタウンから来ました」

パロレが言うと、イチゴはあんぐりと口を開けた。さすが人気タレント、リアクションもバッチリだ。

「ヴァイス?わー、遠い!もしかしてトレーナーさん?」

「はい、ジムを回ってます」

パロレがそう言うと、イチゴは何故か一瞬、何も言わずに嬉しそうな顔をした。その瞳には、期待のようなものが見える。

「へー!少年、頑張ってるねぇー。古代都市には行きました?」

「はい、ついさっきやっと抜けられました。ポケモン捕まえました!」

「おっ、いいですねー!あたしも行くのが楽しみになってきた!僕、ありがとね。ジム戦頑張って!」

イチゴがそう言って、手を振って去っていく。

「ありがとうございます!」

パロレはお礼を言いながらドキドキしていた。

「テレビ出演しちゃったよ!」

パロレはハイテンションで囁きながら、ポケモンセンターへと歩いていった。
 ▼ 107 AYr1xkow/g 17/09/03 11:45:46 ID:esVdvhyU [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌日、すっかり疲れの取れたパロレはワクワクしながらブロインジムへと向かった。一昨日セールイシティでジムに挑戦したことが、遠い未来のことのように感じられる。昨日はイーラ火山や古代都市で色々ありすぎて大変だった。でも今日は楽しいバトルができる!

と、思っていたのに。なんと、ブロインジムは閉まっていた。

「そんなぁ……」

パロレががっくりと項垂れる。また先に進まなければならないのだろうか?そう思っていると、ふと通りすがった男性が声をかけてきた。

「ジムリーダーのネムちゃんなら、9番道路にいるよ」

パロレがガバッと顔を上げる。

「え!ほんとですか!」

「あそこに行くのが彼女の日課なんだ。ジムに挑戦したいのなら、会いに行って言えばちゃんと開けてくれると思うよ」

パロレは顔を輝かせた。

「よかった!教えてくれてありがとうございます!」

パロレはそう言って、9番道路へと急いだ。昨日は疲れていたこともあってか、あまり景色を見ずに進んでしまったが、今回はゆっくり歩いてみることにする。9番道路は道路全体が墓地になっているが、改めて朝に通ってみると、陰鬱とした雰囲気は感じられなかった。きらきら光る朝露が墓石を伝って落ちていくその光景は、むしろ美しく感じられる。

少し歩いていると、パロレより少し年上の少女の後ろ姿が見えた。黒髪のツインテールの女の子が、とある墓石をぼんやりと見つめている。

「あのー……」

パロレが話しかけると、少女はくるりとこちらを向いた。

「ん?あら……」

少女はパロレを、正確にはパロレの少し後ろを見て意味ありげな笑みを浮かべた。パロレは首を傾げる。

「ジムに挑戦しに来たの?」

少女が聞く。彼女がブロインジムリーダーのネムで間違いないようだ。

「留守にしちゃってごめんなさい。もう少ししたら行くわ……」

ネムはそう言うと、また視線を前に戻した。そして、

「あの一際大きな墓石が見える……?」

そう言って、奥にある墓石を指差した。確かに、他のものと比べると大きい。三倍はあるだろう。

「あの大きな墓石は、かつてイーラ火山の噴火によって命を落としてしまった人やポケモンたちのためのものなの……」

ネムは瞳を閉じた。

「やがて、ここ全体が死者を弔う場所へと変わっていった……。いつかは溢れてここには収まらなくなってしまうだろうけど、ここにはアモルの人、ポケモン、すべての命が眠っているの……」

そう言ったネムは目を開けてパロレを見て続けた。

「まあ、眠ってない人もちらほらいるんだけど……」

パロレはネムのその言葉については深く考えないことにした。

「私はジムに戻るわ。また後で……。よかったら、少しでいいから彼らに語りかけてあげて……」

ネムはそう言って、ブロインシティへと歩いていった。パロレはネムに言われた通り、しばらくここに残ってお参りしていくことにした。
 ▼ 108 AYr1xkow/g 17/09/03 11:47:27 ID:esVdvhyU [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
さあ、気を取り直してジムに挑戦だ。ブロインジムの看板には「視えないものが視える娘」と書いてある。何が視えているのかについては知らぬが仏というやつであろう。パロレがジムに入ろうとした瞬間、中から人が出てきた。

「あ!パロレさん!」

その声を聞いた瞬間、パロレは「あー!」と声を上げた。

「また先越されたーっ!」

パロレがそう言って頭を抱える。パロレが9番道路でお参りをしている間に、ユーリが先にジムに挑戦してしまったらしい。すぐ近くにいただけあって、悔しさも大きい。

「そんな、大して変わらないじゃないですか」

ユーリが苦笑したが、そういう問題ではないのだ。

「あの、パロレさん……。このタイミングでお願いするのは我儘かもしれませんが……、いいですか?」

ユーリの遠慮がちな言葉に、パロレは急いで顔を上げた。もちろん、パロレはいつだって準備オーケーだ。

「うん!いいよ!」

パロレが言うと、ユーリはホッとしたような笑みを浮かべた。

「それでは……よろしくお願いしますね。行け!フラエッテ!」

ユーリがフラエッテを繰り出す。パロレもポケモンを繰り出した。

「行けっ、カゲボウズ!」

カゲボウズは相変わらずケタケタと笑いながらふわふわ浮かんでいる。緊張感の感じられない奴だ。

「カゲボウズ、かげうち!」

カゲボウズの影が伸びたかと思えば、カゲボウズの姿が見えなくなった。フラエッテが不安げに辺りをキョロキョロと見渡す。すると、フラエッテの背後まで伸びていた影からカゲボウズが顔を出し、後ろからフラエッテに攻撃した。

「フラエッテ、ようせいのかぜ!」

ユーリの指示で、フラエッテが風を起こした。カゲボウズは風に吹かれて吹っ飛ばされそうになっていたが、どうやら風に乗って楽しんでいるようにも見える。

「か、カゲボウズ……!真剣にやれよ!もう一度かげうち!」

「ケケケッ!」

カゲボウズは笑いながら影の中に消えていった。フラエッテがまたもカゲボウズを見失い、焦っている。その後ろの伸びた影からカゲボウズは唐突に現れた。

「フ……ラッ!」

カゲボウズの攻撃を受けたフラエッテは、くるくるとゼンマイのように回りながら地面に落ちてしまった。ユーリはフラエッテをボールに戻し、次のポケモンを繰り出す。

「行け、フワンテ!」

「カゲボウズ!かげうちだ!」

パロレの指示に、カゲボウズはまたも影を伸ばして姿を消した。そしてフワンテの背後から攻撃する。

「フワ」

フワンテは小さく鳴き声を上げて倒れてしまった。一発でダウンだ。ユーリは唇を噛み締めながらフワンテをボールに戻した。
 ▼ 109 AYr1xkow/g 17/09/03 11:49:05 ID:esVdvhyU [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「次だ!行ってこい、アママイコ!」

ユーリはアママイコを繰り出した。アママイコは可愛らしく踊るような動きをしながら指示を待っている。

「カゲボウズ、戻れ!リザード!任せたぞ!」

パロレがポケモンを入れ替えると、ユーリは素早く指示を出してきた。

「アママイコ!フラフラダンスだ!」

「アマァ!」

アママイコは返事をするように鳴き声を上げると、リザードの前でフラフラとした不安定な足取りで踊り始めた。リザードはそのステップを目で追っている。やがて、リザードの目は回ってしまったようだった。

「リザード!ほのおのキバだ!」

しかし、混乱しているリザードはその場で思いきり転んで尻餅をついてしまった。

「アママイコ!はっぱカッター!」

アママイコは大量の葉を放出してリザードに斬りつけたが、効果は今ひとつだ。リザードはあまりダメージを受けている様子はない。

「リザード頑張れ!ほのおのキバ!」

「リザッ」

リザードは顔を上げ、慌てて体を起こした。そして、アママイコに近づき、炎を帯びた歯でがぶりと噛みつく。アママイコは「アマ!」と鳴き声を上げ、そのまま倒れこんでしまった。

「……っ、頼んだ、ポッタイシ!」

ユーリがアママイコを戻してポッタイシを繰り出した。パロレも、

「よし、ありがとうリザード!次はお前だ!ロゼリア!」

ロゼリアは澄まし顔でボールから出てきた。パロレの頭に、ふと「なんでぼくのポケモンはみんな自信家なんだろう」という疑問が浮かぶ。それはパロレがよくポケモンたちを褒めているからなのだが、本人に自覚はないようだ。

「ロゼリア!素早く決めよう!エナジーボール!」

「ロゼーッ!」

ロゼリアが、ポッタイシにエナジーボールを勢いよくぶつける。ポッタイシがエナジーボールに数メートル先まで押し出される。やがて、数メートル先でポッタイシは倒れてしまった。
 ▼ 110 AYr1xkow/g 17/09/03 11:51:17 ID:esVdvhyU [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ポッタァ……」

ユーリが悔しげな表情でポッタイシをボールに戻す。それから、「……またダメだ」と呟いた。

「どうしてもパロレさんに勝てない。何が足りないんだ……?オレのポケモンが弱いのか……?」

ぶつぶつと呟くユーリに、パロレは何も言えずに黙っていた。そんなパロレに気付いたユーリが慌てて、

「あ、失礼しました!すみません。いつも相手をしてくださってありがとうございます」

「ううん。こちらこそいつもありがとう」

パロレが顔を横に振って言う。

「では、オレは行きますね」

ユーリがそう言って立ち去ろうとする。パロレは思わず話しかけていた。

「あのさ」

ユーリが首を傾げて「はい」と答える。

「どうしてそんなに急いでるの?」

パロレは思った通りのことを口にしていた。

「え?」

「いや、いつもさっさと先に行っちゃうなー、って思って」

その言葉を聞いたユーリが、すまなそうに眉を下げる。

「あ……不快にさせてしまっていたのですね。すみません……」

そんなユーリを見て、パロレは慌てて両手を振った。

「あ、いやいや!そういうんじゃなくて!」

「まあぼくもそんなゆっくり街を見たりはしてないけどさ。もっと気を楽にしていいんじゃないかなってちょっと思っただけなんだ」

ユーリはしばらく黙っていた。それから、ゆっくりと口を開く。

「……強くなりたいんです。できるだけ早く。そして父に認められたい……!」

それは前にも聞いた、ユーリの決意だった。パロレが口出しするようなものではない。パロレは何を言うか迷ったが、結局「そっか」とだけ相槌を打った。

「はい。オレもメガシンカを使えるようになりたい。それが強くなった証だと思うんです。オレは早く姉を、そしてあなたを超えなければならない」

「え、ぼく!?」

ユーリの言葉に、パロレは目を丸くした。ユーリは力強く頷く。

「はい。もうこれ以上負けられません。では、オレはこれで。失礼します」

そしてユーリは、礼儀正しく頭を下げてから早足で歩いていった。
 ▼ 111 ールナー@カロスエンブレム 17/09/03 18:35:54 ID:VfCrNqC2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 112 AYr1xkow/g 17/09/03 20:15:54 ID:y.wzUFcY [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
今度こそ、本当にブロインジムに挑戦だ。パロレはポケモンたちを回復させてから、ジムの前に戻ってきた。さあ、頑張るぞ。

ジムの中は、洋館のようだった。大広間のような内装で、天井には豪華なシャンデリアがぶら下がっている。まあ、肝心の電気はついておらず暗いのだが。

大広間とはいっても、だいぶ散らかっていた。椅子はバラバラに置かれ、テーブルの上もぐちゃぐちゃだ。パロレは慎重に歩いた。

すると、いきなりガタガタと音が聞こえてきた。

「な、何!?」

パロレが涙声で言う。なんと、近くにある棚が激しく揺れて音を立てていたのだ。

「やだ!怖い!」

まるでポルターガイスト現象のように勝手に動く棚を見て、パロレが悲鳴を上げる。古代都市から散々怖い思いをしているのに、まだこんな目に遭わなくちゃいけないなんて!

「うわ!」

パロレが声を上げる。棚がガシャンと激しい音を立ててパロレの目の前に倒れてこんできたのだ。これでは前に進めない。パロレは辺りを見渡して、通れる場所を探した。なるほど、ブロインジムはこうやって道を遮ってくるらしい。

「それなら最初から道を塞いどいてよ……怖い思いさせないでよ……」

パロレはぶつぶつと呟きながら歩いた。遠回りだが、歩ける場所を見つけたのだ。パロレが歩いていると、またも音が聞こえてきた。今度はガシャンガシャンという耳障りな音だ。ふと横を見ると、飾られていた鉄の甲冑たちがパロレの方に向かって歩いてきていた。

「ギャーッ!」

パロレが慌てて逃げる。今度は甲冑によって行き止まりにされてしまった。

「なんなんだよもー!……ん?」

甲冑たちが動いたことによって、元々飾られていた場所が通れるようになっていた。そこを通っていけば、奥まで行けそうだ。

ようやくジムの最奥部に辿りついたパロレは、大して動いてもいないのにへとへとに疲れていた。そんなパロレの耳に、くすくすと笑う声が聞こえてくる。見れば、ネムが笑っていた。

「いい反応……と思ってたら、あなただったのね……うふふ……」

「わ、笑わないでよ……」

こちとら怖いものは苦手なのだ。しかし、ネムは完全にパロレを面白がっているようだった。

「いいでしょう?このジム……。私は何もしてないのだけど、勝手にああやって物が動くの……。ポケモンたちの仕業だとは思うけど、もしかしたら違うかもね……」

パロレは何も言わなかった。

「さあ、もっと怖がらせてあげる……」

「ヒッ」

パロレが息を呑む。ネムはそう言って、にやりと笑ってポケモンを繰り出してきた。
 ▼ 113 AYr1xkow/g 17/09/03 20:17:28 ID:y.wzUFcY [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「いってらっしゃい、ヒトモシ……」

「マリルリ!任せたぞ!」

ゴーストタイプにはゴーストタイプが相性が抜群だ。つまり、カゲボウズを出すと有利でもあり不利でもある。パロレは慎重に行くことにした。

「マリルリ!アクアテールだ!」

思いきり尻尾を叩きつけられたヒトモシは、倒れてそのまま動かなくなった。

「次はこの子。ムウマ、頑張って……」

ネムはヒトモシを戻すとムウマを繰り出してきた。

「マリルリ、じゃれつく!」

「ムウマの方が速いわ……。ムウマ、シャドーボール!」

ムウマはネムの言葉通り、マリルリより速く動いて黒い影の塊をマリルリにぶつけてきた。しかしマリルリも負けてはいない。マリルリはムウマの攻撃をものともせずにじゃれつく。すると、ムウマもまた一撃で戦闘不能となってしまった。

「あら……。あなたが最後よ、ミミッキュ……!」

「ミミッキュ!」

ミミッキュが鳴き声を上げた。ミミッキュは、パロレのよく知らないポケモンだった。可愛らしいがどこか奇妙な姿をしたポケモンだ。

「ミミッキュ、シャドーボール」

ミミッキュの作り出した影の塊がマリルリに当たる。マリルリはまだまだ大丈夫そうだ。パロレは声高らかに指示を出した。

「マリルリ、アクアテール!」

マリルリがミミッキュに尻尾を叩きつける。ミミッキュはまったくダメージを受けていないように見えた。しかし、ミミッキュの首元から力が抜け、だらりと首が倒れたので、パロレは思わず叫びそうになった。

「全然効いてない……のに、首が折れた!?」

パロレがパニックになっていると、ネムが笑いをこらえきれない様子で教えてくれた。

「うふふ……ミミッキュの特性はばけのかわ。最初の攻撃は防いじゃうの……。それに、そこは首じゃないのよ……顔は下にあるから……ふふ……」

「そ、そうなんだ……べ、勉強不足だったな……」

奇妙に感じられたのは、どこかバランスが悪く見えた体をしていたからだろうか。パロレはどうにか心を落ち着かせながらそう言った。

「ミミッキュ、ウッドハンマー!」

「ッキュ!」

ミミッキュが勢いよく攻撃してきた。効果は抜群だ。マリルリは真正面から攻撃を受け、一発で倒れてしまった。
 ▼ 114 AYr1xkow/g 17/09/03 20:18:31 ID:y.wzUFcY [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「マリルリ、お疲れ様。リザード!行くぞ!」

「ミミッキュ……シャドーボールよ……!」

ミミッキュの作り出した球状の影がリザードに当たったが、リザードはまだやられる気配はない。平気そうだ。

ミミッキュは先程のウッドハンマーの反動で少し疲れているはずだ。行ける!

「リザード!ほのおのキバだ!」

「リザー!」

リザードが威勢よく鳴き声を上げて、ミミッキュにがぶりと噛みついた。

「ミミッキュ……」

ミミッキュは力なく鳴き声を上げ、その場に倒れる。

「あら……残念……」

ネムがそう言った。勝利だ。

「驚かせても強いのは変わらない……、か。当たり前ね……。はい、スペクターバッジをどうぞ……」

ネムが言う。パロレは勝利の証であるバッジを受け取った。スペクターバッジは名前の通りおどろおどろしい姿の幽霊を模したような形の不気味なバッジだった。パロレは出来るだけ直視しないようにしつつバッグにバッジをしまう。

「それからこれも……。『シャドーボール』の技マシンよ……。威力も高いし、たまに相手のとくぼうを下げることもあるの……。これで上手く相手を怖がらせてね……」

パロレは微妙な顔で技マシンを受け取った。

「次も頑張ってね……」

「はい。ありがとうございました!」

パロレが礼を言う。ネムは微笑んで手を振ったが、あ、と声を上げた。

「そうだ、ずっと気になってたんだけど、聞くの忘れてた……」

ネムの声に、パロレが振り向く。パロレは心底不思議そうにパロレを見つめて聞いてきた。

「最初に会った時からずっと一緒にいるのに、どうして後ろの男の人のこと無視してるの……?」
 ▼ 115 イティ@デンキZ 17/09/04 12:29:31 ID:rPUtH6Bg NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 116 ケンカニ@いいキズぐすり 17/09/05 16:45:57 ID:soggEXmg NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 117 ママイコ@ヤミラミナイト 17/09/05 17:58:44 ID:SC/n4A7k NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 118 AYr1xkow/g 17/09/05 22:05:52 ID:96W6SPU. [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「昨日のネムさんの最後の言葉、冗談だよね……はは……」

翌日、ポケモンセンターで目を覚ましたパロレはそう呟いた。

といっても、まともに眠れていない。昨日は散々怖い思いをしたのだから当然だ。パロレは顔を洗って気合を入れ直すと、ネムは悪戯好きな人でずっと揶揄われていたのだと思うことにした。

それより、早く前に進もう。やっと四つのバッジを手に入れたのだ。立ち止まっている暇はない。パロレはブロインシティを出て、次の街へと向かった。

10番道路の先にあるのは、モルタウンだ。小さくてのどかなところで、アモル南部の中でも断トツで田舎であると言えよう。

パロレがモルタウンに入ると、大きな話し声が聞こえてきた。どうやら二人の女性が井戸端会議をしているようだった。聞いてはいけないと思いつつも、聞こえてしまう。パロレはそわそわしつつその横を通った。

「最近スパイス団がなんか活発になってるでしょ、物騒よねぇ」

「そうよねぇ、嫌だわぁ。五年前の事件を思い出すわねぇ」

「ああ……そうよねぇ。あの事件も、結局どうなったのか分からずじまいだわねぇ」

パロレは思わず立ち止まった。五年前の事件?一体なんだろう。

「もうあの子、見ないわねぇ。まあ……目立ちたくないわよねぇ、あんなことで……」

「あの」

パロレは思いきって話しかけてみた。二人の女性が同時にパロレに顔を向ける。

「五年前の事件って、なんですか?」

パロレの質問に、片方の女性が口を開いた。

「五年前にね、女の子のポケモンが盗まれるっていう事件が起きたのよ」

女性はパロレに構わず勝手に話し続ける。とにかく喋りたかったのだろう。

「まあ、事件自体は解決してるのよ。その女の子が優秀なトレーナーだったみたいで、取り戻すのにそれほど時間はかからなかったの」

女性はそこまで言うと、「だけどね……」と悲しげに眉を下げた。

「取り戻したポケモンは、明らかに様子がおかしかったらしくてねぇ。なんでも、まるでその女の子のことを忘れてしまったかのように彼女に襲いかかった、って聞いたわよ。暴走しちゃってたみたいで……」

「そんな……」

パロレは信じられない思いで呟いた。ポケモンを盗むだけでも許せないことなのに、そのポケモンに危害を及ぼしてトレーナーを更に傷つけるなんて。

「その後どうなったのかは分からないのよ。今では忘れちゃってる人も多いんじゃないかしらねぇ……」

女性が言う。パロレはしばらく言葉を失っていたが、その後女性たちに礼を言ってその場を離れた。
 ▼ 119 AYr1xkow/g 17/09/05 22:07:30 ID:96W6SPU. [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
五年前の事件でポケモンを盗まれた女の子とそのポケモンは、今はどうしているのだろう。まだ苦しんでいるのだろうか。もしポケモンが記憶を取り戻していたとしても、心に深い傷を負ったはずだ。自分だったらどう思うだろうか……。

「パロレくん!」

「はっ!あっ!?」

考え事をしていたら、声をかけられた。慌てて顔を上げると、そこにはなんとスリジエがいた。

「スリジエ博士!お久しぶりです!」

「うふふ、久しぶり」

スリジエは嬉しそうに笑ってパロレを見つめる。

「順調そうで何よりだわ。ここまで来たということは……バッジを四個手に入れたのね?」

「はい、そうです」

パロレは自信を持って答えた。

「さすがパロレくん!」

スリジエはそう言って小さく拍手した。パロレは少し照れ臭くなった。

「クオレちゃんやユーリくんも頑張ってるでしょうし……ふふ、あの子たちを思い出すわ」

スリジエが懐かしむように言う。パロレは思わず口を開いていた。

「あの子たちって……兄さんのことですか?」

「ええ、そうよ」

スリジエは微笑んで頷いた。パロレは、ずっと気になっていたことを意を決してスリジエに聞いてみることにした。兄であるアキニレは、どんなトレーナーだったのだろうか。

「兄さんって、その……どんな感じだったんですか?」

「え?そうねえ……」

スリジエはパロレの質問が予想外だったのか、しばらく考えていた。それから、

「アキニレくんは私からハリマロンっていうポケモンを受け取って……パロレくんたちと同じようにお友達と一緒に旅に出て……バッジを八個手に入れてたわ」

スリジエの言葉に、パロレは目を見開いた。そして小さな声で呟く。

「……兄さん、ジムを制覇してたんだ……」

どうやらスリジエは聞こえていたらしい。にっこりと笑って、パロレに語りかけてくれた。

「パロレくんもきっとできるわ。アキニレくんのように……いえ、もしかしたらアキニレくんより強くなるかも」

そう言ってふふふ、と笑う。パロレの顔はぱっと輝いた。

「ほ、ほんとですか!?」

「ええ、もちろん。……そうだ!」

スリジエは頷くと、ふと何かを閃いたかのように手を叩く。

「パロレくん。あなたがどれくらいポケモンたちと絆を深めたのか、私にちょっと見せてくれるかしら?」

スリジエはそう言って、ポケモンを繰り出してきた。
 ▼ 120 AYr1xkow/g 17/09/05 22:26:09 ID:96W6SPU. [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
「いってらっしゃい、クサイハナ!」

スリジエがまず繰り出したのは、ざっそうポケモンのクサイハナだ。パロレもポケモンを繰り出した。

「行け!リザード!」

リザードはやる気満々だ。パロレはぐっと頷き、微笑んで指示を出す。

「リザード!ほのおのキバ!」

リザードは、炎を帯びた牙でクサイハナにがぶりと噛みつく。クサイハナは一撃で倒れてしまった。

「あら強い。それじゃ、この子はどう?ブーバー!」

ボールから出てきたブーバーは、気合たっぷりに口から炎を吹き出した。それを見たパロレは、ポケモンを入れ替えることにした。

「よし、リザード戻れ!行け!マリルリ!」

「ブーバー、ほのおのパンチよ!」

スリジエの素早い指示に、ブーバーは拳を思いきりマリルリの腹部に叩きこんだ。マリルリは思わず吹っ飛んだが、ダメージはそれほど受けていないようだ。立ち上がったマリルリに、パロレは声高らかに叫ぶ。

「マリルリ、アクアテール!」

「マーリッ!」

マリルリは尻尾をブーバーに勢いよく叩きつけた。ブーバーも一撃で戦闘不能だ。

「んもう、容赦ないんだから」

スリジエが唇を突き出してそう言いながらブーバーをボールに戻す。

「さあ、任せたわよ、アリゲイツ!」

初めてスリジエの研究所に行った時に出会ったワニノコは、アリゲイツに進化していたようだ。あの時と変わらず元気いっぱいの様子で、こちらを好戦的な瞳で見つめてくる。

「マリルリ戻れ!ロゼリア!任せたぞ!」

パロレはまたポケモンを入れ替えた。いくら力押しが得意技とはいえ、タイプの相性は重要だ。

「ロゼリア!エナジーボール!」

ロゼリアは自然のエネルギーを集めて球体を作り始めた。なんだか、いつもよりエナジーボールが大きい。他のみんなもそうだ。最近、特に強くなってきたような気がする。パロレは期待をこめて叫んだ。

「いっけぇええ!」

「ロゼアー!」

ロゼリアが飛ばしたエナジーボールは、アリゲイツの顔面を直撃した。そして、なんとアリゲイツもまた一撃で気を失ってしまったのだった。
 ▼ 121 AYr1xkow/g 17/09/05 23:17:52 ID:/gXlkL9. NGネーム登録 NGID登録 報告
「……もう、びっくりしちゃった!すごく強くなってる!」

スリジエが言う。パロレは照れ笑いを浮かべながら頭を掻いた。

「いえいえ、あはは。でも嬉しいな。ありがとうございます」

パロレが言うと、スリジエはまるで自分のことのように喜びながら、

「これは期待大ね。特にリザード!お互い信頼し合ってるのが伝わってくるわ。これからもどんどんポケモンとの絆を深めていってね」

そう言って微笑む。

「はい!」

パロレは元気よく返事をした。するとその瞬間、ふとある疑問が頭をよぎった。先程二人の女性から聞いた、五年前の事件に関することだ。

「あの……、トレーナーと深い絆で結ばれたポケモンが、もしもそのトレーナーのことを忘れてしまったとしたら……どうなると思いますか?」

パロレの質問に、スリジエは一瞬沈黙した。きっと、スリジエもこの事件のことは知っているだろう。パロレはそう考えていた。パロレにこの事件のことを聞かれるとは思っていなかったのか、スリジエは少し驚いた様子だった。

「そうね……。パロレくんに、私の研究について少しだけ話してあげる」

スリジエはそう言って、説明を始めた。

「ポケモンはね、トレーナーと絆を深めることで強くなるの。その強さは、目に見える変化がなかったとしても本当にあるものなのよ」

パロレは黙って話を聞いていた。

「トレーナーとの絆は、ポケモンの潜在能力を引き出させる。ポケモンは自分の知らなかった本当の強さを、トレーナーと信頼し合うことでようやく発揮することができるのよ。……でもね」

そこまで言うと、スリジエは小さく息を吐く。

「潜在能力を引き出されると共に、ポケモンは本能的に制限を覚える。それは、愛するトレーナーを傷つけないため。トレーナーは、人間でしょ。ポケモンの方が強大な力を持ってる。だからポケモンは、人間であるトレーナーを守るために、無意識に力を抑えるの」

「へえ……」

パロレは声を漏らした。分かるような、分からないような。

「……だからもし、トレーナーの記憶を失ってしまったとしたら、潜在能力を引き出された状態でトレーナーとの絆を忘れてしまったとしたら、その制限が失われてしまうかもしれない。そうしたら、きっと大変なことになるわ。そのポケモンは、危険な存在になってしまうかも」

パロレは息を呑んだ。あの盗まれたポケモンは、そんなことになってしまったのだろうか?

「……絆ってとても恐ろしいものなの。とても強い力を持っているけれど、一度壊れてしまうと簡単には戻せない……。壊れてしまった絆が生み出す力もまた強大……」

スリジエは目を閉じて呟くように言った。パロレは黙りこんでしまった。

「うふふ。ちょっと難しい話だったかしら?」

スリジエはそう言って笑う。そしてこの話はおしまい、とでも言うように軽く手を叩いた。

「そうだ、パロレくんにハイパーボールをあげる。これでもっとたくさんのポケモンを捕まえて、どんどん絆を深めていってね!」

「ありがとうございます!」

「はーい。それじゃ、私は行くわね。頑張ってね!」

スリジエは優しい微笑みを浮かべたまま、手を振って去っていった。
 ▼ 122 AYr1xkow/g 17/09/06 15:11:18 ID:RM65521w [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
パロレはしばらく休憩してからモルタウンを出ると、11番道路を抜けてディレット国立公園へとやってきた。

ディレット国立公園は、アモル地方最大の公園だ。美しい自然がそのまま保存されており、多くのポケモンも住み着いている。また、曜日ごとに広場で催し物があり、ちょっとしたゲームに参加できたり露店で珍しいものが買えたりするらしい。今度来た時にはじっくり見てみよう、パロレはそう思った。

「よし、みんな出ておいで!」

パロレはそう言って、リザードたちをボールから出した。だって、こんなに自然豊かで美しいところなのに、それを見せないなんてもったいない。リザードたちは、嬉しそうにボールから出てきた。

「ケケケケケ!」

カゲボウズが早速笑い声を上げながらどこかへ飛んでいく。ピジョンも翼を広げて空へと羽ばたいた。

「マーリマリマリマリ!」

マリルリは辺りを転げ回ってはしゃいでいる。ロゼリアは、近くの花畑に駆けていっていい香りに包まれて気持ちよさそうにしている。

「リザードは遊びに行かないの?」

パロレはふと、隣を歩く相棒に尋ねた。リザードは別に俺はいい、とでも言うようにクールに決めている。しかし、パロレはふとある考えが浮かび、にやにやと笑いながらリザードを見つめた。

「分かったぞリザード!ぼくと遊びたいんだろ?」

「リザ?」

リザードは驚いてパロレの目を見つめた。照れているようにも迷っているようにも見える。しかし、リザードはすぐに笑顔になった。

「リザ!」

「ははっ!素直な奴めー。じゃあ……まずはあの木の下まで競争だ!」

パロレが五十メートルほど先にある大きな木を指差して言った。リザードが頷く。

「よし!じゃあ……よーい、どん!」

パロレとリザードは同時に駆け出した。途中までは、結構いい勝負だった。運動神経にはそれなりに自信があるのだ。しかし、急に肩が重くなってパロレはスピードを落とした。

「わっ、何!?」

ピジョンがパロレの肩に着地して邪魔をしているのだ。更には、カゲボウズが戻ってきて目の前をすばしっこく飛び回る。

「ちょ、邪魔、見えな……」

「ルリルリルリー!」

その隙に、マリルリが転がってきて、リザードを追い抜かしてゴールした。既にゴール先にはロゼリアが待っていて、マリルリを祝うように薔薇の咲いた両手で拍手している。

「嫌がらせか!」

やっとゴールにたどりついたパロレはツッコミを入れた。リザードもそんなパロレと同時に不満げに鳴き声を上げる。

「くそー、お仕置きだ!」

パロレはそう言うと、目の前で寝転がっているマリルリを抱き上げ、腹の辺りをこちょこちょとくすぐり始めた。マリルリはたまらず笑い出す。

「お前たちもだぞ!」

パロレはそう言って、逃げようとするポケモンたちを追いかけて走り出した。
 ▼ 123 AYr1xkow/g 17/09/06 15:14:21 ID:RM65521w [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「はー、楽しかった!」

パロレは疲れつつも嬉しそうな表情で言う。あれからポケモンたちとずっと遊び回っていたら、結構な時間が経ってしまっていた。慌ててディレット国立公園を出たパロレは、次の街メランシティを目指して12番道路を歩いていた。

しばらく歩いていると、工場のような建物が見えてきた。とはいえ、もう数年は使われていないようだ。寂れていて、少し不気味にすら感じる。

ふと、廃工場の中に一人の女性が入っていくのが見えた。パロレは首を傾げる。あんなところに一体何の用事があるというのか。

女性の後ろ姿を見て、パロレははっと思い出した。あの女性は、フォルテ城でスパイス団を撤退させた後に「覚えといてあげる」と言ってきた人だ。

「……」

パロレは慎重に廃工場に近づいていった。なんだか不穏だし入らないでおこう、つい先程はそう思ったのに、好奇心に負けそうだ。

「……入ってみよう……」

パロレはそう呟いて、こっそり廃工場の中に入っていった。

廃工場の中は暗い。何者かが暴れ回った形跡があり、様々な機材が置かれているがどれも使いものにならないほどに破壊されていた。もうまったく工場として機能していないのだろう、機材は埃をかぶっている。

「……不気味だなぁ。全部めちゃくちゃだ」

パロレは呟いた。あの女性はどこに行ったのだろう。この部屋にないないようだ。パロレはふと床を見た。小さな機材や書類などがばらまかれている。なんと書いてあるのかは難しすぎて分からない。

唯一内容が分かったのは、「255、650、728」という三つの数字が印刷されたメモだけだ。そのメモに書かれた「650」と「728」の二つの数字には、上からバツがつけられていた。

パロレは隣の部屋へ向かった。ここにも書類が散乱している。パロレは足元に落ちている書類を拾い上げて読んでみた。

「実験ファイル001:実験対象の奪取に成功した。しかし、ボールの開発は未だ難航している。現在覚醒装置の最小化に苦戦中。今回は以前発明した試作品を使用することに決定」

他にも散乱している書類を適当に拾ってみる。

「実験ファイル003:実験は無事に終了し、覚醒に成功。ただし覚醒したばかりで気が立っているのか非常に扱いづらい。隔離しつつ様子見をすることにする」

「実験ファイル009:試作品にバグがあったことが判明。至急対象を拘束し副作用などの有無を確認したところ、予想以上に脳細胞への影響が大きかったことが判明した。扱いづらいどころか近づくことも危険だが、強力な兵器を獲得できたと思えば幸運かもしれない」

「実験ファイル013:実験対象を殺処分することに決まった。これを失くしてしまうのは惜しいが、我々の力の及ぶものではない。ボールの開発も一度見直すことにする」

「実験ファイル014:手に負えない。拘束することすらままならない。こんなに素晴らしい力を持っている兵器を操れないことは本当に悔やまれるが、私には何も出来なかった。実験対象を放置して工場に閉鎖する。私の見立てでは、トレーナーが直に実験対象の奪還にここにやってくる。我々はその時まで一旦ここを離れることとする」

実験ファイル014と書かれた書類には、最後に赤いペンで「奪還された模様」と走り書きされていた。
このページは検索エンジン向けページです。
閲覧&書き込みは下URLよりお願いします。
https://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=656366
(ブックマークはこちらのページをお願いします)
  ▲  |  全表示464   | << 前100 | 次100 >> |  履歴   |   スレを履歴ページに追加  | 個人設定 |  ▲      
                  スレ一覧                  
荒らしや削除されたレスには反応しないでください。
書込エラーが毎回起きる方はこちらからID発行申請をお願いします。(リンク先は初回訪問云々ありますがこの部分は無視して下さい)

. 書き込み前に、利用規約を確認して下さい。
レス番のリンクをクリックで返信が出来ます。
その他にも色々な機能があるので詳しくは、掲示板の機能を確認して下さい。
荒らしや煽りはスルーして下さい。荒らしに反応している人も荒らし同様対処します。




面白いスレはネタ投稿お願いします!

(消えた画像の復旧依頼は、お問い合わせからお願いします。)
スレ名とURLをコピー(クリックした時点でコピーされます。)
新着レス▼